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  • 特表-心房細動を分類する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】心房細動を分類する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/361 20210101AFI20231211BHJP
   A61B 5/36 20210101ALI20231211BHJP
   A61B 5/355 20210101ALI20231211BHJP
   A61B 5/366 20210101ALI20231211BHJP
   A61B 5/347 20210101ALI20231211BHJP
   A61B 5/35 20210101ALI20231211BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/36
A61B5/355
A61B5/366
A61B5/347
A61B5/35
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534280
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(85)【翻訳文提出日】2023-07-20
(86)【国際出願番号】 EP2021073107
(87)【国際公開番号】W WO2022122192
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20212255.2
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EM
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519129126
【氏名又は名称】キャスビジョン アーペーエス
【氏名又は名称原語表記】CathVision ApS
【住所又は居所原語表記】Titangade 11, 2200 Koebenhavn N, Denmark
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ルーネ パーマン
(72)【発明者】
【氏名】マス エミル マティーセン
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127GG01
4C127GG02
4C127GG10
4C127GG11
(57)【要約】
本発明は、コントロールシステム(2)を介して心電図データ(1)を分析することによって心房細動を分類する方法に関し、ここでは分解ステップにおいて、コントロールシステム(2)は、心電図データ(1)を周波数分解によって分解し、これによって、周波数データ(7)、特に周波数スペクトルが生成され、周波数データ(7)は、周波数ディメンション(f)と振幅ディメンション(a)とを備えている。分析ステップにおいて、周波数ディメンション(f)における幅(9)を有しており、かつ振幅基準を満たしているドミナントウィンドウ(8)を周波数データ(7)においてコントロールシステム(2)が識別すること、振幅基準がドミナントウィンドウ(8)内の振幅の合計に基づいていること、振幅基準を満たしているウィンドウについて周波数ディメンション(f)の少なくとも1つのセクション、特に予め定められたセクションを探索することによってコントロールシステム(2)がドミナントウィンドウ(8)を識別すること、およびドミナントウィンドウ(8)に基づいて、コントロールシステム(2)が心電図データ(1)において心房細動の分類を決定することが提案される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コントロールシステム(2)を介して心電図データ(1)を分析することによって心房細動を分類する方法であって、
分解ステップにおいて、前記コントロールシステム(2)は、前記心電図データ(1)を周波数分解によって分解し、これによって、周波数データ(7)、特に周波数スペクトルが生成され、前記周波数データ(7)は、周波数ディメンション(f)と振幅ディメンション(a)とを備えている方法において、
分析ステップにおいて、前記コントロールシステム(2)は、ドミナントウィンドウ(8)を前記周波数データ(7)において識別し、前記ドミナントウィンドウ(8)は、前記周波数ディメンション(f)における幅(9)を有しておりかつ振幅基準を満たしており、前記振幅基準は、前記ドミナントウィンドウ(8)内の振幅の合計に基づいており、前記コントロールシステム(2)は、前記振幅基準を満たしているウィンドウについて前記周波数ディメンション(f)の少なくとも1つのセクション、特に予め定められたセクションを探索することによって前記ドミナントウィンドウ(8)を識別し、
前記ドミナントウィンドウ(8)に基づいて、前記コントロールシステム(2)は、前記心電図データ(1)において心房細動の分類を決定する、
方法。
【請求項2】
心室成分除去ステップ(3)において、前記コントロールシステム(2)は、前記心電図データ(1)を処理して、心室成分(4)を前記心電図データ(1)から除去する、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記振幅ディメンション(a)は、エネルギ密度ディメンションまたは出力密度ディメンション(p)であり、好ましくは、前記周波数データ(7)は、前記心電図データ(1)の出力スペクトル密度スペクトルを備えている、
請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記周波数分解は、フーリエ変換を備えており、かつ/または、前記周波数分解は、ウェルチ法を備えており、かつ/または、前記周波数分解は、モデルベースの分解、好ましくは自己回帰移動平均ベースの分解を備えている、
請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記周波数分解は、時間ディメンションを伴う時間周波数分解、特に短時間フーリエ変換および/またはウェーブレット変換を備えており、好ましくは、前記時間周波数分解は、少なくとも部分的に、前記時間ディメンションにわたって平均化されている、
請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記振幅基準は、前記ドミナントウィンドウ(8)における振幅の合計が、前記周波数ディメンション(f)、好ましくは総体的な前記周波数ディメンション(f)の、特に予め定められた一部分に沿った振幅の合計の、特に予め定められたパーセンテージに少なくとも等しいという一次基準を備えている、
請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記振幅基準は、境界条件、特に微分境界条件を備えており、かつ/または、前記振幅基準は、前記ドミナントウィンドウ(8)が、前記一次基準を満たす最小のウィンドウであるという二次基準を備えている、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記コントロールシステム(2)は、前記ドミナントウィンドウ(8)に基づいて、特に前記ドミナントウィンドウ(8)において、ドミナント周波数(10)を識別し、前記ドミナント周波数(10)に基づいて前記心房細動を分類し、好ましくは、前記ドミナント周波数(10)は、前記ドミナントウィンドウ(8)の中心部分または前記ドミナントウィンドウ(8)の振幅の、特に予め定められたパーセンタイルの境界または前記ドミナントウィンドウ(8)の振幅の平均の値、特に平均値または中央値に関連する周波数である、
請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記コントロールシステム(2)は、前記ドミナントウィンドウ(8)の前記幅(9)を分析し、前記分析に基づいて前記心房細動を分類し、かつ/または、前記コントロールシステム(2)は、前記ドミナントウィンドウ(8)の周波数値の倍数として、高調波のドミナントウィンドウを識別し、前記高調波のドミナントウィンドウを分析し、前記高調波のドミナントウィンドウに基づいて前記心房細動を分類する、
請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
前記コントロールシステム(2)は、好ましくはドミナント周波数(10)の周囲の前記ドミナントウィンドウ(8)内の、前記振幅ディメンション(a)の歪度および/または尖度を分析し、前記歪度および/または前記尖度に基づいて前記心房細動を分類する、
請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
心房細動の前記分類は、前記心房細動の有無および/または重症度指標を備えており、好ましくは、前記重症度指標は、アブレーション療法が成功する尤度を備えている、
請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記心電図データ(1)は、体表面心電図データ(1)および/または心臓内心電図データ(1)および/または皮下心電図データ(1)であり、かつ/または、前記コントロールシステム(2)は、電気的な入力インタフェース(11)を備えており、前記電気的な入力インタフェース(11)は、電極(12)に接続可能でありかつ前記心電図データ(1)を測定するように適合させられており、より好ましくは、前記コントロールシステム(2)は、前記電気的な入力インタフェース(11)および患者に接続されている電極(12)を備えており、前記電極(12)を介して前記表面心電図データ(1)を測定する、
請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前処理ステップ(13)において、前記コントロールシステム(2)は、非線形フィルタリング、特にメディアンフィルタリングを使用することによって、ノイズを除去するように、かつ/または、好ましくは適応ノッチフィルタを使用することによって、特に50Hzまたは60Hzでの電力線干渉データ(14)および50Hzまたは60Hzの高調波周波数を除去するように、前記心電図データ(1)を処理する、
請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
前記心室成分除去ステップ(3)は、QRS除去および好ましくはT波フィルタリング、特に非線形T波フィルタリングまたはQRST除去を備えており、好ましくは、前記QRS除去またはQRST除去は、前記心電図データ(1)に包含されているQRS群またはQRST群を少なくとも2つの異なるモルフォロジグループへグループ化すること、前記モルフォロジグループのうちの少なくとも2つのモルフォロジグループに対してQRSテンプレートまたはQRSTテンプレート(15)を生成することおよび各モルフォロジグループのQRS群またはQRST群を各テンプレート(15)によって除去することを備えている、
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
前記コントロールシステム(2)は、心室成分(4)を除去した後に時間ドメイン分析を用いて時間ドメインにおいて前記心電図データ(1)を分析し、さらに前記時間ドメイン分析に基づいて前記心房細動を分類し、好ましくは、前記時間ドメイン分析は、サンプルエントロピー分析および/または主成分分析および/または波の振幅の分析および/または波の相関の分析を備えている、
請求項1から14までのいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載の方法を実施するためのコントロールシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載されたコントロールシステムを介して心電図データを分析することによって心房細動を分類する方法および請求項16に記載された、このような方法を実施するためのコントロールシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
心房細動は、電気的には、心房の筋細胞の無秩序な興奮である。心房細動の間、心房は心臓の機能に最小限しか寄与しない。したがって心房細動は心臓の拍出量を低下させてしまうが、これは切迫した危険ではない。しかし、心房細動が慢性化した場合には、心房細動は、罹患率および死亡率の上昇と相関する。心房細動に対する治療の選択肢の1つに、アブレーション療法がある。アブレーション療法は、電気波のリエントリを可能にする細胞の破壊であり、これによって心房の筋細胞の無秩序な興奮が低減する。
【0003】
心房細動アブレーションの成功率および戦略は、心房を通る電気的な伝導の複雑さのレベルに大きく関連する。複雑さが低ければ、通常のリエントリ経路のアブレーションが成功する可能性は高い。複雑さが比較的高い場合には、興奮経路の付加的な電気的なマッピングが使用され得る。治療とは無関係に、心房細動の複雑さを分類することによって、患者特有の治療およびアブレーション療法の結果予測が可能となる。
【0004】
心房細動を分類する有望な方法の1つは、体表面心電図から心房の電気的な興奮のドミナント周波数を計算することである。一般的に言えば、ドミナント周波数の決定はしばしば、心電図データから心房興奮を隔離するステップおよび残りの心房信号データの周波数スペクトルを分析するステップを用いる。既知の方法(米国特許第5772604号明細書)は、心房信号データのスペクトルにおけるピーク周波数を検出する。これらの方法は有望な結果をもたらすが、依然として、新規の分類方法を提供することによって、心房細動の分類を改善する余地がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の課題は、よりロバストな結果をもたらす、改善された、心房細動を分類する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題は、請求項1の上位概念の特徴を有する方法に関して、請求項1の特徴部分の特徴によって解決される。
【0007】
本発明の主要な認識は、心房興奮が、単一のピークまたはメイン周波数によって十分に記述されることはなく、それ自体が複雑で、不安定で、かつ急速に変化する無秩序の現象であるということである。したがって、単一のドミナント周波数を探索することは、この生理学的な現実を記述する最適な手法ではない。このケースにおける中心となる認識は、心房細動の主要部分を表している周波数のウィンドウを探索することによって、心房細動を特徴付けることができるということである。
【0008】
心電図データを分解し、それによって周波数ディメンションおよび振幅ディメンションを備えている周波数データを生成した後に、ドミナントウィンドウを、このドミナントウィンドウ内の振幅の合計に基づいて、振幅基準を満たしているウィンドウを周波数ディメンションにおいて探索することによって、見つけることができる。
【0009】
このようにして、最大出力を有する単一の周波数を探索する代わりに、特に、信号出力の予め定められた一部分を包含している、周波数ディメンションの一部分、すなわちドミナントウィンドウをコントロールシステムが直接的に探索することが可能になる。この方法は、関連性の低い周波数における出力のランダムなピークおよび/または一時的なピークに対してよりロバストである。
【0010】
詳細には、分析ステップにおいて、周波数ディメンションにおける幅を有しており、かつ振幅基準を満たしているドミナントウィンドウを周波数データにおいてコントロールシステムが識別すること、振幅基準がドミナントウィンドウ内の振幅の合計に基づいていること、振幅基準を満たしているウィンドウについて周波数ディメンションの少なくとも1つのセクション、特に予め定められたセクションを探索することによってコントロールシステムがドミナントウィンドウを識別すること、およびドミナントウィンドウに基づいて、コントロールシステムが心電図データにおいて心房細動の分類を決定することが提案される。
【0011】
見つけられたドミナント周波数の周囲のウィンドウを探索することは、以前の方法から知られているが、目下では、ウィンドウは、ドミナント周波数の周囲のウィンドウを規定することによってではなく、周波数ディメンションの少なくとも1つのセクションを探索することによって見つけられる。
【0012】
請求項2に記載の好ましい実施形態では、心室成分を心電図データから除去して、細動波に分析を集中させる。請求項3に記載の別の実施形態では、振幅ディメンションは、エネルギ密度ディメンションまたは出力密度ディメンションである。心電図内での心房細動信号の出力の周波数分布は、心房細動の複雑さに直接的に関係している。同じことが、数学的に関連する信号エネルギに当てはまる。
【0013】
請求項4は、好ましい周波数分解を挙げている。周波数分解のためのこれらの方法は全て異なる強度を有しており、提案された方法の様々な実施形態において使用可能である。フーリエ変換およびウェルチ法は、他の方法と比較して、分析されるべき信号に課す制約が少ないため、同様に、無秩序の心房細動波を分析するのによく適している。自己回帰移動平均ベースの分解のようなモデルベースの分解は、同様に、予期される心房細動波に分解を適合させることを可能にする。
【0014】
心房細動は、経時的に急速に変化する成分を有しているため、請求項5に記載の別の好ましい実施形態では、時間周波数分解を用いることが提案される。これによって、心房細動波の時間的に安定した成分と時間的に不安定な成分とを切り離すことができる。特に、ウェーブレット変換は、予期される細動波に従ってウェーブレットを特有に選択し、周波数ディメンションのセクションにおけるドミナントウィンドウを探索する目的に特有に、変換の粗さを適合させることを可能にする。
【0015】
請求項6に記載の1つの実施形態において、振幅基準は、ドミナントウィンドウにおける振幅の合計が、周波数ディメンションの一部分に沿った振幅の合計のパーセンテージに少なくとも等しいという一次基準を備えていてよい。好ましくはこのようにして、ドミナントウィンドウを、信号の予め定められたパーセンテージの総出力を包含しているウィンドウとして規定することができる。しかし、数学的に関連する他の概念も同様に好ましい。たとえば、出力密度スペクトルは、正規化されたまたは他の方式で適合させられた出力密度スペクトルであってよい。このようにして、単一の出力スパイクを探索する代わりに、出力バンドの探索が行われる。
【0016】
請求項7は、境界条件を使用することによってドミナントウィンドウの幅を規定することに関する。このようにして、信号に関するさらなる情報を、ドミナントウィンドウに含めることができる。たとえば、大きな出力量を包含している小さなドミナントウィンドウが、複雑さの低い心房細動を示唆していてよい。
【0017】
心房細動の分類に対して、単一のドミナント周波数を識別することが有用または必要な場合がある。請求項8に記載された実施形態によれば、ドミナントウィンドウに基づいて、ドミナント周波数を識別することができる。
【0018】
ドミナントウィンドウの幅を規定するために使用されるアルゴリズムに関連して、請求項9に記載されるように、ドミナントウィンドウの幅を分析し、この分析に基づいて心房細動を分類することは有利であり得る。主に、比較的幅の広いドミナントウィンドウは、心房細動の比較的高い複雑さを示唆する。同様に請求項9に記載されているように、ドミナントウィンドウのさらなる分析は、ドミナントウィンドウの周波数値の高調波を、高調波のドミナントウィンドウとして見ることを含んでいてよい。特に、これらの高調波のドミナントウィンドウに包含されている出力は、心房細動の複雑さに関連していてよい。
【0019】
ドミナントウィンドウ内の周波数データを分析する、さらなる好ましい手法は、請求項10に挙げられたような歪度および/または尖度の分析を含んでいてよい。歪度および尖度は、心房細動の一次周波数およびそれらの振幅に関する付加的な情報を包含している。
【0020】
請求項11に記載の実施形態によれば、心房細動の分類は、心房細動の有無および好ましくは心房細動の重症度指標を備えていてよい。特に、心房細動の重症度は、アブレーション療法および使用されるアブレーション方法の賛成または反対を決めるための重要なファクタである。
【0021】
請求項12は、体表面心電図の使用の好ましい可能性を伴う電気的な測定環境に関する。体表面心電図データは、高い精度と低い侵襲性とを併せ持つ。
【0022】
提案された方法に対する、特に有用な前処理ステップが、請求項13に挙げられている。これらの前処理ステップには、非線形フィルタリングを用いたノイズの除去および電力線干渉データの除去が含まれる。好ましくは、後続の、心室成分除去ステップは、請求項14に記載されているように、QRS除去またはQRST除去を備えていてよい。いずれか1つを、様々なQRST群モルフォロジへの適合のために、モルフォロジグループ化と組み合わせることができる。QRST群モルフォロジにおけるこのようなバリエーションは、たとえば心房細動自体によって引き起こされることがある。心房細動は、洞結節から心室への生理学的な電気的な伝導を阻害するため、心房細動中の心室興奮は種々異なる生理学的な原因を有している可能性があり、その結果、それぞれが自身の生理学的な原因に関連する2つ以上の明確に異なるモルフォロジグループが生じる。
【0023】
心房細動に関するさらなる情報は、請求項15に記載されているように、時間ドメインの付加的な分析から推測され得る。
【0024】
等しい重要性を有する、請求項16に記載の別の教示は、提案された方法を実施するためのコントロールシステムに関する。提案された方法に関して与えられた全ての説明は、完全に適用可能である。
【0025】
以降では、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】時間ドメインにおいて適用される、提案された方法のステップを示す図である。
図2】心電図データの周波数スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
提案された方法は、コントロールシステム2を介して心電図データ1を分析することによって心房細動を分類するために使用される。図1において、コントロールシステム2は、ユーザUに接続されたハードウェアを備えているコントロールシステム2として概略的に示されている。このケースにおいて、コントロールシステム2は、心電図データ1をシングルチャネル心電図として測定する。しかし、心電図データ1が、マルチチャネル心電図の1つまたは複数のチャネルを備えていてもよい。心電図データ1を物理的に測定することは、必ずしも、提案された方法に備えられているとは限らず、コントロールシステム2は、コントロールシステム2とは別個の別のシステムによって測定された心電図データも処理することができる。したがって、コントロールシステム2は、汎用コンピュータ、クラウドベースなどであってもよく、提案された方法を実施するように構成されていてよい。
【0028】
図示された好ましい実施形態では、方法は、心室成分除去ステップ3を備えていてよく、このステップでは、コントロールシステム2が心電図データ1を処理して、心室成分4を心電図データ1から除去する。心室成分4は、主に、QRS群データまたはQRST群データであってよい。心臓の興奮のより強力な部分として、心電図データ1から心室成分4を除去することによって、心電図データ1に包含されている心房信号データ5に分析を集中させることができる。図1は、底部において、心室成分除去ステップ3を示している。図1の頂上部は、さらに以降で説明する、心電図データ1の前処理に関する。このケースにおいて、心室成分除去ステップ3は、テンプレート6を差し引くことを備えている。これについても、さらに以降で説明する。心室成分4の一部または全てを除去する種々異なる方法を使用することは、同様に好ましい。特に、心室成分除去ステップは、QRS群またはQRST群を包含している心電図データ1のセクションの完全な除去を備えていてよい。次いで、この方法は、QRS群間またはQRST群間の心電図データの1つまたは複数のセクションの分析を備えていてよい。比較的高い周波数分解能を得るために、ゼロパディングなどの既知の方法またはこれらの信号セクションを接続する既知の方法を使用することができる。
【0029】
さらなるステップ、好ましくは除去ステップ3に続くステップとして、方法は、その抽象的な性質のために図1には示されていない分解ステップを備えている。分解ステップにおいて、コントロールシステム2は、心電図データ1を周波数分解によって分解し、これによって、図2に示された周波数データ7が生成される。周波数データ7は、特に、示されている周波数スペクトルであってよい。周波数データ7は、周波数ディメンションfと振幅ディメンションaとを備えている。周波数分解は、任意の適切な周波数分解であってよい。周波数ディメンションfは、狭い物理的な意味に従った複数の「周波数」の代わりに複数のスケールに分けられてよい。振幅ディメンションaは、出力密度のような物理的なパラメータを表していてよいが、純粋に理論上のディメンションであってもよい。
【0030】
同様に、その抽象的な性質のために図1自体には示されていない分析ステップにおいて、コントロールシステム2が、周波数データ7において、周波数ディメンションfにおける幅9を有しており、かつ振幅基準を満たしているドミナントウィンドウ8を識別することが必須である。ドミナントウィンドウ8は、振幅基準を探索することによって見つけられた、周波数ディメンションfの一部分である。ドミナントウィンドウ8の幅9は、予め定められていてよい、または可変であってよい。ドミナントウィンドウ8は、周波数ディメンションf内に、少なくとも2個の、好ましくは少なくとも5個の、より好ましくは少なくとも10個の周波数または周波数ビンを含んでいる。
【0031】
さらに、振幅基準がドミナントウィンドウ8内の振幅の合計に基づいていることが必須である。ここで、かつ以降で、「合計」という用語は、振幅が通常、離散的に規定されるであろう場合であっても、周波数ディメンションfに沿った積分の計算を含んでいる。これは、平均値の計算などのような、合計を表す値をもたらす任意の他の数学的な概念も備えていてよい。好ましい実施形態において、振幅の合計は、振幅の実際の加算に基づいている、かつ/または振幅の合計は、ドミナントウィンドウ8内の全ての振幅の合計である。
【0032】
さらに、振幅基準を満たしているウィンドウに対して、周波数ディメンションfの少なくとも1つのセクション、特に予め定められたセクションを探索することによって、コントロールシステム2がドミナントウィンドウ8を識別することが必須である。この探索は、周波数ディメンションf全体について行われてよい。コントロールシステム2は、任意の適切な探索方法を使用することができる。容易に排除可能な、周波数ディメンションfの一部分に対するより複雑な計算を回避するために、探索方法を振幅基準に対して最適化することができる。周波数ディメンションfの予め定められたセクションは、たとえば、非生理学的な周波数、たとえば10Hzより高い周波数を排除してよい。
【0033】
さらに、ドミナントウィンドウ8に基づいて、コントロールシステム2が心電図データ1における心房細動の分類を決定することが必須である。
【0034】
ここで、好ましくは、振幅ディメンションaは、エネルギ密度ディメンションまたは出力密度ディメンションpである。このディメンションは、自身の情報内容を変更することなく、正規化されてよい、または他の方式で処理されてよい。図2に示され、それ自体好ましい実施形態において、周波数データ7は、心電図データ1の出力スペクトル密度スペクトルを備えている。
【0035】
周波数分解は、付加的または択一的に、フーリエ変換および/またはウェルチ法を備えていてよい。フーリエ変換およびウェルチ法は、当業者によく知られている。周波数分解は、モデルベースの分解、好ましくは自己回帰移動平均ベースの分解も備えていてよい。このようなモデルベースの分解を、心房信号データ5に特有に適合させることができる。目下では、スケール、特にウェーブレットスケールなどを含んでいる、「周波数」の広範な規定が使用されていることが明らかである。
【0036】
周波数分解は、時間ディメンションを伴う時間周波数分解、特に短時間フーリエ変換を備えていてよい。時間周波数分解は、ウェーブレット変換、好ましくはガウスウェーブレットに基づくウェーブレット変換、より好ましくは、ガウスウェーブレットの第1の導関数または第2の導関数を備えていてもよい。ウェーブレット変換が、予期されるドミナントウィンドウ8に従ってスケーリングされてよい。ドミナントウィンドウ8の探索中に、種々異なるスケールにおいて後続して、ウェーブレット変換が適用されてもよい。
【0037】
心電図データ1の時間ディメンションに沿って複数の周波数分解を計算することによって、心房興奮の過渡的な成分の急速な変化を識別、分析および/または除去することができる。周波数分解、特に時間周波数分解に対して、ウィンドウ関数、特にハミングウィンドウを使用することができる。時間周波数分解は、少なくとも部分的に、時間ディメンションにわたって平均化されてよい。
【0038】
以降で、図2に関連して、好ましい実施形態における振幅基準を説明する。振幅基準は、ここで、好ましくは、ドミナントウィンドウ8における振幅の合計が、周波数ディメンションfの一部分に沿った振幅の合計のパーセンテージに少なくとも等しいという一次基準を備えている。これを、例を用いて、よりよく理解することができる。ここでは、ドミナントウィンドウ8は、たとえば、心電図データ1の出力スペクトル密度スペクトルの総出力の15%を備えている最小のウィンドウである。
【0039】
この例に基づいているが、一般的に言えば、振幅の合計のパーセンテージは、予め定められていてよい。振幅の合計のパーセンテージは一定であってよく、たとえば常に15%であってよいが、心電図データ1、特に心房信号データ5に関連していてもよく、さらにたとえば出力スペクトル密度スペクトルの総出力に関連していてもよい。図2に示されたような連続スペクトルにおいて合計が積分であり得ることが再度述べられてよい。振幅の合計のパーセンテージは、総体的な周波数ディメンションfのパーセンテージであってよく、これは予め定められていてよい。択一的に、周波数ディメンションfのこの一部分は、単に、周波数ディメンションfの生理学的な一部分または周波数ディメンションfの他の任意の一部分を備えていてよく、これは特に、電力線干渉周波数または高調波などの、問題になり得る周波数を排除するように選択された一部分である。
【0040】
一次基準が、ドミナントウィンドウ8およびドミナントウィンドウの高調波周波数における振幅の合計が、周波数ディメンションfの一部分に沿った振幅の合計のパーセンテージに少なくとも等しいということであってもよい。
【0041】
振幅基準は、境界条件を備えていてよい。境界条件は、振幅が予め定められた値を下回る、または総出力もしくは出力ピークなどに対して相対的に規定されている値を下回るなどの絶対条件であってよい。好ましくは、境界条件は微分境界条件であり、好ましくは、ドミナントウィンドウ8の境界は極小値に設定される。
【0042】
振幅基準は、さらにまたは択一的に、ドミナントウィンドウ8が、一次基準を満たす最小のウィンドウであるという二次基準を備えていてよい。全ての基準を用いると、要求される探索精度が低減され得る。
【0043】
ドミナントウィンドウ8を見つけた後、コントロールシステム2は、さらなる分析を実行してよい。好ましくは、コントロールシステム2は、ドミナントウィンドウ8に基づいて、特にドミナントウィンドウ8において、ドミナント周波数10を識別し、ドミナント周波数10に基づいて心房細動を分類する。たとえば、ドミナント周波数10を使用するための既知の方法を、新たに識別されたドミナント周波数10と共に使用してよい。図2に示された実施形態では、ドミナント周波数10は、ドミナントウィンドウ8の境界間の中間として規定される中心部分である。択一的に、ドミナント周波数10が、特に予め定められた、ドミナントウィンドウ8の振幅のパーセンタイルの境界であってよい、またはドミナントウィンドウ8の振幅の平均の値、特に平均値または中央値に関連する周波数であってよい。図2において見て取れるように、この例では、ドミナント周波数10はピーク周波数ではなく、これは既知のアルゴリズムとは異なる結果をもたらす。
【0044】
一般的に、コントロールシステム2は、ドミナントウィンドウ8および/またはドミナント周波数10に対して妥当性検査を実行し得る。この妥当性検査は、ドミナントウィンドウ8および/またはドミナント周波数10が生理学的に妥当な周波数バンド内にあるかどうかを検査することを備えている。妥当性チェックが否定的である場合、コントロールシステム2は、異なる探索方法を用いてよく、特に、二番目に有力な候補をドミナントウィンドウ8として識別してよい。
【0045】
ドミナントウィンドウ8の幅9が定数として予め定められていないケースは、コントロールシステム2が、ドミナントウィンドウ8の幅9を分析し、この分析に基づいて心房細動を分類するケースであり得る。例を顧みると、ドミナントウィンドウ8が振幅基準を満たしている最小のウィンドウである場合、小さいドミナントウィンドウ8は、心房細動の低い複雑さを示唆していてよい。
【0046】
コントロールシステム2は、ドミナントウィンドウ8の周波数値の倍数として、高調波のドミナントウィンドウを識別することができ、ここで、好ましくは高調波のドミナントウィンドウを分析し、高調波のドミナントウィンドウに基づいて心房細動を分類する。たとえば、高調波のドミナントウィンドウ内の高い出力密度を、良好なドミナントウィンドウ8の評価の指標として使用することができる。高調波のドミナントウィンドウを識別できないことは、信号の高い複雑さの指標となる可能性があり、これは不良な信号処理にも、心房細動の高い複雑さにも基づいている可能性がある。これらの理由を、さらなる分析によって切り離すことができる。
【0047】
ここで、好ましくは、コントロールシステム2は、好ましくはドミナント周波数10の周囲のドミナントウィンドウ8内の、振幅ディメンションaの歪度および/または尖度を分析し、この歪度および/または尖度に基づいて心房細動を分類する。
【0048】
この方法が、心房細動に関して未診断のユーザUの心電図データ1に適用される場合、第1のステップにおいて心房細動を診断することは興味深いものであり得る。したがって、そのようなケースでは、心房細動の分類は、心房細動の有無を備えていてよい。心房細動の分類は、さらにまたは択一的に、心房細動の重症度指標を備えていてよい。重症度指標は、アブレーション療法が成功する尤度を備えていてよい。この方法を、心房細動発現の頻度および心房細動発現の持続時間を分析するために、長期の心電図に使用することもできる。分類は、心房細動、特に重症度指標の定量化であってよい、または心房細動、特に重症度指標の定量化を含んでいてよい。
【0049】
図1に示されているように、心電図データ1は体表面心電図データであってよい。他の好ましい実施形態は、心電図データ1が心臓内心電図データ1または皮下心電図データ1であることを含んでいる。心電図データ1が心臓内データである場合、その測定は、好ましくは単極性または双極性であってよい。
【0050】
コントロールシステム2は、電気的な入力インタフェース11を備えていてよく、これは電極12に接続可能であり、かつ心電図データ1を測定するように適合させられている。図1には、シングルチャネル心電図を測定するために使用される3つの電極12のみが示されている。しかし、他の心電図、特に12チャネル心電図が使用されてよい。この場合、心電図データ1は、それらのチャネルのうちの1つであるか、または複数のチャネルの混合物、特に平均値であり得る。別の好ましい可能性は、電極12が、着用物、特にスマートウォッチ、および/またはスマートフォンおよび/または埋没物の一部分である、かつ/または心電図データ1が、着用物および/またはスマートフォンおよび/または埋没物によって測定された心電図データ1であることである。
【0051】
ここで、好ましくは、コントロールシステム2は、電気的な入力インタフェース11および患者、ここではユーザUに接続されている電極12を備えている。電極12を介して表面心電図データ1が測定されることが好ましい。
【0052】
前処理ステップ13も図1に示されている。好ましくは、前処理ステップ13において、好ましくは非線形フィルタリング、特にメディアンフィルタリングを使用することによって、ノイズを除去するように、かつ/または好ましくは適応ノッチフィルタを使用することによって、特に50Hzまたは60Hzでの電力線干渉データ14および50Hzまたは60Hzの高調波周波数を除去するように、コントロールシステム2が心電図データ1を処理する。図示されているように、前処理は、好ましくは、心室成分除去ステップ3および/または分解ステップの前に行われる。
【0053】
心室成分除去ステップ3は、ここで、好ましくは、QRS除去および好ましくはT波フィルタリングを備えている。QRS除去は、好ましくは、QRS群のテンプレート6を差し引くことに基づいている。このテンプレート6を心電図データ1および時間ドメインから差し引くことができる。いくつかの事例では、QRS除去がQRST除去よりも有利であることが判明している。T波は必ずしもQRS群に完全に関連しない。特に、差し引くためにテンプレート6を使用するときには、単にQRS群を差し引いて、異なる方法または異なるテンプレート6によってT波をフィルタリングすることが有利であり得る。ここで、好ましくは、T波フィルタリングは非線形T波フィルタリングである。
【0054】
他の事例では、心室成分除去ステップ3は、好ましくは同様にテンプレート6に基づいたQRST除去を備えていてよい。心電図データ1のモルフォロジは、人によって異なるので、両方の方法を実施して、1人のユーザUに対する複数の結果を比較することも有利であり得る。
【0055】
図1の左側の底部には好ましい実施形態が示されており、ここでは、QRS除去またはQRST除去は、心電図データ1に包含されているQRS群またはQRST群を少なくとも2つの異なるモルフォロジグループへグループ化すること、これらのモルフォロジグループのうちの少なくとも2つのモルフォロジグループに対してQRSテンプレートまたはQRSTテンプレート15を生成することおよび各モルフォロジグループのQRS群またはQRST群を各テンプレート15によって除去することを備えている。図1では、3つの異なるテンプレート15が示されている。テンプレート15の必要数が自動的に検出されてよい。
【0056】
上述の分析に加えて、コントロールシステム2は、心室成分4を除去した後に時間ドメイン分析を用いて時間ドメインにおいて心電図データ1を分析することができ、さらにこの時間ドメイン分析に基づいて心房細動を分類することができる。好ましくは、時間ドメイン分析は、サンプルエントロピー分析および/または主成分分析および/または波の振幅の分析および/または波の相関の分析を備えている。これらは一般的に、時間ドメインにおける心房細動の複雑さを判定するために使用されてよい。
【0057】
別の教示によれば、提案された方法を実施するためのコントロールシステム2が提案される。上述の全ての説明が参照される。コントロールシステム2は、電気的な入力インタフェース11および好ましくは電極12を備えていてよい。
【符号の説明】
【0058】
1 心電図データ
2 コントロールシステム
3 心室成分除去ステップ
4 心室成分
5 心房信号データ
6 テンプレート
7 周波数データ
8 ドミナントウィンドウ
9 幅
10 ドミナント周波数
11 電気的な入力インタフェース
12 電極
13 前処理ステップ
14 電力線干渉データ
15 QRSテンプレート
U ユーザ
f 周波数ディメンション
a 振幅ディメンション
p 出力密度ディメンション
図1
図2
【国際調査報告】