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特表2023-552342新規のシゾキトリウム属菌株、及びそれを利用した多重不飽和脂肪酸の生産方法
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  • 特表-新規のシゾキトリウム属菌株、及びそれを利用した多重不飽和脂肪酸の生産方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】新規のシゾキトリウム属菌株、及びそれを利用した多重不飽和脂肪酸の生産方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
C12N1/12 C ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533260
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(85)【翻訳文提出日】2023-05-31
(86)【国際出願番号】 KR2021016156
(87)【国際公開番号】W WO2022124590
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0169850
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,ジュン ウーン
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,スン ホーン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジ ヤング
(72)【発明者】
【氏名】シン,ウォン サブ
(72)【発明者】
【氏名】カン,ハエ ウォン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA83X
4B065AC14
4B065BA16
4B065BA24
4B065BB02
4B065BB15
4B065BB29
4B065BC03
4B065BC09
4B065CA13
4B065CA43
4B065CA60
(57)【要約】
新規のシゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株、及びそれを利用した多重不飽和脂肪酸の生産方法に係り、一態様による新規のシゾキトリウム属微細藻類は、バイオマスにおいて脂肪の含量が多く、そのうちでも、ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)及びエイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)のような多重不飽和脂肪酸の含量が多く、該微細藻類、そこから製造されるバイオマスまたはバイオオイルは、飼料原料などに有用に活用されうる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)、エイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)及びパルミチン酸(PA:palmitic acid)の生産能を有する、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)微細藻類。
【請求項2】
前記微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、35ないし60重量%のドコサヘキサエン酸を生産する、請求項1に記載のシゾキトリウム属微細藻類。
【請求項3】
前記微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、0.5ないし10重量%のエイコサペンタエン酸を生産する、請求項1に記載のシゾキトリウム属微細藻類。
【請求項4】
前記微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、10ないし30重量%のパルミチン酸を生産するものである、請求項1に記載のシゾキトリウム属微細藻類。
【請求項5】
前記微細藻類は、カロテノイド生産能を有する、請求項1に記載のシゾキトリウム属微細藻類。
【請求項6】
前記カロテノイドはβ-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、アスタキサンチン(astaxanthin)、カプサンチン(capsanthin)、アナトー(annatto)、カンタキサンチン(canthaxanthin)、リコペン(lycopene)、β-アポ-8-カロテナール(β-apo-8-carotenal)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びβ-アポ-8-カロテナール-エステル(β-apo-8-carotenal-ester)からなる群のうちから選択されるいずれか1以上である、請求項5に記載のシゾキトリウム属微細藻類。
【請求項7】
請求項1に記載のシゾキトリウム属微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマス。
【請求項8】
請求項7に記載のシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマス、または前記バイオマスの濃縮物または乾燥物を含む、飼料組成物。
【請求項9】
受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、
ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階と、
前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物からバイオマスを回収する段階と、
を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法。
【請求項10】
前記培養は、従属栄養条件下で行われる、請求項9に記載のシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法。
【請求項11】
前記培養は、炭素源及び窒素源を含む培地を使用して行われる、請求項9に記載のシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法。
【請求項12】
前記炭素源は、グルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、アラビノース、キシロース及びグリセロールからなる群のうちから選択されるいずれか1以上である、請求項11に記載のシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法。
【請求項13】
前記窒素源は、i)酵母抽出物(yeast extract)、牛肉抽出物(beef extract)、ペプトン及びトリプトンからなる群のうちから選択されるいずれか1以上の有機窒素源、またはii)酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素及びグルタミン酸ナトリウム(MSG;monosodium glutamate)からなる群のうちから選択されるいずれか1以上の無機窒素源である、請求項11に記載のシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法。
【請求項14】
受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階と、
前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物から脂質を回収する段階と、
を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオオイルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のシゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株、及びそれを利用した多重不飽和脂肪酸の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不飽和脂肪酸(unsaturated fatty acid)は、脂肪酸鎖内に1以上の二重結合を有している脂肪酸であり、2以上の二重結合を含む場合、多重不飽和脂肪酸(PUFA:polyunsaturated fatty acid:PUFA)と呼ばれる。そのうち、ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)及びエイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)は、代表的なオメガ3脂肪酸であり、頭脳、眼球組織及び神経系に必須な脂肪酸である。また、それらは、乳児の視力及び運動神経能力などの神経系発達、及び心血管疾患予防に重要な機能を行うと知られており、脳の構造的脂質に最も豊かな構成要素である。
【0003】
ヒトを含むほとんどの高等生物は、多重不飽和脂肪酸を自主的に合成することができないために、それを必須栄養素として摂取しなければならず、主に、まぐろ、鮭のような海洋生態環境の上位を占める深海性魚類から、多重不飽和脂肪酸を供給されている。現在まで明らかにされた多重不飽和脂肪酸の産業的主要供給源は、さば、さんま、まぐろ、あじ、いわし、にしんのような青背魚の油から抽出された魚油であり、それは、海水魚類の初期えさのような養魚飼料にも非常に有用である。しかしながら、魚油の品質は、魚種、季節、漁獲位置によって多様であり、持続的な魚油供給の困難さが伴い、魚油の重金属及び有機化学物質による汚染問題、魚油特有の生臭さはもとより、加工工程中に、二重結合が酸化され、生産量が限定されているという問題点により、多重不飽和脂肪酸の代替資源を求める必要性が大きくなってきている。
【0004】
そのような問題点を解決するために、最近、微生物培養によるドコサヘキサエン酸を含む多重不飽和脂肪酸の製造方法に係わる研究が進められている。特に、微細藻類は、脂質を生産することができ、培養が容易であり、相対的に一定の生化学的組成を有するバイオマス(biomass)の製造を可能にする。また、微細藻類によって製造される脂質は、魚油のような不快なにおいを有さず、魚油に比べ、さらに単純な脂肪酸組成を有するが、特定脂肪酸の分離に利便性がある。そのために、特定脂肪酸を高含量で安定して供給することができる新たな微細藻類は、産業的に非常に重要な価値を有するが、そのような微細藻類の開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願の目的は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)、エイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)及びパルミチン酸(PA:palmitic acid)の生産能を有する、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)微細藻類を提供することである。
本出願の他の目的は、前記シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマス、及びそれを含む飼料組成物を提供することである。
本出願のさらに他の目的は、前記シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスまたはバイオオイルの製造方法を提供すことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願で開示されるそれぞれの説明及び実施の形態は、それぞれの他の説明及び実施の形態にも適用される。すなわち、本出願で開示された多様な要素の全ての組み合わせが、本出願の範疇に属する。また、下記のところで記述された具体的な敍述により、本出願の範疇が制限されるとすることができない。また、当該技術分野の当業者であるならば、通常の実験のみを使用し、本出願に記載された本出願の特定態様に係わる多数の等価物を認知したり確認したりすることができる。また、そのような等価物は、本出願に含まれると意図される。
【0007】
一態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類を提供する。
【0008】
本明細書で使用される用語「スラウストキトリド(Thraustochytrid)」は、スラウストキトリアレス(Thraustochytriales)目の微細藻類を意味する。また、本明細書で使用される用語「シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)」は、スラウストキトリアレス目のスラウストキトリアシエ(Thraustochytriaceae)科に属する属名のうち一つであり、用語「シゾキトリウム属(genus Schizochytrium)」とも混用される。また、前記用語「微細藻類(microalgae)」は、葉緑素で光合性を行う植物において、肉眼で見ることができず、顕微鏡を介してのみ見ることができ、水中で自由に浮遊して生きていく生物を意味し、植物プランクトン(Phytoplankton)とも呼ばれる。
【0009】
本明細書で使用される用語「ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)」は、C2232の化学式を有する多重不飽和脂肪酸のうち一つであり、α-リノレン酸(ALA:α-linolenic acid)及びエイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)と共に、オメガ3脂肪酸に該当し、慣用名は、セルボン酸(cervonic acid)であり、略称でもって、22:6n-3とも表記される。
【0010】
本明細書で使用される用語「エイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)」は、C2030の化学式を有する多重不飽和脂肪酸のうち一つであり、ALA及びDHAと共に、オメガ3脂肪酸に該当し、略称でもって、20:5n-3とも表記することができる。
本明細書で使用される用語「パルミチン酸(PA:palmitic acid)」は、C1632の化学式を有する飽和脂肪酸のうち一つを意味する。
【0011】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、受託番号KCTC14344BPで寄託された新規の野生型シゾキトリウム属微細藻類CD01-5000またはその変異株であり、受託番号KCTC14345BPで寄託されたシゾキトリウム属微細藻類CD01-5004でもある。
【0012】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、配列番号1の18S rRNA塩基配列を有しうるが、それに制限されるものではない。例えば、前記シゾキトリウム属微細藻類は、配列番号1の塩基配列と、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を示す塩基配列からなる18S rRNAを有するものでもあるが、それに制限されるものではない。
【0013】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、35ないし60重量%のDHAを生産するものでもある。例えば、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、40ないし60重量%、45ないし60重量%、50ないし60重量%、35ないし58重量%、40ないし58重量%、45ないし58重量%、または50ないし58重量%のDHAを生産するものでもある。また、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、35ないし60重量%のDHAを含むものでもある。
【0014】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、0.5ないし10重量%のEPAを生産するものでもある。例えば、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、0.5ないし8重量%、0.5ないし5重量%、0.5ないし3重量%、0.8ないし10重量%、0.8ないし8重量%、0.8ないし5重量%、0.8ないし3重量%、1ないし10重量%、1ないし8重量%、1ないし5重量%、または1ないし3重量%のEPAを生産するものでもある。また、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、0.5ないし10重量%のEPAを含むものでもある。
【0015】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、10ないし30重量%のPAを生産するものでもある。例えば、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、15ないし30重量%、または20ないし30重量%のPAを生産するものでもある。また、前記シゾキトリウム属微細藻類は、脂肪酸総重量を基準に、10ないし30重量%のPAを含むものでもある。
【0016】
前記シゾキトリウム属微細藻類は、カロテノイド生産能を有するものでもある。例えば、前記シゾキトリウム属微細藻類は、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、アスタキサンチン(astaxanthin)、カプサンチン(capsanthin)、アナトー(annatto)、カンタキサンチン(canthaxanthin)、リコペン(lycopene)、β-アポ-8-カロテナール(β-apo-8-carotenal、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びβ-アポ-8-カロテナール-エステル(β-apo-8-carotenal-ester)からなる群のうちから選択されるいずれか1以上を生産するものでもある。
【0017】
本明細書で使用される用語「カロテノイド(carotenoid)」は、40個の炭素元素によってなるフィトエン(phytoene)から合成されるテルペノイド(terpenoid)系の色素を意味し、微細藻類、バクテリアのような微生物や、かび、きのこのような菌界類、及び高等植物で生産される。カロテノイドは、特有色のために、飼料や食品添加物に多く利用され、長い二重結合鎖と、ケトン基(C=O)または水酸化基(-OH)をと有しているために、強い抗酸化効果を有しており、医薬品及び健康食品としても研究されている。カロテノイドは、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、アスタキサンチン(astaxanthin)、カプサンチン(capsanthin)、アナトー(annatto)、カンタキサンチン(canthaxanthin)、リコペン(lycopene)、β-アポ-8-カロテナール(β-apo-8-carotenal)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)、β-アポ-8-カロテナール-エステル(β-apo-8-carotenal-ester)などがある。
【0018】
他の態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスを提供する。
前記シゾキトリウム属微細藻類は、前述の通りである。
【0019】
本明細書で使用される用語「バイオマス(biomass)」は、化学的エネルギーとして使用可能な植物、動物、微生物などの生物体、すなわち、バイオエネルギーのエネルギー源を意味し、生態学的に、単位時間内及び空間内に存在する特定生物体の重量またはエネルギー量を意味したりもする。また、前記バイオマスは、細胞によって分泌する化合物を含むが、それに制限されるものではなく、細胞外物質だけではなく、細胞及び/または細胞内内容物を含むものでもある。本出願において前記バイオマスは、シゾキトリウム属微細藻類それ自体、その培養物、その乾燥物、その破砕物、または前記微細藻類を培養するか、発酵させて生産された産物でもあり、あるいは前記バイオマスの濃縮物または乾燥物でもあるが、それらに制限されるものではない。
【0020】
前記シゾキトリウム属微細藻類の「培養物」は、前記微細藻類を培養して生成された産物を称するものであり、具体的には、微細藻類を含む培養液、または前記培養液から微細藻類が除去された培養濾液でもあるが、それらに制限されるものではない。前記シゾキトリウム属微細藻類培養物の「乾燥物」は、前記微細藻類培養物から水分が除去されたものであり、例えば、前記微細藻類の乾燥菌体形態でもあるが、それに制限されるものではない。また、前記乾燥物の「破砕物」は、前記微細藻類培養物から水分が除去された乾燥物を破砕した結果物を総称するものであり、例えば、乾燥菌体粉末でもあるが、それに制限されるものではない。前記シゾキトリウム属微細藻類の培養物は、微細藻類培養培地に前記微細藻類を接種し、当業界に公知された培養方法によって製造され、前記培養物の乾燥物及びその破砕物も、当業界に公知された微細藻類または培養液の処理方法または乾燥方法によっても製造されえる。
【0021】
前記シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスは、脂肪酸総重量を基準に、35ないし60重量%のDHAを含むものでもあり、脂肪酸総重量を基準に、0.5ないし10重量%のEPAを含むものでもあり、脂肪酸総重量を基準に、10ないし30重量%のPAを含むものでもある。
【0022】
また、前記シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスは、カロテノイドを含むものでもあり、例えば、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、アスタキサンチン(astaxanthin)、カプサンチン(capsanthin)、アナトー(annatto)、カンタキサンチン(canthaxanthin)、リコペン(lycopene)、β-アポ-8-カロテナール(β-apo-8-carotenal)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)及びβ-アポ-8-カロテナール-エステル(β-apo-8-carotenal-ester)からなる群のうちから選択されるいずれか1以上を含むものでもある。
前記バイオマスは、一態様によるシゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法によって製造されるものでもある。
【0023】
他の態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物を含む組成物を提供する。前記組成物は、前記シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスまたはバイオオイルを含むものでもある。
【0024】
他の態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマス、または前記バイオマスの濃縮物または乾燥物を含む飼料組成物を提供する。
前記シゾキトリウム属微細藻類、バイオマス、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、及び前記乾燥物の破砕物は、前述の通りである。
前記バイオマスの濃縮物または乾燥物は、当業界に公知された微生物バイオマスの処理、濃縮または乾燥の方法によっても製造されえる。
【0025】
本明細書で使用される用語「バイオオイル(bio-oil)」は、生物学的、熱化学的そして物理化学的な抽出工程によってバイオマスから得られるオイルを意味し、本出願で製造されたバイオオイルは、多重不飽和脂肪酸を含むものでもあり、具体的には、DHA及びEPAを含むものでもあるが、それに制限されるものではない。
【0026】
前記組成物は、溶液、粉末または懸濁液の形態でもあるが、それらに制限されるものではない。前記組成物は、例えば、食品組成物、飼料組成物または飼料添加剤組成物でもある。
【0027】
本明細書で使用される用語「飼料組成物」は、動物に給与されるえさを称する。前記飼料組成物は、動物の生命を維持させるか、あるいは肉、乳などを生産するのに必要な有機または無機の栄養素を供給する物質を言う。前記飼料組成物は、動物の生命維持したり、肉、乳などを生産したりするのに必要な栄養成分を追加して含むものでもある。前記飼料組成物は、当業界の公知された多様な形態の飼料として製造可能であり、具体的には、濃厚飼料、粗飼料及び/または特殊飼料が含まれるものでもある。
【0028】
本明細書で使用される用語「飼料添加剤」は、栄養素補充及び体重減少予防、飼料内繊維素の消化利用性増進、乳質改善、繁殖障害予防及び受胎率向上、夏季高温ストレス予防のような多様な効果を目的に飼料に添加する物質を含む。本出願の飼料添加剤は、飼料管理法上の補助飼料に該当し、炭酸水素ナトリウム、ベントナイト(bentonite)、酸化マグネシウム、複合鉱物質のような鉱物質製剤、亜鉛・銅・コバルト・セレニウムのような微量鉱物質であるミネラル製剤、ケロチン・ビタミンE・ビタミンA,D,E・ニコチン酸・ビタミンB複合体のようなビタミン剤、メチオニン・リシンなどの保護アミノ酸剤、脂肪酸カルシウム塩のような保護脂肪酸剤、生菌剤(乳酸菌剤)、酵母培養物・かび発酵物のような生菌、酵母剤などが追加して含まれるものでもある。
【0029】
本明細書で使用される用語「食品組成物」は、機能性食品(functional food)、栄養補助剤(nutritional supplement)、健康食品(health food)及び食品添加剤(food additives)のような全ての形態を含み、前記類型の食品組成物は、当業界に公知された一般的な方法により、多様な形態に製造することができる。
【0030】
本出願の組成物は、穀物、例えば、粉砕または破砕された小麦、燕麦、麦、とうもろこし及び米;植物性タンパク質飼料、例えば、豆及びひまわりを主成分にする飼料;動物性タンパク質飼料、例えば、血粉、肉粉、骨粉及び魚粉;糖分及び乳製品、例えば、各種粉ミルク及び乳漿粉末によってなる乾燥成分などをさらに含むものでもあり、それら以外にも、栄養補充剤、消化及び吸収の向上剤、成長促進剤などをさらに含むものでもある。
【0031】
本出願の組成物は、動物に単独で投与するか、あるいは食用担体において、他の飼料添加剤と組み合わせて投与することもできる。また、前記組成物は、トップドレッシングとして、またはそれらを飼料に直接混合したり、飼料と別途の経口剤形としたりし、容易に動物に投与することができる。前記組成物を飼料と別途に投与する場合、当該技術分野に周知されているように、薬剤学的に許容可能な食用担体と組み合わせ、直ちに放出するか、あるいはまたは徐放性の剤形に製造することができる。そのような食用担体は、固体または液体、例えば、とうもろこし澱粉、ラクトース、スクロース、豆フレーク、ピーナッツ油、オリーブ油、胡麻油及びプロピレングリコールでもある。固体担体が使用される場合、前記組成物は、錠剤、カプセル剤、散剤、トローチ剤または含糖錠剤、または微分散性形態のトップドレッシングでもある。液体担体が使用される場合、前記組成物は、ゼラチン軟質カプセル剤、またはシロップ剤や懸濁液、エマルジョン剤、あるいは溶液剤の剤形でもある。
【0032】
本出願の組成物は、例えば、保存剤、安定化剤、湿潤剤または乳化剤、凍結保護剤、あるいは賦形剤などを含むものでもある。前記凍結保護剤は、グリセロール、トレハロース、マルトデキストリン、脱脂粉乳及び澱粉によってなる群のうちから選択される1以上でもある。
【0033】
前述の保存剤、安定化剤または賦形剤は、前記組成物に含まれるシゾキトリウム属微細藻類の低下(deterioration)を低減させるのに十分な有効量でもって組成物に含まれるものでもある。また、前記凍結保護剤は、前記組成物が乾燥された状態であるとき、組成物に含まれるシゾキトリウム属微細藻類の低下を低減させるのに十分な有効量でもって組成物に含まれるものでもある。
前記組成物は、針注入(点滴)、噴霧または混合により、動物の飼料に添加して利用されうる。
【0034】
本出願の組成物は、哺乳類、鳥類、魚類、甲殻類、頭足類、爬虫類及び両生類を含む多数の動物食餌に適用することができるが、それに制限されるものではない。例えば、前記哺乳類は、豚、牛、羊、山羊、実験用齧歯動物または愛玩動物などを含むものでもあり、前記鳥類は、家擒類を含むものでもあり、前記家擒類は、ニワトリ、七面鳥、鴨、ガチョウ、きじ、またはうずらなどを含むものでもあるが、それらに制限されるものではない。また、前記魚類は、商業的畜養魚類及びその稚魚類、観賞魚などを含むものでもあり、前記甲殻類は、海老、フジツボなどを含むものでもあるが、それらに制限されるものではない。また、前記組成物は、動物性プランクトンである輪虫(rotifer)の食餌にも適用されえる。
【0035】
他の態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階と、前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物からバイオマスを回収する段階と、を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオマスの製造方法を提供する。
前記シゾキトリウム属微細藻類、バイオマス、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、及び前記乾燥物の破砕物は、前述の通りである。
【0036】
本明細書で使用される用語「培養」は、前記微細藻類を、適切に調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られた適切な培地と培養条件とによってもなされる。そのような培養過程は、選択される微細藻類により、当業者が容易に調整して使用することができる。
具体的には、本出願のシゾキトリウム属微細藻類の培養は、従属栄養条件下で行われるものでもあるが、それに制限されるものではない。
【0037】
本明細書で使用される用語「従属栄養」は、エネルギー源または栄養源を体外から得た有機物に依存する栄養方式であり、独立栄養に対応する用語であり、用語「暗培養」とも混用されえる。
【0038】
前記シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階は、特別にいかに制限されるものではないが、公知された回分式培養方法、連続式培養方法、流加式培養方法などによっても遂行される。本出願の微細藻類の培養に使用される培地及びその他培養条件は、通常の微細藻類の培養に使用される培地であるならば、特別な制限なしに、いずれも使用することができる。具体的には、本出願の微細藻類を、適切な炭素原、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/またはビタミンなどを含む通常の培地内において、好気性条件下において、温度、pHなどを調節しながら培養することができる。
【0039】
具体的には、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたは水酸化アンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を使用し、適正pH(例えば、pH5ないし9、具体的には、pH6ないし8、最も具体的には、pH6.8)を調節することができるが、それに制限されるものではない。
【0040】
また、培養物の好気状態を維持するために、培養物内に酸素または酸素含有気体を注入するか、嫌気状態及び微好気状態を維持するために、気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができるが、それらに制限されるものではない。
【0041】
また、培養温度は、20ないし45℃、または25ないし40℃を維持することができ、およそ10ないし160時間培養することができるが、それらに制限されるものではない。また、培養中には、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤を使用し、気泡生成を抑制することができるが、それに制限されるものではない。
【0042】
前記シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階で使用される培地に含まれる炭素源は、グルコース、フルクトース、マルトース、ガラクトース、マンノース、スクロース、アラビノース、キシロース及びグリセロールによってなる群のうちから選択されるいずれか1以上でもあるが、微細藻類を培養するのに使用される炭素源であるならば、それらに制限されるものではない。
【0043】
前記シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階で使用される培地に含まれる窒素源は、i)酵母抽出物(yeast extract)、牛肉抽出物(beef extract)、ペプトン及びトリプトンによってなる群のうちから選択されるいずれか1以上の有機窒素源、またii)酢酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、尿素及びグルタミン酸ナトリウム(MSG;monosodium glutamate)によってなる群のうちから選択されるいずれか1以上の無機窒素源でもあるが、微細藻類を培養するのに使用される窒素源であるならば、それらに制限されるものではない。
【0044】
前記シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階で使用される培地に、リン供給源として、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、それらに相応するナトリウム含有塩などを個別的に含むか、あるいは混合して含むものでもあるが、それらに制限されるものではない。
【0045】
前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物からバイオマスを回収する段階は、当該分野に公知された適する方法を利用し、目的とするバイオマスを収集するものでもある。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィ、結晶化及びHPLCなどが使用されき、精製工程をさらに含むものでもある。
【0046】
他の態様は、受託番号KCTC14344BPまたは受託番号KCTC14345BPで寄託され、かつドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸及びパルミチン酸の生産能を有する、シゾキトリウム属微細藻類を培養する段階と、前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物から脂質を回収する段階と、を含む、シゾキトリウム属微細藻類由来のバイオオイル製造方法を提供する。
【0047】
前記シゾキトリウム属微細藻類、バイオオイル、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、及び前記乾燥物の破砕物、前記微細藻類を培養する段階は、前述の通りである。
【0048】
前記微細藻類、前記微細藻類の培養物、前記培養物の乾燥物、または前記乾燥物の破砕物から脂質を回収する段階は、当該分野に公知された適する方法を利用し、目的とする脂質を収集するものでもある。例えば、遠心分離、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィ、結晶化及びHPLCなどが使用され、さらに精製工程を含むものでもある。
【0049】
例えば、脂肪アルデヒド、脂肪アルコール及び炭化水素(例えば、アルカン)のような脂質及び脂質誘導体は、ヘキサンのような疎水性溶媒でもって抽出することができる。脂質及び脂質誘導体は、また液化、オイル液化及び超臨界CO抽出のような方法を使用して抽出することができる。また、公知された微細藻類脂質回収方法は、例えば、i)遠心分離によって細胞を収去し、蒸溜水で洗浄した後、凍結乾燥によって乾燥させ、ii)得られた胞粉末を粉砕した後、n-ヘキサンで脂質を抽出する方法がある(Miao, X and Wu, Q, Biosource Technology (2006) 97: 841-846)。
【発明の効果】
【0050】
一態様による新規のシゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)微細藻類は、バイオマスにおいて脂肪含量が多く、そのうちにおいても、ドコサヘキサエン酸(DHA:docosahexaenoic acid)及びエイコサペンタエン酸(EPA:eicosapentaenoic acid)のような多重不飽和脂肪酸の含量が多く、前記微細藻類、そこから製造されるバイオマスまたはバイオオイルは、飼料原料などに有用に活用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株CD01-5000を光学顕微鏡で観察した写真である。
図2】シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株CD01-5000及びシゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株CD01-5000及びCD01-5004CD01-5004の生長曲線グラフである。
図3】シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株CD01-5004の生長曲線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかしながら、それら実施例は、1以上の具体例について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲が、それら実施例に限定されるものではない。
【0053】
[実施例1.スラウストキトリド(Thraustochytrid)系微細藻類の分離]
スラウストキトリド系微細藻類を分離するために、大韓民国・忠清南道泰安地域及び全羅北道群山地域の海岸の総50ヵ所余りの地域から、海水形態、土壌形態及び沈殿物形態の環境試料を採取した。採取された環境サンプルは、実験室環境に搬入され、7日以内にかび及びその他バクテリア類微生物、原生生物などの汚染源除去作業を進めると共に、直接塗抹法(direct plating)及び松花粉釣菌法(pine pollen baiting)を利用し、スラウストキトリド系微細藻類を分離した。持続的な汚染源除去過程及び微細藻類分離過程の間、顕微鏡検鏡を介し、スラウストキトリド系微細藻類の特徴である遊走子(zoospore)を形成しながら、それを含む形態を有する細胞と類似した形態を示す試料を分離し、海洋微細藻類分離用培地である変形されたYEP培地(酵母抽出物(yeast extract)1g/L、ペプトン1g/L、MgSO・7HO 2g/L、海塩(sea salt)20g/L、HBO 5.0mg/L、MnCl 3.0mg/L、CuSO 0.2mg/L、NaMo・2HO 0.05mg/L、CoSO 0.05mg/L、ZnSO・7HO 0.7mg/L、及びアガール(agar)15g/L)に塗抹した。得られたコロニーは、数回継代培養を経て純粋分離した。汚染が持続されるコロニーは、抗生物質カクテルミックス溶液(ストレプトマイシン硫酸塩0~100mg/L、アンピシリン0~100mg/L、ペニシリンG0~100mg/L、及びカナマイシン硫酸塩0~100mg/L)に露出させ、汚染源を制御して除去した。前記過程を介し、50種余りのコロニーを分離して獲得した。
【0054】
純粋分離されたコロニーは、変形されたGYEP培地(グルコース10g/L、酵母抽出物1g/L、ペプトン1g/L、MgSO・7HO 2g/L、海塩20g/L、HBO 5.0mg/L、MnCl 3.0mg/L、CuSO 0.2mg/L、NaMo・2HO 0.05mg/L、CoSO 0.05mg/L、及びZnSO・7HO 0.7mg/L)を利用し、250mLフラスコにおいて、10~35℃、100~200rpm条件で約7日間培養した。このうちから、25℃以上の温度条件で成長が可能であり、成長速度に優れ、菌体量が確保可能な微細藻類1種を最終選定し、それをCD01-5000で命名した。選定された菌株の形態は、光学顕微鏡を利用して観察した(図1)。
【0055】
[実施例2.新規のシゾキトリウム属菌株CD01-5000の同定]
前記実施例1で分離されて選定された微細藻類菌株CD01-5000の分子生物学的同定のために、18S rRNA遺伝子配列を分析した。
具体的には、純粋分離された微細藻類CD01-5000のコロニーから、gDNAを抽出して分離した後、18S rRNA部位の遺伝子増幅用プライマーに、下記表1のプライマーを利用し、PCR反応を行った。
【0056】
【表1】
【0057】
PCR反応は、Taqポリメラーゼ(Taq polymerase)を含む反応溶液を使用し、95℃において5分間変性後、95℃ 30秒変性、55℃ 30秒アニーリング、72℃ 1分30秒重合を38回反復した後、72℃において5分間重合反応を行った。PCR過程を介して増幅された反応液は、1%アガロースゲルによって電気泳動し、約1,600~2,000bpサイズのDNA断片が増幅されたことを確認し、塩基配列シーケンシング分析を進めた。分析結果、約1,800bpサイズの塩基配列(配列番号1)を確保し、当該配列は、NCBI BLAST検索を介し、スラウストキトリド系微細藻類に属するシゾキトリウム・リマシヌム(Schizochytrium limacinum)菌株OUC192(NCBI accession No.:HM042913.2)の18S rRNA遺伝子塩基配列と、99.3%の相同性を示し、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)菌株SH104(NCBI accession No.:KX379459.1)の18S rRNA遺伝子塩基配列と、99.3%の相同性を示すということを確認した。それを介し、分離された微細藻類CD01-5000は、新規のシゾキトリウム属菌株であることを確認し、それを、シゾキトリウム属(Schizochytrium sp.)CD01-5000と命名し、2020年10月26日付けで、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国生命工学研究院生物資源センター(KCTC:Korean Collection for Type Cultures)に寄託し、受託番号KCTC14344BPを受けた。
【0058】
[実施例3.突然変異微細藻類菌株の開発]
実施例3-1.ガンマ線の照射による死滅率の測定
前記実施例2で確認された新規微細藻類CD01-5000から、人工突然変異菌株を開発するために、ガンマ線線量による死滅率を測定し、ガンマ線の照射条件を選択した。
【0059】
具体的には、新規微細藻類CD01-5000を、3%のグルコースを含む変形されたGYEP培地において、約20時間以上培養し、対数期(exponential phase)に至らせた。培養された細胞培養液サンプルを、4,000rpmで15分間遠心分離して菌体を収穫し、10細胞/mLになるように、PBSに懸濁された微細藻類培養液サンプルを、50mLコニカルチューブに入れ、ガンマ線の照射実験に使用した。ガンマ線の照射実験は、韓国原子力研究院先端放射線研究所で進められ、微細藻類培養液サンプルに、2,000Gy、2,500Gy、3,000Gy、3,500Gy、4,000Gy、4,500Gy、5,000Gy、5,500Gy、6,000Gy、7,000Gyまたは8,000Gyのガンマ線を照射した。ガンマ線が照射された微細藻類培養液サンプルを遠心分離し、上澄み液を除去した後、1%のグルコースを含むGCBS培地(グルコース10g/L、とうもろこし浸漬液(corns teep liquor)5g/L、牛肉抽出物(beef extract)5g/L、MgSO・7HO 5g/L、海塩15g/L、クエン酸20.08mg/L、FeSO・7HO 5.3mg/L、ZnSO・7HO 0.5mg/L、MnCl 1.0mg/L、CuSO 0.1mg/L、NaMo・2HO 0.1mg/L、CoSO 0.1mg/L、ZnSO・7HO 0.5mg/L、ビオチン1.0mg/L、チアミン塩酸塩(thiamine hydrochloride)1.0mg/L、CAPA 1.0mg/L、及びビタミンB12 0.1mg/L)に接種し、30℃で約48時間培養した。その後、培養液を、2%(20g/L)アガール(agar)を含むGYEP培地に接種して塗抹し、30℃において48時間培養した後、生育コロニー数を計数し、下記数式1により、ガンマ線量別に死滅率を測定した。
【0060】
【数1】
【0061】
【表2】
【0062】
その結果、ガンマ線を、6,000Gy以上の線量でもって照射する場合、微細藻類がいずれも死滅し、コロニーを確保することができず、99.99%の死滅率を示す5,500Gyのガンマ線線量の条件を選択した。
【0063】
実施例3-2.突然変異微細藻類菌株の分離
前記実施例3-1に記載されたところと同一方法により、新規微細藻類菌株CD01-5000に、5,000Gyの線量でガンマ線を照射した後、微細藻類培養液サンプルを、GYEP固体培地、並びにブタノール及びイソニアジド(isoniazid)を添加したGYEP固体培地にそれぞれ接種して塗抹し、30℃で培養した。約4週間、それぞれ固体プレートで生育される微細藻類コロニーを選別し、同一の培地及び培養条件で継代分離させた。継代分離された各コロニーを、互いに異なる1つの突然変異菌株と判断し、持続して成長が可能なコロニー及び菌株を追加して選別した。
【0064】
実施例3-3.すぐれた突然変異微細藻類菌株の選別
前記実施例3-2で選別された突然変異菌株を対象に、フラスコスケールで培養評価し、粗脂肪及び脂肪酸の分析を介し、すぐれた突然変異菌株を選別した。
具体的には、前記実施例2で確認した新規野生型微細藻類CD01-5000、及び実施例3-2で選別された突然変異微細藻類をフラスコスケールで培養するために、500mLフラスコにおいて、最終体積(working volume)を50mLにし、3%(30g/L)グルコースを含むGYEP培地内において、30℃及び180rpm条件で24時間培養し、分析が可能な一定量の菌体を獲得することにした。その後、培養液を、50mLコニカルチューブを使用して遠心分離した後、上澄み液を除去し、菌体を得て、pH7.5のPBSで3回洗浄した後、60℃ドライオーブンで一晩中乾燥させ、各乾燥菌体を得た。
【0065】
得られた各乾燥菌体2gに、8.3M塩酸溶液を加え、80℃で微細藻類菌体の細胞壁を加水分解した後、エチルエーテル30mL及び石油エーテル(petroleum ether)20mLを添加し、30秒間混ぜた後で遠心分離を行う過程を3回以上反復した。分離された溶媒層を回収し、事前に重さを測定しておいたラウンドフラスコに移した後、窒素パージングを介して溶媒を除去し、デシケータ(desicator)で恒量になるまで乾燥させた。乾燥後、フラスコ重量から空フラスコ重量を差し引いた値でもって、乾燥されたオイル重量を測定した。また、得られた乾燥オイルを、メタノール性0.5N NaOH、及び14%三フッ化ホウ素メタノール(BF3)で前処理した後、気体クロマトグラフィ法でもって、オイル中に含まれたパルミチン酸(PA)、エイコサペンタエン酸(EPA)及びドコサヘキサエン酸(DHA)の含量を測定し、それを全体オイル、すなわち、粗脂肪重量に対する百分率で計算して示した。
【0066】
【表3】
【0067】
その結果、表3に示されているように、新規のシゾキトリウム属菌株CD01-5000は、DHA含量が50%以上と非常に多く示され、パルミチン酸及びEPAの含量も、他の変異株に比べ、高レベルに示された。また、実験された変異株において、DHA含量が野生型菌株に比べ、さらに高く示され、パルミチン酸及びEPAの含量も、他の変異株に比べ、高レベルに示された菌株である「変異株3」をすぐれた変異株に選別し、シゾキトリウム属CD01-5004と命名し、2020年10月26日付けで、ブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国生命工学研究院生物資源センター(KCTC:Korean Collection for Type Cultures)に寄託し、受託番号KCTC14345BPを受けた。
【0068】
[実施例4.野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000及び突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004の培養特性の確認]
新規の野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000、及びその突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004のさらなる培養特性を確認した。
【0069】
実施例4-1.バイオマス含量及び脂肪酸含量の分析
CD01-5000菌株、CD01-5004菌株、及び対照群であるシゾキトリウム属ATCC20888菌株を、5L発酵器において、総体積が3Lになるまで培養した。20ないし35℃、100ないし500rpm、及び0.5ないし1.5vvmの条件で、窒素源として、酵母抽出物5g/L及びペプトン10g/Lを含むGYEP培地で培養し、前記実施例3-3に記載されたところと同一方法により、培養液から乾燥菌体を得て、細胞内の粗脂肪含量及び脂肪酸含量を分析した。
【0070】
【表4】
【0071】
その結果、表4に示されているように、CD01-5000菌株及びCD01-5004菌株は、対照群として培養されたシゾキトリウム属ATCC20888菌株に類似しているバイオマス生長性を示しながら、EPA及びDHAを高含量で、細胞内で生産して蓄積することができるということを確認した。
【0072】
実施例4-2.タンパク質含量及びアミノ酸含量の分析
バイオマス含量及びEPA含量が最も高く示されたCD01-5004菌株を対象に追加培養実験を進め、細胞内のタンパク質含量及びアミノ酸含量の分析を進めた。
【0073】
具体的には、窒素源として、酵母抽出物10g/L及び塩化アンモニウム10g/Lを含むGYEP培地を使用したことを除いては、前記実施例4-1に記載されたところと同一培養条件でもって、総63時間培養した。培養終了後、前記実施例3-3に記載されたところと同一方法により、培養液から乾燥菌体を得た。
【0074】
タンパク質含量分析のために、乾燥された各菌体0.5ないし1.0gを対象に、元素分析器を利用し、試料内に存在する窒素含量を定量分析した。各試料内に存在する窒素重量比の比率(TN%)に6.25を乗じ、試料内の粗タンパク含量でもって計算して示した。
【0075】
アミノ酸含量分析のために、乾燥された各菌体0.5ないし1gを酸加水分解した後、それを対象に、液体クロマトグラフィを行った。試料内の総アミノ酸濃度に対する個別アミノ酸の百分率でもって、各アミノ酸構成の比率(%)を計算した。
【0076】
【表5】
【0077】
その結果、表5に示されているように、総菌体生産量は、60.5g/Lであり、乾燥菌体内の粗タンパク含量は、74.38%と確認された。細胞内アミノ酸は、グルタメートが23.31%、フェニルアラニンが20.51%と主成分をなし、ヒスチジン、アラニン、バリン、プロリン、メチオニン、アスパラギン酸、グリシン、ロイシン、イソロイシン、セリンの成分がその後に続いて構成することを確認した。
【0078】
[実施例5.野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000及び突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004の生長速度の確認]
新規の野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000、及びその突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004の生長速度を測定して比較した。
【0079】
具体的には、CD01-5000菌株及びCD01-5004菌株を、それぞれ500mLフラスコで、最終体積(working volume)が50mLになるように、3%グルコースを含むGYEP培地に接種し、振盪インキュベータ(shaking incubator)において、30℃及び180rpmの条件で培養した。培養時間の間、分光光度計((UV/Visible Spectrophotometer)を使用し、波長680nm条件で、吸光度をOD(optical density)値で測定し、各段階別の細胞生長程度を測定した。
【0080】
その結果、図2に示されているように、変異株CD01-5004は、野生株CD01-5000対比で、同等以上レベルの糖消耗速度及び細胞成長を示し、野生株よりも、約5時間早く対数期(exponential phase)に逹することを確認した。
【0081】
[実施例6.野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000及び突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004の生長特性の確認]
新規の野生型シゾキトリウム属菌株CD01-5000、及びその突然変異シゾキトリウム属菌株CD01-5004の培養時、広いpH範囲で生長が可能であるか否かということを確認した。
【0082】
具体的には、CD01-5000菌株及びCD01-5004菌株を、それぞれ500mLフラスコで、pHが、2、3、3.5、4、6、8、8.5、9または9.5であるGYEP培地に接種し、前記実施例4に記載されたところと同一方法によって培養し、培養後、0,24,40及び48時間にある時点におけるそれぞれの吸光度を測定し、細胞の生長程度を評価した。
【0083】
【表6】
【0084】
その結果、表6及び図3に示されているように、CD01-5004菌株は、pH3.5ないし9の広範囲で生長が可能であると確認され、CD01-5000菌株も、それと類似した生長特性を示すということを確認した。
【0085】
また、CD01-5000菌株及びCD01-5004菌株の培養時、培養液が濃赤色を示した点から見て、カロテノイド系の抗酸化色素、例えば、β-カロテン(β-carotene)、ルテイン(lutein)、アスタキサンチン(astaxanthin)、カプサンチン(capsanthin)、アナトー(annatto)、カンタキサンチン(canthaxanthin)、リコペン(lycopene)、β-アポ-8-カロテナール(β-apo-8-carotenal)、ゼアキサンチン(zeaxanthin)、β-アポ-8-カロテナール-エステル(β-apo-8-carotenal-ester)などを生産する菌株であるということが分かった。
【0086】
以上の説明から、本出願が属する技術分野の当業者であるならば、本出願が、その技術的思想や必須特徴を変更せずとも、他の具体的な形態で実施されうるということを理解することができるであろう。それと係わり、以上で記述された実施例は、全ての面において例示的なものであり、限定的なものではないと理解されなければならない。本出願の範囲は、前述の詳細な説明よりは、特許請求範囲の意味及び範囲、並びにその等価概念から導き出される全ての変更、または変形された形態が、本出願の範囲に含まれると解釈されなければならない。
図1
図2
図3
【配列表】
2023552342000001.app
【国際調査報告】