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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】安定したガラス化方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/00 20060101AFI20231208BHJP
   A01N 1/02 20060101ALI20231208BHJP
   C12N 5/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C12N5/00
A01N1/02
C12N5/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529016
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-10
(86)【国際出願番号】 US2021060164
(87)【国際公開番号】W WO2022109315
(87)【国際公開日】2022-05-27
(31)【優先権主張番号】63/115,936
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】523177953
【氏名又は名称】アップカラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】モハンティ、プラバンス
(72)【発明者】
【氏名】レッツラフ、メアリー
(72)【発明者】
【氏名】ブロンサート、ローラ
(72)【発明者】
【氏名】タバナー、ヨランダ
(72)【発明者】
【氏名】オー、チーラン
(72)【発明者】
【氏名】コネル、アニメシュ
【テーマコード(参考)】
4B065
4H011
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD09
4B065BD12
4B065BD36
4B065CA44
4H011CA05
4H011CB04
4H011CC03
4H011CD06
(57)【要約】
非極低温での生物材料のガラス化のための方法が開示された。該方法は、乾燥チャンバー内の毛細管基質ネットワーク上に生体試料とガラス化培地を提供し、熱エネルギーと低気圧の両方を提供して、大気圧の低下の結果としてガラス化培地または生体試料が極低温または沸騰を示すことなく、迅速なガラス化を提供することを含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温を超える温度での1つ以上の生物材料のガラス化のためのプロセスであって、
a) 生体試料とガラス化培地を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内で毛細管ネットワークを含む基質上に重ねること;
b) 前記乾燥チャンバー内の気圧を低減させること;
c) 表面から前記ガラス化混合物に、前記ガラス化混合物が凍結状態に陥るのを防止するのに十分な熱エネルギーを提供すること;及び
d) 前記ガラス化混合物がガラス状態になるまで、該ガラス化混合物を毛細管現象によって乾燥させること
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記毛細管ネットワークが、前記基質の表面に沿った輪郭によって提供される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記基質が、前記乾燥チャンバーの壁であるか、または前記乾燥チャンバーの壁と関連付けられる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが、底部固体支持基質と接触する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記ガラス化混合物のガラス化が、30分間未満で起こる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
前記ガラス化混合物のガラス化が、10分間未満で起こる、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記熱エネルギーが、前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記大気圧が、約0.9~約0.005 atmの値まで低減される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記大気圧が、約0.004 atmまで低減される、請求項8に記載のプロセス。
【請求項10】
前記提供される熱エネルギーが、ガラス化中に前記ガラス化混合物内の結晶化を防止するのに十分である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記提供される熱エネルギーが、前記ガラス化中に生体試料を約0~約40℃の温度に維持するのに十分である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ガラス化培地が、トレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
前記毛細管ネットワークが、親水性である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記毛細管ネットワークが、近接した毛細管チャネルを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項15】
前記生体試料が、核酸、アミノ酸、ポリヌクレオチド鎖、ペプチド、タンパク質、及び抗体からなる群から選択される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ガラス化混合物が、10 μL 以下の容積で前記基質上に重ねられる、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記生体試料の総容積が、0.1~10 μLである、請求項16に記載のプロセス。
【請求項18】
前記生体試料が、1 μg以下の量で前記ガラス化混合物に存在する、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記生体試料の総質量が、5μg以下、任意選択で1 μg未満である、請求項18に記載のプロセス。
【請求項20】
前記生体試料の総質量が、0.1~1 μgである、請求項19に記載のプロセス。
【請求項21】
前記ガラス化混合物が、第2材料をさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記第2材料が、前記生体試料に対する試薬である、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記ガラス化混合物が、第1試薬材料をさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記ガラス化混合物が、第2試薬材料をさらに含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
前記第1試薬材料が、酵素またはその活性断片を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項26】
前記第2試薬材料が、前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記第1試薬材料が、第1抗体またはその活性断片を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項28】
前記第2試薬材料が、抗原または第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が、前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、請求項27に記載のプロセス。
【請求項29】
前記第1試薬材料が、ポリヌクレオチド鎖を含む、請求項24に記載のプロセス。
【請求項30】
前記第2試薬材料が、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項31】
前記ガラス化混合物が、酵素をさらに含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項32】
前記ポリヌクレオチド鎖が、発現ベクターを含む、請求項29に記載のプロセス。
【請求項33】
前記第2試薬材料が、酵素を含む、請求項32に記載のプロセス。
【請求項34】
前記生体試料が、前記基質に結合する、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項35】
前記ガラス化混合物が、前記基質に結合していない少なくとも1つの生体試料をさらに含む、請求項34に記載のプロセス。
【請求項36】
前記ガラス化混合物が、緩衝剤をさらに含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項37】
工程d)の後に前記基質上に第2ガラス化混合物を重ねること及び工程b)、c)、及びd)を繰り返すことをさらに含み、前記第2のガラス化混合物が前記毛細管基質上に第2試薬混合物及びガラス化培地を含み、前記第2試薬混合物が第2試薬材料を含む、請求項1~15のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項38】
請求項1~15または37のいずれか1項に記載のプロセスによって製作された2つ以上の材料のガラス化された混合物。
【請求項39】
前記生体試料及び第2試薬材料を含む、請求項38に記載の混合物。
【請求項40】
前記第2生体試料をさらに含む、請求項39に記載の混合物。
【請求項41】
前記生体試料が、酵素またはその活性断片を含む、請求項38に記載の混合物。
【請求項42】
前記第2試薬材料が、前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、請求項41に記載の混合物。
【請求項43】
前記生体試料が、第1抗体またはその活性断片を含む、請求項39に記載の混合物。
【請求項44】
前記第2試薬材料が、第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が、前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、請求項43に記載の混合物。
【請求項45】
前記生物材料が、ポリヌクレオチド鎖を含む、請求項39に記載の混合物。
【請求項46】
前記第2試薬材料が、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、請求項45に記載の混合物。
【請求項47】
前記混合物が、酵素をさらに含む、請求項46に記載の混合物。
【請求項48】
前記生物材料が、第2ポリヌクレオチド鎖をさらに含む、請求項45に記載の混合物。
【請求項49】
前記ポリヌクレオチド鎖が、発現ベクターを含む、請求項45に記載の混合物。
【請求項50】
前記第2試薬材料が、酵素を含む、請求項45に記載の混合物。
【請求項51】
前記生物材料または第2試薬が、前記基質に結合している、請求項39に記載の混合物。
【請求項52】
前記第1または第2試薬材料が、前記毛細管基質に共有結合している、請求項51に記載の混合物。
【請求項53】
前記混合物が、緩衝剤をさらに含む、請求項39に記載の混合物。
【請求項54】
前記生体試料が、5 μg以下の量で前記ガラス化混合物中に存在する、請求項38に記載の混合物。
【請求項55】
前記生体試料が、1 μg以下の量で前記ガラス化混合物中に存在する、請求項54に記載の混合物。
【請求項56】
前記生体試料が、0.1~1 μgの量で前記ガラス化混合物中に存在する、請求項54に記載の混合物。
【請求項57】
前記生体試料の総容積が、0.1~10 μLである、請求項56に記載の混合物。
【請求項58】
前記ガラス化混合物の容積が、10 μL以下である、請求項38に記載の混合物。
【請求項59】
請求項38に記載の試薬材料をある容積の溶液で再構成すること及びそこに試験材料を添加することを含む、アッセイであって、任意選択で、前記溶液が前記試験材料を含む、前記アッセイ。
【請求項60】
請求項1~15または37のいずれか1項に記載のプロセスによって製作されたガラス化された材料を収納する1つ以上の基質を含む、キット。
【請求項61】
第1毛細管基質が、前記生物材料を含み、第2毛細管基質が前記第2試薬材料を含む、請求項60に記載のキット。
【請求項62】
前記ガラス化された材料が、酵素またはその活性断片を含む、請求項61に記載のキット。
【請求項63】
前記第2試薬材料が、前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、請求項62に記載のキット。
【請求項64】
前記ガラス化された材料が、第1抗体またはその活性断片を含む、請求項61に記載のキット。
【請求項65】
前記第2試薬材料が、第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が、前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、請求項64に記載のキット。
【請求項66】
前記ガラス化された材料が、1つ以上のポリヌクレオチド鎖を含む、請求項61に記載のキット。
【請求項67】
前記第2試薬材料が、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、請求項66に記載のキット。
【請求項68】
ガラス化された酵素を含む第3毛細管基質をさらに含む、請求項67に記載のキット。
【請求項69】
前記ポリヌクレオチド鎖が、発現ベクターを含む、請求項66に記載のキット。
【請求項70】
前記生物材料が、前記毛細管基質に結合している、請求項60に記載のキット。
【請求項71】
前記生物材料が、前記毛細管基質に共有結合している、請求項70に記載のキット。
【請求項72】
前記生体試料が、5 μg以下の総質量で前記毛細管基質中にガラス化される、請求項60に記載のキット。
【請求項73】
前記生体試料が、1 μg以下の総質量で前記毛細管基質中に存在する、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
前記生体試料が、0.1~1 μgの総質量で前記毛細管基質中にガラス化される、請求項72に記載のキット。
【請求項75】
前記ガラス化混合物の総容積が、0.1~10 μLである、請求項60に記載のキット。
【請求項76】
前記ガラス化混合物の総容積が、10 μL以下である、請求項60に記載のキット。


【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2020年11月19日に出願された米国仮特許出願63/115,936に対する優先権を主張する。その内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【分野】
【0002】
本開示は、安定した周囲温度で貯蔵できる生物材料のガラス化及び調製のための方法に関する。
【背景】
【0003】
ガラス化は、液体から非晶質のガラス状態に直接遷移するプロセスである。ガラス化プロセスは、生物材料を貯蔵するために適用されることが多く、従来では、意図的に、または減圧への曝露により生物材料を極低温に冷却することが含まれる。極低温では、ガラス化技術は、従来の冷凍貯蔵中に形成されることが知られる氷結晶の形成により、極低温貯蔵で通常起こるいくつかの有害な影響にさらされ得る。この問題に対処するために、氷核生成を避けるために極低温保護剤(CPA)が高濃度で使用される。より低い濃度のCPAが望まれるが、このようなより低い濃度での貯蔵を達成するには、超高速の熱伝達が必要である。
【0004】
熱伝達率は、試料の容積を減らすか、冷却速度を高めることによって増加できる。ガラス化する容積を最小限に抑えるために細いストローや極薄フィルムを使用する等、冷却速度を高めるために多くの技術が利用されてきた。
【0005】
周囲温度での無水ガラス化は、生物材料を貯蔵するための代替的な戦略である。自然界では、様々な生物が極度の脱水状態でも生き残ることができるが、これは多くの場合、細胞内空間にトレハロースやスクロース等のガラス形成糖が大量に(乾燥重量の20%程)蓄積することと相関している。このような「ガラス形成」糖は、乾燥による有害な影響から保護するために、従来では、細胞膜の両側に存在する必要があった。乾燥技術は、ガラス質マトリックス内での材料の生化学プロセスを大幅に制限し、または停止させる。無水ガラス化によりタンパク質等の多くの生体材料をガラス化することに成功したにもかかわらず、細胞材料へのより広範な応用には、細胞自体の乾燥耐性を高めることが、依然として必要である。
【0006】
乾燥耐性を高める方法には、トレハロース、グリセロール、プルラン、及びスクロースを含有する改良されたガラス化培地の利用が含まれる。細胞に保護剤を負荷する改良された方法は有用であるが、乾燥中の細胞損傷を最小限に抑える技術を開発する必要もある。傷害や分解は、乾燥プロセス中の浸透圧ストレスへの長時間の曝露に対する細胞の一般的な感受性の高さが原因で発生し得る。浸透圧ストレスは、トレハロースのような保護糖が存在する場合でも、比較的高い水分含有量で細胞死を引き起こすことができる。
【0007】
細胞を乾燥させる最も一般的なアプローチには、浮遊細胞を含む固着液滴中での乾燥が含まれる。しかし、固着液滴の蒸発乾燥を使用した乾燥は、本質的に遅く、不均一な性質がある。ガラス形成溶液中で細胞が乾燥すると、試料の液体/蒸気の界面にガラス質の表皮が形成される。このガラス質の表皮は、試料の乾燥を遅らせ、最終的には一定の乾燥レベルを超えて乾燥を防ぎ、試料全体にわたる水分含有量の空間的な著しい不均一性を引き起こす。その結果、ガラス質の表皮の底部部分的に乾燥した試料に閉じ込められた細胞は、ガラス化せず、高い分子移動度により分解し得る。
【0008】
試料全体にわたって非常に低くで均一な最終水分レベルを達成するための迅速かつ実用的な乾燥技術の開発により、無水ガラス化技術の欠点が克服され得る。乾燥貯蔵は、ガラス化溶液が細胞外空間で濃縮される際に遭遇する累積的な化学ストレスによる生体材料の分解により、長期貯蔵において大きな制限を受ける。
【0009】
従来の乾燥技術では、真空を適用して、ガラス転移温度未満の温度で細胞を急速に乾燥させていた。しかし、真空を適用すると、生体試料の温度が大幅に低下し、試料に氷の結晶が形成され、細胞の損傷につながる可能性がある。さらに、真空によってもたらされる大気の変化は、その中の材料の沸点にも影響を及ぼし、材料を損傷するさらなるリスクをもたらす。本開示は、非極低温での生物材料の長期貯蔵を大幅に促進するとともに、従来の極低温ガラス化及び貯蔵技術に伴う課題を克服するために、試料内の凍結を回避し、溶液が沸騰することなく、ガラス化生体材料の生存率が改善された高速乾燥方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図面は、必ずしも縮尺どおりではなく、特定の成分の詳細を示すために一部の特徴が誇張または最小化されている場合がある。従って、本明細書に開示される特定の構造及び機能の詳細は、限定として解釈されるべきではなく、本開示を様々に利用することを当業者に教示するための代表的な基礎としてのみ解釈されるべきである。例示的な態様は、詳細な説明及び添付の図面からより完全に理解されるであろう。
【0011】
図1Aは、毛細管力が粘性力よりも著しく高い上部に放置された液体20の薄膜を有する親水性ベッド10を示す。これにより、乾燥できる液体21の量が制限される。
【0012】
図1Bは、輪郭を付けられた毛細管ベッドに成形された基質を示し、ここで、乾燥は、輪郭30のピークで優先的に起こることができ、乾燥中のトラフからピークへの毛細管現象によって、全体のガラス化の割合が増加し、図1Aの場合よりも、大量の試料のガラス化が可能になる。
【0013】
図1Cは、輪郭を付けられた毛細管40内に過剰な流体がある場合に、表面模様を満たしている液体を示し、その結果、減圧下で気泡の核生成と沸騰が支配的になり、敏感な分子の損傷につながり得る。
【0014】
図2Aは、ガラス化の一般的な概略図を示す。極低温ガラス化は、液体(生物学的物質またはその他の物質を含む)を、凍結ゾーンを迂回してガラス転移温度以下まで急速に冷却することによって歴史的に達成される(経路1-2-3)。該材料の総質量は、このプロセスを通じて保たれる。同様に、材料のガラス化は、結晶化プロセスを迂回して急速に乾燥させることによって達成することができる(経路1-5-6)。この場合、大幅な質量損失(主に水)が発生する。大量の材料の極低温ガラス化は、熱伝達の制限により困難な場合があるため、一般に、大きな表面積/容積比が得られるバイアルの中で行われる。同様に、表面積/容積比が大きい場合、特に減圧下では迅速な乾燥が促進される。圧力を下げると液体の沸点も低下するため、敏感な生体分子や材料をガラス化する際に液体が望ましくない沸騰を起こすリスクがある。経路1-4-6は、本開示の概略図を示し、ここで、熱及び低気圧の適用により、凍結温度への曝露を回避して迅速なガラス化が可能になる。
【0015】
図2Bは、目標試料温度T1における水の三重点の概略図を示す。これは、三重点を回避し、これによりガラス化中の凍結を回避する。
【0016】
図3は、真空下で大量の液体の迅速な乾燥を促進してガラスを形成するための例示的な毛細管基質(膜)を示す
【0017】
図4について、(A)は、過剰な液体が毛細管膜の表面に蓄積すると、毛細管効果が実現されず、真空下でも蓄積した液体内で沸騰が発生し得る望ましくないことを示す。毛細管効果を実現するには、液体を膜の細孔内に収納してメニスカスを形成してもよい。起伏のある表面上のこの局在化は、類似であり、材料のピークとトラフによって形作られる。毛細管界面での液体割合(ξ)、即ち、液体が占める面積(2次元概略図)は、毛細管蒸発の最適化を可能にするパラメーターの1つである。毛細管に駆動された蒸発は、液体内の粘性圧力降下が液体と蒸気の界面での最大毛細管圧力を超えると発生する。前記液体割合ξは、バルクから液体と蒸気の界面までの全体的な圧力降下に関係する。大気圧下で熱流束が加えられていない場合(B)、液体は広い面積を覆い、液体割合ξ→1になる。これらの条件下では、毛細管に駆動された蒸発の速度は最小限になる。(C)に示すように周囲圧力を下げると、ξが減少し、そして、蒸発の速度が増加する。しかし、ある閾値の圧力降下を超えると、望ましくない核形成沸騰が発生し得る。(D)に示すような適用熱流束 Q も蒸発の速度を高めることができるが、望ましくない膜沸騰のリスクがある。(E)に示すように、毛細管メニスカスの表面から熱流束を適用すると、膜沸騰のリスクがなくなる。(F)に示すように、逆勾配方式で大きな
とQを適用すると、液体メニスカスが細孔に閉じ込められ、即ち、液体割合ξ << 1 (例えば、~0.25)となり、沸騰を避けながら最大の蒸発速度が得られる。従って、表面とバルク液体との間の温度勾配を維持すると、(F)に示すように毛細管蒸発が起こり、急速な蒸発が達成される。液面が毛細管膜内に後退しても、圧力勾配と温度勾配が維持されている限り、毛細管蒸発現象が依然として実現される。
【0018】
図5の(A)は、4% BSA、15% トレハロース二水和物、0.75% グリセロール、2% Tween-20、及び水を含有する液体を負荷した、異なる形状のガラス膜(毛細管基質)の例示的な結果を示す。膜1 mm2あたりの液体負荷量は、全ての場合で0.316 mlに保たれた。ケース1では、膜を直径0.25インチの円に切り、それぞれに10 μlの液体を負荷した。480 mlの液体を含有する合計48個の試料を、真空チャンバー内の加熱された(37℃)金網に負荷した。ケース2では、それぞれ470 mlの液体を含有する3本の長い膜ストリップ(240 mm x 6.23 mm)を前記加熱された金網に負荷した。ケース3では、1700 mlの液体を含有する1本のストリップ(240 mm x 22 mm)を使用した。前記チャンバーを29.5 mmHgまで真空にした。温度と時間のプロットは、ガラス化プロセスの段階を示す。排気プロセスの開始時に、膜の足場の大部分が液体を含んでいる間に圧力が急速に低下し、予想通り、圧力の低下に伴って温度も低下した。前記金網/ベッドから供給される熱流束は、足場温度がさらに低下して凍結状態になるのを防止する。注意すべきこととして、ガラス化賦形剤/液体の配合によって、凝固点が氷点下になり得る。凍結を防止することに加えて、前記ベッドから供給される熱流束は、毛細管蒸発を促進し、上記(図4のF)で示したように、減圧下で液体が沸騰することを防止する。前記足場から水分が蒸発すると、温度がベッド温度に達するまで上昇する。熱流束は、足場温度が設定温度(通常はベッド温度)を超えないように制御される。図5から分かるように、膜足場の温度がベッド温度に達するまでにかかる時間は、足場の構成及びその上に負荷される液体の量によって変化する。前記ベッド温度に達するまでにかかる時間は、一次ガラス化時間の尺度であり、液体の大部分がこの期間内に蒸発していることを意味する。しかし、乾燥プロセスは、残留水分を除去するためにこの期間を超えてさらに延長される場合があり、これは、毛細管現象に依存しない二次乾燥と呼ぶことができる。プロセスパラメーターと足場の形状は、所定の時間内に一次乾燥プロセスを受けられる液体の量を最適化するように選択される。一般に、図2Aに示される結晶析出相境界を回避し、確実にガラスを形成するには、より速い乾燥速度が望ましい。しかし、それを超えると確実にガラス化が行われる閾値があり、これは、液体の化学的性質、親水性、多孔性、及び寸法等の膜の特性に依存する。毛細管ネットワークガラス化足場(実線)と非多孔質ガラス表面(点線)を使用して実行されたガラス化サイクル(B)の温度プロファイルと足場試料で得られた残留水分レベル(白丸)。ガラス支持体を使用して1~6分間の時間範囲で見られた温度変動は、液体が泡立ち、沸騰しているように見えるという観察と同時に記録された。足場上でガラス化された試料では気泡は観察されなかった。
【0019】
図6Aは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、乾燥装置自体は、輪郭を付けられた壁を特徴とする。該乾燥装置は、円筒形に巻かれた親水性毛細管基質(膜)から形成することができる。該円筒は、図4と同様に膜内にガラス化培地を収納することができ、これによりガラス化の改善を促進する。
【0020】
図6Bは、本開示のさらなる一態様を示す。ここで、多孔質材料の毛細管基質は、真空に動作可能に接続でき、該膜上に放置された試料のガラス化のために密封され得る円筒内に放置され、該膜は、ガラス化のための近接した毛細管ネットワークを提供する。
【0021】
図7Aは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、円筒形の乾燥装置は、加熱されたブロック内に放置され、指向性の熱流束を提供し、毛細管蒸発を促進し、足場温度が凍結状態に陥るのを防止する。加熱方法は、本質的に伝導的なまたは放射的なものであってもよい。
【0022】
図7Bは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、追加の熱源が円筒の内側から提供される。加熱方法は、本質的に伝導的なまたは放射的なものであってもよい。熱流束は、毛細管基質の片面のみから提供されてもよく、またはその両面から提供されてもよい。
【0023】
図8は、カートリッジ(図6B)と平坦な毛細管基質(膜)(図3)との間における、ガラス化混合物(VM)中濃度120 U/mLでのインスリンのガラス化を示す。各試料には、15 IU(125 μL VM)がある。6つの「カートリッジ」試料及び3つの平膜試料が、真空チャンバー内で共にガラス化された(加熱なし)。ガラス化プロセス後、水分残存率(MRR)及びタンパク質回収率を評価し、グラフに表示する。
【0024】
図9(A)は、親水性材料で作られた毛細管基質を使用した改良されたガラス化を示す。もともと疎水性だった膜を冷プラズマで処理して親水性にした。薬物製剤を膜上に懸濁すると、液体は、ほぼ球形の液滴を形成したが(左上)、親水性膜により、液体は、毛細管チャネルに流れ込んだ。ガラス化プロセス中、疎水性膜上の液滴は、最初に沸騰し、その後凍結した。一方、親水性膜上の液体は、迅速にガラス化してガラス状のモノリスを形成した。真空が解除されると、凍結した液滴は、再び液体に戻ったが、部分的に水分が失われ、そのサイズは縮小した。ガラス化に対する毛細管補助による蒸発の有効性は、親水性膜を利用すると明らかである。円形の足場(左)または固体ガラス基質(右)に適用され、そして、真空にさらされたガラス化培地の写真(B)。ガラス表面上に放置されたガラス化培地の不規則な外観は、急速な気泡の形成と破裂によるものであり、沸騰の証拠である。足場には気泡は観察されなかった。
【0025】
図10は、熱を加えずに、5 mlの円筒形のチャンバー内の膜上に調製したインスリンのガラス化の結果を示す。これは、MRRがこれらの条件下での生物材料の負荷によって劇的に影響されることを示している。
【0026】
図11は、図10に示したインスリンのガラス化から記録された重量損失を示す。
【0027】
図12は、ガラス化中の試料に熱エネルギーを提供するために円筒の壁に熱が加えられている、図10で説明したようなガラス化されたインスリンのMMRを示す。
【0028】
図13は、図12で説明した、ガラス化されたインスリンで見られる水分損失を示す。
【0029】
図14は、小さい初期容積からのガラス化されたmRNAの再構成と機能維持の成功例を示す。(A)は、液体mRNA(レーン2及び3)、再構成されたmRNA(レーン4及び5)、及び同じ貯蔵条件にさらされてガラス化されていないmRNA(レーン5及び6)を示すアガロースゲルを示す。(B)は、新鮮なmRNA(上)、ガラス化されていないmRNA(中央)、及び再構成され、ガラス化されたmRNA(下)で形質導入した後の発現された緑色蛍光タンパク質(GFP)を示す。(C)は、陽性対照に対するGFP蛍光の割合を示す。ガラス化プロセスは、回収されたmRNAの量やその機能に悪影響を及ぼさなかった。
【0030】
図15は、低開始質量の抗体の保持量及び機能性を示す。再構成されたアルカリホスファターゼ(ALP)抱合IgGは、新鮮なガラス化されていない抗体として、ELISAにおける検出抗体(Ab)と同等の応答を提供した。ガラス化プロセスでは、55℃で貯蔵した場合でも、機能が変化しなかった。一方、ガラス化されていない抗体では、55℃で貯蔵した場合、機能が劇的に低下した。
【0031】
図16は、再構成された、共ガラス化されたルシフェラーゼ及びルシフェルニンと、新鮮なガラス化されていないルシフェラーゼ及びルシフェリンとの比較を示す。ATPを添加して、ガラス化プロセスは、機能的活性や発光に悪影響を及ぼさなかった。
【0032】
図17では、(A)は、抗原、捕捉抗体、及び検出抗体が全てガラス化されたELISAを示し、(B)は、ガラス化された捕捉抗体及び検出抗体が新鮮な抗原でアッセイされる活性を示す。(A)と(B)の両方とも、3つの成分全てが対照としてガラス化されていない場合のELISAとの比較を示している。ガラス化プロセスにより、アッセイにおける抗体または抗原の機能的活性は変化しなかった。
【0033】
図18は、ELISAにおける4つの成分のガラス化とガラス化されていない新鮮な試薬とを比較するELISAを示す。ガラス化プロセスにより、アッセイで適切に機能する成分の能力は変化しなかった。
【0034】
図19は、600 mMトレハロース及び5% グリセロール(トレハロースの重量に対して)を含有し、残りのPBSが調製され、ガラス化のために直径1インチの8 μm PES膜に添加される、1Xガラス化培地を示す。4つのガラス化サイクルでは、2つの試料の温度プロファイルが記録され、別のガラス化サイクルでは、1つの試料の温度プロファイルが記録される。合計で、9つの試料(実行間、実行内)の温度データが記録され、エラーバー付でプロットされる。これらのデータは、該プロセスの一貫性、堅牢性、及び再現性を示す。
【詳細な説明】
【0035】
必要に応じて、本開示の詳細な態様が本明細書に開示される。しかし、開示された態様は、様々な代替的な形態で具体化され得る本開示の単なる例示にすぎないことを理解されたい。
【0036】
本開示は、非極低温での長期貯蔵後に生物学的活性を維持する生体試料及び/または生成物のガラス化のための方法に関する。本開示の方法は、いくつかの態様では、乾燥及びガラス化中に生体試料に制御された温度及び制御された雰囲気を提供することに関する。特定の態様では、本開示は、試料が凍結状態または沸騰するのを防止するために、生体試料に熱エネルギーを提供しながら、より低い気圧を生体試料に適用することに関する。図4に示すように、低気圧を適用すると、生体試料の温度が大幅に低下し、生体試料内に氷の結晶が形成される条件(凍結条件等)が生じ得る。従って、本開示のさらなる態様は、生体試料に熱を与えて、試料が凍結状態に陥るのを防止し、乾燥中に生体試料内での結晶形成を防止することである。
【0037】
本明細書で使用される以下の用語または語句は、少なくとも1つの態様に関連して以下に列挙される例示的な意味を有する。
【0038】
本明細書で使用される場合、「極低温」の温度または「極低温生成」の温度または同様の温度は、生体試料が凍結条件にさらされる温度を指す。いくつかの態様では、極低温には、生体試料及び/またはガラス化培地の凍結温度が含まれ得ることが理解されるであろう。さらに、極低温は、華氏または摂氏のいずれかでの温度の特定の閾値または値の範囲によって拘束されるのではなく、対象となるガラス化混合物の温度、圧力及び分子エネルギーの間の関係によって測定できることを理解すべきである。さらに、本明細書で使用する場合、「極低温生成」及びその類似の派生語は、記載した定義内で確かに可能ではあるが、1気圧または約-80℃の液体窒素に関連する温度に限定されないことを理解されたい。
【0039】
従って、本明細書で使用される「極低温を超える」とは、ガラス化混合物の凝固点を超える温度を指す。「極低温を超える」点には、周囲環境及び分子エネルギーとの関係、即ち凍結条件が存在しない温度値がさらに含まれ得る。本明細書で使用される室温とは、約25℃の温度を指す。
【0040】
本明細書で使用される場合、「沸騰」とは、多くの場合、材料内で蒸気泡が形成され、周囲の雰囲気に逃避し、その中で散逸することを特徴とする、材料が蒸気に移行する点を指し得る。
【0041】
「ガラス転移温度」とは、それより高い温度では材料が液体のように挙動し、それより低い温度では材料が固相と同様の挙動を示し、非晶質の/ガラス状の状態になる温度を意味する。これは、固定の温度ではなく、対象となるガラス化混合物の特性に応じて変化する。いくつかの態様では、ガラス状態は、前記ガラス化混合物がそのガラス転移温度を下回ったときに入る状態を指し得る。
【0042】
「非晶質の」または「ガラス」とは、0.3以下の秩序パラメーターを指す原子の位置の長距離秩序が存在しない非結晶材料を指す。ガラス質固体の固化は、ガラス転移温度Tgで起こる。いくつかの態様では、前記ガラス化培地は、非晶質の材料であってもよい。
【0043】
「結晶」とは、周期的に繰り返され、格子または単位胞と呼ばれる、1つの特定の規則的な幾何学的配列からなる3次元の原子構造、イオン構造、または分子構造を意味する。
【0044】
「結晶性」とは、ガラス状または非晶質とは対照的に、原子レベルで規則的な構造に配置された構成成分で構成される物質の形態を意味する。結晶性固体の固化は、結晶化温度Tcで起こる。
【0045】
本明細書で使用する「ガラス化」とは、材料を非晶質材料に変換するプロセスである。前記非晶質固体には、結晶構造がなくてもよい。
【0046】
本明細書で使用される「ガラス化混合物」は、生物材料と、ガラス化剤及び任意選択で、他の材料を含有するガラス化培地との不均一な混合物を意味する。
【0047】
本明細書で使用される「生物材料」または「生体試料」は、生きている生物体から単離または誘導され得る材料を指す。生物材料の例としては、タンパク質、細胞、組織、器官、細胞ベースの構築物、またはそれらの組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。いくつかの態様では、生物材料は、哺乳動物の細胞を指し得る。他の態様では、生物材料は、ヒト間葉幹細胞、マウス線維芽細胞、血小板、細菌、ウイルス、哺乳類細胞膜、リポソーム、酵素もしくはその活性断片、またはそれらの組み合わせを指し得る。他の態様では、生物材料は、精子細胞、精母細胞、卵母細胞、卵子、胚盤胞、胚、胚胞、またはそれらの組み合わせを含む生殖細胞を指し得る。他の態様では、生物材料は、全血、赤血球細胞、白血球細胞、血小板、ウイルス、細菌、藻類、真菌、またはそれらの組み合わせを指し得る。
【0048】
本明細書で使用される「ガラス化剤」は、ガラス化剤と他の材料との混合物が冷却または乾燥するときに、非晶質構造を形成し、または他の材料における結晶の形成を抑制する材料である。前記ガラス化剤は、浸透圧保護を提供し、あるいは、脱水中の細胞の生存を可能にしてもよい。いくつかの態様では、前記ガラス化剤は、生物材料の貯蔵に適した非晶質構造をもたらす任意の水溶性溶液であってよい。他の態様では、前記ガラス化剤を細胞、組織、または器官の中に浸してもよい。
【0049】
本明細書で使用される「貯蔵可能または貯蔵」とは、貯蔵され、かつ後の使用のために生存可能なままである生物材料の能力を指す。
【0050】
本明細書で使用される「親水性」とは、水分子を引き付け、またはそれと優先的に結合することを意味する。水に対する特別な親和性を持つ親水性材料は、水との接触を最大限にし、疎水性材料に比べて水との接触角が小さくなる。
【0051】
本明細書で使用される「疎水性」とは、水に対する親和性が欠如していることを意味する。疎水性の材料は、自然に水をはじいて、水滴を形成し、水との接触角が大きくなる。
【0052】
本明細書で使用される「毛細管」は、約2000 μm2以下の断面積を有する細孔の管に存在する、または存在するかのように関係する。
【0053】
「凍結貯蔵」とは通常、多くの場合、その低温により液体材料、または直接浸漬による少量の生体材料を急速に冷却する液体窒素が使用される、生体試料の急速冷却を指す。冷却速度により、材料の分子が熱力学的に好ましい結晶状態に固まる前に、材料の分子移動度が低下する。より長期間にわたって、分子は、結晶化するようになり、特に生体試料に有害な結果をもたらし得る。水は、迅速に結晶化できるため、生体試料では重大な懸念事項であり、生体組織に水が豊富に存在すると、結晶化が許されるほど重大な損傷を与える可能性がある。保護添加剤は、しばしば凍結防止剤と呼ばれるが、主成分の結晶化能力を妨げ、非晶質/ガラス化物質を生成し得る。
【0054】
極低温以上で貯蔵した場合に強固な安定性を有するガラス化された生体試料を調製する方法、並びにそれにより製造され得るキット、アッセイ、及び材料が提供される。実例として、極低温を超える温度で1種以上の生物材料をガラス化するためのプロセスが提供され、これには以下が含まれる:生体試料とガラス化培地を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内で毛細管ネットワークを含む基質上に重ねること;前記乾燥チャンバー内の気圧を低減させること;表面から前記ガラス化混合物に、前記ガラス化混合物が凍結状態に陥るのを防止するのに十分な熱エネルギーを提供すること;及び前記ガラス化混合物がガラス状態になるまで、毛細管現象によって、該ガラス化混合物を乾燥させること。ガラス化中に調整された温度と圧力を使用することにより、生物材料の生存率を低下させる可能性がある凍結条件や沸騰にさらされるリスクを軽減または排除しながら、生物材料のガラス化と安定性を向上させる。
【0055】
いくつかの態様では、本開示は、凍結条件への曝露及び/または結晶化を回避しながら、生体試料のガラス化混合物のガラス化及びガラス化培地に関する。生体試料には、細胞、細胞の集合体、組織試料、細胞断片、単離されたタンパク質及び/または組換えタンパク質、単離されたまたは合成された核酸配列(RNA、DNA、それらの一本鎖及び二本鎖を含む)、発現ベクター、体液、ホルモン、ステロイド、細胞受容体、ウイルス粒子、原核生物、単純な真核生物、リン脂質、及び/または細胞小器官が含まれ得る。
【0056】
特定の態様では、本開示は、ガラス形成剤を含むことができるガラス化培地を用いた生体試料のガラス化に関する。ガラス形成剤の同定により、組織の貯蔵を成功させる機会が開かれた。適切なガラス形成剤の存在下では、脱水によってガラス化が達成され、極低温を超えるガラス化マトリックス中に生物材料を貯蔵することが可能である。一部の動物や多くの植物は、完全な脱水状態でも生き残ることができる。乾燥状態で生存するこの能力(無水生物症)は、いくつかの複雑な細胞内の物理化学的及び遺伝的メカニズムに依存する。これらのメカニズムの中には、乾燥中に保護剤として機能する糖類(糖類、二糖類、オリゴ糖等)の細胞内蓄積がある。トレハロースは、乾燥耐性生物で自然に生成される二糖類の一例である。
【0057】
トレハロースのような糖は、いくつかの異なる方法で乾燥耐性生物を保護し得る。トレハロース分子上のヒドロキシル基の独特な配置により、トレハロース分子は、立体構造や折り畳みを変えることなく、折り畳みタンパク質の表面にある水素結合水分子を効果的に置き換えることができる。糖分子はまた、脂質二重層のリン脂質頭部と結合することにより、再水和中の細胞質漏出を防止し得る。さらに、多くの糖は、ガラス転移温度が高いため、低含水量でも極低温以上または室温でガラスを形成することができる。粘性の高い「ガラス状」状態は、分子移動度を低下させ、それにより、細胞の機能低下や細胞死につながる分解的な生化学反応を防止する。ガラス形成糖トレハロースの存在下での脱水による生物材料のガラス化が開示されている(N Chakraborty, et al., Biopreservation and Biobanking, 2010, 8(2), 107-114を参照)。
【0058】
本開示は、ガラス化混合物における生体試料の均一かつ迅速なガラス化を達成するために、低気圧と熱エネルギーを組み合わせたガラス化プロセスに関する。いくつかの態様では、本開示は、低気圧下でガラス化が起こる場合のガラス化混合物への熱エネルギーの適用に関する。いくつかの態様では、熱エネルギーをガラス化混合物に加え、該ガラス化混合物の結晶化または凍結条件への曝露を防止する。
【0059】
さらなる態様では、前記ガラス化混合物の温度は、乾燥及び/またはガラス化中に制御される。例えば、ガラス化混合物を乾燥チャンバー内に置き、該ガラス化混合物に熱エネルギーを加えて、該ガラス化混合物が極低温にさらされるのを制限または防止する。いくつかの態様では、熱エネルギーは、ガラス化混合物に伝達され、ガラス化混合物中の結晶化が防止される。
【0060】
いくつかの態様では、生体試料の温度は、加えられる真空またはガラス化混合物の低気圧内で制御される。本明細書で議論されるように、低気圧を加えると、ガラス化混合物の温度が大幅に低下し、前記ガラス化混合物が結晶化し、かつ/または極低温状態になり得る。生体試料が凍結状態になると、そこに取り返しのつかない損傷が発生し、再構成したときに望ましい活性や用途に悪影響を与え得る。また、本明細書で特定されるように、ガラス化混合物周囲の気圧の低下は、沸点が低下するように、ガラス化混合物内の分子活性を変化させ得る。凍結と同様に、生体試料やガラス化培地の沸騰や過熱は有害となり得る。ガラス化混合物の沸騰は、生体試料の三次構造の損失、架橋、タンパク質、脂肪酸、核酸等を含む成分の分解を引き起こし、再構成時の活性が損なわれる可能性がある。特定の態様では、本開示のプロセスは、真空、部分真空または一般的に低減された気圧のような低気圧下で、ガラス化混合物を極低温を超える温度に維持することに関する。
【0061】
特定の態様では、乾燥中の温度を制御するために、前記生体試料及びガラス化培地を含むガラス化混合物を直接に加熱してもよい。他の態様では、前記生体試料及びガラス化培地を含むガラス化混合物の温度を伝導、対流及び/または放射の手段により制御してもよい。他の態様では、前記生体試料及びガラス化培地を含むガラス化混合物の温度を、乾燥チャンバーの外側の温度を制御し、乾燥チャンバーまたはその一部を通る伝導に依存してガラス化混合物の温度を制御することによって、制御してもよい。このような場合では、乾燥チャンバーの壁の物理的特性を考慮する必要があり得ることが理解されるであろう。例えば、乾燥チャンバーの導電性の低い材料では、ガラス化混合物が適切な熱エネルギーを受けられるようにするために、ガラス化混合物が必要とする温度とは異なる適用温度が必要となり得る。このような必要な適応は、当業者には容易に理解されるであろう。いくつかの態様では、熱は、加熱パッド、加熱バス、火炎、ガラスビーズ等の加熱ベッド、加熱ブロック等を通じて加えてもよい。場合によっては、熱エネルギーは、産生される熱の電源、及び/または燃焼によって放出される熱エネルギー、及び/または電気抵抗によって産生される熱エネルギーからのものであってもよい。
【0062】
いくつかの態様では、熱エネルギーは、底部支持基質を通じてガラス化混合物に提供され得る。近接した毛細管ネットワークの多孔質材料もガラス化混合物に熱エネルギーを提供することができ、場合によっては、多孔質材料は、ガラスやポリマー等の熱伝導性の低い材料である。しかし、底部基質は、金属または同様の効率的な導電性材料でできてもよく、乾燥チャンバーの外側の熱源または電源に容易に接続され、内部に生じる抵抗によって熱を提供する。固体支持体からの熱エネルギーの適用は、毛細管蒸発を助けるため、さらに温度勾配を提供し得る(例えば、図2Aを参照)。
【0063】
いくつかの態様では、前記生体試料及びガラス化培地を含むガラス化混合物は、低気圧下でのガラス化中にその極低温を超える温度に維持される。いくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、低気圧下で乾燥する前に予熱される。他の態様では、前記ガラス化混合物は、低気圧下でガラス化中に加熱される。他の態様では、ガラス化の開始時またはその前後に熱が加えられる。前記ガラス化混合物に加えられる熱エネルギーの量は、低気圧下でのガラス化中に一定であってもよく、変化してもよいことが理解されるであろう。いくつかの態様では、乾燥チャンバー内に低気圧を導入すると、前記ガラス化混合物の温度が急速に低下し得る。このような態様では、前記ガラス化混合物を、熱エネルギーを受ける準備ができている状態、またはすでに熱エネルギーを受けている状態にすると、温度低下からの回復率を増加させることができる(例えば、図4を参照)。
【0064】
特定の態様では、一定の温度が、前記ガラス化混合物に適用され、それにより、該ガラス化混合物が、そのTg(℃)~約40℃の温度(約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、及び39℃を含む)に維持される。特定の態様では、ガラス化混合物に必要な熱エネルギーを提供するために、より高い温度を乾燥チャンバーまたは多孔質材料に適用してもよい。このような適用温度は、乾燥チャンバーのサイズ及び前記生体試料及び/またはガラス化培地に効果的に伝達するために利用可能な伝導手段に応じて、例えば約15℃~約70℃であってもよい。
【0065】
いくつかの態様では、本開示は、低気圧における、生体試料のガラス化に関する。いくつかの態様では、前記乾燥は、乾燥チャンバー内で行われてもよく、それによって、ガラス化混合物が、低気圧にさらされるようにその中に放置されてもよい。前記生体試料に低気圧を加えるために、このような乾燥チャンバーは、真空源に接続されてもよい。本明細書に記載されるように、ガラス化混合物は、ガラス化培地またはトレハロース等の凍結貯蔵剤を用いて調製し、真空を加えること等による低気圧に供することができる。いくつかの態様では、前記低気圧は、約0.9気圧(atm)~約0.005 atmであり、0.85、0.8、0.75、0.7、0.65、0.6、0.55、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.255、0.25、0245、0.24、0.235、0.23、0.225、0.22、0.215、0.21、0.205、0.2、0.195、0.19、0.185、0.18、0.175、0.17、0.165、0.16、0.155、0.15、0.145、0.14、0.135、0.13、0.125、0.12、0.115、0.11、0.105、0.1、0.095、0.09、0.085、0.08、0.075、0.07、0.065、0.06、0.055、0.05、0.045、0.04、0.035、0.03、0.025、0.02、0.015、及び0.01 atmを含む。
【0066】
他の態様では、乾燥チャンバー内の圧力は、前記ガラス化混合物の三重点より高い点まで低減される。他の態様では、前記圧力は、水の三重点より高い点まで、例えば0.006 atmを超える点まで低減される。本明細書に記載されるように、低減された気圧は、前記ガラス化混合物の温度を低減させ、同時にその沸点も低下させる。いくつかの態様では、前記乾燥チャンバー内の圧力は、約0.04 atmまたは約29 mmHgまで低減される。
【0067】
本開示のいくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、該ガラス化混合物が気圧の急速な低下中に極低温を経験しないように、高温の真空または部分真空中に放置され、または加えられた気圧でのガラス化混合物の極低温を超える温度に維持される。さらなる態様では、前記ガラス化混合物の温度は、前記ガラス化培地のTgよりも低くなり、生体試料のガラス化を可能にする。
【0068】
場合によっては、低気圧を維持するには、乾燥チャンバー等の密閉された容器内にガラス化混合物を入れる必要があり得る。ガラス化混合物の周囲に低気圧を提供及び/または維持するには、通常、乾燥チャンバーが内部の低圧に耐えることができる必要があることが当業者には理解されるであろう。このようなものは、内部の低気圧を維持するという要件によって制約され、十分なシール及び十分な壁強度を必要とする、任意の適切なまたは所望の形状及び/または材料とすることができる。乾燥チャンバーは、真空源に動作可能に接続されて、その中の気圧を低下させることができ、さらにガラス化完了時に空気を戻すことができる。乾燥チャンバーは、真空を加えて乾燥チャンバー内の気圧を所望の範囲まで効果的に下げることができるように、十分に密封または密閉することができる。
【0069】
いくつかの態様では、ガラス化混合物を毛細管ネットワーク上またはその中に放置し、該ガラス化混合物のガラス化を促進する。さらなる態様では、毛細管ネットワークは、低気圧下でガラス化混合物が沸騰するのを防止することができる。毛細管補助による蒸発の原理は、米国特許第10,568,318号に記載されている。その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0070】
いくつかの態様では、毛細管ネットワークは、液体または流体がその表面に蓄積するのを制限するのに十分な厚さを有する。毛細管効果を実現するには、メニスカスを形成する毛細管基質の細孔内に液体を収納する必要がある。毛細管界面における液体分率(ξ)、即ち液体が占める容積は、毛細管蒸発を考慮するためのパラメーターである。毛細管に駆動された蒸発は、液体内の粘性圧力降下が液体と蒸気の界面での最大毛細管圧力を超えると発生する。液体分率ξは、バルクから液体と蒸気の界面までの全体的な圧力降下に関係する。大気圧下で熱流束が加えられていない場合(図4B)、液体が大部分を覆い、液体部分が生じる(ξ→1)。これらの条件下では、毛細管による蒸発の速度は最小限になる。図4Cに示すように周囲圧力を下げると、ξが減少し、蒸発の速度が増加する。しかし、ある閾値の圧力降下を超えると、望ましくない核形成沸騰が発生し得る。図4Dに示すように加えられた熱流束Qも蒸発の速度を増加させることができるが、膜沸騰のリスクが存在し、これも望ましくない。図4Eに示すように、毛細管メニスカスの表面から熱流束を加えると、膜沸騰のリスクが排除される。図4Fに示すように、逆勾配方式で適用される大きな
とQの下では、液体メニスカスが細孔に閉じ込められ、即ち、液体分率ξ<< 1 (~0.25)となり、沸騰を避けながら最も高い蒸発率が得られる(
、ここで、pがリッジ間の距離または膜の高さであり、dが液体メニスカスの形状によって形成された円の直径である)。従って、表面とバルク液体の間の温度勾配を維持すると、図4Fに示すように毛細管蒸発が起こり、迅速な蒸発が達成される。液面が毛細管膜内に後退しても、圧力勾配と温度勾配が維持されている限り、毛細管蒸発現象が依然として発生する。いくつかの態様では、mRNAまたはその組成物の下の毛細管ネットワークは、乾燥中の蒸発プロセスを補助し得る。
【0071】
いくつかの態様では、前記熱エネルギーは、ガラス化混合物が毛細管ネットワーク上でガラス化を受けるときに、該ガラス化混合物に加えられる。いくつかの態様では、底部毛細管ネットワークは、前記ガラス化混合物を沸騰から保護しながら、熱エネルギーを受けるガラス化混合物の均一かつ完全なガラス化を可能にすることができる。前記毛細管ネットワークは、毛細管の近接したネットワークであり得る。これは、毛細管の第1末端と毛細管の第2末端との間に分岐がないことを意味する。場合によっては、前記毛細管基質ネットワークは、膜等の底部多孔質材料、または底部輪郭を付けられたまたは隆起した表面によって提供することができ、ここで、そのトラフ及びピークが、ガラス化中に液体のガラス化混合物を毛細管作用にさらすのに十分なベッドを提供する。
【0072】
図1Aを参照すると、ガラス化混合物20の薄い液体層の塗布によって覆われた近接した親水性ベッド10が示されている。いくつかの態様では、ガラス化混合物の保護流体層は、生体試料が低気圧にさらされている間の沸騰から保護し得る。低気圧下での沸騰の防止は、図1A に示すように、親水性表面上の非常に薄い液膜によって回避及び/または軽減できる。しかし、沸騰を防止することは可能であるが、液体の厚さに制限があるため、利用可能な表面積によりガラス化できる液体の量が減少する。図1B に示すような輪郭のある表面の存在は、ピークで起こる優先的な乾燥によりガラス化混合物が毛細管現象を受ける表面を効果的に提供し、それによりガラス化プロセス中に水分を吸い上げ、これは同様に生体試料(主に輪郭または隆線の尖部に位置するもの)を沸騰から保護し、かなり大量の試料をガラス化することを可能にする。さらに、試料が輪郭のピークでガラス化すると、毛細管現象によってその底部トラフから流体が引き出され、それによってガラス化混合物の優れたガラス化と乾燥が促進される。同様に、毛細管の膜の多孔質材料が毛細管内の生体試料を支持すれば、ガラス化プロセス中に毛細管作用によって毛細管チャネルから流体が引き込まれ、より大量の生体試料が均一かつ完全にガラス化及び乾燥される。しかし、図1Cに示すように、液体の負荷が大きすぎると、毛細管現象が液体をうまく引き上げることができない場合、液体は、表面の模様を満たすか、トラフに保持され、減圧下では気泡の核生成と沸騰が支配的になり、液体に含まれる敏感な分子の損傷につながる可能性がある。
【0073】
図2Aは、本開示のガラス化プロセスの態様の概要である。従来のガラス化は、経路1-2-3で実証されており、そこでは、液体(生物学的物質またはその他の物質を含む)をガラス転移点以下まで急速に冷却し、凍結ゾーンを回避する。材料の総質量は、プロセスを通じて保たれる。大量の材料の極低温ガラス化は、熱伝達の制限により困難な場合があるため、一般に、大きな表面積/容積比が得られるバイアル中で実行される。材料のガラス化は、経路1-5-6に見られるように、乾燥 (結晶化プロセスを回避) によっても達成できる。この態様では、大幅な質量損失(主に水)が発生する。生物材料に対する従来の脱水アプローチは、基質上に固着液滴を確立し、低湿度の筐体内で蒸発乾燥させることに中心を置いていた。このプロセスは、遅いペースと不均一な乾燥によって特徴付けられる。液体と蒸気中の生物学的物質が乾燥すると、液体と蒸気の間の界面にガラス質の表皮が形成される。ガラス質の表皮の形成は遅くなり、最終的には生体試料のさらなる乾燥を防ぎ、それによって生体試料を一定レベルの乾燥のみに制限し、試料全体にわたる水分含有量の空間的不均一性が顕著になる。その結果、一部の領域はガラス化されないが、高い分子移動度が維持されるため分解することになる。乾燥速度は、容積に対する表面積の比が大きいことにより、特に減圧下で促進される。
【0074】
いくつかの態様では、本開示は、ガラス化混合物の所望の温度を維持すること及び低圧がほぼ極低温と乾燥とのハイブリッドを提供することを含む、図2Aの経路1-4-6に関する。しかし、圧力が低くなると、沸点は低下する。図2Bに示すように、水の三重点よりも高い低圧を維持することにより、ガラス化混合物のガラス化のための凍結と沸騰との間の温度ウィンドウを提供することができる。本開示のいくつかの態様では、適用される温度は、低い適用圧力においてガラス化混合物の極低温点よりも高い温度を維持する。図2及び図4にさらに示されているように、適用された低気圧による温度の低下により、ガラス化混合物の温度が、沸騰することなくガラス転移温度未満に低下し、ガラス化混合物全体にわたって均一なガラス化が実現する。
【0075】
図4Aは、連続した毛細管チャネルの膜の導入等により、毛細管蒸発を促進するために毛細管ネットワークの多孔質材料を配置することによって、真空下で大量の液体の迅速な乾燥がどのように便利に達成できるかを示す。しかし、液体が毛細管膜の表面に蓄積すると、蓄積した液体内で沸騰が依然として発生する可能性があり、これは本明細書で説明するように望ましくない可能性がある。表面とバルク液体の間に温度勾配が存在するため、図4E及び4Fに示すように、毛細管蒸発が可能になり、迅速な蒸発が達成される。
【0076】
従って、本開示のいくつかの態様では、ガラス化混合物中に存在する流体の容積は、流体が表面に溢れたり溜まったりすることなく毛細管ネットワークを満たすことができるように設定することができる。
【0077】
特定の態様では、乾燥チャンバーまたはその中に含まれる毛細管基質は、チャンバーまたは毛細管基質の壁がその中に置かれたときにガラス化混合物に毛細管ネットワークを提供するように、適切に模様化され得る。例えば、図1Bに示されるような輪郭または隆起は、チャンバーの壁を裏打ちして(例えば、図6Aを参照)、底部毛細管ネットワークを提供することができる。他の態様では、内部にガラス化混合物を有する近接した毛細管網の多孔質材料が、密閉可能な乾燥チャンバー内に提供される(例えば、図6Bを参照)。特定の態様では、多孔質材料は、複数の近接した毛細管チャネルの膜を含み得る。
【0078】
図7Aは、ガラス化混合物がTg未満の温度にさらされるのを避けるためにそれ自体を加熱できる支持体に毛細管基質を放置することを示す。いくつかの態様では、毛細管基質と、熱が生成される表面から毛細管基質を分離するために、毛細管基質が配置される加熱ブロックまたはチャンバーの側面との間に支持足場を含んでもよい。これにより、試料の下からの直接加熱が防止され、実質的に二方向からの乾燥が可能になるか、またはいくつかの態様では、膜材料のトラフにさらされるより大量な熱が回避される。
【0079】
図7Bに示すように、代わりに、または追加として、加熱要素をチャンバー内に導入してもよい。これにより、ガラス化毛細管基質の表面への誘導された熱の適用を可能にし、それによって、膜内/膜上の所望の位置で効果的なガラス化を促進し、優れた毛細管作用を促進し、ガラス化中のガラス化培地の沸騰を防止することができる。
【0080】
図1に示すように、輪郭及び/または隆起部の存在により、毛細管隆起が形成され、ガラス化が促進される。表面上にガラス化混合物が存在すると、毛細管現象によってガラス化混合物がピークに向かって引き寄せられ、ピークからの迅速な蒸発が可能になる。近接した毛細管ネットワークの存在により、ガラス化混合物の流体量が均一に蒸発し、沸騰を防止すると同時に、有害な沸騰を引き起こし得る過剰な流体の蓄積も防止する。同様に、近接する毛細管チャネルの膜または基質等の多孔質材料は、底部毛細管ネットワークを提供し得る(例えば、図3を参照)。このような態様では、膜または基質等の多孔質材料が、ガラス化混合物を収納し、その中の毛細管作用によってガラス化が促進される。従って、本開示のいくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、近接した毛細管ネットワーク上に放置される。さらなる態様では、前記ガラス化混合物は、模様化及び/または隆起及び/または輪郭付けされた、任意選択で多孔質材料の上に放置される。さらなる態様では、前記近接した毛細管ネットワークは、前記乾燥チャンバーの壁内のパターン及び/または隆起部及び/または輪郭によって形成される。他の態様では、前記毛細管ネットワークは、複数の近接した毛細管チャネルを含む多孔質材料によって提供される。
【0081】
前記乾燥チャンバーはさらに、その中にガラス化混合物を収納できるか、または収納するように配置されなければならない。いくつかの態様では、前記乾燥チャンバーは、多孔質材料及び/または支持基質の上にガラス化混合物を収納できなければならない。いくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、基質上に配置することによってガラス化のために調製される。いくつかの態様では、前記基質は、膜及び/または配置された毛細管のベッド等の多孔質材料であってもよい。さらなる態様では、前記乾燥チャンバーの壁は、支持基質として機能し、その中に毛細管ネットワークを提供するように隆起及び/または模様化及び/または輪郭が付けられる。
【0082】
さらなる態様では、前記ガラス化混合物に熱エネルギーを提供及び/または伝達するために、支持基質を利用してもよい。当業者に理解されように、熱エネルギーをガラス化混合物に効果的に提供するために、いくつかの態様では、支持基質が金属等の良好な導電性材料であり得る。他の態様では、毛細管の近接したネットワークを提供するための多孔質材料が、前記ガラス化混合物と底部固体支持基質との間に配置されてもよい。
【0083】
図1及び4に示すように、毛細管は、迅速な蒸発のための界面を提供することができる。底部模様化された隆起支持体、または膜等の多孔質材料から形成される毛細管ネットワークは、毒性がなく、生体材料または生体試料に対して反応性がなく、ガラス化培地と化学的または物理的に反応しない材料で作られ得る。前記材料は、適切なポリマー、金属、セラミック、ガラス、またはそれらの組み合わせであり得る。いくつかの態様では、毛細管ネットワークは、とりわけ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)の材料から形成される。本明細書で提供される装置及びプロセスの表面として適した膜を含む毛細管チャネルの例示的な例には、EMD Millipore(Bellerica, MA)によって販売されているもの等の親水性濾過膜が含まれる。特定の態様では、前記多孔質材料は、生体試料及び/またはガラス化培地の成分と実質的に結合、変化、または化学的または物理的結合を生じない。任意選択で、多孔質材料は、誘導体化されない。任意選択で、毛細管チャネルは、所望の材料及び厚さの基質(例えば、乾燥チャンバ壁)内に、PDMS形成技術、レーザードリリング、または当技術分野で知られている他の空洞形成技術によって形成されてもよい。
【0084】
いくつかの態様では、前記毛細管ネットワークは、液体または流体がその表面に蓄積するのを制限するのに十分な厚さを有する。図4Aに示すように、表面上の流体または液体の蓄積が増加すると、有害または損傷を与える沸騰が発生し得る。毛細管ネットワークの厚さ及び/または層を増加させると、毛細管チャネル内またはトラフ内で増加した流体を処理するためのスペースが増加し得る。図4Eに示すように、液体の割合は、メニスカスによって形成される円の面積と隆起間の高さまたは距離との関係:
によって決定される。最適には、ξが約0.25であり、上限が約1である。0.25未満の値では、該システムは、望ましいガラス化の前に乾燥し始める可能性がある。
【0085】
いくつかの態様では、生体試料の下の毛細管ネットワークは、乾燥中の蒸発プロセスを補助し得る。本明細書に記載されるように、毛細管は、乾燥チャンバーの壁を模様化または輪郭付けして底部毛細管ベッドを効果的に提供することによって、または膜等の近接した毛細管ネットワークの多孔質材料を提供することによって提供され得る。いくつかの態様では、多孔質材料及び/または模様化及び/または輪郭付けされた表面によって提供される毛細管ネットワークは、約20 μm以下の細孔を特徴とし、これにより、その細孔が、下層の毛細管を提供し、ガラス化を助ける。いくつかの態様では、細孔またはピーク間の距離は、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、及び0.2 μmを含む、約20~約0.1 μmの平均開口部であってもよい。毛細管チャネルは、チャネルを形成する基質の厚さによって、または1つ以上の個別のチャネル自体によって任意に規定される長さを有し得る。毛細管チャネルの長さは、任意選択で、約1ミリメートル以下であるが、そのような寸法に限定されるものとして解釈されるべきではない。任意選択で、毛細管チャネルの長さは、約0.1~約1000ミクロン、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意選択で、毛細管チャネルの長さは、約5~約100ミクロン、任意選択で約1~約200ミクロン、及び/または任意選択で約1~約100ミクロンである。毛細管チャネルの長さは、任意選択で、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ミクロンである。いくつかの態様では、毛細管チャネルの長さは、複数の毛細管チャネル全体にわたって、任意選択で、不均一に変化する。
【0086】
毛細管チャネルの断面積は、約2000 μm2以下であってもよい。任意選択で、断面積は、約0.01~約2000 μm2、任意選択で約100~約2000 μm2、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意選択で、毛細管チャネルの断面積は、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、または2000 μm2、またはその以下である。
【0087】
毛細管補助による蒸発の速度は、大気の要求(湿度、温度、蒸発面での空気/ガスの速度)、及び (i)駆動毛細管力を生成する毛細管チャネルの特性;(ii)液体メニスカスの深さ、及び(iii)毛細管を流れる粘性抵抗の影響を受け得る。その結果、毛細管特性、輸送プロセス、及び境界条件の間の複雑かつ高度に動的な相互作用により、広範囲にわたる蒸発挙動が生じる。迅速な乾燥のための重要なパラメーターには次のものが含まれる:(1)蒸発表面での液体ネットワークの形成をサポートし維持する条件、及び(2)蒸発面に水を供給するのに十分な流れを誘発する毛細管圧力の形成を促進する特性。
【0088】
いくつかの態様では、前記多孔質材料を、隆起させ、かつ/または輪郭付け、または隆起及び/または輪郭付けた下層支持基質上に放置してもよく、その結果、該多孔質材料は、その上に置かれるかまたは押し付けられると同様の形状をとる。図1Bに示すように、模様化された材料の輪郭及び/または隆起部は、表面積を増大させ、蒸着のための露出を増大させ得る。
【0089】
さらなる態様では、膜を配置または成形することによって、前記多孔質材料の表面積の増大を達成することができる。図6Aに示すように、輪郭のある壁を備えた乾燥チャンバーは、多孔質材料の表面積を増大させ得る。しかし、図6Bに示すように、そうでなければ平坦な多孔質材料を成形すると、効率的な毛細管補助による蒸発のために、表面積をさらに改善することができる。図8は、平膜と円筒形の乾燥チャンバー内で湾曲した膜との比較を示している。結果のグラフに見られるように、乾燥チャンバー内で膜を湾曲させると、平膜よりも水分の残留率が低くなる。
【0090】
いくつかの態様では、前記毛細管ネットワークは、親水性材料からなる。他の態様では、前記毛細管ネットワークは、疎水性材料でできており、さらにプラズマプロセス等によって本質的に親水性またはより親水性になるようにプロセスされてもよい。図9に示すように、元々疎水性だった膜を冷プラズマで処理して親水性を高めた。薬物製剤を膜上に懸濁すると、液体は、ほぼ球形の液滴を形成するが(左上)、親水性膜により、液体は、底部毛細管チャネルに流れ込む。ガラス化プロセス中、疎水性膜上の液滴は、最初に沸騰してから凍結するが、親水性膜上の液体は、速くガラス化し、一体化したガラス状を形成する。真空が解除されると、凍結した液滴は、再び液体に戻ったが、そのサイズは、部分的に水分が失われるまで縮小した。ガラス化に対する毛細管蒸発の有効性は、親水性膜で見られる均一なガラス化で明らかである。
【0091】
いくつかの態様では、生体試料は、ガラス化混合物を形成するために、ガラス化培地中に放置されるか、覆われるか、または混合される。生体試料が、本明細書に記載の周囲条件下で乾燥するため、ガラス化培地中の適切なガラス化剤が存在することは必須であり得る。本明細書に記載の高速乾燥法自体は、乾燥後の細胞または他のガラス化生体材料の生存率の成功を必ずしも保証するものではない。ガラスを形成する、かつ/または他の材料の結晶の形成を抑制するガラス化培地が必要となり得る。ガラス化培地は、浸透圧保護も提供し、あるいは生体試料の脱水中に細胞の生存を可能にし得る。ガラス化培地に含まれる薬剤の具体例としては、以下の1種以上が挙げられる: ジメチルスルホキシド、グリセロール、糖類、ポリアルコール、メチルアミン、ベチン、不凍タンパク質、合成抗核剤、ポリビニルアルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサンジオール、無機塩、有機塩、イオン液体、またはそれらの組み合わせ。いくつかの態様では、ガラス化培地は、任意選択で、1種、2種、3種、4種、またはそれ以上のガラス化剤を含む。
【0092】
いくつかの態様では、ガラス化培地は、ガラス化剤の性質に依存する濃度でガラス化剤を含み得る。任意選択で、前記ガラス化剤の濃度は、その後の試料使用時に機能的または生物学的生存能力が達成されないほど毒性がある場合、ガラス化される生体試料に対して有毒となる濃度よりも低い濃度である。ガラス化剤の濃度は、任意選択で、約500 μM~約6 M、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲(約1、2、3、4、または5 Mを含む)である。ガラス化剤トレハロースの場合、その濃度は、任意選択で約1 M~約6 M(2、3、4、または5 Mを含む)である。任意選択で、組み合わせた場合の全てのガラス化剤の総濃度は、任意選択で約1 M~約6 M(2、3、4もしくは5 Mを含む)である。
【0093】
ガラス形成糖であるトレハロースは、無水ガラス化に使用されており、いくつかの方法で乾燥耐性を提供し得る。しかし、水中でガラス化した1.8モル/リットル(M)トレハロースのガラス転移温度は、-15~43℃である。0℃以上でガラス化を達成するには、生体物質に損傷を与え得るより高い濃度(6~8 M)が必要である。あるいは、ガラス化培地は、VMのTg値を高めるために緩衝剤及び/または塩を含んでもよい。いくつかの態様では、ガラス化培地は、任意選択で、水または溶媒及び/または緩衝剤及び/または1種以上の塩及び/または他の成分を含んでもよい。緩衝剤は、25℃で約6~約8.5のpKaを有する任意の薬剤であってもよい。緩衝剤の具体例としては、とりわけ、HEPES、TRIS、PIPES、及びMOPSが挙げられる。緩衝剤は、ガラス化培地のpHを所望のレベルに安定化させるのに適した濃度で提供され得る。
【0094】
1.8 Mトレハロース、20 mM HEPES、120 mM ChCl、及び60 mMベチンを含有するガラス化培地は、+9℃のガラス転移温度を提供する。本明細書に開示される毛細管補助によるガラス化法のための例示的なガラス化培地は、トレハロース、コリンまたはベチンまたはHEPES等の高分子有機イオン(>120 kDa)を含有する1種以上の緩衝剤、ならびにKまたはNaまたはCl等の低分子イオンを含有する緩衝剤を含み得る。
【0095】
いくつかの態様では、生体試料は、ガラス化培地にコーティングまたは浸漬され、本明細書に記載のガラス化の工程中に生体試料を保持するために支持基質上に放置される。特定の態様では、前記毛細管ネットワークは、流体の薄層を残しながら、ガラス化混合物の一部を吸収する。
【0096】
いくつかの態様では、本開示は、少なくとも1つの生体試料、任意選択で、2つ、3つ、4つ、またはそれ以上の生体試料または材料をガラス化する方法に関する。該方法は、本明細書に記載される部品の組み立てを通じてガラス化混合物を調製することを含む。例えば、生体試料とガラス化培地とのガラス化混合物は、固体支持基質上に、または固体支持基質と接触して放置される。いくつかの態様では、前記底部固体支持体は、底部毛細管ネットワークを提供するために輪郭が付けられ、かつ/または隆起が付けられている。いくつかの態様では、前記底部支持体は、乾燥チャンバーの壁等、乾燥チャンバーの一部である。他の態様では、多孔質膜を前記ガラス化混合物と固体支持体の間に放置することができる。いくつかの態様では、近接した毛細管ネットワークは、前記ガラス化混合物を支持し、そこから流体を引き込む。前記毛細管ネットワーク及び/または多孔質材料は、該毛細管ネットワークの表面上に液体が存在すること及び/または液体が溜まることを避けるために、十分な厚さまたは量を有さなければならない。
【0097】
本開示のガラス化方法は、真空または気圧を低減させる他の手段に動作可能に接続される乾燥チャンバー内に、生体試料を含有するガラス化混合物を放置することをさらに含む。特定の態様では、生体試料は、前記乾燥チャンバー内の多孔質または輪郭のある材料上の所定の位置に保持される。いくつかの態様では、生体試料は、底部毛細管ネットワークを提供するように模様化及び/または輪郭付けされる前記乾燥チャンバーの一部上に放置される。いくつかの態様では、固体支持基質、膜等の多孔質材料、及び生体試料は、前記乾燥チャンバー内に放置される。
【0098】
生体試料は、任意選択で、乾燥チャンバー内で、コーティングされ、及び/またはガラス化培地と混合されてもよい。他の態様では、生体試料は、前記乾燥チャンバー内に放置する前に、ガラス化培地を用いて調製されてもよい。
【0099】
組み立て後、本開示の方法は、ガラス化混合物の周囲の大気圧を低下させること、ガラス化混合物に毛細管補助による蒸発を提供すること、及び/または前記ガラス化混合物/毛細管ネットワーク内で沸騰を誘発することなく、該ガラス化混合物/毛細管ネットワークに熱エネルギーを加えることを含み得る。本明細書に記載されるように、前記3つ全てを適用することにより、極低温を経験することを回避し、沸騰を回避しながら、迅速かつ均一なガラス化及びガラス化混合物の乾燥を提供することができる。それによって、プロセス中の生体試料へのあらゆる損傷を大幅に軽減する。
【0100】
特定の態様では、前記方法は、生体試料を低気圧または低減された気圧に曝露することを含む。いくつかの態様では、低気圧への曝露は、前記乾燥チャンバーに接続された真空を作動させることによって行われる。いくつかの態様では、大気圧は、生体試料及び/またはガラス化培地の三重点を超える点まで低減される。他の態様では、前記圧力は、約0.04 atmまたは29.5 mmHgまで低減される。
【0101】
いくつかの態様では、前記方法は、低気圧への曝露中に生体試料に熱エネルギーを与えることを含む。いくつかの態様では、前記熱エネルギー源も、前記乾燥チャンバーに動作可能に接続されるか、前記乾燥チャンバー内に放置される。いくつかの態様では、前記熱エネルギー源は、多孔質材料及び/または毛細管基質の下の底部固体支持体に与えられる。理解されるように、前記熱エネルギー源は、いくつかの態様では、毛細管の一端または両端から、または波状のガラス化膜表面のピークの方向からガラス化混合物に熱を提供するために、動作可能に放置される。さらなる態様では、前記熱エネルギー源は、毛細管基質及び/または多孔質膜の全体に温度勾配を提供して、蒸発を補助する。さらなる態様では、前記熱エネルギーは、前記乾燥チャンバーの外部に与えられてもよい。
【0102】
前記ガラス化混合物が前記乾燥チャンバー内に放置されると、その中の気圧が低減される。いくつかの態様では、前記気圧は、前記生体試料の三重点よりも高い点まで低減される。他の態様では、前記気圧は、水の三重点よりも高い点まで低減される。さらなる態様では、前記乾燥チャンバー内の圧力は、約0.04 atmまで低減される。
【0103】
図5は、底部固体支持体としての金網とその上の毛細管基質としてのガラス膜から37℃の熱を加えて得られた結果を示す。図5は、膜と容積のサイズと、液体負荷を一定に維持した場合の圧力低下後の生体試料の温度の回復速度との比較を示す。図5に示すように、全ての場合において、真空の適用によりガラス化混合物の温度は急速に低下するが、開始温度に戻ると観察されるように、膜が小さいほど完全なガラス化がより速く行われた。さらに図5を参照すると、ガラス化が完了すると生体試料の温度が安定することが分かる。
【0104】
いくつかの態様では、本開示の方法は、ガラス化混合物の毛細管補助による蒸発を提供することを含む。いくつかの態様では、輪郭付き及び/または隆起した支持体によって、または多孔質膜によって提供される底部毛細管基質は、蒸発を促進させるために必要な特徴を提供することになる。
【0105】
いくつかの態様では、本開示の方法は、乾燥時間にわたって実行され得る。乾燥時間は、ガラス化培地をガラス化するために適切な乾燥を促進するのに十分な時間である。乾燥時間は、任意選択で、約1秒間~約1時間であり、約10秒間、30秒間、1分間、5分間、10分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間を含むが、これらを超えない。任意選択で、乾燥時間は約1秒間~約30分間であり、任意選択で約5秒間~約10分間である。
【0106】
生体材料が極低温以上で貯蔵されている間、ガラス化状態で生存可能な期間は、試料材料によって変わり得る。いくつかの態様では、生物材料は、極低温を超える温度で2~20日間貯蔵されている間も生存を維持し得る。他の態様では、生物材料は、極低温を超える温度で10週間貯蔵されている間も生存を維持し得る。他の態様では、生物材料は、極低温を超える温度で最長1年間貯蔵されても生存を維持し得る。他の態様では、生物材料は、極低温を超える温度で最長10年間貯蔵されても生存を維持し得る。
【0107】
あるいは、本開示の教示及び装置を使用して極低温を超える温度でガラス化した後、ガラス化した生物材料は、材料内に結晶が形成されるリスクなしに、極低温及び/または液体窒素中で非常に長期間貯蔵することができる。多くの生物材料にとって、これは、極低温での直接ガラス化中に一般的に発生する冷凍損傷を回避するための好ましいアプローチである。一態様における好ましいアプローチは、低濃度のガラス化剤(例えば、<2 Mのトレハロース)を利用して生体材料を室温でガラス化し、その後直ちに極低温で貯蔵することである。従って、前記装置は、本開示の教示に従って、ガラス化後-196℃~60℃の間の温度で貯蔵可能な材料から任意に製作される。
【0108】
本開示の一態様として、より少ない容量の試料も首尾よくガラス化することができ、再構成時に完全なまたは非常に高い性能を提供することができる。いくつかの態様では、10 μL以下の容量を本明細書に記載のプロセスを通じてガラス化することができ、再構成時に完全な能力を維持することができる。いくつかの態様では、本明細書に記載のガラス化プロセスは、約0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、及び9 μLの試料を含む、約0.1 ~10 μL以上の試料をガラス化することができる。例えば、本明細書の実施例に記載されているように、ガラス化混合物に3 μLのリボ核酸を提供し、得られたガラス化された材料を、室温を十分に超える温度で3か月以上貯蔵すると、再構成時に最初の3 μgから3 ng未満の材料が損失された。さらに、リボ核酸は通常損傷や分解を受けやすいにもかかわらず、本明細書のガラス化プロセスは、再構成時に、新たに形質導入された試料と比較して、75%を超える形質導入活性を維持するように、少量のリボ核酸を保護することに成功し、本明細書に記載のガラス化プロセスが少量の試料を安全かつ効果的に貯蔵できることが確認された。
【0109】
いくつかの態様では、試料のより小さい容量が、該試料が占める単位面積に対している。いくつかの態様では、ガラス化される試料は、約0.11、0.12、0.13、0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.20、0.21、0.22、0.23、及び0.24 μL/mm2を含む、約0.10~約0.25 μL/mm2の間で提供される。従って、10 μLの試料は、約40~100 mm2を占めることになる。いくつかの態様では、試料は、約0.5~約100 mm2の面積の基質を覆ってもよい。
【0110】
いくつかの態様では、本開示は、低質量の試料が良好に回収できるガラス化プロセスを提供する。いくつかの態様では、本明細書のプロセスでは、質量が約4、3、2、及び1 μgを含む5 μg以下の試料が良好に回収することができる。いくつかの態様では、試料の質量は、100 ng以下の質量を含む1 μg未満であり得る。いくつかの態様では、ガラス化される試料の質量は、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、及び0.9 μgを含む、約0.1~1 μgである。例えば、本明細書の実施例に示すように、1 μg未満の抗体断片を本明細書に示すプロセスに従ってガラス化し、貯蔵し、その後再構成して活性を評価した。該ガラス化プロセスは、-20℃~55℃の範囲の貯蔵条件であっても、その後のELISAで、ガラス化されていない新鮮な対照と比較して、抗体活性を著しく妨げたり変化させたりすることはなかった。
【0111】
本開示のいくつかの態様では、貯蔵及び保存を成功させるために、前記ガラス化プロセスを複数の試料または材料に適用することができる。いくつかの態様では、複数の試料を同じガラス化混合物内でガラス化することができる。試料によっては、所望の最終用途に先立って他の材料から分離する必要があることは明らかであろう。このような態様では、分離された材料は、分離するための物理的空間を利用して、同じ毛細管基質上の別個のガラス化混合物中でガラス化することができる。他の態様では、連続的なガラス化を利用してもよく、それにより、最初に別の材料がガラス化された後、1つの材料がガラス化される。
【0112】
いくつかの態様では、本開示は、毛細管基質の同じ領域内でガラス化された2種以上の材料に関する。任意選択で、2種、3種、4種、5種、またはそれ以上の生物材料または試薬を1つの毛細管基質にガラス化してもよい。このようなことは、共ガラス化によって、または連続的なガラス化工程によって、またはそれらの組み合わせによって達成され得る。いくつかの態様では、固定化された生物材料等の1種以上の材料が、底部毛細管基質に結合され得る。例えば、毛細管基質上の抗体の固定化は、検出可能なシグナルが毛細管基質上に提供されるように、単回使用が行われる領域を提供する。1種以上の材料を毛細管基質上に固定化できること、及び全ての材料を固定化する必要がないことは明らかであろう。例えば、ELISAの場合、1つの抗体は固定化され、別の抗体はアッセイを実行して固定化された抗体に結合するまで固定化されない場合がある。
【0113】
いくつかの態様では、本開示は、その中にガラス化された材料を利用するアッセイまたは測定等の単回使用に必要な1種以上のガラス化材料を有する毛細管基質を提供する。いくつかの態様では、アッセイ用の各材料に複数の毛細管基質またはその一部を利用することができる。いくつかの態様では、単一使用のための2種以上の材料を、膜の同じ領域内で、または同じガラス化培地内でガラス化するか共ガラス化することによって、共にガラス化することができる。他の態様では、毛細管基質の同じ領域内で2種以上の材料がガラス化されたものが含まれ得ること、アッセイ用の1種以上の材料が、完全に異なる基質上、または同じ基質の異なる範囲もしくは領域上の別個の毛細管基質上でガラス化されることは明らかであろう。
【0114】
いくつかの態様では、本開示は、アッセイ等の単回使用のために全てを再構成できる時点まで貯蔵できるようにするためにガラス化された複数の材料に関する。本明細書に記載の実施例は、生物材料の保持された量及び機能を実証しているが、他の材料も同様に損失または変化することなくガラス化できることが理解されるであろう。
【0115】
いくつかの態様では、本開示は、単回使用を可能にするまたは提供するためのガラス化された材料のキットまたは集合体に関する。いくつかの態様では、これには、1つ以上のガラス化された生体材料が含まれてもよい。いくつかの態様では、これには、単回使用のための1種以上のガラス化された試薬が含まれてもよい。試薬には、緩衝剤、塩、基質、酵素基質、抗原、化合物、ペプチド、及びプライマーやsiRNA等の小さな核酸が含まれてもよい。いくつかの態様では、使い捨ての集合体またはキットには、再構成用の溶液、腐りにくいまたは酸化されやすい化学薬品または塩、緩衝剤、細胞培地、抗微生物薬等の1種以上の非ガラス化材料が必要であり、または任意選択で、含み得ることは明らかであろう。さらに、使い捨てキットの場合、全ての材料をガラス化する必要はないことが理解されるであろう。例えば、ユーザは、ガラス化された材料を分析または観察するために使用し得る試験材料または試料を供給してもよい。
【0116】
いくつかの態様では、本開示は、本明細書に記載のプロセスによってガラス化された1種以上の材料を含むキットに関する。これには、1つ以上のガラス化生体試料、1種以上のガラス化試薬、及び/または1種以上の付随溶液が含まれ得る。いくつかの態様では、前記キットは、1つ以上のガラス化された生体試料のみ、または1種以上のガラス化された試薬のみを含み得る。いくつかの態様では、前記キットは、少なくとも1つのガラス化された生体試料及び少なくとも1種のガラス化された試薬を含み得る。いくつかの態様では、前記キットは、別の生体試料及び/または少なくとも1種の試薬と共ガラス化された少なくとも1つの生体試料を含み得る。いくつかの態様では、前記キットの全てまたはいくつかの構成要素は、共通の底部基質の別個の範囲または領域上、または個々の基質上、またはそれらの組み合わせ上で独立してガラス化され得る。
【0117】
いくつかの態様では、前記キットは、単回使用の用途の全部または一部を提供し得る。このような用途には、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、細胞培養、医療用試料の取得、医薬品の提供、ワクチンの提供、実験室でのアッセイ、酵素アッセイ、細胞形質導入、DNA突然変異誘発または編集、外因性タンパク質またはペプチドの発現用等の材料が含まれ得る。前記キットには、1種以上のガラス化された核酸、タンパク質、ペプチド、ポリヌクレオチド鎖、DNA、RNA、mRNA、tRNA、抗体、緩衝剤、塩、酵素、酵素基質、脂質、陽イオン性脂質、イオン化脂質、ステロール、ステロイド、治療薬、アジュバント、担体、賦形剤、基質、触媒、アミノ酸、デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)、それらの組み合わせ、または同様のものが含まれ得る。
【0118】
例えば、本明細書に記載されているように、捕捉抗体、抗原、及び検出抗体のガラス化は、得られるELISAアッセイに悪影響を及ぼさないことが確認されている。従って、前記キットは、ガラス化された捕捉抗体、抗原、及び/または検出抗体のうちの1種以上を含み得る。キットには、ガラス化された検出試薬も含まれてもよい。キットには、再構成溶液が含まれていてもよい。キットには、ガラス化培地等の材料の貯蔵を可能にするために、ガラス化を可能にする試薬がさらに含まれてもよい。同様に、PCRの場合、キットには、ガラス化されたプライマー、ガラス化されたポリメラーゼ、ガラス化された逆転写酵素、ガラス化されたベクター、ガラス化された鋳型DNA/RNA、ガラス化されたdNTP等のうちの1種以上が含まれてもよい。一部のキットは、ガラス化された酵素及び/または酵素のガラス化された基質を提供し得る。
【実施例
【0119】
1. 試料の加熱及び毛細管基質のサイズ
【0120】
低気圧下での乾燥プロセスに熱を加える役割及び毛細管基質のサイズが真空の適用後の試料温度の回復能力に対する影響を評価するために、最初の実施例を準備した。
【0121】
異なる形状のガラス膜(Ahlsltrom 8951)に、4 wt% BSA、15 wt% トレハロース二水和物、0.75 wt% グリセロール、2 wt% Tween-20、及び水を含有する液体を充填した。膜1 mm2あたりの液体負荷量は、全ての場合で0.316 mlに保たれた。ケース1では、膜を直径0.25インチの円に切り、それぞれに10 μlの液体を負荷した。480 mlを含有する合計48個の膜試料を、真空チャンバー内の加熱された(約37℃)金網に負荷した。ケース2では、それぞれ470 μlの液体を含有する3本の長い膜ストリップ(240 mm x 6.23 mm)を前記加熱された金網(同じく37℃)に負荷した。ケース3では、1700 μlの液体を含有する1本のストリップ(240 mm x 22 mm)を使用した。各ケースでは、前記チャンバーを29.5 mmHgまで真空にした。温度と時間のプロットは、前記乾燥プロセスを起こしている液体を示す。図5は、適用された真空の時間経過に伴う試料温度を示す。
【0122】
図5に見られるように、各試料では温度が急激に低下した。金網を通して試料の表面を加熱することで、液滴を極低温以上に維持することができた。乾燥プロセスによって水分が失われると、試料温度は水の大部分が失われるまで上昇し、ガラス化プロセスがほぼ完了したことを示した。単位面積当たりの液体負荷は一定でしたが、蒸発を引き起こす毛細管基質の数と寸法は、ガラス化プロセスにかかる時間に影響を与えた。これらのデータは、より大きな容積の材料の場合、より小さな膜を使用し、それに応じてガラス化培地を分割することにより、より迅速なガラス化を達成できることを示している。
【0123】
2. 親水性毛細管基質
【0124】
親水性及び疎水性の毛細管システムの適合性の分析は、薬物組成物をガラス化培地に懸濁し、各タイプの膜上にそれぞれ等量を堆積させることによって評価された。もともと疎水性だった膜を冷プラズマでプロセスして親水性にした。図9 は、ガラス化前後の結果を示している。疎水性膜上で薬物を製剤化すると、塗布された液体は、ほぼ球形の液滴を形成したが(左上)、親水性膜では液体は、底部毛細管チャネルに流れ込んだ。ガラス化プロセス中、疎水性膜上の液滴は、最初に沸騰してから凍結した。一方、親水性膜上の液体は、迅速にガラス化してガラス状のモノリスを形成した。真空が解除されると、凍結した液滴は、再び液体に戻ったが、部分的に水分が失われ、そのサイズは縮小した。ガラス化に対する毛細管蒸発の有効性は、変換された親水性毛細管膜上での均一なガラス化が見られることから明らかである。
【0125】
3. 乾燥チャンバー
【0126】
カートリッジの表面(図6A)を毛細管パターン(図1B等)で模様化する代わりに、乾燥チャンバーの壁を裏打ちする親水性毛細管基質を提供することによって毛細管システムを製作することができる(図6B)。本実施例では、密封可能で真空源に動作可能に接続できる中空注射器を利用した。円筒形の性質により、内部の試料に熱を加えるのに簡単な形状がさらに提供された。
【0127】
親水性膜を湾曲させて円筒体の内側に挿入した。ガラス化溶液を懸濁すると、膜に液体が完全に充填されるまで、液体は、底部膜の毛細管チャネルに入り込んだ。
【0128】
評価のために、VM中濃度120 IU/mLのインスリン(Sigma Aldrich)のガラス化溶液を調製した。各試料は、15 IU(125 μL VM)を有した。
【0129】
湾曲したチャンバー内の合計6つの試料と3つの平膜試料を、熱を加えずに真空チャンバー内で最初に共にガラス化した。ガラス化プロセス後、水分残存率(MRR)及びタンパク質回収率を評価した(図8)。
【0130】
生体試料と水性培地との混合比を検討した。再びインスリンを利用し、表1に示すようにPBSと混合した。
表1
【0131】
ガラス化プロセスを真空中で熱の存在下または熱を加えずに30分間行い、MRR及び重量損失を測定した。図10と11は、熱を加えずに得られた結果を示す。図12と13は、試料を極低温以上に維持して凍結条件への曝露を防止するために、ガラス化プロセス中に熱を加えた結果を示す。
【0132】
4. 小さい試料容積
【0133】
ガラス化プロセスからmRNA試料を回収する能力をさらに評価するために、少量の、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするmRNA を利用した。ガラス化プロセスでは、まず、8 μmのPES 膜(毛細管基質)を直径1/4インチのサイズに切断し、オートクレーブにかけた。PBS中に1200 mM(または 454 mg/mL)トレハロースと 22.7 mg/mLグリセロールを含む2Xガラス化培地(VM)を調製し、その後、等量のmRNA(Dasher GFP mRNA、3870FS Aldevron)ストックと混合した。該混合物を5分間インキュベートした後、その6 μLを各ガラス化毛細管基質にピペッティングした。該溶液をピペットで膜上に移した後、試料をポリマー蓋で覆い、前記ガラス化チャンバーに負荷した。各ガラス化された試料について、ガラス化前に合計6 μLが膜に負荷され、その中に3 μgのmRNAを含むネイキッドmRNAストックが 3 μL含まれていた。
【0134】
ガラス化後、試料をマイラーパウチに密封し、試験まで55℃で貯蔵した。
【0135】
55℃でのガラス化貯蔵から100日後、前記試料を50 μLのFluorobrite培地で再構成し、簡単にボルテックスしてmRNAを放出した。次に、BioTek Synergy H1マイクロプレートリーダー上のTake3プレートを用いてmRNAを定量した。表2は、得られた定量結果を示している。
表2
【0136】
次に、前記mRNAの分量を形質導入またはアガロースゲルでの視覚化に使用した。
【0137】
アガロースゲルについて、3 μLの色素及び5 μLの水とともに3 μLのMillenniumTM RNA マーカー(AM7150)のラダーを1.2%アガロースゲルの最初のレーンで使用した。陽性対照として、mRNAストックを3つの陽性対照で125 ng/μLに希釈し、mRNAストックを125 ng/μLに希釈した。そして、該希釈ストック1 μLを3 μLの色素及び5 μLの水と混合した。ガラス化された試料について、125 ngの再構成されたmRNAを3 μLの色素及び5 μLの水と混合した。ゲルを85Vで1時間実行した後、ゲルをBioRadトランスイルミネーターのシェーカーリード上で30分間SYBR Green IIで染色した。図14Aは、捉えたゲルの画像を示している。そこで、レーン2及び3は、-80℃で貯蔵された新鮮なmRNAであり、レーン4及び5は、再構成された、ガラス化されたmRNAであり、レーン5及び6は、55℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNAである。
【0138】
形質導入では、陽性対照のリポフェクタミン(LipofectamineTM MessengerMAXTM Transfection Reagent、LipofectamineTM MessengerMAXTM Transfection Reagent) 4 μLを培地16 μLに添加し、10分間インキュベートした。別のチューブで、1 μLのmRNA(新鮮な試料)を培地19 μLに添加し、10分間インキュベートした。次いで、この2つの溶液を混合し、さらに5分間インキュベートした後、0.9×106細胞/mLのCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞を播種した10 μLの細胞プレートに移した。陰性対照及びガラス化された試料については、定量後、mRNAの量を1 μgのmRNAを製作するのに必要な量に正規化し、10分間のインキュベーション後にリポフェクタミンに添加した。図14Bは、GFP発現の収集された画像を示している。そこで、上のパネルは、新鮮なmRNAの陽性対照であり、中央のパネルは、55℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNAの陰性対照であり、下のパネルは、再構成されたmRNAである。図14Cは、陽性対照で得られた形質導入効率に対する得られた形質導入効率の割合を示している。
【0139】
PES膜上でガラス化され、55℃で100日間貯蔵されたmRNAは、-80℃で貯蔵された新鮮な液体mRNAと同様のmRNAの完全性、純度、及び安定性を維持する。
【0140】
5. 低質量でのガラス化
【0141】
次に、アルカリホスファターゼウサギ抗ヒトIgGを利用して、少量の試料をガラス化し、再構成し、及び機能を維持する能力を評価した。0.6 mg/mL AffiniPureウサギ抗ヒトIgG(H+L)(Cat: 309-055-082, Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc., West Grove, PA) のストック1.2 μLをPBS 36.3 μLと混合した後、1200 mM (または454 mg/mL)トレハロースと22.7 mg/mLグリセロールを含むPBSの調製済み2Xガラス化培地37.5 μLと混合した。その65 μLを採取し、直径1インチ及び孔径8 μmのPES膜に等分した。37℃に設定したベッド加熱温度で合計2つの試料を30分間ガラス化した。
【0142】
ガラス化後、1つの試料を-20℃で貯蔵し、もう1つの試料を55℃で貯蔵した。4.8 μLの抗体ストックと255.2 μLのPBSを混合して液体対照を製作し、55℃で貯蔵した。
【0143】
前記試料を再構成し、ELISAで抗体の維持及び機能についてアッセイした。捕捉抗体(AffiniPureマウス抗ヒトIgG, F(ab’)断片特異, Jackson ImmunoResearch Laboratories, Cat 209-005-097)を1 μg/mLに希釈し、ウェル当たり100 μLでELISAプレート上にコーティングし、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。次に、アッセイ希釈液200 μL/ウェルで該プレートを室温で1時間ブロックし、その後アッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。
【0144】
次に、希釈プレート上で目的の抗原を3倍段階希釈し(ヒトIgG全分子、Rockland、Cat 009-0102)、100μLの希釈抗原を対応するウェルに移し、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。100 μL/ウェルの再構成されたALP抱合抗体を該プレートに添加し、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルで3回洗浄した。次に、100 μL/ウェルの4-MUP基質溶液を添加し、室温/暗所で 20分間インキュベートした。BioTek Synergy H1マイクロプレートリーダーを使用し、前記プレートから蛍光シグナルを読み取り、データを処理した。図15は、アッセイされた各濃度/希釈における相対蛍光単位(RFU)を示す。0.84 μgのガラス化されたアルカリホスファターゼ検出抗体は、-20℃または55℃で貯蔵されたかどうかに関係なく、陽性対照と同様のELISA応答を示した。これは、ガラス化されたALP抱合検出抗体がガラス化及び貯蔵前の元の量と機能の両方を維持していることを示している。また、図15に見られるように、液体抗体(即ち、ガラス化されていない)を一晩のみの貯蔵でも、著しい機能の低下が実証された。
【0145】
6. 複数の試料のガラス化
【0146】
次に、酵素とその化学基質の共ガラス化後の量及び機能を維持する能力を評価した。この一連の試験では、ルシフェラーゼストック(QuantiLum(登録商標)組換えルシフェラーゼ, Promeg, E170)及びルシフェリン基質(Beetle Luciferin, カリウム塩, Promega, E1601)を使用した。2 μLのルシフェラーゼ ストック及び55.6 μLのルシフェリンを、1200 mMトレハロースと22.7 mg/mLグリセロールのPBS溶液を含有するガラス化培地57.6 μLと混合した。該混合物を直径1インチの8 μm PES膜上に等分し、37℃のベッド加熱温度で30分間ガラス化した。
【0147】
再構成後、ガラス化されたルシフェラーゼ/ルシフェリンを、ATPを添加した新鮮なルシフェラーゼ及びルシフェリンで得られた活性と比較した。ATP標準は、1 mM ATP溶液から2倍段階希釈して調製した。50 μLの対応するATPを各ウェルに添加した。新鮮なルシフェラーゼ/ルシフェリンの場合、2.3 μLのルシフェラーゼストックを71.7 μLのルシフェリンストック及び1426 μLの4.7 mM MgSO4/EPPSと混合し、50 μLを各ウェルに加えた。ガラス化された試料の場合、再構成された容積に1164.1 μLの4.5 MgSO4/EPPSを添加し、その50 μLをウェルごとに使用した。図16は、新鮮な試料とガラス化された試料との比較を示す。単回使用のルシフェラーゼ及びルシフェリンのガラス化された調製物は、新たに調製された液体ルシフェラーゼ及びルシフェリンと同様の発光シグナルを示し、機能活性及び発光シグナルがガラス化及び非極低温貯蔵によって損なわれないことが確認された。
【0148】
さらに、図19に示すように、前記ガラス化プロセスは、複数回繰り返すことができる。図19は、ガラス化のために直径1インチの8 μm PES膜に添加されたガラス化培地(600 mMトレハロース、5%グリセロール(トレハロースの重量に対して)、及びPBS)を示す。4つのガラス化サイクルでは、2つの試料の温度プロファイルが記録され、別のガラス化サイクルでは、1つの試料の温度プロファイルが記録される。合計で、9つの試料(実行間、実行内)の温度データが記録され、エラーバー付でプロットされる。これらのデータは、該プロセスの一貫性、堅牢性、及び再現性を示す。
【0149】
7. 個別の多成分ガラス化
【0150】
次に、アッセイ用に単離された成分が個別にガラス化され、量と機能を維持できるかどうかについて評価した。従って、検出のために個別にガラス化された抗原、捕捉抗体、及びアルカリホスファターゼ抱合抗体を用いてELISAを実施した。1200 mMトレハロース及び22.7 mg/mLグリセロールのPBS溶液を含有するガラス化培地を使用して、その20 μLを55 μL PBS及び75 μLのガラス化培地と混合して断片特異的な捕捉AffiniPureマウス抗ヒトIgG,F(ab’)(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Cat 209-005-097)を;その12 μLを63 μLのPBS及び75 μLのガラス化培地と混合して全ヒトIgGの抗原(ヒトIgG全分子, Rockland, Cat 009-0102)を;その3.6 μLを71.4 μLのPBS及び75 μLのガラス化培地と混合して検出抗体(アルカリホスファターゼ AffiniPureウサギ抗ヒトIgG (H+L), Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc., West Grove, PA, Cat 309-055-082)をそれぞれ個別にガラス化した。各混合物50 μLを膜に加え、ベッド加熱温度を37℃に設定して30分間ガラス化した。
【0151】
ガラス化された試薬のそれぞれを、対応するELISA工程で使用する前に、次の量のアッセイ希釈液で再構成した: 捕捉12 mL、抗原2 mL、検出12 mL。条件の概要を表3に示す。
表3
【0152】
ELISA自体では、新鮮な液体対照の場合、前記捕捉抗体を1 μg/mLに希釈し、ウェルあたり100 μLを使用して対応するウェルにコーティングした。ガラス化された捕捉抗体試料の場合、対応するウェルを1 ウェルあたり100 μLでコーティングした。両方を室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。次に、アッセイ希釈液200 μL/ウェルでプレートを室温で1時間ブロックし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。新鮮抗原とガラス化された抗原の両方を希釈プレート上で3倍連続希釈を調製し、その後、100 μLの希釈された抗原を対応するウェルに移し、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。次に、100 μL/ウェルの新鮮なまたはガラス化されたALP抱合抗体をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300μL/ウェルで3回洗浄した。次いで、4-MUP基質溶液を100 μL/ウェルで添加し、室温/暗所で20分間インキュベートした。その後、蛍光シグナルを読み取った。
【0153】
図17A及び17Bに見られるように、ガラス化されたELISA抗体及び/または抗原は、新たに調製された液体で、ガラス化されていない対照で観察されたシグナルと同等のシグナルを有する。図17Aは、ガラス化された抗原、捕捉及び検出抗体のELISAを示し、図17Bは、ガラス化されていない抗原でのガラス化された捕捉及び検出抗体を示す。前記ガラス化プロセスは、アッセイにおいて抗体または抗原の機能活性を変化させなかった。
【0154】
次に、4部構成のアッセイのためにさらなるガラス化された成分を評価した。従って、量及び/または機能の損失を評価するために、ELISAにおけるさらなる媒介物としてブドウ球菌エンテロトキシンB(SEB)を導入した。従って、捕捉(ウサギ抗SEBポリクローナル, Cat AB-R-SEB)ストックを560 μg/mLに希釈し、次いで、その10.8 μLを14.2 μLのPBS及び25 μLのガラス化培地と混合した。抗原(ブドウ球菌エンテロトキシンB (SEB))は、23.7 μLのPBS及び25 μLのガラス化培地と混合するために1.3 μLを必要とした。検出抗体(マウス抗 SEB mab, Cat AB-R-MAB)ストックは、420 μg/mLの濃度から、5.8 μLを用いて、19.2 μLのPBS及び25 μLのガラス化培地で調製した。4.8 μLのアルカリホスファターゼ(ALP)抱合体(アルカリホスファターゼ抱合ヤギ抗マウスIgG, Jackson ImmunoResearch Laboratories, 115-055-146)を20.2 μLのPBS及び25 μLのガラス化培地と合わせることによって混合した。それぞれ50 μLを洗浄した膜に加え、次に、ベッド加熱温度を37℃に設定して30分間ガラス化した。ガラス化された試薬のそれぞれを、対応するELISA工程で使用する前に、次の量のアッセイ希釈液で再構成した: 捕捉12 mL、抗原2 mL、検出12 mL。表4は、使用した容積と濃度の概要を示している。
表4
【0155】
ELISAでは、新鮮な陽性対照として捕捉抗体を0.5 μg/mLに希釈し、1 ウェルあたり100 μLで対応するウェルにコーティングした。ガラス化された捕捉抗体試料の場合、対応するウェルを1 ウェルあたり100 μLでコーティングした。これらのウェルを室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。次に、該プレートをアッセイ希釈液200 μL/ウェルで、室温で1時間ブロックし、そしてアッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。
【0156】
次に、新鮮な抗原及びガラス化された抗原の両方について、希釈プレート上で開始濃度10 μg/mLから2倍段階希釈を実行した。次に、100 μLの希釈された抗原を対応するウェルに移し、室温で1時間インキュベートし、その後アッセイ希釈液300 μL/ウェルでプレートを3回洗浄した。次に、100μL/ウェルの新鮮なまたはガラス化された検出抗体をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートし、その後アッセイ希釈液300μL/ウェルで3回洗浄した。次に、100μL/ウェルの新鮮なまたはガラス化されたALP抱合抗体をプレートに添加し、室温で1時間インキュベートし、続いてアッセイ希釈液300μL/ウェルで2回洗浄した。最後に、100 μL/ウェルの4-MUP基質溶液を添加し、室温/暗所で20分間インキュベートした。BioTek Synergy H1マイクロプレートリーダーを用いてプレートからの蛍光シグナルを読み取り、データを適切に処理した。
【0157】
図18に見られるように、アッセイにおいて4成分全てのガラス化は、依然として、新たに調製した液体で、ガラス化されていない対照で観察されたものと同等の結果をもたらした。従って、前記ガラス化プロセスによって、抗体またはSEB抗原の量や機能が変化しない。
【さらなる実施例】
【0158】
本開示の第1の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、極低温を超える温度での1つ以上の生物材料のガラス化のためのプロセスに関し、該プロセスは、a) 生体試料とガラス化培地を含むガラス化混合物を、乾燥チャンバー内で毛細管ネットワークを含む基質上に重ねること;b) 前記乾燥チャンバー内の気圧を低減させること;c) 表面から前記ガラス化混合物に、前記ガラス化混合物が凍結状態に陥るのを防止するのに十分な熱エネルギーを提供すること;及びd) 前記ガラス化混合物がガラス状態になるまで、該ガラス化混合物を毛細管現象によって乾燥させることを含む。
【0159】
本開示の第2の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが前記基質の表面に沿った輪郭によって提供される、第1の態様のプロセスに関する。
【0160】
本開示の第3の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記基質が前記乾燥チャンバーの壁であるか、または前記乾燥チャンバーの壁と関連付けられる、第1の態様のプロセスに関する。
【0161】
本開示の第4の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが底部固体支持基質と接触する、第1の態様のプロセスに関する。
【0162】
本開示の第5の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物のガラス化が30分間未満で起こる、第1の態様のプロセスに関する。
【0163】
本開示の第6の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物のガラス化が10分間未満で起こる、第5の態様のプロセスに関する。
【0164】
本開示の第7の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記熱エネルギーが前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、第1の態様のプロセスに関する。
【0165】
本開示の第8の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記大気圧が約0.9~約0.005 atmの値まで低減される、第1の態様のプロセスに関する。
【0166】
本開示の第9の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記大気圧が約0.004 atmまで低減される、第8の態様のプロセスに関する。
【0167】
本開示の第10の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記提供される熱エネルギーがガラス化中に前記ガラス化混合物内の結晶化を防止するのに十分である、第1の態様のプロセスに関する。
【0168】
本開示の第11の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記提供される熱エネルギーが前記ガラス化中に生体試料を約0~約40℃の温度に維持するのに十分である、第1の態様のプロセスに関する。
【0169】
本開示の第12の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化培地がトレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、第1の態様のプロセスに関する。
【0170】
本開示の第13の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが親水性である、第1の態様のプロセスに関する。
【0171】
本開示の第14の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが近接した毛細管チャネルを含む、第1の態様のプロセスに関する。
【0172】
本開示の第15の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が核酸、アミノ酸、ポリヌクレオチド鎖、ペプチド、タンパク質、及び抗体からなる群から選択される、第1の態様のプロセスに関する。
【0173】
本開示の第16の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が10 μL 以下の容積で前記基質上に重ねられる、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0174】
本開示の第17の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料の総容積が0.1~10 μLである、第16の態様のプロセスに関する。
【0175】
本開示の第18の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が1 μg以下の量で前記ガラス化混合物に存在する、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0176】
本開示の第19の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料の総質量が5μg以下、任意選択で1 μg未満である、第18の態様のプロセスに関する。
【0177】
本開示の第20の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料の総質量が0.1~1 μgである、第19の態様のプロセスに関する。
【0178】
本開示の第21の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が第2材料をさらに含む、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0179】
本開示の第22の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2材料が前記生体試料に対する試薬である、第21の態様のプロセスに関する。
【0180】
本開示の第23の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が第1試薬材料をさらに含む、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0181】
本開示の第24の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が第2試薬材料をさらに含む、第23の態様のプロセスに関する。
【0182】
本開示の第25の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第1試薬材料が酵素またはその活性断片を含む、第24の態様のプロセスに関する。
【0183】
本開示の第26の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、第25の態様のプロセスに関する。
【0184】
本開示の第27の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第1試薬材料が第1抗体またはその活性断片を含む、第24の態様のプロセスに関する。
【0185】
本開示の第28の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が抗原または第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、第27の態様のプロセスに関する。
【0186】
本開示の第29の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第1試薬材料がポリヌクレオチド鎖を含む、第24の態様のプロセスに関する。
【0187】
本開示の第30の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料がデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、第29の態様のプロセスに関する。
【0188】
本開示の第31の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が酵素をさらに含む、第29の態様のプロセスに関する。
【0189】
本開示の第32の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチド鎖が発現ベクターを含む、第29の態様のプロセスに関する。
【0190】
本開示の第33の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が酵素を含む、第32の態様のプロセスに関する。
【0191】
本開示の第34の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が前記基質に結合する、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0192】
本開示の第35の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が前記基質に結合していない少なくとも1つの生体試料をさらに含む、第34の態様のプロセスに関する。
【0193】
本開示の第36の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物が緩衝剤をさらに含む、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0194】
本開示の第37の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、工程d)の後に前記基質上に第2ガラス化混合物を重ねること及び工程b)、c)、及びd)を繰り返すことをさらに含み、前記第2のガラス化混合物が前記毛細管基質上に第2試薬混合物及びガラス化培地を含み、前記第2試薬混合物が第2試薬材料を含む、第1~15の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0195】
本開示の第38の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、第1~15または第37の態様のいずれか1つのプロセスによって製作された2つ以上の材料のガラス化された混合物に関する。
【0196】
本開示の第39の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料及び第2試薬材料を含む、第38の態様の混合物に関する。
【0197】
本開示の第40の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2生体試料をさらに含む、第39の態様の混合物に関する。
【0198】
本開示の第41の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が酵素またはその活性断片を含む、第38の態様の混合物に関する。
【0199】
本開示の第42の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が、前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、第41の態様の混合物に関する。
【0200】
本開示の第43の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が第1抗体またはその活性断片を含む、第39の態様の混合物に関する。
【0201】
本開示の第44の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、第43の態様の混合物に関する。
【0202】
本開示の第45の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生物材料がポリヌクレオチド鎖を含む、第39の態様の混合物に関する。
【0203】
本開示の第46の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料がデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、第45の態様の混合物に関する。
【0204】
本開示の第47の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記混合物が酵素をさらに含む、第46の態様の混合物に関する。
【0205】
本開示の第48の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生物材料が第2ポリヌクレオチド鎖をさらに含む、第45の態様の混合物に関する。
【0206】
本開示の第49の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチド鎖が発現ベクターを含む、第45の態様の混合物に関する。
【0207】
本開示の第50の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が酵素を含む、第45の態様の混合物に関する。
【0208】
本開示の第51の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生物材料または第2試薬が前記基質に結合している、第39の態様の混合物に関する。
【0209】
本開示の第52の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第1または第2試薬材料が前記毛細管基質に共有結合している、第51の態様の混合物に関する。
【0210】
本開示の第53の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記混合物が緩衝剤をさらに含む、第39の態様の混合物に関する。
【0211】
本開示の第54の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が5 μg以下の量で前記ガラス化混合物中に存在する、第38の態様の混合物に関する。
【0212】
本開示の第55の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が1 μg以下の量で前記ガラス化混合物中に存在する、第54の態様の混合物に関する。
【0213】
本開示の第56の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が0.1~1 μgの量で前記ガラス化混合物中に存在する、第54の態様の混合物に関する。
【0214】
本開示の第57の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料の総容積が0.1~10 μLである、第56の態様の混合物に関する。
【0215】
本開示の第58の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物の容積が10 μL以下である、第38の態様の混合物に関する。
【0216】
本開示の第59の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、第38の態様の試薬材料をある容積の溶液で再構成すること及びそこに試験材料を添加することを含む、アッセイであって、任意選択で、前記溶液が前記試験材料を含む、前記アッセイに関する。
【0217】
本開示の第60の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、第1~15または第37の態様のいずれか1つのプロセスによって製作されたガラス化された材料を収納する1つ以上の基質を含む、キットに関する。
【0218】
本開示の第61の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、第1毛細管基質が前記生物材料を含み、第2毛細管基質が前記第2試薬材料を含む、第60の態様のキットに関する。
【0219】
本開示の第62の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化された材料が酵素またはその活性断片を含む、第61の態様のキットに関する。
【0220】
本開示の第63の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が前記酵素またはその活性断片との酵素触媒反応を起こす化合物を含む、第62の態様のキットに関する。
【0221】
本開示の第64の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化された材料が第1抗体またはその活性断片を含む、第61の態様のキットに関する。
【0222】
本開示の第65の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料が第2抗体またはその活性断片を含み、前記第2抗体またはその活性断片が前記第1抗体またはその活性断片とは異なるエピトープに結合する、第64の態様のキットに関する。
【0223】
本開示の第66の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化された材料が1つ以上のポリヌクレオチド鎖を含む、第61の態様のキットに関する。
【0224】
本開示の第67の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記第2試薬材料がデオキシリボヌクレオチド三リン酸(dNTP)を含む、第66の態様のキットに関する。
【0225】
本開示の第68の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、ガラス化された酵素を含む第3毛細管基質をさらに含む、第67の態様のキットに関する。
【0226】
本開示の第69の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチド鎖が発現ベクターを含む、第66の態様のキットに関する。
【0227】
本開示の第70の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生物材料が前記毛細管基質に結合している、第60の態様のキットに関する。
【0228】
本開示の第71の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生物材料が前記毛細管基質に共有結合している、第70の態様のキットに関する。
【0229】
本開示の第72の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が5 μg以下の総質量で前記毛細管基質中にガラス化される、第60の態様のキットに関する。
【0230】
本開示の第73の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が1 μg以下の総質量で前記毛細管基質中に存在する、第72の態様のキットに関する。
【0231】
本開示の第74の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記生体試料が0.1~1 μgの総質量で前記毛細管基質中にガラス化される、第72の態様のキットに関する。
【0232】
本開示の第75の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物の総容積が0.1~10 μLである、第60の態様のキットに関する。
【0233】
本開示の第76の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物の総容積が10 μL以下である、第60の態様のキットに関する。
【0234】
本開示の態様を図示し説明してきたが、これらの態様が本開示の全ての可能な形態を図示し説明することを意図したものではない。むしろ、本明細書で使用される用語は、限定ではなく説明のための用語である。理解されるように、本開示の主旨及び範囲から逸脱することなく、その様々な改変及び置換が可能である。
【0235】
特許参考文献
【0236】
6,808,651 B1, 10/2004, Katagiri, et al.
【0237】
7,883,664 B2, 2/2011, G. Elliott; N. Chakraborty.
【0238】
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【0239】
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【0240】
US 2013/0157250 A1, 6/2013, Gutierrez et al.
【0241】
US 2013/0260452 A1, 10/2013, Toner et al.
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非特許参考文献
【0243】
Chakraborty N, Menze MA, Malsam J, Aksan A, Hand SC, et al. (2011), スピン乾燥した哺乳動物細胞の凍結保存, PLoS ONE 6(9): e24916.
【0244】
Chakraborty N, Biswas D, Elliott GD (2010), 乾燥保存プロセス中の哺乳類細胞の生存率を向上させる簡易な機構的方法, Biopreservation and Biobanking, 8 (2), 107-114.
【0245】
本明細書に図示し説明したものに加えて、本開示の様々な改変は、当業者には明らかであろう。このような改変は、添付の請求項の範囲にも含まれることが意図されている。
【0246】
理解されるように、全ての試薬は、特に明記しない限り、当技術分野で知られている供給元から入手可能である。
【0247】
また理解されるべきこととして、特定の構成要素及び/または条件は当然変化し得るため、本開示は、本明細書に記載される特定の態様及び方法に限定されない。さらに、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の態様を説明する目的でのみ使用され、決して限定することを意図したものではない。また理解されるべきこととして、用語「第1」、「第2」、及び「第3」等は、本明細書では様々な要素、成分、領域、層、及び/またはセクションを説明するために使用され得るが、これらの要素、成分、領域、層、及び/またはセクションは、これらの用語によって制限されるべきではない。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層、またはセクションを別の要素、成分、領域、層、またはセクションから区別するためにのみ使用される。従って、以下で論じる「第1の要素」、「成分」、「領域」、「層」、または「セクション」は、本明細書の教示から逸脱することなく、第2の(または他の)要素、成分、領域、層、またはセクションと称することができる。同様に、本明細書で使用される単数形「1つの」及び「この」は、内容に明示されない限り、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことを意図している。「または」は、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、「及び/または」という用語には、関連する列挙された項目の1つ以上のあらゆる組み合わせが含まれる。さらに理解されるべきこととして、本明細書で使用される用語「含む」及び/または「含んでいる」、または「包含する」及び/または「包含している」は、記載された特徴、領域、整数、工程、演算、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分、及び/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。「またはそれらの組み合わせ」という用語は、前述の要素の少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0248】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する当業者によって一般に理解されるのと同様の意味を有する。さらに理解されるべきこととして、一般に使用される辞書で定義されているような用語は、関連技術及び本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、また、本明細書で明示的に定義しない限り、それらは理想化された意味または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0249】
本開示の例示的な組成物、態様及び方法を詳細に参照するが、これらは発明者らに現在知られている本開示を実施する最良のモードを構成する。前記図面は、必ずしも正確な縮尺ではない。しかし、開示された態様は、様々な代替形態で具体化され得る本開示の単なる例示にすぎないことを理解されたい。従って、本明細書に開示される特定の詳細は、限定するものとして解釈されるべきではなく、単に本開示の任意の態様の代表的な基礎として、及び/または当業者に本開示を多様に利用することを教示するための代表的な基礎として解釈されるべきである。
【0250】
本明細書で言及される特許、刊行物、及び出願は、本開示が関係する当業者のレベルを示すものである。これらの特許、刊行物、及び出願は、個々の特許、刊行物、または出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0251】
前述の説明は、本開示の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施を限定することを意図するものではない。以下の請求項は、それらの全ての均等物を含めて、本開示の範囲を定義することを意図している。


図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【国際調査報告】