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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】放射性核種錯体のための安定な製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 51/08 20060101AFI20231207BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231207BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20231207BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231207BHJP
   A61K 33/244 20190101ALI20231207BHJP
【FI】
A61K51/08 100
A61K9/08
A61K47/22
A61P35/00
A61K33/244
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023532682
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 EP2021082812
(87)【国際公開番号】W WO2022112323
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2020/083363
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523197478
【氏名又は名称】アイティーエム ソルツィン ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マルクス,ゼバスティアン
(72)【発明者】
【氏名】ライプ,オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ヒームズ,ルーク
(72)【発明者】
【氏名】アンドレオリ,エレナ マリア
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC27
4C076DD59Q
4C076FF63
4C084AA12
4C084MA17
4C084NA03
4C084ZB26
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA05
4C086HA24
4C086HA28
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086NA03
4C086ZB26
(57)【要約】
本発明は、放射性核種と、キレート剤に連結された標的分子とを含む放射標識錯体と、アスコルビン酸および/またはその塩を含む放射性分解に対する安定剤とを含む医薬組成物であって、ゲンチジン酸またはその塩を含まない、医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、放射線分解に対する高い安定性を提供する。本発明はまた、そのような医薬組成物を調製するためのプロセスを提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)(i)放射性核種および(ii)キレート剤に連結された標的分子を含む放射標識錯体;並びに、
(b)アスコルビン酸および/またはその塩を含む放射線分解に対する安定剤;
を含む医薬組成物であって、ゲンチジン酸またはその塩を含まない、医薬組成物。
【請求項2】
前記放射性核種が、177Lu(ルテチウム-177)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記キレート剤がDOTAである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記標的分子が、PSMAまたはソマトスタチン受容体に結合する、請求項1から3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記放射標識錯体が、(i)前記放射性核種および(ii)DOTATOCもしくはDOTATATEを含むか、またはそれらからなる、請求項1から4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記組成物が水溶液である、請求項1から5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記安定剤がアスコルビン酸および/またはその塩からなる、請求項1から6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物が酢酸バッファなどの追加のバッファを含有しない、請求項1から7のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記組成物が、
(a)前記放射標識錯体、および場合により、その1つ以上の前駆体;
(b)アスコルビン酸および/またはその塩;ならびに
(c)水
から本質的になる、請求項1から8のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記安定剤がアスコルビン酸およびその塩を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記アスコルビン酸の塩がアスコルビン酸ナトリウムである、請求項1から10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記組成物が、アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムを含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項13】
アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸の重量比率が、30:1~70:1、好ましくは40:1~60:1、より好ましくは45:1~55:1、さらにより好ましくは45:1~50:1である、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記組成物中のアスコルビン酸の濃度が、0.5~5.0mg/ml、好ましくは0.7~3.0mg/ml、より好ましくは0.8~2.0mg/ml、さらにより好ましくは0.9~1.5mg/ml、さらにより好ましくは1.0~1.25mg/mlの範囲である、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記組成物中のアスコルビン酸塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの濃度が、10mg/ml~100mg/ml、好ましくは20mg/ml~90mg/ml、より好ましくは30mg/ml~80mg/ml、さらにより好ましくは40mg/ml~70mg/ml、さらにより好ましくは50mg/ml~60mg/mlの範囲である、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
エタノールを実質的に含まない、請求項1から15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が少なくとも96時間の貯蔵寿命を有する、請求項1から16のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記組成物の放射化学的純度が少なくとも96時間の間、97%以上に維持される、請求項1から17のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項19】
単回用量が、注入時に、放射能7.5GBq±10%の送達を可能にする、請求項1から18のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記組成物が、15~20mlの容量で提供される、請求項1から19のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
錯体形成(放射標識)中にアスコルビン酸および/またはその塩が存在し、錯体形成(放射標識)後にアスコルビン酸および/またはその塩が添加される、請求項1から20のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項22】
アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが錯体形成(放射標識)中に存在し、アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが錯体形成後(前記医薬組成物の製剤化中)に添加される、請求項1から21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
アスコルビン酸および/またはその塩が、錯体形成(放射標識)中およびその後(前記医薬組成物の製剤化中)に存在する唯一の安定剤である、請求項1から22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが、約2:1~6:1、好ましくは約3:1~5:1、より好ましくは約3.5:1~4.5:1、さらにより好ましくは約3.75:1~4.25:1、さらにより好ましくは約4:1の重量比率(アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸)で錯体形成(放射標識)中に存在する、請求項1から23のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
アスコルビン酸が錯体形成(放射標識)中に、1~50mg/ml、好ましくは5~40mg/ml、より好ましくは7~30mg/ml、さらにより好ましくは10~20mg/ml、さらにより好ましくは10~15mg/mlの濃度で存在する、請求項1から24のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項26】
アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが、錯体形成(放射標識)中に、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、さらにより好ましくは45~60mg/ml、さらにより好ましくは50~55mg/mlの濃度で存在する、請求項1から25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
前記医薬組成物の賦形剤が、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸および水から本質的になる、請求項1から26のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項28】
アスコルビン酸ナトリウムの濃度が51mg/ml±5.1mg/mlであり、アスコルビン酸の濃度が約1.11mg/ml±1.1mg/mlである、請求項27に記載の医薬組成物。
【請求項29】
前記放射性核種が177Luであり、前記キレート剤がDOTAであり、前記標的分子がPSMAまたはソマトスタチン受容体に結合するペプチドである、請求項1から28のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項30】
前記放射性核種が、0.42GBq/ml±0.04GBq/mlの体積放射能を提供する濃度で存在する、請求項29に記載の医薬組成物。
【請求項31】
医薬に使用するための、請求項1から30のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項32】
癌の治療に使用するための、請求項1から31のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項33】
請求項1~30のいずれか一項に記載の医薬組成物を対象に投与することを含み、それを必要とする対象において、抗腫瘍応答を開始、増強もしくは延長する、癌を治療する方法。
【請求項34】
以下の工程を含む、請求項1~30のいずれか一項に記載の医薬組成物の調製方法:
(i)請求項1~5、21~26および29~30のいずれか一項に記載の放射標識錯体の形成(放射標識);および
(ii)請求項1~30のいずれか一項に記載の医薬組成物の製剤化。
【請求項35】
工程(i)が、以下を含む放射標識組成物中で行われる、請求項34に記載の方法:
(a)前記放射性核種および前記キレート剤に連結された前記標的分子;並びに、
(b)水と、アスコルビン酸および/またはその塩とを含む放射標識バッファ。
【請求項36】
前記放射性核種が177Lu、例えば177LuClである、請求項34または35に記載の方法。
【請求項37】
前記放射性核種が、6.0~9.5GBq/mLの体積放射能を提供する濃度で前記放射標識組成物中に存在する、請求項34~36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
前記キレート剤に連結された前記標的分子が、請求項3~5および29のいずれか一項に定義されている、請求項34~37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記キレート剤に連結された前記標的分子が、100±10μg/mlの濃度で前記放射標識組成物中に存在する、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
アスコルビン酸および/またはその塩が、工程(i)中に存在し、さらに工程(ii)中に添加される、請求項34~39のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが工程(i)中に存在し、アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが工程(ii)中に添加される、請求項34~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
アスコルビン酸および/またはその塩が、全工程中に存在する唯一の安定剤である、請求項34~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが工程(i)中に、約2:1~6:1、好ましくは約3:1~5:1、より好ましくは約3.5:1~4.5:1、さらにより好ましくは約3.75:1~4.25:1、さらにより好ましくは約4:1の重量比率(アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸)で存在する、請求項34~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
アスコルビン酸が、工程(i)中に、1~50mg/ml、好ましくは5~40mg/ml、より好ましくは7~30mg/ml、さらにより好ましくは10~20mg/ml、さらにより好ましくは10~15mg/mlの濃度で存在する、請求項34~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが、工程(i)中に、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、さらにより好ましくは45~60mg/ml、さらにより好ましくは50~55mg/mlの濃度で存在する、請求項34~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
工程(i)における前記放射標識組成物が、約4.0~5.5、好ましくは約4.5~5.0のpHを有する、請求項34~44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
工程(i)が、87±4℃の温度で行われる、請求項34~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
工程(i)が25±3分間実施される、請求項34~46のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
工程(ii)において、アスコルビン酸および/またはその塩の水溶液が、工程(i)で得られた前記放射標識組成物に添加される、請求項34~47のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
工程(ii)において、アスコルビン酸塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの水溶液が、工程(i)において得られた前記放射標識組成物に添加される、請求項49に記載の方法。
【請求項51】
工程(ii)で添加される前記溶液中の前記アスコルビン酸塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの濃度が、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、さらにより好ましくは40~60mg/ml、さらにより好ましくは45~55mg/mlの範囲である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
請求項34~51のいずれか一項に記載の方法によって得られる医薬組成物。
【請求項53】
前記医薬組成物は、請求項1~30のいずれか一項に記載に定義される、請求項52に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は放射性医薬製剤の分野に関し、特に、放射性核種錯体の安定性を保証する製剤、およびそのような製剤を調製する方法に関する。
【0002】
放射性医薬品は、放射性同位元素(放射性核種)を含有する薬物である。放射性医薬品は、癌、血液障害および甲状腺機能亢進症を含む様々な症状を治療するために使用することができる。癌の放射性核種治療では、放射性核種で標識された分子を使用して、疾患部位に毒性レベルの放射線を送達する。したがって、分子は、疾患部位、例えば特定の癌細胞を「標的とする」ために使用される。したがって、放射性核種錯体は、癌細胞標的化の特異性を電離放射線の既知の抗腫瘍効果と組み合わせる。これにより、原発腫瘍部位だけでなく、その転移も標的とすることができる。放射線を腫瘍に運ぶ分子の選択は、通常、抗原または受容体などの腫瘍の標的構造に対するその選択性および親和性によって決定される。過剰発現された標的構造は、標的構造が特定の種類の癌に対して選択的でない場合でも、他の細胞(発現がないか、またはわずかな発現のみを有する)は影響を受けないまま、(過剰発現された)標的細胞への高濃度での全身投与後に放射性核種錯体の送達を可能にするため、興味深い。放射性核種は、通常、キレート剤を介して標的分子に連結される。これにより、放射性核種の金属イオンとの強い錯体を形成することができる。放射性核種の放射性崩壊は、高エネルギー電子、陽電子またはアルファ粒子ならびにガンマ線を標的部位に放出することによって、癌細胞に著しい損傷を引き起こす可能性がある。
【0003】
しかしながら、放射性核種の放射性崩壊は、放射性核種錯体の製造および貯蔵中を含めて、絶えず起こる。放射性崩壊中に放出される高エネルギーは放射性核種錯体の化学結合の開裂を誘発し、それによって、その放射能による薬物の部分的な破壊をもたらす可能性がある。放射性核種錯体の標的分子の放射線分解は、放射性核種錯体の特異性の劣化をもたらし、それによって、その有効性の劣化および/または望ましくない副作用の増加をもたらし得る。
【0004】
したがって、放射性医薬品の安定性は、通常、数時間または数日に限定される。これは、放射性医薬品の製造、貯蔵および輸送に関する様々な課題をもたらす。したがって、放射性医薬品の適用には、製造後のわずかな機会しか利用できない。
【0005】
この問題を軽減するために、通常、ゲンチジン酸、エタノール、アスコルビン酸およびメチオニンなどの抗酸化剤が、放射性核種錯体の製剤に添加される。しかしながら、特に、177Luで標識されたペプチド、例えばDOTATOC(エドトレオチド)およびDOTATATE(オキソドトレオチド)については、多くの場合、抗酸化剤の複雑な混合物またはそれらの添加の特定の時点が、許容される期間にわたって所望の効果を得るために必要とされる。例えば、Mausらは、[177Lu]Lu-DOTATATEの放射標識および精製後のアスコルビン酸の添加について報告している(Stephan Mausら、Aspects on radiolabeling of177Lu-DOTA-TATE: After C18 purification re-addition of ascorbic acid isrequired to maintain radiochemical purity、International Journal of Diagnostic Imaging、2014年、第1巻、第1号)。米国特許第10,756,278B2号では、合成後72時間で95%の放射線分解に対する所望の安定性を得るために、放射標識後のゲンチジン酸、アスコルビン酸、およびEDTAの錯体混合物が必要とされている。De BloisらおよびBreemanらは、50mMアスコルビン酸、10%(v/v)エタノールおよび50mMのL-メチオニンの混合物の添加を示唆している(Erik de Bloisら Effectiveness of Quenchers to ReduceRadiolysis of (111)In-Or(177)Lu-labelled Methionine-Containing RegulatoryPeptides. Maintaining Radiochemical Purity as Measured by HPLC. Curr Top MedChem.2012年12(23):2677-85;WouterA. P. Breeman;PracticalAspects of labeling DTPA- and DOTA-Peptides with 90Y, 111In, 177Lu, and 68Gafor Peptide-Receptor Scintigraphy and Peptide-Receptor Radionuclide Therapy inPreclinical and Clinical Applications、The University of New Mexico Health Sciences Center、第16巻、LESSON5:2012年11月16日)。これらの報告によれば、177Lu標識ペプチドについて、安定剤、または第2もしくは第3の安定化成分は、酢酸またはHEPESバッファ中での放射標識後にのみ添加される。
【0006】
上記を考慮して、本発明の目的は、上記に概説した欠点を克服し、増加した期間にわたる放射性核種錯体の安定性の増加を確実にする、放射性核種錯体のための新規な製剤を提供することである。特に、そのような製剤は、可能な限り少ない成分を含有し、非経口注射の際に十分に許容される。さらに、製剤中で使用される抗酸化剤は、pH調整剤/バッファ(特に、pH4.5~8などの非経口注射に許容されるpH範囲)としても機能し、そのため複雑な混合物を避けることができる。さらに、製剤中で使用される抗酸化剤は、放射標識のためのバッファとしても機能し得、その結果、高い放射標識収率が得られ、これはさらに複雑な混合物を回避する。
【0007】
この目的は、以下の明細書の説明および添付の特許請求の範囲に記載される主題によって達成される。
【0008】
本発明は以下に詳細に記載されるが、本発明は、本明細書に記載される特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されず、これらは様々であり得ることが理解されるべきである。また、本明細書で使用される用語は、本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることを理解されたい。別途定義しない限り、本明細書で使用するすべての技術的および科学的用語は、当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。
【0009】
以下、本発明の要素について説明する。これらの要素は特定の実施形態とともに列挙されるが、追加の実施形態を作り出すために、任意の方法および任意の数でそれらを組み合わせることができることを理解されたい。様々に記載された実施例および好ましい実施形態は、本発明を明示的に記載された実施形態のみに限定すると解釈されるべきではない。この説明は、明示的に記載された実施形態を、任意の数の開示されたおよび/または好ましい要素と組み合わせる実施形態を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願において記載されている全ての要素の任意の置換および組み合わせは、文脈が別な内容を示さない限り、本出願の説明によって開示されているとみなされるべきである。
【0010】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈から別途必要とされない限り、用語「含む(comprise)」および「含む(comprises)」および「含む(comprising)」などの変形は、明記された部材、整数または工程の包含を意味するが、任意の他の明記されていない部材、整数または工程の除外を意味しないと理解される。用語「~からなる(consist of)」は、用語「~を含む」の特定の具体化であり、任意の他の記載されていない部材、整数、またはステップは除外される。本発明の文脈において、用語「含む(comprise)」は、用語「~からなる(consist of)」を包含する。したがって、用語「含む(comprising)」は「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を包含し、例えば、Xを「含む(comprising)」組成物は、Xのみからなり得、または、例えば、X+Yなど、追加の何かを含み得る。
【0011】
本発明を説明する文脈において(特に特許請求の範囲の文脈において)、使用される用語「a」および「an」および「The」ならびに同様の参照は、本明細書で別段の指示がない限り、または文脈によって明らかに矛盾しない限り、単数および複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書における値の範囲の引用は、単に、その範囲内に入る各別々の値を個々に参照する簡潔な方法としての役割を果たすことを意図している。本明細書に別段の指示がない限り、各個々の値は、あたかも本明細書に個々に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書中のいかなる言語も、本発明の実施に不可欠な、特許請求されていない要素を示すものと解釈されるべきではない。
【0012】
用語「実質的に」は「完全に」を排除せず、例えば、Yを「実質的に含まない」組成物は、Yを完全に含まなくてもよい。必要に応じて、「実質的に」という単語を、本発明の定義から除外してもよい。
【0013】
数値xに「約(about)」という用語が付加された場合には、x±20%、好ましくはx±10%、より好ましくはx±5%、さらにより好ましくはx±2%、さらにより好ましくはx±1%を意味する。
【0014】
〔薬学的組成物〕
第1の態様において、本発明は、以下を含む医薬組成物を提供する:
(a)(i)放射性核種および(ii)キレート剤に連結された標的分子を含む放射標識錯体;並びに、
(b)アスコルビン酸および/またはその塩を含む放射線分解に対する安定剤;
を含み、ゲンチジン酸またはその塩を含まない。
【0015】
本発明者らは、驚くべきことに、そのような放射性核種錯体の製剤が、延長された期間、特に少なくとも96時間にわたって、放射性核種錯体の安定性を確実に増加させることを見出した。興味深いことに、延長された安定性/貯蔵寿命は、放射性核種錯体のための従来技術の製剤と比較して、より少ない成分を含有し、したがって、より複雑でない製剤で達成することができる。特に、製剤中で使用される抗酸化剤は、pH調整剤/バッファ(特に、pH4.5~8などの非経口注射に許容されるpH範囲)としての役割も果たすことができ、そのため複雑な混合物を避けることができる。さらに、製剤中で使用される抗酸化剤は、放射標識のためのバッファとしても機能し得、その結果、高い放射標識収率が得られ、これはさらに複雑な混合物を回避する。それにもかかわらず、前記組成物は例えば、非経口注射の際に、十分に許容される。
【0016】
〔放射標識錯体〕
(i)放射性核種と、(ii)キレート剤に連結された標的分子とを含む放射標識錯体は、典型的には(i)放射性核種と、(ii)キレート剤に連結された標的分子とによって、例えば、本明細書において以下に記載される方法の工程(i)において形成される。様々な放射標識錯体が当技術分野で公知である。放射標識錯体の特に好ましい例は、参照により本明細書に組み込まれるWO2018/215627A1に記載されている。更に、市販の放射標識錯体の例としては、[177Lu]Lu-DOTATATE(Lutathera(登録商標))、[131I]I-mIBG、153Sm-EDTMP(Quadramet(登録商標))、89Srクロリド、90Y-充填微小球(TheraSphere(商標)またはSIR-Sphere(登録商標))、およびイットリウム-90イブリツモマブチウキセタン(Zevalin(登録商標))が挙げられる。
【0017】
〔放射性核種〕
様々な放射性核種(放射性同位体)が、放射性核種治療の分野において有用であることが知られている。特に、用語「放射性核種」(または「放射性同位体」)は、小体(すなわち、陽子(アルファ線)または電子(ベータ線)または電磁線(ガンマ線)の放射で崩壊する不安定な中性子対陽子比を有する天然または人工起源の同位体を指す。言い換えれば、放射性核種では放射性崩壊が起こる。前記放射性核種は、好ましくは癌の画像化または治療に有用であり得る。好適な放射性核種の非限定的な例としては、94Tc、99mTc、90In、111In、67Ga、68Ga、86Y、90Y、177Lu、151Tb、186Re、188Re、64Cu、67Cu、55Co、57Co、43Sc、44Sc、47Sc、225Ac、213Bi、212Bi、212Pb、227Th、153Sm、166Ho、152Gd、153Gd、157Gd、および166Dyが含まれる。従って、放射性核種は、上述した例のうち何れでもよい。適切な放射性核種の選択はとりわけ、化学構造およびキレート剤のキレート化能力、ならびに得られる(錯体化された)複合体の意図される適用(例えば、診断用対治療用)に依存し得る。例えば、90Y、131I、161Tbおよび177Luなどのベータ線放出体は、全身放射性核種治療に使用され得る。例えば、キレート剤としてのDOTAは、放射性核種として、68Ga、43Sc、44Sc、47Sc、177Lu、161Tb、225Ac、213Bi、212Bi、または212Pbの使用を有利に可能にし得る。
【0018】
好ましくは、放射性核種は44Scであり得る。更に好ましくは、放射性核種は64Cuであり得る。いくつかの好ましい実施形態では、放射性核種は68Gaであり得る。
【0019】
さらにより好ましくは、放射性核種は177Lu(ルテチウム-177)である。
【0020】
いくつかの実施形態では、放射性核種、特に177Luは、0.25~0.6GBq/ml、好ましくは0.3~0.55GBq/ml、より好ましくは0.35~0.5GBq/ml、さらにより好ましくは0.4~0.45GBq/ml、例えば約0.42GBq/mlの体積放射能を提供する濃度で医薬組成物中に存在する。
【0021】
〔キレート剤〕
放射標識錯体において、放射性核種金属イオンは通常、キレート剤の官能基、例えば、アミンまたはカルボン酸と非共有結合を形成している。典型的には、キレート剤は少なくとも2つのそのような錯化官能基を有し、キレート錯体を形成することができる。
【0022】
本明細書で使用される場合、用語「キレート剤」(「キレーター」とも呼ばれる)は、中央(金属)イオン、特に放射性核種金属イオンと2つ以上の別々の配位結合を形成する(「配位する」)ことができる多座(多重結合)リガンドを指す。具体的には、そのような分子または1つの電子対を共有する分子は、「ルイス塩基」とも呼ばれ得る。中央(金属)イオンは、通常、2つ以上の電子対によってキレート剤に配位される。用語「二座キレート剤」、「三座キレート剤」、および「四座キレート剤」は当技術分野で公知であり、それぞれ、2、3、および4個の電子対を有するキレート剤を指し、キレート剤によって配位された金属イオンへの同時供与のために容易に利用可能である。通常、キレート剤の電子対は、単一の中心(金属)イオンと配位結合を形成するが、特定の例ではキレート剤が2つ以上の金属イオンと配位結合を形成することができ、様々な結合様式が可能である。
【0023】
「配位(coordinating)」および「配位」(coordination)という用語は、1つの多電子対ドナーが、1つの中心(金属)イオンと配位結合(「配位」)する、すなわち、2つ以上の非共有電子対を共有する相互作用を指す。
【0024】
キレーターまたはキレート剤は、好ましくは一方の末端に金属キレート基を有し、他方の末端に反応性官能基を有し、他の部分、例えば、ペプチドに結合することができる大環状二官能性キレート剤である。好ましくは、放射性核種を錯化するために、キレーターが双四角錐形を形成するように、キレーターが選択されてもよい。別の実施形態では、キレーターは、平面または正方形の平面錯体を形成しない。
【0025】
キレート剤は、所望の中心(金属)イオン、通常は本明細書に記載の放射性核種を配位する能力に基づいて選択することができる。好ましくは、キレート剤は、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸(DOTA)、N,N''-ビス[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル)-ベンジル]エチレンジアミン-N,N''-二酢酸(HBED-CC)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-三酢酸(NOTA)、2-(4,7-ビス(カルボキシメチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)ペンタン二酸(NODAGA)、2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1-イル)-ペンタン二酸(DOTAGA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、1,4,7-トリアザシドノナン-1-[メチル(2-カルボキシエチル)-ホスフィン酸]-4、7-ビス[メチル(2-ヒドロキシメチル)ホスフィン酸](NOPO)、3,6,9,15-テトラアザビシクロ[9,3,1]ペンタデカ-1(15)、11,13-トリエン-3,6,9-トリ酢酸(PCTA)、N'-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]ペンチル}N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシスクシンアミド(DFO)、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7-三酢酸(DO3A)、およびジエチレン-トリアミン五酢酸(DTPA)から選択される。
【0026】
したがって、キレート剤は、以下の式(1a)~(1kk)のうちの1つによって特徴付けられ得る:
【0027】
【化1】




より好ましくは、キレート剤は、DOTA(式(1a)によって特徴付けられ得るDOTA(1,4,7,10-テトラアザシクロドデカン-1,4,7,10-四酢酸)、式(1c)によって特徴付けられ得るNODAGA(2-(4,7-ビス(カルボキシメチル)-1,4,7-トリアゾナン-1-イル)-ペンタン二酸)、またはそれらの誘導体であってもよい。
【0028】
本発明の文脈における他の好ましいキレート剤は、N,N''-ビス[2-ヒドロキシ-5-(カルボキシエチル]ベンジル]エチレンジアミン-N,N''-二酢酸(HBED-CC)、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ酢酸(NOTA)、2-(4,7,10-トリス(カルボキシメチル)-1,4,7,10-テトラ-アザシクロドデカン-1-イル)-ペンタン二酸(DOTAGA)、1,4,7-トリアザシクロノナンホスフィン酸(TRAP)、1,4,7-トリアザシド-ノナン-1-[メチル(2-カルボキシエチル)-ホスフィン酸]-4,7-ビス-[メチル(2-ヒドロキシメチル)-ホスフィン酸](NOPO)、3,6,9,15-テトラ-アザビシクロ[9,3,1]-ペンタデカ-1(15)、11,13-トリエン-3,6,9-三酢酸(PCTA)、N'-{5-[アセチル(ヒドロキシ)アミノ]-ペンチル}-N-[5-({4-[(5-アミノペンチル)(ヒドロキシ)アミノ]-4-オキソブタノイル}-アミノ)ペンチル]-N-ヒドロキシスクシンアミド(DFO)、およびジエチレン-トリアミン五酢酸(DTPA)を含む。
【0029】
特に好ましくは、キレート剤はDOTAである。有利には、DOTAが診断用(例えば、68Ga)および治療用(例えば、90Yまたは177Lu)放射性核種と効果的に錯体を形成し、したがって、画像および治療の両方のために、すなわち、セラグノスティック薬として、同じ複合体(キレート剤に連結された標的分子)の使用を可能にする。DOAP(式(1hh)によって特徴付けられ得る)、DOAPPrA(式(4ii)によって特徴付けられ得る)、またはDOAPABn(式(4jj)によって特徴付けられ得る)を含む、スカンジウム放射性核種(43Sc、44Sc、47Sc)を錯体化することができるDOTA誘導体もまた、好ましい場合があり、Kerdjoudjらに記載されている(Dalton Trans、2016年、45、1398-1409)。
【0030】
キレート剤、例えばDOTAは、中央(金属)イオンとして、任意の公知の放射性核種(特に、上記の放射性核種)と錯体を形成することができる。複合体および放射性核種の適切な組み合わせを選択することは、当業者の技術および知識の範囲内である。いくつかの実施形態では、キレート剤がDOTAであってよく、放射性核種は68Gaであってもよい。他の実施形態では、キレート剤はDOTAであってよく、放射性核種は44Scであってもよい。さらにさらなる実施形態において、キレート剤はDOTAであってよく、放射性核種は64Cuであってもよい。他の実施形態では、キレート剤はNODAGAであってよく、放射性核種は64Cuであってもよい。特に好ましくは、キレート剤はDOTAであり、放射性核種は177Luである。
【0031】
〔標的分子〕
本明細書で使用される場合、「標的分子」(「標的部分」とも呼ばれる)という用語は、標的細胞(例えば、癌細胞)などの「標的」に(特異的に)結合することができる分子を指す。特に、「標的」は、標的細胞(例えば、癌細胞)の細胞表面に位置する分子であり得る。標的分子が結合するそのような表面分子は、例えば、細胞の表面に位置する受容体であり得る。特に、表面分子は標的細胞(例えば、細胞「マーカー」)に特異的であるか、または標的細胞によって過剰発現される。標的分子は例えば、疾患(例えば、癌)マーカー(疾患に関与する細胞、例えば、癌細胞の表面に発現/位置する)に結合し得る。それによって、標的分子は、疾患に関与する細胞、例えば癌細胞に特異的に放射性核種を導くことができる。したがって、標的分子は、通常、治療または診断される疾患に応じて選択される。疾患、例えば癌の文脈において、放射標識錯体によって標的とされる細胞、例えば癌細胞は、通常、「標的」(表面分子)として機能し得る特異的な分子を発現する(または特異的な分子を過剰発現する)。標的分子は、典型的には前記「標的」(表面分子、したがって標的細胞、例えば癌細胞)に結合するように選択される。標的分子の表面分子への結合は、可逆的または不可逆的であり得る。いくつかの実施形態において、標的分子は、ペプチドもしくはポリペプチド、または修飾ペプチドもしくはポリペプチドである。
【0032】
標的分子が適切に結合し得る様々な表面分子は、当技術分野で公知である。以下に、標的分子の標的構造となり得る、腫瘍細胞上に存在する受容体および細胞表面分子の例を詳細に記載する。しかしながら、標的構造は、以下に記載される受容体および細胞表面分子に限定されない。癌または他の疾患細胞上に存在するさらなる受容体および細胞表面分子は、標的分子の標的構造として企図される。さらに、癌または他の疾患細胞上に存在する受容体および細胞表面分子を標的とするさらなる標的分子が企図される。
【0033】
特に好適な表面分子は、PSMAおよびソマトスタチン受容体である。したがって、標的分子は、好ましくはPSMAまたはソマトスタチン受容体に結合することができる。
【0034】
〔PSMA標的化合物〕
ヒト前立腺特異的膜抗原(PSMA)(グルタミン酸カルボキシペプチダーゼII(GCPII)、葉酸ヒドロラーゼ1、ホリルポリ-γ-グルタミン酸カルボキシペプチダーゼ(FGCP)、およびN-アセチル化-α-結合酸性ジペプチダーゼI(NAALADaseI)とも呼ばれる)は、神経系、前立腺、腎臓、および小腸において最も高度に発現されるII型膜貫通亜鉛メタロペプチダーゼである。PSMAは、前立腺癌における腫瘍マーカーと考えられる。本明細書で使用される「ヒト前立腺特異的膜抗原」つまり「PSMA」という用語は、好ましくはヒトFOLH1遺伝子によってコードされるタンパク質を指す。より好ましくは、この用語は、UniProt Acc. No. Q04609の元で特徴付けられるタンパク質(エントリバージョン186、最後の改変 2017年5月10日))または、またはその機能的変異体、アイソフォーム、断片、もしくは(翻訳後または他の方法で改変された)誘導体を指す。
【0035】
PSMA結合標的分子は一般に、(ヒト)前立腺特異的膜抗原に選択的に(および場合により不可逆的に)結合することができる結合体であり得る(例えば、Chang Rev Urol、2004;6(Suppl 10):S13-S18に記載されているように)。PSMA標的分子は、好ましくはPSMAに対する選択的親和性を付与する能力によって選択される。好ましいPSMA結合部分は、WO2013/022797A1公報、WO2015/055318A1公報およびEP2862857A1公報に記載されており、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0036】
したがって、PSMA標的分子は、好ましくは一般式(2)で表される:
【0037】
【化2】

ここで、Xは、O、N、SまたはPから選択され、
、RおよびRは、それぞれ独立して、-COH、-COH、-SOH、-SOH、-SOH、-POH、-POH、-PO、-C(O)-(C-C10)アルキル、-C(O)-O(C-C10)アルキル、-C(O)-NHR、または-C(O)-NRから選択され、RおよびRはそれぞれ独立して、H、結合、(C-C10)アルキレン、F、Cl、Br、I、C(O)、C(S)、-C(S)-NH-ベンジル、-C(O)-NH-ベンジル、-C(O)-(C-C10)アルキレン、-(CH-NH、-(CH-(C-C10)アルキレン、-(CH-NH-C(O)-(CH、-(CHCH-NH-C(O)-(CH、-(CH-CO-COH、-(CH-CO-COH、-(CH2)-C(O)NH-C[(CH-COH]、-C[(CH-COH]、-(CH-C(O)NH-C[(CH-COH]、-C[(CH-COH]、または-(CH-(C-C14)ヘテロアリールから選択され、b、p、q、r、tはそれぞれ独立して、0、1、2、3、4、5、6、7、8,9または10から選択される整数である。
【0038】
好ましいPSMA標的分子において、bは、1、2、3、4または5から選択される整数であってよく、R、RおよびRはそれぞれCOHであってよく、XはOであってよい。
【0039】
PSMAの細胞外ドメインに結合することができる小分子PSMA標的化剤の好ましい例としては、放射標識N-[N-[(S)-1,3-ジカルボキシプロピル]カルバモイル]-S-[11C]メチル-l-システイン(DCFBC)、MIP-1095(Hillierら Cancer Res.2009年9月1日;69(17):6932-40)を含む、Bouchelouche ら、Discov Med. 2010 Jan; 9(44):55-61に開示されたような、いくつかの尿素ベースのペプチド模倣PSMA阻害剤、およびBenesovaらによって開発されたDOTA結合PSMA-阻害剤PSMA-617(JNM 2015年,56 914-920およびEP2862857A1)が含まれるが、これらに限定されない。
【0040】
尿素ベースのPSMAリガンドは、通常、3つの構成要素:結合モチーフ(Glu-尿素-Lys)、リンカー、および放射標識担持部分(放射標識のためのキレート剤分子またはフッ素化剤のための補欠分子族)を含む。最も一般的に使用される低分子量PSMAリガンドの例は、123I-MIP-1072および123I-MIP-1095(Barrett JA et al J Nucl Med.2013年;54:380-387;Zechmann et al、Eur J Nucl Med Mol Imaging.2014年;41:1280-1292)、キレート剤ベースのPSMA-617(Afshar-Oromieh A et al、J Nucl Med.2015年;56:1697-1705)およびPSMA-I&T(Weineisen M et al、J Nucl Med.2015年;56:1169-1176)、PSMA-I&S(Robu S et al、J Nucl Med.2017年;58:235-242)である。さらに、18F標識小分子尿素誘導体、18F-DCFPyL(Chen Y et al、Clin Cancer Res.2011年;17:7645-7653)および18F-PSMA-1007(Giesel FL et al、Eur J Nucl Med Molecular Imaging.2017年;44:678-688)が挙げられる。
【0041】
最近、Kellyら(Dual-Target Binding Ligands with Modulated Pharmacokinetics for Endoradiotherapy of Prostate CancerJ Nucl Med.2017年9月;58(9):1442-1449doi:10.2967/jnumed.116.188722)は、PSMAおよびヒト血清アルブミン(HSA)の両方に対して親和性を示す薬剤を評価した。Kellyらによって開発されたリガンドは、HSA結合のためのp-(ヨードフェニル)酪酸エンティティおよび尿素ベースのPSMA結合エンティティを含む。ケリーらによって開発された化合物において、放射性治療用ヨウ素(131I)はHSA結合部分に共有結合され、これは、次に、ヒドロカルビル鎖を介してPSMA結合エンティティに直接的に結合される。
【0042】
別の例は、アルブミン結合体を有する177Lu標識ホスホロアミデート系PSMA阻害剤である(Choy et al. Theranostics 2017年;7(7):1928-1939)。177Lu放射性核種を錯化するDOTAキレート剤を、不可逆的PSMA阻害剤CTT1298にエーテル結合させた(EP2970345A1公報)。
【0043】
したがって、放射標識錯体中の標的分子は、好ましくはPSMA標的分子であり、これは、上述のように定義されたキレート剤分子に結合され得、上述のように定義された放射性核種、例えば、177Luと錯体化され得る。
【0044】
標的分子およびキレート剤は、通常、共に複合体(conjugate)または分子(放射標識に適している)を形成する。様々なそのような複合体/分子が当技術分野で公知である。キレート剤およびPSMAに結合することができる標的分子を含む好ましい複合体は、国際公開第2018/215627A1号に開示されており、参照により本明細書に組み込まれる。
【0045】
標的分子およびキレート剤を含む複合体の好ましい例としては、PSMA-617(以下の式(3)に示す)、PSMA-I&T(以下の式(3)に示す)およびIbu-Dα-PSMA(以下の式(5)に示す)が含まれる:
【0046】
【化3】

[ソマトスタチン受容体標的化化合物]
他の特に好適な標的分子は、ソマトスタチン受容体に結合する。ソマトスタチン受容体に結合する分子、例えばソマトスタチン類似体は、当技術分野で公知である。好ましくは、標的分子はソマトスタチン受容体結合ペプチドである。より好ましくは、前記ソマトスタチン受容体結合ペプチドは、オクトレオチド、オクトレオテート、ランレオチド、バプレオチド、パシレオチド、イラトレオチド、ペンテトレオチド、デプレオチド、サトレオチド、ベルドレオチドから選択される。さらにより好ましくは、標的分子がオクトレオチドおよびオクトレオテートから選択されるソマトスタチン受容体結合ペプチドである。
【0047】
特に、高~中分化神経内分泌腫瘍(NET)の治療のために、ソマトスタチン受容体(SSTR)を標的とするペプチドが使用され得る。NETでは、放射性リガンド治療が十分に確立されており、高い割合で腫瘍の長期寛解および安定化を達成し得る。ソマトスタチン受容体を標的とするペプチドは、例えば、ソマトスタチン類似体のtyr3-オクトレオチド(D-Phe-c(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr(ol))およびtyr3-オクテオトレート(octeotrate)(D-Phe-c(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr)(Capello A et al.:Tyr3-octreotide and Tyr3-octreotate radiolabeled with 177Luor 90Y: peptide receptor radionuclide therapy results in vitro,Cancer Biother Radiopharm、2003年10月、18(5):761-8)である。ソマトスタチン受容体拮抗薬のさらなる例は、ペプチドオクトレオチド(D-Phe-シクロ(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、およびNOC(D-Phe-シクロ(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))である。
【0048】
ソマトスタチン受容体を標的とする化合物の他の例としては、JR10(p-NO-Phe-c(D-Cys-Tyr-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH);JR11(Cpa-c(D-Cys-Aph(Hor)-d-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH2);BASS(p-NO-Phe-シクロ(D-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)D-Tyr)-NH;LM3(p-Cl-Phe-シクロ(D-Cys-Tyr-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH等のソマトスタチン拮抗ペプチドが挙げられる。
【0049】
ソマトスタチン類似体に基づく(放射)医薬品の好ましい例としては、177Lu-DOTATOC(177Lu-DOTA-[Tyr3]-オクトレオチド)(177Lu-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)-Thr(ol)、177Lu-DOTANOC(177Lu-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、177Lu-DOTATATE(177Lu-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Tyr)、68Ga-DOTATOC(68Ga-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、68Ga-DOTANOC(68Ga-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-1-Nal-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol)),90Y-DOTATOC(90Y-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))、90Y-DOTATATE(90Y-DOTA-D-Phe-シクロ(Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr、111In-DTPAオクトレオチド(111In-DTPA-D-Phe-シクロ(Cys-Phe-D-Trp-Lys-Thr-Cys)Thr(ol))などが含まれるが、これらに限定されない。
【0050】
ソマトスタチン類似体に基づく(放射性)医薬品の更なる例としては、111In-DOTA-BASS(111In-DOTA-p-NO-Phe-シクロ(D-Cys-Tyr-D-Trp-Lys-Thr-Cys)D-Tyr-NH111In-DOTA-JR11(111In-DOTA-Cpa-シクロ[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH)、68Ga-DOTA-JR11(Ga-OPS201)(68Ga-DOTA-Cpa-シクロ[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH)、68Ga-DODAGA-JR11(Ga-OPS202)(68Ga-NODAGA-Cpa-シクロ[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH),177Lu-DOTA-JR11(Lu-OPS201)(177Lu-DOTA-Cpa-シクロ[D-Cys-Aph(Hor)-D-Aph(Cbm)-Lys-Thr-Cys]D-Tyr-NH)などが含まれるが、これらに限定されない。
【0051】
したがって、放射標識錯体中の標的分子は、好ましくはソマトスタチン受容体標的分子であり、これは、上述のように定義されたキレート剤分子に結合され得、上述のように定義された放射性核種、例えば177Luと錯体化され得る。
【0052】
キレート剤と、ソマトスタチン受容体に結合することができる標的分子とを含む好ましい複合体としては、DOTA-OC([DOTA,D-Phe]オクトレオトリド)、DOTATOC([DOTA,D-Phe,Tyr]オクトレオトリド;INN:エドトレオチド)、DOTANOC([DOTA,D-Phe-Nal]オクトレオトリド)、DOTATATE([DOTA,D-Phe,Tyr]オクトレオテート;INN:オキソドトレオチド)、DOTALAN([DOTA,D-β-Nal]オクトレオトリド)、DOTAVAP([DOTA,D-Phe,Tyr]バプレオチド)、サトレオチドトリゾキセタンおよびサトレオチドテトラキセタンが含まれる。より好ましくは、前記分子は、キレート剤と、DOTATOCおよびDOTATATEから選択される標的分子とを含む。
【0053】
したがって、放射標識錯体は、好ましくは(i)放射性核種および(ii)DOTATOCまたはDOTATATEを含むか、またはそれらからなる。特に好ましくは放射標識錯体(放射性核種、標的分子およびキレート剤を含む)は、177Lu-DOTATOC(177Lu-エドトレオチド)または177Lu-DOTATATE(177Lu-オキソドトレオチド)である。
【0054】
[葉酸抱合体(conjugate)]
葉酸受容体(FR)-αは、標的治療概念のための腫瘍関連標的として最も関心を集めた。インビトロおよびインビボでのFR陽性腫瘍細胞の標的化は、種々の治療プローブを有する葉酸抱合体を使用する多くの研究グループによって例示されている。したがって、FRは、葉酸放射性抱合体を使用する核(nuclear imagine)のための有益な標的であることが証明されている。
【0055】
葉酸抱合体放射性医薬品の好ましい例は、99mTc(Guo et al、J Nucl Med.1999年;40:1563-1569;Mathias et al、Bioconjug Chem.2000年;11:253-257;Leamon et al、Bioconjug Chem.2002年;13:1200-1210;Reddy et al、J Nucl.Med.2004年;45:857-866;Mullerら、J Nucl Med Mol Imaging 2006年;33:1007-1016;Mullerら、Bioconjug Chem.2006年;17:797-806)、111In(Siegelら、J Nucl Med.2003年;44:700-707)、66/67/68Ga(Mathiasら、Nucl Med Biol.1999年;26:23-25;Mathiasら、Nucl Med Biol.2003年;30:725-731)および18F(Bettioら、J Nucl Med.2006年;47:1153-1160)を使用する。
【0056】
代表的な葉酸抱合体は、例えば、111In-DTPA-葉酸、177Lu-EC0800、177Lu-cm09、149/161Tb-cm09、99mTc(CO)99mTc-EC20、111In-DTPA-葉酸、111In/177Lu-DOTA-クリック-葉酸、67Ga-DOTA-Bz-葉酸(67Ga-EC800)、68Ga-NODAGA-葉酸、および下式(6)に示される錯体である:
【0057】
【化4】

[CCK2受容体標的化化合物]
CCK2受容体(コレシストキニン)は、中枢および末梢神経系の領域に位置し、髄様甲状腺癌、小細胞肺癌、および間質卵巣癌として、いくつかのタイプのヒト癌において過剰発現される。インビボでCCK2受容体を標的とするための適切な放射性リガンドを開発する研究が行われてきた。様々な放射標識CCK/ガストリン関連ペプチドが合成され、特徴付けられた。全てのペプチドは、C末端CCK受容体結合テトラペプチド配列Trp-Met-Asp-Phe-NHを、共通にまたはその誘導体において有する。ペプチドは、それらの親ペプチド(ガストリンまたはCCK)の配列およびそれらの形態(すなわち、線形、環状、多量体)に基づいて分類することができる。
【0058】
CCK受容体リガンドの例は、例えば、サルガストリン(Gln-Gly-Pro-Trp-Leu-Glu-Glu-Glu-Glu-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH)、ミニガストリン0(MG-0)D-Glu-(Glu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、ミニガストリン11(MG-11)(D-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、シクロ-ミニガストリン1(シクロ-MG1)(シクロ[γ-D-Glu-Ala-Tyr-D-Lys]-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、シクロ-ミニガストリン2(シクロ-MG2)(シクロ[γ-D-Glu-Ala-Tyr-D-Lys]-Trp-Nle-Asp-Phe-NH、デモガストリン1(D-Glu-(Glu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、デモガストリン2(D-Glu-(Glu)-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH、H2-Met(His-His-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH),H2-Nle(His-His-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH)、H-Met(His)-Glu-Ala-Tyr-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)等のガストリン類似体、およびCCK8(D-Asp-Tyr-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、CCK8(Nle)(D-Asp-Tyr-Nle-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH)、sCCK(D-Asp-Tyr(OSOH)-Met-Gly-Trp-Met-Asp-Phe-NH)、sCCK[Phe(p-CHSOH),Nle3,6](D-Asp-Phe(p-CHSOH)-Nle-Gly-Trp-Nle-Asp-Phe-NH)、sCCK[Phe(p-CHSOH),HPG3,6](D-Asp-Phe(p-CHSOH)-HPG-Gly-Trp-HPG-Asp-Phe-NH)等のCCK8類似体である。
【0059】
CCK受容体標的化ペプチドは、好ましくは、撮像または治療用途のために放射性核種で放射標識される。好適な放射性核種は上記で特定された放射性核種を含み、特に、放射性核種99mTc、111In、18F、68Ga、131I、90Y、および177Luを含む。放射性核種による放射標識を可能にするために、好ましくは、ペプチドに結合されたキレート剤が使用される。キレート剤としては、上記のキレート剤を使用することができ、DOTA、DOTAGA、DOTAM、DTPAおよびHYNICが好ましい。
【0060】
したがって、放射性標的錯体は、177Lu-DOTA-サルガストリン,111In-DTPA-MG0,111In-DOTA-MG11, 111In-DOTA-MG11(Nle),111In-DOTA-H2-Met,111In-DOTA-H2-Nle,111In-DOTA-H6-Met,[99mTc],D-Glu-MG(99mTc-デモガストリン1),[99mTc] 0-1,Gly,D-Glu-MG(99mTc-デモガストリン2),99mTc-HYNIC-MG11,99mTc-HYNIC-シクロ-MG1,99mTc-HYNIC-シクロ-MGなどのCCK2受容体標的分子;および、111IN-DTPA-CCK8,111In-DTPA-CCK8(Nle)、99mTc-HYNIC-CCK8、99mTc-HYNIC-sCCK8,111In-DOTA-sCCK8[Phe(p-CHSOH)、Nle3、6]、および111In-DOTA-sCCK8[Phe(p-CHSOH)、HPG]等のCCK8類似体を含み得る。
【0061】
[インテグリン結合分子]
インテグリンは、α-およびβ-サブユニットから構成されるヘテロ二量体糖蛋白である。8個のβユニットと18個のαユニットとの24個の異なる組み合わせが知られている。インテグリンは細胞-細胞および細胞-マトリックス相互作用を媒介し、インサイトアウトおよびアウトサイドイン信号伝達を介して、細胞膜を横切る信号を伝達する。インテグリンのいくつかは、腫瘍誘導性血管新生および腫瘍転移の間、内皮細胞ならびに腫瘍細胞の遊走の間に重要な役割を果たす。血管新生、すなわち既存の血管系からの新しい血管の形成は、様々なヒト腫瘍の進行および播種における重要なステップである。腫瘍学における様々な治療戦略は、腫瘍誘発性血管新生の阻害に焦点を当てている。インテグリンに関しては、インテグリンαVβ3およびαVβ5が血管内皮細胞の増殖に顕著であることから、その役割が注目されている。したがって、血管新生を画像化するための放射性医薬品の開発に使用される最も顕著な標的構造の1つは、インテグリンαVβである。
【0062】
腫瘍誘導性血管新生は、αβインテグリンをArg-Gly-Asp(RGD)アミノ酸配列を含む小ペプチドを用いて拮抗させることによってインビボで遮断することができる。このトリペプチド配列は細胞外基質蛋白質に天然に存在し、αβインテグリンの主要な結合部位である。腫瘍におけるαβインテグリンの選択的発現のため、放射標識RGDペプチドは、腫瘍におけるαβインテグリン標的化の魅力的な候補である。過去10年間にわたって、多くの放射標識された線形および環状RGDペプチドが、SPECTまたはPETならびに治療薬による腫瘍の画像化のための放射性トレーサーとして評価されてきた。
【0063】
好適な放射性核種は、上記で特定された放射性核種を含み、特に、放射性核種18F、99mTc、68Ga、111In、131I、90Y、67Cuおよび177Luを含む。放射性核種による放射標識を可能にするために、好ましくは、ペプチドに結合されたキレート剤が使用される。キレート剤としては、例えば上記のような適切なキレート剤を使用することができ、NOTA、DOTA、DOTAGA、DOTAM、DTPA、HYNICが好ましい。
【0064】
例としては、18F-Galacto-RGD、99mTc-NC100692(99mTc-マルアシラチド)、18F-AH11185(18F-フルシクラチド)、18F-RGD-K5、68Ga-NOTA-RGD、18F-FPPRGD2、18F-AlF-NOTA-PRGD2(18F-アルファチド)、18F-NOTA-E[PEG4-c(RGDfk)]18F-アルファチドII)、68Ga-NOTA-PRGD2、67Cu-cyclam-RAFT-c(-RGDfK-)111In-DOTA-E-[c(RGDfK)]、および99mTc-HYNIC-E-[c(RGDfK)]が含まれる。
【0065】
[ニューロテンシン受容体標的化合物]
ニューロテンシン受容体1(NTR1)は、最も致死率の高い癌の1つである膵管腺癌において過剰発現される。いくつかのNTR1アンタゴニスト、例えばSR142948AおよびSR48692、ならびにSR142948Aに基づいて開発された177Lu標識DOTA結合NTR1アンタゴニストである177Lu-3BP-2273が開発されている。NTR1は、膵管腺癌の治療に使用されている(Baum RPら、The Journal of Nuclear Medicine、Vol.59、No.5、2018年5月)。
【0066】
したがって、放射性医薬品は、他の放射性核種、例えば、上記の放射性核種、ならびに他のキレート剤、例えば、上記のキレート剤が企図され得るにも関わらず、ニューロテンシン受容体1を、特に、癌の診断または治療のための放射標識NTR1アンタゴニスト、好ましくは、177Lu-または68Ga-標識NTR1アンタゴニスト、より好ましくは、177Lu-3BP-2273を用いて標的化することができる。
【0067】
[グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体標的化合物]
GLP-1受容体は、本質的に全ての良性インスリノーマおよびガストリノーマにおいて過剰発現される。膵臓のβ細胞から出現し、小結節として存在する良性インスリノーマは、潜在的に生命を脅かす低血糖をもたらすインスリンを分泌する。
【0068】
したがって、放射性医薬品は、GLP-1受容体を標的とし得る。その非限定的な例としては、39量体ペプチドエキセンディン-4、例えばLys40(Ahx-DOTA-111In)NH-エキセンディン-4に基づく111In-、99mTc-、および68Ga標識ペプチドが挙げられる。しかしながら、他の放射性核種、例えば、上述の放射性核種、ならびに他のキレート剤、例えば、上述のキレート剤が企図され得る。
【0069】
〔ガストリン放出ペプチド(GRP)受容体標的化化合物〕
GRP受容体は、乳癌および前立腺癌などの主要なヒト腫瘍において実証されている。ボンベシンはテトラデカペプチド神経ホルモンであり、哺乳類GRP(27量体ペプチド)の両生類相同体である。いくつかのボンベシン類似体およびボンベシンアンタゴニストが開発され、異なるキレート剤を用いて異なる放射性同位体(例えば、68Ga、64Cu、18F)で標識されている。その例には、汎ボンバジン類似体68Ga-BZH3(Zhang Hら、Cancer Res 2004年;64:6707-6715)、およびGly-4-アミノベンゾイルスペーサーを介してDOTAに結合した177Lu標識ボンバジン(7-14)誘導体(Bodei Lら、Eur J Nucl Med Mol Imaging 2007年:34(suppl2):S221)が含まれる。
【0070】
〔ニューロキニン1型受容体標的化化合物〕
ニューロキニン1型受容体は、神経膠腫細胞上および腫瘍血管上で一貫して過剰発現される(Hennig IMら、Int J Cancer 1995年;61:786-792)。ニューロキニン1型受容体を介して作用する放射標識11アミノ酸ペプチドサブスタンスP(ArgProLysProGlnGlnPhePheGlyLeuMet)は、悪性神経膠腫を標的とするために好適に使用され得る。特に、サブスタンスPはキレート剤DOTAGAに結合されており、90Y標識DOTAGA-サブスタンスPは、臨床研究において使用されている(Kneifel S et al、Eur J Nucl Med Mol Imaging。2007年;34:1388-1395)。別の研究において、脳腫瘍に対する標的化α-放射性核種療法の実現可能性および有効性がα-放射線放出コンジュゲート213Bi-DOTA-[THi8,Met(O2)11]-サブスタンスPを使用して評価された(Cordierら、Eur J Nucl Med Mol Imaging.2010年;37:1335-1344)。
【0071】
したがって、放射性医薬品は、特に、サブスタンスPコンジュゲート(放射性核種と、放射性核種を配位するキレート剤とを含む)として、ニューロキニン1型受容体を標的とし得る。
【0072】
[アフィリン]
アフィリンは、抗原に選択的に結合するように設計された人工タンパク質である。アフィリンタンパク質は、それぞれ、構造的に、ヒトユビキチンまたはγ-Bクリスタリンに由来する。アフィリンタンパク質は、これらのタンパク質の表面露出アミノ酸の修飾によって構築され、ファージディスプレイおよびスクリーニングなどのディスプレイ技術によって単離される。アフィリンタンパク質は、抗原に対する親和性および特異性において抗体に似ているが、構造においては似ておらず、ある種の抗体模倣物である。Affilin(登録商標)は、潜在的な生物医薬品、診断薬および親和性リガンドとして、Scil Proteins GmbHによって開発された。アフィリン分子は容易に修飾することができ、照射によって腫瘍細胞を特異的に死滅させるのに適している。
【0073】
異なる標的に同時に結合する多重特異性アフィリン分子を生成することができる。放射性核種または細胞毒素は、アフィリンタンパク質にコンジュゲートされ得、それらを潜在的な腫瘍治療用および診断用にする。放射性核種-キレート剤-アフィリンコンジュゲート、例えば177Lu-DOTA-アフィリンは、治療目的のために設計されている。
【0074】
特に好適な表面分子は、PSMA、および放射標識錯体の標的分子によって標的化されるソマトスタチン受容体である。したがって、標的分子は、好ましくは例えば上記のように、PSMAまたはソマトスタチン受容体に結合することができる。
【0075】
標的分子は、直接的または間接的に(例えば、リンカーまたはスペーサーを使用することによって)キレート剤に連結され得る。連結される結合は、標的分子、場合によりリンカーまたはスペーサーとキレート剤との間の共有結合または非共有結合である。好ましくは、結合は共有結合である。好ましくは、放射標識錯体はリンカーを含む。特に適切なリンカーおよびスペーサーは、WO2018/215627A1およびWO2020/109523A1に記載されているが、これらは参照により本明細書に組み込まれる。
【0076】
標的分子およびキレート剤は、通常、共に複合体または分子(放射標識に適している)を形成する。様々なそのような複合体/分子が当技術分野で公知である。キレート剤およびPSMAに結合することができる標的分子を含む好ましい複合体(コンジュゲート)は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2018/215627A1号に開示されている。
【0077】
キレート剤と、ソマトスタチン受容体に結合することができる標的分子とを含む好ましい複合体(コンジュゲート)として、DOTA-OC([DOTA,D-Phe]オクトレオトリド)、DOTATOC([DOTA,D-Phe,Tyr]オクトレオトリド;INN:エドトレオチド)、DOTANOC([DOTA,D-Phe-Nal]オクトレオトリド)、DOTATATE([DOTA,D-Phe,Tyr]オクトレオテート;INN:オキソドトレオチド)、DOTALAN([DOTA,D-β-Nal]オクトレオトリド)、DOTAVAP([DOTA,D-Phe,Tyr]バプレオチド)、サトレオチドトリゾキセタンおよびサトレオチドテトラキセタンが含まれる。より好ましくは、前記分子は、キレート剤と、DOTATOCおよびDOTATATEから選択される標的分子とを含む。
【0078】
したがって、放射標識錯体は、好ましくは(i)放射性核種および(ii)DOTATOCまたはDOTATATEを含むか、またはそれらからなる。特に好ましくは放射標識錯体(放射性核種、標的分子およびキレート剤を含む)は、177Lu-DOTATOC(177Lu-エドトレオチド)または177Lu-DOTATATE(177Lu-オキソドトレオチド)である。
【0079】
〔安定剤〕
放射線分解に対する安定性を提供するために、医薬組成物は安定剤を含む。本明細書で使用される場合、「安定剤」(放射線分解に対する)という用語は、放射線分解に対して有機分子を保護する薬剤を指す。特に、安定剤はラジカルを捕捉することができる。ラジカルは、例えば、放射性核種がガンマ線を放出し、ガンマ線が有機分子の原子間の結合を切断し、それによってラジカルを形成するときに生成され得る。したがって、安定剤は、ラジカルが他の化学反応を受けることを回避または低減することができる。ラジカルが他の化学反応を受けることは、望ましくない、潜在的に無効な、または毒性の分子さえももたらす可能性がある。
【0080】
安定剤は、アスコルビン酸(L-アスコルビン酸、ビタミンC)および/またはその塩(例えばアスコルビン酸ナトリウム)を含む。しかしながら、前記組成物は、ゲンチジン酸(2,5-ジヒドロキシ安息香酸)またはその塩を含まない。添付の実施例に示されるように、このような製剤は、前記組成物(およびその調製)の複雑さを減少させるだけでなく、驚くべきことに、放射標識錯体のより高い安定性を得ることができる。
【0081】
いくつかの実施形態では、ゲンチジン酸またはその塩を除く他の安定剤が、アスコルビン酸および/またはその塩に加えて存在してもよい。そのようなさらなる安定剤の例としては、メチオニン、ヒスチジン、メラトニン、エタノール、およびSe-メチオニンが含まれる。
【0082】
好ましくは、前記医薬組成物は、アスコルビン酸および/またはその塩に加えてさらなる安定剤を含まない。したがって、アスコルビン酸および/またはその塩は、好ましくは、前記医薬組成物中に存在する唯一の安定剤である。言い換えれば、前記医薬組成物に含まれる安定剤は、好ましくは、アスコルビン酸および/またはその塩からなる。
【0083】
アスコルビン酸の様々な塩は、当技術分野で公知であり、容易に入手可能である。一般に、用語「塩」は、関連する数のカチオンおよびアニオンから構成されるカチオンおよびアニオンのイオン集合体を指し、その結果、製品(塩)は、電気的に中性である(正味電荷を有さない)。アスコルビン酸の塩において、塩は、典型的にはアスコルビン酸アニオンと共に形成される。アスコルビン酸の好ましい塩としては、アスコルビン酸のアルカリ塩が挙げられる。「アルカリ塩」という用語は、水に溶解したときに水酸化物イオンを生成する塩を指す。アスコルビン酸の好ましい塩の非限定的な例としては、アスコルビン酸のナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩およびリチウム塩;例えば、アスコルビン酸ナトリウム、リン酸アスコルビルナトリウム、アスコルビン酸カリウム、アスコルビン酸カルシウム、アスコルビン酸マグネシウム、リン酸アスコルビルマグネシウムおよびアスコルビン酸リチウムが含まれる。最も好ましくは、アスコルビン酸の塩は、アスコルビン酸のナトリウム塩、特にアスコルビン酸ナトリウムである。
【0084】
〔組成物〕
本発明に係る医薬組成物は、好ましくは水溶液、特に放射性医薬水溶液である。本明細書で使用される場合、「水溶液」は、通常、水中の1つ以上の溶質の溶液である。前記医薬組成物は、静脈内(IV)使用/適用/投与用であってもよい。前記医薬組成物は典型的には安定であり、濃縮され、すぐに使用できる。
【0085】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物が、バッファ、例えば、酢酸バッファ、クエン酸バッファまたはリン酸バッファを含み得る。しかしながら、本発明者らは驚くべきことに、アスコルビン酸および/またはその塩が、放射標識錯体に増大した安定性を提供するだけでなく、(i)錯体の放射標識の間、および(ii)前記医薬組成物の製剤中に(非経口注射に適したpHを維持するため)バッファとしても機能することを見出した。したがって、通常、追加のバッファは必要とされない。したがって、前記組成物は酢酸バッファを含有しないことが好ましい。前記組成物がクエン酸バッファを含有しないことも好ましい。前記組成物がリン酸バッファを含有しないことも好ましい。より好ましくは、前記医薬組成物は、酢酸バッファ、クエン酸バッファまたはリン酸バッファを含有しない。さらにより好ましくは、前記医薬組成物は(安定剤として存在し、バッファ機能も提供するアスコルビン酸および/またはその塩に加えて)、いかなる追加のバッファ剤も含有しない。
【0086】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物がジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)またはその塩などの金属イオン封鎖剤を含んでもよい。本明細書で使用するとき、用語「金属イオン封鎖剤」は、放射性核種金属イオンを錯体化するのに適した薬剤、例えばDTPAを指す。しかしながら、本発明者らは、金属イオン封鎖剤の添加は必要とされないことを見出した。したがって、前記医薬組成物は、DTPAを含まないことが好ましい。より好ましくは、前記医薬組成物は、DTPAなどの金属イオン封鎖剤を含まない。DTPAは、悪心、嘔吐、下痢、悪寒、発熱、そう痒、筋肉痙攣、頭痛、ふらつきおよび胸痛などの副作用を誘発することが知られている。
【0087】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は生理学的(生理食塩水)溶液、特に0.9%NaCl溶液(生理食塩水)を含まない。いくつかの実施形態では、医薬組成物がNaClを含まない。
【0088】
前記医薬組成物中に含まれる唯一の賦形剤(すなわち、活性成分ではない前記医薬組成物の成分、例えば放射標識錯体)はアスコルビン酸および/またはその塩;ならびに水(例えば、(滅菌)注射用水および/または高度に精製された水)であり得ることがさらにより好ましい。したがって、前記医薬組成物は、好ましくは(本質的に)以下のものからなる。
【0089】
(a)放射標識錯体、および場合によりその1つ以上の前駆体;
(b)アスコルビン酸および/またはその塩;ならびに
(c)水
好ましくは、(上述したように)前記医薬組成物は、アスコルビン酸およびその塩の両方を含む。したがって、前記医薬組成物は、アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウムを含む(好ましくは上記のさらなる安定剤を含まない)ことが特に好ましい。
【0090】
前記医薬組成物中のアスコルビン酸の塩とアスコルビン酸との重量比率、特にアスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸の重量比率(w/w)は、好ましくは30:1~70:1、より好ましくは36:1~66:1、さらにより好ましくは40:1~60:1、さらにより好ましくは45:1~55:1、特に好ましくは45:1~50:1である。したがって、アスコルビン酸の塩(特にアスコルビン酸ナトリウム)の量(重量)は、好ましくは上記のように、アスコルビン酸の量(重量)をかなり超える。
【0091】
したがって、特に、アスコルビン酸およびその塩(特にアスコルビン酸ナトリウム)の両方が前記医薬組成物中に存在する場合、前記組成物中のアスコルビン酸の濃度は、好ましくはアスコルビン酸の塩(特にアスコルビン酸ナトリウム)の濃度よりもかなり低い。
【0092】
好ましくは、前記医薬組成物中のアスコルビン酸の濃度は、0.5~5.0mg/mlの範囲、好ましくは0.7~3.0mg/mlの範囲、より好ましくは0.8~2.0mg/mlの範囲、さらにより好ましくは0.9~1.5mg/mlの範囲、さらにより好ましくは1.0~1.25mg/mlの範囲である。例えば、前記医薬組成物中のアスコルビン酸の濃度は、約1.11mg/mlであり得る。
【0093】
アスコルビン酸の塩の濃度に関して、前記医薬組成物中のアスコルビン酸塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの濃度は、10mg/ml~100mg/mlの範囲、好ましくは20mg/ml~90mg/mlの範囲、より好ましくは30mg/ml~80mg/mlの範囲、さらにより好ましくは40mg/ml~70mg/mlの範囲、さらにより好ましくは44mg/ml~66mg/mlの範囲、特に好ましくは50mg/ml~60mg/mlの範囲であることが好ましい。例えば、前記医薬組成物中のアスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの濃度は、約51mg/mlであり得る。
【0094】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、エタノールを実質的に含まない。エタノールのより高い濃度は忍容性の問題と関連し得、その結果、エタノールが制限または回避され得る。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物中のエタノールの量が(注射/注入される)最終医薬組成物中で5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下である。さらにより好ましくは、前記溶液はエタノールを含まない。
【0095】
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、(本質的に)以下のものからなる。
【0096】
(a)177Lu-DOTATOC(およびその1つ以上の前駆体);
(b)40mg/ml~70mg/mlのアスコルビン酸ナトリウムおよび1.0~1.25mg/mlのアスコルビン酸を、アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸の重量比率(w/w)が40:1~60:1の範囲;および
(c)水
いくつかの実施形態では、前記医薬組成物は、放射標識錯体の前駆体、特に、177Lu-DOTATOCの前駆体を実質的に含まない。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物中の放射標識錯体、特に、177Lu-DOTATOCの前駆体の量は、最終医薬組成物(注射/注入される)中の放射標識錯体、特に、177Lu-DOTATOCの量の5%以下、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、さらにより好ましくは0.5%以下である。さらにより好ましくは、前記医薬組成物は、放射標識錯体の前駆体、特に、177Lu-DOTATOCの前駆体を含まない。
【0097】
添付の実施例に示されるように、本発明に係る前記医薬組成物は、特に40℃以下(例えば、40℃/70%RH(相対湿度))で保存される場合、少なくとも96時間の貯蔵寿命を提供することができる。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物の貯蔵寿命は、特に40℃以下で貯蔵される場合、少なくとも24時間、好ましくは少なくとも48時間、より好ましくは少なくとも72時間、さらにより好ましくは少なくとも96時間である。いくつかの実施形態では、前記医薬組成物の貯蔵寿命は、特に40℃以下で保存した場合、24時間~168時間、好ましくは48時間~168時間、より好ましくは72時間~168時間、さらにより好ましくは96時間~168時間である。
【0098】
本明細書に記載の特定の安定剤の使用は、96時間後でさえ、放射標識錯体の化学的純度に関して、少なくとも95%、96%、97%、98%、99%または100%の高い化学的安定性を保証する。
【0099】
さらに、本明細書に記載の特定の安定剤の使用は、放射化学的純度の放射性核種錯体に対して、高い安定性、少なくとも95%の放射化学的安定性を保証する。例えば、本明細書に記載の様々な製剤について、少なくとも95%の放射化学的純度を有する177Lu-DOTATOCが、96時間後、特に40℃以下で貯蔵された場合に見出された。より好ましくは、前記医薬組成物の放射化学的純度は、特に40℃で保存した場合、少なくとも96時間、≧96%、さらにより好ましくは≧96.5%、さらにより好ましくは≧97%に維持することができる。この目的のために、放射化学的純度は、例えば、UVおよび放射化学的検出を伴う勾配条件で、例えば逆相クロマトグラフィー(例えば、カラム:Acclaim120、C18、3μm、3×150mm)を利用して、当技術分野で公知のHPLCによって決定され得る。
【0100】
本発明に係る医薬組成物は、単回用量製品として、例えば、放射標識錯体の単回用量を含有するバイアル中で提供され得る。この目的のために、前記バイアルは、約10~25mlの前記医薬組成物、好ましくは15~20mlの前記医薬組成物、より好ましくは16~19mlの前記医薬組成物、さらにより好ましくは約18mlの前記医薬組成物を含有し得る。単回用量により、注入時に7.5GBq±10%の放射能を送達することができる。
【0101】
好ましくは、(最終)医薬組成物中に存在する1種以上の安定剤のそれぞれは、錯体形成(放射標識)中に既に存在する。
【0102】
本明細書で使用される場合、「錯体形成中に存在する」という表現は、錯体形成(放射標識)のための反応混合物(「放射標識組成物」とも呼ばれる)中に存在するそのような薬剤/化合物を指すことが意図される。放射標識反応混合物(放射標識組成物)を得るために、放射性核種溶液を、標的分子に連結されたキレート剤を含有する溶液に添加する(またはその逆)。したがって、安定剤などの、錯体形成(放射標識)中に存在する任意の薬剤/化合物は、放射性核種溶液中、標的分子に連結されたキレート剤を含有する溶液中、または添加される別個の溶液中のいずれかに含有され得る。放射標識組成物を得た後、錯体形成(放射標識)を促進するために、規定された時間の間、放射標識組成物(そこに薬剤/化合物を含む)に高温を適用してもよい。
【0103】
上記のように、(最終)医薬組成物中に存在する1種以上の安定剤のそれぞれは、錯体形成(放射標識)中に既に存在することが好ましい。しかしながら、錯体形成(放射標識)中の放射標識組成物(反応混合物)中の安定剤の濃度および/または重量比は、好ましくは(最終)医薬組成物中の安定剤の濃度および/または重量比とは異なる。例えば、錯体形成(放射標識)の間に存在する安定剤の1つ以上を、錯体形成(放射標識)の後にさらに添加してもよい。
【0104】
本明細書で使用される場合、「錯体形成(放射標識)後」という表現は、錯体形成(放射標識)反応が完了する時間を指す。例えば、放射標識のために高温が適用された場合、「錯体形成(放射標識)後」は、放射標識組成物(放射標識反応混合物)がもはや高温に曝露されない時間(例えば、放射標識組成物を冷却することによって、周囲温度に再び到達するとき)を指し得る。特に、「錯体形成(放射標識)後」は、例えば、放射標識混合物を水で希釈することによる、(最終)医薬組成物の製剤を指し得る。
【0105】
したがって、アスコルビン酸および/またはその塩は、錯体形成(放射標識)中に存在することが好ましい。アスコルビン酸および/またはその塩は、錯体形成(放射標識)後に添加されることも好ましい。より好ましくは、アスコルビン酸および/またはその塩が錯体形成(放射標識)中に存在し、アスコルビン酸および/またはその塩は、錯体形成(放射標識)後に添加される。
【0106】
より好ましくは、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは、錯体形成(放射標識)中に存在する。それによって、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは、錯体形成中(すなわち、放射標識組成物中)に、約2:1~6:1、好ましくは約3:1~5:1、より好ましくは約3.5:1~4.5:1、さらにより好ましくは約3.75:1~4.25:1、さらにより好ましくは、約4:1の重量比率(アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸)で存在することが好ましい。
【0107】
好ましくは、アスコルビン酸は、錯体形成中(すなわち、放射標識組成物中)に、1~50mg/ml、好ましくは5~40mg/ml、より好ましくは7~30mg/ml、さらにより好ましくは10~20mg/ml、さらにより好ましくは10~15mg/ml、例えば約13.3mg/mlの濃度で存在する。
【0108】
アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは、錯体形成中(すなわち、放射標識組成物中)、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、さらにより好ましくは45~60mg/ml、さらにより好ましくは50~55mg/ml、例えば約53.3mg/mlの濃度で存在することも好ましい。
【0109】
好ましくは、アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウム(好ましくはアスコルビン酸ではない)は、錯体形成後(前記医薬組成物の製剤化中)に添加される。
【0110】
さらにより好ましくは、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは錯体形成(放射標識)の間に存在し;アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウム(好ましくはアスコルビン酸ではない)は錯体形成(前記医薬組成物の製剤化の間)の後に添加される。
【0111】
アスコルビン酸および/またはその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが錯体形成中(放射標識)および錯体形成後(例えば、前記医薬組成物の製剤化中)に存在する唯一の安定剤であることも好ましい。
【0112】
特に好ましくは、前記医薬組成物の賦形剤は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸および水(例えば、(滅菌)注射用水および/または高度に精製された水)から本質的になる。したがって、前記医薬組成物は、好ましくは(本質的に)以下のものからなる。
【0113】
(a)放射標識錯体、および場合によりその1つ以上の前駆体;
(b)アスコルビン酸およびアスコルビン酸ナトリウム;ならびに
(c)水(例えば、注射用滅菌水及び/又は高度に精製された水)。
【0114】
この医薬組成物中のアスコルビン酸の濃度は、好ましくは、0.9~1.5mg/mlの範囲、より好ましくは1.0~1.25mg/mlの範囲である。例えば、前記医薬組成物中のアスコルビン酸の濃度は、1.11mg/ml±1.1mg/mlであり得る。この医薬組成物中のアスコルビン酸ナトリウムの濃度は、好ましくは40mg/ml~70mg/mlの範囲、より好ましくは50mg/ml~60mg/mlの範囲である。例えば、前記医薬組成物中のアスコルビン酸ナトリウムの濃度は、51mg/ml±5.1mg/mlであり得る。また、この医薬組成物中では、前記放射性核種が177Luであり、前記キレート剤がDOTAであり、前記標的分子がPSMAまたはソマトスタチン受容体に結合するペプチドであることが好ましい。前記放射性核種は、0.42GBq/ml±0.04GBq/mlの体積放射能を提供する濃度で存在し得る。
【0115】
〔医学的処置および使用〕
さらなる態様において、本発明はまた、医薬における上述の前記医薬組成物の使用を提供する。例えば、上述の前記医薬組成物は、好ましくは、(例えば、単離された試料、例えば、血液試料または腫瘍組織を使用することによる)癌の治療または(インビトロ)診断において使用され得る。したがって、本発明はまた、上述の前記医薬組成物を必要とする対象において、癌を治療するか、または抗腫瘍応答を開始、増強または延長するための方法であって、対象に上述の前記医薬組成物を投与することを含む方法を提供する。
【0116】
医療目的のために、前記医薬組成物は、通常、有効な量の放射標識錯体を含むことが理解される。本明細書中で使用される場合、「有効量」は、治療されるべき疾病の診断を可能にし、かつ/またはプラスの変化を有意に誘発するのに十分な薬剤の量を意味する。しかしながら、同時に、「有効量」は、重篤な副作用を回避するのに十分なほど少なくてもよく、すなわち、優位性と危険性との間の道理に適った関係を可能とするのに十分なほど少なくてもよい。「有効量」は、診断または治療される特定の状態、ならびに治療される患者の年齢および身体状態、状態の重症度、治療の期間、付随する治療の性質、使用される特定の薬学的に許容される賦形剤または担体、および類似の因子に応じて変動し得る。したがって、「有効量」は、医師によって特定の状況において即座に決定され得る。一般に、有効用量は、日常的な実験によって、例えば動物モデルを使用することによって決定することができる。このようなモデルにはウサギ、ヒツジ、マウス、ラット、イヌおよび非ヒト霊長類モデルが含まれるが、これらに限定されない。放射標識錯体の治療的有効性および毒性は、細胞培養物または実験動物における標準的な医薬手順によって決定することができ、例えば、LD50(集団の50%に対して致死的な用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効な用量)を決定する。毒性効果と治療効果との間の用量比は治療指数であり、比LD50/ED50として表すことができる。細胞培養アッセイおよび動物研究から得られたデータは、ヒトにおける使用のための用量範囲を決定する際に使用することができる。前記コンジュゲートの用量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くないED50を含む循環濃度の範囲内にある。
【0117】
本明細書で使用される場合、「診断」または「診断すること」という用語は、疾患をその徴候および症状から同定する行為、および/または、本ケースでは疾患を示す生物学的マーカー(遺伝子またはタンパク質など)の分析を指す。
【0118】
本明細書で使用される場合、疾患の「治療」または「治療すること」という用語は、疾患を予防または防御すること(すなわち、臨床症状を進行させないこと);疾患を阻害すること(すなわち、臨床症状の進行を停止または抑制すること);および/または疾患を軽減すること(すなわち、臨床症状の退縮を引き起こすこと)を含む。理解されるように、最終的な誘導事象は未知または潜在的であり得るので、疾患または障害を「予防すること」と「抑制すること」とを区別することは必ずしも可能ではない。したがって、「予防」という用語は「予防」および「抑制」の両方を包含する「治療」のタイプを構成すると理解される。したがって「治療」という用語は「予防」を含む。したがって、用語「処置」は、予防的処置(疾患の発症前)ならびに治療的処置(疾患の発症後)を含む。
【0119】
本明細書に記載の医薬組成物は、典型的には非経口的に投与される。投与は好ましくは全身に、例えば、静脈内(i.v.)、皮下、筋肉内または皮内注射によって達成され得る。あるいは、投与は、局所的に、例えば、腫瘍内注射によって達成され得る。上述した前記医薬組成物は、それを必要とする対象に、1日に数回、毎日、隔日、毎週、または毎月投与することができる。
【0120】
本発明の医薬組成物、特に、PSMAに結合する標的分子を有する放射標識錯体を含む医薬組成物は、PSMAを発現する任意の癌の治療または診断に使用することができる。特に、PSMA発現細胞または組織の存在は、前立腺腫瘍(細胞)、転移性前立腺腫瘍(細胞)、腎腫瘍(細胞)、膵腫瘍(細胞)、膀胱腫瘍(細胞)、およびそれらの組み合わせを示し得る。したがって、癌は、好ましくは、前立腺癌、膵臓癌、腎癌または膀胱癌である。
【0121】
本発明の医薬組成物、特に、ソマトスタチン受容体に結合する標的分子を有する放射標識錯体を含む医薬組成物は、ソマトスタチン受容体を発現する任意の癌の治療または診断に使用することができる。したがって、癌は、好ましくは神経内分泌腫瘍(NET)である。特に、NETは、胃腸膵神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍、副神経内分泌腫瘍、パラガングリオーマ、甲状腺髄様癌、肺神経内分泌腫瘍、胸腺神経内分泌腫瘍、カルチノイド腫瘍または膵神経内分泌腫瘍、下垂体腺腫瘍、副腎癌、メルケル細胞癌、乳癌、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、頭部および首部の腫瘍、神経上皮癌(膀胱)、腎細胞癌、肝細胞癌、GIST、神経芽細胞腫、胆管腫瘍、子宮頸部腫瘍、ユーイング肉腫、骨肉腫、小細胞肺癌(SCLC)、前立腺癌、メラノーマ、髄膜腫、グリオーマ、髄芽腫、血管芽腫、未分化神経外胚葉腫瘍、神経外胚葉性腫瘍、および鼻腔神経芽細胞腫からなる群から選択され得る。NET腫瘍のさらなる非限定的な例としては、機能性カルチノイド腫瘍、インスリノーマ、ガストリノーマ、血管作動性腸ペプチド(VIP)腫、グルカゴノーマ、セロトニン腫、ヒスタミノーマ、ACTHoma、褐色細胞腫、およびソマトスタチノーマが含まれる。
【0122】
上述した前記医薬組成物は、画像化および治療目的の両方のために、すなわち「セラグノスティック(theragnostic)」剤として使用され得る。本明細書で使用するとき、用語「セラグノスティック(theragnostic)」は、「治療のみ」、「診断のみ」、及び「治療及び診断」への適用を含む。したがって、さらなる態様において、本発明はまた、癌性細胞および/または組織の存在を(インビトロで)検出する方法であって、(a)前記癌性細胞および/または組織を本発明の医薬組成物と接触させること、および(b)前記細胞および/または組織を検出するために、検出手段、場合により放射線画像化を適用することを含む方法を提供する。
【0123】
インビボおよびインビトロでの使用および方法において、放射線画像化は、当技術分野で公知の任意の手段および方法を用いて達成され得る。好ましくは、放射線画像化は、陽電子放出断層撮影法(PET)または単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)を含み得る。本発明の複合体の放射線画像化によって検出される標的細胞または組織は、好ましくは(任意に癌性)前立腺細胞または組織、(任意に癌性)脾臓細胞または組織、または(任意に癌性)腎臓細胞または組織を含み得る。
【0124】
〔医薬品組成物の調製プロセス〕
さらなる態様において、本発明はまた、以下の工程を含む、上述した本発明に係る医薬組成物の製造方法を提供する:
(i)上述した前記放射標識錯体の形成;および
(ii)上述した前記医薬組成物の製剤化。
【0125】
上記の詳細な説明は、したがって、本発明に係る前記医薬組成物を調製するためのプロセスに当てはまることが理解される。例えば、前記放射標識錯体について上述した詳細な実施形態は、それに応じて、本発明に係る前記医薬組成物を調製するためのプロセスに適用される。同様に、前記医薬組成物の製剤化について上述した詳細な実施形態は、それに応じて、本発明に係る前記医薬組成物を調製するためのプロセスに適用される。別の例として、前記放射標識組成物(反応混合物)について上述した実施形態も、それに応じて、本発明に係る前記医薬組成物を調製するためのプロセスに適用される。
【0126】
したがって、工程(i)、すなわち、放射標識錯体の形成は、好ましくは以下を含む(または本質的に以下からなる)放射標識組成物中で行われる:
(a)前記放射性核種および前述した前記キレート剤に連結された前記標的分子;並びに、
(b)水と、アスコルビン酸および/またはその塩とを含む(またはそれからなる)放射標識バッファ。
【0127】
工程(i)において、放射標識反応混合物(放射標識組成物)は、前記標的分子に連結された前記キレート剤を含有する溶液に前記放射性核種溶液を添加することによって得られる(またはその逆)。さらに、前記放射標識組成物は、前記放射性核種溶液、前記標的分子に連結された前記キレート剤を含有する溶液、または添加される別個の溶液のいずれかに含有され得る、安定剤などのさらなる成分を含み得る。
【0128】
さらに、上記のように、前記放射標識組成物は、好ましくは、水およびアスコルビン酸および/またはその塩、例えばアスコルビン酸ナトリウムを含み得る(またはそれからなる)放射標識バッファを含む。好ましくは、工程(i)における前記放射標識組成物は、約4.0~5.5、より好ましくは約4.5~5.0のpHを有する。前記バッファは、このような有利なpH範囲を維持するのに有用である。
【0129】
前記放射標識組成物を得た後、特に錯体形成(放射標識)を容易にするために、規定された時間の間、前記放射標識組成物(そこに薬剤/化合物を含む)に高温を適用することができる。例えば、60~120℃、好ましくは70~110℃、より好ましくは80~100℃、特に87±4℃の範囲の温度が、工程(i)における前記放射標識組成物に適用され得る。したがって、工程(i)は、特に好ましくは87±4℃の温度で行われる。高温は、10~40分、好ましくは15~35分、より好ましくは20~30分などの規定された時間に適用することができ、特に、高温は、25±3分間適用することができる。
【0130】
好ましくは、本方法、特に工程(i)において、前記放射標識錯体を形成するために使用される前記放射性核種は(それぞれの詳細な/好ましい実施形態をとともに)上述した通りである。特に、前記放射性核種は177Luであり得る。この目的のために、例えば、0.04M塩酸中に40±4GBq/mlを提供する、放射標識のためのルテチウム(177Lu)クロライド溶液などの177LuClを、工程(i)における放射性核種溶液として使用することができる。工程(i)で得られる前記放射標識組成物において、前記放射性核種は、好ましくは2~20GBq/mL、好ましくは3~16GBq/mL、より好ましくは2~10GBq/mL、さらにより好ましくは4~12GBq/mL、さらにより好ましくは6.0~9.5GBq/mLの体積放射能を提供する濃度で存在する。いくつかの実施形態では、前記放射性核種が活性基準時間(ART)1日目から4日目まで提供される。特に、前記放射性核種は、6.0~9.5GBq/mL、例えば、1.1mL~1.2mL当たり8~11.5GBqの開始活性(活性基準時間(ART)1日目から~4日目まで)で提供される。
【0131】
好ましくは、本方法において、特に工程(i)において、前記放射標識錯体を形成するために使用される前記キレート剤に連結される前記標的分子は(それぞれの詳細な/好ましい実施形態において)上述された通りである。特に、前記キレート剤に連結された前記標的分子は、DOTATOCであってもよい。工程(i)で得られる前記放射標識組成物において、前記キレート剤に連結された前記標的分子は、好ましくは50~150μg/ml、好ましくは60~140μg/ml、より好ましくは70~130μg/ml、さらにより好ましくは80~120μg/mlの濃度で提示し、さらにより好ましくは、前記キレート剤に連結された前記標的分子は、100±10μg/mlの濃度で前記放射標識組成物中に存在する。
【0132】
上記のように、アスコルビン酸および/またはその塩、例えばアスコルビン酸ナトリウムは、好ましくは工程(i)において(前記放射標識組成物中に)存在する。より好ましくは、アスコルビン酸およびその塩両方が、特にアスコルビン酸ナトリウムが、好ましくは工程(i)において(前記放射標識組成物中に)存在する。特に、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは、放射標識バッファを形成し得る。上記のように、放射標識バッファは、工程(i)における前記放射標識組成物のpHを、好ましくは約pH4.0~5.5、より好ましくは約pH4.5~5.0の範囲に維持するのに有用である。工程(i)における放射標識バッファの使用は、pHが維持されている間、必要に応じて、様々な量のルテチウム(177Lu)クロライド溶液が放射性標識のために使用され得るとしても、pHを維持することができるという長所を有する。したがって、各特定のケースについて予期されるpHを取得するために、ルテチウム(177Lu)クロライド溶液の特定量に応じて、塩基の特定量を算出する必要がない。さらにより好ましくは、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムが(前記放射標識組成物中に、特に前記放射標識バッファを形成して)、工程(i)において、約2:1~6:1、好ましくは約3:1~5:1、より好ましくは約3.5:1~4.5:1、さらにより好ましくは約3.75:1~4.25:1、さらにより好ましくは約4:1の重量比率(アスコルビン酸ナトリウム:アスコルビン酸)で存在する。
【0133】
上記のように、アスコルビン酸は、好ましくは工程(i)の間に、1~50mg/ml、好ましくは5~40mg/ml、より好ましくは7~30mg/ml、さらにより好ましくは10~20mg/ml、さらにより好ましくは10~15mg/ml、例えば約13.3mg/mlの濃度で(前記放射標識組成物中に、特に前記放射標識バッファを形成するために)存在する。
【0134】
アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは、工程(i)の間に(前記放射標識組成物中に)、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、より好ましくは40~65mg/ml、さらにより好ましくは45~60mg/ml、さらにより好ましくは50~60または50~55mg/ml、例えば約53.3mg/mlの濃度で存在することも好ましい。
【0135】
工程(ii)において、(最終)医薬組成物は、例えば、放射標識混合物を水または他の希釈剤(生理食塩水など)で希釈することによって製剤化される。それによって、(最終)医薬組成物のさらなる成分、例えば、1種または複数の安定剤および/またはバッファを添加することができる。このようにして、前記医薬組成物の最終体積(および濃度)は、例えば、すぐに使用できる医薬組成物として、例えば、単回用量製品として達成され得る。この目的のために、医薬組成物の約10~25ml、好ましくは15~20ml、より好ましくは16~19ml、さらにより好ましくは約18mlの最終体積が、適切な希釈(および場合によりさらなる成分の添加)によって達成され得る。
【0136】
工程(ii)は、工程(i)の後に(直接的または間接的に)続く、すなわち、工程(ii)は、錯体形成(放射標識)の後に行われる。工程(ii)において、前記放射標識組成物は、通常、(例えば、周囲温度に再び到達したとき、前記放射標識組成物を冷却すること等によって)もはや高温に曝露されない。
【0137】
好ましくは、工程(ii)において、アスコルビン酸および/またはその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの水溶液が、工程(i)において得られた放射標識組成物(反応混合物)に添加される。換言すれば、アスコルビン酸および/またはその塩、例えばアスコルビン酸ナトリウムは、好ましくは、(最終)医薬組成物を製剤化するために、工程(ii)において(工程(i)で得られた前記放射標識組成物に)添加される。特に、アスコルビン酸および/またはその塩が工程(i)中に存在し、さらに工程(ii)中に添加されることが好ましい。
【0138】
より好ましくは、(最終)医薬組成物を製剤化するために、上記のアスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウム(アスコルビン酸は含まない)が、工程(ii)において(工程(i)で得られた前記放射標識組成物に)添加される。したがって、アスコルビン酸およびその塩、特にアスコルビン酸ナトリウムは工程(i)の間に存在し、(好ましくは同じ)アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウム(ただしアスコルビン酸は添加されない)が工程(ii)の間に添加されることが好ましい。
【0139】
特に、工程(ii)において、アスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの水溶液(アスコルビン酸を含まない)が、好ましくは、工程(i)において得られる前記放射標識組成物(反応混合物)に添加される。好ましくは、工程(ii)において添加される溶液中のアスコルビン酸の塩、特にアスコルビン酸ナトリウムの濃度は、10~100mg/ml、好ましくは20~80mg/ml、より好ましくは30~70mg/ml、さらにより好ましくは40~60mg/ml、さらにより好ましくは45~55mg/mlの範囲、特に約50mg/mlである。
【0140】
アスコルビン酸および/またはその塩が、全プロセス中、特に、工程(i)の放射標識組成物中、ならびに工程(ii)の(最終)医薬組成物中に存在する唯一の安定剤であることも好ましい。換言すれば、好ましくは、他の安定剤(アスコルビン酸および/またはその塩、特にアスコルビン酸ナトリウム以外)は全プロセス、すなわち、工程(i)の放射標識組成物、ならびに工程(ii)の(最終)医薬組成物において使用されず、他の安定剤(アスコルビン酸および/またはその塩、特にアスコルビン酸ナトリウム以外)を含まない。さらにより好ましくは、アスコルビン酸および/またはアスコルビン酸ナトリウムは、全プロセス中、特に、工程(i)の放射標識組成物中、ならびに工程(ii)の(最終)医薬組成物中に存在する唯一の安定剤である。言い換えれば、好ましくは、(アスコルビン酸および/またはアスコルビン酸ナトリウム以外)の他の安定剤は全プロセスにおいて使用されず、すなわち、工程(i)の放射標識組成物ならびに工程(ii)の(最終)医薬組成物は、(アスコルビン酸および/またはアスコルビン酸ナトリウム以外の)他の安定剤を含まない。
【0141】
本発明はまた、上記の本発明の処理によって得られる医薬組成物を提供する。そのような医薬組成物は、典型的には上記の医薬組成物の特徴を示す。本発明者らは、本明細書に記載のようにして得られた医薬組成物が優れた安定性を有することを見出した。さらに、本発明者らは、本明細書に記載されるように得られる医薬組成物において、DTPAなどの金属イオン封鎖剤の添加は必要とされないことを見出した。
【0142】
〔図面の簡単な説明〕
以下において、添付の図面の簡単な説明が与えられる。図面は、本発明をより詳細に説明することを意図している。しかしながら、それらは、本発明の主題を決して限定することを意図するものではない。
【0143】
図1〕実施例3について、合成終了(EOS)時の本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る対照組成物(B)について得られたクロマトグラムおよび結果を示す。
【0144】
図2〕実施例3について、合成終了(EOS)後72時間で得られた本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る対照組成物(B)についてのクロマトグラムを示す。
【0145】
図3〕実施例3について、合成終了(EOS)後96時間で得られた本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る比較組成物(B)についてのクロマトグラムおよび結果を示す。
【0146】
〔実施例〕
以下では、本発明の様々な実施形態および態様を示す特定の実施例が提示される。しかしながら、本発明は、本明細書に記載される特定の実施形態によって範囲が限定されるものではない。以下の調製および実施例は、当業者が本発明をより明確に理解し、実施することを可能にするために与えられる。しかしながら、本発明は、本発明の単一の態様の例示としてのみ意図される例示された実施形態によって範囲が限定されず、機能的に等価である方法は本発明の範囲内である。実際、本明細書に記載されるものに加えて、本発明の様々な改変が、前述の説明、添付の図面、および以下の実施例から当業者に容易に明らかになるであろう。全てのそのような改変は、添付の特許請求の範囲内に入る。
【0147】
〔実施例1:[177Lu]Lu-DOTATOCの放射標識収率に及ぼす各種バッファ系の影響〕
177Lu]Lu-DOTATOCの放射標識の収率に関して、種々の種類と濃度の種々のバッファ系を放射標識反応で調べた。この目的のために、化学前駆体DOTATOCを種々の試験バッファに溶解し、0.04M塩酸に溶解した放射性核種前駆体177LuClを含有するバイアルに直接的に添加した。反応混合物は、80~95℃で15~30分間加熱し、[177Lu]Lu-DOTATOCを得た。
【0148】
試験したバッファ系および結果を以下の表1に示す:
【0149】
【表1】

表1に示される結果は、ゲンチジン酸を含むがアスコルビン酸またはその塩を含まないバッファ(LH045)が、わずか96.1%の純度であり、最も好ましくない結果を提供したことを示す。これとは対照的に、アスコルビン酸またはその塩を含むがゲンチジン酸を含まないすべての組成物は、少なくとも97.5%の純度をもたらし、中でも、例示的なバッファLH055およびLD-160429-Cは少なくとも97.5%の純度をもたらし、最良の結果を示した。
【0150】
〔実施例2:[177Lu]Lu-DOTATOCの自己放射線分解に関する種々の製剤の保護作用〕
次に、[177Lu]Lu-DOTATOCの自己放射線分解に関する防御作用について、種々の製剤および濃度を試験した。この目的のために、[177Lu]Lu-DOTATOCを含む実施例1からの反応混合物を、種々の製剤溶液で希釈し、0.22μmフィルター上を通過させて、隔壁で閉じた滅菌バイアルに入れた。そのように処方された[177Lu]Lu-DOTATOCは、制御された雰囲気室内で40℃および70%相対湿度でオーバヘッド位置において保管された。
【0151】
試験された製剤および結果を以下の表2に示す(「WFI」=「注射用滅菌水」):
【0152】
【表2】

表2に示す結果は、0.9%NaCl(生理食塩水)を安定剤なしで使用した場合、24~70時間後にかなりの放射線分解が観察されることを示している。組成物が例えば「CF025-B」のようにゲンチジン酸を含有する場合、放射線分解は、特に48時間後でもなお相当である。これとは対照的に、組成物がアスコルビン酸またはその塩を含むが、ゲンチジン酸を含まない場合、放射線分解に対する強力な保護効果が、特に70または96時間で観察された。
【0153】
〔実施例3:本発明の製剤と先行技術の製剤との比較〕
次に、本発明の組成物の保護効果を、先行技術の製剤、すなわち、US10,596,278B2に記載されている製剤と比較した。US10,596,278B2には、25℃で保存した場合に少なくとも72時間、95%以上の放射化学的純度(RCP)を維持する製剤が記載されている。
【0154】
この目的のために、以下のようにして、本発明に係る177Lu-DOTATOC組成物を調製した。1回の用量のために、ペプチド(DOTATOC酢酸エステルGMP前駆体)の量を、ARTにおいて150μg、7.5±0.7GBqに固定した。これは、96時間の貯蔵寿命の間、製造時の11.3±1.1GBqを意味する。反応バッファは、アスコルビン酸ナトリウム80±8mgおよびアスコルビン酸20±2mgを含有した。0.04N塩酸中の177LuClの体積は、200~800μLの範囲であった。結果として、標識混合物は、2mLの酸洗浄ガラスバイアルで1.2~1.8mLの範囲であった。標識は87±4℃で25分間行った。その後、反応混合物を50mg/mLのアスコルビン酸ナトリウムと共に製剤化して、18mLの最終容量に到達させた。使用したときの詳細な量および活性を以下の表3に示す:
【0155】
【表3】

さらに、対照の177Lu-DOTATOC組成物を、米国特許第10,596,278 B2号に記載されているように調製した。すなわち、1回の用量のために、ペプチド(DOTATOC酢酸エステルGMP前駆体)の含量を、250μg、ARTで7.4±0.7GBqに固定した。これは72時間の貯蔵寿命の間、製造時の9.3±0.9GBqを意味する。反応バッファは、11.43μLの酢酸、16.5mgのゲンチジン酸および16.5mgの酢酸ナトリウムを含有した。全反応容量は550μLであった。標識は91.5℃で15分間行った。その後、反応混合物を70mgのアスコルビン酸、1.25mgのDTPA、171.3mgのNaClおよび16mgのNaOHを用いて製剤化し、全てを超純水で希釈して、最終容量25mLに到達させた。使用したときの詳細な量および活性を以下の表4に示す:
【0156】
【表4】

製剤化後、得られた組成物を40℃(および室温)で少なくとも96時間保存した。
【0157】
得られた製剤を、(1)合成終了時(EOS)、(2)EOS後72時間、および(3)EOS後96時間、品質管理に供した。品質管理は、[Lu-177]-エドトレオチド(DOTATOC)薬剤中の[Lu-177]-DOTATOCのアッセイ、化学的純度、放射化学的純度および同一性を決定するために行った。これは、UVおよび放射化学検出を伴う勾配条件で逆相クロマトグラフィー(カラム:Acclaim120、C18、3μm、3×150mm)を利用する。品質管理のために、試料を0.1MのHClで希釈し、測定時の放射能濃度(RAC)を130MBq/mLとした。サンプル注入の前にブランクランを行い、汚染が存在しないことを確認した。
【0158】
結果を以下の表5に示す。「試料1」は前述した本発明に係る177Lu-DOTATOC組成物を指し、一方「試料2」は、米国特許第10,596,278B2号に記載されるように調製された対照177Lu-DOTATOC組成物を指す。
【0159】
【表5】

さらなるデータおよびクロマトグラムを、本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る対照組成物(B)について、図1(EOS時)、図2(EOS後72時間)および図3(EOS後96時間)に示す。
【0160】
これらの結果は、先行技術に対する本発明に係る製剤の有益な影響を示す。特に、EOSの96時間後でさえ、放射線分解が強く低下し、生成物の安定性が維持される。本発明に係る製剤には、ごくわずかな不純物しか存在せず、これらは依然として各単一の不純物について1.0%以下の規格内である。対照的に、先行技術の製剤(US10,596,278B2)は、EOS後72時間までしか安定性を維持することができない。特に、対照製剤では放射線分解が明らかに増強され、これは例えば、EOS後72時間、相対保持時間(RRT)0.92における1.51%の不純物で見ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0161】
以下において、添付の図面の簡単な説明が与えられる。図面は、本発明をより詳細に説明することを意図している。しかしながら、それらは、本発明の主題を決して限定することを意図するものではない。
【0162】
図1〕実施例3について、合成終了(EOS)時の本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る対照組成物(B)について得られたクロマトグラムおよび結果を示す。
【0163】
図2〕実施例3について、合成終了(EOS)後72時間で得られた本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る対照組成物(B)についてのクロマトグラムを示す。
【0164】
図3〕実施例3について、合成終了(EOS)後96時間で得られた本発明に係る組成物(A)および従来技術に係る比較組成物(B)についてのクロマトグラムおよび結果を示す。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
【国際調査報告】