(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】冷間圧延熱処理鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231208BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20231208BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/58
C21D9/46 G
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534641
(86)(22)【出願日】2020-12-08
(85)【翻訳文提出日】2023-08-01
(86)【国際出願番号】 IB2020061639
(87)【国際公開番号】W WO2022123289
(87)【国際公開日】2022-06-16
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アルラザロフ,アルテム
(72)【発明者】
【氏名】ピパール,ジャン-マルク
【テーマコード(参考)】
4K037
【Fターム(参考)】
4K037EA01
4K037EA02
4K037EA06
4K037EA09
4K037EA11
4K037EA13
4K037EA14
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4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
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4K037FK08
4K037FL01
4K037FL02
4K037GA05
4K037JA06
(57)【要約】
以下の元素、すなわち、0.1%≦炭素≦0.5%、1%≦マンガン≦3.4%、0.5%≦ケイ素≦2.5%、0.01%≦アルミニウム≦1.5%、0.05%≦クロム≦1%、0.001%≦ニオブ≦0.1%、0%≦硫黄≦0.003%、0.002%≦リン≦0.02%、0%≦窒素≦0.01%、0%≦モリブデン≦0.5%、0.001%≦チタン≦0.1%、0.01%≦銅≦2%、0.01%≦ニッケル≦3%、0.0001%≦カルシウム≦0.005%、0%≦バナジウム≦0.1%、0%≦ホウ素≦0.003%、0%≦セリウム≦0.1%、0%≦マグネシウム≦0.010%、0%≦ジルコニウム≦0.010%を含み、残りの組成は鉄及び不可避の不純物で構成される組成を有し、該圧延鋼板の微細組織は、面積分率で10%~60%のベイナイト、5%~50%のフェライト、5%~25%の残留オーステナイト、2%~20%のマルテンサイト、0%~25%の焼戻しマルテンサイトを含み、残余は焼鈍マルテンサイトであり、その含有率は1%~45%である冷間圧延熱処理鋼板。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間圧延熱処理鋼板であって、重量百分率で表される以下の元素、すなわち、
0.1%≦炭素≦0.5%
1%≦マンガン≦3.4%
0.5%≦ケイ素≦2.5%
0.01%≦アルミニウム≦1.5%
0.05%≦クロム≦1%
0.001%≦ニオブ≦0.1%
0%≦硫黄≦0.003%
0.002%≦リン≦0.02%
0%≦窒素≦0.01%
を含み、以下の任意元素、すなわち、
0%≦モリブデン≦0.5%
0.
001%≦チタン≦0.1%
0.01%≦銅≦2%
0.01%≦ニッケル≦3%
0.0001%≦カルシウム≦0.005%
0%≦バナジウム≦0.1%
0%≦ホウ素≦0.003%
0%≦セリウム≦0.1%
0%≦マグネシウム≦0.010%
0%≦ジルコニウム≦0.010%
の1種以上含むことができ、残りの組成は鉄及び不可避の不純物で構成される組成を有し、該圧延鋼板の微細組織は、面積分率で10%~60%のベイナイト、5%~50%のフェライト、5%~25%の残留オーステナイト、2%~20%のマルテンサイト、0%~25%の焼戻しマルテンサイトを含み、残余は焼鈍マルテンサイトであり、その含有率は1%~45%である、冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項2】
前記組成が、0.8%≦ケイ素≦2%を含む、請求項1に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項3】
前記組成が、1.2%≦マンガン≦2.8%を含む、請求項1又は2に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項4】
前記組成が、0.01%≦アルミニウム≦1%を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項5】
前記組成が、0.001%≦ニオブ≦0.09%を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項6】
前記組成が、0.1%≦クロム≦0.8%を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項7】
前記焼鈍マルテンサイトが2%~40%である、請求項1~6のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項8】
前記微細組織が、12~55%のベイナイトを含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項9】
前記微細組織が、8~24%の残留オーステナイトを含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項10】
960MPaより大きい引張強さ及び20%以上の全伸びを有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項11】
475MPaを超える降伏強度を有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の冷間圧延熱処理鋼板の製造方法であって、以下のステップ、すなわち、
- 請求項1~6のいずれか一項に記載の鋼組成物を提供するステップ、
- 該半製品を1100℃~1280℃の間の温度まで再加熱するステップ、
- 該半製品をオーステナイト範囲で圧延し、熱間圧延仕上げ温度がAc3を超え、熱間圧延鋼板を得るステップ、
- 板を30℃/秒を超える平均冷却速度で600℃未満の巻取温度まで冷却し、該熱間圧延板を巻き取るステップ、
- 該熱間圧延板を室温まで冷却するステップ、
- 任意に該熱間圧延鋼板にスケール除去ステップを施すステップ、
- 任意に熱間圧延鋼板に対して400℃~750℃の間の温度で焼鈍を行うステップ、
- 任意に該熱間圧延鋼板にスケール除去ステップを施すステップ、
- 該熱間圧延鋼板を圧下率35~90%の間で冷間圧延し、冷間圧延鋼板を得るステップ、
- 次に、該冷間圧延鋼板を3℃/秒より大きい速度HR1でTS~Ac3の間にある均熱温度TS1まで加熱し、10秒~500秒の間に保持して第1の焼鈍を行うステップであって、TSは以下のように規定されるステップ、
TS=830-260
*C-25
*Mn+22
*Si+40
*Al
- 次に該板を25℃/秒より大きい速度で室温まで冷却し、冷却中に冷間圧延鋼板を、任意に350~480℃の間の温度範囲で10~500秒の間の時間保持して、冷間圧延焼鈍鋼板を得るステップ、
- 次に、該冷間圧延焼鈍鋼板を、3℃/秒より大きい速度HR2で、TS~Ac3の間の均熱温度TS2まで加熱し、ここで10秒~500秒間保持して第2の焼鈍を行うステップ、
- 次に、該板を20℃/秒より大きい速度CR2でTc
max~Tc
minの間にある温度範囲Tstopまで冷却するステップであって、Tc
max及びTc
minは以下のように規定され、
Tc
max=565-601
*(1-Exp(-0.868
*C))-34
*Mn-13
*Si-10
*Cr+13
*Al-361
*Nb
Tc
min=565-601
*(1-Exp(-1.736
*C))-34
*Mn-13
*Si-10
*Cr+13
*Al-361
*Nb
ここで、C、Mn、Si、Cr、Al及びNbは、鋼中の元素の重量%で表されるステップ、
- 次に、該冷間圧延焼鈍鋼板を380~580℃の間の温度範囲TOAにし、5秒~500秒間TOAで保持し、該焼鈍冷間圧延鋼板を1℃/秒より高い冷却速度で室温まで冷却して、冷間圧延熱処理鋼板を得るステップ
を含む、製造方法。
【請求項13】
570℃未満の前記熱間圧延鋼板の巻取温度を有する、請求項12に記載の冷間圧延熱処理鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記TS2温度がTS1以下である、請求項12又は13に記載の冷間圧延熱処理鋼板の製造方法。
【請求項15】
自動車の構造部品又は安全部品を製造するための、請求項1~11のいずれか一項に記載の鋼板又は請求項12~14のいずれか一項に記載の方法により製造された鋼板の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用鋼板としての使用に適した冷間圧延熱処理鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品には、2つの矛盾する必要性、すなわち、成形のしやすさ及び強度を満たすことが求められているが、近年は地球環境への配慮から自動車にも燃費向上という第3の要求が課されている。したがって、今や自動車部品は、複雑な自動車アセンブリにおける適合の容易さの基準に適合するために、高い成形性を有する材料で製造されなければならず、同時に、燃料効率を改善するために車両を軽量化しながら、車両の耐衝突性及び耐久性のために強度を改善しなければならない。
【0003】
そこで、材料の強度を高めて、自動車に利用される材料の量を減らすために、精力的な研究開発が進められている。逆に、鋼板の高強度化は成形性を低下させるので、高強度及び高成形性を兼ね備えた材料の開発が必要である。
【0004】
高強度及び高成形性鋼板の分野における初期の研究開発は、高強度及び高成形性鋼板を製造するための幾つかの方法をもたらしてきたが、それらの幾つかを本発明の最終的評価のためにここに列挙する。
【0005】
優れた延性を有する高強度冷間圧延鋼板を請求するEP3144406号特許は、重量%で、炭素(C):0.1%~0.3%、ケイ素(Si):0.1%~2.0%、アルミニウム(Al):0.005%~1.5%、マンガン(Mn):1.5%~3.0%、リン(P):0.04%以下(0%を除く)、硫黄(S):0.015%以下(0%を除く)、窒素(N):0.02%以下(0%を除く)、鉄(Fe)及び不可避の不純物の残余を含み、ケイ素及びアルミニウム(Si+Al)(重量%)の合計が1.0%以上を満たし、微細組織が、面積分率により、短軸と長軸との比が0.4以上の多角形フェライトを5%以上、短軸と長軸との比が0.4以下の針状フェライトを70%以下(0%を除く)、針状残留オーステナイトを25%以下(0%を除く)、マルテンサイトの残余を含む。さらにEP3144406号では引張強さ780MPa以上の高強度鋼を想定している。
【0006】
EP3009527号は、優れた伸び、優れた伸びフランジ性、及び高い降伏比を有する高強度冷間圧延鋼板及びその製造方法を提供する。この高強度冷間圧延鋼板はある組成及び微細組織を有する。この組成は、質量基準で、0.15%~0.27%のC、0.8%~2.4%のSi、2.3%~3.5%のMn、0.08%以下のP、0.005%以下のS、0.01%~0.08%のAl、及び0.010%以下のNを含み、残余はFe及び不可避の不純物である。微細組織は、5μm以下の平均粒径及び3%~20%の体積分率を有するフェライト、5%~20%の体積分率を有する残留オーステナイト、及び5%~20%の体積分率を有するマルテンサイト、残余がベイナイト及び/又は焼き戻しマルテンサイトである。粒径2μm以下の残留オーステナイト、粒径2μm以下のマルテンサイト、又はその混合相の総数は、鋼板の圧延方向と平行した厚さ断面2000μm2当たり150個以上である。EP3009527号の鋼板は、960MPA以上の強度に達することができるが、20%以上の伸びを達成できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許出願公開第3144406号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第3009527号明細書
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、以下を同時に備えた冷間圧延熱処理鋼板を利用可能にすることによって、これらの問題を解決することである。
- 960MPa以上、好ましくは980MPaを超える最大抗張力、
- 20%以上、好ましくは21%を超える全伸び
【0009】
好ましい実施形態においては、本発明による鋼板は475MPa以上の降伏強度を有する。
【0010】
好ましい実施形態において、本発明に係る鋼板は、0.45以上の降伏強度/引張強さの比を有する。
【0011】
好ましくは、このような鋼は、良好な溶接性及び被覆性と共に、成形、特に圧延に対して良好な適合性を有することもできる。
【0012】
本発明の別の目的は、製造パラメータのシフトに向けて安定でありながら、従来の工業的用途に適合するこれらの板の製造方法を利用可能にすることである。
【0013】
本発明の冷間圧延熱処理鋼板は、その耐食性を改善するために、任意に亜鉛若しくは亜鉛合金又はアルミニウム若しくはアルミニウム合金で被覆することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
炭素は0.1%~0.5%で鋼中に存在する。炭素は、マルテンサイトなどの低温変態相を生成させることにより本発明の鋼の強度を高めるために必要な元素であり、さらに炭素はオーステナイト安定化にも極めて重要な役割を果たし、したがって、残留オーステナイトを確保するために必要な元素である。したがって、炭素は2つの重要な役割を果たし、一つは強度を高め、もう一つは延性を付与するためのオーステナイトの保持である。しかし、0.1%未満の炭素含有率では、本発明の鋼が必要とする十分な量のオーステナイトを安定化することができない。一方、炭素含有率が0.5%を超えると、鋼は不十分なスポット溶接性を示し、自動車用部品への適用が制限される。炭素の好ましい限度は0.15%~0.45%であり、より好ましい限度は0.15%~0.3%である。
【0015】
本発明の鋼のマンガン含有率は1%~3.4%である。この元素はガンマ生成性(gammagenous)である。マンガンを加える目的は、基本的にオーステナイトを含む組織を得ることである。マンガンは室温でオーステナイトを安定化させ、残留オーステナイトを得る元素である。少なくとも約1重量%の量のマンガンが、本発明の鋼に強度及び硬化性を提供するため、並びにオーステナイトを安定化するために必須である。したがって、提示された発明によれば、3%のようなより高い割合のマンガンが好ましい。しかし、マンガン含有率が3.4%より高くなると、ベイナイト変態のための等温保持中にオーステナイトからベイナイトへの変態を遅らせるなどの悪影響を生じる。また、マンガン含有率が3.4%を超えると、延性目標を達成できないだけでなく、本鋼の溶接性も悪化させる。マンガンの好ましい範囲は1.2%及び2.8%であり、より好ましい範囲は1.3%~2.4%の間である。
【0016】
本発明の鋼のケイ素含有率は0.5%~2.5%である。ケイ素は過時効中の炭化物の析出を遅らせることができる成分であり、そのためケイ素の存在により、炭素に富んだオーステナイトは室温で安定化される。さらに、炭化物中のケイ素の溶解性が低いために、炭化物の形成を効果的に阻害又は遅延させ、したがって本発明により本発明の鋼にその基本的な機械的特性を付与するために求められる、ベイナイト組織中の低密度炭化物の形成も促進する。しかし、ケイ素の不均衡な含有率は、上記の効果を生じず、焼き戻し脆性などの問題につながる。したがって、その濃度は2.5%の上限内で制限される。ケイ素の好ましい限度は0.8%~2%であり、より好ましい限度は1.3%~1.9%である。
【0017】
アルミニウムの含有率は0.01%~1.5%である。本発明では、アルミニウムは、溶鋼中に存在する酸素を除去して、酸素が凝固プロセス中に気相を形成するのを防ぐ。また、アルミニウムは鋼中の窒素を固定して窒化アルミニウムを形成し、結晶粒のサイズを小さくする。1.5%を超えるより高い含有率のアルミニウムはAc3点を高温に上昇させて生産性を低下させる。アルミニウムの好ましい限度は0.01%~1%であり、より好ましい限度は0.01%~0.5%である。
【0018】
本発明の鋼のクロム含有率は0.05%~1%である。クロムは、鋼に強度及び硬化をもたらす必須元素であるが、1%を超えて使用すると、鋼の表面仕上げを損なう。1%未満のクロム含有率は、ベイナイト組織中の炭化物の分散パターンを粗くし、そのためベイナイト中で炭化物の密度を低く保つ。クロムの好ましい限度は0.1%~0.8%であり、より好ましい限度は0.2%~0.6%である。
【0019】
ニオブは本発明の鋼中に0.001%~0.1%で存在し、析出硬化によって本発明の鋼の強度を付与するために炭窒化物を形成するのに適している。ニオブはまた、炭窒化物としてのその析出を通して、及び加熱プロセスの際の再結晶を遅らせることにより、微細組織構成要素のサイズに影響を与えるものである。このように、保持温度の終了時及び完全な焼鈍の後の結果として形成されるより微細な微細組織は、製品の硬化につながる。しかし、0.1%を超えるニオブ含有率は、その影響の飽和効果が観察され、これは、ニオブの追加量が製品のいかなる強度改善ももたらさないことを意味するため、経済的には興味深くない。ニオブの好ましい限度は0.001%~0.09%であり、より好ましい限度は0.001%~0.07%である。
【0020】
硫黄は必須元素ではないが、鋼中に不純物として含有されることがあり、本発明の観点から、硫黄含有率はできるだけ低いことが好ましいが、製造コストの観点からは0.003%以下である。さらに、より高い硫黄が鋼中に存在するならば、それは特にマンガンと結合して硫化物を形成するため、本発明に対するその有益な影響を減少させる。
【0021】
本発明の鋼のリン構成成分は0.002%~0.02%の間であり、リンは、特に、粒界に偏析したりマンガンと共偏析したりする傾向があるため、スポット溶接性及び熱間延性を低下させる。これらの理由から、その含有率は0.02%に制限され、好ましくは0.013%よりも低い。
【0022】
材料の老化を避け、鋼の機械的特性に悪影響な凝固中の窒化アルミニウムの析出を最小にするために、窒素は0.01%に制限される。モリブデンは、本発明の鋼の0%~0.5%を構成する任意の元素である。モリブデンは、硬化性及び硬度の改善において有効な役割を果たし、ベイナイトの出現を遅らせ、ベイナイト中の炭化物の析出を回避する。しかし、モリブデンの添加は、合金元素の添加のコストを過度に増加させるため、経済的理由から、その含有率は0.5%に制限される。
【0023】
チタンは、ニオブと同様に0.001%~0.1%で本発明の鋼に添加できる任意の元素であり、炭窒化物に関与するので硬化に役割を果たす。しかし、チタンはまた、鋳造製品の凝固中に現れる窒化チタンを形成する。そのためチタンの量は0.1%に制限され、成形性に悪影響な粗い窒化チタンの生成を避ける。0.001%未満のチタン含有率では、本発明の鋼に何ら影響を与えない。チタンの好ましい限度は0.001%~0.09%であり、より好ましい限度は0.001%~0.07%である。
【0024】
銅は、本鋼の強度を高め、耐食性を向上させるために、任意の元素として0.01~2%の量で添加することができる。そのような効果を得るためには最低0.01%が必要である。しかし、その含有率が2%を超えると、銅は表面形態を劣化させる可能性がある。
【0025】
0.01~3%の量のニッケルを任意の元素として加えて、鋼の強度を高め、その靭性を改善することができる。そのような効果を得るためには最低0.01%が必要である。しかし、その含有率が3%を超えると、ニッケルは延性の劣化を引き起こす。
【0026】
カルシウム含有率は、本発明の鋼中に0.0001%~0.005%で添加することができる任意の元素である。カルシウムは、特に封入処理中に、任意の元素として本発明の鋼に添加される。カルシウムは、有害な硫黄分を球状に止め、硫黄の有害作用を抑えることにより、鋼の微細化に貢献する。
【0027】
バナジウムは、炭化物又は炭窒化物を形成することによって鋼の強度を高めるのに有効であるため添加できる任意の元素であり、経済的観点からその上限は0.1%である。
【0028】
セリウム、ホウ素、マグネシウム又はジルコニウムのような他の元素は、個別に又は組み合わせて、以下の割合、すなわち、セリウム≦0.1%、ホウ素≦0.003%、マグネシウム≦0.010%及びジルコニウム≦0.010%で添加することができる。これらの元素は、示された最大含有率レベルまでは、凝固中の結晶粒を微細化することを可能にする。鋼の組成の残余は、鉄及び加工に起因する不可避の不純物からなる。
【0029】
本発明による鋼板の微細組織は、面積分率で、10%~50%のベイナイト、5%~50%のフェライト、5%~25%の残留オーステナイト、2%~20%のマルテンサイト、0%~25%の焼戻しマルテンサイト、及び1%~45%の焼鈍マルテンサイトの存在から構成される。
【0030】
微細組織中の相の表面分率を以下の方法で決定する。すなわち、試験片を鋼板から切断し、研磨し、それ自体知られた試薬でエッチングし、微細組織を明らかにする。その断面は、その後、走査電子顕微鏡、例えば、二次電子モードで5000倍より大きい倍率で電界放出銃を有する走査電子顕微鏡(「FEG-SEM」)によって検査される。
【0031】
フェライトの分率の決定は、Nital又はPicral/Nital試薬エッチング後のSEM観察により行う。
【0032】
残留オーステナイトの決定はXRDによって行われ、焼き戻しマルテンサイトについては、膨張率測定の研究がS.M.C. Van Bohemen及びJ. Sietsma、Metallurgical and materials transactions、第40A巻、2009年5月-1059の刊行物に従って行われた。
【0033】
ベイナイトは、本発明の鋼について面積分率で微細組織の10%~60%の間を構成する。20%の全伸びを確保するには、ベイナイトを10%にすることが必須である。ベイナイトの存在は好ましくは12%~55%の間であり、より好ましくは13%~52%の間である。
【0034】
フェライトは、本発明の鋼に対して面積分率で微細組織の5%~50%を構成する。フェライトは、本発明の鋼に伸びを付与する。本鋼のフェライトは、多角形フェライト、ラスフェライト、針状フェライト、板状フェライト又はエピタキシャルフェライトを含むことができる。20%以上の伸びを確保するためには、フェライトを5%持つ必要がある。本発明のフェライトは、焼鈍時及び焼鈍後に行われる冷却時に形成される。しかし、本発明の鋼中にフェライト含有率が50%を超えて存在する場合はいつでも、フェライトが引張強さ及び降伏強度の両方を低下させ、また、マルテンサイト及びベイナイトのような硬い相との硬度のギャップを増加させ、局部成形性を低下させるという事実のため、降伏強度及び全伸びの両方を同時に有することは不可能である。本発明のためのフェライトの存在に対する好ましい限度は6%~49%である。
【0035】
残留オーステナイトは鋼の面積分率で5%~25%を構成する。残留オーステナイトは、ベイナイトよりも炭素の高い溶解度を有することが知られており、そのため有効な炭素トラップとして作用し、ベイナイト中の炭化物の生成を遅らせる。本発明の残留オーステナイト内部の炭素の割合は、0.9%より高いことが好ましく、1.2%より低いことが好ましい。本発明による鋼の残留オーステナイトは高められた延性を付与する。残留オーステナイトの好ましい限度は8%~24%の間であり、より好ましくは12%~20%の間である。
【0036】
マルテンサイトは、鋼の面積分率で2%~20%を構成する。マルテンサイトは、本発明の鋼に引張強さを付与する。過時効後の冷却後の冷却中にマルテンサイトが生成する。マルテンサイトの好ましい限度は3%~18%であり、より好ましくは4%~15%である。
【0037】
焼戻しマルテンサイトは、面積分率で微細組織の0%~25%を構成する。マルテンサイトは、鋼がTcmin~Tcmaxの間で冷却され、過時効保持の際に焼戻される時に形成することができる。焼戻しマルテンサイトは、本発明に延性及び強度を付与する。焼戻しマルテンサイトが25%を超えると、過剰な強度を与えるが、許容限度を超える伸びを減少させる。焼戻しマルテンサイトの好ましい限度は0%~20%であり、より好ましくは0%~18%である。
【0038】
焼鈍マルテンサイトは面積分率で本発明の鋼の微細組織の1%~45%を構成する。焼鈍マルテンサイトは本発明の鋼に強度及び成形性を付与する。TS~Ac3の間の温度での第2の焼鈍中に焼鈍マルテンサイトが形成される。本発明の鋼により目標とする伸びに達するためには、これらの微細組織の構成要素の少なくとも1%を有する必要があるが、その量が45%を超えると、本発明の鋼は強度及び伸びを同時に達成することができない。その存在に対する好ましい限度は2%~40%であり、より好ましくは2%~35%である。
【0039】
上記の微細組織に加えて、冷間圧延熱処理鋼板の微細組織は、鋼板の機械的特性を損なうことなく、パーライトのような微細組織の構成成分を含まない。
【0040】
本発明による鋼板は、任意の適切な方法によって製造することができる。好ましい方法は、本発明による化学組成を有する鋼の半完成品の鋳造物を提供することからなる。鋳造は、インゴットにするか、薄いスラブ又は薄いストリップ(すなわち、厚さはスラブの場合約220mmで、薄いストリップの場、最大数十mmの範囲である。)の形態で連続的に行うことができる。
【0041】
例えば、上述の化学組成を有するスラブは、連続鋳造によって製造され、ここでスラブは、中心部偏析を回避し、公称炭素に対する局所炭素の比を1.10未満に保つために、任意に、連続鋳造プロセスの間に、直接軽圧下を受ける。連続鋳造プロセスにより提供されたスラブは連続鋳造後に高温で直接使用されるか、まず室温まで冷却され、次いで熱間圧延のために再加熱されてもよい。再加熱温度は1100~1280℃の間である。
【0042】
熱間圧延に供されるスラブの温度は、少なくとも1200℃が好ましく、1280℃未満でなければならない。スラブの温度が1200℃より低い場合、圧延機に過大な荷重がかかり、さらに仕上げ圧延時に鋼の温度がフェライト変態温度まで低下することがあり、それによって鋼は変態フェライトが組織に含まれる状態で圧延されることになる。したがって、スラブの温度も、Ac3~Ac3+200℃の温度範囲で熱間圧延が完了でき、最終圧延温度がAc3を超えたままになるように、十分に高いことが好ましい。1280℃を超える温度での再加熱は、工業的に費用がかかるため避けなければならない。
【0043】
Ac3~Ac3+200℃の間の最終圧延温度範囲は、再結晶及び圧延に有利な組織を有するために好ましい。最終圧延パスをAc3より高い温度で実施することが必要である。というのは、この温度未満では鋼板は圧延性の大幅な低下を示すからである。この方式で得られた板を、30℃/秒を超える平均冷却速度で、600℃未満でなければならない巻取温度まで冷却する。好ましくは、冷却速度は200℃/秒以下であり、巻取温度は570℃未満であることが好ましい。
【0044】
熱間圧延鋼板は熱間圧延鋼板の楕円化を避けるため600℃未満、好ましくはスケール形成を避けるため570℃未満の巻取温度で巻取られる。巻取温度の好ましい範囲は、350℃~570℃の間である。任意のホットバンド焼鈍を施す前に巻き取られた熱間圧延鋼板を室温まで冷却する。
【0045】
熱間圧延鋼板は、熱間圧延の際に形成されるスケールを除去するために、任意のスケール除去工程に供されてもよい。次に、熱間圧延板を400~750℃の間の温度で少なくとも12時間及び96時間の間以下の任意のホットバンド焼鈍に供することができるが、熱間圧延された微細組織を部分的に変態させ、したがって微細組織の均質性を失わせないように、750℃未満に温度を維持する。その後、任意のスケール除去ステップを実施して、例えば、このような鋼板を酸洗することを通じて、スケールを除去することができる。この熱間圧延鋼板は、35~90%の間の厚さの圧下率で冷間圧延される。冷間圧延プロセスから得られた冷間圧延鋼板は、その後、2回の焼鈍サイクルを経て、微細組織及び機械的特性を本発明の鋼に付与する。
【0046】
冷間圧延板の第1の焼鈍では、冷間圧延板を、3℃/秒より大きく、好ましくは5℃/秒より大きい加熱速度HR1で、TS~Ac3の間の均熱温度まで加熱し、ここで、本鋼に対するAc3及びTSは、以下の式を用いて計算される。
TS=830-260*C-25*Mn+22*Si+40*Al
Ac3=901-262*C-29*Mn+31*Si-12*Cr-155*Nb+86*Al
元素含有率は重量百分率で表される。
【0047】
鋼板は、十分な再結晶及び強加工硬化初期組織の少なくとも50%のオーステナイトへの変態を確保するために、10秒~500秒の間TS1に保持される。次に、板を、25℃/秒より大きく、好ましくは50℃/秒より大きい冷却速度CR1で室温まで冷却する。この冷却中に冷間圧延鋼板を任意に350~480℃の間、好ましくは380~450℃の間の温度範囲に保持でき、10秒~500秒の保持時間保持し、その後冷間圧延鋼板を室温まで冷却して焼鈍冷間圧延鋼板を得ることができる。
【0048】
次に、3℃/秒より大きい加熱速度のHR2で、TS~Ac3の間の第2の焼鈍均熱温度TS2まで、冷間圧延焼鈍鋼板を第2の焼鈍のために加熱する。
TS=830-260*C-25*Mn+22*Si+40*Al
Ac3=901-262*C-29*Mn+31*Si-12*Cr-155*Nb+86*Al
元素含有率は重量百分率で表される。
【0049】
10秒~500秒の間、最低50%のオーステナイト微細組織を得るために十分な再結晶及び変態を保証する。TS2温度は常にTS1温度以下である。次に、板を20℃/秒より大きく、好ましくは30℃/秒より大きく、より好ましくは50℃/秒より大きい冷却速度CR2で、Tcmax~Tcminの間にある範囲Tstopの温度まで冷却する。これらのTcmax及びTcminは以下のように規定される。
Tcmax=565-601*(1-Exp(-0.868*C))-34*Mn-13*Si-10*Cr+13*Al-361*Nb
Tcmin=565-601*(1-Exp(-1.736*C))-34*Mn-13*Si-10*Cr+13*Al-361*Nb
元素含有率は重量百分率で表される。
【0050】
その後、冷間圧延焼鈍鋼板を380℃~580℃の温度範囲TOAにし、10秒~500秒間保持して、適量のベイナイトの形成を確保するとともにマルテンサイトを焼戻して本発明の鋼に目標とする機械的性質を付与する。その後、冷間圧延焼鈍鋼板を少なくとも1℃/秒の冷却速度で室温まで冷却し、マルテンサイトを形成し、冷間圧延熱処理鋼板を得る。TOAの好ましい温度範囲は、380℃~500℃であり、より好ましくは380℃~480℃である。
【0051】
次に、冷間圧延熱処理鋼板を、電気亜鉛めっき、JVD、PVD、溶融めっき(GI/GA)などの既知の工業プロセスのいずれかによって任意に被覆することができる。電気亜鉛めっきは、請求項に記載された冷間圧延熱処理鋼板の機械的特性又は微細組織のいずれをも変化又は改変しない。電気亜鉛めっきは、任意の従来の工業プロセス、例えば、電気めっきによって行うことができる。
【実施例】
【0052】
本明細書に提示されている以下の試験、実施例、図示的例示及び表は、本質的に制限的でないものであり、例示のみを目的として考慮しなければならず、本発明の有利な特徴を示すものである。
【0053】
組成の異なる鋼から作製された鋼板を列挙し、表1にまとめた。ここでは、それぞれ表2に規定したプロセスパラメータに従って鋼板を製造する。その後、試行(trail)時に得られた鋼板の微細組織を表3にまとめ、得られた特性の評価結果を表4にまとめる。
【0054】
表1は、重量百分率で表された組成を有する鋼を示す。本発明による板の製造のための鋼組成I1~I5だけでなく、この表はR1~R4で表に指定されている参照鋼組成も明記している。表1は、発明鋼と参照鋼との比較表としても機能する。表1はまた、以下の式によって鋼試料について規定されたAc3の表を示す。
Ac3=901-262*C-29*Mn+31*Si-12*Cr-155*Nb+86*Al
【0055】
表1は本明細書中にある。
【0056】
【0057】
<表2>
表2は、表1の鋼に実施された焼鈍プロセスパラメータをまとめたものである。鋼組成物I1~I7は本発明による板の製造のために役に立ち、この表はまたR1~R5によって表に指定される参照鋼を明記する。また、表2にTcmin及びTcmaxの表を示す。これらのTcmax及びTcminは、発明鋼及び参照鋼に対して以下のように規定される。
Tcmax=565-601*(1-Exp(-0.868*C))-34*Mn-13*Si-10*Cr+13*Al-361*Nb
Tcmin=565-601*(1-Exp(-1.736*C))-34*Mn-13*Si-10*Cr+13*Al-361*Nb
【0058】
また、発明鋼及び参照鋼に焼鈍処理を施す前に、全ての鋼を平均冷却速度40℃/秒で熱間圧延後冷却した。次に、熱間圧延コイルを請求項に記載された通りに処理し、その後30~95%の圧さの圧下率で冷間圧延した。最終的な冷却速度は1℃/秒より上である。
【0059】
発明鋼及び参照鋼の両方のこれらの冷間圧延鋼板を、本明細書の表2に列挙したように熱処理に供した。
【0060】
【0061】
<表3>
表3は、発明鋼及び参照鋼の両方の微細組織組成を決定するための走査型電子顕微鏡のような異なる顕微鏡の標準に従って実施した試験の結果を例示している。残留オーステナイトを、1970年6月の第1巻のStructure and Properties of Thermal-Mechanically Treated 304 Stainless Steel in Metallurigical transactionsと題した出版物による磁気飽和測定によって測定する。フェライト、ベイナイト、焼戻しマルテンサイト及びマルテンサイトを、Aphelionソフトウェア及び中断した拡張率試験で実施した画像解析により観察する。
【0062】
結果を本明細書に規定する。
【0063】
【0064】
<表4>
表4は、発明鋼及び参照鋼の両方の機械的特性を例示する。引張強さ、降伏強度及び全伸びを決定するため、METALLIC MATERIALS - TENSILE TESTING - METHOD OF TEST AT ROOM TEMPERATUREと題した2020年10月20日付第11版に発行されたJIS Z2241規格に従って引張試験を行う。
【0065】
以下、規格に従って実施した各種機械的試験の結果を表にする。
【0066】
【国際調査報告】