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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】ポリマー膜
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/152 20060101AFI20231211BHJP
   A61M 1/34 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/16 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/56 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20231211BHJP
   B01D 71/74 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
D06M13/152
A61M1/34 100
B01D61/14
B01D69/08
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/10
B01D71/16
B01D71/38
B01D71/40
B01D71/56
B01D71/68
B01D71/74
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535283
(86)(22)【出願日】2021-12-06
(85)【翻訳文提出日】2023-06-09
(86)【国際出願番号】 IB2021061375
(87)【国際公開番号】W WO2022123428
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/123,837
(32)【優先日】2020-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/279,859
(32)【優先日】2021-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【弁理士】
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【弁理士】
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】シュスター,オリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】チャンドラセカラン,ニーラカンダン
(72)【発明者】
【氏名】クリーター,デトレフ
(72)【発明者】
【氏名】ヴースター,ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ゴットシャルク,ホルガー
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
4L033
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB02
4C077MM07
4C077PP10
4C077PP13
4C077PP15
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA13
4D006MA01
4D006MA09
4D006MA31
4D006MA33
4D006MC11
4D006MC18
4D006MC33
4D006MC37
4D006MC39
4D006MC54
4D006MC62
4D006MC69
4D006PA01
4D006PB09
4D006PB44
4D006PB45
4D006PB46
4D006PB70
4D006PC44
4L033AA06
4L033AB03
4L033AC15
4L033BA13
(57)【要約】
ポリマー膜。膜は、芳香族スルホンポリマー、ポリアミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルニトリル(polyacrylnitril)から選択されるポリマーから作製され、主面を有するポリマー膜と、ポリマー膜の主面上にコーティングされたスチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンと、を含んでもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族スルホンポリマー、ポリアミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルニトリルから選択されるポリマーから作製され、主面を有するポリマー膜と、
前記ポリマー膜の前記主面上にコーティングされたスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンと、
を含む、膜。
【請求項2】
前記スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンが、前記ポリマー膜の主面の75%超を覆う、請求項1に記載のポリマー膜。
【請求項3】
前記スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンが、前記ポリマー膜の主面の80%超を覆う、請求項1又は2に記載のポリマー膜。
【請求項4】
前記ポリマー膜が、中空糸膜であり、前記中空糸膜のルーメンに向いている内面と、外に向いている外面と、ある壁厚を有する中間壁とを含み、前記主面が前記内面である、請求項1~3のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項5】
前記中間壁が、複数の細孔と、複数の細孔の少なくともいくつかの表面上にコーティングされた前記スチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンとを含む、請求項4に記載のポリマー膜。
【請求項6】
前記芳香族スルホンポリマーが、ポリエーテルスルホンを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項7】
前記イソフラボンが、ヒドロキシイソフラボンを含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項8】
前記イソフラボンが、ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテイン、プルネチン、ビオカニンA、オロボール、サンタール、プラテンセイン、ホルモノネチン、並びにグルコシド、13-グリコシド、及びアルコキシで置換されたこれらの誘導体、並びにこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項9】
前記イソフラボンが、ゲニステイン、ダイゼイン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~7のいずれか一項に記載のポリマー膜。
【請求項10】
芳香族スルホンポリマーからポリマー膜を形成することと
スチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンを中空糸膜にコーティングすることと、
を含む、方法。
【請求項11】
前記コーティングステップが、前記スチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンを溶媒に溶解してコーティング溶液を形成することを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶媒が、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記コーティングステップが、前記ポリマー膜を前記コーティング溶液に浸漬することを含む、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー膜を前記コーティング溶液に浸漬した後、ポリマー膜から前記コーティング溶液を排出することを更に含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
排出後に前記ポリマー膜を乾燥させることを更に含む、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記イソフラボンが、ゲニステイン、ダイゼイン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマー膜が、ルーメンを有する中空糸膜である、請求項10~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティング溶液を排出することが、前記中空糸膜の前記ルーメンを前記コーティング溶液で充填した後、前記中空糸膜から前記コーティング溶液を排出することを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記コーティングステップが、前記コーティング溶液を、前記ポリマー膜のルーメンへと流すことを含む、請求項17又は18に記載の方法。
【請求項20】
液体の濾過のための、請求項1~9のいずれか一項に記載のポリマー膜の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、微多孔質膜に関する。更に、本開示は、このような膜を製造するためのプロセスに関する。本開示は更に、液体媒体の濾過及び精製のためのこのような膜の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー膜は、精密濾過のために、非常に広い範囲の異なる工業用途、薬学的用途、又は医療用途で使用される。これらの用途では、膜分離プロセスの重要性が増しており、それは、これらのプロセスには、分離される物質に熱的に負担がかからず、又は更には損傷されないという利点があるためである。限外濾過膜を、巨大分子の除去又は分離に使用することができる。更に多くの膜分離プロセスの用途が、飲料工業で、バイオテクノロジーで、水処理又は下水技術で公知である。このような膜は、全般的に、その保持容量に従って、すなわち、特定のサイズの粒子若しくは分子を保持する容量に応じて、又は有効細孔のサイズ、すなわち分離挙動を決定する細孔のサイズに関して分類される。限外濾過膜は、それにより、およそ0.01μm~約0.1μmの分離挙動を決定する細孔のサイズ範囲をカバーすることから、20000ダルトンより大きい、又は約200000ダルトンより大きいサイズ範囲の粒子又は分子を保持することができる。より良好なポリマー膜が必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
したがって、一態様において、本開示は、芳香族スルホンポリマー、ポリアミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルニトリル(polyacrylnitril)から選択されるポリマーから作製され、主面を有するポリマー膜と、ポリマー膜の主面上にコーティングされたスチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンと、を含む、膜を提供する。
【0004】
別の態様において、本開示は、芳香族スルホンポリマーからポリマー膜を形成することと、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンを中空糸膜にコーティングすることと、を含む、方法を提供する。
【0005】
別の態様において、本開示は、液体の濾過のための、本開示のポリマー膜の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本開示のいずれかの実施形態が詳細に説明される前に、本発明が、その適用において、以下の記載で示される、使用、構築物、及び構成要素の配列の詳細に限定されないことは理解される。本発明は、他の実施形態が可能であり、かつ、本開示を読み取る際に当業者にとって明らかになる様々な方法で実施されること又は実行されることが可能である。また、本明細書で使用される専門用語及び用語は、記述目的のためであり、限定するものとみなされるべきではないことは理解される。本明細書における「含む(including)」、「含む(comprising)」、又は「有する(having)」、及びこれらの変化形の使用は、その後に列挙される項目及びそれらの均等物、並びに追加的な項目を包含することを意味する。他の実施形態が利用されてもよく、かつ、本開示の範囲から逸脱することなく、構造的又は論理的な変更がなされてもよいことは理解される。
【0007】
本開示は、主面と、ある壁厚を有する壁とを有するポリマー膜を含む膜を提供する。いくつかの実施形態において、ポリマー膜は中空膜であってもよく、中空膜は、繊維の一端から他端まで延びる連続中空ルーメンと、繊維の外側を形成する外に向いている外面と、連続中空ルーメンの境界を画定する中空ルーメンに向いている内面と、ある壁厚を有する中間壁と、を有してもよい。中空膜のいくつかの実施形態において、主面は内面であってもよい。中空膜のいくつかの実施形態において、主面は内面であってもよい。ポリマー膜は、ポリマー膜の主面上にコーティングされたスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンを含んでもよい。いくつかの場合では、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、層を形成してもよく、主面を少なくとも部分的に覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、ポリマー膜の主面の50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%超を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、ポリマー膜の主面の100%を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、壁は複数の細孔を含んでもよく、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、複数の細孔の少なくともいくつかの表面上にコーティングされてもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、複数の細孔の少なくともいくつかの表面の50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%超を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、複数の細孔の少なくともいくつかの表面の100%を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、複数の細孔の50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%超の表面上にコーティングされてもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、複数の細孔の全ての表面を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、外面の少なくとも一部にコーティングされ、それを覆っていてもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、外面の50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%超を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、外面の100%を覆ってもよい。いくつかの実施形態において、ポリマー膜は、2つの主面、すなわち第1の主面及び第1の主面の反対側の第2の主面を有する、フラットシート膜であってもよい。これらの実施形態のいくつかにおいて、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、第1の主面及び第2の主面の両方を少なくとも部分的に覆ってもよい。これらの実施形態のいくつかにおいて、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンは、第1の主面及び第2の主面の両方を50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%超覆ってもよい。
【0008】
壁厚(中空糸膜の実施形態において、壁厚は、中空糸膜の外面と内面との間で測定することができる)は、20μm~500μm、140μm~400μm、150μm~380μm、又は160μm~380μmの範囲であってもよい。いくつかの実施形態において、本開示による中空糸膜のルーメン(内腔)を通る望ましい流れ、特に好ましい圧力降下を達成するために、本明細書に記載される中空糸膜の内径は、100μm~2000μm、700μm~2000μm、800μm~1800μm、又は900μm~1600μmの範囲であることが好ましい。本明細書に記載の膜の壁厚及び直径(中空糸膜の実施形態において、内径又はルーメン径、及び外径)はまた、走査型電子顕微鏡写真又は透過型電子顕微鏡写真(それぞれSEM(scanning electron micrographs)又はTEM(transmission electron micrographs))を例えば倍率400:1で使用する方法などの従来の検査方法によって決定される。
【0009】
本開示によるポリマー膜は、国際公開第2019/229667(A1)号(Malek et al.)に開示されている方法によって作製することができ、これは参照によりその全体が本開示に組み込まれる。いくつかの実施形態において、ポリマー膜は、ポリマー成分及び溶媒系の均質な紡糸溶液から作製することができる。それに関して、ポリマー成分は、芳香族スルホンポリマー、ポリアミド、セルロース、酢酸セルロース、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、及びポリアクリルニトリルから選択されるポリマーを含む。ポリマー成分は、少なくとも1つの親水性ポリマーを更に含んでもよい。フラットシート膜及びそれらの製造方法は、例えば、欧州特許第0361085(B1)号に記載されている。
【0010】
本開示によれば、紡糸溶液中のスルホンポリマーの濃度は、好ましくは17重量%~27重量%の範囲である。17重量%の濃度を下回ると、特に得られた中空糸膜の機械的安定性に関して不利な点が生じる場合がある。他方、スルホンポリマーが27重量%を超える紡糸溶液から得られた膜は、過度に密な構造及び不十分な透過性を示す場合がある。紡糸溶液は、好ましくは20重量%~25重量%の疎水性芳香族スルホンポリマーを含有する。スルホンポリマーはまた、膜の特性を選択的に改質するために、例えば、酸化防止剤、核剤、UV吸収剤などの添加剤を含んでもよい。
【0011】
本発明による膜を構成する、又は本方法に使用される有利な疎水性芳香族スルホンポリマーは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルホン、又はポリアリールエーテルスルホンである。好ましくは、疎水性芳香族スルホンポリマーは、以下の式(I)及び(II)で示される繰り返し分子単位を有するポリスルホン又はポリエーテルスルホンである。
【化1】
【0012】
一方では疎水性芳香族スルホンポリマーと適合性を示し、またそれ自体が親水性である繰り返しポリマー単位を有する長鎖ポリマーが、少なくとも1つの親水性ポリマーとして有利には使用される。10000ダルトン超、好ましくは20000ダルトン超、より好ましくは30000ダルトン超の平均分子量Mを有する親水性ポリマーが好ましくは使用される。親水性ポリマーは、好ましくは、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリグリコールモノエステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエートなどのポリソルビテート、カルボキシメチル-セルロース、又はこれらのポリマーの改質物若しくはコポリマーである。ポリビニルピロリドン及びポリエチレングリコールが特に好ましい。
【0013】
本開示の文脈において、少なくとも1つの親水性ポリマーは、異なる親水性ポリマーの混合物を更に含んでもよい。親水性ポリマーは、例えば、化学的に異なる親水性ポリマー又は異なる分子量を有する親水性ポリマーの混合物、例えば、分子量が5倍以上異なるポリマーの混合物であり得る。好ましくは、少なくとも1つの親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドン又はポリエチレングリコールと親水性改質芳香族スルホンポリマーとの混合物を含む。親水性改質芳香族スルホンポリマーは、スルホン化芳香族スルホンポリマー、特に、本開示による膜及び方法で使用される疎水性芳香族スルホンポリマーのスルホン化改質物であることも好ましい。ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、及びポリビニルピロリドンの混合物が特に有利に使用され得る。親水性改質芳香族スルホンポリマーが存在する結果、用途における特に安定した親水性特性を有する中空糸膜が得られる。
【0014】
次いで、芳香族スルホンポリマーから作製されたポリマー膜を、その主面上にスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンでコーティングすることができる。スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンを溶媒に溶解して、コーティング溶液を形成することができる。溶媒は、エタノール及びイソプロパノールからなる群から選択することができる。いくつかの実施形態において、コーティング溶液は、スチルベノイド、イソフラボン、又はフラボンを溶媒中に、1重量%未満、0.9重量%未満、0.8重量%未満、0.7%未満、0.6%未満、又は0.5重量%未満で、室温で溶解することによって調製することができる。いくつかの実施形態において、コーティング溶液は、スチルベノイド、イソフラボン又はフラボンを溶媒中に、0.8重量%、0.7重量%、0.6重量%、0.5重量%又は0.4重量%で溶解することによって調製することができる。ポリマー膜をコーティング溶液に浸漬することができる。ポリマー膜をコーティング溶液に浸漬し、ある特定の時間、例えば10分間インキュベートした後、コーティング溶液をポリマー膜から排出することができる。ポリマー膜をコーティング溶液に浸漬し、ある特定の時間、例えば10分間インキュベートした後、コーティング溶液をポリマー膜から排出する。ポリマー膜を乾燥させるために、ポリマー膜を窒素源に接続し、膜を通してゆるやかなガス流を適用し、溶媒を蒸発させ、ポリマー膜の主面上にコーティングされたスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンを残すことができる。
【0015】
中空糸膜の実施形態において、コーティング溶液を中空糸膜のルーメンへと流すことができる。芳香族スルホンポリマー繊維上での溶媒の非常に良好な湿潤性により、コーティング溶液は膜壁を覆うことができ、また、毛管外容積にも入り込むことができる。ルーメンをコーティング溶液で完全に充填し、ある特定の時間、例えば10分間インキュベートした後、コーティング溶液を中空糸膜から排出することができる。このステップの後、毛管力により、中空糸膜を、コーティング溶液で依然として完全に浸漬させることができる。
【0016】
本出願に使用される(イソ)フラボンとしては、米国特許第8,883,010(B2)号(Chandrasekaran et al.)に開示されているもの、例えば、フラボン、イソフラボン又はこれらの組み合わせを挙げることができる。例示的な(イソ)フラボンは、単離された天然に存在するイソフラボン、合成イソフラボン、又はこれらの組合せであってもよい。例示的な実施形態において、フラボン又はイソフラボンは、ポリフェノール、すなわち、少なくとも2つのフェノール基を有する分子など、少なくとも1つのヒドロキシル基を有するヒドロキシ(イソ)フラボン(すなわち、ヒドロキシフラボン又はヒドロキシイソフラボン)であってもよい。完全に理解されているものではないが、ヒドロキシ(イソ)フラボン中のフェノール基は、ヒドロキシ(イソ)フラボン分子の抗酸化特性に寄与し、マトリックス内での分子の保持を助けると考えられる。
【0017】
一実施形態において、(イソ)フラボンは、ヒドロキシフラボン及びヒドロキシイソフラボンのうちの少なくとも1つを含んでもよい。ヒドロキシフラボン又はヒドロキシイソフラボンは、モノ-、ジ-、トリ-、又はテトラ-ヒドロキシイソフラボン(すなわち、フラボン又はイソフラボン分子の水素のうちの1個、2個、3個、又は4個がヒドロキシル基で置換されているもの)、例えばトリヒドロキシイソフラボンであってもよい。ヒドロキシフラボン又はヒドロキシイソフラボンは、アルコキシ及び/又はグルコース部分などの1つ以上の追加の置換基を更に含んでもよい。一実施形態において、ファイトケミカルとしては、モノ-、ジ、又はトリヒドロキシイソフラボンなどのヒドロキシイソフラボンが挙げられる。
【0018】
一実施形態において、ヒドロキシイソフラボンは、1個、2個、3個、又は4個の水素原子をヒドロキシル基で置き換えることによってイソフラボン分子に関連付けられる、イソフラボンの置換誘導体である。いくつかの実施形態において、イソフラボン構造は、1つ以上のアルコキシ基、例えば、メトキシ又はエトキシ基で更に置換されていてもよい。
【0019】
例示的なヒドロキシイソフラボンは、以下から選択することができる:
●ゲニステイン(5,7-ジヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)クロメン-4-オン、4’,5,7-トリヒドロキシイソフラボンとしても知られる)、以下の構造を有する:
【化2】
●ダイゼイン(7-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)クロメン-4-オン(IUPAC)、又は4’,7-ジヒドロキシイソフラボン)、以下の構造を有する:
【化3】
●グリシテイン(7-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-6-メトキシ-4-クロメノン(IUPAC)、又は4’,7-ジヒドロキシ-6-メトキシイソフラボン)。
●プルネチン(5-ヒドロキシ-3-(4-ヒドロキシフェニル)-7-メトキシクロメン-4-オン、又は4’,5-ジヒドロキシ-7-メトキシイソフラボン)。
●ビオカニンA(5,7-ジヒドロキシ-3-(4-メトキシフェニル)クロメン-4-オン、又は5,7-ジヒドロキシ-4’-メトキシイソフラボン)。
●オロボール(3-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-5,7-ジヒドロキシクロメン-4-オン、又は3’,4’,5,7-テトラヒドロキシイソフラボン)。
●サンタール(7-メトキシ-5,3’,4’-トリヒドロキシイソフラボン)。
●プラテンセイン(5,7-ジヒドロキシ-3-(3-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)クロメン-4-オン、又は4’-メトキシ-3’,5,7-トリヒドロキシイソフラボン)。
●ホルモノネチン(7-ヒドロキシ-3-(4-メトキシフェニル)クロメン-4-オン、又は7-ヒドロキシ-4’-メトキシイソフラボン)。
●並びにグルコシド、β-グリコシド、及びこれらのアルコキシ置換誘導体、並びにこれらの組み合わせ。
【0020】
いくつかの実施形態において、イソフラボンは、ゲニステイン及びダイゼインからなる群のうちの少なくとも1つを含んでもよい。いくつかの実施形態において、イソフラボンは、2つ以上のイソフラボンの混合物を含んでもよい。
【0021】
いくつかの実施形態において、イソフラボンは、ゲニステインを含んでもよい。ゲニステインは、ヒドロキシイソフラボンとして特に興味深い。これは、270g/molの分子量を有し、306℃で融解し、酸化ストレスを減少させ、炎症促進性サイトカインの濃度を減少させることができ、毒性であることも血小板接着プロセスを活性化することもない。
【0022】
本出願で使用されるスチルベノイドとしては、アグリコン、例えば、ピセアタンノール、ピノシルビン、プテロスチルベン、レスベラトロール、グネトール、オキシレスベラトロール、並びにグリコシド、例えば、アストリンギン及びピセイドを挙げることができる。スチルベノイドは、スチルベンのヒドロキシル化誘導体である。それらは、C-C-C構造を有する。生化学用語では、それらはフェニルプロパノイドのファミリーに属する。
【0023】
本開示の方法に従って作製されたポリマー膜は、より低い担持レベル(最大10重量%)であっても、ポリマー膜の主面(いくつかの実施形態において、主面全体)上にスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンの均質/均一な分布を提供することができる。したがって、本開示のポリマー膜は、ポリマーとフラボンとの混合物によって作製されたポリマー膜と比較して、低い担持濃度であっても、ポリマー膜の主面上のスチルベノイド、イソフラボン又はフラボンの高い表面濃度及び嵩密度を提供することができる。
【0024】
スチルベノイド又はフラボン、例えば、ゲニステインを活性コーティングとして使用する本開示のポリマー膜は、反応性酸素レベル及びいくつかのサイトカインのレベルを低減することによって、透析誘導性酸化ストレス(dialysis induced oxidative stress、DIOS)及び膜誘導性炎症(membrane induced inflammation、MII)を低減することができる。サイトカインは、他のサイトカインの産生及び制御を含む多数の免疫学的機能に関与するタンパク質のファミリーである。それらは、造血の調節において重要な役割を果たし、多様なタイプの細胞の分化及び増殖を媒介する。例えば、透析液からのエンドトキシン(細菌成分など)が好中球からのIL-1βの分泌を誘導し、これが血液透析中に発熱及び低血圧を引き起こすことが確認された。IL-1β及びTNF-αは、それらの自己分泌(すなわち、それ自体の分泌を誘導/調節する)及びパラ分泌シグナル伝達(他のサイトカイン分泌を誘導/調節する)機能について知られている。臨床的に、IL-1β及びTNF-αの血清濃度は、膜の選択に応じて血液透析中に数倍上昇することが実証された。ポリマー膜表面は、PBMCと膜及び透析液由来のエンドトキシンとの直接接触によってサイトカイン分泌を誘導する可能性もあるが、補体媒介性サイトカイン分泌が、血液透析膜が炎症を誘導する共通の機構として概ね受け入れられている。血液透析の場合、補体活性化の代替経路は、膜表面に吸着することによって膜表面をコーティングするC3bなどの、補体断片の形成をもたらす。C3b分子は、他の可溶性補体断片、例えば、C3a及びC5aと共に、続いてPBMCを刺激して、炎症促進性サイトカインの分泌の増強を誘発する。DIOSは、酸素ラジカルの過剰生成が身体の天然の抗酸化防御機構を圧倒するときに開始される。MIIは、血液中のインターロイキン-1β(interleukin-1β、IL-1β)、インターロイキン(IL-6)及び腫瘍壊死因子-R(tumor necrosis factor-R、TNF-R)などの高濃度の炎症促進性サイトカインによって誘導される望ましくない免疫応答を引き起こす。ポリマー膜の生体不適合性は、DIOSに寄与する血液透析中の過剰な反応性酸素種(reactive oxygen species、ROS)の主要な発生源として関係付けられた。
【0025】
維持血液透析を受けている患者は、この患者集団の過剰な死亡率の主な原因である動脈硬化を促進する酸化ストレスの増大にさらされている。過剰な酸素は低密度リポタンパク質を攻撃し、これが動脈におけるプラークの形成をもたらし、心臓発作をもたらす。透析膜は、患者の血液と接触したときに遊離酸化ラジカルを生じさせる場合があり、これが酸化ストレスを更に悪化させる。本開示のフラボンでコーティングされたポリマー膜は、透析膜によって生じる酸化ストレスを減少させることができ、これは、過酸化物の生成及び酸化バーストなどの血液中の異なるパラメータによって測定することができる。
【0026】
スチルベノイド又はフラボンでコーティングされたポリマー膜の抗酸化特性は、酸素ラジカルの形成機構を考慮することによって理解することができる。細胞が活性化されると、膜結合ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate、NADPH)と酵素の細胞質成分とが膜内で集合し、活性酵素を形成する。NADPHオキシダーゼは、Oのスーパーオキシドアニオン(O ・-)への還元を触媒し、次いでこれは過酸化水素(H)に急速に不均化する。この一連の事象は、電子伝達系と呼ばれる。続いて、Hは、酵素ミエロペルオキシダーゼによって、次亜塩素酸(HOCl)などの高反応性化合物に変換され得る。したがって、好中球が酸化的バーストを起こすためには、機能的にインタクトなNADPHオキシダーゼが重要であり得る。この場合、ゲニステインは、スーパーオキシドアニオンを形成し、続いてHに不均化する電子伝達系の第1のステップである、NADPHの発現を首尾よく阻害した。
【0027】
本開示のポリマー膜は、ある特定のサイトカインの血清レベルを低下させること、並びに変異誘発、発癌及び特に腫瘍促進において重要な役割を果たすことが知られている反応性酸素種(ROS)の減少を促進することが見出された。ゲニステインは、高レベルのROS産生に必要なプライミング事象の両方を阻害することができる。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、フラボンコーティングなしの膜と比較して、酸化バースト(すなわち、ROSの生成)を50%超、60%超、又は70%超低下させることができ、これは実施例に記載の方法によって測定される。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、フラボンコーティングなしの膜と比較して、20%超、又は25%超、30%超、35%超、40%超、45%超、又は50%超のHであり得、これは実施例に記載される方法によって測定される。
【0028】
本開示のポリマー膜は、血液機能に重要な白血球、赤血球、血小板などの血液細胞を効果的に保持することができることが見出された。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、実施例に記載の方法によって測定して、90%、95%、98%、99%超、又は100%の白血球又は赤血球を保持することができる。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、実施例に記載される方法によって測定して、70%、75%、80%、85%、又は90%超の血小板を保持することができる。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、フラボンコーティングなしの膜と比較して、血小板の保持を50%、60%、70%、80%、90%又は100%超増加させることができる。
【0029】
本開示のポリマー膜は、トロンビン-アンチトロンビン複合体(Thrombin-Antithrombin Complex、TAT)の濃度を減少させて、凝固系及び細胞活性化に対する透析膜の影響を減少させることができ、毒性であることも血小板接着プロセスを活性化することもない。トロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)は凝固プロセス中に有意に増加し、これは血小板の活性化をもたらし得る。いくつかの実施形態において、本開示のポリマー膜は、フラボンコーティングなしの膜と比較して、血漿中のTATレベルを10%、20%、又は30%超低下させることができる。
【0030】
本開示のポリマー膜は、濾過の分野における用途での使用に好適であり得る。本明細書に記載される、好ましくは本明細書に記載される方法から得られた、ポリマー膜の特性の固有の組み合わせにより、本開示は、液体の濾過、例えば精密濾過、又は限外濾過のための、本明細書に記載の膜の使用を更に提供する。「精密濾過」及び「限外濾過」は、当該技術分野において一般的な意味を有する。好ましくは、本明細書に記載の使用は、液体媒体、特に水性液体の清澄化及び/又は精製を含む。本開示のポリマー膜は、透析を含む複数の体外血液浄化手順に使用することができる。
【0031】
以下の実施例は、本開示の例示を意図するものであって限定的なものではない。
【実施例
【0032】
本発明の目的及び利点は、以下の実施例によって更に例示されるが、これらの実施例に記載された特定の材料及びその量、並びに他の条件及び詳細は、本発明を不当に制限するものと解釈されるべきではない。
【0033】
材料及び試験方法
ゲニスタインは、Herb-key(China Shaanxi NHK Technology),Shaanxi,Chinaから入手した。レスベラトロール(製品番号R5010)は、Sigma-Aldrich Company,St.Louis,MOから入手した。
【0034】
白血球数(white blood cell counts、WBC)、赤血球数(red blood cell counts、RBC)、及び血小板数(platelet counts、PC)は、ABX Pentra 60細胞計数器(Axon Lab AG,Reichenbach,Germany)を使用して決定した。
【0035】
血漿試料中の総過酸化脂質レベルは、発色アッセイキット(Immundiagnostik AG,Bensheim Germanyから入手)を製造業者の説明書に従って使用して決定した。
【0036】
血漿試料中の補体成分5a(C5a)レベルは、ELISAアッセイキット(DRG Instrument GmbH,Marburg,Germanyから入手)を製造業者の説明書に従って使用して決定した。
【0037】
血漿試料中のトロンビン-アンチトロンビン複合体(TAT)レベルは、ELISAアッセイキット(Siemens Healthcare Diagnostics,Marburg,Germanyから入手)を製造者の説明書に従って使用して決定した。
【0038】
血液試料の酸化バースト活性は、FACSVERSEフローサイトメーター(Becton Dickinson GmbH,Heidelberg,Germany)を使用してフローサイトメトリーによって決定した。血液試料を、ジヒドロローダミン123(DHR123)非蛍光色素(DHR123は試料中の好中球によって取り込まれる)と共に37℃で10分間インキュベートした。次に、血液細胞を、ホルミルペプチド(N-ホルミルNle-Leu-Phe-Nle-Try-Lys)を用いて及び用いずに、37℃で15分間刺激し、次いで、赤血球をBD PHARM LYSE溶解溶液(Becton Dickinson GmbH)で溶解した。反応性酸素種が生成すると、DHRは酸化されて蛍光色素ローダミンになった。アッセイにおいて、酸化バースト活性は、フローサイトメーターによって測定されたローダミンの細胞内蛍光強度(相対蛍光単位(relative fluorescence units、RFU))に比例した。各試料において、5,000個の好中球を、前方散乱(forward scatter、FSC)対側方散乱(side scatter、SSC)のゲート内で取得した。FSC及びSSCを線形スケールで分析し、蛍光データを双指数関数スケールで分析した。データ取得及び解析は、FACSUITEソフトウェア(バージョン1.05、Becton Dickinson GmbH)を使用して行った。ホルミルペプチドで刺激したリポ多糖(100ng/mL、S.minnesotaのR 595由来)プライミング血液試料を、陽性対照とした。酸化バースト活性は、ローダミンの蛍光強度(RFU)の幾何平均として表し、ホルミルペプチドと共にインキュベートした試料とホルミルペプチドなしでインキュベートした試料との幾何平均の差から計算した。
【0039】
溶血は、3つの波長(OD380nm、OD415nm、OD450nm)で分光光度計(UV1650PC分光光度計、Shimadzu Deutschland GmbH,Duisburg,Germany)によって測定し、Herboe Mの参考文献Scandinavian Journal of Clinical and Lab Investigation,1959,11,pages 66-70に従ってバックグラウンドを補正した。式Aを使用して血漿遊離ヘモグロビン[fHb](g/dL)を計算した。溶血を反映させるために、実験終了時のfHbを、ベースライン時の総ヘモグロビンに対して設定した。
【0040】
式A:
【数1】
、式中、「DF」は血漿希釈倍数である。
【0041】
実施例1.ゲニステインでコーティングされた膜を含む透析器モジュールの調製
エタノール中のゲニステイン(0.4重量%)のコーティング溶液を調製し、5Lの加圧可能な容器に加えた。PUREMAポリエーテルスルホン、中空糸、毛管膜タイプH(内径200マイクロメートル、壁厚30マイクロメートル、活性表面積1.1m、3M Company,St.Paul,MNから入手)を透析器モジュールに挿入した。透析器モジュールは、管の各端部に開いたコネクタ要素を有する管形状であった。モジュールの上端及び下端に近接して位置する2つのサイドポートをクランプで閉じた。PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)チューブを使用して加圧可能な容器の弁ポートにモジュールの下部コネクタを接続することで、透析器モジュールを垂直方向に取り付けた。容器を加圧し(0.4バール)、弁を開けて、コーティング溶液を膜のルーメン部分へと流した。ルーメン部分が完全に充填され、コーティング溶液が開いた上部コネクタから出始めたとき、弁を閉じた。コーティング溶液を透析器モジュール内に10分間維持し、次いで、チューブを下部コネクタから取り外して、コーティング溶液を透析器モジュールから排出した。プロセス中、コーティング溶液が毛管膜壁に浸透して、毛管外容積の一部を充填することが観察された。コーティング溶液を排出した後、窒素ガス源を下部コネクタに取り付け、窒素のゆるやかな流れを膜に通して、残留エタノールを蒸発させた。
【0042】
比較例A.ゲニステインでコーティングされていない膜を含む透析器モジュールの調製
異なるコーティング溶液を使用したことを除いて、実施例1に記載の手順と同じ手順に従った。コーティング溶液は、他の添加剤を含まないエタノールであった。
【0043】
実施例2.ヒト血液の分析
実施例1及び比較例Aに従って調製した透析器モジュールを、新たに提供されたヒト血液試料(2~3人のドナーからプールした)を使用して分析した。ヘパリン化血液(3.5 IU/mLの標準ヘパリン、#H3149、Sigma-Aldrich、Steinheim、Germany)の同じプールを、全ての実験のための血液源として使用した。各モジュールの2つのサイドポートをクランプで閉じた。各透析器モジュールを垂直方向に取り付け、生理食塩水溶液(1L、NaCl濃度0.9%)を、250mL/分で30分間モジュールを通して再循環させた。生理食塩水は、下部コネクタから上部コネクタの方向にモジュールを通って流れた。次に、第2のNaCl溶液(0.9%)1リットルを、単一パス(60mL/分)でモジュールを通して圧送し、液体は、下部コネクタから上部コネクタの方向に流れ、上部コネクタを通してモジュールから出た。次いで、ヘパリン化血液のプールからのアリコート(240mL)を、モジュールを通して250mL/分で180分間再循環させた。再循環ステップ中、血液を37℃に維持し、モジュールを通る血液の流れは、先の生理食塩水再循環ステップの場合と同じ方向であった。再循環ステップの前(t=0)及び後(t=180)の両方で血液試料を採取し、続いて分析した。結果を表1に報告する。WBC、RBC、及びPCについて、再循環ステップ後(t=180)に得られたカウント数を、再循環ステップ前(t=0)に得られた対応するベースラインカウント数と比較し、次いで、ベースラインに対するパーセントとして報告した。再循環ステップ後(t=180)に得られた血液試料を用いて、TAT、C5a、総過酸化脂質、及び酸化バースト活性を測定した。
【0044】
実施例1のモジュールについては、結果を単一の実験から報告する。比較例Aのモジュールについては、結果を、3つの別個のモジュール(n=3)を用いた実験からの平均値として(標準偏差と共に)報告する。血液プールからのヘパリン化血液の別個のアリコートを、試験した各モジュールで使用した。
【0045】
【表1】
【0046】
実施例3
3M MICROPES Type 1F PHポリエーテルスルホン膜(厚さ110マイクロメートル、3M Companyから入手)のシートを、レスベラトロール(0.8重量%)のエタノール溶液に室温で5分間浸漬した。膜を溶液から取り出し、室温で一晩乾燥させた。
【0047】
比較例B
3M MICROPES Type 1F PHポリエーテルスルホン膜(厚さ110マイクロメートル)のシートを、エタノールに室温で5分間浸漬した。膜を溶液から取り出し、室温で一晩乾燥させた。
【0048】
実施例4
実施例3及び比較例Bに従って調製された膜から試料(直径4.5cm)を打ち抜いた。各試料を、10mLの生理食塩水(NaCl濃度0.9%)を入れたペトリ皿に入れた。この皿をオービタルシェーカー上、70rpm(revolutions per minute、毎分回転数)で40分間振盪した。次いで、生理食塩水を皿から除去し、10mLの新鮮な生理食塩水で置き換え、皿を1分間振盪した。次に、生理食塩水を皿から除去し、8mLのヘパリン化ヒト血液(3.5 IU/mLの標準ヘパリン、#H3149、Sigma-Aldrich)で置き換え、37℃で3時間振盪した(70rpm)。各血液試料を、総過酸化脂質及び酸化バースト活性について試験した。結果を、3つの別個の膜試料(n=3)を用いた実験からの平均値として(標準偏差と共に)表2に報告する。
【0049】
【表2】
【0050】
本明細書において引用された全ての参考文献及び刊行物は、参照によりそれらの全体が本開示に明示的に組み込まれる。本発明の例示的な実施形態を検討し、本発明の範囲内で可能な変形例を参照した。例えば、1つの例示的な実施形態との関連において記載される特徴が、本発明の他の実施形態との関連において使用され得る。本発明におけるこれら及び他の変形及び改変は本発明の範囲から逸脱することなく当業者にとって明らかであり、本発明が本明細書に記載される例示的な実施形態に限定されないことは理解されるべきである。したがって、本発明は、以下に提供されている特許請求の範囲及びその均等物によってのみ限定されるべきである。
【国際調査報告】