(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】鉄錯体の調製方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20231208BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/04 20060101ALI20231208BHJP
A61P 7/06 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20231208BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20231208BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231208BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20231208BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20231208BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231208BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231208BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K9/10
A61K47/02
A61K47/04
A61P7/06
A61K47/54
A61K47/61
A61K47/12
A61K47/22
A61K9/20
A61K9/14
A61K9/08
A61K9/48
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023519195
(86)(22)【出願日】2021-09-29
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 US2021052571
(87)【国際公開番号】W WO2022072439
(87)【国際公開日】2022-04-07
(31)【優先権主張番号】202011055787.3
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011055789.2
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516230135
【氏名又は名称】エルジー バイオナノ, エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】LG Bionano, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウー チェン-チン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA11
4C076AA16
4C076AA22
4C076AA29
4C076AA36
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4C086HA28
4C086MA02
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4C086MA17
4C086MA22
4C086MA23
4C086MA34
4C086MA35
4C086MA37
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4C086MA52
4C086MA66
4C086NA02
4C086NA11
4C086NA14
4C086ZA55
(57)【要約】
水酸化鉄生成物を調製する方法を提供する。方法は、第1の塩基溶液を第二鉄塩の溶液に添加して、2.7~2.8のpH値を有する混合物Aを得る工程と、第2の塩基溶液を混合物Aに添加して、2.8~3.8のpH値を有する粗水酸化鉄懸濁液を調製する工程と、第3の塩基溶液を添加して、上記粗水酸化鉄懸濁液のpHを5~9に調節した後、精製及び濃縮することにより、多核水酸化鉄を含有する、精製多核水酸化鉄懸濁液を得る工程とを含む。ナノ鉄錯体、例えば、水酸化鉄炭水化物錯体、及びその調製方法もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸化鉄生成物を調製する方法であって、前記方法が、
第1の塩基溶液を第二鉄塩の溶液に添加して、2.7~2.8のpH値を有する混合物Aを得る工程と、
第2の塩基溶液を混合物Aに添加して、2.8~3.8のpH値を有する粗水酸化鉄懸濁液を調製する工程と、
第3の塩基溶液を添加して、前記粗水酸化鉄懸濁液のpHを5~9に調節した後、精製及び濃縮することにより、多核水酸化鉄を含有する精製多核水酸化鉄懸濁液を得る工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
前記第2の塩基を添加する前に、混合物Aを1分~15分間平衡させ、前記第3の塩基を添加する前に、前記粗水酸化鉄懸濁液を2分~60分間平衡させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の塩基溶液、前記第2の塩基溶液、及び前記第3の塩基溶液のそれぞれが独立して、15℃~50℃、好ましくは20℃~40℃、より好ましくは22℃~27℃の温度で添加される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粗水酸化鉄懸濁液が、水で洗浄することにより精製され、水を除去することで濃縮され、3重量%~16重量%の水酸化鉄濃度となり、前記精製水酸化鉄懸濁液が、1%未満、好ましくは0.1%未満の塩素含有量を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の塩基溶液、前記第2の塩基溶液、及び前記第3の塩基溶液のそれぞれが独立して、NaHCO
3、Na
2CO
3、(NH
4)
2CO
3、及びK
2CO
3からなる群から選択される炭酸塩の水溶液である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の塩基溶液、前記第2の塩基溶液、及び前記第3の塩基溶液のそれぞれが、1%~25%、好ましくは3%~20%、より好ましくは5%~15%の質量割合を有するNa
2CO
3の水溶液である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第二鉄塩が、Fe
2(SO
4)
3、Fe(NO
3)
3、及びFeCl
3からなる群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第二鉄塩が、5%~60%、好ましくは15%~25%の質量割合を有するFeCl
3である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記精製多核水酸化鉄懸濁液と炭水化物とを混合して、炭水化物混合物を得る工程と、
前記炭水化物混合物のpH値を7.5~13、又は10~13.5に調節する工程と、
前記のpHを調節した炭水化物混合物を、60℃~125℃、好ましくは80℃~95℃の温度まで加熱することにより、水酸化鉄炭水化物錯体懸濁液を作製する工程と、
を更に含み、鉄と炭水化物の質量比が(1~1100):100であり、
前記水酸化鉄生成物が前記水酸化鉄炭水化物錯体である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記炭水化物が、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、加水分解多糖、及びこれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記炭水化物混合物のpH値が、NH
4OH溶液、KOH溶液、及びNaOH溶液からなる群から選択される水酸化物溶液である第4の塩基を添加することにより調節され、前記水酸化物溶液が、5%~50%、好ましくは10%~25%の質量割合を有する、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記炭水化物混合物のpH値が10~13.5に調節され、前記のpHを調節した炭水化物混合物が、1時間~50時間、80℃~125℃、好ましくは85℃~95℃で加熱される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記炭水化物がスクロースであり、Fe
3+とスクロースの質量比が1:(10~20)、好ましくは1:(13~17)である、請求項9~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
pH調整剤を使用して、前記水酸化鉄炭水化物錯体懸濁液のpH値が、5.5~11.1、好ましくは10.5~11.2、より好ましくは6.5~7.5に調節される、請求項9~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記pH調整剤がHCl、NaOH、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、リン酸、ピロリン酸、又はグリコリン酸である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水酸化鉄炭水化物錯体懸濁液を乾燥させる工程を更に含む、請求項9~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記水酸化鉄炭水化物錯体が30000ダルトン~60000ダルトンの重量平均分子量を有し、アスコルビン酸に対する反応速度T75が35分以下であり、遊離第二鉄イオンが存在しない、請求項9~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記炭水化物混合物のpH値が7.5~13に調節され、前記のpHを調節した炭水化物混合物が0.2時間~30時間加熱される、請求項9~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記炭水化物混合物のpH値が9~12.5に調節され、前記のpHを調節した炭水化物混合物が、0.2時間~30時間、65℃~121℃、好ましくは80℃~95℃の温度で加熱され、鉄と炭水化物の質量比が、(1~264):24である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
20重量%以上の水への溶解度を有する前記水酸化鉄炭水化物錯体が、乾燥重量で鉄を10%~47%、及び、塩化物イオンを1%未満、好ましくは0.1%未満含有する、請求項9~11、並びに18及び19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記水酸化鉄炭水化物錯体を製剤化して、ヒト又は動物において鉄欠乏性貧血を治療するための、ドロップ、経口液体、懸濁液、注射液、粉末、カプセル、錠剤、又はトローチ剤にする工程を更に含む、請求項9~11、及び18~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記精製多核水酸化鉄懸濁液を、クエン酸、クエン酸塩、又はこれらの組み合わせと混合してクエン酸塩混合物を得る工程と、
前記クエン酸塩混合物を、2分~180分、好ましくは5分~30分、45℃~95℃、好ましくは55℃~65℃の温度で加熱することにより、水酸化鉄クエン酸塩錯体を含有するクエン酸第二鉄懸濁液を作製する工程と、
を更に含み、鉄とクエン酸塩のモル比が、1:(0.3~5)、好ましくは1:(0.6~1.5)であり、
前記水酸化鉄生成物が、水酸化鉄クエン酸塩錯体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
20重量%以上、好ましくは50重量%以上の水への溶解度を有する前記水酸化鉄クエン酸塩錯体が、乾燥重量で鉄を5%~35%、好ましくは12%~25%含有し、遊離第二鉄イオンが存在しない、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記クエン酸第二鉄懸濁液を乾燥させて、乾燥水酸化鉄クエン酸塩錯体にする工程を更に含む、請求項22又は23に記載の方法。
【請求項25】
前記乾燥水酸化鉄クエン酸塩錯体を製剤化して、ヒト又は動物において鉄欠乏性貧血を治療するための、ドロップ、経口液体、懸濁液、注射液、粉末、カプセル、錠剤、又はトローチ剤にする工程を更に含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記精製多核水酸化鉄懸濁液と、(i)クエン酸又はクエン酸塩、及び(ii)ピロリン酸又はピロリン酸塩を含有する溶液とを混合して、ピロリン酸塩混合物を得る工程と、
前記ピロリン酸塩混合物を、5分~10時間、好ましくは25分~55分、55℃~65℃の温度で加熱することにより、クエン酸第二鉄ピロリン酸塩懸濁液を作製する工程と、
を更に含み、鉄:クエン酸塩:ピロリン酸塩のモル比が1:(0.3~3):(0.3~3)であり、
前記水酸化鉄生成物が、水酸化鉄クエン酸塩ピロリン酸塩錯体である、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
20重量%以上、好ましくは50重量%以上の水への溶解度を有する、前記水酸化鉄クエン酸塩ピロリン酸塩錯体が、乾燥重量で鉄を3%~35%、好ましくは5%~20%含有する、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記精製多核水酸化鉄懸濁液を、カルボキシル化炭水化物、又はその混合物と混合して、カルボキシル化炭水化物混合物を得る工程と、
前記カルボキシル化炭水化物混合物を、5分~10時間、好ましくは25分~55分、65℃~125℃、好ましくは65℃~75℃の温度で加熱することにより、第二鉄カルボキシル化炭水化物懸濁液を作製する工程と、
を更に含み、鉄と前記カルボキシル化炭水化物のモル比が、1:(0.3~5)、好ましくは1:(0.5~1.5)であり、前記水酸化鉄生成物が、水酸化鉄カルボキシル化炭水化物である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記カルボキシル化炭水化物がグルコン酸塩である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記精製多核水酸化鉄懸濁液を多価アニオンと混合して、多価アニオン混合物を得る工程と、
前記多価アニオン混合物のpH値を2~13、好ましくは3~9に調節する工程と、前記のpHを調節した多価アニオン混合物を、40℃~125℃、好ましくは50℃~95℃の温度まで加熱することにより、ナノ第二鉄錯体懸濁液を作製する工程と、
を更に含み、鉄と前記多価アニオンの質量比が(1~1100):100であり、
前記水酸化鉄生成物が、前記ナノ第二鉄錯体である、
請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1~30のいずれか一項に記載の方法により調製した、水酸化鉄生成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、共に2020年9月29日に出願された、中国特許出願第202011055789.2号、及び同第202011055787.3号に基づき、優先権の利益を主張する。両方の出願の内容及び開示は、それら全体が、引用することにより本明細書の一部をなす。
【背景技術】
【0002】
鉄は、ヒトの酸素運搬において重要な役割を果たす。鉄欠乏症は、ヒトの最も一般的な栄養失調であり、貧血をもたらす。腎不全が進行した患者は、深刻な鉄欠乏性貧血を患う。そのような患者の生存率は、鉄の供給量に密接に関連する。
【0003】
鉄注入は、そのような患者をケアするための最初の選択肢である。正規の鉄分補給食品、例えば、イオン性鉄、又は低分子鉄は、高い酸化電位を有し、臓器への酸化損傷を引き起こす。過去30年で、炭水化物コーティングされた水酸化鉄ナノ粒子が、主流の鉄注入源となった。これらの中でも、発現が速く、副作用が最小限に抑えられることから、水酸化鉄スクロース錯体ナノ粒子が、商業的な鉄注入のための最初の選択肢となる。
【0004】
安全性及び有効性を最適化するためには、鉄スクロース錯体ナノ粒子はそれぞれ、適切な粒径を有さねばならない。ナノ粒子が小さすぎると、鉄が急速に放出され、深刻な酸化損傷をもたらす。ナノ粒子が大きすぎると、発現の遅さにより、深刻なアレルギー性の副作用を引き起こす可能性が高くなる。
【0005】
有用な水酸化鉄スクロース錯体ナノ粒子はそれぞれ、32000ダルトン~60000ダルトンの範囲の分子量を有することが発見されている。そのため、米国薬局方により、この分子量の範囲が鉄ナノ粒子製品に求められている。
【0006】
水酸化鉄スクロース錯体は、高分子ナノ粒子を含む。高分子ナノ粒子の安定性及び粒径は、温度、反応速度、酸塩基条件等の処理条件に密接に関連している。調製には、依然として課題が残ったままである。現在の商業用鉄スクロース錯体は、高価な防爆装置を必要とする低温プロセスにより調製されている。特定の特許で示されているように、処理温度が20℃以上であるとき、このようにして調製したナノ鉄スクロース錯体は、80000ダルトンを超える分子量を有し、生成物が無用となる。
【0007】
鉄の放出速度は、ナノ鉄スクロース錯体に対する、品質を定める別の特徴である。あまりに速く放出されると、副作用として酸化損傷を引き起こすであろう。ナノ鉄スクロースを注入可能な製品のメーカーであるVifor Pharma Groupは、品質制御管理として、鉄放出速度が、ビタミンCの酸性条件下において20分以内でなければならないことを命じている。現在、この重要な品質要件を満たす、信頼できる調製プロセスは、スクロースコーティングされた水酸化鉄をカバーするどの特許においても発見されていない。
【0008】
特許文献1は、多核水酸化鉄スクロース錯体の調製方法について開示している。多核水酸化鉄成分は、5℃~20℃の低温で調製される。多核水酸化鉄成分を次に、106℃~125℃の高温で、スクロースと共にキレート化することで、USPにより必要とされる範囲外の分子量を有する生成物が得られる。
【0009】
特許文献2は、重金属含有量が少ない、鉄スクロース錯体溶液の調製方法について開示している。具体的な工程は、以下のとおりである:1.50℃~80℃の炭酸ナトリウム水溶液に、撹拌しながら塩化第二鉄を添加し、溶液が黒色になるまで塩化第二鉄を反応させて、濾過により沈降物を除去し、2.濾液を0℃~5℃まで冷却し、4時間~8時間撹拌して、反応混合物のpHがpH7~9に達するまで、炭酸ナトリウム溶液を滴加し、3.水酸化ナトリウムを水酸化鉄コロイドに添加し、反応混合物のpH値を10以上に調節し、スクロースを混合物に添加して、沸騰してナノ鉄スクロース錯体を得るまで、反応溶液を加熱する。特許文献2に記載されているプロセスにおける問題としては、長い処理時間及び低温、それゆえの、コストのかかるプロセスが挙げられる。さらに、鉄錯体が急速に形成されるため、重要な品質の指標である濁度点を制御するのが難しかった。
【0010】
特許文献3は、鉄スクロース錯体を調製するための、環境に優しい方法について開示している。工程は、以下のとおりである:(1)0.5重量%~5重量%のFeCl3・6H2O溶液及びNa2CO3溶液を調製し、上記Na2CO3溶液を上記FeCl3・6H2O溶液に、0℃~30℃で、0.5時間~3時間の供給時間の間、蠕動ポンプにより添加し、1時間撹拌して得られた懸濁液を遠心分離にかけFe(OH)3ケークを得て、混合/遠心分離/精製水による洗浄を4回繰り返し、精製Fe(OH)3ケークを得て、上記Fe(OH)3ケーク中の鉄の含有量を測定し(FeCl3・6H2OとNa2CO3の比は1:0.55~0.65である)、(2)スクロースを、上記のように得られたFe(OH)3に、Fe:スクロース=1:13.5~16.5の比で添加し、得られた混合物を85℃~140℃、及びpH8~13で2時間~18時間加熱して、上記混合物を冷却してナノ鉄スクロース錯体を得て、(3)上記錯体をD301アニオン交換樹脂、続いてD113カチオン交換樹脂で処理し、pH値を10.2~11.0まで調節して、0.8μmの限外濾過膜を通して濾過し、最終のナノ鉄スクロース生成物を得る。特許文献3に記載されているプロセスは、必要とされる低温、高圧、及び、精製のためのイオン交換樹脂の使用が原因で、コストがかかる。
【0011】
他の既知の鉄生成物としては、クエン酸第二鉄、ピロリン酸クエン酸第二鉄、及びグルコン酸第二鉄が挙げられる。例えば、特許文献4、特許文献5、特許文献6、及び特許文献7を参照されたい。これらの生成物はそれぞれ、低い水への溶解度、低い鉄含有量、及び非効率的なプロセス等の欠点を有し、その用途を大きく制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】中国特許出願公開第1853729号
【特許文献2】中国特許出願公開第109893540号
【特許文献3】中国特許第103059072号
【特許文献4】米国特許第9,624,155号
【特許文献5】米国特許第7,816,404号
【特許文献6】米国特許第7,767,851号
【特許文献7】米国特許第7,005,531号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
薬学的及び栄養学的使用に好適な鉄生成物を調製する、費用対効果の高い方法の開発が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述した、現在の低温プロセスにおける問題に取り組むために、本発明は、高い水への溶解度、高い鉄含有量、及び大きなバイオアベイラビリティを含む、優れた性質を有する、周囲条件で水酸化鉄錯体を調製する効率的な方法を提供する。
【0015】
したがって、本発明の一態様は、水酸化鉄生成物を調製する方法に関連する。方法は、(1)第1の塩基溶液を第二鉄塩の溶液に添加して、2.7~2.8のpH値を有する混合物Aを得る工程と、(2)第2の塩基溶液を混合物Aに添加して、2.8~3.8のpH値を有する粗水酸化鉄懸濁液を調製する工程と、(3)第3の塩基溶液を添加して、上記粗水酸化鉄懸濁液のpHを4.5~9.5(例えば、5~9)に調節した後、精製及び濃縮することにより、多核水酸化鉄を含有する、精製多核水酸化鉄懸濁液を、本発明の例示的生成物として得る工程とを含む。
【0016】
例えば、水での洗浄、その後、水を除去することによる濃縮という、従来の方法の後に精製を行い、3重量%~16重量%の水酸化鉄濃度を有する水酸化鉄懸濁液を得る。精製後、塩素含有量は1%未満(例えば、0.1%未満及び0.025%未満)まで下がる。精製工程は、遊離Fe3+及びFe2+もまた除去するが、これは、患者の臓器の鉄酸化損傷を助長する。遊離鉄カチオンは、最終生成物、例えば、経口製剤の望ましくない金属味の源でもある。
【0017】
第2の塩基を添加する前に、混合物Aを1分~15分間平衡させ、第3の塩基を添加する前に、粗水酸化鉄懸濁液を2分~60分間平衡させ、これらを共に周囲温度、例えば20℃~30℃、及び25℃で行うことが好ましい。
【0018】
通常、第1の塩基溶液、第2の塩基溶液、及び第3の塩基溶液はそれぞれ独立して、15℃~50℃(例えば、20℃~40℃、20℃~30℃、及び22℃~27℃)の温度で添加される。第1の塩基溶液、第2の塩基溶液、及び第3の塩基溶液は独立して、炭酸塩、例えば、NaHCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3、及びK2CO3の水溶液であることができる。好ましい溶液は、1%~25%(例えば、3%~20%、5%~15%、及び10%)の質量割合を有する、Na2CO3水溶液である。さらに、第1の塩基溶液、第2の塩基溶液、及び第3の塩基溶液は、同一であるか、又は異なることができる。
【0019】
好適な第二鉄塩としては、Fe2(SO4)3、Fe(NO3)3、FeCl3、及びこれらの水和物が挙げられる。好ましい第二鉄塩は、5%~60%、好ましくは15%~25%の質量割合を有する、FeCl3(例えば、FeCl3・6H2O)である。
【0020】
いくつかの実施の形態においては、方法は、(i)精製多核水酸化鉄懸濁液と炭水化物とを混合して、炭水化物混合物を得る工程と、(ii)上記炭水化物混合物のpH値を、7.5~13、又は9.5~13.5(例えば、10~13.5)に調節する工程と、(iii)pHを調節した炭水化物混合物を、60℃~125℃(好ましくは、75~95℃、より好ましくは80~95℃)の温度まで加熱することにより、水酸化鉄炭水化物錯体懸濁液を作製する工程とを更に含み、鉄と炭水化物の質量比は(1~1100):100であり、水酸化鉄生成物は、水酸化鉄炭水化物錯体である。
【0021】
例示的な炭水化物としては、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、加水分解多糖、及びこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。好ましい実施の形態においては、炭水化物はスクロースであり、Fe3+とスクロースの質量比は1:(10~20)、例えば、1:(13~17)である。
【0022】
任意に、炭水化物混合物のpH値は、NH4OH溶液、KOH溶液、及びNaOH溶液からなる群から選択される水酸化物溶液である第4の塩基を添加することにより調節され、水酸化物溶液は、5%~50%、好ましくは10%~25%の質量割合を有する。
【0023】
一例では、炭水化物混合物のpH値は、9.5~13.5(例えば、10~13.5)に調節され、pHを調節した炭水化物混合物は、1時間~50時間、80℃~125℃(例えば、85℃~95℃)で加熱される。
【0024】
錯体の形成後、任意に、pH調整剤を使用して、錯体のpH値を5.5~11.1、10.5~11.2、又は6.5~7.5に調節する。好適なpH調整剤としては、HCl、NaOH、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、リン酸、ピロリン酸、及びグリコリン酸が挙げられる。
【0025】
別の例では、炭水化物混合物のpH値は7.5~13(例えば、9~12.5)に調節され、pHを調節した炭水化物混合物は、0.2時間~30時間、65℃~121℃、好ましくは80℃~95℃まで加熱され、鉄と炭水化物の質量比は、(1~264):24である。
【0026】
このようにして調製した水酸化鉄炭水化物錯体は、鉄欠乏症関連障害の治療において、ヒトでの摂取に好適な性質を有する。望ましい性質としては、以下の特徴の1つ以上が挙げられる:30000~60000の重量平均分子量;35分未満の、アスコルビン酸に対する反応速度T75;遊離第二鉄イオンを含有しないこと;20重量%以上(例えば、50%以上、20重量%~50重量%、及び35重量%)の水への溶解度;10%~47%(例えば、15%~47%)の乾燥重量での鉄含有量;及び1%未満(例えば、0.1%未満)の塩化物イオン含有量。
【0027】
他の実施の形態においては、本発明の方法は、(i)精製多核水酸化鉄懸濁液を、クエン酸、クエン酸塩、又はこれらの組み合わせと混合してクエン酸塩混合物を得る工程と、(ii)上記クエン酸塩混合物を、40℃~105℃(例えば、45℃~95℃、及び55℃~65℃)の温度で2分~10時間(例えば、2分~180分、及び5分~30分)加熱することにより、水酸化鉄クエン酸塩錯体を含有するクエン酸第二鉄錯体懸濁液を作製する工程とを更に含み、鉄とクエン酸塩のモル比は、1:(0.3~5)、好ましくは1:(0.6~1.5)であり、水酸化鉄生成物は水酸化鉄クエン酸塩錯体である。現在市販されている製品と比較すると、水酸化鉄クエン酸塩錯体は驚くべきことに、優れた性質、例えば、20重量%以上(例えば、50重量%以上)の水への溶解度、高い鉄含有量(例えば、乾燥重量で5%~35%、及び12%~25%)、及び、遊離第二鉄イオンが存在しないことを有する。
【0028】
更に他の実施の形態においては、方法は、(a)上記精製多核水酸化鉄懸濁液と、(i)クエン酸又はクエン酸塩、及び(ii)ピロリン酸又はピロリン酸塩を含有する溶液とを混合して、ピロリン酸塩混合物を得ることと、(b)上記ピロリン酸塩混合物を、40℃~105℃(例えば、55℃~65℃)の温度で5分~10時間(例えば、25分~55分)加熱することにより、クエン酸第二鉄ピロリン酸塩懸濁液を作製することとを更に含み、鉄:クエン酸塩:ピロリン酸塩のモル比は、1:(0.3~3):(0.3~3)であり、水酸化鉄生成物は、20重量%以上(例えば、50重量%以上)の水への溶解度を有し、乾燥重量で3%~35%(例えば、5%~20%)の鉄を含有する、水酸化鉄クエン酸塩ピロリン酸塩錯体である。
【0029】
更に他の実施の形態においては、方法は、(a)精製多核水酸化鉄懸濁液を、カルボキシル化炭水化物と混合して、カルボキシル化炭水化物混合物を得る工程と、(b)上記カルボキシル化炭水化物混合物を、50℃~125℃(例えば、65℃~125℃、55℃~75℃、及び65℃~75℃)の温度で5分~10時間(例えば、25分~55分)加熱することにより、第二鉄カルボキシル化炭水化物懸濁液を作製する工程とを更に含み、鉄とカルボキシル化炭水化物のモル比は、1:(0.3~5)、好ましくは1:(0.5~1.5)であり、水酸化鉄生成物は、水酸化鉄カルボキシル化炭水化物錯体である。例示的なカルボキシル化炭水化物は、グルコネート、並びに、他のカルボキシル化二糖、オリゴ糖、及び多糖である。
【0030】
さらに、本発明の方法は、(a)精製多核水酸化鉄懸濁液を多価アニオンと混合して、多価アニオン混合物を得る工程と、(b)多価アニオン混合物のpH値を2~13、好ましくは3~9に調節する工程と、(c)pHを調節した多価アニオン混合物を、40℃~125℃、好ましくは50℃~95℃の温度まで加熱することにより、ナノ第二鉄錯体懸濁液を作製する工程とを更に含み、鉄と多価アニオンの質量比は(1~1100):100であり、水酸化鉄生成物はナノ第二鉄錯体である。
【0031】
このようにして調製した任意の錯体懸濁液は、従来の乾燥方法、例えば、噴霧乾燥により乾燥させることができる。液体形態又は乾燥形態のいずれかにおいて、水酸化鉄炭水化物錯体を、ヒト又は動物において鉄欠乏性貧血を治療するために、製剤化してドロップ、経口液体、懸濁液、注射液、粉末、カプセル、錠剤、又はトローチ剤とすることができる。
【0032】
上述した任意の方法から調製した水酸化鉄生成物もまた、本発明の範囲内である。これらの生成物としては、本発明の水酸化鉄生成物と、薬学的又は栄養学的に許容される担体とを含有する医薬組成物及び栄養組成物が挙げられる。
【0033】
鉄欠乏症関連障害又は高リン酸血症の治療を必要とする対象に、薬学的に有効な量の上述した水酸化鉄生成物を投与することによる、鉄欠乏症関連障害又は高リン酸血症の治療方法も更に本発明の範囲内である。
【0034】
本発明のいくつかの実施形態の詳細を、以下の記載において説明する。本発明の他の特徴、目的、及び利点は、明細書、図面、及び添付の特許請求の範囲からもまた、明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】以下の実施例1で調製した水酸化鉄炭水化物錯体の分子量を測定するための、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)である。
【
図2】本発明の水酸化鉄炭水化物錯体の、例示的なナノ粒子の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の目的の1つは、上の背景技術の章において記載した、遅くてコストがかかる現在の低温プロセスの課題を解決することである。さらに、室温における現在の調製は、望ましくない高分子量の水酸化鉄スクロース錯体をもたらす。
【0037】
本発明の別の目的は、水酸化鉄炭水化物錯体生成物に多量の第二鉄及び塩化物イオンが残存するという課題を解決することである。
【0038】
したがって、本発明は、ナノ水酸化鉄錯体の、費用対効果の高い調製方法を提供する。
【0039】
本発明の第1の方法は、以下の工程を含む。
(1)第1の塩基水溶液を鉄塩水溶液に添加して、pH値が2.7~2.8に達するまで均一に混合する工程、
(2)第1の塩基水溶液を、上記工程(1)で得た混合物に添加してこれを均一に混合し、2.8~3.8のpH値を有する反応混合物を得て、粗水酸化鉄懸濁液を得る工程、
(3)第1の塩基水溶液を粗水酸化鉄懸濁液に添加してこれを均一に混合し、4.5~9のpH値を有する水酸化鉄懸濁液を得る工程、
(4)水酸化鉄粒子を懸濁液から収集した後、精製及び濃縮して、精製多核水酸化鉄湿潤ケークを得る工程。
【0040】
本発明の第2の方法は、炭水化物を、精製多核水酸化鉄に添加して、均一に混合して混合物を得る工程と、工程2の塩基水溶液により、混合物のpH値を9.5~13.5に調節する工程と、pHを調節した混合物を、1時間~50時間、85℃~125℃で加熱して、水酸化鉄炭水化物錯体を得る工程とを含む。
【0041】
本発明の第3の方法は、炭水化物を多核水酸化鉄に添加し、これらを均一に混合して混合物Bを得る工程と、混合物BのpH値を、工程2の塩基溶液で7.5~13に調節する工程と、その後、60℃~125℃で0.2時間~30時間加熱し、水酸化鉄炭水化物錯体を得る工程とを含み、鉄と炭水化物の比は、(1~1100):100である。
【0042】
本発明の第4の方法は、精製多核水酸化鉄懸濁液を、多価アニオン又はカルボキシル化炭水化物と、45℃~125℃(例えば、55℃~95℃、75℃~95℃、45℃~65℃、及び65℃~75℃)の温度で、2分~6時間混合することにより、水酸化鉄多価アニオン錯体、又は水酸化鉄カルボキシル化炭水化物錯体を含有する、ナノ水酸化鉄錯体懸濁液を作製する工程を含む。
【0043】
好適な多価アニオンとしては、クエン酸、酒石酸、コハク酸、フマル酸、リンゴ酸、グリセリルリン酸、これらのいずれかの塩、及びこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。これらのマルチバリアント(multivariant)アニオンは、ピロリン酸塩と組み合わせて使用することができる。
【0044】
例示的なカルボキシル化炭水化物は、グルコネート、並びに、他のカルボキシル化二糖及び多糖である。グルコン酸又は任意の水溶性グルコン酸塩(例えば、D-グルコン酸ナトリウム等の、アルカリD-グルコン酸塩)を、調製で使用することができる。
【0045】
上記方法の利点を以下にまとめる。
(1)水酸化鉄炭水化物錯体は、室温(例えば、15℃~40℃、20℃~35℃、22℃~27℃、及び25℃)で調製されるがゆえに、低温及び高コスト経路が回避される。温度もまた、Fe(OH)3懸濁液を調製するための3工程pH滴定プロセスにより、正確に制御される。
(2)方法は少量塩化物プロセスであり、重金属による汚染もまた回避する。塩化物含有量は、錯体の0.1重量%未満である。
(3)このようにして調製した水酸化鉄炭水化物錯体には、遊離第二鉄が残留しておらず、それゆえに、人体への潜在的な酸化損傷が最小限に抑えられる。鉄含有量が多いと、錯体はそれぞれ、水酸化鉄コアと、そのコアを被覆する炭水化物シェルとを、適切な炭水化物:鉄の比で有する。これらの錯体では、残留した遊離三価鉄は検出されない。
(4)水酸化鉄スクロース錯体は、室温で本発明により調製される水酸化鉄炭水化物錯体の例である。この錯体の重量平均分子量は30000ダルトン~60000ダルトンであり、これは、高い安全域を備えて急速な鉄放出及び速い発現を付与するのに、望ましい分子量範囲である。
(5)水酸化鉄スクロース錯体はそれぞれ、35分以下の、アスコルビン酸に対する反応速度T75を有する。水酸化鉄スクロース錯体は、急速な発現及び安全性の、必要とされる品質を満たす。
(6)水酸化鉄スクロース錯体は、塩基性(7を超えるpH)、又は中性(およそ7のpH)であることができる。水酸化鉄スクロース錯体は安定しており、高温で滅菌することができる。
(7)水酸化鉄炭水化物錯体は、液体形態又は固体形態であることができ、都合良く、任意の液体又は固体剤形に製剤化される。
(8)特定の既知のプロセスとは異なり、本プロセスは有機溶媒を必要とせず、有機残留物による汚染が回避される。
(9)水酸化鉄錯体はそれぞれ、高い水への溶解度(例えば、20重量%以上、及び50重量%以上)を有する。水酸化鉄錯体は、高用量液体剤形(10重量%の鉄を含むドロップ等)の開発に適している。
(10)方法は、冷蔵、加圧、又は防爆装置が不要な穏やかな条件下で行うことができ、本方法を産業的に導入することを容易にする。そして、不純物はほとんど存在せず、バイオアベイラビリティが高い。本方法を使用して、腎透析患者に対する、鉄欠乏性貧血の治療、又はリン酸塩の除去のための、より良い鉄供給製品を開発することができる。
【0046】
以下の特定の実施形態は、本発明の方法を更に説明する。しかし、これらの実施形態は、本発明を限定するものと理解されてはならない。本発明の本質から逸脱することなく、本発明の方法、工程、又は条件の変更及び置換は、本発明の範囲に収まる。
【0047】
水酸化鉄炭水化物錯体
上述した第1の方法及び第2の方法の両方において、第1の塩基水溶液は、炭酸塩又は重炭酸塩、例えば、NaHCO3、Na2CO3、(NH4)2CO3、及びK2CO3の水溶液であることができる。好ましい塩基は、Na2CO3である。水溶液中での塩基の質量割合は通常、5%~25%、好ましくは10%~15%である。他の工程は、実施形態1におけるものと同じである。炭酸塩又は重炭酸塩は、これらの無水及び水和物形態を含む。例は、Na2CO3・H2O、Na2CO3・7H2O、Na2CO3・10H2Oである。
【0048】
鉄塩溶液は、Fe2(SO4)3、Fe(NO3)3、FeCl3、又はこれらのいずれかの組み合わせの水溶液であることができる。鉄塩は、その無水及び水和物形態、例えば、FeCl3・6H2O、及びFe(NO3)3・9H2Oを含む。好ましい塩は、FeCl3・6H2Oを含む、FeCl3である。鉄塩溶液の質量割合は、5%~60%(例えば、15%~25%)であることができる。
【0049】
第1の方法における好ましい炭水化物は、スクロースである。混合物中でのFe3+とスクロースの質量比は、1:(10~20)、好ましくは1:(13~17)である。第2の方法における好ましい炭水化物としては、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖、多糖加水分解シロップ、及びこれらのいずれかの組み合わせが挙げられる。
【0050】
工程2の塩基水溶液は、水溶液中で、5%~50%(例えば、10%~25%)の質量割合での、水酸化物化合物、例えば、NH4OH、KOH、及びNaOH、好ましくはNaOHの水溶液であることができる。
【0051】
第1の方法に関して、工程2で得た水酸化鉄炭水化物錯体のpH値は、pH値調整剤を使用して、5.5~11.1(例えば、10.5~11.1、及び、6.5~7.5)に調節することができる。pH調整剤の好適な例としては、HCl、NaOH、並びに、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、リン酸、ピロリン酸、及びグリコリン酸からなる群から選択される有機酸又は無機酸が挙げられる。第2の方法に関して、炭水化物を多核水酸化鉄に添加し、均一に混合して混合物Bを得た後、混合物BのpH値を9.5~12.5に調節し、65℃~95℃で0.2時間~30時間反応させて、(1~264):24の鉄/糖比を有する、水酸化鉄炭水化物錯体を得る。
【0052】
このようにして調製した水酸化鉄炭水化物錯体は、液体形態又は固体形態のいずれかで存在する。固体での使用のためには、噴霧乾燥等の乾燥工程が含まれる。このようにして調製した水酸化鉄炭水化物錯体は、ヒト又は動物における鉄欠乏性貧血の治療のために、製剤化してドロップ、経口液体、注射液、粉末、カプセル、懸濁液剤形、又は錠剤とすることができる。
【0053】
いくつかの水酸化鉄炭水化物錯体(例えば、第1の方法により調製した、水酸化鉄スクロース錯体)は、以下の好ましい特徴のうちの1つを有する:30000ダルトン~60000ダルトンの重量平均分子量;35分以下の、アスコルビン酸に対する反応速度T75;残留遊離第二鉄が存在しないこと;高pH又は中性条件下での高い安定性;及び、高温滅菌が可能であること。他の(例えば、第2の方法により調製した)水酸化鉄炭水化物錯体は、20%~50%の水への溶解度、乾燥重量で15%~47%の鉄含有量、及び、1%未満(例えば、0.1%未満、及び0.025%未満)の塩化物イオン含有量を有する。
【0054】
上述の方法のいずれかにより調製した水酸化鉄生成物もまた、本発明の範囲内である。
図2により示されるように、水酸化鉄生成物のそれぞれは、多核水酸化鉄コアと、炭水化物、多価アニオン、又はカルボキシル化炭水化物で形成されるシェルとを有する。
【0055】
さらに、有効量の水酸化鉄生成物、又は水酸化鉄生成物を含有する医薬組成物を、鉄欠乏症関連障害(例えば、貧血)の治療を必要とする対象に投与することによる、鉄欠乏症関連障害(例えば、貧血)の治療方法も本発明の範囲内である。
【0056】
用語「治療すること」とは、疾患、症状、又は素因を治癒する、緩和する、軽減する、変更する、治療する、改善する、又はこれらに影響を及ぼすために、対象に化合物を塗布又は投与することを意味する。「有効量」とは、対象に所望の影響をもたらすために必要な生成物の量を意味する。当業者により認識されているように、有効量は、投与経路、賦形剤の使用法、及び、他の治療的処置との同時使用の可能性に応じて変化する。本発明の水酸化鉄生成物の用量レベルは、1mg/日~200mg/日(例えば、150mg/日、45mg/日、15mg/日、2mg/日~45mg/日、3mg/日~30mg/日、及び5mg/日~25mg/日)のオーダーである。特定の患者に対する、特定の用量レベルは、年齢、体重、総体的な健康、性別、食事、投与時期、排泄速度、及び、鉄欠乏症の重篤度を含む多数の因子に応じて変化するであろう。
【0057】
用語「炭水化物」とは、一般式(CH2O)n(式中、nは3~300である)の、複数のヒドロキシル基で置換されたアルデヒド又はケトン化合物を意味する。炭水化物としては、単糖(n=3~10)、二糖(n=8~14、例えば、12;2つの単糖単位を有する)、オリゴ糖(n=15~59;すなわち、3個~9個の単糖単位を有する)、加えて、多糖(すなわち、10個以上の単糖単位を有する)が挙げられる。単糖は、加水分解により、より単純な糖に分解することができない。単糖は、二糖、オリゴ糖、及び多糖の構成単位を構成する。例としては、グリセルアルデヒド、ジヒドロキシアセトン、エリトロース、トレオース、アラビノース、リボース、キシロース、リブロース、キシルロース、グルコース(デキストロース)、フルクトース、ガラクトース、リボース、アロース、アルトロース、グロース、イドース、マンノース、タロース、プシコース、ソルボース、タガトース、マンノヘプツロース、セドヘプツロース、2-ケト-3-デオキシ-マンノ-オクトネート、及びシアロース(sialose)が挙げられる。二糖の例としては、スクロース、マルトース、イソマルトース、ラクトース、トレハロース、セロビオース、キトビオース、ルチノース、及びルチヌロースが挙げられる。用語「カルボキシル化炭水化物」とは、カルボキシル基(-COOH、又は-COO-)を含有する炭水化物を意味する。カルボキシル化炭水化物は、対応する元の炭水化物を酸化することで調製することができる。
【0058】
用語「水への溶解度」とは、水中での、コロイド状の溶解度、すなわち、アグロメレートと平衡して同時に存在する、分散ナノ粒子の最大濃度を意味する。例えば、Doblas, et al., Nano Lett. 19, 5246-52(2019)を参照されたい。本発明の鉄生成物の水への溶解度は、鉄生成物が、沈殿又は曇りなく、透明液体として水中に均一に分散する最大濃度である。
【0059】
更に説明することなく、当業者は、上記説明に基づき、本発明を最大の程度まで利用することができると考えられている。以下の実施例は、単なる例示であり、本開示の残部をいかなる方法でも限定するものでは決してないと解釈されなければならない。本明細書で引用される全ての出版物は、それら全体が引用することにより本明細書の一部をなす。
【0060】
水酸化鉄錯体の調製方法、及びこの錯体の有効性の評価について示す実施例を、以下で説明する。
【実施例】
【0061】
実施例1:水酸化鉄スクロース錯体1
錯体を、以下の工程に従って調製した。
【0062】
1.1. 75gのFeCl3・6H2Oを水に溶解し、質量割合が15%の塩化第二鉄溶液(500g)を得た。
1.2. 45gの炭酸ナトリウムを水中で混合して、質量割合が10%のNa2CO3水溶液(450g)を得た。
【0063】
2. Fe(OH)3懸濁液の調製:
2.1. 10% Na2CO3水溶液を、15%塩化第二鉄溶液に添加し、混合物のpH値が2.7になるまで均一に混合した。この時点で、大量の二酸化炭素が発生し、反応溶液の色が、淡褐色から濃褐色に変化したが、依然として透明溶液であった。
2.2. 10% Na2CO3水溶液を透明溶液に添加し、均一に混合して、3.8のpH値を有する反応混合物を得た。これは、粗水酸化鉄懸濁液であった。この時点で、大量の粒子が溶液から沈殿した。
2.3. 残りの10% Na2CO3水溶液を粗水酸化鉄懸濁液に添加し、均一に混合して、5のpH値を有する水酸化鉄懸濁液を得た。
2.4. pH5の水酸化鉄懸濁液を10L容器に収集し、撹拌しながら9Lの水を添加して、これらを静置した。上部の透明なアリコートを除去した後、残りの混合物を遠心分離にかけて、遠心分離の間に水を繰り返し添加した。褐色沈殿物を収集して多核水酸化鉄を得た。この水酸化鉄は、0.05%未満の塩化物イオン含有量を有した。
【0064】
3. 1L容器の中で、このようにして得た多核水酸化鉄を、240gのスクロースと、撹拌しながら混合した。得られた混合物のpH値を、20%水酸化ナトリウム溶液を使用して12に調節した。100℃、及びpH12で21時間、反応を行い、水酸化鉄スクロース錯体を得た。
【0065】
このようにして得た水酸化鉄スクロース錯体の分子量を、以下に記載するゲル浸透クロマトグラフィー(「GPC」)により測定した。
【0066】
A. 器具及び試験薬剤:
Shodex示差屈折率検出器を備えたAgilent 1100 HPLC。Shodex P-82pullulanを、分子量に対する基準として使用した。
【0067】
B. 方法:
B.1 クロマトグラフィー条件:
クロマトグラフィーカラム:WatersのUltrahydrogel(商標) 7.8mm×30cmカラム(それぞれ、1000Å及び120Åの孔径)。2つのカラムを直列に接続した。
移動相:リン酸緩衝液(1000mlの水に、7.17gのリン酸水素二ナトリウム十二水和物、2.76gのリン酸水素二ナトリウム、及び0.2gのアジ化ナトリウムを含有する)。
検出器の温度:45℃。
カラム温度:45℃±2℃。
流速:0.5ml。
注入量:25μl。
【0068】
B.2 試料の測定:
所定量の試料を移動相溶液に添加した後、濾過することで、試験液を調製した。25μlの試験液を、分析のために注入した。データは、GPCの特別ソフトウェア(HW-2000)で処理した。重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)、及びDを、同一条件下で基準を試験することで生成したデータから得た検量線から計算した。
【0069】
B.3 試験結果のGPCスペクトル:
Shodex基準の分子量は、47100ダルトンであった。
【0070】
実施例1における水酸化鉄スクロース錯体の重量平均分子量は、46700ダルトンであった。
【0071】
実施例2:水酸化鉄スクロース錯体2
錯体を以下のとおりに調製した:
【0072】
A.1. 225gのFeCl3・6H2Oを水に溶解して、1500gの溶液を得ることにより、15%塩化第二鉄溶液を調製した。
【0073】
2. 135gの炭酸ナトリウムを水に溶解して、質量分率が10%の、1350gのNa2CO3水溶液を得た。
【0074】
B. 工程Aで得た塩化第二鉄溶液及びNa2CO3溶液を使用して、上記実施例1で記載した3工程滴定手順に従い、多核水酸化鉄懸濁液を調製した。
【0075】
C. このようにして得た多核水酸化鉄を、720gのスクロースと、2Lの容器内で混合した。得られた混合物のpH値を、20%水酸化ナトリウム溶液により12に調節した後、90℃及びpH12で42時間加熱し、水酸化鉄スクロース錯体2を得た。
【0076】
実施例3:水酸化鉄スクロース錯体3
上記実施例1に記載したものに類似の手順に従い、錯体を調製した。
【0077】
A.1. 750gのFeCl3・6H2Oを水に溶解することにより、15%塩化第二鉄溶液(5000g)を得た。
【0078】
2. 450gの炭酸ナトリウム水溶液から、10% Na2CO3溶液(4500g)を得た。
【0079】
B. 上記工程Aで得た第二鉄溶液及びNa2CO3を使用して、3工程滴定手順に従い、多核水酸化鉄を調製した。
【0080】
C. 多核水酸化鉄を、2400gのスクロースと共に混合した。得られた混合物を、20%水酸化ナトリウム溶液によりpH12に調節し、32時間、95℃で加熱して、水酸化鉄スクロース錯体3を得た。この錯体は、12のpH値を有した。
【0081】
評価
水酸化鉄スクロース錯体1、2、及び3の、(a)遊離鉄含有量(すなわち、Fe3+及びFe2+)、(b)塩化物イオン含有量、及び(c)アスコルビン酸に対する反応速度T75を評価した。
【0082】
(a)遊離鉄(すなわち、Fe3+及びFe2+)の検出:
(1)Fe3+
錯体の試料(5mL)を、1mLの、2mol/Lアンモニア水溶液と1分間混合し、褐色沈殿が存在するか否かを観察した。沈殿が観察される場合、遊離Fe3+イオンが試料中に存在する。
(2)Fe2+
(a)フェリシアン化カリウム溶液:1gのフェリシアン化カリウムを秤量し、得られる溶液が10mLに達するまで水を添加した。
(b)酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6):12gの酢酸ナトリウムを秤量し、これを50mLの蒸留水に溶解して、0.66mLの酢酸を添加した後、水を添加して100mLにした。
(c)錯体懸濁液(5mL)を、水により希釈して50mLにし、評価試料を得た。2種類の試験溶液、すなわち、ブランク溶液及び評価溶液を調製した。
【0083】
ブランク溶液に、5mLの評価試料、及び、2mLの酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)を添加した。
【0084】
評価溶液には、5mLの評価試料、2mLの酢酸-酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)、及び、3滴のフェリシアン化カリウム溶液を添加した。
【0085】
両溶液の色が同じである場合、錯体懸濁液にはFe2+が存在しないと判定する。
【0086】
(b)塩化物イオン濃度の検出
機器及び試薬:塩化物イオン含有量、及び、標準液(0.005mol/L、及び0.0005mol/LのNaCl水溶液)のSSWY-810迅速測定機器。塩化物イオン電極及びガラス電極を、試験前に較正した。塩化物イオン濃度は、電極により示された。
【0087】
(c)アスコルビン酸に対する反応速度T75の測定
試薬:
1. 希釈溶液としての、0.9%塩化ナトリウム溶液。
2. ビタミンC(アスコルビン酸)原液:8.8gのビタミンCを水と混合して、50mLの原液を調製した。
3. 水酸化鉄スクロース錯体原液:上記実施例1~実施例3のうちの1つに由来する、15mLの水酸化鉄炭水化物錯体懸濁液を、水で希釈して50mLにした。
【0088】
方法:
上記溶液は全て、37℃で維持した。試験溶液は、20mLのNaCl溶液、4mLのビタミンC原液、及び、1mLの錯体原液を含んだ。
【0089】
錯体から放出された鉄を、UV-vis分光光度計により450nmで測定した。
【0090】
鉄含有量を、以下のとおりに計算した:
100×[A(t)-A(n)/A(0)-A(n)]
式中、A(t)は、時間間隔t分における吸光度であり、A(n)はバックグラウンド吸光度であり、A(0)は、時間0(初期)における吸光度である。
【0091】
結果を以下の表1に示す。
【0092】
【0093】
評価
4つの試料である安定性試料1~4を調製し、最大3ヶ月間、安定性を調査した。
【0094】
安定性試料1は、密封したガラス瓶の中に、HCl溶液を使用して錯体のpHが10.8に調節されている5mLの水酸化鉄スクロース錯体3を含有した。この試料を、40℃で保管した。
【0095】
40℃で保管する前に、オートクレービングにより滅菌したことを除いて、安定性試料2は、安定性試料1と同じ錯体を含有した。
【0096】
安定性試料3は、密封したガラス瓶の中に、HCl溶液を使用して錯体のpHが7に調節されている5mLの水酸化鉄スクロース錯体3を含有した。この試料を、40℃で保管した。
【0097】
40℃で保管する前に、オートクレービングにより滅菌したことを除いて、安定性試料4は、安定性試料3と同じ錯体を含有した。
【0098】
各月の終わりに、分子量を分析した。結果を下表2に示す。
【0099】
【0100】
分子量は、40℃で3ヶ月間保管した後、ほぼ変化しなかったことを結果は示し、このことは、水酸化鉄スクロース錯体が安定しており、高pH又は中性pH条件下にて高温で滅菌することができることを示している。
【0101】
実施例4~実施例8:水酸化鉄炭水化物錯体4~8
錯体は、(1)実施例1の精製多核水酸化鉄懸濁液を、同量の水で希釈する工程と、(2)希釈懸濁液を炭水化物と混合して、炭水化物混合物を得る工程と、(3)20%水酸化ナトリウム溶液を使用して、炭水化物混合物のpH値を10に調節する工程と、(4)pHを調節した炭水化物混合物を、85℃で1時間加熱して、水酸化鉄炭水化物錯体を生成物として得る工程とにより調製した。
【0102】
実施例4においては、水酸化鉄炭水化物錯体4、すなわち、水酸化鉄エリトリトール錯体を、炭水化物としてエリトリトールを、鉄:エリトリトール=45:10.5の比で使用して得た。
【0103】
実施例5においては、水酸化鉄炭水化物錯体5、すなわち、水酸化鉄マルトデキストリン錯体を、炭水化物としてマルトデキストリンDE30~35を、鉄:マルトデキストリンDE30~35=30:50の比で使用して得た。
【0104】
実施例6においては、水酸化鉄炭水化物錯体6、すなわち、水酸化鉄マルトデキストリングルコース錯体を、炭水化物としてマルトデキストリンDE30~35、及びグルコース(マルトデキストリンDE30~35:グルコース=9:1)を、鉄:炭水化物=60:20の比で使用して得た。
【0105】
実施例7においては、水酸化鉄炭水化物錯体7、すなわち、水酸化鉄マルトース錯体を、炭水化物としてマルトースシロップ(DE58.5:グルコース=1:1)を鉄:マルトースシロップ=45:18の比で使用して得た。
【0106】
実施例8においては、水酸化鉄炭水化物錯体8、すなわち、水酸化鉄ソルビトール錯体を、炭水化物としてソルビトールを、鉄:ソルビトール=45:12の比で使用して得た。
【0107】
図2は、本発明の方法により調製した水酸化鉄炭水化物錯体中に存在する、ナノ粒子の構造図を示す。ナノ粒子は、球状の鉄炭水化物コロイドである。
図2において、aは、多核水酸化鉄コアを表し、bは、鉄コアを被覆する炭水化物シェルを表す。炭水化物シェルは、以下の機能を有する:1.水酸化鉄コアの安定化、2.水中での、ナノ粒子の懸濁の維持、3.鉄放出の制御、4.鉄の毒性の低減、及び、5.水酸化鉄生成物の風味の改善、すなわち、望ましくない金属味の除去。
【0108】
実施例9~実施例13:水酸化鉄炭水化物錯体粉末9~13
水酸化鉄炭水化物錯体4~8のそれぞれを噴霧乾燥して、粉末形態の生成物を得た。
【0109】
したがって、実施例9は、実施例4の水酸化鉄エリトリトール錯体の粉末であり、
実施例10は、実施例5の水酸化鉄マルトデキストリン錯体の粉末であり、
実施例11は、実施例6の水酸化鉄マルトデキストリングルコース錯体の粉末であり、
実施例12は、実施例7の水酸化鉄マルトース錯体の粉末であり、
実施例13は、実施例8の水酸化鉄ソルビトール錯体の粉末である。
【0110】
評価
水酸化鉄炭水化物錯体粉末9~13の、鉄含有量、遊離Fe3+及びFe2+含有量、並びに、塩化物イオン含有量を、上述したアッセイを使用して評価した。
【0111】
結果を下表3に示す。
【0112】
【0113】
実施例14:クエン酸第二鉄錯体
多核水酸化鉄
実施例1に記載の手順と同様に、3工程pH滴定法を使用して、多核水酸化鉄を調製した。
【0114】
(1)2250gの固体FeCl3・6H2Oを水(15重量%)に溶解することで、溶液A(15000)を調製した。個別の容器で、1350gのNa2CO3(10重量%)を水に溶解することで、溶液B(13500g)を調製した。溶液Bを、25℃でゆっくりと、撹拌しながら、pH値が2.8に達するまで、溶液Aに添加した。得られた透明溶液を5分間、又は、CO2の気泡全てが放出するまで、平衡させた。
【0115】
(2)pH値が3.8に達するまで、溶液Bを25℃で、撹拌しながら工程(1)の透明溶液に添加し、この間に水酸化鉄が沈殿した。粘度が著しく増加したため、激しい撹拌が必要であった。懸濁液を8分間平衡させ、粗水酸化鉄懸濁液を得た。
【0116】
(3)粗水酸化鉄懸濁液に、25℃で、撹拌しながら、溶液Bの残りを添加した。完了したら、得られた粗多核水酸化鉄懸濁液を10分間平衡させた。等体積の水を、次工程のために添加した。
【0117】
(4)このようにして得た粗多核水酸化鉄懸濁液を、遠心分離により精製し、アリコートの伝導度が不変となるまで、水で繰り返し洗浄した。精製多核水酸化鉄の湿潤ケークを、遠心分離後に水を除去することで得た。
【0118】
クエン酸第二鉄
精製水酸化鉄(0.4mol)を等体積の水に懸濁し、クエン酸(0.14mol)及びクエン酸ナトリウム(0.14mol)の溶液と混合した。得られた混合物を、55℃~65℃で15分~30分間加熱した。混濁混合物が、濃い赤色の透明溶液になった。チンダル現象が観察され、コロイドの形成、すなわち、水中に均一に分散したクエン酸第二鉄錯体ナノ粒子を示している。
【0119】
任意に、クエン酸第二鉄錯体の透明溶液を噴霧乾燥して、クエン酸第二鉄錯体粉末を得た。
【0120】
水への溶解度
このようにして得たクエン酸第二鉄粉末(1g)を、1mLの水に分散させた。懸濁液は、濃い赤色の透明溶液であり、これは、少なくとも50重量%の水への溶解度を示している。密度は約1.4g/mLである。
【0121】
商業用の固体クエン酸第二鉄生成物の水への溶解度を、比較として調査した。クエン酸第二鉄1は、Yuzon Biotechnology社(中国鄭州市)から市販されていた。クエン酸第二鉄2は、KonTai Food Additive Company社(中国天津市)から市販されていた。両方の市販製品(1g)を水(最大100mL)に分散させた。1重量%の濃度では、両方の生成物は完全には溶解せず、これは、1重量%未満の水への溶解度を示している。
【0122】
本発明のクエン酸第二鉄錯体は、高い水への溶解度を示し、これは、大きなバイオアベイラビリティを表しており、この錯体を高強度液体生成物に対して好適なものとする。
【0123】
pH安定性
本発明のクエン酸第二鉄粉末(1g)を1mLの水に分散させて、透明溶液を得た。透明溶液のpH値を、1N HCl(水溶液)を使用して、7、3.5、2.5、又は1.5に調節した。溶液は、pH値のそれぞれにおいて透明のままであり、これは、1.5~7のpHにおける安定性を示している。
【0124】
分子量
このようにして得たクエン酸第二鉄懸濁液の分子量を、上述したGPC法を使用して分析した。懸濁液の重量平均分子量は、約35000ダルトン~45000ダルトンであることが分かった。この分子量を有するクエン酸第二鉄生成物は、バイオアベイラビリティ及び鉄放出速度が理想的である。
【0125】
熱安定性
クエン酸第二鉄懸濁液を90℃で6時間加熱し、その熱安定性を確認した。外観、溶液の透明度、及びGPCプロファイルの観点では変化はなく、クエン酸第二鉄生成物が熱的に安定であることを示している。この良好な熱安定性により、生成物が滅菌注射生成物の調製に適することとなる。
【0126】
噴霧乾燥後の安定性
2つの試料を比較して、噴霧乾燥が、クエン酸第二鉄錯体ナノ粒子を変化させるか否かを示した。第1の試料は、上記手順で得たクエン酸第二鉄懸濁液であった。第2の試料は、噴霧乾燥したクエン酸第二鉄錯体粉末を、第1の試料と同じ濃度まで水に溶解させることで調製した、クエン酸第二鉄懸濁液であった。2つの試料は、その外観、溶液の透明度、及びGPCプロファイルの観点では同じであった。本発明のクエン酸第二鉄錯体溶液は、溶解度の低下により、多くの商業用第二鉄生成物には適していないプロセスである噴霧乾燥後に、その品質を維持したことを、結果は示した。代わりに、有機溶媒を使用して、固体第二鉄生成物を沈殿させた。例えば、米国特許第7,674,780号を参照されたい。
【0127】
Fe3+及びFe2+
上述した手順に従い、新たに調製したクエン酸第二鉄錯体懸濁液における、遊離Fe3+及びFe2+の有無を調べた。このようにして調製したクエン酸第二鉄錯体には、遊離Fe3+又はFe2+イオンは存在しないことを、結果は示した。
【0128】
遊離Fe3+又はFe2+イオンは、薬学製剤又は栄養製剤中の多くの成分と非相溶性である。さらに、これらのイオンは、不快な金属味の原因である。
【0129】
Fe3+又はFe2+イオンが存在しないことで、本発明のクエン酸第二鉄生成物は、製剤化して薬学製剤又は栄養製剤とするのに好適である。
【0130】
実施例15:ピロリン酸クエン酸第二鉄錯体
クエン酸/クエン酸塩溶液の代わりに、クエン酸(0.3mol)及びピロリン酸塩(0.3mol)溶液を使用して、ピロリン酸クエン酸第二鉄錯体を得たことを除いて、実施例14に記載の手順に従った。
【0131】
実施例16:グルコン酸第二鉄
クエン酸/クエン酸塩溶液の代わりに、グルコン酸塩(0.4mol)溶液を使用して、本発明のグルコン酸第二鉄を得たことを除いて、実施例14に記載の手順に従った。
【0132】
実施例17:風味評価
水酸化鉄マルトデキストリングルコース錯体(実施例11)の粉末を、同量の水に分散させてコロイドを得た。水及び風味剤をコロイドに添加して、遊離Fe3+及びFe2+の後味を検出するために1%、5%、及び10%で鉄を含有する試験試料を調製した。望ましくない金属様の後味は試験試料に存在しないことが分かった。
【0133】
実施例18:鉄欠乏性貧血の治療
水酸化鉄マルトデキストリングルコース錯体(実施例11)の粉末を、10mLのコロイド溶液に22.5mgの鉄を含有する(Fe=0.25重量%)経口液体製剤に製剤化した。5名の女性患者に、特定の日(下表4を参照されたい)に、経口で毎日製剤を摂取するように指示した。Mission Hemoglobin Analyzerを使用して血液試料を分析し、ヘモグロビンの量を測定した。結果を表4に示す。
【0134】
【0135】
上記表4に示すように、本発明の水酸化鉄炭水化物錯体を摂取した後、各使用においてヘモグロビン濃度が著しく増加する。
【0136】
他の実施形態
本明細書で開示する特徴は全て、任意の組み合わせを取ることができる。本明細書で開示する各特徴は、同じ、等価な、又は類似の目的を果たす代替の特徴により置き換えることができる。したがって、特に明示的に言及されない限り、開示された各特徴は、一般的な一連の、等価又は同様の特徴の単なる例である。
【0137】
上記記載から、当業者は本発明の本質的な特徴を容易に確認することができ、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、本発明の種々の変更及び修正を行い、本発明を種々の使用及び条件に適応させることができる。例えば、本発明の錯体と構造上類似する錯体もまた生成し、鉄欠乏性貧血の治療におけるその有効性をスクリーニングすることができる。
【国際調査報告】