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特表2023-552286モジュール式の固定床バイオリアクターシステム及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】モジュール式の固定床バイオリアクターシステム及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231208BHJP
   C12N 11/04 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N11/04
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023529026
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-07-13
(86)【国際出願番号】 US2021059706
(87)【国際公開番号】W WO2022115295
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/118,067
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】シート,ポール ケヴィン
【テーマコード(参考)】
4B029
4B033
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB11
4B029CC02
4B029CC10
4B029DA03
4B029DF06
4B029DG08
4B029GB01
4B029GB05
4B029GB09
4B033NA16
4B033NB13
4B033NB33
4B033NB35
4B033NB36
4B033NB45
4B033NB46
4B033NB47
4B033NB48
4B033NB50
4B033NB54
4B033NB57
4B033NB58
4B033NB59
4B033NB68
4B033NG05
4B033NH02
4B033NH04
4B033NH06
4B033NJ10
(57)【要約】
細胞培養用の固定床バイオリアクターシステムが提供される。該システムは、複数の細胞培養サブユニットを含み、各細胞培養サブユニットは、細胞培養基材を支持するための主面、入口、及び主面上に配置され、かつ入口と流体連通している複数の出口を備えた、分配プレートを含む。サブユニットは、分配プレートの主面上に配置された細胞培養基材も含む。該システムは、細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを複数の細胞培養サブユニットに供給するための複数の投入ラインをさらに含み、該複数の投入ラインの各投入ラインは入口に流体接続されている。複数の出口は、複数の投入ラインからの細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを細胞培養基材全体にわたって実質的に均一に分配するように構成される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞培養用の固定床バイオリアクターシステムにおいて、
複数の細胞培養サブユニットであって、各細胞培養サブユニットが、
細胞培養基材を支持するように構成された主面、入口、及び前記主面上に配置され、かつ前記入口と流体連通している複数の出口を含む、分配プレート;並びに
前記分配プレートの前記主面上に配置された細胞培養基材
を含む、複数の細胞培養サブユニットと、
細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを前記複数の細胞培養サブユニットに供給するように構成された複数の投入ラインであって、前記複数の投入ラインの各投入ラインが前記入口に流体接続されている、複数の投入ラインと
を備えており、ここで、
前記複数の出口が、前記複数の投入ラインからの細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを前記細胞培養基材全体にわたって実質的に均一に分配するように構成される、
固定床バイオリアクターシステム。
【請求項2】
前記複数の細胞培養サブユニットを収容するように構成された内部空洞を備えた容器をさらに含み、
前記複数の細胞培養サブユニットがモジュール式であり、前記容器に個別に追加可能及び/又は容器から取り外し可能である、
請求項1に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項3】
前記容器が、可変数の細胞培養サブユニットを収容するように構成される、請求項2に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項4】
前記複数の細胞培養サブユニットのうちの第1の細胞培養サブユニットの分配プレートが、前記複数の細胞培養サブユニットのうちの第2の細胞培養サブユニットの投入ラインが前記第1の細胞培養サブユニットを通過できるように寸法設定された中央プレートボアを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項5】
前記細胞培養基材が、前記中央プレートボアと同軸に位置合わせされた中央基材ボアを含む、請求項4に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項6】
前記入口が、前記中央プレートボアから半径方向外側に配置される、請求項4又は請求項5に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項7】
前記複数の投入ラインのうちの少なくとも1つが、前記投入ラインが第1の細胞培養サブユニットの中央プレートボアを通過し、次いで第2の細胞培養サブユニットの入口まで半径方向外側に延びるように構成されるように、湾曲又は屈曲している、請求項6に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項8】
前記細胞培養基材が、前記細胞培養基材全体にわたる流体の透過性を増加させるように構成された少なくとも1つの有芯セクションを含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項9】
前記細胞培養基材が、溶解可能な発泡足場を含む、請求項1に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項10】
前記細胞培養基材が、構造的に画成された多孔質材料を含む、請求項1から9のいずれか一項に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項11】
前記細胞培養基材が、前記構造的に画成された多孔質材料の複数の層を含む、請求項10に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項12】
前記細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、及び織物メッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、請求項10又は請求項11に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【請求項13】
前記細胞培養基材が実質的に均一な多孔性を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2020年11月25日出願の米国仮特許出願第63/118,067号の米国法典第35編特許法119条に基づく優先権の利益を主張する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、概して、細胞培養用の基材、並びに細胞培養用のシステム及び方法に関する。特に、本開示は、細胞培養基材、そのような基材を組み込んだバイオリアクターシステム、並びにモジュール式で拡張可能な基材、容器、及びシステムを含む、そのような基材を使用して細胞を培養する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
バイオプロセス産業では、ホルモン、酵素、抗体、ワクチン、及び細胞療法の生産を目的として、細胞の大規模培養が行われる。細胞療法及び遺伝子治療の市場は急速に成長しており、有望な治療法は臨床試験へと移行し、急速に商業化に向けて進んでいる。しかしながら、細胞療法の1回の投与には、数十億の細胞又は数兆のウイルスが必要となる場合がある。したがって、臨床の成功には、短期間で大量の細胞産物を提供できることが重要である。
【0004】
バイオプロセスで用いられる細胞のかなりの部分は足場依存性であり、これは、細胞が増殖し機能するために接着する表面を必要とすることを意味する。従来、接着細胞の培養は、Tフラスコ、ペトリ皿、細胞工場、セルスタック容器、ローラーボトル、及びHYPERStack(登録商標)容器など、多数の容器形式のうちの1つに組み込まれた二次元(2D)細胞接着表面上で行われる。これらの手法には、治療薬又は細胞の大規模生産を可能にするのに十分に高い細胞密度を達成することが困難であることを含む、重大な欠点を有する可能性がある。加えて、2D培養基板上の従来のインビトロ細胞培養では、インビボ環境をシミュレーションすることができない。インビボ環境のほとんどすべての細胞は、他の細胞と細胞外マトリクス(ECM)に3次元(3D)で囲まれているため、2D細胞培養は細胞の自然な3D環境を適切にはシミュレートしない。2D培養の細胞は、硬い表面に付着するように強いられ、かつ、幾何学的に制約されており、平らな形態を選択するが、これは、細胞内シグナル伝達に重要な細胞骨格の調節を変更し、その結果、細胞の成長、移動、及びアポトーシスに影響を与える可能性がある。さらには、細胞の分化、増殖、及び遺伝子発現に重要なECMの組織は、ほとんどの2D細胞に存在しない。2D培養のこれらの制限により、インビボで観察されるものとは著しく異なるインビトロでの生物学的応答がしばしば発生する。
【0005】
現在、創薬では、化合物をスクリーニングする標準的な手順は、2D細胞培養をベースとした試験で始まり、その後に動物モデルの試験が行われ、その後、臨床試験が行われる。公的に入手可能なデータによれば、化合物の約10%のみが臨床開発を経て成功裏に進行する。多くの薬物は、主に、臨床効果の欠如及び/又は許容できない毒性を原因として、臨床試験中に(とりわけ、臨床開発の最も費用のかかるフェーズであるフェーズIII中に)不合格となる。これらの不合格の一部は、(一又は複数の)薬物に対する細胞応答が不自然な微小環境に起因して変化する、2D培養試験から収集されたデータを原因とする。創薬に関連する高いコストの理由から、効果のない及び/又は許容できない毒性化合物を創薬プロセスのできるだけ早い段階で退ける能力に対する需要が高まっている。インビボでの細胞の挙動をより現実的に模倣し、インビボ試験によってより予測可能な結果を提供することができる、インビトロの細胞をベースとしたシステムが現在検討されている。
【0006】
培養細胞の体積密度を増加させるための代替方法が提案されている。これらには、撹拌タンク内で行われるマイクロキャリア培養が含まれる。この手法では、マイクロキャリアの表面に接着した細胞は一定のせん断応力にさらされ、その結果、増殖及び培養性能に重大な影響を及ぼす。高密度細胞培養システムの別の例は、中空繊維バイオリアクターであり、ここで、細胞は、繊維間空間で増殖するときに大きい三次元凝集体を形成する可能性がある。しかしながら、栄養素が不足すると、細胞の増殖及び性能は著しく阻害される。この問題を軽減するために、これらのバイオリアクターは小型に作られており、大規模製造には適していない。
【0007】
足場依存性細胞の高密度培養システムの別の例は、固定床バイオリアクターシステムである。このタイプのバイオリアクターでは、接着細胞の接着のための表面を提供するために細胞基材が用いられる。培地は表面に沿って、又は半多孔性基材を通して灌流され、細胞の増殖に必要な栄養素と酸素を供給する。例えば、細胞を捕捉するための支持体又はマトリクスシステムの固定床を含む固定床バイオリアクターシステムは、以前に特許文献1~3に開示されている。固定床マトリクスは通常、基材としての多孔質粒子又はポリマーの不織布マイクロファイバーで作られる。このようなバイオリアクターは、再循環フロースルーバイオリアクターとして機能することができる。このようなバイオリアクターに関する重大な問題の1つは、固定床内の細胞分布が不均一であることである。実際、固定床は、デプスフィルタとして機能し、主に入口領域で細胞が捕捉され、その結果、接種ステップ中に細胞分布の勾配が生じる。加えて、繊維がランダムに充填されていることにより、固定床の断面の流動抵抗及び細胞捕捉効率は均一ではない。例えば、培地は、細胞充填密度が低い領域では速く流れ、抵抗が高い領域では、捕捉された細胞の数が多いことから、ゆっくりと流れる。これにより、体積細胞密度が低い領域には栄養素及び酸素がより効率的に供給され、細胞密度が高い領域では次善の培養条件で維持される、チャネリング効果が生じる。
【0008】
従来の固定床システムの別の重大な欠点は、培養プロセスの最後にインタクトな生細胞を効率的に回収することができないことである。最終生成物が細胞である場合、又はバイオリアクターが、細胞集団を1つの容器で増殖させ、その後細胞集団をさらに増殖させるために別の容器に移す「シードトレイン」の一部として用いられる場合、細胞の回収は重要である。特許文献4には、細胞回収ステップでの固定床からの細胞回収効率を向上させるためのバイオリアクターの設計が開示されている。これは、固定床マトリクスを緩め、固定床粒子を撹拌して、多孔性マトリクスを衝突させ、それによって細胞を分離することに基づいている。しかしながら、この手法は手間がかかり、重大な細胞損傷を引き起こす可能性があるため、全体的な細胞生存率が低下する。
【0009】
現在市販されている固定床バイオリアクターの一例は、Pall Corporation社製造のiCellis(登録商標)である。「iCellis」は、不織布配列でランダムに配向した繊維からなる細胞基材材料の小さいストリップを使用する。これらのストリップを容器に固定して、固定床を生成する。しかしながら、市販されている同様のソリューションと同様に、このタイプの固定床基材にも欠点がある。具体的には、基材ストリップの不均一な充填により、固定床内に目に見えるチャネルが生成し、固定床全体にわたる優先的かつ不均一な培地の流れ及び栄養素の分布が生じる。「iCellis」の研究では、「固定床の上から下に向かって数が増加する、細胞のシステム的な不均一な分布」、並びに「細胞の増殖及び産生の制限につながる…栄養勾配」が指摘されており、これらはすべて「トランスフェクション効率を損なう可能性のある、細胞の不均等な分布」につながる。(非特許文献1)。研究では、固定床を撹拌すると分散が改善さうるが、他の欠点を有するであろうことが指摘されている(すなわち、「接種及びトランスフェクション中に分散を良くするために必要な撹拌は、せん断応力の増加を引き起こし、ひいては細胞生存率の低下につながる。(necessary agitation for better dispersion during inoculation and transfection would induce increased shear stress, in turn leading to reduced cell viability.)」非特許文献1)。「iCellis」に関する別の研究では、細胞が不均一に分布しているため、バイオマスセンサを使用した細胞集団のモニタリングが困難であることが指摘されている(「…細胞が不均一に分布している場合、上部キャリア上の細胞からのバイオマス信号はバイオリアクター全体の全体像を示さない可能性がある。(…if the cells are unevenly distributed, the biomass signal from the cells on the top carriers may not show the general view of the entire bioreactor.)」非特許文献2)。
【0010】
加えて、基材ストリップ内の繊維のランダムな配置と、「iCellis」の一の固定床と別の固定床との間でのストリップの充填のばらつきにより、基材は培養ごとに異なるため、顧客が細胞培養性能を予測することが困難になりうる。さらには、「iCellis」の充填された基材は、細胞が固定床に閉じ込められていると考えられことから、効率的に細胞を回収することを非常に困難に又は不可能にする。
【0011】
上記の技術の各々において、細胞を回収するためにプロテアーゼ処理を使用することができる。しかしながら、プロテアーゼ処理などの一般的に用いられる回収手順では、細胞の構造及び機能に損傷を与える可能性のある過酷な条件に細胞をさらすこととなる。加えて、プロテアーゼ処理のみでは、しばしば、限られた量の細胞剥離しか引き起こさない。固定床材料では、問題は、一部には、プロテアーゼ剤を床全体に循環させ、回収した細胞の収量を増加させることをさらに困難にする、固定床材料の密集した性質に起因する。同様に、プロテアーゼ剤を3Dマトリクスの内部空間内に循環させることは困難である可能性があり、したがって、回収プロセス中に細胞を取り外すことが困難になる。この困難性は、細胞を固定床材料の表面又はマトリクスの表面に付着させる働きをする、培養細胞によって分泌される細胞外高分子の存在によってさらに悪化する。
【0012】
代替的に、又はプロテアーゼ処理と組み合わせて、機械的力を印加して培養細胞を固定床材料又は3Dマトリクスから解放する、細胞を回収するための方法及びシステムが開発されている。例えば、固定床材料又は3Dマトリクス、若しくは、固定床材料又は3Dマトリクスを含むより大きいシステムを振盪又は振動させて、培養細胞を解放することができる。機械的な力を印加すると、培養細胞に物理的な損傷を生じ、それにより、細胞培養収量を低下させる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,833,083号明細書
【特許文献2】米国特許第5,501,971号明細書
【特許文献3】米国特許第5,510,262号明細書
【特許文献4】米国特許第9,273,278号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Rational plasmid design and bioprocess optimization to enhance recombinant adeno-associated virus (AAV) productivity in mammalian cells. Biotechnol. J. 2016, 11, 290-297
【非特許文献2】Process Development of Adenoviral Vector Production in Fixed Bed Bioreactor: From Bench to Commercial Scale. Human Gene Therapy, Vol. 26, No. 8, 2015
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
充填床バイオリアクターに基づく従来のプラットフォームには、細胞密度が最大レベルに向かって増加すると、バイオリアクターの後端にある細胞(バイオリアクターを通る流路に関して)が十分な栄養又は酸素を得ることができないという制限があり、したがって、細胞の生産性が抑制される。この栄養素又は酸素の枯渇は、充填床の流路を通る栄養素及び/又は酸素の供給の勾配として見ることができる。細胞の機能に悪影響を与えるこのような栄養素/酸素勾配の発生を軽減するために、固定床は、比較的短い培地灌流経路を有するように設計することができる。しかしながら、このような設計は、バイオプロセス治療薬製造における反応器の拡張性に大きい影響を与える。例えば、懸濁液撹拌タンクバイオリアクターは、2,000L又は10,000Lまでスケールアップすることができるが、典型的な充填床バイオリアクターは、最大で50Lの容量までしか拡張可能ではない。早期臨床治験用のウイルスベクターの製造は既存のプラットフォームでも可能であるが、後期の商業生産規模に到達するためには、高品質の製品をより多く生産することができるプラットフォームが必要とされている。特に、充填床を通る細胞及び栄養素の流体の流れを管理し、充填床を通る栄養素及び/又は酸素の勾配を減少させつつ、充填床を区画化するためのプラットフォーム及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本開示の一実施形態によれば、細胞培養用の固定床バイオリアクターシステムが提供される。該システムは、複数の細胞培養サブユニットを含み、各細胞培養サブユニットは、細胞培養基材を支持するための主面、入口、及び主面上に配置され、かつ入口と流体連通している複数の出口を備えた、分配プレートを含む。各細胞培養サブユニットは、分配プレートの主面上に配置された細胞培養基材も含む。該システムは、細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを複数の細胞培養サブユニットに供給するための複数の投入ラインをさらに含み、複数の投入ラインの各投入ラインは入口に流体接続される。複数の出口は、複数の投入ラインからの細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを細胞培養基材全体にわたって実質的に均一に分配するように構成される。
【0017】
本開示の実施形態の追加の態様について、以下に説明する。これらの態様は、複数の細胞培養サブユニットを収容するように構成された内部空洞を備えた容器をさらに含む、固定床バイオリアクターシステムを含む。該複数の細胞培養サブユニットは、モジュール式であり、容器に個別に追加可能及び/又は容器から取り外し可能である。該容器は、可変数の細胞培養サブユニットを収容することができる。各サブユニット内の細胞培養基材は、所定の高さ以下の高さhを有し、ここで、所定の高さは約100mm、50mm、40mm、30mm、20mm、又は10mmである。
【0018】
分配プレートの実施形態の態様は、主面の直径にわたって配列された複数の出口を含む。複数の細胞培養サブユニットのうちの第1の細胞培養サブユニットの分配プレートは、複数の細胞培養サブユニットのうちの第2の細胞培養サブユニットの投入ラインが第1の細胞培養サブユニットを通過できるように寸法設定された、中央プレートボアを有する。細胞培養基材はまた、中央プレートボアと同軸に位置合わせされた中央基材ボアも含むことができる。分配プレートのための入口は、中央プレートボアから半径方向外側に配置することができる。したがって、複数の投入ラインのうちの少なくとも1つは、投入ラインが第1の細胞培養サブユニットの中央プレートボアを通過し、次いで第2の細胞培養サブユニットの入口まで半径方向外側に延びることができるように、湾曲又は屈曲している。加えて、細胞培養基材は、該細胞培養基材全体にわたる流体の透過性を増加させるための少なくとも1つの有芯セクションを有することができる。
【0019】
幾つかの実施形態における基材の態様は、溶解可能な発泡足場である、細胞培養基材を含む。溶解可能な発泡足場は、ペクチン酸;部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されるイオノトロピック架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含有することができる。溶解可能な発泡足場は、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーをさらに含むことができる。
【0020】
本開示の追加の態様は、一部には、以下の詳細な説明、図面、及び特許請求の範囲に記載され、一部には、詳細な説明から導き出されるか、又は本開示の実践によって知ることができる。前述の概要及び以下の詳細な説明はいずれも、単に例示及び説明のためのものであり、開示されるように本開示を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】一体型の固定床基材を有するバイオリアクターシステムの一例を示す図
図2】本開示の1つ以上の実施形態による、モジュール式の固定床基材配置を有するバイオリアクターシステムを示す図
図3】本開示の1つ以上の実施形態による、モジュール式の固定床基材配置を有するバイオリアクターシステムの断面図
図4】本開示の1つ以上の実施形態による、図3のモジュール式ユニットのうちの1つの拡大断面図
図5】本開示の1つ以上の実施形態による、モジュール式の固定床バイオリアクターシステムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
本開示のさまざまな実施形態は、もしあれば、図面を参照して詳細に説明される。さまざまな実施形態への言及は、本発明の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。加えて、本明細書に記載された例は限定的ではなく、特許請求された発明の多くの可能な実施形態のうちの幾つかを単に記載するものである。
【0023】
本開示の実施形態は、モジュール式の設計を備え、かつ充填床細胞培養基材における流体の流れ及び拡散特性が改善された、固定床バイオリアクターシステムに関する。従来の大規模細胞培養バイオリアクターでは、さまざまなタイプの固定床バイオリアクターが使用されてきた。通常、これらの固定床は、接着細胞又は浮遊細胞を保持し、成長及び増殖を支援するための多孔性マトリクスを含む。固定床マトリクスは体積に対する表面積の比率が高く、他のシステムよりも細胞密度を高くすることができる。しかしながら、固定床は多くの場合、細胞がマトリクスの繊維に物理的に捕捉されるか又は絡み合う、デプスフィルタとして機能する。したがって、固定床を通る細胞接種材料の直線的な流れの理由から、細胞は固定床内で不均一に分布し、固定床の深さ又は幅全体にわたる細胞密度の変動につながる。例えば、細胞密度は、バイオリアクターの入口領域でより高く、バイオリアクターの出口に近づくほど大幅に低くなる。固定床内の細胞のこの不均一な分布は、バイオプロセス製造におけるこのようなバイオリアクターの拡張性及び予測可能性を著しく妨げ、固定床の単位表面積又は体積あたりの細胞の増殖又はウイルスベクター産生に関する効率の低下につながる可能性さえある。
【0024】
従来技術で開示されている固定床バイオリアクターで遭遇する別の問題は、チャネリング効果である。充填された不織布繊維のランダムな性質に起因して、固定床の任意の所与の断面における局所的な繊維密度は均一ではない。培地は、繊維密度が低い領域(床透過性が高い)では迅速に流れるが、繊維密度が高い(床透過性が低い)領域では非常に遅くなる。固定床全体にわたり結果として生じる不均一な培地灌流がチャネリング効果を生み出し、これが、細胞培養及びバイオリアクターの性能全体に悪影響を与える重大な栄養素及び代謝物の勾配として現れる。培地の灌流が低い領域に位置する細胞は飢餓状態になり、多くの場合、栄養素の不足又は代謝物中毒により死滅する。不織繊維足場が充填されたバイオリアクターを使用する場合、細胞回収はさらに別の問題に遭遇する。固定床はデプスフィルタとして機能することから、細胞培養プロセスの最後に放出される細胞は固定床内に閉じ込められ、細胞回収率は非常に低くなる。これにより、生細胞が製品となるバイオプロセスにおけるこのようなバイオリアクターの利用が大幅に制限される。したがって、不均一性により、流れ及びせん断に曝露される領域が異なり、使用可能な細胞培養領域が事実上減少し、培養が不均一になり、トランスフェクション効率及び細胞放出が妨げられる。
【0025】
従来のバイオリアクター及び/又は固定床基材の上記制限は、バイオリアクターを通して灌流される細胞培地に含まれる細胞栄養素に関して拡散の制限を生じさせる可能性がある。充填床の寸法が、これの要因となる可能性がある。例えば、ある特定のサイズの固定床では、該固定床の下流のセクションの細胞に栄養素を送達することができない可能性がある。この理由から、本開示の1つ以上の実施形態は、所定のサイズ又は限定されたサイズの固定床基材を有する、モジュール式の細胞培養サブユニットを含む。この所定のサイズは、所与の細胞培養用途に十分な、基材全体にわたる栄養素の灌流を可能にするように設計することができる。加えて、細胞培養基材に対する改変(例えば、細胞培養基材内にコア又はチャネルを含めることによる)は、基材全体に培地又は流体を均一に分配するのに役立ちうる。
【0026】
本明細書に開示される実施形態は、足場依存性細胞の効率的かつ高収率の細胞培養及び細胞産物(例えば、タンパク質、抗体、ウイルス粒子)の産生を可能にする。実施形態は、均一な細胞播種及び培地/栄養素の灌流、並びに効率的な細胞回収を可能にする、多孔質基材(溶解可能な発泡足場又はメッシュなどの多孔質基材材料の規則正しい、整然とした配列など)から作られた多孔質細胞培養マトリクスを含む。実施形態はまた、該実施形態の均一な性能を犠牲にすることなく、プロセス開発規模から完全な生産サイズ規模まで細胞を播種及び増殖させ、及び/又は細胞産物を回収することができる、基材及びバイオリアクターを備えた拡張可能な細胞培養ソリューションを可能にする。リアクターの容器にさまざまな量で加えることができる細胞培養サブユニットを使用することにより、必要に応じて細胞培養表面積を拡大することができる。例えば、幾つかの実施形態では、バイオリアクターは、プロセス開発規模から製品規模まで容易に拡張することができ、生産規模全体にわたって基材の単位表面積あたりのウイルスゲノム(VG/cm)が同等である。本明細書の実施形態の回収可能性及び拡張性により、同じ細胞基材上で複数のスケールで細胞集団を増殖させるための効率的なシードトレインでの使用が可能になる。加えて、本明細書の実施形態は、記載された他の特徴と組み合わせて、高収率の細胞培養ソリューションを可能にする、高表面積を有する細胞培養マトリクスを提供する。幾つかの実施形態では、例えば、本明細書で論じられる細胞培養基材及び/又はバイオリアクターは、バッチあたり約1016から1018のウイルスゲノム(VG)を生成することができる。
【0027】
本開示は、複数の細胞培養サブユニットを有するモジュール式の固定床バイオリアクターシステムについて説明する。実施形態には、固定床バイオリアクターの個々のサブユニット、並びにバイオリアクターシステム内のアセンブリされた複数のサブユニットが含まれる。組み合わせ可能な、各々が独自の固定床細胞培養基材を備えた、個々の細胞培養サブユニットを使用することにより、拡張可能なソリューションがもたらされ、細胞培養中の充填床内の栄養素及び/又は酸素の勾配によって課せられる動作条件の制限がなくなる。各個々のサブユニットは短い培地灌流経路を提供し、最適な細胞培養条件を支援する。複数の個々のサブユニットを1つのユニット又は容器へとアセンブリすることができ、したがって、製造プロセスのスケールアップの柔軟性を提供することができる。生産バッチの目標収量に応じて、エンドユーザは、例えば、1から10、又はそれより多くの個別のサブユニットを同時に使用するなど、任意の数のサブユニットを使用するようにシステムを構成することができる。
【0028】
図1を参照すると、固定床バイオリアクター100が示されている。固定床バイオリアクター100は、分配プレート106上に配置された細胞培養基材110を収容する内部空洞102を含む。内部空洞102には、投入ライン104を介して細胞、細胞培地、又は他の流体若しくは栄養素が供給される。投入ライン104からの培地又は他の流体は、分配プレート106を通過し、したがって細胞培養基材110の一部にわたって分配される。基材110を通って灌流した後、余分な流体は、老廃物、細胞、又は細胞副生成物とともに、容器出口105を介して内部空洞102から除去することができる。図1に示されるように、細胞培養基材110は、高さhを有する。比較的高い高さhに起因して、培地及び細胞栄養素が基材110の上部(図1に見られるように)に効率的に供給されない可能性がある。したがって、本明細書で論じられる実施形態は、各々がより低い高さを有し、したがって拡散制限の可能性が減少した、細胞培養サブユニットを提供する。
【0029】
例えば、図2に示されるように、1つ以上の実施形態による固定床バイオリアクターシステム200が示されている。固定床バイオリアクターシステム200の構造もまた、内部空洞202及び容器出口205を含む。しかしながら、この実施形態では、2つの細胞培養サブユニットが図1の単一の基材を置き換える。第1のサブユニットは、分配プレート211と、その上に配置された細胞培養基材210とを含む。分配プレート211には投入ライン204aを介して流体が供給される。図2の固定床バイオリアクターシステムはまた、分配プレート221とその上に配置された基材220とを有する第2の細胞培養サブユニットも示している。第2のサブユニットには第2の投入ライン204bが供給される。各サブユニットが基材と分配プレートに関して同様に構築され、各サブユニットが独自の投入ラインを有している場合、サブユニット全体の性能を一貫して予測可能に保つことができる。モジュール性に起因して、必要に応じてサブユニットを追加又は削除することができ、結果は予測可能である。また、各サブユニットの基材を通る流体分布を改善することにより、基材材料の利用可能な表面積の使用が最大化される。必ずしも正確な縮尺で描かれているわけではないが、各サブユニットの基材の高さ(h、h)は、図1に示されている高さhよりも低いものと認識されたい。各サブユニットの所定の高さは、約500mm以下、200mm以下、100mm以下、50mm以下、40mm以下、30mm以下、20mm以下、又は10mm以下でありうる。
【0030】
図3は、図2に示されるものと同様のモジュール式のバイオリアクターシステムの断面図を示している。図3の詳細図は、分配プレート211、221及び基材210、220の拡大図を示している。各分配プレート211、221は、それぞれの投入ライン204a、204bにそれぞれ接続される、入口213、223を有する。これらの入口213、223は、分配プレートの主面上の多数の出口214、224に流体的に接続される;該主面は、細胞培養基材が配置される表面である。この流れの配置は、図4の拡大断面図に示されており、ここで、直線の矢印は、投入ライン204aから入口213に入り、分配プレート211の半径方向流路212を通って流れ、その後、分配プレート211の主面の出口214を通って上る流体の流れを表している。このようにして、投入ライン204a、204bによって供給される流体を基材の底面全体に均一に分配することができる。このように流体を分配することにより、基材の高さh、hを所定のレベルより下に保ちつつ、基材の先端への栄養素の拡散を改善することができる。しかしながら、モジュール式サブユニットの用途及び規模に応じて、細胞培養基材210、220全体にわたる灌流の改善がさらに必要とされる場合がある。したがって、図3に示されるように、多数のコア216、226を基材210、220から取り外して、基材内に追加の流体流路を開き、それによって細胞培養基材内の培地の流れの分布を改善することができる。これらのコア216、226は、基材から取り外されるか、又は基材自体に予め形成される、細胞培養基材内の空隙のセクションとして画成される。これらのコア216、226は、細胞培養基材の厚さ方向又は高さ方向に少なくとも20%、25%、50%、又は75%に延在しており、このような空隙を、はるかに小さいスケールの細胞培養基材の細孔と混同してはならない。
【0031】
図3に示されるように、細胞培養サブユニットのモジュール式の積み重ね可能な配置を可能にするために、第2のサブユニットの投入ライン204bは第1のサブユニットを通過する。図3に示される実施形態では、分配プレート211には、投入ライン204bの通過を可能にする中央プレートボア219が設けられている。同様に、第1のサブユニットの細胞培養基材には、モジュール式サブユニットをスタックするときに投入ラインを細胞培養基材に通すことができるように中央プレートボアと同軸に位置合わせさせることができる、中央基材ボアが設けられている。図示される実施形態は分配プレート211及び細胞培養基材210の両方を貫通する中央ボアを使用しているが、投入ライン204bが第2のサブユニットの入口223に供給されうる限り、ボア219、218は中央に位置する必要はなく、任意の側にオフセットすることができるものと理解されたい。同様に、第2のサブユニットの分配プレート221は中央プレートボア229を有し、第2のサブユニットの細胞培養基材220は中央基材ボアを有し、その結果、1つ以上の追加のサブユニットの投入ラインを通過させて、システムをさらに拡張することができる。
【0032】
分配プレート211、221の入口213、223は、中央プレートボア219、229からオフセットすることができる。このような場合、図3の投入ライン204b及び入口223に示されるように、投入ラインが1つのサブユニットの中央プレートボアを通過できるようにしつつ、オフセット入口に送ることができるような態様で、投入ラインを硬化、ねじれ、オフセット、又は柔軟にすることができる。
【0033】
図2及び3の実施形態は2つのサブユニットのみを示しているが、本開示の実施形態は、追加の細胞培養基材を備えた、より多くのサブユニットを含むことができることが企図されている。例えば、図5は、7つのサブユニット310a~310gを備えたモジュール式のバイオリアクターシステム300の一実施形態を示しており、各サブユニットには別個の投入ライン304a~gが設けられている。7つは単なる例であり、1つのバイオリアクター容器内のサブユニットの数は、必要な任意の数にすることができる。
【0034】
1つ以上の実施形態によれば、流体(例えば、細胞培地)がサブユニットの細胞培養基材を通過した後、次に、出口(例えば、図2の出口205及び図5の出口305)を通って流出し、その後、再循環及び/又は再調整、又は他の方法で処理することができる。しかしながら、幾つかの実施形態では、各サブユニットはそれ自体の出口ラインに直接接続されてもよく、これらの出口ラインはすべて別々に容器から出るか、又は容器から出る前に出口205、305の近くで結合されてもよい。
【0035】
幾つかの実施形態では、溶解可能な発泡足場が基材に用いられる。発泡足場は多孔質であり、優れた灌流を可能にする。回収のため、溶解可能な発泡足場を溶解又は消化して、細胞及び/又は他の細胞培養産物を効率的に放出することができる。一実施形態では、基材には、接着細胞が接着して増殖するための構造的に規定された表面積が設けられており、これは、良好な機械的強度を有し、固定床又は他のバイオリアクター内でアセンブリされた場合に、非常に均一な多数の相互接続された流体ネットワークを形成する。特定の実施形態では、機械的に安定で非分解性の織物メッシュを基材として使用して、接着細胞の産生を支援することができる。本明細書に開示される細胞培養マトリクスは、高体積密度形式で足場依存性細胞の接着及び増殖を支援する。このような基材への均一な細胞播種が達成でき、また、細胞又はバイオリアクターの他の生成物の効率的な回収も達成可能である。加えて、本開示の実施形態は、接種ステップ中に均一な細胞分布を提供し、開示された基材上に接着細胞のコンフルエントな単層又は多層を達成するための細胞培養を支援し、また、栄養素の拡散が制限され、代謝産物濃度が増加する、大きい及び/又は制御不能な3D細胞凝集体の形成を回避することができる。したがって、基材は、バイオリアクターの動作中の拡散制限を排除する。加えて、基材は、バイオリアクターからの簡単かつ効率的な細胞回収を可能にする。
【0036】
本開示の幾つかの実施形態では、細胞培養基材は、細胞培養用の溶解可能な発泡足場である。溶解可能な発泡足場は、開放細孔構造を含む多孔質発泡体である。溶解可能な発泡足場は、約85%から約96%の多孔率、及び約50μmから約500μmの間の平均細孔径を有することができる。溶解可能な発泡足場は、細胞の培養のための発泡足場の細孔内に保護された環境を提供する。加えて、溶解可能な発泡足場はまた、細胞を損傷することなく、足場で培養された細胞の回収を容易にする、材料を消化又は分解する適切な酵素に曝露されたときに、溶解可能である。
【0037】
本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、少なくとも1つのイオノトロピック架橋した多糖類を含む。概して、多糖類は、細胞培養用途に有益な属性を有している。多糖類は、親水性であり、細胞毒性がなく、培養培地中で安定である。例には、ポリガラクツロン酸(PGA)としても知られるペクチン酸又はそれらの塩、部分的にエステル化されたペクチン酸又はそれらの塩、若しくは部分的にアミド化されたペクチン酸又はそれらの塩が含まれる。ペクチン酸は、ある特定のペクチンエステルの加水分解によって形成することができる。ペクチンは細胞壁多糖類であり、自然界では植物において構造的な役割を有する。ペクチンの主な供給源には、柑橘類の皮(例えば、レモン及びライムの皮)並びにリンゴの皮が含まれる。ペクチンは、1,2-結合L-ラムノースによってランダムに中断された、1,4-結合アルファ-D-ガラクツロネート骨格に基づいている、主として直線状のポリマーである。平均分子量は約50,000~約200,000ダルトンの範囲である。
【0038】
ペクチンのポリガラクツロン酸鎖は部分的にエステル化されていてもよく、例えばメチル基であり、遊離酸基は、ナトリウム、カリウム、又はアンモニウムイオンなどの一価のイオンで部分的に又は完全に中和されていてもよい。メタノールで部分的にエステル化されたポリガラクツロン酸はペクチン酸と呼ばれ、その塩はペクチネートと呼ばれる。高メトキシル(HM)ペクチンのメチル化度(DM)は例えば60~75モル%であってよく、低メトキシル(LM)ペクチンのメチル化度は1~40モル%でありうる。本明細書に記載される部分的にエステル化されたポリガラクツロン酸のエステル化度は、約70モル%未満、又は約60モル%未満、又は50モル%未満、又はさらには約40モル%未満、及びそれらの間のすべての値でありうる。特定の理論に縛られはしないが、最小量の遊離カルボン酸基(エステル化されていない)は、ある程度のイオノトロピック架橋を促進し、不溶性である、溶解可能な足場の形成を可能にすると考えられている。
【0039】
あるいは、ペクチンのポリガラクツロン酸鎖が部分的にアミド化されていてもよい。ポリガラクツロン酸が部分的にアミド化されたペクチンは、例えばアンモニアで処理することによって生成されうる。アミド化されたペクチンは、カルボキシル基(~COOH)、メチルエステル基(~COOCH)、及びアミド化基(-CONH)を含む。アミド化度は変化してよく、例えば、約10%から約40%がアミド化されうる。
【0040】
本開示の実施形態によれば、本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、ペクチン酸と部分的にエステル化されたペクチン酸との混合物を含みうる。相容性のあるポリマーとのブレンドも使用することができる。例えば、ペクチン酸及び/又は部分的にエステル化されたペクチン酸は、デキストラン、置換セルロース誘導体、アルギン酸、デンプン、グリコーゲン、アラビノキシラン、アガロースなどの他の多糖類と混合することができる。ヒアルロン酸及びコンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、又はエラスチン、フィブリン、シルクフィブロイン、コラーゲン、及びそれらの誘導体などのさまざまなタンパク質も使用することができる。水溶性の合成ポリマーを、ペクチン酸及び/又は部分的にエステル化されたペクチン酸とブレンドすることもできる。例示的な水溶性の合成ポリマーには、限定はしないが、ポリアルキレングリコール、ポリ(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、ポリ(メタ)アクリルアミド及び誘導体、ポリ(N-ビニル-2-ピロリドン)、並びにポリビニルアルコールが含まれる。
【0041】
本開示の実施形態によれば、本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、少なくとも1つの第1のポリマーをさらに含みうる。少なくとも1つの第1のポリマーは、水溶性であり、非イオノトロピック的に架橋可能であり、かつ表面活性を有する。本明細書で用いられる場合、「表面活性」という用語は、2つの液体間又は液体と固体の間又は気体と液体の間の表面張力(又は界面張力)を低下又は排除する薬剤の活性を指す。少なくとも1つの第1のポリマーは、約8を超える、又はさらには約10を超える親水性-親油性バランス(HLB)を有しうる。例えば、少なくとも1つの第1のポリマーは、約8~約40、又は約10~約40のHLBを有しうる。少なくとも1つの第1のポリマーは、約8~約15、又はさらには約10~約12のHLBを有しうる。HLBは、ポリマーの親油性又は親水性の程度の基準を提供する。より大きいHLB値はより強い親水性を示し、より小さいHLB値はより強い親油性を示す。一般に、HLB値は1~40の範囲で変動し、親水性-親油性遷移は、しばしば約8から約10の間であると考えられている。HLB値が親水性-親油性遷移よりも小さい場合、材料は親油性であり、HLB値が親水性-親油性遷移よりも大きい場合、材料は親水性である。
【0042】
本開示の実施形態による例示的な第1のポリマーは、セルロース誘導体、タンパク質、合成両親媒性ポリマー、及びそれらの組合せのいずれかでありうる。例示的なセルロース誘導体には、限定はしないが、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、及びヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)が含まれる。例示的なタンパク質には、限定はしないが、ウシ血清アルブミン(BSA)、ゼラチン、カゼイン、及びハイドロフォビンが含まれる。例示的な合成両親媒性ポリマーには、限定はしないが、Synperonics(登録商標)という商品名で入手可能なポロキサマー(英国スナイス所在のCroda Internationalから市販)、Pluronics(登録商標)という商品名で入手可能なポロキサマー(米国ニュージャージー州パーシッパニー所在のBASF Corp.から市販)、及びKolliphor(登録商標)という商品名で入手可能なポロキサマー(米国ニュージャージー州パーシッパニー所在のBASF Corp.から市販)が含まれる。
【0043】
本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、少なくとも1つの第2のポリマーをさらに含みうる。少なくとも1つの第2のポリマーは水溶性であり、表面活性を有しない。例示的な第2のポリマーは、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、及びそれらの組合せのいずれかでありうる。例示的な合成ポリマーには、限定はしないが、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド;(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドのホモポリマー及びコポリマー;ポリビニルメチルエーテル-無水マレイン酸、及びポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシドブロックコポリマーが含まれる。例示的な半合成ポリマーには、限定はしないが、デキストラン誘導体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース及び誘導体、メチルセルロース及び誘導体、エチルセルロースセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロースが含まれる。例示的な天然ポリマーには、限定はしないが、デンプン及びデンプン誘導体、カードラン、プルラン及びジェランガム、キサンタンガム、デキストランなどの微生物発酵によって得られるポリマー;アルブミン、カゼイン、及びカゼイン塩などのタンパク質;ゼラチン;寒天、アルギン酸塩、及びカラギーナンなどの海藻抽出物;グアーガム及び誘導体並びにローカストビーンガムなどの種子抽出物;ヒアルロン酸、及びコンドロイチン硫酸が含まれる。
【0044】
本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、それらの機械的強度を高めるため、及び、細胞培養培地と接触して置かれたときに足場の溶解を防止するために架橋されうる。架橋は、以下に記載するように、イオントロピックゲル化によって行うことができ、ここで、イオントロピックゲル化は、多価対イオンの存在下で高分子電解質が架橋して架橋足場を形成する能力に基づく。特定の理論に縛られはしないが、溶解可能な発泡足場の多糖類のイオントロピックゲル化は、二価カチオンと多糖類との強い相互作用の結果であると考えられている。
【0045】
本開示の実施形態によれば、本明細書に記載される足場は多孔質発泡足場である。本明細書に記載される発泡足場は、約85%~約96%の多孔率を有しうる。例えば、本明細書に記載される発泡足場は、約91%から約95%、又は約94%から約96%の多孔率を有しうる。本明細書で用いられる場合、「多孔率」という用語は、溶解可能な足場の開放細孔容積の尺度を指し、%多孔率に関して言及されており、ここで%多孔率とは、溶解可能な発泡足場の総容積中の空隙の割合である。発泡本明細書に記載される足場は、約50μm~約500μmの平均細孔径を有しうる。例えば、平均細孔径は、約75μm~約450μm、又は約100μm~約400μm、又はさらには150μm~約350μm、及びそれらの間のすべての値でありうる。
【0046】
本明細書に記載される足場は、約0.40g/cm未満の湿潤密度を有しうる。例えば、本明細書に記載される足場は、約0.35g/cm未満、又は約0.30g/cm未満、又は約0.25g/cm未満の湿潤密度を有しうる。本明細書に記載される足場は、約0.16g/cm~約0.40g/cm、又は約0.16g/cm~約0.35g/cm、又は約0.16g/cm~約0.30g/cm、又はさらには約0.16g/cm~約0.25g/cm、及びそれらの間のすべての値の湿潤密度を有しうる。本明細書に記載される足場は、約0.20g/cm未満の乾燥密度を有しうる。例えば、本明細書に記載される足場は、約0.15g/cm未満、又は約0.10g/cm未満、又は約0.05g/cm未満の乾燥密度を有しうる。本明細書に記載される足場は、約0.02g/cm~約0.20g/cm、又は約0.02g/cm~約0.15g/cm、又は約0.02g/cm~約0.10g/cm、又はさらには約0.02g/cm~約0.05g/cm、及びそれらの間のすべての値の乾燥密度を有しうる。
【0047】
足場には幾つかの細孔タイプが可能である。開放細孔は、足場の両側での細胞のアクセスを可能にし、溶解可能な足場を介した液体の流れ及び栄養素の輸送を可能にする。部分的に開放された細孔は、足場の片側での細胞のアクセスを可能にするが、栄養素及び老廃物の大量輸送は拡散に限定される。閉じた細孔には開口部がなく、細胞による、又は栄養素及び老廃物の大量輸送によるアクセスはできない。本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、開放細孔構造と、高度に相互接続された細孔とを有する。概して、開放細孔構造及び高度に相互接続された細孔は、細胞が溶解可能な発泡足場の細孔内に移動できるようにし、栄養素、酸素、及び廃棄物の大量輸送もまた促進する。開放細孔構造は、細胞間の相互作用のための大きい表面積及びECM再生のためのスペースを提供することにより、細胞接着のための細胞移動にも影響を与える。
【0048】
本明細書に記載される溶解可能な発泡足場は、材料を消化又は分解する適切な酵素に曝露される際に消化される。発泡足場の消化、細胞の採取、又はその両方に適した非タンパク質分解酵素には、ペクチン質を加水分解する関連酵素の異種グループである、ペクチン分解酵素又はペクチナーゼが含まれる。ペクチナーゼ(ポリガラクツロナーゼ)は、複雑なペクチン分子をガラクツロン酸のより短い分子へと分解する酵素である。ペクチナーゼの商業的に入手可能な供給源は、概して、アスペルギルス・アキュレアタス(Aspergillus aculeatus)の選択された株から産生されるペクチン分解酵素調製物である、Pectinex(商標)ULTRA SP-L(米国ノースカロライナ州フランクリントン所在のNovozyme North American,Inc.から市販される)などの多酵素である。Pectinex(商標)ULTRA SP-Lは、主に、ポリガラクツロナーゼ(EC3.2.1.15)、ペクチントランスエリミナーゼ(EC4.2.2.2)、及びペクチンエステラーゼ(EC:3.1.1.11)を含む。EC指定は、酵素が触媒する化学反応に基づく酵素についての酵素委員会の分類スキームである。
【0049】
本開示の実施形態によれば、溶解可能な発泡足場の消化はまた、足場を二価カチオンキレート化剤に曝露することも含む。例示的なキレート化剤には、限定はしないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、シクロヘキサンジアミン四酢酸(CDTA)、エチレングリコール四酢酸(EGTA)、クエン酸、及び酒石酸が含まれる。
【0050】
本明細書に記載される溶解可能な発泡足場の消化を完了する時間は、約1時間未満でありうる。例えば、発泡足場の消化を完了する時間は、約45分未満、又は約30分未満、又は約15分未満、又は約1分~約25分、又は約3分~約20分、又はさらには約5分~約15分でありうる。
【0051】
本開示の実施形態によれば、本明細書に記載される足場は、接着ポリマーコーティングをさらに含みうる。接着ポリマーはペプチドを含みうる。例示的なペプチドは、限定はしないが、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型及びIV型コラーゲン、変性コラーゲン(ゼラチン)、及び同様のペプチド、並びにそれらの混合物を含みうる。加えて、ペプチドはRGD配列を有するものでありうる。コーティングは、例えば、Synthemax(登録商標)II-SC(米国ニューヨーク州コーニング所在のCorning,Incorporated社から市販される)でありうる。任意選択的に、接着ポリマーは、細胞外マトリックスを含みうる。コーティングは、例えば、Matrigel(登録商標)(米国ニューヨーク州コーニング所在のCorning,Incorporatedから市販)でありうる。
【0052】
本開示の実施形態において企図される溶解可能な発泡足場のさらなる詳細及び例は、その内容がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、米国特許出願第16/765,722号明細書に記載されている。
【0053】
本開示の1つ以上の追加の実施形態は、細胞培養バイオリアクターで用いられる既存の細胞培養基材(すなわち、ランダムに配列された繊維の不織布基材)とは対照的に、画定された規則的な構造を有する細胞培養基材を含む。画定された規則的な構造により、一貫した予測可能な細胞培養結果が得られる。加えて、基材は、細胞の捕捉を防ぎ、固定床を通る均一な流れを可能にする、開放多孔性構造を有する。この構造は、細胞の播種、栄養素の送達、細胞の増殖、及び細胞の回収の向上を可能にする。1つ以上の特定の実施形態によれば、マトリクスは、シートの厚さが基材の第1の側と第2の側の幅及び/又は長さに比べて小さくなるように、比較的薄い厚さで分離された第1の側と第2の側とを有する薄いシート状構造を有する基材材料で形成される。加えて、複数の穴又は開口部が、基材の厚さを貫通して形成される。開口部間の基材材料は、細胞がほぼ二次元(2D)表面であるかのように基材材料の表面に接着でき、同時に基板材料の周囲及び開口部を通る適切な流体の流れも可能になるサイズ及び幾何学形状のものである。幾つかの実施形態では、基材はポリマーベースの材料であり、成形ポリマーシート;厚さ全体に穿孔された開口部を備えたポリマーシート;メッシュ様の層に融合された多数のフィラメント;3D印刷された基材;又は、メッシュ層へと織られた複数のフィラメントとして形成することができる。マトリクスの物理的構造は、足場依存性細胞を培養するための高い表面積対体積比を有する。さまざまな実施形態によれば、マトリクスは、均一な細胞播種及び増殖、均一な培地灌流、並びに効率的な細胞回収のために、本明細書で論じられるある特定の方法でバイオリアクター内に配置又は充填することができる。構造的に画定された又は織られた基材の実施形態の例は、その全体がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、米国特許出願第16/781,685号明細書に記載されている。
【0054】
本開示の実施形態は、バッチあたり約1014超のウイルスゲノム、バッチあたり約1015超のウイルスゲノム、バッチあたり約1016超のウイルスゲノム、バッチあたり約1017超のウイルスゲノム、又はバッチあたり最大約1016又はそれより多くのウイルスゲノムの規模で、ウイルスゲノムを産生することができる実用的なサイズのウイルスベクタープラットフォームを実現することができる。幾つかの実施形態では、産生は、バッチあたり、約1015から約1018又はそれより多くのウイルスゲノムである。例えば、幾つかの実施形態では、ウイルスゲノム収量は、バッチあたり約1015から約1016のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1016~1018のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1017から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018から約1019のウイルスゲノム、又はバッチあたり約1018以上のウイルスゲノムでありうる。
【0055】
加えて、本明細書に開示される実施形態は、細胞培養基材への細胞の接着及び増殖だけでなく、培養細胞の生存可能な回収も可能にする。生細胞を回収できないことは、現在のプラットフォームの重大な欠点であり、生産能力に十分な数の細胞を構築及び維持することが困難になる。本開示の実施形態の一態様によれば、80%から100%が生存、又は約85%から約99%が生存、又は約90%から約99%が生存を含めて、細胞培養基材から生細胞を回収することができる。例えば、回収される細胞のうち、少なくとも80%が生存、少なくとも85%が生存、少なくとも90%が生存、少なくとも91%が生存、少なくとも92%が生存、少なくとも93%が生存、少なくとも94%が生存、少なくとも95%が生存、少なくとも96%が生存、少なくとも97%が生存、少なくとも98%が生存、又は少なくとも99%が生存する。細胞は、例えばトリプシン、TrypLE、又はAccutaseを使用して細胞培養基材から放出されうる。
【0056】
十分な剛性を備えた構造的に画定された培養マトリクスを使用することにより、マトリクス又は固定床全体にわたる高い流動抵抗の均一性が達成される。さまざまな実施形態によれば、マトリクスは、単層又は多層フォーマットで配置することができる。この柔軟性により、拡散の制限が排除され、マトリクスに接着した細胞に栄養素と酸素が均一に供給される。加えて、開放マトリクスには固定床構成の細胞捕捉領域が欠けており、培養終了時に高い生存率での完全な細胞回収が可能になる。該マトリクスはまた、固定床の充填の均一性ももたらし、プロセス開発ユニットから大規模な産業用バイオプロセスユニットまでの直接的な拡張を可能にする。固定床から細胞を直接回収する能力は、複雑さが増し、細胞に有害なせん断応力を与えうるであろう、撹拌した又は機械的に振動させた容器内でマトリクスを再懸濁する必要性を排除する。さらに、細胞培養マトリクスの高い充填密度により、産業規模で管理可能な量で高いバイオプロセス生産性が得られる。
【0057】
既存のバイオリアクターの接着細胞用の基材は、この挙動を示さず、代わりに固定床が優先的な流路を生成し、異方性透過性を備えた基材材料を有する傾向がある。本開示の細胞培養基材の柔軟性により、バイオリアクター容器全体にわたるより良好かつより均一な透過性を可能にしつつ、さまざまな用途及びバイオリアクター又は容器の設計での使用が可能となる。
【0058】
本明細書で論じられるように、1つ以上の実施形態によれば、細胞培養基材は、バイオリアクター容器内で使用することができる。例えば、基材は、固定床バイオリアクター構成で、又は三次元培養チャンバ内の他の構成で使用することができる。しかしながら、実施形態は三次元培養空間に限定されず、基材は二次元培養表面構成とみなされるうるものにおいても使用することができることが企図されており、ここで、基材の1つ以上の層は、平底の培養皿内などに平らに置かれ、細胞の培養基材を提供する。汚染の懸念があることから、容器は使用後に廃棄することができる使い捨て容器とすることができる。
【0059】
本開示の実施形態は、1つ以上のセンサ、ユーザインターフェース、及び制御装置、並びに培地及び細胞用のさまざまな入口及び出口も含む、細胞培養システムを含む。幾つかの実施形態によれば、培地調整容器は、細胞培養用途に適切な温度、pH、O、及び栄養素をいつでも提供するように、コントローラによって制御される。幾つかの実施形態では、バイオリアクターはコントローラによって制御することもできるが、他の実施形態では、バイオリアクターは、別個の潅流回路内に設けられ、バイオリアクターの出口又はその近くでのO2の検出に基づいて、ポンプを使用して、潅流回路を通る培地の流量を制御する。
【0060】
本明細書に開示される細胞培養システムの実施形態は、細胞を播種し、細胞を細胞培養基材に付着させること、細胞増殖期間中に播種された細胞及び/又は付着した細胞を増殖させること、ウイルスベクター産生用途のために細胞をトランスフェクトすること、ウイルスベクターを産生すること、及び細胞、ウイルス、又は他の成分を回収することを含む、プロセスステップを包含する細胞培養方法に使用することができる。
【0061】
これらの方法のステップ中に、pH、pO、[グルコース]、pH、pO、[グルコース]、及び最大流量の値を測定して、細胞培養の状態を監視することができる。例えば、pH、pO、及びグルコースの値は、バイオリアクターシステムの細胞培養チャンバ内で測定することができ、pH、pO、及びグルコースは、バイオリアクター容器の出口でセンサによって測定することができる。これらの値に基づいて、灌流ポンプ制御ユニットは、灌流流量を維持又は調整するための決定を行う。例えば、pH≧pH2min、pO≧pO2min、及び[グルコース]≧[グルコース]2minのうちの少なくとも1つである場合、細胞培養チャンバへの細胞培地の灌流流量は、現在の速度で継続されうる。現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下である場合には、灌流流量を増加させる。さらには、現在の流量が細胞培養システムの所定の最大流量以下でない場合、細胞培養システムのコントローラは、次のうちの少なくとも1つを再評価することができる:(1)pH2min、pO2min、及び[グルコース]2min;(2)pH、pO、及び[グルコース];並びに、(3)バイオリアクター容器の高さ。
【0062】
細胞培養基材は、所望のシステムに応じて、培養チャンバ内で複数の構成で配置することができる。例えば、1つ以上の実施形態では、システムは、細胞培養容器の内部空洞の幅を横切って延びる幅を有する基板の1つ以上の層を含む。このように基材の複数の層を所定の高さまで積層することができる。上で論じたように、基材層は、1つ以上の層の第1の側及び第2の側が、内部空洞を通る培地のバルク流方向に対して垂直になるように配置することができ、あるいは1つ以上の層の第1の側及び第2の側がバルク流方向に対して平行であってもよい。1つ以上の実施形態では、細胞培養基材は、バルク流に対して第1の配向にある1つ以上の層と、第1の配向とは異なる第2の配向にある1つ以上の他の層とを含む。例えば、さまざまな層は、バルク流方向に対して平行又は垂直であるか、あるいはその間の何らかの角度をなす、第1の側及び第2の側を有しうる。幾つかの実施形態では、細胞培養基材は、発泡足場などのモノリシックな多孔質基材である。各細胞培養サブユニットは、幾つかの好ましい実施形態によれば、単一の発泡足場を含むことができる。しかしながら、1つ以上の実施形態では、各細胞培養サブユニットは、複数の溶解可能な発泡足場を含むことができる。サブユニットごとに複数の溶解可能な発泡足場の場合、該発泡足場は複数の層(例えば、発泡ディスクのスタック)に配置することができ、あるいは溶解可能な発泡足場の小さいストリップ、チャンク、又はビーズの充填床とすることができる。しかしながら、一部の用途では、充填床内の流れ特性が不均一になる可能性がある、複数の小片が一緒に充填されるのとは対照的に、画定された構造を備えたモノリシック発泡足場を介して流体の流れ及び拡散のより良好な制御を有することができる可能性がある。
【0063】
1つ以上の実施形態では、細胞培養システムは、固定床構成の複数の個別の細胞培養基材片を含み、この基材片の長さ及び/又は幅は培養チャンバに比べて小さい。本明細書で用いられる場合、基材片の長さ及び/又は幅が培養空間の長さ及び/又は幅の約50%以下であるとき、基材片は、培養チャンバに比べて小さい長さ及び/又は幅を有すると見なされる。したがって、細胞培養システムは、所望の配置で培養空間に充填された複数の基材片を含みうる。基材片の配置は、ランダム又はセミランダムであってもよいし、あるいは、基材片が実質的に同様の配向(例えば、水平、垂直、又はバルク流方向に対して0°から90°の間の角度)で配向されるなど、所定の順序又は配列を有していてもよい。
【0064】
1つ以上の実施形態の固定床細胞培養マトリクスは、該細胞培養マトリクス内に配置又は散在した任意の他の形態の細胞培養基材なしに、織られた細胞培養メッシュ基材から構成されうる。すなわち、本開示の実施形態の織られた細胞培養メッシュ基材は、既存のソリューションで用いられる不規則な不織基材のタイプを必要としない、有効な細胞培養基材である。これにより、流れの均一性、回収可能性などに関連して本明細書で論じられる他の利点を備えた高密度細胞培養基材を提供しつつ、簡素化された設計及び構造の細胞培養システムが可能になる。
【0065】
本明細書で論じられるように、細胞培養基材及びバイオリアクターシステムは、多くの利点を提供した。例えば、本開示の実施形態は、AAV(全血清型)及びレンチウイルスなどの多数のウイルスベクターのいずれかの産生を支援することができ、インビボ及びエクスビボの遺伝子治療用途に適用することができる。均一な細胞播種及び分布により、容器あたりのウイルスベクター収量が最大化され、生細胞の回収が可能な設計となっており、同じプラットフォームを使用する複数の増殖期間からなるシードトレインに有用である。加えて、本明細書の実施形態は、プロセス開発規模から生産規模まで拡張可能であり、最終的には開発時間とコストを節約する。本明細書に開示される方法及びシステムはまた、細胞培養プロセスの自動化及び制御を可能にして、ベクター収量を最大化し、再現性を向上させる。最後に、ウイルスベクターの生産レベルの規模(例えば、バッチあたり1016から1018のAAV VG)に達するために必要な容器の数は、他の細胞培養ソリューションと比較して大幅に削減することができる。
【0066】
本明細書に開示される実施形態は、細胞培養及びウイルスベクター産生のための既存のプラットフォームに優る利点を有する。本開示の実施形態は、例えば、接着細胞又は半接着細胞、トランスフェクトされた細胞を含むヒト胎児腎臓(HEK)細胞(HEK23など)、レンチウイルス(幹細胞、CAR-T)及びアデノ随伴ウイルス(AAV)などのウイルスベクターを含めた、多くの種類の細胞及び細胞副生成物の産生に使用することができることに留意されたい。これらは、本明細書に開示されるバイオリアクター又は細胞培養基材の幾つかの一般的な用途の例であるが、当業者であれば他の用途への実施形態の適用可能性を理解するように、開示される実施形態の使用又は用途を限定することを意図するものではない。
【0067】
本明細書で論じられるように、本開示の実施形態は、拡張可能であり、かつ細胞集団を徐々に増加させるための細胞シードトレインの提供に使用することができる、細胞培養基材、バイオリアクターシステム、及び細胞又は細胞副生成物を培養する方法を提供する。既存の細胞培養のソリューションにおける問題の1つは、所与のバイオリアクターシステム技法をシードトレインの一部とすることができないことである。代わりに、細胞集団は通常、さまざまな細胞培養基材上でスケールアップされる。細胞はある特定の表面に順応し、異なる種類の表面に移されると効率の低下につながると考えられていることから、これは細胞集団に悪影響を与える可能性がある。したがって、細胞培養基材間又は技術間のこのような移行を最小限に抑えることが望ましいであろう。本開示の実施形態によって可能になるように、シードトレイン全体にわたって同じ細胞培養基材を使用することにより、細胞集団をスケールアップする効率が増加する。例えば、シードトレインは、所定の三次元細胞培養表面積(例えば、所定の厚さ、幅、及び/又は多孔性)の1つ以上の細胞培養サブユニットを有する第1の容器に播種されるスターター細胞のバイアルから開始することができる。第1の容器内で細胞をしばらく培養した後、細胞を回収し、より多くの細胞培養サブユニット及び/又はサブユニットを有する第2の容器に完全に又は部分的に再播種して、細胞の集団を拡大することができる。この回収及び再播種して培養を拡大するプロセスは、必要に応じて繰り返すことができる。このシードトレインの最後に、本開示の実施形態に従って、例えば約5,000,000cmの表面積を有する生産規模のバイオリアクター容器に細胞を播種することができる。細胞培養が完了したら、次に、回収及び精製のステップを行うことができる。回収は、溶解可能な細胞培養基材の消化、又は界面活性剤(Triton X-100など)を使用したin situでの細胞溶解、又は機械的溶解によって達成することができ、必要に応じて、さらに下流の処理を行うことができる。
【0068】
シードトレイン内で(例えば、プロセス開発レベルからパイロットレベルまで、さらには生産レベルまで)同じ細胞培養基材を使用することの利点には、シードトレイン及び生産段階中に細胞が同じ表面に慣れることから得られる効率;シードトレインフェーズ中の手動のオープン操作の数の減少;本明細書に記載されるように、均一な細胞分布及び流体の流れによる固定床のより効率的な使用;並びに、ウイルスベクターの回収中に機械的又は化学的溶解を使用する柔軟性が含まれる。
【0069】
例示的な実装形態
以下は、開示された主題の実装形態のさまざまな態様の説明である。各態様は、開示された主題のさまざまな特徴、特性、又は利点のうちの1つ以上を含みうる。実装形態は、開示された主題の幾つかの態様を説明することを意図しており、すべての可能な実装形態の包括的又は網羅的な説明と見なされるべきではない。
【0070】
態様1は、細胞培養用の固定床バイオリアクターシステムに関し、該システムは複数の細胞培養サブユニットを含み、各細胞培養サブユニットは、細胞培養基材を支持するように構成された主面、入口、及び主面上に配置され、かつ入口と流体連通している複数の出口を含む分配プレート;並びに、該分配プレートの主面上に配置された細胞培養基材を含む。該システムはまた、細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを複数の細胞培養サブユニットに供給するように構成された複数の投入ラインも含み、該複数の投入ラインの各投入ラインは入口に流体接続されており、複数の出口は、複数の投入ラインからの細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを細胞培養基材全体にわたって実質的に均一に分配するように構成される。
【0071】
態様2は、複数の細胞培養サブユニットを収容するように構成された内部空洞を備えた容器をさらに含む、態様1に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0072】
態様3は、複数の細胞培養サブユニットが、モジュール式であり、容器に個別に追加可能及び/又は容器から取り外し可能である、態様2に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0073】
態様4は、容器が、可変数の細胞培養サブユニットを収容するように構成される、態様2又は態様3に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0074】
態様5は、細胞培養基材がポリマーを含む、態様1に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0075】
態様6は、細胞培養基材が所定の高さ以下の高さhを含む、態様1から5のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0076】
態様7は、所定の高さが約100mm、50mm、40mm、30mm、20mm、又は10mmである、態様6に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0077】
態様8は、複数の出口が主面の直径にわたって配列される、態様1から7のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0078】
態様9は、複数の細胞培養サブユニットのうちの第1の細胞培養サブユニットの分配プレートが、複数の細胞培養サブユニットのうちの第2の細胞培養サブユニットの投入ラインが第1の細胞培養サブユニットを通過できるように寸法設定された中央プレートボアを含む、態様1から8のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0079】
態様10は、細胞培養基材が、中央プレートボアと同軸に位置合わせされた中央基材ボアを含む、態様9に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0080】
態様11は、入口が中央プレートボアから半径方向外側に配置される、態様9又は態様10に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0081】
態様12は、複数の投入ラインのうちの少なくとも1つが、投入ラインが第1の細胞培養サブユニットの中央プレートボアを通過し、次いで第2の細胞培養サブユニットの入口まで半径方向外側に延びるように構成されるように、湾曲又は屈曲している、態様11に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0082】
態様13は、細胞培養基材が、該細胞培養基材全体にわたる流体の透過性を増加させるように構成された少なくとも1つの有芯セクションを含む、態様1から12のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0083】
態様14は、複数の投入ラインを供給する培地調整容器をさらに含む、態様1から13のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0084】
態様15は、複数の投入ラインを供給する複数の培地調整容器をさらに含む、態様1から14のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0085】
態様16は、細胞培養基材が、溶解可能な発泡足場を含む、態様1に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0086】
態様17は、溶解可能な発泡足場が、ペクチン酸;部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択されるイオノトロピック架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含む、態様16に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0087】
態様18は、溶解可能な発泡足場が、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーをさらに含む、態様17に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0088】
態様19は、溶解可能な発泡足場が水溶性可塑剤をさらに含む、態様17又は態様18に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0089】
態様20は、溶解可能な発泡足場が約55質量%未満の水溶性可塑剤を含む、態様19に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0090】
態様21は、溶解可能な発泡足場が約15質量%から約55質量%の間の水溶性可塑剤を含む、態様20に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0091】
態様22は、溶解可能な発泡足場が接着ポリマーコーティングをさらに含む、態様16から21のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0092】
態様23は、接着ポリマーコーティングがペプチドを含む、態様22に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0093】
態様24は、接着ポリマーコーティングが、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、変性コラーゲン、及びそれらの混合物からなる群より選択されるペプチドを含む、態様22に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0094】
態様25は、接着ポリマーコーティングがSynthemax(登録商標)II-SCを含む、態様22に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0095】
態様26は、溶解可能な発泡足場が、約50μmから約500μmの間の平均細孔径を含む、態様16から25のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0096】
態様27は、溶解可能な発泡足場が、約0.40g/cm未満の湿潤密度を含む、態様16から26のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0097】
態様28は、溶解可能な発泡足場が開放細孔構造を含む、態様16から27のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0098】
態様29は、溶解可能な発泡足場が、約85%から約96%の間の多孔率を含む、態様16から28のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0099】
態様30は、細胞培養基材が、構造的に画成された多孔質材料を含む、態様1から15のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0100】
態様31は、細胞培養基材が、構造的に画成された多孔質材料の複数の層を含む、態様30に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0101】
態様32は、細胞培養基材が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、態様30又は態様31に記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0102】
態様33は、細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、及び織物メッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、態様30から32のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0103】
態様34は、細胞培養基材が実質的に均一な多孔性を含む、態様1から33のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステムに関する。
【0104】
定義
「全合成」又は「完全合成」とは、完全に合成原料から構成され、動物由来又は動物起源の材料を欠いている、マイクロキャリア又は培養容器の表面などの細胞培養物品を指す。本開示の全合成された細胞培養物品は、異種汚染のリスクを排除する。
【0105】
「含む(Include,includes)」、又は同様の用語は、網羅的であるが限定的ではない、すなわち包括的であって排他的ではないことを意味する。
【0106】
「ユーザ」とは、本明細書に開示されているシステム、方法、物品、又はキットを使用する人々を指し、細胞又は細胞産生物を採取するために細胞を培養している人々、又は本明細書の実施形態に従って培養及び/又は採取された細胞又は細胞産生物を使用する人々を含む。
【0107】
本開示の実施形態を説明する際に採用される、例えば、組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流量、圧力、粘度などの値、及びそれらの範囲、又は構成要素の寸法及び同様の値並びにそれらの範囲を変更する「約」は、例えば、材料、組成物、複合材料、濃縮物、構成部品、製造品、又は使用製剤の調製に使用される一般的な測定及び取り扱い手順を通じて;これらの手順における不注意によるエラーを通じて;方法を実行するために使用される出発材料又は原料の製造、供給源、又は純度の違いを通じて;及び同様の考慮事項を通じて発生する可能性のある数量の変動を指す。「約」という用語は、特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の劣化に起因して異なる量、及び特定の初期濃度又は混合物を伴う組成物又は製剤の混合又は加工に起因して異なる量も包含する。
【0108】
「任意選択の」又は「任意選択的に」とは、その後に記載される事象又状況が発生してもしなくてもよいこと、及び、その記載が、当該事象又状況が発生する場合と発生しない場合を含むことを意味する。
【0109】
本明細書で用いられる不定冠詞「a」又は「an」及びその対応する定冠詞「the」は、別段の指定がない限り、少なくとも1つ又は1つ以上を意味する。
【0110】
当業者によく知られている略語が用いられることがある(例えば、時間を「h」又は「hrs」、グラムを「g」又は「gm」、ミリリットルを「mL」、室温を「rt」、ナノメートルを「nm」、及び同様の略語)。
【0111】
成分、原料、添加剤、寸法、条件、及び同様の特徴、並びにそれらの範囲について開示されている特定の好ましい値は、例示のみを目的としており、他の定義された値又は定義された範囲内の他の値を除外しない。本開示のシステム、キット、及び方法は、本明細書に記載されるいずれかの値、特定の値、さらに具体的な値、及び好ましい値のうちの任意の値又は任意の組合せを含みうる。
【0112】
特に明記しない限り、本明細書に記載の任意の方法は、その工程が特定の順序で実行されることを必要とすると解釈されることは、決して意図していない。したがって、方法クレームがその工程が従うべき順序を実際に列挙していないか、又は工程が特定の順序に限定されるべきであることが特許請求の範囲又は明細書に具体的に述べられていない場合には、いかなる特定の順序も、推測されることは、決して意図していない。
【0113】
開示される実施形態の精神又は範囲から逸脱することなく、さまざまな修正及び変更を加えることができることは、当業者にとって明白であろう。実施形態の精神及び本質を組み込んだ開示された実施形態の修正、組合せ、部分組合せ、及び変形が当業者に想起されうることから、本開示の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内のあらゆるものを含むと解釈されるべきである。
【0114】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0115】
実施形態1
細胞培養用の固定床バイオリアクターシステムにおいて、
複数の細胞培養サブユニットであって、各細胞培養サブユニットが、
細胞培養基材を支持するように構成された主面、入口、及び前記主面上に配置され、かつ前記入口と流体連通している複数の出口を含む、分配プレート;並びに
前記分配プレートの前記主面上に配置された細胞培養基材
を含む、複数の細胞培養サブユニットと、
細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを前記複数の細胞培養サブユニットに供給するように構成された複数の投入ラインであって、前記複数の投入ラインの各投入ラインが前記入口に流体接続されている、複数の投入ラインと
を備えており、ここで、
前記複数の出口が、前記複数の投入ラインからの細胞、細胞培地、栄養素、及び試薬のうちの少なくとも1つを前記細胞培養基材全体にわたって実質的に均一に分配するように構成される、
固定床バイオリアクターシステム。
【0116】
実施形態2
前記複数の細胞培養サブユニットを収容するように構成された内部空洞を備えた容器をさらに含む、実施形態1に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0117】
実施形態3
前記複数の細胞培養サブユニットがモジュール式であり、前記容器に個別に追加可能及び/又は前記容器から取り外し可能である、実施形態2に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0118】
実施形態4
前記容器が、可変数の細胞培養サブユニットを収容するように構成される、実施形態2又は実施形態3に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0119】
実施形態5
前記細胞培養基材がポリマーを含む、実施形態1に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0120】
実施形態6
前記細胞培養基材が、所定の高さ以下の高さhを含む、実施形態1から5のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0121】
実施形態7
前記所定の高さが、約100mm、50mm、40mm、30mm、20mm、又は10mmである、実施形態6に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0122】
実施形態8
前記複数の出口が前記主面の直径にわたって配列される、実施形態1から7のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0123】
実施形態9
前記複数の細胞培養サブユニットのうちの第1の細胞培養サブユニットの分配プレートが、前記複数の細胞培養サブユニットのうちの第2の細胞培養サブユニットの投入ラインが前記第1の細胞培養サブユニットを通過できるように寸法設定された中央プレートボアを含む、実施形態1から8のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0124】
実施形態10
前記細胞培養基材が、前記中央プレートボアと同軸に位置合わせされた中央基材ボアを含む、実施形態9に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0125】
実施形態11
前記入口が、前記中央プレートボアから半径方向外側に配置される、実施形態9又は実施形態10に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0126】
実施形態12
前記複数の投入ラインのうちの少なくとも1つが、前記投入ラインが第1の細胞培養サブユニットの中央プレートボアを通過し、次いで第2の細胞培養サブユニットの入口まで半径方向外側に延びるように構成されるように、湾曲又は屈曲している、実施形態11に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0127】
実施形態13
前記細胞培養基材が、前記細胞培養基材全体にわたる流体の透過性を増加させるように構成された少なくとも1つの有芯セクションを含む、実施形態1から12のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0128】
実施形態14
前記複数の投入ラインを供給する培地調整容器をさらに含む、実施形態1から13のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0129】
実施形態15
前記複数の投入ラインを供給する複数の培地調整容器をさらに含む、実施形態1から14のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0130】
実施形態16
前記細胞培養基材が、溶解可能な発泡足場を含む、実施形態1に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0131】
実施形態17
前記溶解可能な発泡足場が、ペクチン酸;部分的にエステル化されたペクチン酸、部分的にアミド化されたペクチン酸、及びそれらの塩のうちの少なくとも1つから選択される、イオノトロピック架橋されたポリガラクツロン酸化合物を含む、実施形態16に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0132】
実施形態18
前記溶解可能な発泡足場が、表面活性を有する少なくとも1つの第1の水溶性ポリマーをさらに含む、実施形態17に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0133】
実施形態19
前記溶解可能な発泡足場が水溶性可塑剤をさらに含む、実施形態17又は実施形態18に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0134】
実施形態20
前記溶解可能な発泡足場が約55質量%未満の水溶性可塑剤を含む、実施形態19に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0135】
実施形態21
前記溶解可能な発泡足場が、約15質量%から約55質量%の間の水溶性可塑剤を含む、実施形態20に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0136】
実施形態22
前記溶解可能な発泡足場が、接着ポリマーコーティングをさらに含む、実施形態16から21のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0137】
実施形態23
前記接着ポリマーコーティングがペプチドを含む、実施形態22に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0138】
実施形態24
前記接着ポリマーコーティングが、BSP、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ラミニン、I型コラーゲン、IV型コラーゲン、変性コラーゲン、及びそれらの混合物からなる群より選択されるペプチドを含む、実施形態22に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0139】
実施形態25
前記接着ポリマーコーティングがSynthemax(登録商標)II-SCを含む、実施形態22に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0140】
実施形態26
前記溶解可能な発泡足場が、約50μmから約500μmの間の平均細孔径を含む、実施形態16から25のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0141】
実施形態27
前記溶解可能な発泡足場が、約0.40g/cm未満の湿潤密度を含む、実施形態16から26のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0142】
実施形態28
前記溶解可能な発泡足場が開放細孔構造を含む、実施形態16から27のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0143】
実施形態29
前記溶解可能な発泡足場が、約85%から約96%の間の多孔率を含む、実施形態16から28のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0144】
実施形態30
前記細胞培養基材が、構造的に画成された多孔質材料を含む、実施形態1から15のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0145】
実施形態31
前記細胞培養基材が、前記構造的に画成された多孔質材料の複数の層を含む、実施形態30に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0146】
実施形態32
前記細胞培養基材が、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリビニルピロリドン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリピロール類、及びポリプロピレンオキシドのうちの少なくとも1つを含む、実施形態30又は実施形態31に記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0147】
実施形態33
前記細胞培養基材が、成形ポリマー格子、3D印刷されたポリマー格子シート、及び織物メッシュシートのうちの少なくとも1つを含む、実施形態30から32のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【0148】
実施形態34
前記細胞培養基材が実質的に均一な多孔性を含む、実施形態1から33のいずれかに記載の固定床バイオリアクターシステム。
【符号の説明】
【0149】
100 固定床バイオリアクター
102,202 内部空洞
104,204a,204b 投入ライン
105,205,305 容器出口
106,211,221 分配プレート
110,210 細胞培養基材
200 固定床バイオリアクターシステム
213,223 入口
214 出口
216,226 コア
219,229 中央プレートボア
図1
図2
図3
図4
図5
【国際調査報告】