(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】接触抵抗が向上した高分子燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231207BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231207BHJP
C25F 1/06 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C25F1/06 B
C25F1/06 A
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532243
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 KR2021016836
(87)【国際公開番号】W WO2022114652
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0160498
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨンジュン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ドン‐フン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ‐ソン
(57)【要約】
【課題】接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法を提供する。
【解決手段】重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなることを特徴とする接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項2】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、W:0.01~0.5%を含むことを特徴とする請求項1に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、界面接触抵抗が10mΩ・cm
2(100N/cm
2)以下であることを特徴とする請求項1に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼。
【請求項4】
重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材を光輝焼鈍する段階、及び
硫酸溶液で、前記光輝焼鈍した冷間圧延材を交流電解する段階、を含み、
前記交流電解は、15~30A/dm
2の電流密度を7秒~10秒間印加して行われることを特徴とする接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、W:0.01~0.5%を含むことを特徴とする請求項4に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記光輝焼鈍する段階は、1050℃~1150℃の温度で行われることを特徴とする請求項4に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項7】
前記硫酸溶液の温度は、40~80℃であることを特徴とする請求項4に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項8】
前記硫酸溶液の濃度は、50~300g/Lであることを特徴とする請求項4に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【請求項9】
前記交流の周波数は、10~120Hzであることを特徴とする請求項4に記載の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、接触抵抗が向上した高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子電解質燃料電池は、水素イオン交換特性を有する高分子膜を電解質として用いる燃料電池である。高分子電解質燃料電池は、他の形態の燃料電池に比べて作動温度が低く、電流密度及び出力密度が高く、始動時間が短いと同時に負荷変化に対する応答特性が速いという長所がある。
高分子電解質燃料電池は、電解質、電極、ガス拡散層(Gas Diffusion Layer:GDL)を含む膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly:MEA)と分離版とで構成された単位電池からなっており、このような単位電池が複数個直列で連結構成されたものを燃料電池スタックと言う。
【0003】
前記分離板は、高分子電解質燃料電池スタックの核心部品として、一側面には酸化電極(又は燃料極)用ガス流路が形成され、他側面には還元電極(又は空気極)用ガス流路が形成されている電気伝導性板である。
分離板は、酸化電極から生成された電子を次のセルの還元電極側に伝導する集電板の役目をし、膜電極接合体を支持する。また、分離板は、燃料電池の電極にそれぞれ燃料(水素あるいは改質ガス)と酸化剤(酸素と空気)を供給すると同時に、電池の運転中に生ずる水を除去する流路の役目をする。
【0004】
このような分離板の素材として、従来は黒鉛が用いられ、これを機械的に加工して流路を形成した分離板が大部分用いられた。しかし、黒鉛は、加工が難しく価格が高いため、大量生産に適合しないという短所がある。このような理由で、最近では製作費用及び重さなどを考慮してステンレス鋼を多く適用している。高分子燃料電池の分離板としてステンレス鋼を用いる場合、一般的に、0.1mm厚さのステンレス鋼板を用いる。
前記ステンレス鋼板は、冷間圧延後のコイル張力制御の難しさ、押し込み溝などの表面欠陥の防止のために酸化性雰囲気で焼鈍せず、再結晶及び残留応力の除去のために水素及び窒素環境の還元性雰囲気で光輝焼鈍して製造される。光輝焼鈍時に形成される酸化被膜は、それ自体抵抗が高いので、燃料電池分離板で使用するためには界面接触抵抗を向上させる後処理工程が必要である。
【0005】
後処理工程としては、金(Au)や炭素、ナイトライド(nitride)などの伝導性物質をコーティングする工程が提案されてきた。しかし、このような方法は、貴金属などをコーティングするための追加工程により製造コスト及び製造時間が増加するという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2010-0073407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的とするところは、上記の問題点を解決するために、オーステナイト系ステンレス鋼に別途のコーティングなど付加的な表面処理をすることなく、短時間の交流電解処理工程のみで、向上した界面接触抵抗を確保することのできる高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなることを特徴とする。
【0009】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、W:0.01~0.5%を含むことができる。
前記オーステナイト系ステンレス鋼は、界面接触抵抗が10mΩ・cm2(100N/cm2)以下であることが好ましい。
【0010】
本発明の接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼の製造方法は、重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなり、オーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材を光輝焼鈍する段階、及び硫酸溶液で、前記光輝焼鈍した冷間圧延材を交流電解する段階、を含み、前記交流電解は、15~30A/dm2の電流密度を7秒~10秒間印加して行われることを特徴とする。
【0011】
本発明のオーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、W:0.01~0.5%を含むことができる。
本発明で光輝焼鈍する段階は、1050℃~1150℃の温度で行われることが好ましい。
硫酸溶液の温度は、40~80℃であることがよい。
前記硫酸溶液の濃度は、50~300g/Lであることがよい。
前記交流の周波数は、10~120Hzであることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施例によると、本発明は電解処理条件を最適化することによって接触抵抗が向上した高分子燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の好ましい実施形態について説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形することができ、本発明の技術思想が以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
本出願で用いる用語は、ただ特定の例示を説明するために用いられるものである。例えば、単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。付け加えて、本出願で用いられる「含む」又は「具備する」などの用語は、明細書上に記載した特徴、段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指称するために用いられ、他の特徴や段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除しようと使用するものではないことに留意すべきである。
【0014】
一方、別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解できるものと同一の意味を有すると見なさなければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味として解釈されてはいけない。
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるときその数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0015】
本発明の一実施例による接触抵抗が向上した燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなる。以下、各合金元素の成分範囲を限定した理由について説明する。
【0016】
Cの含量は、0.1%以下(0は除外)である。
炭素(C)は、低原価オーステナイトの安定化元素であって、デルタ(δ)-フェライト相の生成を効果的に抑制する。また、Cは、侵入型元素であって、固溶強化効果により鋼材の降伏強度を向上させる。しかし、Cの含量が過多な場合、鋼材の軟性、靭性及び耐食性などを低下させるので、その上限は0.1%とする。したがって、Cの含量は、0.1%以下(0は除外)に制御することが好ましい。
【0017】
Siの含量は、3.0%以下(0は除外)である。
ケイ素(Si)は、製鋼段階で脱酸剤として添加される成分であり、一定量を添加するとき、光輝焼鈍工程を経る場合、不動態皮膜にSi-Oxideを形成して鋼の耐食性を向上させる効果がある。しかし、Siの含量が過多な場合、鋳造時にδ-フェライト相及びシグマ相のような金属間化合物の形成を誘発して鋼材の熱間加工性、軟性及び靭性が劣位となる恐れがある。したがって、Siの含量は、3.0%以下(0は除外)に制御することが好ましい。
【0018】
Mnの含量は、3.0%以下(0は除外)である。
マンガン(Mn)は、オーステナイト相の安定化元素であって、マルテンサイトの生成を抑制するのに効果的である。また、Mnは、原価がNiに比べて安く、鋼材の冷間加工性を向上させる。しかし、Mnの含量が過多な場合、鋼材の熱間加工性、軟性及び靭性を低下させる介在物(MnS)が多量に形成される。したがって、Mnの含量は、3.0%以下(0は除外)に制御することが好ましい。
【0019】
Crの含量は、20~30%である。
クロム(Cr)は、酸化性環境で不動態被膜を形成して耐食性を向上させる元素であって、燃料電池環境での耐食性の確保のために20%以上添加する。しかし、30%を超過して過剰添加するとき、スラブ内のデルタ(δ)フェライトの形成を助長して鋼材の熱間加工性が低下する恐れがある。また、オーステナイトが不安定となって相安定性のために多量のNiが添加される必要があるので、費用増加の原因となる。したがって、Crの成分範囲を20~30%に制御することが好ましい。
【0020】
Niの含量は、8~20%である。
ニッケル(Ni)は、オーステナイト相の安定化元素であって、デルタ(δ)-フェライト相の形成を抑制し、熱間加工性と冷間加工性を向上させるために8%以上を添加する。ただし、Niは、高価な元素であって、多量添加するとき原料費用の上昇をもたらすので、その上限を20%とする。
【0021】
Pの含量は、0.03%以下、Sの含量は、0.003%以下である。
リン(P)と硫黄(S)は、結晶粒界に偏析して耐食性及び熱間加工性を低下させる有害元素であるので、その含量をできるだけ低く管理することがよい。したがって、Pの含量は、0.03%以下に制御し、Sの含量は、0.003%以下に制御することが好ましい。
【0022】
Moの含量は、0.6%以下(0は除外)である。
モリブデン(Mo)は、ステンレス鋼の耐腐食性を向上させるのに効果的な元素である。しかし、Moは、高価な元素であるので、原料費上昇をもたらし、多量添加すると、冷間加工性を低下させる。したがって、Moの含量は、0.6%以下(0は除外)に制御することが好ましい。
【0023】
Cuの含量は、0.8%以下(0は除外)である。
銅(Cu)は、オーステナイト相を安定化させる元素であり、マルテンサイトの生成を抑制して冷間加工性を向上させ、還元環境で鋼材の耐腐食性を向上させるのに効果的な元素である。しかし、Cuの含量が過多な場合、Cuの凝固偏析により熱間加工性が劣位となる恐れがある。したがって、Cuの成分範囲は0.8%以下(0は除外)に制御することが好ましい。
【0024】
Nの含量は、0.1~0.3%である。
窒素(N)は、添加するほどオーステナイト相を安定化させる効果があり、材料の強度を向上させるため、0.1%以上添加する。しかし、過剰に添加すると、延伸率を低下させるので、その上限を0.3%にする。したがって、Nの成分範囲を0.1~0.3%に制御することが好ましい。
【0025】
Wの含量は、2.0%以下(0は除外)である。
タングステン(W)は、燃料電池が作動する硫酸雰囲気で耐食性を高めて界面接触抵抗を低下させる効果がある。特に、硫酸が凝縮された環境では、WとCuを同時に添加すると耐食性を極大にすることができる。しかし、過剰に添加すると、高価な元素であるので原価費用の上昇をもたらし、素材の延伸率を低下させる。したがって、Wの成分範囲を2.0%以下(0は除外)に制御することよい。Wの含有量のより好ましい下限は、0.01%であり、より好ましい上限は、0.5%である。
【0026】
本発明の残り成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入され得るので、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも分かるものであるので、全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0027】
燃料電池の作動時、分離板は、各電極で生成及び消費される電子が通過する電気的経路の役目をするので、分離板とガス拡散層間の電気伝導度が良好でなければならない。すなわち、分離板の電気抵抗は、燃料電池性能に密接に影響を及ぼすので、分離板に用いられる素材の界面接触抵抗は、許容レベル以下の低い値にする必要がある。
このような分離板の機能的要求から、アメリカエネルギー省(Departmentof Energy、DOE)は、分離板の界面接触抵抗値に対して、10mΩ・cm2(100~150N/cm2)以下の目標を提示している。
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、界面接触抵抗が10mΩ・cm2(100N/cm2)以下であることがよい。
【0028】
本発明の一実施例によるオーステナイト系ステンレス鋼は、以下の方法で製造される。
重量%で、C:0.1%以下(0は除外)、Si:3.0%以下(0は除外)、Mn:3.0%以下(0は除外)、Cr:20~30%、Ni:8~20%、S:0.003%以下、P:0.03%以下、Mo:0.6%以下(0は除外)、Cu:0.8%以下(0は除外)、N:0.1~0.3%、W:2.0%以下(0は除外)、残りFe及びその他不可避な不純物からなるオーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材を光輝焼鈍する段階を含み、硫酸溶液で、前記光輝焼鈍材に対して交流電解する段階を含み、前記交流電解は、15~30A/dm2の電流密度を7秒~10秒間印加して行われる。
また、本発明の一実施例によると、前記オーステナイト系ステンレス鋼は、重量%で、W:0.01~0.5%を含むことができる。
各合金元素の成分範囲を限定した理由は上記のとおりである。
【0029】
また、本発明の一実施例によると、前記光輝焼鈍段階は、1050℃~1150℃の温度で行うことができる。
光輝焼鈍(Bright Annealing)とは、無酸化性雰囲気で焼鈍を行うことを意味する。通常的に、0.3mm厚さ以下のコイルの場合、コイル張力制御の難しさ及び表面欠陥を防止するために水素及び窒素が含有された還元性雰囲気で光輝焼鈍を実施する。このとき、水素含量は、70%以上であることが好ましい。また、熱処理過程で発生するオーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材の再酸化を防止するために、光輝焼鈍の温度は、1050~1150℃が好ましい。
【0030】
光輝焼鈍は、還元性雰囲気で実施されるので、滑らかな表面状態を有する数nm厚さの不動態被膜が形成され、このような不動態被膜は、Cr-Fe酸化物、Mn酸化物、Si酸化物を含むことができる。
光輝焼鈍段階を経た冷間圧延材は、その表面に形成された数nm厚さの不動態被膜により界面接触抵抗が増加することになる。したがって、光輝焼鈍された冷間圧延材を燃料電池分離板で使用するためには、表面に存在する非伝導性の不動態被膜を除去して伝導性の新しい被膜を形成させなければならない。
【0031】
一方、電気の流れ、すなわち、電流は、大きく直流と交流に分けられる。交流とは、時間によって流れる方向と大きさが周期的に変わる電気の流れを言う。電解は、電解質の溶液に電流を通過させながら化学変化を起こし、物質が分解することを言い、電気分解とも言う。電解は、電源の種類によって、大きく直流電解と交流電解に分けられる。交流電解の場合、電極はある瞬間に陽極となり、次の瞬間には陰極となって、酸化反応と還元反応が一つの電極で続けて起きる。
直流電解を適用してオーステナイト系ステンレス鋼の表面を改質する場合、ステンレス鋼の界面接触抵抗が高いため燃料電池分離板の素材として使用するには困難があった。このような問題を解決するために多様な制御条件を検討した結果、交流印加電源を導入することになった。
本発明の一実施例によると、光輝焼鈍されたオーステナイト系ステンレス鋼の冷間圧延材を硫酸溶液で交流電解して不動態被膜を除去し、界面接触抵抗が向上した伝導性被膜を形成することができる。
【0032】
本発明で交流電源の波形は、正弦波(sine wave)、矩形波(squarewave)、三角波(triangle wave)、鋸歯状波(sawtooth wave)などの全ての波形を適用することができる。
一方、印加する電流密度が15A/dm2未満である場合には、光輝焼鈍被膜の除去が円滑に行われない。電流密度が過度に印加される場合には、不動態被膜の除去効果が飽和に達し、酸素生成反応などの副反応が発生するか、過酸洗による表面侵食が発生する恐れがあり、印加電流密度は、15~30A/dm2に制御することが好ましい。
本発明の一実施例によると、前記印加する交流の周波数は、10~120Hzであることがよい。
印加する交流の周波数が10Hz未満では、改質効率が低下するので、10~120Hzで行うことが好ましい。
【0033】
本発明の一実施例によると、交流電解は、7秒~10秒の間行うことがよい。交流電解時間が7秒未満の場合には、熱延焼鈍鋼板の酸洗効果を確保することができず、交流電解時間が10秒を超過する場合には、工程効率を確保することが難しい。
また、本発明の一実施例によると、前記硫酸溶液の温度は、40~80℃であることがよい。
硫酸溶液の温度が40℃未満である場合、不動態被膜の除去効率が低下する。上限温度は、安全性を考慮して80℃に制限することが好ましい。
【0034】
本発明の一実施例によると、前記硫酸溶液の濃度は、50~300g/Lであることがよい。
硫酸溶液の濃度が50g/Lより低い場合、溶液の伝導性の低下により不動態被膜の除去が不十分となる恐れがある。一方、硫酸の濃度を高くしても不動態被膜の除去効果は飽和に達する。電解処理の経済性を考慮して300g/Lに制限することが好ましい。
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載した事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【実施例】
【0035】
下記表1に示した多様な合金成分範囲に対して、連続鋳造(Continuous Casting)でスラブを製造し、1,250℃で2時間加熱した後に熱間圧延を遂行し、熱間圧延以後に1,100℃で90秒間熱延焼鈍を実施した。その後、70%の圧下率で冷間圧延を行ない、冷間圧延以後に1,050℃で光輝焼鈍を実施した。
【0036】
【0037】
次に、下記表2の条件によって電解を実施し、各条件による界面接触抵抗値を測定した。界面接触抵抗の評価は、製造された素材を50cm2面積で切断して2枚を準備し、その間にガス拡散層で用いられる4cm2面積のカーボンペーパー(SGL-10BA)を配置して接触圧力100N/cm2での界面接触抵抗を5回ずつ測定した。
【0038】
【0039】
表2を参照すると、実施例1~7は、本発明が提示する硫酸溶液及び印加する電流の条件で電解が遂行された場合、界面接触抵抗を10mΩ・cm2以下にすることができた。
それに比べて、比較例1は、印加される周波数が5Hzで表面改質効果が減少して界面接触抵抗値が25.5mΩ・cm2と多少高く測定された。
比較例2は、交流電解ではない直流電解を実施し、52.5mΩ・cm2の高い界面接触抵抗を有している。
比較例3及び4は、15A/dm2より低い印加電流密度のため光輝焼鈍被膜の除去が行われず、10mΩ・cm2を超過する高い界面接触抵抗値を有している。
比較例5は、硫酸溶液の温度が40℃未満で光輝焼鈍被膜の除去が不十分となり、31.7mΩ・cm2の高い界面接触抵抗値を示した。
【0040】
開示された実施例によると、別途のコーティングなど付加的な表面処理なく、電解処理過程で電流密度及び周波数条件を最適化することによって、接触抵抗を10mΩ・cm2以下に確保して高分子燃料電池分離板用素材に適用が可能である。
【0041】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明による燃料電池分離板用オーステナイト系ステンレス鋼は、電解処理条件を最適化することによって接触抵抗が向上し、これによって、追加的な後処理工程が不必要となって製造費用及び製造時間を節減し得るので、産業上利用が可能である。
【国際調査報告】