IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ プランゼー エスエーの特許一覧

特表2023-552482二ホウ化チタンで被覆された耐熱金属部品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-15
(54)【発明の名称】二ホウ化チタンで被覆された耐熱金属部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/38 20060101AFI20231208BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20231208BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20231208BHJP
   F16B 37/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C23C16/38
C23C14/06 C
F16B35/00 J
F16B37/00 C
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535586
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(85)【翻訳文提出日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 AT2021060446
(87)【国際公開番号】W WO2022126157
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】GM50250/2020
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390040486
【氏名又は名称】プランゼー エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110003317
【氏名又は名称】弁理士法人山口・竹本知的財産事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100169627
【弁理士】
【氏名又は名称】竹本 美奈
(72)【発明者】
【氏名】シフトナー,ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】クニットル,カリン
(72)【発明者】
【氏名】フーバー,トーマス
(72)【発明者】
【氏名】マルク,ミヒャエル
【テーマコード(参考)】
4K029
4K030
【Fターム(参考)】
4K029AA02
4K029BA53
4K029BC10
4K029EA01
4K030AA03
4K030AA17
4K030AA18
4K030BA18
4K030BA49
4K030CA02
4K030FA10
4K030JA01
(57)【要約】
本発明は、耐熱金属からなる部品であって、その表面がTiBからなる層で少なくとも部分的に被覆されていることを特徴とする部品、該部品の製造、及び高温適用における剥離剤としてのTiBの使用に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱金属からなる部品であって、前記部品の表面がTiBからなる層で少なくとも部分的に被覆されていることを特徴とする部品。
【請求項2】
前記耐熱金属が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びレニウム、並びにこれらの金属の合金からなる群から選択される金属である、請求項2に記載の部品。
【請求項3】
前記耐熱金属が少なくとも70重量%のモリブデンからなる、請求項1又は2に記載の部品。
【請求項4】
前記部品が、ねじ、ナット、ピン、ノックピン、ワッシャー、ボルト、鋼板、クランプ、パイプ、ロッド又はUレールである、請求項1~3のいずれか1項に記載の部品。
【請求項5】
前記部品が、溶接及び/又はリベット留めされた個別部品からのアセンブリである、請求項1~3のいずれか1項に記載の部品。
【請求項6】
前記TiB層が1μm~5μmの範囲の厚さを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の部品。
【請求項7】
前記部品の前記表面が完全に被覆されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の部品。
【請求項8】
前記部品の前記表面が部分的に被覆されている、請求項1~6のいずれか1項に記載の部品。
【請求項9】
前記層が、CVDによって蒸着されたTiBからなることを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の部品。
【請求項10】
高温適用のための部品のための剥離剤としてのTiBの使用。
【請求項11】
下記のステップを含む、被覆された部品を製造するための方法。
- 耐熱金属からなる部品を提供するステップ
- TiBからなる層を化学気相堆積(CVD)又は物理気相堆積(PVD)によって前記部品の表面の少なくとも一部に堆積させるステップ


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱金属からなる部品であって、その表面が少なくとも部分的にTiBの層で被覆されていることを特徴とする部品と、この部品の製造と、高温用途における剥離剤としてのTiBの使用とに関する。
【0002】
焼結炉、熱処理プラント、石英溶解プラント等の高温プラントにおいては、又は照明プラントや蒸着プラントにおいては、温度や応力に繰り返し曝された後でも取り外し可能である必要がある部品や部材が使用される。1000℃~1800℃の範囲の高温に曝された後のそのような部品の取り外し性は、特に課題となる。というのは、典型的な金属製部品は、その接触面と対向接触面で焼結する傾向、即ち、焼き付き現象の傾向、があるためである。もし、例えば、ねじ接続の場合等のように、接触面が圧力にも曝されると、接触面同士の冶金学的結合が更に促進される。その後は、接触面同士は、もはや破壊せずに互いに分離することができなくなり、分離によって、少なくとも1つの部品の損失がもたらされる。
【0003】
この問題を回避するために、従来技術では、異なる材料の組み合わせを使用するか、又はスリーブやペーストの塗布分離層等の補助-剥離手段を使用する。しかしながら、これらの方法は、極端な条件下では直ぐにそれらの限界に達する。例えば、一部の助剤や剥離剤は、その成分が蒸発するリスクがあるため真空中では使用できず、また、分解や相互汚染のリスクがあるため使用温度が制限されている。現在、Al、ZrO又は窒化ホウ素のスプレー又は粉末が炉の建設に使用されている。しかしながら、これらの変形例は、部品と助剤や剥離剤との間の相互汚染が特に問題となるため、1400℃超の温度での適用には不適切である。
【0004】
粗粒で耐クリープ性のモリブデン製装填鋼板(Chargierblechen)の製造では、1700℃超の温度での再結晶アニールが必要であり、そこでは、鋼板がスタック中で部分的に焼結するため、アニール後に、最早、分離可能ではなくなる。これまでは、タングステン製薄鋼板が分離補助手段として使用されてきた。しかしながら、この方法の欠点は、タングステン製薄鋼板は一度しか使用することができないため、それによって、装填鋼板の製造コストが著しく高くなる要因となることである。
【0005】
特許文献1は、雄ねじを有するねじと雌ナットねじを有する部品とを備えた真空適用のためのねじ接続であって、部品若しくはねじのいずれか一方又は両方が防錆オーステナイト鋼から形成されており、基材とは異なる被覆材料で部品/ねじを被覆することによって異なる接触面対が作製され、それによって、真空を損なう潤滑剤なしで相互に滑動することを可能にする、ねじ接続に関する。
【0006】
特許文献2では、第2の要素を選択的に係合するのに適切な第1の要素であって、被覆を有し、第1の要素の少なくとも係合部分がこの被覆内に被覆されており、この被覆が蒸着によって形成されていて、800℃までの温度に対して熱化学的に安定した層を提供するものである、第1の要素が提供されている。被覆は、チタン、クロム又はアルミニウムの1種以上の窒化物、酸化物又は炭化物を含み得る。例えば、被覆は、窒化チタン、窒化クロム、窒化アルミニウム、酸化チタン、酸化クロム、酸化アルミニウム、炭化チタン、炭化クロム又は炭化アルミニウムのうちの1種以上を含み得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】独国特許出願公開第102013213503号明細書
【特許文献2】英国特許出願公開第201110939号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
高温処理の分野では、1800℃超の特に高い温度の使用がますます求められている。同時に、処理された製品の純度に対する要件もますます厳しくなっている。
【0009】
従って、本発明の課題は、1400℃~1800℃の範囲の温度での使用後でも取り外し可能であり、分解又は他の部品若しくは処理された製品との相互汚染が生じない、被覆された部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、その表面がTiBの層で少なくとも部分的に被覆されている、耐熱金属からなる請求項1に記載の部品を提供することによって、解決される。本発明の有利な構成は従属請求項の対象であり、これらは互いに自由に組み合わせることができる。
【0011】
TiB層による被覆によって、蒸発、相互汚染又は分解を計算する必要なく、水素又は真空中等の様々な雰囲気における部品の使用が可能になる。この層は、更に、部品を破壊せずに交換すること及び部品を破壊せずに開けることをも保証する。それによって、個別部品の焼結を防止することができ、従って、これらが取り外し可能なままであることが保証される。TiBによる被覆によって、不純物汚染リスク/有害物質汚染リスク又は焼き付きなしで、400℃~1800℃までのこれまでで最も広範な温度適用範囲をカバーすることができ、部品/機械要素の取り外しを達成することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によると、互いに直接接触している部品の表面を、部品を損傷することなく、再び互いに分離することができる場合は、接続は取り外し可能であり、接触している表面を再び互いに分離するために、部品を少なくとも部分的に破壊する必要がある場合は、接続は取り外し可能ではない。
【0013】
本発明による被覆された部品は、特に高温適用、即ち、400℃~2000℃、ここでは特に1400℃~1800℃、の温度に適切である。
【0014】
これらの温度に耐えるために、本発明の部品は、耐熱金属からなる。
【0015】
本発明の文脈において、耐熱金属とは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン及びレニウムからなる群から選択される金属、並びに、本明細書では耐熱金属合金とも呼ばれる上記金属の合金である。耐熱金属合金は、上述の金属のうちの1種以上を、少なくとも50原子%、好ましくは少なくとも70原子%、更に好ましくは少なくとも90原子%、なおも更に好ましくは少なくとも95原子%、有する合金を意味する。
【0016】
上で定義した耐熱金属の融点は、部品が使用目的の温度に適するように、選択されることは言うまでもない。好適には、耐熱金属は、1400℃超、更に好ましくは1800℃超、更に好ましくは2000℃超、の融点を有する。
【0017】
一実施形態では、部品は、不可避的不純物を伴うモリブデンを、又はモリブデン合金を、含有する。
【0018】
一実施形態では、合金が、モリブデンのみならず、30重量%までの上述の更なる耐熱金属元素を含有することが更に好ましい。
【0019】
更なる実施形態では、モリブデンのほか、以下の重量パーセントで記載されている比率の元素からなる組成物が好ましい:
0.5重量%のTi及び0.08重量%のZr並びに0.01重量%~0.04重量%のC。1.2重量%のHf及び0.01重量%~0.04重量%のC。0.3重量%のLa。0.7重量%のLa。0.47重量%のY及び0.08%のCe。0.005~0.1重量%のK及び0.005~0.1重量%のSi並びに0.01~0.2重量%のO。5重量%のRe又は41重量%のRe。30重量%のW。更に、ここに記載されている比率が10%まで逸脱している組成も含まれる。
【0020】
比率の記載及びデータは、それがモリブデン基材中に元素形態で存在するか結合形態で存在するかに関係なく、その都度参照される元素(例えば、Mo、C又はW)に関連する。様々な元素の比率は化学分析によって決定される。
【0021】
本発明の意味合いにおける部品という用語は、個別部品(機械要素、部品)、特に、機械要素の交換又は可逆的な固定及び緩めに適切な構築手段、並びに個別部品から構成されるアセンブリを含む。適切な個別部品としては、特に、ねじ、ナット、ピン、ノックピン、ワッシャー、ボルト、鋼板、クランプ、パイプ、ロッド、及びUレールが挙げられる。アセンブリとしては、特に、ガス入口パイプ、ヒーター懸架体(Heizungsaufhaengungen)、及び装填ラック等の溶接及びリベット留めされた部品が挙げられる。本発明の意味合いにおける部品という用語は、切削工具の切断部品を明示的に除外する。
【0022】
製造補助手段としての好ましい部品は、分離鋼板及びワッシャー等の接触部品である。
【0023】
ねじ又はナット等の、ねじ山を有する部品が構築補助手段として特に好ましい。ねじが特に好ましい。
【0024】
本発明によると、部品の層はTiBからなる。TiB層は、典型的には、H、N、TiCl及びBClを使用して化学気相堆積(CVD)によって形成される。典型的には、層は、800℃~900℃の範囲の温度で5~9時間、好適には850℃で7時間の期間をかけて、部品上に堆積される。物理気相堆積(PVD)による層の製造も同様に可能である。
【0025】
対応して被覆された部品は、1μm~5μm、好ましくは1.5μm~4μm、更に好ましくは2μm~3.5μm、なおも更に好ましくは2.6μm~31μm、の範囲の厚さを有するTiB層を有する。被覆の厚さは、被覆された部品の断面の横方向でのREM測定によって決定することができる。部品は、典型的には、他の材料からなる更なる層を有しない。必要に応じて、好適には0.5μm~1.8μmの範囲の厚さを有するTiNからなる接着促進層が、基材とTiB層との間に存在してもよい。TiB層は、被覆された部品の最外層である。
【0026】
典型的には、この層は、他の部品と接触する、被覆された部品の表面に完全に被覆されている。部品の取り外し性を達成するためには、この層を、被覆された部品の、他の部品と接触する表面に部分的にだけ適用すれば、既に十分である。
【0027】
他の部品と接触する、被覆された部品の表面の20~100%、更に好ましくは50~100%、が、この層で被覆されていることが好ましい。
【0028】
本発明は、高温領域で部品が使用された後に、その部品の他の部品からの良好な取り外し性が要求される場合には、どこででも、使用することができる。従って、高温適用における部品の取り外し性を改善するための剥離剤としての二ホウ化チタンの使用も同様に本発明の対象である。好適には、二ホウ化チタンは、CVD又はPVDによって被覆された層の形態で、好適には耐熱金属からなる部品上で、使用される。
【0029】
本発明の更なる利点は、実施例の以下の説明に基づいて明らかとなる。
【実施例
【0030】
TZMプレート(0.5のTi及び0.08のZr並びに0.01~0.04のCの重量分率を有するモリブデン)140×80×9mm、フライス加工した長さ9mmの貫通穴M6ねじ山
モリブデンワッシャー:18×6、4×1.5mm
モリブデンねじ:M6×12mm
【0031】
比較例1(C1):被覆なしのモリブデンねじ(転造)。
【0032】
比較例2(C2):TiN CVD被覆を有する複数のモリブデンねじ(転造)を、H、N及びTiClを使用して、850℃の温度で7時間かけて製造した。TiN層の厚さは、2.6μm~3.1μmであった。
【0033】
本発明による例(E):TiB CVD被覆を有する複数のモリブデンねじ(転造)を、H、N、TiCl及びBClを使用して、850℃の温度で7時間かけて製造した。TiB層の厚さは、2.6μm~3.1μmであった。
【0034】
下表に示されているように、様々な条件下で、TiB層をTiN層及び被覆されていない部品と比較して評価するために、複数回の試験を実施した。この目的のために、ワッシャーを有するそれぞれ3本のねじ(S1~S3)を選択し、12Nmの締め付けトルクでプレートにねじ込んだ。400℃~1800℃の温度(T(℃))及び様々な雰囲気(A)(水素(H)、真空10-6mbar(V))で、様々な保持時間(H)をかけて高温処理を実施した。高温処理後の開放トルク(L(Nm表記))を測定し、ねじ山を目視で焼き付き(F)について検査し、必要に応じてねじの破壊(B)を確認した。
【0035】
【表1】
【0036】
上の表に基づいて明らかであるように、被覆されていない部品、ここではプレート及びねじ、は、400℃以降の比較的低い温度ですでに焼き付きを示し、従って、高温適用には不適切である。
【0037】
TiN被覆されたねじは、長期試験でも同様に、水素雰囲気下及び真空中において1400℃で部品の部分的な焼き付きを示し、1800℃で全ての雰囲気において全ての部品の焼き付きを示す。
【0038】
対照的に、本発明によるTiB被覆では、ねじ接続の焼き付きは起こらない。そのため、被覆は、長期の高温適用においても、接触する耐熱金属部品の取り外し性を達成することができる。部品間の相互汚染は確認されなかった。


【国際調査報告】