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特表2023-552293脱細胞化組織/ポリマーマルチコンポーネント生体材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】脱細胞化組織/ポリマーマルチコンポーネント生体材料
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20231208BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231208BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20231208BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20231208BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20231208BHJP
   A61F 2/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/36 400
A61L27/54
A61L27/16
A61L27/44
A61L27/36 130
A61F2/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530235
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 IL2021051465
(87)【国際公開番号】W WO2022123569
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/123,817
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/131,101
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510126427
【氏名又は名称】イッサム リサーチ ディべロップメント カンパニー オブ ザ ヘブライ ユニバーシティー オブ エルサレム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】YISSUM RESEARCH DEVELOPMENT COMPANY OF THE HEBREW UNIVERSITY OF JERUSALEM LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】コーン,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】エルヤシヴ,アリエル
(72)【発明者】
【氏名】カライラ,アビル
(72)【発明者】
【氏名】スロウツキ,アーロン
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081AB17
4C081AC02
4C081AC10
4C081BB06
4C081BB07
4C081BB08
4C081CA021
4C081CA081
4C081CA171
4C081CA201
4C081CA211
4C081CA231
4C081CA271
4C081CD34
4C081CE02
4C081DA04
4C081DA05
4C081DA06
4C081DC02
4C097BB01
4C097CC02
4C097CC03
4C097DD02
4C097DD05
4C097EE03
4C097EE17
(57)【要約】
本発明の技術は、インプラントとして使用するための、少なくとも1つの組織領域及び少なくとも1つのポリマー領域を含む構築物に関わる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物であって、前記ポリマー構成要素が、前記脱細胞化組織の少なくとも1つの表面領域を少なくとも部分的に貫通する、構築物。
【請求項2】
ポリマー構成要素に物理的に結合する脱細胞化組織であって、前記結合が、前記ポリマー構成要素の前記組織の表面領域への少なくとも部分的な貫通を含む又はそれからなる、脱細胞化組織。
【請求項3】
少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物であって、前記ポリマー構成要素が、前記脱細胞化組織の一方の面から突出し、前記組織に形成された少なくとも1つの穴を通ってもう一方の面まで通り抜ける少なくとも1つの表面特徴を有する、構築物。
【請求項4】
マルチシート構築物の形態である、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項5】
前記マルチシート構築物が、脱細胞化組織の少なくとも1つのシート及びポリマー構成要素の少なくとも1つのシート又は断片を含み、前記脱細胞化組織のいずれかのシートが、前記ポリマー構成要素の少なくとも1つのシート又は断片に隣接する、又はそれと接触し、前記ポリマー構成要素の少なくとも2つのシート又は断片が、前記脱細胞化組織の前記少なくとも1つのシートに形成された少なくとも1つの穴を介して互いに結合している、請求項4に記載の構築物。
【請求項6】
脱細胞化組織の前記少なくとも1つのシートの少なくとも1つ又はいずれかが、前記ポリマー構成要素の任意の2つのシート間に閉じ込められている、請求項5に記載の構築物。
【請求項7】
前記マルチシート構築物が、いくつかの脱細胞化組織のシート及び同じ数の前記ポリマー構成要素のシートを含む、請求項5に記載の構築物。
【請求項8】
ポリマー構成要素の2つのシート又は断片間に閉じ込められた脱細胞化組織の2つ以上の組立体を含み、前記組立体が互いに結合している、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項9】
少なくとも2つの組立体が向かい合って位置する、請求項8に記載の構築物。
【請求項10】
ワイヤーエレメント又はワイヤーフレームを備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項11】
前記ワイヤーが金属線である、請求項10に記載の構築物。
【請求項12】
前記ポリマー構成要素が、粒子の層若しくは被膜、ポリマーシート、ポリマーフィルム、ポリマー繊維又はポリマーメッシュの形態である、請求項1~11のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項13】
前記少なくとも1つの穴が、予め形成される、又は前記脱細胞化組織に存在する、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項14】
前記脱細胞化組織が、前記構築物の5重量%~95重量%を構成する、前述の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項15】
前記脱細胞化組織が、口腔粘膜、小腸粘膜下層及び膀胱脱細胞化マトリックスから選択される組織から得られる、前述の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項16】
前記脱細胞化組織が、心膜、網及び小腸粘膜から選択される、請求項15に記載の構築物。
【請求項17】
前記脱細胞化組織が心膜である、請求項15又は16に記載の構築物。
【請求項18】
前記脱細胞化組織が、ウシ心膜又はブタ心膜である、請求項15~17のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項19】
前記ポリマー構成要素が、疎水性ポリマー、親水性ポリマー、及び両親媒性ポリマーのなかから選択されるポリマーである、又はそれを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項20】
前記ポリマー構成要素が、ブレンド、IPN、又は半IPNである、又はそれを含む、前述の請求項のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項21】
前記ポリマー構成要素が、アクリル又はメタクリルポリマーである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項22】
前記ポリマー構成要素が、ポリオレフィンである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項23】
前記ポリマー構成要素が、シリコーンポリマーである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項24】
前記ポリマー構成要素が、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア又はポリアミド及びそれらの組み合わせである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項25】
前記ポリマー構成要素が、ポリウレタンである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項26】
前記ポリマー構成要素が、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ(メタクリル酸n-ブチル)(PBMA)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)(PHMA)、ポリスチレン(PST)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(PHEMA)、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)、ポリシアノアクリレート(PCA)、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン/ポリブチレン共重合体、ポリプロピレン/ポリブチレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、フェニル含有PDMS、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン、ポリカーボネート、シリコン含有ポリウレタン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸-カプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸-乳酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリ乳酸共重合体、ポリエチレンオキシドポリカプロラクトン共重合体、ポリテトラメチレンオキシド-カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンテレフタレート及びポリエチレン/ブチレンテレフタレート共重合体並びにそれらの組み合わせ及び共重合体から選択されるポリマーである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項27】
前記ポリマー構成要素が、形状記憶(shape memory)である、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項28】
前記ポリマー構成要素が、ペレタン、エラスタン、エラストラン、テコフレックス、バイオマーから選択されるポリエーテルウレタンである、又はそれを含む請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項29】
前記ポリマー構成要素が、クロノフレックス、バイオスパン及びバイオネートから選択されるポリカーボネートウレタンである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項30】
前記ポリマー構成要素が、カーボシル、パーシル、アブコタン及びカルジオタンから選択されるシリコン含有ポリウレタンである、又はそれを含む、請求項1~20のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項31】
前記ポリマー構成要素が、クロニフレックス又はテコフレックスである、又はそれを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項32】
1つ又は複数の前記シートが、活性又は非活性材料を放出するための材料リザーバーとして設計される、請求項1~31のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項33】
前記活性材料が、鎮痛剤;抗不安薬;抗不整脈薬;抗菌剤;抗生物質;抗凝固剤及び血栓溶解薬;抗痙攣剤;抗うつ薬;止瀉薬;制吐薬;抗真菌剤;抗ヒスタミン剤;降圧剤;抗炎症薬;抗悪性腫瘍薬;抗精神病薬;解熱剤;抗ウイルス剤;β遮断薬;コルチコステロイド;細胞毒性;ホルモン及び性ホルモン;酵素;並びにビタミンから選択される、請求項1~30のいずれか一項に記載の構築物。
【請求項34】
請求項1~33のいずれか一項に記載の構築物を備える機器。
【請求項35】
インプラントとして構成された、請求項34に記載の機器。
【請求項36】
ステント、金属ステント、人工血管、心臓弁、膜、シーリングデバイス、縫合糸及びステープルライン、ヘルニアメッシュ及びヘルニア修復デバイス、骨盤底部再建デバイス、創傷及び熱傷ドレッシング、硬膜クロージャー並びに心臓パッチから選択される、請求項34又は35に記載の機器。
【請求項37】
心臓弁である、請求項34又は35に記載の機器。
【請求項38】
請求項1~3のいずれか一項に記載の構築物を製造する方法であって、
- 少なくとも1つの脱細胞化組織の穿設された表面領域を、液体ポリマーと接触させること、及び
- 前記液体ポリマーが、前記穿設孔(穴)に貫通し、前記表面領域にポリマーシートを形成することを可能にすること
を含む、方法。
【請求項39】
少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域に穿設すること又は穴を形成することをさらに含む、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記穴が、予め定義された穴プロファイルを有する、請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記液体ポリマーが、前記穿設孔(穴)に注入される、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記液体ポリマーを硬化させる、請求項38に記載の方法。
【請求項43】
少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物を製造するための方法であって、
- 穿設されて1つ又は複数の穴を形成された少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域を、液体ポリマーと接触させること、及び
- 前記液体ポリマーが、前記1つ又は複数の穴に貫通し、前記表面領域にポリマーシートを形成することを可能にすること
を含む、方法。
【請求項44】
少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域に穴を形成することをさらに含む、請求項43に記載の方法。
【請求項45】
前記穴が、予め定義された穴プロファイルを有する、請求項44に記載の方法。
【請求項46】
前記液体ポリマーが前記穴に注入される、請求項43に記載の方法。
【請求項47】
前記液体ポリマーを硬化させる、請求項43に記載の方法。
【請求項48】
前記液体ポリマーが、前記1つ又は複数の穴を通って完全に貫通する、請求項43に記載の方法。
【請求項49】
前記液体ポリマーが、前記1つ又は複数の穴を部分的に貫通する、請求項43に記載の方法。
【請求項50】
前記液体ポリマーが、前記1つ又は複数の穴を通って完全に貫通して前記表面領域の両面にポリマーシートを形成し、それにより構築物組立体を形成する、請求項43に記載の方法。
【請求項51】
2つ以上の構築物を結合又は融合させることをさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項52】
少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物を製造するための方法であって、
- 脱細胞化組織の1つ又は複数のシート及びポリマー材料の1つ又は複数のシート又は断片を積み重ねて積層構造を得ること;
- 前記積層構造に穴を形成して、前記組織及びポリマー材料の前記1つ又は複数のシートのそれぞれに1つ又は複数の穴を形成すること(任意選択で少なくともいくつかの前記1つ又は複数の穴は同軸上に配置される);並びに
- 前記積層構造を液体ポリマーで処理して、前記液体ポリマーを前記1つ又は複数の穴に浸透させ、前記シートを融合させて前記構築物を形成すること
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全体として、新規クラス(class)のマルチコンポーネント材料及びその使用に関わる。
【背景技術】
【0002】
人体にとって異物であるが、臓器、組織及び体液に直接接触して使用される材料は多岐にわたる。それらの材料は生体材料と呼ばれ、なかでもポリマーは、例えば、整形外科、心臓血管領域、形成外科、薬物送達、創傷ドレッシングなど、あらゆる臨床領域で非常に重要な役割を担っている。脱細胞化組織は、生きた組織に由来するユニークな生体材料の一種である。これらの材料は、ますます多くの用途で重要な役割を果たす。
【0003】
ポリマーは、その化学的、物理的、機械的及び生物学的特性に汎用性があり、且つ達成可能な価値が極めて広範であるので、ヒト又は動物を治療するためのインプラントに使用される主要な(leading)クラスの材料の一つをなす。この点を説明するためには、それらの様々な特性に関連する以下の違いを記述するだけで十分である(suffice to mention the following differences that pertain to their different properties):[i]化学的には、ポリマーは、親水性の高い水溶性の材料であることも、極めて疎水性の材料でもあることもできる;[ii]機械的な立場からみれば、その剛性(stiffness)は、それぞれのヤング率の値に反映されるように、数キロパスカルから数百ギガパスカルの範囲で、8桁以上の大きさにわたる一方で、その伸長性(extensibility)は無視できる、又は数千パーセントの範囲の破断ひずみ値を示すことができる。
【0004】
脱細胞化(又は無細胞化)は、半天然生体材料を製造するために広く使用されている技術であり、それによって細胞及び遺伝子材料が、生来の組織の細胞外マトリックス(ECM)から分離される。脱細胞化は、化学的、酵素的又は物理的な方法によって達成でき、ECMが元の化学的及び構造的特性を保つようなやり方で行われる。結果として得られる脱細胞化組織、典型的には心膜、網又は小腸粘膜は、ヘルニア修復に、ステープルライン補強用に、骨盤底再建に、硬膜閉鎖術用に、歯科領域の膜として、心臓パッチとして、又は心臓弁の弁尖(leaflets)としてなど、多くの領域で使用することができる。
【0005】
心臓を包み込むコラーゲン豊富な膜である心膜は、最も広く使用されているタイプの脱細胞化組織であり、現在様々な臨床用途に利用されている。他の適応のなかでも、硬膜閉鎖術における使用、骨膜としての使用、心臓弁の弁尖としての使用、及び外科的バットレス補強(surgical buttressing)のための使用は、より興味深いものの一部である。脱細胞化心膜組織の供給源として最も広く使用されているのは、ウシ及びブタである。
【0006】
脱細胞化組織とポリマー材料はどちらも、それぞれの有利な特性にもかかわらず、特に臨床的なシナリオ(clinical scenarios)において、その挙動が限られており、生物学的性能が不十分となっている。
【発明の概要】
【0007】
本明細書に開示の技術の発明者らは、脱細胞化組織及びポリマー材料を含み、それぞれが1つ又は複数の物理的固定手段(physical anchoring means)を介して他と結合する新しいハイブリッド材料を開発した。2つの構成要素間の相互作用は化学的な性質のものではない一方で、組織とポリマーとの間に形成されうるランダムな(random)化学的相互作用を排除することは不可能である。
【0008】
反応性モノマーを重合させることを利用する既知の方法論とは異なり、本発明の構築物は、脱細胞化組織を、予め作られたポリマーと結合させることによって調製される。このような組立プロセス(assembly process)は、重合性モノマーの使用に伴う多くの欠点を克服する。それらの欠点は以下に関連している可能性がある:[a]組織の特性及び生体適合性に影響を与える、脱細胞化組織を構成するタンパク質の官能基に対するモノマーの反応性、[b]モノマー固有の毒性、[c]モノマーの有機剤への実質上の可溶化(effective solubilization)、[d]モノマーの高い揮発性及び引火性、[e]脱細胞化組織内でモノマーを適切に配置することができないこと、[f]組織に存在する特定の官能性(functionalities)の存在、及びポリマー構成要素の重合を誘発するために使用される触媒/複数の触媒に起因して起こりうる望ましくない重合、[g]その平均分子量及び多分散性(polydispersity)並びに多くの場合その組成が異なる不明確な(ill-defined)ポリマーをもたらす可能性がある組織構成要素内の望ましくない重合、[h]重合後も残留する可能性があり、組織に悪影響を及ぼす可能性があり、移植後も時間の経過とともに抽出される可能性もある、さらなる局所的及び全身的な問題を引き起こす残留モノマーが残ること。
【0009】
反応性モノマーのイン・サイチュ(in situ)重合の使用を避けることによって、本発明の発明者らは、少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含み、ポリマー構成要素が、脱細胞化組織の少なくとも1つの表面領域を少なくとも部分的に貫通する、安定で且つ明確な(well defined)構築物を達成することができた。
【0010】
したがって、その最も広い範囲において、本発明は、少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物であって、ポリマー構成要素が、脱細胞化組織の少なくとも1つの表面領域を少なくとも部分的に貫通する構築物を提供する。
【0011】
違った言い方をすれば、本発明は、ポリマー構成要素に物理的に結合する脱細胞化組織であって、前記結合すること(said associating)が、組織の表面領域へのポリマー構成要素の少なくとも部分的な貫通を含む、又はそれからなる脱細胞化組織を提供する。
【0012】
さらに提供されるのは、ポリマーと組織との結合が物理的である、ポリマー結合(-associated)脱細胞化組織である。
【0013】
本発明はさらに、生体内においてインプラント又は薬物送達装置として構成される、少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマーの構築物を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物であって、ポリマー構成要素が、脱細胞化組織の一方の面から突出し、組織に形成された少なくとも1つの穴を通ってもう一方の面まで通り抜ける少なくとも1つの表面特徴を有する構築物を提供する。
【0015】
本明細書で使用される場合、「構築物」という用語は、少なくとも1つの脱細胞化組織の形態で組織相又は組織領域を、且つ少なくとも1つのポリマー構成要素の形態でポリマー相又は領域を、それぞれ本明細書に定義のように含む構造又は要素又は機器又は配置を定義するために使用される。この用語は、2つの相又は領域の特定の配置又は構築(construction)を示唆するものではなく、実際には、それによって2つの相が存在し、物理的な相互作用によって互いに結合する任意の配置を包含する。この用語は、それによって2つの相間に、結合、物理的な結合が存在しない(the association the no physical association exists between the two phases)構造又は要素を除外する。
【0016】
本発明のすべての態様において、ポリマー構成要素は、シート又は断片、すなわち、ポリマー材料の細片(strip)などのポリマー材料の小片(piece)の形態で実装され、そこにおいてポリマー材料は、ポリマー材料のモノマー又はプレポリマーからイン・サイチュで形成されない。本発明の構築物は、本明細書でさらに詳述するように、特定の構造又は使用に合うように選択されたサイズ及び形状の予め作られたポリマーシート又は断片を使用することによって形成される、又はポリマー材料の溶液若しくは液体形態から組織の表面領域上に形成されうる。言い換えれば、本発明の構築物を調製するための方法は、モノマー、オリゴマー又はプレポリマーを利用するイン・サイチュ重合ステップを含まない。
【0017】
脱細胞化組織及びポリマーはまた、2つ以上の組織のシートと、構築物をまとめる多数のポリマーシート又は断片とを含む構築物マルチシート(multisheets)の製造においても実装することができる。したがって、本発明のマルチシートは、それぞれが少なくとも1つの組織シート及び少なくとも1つのポリマーシート又は断片を有する様々な形態で提供されうる。シートは、ポリマーシート又は断片のそれぞれが、脱細胞化組織に形成された少なくとも1つの穴若しくは孔を介して、又は溶着を介して、積層体内の別のポリマーシートに結合するように、互いの上に少なくとも部分的に積み重ねることができる。マルチシートでは、各材料シートは固体シートであるが、内部に配置される1つ又は複数のシートは、ゲル、ハイドロゲル、又は液体若しくは流体フィルムとして形成されうる。
【0018】
本明細書で使用される場合、「シート」という用語は、その最も広い意味を考慮して、材料のフィルムの形態であることができる連続した材料又は材料の広がり(spread)であり、任意のサイズ及び形状をもち、典型的にはポリマー材料又は組織からなる。本発明の構築物では、2つの材料シートが存在する場合、各シートは同じ材料でも異なる材料でもよく、同じ又は異なるサイズ及び形状を有することができる。いくつかの実施形態では、本発明のマルチシート構築物では、それぞれのポリマーシートは、組成、構造、サイズ、形状、又は他の任意の物理的、機械的若しくは化学的特性が同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0019】
典型的には、脱細胞化組織のシートは、組織の細長い細片又はリボンとして提供され、そのサイズ及び形状は様々でありうる。同様に、ポリマー構成要素は、組織のものと類似若しくは同一のサイズ及び/若しくは形状の細長いシート若しくは細片として提供されてもよく、又は組織シートとは異なる(典型的には小さい)サイズ及び形状のポリマーの予め形成された(若しくは形成された)断片若しくは小片若しくは切れはし(tag)として提供されてもよい。
【0020】
本発明のマルチシート構築物では、脱細胞化組織の少なくとも1つのシート及びポリマー構成要素の少なくとも1つのシート又は少なくとも1つの断片が存在し、脱細胞化組織の任意のシートは、ポリマー構成要素の少なくとも1つのシート又は断片に隣接又は接触し、ポリマー構成要素の少なくとも2つのシート又は断片は、脱細胞化組織の少なくとも1つのシートに形成された少なくとも1つの穴を介して互いに結合している。
【0021】
いくつかの実施形態では、マルチシート構築物では、ポリマー構成要素のシート又は断片が、脱細胞化組織の少なくとも1つのシートに形成された少なくとも1つの穴を介して互いに結合している。
【0022】
いくつかの実施形態では、マルチシート構築物では、ポリマー構成要素の少なくとも2つのシート又は断片は、溶着によって互いに結合している。
【0023】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織の少なくとも1つのシートの少なくとも1つ又はいずれかは、ポリマー構成要素の任意の2つのシート又は断片間に閉じ込められている。
【0024】
いくつかの実施形態では、マルチシート構築物は、いくつかの脱細胞化組織のシート及び同じ数のポリマー構成要素のシート又は断片を含む。
【0025】
いくつかの実施形態では、構築物は、ポリマー構成要素の2つのシート又は断片間に閉じ込められた脱細胞化組織の2つ以上の組立体を含み、前記組立体は任意選択で溶着によって互いに結合している。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも2つ又は任意の2つの組立体は、向かい合って位置する(oppositely oriented)。
【0027】
ポリマー構成要素(シート又は断片)と組織との間の相互作用又は結合は、組織でのポリマーの強固な固定をもたらすように選択又は構成され、したがって構築物の機械的特性を向上させる。構築物の機械的特性の向上は、2つの構成要素を一緒に保つ物理的で非化学的な結合(a physical,non-chemical association)によって達成可能である。性質上化学的ではないその結合は、次のように定義されうる。
(i)組織の層の表面領域におけるポリマーシート若しくは断片の少なくとも部分的な埋め込み(その埋め込みは、層の表面領域上の単一の点を通してでもよく、若しくは2つ以上の点を通してでもよい)、又は
(ii)しっかりした結合を可能にする組織の深さまで、ポリマーシート若しくは断片を組織に固定すること(その固定は、単一の固定点(anchoring point)を通してでもよく、若しくは2つ以上の固定点を通してでもよく、そのポリマーシート又は断片の固定又は貫通の深さは、組織を穿孔することを除いて、様々であってよい)又は
(iii)ポリマーシート又は断片を完全に組織内に固定して、組織の一方の面からもう一方の面まで、組織を完全に貫通すること(その固定は、単一の固定点を通してでもよく、若しくは2つ以上の固定点を通してでもよい)。典型的には、そのような貫通は、組織に形成された少なくとも1つの穴を介して、脱細胞化組織の一方の面からもう一方の面に突出するように構成された表面特徴を伴うことになる。詳しく後述されるように、そのような特徴は、組織に穴が形成された後にイン・サイチュで形成されてもよく、又は組織を穿孔若しくは穿設するように選択及び構成された形態でポリマーシート若しくは断片に設けられてもよい。
【0028】
本明細書で使用される場合、脱細胞化組織の表面領域を「少なくとも部分的に貫通する」という表現は、上記の相互作用のいずれかを示唆し、組織の表面に埋め込むこと、組織の表面を穿設せず固定することから、実際に組織を面から面まで(face to face)貫通することにまで及ぶ。同様に、「ポリマー構成要素の少なくとも部分的な貫通を含む、又はそれからなる前記結合すること」という表現は、上記の結合又は相互作用のいずれかを包含し、単一のタイプの結合若しくは相互作用(なること(consisting))又はそのような結合若しくは相互作用の組み合わせ(含むこと(comprising))を示唆している。
【0029】
ポリマーシート又は断片は、脱細胞化組織との結合を確保する方法で互いに結合していると言われている。本発明の構築物に存在する結合又は相互作用の1つのタイプは、本明細書で詳述されているように、脱細胞化組織表面の固定若しくは穿設を介して、又は2つのポリマーシート若しくは断片がそれを通して結合できる穴を組織に形成することによってである。本発明のいくつかの実施形態では、構築物が複数の構築物組立体から作られ、各組立体が、例えば、ポリマー構成要素の2つのシート又は断片間に閉じ込められた脱細胞化組織を含む場合、複数の組立体の結合は、ポリマーとポリマー同士の溶着によって達成することができる。
【0030】
一般的に言えば、ポリマーシート又は断片の溶着は、一方のシート又は断片の表面のポリマー鎖が、もう一方のシート又は断片の鎖と絡み合うのに十分な可動性があるときに起こる。溶着を実現するために、熱エネルギーを加えて、ポリマーの温度を、適切な転移温度、すなわち非晶質熱可塑性ポリマーの場合はガラス転移温度Tg、半結晶性ポリマーの場合は融解温度Tmを超えて上昇させることができる。これらの条件下でポリマー構成要素の2つのシート又は断片を密接に接触(intimate contact)させたとき、ポリマー鎖の絡み合いが生じることになり、溶着がもたらされる。本発明の態様によれば、溶着は、シート又は断片の全表面にわたって達成される必要はない。ポリマー構成要素の1つ又は複数の領域での点溶着(Point welding)が、複数の組立体又は任意の2つのポリマーシート又は断片の強固な結合をもたらすのに十分でありうる。
【0031】
いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素は、粒子シート又は粒子連続状態(continuity)を形成するように組織の表面上にパターン形成されるポリマー粒子(ナノ粒子、マイクロ粒子又はより大きいサイズの粒子)の形態である。そのような実施形態では、粒子は組織表面(組織外層)に埋め込まれていることがあり、その組織と粒子との間の結合は、長期間にわたって両者の間の結合を保つのに十分に強い。
【0032】
他の実施形態では、ポリマー構成要素と組織との間の結合は、ポリマー構成要素上に、例えば、ペンダント(pendent)基として(又はポリマー粒子の表面、若しくは粒子の層若しくはシート若しくは被膜若しくはポリマーシート若しくはポリマーフィルム若しくはポリマー繊維若しくはポリマーメッシュの形態の少なくとも1つのポリマー材料に存在するリガンド基として)存在し、組織をその一方の面からもう一方の面に貫通又は突出する少なくとも1つの特徴又は機能性(functionality)を必要としうる。その貫通は、組織に存在する孔を介して、又は例えば穿孔によって、若しくは打ち抜き(stamping)によって予め形成された少なくとも1つの穴を介して、すなわちポリマー材料を組織と接触させて置き、次に任意選択で圧力及び/若しくは温度を適用してポリマー材料の組織表面への物理的貫通を誘発することによることができる。
【0033】
組織をその一方の面からもう一方の面に貫通又は突出する少なくとも1つの表面特徴又は機能性は、ポリマー材料の表面から外側に伸びた細長いピン又は針の形態であることができ、ポリマー材料の表面に対して垂直に配向している、又はそれに対して角度をなしている。細長いピン又は針によって形成される穴のサイズと形状(すなわち、予め形成される穴のサイズと形状)は様々であり、穴の数又は分布は、脱細胞化組織の一部又は全表面を覆うことがある。
【0034】
ピン若しくは針、又は一般的にポリマー材料の表面に存在する少なくとも1つの表面特徴は、その特徴をその場所に確実に保ち、組織に形成された穴(複数可)から滑り出るのを防ぐ末端を有することができる。
【0035】
いくつかの実施形態では、構築物は、1つ又は複数の組織貫通特徴を有するポリマーシート及びその特徴がそこを通って突出する1つ又は複数の穴が施された脱細胞化組織を含み、組織貫通特徴はポリマーシートの材料から構成される。組織貫通特徴のパターン形成及び/又は穴のパターン形成は、本明細書に定義(例えば、サイズ、形状、分布密度、位置など)のように、任意のパターン形成プロファイル(穴プロファイル)に従うことができる。
【0036】
いくつかの実施形態では、構築物は、2つのポリマーシート又は断片を含み、それぞれのシートは、表面領域を広げる1つ又は複数のポリマー特徴又は部材を介して別のシートに結合し、2つのポリマーシート間に配置された脱細胞化組織は、前記1つ又は複数のポリマー部材が通って横切る1つ又は複数の穴を有する。
【0037】
いくつかの実施形態では、構築物は、組織の表面領域に1つ又は複数の穴を穿設すること及びポリマー構成要素の液体又は流体の形態を利用してポリマー構成要素のシート又は断片を形成することによって形成され、その液体又は流体の形態は、穴を貫通及び充填することが可能である、又はそのように作られる。
【0038】
2つのポリマーシート又は断片が存在し、1つの脱細胞化組織がそれらの間に配置されるいくつかの実施形態では、それぞれのポリマーシートは連続しており、同じポリマー材料でできているが、一方のシートはもう一方よりもサイズが大きい。
【0039】
いくつかの実施形態では、構築物は、1つ又は複数のポリマーシート及び脱細胞化組織の1つ又は複数のシートを含むマルチシート機器の形態である。
【0040】
本発明はまた、脱細胞化組織の少なくとも1つのシート及びポリマー構成要素の少なくとも1つのシートを含むマルチシート構築物を提供し、そこにおいて脱細胞化組織は、ポリマー構成要素の任意の2つのシート間に閉じ込められ、ポリマー構成要素の任意の2つのシートは、脱細胞化組織の少なくとも1つのシートに形成された少なくとも1つの穴を介して互いに結合している。
【0041】
いくつかの実施形態では、1つ又は複数の前記シートは、生物活性物質及び薬物など、活性又は非活性材料を放出するための材料リザーバー(material reservoir)として設計することができる。
【0042】
いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素の少なくとも一部は、生物活性物質又は薬物などの材料を放出するように構成される。いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素の全部又は特定の部分は、生物活性物質又は薬物を局所的に放出することができる。
【0043】
体内での配置後に本発明の構築物から放出される生物活性物質又は薬物は、医学的改善(medical improvement)を達成し、(局所的又は全身的に)疾患又は病態の発症を予防し、又は長期にわたって良好な健康状態を保つことを意図する任意の薬物及び医薬から選択することができる。したがって、生物活性物質又は薬物は、特に、構築物が移植又は配置される体の領域、並びに移植の部位及び手技に関連しうる医学的合併症の種類に基づいて選択される。
【0044】
一般的に言えば、活性物質又は薬物は、広義に毒性がないと特徴付けられ、FDA又はEMAによって規制される、又はGRAS(一般に安全と認められる(Generally Recognized As Safe))に分類される。そのような活性物質及び薬物の非限定的な例としては、非麻薬性及び麻薬性鎮痛剤を含む鎮痛剤;抗不安薬;抗不整脈薬;抗菌剤;天然由来、合成、広域スペクトル抗生物質を含む抗生物質;動脈又は静脈血栓症に対する抗凝固剤及び血栓溶解薬;抗痙攣薬;気分高揚抗うつ薬を含む抗うつ薬:三環系抗うつ薬、モノアミン酸化酵素阻害薬、及びSSRI;腸筋の収縮を遅らせる下痢止め製剤及び薬剤を含む止瀉薬;制吐薬;毛髪、皮膚、爪、粘膜に影響を及ぼす感染症を含む抗真菌薬;抗ヒスタミン薬;利尿剤、β遮断薬、カルシウム拮抗薬、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬を含む降圧剤;抗炎症薬;抗悪性腫瘍薬;主要な精神安定剤を含む抗精神病薬;解熱剤;治療やウイルス感染に対する一時的な保護を含む抗ウイルス薬;β遮断薬;免疫抑制、悪性腫瘍又は欠乏症との関連でのコルチコステロイド;抗悪性腫瘍薬として、且つ免疫抑制剤としての細胞毒性;合成等価体及び天然ホルモン抽出物を含むホルモン;免疫抑制剤;筋痙攣を緩和するもの及びマイナートランキライザーを含む筋弛緩剤;月経及び更年期障害、経口避妊薬、及び女性及び男性のがんの治療にも使用されるものを含む(女性)性ホルモン;下垂体機能低下症や精巣の障害における男性ホルモンの欠乏、さらにがんの治療に使用されるもの、及びタンパク質同化ステロイドを含む(男性)性ホルモン;コラゲナーゼ又はエラスターゼなどの酵素;並びにビタミンが挙げられる。
【0045】
いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素又は組織構成要素のいずれかは多孔質であってもよく、すなわち、構成要素の特定の領域に限定される、又はポリマー若しくは組織の全表面に沿って分布しうる表面孔が含まれる。孔は、ために、脱細胞化組織に元々存在していても、又は形成されて特定の穴(又は多孔性)プロファイルを達成してもよい。プロファイルは、穴が形成される組織の少なくとも1つの表面領域を画定し、穴の数、形及びサイズ、特定の表面領域の穴の密度などである。様々なパターン形成プロファイルを用いて、所望の構築物の能力(capabilities)又は属性又は実用性を満たすことができる。いったん1つ又は複数の穴が形成されると、本明細書に開示のように、ポリマー材料の結合を様々な方法論によって進めることができる。なかには、穴を通して挿入又は貫通できる、突出する特徴を有するポリマー構成要素の使用を要するものもある。他の方法論は、液体ポリマーの使用を要しうる。そのような方法論では、組織は、液体ポリマー材料又はポリマー材料を含む溶液中で、又はそれを用いて、浸漬、噴霧又は一般には処理することができ、前記ポリマー材料が穴(複数可)を貫通し、さらに組織面に沈着し、それにより、組織面のいずれかの面又は両面にポリマーシート又は断片を形成することが可能になる。組織面のいずれかの面又は両面に形成されたポリマーシート又は断片は、別のポリマー構成要素又はシートに融合又は溶着されて、それにより、層ごとに(layer by layer)、又は構成要素ごとに(component by component)、本発明のマルチシート又は構築物を確立することができる。
【0046】
代替的に、脱細胞化組織は穿設され、組織に作られた穴に液体ポリマーが注入される。組立体が、2つの組織シート間にポリマーシートを形成することによって構築され、その後、構築物は熱接合される。構築物は、溶着によって別のポリマーシート又は特徴に取り付けることができる。
【0047】
さらに別のアプローチによれば、マルチシート構造は、様々なシートを互いに上に積み重ねることによって形成され、その後マルチシートを穿設して所望の穴プロファイルを得て、液体ポリマーを注入して融合構築物を得る。
【0048】
さらに別のアプローチによれば、液体ポリマーは組織の上に鋳造され、組織とポリマーの二重層を形成する。次に、二重層を穿設して穴プロファイルを得て、液体ポリマーを注入して構築物を得る。2つの構成要素による(binary)構築物を使用してマルチシートを形成してもよく、又は別のポリマーシートに溶着させてもよい。
【0049】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物では、脱細胞化組織は構築物の5重量%~95重量%を構成する。
【0050】
本明細書で使用される場合、「脱細胞化組織」は、阻害細胞(inhibiting cells)が取り除かれ、組織の細胞外マトリックス(ECM)が残された組織である。上述のように、脱細胞化は、当該技術分野で公知の化学的、酵素的又は物理的な方法によって達成することができる。脱細胞化組織は、口腔粘膜の組織、小腸粘膜下層又は膀胱脱細胞化マトリックスから得ることができ、細胞外マトリックスへの天然(natural)且つ最適な統合特性(integration properties)を与える。また、他の組織も使用することができる。
【0051】
脱細胞化組織を達成するための方法は、当該技術分野で公知であり、例えば、国際出願2005/032473号及びそこから派生した米国出願(それぞれ参照により本明細書に組み込まれる)、米国特許第5,993,844号明細書(参照により本明細書に組み込まれる)などがある。
【0052】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は、心膜、網及び小腸粘膜から選択される。
【0053】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は心膜である。
【0054】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は、ウシ心膜又はブタ心膜である。
【0055】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は小腸粘膜下層である。
【0056】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は網である。
【0057】
本発明の構築物に使用されるポリマーは、当該技術分野で公知のポリマー材料である。使用されるポリマーは、熱可塑性ポリマー及び熱硬化性ポリマーのうちから選択することができる。ポリマーは、疎水性でも、親水性でも、又は両親媒性でもよく、さらに生体不活性ポリマー及び生分解性ポリマーのうちから選択することができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、異なるポリマーのブレンド、相互侵入高分子網目(IPN)、又は半相互侵入高分子網目(半IPN)である。
【0059】
いくつかの実施形態では、半IPNポリマーは、付加若しくは縮合反応、クリックケミストリー又は他の任意のタイプの反応及びそれらの組み合わせによって架橋するように選択される。いくつかの実施形態では、架橋することができる化合物は、エチレングリコールジメチルアクリレート(EGDMA)及びエチレングリコールジアクリレート(EGDA)、トリエチレングリコールジメタクリレート(TEGDMA)、テトラ(エチレングリコール)ジアクリレート(TEGDA)、ジビニルベンゼン(DVB)、ビス-アクリルアミド、ポリエチレングリコールジメタクリレート(PEGDMA)、ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(PPGDMA)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(PPGDA)、ポリエチレングリコール/ポリプロピレングリコール(PEG/PPG)、共重合体ジメタクリレート(DMA)及びジアクリレート(DA)、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート(PTMGDMA)及びポリテトラメチレングリコールジアクリレート(PTMGDA、ポリジメチルシロキサンDMA及びDA、ポリカプロラクトンジメタクリレート(PCLDMA及びポリカプロラクトンジアクリレート(PCLDA)、ポリカプロラクトン/ラクチドP(CL/LA)、DMA及びDA、ポリカプロラクトン/グリコリドP(CL/GA)、DMA及びDA及びポリグリコリド/ラクチドP(GA/LA)、DMA及びDA、ポリエチレングリコール/カプロラクトン(PEG/CL)、DMA及びDA、ポリエチレングリコール/ラクチドPEG/LA、DMA及びDA及びポリエチレングリコール/グリコリド(PEG/GA)DMA及びDA、ポリプロピレングリコール/カプロラクトン(PPG/CL)DMA及びDA、ポリプロピレングリコール/ラクチド(PPG/LA)、DMA及びDA及びポリプロピレングリコール/グリコリド(PPG/GA)DMA及びDA、ポリテトラメチレン/カプロラクトン(PTMG/CL)、DMA及びDA、ポリテトラメチレン/ラクチド(PTMG/LA)、DMA及びDA及びポリテトラメチレン/グリコリド(PTMG/GA)、DMA及びDAなどの2つ以上の炭素二重結合を含有する化合物から選択される。
【0060】
いくつかの実施形態では、IPNは、EGDMA及びEGDA、TEGDMA及びTEGDA、DVB、ビス-アクリルアミド、様々な分子量のPEG DMA及びDA及びより高度な官能性(higher functionalities)、様々な分子量のPPG DMA及びDA及びより高度な官能性、PEG/PPG 共重合体DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPTMG DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のシロキサン DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPCL DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のP(CL/LA)、P(CL/GA)及びP(GA/LA)DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPEG/CL、PEG/LA及びPEG/GA DMA及びDA より高度な官能性、様々な分子量のPPG/CL、PPG/LA及びPPG/GA DMA及びDA より高度な官能性、様々な分子量のPTMG/CL、PTMG/LA及びPTMG/GA DMA及びDA より高度な官能性、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される2つ以上の炭素二重結合を含有する化合物によって形成されるポリマーからなる。
【0061】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、アクリル又はメタクリルポリマーである。
【0062】
いくつかの実施形態では、ポリマーはポリオレフィンである。
【0063】
いくつかの実施形態では、ポリマーはシリコーンポリマーである。
【0064】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリウレア又はポリアミド及びそれらの組み合わせである。いくつかの実施形態では、ポリマーはポリウレタンである。
【0065】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、120℃未満のガラス転移点又は融点を有する。いくつかの実施形態では、ポリマーは、85℃未満のガラス転移点又は融点を有する。
【0066】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、50kPaの圧力及び42℃超の温度下で流動するように選択される。
【0067】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ(メタクリル酸n-ブチル)(PBMA)、ポリ(メタクリル酸ヘキシル)(PHMA)、ポリスチレン(PST)、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(PHEMA)、ポリ(N-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド)(PHPMA)、ポリシアノアクリレート(PCA)、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン/ポリブチレン共重合体、ポリプロピレン/ポリブチレン共重合体、ポリイソブチレン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、フェニル含有PDMS、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン(例えば、ペレタン(Pellethane)、エラスタン(Elastane)、エラストラン(Elastolan)、テコフレックス(Tecoflex)、バイオマー(Biomer))、ポリカーボネートウレタン(例えば、クロノフレックス(Chronoflex)、バイオスパン(Biospan)及びバイオネート(Bionate))及びシリコン含有ポリウレタン(例えば、カーボシル(CarboSil)、パーシル(PurSil)、アブコタン(Avcothane)及びカルジオタン(Cardiothane))、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸-カプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸-乳酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリ乳酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリカプロラクトン共重合体、ポリテトラメチレンオキシド-カプロラクトン共重合体、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート及びポリブチレンテレフタレート及びポリエチレン/ブチレンテレフタレート共重合体並びにそれらの組み合わせ及び共重合体から選択される。
【0068】
いくつかの実施形態では、ポリマーは脂肪族ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタンであり、任意選択でテコフレックスである。
【0069】
いくつかの実施形態では、ポリマーは芳香族ポリカーボネート系ウレタンであり、任意選択でクロノフレックスである。
【0070】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、PMMA、PBMA、PHMA、PMA、PHEMA、PHPMA及びそれらの組み合わせである。
【0071】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、低分子量(典型的には500~10,000Da)又は非晶性若しくは分岐ポリオレフィン及びそれらの組み合わせである。
【0072】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、PDMS又はフェニル含有PDMS又は二重結合及び/若しくはヒドロキシル基及び/若しくはアミン基及び/若しくはチオール基を含有する誘導体化PDMS鎖である。
【0073】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリエーテル又はポリエステルソフト断片を含む脂肪族又は芳香族ポリウレタンである。
【0074】
ポリマーは、後に経時的に変化する形態(morphology)及び特性を有するように選択することができる。これらの変化は、化学的、物理的及び/又は生物学的な現象に起因する可能性がある。いくつかの実施形態では、ポリマーは、カップリング、重合又は架橋、酸化又は加水分解若しくは酵素分解などの二次性化学変化(secondary chemical changes)を経るように選択される。いくつかの実施形態では、化学変化とは別に、又はそれに加えて、ポリマーは、結晶化又は相分離などの物理過程(physical processes)を経る、又はそれによって影響されるように選択することができる。
【0075】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、温度、pH、イオン強度、水和、生物学的なきっかけ(biological cues)、電場又は磁場、任意のタイプの放射線及びそれらの組み合わせなど様々な刺激によって作動できる形状記憶表示ポリマーであり、その形状記憶表示ポリマーは、ワンタイム応答又は繰り返し形状記憶応答を呈することができる。
【0076】
いくつかの実施形態では、作動した形状記憶ポリマーは、組織/ポリマー構築物の形状を調節することができるポリマーである。
【0077】
いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素のすべて又は一部は、形状記憶挙動を呈しうる。
【0078】
いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素のすべて又は一部は、環境応答性でありうる。いくつかの実施形態では、ポリマー構成要素のすべて又は一部は、逆熱応答性(reverse thermo-responsive)でありうる。
【0079】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、温度、pH、イオン強度、生物学的なきっかけ、様々なタイプの放射線、電場又は磁場、及びそれらの組み合わせに応答する環境応答性ポリマーである。いくつかの実施形態では、環境応答性ポリマーは逆熱応答性である。
【0080】
逆熱応答性ポリマーは、N-アルキル置換アクリルアミド(ポリ-N-イソプロピルアクリルアミド[PNIPAAm]など)から選択されうる、又はポリエチレンオキシド/ポリプロピレンオキシド断片をベースとする、又はヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロース、及び交互若しくはランダムポリマー、及びポリ(エチレンオキシド)-ポリ乳酸ブロック共重合体などの様々な両親媒性ポリマーから選択されるセルロース誘導体である。
【0081】
いくつかの実施形態では、ポリマーはポリブチルメタクリレートである。
【0082】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ポリエチレン・ポリプロピレン共重合体、ポリエチレン/ポリブチレン共重合体、ポリプロピレン/ポリブチレン共重合体、ポリイソブチレン又はそれらの組み合わせなどのポリオレフィンである。
【0083】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、イン・サイチュで架橋するように選択される誘導体化PDMSであるシリコーンポリマーである。
【0084】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、ペレタン、エラスタン、エラストラン、クロノフレックス、テコフレックス、カルジオタン、アブコタン、カーボシル、パーシル、バイオマー、バイオスパン及びバイオネート(それぞれ本明細書に定義の通り)並びにそれらの組み合わせから選択されるポリウレタンである。
【0085】
いくつかの実施形態では、ポリウレタンは、脂肪族ポリエーテル系熱可塑性ポリウレタン、例えばテコフレックスである。
【0086】
いくつかの実施形態では、ポリウレタンは、芳香族ポリカーボネート系ウレタン、例えばクロノフレックスである。
【0087】
いくつかの実施形態では、ポリマーはポリエステルであり、任意選択で、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバレレート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート並びにポリブチレンテレフタレート並びにポリエチレン/ブチレンテレフタレート共重合体並びにそれらの組み合わせ及び共重合体から選択される。
【0088】
本発明の構築物において、使用されるポリマーは、2つ以上のポリマー材料のブレンド又は混合物又は組み合わせであることができる。いくつかの実施形態では、そのようなブレンドは、2つ以上のポリオレフィン又はアクリル又はメタクリルポリマー又はシリコーンポリマー又はポリカーボネート又はポリウレタン又はポリウレア又はポリアミド及びそれらの組み合わせを含むことができる。
【0089】
別の態様では、本発明の構築物は、1つ又は複数の組織相(脱細胞化組織を含む又はそれからなる)及び2つ以上のポリマー相(ポリマーを含む又はそれからなる)を含み、それぞれが異なる幾何形状(geometries)の分離した相を形成し、そのサイズはナノスケールからセンチメートルスケールにわたりうる。
【0090】
ポリマー相及び/又は組織相は、2つ以上のタイプのポリマー又は脱細胞化組織によって構築又は構成されうる。それぞれのポリマー及び/又は組織は、本明細書でさらに開示されるように、単一の構築物を形成する、又は互いに結合した構築物のアレイを形成しうる。いくつかの実施形態では、ポリマー及び/又は組織は、少なくとも1つのポリマー領域及び/又は少なくとも1つの組織領域を有する医療機器の一部であることができ、構築物はそれに結合することができる。そのような機器は、あらゆる種類の材料、例えば組織、ポリマー、金属、セラミック、炭素質材料及びそれらの組み合わせから構成されうる。
【0091】
本発明の構築物において、ポリマー相は、組織相又は上記に開示の材料、例えばポリマー、金属、セラミック、炭素質材料及びそれらの組み合わせを含む2つ以上の他の相に連結するように構成又は選択又は設計される。いくつかの実施形態では、ポリマー相は、2つ以上の組織相又は他の相に連結するように構成され、前記連結は、ポリマー自体の凝集強さ(cohesive strength)の5%を超える応力を維持することができる。いくつかの実施形態では、これらの目的及び他の目的のために、ポリマーはしたがって、形状記憶挙動を呈するように選択される。いくつかの実施形態では、ポリマーは環境応答性である。いくつかの実施形態では、ポリマーは生分解性である。
【0092】
いくつかの実施形態では、ポリマーは逆熱応答性であり、37℃未満のLCST転移を経る水溶液を形成する。
【0093】
いくつかの実施形態では、構築物は複合材料である。
【0094】
本発明はさらに、本発明の構築物である又はそれを含むインプラント又は医療機器を提供する。
【0095】
使用される本発明による構築物のタイプにかかわらず、且つ本発明の構築物から製造される機器の種類にもかかわらず、構築物は、ヒト又は動物の組織又は臓器に接触するように構成され、設計され、又は意図されている。場合によっては、構築物は、ヒト若しくは動物の体内の組織との結合を目的とした機器であることもでき、又は体内に埋め込まれる機器として構成することもできる。例えば、構築物は、場合に応じて、対象のGI管に、呼吸器系(気道系)に、血管系に沿って、循環器領域に、泌尿器系に、又はヒトや動物の体の他の任意の臓器に埋め込むように構成された医療機器又は医療機器の一部を構成することができる。特に、構築物の材料、形状及び使用目的に応じて、さらにインプラントが使用される臓器に応じて、構築物は多孔性又は非多孔性の場合があり、その場合、前記孔はナノメートルからセンチメートルスケールにわたる可能性がある。本発明の構築物を活用する又は含む機器の非限定的な例としては、ステント、金属ステント、人工血管、心臓弁(任意選択で金属フレームを含む)、膜、シーリングデバイス(sealing devices)、縫合糸又はステープルライン、ヘルニアメッシュ又はヘルニア修復デバイス、骨盤底部再建デバイス、創傷又は熱傷ドレッシング、硬膜クロージャー、心臓パッチなどが挙げられる。
【0096】
いくつかの実施形態では、本発明の機器は、金属フレームも含む心臓弁に実装される。したがって、心臓弁は、いくつかの実施形態では、本明細書に定義のように、心膜弁尖、組織/ポリマー相及び金属フレームを含みうる。
【0097】
いくつかの実施形態では、構築物は、CV系、GI管、気道樹、泌尿器及び生殖器領域、中枢又は末梢神経系、人工血管、A/Vシャントにおいて活用されるパッチであり、そこにおいて前記ポリマー/複数のポリマーは、不織構造を製造するテキスタイルの方法及び手順を含むあらゆる製造技術によって製造される、任意のサイズ及び幾何形状、多孔質又は固体、中空又は非中空(hollow or not)、又は他の任意の幾何形状のフィルム、繊維、粒子、及びそれらの組み合わせを形成する。
【0098】
本発明の構築物が含まれる本発明の機器は、1つ又は複数の活性剤を対象の体内の部位又は臓器又は組織に送達するための媒体として使用することができる。そのような活性剤は細胞性又は分子性の生物活性材料である。活性材料は、構築物全体に含まれることもあれば、ポリマー構成要素に含まれることもあれば、脱細胞化組織に含まれることもある。いくつかの実施形態では、脱細胞化組織は、本明細書に定義のように、活性材料、例えば生物活性材料を含有する。いくつかの実施形態では、活性材料は経時的に放出される。
【0099】
本発明の構築物は、本明細書で例示されるように、様々な形態で提供することができる。いくつかの実施形態では、ポリマーは2つ以上の組織領域又は断片に結合し、したがって積層体又は多層構造など他の任意の構造を形成する。いくつかの実施形態では、多層構造はポリマーの3つの層を含むことができ、そのうちの2つは外部にあり、1つは前記構築物の中間にあり、組織の2つの層がポリマー層の間に挟まれている。
【0100】
いくつかの実施形態では、構築物は、脱細胞化組織の2つのシート間に閉じ込められたポリマーフィルムを備える。
【0101】
いくつかの実施形態では、構築物は、組織層に作られた穴を介してそれぞれのポリマー層に結合するポリマー連結(polymeric connections)で形成することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー連結は、層を形成するポリマーと同じ又は異なる組成を有する。そのような構築物を合成するために、本発明によれば、使用され、例えばポリマーフィルムに予め形成されたポリマー又はポリマー混合物は、50kPa~1MPaの圧力及び120℃未満の温度下で流動できるように選択され、組織に作られた穴を充填し、それにより組織とポリマーを一緒に連結又は結合する。一旦冷却されると、ポリマーは流れの方向に対して遠位に連続したフィルム様の構造を作り出し、組織相とポリマー相との間の結合の強度及び長期安定性に寄与する。
【0102】
いくつかの実施形態では、ポリマーは、100kPa未満の圧力及び37℃未満の温度下で流動するRTRポリマーである。一旦生理的な温度になると、ポリマーは流れの方向に対して遠位に連続したフィルム様の構造を生成し、組織相とポリマー相との間の結合の強度及び長期安定性に寄与する。
【0103】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物中のポリマーは、任意選択でフィルムの形態又は形状に予め形成される。予め形成されたポリマーは、一緒にブレンドされた、又はナノメートルからセンチメートルスケールにわたる距離で空間的に隔てられた、等方的又は異方的に組織化された2つ以上の材料から構成され、層又は他の任意の空間的配置を生成でき、そこにおいて、前記追加材料は、ポリマー、組織、活性成分、金属、セラミック又は炭素質材料及びそれらの組み合わせから選択することができる。
【0104】
いくつかの実施形態では、予め形成されたポリマーは、フィルム又はその一部を軟化させる低分子量分子をさらに含む。その低分子量分子により、ポリマー相又はその一部が圧力及び温度条件下で流動することが可能になる。いくつかの実施形態では、低分子量分子は重合可能又は架橋可能であるので、重合又は架橋する前にポリマー相又はその一部を軟化させ、重合又は架橋すると前記ポリマー相を強化又は硬化する。いくつかの実施形態では、前記低分子量分子は、不活性であろうと反応性であろうと、生体不活性若しくは生分解性であってもよく、形状記憶挙動を呈してもよく、又は環境応答性であってもよく、及びそれらの組み合わせであってもよい。
【0105】
場合によっては、構築物は、付加若しくは縮合反応又は他の任意のタイプの反応及びそれらの組み合わせを介して起こる重合又は架橋反応によって得ることが可能である。付加重合又は架橋反応には、化学的、熱的及び放射線によって開始される反応を含むあらゆるタイプの触媒作用に続く反応性炭素二重結合が関与する。
【0106】
場合によっては、構築物は、好適な前駆体の重合又は架橋反応によって得ることが可能であり、そこにおいて、前記反応は、一部が脱細胞化組織と接触する前に行われ、一部がポリマー構成要素と脱細胞化組織構成要素の結合中又は結合後に行われる。いくつかの実施形態では、任意の幾何形状を有する部分的に重合又は架橋されたポリマーフィルム又はシート又は構築物は、適用された条件下で流動でき、脱細胞化組織又はポリマーである若しくはポリマーではない他の任意の構成要素との所望の結合を生み出す。いくつかの実施形態では、部分的に重合又は架橋されたポリマーは、50kPaの圧力及び42℃超の温度下で流動するように選択される。
【0107】
いくつかの実施形態では、部分的に重合又は架橋されたポリマーは、120℃未満のガラス転移点又は融点を有し、一方でいくつかの他の実施形態では、部分的に重合又は架橋されたポリマーは、85℃未満のガラス転移点又は融点を有する。
【0108】
他の実施形態では、部分的に重合又は架橋されたポリマーは、60℃未満のガラス転移点又は融点を有する。
【0109】
いくつかの実施形態では、脱細胞化組織又は他の任意の構成要素(ポリマーであろうとなかろうと、組織であろうとなかろうと)との結合中又は結合後にさらに重合又は架橋される部分的に重合又は架橋されたポリマーは、部分的に重合又は架橋されたポリマーよりも高いガラス転移点又は融点を有する。
【0110】
いくつかの実施形態では、さらに重合又は架橋されたポリマー部材は、50℃超のガラス転移点又は融点を有し、他の実施形態では、さらに重合又は架橋されたポリマー部材は、60℃超のガラス転移点又は融点を有し、さらに他の実施形態では、さらに重合又は架橋されたポリマー部材は、80℃超のガラス転移点又は融点を有する。
【0111】
いくつかの実施形態では、さらに重合又は架橋されたポリマー部材は、100℃超のガラス転移点又は融点を有する。
【0112】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物中のポリマーは、任意選択でフィルムの形態又は形状に予め形成されており、初期の重合及び/又は架橋の程度並びに、ポリマー部材がさらに重合又は架橋されたときに達する最終的な重合及び/又は架橋の程度が異なる、部分的に重合又は架橋されたポリマー構成要素を含む。
【0113】
いくつかの実施形態では、予め形成されたポリマーは、低分子量分子(500~100,000DA)で、重合可能且つ/若しくは架橋可能である又はそうではない、部分的に重合又は架橋された好適な前駆体をさらに含み、前記重合又は架橋反応は、一部が脱細胞化組織と接触する前に行われ、一部がポリマー構成要素と脱細胞化組織構成要素の結合中又は結合後に行われる。
【0114】
他の場合では、構築物は、メチルメタクリレート(MMA)、ブチルメタクリレート(BMA)、ヘキシルMA、スチレン(ST)、(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)(HEMA)、アクリルアミド(AAm)、アクリル酸(AAc)、N-ビニルピロリドン(NVP)、シアノアクリレート、N-イソ-PAAm、無水マレイン酸、EGDMA及びEGDA、TEGDMA及びTEGDA、DVB、ビス-アクリルアミド、様々な分子量のPEG DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPPG DMA及びDA及びより高度な官能性、PEG/PPG 共重合体体DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPTMG DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のシロキサン DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPCL DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のP(CL/LA)、P(CL/GA)及びP(GA/LA)DMA及びDA及びより高度な官能性、様々な分子量のPEG/CL、PEG/LA及びPEG/GA DMA及びDA より高度な官能性、様々な分子量のPPG/CL、PPG/LA及びPPG/GA DMA及びDA より高度な官能性、様々な分子量のPTMG/CL、PTMG/LA及びPTMG/GA DMA及びDA より高度な官能性、並びにそれらの組み合わせから選択される化合物の反応を通して得ることができる可能性がある。
【0115】
反応は、クリックケミストリー、任意のタイプの錯体形成、ホスト/ゲスト反応、及び非共有結合超分子重合から選択することができる。いくつかの実施形態では、それによってウレタン基、尿素基、アミド基、エステル基、炭酸基、又はエーテル基及びそれらの組み合わせが形成される縮合反応が関与する。
【0116】
いくつかの実施形態では、シロキサン含有分子のエポキシ/アミン反応及び加水分解及び縮合反応が関与しうる。いくつかの実施形態では、反応はチオール基の反応を要することがある。エポキシ/アミン反応は、GMAと、1分子あたり1つ又は複数のアミノ基を含有するアミノ末端PEG、PPG、PTMG、PCL、PDMS、様々な分子量の分子を含有するアミノ末端P(CL/LA)、P(CL/GA)及びP(GA/LA)、様々な分子量の分子を含有するPEG/CL、PEG/LA及びPEG/GA、様々な分子量の分子を含有するPPG/CL、PPG/LA及びPPG/GA、様々な分子量の分子を含有し、1つ又は複数のアミン基、反応性アミン部分を含有するオリゴペプチド及びペプチドを含有するPTMG/CL、PTMG/LA及びPTMG/GA、並びに前記アミノ末端分子と反応することができる、様々な官能性及び分子量をもつエポキシ末端分子、並びにそれらの組み合わせを含む様々な官能性及び分子量のアミンとの間で起こりうる。
【0117】
いくつかの実施形態では、本発明の構築物において、ポリマー材料の分子は、絡み合いがなくなり、ポリマー/組織相間(interphase)又は他の任意の相間を越えて、組織相又は他の任意の相に拡散し、それ自体及び他の任意の相の分子と混ざり合って再び絡み合い、2つを一緒に溶着することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー/組織境界面(interface)を越えた分子は、それ自体及び/又は組織又は他の任意の相に存在する部分とも反応することができ、ポリマー相と他の任意の相との間の結合の強度及び長期安定性を高める。
【0118】
本発明の構築物は、ポリマー材料が液体又は半液体の状態で組織相に直接接触(イン・サイチュ)して生成され、形成されることがある。イン・サイチュで生成されたポリマー相は、最適化された組成の、半液体重合可能又は架橋可能な反応性前駆体を適用することによって形成される。いくつかの実施形態では、前記イン・サイチュで生成されたポリマー相は、前記ポリマーの溶液を、組織相の表面上及び/又は組織相内及びそれらの組み合わせに適用することによって形成される。いくつかの実施形態では、ポリマー溶液は、水溶液又は他の親水性溶媒を使用する溶液である。いくつかの実施形態では、ポリマーは、アセトン、THF、ジオキサン、DMSO、クロロホルム及びジクロロメタンなどのハロゲン化溶媒、アルコール及びポリオール、ポリエーテル、アセトニトリル並びに酢酸エチルなどの有機溶媒に溶ける。ポリマー溶液は、1重量%~40重量%、又は1重量%~20重量%又は2重量%~10重量%の範囲の濃度を有する。
【0119】
いくつかの実施形態では、組織及びポリマー相は、超生理的温度で1時間より短い期間、圧力を加えることによって連結される。いくつかの実施形態では、圧力は20kPa~100GPaの範囲であり、温度は40度から最大で120度にわたり、1秒~60分の時間間隔で加えられる。いくつかの実施形態では、圧力は500kPa~10GPaの範囲であり、温度は40度から最大で85度にわたり、2秒~5分の時間間隔で加えられる。
【0120】
したがって、本発明の他の態様では、本発明の構築物を製造する方法が提供される。
【0121】
1つの形態によれば、本発明による構築物を製造するための方法であって、
- 少なくとも1つの脱細胞化組織の穿設された表面領域を、液体ポリマーと接触させること、及び
- 前記液体ポリマーが、穿設孔(穴)に貫通し、表面領域にポリマーシートを形成することを可能にすること
を含む方法が提供される。
【0122】
組織の穿設表面領域は、そこに穴が作られているものでもよく、又は自然にそのような穴若しくは孔を含むものでもよい。穴が作られる場合、様々な直径の針などの切断又は穿設デバイスを使用することによって穴を作ることができる。穴の位置、穴の形状、そのサイズ、及び表面領域上の分布(本明細書に定義の穴プロファイル)は、例えば構築物の機械的特性又は使用に関する前提条件を満たすように予め定義し、選択することができる。典型的には、穴の数は1より大きい。
【0123】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域に穿設すること又は穴を形成することを含む。いくつかの実施形態では、定義されているように、穴は、予め定義された穴プロファイルを有する。
【0124】
いくつかの実施形態では、液体ポリマーが、穿設孔(穴)に注入される。
【0125】
液体ポリマーが使用される場合、例えばポリマーを熱的に処理することによって硬化させることが必要なことがある。様々なポリマーが使用される可能性があるので、それぞれ異なる硬化方法論が使用される可能性がある。
【0126】
少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物を製造するためのさらなる方法が提供され、その方法は、
- 穿設されて1つ又は複数の穴を形成された少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域を、液体ポリマーと接触させること及び
- 前記液体ポリマーが、1つ又は複数の穴に貫通し、表面領域にポリマーシートを形成することを可能にすること
を含む。
【0127】
いくつかの実施形態では、本発明の方法は、少なくとも1つの脱細胞化組織の表面領域に穿設すること又は穴を形成することを含む。いくつかの実施形態では、定義されているように、穴は、予め定義された穴プロファイルを有する。
【0128】
いくつかの実施形態では、液体ポリマーは穿設孔(穴)に注入される。
【0129】
いくつかの実施形態では、液体ポリマーは、1つ又は複数の穴を通って完全に貫通する。
【0130】
いくつかの実施形態では、液体ポリマーは、1つ又は複数の穴を部分的に貫通する。
【0131】
いくつかの実施形態では、液体ポリマーは、1つ又は複数の穴を通って完全に貫通して表面領域の両面にポリマーシートを形成し、それにより構築物組立体を形成する。
【0132】
いくつかの実施形態では、本発明に方法は、2つ以上の構築物を結合又は融合させるステップを含む。融合は溶着によってもよい。
【0133】
さらに提供されるのは、少なくとも1つの脱細胞化組織及び少なくとも1つのポリマー構成要素を含む構築物を製造するための方法であって、
- 脱細胞化組織の1つ又は複数のシート及びポリマー材料の1つ又は複数のシート又は断片を積み重ねて積層構造を得ること;
- 前記積層構造に穴を形成して、組織及びポリマー材料の1つ又は複数のシートのそれぞれに1つ又は複数の穴を形成すること(任意選択で少なくともいくつかの前記1つ又は複数の穴は同軸上に配置される);並びに
- 前記積層構造を液体ポリマーで処理して、前記液体ポリマーを1つ又は複数の穴に貫通させ、前記シートを融合させて構築物を形成すること
を含む方法である。
【図面の簡単な説明】
【0134】
本明細書で開示されている主題をよりよく理解し、実際にどのように実施できるかを例示するために、以下、単なる非限定的な例として、添付の図面を参照して実施形態を説明していく:
図1図1A~Dは、凍結乾燥脱細胞化ウシ心膜(DBP)構成要素のSEM断面顕微鏡写真である。
図2図2は、DBPの高倍率(×200,000)SEM顕微鏡写真を示す。
図3図3A~Cは、典型的には1MPa未満、又は0.3MPa未満である、DBP/ポリマー構築物を設計するために必要とされる圧力をはるかに超えて、それぞれ100MPa、200MPa及び500MPaと圧力をだんだん高くして加えた後の組織の構造を示す。コラーゲン線維がこれらの超高圧の後もその構造を完全に保ったという事実は、DBPの頑強性及びその超高圧に対する優れた耐性を示している。
図4図4A~Bは、それぞれ25G及び27Gの針で作られた穴を示し、ポリマー相であるテコフレックスで充填されている。
図5図5は、左手側で圧縮し、右手側で一度膨張させたときの、金属ステントの被覆されたストラットを示す。使用される溶着可能なポリマーはPCLとHDIからなる。
図6図6は、金属ステントの被覆されたストラットのごく小さい部分(ステントの面積の約15%)へのパッチの部分的な溶着を示す。
図7図7は、最初の長さの3倍に引き伸ばされたステントを示し、ステントからのパッチの剥離は生じていない。
図8図8は、DBP並びに、DBP及びポリマー相、この場合はテコフレックスを含む2つの構成要素による構築物を含む構造を示す。2つのDBP相とポリマー相との間の強い連結を達成することを目的として、テコフレックスの流れを増強するためにDBPに作られた6つの穴は容易に分かる。そうすることによって、DBP相におけるテコフレックス分子の拡散にくわえて、2つのDBP相に作られた穴を通して中央のテコフレックスフィルムに連続的に連結された2つの外部の薄いテコフレックスフィルムを含む積層体が形成される。
図9図9A~Cは、ポリマー連結、例えば、ポリウレタン、テコフレックスを介して一緒に連結された金属フレームも含む心臓弁のDCP弁尖を示す。この場合、DBP弁尖はDBP/ポリマー構築物のポリマー相を介して一緒に溶着され、被覆されたストラットを介して心臓弁の金属フレームにも溶着される。
図10図10は、金属ステント及び生地(fabric)を含む、他の適応のなかでも特に腹部大動脈瘤(AAA)の治療に使用されるステントグラフトを示し、布は複数の縫合点(suturing points)を介して前者に縫い合わされている。
図11図11は、PCL/HDIポリ(エステル-ウレタン)からなるポリマー相及びヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)である低分子量重合可能分子を示す。CLUR2kが非可塑化時(100:0)に約180MPaの引張弾性率を有し、スマート(smart)HEMA構成要素の添加量の増加に伴って有意に減少し、20%モノマーHEMAの存在下で約60MPaの値を示し、50:50組成では6MPaまで下がることがさらに報告されている。提示データから明らかなように、重合PHEMAはCLUR2K:PHEMAが50:50の組成では、CLURの弾性率の有意な増加をもたらし、250MPaを超える値に達する。
図12図12は、2つの炭素二重結合を含むトリエチレングリコールジメタクリレートの場合のように、低分子構成要素が重合可能であるだけでなく架橋可能である場合のCLUR2Kの挙動を示す。
図13図13は、さらなる架橋方法論を示す。
図14図14A~Bは、組織/ポリマー構築物の生成を模式的にA)に示しており、最初のステップは、組織構成要素に、そのサイズ、数及び配列が最適化される穴を形成することである。介在物(mediator)であるポリマーシートを通して2つの組織を溶着して一緒にした「サンドイッチ(sandwich)」を例示する実施形態をB)に示す。
【発明を実施するための形態】
【0135】
したがって、現在利用可能な均等物に関連する欠陥を欠いているであろう、優れたクラスの生物医学的構築物及び医療機器を提供する目的で、本明細書に開示の技術の発明者らは、[i]脱細胞化組織及び[ii]ポリマー構成要素を含む新規且つユニークなクラスの構築物を開発した。そのそれぞれの構成要素は空間内で異なる相を形成し、前記脱細胞化組織及びポリマー構成要素は、1つ又は複数の物理的固定手段を介して互いに結合している。意外にも、本明細書に開示の構築物及び医療機器は、以前は達成不可能であった特性を呈する。
【0136】
本発明によって教示される脱細胞化組織/ポリマー構築物は、医療機器全体を構成する、又はその一部であり、前記構築物には、とりわけ、人工血管、心臓パッチ、ステント、心臓弁、創傷若しくは熱傷ドレッシング、膜、シーリングデバイス、又は縫合糸若しくはステープルラインを補強するデバイスが含まれ、ヘルニア修復、骨盤底再建、又は硬膜閉鎖術に使用される。
【0137】
本発明の教示は、多様な脱細胞化組織及びポリマーに容易に適用可能である。しかし、明確、簡潔及び簡単にするために、且つ、いかなる形又は方法でも本発明の範囲の一般性を損なうことなく、本発明の発明者らは、脱細胞化心膜、より正確には脱細胞化ウシ心膜を含む構築物に焦点を当てることによって、本明細書に開示の発明を説明することを選択した。明確さ、簡潔さ及び簡単さのために、且つ、いかなる形又は方法でも本発明の範囲の一般性を損なうことなく、本発明の発明者らは、脱細胞化心膜/ポリマー構築物が、より大きい医療機器、より正確には心臓弁の一部である医療機器に焦点を当てることによって、本明細書に開示の発明を説明することを選択した。しかし、明確さ、簡潔さ及び簡単さのために、且つ、いかなる形又は方法でも本発明の範囲の一般性を損なうことなく、本発明の発明者らは、ここに開示された本発明を説明するために、前記脱細胞化心膜/ポリマー構築物のポリマー相としてのポリウレタンに、より正確には前記ポリウレタンがテコフレックスである場合に焦点を当てることによって、本明細書に開示の発明を説明することを選択した。
【0138】
そのなかで、いかなる制限もなく、本発明によって開示の脱細胞化ウシ心膜/ポリマー構築物は、本発明者の研究室で開発された。脱細胞化心膜の機械的特性は、バッチによって、また使用される脱細胞化技術に応じて多少異なる。典型的には、脱細胞化技術の破断応力は10~80MPaの範囲にあり、その典型的なヤング率の値は80~300MPaにわたり、破断値では20~50%の破断ひずみ値を示す。凍結乾燥脱細胞化ウシ心膜について本発明の発明者らの研究室で測定した破断応力、ヤング率及び破断ひずみの値は、それぞれ75MPa、280MPa及び43%であった。
【0139】
テコフレックスポリウレタンは、ポリテトラメチレンオキシドのソフト断片及びメチレンジシクロヘキサンジイソシアネートを含む脂肪族ポリエーテルウレタンである(MDI Richards JM,McClennen WH, Meuzelaar HLC,Shockcor JP,Lattimer RP:Determination of the structure and composition of clinically important polyurethanes by mass spectrometric techniques. Journal of Applied Polymer Science 1987,34:1967-1975)。
【0140】
本発明の発明者らの研究室で測定したテコフレックスの機械的特性を表1に示す。
【0141】
提示の機械的データから、テコフレックスは非常に強い材料であり、構築物の弱い構成要素ではないことは明らかである。エラストランなどの他のポリウレタンも使用することができ、同様のレオロジー的及び機械的特性を示す他のポリマーも使用することができる。ポリマー構成要素が生分解性であることを構築物が必要とする場合、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(乳酸/グリコール酸)(PLGA)、ポリカプロラクトン(PCL)及びそれらの共重合体などのポリマー、並びにポリエチレンオキシド(PEO)などの親水性ポリエーテル又はその疎水性対応物、例えば、ポリプロピレンオキシド(PPO)若しくはポリテトラメチレンオキシド(PTMO)を含む生分解性ブロック共重合体のプラスチック又はエラストマーなどのより柔軟な生分解性ポリマー、又は非晶質ポリカプロラクトンなどの柔軟な脂肪族ポリエステル、又はポリジメチルシロキサン(PDMS)を含むシリコーンベースの断片など、多数のもの。ソフト断片の分子量は、典型的には600~20,000ダルトンで様々である。
【0142】
しかし、明確、簡潔及び簡単にするために、且つ、いかなる形又は方法でも本発明の範囲の一般性を損なうことなく、本発明の発明者らは、構築物のポリマー相が、2つ以上の組織相又はポリマー、金属、セラミック、炭素質材料及びそれらの組み合わせを含む群から選択されるあらゆる種類の材料を含む他の相に連結できる構築物に焦点を当てることによって、本明細書に開示の発明を説明することを選択した。より正確には、本発明の発明者らは、構築物のポリマーテコフレックス相が2つの脱細胞化ウシ心膜組織試料に連結する構築物に焦点を当てることによって本明細書に開示の発明を説明することを選択した。さらにより具体的には、本発明の発明者らは、金属フレームも含む心臓弁の一部であり、それらの間の弁尖及び弁の金属フレームにも連結する構築物に焦点を当てることによって、本明細書に開示の発明を説明することを選択した。本発明のいくつかの実施形態では、組織/ポリマー構築物は脱細胞化心膜弁尖の一部である。本発明のさらに他の実施形態では、構築物のポリマーテコフレックス相は2つの組織弁尖を連結し、ポリマーの3つの層(それらのうちの2つは外部にあり、1つは前記構築物の中央にある)及びポリマー層の前記2つの外部層に内部にある組織の2つの層を含んで積層体を形成する多層で統合的な組織/ポリマー構築物が形成される。他の実施形態では、形成された前記多層で統合的な組織/ポリマー構築物は、寸法がナノメートルからセンチメートルのスケールにわたるポリマー連結によって連結されたポリマー層からなる。
【0143】
材料及び方法
心膜の凍結乾燥
たいていの場合、構築物の脱細胞化組織構成要素は構築物の生成前に凍結乾燥させる必要があるので、凍結乾燥後に脱細胞化組織構成要素を調べた。凍結乾燥した脱細胞化ウシ心膜(DBP)構成要素の構造を、下の図1A~Dに示すSEM断面顕微鏡写真に示す。
【0144】
倍率は、SEM顕微鏡写真がDBPの全体の厚みを示す比較的低い×500値から、コラーゲン線維のよく知られた構造が容易に観察される高倍率の×120,000値まで上げる。
【0145】
得られた状態のままの(as-received)DBPの高倍率(×200,000)SEM顕微鏡写真を図2に示す。
【0146】
ポリマーの調製
テコフレックスなど選択したポリマーを、テコフレックスのTHF溶液及び予め調製したフィルムという2つの異なる状態で溶着領域に加えた。テコフレックス溶液は、THF中5~25%のテコフレックスの範囲であった(以下「ポリマー溶液」と呼ぶ)。フィルムの調製では、3.78グラム(gr)のテコフレックスを100mlのTHFに完全に溶解するまで添加した。この溶液をガラスのペトリ皿に注ぎ、THFをゆっくりと蒸発させた。フィルムは平均の厚さが数ミクロンであった。
【0147】
心膜の溶着
2つの乾燥心膜細片を溶着工程に向けて用意した。それらのそれぞれに、端から2mmの領域に印をつけ、6つの穴を開けた。先端に25Gの針を付けた注射器でポリマー溶液を穴に導入した。生地の内側で、粗い面(rough side)から滑らかな面(smooth side)に針を入れた。外側に引き戻すと、同時に溶液が流れ込んだ。穴は、溶着領域の中央に、縁線(edge line)と平行に直線状に並べた。
【0148】
溶媒をさらに蒸発させるために穿設した生地を数分間放置し、次いでシーラーで粗い面を互いに押し付けて溶着させた。溶着工程を行う直前に、押し付けた生地の間にテコフレックスフィルムのシートを挿入した。
【0149】
溶着工程では、押し付けの温度、圧力、及び時間と、3サイクルのうちの各サイクル間の緩和(relaxation)との組み合わせであるデリケートなレジームで、3回のシーリングを適用した。溶着を行った後、溶着した材料を室温で乾燥させた。
【0150】
溶着の特性評価法
溶着した細片の強度を、インストロン計測器で10mm/分の引張試験によって分析したのに対し、弁尖はその両側の溶着領域から10mmのところを掴持した。
【0151】
また、溶着した細片の構造をSEMによって試験して、プレス及び熱のために構造に大きな変化はなかったことを確認した。
【0152】
結果を下の表2~4に示す:
【0153】
表2~4に提示のデータは、組織にポリマーで満たされた穴が多く形成されるほど、結合又は溶着がより強くなるという理解を裏付ける。
【0154】
考察
本発明のいくつかの実施形態では、特にポリマー相が2つ以上のDBP及び/又はポリマー相を連結する場合に、穏やかな圧力を加えることが必要な場合がある。本発明のこれらの実施形態において圧力を加える目的は、ある実施形態ではDBPと接触したとき、及び他の実施形態では他のポリマー相と接触したとき、及びそれらの組み合わせにおいて、ポリマー相又は複数の相を流動させることである。
【0155】
本発明のいくつかの実施形態では、ポリマー相は組織相に作られた孔又は穴を通って流れることができ、ポリマー分子は拡散して他の相の分子と混在することもできる。いくつかの実施形態では、ポリマー分子の流れは相間の境界面を消滅させ、それらを一緒に溶着する。
【0156】
図3A~Cは、典型的には1MPa未満、好ましくは0.5MPa未満、さらにより好ましくは0.3MPa未満である、DBP/ポリマー構築物を設計するために実際に必要とされる圧力をはるかに超えて、それぞれ100MPa、200MPa及び500MPaと圧力をだんだん高くして加えた後の組織の構造を示す。コラーゲン線維がこれらの超高圧の後もその構造を完全に保ったという事実は、DBPの頑強性及びその超高圧に対する優れた耐性を示している。
【0157】
DBP/ポリマー構築物のポリマー相を形成することができるいくつかのポリマーは、生理学的に許容される圧力及び温度条件下で流動する能力を示している。示差走査熱量測定(DSC)によって得られた、異なる分子量(2,000及び14,000ダルトン)のポリカプロラクトン(PCL)とヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)からなる2つの生分解性ポリ(エステル-ウレタン)とそれらの溶着相のサーモグラムは、より低温にシフトした、新しいより広い吸熱(new,broader endotherms)を示した。これは、両方のポリマーの分子が相互に拡散し、一方がもう一方の結晶化性を妨げていることを示す。
【0158】
この現象及び溶着連結の強度について、テコフレックスとPEUという2つの異なるポリウレタンの2つのフィルムを一緒に溶着させ、さらに検討した。この結果は、テコフレックス及びPEUの鎖が2つのフィルム間の境界面を横切って流れる能力を示し、長期的に臨床上重要な強い連結をもたらす。さらに、最初の場合はポリ(エステル-ウレタン)であり、後者の場合はポリ(エーテル-ウレタン)であるものの、両方のポリマーはポリウレタンであるので類似している。この現象を広範に説明するために、2つのポリマーのDSCサーモグラムを調べた。
【0159】
DSCは、2つのポリマーが非常に異なっており、一方は柔軟なポリ(エステル-ウレタン)であり、もう一方は硬い(stiff)ポリメタクリレートであることを示した。柔軟なポリウレタンはPCL2000断片及びそれらのカップリング剤としてのHDIからなり、一方で硬い(rigid)ポリメタクリレートはポリ(エチルメタクリレート)(PEMA)である。またこの場合、ポリマーの組成及び機械的特性が実質的に異なるにもかかわらず、その現象は分子レベルで両構成要素の鎖の混ざり合い及び絡み合いを伴うことが溶着相のサーモグラムから明らかである。本発明のいくつかの実施形態では、ポリマー鎖の可動性、及びそれらが、絡み合いをなくし、もう1つのポリマー相又は脱細胞化組織相との境界面を横切り、その別の相(the second phase)に拡散し、次いで再び絡み合う能力は、本発明によって教示される構築物又は医療機器を生み出す上で重要な役割を果たす。
【0160】
DBPとポリマー相、例えば、テコフレックスの連結の強度を、インストロン機を使用して定量的に測定した。構築物は組織内で凝集して破損する(failed cohesively)のが見出され、脱溶着不良(de-welding failures)は観察されなかった。
【0161】
DBO相とポリマー相との間の特に強い連結を目的としたいくつかの実施形態では、DBP相に穴を作り、そこを通るポリマー相の流れを最大にした。いくつかの実施例では、16G~27Gの範囲の針を使用して穴を作った。図4A~Bは、それぞれ25G及び27Gの針で作られた穴を示し、この場合はポリマー相であるテコフレックスで充填されている。
【0162】
DBP相及びポリマー相は、ナノメートルからセンチメートルにわたる任意のサイズであることができ、球状、繊維状、細片、リボン、フィルム、多孔質又は非多孔質(porous or not)、及びそれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない任意の形状を取ることができる。ポリマー相/複数の相はまた、ナノサイズからセンチメートルスケールまでのサイズの相で存在することができ、それらはDBP相の表面及び/又はそのバルクに存在し、これらそれぞれ場合は、ナノメートルからセンチメートルの範囲のサイズで、任意の幾何形状を取ることができる。
【0163】
本発明の目的は、DBP/ポリマー構築物又はその構築物が一部である機器を、機器の追加構成要素に連結することである。本発明の非常に好ましい実施形態である心臓弁の場合、前記追加構成要素は心臓弁の金属フレームである。
【0164】
本発明のいくつかの実施形態では、DBP/ポリマー構築物又はその構築物が一部である機器を金属ステントに溶着する場合、ステントのストラットは、DBP/ポリマー構築物のポリマー相を構成するポリマーと同一又は異なることができる溶着可能なポリマーで被覆される。図5は、左手側で圧縮し、右手側で一度膨張させたときの、金属ステントの被覆されたストラットを示す。この実施形態では、ステントの膨張が大きいので、そのストラットを被覆する溶着可能なポリマーを、特に柔軟性があり、高い破断ひずみを示すように選択した。下記の場合では、使用した溶着可能なポリマーはPCL及びHDIからなった。様々な厚さの被覆を調製し、5マイクロメートルの薄い被覆から始め、必要に応じて増やした。
【0165】
他の柔軟性の高いポリマーも使用した。そのなかでも、様々なポリウレタンが使用され、それらソフト断片は、その分子量、親水性が異なり、生分解性ポリマーの場合は分解速度も異なるポリエーテル又はポリエステルからなっていた。使用されるポリマーの1つは、HDIを介して伸長されたポリ(テトラメチレンオキシド)(PTMO)(MW=650)断片鎖からなる。表5で報告されているように、ポリマーは47~48℃の温度で20秒以内に溶着した。
【0166】
また、同じポリマーを使用して、ステントのストラットを被覆し、DBP/ポリマー構築物のポリマー相、及びそのポリマーが一部である医療機器の追加ポリマー相を作成した。溶着プロセスの速さだけでなく、形成されたポリマー/ポリマー連結の強度も示すために、PTMO650/HDIポリマーのパッチを、同じポリマーで被覆したステントのストラットに20秒で溶着した。さらに、パッチは、図6に示されるように、金属ステントの被覆ストラットのごく小さい部分(ステントの面積の約15%)にのみ溶着させることが可能であった。
【0167】
当初は、被覆ステントからパッチを脱溶着(de-weld)するために手作業による強制的な試みを行ったが、図7に示されるように、ステントは最初の長さの3倍に引き伸ばされ、ステントからのパッチの剥離は生じなかった。
【0168】
最終的に、インストロン計測器を使用してステントからパッチを脱溶着したとき、予想外に且つ驚くべきことに、破損したのは金属ステントであった一方で、溶着され連結は影響を受けないままであった。DBP/ポリマー構築物のポリマー相又は構築物が一部である医療機器のポリマー相の能力に由来し、迅速且つ強力に、異なる相の間に長期的で安定した接続を形成するという有利な特徴が説得力をもって示されている。
【0169】
図8は、DBP及びポリマー相、この場合はテコフレックスを含む2つの構成要素による構築物を含む構造を示す。2つのDBP相とポリマー相との間の強い連結を達成することを目的として、テコフレックスの流れを増強するためにDBPに作られた6つの穴は容易に分かる。そうすることによって、DBP相におけるテコフレックス分子の拡散にくわえて、2つのDBP相に作られた穴を通して中央のテコフレックスフィルムに連続的に連結された2つの外部の薄いテコフレックスフィルムを含む積層体が形成される。
【0170】
非常に好ましい実施形態では、金属フレームも含む心臓弁のDCP弁尖は、図9A~Cに示されるように、ポリマー連結、好ましくはポリウレタン、より好ましくはテコフレックスを介して一緒に連結される。この場合、DBP弁尖はDBP/ポリマー構築物のポリマー相を介して一緒に溶着され、被覆されたストラットを介して心臓弁の金属フレームにも溶着される。
【0171】
通常行われ、文献で慣習的に報告されているように、心臓弁の長期動的安定性は、加速条件下で加速摩耗試験機(AWT)によってインビトロで測定される。
【0172】
心臓弁でのAWTの使用を記述した多くの研究を代表する以下の3つの論文を参照する:{1}A correlation between long-term in vitro dynamic calcification and abnormal flow patterns past bioprosthetic heart valves,Oleksandr Barannyk,Robert Fraser and Peter Oshkai,J Biol Phys(2017)43:279-296);{2} Pitfalls and outcomes from accelerated wear testing of mechanical heart valves,A Campbell,T Baldwin,G Peterson,J Bryant and K Ryder, J Heart Valve Dis,1996 Jun;5 Suppl 1:S124-32;discussion 144-8;{3}.A study in the design of an Accelerated Wear Tester that is compatible with a particle image velocimetry and high-speed camera setup,Edward A. Brown,Master of Science thesis,The Pennsylvania State University,The Graduate School,College of Engineering,2015.)。
【0173】
これらの試験の間、100mmHgの最大繰り返し応力が加えられ、これは0.0133MPa(12.3kPa)に等しい。インストロン計測器を使用して測定した破損値(failure values)は、典型的には5~10MPaの範囲にあり、AWTの測定中にかけた最大繰り返し応力よりも300超高かった。
【0174】
本発明によって教示されるDBP/ポリマー構築物の有利な特徴は、慣習的に使用されている代替縫合技術と比較すると、さらにより顕著で驚くべきものとなる。
【0175】
構築物の相及び構築物を、その構築物が一部である医療機器の他の相に接続することは、縫合と比べて重要な利点がある:[a]多数の縫合点(suturing points)を介する、非常に退屈で、且つ時間のかかる縫合プロセスとは対照的に、非常に高速であり、[b]強力な連結を生み出し、[c]再現可能であり、技術者に依存せず、[d]使用されるはるかに硬い(stiffer)縫合糸とは著しく対照的に、構築物と機器の相間ではるかに良好なコンプライアンスの一致を達成し、[e]縫合糸の極めて有害で、時に生命を脅かす応力集中効果とは著しく対照的に、はるかに均一な応力分布を達成し、且つ[f]安価である。
【0176】
いくつかの実施形態では、構築物及び/若しくは構築物がその一部である医療機器のいずれかの相、又は本発明のいずれかの要素は、その生体適合性、その血液適合性、それらが引き起こす細胞応答などを含む、本発明の実施形態のいずれか及びそれらの組み合わせの臨床性能(clinical performance)の任意の側面を向上させる少なくとも1つの追加材料を含むことができる。少なくとも1つの追加材料は、活性材料及び非活性材料のなかから選択することができる。いくつかの実施形態では、活性材料は様々な生物活性剤から選択される。例示的な生物活性剤としては、例えば、ヘパリンやコンドロイチン硫酸などの抗凝固剤;tPA、プラスミンや、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、エラスターゼなどの線溶剤;ヒドロコルチゾン、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、プロメタジン、アスピリン、イブプロフェン、インドメタシン、ケトロラク(ketoralac)、メクロフェナマート、トルメチンなどのステロイド系及び非ステロイド系抗炎症剤;ジルチアゼム、ニフェジピン、ベラパミルなどのカルシウム拮抗薬;アスコルビン酸、カロチン及びα-トコフェロール、アロプリノール、トリメタジジンなどの抗酸化物質;ノキシチオリンや感染を防ぐ他の抗生物質などの抗生物質;腸管運動を促進する消化管運動賦活剤;cis-ヒドロキシプロリンやD-ペニシラミンなどのコラーゲン架橋を防ぐ薬剤;並びにクロモルグリク酸二ナトリウムなどの肥満細胞脱顆粒を防ぐ薬剤など、多数が挙げられる。
【0177】
一般的に創傷治癒の促進又は感染の減少又は止血特性又は血液適合性の増強に関連する好ましい薬理活性を示す上記の薬剤にくわえて、他の生物活性剤を、本発明の構築物又は医療機器によって送達することができ、例えば、アミノ酸、ペプチド、酵素を含むタンパク質、炭水化物、成長因子、抗生物質(特定の微生物感染症を治療する)、抗がん剤、神経伝達物質、ホルモン、抗体を含む免疫剤、アンチセンス剤を含む核酸、不妊治療薬、向精神薬及び局所麻酔薬など、多数の追加薬剤が挙げられる。これらの薬剤などの送達は、数ある要因のなかでとりわけ、薬剤の薬理活性、体内の活性部位及び送達される薬剤の物理化学的特徴、薬剤の治療指数に依存することになる。当業者であれば、意図した効果を発揮させるために、本発明のポリマーの物理化学的特徴及び送達される薬剤の疎水性/親水性を容易に調整することができるであろう。本発明のこの態様では、生物活性剤は、意図された結果をもたらすのに有効な濃度又は量で投与される。なお、本発明によるポリマー相の化学は、広範な親水性及び疎水性の生理活性剤及びそれらの患者の部位への送達に対応するように修正できることに留意されたい。
【0178】
いくつかの実施形態では、非活性材料は、染料、ポリマー材料、増粘剤、可塑剤(plastizicer)、親水性に影響を与える薬剤、潤滑性に影響を与える薬剤などのなかから選択される。
【0179】
本発明によって教示される構築物及び医療機器は、押出成形、圧縮成形、射出成形、浸漬被覆、溶剤鋳造、溶接、多数の3D印刷技術のいずれかなど、既存の製造技術のいずれかによって製造することができ、それぞれの場合に、使用されている具体的なの製造技術は、本発明によって教示される構築物及び医療機器と適合するように個別に調整される。
【0180】
ポリマー相の少なくとも1つが生分解性であるいくつかの実施形態では、前記生分解性ポリマーは、乳酸、ラクチド、グリコール酸、グリコリド、並びにβ-プロピオラクトン、ε-カプロラクトン、δ-グルタロラクトン、δ-バレロラクトン、β-ブチロラクトン、ピバロラクトン、α,α-ジエチルプロピオラクトン、炭酸エチレン、炭酸トリメチレン、γ-ブチロラクトン、p-ジオキサノン、1,4-ジオキセパン-2-オン、3-メチル-1,4-ジオキサン-2,5-ジオン、3,3-ジメチル-1-4-ジオキサン-2,5-ジオン、α-ヒドロキシ酪酸の環状エステル、α-ヒドロキシ吉草酸、α-ヒドロキシイソ吉草酸、α-ヒドロキシカプロン酸、α-ヒドロキシ-α-エチル酪酸、α-ヒドロキシイソカプロン酸、α-ヒドロキシ-α-メチル吉草酸、α-ヒドロキシヘプタン酸、α-ヒドロキシステアリン酸、α-ヒドロキシリグノセリン酸、サリチル酸及びそれらの混合物からなる群より選択される関連脂肪族ヒドロキシカルボン酸並びにエステル(ラクトン)を含む群から選択される。
【0181】
本発明によるポリマー相は、前記ポリマー相の流動性を高めることができ、且つ/又はポリマー相若しくはその一部が、より穏やかな温度及び圧力条件下で流動することを可能にする任意選択で低分子量分子を含む。重合可能又は架橋可能な低分子量分子を提供することは、本発明のさらなる目的であり、その結果それらの分子は重合又は架橋する前にポリマー相又はその一部を軟化させ、一旦重合又は架橋すると前記ポリマー相を強化する、又は硬くする(stiffen)。前記低分子量分子は、限定されないが、付加重合及び縮合反応並びにあらゆるタイプのクリックケミストリーを含む追加の反応並びにそれらの組み合わせを含む任意の機構に従って重合又は架橋することができる。なかでも、前記重合可能又は架橋可能な低分子量分子には、1つ又は複数の二重結合を含む前駆体が含まれる。いくつかの例を下の図に示す。
【0182】
図11では、ポリマー相はPCL/HDIポリ(エステル-ウレタン)からなり、低分子量重合可能分子はヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)である。
【0183】
図11では、CLUR2kが非可塑化時(100:0)に約180MPaの引張弾性率を有し、スマートHEMA構成要素の添加量の増加に伴って有意に減少し、20%モノマーHEMAの存在下で約60MPaの値を示し、50:50組成では6MPaまで下がることが報告されている。提示データから明らかなように、重合PHEMAはCLUR2K:PHEMAが50:50の組成では、CLURの弾性率の有意な増加をもたらし、250MPaを超える値に達する。
【0184】
図12は、2つの炭素二重結合を含むトリエチレングリコールジメタクリレートの場合のように、低分子構成要素が重合可能であるだけでなく架橋可能である場合のCLUR2Kの挙動を示す。
【0185】
エポキシ-アミン反応などのいくつかの追加の化学反応(chemistries)を用いて、低分子量構成要素を重合又は架橋することができる。この化学反応は、非常に硬くてやや脆く(very stiff and somewhat brittle)、いくつかのアミン基を含有するポリエチレンイミン分子とブレンドされたポリグリシジルメタクリレート(PGMA)を使用して例示される(図13を参照)。PGMAとブレンドした当初は、PEI分子はPGMAの剛性(rigidity)を低下させるが、一旦エポキシド環と反応すると(図13を参照)、PGMAを架橋し、ポリマーを硬くする。
【0186】
図14は、組織/ポリマー構築物の生成を模式的に示しており、最初のステップは、組織構成要素に、そのサイズ、数及び配列が最適化される穴を形成することである。この場合、液体ポリマー相が添加され、例えば適切な溶媒中のポリマー溶液であることができる、又はポリマーがそのガラス転移点又は融点を超えているときに、これらの転移が好適に低い温度で起こる場合である(which may be for example a polymer solution in an appropriate solvent,or when the polymer is above its glass transition or melting point,when these transitions occur at a suitably low temperature.)。ポリマーは、組織に作られた穴を主に通って組織を貫通し、それらの穴の長さ、サイズ、数及び配列は調節され、かなりの範囲にわたって変動する。場合によっては、ポリマー相は貫通の深さが異なる穴を含む。場合によっては、穴は組織相を部分的にしか貫通せず、他の実施形態では、穴の深さは組織相を面から面まで横切る。下に示される場合では、穴は組織の厚み全体を横切り、組織構成要素の両側に2層のポリマーを生成する。2つのポリマーフィルムは、穴を充填しているポリマー接続を介して連結されるので、1つの統合されたポリマー相になる。この場合、組織相とポリマー相の物理的な結合によって作り出される構築物の機械的特性は、ポリマー自体の凝集強さに由来するので特に高い。
【0187】
本発明の他の実施形態では、予め形成されたポリマー相を最初に製造し、その組成及び形態は、前述のように、適正な(right)温度と圧力条件下で流動できるものである。
【0188】
いくつかの実施形態では、予め形成されたポリマー相は、そのバルクとは違って、その表面層において様々な特性を有し、組織と接触するポリマー相が組織に作られた穴の中へ流れることが可能になる。いくつかの実施形態では、厚さが最適化された表面層とポリマー相のバルクとの間の違いは組成的(compositional)であり、その結果表面層は適用される温度及び圧力条件下で必要な流動性を示す。いくつかの実施形態では、厚さが最適化された表面層とポリマー相のバルクとの間の違いは形態的(morphological)である。この実施形態では、表面層は結晶性が低く、いくつかの実施形態では非晶質であるが、ポリマー相のバルクのポリマーは結晶性の強化を示し、したがって、関連する温度で高い剛性を示す。ポリマー相にコードされた(encoded)形態的な差異は、様々な戦略に従って達成することができる。とりわけこれは、ポリマー相のバルクとは対照的に、表面層により低い結晶性又は非晶性を与える空間的に限定された熱処理を行って達成することができる。いくつかの実施形態では、ポリマー相の表面層とバルクとの間の違いは、ポリマー相の表面層に移動し濃縮する傾向がある可動性構成要素の添加によって達成される。さらに他の実施形態では、ポリマー相の表面層とバルクとの間の違いは、ポリマー相が生成される接触面を慎重に選択することによって達成される。これらの技術及び同様に効果的な他の技術は、別々に使用することもでき、組み合わせて使用することもできる。
【0189】
本発明のさらに追加の実施形態では、初めは液体のポリマー相及び予め形成されたポリマー相は、異なる方法で組み合わされる。いくつかの実施形態では、例えば、それらは同時に追加される、又は順次導入することもできる、若しくは臨床的な使用から導き出されるような組織/ポリマーの最適な結合を生じることになる他の任意の方法で導入することもできる。
【0190】
少なくとも2つの組織相からなる組織/ポリマーを、ポリマー溶液を用いて製造する手順を本明細書に例示し、図14Bに示す。場合によっては、「溶着すること(welding)」という用語は、「連結すること(connecting)」及び同様の用語と交換可能に使用される。凍結乾燥した2つの心膜細片を使用し、組織/ポリマーの結合により、ポリマー相を介した2つの組織相間の連結がもたらされた。それぞれの心膜細片には、組織細片の幅全体にわたって間隔をあけて、端から2mmの領域内に6つの穴を開けた。この実施形態では、穴を形成し、同時にポリマー溶液で充填した。この場合では、8%のテコフレックス/THF溶液を調製し、25G針を先端につけたシリンジをその溶液で充填した(他の目的又は他の実験では、1%又は4%のテコフレックスを使用した)。針を心膜組織細片に、その粗い面から挿入し、穿孔して穴を作り、ポリマー溶液を最初は遠位から流し込み、次いで引き戻しながら穴を埋め、最後に組織近位面にポリマーフィルムを生成した。そうすることによって、(組織に作られた穴を通して)ポリマー連結を介して連結された2つの外部ポリマー相からなる積層体を作製した。穴は、溶接領域の中央で、縁線と平行に直線状に並べた。上記の積層体からなる組織/ポリマー構築物を、最適な溶媒(この特定の場合ではTHF)の蒸発を可能にするように2分間放置し、次いで、各組織細片の2つの処理済み組織/ポリマー構築物を、必要に応じて重ね合わせ、適切な温度、圧力、時間条件下で、シーラーを使用して、粗い面を互いに押し付けて溶着させた。85℃にてシーラーで3回適用した。シーラーでの各回は、2bar、12秒のステップ、それに続くサイクル間の1秒の緩和からなった。連結を行った後、溶着させた組織/ポリマー構築物を室温で5時間乾燥させ、それに続いて生理食塩水に24時間浸漬した。連結させた2つの組織細片間の連結の強度を、細片を連結領域から10mm離れたところで掴持した状態で、10mm/分のクロスヘッド(cross-head)速度を使用してインストロン計測器で調べた。
【0191】
剥離条件下で形成された連結の強度も測定され、そのために試料を適宜連結させた。他の手続きの詳細はすべて同じままとした。これらの試料の機械的試験は、これまで示してきたのと同じ条件を使用して行ったが、唯一の違いは、溶着領域から20mmの位置で掴持されたことであった。
【0192】
検討した様々な条件と連結パラメータの一部を以下に示す。
1)27G針の場合 - 2/4/6/8つの穴
25G針の場合 - 2/4/6つの穴
23G針の場合 - 2/4/6つの穴
21G針の場合 - 2/4つの穴
19G針の場合 - 2/4つの穴
16G針の場合 - 2つの穴
2)シーラーで実行されるサイクル - 1~6
3)連結圧力 - 2bar~10bar
4)連結時間 - 8秒~12秒
【0193】
ポリマー溶液と、予め形成したポリマー相とを組み合わせることによって、少なくとも2つの組織相からなる組織/ポリマーを製造する手順をここに(hereby)例示する。テコフレックス/THF溶液を伴なうステップは上記と同じであった。
【0194】
上記のように、形成されたラミネートからなる組織/ポリマー構築物を、最適な溶媒(この特定の場合ではTHF)の蒸発を可能にするように2分間放置した。調製した2つの組織/ポリマー構築物を溶着する前、シーラーを使用した溶接プロセスを行う前に、2×6mmのテコフレックスフィルム(厚さ~160μm)を2つの組織/ポリマー構築物間に配置した。テコフレックスフィルムは、100mlのクロロホルム中に3.78gのテコフレックスを使用した溶剤鋳造法を用いて予め調製した(但し他の溶媒も使用した)。既に説明したのと同じステップをシーラーで行い、連結した試料を上記のようにインストロンの機械で調べた。
【0195】
検討した様々な条件と連結パラメータの一部を以下に示す。
1)27G針の場合 - 2/4/6/8つの穴
25G針の場合 - 2/4/6つの穴
23G針の場合 - 2/4/6つの穴
21G針の場合 - 2/4つの穴
19G針の場合 - 2/4つの穴
16G針の場合 - 2つの穴
2)予め生成したフィルムを、THF又はクロロホルム溶媒から、100mlの上記溶媒中の1.5~4gのテコフレックスを使用して調製した。
3)シーラーで実行されるサイクル - 1~6
4)溶着加圧力 - 2bar~10bar
5)溶着時間 - 8秒~12秒
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11
図12
図13
図14
【図
【図
【国際調査報告】