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特表2023-552274抗ウイルス化合物としての重水素化アミノチアゾール化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】抗ウイルス化合物としての重水素化アミノチアゾール化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 277/44 20060101AFI20231208BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231208BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20231208BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231208BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231208BHJP
   A61K 31/426 20060101ALI20231208BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C07D277/44 CSP
A61P31/12
A61P31/22
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K31/426
A61P25/28
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023526237
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(85)【翻訳文提出日】2023-06-26
(86)【国際出願番号】 EP2021080023
(87)【国際公開番号】W WO2022090409
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】20204545.6
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518332170
【氏名又は名称】イノベーティブ モレキュールズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】INNOVATIVE MOLECULES GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】ゲゲ、クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】クレイマン、ジェラルド
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA19
4C084NA05
4C084ZA151
4C084ZA161
4C084ZB331
4C084ZB332
4C084ZC751
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC82
4C086MA01
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZB33
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、式(I)の新規重水素化化合物、それらの調製方法、および薬剤としての、特に抗ウイルス薬としてのそれらの使用に関する。
【化1】
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)による化合物、又はそれらのエナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、溶媒和物、もしくは薬学的に許容される塩である、化合物。
【化1】
[前記式(I)において、
Xは下記2つの式から選択され、
【化2】
又は、Xは下記式で示される基であり;
【化3】
上記各式において、
は、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H、-CN、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びC1-4-アシルから選択され、前記C1-4-アルキル又はC1-4-アシルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H及びC1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H及びC1-6-アルキルから選択され、前記C1-6-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子有し;
及びRは、H、D(重水素)及びC1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1つ以上の水素原子を有し;
は、H、-CN、-NO,C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは随意に重水素によって置換された1個以上の水素原子を有し;
は、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル、C3-4-シクロアルキル及びフルオロ-C3-4-シクロアルキルから選択され、前記C1-4-アルキル又はC3-4-シクロアルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
Yは下記式で示される基であり、
【化4】
上記式において、
11,R12,R13及びR14は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
21,R22,R23,R24及びR25は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
ただし、R,R,R,R,R,R,R,R,R11,R12,R13,R14,R21,R22,R23,R24及びR25中の少なくとも1つの水素が重水素によって置換されている。]
【請求項2】
は、CH及びCDから選択され;
はCHであり;
,R,R,R及びRはHであり;
は、メチル及びシクロプロピルから選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Yが、下記6つの式で示される基から選択される、請求項1又は2に記載の化合物。
【化5】
【請求項4】
がCDである、請求項1~3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
Xが下記2つの式で示される基のいずれかである、請求項1~4のいずれか一項に記載の化合物。
【化6】
【請求項6】
Xが下記式で示される基である、請求項1~5のいずれか一項に記載の化合物。
【化7】
【請求項7】
下記式を有する化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である、請求項1~6のいずれか一項に記載の化合物。
【化9】
【請求項8】
Xが下記式で示される基である、請求項1又は4に記載の化合物。
【化10】
【請求項9】
下記3つの式から選択される化合物、又はそれらの溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である、請求項8に記載の化合物。
【化11】
【請求項10】
薬剤として使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項11】
ウイルス感染に関連する疾患又は障害の治療又は予防に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項12】
前記疾患又は障害がヘルペスウイルス、特に単純ヘルペスウイルスによって引き起こされるウイルス感染に関連するものである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
ウイルス、特に単純ヘルペスウイルスなどのヘルペスウイルスによって引き起こされるアルツハイマー病などの神経変性疾患の治療又は予防に使用するための、請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項14】
ヘルペス感染症、特に単純ヘルペス感染症の治療又は予防において、口唇ヘルペス、陰部ヘルペス及びヘルペス関連角膜炎を呈する患者において、アルツハイマー病、脳炎、肺炎、肝炎の患者において;AIDS患者、癌患者、遺伝的免疫不全を有する患者、移植患者などの免疫系が抑制されている患者において;新生児及び乳児において;再発抑制(抑制療法)のためのヘルペス陽性患者、特に単純ヘルペス陽性患者において;アシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビルなどのヌクレオシド抗ウイルス療法に耐性を有する患者、特にヘルペス陽性患者、特に単純ヘルペス陽性患者において;前記使用するための、請求項10~13のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の化合物の1つ以上と、
少なくとも1つの薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤及び/又はウイルス感染に関連する疾患又は障害の治療に有効である少なくとも1つのさらなる活性物質(抗ウイルス活性化合物)と、
を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤、それらの調製方法、及び薬剤としての、特に抗ウイルス薬としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
[導入部]
ウイルス感染症の大流行は、古代から人類を悩ませ、口唇ヘルペス及び陰部ヘルペスなどの皮膚粘膜感染症を引き起こしてきた。疾患症状はしばしば日常活動を妨げ、時にHSV感染症は、特に新生児、高齢者、及び移植もしくは癌患者、又は遺伝性免疫不全症候群もしくは疾患を有する患者などの免疫不全患者集団において、生命を脅かす(脳炎)又は視力を損なう疾患(角膜炎)の原因である。感染後、アルファヘルペスウイルス科は宿主のニューロン中において潜伏形態で生存し、周期的に再活性化し、しばしば患者にとって重大な心理社会的苦痛をもたらす。現在のところ治療法は存在しない。
【0003】
これまでのところ、特異的又は非特異的な作用機序を有するワクチン、インターロイキン、インターフェロン、治療用タンパク質、抗体、免疫調節剤、及び小分子薬物は、治療の第一選択として、ヌクレオシド系薬物であるアシクロビル、バラシクロビル、及びファムシクロビルを置き換えるための有効性又は必要とされる安全性プロファイルのいずれかを欠いていた。
【0004】
既知のアミノチアゾール(例えば、プリテリビル(pritelivir))は、今日の開発において最も有力な薬物である。これらの抗ウイルス剤はヘルペスウイルス性のヘリカーゼプライマーゼを阻害することによって作用し、ヌクレオシド系薬物と比較して、生体外で低い耐性率及び動物モデルにおいて優れた効力を示すが、オフターゲット炭酸脱水酵素活性及び異常な薬物動態プロファイルによって開発が妨げられる。
【0005】
HSV-1及び/又はHSV-2を標的とする新規な抗ウイルス治療を開発する必要がある。特に、改善された薬物動態特性を有する抗ウイルス薬を開発する必要がある。共有結合のC-H結合は、動的同位体効果により、他の点では同一のC-D結合よりも弱い。C-H結合の切断は薬物代謝の共通の特徴であり、類似のC-D結合の切断は、より困難であり得、従って、代謝速度を低下させる。小分子中のHをDに置き換えると、薬物の生物学的効果を有益に変化させる代謝を著しく低下させることができる。置換は、また、毒性代謝物の形成を減少させることによって毒性を低下させる効果を有する可能性がある(非特許文献1)。重水素化類似体は有益な作用機序を共有するが、しかし、非重水素化マッチドペアと比較して、より遅く代謝されかつ患者間のバラツキがより少ない状態となることが予想される。差別化された薬物動態プロファイルは、潜在的に改善された有効性、より少ない頻度の投薬、改善された忍容性、薬物代謝における減少した患者間バラツキ、及び減少した薬物間相互作用を可能にし得ると一般に考えられる。
【0006】
本特許出願は薬剤として使用するための、より適切な薬物動態プロファイル(例えば、改善されたミクロソーム安定性に起因する)を有する新規の抗ウイルス重水素化アミノチアゾール化合物を開示する。
【0007】
[従来技術]
【化1】
抗ウイルス化合物として使用するための一般式(A)のアミノチアゾールは、先行技術から公知である。
【0008】
特に、特許文献1は、Xがスルホンアミド部分であるようなアミノチアゾール(A)を開示している。
【0009】
特許文献2はXが第一級スルホンアミドではないが、Xがスルファニミン、スルフィンイミドアミド、スルホキシミン又はスルホキシイミドアミドから選択され得る式(A)のアミノチアゾールを記載している。
【0010】
特許文献3は、特許文献2による化合物のエナンチオマー(鏡像異性体)を記載している。
【0011】
特許文献4は、癌を治療するための腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における、特許文献2及び特許文献3によるアミノチアゾール化合物の新規な使用を記載している。
【0012】
これらの先行技術文献のいずれも、本明細書に記載の式(I)の構造を有する重水素化化合物はいうまでもなく、一般的な任意の同位体又は特に重水素を指すものでもない。
【0013】
非特許文献2は、書籍「薬物研究における進歩」シリーズからの一つの章であって、そして重水素同位体が薬物の代謝に及ぼす影響を記載しており、重水素を1個又は数個の水素原子に置き換えることは、無視できる立体的影響を伴う小さな構造変化であると述べている。この文献はさらに、第8章の「結論」において、薬物設計において重水素同位体効果を使用する範囲が非常に限られており、分子中に重水素を含む薬物が市場に存在しないことを述べている。さらにこの文献の著者は、ヒトでの使用を意図した薬物については前臨床毒性学及び臨床試験に関連する追加費用が発生すると結論付けており、また、薬物規制当局が、親プロチウム形態の生物学的活性と有意に異なる生物学的活性を有するように設計された重水素化薬物を新規薬物以外とみなす可能性は極めて低いと考えている。
【0014】
重水素化アミノチアゾール化合物及び抗ウイルス薬としてのそれらの使用は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】WO2001/047904
【特許文献2】WO2017/174640
【特許文献3】WO2019/068817
【特許文献4】WO2020/109389
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】J. Med. Chem. 2019;62:5276
【非特許文献2】Foster A.B. “Deuterium isotope effects in the metabolism of drugs and xenobiotics: implications for drug design”; Advances in Drug Research, Vol. 14, pages 1 to 40, 1985
【非特許文献3】Foster in Trends Pharmacol. Sci. 1984:5;524
【非特許文献4】Comp. Biochem. Physiol. 1998;119A:725.
【非特許文献5】A. Michelotti and M. Roche, Synthesis 2019;51:1319
【非特許文献6】J. Atzrodt et al. Angew. Chem. Int. Ed. 2018;57:3022
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、一般式(I)のアミノチアゾール誘導体:
【化2】
又はそれらのエナンチオマー、ジアステレオマー、互変異性体、溶媒和物、もしくは薬学的に許容される塩であり、式(I)において、Xは下記2つの式から選択され、
【化3】
又はXは下記式で示される基であり、
【化4】
上記各式において、
は、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H、-CN、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びC1-4-アシルから選択され、前記C1-4-アルキル又はC1-4-アシルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H及びC1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
は、H及びC1-6-アルキルから選択され、前記C1-6-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子有し;
及びRは、H、D(重水素)及びC1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1つ以上の水素原子を有し;
は、H、-CN、-NO,C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは随意に重水素によって置換された1個以上の水素原子を有し;
は、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル、C3-4-シクロアルキル及びフルオロ-C3-4-シクロアルキルから選択され、前記C1-4-アルキル又はC3-4-シクロアルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
Yは下記式で示される基であり、
【化5】
上記式において、
11,R12,R13及びR14は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
21,R22,R23,R24及びR25は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから独立して選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し;
ただし、R,R,R,R,R,R,R,R,R11,R12,R13,R14,R21,R22,R23,R24及びR25中の少なくとも1つの水素が重水素によって置換されている。
【0018】
本特許出願において、「C1-6-アルキル」は1~6個の炭素原子を有する飽和アルキル鎖を意味し、それは直鎖又は分枝鎖であってもよい。その例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル及びヘキシルを含む。従って、「C1-4-アルキル」基は、1、2、3又は4個の炭素原子を有する飽和アルキル鎖を表し、直鎖又は分枝鎖であってもよい。「C1-4-アルキル」が好ましく、メチル、エチル、プロピル及びイソプロピルなどのC1-3-アルキルがより好ましく、メチルが最も好ましい。
【0019】
「フルオロ-C1-4-アルキル」又は「フルオロ-C3-4-シクロアルキル」又は「O-フルオロ-C1-4-アルキル」という用語は、それぞれ、アルキル鎖又は環中の1個以上の水素原子が1個以上のフルオロ原子で置き換えられていることを意味する。その好ましい例は、-CF基の生成である。
【0020】
3-4-シクロアルキル基は、シクロプロピル又はシクロブチル基を意味する。好ましいのはシクロプロピルである。
【0021】
1-4-アシル基(「アルカノイル」とも呼ばれる)は二重結合した酸素原子[R-(C=O)-]を含有するC1-4-アルキル基を意味し、ここで、Rは、H又はC-C-アルキル基を表す。
【0022】
ハロゲンはフッ素、塩素、臭素及びヨウ素から選択され、フッ素及び塩素が好ましく、フッ素が最も好ましい。
【0023】
本明細書の意味における「重水素化」、「重水素標識された」、「重水素置換された」又は「重水素化された」は、式(I)の化合物の1個以上の水素原子が重水素(「D」によって表されるH)によって置換されることを意味する。
【0024】
式(I)の化合物は炭素原子に結合した1~n個の水素原子を置換する1~n個の重水素原子を含有し、ここで、nは分子中の水素原子の数である。驚くべきことに、そのような重水素化アミノチアゾール化合物は哺乳動物、例えばヒトに投与された場合、それぞれの非重水素化化合物と比較して、代謝に対する抵抗性の増加を示し、従って、式(I)の化合物の半減期を増加させるのに有用であることが見出された。例えば、非特許文献3参照。このような重水素化アミノチアゾール化合物は、当技術分野で周知の手段によって、例えば、1個以上の水素が重水素によって置き換えられた出発物質を使用することによって合成される(詳しくは、実験セクション参照)。
【0025】
本特許出願の開示に係る重水素標識又は置換治療化合物は、驚くべきことに、吸収、分配、代謝及び排泄(ADME)に関連するDMPK(薬物代謝及び薬物動態)特性が改善されていることが判明した。重水素による置換は、より高い代謝安定性、例えば、増加した生体内半減期、減少した投与量要件、及び/又は治療指数の改善の結果として特定の治療上の利点をもたらすことが判明した。
【0026】
重水素の濃度は、同位体濃縮係数によって定義され得る。本特許出願の開示に係る化合物において、特定の同位体として具体的に指定されていない任意の原子は、その原子の任意の安定又は放射性同位体を表すことを意味する。特に明記しない限り、ある位置が「H」又は「水素」として具体的に指定される場合、その位置は、その天然存在量の同位体組成(約99.98%水素)で水素を有すると理解される。
【0027】
従って、本特許出願の開示に係る化合物において、重水素(D)として具体的に指定される任意の原子は、少なくとも50%の同位体純度、好ましくは少なくとも95%の同位体純度、より好ましくは少なくとも99%の同位体純度を有する重水素を表すことを意味する。
【0028】
重水素取り込みの割合は、質量分析法(ピークエリア)などの多数の従来の方法を用いた定量分析によって、又は化合物中の内部標準又は他の非重水素化H信号からの信号と比較して、特異的重水素化部位の残りの残留H-NMR信号を定量することによって得ることができる。
【0029】
合成に使用される化学物質の起源に依存する合成された化合物において、天然同位体存在量のいくらかのバラツキが生じることが認識されるであろう。従って、本発明の化合物の非重水素化類似体の調製物は、本質的に少量の重水素化同位体置換体を含有する。天然に豊富な安定な水素及び炭素同位体の濃度は、このバラツキにもかかわらず、本発明の化合物の安定な同位体置換の程度と比較して、小さく、重要ではない。例えば、非特許文献4参照。
【0030】
水素によって通常占有される特定の位置における「同位体濃縮係数」という用語は、その位置における重水素の存在量とその位置における重水素の天然の存在量との間の比を指す。例えば、3500の同位体濃縮係数は、特定の位置での重水素の量が重水素の天然存在量の3500倍であるか、又は化合物の52.5%が特定の位置で重水素を有する(即ち、所与の位置で52.5%の重水素取り込み)ことを意味する。地球の海洋中の重水素の存在量は、6500個の水素原子中におよそ1個の原子である(約154ppm)。従って、重水素は地球上の海洋中のすべての天然水素原子の約0.015%(重量基準で0.030%)を占め、その存在量はある種類の天然水から別の種類の天然水にわずかに変化する。
【0031】
本特許出願の開示に係る重水素化化合物は、好ましくは、少なくとも6300の同位体濃縮係数によって、又は少なくとも95%の重水素化度によって特徴付けられ、より好ましくは、少なくとも6500の同位体濃縮係数によって、又は少なくとも98%の重水素化度によって特徴付けられる。
【0032】
本明細書に示される任意の式又は構造は、またさらなる同位体標識原子を含む重水素化化合物を表すことも意図される。本特許出願の開示に係る化合物に組み込むことができる追加の同位体の例としては、水素の同位体並びに炭素、窒素、酸素、リン、フッ素及び塩素の同位体、例えば、これらに限定されないが、H(トリチウム),11C,13C,14C,15N,18F,31P,32P,35S,36Cl及び125Iが挙げられる。本特許出願の開示はH、13C及び14Cのような放射性同位体が組み込まれた様々な同位体標識化合物をさらに含む。そのような同位体標識化合物は、代謝研究、反応動態研究、検出又は画像処理技術、例えば、ポジトロン放出断層撮影(PET)又は薬物もしくは基質組織分布アッセイ又は患者の放射性処置を含む単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)において有用であり得る。本特許出願の開示に係る同位体標識化合物及びそのプロドラッグは、容易に利用可能な同位体標識試薬を非同位体標識試薬の代りに用いることにより、以下に記載されるスキーム又は実施例及び調製において開示される手順を実施することによって一般に調製することができる。
【0033】
代替置換基のリストが、それらの原子価要件又は他の理由のために、特定の基を置換するために使用することができないメンバーを含む場合、当該リストは特定の基を置換するのに適したリストのメンバーのみを含むことを当業者の知識で読まれることが意図されることが、当業者によって理解されるであろう。
【0034】
本発明において使用される化合物は、薬学的に許容される塩又は溶媒和物の形態であり得る。「薬学的に許容される塩」という用語は、有機及び無機の塩基又は酸を含む、薬学的に許容される非毒性の塩基又は酸から調製される塩を指す。本発明の化合物が1つ以上の酸性又は塩基性基を含む場合、本発明は、また、それらの対応する薬学的又は毒物学的に許容される塩、特にそれらの薬学的に利用可能な塩を含む。従って、酸性基を含有する本発明の化合物は、本発明に従って、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩又はアンモニウム塩として使用することができる。そのような塩のより正確な例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、又はアンモニアもしくは有機アミンとの塩、例えば、エチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミンもしくはアミノ酸が挙げられる。1つ以上の塩基性基、すなわちプロトン化され得る基を含有する本発明の化合物は、無機酸又は有機酸とのそれらの付加塩の形態で本発明に従って使用することができる。好適な酸の例としては、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、シュウ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、ギ酸、プロピオン酸、ピバリン酸、ジエチル酢酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、フェニルプロピオン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、イソニコチン酸、クエン酸、アジピン酸及び当業者に公知の他の酸が挙げられる。本発明の化合物が分子中に酸性基及び塩基性基を同時に含む場合、本発明は、また、言及した塩形態に加えて、分子内塩又はベタイン(両性イオン)も含む。それぞれの塩は、当業者に公知の慣用の方法によって得ることができ、例えば、これらを、溶媒もしくは分散剤中で有機もしくは無機の酸もしくは塩基と接触させることによって、又は他の塩とのアニオン交換もしくはカチオン交換によって得ることができる。本発明は、また、本発明の化合物のすべての塩を含むものであり、それらは、低い生理学的適合性のために、薬剤での使用に直接適していないが、例えば、化学反応のための中間体として、又は薬学的に許容される塩の調製のために使用することが可能である。
【0035】
さらに、本特許出願の開示に係る化合物は、溶媒和物、例えば、溶媒和水、又は薬学的に許容される溶媒和物、例えば、アルコール、特にエタノールを含むもの形態で存在し得る。溶媒の化学量論的量又は非化学量論的量は、非共有結合分子間力によって結合される。溶媒が水である場合、「溶媒和物」は「水和物」である。「薬学的に許容される塩」はさらに「溶媒和物」を任意に含むことができることが理解される。
【0036】
置換パターンに応じて、本発明による化合物は、立体異性体形態で存在することができ、当該立体異性体形態は、像及び鏡像(エナンチオマー)として挙動するか、又は像及び鏡像(ジアステレオマー)として挙動しない。本発明は、エナンチオマー又はジアステレオマー及びそれらのそれぞれの混合物の両方に関する。ジアステレオマーと同様に、ラセミ体は、既知の方法で立体異性体的に均一な成分に分離することができる。「ジアステレオマー」という用語は、互いに鏡像ではなく、互いに重ね合わせることができない立体異性体を意味する。「エナンチオマー」という用語は、本発明化合物の個々の光学活性形態を意味し、当該光学活性形態は、少なくとも80%(即ち、少なくとも90%の1つのエナンチオマー及び最大で10%の他のエナンチオマー)、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも98%の光学純度又はエナンチオマー過剰率(当技術分野における通常の方法によって決定される)を有する。
【0037】
「有効量」という用語は、投与される場合、治療される障害、疾患、又は体調の症状の1つ以上の発症を予防するか、又はある程度緩和するのに十分な化合物の量を含むことを意味する。「有効量」という用語はまた、研究者、獣医師、医師、又は臨床医によって求められる、細胞、組織、系、動物、又はヒトの生物学的又は医学的応答を引き出すのに十分な化合物の量を指す。
【0038】
本発明の範囲は、一旦体内に入ると、式(I)の実際の活性化合物のみに変換される化合物(いわゆるプロドラッグ)を含む。
【0039】
本発明は、特に以下の実施形態に関する:
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、Rは、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、RはCH及びCDから選択され、そして最も好ましくは、RはCDである。
【0040】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、Rは、H、-CN、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びC1-4-アシルから選択され、当該C1-4-アルキル又はC1-4-アシルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、RはH、CH及びCDから選択され、そして最も好ましくは、RはHである。
【0041】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、Rは、H及びC1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、そして最も好ましくはRがHである。
【0042】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされた好ましい実施形態において、Rは、H及びC1-6-アルキルから選択され、当該C1-6-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、RはCH及びCDから選択され、そして最も好ましくは、RはCHである。
【0043】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、R及びRは、独立して、H、D及びC1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R及びRは両方ともH又は両方ともDであり、そして最も好ましくは、R及びRは両方ともHである。
【0044】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、Rは、H、-CN、-NO,C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置き換えられた1個以上の水素原子を有し、そして最も好ましくはRがHである。
【0045】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされる好ましい実施形態において、Rは、C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル、C3-4-シクロアルキル及びフルオロ-C3-4-シクロアルキルから選択され、当該C1-4-アルキル又はC3-4-シクロアルキルは重水素によって随意に置き換えられた1個以上の水素原子を有し、好ましくは、RはCH,CD及びシクロプロピルから選択され、そして最も好ましくは、RはCHである。
【0046】
本発明の特に好ましい実施形態は上記に定義した式(I)の化合物に関し、式中、
は、CH及びCDから選択され;
はCHであり;
,R,R,R及びRはHであり;
は、メチル及びシクロプロピルから選択される。
【0047】
上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたより好ましい実施形態において、Yは下記式で示される基であり、
【化6】
式中、
11は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置き換えられた1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R11はH、D及びFから選択され、より好ましくは、R11はH及びFから選択され、最も好ましくは、R11はHであり;
12は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、最も好ましくは、R12はHであり;
13は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、最も好ましくはR13はHであり;
14は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル及びフルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、最も好ましくは、R14はHであり;
21は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから選択され、前記C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R21はH、D、F及びOCDから選択され、より好ましくは、R21はH及びFから選択され、最も好ましくは、R21はFであり;
22は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R22はH、D及びFから選択され、より好ましくは、R22はH及びDから選択され、最も好ましくは、R22はHであり;
23は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R23はH、D及びFから選択され、より好ましくは、R23はH及びDから選択され、最も好ましくは、R23はHであり;
24は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素によって随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R24はH、D、F及びOCDから選択され、より好ましくは、R24はH及びFから選択され、最も好ましくは、R24はFであり;
25は、H、D、ハロゲン、CN、C1-4-アルキル、O-C1-4-アルキル、フルオロ-C1-4-アルキル及びO-フルオロ-C1-4-アルキルから選択され、当該C1-4-アルキルは重水素で随意に置換された1個以上の水素原子を有し、好ましくは、R25はH、D及びFから選択され、より好ましくは、R25はH及びDから選択され、最も好ましくは、R25はHである。
【0048】
上記又は下記実施形態のいずれかと組み合わせたさらにより好ましい実施形態において、Yは、下記式からなる群から選択される。
【化7】
好ましくは、Yは、下記から選択される。
【化8】
より好ましくは、Yは、下記から選択される。
【化9】
最も好ましくは、Yは、下記である。
【化10】
【0049】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わされるさらに別の好ましい実施形態において、基RはCDである。
【0050】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに別の好ましい実施形態では、基Xは下記である。
【化11】
【0051】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに別の好ましい実施形態では、基Xは下記である。
【化12】
【0052】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに別の好ましい実施形態では、基Xは下記である。
【化13】
好ましくは、基Xは下記である。
【化14】
最も好ましくは、基Xは下記である。
【化15】
【0053】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに別の好ましい実施形態では、基Xは下記である。
【化16】
好ましくは、基Xは下記である。
【化17】
【0054】
本発明の特に好ましい化合物は、以下の式で表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化18】
【0055】
本発明の特に好ましい化合物は、以下の式のうちの1つによって表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化19】
【0056】
本発明の特に好ましい化合物は、以下の式で表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化20】
【0057】
式(I)における上記又は下記の実施形態のいずれかと組み合わせたさらに別の代替的な好ましい実施形態において、基Xは下記であり、
【化21】
好ましくは、基Xは下記である。
【化22】
【0058】
本発明の特に代替的な好ましい化合物は、以下の式によって表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化23】
【0059】
本発明の特に代替的なより好ましい化合物は、以下の式によって表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化24】
【0060】
本発明の特に代替的な最も好ましい化合物は、以下の式によって表される化合物、又はその溶媒和物もしくは薬学的に許容される塩である。
【化25】
【0061】
本発明のさらなる態様は、上記の実施形態のいずれかの化合物の1つ以上を含む医薬製剤に関する。
【0062】
本発明のさらなる態様は、薬剤としての使用のための、上記実施形態のいずれかの化合物に関する。
【0063】
特に、本発明は、ウイルス感染に関連する疾患又は障害の治療又は予防に使用するための上記化合物に関する。
【0064】
より詳細には、本発明は、ヘルペスウイルス、特に単純ヘルペスウイルスによって引き起こされるウイルス感染に関連する疾患又は障害の治療又は予防に使用するための上記化合物に関する。
【0065】
さらなる態様において、本発明は、ウイルスによって引き起こされる神経変性疾患、例えば、特にウイルスによって引き起こされるアルツハイマー病、特に単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる神経変性疾患の治療又は予防における使用のための上記化合物に関する。
【0066】
さらなる態様において、本発明は、ヘルペス感染症、特に口唇ヘルペス、性器ヘルペス及びヘルペス関連角膜炎、アルツハイマー病、脳炎、肺炎、肝炎を呈する患者における単純ヘルペス感染症の治療及び予防における使用;免疫系が抑制された患者、例えばAIDS患者、癌患者、遺伝的免疫不全を有する患者、移植患者における使用;新生児及び乳児における使用;ヘルペス陽性患者、特に単純ヘルペス陽性患者、再発抑制(抑制療法)の患者における使用;又はアシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビルなどのヌクレオシド抗ウイルス療法に耐性である患者における使用、特にヘルペス陽性患者、特に単純ヘルペス陽性患者における使用、に関する。
【0067】
さらなる態様において、本発明は、好ましくは100μM未満、より好ましくは10μM未満のIC50、及び1μM未満の非常に特に好ましいIC50の本発明の実施例に記載されたようなベロ細胞に対する生体外活性選択性アッセイHSV-1におけるIC50価(HSV-1/ベロ)を特徴とする上記化合物に関する。
【0068】
さらなる態様において、本発明は、本発明の実施例に記載された生体内動物モデルにおいて、好ましくはHSV-1に対して10mg/kg未満、より好ましくはHSV-1に対して5mg/kg未満、非常に特に好ましくは、HSV-1に対して2mg/kg未満のED50のED50価を特徴とする上記化合物に関する。
【0069】
本発明に係る前記化合物は、ヒトならびに動物におけるそれぞれの障害及び疾患の予防及び治療における使用のために検討される。
【0070】
従って、本発明は、薬剤の調製のための本明細書に記載の前記化合物の使用に関する。
【0071】
さらに、本発明はヘルペスウイルス、例えば特に単純ヘルペスウイルスによって引き起こされるウイルス感染に関連する疾患又は障害などのウイルス感染に関連する疾患又は障害を治療する方法、ならびにウイルス、例えば特にアルツハイマー病によって引き起こされる神経変性疾患を治療する方法に関し、前記方法は、有効量の本明細書に記載の化合物又は前記化合物を含む組成物の有効量を、それを必要とするヒト又は動物に投与することを含む。
【0072】
実際の使用において、本発明において使用される前記化合物は、従来の薬学的配合技術に従って、薬学的担体との緊密な混合物中で活性成分として組み合わせることができる。前記担体は、投与、例えば、経口又は非経口(静脈内を含む)のために所望される調製物の形態に応じて、多種多様な形態をとり得る。経口剤形状のための組成物を調製する際には、例えば、懸濁液、エリキシル剤及び溶液などの経口液体製剤の場合には、例えば、水、グリコール、油、アルコール、香味剤、保存剤、着色剤など;又は例えば、粉末、硬質及び軟質カプセル及び錠剤などの経口固体製剤の場合にはデンプン、糖、微結晶性セルロース、希釈剤、造粒剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤などの担体のような、通常の医薬媒体のいずれかを使用することができ、液体製剤よりも固体経口製剤が好ましい。
【0073】
その投与の容易性のために、錠剤及びカプセル剤は最も有利な経口単位剤形を提供し、この場合に固体の薬物担体が明らかに使用される。必要に応じて、錠剤は、標準的な水性又は非水性技術によって被覆され得る。そのような組成物及び調製物は、少なくとも0.1パーセントの活性化合物を含有するべきである。これらの組成物中の活性化合物のパーセンテージは勿論変更することができ、都合のよいことには、単位の重量の約2.0パーセントから約60.0パーセントであり得る。そのような治療的に有用な組成物中の活性化合物の量は、有効な投薬量が得られるような量である。前記活性化合物は、また、鼻腔内に、例えば、液滴もしくはスプレーとして、又は点眼剤として投与され得る。
【0074】
錠剤、丸剤、カプセル剤などは、また、トラガントゴム、アカシア、トウモロコシデンプン又はゼラチンなどの結合剤;リン酸二カルシウムなどの賦形剤;コーンスターチ、ジャガイモデンプン、アルギン酸などの崩壊剤;ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤;及びショ糖、ラクトース又はサッカリンなどの甘味剤を含有し得る。単位剤形がカプセル剤である場合、それは、上記タイプの材料に加えて、脂肪油などの液体担体を含有し得る。
【0075】
他の様々な材料が、被覆材として又は投与単位の物理的形状を変更するために使用可能である。例えば、錠剤はシェラック、砂糖、又はこれらの両方で被覆可能である。シロップ剤又はエリキシル剤は、活性成分に加えて、甘味剤としてのスクロース、保存剤としてのメチルパラベン及びプロピルパラベン、色素、ならびにチェリー風味又はオレンジ風味などの香味料を含有し得る。
【0076】
本発明において使用される化合物は、また、非経口的に投与され得る。これらの活性化合物の溶液又は懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合された水中で調製されうる。また、分散剤は、グリセリン、液体ポリエチレングリコール及び油中のそれらの混合物において製造し得る。通常の保存及び使用の条件下で、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐために保存料を含む。
【0077】
注射用に適する薬剤形態は滅菌注射溶液又は分散液の即時調製物に対する滅菌水溶液又は分散液及び滅菌粉末を含む。すべての場合に、当該薬剤形態は滅菌され、そして容易に注入できる程度の液状でなければならない。このものは製造及び貯蔵の条件下で安定であり、そして微生物例えばバクテリア及び菌類の汚染作用に対して保存されなければならない。前記担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール及び液体ポリエチレングリコール)、それらの適切な混合物、及び植物油を含有する溶媒又は分散媒であり得る。
【0078】
哺乳動物、特にヒトに有効用量の本発明の化合物を提供するために、任意の適切な投与経路を用いることができる。例えば、経口、直腸、局所、非経口(静脈内を含む)、眼、肺、鼻などを用いることができる。剤形には、錠剤、トローチ、分散液、懸濁液、溶液、カプセル、クリーム、軟膏、エアロゾルなどが含まれる。好ましくは、本発明の化合物は、経口投与又は点眼剤として投与され、より好ましくは、本発明の化合物は経口投与される。
【0079】
使用される活性成分の有効用量は、援用される特定の化合物、投与様式、治療される状態、及び治療される状態の重症度に応じて変動し得る。そのような用量は、当業者によって容易に確認され得る。
【0080】
本発明の化合物は、また、さらなる活性成分、特に、本明細書に記載の障害又は疾患のいずれかの治療において有利な効果を示す1つ以上の活性成分と組み合わせて存在させてもよい。非常に特に、本発明の化合物は、ウイルス感染に関連する疾患又は障害(抗ウイルス活性化合物)、好ましくはヘルペスウイルスによって、特に単純ヘルペスウイルスによって引き起こされるウイルス感染に関連する疾患又は障害、従って、いわゆる併用療法に関連する疾患又は障害を治療するのに有効である少なくとも1つのさらなる活性物質と組み合わせて組成物中に存在する。ウイルス感染に関連する疾患又は障害(抗ウイルス活性化合物)の治療に有効である少なくとも1つのさらなる活性物質は、好ましくはアシクロビル、バラシクロビル、ペンシクロビル、ガンシクロビル、ファムシクロビル及びトリフルリジンなどのヌクレオシド系薬物、ならびにホスカルネット及びシドフォビルなどの化合物からなる群から選択される。
【0081】
従って、本発明は、さらに、本明細書に記載の化合物の1つ又は複数と、少なくとも1つの薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤及び/又は少なくとも1つのさらなる活性物質とを含み、ウイルス感染に関連する疾患又は障害(抗ウイルス活性化合物)の治療に有効な医薬組成物に関する。
【0082】
本発明のさらなる態様は、本明細書に記載の重水素化化合物の使用に関し、この重水素化化合物は、腫瘍、癌又は異常増殖を治療するための腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における、重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤として作用する。
【0083】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は、癌を治療するための腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における解毒剤としての使用のための医薬組成物であって、本明細書に記載の任意の実施形態で定義される少なくとも1つの重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤を含み、癌治療で使用される前記阻害剤に感受性の腫瘍溶解性ウイルスの活性を制御、調節、阻害又は遮断するように作用し、少なくとも1つの薬学的に許容される担体及び/又は賦形剤及び/又は抗ウイルス活性もしくは免疫調節化合物などの少なくとも1つのさらなる活性物質をさらに含み得、かつチェックポイント阻害剤を含み、そして癌の治療で使用される腫瘍溶解性ウイルス感染に関連する疾患又は障害を治療するのに有効である医薬組成物に関する。
【0084】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤又は薬学的組成物に関し、ここで治療される癌が固形癌であり、好ましくは癌疾患が、肝癌、肺癌、結腸癌、膵臓癌、腎臓癌、脳癌、黒色腫及び神経膠芽腫などから選択される。
【0085】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤又は医薬組成物に関し、ここで腫瘍溶解性ウイルスが腫瘍溶解性ヘルペスウイルスである。
【0086】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプリマーゼ阻害剤又は医薬組成物に関し、ここで癌療法は腫瘍溶解性ウイルスもしくは腫瘍溶解性ウイルス感染細胞及び/又はヘリカーゼプリマーゼ阻害剤又はそれを含む医薬組成物の注入、注射、腫瘍内注射又は局所もしくは経皮適用を含む。
【0087】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤又は医薬組成物に関し、ここで、腫瘍溶解性ウイルス又は腫瘍溶解性ウイルス感染細胞は、腫瘍溶解性野生型、臨床分離株又は実験用ヘルペスウイルス株、又は遺伝的に操作されたもしくは多変異され、場合により弱毒化又は追加免疫された腫瘍溶解性ヘルペスウイルスから選択される。
【0088】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は、本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプライマーゼ阻害剤又は医薬組成物のうちの少なくとも1つと、野生型、実験室株、臨床分離株、及び遺伝子操作された又は多変異腫瘍溶解性ウイルスから選択される少なくとも1つの腫瘍溶解性ウイルスとを含むキットに関する。
【0089】
本発明のこの追加の態様のさらなる実施形態は、本明細書に定義される癌の治療における使用のための前記キットに関する。
【0090】
本明細書に記載の腫瘍溶解性ウイルスとの併用療法における使用のための重水素化ヘリカーゼプリマーゼ阻害剤、医薬組成物又はキットは、以下の患者群のうちの1つ又は複数に適用することができる:乳児;再発又は腫瘍溶解性ウイルス排出を抑制するためのヘルペス陽性患者、特に腫瘍溶解性単純ヘルペス陽性患者;アシクロビル、ペンシクロビル、ファムシクロビル、ガンシクロビル、バラシクロビル及び/又はホスカルネットもしくはシドフォビルなどのヌクレオシド抗ウイルス療法に耐性がある患者、特にヘルペス陽性患者、特に腫瘍溶解性単純ヘルペス陽性患者。
【0091】
本明細書に詳述される重水素化化合物は、げっ歯類において、より高いミクロソーム安定性及び改善された生体内挙動を示すことが予想外に見出された。次の実施例の記載では、詳細が示される。
【実施例
【0092】
<実験部>
本発明の化合物は、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に概説されるように、適切な重水素化構成単位を使用することによって又は水素-重水素交換を介して調製することができる(例えば、非特許文献5;非特許文献6)。
【0093】
<略語>
DMF ジメチルホルムアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
dppf 1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン
EA 酢酸エチル
EDCI・HCl 1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩
FCC シリカゲルのフラッシュクロマトグラフィー
HATU 1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロリン酸
PE 石油エーテル
rt 室温(20±4℃)
THF テトラヒドロフラン
【0094】
<実験セクション>
(調製実施例P1):
[工程1]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)酢酸メチル(P1a)
【化26】
(4-ブロモフェニル)-酢酸メチルエステル(120g、524mmol)の1,4-ジオキサン(1.5L)及びHO(150mL)中の水溶液に、2,5-ジフルオロフェニルボロン酸(99.4g、629mmol)、Pd(dppf)Cl(12.0g、16.4mmol)及びNaCO(167g、1.57mol)を加えた。この混合物を100℃で1時間加熱し、次いで室温に冷却した。この有機層を分離し、濃縮し、FCC(PE:EA=15:1)により精製して、化合物P1aを黄色油状物として得た。
【0095】
[工程2]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)酢酸(P1)
【化27】
MeOH(800mL)及びTHF(200mL)中の化合物P1a(120g、458mmol)の溶液に、5N NaOH(100mL)を加えた。この混合物を室温で30分間撹拌し、真空下で濃縮し、2N HClでpH<7に調整し、そして沈殿物を濾過により回収し、水で洗浄し、真空オーブン(45℃)中で乾燥させて、化合物P1を白色固体として得た。
【0096】
(調製実施例P2/1~P2/6):
以下の実施例は、以下に示す適切な構成単位を使用して、調製実施例1について記載したのと同様に調製することができる。
【0097】
【表1】
【0098】
(実施例1)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-(S-メチルスルホンイミドイル)チアゾール-2-イル)アセトアミド:
[工程1]:1-ブロモプロパン-2-オン-1,1,3,3,3-d(1a)
【化28】
Br(2.5g、15mmol)をプロパン-2-オン-d(2.0g、31mmol)に室温で加え、そして2時間攪拌した後、すぐに次工程で使用した。
【0099】
[工程2]:N-メチル-4-(メチル-d)チアゾール-2-アミン(1b)
【化29】
EtOH(20mL)中の化合物1aの溶液に、1-メチルチオ尿素(1.4g、15ミリモル)を75℃で加え、そして2時間攪拌した後、飽和NaHCO溶液を加えた。この混合物をEA(2×20mL)で抽出した。この合わせた有機層をNaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、次いでFCC(EA:PE=1:1)で精製して、化合物1bを得た。
【0100】
[工程3]:5-ブロモ-N-メチル-4-(メチル-d)チアゾール-2-アミン(1c)
【化30】
CHCl(4mL)中の化合物1b(400mg、3.0mmol)の溶液に、Br(740mg、4.7mmol)を室温で加え、一晩攪拌した後、水(10mL)を加えた。飽和NaHCO液でpHを8に調整した。この混合物をCHCl(2×10mL)で抽出した。この合わせた有機層を塩水(10mL)で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過し、そして濃縮して、化合物1cを固形物として得た。
【0101】
[工程4]:N-メチル-4-(メチル-d)-5-(メチルチオ)チアゾール-2-アミン(1d)
【化31】
1,4-ジオキサン(4mL)中の化合物1c(350mg、1.6mmol)の溶液に、MeSNa(230mg、3.2mmol)を室温で加えた。一晩撹拌した後、この混合物を蒸発させて油状物を得、次いでこれをFCC(EA:PE=1:1)により精製して、化合物1dを黄色固体として得た。
【0102】
[工程5]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-(メチルチオ)チアゾール-2-イル)アセトアミド(1e)
【化32】
CHCl(2.0mL)中の化合物P1(140mg、0.56mmol)、HATU(322mg、0.85mmol)及びEtN(171mg、0.85mmol)の溶液に、室温で化合物1d(100mg、0.56mmol)を加えた。一晩撹拌した後、この混合物を水(2×2.5mL)で洗浄した。この有機層をNaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、そしてFCC(PE:EA=2:1)で精製して、化合物1eを白色固形物として得た。
【0103】
[工程6]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-(メチルスルフィニル)チアゾール-2-イル)アセトアミド(1f)
【化33】
CHCl(1mL)中の化合物1e(180mg、0.44ミリモル)の溶液に、メタクロロペルオキシ安息香酸(76mg、純度85%)を加えた。この混合物を室温で20分間撹拌し、CHClと5%炭酸ナトリウム溶液の間に分配した。有機相を塩水で洗浄し、NaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、FCC(PE:EA=1:2)で精製して、化合物1fを白色固形物として得た。
【0104】
[工程7]:tert-ブチル((2-(2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチルアセトアミド)-4-(メチル-d)チアゾール-5-イル)(メチル)(オキソ)-1-スルファニリデン)カルバメート(1g)
【化34】
MgO(57mg、1.40mmol)、カルバミン酸tert-ブチル(83mg、0.70mmol)、Rh(OAc)(15mg、33μmol)及び(ジアセトキシ)ヨードベンゼン(171mg、0.52mmol)を、CHCl(2.5mL)中の化合物1f(150mg、0.35mmol)の溶液に加えた。この混合物を40℃で一晩撹拌し、室温まで冷却し、セライトのパッドを通して濾過した。溶媒を真空下で除去し、粗生成物をFCC(PE:EA=1:1)により精製して、化合物1gを白色固体として得た。
【0105】
[工程8]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-(S-メチルスルホンイミドイル)チアゾール-2-イル)アセトアミド(1)
【化35】
環境温度で、化合物1g(150mg、0.28ミリモル)を、CHCl(8mL)中のトリフルオロ酢酸(2mL)の撹拌溶液に添加した。撹拌を1時間続け、次いで、この混合物を濃縮し、CHCl中で分解し、飽和NaHCO(2×20mL)で洗浄し、NaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、分取HPLCにより精製して、化合物1を白色固形物として得た。H-NMR(400MHz,DMSO-d)δ:7.57(d,J=7.2Hz,2H),7.46-7.35(m,4H),7.31-7.24(m,1H),4.69(s,1H),4.23(s,2H),3.72(s,3H),3.14(s,3H).MS:439.1[M+1]
【0106】
(実施例2)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-メチル-5-(S-(メチル-d)-スルホンイミドイル)チアゾール-2-イル)アセトアミド:
【化36】
実施例1に概説した経路を適用することによって、プロパン-2-オン-dの代わりにプロパン-2-オン(工程1)及びMeSNaの代わりにCDSNaを使用する(工程4)ことにより目的化合物を得ることができる。CDSNaは、市販のメタン-d-チオール(CAS:73142-81-1)又はメタンチオール-d(CAS:65871-23-0)から任意に調製することができる。
【0107】
(実施例3)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-(メチル-d)-N-(4-メチル-5-(S-メチルスルホンイミドイル)チアゾール-2-イル)アセトアミド:
【化37】
実施例1に概説される経路を適用することによって、プロパン-2-オン-dの代わりにプロパン-2-オン(工程1)及び1-メチルチオ尿素の代わりに1-(メチル-d)チオ尿素(工程2)を使用することにより、目的化合物を得ることができる。
【0108】
(実施例4/1~4/22):
適切な構成単位を用いて上記に概説した経路を適用することにより、特許文献3に記載されているように、そのエナンチオマーに分離することができる以下の標的化合物を得ることができる。
【0109】
【表2】

【0110】
(実施例5)‐2-([1,1’-ビフェニル]-4-イル-2’,3’,4’,5’,6’-d)-N-メチル-N-(4-メチル-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド:
[工程1]:2-(4-ブロモフェニル)-N-メチル-N-(4-メチル-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド(5a)
【化38】
DMF(50mL)中の2-(4-ブロモフェニル)酢酸(5.00g、23.3mmol)の混合物に、4-メチル-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-スルホンアミド(4.80g、23.2mmol)、HOBt(3.50g、25.7mmol)及びEDCI・HCl(4.90g、25.7mmol)を加えた。この混合物を室温で3時間撹拌し、水(500mL)に注ぎ、濾過した。濾過されたケーキを乾燥させて、中間体5aを白色固体として得た。
【0111】
[工程2]:2-([1,1’-ビフェニル]-4-イル-2’,3’,4’,5’,6’-d)-N-メチル-N-(4-メチル-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド(5)
【化39】
ジオキサン/HO(5mL/0.5mL)中の化合物5a(202mg、0.50mmol)の混合物に、(フェニル-d)ボロン酸(64mg、0.50mmol)、Pd(dppf)Cl(18mg)及びKCO(138mg、1.00mmol)を添加し、そしてこの混合物を90℃で4時間撹拌し、室温に冷却し、水(50mL)に注ぎ、EA(3×30mL)で抽出した。この合わせた有機層を塩水(30mL)で洗浄し、NaSOで乾燥させ、濾過し、濃縮し、分取HPLCにより精製して、化合物5を白色固形物として得た。H-NMR(400MHz,DMSO-d)δ:7.65(d,J=7.6Hz,4H),7.36(d,J=8.4Hz,2H),4.20(s,2H),3.71(s,3H),2.48(s,3H).MS:407.1[M+1]
【0112】
(実施例5/1~5/2):
以下の実施例を、適切な構成単位を使用して、実施例5について記載したのと同様に調製した。
【0113】
【表3】
【0114】
(実施例6)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド:
[工程1]:4-(メチル-d)チアゾール-2-アミン(6a)
【化40】
Br(7.0g、44ミリモル)をプロパン-2-オン-d(10mL)に室温で加え、5時間攪拌した。この溶液をEtOH(50mL)で希釈し、75℃に加熱した。次いで、チオ尿素(3.30g、43.4ミリモル)を加え、この混合物を2時間撹拌し、飽和NaHCO溶液で希釈し、そしてEA(50mL)で2回抽出した。この合わせた有機層をNaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、そしてFCC(PE:EA=1:1)で精製して、化合物6aを黄色油状物として得た。
【0115】
[工程2]:2-クロロ-4-(メチル-d)チアゾール(6b)
【化41】
亜硝酸イソアミル(2.40g、20.5mmol)を、化合物6a(1.60g、13.7mmol)及び塩化銅(II)二水和物(2.30g、13.5mmol)のMeCN(10mL)溶液に0℃で加えた。この混合物を室温で16時間撹拌し、真空下で濃縮し、CHClに再溶解し、セライトを通して濾過した。濾液を濃縮し、FCC(PE:EA=15:1)により精製して、化合物6bを黄色油状物として得た。
【0116】
[工程3]:2-クロロ-4-(メチル-d)チアゾール-5-スルホニルクロリド(6c)
【化42】
化合物6b(0.80mg、5.86mmol)に、塩化チオニル(1.1mL、15mmol)及びクロロスルホン酸(3.9mL、59mmol)の溶液を滴下した。この混合物を120℃で一晩撹拌し、室温まで冷却し、氷水で急冷し、CHCl(3×30mL)で抽出した。この合わせた有機層をNaSOで乾燥し、濾過し、濃縮し、FCC(PE:EA=10:1)で精製して、化合物6cを黄色油状物として得た。
【0117】
[工程4]:2-クロロ-4-(メチル-d)チアゾール-5-スルホンアミド(6d)
【化43】
化合物6c(0.71g、3.0ミリモル)をTHF中NH・HO(5mL)で処理し、出発物質の摂取が起こるまで撹拌し(TLCモニタリング)、濃縮し、FCC(PE:EA=2:1)で精製して、化合物6dを灰白色の固形物として得た。
【0118】
[工程5]:4-(メチル-d)-2-(メチルアミノ)チアゾール-5-スルホンアミド(6e)
【化44】
化合物6d(608mg、2.82ミリモル)をMeCNに溶解し、出発物質の摂取(TLCモニタリング)まで50℃でHNMe(THF中2M、3.3当量)によって処理した。この溶液を室温に冷却し、濃縮して残渣を得、それをHOで処理した。生成した固体をろ過により回収し、真空乾燥して化合物6eを灰白色の固体として得た。
【0119】
[工程6]:2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-(メチル-d)-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド(6)
【化45】
化合物P1(100mg、476μmol)を乾燥DMFに溶解し、室温で10分間HOBt(54mg、0.40μmol)によって処理し、続いて化合物6e(92mg、0.44mmol)及びEDCI・HCl(84mg、0.44mmol)を加えた。この混合物を窒素雰囲気下室温で一晩撹拌し、濃縮し、逆相クロマトグラフィー(C18)(MeCN:0.5%NHHCO=0-100%)で精製して、化合物6を白色固形物として得た。H-NMR(400MHz,DMSO-d)δ:7.66(s,2H),7.57(d,J=7.2Hz,2H),7.49-7.34(m,4H),7.32-7.20(m,1H),4.23(s,2H),3.72(s,3H).MS:441.1[M+1]
【0120】
(実施例6/1~6/2):
以下の実施例を適切な構成単位を使用して実施例6について記載したのと同様に調製した。
【0121】
【表4】
【0122】
(比較例6/3):
適切な構成単位を使用することによって実施例6について上に概説したような経路を適用することにより以下の標的化合物を得ることができる。
【0123】
【表5】
【0124】
(実施例7)-2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-メチル-N-(4-メチル-5-(N-(メチル-d3)スルファモイル)チアゾール-2-イル)アセトアミド:
【化46】
実施例6に概説される経路を適用することにより、NH・HO(工程4)の代わりに(メチル-d)アミン(CAS:5581-55-5)を使用することによって目的化合物を得ることができる。
【0125】
(実施例8)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-(メチル-d3)-N-(4-メチル-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド:
【化47】
実施例6に概説される経路を適用することにより、HNMe(工程5)の代わりに(メチル-d)アミン(CAS:5581-55-5)を使用することによって目的化合物を得ることができる。
【0126】
(実施例9/1~9/2):
適切な構成単位を用いて上記で概説したような経路を適用することにより、以下の標的化合物を得ることができる。
【0127】
【表6】
【0128】
(実施例10)‐2-(2’,5’-ジフルオロ-[1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-(メチル-d3)-N-(4-メチル-5-スルファモイルチアゾール-2-イル)アセトアミド:
【化48】
適切な構成単位を用いて特許文献2(実施例3)に概説される経路を適用することによって、標的化合物を得ることができる。
【0129】
(実施例1のクロマトグラフィー分離及び2つの異性体の単離):
実施例化合物1の粗生成物(300mg)をキラル-HPLCにより分離して、以下のカラム及び条件を用いることにより、それぞれ、エナンチオマー4/2及びエナンチオマー4/1を白色固体として得た:
機器:SFC-150(Thar、Waters)
カラム:OJ 20250mm,10μm(ダイセル)
カラム温度:35℃
移動相:CO/2-プロパノール(55:45)
流量:100g/min
背圧:100bar
検出波長:214nm
サイクルタイム:3.7分
試料溶液:メタノール40mLに溶解した300mg
注射液量:1.0mL
【0130】
実施例4/2は、最初に溶出するエナンチオマーである。当該エナンチオマーは、[α]19.8 Hg365nm=-22.8±0.3°(c=0.434g/100mL、MeOH)の負の比旋光度によってさらに特徴付けられる。H-NMR(DMSO-d,400MHz)δ:δ7.57(dd,J=8.0,1.6Hz,2H),7.45-7.35(m,4H),7.30-7.24(m,1H),4.70(brs,1H),4.24(s,2H),3.72(s,3H),3.14(s,3H).MS実測値:439.1[M+H]
【0131】
実施例4/1は、第2の溶出エナンチオマーである。当該エナンチオマーは[α]19.8 Hg365nmの正の比旋光度によってさらに特徴付けられ、そしてH-NMR及びMSは実施例4/2と同一である。
【0132】
<生体外活性>
(ウイルスと細胞):
(HSV-1感染ベロ)、(HSV-2感染ベロ)及び(HSV-1(ACV耐性)感染ベロ)の生体外活性を、特許文献2及び特許文献3に概説されているように試験した。いくつかの化合物の結果が以下の実施表1(表7)に纏められている。比較のために、本特許出願の実施例1に対する非重水素化マッチドペアを試験した。この試験は以下で比較例C7と称され、特許文献2の実施例7に対応する。
【0133】
(比較例C7)/特許文献2の(非重水素化)実施例7:
【化49】
【0134】
【表7】
【0135】
(ミクロソーム安定性):
実施例1及び非重水素化マッチドペア(比較例C7/特許文献2の実施例7)を、3つの異なるバッチのヒト肝ミクロソーム(HLM)を用いて60分間インキュベートした。ヒドロキシル化代謝産物への変換をLC-MSによってモニターした。
【0136】
【表8】
【0137】
代謝弱点(チアゾールコアの4-メチルを4-メチル-dに向かわせる)を重水素化することにより、ヒドロキシル化代謝産物への転換は、非重水素化マッチドペア(比較例C7)の3.07±1.00%と比較して、~27から0.11±0.03%の係数で減少した。
【0138】
(ミクロソームのさらなる安定性):
ヒドロキシ代謝産物の形成は、ラットミクロソーム(SDラット、雄)又はヒトミクロソーム(性混在)中で60分間アドメスコープにおいてインキュベートした時、対応する非重水素化マッチドペアに対するピーク面積比によって定量した。ピーク信号(ポジティブモード)を、Phenomenex Kinetex Biphenyl(2.1×50mm、1.7μm粒径10Å)カラム上でWaters Acquity UPLC+Thermo Q-Exactive Focus Orbitrap MSを用いて定量した。データは以下の通りである。
【0139】
【表9】
【0140】
重水素化されたユートメリック(eutomeric)エナンチオマー実施例4/2のヒドロキシル化された代謝産物及び非重水素化マッチドペア(比較例C4/2/特許文献2の実施例7(-))の検出は、上記のラセミ体(実施例1対比較例C7)で示されたのと同様に、代謝弱点(チアゾールコアでの4-メチル)の酸化に向かう重水素化された類似体のミクロソーム安定性の劇的な改善を再度示した。非重水素化マッチドペア(比較例C6)と比較して、実施例6について同様の傾向を観察することができる。
【0141】
(マウスにおける薬物動態):
本発明の重水素化化合物実施例4/2の薬物動態は、経口又は静脈内カセット投与後の3匹の雄マウス(系統C57Bl/6N、体重21~26g)において評価され、IM-250としても知られる非重水素化マッチドペア(比較例C4/2/特許文献2の実施例7(-))と比較して経口生物学的利用能を評価した(Sci. Transl. Med. 2021; 13: eabf8668参照)。この化合物を5%DMSO及び95%水溶液中で製剤化し、p.o.(経口投与)についてはHPMC(0.5%)、及びi.p.(腹腔内投与)については10%DMSO及び90%血清とした。各指定された時点(p.o.については投与後0.25、0.5、1、2、4、8及び24時間;i.v.(静脈注射)については投与後0.083、0.25、0.5、1、4、8及び24時間)で、眼球後静脈叢からの血漿をLC-MSによって分析した。得られたデータは以下の通りである(NC=計算不可):
【0142】
【表10】
【0143】
比較例C4/2による非重水素化化合物自体は、すでに非常に良好な生物学的利用能及びAUCを有する。選択的重水素化(実施例4/2)によって、この生物学的利用能及びAUCをさらに改善することができ、これは、実施例4/2についてのクリアランス(CL)の減少とともに示されるように、代謝の減少に起因し得る。これは、驚くべきことに、改善された生物学的利用能、改善されたAUC及び改善された代謝安定性を含む、改善された安定性を有する化合物を提供する。改善された安定性は非重水素化誘導体と比較して、より長い投与間隔(例えば、週1回)を可能にするか、又はより低い用量の使用が同様の治療的利益をもたらすことを可能にするので、抑制療法にとって有益であり、より便利である。
【0144】
100%を超える生物学的利用能は一般的な現象である。100%を超えるF%は静脈内及び経口投与後のクリアランスが直線的であり、変化しないと仮定して、静脈内投与に対するものである。消失速度は吸収速度によって制御され、そして可能性のある理由は、持続的な薬物放出、遅延された化合物のクリアランス、又は体循環の再入であり得る。
【0145】
(マウスにおける脳曝露と脳対血漿比):
実施例6ならびに実施例4/2及びその非重水素化マッチドペア(比較例C4/2/特許文献2の実施例7(-))についての脳及び血漿曝露を、3匹のマウス(系統C57Bl/6N、体重21~26g)において、4時間後にそれぞれ10mg/kgの用量で経口カセット投与後に評価した。化合物を5%DMSO及び95%水溶液HPMC(0.5%)中で製剤化した。全ての動物は正常な挙動を示し、投与後に観察された臨床的徴候はなかった。眼球後部静脈叢からの血漿をLC-MSによって分析した。得られたデータは以下の通りである。
【0146】
【表11】
【0147】
薬物動態実験において前に示されたように、4時間後に、重水素化実施例4/2において、非重水素化マッチドペア(比較例C4/2/特許文献2の実施例7(-))と比較して、血漿及び脳曝露が50%を超えて改善される。一級スルホンアミドを含有する実施例6は脳曝露を示し、これは、実施例4/2のように、一級スルホンアミドをメチル化スルホキシミン部分で置き換えることによってさらに改善することができる。高い脳曝露は、例えばヘルペス脳炎及びアルツハイマー病の治療に有益である。
【国際調査報告】