(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】SIRP-αエンゲージャーによる自然免疫細胞のサイレンシング
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20231208BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231208BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20231208BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20231208BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231208BHJP
C12N 5/077 20100101ALI20231208BHJP
C12N 5/0793 20100101ALI20231208BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20231208BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20231208BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/44 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/30 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/34 20150101ALI20231208BHJP
A61K 35/39 20150101ALI20231208BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231208BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231208BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231208BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20231208BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231208BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231208BHJP
A61P 5/00 20060101ALI20231208BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C12N15/13
C12N5/10 ZNA
C12N5/0735
C12N5/071
C12N5/0783
C12N5/077
C12N5/0793
C12N15/62 Z
C12N15/12
A61K35/17
A61K35/44
A61K35/30
A61K35/34
A61K35/39
A61P43/00 105
A61P35/00
A61P37/06
A61P3/10
A61P9/00
A61P25/00
A61P5/00
A61P27/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534278
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 US2021062008
(87)【国際公開番号】W WO2022125439
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】トビアス デュース
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AA94X
4B065AA94Y
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4C087AA01
4C087AA02
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4C087BB37
4C087BB45
4C087BB47
4C087BB51
4C087BB56
4C087BB63
4C087BB65
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4C087ZA01
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4C087ZA36
4C087ZB08
4C087ZB21
4C087ZB26
4C087ZC03
4C087ZC35
(57)【要約】
本発明は、非改変SIRPα会合機能を有する親細胞と比較して、対象に移植された場合に自然免疫に抵抗する、増加したシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)会合機能を有する細胞(SIRPαエンゲージャー細胞)を提供する。SIRPαエンゲージャー細胞は、無傷のCD47細胞質シグナル伝達機能を欠いている。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、分化した体細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。さらなる実施形態では、HIP細胞は、血液型O(HIPO)、Rh因子(Rh)陰性(HIP-)、又は血液型O及びRh-の両方(HIPO-)である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、又はHIPO-細胞に由来するか、又は分化した細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)から保護するために抗体Fc受容体を含む。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、細胞表面のCD16、CD32、又はCD64の発現の上昇を介してADCC又はCDCを回避する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫細胞上のシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)タンパク質と会合するエンゲージャー分子を細胞表面上に含むSIRP-αエンゲージャー細胞であって、前記会合により前記エンゲージャー細胞が前記免疫細胞によって死滅することが防止され、前記細胞表面分子が、機能性CD47細胞内ドメインを欠いている、SIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項2】
前記エンゲージャー分子がタンパク質である、請求項1に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項3】
前記タンパク質が融合タンパク質である、請求項2に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項4】
前記融合タンパク質が、CD47細胞外ドメイン(ECD)を含む、請求項3に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項5】
前記CD47 ECDが、配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項4に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項6】
前記CD47 ECDが配列番号3の配列を含む、請求項5に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項7】
前記エンゲージャー分子が、免疫グロブリンスーパーファミリードメインを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項8】
前記免疫グロブリンスーパーファミリードメインが、配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項7に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項9】
前記免疫グロブリンスーパーファミリードメインが配列番号4の配列を含む、請求項7に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項10】
前記エンゲージャー分子が、SIRPαに結合する抗体Fab又は単鎖可変断片(scFV)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項11】
前記Fab又はscFVが、その解離定数(Kd)によって測定される親和性でSIRPαに結合し、前記Kdが、約10
-7~10
-13Mである、請求項10に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項12】
前記エンゲージャー分子が、SIRPαに結合する1つ又は複数の抗体相補性決定領域(CDR)を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項13】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号5~12のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項14】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号5~12のいずれか1つの配列を含む、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項15】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項16】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号5の配列を含む、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項17】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号9に対して少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項18】
前記1つ又は複数のCDRが、配列番号9の配列を含む、請求項12に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項19】
前記エンゲージャー分子が、異種膜貫通ドメイン(TMD)を含む融合タンパク質である、請求項1~18のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項20】
前記TMDが、単一のαヘリックス、複数のαヘリックス、又は丸まったβシートを含む、請求項19に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項21】
前記異種TMDが、CD85f、CD349、CD284、CD261、CD172b、CD277、CD186、CD156c、CD304、CD254、CD263、CD267、CD337、CD170、CD283、CD133、CD327、CD205、CD232、CD282、CD16b、CD85i、CD85a、CD85c、CD275、CD108、CD358、CD335、CD218b、CD355、CD336、CD160、CD25、CD4、CD8a、CD235a、CD233、CD230、CD90、CD74、CD3d、CD340、CD236、CD61、CD18、CD54、CD29、CD1a、CD5、CD220、CD2、CD66e、CD51、CD141、CD115、CD42b、CD221、CD271、CD55、CD243、CD98、CD10、CD41、CD14、CD45、CD228、CD16a、CD49e、CD126、CD63、CD48、CD7、CD140b、CD3g、CD117、CD28、CD8b、CD37、CD11b、CD107a、CD331、CD222、CD20、CD79a、CD64、CD32、CD143、CD324、CD42c、CD107b、CD56、CD102、CD49d、CD66a、CD142、CD59、CD62L、CD121a、CD122、CD13、CD155、CD119、CD19、CD116、CD46、CD1e、CD1d、CD227、CD44、CD62P、CD104、CD43、CD140a、CD31、CD152、CD326、CD62E、CD36、CD127、CD49b、CD105、CD35、CD223、CD138、CD325、CD58、CD106、CD53、CD120a、CD224、CD21、CD33、CD22、CD120b、CD11a、CD11c、CD363、CD73、CD88、CD204、CD332、CD9、CD203a、CD334、CD333、CD206、CD49f、CD238、CD252、CD89、CD124、CD181、CD182、CD24、CD95、CD40、CD49c、CD159a、CD159c、CD314、CD27、CD123、CD26、CD82、CD121b、CD34、CD38、CD30、CD1b、CD1c、CD154、CD6、CD52、CD132、CD32、CD66b、CD171、CD191、CD197、CD185、CD131、CD50、CD70、CD153、CD144、CD80、CD362、CD68、CD361、CD147、CD309、CD135、CD292、CD103、CD130、CD42d、CD66d、CD66c、CD96、CD110、CD79b、CD200、CD192、CD231、CD86、CD212、CD118、CD146、CD134、CD158a、CD158b1、CD158b2、CD158e、CD158k、CD158j、CD158i、CD178、CD295、CD151、CD97、CD183、CD39、CD239、CD193、CD194、CD195、CD196、CDw198、CDw199、CD296、CD298、CD49a、CD322、CD85g、CD184、CD172a、CD156a、CD339、CD156b、CD213a1、CD129、CD83、CD125、CD241、CD269、CD202b、CD87、CD164、CD136、CD137、CD249、CD69、CD91、CDw210b、CD167a、CD300c、CD47、CD157、CD317、CD148、CD161、CD215、CD150、CD11d、CD218a、CD210、CD166、CD162、CD213a2、CD242、CD158g、CD158h、CD279、CD111、CD281、CD226、CD234、CD167b、CD300e、CD276、CD305、CD300g、CD300d、CD109、CD272、CD163、CD302、CD158f1、CD85h、CD85d、CD177、CD158z、CD158f2、CD85j、CD300f、CD92、CD351、CD112、CD100、CD270、CD101、CD297、CD316、CD352、CD217、CD307b、CD307a、CD307c、CD307d、CD307e、CD114、CD180、CD158d、CD273、CD290、CD244、CD169、CD299、CD318、CD360、CD229、CD248、CD354、CD320、CD93、CD319、CD113、CD163b、CD289、CD288、CD329、CD274、CD353、CD172g、CD315、CD280、CD264、CD300a、CD312、CD84、CD344、CD350、CD246、CD201、CD338、CD208、CD257、CD328、CD286、CD357、CD294、CD321、CD265、CD278、ITGA7、ITGA8、ITGA9、ITGA10、ITGA11、CD51、CD41、CD29、CD18、CD61、CD104、及びPDGFからなる群から選択される、請求項19に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項22】
前記TMDが、配列番号13、配列番号14、又は配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む、請求項19に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項23】
前記TMDが、配列番号13、配列番号14、又は配列番号27の配列を含む、請求項19に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項24】
前記エンゲージャー分子が、細胞内ドメイン(ICD)を有さない、請求項1~23のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項25】
前記エンゲージャー分子が、CD16、CD32、CD64、CD8、CD3、CD28、又はCD137に由来する細胞内ドメインを有する、請求項1~23のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項26】
前記エンゲージャー分子が、配列番号15の配列における1つ又は複数の突然変異から生じる非機能性CD47 ICDを含むICDを含む、請求項1に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項27】
前記エンゲージャー分子が、配列番号15の配列における1つ又は複数の欠失又は挿入から生じる非機能性CD47 ICDを含むICDを含む、請求項1に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項28】
前記エンゲージャー分子が、ECD配列、TMD配列、又はICD配列を連結する1つ又は複数のリンカー又はヒンジ領域を有する、請求項2~27のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項29】
前記TMDが、7回膜貫通タンパク質(7TM)又は免疫グロブリン細胞表面タンパク質に由来する、請求項19に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項30】
前記細胞表面タンパク質が、抗体、受容体、リガンド、又は接着タンパク質である、請求項2~29のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項31】
前記SIRPαエンゲージャー細胞が、前記細胞表面に固定されたCD47融合タンパク質に由来する、請求項1~6のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項32】
前記エンゲージャー分子が、免疫グロブリンG(IgG)由来のCD64相互作用ドメインを介してCD64と相互作用する、請求項1~18のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項33】
前記エンゲージャー分子が、配列番号20又は配列番号22に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項34】
前記エンゲージャー分子が、配列番号20又は配列番号22の配列を有するタンパク質を含む、請求項33に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項35】
前記エンゲージャー分子が、配列番号23又は配列番号24に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項36】
前記エンゲージャー分子が、配列番号23又は配列番号24の配列を有するタンパク質を含む、請求項35に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項37】
前記エンゲージャー分子が、配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項38】
前記エンゲージャー分子が、配列番号28の配列を有するタンパク質を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項39】
HLA-I又はHLA-II発現の減少又は消失をさらに有する、請求項1~38のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項40】
前記細胞がABO血液型Oである、請求項1~39のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項41】
Rh因子陰性(Rh-)である、請求項1~40のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項42】
A1、A2、及びBからなる群から選択されるABO血液型抗原の減少又は消失を有する、請求項1~41のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項43】
Rh C抗原、Rh E抗原、Kell K抗原(KEL)、Duffy(FY)Fya抗原、Duffy Fy3抗原、Kidd(JK)Jkb抗原、MNS抗原U、及びMNS抗原Sからなる群から選択されるRhタンパク質抗原の発現の減少又は消失を有する、請求項1~42のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項44】
非改変親細胞と比較して低下している内因性主要組織適合遺伝子複合体クラスI(HLA-I)機能、及び前記非改変親細胞と比較して低下している内因性主要組織適合遺伝子複合体クラスII(HLA-II)機能を含む低免疫原性(HI)細胞である、請求項1~43のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項45】
野生型幹細胞に対して、HLA-Iヒト白血球抗原、HLA-IIヒト白血球抗原、CD64、CD47、CD38、CCR5、CXCR4、NLRC5、CIITA、B2M、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-G、PD-L1、CTLA-4-Ig、CD47、CI-inhibitor、IL-35、RFX-5、RFXAP、RFXANK、NFY-A、NFY-B、NFY-C、IRF-1、OX40、GITR、4-1BB、CD28、B7-1、B7-2、ICOS、CD27、HVEM、SLAM、CD226、PD1、CTL4、LAG3、TIGIT、TIM3、CD160、BTLA、CD244、CD30、TLT、VISTA、B7-H3、PD-L2、LFA-1、CD2、CD58、ICAM-3、TCRA、TCRB、FOXP3、HELIOS、ST2、PCSK9、APOC3、CD200、FASLG、CLC21、MFGE8、SERPIN B9、TGFβ、CD73、CD39、LAG3、IL1R2、ACKR2、TNFRSF22、TNFRSF23、TNFRS10、DAD1、及び/又はIFNγR1 d39のうちの1つ又は複数の発現の調節を含み、ABO血液型O又はRh因子陰性(Rh-)である、請求項1~44のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項46】
前記細胞表面上の抗体Fc受容体の発現の上昇をさらに含み、前記Fc受容体が、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体媒介性細胞傷害(CDC)を回避するのに役立つ、請求項1~45のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項47】
前記Fc受容体が、CD16、CD32、又はCD64である、請求項46に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項48】
多能性である、請求項1~47のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項49】
低免疫多能性(HIP)細胞である、請求項48に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項50】
ABO血液型O(HIPO)を有する低免疫多能性細胞である、請求項49に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項51】
Rh因子陰性(HIP-)である低免疫多能性細胞である、請求項48に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項52】
ABO血液型Oを有する低免疫多能性細胞であり、且つRh因子陰性(HIPO-)である、請求項48に記載のエンゲージャー細胞。
【請求項53】
多能性(PSC)細胞、人工PSC(iPSC)、又は胚性幹細胞(ESC)である、請求項48に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項54】
特定の組織型である、請求項1~47のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項55】
キメラ抗原受容体(CAR)細胞、T細胞、NK細胞、内皮細胞、ドーパミン作動性ニューロン、心臓細胞、膵島細胞、又は網膜色素内皮細胞である、請求項54に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項56】
前記CAR細胞が、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞である、請求項55に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項57】
多能性細胞から分化した細胞である、請求項1~47又は54~56のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞。
【請求項58】
請求項54~57のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項59】
請求項54~57のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞及び薬学的に許容される担体を含む薬剤。
【請求項60】
対象の疾患を治療する方法であって、請求項54~57のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞を前記対象に移植することを含む、方法。
【請求項61】
前記疾患が、1型糖尿病、心疾患、神経疾患、内分泌疾患、癌、失明、又は血管疾患である、請求項54に記載の方法。
【請求項62】
対象の疾患を治療するための医薬組成物を調製するための、請求項54~57のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞の使用。
【請求項63】
対象の疾患を治療するための、請求項54~57のいずれか一項に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞の使用。
【請求項64】
前記疾患が、1型糖尿病、心疾患、神経疾患、内分泌疾患、癌、失明、又は血管疾患である、請求項62又は63に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願の相互参照
本出願は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、2020年12月7日に出願された米国仮特許出願第63/122,465号の優先権を米国特許法第119条(e)の下で主張する。
【0002】
II.発明の分野
本発明は、非改変SIRPα会合機能(engagement function)を有する親細胞と比較して、対象に移植された場合に自然免疫に抵抗する、増加したシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)会合機能を有する細胞(SIRPαエンゲージャー細胞(engager cell))を提供する。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、分化した体細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。さらなる実施形態では、HIP細胞は、血液型O(HIPO)、Rh因子(Rh)陰性(HIP-)、又はO型及びRh-の両方(HIPO-)である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、又はHIPO-細胞に由来するか、又はこれらから分化した細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)から保護するために抗体Fc受容体を含む。
【背景技術】
【0003】
III.発明の背景
ナチュラルキラー細胞又はNK細胞は、自然免疫系に重要な細胞傷害性リンパ球である。NK細胞が果たす役割は、脊椎動物の適応免疫応答における細胞傷害性T細胞の役割と類似している。NK細胞は、ウイルス感染細胞及び癌細胞に対して迅速な応答を提供する。典型的には、NK細胞は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)をダウンレギュレートする標的細胞によって活性化され、これは、1つの主な抑制NK細胞シグナルである。NK細胞の活性化は、溶解又はアポトーシスをもたらすサイトカイン放出を引き起こす。NK細胞は、他の刺激性NK細胞シグナルをアップレギュレートして特定の細胞エピトープへの事前の曝露を必要とせずに、ストレスを受けた細胞を認識できるため独特である。これにより、NK細胞は、非常に迅速に応答する。NK細胞は、遊離抗体Fcの結合が強力な刺激性NK細胞シグナルであるため、抗体を含む細胞にも迅速に応答することができる。NK細胞は、IL-2又はIL-15のような一部のサイトカイン曝露の他は、MHCクラス1の「自己」マーカーが欠落している細胞を死滅させるために強力な活性化を必要としない。MHC Iマーカーがダウンレギュレートされているか又は欠落している有害な細胞を、Tリンパ球細胞などの他の免疫細胞によって検出も破壊もできないため、この役割は特に重要である。
【0004】
NK細胞は、一般的なリンパ球前駆細胞を産生するB及びTリンパ球から分化した大顆粒リンパ球である。NK細胞は、骨髄、リンパ節、脾臓、扁桃腺、及び胸腺で分化して成熟し、そこで循環に入る。
【0005】
SIRPαは、シグナル調節タンパク質(SIRP)ファミリーのメンバーであり、免疫グロブリンスーパーファミリーにも属している。SIRPファミリーのメンバーは、受容体チロシンキナーゼ結合シグナル伝達プロセスの負の調節に関与することが知られている受容体型膜貫通糖タンパク質である。SIRPαは、チロシンキナーゼによってリン酸化され得る。ホスホチロシン残基は、SH2ドメインを含むチロシンホスファターゼ(PTP)を動員し、それらの基質として機能する。SIRPαは、様々な成長因子受容体によって媒介されるシグナル伝達に関与している。
【0006】
CD47は、SIRPαのリガンドである。CD47は、腫瘍の種類を超えて広く過剰発現され得る「自己のマーカー」タンパク質である。CD47は、癌免疫療法のための新規の強力なマクロファージ免疫チェックポイントとして浮上している。腫瘍細胞のCD47は、マクロファージの食作用を阻害する「私を食べるな」シグナルを送信する。CD47は、血液癌及び固形腫瘍の単剤療法及び併用療法の両方としてのCD47阻害剤の機会と課題を提示する。これらの作用物質のいくつかは、現在臨床試験中である。
【0007】
CD47の細胞質シグナル伝達は、その細胞内ドメイン(ICD)を介して媒介され得るが、これまでのところ、CD47細胞質尾部と直接相互作用するタンパク質はほとんど同定されていない(Lamy L.,J Biol Chem.278:23915-21(2003);Wu A.L.,.Mol Cell.4:619-25(1999))。そのような結合パートナーの1つであるユビキリン-1は、Gβγに結合し、それによってヘテロ三量体Gタンパク質をCD47に繋ぎ止める(N’Diaye E.N,.J Cell Biol.163:1157-65(2003))。これに関連して、ユビキリン-1は、Gi共役受容体CXCR4によってシグナル伝達される走化性を阻害する(Sick E.,Glia.59:308-19(2011))。上記は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0008】
ヒト初代NK細胞は、刺激によりSIRPαを発現し、CD47に結合することが示された。これにより、CD47発現細胞に対するヒト初代NK細胞の死滅効果が低下する(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際出願PCT/US20/39220号明細書を参照されたい)。
【0009】
自己人工多能性幹細胞(iPSC)は、理論的には、患者固有の細胞ベースの器官修復戦略のための無制限の細胞源を構成する。しかしながら、自己人工多能性幹細胞の作製には、技術的及び製造上の課題があり、この作製は、あらゆる急性治療法を概念的に妨げる長期のプロセスである。同種異系iPSCベースの治療又は胚性幹細胞ベースの治療は、製造の観点からより容易であり、十分にスクリーニングされ、標準化された高品質の細胞産物の作製が可能である。多能性幹細胞は、3つの胚葉の任意の細胞型に分化できるため、幹細胞療法の応用可能性は広範囲に及ぶ。分化は、移植部位の器官環境で分化及び成熟し続ける前駆細胞を移植することによって、エクスビボ又はインビボで実施することができる。エクスビボ分化により、研究者又は臨床医は、手順を注意深く監視し、適切な細胞集団が移植前に確実に生成されるようにすることができる。しかしながら、そのような細胞産物は同種異系起源であるため、拒絶反応が起こり得る。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
IV.発明の概要
本発明は、非改変SIRPα会合機能を有する親細胞と比較して、対象に移植された場合に自然免疫に抵抗する、増加したシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)会合機能を有する細胞(SIRPαエンゲージャー細胞)を提供する。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。さらなる実施形態では、HIP細胞は、血液型O(HIPO)、Rh因子(Rh)陰性(HIP-)、又はO型及びRh-の両方(HIPO-)である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、又はHIPO-細胞に由来するか、又はこれらから分化した細胞である。
【0011】
したがって、本発明は、免疫細胞上のシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)タンパク質と会合するエンゲージャー分子(engager molecule)を細胞表面上に含むSIRP-αエンゲージャー細胞を提供し、この会合が、エンゲージャー細胞が免疫細胞によって死滅するのを防止し、細胞表面分子は、機能性CD47細胞内ドメインを欠いている。
【0012】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子はタンパク質である。他の態様では、タンパク質は、融合タンパク質である。他の態様では、融合タンパク質は、CD47細胞外ドメイン(ECD)を含む。他の態様では、CD47 ECDは、配列番号3と少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましい態様では、CD47 ECDは、配列番号3の配列を含む。
【0013】
本発明のいくつかの態様では、SIRP-αエンゲージャー細胞は、免疫グロブリンスーパーファミリードメインを含む。他の態様では、免疫グロブリンスーパーファミリードメインは、配列番号4に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましい態様では、免疫グロブリンスーパーファミリードメインは、配列番号4の配列を含む。
【0014】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、SIRPαに結合する抗体Fab又は単鎖可変断片(scFV)を含む。他の態様では、Fab又はscFVは、その解離定数(Kd)によって測定される親和性でSIRPαに結合し、Kdは、約10-7~10-13Mである。
【0015】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、SIRPαに結合する1つ又は複数の抗体相補性決定領域(CDR)を含む。他の態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号5~12のいずれか1つに対して少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましい態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号5~12のいずれか1つの配列を含む。他の態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号5に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましい態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号5の配列を含む。他の態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号9に対して少なくとも90%の配列同一性を有する。好ましい態様では、1つ又は複数のCDRは、配列番号9の配列を含む。
【0016】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、異種膜貫通ドメイン(TMD)を含む融合タンパク質である。他の態様では、TMDは、単一のαヘリックス、複数のαヘリックス、又は丸まったβシートを含む。他の態様では、異種TMDは、CD85f、CD349、CD284、CD261、CD172b、CD277、CD186、CD156c、CD304、CD254、CD263、CD267、CD337、CD170、CD283、CD133、CD327、CD205、CD232、CD282、CD16b、CD85i、CD85a、CD85c、CD275、CD108、CD358、CD335、CD218b、CD355、CD336、CD160、CD25、CD4、CD8a、CD235a、CD233、CD230、CD90、CD74、CD3d、CD340、CD236、CD61、CD18、CD54、CD29、CD1a、CD5、CD220、CD2、CD66e、CD51、CD141、CD115、CD42b、CD221、CD271、CD55、CD243、CD98、CD10、CD41、CD14、CD45、CD228、CD16a、CD49e、CD126、CD63、CD48、CD7、CD140b、CD3g、CD117、CD28、CD8b、CD37、CD11b、CD107a、CD331、CD222、CD20、CD79a、CD64、CD32、CD143、CD324、CD42c、CD107b、CD56、CD102、CD49d、CD66a、CD142、CD59、CD62L、CD121a、CD122、CD13、CD155、CD119、CD19、CD116、CD46、CD1e、CD1d、CD227、CD44、CD62P、CD104、CD43、CD140a、CD31、CD152、CD326、CD62E、CD36、CD127、CD49b、CD105、CD35、CD223、CD138、CD325、CD58、CD106、CD53、CD120a、CD224、CD21、CD33、CD22、CD120b、CD11a、CD11c、CD363、CD73、CD88、CD204、CD332、CD9、CD203a、CD334、CD333、CD206、CD49f、CD238、CD252、CD89、CD124、CD181、CD182、CD24、CD95、CD40、CD49c、CD159a、CD159c、CD314、CD27、CD123、CD26、CD82、CD121b、CD34、CD38、CD30、CD1b、CD1c、CD154、CD6、CD52、CD132、CD32、CD66b、CD171、CD191、CD197、CD185、CD131、CD50、CD70、CD153、CD144、CD80、CD362、CD68、CD361、CD147、CD309、CD135、CD292、CD103、CD130、CD42d、CD66d、CD66c、CD96、CD110、CD79b、CD200、CD192、CD231、CD86、CD212、CD118、CD146、CD134、CD158a、CD158b1、CD158b2、CD158e、CD158k、CD158j、CD158i、CD178、CD295、CD151、CD97、CD183、CD39、CD239、CD193、CD194、CD195、CD196、CDw198、CDw199、CD296、CD298、CD49a、CD322、CD85g、CD184、CD172a、CD156a、CD339、CD156b、CD213a1、CD129、CD83、CD125、CD241、CD269、CD202b、CD87、CD164、CD136、CD137、CD249、CD69、CD91、CDw210b、CD167a、CD300c、CD47、CD157、CD317、CD148、CD161、CD215、CD150、CD11d、CD218a、CD210、CD166、CD162、CD213a2、CD242、CD158g、CD158h、CD279、CD111、CD281、CD226、CD234、CD167b、CD300e、CD276、CD305、CD300g、CD300d、CD109、CD272、CD163、CD302、CD158f1、CD85h、CD85d、CD177、CD158z、CD158f2、CD85j、CD300f、CD92、CD351、CD112、CD100、CD270、CD101、CD297、CD316、CD352、CD217、CD307b、CD307a、CD307c、CD307d、CD307e、CD114、CD180、CD158d、CD273、CD290、CD244、CD169、CD299、CD318、CD360、CD229、CD248、CD354、CD320、CD93、CD319、CD113、CD163b、CD289、CD288、CD329、CD274、CD353、CD172g、CD315、CD280、CD264、CD300a、CD312、CD84、CD344、CD350、CD246、CD201、CD338、CD208、CD257、CD328、CD286、CD357、CD294、CD321、CD265、CD278、ITGA7、ITGA8、ITGA9、ITGA10、ITGA11、CD51、CD41、CD29、CD18、CD61、CD104、及びPDGFからなる群から選択される。
【0017】
他の態様では、TMDは、配列番号13、配列番号14、又は配列番号27に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含む。好ましい態様では、TMDは、配列番号13、配列番号14、又は配列番号27の配列を含む。
【0018】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、細胞内ドメイン(ICD)を有さない。本発明の他の態様では、エンゲージャー分子は、CD16、CD32、CD64、CD8、CD3、CD28、又はCD137に由来する細胞内ドメインを有する。本発明の他の態様では、エンゲージャー分子は、配列番号15の配列における1つ又は複数の突然変異から生じる非機能性CD47ICDを含むICDを含む。本発明の他の態様では、エンゲージャー分子は、配列番号15の配列への1つ又は複数の欠失又は挿入から生じる非機能性CD47ICDを含むICDを含む。
【0019】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、ECD配列、TMD配列、又はICD配列を連結する1つ又は複数のリンカー又はヒンジ領域を有する。
【0020】
本発明の他の態様では、TMDは、7回膜貫通タンパク質(7TM)又は免疫グロブリン細胞表面タンパク質に由来する。
【0021】
本発明のいくつかの態様では、細胞表面タンパク質は、抗体、受容体、リガンド、又は接着タンパク質である。他の態様では、SIRPαエンゲージャー細胞は、細胞表面に固定されたCD47融合タンパク質に由来する。他の態様では、エンゲージャー分子は、免疫グロブリンG(IgG)由来のCD64相互作用ドメインを介してCD64と相互作用する。
【0022】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、配列番号20又は配列番号22に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む。好ましい態様では、エンゲージャー分子は、配列番号20又は配列番号22の配列を有するタンパク質を含む。
【0023】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、配列番号23又は配列番号24に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む。好ましい態様では、エンゲージャー分子は、配列番号23又は配列番号24の配列を有するタンパク質を含む。
【0024】
本発明のいくつかの態様では、エンゲージャー分子は、配列番号28に対して少なくとも90%の配列同一性を有するタンパク質を含む。好ましい態様では、エンゲージャー分子は、配列番号28の配列を有するタンパク質を含む。
【0025】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、HLA-I又はHLA-II発現の減少又は消失をさらに有する。他の態様では、細胞は、ABO血液型Oである。他の態様では、細胞は、Rh因子陰性(Rh-)である。他の態様では、細胞は、A1、A2、及びBからなる群から選択されるABO血液型抗原の減少又は消失を有する。他の態様では、細胞は、Rh C抗原、Rh E抗原、Kell K抗原(KEL)、Duffy(FY)Fya抗原、Duffy Fy3抗原、Kidd(JK)Jkb抗原、MNS抗原U、MNS抗原Sからなる群から選択されるRhタンパク質抗原の発現の減少又は消失を有する。
【0026】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、非改変親細胞と比較して低下している内因性主要組織適合遺伝子複合体クラスI(HLA-I)機能、及び非改変親細胞と比較して低下している内因性主要組織適合遺伝子複合体クラスII(HLA-II)機能を含む低免疫原性(HI)細胞である。
【0027】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に記載のSIRP-αエンゲージャー細胞は、野生型幹細胞に対して、HLA-Iヒト白血球抗原、HLA-IIヒト白血球抗原、CD64、CD47、CD38、CCR5、CXCR4、NLRC5、CIITA、B2M、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-G、PD-L1、CTLA-4-Ig、CD47、CI-inhibitor、IL-35、RFX-5、RFXAP、RFXANK、NFY-A、NFY-B、NFY-C、IRF-1、OX40、GITR、4-1BB、CD28、B7-1、B7-2、ICOS、CD27、HVEM、SLAM、CD226、PD1、CTL4、LAG3、TIGIT、TIM3、CD160、BTLA、CD244、CD30、TLT、VISTA、B7-H3、PD-L2、LFA-1、CD2、CD58、ICAM-3、TCRA、TCRB、FOXP3、HELIOS、ST2、PCSK9、APOC3、CD200、FASLG、CLC21、MFGE8、SERPIN B9、TGFβ、CD73、CD39、LAG3、IL1R2、ACKR2、TNFRSF22、TNFRSF23、TNFRS10、DAD1、及び/又はIFNγR1 d39のうちの1つ又は複数の発現が調節され、エンゲージャー細胞は、ABO血液型O又はRh因子陰性(Rh-)である。
【0028】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、細胞表面上の抗体Fc受容体の発現の増加をさらに有し、Fc受容体は、抗体依存性細胞傷害性(ADCC)又は補体媒介性細胞毒性(CDC)を回避するのに役立つ。いくつかの態様では、Fc受容体は、CD16、CD32、又はCD64である。
【0029】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は多能性である。他の態様では、SIRP-αエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。他の態様では、SIRP-αエンゲージャー細胞は、ABO血液型O(HIPO)を有する低免疫多能性細胞であるか、又はRh因子陰性(HIP-)である。好ましい態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、ABO血液型Oを有し、且つRh因子陰性(HIPO-)である。他の態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、多能性(PSC)細胞、人工PSC(iPSC)、又は胚性幹細胞(ESC)である。
【0030】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、特定の組織型である。他の態様では、本細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)細胞、T細胞、NK細胞、内皮細胞、ドーパミン作動性ニューロン、心臓細胞、膵島細胞、又は網膜色素内皮細胞である。好ましい態様では、CAR細胞は、CAR-T細胞又はCAR-NK細胞である。
【0031】
本発明のいくつかの態様では、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞は、多能性細胞から分化される。
【0032】
本発明は、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。
【0033】
本発明は、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞及び薬学的に許容される担体を含む薬剤を提供する。
【0034】
本発明は、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞を対象に移植することを含む、対象の疾患を治療する方法を提供する。いくつかの実施形態では、この疾患は、1型糖尿病、心疾患、神経疾患、内分泌疾患、癌、失明、又は血管疾患である。
【0035】
本発明は、対象における疾患を治療するための医薬組成物を調製するための、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞の使用を提供する。
【0036】
本発明は、対象の疾患を治療するための、本明細書に開示されるSIRP-αエンゲージャー細胞の使用を提供する。いくつかの態様では、疾患は、1型糖尿病、心疾患、神経疾患、内分泌疾患、癌、失明、又は血管疾患である。
V.図面の簡単な説明
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】
図1A~
図1Cは、P815に対するリダイレクト抗体依存性細胞傷害性アッセイを示す。
図1Aは、IL-2で72時間刺激された初代ヒトCD3-CD7+CD56+NK細胞を示す。SIRPα発現を、フローサイトメトリーによって評価した(2つの独立した実験の代表的なヒストグラム)。
図1B及び
図1Cでは、これらの刺激されたCD3~CD7+CD56+NK細胞を、ホタルルシフェラーゼ発現(FLuc+)標的P815細胞に添加し、標的細胞の死滅を、生物発光イメージング(BLI)によって評価した。標的細胞の死滅は、BLIシグナルの低下と相関する。場合によっては、NK細胞を、CD16(
図1B)又はNKG2D(
図1C)に対する活性化抗体と一緒に添加した。活性化シグナルを相殺する抗SIRPαの効果を、活性化抗体と同時に抗SIRPαを投与することによって評価した。NK細胞上で発現されるが、活性化又は阻害経路を有していないCD56に対する抗体を対照として用いた(平均±標準偏差、群当たり3回の独立した実験、ボンフェローニの事後検定によるANOVA)。抗SIRPα抗体は、CD16又はNKG2Dを介した活性化刺激を完全に排除しただけではなく、P815標的に対する細胞傷害性NK細胞機能を阻害した。
【
図2】
図2は、SIRPαエンゲージャー機能の原理を示す。標的細胞表面に結合した抗SIRPα抗体(SIRPαエンゲージャー)は、NK細胞によるHLA欠損標的細胞の死滅を阻害した。CD64を発現するFLuc+ヒトB2M-/-CIITA-/-iPSC由来内皮細胞(iEC)を、CD64によって捕捉されて結合した、細胞表面を覆った抗SIRPα抗体と共にインキュベートした。これらの細胞、及び対照B2M-/-CIITA-/-iPSC由来ECを、IL-2で72時間刺激されたCD3-CD7+CD56+NK細胞と共にインキュベートした。標的細胞の死滅を、BLI(平均±標準偏差、群当たり3回の独立した実験、スチューデントのt検定)によって評価した。B2M-/-CIITA-/-CD64トランスジェニック(tg)iEC上の捕捉された抗SIRPα抗体は、NK細胞SIRPαに会合して、細胞傷害性NK細胞応答を阻害した。
【
図3】SIRPαエンゲージャーは、エンジニアリングされた細胞上で発現される合成融合タンパク質である。この融合タンパク質は、細胞外ドメイン(ECD)と膜貫通ドメイン(TMD)から構成され、細胞内ドメイン(ICD)を含んでも含まなくてもよい。これらのドメインは、直接又はリンカーを介して互いに連結されていてもよい。SIRPαエンゲージャー融合タンパク質のECDは、アゴニスト様式で免疫細胞上のSIRPαと会合し、これにより、免疫細胞エフェクター機能の関連阻害を伴うSIRPαシグナル伝達が引き起こされる。TMDは、タンパク質を細胞膜に固定する。任意選択のICDは、そのようなシグナル伝達がエンジニアリングされた細胞の機能にとって有益である場合、エンジニアリングされた細胞内にシグナル伝達を提供し得る。
【
図4】CD47-CD64ハイブリッドタンパク質を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞は、IL-2で72時間刺激された初代ヒトNK細胞による死滅から保護された。保護は、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞と比較した場合、BLIシグナルの小さい低下として記録された。CD47-CD64ハイブリッドペプチドの発現は、ある程度の免疫防御をもたらした。
【
図5】合成抗SIRPα-CD64融合タンパク質(抗体融合体1)を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞は、IL-2で72時間刺激された初代ヒトNK細胞による死滅から保護された。保護は、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞と比較した場合、BLIシグナルの小さい低下として記録された。抗体融合体1タンパク質は、NK細胞死滅に対してある程度の免疫防御をもたらした。
【
図6】合成抗SIRPα-CD64融合タンパク質(抗体融合体2)を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞は、IL-2で72時間刺激された初代ヒトNK細胞による死滅から保護された。保護は、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞と比較した場合、BLIシグナルの小さい低下として記録された。抗体融合体2タンパク質は、NK細胞死滅に対してある程度の免疫防御をもたらした。
【
図7】FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞に、トラスツズマブ構造配列を介してCD64 TMDに融合された抗SIRPα抗体の重鎖及び軽鎖の導入遺伝子を有する2つのレンチウイルスを形質導入した。この抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質の発現は、IL-2で72時間刺激された初代ヒトNK細胞に対する防御を示した。保護は、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞と比較した場合、BLIシグナルの小さい低下として記録された。
【
図8】FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞に形質導入して、より小さな抗SIRPα-scFv-CD8-PDGF融合タンパク質を発現させた。この抗SIRPα-scFv-CD8-PDGF融合タンパク質の発現は、IL-2で72時間刺激された初代ヒトNK細胞に対する防御を示した。保護は、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iEC細胞と比較した場合、BLIシグナルの小さい低下として記録された。
【発明を実施するための形態】
【0038】
VI.発明の詳細な説明
本発明は、非改変SIRPα会合機能を有する親細胞と比較して、対象に移植されると自然免疫に抵抗する、増加したシグナル調節タンパク質アルファ(SIRPα)会合機能を有する細胞(SIRPαエンゲージャー細胞)を提供する。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、分化した体細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。さらなる実施形態では、HIP細胞は、血液型O(HIPO)、Rh因子(Rh)陰性(HIP-)、又は血液型O及びRh-の両方(HIPO-)である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、又はHIPO-細胞に由来するか、又はこれらから分化した細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)から保護するために抗体Fc受容体を含む。
【0039】
他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、前述の細胞に由来するか、又はこれらから分化した細胞である。例として、分化したSIRPαエンゲージャー細胞は、内皮細胞、心筋細胞、肝細胞、ドーパミン作動性ニューロン、膵島細胞、網膜色素内皮細胞、及び移植及び医学療法に使用される他の細胞型であり得る。これらには、CAR-T細胞、NK細胞、及びCAR-NK細胞などのキメラ抗原受容体(CAR)細胞が含まれる。
【0040】
本明細書で使用される「対象」又は「患者」という用語は、家畜、動物園の動物、又はヒトなどの任意の動物を指す。「対象」又は「患者」は、イヌ、ネコ、トリ、家畜、又はヒトのような哺乳動物であり得る。「対象」及び「患者」の具体例には、限定されるものではないが、肝臓、心臓、肺、腎臓、膵臓、脳、神経組織、血液、骨、及び骨髄などに関連する疾患又は障害を有する個体(特にヒト)が含まれる。
【0041】
哺乳動物細胞は、ヒト又は非ヒト哺乳動物に由来し得る。例示的な非ヒト哺乳動物には、限定されるものではないが、マウス、ラット、ネコ、イヌ、ウサギ、モルモット、ハムスター、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、及び非ヒト霊長類(例えば、チンパンジー、マカク、及び類人猿)が含まれる。
【0042】
本明細書における「低免疫原性」細胞又は「HI」細胞は、同種異系の宿主に移入されたときに免疫学的拒絶反応の低下をもたらす細胞を意味する。好ましい実施形態では、HI細胞は、免疫応答を引き起こさない。したがって、「低免疫原性」は、免疫工学の前の親(即ち、「wt」)細胞の免疫応答と比較すると、免疫応答が有意に低下又は消失していることを意味する。
【0043】
本明細書における「低免疫原性細胞O-」、「低免疫原性ORh-」細胞、又は「HIO-」細胞は、ABO血液型O及びRh因子Rh-でもあるHI細胞を意味する。HIO-細胞は、O-細胞から生成するか、O-になるように酵素的に改変するか、又はO-になるように遺伝子学的にエンジニアリングすることができる。
【0044】
本明細書の「HLA」又は「ヒト白血球抗原」複合体は、ヒトにおける主要組織適合遺伝子複合体(MHC)タンパク質をコードする遺伝子複合体を意味する。HLA複合体を構成するこれらの細胞表面タンパク質は、抗原に対する免疫応答の調節に関与している。ヒトには、クラスI及びクラスIIの2つのMHC、「HLA-I」及び「HLA-II」が存在する。HLA-Iには、HLA-A、HLA-B、及びHLA-Cの3つのタンパク質が含まれ、これらは、細胞内からペプチドを提示し、HLA-I複合体によって提示される抗原は、キラーT細胞(CD8+T-細胞又は細胞傷害性T細胞としても知られている)を引き付ける。HLA-Iタンパク質は、β-2ミクログロブリン(B2M)と関連している。HLA-IIには、HLA-DP、HLA-DM、HLA-DOB、HLA-DQ、及びHLA-DRの5つのタンパク質が含まれ、これらは、細胞外からTリンパ球に抗原を提示する。HLA-IIは、CD4+細胞(Tヘルパー細胞としても知られている)を刺激する。「MHC」又は「HLA」のいずれかの使用は、遺伝子がヒト(HLA)又は非ヒト(MHC)のどちらに由来するかによって決まるため、限定を意味するものではないことを理解されたい。したがって、「MHC」又は「HLA」は、哺乳動物細胞に関連するため、これらの用語は、本明細書では互換的に使用することができる。
【0045】
本明細書における「遺伝子ノックアウト」とは、特定の遺伝子を、それが存在する宿主細胞において不活性にして、目的のタンパク質が産生されないようにするか、又は目的のタンパク質を不活性形態にするプロセスを指す。当業者によって理解され、以下でさらに説明されるように、遺伝子ノックアウトは、核酸配列を遺伝子から除去すること、又は配列を他の配列で阻害すること、リーディングフレームを変更すること、又は核酸の調節成分を変更することを含む、いくつかの方法で達成することができる。例えば、目的の遺伝子のコード領域の全部又は一部を除去するか又は「ナンセンス」配列で置換することができる、プロモーターなどの調節配列の全部又は一部を除去するか又は置換することができる、翻訳開始配列を除去するか又は置換することができるなど。
【0046】
本明細書における「遺伝子ノックイン」とは、宿主細胞に遺伝的機能を追加するプロセスを意味する。これにより、コードされたタンパク質のレベルが上昇する。当業者には理解されるように、遺伝子ノックインは、遺伝子の1つ又は複数の追加のコピーを宿主細胞に加えること、又はタンパク質の発現を増加させる内因性遺伝子の調節成分を変更することを含むいくつかの方法で達成することができる。遺伝子ノックインは、プロモーターを改変すること、異なるプロモーターを加えること、エンハンサーを加えること、又は他の遺伝子発現配列を改変することによって達成してもよい。「β-2ミクログロブリン」又は「β2M」又は「B2M」タンパク質は、以下に示すアミノ酸及び核酸配列を有するヒトβ2Mタンパク質を指し;ヒト遺伝子は、RefSeqアクセッション番号NM_004048.4を有する。
【0047】
「CD47タンパク質」タンパク質は、以下に示されるアミノ酸及び核酸配列を有するヒトCD47タンパク質を指し;ヒト遺伝子は、RefSeqアクセッション番号NM_001777.4を有する。
【0048】
エンジニアリングされた細胞上でのCD47の発現は、自然免疫細胞の死滅及び食作用に対する保護を提供することが示されている(Deuse T.Nat Biotechnol.2019 Mar;37:252-258)。しかしながら、そのリガンドSIRPαの連結により、CD47は、エンジニアリングされた細胞内で、その生理機能の不所望の混乱が生じ得る下流のシグナル伝達を開始し得る。免疫細胞の死滅に対する防御のみを達成するために、本発明のいくつかの態様は、エンジニアリングされた細胞において細胞外SIRPαエンゲージャー機能を細胞内シグナル伝達から分離する。他の態様では、本発明は、エンジニアリングされた細胞においてアゴニストSIRPα結合活性を有するが、不所望の細胞内シグナル伝達を欠くSIRPαエンゲージャー融合タンパク質を提供する。他の態様は、CD47 ECDを含むSIRPαエンゲージャー融合タンパク質を提供する。
【0049】
本発明は、エンジニアリングされた細胞上で発現され、SIRPαシグナル伝達を活性化するアゴニスト様式で免疫細胞上のSIRPαに結合するように設計されたSIRPαエンゲージャー融合タンパク質を提供する。エフェクター免疫細胞は、SIRPαを発現する任意の免疫細胞であり得、骨髄系(例えば、単球、マクロファージ、又は多形核細胞)並びにリンパ系(例えば、T細胞、B細胞、又はNK細胞)に由来し得る。
【0050】
本明細書で提供される融合タンパク質は、細胞外ドメイン(ECD)及び膜貫通ドメイン(TMD)を含み、細胞内ドメイン(ICD)を含んでも含まなくてもよい。融合タンパク質は、典型的には、ICDを含まず、ECD及びTMDのみを含む。
【0051】
いくつかの態様では、ECDは、CD47 ECD、CD47免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)ドメイン、アゴニスト抗SIRPα抗体の相補性決定領域(CDR)、又はアゴニスト抗SIRPα抗体の単鎖可変断片(scFv)を含む。ECD上の目的の領域は、少なくとも1つのCDR配列を含み、CDRは、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、又はそれ以上のアミノ酸であり得る。別法では、目的のECDは、2つ以上の抗体可変領域(例えば、配列番号5及び9を参照)を含む。抗SIRPα抗体のCDRは、例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2016/205042号パンフレットに開示されている。
【0052】
本発明の特定の態様は、以下の例示的な配列を提供する。
【0053】
【0054】
本発明のいくつかの態様では、ECDは、1つ、2つ、又は3つの抗SIRPα-CDRを含む。好ましい態様では、ECDは、配列番号6~8又は10~12のうちの1つ又は複数を含む。
【0055】
いくつかの態様では、最適化された結合が得られるようにより好ましい結合のオンレート、より好ましい結合のオフレート、又はその両方を達成するべく結合を修飾するために、配列の1つ又は複数の残基が改変される。
【0056】
他の態様では、ECDは、TMDを有する配列を連結するか、又は互いに配列を連結するリンカー領域又はヒンジを含む。他の態様では、修飾は、これらの修飾が融合タンパク質とSIRPαとの結合親和性がなくならない限り、リンカー領域又はヒンジ領域の1つ又は複数内で行われる。
【0057】
いくつかの態様では、ECDは、配列番号5又は配列番号9のいずれか1つに示される少なくとも約10個のアミノ酸、少なくとも約15個のアミノ酸、少なくとも約20個のアミノ酸、少なくとも約25個のアミノ酸、少なくとも約30個のアミノ酸、提供される完全な領域までの連続した配列を有する。ECDはまた、配列番号5又は9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列と比較して、最大1個、2個、3個、4個、5個、6個、又はそれ以上のアミノ酸が異なる配列を含む。他の実施形態では、ECDは、配列番号5又は9のいずれか1つに示されるアミノ酸配列に対して少なくとも約80%、85%、90%、95%、又は約99%の配列同一性を有する。
【0058】
一般に、SIRPαエンゲージャー融合タンパク質の膜貫通ドメイン(TMD)は、特定のTMD配列に限定されない。好ましくは、TMDは、融合タンパク質を発現する細胞(例えば、内皮細胞、心筋細胞、膵臓ベータ細胞、T細胞、NK細胞、又は造血細胞など)の膜における融合タンパク質の安定した固定を可能にする。さらに、TMDは、ECDのSIRPαへの結合を可能にする。いくつかの態様では、融合タンパク質は、ICDを含み、SIRPαへの結合により、ICDを介したシグナル伝達が可能になる。これは、このようなシグナル伝達がこの細胞の固有の機能を強化する場合、エンジニアリングされた細胞にとって有益である可能性がある。機能の強化は、例えば、インテグリンの活性化による接着の強化によって達成することができる。他の態様では、融合タンパク質は、ICDを含むのではなく、TMDの後ろで切断されている。後者の場合、融合タンパク質のSIRPαへの結合により、エンジニアリングされた細胞内で細胞内シグナル伝達が生じない。
【0059】
TMDは、単一のαヘリックスとして、複数のαヘリックスとして、又は丸まったβシートとして細胞膜脂質二重層を横断して延びる。これらの「1回貫通」及び「複数回貫通」タンパク質のいくつかは、サイトゾル脂質単層に挿入された共有結合した脂肪酸鎖を有する。他の膜タンパク質は、膜の片面のみで露出される。これらのいくつかは、ヘリックスの疎水性面を通って脂質二重層のサイトゾル単層に分割される両親媒性αヘリックスによってサイトゾル表面に固定される。その他は、サイトゾル単層では共有結合した脂質鎖(脂肪酸鎖又はプレニル基のいずれか)によってのみ二重層に結合するか、又は非サイトゾル単層ではオリゴ糖リンカーを介してホスファチジルイノシトールに結合する(Alberts B,Johnson A,Lewis J,et al.,Molecular Biology of the Cell.4th edition.New York:Garland Science;ISBN-10:0-8153-3218-1(2002))。
【0060】
いくつかの態様では、融合タンパク質の例示的なTMDは、CD16、CD8、CD335、CD25、CD1a、CD220、CD45、CD11a~d、CD64、CD32、CD62、CD40、CD49a~f、CD47、CD32、CD68、CD85、CD300、CD344、CD350、CD54、CD56、CD137、ITGA7、ITGA8、ITGA9、ITGA10、ITGA11、CD51、CD41、CD29、CD18、CD61、又はCD104に由来する。他の態様では、融合タンパク質のTMDは、CD47(配列番号13)、又はCD64(配列番号14)、又はPDGF(配列番号27)に由来する。
【0061】
他の態様では、SIRPαエンゲージャー融合タンパク質は、エンジニアリングされた細胞におけるシグナル伝達を回避するための細胞内ドメイン(ICD)を有さない。しかしながら、有益であると考えられる場合、融合タンパク質のICDは、CD16、CD32、CD64、CD8、CD3、CD28、又はCD137由来のICDであり得る。
【0062】
「CIITAタンパク質」タンパク質は、以下に示すアミノ酸配列及び核酸配列を有するヒトCIITAタンパク質を指し;ヒト遺伝子は、RefSeqアクセッション番号NM_000246.4を有する。
【0063】
細胞の文脈における「野生型」とは、自然界に見られる細胞を意味する。しかしながら、本明細書で使用されるナチュラルキラー(NK)細胞の文脈において、野生型とは、細胞が、死をもたらす核酸変化を含み得るが、低免疫原性を達成するために本発明の遺伝子編集手順を受けていないことも意味する。
【0064】
本明細書における「同系」とは、免疫学的適合性が存在する宿主生物及び細胞移植の遺伝的類似性又は同一性を意味し、例えば、免疫応答が生じない。
【0065】
本明細書における「同種異系」とは、免疫応答が生じる宿主生物及び細胞移植の遺伝的非類似性を指す。
【0066】
本明細書における「B2M-/-」とは、2倍体細胞が両方の染色体でB2M遺伝子を不活性化していることを意味する。本明細書に記載されるように、これは、様々な方法で行うことができる。
【0067】
本明細書における「CIITA-/-」とは、2倍体細胞が両方の染色体でCIITA遺伝子を不活性化していることを意味する。本明細書に記載されるように、これは、様々な方法で行うことができる。
【0068】
本明細書の「CD47tg」、「CD47導入遺伝子」、又は「CD47+」は、場合によってはCD47遺伝子の少なくとも1つの追加コピーを有することにより、宿主細胞がCD47を発現することを意味する。
【0069】
2つ以上の核酸又はポリペプチド配列の文脈におけるパーセント「同一性」という用語は、以下に記載される配列比較アルゴリズムの1つ(例えば、BLASTP及びBLASTN又は当業者が利用可能な他のアルゴリズム)を使用して又は目視検査によって測定される、最大限一致するように整列されて比較した際に同一であるヌクレオチド又はアミノ酸残基の特定のパーセンテージを有する2つ以上の配列又は部分配列を指す。用途に応じて、パーセント「同一性」は、比較される配列の領域にわたって、例えば機能的ドメインにわたって存在し得る、或いは比較される2つの配列の全長にわたって存在し得る。配列の比較では、典型的には、1つの配列が、試験配列が比較される参照配列としての役割を果たす。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列及び参照配列がコンピューターに入力され、必要に応じてサブ配列座標が指定され、配列アルゴリズムのプログラムパラメーターが指定される。次いで、配列比較アルゴリズムは、指定されたプログラムパラメーターに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。
【0070】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch,J.Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA 85:2444(1988)の類似性検索方法によって、これらのアルゴリズム(GAP,BESTFIT,FASTA,and TFASTA in the Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.,Madison,Wis.)のコンピューター化された実施によって、又は目視検査(一般的に、以下のAusubel et al.を参照されたい)によって行うことができる。
【0071】
パーセント配列同一性及び配列類似性を決定するのに適したアルゴリズムの一例は、Altschul et al.,J.Mol.Biol.215:403-410(1990)に記載されているBLASTアルゴリズムである。BLAST分析を行うためのソフトウェアは、全米バイオテクノロジー情報センター(www.ncbi.nlm.nih.gov/)が一般公開している。
【0072】
「阻害剤」、「活性化因子」、及び「モジュレーター」は、生物学的に関連する分子の機能又は発現に影響を与える。「モジュレーター」という用語は、阻害剤と活性化因子の両方を含む。モジュレーターは、標的分子の発現又は活性についてのインビトロ及びインビボアッセイを使用して同定することができる。
【0073】
「阻害剤」は、例えば、発現を阻害するか、又は標的分子又はタンパク質に結合する作用物質である。阻害剤は、刺激を部分的又は完全にブロックするか、又はプロテアーゼ阻害剤活性を有し得る。阻害剤は、記載される標的タンパク質の不活性化、脱感作、又は活性のダウンレギュレーションを含め、活性化を低下させる、減少させる、防止する、又は遅延させ得る。モジュレーターは、標的分子又はタンパク質のアンタゴニストであり得る。
【0074】
「活性化因子」は、例えば、標的分子又はタンパク質の機能若しくは発現を誘導又は活性化する作用物質である。活性化因子は結合して、標的分子の活性を刺激する、高める、広げる、活性化する、又は促進することができる。活性化因子は、標的分子又はタンパク質のアゴニストであり得る。
【0075】
「相同体」は、ヌクレオチド配列、ペプチド配列、機能的又は構造的レベルで参照分子に類似している生物活性分子である。相同体は、参照配列と特定のパーセント同一性を共有する配列誘導体を含み得る。したがって、一実施形態では、相同配列又は誘導体配列は、少なくとも70パーセントの配列同一性を共有する。特定の実施形態では、相同配列又は誘導体配列は、少なくとも80又は85パーセントの配列同一性を共有する。特定の実施形態では、相同配列又は誘導体配列は、少なくとも90パーセントの配列同一性を共有する。特定の実施形態では、相同又は派生配列は、少なくとも95パーセントの配列同一性を共有する。より具体的な実施形態では、相同配列又は誘導体配列は、少なくとも50、55、60、65、70、75、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、又は99パーセントの配列同一性を共有する。相同核酸配列又は誘導体核酸配列はまた、高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下で参照核酸配列と結合を維持できるそれらの能力によって定義することができる。参照分子と構造的又は機能的類似性を有する相同体は、参照分子の化学的誘導体であり得る。構造的及び機能的相同体並びに誘導体を検出する、生成する、及びスクリーニングする方法は当技術分野で公知である。
【0076】
「ハイブリダイゼーション」は、一般に、相補鎖がそれらの融解温度より低い環境に存在するときに、変性したDNAが再アニーリングする能力に依存する。プローブとハイブリダイズ可能な配列との間の所望の相同性の度合いが高いほど、使用できる相対温度が高くなる。結果として、より高い相対温度は反応条件をよりストリンジェントにする傾向がある一方、より低い温度はそれほどストリンジェントではないことになる。ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーのさらなる詳細及び説明については、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Ausubel et al,Current Protocols in Molecular Biology,Wiley Interscience Publishers(1995)を参照されたい。
【0077】
ハイブリダイゼーション反応の「ストリンジェンシー」は、当業者によって容易に決定可能であり、一般に、プローブ長、洗浄温度、及び塩濃度に依存する経験的計算である。一般に、プローブが長いほど適切なアニーリングの温度を高くする必要があるが、プローブが短いほど必要な温度が低くなる。
【0078】
本明細書で定義される「ストリンジェントな条件」又は「高ストリンジェンシー条件」は、以下によって確認することができる:(1)低イオン強度及び高温、例えば、50℃の0.015M塩化ナトリウム/0.0015Mクエン酸ナトリウム/0.1%ドデシル硫酸ナトリウムを洗浄に使用する;(2)ハイブリダイゼーション中に、ホルムアミドなどの変性剤、例えば、42℃の50%(v/v)ホルムアミドと0.1%ウシ血清アルブミン/0.1%フィコール/0.1%ポリビニルピロリドン/50Mmリン酸ナトリウム緩衝液(Ph6.5)と750Mm塩化ナトリウム、75Mmクエン酸ナトリウムを使用する;又は(3)42℃の50%ホルムアミド、5×SSC(0.75M NaCl、0.075Mクエン酸ナトリウム)、50Mmリン酸ナトリウム(Ph6.8)、0.1%ピロリン酸ナトリウム、5×デンハルト溶液、超音波処理したサケ精子DNA(50μl/ml)、0.1%SDS、及び10%硫酸デキストランを使用する溶液での一晩のハイブリダイゼーション、0.2×SSC(塩化ナトリウム/クエン酸塩ナトリウム)で42℃での10分間の洗浄、これに続く55℃のEDTAを含む0.1×SSCからなる10分間の高ストリンジェンシー洗浄。
【0079】
本明細書で使用される場合、「薬学的に許容される担体」又は「治療効果のある担体」は、水性又は非水性(固体)、例えばアルコール性又は油性、又はそれらの混合物であり、且つ界面活性剤、皮膚軟化剤、潤滑剤、安定剤、染料、香料、防腐剤、pH調整のための酸又は塩基、溶媒、乳化剤、ゲル化剤、保湿剤、安定剤、湿潤剤、徐放剤、保水剤、又は特定の形態の医薬組成物に一般的に含まれる他の成分を含み得る。薬学的に許容される担体は、当技術分野で周知であり、例えば、水若しくは生理学的緩衝食塩水などの水溶液、又はグリコール、グリセロールなどの他の溶媒若しくはビヒクル、及びオリーブ油などの油を含む。薬学的に許容される担体は、例えば、特定の阻害剤、例えば、グルコース、スクロース、若しくはデキストランなどの炭水化物、アスコルビン酸若しくはグルタチオンなどの抗酸化剤、キレート剤、低分子量タンパク質、又は他の安定剤若しくは賦形剤を安定させる、或いはこれらの吸収性を高めるように作用する生理学的に許容可能な化合物を含み得る。
【0080】
医薬組成物は、滅菌注射用製剤、例えば、滅菌注射用水性懸濁液又は油性懸濁液の形態であってもよい。この懸濁液は、適切な分散剤又は湿潤剤(例えば、Tween 80など)及び懸濁剤を使用して、当技術分野で周知の技術にしたがって調製することができる。滅菌注射用製剤はまた、非毒性の非経口的に許容可能な希釈剤又は溶媒中、例えば1,3-ブタンジオール中の溶液のような、滅菌注射用溶液又は懸濁液溶液であり得る。使用できる許容可能なビヒクル及び溶媒の中には、マンニトール、水、リンゲル液、及び等張塩化ナトリウム溶液がある。加えて、滅菌した固定油が、溶媒又は懸濁媒体として従来使用されている。この目的のために、合成モノグリセリド又は合成ジグリセリドを含む、無刺激性固定油を使用することができる。オレイン酸及びそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、特にポリオキシエチル化型であるオリーブ油又はヒマシ油などの薬学的に許容される天然油と同様に、注射剤の調製に有用である。これらの油剤又は油懸濁液には、Ph.Helv又は類似のアルコールなどの長鎖アルコールの希釈剤又は分散剤も含まれ得る。
【0081】
本明細書全体で与えられるすべての最大数値制限には、あたかもそのようなより低い数値制限が本明細書に明示的に記載されているかのように、すべてのより低い数値制限が含まれることが意図される。本明細書全体で与えられるすべての最小数値制限には、あたかもそのようなより高い数値制限が本明細書に明示的に記載されているかのように、すべてのより高い数値制限が含まれる。本明細書全体で与えられるすべての数値範囲には、あたかもそのようなより狭い数値範囲がすべて本明細書に明示的に記載されているかのように、そのようなより広い数値範囲内にあるすべてのより狭い数値範囲が含まれる。
【0082】
本明細書で使用される「修飾」という用語は、修飾された分子を親分子と物理的に区別する変化を指す。いくつかの実施形態では、SIRPα、CD47、CD316、CD32、CD64、HSVtk、EC-CD、又はiCasp9変異体ポリペプチドにおけるアミノ酸の挿入、欠失、置換、又は他のタイプのアミノ酸の変化は、本明細書に記載される当技術分野で公知の方法にしたがって調製される。このような修飾は、これらを、本明細書に記載の方法にしたがって修飾されていない対応する親、例えば、野生型タンパク質、天然に存在する変異体タンパク質、又はそのような変異体ポリペプチドの修飾を含まない別のエンジニアリングされたタンパク質と区別する。別の実施形態では、変異体ポリペプチドは、その機能を非修飾ポリペプチドと区別する1つ又は複数の修飾を含む。例えば、変異体ポリペプチドのアミノ酸変化は、その受容体結合プロファイルに影響を与える。他の実施形態では、変異体ポリペプチドは、置換、欠失、又は挿入修飾、又はそれらの組み合わせを含む。別の実施形態では、変異体ポリペプチドは、非修飾ポリペプチドの親和性と比較して、受容体に対するその親和性を高める1つ又は複数の修飾を含む。
【0083】
一実施形態では、変異体ポリペプチドは、対応する天然又は親配列と比較して、1つ又は複数の置換、挿入、又は欠失を含む。特定の実施形態では、変異体ポリペプチドは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、8つ、9つ、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31~40、41~50、又は51以上の修飾を含む。
【0084】
本明細書における「エピソームベクター」とは、細胞の細胞質内に自律的に存在して複製することができる遺伝子ベクターを意味し;例えば、エピソームベクターは、宿主細胞のゲノムDNAに組み込まれない。いくつかのエピソームベクターが当技術分野で公知であり、以下に記載される。
【0085】
遺伝子の文脈における「ノックアウト」とは、ノックアウトされた宿主細胞が遺伝子の機能的タンパク質産物を産生しないことを意味する。本明細書で概説されるように、ノックアウトは、コード配列の全部又は一部を除去すること、機能性タンパク質が産生されないようにフレームシフト突然変異を導入すること(切断又はナンセンス配列のいずれか)、遺伝子が転写されないように調節成分(例えば、プロモーター)を除去又は変更すること、mRNAへの結合による翻訳を防止することなどによって様々な方法でもたらすことができる。一般的に、ノックアウトは、細胞の子孫も永久にノックアウトを有するように、ゲノムDNAレベルで達成される。
【0086】
遺伝子の文脈における「ノックイン」とは、ノックインされた宿主細胞が、より多くの機能的なタンパク質が細胞内で活性であることを意味する。本明細書に概説されるように、ノックインは、様々な方法で、通常は、タンパク質をコードする導入遺伝子(tg)の少なくとも1つのコピーを細胞に導入することによって行うことができるが、これは、例えば内因性遺伝子に構成的プロモーターを加えることによって、調節成分を置き換えることによっても行うことができる。一般に、ノックイン技術は、導入遺伝子の追加のコピーの宿主細胞への組み込みをもたらす。
【0087】
VII.本発明の細胞
本発明は、低免疫細胞であるSIRPαエンゲージャー細胞を提供する。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、分化した体細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、低免疫多能性(HIP)細胞である。さらなる実施形態では、HIP細胞は、血液型O(HIPO)、Rh因子(Rh)陰性(HIP-)、又はO型及びRh-(HIPO-)の両方である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、又はHIPO-細胞から誘導又は分化された細胞である。他の実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)又は補体依存性細胞傷害(CDC)から保護するために抗体Fc受容体を含む。
【0088】
本発明は、SIRPαエンゲージャー細胞を作製するための組成物及び方法を提供する。いくつかの態様では、細胞は、低免疫細胞である。他の態様では、細胞は、分化した体細胞である。他の態様では、細胞は、HIP細胞、HIP-細胞、HIPO-細胞などの多能性細胞である。他の態様では、SIRPαエンゲージャー細胞は、移植及び/又は分化に適した多能性(PSC)細胞である。PSC細胞には、人工PSC(iPSC)又は胚性幹細胞(ESC)が含まれる。他の態様では、細胞は、特定の組織型であり、前述のSIRPαエンゲージャー細胞から分化した細胞である。例として、分化したSIRPαエンゲージャー細胞は、内皮細胞、心筋細胞、肝細胞、ドーパミン作動性ニューロン、膵島細胞、網膜色素内皮細胞、及び移植及び医学療法に使用される他の細胞型であり得る。これらには、CAR-T細胞、CAR-NK細胞、及びその他のエンジニアリングされた細胞集団などのキメラ抗原受容体(CAR)細胞が含まれることになる。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2018/132783号パンフレット、同第2020/018620号パンフレット、同第2020/018615号パンフレット、国際出願PCT/US2020/032272号明細書、及び米国特許出願第16/870,959号明細書、及び同第16/870,960号明細書を参照されたい。
【0089】
本発明は、NK細胞表面上のSIRPαと相互作用し、細胞死滅及び自然免疫を防止するSIRPαエンゲージャータンパク質を有するSIRPαエンゲージャー細胞を提供する。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャータンパク質は、SIRPαエンゲージャー細胞の表面に繋がれた抗SIRPα抗体である。いくつかの実施形態では、抗SIRPα抗体は、その断片の結晶化可能(Fc)部分を介して細胞表面CDに繋がれている。他の実施形態では、抗SIRPα抗体(scFv)の抗原結合部分は、膜貫通ドメイン(TMD)を介して細胞表面に結合される。好ましい実施形態では、TMDは、1つ又は複数のαヘリックスを含む。他の好ましい実施形態では、TMDは、7回膜貫通タンパク質(7TM)に由来する。他の好ましい実施形態では、TMDは、免疫グロブリン細胞表面タンパク質に由来する。より好ましい実施形態では、免疫グロブリン細胞表面タンパク質は、抗体、受容体、リガンド、又は接着タンパク質である。いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は、細胞表面に固定されたCD47融合タンパク質から生じる。
【0090】
SIRPαエンゲージャータンパク質の発現は、当業者には理解されるように、「ノックイン」技術又はトランスジェニック技術を使用するいくつかの方法で達成することができる。場合によっては、SIRPαエンゲージャータンパク質の発現は、1つ又は複数の導入遺伝子に起因する。
【0091】
したがって、いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャータンパク質発現遺伝子の1つ又は複数のコピーが、誘導性プロモーター又は構成的プロモーター(後者が好ましい)の制御下でSIRPαエンゲージャー細胞に加えられる。いくつかの実施形態では、レンチウイルス構築物は、本明細書に記載されるように、又は当技術分野で公知であるように使用される。遺伝子は、当技術分野で公知であるように、適切なプロモーターの制御下で宿主細胞のゲノムに組み込むことができる。
【0092】
いくつかの実施形態では、遺伝子の発現は、内因性遺伝子座の調節配列を改変することによって、例えば、内因性プロモーターを構成的プロモーター又は異なる誘導性プロモーターと交換することによって増加させることができる。これは通常、CRISPRなどの既知の技術を使用して行うことができる。
【0093】
改変されたら、十分なSIRPαエンゲージャータンパク質発現の存在を、実施例に記載されるような公知の技術、例えば、適切な抗体を使用するウェスタンブロット、ELISAアッセイ、又はFACSアッセイを使用してアッセイすることができる。一般に、この文脈における「十分」とは、NK細胞の死滅を抑制する細胞表面上のSIRPαエンゲージャータンパク質発現の増加を意味する。
【0094】
抗体であるポリペプチドも本発明の範囲内である。抗体という用語は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、抗体断片(例えば、Fcドメイン)、Fab断片、一本鎖抗体、二重特異性抗体又は多重特異性抗体、ラマ抗体、ナノボディ、ダイアボディ、アフィボディ、Fv、Fab、F(ab’)2、Fab’、scFv、及びscFv-Fcなどを含むことを意味する。この用語には、Igキメラなどの抗体融合タンパク質も含まれる。好ましい抗体には、ヒト化又は完全ヒトモノクローナル抗体又はその断片が含まれる。
【0095】
「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語には、モノクローナル抗体(例えば、完全長又は無傷のモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、一価抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、所望の生物学的活性を示すのであれば二重特異性抗体)が含まれ得、特定の抗体断片(本明細書でより詳細に説明する)も含まれ得る。抗体は、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、及び/又は親和性成熟抗体であり得る。
【0096】
「完全長抗体」、「無傷の抗体」、及び「全抗体」という用語は、以下に定義する抗体断片ではなく、実質的に無傷の形態の抗体を指すために本明細書では互換的に使用される。この用語は、特に、Fc領域を含む重鎖を有する抗体を指す。「抗体断片」は、無傷の抗体の一部を含み、好ましくはその抗原結合領域を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv断片;ダイアボディ;直鎖状抗体;一本鎖抗体分子;及び抗体断片から形成される多重特異性抗体が含まれる。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す、即ち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る潜在的な突然変異、例えば天然に存在する突然変異を除いて同一である。したがって、修飾語「モノクローナル」は、個別の抗体の混合物ではないという抗体の性質を示す。
【0097】
特定の実施形態では、そのようなモノクローナル抗体は、典型的には、標的に結合するポリペプチド配列を含む抗体を含み、この標的結合ポリペプチド配列は、複数のポリペプチド配列からの1つの標的結合ポリペプチド配列の選択を含むプロセスによって得られた。例えば、選択プロセスは、ハイブリドーマクローン、ファージクローン、又は組換えDNAクローンのプールなどの複数のクローンからのユニークなクローンの選択であり得る。選択される標的結合配列は、例えば、標的に対する親和性を改善するため、標的結合配列をヒト化するため、細胞培養におけるその産生を改善するため、インビボでの免疫原性を低下させるため、多重特異性抗体を作製するなどのためにさらに改変され得ること、並びに改変された標的結合配列を含む抗体も本発明のモノクローナル抗体であることを理解されたい。異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を通常は含むポリクローナル抗体製剤とは対照的に、モノクローナル抗体製剤の各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対するものである。モノクローナル抗体製剤は、その特異性に加えて、典型的には他の免疫グロブリンによって汚染されていないという点でも有利である。
【0098】
抗原に特異的に結合する抗体は、その抗原に対して高い親和性を有する。抗体親和性は、解離定数(Kd)によって測定することができる。特定の実施形態では、本明細書で提供される抗体は、約100nM以下、約10nM以下、約1nM以下、約0.1nM以下、約0.01nM以下、又は約0.001nM以下(例えば、10-7M未満、10-7M~10-13M、10-8M~10-13M、又は10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。
【0099】
一実施形態では、Kdは、以下のアッセイによって記載されるように、目的の抗体のFab型及びその抗原を用いて実施される放射性標識抗原結合アッセイ(RIA)によって測定される。抗原に対するFabの溶液結合親和性は、非標識抗原の滴定系列の存在下で、最小濃度の(125I)標識抗原でFabを平衡化し、次いで、抗Fab抗体でコーティングしたプレートで結合した抗原を捕捉することによって測定される(例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照)。アッセイの条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mM炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mlの捕捉抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングし、その後、ブロックする。PBS中の2%(w/v)ウシ血清アルブミンで、室温(約23℃)で2~5時間処理する。非吸着性プレート(Nunc#269620)において、100μM又は26μM[125I]の抗原を目的のFabの段階希釈液と混合する(例えば、Presta et al.,Cancer Res.57:4593-4599(1997)での抗VEGF抗体であるFab-12の評価と一致する)。次いで、目的のFabを一晩インキュベートする;しかしながら、インキュベーションは、確実に平衡に達するようにより長い期間(例えば、約65時間)継続してもよい。その後、混合物を捕捉プレートに移し、室温で(例えば、1時間)インキュベートする。次いで、溶液を除去し、プレートをPBS中の0.1%ポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で8回洗浄する。プレートが乾燥したら、150μl/ウェルのシンチラント(MICROSCINT-20(商標);Packard)を添加し、プレートをTOPCOUNT(商標)ガンマカウンター(Packard)で10分間カウントする。競合結合アッセイで使用するために、最大結合の20%以下をもたらす各Fabの濃度が選択される。
【0100】
別の実施形態によると、Kdは、約10応答単位(RU)で、例えば固定化抗原CM5チップを用いて、25℃で、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を使用する表面プラズモン共鳴アッセイを使用して測定される。簡単に説明すると、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサーチップ(CM5、BIACORE,Inc.)を、供給者の指示にしたがってN-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)、及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化する。抗原を10mM酢酸ナトリウム、pH4.8で5μg/ml(約0.2μM)に希釈してから、5μl/分の流速で注入して、共役タンパク質の約10応答単位(RU)を達成する。抗原の注入後、1Mエタノールアミンを注入して未反応基をブロックする。反応速度測定では、Fabの2倍段階希釈(0.78nM~500nM)を、約25μl/分の流量、25℃で、0.05%ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤を含むPBS(PBST)に入れて注入する。会合速度(Kon)と解離速度(Koff)は、会合センサーグラムと解離センサーグラムを同時にフィッティングすることによって、単純な1対1ラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標)評価ソフトウェアバージョン3.2)を使用して計算される。平衡解離定数(Kd)は、koff/konの比として計算される。例えば、Chen et al.,J.Mol.Biol.293:865-881(1999)を参照されたい。オンレートが、上記の表面プラズモン共鳴アッセイによって106 M-1 s-1を超える場合、オンレートは、ストップフローを備えた分光計(Aviv Instruments)又は撹拌キュベットを備えた8000シリーズSLM-AMINCO(商標)分光光度計(ThermoSpectronic)などの分光計で測定した増加する濃度の抗原の存在下、PBS、pH7.2中の25℃の20nM抗抗原抗体(Fab形態)での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmのバンドパス)の増加又は減少を測定する蛍光消光技術を使用して決定することができる。当業者であれば理解されるように、上記のアミンカップリング法(CM5チップ)の代わりに、チップ表面への標的抗原の他のカップリング化学(例えば、ストレプトアビジン/ビオチン、疎水性相互作用、又はジスルフィド化学)も容易に利用可能である。
【0101】
「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均質な抗体集団から得られる抗体の性質を示し、特定の方法による抗体の産生を必要とするものとして解釈されるべきではない。例えば、本発明にしたがって使用されるモノクローナル抗体は、例えば、ハイブリドーマ法(例えば、Kohler et al,Nature, 256:495(1975);Harlow et al,Antibodies: A Laboratory Manual,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas pp.563-681 (Elsevier,N.Y.,1981))、組換え体DNA法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照)、ファージディスプレイ技術(例えば、Clackson et al.,Nature,352:624-628 (1991);Marks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1992);Sidhu et al.,J.Mol.Biol.338(2):299-310(2004);Lee et al.,J.Mol.Biol.340(5):1073-1093(2004);Fellouse,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 101(34):12467-12472(2004);and Lee et al.,J.Immunol.Methods 284(1-2):119-132(2004)を参照)、及びヒト免疫グロブリン遺伝子座又はヒト免疫グロブリン配列をコードする遺伝子の一部又は全部を有する動物においてヒト又はヒト様抗体を産生するための技術(例えば、国際公開第98/24893号パンフレット;同第96/34096号パンフレット;同第96/33735号パンフレット;同第91/10741号パンフレット;Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature 362:255-258(1993);Bruggemann et al.,Year in Immunol.7:33(1993);U.S.Patent Nos.5,545,807;5,545,806;5,569,825;5,625,126;5,633,425;5,661,016;Marks et al.,Bio.Technology 10:779-783(1992);Lonberg et al.,Nature 368:856-859(1994);Morrison,Nature 368:812-813(1994);Fishwild et al.,Nature Biotechnol.14:845-851(1996);Neuberger,Nature Biotechnol.14:826(1996)and Lonberg and Huszar,Intern.Rev.Immunol.13: 65-93(1995)を参照)を含む様々な技術によって作製することができる。上記の特許、刊行物、及び参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0102】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小限の配列を含むキメラ抗体である。一実施形態では、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域に由来する残基が、所望の特異性、親和性、及び/又は能力を有する、マウス、ラット、ウサギ、又は非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域に由来する残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基に置き換えられる。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体又はドナー抗体には見られない残基を含み得る。これらの修飾は、抗体の性能をさらに改良するために行うことができる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的にすべてを含むことになり、超可変ループのすべて又は実質的にすべてが、非ヒト免疫グロブリンの超可変ループに一致し、FRのすべて又は実質的にすべてが、ヒト免疫グロブリン配列のFRである。ヒト化抗体は、任意選択により、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部も含むことになる。さらなる詳細については、Jones et al.,Nature 321:522-525(1986);Riechmann et al.,Nature 332:323-329(1988);and Presta,Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)を参照されたい。以下の総説及びそこで引用されている参考文献も参照されたい:Vaswani and Hamilton,Ann.Allergy,Asthma&Immunol.1:105-115(1998);Harris,Biochem.Soc.Transactions 23:1035-1038(1995);Hurle and Gross,Curr.Op.Biotech.5:428-433(1994)。前述の参考文献は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0103】
「ヒト抗体」は、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を含む抗体、及び/又は本明細書に開示されるヒト抗体を作製するための技術のいずれかを使用して作製された抗体である。このような技術には、ファージディスプレイライブラリーなどのヒト由来のコンビナトリアルライブラリーのスクリーニング(例えば、Marks et al.,J.Mol.Biol,222:581-597(1991)and Hoogenboom et al.,Nucl.Acids Res.,19:4133-4137(1991)を参照);ヒトモノクローナル抗体の産生のためのヒト骨髄腫細胞株及びマウス-ヒトヘテロ骨髄腫細胞株の使用(例えば、Kozbor,J.Immunol,133:3001(1984);Brodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.55-93(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987);and Boerner et al.,J.Immunol,147:86(1991)を参照);並びに内因性免疫グロブリン産生の非存在下で、ヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)におけるモノクローナル抗体の作製(例えば、Jakobovits et al.,Proc.Natl.Acad.Sci USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255(1993);Bruggermann et al.,Year in Immunol.,7:33(1993)を参照)が含まれる。ヒト抗体のこの定義は、非ヒト動物由来の抗原結合残基を含むヒト化抗体を特に除外する。
【0104】
A.遺伝子変更の方法
本発明は、SIRPαエンゲージャー細胞を作製するために細胞内又は無細胞条件で核酸配列を改変する方法を含む。例示的な技術には、相同組換え、ノックイン、ZFN(ジンクフィンガーヌクレアーゼ)、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、CRISPR(クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート)/Cas9、及び他の部位特異的ヌクレアーゼ技術が含まれる。これらの技術により、目的の遺伝子座部位での二本鎖DNAの切断が可能になる。これらの制御された二本鎖切断は、特定の遺伝子座部位での相同組換えを促進する。このプロセスは、染色体などの核酸分子の特定の配列を、その配列を認識して結合し、核酸分子に二本鎖切断を誘導するエンドヌクレアーゼで標的化することに重点を置いている。二本鎖切断は、エラーが発生しやすい非相同末端結合(NHEJ)又は相同組換え(HR)のいずれかによって修復される。
【0105】
当業者には理解されるように、いくつかの異なる技術を使用して、本発明の修飾細胞をエンジニアリングすること、及び本明細書に概説されるようにNK細胞をエンジニアリングして低免疫原性になるようにすることができる。
【0106】
一般に、これらの技術は、個別に又は組み合わせて使用することができる。例えば、SIRPαエンゲージャー細胞の作製では、CRISPRを使用して、抗SIRPα免疫グロブリンなどのSIRPαエンゲージャータンパク質を発現させることができる。別の例では、ウイルス技術(例えば、レンチウイルス)を使用して、SIRPαエンゲージャータンパク質を発現させる。
【0107】
a.CRISPR技術
一実施形態では、細胞は、当技術分野で知られているように、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート/Cas(「CRISPR」)技術を使用して操作される。CRISPRを使用して、SIRPαエンゲージャー細胞を作製することができる。CRISPRに基づく多数の技術が存在する。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、Doudna and Charpentier,Science doi:10.1126/science.1258096を参照されたい。CRISPR技術及びキットは市販されている。
【0108】
b.TALEN技術
いくつかの実施形態では、本発明の細胞は、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)方法を使用して作製される。TALENは、実質的に任意の所望のDNA配列に結合して切断するようにエンジニアリングすることができるヌクレアーゼと組み合わせられた制限酵素である。TALENキットは市販されている。
【0109】
c.ジンクフィンガー技術
一実施形態では、細胞は、Znフィンガーヌクレアーゼ技術を使用して操作される。Znフィンガーヌクレアーゼは、ジンクフィンガーのDNA結合ドメインをDNA切断ドメインに融合させることによって生成される人工的な制限酵素である。ジンクフィンガードメインは、特定の所望のDNA配列を標的にするようにエンジニアリングすることができ、これにより、ジンクフィンガーヌクレアーゼが複雑なゲノム内の固有の配列を標的にすることができる。内因性DNA修復機構を利用することにより、これらの試薬を使用して、CRISPR及びTALENSと同様に、高等生物のゲノムを正確に変更することができる。
【0110】
d.ウイルスベースの技術
限定されるものではないが、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、及びセンダイウイルスベクターの使用を含む、本発明のSIRPαエンゲージャー細胞のいくつかの実施形態を形成するために使用することができる多種多様なウイルス技術が存在する。細胞の作製に使用されるエピソームベクターが以下に説明される。
【0111】
これらのすべての技術では、周知の組換え技術を使用して、本明細書に概説される組換え核酸が作製される。特定の実施形態では、SIRPαエンゲージャータンパク質、例えば、抗SIRPα免疫グロブリンをコードする組換え核酸は、発現構築物中の1つ又は複数の調節ヌクレオチド配列に動作可能に連結することができる。調節ヌクレオチド配列は、一般に、処置される宿主細胞及び対象に適切である。様々な宿主細胞に関して、多くの種類の適切な発現ベクター及び適切な調節配列が当技術分野で公知である。典型的には、1つ以上の調節ヌクレオチド配列は、限定されるものではないが、プロモーター配列、リーダー又はシグナル配列、リボソーム結合部位、転写開始及び終結配列、翻訳開始及び終結配列、並びにエンハンサー又はアクチベーター配列を含み得る。当技術分野で公知である構成的又は誘導性プロモーターもまた企図される。プロモーターは、天然に存在するプロモーター、又は複数のプロモーターの要素を組み合わせたハイブリッドプロモーターのいずれかであり得る。発現構築物は、プラスミドなどのエピソーム上の細胞に存在し得るか、又は発現構築物は、染色体に挿入され得る。特定の実施形態では、発現ベクターは、形質転換された宿主細胞の選択を可能にするための選択可能なマーカー遺伝子を含む。特定の実施形態は、少なくとも1つの調節配列に動作可能に連結された変異体ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む発現ベクターを含む。本明細書で使用するための調節配列には、プロモーター、エンハンサー、及び他の発現制御要素が含まれる。特定の実施形態では、発現ベクターは、形質転換される宿主細胞の選択、発現されることが望まれる特定の変異体ポリペプチド、ベクターのコピー数、そのコピー数を制御する能力、又は抗生物質マーカーなどのベクターによってコードされるその他のタンパク質の発現のために設計される。
【0112】
適切な哺乳類プロモーターの例には、例えば、以下の遺伝子由来のプロモーター:ハムスターのユビキチン/S27aプロモーター(国際公開第97/15664号パンフレット)、サル空胞ウイルス40(SV40)初期プロモーター、アデノウイルス主要後期プロモーター、マウスメタロチオネイン-Iプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)のロングターミナルリピート領域、マウス乳腺腫瘍ウイルスプロモーター(MMTV)、モロニーマウス白血病ウイルスのロングターミナルリピート領域、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)の初期プロモーター、真核生物の翻訳伸長因子1α(EF‐1α)、及びCMV初期エンハンサー(CAG)と結合したニワトリβ-アクチンプロモーターの遺伝子由来のプロモーターが含まれる。他の異種哺乳動物プロモーターの例は、アクチン、免疫グロブリン又は熱ショックプロモーター(複数可)である。
【0113】
追加の実施形態では、哺乳動物宿主細胞で使用するためのプロモーターは、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス(1989年7月5日に公開された英国特許第2,211,504号明細書)、ウシ乳頭腫ウイルス、トリ肉腫ウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルス、及びシミアンウイルス40(SV40)などのウイルスのゲノムから得ることができる。さらなる実施形態では、異種哺乳動物プロモーターが使用される。例には、アクチンプロモーター、免疫グロブリンプロモーター、及び熱ショックプロモーターが含まれる。SV40の初期及び後期プロモーターは、SV40ウイルスの複製起点も含むSV40制限断片として好都合に得られる。Fiers et al.,Nature 273:113-120(1978)。ヒトサイトメガロウイルスの前初期プロモーターは、HindIIIE制限断片として好都合に得られる。Greenaway,P.J.et al.,Gene 18:355-360(1982)。前述の参考文献は、その全体が参照により組み込まれる。
【0114】
いくつかの実施形態では、SIRPαエンゲージャー細胞は幹細胞に由来する。
【0115】
「多能性細胞」という用語は、未分化状態のままで自己複製及び増殖することができ、適切な条件下で、特殊な細胞型に分化するように誘導することができる細胞を指す。本明細書で使用される「多能性細胞」という用語は、胚性幹細胞(ESC)、及び胎児、羊膜、又は体性幹細胞を含む他のタイプの幹細胞を包含する。例示的なヒト幹細胞株には、H9ヒト胚性幹細胞株が含まれる。追加の例示的な幹細胞株には、国立衛生研究所のヒト胚性幹細胞登録(National Institutes of Health Human Embryonic Stem Cell Registry)及びハワード・ヒューズ医学研究所のHUESコレクション(Howard Hughes Medical Institute HUES collection)を通じて入手可能なものが含まれる(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Cowan,C.A.et.al,New England J.Med.350:13.(2004)に記載されている)。
【0116】
本明細書で使用される「多能性幹細胞」は、3つの胚葉:内胚葉(例えば、胃結合、胃腸管、肺など)、中胚葉(例えば、筋肉、骨、血液、泌尿生殖器組織など)、又は外胚葉(例えば、表皮組織及び神経系組織)のいずれかに分化する可能性がある。本明細書で使用される「多能性幹細胞」という用語もまた、非多能性細胞に由来する多能性幹細胞の一種である「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」を包含する。親細胞の例には、様々な手段によって多能性未分化表現型を誘導するように再プログラムされた体細胞が含まれる。このような「iPS」又は「iPSC」細胞は、特定の調節遺伝子の発現を誘導することによって、又は特定のタンパク質を外部から加えることによって作製することができる。iPS細胞を誘導するための方法は、当技術分野で公知であり、以下でさらに説明される。(例えば、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Zhou et al.,Stem Cells 27(11):2667-74(2009);Huangfu et al.,Nature Biotechnol.26(7):795(2008);Woltjen et al.,Nature 458(7239):766-770(2009);及びZhou et al.,Cell Stem Cell 8:381-384(2009)を参照されたい)。人工多能性幹細胞(iPSC)の作製が以下に概説される。本明細書で使用される「hiPSC」は、ヒト人工多能性幹細胞であり、「miPSC」は、マウス人工多能性幹細胞である。
【0117】
「多能性幹細胞の特徴」とは、多能性幹細胞を他の細胞と区別する細胞の特徴を指す。適切な条件下で、3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、外胚葉)のすべてからの細胞系統に関連する特徴をまとめて示す細胞型に分化し得る子孫を生み出す能力は、多能性幹細胞の特徴である。特定の組み合わせの分子マーカーの発現又は非発現も、多能性幹細胞の特徴である。例えば、ヒト多能性幹細胞は、以下の非限定的リスト:SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、TRA-1-81、TRA-2-49/6E、ALP、Sox2、E-カドヘリン、UTF-1、Oct4、Rexl、及びNanogのマーカーの少なくともいくつか、いくつかの実施形態ではすべてを発現する。多能性幹細胞に関連する細胞形態もまた、多能性幹細胞の特徴である。本明細書に記載されるように、細胞は、内胚葉前駆細胞及び/又は肝細胞に再プログラムされるために多能性を通過する必要はない。
【0118】
B.低免疫原性SIRPαエンゲージャー細胞の作製
HI細胞の作製は、わずか3つの遺伝子変化で行われ、細胞活性の阻害は最小限に抑えられるが、細胞に免疫サイレンシングを与える。この技術は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2018/132783号パンフレット、同第2020/018620号パンフレット、同第2020/018615号パンフレット、国際出願PCT/US2020/032272号明細書、及び米国特許出願第16/870,959号明細書、及び同第16/870,960号明細書に開示されている。これらの技術については、以下で簡単に説明する。
【0119】
本明細書で論じられるように、一実施形態は、MHC I及びII(細胞がヒトである場合にはHLA I及びII)のタンパク質活性の減少又は消失を利用する。これは、その構成要素をコードする遺伝子を変更することによって行うことができる。一実施形態では、遺伝子のコード領域又は調節配列は、CRISPRを使用して中断される。別の実施形態では、遺伝子翻訳は、干渉RNA技術を使用して低減される。別の実施形態は、マクロファージの食作用に対する感受性を調節する遺伝子の変化である。これは、ウイルス技術を使用する遺伝子の「ノックイン」であり得る。
【0120】
1.HLA-Iの減少
本発明のHI SIRPαエンゲージャー細胞は、MHC I(細胞がヒト細胞に由来する場合はHLA I)機能の低下を含む。
【0121】
当業者には理解されるように、機能の低下は、遺伝子からの核酸配列の除去、他の配列による配列の阻害、又は核酸の調節成分の変更を含む、いくつかの方法で達成することができる。例えば、目的の遺伝子のコード領域の全部又は一部を除去するか、又は「ナンセンス」配列で置き換えることができる、フレームシフト突然変異を生じさせることができる、プロモーターなどの調節配列の全部又は一部を除去又は置換することができる、翻訳開始配列を除去又は置換することができるなど。
【0122】
当業者には理解されるように、SIRPαエンゲージャー細胞におけるMHC I機能(細胞がヒト細胞に由来する場合はHLA I)の低下の成功は、当技術分野で公知の技術及び以下で説明される技術;例えば、HLA複合体に結合する標識抗体を使用する;例えば、ヒト主要組織適合遺伝子HLAクラスI抗原のアルファ鎖に結合する市販のHLA-A、B、C抗体を使用するFACS技術を使用して測定することができる。
【0123】
a.B2Mの改変
一実施形態では、本明細書に開示されるように、HLA-1活性の低下は、HI SIRPαエンゲージャー細胞におけるβ-2ミクログロブリン遺伝子の発現を妨害することによってなされる。この改変は、本明細書では一般に遺伝子「ノックアウト」と呼ばれ、本発明の細胞では、宿主細胞の両方の対立遺伝子に対して行われる。一般に、両方の妨害を行うための技術は同じである。
【0124】
特に有用な実施形態は、遺伝子を破壊するためにCRISPR技術を使用する。別の実施形態は、CRISPRベースのエピゲノム編集によるプログラム可能な転写記憶を使用する(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Nunez JK,Cell.184:2503-2519(2021))。場合によっては、CRISPR技術を使用して、遺伝子のコード領域に小さな欠失/挿入を導入し、機能性タンパク質が生成されないようにする。多くの場合、フレームシフト突然変異の結果として停止コドンが生成され、切断された非機能性タンパク質が作製されることになる。
【0125】
したがって、有用な技術は、マウスのB2M遺伝子又はヒトのB2M遺伝子のコード配列を標的とするように設計されたCRISPR配列を使用することである。遺伝子編集後、トランスフェクトされたSIRPαエンゲージャー細胞培養物は、単一細胞に解離する。単一細胞は、フルサイズのコロニーに拡大され、且つCRISPR切断部位からの異常な配列の存在をスクリーニングすることによってCRISPR編集について試験される。両方の対立遺伝子が欠失しているクローンが選択される。そのようなクローンは、PCRによって実証されたようにB2Mを発現せず、FACS分析によって実証されたようにHLA-Iを発現しなかった。
【0126】
B2M遺伝子が不活性化されているかどうかを試験するためのアッセイは公知であり、本明細書に記載されている。一実施形態では、アッセイは、B2Mタンパク質に対する抗体でプローブされた細胞溶解物のウエスタンブロットである。別の実施形態では、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(rt-PCR)により、不活性化する変更の存在を確認する。
【0127】
加えて、細胞を試験して、HLA I複合体が細胞表面で発現されていないことを確認することができる。これは、上記のように、1つ又は複数のHLA細胞表面成分に対する抗体を使用するFACS分析によってアッセイすることができる。
【0128】
2.HLA-IIの減少
いくつかの実施形態では、HLA Iの減少に加えて、本発明のHI SIRPαエンゲージャー細胞は、MHC II機能(ヒト由来細胞からのHLA II)も欠如し得る。
【0129】
当業者には理解されるように、機能の低下は、遺伝子からの核酸配列の除去、遺伝子への核酸配列の追加、リーディングフレームの破壊、他の配列による配列の阻害、又は核酸の調節成分の変更を含む、いくつかの方法で達成することができる。一実施形態では、目的の遺伝子のコード領域の全部又は一部が、除去されるか、又は「ナンセンス」配列で置換され得る。別の実施形態では、プロモーターなどの調節配列が除去又は置換され得る、翻訳開始配列が除去又は置換され得るなど。
【0130】
SIRPαエンゲージャー細胞又はその誘導体におけるMHC II(HLA II)機能の正常な低下は、例えば、タンパク質に対する抗体を使用するウエスタンブロッティング、FACS技術、rt-PCR技術などの当技術分野で公知の技術を使用して測定することができる。
【0131】
a.CIITAの改変
一実施形態では、本明細書に示されるように、HLA-II活性の低下は、SIRPαエンゲージャー細胞におけるCIITA遺伝子の発現を妨害することによって行われる。この改変は一般に、本明細書では遺伝子「ノックアウト」と呼ばれ、本発明のSIRPαエンゲージャー細胞では、宿主細胞の両方の対立遺伝子に対して行われる。
【0132】
CIITA遺伝子が不活性化されているかどうかを試験するためのアッセイは公知であり、本明細書に記載されている。一実施形態では、アッセイは、CIITAタンパク質に対する抗体でプローブされた細胞溶解物のウエスタンブロットである。別の実施形態では、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(rt-PCR)により、不活性化する変更の存在を確認する。
【0133】
加えて、細胞を試験して、HLA II複合体が細胞表面で発現されていないことを確認することができる。この場合も、このアッセイは、当技術分野で知られているように行われる。例示的な分析には、以下に概説されるように、ヒトHLAクラスII HLA-DR、DP、及びほとんどのDQ抗原に結合する市販の抗体を使用するウエスタンブロット又はFACS分析が含まれる。
【0134】
特に有用な実施形態は、CRISPR技術を使用してCIITA遺伝子を切断する。CRISPRは、すべてのMHC II分子に不可欠な転写因子であるCIITA遺伝子のコード配列を標的とするように設計されている。遺伝子編集後、トランスフェクトされた細胞培養物は、単一細胞に解離される。単一細胞は、フルサイズのコロニーに拡大され、CRISPR切断部位からの異常な配列の存在をスクリーニングすることによってCRISPR編集の成功が試験される。CIITAを発現しない欠失を持つクローンは、PCRによって決定され、FACS分析によってMHC II/HLA-IIを発現しないことが示され得る。別の実施形態は、CRISPRベースのエピゲノム編集によるプログラム可能な転写記憶を使用する。
【0135】
3.血液型O Rh陰性細胞
血液製剤は、人体内のあらゆる赤血球の表面上の抗原の有無に応じて、異なる型に分類することができる(ABO血液型)。A抗原、B抗原、AB抗原、及びA1抗原は、赤血球の糖タンパク質上のオリゴ糖の配列によって決定される。血液型抗原群の遺伝子は、抗原タンパク質を産生させるための指示を提供する。血液型抗原タンパク質は、赤血球の細胞膜内で様々な機能を果たす。これらのタンパク質の機能には、他のタンパク質や分子の細胞内外への輸送、細胞構造の維持、他の細胞や分子への付着、及び化学反応への参加が含まれる。
【0136】
Rh因子(Rh)血液型は、ABO血液型系に次いで2番目に重要な血液型系である。Rh血液型系は、49の定義された血液型抗原で構成されており、その中で5つの抗原、D、C、c、E、及びeが最も重要である。個人のRh(D)状態は通常、ABO型の後に陽性又は陰性の接尾辞を付けて記述される。「Rh因子」、「Rh陽性」、及び「Rh陰性」という用語は、Rh(D)抗原のみを指す。Rh抗原に対する抗体は、溶血性輸血反応に関与する可能性があり、Rh(D)及びRh(c)抗原に対する抗体は、胎児及び新生児の溶血性疾患の重大なリスクをもたらす。ABO抗体は、どのヒトでも若年期に発生する。しかしながら、Rh-ヒトのRh抗体は、その人が感作されている場合にのみ生じる。これは、rh+新生児の出産によって、又はRh+の輸血を受けることによって起こる。
【0137】
本発明は、移植及び/又は分化に適した多能性(PSCO-)細胞のABO血液型O及び/又はRh因子陰性(O-)集団を有するSIRPαエンゲージャー細胞を提供する。PSCO-細胞には、人工iPSC(iPSCO-)、胚性ESC(ESCO-)、及びこれらの細胞から分化した細胞(O-内皮細胞、O-心筋細胞、O-肝細胞、O-ドーパミン作動性ニューロン、O-膵島細胞、O-網膜色素内皮細胞、及び移植及び内科的治療に使用されるその他のO-細胞型を含む)が含まれる。これらには、CAR-T細胞、CAR-NK細胞などのO-キメラ抗原受容体(CAR)細胞、及びその他のエンジニアリングされた細胞集団が含まれることになる。いくつかの実施形態では、細胞は、造血幹細胞ではない。本発明は、特定の組織及び器官を生成又は再生するための、一般に許容される「市販の」ESCO-及びPSCO-及びそれらの誘導体をさらに提供する。
【0138】
本発明の別の態様は、移植のためのPSCO-細胞、iPSCO-細胞、ESCO-細胞、及び他のO-細胞の集団を作製する方法を提供する。本発明はまた、多能性細胞又は分化した細胞の移植から恩恵を受ける、疾患、障害、及び症状を治療する方法も提供する。
【0139】
本発明のいくつかの実施形態では、ABO血液型Oは、ABO血液型タンパク質発現の低下によって生じる。他の態様では、ABO血液型は、内因性O型である。本発明のいくつかの態様では、HIPO-細胞は、ABO遺伝子のヒトエクソン7の破壊に起因するABO血液型Oを有する。いくつかの実施形態では、ABO遺伝子のエクソン7の両方の対立遺伝子が破壊される。いくつかの実施形態では、ABO遺伝子のエクソン7の両方の対立遺伝子の破壊は、両方の対立遺伝子を破壊するクラスター化された規則的に間隔があいた短いパリンドロームリピート(CRISPR)/Cas9反応から生じる。別の実施形態は、この遺伝子を不活性化するために、CRISPRベースのエピゲノム編集によるプログラム可能な転写記憶を使用する。
【0140】
他の態様では、ABO血液型Oは、細胞表面上のABO遺伝子産物の酵素修飾によって生じる。好ましい態様では、酵素修飾により、ABO遺伝子産物から炭水化物を除去する。別の好ましい態様では、酵素修飾により、ABO A1抗原、A2抗原、又はB抗原から炭水化物を除去する。
【0141】
本発明のいくつかの実施形態では、Rh血液型は、内因性Rh-型である。別の態様では、Rh-血液型は、Rhタンパク質発現の減少又は排除によって生じる。別の態様では、Rh-型は、Rh C抗原、Rh E抗原、Kell K抗原(KEL)、Duffy(FY)Fya抗原、Duffy Fy3抗原、Kidd(JK)Jkb抗原、又は/及び又はKidd SLC14A1をコードする遺伝子の破壊によって生じる。いくつかの実施形態では、破壊は、Rh C抗原、Rh E抗原、Kell K抗原(KEL)、Duffy(FY)Fya抗原、Duffy Fy3抗原、Kidd(JK)Jkb抗原、又は/及び又はKidd SLC14A1をコードする遺伝子の両方の対立遺伝子を破壊するCRISPR/Cas9に反応よって生じる。
【0142】
本発明のいくつかの実施形態では、本発明のO-細胞(例えば、PSCO-細胞、iPSCO-細胞、ESCO-細胞、及びそれらに由来する細胞)は、哺乳類起源、例えば、ヒト、ウシ、ブタ、ニワトリ、七面鳥、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ラバ、アヒル、ガチョウ、バッファロー、ラクダ、ヤク、ラマ、アルパカ、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ハムスター、又はモルモット起源である。
【0143】
特定の実施形態では、本発明は、宿主同種異系免疫系による拒絶を回避し、血液抗原型拒絶を回避する、ABO血液型O Rh因子陰性(HIPO-)細胞を含む低免疫SIRPαエンゲージャー細胞を提供する。いくつかの実施形態では、HIPO-細胞は、HLA-I及びHLA-IIの発現を低減又は排除し、マクロファージ貪食に対する多能性細胞の感受性を低下させる内因性タンパク質の発現を増加させ、普遍的な血液型O Rh-(「O-」)血液型を含むようにエンジニアリングされる。普遍的な血液型は、ABO血液型A及びB抗原並びにRh因子発現を除去することによって、又はO-細胞株で開始することによって達成することができる。これらの新規なHIPO-細胞は、抗原提示能力の低下、自然免疫クリアランスからの保護、及び血液型拒絶の欠如を有するため、宿主免疫拒絶を回避する。
【0144】
4.自殺遺伝子
いくつかの実施形態では、本発明は、「自殺遺伝子」又は「自殺スイッチ」を含むHI SIRPαエンゲージャー細胞を提供する。これらは、細胞が望ましくない形で成長及び分裂した場合に細胞死を引き起こすことができる「安全スイッチ」として機能するように組み込まれる。「自殺遺伝子」除去アプローチでは、特定の化合物によって活性化された場合にのみ細胞死をもたらすタンパク質をコードする遺伝子導入ベクターに自殺遺伝子を含める。自殺遺伝子は、無毒の化合物を猛毒代謝物に選択的に変換する酵素をコードし得る。その結果、酵素を発現している細胞が特異的に除去される。いくつかの実施形態では、自殺遺伝子は、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-tk)遺伝子であり、トリガーはガンシクロビルである。他の実施形態では、自殺遺伝子は、大腸菌(Escherichia coli)シトシンデアミナーゼ(EC-CD)遺伝子であり、トリガーは、5-フルオロシトシン(5-FC)である(両方とも参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Barese et al.,Mol.Therap.20(10):1932-1943(2012)、Xu et al.,Cell Res.8:73-8(1998))。
【0145】
他の実施形態では、自殺遺伝子は、誘導性カスパーゼタンパク質である。誘導性カスパーゼタンパク質は、アポトーシスを誘導することができるカスパーゼタンパク質の少なくとも一部を含む。好ましい実施形態では、誘導性カスパーゼタンパク質はiCasp9である。iCasp9は、一連のアミノ酸を介してヒトカスパーゼ9をコードする遺伝子に接続された、F36V突然変異を有するヒトFK506結合タンパク質であるFKBP12の配列を含む。FKBP12-F36Vは、小分子二量体化剤であるAP1903に高い親和性で結合する。したがって、本発明におけるiCasp9の自殺機能は、二量体化の化学的誘導物質(CID)の投与によって引き起こされる。いくつかの実施形態では、CIDは、小分子薬物AP1903である。二量体化は、アポトーシスの迅速な誘導を引き起こす。(それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2011146862号パンフレット;Stasi et al,N.Engl.J.Med 365;18(2011);Tey et al.,Biol.Blood Marrow Transplant.13:913-924(2007)を参照されたい)。
【0146】
5.Fc隔離(Fc sequestration)
抗体がそのFab領域を介して保護されていない細胞に結合すると、Fcが、NK細胞(主にCD16受容体を介して)、マクロファージ(主にCD16、CD32、又はCD64を介して)、B細胞(主にCD32を介して)、又は顆粒球(主にCD16、CD32、又はCD64を介して)によって結合され得る。これらは、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介し得る。補体がFcに結合すると、補体依存性細胞傷害(CDC)を引き起こし得る。
【0147】
いくつかの実施形態では、本発明のSIRPαエンゲージャー細胞は、IgGのFc部分を認識する受容体を高レベルで含む。IgGのFc部分を認識する受容体は、4つの異なるクラス:FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)、及びFcγRIVに分類される。これにより、細胞移植レシピエントの免疫系が同種異系物質を拒絶する傾向が減少する。上昇したレベルのCD16、CD32、又はCD64を発現する細胞は、ADCC又はCDCを回避する。Fc隔離は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、国際公開第2021076427号パンフレットに開示されている。
【0148】
6.HI表現型のアッセイ
HI細胞が作製されたら、HI細胞は、本明細書に一般的に記載されるようにそれらの低免疫原性についてアッセイすることができる。
【0149】
例えば、低免疫原性は、いくつかの技術を使用してアッセイされる。1つの例示的な技術は、同種異系宿主への移植、及びHI SIRPαエンゲージャー細胞の生存についてのモニタリングを含む。細胞を形質導入してルシフェラーゼを発現させることができ、次いで生物発光イメージングを使用して追跡することができる。同様に、HI SIRPαエンゲージャー細胞に対する宿主動物のT細胞又はB細胞の応答を試験して、宿主動物で免疫応答が引き起こされないことを確認する。T細胞の機能が、Elispot、Elisa、FACS、PCR、又はマスサイトメトリー(CYTOF)によって評価される。B細胞応答又は抗体応答が、FACS又はluminexを使用して評価される。加えて、又は代わりに、細胞を、自然免疫応答、例えばNK細胞による死滅を回避するそれらの能力についてアッセイすることができる。NK細胞の細胞溶解性活性は、当技術分野で公知の技術を使用してインビトロ又はインビボで評価される。
【0150】
C.低免疫(HI)O-SIRPαエンゲージャー細胞の作製
本発明のいくつかの態様では、プロセスが血液型Oを有するNK細胞で開始されるため、上記のように作製されたSIRPαエンゲージャー細胞は、すでにABO血液型O及びRh因子陰性(-)細胞である。
【0151】
本発明の他の態様は、A及びB抗原の酵素的変換を含む。好ましい態様では、B抗原は、酵素を使用してOに変換される。好ましい態様では、酵素は、α-ガラクトシダーゼである。この酵素は、B抗原の末端ガラクトース残基を除去する。本発明の他の態様は、A抗原のOへの酵素的変換を含む。好ましい態様では、A抗原は、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼを使用してOに変換される。酵素変換については、例えば、それぞれ参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Olsson et al.,Transfusion Clinique et Biologique 11:33-39(2004);米国特許第4,427,777号明細書、同第5,606,042号明細書、同第5,633,130号明細書、同第5,731,426号明細書、同第6,184,017号明細書、同第4,609,627号明細書、及び同第5,606,042号明細書;及び国際公開第9923210号パンフレットで論じられている。
【0152】
本発明の他の実施形態は、ABO遺伝子エキソン7をノックアウトするか、又はSLC14A1(JK)遺伝子をサイレンシングすることによって細胞を遺伝子学的にエンジニアリングすることを含む。本発明の他の実施形態は、Rh血液型(RH)のC及びE抗原、ケル式血液型(KEL)のK、ダッフィ式血液型(FY)のFya及びFy3、キッド式血液型(JK)のJkb、又はMNS血液型のU及びSのノックアウトを含む。CRISPR、talen、又は相同組換えなどの当技術分野で公知である、又は本明細書に記載される任意のノックアウト方法を使用することができる。
【0153】
低免疫ABO血液型O Rh因子(-)細胞を作製するための技術は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第62/846,399号明細書に記載されている。
【0154】
D.本発明の実施形態
本発明のSIRPαエンゲージャー細胞又はその誘導体は、例えば、1型糖尿病、心疾患、神経疾患、癌、失明、血管疾患、及び再生薬物療法に応答する他の疾患/障害を治療するために使用することができる。特に、本発明は、任意の細胞型への分化のためにSIRPαエンゲージャー細胞を使用することを企図する。したがって、ヒト患者などの同種異系宿主に移植された場合、多能性を示すが宿主の自然免疫応答をもたらさない、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、及びHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞又はその誘導体若しくは分化した細胞が本明細書で提供される。
【0155】
一態様では、本発明は、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を含むSIRPαエンゲージャー細胞又はその誘導体を提供し、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示されている。CARは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、及び細胞内シグナル伝達ドメインを含み得る。いくつかの実施形態では、細胞外ドメインは、CD19、CD20、CD22、CD38、CD123、CS1、CD171、BCMA、MUC16、ROR1、及びWT1からなる群から選択される抗原に結合する。特定の実施形態では、細胞外ドメインは、単鎖可変断片(scFv)を含む。いくつかの実施形態では、膜貫通ドメインは、CD3ζ、CD4、CD8α、CD28、4-1BB、OX40、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、及びBTLAを含む。特定の実施形態では、細胞内シグナル伝達ドメインは、CD3ζ、CD28、4-1BB、OX40、ICOS、CTLA-4、PD-1、LAG-3、及びBTLAを含む。
【0156】
特定の実施形態では、CARは、抗CD19 scFvドメイン、CD28膜貫通ドメイン、及びCD3ζシグナル伝達細胞内ドメインを含む。いくつかの実施形態では、CARは、抗CD19 scFvドメイン、CD28膜貫通ドメイン、4-1BBシグナル伝達細胞内ドメイン、及びCD3ζシグナル伝達細胞内ドメインを含む。
【0157】
本発明の別の態様では、本明細書に記載の多能性細胞のいずれか1つのインビトロ分化によって産生される、単離されたSIRPαエンゲージャーCAR-T細胞又は低免疫CAR-T細胞が提供される。いくつかの実施形態では、CAR-T細胞は、細胞傷害性HIPO-CAR-T細胞である。
【0158】
いくつかの態様では、本発明は、SIRPαエンゲージャーNK細胞又はCAR-NK細胞を提供する。
【0159】
様々な実施形態では、インビトロ分化は、bFGF、EPO、Flt3L、IGF、IL-3、IL-6、IL-15、GM-CSF、SCF、及びVEGFからなる群から選択される1つ又は複数の成長因子又はサイトカインを含む培養培地でCAR構築物を有するSIRPαエンゲージャー細胞又はその誘導体を培養することを含む。いくつかの実施形態では、培養培地は、BMP活性化因子、GSK3阻害剤、ROCK阻害剤、TGFβ受容体/ALK阻害剤、及びNOTCH活性化因子からなる群から選択される1つ又は複数の成長因子又はサイトカインをさらに含む。
【0160】
特定の実施形態では、単離されたSIRPαエンゲージャーCAR-T細胞又はCAR-NK細胞は、CAR-T構築物を有するiPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞のいずれか1つのインビトロ分化によって産生される。他の実施形態では、これらの細胞は、癌を治療するために使用される。
【0161】
本発明の別の態様では、治療有効量の、本明細書に記載の単離されたSIRPαエンゲージャーCAR-T CAR-NK細胞のいずれかを含む組成物を投与することによって癌患者を治療する方法が提供される。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。
【0162】
いくつかの実施形態では、投与ステップは、静脈内投与、皮下投与、節内投与、腫瘍内投与、くも膜下腔内投与、胸膜腔内投与、及び腹腔内投与を含む。特定の場合には、投与は、ボーラス投与又は連続灌流による投与をさらに含む。
【0163】
いくつかの実施形態では、癌は、白血病、リンパ腫、及び骨髄腫からなる群から選択される血液癌である。様々な実施形態では、癌は、固形腫瘍癌又は液性腫瘍癌である。
【0164】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載の単離されたSIRPαエンゲージャーCAR-T CAR-NK細胞のいずれか1つを作製する方法を提供する。この方法は、本発明のiPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞のいずれか1つをインビトロで分化させることを含む。インビトロ分化は、bFGF、EPO、Flt3L、IGF、IL-2、IL-3、IL-6、IL-7、IL-15、GM-CSF、SCF、及びVEGFからなる群から選択される1つ又は複数の成長因子又はサイトカインを含む培養培地で細胞を培養することを含み得る。いくつかの実施形態では、培養培地は、BMP活性化因子、GSK3阻害剤、ROCK阻害剤、TGFβ受容体/ALK阻害剤、及びNOTCH活性化因子からなる群から選択される1つ又は複数の成長因子又はサイトカインをさらに含む。
【0165】
いくつかの実施形態では、インビトロ分化は、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞をフィーダー細胞上で培養することを含む。様々な実施形態では、インビトロ分化は、模擬微小重力状態で培養することを含む。特定の場合には、模擬微小重力状態での培養は少なくとも72時間である。
【0166】
いくつかの態様では、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞から分化した、単離されエンジニアリングされた低免疫心臓細胞(低免疫原性心臓細胞)、例えば心筋細胞が本明細書で提供される。
【0167】
心筋細胞は、ABO血液型抗原を欠いていると以前は考えられていた。ABO血液型Bのヒト胚性幹細胞株が心筋細胞様細胞に分化するとB抗原が消失することが観察され、これらの抗原の消失がヒト胚発生の初期に起こり得ることが示唆された。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Molne et al.,Transplantation.86(10):1407-13(2008)を参照されたい。他の研究では、ヒト人工多能性幹細胞の心筋細胞様細胞への分化により、これらの細胞におけるABO血液型A抗原の進行性の喪失が引き起こされることも報告された。例えば、Saljo et al.,Scientific Reports.13072:1-14(2017)を参照されたい。しかしながら、驚くべきことに、本発明者らは、心筋細胞が、不適合レシピエントに対してそのような細胞の拒絶反応を引き起こし得るABO血液型抗原を発現することを見出した。
【0168】
したがって、いくつかの態様では、心臓の状態又は疾患に苦しんでいる患者を治療する方法が本明細書で提供される。この方法は、本明細書に記載のように、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞に由来する、治療有効量の、単離されたSIRPαエンゲージャー心臓細胞のいずれか1つの集団を含む組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。
【0169】
いくつかの実施形態では、投与は、患者の心臓組織への移植、静脈内注射、動脈内注射、冠動脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、心筋内注射、経心内膜注射、経心外膜注射、又は注入を含む。
【0170】
いくつかの実施形態では、心臓の状態又は疾患は、小児心筋症、加齢性心筋症、拡張型心筋症、肥大型心筋症、拘束型心筋症、慢性虚血性心筋症、周産期心筋症、炎症性心筋症、他の心筋症、心筋炎、心筋虚血性再灌流傷害、心室機能不全、心不全、うっ血性心不全、冠状動脈疾患、末期心臓病、アテローム性動脈硬化症、虚血、高血圧、再狭窄、狭心症、リウマチ性心疾患、動脈炎、又は心血管疾患からなる群から選択される。
【0171】
いくつかの態様では、インビトロ分化によってSIRPαエンゲージャー細胞の集団から心臓細胞の集団を作製する方法が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示されている。この方法は:(a)GSK阻害剤を含む培養培地でSIRPαエンゲージャー細胞の集団を培養すること、(b)WNTアンタゴニストを含む培養培地でSIRPαエンゲージャー細胞の集団を培養して、前心臓細胞(pre-cardiac cell)の集団を作製すること;並びに(c)インスリンを含む培養培地で前心臓細胞の集団を培養して、O-低免疫心臓細胞の集団を作製することを含む。いくつかの実施形態では、GSK阻害剤は、CHIR-99021、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、GSK阻害剤は、約2μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、WNTアンタゴニストは、IWR1、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、WNTアンタゴニストは、約2μM~約10μMの範囲の濃度である。
【0172】
いくつかの態様では、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞から分化した、単離されエンジニアリングされたSIRPαエンゲージャー内皮細胞が本明細書で提供される。他の態様では、単離されエンジニアリングされたO-又はO-低免疫内皮細胞は、毛細血管内皮細胞、血管内皮細胞、大動脈内皮細胞、脳内皮細胞、及び腎内皮細胞からなる群から選択される。
【0173】
いくつかの態様では、血管の状態又は疾患に苦しんでいる患者を治療する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、この方法は、治療有効量の、単離されエンジニアリングされたSIRPαエンゲージャー内皮細胞の集団を含む組成物を投与することを含む。
【0174】
いくつかの実施形態では、この方法は、治療有効量の、本明細書に記載の単離されエンジニアリングされたSIRPαエンゲージャー内皮細胞のいずれか1つの集団を含む組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。いくつかの実施形態では、投与は、患者の心臓組織への移植、静脈内注射、動脈内注射、冠動脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、心筋内注射、経心内膜注射、経心外膜注射、又は注入を含む。
【0175】
いくつかの実施形態では、血管の状態又は疾患は、血管損傷、心血管疾患、血管疾患、虚血性疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全、高血圧、虚血性組織損傷、四肢虚血、脳卒中、神経障害、及び脳血管疾患からなる群から選択される。
【0176】
いくつかの態様では、インビトロ分化による、iPSC、ESC、HIP、iPSCO、ESCO、HIPO、iPSCO-、ESCO-、又はHIPO-SIRPαエンゲージャー細胞の集団からSIRPαエンゲージャー内皮細胞の集団を作製する方法が本明細書で提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示される。この方法は:(a)GSK阻害剤を含む第1の培養培地で細胞を培養することと、(b)VEGF及びbFGFを含む第2の培養培地で細胞の集団を培養して、前内皮細胞(pre-endothelial cell)の集団を作製すること;並びに(c)ROCK阻害剤及びALK阻害剤を含む第3の培養培地で前内皮細胞の集団を培養して、低免疫内皮細胞の集団を作製することを含む。
【0177】
いくつかの実施形態では、GSK阻害剤は、CHIR-99021、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、GSK阻害剤は、約1μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ROCK阻害剤は、約1μM~約20μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、ALK阻害剤は、SB-431542、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ALK阻害剤は、約0.5μM~約10μMの範囲の濃度である。
【0178】
いくつかの実施形態では、第1の培養培地は、2μM~約10μMのCHIR-99021を含む。いくつかの実施形態では、第2の培養培地は、50ng/mlのVEGF及び10ng/mlのbFGFを含む。他の実施形態では、第2の培養培地は、Y-27632及びSB-431542をさらに含む。様々な実施形態では、第3の培養培地は、10μMのY-27632及び1μMのSB-431542を含む。特定の実施形態では、第3の培養培地は、VEGF及びbFGFをさらに含む。特定の場合には、第1の培養培地及び/又は第2の培地にはインスリンが存在しない。
【0179】
いくつかの態様では、SIRPαエンゲージャー細胞から分化した、単離されエンジニアリングされたSIRPαエンゲージャードーパミン作動性ニューロン(DN)が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示され、ニューロンは、血液型O及びRh-である。
【0180】
いくつかの実施形態では、単離されたSIRPαエンゲージャードーパミン作動性ニューロンは、神経幹細胞、神経前駆細胞、未成熟ドーパミン作動性ニューロン、及び成熟ドーパミン作動性ニューロンからなる群から選択される。
【0181】
いくつかの態様では、神経変性疾患又は神経変性状態に苦しんでいる患者を治療する方法が本明細書で提供される。いくつかの実施形態では、この方法は、治療有効量の、単離されたSIRPαエンゲージャードーパミン作動性ニューロンのいずれか1つの集団を含む組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。いくつかの実施形態では、単離された低免疫ドーパミン作動性ニューロンの集団は生分解性足場上にある。いくつかの実施形態では、投与は、移植又は注射を含み得る。いくつかの実施形態では、神経変性疾患又は状態は、パーキンソン病、ハンチントン病、及び多発性硬化症からなる群から選択される。
【0182】
いくつかの態様では、インビトロ分化によってSIRPαエンゲージャー細胞の集団からSIRPαエンゲージャードーパミン作動性ニューロンの集団を作製する方法が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示され、血液型はO及びRh-である。いくつかの実施形態では、この方法は、(a)未成熟ドーパミン作動性ニューロンの集団を作製するために、ソニックヘッジホッグ(SHH)、BDNF、EGF、bFGF、FGF8、WNT1、レチノイン酸、GSK3β阻害剤、ALK阻害剤、及びROCK阻害剤からなる群から選択される1つ又は複数の因子を含む第1の培養培地で細胞の集団を培養すること;並びに(b)未成熟ドーパミン作動性ニューロンの集団を、第1の培養培地とは異なる第2の培養培地で培養して、ドーパミン作動性ニューロンの集団を作製することを含む。
【0183】
いくつかの実施形態では、GSKβ阻害剤は、CHIR-99021、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、GSKβ阻害剤は、約2μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、ALK阻害剤は、SB-431542、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ALK阻害剤は、約1μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、第1の培養培地及び/又は第2の培養培地には動物血清が存在しない。
【0184】
いくつかの実施形態では、この方法は、非ドーパミン作動性ニューロンから低免疫ドーパミン作動性ニューロンの集団を単離することも含む。いくつかの実施形態では、この方法は、単離された低免疫ドーパミン作動性ニューロンの集団を凍結保存することをさらに含む。
【0185】
いくつかの態様では、SIRPαエンゲージャー細胞から分化した、単離されたSIRPαエンゲージャー低免疫膵島細胞が本明細書で提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示され、血液型はO及びRh-である。
【0186】
いくつかの実施形態では、単離されたSIRPαエンゲージャー膵島細胞は、膵島前駆細胞、未成熟膵島細胞、及び成熟膵島細胞からなる群から選択される。
【0187】
いくつかの態様では、糖尿病に苦しんでいる患者を治療する方法が本明細書で提供される。この方法は、治療有効量の、本明細書に記載の単離されたSIRPαエンゲージャー膵島細胞のいずれか1つの集団を含む組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。いくつかの実施形態では、単離された低免疫膵島細胞の集団は生分解性足場上にある。場合によっては、投与は、移植又は注射を含む。
【0188】
いくつかの態様では、インビトロ分化によってHIPO-細胞の集団からSIRPαエンゲージャー膵島細胞の集団を作製する方法が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示され、HIPO-細胞では血液型はO及びRh-である。この方法は:(a)インスリン様成長因子(IGF)、形質転換成長因子(TGF)、線維芽細胞成長因子(EGF)、上皮成長因子(EGF)、肝細胞成長因子(HGF)、ソニックヘッジホッグ(SHH)、及び血管内皮成長因子(VEGF)、形質転換成長因子-β(TGFβ)スーパーファミリー、骨形成タンパク質-2(BMP2)、骨形成タンパク質-7(BMP7)、GSK3β阻害剤、ALK阻害剤、BMP1型受容体阻害剤、及びレチノイン酸からなる群から選択される1つ又は複数の因子を含む第1の培養培地でSIRPαエンゲージャー細胞の集団を培養して未成熟膵島細胞の集団を作製すること;並びに(b)第1の培養培地とは異なる第2の培養培地で未成熟膵島細胞の集団を培養して、低免疫膵島細胞の集団を作製することを含む。
【0189】
いくつかの実施形態では、GSK阻害剤は、CHIR-99021、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、GSK阻害剤は、約2μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、ALK阻害剤は、SB-431542、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ALK阻害剤は、約1μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、第1の培養培地及び/又は第2の培養培地には動物血清が存在しない。
【0190】
いくつかの実施形態では、この方法は、非膵島細胞からSIRPαエンゲージャー膵島細胞の集団を単離することも含む。いくつかの実施形態では、この方法は、低免疫膵島細胞の単離された集団を凍結保存することをさらに含む。
【0191】
いくつかの態様では、SIRPαエンゲージャー細胞から分化した、単離されエンジニアリングされたSIRPαエンゲージャー網膜色素上皮(RPE)細胞が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示され、血液型はO及びRh-である。
【0192】
いくつかの実施形態では、単離されたSIRPαエンゲージャー細胞RPE細胞は、RPE前駆細胞、未成熟RPE細胞、成熟RPE細胞、及び機能性RPE細胞からなる群から選択される。
【0193】
いくつかの態様では、眼症状に苦しんでいる患者を治療する方法が本明細書で提供される。この方法は、治療有効量の、本明細書に記載の単離されたSIRPαエンゲージャー細胞RPE細胞の集団のいずれか1つの集団を含む組成物を投与することを含む。いくつかの実施形態では、組成物は、治療効果のある担体をさらに含む。いくつかの実施形態では、単離された低免疫RPE細胞の集団は生分解性足場上にある。いくつかの実施形態では、投与は、患者の網膜への移植又は注射を含む。いくつかの実施形態では、眼症状は、湿性黄斑変性、乾性黄斑変性、若年性黄斑変性、レーバー先天性黒内障、網膜色素変性症、及び網膜剥離からなる群から選択される。
【0194】
いくつかの態様では、インビトロ分化によってSIRPαエンゲージャー細胞の集団からSIRPαエンゲージャー網膜色素上皮(RPE)細胞の集団を作製する方法が本明細書に提供され、内因性β-2ミクログロブリン(B2M)遺伝子活性及び内因性クラスIIトランス活性化因子(CIITA)遺伝子活性が除去され、SIRPαエンゲージャー分子が細胞表面に提示される。この方法は:(a)アクチビンA、bFGF、BMP4/7、DKK1、IGF1、ノギン、BMP阻害剤、ALK阻害剤、ROCK阻害剤、及びVEGFR阻害剤からなる群から選択されるいずれか1つの因子を含む第1の培養培地でSIRPαエンゲージャーの集団を培養してpre-RPE細胞の集団を作製すること;並びに(b)第1の培養培地とは異なる第2の培養培地でpre-RPE細胞の集団を培養して、低免疫RPE細胞の集団を作製することを含む。
【0195】
いくつかの実施形態では、ALK阻害剤は、SB-431542、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ALK阻害剤は、約2μM~約10μMの範囲の濃度である。いくつかの実施形態では、ROCK阻害剤は、Y-27632、その誘導体、又はその変異体である。場合によっては、ROCK阻害剤は、約1μM~約10μMの範囲の濃度である。
【0196】
いくつかの実施形態では、第1の培養培地及び/又は第2の培養培地には動物血清が存在しない。
【0197】
いくつかの実施形態では、この方法は、非RPE細胞からSIRPαエンゲージャーRPE細胞の集団を単離することをさらに含む。いくつかの実施形態では、この方法は、低免疫RPE細胞の単離された集団を凍結保存することをさらに含む。
【0198】
E.HI SIRPαエンゲージャー細胞の移植
当業者には理解されるように、HI SIRPαエンゲージャー細胞は、当技術分野で公知である技術を使用して移植される。一般に、本発明のHI SIRPαエンゲージャー細胞は、患者の特定の位置における静脈内に又は注射によって移植される。特定の部位に移植される場合、細胞をゲルマトリックス中に懸濁して細胞が定着する間の分散を防止することができる。
【0199】
本明細書に記載の本発明をより完全に理解できるようにするために、以下の実施例を説明する。これらの実施例は、説明のみを目的としており、いかなる形でも本発明を限定するものとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【実施例】
【0200】
VIII.実施例
実施例1:SIRPαの会合は自然免疫細胞をサイレンシングする
NK細胞における阻害SIRPα経路を、NK細胞阻害についてのCD47非依存性アッセイを使用して分析した。SIRPαは、NK細胞に対する強力な抑制性受容体であることが判明した。
【0201】
NK細胞におけるSIRPαの機能的役割を、FcR+P815マウス肥満細胞腫細胞株に対する抗体依存性細胞傷害性アッセイで評価した(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Gajewski et al.Curr Protoc Immunol.Chapter 20(2001),doi:10.1002/0471142735.im2004s43)。NK細胞又はT細胞上の活性化又は抑制性受容体に対するアゴニスト抗体を使用して、P815マウス肥満細胞腫細胞株上のFc受容体に会合させた。これらはそれぞれ、この標的細胞株の死滅を増加又は減少させた。同様に、CD16に対する抗体は、細胞溶解性NK細胞活性を開始したが、CD56のような他の膜分子に対する対照抗体はそうではなかった。参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Lanier et al.Immunol Rev 155:145-154(1997);Lanier et al.J Immunol 141:3478-3485(1988);Siliciano et al.Nature 317:428-430(1985)を参照されたい。
【0202】
SIRPαに対するアゴニスト抗体は、高い特異性でSIRPα誘導性NK細胞阻害を引き起こしたため、CD47と別の未知の受容体との間の相互作用がNK細胞阻害に寄与する可能性が排除される。FLuc+P815細胞の標的細胞死滅を、4時間にわたるその生物発光イメージング(BLIシグナル)の低下によって評価した。初代ヒトCD3-CD7+CD56+NK細胞を、IL-2で72時間刺激して、その死滅応答を活性化した。IL-2は、活性化NK細胞シグナルを提供し、またSIRPαの表面発現を増加させる。
図1Aは、強力なSIRPα発現の代表的なフローサイトメトリーヒストグラムを示す。P815の約50%が、IL-2刺激CD3-CD7+CD56+NK細胞によって死滅した(
図1B及び
図1Cの左のバー)。NK細胞の死滅は、CD16が抗CD16(
図1B)によって架橋されると、架橋NKG2D(
図1C)による程度よりも低いがさらに増加した。CD16及びNKG2Dの両方が、NK細胞に強力な活性化経路を提供する。SIRPαの同時会合は、P815溶解を阻害し、両方の刺激シグナルを相殺した。CD56は、活性化又は阻害機能が欠如しているNK細胞表面タンパク質である。このアッセイでは、CD56の抗体との架橋は、NK細胞の細胞毒性に影響を与えなかった。したがって、NK細胞SIRPαの阻害特性は、CD47非依存的に確認された。したがって、SIRPαに対して高度に特異的な抗体は、CD47を使用せずにこの阻害経路を誘発し、したがって、SIRPαの会合が、対象への移植時の標的細胞のNK細胞死滅及び自然免疫を回避するのに十分であることを示している。
【0203】
実施例2:標的細胞に結合したSIRPαエンゲージャーはNK細胞を阻害する
初代ヒトCD3-CD7+CD56+NK細胞をIL-2で72時間刺激して、B2M-/-CIITA-/-iPSC由来内皮細胞(iEC)に対する効果的な死滅応答を活性化させた。刺激されたCD3-CD7+CD56+NK細胞をFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECと共にインキュベートすると、そのBLIシグナルの低下によって示されるように、標的細胞の約90%が4時間以内に急速に死滅した。CD64は、IgG Fcに対する高親和性受容体であり、CD64は、CD64に結合することによって遊離IgGを捕捉する。CD64は、レンチウイルストランスフェクションを使用してB2M-/-CIITA-/-iEC上で発現させた。アゴニスト抗SIRPα IgG1抗体を、CD64を発現する標的細胞と共にインキュベートした。IgG1は、アンカーとしてそのFc断片を介してCD64に結合した。抗体Fab断片は、遊離しており、免疫エフェクター細胞上のSIRPαのそのエピトープと会合する準備ができていた。このような細胞は、「SIRPαエンゲージャー細胞」である。IL-2活性化NK細胞と共にインキュベートすると、SIRPαエンゲージャーが、標的細胞の死滅を防止した(
図2)。抗SIRPα IgG1抗体が、エンジニアリングされた標的細胞のADCCを媒介するのを防止するために、NK細胞上のCD16を、抗CD16Fabを使用してブロックした。
【0204】
方法:
NK細胞培養。ヒト初代NK細胞を、Stemcell Technologies (70036,Vancouver,Canada)から購入し、アッセイを行う前にRPMI-1640と10%FCS hi及び1%pen/strep中で培養した。CD3-CD7+CD56+初代ヒトNK細胞をFACSAria Fusionで選別した。
【0205】
P815 BLI死滅アッセイ。Fluc+P815細胞をカウントし、96ウェル当たり1×103個の細胞数の濃度でプレーティングし、10:1のE:T比でCD3-CD7+CD56+初代ヒトNK細胞と混合した。すべてのNK細胞を、1μg/mL濃度のヒトIL-2(Life Technologies (Carlsbad,CA))と共に72時間プレインキュベートした。BLI死滅アッセイで4時間後、ルシフェラーゼの発現を、D-ルシフェリン(Promega (Madison,WI))を添加することによって検出した。対照として、標的細胞を、未処理のままか、又は細胞特異的培地中の2%Triton X-100で処理した。いくつかの条件では、標的細胞を、抗CD16抗体(クローン3G8、BioLegend (San Diego,CA)、マウスIgG1、κ、10μg/ml)、抗NKG2D抗体(クローン149810、マウスIgG1、R&D Systems(Minneapolis,MI)、10μg/ml)、抗SIRPα(クローン2H7E2、マウスIgG1、抗体-オンライン(Aachen,Germany)、10μg/ml)、又は抗CD56(クローンNCAM1/784、マウスIgG1、Abeam (Cambridge,MA)、10μg/ml)で処理した。シグナルを、Ami HT(Spectral Instruments Imaging(Tucson,AZ))を使用してp/s/cm2/srで定量化した。
【0206】
ホタルルシフェラーゼを発現させるためのヒトiPSCの培養及び形質導入。ヒトB2M-/-CIITA-/-iPSCを、希釈したフィーダーフリーマトリゲル(hESC認定、BD Biosciences,San Jose,CA)でコーティングした10cm皿のEssential 8 Flex培地(Thermo Fisher Scientific,Carlsbad,CA)中で培養した。培地を24時間ごとに交換し、Versene(Gibco,Carlsbad,CA)を1:6の比率で細胞継代に使用した。ルシフェラーゼ形質導入では、1×105個のiPSCを1つの6ウェルプレートにプレーティングし、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、培地を交換し、再エンジニアリングしたEF1aプロモーター(Gen Target,San Diego,CA)下でルシフェラーゼII遺伝子を発現するFlucレンチウイルス粒子の1つのバイアルを1.5mlの培地に添加した。36時間後、1mlの細胞培地を添加した。24時間後、完全培地を交換した。2日後、D-ルシフェリン(Promega,Madison,WI)を添加することによってルシフェラーゼの発現を確認した。シグナルを、p/s/cm2/srで定量化した。
【0207】
CD64を発現するB2M-/-CIITA-/-iECの作製。Fluc+B2M-/-CIITA-/-iECを、以下のようにFLuc+B2M-/-CIITA-/-iPSCと区別した。分化プロトコルを、60%のiPSCコンフルエンシーで開始した。培地を、2%B-27マイナスインスリン(Thermo Fisher Scientific,cat no A1895601)及び5μM CHIR-99021(Selleckchem,Munich,Germany,cat no CT99021)を含むRPMI-1640(Gibco,cat no 11-875-101)に交換した。2日目に、培地を還元培地:2%B-27マイナスインスリン(Gibco)及び2μM CHIR-99021(Selleckchem)を含むRPMI-1640に交換した。培養の4日目から7日目まで、細胞を、RPMI-1640EC培地、即ち、RPMI-1640EC培地、2%B-27マイナスインスリンと50ng/mlヒト血管内皮成長因子(VEGF;R&D Systems,Minneapolis,MN,cat no 293-VE-010)、10ng/mlヒト線維芽細胞成長因子(塩基性)(FGFb;R&D Systems,cat no 233-FB-010)、10μM Y-27632(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,cat no Y0503)、及び1μM SB 431542(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO,cat no S4317)を含むRPMI-1640に曝露した。内皮細胞クラスターを、7日目から確認でき、細胞を、内皮細胞基礎培地2(PromoCell,Heidelberg,Germany cat no C-22010)とサプリメント、10%FCS hi(Gibco,cat no 16-140-071)、1%pen/strep、25ng/ml VEGF、2ng/ml FGFb、10μM Y-27632、及び1μM SB431542で維持した。分化プロトコルは、分化プロセス中に未分化細胞が剥離した14日後に完了した。TrypLE Express(Gibco,cat no 12605010)を使用して、3~4日ごとに1:3で細胞を継代した。次いで、B2M-/-CIITA-/-iPSC由来上皮細胞に、CD64を発現するレンチウイルスベクターで形質導入した。プレコート12ウェルプレートにおいて、1.5×105個のヒトB2M-/-CIITA-/-iECを細胞特異的培地にプレーティングし、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、細胞を、感染多重度4で、ヒトCD64の導入遺伝子を有するレンチウイルス粒子(NM_000566,Origene,catalog no.RC207487L2V)と共に一晩インキュベートした。ポリブレン(8μg/ml,Millipore,Burlington,MA)を培地に添加し、プレートを800gで30分間遠心分離してから、一晩インキュベートした。細胞集団を、BV421標識抗ヒトCD64抗体(クローン10.1,BD Biosciences,San Jose,CA,catalog no.305002)を使用してFACSAria(BD Biosciences)で選別した。
【0208】
抗SIRPα抗体を使用した場合のiEC BLI死滅アッセイ。Fluc+B2M-/-CIITA-/-iEC及びB2M-/-CIITA-/-CD64導入遺伝子(tg)iECをカウントし、96ウェルプレート当たり1×103個の細胞数の濃度でプレーティングした。B2M-/-CIITA-/-CD64 tg iECを、抗SIIRPa抗体(クローンP362, ヒトIgG1,Creative Biolabs,10μg/ml)と共に30分間インキュベートした。並行して、CD3-CD7+CD56+初代ヒトNK細胞を、1μg/mLの濃度のヒトIL-2(Life Technologies)と共に72時間プレインキュベートした。次いで、それらを抗CD16 Fab(クローン3G8,10μg/ml,Ancell,Bayport,MN)と共にインキュベートして、CD16をブロックし、その後のADCCを防止した。次いで、すべての標的細胞を、CD3-CD7+CD56+初代ヒトNK細胞と10:1のE:T比で混合した。BLI死滅アッセイで4時間後、ルシフェラーゼの発現を、D-ルシフェリン(Promega,cat no P1041)を添加することによって検出した。対照として、標的細胞を、未処理のままか、又は細胞特異的培地中の2%Triton X-100で処理した。シグナルを、Ami HT(Spectral Instruments Imaging)を使用してp/s/cm2/srで定量化した。
【0209】
実施例3:合成SIRPαエンゲージャー融合タンパク質を発現するB2M-/-CIITA-/-iECの作製
B2M-/-CIITA-/-iECに、以下を発現するレンチウイルスベクターで形質導入した:
・CD47-CD64 SIRPαエンゲージャーハイブリッドタンパク質:CD47細胞外ドメイン(ECD)をCD64膜貫通ドメイン(TMD)と融合した。(配列番号:16、CD47-CD64ハイブリッド)
・抗SIRPα-CD64エンゲージャー融合タンパク質:3つの抗SIRPα CDRをCD64 TMDと融合した(配列番号17、抗体融合体1)
・抗SIRPα-CD64エンゲージャー融合タンパク質:3つの抗SIRPα CDRをCD64 TMDと融合した(配列番号18、抗体融合体2)
【0210】
ハイブリッド配列及び融合配列を有するレンチウイルスを、GenTarget, San Diego, CAに特別注文した。プレコート12ウェルプレートにおいて、1.5×105個のヒトB2M-/-CIITA-/-iECを細胞特異的培地にプレーティングし、次いで、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、細胞を、感染多重度4で、SIRPαエンゲージャー融合タンパク質の配列の1つを有するレンチウイルス粒子と共にインキュベートした。翌日、ポリブレン(8μg/ml,Millipore)を培地に添加し、プレートを800gで30分間遠心分離してから、一晩インキュベートした。細胞集団を、レンチウイルスベクターに含まれるRFPタグを使用してFACSAria(BD Biosciences)で選別した。
【0211】
実施例4:合成SIRPαエンゲージャー融合タンパク質を発現するiECのBLI死滅アッセイ
CD47-CD64ハイブリッドタンパク質、抗体融合体1タンパク質、又は抗体融合2タンパク質のいずれかを発現するFluc+B2M-/-CIITA-/-iEC及びB2M-/-CIITA-/-iECをカウントし、96ウェルプレート当たり1×103個の細胞数の濃度でプレーティングした。並行して、初代ヒトNK細胞を、1μg/mLの濃度のヒトIL-2(Life Technologies)と共に72時間プレインキュベートした。次いで、すべての標的細胞を10:1のE:T比で初代ヒトNK細胞と混合した。BLI死滅アッセイで4時間後、D-ルシフェリン(Promega,cat no P1041)を添加することによってルシフェラーゼの発現を検出した。対照として、標的細胞を、未処理のままか、又は細胞特異的培地中の2%Triton X-100で処理した。シグナルを、Ami HT(Spectral Instruments Imaging)を使用してp/s/cm2/srで定量化した。
【0212】
次いで、NK細胞をFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECと共にインキュベートすると、その生物発光イメージング(BLI)シグナルの低下によって示されるように、標的細胞の約85%が4時間以内に急速に死滅した。FLuc+B2M-/-CIITA-/-CD47-CD64ハイブリッドペプチドを発現するiECは、このような強力な死滅から保護され、BLIシグナルの有意に小さい低下が観察された。CD47-CD64ハイブリッドペプチドの発現により免疫防御がもたらされた(
図4)。
【0213】
初代ヒトNK細胞を、IL-2で72時間刺激した。次いで、NK細胞を、FLuc+B2M-/-CIITA-/-iECと共にインキュベートすると、そのBLIシグナルの低下によって示されるように、標的細胞の約85%が4時間以内に急速に死滅した。しかしながら、合成抗SIRPα-CD64融合タンパク質(抗体融合体1又は融合体2)を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECの死滅は有意に減少した。抗SIRPα-CD64融合タンパク質は、NK細胞死滅に対する免疫防御をもたらした(
図5及び
図6)。
【0214】
実施例5:SIRPaエンゲージャー機能を有する膜結合抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質を発現するB2M-/-CIITA-/-iECの作製
抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質重鎖を有するレンチウイルスと抗SIRPα-Tras軽鎖を有するレンチウイルスの2つを、GenTarget, San Diego, CAに特別注文した。融合タンパク質の良好な発現効率を達成するために、重鎖と軽鎖は別々にパッケージ化した。プレコート12ウェルプレートにおいて、1.5×105個のヒトB2M-/-CIITA-/-iECを、細胞特異的培地にプレーティングし、37℃、5%CO2で一晩インキュベートした。翌日、細胞を、それぞれ感染多重度4で、両方のレンチウイルス粒子と共にインキュベートした。翌日、ポリブレン(8μg/ml, Millipore)を培地に添加し、プレートを800gで30分間遠心分離してから、一晩インキュベートした。細胞集団を、レンチウイルスベクターに含まれるRFPタグを使用してFACSAria(BD Biosciences)で選別した。
【0215】
実施例4に概説したように、BLI死滅アッセイを実施した。初代ヒトNK細胞をIL-2で72時間刺激した。次いで、NK細胞をFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECとインキュベートすると、そのBLIシグナルの低下によって示されるように、標的細胞の約85%が4時間以内に急速に死滅した。抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECの死滅は有意に減少した。これは、膜結合抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質が、エンジニアリングされた細胞をNK細胞死滅から保護するのに有効であることを示した(
図7)。
【0216】
実施例6:SIRPαエンゲージャー機能を有する膜結合抗SIRPα-scFv-CD8a-PDGF融合タンパク質を発現するB2M-/-CIITA-/-iECの作製
より小さいscFvベースの融合タンパク質(より小さいSIRPαエンゲージャー分子)を、IL-2シグナルペプチドを使用して設計した。重鎖CDRを、CD8aヒンジペプチド及びPDGF TMDに融合した(GGGGS)3リンカーを介して軽鎖CDRに連結した。導入遺伝子を、GenTarget,San Diego,CAによってレンチウイルスにパッケージ化した。実施例3に概説したように形質導入を実施した。
【0217】
BLI死滅アッセイを、実施例4に記載したように実施した。初代ヒトNK細胞を、IL-2で72時間刺激した。次いで、NK細胞をFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECと共にインキュベートすると、標的細胞の約85%が4時間以内に急速に死滅した。抗SIRPα-scFv-CD8a-PDGF融合タンパク質を発現するFLuc+B2M-/-CIITA-/-iECの死滅は有意に減少し、膜結合抗SIRPα-scFv-CD8a-PDGF融合タンパク質が、エンジニアリングされた細胞をNK細胞死滅から保護するのに有効であることが示された。(
図8)。
【0218】
例示的な配列:
配列番号1-ヒトSIRPα
>NP_001317657.1 チロシン-プロテインホスファターゼ非受容体型基質1アイソフォーム2前駆体[ヒト]
【化1】
配列番号2-ヒトCD47
>NP_001768.1 白血球表面抗原CD47アイソフォーム1前駆体[ヒト]
【化2】
配列番号3:CD47細胞外ドメイン(ECD)
QLLFNKTKSVEFTFCNDTVVIPCFVTNMEAQNTTEVYVKWKFKGRDIYTFDGALNKSTVPTDFSSAKIEVSQLLKGDASLKMDKSDAVSHTGNYTCEVTELTREGETIIELKYRVVSWFSPNE
配列番号4:CD47免疫グロブリンスーパーファミリードメイン
QLLFNKTKSVEFTFCNDTVVIPCFVTNMEAQNTTEVYVKWKFKGRDIYTFDGALNKSTVPTDFSSAKIEVSQLLKGDASLKMDKSDAVSHTGNYTCEVTELTREGETIIELKYRVV
配列番号5:抗SIRPα CDR(配列番号6~8を含む)
QVQLVESEGGLVQPGGSLRLSCAASGFTFSSYEMNWVRQAPGKGLEWVSYISSSGSTIYYADSVKGRFTISRDNAKNSLYLQMNSLRAEDTAVYYCAREAKGYYYGMDVWGQGTTVTVSS
配列番号6:抗SIRPα CDR
FTFSSYEMN
配列番号7:抗SIRPα CDR
WVSYISSSGSTIYY
配列番号8:抗SIRPα CDR
REAKGYYYGMDV
配列番号9:抗SIRPα CDR(配列番号10~12を含む)
QPVLTQSPSVSVSPGQTASITCSGDKLGDTYACWYQQKPGQSPVLVIYQDTKRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGTQAMDEADYYCQAWDSSTVVFGGGTKLTVL
配列番号10:抗SIRPα CDR
KLGDTYAC
配列番号11:抗SIRPα CDR
LVIYQDTKRPS
配列番号12:抗SIRPα CDR
QAWDSSTV
配列番号13:CD47膜貫通ドメイン(TMD)
【化3】
配列番号14:CD64膜貫通ドメイン(TMD)
VLFYLAVGIMFLVNTVLWVTI
配列番号15:CD47細胞内ドメイン(ICD)
KFVASNQKTIQPPRKAVEEPLNAFKESKGMMNDE
配列番号16:CD64 TMDと融合したCD47 ECD
【化4】
配列番号17:CD64 TMDと融合した3つの抗SIRPα CDR(抗体融合体1)
【化5】
配列番号18:CD64 TMDと融合した3つの抗SIRPα CDR(抗体融合体2)
QPVLTQSPSVSVSPGQTASITCSGDKLGDTYACWYQQKPGQSPVLVIYQDTKRPSGIPERFSGSNSGNTATLTISGTQAMDEADYYCQAWDSSTVVFGGGTKLTVLVLFYLAVGIMFLVNTVLWVTI
配列番号19:CD8aシグナルペプチド
MALPVTALLLPLALLLHAARP
配列番号20:トラスツズマブ重鎖
【化6】
配列番号21:L1シグナルペプチド
MDMRVPAQLLGLLLLWLSGARC
配列番号22:トラスツズマブ軽鎖
VAAPSVFIFPPSDEQLKSGTASVVCLLNNFYPREAKVQWKVDNALQSGNSQESVTEQDSKDSTYSLSSTLTLSKADYEKHKVYACEVTHQGLSSPVTKSFNRGEC
配列番号23:抗SIRPα-Tras-CD64融合タンパク質重鎖
【化7】
配列番号24:抗SIRPα-Tras軽鎖
【化8】
配列番号25:IL-2シグナルペプチド
MYRMQLLSCIALSLALVTNS
配列番号26:CD8aヒンジ
TTTPAPRPPTPAPTIASQPLSLRPEACRPAAAVHTRGLDFACDIYIWAPLAGTCGVLLLSLVITLYC
配列番号27:PDGF膜貫通ドメイン(TMD)
AAVLVLLVIVIISLIVLVVIW
配列番号28:抗SIRPα-scFv-CD8a-PDGF融合タンパク質
【化9】
【0219】
本明細書で開示又は参照されたすべての刊行物及び特許文献は、参照によりその全体が組み込まれる。前述の説明は、例示及び説明の目的でのみ提示されている。この説明は、開示された正確な形に本発明を限定することを意図するものではない。本発明の範囲は、本明細書に添付される特許請求の範囲によって規定されることが意図されている。
【配列表】
【国際調査報告】