(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】不飽和イソオレフィンコポリマーをハロゲン化する方法におけるK+含有酸化剤によるハロゲン回収
(51)【国際特許分類】
C08F 8/18 20060101AFI20231208BHJP
C08F 210/10 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C08F8/18
C08F210/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535566
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 CA2021051777
(87)【国際公開番号】W WO2022120489
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516186267
【氏名又は名称】アランセオ・シンガポール・プライヴェート・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カイ・カオ
(72)【発明者】
【氏名】グレゴリー・ジェイ・イー・デイヴィッドソン
【テーマコード(参考)】
4J100
【Fターム(参考)】
4J100AA06P
4J100AA08P
4J100AA09P
4J100AA17P
4J100AB03R
4J100AB07R
4J100AB08R
4J100AR10R
4J100AR16Q
4J100AR17Q
4J100AR18Q
4J100AS02Q
4J100AS03Q
4J100AS04Q
4J100BB01R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA31
4J100HA22
4J100HB05
4J100HB28
4J100HB52
4J100HC88
4J100HE12
4J100HE32
4J100HE41
4J100JA15
4J100JA67
(57)【要約】
ハロゲン化イソオレフィンコポリマーを製造する方法は、有機溶媒中に溶解させた不飽和イソオレフィンコポリマーを含む不飽和イソオレフィンコポリマーセメントを、ハロゲン化条件下で、ハロゲン化剤、及びカリウム塩系酸化剤の水溶液と接触させて、有機相及び水性相を含む2相の反応媒体を形成させる工程を含み、酸化剤はハロゲン化水素を遊離ハロゲンへ転化することが可能である。この方法は、改善されたハロゲン回収を実現し、水の存在の影響を受けにくく、より安定で環境へのダメージが少ない酸化剤を利用する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶媒中に溶解させた不飽和イソオレフィンコポリマーを含む不飽和イソオレフィンコポリマーセメントを、ハロゲン化条件下で、ハロゲン化剤、及びカリウム塩系酸化剤の水溶液と接触させて、有機相及び水性相を含む2相の反応媒体を形成させる工程を含み、酸化剤がハロゲン化水素を遊離ハロゲンへ転化することが可能である、ハロゲン化イソオレフィンコポリマーを製造する方法。
【請求項2】
前記酸化剤が、KHSO
5、K
2S
2O
8、KClO、KBrO、KBrO
3、KIO
3、KClO
3、KClO
4、KIO
4、上記のカリウム塩系酸化剤を生成する化合物、又はそれらの混合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記酸化剤がペルオキシ一硫酸カリウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化剤がKHSO
5を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記セメントが、セメントの総質量を基準として1wt%以上の水含量を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記セメントの水含量が1.5wt%以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記セメントの水含量が1~30wt%である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記セメントの水含量が2~20wt%である、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液が相間移動触媒を更に含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記相間移動触媒が、カリウムイオンと錯体を形成するのに利用可能である少なくとも7個の酸素原子を有する分子を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記相間移動触媒がポリアルキレンオキシドエーテルを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記相間移動触媒が、少なくとも1つの炭化水素鎖及び3~20個のエチレンオキシド単位を有する非イオン性界面活性剤を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化剤及び相間移動触媒が、1:3から100:1の範囲のモル比で水溶液中に存在する、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記酸化剤及び相間移動触媒が、1:1のモル比で水溶液中に存在する、請求項9から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを有機希釈剤中で重合させ、有機希釈剤及び残留モノマーを蒸気によるフラッシュ分離により除去することにより、前記不飽和イソオレフィンコポリマーセメントが製造される、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1種のイソオレフィンモノマーがイソブテンであり、前記少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーがイソプレン、p-メチルスチレン又はβ-ピネンである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1種のイソオレフィンモノマーがイソブテンであり、前記少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーがイソプレンであり、前記不飽和イソオレフィンコポリマーが、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン及びインデンから成る群から選択される1種又は複数種のさらなる共重合性モノマーを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記有機希釈剤が塩化メチルを含む、請求項15から17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記ハロゲン化剤がBr
2である、請求項1から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記不飽和イソオレフィンコポリマーが、反応媒体の総質量を基準として10~33wt%の量で反応媒体中に存在する、請求項1から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記不飽和イソオレフィンコポリマーセメントとハロゲン化剤との接触が、20~60℃の範囲の温度で1~60分間行われる、請求項1から20のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願は、不飽和イソオレフィンコポリマーをハロゲン化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ブチルゴムを臭素化してブロモブチルゴムを形成する標準的な方法においては、分子臭素(Br2)が臭素化剤として使用される。この方法は副生成物として臭化水素(HBr)を発生させ、これは通常の条件下でブチルゴムポリマーを更に臭素化しない。したがって、ブチルゴムポリマーに導入することができる、反応混合物中に存在する臭素の理論的な最大割合は、50%である。しかし、実際にはこの割合は、実験室及び製造プラントの環境の両方において通常は45%未満及び35%未満である。
【0003】
ブチルゴムの臭素化の際に臭素の利用を向上させるための公知の方法(国際公開第2020/124222号、米国特許第2014/0309362号、米国特許第3018275号、米国特許第5681901号)は、臭素化剤1モル当たり少なくとも0.5molの水溶性酸化剤、例えば有機過酸又は過酸化水素等の適用を含み、これは臭化水素を再酸化して元素臭素に戻す。酸化剤は、水溶液、又は有機溶媒中の水性エマルションであってもよい。酸化剤は水にのみ可溶性であるので、反応の速度は反応物が有機相と水性相の間で行き来できる速度によって支配され、そのためより長い反応時間を必要とする。
【0004】
更に、過酸化水素を利用する方法は、臭素化媒体中に存在することになる水が非常に低濃度であることを必要とする。1wt%を超える水濃度では臭素化媒体中の過酸化水素の使用の面から見られる有益性が劇的に低下し、臭素化媒体中の水含量を10~20wt%から1wt%未満まで減少させるのにさらなる装置及びエネルギーを必要とすることがあるので、工業的に重要な課題及びコストを提示する。
【0005】
加えて、いくつかの方法は、HBrを中和して臭化ナトリウム(NaBr)を得て、NaBrをハロゲン化ブチルゴムから水性流へ洗い流し、例えばブローアウト法によりCl2ガスを使用してNaBrをBr2へ転化させることによる、ハロゲン化後のリサイクルを必要とする。このex situのリサイクル法は、水性相へのNaBrの抽出効率及び水性相中のNaBrの希釈によって制限される。更に、そのようなex situの方法を行うことは、費用効率が悪くエネルギー集約的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2020/124222号
【特許文献2】米国特許第2014/0309362号
【特許文献3】米国特許第3018275号
【特許文献4】米国特許第5681901号
【特許文献5】米国特許第5886106号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Rubber Technology、第3版、Maurice Morton編、Kluwer Academic Publishers、297~300頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特に相当な量の水の存在下でのイソオレフィンコポリマー、例えばブチルゴムのハロゲン化における、ハロゲンの利用を改善するための、費用効率が高く効率的な方法が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様において、ハロゲン化イソオレフィンコポリマーを製造する方法が提供され、この方法は、有機溶媒中に溶解した不飽和イソオレフィンコポリマーを含む不飽和イソオレフィンコポリマーセメントを、ハロゲン化条件下で、ハロゲン化剤、及びカリウム塩系酸化剤の水溶液と接触させて、有機相及び水性相を含む2相の反応媒体を形成させる工程を含み、酸化剤はハロゲン化水素を遊離ハロゲンへ転化させることが可能である。
【0010】
この方法は、少なくとも0.05mol%の化合したハロゲンを含有するハロゲン化イソオレフィンコポリマーを回収する工程を更に含んでいてもよい。
【0011】
本発明のハロゲン化法は、不飽和イソオレフィンコポリマーのハロゲン化において形成されるハロゲン化水素(HX)を酸化して分子ハロゲン(X2)へ戻すことにより、ハロゲン利用の向上を有利にもたらす。この方法は、セメント中の水の存在の影響を受けにくく、良好な臭素回収し又はより少量の酸化剤を使用しながら、同様の方法(例えば過酸又は過酸化水素を利用する方法)と比較してより良好な臭素回収を実現し、水及び温度に対してより安定であり同様の方法で過去に使用された酸化剤よりも扱いやすい酸化剤を利用する。この方法は、得られるハロゲン化イソオレフィンコポリマーの微細構造及び分子量に根本的には影響を与えず、より少量の酸化剤を使用して同等の又はより良好なハロゲン化効率を実現する能力は、ハロゲン化イソオレフィンコポリマーの微細構造及び分子量を維持するのに更に有益である。
【0012】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で説明される又は明らかとなる。本明細書に記載される各々の特徴は、他の記載される特徴の任意の1つ又は複数と共に任意の組み合わせで利用されてもよいこと、及び当業者にとって明らかでない限り各特徴は別の特徴の存在に必ずしも依存しないことを理解するべきである。
【0013】
より明確な理解のために、ここで、添付の図面を参照しながら、好ましい実施形態を例として詳細に説明することにする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】45℃のペルオキシ一硫酸カリウムの水溶液(0.1g/mL)における、時間(分)の関数としてのペルオキシ一硫酸カリウム試料中の活性酸素(wt%)のグラフである。
【
図2】酸化剤及び相間移動触媒の非存在下(三角);6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤の存在下(ひし形);並びに、120mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒と併せた6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤の存在下(四角)での、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)及び5wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図3】ペルオキシ一硫酸カリウムの存在下、CDCl
3中で生成される臭素化ブチルゴムに関する、CDCl
3中の
1H NMRスペクトルの一部の図である。
【
図4A】5wt%の水が添加された場合(ひし形)及び15wt%の水が添加された場合(四角)の、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤、及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図4B】45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、3.2のペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤、及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、臭素原子効率(BAE)(%)対添加された水の濃度(wt%)のグラフである。5分後(ひし形)及び60分後(四角)に試料を採取した。
【
図5A】酸化剤を使用せず240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(ひし形);3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(四角);6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(三角)の、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、5wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図5B】酸化剤を使用せず240.0mgの相間移動触媒を使用した場合(ひし形);1.6gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(四角);3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(三角);6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(×);並びに、9.6gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(星形)の、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、10wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図5C】酸化剤を使用せず240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(四角);1.6gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(×);3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(ひし形);6.4gペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合(三角)の、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、15wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図6】3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を使用した場合の、5分(丸)及び60分(×)での、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、10~25wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、BAE対ブチルゴム(IIR)の濃度(wt%)のグラフである。
【
図7】酸化剤を使用しない対照の臭素化(三角)と比較した、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)及び5wt%の添加された水、6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤及び120mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を含有するブチルゴムセメントの臭素化(ひし形)に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。水及び相間移動触媒が添加された後であるが臭素化が開始される前に固体としての酸化剤をセメントへ添加することの効果を示す。
【
図8】23℃(四角)、35℃(三角)、45℃(ひし形)で行われるプロセスについての、20wt%のブチルゴム(IIR)、10wt%の添加された水、3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤、及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図9】1.74gの臭素酸カリウムの存在下(三角)、並びに1.74gの臭素酸カリウム及び240mgのLutensol(商標)TO5の存在下(丸)での、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、5wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【
図10】6.5mLの次亜塩素酸ナトリウムの存在下(四角)、並びに6.5mLの次亜塩素酸ナトリウム及び240mgのLutensol(商標)TO5の存在下(×)での、45℃における、20wt%のブチルゴム(IIR)、10wt%の添加された水を含有するブチルゴムセメントの臭素化に関する、官能基Br(mol%)対反応時間(分)のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この方法は、有機希釈剤中で少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを重合させてハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーを有機媒体中で生成させる工程を伴う。重合は重合反応器で行われる。適切な重合反応器としては、フロースルー重合反応器、プラグ流反応器、移動ベルト又はドラム反応器等が挙げられる。この方法は、好ましくはモノマーのスラリー重合を含む。
【0016】
ハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーは好ましくは、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーに由来する繰り返し単位及び少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーに由来する繰り返し単位、並びに場合により1種又は複数種のさらなる共重合性モノマーに由来する繰り返し単位を含む。ハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーは好ましくは不飽和イソオレフィンコポリマーを含む。
【0017】
適切なイソオレフィンモノマーとしては、4~16個の炭素原子を有する炭化水素モノマーが挙げられる。一実施形態において、イソオレフィンモノマーは4~7個の炭素原子を有する。適切なイソオレフィンの例としては、イソブテン(イソブチレン)、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましいイソオレフィンモノマーはイソブテン(イソブチレン)である。
【0018】
適切な共重合性不飽和モノマーとしては、マルチオレフィン、p-メチルスチレン、β-ピネン、又はそれらの混合物が挙げられる。マルチオレフィンモノマーとしては、4~14個の炭素原子を有する炭化水素モノマーが挙げられる。いくつかの実施形態において、マルチオレフィンモノマーは共役ジエンである。適切な共役ジエンモノマーの例としては、イソプレン、ブタジエン、2-メチルブタジエン、2,4-ジメチルブタジエン、ピペリレン、3-メチル-1,3-ペンタジエン、2,4-ヘキサジエン、2-ネオペンチルブタジエン、2-メチル-1,5-ヘキサジエン、2,5-ジメチル-2,4-ヘキサジエン、2-メチル-1,4-ペンタジエン、4-ブチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ペンタジエン、2,3-ジブチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ペンタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,6-ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1-ビニル-シクロヘキサジエン、及びそれらの混合物が挙げられる。
【0019】
ハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーは、場合により1種又は複数種のさらなる共重合性モノマーを含んでいてもよい。適切なさらなる共重合性モノマーとしては、例えば、アルキル置換ビニル芳香族コモノマー等のスチレン系モノマーが挙げられ、限定はされないがC1~C4アルキル置換スチレンが挙げられる。さらなる共重合性モノマーの具体例としては、例えば、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン、及びメチルシクロペンタジエンが挙げられる。インデン及び他のスチレン誘導体も使用してもよい。一実施形態において、ハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーは、イソブチレン、イソプレン及びp-メチルスチレンのランダムコポリマーを含んでいてもよい。
【0020】
一実施形態において、ハロゲン化可能なイソオレフィンコポリマーはモノマー混合物の共重合により形成されてもよい。好ましくは、モノマー混合物は、モノマー混合物中のモノマーを基準として、約80~99.9mol%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び約0.1~20mol%の少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを含む。より好ましくは、モノマー混合物は、約90~99.9mol%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び約0.1~10mol%の少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを含む。一実施形態において、モノマー混合物は、約92.5~97.5mol%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び約2.5~7.5mol%の少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを含む。別の実施形態において、モノマー混合物は、約97.4~95mol%の少なくとも1種のイソオレフィンモノマー及び約2.6~5mol%の少なくとも1種の共重合性不飽和モノマーを含む。
【0021】
モノマー混合物がイソオレフィン及び/又は共重合性不飽和モノマーと共にさらなる共重合性モノマーを含む場合、さらなる共重合性モノマーは、好ましくは共重合性不飽和モノマーの一部と置き換わる。マルチオレフィンモノマーを使用する場合、モノマー混合物は、0.01%~1質量%の少なくとも1種のマルチオレフィン架橋剤も含んでいてもよく、マルチオレフィン架橋剤が存在する場合、マルチオレフィンモノマーの量をそれに応じて減少させる。
【0022】
不飽和イソオレフィンコポリマーは任意の適切な方法によって調製されてもよく、そのいくつかは当技術分野において公知である。例えば、モノマーの重合は、重合プロセスを開始させることが可能な開始剤系(例えばルイス酸触媒及びプロトン源)の存在下、希釈剤中で行われてもよい。本発明において適切なプロトン源としては、ルイス酸又はルイス酸を含有する組成物に添加されるとプロトンを生成することになる任意の化合物が挙げられる。プロトンをルイス酸とプロトン源の反応から生じさせてプロトン及び対応する副生成物を生成させることができる。そのような反応は、プロトン源のプロトン化添加剤との反応がモノマーとのその反応と比較してより速い事象において好ましい場合がある。プロトン生成反応物としては、例えば、水、アルコール、フェノールチオール、カルボン酸等、又はそれらの任意の混合物が挙げられる。水、アルコール、フェノール、又はそれらの任意の混合物が好ましい。最も好ましいプロトン源は水である。プロトン源に対するルイス酸の好ましい比は、質量で5:1~100:1、又は質量で5:1~50:1である。触媒及びプロトン源を含む開始剤系は、好ましくは、反応混合物の総質量を基準として反応混合物中に0.02~0.1wt%の量で存在する。
【0023】
ハロゲン化アルキルアルミニウム触媒は、本発明による溶液重合反応を触媒するための特に好ましいクラスのルイス酸である。ハロゲン化アルキルアルミニウム触媒の例としては、メチルアルミニウムジブロミド、メチルアルミニウムジクロリド、エチルアルミニウムジブロミド、エチルアルミニウムジクロリド、ブチルアルミニウムジブロミド、ブチルアルミニウムジクロリド、ジメチルアルミニウムブロミド、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムブロミド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジブチルアルミニウムブロミド、ジブチルアルミニウムクロリド、メチルアルミニウムセスキブロミド、メチルアルミニウムセスキクロリド、エチルアルミニウムセスキブロミド、エチルアルミニウムセスキクロリド、及びそれらの任意の混合物が挙げられる。好ましいのは、ジエチルアルミニウムクロリド(Et2AlCl又はDEAC)、エチルアルミニウムセスキクロリド(Et1.5AlCl1.5又はEASC)、エチルアルミニウムジクロリド(EtAlCl2又はEADC)、ジエチルアルミニウムブロミド(Et2AlBr又はDEAB)、エチルアルミニウムセスキブロミド(Et1.5AlBr1.5又はEASB)、及びエチルアルミニウムジブロミド(EtAlBr2又はEADB)、並びにそれらの任意の混合物である。特に好ましい開始剤系において、触媒は、好ましくは等モル量のジエチルアルミニウムクロリド及びエチルアルミニウムジクロリドを好ましくは希釈剤中で混合することにより生成される、エチルアルミニウムセスキクロリドを含む。希釈剤は好ましくは共重合反応を行うのに使用されるものと同じである。
【0024】
希釈剤は有機希釈剤を含んでいてもよい。適切な有機希釈剤としては、例えば、アルカン、クロロアルカン、シクロアルカン、芳香族、ヒドロフルオロカーボン(HFC)、又はそれらの任意の混合物を挙げることができる。クロロアルカンとしては、例えば、塩化メチル、ジクロロメタン、又はそれらの混合物を挙げることができる。塩化メチルが特に好ましい。アルカン及びシクロアルカンとしては、例えば、イソペンタン、シクロペンタン、2,2-ジメチルブタン、2,3-ジメチルブタン、2-メチルペンタン、3-メチルペンタン、n-ヘキサン、メチルシクロペンタン、2,2-ジメチルペンタン、又はそれらの任意の混合物を挙げることができる。アルカン及びシクロアルカンは、好ましくはC6溶媒であり、n-ヘキサン、又はヘキサン異性体、例えば2-メチルペンタン若しくは3-メチルペンタン等、又はn-ヘキサン及びそのような異性体の混合物、並びにシクロヘキサンが挙げられる。モノマーは一般に、-120℃~+20℃、好ましくは-100℃~-50℃、より好ましくは-95℃~-65℃の範囲の温度で、希釈剤中でカチオン重合される。温度は、好ましくは約-80℃以下である。
【0025】
スラリー重合プロセスにおいて希釈剤がシクロアルカン(例えば塩化メチル)を含む場合、希釈剤及び任意の残留モノマーは、蒸気を使用したフラッシュ分離により不飽和イソオレフィンコポリマーから除去することができる。そのような「ウェット」プロセスにおける希釈剤及び残留モノマーの除去では、ポリマーが多量の水を含有したままとなる。ポリマーを有機溶媒中に溶解して、多量の水含量、例えば、セメントの総質量を基準として1wt%以上又は1.5wt%以上を有するポリマーセメントを得る。いくつかの実施形態において、セメントの水含量は、セメントの総質量を基準として0~30wt%、又は0~25wt%、1~30wt%、又は1.5~15wt%、又は2~30wt%、又は2~20wt%、又は2~15wt%、又は5~20wt%、又は5~15wt%、又は5~10wt%、又は10~15wt%であってもよい。
【0026】
スラリー重合又は溶液重合プロセスにおいて希釈剤がクロロアルカン(例えば塩化メチル)又はアルカン(例えばヘキサン)を含む場合、希釈剤及び任意の残留モノマーは、不飽和イソオレフィンコポリマーが可溶性である加熱有機溶媒を使用したフラッシュ分離により、又は単純な蒸留により、不飽和イソオレフィンコポリマーから除去することができる。単純な蒸留を使用する場合、有機希釈剤の一部はセメント中の有機溶媒として残留し得る。そのような「ドライ」プロセスにおける希釈剤及び残留モノマーの除去は、より少量の水を含有する、例えばセメントの総質量を基準として1wt%未満又は更には0wt%の水を含有するポリマーセメントをもたらす。
【0027】
ハロゲン化イソオレフィンコポリマーを形成するのに、不飽和イソオレフィンコポリマーは、ハロゲン化条件下でハロゲン化剤を使用したハロゲン化プロセスを施されてもよい。ハロゲン化は、当業者に公知のプロセス(例えばRubber Technology、第3版、Maurice Morton編、Kluwer Academic Publishers、297~300頁、又は1999年3月23日発行の米国特許第5886106号に記載されている手順。その両方の内容は、本明細書に参照により組み込まれる)を修正し、本明細書に記載のようにプロセスを改変することにより行うことができる。
【0028】
ハロゲン化の効率を改善するために、ハロゲン化プロセスは、有機溶媒中に溶解している不飽和イソオレフィンコポリマーセメントを、ハロゲン化剤、及びカリウム塩系酸化剤の水溶液と接触させることにより改変される。有機相及び水性相を含む2相の反応媒体が形成される。酸化剤はハロゲン化プロセスにおいて生成されるハロゲン化物をin-situで酸化して分子ハロゲンに戻してハロゲン化プロセスのハロゲン原子効率を改善する。
【0029】
不飽和イソオレフィンコポリマーをハロゲン化するのに有用なハロゲン化剤は、分子塩素(Cl2)若しくは分子臭素(Br2)、及び/又は有機ハロゲン化物若しくは無機ハロゲン化物前駆体、例えば、ジブロモジメチルヒダントイン、トリクロロイソシアヌル酸(TCIA)、n-ブロモスクシンイミド、臭化ナトリウム、臭化水素等を含んでいてもよい。好ましくは、ハロゲン化剤は、塩素(Cl2)又は臭素(Br2)、より好ましくは臭素を含む。好ましくは、ハロゲン化は臭素化を含む。添加されるハロゲン化剤の量は、ハロゲン化イソオレフィンコポリマー中で少なくとも0.05mol%、好ましくは0.05~2.5mol%の最終ハロゲン含量を実現するように制御される。使用されるハロゲン化剤の量は、ハロゲン化イソオレフィンコポリマー上の最終ハロゲン含量(すなわち官能基ハロゲンの量)との直線関係を有する。多量のハロゲン化剤は、ハロゲン化イソオレフィンコポリマー中でより多量の官能基ハロゲンをもたらす。
【0030】
ハロゲン化は、有機溶媒を含む反応媒体中で行われる。有機溶媒は、好ましくは脂肪族溶媒である。有機溶媒は、好ましくはアルカンを含み、より好ましくはヘキサン又はペンタンを含む。
【0031】
ハロゲン化は、所望のレベルのハロゲン化を実現する時間の長さで行うことができる。時間の長さは、好ましくは60分以下である。20分以下、又は10分以下、又は5分以下であっても、不飽和イソオレフィンコポリマーの著しいハロゲン化を実現することができる。好ましくは、ハロゲン化は最短で1分で行われる。好ましくは、ハロゲン化の時間は、1~60分、又は1~20分、又は1~10分、又は1~5分である。
【0032】
ハロゲン化は任意の適切な温度で行うことができ、好ましくは最高で約90℃までの温度で行われる。いくつかの実施形態において、温度は最高で約80℃までであってもよい。他の実施形態において、温度は最高で約65℃までであってもよい。低温でのハロゲン化効率の向上は、反応媒体中の不飽和イソオレフィンコポリマーのより高い濃度においてより顕著である。0~70℃、又は0~50℃、又は0~45℃、又は15~45℃、又は20~45℃、又は40~45℃、又は30~70℃、又は20~60℃、又は23~54℃、又は23~45℃、又は10~35℃、又は20~30℃の範囲の温度が好ましい。一実施形態において、不飽和イソオレフィンコポリマーは、不飽和イソオレフィンコポリマーセメントの溶液をハロゲン化剤、及び酸化剤の水溶液と接触させる前に冷却される。
【0033】
不飽和イソオレフィンコポリマーは、好ましくは反応媒体の総質量を基準として1~60wt%の量で反応媒体中に存在する。より好ましくは、不飽和イソオレフィンコポリマーは、反応媒体の総質量を基準として5~50wt%、より一層好ましくは5~40wt%、なお一層好ましくは10~33wt%、更に一層好ましくは10~30wt%、例えば20wt%の量で存在する。
【0034】
水性相は、酸化剤の水溶液、ハロゲン化反応により生じる水、及び不飽和イソオレフィンポリマーセメントに含有するさらなる水から形成される。酸化剤の水溶液はハロゲン化反応により生じる水と共に、典型的には反応媒体の総質量を基準として反応媒体の1wt%未満、例えば0.03~0.3wt%を構成する。
【0035】
反応媒体は、ポリマーセメントを調製するのに使用されるプロセスに応じて不飽和イソオレフィンポリマーセメント中に含有される水に起因する、反応媒体の総質量を基準として0~20wt%のさらなる水を含有していてもよい。さらなる水は不飽和イソオレフィンポリマーセメントに由来する水であり、酸化剤の水溶液を調製するのに使用される水又はハロゲン化反応により生じる水を含まない。本発明の方法の利点は、反応媒体が、相当な量のさらなる水、例えば反応媒体の総質量を基準として1~20wt%のさらなる水を含有していてもよいことである。いくつかの実施形態において、さらなる水は、反応媒体の総質量を基準として反応媒体の1.5~15wt%、又は2~20wt%、又は2~15wt%、又は5~20wt%、又は5~15wt%、又は5~10wt%を構成してもよい。そうであっても、いくつかの実施形態において、反応媒体は、反応媒体の総質量を基準としてわずかな量のさらなる水、例えば1wt%未満のさらなる水を含有していてもよく、又はさらなる水が0wt%でさえあってもよい。
【0036】
カリウム塩系酸化剤は好ましくはカリウムカチオンと1つ又は複数のペルオキシアニオンとの塩を含み、これはハロゲン化物イオン(例えば塩化物イオン又は臭化物イオン、特に臭化物イオン)に対する酸化剤として作用する能力を有する。1つ又は複数の他のカチオン(例えばナトリウム、リチウム等)を有する混合塩を使用可能であるが、カリウムカチオンのみを有する塩が好ましい。いくつかの実施形態において、カリウム塩系酸化剤は、KHSO5、K2S2O8、KClO、KBrO、KBrO3、KIO3、KClO3、KClO4、KIO4、上記のカリウム塩系酸化剤を生成する化合物、又はそれらの混合物を含む。好ましくは、カリウム塩系酸化剤は、KHSO5、又はKHSO5を生成する化合物を含む。ペルオキシ一硫酸カリウムが特に好ましい。ペルオキシ一硫酸カリウムは有効な酸化剤種としてKHSO5を生成する。
【0037】
ペルオキシ一硫酸カリウム(KHSO5・0.5KHSO4・0.5K2SO4)は、市販の水溶性カリウムトリプル塩である。ペルオキシ一硫酸カリウムは、扱いやすく、非毒性、無臭、安定、かつ安価である、白色、結晶性の安定性固体である。ペルオキシ一硫酸カリウムの水溶液は、pHが2であり、45℃で少なくとも1時間安定であるが、pHが3を超えると分解する。ペルオキシ一硫酸カリウムは酸化の副生成物としてKHSO4のみを生成する。表1は、ペルオキシ一硫酸カリウムの特性を他の公知の酸化剤と比較している。ペルオキシ一硫酸カリウムの標準酸化電位は1.85Vであり、これはH2O2及び過酢酸に近く、ペルオキシ一硫酸カリウムがハロゲン化物を酸化してハロゲンとすることができることを示す。ペルオキシ一硫酸カリウムはH2O2及び過酢酸と比較してより高い分解の温度を有し、このことは保存及び輸送を容易にし、保存可能期間を長くすることができる。ペルオキシ一硫酸カリウムは固体であり、このことは取り扱い及び所望の化学量論の維持を容易にする。ペルオキシ一硫酸カリウムは唯一の副生成物としてKHSO4を生成し、これは中和プロセスにおいて容易に洗い流される。ペルオキシ一硫酸カリウムは無臭であり、したがって完成品にいかなる臭気も与えないことになる。
【0038】
【0039】
カリウム塩系酸化剤は有機溶媒に実質的に不溶性であるので、相間移動触媒が好ましくは使用される。相間移動触媒は好ましくは、カリウムイオンを錯体化して酸化剤が有機相中に移動するのを容易にすると同時に有機相中の水性相を乳化して有機相と水性相の間の表面積の接触を増加させる。カリウム塩系酸化剤と共に相間移動触媒を使用すると、先行技術の方法で報告される効率を超えて臭素の回収効率を向上させる。相間移動触媒は好ましくは、カリウムイオンが相間移動触媒の分子上の複数の錯体形成部位に錯化する、カリウムイオンとのホスト-ゲスト相互作用をもたらす。錯体形成部位は、カリウムイオンとの錯体形成に利用可能である電子の1つ又は複数の孤立電子対を有する原子(例えばO、N、S)を含んでいてもよい。好ましくは、相間移動触媒の分子は、5個以上の錯体形成部位、より好ましくは6個以上の錯体形成部位、より一層好ましくは7個以上の錯体形成部位を含む。相間移動分子が十分に大きく十分に多くの数の錯体形成部位を有する場合、1つの相間移動分子は2個以上のカリウムイオンと錯体を形成することができる。相間移動分子は非環式若しくは環状であってもよく、又は非環式部分及び環状部分の両方を含んでいてもよい。非環式分子又はその部分は、直鎖又は分岐鎖であってもよい。相間移動分子は、好ましくは非イオン性界面活性剤である。相間移動触媒は、好ましくは複数のエチレンオキシド単位、好ましくは3~20個のエチレンオキシド単位を含む。相間移動触媒は、好ましくは少なくとも1つの炭化水素鎖を含む。好ましくは、相間移動触媒は、カリウムイオンが錯化される複数の酸素原子を含む。相間移動触媒は、好ましくはポリアルキレンオキシドエーテル、例えばポリエチレングリコールを含む。有機相への溶解性を高めるために、ポリアルキレンオキシドエーテルは、好ましくはアルキル化されている。
【0040】
いくつかの実施形態において、相間移動触媒は、Lutensol(商標)シリーズ化合物、Tween(商標)シリーズ化合物、Triton(商標)X-100、ポリグリセリンポリリシノレエート、ポロキサマー(商標)407、ポロキサマー(商標)、ポリドカノール(商標)、ペンタエチレングリコールモノドデシルエーテル、PEG-10ヒマワリグリセリド、オクタエチレングリコールモノドデシルエーテル、NP-40、ノノキシノール(商標)-9、イソセテス(商標)-20、セトマクロゴール(商標)1000、又はそれらの混合物を含む。
【0041】
酸化剤及び相間移動触媒は、好ましくは、1:3~100:1、又は1:3~75:1の範囲のモル比で水溶液中に存在する。特に1つのカリウムイオンのみを収容するのに十分な錯体形成部位が相間移動分子上にある場合、酸化剤及び相間移動触媒は、好ましくは1:1のモル比で水溶液中に存在する。
【0042】
酸化剤及び相間移動触媒は、好ましくは、水溶液をセメントの反応媒体中に導入する前に、水溶液中であらかじめ混合されるが、いくつかの環境下では、好ましくは相間移動触媒を最初に添加し続いて酸化剤を添加することにより、セメントを含有する反応媒体へ酸化剤及び相間移動触媒を別々に導入することが可能である。酸化剤及び相間移動触媒は、好ましくはハロゲン化剤を導入する前に反応媒体へ添加される。
【0043】
反応媒体中に存在する酸化剤の濃度は、好ましくは、ハロゲン化剤1モル当たり酸化剤が少なくとも0.06モル、又はハロゲン化剤1モル当たり酸化剤が少なくとも0.1モルである。反応媒体中に存在する酸化剤の濃度は、好ましくは、ハロゲン化剤1モル当たり酸化剤が0.2~5モル、より好ましくは0.25~4モル、より一層好ましくは0.5~3モルである。酸化剤の所望の濃度は、所望のハロゲン化の時間の関数である。5分のハロゲン化の時間において、ハロゲン化剤1モル当たり0.5~2モル、例えば2モルの酸化剤が好ましい。より低い濃度の酸化剤は、より長いハロゲン化の時間によって補うことができる。反応媒体の撹拌速度の調整は、ハロゲン化の効率の改善をもたらし得る。
【0044】
本発明の方法において、ハロゲン化剤のすべて又は一部は、水性相に添加されるハロゲン化水素(HX)を含んでいてもよい。HXは水性相中の酸化剤により分子ハロゲン(X2)に転化されるので、添加されるHXはハロゲン化剤の供給源として作用し得る。
【実施例】
【0045】
スキーム1はハロゲン化イソオレフィンコポリマーを製造する方法の一例を示す。スキーム1に示すように、ハロゲン化剤としてのBr2、有効な酸化剤としてのKHSO5、及び相間移動触媒としてのLutensol(商標)TO5を使用すると、相間移動触媒上の錯体形成部位である酸素原子はKHSO5のカリウムイオンとイオン双極子相互作用を形成する。加えて、HSO5
-と相間移動触媒の酸素原子及びヒドロキシル水素原子の両方との間で水素結合性相互作用が形成される。このように、相間移動触媒は水性相から酸化剤を抽出して、有機相中で生成されたHBrの酸化を行ってBr2に戻すことが可能である。加えて、水性相へ移動する臭化物イオンは酸化剤により酸化されてBr2を再形成することが可能であり、優先的に有機相へ移動して戻ることになる。このように、臭素化反応における臭素利用の効率を高めることができる。
【0046】
【0047】
材料及び方法
イソブチレン-イソプレンポリマー(IIR)及びエポキシ化大豆油(ESBO)をARLANXEO社(Sarnia、Ontario、カナダの拠点)より入手した。残りの材料: ペルオキシ一硫酸カリウム(4wt%を超える活性酸素を有するOxone(商標)、Sigma Aldrich社)、臭素酸カリウム(Sigma-Aldrich社)、次亜塩素酸ナトリウム(利用可能な塩素10~15%)、Lutensol(商標)TO3(BASF社)、Lutensol(商標)TO5(BASF社)、Lutensol(商標)TO8(BASF社)、Tween(商標)20(Taiko社)、ヘキサン(VWR社)、イソペンタン(Sigma-Aldrich社)、水酸化ナトリウム(VWR社)、99.99%臭素(Sigma Aldrich社)、30wt%過酸化水素(Sigma-Aldrich社)、32wt%過酢酸溶液(Sigma-Aldrich社)、ステアリン酸カルシウム(Alfa Aesar社)、及びIrganox(商標)-1010(BASF社)は、そのままの状態で使用した。
【0048】
臭素化反応
250gのイソブチレン-イソプレンコポリマー(ブチルゴム、IIR)を切断して小片とし、オーバーヘッド撹拌機を備え「X」mLのヘキサン又はイソペンタンがあらかじめ入った5Lのジャケット付き反応器へ加えた。撹拌速度を150rpmに設定し、その間に基材片を反応器へ加えた。溶液を24時間撹拌してブチルゴムを完全に溶解させた。イソブチレン-イソプレンコポリマーが完全に溶解した後、ピペットにより「Y」mLの水を反応器へ加えてブチルゴムセメントを得た。臭素回収のために酸化剤を使用した実施例では、酸化剤を最初に「Z」mLの水に溶解させ、続いて得られる水溶液を反応器へ加えた。相間移動触媒及び酸化剤の両方を使用した実施例では、相間移動触媒及び酸化剤を最初に「Z」mLの水に溶解させ、続いて得られる水溶液を反応器へ加えた。酸化剤及び相間移動触媒の量を実施例に示した。下記の実施例における水含量を有するブチルゴムセメントを得るようにX、Y及びZの値を選択する。
【0049】
ジャケット付き反応器に接続された循環浴を所望の温度に設定して反応器を加熱し、ブチルゴムセメントを350rpmで30分、実施例に示される所望の温度で撹拌した。次いで臭素(Br2)(2.15mL、6.71g、0.042モル)をシリンジで加え、反応物を1時間撹拌した。
【0050】
1時間の間に、5、20、40及び60分の時点で、反応媒体の10mLの試料をピペットにより抽出し、10mLの2.5M NaOHが入ったバイアルに加え、すぐにバイアルを強く撹拌して残留する臭素、HBr及び酸化剤をクエンチさせた。次いで、ポリマー溶液をエタノール中で析出させ、析出物を真空下、60℃で48時間乾燥させることにより、バイアル中のハロゲン化ポリマー試料を収集した。
【0051】
1時間の後、所定の量の2.5MNaOH溶液を、残留する反応媒体に加えて、反応をクエンチさせた。混合を支援するために更に250mLの水を加えた。混合物を350rpmで5分間撹拌し続けた。更に1Lの水を加え、350rpmで更に5分撹拌した。撹拌を150rpmまで弱め、更に5分撹拌した。反応器の撹拌を停止し、底部排液弁を通して水相を排出させた。臭素化イソブチレン-イソプレンコポリマーのセメントをpHが7になるまでさらなる水で洗浄して残留無機塩を除去した。ヘキサン中のポリマー安定化剤の溶液(4.52gのステアリン酸カルシウム、0.125gのIrganox(商標)-1010、及び3.25gのESBO)を反応器へ加え、セメントを5分撹拌した。セメントを排出し、低圧蒸気を使用して約1時間蒸気凝固させた。臭素化ポリマー試料の小片を最終生成物から切り出し、60℃の真空オーブン中で一晩乾燥させた。
【0052】
1H-NMR分光法を使用して、乾燥試料の微細構造及び臭素含量を分析した。
【0053】
臭素利用の計算
臭素化プロセスにおける臭素利用は、以下の式で示される臭素原子効率(BAE)を使用して測定することができる:
【0054】
【0055】
ポリマー上のBrの原子は1H-NMRから計算される。反応に加えられる臭素に由来するBrの原子は、反応において使用される臭素の体積により計算される。式から、理想的な条件は50%のBAEをもたらすことが明らかであり、Brの50%は廃棄物のHBr中にある。したがって、ブチルゴムポリマーに導入することができる、反応混合物中に存在する臭素の理論的な最大の割合は50%である。しかし、実際にはBAEは通常45%未満、例えば30~45%、又は35~45%である。
【0056】
いくつかの過去の方法では(例えば米国特許第3018275号及び米国特許第5681901号では)、臭素利用は反応に加えられる分子臭素の分子を使用して測定され、分子臭素の分子ごとに2個の臭素の原子が存在するのでBAEの2倍である数値結果が得られる。更に、これらの過去の方法は、Brポリマーに結合しているBrの量を見積もるためにX線回折を使用する。しかし、この方法は、中和プロセスから生じポリマーマトリックス内に捕捉されているNaBrも測定することになる。捕捉されたNaBrはポリマーに化学結合したBrの量を必ずしも測るものではなく、一般に実際の効率よりも高い臭素利用効率の数を与える。
【0057】
ペルオキシ一硫酸カリウムの安定性
水溶液中のペルオキシ一硫酸カリウムの温度安定性を決定して、ブチルゴムの臭素化において臭素を回収する酸化剤としてのペルオキシ一硫酸カリウムの安定性を評価した。
【0058】
10mLの0.1mg/Lペルオキシ一硫酸カリウム水溶液を45℃まで予熱された水浴中に置いた。様々な時間間隔で、1.0mLの0.1g/mLのペルオキシ一硫酸カリウム水溶液を、風袋を引いた250mLの三角フラスコに加え、溶液の質量を記録した。その後、0.1Nの標準チオ硫酸ナトリウム溶液に対して溶液を滴定した。滴定の手順は、下記の通りに記載されているOxone(商標)のデータシートに基づく。
【0059】
75mLの脱イオン水、10mLの20%(v/v)硫酸、及び10mLの25%(w/w)ヨウ化カリウム溶液を、1.0mLの0.1mg/mLペルオキシ一硫酸カリウム水溶液が入った250mLの三角フラスコへ加えた。試料を直ちに0.1Nのチオ硫酸ナトリウム溶液により薄黄色になるまで滴定した。その後、3mLのデンプン指示薬溶液を加え、溶液は藍色になった。少なくとも30秒持続する無色の終点まで滴定を続けた。以下の式にしたがって活性酸素含量を計算した:
【0060】
【0061】
式中、mLthioはチオ硫酸ナトリウム溶液の体積であり、Nthioはチオ硫酸ナトリウム溶液の規定度である。
【0062】
結果を
図1に示す。
図1は、活性酸素が5wt%であり、供給業者からの技術データシートと一致していること、1時間以内に活性酸素の変化がないことを示す。したがって、ペルオキシ一硫酸カリウムは、45℃の温度でブチルゴムの臭素化プロセスの時間にわたって安定である。
【0063】
(実施例1)
実施例1:IIRの臭素化におけるペルオキシ一硫酸カリウムの効果
臭素化反応を上記のように行い、ここで、反応媒体の総質量を基準としてブチルゴム(IIR)の量は20wt%であり、反応媒体の総質量を基準として添加される水の量は5wt%であった。IIRの不飽和は1.78mol%であった。
【0064】
プロセスP1は対照であり、ここでは酸化剤が添加されなかったので臭素回収が試みられなかった。プロセスP2は6.4gのペルオキシ一硫酸カリウムを酸化剤として利用して臭素をリサイクルし、これは1:2の酸化剤:Br2のモル比を実現し、臭素分子に対して酸化剤が0.5当量である。プロセスP3は、酸化剤としての6.4gのペルオキシ一硫酸カリウム及び相間移動触媒(PTC)としての120mgのLutensol(商標)TO5を利用した。Lutensol(商標)TO5はイソトリデシルアルコールポリオキシエチレンエーテルであり、これはポリエチレングリコール(PEG)の誘導体である。表2は、P1、P2及びP3のそれぞれのプロセスの60分のタイムマークで反応媒体から抽出された試料についての結果を示す。
【0065】
表2で分かるように、P1とP2を比較すると、酸化剤としてペルオキシ一硫酸カリウムを0.5当量のみ使用した場合に、60分のマークにおいて官能基Brは0.61mol%から0.72mol%へと増加し、このことはペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤の存在下で臭素のリサイクルが生じていることを示す。しかし、相間移動触媒Lutensol(商標)TO5を含むことで官能基Brは0.85%まで更に増加し(P3)、これはペルオキシ一硫酸カリウム単独よりも18%の改善である。
【0066】
【0067】
5分、20分、40分及び60分のタイムマークで採取されるプロセスP1、P2及びP3の各々についての試料を分析することにより、反応時間の関数として官能基Brを決定した。
図2は、対照のプロセス(P1、三角)において官能基Brが時間と共に増加せず、一方、ペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤を使用するプロセスP2(ひし形)及びP3(四角)の両方で官能基Brが増加することを示す。酸化剤が相間移動触媒と共に錯体化する場合に(P3、四角)、時間と共に官能基Brの最大の増加が生じる。
【0068】
P2の60分のマークの臭素化ブチルゴムの
1H NMRスペクトルを分析して、微細構造がP1の臭素化ブチルゴム試料と同じであるかどうかを調べた。
図3で分かるように、プロセスP2のブチルゴムにおいて、5.4ppm、5.02ppm及び4.34ppmでの共鳴シグナルの出現は臭素化ブチルゴムの形成を示唆する。a:b:cの積分比は1:1:1であり、P1の臭素化ブチルゴムの化学構造とも一致する。ペルオキシ一硫酸カリウムを使用してオレフィンをエポキシ化する場合、得られる2.7ppmの化学シフトが得られることが知られている。このピークはP2の試料の
1H NMRスペクトルでは観測されず、エポキシ化ブチルゴム不純物が生成されなかったことを示す。
【0069】
(実施例2)
実施例2:IIRの臭素化におけるペルオキシ一硫酸カリウムの水感受性
ペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤の水感受性を決定するために、表3に示す条件の変更以外は上記のようにして、臭素化プロセスP4及びP5を行った。IIRの不飽和は1.78mol%であった。それぞれのプロセスの60分のタイムマークで、P4及びP5の試料を反応媒体から抽出した。表3及び
図4Aで分かるように、240mgのLutensol(商標)TO5 相間移動触媒(PTC)(P4の試料)を使用した場合、120mgのLutensol(商標)TO5を使用した場合(表2におけるP3の試料)の0.85mol%の官能基Brと比較して、官能基Brは0.92mol%まで増加した。また、官能基臭素のレベルが20分後にプラトーに達したので(
図4Aを参照)、より多量のLutensol(商標)TO5の使用は臭素化及び臭素回収を加速し、これは官能基Brがプラトーになるのに1時間を要したP3とは異なる(
図2を参照)。ペルオキシ一硫酸カリウムが臭素をリサイクルする能力はブチルゴムの臭素化プロセスに加えられる水の量の違いの影響をあまり受けないことが、表3及び
図4Aから明らかである。
【0070】
【0071】
別の実験において、ブチルゴムセメント中の加えられる水の濃度を0wt%~25wt%で変化させて、20wt%のIIR、3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤、240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒、及び0.042モルのBr
2を含有する5種類の異なる臭素化反応を実現し、臭素化を45℃で60分の時間にわたって行った。5分(P6)及び60分(P7)のマークで試料を採取し、各試料の臭素原子効率(%)を決定した。
図4Bで分かるように、BAEは加えられる水が0wt%~10wt%の間でわずかに増加し、次いで0wt%の水の試料と同じBAEまで次第に減少して戻る。全体として、ペルオキシ一硫酸カリウムが臭素をリサイクルする能力は、ブチルゴム臭素化プロセスに加えられる水の量の違いの影響をあまり受けない。
【0072】
(実施例3)
実施例3:IIRの臭素化における相間移動触媒の量及び種類の効果
表4Aの臭素化プロセスP8~P10により示されるように、IIRの臭素化に対するLutensol(商標)TO5の量の効果を最初に試験した。IIRの不飽和は1.78mol%であった。60分のマークにおいて、Lutensol(商標)TO5が60mgから240mgへ増加するとBAEは増加した(P8、P9)。更にLutensol(商標)TO5を480mgまで増加させると(P10)、BAEのわずかな減少をもたらすが、2倍の酸化剤を使用しながらLutensol(商標)TO5を添加しなかったプロセスP2をやはり上回る。したがって、240mgのLutensol(商標)TO5を使用した場合にBAEがピークになる。
【0073】
【0074】
Lutensol(商標)製品は、一般式:RO(CH2CH2O)nHを有する非イオン性分子であり、式中、Rはイソ-C13H27であり、nは3、5、6、6.5、7、8、10、12、15又は20であり、nはエトキシ化度を規定する。Lutensol(商標)TO3では、nは3である。Lutensol(商標)TO5では、nは5である。Lutensol(商標)TO8では、nは8である。Lutensol(商標)シリーズ化合物の構造は以下の通りである:
【0075】
【0076】
Lutensol(商標)TO5に加えて、Lutensol(商標)TO8及びLutensol(商標)TO3も臭素化について試した(表4BのP12及びP13)。60分のマークにおける実験結果を、Lutensol(商標)TO5を使用したP11と比較する(P11はP5と同じ実験である)。240mgのLutensol(商標)TO5、209mgのLutensol(商標)TO8、及び316.3mgのLutensol(商標)TO3におけるエチレングリコール単位の数は同じである。表4Bに示すように、Lutensol(商標)TO5と比較してLutensol(商標)TO8及びLutensol(商標)TO3を使用した場合に、BAEは変化しないままである。カリウムイオンとの良好な錯体形成を実現するためのエチレングリコール単位の最小数は7であることが報告されている。しかし、エチレングリコール鎖がより短い場合、水溶性がより低くなるので有機相中の相間移動触媒の分配が改善し、このことはLutensol(商標)TO3を使用する場合の臭素化の結果を説明し得る。
【0077】
【0078】
Tween(商標)20はPEG(20)ソルビタンモノラウレート又はポリソルベート20とも呼ばれ、ポリエチレングリコールに基づく非イオン性分子である。Tween(商標)シリーズ化合物の構造は以下の通りであり、式中、Tween(商標)20ではw+x+y+zが20であり、Tween(商標)80では80である:
【0079】
【0080】
1時間の反応において、Tween(商標)20の存在下での臭素化(P15)は、Lutensol(商標)TO5の代わりにTween(商標)20を使用した場合(P15)に臭素回収がわずかに改善されることを示唆する。
【0081】
【0082】
(実施例4)
実施例4:IIRの臭素化におけるペルオキシ一硫酸カリウムの量の効果
ペルオキシ一硫酸カリウム酸化剤の量の効果を決定するために、20wt%のIIR及び5wt%の水を使用する臭素化(表5A、
図5A)、20wt%のIIR及び10wt%の水を使用する臭素化(表5B、
図5B)、並びに20wt%のIIR及び15wt%の水を使用する臭素化(表5C、
図5C)の、3セットの臭素化を行う。
【0083】
図5Aで分かるように、酸化剤を添加しなかったP16と比較して、P17及びP18(P18はP4と同じ実験である)は、官能基Br及びBAEの増加を示し、臭素回収が生じたことを示す。加えて、ペルオキシ一硫酸カリウムの量を半分減らすことにより官能基Brは大幅には減少しない(P17(四角)とP18(三角)を比較する)。更に、0.9mol%の官能基Brを得るのにBr
2と比較してわずか0.25当量のペルオキシ一硫酸カリウム(すなわち、1:4のモル比)しか必要とせず(P17(四角)を参照)、これは0.9mol%の官能基Brを得るのに0.5当量(1:2のモル比)を必要とする過酢酸(PAA)の使用に有利に匹敵する。
【0084】
【0085】
10wt%を使用する第2のセットの臭素化プロセスP19、P20、P21、P22及びP23は、表5Bに示す条件の変更以外は上記のようにして行われた。プロセスP19は、酸化剤を使用しなかった対照のプロセスである。
図5Bで分かるように、ペルオキシ一硫酸カリウムの量を増加させると一般に官能基Brが増加する。第1のセットの実験と同様に、ペルオキシ一硫酸カリウムの量を半分減らすことにより官能基Brは大幅には減少しない(P21(三角)とP22(×)を比較する)。更に、0.9mol%の官能基Brを得るのにBr
2と比較してわずか0.25当量のペルオキシ一硫酸カリウム(すなわち、1:4のモル比)しか必要としない(P21(三角)を参照)。
【0086】
【0087】
15wt%を使用する第3のセットの臭素化プロセスP24、P25、P26及びP27は、表5Cに示す条件の変更以外は上記のようにして行われた(P26はP14と同じ実験である)。プロセスP24は、酸化剤を使用しなかった対照のプロセスである。
図5C及び表5Cで分かるように、ペルオキシ一硫酸カリウムの量を増加させると一般に官能基Br及びBAEが増加する。更に、0.86mol%の官能基Brを得るのにBr
2と比較してわずか0.25当量のペルオキシ一硫酸カリウム(すなわち、1:4のモル比)しか必要としない(P26(ひし角)を参照)。P17のBAE(46.2%)、P21のBAE(49.3%)、及びP26のBAE(45.6%)を比較することにより、水濃度が5wt%から15wt%へ増加した場合に臭素回収が低下しないことが明らかであり、臭素回収がセメント中の水濃度の影響を受けないことを示し、これは実施例2の結果と一致する。
【0088】
【0089】
(実施例5)
実施例5:IIRの臭素化におけるセメント濃度の効果
10wt%の水含量及び10~33wt%のブチルゴム(IIR)含量を有するセメントを得るための公知の方法にしたがって、塩化メチル中のイソブテン及びイソプレンのスラリー重合からブチルゴムセメントを得た。3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム及び240mgのLutensol(商標)TO5を使用して上記の手順にしたがい、これらのセメントを45℃で臭素化した。
図6は、IIR濃度がおよそ20wt%である場合に臭素化効率がピークになることを示す。この結果は、過酸を酸化剤として使用した場合の臭素化の結果と一致する。
【0090】
プロセスP28:5分の臭素化、セメント濃度は10wt%、15wt%、20wt%及び25wt%であり、10wt%の水、3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム、240mgのLutensol(商標)TO5である。
【0091】
プロセスP29:60分の臭素化、セメント濃度は10wt%、15wt%、20wt%及び25wt%であり、10wt%の水、3.2gのペルオキシ一硫酸カリウム、240mgのLutensol(商標)TO5である。
【0092】
(実施例6)
実施例6:IIRの臭素化における酸化剤/PTC錯体の形成の効果
酸化剤/相間移動触媒錯体をあらかじめ形成することが臭素回収において重要であるかどうかを決定するために、表6に示す条件により臭素化プロセスP30を行い、臭素化プロセスを、酸化剤又は相間移動触媒が存在しない対照の臭素化(P1)と比較した。IIRは不飽和が1.78mol%であった。プロセスP30は、以下の工程の順序であること以外は上記のようにして着手された:
【0093】
プロセスP30:1)IIRセメントを調製する;2)Lutensol(商標)TO5を水中に溶解させる;3)Lutensol(商標)TO5水溶液をセメントに加える;4)30分撹拌して45℃にする;5)固体ペルオキシ一硫酸カリウムをセメントへ添加する;6)臭素をセメントへ添加する。
【0094】
実際には、ペルオキシ一硫酸カリウムは水溶液の一部としてではなく固体としてセメントへ添加され、それにより臭素化を開始させる前にペルオキシ一硫酸カリウムがLutensol(商標)TO5と錯形成する時間をあまり与えない。
【0095】
図7で分かるように、ペルオキシ一硫酸カリウムが固体としてセメントへ添加される場合(ひし形)、官能基Brは0.70mol%であり、これはペルオキシ一硫酸カリウムが水溶液の一部として相間移動触媒と共にセメントへ添加される場合よりも効率が低い(表2及び
図2のP3を参照)。したがって、より高いレベルの臭素回収を維持するためには、セメントへ添加する前に酸化剤/PTC錯体をあらかじめ形成することが重要である。
【0096】
【0097】
(実施例7)
実施例7:IIRの臭素化における温度の効果
反応温度の効果を決定するために、表7に示す条件の変更以外は上記のようにして、臭素化プロセスP31、P32及びP33(P33はP21と同じ実験である)を行った。IIRの不飽和は1.78mol%であった。
【0098】
図8で分かるように、23℃(P31、四角)、35℃(P32、三角)、及び45℃(P33、ひし形)の反応温度は、実質的に同じ臭素回収をもたらし、官能基Brはやはり酸化剤を使用しない対照よりもはるかに上回る。
【0099】
【0100】
(実施例8)
実施例8:ヘキサン及びイソペンタン中の臭素化の比較
臭素回収に対する溶媒の効果を調べるために、5wt%及び15wt%の水濃度をそれぞれ有するイソペンタン中で2通りの臭素化P34及びP35を行った。表8は、P34及びP35のそれぞれのプロセスの60分のタイムマークにおいて反応媒体から抽出された試料についての結果を示す。イソペンタンが低沸点であるので、2通りの臭素化は23℃で行った。ヘキサン(P31及びP34)と比較してわずかに効率が低いが、酸化剤を添加しなかった対照実験(P1、P16、及びP24)と比較した場合に、P34及びP35は共にBAEの改善を示した。
【0101】
【0102】
(実施例9)
実施例9:過酸及び過酸化水素との比較
ペルオキシ一硫酸カリウム(PPMS)を使用した臭素回収効率を、過酢酸(PAA)及び過酸化水素(H2O2)の臭素回収効率と比較するために、表9に示す条件の変更以外は上記のようにして、臭素化プロセスP36、P37及びP38を行った。IIRの不飽和は1.78mol%であった。
【0103】
過酸化水素がペルオキシ一硫酸カリウムのモル量よりも4倍以上多いモル量で使用される場合でも、添加された水の存在下でのペルオキシ一硫酸カリウムと比較して、過酸化水素は臭素回収において全く効率的ではないことが表9から明らかである。ペルオキシ一硫酸カリウムと同じ臭素回収効率を実現するのに、過酢酸はペルオキシ一硫酸カリウムのモル量の2倍のモル量で使用しなければならないことが表9から更に明らかである。
【0104】
【0105】
(実施例10)
実施例10:K
+を含有する他の酸化剤
ペルオキシ一硫酸カリウムに加えて、別のK
+酸化剤として臭素酸カリウムKBrOsを調べた。表10に示す条件の変更以外は上記のようにして、臭素化プロセスP39及びP40 を行った。IIRの不飽和は1.78mol%であった。表10は、P39及びP40のそれぞれのプロセスの60分のタイムマークにおいて反応媒体から抽出された試料についての結果を示す。Lutensol(商標)TO5を添加するとKBrO
3単独の使用と比較して臭素回収が改善したことが表10及び
図9から明らかである。KBrO
3は高い臭素回収効率をもたらすが、KBrO
3はペルオキシ一硫酸カリウムよりもはるかに取り扱いが困難である。したがって、ペルオキシ一硫酸カリウムは好ましいK
+酸化剤と考えられる。
【0106】
【0107】
(実施例11)
実施例11:酸化剤としての他の金属塩の効果
相間移動触媒の存在下での臭素回収に対するナトリウム塩系酸化剤の効果を決定するために、表11に示す条件の変更以外は上記のようにして、臭素化プロセスP41及びP42を行った。P42において、NaClO溶液を反応媒体へ添加する前に、Lutensol(商標)TO5を6.5mLのNaClOと混合し5分撹拌した。NaClO溶液の添加直後に臭素を反応媒体へ添加した。IIRの不飽和は1.78mol%であった。
【0108】
図10で分かるように、NaClO酸化剤を単独で添加(P41、四角)すること、及び240mgのLutensol(商標)TO5相間移動触媒と共にNaClO酸化剤を添加すること(P42、×)は、非常によく似た臭素回収効率をもたらす。したがって、NaClOを酸化剤として使用する場合にLutensol(商標)TO5の添加は臭素回収を改善しない。更に、NaClOは比較的高い臭素回収効率をもたらすが、NaClOはカリウム塩系酸化剤よりもはるかに取り扱いが困難であり、したがってカリウム塩系酸化剤ほど望ましくはない。
【0109】
【0110】
記載を検討すれば、新規の特徴が当業者には明らかとなる。しかし、特許請求の範囲は実施形態により限定されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書の表現と全体として矛盾しない最も広い解釈が与えられるべきであることが理解されるべきである。
【国際調査報告】