(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】心臓の弁輪を再成形するためのデバイス、方法、及びシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 17/00 20060101AFI20231208BHJP
A61F 2/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
A61B17/00
A61F2/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534267
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 US2021062182
(87)【国際公開番号】W WO2022125535
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518202312
【氏名又は名称】エムブイアールエックス, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】チャイルズ リチャード ティー.
(72)【発明者】
【氏名】ラハデルト デイビッド エイ.
(72)【発明者】
【氏名】トルフセン デイビッド アール.
(72)【発明者】
【氏名】ウー パトリック ピー.
【テーマコード(参考)】
4C097
4C160
【Fターム(参考)】
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC05
4C097DD04
4C097EE06
4C097EE09
4C160MM33
(57)【要約】
人体臓器内にインプラントを固設するための、かつ/又は人体臓器を再成形するためのアンカが、本明細書に提供される。アンカは、患者の人体管腔又は血管系内で展開するように構成されており、患者の解剖学的構造に対応するために湾曲されるか又は適合可能である。本発明は、複数のアンカ、例えば、1つ以上の前方アンカと組み合わされた1つ以上の後方アンカを有する、インプラントシステムを提供する。そのようなアンカを展開する方法、及び複数のアンカ又は複数のブリッジング要素の使用もまた提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)細長い円筒形の本体を有する増強デバイスであって、前記増強デバイスが、実質的に円筒形の壁によって画定された細長い管腔を有し、前記管腔が、アンカを受容するように構成されており、前記円筒形の壁が、前記アンカのブリッジング要素と係合するために前記円筒形の本体の長さに沿って配設された1つ以上のスロットを含む、増強デバイスと、
b)前記増強デバイスの前記細長い円筒形の本体内を通過するようにサイズ設定された実質的に円筒形の本体、及び、前記アンカの中間部分に結合されたブリッジング要素を有する、アンカと
を備える、アンカシステム。
【請求項2】
前記アンカが、前記アンカの前記円筒形の本体の少なくとも一部分に沿って長手方向に延在する実質的に剛性のバックボーンを更に備える、請求項1に記載のアンカシステム。
【請求項3】
前記実質的に剛性のバックボーンが、前記アンカの前記円筒形の本体上に、又はその中に配設されている、請求項2に記載のアンカシステム。
【請求項4】
前記増強デバイス及び前記アンカが、患者の解剖学的構造に適合するように長手方向に湾曲している、請求項1に記載のアンカシステム。
【請求項5】
前記増強デバイスが、前記増強デバイスの長さに沿って配設された少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、又はそれ以上のスロットを備える、請求項1に記載のアンカシステム。
【請求項6】
a)細長いシャフト本体を有する増強デバイスであって、前記シャフト本体が、第1の細長い構成及び第2の屈曲構成を有し、前記第2の屈曲構成が、前記第1の細長い構成と比較して低減された長さを有する、増強デバイスと、
b)前記増強デバイスの前記長さよりも短い長さを有する実質的に円筒形の本体、及び、アンカの中間部分に結合されたブリッジング要素を有する、前記アンカであって、前記システムは、前記増強デバイス及びアンカが結合されて人体管腔内に展開されたときに、前記アンカからの前記人体管腔の壁にかかる力が前記増強デバイスに移されて前記壁を変形させるように構成されている、アンカと
を備える、アンカシステム。
【請求項7】
前記シャフト本体が、形状記憶材料で構成されており、前記シャフト本体は、前記シャフト本体が弛緩状態にあるときに前記第2の構成に遷移するように構成されている、請求項6に記載のアンカシステム。
【請求項8】
前記シャフト本体が、ユーザによる機械的操作によって前記第2の構成に遷移するように構成されている、請求項6に記載のアンカシステム。
【請求項9】
前記シャフト本体が、前記第2の構成において患者の解剖学的構造に適合するように構成されている、請求項6に記載のアンカシステム。
【請求項10】
前記第2の構成において、前記増強デバイスが、弓形状を形成する、請求項6に記載のアンカシステム。
【請求項11】
前記第2の構成において、前記増強デバイスが、少なくとも1つの偏向点(deflection point)を有する形状を形成する、請求項6に記載のアンカシステム。
【請求項12】
前記第2の構成において、前記増強デバイスが、偏向点が間に挟まれている少なくとも2つの直線部分を有する形状によって画定されている、請求項11に記載のアンカシステム。
【請求項13】
前記第2の構成において、前記増強デバイスが、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10個、又はそれ以上の直線部分を有する形状によって画定されており、前記直線部分の各々の間に偏向点が挟まれている、請求項12に記載のアンカシステム。
【請求項14】
a)前方アンカを組織内に固設するように動作可能なアンカ部分、アンカ部材を通って延在する貫通穴、及び、前記貫通穴と同一の広がりを持つ管腔を有する細長いチューブを有する、前記前方アンカであって、前記細長いチューブが、屈曲に抵抗する半剛性又は剛性の材料で構成されている、前方アンカと、
b)ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、前記ブリッジング要素の第2の端部が、前記前方アンカの前記細長いチューブの前記管腔を横断するように構成されている、後方アンカと
を備える、アンカシステム。
【請求項15】
前記細長いチューブが、第1の直線的構成及び第2の非直線的構成を有する形状記憶材料で形成されており、前記細長いチューブは、前記チューブが弛緩状態にあるときに前記第2の構成に遷移するように構成されている、請求項14に記載のアンカシステム。
【請求項16】
前記細長いチューブが、前記アンカ部材の単一の側から延在する、請求項14に記載のアンカシステム。
【請求項17】
前記細長いチューブが、前記貫通穴を通り、前記アンカ部材の両側で前記アンカ部材から離れるように延在する、請求項14に記載のアンカシステム。
【請求項18】
前記アンカ部分が、第1のアンカ部材及び第2のアンカ部材を備え、前記第1及び第2のアンカ部材が、組織の対向する側で互いに結合するように構成されている、請求項14に記載のアンカシステム。
【請求項19】
前記第1及び第2のアンカ部材を横断する前記貫通穴が、前記部材が結合されたときにオフセットされている、請求項18に記載のアンカシステム。
【請求項20】
a)前方アンカを組織内に固設するように動作可能なアンカ部分、アンカ部材を通って延在する貫通穴、及び、前記アンカ部分から延在する調節可能なアームを有する、前方アンカと、
b)ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、前記ブリッジング要素の第2の端部は、前記前方アンカの前記貫通穴を横断するように構成されており、前記調節可能なアームは、人体血管内での展開時に前記ブリッジング要素を介して前記前方アンカ及び前記後方アンカが結合されたときに前記ブリッジング要素の位置決めを調節するように動作可能である、後方アンカと
を備える、アンカシステム。
【請求項21】
前記調節可能なアームが、前記前方アンカの外周の周りを回転可能である、請求項20に記載のアンカシステム。
【請求項22】
前記調節可能なアームが、前記アームを長くするように動作可能な延長可能部分を有する、請求項20に記載のアンカシステム。
【請求項23】
前記調節可能なアームが、回転可能なヒンジによって前記アンカ部分に結合されている、請求項21に記載のアンカシステム。
【請求項24】
前記調節可能なアームが、前記アンカ部分に対する前記アームの位置決めをロックするように動作可能なロック要素を含む、請求項20に記載のアンカシステム。
【請求項25】
前記ロック要素が、前記調節可能なアームの延長可能部分と係合するマンドレルである、請求項24に記載のアンカシステム。
【請求項26】
a)第1の前方アンカ、第2の前方アンカ、前記第1及び第2の前方アンカ間に延在する接続レール、並びに前記接続レール上に配設されたブリッジング要素コネクタを有する、前方インプラントと、
b)ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、前記ブリッジング要素の第2の端部は、人体血管内での展開時に前記ブリッジング要素を介して前記前方インプラント及び前記後方アンカが結合されたときに前記ブリッジング要素コネクタと係合するようにかつ前記第1の前方アンカの貫通穴又は前記第2の前方アンカの貫通穴を横断するように構成されている、後方アンカと
を備える、アンカシステム。
【請求項27】
前記ブリッジング要素コネクタが、前記接続レール上にスライド可能に配設されたスライドロックとして構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項28】
前記第1の前方アンカが、前記第1の前方アンカを左心耳に近接してアンカリングするように構成されており、前記第2の前方アンカが、前記第2の前方アンカを卵円窩に近接してアンカリングするように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項29】
前方アンカインプラントが、単一のインプラントとして送達されるように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項30】
前記前方アンカインプラントが、連続して送達される別個の構成要素として送達されるように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項31】
前記第1の前方アンカが、ニチノールメッシュで構成されており、前記第1の前方アンカを左心耳に近接してアンカリングするように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項32】
前記第1の前方アンカが、前記第1の前方アンカを繊維性心臓組織内及び/又は心臓の繊維性骨格内にアンカリングするように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項33】
前記第1の前方アンカが、前記第1の前方アンカを左繊維三角内にアンカリングするように構成されている、請求項26に記載のアンカシステム。
【請求項34】
対象内の心腔を再成形する方法であって、請求項1~33のいずれか一項に記載のアンカシステムを前記心腔内に移植し、それによって、前記対象の前記心腔を再成形することを含む、方法。
【請求項35】
前記心腔が、左心房である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記アンカシステムが、磁気カテーテルシステムを使用して移植される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
対象の左心房心腔を再成形することによって対象の僧帽弁逆流を治療する方法であって、前記左心房心腔内に請求項1~33のいずれか一項に記載のアンカシステムを移植し、それによって、前記対象の僧帽弁逆流を治療することを含む、方法。
【請求項38】
前記アンカシステムが、磁気カテーテルシステムを使用して移植される、請求項37に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月7日に出願された米国仮特許出願第63/122,420号の、35U.S.C.§119(e)に基づく優先権の利益を主張する。先行出願の開示は、本出願の開示の一部とみなされ、参照により本出願の開示に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明は、概して、医療デバイス及び処置に関し、より具体的には、体内にインプラントをアンカリングする、及び/又は体内の臓器を再成形するためのデバイス、方法、及びシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
背景情報
健常な人間の心臓は、(
図2A~2Cに見ることができるように、握り拳よりもわずかに大きい、筋肉でできた両側自己調整ポンプである。心臓は、右心房(RA)及び右心室(RV)、並びに左心房(LA)及びLV(LV)を含む4つの腔で構成されている。RAは、下大静脈(IVC)を介して下半身から、及び上大静脈(SVC)を介して頭部及び上半身から戻ってきた低酸素血液を収集し、三尖弁を介して低酸素血液をRVに送達する。その後、RVは収縮し、それは三尖弁を閉じ、肺への循環のために、肺動脈弁を通して、血液を肺動脈内に押し進める効果を有する。心臓の左側は、肺静脈を介して肺から戻ってきた酸素化された血液をLA内に収集する。そこから、血液は、LVに送達される。その後、LVは強力に収縮し、それは、僧帽弁(MV)を閉じ、大動脈弁を通して、血液を大動脈に押し進め、そこから全身に血液を押し進める効果を有する。
【0004】
図2Cに見ることができるように、心房中隔、RAとLAとを隔てる繊維性かつ筋性の部分で構成された壁。繊維性心房中隔は、心臓のより脆い筋肉組織と比較して、心臓内のそれ自体の範囲内においてより材料的に強い組織構造である。心房中隔の解剖学的ランドマークは、
図2Cに見ることができるように、卵円窩(oval fossa)、又は卵円窩(fossa ovalis)と呼ばれる、楕円形の拇印サイズのくぼみであり、これは胎生期の卵円孔及びその弁の残骸である。そこには、弁構造、血管、及び伝導経路などのいかなる重要な構造もない。血管造影技法によって識別可能となるその固有の線維状構造及び周囲の線維状隆起とともに、卵円窩は、右側から左側心臓内への経中隔診断及び治療処置に好ましい部位である。出生前には、酸素化された血液が胎盤から卵円孔を通じてLA内へと導かれ、出生後に卵円孔は閉じる。心臓の4つの弁は、主に、心周期中に血液が間違った方向に流れないこと、例えば、心室から心房への逆流、又は動脈から対応する心室内への逆流が起こらないことを確実にするように機能する。
【0005】
心臓の左側と右側との同期的なポンピング作用は、心周期を構成する。周期は、心室拡張期と呼ばれる心室の弛緩の期間から始まる。心室拡張期(例えば、心室充填)の開始時に、動脈から心室内への逆流を防止するために、大動脈弁及び肺動脈弁は閉じられる。その後まもなく、三尖弁及び僧帽弁が開いて、心房から対応する心室内への流れを可能にする。心室収縮期(例えば、心室収縮及び流出)が開始された直後、三尖弁及び僧帽弁は閉じて、心室から対応する心房内への逆流を防止する。次に、大動脈弁及び肺動脈弁が開いて、対応する心室から動脈内に血液を排出することを可能にする。心臓弁の開閉は、主に圧力差の結果として生じる。例えば、僧帽弁の開閉は、LAとLVとの間の圧力差の結果として生じる。心室拡張期の間、LVが弛緩すると、肺からLA内に戻る血液は、LV内の圧力を超える圧力を心房内に引き起こす。結果として、僧帽弁が開き、血液がLAからLV内に流れ込むことを可能にする。その後、心室収縮期において満杯になった心室が収縮すると、心室内圧は心房内の圧力よりも高くなり、僧帽弁を押して閉める。
【0006】
僧帽弁及び三尖弁は、各々弁輪と呼ばれるコラーゲンの繊維性のリングによって画定されており、これは、心臓の繊維性骨格の一部を形成する。弁輪は、僧帽弁の尖又は弁尖(前尖(anterior cusp)及び後尖(posterior cusp)又は前尖(anterior leaflet)及び後尖(posterior leaflet)と呼ばれる)及び三尖弁の3つの尖又は弁尖への取り付けを提供する。健常な僧帽弁の尖を
図2Bに示す。適切な閉鎖機能は、腱索及び1つ以上の乳頭筋のテザリング作用によっても補助される。本発明に構造的に関連し、僧帽弁の弁輪の近傍に位置するのは、
図2Cに見ることができるように、冠状静脈洞及び大心静脈(GVC)を含むその支流である。GVCは、一般に、心房の腔の外側ではなく心房壁の内側にあるLAの下壁の周りを進む。GVCは、冠状静脈洞を通ってRA内に注ぐ。
【0007】
議題の弁の各々は、血液が適切な方向のみに流れることを可能にするように機能する、一方向弁である。弁のうちのいずれかが適切に機能しない場合、それは心臓の効率に影響を与えることとなり、重大な健康問題を引き起こす場合がある。例えば、LVが収縮している間に完全に密封されないLAとLVとの間の僧帽弁の不全により、LV内の血液の一部がLA内に逆行して放出される。これは一般に僧帽弁逆流と呼ばれ、重症度によっては全身の血流不足を引き起こし、結果として健康に重大な影響を与える可能性がある。
【0008】
II.僧帽弁機能障害の特性及び原因
LAからの血液で満たされた後にLVが収縮すると、心室の壁は内側に移動し、乳頭筋及び腱からテンションの一部を解放する。血液が僧帽弁弁尖の下面に向かって押し上げられたことにより、僧帽弁弁尖が僧帽弁の弁輪平面に向けて上げられる。僧帽弁弁尖が弁輪に向かって進行するにつれて、前尖及び後尖の前縁が一緒に合わさり密封を形成し、弁を閉じる。健常な心臓では、弁尖の接合は、僧帽弁輪の平面の近くで起こる。血液が大動脈内に吐出されるまで、血液はLVにおいて加圧され続ける。乳頭筋の収縮は、心室の収縮と同時に起こり、心室が及ぼすピーク収縮圧で健常な弁尖を緊密に閉め続ける役割を果たす。
【0009】
健常な心臓では、僧帽弁輪の寸法により、弁尖が接合してピーク収縮圧で緊密な接合部を形成するような解剖学的形状及びテンションが作り出される。
図2Bに示されるように、弁尖が弁輪の向かい合う内側及び外側において接合する箇所は、弁尖交連CM、CLと呼ばれる。弁の機能不全は、腱索(腱)が伸張され、場合によっては、引き裂かれることによって生じ得る。腱が引き裂かれた場合、これは、虚弱な弁尖をもたらす。また、通常に構造化された弁は、弁輪の拡大又は形状変化のために適切に機能しない場合がある。この状態は、弁輪の拡張と称され、一般に心筋不全から生じる。加えて、弁は、生まれつき又は後天性疾患のために欠陥があり得る。原因にかかわらず、弁尖がピーク収縮圧で接合しない場合、僧帽弁機能障害が発生する可能性がある。これが発生した場合、2つの弁尖の接合ラインは、心室収縮期において緊密ではない。結果として、LVからLA内への望ましくない血液の逆流が発生する可能性がある。
【0010】
この僧帽弁逆流は、多量である場合、いくつかの深刻な健康上の結果をもたらす場合がある。例えば、心房内に流れ戻る血液は、高い心房圧を引き起こし、肺からLA内への血液の流れを低減させる場合がある。血液が肺系内に戻る場合、流体が肺内に漏れ、肺水腫を引き起こす。僧帽弁機能障害から生じる別の健康問題は、心臓の吐出割合の低減、又はLVに入る血液の人体を通した血液の効果的なポンピングである。心房内に逆流する血液量は、大動脈内に進む血液の量を低減し、低心拍出量を引き起こす。僧帽弁逆流の結果としての心房内の過剰な血液もまた、各心周期中に心室を過剰に満たす場合があり、LV内に容量過負荷を引き起こす。これにより、時間の経過とともに、LV、実際には心臓の左側全体の拡張がもたらされる場合がある。これは、僧帽弁輪が拡張されることによって、有効心拍出量を更に低減し、僧帽弁逆流の問題が更に悪化する場合がある。したがって、僧帽弁逆流の問題が始まると、結果として生じる周期により心不全が早まる場合がある。したがって、問題を扱うことは、上述の心拍出量の問題を緩和する即効性を有するだけでなく、心不全に向かう下方周期を中断し得る。
【0011】
III.現在の治療方法
この深刻な心疾患を治療する様々な方法が提案されている。1つのアプローチでは、Jonesらの米国特許第6,200,341号(特許文献1)、及びStoneらの米国特許第7,645,568号(特許文献2)などに説明されているように天然弁が除去され、新しい弁と交換される。このアプローチは、いくつかの状況において使用され得るが、そのような外科的処置は、一般に侵襲的である開胸手術を必要とし、僧帽弁逆流に苦しむ患者の多くを含む重病の患者又は高齢の患者には禁忌であることが多い。
【0012】
提案されている別の方法は、SchroederらのU.S.2005/0075723号(特許文献3)などに説明されているように、LVを横切るテンションを加えてLVを再成形し、それによって、僧帽弁の機能性に影響を与えることである。このアプローチでは、心室にわたって横切り、心臓の外面と係合する心外膜パッド間に延在するスプリントを使用する。このアプローチもまた、侵襲的であり、心臓の外面を貫通するため、潜在的に問題がある。
【0013】
提案されている別の方法は、CohnらのU.S.2002/0183841A1(特許文献4)に説明されているように、LAの後壁に沿って走るGVCの内側に延在するベルト状の収縮デバイスを用いてLAの収縮を行う試みである。これは部分的に役立つ場合があるが、多くの場合、デバイスは、弁尖の接合の不全を完全に解決するための左心房の形状の十分な変更を行うことができない。
【0014】
特に有用であることが証明されている更に別の方法は、
図3に示されるように、LAの幅にわたって、及び僧帽弁の弁輪の短軸にわたって直接テンションを加えるシステムを採用することである。システム1は、前方アンカ3と後方アンカ4との間に延在するブリッジング要素2を利用する。前方アンカ3は、概して、LAとRAとの間の壁、例えば、中隔壁上の卵円窩上に位置付けされており、LAにわたるブリッジング要素2に取り付けられている。後方アンカ4は、前方アンカの後方の心房を横切るように位置付けされており、GVC内の心房の腔の外側に位置付けられ得る。ブリッジング要素は、後方アンカに固定されており、中隔間においてLAを横切るブリッジを提供する。GVCは、LAの形状、特に僧帽弁の弁輪に直接影響が与えられるようにテンショニングされる。ブリッジング要素のテンションを調節することによって、LAの形状、特に僧帽弁の弁輪が調節されて、心機能中の僧帽弁の最適な閉鎖が達成され得る。このアプローチの一例は、Changらの米国特許第8,979,925B2号(特許文献5)に詳細に説明されており、その全体の内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0015】
このアプローチには、開心術又は人工心肺装置の載置などの侵襲的処置を回避することを含め、従来のアプローチに勝る多くの利点がある。しかしながら、対処しなければならない課題は依然としていくつかある。前方アンカは、卵円窩との相対的に堅牢で確実なアンカリングを提供するが、GCVなどの人体血管内のアンカリングは、より問題がある。卵円窩は顕著なくぼみによって画定されており、これはアンカを内側に配設させることに役立つが、GCVは顕著な解剖学的特徴を欠き、左心房の外壁に沿った相対的に滑らかな壁の血管によって画定されている。加えて、心臓は非常に動的な臓器であり、その結果、その中に配置された任意のインプラントは、心臓のポンピング周期中の心筋の歪みにより、非常に可変的な力及び移動にさらされる。これらの態様は、GCV内でのアンカリングを特に困難にする。したがって、GCVなどの血管内での堅牢で信頼性の高いアンカリングを可能にする、デバイス、システム、及び方法が必要である。デバイスの寿命にわたってかなりの力に耐えることができるそのようなアンカリングデバイスが更に必要である。心臓などの臓器の再成形を支援することができるそのようなアンカリングデバイスが更に必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第6,200,341号
【特許文献2】米国特許第7,645,568号
【特許文献3】U.S.2005/0075723号
【特許文献4】U.S.2002/0183841A1
【特許文献5】米国特許第8,979,925B2号
【発明の概要】
【0017】
本発明は、僧帽弁逆流などの心臓疾患の治療のための心臓弁輪を再成形するための心臓インプラントの送達及び展開のためのシステム、方法、及び関連するデバイスを提供する。
【0018】
したがって、一実施形態では、本発明は、増強デバイス及びアンカを含む、アンカシステムを提供する。いくつかの態様では、増強デバイスは、実質的に円筒形の壁によって画定された細長い円筒形の本体を有する。管腔は、アンカを受容するように構成されており、円筒形の壁は、アンカのブリッジング要素と係合するために円筒形の本体の長さに沿って配設されたスロットを含む。システムは、増強デバイスの細長い円筒形の本体内を通過するようにサイズ設定された実質的に円筒形の本体、及び、アンカの中間部分に結合されたブリッジング要素を有する、アンカを更に含む。
【0019】
別の態様では、増強デバイスは、細長いシャフト本体を有し、シャフト本体は、第1の細長い構成及び第2の屈曲構成を有する。第2の屈曲構成は、第1の細長い構成と比較して低減された長さを有する。システムは、増強デバイスの長さよりも短い長さを有する実質的に円筒形の本体、及び、アンカの中間部分に結合されたブリッジング要素を有する、アンカを更に含む。システムは、増強デバイス及びアンカが結合されて人体管腔内に展開されたときに、アンカからの人体管腔の壁にかかる力が増強デバイスに移されて壁を変形させるように構成されている。
【0020】
様々な実施形態では、本発明は、前方アンカ及び後方アンカを含む、アンカシステムを提供する。いくつかの態様では、アンカシステムは、前方アンカを組織内に固設するように動作可能なアンカ部分、アンカ部材を通って延在する貫通穴、及び、貫通穴と同一の広がりを持つ管腔を有する細長いチューブを有する、前方アンカであって、細長いチューブが、屈曲に抵抗する半剛性又は剛性の材料で構成されている、前方アンカと、ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、ブリッジング要素の第2の端部が、前方アンカの細長いチューブの管腔を横断するように構成されている、後方アンカと、を含む。
【0021】
別の態様では、アンカシステムは、前方アンカを組織内に固設するように動作可能なアンカ部分、アンカ部材を通って延在する貫通穴、及び、アンカ部分から延在する調節可能なアームを有する、前方アンカと、ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、ブリッジング要素の第2の端部は、前方アンカの貫通穴を横断するように構成されており、調節可能なアームは、人体血管内での展開時にブリッジング要素を介して前方アンカ及び後方アンカが結合されたときにブリッジング要素の位置決めを調節するように動作可能である、後方アンカと、を含む。
【0022】
更に別の実施形態では、本発明は、前方インプラント及び後方アンカを含む、アンカシステムを提供する。いくつかの態様では、前方インプラントは、第1の前方アンカ、第2の前方アンカ、第1及び第2の前方アンカ間に延在する接続レール、並びに接続レール上に配設されたブリッジング要素コネクタを有する。システムは、ブリッジング要素の第1の端部に結合された後方アンカであって、ブリッジング要素の第2の端部は、人体血管内での展開時にブリッジング要素を介して前方インプラント及び後方アンカが結合されたときにブリッジング要素コネクタと係合するようにかつ第1の前方アンカの貫通穴又は第2の前方アンカの貫通穴を横断するように構成されている、後方アンカを更に含む。いくつかの態様では、ブリッジング要素コネクタは、接続レール上にスライド可能に配設されたスライド可能なロックとして構成されており、接続レールに沿ったブリッジング要素の位置決めの調節を可能にする。
【0023】
別の実施形態では、本発明は、対象内の心腔を再成形する方法を提供する。方法は、本発明のアンカシステムを心腔内に移植し、それによって、対象の心腔を再成形することを含む。
【0024】
更に別の実施形態では、本発明は、対象の左心房心腔を再成形することによって対象における僧帽弁逆流を治療する方法を提供する。方法は、本発明のアンカシステムを左心房心腔内に移植し、それによって、対象における僧帽弁逆流を治療することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】
図1Aは、本発明の態様による、卵円窩内に配設された前方アンカとGVC内に位置決めされた後方アンカとの間の僧帽弁輪にわたる心房間ブリッジング要素を含む、心臓インプラントシステムを例解する。
図1Bは、本発明の態様による、卵円窩内に配設された前方アンカとGVC内に位置決めされた後方アンカとの間の僧帽弁輪にわたる心房間ブリッジング要素を含む、心臓インプラントシステムを例解する。
【
図2A】心周期の心室拡張期(心室充填)中に三尖弁及び僧帽弁が開き、大動脈弁及び肺動脈弁が閉じた状態の、右心房内の三尖弁、LA内の僧帽弁、及びその間の大動脈弁を示す、人間の心臓の一区分の解剖学的上面図である。
【
図2B】弁の主軸全体に沿った弁尖間の完全な接合を実証する、健全な僧帽弁を例解する。
【
図2C】心腔の内部及び関連する構造、例えば、卵円窩、冠状静脈洞、及びGVCを示すために、一部が切り取られ断面化された、左右の心房の解剖学的前面斜視図である。
【
図3】卵円窩内に配設された前方アンカとGCV内に配設された湾曲した後方アンカとの間で左心房にわたるブリッジを有する、従来のインプラントシステムを示す。
【
図4A】テンション力が加えられたときに反転又は逆転する、従来の湾曲した後方アンカの傾向を例解する。
【
図4B】従来の湾曲した後方アンカの、テンション力が加えられたときの反転又は反転の傾向を例解する。
【
図5】いくつかの実施形態による、テンショニング部材に取り付けられたジャケットを有する後方アンカを例解する。
【
図6】いくつかの実施形態による、テンショニング部材に取り付けられたジャケットを有する後方アンカを例解する。
【
図7A】いくつかの実施形態による、反転防止特徴を有するテンショニング部材に取り付けられた後方アンカを例解する。
【
図7B】いくつかの実施形態による、反転防止特徴を有するテンショニング部材に取り付けられた後方アンカを例解する。
【
図8】いくつかの実施形態による、別の反転防止特徴を有するテンショニング部材に取り付けられた後方アンカを例解する。
【
図9A】いくつかの実施形態による、テンショニングされたときに円筒を変形させるように圧縮可能円筒の遠位側に配設された支持要素を含む、後方アンカを例解する。
【
図9B】いくつかの実施形態による、それぞれ変形の前及び後の、GCV内に配設された
図9Aの後方アンカを例解する。
【
図9C】いくつかの実施形態による、それぞれ変形の前及び後の、GCV内に配設された
図9Aの後方アンカを例解する。
【
図10A】いくつかの実施形態による、各々がGCV内の別個の後方アンカに延在する前方アンカ及び複数のブリッジ要素を有する、心臓インプラントシステムを例解する。
【
図10B】いくつかの実施形態による、GCV内の単一の後方アンカに延在する前方アンカ及び複数のブリッジ要素を有する、心臓インプラントシステムを例解する。
【
図10C】いくつかの実施形態による、三尖弁を再成形するための心臓インプラントシステムであって、システムが、上大静脈及び下大静脈内のアンカから右心室内に配設された後方アンカまで延在する2つのブリッジ要素を有する、心臓インプラントシステムを例解する。
【
図11A】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11B】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11C】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11D】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11E】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11F】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図11G】いくつかの実施形態による、1つ以上のテザーの使用によってテンショニング部材の調節時に湾曲可能又は適合可能である、後方アンカを例解する。
【
図12A】いくつかの実施形態による、支持バックボーンのテンショニング時に横方向に押し潰し可能な拡張可能な構造によって画定された、後方アンカを例解する。
【
図12B】いくつかの実施形態による、支持バックボーンのテンショニング時に横方向に押し潰し可能な拡張可能な構造によって画定された、後方アンカを例解する。
【
図12C】いくつかの実施形態による、支持バックボーンのテンショニング時に横方向に押し潰し可能な拡張可能な構造によって画定された、後方アンカを例解する。
【
図13A】いくつかの実施形態による、支持バックボーンのテンショニング時に横方向の押し潰しを容易にする折り畳みゾーンを有する拡張可能な構造によって画定された、代替的な後方アンカを例解する。
【
図13B】いくつかの実施形態による、支持バックボーンのテンショニング時に横方向の押し潰しを容易にする折り畳みゾーンを有する拡張可能な構造によって画定された、代替的な後方アンカを例解する。
【
図14】いくつかの実施形態による、本発明の後方アンカのブリッジング要素との係合を可能にするためのスロットを有する増強デバイスによって画定された、本発明のアンカシステムを例解する。
【
図15】いくつかの実施形態による、展開時に形状を変化させ、本発明の後方アンカに結合するように動作可能であるように構成された増強デバイスによって画定された、本発明のアンカシステムを例解する。
【
図16】いくつかの実施形態による、ハイポチューブを有する前方アンカを含む本発明のアンカシステムを例解する。
【
図17】いくつかの実施形態による、本発明の前方アンカを例解する。
【
図18】いくつかの実施形態による、本発明のアンカシステムのインプランテーションを例解する。
【
図19】いくつかの実施形態による、本発明の前方アンカを例解する。
【
図20】いくつかの実施形態による、
図19に描写された前方アンカの動作を例解する。
【
図21】いくつかの実施形態による、
図19に描写された前方アンカの一部を例解する。
【
図22】いくつかの実施形態による、本発明の前方インプラント及び本発明の後方アンカを含む、本発明のアンカシステムを例解する。
【
図23】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図24】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図25】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図26】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図27】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図28】いくつかの実施形態による、
図22に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図29】いくつかの実施形態による、本発明の前方アンカ及び本発明の後方アンカを含む、本発明のアンカシステムを例解する。
【
図30】いくつかの実施形態による、
図29に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【
図31】いくつかの実施形態による、
図29に描写されたアンカシステムの態様を例解する。
【発明を実施するための形態】
【0026】
発明の詳細な説明
本発明は、人体管腔又は人体血管内に展開されたアンカを使用することによって体内でのインプラントの血管内アンカリング及び/又は体内の臓器を再成形するための、デバイス、システム、及び方法に関する。本明細書に説明されるインプラント及び関連するアンカは、僧帽弁逆流の治療のために僧帽弁輪を再成形することによって心臓弁の機能を改善することを目的とする。任意の心臓インプラントシステムが、本明細書に説明される特徴のうちのいずれか、又はそれらの任意の組み合わせを有する後方アンカを利用し得ることが理解される。更に、以下の実施形態は、前方アンカとGCV内に配設された後方アンカとの間の左心房にわたるブリッジング要素を有する心臓インプラントシステムで使用するための後方アンカを説明するが、本明細書に説明される特徴は、任意の心臓弁の治療のためのインプラントシステムに関連するか、又は人体管腔内に展開するための任意のアンカに関連し得、本明細書に説明される概念に従って、他の人体的場所における様々な他のインプラントシステムで利用され得ることが理解される。
【0027】
本明細書に提示される僧帽弁逆流の治療のための心臓弁治療システムの1つの重要な特徴は、後方アンカである。
図1A~1Bのインプラントシステム100に示されるように、後方アンカ10は、設置されると、概して、GVC内に位置付けされる。後方アンカは、GVC/LA壁を引き裂くこと、又は後方アンカがGVC/LA壁の組織を通って引っ張られることを避けるために、ブリッジング要素からのテンショニング力を可能な限り広くGVCの長さに沿って分散させることが重要であり、それによって、ブリッジング要素上のテンションが低減又は排除される。また、ブリッジング要素上のテンショニングにより、弁輪のエリア内のLV壁の大部分が中隔に向けて前方に引っ張られることは、LAの形状並びに中隔及び僧帽弁の弁輪からのLAの解剖学的距離を回復させる治療にも役立つ。代わりにテンションがLA壁上のある点に集中している場合、これは限られた点エリアだけを前方に引っ張り、LAの壁全体を有意に移動させない傾向があり得る。組織は、LAの壁全体を前方に引っ張るのではなく、内側にすぼませるか、又は折り畳み得る。
【0028】
デバイスが左心房を再成形するためにGCV内に単独で載置されるこれまでのGCVデバイス概念とは異なり、これらのシステムは、LA壁に加えられる追加の横力に依拠し、この横力は実質的により厚く堅牢な中隔壁上のアンカによって供給され、かつアンカに取り付けられ、オペレータによって制御される好ましい中隔-外側間隔に維持される。GCVのみのデバイスは、GCVの経路を内側に再成形しようとするが、心室の一部を含む周囲の組織を移動させるそれらの能力は大幅に限定されており、全ての加えられた力は、GCV自体において解決するか、又は釣り合いを保たなければならない。側壁を均一に移動させ、外傷又はびらんを伴わずに弁尖を接合させ、理想的には、GCVの自然な形状、輪郭、及び機能、並びに中隔との中隔-外側間隔を可能な限り維持するように、これらの実質的に大きい力を分配するGCVのためのアンカが必要である。
【0029】
そのようなインプラントシステムに関連する課題の中でも、GCV内に配設されている間、左心房の後壁に沿って後方アンカを安定かつ確実に係合させることは難しい。第一に、左心房に沿ったGCVの内壁は、いかなる顕著な解剖学的特徴を伴わない概して滑らかな壁であるため、後方アンカは、スライド又は移動する傾向があり、これは、あるレベルの僧帽弁逆流が依然として起こり得るように、インプラントシステムによって提供される中隔-外側間隔の変動性につながり得る。更に、心臓は、心周期中にかなりの量の周期的な動きにさらされるため、経時的な後方アンカのこのスライド移動は、組織のびらん又はブリッジング要素が延在する貫通部の拡大につながり得、GCVに沿ったLA壁の引き裂きにつながる。第二に、湾曲した又は可撓性の後方アンカを有するそのようなシステムでは、アンカの曲率は、多くの場合、心房壁の自然な曲率と一致せず、その結果、後方アンカは、心周期全体を通して弁輪の所望の再成形が維持されることを確実にするための左心房の後壁の十分な大きさの部分との一貫した係合ができない。これらの課題に対処するために、本明細書に提示されるのは、特に人体血管内に展開されたときに、アンカリングの安定性及び一貫性の向上、並びに隣接する組織との係合の改善を提供する、改善された設計特徴を有するアンカである。一態様では、アンカは、患者の血管系内での送達及び展開のためにサイズ設定及び寸法設定された細長い本体を有する。心臓インプラントシステムの場合、そのようなアンカは、横方向に加えられたアンカリング力を分配し、心臓壁の実質的な部分と係合するように、1cm~10cm、典型的には2cm~8cmの長さ寸法を有し得る。アンカは、0.5cm~5cm、典型的には1cm~3cmの幅寸法を有し得る。アンカは、人体管腔又は隣接する臓器の解剖学的構造により密接に適合するように、その長さ寸法に沿って、及び幅寸法に沿って輪郭が描かれるか又は湾曲し得る。いくつかの実施形態では、アンカは、アンカが展開された血管の片側の少なくとも一部分と係合し、同時に残りの血管を開放したままにして、そこを通る血流を促進するように特別に成形されている。そのような形状の例には、D形状又はC形状、並びに卵形状が含まれ、これらは全て、血管の開存性を維持しながら、人体血管の片側に沿った後方アンカの接触面積を増加させる。
【0030】
図1A~1Bは、卵円窩内に固設された前方アンカ14とGCV内に展開された後方アンカ10との間に延在する、左心房にわたるブリッジング要素12を含む例示的な心臓弁治療システム100を例解する。この実施形態では、後方アンカ10は、
図13Aに詳述されているものなどの円筒形構造であり、展開されたときにLAの壁に沿うGCVの内壁に沿って増加した接触表面積を提供するように、横方向に押し潰し可能である。
図1Bに見ることができるように、後方アンカ10も、GCVが沿って延在するLAの外側曲率の解剖学的構造により密接に適合するように、その長さに沿って湾曲している。後方アンカ10は、心周期中に心臓の構造によって与えられる動き及び力によるその長さに沿った反転又は逆転を阻害するための、反転防止特徴11を更に含み得る。後方アンカの特定の設計が
図1A~1Bに示されているが、システム100は、本明細書に説明されるもののいずれか、又は本明細書に説明される概念による任意の好適なアンカ特徴を含む、任意の好適な後方アンカを利用し得ることが理解される。
【0031】
いくつかの実施形態では、血管内アンカは、テンショニング部材が取り付けられる場所に沿った中央剛性部分と、可撓性外側端部と、を有する細長い部材として画定されている。中央剛性部分は、心臓の周期中に隣接する組織とアンカの係合を維持するように、テンショニング部材の突然の動きに対応するために、可撓性であるか、移動可能であるか、又は枢動する、取り付け点などの応力緩和特徴を含み得る。可撓性外側端部は、中央剛性部分を修正することによって提供され得るか(例えば、ノッチ、カーフ)、又は剛性部分の上にフィットするポリマージャケット又はカバーなどの追加の構成要素によって提供され得る。
【0032】
いくつかの実施形態では、血管内アンカは、それが配設されている血管の片側の少なくとも一部分に適合するように輪郭が描かれているか、又は成形されている。いくつかの実施形態では、血管内アンカは、固定形状を有するが、他の実施形態では、アンカの形状は、可撓性又は適合可能である。いくつかの実施形態では、血管内アンカは、送達及び展開を容易にするために、様々なサイズ及び形状の複数の構成を採ることができる。本明細書に説明される実施形態のいずれかにおいて、アンカは、ガイドワイヤ又はカテーテルを介した血管内送達を容易にするために、それを通る中空管腔を伴って画定され得る。
【0033】
改善されたアンカのこれら及び他の態様は、
図5~13Bに描写された実施形態を参照することによって更に理解することができる。これらの実施形態は、テンショニングされた心臓インプラントで使用するための後方アンカを説明するが、これらのアンカ特徴は、様々な他の人体的場所においてインプラント用の様々な他のタイプのアンカに適用され得ることが理解される。例えば、説明される特徴のうちのいずれかは、アンカリングされた組織に対する改善された適合性、力の改善された分配、及び人体臓器の再成形を容易にするための組織の改善された係合を含み得る、改善されたアンカリングを提供するためにインプラントにおいて使用され得る。
【0034】
図5は、ひずみ緩和及び非外傷性先端構成を提供するためにジャケットで覆われたT字バー110として画定された後方アンカを例解する。いくつかの実施形態では、薄い又は厚い壁のポリマージャケット160は、従来の剛性T字バーアンカの上にフィットして、非外傷性表面を提供し得る。T字バー110は、ブリッジ要素105と結合されており、ブリッジ要素105は、左心房をわたって横切り、心房を再成形するのに十分なテンションを維持するのに好適な縫合糸、テザー、又は任意の要素であり得る。ジャケット160は、ジャケットの端部部分が剛性T字バー110の端部を超えて延在するようにサイズ設定及び寸法設定されている。ジャケット160は、PTFE、高シリコーンソフトブロックウレタン、シリコーン、又は任意の好適な材料で形成され得、ポリエステルなどの薄い布地外側カバーを更に含むことができる。いくつかの実施形態では、ジャケットは、組織の内部成長を促進する材料で形成されることが好ましい。ジャケットは、接着剤によって所定の位置に保持され得るか、T字バーの上で縮小され得るか、又はその両方である。この実施形態では、ジャケット160は、内側の取り付けられた中央ブリッジ取り付けに当接する2つの端部ピースとして画定されているが、ジャケットは、以下で説明される次の実施形態のように、T字バーの全長にわたって取り付けられた単一ピースのジャケットとして画定され得る。先端伸長部は、組織ひずみを低減させるように成形されており、例えば、安定性を高めかつ送達を補助するために、湾曲又は蛇行し得る(図示せず)。このアプローチにより、従来のT字バーアンカは、アンカのサイズ及び/若しくは形状を変更するか、その長さに沿って改善された若しくは可変的な可撓性を提供するか、又は様々な他の有利な特性を提供するように改良されることが可能になる。
【0035】
図6は、成形されたジャケット162によって覆われた剛性T字バーバックボーン110として構成された別の後方アンカを例解する。成形されたジャケット162は、剛性T字バー110の上にフィットするポリマー半剛性又は対応した「サーフボード」であり得る。そのような構成は、従来の剛性T字バーアンカが、特定の用途のために所望される任意の形状、輪郭、又は可撓性を担うために改造されるのを可能にするため、有利である。上で説明される心臓インプラントシステムで使用するように構成されたこの実施形態では、成形されたジャケット162は、LAに向かうGVCの内壁との組織接触面積を増加させ、かつアンカリング接触力を更に分配するように、片側で平面又は平坦になるように成形されている。平面部分は、血管の形状に対応するように平坦又は湾曲状であり得る。この実施形態では、平面部分は、いずれかの端部部分よりも増大した幅を有する中心部分上に含まれ、平面中心部分の中心の近くに開口部を含み、これにより、平面中心部分の血管の壁との係合が容易になる。この増大した幅寸法及び平面部分は、反転に対する改善された耐性を提供する。成形されたジャケット162は、GCV壁に対して相対的に平坦に横たわるようにその後方/前方の寸法に沿って薄く形成され得、したがってGCV内の血流が最大化される。この構成はまた、後方アンカを安定させ、反転に抵抗するのにも役立った。他の実施形態と同様に、表面は、組織の内部成長を誘導する材料でコーティング又は構成され得る。成形されたジャケットは、PTFE、高シリコーンソフトブロックウレタン、シリコーン、他のインプラントグレードエラストマーを含む様々なポリマー材料で形成され得る。組織の成長を促進するか、又はスライドを阻害するために、ポリマージャケットを覆うポリエステルなどの任意選択的な薄い布地が採用され得る。デバイスのサイズは、当然ながら、外科医の要求及び患者の特定の要件、例えば、大きい男性患者対小児患者に応じて変化し得るが、典型的な成人患者のための1つの有利なサイズは、例えば、12Fの丸型又は楕円形のT字バーであろう。そのようなリンクは、上で考察された他のジャケット構造又はワイヤ形態構造を安定化及び強化するために、「バックボーン」として組み合わされ得る。ワイヤ形態は、金属、プラスチック、又は上で説明されるように剛性バックボーンが形態を押し潰すことを可能にするであろう任意の他の材料であり得る。
【0036】
成形されたジャケット162の直線バージョンが
図6に示されているが、成形されたジャケット162は、僧帽弁輪若しくはGCV又はその両方の曲率に一致するように、その長さに沿って所定の湾曲形状で形成され得ることが理解される。GCVの幅に近い幅を有し、側壁のより多くの引っ掛かりを得ることにより、湾曲が反転又は真っすぐになる傾向が阻止されることとなる。いくつかの実施形態では、アンカを送達するために使用される送達カテーテルは、軸方向回転を可能にして、曲率をGCVと整列させるアンカの適切な配置を可能にする搭載特徴を含み得る。そのような特徴には、展開中のアンカの配向の操作を可能にするための管腔若しくはガイド、又は任意の境界特徴が含まれ得る。成形されたジャケットは、半剛性材料から構成されて、形状をある程度直線状にしてガイドワイヤの上での走行を可能にし、かつガイドワイヤの取り外し及びデバイスの解放時に、より有意な曲げを可能にし得る。1つ以上の放射線不透過性の特徴をアンカに追加して、臨床医が送達及び展開中にその位置及び配向を視覚化することを可能にすることができる。これらの実施形態では、ブリッジ要素105は、T字バー110の中間の部分の周りに巻かれた縫合糸として描写されているが、様々な他のブリッジング要素及び好適な取り付けの手段(例えば、接着剤、溶接、結合)が使用され得ることが理解される。
【0037】
いくつかの従来のシステムは、湾曲した後方アンカを利用しているが、そのようなアンカは、(剛性構造の場合)反転する傾向があるか、又は(より可撓性の構造の場合)逆転する傾向がある。この作用は、前方アンカ3から剛性湾曲管状部材として画定された従来の後方アンカ4の中間点まで延在するブリッジング要素2を含む、
図3に示す従来の心臓弁治療システム1を参照することによって更に理解することができる。GVC内に薄い湾曲した後方アンカ、特に剛性の湾曲したアンカが載置され、テンションが弧の内部湾曲、特に頂点近くに加えられたとき、力は、GVC内の湾曲したアンカを反転させ、GVCと心房との間の通路に湾曲の外縁を提示する傾向があろう。
【0038】
図4A~4Bは、この反転傾向を例解する。アンカを反転させると、より安定したエネルギー条件に達し、したがって、これはアンカが求める傾向となる構成である。この反転を構成において考慮する際には、GVC内の所定の位置にある遠位アンカは、静的な湾曲した静脈に対して横たわる静止した湾曲構造からはかけ離れていることを覚えておくことが重要である。それは、心臓の壁内に埋め込まれた流れる血液で満たされた血管内の所定の位置にあり、概して、1分間に75回ほど鼓動している。後方アンカが流れる血液にもまれ、巻き込まれると、アンカは、ブリッジング要素からのテンション力に関連して最も安定した配向を迅速に求め、湾曲の頂点がテンショニング要素の方向を向いた配向に反転することとなり、頂点は、反転の発生を防止するための何らかの機構、例えば、本明細書に説明される機構のうちのいずれかが設けられない限り、ブリッジング要素が引っ張るGVC/LA壁の穴内に引き込まれる。反転又は逆転されたとき、アンカ構造は、LA/GVC壁の間の穿刺点である単一の点において、ブリッジング要素によって加えられるテンショニング力をGVC/LA壁上で集束する傾向がある。これにより、壁を引き裂き、可能性としては後方アンカを心房内に引き込み、テンションを完全に解放するか、又は、途中まで心房内に引き込み、治療が深刻に侵害されるほどまでテンションを解放する可能性が増加する。
【0039】
上で説明されるこの反転する動きはまた、弁輪の再成形に影響を与えるようにLAの壁を中隔に向かって引っ張ることにおいて効果がかなり低くあり得、したがって治療を提供することにおいて効果が低いであろう。湾曲した後方アンカとGVC内壁との間の単一の接触点のみでは、後方アンカはGVC内で縦方向にスライドする可能性がより高くなり得、その際、ブリッジング要素を形成する縫合糸は、GVC/LA壁を形成する組織をスライスし、穿刺穴を拡張する可能性がより高くなり、後方アンカがLA内に引き込まれ得る可能性が更に高くなる。したがって、反転防止構成及び特徴は、同時に、スライド防止機構を提供することができ、それは二重に有利となり得る。
【0040】
1つのそのような反転防止アンカ構成が、
図7A~7Bに示されている。このアンカは、ヒンジ150によって取り付けられた剛性の短いリンク151、又はアンカ本体152の内側の湾曲から延在する同様の可撓性取り付け機構を採用する。リンク151は、
図7Aに示されるように、ガイドワイヤGWを介して送達中に湾曲したアンカ本体152の内側の湾曲に対してほぼ平らに横たわるように回転することができ、
図7Bに示されるように、ブリッジング要素をLAの壁内の貫通部を通して引っ張ることによって展開されたとき、アンカに対して概して垂直であるように開く、相対的に剛性の長さである。典型的には、展開された構成では、リンク151の遠位端部は、その静止位置においてLA内にわずかに突出する。いくつかの実施形態では、リンク151は、可撓性ブリッジング要素105が中空リンク151を介して湾曲した後方アンカ本体152に取り付けられるように、中空である。他の実施形態では、ブリッジング要素105は、アンカ本体152から離れるように延在された端部に取り付けられている。リンク151は、テンショニングされたブリッジング要素105との同軸整列を引き起こし、アンカが反転するのを防止するのに十分な長さである。リンク151は、プラスチック又は滑らかな金属などの材料で形成され得、心房とGVとの間に貫通が行われるGVCの壁の組織を切断する可能性が、裸のブリッジング要素、例えば、縫合糸よりも低い、十分な直径を有し得る。したがって、リンクは、反転を防止し、かつGVCの壁を保護するという二重の目的に役立つ。リンクは平らに折り畳まれ、送達中に穿刺部位に向けられ、その部位で縫合糸がテンショニングされると垂直に開くように設定されている。
【0041】
図8は、ブリッジング要素105がアンカ本体152に取り付けられる場所に沿った、内側に湾曲した部分153として画定された反転防止又は反転防止特徴を含む、別のアンカ実施形態を例解する。MVRの治療のために左心房インプラント内で使用される場合、内側に湾曲した中間区分は、概してGCV形状の湾曲アンカの平面内に突出し、ブリッジ105は、反転防止湾曲部分153の中間区分に取り付けられる。これは、アンカへのより単純な取り付けを可能にし、その構造及び送達の両方におけるリンク機構の複雑化要因を回避する。
【0042】
別の態様では、後方アンカは、送達構成と、アンカが血管壁の片側に沿って偏心して配設される及び展開構成とで構成され得る。そのような構成は、非円形であり、人体管腔又は血管の壁に対して係合される片側により大きい表面積を有する、偏心形状を形成するように、拡張可能かつ圧縮可能である。そのような構成の例は、以下の実施形態において例解される。
【0043】
図9A~9Cは、圧壊可能な円筒103として画定された後方アンカを例解しており、T字バー支持体などのより剛性の支持部材101が、円筒内に取り付けられるか、又は埋め込まれている。この実施形態では、円筒が説明されるが、そのようなアンカは、部分的な円筒、三日月形、卵形、又は様々な不規則的な形状を含むが、それらに限定されない、様々な細長い形状で構成され得ることが理解される。圧壊可能な円筒は、発泡材料又は構造などの任意の好適な圧壊可能な材料で形成され得る。典型的には、剛性支持部材101は、
図9Aに示されるように、ブリッジング要素がテンショニングされたときに円筒の更なる圧壊を容易にするように、ブリッジング要素105が延在する場所から最も遠い外側後方の直径に取り付けられているか、又は埋め込まれている。剛性支持部材101は、図示のように実質的に直線状であり得るか、又はGVCの内壁の湾曲に概して従うように湾曲され得、したがって、組織壁に対して引っ張り力を均一に分散させ得る。
【0044】
図9B~9Cは、それぞれ、展開前及び展開後のGVC内に配設された
図9Aの後方アンカの断面を例解する。GVC内に送達され、ブリッジング要素105に接続されたとき、圧壊可能な円筒103は、そこを通ってブリッジング要素105が延在する、GVC及びLAの壁に隣接し、剛性支持要素101は、
図9Bに示されるように、LAから最も遠い側に配設される。T字バー101に対するブリッジング要素に張力を加えると、圧壊可能な材料は、GVC内の血流を妨害しにくい低減された断面を有する偏心形状103aへと押し潰される。圧壊された円筒はまた、GVCの内側形状により密接に付着するとともに、それによって、圧壊されていない円筒と比較して接触表面積を増加させる形状を採る。圧壊されたとき、材料はまた、圧壊されていない材料よりも幾分圧縮され、概してより硬く、これはまた、GVC壁の表面積にわたってブリッジング要素によって加えられる力を分散させるのにも役立つ。
【0045】
図9A~9Cに示す実施形態は、相対的に短く細長い圧壊可能な部材及びT字バーとして示されているが、T字バー又はスパインは、引っ張り力を分散させるために有意により長くあり得、湾曲形状のGVC内でより一般に力を分散させるために、湾曲を伴って成形され得ることが理解される。
【0046】
いくつかの実施形態では、材料的に圧壊可能なものは、組織の内部成長及び/又は瘢痕化を促進して組織-アンカマトリックスを作成する材料である。この内部成長は、後方アンカがGVC壁を通って引っ張られないか、又はGVC内で反転されないことを確実にするのを更に補助する。この圧壊可能な材料は、圧壊された形態で送達カテーテルによって拘束されて、その送達プロファイルを低下させ、したがって送達を補助し、解放されると、ブリッジング要素によって最終寸法に更に再成形される。
【0047】
図10A~10Bは、本明細書に説明されるものに従って、後方アンカを利用することができる代替的なインプラントシステムを例解する。
図10Aは、前方アンカ、及びGCV内の複数の後方アンカ10に延在する複数のブリッジ要素105を有する、心臓インプラントシステム200を例解する。この実施形態では、後方アンカ10は、
図13Aに説明されるような押し潰し可能な円筒形構造である。
図10Bは、前方アンカ、及びGCV内に展開された単一の後方アンカ10に延在する複数のブリッジ要素105を有する、心臓インプラントシステム300を例解する。この実施形態では、後方アンカ10は、
図11Gに説明されるようなセグメント化されたチューブである。描写された後方アンカの各々は、本明細書に説明される実施形態のうちのいずれかにおけるアンカ特徴のいずれか1つ又はそれらの組み合わせを利用することができることが理解される。
図10Cは、いくつかの実施形態による、三尖弁を再成形するための心臓インプラントシステム400を例解しており、このシステムは、上大静脈及び下大静脈のアンカ40から、右心室内に配設された後方アンカ10まで延在する2つのブリッジ要素を有する。この実施形態では、後方アンカ10は、
図13Aに説明されるような押し潰し可能な円筒形構造である。
【0048】
別の態様では、実質的に直線的な構成から湾曲的な構成に変換することができる湾曲した後方アンカが提供される。いくつかの実施形態では、アンカの湾曲は、展開中に調節され得る。いくつかのそのような後方アンカは、ブリッジング要素、又はそこを通って延在する1つ以上のテザーのいずれかによってテンショニングされたときに湾曲形状に関節をなす、一連の境界構成要素又は相互接続構成要素を含む。これらのアンカは、例えば、
図10Aに示されるような、アンカごとに単一のブリッジング要素を有するシステムとともに使用するように、又は、例えば、
図10Bに示されるような、複数のブリッジング要素を有するシステム内で使用するように構成され得る。いくつかの実施形態では、湾曲可能な後方アンカは、テンショニングされたブリッジによるアンカ本体の制御された関節又は曲率を可能にする一連の切り込み又はカーフを有する、単一のチューブ内に画定されている。そのようなアンカの調節は、複数のスキーム及びアンカ構成を含み得る。そのような構成の例は、以下に更に詳述される。
【0049】
図11A~11Dは、展開されたときにブリッジング要素に向かって内側に湾曲するように構成された後方アンカを例解する。このような構成などは、血管又は隣接する組織又は臓器壁の曲率に一致するように設計され得、テンショニングされたブリッジ要素によって曲率を維持することができるため、更に反転に抵抗する。典型的には、後方アンカは、GVCの曲率に一致して、前方アンカに対してテンショニングされたブリッジング要素を介した取り付けによって提供されるアンカ力をより均等かつ確実に分散させるように画定されている。
【0050】
図11A~11Dの実施形態は、単一のチューブから形成されたセグメントチューブであり得る。これが達成され得る1つの方法は、
図11Aに示されるように、カーフ140、141、142と呼ばれる一連の切り込みによって、好適な長さ(例えば、GVCに沿った僧帽弁輪に一致する長さ)の中空金属又はポリマーチューブ130を一連のセグメント131、132、133に切り込むことである。カーフは、例えば、チューブの直径の1/2~3/4の深さであり得、より緊密な曲率半径を促進するように角度付けされ得る。これらのエリアは開放しており、それは、いくつかの材料がチューブから切り出されて一連のセグメントを画定し、力が両端部130a、130bに加えられたときに、チューブが優先的にカーフの方向に曲がることを可能にすることを意味する。
【0051】
1つ以上のテザーを使用して、セグメントを内側に引き出してアンカを湾曲させることができる。いくつかの実施形態では、内部テザー105a、105bは各々、チューブのそれぞれの端部130a、130bの内部で固定されており、カーフのうちの1つ又は、例えば、カーフのうちの2つの138、139を通ってアンカの中心部分に沿って抜け出すことができ(例えば、
図11A~11Bのように)、ブリッジング要素が露出したテザーに取り付けられている。GCV壁に対してブリッジング要素をテンショニングすることによって、同時に僧帽弁の短軸が短くなり、アンカが所望の形状に曲がる。そのような構成は、ブリッジング要素105がテンショニングされたときに、チューブ130を湾曲させる。より多くのテンションが加えられるほど、カーフ開口部が閉鎖されるか、又は係合された組織が管状本体130に等しい対抗力を及ぼすまで、ブリッジング要素に向かって曲率が大きくなる。これは、前述の反転は、典型的には、ブリッジング要素が高められたテンションを受けたときに起こるため、心臓などの動的環境内での使用に特に有利である。
【0052】
図11Cは、端部130a、130bと結合されており、中央開口部144を通って抜け出てブリッジング要素105と結合する内部テザー105a、105bを有する、同様の実施形態を例解する。代替的に、テザー105a、105bは、各端部の独立した曲げを可能にするように、各々独立して端部130a、130bに固定され、アンカの中心から抜け出得る。このアプローチにより、複数のセグメント及びカスタム形状のアンカを提供する構成が提供され得る。
【0053】
図11Dは、ブリッジング要素105がアンカの管状本体130を通って延在するループであり、それにより、ループを短くすることによってテンショニングされたときに、内部テザー部分105cが短くなり、テンショニングされたテザー部分105a、105bの力が内側に端部130a、130bを短くし、それによって、アンカ本体を湾曲させる、代替的な実施形態を例解する。ループの長さは、ループの1つ以上の自由端を引っ張って前方アンカに取り付けることによって短くすることができ、それによって、ユーザがブリッジング要素のテンションを調節することが可能になる。
【0054】
代替的に、曲げは、ブリッジング要素から独立的であり得る。
図11Eは、GCV内でカテーテルを使用して、カテーテルの管腔を介してアンカの遠位端部に内部で固定された内部テザー106を引っ張る、そのような曲げスキームの一例を例解する。これにより、アンカの近位端部は、カテーテル先端と係合し、曲がる。クリップ、結び目、又は任意の好適な機構などの留め具107を使用して、曲げられたアンカを所望の湾曲した位置に固定することができ、余分なテザーは断ち切られる。
【0055】
チューブを曲げるために必要な曲がった構成及び力、並びに曲がったチューブの剛性は、カーフの数、幅、間隔、及び深さを調節することによって所望のように変化させることができることが理解される。カーフは、より広い区分とより狭い区分を組み合わせて、それぞれ区分を相対的に硬く又は柔らかくする、アンカの長さに沿った様々な長さであり得る。アンカの湾曲は、単一の共有接続されたブリッジ又は二重の独立したブリッジ要素で達成され得、後者は、一方の端部でより弛緩した湾曲を可能にする。
【0056】
別の同様のアプローチでは、アンカは、長さが類似しているか、又は調整された、個々の非接続中空リンクによって画定されている。リンクは、展開されたときにそれらの静止場所のための所望の剛性及び形状を有するように形成されている。リンクは、本明細書に詳述される構造のうちのいずれかを使用して形成され得る。そのような実施形態は、単一のブリッジを有する送達スキームを利用し得、第1のブリッジ端部展開の後、アンカ又はアンカリンクをそれらの静止場所に装着し、第2のブリッジの展開が続く。アンカ又は外側リンクの先端は、ブリッジング要素からの任意の摩耗から組織を保護するグロメット又は他の手段を有し得る。
【0057】
別の態様では、2つのエンドブリッジを伴う曲げ可能なGVCアンカのハイブリッド概念が提供される。そのような実施形態の一例には、ブリッジ要素間に延在し、各端部に取り付けられた、一連のセグメント又は境界要素に類似する、曲げ可能なアンカが含まれる。いくつかの実施形態では、ブリッジング要素は、アンカの各端部に恒久的に固定されている。第1のブリッジは、好ましくは、冠状静脈洞から最も遠くに展開され、その後、好ましくは僧帽弁のより大きい中央帆状弁尖の上の中心に置かれることとなるアンカの長さに等しい穿刺間の間隔を伴う第2のブリッジが続く。次いで、アンカは、保護シースを通してブリッジ及びアンカの両方を引っ張ることによって展開される。いくつかの実施形態では、個々のセグメントの端部は、一連のセグメント全体が緊密に引っ張られ、端部が当接したとき、一連のセグメントの長さが湾曲構造を形成するように角度付けされている。湾曲構造は、セグメントの角度に応じて事前に選択することができ、一定の湾曲である必要はない。例えば、そのようなアンカは、アンカの中心に相対的に直線な区分と、各端部により鋭く湾曲した区分と、を含み得る。代替的に、アンカは、直線状セグメント及びアンカの他方の端部上に及び更に鋭く湾曲したセグメントを含み得、これは、いくつかの用途で有用な構成であり得る。
【0058】
図11F及び11Gは、個々のリンクを使用することによって湾曲した後方アンカを達成するための上で説明される代替的なアプローチの例を例解する。リンクは、各々の間の境界面と未接続であり得るか、又は隣接するリンク間の相対的な移動を可能にしてアンカの湾曲を可能にする様式で相互接続され得る。これらの描写された実施形態では、チューブ131は、いくつかの個々のセグメント181、182によって形成されており、これは、所望のように直線状又は角度が付けられたいずれかである嵌合面183で成形され得る。
図11Fの実施形態では、アンカチューブの端部は、ブリッジング要素105a、105bに接続されたグロメット145によって保護され得る。いくつかの実施形態では、グロメット145は、アンカに所定の曲率を提供するように、事前設定された長さまでそこを通って延在するブリッジング要素又はテザーを固定する固定された停止部として構成されている。
図11Gの実施形態では、アンカのリンクは、単一のブリッジング要素又はテザー上に掛けられており、ブリッジに沿って自由に動くことができ、それによって、ブリッジング要素又はテザーの短縮が、アンカを湾曲させるようにアンカの両端部と係合する。そのような構成は、リンクが、アンカに沿った長さ又は剛性を変化させるように追加されるか又は構成されることを可能にする。いずれの実施形態においても、2つのブリッジング要素105a、105bは、前方アンカ上の同じ場所に取り付けられ得る。これらのブリッジング要素にテンションを加えることにより、チューブ131が内側に湾曲する。そのようなアンカが心臓インプラントシステムに組み込まれたとき、湾曲したチューブ131は、LAの壁全体を中隔に向けて引っ張り、有利には、リアルタイムで、超音波で逆流を視認しながら、オペレータが一方の側又は他方の側に向かって長さを偏らせることができる僧帽弁輪を成形する。リンク又はセグメントは、ここでは中空の管状セグメントとして示されているが、リンクは、血管の曲率又は患者の解剖学的構造に一致するように輪郭が描かれた形状を含む様々なサイズ及び形状で形成され得ることが理解される。いくつかの実施形態では、リンクは、ブリッジング要素又はテザーの短縮により、アンカに沿ってリンクが湾曲した配置に関節をなすように、一連の境界要素として画定されている。境界要素は、任意の好適な構造(例えば、中実、中空)であり得、所望の任意の形状で形成され得る。
【0059】
これらの例と同様に、構成が前方アンカへの複数のブリッジング要素の取り付けを必要とするという点で、
図10Aに示されるように、一連の後方アンカの各々が別個に取り付けられることとなる。このような構成は、様々な角度でテンションを加えてLA壁及び僧帽弁輪を最適に変形させ、それにより僧帽弁逆流を低減し得る、別個の個々の取り付けを可能にする。各後方アンカは、上で説明される後方アンカのうちのいずれかの形状及び特徴を採用し得る。各々は、前方アンカ上の同じ場所に取り付き得るか、又は最大効果のためにテンションの角度を最適化するように、前方アンカ若しくは更に別個の前方アンカ内のわずかに異なる場所で取り付き得る。
【0060】
別の態様では、後方アンカは、それが展開される血管の片側の少なくとも一部分と係合するように、かつそれを通る血流を改善することを可能にする低減されたプロファイルをなすように、押し潰されることができる拡張可能構造を含み得る。そのような実施形態の例には、送達後に血管内で拡張され、次いでブリッジング要素のテンショニングによって横方向に押し潰されるように構成された、足場又はワイヤ形態構造が含まれる。そのような実施形態は、横方向の押し潰しを容易にするために、ワイヤ形態構造の反対側に長手方向に延在する弱化部分を有する、ワイヤ形態構造を含み得る。構造は、自己拡張型又はバルーン展開可能であり得る。いくつかの実施形態では、押し潰し可能なワイヤ形態構造は、押し潰された構造を補強して、人体血管の長さに沿った構造のアンカリング及び付着を改善するように長手方向に延在する、1つ以上の支持リブを含む。このような補強リブは、特定の解剖学的構造のために必要に応じて、直線状にすることも湾曲させることもできる。
【0061】
図12A~12C及び13A~13Bは、上で説明される押し潰し可能なワイヤ形態円筒構造120の例を例解する。典型的には、ワイヤ形態構造は、自己拡張又はバルーン拡張のいずれかによって、低プロファイルで送達され、所望の直径に拡張し得る円筒メッシュ構造である。円筒メッシュ構造は、T字バーを形成し、ブリッジング要素105に取り付く後方バックボーン122を含み得る。
【0062】
図12Aに示されるように、GCVなどの血管内で円筒メッシュ構造120が展開された後、ブリッジ要素105は、ブリッジ要素105がGCV/LAの壁を通って延在する場所から円筒形メッシュ構造120の対向する側に配設された支持バックボーン122まで延在する。ブリッジング要素105によってバックボーンにテンションが加えられたとき、支持体は、円筒メッシュ構造壁をそれ自体で圧壊し、LA/GCV壁に対して平坦化されたリボンを作成する。そのような構成は、後方アンカがGVC壁を通って引っ張られるのを防止するために、壁に対してテンショニングの力を効果的に分散させる、硬く相対的に平坦な表面を形成するため、有利である。更に、折り畳まれた設計は、壁の厚さ、したがってその強度を2倍にし、GCV壁のその引っ掛かりをその圧壊されていない直径の1.5倍まで増加させる。そのような構成は、改善された展開し易さを可能にし、展開時にアンカがGVCの壁内に埋め込まれることを可能にする。更に、足場のメッシュ構造は、組織の内部成長を更に促進する。
【0063】
図13A~13Bは、所定の線に沿った優先的な折り畳みを保証するための折り畳みゾーン又はより柔らかい区分123を含む、押し潰し可能な足場構造120の別の実施形態を例解する。これらの折り畳みゾーンは、円筒形構造の長さの大部分又は全てに沿って長手方向に延在し、スコア、弱化部分、又は先の変形によって画定されて、展開時にこれらのエリアに沿った円筒形メッシュ構造の折り畳みを容易にする。また、圧壊可能な発泡体の実施形態と同様に、ワイヤ形態構造の材料又はコーティング、及び圧壊可能なワイヤ形態構造の表面構造は、経時的に組織の内部成長を促進して、組織-アンカマトリックスを形成するようなものであり得る。いずれの実施形態においても、支持バックボーンは、実質的に直線状であり得るか、又は好ましくは、概して、GVCの内壁の湾曲を模倣するように湾曲され得る。足場は、組織の内部成長を促進するように画定され得るメッシュ構造であり得る。
【0064】
図14は、後方アンカによる心房壁への可変負荷効果を可能にする、本発明の後方アンカとともに使用され得る増強デバイス500を例解する。本明細書で考察されるように、様々な態様において、本発明は、ブリッジング要素515がT字バーバックボーンの中心に取り付けられているT字バーアンカ510として画定された後方アンカを提供する。いくつかの態様では、増強デバイス500は、本発明のT字バーアンカ510とともに使用され、T字バーアンカ510による心房壁への負荷効果をその場で変化させることを可能にするスロット特徴505を含む。
【0065】
よって、本発明は、本発明の増強デバイス500及び本発明のアンカを含むアンカシステムを提供する。いくつかの態様では、増強デバイス500は、実質的に円筒形の壁を有する細長い管腔によって画定された細長い円筒形の本体を有する。いくつかの態様では、
図14に示されるように、管腔は、T字バーアンカ510を受容するように構成されており、増強デバイスの円筒形の壁は、アンカ510のブリッジング要素515と係合するための、デバイスの円筒形の本体の長さに沿って配設されたスロット505を含む。いくつかの態様では、アンカ510は、増強デバイス500の細長い円筒形の本体内を通過するようにサイズ設定された実質的に円筒形の本体と、アンカ510の中間部分に結合されたブリッジング要素515と、を有する。増強デバイス500とともに使用するためのアンカは、本明細書に開示される任意のT字バーデバイス、又は任意の他の同様の形状のアンカデバイスであり得ることが理解されるであろう。
【0066】
実際には、T字バーアンカがGVCに送達されると、増強デバイスがGCVに送達されて、本発明のT字バーアンカが係合され、増強される。
図14に示されるように、増強デバイス500は、デバイスがT字バーアンカ510に対して平行であるような配向で送達され、次いで、回転させられ、その結果、ブリッジ要素515が増強デバイス500上の複数のスロット505のうちの1つを通過している状態で、増強デバイス500がGCV内壁とT字バーアンカ510との間に挟まれるように構成されている。増強デバイスは、T字バーアンカの圧縮力がGCV壁上により均一に分散するようになることを可能にする。更に、この力の分散は、医師がブリッジング要素と係合するために選択し得る増強デバイスの長さに沿って異なるスロットを有することによって、変化させ、最適化することができる。
【0067】
増強デバイス500により、医師が処置内で処置の結果を調整するためのより大きい可撓性が可能になることが理解されるであろう。追加的に、増強デバイスは、(T字バーアンカのものと比較して)GCV壁との相対的に大きい接触面積を提供するため、低減された長さのT字バーアンカが使用され得、送達及び展開が容易になる
【0068】
また、接触力を分散させ、組織の切断及びびらんの可能性を低減するために、より大きい接触面積を有するT字バーアンカの使用することには、一定の制限があることも理解されるであろう。例えば、同じカテーテル上に幅広又は大きいT字バーアンカを送達することは、典型的には困難であり、同時に、処置中に心房壁を貫通して横断するために貫通ガイドワイヤが使用されている。増強デバイス500は、心房壁を横断する外科的ステップを、相対的に大きいT字バーアンカを展開する外科的ステップから分離することを可能にする。追加的に、ブリッジング要素515と係合する増強デバイス500上の複数のスロット505により、ブリッジ要素515のT字バーアンカ510への有効な取り付け点は、処置内で変化させることができる。
【0069】
図15は、本発明の後方アンカとともに使用され得る増強デバイス600の別の構成を例解する。本明細書で考察されるように、増強デバイス600は、必要に応じて後方アンカの非対称的な負荷を可能にすることによって、僧帽弁のA/P寸法を短縮する機構に追加の力ベクトルを追加するように構成されている。
【0070】
更に、デバイス600は、異なる形状、サイズ、又は強度を有する補足的なインプラントのバリエーションを提供することによって、医師が患者の解剖学的構造に合わせて治療をより具体的に調整することを可能にする。したがって、一実施形態において、本発明は、本発明の増強デバイス600及び本発明のアンカを含むアンカシステムを提供し、増強デバイスは、アンカデバイスの長さの少なくとも1.5、2、3、4、5、6、7、又は8倍である。
【0071】
図15は、第1の細長い構成から第2の屈曲構成に変形するように構成された形状記憶材料で構成された細長いシャフト本体605を有する増強デバイス600を含む、アンカシステムを示している。第2の屈曲構成(
図15に示されている)は、第1の細長い構成と比較して低減された長さを有する。シャフト本体605は、展開時に第2の構成で患者の解剖学的構造に適合するように構成されている。システムは、増強デバイス600の長さよりも短い長さを有する実質的に円筒形の本体を有するアンカ610と、アンカ610の中間部分に結合されたブリッジング要素615と、を更に含む。いくつかの態様では、システムは、増強デバイス600及びアンカ610が人体管腔内での展開時に結合されたとき、アンカ610から人体管腔の壁にかかる力が増強デバイス600に移されて壁を変形させるように構成されている。
【0072】
本明細書で考察されるように、特定の態様では、短いT字バーアンカが、送達を支援するためにGCV内のアンカリング機構として利用されている。短いT字バーアンカがGCV内に位置決めされると、増強デバイスは、T字バーアンカに隣接する場所に位置決めされ、T字バーアンカに結合される。いくつかの態様では、増強デバイスは、デバイスが第1の構成から第2の構成に変化することを可能にするニチノールワイヤなどの形状記憶材料で構成されている。別の態様では、増強デバイスは、デバイスの部分間の調節可能なリンケージなどの機械的プロセスによって、第1の構成から第2の構成に変化する。増強デバイスは、展開されたときにT字バーアンカに結合され、アンカ単独とは異なる力の加わりを後壁に加えて、弁輪を再成形する。
【0073】
本発明は、1つ以上の後方アンカを1つ以上の前方アンカに接続して、心腔などの人体管腔を再成形するブリッジング要素の可変調節を可能にするデバイス及び方法を更に提供する。本明細書で考察されるように、特定の態様において、方法及びデバイスは、僧帽弁逆流などの心臓病の治療のために左心房を再成形するために使用される。様々な態様では、本発明のデバイス及び方法は、左心房が、僧帽弁を通る逆流が低減又は阻害されるように再成形され得る手段を提供する。これには、アンカの特定の位置決め及びそれらの間のテンショニングが必要であることが理解されるであろう。
【0074】
図16を参照すると、左心房壁に加えられる力を後方アンカから心房のA2位置に近い場所に向けることが望ましい。これは、本明細書に説明されるように、いくつかの方法で達成され得る。例えば、一態様では、本発明は、
図16に示されるように、後方アンカと前方アンカとの間で作用する力をA2位置に向かって向けるために、アンカから心房腔内に延在するチューブ660を含むように修正された前方アンカ650を提供する。この構成では、チューブ660は、後方アンカ680に接続されたブリッジ要素670がより正しいAPの配向で力を加えるように、アンカ650からA2に向かって心房腔内に延在する。インプランテーション中、前方アンカ650は、チューブ660が左心房内に入ると、後退されるコアピンを使用して直線構成で送達される。次いで、前方アンカ650は、チューブ660をA2弁輪に位置決めするように回転させられ、前方アンカは展開され、任意選択的に回転防止機能を含む。
【0075】
図17は、左心房があるA2場所のより近くにブリッジング要素を位置付けするように構成された前方アンカ700を例解する。アンカ700は、GCV内の後方インプラントと、前方アンカ700であって、ブリッジング要素の場所をA2のより近くに再位置決めする、前方アンカ700を通り抜ける半剛性の事前成形された中空チューブ710、例えば、「ハイポチューブ」を有する、前方アンカ700と、を使用して、僧帽弁のAP寸法を低減する手段を提供する。アンカ700は、ブリッジング要素を僧帽弁のA2/P2場所を横断する軌道に向け直すことによって、より効率的なAP直径短縮を可能にする。アンカの本体705から延在するチューブ710は、縫合糸をA2に近づけるために使用される。
図18は、P2に位置決めされた後方アンカ720に結合された、展開された構成における
図17のアンカ700を示している。
【0076】
同様の結果を達成するために、本発明は、
図19に示されるように、アンカの本体755に結合された移動可能なアーム760を有する前方アンカ750を更に提供する。調節可能なアーム機構は、ブリッジング要素の軌道を変更して、医師に制御された移動可能なリンケージシステムを提供するために使用される。実際には、アンカ750は、横断ワイヤを介して左心房内に送達され、前方アンカ750は、通常どおりに展開される。いくつかの態様では、医師は、
図20に示されるように、アーム760の角度及びアームの長さ/伸長を調節して、最良の臨床結果を決定することができる。次に、アームのアーム角度及び伸長長さが、所定の位置にロックされる。
【0077】
図17、19、及び20に描写された本発明の態様に関して、アンカは、アンカが押し潰された直線構成で送達される。アンカは、横断ワイヤ/ブリッジング要素の上に装填され、左心房内に展開される。
【0078】
いくつかの態様では、
図17に示すアンカ700は、挿入のためにチューブを直線状に保つために使用され、次に、展開時に取り外されて、チューブ710がその熱成形形態を採ることを可能にし、それによって、縫合糸ブリッジの前方位置をA2に近づける、事前成形された管状剛性部材を有する。いくつかの態様では、事前成形されたチュービングの近位部分は、僧帽弁を横断するブリッジング要素の軌道とほぼ一直線に縫合糸ロック位置を移動させるような形状に成形されている。これは、
図18に示されるように、横断ブリッジを後方アンカデバイスの中心から遠ざけることで、アンカ上に生じるモーメントのバランスをとる助けとなる。
【0079】
図19及び20に描写された本発明の態様について、アンカ750が展開されると、展開カテーテルの近位端部で医者によって作動される2つのマンドレルが使用されて、回転角度及びアーム760の伸張の長さが調節される。
図21に示されるように、回転ヒンジ765を介してインプラントのアーム上のテンションを引っ張ることによって角度が変化する。いくつかの態様では、アーム伸長は、
図20に示されるように、追加のマンドレルを使用して、伸長アームと回転アームとの間のトラックに沿ってアーム760を押し出すことによって行われる。所望の位置が決定されると、マンドレルをアンカの近位側に対して所定の位置にロックすることによって、両方の制御装置を所定の位置にロックすることができる。次いで、マンドレルは、ロック特徴の近位で切り離され、アンカ750は、永久に展開される。
【0080】
図22は、GCV内の後方インプラント、及び左心耳(LAA)から卵円窩(FO)にわたる前方インプラント(2つの接続された前方アンカ800及び810を含む)を使用して、僧帽弁のAP寸法を低減する手段を提供する、本発明の追加の態様を例解する。
図22に示されるように、本発明は、LAA及びFOの前方アンカ800及び810間のスライドロック830を備える接続レール820を有する、インプラントシステムを提供し、接続レール820は、縫合糸ブリッジ840を介して後方アンカ815に結合されている。このスライドロックは、解剖学的構造及び疾患状態に基づいて僧帽弁逆流の最も効果的な低減を達成するために、LAAからFOまでのスパンにわたって位置決めされ得る。
【0081】
図22に示す本発明の態様は、本明細書で考察されるように、医者が、後方アンカ、例えば、T字バーアンカを、A2に近い場所から引っ張ることを可能にする。これにより、より効率的なAP短縮が可能になる。また、医師が、弁上の逆流ジェットが存在する場所に特有の治療を調整することも可能にする。
図23は、2つのアンカとは対照的に、3つのアンカを有するインプラントシステム間の違いを例解する。
【0082】
図22~28を参照すると、実際には、インプランテーション処置は、ワイヤの心房壁を横断が達成され、左心耳カテーテルがシースから取り外されるまで、通常通りに進む。この時点で、
図24に示されるように、結合されたブリッジング要素を含むGCV内に位置決めされた後方アンカは、心房壁を横断してカテーテル(ライトブルー)内に入り、デバイスの近位端部まで出る。
【0083】
次いで、横断ワイヤ/ブリッジング要素の上に前方インプラントが装填される。前方インプラントは、第1の遠位前方アンカ(図中にニチノールワイヤ血管プラグとして表示されている)、接続レール(ニチノールハイポチューブとして表示されている)、ブリッジング要素コネクタ(スライドロックとして表示されている)、及び第2の遠位前方アンカを含む。第1及び第2の遠位前方アンカは、接続されたレールによって接続されている。近位端部の横断ワイヤは、スライドロック内に逆装填され、遠位インプラントグロメットを通り、インプラントはシースを通って左心房内に前進させられる。
【0084】
第1の遠位前方アンカ、例えば、LAAアンカは、LAA内に前進させられ、そこに展開される。本発明の一態様において、シースは、P2におけるワイヤ横断を可能にし、LAA内での展開を容易にするように操縦可能である。次いで、第2の遠位前方アンカ、例えば、中隔アンカが前進させられて、中隔内に展開される。前方インプラントは、単一のインプラント(LAAアンカ、スライドロック、レール、及び中隔アンカ)、又は連続して送達される控えめな構成要素として送達されることが想定される。いくつかの態様では、LAAアンカは、LAA内に拡張するニチノールメッシュ、又は心臓組織若しくは心臓の繊維性骨格、例えば、左繊維三角内に展開するアンカ型デバイスである。いくつかの態様では、送達カテーテルは、第1の遠位前方アンカ及び第2の遠位前方アンカが同じカテーテル内に送達されることを可能にするように操縦可能であることが理解されるであろう。
【0085】
いくつかの態様では、中隔インプラントは、次いで中隔に展開され、ブリッジング要素は、中隔アンカ、例えば、第2の前方アンカを通り抜ける。その後、医者は、エコードップラーを用いて治療の適用を開始して、同期の有効性を評価する。本発明は、2つの制御を提供する:1)医者は、縫合糸ブリッジにテンションを加えてap寸法を低減することができ、かつ/又は2)医者は、スライドロックの場所を調節して後方アンカが引っ張られている角度を変更することができる。
【0086】
治療が適用されると、縫合糸ロックと同様のロックシステムが使用されて、スライドロックがスライドレール上の所定の位置にロックされる。縫合糸は、遠位インプラントの右心房側、例えば、第2の前方アンカ上にロックされることとなる。次いで、縫合糸ロックが展開され、縫合糸が切断されるように、処置が続行される。
【0087】
図29~31は、本発明の別の態様における、ブリッジング要素950を、左心房があるA2場所のより近くに位置付けするように構成された前方アンカ900を例解する。中隔の穿刺部位とGCVの穿刺部位との間のテンショニングの方向を変更するために、前方アンカ900は、互いに独立するように載置された左側アンカ部材910及び右側アンカ部材920を含む。これにより、後方アンカに結合されたブリッジング要素950の角度及び方向が変化し、患者のためのより統制された治療が提供される。
【0088】
同軸の貫通穴を有する従来の前方アンカとは異なり、
図29~31に示すアンカ900は、左側アンカ部材910と右側アンカ部材920とが別々に位置決めされた二重前方アンカを提供する。各部材の貫通穴は、管状管腔930によって接続されている。図に示されるように、貫通穴は同軸上に整列しておらず、それによって、ブリッジング要素950、例えば、縫合糸ブリッジが、最も効果的なテンショニング治療を適用するように方向付けされる。
【0089】
上記は、本発明の原理の単なる例解とみなされる。本明細書に開示される実施形態は、他の特定の構造に具現化され得る本発明を例示するにすぎない。好ましい実施形態が説明されているが、詳細は、本発明から逸脱することなく変更され得る。更に、本発明の大部分は、基本的な機能及び特徴を例解するために単純な形態で示されており、単一のデバイスに組み合わされたもう1つの要素を使用する最終的な実施形態に組み合わされ得る。また、説明される実施形態は、限定ではなく、圧壊可能な発泡体の拘束されたバックボーン、又は反転防止特徴を備える複数の湾曲したアンカ、若しくは前方アンカへの複数の取り付けを有する構成を有する例によって組み合わされ得る。更に、多数の修正及び変更が当業者には容易に想起されることとなるため、本発明は、特許請求の範囲による限定を除き、好ましい実施形態において図示及び説明された構造及び動作に限定されない。
【0090】
本発明は、上記の例を参照して説明されてきたが、修正及び変形は、本発明の趣旨及び範囲内に包含されることが理解されるであろう。したがって、本発明は、以下の特許請求の範囲のみによって限定される。
【国際調査報告】