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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】胸腺構築物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20231208BHJP
   A61K 35/26 20150101ALI20231208BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231208BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C12N5/071
A61K35/26
A61P37/02
A61L27/38
A61L27/38 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534187
(86)(22)【出願日】2021-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 GB2021053216
(87)【国際公開番号】W WO2022123247
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】2019503.8
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518151434
【氏名又は名称】ザ フランシス クリック インスティチュート リミティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボンファンティ、パオラ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C081
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065AC20
4B065BA25
4B065BC50
4B065CA44
4C081AB11
4C081CD34
4C081EA01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB42
4C087BB64
4C087MA66
4C087MA67
4C087NA14
4C087ZB07
(57)【要約】
本発明は、対象に移植するために適した胸腺構築物の製造方法であって、前記方法は:(i)無細胞の足場を準備する工程と;(ii)間葉特性を有する胸腺上皮細胞を、前記無細胞の足場に播種する工程と;(iii)前記播種された足場を培養して前記構築物を製造する工程と、を含む方法を提供する。胸腺上皮細胞は、好ましくはCD49f+であり、VIM+、TE-7+及び/又はCD90+であってもよい。本発明は、間葉特性を有する胸腺上皮細胞を用いた医薬組成物、使用及び治療を更に提供する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象への移植に適した胸腺構築物の製造方法であって、前記方法は:
(i)無細胞の足場を提供する工程と;
(ii)間葉特性を有する胸腺上皮細胞を、前記無細胞の足場に播種する工程と;
(iii)前記播種された足場を培養して前記構築物を製造する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
工程(ii)は、前記胸腺上皮細胞(TEC)と胸腺間質細胞(TIC)との両方を、前記無細胞の足場に播種することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、好ましくはmTEC及びcTECの組合せを含む、請求項1又は請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比で播種する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、好ましくは更にVIM+、TE-7+及びCD90+を含む群の少なくとも1つである、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記無細胞の足場を、胸腺全体又はその部分若しくは葉を脱細胞化することにより製造する、請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記胸腺、部分又は葉を、界面活性剤、プロテアーゼ及びヌクレアーゼの群から選択される少なくとも1つの脱細胞化媒体を用いた灌流により脱細胞化する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(iii)は、前記足場中に及び/又は前記足場上に前記胸腺上皮細胞を注入又は灌流することを含む、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
胸腺の再生において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
【請求項11】
胸腺疾患、免疫疾患又は自己免疫疾患の治療において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
【請求項12】
間葉特性を有する単離された胸腺上皮細胞、及び薬剤的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
【請求項13】
単離された胸腺間質細胞を更に含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、好ましくはmTEC及びcTECの組合せを含む、請求項12又は請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比で播種する、請求項12~請求項14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、好ましくは更にVIM+、TE-7+及びCD90+を含む群の少なくとも1つである、請求項12~請求項15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
請求項1~請求項9のいずれか一項に記載の方法により得られた又は得ることができる胸腺構築物。
【請求項19】
治療において使用するための請求項18に記載の胸腺構築物。
【請求項20】
臓器移植方法であって、前記方法は、請求項19に記載の胸腺構築物を患者に外科的移植することを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胸腺構築物、胸腺構築物の製造方法及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
胸腺は、造血前駆細胞が機能性T細胞になるように指令される一次性リンパ器官である。胸腺は、産後退縮するが、一生を通じてその位置にある。
【0003】
胸腺ストローマの上皮成分は、内胚葉に由来するが、間葉ストローマは、神経堤及び部分的に輸入血管に由来する。免疫調節におけるこれらの基本的役割を反映して、多くの研究は胸腺上皮細胞(以後「TEC」と略す)並びに多種多様な非自己侵襲的な特異性のT細胞を選択するために必要であるAIRE及びMHCクラスII(MHCII)を含むこれらの活性を媒介する分子の起源及び表現型の複雑さを理解する上での手掛かりとなった。
【0004】
TECの中心的な長年にわたって確立された識別するものは、皮質性(cTEC)または髄質性(mTEC)のいずれかとしてのこれらの割当であり、分化型TECが寄与する解剖学的領域を反映する。しかしながら、確定されたTEC及び他のストローマ細胞型はかなり詳細に研究されたが、TEC及び他の細胞が如何にヒト胸腺の複雑な三次元(3D)組織化に共同で寄与するかについての不完全な分子及び細胞の詳細しかない。
【0005】
胸腺は、免疫応答能と免疫寛容との両方の発達を制御するので、その機能的解離及び後続する所望の細胞集団との再構築は、原発性又は後天性免疫不全を含む多くの医学的状態に適用可能な強力なツールを提供するかもしれない。事実、満たされていない臨床的ニーズは、多くの有害な合併症を有する無胸腺症患者への移植のために培養された胸腺スライスが現在使用されているほどである。
【0006】
さらに、胸腺治療ストラテジーは、同様に、寛容性が長期移植組織許容に対する主要な障壁である臓器移植に適用可能であるかもしれない。
【0007】
完全に機能する胸腺の再構築の企ては、おそらく胸腺の固有の複雑さが原因で、これまでに限定的な成功しか経験しなかった。さらに、ex vivoでの大規模な増殖能を含む生後上皮幹細胞/前駆細胞及び間葉細胞の性質に対して非常に不確実なままである。
【0008】
したがって、胸腺組織足場を用いて機能性胸腺を構築する手段を提供することは有利であろう。
【0009】
脱細胞化胸腺からの胸腺組織構築物の製造方法を提供することも有利であろう。
【0010】
さらに、得られた構築物を、天然in vivo胸腺に対して表現型的に可能な限りよく適合することを目的に、表現型模写された胸腺細胞を有する胸腺組織デバイスを製造することを可能とするニーズがある。
【0011】
さらに、無細胞(acellular)の足場の再増殖を可能とする、特に、HSCの添加を必要としないで使用することができる単一胸腺細胞型を提供することは有利であろう。
【0012】
したがって、本明細書に開示されているか否かにかかわらず、従来技術の少なくとも1つの問題を克服又は軽減することは、本発明の実施形態の目的である。
【発明の概要】
【0013】
本発明の第一態様によれば、対象への移植に適した胸腺構築物の製造方法であって、前記方法は:
(i)無細胞の足場を提供する工程と;
(ii)間葉特性を有する胸腺上皮細胞を、前記無細胞の足場に播種する工程と;
(iii)前記播種された足場を培養して前記構築物を製造する工程と、
を含む方法を提供する。
【0014】
無細胞の足場は、脱細胞化(decellularized)組織足場又は合成足場であってよい。かかる足場及びこれらの製造方法は、当技術分野において周知である。例えば、国際公開第02/14480号は、いくつかの足場カテゴリー:(1)非分解性合成高分子;(2)分解性合成高分子;(3)非多孔性である非ヒトコラーゲンゲル;(4)所望の多孔性に加工された非ヒトコラーゲンメッシュ;及び(5)脱細胞化組織を記載している。
【0015】
無細胞の足場は、通常、細胞も細胞成分も含まない。しかしながら、例えば、足場が生物源、例えば、脱細胞化された足場から使用される場合、下記のように、例えば、脱細胞化後前記足場上にいくつかの細胞が残存するかも知れないことはあり得ると理解されるだろう。
【0016】
本明細書において1つの実施形態では、前記足場は、人工足場であり、合成高分子であっても天然高分子足場であってもよい。
【0017】
他の合成足場は、天然、例えば、コラーゲンなどの精製タンパク質から主になるタンパク質性であってよい。非合成足場は、天然のタンパク質性であってもよく、組織由来のコラーゲン細胞外マトリックス(ECM)から主になってもよい。
【0018】
前記足場は、3D印刷された足場であってよく、前述の物質のいずれかを含んでよい。
【0019】
好ましくは、前記足場は、脱細胞化(生物)マトリックスであろう。
【0020】
いくつかの実施形態では、前記足場は、脱細胞胸腺足場を含む。
【0021】
好ましい実施形態では、前記脱細胞胸腺足場は、脱細胞胸腺足場全体、好ましくは脱細胞化された胸腺全体であり;好ましい実施形態では、得られた構築物は再構築された胸腺である。他の実施形態では、脱細胞胸腺足場は、例えば、葉又は腺などの胸腺の脱細胞部分である。
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、無細胞の足場に播種及び培養される場合、機能性胸腺を作成するために特定の胸腺上皮細胞(TEC)を使用することが可能であることを見出した。驚くべきことに、TECは、胸腺の脱細胞化された細胞外マトリックス(ECM)又は他の適切な足場と組み合わせた場合に、長期増殖が可能であり、天然胸腺の解剖学的表現型模写の再構築が可能である上皮-間葉ハイブリッド細胞機能を示す。この解剖学的ヒト胸腺再構築は、ヒト化免疫不全マウスへの移植後、in vivoでの成熟T細胞の成長を支持するその能力により判断されるように機能的である。
【0023】
得られた構築物は、人工器官、特に人工胸腺と見做してよい。
【0024】
無細胞の足場上への播種に適したTECは、間葉シグネチャー、特性及び/又は機能を示す。「間葉シグネチャー」により、前記TECは、間葉細胞、特に胸腺間葉細胞内に存在する1又は複数の発現マーカーを含むと理解され、「間葉特性」及び「間葉機能」により、前記TECは、間葉挙動並びに上皮挙動を示し、異なる胸腺細胞型に分化することができるという意味である。
【0025】
驚くべきことに、上皮機能及び間葉機能の両方を有する、かかる「ハイブリッド」TEC集団を、更に他の細胞型を用いた細胞播種を必要としないで、胸腺構築物を作成するために単離及び使用することができる。
【0026】
いくつかの実施形態では、間葉特性を示すTECの集団を、工程(ii)前に単離、精製及び増殖する。単離、精製及び増殖は、当技術分野において通例のいずれかの適切な方法により行ってよい。したがって、前記TECは、好ましくはクローン原性TECである。
【0027】
単離及び増殖された細胞集団の使用により、胸腺細胞が単純に消化され、無細胞の足場に適用される、又は胸腺細胞集団の培養前にTECを単離しない公知の方法と比較して、無細胞の足場のより効果的な再増殖を得る。
【0028】
いくつかの実施形態では、前記TECは、髄質性TEC(mTEC)、皮質性TEC(cTEC)、又は好ましくはmTEC及びcTECの組合せ、特にmTEC及びcTECの少なくとも1つ、好ましくは両方が間葉発現マーカーを示すmTEC及びcTECの組合せを含む。
【0029】
他の実施形態では、前記TECを、TEC、特にmTEC及びcTECに分化するように誘導された人工多能性幹細胞などの前駆細胞又は幹細胞由来であってよい。
【0030】
いくつかの実施形態では、前記TECは、CD49f(CD49f+)を発現する。いくつかの実施形態では、前記TECは、CD49f+並びに、CD90+ VIM+及びTE-7+からなる群の少なくとも1つである。
【0031】
好ましい実施形態では、前記TECは、実質的に全CD49f+である。特に好ましい実施形態では、CD49f+ TECは、VIM+及び任意に(optionally)TE-7+でもある。
【0032】
いくつかの実施形態では、前記TECは、CD90(CD90+)及びCD49f(CD49f+)を発現する。
【0033】
好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f(CD49f+)CD90(CD90+)及びVIM(VIM+)を発現する。
【0034】
好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f+ CD90+ VIM+及びTE-7+である。
【0035】
いくつかの実施形態では、前記TECは、実質的に全CD90+である。いくつかの実施形態では、CD90+ TECは、VIM及び任意に(optionally)TE-7も発現する。
【0036】
予想外に、本発明者らは、間葉マーカーCD49f及びCD90(Thy1)も間葉特性を示すmTEC及び実質的に全てのcTECの大きな集団(>60%)により発現され、したがって、かかる選択されたTECはハイブリッド上皮-間葉表現型を示すことを見出した。
【0037】
驚くべきことに、CD49f(CD49f+)及びVIM(VIM+)及び/又はCD90(CD90+)を発現する単離されたmTEC及び/又はcTECは、継代培養及びex vivoで著しく増殖する能力を有することも見出した。したがって、単離された(及び好ましくはクローン原性)CD49f+、CD90+、CD90+ CD49f+、CD49f+ VIM+、及び/又はCD90+ VIM+ CD49f+上皮細胞単独をプールし、次いで播種し、脱細胞胸腺足場に再増殖することができ、増殖及び分化して人工胸腺を形成する。多くの他のTEC集団はかかる特性も機能も示さないので、CD49f+、CD90+、VIM+及びTE-7+細胞を無細胞の足場に播種し分化して対象への移植用途に適した生存可能な胸腺構築物を作成することができることは特に驚くべきことである。
【0038】
好ましい実施形態では、工程(ii)は、胸腺上皮細胞及び胸腺間質細胞(TIC)を、無細胞胸腺足場に播種することを含む。胸腺間質細胞(TIC)は、間葉細胞、線維芽細胞及び周皮細胞からなる群から選択される1又は複数の細胞型を含んでよく;前述の細胞型のいずれか2つ又は全ての組合せを含んでよい。
【0039】
無細胞胸腺足場にTEC及びTICを一緒に同時播種してよい。
【0040】
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比で播種してよい。
【0041】
TEC単独を無細胞の足場へ播種することは、TECが足場の被膜下領域から最内側領域に3D細胞外マトリックス(ECM)構造物に沿って再組織化する構造物を生成する一方、TECは足場の3D(ECM)により支持され、胸腺上皮細胞及び胸腺間質細胞の両方を含む再構築された足場は、より機能的微小環境を確立してin vitroでのリンパ球前駆細胞及びin vivoでの造血幹細胞(HSC)からヒトT細胞の成長を支持する。TEC又はTEC及びTICの播種により製造された胸腺構築物は、別々の間葉細胞播種も他の幹細胞処理若しくは前駆細胞処理も必要としない。
【0042】
他の実施形態では、前記TECを、非胸腺間葉細胞と共に播種してよい。
【0043】
前記TEC及びTICは、ヒトTEC及びTICであってよい。ヒトTEC及びTICを、工程(ii)前に生ヒトドナーから得てもよく、屍体から得てもよい。
【0044】
実施形態において、無細胞の足場が脱細胞胸腺又はその一部である場合、前記胸腺又はその一部は、生ヒトドナー又は屍体から得られるヒト胸腺又はその一部であってよい。
【0045】
したがって、増殖されたストローマ細胞のみを含む機能性胸腺の構築に対する障壁を克服することにより、本発明は、現在の治療が限定的である先天性無胸腺症を含む免疫疾患を治療するための実践的見通しを提供すると考えられる。
【0046】
本発明の製造方法及びしたがって胸腺構築物の作成を、総じて、in vitroで行う。しかしながら、更なる細胞増殖及び/又は分化並びに構築物の作成は、in vivoでの移植後に行うことができると理解されるだろう。したがって、好ましくは、対象に移植を上手く行うために充分に分化されるTECを用いて充分に増殖される構築物を作成するまで、構築物の製造をin vitroで行う。
【0047】
それから、前記足場中及び/又は足場上での更なる細胞増殖を、例えば、移植後に続いて行うことができる。したがって、前記足場が対象への移植に有用である播種された細胞で完全に増殖される必要はない、ということが分かる。例えば、前記足場は、播種された細胞が存在しない領域を有する、例えば、前記足場は、その面の少なくとも70%、80%、90%、95%又は少なくとも99%にわたって播種された細胞を有し得ることは可能である。
【0048】
本方法で使用される細胞は、通常、自己(autologous)であり、すなわち、本発明の方法により作成された組織又は器官構築物の目的のレシピエントを起源とするか又はこのレシピエント由来であろう。しかしながら、方法において使用するための細胞はまた、同種異形であり、すなわち、作成しようとする組織又は器官構築物のレシピエントでない対象から得る又は由来である可能性がある。更に、異種細胞、すなわち、細胞は、組織/器官構築物のレシピエントと異なる種由来の細胞を使用してもよい。前記細胞を、多能性幹細胞又は人工多能性幹細胞から製造してもよい。
【0049】
好ましくは、TEC(存在する場合、及びTIC)の播種を、前記足場への注入又は前記足場の脈管構造による灌流により行う。多段階で注入を行ってよい。胸腺足場全体を利用する場合、注入を、胸腺足場の一部(例えば、1又は複数の葉)への注入により行ってもよく、胸腺足場上の複数の部位への注入により行ってもよい。前記細胞を、別々に、同時に又は順次送達し得る。順次送達は、互いに少なくとも1分、2分、5分、10分、20分、30分、40分、50分若しくは60分以内、又は互いに1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、14時間、36時間若しくは48時間以内に細胞集団を送達することを含み得る。
【0050】
TEC又はTEC及びTICを、葉当たり1μl~1000μlの媒体当たりおよそ1M~10M、1M~8M、2M~6M又は2M~3M細胞で脱細胞胸腺足場の各葉中及び/又は各葉上に注入してよい。
【0051】
播種された足場を、前記足場の網状ECMの至る所の細胞遊走及び少なくとも1日、2日、3日又は少なくとも4日、及び21日、14日、12日、10日、9日、8日又は7日まで、好ましくはおよそ4日~7日の期間を通して初期分化を可能とするように、in vitroで通常維持する。後で、幹細胞及び/又は造血細胞などのドナー細胞を、好ましくは注入により、前記構築物中又は前記構築物上に送達してよい。
【0052】
脱細胞ECM足場又は播種されたECM足場を、前記足場への細胞の接着及び/又は前記足場上の細胞の成育を増強するようにさらに処理してよい。かかる処理としては、例えば、コラーゲン、エラスチン、フィブロネクチン、又はプロテオグリカンのうち1又は複数を含む増殖因子又は細胞外マトリックスタンパク質などのタンパク質の適用を挙げることができる。
【0053】
いくつかの実施形態では、工程(ii)は、TEC細胞及び任意に(optional)TIC細胞に加えて、他の胸腺細胞の播種を含んでよい。他の適切な胸腺細胞としては、胸腺内皮細胞、線維芽細胞、及び樹状細胞などの造血ストローマ細胞が挙げられる。
【0054】
「無細胞(acellular)」足場は、通常、細胞も細胞成分も含まない。しかしながら、例えば、足場が生物源、例えば、脱細胞化された足場から使用される場合、下記のように、例えば、脱細胞化後前記足場上にいくつかの細胞が残存するかも知れないことはあり得ると理解されるだろう。
【0055】
いくつかの実施形態では、無細胞の足場は、脱細胞化された足場、好ましくは脱細胞化された胸腺組織、より好ましくは脱細胞化された胸腺全体又はその葉を含む。
【0056】
1つの実施形態では、新生児ヒトドナー胸腺足場を使用してよい。別の実施形態では、前記足場は、ヒト屍体由来であってよい。更に別の実施形態では、前記足場は、生患者由来であってよい。
【0057】
前記足場は異種であってよい、すなわち、レシピエント、例えば、ヒトレシピエントと異なる種のドナーを起源とするか又はこのドナー由来である。
【0058】
この関連で、脱細胞化に適した足場としては、とりわけ、脱細胞化動物由来足場、例えば、ブタ由来、ラット由来又はウサギ由来足場が挙げられる。例えば、好ましい実施形態では、前記足場は、脱細胞化ラット胸腺、ブタ胸腺、ヒツジ胸腺又はウサギ胸腺であってよく、より好ましくはブタ胸腺である。
【0059】
いずれかの適切な公知の脱細胞化方法を使用して前記足場を得てもよい。総じて、脱細胞化方法は、通常ECM足場を残す細胞及び細胞成分の除去を促進するために、前記細胞成分を崩壊、分解、及び/若しくは破壊する並びに/又は前記細胞が埋め込まれたマトリックスを改質するための様々な化学的手段、生化学的手段、及び/又は物理的手段を使用する。国際公開第02/14480号は、天然組織の脱細胞化方法を記載している。本発明は、ECMを実質的にインタクトのままにしながら実質的に全ての細胞を除去するいずれかの脱細胞化技術により製造された脱細胞化された足場の使用を包含する。「ECMを実質的にインタクトのままにする」と言うのは、マトリックス、例えば、ECMの少なくとも70%、80%、90%、95%、99%又は実質的に100%の存在を保持することを表す。
【0060】
1つの実施形態では、胸腺足場の脱細胞化を、少なくとも1つの脱細胞化媒体を用いて組織を灌流することにより行う。
【0061】
適切な脱細胞化媒体としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、デオキシコール酸ナトリウム(SOC)、トリトンX-100(RTM)などの親水性ポリオキシエチレンオキシド及び疎水性炭化水素部分を含む界面活性剤などの界面活性剤;タンパク質分解酵素、例えば、トリプシンなどの酵素;並びにヌクレアーゼ、例えば、DNアーゼIなどのデオキシリボヌクレアーゼ及びRNアーゼなどのリボヌクレアーゼ、及びこれらの組合せが挙げられる。トリスブチル-n-ホスフェート(TBnP)を、1又は複数の脱細胞化媒体に含まれていてもよい。TBnPは、タンパク質-タンパク質相互作用を崩壊する溶媒である。
【0062】
前記方法は、好ましくは、1つより多い脱細胞化媒体を用いて組織を灌流することを含む。適切には、前記方法は、少なくとも1つの界面活性剤及び少なくとも1つのヌクレアーゼを用いて組織を灌流することを含む。いくつかの実施形態では、前記方法は、界面活性剤を用いた組織の灌流及びヌクレアーゼを用いた組織の灌流の別々の工程を含み、前記界面活性剤灌流工程をヌクレアーゼ灌流工程の前に行ってよい。灌流及び脱細胞化後、脱細胞胸腺足場を、ガンマ放射線で放射してよく;及び更に使用するまで1℃~4℃で貯蔵してよい。
【0063】
各灌流工程を、15℃~45℃、又は20℃~40℃の温度で行ってよい。灌流工程が酵素灌流工程を含む場合、灌流工程をおよそ37℃で行ってよく、これは、灌流工程がヌクレアーゼ物質を含む場合に特に有利である。灌流工程が界面活性剤灌流工程である場合、灌流工程を、およそ環境温度又は室温など、15℃~40℃の温度で行ってよい。
【0064】
他の実施形態では、脱細胞化は、胸腺組織又は胸腺を浸透圧ショック処理に付すことを含んでよい。
【0065】
本発明の第二態様によれば、治療において使用するための単離された胸腺上皮細胞を提供する。
【0066】
胸腺上皮細胞は、人工胸腺の構築において使用するため又は損傷された胸腺組織の修復において使用するための胸腺足場への播種において使用するためであってよい。
【0067】
いくつかの実施形態では、胸腺の再生において使用するために組み合わせられた胸腺上皮細胞及び胸腺間質細胞を提供する。
【0068】
本発明の第三態様によれば、胸腺疾患、免疫疾患若しくは自己免疫疾患又は胸腺の先天性欠損の治療において使用するための単離された胸腺上皮細胞を提供する。
【0069】
本発明の第四態様によれば、単離された胸腺上皮細胞及び薬剤的に許容可能な担体を含む医薬組成物を提供する。
【0070】
本発明の第二、第三及び第四態様の胸腺上皮細胞は、本発明の第一態様について本明細書に記載されている通りであってよく、特に、間葉、並びに上皮シグネチャー、特性及び/又は機能を示すTECであってよく、並びにCD49f、若しくはCD49f+及びCD90+、VIM+及びTE-7+からなる群の少なくとも1つであってよい。いくつかの実施形態では、前記TECは、CD90(CD90+)及びCD49f(CD49f+)を発現する。好ましい実施形態では、CD49f+ TECは、VIM+及び任意に(optionally)TE-7+でもある。いくつかの実施形態では、前記TECは、CD90(CD90+)及びCD49f(CD49f+)を発現する。好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f(CD49f+)CD90(CD90+)及びVIM(VIM+)を発現する。好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f+ CD90+ VIM+及びTE-7+である。いくつかの実施形態では、前記TECは、実質的に全CD90+である。いくつかの実施形態では、CD90+ TECは、VIM及び任意に(optionally)TE-7も発現する。
【0071】
いくつかの実施形態では、前記TECは、髄質性TEC(mTEC)、皮質性TEC(cTEC)、又は好ましくはmTEC及びcTECの組合せ、特にmTEC及びcTECの少なくとも1つ、好ましくは両方が間葉発現マーカーを含むmTEC及びcTECの組合せを含む。
【0072】
他の実施形態では、前記TECを、TEC、特にmTEC及びcTECに分化するように誘導された人工多能性幹細胞などの幹細胞由来であってよい。
【0073】
前記TECは、好ましくは、単離されたmTEC及び単離されたcTECの混合物、好ましくは単離、精製及び増殖されたmTEC及びcTECの混合物である。
【0074】
前記医薬組成物は、単離された胸腺間質細胞(TIC)を更に含んでよい。
【0075】
前記医薬組成物は、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比でTEC及びTICを含んでよい。
【0076】
いくつかの実施形態では、前記TECは、CD49f+、又はCD49f+並びにCD90+、VIM+及びTE-7+からなる群の少なくとも1つである。いくつかの実施形態では、前記TECは、CD90(CD90+)及びCD49f(CD49f+)を発現する。好ましい実施形態では、CD49f+ TECは、VIM+及び任意に(optionally)TE-7+でもある。いくつかの実施形態では、前記TECは、CD90(CD90+)及びCD49f(CD49f+)を発現する。好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f(CD49f+)、CD90(CD90+)及びVIM(VIM+)を発現する。好ましい実施形態では、前記TECは、CD49f+、CD90+、VIM+及びTE-7+である。いくつかの実施形態では、前記TECは、実質的に全CD90+である。いくつかの実施形態では、CD90+ TECは、VIM及び任意に(optionally)TE-7も発現する。いくつかの実施形態では、医薬組成物中の全てのTECは、少なくともCD49f+を発現し、並びに医薬組成物中の実質的に全てのTECは、CD49f+及び/又はCD90+胸腺上皮細胞及び薬剤的に許容可能な担体を含んでよい。
【0077】
本発明の第四態様の医薬組成物は、胸腺の再生において使用するため又は胸腺疾患、免疫疾患若しくは自己免疫疾患の治療において使用するためであってよい。
【0078】
本発明の第五態様によれば、本発明の第一態様の方法により得られた又は得ることができる胸腺構築物を提供する。前記胸腺構築物は、人工胸腺であってよい。前記胸腺構築物は、治療において使用するためであってよく;及び、例えば、損傷された又は欠損している胸腺患者などの胸腺構築物移植片を必要としている対象の移植において使用するためであってよい。
【0079】
本発明の第六態様によれば、本発明の第五態様について上記定義されているように前記対象に胸腺構築物を移植することを含むかかる治療を必要としている対象の胸腺、免疫不全又は自己免疫疾患又は欠損の治療方法を提供する。前記疾患は、無胸腺症であり得る。
【0080】
好ましくは、前記対象は、哺乳類、より好ましくはヒトである。
【0081】
したがって、本発明の全ての態様では、長期増殖上皮細胞は、今までに前例のハイブリッド上皮-間葉表現型を示す。これらの細胞は、胸腺の固有の3D上皮ネットワークを表現型模写する器官足場全体を再増殖してよい。かかる再構築された足場は、in vitroでのリンパ球前駆細胞及びin vivoでの造血幹細胞(HSC)からヒトT細胞の成長を支持する機能的微小環境を確立することが分かった。
【0082】
単離された細胞、構築物及び人工器官は、治療において使用するためであってよく、及び前記構築物、人工器官又は細胞を患者に移植することを含む外科手術方法において使用してよい。
【0083】
本発明の第七態様によれば、胸腺の脱細胞化方法であって、前記方法は:
a.胸腺又はその部分若しくは葉を提供することと;
b.前記胸腺又はその部分若しくは葉に入る全てだが1つの動脈を塞ぐことと;
c.残りの動脈を通って前記胸腺又は部分若しくは葉へ入る脱細胞化媒体を灌流することと、
を含む方法を提供する。
【0084】
いくつかの実施形態では、頚動脈を開いたままにする。好ましい実施形態では、左頚動脈を開いたままにする。
【0085】
好ましい実施形態では、胸腺又はその部分若しくは葉の動脈を次の順:右総頚動脈、右鎖骨下動脈、右内胸動脈、右肋頚動脈、右大動脈弓、左大動脈弓、左肋頚動脈の順で閉じ、左内胸動脈及び左頚動脈を、その後の器官のカニューレ挿入及び灌流のために開いたままにする。
【図面の簡単な説明】
【0086】
本発明をより明白に理解できるようにする目的で、ほんの一例として、その実施形態を、添付の図を参照して次に説明する。
【0087】
図1A図1A図1B及び図1Cは、胸腺上皮細胞(TEC)及び間葉細胞(TMC)の単離の結果を例示する。(A)それぞれ、濃縮されたEpCAM mTEC、EpCAM cTEC及びEpCAM TICにおけるCD90発現を示すFACSプロット。ゲーティングは、各チャネルについて陰性未染色コントロールで決定した。1bと同じ胸腺。
図1B図1A図1B及び図1Cは、胸腺上皮細胞(TEC)及び間葉細胞(TMC)の単離の結果を例示する。(B)CD49f(タイプ1)及びCD49f(タイプ2)集団を示すCD49f及びCD90についての代表的FACS分析。1Aと同じ胸腺。
図1C図1A図1B及び図1Cは、胸腺上皮細胞(TEC)及び間葉細胞(TMC)の単離の結果を例示する。(C)12日間培養された、選別されたcTEC及びmTECサブタイプのローダミン染色指示薬皿(4000イベント/皿)、コロニー形成効率(CFE)。mTECタイプ1は最大クローン原性集団(2%~4%)であり、cTECタイプ1(1%~2%)は皮質のクローン原性集団である(n=4)。
図2図2a~図2iは、器官胸腺全体の灌流及び脱細胞化の結果を例示する。(a)脱細胞化前(上側パネル)及び脱細胞化後(下側パネル)のカニューレ挿入されたラット胸腺の肉眼所見。24Gカニューレを、頚動脈に挿入し、界面活性剤及び酵素溶液を用いて器官を灌流するために使用する。アスタリスク()は、大血管による胸腺組織及びカニューレ間の連結を可能とした外部胸腺組織を示す(n=120)。スケールバー、2mm。(b)動脈に入る外部胸腺組織、大血管及び24Gカニューレを示すカニューレ挿入されたラット胸腺のマイクロCT画像。ヨード造影剤は、皮質(C、明部)及び髄質性(M)領域間の明白な分界を示し;血管()は、実質間及び実質内側の非常に明るい領域により表される(n=3)。スケールバー、1.5mm。(c)ヨード造影剤が脈管構造の樹を示す、カニューレ挿入されたラット胸腺全体のマイクロCT 3D画像(赤色部分、n=2)。スケールバー、1.2mm。(d)赤ケラチン、青コラーゲン及びピンク色細胞質における新鮮なラット胸腺葉染色のマッソン三色染色。C、皮質;M、髄質性(n=3胸腺)。スケールバー、250μm。(e)新鮮なラット胸腺のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色。C、皮質;M、髄質性(n=3胸腺)。スケールバー、500μm。(f)全2葉を3Dで示すカニューレ挿入されたラット胸腺のマイクロCT画像。スケールバー、1.2mm。(g)Microfil(登録商標)を注入され、両胸腺葉の灌流を示すために閾値処理されたカニューレ挿入されたラット胸腺のマイクロCT画像。スケールバー、1.2mm。(h)コラーゲン線維(青色)並びにケラチン、筋肉線維及び細胞質の非存在を示す脱細胞化されたラット胸腺足場のパラフィン切片のマッソン三色染色(n=3足場)。スケールバー、250μm。(i)インタクト胸腺小葉ECM並びに大脈管構造壁及び小脈管構造壁の両方の保存を示す脱細胞化された胸腺足場のH&E(n=4足場)。スケールバー、500μm。
図3A図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(A)ストローマ細胞の注入前(左パネル)、注入直後(中央パネル)及び培養4日後(右パネル)の胸腺足場を代表する肉眼顕微鏡観察。空からの胸腺葉は、密度を連続的増加し、足場の収縮により示されるように再モデル化し、組織体積を増加する(n=60再増殖足場)。スケールバー、4mm。
図3B図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(B)CK5/14、TPR63及びCD49f TECの存在を示す脱細胞化された足場内で増殖された胸腺上皮細胞(TEC)の免疫蛍光標識。核をDAPIで染色する(n=4再増殖足場)。スケールバー、30μm。(C)H&E染色は、TECのみを用いた再増殖され、5日間培養された足場の組織像を示す(n=4再増殖足場)。スケールバー、50μm。
図3C図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(C)H&E染色は、TECのみを用いた再増殖され、5日間培養された足場の組織像を示す(n=4再増殖足場)。スケールバー、50μm。
図3D図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(D)増殖されたクローン原性TEC及び胸腺間質細胞(TIC)の両方を用いて再増殖され、固定及び組織分析前に5日間培養された足場のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色。ストローマ細胞は、早期(妊娠後9週、wpc)ヒト胎児胸腺において観察されたもの(E)と同様なパターンを有する足場に沿って再組織化する(n=4再増殖足場及びn=2ヒト胎児胸腺)。スケールバー、100μm。
図3E図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(D)増殖されたクローン原性TEC及び胸腺間質細胞(TIC)の両方を用いて再増殖され、固定及び組織分析前に5日間培養された足場のヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色。ストローマ細胞は、早期(妊娠後9週、wpc)ヒト胎児胸腺において観察されたもの(E)と同様なパターンを有する足場に沿って再組織化する(n=4再増殖足場及びn=2ヒト胎児胸腺)。スケールバー、100μm。
図3F図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(F)CK8細胞は内側領域に優位に局在し;TPR63 TECは主にCD49fであった一方で、TICと共に播種され、嚢下領域に局在するCK5/14細胞を示す脱細胞化された足場内で増殖されたTECの免疫蛍光標識。核をDAPIで染色する(n=4再増殖足場)。スケールバー、100μm。
図3G図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(G)培養7日後TEC、TIC及び造血前駆細胞を用いて再増殖された足場のH&E染色(n=4再増殖足場)。スケールバー、100μm。
図3H図3A図3Hは、器官全体の胸腺足場の機能的再増殖の結果を例示する。(H)三重陰性(TN、CD3CD4CD8)前駆細胞を用いて播種され、8日間同時培養された再増殖された足場から単離されたCD45陽性集団の代表的FACS分析(3独立実験におけるn=6再増殖足場)。FSC-A、SSC-Aプロットは、細胞並びに造血細胞の遊離のための分離中の足場ECM由来のデブリスの存在を示す(左上パネル)。生存可能な細胞は、全細胞の約90%であった(中央上パネル)。足場内で発達されたTNは、二重陽性(DP)及び一重陽性(SP)CD4及びCD8発現細胞を生じた(右上パネル、5,000細胞)。生細胞は、CD1aに対して陽性であり、CD33に対して陰性であった(右下パネル)。CD4及びCD8は、CD3に対して陽性であり、TCRαβを発現する(下中央左パネル)。
図4図4は、in vivoで成熟する再増殖胸腺足場を例示し、マウスにおける移植後の異なる時点(8wpt、11wpt、18wpt及び22wpt)において回収された胸腺足場の組織切片のH&E染色の形態で、機能的T細胞の成長を促進する。()は、ハッサル小体(HB)を示す;3独立実験においてn=18足場)。スケールバー、100μm。
【発明を実施するための形態】
【0088】
方法
動物
全動物手順は、倫理的承認及び英国内務省プロジェクトライセンス(PPL)に従った。(NSG)及びNOD.Cg Foxn1em1Dvs.Prkdcscid.Il2Rγctm1Wjl(NSG-Nude、ストックNo:026263)を、Jackson Laboratoryから入手した。マウスを、12時間明暗サイクル、環境温度19℃/22℃、及び湿度45%/65%で維持した。スプラーグドーリーラットを飼育施設で飼育した。
【0089】
ヒト組織
生後胸腺は、Great Ormond Street Hospital(英国ロンドン)において心胸郭手術を経験している患者(年齢範囲3日齢~11歳)より提供された。
【0090】
臨床胸腺スライス調製及び培養
嚢除去後、8g~15gの生後胸腺組織を、1mm厚のスライスを得るために、Stadie-Riggsミクロトーム(Thomas Scientific)を用いて処理した。スライスを個別にニトロセルロースフィルター(Millipore)に取り付け、その後、Spongostan外科スポンジ(Ferrosan Medical Devices)上に置き、21日まで10cmペトリ皿中の培養培地(F12(Gibco)、10%熱不活性化ウシ胎仔血清(Gibco)及び1%Pen-Strep(Sigma))中に浸し;培養培地を毎日交換した。
【0091】
CD34 HSC精製及び選別
2~5CBコレクションの単核細胞(MNC)をプールし、Ficoll-Paque密度遠心分離(GE Healthcare Life Sciences、英国バッキンガムシャー)により精製し、次いで塩化アンモニウム赤血球破壊した。密度分離されたCB MNCを、製造者説明書に従ってEasySepヒトCD34陽性選択キット(Stemcell Technologies)によりCD34陽性について磁気的に選別し;あるいは、これらを、蛍光活性化セルソーティング(FACS)により選別した。胎児肝臓(FL)CD34を、受胎後12週~20週(wpc)の範囲のヒト胎児組織から単離した。酵素溶液(RPMI中、0.1U/mLコラゲナーゼA(Roche)、0.8U/mLディスパーゼII(Roche)及び100μg/ml DNアーゼI(Roche)、2%FBS及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン)を用いて37℃において組織消化を行った。細胞をペレット化し、塩化アンモニウム赤血球破壊のため処理した。FL MNCを、CD34陽性について磁気的に選別した。
【0092】
胸腺細胞単離及び選別
ヒト胸腺細胞を、生後胸腺の機械的組織分離により得た。三重陰性(TN、CD3CD4CD8)細胞の濃縮を、ビオチン化抗CD3、抗CD4、抗CD8a及び抗CD235ab抗体(BioLegend)及びMagnisort SAV陰性ビーズ(Invitrogen)を用いた磁気選別により行った。陰性選択フラクションを、FACS純度選別について処理した(CD11cCD19CD56CD3CD4CD8細胞;FACSAria III装置、BD Bioscience;FACSDiva 8.0.1ソフトウェア)。
【0093】
胸腺ストローマ細胞の単離及び培養
ヒト胸腺を、開胸心臓手術を経験した3日齢~11歳の年齢範囲の33患者から入手した。ドナーの年齢とは関係なく全胸腺は、毎週の継代により大規模に増殖することができるコロニーを生成するクローン原性TECを含んだ。胸腺組織断片を、37℃において約30分~45分間酵素処理(0.4mg/mL コラゲナーゼD(Roche)、0.6mg/mL ディスパーゼII(Roche)、40μg/mL DNアーゼI(Roche))により単一細胞に分離した。細胞をペレット化し、細胞計数のために再懸濁した。新たに分離された胸腺細胞を、致死的に照射されたマウス線維芽細胞(3T3-J2)の層にわたって播種した。あるいは、胸腺単一細胞懸濁液は、免疫磁気分離によりCD45及びCD235ab(赤血球)発現細胞が枯渇した。濃縮された断片を染色し、3T3-J2フィーダーにわたった細胞培養前に皮質性(EpCAMCD205)及び髄質性(EpCAMCD205)胸腺上皮細胞(TEC)についてFACSAria III装置(FACSDiva8.0.1ソフトウェア)を用いて選別した。上皮細胞は、DMEM-1X(Gibco)及びF-12ナッツミックス(Gibco)の3:1混合物によりなり、10%ウシ胎仔血清(Sigma)、1%ペニシリン及びストレプトマイシン(100X、Sigma)、ヒドロコルチゾン(0.4μg/ml、Calbiochem)、コレラ毒素(10-10M、Sigma)、トリヨードチロニン(T3)(2×10-9M、Sigma)及びインスリン(5μg/ml、Sigma)が補足されたcFAD培地中で増殖した。ヒト上皮増殖因子(hEGF、10ng/ml、PeproTech)を、各給餌において培養3日後、次いで、隔日に添加した。TECを、2000細胞/cm~4000細胞/cmの密度で播種し、37℃及び6%COでインキュベートし、培養5日~7日にコンフルエンスに達した。TECコロニー形成効率(CFE)アッセイを、継代1回おきに行った。500細胞を、段階希釈により得て、60mm組織培養皿中、致死的に照射された3T3-J2フィーダーにわたって播種した。培養12日後、増殖コロニーを、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で固定し、ローダミンB(1%、SIGMA-ALDRICH)で15分間染色した。コロニーを、手術用顕微鏡下選別した。胸腺の間質細胞(TIC)を、EpCAMストローマリッチ胸腺集団又はヒト胸腺の外植片の選別のいずれか由来であった。胸腺組織の断片を、Megacell培地(Sigma)中1:100希釈されたMatrigel(商標)(Corning)で予め被覆された60mm皿に播種した。断片を30分間接着させたままにし、次いで、2.5%FBS HI(Life Technologies)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma)、1%L-グルタミン(Life technologies)、1%非必須アミノ酸(Life technologies)、100mMβ-メルカプトエタノール(Life Technologies)及び塩基性FGF(Sigma)が補足されたMegacell培地で優しく覆った。培養7日後、外植片から増殖された細胞を回収し、6%CO2及び5%O2雰囲気下37℃において培養し、TICがコンフルエンスに達した場合3日~4日毎に継代した。
【0094】
リンパ球培養及びin vitro刺激アッセイ
ヒトCD45/CD3選別細胞を、96ウェル、48ウェル及び24ウェル(Falcon)において28日まで、10%ウシ胎仔血清(FBS、Life Technologies)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(Life Technologies)を含むGlutamax(Life Technologies)並びにヒト組み換えIL-2(50U/mL、R&D system)及びIL-7(5ng/mL、Invitrogen)を補足してRPMI1640(Gibco)中で培養した。増殖のため、抗CD3/CD28ビーズ(Thermofisher)を、1:1の割合で添加した。サイトカイン産生を、ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシン(Io)刺激アッセイ:ヒトCD45/CD3選別T細胞により評価し、新鮮に単離されたヒト胸腺細胞を、20%熱不活性化ヒト血清(SIGMA-ALDRICH)、タンパク質輸送阻害剤カクテル(500X、eBioscience)、PMA(40ng/mL、SIGMA-ALDRICH)、及びIo(4μg/mL、SIGMA-ALDRICH)を補足されたRPMI中、37℃で6時間インキュベートした。それから、T細胞をHBSS溶液で洗浄し、CD3、CD4及びCD8(BioLegend)、並びにAPC-Cy7フィクサブルバイアビリティー染料(Invitrogen)で染色した後、細胞内染色バッファキット(BioLegend)を用いた固定及び透過処理並びに抗体抗IFNγ、抗TNFアルファ及び抗IL-2(BioLegend)を用いた細胞内染色を行った。増殖され、刺激されなかったT細胞を使用してFACSゲートを設定した。
【0095】
内皮細胞(HuVEC-VeraVec)培養
ヒト内皮細胞(Angiocrine、CAT:HVERA101)を、20%ウシ胎仔血清、FBS(Gibco)、1%抗菌剤/抗真菌剤(ThermoFisher)、10mM HEPES(Gibco)、100μg/mlヘパリン(SIGMA-ALDRICH)及び50μg/ml内皮サプリメントECGS(Millipore)が補足された培地199(Gibco)中0.1%ゼラチン(Merck)の層上で培養した。
【0096】
フローサイトメトリー分析
単一細胞懸濁液を、2%FBS(Life Technologies)が補足されたハンクス平衡塩液(HBSS、Life Technologies)中、アドホック抗体ミックス(補足表1)で氷上30分間染色した。DAPI(SIGMA-ALDRICH)又はZombie Live-Dead染料(Invitrogen)を使用して死細胞から生細胞を識別した。FACS表現型分析を、Fortessa X-20装置(BD FACSDiva8.0.1ソフトウェア)及びFlowJo(商標)ソフトウェア(BD Bioscience)を用いて行った。
【0097】
RNA単離及びRT-qPCR
培養及び新鮮に単離された細胞を、製造者説明書に従って、ReliaPrep(商標)キット(Promega)のBL-バッファ又はTrizol TRI試薬(SIGMA-ALDRICH)のいずれかにおいて遺伝子発現分析のために回収した。沈降及び乾燥されたRNAを、ヌクレアーゼフリー水(Qiagen)中に再懸濁した。RNA濃度を、Nanodrop1000(ThermoScientific)を用いて測定し、RNA完全性(RIN)を、BioAnalyzer2100(Agilent)を用いて評価した。必要な場合、RNAを、製造者説明書に従ってOvation(登録商標)RNA増幅システムV2(Nugen)を用いて増幅した。あるいは、RNAを、製造者説明書に従ってGoScript(商標)逆転写酵素キット(Promega)を用いてDNAに変換した。cDNA濃度を、10ng/μlに調整した。定量(q)PCRを、QuantStudio3リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いたMicroAmp Fast Optical 96ウェル反応プレート(Applied Biosystems)において、低ROX及びTaqman qPCRプローブ(Integrated DNAechnology、補足表2)を備えたPCRマスターミックス(PrecisionPLUS-R-Primerdesign Ltd)を用いて行った。
【0098】
単一細胞RNAシーケンシング-10X Genomics
細胞数を、Eve自動細胞カウンター(NanoEnTek)を用いて確認した。可能な場合、10000細胞のための適切な体積を、ヌクレアーゼフリー水を用いて46.6μlまで補給した。より低い細胞濃度のため、46.6μlの細胞懸濁液を、更に希釈しないでロードした。逆転写及びライブラリー構築を、製造者説明書に従ったクロム単一細胞3’試薬v3プロトコール(10X Genomics)に従って行った。全相補DNA合成を、12増幅サイクルを用いて行い、最終cDNA収量は約3ng/μl~15ng/μlの範囲であった。10X Genomicsシーケンシングライブラリーを記載されているように構築し、28-8-98のリード長を用いてIllumina HiSeq4000でシーケンスした。
【0099】
単一細胞データのバイオインフォマティクスデータ解析
生シーケンスデータを、CellRangerパイプライン(10x Genomics)を用いて処理した。カウント表を、Rにロードし、Seurat3Rパッケージ59を用いて更に処理した。本発明者らは、観察された200より少ない異なる遺伝子を有する全細胞又はミトコンドリア遺伝子由来の固有分子識別子の20超(サンプルmTEC1、mTEC2)又は30%(サンプルcTEC1、cTEC2)を有する細胞を除去した。それから、主成分分析を、有意に可変な遺伝子で行い、第一20主成分を、主成分分散プロット(「PCエルボープロット」)の手動検査に基づいてクラスタリング及びUMAPについてインプットとして選択した。クラスタリングを、Seuratパッケージのデフォルト方法を用いて行い、解像度パラメータを0.5に設定した。曲線下面積(AUC)要約強度プロットを、RパッケージAUCellを用いて作成した。
【0100】
バルクRNAシーケンシングライブラリー作成及び解析
全RNAを、RNeasyミクロキット(Qiagen)を用いて培養された細胞から抽出し、RNA総濃度を、Nanodrop分光光度計を用いて測定した。全RNAは、Ribo-Zeroを有するrRNAが枯渇し、Superscript II逆転写酵素(Invitrogen)を用いて逆転写し、RNAクリーンビーズ e e Ampure XPビーズ(Beckman Coulter)を用いて精製した。ライブラリーを、サンプル当たり100ngのRNAから始まるTruSeq Stranded Total RNAサンプル作成キット(Illumina)を用いて作成し、Illumina NovaSeq6000装置、ペアエンズ、及び35百万回リードカバレッジを用いてシーケンスした。RNA-Seqデータを、Salmon(GRCh38)を用いてアラインし、次のように処理した。DEGリスト生成:edgeR(v.3.24.3)を用いて解析を行った。有意なDEGを、FDRに対して0.05のカットオフ及びlogFCに対して1.5の閾値を適用して選択した。異なる細胞型間の遺伝子比較:引数log=Tと共にedgeRの関数cpm()を用いてカウントを正規化した。それから、関数heatmap.2()(gplots v.3.0.1.2)により生成されたheatmapでデータを可視化した。
【0101】
NanoString解析
hCD45CD3細胞を、10wpt及び18wpt(それぞれ、8081及び1869選別イベント)において2匹のNSGヌードマウスの脾臓から選別し、溶解し、65℃で一夜、780ヒト遺伝子をプロファイルするためのキメラ抗原受容体-T細胞パネルにハイブリダイズした(NanoString Technologies)。ハイブリダイズされたサンプルを、nCounter(登録商標)prep stationで処理し、製造者説明書に従って、nCounter(登録商標)デジタルアナライザー(NanoString)でデータを収集した。生セータを、データ品質チェック、バックグラウンドしきい値処理及び正規化のために、nSolver4.0(NanoString)にインポートした。パネルに存在する6スパイクインRNA陽性コントロール及び8陰性コントロールを使用して実験品質を確認した。バックグラウンドレベルを、陰性コントロールプローブの平均カウント及び2×標準偏差により決定した。上記バックグラウンドで50%より少ないプローブを含むサンプル又はイメージング若しくは陽性コントロール直線性フラグを有するサンプルを、更なる解析から除外した。全サンプルにおいてバックグラウンド未満の生カウントを有するプローブを、偽陽性の結果を避けるために差次的発現解析から除外した。CAR-Tキャラクタリゼーションパネルに存在する10ハウスキーピング遺伝子の幾何平均により正規化した。
【0102】
組織学的検査
ヒト胸腺組織及び足場サンプルを、4%PFAに固定(2時間~一夜)し、凍結包埋又はパラフィン包埋のいずれかのために処理した。凍結包埋のため、固定された組織を、ショ糖25%に平衡化し、O.C.T.化合物(VWR)に包埋した。凍結切片(厚さ7μm)を、Leica Cryostat3050で切断した。パラフィン包埋のため、Leica Peloris II組織処理装置及びSakura Tissue-Tech包埋ステーションを使用した。パラフィン切片(厚さ3μm~5μm)を、ThermoFisherロータリーミクロトームを用いて作成した。凍結切片又はパラフィン切片を、自動ステーション(Tissue-Tek Prisma)、Massonの三色キット(Leica、Raymond A Lamb、BDH Chemicals)、及びVan Gieson染色キット(Millipore-Merck)を用いてヘマトキシリン-エオシンで染色した。
【0103】
免疫染色
組織切片又はカバースリップを、4%PFAに固定し、0.5%のTritonX(TritonTMX-100、SIGMA-ALDRICH)を含むPBS中の5%正常ロバ血清(NDS、Jackson Immuno Research)溶液を用いて同時にブロッキング及び透過処理した。組織切片又は細胞を、一次抗体5%NDS、0.01%TritonTMX溶液と共に4℃で一夜インキュベートした。二次抗体を、室温(RT)で45分間インキュベートした。Hoechst33432(10~6M)又はFluoroshield(商標)封入剤(Abcam)中に存在するDAPIを用いて核を対比染色した。
【0104】
イメージング
培養された細胞の位相差像を、Olympus CK40倒立顕微鏡及びOlympus SC50カメラを用いて得た。培養された細胞のライブ映像を、Hamamatsu Orca R2カメラを備えたスコープZeiss Axiovert135(対物レンズ 10× NA 0.25 Plan Neofluar)により得た。組織学的画像のため、Zeiss Axiocam HRcカラーカメラを備えたZeiss Axioplan2顕微鏡を使用した。器官の肉眼顕微鏡観察を、Zeiss StREO Discovery.V20顕微鏡及びZeiss Axiocam506カラーカメラを用いて画像化した。Zeiss LSM710倒立共焦点顕微鏡及びZen Blackソフトウェアを使用して、免疫蛍光画像を得た。共焦点画像を、Fiji及びImprovision Volocity LEソフトウェアを用いて処理した。
【0105】
血管マイクロサージェリー、灌流及び脱細胞化
体重150g~220gの範囲の雄ラットを、胸腺器官の供給源として使用した。胸腺は、血液を器官全体に供給するための総頚動脈を欠き、したがって、他の器官のように主要血管に単一カニューレを挿入することにより胸腺を灌流することができない35。マイクロサージェリーアプローチを使用して器官全体の胸腺灌流を得た。簡潔に言えば、各葉に血液を供給する血管を、絹縫合糸(サイズ6.0、F.S.T.)を用いて閉じて次の順:右総頚動脈、右鎖骨下動脈、右内胸動脈、右肋頚動脈、右大動脈弓、左大動脈弓、左肋頚動脈、左内胸動脈の順で胸腺を塞いだ。左頚動脈は、その後のカニューレ挿入及び器官の灌流のため開いたままにした。カニューレ挿入胸腺を、界面活性剤-酵素処理(DET)の灌流により脱細胞化した。器官を、i150nぜん動ポンプ(iポンプ)を用いてdH2O(18.2mΩ/cm)で4℃、96時間灌流した(0.2ml/分)。室温において4%デオキシコール酸ナトリウム(SDC;SIGMA-ALDRICH)及び2.5mM MgCl(SIGMA-ALDRICH)中0.1mg/mL DNアーゼ-I(SIGMA-ALDRICH)を用いてDETを行った。脱細胞化ラット胸腺(足場)を、1780Gyの線量でγ照射し、数週間4℃においてPBS中に貯蔵した。
【0106】
微小焦点コンピュータ断層撮影(マイクロCT)
ホルマリン溶液を用いて1:1比で三ヨウ化カリウム(IKI)造影剤に浸漬する前に、ラット胸腺を、抽出、カニューレ挿入及びパラホルムアルデヒドに固定し、前記胸腺を、同溶液(約20ml体積)を含むFalconチューブに浸漬する前にカニューレに、これを注入した。63.25mg/mLの総ヨウ素含有量のIKI(2.49×10-4mol/mLのヨウ素質量)を使用した。検体を、スキャニング前、造影剤溶液に48時間浸漬した。マイクロCT検査直前、検体を蒸留水でリンスして過剰な表面のヨウ素を除去して、ガーゼを用いてパッドで乾かした。これらを、Parafilm(登録商標)Mにラップし、低密度プラスチックシリンダーに固定した。等方性ボクセルサイズは、得られた幾何学的拡大率(検体サイズと逆相関)に応じて変わり、5μm~9μmの範囲であった。マルチメタルターゲットを備えたXT H320マイクロフォーカスCTスキャナー(Nikon Metrology、英国トリング)を用いて、X腺画像を得た。タングステンターゲットを、100kVの加速電圧及び100マイクロアンペアの電流で使用した。マイクロCT検査(約90分の時間)後、組織分解を防止し、顕微鏡検査前にヨウ素の除去を助けるために、検体を10%ホルマリンに固定した。画像を、CT Pro 3D(Nikon Metrology、英国トリング)を用いて再構築し、VG Studio MAX v3.0(Heidelberg、独国)を用いて後処理した。
【0107】
走査型電子顕微鏡(SEM)
サンプルを、0.1Mリン酸バッファ(PB)pH7.4中の4%ホルムアルデヒド/2.5%グルタルアルデヒド(SIGMA-ALDRICH)に、室温において5時間固定した。それから、サンプルを0.1M PBで洗浄し、約5mmに切断し、0.05M PB中25%ショ糖、10%グリセロールに一夜凍結保護した。それから、サンプルを、ステンレス鋼プローブを用いて液体窒素に急速凍結し破砕し、次いで、室温において抗凍結剤に戻して解凍した。サンプルを、1%OsO/1.5%フェリシアン化カリウムで染色し、H2Oで洗浄し、エタノール段階系列で脱水し、Leica EM CPD300を用いてCOで臨界点乾燥し、粘着カーボンタブを用いてアルミニウムスタブ上に取り付けた。サンプルを、破砕面をビームに提示するように取り付け、Quorum Q150R S スパッタコーターを用いてプラチナ薄層で被覆した。サンプルの肉眼での画像を、Leica M205C立体顕微鏡でSEM画像撮影前に撮影した。SEM画像を、FEI Quanta 250 FEG走査電子顕微鏡を用いて記録した。
【0108】
DNA定量化
天然ラット胸腺及び脱細胞化された器官のDNAを、製造者説明書に従ってPureLink Genomic DNA MiniKit(Invitrogen)を用いて抽出した。DNAサンプルを、分光光度測定(NanoDrop(商標)1000、ThermoFisher)で測定した。
【0109】
胸腺足場の再増殖及びin vitro培養
培養されたTEC及びTIC(比5:1)のcFAD培地中の細胞懸濁液を、インスリン注射器(Terumo、29.5G)を用いて脱細胞化されたラット胸腺に注入(100μl/葉中2M~3M細胞)した。足場の再増殖に使用されたストローマ細胞は、4月齢及び6月齢のドナー由来であった。播種された胸腺足場を、cFAD培地中5日又は6日間培養し、次いで、50μl体積の共培養培地(DMEM 1X(Gibco)、10%FBS(SIGMA-ALDRICH)、1%ペニシリン及びストレプトマイシン(100X、SIGMA-ALDRICH)、トリヨードチロニン(T3)(2×10-9M、SIGMA-ALDRICH)、インスリン(5μg/ml、SIGMA-ALDRICH)及びサイトカイン(インターロイキン-7、5ng/mL(Invitrogen)、幹細胞因子5ng/mL(Cell Signalling)及びFLT3-L(5ng/mL、CellGS))中TN(400,000)±VeraVec(200,000)細胞を注入した。足場を、TECのみ(n=4)、TICのみ(n=2)又はTEC及びTIC(n=5)を用いて再構築した。完全に再構築された足場(TEC、TIC及びTNを含む)を、共培養培地(サイトカインなし、n=3)に保持し、cFAD培地中14日まで培養した。
【0110】
骨髄再構築及び皮下移植
NSG(8週齢~12週齢)マウスを、137セシウム源(IBL 637γ放射線装置)から3.75Gyで亜致死的に放射線照射した。一次生着のため、精製されたCD34細胞(100K CB-CD34又は200K FL-CD34/細胞)を、マウス毎に静脈内注入した。マウス骨髄中のヒト細胞の生着を、屠殺時に評価した。足場の皮下移植を、CD34注入後4週齢~6週齢NSGマウスにおいて行った。マウスを、導入及び維持のため、5%~2%イソフルラン酸素ガス混合物を用いて麻酔した。ブプレノルフィン0.1mg Kg-1を、鎮痛のため導入時投与した。無菌条件下、1~3正中切開(0.4cm)を、マウスの背中に行い、足場を、側方ポケット40に挿入した。移植後1週間(wpt)~22wptの範囲の異なる時点においてマウスを選別した。
【0111】
3独立実験における皮下移植を、合計16NSGマウスで行い、これらのうちの14NSGマウスを、CB-CD34細胞を用いてヒト化し、これらのうちの2NSGマウスをFL-CD34細胞を用いてヒト化した:全マウスは、髄再構築を示した。37再増殖された足場をマウスに移植し、これらのうちの34を、回収した。具体的には、8マウスに、TIC、TEC、VeraVec細胞及びCD34細胞(n=18)を含む再増殖された足場を移植し;6マウスは、CD34細胞(n=13)を含まない再増殖された足場を受け、他の2マウスは、VeraVec細胞(n=6)を含まない再増殖された足場を受けた。加えて、2マウスは、空の足場(n=2)を受け、2マウスは、TICのみの足場(n=6)を受けた。足場の内皮細胞の非存在と相関する血管の程度における有意な変化はなかった。
【0112】
NSGヌード雌マウス(8週齢~12週齢)を、3.25Gyで亜致死的に放射線照射し、その後、精製されたヒトCD34細胞を静脈内注入した。NSGヌードマウスでは、骨髄(BM)生着により確立された有毛の同腹仔よりヒト化率は低かった(5有毛同腹仔のうちの5有毛同腹仔における50%~70%hCD45に対して、12マウスのうち4マウスは、27%~55%hCD45細胞を示した)。BM再構築を有しないマウスを、更なる分析から除外した。BM及び脾臓を、ストローマ再増殖足場が生着したヒト化マウス(10wptにおいて1及び18wptにおいて1)を回収した。空の足場が生着した2ヒト化NSGヌードマウスは、18wpt及び20wptにおいて末梢性再増殖を示さなかった(脾臓内で検出可能なhCD3細胞はなかった)。
【0113】
足場FACS分析及び選別
再増殖された天然足場を、RPMI1640及び2%FBS中のコラーゲナーゼI(2mg/mL、SIGMA、C0130)、ディスパーゼII(1U/mL、Roche)及びDNアーゼI(80μg/mL、Roche)を用いて機械的及び酵素的に分離した。消化完了時、細胞懸濁液は、細胞ストレーナー(100μm)を通過し、次いで、FACS選別又は分析のための抗体で染色した。9足場はCD34HSCを用いて再増殖し、7足場はCD34HSCなしで再増殖した合計16足場に対して選別及び/又は分析を行った。再増殖されない4コントロール並びにTICのみ、CD34及びVeraVecを含む2足場を、それぞれ、22wpt及び11wptにおいて回収した。足場を分析し、胸腺細胞は検出されなかった。本発明者らは、14再増殖足場:CD34HSCを用いて再増殖された9足場のうちの7足場及びCD34HSCを用いないで再増殖された7足場のうちの7足場においてCD4/CD8 SP及びDPを見出した。
【0114】
統計解析
全実験に対して3回以上の生物学的反復を行い;各実験群/条件に対する正確なサンプルサイズ(n)は離散数として与えられた。特に指定されない限り、ノンパラメトリックな2元配置分散分析を用いて統計解析を行った。プロット及びグラフを、GraphPad PRISM8を用いて作成した。
【0115】
上記実施形態を、ほんの一例として記載する。付属のクレームに規定されている通り本発明の範囲から逸脱しないで多くの変化形は可能である。
【実施例
【0116】
クローン原性TECを識別するための長期in vitro増殖
ヒト胸腺を、開胸心臓手術を経験した3日齢~11歳の年齢範囲の33患者から入手した。胸腺組織を、単一細胞懸濁液に酵素的に分離し、胸腺上皮細胞(TEC)の誘導のために致死的に放射線照射されたフィーダー層にわたって播種した。ドナーの年齢とは関係なく全胸腺は、毎週の継代により大規模に増殖することができるコロニーを生成するクローン原性TECを含んだ。その後、クローン原性TECが皮質及び/又は髄質由来かどうかを決定した。細胞選別ストラテジーを使用して上皮(皮質及び髄質性TEC)及び間質(TIC)を含む胸腺ストローマコンパートメントを解離及び前向きに単離した。濃縮数サイクル後、CD45ストローマ集団は、0.02%~2%(新鮮に分離された組織)から約40%~80%になり、更なる表面マーカーに基づいてその後の選別を可能とした。EpCAM及びCD205発現レベルを使用して、EpCAMCD205皮質性TEC(cTEC)からEpCAMCD205髄質性TEC(mTEC)を分離した。予想外に、間葉マーカーCD90(Thy1)は、大きな割合(>60%)のmTEC及びほぼ全てのcTEC、並びにTIC(図1Aに示す)によっても発現された。半接着斑に寄与し、重層上皮の基底層における細胞により発現されるCD49f、π6-インテグリンは、mTEC集団及びcTEC集団の両方において差次的に発現され(図1Bに示す)、CD49fmTEC又はcTEC(「タイプ1」)、及びCD49fmTEC又はcTEC(「タイプ2」)サブ集団を選別する基準を提供する。
【0117】
RT-qPCRを使用して、それぞれ、新鮮に単離された髄質性(例えば、AIRE1)及び皮質性(例えば、β-5T、CD205)上皮細胞の確立された機能的マーカーの発現を評価した。これは、FOXN1及びPAX1などの胸腺形成(thymus specification)及び/又は胸腺リンパ球新生に対するサイトカイン及び主要転写因子の皮質性細胞対髄質性細胞差次的発現をもたらしたが、ビメンチン(VIM)は、全ての選別された検査集団により比較的発現された。
【0118】
新鮮に単離されたタイプ1及びタイプ2ヒトcTEC及びmTECのコロニー形成の可能性を評価するため、上記のように致死的に放射線照射されたフィーダーにわたってこれらを播種した。コロニー形成効率(CFE)アッセイは、最も高いクローン原性が、タイプ1 mTEC(CFE2%~4%)及びタイプ1 cTEC(1%~2%)に存在する一方、タイプ2 mTECが非常に低いCFE(0.1%~0.2%)を有し、且つ、タイプ2 cTECがいずれもの増殖するコロニーを生じないことを一貫して明らかにした(図1Cに示す)。これらのより大きなクローン原性と完全に一致して、タイプ1 mTEC及びタイプ1 cTECは、連続する継代にわたって増殖することができる上皮サブ集団のみであった。前記タイプ1 cTECは、これらの髄質性カウンターパートより豊富でないが、前記タイプ1 cTECは、培養液中で顔胸に増強し、前記タイプ1 mTECに匹敵する数に達することができた。胸腺クローン原性細胞の転写プロファイルを定義するため、培養されたタイプ1 mTEC、タイプ1 cTECの全ゲノムでのRNAシーケンシングを行い、選別ストラテジーなしの培養液由来のTECの全ゲノムでのRNAシーケンシングも行った。培養されたTECのRNAシーケンシングにより検出されたSIX1、EYA1、HOXA3、PAX1、PAX9などの遺伝子の発現は、クローン原性TECが、これらの起源(皮質性又は髄質性)コンパートメントと無関係の胸腺同一性を維持することを確信させた。皮質性(CSTV、KNICP3、CD274)及び髄質性(CHD1、EpCAM、CD24)遺伝子両方を、培養細胞により保持した。胸腺上皮細胞のための文書化された重要性を有する転写因子についてRT-qPCRにより分析される場合、mTECクローン原性細胞及びcTECクローン原性細胞の両方は、TRP63、FOXN1及びSCFなどのシグナル伝達分子をコードするRNAの匹敵するレベルを発現した。前記mTEC及びcTECは、14347から11のみの差次的に発現された遺伝子(0.08%)を示し、したがって、培養液中、これらは共通の表現型を示すことを確認した。したがって、その後の実験では、本発明者らは、これらが髄質性ゾーン又は皮質性ゾーン由来か否かにかかわらず「クローン原性TEC」と表す。
【0119】
単一細胞RNAシーケンシングは、in vivo髄質性及び皮質性集団と共通の細胞クラスターを明確化する
mTEC及びcTEC、タイプ1及びタイプ2の新鮮に単離されたサブ集団を、単一細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)に付し、他のマウス及びヒトscRNAseq研究のより広範な状況に前記集団を置いた。この合わせたアプローチは、クローン原性細胞のために濃縮された新鮮に単離された胸腺上皮細胞の高解像度プロファイリングのための機会を提供した。前記mTEC及びcTECサブ集団が単一UMAPに存在する場合、主要な細胞サブグループを選別された上皮細胞の中からアノテートし、共有される共通の特徴に基づいて識別可能な15細胞クラスターを明確化することは可能である:cTECを3主要クラスターにグループ化したが、mTECは5主要クラスターにグループ化し、これに加えて、本発明者らは、皮質及び髄質両方に共通の4TECクラスター(「comTEC」)を特定した。なお、残りの3クラスター(残細胞)は、単一細胞選別から多形核、樹状細胞、及び胸腺細胞コンタミナントであった。これらの主要な細胞サブグループを、cTEC、mTEC又はcomTECの特定の遺伝子シグネチャーにより検証した。前記comTECは、上皮-間葉転換(EMT)シグネチャー(クラスター12)、増殖マーカー(クラスター13)、及びポリケラチン発現細胞(クラスター14)を特徴とする細胞を含むが、クラスター15は、イオン輸送において濃縮された特徴的シグネチャーを示した。comTEC並びに特定のmTEC及びcTECクラスターの転写シグネチャーをin vitroでのクローン原性TECの転写プロファイルと比較した場合、後者の発現された転写シグネチャー(増殖、EMT及びポリケラチン)は、comTECにおいて存在するが、新鮮に単離されたmTEC又はcTECの他のクラスターにおいて存在しないことは明らかだった。
【0120】
TECは、上皮及び間葉マーカーを同時発現するが、胸腺間質細胞と異なる
FACS(図1Aに示す)更に新鮮に単離されたTECのcomTECクラスターにおけるEMTシグネチャーの検出により観察されたEpCAMを用いたCD90(Thy-1)の著しい同時発現に基づいて、これは、ヒト胸腺上皮細胞が特徴的上皮-間葉ハイブリッド表現型を特徴とし得る可能性を示唆した。免疫組織化学分析を、本発明者らのドナーの生後胸腺に対して行い、CD90、ビメンチン(VIM)及び程度は少ないが中胚葉マーカーTE-7などの間葉マーカーと共にサイトケラチン(CK)を一貫して同時発現する細胞を明白に検出し、したがって、タンパク質レベルにおいて、健康な胸腺組織内で発現されたハイブリッド表現型を確認した。培養液中、クローン原性TECは、CD49fであり、活性細胞サイクル(Ki67)では、CK5/14及びCK8/18に対してダブル陽性であった。今までに培養液において記載されているが、上記報告されているものと一致して全上皮と対照的に、クローン原性TECは、CD90、VIM及びTE-7などの間葉マーカーを安定して同時発現した。加えて、TRP63を発現するいくつかのTEC、重層上皮の基底層の転写因子及び胸腺上皮細胞の主要制御因子は、in vitro及びin vivoでVIMに対して陽性でもあった。培養されたTECの全ゲノムトランスクリプトーム解析は、scRNAシーケンシングにより明確化されたEMTシグネチャーのin vitro発現を確信させた。際だったことに、間葉マーカーの発現は、培養液中4日にわたってTECコロニーのライブイメージングにより実証されたように、間葉細胞の特色を示す高い運動性及び遊走とも相関した。したがって、上皮細胞のハイブリッド上皮-間葉表現型は、in vivo及びex vivoでの胸腺の極めて独特な特徴であるように思われた。TECに加えて、CD90 EpCAM間質細胞も増殖した(図1Aに示す)。これらの細胞は、上皮細胞のために設計された培養条件下増殖しなかったが、中胚葉培養条件下多くの継代のため大規模に増殖し、したがって、本発明者らがほんの数週間で何十億もの細胞を得ることを可能とした。免疫蛍光法は、TE7、VIM、PDGFRβ、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン4(NG2)及び平滑筋アクチン(αSMA)などの間葉マーカーの発現を示した(図3d)。FACS分析は、これらのTICは、PDGFRα、PDGFRβ、CD90、CD146、及び、様々な程度に、NG2並びに血管周囲表現型と一貫したアルカリホスファターゼ(ALP)を一貫して発現したことを明らかにした。TICの増殖のFACS分析は、上皮細胞(CD49f)も免疫細胞(hCD45)のいずれの存在も示さなかった。そして、本発明者らは、全ゲノムRNAシーケンシングによる異なる年齢の小児サンプルからの培養された上皮クローン原性細胞及び胸腺間質細胞の転写プロファイルを比較した。予想通り、培養されたTECは、主成分分析(PCA1)により例示されているようにTICと明白に異なると思われた。それにもかかわらず、前記データは、前記2つの細胞型が、高度に発現されたCOL1A1、MMP2、TGFBR2及びFN1を含むEMTと関連する遺伝子の発現において絶妙な類似性も共有することを確信させた。
【0121】
天然胸腺足場
TEC及びTICの実質的に使用された培養条件下での増殖能を考慮すると、比較的短時間内に何十億ものTEC及びTICを得ることは可能となり、臨床適用性を有する仮想の幹細胞/前駆細胞として確立した。機能的に分化するこれらの能力を評価するため、特有のアプローチを使用して胸腺ストローマを播種するための3D構造物を提供するだろう器官全体の脱細胞化により胸腺細胞外マトリックス(ECM)を得て、生理的パターンに従って細胞の再組織化を誘導した。
【0122】
簡潔に言えば、その後のカニューレ挿入が器官の灌流を可能とするように、1つの頚動脈を開いたままにする一方、肉眼顕微鏡観察により示され、以下の方法のセクションに詳述されているように(図2a、上側パネルに示す)、全ての他の動脈(胸腺に達する血管の出現より下流)を閉じた。
【0123】
カニューレ挿入されたラット胸腺全体のX腺微小焦点コンピュータ断層撮影(マイクロCT)を適用し、頚動脈中にある24Gカニューレの3D可視化を可能とした(図2bに示す)。マイクロCTは、ヨード造影剤により血液を含む脈管構造の可視化(白領域、高密度領域)を可能とする非破壊技術であり;更に、マイクロCTは、仮想分割により皮質性領域(明領域、C)及び髄質性領域(M)の明白な分界を促進し、それにより、高解像度において胸腺の器官全体3Dイメージングを実証した(図2bに示す)。実質がより透明にされる場合、3D器官全体マイクロCT画像は、赤で分割された3D胸腺脈管構造の増強を可能とした(図2cに示す)。マッソン三色染色(MT)及びヘマトキシリン&エオシン(H&E)染色による標準的組織学的検査は、皮質性領域及び髄質性領域の分布並びに血管構造を確信させた(図2d及び図2eに示す)。
【0124】
このマイクロサージェリーアプローチは、単一カニューレを通してMicrofil(登録商標)化合物を注入することにより両胸腺葉の灌流を可能とし、固化及び固定後、本発明者らは、マイクロCTにより器官全体をイメージングした(図2f及び2gを示す)。ミリQ-HOのカニューレ、次いで界面活性剤及びDNアーゼ溶液を通した灌流は、6日間にわたって器官全体の脱細胞化を可能とした(図2a下側パネルに示す)。MT及びH&E染色は、器官の完全な脱細胞性を実証し、前記完全な脱細胞性は、微細な網状のコラーゲン濃縮されたECM並びにマクロ及びマイクロ脈管構造の保存を示した(図2h及び図2iに示す)。胸腺ECMは、ケラチンを含む中間径フィラメントの非存在を確認しながら、エラスチンの保存を実証するECMタンパク質のための比色染色を特徴とした。同様に、脱細胞化後、本質的に残DNAはなかった。走査電子顕微鏡(SEM)は、高解像度においてECM線維の分布を示し、これを、γ照射により滅菌し、生理食塩水中に貯蔵することができる器官全体の足場に保存した。
【0125】
天然足場は、ex vivoで機能的胸腺の形態形成を促進する
4週間~6週間増殖された4百万~6百万クローン原性TECを、足場に注入した。それから、再増殖された足場を、上皮培地に14日までの間性的条件下で維持し、この時間にわたって、これらは、足場リモデリング及び連続的に増加する体積を示した(図3Aに示す)。TECは、嚢下領域(CD49f)から足場の最も内側の領域に3D ECM構造物に沿って再組織化した。播種されたTECは、CK5/14及び/又はCK8を発現し;活性細胞サイクル(Ki67)にあり;アポトーシスマーカー、カスパーゼ3に対して陰性であり;TRP63を広範に発現した(図3Bに示す)。これらのデータは、TECが、3D ECMにより支持されたことを実証している。
【0126】
それにもかかわらず、これらのin vitro条件下及び他の細胞型の非存在下(図3Cに示す)、播種された細胞は、胸腺ストローマ分布が激しく撹乱される原発性免疫不全症に罹った患者において検出されたTECに似ていた。
【0127】
この問題に対処するため、次に、本発明者らは、培養されたTICと一緒に増殖されたTECを同時播種した。間質細胞の過剰増殖を避けるために、TEC:TIC比を、5:1に最適化した。際だったことに、共培養のほんの5日後、TICの存在は、早期(受胎後9週、wpc)胎児胸腺を大部分表現型模写した封鎖されたストローマ組織化を促進した(図3D及び図3Eに示す)。TICは、再構築された足場の3D ECMに沿ったTECの再組織化のために非常に重要であることが分かった。TICの存在下、皮質性CK8 TECは、天然胸腺を表現型模写するCD49f及びTRP63を発現するCK5/14 TECの嚢下様層により大部分囲まれていた(図3Fに示す)。再増殖された足場の走査電子顕微鏡(SEM)は、TEC、TIC及び脱細胞化されたECM間の細胞-細胞相互作用及び細胞-マトリックス相互作用並びに血管構造の保存を確信させた。クローン原性細胞からin vitroで再構築された組織化された胸腺ストローマを、無胸腺症患者に移植する前に、ドナー胸腺細胞を除去するために、21日まで海綿体上で培養された臨床胸腺スライスと比較した20、37。本発明者らの足場内の再構築されたストローマの健康状態は、胸腺スライス調製のための現在の臨床プロトコールが、培養14日及び21日後様々な生存率を有する組織破壊されたストローマ、並びに同様に重要なことだが、移植レシピエントのための移植片対宿主病の顕在的リスクを提起する残CD3胸腺細胞を示すことを考慮する場合への特定の関連性がると思われた。
【0128】
3D胸腺微小環境の機能的可能性を評価するため、天然足場を、記載のTEC及びTICを用いて再増殖し、4日~6日間培養し、胸腺細胞前駆細胞を注入した。再増殖された足場のサイズ(0.5cm~1cm)を考慮すると、本発明者らは、造血幹細胞(HSC)系統分化に必要な5週~6週に対して比較的短期(2週以下)の不十分な時間細胞を培養した。これに対応するため、足場を、早期リンパ系マーカーCD1a、CD5、CD7及びCD31の発現を特徴とするフローサイトメトリー選別三重陰性胸腺細胞(TN、CD3CD4CD8)を用いて再増殖した(図3Gに示す)。再増殖された足場内の免疫細胞は、CD33に対して陰性であり、CD1aに対して陽性であり、二重陽性(DP)及び成熟単一陽性(SP)CD4及びCD8ステージの両方に分化することができ、天然ヒト胸腺において見られる比を表現型模写するCD4細胞:CD8細胞の比をもたらした(図3Hに示す)。前記足場内のEpCAM TECは、培養液中で増殖するTECで検出されないHLA-DRも発現した。対照的に、TICのみのストローマを含む足場へ注入されたTNは、生存しなかった。結論として、胸腺ストローマ細胞の前記生存及び適切な空間的組織を支持し、次に胸腺細胞の分化を促進する器官サイズ3D構造物を培養することは可能であった。
【0129】
in vivoで再現されたヒト胸腺形態形成
それから、再増殖された胸腺足場が成熟し、in vivoでHSCからヒトT細胞再構築を持続し得るかどうかを決定した。5日~6日間in vitroで再増殖及び培養された足場を、ヒト化NOD.scid.I12Rγcヌル(NSG)マウスに皮下移植した。NSGマウスを亜致死的に放射線照射し、規定された比でストローマ細胞(TEC及びTIC)及びCD34 HSCを同時播種された胸腺足場を移植する前4週~6週に、ヒト臍帯血(CB CD34)又は胎児肝臓(FL CD34)のいずれかから高度に精製されたCD34 HSCを移植した。ヒト骨髄細胞の供給源として働くHSCを、胸腺発達を加速する移植片に添加するが、必須ではなかった。
【0130】
以前に播種され、in vitroで培養された脱細胞化された天然足場を、NSGマウスに皮下移植した。少なくとも2足場を、各マウスに移植した。移植片を、移植後1週、2週、8週、11週、18週及び22週(wpt)に別々に回収した(図4に示す)。早期時点は、ストローマ細胞生存及び再組織化を確認するために重要であった。8wptにおいて、天然足場に播種されたストローマ(TEC+TIC)は、特有の3D胸腺上皮細網と対照的にコルドン様分布又は緻密な上皮構造物を更に示した(図4)。しかしながら、11wptまで、規則的形態形成は更に進行し、より成熟した胸腺構造物は、ストローマ及びCD34 HSCを播種された足場の中で一貫して検出された。これらの中に、ハッサル小体(HB)、マウスにおいてあまり明白でないヒト胸腺の解剖学的特色と非常に類似した構造があった(図4、HBをアスタリスクで示す)。
【0131】
上皮マーカーE-カドヘリン(ECad、赤)及びT細胞受容体(TCR)(抗CD3:緑)に関する免疫組織化学(IHC)は、HBを形成し、足場からのCD3細胞と相互作用する上皮細胞との胸腺形態形成を確信させた。上皮(CK5)細胞及び間葉(ビメンチンCK5)細胞、並びに血管新生(エンドムチン免疫染色により検出)を、足場移植片で検出した(下側パネル)。いくつかの実験では、VeraVec内皮細胞は、再構築されたBMニッチにより迅速な再血管新生を支持すると報告されているので、VeraVec内皮細胞を、培養されたTEC及びTICに加えて播種した。しかしながら、胸腺形態形成及びT細胞の成長は、おそらく前記足場のマウス血管新生のために、播種においてヒト内皮細胞の存在に関係なく起こった。
【0132】
再構築された足場が循環する造血前駆細胞を引きつけるかどうかを決定するため、形態形成を、移植後18週~22週(wpt)において調査し、胸腺成熟は、移植前HSCを注入されなかったものを含む最も再増殖された足場において起こっていた(図4)。更に、AIRE発現は、11wpt~22wptで連続的に増加し、いくつかの領域内では、HBありなしで、点在するCD11c樹状細胞(DC)が存在し、HLA-DR発現を、DCに対してIHCにより及びTECに対してIHC及びFACSにより検出した。
【0133】
移植された足場を機能的に特徴付けするために、移植片を、回収し、単一細胞に分離し、フローサイトメトリーにより分析した。CD3細胞は、再改変された胸腺移植片内のhCD45集団内の優位な表現型であった。CD3であった各足場内のhCD45細胞の高パーセンテージ(30%~80%)は、同マウスの骨髄(BM)が、対照的に、CD33骨髄及びCD19B分化系列細胞を用いて一次的に再増殖したので、造血前駆細胞を、培養されたヒトストローマ細胞により得られる指令的胸腺微小環境にさらされたことを示している。
【0134】
フローサイトメトリーは、足場が、TCRαβを発現するSP CD4細胞及びCD8細胞を用いて胸腺細胞発達(全移植足場の77.5%)を支持することができることを示した。注目すべきは、足場において成熟する細胞のためのCD4:CD8比は、CD4SP細胞(約3:1)、循環ヒトBM誘導前駆細胞がNSGマウスの内在性胸腺内で分化する場合に見られないヒト胸腺細胞発達の特徴を支持した。未成熟SP(ISP)及びDP胸腺細胞は、前記足場内に異なる割合でも存在し、DP細胞の一貫した表現を有する進行中の胸腺リンパ球新生を実証した。それにもかかわらず、ex vivoで直接検査されたヒト胸腺において報告されたものとの比較によるこれらの存在の減少は、天然器官における分化の正確なスケジュール及び動態を確立するために更なる最適化が必要であろうことを合理的に反映しているかも知れない。対照的に、11wptにおけるTIC、VeraVec、HSC CD34(TECなし)を用いて再増殖された足場又は22wptにおける空足場から回収されるCD3細胞はなかった。
【0135】
hCD45CD3細胞を、胸腺足場及び18wptにおけるNSGマウスの内在性胸腺から選別し、次いで、in vitroでの細胞の機能的可能性を調べた。CD3/CD28 Dynabeads(登録商標)を使用して、充分な細胞を機能試験のために得るまで、12日~28日間選別された細胞の増殖を誘導した。興味深いことに、それぞれの足場関連細胞又は内在性胸腺関連細胞のCD4/CD8比は、培養中の増殖において持続し、この特性は、ヒト及びマウス胸腺ストローマにより分化的に「指令」されたことを示した。ホルボールミリステートアセテート(PMA)及びイオノマイシン(Io)を用いてin vitroで刺激される場合、前記増殖されたCD4細胞及びCD8細胞は、IFNγ及びTNFαを産生することができたが、IL2は、NSG胸腺由来のT細胞によるよりずっと少ない程度でヒト足場において発達する細胞から産生された(図6h)。注目すべきは、ヒト胸腺から新鮮に単離された胸腺細胞は、低いIL2産生を有するPMA-イオノマイシンにも応答する。
【0136】
そして、再増殖された足場の末梢性T細胞再構築を支持する能力を、足場が胸腺ストローマのみである無胸腺症NSG-Foxn1ヌル(NSGヌード)マウスにおいて決定した。NSGヌードマウスを、移植前4週~8週にヒト化した。同腹仔NSG(有毛)マウスを、骨髄(BM)及び末梢性再増殖(脾臓)のための陽性コントロールとして使用した。BM再構築により、空足場を移植された場合、これらのマウスの末梢において検出されたT細胞(hCD3)はなかった。それどころか、NSGヌードマウスが、ヒト胸腺ストローマを用いて以前にin vitroで再増殖された足場を移植された場合、hCD3細胞を、末梢で検出した。注目すべきは、NSGヌードマウスの脾臓からのhCD45CD3を、2時点(10wpt及び18wpt)において精製し、TRBC1/2、TRAV19、NT5E、CD45RA、TRAC、CD69、PTPN6(SHP-1)、PTPRC、PPIA、CD22、LTBを含むTCR活性化を支持する特定の遺伝子の発現について分析した。
【0137】
考察
上記結果は、生後ヒト胸腺が、in vivoでヒト機能的胸腺の再構築に寄与するのに適したin vitroで臨床的に関連する数まで増殖することができる上皮細胞(TEC)及び間質細胞(TIC)を宿すことを実証している。このことは、ほんの生後の培養細胞を使用するヒト胸腺の長命の表現模写が可能であることを実証している。
【0138】
前記結果は、CD49fを発現するmTEC及びcTEC両方は、継代培養及びex vivoで著しく増殖する能力を有するクローン原性TECにとって富化される。興味深いことに、mTEC及びcTECの増殖は、起源のこれらのそれぞれのコンパートメントのシグネチャーをほとんど失い、胸腺組織にわたり存在する共通の前駆細胞が存在することと外見上一貫していた。予想外に、クローン原性TECは遺伝子を同時発現し、間葉細胞に特色のいくつかの挙動も示したが、ハイブリッド表現型は、培養における多くの継代にわたって安定に維持される胸腺ストローマの特有の細胞固有の特徴であると考えられる。
【0139】
異なる本物の間質細胞集団(TIC)を、in vitroで大規模に増殖することができ、他の間葉ストローマ細胞及び周皮細胞といくつかの特徴を共有した。これらの細胞は、これらの非存在下、形態形成することができないので、ex vivo及びin vivoでの移植の両方において、形態形成中のTECの誘導において重要であった。おそらく、これらの役割は、TEC発達及び再生の支持を超えて、T細胞成長の直接的な調節においてTECと相乗作用するまで及ぶ。
【0140】
3D天然ECMは、培養された細胞からの胸腺形態形成のために非常に重要であることが分かった。器官全体の上記灌流脱細胞化アプローチは、ex vivo形態形成及びin vivo長期再構築両方のために重要である微細3D ECM網目構造の保存を可能とする。更に、ヒト培養TECは、ハッサル小体を生じ、したがって、in vivoでの胸腺前駆細胞分化に関して以前に報告されなかった主要な種特異的特性を維持するこれらの能力を実証した。AIRE及びHLA-DRなどの機能遺伝子は、in vivoでヒトSCID患者の胸腺ストローマにおいても下方制御され、これらの発現が、ストローマ及び胸腺細胞間にクロストークを含む複雑な微小環境に依存することを示している。したがって、観察されたAIRE及びHLA-DRの顕著な再発現は、本発明の方法において達成された再構築の程度を証明している。in vitro増殖に対するTEC及びTICの機能的コンピテンスが、ヒトHSCの循環を誘引するこれらの能力であり、T細胞の成長を支持し、無胸腺症NSGヌードマウスの末梢を再増殖することを実証することは極めて重要である。胸腺などの器官における種特異的ストローマは、その自体の機能にとって極めて重要であり;結果は、ヒトT細胞成長のハイブリッドマウス-ヒトin vitro系で観察されなかった生理的ヒトCD4/CD8比が、一貫して達成されたことを示している。重要なことに、ヒト足場内でin vivoで発達したヒトT細胞は、マウス胸腺において発達したものからの刺激に対するこれらの応答において機能的に異なった。
【0141】
結論では、in vivoで、持続性の胸腺は、造血及びストローマコンパートメント両方がヒト起源である場合に産生された。かかる系は、T細胞成長、特定のMHC-I及びIIを用いた陽性及び陰性選択、非定型T細胞(例えば、γδ)から、耐性の確立及び維持までの範囲の非常に多くの免疫学的問題に対処する可能性を開く。将来の応用としては、無胸腺症ディジョージ症候群及びFoxn1ヌル(ヌード)乳児などの原発性免疫不全における胸腺移植;自己免疫性多腺性内分泌不全症-カンジダ症・外胚葉ジストロフィー(APECED)患者としての先天的病態、及び免疫抑制のない臓器移植における耐性の制御を挙げることができる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図3E
図3F
図3G
図3H
図4
【手続補正書】
【提出日】2023-08-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象への移植に適した胸腺構築物の製造方法であって、前記方法は:
(i)無細胞の足場を提供する工程と;
(ii)間葉特性を有する胸腺上皮細胞を、前記無細胞の足場に播種する工程と;
(iii)前記播種された足場を培養して前記構築物を製造する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記胸腺上皮細胞が、実質的に全CD90+である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記全CD90+胸腺上皮細胞が、VIM及び任意にTE-7も発現する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程(ii)は、前記胸腺上皮細胞(TEC)と胸腺間質細胞(TIC)との両方を、前記無細胞の足場に播種することを含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比播種する、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、mTEC及びcTECの組合せを含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、にVIM+、及びTE-7+からなる群の少なくとも1つである、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記無細胞の足場を、胸腺全体又はその部分若しくは葉を脱細胞化することにより製造し、
前記胸腺、部分又は葉を、界面活性剤、プロテアーゼ及びヌクレアーゼの群から選択される少なくとも1つの脱細胞化媒体を用いた灌流により任意に脱細胞化する、請求項1~請求項8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)は、前記足場中に及び/又は前記足場上に前記胸腺上皮細胞を注入又は灌流することを含む、請求項1~請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
胸腺の再生において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
【請求項12】
胸腺疾患、免疫疾患又は自己免疫疾患の治療において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
【請求項13】
間葉特性を有する単離された胸腺上皮細胞、及び薬剤的に許容可能な担体を含み、単離された胸腺間質細胞を更に任意に含む、医薬組成物。
【請求項14】
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、TEC及びcTECの組合せを含む、求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比播種する、請求項13又は請求項14に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、にVIM+、TE-7+及びCD90+からなる群の少なくとも1つである、請求項13~請求項15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、請求項16に記載の医薬組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0141
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0141】
結論では、in vivoで、持続性の胸腺は、造血及びストローマコンパートメント両方がヒト起源である場合に産生された。かかる系は、T細胞成長、特定のMHC-I及びIIを用いた陽性及び陰性選択、非定型T細胞(例えば、γδ)から、耐性の確立及び維持までの範囲の非常に多くの免疫学的問題に対処する可能性を開く。将来の応用としては、無胸腺症ディジョージ症候群及びFoxn1ヌル(ヌード)乳児などの原発性免疫不全における胸腺移植;自己免疫性多腺性内分泌不全症-カンジダ症・外胚葉ジストロフィー(APECED)患者としての先天的病態、及び免疫抑制のない臓器移植における耐性の制御を挙げることができる。
<付記>
本開示は以下の態様を含む。
<項1>
対象への移植に適した胸腺構築物の製造方法であって、前記方法は:
(i)無細胞の足場を提供する工程と;
(ii)間葉特性を有する胸腺上皮細胞を、前記無細胞の足場に播種する工程と;
(iii)前記播種された足場を培養して前記構築物を製造する工程と、
を含む方法。
<項2>
工程(ii)は、前記胸腺上皮細胞(TEC)と胸腺間質細胞(TIC)との両方を、前記無細胞の足場に播種することを含む、<項1>に記載の方法。
<項3>
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、好ましくはmTEC及びcTECの組合せを含む、<項1>又は<項2>に記載の方法。
<項4>
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比で播種する、<項3>に記載の方法。
<項5>
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、好ましくは更にVIM+、TE-7+及びCD90+を含む群の少なくとも1つである、<項1>~<項4>のいずれか一項に記載の方法。
<項6>
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、<項5>に記載の方法。
<項7>
前記無細胞の足場を、胸腺全体又はその部分若しくは葉を脱細胞化することにより製造する、<項1>~<項6>のいずれか一項に記載の方法。
<項8>
前記胸腺、部分又は葉を、界面活性剤、プロテアーゼ及びヌクレアーゼの群から選択される少なくとも1つの脱細胞化媒体を用いた灌流により脱細胞化する、<項7>に記載の方法。
<項9>
工程(iii)は、前記足場中に及び/又は前記足場上に前記胸腺上皮細胞を注入又は灌流することを含む、<項1>~<項8>のいずれか一項に記載の方法。
<項10>
胸腺の再生において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
<項11>
胸腺疾患、免疫疾患又は自己免疫疾患の治療において使用するための間葉特性を有する胸腺上皮細胞。
<項12>
間葉特性を有する単離された胸腺上皮細胞、及び薬剤的に許容可能な担体を含む医薬組成物。
<項13>
単離された胸腺間質細胞を更に含む、<項12>に記載の医薬組成物。
<項14>
前記胸腺上皮細胞は、胸腺髄質上皮細胞(mTEC)、胸腺皮質上皮細胞(cTEC)、又は、好ましくはmTEC及びcTECの組合せを含む、<項12>又は<項13>に記載の医薬組成物。
<項15>
前記TEC及びTICを、3:1 TEC:TIC~10:1 TEC:TICの比、好ましくは4:1 TEC:TIC~8:1 TEC:TICの比、最も好ましくはおよそ5:1 TEC:TICの比で播種する、<項12>~<項14>のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<項16>
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+並びに、好ましくは更にVIM+、TE-7+及びCD90+を含む群の少なくとも1つである、<項12>~<項15>のいずれか一項に記載の医薬組成物。
<項17>
前記胸腺上皮細胞は、CD49f+及びCD90+である、<項16>に記載の医薬組成物。
<項18>
<項1>~<項9>のいずれか一項に記載の方法により得られた又は得ることができる胸腺構築物。
<項19>
治療において使用するための<項18>に記載の胸腺構築物。
<項20>
臓器移植方法であって、前記方法は、<項19>に記載の胸腺構築物を患者に外科的移植することを含む、方法。
【国際調査報告】