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特表2023-552571人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出装置、システム及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出装置、システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/16 20060101AFI20231211BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20231211BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20231211BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
A61B5/16 110
A61B5/1455
A61B5/11 200
A61B5/0245 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534959
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-07-12
(86)【国際出願番号】 EP2021084297
(87)【国際公開番号】W WO2022122603
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20212775.9
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】ぺニング デ ヴリース ヘンドリクス テオドルス ゲラルドゥス マリア
(72)【発明者】
【氏名】フルーン ロブ
【テーマコード(参考)】
4C017
4C038
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA10
4C017AA12
4C017AA19
4C017AA20
4C017AC15
4C017AC20
4C017AC26
4C038KK01
4C038KL05
4C038KL07
4C038KX01
4C038PP03
4C038PS00
4C038VA04
4C038VA20
4C038VB31
4C038VC20
(57)【要約】
本発明は、人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出システム、装置及び方法に関するものである。システム1、2は、人の活動に関する活動情報を取得するように構成された活動センサ20と、人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得するように構成された心拍数センサ30と、取得された活動情報及び取得された心拍数情報に基づいて人の精神的ストレスを検出するストレス検出装置10、40、60とを有する。これによれば、人の姿勢変化が考慮に入れられ、姿勢変化が検出された場合に、計算された基礎心拍数成分及び/又は基礎心拍数成分の計算を適応させる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出装置であって、
前記人の活動に関する活動情報を取得する活動入力部と、
前記人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得する心拍数入力部と、
処理ユニットであって、
前記取得された活動情報から前記人の姿勢変化を検出し、
前記取得された心拍数情報から前記姿勢変化の検出の結果を考慮して基礎心拍数成分を計算し、
前記取得された活動情報から活動心拍数成分を計算し、
前記人の現在の心拍数から前記計算された活動心拍数成分及び前記計算された基礎心拍数成分を減算することにより精神的ストレス心拍数成分を計算し、及び
前記精神的ストレス心拍数成分から前記人の精神的ストレスに関する精神的ストレス情報を計算する、
処理ユニットと、
前記計算された精神的ストレス情報を出力する出力部と
を有する、ストレス検出装置。
【請求項2】
前記処理ユニットが前記取得された心拍数情報から前記姿勢変化の検出の結果を考慮して、
前記取得された心拍数成分から前記基礎心拍数成分を計算すると共に、姿勢変化が検出された場合に該計算された基礎心拍数成分を適応させ、及び/又は
姿勢変化が検出された場合に前記基礎心拍数成分の計算を、特に異なる計算方法を採用する及び/又は当該計算に使用される1以上のパラメータを適応させることにより適応させる
ことにより、前記基礎心拍数成分を計算する、請求項1に記載のストレス検出装置。
【請求項3】
前記処理ユニットが、前記基礎心拍数成分を、前記取得された心拍数情報の心拍数信号の下側包絡線として計算する、請求項1に記載のストレス検出装置。
【請求項4】
前記処理ユニットが、姿勢変化が検出された場合に前記基礎心拍数成分の計算を、姿勢変化の検出後の時間窓の間において前記基礎心拍数が前記心拍数信号に追従する速度を増加させることにより適応させる、請求項3に記載のストレス検出装置。
【請求項5】
前記処理ユニットが、前記基礎心拍数成分を、前記心拍数信号の現在値と前記基礎心拍数の現在値と間の差を取り、該差を乗算定数で乗算し、その結果の積分により基礎心拍数の新たな値を取得することにより計算する、請求項3に記載のストレス検出装置。
【請求項6】
前記処理ユニットは、
前記基礎心拍数の現在値が前記心拍数信号の現在値よりも大きい場合には第1の乗算定数を、
前記基礎心拍数の現在値が前記心拍数信号の現在値よりも小さい場合には第2の乗算定数を、及び
姿勢変化が検出された場合には第3の乗算定数を
使用し、
前記第2の乗数定数は前記第1の乗数定数より小さく、前記第1の乗数定数が前記第3の乗数定数より小さい、
請求項5に記載のストレス検出装置。
【請求項7】
前記処理ユニットが、前記取得された心拍数成分から前記基礎心拍数成分を計算すると共に、姿勢の変化が検出された場合に前記計算された基礎心拍数成分を、前記姿勢が座位又は横臥位から立位に変化した場合は該計算された基礎心拍数成分を増加させることにより、前記姿勢が立位から座位又は横臥位に変化した場合は該計算された基礎心拍数成分を減少させることにより適応させる、請求項1に記載のストレス検出装置。
【請求項8】
前記処理ユニットが前記取得された活動情報から前記人の姿勢変化を、測定された加速度の加速度閾値を超える変化を検出することにより及び/又は前記活動情報を取得するセンサの向きの変化を検出することにより検出する、請求項1から7の何れか一項に記載のストレス検出装置。
【請求項9】
前記処理ユニットが前記取得された活動情報から前記人の姿勢変化を、前記取得された活動情報から決定される前記人の活動のタイプを示す活動タイプ尺度の変化を検出することにより検出する、請求項1から8の何れか一項に記載のストレス検出装置。
【請求項10】
前記活動情報が、活動カウント情報、行動タイプ情報及び加速度計情報のうちの1以上を含む、請求項1から9の何れか一項に記載のストレス検出装置。
【請求項11】
前記処理ユニットが前記取得された活動情報から前記活動心拍数成分を、該活動心拍数成分と前記精神的ストレス心拍数成分との間の相関を最小化することにより計算する、請求項1から10の何れか一項に記載のストレス検出装置。
【請求項12】
人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出システムであって、
前記人の活動に関する活動情報を取得する活動センサと、
前記人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得する心拍数センサと、
人の精神的ストレスを前記取得された活動情報及び前記取得された心拍数情報に基づいて検出する請求項1から11の何れか一項に記載のストレス検出装置と
を有する、ストレス検出システム。
【請求項13】
前記活動センサは、加速度計、身体装着カメラ、遠隔カメラ、皮膚電気活動センサ、ジャイロメータ及び温度センサのうちの1以上を含み、及び/又は
前記心拍数センサが、光電脈波センサ、パルス酸素濃度計センサ、身体装着カメラ、遠隔カメラ、ECGセンサ、リストバンド圧力センサ及びリストバンド緊張センサのうちの1以上を含む、
請求項12に記載のストレス検出システム。
【請求項14】
人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出方法であって、
前記人の活動に関する活動情報を取得するステップと、
前記人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得するステップと、
前記取得された活動情報から前記人の姿勢変化を検出するステップと、
前記取得された心拍数情報から前記姿勢変化の検出の結果を考慮して基礎心拍数成分を計算するステップと、
前記取得された活動情報から活動心拍数成分を計算するステップと、
精神的ストレス心拍数成分を、前記人の現在の心拍数から前記計算された活動心拍数成分及び前記計算された基礎心拍数成分を減算することにより計算するステップと、
前記人の精神的ストレスに関する精神的ストレス情報を前記精神的ストレス心拍数成分から計算するステップと、
前記計算された精神的ストレス情報を出力するステップと
を有する、ストレス検出方法。
【請求項15】
コンピュータ上で実行された場合に該コンピュータに請求項14に記載のストレス検出方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出装置、システム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ストレス軽減のための個人化されたプログラムを可能にするためには、個人のストレスレベルを測定し、監視する必要がある。ストレスを測定する1つの方法は質問によるものであり、該方法は、検証されたバージョンが利用可能となり、例えばストレスの(知覚される)原因、現在の対処戦略、及び日常生活に対するストレスの(知覚される)影響に関する前後状況的情報を取得できるという利点を有する。しかしながら、質問は、当該質問を受けている時点において回答者がどの様に感じているかに結果が依存する主観的なデータを提供するものであり、継続的な監視には不便なものであるという欠点がある。したがって、ストレスの客観的な測定値を有することが(有することも)望ましいであろう。
【0003】
ストレスは、短期的反応及び長期的反応に分類できる種々の(測定可能な)生理学的反応を誘発することが示されている。長期的ストレスは健康に対して悪影響を有し得る一方、短期的ストレスの監視もストレス軽減のための個人化されたプログラムを提供する上で非常に興味深いものである。これは、ユーザに自身のストレスパターンに関する洞察を提供し得ると共に、日常の行動を変えることにより長期的ストレスを軽減又は防止するのに役立ち得る。
【0004】
文献には、ストレスに関連付けられた複数の生理学的パラメータ、特に心拍数(HR)、心拍数変動(HRV)、血圧(BP)及びコルチゾールレベル、が存在する。これらのパラメータのうち、現在のところ、HRのみが目立たずに正確に継続して測定できる。ストレスに加えて、心拍数は、身体的(運動的)活動、睡眠、姿勢、概日リズム、温度、脱水、食物、カフェイン、ニコチン、アルコール等の他の多くの要因により影響を受ける。
【0005】
精神的ストレスは、人の外部又は内部環境における出来事がどの様に認識されるかにより生じる一種のストレスであり、苦痛及び不安という心理的経験をもたらす。精神的ストレスには、しばしば、生理学的反応が伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、人の精神的ストレスを高信頼度で検出し、好ましくは定量化することができる装置、システム及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様では、人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出装置が提供され、該装置は:
- 人の活動に関する活動情報を取得するように構成された活動入力部;
- 人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得するように構成された心拍数入力部;
- 処理ユニットであって、
* 取得された活動情報から人の姿勢変化を検出し、
* 取得された心拍数情報から姿勢変化の検出の結果を考慮して基礎心拍数成分を計算し、
* 取得された活動情報から活動心拍数成分を計算し、
* 人の現在の心拍数から前記計算された活動心拍数成分及び前記計算された基礎心拍数成分を減算することにより精神的ストレス心拍数成分を計算し、及び
* 精神的ストレス心拍数成分から人の精神的ストレスに関する精神的ストレス情報を計算する、
ように構成された処理ユニット;及び
- 計算された精神的ストレス情報を出力するように構成された出力部;
を有する。
【0008】
本発明の他の態様では、人の精神的ストレスを検出するためのストレス検出システムが提供され、該システムは:
- 人の活動に関する活動情報を取得するように構成された活動センサ;
- 人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得するように構成された心拍数センサ;及び
- 本明細書に開示された、人の精神的ストレスを前記取得された活動情報及び前記取得された心拍数情報に基づいて検出するストレス検出装置;
を有する。
【0009】
本発明の更に他の態様では、対応する方法、コンピュータ上で実行された場合に該コンピュータに本明細書に開示された方法のステップを実行させるためのプログラムコード手段を含むコンピュータプログラム、及びプロセッサにより実行された場合に本明細書に開示された方法が実行されるようにさせるコンピュータプログラム製品を記憶した非一時的コンピュータ読み取り可能な記録媒体が提供される。
【0010】
本発明の好ましい実施形態は、従属請求項に定義されている。請求項に記載の方法、システム、コンピュータプログラム及び媒体は、請求項に記載の、特に従属請求項に定義され、本明細書に開示されたシステムと同様及び/又は同一の好ましい実施形態を有すると理解されたい。
【0011】
本発明は、精神的ストレス事象を、瞬時的な心拍数信号を基礎代謝生活機能及び身体的努力に関連する部分(又は成分)と、両者に関連しない部分とに分離することにより検出できるという考えに基づいている。後者の部分は精神的ストレス事象に対して直接的関係を有することがわかっている。
【0012】
更に、人の姿勢変化は殆ど身体的労力を費やさないが、心拍数に大きな影響を与えることもわかっている。例えば、静止した座位から静止した立位への変化は、5~10BPM(1分あたりの心拍数)増加した心拍数につながり得る。同時に、このような姿勢変化は、身体的努力を決定するために使用される、例えば加速度センサからの動き信号に極僅かな変化しか引き起こさない。このような理由で、本発明によれば、精神的ストレスの検出精度を向上させるために姿勢変化検出が設けられる。すなわち、姿勢変化の検出が、精神的ストレスの検出及び精神的ストレス情報の計算(精神的ストレス事象の存在及び/又は人の精神的ストレスのレベル等の)の追加入力として使用される。
【0013】
特に、本発明によれば、人が姿勢を変えたかが検出され、その情報は、次いで、基礎心拍数成分の計算において考慮され、心拍数に対する姿勢変化の影響が考慮に入れられる。瞬時的な(すなわち、現在の)心拍数に寄与する種々の部分(すなわち、成分)の知識に基づいて、精神的ストレス心拍数成分が、人の現在の心拍数から、姿勢の変化が検出された場合に以前に別途計算され又は適応されたものであり得る活動を表す成分及び基礎心拍数を表す成分を減算することにより計算される。次いで、精神的ストレス情報が、この精神的ストレス心拍数成分から計算され得る。このようにして、姿勢変化による心拍数の増減を、測定された心拍数から精神的ストレスを検出する際に考慮に入れることができる。
【0014】
一実施形態では、心拍数信号から「活動寄与分」を相殺するために適応フィルタを使用できる。適応フィルタは、活動カウント、身体的努力及び身体的努力による心拍数の増加の間の関係の変化にも対応する。適応フィルタは、正しい動作のためにDCフリーの入力信号を使用する。したがって、基礎心拍数成分は、当該適応フィルタで処理される前に心拍数信号から減算され得る。基礎心拍数成分の減算及び活動成分の相殺の後、残存する心拍数は精神的ストレスにより単位BPMで増加する。
【0015】
基礎心拍数の計算において姿勢変化検出の結果を考慮するための、すなわち姿勢変化が起こったこと、及び/又は姿勢変化の種類及び/又は量を考慮に入れるための種々のオプションが存在する。これらのオプションのうちの1つは、取得された心拍数成分から基礎心拍数成分を計算し、姿勢変化が検出された場合に該計算された基礎心拍数成分を適応させることである。他の(追加の又は代替の)オプションは、姿勢変化が検出された場合に基礎心拍数成分の計算を、特に異なる計算方法を採用することにより、及び/又は当該計算で使用される1以上のパラメータを適応させることにより適応させることである。一般的に、一切の姿勢変化が又は大きな姿勢変化が検出されない場合、計算された基礎心拍数及び基礎心拍数成分の計算は適応されない(すなわち、姿勢変化が全く考慮されなかった場合に使用される基礎心拍数及びその計算と比較して変化されない)。
【0016】
一実施形態において、前記処理ユニットは基礎心拍数成分を、取得された心拍数情報の心拍数信号の下側包絡線として計算するように構成される。このように、基礎心拍数を推定するために、心拍数信号の下側包絡線が追跡され得る。一実施形態においては、平均心拍数信号を取得された心拍数情報から計算することができ、心拍数信号の下側包絡線又は平均心拍数信号を基礎心拍数成分として計算することができる。
【0017】
他の実施形態によれば、前記処理ユニットは、姿勢変化が検出された場合に基礎心拍数成分の計算を、姿勢変化の検出後の時間窓の間において基礎心拍数が心拍数信号に追従する速度を増加させることにより適応させるように構成される。このようにして、姿勢の変化により引き起こされる心拍数の変化を、通常の追跡(姿勢の変化が起こらない場合)と比較して非常に速く追跡できるため、精神的ストレスの心拍数寄与分をより正確に推定でき、したがって、人の精神的ストレスのより正確な計算が可能になる。
【0018】
更に、前記処理ユニットは、基礎心拍数成分を、心拍数信号の現在値と基礎心拍数の現在値との間の差を取り、該差を乗算定数で乗算し、その結果の積分により基礎心拍数の新たな値を取得することにより計算するよう構成できる。このように、基礎心拍数成分を簡単かつ迅速に計算できる。
【0019】
より高度な実施形態において、前記処理ユニットは:基礎心拍数の現在値が心拍数信号の現在値よりも大きい場合には第1の乗算定数を;基礎心拍数の現在値が心拍数信号の現在値よりも小さい場合には第2の乗算定数を;及び姿勢変化が検出された場合には第3の乗算定数を;使用するように構成され、ここで、第2の乗数定数は第1の乗数定数より小さく、第1の乗数定数は第3の乗数定数より小さい。このように、基礎心拍数の上昇又は下降に対して異なる乗算定数を適用できる。すなわち、乗算定数は、心拍数が基礎心拍数よりも大きい又は小さいことに基づいて選択される。これにより、基礎心拍数が低下する場合、基礎心拍数が上昇する場合に比べて、より速い追跡が可能になり得る。更に、姿勢変化の場合において心拍数の更に速い追跡を可能にするために、他の乗算定数よりも大きい他の(第3の)乗算定数が使用される。
【0020】
他の実施形態において、前記処理ユニットは、取得された心拍数成分から基礎心拍数成分を計算すると共に、計算された基礎心拍数成分を、姿勢が座位又は横臥位から立位に変化した場合は該計算された基礎心拍数成分を増加させることにより、姿勢が立位から座位又は横臥位に変化した場合は該計算された基礎心拍数成分を減少させることにより適応させるように構成される。この実施形態は、起立する場合には一般的に心拍数が増加し、着座又は横臥する場合には一般的に心拍数が減少するという考えに基づいている。このようにして、精神的ストレスの検出精度が最終的に向上され得る。
【0021】
人の姿勢変化を検出するための種々の方法が存在する。一実施形態において、前記処理ユニットは、取得された活動情報から人の姿勢変化を、測定された加速度の加速度閾値を超える変化を検出することにより検出するように構成される。例えば、人が立ち上がると、加速度は1g(9.81m/s)を超えて増加するであろう。すなわち、加速度の増加は、姿勢変化の指示情報とされるであろう。
【0022】
他の実施形態では、活動情報を取得するように構成されたセンサの向きの変化を検出でき、姿勢変化の指標として使用できる。例えば、活動情報を取得するために動きセンサを備えたスマートウォッチが使用される場合、人が座位又は横臥位から立位へと起立した場合、該スマートウォッチの向きは変化するであろう。ほとんどの場合、立っている人は手を地面に向けるが、座っている人は腕を殆どの場合水平の向きにする。
【0023】
他の実施形態では、取得された活動情報から決定される人の活動のタイプを示す活動タイプ尺度の変化が検出され、姿勢変化の指標として使用され得る。この尺度は、例えば「休息」、「ランニング」、「サイクリング」、「ウォーキング」、「その他」のような値をとることができ、この尺度の変化は姿勢変化の指標として使用され得る。
【0024】
上記活動情報は、活動カウント情報、行動タイプ情報及び加速度計情報のうちの1以上を含み得る。例えば、活動カウントの尺度は、動き及び/又は努力の尺度として使用され得る。活動カウントは、特定の期間中における加速度計信号の変化量の平均を表す。
【0025】
前記処理ユニットは、取得された活動情報から活動心拍数成分を、該活動心拍数成分と前記精神的ストレス心拍数成分との間の相関を最小化することにより計算するよう構成され得る。例えば、信号AHR-BHRが適応フィルタの入力信号として使用される。モデルによれば、この信号は活動心拍数成分と精神的ストレス心拍数成分との合計を保持する。適応フィルタは身体的心拍数成分を、活動情報に含まれる活動信号、例えば活動カウント信号をフィルタリングすることにより構築する。精神的ストレス心拍数成分は、適応フィルタ入力から活動心拍数成分を減算することにより計算できる。フィルタ係数は、精神的ストレス心拍数成分と活動信号との間の相関が最小になるように適応される。
【0026】
心拍数センサを実装するための様々な実施形態があり、これらは、光電脈波計センサ、パルスオキシメトリセンサ、身体装着カメラ、遠隔カメラ(例えば、数メートルの距離における)、ECGセンサ、リストバンド圧力センサ、リストバンド緊張センサのうちの1以上を含み得る。本発明を利用し実装できるスマートウォッチは、例えば、心拍数を測定するためにPPGセンサを使用できるが、状況に応じて、ECGセンサ、カメラ画像又は他の方法を、代わりに又は追加で、使用することもできる。
【0027】
活動センサを実装するための種々の実施形態も同様に存在する。これには、加速度計、身体装着カメラ、遠隔カメラ(例えば、数メートルの距離における)、皮膚電気活動センサ、ジャイロメータ及び温度センサのうちの1以上が含まれ得る。加速度計センサは、動きを測定するために一般的に使用されている。代わりに、動きは、連続するカメラ画像から動きベクトルとして導出されてもよい。しかしながら、動きは「身体的努力」とは同じではないことに注意されたい。手首に装着されたスマートウォッチ装置の加速度計は、ランニング及びサイクリングの活動タイプに対して非常に異なる信号を示すが、「身体的努力」(例えば、心拍数への影響)は同様であり得る。それでも、単一の活動の場合、「より多い動き」は「より多い努力」を示すことが予想される。
【0028】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に説明する実施形態から明らかとなり、斯かる実施形態を参照して解明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明によるストレス検出システム及び装置の第1の実施形態の概略図を示す。
図2図2は、本発明によるストレス検出方法の一実施形態のフローチャートを示す。
図3図3は、本発明によるストレス検出システム及び装置の第2の実施形態の概略図を示す。
図4図4は、本発明によるストレス検出装置の第3の実施形態の概略図を示す。
図5図5は、姿勢変化の検出を伴う精神的心拍数の検出を示した種々の信号のグラフを示す。
図6図6は、姿勢変化の検出を伴う精神的心拍数の検出を示した種々の信号のグラフを示す。
図7図7は、姿勢変化の検出を伴う精神的心拍数の検出を示した種々の信号のグラフを示す。
図8図8は、姿勢変化の検出を伴う精神的心拍数の検出を示した種々の信号のグラフを示す。
図9図9は、本発明によるストレス検出方法の他の実施形態のフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
心拍数は、身体を介しての血液及びエネルギの輸送をもたらす。複数の生命系が心拍数に影響を与える。第1に、人が静止期にある場合に現れる基礎(基底)心拍数が存在する。基礎心拍数は、呼吸、消化、心臓鼓動自体、体温制御等の基本的な生命系のためのエネルギを支援するのに十分な血流を確保する。
【0031】
心拍数は、人が身体的(運動的)活動を開始すると、基礎心拍数より高い或るレベルまで増加し、その場合、合計増加量は実行された作業量と或る関係を有する。このことは、歩くこと、走ること、運ぶこと、等にも当てはまる。
【0032】
精神的ストレスも、心拍数の上昇を引き起こし得る。これは、闘争又は逃走反応のための身体の準備の一部として見ることができる。これによれば、「精神的ストレス事象」とは、人間により経験される、深い不幸な又は不満足な感情を引き起こす事象として定義される。心理学の研究からよく知られているテストは、「トーン回避テスト」、「歌を歌うストレステスト」、「レイブンズプログレッシブマトリックス」及び「ペース聴覚連続加算テスト」等である。
【0033】
これらの心拍数依存性は:
HR(t)=HRBasal(t)+HRPhysicalActivity(t)+HRMentalStress(t)
とモデル化できる。このように、測定される心拍数HR(t)は、3つの成分(又は部分):すなわち、基礎心拍数成分HRBasal(t)、活動心拍数成分HRPhysicalActivity(t)及び精神的ストレス心拍数成分HRMentalStress(t)の組み合わせである。このモデルは:
HRMentalStress(t)=HR(t)-HRBasal(t)-HRPhysicalActivity(t)
と書き換えることができる。この書き換えられたモデルは、精神的ストレス心拍数成分HRMentalStress(t)を決定するために適用されるであろう。
【0034】
図1は、本発明によるストレス検出システム1及びストレス検出装置10の第1の実施形態の概略図を示す。システム1は、人の活動に関する活動情報を取得するための活動センサ20、人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得するための心拍数センサ30、並びに人の精神的ストレスを取得された活動情報及び取得された心拍数情報に基づいて検出するためのストレス検出装置10を備える。
【0035】
一実施形態において、活動センサ20は、人の身体、例えば手首、腕、脚、又は胴体に取り付けられ、加速度計、カメラ、皮膚電気活動センサ、ジャイロメータ及び温度センサのうちの1以上を含み得る。他の実施形態においては、人の活動を検出するために、例えば1メートル又は数メートルの距離から人を観察するリモートカメラ等の、人から離れた装置を活動センサ20として使用することもできる。活動センサ20は、一般的に、動きを検出して、人の活動、及びオプションとして活動の強さ及び/又は種類を認識することを可能にするように構成される。
【0036】
一実施形態において、心拍数センサ30は、人の身体、例えば、手首、腕、脚又は胴体に取り付けられ、光電脈波計センサ、パルスオキシメトリセンサ、カメラ、ECGセンサ、リストバンドプレッシャセンサ及びリストバンド緊張センサのうちの1以上を含み得る。他の実施形態においては、例えば1メートル又は数メートル等の距離から人を観察し、脈動する血液量により、すなわち血液量パルスにより誘起される人の皮膚の周期的色変化により引き起こされる皮膚の微小な光吸収変化を検出するために皮膚を透過する又は皮膚から反射する放射を評価する遠隔フォトプレチスモグラフィ(遠隔PPG)技術を使用する遠隔カメラ等の、人から離れた装置を心拍数センサ30として使用することもできる。この技術は広く知られており、例えば、Verkruijsse他による文献“Remote plethysmographic imaging using ambient light”,Optics Express,16(26),22December2008,pp.21434-21445に記載されている。
【0037】
ストレス検出装置10は、ハードウェア及び/又はソフトウェアで実装することができる。例えば、装置10は、適切にプログラムされたコンピュータ又はプロセッサとして実装され得る。用途に応じて、装置10は、例えば、コンピュータ若しくはワークステーション、又はスマートフォン、ラップトップ、タブレット、スマートウォッチ等のモバイルユーザ装置とすることができる。例えば、実際の実装において、当該システムのセンサ20、30及び装置10を含む全ての要素は、スマートウォッチ又は他のウェアラブルの一部であり得る。他の実際的な実装では、センサ20、30のみが斯様なスマートウォッチ又は他のウェアラブルの一部である一方、装置10は、コンピュータ、ラップトップ又はスマートフォン等の別の装置上で実施化され、無線接続(例えば、Bluetooth(登録商標)又はWiFiを介する)が、センサ20、30から装置10へのデータ送信に使用される。
【0038】
ストレス検出装置10は、一般的に、活動入力部11、心拍数入力部12、処理ユニット13及び出力部14を備える。図2は、該ストレス検出装置により実行され得るストレス検出方法100のフローチャートを示す。
【0039】
活動入力部11は、人の活動に関する活動情報を、好ましくは活動センサ20(又は該センサを含む装置)との直接接続を介して、又はメモリ若しくは前処理ユニット等の他のエンティティを介して取得する(すなわち、受信する又は取り込む;ステップ101)。該活動情報は、例えば、活動カウント情報、行動タイプ情報及び加速度計情報のうちの1以上を含み得る。活動入力部11は、Bluetooth(登録商標)、WiFi又はLANインターフェース等の通常の有線若しくは無線データインターフェースとして構成できる。
【0040】
心拍数入力部12は、人の現在の心拍数を示す又は計算することを可能にする心拍数情報を取得する(すなわち、受信する又は取り込む;ステップ102)。該心拍数情報は、好ましくは、心拍数センサ30(又は該センサを含む装置)との直接接続を介して、又はメモリ若しくは前処理ユニット等の他のエンティティを介して取得され得る。該心拍数情報は、例えば、心拍数を計算することを可能にする脈拍信号若しくは光電脈波計(PPG)信号を含むことができ、又は心拍数を直接示す信号であり得る。例えば、心拍数信号(経時的な心拍数値)は、取得された心拍数情報から計算することができ、又は取得された心拍数情報に含まれてもよい。心拍数入力部12は、Bluetooth(登録商標)、WiFi又はLANインターフェース等の通常の有線若しくは無線データインターフェースとして構成できる。
【0041】
プロセッサ13は、取得された活動情報及び取得された心拍数情報を処理し、人の精神的ストレスに関する精神的ストレス情報を計算する(ステップ103~107)。特に、第1のステップ103において、当該プロセッサは取得された活動情報から人の姿勢変化(例えば、着座若しくは横臥から直立へ、又は直立から着座若しくは横臥へ)を検出する。この姿勢変化検出の結果は、後続の第2ステップ104において考慮され、該ステップにおいては、取得された心拍数情報から基礎心拍数成分が計算される。例えば、基礎心拍数成分は、取得された心拍数成分から上記姿勢変化検出の結果を考慮に入れて、該基礎心拍数成分を取得された心拍数情報から計算すると共に該計算された心拍数成分を姿勢変化が検出された場合に適応させることにより、計算することができる。姿勢変化が検出されない場合、計算された心拍数成分は適応されない。他の実施形態において、基礎心拍数成分の計算は、姿勢変化が検出された場合、特に姿勢変化が検出されない場合と比較して、異なる計算方法を採用し、及び/又は姿勢変化が検出された場合の計算に使用される1以上のパラメータを適応させることにより、適応され得る。
【0042】
その前若しくはその後に、又は並行して、当該プロセッサは、ステップ105において、取得された活動情報から活動心拍数成分を計算する。
【0043】
次いで、ステップ106において、プロセッサ13は精神的ストレス心拍数成分を、取得された心拍数情報に含まれる若しくは該情報から導出される人の現在の心拍数から、算出された活動心拍数成分及び算出された基礎心拍数を減算することにより算出する。最後に、ステップ107において、当該プロセッサは、人の精神的ストレスに関連する精神的ストレス情報を精神的ストレス心拍数成分から計算する。
【0044】
出力部14は、計算された精神的ストレス情報を出力する(ステップ108)。例えば、当該プロセッサは、この情報をディスプレイ上に視覚的に若しくはスピーカーを介して聴覚的に出力でき、又は該プロセッサは、この情報を更なる処理若しくはレンダリングのために他のエンティティに供給することもできる。当該精神的ストレス情報は、人の精神的ストレスの有無及び/又は精神的ストレスのレベル/強度を示す情報を含み得る。
【0045】
図3は、本発明によるストレス検出システム2及びストレス検出装置40の第2の実施形態の概略図を示す。この図には、説明のために、システム2の要素に加えて人体モデル200も示されている。
【0046】
人体モデル200は、測定された心拍数HR(t)の前述した3つの成分、及び身体活動から心拍数への人体の反応をモデル化する項h(n)を示す。例えば、人が何らかの身体活動を開始すると、これは心拍数に影響を与える。この効果は殆どの場合即座のものではなく、開始時に幾らかの遅延を伴い、活動が終了する場合に幾らかの遅延を伴う。これらの遅延効果の時間的挙動は、項h(n)でモデル化できる。
【0047】
図1に示された活動センサ20及び心拍数センサ30が、手首ベースの活動センサモジュールとして実装され得るセンサ及び信号処理モジュール50に含まれる。このモジュール50は、例えばPPGセンサ(心拍数センサとしての)及び加速度計センサ(活動センサとしての)を含み得る。更に、この実施形態において、センサにより取得されたセンサ信号は、少なくとも心拍数AHR(瞬時心拍数又は平均心拍数等の人の心拍数の推定尺度であり得る)、活動カウント尺度ACN、及びオプションとして活動タイプACTを含むより高い抽象度の信号を供給するために前処理される。すなわち、この前処理は、生のセンサデータからより高い抽象度の信号を抽出する。更に、生の加速度計信号ACCが該モジュール50により提供されてもよい。
【0048】
ユーザによる特定の活動タイプの実行の間において、心拍数は活動により変化する。基礎レベルに対する変化は、一般的に、活動カウントに(線形に)依存する。実際の関係は、活動のタイプ(座る、歩く、走る等)に依存して異なるであろう。人が活動パターンを変化するにつれて、基礎心拍数の連続的変動があり、活動カウントと心拍数との関係が身体的活動により増加することが予想され得る。しかし、短時間では、活動と基礎レベルに対する心拍数の増加との間には依然として「線形な」関係が存在するであろう。適応フィルタは、活動タイプの変化による身体的活動と身体的心拍数との関係の変化に対して、該フィルタのFIR係数を、当該適応フィルタ出力における身体的活動の抑制が、その時点で実行されている活動のタイプにとり最適になるように更新する。
【0049】
本発明により適用される精神的ストレス検出アルゴリズムは、上述した心拍数モデルの3つの異なる心拍数成分に対して推定値を別々に生成する。
【0050】
モジュール50は、現在の心拍数の推定値としてAHR尺度を供給する。この実施形態において、基礎心拍数追跡モジュール41は、HRBasal、すなわち基礎心拍数成分BHRを、平均心拍数信号AHRの下側包絡線として推定する。例えば、以下でより詳細に説明するように、BHRはAHRを、AHR又はBHRのどちらが最大値を有しているかに応じて異なる時定数で追跡する。
【0051】
モジュール50は、更に、「身体的活動」の量と共に増加する値を持つACN尺度も供給する。この仮定は、ユーザが同様の活動、座り、歩き、走り、考え等で続ける限り有効である。このような状況では、HRPhysicalActivity(t)とACNとの間に線形な依存性が仮定される。精神的心拍数寄与分MHRにおけるACNの寄与分を決定するために適応最小二乗適応フィルタ42が使用され、精神的心拍数寄与分MHRにおいて身体的寄与分が相殺されるようにする。言い換えると、適応フィルタ42は、ACNの一連のサンプルをMHRと相関させることによって、フィルタ出力PHR(身体的心拍数)が活動による活動心拍数寄与分を模擬するようにさせることにより、精神的心拍数寄与分からACNに相関する内容を除去する。
【0052】
AHRからBHR及びPHRの両方を共通の又は別個の減算モジュール43、44により減算することにより、精神的ストレス心拍数寄与分MHRが得られる。スケーラモジュール45(例えば、対数スケールを適用する)は、精神的ストレス心拍数寄与分MHRを、精神的ストレスレベルMSL等の精神的ストレス情報を表す提示可能な値に変換する。
【0053】
心拍数が人の姿勢に依存することは知られた効果である。ユーザが完全に静止している場合でも、横たわっている姿勢、座っている姿勢及び立っている姿勢の間で10BPMの変動が予想され得る。このことは、精神的ストレス情報の決定に影響を与える。立ち上がることはACN活動信号にはほとんど現れないが、心拍数には相対的に大きな変化を引き起こすからである。この問題は、本発明によれば、姿勢変化があるか否かを検出する姿勢変化検出モジュール46を追加することにより解決される。その出力PCD(姿勢変化検出)は、基礎心拍数追跡モジュール41に供給される。姿勢変化が検出されない場合、基礎心拍数及びその計算は変化しない。姿勢の変化が検出された場合、基礎心拍数及び/又はその計算は、基礎心拍数追跡モジュール41により変更される。
【0054】
図4は、本発明によるストレス検出装置60の第3の実施形態の概略図を示す。この実施形態では、AHR、ACN及びACCが入力として使用される。これら信号のサンプルレートは、信号帯域幅の観点から必要な最小値よりも高いものであり得る。入力信号AHR及びACNは、例えば、サンプルレート1Hz(N1=1)を有し得る。ACC信号は、128Hz(N2=4)又は32Hz(N2=1)でサンプリングされて、共に32Hzにし得る。ローパスフィルタ(LPF)61、62、63は、ノイズを低減すると共に、デシメーションステージの準備として使用される。このように、これらLPFは、低いサンプルレートへの信号のデシメーション(間引き)の際にエイリアシングを防止する。LPF61、62、63は、n個のLPFタップ及びDC利得=1のハニング窓として設計できる。LPF61、62、63の出力信号は、ACNlpd、AHRlpd及びACClpdとして示され、これらはローパスフィルタ処理され、デシメート(間引き)されていることを意味する。
【0055】
この実施形態では、姿勢変化検出のために高さ変化検出(HCD)モジュール64が設けられる。絶対値モジュール(ABS)641は、加速度計の値の絶対値、例えば、abs(ax,ay,az)=sqrt(ax+ay+az)を計算する。姿勢変化検出ユニット(ABS(x-g))642は、加速度計の測定値の絶対値を重力1gと比較する。その差が大きい場合、当該人は起立又は着座を行っている可能性があり、このことは、高さの変化、又はもっと一般的には姿勢の変化として解釈される。姿勢変化検出の後、ウィンドウユニット643によりウィンドウタイマが開始される。ウィンドウ信号は、デシメーションユニット644においてデシメーション係数N3=32により1Hzにデシメートされる。
【0056】
姿勢変化が検出されない場合、基礎心拍数推定モジュール65は、心拍数の上昇に緩やかに(大きな時定数で)追従する一方、低下は大幅に速く(より小さな時定数で)追従される。このようにして、基礎心拍数と呼ばれる心拍数信号の「下側包絡線」を追跡することができる。ウィンドウ信号が活性状態である場合(すなわち、姿勢変化が検出された場合)、基礎心拍数推定モジュール65は、心拍数信号を非常に速く(例えば小さな時定数で)追跡するように制御される。このようにして、基礎心拍数は、新しい姿勢に合致する値に非常に速く適応する。
【0057】
特に、減算ユニット651は実際の心拍数AHRlpdと現在の基礎心拍数との差を取る。符号ユニット652は、この減算の結果の符号を決定する。該符号及びHCDモジュール64により供給されるHCD姿勢検出信号に応じて、利得制御ユニット653は、当該下側包絡線追跡系に対して異なる乗算定数を提案する。乗算器654は、減算ユニット651からの差分結果を、利得制御ユニット653により提案された乗算定数で乗算する。結果は積分され(例えば、加算ユニット655により現在の基礎心拍数値に加算され)、単一サイクル遅延を付与する遅延ユニット656により遅延される。
【0058】
言い換えると、BHR推定モジュール65は、可変制御時定数を有する一次IIRローパスフィルタを形成する。基礎心拍数の追跡は、現在の基礎心拍数値BHRと実際の(フィルタ処理され、ダウンサンプリングされた)心拍数値AHRとの間の差を取る。次のクロックでは、新たなBHRが、上記差の値、該差の符号及びウィンドウ信号(HCD)を考慮に入れて計算される。
【0059】
BHR推定モジュール65からの出力BHRは、減算ユニット66により実際の心拍数AHRlpdから減算される。次いで、結果として得られる差に適応フィルタリングが施される。最後に、適応フィルタ67は、ACNに相関する内容を精神的心拍数MHR信号から除去する。この目的のために、適応フィルタユニット672(例えば、適応LMS(最小二乗平均)フィルタ)は、一連のサンプルACNをMHRと相関させる。適応フィルタユニット672のFIR(有限インパルス応答)係数は、更新ユニット671において、次のステップで相関値が減少するように更新又は調整される。該FIR係数は、フィルタ出力PHRが活動による心拍数寄与分を模擬するようにACN信号をフィルタリングするために使用される。
【0060】
ユーザの心拍数は、活動変化には即座には反応しない。数秒の遅延が予想されるので、心拍数への身体的(運動的)寄与分は線形フィルタ演算FIR:
HRPhysicalActivity(t)~=FIR(ACN)
で推定できる。尺度に関して、該演算は:
【数1】

と書き換えることができ、ここで、nは時間サンプル番号のインデックスであり、FIRは線形フィルタの係数であり、nFIRは線形フィルタのタップ数である。当該システムのインパルス応答はnFIRサンプルの継続時間を有するので、如何なるACNデータサンプルもnFIRサンプルの継続時間にわたる心拍数に影響する。前述したように、FIR()のフィルタ係数は一定ではなく、ユーザの活動及び環境的影響に依存して変化するであろう。したがって、FIR()の係数を継続的に推定及び適応させる適応フィルタが使用される。
【0061】
信号HRMentalStress(t)及び信号HRPhysicalActivity(t)は相関されないと仮定する。適応LMSフィルタ671はFIR係数672を連続的に推定するのに役立つ。該フィルタは、MHRにおけるACNの寄与分(相関、内積)を決定し、フィルタ係数を相関結果が最小二乗的に最小になるように適応させる。結果として、精神的心拍数信号において身体的寄与分は相殺される。新たなFIR係数は、サンプル周期ごとに調整される。したがって、FIR(n,1:nFIR)が仮定され、ここで、nは実際のサンプルインデックスであり、1:nFIRはフィルタ係数である。
【0062】
次いで、初期化時にFIR(1,1:nFIR) =[0 0 0 … 0](nFIRゼロ)と設定される。次のサンプルでは、m=1:nFIRに関して計算される。
FIR(n+1,m)=FIR(n,m)+kAdaptive* MHR(n)*ACN(n-m)
ここで、kAdaptiveは、フィルタの収束並びに追跡速度及び安定性を調整するための定数である。
【0063】
減算ユニット673においてAHRとBHRとの差からPHRを減算することによりMHRが得られ、これはスケーラ68により精神的ストレス情報MSLに変換される。
【0064】
図5は、|ACC|70、並びに期間23:07~23:08及び23:35~23:36で活性状態となる姿勢補正信号HCD71を示している。更に、心拍数信号72及び基礎心拍数信号73も示されている。kfastによる高速追跡モードは、HCDが活性状態である期間において活性状態となる。kriseによる低速追跡は、00:13~00:23で活性状態となる。kfallによる通常の追跡は、00:23~00:26で活性状態となる。図30135_pcor_HRcomponents.pngは、活動信号ACN及び再構成された身体的心拍数PHRを示している。
【0065】
図6は、HR信号74、BHR信号75、PHR信号76及びMHR信号77の相対的信号振幅に関する印象を与えると共に、ACT活動タイプ信号78を示している。
【0066】
図7は、|ACC|80及び11:14と11:15との間で活性であり且つ高速に追跡する姿勢補正信号HCD81を示している。低速追跡は11:25~11:37で活性状態であり、通常の追跡は11:37~11:38及び11:43~11:50まで活性状態である。更に、心拍数信号82及び基礎心拍数信号83も示されている。
【0067】
図8は、HR信号84、BHR信号85、PHR信号86及びMHR信号87の相対的信号振幅に関する印象を与えると共に、ACT活動タイプ信号88を示す。
【0068】
図9は、本発明によるストレス検出方法120の他の実施形態のフローチャートを示す。該方法は図2に示された方法100の実施形態と同一のステップを部分的に含み、これらのステップは同一の参照符号により示され、説明されないであろう。方法100とは異なり、方法120は、姿勢変化が検出された場合にステップ104において基礎心拍数を計算するためのパラメータ及び/又は計算方法を適応させるステップ109を含む。このステップ109は、姿勢変化が検出されない場合は省略される。
【0069】
ステップ104において計算された基礎心拍数、取得された心拍数情報及び計算された活動心拍数成分に基づいて、精神的ストレス心拍数成分がステップ106において計算される。
【0070】
ステップ107において精神的ストレス情報を計算することに加えて、計算された精神的ストレス心拍数成分は、更にステップ110において、前述したように心拍数信号から活動寄与分を打ち消すために使用され得る適応フィルタ(図3の42、図4の67)のフィルタパラメータを適応させるために使用することができる。該適応フィルタはステップ105及び110により実現することができ、その場合、ステップ105は活動情報から活動心拍数寄与分を生成するFIRフィルタによるフィルタ処理を含み、ステップ110はFIR係数を適応フィルタ係数の現在値、活動情報及び精神的心拍数成分を使用して更新(すなわち、適応)する。
【0071】
前述したように、心拍数は姿勢に依存する。姿勢変化を検出するために、高さ変化検出後のBHR信号の超高速追跡が実施され得る。ここで、「超高速追跡」なる表現は、前述した高速追跡と区別するために使用される。
【0072】
高さの変化を検出する簡単な方法は、加速度計信号のノルムを監視することである。ユーザが静止している場合、加速度計の測定値は重力gに近い。ユーザが姿勢を変えるやいなや、加速度計の測定値は重力から一層異なることが予想される。この検出は、ユーザが起立する場合のみならず、着座するときにも機能する。この単純な姿勢影響低減システムからの結果の統計的分析は、オリジナルのアルゴリズムと比較して明らかな改善を示した。
【0073】
如何なる高さ変化検出事象も、特定の持続時間のウィンドウを再起動させる。このウィンドウの間において、基礎心拍数推定機能は高速追従モードで動作するであろう。この検出は、以下の疑似コードで記述できる:
# During initialization it sets:
BHR(1) = 60
# Then for all samples in the future
If BHR(n) > AHR(n) % AHR is lower
BHR(n+1) = BHR(n) + kfall * ( AHR(n) - BHR(n) ) % -> Fast tracking
Else if HCD_window % Posture change detection window
BHR(n+1) = BHR(n) + kfast * (AHR(n) - BHR(n)) % -> SuperFast tracking
Else % AHR is higher
BHR(n+1) = BHR(n) + krise * (AHR(n) - BHR(n)) % -> Slow tracking
End
【0074】
他の実施形態では、より異なる状態、姿勢変化及び活動変化に対処するために、より多くの定数を使用することができる。例えば、((ACT==着座)&(HR>BHR))、((ACT==着座)&姿勢変化&(BHR>HR))、((前のACT==着座)->(ACT==歩行))。
出力尺度ARL MSLは、MHR尺度のスケーリングされたバージョンである。スケーリングは、
ARL=min(R-1,floor(R/log2(51)*(log2(floor(2*(1+kscale*MHR)))-M)))
なる式に従って実行でき、ここで、スケールレベルの数R=1000であり、スケーリング定数kscale=1(ストレスレベルの結果を調整するために変更できる)であり、精度及びM=10である。この結果は下表のようになる。
【0075】
【表1】
【0076】
姿勢変化による心拍数の変化は、姿勢に依存して異なる基礎代謝心拍数と考えることができる。本発明によれば、姿勢変化は加速度計信号から検出され、姿勢変化検出は、姿勢変化検出後に開始する時間窓の間に短い時定数を適用する追跡機構により基礎心拍数を変化させる。
【0077】
加速度計データから姿勢変化を検出するために利用可能な種々の単純及び複雑な方法が存在する。
【0078】
特定の実施形態によれば、静止時において、3軸加速度計は1g~=9.81m/sを測定する。人が着座状態から起立すると、この値は一時的に1gを超えて増加する。この場合、基礎心拍数超高速追跡ウィンドウは、
Trigg1=(|acc|-9.81)>Threshold1
の場合に起動される。
【0079】
他の実施形態によれば、立位から座位への姿勢変化は、
Trigg2=||acc|-9.81|>Threshold2
により検出できる。この実施形態は、起立と着座を区別しない。したがって、着座後の精神的ストレス検出の一層速い応答を可能にし得る。
【0080】
ウェアラブル装置が手首に装着されている場合、殆どの人は立っている場合は手を下に向ける一方、座っている場合は手を水平に向ける。例えば、加速度計の向きは姿勢に依存する。この代替的構成は、姿勢変化を検出するために向き情報を使用して、精神的ストレス検出の精度を向上させる。
【0081】
「活動タイプ」尺度は、「休憩」、「ランニング」、「サイクリング」、「ウォーキング」、「その他」等の値を取ることができる。この尺度値の変化も、姿勢の変化を示し得る。
【0082】
一実施形態において、新たな基礎心拍数値は、実際の心拍数と現在の基礎心拍数との差を取り、これに定数を掛け、これを現在の基礎心拍数値に加算することにより推定され、これは一次ローパスIIRフィルタと見ることができる。このようなフィルタは、ローパス帯域幅及び/又は時定数により特徴付けられ得る。フィルタの時定数は、フィルタのサンプル周波数及び乗算係数に依存する。異なる追跡時定数は、PostureChangedWindow、HR>BHR、HR<BHRなる条件で選択される異なる乗数により実現される。後者の2つの条件は、「下側包絡線追跡」挙動を生成させる。
【0083】
アナログローパスフィルタに関して、これらの異なる条件に対する時定数は 1/(Fs*kfast)、1/(Fs*krise)及び1/(Fs*kfall)であり得る。一般的に、kfast>>kfall>>kriseが成り立つ。これら定数の値は、多数の検査候補の記録された信号の調査により選択され得る。他の実施形態では、個人毎の最適化がなされ得る。例示的な実装においては、Fs=1Hz、並びにkfast=0.1、 kfall=0.01及びkrise=0.001となる。他の実施形態では、他の値が使用され得る。
【0084】
開示されたストレス検出システムの実際的実現において、センサモジュールは、PPG及びモーションセンサ並びにホストプロセッサ装置を組み込んだ手首装着型装置である。両方のセンサからの継続的なデータストリームが、ホスト上で動作して当該装置の着用者の身体的状態を特徴付ける複数の高レベル尺度を抽出するソフトウェアに供給される。これら尺度は、AHR、心拍数の推定値、及びユーザが適用する動き(~=身体活動)の量の測定値を保持する活動カウントであるACNを含む。
【0085】
新たな精神的ストレス尺度が追加される。該精神的ストレス尺度の計算は、入力としてAHR、ACN及びACCを必要とする。当該アルゴリズムからの出力は ARL尺度として記録される。例えば、3色LED上の視覚的な表示が存在する。
【0086】
本発明が図面及び上記記載において詳細に図示及び説明されたが、このような図示及び説明は解説的又は例示的なもので、限定するものではないと見なされるべきである。すなわち、本発明は開示された実施形態に限定されるものではない。開示された実施形態に対する他の変形は、当業者により、請求項に記載された発明を実施する際に、図面、開示及び添付請求項の精査から理解され、実施され得るものである。
【0087】
請求項において、「有する(含む)」という用語は他の要素又はステップを排除するものではなく、単数形は複数を排除するものではない。単一の要素又は他のユニットは、請求項に記載されている幾つかの項目の機能を果たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属請求項に記載されているという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用できないことを示すものではない。
【0088】
コンピュータプログラムは、他のハードウェアと一緒に、又は他のハードウェアの一部として供給される光記憶媒体又はソリッドステート媒体等の適切な非一時的媒体により記憶/配布することができるのみならず、インターネット又は他の有線若しくは無線通信システムを介して等のように、他の形式で配布することもできる。
【0089】
請求項における如何なる参照符号も、当該範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【国際調査報告】