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特表2023-552103車両用タイヤの製造に使用するためのゴム化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】車両用タイヤの製造に使用するためのゴム化合物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20231207BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20231207BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20231207BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20231207BHJP
   C09C 3/10 20060101ALI20231207BHJP
   C09C 1/30 20060101ALI20231207BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K9/04
C08L9/06
C09C3/10
C09C1/30
B60C1/00 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530878
(86)(22)【出願日】2021-11-22
(85)【翻訳文提出日】2023-07-10
(86)【国際出願番号】 EP2021082542
(87)【国際公開番号】W WO2022106697
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】20209132.8
(32)【優先日】2020-11-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518333177
【氏名又は名称】ブリヂストン ヨーロッパ エヌブイ/エスエイ
【氏名又は名称原語表記】BRIDGESTONE EUROPE NV/SA
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100225060
【弁理士】
【氏名又は名称】屋代 直樹
(72)【発明者】
【氏名】ラファエレ ディ ロンザ
(72)【発明者】
【氏名】森下 善広
(72)【発明者】
【氏名】アンケ ブルーメ
(72)【発明者】
【氏名】ラファル アニスズカ
(72)【発明者】
【氏名】マリア デル ピラー ベルナール オルテガ
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J037
【Fターム(参考)】
3D131AA01
3D131AA02
3D131BA01
3D131BA02
3D131BA04
3D131BA05
3D131BA07
3D131BA08
3D131BA20
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4J002AC01X
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4J037EE43
4J037FF30
(57)【要約】
本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム-シリカ化合物であって、シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合により表面修飾されている、ジエンゴム-シリカ化合物を提供する。特に、本発明は、ジエンゴムがスチレン-ブタジエンゴムであるような化合物を提供する。このような化合物は加硫することができ、タイヤトレッドなどの車両用タイヤ部品の製造に適している。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカ充填剤が分散されたジエンゴムのマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、前記ジエンゴムのマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合により表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記ジエンゴムは、スチレン-ブタジエンゴム、またはスチレン-ブタジエンゴムとブタジエンゴムとのブレンドである、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記カチオン-π相互作用は、前記カチオン部位と、前記ジエンゴムのマトリックス中に存在する炭素-炭素二重結合および/またはフェニル環との間に形成される、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記シリカ充填剤と前記ジエンゴムのマトリックスとの間には他のいかなる共有結合相互作用も実質的に存在しない、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記カチオン部位は有機カチオン部位である、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項6】
請求項5に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記カチオン部位は、以下のカチオン基、すなわち、第四級アンモニウム、第三級スルホニウム、第四級ホスホニウム、プロトン化またはアルキル化されたヘテロ環基、ジアゾニウムイオンおよびグアニジニウムイオンのうちの少なくとも1つを含む、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記カチオン部位は、前記シリカ充填剤との共有結合および該カチオン部位との共有結合を形成する結合基を介して該シリカ充填剤に付加されている、ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項8】
請求項7に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記結合基は、
【化1】
または、
【化2】
で表され、
式中、
* は、前記シリカ充填剤の表面への該結合基の付加点を示し、
** は、前記カチオン部位への該結合基の該付加点を示しており、
各Rは、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくはC1-3アルコキシ)およびC1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)から独立して選択され、並びに、
Zは、-O-、-SiR’-(式中、各R’は独立して、-OH、C1-6アルコキシまたはC1-6アルキル)、-PR”-、-NR”-、および-OP(O)(OR”)O-(式中、R”はHまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである)から選択される1つ以上の基によって割り込まれ得る置換基を有していてもよいC1-12アルキレン基である、
ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項9】
請求項8に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記結合基は、
【化3】

で表され、
式中、
* は、前記シリカ充填剤の表面への該結合基の付加点を示し、
** は、前記カチオン部位への該結合基の該付加点を示しており、
各Rは、請求項8に記載の通りであり、
mは、0~12、好ましくは1~8、または1~6、例えば1、2もしくは3の整数であり、
aは、0~6、好ましくは1~3、例えば2または3の整数であり、および、
bは、0~6、好ましくは1~3、例えば1または2の整数である、
ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物において、前記カチオン部位は、以下の基、すなわち、
【化4】
のいずれかから選択され、
式中、
* は、前記シリカ表面または請求項7~9のいずれか一項に定義される結合基への該カチオン部位の前記付加点を示し、
、R、R、およびRはそれぞれ独立してH、置換基を有していてもよいC1-12アルキル、置換基を有していてもよいC3-6シクロアルキル、置換基を有していてもよいC2-12アルケニル、置換基を有していてもよいC2-12アルキニル、置換基を有していてもよいアリールおよび置換基を有していてもよいヘテロアリールから選択され、
各Rは独立して、置換基を有していてもよいC1-12アルキルおよび置換基を有していてもよいC3-6シクロアルキルから選択され、
X‐は、例えばチオシアン酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、水酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、および酢酸塩から選択される対イオンであり、
nは0~5、好ましくは0または1の整数であり、
pは0~4、好ましくは0または1の整数であり、
qは0~3、好ましくは0または1の整数であり、並びに、
rは0~2、好ましくは0または1の整数である、
ジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項11】
加硫可能である、請求項1~10のいずれか一項に記載のジエンゴム‐シリカ化合物。
【請求項12】
請求項11に記載のジエンゴム-シリカ化合物を架橋することによって得られるか、架橋することによって直接得られるか、または架橋することによって得ることが可能な、加硫ゴム化合物。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載の化合物から作られた車両用タイヤ部品。
【請求項14】
請求項13に記載の車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤ。
【請求項15】
ジエンゴムとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合により表面修飾されているシリカ充填剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リサイクル可能なジエンゴム化合物、その製造プロセス、および車両用タイヤおよび車両用タイヤ部品の製造におけるそれらの使用に関する。特に、本発明は、タイヤトレッドを製造するための化合物の使用に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、ジエンゴム化合物の補強充填剤として使用するための修飾(modified)シリカに関する。シリカの表面は、ジエンゴムのポリマー鎖と可逆的なカチオン-π相互作用(cation-π interaction)を形成することのできるカチオン部位の共有結合によって化学的に修飾されている。この可逆的な相互作用により、ゴム化合物の機械的性能が向上すると同時に、ゴム化合物のリサイクル性が有利に向上する。
【背景技術】
【0003】
天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴムなどのジエンゴムは、共役炭素-炭素二重結合を有するジオレフィンから誘導される繰り返し単位を含む。合成ジエンゴムの特性は、ジオレフィンモノマーと他のモノマーとを共重合させることによって特別に調整することができ、幅広い用途に使用されている。
【0004】
スチレン-ブタジエンゴム(本明細書では「SBR」と呼ぶ)は、スチレンとブタジエンとの重合によって製造されるブタジエンゴムの一例である。スチレンとブタジエンの比率はポリマーの特性に影響を与え、さまざまなタイプのSBRが自動車産業、特にタイヤトレッドなどの自動車タイヤの部品として使用されている。タイヤトレッドの製造に使用される場合、SBRは通常、硫黄加硫システムを使用して架橋される。シリカおよびカーボンブラックなどのさまざまな補強充填剤を使用することで機械的特性が向上する。カーボンブラックは充填剤として一般的に使用される最初の材料であったが、最近ではSBRベースの化合物における従的なカーボンブラックの使用に大きく取って代わり、シリカが使用されるようになってきた。シリカ充填剤の使用により、特に濡れた路面での転がり抵抗の低下およびトラクションの向上などのゴム特性が向上する。その他のジエンゴム(ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM))も、自動車産業の部品の製造に一般的に使用されている。SBRベースの化合物と同様に、任意のジエンゴムから作られたゴム化合物の機械的特性も同様に、シリカなどの補強充填剤を配合することによって改善され得る。
【0005】
要求される機械的特性を備えた高性能ゴム化合物を製造する場合、補強充填剤の分散および充填剤-ゴムの相互作用が重要となる。シリカの表面に極性シラノール基が存在すると、シリカが酸性になり、吸湿性が高くなる。これによってシリカの凝集が起こり、ゴムマトリックス中での分散が悪くなり、化合物の粘度の増大及び補強特性の損失を引き起こす。表面修飾剤または「相溶化剤(compatibilising agents)」としてのシランの使用など、シリカの表面化学を調整するために、シリカのさまざまな処理が提案されている。ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)およびビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)などのシランカップリング剤もまた、シリカとジエンゴム鎖、例えばSBR鎖との間に共有結合を形成するために使用される。これらは、ジエンゴムマトリックス中の充填剤の分散性を改善し、シリカとゴムとの間の相互作用を強化してゴム化合物を補強する。
【0006】
車両用タイヤは、タイヤトレッドなどの一般的な磨耗および劣化により寿命が限られており、廃棄物として重大な問題を引き起こし得る。それらは埋め立て地の貴重なスペースを占有しており、通常は生分解しない。したがって、タイヤの製造に使用されるゴム化合物の持続可能性を改善する必要性が常に存在する。このような材料をリサイクルして、他の新しい原料と混合可能な二次原料として使用する能力は、多くの研究の対象となっている。リサイクルが最も難しい種類のタイヤ材料の1つは、SBR-シリカなどのシリカを充填したジエンゴムである。これは、ゴム鎖とシランカップリング剤によって形成されるシリカ充填剤との間に強い共有結合が存在するためである。このような材料をリサイクルするには、残っている共有結合は流動性や相溶性を阻害し、リサイクル材料が他の新しいポリマーと混合されるときに共架橋する可能性があるため、その共有結合を切断する必要がある。そのため、リサイクルが困難かつ、一般的に不経済になる。
【0007】
SBRシリカ化合物などのシリカで補強された従来のジエンゴムには2種類の共有結合が存在する。1つは、ゴムを硬化するために使用される硫黄加硫系から生じる硫黄架橋である。もう1つは、上記のようなシランカップリング剤を使用してジエンゴム鎖とシリカとをカップリングすることである。これらの共有結合相互作用は、共有結合を切断するのに多大なエネルギーを必要とするため、SBR-シリカ化合物などのゴムの原料としての再利用を厳しく制限する。
【0008】
SBR-シリカ化合物などのシリカ含有ジエンゴム化合物は、乗用車用タイヤの製造に使用することが好まれるようになってはいるが、それゆえに、タイヤのリサイクル性を向上させながら、タイヤの性能特性を維持または向上させることができる、ゴム配合用の代替充填剤が必要とされている。
【発明の概要】
【0009】
本発明者らはここで、ジエンゴム化合物中のゴム鎖と可逆的相互作用を形成することができる修飾シリカ充填剤を提案する。この修飾シリカは、従来のジエンゴム-シリカ化合物の共有結合性シランカップリングを効果的に置換することができ、それにより、所望の機械的特性を維持しながら該化合物をより容易にリサイクルできることが提案されている。具体的には、本発明者らは、ポリマージエンゴムと可逆的なカチオン‐π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合(covalent attachment)によるシリカ表面の化学修飾を提案する。シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックス中に分散する前に、その表面にカチオン部位を付加することによって「事前修飾(pre-modified)」することができる。あるいは、配合プロセスの一部として現場(in-situ)で効果的に修飾して、ジエンゴム-シリカ化合物を製造することもできる。
【0010】
1‐アリール‐3‐メチルイミダゾリウムクロリド(AMI)などのイオン液体は、天然ゴム化合物での使用が提案されており(例えば、Zhang et al., J. Appl. Polym. Sci. 134: 44478, 2017を参照)、シリカと天然ゴムとの相互作用を強化する。しかしながら、シリカとイオン液体との間の相互作用は弱い非共有水素結合であり、これがゴム-シリカ化合物の性能を制限することが示唆されている。より最近では、Qian et al (Polymer Composites 40: 1740, 2018) は、AMIおよびTESPTの両方をSBRシリカ化合物に導入した。彼らは、ゴム化合物の必要な分散および機械的特性を達成するには、カチオン-π相互作用、水素結合、およびシリカとSBR鎖との間の共有結合といった複数の相互作用を利用する必要があると結論付けた。
【0011】
イオン液体の使用を伴う以前の研究とは対照的に、本発明者らは、シリカの表面がカチオン種との強い共有結合によって修飾される官能化シリカの使用を提案する。これには、イオン液体の使用、特にAMIの使用と比較して、いくつかの重要な利点がある。例えば、AMIを使用する場合、塩化物イオンの存在は、塩化物イオンがゴム化合物の劣化、ひいては早期老化のリスクを高めるため、極めて望ましくない。イオン液体とシリカ表面との間に弱い水素結合が存在するため、シリカ内、特にその表面に存在する水分子との交換も非常に生じやすくなる。これにより、シリカの表面に水が吸着し、ゴムマトリックス中でのシリカの凝集および分散不良が生じる危険性がある。Qianらにおいて、AMIに加えてTESPTを使用してシリカとSBR鎖との間に望ましい複数の相互作用を提供するという提案は、シリカとゴム鎖との間の共有結合も含んでいる。これにより、材料の弾性が失われるだけでなく、材料が容易にリサイクルできなくなるという結果になり得る。
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、ゴム製品の重要な性能特性を保持するだけでなく、そのリサイクル性を向上させる化学修飾シリカ充填剤を提供することにより、既知のシリカゴム化合物に関する問題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、一態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合により表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を分散させるステップを含む、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0015】
別の態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能なゴム組成物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、ゴム組成物を提供する。
【0016】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の加硫可能なゴム化合物を架橋することによって得られるか、架橋することによって直接得られるか、または架橋することによって得ることが可能な加硫ゴム化合物を提供する。
【0017】
別の態様では、本発明は、加硫されたジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を導入し、それによって加硫可能なゴム化合物を製造するステップと、前記加硫可能なゴム化合物を所定温度および所定時間加熱することによって加硫にかけるステップと、を含み、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0018】
別の態様では、本発明は、車両用タイヤの部品として、または車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム‐シリカ化合物の使用を提供する。
【0019】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物から作られた車両用タイヤ部品を提供する。
【0020】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤを提供する。
【0021】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物をリサイクルする方法であって、前記化合物を脱硫するステップと、任意でジエンゴムを回収するステップと、を含む、リサイクルする方法を提供する。
【0022】
別の態様では、本発明は、ジエンゴムとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されたシリカ充填剤を提供する。
【0023】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のシリカ充填剤の製造プロセスであって、ジエンゴムとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によってシリカを化学的に修飾するステップを含む、製造プロセスを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
一態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含むジエンゴム‐シリカ化合物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、ジエンゴム‐シリカ化合物に関する。
【0025】
特に明記しない限り、「ゴム化合物(rubber compound)」および「ゴム組成物(rubber composition)」という用語は、本明細書では互換可能に使用され、様々な成分または材料とブレンドまたは混合(すなわち配合)されたゴムを指す。「ジエンゴム‐シリカ化合物(diene rubber-silica compound)」とは、ジエンゴムにシリカ充填剤を混合したものを指す。
【0026】
本発明は、生の状態(すなわち、硬化または加硫前)および硬化または加硫した状態、すなわち、架橋または加硫後の両方のゴム化合物およびゴム組成物に関する。
【0027】
本明細書で使用する場合、「ジエンゴム(diene rubber)」という用語は、少なくとも1つの共役ジオレフィンモノマーから誘導される繰り返し単位を含むゴムを指す。これは、ジオレフィンモノマーと共重合可能なモノマーから誘導される1つ以上の追加単位を有するホモポリマーおよびコポリマーを含む。繰り返し単位は、ポリマーの主鎖および/または側鎖に存在し得る炭素-炭素二重結合を有する。ジエンゴムは天然ゴムまたは合成ゴムであり得る。ジエンゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、およびエチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0028】
一実施形態において、本発明で使用するためのジエンゴムは、ブタジエンから誘導される繰り返し単位を含む。このようなゴムの例としては、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)が挙げられるが、これらに限定されない。一連の実施形態では、本発明で使用するジエンゴムはSBRである。
【0029】
本明細書で使用される「カチオン-π相互作用(cation-π interaction)」という用語は、カチオンと電子豊富なπ系との間の非共有結合性相互作用を指す。本明細書に記載されるカチオン-π相互作用は、シリカ充填剤の一部を形成するカチオン部位と、ジエンゴムポリマー中の少なくとも1種類の電子豊富なπ系との間の相互作用を含む。電子豊富なπ系は、ジエンゴムポリマー中に存在する炭素-炭素二重結合の一部を形成するπ結合によって提供され得る。炭素-炭素二重結合はポリマーの主鎖の一部を形成し得、または側鎖もしくは末端基に存在し得る。電子豊富なπ系は、ジエンゴムに存在する他の置換基、例えばポリマーの主鎖にまたは側鎖の一部として存在し得る任意の芳香族基(例えばフェニル)またはヘテロ芳香族基と結合することもあり得る。したがって、あるいはまたはさらには、本明細書に記載されるカチオン-π相互作用は、シリカ充填剤上に提供されるカチオン部位と、ポリマー中に存在する芳香族またはヘテロ芳香族基の電子豊富なπ系、例えばジエンゴムがSBRである場合のフェニル環と、の間の相互作用も含み得る。理解されるように、例えばシリカ充填剤上に提供されるカチオン部位が複数のカチオン基を含有する場合、複数のカチオン-π相互作用が関与し得る。
【0030】
本明細書に記載のゴム化合物中の修飾シリカとジエンゴムマトリックスとの間の主要な相互作用は、カチオン-π相互作用であることが意図されている。シリカとジエンゴムマトリックスとの間には、共有結合および他の非共有結合の両方の相互作用を含む他の相互作用が存在し得る。しかしながら、ゴム化合物のリサイクル可能性という所望の目的を達成するには、追加の共有結合相互作用の存在を最小限に抑えるべきである。一実施形態においては、二官能性シランなどの従来のカップリング剤の存在から生じるもののような、シリカとジエンゴム鎖との間の共有結合相互作用は実質的に存在しない。「実質的に存在しない(substantial absence)」とは、シリカとジエンゴム鎖との間の共有結合の程度が、ジエンゴム1モル当たり1モル未満、好ましくは1モル当たり0.5モル未満、例えば1モル当たり0.3モル未満の共有結合の量であることを意味する。ゴム化合物は、シリカをジエンゴムに共有結合させるカップリング剤を実質的に含まない(例えば、全く含まない)ことが理解されよう。シリカとジエンゴム鎖との間に存在し得る他の可逆的な非共有結合相互作用としては、以下のいずれか、すなわち、静電気力、π-π結合、ファンデルワールス力、水素結合、および疎水効果ならびにそれらの組み合わせが挙げられる。しかしながら、一実施形態では、唯一の相互作用は、本明細書に記載されるようなカチオン-π相互作用である。
【0031】
本明細書で使用される「シリカ充填剤(silica filler)」という用語は、粒子状シリカを指す。ジエンゴムマトリックスを補強することができる任意の既知の種類の粒子状シリカを本発明に使用することができる。理解されるように、既知のシリカ材料は通常、一部の他の成分(例えば不純物として)を含むが、主成分は二酸化ケイ素、すなわちSiOである。二酸化ケイ素の含有量は、一般に少なくとも90重量%、好ましくは少なくとも95重量%、例えば少なくとも97重量%である。
【0032】
本発明で使用するためのシリカ材料は当技術分野で周知であり、特に、沈降シリカ(シリカの非晶質形態)、熱分解(ヒュームド)シリカ、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウムおよびケイ酸アルミニウムを含む。シリカは一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。シリカは、離散粒子の形態、すなわち分散性の高い顆粒として使用される。それは、サイズが単分散であり、また形状が均一であってもよい。あるいは、分岐状または直鎖状のクラスターの形態で提供されてもよい。沈降シリカは、トレッド化合物に対して優れた転がり抵抗および湿潤時のトラクションを付与する能力を考慮すると好ましいものである。本発明で使用するためのシリカは、50~350cm/g、好ましくは80~280cm/g、例えば120~230cm/gの範囲の比表面積(例えば、窒素比吸収表面積)を有し得る。シリカの平均粒子サイズは、約5nm~約50nm、好ましくは約8nm~約35nm、例えば約10nm~約28nmの範囲であり得る。本発明で使用する市販グレードのシリカは、Evonik(ドイツ)などの供給業者から広く入手可能であり、例えば、Ultrasil(登録商標)7000 GRおよびUltrasil(登録商標)VN3が挙げられる。
【0033】
本発明で使用するためのシリカは、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成することができる少なくとも1つのカチオン部位に結合することによって表面修飾される。本明細書に記載されるように、シリカは、カチオン部位を担持するために「事前修飾」されていてもよいし、in-situで修飾されてもよい。シリカは、このようにして複数のカチオン部位で表面修飾され得る。複数のカチオン部位が存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、典型的には、複数のカチオン部位が存在する場合、これらは同じ化学成分(chemical entity)となる。
【0034】
いくつかの実施形態では、シリカ表面は、1つ以上の追加の官能基の付加によって修飾されてもよい。このような官能基は、本質的に非極性であっても極性であってもよく、当業者であれば適切な基を容易に選択し得る。例えば、シリカは、配合中の充填剤間の相互作用を減少させ、それによってゴムマトリックス中での分散性を改善するために表面処理されてもよい。この目的に適した相溶化剤(「被覆剤(covering agents)」としても知られる)は当技術分野で周知であり、ヘキサデシルトリメトキシシランまたはプロピルトリエトキシシランなどの単官能性シランが挙げられるが、これらに限定されない。シリカ粒子の表面に付加し得る他の非極性種には、芳香族基および飽和脂肪族炭化水素が挙げられる。いくつかの実施形態では、シリカ表面は、アミンまたはカルボキシル基を含む極性官能基などの1つ以上の極性官能基で官能化されてもよい。
【0035】
一実施形態では、本発明で使用するシリカは、本明細書に記載の1つ以上のカチオン部位で修飾されるのみであり、すなわち、他の種類の官能基はその表面に結合しない。
【0036】
シリカ表面に結合する各カチオン部位は、少なくとも1つのカチオン基を含有する。「カチオン基(cationic group)」とは、正電荷を有する任意の基を意味する。正電荷は永続的であるべきである。理解されるように、各カチオン基は、全体の電荷のバランスをとるために、等しくかつ反対の電荷を有する対アニオンと結合することになる。カチオン基は、無機カチオンであっても有機カチオンであってもよいが、典型的には有機カチオンである。
【0037】
場合によっては、各カチオン部分は複数のカチオン基を含有し得る。複数のカチオン基が存在する場合、これらは同じであっても異なっていてもよいが、通常は同じである。典型的には、カチオン部位は、ジエンゴムマトリックスと意図したカチオン-π相互作用を形成することができる単一のカチオン基を含む。
【0038】
任意のカチオン基の正電荷は、その基内に存在する単一の原子に局在している場合もあれば、または原子群、例えば、正電荷が複数の原子にわたって非局在化されている芳香環またはヘテロ芳香環などの環構造を一緒に形成する原子群と結合している場合もある。
【0039】
ある範囲のカチオン部位が本発明において使用され得、また適切な部位は、その意図された機能を念頭に置いて当業者によって容易に選択され得ることが想定される。例えば、いかなるカチオン部位も、本明細書に記載のゴム化合物の残りの成分のいずれかに対して、またはゴム化合物自体もしくはその物理的および機械的特性に関して、悪影響を及ぼすべきではないことが理解されるであろう。アニオン性対イオンの選択に関しても同様の考慮事項が当てはまる。
【0040】
本発明で使用するためのカチオン部位の適切な例としては、以下のカチオン基、すなわち、第四級アンモニウム、第三級スルホニウム、第四級ホスホニウム、プロトン化またはアルキル化されたヘテロ環基、ジアゾニウムイオンおよびグアニジニウムイオンのうちの少なくとも1つを含む有機基が挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、カチオン部位は、これらの種類のカチオン基のうちの1つだけを含む。カチオン性ヘテロ環基の例としては、例えば、ピリジニウム、ピロリウム、ピリミジニウム、キノリニウムおよびイミダゾリウムイオンが挙げられる。
【0041】
カチオン部位は、少なくとも1つの共有結合を介してシリカの表面に付加している、すなわち、共有結合している。一実施形態では、それは、2つ以上の共有結合によって、例えば2つの共有結合によって付加され得る。ただし、通常は単一の共有結合によって付加される。
【0042】
カチオン部位はシリカの表面に直接付加することができる。直接付加(directly attached)とは、直接の共有結合を介することを意味する。しかしながら、都合のいいことには、カチオン部位は、適切な結合基を介してシリカ表面に付加され得る。この結合基はシリカ表面およびカチオン部位と共有結合を形成し、それによって2つの成分を連結する役割を果たす。複数のシラノール基を担持するシリカの表面の性質により、カチオン部位またはカチオン部分を担持する結合基は、一般にシロキサン結合を介してシリカに結合する。
【0043】
カチオン部位が結合基を介してシリカ表面に連結されている場合、カチオン部位をシリカの表面に共有結合できる限りにおいては、結合基の正確な性質は重要ではないことが理解されるであろう。理解されるように、結合基は、ゴム化合物の性能に影響を与える任意の成分、例えばジエンゴムマトリックスに悪影響を与え得るいかなる基も含むべきではない。適切な結合基は、その意図される機能を念頭に置いて当業者によって容易に選択され得る。
【0044】
一般に、結合基は、シリカ表面と選択されたカチオン部位との付加点の間に、16個までの原子、好ましくは12個までの原子、例えば2~8個の原子を含有する主鎖を有する有機基であろう。それは、例えば、12個までの炭素原子、例えば、2~8個の炭素原子を含有し得る。結合基は直鎖状でも分枝状でもよく、1つ以上の置換基を担持し得る。
【0045】
結合基は、例えば、以下のように、
【化1】
または、
【化2】
で表すことができ、
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、カチオン部位への結合基の付加点を示しており、
各Rは、-OH、C1-6アルコキシ(好ましくはC1-3アルコキシ)およびC1-6アルキル(好ましくはC1-3アルキル)から独立して選択され、および、
Zは、-O-、-SiR’2-(式中、各R’は独立して、-OH、C1-6アルコキシまたはC1-6アルキル)、-PR“-、-NR”-、および-OP(O)(OR“)O-(式中、R”はHまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えばメチルである)から選択される1つ以上の基によって割り込まれ(interrupted)得る置換基を有していてもよいC1-12アルキレン基である。
【0046】
一連の実施形態では、式(I)または式(II)中の各Rは、独立して、-OH、C1-3アルコキシおよびC1-3アルキルから選択される。例えば、各Rは、独立して、-OH、C1-2アルコキシおよびC1-2アルキルから選択され得る。
【0047】
一連の実施形態では、式(I)および式(II)における基Zは、置換基を有していてもよいC1-12アルキレン、好ましくはC1-8アルキレン、例えばC1-6アルキレンであり得る。任意の置換基としては、例えば、-OHおよび-NR”2(式中、各R”は、独立して、HまたはC1-6アルキル、好ましくはHである)が挙げられる。
【0048】
一連の実施形態では、式(I)および式(II)における基Zは、置換基を有していてもよいC1-12アルキレン、好ましくはC1-8アルキレン、例えばC1-6アルキレンであり得、任意で1つ以上の-O-原子、例えば1つまたは2つの-O-原子によって割り込まれていてもよい。任意の置換基としては、例えば、-OHおよび-NR”2(式中、各R”は、独立して、HまたはC1-6アルキル、好ましくはHである)が挙げられる。
【0049】
一実施形態では、結合基は以下の構造のいずれかによって表現され得る、すなわち、
【化3】
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、カチオン部位への結合基の付加点を示しており、
各Rは、本明細書で定義される通り、
mは、0~12、好ましくは1~8、または1~6、例えば1、2もしくは3の整数であり、
aは、0~6、好ましくは1~3、例えば2または3の整数であり、および、
bは、0~6、好ましくは1~3、例えば1または2の整数である。
【0050】
一実施形態では、mは3である。
【0051】
一実施形態では、aは3であり、およびbは1である。
【0052】
結合基の具体例としては、これらに限定されないが、以下のもの、すなわち、
【化4】
が挙げられ、
式中、
* は、シリカ表面への結合基の付加点を示し、
** は、カチオン部位への結合基の付加点を示しており、並びに、
m、aおよびbは本明細書で定義される通りである。
【0053】
任意で本明細書に記載の結合基のいずれかを介して、シリカ表面に共有結合され得るカチオン部位の例としては、
【化5】
が挙げられ、
式中、
* は、シリカ表面または本明細書で定義される結合基へのカチオン部位の付加点を示し、
、R、R、およびRはそれぞれ独立してH、置換基を有していてもよいC1-12アルキル、置換基を有していてもよいC3-6シクロアルキル、置換基を有していてもよいC2-12アルケニル、置換基を有していてもよいC2-12アルキニル、置換基を有していてもよいアリールおよび置換基を有していてもよいヘテロアリールから選択され、
各Rは独立して、置換基を有していてもよいC1-12アルキルおよび置換基を有していてもよいC3-6シクロアルキルから選択され、
X‐は、例えばチオシアン酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、水酸化物、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、および酢酸塩から選択される対イオンであり、
nは0~5、好ましくは0または1の整数であり、
pは0~4、好ましくは0または1の整数であり、
qは0~3、好ましくは0または1の整数であり、並びに、
rは0~2、好ましくは0または1の整数である。
【0054】
本明細書で使用される「アルキル(alkyl)」という用語は、一価の飽和した直鎖状または分枝鎖状の炭化水素鎖を指す。それは置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n-ヘキシルなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキル基は、好ましくは1~6個の炭素原子、例えば1~4個の炭素原子を含有する。
【0055】
本明細書で使用される「アルコキシ(alkoxy)」という用語は、-O-アルキル基を指し、ここでアルキルは本明細書で定義されるとおりである。アルコキシ基の例としては、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシなどが挙げられるが、これらに限定されない。特に指定しない限り、任意のアルコキシ基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0056】
本明細書で使用される「シクロアルキル(cycloalkyl)」という用語は、一価の飽和環状炭素系を指す。それは置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。シクロアルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0057】
本明細書で使用される「アルキレン(alkylene)」という用語は、飽和した直鎖状または分枝鎖状の二価の炭素鎖を指す。アルキレン基の例としては、メチレン(-CH-)、エチレン(-CHCH-)、プロピレン(-CHCHCH-)などが挙げられるが、これらに限定されない。特に指定しない限り、任意のアルキレン基は、1つ以上の位置において適切な置換基によって置換されていてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
本明細書で使用される「アルケニル(alkenyl)」という用語は、一価の置換または非置換の炭化水素鎖を指し、2~12個の炭素原子を有し、かつ少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む直鎖および分枝鎖を含むが、これらに限定されない。それは置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0059】
本明細書で使用される「アルキニル(alkynyl)」という用語は、一価の置換または非置換の炭化水素鎖を指し、2~12個の炭素原子を有し、かつ少なくとも1つの炭素-炭素三重結合を含む直鎖および分枝鎖を含むが、これらに限定されない。それは置換されていても、置換されていなくてもよい。複数の置換基が存在する場合、それらは同一であっても異なっていてもよい。
【0060】
本明細書で使用される「アリール(aryl)」という用語は、芳香族炭素環系を包含することを意図する。このような環系は、単環式または多環式(例えば二環式)であり得、また少なくとも1つの不飽和芳香環を含み得る。これらが多環式環を含む場合、これらは縮合または架橋されていてもよい。好ましくは、そのような系は6~20個の炭素原子、好ましくは6~14個の炭素原子、例えば6個または10個の炭素原子を含有する。このような基の例としては、フェニル、1-ナフチル、および2-ナフチルが挙げられる。好ましいアリール基はフェニルである。特に明記しない限り、任意の「アリール」基は、同一であっても異なっていてもよい1つ以上の置換基によって置換され得る。
【0061】
本明細書で使用される「ヘテロアリール(heteroaryl)」という用語は、ヘテロ環式芳香族基を包含することを意図する。このような基は単環式または二環式であり、また少なくとも1つの不飽和ヘテロ芳香環系を含み得る。これらが単環式である場合、これらは、窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有する5または6員環を含み、かつ芳香族系を形成するのに十分な共役結合を含有する。これらが二環式である場合、これらは炭素環またはヘテロ環と縮合していてもよく、また9~11個の環原子を含んでいてもよい。ヘテロアリール基の例としては、チオフェン、チエニル、ピリジル、チアゾリル、フリル、ピロリル、トリアゾリル、イミダゾリル、オキサジアゾリル、オキサゾリル、ピラゾリル、イミダゾロニル、オキサゾロニル、チアゾロニル、テトラゾリル、チアジアゾリル、ベンゾイミダゾリル、ベンゾオキサゾリル、ベンゾフリル、インドリル、イソインドリル、ピリドニル、ピリダジニル、ピリミジニル、イミダゾピリジル、オキサゾピリジル、チアゾロピリジル、イミダゾピリダジニル、オキサゾロピリダジニル、チアゾロピリダジニルおよびプリニルが挙げられる。特に明記しない限り、任意の「ヘテロアリール」は、同一であっても異なっていてもよい1つ以上の置換基によって置換され得る。
【0062】
一実施形態では、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、置換基を有していてもよいC1-12アルキル、置換基を有していてもよいアリール(例えば、フェニル)、および置換基を有していてもよいヘテロアリール(例えば、ピリジン)から選択される。一実施形態では、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、H、置換基を有していてもよいC1-12アルキルおよび置換基を有していてもよいフェニルから選択される。別の実施形態では、R、R、RおよびRはそれぞれ独立して、C1-10アルキル、好ましくはC1-8アルキル、例えばメチル、エチル、プロピルおよびオクチルから選択される。一実施形態では、R、R、RおよびRのうちの1つ以上は、非置換フェニルである。
【0063】
一実施形態では、任意で本明細書で定義されるもののいずれかのような結合基を介して、シリカ表面に共有結合しているカチオン部位は、以下の構造を有し、
【化6】
式中、
* は、シリカ表面または本明細書で定義される結合基へのカチオン部位の付加点を示し、並びに、
、R、R、およびX‐は本明細書で定義される通りである。
【0064】
式(III)の一実施形態では、R、R、およびRはそれぞれ独立して、非置換C1-12アルキル、例えば非置換C1-8アルキルから選択される。例えば、これらは、メチル(「Me」)、エチル(「Et」)およびオクチルから独立して選択され得る。
【0065】
式(III)の構造の具体例としては、以下、
【化7】

が挙げられ、
式中、
* は、シリカ表面または本明細書で定義される結合基への付加点を示し、および、
X-は本明細書で定義されるとおりである。
【0066】
本明細書に記載の基のいずれかが置換されている場合、置換基は同じであっても異なっていてもよく、また、以下、すなわち、C1-3アルキル(例えば、-CH)、C1-3アルコキシ(例えば、-OCH)、および-NR (式中、各Rは独立してHまたはC1-6アルキル、好ましくはC1-3アルキル、例えば-CH)のいずれかから選択され得る。
【0067】
一実施形態では、シリカ表面に共有結合しているカチオン部位は、以下、すなわち、
【化8】

の構造のうちの1つから選択され、
式中、
* は、シリカへの付加点を示し、および、
RおよびX-は本明細書で定義されるとおりである。
【0068】
本明細書に記載の表面修飾シリカは、当技術分野で知られている方法を使用して調製することができる。使用される正確な方法は、結合基(存在する場合)およびカチオン基の性質に依存するが、当業者であれば容易に選択することができる。典型的には、シリカの表面および選択されたカチオン部位の両方に共有結合を形成することができ、本明細書で定義される結合基を形成する化合物が使用され得る。例えば、この方法は、シリカ、結合基を形成できる化合物と、選択されたカチオン部位を含む化合物、または反応の結果として選択されたカチオン部位を形成できる化合物との間の反応を含み得る。例えば、選択されたカチオン部位が第四級アンモニウム基である場合、これは第三級アミンの反応によって都合よく形成され得る。
【0069】
表面修飾シリカの形成は、例えば、最初に結合基がシリカの表面に共有結合し、その後、カチオン部位を含む化合物(またはカチオン部位を形成できる化合物)と反応するなど、段階的に実行され得る。あるいは、結合基は最初にカチオン部位(またはカチオン部位を形成可能な化合物)に共有結合し、その後、シリカに共有結合し得る。しかしながら、典型的には、表面修飾シリカは、すべての反応物が関与する単一のワンステップ反応で形成される。このような反応の例は図1に概略的に示されており、結合基は3-ブロモプロピルトリメトキシシランから形成され、またカチオン部位を形成できる化合物は第三級アミン、すなわちN,N‐ジメチルオクチルアミンである。反応に適した溶媒および条件は、反応物の性質に応じて当業者によって容易に選択され得る。
【0070】
反応に関する化合物が選択されたカチオン部位をすでに含む場合には、対アニオンの性質を適切に選択することができる。ただし、場合によっては、カチオン部位、すなわちその対アニオンがin situで形成され、また結合基を形成する化合物の性質によって決定される。したがって、場合によっては、in situで生成される対イオンを、ゴム化合物での使用に対してより有利な代替対イオンと交換することが必要または望ましい場合がある。これは、例えば、in situで生成される対イオンがハロゲン化物イオン(例えば、塩化物、臭化物、またはヨウ化物)であり、その存在によりゴム化合物の老化または劣化のリスクが増加し得る場合に当てはまる。
【0071】
したがって、場合によっては、表面修飾シリカの調製方法は、対イオンの置換を含む追加のステップを含み得る。対イオン交換は、より好ましいアニオンの存在下で容易に起こり、またこれを達成するための適切な方法は当技術分野でよく知られている。代替対イオンの任意の適切な供給源、例えば、アルカリまたはアルカリ土類金属塩を使用してもよい。適切な対イオンは、例えばチオシアン酸ナトリウムによって提供され得るチオシアン酸塩である。対イオン交換に適した反応条件は、当業者によって容易に選択され得る。
【0072】
正に荷電した基(すなわち、適切なカチオン部位)を含む特定のシランは市販されている。これらはシリカと直接反応して、本明細書に記載されるような表面修飾されたシリカを生成し得る。必要に応じて、市販のシラン中に存在するハロゲン化物イオン(塩化物など)などのあまり好ましくない対イオンを、ゴム化合物に使用するためにより好ましい対イオン(例えば、チオシアン酸塩対イオン)と交換することができる。これは、当技術分野で知られている任意の方法を使用して、例えばチオシアン酸ナトリウムとの反応およびその結果として生じるハロゲン化ナトリウム塩(例えば結晶化による)の除去によって達成することができる。典型的には、対イオン交換は、シランとシリカとの反応前に実行され得る。第四級アンモニウム基を含むシラン、例えばN-トリメトキシシリルプロピル-N,N,N-トリメチルアンモニウムクロリドまたはオクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロリドは、Gelest,Inc.のような供給業者から入手可能である。
【0073】
本発明で使用する修飾シリカの調製方法の一例を以下のスキームに示す:
【化9】
式中、Aはシリカ粒子を表し、
Yは、-OHまたは任意の加水分解性基、例えばC1-6アルコキシであり、並びに、
Z、R、R、RおよびRは本明細書で定義される通りである。
【0074】
表面修飾シリカを形成するための反応に続いて、グラフト化されていない材料は、適切な溶媒による洗浄または水中でのソックスレー抽出などの従来の方法を使用して除去してもよい。必要に応じて、残留溶媒は、例えば高温で乾燥することによって除去することができる。
【0075】
表面修飾シリカの調製後、実施例に記載されているように、FTIR分析を使用して反応の成功を決定することができる。適切な場合には、修飾シリカの収率は、熱重量分析(TGA)などの当該技術分野で知られている方法によって決定することができる。
【0076】
上述の方法は、後続的にゴムに組み込んで所望のジエンゴム-シリカ化合物を製造するための「事前修飾」シリカの調製に関する。これらの方法の代替方法は、表面修飾されたシリカをin situで調製することである。このような方法では、表面修飾シリカを形成するのに必要な成分が配合中にゴムに添加される。シリカに加えて、これらの成分は、選択されたカチオン部位を含有するか、または選択されたカチオン部位をin situで形成できる化合物を含み、および任意で所望の結合基を形成できる化合物を含む場合もある。例えば、アミン(正に帯電した第四級アンモニウムイオンを形成できる)、シラン(反応して結合基を形成できる)、およびシリカを一緒にゴムに添加してもよい。
【0077】
本明細書に記載の表面修飾シリカおよびその調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。
【0078】
したがって、別の態様では、本発明は、ジエンゴムとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されるシリカ充填剤を提供する。
【0079】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のシリカ充填剤の製造プロセスであって、前記プロセスは、ジエンゴムとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によってシリカを化学修飾するステップを含む、製造プロセスを提供する。
【0080】
本明細書に記載される表面修飾シリカは、ジエンゴムマトリックス中で補強充填剤として作用する。「ジエンゴムマトリックス(diene rubber matrix)」という用語は、ジエンゴムを含むエラストマーマトリックスを指す。
【0081】
任意の既知のジエンゴムを本発明に使用することができ、当業者であれば、シリカ-ジエンゴム化合物の意図される用途を念頭に置いて適切なゴムを容易に選択することができる。ジエンゴムは当技術分野でよく知られており、天然ゴムおよび合成ゴムの両方を含む。このようなゴムの非限定的な例としては、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソブチレン-イソプレンゴム(IIR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム(SIBR)、エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)が挙げられる。
【0082】
ジエンゴムは、1つ以上の官能基で修飾することができ、そのような官能化されたジエンゴムのいずれも本発明で使用してよい。ジエンゴムが官能化されている場合、そのポリマー主鎖、末端基および/または側鎖のいずれかが1つ以上の官能基に結合し得る。これらの官能基は、ポリマー材料の製造中にポリマー材料に組み込まれてもよく、あるいは、その後ポリマー上にグラフトされてもよい。官能基の種類および位置は、当技術分野で知られているゴムのグレードごとに異なる。官能化ゴムの選択は、本明細書に記載のゴム化合物の使用目的に依る。官能化ジエンゴムの例としては、1つ以上の反応性基(例えばアルコキシシリル基)および/または1つ以上の相互作用基(例えばアミノ基)を担持するものが挙げられる。アミノ基などの相互作用基は、例えばゴムマトリックス内で水素結合を形成し得る。一実施形態では、本発明で使用するジエンゴムは官能化されていない。
【0083】
一連の実施形態では、本発明で使用するジエンゴムは、タイヤトレッドなどのタイヤ構成要素として使用できるゴム化合物の製造での使用に適したものである。本発明で使用されるジエンゴムは、例えば、官能化または非官能化スチレンブタジエンゴム(SBR)であり得る。官能化されていないSBRが特に好ましい。
【0084】
スチレン-ブタジエンゴムは当技術分野でよく知られている。本明細書で使用する「スチレン-ブタジエンゴム(styrene-butadiene rubber)」すなわち「SBR」という用語は、一般に、スチレンおよびブタジエンモノマーの重合によって製造される任意の合成ゴムを指すことを意図している。したがって、それは任意のスチレン-ブタジエン共重合体を指し、官能化されたSBRおよび官能化されていないSBRの両方を含むことが意図されている。SBRはタイヤ産業で一般的に使用されており、エマルション、懸濁液、または溶液中での対応するモノマーの共重合などの周知の方法によって製造することができる。スチレンモノマーおよびブタジエンモノマーは、ゴム化合物の用途および特性に応じて適切な比率で選択され得る。例えば、スチレンは、ゴムタイヤトレッド化合物に対して80重量%まで、より典型的には約45重量%までの量で存在し得る(コモノマーの総重量に対する重量%)。ジエン成分は一般に少なくとも50重量%の量で存在する。トレッド化合物には、使用時の路面との接触により良好な粘弾性特性が求められるほか、濡れた路面での転がり抵抗およびトラクションなどの特性も求められる。このような特性を達成するためのスチレンの適切な量はタイヤ業界では周知であり、当業者であれば容易に選択することができる。
【0085】
選択されたジエンゴムは、本明細書に記載の化合物中のゴム100部として使用することができ、またはゴム配合用に従来使用されている任意のエラストマーもしくは天然ゴムおよび合成ゴムの両方を含むそれらのブレンドとブレンディングしてもよい。異なるジエンゴムのブレンドを使用してもよい。任意のブレンドでの使用に適したゴムは当業者によく知られており、天然ゴム、合成ポリイソプレンゴム、スチレン-イソプレンゴム、スチレン-ブタジエンゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエンゴム、ブタジエン-イソプレンゴム、ポリブタジエン、ブチルゴム、ネオプレン、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレンアクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレンプロピレンターポリマー(EPDM)、エチレン酢酸ビニル共重合体、エピクロルヒドリンゴム、塩素化ポリエチレン-プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、水素化ニトリルゴム、および四フッ化エチレン-プロピレンゴムが挙げられる。任意のポリマーブレンドの比率は、必要に応じて、例えばゴム化合物の粘弾性特性に基づいて選択することができる。当業者は、所望の粘弾性特性範囲を提供するためにどのエラストマーが適切であるか、およびそれらの相対量を容易に決定することができる。
【0086】
好ましい実施形態では、本発明で使用するために選択されるジエンゴムはSBRである。これは、単独で使用しても、本明細書で言及する他のゴムのいずれかとのブレンドとして使用してもよい。二成分ブレンドおよび三成分ブレンドが好ましい。一連の実施形態では、SBRをブタジエンゴムおよび/または天然ゴムと組み合わせて使用してもよい。ブタジエンゴムと組み合わせて使用する場合、ブレンド中のSBRの量は、50~90重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは60~80重量%の範囲、例えば約70重量%であってよい。成分が70:30の重量比で存在するSBR:ブタジエンゴムの二成分ブレンドが特に好ましい。SBR、ブタジエンおよび天然ゴムを含む三成分ブレンドも本発明で使用することができる。このようなブレンドでは、SBRが一般に主成分を形成し、また、40~80重量%(ブレンドの総重量に対して)、好ましくは50~70重量%、例えば約60重量%の量で存在する。ブタジエンおよび天然ゴム成分はそれぞれ、10~30重量%の範囲(ブレンドの総重量に対して)、例えば約20重量%の量で存在し得る。例えば、各成分が60:20:20の重量比で存在するSBR:ブタジエン:天然ゴムブレンドを使用してもよい。
【0087】
SBRなどの合成ゴムの市販の販売元には、ドイツのArlanxeoがある。本発明で使用するスチレンブタジエンゴムの非限定的な例としては、Buna VSL 3038-2 HM(Arlanxeo、ドイツ)が挙げられる。
【0088】
化学修飾シリカは、ジエンゴム、および所望に応じて他のゴム材料とブレンドすることで、本発明に係るゴム化合物を提供することができる。
【0089】
本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の調製方法は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、ジエンゴムマトリックス中にシリカ充填剤を分散させるステップを含み、ここで、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0090】
本明細書に記載の修飾シリカがゴムマトリックス中に分散されているジエンゴム-シリカ化合物は、ゴム化合物の製造において当技術分野で知られている方法、例えば、シラン、加工助剤、硬化システム、劣化防止剤、顔料、追加の充填剤、充填剤用の相溶化剤、繊維、樹脂などを含む他の成分との配合方法を使用して製造することができる。当業者は、所望の特定のゴム製品に従って、その後の混合および加硫のための加硫可能なゴム化合物の組み合わせを容易に選択することができる。
【0091】
例えば、本明細書に記載のジエンゴムマトリックスおよび化学修飾シリカ充填剤に加えて、加硫可能な組成物は、加工助剤(例えば、油)、活性化剤(例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸など)、硫黄または硫黄供与化合物、促進剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、オゾン防止剤など)、顔料、追加の充填剤、および相溶化剤を含有し得る。酸化亜鉛およびステアリン酸は、加硫時間を短縮することで加硫プロセスの活性剤として機能し、また、硬化または加硫中に形成されるゴムマトリックス内の架橋の長さおよび数に影響を与える。これらの添加剤は、硫黄加硫材料の用途に応じて選択し、また通常の量で使用することができる。
【0092】
ゴム化合物に混合される化学修飾シリカの量は、得られる化合物の所望の物理的特性に基づいて選択でき、例えば他の充填剤の存在または不存在に依存し得る。適切な量は当業者によって容易に決定され得るが、例えば、約20~約150phr、好ましくは約50~約100phr、例えば約60~約90phrの範囲であり得る(ここで、「phr」とはゴム100部あたりの部数である)。
【0093】
カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ショートカーボン、ポリアミド、ポリエステル、天然繊維、炭酸カルシウム、粘土、アルミナ、アルミノケイ酸塩など、またはこれらの任意の混合物といった追加の補強充填剤も存在し得る。しかしながら、典型的には、組成物中に存在する唯一の充填剤は、本明細書に記載される化学修飾シリカである。
【0094】
加工助剤は、組成物の加工性を改善し、鉱油、植物油、合成油、またはそれらの任意の混合物などの油を含む。これらは、約5~75phr、好ましくは約10~50phrの量で使用され得る。典型的な加工助剤としては、芳香油などの油が挙げられる。このような油の例としては、処理留出芳香族抽出物(TDAE)、残留芳香族抽出物(RAE)、マイルドな抽出物溶媒和物(MES)、およびバイオベースの油糧種子誘導体が挙げられる。
【0095】
酸化亜鉛は、約1~約10phr、好ましくは約2~約5phr、より好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。ステアリン酸は、約1~約5phr、好ましくは約2~約3phrの量で使用され得る。
【0096】
硫黄は、組成物の満足な硬化を達成するのに有効な量で使用され得る。それは、例えば、約1~約10phr、好ましくは約1~約5phr、例えば約1~約3phrの範囲であり得る。
【0097】
促進剤は、約1~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で使用され得る。促進剤としては、チアゾール、ジチオカルバメート、チウラム、グアニジン、およびスルホンアミドが挙げられる。適切な促進剤の例としては、N-ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(CBS)、ジフェニルグアニジン(DPG)、2-メルカプトベンゾチアゾール(MBT)およびテトラベンジルチウラムジスルフィド(TBZTD)が挙げられる。
【0098】
相溶化剤は、配合中のシリカ凝集体の形成を低減するために使用され得、約0~約5phr、好ましくは約1~約3phrの量で存在し得る。一実施形態では、追加の相溶化剤は存在しない。シリカとゴムとを組み合わせる際に使用する多くの相溶化剤が既知である。シリカベースの相溶化剤としては、アルキルアルコキシシラン、例えばヘキサデシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシランおよびヘキシルトリメトキシシランなどのシランが挙げられる。
【0099】
シリカをSBRマトリックスに共有結合させるように機能するカップリング剤が存在してもよいが、本明細書に記載の理由により、これらは存在しないことが一般に好ましい。もしこれらが存在する場合は、少量で提供すべきである。任意のカップリング剤の適切な量は、その分子量、それが含有する官能基の数、およびその反応性などの要素を念頭に置いて、当業者によって決定され得る。ほとんどのカップリング剤は、シリカの量に基づいて等モル量で使用され得る。カップリング剤としてビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドを使用する場合、これはシリカ80phr当たり約0.6~約4.8phr、好ましくはシリカ80phr当たり1.2~3.2phrの量で提供され得る。カップリング剤の例としては、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド(TESPT)、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD)および3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシランなどの二官能性シランが挙げられる。一実施形態では、追加のカップリング剤は存在しない。
【0100】
ゴム化合物は、当技術分野で知られている方法によって調製され得、ゴム、化学修飾シリカ充填剤、および本明細書に記載の任意の他の成分を混合(すなわち配合)して、その後の加硫のためのゴム化合物を製造することを含む。
【0101】
成分の混合は、通常、成分が添加される段階で行われる。シリカ充填剤の分散を最適化するには、一般にマルチステップ混合プロセスが好ましく、複数のミキサー、例えば直列に配置された様々なミキサーの使用を伴う場合がある。例えば、タイヤトレッド化合物を混合する場合、混合プロセスには、マスターバッチを製造する最初の混合段階と、それに続く1つ以上の追加の直接製造に関係のない混合段階、および最終的に、硬化剤(すなわち、硫黄または硫黄供与剤および促進剤)を添加する生産的な混合段階が含まれ得る。使用してもよいミキサーは当技術分野で周知であり、例えば、接線方向または噛み合いローターを有するオープンミルまたはバンバリー型ミキサーが挙げられる。
【0102】
通常、ゴム、シリカ充填剤、加工助剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、劣化防止剤(酸化防止剤、オゾン防止剤など)、顔料、追加の充填剤、相溶化剤、カップリング剤(存在する場合)を混合して、最初のマスターバッチを製造する。この最初のマスターバッチの後に、追加の充填剤および添加剤を追加する別のマスターバッチが続いたり、または付加的な成分が追加されない直接製造に関係のない混合段階が続いたりする場合がある。ゴム内に成分(充填剤など)をさらに分散させるため、または混合ゴム化合物の粘度を下げるために、直接製造に関係のない混合段階を使用してもよい。
【0103】
混合中、組成物の早期架橋を避けるために、温度は所定のレベル未満に維持される。一般に、温度は150℃未満、好ましくは140℃未満に維持され得る。最初のマスターバッチを製造する際、混合は、例えば約80~約110℃、例えば約100℃の温度で実施され得る。直接製造に関係のない混合段階では、温度を例えば約150℃まで、例えば約130℃まで上昇させ得る。混合手順中にシリカのin situでのシラン化が行われる場合、反応が起こるためにはこの範囲の上限の温度を使用することが必要となり得る。同様に、混合中に追加の相溶化剤を添加する場合、これらの相溶化剤がシリカ表面と確実に反応するように、より高い温度で混合を実行する必要があり得る。混合時間は変動し得るが、当業者であれば、混合物の組成および使用するミキサーの種類に基づいて容易に混合時間を決定することができる。一般に、所望の均質な組成物を得るには、少なくとも1分間、好ましくは2~30分間の混合時間で十分である。
【0104】
最終混合段階は、促進剤や劣化防止剤を含む硬化剤の添加を包含する。この混合段階の温度は一般的により低く、例えば約40℃~約60℃の範囲内、例えば約50℃である。この最終混合の後には、成分を加えない直接製造に関係のない混合段階がさらに続くこともある。
【0105】
加硫可能なゴム化合物を得るために、最も適切な混合の種類を容易に選択できる。混合速度は容易に決定することができるが、例えば約20~約100rpm、例えば約30~約80rpmの範囲、好ましくは約50rpmの速度であってもよい。
【0106】
加硫可能なゴム化合物は、組成物を硬化させる最終加硫のための未硬化の(いわゆる「グリーン」)タイヤ部品として供給され得る。ゴム成分を架橋するための硬化は、既知の方法によって実行され得る。例えば、タイヤ産業では、未硬化のゴム(いわゆる「グリーンボディ」)が製造され、続いてプレス金型で硬化され、同時的にゴム成分が架橋され、成分が最終タイヤに成形される。加硫は、主に硫黄架橋による架橋によってゴムを硬化させる。加硫方法はよく知られた方法である。適切な加硫条件は、通常、120~200℃の範囲の温度で5~180分間加熱することを含む。
【0107】
以下のスキームは、配合中の表面修飾シリカ上に存在するカチオン部位とSBR鎖との間の1つのタイプのカチオン-π相互作用の形成を示しており、
【化10】
式中、A、Z、R、R、R、およびX‐は本明細書で定義されている通りである。
【0108】
加硫可能なゴム組成物は、本発明のさらなる態様を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、シリカ充填剤が分散されたジエンゴムマトリックスを含む加硫可能なゴム組成物であって、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成するカチオン部位の共有結合により表面修飾されている、ゴム組成物を提供する。
【0109】
本明細書に記載の任意の加硫可能なゴム組成物の架橋によって、得られるか、直接得られるか、または得ることができる加硫ゴム化合物も本発明の一部である。
【0110】
加硫ゴム化合物を製造する方法もまた本発明の一部を形成する。したがって、別の態様では、本発明は、加硫されたジエンゴム-シリカ化合物の製造プロセスであって、前記プロセスは、シリカ充填剤をジエンゴムマトリックスに導入し、それによって加硫可能なゴム化合物を製造するステップと、前記加硫可能なゴム化合物を、所定の温度および所定時間加熱することにより加硫させるステップと、を含み、ここで、前記シリカ充填剤は、ジエンゴムマトリックスとカチオン-π相互作用を形成することができるカチオン部位の共有結合によって表面修飾されている、製造プロセスを提供する。
【0111】
本明細書に記載のゴム化合物は、車両用タイヤの製造、特にタイヤトレッドなどのタイヤ部品の製造に特に使用される。タイヤトレッドはあらゆる車両用タイヤに使用され得るが、特に自動車用のタイヤトレッドの製造に使用される。ゴム化合物の他の用途としては、振動ダンパー、サイドウォールゴム、インナーライナーゴム、ビードフィラーゴム、ボディプライゴム、スキムショックゴム、トレッドゴムが挙げられる。
【0112】
したがって、別の態様では、本発明は、車両用タイヤの部品として、または車両用タイヤの部品の製造における、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物の使用を提供する。
【0113】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物から製造されたタイヤトレッドなどの車両用タイヤ部品を提供する。車両用タイヤ部品を備える車両用タイヤもまた本発明の一部を形成する。
【0114】
タイヤの部品の組み立ておよび製造方法は、当技術分野でよく知られている。「グリーン」タイヤの組み立てに続いて、加硫によって最終的なタイヤが製造される適切な金型内で圧縮成形が行われる。
【0115】
本発明に係るゴム化合物は、ホースおよびシールの製造など、タイヤ以外の用途にも使用され得る。
【0116】
本発明において、従来の充填剤を化学修飾シリカ充填剤で置き換えることにより、タイヤトレッドゴム化合物として使用するのに許容できる湿潤時のトラクションおよび転がり抵抗のみならず、優れた物理的特性を有するゴム化合物が得られる。タイヤ産業では、硬化したタイヤの特性を予測するために、ゴム化合物の様々な試験が使用される。これら特性としては、以下のものが挙げられる、すなわち、
ペイン効果:
これはフィラーネットワークの範囲を示すものであり、ゴムプロセスアナライザーを使用して測定される。
引張強さ(tensile strength)、破断点伸び(Elongation at Break)、補強指数(reinforcement index)などの機械的特性:
万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)をクロスヘッド速度500mm/minで使用した、ASTM D412規格。
60℃での反発率(percent rebound)はトレッド化合物の転がり抵抗の予測因子である。
化合物と比較した場合、60℃での反発率の増加は、転がり抵抗が低いことを示す。反発力は、ISO 8307に従って、Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
硬度、ショアAは、DIN 53505に従って万能硬度試験機(Zwick、ドイツ)を使用して測定され得る。
動的機械的特性:
これらは、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して10Hzの周波数で、0℃未満で1%、および室温で3%の動的ひずみによって測定され得る。0℃における損失係数(タンジェントδ、すなわち、tanδ)は、ウェットトラクションの指標である。対照化合物と比較した場合、0℃でのtanδの増加は、トレッド化合物のウェットトラクションの向上と相関している。60℃におけるtanδは転がり抵抗の指標である。対照化合物と比較した場合、結果の値が低いことは、転がり抵抗が減少していることの指標である。
【0117】
本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物は、当技術分野で知られている方法を使用してリサイクルされ得る。リサイクルはゴムの脱硫を含む。リサイクル中、ゴム化合物は通常、細かく砕かれた形に切断される。化学修飾シリカ充填剤とジエンゴム鎖との間に可逆的なカチオン-π相互作用が存在するため、ゴム化合物をさらに処理することが可能となり、それによって過酷な処理条件を必要とせずに可逆的な結合を切断できる。例えば、穏やかな化学的、熱物理的、または生物学的処理などの方法が使用され得る。不純物を除去した後、ゴムは1つ以上の追加のポリマー成分と組み合わせて、新しいポリマー材料に変換され得る。
【0118】
したがって、さらなる態様では、本発明は、本明細書に記載のジエンゴム-シリカ化合物のリサイクル方法であって、前記化合物を脱硫するステップと、任意でジエンゴムを回収するステップと、を含む、リサイクル方法を提供する。
【0119】
リサイクル方法は、化合物をせん断して細かく砕かれたゴム組成物を形成し、その後、脱硫にかけるステップを含み得る。ジエンゴム-シリカ化合物のせん断は、粉砕などの任意の既知の方法を使用して達成され得る。細かく粉砕された後、ゴムを再生するために脱硫を実行できる。脱硫の方法としては、物理的プロセス(例えば、機械的、熱機械的、マイクロ波、および超音波)、または化学的プロセス(例えば、ラジカル捕捉剤、求核性添加剤、触媒システムまたは化学プローブの使用)が挙げられる。熱脱硫は、180~300℃の温度で実行され得る。熱化学的脱硫は、脱硫助剤(例えば、ジフェニルスルフィド、ジブチルスルフィド、ジ(2-アミノフェニル)ジスルフィドなどのジスルフィド)を使用し、180~300℃の温度を使用することによって達成することができる。
【0120】
回収されたジエンゴムは、元の未使用のジエンゴムおよび/または他の追加のポリマー成分とブレンドして、新しいポリマー材料の製造に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0121】
本発明は、以下の非限定的な実施例および添付の図面によってさらに説明される。
図1】本発明の一実施形態におけるシリカ、ハロゲンシランおよび第三級アミンの間の反応の概略図である。
図2】未修飾シリカ並びに、N,N‐トリメチルアミン、N,N‐ジメチルエチルアミン、およびN,N‐ジメチルオクチルアミンによる修飾シリカのFTIR分析の図である。
図3】未修飾シリカ並びに、N,N‐トリメチルアミン、N,N‐ジメチルエチルアミン、およびN,N‐ジメチルオクチルアミンによる修飾シリカのTGA曲線である。
図4】修飾シリカのXPS分析から得られたa)N1sスペクトルおよびb)Br3dスペクトルの図である。
図5】SSBR/シリカ化合物のa)硬化済みのおよびb)未硬化のペイン効果の図である。
図6】SSBR/シリカ化合物のa)応力-ひずみ曲線およびb)補強指数の図である。
図7】SSBR/シリカ化合物のa)温度の関数としての損失係数(tanδ)の変化、並びにb)最大Tanδおよび、60℃および0℃でのTanδの図である。
図8】SSBR/シリカ化合物の100℃における応力-ひずみ曲線の図である。
【実施例
【0122】
[試験手順]
1.ペイン効果
ペイン効果は、ゴム プロセス アナライザーRPAエリート(TA instruments)を使用し、硬化サンプルおよび未硬化サンプルのひずみスイープを0.1%~100%まで、周波数1.6Hz、並びに温度60℃で測定した。硬化サンプルはあらかじめ装置チャンバー内で160℃の加硫条件に従って加硫した。
【0123】
2.弾性率、引張強さ、および破断点伸び
弾性率、引張強さ(最大ひずみにおける応力)および破断点伸びは、ASTM D412に従って500mm/分のクロスヘッド速度で操作される万能試験機Zwick Z05(Zwick、ドイツ)を使用して測定した。弾性率(100%(M100))および300%(M300))、引張強さ(Ts)並びに破断点伸び(Eb)は、ASTM D412の計算に従って計算した。補強指数は、M300とM100との比として決定した。
【0124】
3.反発
反発、つまり、返されたエネルギーと供給されたエネルギーとの比に基づくゴムサンプルの弾性は、試験機Zwick 5109(Zwick、ドイツ)を使用してISO 8307に従って測定した。反発率をISO 8307に従って計算した。
【0125】
4.硬度、ショアA
ショアA硬度は、万能硬度計(Zwick、ドイツ)を使用してDIN 53505に従って測定した。
【0126】
5.損失弾性率および貯蔵弾性率、並びに損失係数(tanδ)
加硫サンプルの動的機械測定は、Gabo-Netzsch Eplexorを使用して実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、および室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。
【0127】
6.高温における機械的特性
100℃における化合物の機械的特性は、500mm/分のクロスヘッド速度および330%の限界ひずみで操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick、ドイツ)によって測定した。試験を100℃の恒温室で実施した。サンプルを引張機械でサイクルする前後の加硫化合物の動的特性の測定を、Gabo-Netzsch Eplexorで実行した。測定は、周波数10Hz、0℃未満で1%、および室温(RT)で3%の動的ひずみで実行した。室温でのひずみの変化は、測定時にノイズが発生し得る高温でのゴムの軟化に起因して調査した。サンプルのサイクルは、クロスヘッド速度500mm/分、限界ひずみ200%で操作される万能試験機Zwick Z010(Zwick,ドイツ)で実行した。すべてのサンプルは100℃で5回サイクルした。
【0128】
[ゴム化合物の調製]
タイヤトレッド用のゴム化合物は、ポリマーマトリックスとして非官能化溶液スチレンブタジエンゴム(SSBR)を使用し、充填剤として事前修飾シリカを使用して調製した。
【0129】
[材料]
ゴム:非官能化SSBR:Buna VSL 3038‐2 HM(
Arlanxeo、ドイツ)。
シリカ:ULTRASIL(登録商標)7000GR(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)。
3‐ブロモプロピルトリメトキシシラン(abcr、ドイツ)、
N,N‐ジメチルオクチルアミン(abcr、ドイツ)、
N,N‐ジメチルエチルアミン(abcr、ドイツ)、
N,N‐トリメチルアミン(Sigma Aldrich、オランダ)、
チオシアン酸ナトリウム(Sigma Aldrich、オランダ)、
TDAE(ハンセン&ローゼンタール、ドイツ)、
酸化亜鉛(Millipore Sigma、ドイツ)、
ステアリン酸(Millipore Sigma、ドイツ)、
硫黄(Caldic B.V.、オランダ)、
N‐ターシャリーブチルベンゾチアジルスルホンアミド(TBBS)(Caldic B.V.、オランダ)、
ヘキサデシルトリメトキシシラン(Sigma Aldrich、オランダ)、
ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド(TESPD):Si266(登録商標)(Evonik Resource Efficiency GmbH、ドイツ)。
【0130】
[シリカの修飾]
シリカ(ULTRASIL(登録商標)7000 GR)の化学修飾は、ハロゲンシラン(3-ブロモプロピルトリメトキシシラン)および第三級アミンとの2ステップ反応により実施した。3つの異なる第三級アミン、N,N‐ジメチルオクチルアミン、N,N‐ジメチルエチルアミン、およびN,N‐トリメチルアミンを研究した。図1は、第三級アミンがN,N‐トリメチルアミンである場合の反応の概略図である。
【0131】
[ステップ1:修飾シリカの調製]
シリカ(ULTRASIL(登録商標)7000 GR)、3-ブロモプロピルトリメトキシシランおよび第三級アミンを反応させて、修飾シリカを形成した。3-ブロモプロピルトリメトキシシランの量は、シリカの質量の15%であった。3-ブロモプロピルトリメトキシシランと様々なアミンとのモル比は1:5に設定した。反応は、溶媒としてトルエンを用いて55℃で24時間実施した。
【0132】
[ステップ2:ステップ1で形成された臭素の除去]
チオシアン酸ナトリウムを使用して、修飾シリカ中に存在する臭素を除去した。修飾シリカとチオシアン酸ナトリウムとの反応は、水を溶媒として使用し、80℃で24時間実施した。
【0133】
得られた修飾シリカを、DRIFTS(拡散反射赤外フーリエ変換分光計)セルを使用したフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によって分析した。シリカの化学修飾は、約2965cm-1のバンド(-CH-基の対称および非対称伸縮に対応)並びに約1480cm-1のバンド(-CH基に対応)の存在によってすべてのサンプルで確認した(図2を参照)。
【0134】
反応の収率は、窒素および空気雰囲気下で室温から800℃まで20℃/分の加熱速度で操作するTA Instruments社のTA550装置を使用する熱重量分析(TGA)によって測定した。得られた収率は、N,N-ジメチルオクチルアミンとの反応で13%、N,N-ジメチルエチルアミンとの反応で1.5%、およびN,N-トリメチルアミンとの反応で2%であった。様々な第三級アミンを使用して製造された未修飾シリカおよび修飾シリカのTGA曲線を図3に示す。
【0135】
修飾シリカ中に臭素が存在しないことを確認するために、Physical Electronics社のQuantera SXM(走査型XPSマイクロプローブ)を使用してX線光電子分光法(XPS)を実施した。データ分析は、XPS制御用ソフトウェアCompass、データ削減用Multipak v.9.8.0.19を使用して行った。サンプル中の窒素の存在により、第三級アミンによるシリカの化学修飾を確認した(図4を参照)。以下の表1の結果からわかるように、チオシアン酸ナトリウムの使用は、修飾シリカ中に存在する臭素を除去するのに効果的であった。シリカ中に存在する臭素の量は0.04重量%未満であった。
【0136】
【表1】
【0137】
[本発明に係るゴム化合物の調製]
本発明に係るゴム化合物(SSBR/修飾シリカ)は、密閉式ミキサー(Brabender Plasticorder 350S、デュイスブルク、ドイツ)内で、充填率0.7、初期温度100℃、およびローター速度50rpmで調製した。表2の配合および表3の混合手順に従ってサンプルを調製した。各ゴム化合物は、相溶化剤(ヘキサデシルトリメトキシシラン)を添加した場合と添加しない場合の2つの異なるバージョンで調製した。混合プロセス中に相溶化剤を添加すると、配合中の充填剤間の相互作用が減少する。
【0138】
【表2】
【0139】
【表3】
【0140】
本発明に係る最終ゴム化合物の詳細を以下の表4に示す。
【表4】
【0141】
[参照ゴム化合物の調製]
SSBR/修飾シリカゴム化合物から得られた結果を3つの参照ゴム化合物と比較し、その詳細を表5に示す。
【表5】
【0142】
参照化合物は、表6に示される配合に従って、および表3に示される本発明に係る化合物に使用される混合手順に従って調製した(ここで、シランは必要に応じて「TESPDまたは相溶化剤」である)。
【表6】
【0143】
[ゴム化合物の試験]
測定されたペイン効果の結果を表7および図5に示す。
【表7】
【0144】
結果から、未加硫および加硫されたペイン効果に関して、本発明に係る化合物2bおよび3bが参照化合物よりも低いペイン効果を示すことが明らかである。これは充填剤ネットワークの減少を示している。
【0145】
加硫化合物の機械的特性の結果を表8および図6に示す。
【表8】
【0146】
機械的特性は、化合物2bおよび2cが参照1および参照2化合物よりも高い強化指数を有し、また参照3化合物よりわずかに劣ることを示している。引張強さは、参照化合物と比較してすべての化合物で劣っているが、破断点伸びはわずかに優れている。本発明に係るすべての化合物の値は、参照化合物に関して許容可能であると考えられる。
【0147】
化合物の反発特性および硬度を表9に示す。反発結果は、化合物2aおよび2bが参照化合物よりも高い値であることを示す。硬度に関しては、化合物1aを除く本発明に係るすべての化合物は、参照化合物よりも低い値を示した(表9を参照)。
【表9】
【0148】
加硫サンプルの動的機械測定の結果を表10および図7に示す。
【表10】
【0149】
本発明に係る化合物の温度の関数としての損失係数(tanδ)の分析によると、化合物2bは、参照1および参照2と比較して、60℃におけるTanδ値が低い(転がり抵抗が優れていることを示す)ものの、参照3と同様であることが示されている。化合物2bは、すべての参照サンプルよりも0℃におけるTanδの値が高く、および最大tanδも高い(ウェットグリップが優れていることを示す)。本発明に係るすべての化合物の値は、参照化合物に関して許容可能であると考えられる。
【0150】
本発明に係るシリカ修飾によって生成された新しい結合の再接続性は、高温での化合物の機械的応答を研究し、また化合物をサイクル(疲労試験)にかけた後の動的特性の変化を分析することによって解析した。結果を図8および表11に示す。
【表11】
【0151】
100℃で測定された機械的特性の結果は、本発明に係る化合物が高温に対してより優れた耐性を示すことを示している。すべての参照サンプルは、実験用に設定された限界ひずみ(330%ひずみ)に達する前に破損した。しかし、本発明に係る化合物の場合、サンプルは実験中に破壊されなかったが、これは、シリカ修飾によって生成された新しい結合が再連結でき、その結果、高温での試験に耐え得ることを示している。100%における引張強度および弾性率は、参照と比較して、本発明に係るすべての化合物で劣っている。
【0152】
引張機械でのサイクル前後の加硫化合物の動的機械測定の結果を表12に示す。
【表12】
【0153】
化合物2bは、200%ひずみまで100℃で5サイクル処理した後、参照化合物3よりも動的特性の変化が小さくなったことを示していた。
【0154】
本発明について、例示的な実施形態を参照して説明した。修正および変更は、本開示および添付の特許請求の範囲内にある限り、本発明の一部を形成するとみなされる。本開示の範囲は、特許請求の範囲を参照して決定されるべきであり、均等物を含むものとみなされる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【国際調査報告】