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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-14
(54)【発明の名称】メチオニンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/20 20060101AFI20231207BHJP
   C07C 323/58 20060101ALI20231207BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C07C319/20
C07C323/58
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023549136
(86)(22)【出願日】2021-10-20
(85)【翻訳文提出日】2023-06-13
(86)【国際出願番号】 FR2021051839
(87)【国際公開番号】W WO2022084633
(87)【国際公開日】2022-04-28
(31)【優先権主張番号】2010881
(32)【優先日】2020-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507200961
【氏名又は名称】アディッソ・フランス・エス.エー.エス.
【氏名又は名称原語表記】ADISSEO FRANCE S.A.S.
(71)【出願人】
【識別番号】508071375
【氏名又は名称】ソントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・サイエンティフィーク
(71)【出願人】
【識別番号】508019311
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(71)【出願人】
【識別番号】523149271
【氏名又は名称】エコール スュペリユール ドゥ シミ フィズィック エレクトロニック ドゥ リヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】トル フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】モルヴァン ディディエ
(72)【発明者】
【氏名】ベリエール-バカ ビルジニー
(72)【発明者】
【氏名】ジャンテ クリストフ
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC46
4H006AC63
4H006BA10
4H006BA30
4H006BB31
4H006BC10
4H006BE60
4H006TA04
4H039CA65
(57)【要約】
本発明は、式IIの化合物の接触転化によって式Iの化合物の製造方法に関する。[化1]CHXCHCHC(NH)COOH (I)ここで、XはS又はSeを表す。[化2]CHXCHCHC(Y)CN (II)ここで、XはS又はSeを表し、YはNH又はOHを表す。YがNHを表すとき、転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒の存在下にて行われ、YがOHを表すとき、転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒と、NH又はアンモニウム塩との存在下にて行われる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iの化合物を、式IIの化合物の接触転化によって調製する方法であって、
[化1]
CHXCHCHC(NH)COOH (I)
ここでXはS又はSeを表し、
[化2]
CHXCHCHC(Y)CN (II)
ここでXはS又はSeを表し、YはNH又はOHを表し、
YがNHを表すとき、前記転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒との存在下にて行われ、
YがOHを表すとき、前記転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒と、NH又はアンモニウム塩との存在下にて行われることを特徴とする、調製方法。
【請求項2】
請求項1の方法において、
YがOHを表す式IIの化合物を伴い、
前記転化は、水と、少なくともアルミナ、二酸化チタン、ジルコニア又はこれらの混合物を含むか又はこれらかなる少なくとも1つの触媒と、NH又はアンモニウム塩との存在下にて行われることを特徴とする、調製方法。
【請求項3】
請求項1又は2の方法において、
前記触媒はドープされており、好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン及び前述の元素の任意の化合物から選択される元素及び化合物のうちの1つ以上、好ましくはK、Cs、Sr、Baの少なくとも1つによりドープされていることを特徴とする調製方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つの方法において、
前記触媒は、少なくとも10m/gのBET法比表面積を有することを特徴とする調製方法。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1つの方法において、
前記触媒は、前記化合物(II)の質量に対し、0.1%から200%、好ましくは0.5%から100%、より好ましくは1から50%の質量濃度であることを特徴とする調製方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つの方法において、
YがNHを表す式(II)の化合物は、濃度が0.01Mから10M、好ましくは0.05Mから1M、より好ましくは0.2から0.4Mの範囲である水溶液中にあることを特徴とする調製方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つの方法において、
前記転化は、20℃から200℃、好ましくは50℃から150℃、より好ましくは80℃から110℃の範囲の温度で行われることを特徴とする調製方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つの方法において、
前記転化の前に、YがNHを表す式(II)の前記化合物が、アンモニアの存在下に置かれることを特徴とする調製方法。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1つの方法において、
YがOHを表す式(II)の前記化合物が、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、(NH)HSO、(NHSO、(NH)HCO、又は(NHCOから選択されるアンモニウム塩の存在下に置かれることを特徴とする調製方法。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つの方法において、
前記方法は、連続的に行われることを特徴とする調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メチオニン又はその「セレン化」類似物(セレノメチオニン)を、メチオニンの前駆体2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル若しくは2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリルから、又は、セレノメチオニンの前駆体2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリル若しくは2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリルから、製造する方法の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
メチオニン市場の規模は、特に動物栄養の分野では、もはや提示する必要は無い。その製造方法は依然として多数の開発の対象である。メチオニンのセレン誘導体も、動物栄養において大きな関心事である。
【0003】
メチオニンの調製は、様々な合成中間体、特に、2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル(AMTBN)、2-アミノ-4-メチルチオブチルアミド(AMTBM)及び2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)、を伴う種々の方法によって行われる。
【0004】
文献WO01/60790A1は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリル(HMTBN)からのメチオニンの合成を説明する。アンモニアとの反応により、HMTBNはAMTBNに変換され、続いて、塩基性媒体中でアセトンと反応し、AMTBMを形成する。所定の多孔性を有するチタニウム化合物の存在下におけるAMTBMの接触加水分解により、メチオニンアンモニウム塩が得られ、これからメチオニンが回収される。
【0005】
文献WO2004/089863A1によると、HMTBAのニトリル前駆体であるHMTBNからHMTBAのアンモニウム塩を製造する方法は既知であり、それによると、チタニウム系触媒の存在下に置かれた水溶液中のHMTBNが、HMTBAのアンモニウム塩に1ステップで変換される。この合成によると、メチオニンとHMTBMの合成も併せて起こり、報告されているHMTBAのアンモニウム塩収率は10%の範囲である。これは、この方法を工業規模で応用することを検討するには、あまりに不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、既知の方法に対して別の選択肢を提供し、少なくとも1つのステップを省略可能とする一方で、メチオニン又はそのセレン化誘導体を高い収率で得ることを可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、アミノ-ニトリル(AMTBN又はそのセレン化等価物)及びヒドロキシ-ニトリル(HMTBN又はそのセレン化等価物)中間体は、水及び触媒と、適切な場合にはアンモニア又はアンモニウム塩との存在下において、1ステップでメチオニン(又はセレン化メチオニン)に変換可能であることが発見された。この変換の利用しやすさ及び性能は、メチオニンの工業的生産に転用することを考慮できるほどである。既知の合成方法、及び、従来の工業的方法を変更するためには不十分な効果であるその改良に比べると、本発明は真の進歩を示す。非常に短時間で、高い収率を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、式(II)の化合物の接触転化による式(I)の化合物の調製方法を提供する。
[化1]
CHXCHCHC(NH)COOH (I)
ここで、XはS又はSeを表す。
[化2]
CHXCHCHC(Y)CN (II)
ここで、XはS又はSeを表し、YはNH又はOHを表す。
【0009】
YがNHを表すとき、転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒と、適切な場合にはNH又はアンモニウム塩との存在下にて行われ、
YがOHを表すとき、転化は、水と、少なくとも、アルミナ、二酸化チタン、ジルコニア又はこれらの混合物を少なくとも含む1つの触媒と、NH又はアンモニウム塩との存在下にて行われる。
【0010】
本発明では、「適切な場合」とは、YがOHを表す式(II)の化合物であるヒドロキシ-ニトリル前駆体を伴う方法の場合はNH又はアンモニウム塩の存在が必要である一方で、YがNHを表す式(II)の化合物であるアミノ-ニトリル前駆体を伴う方法の場合はそれらが不要である、と理解されるべきである。しかしながら、この定義は、方法がアミノ-ニトリル前駆体を伴う場合にNHが存在することを排除せず、この変形は後に説明する本発明の特定の実施を構成する。
【0011】
本発明によるアンモニウム塩は、式(NHAを有するあらゆる塩であり、ここで、Aは、特に、ハロゲン、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、硫酸塩、硫酸水素塩、酢酸塩、クエン酸塩、蟻酸塩、水酸化物から選択され、nは1から5までの整数である。例として、(NH)HPO、(NHHPO、(NHPO、(NH)HSO、(NHSO、(NH)HCO、又は(NHCOから選択されても良い。
【0012】
このような上記の触媒の存在下において、式(II)の化合物は、直接メチオニンに転化され得る。この一方、アミノ-ニトリル化合物又はヒドロキシ-ニトリル化合物からの既知の方法では、対応するアミノ-アミド又はヒドロキシ-ニトリル中間体を経由することを必要とし、中間体はその後加水分解されてメチオニンとなる。各ステップにおいて、異なる操作条件が使用される。
【0013】
本文書では、他に特定が無い限り、「YがNHである化合物(II)」、「AMTBN」及び「アミノ-ニトリル」は、2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリルを指すために、また類推的に2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリルを指すために、交換可能に用いられる。同様に、「YがOHである化合物(II)」、「HMTBN」及び「ヒドロキシ-ニトリル」は、2-ヒドロキシ-4-メチルチオブチロニトリルを指し、また類推的に2-ヒドロキシ-4-メチルセレノブチロニトリルを指す。化合物(II)は、これら全てを指すものであり、従って、これら2つの化合物を一緒に又は別々に意味すると理解されるべきである。
【0014】
「直接転化された」とは、方法が工業規模にて実行されたとき、転化が1つの同じ反応器にて行われ、反応器は触媒を含み、化合物(II)と、任意でNH又はアンモニウム塩との水混合物が供給されるか、又は、それぞれの反応物が別々に供給されて反応器内で混合が行われることと理解されるべきである。
【0015】
触媒との語は、触媒がドープ及び/又は担持され得る点を排除することなく、一般に触媒の活性相を指すために用いられる。
【0016】
アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアは、順に、酸化アルミニウムAl、二酸化チタンTiO及び二酸化ジルコニウムZrOの全ての多形(適応される場合)と理解されるべきであり、これらの多形は当業者には周知である。触媒は、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアの2つ、更には3つの組み合わせであっても良い。更に、触媒機能を促進するどのような他の実体を含んでも良い。
【0017】
本発明の特徴、適用分野及び利点は以下により詳しく説明される。これらの特徴は互いに独立して考えても良いし、どのような組み合わせとして組み合わせて考えても良い。
【0018】
本発明によると、触媒は、アルミナ、二酸化チタン及びジルコニアから選択され、少なくとも触媒の活性相を構成する1つ又は複数の化合物と、任意で担体とを含むか、又は、これらからなる。つまり、触媒が前記の酸化物の1つ又は複数だけからは成っていないとすると、触媒の性能を悪化させないか、更には強化する他の化合物を含んでも良い。本発明の一変形では、触媒は前記酸化物の1つからなる。
【0019】
触媒は、ドープされ、及び/又は、担持されても良い。当業者に周知且つ従来用いられるどのような元素又は化合物によりドープされていても良い。例として、触媒のドーピングは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、ランタン及び前記の元素の任意の化合物から選択される元素及び化合物のうち1つ以上を用いて実行されても良い。以下の元素、K、Cs、Sr、Ba及びLaが好ましい。もし触媒がアルミナ、二酸化チタン及び/又はジルコニアだけから成っているのではない場合、当業者には周知且つ従来用いられるどのような他の化合物、特にシリカ及びシリコアルミネート、によって担持されていても良い。
【0020】
本発明によると、全ての上記固体触媒は、粉末形態でも良いし、好ましくはビーズ、押出物、タブレット、三葉又は他の形態であり、反応器、好ましくは固定床反応器、又は、バッチ式で且つ解放型又は加圧型の反応器において使用可能なものであれば良い。
【0021】
前記の触媒は、好ましくは、少なくとも10m/gの比表面積を有する。この限界を下回ると、触媒の性能は急速に低下する。特に、化合物(II)に応じてAMBTM又はHMTBMが優先されてメチオニンの選択性が低下し、且つ、化合物(II)の転化率が低下する。これは、セレン化された等価物でも観測される。本発明の文脈では、比表面積の上限に臨界性は無く、商業的に入手可能な活性相によって定まる。本文書で示される比表面積は、最も一般的な手法、つまり、窒素の物理吸着を利用してBET方により計算される。
【0022】
本発明の好ましい実施では、触媒は、質量濃度において、化合物(II)の質量に対して0.1%から200%の間であり、好ましくは0.5%から100%の間であり、更に好ましくは1%から50%の間であることである。
【0023】
本発明によると、反応を実施するためには、バッチ式又は連続式の様々な装置を考慮することができる。反応器において、固体触媒は、ドープされていても、されていなくても、顆粒、押出物又は他の形態に固定化されていても良いし、発泡金属に担持されていても良い。この種の触媒を伴う反応器は、好ましくは細流モード、等温モード又は断熱浸水モードで運転される固定管式又は多管床式であるか、又は、触媒に覆われた交換反応器である。
【0024】
本発明の文脈におけるAMTBN又はHMTBNの転化は、好ましくは、20℃から200℃、更には50℃から150℃、更に好ましくは80℃から110℃の範囲の温度において行われる。10分から3時間の範囲の反応時間にわたって、20℃未満の温度では反応が大幅に遅くなり、且つ、110℃から始まり温度が上がるに連れて、ジニトリル及びポリペプチドの選択性が増加し、メチオニンの選択性が犠牲になることが観察されている。80℃から110℃の範囲を超えると、メチオニンの選択性が高いことが観察されている。
【0025】
一般に、AMTBN又はHMTBNは水溶液である。これは、方法の実施のために調製されたものであるか、又は、それぞれAMTBN又はHMTBNが製造された反応媒体に由来するものである可能性がある。この場合、AMTBN又はHMTBNは純粋ではなく、痕跡量、更にはより多量に含みうるが、本発明によるAMTBN又はHMTBNの転化に悪い影響を与えないことから無視しうる。
【0026】
AMTBN又はHMTBNの濃度は、実施される変換に応じて、特に濃度が高すぎると方法の性能に影響することがある。従って、本発明の変形例によると、AMTBNは、0.01Mから10M、好ましくは0.05Mから1M、更に好ましくは0.2Mから0.4Mの範囲の濃度の水溶液中にある。1M、更には0.8Mを超えると、AMTBNへの転化が有力なままであれば、メチオニンに対する選択性が低下する一方、AMTBM、ジニトリル更にはポリペプチドの選択性は、それぞれ上昇することが知られている。
【0027】
本発明によるメチオニンの製造がHMTBNを伴う場合、反応媒体にアンモニアを加えるべきである。HMTBNに対し、1当量から50当量までの範囲の量のアンモニアが存在するの好ましい。アンモニアは、どのような手段で媒体に導入されても良いが、連続的なバブリングにより供給されるのが好ましい。
【0028】
転化の前にAMTBM溶液にアンモニアが存在すると、メチオニンの選択性が大きく向上し、その一方、ジニトリルの選択性は、アンモニアが無い場合には時間経過と共に増加するのだが、低下することが観察されている。従って、本発明は、触媒と接触させる前、更には反応器内における接触転化中において、AMTBNをアンモニアの存在下に置く上記の方法の有利な実施に関する。好ましくは、アンモニアは、場合により窒素のような不活性キャリアガスを用いて、バブリングによりAMTBN溶液に導入される。
【0029】
本発明は、AMTBN溶液中において、転化の前に、好ましくはアンモニアの存在下、更に好ましくはアンモニアのバブリング下において、本発明の方法を連続的に実施することにも関する。この変形例によると、この方法は、1から20バール、好ましくは2から10バールの圧力下にて行われる。従って、本発明は、AMTBN溶液用の容器を備え、その中でアンモニア及び窒素のバブリングが行われる装置を提供する。AMTBN溶液は、触媒を含むステンレス鋼の反応器にポンプ輸送され、スリーブによって80から100℃の温度に加熱される。反応媒体は、気液分離器に引き込まれ、そこからアンモニアが除去され、液体が処理されてメチオニンが回収される。その後、固体が得られるまで溶液を蒸発させて、固体を水/エタノール混合物(1/6)中、60℃において再結晶させる。これにより得られた白色固体のメチオニンを洗浄し、ろ過し、乾燥させる。AMTBNからメチオニンを得るために記載されたこの連続的方法は、HMTBNからメチオニンを得る場合にも適用できるが、アンモニアの供給が必須である。
【0030】
別の態様によると、2-アミノ-4-メチルチオブチロニトリル又は2-アミノ-4-メチルセレノブチロニトリルを、順に、2-アミノ-4-メチルチオブチルアミド又は2-アミノ-4-メチルセレノブチルアミドに制御された接触転化する方法が提供される。この転化は、アルミナ若しくは二酸化チタンを含むか又はこれらからなる少なくとも1つの触媒の存在下で行われる。
【0031】
本発明及びその利点は、以下の例によって説明される。
【0032】
<例1:本発明による、TiOの存在下におけるAMTBNからのメチオニンの調製>
【0033】
AMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化3]
【0034】
65gのAMTBNを、1000mlのHOと共に1リットルのねじ口バイアルに導入した。窒素を流しながら(5ml/分)、溶液を室温にて攪拌した。流速5ml/分(接触時間10分)であり4グラムのTiO(アナターゼ、150m/g、Norpro、ST 61120)を含む100℃まで加熱した管型反応器に、溶液を注入した。反応を48時間にわたってプロトンNMRによって観測した。
【0035】
AMTBNの転化率は90%を超え、メチオニンの収率は平均で74%であって平均選択性は81%、且つ、ジニトリルの収率は平均で11%であって平均選択性は12%であった。
【0036】
<例2:本発明による、TiO及びアンモニアの存在下におけるAMTBNからのメチオニンの調製-TiOの比表面積の影響>
【0037】
AMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化4]
【0038】
・2.1 BETが90m/gのTiO(アナターゼ型)
0.4gのTiO(アナターゼ型)(90m/g)、続いて0.1gのAMTBN(98%)を28重量%のアンモニア溶液2mlと共に導入した。溶液を90℃にて10分間加熱した後、溶液をろ過してプロトンNMRによって分析した。
【0039】
メチオニンの収率は93%、AMTBMの収率は1%、ジニトリルの収率は6%であった。
【0040】
・2.2 BETが275m/gのTiO(アナターゼ型)
0.4gのTiO(アナターゼ型)(275m/g)、続いて0.1gのAMTBN(98%)を28重量%のアンモニア溶液2mlと共に導入した。溶液を90℃にて10分間加熱した後、溶液をろ過してプロトンNMRによって分析した。
【0041】
メチオニンの収率は95%、AMTBMの収率は1%、ジニトリルの収率は4%であった。
【0042】
少なくとも90%のBETを有するTiO触媒が好ましい。
【0043】
<例3:本発明による、ドープされた二酸化チタン及びアンモニアの存在下におけるAMTBNからのメチオニンの調製>
【0044】
この例は、それぞれセシウム及びストロンチウムによってドープされたTiOの使用を扱う。ドーピングは、TiOに水酸化セシウム又は水酸化ストロンチウムを含浸させる方法により行った。セシウム及びストロンチウム(非金属)の含有量は4重量%とした。
【0045】
0.8mol/LのAMTBN溶液を5gのいずれか1つのドープされた触媒に100℃にて10分間接触させた。
【0046】
結果を下の表に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
<例4:本発明の連続的方法による、二酸化チタン及びアンモニアの存在下におけるAMTBNからのメチオニンの調製>
【0049】
AMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化5]
【0050】
触媒は、150m/gの比表面積を有する酸化チタンである。
【0051】
0.1mol/LのAMTBN水溶液が0.2ml/分の流量で循環すると共にアンモニアが10ml/分の流量で循環する反応器内に、5gの触媒を配置した。反応温度は100℃であり、接触時間は6分である。
【0052】
結果を下の表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
システムは、転化率及び選択性について安定しており、メチオニン選択性が高く(90%)、AMTBNの転化率が非常に高く(96%)、他の生成物の選択性が非常に低い。メチオニン及びAMTBMの収率は、順に86%及び2%であった。
【0055】
<例4:本発明による、二酸化チタン及びリン酸水素二アンモニウムの存在下におけるHMTBNからのメチオニンの調製>
【0056】
HMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化6]
【0057】
13.1gのHMTBNを、1000mlのHOと共に1リットルのねじ口バイアルに導入した。窒素を流しながら(5ml/分)溶液を室温にて攪拌した。流速0.1ml/分(接触時間10分)であり4グラムのTiO(アナターゼ、150m/g、Norpro、ST 61120)を含む160℃まで加熱した管型反応器に、溶液を注入した。反応はHPLCにより観測し、メチオニンの収率は47%であった。
【0058】
<例5:本発明による、二酸化チタン及びアンモニアの存在下におけるHMTBNからのメチオニンの調製>
【0059】
HMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化7]
【0060】
13.1gのHMTBNを、1000mlのHOと共に1リットルのねじ口バイアルに導入した。100ml/分の流量でアンモニアを流しながら溶液を室温にて攪拌した。流速0.1ml/分(接触時間15分)であり6グラムのTiO(アナターゼ、150m/g、Norpro、ST 61120)を含む90℃まで加熱した管型反応器に、溶液を注入した。反応はHPLCにより観測し、メチオニンの収率は80%であった。
【0061】
<例6:従来技術による、二酸化チタンの存在下におけるHMTBNからの、但しアンモニア源を伴わない、メチオニンの調製>
【0062】
HMTBNの加水分解反応と、それが行われる条件を下の図に示す。
[化8]
【0063】
13.1gのHMTBNを、1000mlのHOと共に1リットルのねじ口バイアルに導入した。窒素を流しながら溶液を室温にて攪拌した。流速0.1ml/分(接触時間10分)であり4グラムのTiO(アナターゼ、150m/g、Norpro、ST 61120)を含む160℃まで加熱した管型反応器に、溶液を注入した。反応はHPLCにより観測し、HMTBAの収率は1%、メチオニンの収率は15%であった。
【0064】
本発明の例4及び例5の結果を、アンモニア又はアンモニア塩無しの方法により実行された例6の結果と比較すると、本発明の方法はメチオニン製造の性能が大幅に向上したことが示される。同じ利点は、セレノメチオニンの製造においても観測される。
【国際調査報告】