(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池用分散剤及びその製造方法、正極スラリー及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20231207BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231207BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20231207BHJP
C08F 226/10 20060101ALI20231207BHJP
C08F 8/04 20060101ALI20231207BHJP
C08L 39/06 20060101ALI20231207BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20231207BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/62 Z
H01M4/13
C08F226/10
C08F8/04
C08L39/06
C09K23/52
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532455
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-06-30
(86)【国際出願番号】 CN2021133204
(87)【国際公開番号】W WO2022111590
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】202011361712.8
(32)【優先日】2020-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510177809
【氏名又は名称】ビーワイディー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100132698
【氏名又は名称】川分 康博
(72)【発明者】
【氏名】▲楊▼吉祥
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼永坤
(72)【発明者】
【氏名】唐富▲蘭▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼▲亜▼楠
(72)【発明者】
【氏名】▲ハオ▼▲ロン▼
【テーマコード(参考)】
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【Fターム(参考)】
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(57)【要約】
リチウムイオン電池用分散剤及びその製造方法、正極スラリー及びリチウムイオン電池を提供し、当該分散剤は、N-ビニルピロリドンに由来する構成単位A、共役ジエン系単量体に由来する構成単位B及び有機酸系単量体に由来する構成単位Cを含み、前記有機酸系単量体は、不飽和スルホン酸系単量体、不飽和リン酸系単量体及び不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は複数種を含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-ビニルピロリドンに由来する構成単位A、共役ジエン系単量体に由来する構成単位B及び有機酸系単量体に由来する構成単位Cを含み、前記有機酸系単量体は、不飽和スルホン酸系単量体、不飽和リン酸系単量体及び不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は複数種を含む、リチウムイオン電池用分散剤。
【請求項2】
前記分散剤の総量で計算すると、前記構成単位Aのモル割合は、30%~90%であり、前記構成単位Bのモル割合は、5%~50%であり、前記構成単位Cのモル割合は、1%~30%である、請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記不飽和スルホン酸系単量体は、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸、アクリル酸3-スルホプロピル、メタクリル酸3-スルホプロピル及びそれらの塩のうちの1種又は複数種を含み、
前記不飽和リン酸系単量体は、ビニルホスホン酸、(1-フェニルビニル)ホスホン酸、アリルホスホン酸、ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]リン酸、2-(メタクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアミノ)エチルリン酸エステル及び2-メチル-2-アクリル酸-2-(ホスホノオキシ)エチルのうちの1種又は複数種を含み、
前記不飽和カルボン酸系単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルアクリル酸、α-アセトキシアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸のうちの1種又は複数種を含む、請求項1又は2に記載の分散剤。
【請求項4】
前記共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-デカジエン、2-メチル-1,5-ヘプタジエンのうちの1種又は複数種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の分散剤。
【請求項5】
重量平均分子量は、5000~10万である、請求項1~4のいずれか一項に記載の分散剤。
【請求項6】
N-ビニルピロリドン、共役ジエン系単量体及び有機酸系単量体を含む単量体原料を重合反応させて、リチウムイオン電池用分散剤を得る工程を含み、前記有機酸系単量体は、不飽和スルホン酸系単量体、不飽和リン酸系単量体及び不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は複数種を含む、リチウムイオン電池用分散剤の製造方法。
【請求項7】
前記単量体原料を重合反応させて形成されたポリマーを水素化反応させる工程をさらに含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記単量体原料の総質量で計算すると、前記N-ビニルピロリドンの割合は、30%~90%であり、前記共役ジエン系単量体の割合は、5%~40%であり、前記有機酸系単量体の割合は、1%~40%である、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
正極活物質、導電剤、接着剤、分散剤及び溶媒を含み、
前記分散剤は、請求項1~5のいずれか一項に記載の分散剤、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の方法で製造された分散剤である、正極スラリー。
【請求項10】
前記分散剤の質量は、前記正極活物質の質量の0.4%を超えない、請求項9に記載の正極スラリー。
【請求項11】
集電体及び前記集電体上に配置された正極材料層を含む正極板を含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤、接着剤及び分散剤を含み、前記分散剤は、請求項1~5のいずれか一項に記載の分散剤、又は請求項6~8のいずれか一項に記載の方法で製造された分散剤である、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の参照出願)
本願は、2020年11月28日に中国国家知識産権局に提出された、出願名称が「リチウムイオン電池用分散剤及びその製造方法、正極スラリー、正極板及びリチウムイオン電池」の中国特許出願第202011361712.8号の優先権を主張するものであり、その全ての内容は参照により本願に組み込まれるものとする。
【0002】
本願は、リチウムイオン電池の技術分野に関し、具体的には、リチウムイオン電池用分散剤及びその製造方法、正極スラリー及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
電池の性能への要求が高まっているにつれて、その正極スラリーのプロセス製造工程への要求も高まっている。リチウムイオン電池の正極スラリーの成分は、主に正極活物質、導電剤、接着剤及び溶媒を含む。正極板の均一性を向上させるために正極活物質及び導電剤などの正極スラリーにおける分散効果を向上させる必要がある。一方では、正極スラリーの塗布性能を改善し、正極板の歩留まり及び生産能力を向上させるために、正極スラリーの固体含有量を向上させる必要がある。正極スラリーに分散助剤を添加する方法を採用する電池メーカーを増加しつつある。正極スラリーに分散助剤を添加することは、業界では、正極スラリーの分散効果及び固体含有量を向上させる主流な方法である。
【0004】
従来のリチウムイオン電池に利用可能な分散剤は、種類が少なく、主にポリビニルピロリドン(PVP)、ポリアクリルアミド(PAM)などである。しかしながら、これらの分散剤は、正極スラリーに対する分散能力が限られ、添加量が一般的に大きいため、それに応じて、正極スラリーで形成された正極材料層における正極活物質の質量割合を低下させ、さらに電池の比容量を低下させる。したがって、少ない使用量の分散剤により優れたスラリー分散効果を達成するために、正極スラリーに対して優れた分散能力を有する分散剤を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
これに鑑み、本願の実施例は、リチウムイオン電池用分散剤及びその製造方法、正極スラリー及びリチウムイオン電池を提供し、当該リチウムイオン電池用分散剤は、正極スラリーの分散性及び固体含有量を向上させるとともに正極活物質の含有量の低下による電池の比容量の低下の問題を回避することができる。
【0006】
具体的には、第1の態様では、本願は、リチウムイオン電池用分散剤を提供し、前記リチウムイオン電池用分散剤は、N-ビニルピロリドンに由来する構成単位A、共役ジエン系単量体に由来する構成単位B及び有機酸系単量体に由来する構成単位Cを含み、前記有機酸系単量体は、不飽和スルホン酸系単量体、不飽和リン酸系単量体及び不飽和カルボン酸系単量体のうちの1種又は複数種を含む。
【0007】
前記共役ジエン系単量体は、前記分散剤に対して分子骨格作用を果たす構成単位Bを提供し、前記分散剤の分子鎖に一定の可撓性を持たせる。前記N-ビニルピロリドンは、前記分散剤に正極スラリーの溶媒(例えばN-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)など)と高い親和性を有する構成単位Aを提供し、前記分散剤と正極スラリーの溶媒との相溶性を向上させる。前記有機酸系単量体により、前記分散剤は、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基などの極性基の構成単位Cを有するため、当該分散剤が正極活物質の表面に水素結合、ファンデルワールス力などを形成することができる。例えば、分散剤は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガン鉄リチウムなどの正極活物質の表面のリン酸基と水素結合を形成し、三元系正極活物質の表面のヒドロキシル基と水素結合を形成することができ、また、カーボンナノチューブ、グラフェンなどの導電剤の表面のヒドロキシル基、カルボキシル基などの機能基と水素結合を形成することができる。
【0008】
したがって、前記分散剤は、両親媒性を有し、溶媒への親和性を有するだけでなく、分散される粒子(正極活物質の粒子、導電剤の粒子など)への親和性を有し、当該分散剤は、分散される粒子の表面と溶媒の界面に吸着されやすく、正極活物質及び導電剤などがリチウムイオン電池の正極スラリーにおいて優れた分散効果を達成し、分散される粒子の再凝集を阻止し、かつ分散時間が短く、分散剤の使用量が少なく、また、前記分散剤は、優れた可撓性を有し、その両親媒性作用をよりよく発揮し、その可撓性により各粒子の正極板における内部応力を減少させることにより、正極板の可撓性を改善する作用を果たし、正極板を電池に組み立てやすい。
【0009】
本願のいくつかの実施形態では、前記分散剤は、上記構成単位A、構成単位B及び構成単位Cを同時に含有する共重合体を含む。当該共重合体は、ランダム、ブロック、交互及びグラフト共重合構造のうちのいずれかの構造を含んでもよい。
【0010】
本願のいくつかの実施形態では、前記分散剤の総量で計算すると、前記構成単位Aのモル割合は、30%~90%であり、前記構成単位Bのモル割合は、5%~50%であり、前記構成単位Cのモル割合は、1%~30%である。このようにして、当該分散剤は、一定の親溶媒性、分散対象粒子親和性及び可撓性を有して、高い分散効果を達成することができる。
【0011】
本願のいくつかの実施形態では、前記共役ジエン系単量体の炭素原子数は、4個以上であり、例えば4個~12個である。例示的な共役ジエン系単量体は、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、1,3-デカジエン、2-メチル-1,5-ヘプタジエンなどのうちの1種又は複数種を含むことができる。
【0012】
本願の実施形態では、例示的な前記不飽和スルホン酸系単量体は、ビニルスルホン酸及びその塩、アリルスルホン酸及びその塩、メタリルスルホン酸及びその塩、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びその塩、スチレンスルホン酸及びその塩、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸及びその塩、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸及びその塩、アクリル酸3-スルホプロピル及びその塩、メタクリル酸3-スルホプロピル及びその塩のうちの1種又は複数種を含んでもよく、本願のいくつかの実施形態では、前記不飽和スルホン酸系単量体は、アリルスルホン酸ナトリウム(CAS番号:2495-39-8)、メタリルスルホン酸ナトリウム(1561-92-8)、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、3-アリルオキシ-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホン酸ナトリウム塩(CAS番号:52556-42-0)、2-(メタクリロイルオキシ)エタンスルホン酸(CAS番号:10595-80-9)、メタクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩(CAS番号:31098-21-2)及びアクリル酸3-スルホプロピルカリウム塩(CAS番号:31098-20-1)などのうちの1種又は複数種を含んでもよい。
【0013】
本願の実施形態では、例示的な前記不飽和リン酸系単量体は、ビニルホスホン酸(CAS番号:1746-03-8)、(1-フェニルビニル)ホスホン酸(CAS番号:3220-5-6)、アリルホスホン酸(CAS番号:6833-67-6)、ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]リン酸(CAS番号:32435-46-4)、2-(メタクリロイルオキシ)エチル-2-(トリメチルアミノ)エチルリン酸エステル(CAS番号:67881-98-5)及び2-メチル-2-アクリル酸-2-(ホスホノオキシ)エチル(24599-21-1)のうちの1種又は複数種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0014】
本願の実施形態では、例示的な前記不飽和カルボン酸系単量体は、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルアクリル酸、α-アセトキシアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸、イタコン酸及びフマル酸などのうちの1種又は複数種を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0015】
本願のいくつかの実施形態では、前記有機酸系単量体は、不飽和スルホン酸系単量体及び/又は不飽和リン酸系単量体である。不飽和カルボン酸系単量体に対して、これらの2種類の有機酸系単量体は、提供するリン酸基、スルホン酸基が正極活物質と水素結合を形成しやすく、正極活物質との間のファンデルワールス力もより強いため、前記分散剤が正極活物質、導電剤などに対してより高い分散効果を有する。
【0016】
本願のいくつかの実施形態では、前記分散剤は、N-ビニルピロリドン、共役ジエン系単量体及び有機酸系単量体を含む単量体原料を重合して形成される。本願の別のいくつかの実施形態では、前記分散剤は、前記単量体原料を順に重合し、水素化して得られてもよい。前記単量体原料を重合して得られたポリマーを水素化することにより、単量体原料を重合して得られたポリマーにおける二重結合を還元し、前記分散剤の高電圧での抗酸化能力を強化することができる。
【0017】
本願の実施形態では、前記分散剤の重量平均分子量は、5000~10万である。重量平均分子量が当該範囲にある分散剤は、一定の強度及び良好な柔軟性などの良好な力学的性質を有することができ、後続の加工利用が容易になる。本願のいくつかの実施形態では、前記分散剤の重量平均分子量は、1万~9万であり、例えば、2万、3万、3.5万、4万、4.5万、5万、5.5万、6万、7万、8万又は8.5万である。
【0018】
本願の第1の態様に係る前記分散剤は、非常に低い使用量であれば、短時間でリチウムイオン電池の正極スラリーにおいて正極活物質及び導電剤などの高い分散効果を達成することができ、正極スラリーの固体含有量を高くし、正極板の製造効率、製品歩留まり、可撓性などを向上させることができ、正極板における正極活物質の質量割合を明らかに低下させない。
【0019】
第2の態様では、本願に係るリチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、N-ビニルピロリドン、共役ジエン系単量体及び有機酸系単量体を含む単量体原料を重合反応させる工程を含む。
【0020】
本願のいくつかの実施形態では、前記製造方法は、前記単量体原料を重合反応させて形成されたポリマーを水素化反応させる工程をさらに含む。換言すれば、このとき、前記分散剤の製造方法は、前記単量体原料を重合反応させて分散剤前駆体を得る工程と、前記分散剤前駆体を水素化反応させる工程と、を含む。単量体原料を重合反応させて得られた分散剤前駆体の一部又は全部の二重結合を水素化反応により還元し、前記分散剤の高電圧での抗酸化能力を強化することができる。
【0021】
本願のいくつかの実施形態では、前記水素化反応は、Ptを触媒とし、水素を還元剤として行われてもよい。
【0022】
本願のいくつかの実施形態では、前記単量体原料の総質量で計算すると、N-ビニルピロリドンの割合は、30%~90%であり、共役ジエン系単量体の割合は、5%~40%であり、有機酸系単量体の割合は、1%~40%である。このような配合割合の単量体原料を用いることにより製造された分散剤は、高い分散能力を有することができる。本願の他の実施形態では、前記単量体原料の総質量に基づいて、N-ビニルピロリドンの割合は、45%~80%であり、共役ジエン系単量体の割合は、10%~30%であり、有機酸系単量体の割合は、10%~30%である。
【0023】
上記重合反応の方法は、特に限定されず、例えば、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法又は塊状重合法などを用いることができ、本願のいくつかの実施形態では、上記重合反応は、溶液重合法を用いる。前記溶液重合法は、上記単量体原料及び開始剤を溶媒に溶解させ、一定の温度で重合して、得られた反応液を固液分離し、乾燥させる工程を含む。
【0024】
前記開始剤は、熱開始剤及び/又は光開始剤であってもよく、例えば、熱開始剤である。熱開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムなどの水性開始剤のうちの1種又は複数種、又はアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソへプトニトリル、過酸化ベンゾイルなどの油性開始剤のうちの1種又は複数種を用いることができる。このとき、重合反応の温度は、40℃~80℃であってもよく、重合反応の時間は、2h~24hであってもよい。水性開始剤又は油性開始剤は、単量体原料及び使用される溶媒に基づいて選択することができる。
【0025】
本願のいくつかの実施形態では、溶液重合プロセスにおいて、得られるポリマーの分子鎖長を制御するために、連鎖移動剤を溶媒に添加してもよい。例示的な連鎖移動剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、ジエチルカーボネート、メチルtert-ブチルエーテル、イソプロピルアルコール、エタノール、メタノール、1-ドデカンチオールなどが挙げられる。
【0026】
本願の第2の態様に係る分散剤の製造方法は、簡単で操作しやすく、エネルギー消費が低く、反応度合いが制御可能であり、工業生産することができる。
【0027】
本願の第3の態様は、正極スラリーを提供し、前記正極スラリーは、正極活物質、導電剤、接着剤、分散剤及び溶媒を含み、前記分散剤は、本願の第1の態様に記載の分散剤、又は本願の第2の態様に記載の製造方法で製造された分散剤である。
【0028】
正極スラリーに用いられる従来の分散剤(例えばPVP)は、良好な分散効果を達成するために、使用量が一般的に正極活物質の質量の0.5%以上であり、一般的に0.8%~2%であるが、これは、正極スラリーにおける正極活物質の質量割合を大幅に低下させる。本願の前記分散剤の質量は、前記正極活物質の質量の0.4%を超えない。例えば、分散剤の質量は、正極活物質の質量の0.1%~0.3%であってもよい。
【0029】
上記正極活物質、接着剤及び導電剤は、電池分野の一般的な選択である。接着剤は、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、ポリアクリレート、ポリオレフィン、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)及びアルギン酸ナトリウムから選択される1種又は複数種であってもよい。前記正極活物質は、リン酸鉄リチウム、リン酸マンガンリチウム、リン酸マンガン鉄リチウム、リン酸バナジウムリチウム、リン酸コバルトリチウム、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウム、及びニッケルコバルトマンガン(NCM)三元系材料、ニッケルコバルトアルミニウム(NCA)三元系材料のうちの少なくとも1種であってもよい。導電剤は、カーボンナノチューブ、カーボンブラック及びグラフェンのうちの少なくとも1種を含んでもよいが、これらに限定されない。導電剤は、正極スラリーに分散するように、カルボキシル基、ヒドロキシル基などの官能基を表面に有することができる。上記分散剤は、正極活物質粒子及び接着剤粒子の両方に対して良好な親和性を有する。
【0030】
本願の第3の態様に係る正極スラリーは、固体含有量が高く、特に正極活物質の含有量が高く、当該正極スラリーの分散性が良く、沈降しにくく、長時間放置することができる。
【0031】
本願の第4の態様は、リチウムイオン電池をさらに提供し、前記リチウムイオン電池は、集電体及び前記集電体に設けられた正極材料層を含む正極板を含み、前記正極材料層は、正極活物質、導電剤、接着剤及び分散剤を含み、前記分散剤は、本願の第1の態様に記載の分散剤、又は本願の第2の態様に記載の製造方法で製造された分散剤である。前記リチウムイオン電池は、負極板と、負極板と正極板との間に位置するセパレータ及び電解液とをさらに含む。なお、負極板、セパレータ及び電解液などは、いずれも電池の一般的な構造であり、ここでは説明を省略する。正極板における正極活物質の含有量が高いため、当該電池は、高い比容量を有することができる。
【0032】
さらに、前記正極材料層は、本願の第3の態様に記載の正極スラリーを塗布し、乾燥させて形成することができる。当該正極スラリーは、固体含有量が高く、溶媒量が少なく、短い時間内に乾燥されて正極板を得ることができ、正極板の製造効率が向上し、乾燥処理の時間が短いため、正極板が割れにくく、歩留まりが高い。また、当該正極板は、良好な可撓性を有し、電池に組み立てやすい。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下の説明は、本願の例示的な実施形態であり、なお、当業者にとって、本願の原理から逸脱することなく、いくつかの改良及び修正を行うことができ、これらの改良及び修正も本願の保護範囲にあると見なされる。
【0034】
以下、具体的な実施例により本願をさらに説明する。
(実施例1)
【0035】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、1,3-ブタジエン、ビニルホスホン酸を70:20:10の質量比でN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の1-ドデカンチオールを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、得られた反応物を洗浄し、乾燥させて、分散剤1’を得て、分散剤1’に水素化処理を行って、分散剤1を得る工程を含む。測定された分散剤1の重量平均分子量は、5万である。
【0036】
正極板の製造方法は、2gの接着剤PVDFを40gのNMP(N-メチルピロリドン)に溶解させ、十分に溶解させた後に0.3gの上記分散剤1を添加し、20min撹拌する工程と、20gのカーボンナノチューブ分散液(溶媒がNMPであり、固体含有量が5wt%である)を添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gのリン酸鉄リチウム正極活物質を添加し、1.5h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、リン酸鉄リチウム正極板の製造を完了する工程と、を含む。
(実施例2)
【0037】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、1,3-ペンタジエン、ビス[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]リン酸を50:20:30の質量比でジオキサンに溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の1-ドデカンチオールを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、得られた反応物を洗浄し、乾燥させて、分散剤2を得る工程を含む。測定された分散剤2の重量平均分子量は、1万である。
【0038】
正極板の製造方法において、実施例1の0.3gの分散剤1を0.3gの分散剤2に置き換え、他は実施例1と同じである。
(実施例3)
【0039】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、1,3-ヘキサジエン、2-エチルアクリル酸を90:5:5の質量比でジオキサンに溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の酢酸エチルを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、得られた反応物を洗浄し、乾燥させて、分散剤3を得る工程を含む。測定された分散剤3の重量平均分子量は、8.6万である。
【0040】
正極板の製造方法において、実施例1の0.3gの分散剤1を0.3gの分散剤3に置き換え、他は実施例1と同じである。
(実施例4)
【0041】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、イソプレン、ビニルスルホン酸を65:30:5の質量比でDMFに溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の1-ドデカンチオールを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、得られた反応物を洗浄し、乾燥させて、分散剤4’を得て、分散剤4’に水素化処理を行って、分散剤4を得る工程を含む。測定された分散剤4の重量平均分子量は、2.2万である。
【0042】
正極板の製造方法は、1gの接着剤PVDFを30gのNMPに溶解させ、十分に溶解させた後に0.3gの分散剤4を添加し、20min撹拌する工程と、10gのカーボンナノチューブのNMP分散液(固体含有量が5wt%である)及び1.5gのカーボンブラックを導電剤として添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gの正極活物質NCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を添加し、1.5h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、NCM三元系正極板の製造を完了する工程と、を含む。
(実施例5)
【0043】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、1,3-ブタジエン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸を60:30:10の質量比でDMFに溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の酢酸エチルを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、洗浄し、乾燥させて、分散剤5’を得て、分散剤5’に水素化処理を行って、分散剤5を得る工程を含む。測定された分散剤5の重量平均分子量は、4万である。
【0044】
正極板の製造方法において、実施例4の0.3gの分散剤4を0.3gの分散剤5に置き換え、他は実施例4と同じである。
(実施例6)
【0045】
リチウムイオン電池用分散剤の製造方法は、
N-ビニルピロリドン、イソプレン、マレイン酸を50:35:15の質量比でジオキサンに溶解させ、開始剤のアゾビスイソブチロニトリル及び連鎖移動剤の1-ドデカンチオールを添加し、4MPaの圧力で60℃で4h重合し、冷却して反応を停止し、得られた反応物を洗浄し、乾燥させて、分散剤6’を得て、分散剤6’に水素化処理を行って、分散剤6を得る工程を含む。測定された分散剤6の重量平均分子量は、5.5万である。
【0046】
正極板の製造方法において、実施例4の0.3gの分散剤4を0.3gの分散剤6に置き換え、他は実施例4と同じである。
【0047】
本願の有益な効果を強調するために、以下の比較例1~4を設定する。
(比較例1)
【0048】
比較例1のリン酸鉄リチウム正極板と実施例1のリン酸鉄リチウム正極板とを対比すると、主に、リン酸鉄リチウム正極板を製造する場合、分散剤を添加しないが、溶媒の使用量が増加するという点で相違する。
【0049】
具体的には、比較例1のリン酸鉄リチウム正極板の製造方法は、2gの接着剤PVDFを50gのNMPに溶解させ、十分に溶解させる工程と、20gのカーボンナノチューブのNMP分散液(固体含有量が5wt%である)を添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gのリン酸鉄リチウム正極活物質を添加し、3h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、リン酸鉄リチウム正極板の製造を完了する工程と、を含む。
(比較例2)
【0050】
比較例2のリン酸鉄リチウム正極板と実施例1のリン酸鉄リチウム正極板とを対比すると、主に、リン酸鉄リチウム正極板を製造する場合、1.0gの従来の分散剤PVPを添加するという点で相違する。
【0051】
具体的には、比較例2のリン酸鉄リチウム正極板の製造方法は、2gの接着剤PVDFを40gのNMPに溶解させ、十分に溶解させた後に1.0gの分散剤PVPを添加し、20min撹拌する工程と、20gのカーボンナノチューブのNMP分散液(固体含有量が5wt%である)を添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gのリン酸鉄リチウム正極活物質を添加し、1.5h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、リン酸鉄リチウム正極板の製造を完了する工程と、を含む。
(比較例3)
【0052】
比較例2の三元系正極板と実施例4の三元系正極板とを対比すると、主に、NCM三元系正極板を製造する場合、分散剤を添加しないが、溶媒の使用量が増加するという点で相違する。
【0053】
具体的には、比較例2の三元系正極板の製造方法は、1gの接着剤PVDFを40gのNMPに溶解させ、十分に溶解させる工程と、10gのカーボンナノチューブ分散液(5wt%)及び1.5gのカーボンブラックを導電剤として添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gの正極活物質NCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を添加し、3h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、NCM三元系正極板の製造を完了する工程と、を含む。
(比較例4)
【0054】
比較例4の三元系正極板と実施例4の三元系正極板とを対比すると、主に、NCM三元系正極板を製造する場合、1.0gの分散剤PVPを添加するという点で相違する。
【0055】
具体的には、比較例4のNCM正極板の製造方法は、1gの接着剤PVDFを30gのNMPに溶解させ、十分に溶解させた後に1.0gの分散剤PVPを添加し、20min撹拌する工程と、10gのカーボンナノチューブ分散液(5wt%)及び1.5gのカーボンブラックを導電剤として添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gの正極活物質NCM622を添加し、1.5h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、NCM三元系正極板の製造を完了する工程と、を含む。
【0056】
本願の有益な効果を有利にサポートするために、各実施例及び比較例の正極スラリーの粘度及び固体含有量の結果、正極材料層における正極活物質の含有量、正極板の可撓性の観察結果を以下の表1にまとめる。
【表1】
【0057】
上記表1中の正極スラリーの粘度は、参照型番がAnton Paar社のMCR 302のレオメータを用いて測定される。正極板の可撓性は、同じ条件で正極板を半分に折った後に肉眼で観察される。
【0058】
表1から分かるように、実施例1~3と比較例1との比較、及び実施例4~6と比較例2との比較から分かるように、各正極スラリーは、粘度が近く、正極材料層における正極活物質の含有量がほとんど変化しない(又は小さく変動した)場合に、少量の本願の実施例に係る分散剤を含有する正極スラリーは、固体含有量が高く、分散効果が高い正極スラリーの製造時間が短い。また、実施例1~3と比較例2との比較、及び実施例4~6と比較例4との比較から分かるように、正極スラリーが同じ固体含有量を有する場合、PVPの添加量は、本願の実施例に係る分散剤よりはるかに大きいため、比較例の正極材料層における活物質の割合が少なくなり、その後に電池の比容量を低下させる。これらの結果は、本願に係る分散剤が正極スラリーに対して高い分散能力を有することを示す。また、本願の実施例の分散剤を含有する正極板の可撓性も対応する比較例の正極板の可撓性より大きく、半分に折った後に破断しにくく、光を透過しにくく、これは、本願の実施例の正極板が高い加工性能を有することができることを示す。
【0059】
上述した実施例は、本願のいくつかの実施形態を示すものに過ぎず、その説明が具体的で詳細であるが、本願の特許請求の範囲を限定するものと理解してはならない。なお、当業者にとっては、本願の構想から逸脱しない前提で、さらにいくつかの変形及び改良を行うことができ、これらは、いずれも本願の保護範囲に属する。したがって、本願の特許の保護範囲は、添付された特許請求の範囲を基準とすべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0052
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0052】
比較例3の三元系正極板と実施例4の三元系正極板とを対比すると、主に、NCM三元系正極板を製造する場合、分散剤を添加しないが、溶媒の使用量が増加するという点で相違する。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0053
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0053】
具体的には、比較例3の三元系正極板の製造方法は、1gの接着剤PVDFを40gのNMPに溶解させ、十分に溶解させる工程と、10gのカーボンナノチューブ分散液(5wt%)及び1.5gのカーボンブラックを導電剤として添加し、20min撹拌する工程と、最後に97gの正極活物質NCM622(LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2)を添加し、3h撹拌し続けて、正極スラリーを得る工程と、当該正極スラリーをアルミニウム箔に塗布し、130℃で30min乾燥させて、正極材料層を形成し、NCM三元系正極板の製造を完了する工程と、を含む。
【国際調査報告】