(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】ベクター
(51)【国際特許分類】
C12N 15/85 20060101AFI20231208BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20231208BHJP
C12N 15/19 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/21 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20231208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231208BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20231208BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231208BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/763 20150101ALI20231208BHJP
A61P 35/04 20060101ALI20231208BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231208BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20231208BHJP
【FI】
C12N15/85 Z ZNA
C12N15/113 Z
C12N15/19
C12N15/21
C12N15/12
C12N15/86 Z
C12N15/867 Z
A61P35/00
A61K35/76
A61K39/00 H
A61K35/12
A61K35/761
A61K35/763
A61P35/04
C12N5/10
C12N5/071
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533894
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 EP2021084276
(87)【国際公開番号】W WO2022117876
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(71)【出願人】
【識別番号】516123424
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ケーゼル,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】スクヮドリート,マリオ レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ナルディーニ,ルイージ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA91X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA44
4C085BB01
4C085CC01
4C085CC08
4C085DD62
4C085EE01
4C085GG01
4C085GG02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB64
4C087BB65
4C087BC83
4C087CA04
4C087CA12
4C087MA16
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZB26
(57)【要約】
1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む、肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクター。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクターであって、1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含むベクター。
【請求項2】
前記1つ以上の発現制御配列が、
(a)食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー、及び/又は
(b)任意選択で肝臓食細胞以外の細胞における発現を抑制する、1つ以上のmiRNA標的配列
を含む、請求項1に記載のベクター。
【請求項3】
前記食細胞が肝臓及び/又は脾臓食細胞である、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
前記食細胞がマクロファージ、任意選択でM2様マクロファージ及び/又はMRC1+マクロファージ、樹状細胞、又は肝類洞壁内皮細胞である、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項5】
前記食細胞がクッパー細胞である、先行するいずれか一項に記載のベクター。
【請求項6】
前記食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーがMRC1プロモーター及び/又はエンハンサー、ITGAMプロモーター及び/又はエンハンサー、CD86プロモーター及び/又はエンハンサー、CD274プロモーター及び/又はエンハンサー、CD163プロモーター及び/又はエンハンサー、LYVE1プロモーター及び/又はエンハンサー、STAB1プロモーター及び/又はエンハンサー、ITGAXプロモーター及び/又はエンハンサー、SIRPAプロモーター及び/又はエンハンサー、TIE2プロモーター及び/又はエンハンサー、CHIL3プロモーター及び/又はエンハンサー、CD68プロモーター及び/又はエンハンサー、CSF1Rプロモーター及び/又はエンハンサー、VCAM1プロモーター及び/又はエンハンサー、PTGS1プロモーター及び/又はエンハンサー、並びにC1QAプロモーター及び/又はエンハンサー、それらの断片、或いはそれらの組合せからなる群から選択される、請求項2~5のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項7】
前記食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーがMRC1プロモーター及び/若しくはエンハンサー又はその断片であり、任意選択で前記MRC1プロモーター及び/若しくはエンハンサー又はその断片が配列番号1に対して少なくとも70%同一性を有するヌクレオチド配列、又はその断片を含む、請求項2~6のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項8】
前記1つ以上のmiRNA標的配列が肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する、請求項2~7のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項9】
前記1つ以上のmiRNA標的配列が(a)1つ以上のmiR-126標的配列、及び/又は(b)1つ以上のmiR-122標的配列を含み、任意選択で前記1つ以上のmiRNA標的配列が4つのmiR-126標的配列及び/又は4つのmiR-122標的配列を含む、請求項2~8のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項10】
前記miR-126標的配列が配列番号3を含むか、若しくは配列番号3からなり、及び/又は前記miR-122標的配列が配列番号4を含むか、若しくは配列番号4からなる、請求項2~9のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項11】
前記導入遺伝子が治療用ポリペプチド及び/又は抗原性ポリペプチドをコードする、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項12】
前記導入遺伝子がサイトカインをコードし、任意選択で前記サイトカインが、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、インターフェロン-ガンマ、IL2、IL12、TNF-アルファ、CXCL9、IL1-ベータ、IL15、IL18又はIL10である、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項13】
前記導入遺伝子がインターフェロン-アルファをコードし、任意選択で前記インターフェロン-アルファが配列番号8に対して少なくとも70%同一性を有するアミノ酸配列を含むか、又は配列番号8に対して少なくとも70%同一性を有するアミノ酸配列からなる、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項14】
前記導入遺伝子が腫瘍抗原をコードし、任意選択で前記腫瘍抗原が癌胎児性抗原(CEA)、黒色腫関連抗原(MAGE)ファミリー、癌生殖細胞系列(CAGE)ファミリー、B黒色腫抗原(BAGE-1)、滑膜肉腫xブレークポイント20(SSX-2)、肉腫抗原(SAGE)ファミリー、LAGE1、NY-ESO-1、HER2、EGFR、MUC-1又はGASTである、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項15】
前記導入遺伝子が更にウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)に作動可能に連結されている、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項16】
前記導入遺伝子が更に不安定化ドメインに作動可能に連結され、任意選択で前記不安定化ドメインがジヒドロ葉酸還元酵素不安定化ドメインである、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項17】
前記ベクターがウイルスベクターであり、任意選択で前記ベクターがレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又は単純ヘルペスウイルスベクターである、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項18】
レンチウイルスベクターである、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項19】
前記ウイルスベクターがウイルスベクター粒子である、請求項17又は請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
前記ウイルスベクター粒子がVSV-Gシュードタイプであり、任意選択で前記ウイルスベクターがVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクター粒子である、請求項19に記載のベクター。
【請求項21】
前記ウイルスベクター粒子が細胞の表面上のCD47分子及び/又はHLA分子の発現を減少するように遺伝子操作されたウイルス粒子プロデューサー又はパッケージング細胞において産生され、任意選択で前記ウイルスベクター粒子が表面に露出されたCD47分子及び/又はHLA分子を実質的に欠如している、請求項19又は20に記載のベクター。
【請求項22】
前記導入遺伝子が前記ベクターによって形質導入された場合、前記食細胞以外の細胞では実質的に発現されず、任意選択で前記導入遺伝子が前記ベクターによって形質導入された場合、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞では実質的に発現されない、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項23】
前記導入遺伝子が肝臓細胞及び/又は脾臓細胞においてのみ実質的に発現され、任意選択で前記導入遺伝子が前記ベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されない、先行する請求項のいずれか一項に記載のベクター。
【請求項24】
先行する請求項のいずれか一項に記載のベクターを含む細胞。
【請求項25】
請求項1~23のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項24に記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~23のいずれか一項に記載のベクター、又は請求項24に記載の細胞を含む癌ワクチン。
【請求項27】
療法における使用のための請求項1~23のいずれか一項に記載のベクター、請求項24に記載の細胞、請求項25に記載の医薬組成物又は請求項26に記載の癌ワクチン。
【請求項28】
癌の治療若しくは防止における使用のための請求項1~23のいずれか一項に記載のベクター、請求項24に記載の細胞、請求項25に記載の医薬組成物又は請求項26に記載の癌ワクチン。
【請求項29】
請求項1~23のいずれか一項に記載のベクター、請求項24に記載の細胞、請求項25に記載の医薬組成物又は請求項26に記載の癌ワクチンを、それらを必要とする対象に投与することを含む、癌を治療又は防止する方法。
【請求項30】
前記癌が肝臓転移である、請求項28に記載の使用のためのベクター、細胞、医薬組成物若しくは癌ワクチン、又は請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記ベクター、細胞、医薬組成物又は癌ワクチンが静脈内注射、門脈内注射又は肝動脈内注射によって投与される、請求項27、28若しくは30のいずれか一項に記載の使用のためのベクター、細胞、医薬組成物若しくは癌ワクチン、又は請求項29若しくは請求項30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食細胞特異的発現、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクターに関する。本発明はまた、上記ベクターを含む細胞、医薬組成物及び癌ワクチン並びに癌、例えば肝臓転移の治療又は防止を含む療法におけるそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓は、とりわけ解毒、タンパク質及び細胞のクリアランス、代謝機能を含む幾つかの生物学的機能に関与している(Robinson, M.W.ら, Cell Mol Immunol, 2016. 13(3): p. 267-76)。肝臓を損傷しうる免疫学的反応から肝臓を保護するために、肝臓は免疫活性化を制限する免疫抑制環境を特徴とする(Horst, A.K.ら, Cell Mol Immunol, 2016. 13(3): p. 277-92)。その免疫抑制環境に起因して、幾つかの腫瘍タイプは肝臓に向かって広がり、肝臓転移を引き起こす傾向がある(Grakoui, A.及びI.N. Crispe, Cell Mol Immunol, 2016. 13(3): p. 293-300、並びにThomson, A.W.及びP.A. Knolle, Nat Rev Immunol, 2010. 10(11): p. 753-66)。
【0003】
肝臓は癌転移に関して最も一般的な部位の1つであり、全症例のほぼ25%を占める。様々な原発腫瘍が転移の原因となりうるが、罹患した患者の総数を考慮すると、結腸直腸腺癌が最も一般的である(Griscom, J.T.及びWolf, PS, 2020. Cancer, Liver Metastasis. In StatPearls. StatPearls Publishing)。肝臓転移は予後不良に関連しており、多くの場合癌患者の死因となる。
【0004】
外科的切除は依然として解剖学的に切除可能な肝臓転移のゴールドスタンダードである。切除の可能性を改善するための戦略として、術前化学療法、将来の残肝を増やすための門脈塞栓術、又は原発腫瘍及び肝病変の複合1段階切除に対する2段階切除が挙げられる(Griscom, J.T.及びWolf, P.S., 2020. Cancer, Liver Metastasis. In StatPearls. StatPearls Publishing)。しかしながら、結腸直腸転移を有する患者の肝病変の根治的切除後の5年生存率はわずか25%~58%、生存期間中央値は74ヶ月と報告されている(Pawlik, T.M.ら, 2005. Annals of surgery, 241(5), p. 715)。
【発明の概要】
【0005】
したがって、癌、例えば肝臓転移に対する治療の改善が求められている。
【0006】
本発明者らは、食細胞特異的プロモーター(例えば、M2様マクロファージ特異的プロモーター、例えばMRC1プロモーター)から導入遺伝子発現を駆動するベクター(例えば、レンチウイルスベクター)を使用して、クッパー細胞(KC)における、及び同様にMRC1+脾臓マクロファージ及び肝類洞壁内皮細胞(LSEC)における選択的導入遺伝子発現を駆動することができることを見出した。
【0007】
本発明者らはまた、miRNA標的配列(例えば、miR-126-3p及びmiR-122-5pに関するmiRNA標的配列)を使用して、他の細胞における導入遺伝子発現を弱めることによって所望の細胞における導入遺伝子発現の特異性を増大することができることも見出した。例えば、miRNA標的配列を使用して、肝細胞及び/又はLSECにおける導入遺伝子発現を弱めることができる。
【0008】
本発明者らは、miRNA標的配列と組み合わせた食細胞特異的プロモーターから導入遺伝子発現を駆動するベクターを使用して、クッパー細胞における、特に実験的肝臓転移(LMS)の存在下での、及び程度は少し劣るが、脾臓MRC1陽性マクロファージにおける導入遺伝子発現を選択的に促進することができることを見出した。
【0009】
本発明者らは、そのようなベクターを使用して、抗腫瘍活性を有する分子(例えば、インターフェロン-α、IFNα)を肝臓転移へ送達することができることを見出した。そのようなベクターで処理したマウスは、肝毒性、好中球減少又は猛烈な白血球減少の徴候を伴わずに頑強で持続的なレベルのIFNαを発現した。実験的LMSを有するマウスにベクターを投与した場合、IFNα発現は腫瘍成長を遅延し、腫瘍関連マクロファージ(TAM)を再プログラムし、適応免疫を促進した。ベクターを使用して、治療用導入遺伝子を腫瘍(例えば、肝臓転移)へ選択的に送達することによって非選択的導入遺伝子発現と関連付けられる全身毒性作用を低減させることができる。
【0010】
本発明者らはまた、そのようなベクターを腫瘍ワクチンとして使用して、抗原提示細胞(APC)における腫瘍抗原の発現を駆動することによって腫瘍抗原(TA)に対する適応免疫を促進することができることも見出した。本発明者らは、代替腫瘍抗原(例えば、トリオボアルブミン、OVA)を発現するベクターが癌細胞特異的T細胞の数を強力に増加させることを見出し、プラットフォームを使用して、特異的TAに対する適応免疫を促進することができることを示した。したがって、ベクターは、癌ワクチンとして使用することができる。
【0011】
ある態様では、本発明は、肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクターを提供する。
【0012】
適切には、本発明で標的とされる食細胞はマクロファージ、例えばM2様マクロファージ及び/又はMRC1+マクロファージ、樹状細胞、並びに内皮細胞、例えば肝類洞壁内皮細胞の1つ以上から選択される。
【0013】
適切には、本発明で標的とされる食細胞は常在性マクロファージ(例えば、クッパー細胞)、肝類洞壁内皮細胞、脾臓マクロファージ、腫瘍関連マクロファージ、及び/又は単球由来マクロファージの1つ以上から選択される。
【0014】
幾つかの実施形態では、本発明で標的とされる食細胞はクッパー細胞である。
【0015】
ベクターは1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含みうる。
【0016】
別の態様では、本発明は、肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクターを提供し、ここでベクターは1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む。
【0017】
別の態様では、本発明は、クッパー細胞特異的発現のためのベクターを提供し、ここでベクターは1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む。
【0018】
別の態様では、本発明は、1つ以上の肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含むベクターを提供する。
【0019】
幾つかの実施形態では、1つ以上の発現制御配列は、
(a)食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー、及び/又は
(b)1つ以上のmiRNA標的配列
を含む。
【0020】
幾つかの実施形態では、1つ以上の発現制御配列は食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーを含む。幾つかの態様では、1つ以上の発現制御配列は1つ以上のmiRNA標的配列を含む。幾つかの態様では、1つ以上の発現制御配列は食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー、並びに1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0021】
幾つかの実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーは肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーである。
【0022】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は非食細胞(例えば、非肝臓及び/又は脾臓食細胞)の細胞における発現を抑制する。好ましい実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は非肝臓食細胞における(即ち、肝臓食細胞以外の細胞における)発現を抑制する。
【0023】
幾つかの実施形態では、食細胞はマクロファージ、任意選択でM2様マクロファージ及び/又はMRC1+マクロファージ、樹状細胞、又は肝類洞壁内皮細胞である。
【0024】
好ましい実施形態では、食細胞は肝臓常在性食細胞である。好ましい実施形態では、食細胞は肝臓常在性マクロファージである。好ましい実施形態では、食細胞はクッパー細胞である。
【0025】
幾つかの実施形態では、ベクターは、5'から3'で食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー-導入遺伝子-1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0026】
幾つかの実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーは、MRC1プロモーター及び/又はエンハンサー、TIE2プロモーター、ITGAMプロモーター及び/又はエンハンサー、CD86プロモーター及び/又はエンハンサー、CD274プロモーター及び/又はエンハンサー、CD163プロモーター及び/又はエンハンサー、LYVE1プロモーター及び/又はエンハンサー、STAB1プロモーター及び/又はエンハンサー、ITGAXプロモーター及び/又はエンハンサー、SIRPAプロモーター及び/又はエンハンサー、TIE2プロモーター及び/又はエンハンサー、CHIL3プロモーター及び/又はエンハンサー、CD68プロモーター及び/又はエンハンサー、CSF1Rプロモーター及び/又はエンハンサー、VCAM1プロモーター及び/又はエンハンサー、PTGS1プロモーター及び/又はエンハンサー、並びにC1QAプロモーター及び/又はエンハンサー、それらの断片、或いはそれらの組合せからなる群から選択される。好ましい実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーはMRC1プロモーター及び/若しくはエンハンサー又はそれらの断片である。幾つかの実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーは配列番号1に対して少なくとも70%同一性を有するヌクレオチド配列、又はその断片を含む。適切には、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーは誘導性である。
【0027】
1つ以上のmiRNA標的配列は幾つかの肝臓及び/又は脾臓細胞集団における発現を抑制しうる。
【0028】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は肝細胞における導入遺伝子発現を抑制する。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は肝類洞壁内皮細胞(LSEC)における導入遺伝子発現を抑制する。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は脾臓マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制する。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は肝細胞、肝類洞壁内皮細胞(LSEC)及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は(a)1つ以上のmiR-126標的配列、及び/又は(b)1つ以上のmiR-122標的配列を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は4つのmiR-126標的配列及び/又は4つのmiR-122標的配列を含む。
【0029】
幾つかの実施形態では、miR-126標的配列は配列番号3を含むか、又は配列番号3からなる。幾つかの実施形態では、miR-122標的配列は配列番号4を含むか、又は配列番号4からなる。
【0030】
好ましい実施形態では、ベクターは(a)MRC1プロモーター及び/又はエンハンサー、又はそれらの断片、並びに(b)1つ以上のmiR-126標的配列及び/又は1つ以上のmiR-122標的配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む。
【0031】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は治療用ポリペプチドをコードする。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は抗原性ポリペプチドをコードする。
【0032】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はサイトカインをコードし、任意選択でサイトカインは、インターフェロン-アルファ、インターフェロン-ベータ、インターフェロン-ガンマ、IL2、IL12、TNF-アルファ、CXCL9又はIL1-ベータである。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はインターフェロン-アルファをコードする。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号8に対して少なくとも70%同一性を有するアミノ酸配列をコードする。幾つかの実施形態では、サイトカインはIL10、IL15又はIL18である。幾つかの実施形態では、サイトカインはIL10である。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号38に対して少なくとも70%同一性を有するアミノ酸配列をコードする。幾つかの実施形態では、サイトカインはIL12である。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号37又は46に対して少なくとも70%同一性を有するアミノ酸配列をコードする。
【0033】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は腫瘍関連抗原をコードし、任意選択で腫瘍関連抗原は癌胎児性抗原(CEA)、黒色腫関連抗原(MAGE)ファミリー、癌生殖細胞系列(CAGE)ファミリー、B黒色腫抗原(BAGE-1)、滑膜肉腫xブレークポイント20(SSX-2)、肉腫抗原(SAGE)ファミリー、LAGE1、NY-ESO-1、HER2、EGFR、MUC-1又はGASTである。
【0034】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は更に1つ以上の調節エレメントに作動可能に連結されている。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は更にウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)に作動可能に連結されている。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は更に不安定化ドメイン(例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素不安定化ドメイン)に作動可能に連結されている。
【0035】
幾つかの実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。例えば、ウイルスはレンチウイルスベクター、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、又は単純ヘルペスウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターはレンチウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターは組込み用ウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターは非組込み用ウイルスベクターである。例えば、ベクターはインテグラーゼ能を有してもよく、又はインテグラーゼを欠損していてもよい。
【0036】
幾つかの実施形態では、ベクターはウイルスベクター粒子である。例えば、ウイルスベクター粒子はVSV-Gシュードタイプである。幾つかの実施形態では、ベクターはVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ウイルスベクター粒子は表面に露出されたCD47及び/又はHLA分子を実質的に欠如している。適切には、ウイルスベクターは細胞の表面上のCD47及び/又はHLA分子の発現を減少するように遺伝子操作されたウイルス粒子プロデューサー又はパッケージング細胞において産生される。
【0037】
ベクターは食細胞において導入遺伝子を特異的に発現しうる。幾つかの実施形態では、
(i)ベクターによって形質導入された食細胞における導入遺伝子の発現は、ベクターによって形質導入された他の細胞における導入遺伝子の発現を上回る、及び/又は
(ii)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、食細胞以外の細胞では実質的に発現されない、及び/又は
(iii)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞では実質的に発現されない、及び/又は
(iv)導入遺伝子は幾つかの肝臓細胞及び/又は幾つかの脾臓細胞においてのみ実質的に発現される、及び/又は
(v)クッパー細胞における導入遺伝子の発現は、ベクターによって形質導入された場合、肝細胞における発現を少なくとも10倍上回る、及び/又は
(vi)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されない。
【0038】
幾つかの実施形態では、ベクターによって形質導入された食細胞における導入遺伝子の発現はベクターによって形質導入された他の細胞における導入遺伝子の発現を上回る。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、食細胞以外の細胞では実質的に発現されない。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞では実質的に発現されない。幾つかの実施形態では、クッパー細胞における導入遺伝子の発現はベクターによって形質導入された場合、肝細胞における発現を少なくとも10倍上回る。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されない。
【0039】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は肝臓細胞及び/又は脾臓細胞においてのみ実質的に発現され、任意選択でベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されない。
【0040】
別の態様では、本発明は本発明のベクターを含む細胞を提供する。
【0041】
別の態様では、本発明は本発明のベクター又は細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0042】
別の態様では、本発明は本発明のベクター又は細胞を含む癌ワクチンを提供する。
【0043】
別の態様では、本発明は本発明のベクターをウイルス粒子プロデューサー又はパッケージング細胞へ導入することを含む、本発明のウイルスベクター粒子を作製する方法を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は細胞を形質導入又はトランスフェクトするための本発明のベクターの使用を提供する。当該使用は、例えばin vitro又はin vivoの使用でありうる。
【0045】
別の態様では、本発明は本発明のベクターを細胞へ導入することを含む、本発明の細胞を作製する方法を提供する。当該方法は、例えばin vitro又はin vivoの方法でありうる。
【0046】
別の態様では、本発明は療法における使用のための本発明のベクター、細胞又は医薬組成物を提供する。別の態様では、本発明は癌の治療若しくは防止における使用のための本発明のベクター、細胞又は医薬組成物を提供する。
【0047】
別の態様では、本発明は本発明のベクター、細胞又は医薬組成物を細胞へ導入することを含む、疾患を治療する方法を提供する。当該方法は、例えばex vivo又はin vivoの方法でありうる。
【0048】
別の態様では、本発明は本発明のベクター、細胞又は医薬組成物を、それらを必要とする対象に投与することを含む、癌を治療又は防止する方法を提供する。
【0049】
幾つかの実施形態では、ベクター、細胞又は医薬組成物は静脈内注射、門脈内注射又は肝動脈内注射によって投与される。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】(a)表示したLVで予め形質導入し、LPS+IFNγ(M1)又はIL4(M2)で分極させたBMDMのフローサイトメトリー分析。左、GFPの割合(n=3回の生物学的反復、対応のないt検定)。右、全生存細胞でゲーティングされた(gated)PGK.GFP(上)又はMrc1.GFP(下)形質導入BMDMに関するGFP発現の代表的なFACSプロット。(b)マウスエンハンサー6(配列番号27)を、Mrc1プロモーターからGFPを発現するベクターに対して上流に挿入した。次に、不死化クッパー細胞(iKCs)を、得られたLVで形質導入し、IL4 50ngで7日間分極させた。パネルはIL4刺激(M2)又は非刺激(M0、n=3回の独立した実験、対応のないt検定)の7日後のエンハンサー含有構築物(Mrc1 prom.+enh.)対プロモーターのみの構築物(Mrc1 prom)で形質導入したiKCにおけるGFP発現(蛍光強度の中央値、MFI)の変化倍数を示す。(c)Mrc1.GFP LV又はPBSのいずれかで処理したマウス(n=5匹のマウス/群)由来の肝臓、肺、骨髄、血液及び脾臓における表示した細胞型のGFP発現を示すフローサイトメトリー分析。(d)Mrc1.GFP LV又はPBSで処理したマウス由来の種々の臓器のデジタルドロップレットPCRによるVCN分析(2回の独立した実験からn=4~5匹のマウス/群)。
【
図2】(a)フローサイトメトリーで測定したLSEC及びKCにおけるGFP(左)並びにLNGFR(右)の平均蛍光強度(MFI)(n=8匹のマウス/群、対応のないt検定)。(b)肝臓切片の免疫蛍光分析によって同定されたフレーム1つ当たりのGFP発現肝細胞の数。マウス1匹当たり、10倍の倍率で撮影した5枚~6枚の画像の平均計数を測定した(n=8匹のマウス/群、対応のないt検定)。(c)GFP(緑色)、F4/80(赤色)及び核(青色)に関して染色したno-miRT(左)又はmiRT-122 LV(右)を注射したマウス由来の肝臓切片の代表的な共焦点画像。画像は10倍の倍率で撮影した。破線で示される領域における更なる拡大画像は、核染色と組み合わせたGFP染色(上部)又はF4/80染色(下部)を示す。
【
図3】(a)Mrc1.GFP LV、Mrc1.GFP.miRT LV又はPBSのいずれかで処理したマウスの肝臓のフローサイトメトリー分析(n=5匹のマウス/群、対応のないt検定)。(b)Mrc1.GFP.miRT LV処理マウス由来のmCherry MC38肝臓転移の境界領域におけるGFP発現の共焦点画像分析。肝臓切片を、GFP(緑色)、mCherry(赤色)、F4/80(灰色)及び核(青色)に関して染色した。境界領域は、最大200μmの距離の腫瘍周囲の領域と定義した。写真は10倍の倍率で撮影した。代表的な画像を左に示し、腫瘍と肝臓組織との間の界面を点線で示し、肝臓転移まで200μmの距離を破線で印を付している。右、腫瘍境界領域及び腫瘍に対して遠位の領域におけるパーセントでのGFP面積の定量化(n=5匹のマウス/群、対応のないt検定)。(c)表示したLV又はPBSで処理したマウス由来の種々の臓器のデジタルドロップレットPCRによるVCN分析(1群当たりn=5匹のマウス)。(d)GFPを発現する細胞の別個の型の割合を示す、表示したLVで処理したマウスの脾臓のフローサイトメトリー分析(1群当たりn=5匹のマウス)。(e)10倍の倍率で撮影したGFP(緑色)及び核(青色)に関して染色した表示した臓器の切片の代表的な免疫蛍光分析(n=5)。
【
図4-1】(a)1年間にわたるMrc1.IFNα.miRT(IFNα)、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=5匹~10匹のマウス/群)。(b)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中の表示した肝酵素の濃度(n=5匹~10匹のマウス-群)。(c)1年間にわたる表示した集団の細胞計数を示すMrc1.IFNα.miRT(IFNα)、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウス由来の血液の血球計数器で標準化したフローサイトメトリー分析(n=5匹~10匹のマウス-群)。
【
図4-2】
図4-1に続き、(d)IL10 cDNA(配列番号39)をMrc1.IFNα.miRT LVにおけるIFNαの場所に導入して、Mrc1.IL10.miRT LVを生じた。得られたLVを使用して、P388D1単球細胞系統を別個の感染多重度(MOI)で形質導入した。ELISAを使用することで形質導入P388D1条件細胞培養培地中のIL10濃度を測定した。(e)マウス1匹当たり1×10
7~5×10
7TUの範囲の単回用量のMrc1.IL10.miRT(IL10)LVを5週齢のマウスに静脈内で送達した。処理から21日後に血漿を収集した。パネルはELISAを使用することによる未処理(NT)又はMrc1.IL10.miRT処理マウスの血漿中のIL10濃度を示す(n=3匹のマウス-群、NDはNTマウスにおける未検出レベルを示す)。(f)単鎖機能的IL12分子を形成する557アミノ酸タンパク質をコードするDNA(配列番号40)、ここで1)1~23のアミノ酸は、マウスIL12ベータサブユニットのシグナルペプチドであり、2)24~28のアミノ酸は、アミノ酸配列AGQLM(配列番号41)で構成されるリンカー配列であり、3)29~340のアミノ酸は、マウスIL12のベータサブユニットのアミノ酸23~335であり、4)341~360のアミノ酸は、アミノ酸配列RRAGGGGSGGGGSGGGGSRT(配列番号42)で構成されるリンカー配列であり、5)361~553のアミノ酸は、アミノ酸44~236由来のマウスIL12サブユニットアルファ(アイソフォーム1)であり、6)554~557のアミノ酸は、アミノ酸配列TRAS(配列番号43)で構成される終結配列である。次に、単鎖IL12 cDNAをMrc1.IFNα.miRT LVにおけるIFNαの場所に挿入して、Mrc1.IL12.miRT LVを生じた。マウス1匹当たり2×10
6TUの単回用量のMrc1.IL12.miRT LVを6週齢のマウスに静脈内で送達した。処理から10日後に血漿を収集した。パネルはELISAを使用することによって測定したMrc1.ORFless.miRT(ORFless)又はMrc1.IL12.miRT(IL12)LV処理マウスの血漿中のIL12濃度を示す(n=5匹のマウス-群、NDはMrc1.ORFless.miRT処理マウスにおける未検出レベルを示す)。(g)パネルはMrc1.ORFless.miRT LV(ORFless)又はMrc1.IL12.miRT LV (IL12)のいずれによる静脈内での処理からの表示した時点での全血細胞(WBC)の計数を示す。マウスにLV処理から14日目にMC38.OVA癌細胞を皮下的に負荷したことは注目すべきである。
【
図5】(a)治療実験で使用したLVの模式図。(b)3×10
8TU/マウスの用量での腫瘍負荷から6日目のMrc1.IFNα.miRT (IFNα)若しくはMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=5匹~10匹のマウス/群)。(c)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスにおけるMC38転移による負荷から表示した時点での肝臓転移の累積体積を示す磁気共鳴画像(MRI)分析(n=10匹のマウス/群、サイダック補正を伴う二元配置分散分析)。(d)3×10
7TU/マウスの用量での腫瘍負荷から5日目のMrc1.IFNα.miRT(IFNα)若しくはMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=5匹~10匹のマウス/群)。(e)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスにおけるMC38転移による負荷から表示した時点での肝臓転移の累積体積を示すMRI分析(n=8匹、9匹のマウス/群、対応のないt検定)。(f)完全レスポンダー(CR)における又はPBS処理マウスにおける皮下MC38腫瘍の腫瘍成長(n=1、5)。
【
図6】(a)腫瘍負荷から3日目のMrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=6匹~9匹のマウス/群)。(b)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスにおけるMC38 OVA転移による負荷から表示した時点での肝臓転移の累積体積を示すMRI分析(n=9匹、10匹のマウス/群、サイダック補正を伴う二元配置分散分析)。(c)総CD8+Tのうちのペンタマー+(OVA特異的CD8 T細胞)の割合を示すMrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウス由来の肝臓転移のフローサイトメトリー分析(n=7匹、10匹のマウス-群)。(d)表示した細胞集団のうちのTAMの割合を示すMrc1.IFNα.miRT (IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウス由来の肝臓転移のフローサイトメトリー分析(n=7匹、10匹のマウス-群)。(e)分析の27日前に皮下MC38.OVA腫瘍を移植したマウス由来の臓器のフローサイトメトリー分析。マウスを、腫瘍移植の14日前にMrc1.ORFless.miRT(ORFless)又はMrc1.IL12.miRT(IL12)LVで処理した。左パネル、総CD45+細胞のうちの肝臓ペンタマー+(OVA特異的CD8 T細胞)の割合、右パネル、脾臓におけるペンタマー+CD8 T細胞のうちのCD44+ペンタマー+CD8 T細胞の割合(n=5匹のマウス-群、対応のないt検定)。(f)腫瘍移植の14日前にMrc1.ORFless.miRT(ORFless)又はMrc1.IL12.miRT(IL12)LVで処理したマウスにおける皮下移植したMC38.OVA腫瘍の腫瘍成長(n=5匹のマウス-群、対応のないt検定)。
【
図7-1】(a)腫瘍負荷から7日目のMrc1.IFNα.miRT(IFNα)、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=5匹~10匹のマウス/群)。(b)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスにおいて転移を生じるCRCオルガノイドによる負荷から表示した時点での肝臓転移の累積体積を示すMRI分析(n=9匹、10匹のマウス/群、対応のないt検定)。右上、代表的なMRI画像。矢印は単一転移を示している。右下、Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)処理群からの完全レスポンダー(CR)マウス。(c)表示した遺伝子に関してMrc1.IFNα.miRT(IFNα)対Mrc1.ORFless.miRTにおける変化倍数を示す原体肝臓及び肝臓転移のデジタルドロップレットPCRによる遺伝子発現分析。(d)総CD45細胞のうちのCD8+T細胞の割合を示すMrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウス由来の肝臓転移のフローサイトメトリー分析(n=7匹、10匹のマウス-群)。
【
図7-2】
図7-1に続き、(e)表示した細胞集団のうちのTAMの割合を示すMrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウス由来の肝臓転移のフローサイトメトリー分析(n=7匹、10匹のマウス-群)。(f)腫瘍負荷から7日目のMrc1.IFNα.miRT(IFNα)、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウスの血漿中のIFNα濃度を示すELISA分析(n=5匹~10匹のマウス/群)。(g)Mrc1.IFNα.miRT(IFNα)又はMrc1.ORFless.miRT(ORFless)LVで処理したマウスにおいて転移を生じるCRCオルガノイドによる負荷から表示した時点での累積肝臓転移の体積を示すMRI分析(n=9匹、10匹のマウス/群、対応のないt検定)。
【
図8】(a)総CD8+T細胞のうちのペンタマー+(OVA特異的CD8 T細胞)の割合を示すMrc1.OVA.miRT、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウス由来の血液のフローサイトメトリー分析(n=5匹、10匹のマウス-群)。(b)総ペンタマー+CD8+T細胞のうちのPD1+細胞の割合を示すMrc1.OVA.miRT又はMrc1.ORFless.miRT (ORFless)LVで処理したマウス由来の血液のフローサイトメトリー分析(n=5匹、10匹のマウス-群、対応のないt検定)。(c)総CD8+Tのうちのペンタマー+(OVA特異的CD8 T細胞)の割合を示すMrc1.IFNα.miRT、Mrc1.ORFless.miRT(ORFless)LV又はPBSで処理したマウス由来の肝臓のフローサイトメトリー分析(n=5匹、10匹のマウス-群、対応のないt検定)。
【発明を実施するための形態】
【0051】
本明細書中で使用する用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「構成される(comprised of)」は、「含む(including)」、「含む(includes)」又は「含有する(containing)」、「含有する(contains)」と同義であり、また包括的又は非限定的(open-ended)であって、追加の、記載されていない成員、エレメント又は方法ステップを除外するものではない。当該用語「含む(comprising)」、「含む(comprises)」及び「構成される(comprised of)」には、用語「からなる/から構成される(consisting of)」も含まれる。
【0052】
食細胞
本発明は、食細胞特異的導入遺伝子発現、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的導入遺伝子発現に関する。
【0053】
本明細書中で使用する場合、「食細胞」は、食作用が可能な特殊細胞である。食作用は、0.5μmよりも大きな粒子の認識、及びファゴソームとして知られる原形質膜由来小胞への摂取でありうる。食細胞は微生物病原体及びアポトーシス細胞を摂取することができる。したがって、食作用は微生物排除だけでなく、組織恒常性にとっても必須である(Rosales, C.及びUribe-Querol, E., 2017. BioMed research international, 2017)。
【0054】
適切には、本発明で標的とされる食細胞は肝臓及び/又は脾臓食細胞である。
【0055】
本明細書中で使用する場合、「肝臓食細胞」は主に肝臓組織中に存在する食細胞であってもよく、「脾臓食細胞」は主に脾臓組織中に存在する食細胞でありうる。
【0056】
適切には、食細胞は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、線維芽細胞、上皮細胞及び/又は内皮細胞でありうる。
【0057】
適切には、食細胞はマクロファージ、樹状細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞でありうる。例えば、食細胞は肝臓及び/若しくは脾臓マクロファージ、肝臓及び/若しくは脾臓樹状細胞、並びに/又は肝類洞壁内皮細胞でありうる。
【0058】
適切には、食細胞はプロフェッショナル食細胞(例えば、肝臓及び/又は脾臓プロフェッショナル食細胞)、例えば単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞及び好酸球でありうる。幾つかの実施形態では、食細胞はマクロファージ及び/又は樹状細胞である。
【0059】
適切には、食細胞はノンプロフェッショナル食細胞、例えば線維芽細胞、上皮細胞及び/又は内皮細胞でありうる。幾つかの実施形態では、食細胞は内皮細胞である。
【0060】
「プロフェッショナル食細胞」は単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、破骨細胞及び好酸球を含む。これらの細胞は微生物を排除すること及びそれらを適応免疫系の細胞に提示することを担う。更に、線維芽細胞、上皮細胞及び内皮細胞はまた、食作用を遂行することもできる。これらの「ノンプロフェッショナル」食細胞は微生物を摂取することはできないが、アポトーシス小体を排除する際に重要である(Rosales, C.及びUribe-Querol, E., 2017. BioMed research international, 2017)。
【0061】
マクロファージ
幾つかの実施形態では、食細胞はマクロファージ(例えば肝臓及び/又は脾臓マクロファージ)である。
【0062】
マクロファージは病原体又は他の生物学的材料由来の組織を取り除く自然免疫細胞である。成体哺乳動物において、マクロファージはそれらが優れた解剖学的及び機能的多様性を示す組織全てに見出される。組織において、マクロファージはそれ自身のテリトリーを占有する各細胞と規定のパターンで組織化されている。マクロファージは発達、恒常性から病原体に対する免疫応答に至る修復に及ぶ生物の生物学のほぼ全ての態様で役割を果たす。特に、腫瘍はマクロファージによって非常に集合されており、それらは腫瘍イニシエーション、進行、及び転移において重要な役割を果たしている(Ta, W., Chawla, A.及びPollard, J.W., 2013. Nature, 496, pp. 445-455)。
【0063】
肝臓マクロファージは、肝臓常在性マクロファージ、浸潤性マクロファージ(例えば骨髄(BM)由来マクロファージ)、無血管性腹膜マクロファージ、及び脾臓由来の単球を含みうる。脾臓は辺縁帯マクロファージ(MZMΦ)、辺縁性メタル好性マクロファージ(MMMΦ)、及び赤脾髄マクロファージ(RpMΦ)を含みうる。
【0064】
幾つかの実施形態では、食細胞は、M2様マクロファージ及び/又はMRC1+マクロファージ(例えば肝臓及び/又は脾臓M2様及び/又はMRC1+マクロファージ)である。
【0065】
マクロファージの活性化状態及び機能に従って、マクロファージは、M1様(古典的活性化マクロファージ)及びM2様(選択的活性化マクロファージ)に分けることができる。M1活性化は、細胞内病原体、細菌細胞壁成分、リポタンパク質、及びサイトカイン、例えばインターフェロンガンマ及び腫瘍壊死因子アルファによって誘導される。M1様マクロファージは炎症性サイトカイン分泌及び一酸化窒素(NO)の産生を特徴とし、効果的な病原体死滅メカニズムをもたらす。
【0066】
M2活性化は真菌細胞、寄生虫、免疫複合体、補体、アポトーシス細胞、マクロファージコロニー刺激因子、IL-4、IL-13、IL-10、腫瘍増殖因子ベータによって誘導される。M2様マクロファージは高い食作用能を有し、細胞外マトリックス(ECM)成分、血管新生因子及び走化性因子、並びにIL-10を産生する。病原体防御の他に、M2様マクロファージはアポトーシス細胞を取り除き、炎症性応答を軽減して、創傷治癒を促進することができる。M2様マクロファージは、炎症性、収束促進性(pro-resolving)、創傷治癒、組織修復、及び栄養性又は調節性マクロファージとして一般に知られている(Roszer, T., 2015. Mediators of inflammation, 2015)。
【0067】
M2様マクロファージは、Roszer, T., 2015. Mediators of inflammation, 2015に記載されるように1組のM2マーカーの遺伝子転写又はタンパク質発現に基づいて同定されうる。これらのマーカーは膜貫通糖タンパク質、スカベンジャー受容体、酵素、増殖因子、ホルモン、サイトカイン、及びサイトカイン受容体を含む。適切には、M2様マクロファージは1つ以上のM2マクロファージマーカー、例えばMRC1(CD206)、CD163、CD209、アルギナーゼ-1、Chi3l3、FIZZ1、MGL-1、及びデクチン-1を発現する。
【0068】
幾つかの実施形態では、食細胞はMRC1+マクロファージである。
【0069】
マンノース受容体C型1(MRC1)はまた、CD206、CLEC13D、及びCLEC13DLとしても知られている。MRC1はマクロファージ、未熟樹状細胞及び肝類洞壁内皮細胞の表面上に主に存在するC型レクチンであり、糖タンパク質のエンドサイトーシスを媒介する。例となるヒトMRC1配列はアクセッション番号UniProtKB P22897で記載される。例となるマウスMRC1配列はアクセッション番号UniProtKB Q61830で記載される。
【0070】
マウス及びヒトにおいて、腫瘍関連マクロファージ(TAM)、又は幾つかの常在性マクロファージ集団、例えばクッパー細胞(KC)、幾つかの脾臓マクロファージ、及び脂肪組織マクロファージを含むM2様分極マクロファージは高レベルのMRC1を発現する。MRC1はまた、幾つかの樹状細胞(DC)集団及び肝類洞壁内皮細胞(LSEC)によっても発現される(Pandey, E., A.S. Nour,及びE.N. Harris, Front Physiol, 2020. 11: p. 873)。
【0071】
幾つかの実施形態では、食細胞は常在性マクロファージ(例えば肝臓常在性マクロファージ又は脾臓常在性マクロファージ)である。
【0072】
身体中の組織の大部分が組織常在性マクロファージ集団を含有している。組織常在性マクロファージは、それらが個々に配置され、病原体又は環境負荷との遭遇に関して転写的にプログラムされている組織防御のフロントラインにおける免疫センチネルとしてのそれらの役割に関して知られている(Davies, L.C.ら, 2013. Nature immunology, 14(10), p. 986)。
【0073】
肝臓常在性マクロファージ(「肝臓マクロファージ」とも呼ばれる)は、クッパー細胞及び運動性肝臓マクロファージを含む。クッパー細胞は骨髄に関係なく、成体において維持され、血液から微生物及び細胞片を取り除き、老化した赤血球を取り除くよう機能する。クッパー細胞表現型マーカーとして、F4/80hi、CD11blo、CD169+、CD68+、ガレクチン-3+、及びCD80lo/-が挙げられうる。運動性肝臓マクロファージは免疫監視機能を有し、表現型マーカーとして、F4/80+、CD11b+、及びCD80hiが挙げられうる(Davies, L.C.ら, 2013. Nature immunology, 14(10), p. 986)。
【0074】
脾臓常在性マクロファージとして、辺縁帯マクロファージ(MZMΦ)、辺縁性メタル好性マクロファージ(MMMΦ)、及び赤脾髄マクロファージ(RpMΦ)が挙げられる。微小解剖的には、脾臓は辺縁帯(MZ)によって分離されている白脾髄及び赤脾髄(Rp)に分けられている。RpMΦはRp内部に莫大なネットワークを形成し、マウスにおいてF4/80高CD68+CD11b低/-の発現及び強烈な自己蛍光を特徴とする。MZの内部では、マクロファージの2つの集団を識別することができる。MZMΦは通常、それらの表面でC型レクチンSIGN関連1(SIGNR1)及びI型スカベンジャー受容体と呼ばれるコラーゲン構造を有するマクロファージ受容体(MARCO)を発現する。MMMΦは、分子の中でもとりわけ、シアル酸結合Ig様レクチン-1(Siglec-1、シアロアドヘシン、CD169)及びMOMA-1の発現によって規定される。
【0075】
幾つかの実施形態では、食細胞は浸潤性マクロファージ(例えば、肝臓浸潤性マクロファージ又は脾臓浸潤性マクロファージ)、例えば骨髄(BM)由来マクロファージである。
【0076】
幾つかの実施形態では、食細胞は無血管性腹膜マクロファージ(PM)である。
【0077】
PMは、自己再生能を有する腹膜腔に存在し、2つの別個のPMサブセット、即ち大腹膜マクロファージ(LPM)及び小腹膜マクロファージ(SPM)として存在する。LPMは胚前駆体に由来し、F4/80高CD11b高MHCII低表現型を示す定常条件下で最も豊富なサブセットを表す。その一方で、SPMはF4/80低CD11b低MHCII高表現型を有する微量なサブセットであり、BM由来骨髄前駆体に由来し、主に感染中に出現する。
【0078】
幾つかの実施形態では、食細胞は単球由来マクロファージ(例えば、肝臓及び/又は脾臓単球由来マクロファージ)である。
【0079】
単球は血中を循環し、粘膜組織又は炎症部位に補充され、そこで単球は単球由来マクロファージ又は単球由来樹状細胞に分化しうる。MerTK、CD68、CD163、及び転写因子MAFBは、マクロファージの頑強なマーカーであるとみなされるのに対して、樹状細胞はCD1a、CD1b、FcεRI、及びCD226を発現する。マクロファージは多くの食作用小胞を含有する大細胞である。対比して、樹状細胞はより小さく、それらの表面上に樹状突起を示す(Segura, E.及びCoillard, A., 2019. Frontiers in immunology, 10, p. 1907)。
【0080】
幾つかの実施形態では、食細胞は腫瘍関連マクロファージ(例えば、肝臓及び/又は脾臓腫瘍関連マクロファージ)である。
【0081】
腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、固形腫瘍の微小環境中に多数で存在するマクロファージの一種である。腫瘍関連マクロファージ(TAM)は、遺伝的不安定性を促進すること、癌幹細胞を助長すること、転移を支持すること、及び防御適応免疫を抑えることによって、種々のレベルで腫瘍進行に寄与する。TAMは病期、関与する組織、及び宿主微生物叢に応じて、癌に対して二重の支持的及び阻害的影響を与えうる(Mantovani, A.ら, 2017. Nature reviews Clinical oncology, 14(7), p. 399)。
【0082】
幾つかの実施形態では、食細胞はMRC1+肝臓マクロファージ(例えば、クッパー細胞)及び/又はMRC1+脾臓マクロファージである。
【0083】
幾つかの実施形態では、食細胞はクッパー細胞である。
【0084】
樹状細胞
幾つかの実施形態では、食細胞は樹状細胞(例えば、肝臓及び/又は脾臓樹状細胞)である。
【0085】
樹状細胞(DC)は哺乳動物免疫系の抗原提示細胞である。それらの主な機能は、抗原材料をプロセシングして、それを細胞表面上で、免疫系のT細胞へ提示することである。
【0086】
正常な肝臓では、DCは通常、門脈三分岐炎付近にのみ存在し、他の抹消部位におけるDCと同様に、抗原を効率的に捕捉して、プロセシングして、局所リンパ系組織に輸送することが可能である。LSEC及びKCと比較して、単離したての肝DCは主に未熟細胞であり、表面MHCを発現するが、T細胞活性化に必要な共刺激分子はあまり発現しない(Lau, A.H.及びThomson, A.W., 2003. Gut, 52(2), pp. 307-314)。
【0087】
種々の成熟段階及び種々のサブセットでの通常型/骨髄DC(cDC)及び形質細胞様DC(pDC)はともに、ヒト脾臓に存在する(Velasquez-Lopera, M.M.ら, 2008. Clinical & Experimental Immunology, 154(1), pp. 107-114)。
【0088】
内皮細胞
幾つかの実施形態では、細胞は内皮細胞(例えば、肝臓及び/又は脾臓内皮細胞)である。例えば、食細胞は肝類洞壁内皮細胞(LSEC)でありうる。
【0089】
LSECはヒト身体において最も高いエンドサイトーシス能の1つを有し、エンドサイトーシス受容体を通じて可溶性巨大分子及び小粒子を取り除くことができる。LSECを同定するのに使用される特徴として、(a)それらの高くて迅速なエンドサイトーシス能、(b)横隔膜を有さず、櫛板において組織化された有窓構造(fenestrae)、及び(c)表面マーカー、例えばVEGFR3+CD34-VEGFR2+VE-カドヘリン+第VIII因子+CD45-又はCD31+、LYVE-1+、L-SIGN+、スタビリン-1+、CD34-、PROX-1-が挙げられる(Poisson, J., et al.ら, 2017. Journal of hepatology, 66(1), pp. 212-227)。
【0090】
幾つかの実施形態では、食細胞はLSECである。
【0091】
別の態様では、本発明はLSEC特異的発現のためのベクターを提供し、ここでベクターは1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結された導入遺伝子を含む。
【0092】
ベクター
ある態様では、本発明は食細胞特異的発現、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現のためのベクターを提供する。
【0093】
食細胞特異的発現
ベクターは食細胞特異的発現ベクター、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現ベクターでありうる。用語「食細胞特異的発現」、「肝臓食細胞特異的発現」及び「脾臓食細胞特異的発現」は本明細書中で使用する場合、他の細胞(例えば、血液、肺及び骨髄細胞)と比較した場合の食細胞における導入遺伝子(例えば、ポリペプチド又はRNAとして)の優先的又優勢的発現を指しうる。幾つかの実施形態では、導入遺伝子発現の少なくとも50%が食細胞で行われる。幾つかの実施形態では、導入遺伝子発現の少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%が食細胞で行われる。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は食細胞において実質的に独占的に発現される。
【0094】
例えば、
(i)ベクターによって形質導入された食細胞における導入遺伝子発現は、ベクターによって形質導入された他の細胞における導入遺伝子の発現よりも高い可能性がある、及び/又は
(ii)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、食細胞以外の細胞では実質的に発現されえない、及び/又は
(iii)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞では実質的に発現されえない、及び/又は
(iv)導入遺伝子は幾つかの肝臓細胞及び/又は幾つかの脾臓細胞においてのみ実質的に発現されうる、及び/又は
(v)クッパー細胞における導入遺伝子の発現はベクターによって形質導入された場合、肝細胞における発現よりも少なくとも10倍高い可能性がある、及び/又は
(vi)導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されえない。
【0095】
導入遺伝子の発現は当業者に既知の任意の適切な方法によって決定されうる。例えば、導入遺伝子がレポーター遺伝子(例えば、GFP)である場合、フローサイトメトリー分析を使用して、種々の細胞型における発現レベルを決定しうる。或いは、導入遺伝子がレポーター遺伝子(例えば、GFP)である場合、免疫蛍光分析(例えば、共焦点画像分析による)を使用して、種々の細胞型における発現レベルを決定しうる。
【0096】
適切には、ベクターによって形質導入された食細胞における導入遺伝子の発現は、ベクターによって形質導入された他の細胞における導入遺伝子の発現よりも高い可能性がある。例えば、ベクターによって形質導入された食細胞における導入遺伝子の発現は、ベクターによって形質導入された他の細胞よりも少なくとも10倍、少なくとも20倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも100倍高い可能性がある。
【0097】
適切には、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、食細胞以外の細胞では実質的に発現されない。例えば、導入遺伝子を発現する食細胞以外の細胞の割合は5%若しくはそれ未満、2%若しくはそれ未満、1%若しくはそれ未満、又は0%でありうる。例えば、食細胞以外の細胞における導入遺伝子の発現は検出不可能でありうる。
【0098】
適切には、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞では実質的に発現されない。例えば、導入遺伝子を発現する肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞の割合は5%又はそれ未満、2%又はそれ未満、1%又はそれ未満、又は0%でありうる。例えば、肺細胞、骨髄細胞及び/又は血液細胞における導入遺伝子の発現は検出不可能でありうる。
【0099】
適切には、導入遺伝子は、肝臓細胞及び/又は脾臓細胞においてのみ実質的に発現されうる。例えば、導入遺伝子を発現する肝臓細胞及び/又は脾臓細胞以外の細胞型の割合は5%若しくはそれ未満、2%若しくはそれ未満、1%若しくはそれ未満、又は0%でありうる。例えば、肝臓細胞及び/又は脾臓細胞以外の細胞型における導入遺伝子の発現は検出不可能でありうる。
【0100】
適切には、クッパー細胞における導入遺伝子の発現はベクターによって形質導入された場合、肝細胞における発現よりも少なくとも10倍高い可能性がある。例えば、クッパー細胞における導入遺伝子の発現は肝細胞における発現よりも少なくとも10倍高い、少なくとも20倍高い、又は少なくとも50倍高い可能性がある。
【0101】
適切には、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、肝細胞では実質的に発現されえない。例えば、導入遺伝子を発現する肝細胞の割合は5%若しくはそれ未満、2%若しくはそれ未満、1%若しくはそれ未満、又は0%でありうる。例えば、肝細胞における導入遺伝子の発現は検出不可能でありうる。
【0102】
適切には、クッパー細胞における導入遺伝子の発現はベクターによって形質導入された場合、LSECにおける発現よりも少なくとも10倍高い可能性がある。例えば、クッパー細胞における導入遺伝子の発現は、LSECにおける発現よりも少なくとも10倍高い、少なくとも20倍高い、又は少なくとも50倍高い可能性がある。
【0103】
適切には、導入遺伝子はベクターによって形質導入された場合、LSECでは実質的に発現されえない。例えば、導入遺伝子を発現するLSECの割合は5%若しくはそれ未満、2%若しくはそれ未満、1%若しくはそれ未満、又は0%でありうる。例えば、LSECにおける導入遺伝子の発現は検出不可能でありうる。
【0104】
ベクターが組込み用ベクター(例えば、インテグラーゼ能を有する)である場合、ベクターのコピーは例えば、食細胞、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞に特異的に組込まれうる。例えば:
(i)肝臓及び脾臓におけるベクターの組込みは他の臓器(例えば、リンパ節、脳、小腸、血液、骨髄)におけるベクターの組込みよりも高い可能性がある、及び/又は
(ii)ベクターの組込みは肝臓、脾臓、任意選択で血液及び任意選択で骨髄において実質的に起こりうる、及び/又は
(iii)ベクターの組込みはリンパ節、脳、小腸では実質的に起こりえない。
【0105】
ベクターの組込みは当業者に既知の任意の適切な方法によって決定されうる。例えば種々の臓器の定量的デジタルドロップレットPCRによる、例えばウイルスコピー数分析。
【0106】
適切には、肝臓及び脾臓におけるベクターの組込みは他の臓器、例えばリンパ節、脳、小腸、血液、骨髄におけるベクターの組込みよりも高い。例えば、肝臓及び脾臓のウイルスコピー数は他の臓器よりも少なくとも10倍、少なくとも20倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも100倍高い可能性がある。
【0107】
適切には、ベクターの組込みは肝臓、脾臓、任意選択で血液及び任意選択で骨髄において実質的に起きる。例えば、肝臓及び脾臓、任意選択で血液及び任意選択で骨髄におけるベクターの組込みは少なくとも検出可能でありうる。
【0108】
適切には、ベクターの組込みはリンパ節、脳、小腸では実質的に起きない。例えば、リンパ節、脳、小腸におけるベクターの組込みは検出不可能でありうる。これらの生物学的コンパートメントは全て、ベクターの全身送達時に導入遺伝子を潜在的に発現することができる常在性マクロファージ集団のホストとなる。
【0109】
ウイルスベクター
適切には、本発明のベクターはウイルスベクターである。本発明のベクターはレンチウイルスベクターでありうるが、他のベクターを使用してよいと意図される。
【0110】
他の適切なウイルスベクターはLundstrom, K., 2018. Diseases, 6(2), p. 42に記載されるものを含む。例えば、他の適切なウイルスベクターとして、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、アルファウイルスベクター、フラビウイルスベクター、ラブドウイルスベクター、麻疹ウイルスベクター、ニューカッスル病ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、及びピコルナウイルスベクターが挙げられる。
【0111】
本発明のベクターはウイルスベクター粒子の形態で存在しうる。適切には、本発明のウイルスベクターはレンチウイルスベクター粒子の形態で存在する。
【0112】
ベクターは組込み用ウイルスベクター又は非組込み用ウイルスベクターでありうる。「組込み用ウイルスベクター」は宿主細胞への形質導入後に宿主細胞ゲノムへ組込むことが可能である。「非組込み用ウイルスベクター」は宿主細胞への形質導入後に宿主細胞ゲノムへ組込むことが不可能であるか、又は非常に弱い組込み能を示す。
【0113】
ウイルスベクター及びウイルスベクター粒子、例えばレンチウイルスベクターを調製及び改変する方法は、当該技術分野で周知である。適切な方法は、Merten, O.W.ら., 2016. Molecular Therapy-Methods & Clinical Development, 3, p. 16017、Nadeau, I.及びKamen, A., 2003. Biotechnology advances, 20(7-8), pp. 475-489、Ayuso, E.ら, 2010. Current gene therapy, 10(6), pp. 423-436、並びにGoins, W.F.ら, 2008. Methods Mol Biol. 433, pp. 97-113に記載されている。
【0114】
レトロウイルス及びレンチウイルスベクター
本発明のベクターは、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターでありうる。本発明のベクターは、レトロウイルスベクター粒子又はレンチウイルスベクター粒子でありうる。
【0115】
レトロウイルスベクターは、任意の適切なレトロウイルスから誘導されるものであってもよく、又は誘導可能でありうる。多種多様なレトロウイルスが同定されている。例として、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳癌ウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、藤浪肉腫ウイルス(FuSV)、モロニ-マウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニ-マウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、アベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、トリ骨髄球腫症ウイルス-29(MC29)及びニワトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。
【0116】
レトロウイルスは大きく2つのカテゴリー、「単純型」と「複雑型」に分類されうる。レトロウイルスは7つの群に更に分類されうる。これらの群のうちの5つは、発癌能を有するレトロウイルスである。残り2つの群はレンチウイルス及びスプーマウイルスである。
【0117】
レトロウイルス及びレンチウイルスゲノムの基本構造は、5'LTR及び3'LTRなどの多くの共通の特徴を共有する。これらの間又は内部に、ゲノムのパッケージングを可能にするためのパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノム内への組込みを可能にするための組込み部位、並びにパッケージング成分(これらはウイルス粒子の構築に必要なポリペプチドである)をコードするgag、pol及びenv遺伝子が位置している。レンチウイルスは追加的な特徴、例えば、HIVにおけるrev及びPRE配列を有し、これらは感染標的細胞の核から細胞質への、組込まれたプロウイルスのRNA転写物の効率的な輸送を可能にする。
【0118】
プロウイルスでは、これらの遺伝子は両端に、長い末端反復(LTR)と称される領域が隣接している。LTRはプロウイルスの組込み及び転写に関与している。またLTRはエンハンサー-プロモーター配列としても働き、ウイルス遺伝子の発現を制御することができる。
【0119】
LTRはそれら自体が、3つのエレメント:U3、R及びU5に分類されうる同一の配列である。U3はRNAの3'末端に特有の配列に由来する。RはRNAの両末端において反復する配列に由来する。U5はRNAの5'末端に特有の配列に由来する。この3エレメントのサイズは、異なるレトロウイルス間ではかなり異なる可能性がある。
【0120】
欠陥レトロウイルスベクターゲノムでは、gag、pol及びenvは存在しない可能性があるか又は機能的ではない可能性がある。
【0121】
典型的なレトロウイルスベクターでは、複製に必須の1つ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部がウイルスから除去されうる。これによりウイルスベクターが複製欠陥性となる。また標的宿主細胞を形質導入し、及び/又はそのゲノムを宿主ゲノム内に組込むことが可能な候補モジュレート部分(candidate modulating moieties)を含むベクターを生成するように、ウイルスゲノムの一部をベクターゲノム内の調節制御領域及びレポーター部分に作動可能に連結された候補モジュレート部分をコードするライブラリーで置き換えてもよい。
【0122】
レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターのより大きな群の一部である。簡潔に述べると、レンチウイルスは霊長類群及び非霊長類群に分類することができる。霊長類レンチウイルスの例として、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因物質であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)、及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられるが、これらに限定されない。非霊長類レンチウイルスの例として、原型の「スローウイルス」であるビスナ/マエディウイルス(VMV)、並びに関連のあるヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、及びより最近になって記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)及びウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0123】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞及び非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点で、レトロウイルスとは異なる。対照的に、他のレトロウイルス、例えばMLVは、非分裂細胞又は分裂が遅い細胞、例えば、筋肉、脳、肺及び肝組織を構成する細胞に感染することが不可能である。
【0124】
「レンチウイルスベクター」は、本明細書中で使用する場合、レンチウイルスから誘導可能な少なくとも1つの成分部分を含むベクターである。適切には、当該成分部分は、ベクターが細胞に感染し、遺伝子を発現するか又は複製される生物学的メカニズムに関与する。
【0125】
レンチウイルスベクターは、「霊長類」ベクターでありうる。レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクターでありうる(即ち、主に霊長類、特にヒトに感染しないウイルスに由来)。非霊長類レンチウイルスの例は、霊長類に自然には感染しないレンチウイルス科(lentiviridae)のファミリーの任意の成員でありうる。
【0126】
レンチウイルスベースのベクターの例として、HIV-1及びHIV-2ベースのベクターを以下に記載する。
【0127】
HIV-1ベクターは、単純レトロウイルスにも見出されるシス作用エレメントを含有している。gagオープンリーディングフレームに及ぶ配列はHIV-1のパッケージングにとって重要であることが示されている。したがって、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンが突然変異しているgagの関連部分を含有していることが多い。更に、大抵のHIV-1ベクターは、RREを含むenv遺伝子の一部も含有している。RevはRREに結合し、これにより核から細胞質への完全長又は1回スプライシングされた(singly spliced)mRNAの輸送が可能となる。Rev及び/又はRREの非存在下では、完全長HIV-1 RNAは核に蓄積する。或いは、ある特定の単純レトロウイルス、例えばメーソン・ファイザー・サルウイルス由来の構成的輸送エレメントを使用して、Rev及びRREの必要条件を緩和することができる。HIV-1 LTRプロモーターからの効率的な転写にはウイルスタンパク質Tatが必要である。
【0128】
大抵のHIV-2ベースのベクターは、HIV-1ベクターと構造的に非常に類似している。HIV-1ベースのベクターと同様に、HIV-2ベクターもまた、完全長又は1回スプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送のためにRREを必要とする。
【0129】
任意選択で、本発明において使用するウイルスベクターは、最小ウイルスゲノムを有する。
【0130】
「最小ウイルスゲノム」とは、ウイルスベクターが、標的宿主細胞に目的のヌクレオチド配列を感染させて、形質導入して、送達するのに必要とされる機能性を付与するために、非必須エレメントを除去し且つ必須エレメントを保持するように操作されていることであると理解すべきである。この戦略の更なる詳細は、国際公開第1998/017815号に見出すことができる。
【0131】
任意選択で、ウイルスゲノムを宿主細胞/パッケージング細胞内で産生させるのに使用するプラスミドベクターは、標的細胞に感染する能力を有するが、最終標的細胞内で感染性ウイルス粒子を産生するための非依存的複製が不可能なウイルス粒子への、パッケージング成分の存在下でのRNAゲノムのパッケージングを可能にするのに十分なレンチウイルスの遺伝情報を有する。任意選択で、ベクターは、機能的gag-pol及び/又はenv遺伝子及び/又は複製に必須の他の遺伝子を欠損している。
【0132】
しかしながら、宿主細胞/パッケージング細胞内でウイルスゲノムを産生させるのに使用するプラスミドベクターは、宿主細胞/パッケージング細胞におけるゲノムの転写を誘導するために、レンチウイルスゲノムに作動可能に連結された転写調節制御配列も含む。これらの調節配列は、転写されるウイルス配列に関連した天然配列(即ち、5'U3領域)であってもよく、又はそれらは異種プロモーター、例えば別のウイルスプロモーター(例えばCMVプロモーター)であってもよい。
【0133】
ベクターは、ウイルスのエンハンサー及びプロモーター配列が欠失された自己不活性化(SIN)ベクターであってもよい。SINベクターを生成し、野生型ベクターの有効性と同様の有効性で、in vivoで非分裂細胞を形質導入することができる。SINプロウイルス中の長い末端反復(LTR)の転写不活性化は、複製能を持つウイルスによる動員を阻止するはずである。これは同様に、LTRのあらゆるシス作用性効果を排除することにより内部プロモーターからの遺伝子の調節された発現を可能にするはずである。
【0134】
ベクターは組込み欠陥性(すなわち、組込み欠陥)であってもよい。組込み欠陥レンチウイルスベクターは、例えば、ベクターを触媒不活性型インテグラーゼ(例えば、触媒部位にD64V突然変異を持つHIVインテグラーゼ)を用いてパッケージングすることによって、又はベクターLTRから必須att配列を改変するか若しくは欠失させることによって、又は上記の組合せによって産生することができる。
【0135】
幾つかの実施形態では、ベクターはインテグラーゼ欠陥レンチウイルスベクターである。幾つかの実施形態では、ベクターはインテグラーゼ能を有するレンチウイルスベクターである。
【0136】
水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV-G)シュードタイプレンチウイルスベクター(LV)は全身送達時に、効率的且つ特異的に肝臓を標的とする可能性があり、肝臓及び脾臓食細胞集団によって優先的に内部移行されるが、内皮細胞を含む他の細胞型及び、肝細胞も形質導入される(Milani, M.ら, Sci Transl Med, 2019. 11(493))。したがって、VSV-GシュードタイプLVは目的の遺伝子を肝臓細胞集団に送達するための優れたツールである。
【0137】
適切には、ベクターはVSV-Gシュードタイプである。幾つかの実施形態では、ベクターはVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクター粒子である。
【0138】
プロフェッショナル食細胞及び抗原提示細胞(APC)への遺伝子移入はLV粒子上のCD47分子の存在によって制約されている。CD47を持たないLVは、感染力の保持及び食作用に対する感受性の実質的な増加を示す。CD47を持たないLVはex vivo及びin vivoの両方でより効率的にプロフェッショナル食細胞を形質導入し、CD47を持つLVと比較して、マウスへの全身投与時のサイトカイン応答の実質的により大きな上昇を誘導する。CD47を持たないLVは、これまでに入手可能なLVと比較して、ヒト初代単球への遺伝子移入の効率の増加を可能にし、初代ヒトマクロファージによるex vivoの及びマウスに全身投与された場合のin vivoの両方で食作用に対する感受性の増加を有する。例えば、表面上にCD47分子を欠如しているVSV-GシュードタイプLVは、CD47を持つVSV-GシュードタイプLVよりも、肝臓及び脾臓のプロフェッショナル食細胞によってより一層効率的に取り込まれる。
【0139】
同種異系ヒト白血球抗原(HLA)、例えばMHC-Iもまた免疫系によって認識されうる。例えば、抗体はHLAエピトープに直接結合しうる。結果として、同種異系起源に由来するHLAタンパク質を含む細胞及びエンベロープウイルスが免疫系によって標的とされ、中和されうる。表面露出HLA分子の数の減少又は欠如は、ウイルスがHLAへの抗体結合によって中和される可能性が低くなるため、ワクチンとしての使用のためのウイルスにおいて有利である。
【0140】
CD47を持たない及び/又はHLAを持たないベクターを産生する適切な方法は国際公開第2019/219836号に記載されている。
【0141】
幾つかの実施形態では、ベクターは表面露出CD47及び/又はHLA分子を実質的に欠如している。幾つかの実施形態では、ベクターは、表面露出CD47及び/又はHLA分子を実質的に欠如しているVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクター粒子である。
【0142】
本明細書中で使用する用語「実質的に欠如」は、ベクターがマクロファージ、食細胞、抗原提示細胞及び/若しくは単球を形質導入する能力の治療上有用な増大を示し、並びに/又は全身投与時にサイトカイン応答を誘導するように、分子の発現を低減するよう遺伝子操作されていない細胞において(但し、他の点では実質的に同一条件下で)産生されるベクターの表面上で発現される分子の数と比較して、表面上で発現される分子の数の実質的な減少が見られることを意味する。
【0143】
幾つかの実施形態では、ベクターは任意の表面露出CD47分子及び/又はHLA分子を含まない。幾つかの実施形態では、ベクターは任意の表面露出CD47分子及び/又はHLA分子を含まないVSV-Gシュードタイプレンチウイルスベクター粒子である。
【0144】
アデノウイルスベクター
本発明のベクターはアデノウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはアデノウイルスベクター粒子でありうる。
【0145】
アデノウイルスは、RNA中間体を経由しない二本鎖の線状DNAウイルスである。遺伝子配列の相同性に基づいて6つの亜群に分類される、50種を超える種々のヒトアデノウイルス血清型が存在する。アデノウイルスの天然の標的は呼吸器及び消化器の上皮であり、一般的には軽度の症状のみを引き起こす。血清型2及び血清型5(95%配列相同性を有する)はアデノウイルスベクター系で最も一般的に使用されており、通常、若年層の上気道感染と関連付けられている。
【0146】
アデノウイルスは遺伝子治療用及び異種遺伝子の発現用のベクターとして使用されている。大きい(36kb)ゲノムは最大8kbの外来インサートDNAを収容することが可能であり、補完細胞系において効率的に複製して、最大で1012の非常に高い力価を生じることが可能である。したがって、アデノウイルスは、初代非複製細胞における遺伝子の発現を研究するための最良の系の1つである。
【0147】
アデノウイルスゲノムからのウイルス遺伝子又は外来遺伝子の発現は、複製細胞を必要としない。アデノウイルスベクターは、受容体依存性エンドサイトーシスにより細胞に侵入する。細胞内に入ると、アデノウイルスベクターが宿主染色体内に組込まれることは滅多にない。それよりむしろ、それらは宿主核内で線状ゲノムとしてエピソーム的に(宿主ゲノムとは独立して)機能する。したがって、組換えアデノウイルスの使用は、宿主ゲノムへのランダムな組込みと関連付けられる問題を軽減する。
【0148】
アデノ随伴ウイルスベクター
本発明のベクターはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターでありうる。本発明のベクターは、AAVベクター粒子の形態でありうる。
【0149】
AAVベクター又はAAVベクター粒子はAAVゲノム又はその断片若しくは誘導体を含みうる。AAVゲノムはポリヌクレオチド配列であり、これはAAV粒子の産生に必要とされる機能をコードしうる。これらの機能として、AAV粒子へのAAVゲノムのキャプシド形成を含む、宿主細胞におけるAAVの複製及びパッケージング周期において働く機能が挙げられる。天然に存在するAAVは複製欠陥性であり、また複製及びパッケージング周期の完了に関するトランスでのヘルパー機能の供給に依存している。したがって、AAVゲノムは通常、複製欠陥性である。
【0150】
AAVゲノムはプラス若しくはマイナス鎖のいずれかの一本鎖形態であってもよく、又はその代わりに二本鎖形態であってもよい。二本鎖形態の使用により、標的細胞でのDNA複製ステップの回避が可能となり、そのため導入遺伝子発現を加速することができる。
【0151】
自然に存在するAAVは、様々な生物学的系に従って分類されうる。AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株又はクレードに由来しうる。
【0152】
AAVは、その血清型の観点から言及されうる。血清型はAAVのバリアント亜種に相当し、このバリアント亜種は、キャプシド表面抗原の発現のそのプロファイルのために、それを他のバリアント種と区別するのに使用することができる特徴的な反応性を有する。通常、特定のAAV血清型を有するAAVベクター粒子は、任意の他のAAV血清型に特異的な中和抗体と効率的に交差反応しない。AAV血清型には、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10及びAAV11が含まれる。
【0153】
AAVは、クレード又はクローンの観点からも言及されうる。これは天然由来のAAVの系統関係、及び通常は、共通の祖先まで遡ることができるAAVの系統群を指し、その全ての子孫を含む。更に、AAVは、特定の分離株、即ち自然界に見出される特定のAAVの遺伝的分離株の観点からも言及されうる。用語遺伝的分離株は、他の天然に存在するAAVとの限定的な遺伝的混合を経たAAVの集団を表しており、それにより遺伝子レベルで認識できるほど異なる集団を定義するものである。
【0154】
通常、AAVの天然由来の血清型、分離株又はクレードのAAVゲノムは、少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)を含む。ITR配列はシスで作用して、機能的な複製起点を提供し、且つ細胞のゲノムからのベクターの組込み及び切り出しを可能にする。ITRは、治療遺伝子の隣にシスで必要とされる唯一の配列でありうる。適切には、1つ以上のITR配列は導入遺伝子に隣接している。
【0155】
AAVゲノムはまた、パッケージング遺伝子、例えばAAV粒子のためのパッケージング機能をコードするrep及び/又はcap遺伝子を含みうる。プロモーターはパッケージング遺伝子の各々に作動可能に連結されうる。そのようなプロモーターの具体例として、p5、p19及びp40プロモーターが挙げられる。例えば、p5及びp19プロモーターは一般にrep遺伝子を発現するのに使用されるのに対し、p40プロモーターは一般にcap遺伝子を発現するのに使用される。rep遺伝子は、タンパク質Rep78、Rep68、Rep52及びRep40又はそのバリアントの1つ以上をコードする。cap遺伝子は、1つ以上のキャプシドタンパク質、例えばVP1、VP2及びVP3又はそのバリアントをコードする。
【0156】
AAVゲノムは、天然に存在するAAVの完全ゲノムでありうる。例えば、完全AAVゲノムを含むベクターを使用して、AAVベクター又はベクター粒子を調製しうる。
【0157】
適切には、AAVゲノムは、患者への投与を目的として誘導体化されている。そのような誘導体化は当該技術分野では標準的であり、本発明は、AAVゲノムの任意の既知の誘導体、及び当該技術分野で既知の技法を応用することにより生成されうる誘導体の使用を包含する。AAVゲノムは任意の天然に存在するAAVの誘導体であってもよい。適切には、AAVゲノムは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、又はAAV11の誘導体である。
【0158】
AAVゲノムの誘導体には、in vivoで本発明のAAVベクターからの導入遺伝子の発現を可能にする、任意の切断型又は改変型のAAVゲノムが含まれる。通常、最小ウイルス配列を含むが上記機能は保持するようにAAVゲノムを大幅に切断することが可能である。これは、ベクターの野生型ウイルスとの組換えのリスクを低減し、標的細胞中のウイルス遺伝子タンパク質の存在による細胞性免疫応答の誘発を回避しうる。
【0159】
通常、誘導体は少なくとも1つの逆方向末端反復配列(ITR)、好ましくは2つ以上のITR、例えば2つのITR又はそれ以上を含む。ITRの1つ以上が、異なる血清型を有するAAVゲノムに由来していてもよく、又はキメラ若しくは突然変異ITRであってもよい。適切な突然変異ITRは、trs(末端分離部位(terminal resolution site))の欠失を有するものである。この欠失によりゲノムの連続複製を可能にして、コード配列及び相補配列の両方を含有する一本鎖ゲノム、即ち自己相補的AAVゲノムを生成する。これにより、標的細胞におけるDNA複製の回避が可能となり、そのため導入遺伝子発現を加速させることが可能となる。
【0160】
AAVゲノムは、AAVの任意の天然由来の血清型、分離株若しくはクレードからの1つ以上のITR配列又はそのバリアントを含みうる。AAVゲノムは、少なくとも1つ、例えば2つの、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、若しくはAAV11のITR、又はそのバリアントを含みうる。
【0161】
1つ以上のITRは両端で導入遺伝子に隣接しうる。1つ以上のITRを含めることは、例えば宿主細胞のDNAポリメラーゼの作用による一本鎖ベクターDNAの二本鎖DNAへの変換後に、宿主細胞の核におけるAAVベクターのコンカテマー形成を補助することができる。そのようなエピソームコンカテマーの形成は、宿主細胞の寿命期間中はAAVベクターを防御し、それによりin vivoでの導入遺伝子の長期発現を可能にする。
【0162】
適切には、ITRエレメントは、誘導体において自然AAVゲノムから保持された唯一の配列である。適切には、誘導体は、自然ゲノムのrep及び/又はcap遺伝子並びに自然ゲノムの任意の他の配列を含まない可能性がある。これは、宿主細胞ゲノムにベクターが組込まれる可能性を低減しうる。更に、AAVゲノムのサイズを縮小することで、ベクター内に導入遺伝子だけでなく他の配列エレメント(例えば、調節エレメント)を組み入れる際の柔軟性を高めることが可能である。
【0163】
したがって、本発明の誘導体では下記部分、即ち、1つの逆方向末端反復(ITR)配列、複製(rep)及びキャプシド(cap)遺伝子を除去しうる。しかしながら、誘導体は、1つ以上のrep及び/又はcap遺伝子或いはAAVゲノムの他のウイルス配列を更に含みうる。天然に存在するAAVはヒト第19染色体上の特定の部位に高頻度で組込まれ、無視できる頻度のランダムな組込みを示し、したがってAAVベクターにおける組込み能力の保持が治療環境において許容されうる。
【0164】
本発明は更に、自然AAVゲノムの配列の順序及び配置とは異なる順序及び配置でのAAVゲノムの配列の提供を包含する。本発明はまた、1つ以上のAAV配列若しくは遺伝子と、別のウイルス由来の配列又は1つよりも多いウイルス由来の配列で構成されるキメラ遺伝子との置き換えも包含する。そのようなキメラ遺伝子は、種々のウイルス種の2つ以上の関連ウイルスタンパク質由来の配列で構成されうる。
【0165】
AAVベクター粒子は、キャプシドタンパク質によりキャプシド形成されていてもよい。適切には、AAVベクター粒子は、1つの血清型のITRを有するAAVゲノム又は誘導体が異なる血清型のキャプシド中にパッケージングされているトランスキャプシド(transcapsidated)形態であってもよい。AAVベクター粒子はまた、2つ以上の異なる血清型由来の非改変キャプシドタンパク質の混合物がウイルスキャプシドを構成しているモザイク形態も含む。AAVベクター粒子はまた、キャプシド表面に吸着されたリガンドを持つ化学修飾形態も含む。例えば、そのようなリガンドとして、特定の細胞表面受容体を標的とするための抗体を挙げることができる。
【0166】
誘導体がキャプシドタンパク質、即ちVP1、VP2及び/又はVP3を含む場合、誘導体は、1つ以上の天然に存在するAAVのキメラ、シャッフル又はキャプシド改変誘導体であってもよい。特に、本発明は、同一ベクター内のAAVの異なる血清型、クレード、クローン、又は分離株からのキャプシドタンパク質配列の提供(即ちシュードタイプベクター)を包含する。AAVベクターは、シュードタイプAAVベクター粒子の形態であってもよい。
【0167】
キメラ、シャッフル又はキャプシド改変誘導体は通常、AAVベクターに1つ以上の所望の機能性を提供するよう選択される。したがって、これらの誘導体は、天然に存在するAAVゲノムを含むAAVベクターと比較して、遺伝子送達の効率の増大及/又は免疫原性(液性又は細胞性)の減少を示しうる。例えば、遺伝子送達の効率の増大は、細胞表面における受容体又は共受容体結合の改善、内部移行の改善、細胞内及び核内への輸送の改善、ウイルス粒子の脱殻の改善並びに一本鎖ゲノムの二本鎖形態への変換の改善により達成されうる。
【0168】
キメラキャプシドタンパク質には、天然に存在するAAV血清型の2つ以上のキャプシドコード配列間の組換えにより生成されるものが含まれる。これは例えば、1つの血清型の非感染性キャプシド配列が異なる血清型のキャプシド配列でコトランスフェクトされ、指向性選択(directed selection)を使用して所望の特性を有するキャプシド配列について選択する、マーカーレスキューアプローチにより実施されうる。異なる血清型のキャプシド配列は、新規キメラキャプシドタンパク質を産生させるために、細胞内で相同組換えにより変更することができる。
【0169】
またキメラキャプシドタンパク質には、特定のキャプシドタンパク質ドメイン、表面ループ又は特定のアミノ酸残基を2つ以上のキャプシドタンパク質間、例えば異なる血清型の2つ以上のキャプシドタンパク質間で移行させるためのキャプシドタンパク質配列の操作によって生成されるものも含まれる。
【0170】
シャッフル又はキメラキャプシドタンパク質はまた、DNAシャッフリングにより又はエラープローンPCRにより生成されてもよい。ハイブリッドAAVキャプシド遺伝子は、関連のあるAAV遺伝子、例えば複数の異なる血清型のキャプシドタンパク質をコードするAAV遺伝子の配列をランダムに断片化し、その後続いて、配列相同性の領域においてクロスオーバーも引き起こしうる自己プライミングポリメラーゼ反応において断片を再構成させることによって生成することができる。このように幾つかの血清型のキャプシド遺伝子をシャッフルすることによって作成したハイブリッドAAV遺伝子のライブラリーをスクリーニングして、所望の機能性を有するウイルスクローンを同定することができる。同様に、エラープローンPCRを使用してAAVキャプシド遺伝子をランダムに突然変異させ、後に所望の特性について選択されうるバリアントの多様なライブラリーを作成しうる。
【0171】
キャプシド遺伝子の配列はまた、自然野生型配列に対して特定の欠失、置換又は挿入を導入するよう遺伝子操作されうる。特に、キャプシド遺伝子は、キャプシドコード配列のオープンリーディングフレーム内の、又はキャプシドコード配列のN末端及び/又はC末端での、非関連タンパク質又はペプチドの配列の挿入によって改変してもよい。非関連タンパク質又はペプチドは有利には、特定の細胞型に対するリガンドとして作用し、それにより標的細胞への改善された結合を付与するか又は特定の細胞集団へのベクターのターゲティングの特異性を改善するものでありうる。非関連タンパク質はまた、産生プロセスの一部としてのウイルス粒子の精製を補助するもの、即ちエピトープ又は親和性タグであってもよい。挿入の部位は通常、ウイルス粒子の他の機能、例えばウイルス粒子の内部移行、輸送を妨害しないように選択される。
【0172】
キャプシドタンパク質は、人工又は突然変異キャプシドタンパク質であってもよい。本明細書中で使用する用語「人工キャプシド」は、キャプシド粒子が自然界に存在しないか、又は天然に存在するキャプシドアミノ酸配列から操作されている(例えば改変されている)アミノ酸配列を含むアミノ酸配列を含むことを意味する。換言すると、人工キャプシドタンパク質は人工キャプシドアミノ酸配列及び親キャプシドアミノ酸配列をアラインメントした場合に、人工キャプシドアミノ酸配列が由来する親キャプシドの配列と比較して、アミノ酸配列中に突然変異又は変異を含む。
【0173】
単純ヘルペスウイルスベクター
本発明のベクターは単純ヘルペスウイルスベクターでありうる。本発明のベクターは単純ヘルペスウイルスベクター粒子でありうる。
【0174】
単純ヘルペスウイルス(HSV)は、遺伝子送達ベクターとして好適な特性を有する神経向性DNAウイルスである。HSVは感染力が強く、そのためHSVベクターは細胞への外因性遺伝物質の送達用の効率的なビヒクルである。ウイルス複製は、in vitroでトランスに補完されうる最初期遺伝子でのヌル突然変異により容易に崩壊され、非病原性ベクターの高力価で純粋な調製物の簡単な産生を可能にする。ゲノムは大きく(152Kb)、またウイルス遺伝子の多くはin vitroでの複製に不要であるため、大きいか又は複数の導入遺伝子とのそれらの置き換えが可能になる。野生型ウイルスによる潜伏感染は、宿主の寿命の持続期間中の感覚ニューロン核におけるエピソームウイルスの存続をもたらす。ベクターは非病原性であり、再活性化して長期的に存続することは不可能である。潜伏中に活性を示す(latency active)プロモーター複合体をベクター設計に活用して、神経系における長期にわたる安定した導入遺伝子発現を達成することができる。
【0175】
ウイルスによって認識される細胞受容体の発現パターンが広いため、HSVベクターは多岐にわたる組織を形質導入する。細胞侵入に関与するプロセスの理解を深めることで、HSVベクターの指向性(tropism)のターゲティングが可能となった。
【0176】
他のウイルスベクター
他のウイルスベクターはLundstrom, K., 2018. Diseases, 6(2), p. 42に記載されるものでありうる。
【0177】
本発明のベクターはアルファウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはアルファウイルスベクター粒子でありうる。本発明のベクターはフラビウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはフラビウイルスベクター粒子でありうる。
【0178】
自己増幅ssRNAウイルスは、正極性のゲノムを有するアルファウイルス(例えばセムリキ森林ウイルス、シンドビスウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、及びM1)及びフラビウイルス(例えばクンジンウイルス、ウエストナイルウイルス、及びデングウイルス)を含む。アルファウイルスは、癌治療に関する前臨床遺伝子療法研究において主に適用されている。アルファウイルスベクターは、裸のDNA、層状プラスミドDNAベクター及び組換え複製欠損又は組換え複製能を有する粒子の形態で送達させることができる。
【0179】
本発明のベクターはラブドウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはラブドウイルスベクター粒子でありうる。本発明のベクターは麻疹ウイルスベクターでありうる。本発明のベクターは麻疹ウイルスベクター粒子でありうる。
【0180】
ラブドウイルスベクター(例えば狂犬病ウイルス及び水疱性口内炎ウイルス)及び麻疹ウイルスはマイナス鎖ゲノムを有する。ラブドウイルスの中でも、組換え水疱性口内炎ウイルス(VSV)が前臨床遺伝子療法研究に適用されてきた。麻疹ウイルス(例えばMV-Edm)は多数の遺伝子療法用途を見出してきた。
【0181】
本発明のベクターはニューカッスル病ウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはニューカッスル病ウイルスベクター粒子でありうる。
【0182】
ssRNAパラミクソニューカッスル病ウイルス(NDV)は腫瘍細胞において特異的に複製し、したがって癌遺伝子療法に頻繁に適用されている。
【0183】
本発明のベクターはポックスウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはポックスウイルスベクター粒子でありうる。
【0184】
ポックスウイルスの特徴はそれらのdsDNAゲノムであり、それは30kbを超える外来DNAをたっぷりと収容することができる。ポックスウイルスは遺伝子療法ベクターとして幾つかの用途を見出してきた。例えば、ワクシニアウイルスベクターは癌の治療の可能性が実証されている。ワクシニアウイルスはおよそ190kbの線状二本鎖DNAゲノムを有する大きなエンベロープポックスウイルスである。ワクシニアウイルスは最大およそ25kbの外来DNAを収容することができ、これはまた、それを大きな遺伝子の送達に有用なものにしている。多数の弱毒ワクシニアウイルス系統、例えばMVA系統及びNYVAC系統は、遺伝子療法用途に適した技術分野で既知である。
【0185】
本発明のベクターはピコルナウイルスベクターでありうる。本発明のベクターはピコルナウイルスベクター粒子でありうる。
【0186】
ピコルナウイルスは非エンベロープssRNAウイルスである。ピコルナウイルス科(Picornaviridae)に属するコクサッキーウイルスは腫瘍溶解性ベクターとして適用されてきた。
【0187】
発現制御配列
本発明のベクターは1つ以上の発現制御配列を含みうる。適切には、導入遺伝子は1つ以上の発現制御配列に作動可能に連結されている。
【0188】
本明細書中で使用する場合、「発現制御配列」は、例えば幾つかの細胞型では発現を促進及び/若しくは増加するように、並びに/又は他の細胞型では発現を減少させるように、導入遺伝子の発現を制御する任意のヌクレオチド配列である。
【0189】
発現制御配列及び導入遺伝子は、ベクターにおいて任意の適切な配置で存在してもよいが、但し、発現制御配列は導入遺伝子に作動可能に連結されている。用語「作動可能に連結されている」は、本明細書中で使用する場合、部分(例えば、導入遺伝子及び1つ以上の発現制御配列)がともに実質的に妨げられていないそれらの機能を実行することが可能な様式で一緒に連結されていることを意味する。
【0190】
発現制御配列は、食細胞特異的発現制御配列、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的発現制御配列でありうる(例えば、ベクターが食細胞、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞において導入遺伝子を特異的に発現するように)。発現制御配列として、プロモーター、エンハンサー、並びに5'及び3'非翻訳領域(例えばmiRNA標的配列)が挙げられる。
【0191】
1つ以上の発現制御配列は(a)食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー、及び/又は(b)1つ以上のmiRNA標的配列を含みうる。
【0192】
幾つかの実施形態では、1つ以上の発現制御配列は食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー、並びに任意選択で1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0193】
ベクターは例えば、5'から3'で食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサー-導入遺伝子-1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0194】
MRC1由来発現制御配列
適切には、本発明のベクターは1つ以上のMRC1由来発現制御配列を含みうる。
【0195】
本明細書中で使用する場合、「MRC1由来発現制御配列」はMRC1遺伝子中に存在する調節機構(regulatory feature)のいずれかを含む発現制御配列である。例となるヒトMRC1遺伝子はNCBI遺伝子ID:4360及びGeneCard GCID:GC10P017809である。別名としてCLEC13Dが挙げられる。構築物GRCh38.p13において、ヒトMRC1遺伝子はChr10:17809348.17911164に位置する。MRC1遺伝子はチンパンジー、アカゲザル、イヌ、ウシ、マウス、ラット、ニワトリ、ゼブラフィッシュ、及びカエルにおいて保存されている。
【0196】
MRC1遺伝子中に存在する調節機構は当業者に既知の任意の適切な方法によって同定されうる。例えば、調節エレメントはゲノムワイドなエンハンサー対遺伝子及びプロモーター対遺伝子の関連のデータベースであるGeneHancerにおいて同定することができる。MRC1遺伝子中に存在する調節機構として、MRC1プロモーター、MRC1エンハンサー、並びにMRC1 5'UTR及び3'UTRが挙げられる。マンノース受容体調節配列は、少なくとも部分的に転写開始部位のすぐ上流に位置している(Eichbaum, Q.ら, Blood, 1997. 90(10): p. 4135-43)。
【0197】
食細胞特異的プロモーター
本発明のベクターは食細胞特異的プロモーター、特に肝臓/及び脾臓食細胞特異的プロモーターを含みうる。適切には、導入遺伝子は食細胞特異的プロモーター、特に肝臓及び/又は脾臓食細胞特異的プロモーターに作動可能に連結されている。
【0198】
「プロモーター」は遺伝子の転写の開始を引き起こすDNAの領域である。プロモーターは遺伝子の転写開始部位付近に、DNA上で上流に(センス鎖の5'領域に向かって)位置している。
【0199】
本明細書中で使用する場合、「食細胞特異的プロモーター」はプロモーターに作動可能に結合されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を可能にするプロモーターでありうる。
【0200】
例示的な食細胞特異的プロモーターとして、MRC1プロモーター、ITGAMプロモーター、CD86プロモーター、CD274プロモーター、CD163プロモーター、LYVE1プロモーター、STABプロモーター、ITGAXプロモーター、SIRPAプロモーター、TIE2プロモーター、CHIL3プロモーター、CD68プロモーター、CSF1Rプロモーター、VCAM1プロモーター、PTGS1プロモーター、及びC1QAプロモーターが挙げられる。
【0201】
これらのプロモーターのいずれかに由来する操作されたプロモーターバリアントが使用されうるが、但し、バリアントはプロモーターに作動可能に結合されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を駆動する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのようなバリアントに達するであろう。バリアントはプロモーターのいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一性を有しうる。
【0202】
これらのプロモーター(又はそれらのバリアント)のいずれかの断片が使用されうるが、但し、断片はプロモーターに作動可能に結合されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を駆動する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのような断片に達することが可能である。断片は例えば、少なくとも200ヌクレオチド長、少なくとも300ヌクレオチド長、少なくとも400ヌクレオチド長、少なくとも500ヌクレオチド長、又は少なくとも1000ヌクレオチド長でありうる。
【0203】
幾つかの実施形態では、食細胞特異的プロモーターは、MRC1プロモーター、ITGAMプロモーター、CD86プロモーター、CD274プロモーター、CD163プロモーター、LYVE1プロモーター、STAB1プロモーター、ITGAXプロモーター、SIRPAプロモーター、TIE2プロモーター、CHIL3プロモーター、CD68プロモーター、CSF1Rプロモーター、VCAM1プロモーター、PTGS1プロモーター、及びC1QAプロモーター、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片からなる群から選択される。
【0204】
好ましい実施形態では、食細胞特異的プロモーターは、MRC1プロモーター又はそれらのバリアント及び/若しくは断片である。
【0205】
MRC1プロモーター
ある態様では、本発明はMRC1プロモーターを含むベクターを提供する。適切には、導入遺伝子はMRC1プロモーターに作動可能に連結されている。
【0206】
任意の適切な方法を使用して、例えばプロモーター予測ツールを使用することによって、又はMRC1オープンリーディングフレームに対してすぐ上流にある配列を使用することによってMRC1プロモーターを同定しうる。適切には、MRC1プロモーターはMRC1オープンリーディングフレームに対してすぐ上流にある約0.2kb~5kb、0.5kb~5kb、1kb~2kb、又は約1.8kb配列でありうる。
【0207】
幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターは配列番号1に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1プロモーターは配列番号1に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0208】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターはヌクレオチド配列配列番号1又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0209】
【0210】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターは配列番号2に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1プロモーターは配列番号2に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0211】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターはヌクレオチド配列配列番号2又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0212】
例示的なマウスMRC1プロモーター
(配列番号2)
【0213】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターは配列番号1及び配列番号2に対して少なくとも40%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1プロモーターは配列番号1及び配列番号2に対して少なくとも50%、少なくとも60%、若しくは少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0214】
幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターは配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1プロモーターは配列番号31に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0215】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1プロモーターはヌクレオチド配列配列番号31又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0216】
例示的なXhoI-ヒト.MRC1.プロモーター
(配列番号31)
【0217】
誘導性プロモーター
適切には、食細胞特異的プロモーターは誘導性プロモーターでありうる。
【0218】
本明細書中で使用する場合、「誘導性プロモーター」は特定条件下のみで活性なプロモーターである。例えば、導入遺伝子の発現は小分子又は薬物(例えばプロモーター、調節配列に又は転写抑制因子若しくは転写活性化因子分子に結合するもの)によって、或いは環境誘因を使用することによって誘導されうる。誘導性プロモーターのタイプとして、化学的誘導性プロモーター(例えばTet-on系)、温度誘導性プロモーター(例えばHsp70又はHsp90由来プロモーター)、及び光誘導性プロモーターが挙げられる。適切には、プロモーターが化学誘導性である。
【0219】
食細胞特異的プロモーターを操作するのに適した任意の方法が使用されうる。
【0220】
或いは、食細胞特異的プロモーターは構成的プロモーターでありうる。本明細書中で使用する場合、「構成的プロモーター」は常に活性であるプロモーターである。
【0221】
食細胞特異的エンハンサー
本発明のベクターは食細胞特異的エンハンサーを含みうる。適切には、導入遺伝子は食細胞特異的エンハンサーに作動可能に連結されている。
【0222】
「エンハンサー」はタンパク質(活性化因子)の結合を受けて特定の遺伝子の転写が起きる可能性を増大しうるDNAの領域である。エンハンサーはシス作用性である。エンハンサーは遺伝子から最大1Mbp(1,000,000bp)離れて、開始部位の上流又は下流に位置しうる。
【0223】
本明細書中で使用する場合、「食細胞特異的エンハンサー」はエンハンサーに作動可能に連結されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を可能にするエンハンサーでありうる。
【0224】
例示的な食細胞特異的エンハンサーとして、MRC1エンハンサー、ITGAMエンハンサー、CD86エンハンサー、CD274エンハンサー、CD163エンハンサー、LYVE1エンハンサー、STAB1エンハンサー、ITGAXエンハンサー、SIRPAエンハンサー、TIE2エンハンサー、CHIL3エンハンサー、CD68エンハンサー、CSF1Rエンハンサー、VCAM1エンハンサー、PTGS1エンハンサー、及びC1QAエンハンサーが挙げられる。
【0225】
これらのエンハンサーのいずれかに由来する操作されたエンハンサーバリアントが使用されうるが、但し、バリアントはエンハンサーに作動可能に結合されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を駆動する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのようなバリアントに達するであろう。バリアントはエンハンサーのいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一性を有しうる。
【0226】
これらのエンハンサー(又はそれらのバリアント)のいずれかの断片が使用されうるが、但し、断片はエンハンサーに作動可能に結合されている導入遺伝子の食細胞特異的発現を駆動する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのような断片に達することが可能である。断片は例えば、少なくとも200ヌクレオチド長、少なくとも300ヌクレオチド長、少なくとも400ヌクレオチド長、少なくとも500ヌクレオチド長、又は少なくとも1000ヌクレオチド長でありうる。
【0227】
幾つかの実施形態では、食細胞特異的エンハンサーは、MRC1エンハンサー、ITGAMエンハンサー、CD86エンハンサー、CD274エンハンサー、CD163エンハンサー、LYVE1エンハンサー、STAB1エンハンサー、ITGAXエンハンサー、SIRPAエンハンサー、TIE2エンハンサー、CHIL3エンハンサー、CD68エンハンサー、CSF1Rエンハンサー、VCAM1エンハンサー、PTGS1エンハンサー、及びC1QAエンハンサー、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片からなる群から選択される。
【0228】
好ましい実施形態では、食細胞特異的エンハンサーはMRC1エンハンサー又はそれらのバリアント及び/若しくは断片である。
【0229】
本発明のベクターは食細胞特異的プロモーター及び/又は食細胞特異的エンハンサー、即ち食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーを含みうる。適切には、導入遺伝子は食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーに作動可能に連結されている。
【0230】
幾つかの実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーは、MRC1プロモーター及び/又はエンハンサー、ITGAMプロモーター及び/又はエンハンサー、CD86プロモーター及び/又はエンハンサー、CD274プロモーター及び/又はエンハンサー、CD163プロモーター及び/又はエンハンサー、LYVE1プロモーター及び/又はエンハンサー、STAB1プロモーター及び/又はエンハンサー、ITGAXプロモーター及び/又はエンハンサー、SIRPAプロモーター及び/又はエンハンサー、TIE2プロモーター及び/又はエンハンサー、CHIL3プロモーター及び/又はエンハンサー、CD68プロモーター及び/又はエンハンサー、CSF1Rプロモーター及び/又はエンハンサー、VCAM1プロモーター及び/又はエンハンサー、PTGS1プロモーター及び/又はエンハンサー、並びにC1QAプロモーター及び/又はエンハンサー、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片からなる群から選択される。
【0231】
食細胞特異的プロモーター及び食細胞特異的エンハンサーは、上記のいずれかの組合せ、例えば、MRC1プロモーター及びITGAMエンハンサーでありうる。
【0232】
好ましい実施形態では、食細胞特異的プロモーター及び/又はエンハンサーはMRC1プロモーター及び/又はエンハンサー又はそれらのバリアント及び/又は断片である。
【0233】
例示的なMRC1エンハンサーとして下記が挙げられうる:
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
【0240】
【0241】
【0242】
【0243】
【0244】
【0245】
【0246】
【0247】
【0248】
幾つかの実施形態では、MRC1エンハンサーは配列番号17~配列番号30のいずれか1つに対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1エンハンサーは配列番号17~配列番号30のいずれか1つに対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0249】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1エンハンサーは配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、MRC1エンハンサーは配列番号32に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0250】
本発明の幾つかの実施形態では、MRC1エンハンサーはヌクレオチド配列配列番号32又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0251】
例示的なXhoI-ヒト.MRC1.エンハンサー
(配列番号32)
【0252】
miRNA標的配列
本発明のベクターは1つ以上のmiRNA標的配列を含みうる。適切には、導入遺伝子は1つ以上のmiRNA標的配列に作動可能に連結されている。
【0253】
マイクロRNA(miRNA)遺伝子はY染色体を除く全てのヒト染色体に散在している。マイクロRNA遺伝子はゲノムの非コード領域中、又はタンパク質コード遺伝子のイントロン内にいずれかに位置しうる。miRNAのおよそ50%がポリシストロニックな一次転写物として転写されるクラスター中に出現する。タンパク質コード遺伝子と同様に、miRNAは通常、ポリメラーゼ-IIプロモーターから転写され、いわゆる一次miRNA転写物(pri-miRNA)を生成する。次に、このpri-miRNAはリボヌクレアーゼIII型ファミリーに属する2つの酵素、ドローシャ及びダイサーによって実施される一連のエンドヌクレアーゼ的切断(endonucleolytic cleavage)ステップを通じてプロセシングされる。pri-miRNAから、miRNA前駆体(pre-miRNA)と呼ばれる約60ヌクレオチド長のステムループが、ドローシャ及びディジョージ症候群臨界領域遺伝子(DGCR8)で構成される特異的な核複合体によって切り出され、それは一次ステムループの塩基付近で両方の鎖を切り取り、5'リン酸及び2bp長の3'オーバーハングが残る。次に、pre-miRNAは、RAN-GTP及びエクスポーチンによって核から細胞質へ活発に輸送される。続いて、ダイサーはドローシャ切断によって規定されていないステムループの末端で二本鎖切断を実施し、成熟miRNA及びmiRNA*と呼ばれる二重鎖の逆鎖で構成される19bp~24bpの二重鎖を生成する。熱力学的非対称性の法則と一致して、二重鎖の一方の鎖のみがRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に選択的にロードされ、成熟マイクロRNAとして蓄積する。siRNA二重鎖の各鎖の5'末端に導入された単一ヌクレオチドミスマッチによって実証されるように、この鎖は通常、その5'末端がその補体とあまり強固に対形成されていないものである。しかしながら、両方の二重鎖の蓄積を同程度に支持するmiRNAが幾つか存在する。
【0254】
マイクロRNAは、実験的遺伝子ノックダウンに広く使用されている低分子干渉RNA(siRNA)と非常によく似たRNAiを誘発する。miRNAとsiRNAとの間の主な違いはそれらのバイオジェネシスである。RISCにロードされると、小RNA分子のガイド鎖は、タンパク質コード遺伝子の3'非翻訳領域(3'UTR)において優先的に見られるmRNA標的配列と相互作用する。miRNAの5'末端から数えてヌクレオチド2~8、いわゆるシード配列はRNAiを誘発するのに必須であることが示されている。通常siRNA及び植物miRNAの場合のように、ガイド鎖配列全体がmRNA標的に完全に相補的である場合、mRNAは、小RNA二重鎖の「スライサー」とも呼ばれるアルゴノート(Ago)タンパク質の関与によってRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)へエンドヌクレアーゼ的に切断される。DGRC(ディジョージ症候群臨界領域遺伝子8)及びTRBP(TAR(HIV)RNA結合タンパク質2)は、それぞれドローシャ及びダイサーリボヌクレアーゼIII酵素による成熟miRNAバイオジェネシスを促進する二本鎖RNA結合タンパク質である。miRNA二重鎖のガイド鎖はエフェクター複合体RISCに取り込まれるようになり、これが不完全な塩基対形成を通じて特異的な標的を認識し、転写後遺伝子サイレンシングを誘導する。この調節様式について、幾つかのメカニズムが提唱されている:miRNAは、翻訳開始の抑制を誘導し、脱アデニル化による分解について標的mRNAにマークを付け、又は標的を細胞質Pボディへ隔絶しうる。
【0255】
他方で、シードのみが標的mRNAに対して完全に相補的であるが、残りの塩基が不完全な対形成を示す場合、RNAiは複数のメカニズムを通じて作用し、翻訳抑制を引き起こす。真核生物mRNA分解は主に、mRNAの3'末端でのポリAテールの短縮、及び5'末端でのキャップ除去、続く5'-3'エキソヌクレアーゼ消化及びmRNA崩壊経路の成分が豊富な別々の細胞質領域、いわゆるPボディにおけるmiRNAの蓄積を通じて行われる。
【0256】
導入遺伝子の発現は1つ以上の内因性miRNAによって、1つ以上の相当するmiRNA標的配列を使用して調節されうる。この方法を使用して、細胞中で内因的に発現された1つ以上のmiRNAは、ベクター又はポリヌクレオチドに配置されたその相当するmiRNA標的配列へ結合することによって、当該細胞における導入遺伝子発現を防止又は低減する(Brown, B.D.ら(2007) Nat Biotechnol 25: 1457-1467)。
【0257】
特定の細胞における導入遺伝子発現を抑制する適切なmiRNA標的配列は、当業者に既知である。任意の適切な方法を使用して、例えば既知のmiRNAを含有するマイクロアレイを実施することによって、例えばmiRbaseから適切なmiRNA標的配列を同定することができる。
【0258】
ベクター中に含まれるmiRNA標的配列の1つよりも多いコピーは、系の有効性を増大しうる。また、種々のmiRNA標的配列が含まれうると想定される。例えば、導入遺伝子は、異なりうるか又は異なりえない1つよりも多いmiRNA標的配列に作動可能に連結されてもよい。miRNA標的配列はタンデムで存在しうるが、他の配列が想定される。ベクターは例えば、同じか若しくは異なるmiRNA標的配列の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又は8つのコピーを含みうる。適切には、ベクターは各miRNA標的配列の4つのmiRNA標的配列を含む。
【0259】
標的配列は、miRNAに対して完全に又は部分的に相補的でありうる。用語「完全に相補的」は、本明細書中で使用する場合、標的配列がそれを認識するmiRNAの配列に対して100%相補的である核酸配列を有することを意味しうる。用語「部分的に相補的」は、本明細書中で使用する場合、標的配列がそれを認識するmiRNAの配列に対して一部のみが相補的であり、それにより部分的に相補的な配列がそれでもmiRNAに認識されることを意味しうる。換言すると、部分的に相補的な標的配列は、本発明の文脈において、相当するmiRNAを認識して、当該miRNAを発現する細胞における導入遺伝子発現の防止又は低減を達成するのに有効である。
【0260】
miRNA標的配列のコピーはスペーサー配列によって分離されうる。スペーサー配列は例えば、少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ又は少なくとも5つのヌクレオチド塩基を含みうる。
【0261】
本発明らは、M2様マクロファージ特異的プロモーター(例えばMRC1プロモーター)から導入遺伝子発現を駆動するベクターを使用して、クッパー細胞(KC)、及び程度は少し劣るがMRC1+脾臓マクロファージ及び肝類洞壁内皮細胞(LSEC)における選択的導入遺伝子発現を駆動することができることを見出した。miRNA標的配列を使用して、ベクターの特異性を更に増大させることができる。
【0262】
1つ以上のmiRNA標的配列は幾つかの肝臓細胞集団及び/又は幾つかの脾臓細胞集団における導入遺伝子発現を抑制しうる。1つ以上のmiRNA標的配列は幾つかの肝臓マクロファージ及び/又は幾つかの脾臓マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制しうる。例えば、発現はLSECを標的としうる。
【0263】
本明細書中で使用する用語「発現を抑制する」は、1つ以上のmiRNA標的配列の非存在下であるが、但し、その他の点では実質的に同一条件下での導入遺伝子発現と比較して、1つ以上のmiRNA標的配列が作動可能に連結されている導入遺伝子の関連する細胞型(複数可)における発現の低減を指しうる。幾つかの実施形態では、導入遺伝子発現は少なくとも50%抑制される。幾つかの実施形態では、導入遺伝子発現は少なくとも60%、70%、80%、90%又は95%抑制される。幾つかの実施形態では、導入遺伝子発現は実質的に防止される。
【0264】
適切には、1つ以上のmiRNA標的配列は肝類洞壁内皮細胞(LSEC)及び/又は肝細胞における導入遺伝子発現を抑制する。
【0265】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は肝細胞及び/又はLSECにおける導入遺伝子発現を抑制する。例えば、ベクターは(i)LSECにおける導入遺伝子発現を抑制するmiRNA標的配列の1つ以上のコピー、及び/又は(ii)肝細胞における導入遺伝子発現を抑制するmiRNA標的配列の1つ以上のコピーを含みうる。
【0266】
適切には、1つ以上のmiRNA標的配列は(i)1つ以上(例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ)のmiR-126標的配列、及び/又は(ii)1つ以上(例えば1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ)のmiR-122標的配列を含む。
【0267】
miR-126標的配列はLSECにおける導入遺伝子発現を抑制する例示的なmiRNA標的配列である。miR-126は内皮細胞(例えばLSEC)において発現されるマイクロRNAであり、miR-126はその標的配列に結合すると、それは標的遺伝子の発現を低減する。
【0268】
本発明の幾つかの実施形態では、miR-126標的配列は配列番号3に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、miR-126標的配列は配列番号3に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0269】
本発明の幾つかの実施形態では、miR-126標的配列はヌクレオチド配列配列番号3又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0270】
【0271】
miR-122標的配列は肝細胞における導入遺伝子発現を抑制する例示的なmiRNA標的配列である。miR-122は肝細胞において最も豊富なマイクロRNAであり、miR-122がその標的配列に結合すると、それは標的遺伝子の発現を低減する。
【0272】
本発明の幾つかの実施形態では、miR-122標的配列は配列番号4に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、miR-122標的配列は配列番号4に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0273】
本発明の幾つかの実施形態では、miR-122標的配列はヌクレオチド配列配列番号4又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0274】
【0275】
LSEC及び/又は肝細胞における導入遺伝子発現を抑制する更なるmiRNA標的配列は任意の適切な方法、例えばOda, S.ら, 2018. The American journal of pathology, 188(4), pp. 916-928に記載されるmiRNA発現分析によって同定することができる。
【0276】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は(i)2つ以上のmiR-126標的配列、及び/又は(ii)2つ以上のmiR-122標的配列を含む。幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は(i)4つのmiR-126標的配列、及び/又は(ii)4つのmiR-122標的配列を含む。適切には、標的配列はスペーサー配列によって分離される。
【0277】
本発明の幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は配列番号5~配列番号7の1つ以上に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、1つ以上のmiRNA標的配列は配列番号5~配列番号7の1つ以上に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0278】
本発明の幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は配列番号5~配列番号7の1つ以上のヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0279】
例示的なmiRT-122 4xmiRT
(配列番号5)
【0280】
例示的なmiRT-126 4xmiRT
(配列番号6)
【0281】
例示的なmiRT-122及びmiR126 4xmiRT
(配列番号7)
【0282】
本発明の幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、1つ以上のmiRNA標的配列は配列番号36に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0283】
本発明の幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列はヌクレオチド配列配列番号36又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0284】
例示的なAfeI-4xmiRT122-4xmiRT126-PmlI
(配列番号36)
【0285】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は幾つかの肝臓マクロファージ及び/又は幾つかの脾臓マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制する。例えば、1つ以上のmiRNA標的配列はM2様マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制しうる。例えば、1つ以上のmiRNA標的配列はクッパー細胞及び/又はMRC1+脾臓マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制しうる。
【0286】
幾つかの実施形態では、1つ以上のmiRNA標的配列は脾臓食細胞(例えば脾臓マクロファージ)における導入遺伝子発現を抑制する。
【0287】
幾つかの肝臓マクロファージ及び/又は幾つかの脾臓マクロファージにおける導入遺伝子発現を抑制するmiRNA標的配列は任意の適切な方法、例えばZhang, Y.ら, 2013. International journal of molecular medicine, 31(4), pp. 797-802に記載されるmiRNA発現分析によって同定することができる。
【0288】
他の発現制御配列
本発明のベクターは、転写前又は後に作用しうる1つ以上の調節エレメントを更に含みうる。適切には、導入遺伝子は転写前又は後に作用しうる1つ以上の調節エレメントに作動可能に連結されている。1つ以上の調節配列は食細胞における導入遺伝子の発現を促進しうる。
【0289】
「調節エレメント」はポリペプチドの発現を促進する、例えば転写物の発現を増大するように又はmRNAの安定性を高めるように作用する任意のヌクレオチド配列である。適切な調節エレメントとして、例えばプロモーター、エンハンサーエレメント、転写後調節エレメント及びポリアデニル化部位が挙げられる。
【0290】
転写後調節エレメント
本発明のベクターは1つ以上の転写後調節エレメントを含みうる。適切には、導入遺伝子は1つ以上の転写後調節エレメントに作動可能に連結されている。転写後調節エレメントは遺伝子発現を改善しうる。
【0291】
本発明のベクターは、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE)を含みうる。適切には、導入遺伝子はWPREに作動可能に連結されている。
【0292】
本発明の幾つかの実施形態では、WPREは配列番号35に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、WPREは配列番号35に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0293】
本発明の幾つかの実施形態では、WPREはヌクレオチド配列配列番号35又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0294】
【0295】
不安定化ドメイン
本発明のベクターは不安定化ドメインをコードするヌクレオチド配列を含みうる。適切には、導入遺伝子が翻訳されると、導入遺伝子産物に融合された不安定化ドメインを含む融合タンパク質が産生されるように、導入遺伝子は不安定化ドメインに作動可能に、即ち導入遺伝子産物とインフレームで連結されている。
【0296】
不安定化ドメイン(DD)は本来不安定であり、組込み時に他のタンパク質を不安定化して、タンパク質分解を招く融合タンパク質成分を表す。DDの周知の例はShield系であり、これはラパマイシン結合タンパク質(FKBP12)をビルトイン不安定化ドメインとしてタンパク質に取り込み、細胞においてタンパク質分解を引き起こす。その特異的なリガンド(Shield-1)の非存在下では、タンパク質はプロテアソームによって分解される(Banaszynski, L.A.ら, 2006. Cell, 126(5), pp. 995-1004)。
【0297】
別の例示的な脱不安定化ドメインはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、又はそのバリアントである。哺乳動物細胞において、DHFRタンパク質を含有する融合タンパク質は速やかにユビキチン化されて、プロテアソーム系によって分解される。抗生物質トリメトプリム(TMP)又はTMPベースの小分子はDHFRタンパク質に結合して、タンパク質が分解されるのを防ぐことができ、これにより融合タンパク質が分解を逃れることが可能になる(Peng, H.ら, 2019. Molecular Therapy-Methods & Clinical Development, 15, pp. 27-39)。
【0298】
本発明のベクターはジヒドロ葉酸還元酵素コード配列、又はそのバリアント若しくは断片を含みうる。適切には、導入遺伝子が翻訳されると、導入遺伝子産物に融合されたジヒドロ葉酸還元酵素コード配列(又はそのバリアント若しくは断片)を含む融合タンパク質が産生されるように、導入遺伝子はジヒドロ葉酸還元酵素コード配列(又はそのバリアント若しくは断片)に作動可能に、即ち導入遺伝子産物とインフレームで連結されている。
【0299】
ポリアデニル化配列
本発明のベクターはポリアデニル化配列を含みうる。適切には、導入遺伝子はポリアデニル化配列に作動可能に連結されている。ポリアデニル化配列は導入遺伝子発現を改善するために導入遺伝子の後ろに挿入されうる。
【0300】
ポリアデニル化配列は通常、ポリアデニル化シグナル、ポリアデニル化部位及び下流エレメントを含む:ポリアデニル化シグナルはRNA切断複合体によって認識される配列モチーフを含み、ポリアデニル化部位はポリAテールがmRNAに付加されている切断部位であり、下流エレメントは、通常ポリアデニル化部位のすぐ下流に存在するGTリッチな領域であり、それは効率的なプロセシングに重要である。
【0301】
コザック配列
本発明のベクターはコザック配列を含みうる。適切には、導入遺伝子はコザック配列に作動可能に連結されている。コザック配列は翻訳の開始を改善するために開始コドン前に挿入されうる。
【0302】
本発明の幾つかの実施形態では、コザック配列は配列番号33に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、コザック配列は配列番号33に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0303】
本発明の幾つかの実施形態では、コザック配列はヌクレオチド配列配列番号33又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0304】
【0305】
導入遺伝子
本発明のベクターは1つ以上の導入遺伝子を含みうる。適切には、1つ以上の発現制御配列は導入遺伝子に作動可能に連結されている。
【0306】
導入遺伝子は特に限定されず、任意の適切な導入遺伝子が使用されうる。
【0307】
導入遺伝子は天然に存在するヒト遺伝子、又はそのバリアント及び/若しくは断片をコードしうる。
【0308】
導入遺伝子は治療用遺伝子でありうる。
【0309】
導入遺伝子は治療用ポリペプチド及び/又は抗原性ポリペプチドをコードしうる。
【0310】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含み、ここで好ましくは、シグナルペプチドはコードされたポリペプチド(例えば治療用ポリペプチド及び/又は抗原性ポリペプチド)に作動可能に連結されている。シグナルペプチドは例えば、コードされたポリペプチドの天然シグナルペプチドでありうる。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はシグナルペプチドをコードするヌクレオチド配列を含まない。
【0311】
治療用ポリペプチド
適切には、導入遺伝子は治療用ポリペプチドをコードする。
【0312】
本明細書中で使用する場合、「治療用ポリペプチド」は療法に使用することができる任意のポリペプチドである。例えば、治療用ポリペプチドとして、免疫応答を活性化することができる治療用サイトカインが挙げられる。
【0313】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はサイトカイン、例えば免疫応答、特に抗腫瘍応答を活性化することができるサイトカインをコードする。
【0314】
サイトカインは、免疫系の細胞が互いに連絡して、標的抗原に対する協調して頑強であるが自己限定的な応答を生成するのを可能にする分子メッセンジャーである。サイトカインは腫瘍部位にある免疫エフェクター細胞及び間質細胞を直接刺激して、細胞傷害性エフェクター細胞による腫瘍細胞認識を高める。サイトカインは幅広い抗腫瘍活性を有しうる(Lee, S.及びMargolin, K., 2011. Cancers, 3(4), pp. 3856-3893)。
【0315】
例えば、免疫応答、特に抗腫瘍応答を活性化することができる任意のサイトカインが使用されうる。例示的なサイトカインとして、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL-2、IL-12、TNFα、CXCL9、及びIL-1βが挙げられる。更なる例示的なサイトカインとして、IL10、IL15又はIL18が挙げられる。
【0316】
これらのサイトカインのいずれかのバリアントが使用されうるが、但し、バリアントは免疫応答、特に抗腫瘍応答を活性化する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのようなバリアントに達するであろう。バリアントはサイトカインのいずれかに対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、又は少なくとも99%同一性を有しうる。
【0317】
これらのサイトカイン(又はそれらのバリアント)のいずれかの断片が使用されうるが、断片は免疫応答、特に抗腫瘍応答を活性化する能力を保持する。当業者は、当該技術分野で既知の方法を使用してそのような断片に達することが可能である。例えば、断片は免疫応答を活性化するのに必要な残基又はドメインを保持しうる。
【0318】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIFNα、IFNβ、IFNγ、IL-2、IL-12、TNFα、CXCL9、及びIL-1β、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片から選択されるサイトカインをコードする。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL10、IL15若しくはIL18、又はそれらのバリアント及び/若しくは断片から選択されるサイトカインをコードする。
【0319】
インターフェロン
3つの主要なタイプのインターフェロン(IFN)が存在する。ヒトI型IFN遺伝子は17個の別個のタンパク質のファミリー(IFNα、+IFNβ、IFNε、IFNκ及びIFNωの13個のサブタイプを含む)をコードする。II型IFNにはIFNγのみが存在する。III型IFNはIFNλ1、IFNλ2、IFNλ3、及びIFNλ4からなる。IFNは全て、腫瘍細胞上で直接的な抗腫瘍効果を発揮するよう作用する能力を有するか、又は免疫細胞上で間接的な抗腫瘍効果を発揮する(Parker, B.S.ら, 2016. Nature Reviews Cancer, 16(3), p. 131)。
【0320】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はインターフェロン、例えば、I型インターフェロン(例えばIFNα、IFNβ)、II型インターフェロン(例えばIFNγ)、又はIII型インターフェロン(例えばIFNλ、IFNλ2、IFNλ3、IFNλ4)をコードする。幾つかの実施形態では、導入遺伝子はI型インターフェロン(例えばIFNα、IFNβ)をコードする。
【0321】
IFNα
1型インターフェロンであるインターフェロン-アルファ(IFNα)はウイルス感染に対して生物を防御するのに重要な役割を果たす多面発現サイトカインである。IFNαが直接的な腫瘍細胞死滅、適応免疫機能及び自然免疫機能の活性化並びに血管新生抑制活性を含む抗腫瘍機能を発揮することができることは十分に確立されている。IFNαは黒色腫、腎細胞癌及びカポジ肉腫を含む幾つかのタイプの腫瘍のための臨床用途で認可されている。しかしながら、全身投与される場合に、組換えIFNα単独はあまり許容されず、したがって、現在はIFNαに代わる治療選択肢が好ましい。
【0322】
本発明のベクターは治療用IFNαを選択的に腫瘍に送達することによってIFNα送達と関連付けられる全身毒性効果を低減しうる。投与経路及びその生理学的ターンオーバーがベクターの自然損失を促進しうる食細胞と予測される標的細胞。
【0323】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIFNαをコードする。本発明における使用のための例示的なヒトインターフェロン-アルファ(IFNα)はUniProtKB P01562である。
【0324】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号8に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号8に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0325】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はアミノ酸配列配列番号8又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0326】
例示的なヒトインターフェロン-アルファ
(配列番号8)
【0327】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号34に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、導入遺伝子は配列番号34に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0328】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はヌクレオチド配列配列番号34又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0329】
【0330】
IFNβ
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIFNβをコードする。本発明における使用のための例示的なIFNβはUniProtKB P01574である。
【0331】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号9に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号9に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0332】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号9又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0333】
例示的なヒトインターフェロン-ベータ
(配列番号9)
【0334】
IFNγ
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIFNγをコードする。本発明における使用のための例示的なIFNγはUniProtKB P01579である。
【0335】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号10に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号10に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0336】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号10又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0337】
例示的なヒトインターフェロン-ガンマ
(配列番号10)
【0338】
他のサイトカイン
IL-2
インターロイキン-2(IL-2)、並びにT細胞増殖因子のIL-2関連ファミリーの他の成員(例えば、IL-4、IL-7、IL-9、IL-15、及びIL-21)はCD4+及びCD8+T細胞の活性化及び増殖をもたらす共通受容体シグナル伝達系を利用する(Lee, S.及びMargolin, K., 2011. Cancers, 3(4), pp. 3856-3893)。
【0339】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL-2又はIL-2関連サイトカイン(例えばIL-7、IL-15、IL-21)をコードする。本発明における使用のための例示的なヒトIL-2はUniProtKB P60568である。
【0340】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号11に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号11に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0341】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号11又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0342】
例示的なヒトインターロイキン-2(配列番号11)
(配列番号11)
【0343】
IL-12
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL-12をコードする。本発明における使用のための例示的なヒトIL-12アルファ及びベータサブユニットはUniProtKB P29459及びP29460である。
【0344】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号12に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号12に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0345】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号12又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0346】
例示的なヒトインターロイキン-12サブユニットアルファ
(配列番号12)
【0347】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号13に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号13に対して少なくとも80%、少なくとも90%、若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0348】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号13又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0349】
例示的なヒトインターロイキン-12サブユニットベータ
(配列番号13)
【0350】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は単鎖IL12をコードする。単鎖IL12はIL12サブユニットベータ(例えばアミノ酸配列配列番号13又はその断片、或いは配列番号13に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一である配列又はその断片)及びIL12サブユニットアルファ(アミノ酸配列配列番号12又はその断片、或いは配列番号12に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一である配列又はその断片)を含みうる。単鎖IL12はIL12サブユニットベータ及びIL12サブユニットアルファを含む融合タンパク質でありうる。IL12サブユニットベータ及びIL12サブユニットアルファはリンカー配列によって結合されうる。リンカー配列はアミノ酸配列配列番号42又はその断片、或いは配列番号42に対して少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一である配列又はその断片を含みうるか、或いはそれからなりうる。
【0351】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号37若しくは配列番号46に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号37若しくは配列番号46に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0352】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列番号37若しくは配列番号46又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0353】
例示的な単鎖ヒトインターロイキン-12配列:
(配列番号37)
【0354】
【0355】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号40に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、導入遺伝子は配列番号40に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0356】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はヌクレオチド配列配列番号40又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0357】
IL10
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL10をコードする。
【0358】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号38に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号38に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0359】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号38又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0360】
例示的なヒトインターロイキン-10
(配列番号38)
【0361】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号39に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。適切には、導入遺伝子は配列番号39に対して少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも98%、若しくは少なくとも99%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0362】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はヌクレオチド配列配列番号39又はその断片を含むか、或いはそれからなる。
【0363】
IL15
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL-15をコードする。
【0364】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号44に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号44に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0365】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号44又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0366】
例示的なヒトインターロイキン-15
(配列番号44)
【0367】
IL18
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はIL-18をコードする。
【0368】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号45若しくは配列番号47に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号45若しくは配列番号47に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0369】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号45若しくは配列番号47又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0370】
例示的なヒトインターロイキン-18配列:
(配列番号45)
【0371】
【0372】
TNFα
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)をコードする。本発明における使用のための例示的なヒトTNFαはUniProtKB P01375である。
【0373】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号14に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号14に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0374】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号14又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0375】
【0376】
CXCL9
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はC-X-Cモチーフケモカイン9(CXCL9)をコードする。本発明における使用のための例示的なヒトCXCL9はUniProtKB Q07325である。
【0377】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号15に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号15に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0378】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号15又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0379】
【0380】
IL-1β
幾つかの実施形態では、導入遺伝子はインターロイキン-1ベータ(IL-1β)をコードする。本発明における使用のための例示的なヒトIL-1βはUniProtKB P01584である。
【0381】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子は配列番号16に対して少なくとも70%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。適切には、導入遺伝子は配列番号16に対して少なくとも80%、少なくとも90%若しくは少なくとも95%同一であるアミノ酸配列又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0382】
本発明の幾つかの実施形態では、導入遺伝子はポリペプチド配列配列番号16又はその断片を含むか、或いはそれからなるポリペプチドをコードする。
【0383】
【0384】
抗原性ポリペプチド
適切には、導入遺伝子は抗原性ポリペプチドをコードする。
【0385】
本明細書中で使用する場合、「抗原性ポリペプチド」は免疫応答を誘導することができる任意のポリペプチドである。特に、抗原性ポリペプチドは内部移行されて、抗原提示細胞(APC)によって提示されうる。抗原提示は適応免疫の特殊性を可能にし、細胞内病原体及び細胞外病原体の両方に対する免疫応答に寄与することができる。APCはまた生来、それぞれ腫瘍関連抗原に対する抗体を産生するための、及び悪性細胞を死滅させるためのB細胞及び細胞傷害性T細胞の刺激を介して、腫瘍に対抗するのに役割を持つ。
【0386】
腫瘍抗原
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は腫瘍抗原、例えば、腫瘍特異的抗原又は腫瘍関連抗原をコードする。
【0387】
本明細書中で使用する場合、「腫瘍抗原」は腫瘍細胞において産生される抗原性物質(例えば抗原性ポリペプチド)である。「腫瘍特異的抗原」は腫瘍細胞上にのみ存在し、任意の他の細胞上には存在しない。「腫瘍関連抗原」は幾つかの腫瘍細胞上に存在し、また幾つかの正常細胞にも存在する。
【0388】
任意の適切な腫瘍抗原が使用されうる。適切な腫瘍抗原は、当業者に周知であり、例えば、腫瘍抗原は癌抗原性ペプチドデータベースに記録されている。
【0389】
ある特定の腫瘍はある特定の腫瘍抗原性を大量に有する。したがって、ある特定の腫瘍抗原は腫瘍マーカーとして使用され、また腫瘍抗原ワクチンとして癌療法において使用することができる。
【0390】
病原体に対するワクチンと同様に、腫瘍ワクチンはアジュバントと組み合わせた不活性化癌細胞又は腫瘍抗原(TA)の送達で構成される。腫瘍ワクチンはまた、ex vivoでTAを負荷したDCを含む。数年の実験にもかかわらず、腫瘍ワクチンはほとんどが不本意な結果を出しており、臨床用途に関して認可された腫瘍ワクチンはたった1つに過ぎない。有効な癌ワクチンになるよう障害を回避する新たなワクチン送達システムを同定することで、それらの治療適応性が可能となるはずある。
【0391】
本発明のベクターは腫瘍ワクチンを設計するための正当な戦略を表しうる。
【0392】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は肝臓転移で豊富な腫瘍抗原をコードする。
【0393】
幾つかの実施形態では、導入遺伝子は癌胎児性抗原(CEA)、黒色腫関連抗原(MAGE)ファミリー、癌生殖系列(CAGE)ファミリー、B黒色腫抗原(BAGE-1)、滑膜肉腫xブレークポイント20(SSX-2)、肉腫抗原(SAGE)ファミリー、LAGE1、NY-ESO-1、HER2、EGFR、MUC-1、及びGASTから選択される腫瘍抗原をコードする。
【0394】
本発明は、本発明のサイトカイン遺伝子療法及び本発明の腫瘍ワクチンの複合使用を意図する。
【0395】
別の態様では、本発明はサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクター及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを含む製品(例えば組成物又はキット)を提供する。
【0396】
別の態様では、本発明はサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターを含む細胞、及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを含む製品(例えば組成物又はキット)を提供する。
【0397】
別の態様では、本発明はサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクター及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを含む細胞を含む製品(例えば組成物又はキット)を提供する。
【0398】
別の態様では、本発明はサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターを含む第1の細胞及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを含む第2の細胞を含む製品(例えば組成物又はキット)を提供する。
【0399】
組成物は本明細書中で開示される医薬組成物でありうる。
【0400】
別の態様では、本発明は療法における使用のためのサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターを提供し、ここで第1のベクターは腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターと組み合わせて、同時に、順次又は別々に対象に投与される。
【0401】
別の態様では、本発明は療法における使用のための腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを提供し、ここで第2のベクターはサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターと組み合わせて、同時に、順次又は別々に対象に投与される。
【0402】
別の態様では、本発明は薬剤の製造のためのサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターの使用を提供し、ここで第1のベクターは腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターと組み合わせて、同時に、順次又は別々に対象に投与される。
【0403】
別の態様では、本発明は薬剤の製造のための腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターの使用を提供し、ここで第2のベクターはサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクターと組み合わせて、同時に、順次又は別々に対象に投与される。
【0404】
好ましい実施形態では、療法における使用は癌の治療又は防止である。
【0405】
別の態様では、本発明は、サイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクター及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを、それらを必要とする対象に投与することを含む、癌を治療又は防止する方法を提供する。第1のベクター及び第2のベクターは、例えば同時に、順次又は別々に投与されうる。
【0406】
幾つかの実施形態では、第1のベクター及び/又は第2のベクターは静脈内注射、門脈内注射又は肝動脈内注射によって投与される。
【0407】
別の態様では、本発明はサイトカイン(好ましくはIL10)をコードする導入遺伝子を含む本発明の第1のベクター及び腫瘍抗原をコードする導入遺伝子を含む本発明の第2のベクターを含む細胞を提供する。
【0408】
例示的なベクター
好ましい実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1プロモーター、導入遺伝子、及び本明細書中で規定される1つ以上のmiRNA標的配列を含む。他の好ましい実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、導入遺伝子、及び本明細書中で規定される1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0409】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1プロモーター、IFNアルファをコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0410】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、IFNアルファをコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0411】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、コザック配列、IFNアルファをコードする導入遺伝子、WPRE、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0412】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号34に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0413】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号34に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0414】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号33に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号34に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号35に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0415】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1プロモーター、IL10をコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0416】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、IL10をコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0417】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、コザック配列、IL10をコードする導入遺伝子、WPRE、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0418】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号39に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0419】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号39に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0420】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号33に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号39に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号35に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0421】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1プロモーター、IL12をコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0422】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、IL12をコードする導入遺伝子、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0423】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へMRC1エンハンサー、MRC1プロモーター、コザック配列、IL12をコードする導入遺伝子、WPRE、並びに肝細胞及び/又は肝類洞壁内皮細胞及び/又は脾臓食細胞における導入遺伝子発現を抑制する1つ以上のmiRNA標的配列を含む。
【0424】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号40に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0425】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号40に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0426】
幾つかの実施形態では、ベクターは5'から3'へ配列番号32に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号31に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号33に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号40に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、配列番号35に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片、及び配列番号36に対して少なくとも70%同一であるヌクレオチド配列又はその断片を含む。
【0427】
バリアント、誘導体、類似体、及び断片
本明細書中で記述した特定のタンパク質及びヌクレオチドに加えて、本発明はそのバリアント、誘導体、及び断片もまた包含する。
【0428】
本発明の文脈において、任意の所与の配列の「バリアント」は、残基(アミノ酸残基か核酸残基かにかかわらず)の特定配列が、当該ポリペプチド又はポリヌクレオチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持するように改変されている配列である。バリアント配列は、天然に存在するポリペプチド若しくはポリヌクレオチド中に存在する少なくとも1つの残基の付加、欠失、置換、改変、置き換え及び/又は変異によって得ることができる。
【0429】
本発明のタンパク質又はポリペプチドに関して本明細書中で使用する用語「誘導体」は、その配列からの又はその配列に対する1つ(又はそれ以上)のアミノ酸残基の任意の置換、変異、改変、置き換え、欠失及び/又は付加を含み、結果として生じるタンパク質又はポリペプチドがその内因性機能の少なくとも1つを保持するとしている。
【0430】
通常、アミノ酸置換、例えば1個、2個又は3個から10個又は20個の置換が行われうるが、但し、改変された配列は所要の活性又は能力を保持する。アミノ酸置換は、天然に存在しない類似体の使用を含んでもよい。
【0431】
本発明で使用するタンパク質はまた、サイレント変化をもたらし、且つ機能的に等価なタンパク質を生じるアミノ酸残基の欠失、挿入又は置換を有しうる。内因性機能が保持される限りは、意図的なアミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性の類似度に基づいて行われうる。例えば、負荷電アミノ酸として、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられ、正荷電アミノ酸として、リジン及びアルギニンが挙げられ、類似した親水性値を有する非荷電極性ヘッド基を有するアミノ酸として、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン及びチロシンが挙げられる。
【0432】
保存的置換は、例えば下記表に従って行われうる。2列目の同じブロック、及び3列目の同じ行のアミノ酸は、互いに置換されうる:
【0433】
【0434】
通常、バリアントは野生型アミノ酸配列又は野生型ヌクレオチド配列とある特定の同一性を有しうる。
【0435】
この文脈において、バリアント配列は、対象配列に対して少なくとも50%、55%、65%、75%、85%又は90%同一、適切には少なくとも95%、96%又は97%又は98%又は99%同一でありうるアミノ酸配列を含むものとみなされる。バリアントはまた、類似性(即ち、類似した化学的特性/機能を有するアミノ酸残基)の観点から考えることもできるが、本発明の文脈において配列同一性の観点から表現することが好ましい。
【0436】
この文脈において、バリアント配列は、対象配列に対して少なくとも50%、55%、65%、75%、85%又は90%同一、適切には少なくとも95%、96%又は97%又は98%又は99%同一でありうるヌクレオチド配列を含むものとみなされる。バリアントはまた、類似性の観点から考えることもできるが、本発明の文脈において配列同一性の観点から表現することが好ましい。
【0437】
適切には、本明細書中に詳述した配列番号のいずれか1つに対してパーセント同一性を有する配列に対する言及は、言及された配列番号の全長にわたってその記載されたパーセント同一性を有する配列を指す。
【0438】
配列相同性比較は、目測で、又はより通常では、容易に入手可能な配列比較プログラムを活用して実行することができる。これらの市販のコンピュータプログラムは、2つ以上の配列間のパーセント同一性を算出することができる。
【0439】
パーセント同一性を連続した配列にわたって算出してもよく、即ち、一方の配列を他方の配列と整列させ、一方の配列中の各アミノ酸又はヌクレオチドを、他方の配列中の対応するアミノ酸又はヌクレオチドと、1回に1残基を直接比較する。これは「ギャップなし」アラインメントと呼ばれる。通常、かかるギャップなしアラインメントは、比較的少数の残基にわたってのみ実施される。
【0440】
これは非常に簡便で且つ一貫した方法であるが、それは例えば、その他の点で同一の配列ペアにおいて、アミノ酸若しくはヌクレオチド配列における1つの挿入又は欠失が、続く残基又はコドンをアラインメントから締め出し、ひいては大域的アラインメントを実施した場合にパーセント同一性の大幅な減少をもたらす可能性がありうることを考慮していない。その結果として、大抵の配列比較方法は、総合的な同一性スコアに過度にペナルティを課すことなく可能性のある挿入及び欠失を考慮した最適なアラインメントを作成するように設計される。これは、局所的同一性を最大化しようと試みる目的で、配列アラインメント中に「ギャップ」を挿入することによって達成される。
【0441】
しかしながら、これらのより複雑な方法は、同数の同一アミノ酸又はヌクレオチドに関して、2つの比較した配列間のより高い関連性を反映するできる限り少ないギャップを含む配列アラインメントが、多数のギャップを含むものより高いスコアを獲得するように、アラインメント中に生じる各ギャップに「ギャップペナルティ」を割り当てる。ギャップの存在に比較的高いコストを、且つギャップ中のその後の各残基により小さいペナルティを設定する「アフィンギャップコスト」が通常使用される。これは最も一般的に使用されるギャップスコアリングシステムである。高いギャップペナルティは当然ながら、より少ないギャップを含む最適化されたアラインメントを作成する。大抵のアラインメントプログラムは、ギャップペナルティを変更させることが可能である。しかしながら、配列比較のためにかかるソフトウェアを使用する場合には、デフォルト値を使用することが好ましい。例えばGCG Wisconsin Bestfitパッケージを使用する場合、アミノ酸配列に対するデフォルトのギャップペナルティは、ギャップに対しては-12、各伸長に対しては-4である。
【0442】
したがって、最大パーセント同一性の算出はまず、ギャップペナルティを考慮した最適なアラインメントの作成を必要とする。そのようなアラインメントを実行するのに適したコンピュータプログラムは、GCG Wisconsin Bestfitパッケージ(University of Wisconsin, USA; Devereuxら(1984) Nucleic Acids Research 12: 387)である。配列比較を実施することができる他のソフトウェアの例として、BLASTパッケージ(Ausubelら(1999)同書のCh. 18を参照されたい)、FASTA(Atschulら(1990) J. Mol. Biol. 403-410)、EMBOSS Needle(Madeira, F.ら, 2019. Nucleic acids research, 47(W1), pp.W636-W641)及びGENEWORKSスイートの比較ツールが挙げられるが、これらに限定されない。BLAST及びFASTAはともに、オフライン及びオンライン検索に利用可能である(Ausubelら(1999)同書のpages 7-58~7-60を参照されたい)。しかしながら、一部のアプリケーションに関しては、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。別のツールであるBLAST 2 Sequencesもまた、タンパク質及びヌクレオチド配列を比較するのに利用可能である(FEMS Microbiol. Lett.(1999) 174(2):247-50、FEMS Microbiol. Lett.(1999) 177(1):187-8)。
【0443】
最終的なパーセント同一性を測定することができるが、アラインメントプロセス自体は、通常全てかなしかの(all-or-nothing)ペア比較に基づくものではない。代わりに、化学的類似性又は進化距離に基づいて各ペアワイズ比較に対しスコアを割り当てる、スケールを用いる(scaled)類似性スコアマトリックスを一般的に使用する。一般的に使用されるそのようなマトリックスの例は、BLOSUM62マトリックス(BLASTスイートのプログラム用のデフォルトマトリックス)である。GCG Wisconsinプログラムは一般的にパブリックデフォルト値又は提供されていればカスタムシンボル比較表のいずれかを使用する(更なる詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。一部のアプリケーションに関しては、GCGパッケージ用のパブリックデフォルト値を、又は他のソフトウェアの場合は、BLOSUM62などのデフォルトマトリックスを使用することが好ましい。
【0444】
ソフトウェアにより最適なアラインメントが生成されれば、パーセント配列同一性を算出することが可能であろう。ソフトウェアは通常、配列比較の一環としてこれを行い、数値結果を生成する。パーセント配列同一性は、言及される配列番号中の総残基に占める割合としての、同一残基の数として算出されうる。
【0445】
「断片」もバリアントであり、この用語は通常、機能的に、又は例えばアッセイにおいて目的のポリペプチド又はポリヌクレオチドの選択された領域を指す。したがって、「断片」は、完全長ポリペプチド又はポリヌクレオチドの一部であるアミノ酸又は核酸配列を指す。
【0446】
そのようなバリアント、誘導体、及び断片は、標準的な組換えDNA技術、例えば部位特異的突然変異誘発を使用して調製されうる。挿入物が作製されるうる場合、挿入部位の両側の天然に存在する配列に相当する5'及び3'隣接領域とともに挿入物をコードする合成DNAが作製されうる。隣接領域は、天然に存在する配列中の部位に相当する利便性の高い制限部位を含有し、その結果、配列は適当な酵素(複数可)で切断されて、合成DNAは切断部に連結されうる。続いてDNAは、コードされるタンパク質を作製するために本発明に従って発現される。これらの方法はDNA配列の操作のための当該分野で既知の数多くの標準技法の例示に過ぎず、他の既知の技法を使用してもよい。
【0447】
細胞
ある態様では、本発明は本発明のベクターを含む細胞を提供する。細胞は単離細胞であってもよい。細胞はヒト細胞、適切には単離ヒト細胞であってもよい。細胞は当該技術分野で既知の任意の細胞型でありうる。
【0448】
細胞は本発明の第1及び/又は第2のべクターを含みうる。
【0449】
細胞を作製する方法
本発明のベクターは当該分野で既知の様々な技法、例えばトランスフェクション、形質導入及び形質転換を使用して細胞に導入されうる。適切には、本発明のベクターはトランスフェクション又は形質導入によって細胞に導入される。
【0450】
ある態様では、本発明は本発明の細胞を作製する方法を提供する。当該方法は、例えばトランスフェクション又は形質導入によって本発明のベクターを細胞へ導入することを含みうる。
【0451】
適切には、細胞は対象から単離された試料(例えば末梢血、骨髄又は臍帯血)由来であってもよい。細胞は更に任意の適切な方法によって使用から分離されうる。
【0452】
本発明の細胞は下記ステップを含む方法によって生成されうる:
(i)対象からの細胞含有試料の単離又は細胞含有試料の供給、及び
(ii)操作された細胞の集団を提供するための、本発明のベクターによる細胞含有試料の形質導入又はトランスフェクション。
【0453】
細胞は、本発明のベクターを導入する前又は後に培養されうる。ステップは、閉じた滅菌細胞培養系中で実施されうる。
【0454】
造血幹細胞/前駆細胞及び分化細胞
適切には、細胞は造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)(例えば骨髄系/単球に関与した(committed)前駆細胞)又は分化細胞(例えばマクロファージ又は単球)でありうる。適切には、細胞は対象にとって自家的又は同種異系でありうる。
【0455】
造血幹細胞(HSC)は例えば末梢血、骨髄及び臍帯血に見られうる多分化性幹細胞である。HSCは自己再生及び任意の血球系譜への分化が可能である。HSCは免疫系全体、並びに全ての造血組織(例えば骨髄、脾臓及び胸腺)における赤血球系譜及び骨髄系譜に再定着することが可能である。HSCは造血細胞の全ての系譜の生涯にわたる産生を提供する。
【0456】
造血前駆細胞(HPC)は、特定型の細胞へ分化する能力を有する。しかしながら、幹細胞とは対照的に、造血前駆細胞(HPC)はすでにはるかに特異的であり、それらの「標的」細胞へ分化するように促される。HSCとHPCの違いは、HSCが無限に複製することができるのに対し、HPCは限られた回数しか分裂することができないことである。
【0457】
分化細胞は、幹細胞及び前駆細胞と比較してより特殊になっている。分化細胞には、造血系譜の分化細胞、例えば単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞、及びNK細胞が含まれる。例えば、造血系譜の分化細胞は、未分化細胞(HSC及びHPC)上では発現されないか、又は程度が少し劣って発現される細胞表面分子の検出によってHSCとHPCとを区別することができる。適切なヒト系譜マーカーの例として、CD33、CD13、CD14、CD15(骨髄系)、CD19、CD20、CD22、CD79a(B)、CD36、CD71、CD235a(赤血球系)、CD2、CD3、CD4、CD8(T)、CD56(NK)が挙げられる。
【0458】
本発明の細胞は、養子細胞移入に使用されうる。本明細書中で使用される場合、用語「養子細胞移入」は細胞集団の患者への投与を指す。細胞は対象から単離されてもよく、本発明のベクターは、細胞を患者に投与する前に本明細書中に記載する方法によって導入されうる。
【0459】
養子細胞移入は、同種異系又は自家的でありうる。「自家細胞移入」とは、出発細胞集団が、形質導入された細胞集団が投与される対象と同じ対象から得られることであると理解されよう。自家移入は、免疫学的不適合と関連付けられる問題を回避し、遺伝的に適合するドナーの利用可能性に関係なく対象に利用可能であるため有利である。「同種異系細胞移入」とは、出発細胞集団が、形質導入された細胞集団が投与される対象とは異なる対象から得られることであると理解されよう。任意選択で、ドナーは、免疫学的不適合のリスクを最小限に抑えるために、細胞が投与される対象に遺伝的に適合されている。或いは、ドナーは不適合であり、患者とは無関係である場合もある。形質導入された細胞集団の適切な用量は、治療上及び/又は予防上有効であるような用量である。投与されるべき用量は、治療されるべき対象及び状態に依存する可能性があり、当業者によって容易に決定されうる。
【0460】
プロデューサー細胞及びパッケージング細胞
適切には、細胞はプロデューサー細胞でありうる。用語「プロデューサー細胞」は、ウイルス粒子を産生するのに必要な全てのエレメントの一過性トランスフェクション、安定なトランスフェクション若しくはベクター形質導入後にウイルス粒子を産生する細胞、又はウイルス粒子を産生するのに必要なエレメントを安定に含むよう操作された任意の細胞を含む。適切なプロデューサー細胞は当業者に周知であろう。適切なプロデューサー細胞系として、HEK293(例えばHEK293T)、HeLa、及びA549細胞系が挙げられる。
【0461】
適切には、細胞はパッケージング細胞でありうる。用語「パッケージング細胞」は、感染性組換えウイルスをパッケージングするのに必要なエレメントの幾つか又は全てを含有する細胞を含む。パッケージング細胞は組換えウイルスベクターゲノムを欠如しうる。通常、そのようなパッケージング細胞は、ウイルスの構造タンパク質を発現することが可能な1つ以上のベクターを含有する。エンベロープウイルス粒子の産生に必要とされるエレメントの幾つかのみを含む細胞は、更なる所要のエレメントそれぞれの一過性トランスフェクション、形質導入又は安定な組込みのその後のステップを通じて、ウイルス粒子プロデューサー細胞系の生成における中間試薬として有用である。これらの中間試薬は、用語「パッケージング細胞」に包含される。適切なパッケージング細胞は当業者に周知であろう。
【0462】
幾つかの実施形態では、細胞は細胞の表面上でCD47及び/又はHLAの発現を減少するよう遺伝的に操作されている。幾つかの実施形態では、細胞はCD47をコードする遺伝子、及び/又はβ2-ミクログロブリンをコードする遺伝子、及び/又はMHC-I α鎖をコードする1つ以上の遺伝子の遺伝的に操作された崩壊を含む。細胞はCD47をコードする遺伝子の全てのコピー中に遺伝的に操作された崩壊を含みうる。細胞の表面上でのCD47及び/又はHLAの発現は、細胞が表面に露出されたCD47及び/又はHLAの分子を実質的に欠如するように減少されうる。幾つかの実施形態では、細胞は任意の表面に露出されたCD47及び/又はHLA分子を含まない。
【0463】
ある態様では、本発明は本発明のウイルスベクター粒子を作製する方法を提供する。当該方法は本発明のベクターを含むウイルス粒子プロデューサー細胞又はパッケージング細胞を、ウイルス粒子の産生に適した条件下で培養することを含みうる。当該方法は(a)例えばトランスフェクション又は形質導入によって本発明のベクターをウイルス粒子プロデューサー細胞又はパッケージング細胞へ導入すること、及び(b)細胞を、ウイルス粒子の産生に適した条件下で培養することを含みうる。そのような条件は当業者に周知であろう。
【0464】
医薬組成物
ある態様では、本発明は本発明のベクター又は本発明の細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0465】
医薬組成物は、治療上有効な量の薬学的に活性な作用物質、即ちベクター含むか、又はそれからなる組成物である。医薬組成物は好ましくは、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤(それらの組合せを含む)を含む。
【0466】
幾つかの実施形態では、医薬組成物は癌ワクチンである。「癌ワクチン」は既存の癌を治療するか、又は癌の発症を防止するワクチンである。
【0467】
「薬学的に許容される」には、その配合物が滅菌状態にあり且つ発熱物質を含まないことが含まれる。担体、希釈剤、及び/又は賦形剤は、ベクターに適合し且つそのレシピエントにとって有害ではないという意味で「許容される」ものでなければならない。通常、担体、希釈剤、及び賦形剤は、滅菌状態にあり且つ発熱物質を含まない生理食塩水又は注入媒質であるが、他の許容される担体、希釈剤、及び賦形剤を使用してもよい。
【0468】
治療用途のための許容される担体、希釈剤、及び賦形剤は、医薬品の技術分野では周知である。薬学的担体、賦形剤又は希釈剤の選択肢は、意図される投与経路及び標準的な薬務に関して選択することができる。医薬組成物は、担体、賦形剤又は希釈剤として又はそれに加えて、任意の適切な結合剤(複数可)、潤滑剤(複数可)、懸濁剤(複数可)、コーティング剤(複数可)又は可溶化剤(複数可)を含んでもよい。
【0469】
薬学的に許容される担体の例として、例えば、水、塩溶液、アルコール、シリコーン、ワックス、ワセリン、植物油、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、リポソーム、糖類、ゼラチン、ラクトース、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、界面活性剤、ケイ酸、粘性パラフィン、香油、脂肪酸モノグリセリド及びジグリセリド、ペトロエトラル(petroethral)脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
【0470】
本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物は、本明細書中に記載する疾患を治療及び/又は防止するのに適した様式で投与されうる。投与の量及び頻度は対象の状態、並びに対象の疾患のタイプ及び重症度などの因子により決定されるが、適当な投与量は臨床試験により決定されうる。したがって、医薬組成物は適宜製剤化されうる。
【0471】
本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物は、非経口的に、例えば静脈内に又は注入技法によって投与されうる。ベクター、細胞又は医薬組成物は他の物質、例えば溶液を血液と等張性にさせるのに十分な塩類又はグルコースを含有しうる滅菌水溶液の形態で投与されうる。水溶液は適切には緩衝されうる(好ましくはpH3~9に)。医薬組成物は適宜製剤化されうる。滅菌条件下での適切な非経口配合物の調製は、当業者に周知の標準的な医薬品技法によって容易に達成される。
【0472】
本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物は全身的に、例えば静脈内注射によって投与されうる。
【0473】
本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物は局所的に、例えば投与を腎臓に標的とすることによって投与されうる。適切には、ベクター、細胞又は医薬組成物は、門脈内注射によって又は肝動脈内注射によって投与されうる。
【0474】
医薬組成物は注入媒質、例えば無菌等張液中に本発明のベクター又は細胞を含みうる。医薬組成物は、ガラス製又はプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジ又は複数回用量用バイアルに封入されていてもよい。
【0475】
ベクター、細胞又は医薬組成物は、単回用量又は複数回用量で投与されうる。特に、ベクター、細胞又は医薬組成物は、単回、1回限りの用量で投与されうる。医薬組成物は適宜製剤化されうる。
【0476】
ベクター、細胞又は医薬組成物は、様々な用量(例えば1kg当たりのベクターゲノム(vg)で測定)で投与されうる。いずれにせよ、医師は任意の個々の対象にとって最も適切であろう実際の投与量を決定し、投与量は特定の対象の年齢、体重及び応答によって異なるであろう。
【0477】
医薬組成物は、1つ以上の他の治療薬を更に含んでもよい。ベクター、細胞又は医薬組成物は、1つ以上の他の治療薬と組み合わせて投与されてもよい。
【0478】
本発明は、本発明のベクター、細胞及び/又は医薬組成物を含むキットの使用を更に含む。好ましくは上記キットは当該方法、例えば本明細書中に記載する治療方法における使用のためのものであり、本明細中に記載するように使用される。好ましくは上記キットは、キット成分の使用に関する説明書を含む。
【0479】
疾患を治療及び/又は防止する方法
ある態様では、本発明は薬剤としての使用のための本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物を提供する。
【0480】
関連のある態様では、本発明は薬剤の製造における本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物の使用を提供する。
【0481】
関連のある態様では、本発明は本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与する方法を提供する。適切には、対象はヒト対象である。
【0482】
癌
本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物は対象において癌を防止又は治療するのに使用されうる。適切には、対象はヒト対象である。
【0483】
ある態様では、本発明は癌の防止又は治療における使用のための本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物を提供する。
【0484】
関連のある態様では、本発明は癌を防止又は治療するための薬剤の製造のための本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物の使用を提供する。
【0485】
関連のある態様では、本発明は本発明によるベクター、細胞又は医薬組成物を、それを必要とする対象に投与することを含む、癌を防止又は治療する方法を提供する。
【0486】
肝臓転移
幾つかの実施形態では、癌は肝臓癌、例えば続発性肝臓癌(例えば肝臓転移)である。
【0487】
幾つかの実施形態では、対象は続発性肝臓癌(例えば肝臓転移)を有するか、又はそれを発症するリスクがあり、ベクター、細胞又は医薬組成物を使用して、続発性肝臓癌を防止又は治療する。
【0488】
幾つかの実施形態では、対象は原発性癌(例えば結腸直腸起源、膵臓起源又は胸部起源の)を有し、ベクター、細胞又は医薬組成物を使用して、続発性肝臓癌(例えば肝臓転移)を防止又は治療する。
【0489】
転移は癌の原発部位から離れた続発性悪性増殖の発症である。転移は最も一般的には、癌細胞が主腫瘍から離脱して、血流又はリンパ系に入ると起きる。
【0490】
肝臓は癌転移に関して最も一般的な部位の1つであり、全症例のほぼ25%を占める。転移性疾患における高頻度の肝臓障害は、転移拡散の種々の仮説によって説明することができる。「力学的又は血流力学的仮説」によれば、門脈及び肝動脈による肝臓の二重血液供給が、循環している癌細胞の捕捉を促進し、このことが胃腸癌腫を患う患者における肝臓転移の高い発生率を説明している。他方で、「種と土壌」仮説によれば、原発腫瘍によっては転移位置として肝臓を選択的に標的にするものもあり、3番染色体の損失を有するブドウ膜黒色腫を患う患者、並びにエストロゲン(ER)及びプロゲステロン受容体(PR)陽性と組み合わせたヒト増殖因子受容体2(HER-2)陽性を有する乳癌を患う患者がその例である(de Ridder, J.ら, 2016. Oncotarget, 7(34), p. 55368)。
【0491】
肝臓転移の大部分は癌腫、特に腺癌である。原発性腫瘍は任意の原発性腫瘍であってもよく、原発性腫瘍は未知でありうる。しかしながら、腺癌を患う患者における最も一般的な原発性腫瘍は結腸直腸起源、膵臓起源又は胸部起源由来である(de Ridder, J.ら, 2016. Oncotarget, 7(34), p. 55368)。
【0492】
対象は当業者に既知の任意の適切な方法によって肝臓転移と診断されうる。例えば、対象は肝臓プロトコルを用いたCT画像診断、結腸内視鏡検査、及びEGDによって診断されうる。
【0493】
本発明のベクター、細胞又は医薬組成物は任意の他の適切な療法と組み合わせて、例えば肝転移の外科的切除及び/又は化学療法と組み合わせて、肝臓転移を治療又は防止するのに使用されうる。
【0494】
開示される本発明の範囲を逸脱することなく本明細書中に開示される本発明の特徴全てを組み合わせることができることは当業者に理解されよう。
【0495】
ここで、本発明の好ましい特徴及び実施形態は非限定的な例の目的で記載される。
【0496】
本発明の実施は別記しない限り、当業者の力量内にある化学、生化学、分子生物学、微生物学及び免疫学の従来の技法を用いる。そのような技法は文献で説明されている。例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F.及びManiatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press、Ausubel, F.M.ら(1995 and periodic supplements) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13 and 16, John Wiley & Sons、Roe, B., Crabtree, J.及びKahn, A. (1996) DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons、Polak, J.M.及びMcGee, J.O'D. (1990) In Situ Hybridization: Principles and Practice, Oxford University Press、Gait, M.J. (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press、並びにLilley, D.M.及びDahlberg, J.E. (1992) Methods in Enzymology: DNA Structures Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA, Academic Pressを参照されたい。これらの汎用テキストは参照により本明細書に組込まれる。
【0497】
[実施例]
[実施例1]
肝臓及び脾臓におけるMRC1発現食細胞から治療用遺伝子産物を発現するためのプラットフォーム
結果
本発明者らは、M2様マクロファージ特異的プロモーター、即ちMRC1プロモーターから導入遺伝子発現を駆動するレンチルウイルスベクター(LV)を設計及び産生した。マウスMrc1の主な調節機構を同定するために、本発明者らはMrc1オープンリーディングフレーム(ORF)に対してすぐ上流にある1.8kbの配列を選択し、GFPコード配列に対して上流にあるLV中にそれを組込み、Mrc1.GFP LVを生じた。続いて、本発明者らは骨髄由来マクロファージ(BMDM)をMrc1.GFP LV又は構成的に発現されるヒトPGKプロモーター(PGK.GFP LV)の制御下でGFP発現を駆動するLVのいずれかで形質導入した。LPS(M1分極)又はIL4(M2分極)のいずれかによる形質導入されたBMDMの刺激時に、本発明者らはMrc1.GFP LVがM2における導入遺伝子発現を駆動するが、M1 BMDMでは駆動しないことを見出した(
図1a)。その一方で、PGK.GFP LVはBMDM分極状態とは無関係に導入遺伝子を駆動した。続いて、本発明者らはMrc1.GFP LVを全身的に免疫不全マウスに送達し、フローサイトメトリーを使用することによって別個の生物学的コンパートメントにおけるGFP発現を分析した。本発明者らはKCにおいて、並びに程度は少し劣るが、MRC1+脾臓マクロファージ及びLSECにおいて選択的導入遺伝子発現を観察した(
図1c)。血液、肺及び骨髄中のGFP発現が検出されなかったことは注目すべきである。これらのデータと一致して、本発明者らは肝臓細胞及び脾臓においてLVコピーの組込みを観察したが、他の生物学的コンパートメントでは観察しなかった(
図1d)。
【0498】
本発明者らは、Mrc1遺伝子座に通常見られるエンハンサー配列の、LV設計への付加を用いて、マクロファージ分極時にMrc1プロモーターの転写機能を高めることができるかどうかを検討した。この目的で、マウスエンハンサー6(配列番号27)を、Mrc1プロモーターからGFPを発現するLVに対して上流に挿入した。次に、不死化クッパー細胞(iKC)を得られたLVで形質導入し、IL4 50ngで7日間分極させた。エンハンサーを有さないMrc1プロモーターと比較して、iKCをIL4で分極した場合に、Mrc1エンハンサーはMrc1プロモーターによって駆動されるGFPの発現を増加させることを本発明者らは見出した(
図1b)。
【0499】
マクロファージにおけるMrc1駆動LVの特異性を増大するために、本発明者らはLV設計においてmiRNA標的配列(miRT)を組込んだ。本発明者らは、2つの独立した転写物、即ち切断型低親和性神経成長因子受容体(dLNGFR、ノーマライザーとして使用される不活性膜タンパク質)、及びGFPの発現を駆動する双方向性LVを用いることによって、miRTの、標的細胞における導入遺伝子発現を弱める能力を評価する。双方向性LVにおけるGFP配列に対して下流で、本発明者らはLSECによって発現されるmiR-126-3p(miRT126 LV)、及び肝細胞によって発現されるmiR-122-5p(miRT122 LV)に関して、マイクロRNA標的配列を組込んだ。miRT LVを免疫不全マウスに全身的に送達し、GFP発現を目的の細胞において評価した。本発明者はmiRT126がLSECにおけるGFP発現を弱めたが、KC中におけるGFP発現を保持したことを観察した(
図2a)。同様の様式で、miRT122は肝細胞におけるGFPの発現を抑制したが、マクロファージでは抑制しなかった(
図2b~
図2c)。これらの結果は、LV設計におけるmiRT122及びmiRT126がマクロファージにおける特異的な導入遺伝子発現を更に微調整することを示している。この結果を基に、本発明者らはmiRT122及びmiRT126配列をMrc1.GFP LV設計に組込み、Mrc1.GFP.miRT LVを生じた。
【0500】
続いて本発明者らは実験的LMSの存在下でMrc1.GFP.miRT LVによって駆動される導入遺伝子産物発現を検討した。この目的で、本発明者らはMrc1.GFP LV又はMrc1.GFP.miRTのいずれかをマウスに全身的に送達した。LV送達の1週後、本発明者らは肝内注射によってmCherry陽性MC38結腸直腸癌細胞を接種して、実験的LMSを生じた。本発明者らは、肝臓でKCが最も高レベルのGFPを発現することを見出した(
図3a)。更に、本発明者らのこれまでの結果と一致して、LV設計のmiRTはLSECにおける導入遺伝子発現を弱めた。本発明者らは、GFPとして測定される導入遺伝子産物発現が他の領域よりも肝臓転移に近接して位置する領域で高いことを見出した(
図3b)。続いて、本発明者らは鼠経リンパ節、小腸、肺、脳、肝臓及び脾臓におけるLV組込みを測定した。これらの生物学的コンパートメントは全て、Mrc1.GFP LVの全身送達時にGFPを潜在的に発現することができる常在性マクロファージ集団のホストとなる。本発明者らのこれまでの結果と一致して、本発明者らは、脾臓及び肝臓のみが検出可能なLVコピーの組込みを示すことを見出した(
図3c)。同様の様式で、バックグラウンドレベルを超えるGFP発現は食細胞、例えば脾臓マクロファージ及びKCでのみ検出されたが、他の細胞集団では検出されなかった(
図3d、
図3e)。これらの結果により、Mrc1/miRT駆動LVを使用して、食細胞における、特にLMSの存在下での、また程度は少し劣るが脾臓MRC1陽性マクロファージにおける導入遺伝子産物発現を選択的に促進することができることが示される。
【0501】
肝臓における目的のタンパク質を発現するためのツールとしてのMrc1/miRT駆動LVプラットフォームを検証するために、本発明者らは肝臓転移に対する抗腫瘍活性を有する分子を送達した。抗腫瘍活性を有する分子として、本発明者らは抗腫瘍免疫及び血管新生抑制効果を駆動することができるサイトカインであるインターフェロン-α(IFNα)を用いた。本発明者らはMrc1プロモーター及びmiRT122/miRT126の制御下でマウスI型、IFNα、cDNAを有するLVを生成し、Mrc1.IFNα.miRT LVを生じた。これらの実験用の対照として、本発明者らはMrc1.IFNα.miRT LVの調節機構(即ち、Mrc1プロモーター及びmiRT122/126)を含有するが、IFNα cDNAを欠如しているLVを生成し、ORFless LVを生じた。次に、本発明者らはプラットフォームの、IFNαを発現する能力をin vivoで評価する。この目的で、本発明者らはMrc1.IFNα.miRT LV又はORFless LVのいずれかを免疫適格C57BL6マウスに送達し、ある期間にわたって血漿中のIFNαをモニタリングする。本発明者らは、Mrc1.IFNα.miRT LVで処理したマウスが肝毒性の兆候も、好中球減少の兆候も、強力な白血球減少の兆候もなく頑強で且つ持続的なレベルのIFNαを発現することを観察した(
図4a~
図4c)。
【0502】
本発明者らはIL10及びIL12の発現を駆動するLVを設計した。この目的でマウスIL10 cDNA(配列番号39)をMrc1.IFNα.miRT LVにおけるIFNαの位置に導入し、Mrc1.IL10.miRT LVを生じた。得られたLVを使用して、別個の感染多重度(MOI)でP388D1単球細胞系を形質導入した。形質導入したP388D1条件細胞培養培地中のIL10濃度を、ELISAを使用することによって測定した。本発明者らはMrc1.IL10.miRT LV形質導入P388D1の細胞培養培地中の検出可能なレベルを見出した(
図4d)。in vivoでKC LVの、IL10を発現する能力を評価するために、Mrc1.IL10.miRT LVのマウス1匹当たり1×10
7~5×10
7TUの範囲の単回用量を5週齢のマウスに静脈内で送達した。処理の21日後に血漿を収集した。本発明者らは未処理の対照マウスよりもMrc1.IL10.miRT LV処理マウスの血漿中により高濃度のIL10を見出した(
図4e)。KC LVを使用して、in vivoでIL10発現を駆動することができることを示している。続いて、本発明者らは単鎖機能的IL12分子の557個のアミノ酸をコードするDNA(配列番号40)を生成した。ここで、1)1~23のアミノ酸はマウスIL12ベータサブユニットのシグナルペプチドであり、2)24~28のアミノ酸はアミノ酸配列AGQLMで構成されるリンカー配列であり、3)29~340のアミノ酸はマウスIL12のベータサブユニットのアミノ酸23~335であり、4)341~360のアミノ酸はアミノ酸配列RRAGGGGSGGGGSGGGGSRTで構成されるリンカー配列であり、5)361~553のアミノ酸はアミノ酸44~236由来のマウスIL12サブユニットアルファ(アイソフォーム1)であり、6)554~557のアミノ酸はアミノ酸配列TRASで構成される終結配列である。次に、単鎖IL12 cDNAをMrc1.IFNα.miRT LVにおけるIFNαの位置に挿入して、Mrc1.IL12.miRT LVを生じた。本発明者らはマウス1匹当たり2×10
6TUの単回用量のMrc1.IL12.miRT LVを6週齢のマウスに静脈内で送達し、処理の10日後に血漿を収集した。本発明者らはMrc1.ORFless.miRT(ORFless)処理マウスよりもMrc1.IL12.miRT LV処理マウス由来の血漿中でより高レベルのIL12を見出した(
図4f)。本発明者らはまた種々の時点で全血球(WBC)数を分析し、40日の観察期間中、WBCが安定なままであったため、IL12は処理マウスによる耐容性が良好であることを見出した(
図4g)。まとめると、これらのデータにより、KC LVプラットフォームは事実上任意の治療用サイトカイン又はタンパク質の発現をin vivoで駆動することができること、またこの処理は耐容性を示しうることが示されている。
【0503】
Mrc1.IFNα.miRTを肝臓中に存在する腫瘍に対する治療的介入として使用することができるかを検討するために、本発明者らは実験的LMSを有するマウスをMrc1.IFNα.miRT又はORFless LVで処理した(
図5a)。この目的で、本発明者らはまず同系C57BL6マウスにおける肝内注射によってMC38細胞を接種した。LMSが樹立されたら、本発明者らはMrc1.IFNα.miRT又はORFless LVのいずれかをマウスに全身的に送達した。本発明者らは、Mrc1.IFNα.miRT LVで処理したマウスが血漿中で持続的なレベルのIFNαを示すことを見出した(
図5b)。本発明者らは磁気共鳴画像法(MRI)によって腫瘍成長をモニタリングした。本発明者らは、IFNα発現が腫瘍進行を遅延し、10匹のマウスのうち1匹が処理に対して完全に応答することを見出した(
図5c)。本発明者らは10倍少ないLV用量を用いて類似した結果を得た(
図5d、
図5e)。LMSを拒絶するマウスが防御された免疫を発現するかどうかを検討するために、本発明者らは皮下MC38細胞でマウスを再負荷する。すでにMC38肝臓転移を拒絶したマウスは、(PBS処理)マウスよりも長期間、腫瘍を有さないままであり(
図5f)、免疫系がMC38細胞の大部分を排除し、完全レスポンダーマウスにおいて腫瘍進行を遅延しうることを示唆した。
【0504】
MC38腫瘍成長の遅延において免疫系によって果たされる役割を更に検討するために、本発明者らは代替腫瘍抗原、即ちトリオボアルブミン(OVA)を発現するMC38細胞を用いた。本発明者らのこれまでの結果と一致して、Mrc1.IFNα.miRT LVは処理マウスの血漿中で検出されうる持続的で且つ頑強なIFNα発現を促進した(
図6a)。本発明者らはMrc1.IFNα.miRT LVで処理したマウスにおいて腫瘍成長の遅延を観察し、10匹のマウスのうち3匹が腫瘍を拒絶した(
図6b)。重要なことに、OVA反応性、したがって癌細胞特異的CD8 T細胞の割合はMrc1.IFNα.miRT LV群で著しく増加し、適応免疫の活性化を示した(
図6c)。Mrc1.IFNα.miRT LV群では、TAMはM1様分極に傾いていた一方で、M2様TAMの比率は低減された(
図6d)。まとめると、Mrc1.IFNα.miRT LVの、MC38ベースの実験的LMSを有するマウスへの全身送達は腫瘍成長を遅延し、TAMを再プログラミングして、適応免疫を促進した。
【0505】
KC LVによるIL12発現を治療上活用することができるかどうかを評価するために、本発明者らはマウス1匹当たり2×10
6TUの単回用量のMrc1.IL12.miRT LV又は対照としてのMrc1.ORFless.miRT LVを6週齢のマウスに静脈内で送達した。続いて、本発明者らはオボアルブミンを構成的に発現するMC38細胞(OVA、MC38.OVA)に基づく皮下腫瘍をLV処理から14日目に接種した。腫瘍接種の27日後、マウスを安楽死させた。本発明者らは、Mrc1.ORFless.miRT LV処理対照と比較してMrc1.IL12.miRT LV処理マウスの肝臓において癌細胞特異的(ペンタマー+)CD8 T細胞レベルの上昇を見出した。本発明者らはまた、適応免疫系の活性化を示す、IL12処理マウスの脾臓においてCD44+ペンタマー+CD8 T細胞レベルの上昇を見出した(
図6e)。本発明者らは、IL12発現が腫瘍成長を遅延し、5匹のマウスのうち3匹が実験のエンドポイントで腫瘍を有さない結果となることを見出した(
図6e)。これらの結果により、KC LVプラットフォームを使用して、肝臓から離れた部位に位置している腫瘍において治療的活性を有する単鎖IL12を発現することができることが示されている。
【0506】
実験的LMS腫瘍モデルとして、MC38の肝内送達には幾つか制限がある。例えば、MC38細胞は肝臓で直接発達して、したがって癌細胞の血管外漏出及び自発的播種を省略し、更に、ヒト癌患者で観察されるドライバー変異と完全には似ていないドライバー変異を通じて、悪性形質転換が行われた。これらの制限を克服するために、本発明者らは患者で観察された疾患をより良好に再現するCRCオルガノイドベースのLMS腫瘍モデルを用いた。CRCオルガノイドは自発的に遺伝子操作されたマウスCRCに由来し、それはドライバー変異の明確に定められたセット(APC
Δ716、Kras
G12D、Tgfbr2
-/-、Trp53
R270H、Fbxw7
-/-)を持っている。CRCオルガノイドは脾臓内注射によってマウスに送達され、肝臓における癌細胞の自発的血管外漏出及び播種を可能にした。LMS形成の1週後、マウスをMrc1.IFNα.miRT LV又は対照ORFless LVのいずれかで処理した。本発明者らのこれまでの結果と一致して、本発明者らは処理マウスの血漿中に安定且つ頑強なIFNα発現を観察した(
図7a)。本発明者らは、Mrc1.IFNα.miRT LVがORFless LVと比較して腫瘍成長を遅延し、10匹のマウスのうち3匹がLMSを拒絶することを見出した(
図7b)。本発明者らは、Mrc1.IFNα.miRT LVが肝臓における、またより高い程度で処理マウスの転移塊におけるIFNα誘導遺伝子の発現を増大し、IFNαシグナル伝達活性化を示すことを観察した(
図7c)。更に、本発明者らは、食細胞、例えばKCによるIFNα発現がCD8 T細胞の浸潤及びマクロファージの、M1様表現型への分極を促進することを見出した(
図7d、
図7e)。本発明者らは実験的二重反復において類似した結果を得た(
図7f、
図7g)。
【0507】
Mrc1-miRT調節LVが抗原提示細胞(APC)における導入遺伝子発現を選択的に駆動するという事実を基に、本発明者らは腫瘍抗原(TA)に対する適応免疫を促進するために腫瘍ワクチンとしてこのプラットフォームを用いることの実行可能性を検討することにした。これを行うために、本発明者らは代替腫瘍抗原としてトリオボアルブミン(OVA)を用いた。本発明者らはまず、Mrc1.IFNα.miRTにおけるIFNαコード配列を、切断型(細胞内分泌を制限するため)OVA発現配列で置換し、Mrc1.OVA.miRTを生じた。実験的肝臓転移を生成するために、本発明者らは同系C57BL6マウスにおいて肝内に、VCN 3にてOVA発現LVで予め形質導入したMC38細胞を接種した。腫瘍負荷の2日後に、本発明者らは、尾静脈注射によりMrc1.OVA.miRT LV又はORFless LVを全身的に送達したのに対して、肝臓転移を負荷していないマウス群にはPBSを付与した。本発明者らは、腫瘍を持たないマウスと比較して、OVA発現肝臓転移がOVA特異的(ペンタマー陽性)CD8 T細胞の割合を著しく増加させることを見出した(
図8a)。Mrc1.OVA.miRTが、循環しているOVA特異的PD1発現CD8 T細胞の数を増加し、Mrc1-miRT調節LVを使用した腫瘍ワクチン接種がCD8 T細胞の活性化及び消耗を高めうることを示すことは注目すべきである(
図8b)。本発明者らは、Mrc1.OVA.miRT処理マウスの肝臓が非常に多数のOVA特異的CD8 T細胞を示すことを観察し(
図8c)、これが将来の転移性播種に対して肝臓を防御しうる。まとめると、Mrc1.OVA.miRT LVは癌細胞特異的T細胞の数を強力に増加させ、プラットフォームを使用して、特異的TAに対する適応免疫を促進することができることを示している。
【0508】
材料及び方法
レンチウイルスベクター構築
Mrc1プロモーター配列(Seq 1)を得るために、以下に記載するようにマウスBMDMを入手し、製造業者によって示されるようにGEL抽出キット(Qiagen社)を使用してDNAを抽出した。推定Mrc1プロモーターに相当する配列を、製造業者によって示されるようにPfu ultra II(Agilent Technologies社)ポリメラーゼを使用してPCRによって増幅した。プライマーを以下に記載する。SensoQuest GmbH labcyclerでPCRを実行し、High Pure PCR産物精製キット(Qiagen社)を使用して精製した。1%アガロースゲル中にアンプリコンを流した後、Jetquickゲル抽出スピンキット(Genomed社)を使用してそれらを抽出した。次に、これまで記載されるPGK.GFP LVにおいてGFP配列に対して上流にあるPGK配列を置き換えるXhoI及びAgeI制限部位を使用してアンプリコンをクローニングした(Squadrito, M.L.ら, Nat Methods, 2018. 15(3): p. 183-186)。
【0509】
【0510】
【0511】
【0512】
miRT配列を得るために、miRT-122(Seq 2)及びmiRT-126(Seq 3)に関するmiRT配列を、これまで記載される双方向性LVにおけるGFPに対して下流に挿入した(Annoni, A.ら, Blood, 2009. 114(25): p. 5152-61)。
【0513】
【0514】
【0515】
次に、miRT-122及びmiRT-126をタンデムで含有する配列(Seq 4)を、KpnIを使用してMrc1.GFP LVにおいてクローニングし、Mrc1.GFP.miRT LVを生じた。
【0516】
Seq 4. miRT-122/miR126 4xmiRT
【0517】
IFNαをコードするDNA配列(Seq 5)をこれまで記載される構築物から得て(Escobar, G.ら,Nat Commun, 2018. 9(1): p. 2896)、AgeI及びSalIを使用してMrc1.GFP.miRT LVにおけるGFPの位置でクローニングして、それぞれMrc1.IFNα.miRT LVを生じた。
【0518】
【0519】
トリオボアルブミンをコードするDNA配列(Seq 6)を、BamHI及びSalI制限部位を使用してこれまで記載されるLVのPGKプロモーターの下流でクローニングした(Squadrito, M.L.ら, Nat Methods, 2018. 15(3): p. 183-186)。
【0520】
【0521】
5'末端にある153個のヌクレオチドを欠如している切断型トリオボアルブミンをコードするDNA配列(Seq 7)を使用して、AgeI及びSalIを使用してMrc1.GFP.miRT LVにおけるGFPコード配列を置き換えて、Mrc1.OVA.miRTを生じた。
【0522】
【0523】
この研究で使用したIL10をコードするDNA配列は以下であった:
(配列番号39)
【0524】
この研究で使用した単鎖IL12をコードするDNA配列は以下であった:
(配列番号40)
【0525】
LV産生
水疱性口内炎ウイルス(VSV)シュードタイプの第三世代LVを、これまで記載されるように293T細胞への一過性の5プラスミド同時トランスフェクションによって産生した(Soldi, M.ら, Molecular Therapy: Methods & Clinical Development, 2020. in press)。簡潔に述べると、細胞培養培地20ml中での一過性トランスフェクションの24時間前に、9百万個の293T細胞を15cmの皿に播種した。各皿用に、(i)エンベローププラスミド(VSV-G、9μg)、(ii)パッケージングpMDLg/pRREプラスミド(12.5μg)、(iii)REVプラスミド(6.25μg)、(iv)pADVANTAGEプラスミド(15μg)、及び(v)トランスファーレンチウイルスプラスミド(32μg)を含有するプラスミドミックスを調製した。これまで記載されるように一過性トランスフェクションを実施した(Soldi, M.ら, Molecular Therapy: Methods & Clinical Development, 2020. in press)。30時間後、細胞上清を収集し、濾過して(0.22μm)、SW32Ti回転子を備えたBeckman超遠心機を使用した、82'600RCFで20℃にて2時間の超遠心分離によって濃縮した。LV粒子をPBS中に収集して、-80℃で保管した。
【0526】
中規模プロセス開発ラボ(PDL)プロトコルに従って、精製したレンチウイルスベクター(LV)を産生した(Soldi, M.ら, Molecular Therapy: Methods & Clinical Development, 2020. in press)。簡潔に述べると、上述するようにベクタートランスファープラスミド並びにHIV gag-pol遺伝子、HIV rev遺伝子及び水疱性口内炎ウイルスエンベロープG糖タンパク質をコードするプラスミドで構成された標準的な第三世代系を使用して、Cell Factory 10トレイスタック(CF10)において接着HEK293T細胞のリン酸カルシウム媒介性一過性トランスフェクションによってLVを産生した。更に、pAdVAntageをプラスミドのプールに添加した。トランスフェクションの14時間~16時間後に、培地を取り換えて、最終濃度1mMで酪酸ナトリウムを補充した。培地交換の30時間後にLV含有上清(およそ6リットル)を収集し、それぞれ5μlフィルター及び0.8μm~0.45μmフィルターに通して濾過及び浄化し、細胞片及び大凝集体を除去した後、5℃~10℃で一晩陰イオン交換クロマトグラフィーにロードした。低塩濃度緩衝液で洗浄した後、カラムに結合したベクター粒子を、0Mから1M NaClの線形塩勾配で溶出させた。高塩濃度を低減するために、溶出直後にLV試料とPBSとの1対1希釈を実施した。続いて、希釈したLVをタンジェンシャルフロー濾過(TFF)系で濃縮した。混入物質DNAを消化するための捕捉ステップ前及び後に、2mM MgCl2の存在下で4℃にて4時間、それぞれ16U/ml及び50U/mlで2回、ベンゾナーゼ処理を実施した。最終的に、完成ステップとしてGFクロマトグラフィーを用いて、緩衝液交換を可能にした。LVをおよそ15ml容量のPBSで溶出させ、出発細胞培地収集からおよそ500倍の最終容量濃度を達成した。最終産物中の微生物混入のリスクを排除するために、精製したベクターストックを最終的に0.2μm膜で濾過し、-80℃で保管した。続いて、ベクターバッチを宿主(HEK293T)細胞DNA及びタンパク質、残留プラスミド含有量、エンドトキシンレベル及び凝集体に関して分析し、産物の純度及び安全性を決定した。
【0527】
PDL又は超遠心分離によって産生されたLVストックを、293T細胞上で滴定した。LVの力価は、これまで記載されるように定量的デジタルドロップレットPCRによりゲノム1つ当たりの組込まれたベクターのコピー数を測定することによって算出した(Soldi, M., ら, Molecular Therapy: Methods & Clinical Development, 2020. in press)。本発明者らはLV超遠心分離又は精製後に109~1010の形質導入ユニット(TU)/mlの範囲の力価を得た。
【0528】
BMDM生成及び形質導入
6週齢のC57BL6マウスの大腿及び脛骨からBM細胞を入手した。次に、MCSF(100ng)を補充したRPMI培地中でBM細胞を7日間インキュベートして、接着BMDMを得た。7日目にBMDMをMOI 10で形質導入し、24時間後に培地を取り換えた。M-CSF(100ng/ml)を補充したRPMI培地中で、IL4(20ng/ml、Peprotech社)を添加し24時間~72時間おくか、又はLPS(100ng/ml、Sigma社)+IFN-g(200U/ml、Peprotech社)を添加し24時間~48時間おくことによって、形質導入したBMDMを分極させた。フローサイトメトリー分析用のBMDMをペトリ皿上で培養した(非組織培養物処理、細菌グレード)。
【0529】
MC38培養及び形質導入
15cmの皿(FALCON社)において10%FBSを補充したIMDM培地中でMC38細胞を培養し、1/10の比で1週につき3回分割して、それらを最大コンフルエンシー80 %で維持した。
【0530】
OVAを発現するMC38細胞を産生するために、本発明者らはこれまで記載されるようにMC38細胞を、構成的PGKプロモーターからOVAを発現するLV(PGK.OVA LV、上述)で形質導入した(Squadrito, M.L.ら, Nat Methods, 2018. 15(3): p. 183-186)。簡潔に述べると、MC38癌細胞を感染多重度(MOI)1~20の範囲のLV用量で形質導入した。デジタルドロップレットPCRを使用することによってVCNを分析し、3に近いVCNで形質転換されたMC38細胞を実験に使用した。形質導入された細胞を数日間増殖させて、液体窒素中で保管した。
【0531】
mCherry陽性MC38を得るために、本発明者らはMC38細胞を、これまで記載される構成的PGKプロモーターからmCherr蛍光タンパク質を発現するLVで形質導入した(Squadrito,M.L.ら, Nat Methods, 2018. 15(3): p. 183-186)。上記通り、MC38癌細胞をMOI1~20の範囲のLV用量で形質導入した。MC38細胞における100%mCherry発現を引き起こす最も小さなMOIを更なる実験に使用した。
【0532】
オルガノイド培養
これまで記載されるようにオルガノイドを培養液中に維持した(Sakai, E.ら, Cancer Res, 2018. 78(5): p. 1334-1346、及びNakayama, M.ら, Nat Commun, 2020. 11(1): p. 2333)。簡潔に述べると、Hepes(10mM、Thermo Fisher Scientific社)、GlutMAX(2mM、Thermo Fisher Scientific社)、N2-サプリメント(1X、Gibco社)、B27-サプリメント(1X/Thermo Fisher Scientific社)、組換えマウスEGF(50ng/mL、Invitrogen社)、N-アセチル-システイン(1mM、Sigma-Aldrich社)及び1%Pen/Strepを補充したAdvanced F12/DMEM培地(Thermo Fisher Scientific社)300μLで覆った48ウェルプレート(Costar社)において増殖因子リデューストMatrigel(BD社)の30μL液滴中でオルガノイドを培養した。分割のため、培地を除去し、細胞回収溶液(Corning社)500μLを使用してオルガノイドを収集し、氷冷PBS(Corning社)で洗浄して、分割比1:5で新鮮なMatrigel中に懸濁させた。
【0533】
in vivo研究
C57BL6マウス及びスイスヌードマウスをCharles River社から購入し、特定病原体フリー(SPF)条件で保持した。動物を含む手順はAnimal Care and Use Committee of the San Raffaele Hospital(IACUC #1007及び#1098)の認可を伴って設計及び実施し、イタリアの法律に準じて保健省及び地方自治体に伝えた。
【0534】
PBS合計250μlの3×107~3×108の範囲のLV用量を、尾静脈注射によってマウスに送達した。
【0535】
肝内注射を通じてMC38細胞をマウスに送達し、単一実験的肝臓転移を生じた。簡潔に述べると、MC38細胞を、トリプシンを使用することによって剥離させて、PBS中に再懸濁させた。PBS 5μl中の1×105個~5×105個のMC38細胞をC57BL6又はスイスヌードマウスのいずれかに送達した。
【0536】
多重の自発的播種性肝臓転移を生じるために、CRCオルガノイドを機械的に解離させて、3×105個のオルガノイド細胞をC57BL/6の脾臓にMatrigelとともに注射した。
【0537】
マウスを腹部MRIに供して、最終的な肝臓転移を測定した。7-Tesla MRスキャナー(Bruker社、BioSpec 70/30 USR、Paravision 5.1、ドイツ)を使用することによってMRI研究を実施した。MRIはガドキセト酸(Gd-EOB-DTPA、Primovist、Bayer Schering Pharma社)の静脈内注射で予め処理したマウスで実施した。
【0538】
腫瘍及び肝臓解離
肝臓転移、フローサイトメトリー分析用の肝臓及び脾臓の調製のため、頸椎脱臼によってマウスを安楽死させた。35μg/mlの濃度のコラゲナーゼIV型(Sigma Aldrich社)を含有する5mMのEDTA及びIMDM(Corning社)10mlを補充したPBS 10mlの注射によって全肝臓を灌流した。所要の組織の小片を採取して、手で細片に切断した後、35μg/mlの濃度のコラゲナーゼIV型(Sigma Aldrich社)及び1mg/mlのディスパーゼII(Roche社)を含有するIMDM中で37℃にて15分間インキュベーションした。次に、40μmのセルストレーナー(Falcon社)を使用して細胞懸濁液を濾過し、MACS Buffer(Miltenyi Biotec社)30mlで洗浄した。以下に記載するようにフローサイトメトリーを実施した。
【0539】
血液加工
血液をマウスの尾静脈から採取して、Microvette(登録商標)500 K3Eチューブ(Sarstedt社)中に収集した。フローサイトメトリー分析用に、Red Blood Cell Lysing Buffer Hybri-Max(商標)(Sigma社)を使用して抗体染色後に更なる赤血球溶解ステップを実施した。ProCyte DX(商標)(IDEXX社)を使用して全血に対して血球計測器分析を実施した。血漿の収集のために、血液を845×Gで10分間遠心分離して、上清を収集した。
【0540】
IFNα定量化
血漿中のIFNαレベルを、製造業者の説明書に従ってPBL Assay Science社のIFN□高感度キット(カタログ番号:42115-1)を使用してELISAアッセイによって定量化した。下記の希釈:1/10又は1/50で、技術的二重反復で試料を測定した。
【0541】
フローサイトメトリー
免疫表現分析(FACSCanto II又はSymphony、BD PharMingen社で実施)のために、本発明者らは以下の表に列挙した抗体を使用した。単一染色した細胞及びFluorescence Minus One染色した細胞を対照として使用した。7-AAD Viability Staining Solution (BioLegend社)又はLIVE/DEAD(商標)Fixable Blue Dead Cell Stain Kit(Invitrogen社)染色のいずれかを実施して、分析から死滅細胞を排除した。
【0542】
フローサイトメトリー分析用の抗体のリスト
【0543】
【0544】
免疫蛍光分析
免疫蛍光染色及び共焦点顕微鏡法のために、肝臓転移を10μm~20μmのクライオスタット切片に切断した。簡潔に述べると、腫瘍を4%パラホルムアルデヒド中で2時間固定し、10%ショ糖を含有するPBS中で12時間、PBS/20%ショ糖中で12時間、及び最終的にPBS/30%ショ糖中で12時間平衡化した。次に、試料をドライアイス上でKillik OCT包埋用媒質(Bio-optica社)中に包埋した後、-80℃で保管した。即時染色のためにクライオスタット切片をスライド上に載せた。続いて、切片を、1%ウシ血清アルブミン(BSA)及び0.1%Toriton X-100(PBS-T)を含有するPBS中で、5%ウシ胎児血清でブロックした。
【0545】
以下の一次抗体を使用した:1:500の標準希釈のトリ抗GFP(AB13970、Abcam社)、1:200の標準希釈のウサギ抗mCherry(AB167453、Abcam社)、1:200の標準希釈のウサギ抗CD31(PA5-16301、Invitrogen社)、1:200の標準希釈のラット抗F4/80(AB6640、Abcam社)。ヤギ抗体を1:500の標準希釈で二次染色に使用した:AF488抗トリ(A-11039、Invitrogen社)、AF647抗Rat(A-21247、Invitrogen社)及びAF546抗ウサギ(A-11010、Invitrogen社)。PBS中で1:2000に希釈したHoechstを使用して核の対比染色を行った。HC PL FLUOTAR 10倍(NA 0.3)Dry及びHC PL APO CS 20倍(NA 0.7)Dry対物レンズを備えたLeica TCS SP8 Laser Scanning Confocalを用いて免疫蛍光写真を取得した。画像はFiji ImageJソフトウェアを使用して分析した。
【0546】
RNA抽出及びcDNA生成
マウスから収集した組織を-80℃で保管した。RNeasy(登録商標)Miniキット(Qiagen社)を使用して組織30mgからRNAを抽出し、Nanodrop 8000(Thermo Scientific社)を使用することによってUV/Visによって定量化した。SuperScript(商標)IV VILO (Invitrogen社)を使用してRNAをcDNA生成のためにすぐ加工処理して、cDNAを-20℃で保管した。
【0547】
DNA抽出
マウスから収集した組織を-80℃で保管した。DNA抽出のために、25mg片を使用し、DNeasy(登録商標)Blood & Tissue Kit(Qiagen社)を使用して加工した。抽出したDNAを、Nanodrop 8000(Thermo Scientific社)を使用してUV/Visによって定量化して、4℃で保管した。
【0548】
遺伝子発現及びVCN決定
遺伝子発現分析では、ドロップレット生成用にAutomated Droplet Generator(Bio-Rad社)を、PCR増幅用にT100(商標)Thermal Cycler(Bio-Rad社)を、及び取得用にQX200(商標)Droplet Reader(Bio-Rad社)を使用したデジタルドロップレットPCRを用いた。FAMで標識したプローブを使用したIrf7、Ifit1又はOas1aに関するTaqManアッセイを、HEXで標識したプローブを使用したノーマライザー遺伝子Hprt用のTaqManアッセイと組み合わせた。VCN決定のために、HIV(FAM)及びSema3a(HEX)を標的とするTaqManアッセイを組み合わせた。QuantaSoft(商標)AnalysisProソフトウェア(Bio-Rad社)を使用して分析を実施した。以下の方程式を使用することによってVCNを算出した:
【0549】
【0550】
遺伝子発現及びVCN決定に使用したTaqManアッセイのリスト
【表3】
【0551】
上記明細書中で言及した刊行物は全て、参照により本明細書中に組込まれるものとする。開示した本発明のベクター、細胞、組成物及び使用の様々な修正及び変更は、本発明の範囲及び趣旨を逸脱することなく当業者には明らかであろう。本発明を特定の好ましい実施形態と関連付けて開示してきたが、特許請求の範囲に記載されている本発明をそのような特定の実施形態に過度に限定すべきではないことが理解されるべきである。実際には、本発明を実施するための開示された様式の様々な修正は、当業者には明白であり、併記の特許請求の範囲内にあるものと意図される。
【配列表】
【国際調査報告】