(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231208BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20231208BHJP
C21D 8/02 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/06
C21D8/02 B
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023530949
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-05-23
(86)【国際出願番号】 KR2021016979
(87)【国際公開番号】W WO2022124623
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173436
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジュン-ハク
(72)【発明者】
【氏名】ヤン、 ホン-ソク
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ハク-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 ソク-ジョン
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA02
4K032AA04
4K032AA05
4K032AA16
4K032AA21
4K032AA31
4K032AA32
4K032BA01
4K032CC04
4K032CD02
4K032CD03
4K032CE01
4K032CE02
(57)【要約】
鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材及びその製造方法が提供される。
本発明の熱延鋼材は、重量%で、炭素(C):0.15%以下、シリコン(Si):2.5%以下、マンガン(Mn):2.0%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、250<450C+95Si+70Mnを満たし、微細組織がフェライトとパーライトの混合組織であり、上記フェライトの結晶粒の平均サイズが8~25μmであり、かつ関係式1により定義される値が20%未満である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.15%以下、シリコン(Si):2.5%以下、マンガン(Mn):2.0%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、250<450C+95Si+70Mnを満たし、
微細組織がフェライトとパーライトの混合組織であり、前記フェライトの結晶粒の平均サイズが8~25μmであり、かつ
0.3%の延伸条件における引張応力を
【数1】
とし、前記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数2】
としたとき、下記の関係式1により定義される値が20%未満である、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材。
【数3】
【請求項2】
前記熱延鋼材の引張強度
【数4】
が385MPa以上であり、0℃衝撃靭性が50J以上である、請求項1に記載の鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材。
【請求項3】
重量%で、炭素(C):0.15%以下、シリコン(Si):2.5%以下、マンガン(Mn):2.0%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、250<450C+95Si+70Mnを満たす鋼スラブを950~1030℃の仕上げ温度で仕上げ熱間圧延する段階と、
前記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を5~50℃の冷却速度で580~730℃の区間まで冷却した後に巻き取る段階と、を含み、
前記冷却された熱延鋼板を巻き取る直前の3秒間、鋼板の温度変化を20℃以内に制御する、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない鋼材の製造方法。
【請求項4】
前記巻き取られた熱延鋼材は、微細組織がフェライトとパーライトの混合組織であり、前記フェライトの結晶粒の平均サイズが8~25μmであり、かつ
0.3%の延伸条件における引張応力を
【数5】
とし、前記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数6】
としたとき、下記の関係式1により定義される値が20%未満である、請求項3に記載の鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材の製造方法。
【数7】
【請求項5】
前記熱延鋼材の引張強度
【数8】
が385MPa以上であり、0℃衝撃靭性が50J以上である、請求項4に記載の鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、次世代の交通システムとして、ハイパーループ(hyperloop)として知られている超高速真空チューブ列車に対する研究が国内外で活発に行われている。超高速真空チューブ列車は、基本的に真空チューブ内で列車を移動させる形態の運送手段である。すなわち、チューブの内部を真空状態に維持して空気の抵抗を最小化するため、超高速で列車を運行できるという概念の運送手段である。
【0003】
最近の傾向によると、チューブ内の真空を維持する観点から、チューブの素材としてはコンクリートよりも金属鋼管が有利であることが知られている。また、チューブ素材の強度及び製造コスト等を考慮すると、鉄鋼管が最も適していることが事実である。
【0004】
鉄鋼管を製造する基本的な方法としては、熱間圧延された素材を、必要に応じて、別途の熱処理を経た後に鋼管の形態に曲げ加工してから溶接して使用する方法が知られている。
【0005】
一方、金属素材の場合、いったん引張応力を受けた素材は、圧縮応力の降伏強度が減少するバウシンガー効果(Bauschinger effect)に影響されることがよく知られている事実である。上記鋼管の製造工程によると、鋼材は曲げ加工時に鋼管の円周方向に引張応力を受けるようになるため、加工後に同じ円周方向における圧縮強度の損失が生じる。鋼管の円周方向における圧縮強度の損失は、素材を加工した後に形状の変形を引き起こすだけでなく、非常時にはチューブの崩壊を引き起こす可能性のある深刻な欠陥原因として作用することもある。したがって、チューブ用鋼管素材においては、圧縮強度の損失を最小化することができる鋼材の適用が不可欠な状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、鋼管の製造において、圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
また、本発明において成し遂げようとする技術的課題は、上記に言及されている技術的課題に限定されず、言及されていない更に他の技術的課題は、以下の記載から本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者に明確に理解されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.15%以下、シリコン(Si):2.5%以下、マンガン(Mn):2.0%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、250<450C+95Si+70Mnを満たし、
微細組織がフェライトとパーライトの混合組織であり、上記フェライトの結晶粒の平均サイズが8~25μmであり、かつ0.3%の延伸条件における引張応力を
【数1】
とし、上記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数2】
としたとき、下記の関係式1により定義される値が20%未満である、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材に関するものである。
【0010】
【0011】
上記熱延鋼材の引張応力
【数4】
は385MPa以上であり、0℃衝撃靭性は50J以上であってよい。
【0012】
また、本発明の他の側面は、上記のような組成成分を有する鋼スラブを、950~1030℃の仕上げ温度で仕上げ熱間圧延する段階と、
上記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を、5~50℃の冷却速度で580~730℃の区間まで冷却した後に巻き取る段階と、を含み、
上記冷却された熱延鋼板を巻き取る直前の3秒間、鋼板の温度変化を20℃以内に制御することを特徴とする、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、0.3%の延伸条件における引張応力を
【数5】
とし、上記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数6】
としたとき、上記関係式1により定義される値が20%未満である、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない鋼材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について説明する。
【0015】
本発明は、鋼管の製造において、圧縮強度の損失が少ない鋼材を製造する技術に関する。具体的には、重量%で、炭素(C):0.15%以下、シリコン(Si):2.5%以下、マンガン(Mn):2.0%以下、アルミニウム(Al):0.05%以下、窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、250<450C+95Si+70Mnを満たし、微細組織がフェライトとパーライトの混合組織であり、上記フェライトの結晶粒の平均サイズが8~25μmであり、かつ0.3%の延伸条件における引張応力を
【数7】
とし、上記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数8】
としたとき、関係式1により定義される値が20%未満である、鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材に関する。
【0016】
[鋼材の組成]
まず、本発明の鋼管を製造するための鋼材の鋼の組成成分及びその制限理由について説明する。以下において、「%」とは、特に断らない限り「重量%」を意味する。
【0017】
・炭素(C):0.15%以下
炭素(C)は硬化能を向上する代表的な元素であって、鋼材の強度確保に効果的に寄与する元素である。したがって、本発明では、真空チューブ構造体の強度確保の観点から、250<450C+95Si+70Mnを満たす範囲以上の炭素(C)を含むことができる。一方、炭素(C)含量が過剰な場合、鋼材の靭性が低下し、溶接性が低下するという問題が発生する可能性がある。したがって、本発明では、炭素(C)含量の上限を0.15%に制限することができる。より好ましくは、上記炭素(C)含量の上限を0.12%に制限することができる。
【0018】
・シリコン(Si):2.5%以下
シリコン(Si)は鋼の脱酸に寄与する元素である。したがって、本発明では、鋼の清浄度及び強度を確保するために、250<450C+95Si+70Mn以上のシリコン(Si)を含むことができる。一方、シリコン(Si)が過剰に添加される場合、素材の高温強度を増加させて連鋳工程で問題を引き起こす可能性があるだけでなく、表面スケールの脱落を妨げて製品の表面品質を低下させることがある。したがって、本発明では、シリコン(Si)含量の上限を2.5%に制限することができる。より好ましくは、上記シリコン(Si)含量の上限を2.0%に制限することができる。
【0019】
・マンガン(Mn):2.0%以下
マンガン(Mn)は鋼の硬化能の向上に寄与する元素である。そのため、本発明では、鋼材の強度を確保するために、250<450C+95Si+70Mn以上のマンガン(Mn)を含むことができる。一方、マンガン(Mn)が過剰に添加される場合、鋼材の靭性が低下し、溶接性が低下するという問題が発生する可能性がある。したがって、本発明では、マンガン(Mn)含量の上限を2.0%に制限することができる。より好ましくは、上記マンガン(Mn)含量の上限を1.8%に制限することができる。
【0020】
・アルミニウム(Al):0.05%以下
アルミニウム(Al)は酸素と反応しやすい元素であって、製鋼の脱酸反応に活用される代表的な元素である。但し、Alは、鋼中に存在する場合、介在物を生成させる恐れがあるため、可能な限り鋼中に残存しないように制御することが好ましい。したがって、本発明では、アルミニウム(Al)含量の上限を0.05%に制限することができる。
【0021】
・窒素(N)とボロン(B)の含量の和:0.002~0.008%
窒素(N)とボロン(B)は侵入型固溶体元素であって、鋼中の含量が他の元素に比べて少量ではあるが、物性に与える影響は比較的大きい元素である。本発明者らは、上記2つの元素含量の和が素材の圧縮強度の損失と関連していることを見出した。すなわち、2つの元素の和が重量%で0.008%を超える場合、後述する関係式2により定義される値を20未満に制御することが非常に難しいことを確認した。そして、2つの元素の和を0.002%未満に制御することは、素材成分を制御する観点からコスト上昇の可能性が高いため、好ましくない。
【0022】
したがって、後述する関係式2により定義される値を、経済的な方法によって20未満に制御するために、上記2つの元素の含量の和を、重量%で0.002~0.008%の範囲に制限することができる。より好ましくは、上記2つの元素の含量の和を重量%で0.003~0.007%に制限することができる。
【0023】
・250<450C+95Si+70Mn
【0024】
本発明では、上記不等式を満たすようにC、Mn、及びSiの含量を制御することが要求される。仮に、450C+95Si+70Mnの計算値が250以下であると、素材の強度が低下するという問題が発生することがある。
【0025】
[鋼材の微細組織]
本発明の鋼材は、フェライトとパーライトの混合組織からなっている。
【0026】
本発明において、上記フェライトの分率は60~90面積%であり、上記パーライトの分率は10~40面積%であってよい。
【0027】
本発明者らは、鋼材の延伸後、圧縮強度の損失を低減する方案について研究を重ね、その結果、鋼材のフェライトの粒子サイズが大きいときに圧縮強度の損失低減に有利であることを見出した。但し、フェライトの平均結晶粒径が25μm以上である場合、構造材として適用するには衝撃靭性が低すぎるため、平均結晶粒径の上限を25μmに制限した。また、本発明で目標とする圧縮強度の損失低減を実現するためには、平均結晶粒径を8μm以上とする必要があることを確認し、その下限を8μmと定めた。
【0028】
[鋼材の物性]
本発明の鋼材は、0.3%の延伸条件における引張応力を
【数9】
とし、上記延伸変形した素材を再び0.2%圧縮したときの圧縮応力を
【数10】
としたとき、下記の関係式1により定義される値が20%未満である、圧縮強度の損失を示すことができる。
【0029】
【0030】
本発明者らは、熱間圧延された鋼材が鋼管加工時に引張応力を受ける状況と、当該鋼管が実際の使用環境で圧縮応力を受ける状況を模擬した結果、それぞれ引張応力0.3%、圧縮変形0.2%のレベルであることを見出した。また、上記鋼管が加工中の形状変形及び急激な崩壊の危険を回避するためには、上記関係式1により定義される値が20%未満に制御される必要があることを確認した。
【0031】
一方、本発明の鋼管加工された素材を構造材として使用するためには、一定レベル以上の強度と靭性を確保することが重要である。したがって、本発明の鋼材は、引張強度
【数12】
が385MPa以上であり、0℃衝撃靭性が50J以上であってよい。
【0032】
[鋼材の製造方法]
次に、本発明の鋼管加工後に圧縮強度の損失が少ない熱延鋼材の製造方法について説明する。
【0033】
本発明の鋼材の製造方法は、上記のような組成成分を有する鋼スラブを950~1030℃の仕上げ温度で仕上げ熱間圧延する段階と、上記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を5~50℃の冷却速度で580~730℃の区間まで冷却した後に巻き取る段階と、を含み、上記冷却された熱延鋼板を巻き取る直前の3秒間、鋼板の温度変化を20℃以内に制御することを特徴とする。
【0034】
まず、本発明では、上記のような組成成分を有する鋼スラブを950~1030℃の仕上げ温度で仕上げ熱間圧延する。
【0035】
仕上げ熱間圧延温度は、素材のオーステナイト粒子サイズ(Austenite Grain Size、AGS)に与える影響が大きい操業因子である。通常、AGSは、冷却組織であるフェライト粒子サイズ(Ferrite Grain Size、FGS)との相関性が非常に高いことが知られている。すなわち、AGSが粗大であるとFGSも粗大であり、その逆も同様である。本発明者らは、FGSを8~25μmに制御するためには、仕上げ熱間圧延温度を950℃以上1030℃以下とする必要があることを見出した。仮に、仕上げ熱間圧延温度が950℃未満であると、AGSが非常に微細になって、FGSも8μm未満となる。逆に、1030℃を超えると、FGSが25μmを超えて衝撃靭性の面で不利になる可能性がある。
【0036】
次いで、本発明では、上記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を5~50℃の冷却速度で580~730℃の区間まで冷却した後に巻き取る。
【0037】
仕上げ熱間圧延された鋼板を冷却するときの冷却速度は、FGS、表面スケール、及び鋼板内部の材質ばらつきに影響を与える。仮に、冷却速度が5℃/s未満であると、FGSが25μmを超えて大きくなり、表面スケールが厚くなって鋼板の実収率が減少するという問題が生じる。一方、冷却速度が50℃/sを超えると、FGSが8μm未満となり微細になるという問題が発生する。
【0038】
また、上記冷却の際、冷却終了温度は、コイル巻取りのための高温強度及び鋼材のFGSと関連がある。仮に、上記冷却終了温度が580℃未満であると、巻取り時点での鋼材の強度が高く、巻取り時に設備負荷の問題が発生するだけでなく、FGSが8μm未満となる可能性がある。一方、730℃を超えると、FGSが25μmを超え、衝撃靭性及び上述した関係式1による圧縮強度の損失値が20%以上となる可能性がある。したがって、本発明では、上記仕上げ熱間圧延された鋼板を580~730℃の冷却終了温度で冷却する必要がある。
【0039】
一方、上記冷却された鋼板の表面温度は復熱によって上昇するが、本発明者らは、復熱が進行する間に鋼板が巻き取られる場合、最終FGSに影響を及ぼすことを見出した。正確な原理は明らかになっていないが、復熱過程の間、鋼板の内外部は熱平衡に到達することになるが、この場合、巻取り時に応力が加わると、転位などの要因によってFGSに影響を及ぼすものと判断される。これを考慮して、本発明では、巻取り直前の3秒間、鋼板の温度変化を20℃以内に制限する。仮に、巻取り直前の3秒間、鋼板の温度変化が20℃を超える場合、FGSが25μmを超える可能性があるためである。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を挙げて本発明について詳細に説明する。
【0041】
(実施例)
表1に示す合金組成を備えるそれぞれの鋼スラブを1250℃の温度範囲で加熱した。その後、表2のように、仕上げ熱間圧延温度、熱間圧延後の冷却速度、冷却終了温度、巻取り直前の3秒間の鋼板の温度変化を制御しながら、10mm厚さの熱延鋼板を製造した。そして、製造されたそれぞれの鋼板について、その微細組織でFGSを測定して下記表3に示し、圧縮強度の損失値を測定してその結果を下記表3に示した。さらに、製造されたそれぞれの熱延鋼板に対する0℃衝撃靭性を測定し、その結果も下記表3に示した。
【0042】
一方、下記表3において、FGSはNitalエッチング法で各試験片をエッチングした後、500倍率の光学顕微鏡を用いて測定し、引張及び圧縮試験は、基本的にASTM Standard E606-04に従って行い、かつ
【数13】
については、本発明で定義した値を使用して圧縮強度の損失を測定した。そして、衝撃靭性はKS B 0810のV-notch衝撃試験法で測定した。一方、下記表2及び表3において、発明例1-9は、フェライトとパーライトの混合組織を有しており、比較例1-14もフェライトとパーライトの混合組織を有している。
【0043】
【表1】
*表1において、A*は450C+95Si+70Mn
【0044】
【0045】
【表3】
*表3において、B*は関係式1で定義される圧縮強度の損失値(%)を示す。
【0046】
上記表1から表3に示すように、鋼の組成成分だけでなく、鋼の製造条件が本発明の範囲を満たす発明例1-9の場合、FGSがいずれも8~25μmであり、関係式1により定義される圧縮強度の損失値が20%未満であり、優れていることが分かる。また、0℃衝撃靭性値が50(J)以上であり、靭性値にも優れていることが確認できる。
【0047】
これに対し、比較例1-3は、鋼の製造条件は本発明の範囲内であるものの、鋼の組成成分において450C+95Si+70Mnの値が250以下であるため、製造された熱延鋼板の引張強度
【数14】
が385MPa未満であり、よくなかった。
【0048】
また、比較例4-5は、鋼の製造条件は本発明の範囲内であるものの、鋼の組成成分においてN+Bの含量が本発明の範囲を外れた場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが8μm未満であり、圧縮応力の損失値が20%以上であり、よくないことが分かる。
【0049】
また、比較例6は、鋼の組成成分は本発明の範囲内であるものの、鋼の製造条件において仕上げ熱間圧延温度が低すぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが8μm未満であり、圧縮応力の損失値が20%以上であり、よくないことが分かる。そして、比較例7は、仕上げ熱間圧延温度が高すぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが25μmを超え、衝撃靭性値が50(J)未満であり、よくなかった。
【0050】
また、比較例8は、鋼の組成成分は本発明の範囲内であるものの、鋼の製造条件において冷却速度が小さすぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが25μmを超え、衝撃靭性値が50(J)未満であり、よくなかった。そして、比較例9は、冷却速度が大きすぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが8μm未満であり、圧縮応力の損失値が20%以上であり、よくないことが分かる。
【0051】
また、比較例10は、鋼の組成成分は本発明の範囲内であるものの、鋼の製造条件において冷却終了温度が低すぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが8μm未満であり、圧縮応力の損失値が20%以上であり、よくなかった。そして、比較例11は、冷却終了温度が高すぎる場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが25μmを超え、衝撃靭性値が50(J)未満であり、よくなかった。
【0052】
さらに、比較例12-13は、鋼の組成成分は本発明の範囲内であるものの、鋼の製造条件において、巻取り直前の3秒間の鋼板の温度変化が20℃を超える場合であって、製造された熱延鋼板のFGSが25μmを超え、衝撃靭性値が50(J)未満であり、よくなかった。
【0053】
上述したように、本発明の詳細な説明では、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇から逸脱しない範囲内で、様々な変形が可能であることは勿論である。よって、本発明の権利範囲は、説明された実施形態に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、それと均等なものによって定められるべきである。
【国際調査報告】