(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】新規ポリマー及びその使用
(51)【国際特許分類】
C08G 63/685 20060101AFI20231211BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20231211BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231211BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20231211BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08G63/685
A61K47/34
A61P27/02
A61K9/06
A61K39/395 M
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535322
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-08-03
(86)【国際出願番号】 EP2021085026
(87)【国際公開番号】W WO2022122937
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ. ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】バフオン フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】クダーヌ ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ダルコス ビンセント
(72)【発明者】
【氏名】ノッテレ ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】パテル スラーブ プラヴァンチャンドラ
(72)【発明者】
【氏名】シュバッハ グレゴワール
【テーマコード(参考)】
4C076
4C085
4J029
【Fターム(参考)】
4C076AA94
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE24A
4C076EE25A
4C076EE49A
4C076EE50
4C076FF32
4C085AA14
4J029AB01
4J029AC03
4J029AC05
4J029AD01
4J029AE06
4J029AE18
4J029EG09
4J029KH01
(57)【要約】
眼の障害又は眼疾患の治療のための、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン(PDA)との新規共重合体(任意選択的にPEG鎖をさらに含む)、それらを製造するための方法、並びに薬学的調製物、とりわけインプラント又はin situゲル化デポーにおけるそれらの使用が、本明細書に開示される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)及びポリドーパミン(PDA)からなる、共重合体。
【請求項2】
ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)及びポリドーパミン(PDA)からなる前記共重合体が、グラフト共重合体(PCL-g-PDA)である、請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記PCL-g-PDA共重合体が、1000g/モル~200000g/モルの範囲の分子量のPCLを含む、請求項1又は2に記載のPCL-g-PDA共重合体。
【請求項4】
前記PCL-g-PDA共重合体が、1000g/モル~200000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、0.1~50重量%の質量含有量を有するPDAの分岐とを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のPCL-g-PDA共重合体。
【請求項5】
0.1~50モル%の範囲のハロゲン化PCL単位のモル百分率を有するPCLが、PDA前駆体と反応することを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載のPCL-g-PDA共重合体を製造するための方法。
【請求項6】
特に活性成分の徐放のための担体として、薬学的調製物に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のPCL-g-PDA共重合体。
【請求項7】
薬学的調製物が硝子体内インプラントである、請求項6に記載の使用のためのPCL-g-PDA共重合体。
【請求項8】
薬学的有効成分が小分子であり、薬学的調製物中又は硝子体内インプラント中に10重量%以上の量で存在する、請求項6又は7に記載の使用のためのPCL-g-PDA共重合体。
【請求項9】
眼疾患又は眼の障害の治療に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載のPCL-g-PDA共重合体。
【請求項10】
2つのPCL-g-PDA鎖がPEG鎖に結合して、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型のポリマーを形成する、請求項1~4のいずれか一項に記載のPCL-g-PDA共重合体。
【請求項11】
PEG鎖が最大20000g/モルの分子量を有し、2つのPCL-g-PDA鎖の両方が同じ分子量を有する、請求項10に記載のポリマー。
【請求項12】
式(II)のポリマー:
[式中、
pは3~397であり、
rは1~170であり、
mは1~170である]。
【請求項13】
薬学的調製物における使用のための、請求項10~12のいずれか一項に記載のポリマー。
【請求項14】
前記薬学的調製物が、眼内注射時に、薬学的有効成分を徐放するためのin situゲル化デポーを形成する、請求項13に記載の使用のためのポリマー。
【請求項15】
前記薬学的有効成分が抗体である、請求項14に記載の使用のためのポリマー。
【請求項16】
本明細書に実質的に記載されている、新規ポリマー、方法、及び使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、薬学的に許容される担体として使用するため、特に眼に適用するためのポリマーの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
世界中で約3,900万人が盲目であり、2億4,600万人に視覚障害があると推定されている。そのほとんどが50歳以上の人々である。部分的視力喪失及び完全な視力喪失の主な原因は、それぞれ未矯正の屈折異常と白内障にある1。主な視覚の後眼部障害は、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、及びブドウ膜炎である。コルチコイドなどの薬物はこれらの障害を治療する。一部の薬物は、長期間にわたって送達されるように、埋め込み可能なポリマーデバイスにロードされている2。生分解性ポリマー系では、薬物の放出は、拡散とポリマーの分解によって統制される。例えば、Ozurdex(登録商標)は、糖尿病性黄斑浮腫非感染性ブドウ膜炎の治療のためにFDAによって承認された最初の生分解性の硝子体内インプラントである。デキサメタゾンは、Novadur(登録商標)の技術に基づいてポリ(乳酸-co-グリコール酸)(PLGA)マトリクスにロードされている。該薬物は最初の2か月間にわたり急速に放出され、その後、4か月間にわたってゆっくりと放出される。しかしながら、PLGAの分解は、眼組織の炎症の2つの考えられる要因である、インプラントの断片化と、酸部分の放出とを生じさせる。例えば、DME中のフルオシノロンアセトニドの36か月間の薬物放出のためのIluvien(登録商標)硝子体内マイクロインプラントなど、幾つかの非生分解性のポリマーが当技術分野で知られている。したがって、安定性、忍容性、及び放出プロファイルが改善された新規ポリマーを開発することが依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0003】
一実施形態では、本発明は、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン(PDA)とからなる新規共重合体を提供する。
【0004】
一実施形態では、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン(PDA)とからなる新規共重合体は、グラフト共重合体(PCL-g-PDA)である。
【0005】
一実施形態では、本発明は、本明細書に開示されるグラフト共重合体を製造するための方法を提供する。
【0006】
別の実施形態では、本発明は、薬学的調製物における、特に活性成分の徐放のための担体として使用するための、新規PCL-g-PDA共重合体を提供する。
【0007】
一実施形態では、活性成分は小分子である。
【0008】
別の実施形態では、本発明は、眼疾患又は眼の障害の治療に使用するための、新規PCL-g-PDA共重合体を提供する。
【0009】
別の実施形態では、本発明は、硝子体内インプラントとして使用するための、新規PCL-g-PDA共重合体を提供する。
【0010】
別の実施形態では、本発明は、2つのPCL-g-PDA鎖がPEG鎖に結合して、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型のポリマーを形成する、新規PCL-g-PDAを提供する。
【0011】
別の実施形態では、本発明は、PEG鎖が本明細書に定義される分子量を有し、PCL-g-PDA鎖の両方が同じ分子量を有する、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型のポリマーを提供する。
【0012】
別の実施形態では、本発明は、薬学的調製物において使用するための、好ましくは眼内注射時に薬学的有効成分を徐放するためにin situゲル化デポーを形成する薬学的調製物において使用するための、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型のポリマーを提供し、ここで前記薬学的有効成分は抗体である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ヨウ素化PCL(PCL-I)のCDCL
3中での
1H NMRスペクトル。
【
図2】λ290nmにおけるRI検出及びUV検出を使用した、ヨウ素化PCLのTHF中でのサイズ排除クロマトグラフィー。
【
図3】PCL-g-PDAのDMSO-d
6中での
1H NMR。
【
図4】精製後のPCL-g-PDAのDMSO-d
6中でのDOSY NMR。
【
図5】初期の市販のPCL、PCL-g-PDA共重合体、及びオリゴPDAのλ=350nmにおけるUV検出を使用した、DMSO中でのサイズ排除クロマトグラフィー。
【
図6】窒素雰囲気下、20℃/分で30℃から700℃までのPCL-g-PDAの熱重量分析(TGA)。
【
図7】PCL-g-PDAの示差走査熱量測定(DSC)サーモグラム:10℃/分で-80℃から150℃までの第1の加熱ランプ、10℃/分で150℃から-80℃までの冷却ランプ。
【
図8】膜キャスティングによって調製し、130℃、4トンで15分間加圧した、30重量%のDEXを含むPCL-g-PDA(1つのステープルは1.2cmに等しく、膜の厚さは約500μmである)。
【
図9A】インプラント組成の関数としてのPCL及びPCL-g-PDAインプラントからのデキサメタゾン(DEX30)の累積放出。データは、HPCLによる測定から得られた結果の平均として表される(平均±SD;n=3)。PDA含有量は、TGAによって、5重量%と推定される。
【
図9B】インプラント組成の関数としてのPCL及びPCL-g-PDAインプラントからのシプロフロキサシン塩酸塩(CIP30)の累積放出。データは、HPCLによる測定から得られた結果の平均として表される(平均±SD;n=3)。PDA含有量は、TGAによって、5重量%と推定される。
【
図10】PCL-g-PDA膜とともに24時間インキュベートした後のL929細胞の生存率。パーセンテージはPrestoBlue試験後の蛍光強度から得た。
【
図11】PCL又はPCL-g-PDA膜とともに48時間インキュベートした後のヒト網膜上皮細胞株ARPE-19(ATCC、CRL-2302)の生存率。
【
図12】標準条件(PBS、37℃、pH=7.4)での分解研究中のPCL-g-PDAの残留質量。
【
図13】標準条件(PBS、37℃、pH=7.4)での分解研究中のPCL-g-PDAの残留分子量。
【
図14】標準条件(PBS、37℃、pH=7.4)で110日間浸漬した後のPCL-g-PDAインプラントの写真。
【
図15】標準条件(PBS、37℃、pH=7.4)での分解研究中のPCL-g-PDAの膨潤度。
【
図16】標準条件(PBS、37℃、pH=7.4)でのPCL-g-PDAインプラントの分解研究中の分解媒体のpH。
【
図17】加速条件(HCl(2M)、37℃、pH=1)での分解研究中のPCL-g-PDAの残留質量。
【
図18】加速条件(HCl(2M)、37℃、pH=1)での分解研究中のPCL-g-PDAの残留分子量。
【
図19】加速条件(HCl(2M)、37℃、pH=1)に60日間浸漬した後のPCL-g-PDAインプラントの写真。
【
図20】T-PDAのDMSO-d
6中での
1H NMR。
【
図21】T-PDAのDMSO-d
6中でのDOSY NMR。
【
図22A】HBS:PEG400=1:1のT-HDで構成される製剤中のmAbの安定性研究中の280nmでのサイズ排除クロマトグラフィー。
【
図22B】HBS:PEG400=1:1のT/T-PDA-HD(2:1)で構成される製剤中のmAbの安定性研究中の280nmでのサイズ排除クロマトグラフィー。
【
図22C】HBS:PEG400=1:1のT-PDA-HDで構成される製剤中のmAbの安定性研究中の280nmでのサイズ排除クロマトグラフィー。
【
図23A】製剤T-HDについてのin-situデポーの30日間における、外観の形成及び発展。
【
図23B】製剤T/T-PDA-HD(2:1)についてのin-situデポーの30日間における、外観の形成及び発展。
【
図23C】製剤T-PDA-HDについてのin-situデポーの30日間における、外観の形成及び発展。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明の詳細な説明
ほとんどの眼疾患は、目が適切に機能する能力を妨げるか、及び/又は視覚の明瞭さに悪影響を及ぼす状態又は障害であり、重大な公衆衛生上の問題である。硝子体内(IVT)投与(医療デバイスの埋め込み、又は懸濁液、溶液、若しくはインプラントの注入を含む)は、日常的な方法であり、網膜にAPIを送達するのに最も効率的な方法である。IVT投与の主な課題は、患者の治療に対するコンプライアンス及びアドヒアランスを改善するための注射頻度の減少、製剤の眼への忍容性、及び生物学的製剤の安定性である。現時点では、すべての仕様を満たすことは依然として困難であり、ポリマー技術に基づいた製剤は限界があり、最近のものであるが、これらの問題を解決できる可能性がある。科学者らは、患者の健康を増進し、眼疾患を効率的に治療するための治療レベルに到達するために、最小限の外科手術でAPIの長期間の持続的送達をもたらす、生体適合性の、(生)分解性である又は(生)分解性ではない、製剤の開発に注力している。
【0015】
本発明の目的は、優先的な薬物-PDA相互作用により忍容性が改善され、(小分子又は大分子の)優れた徐放特性を備えた、眼科用の新規共重合体の設計におけるPDAユニットの組み込みの利点を評価することである。医療提供用途及び/又は薬物送達用途に用いられるポリマーの中でも、分解性の合成ベースの製剤は、興味深い、有望な特性を示す。特に、PCLは、生分解性であり、ゆっくりと分解し、機能化することができ、医療目的(だが、まだ眼科用ではない)でFDAによって承認されている。また、PEGは、(その分子量に応じて)生体除去可能であり、眼科用途としてFDAによって承認されており、PCLと組み合わせて調整可能なゲル化特性を提供する。
【0016】
本発明者らは、2つの戦略、1つは小分子の送達のための固体製剤(第I章)、もう1つは生物製剤の送達のためのin situゲル化システム(第II章)を開発した。
【0017】
第I章:PCL-g-PDA固体インプラント
固体インプラントの手法は、疎水性のグラフト化された共重合体であるPCL-g-PDAを提供する。共重合体は2段階のプロセスで合成した。最初に、PCL(Mn=190000g/モル)を、求電子置換を介してヨウ素で後官能化して、ヨウ素化PCL(PCL-I)を得た。次に、PCL-Iを、ATRP様の酸化条件下及び塩基性条件下でPDAにより官能化して、約3~5重量%のグラフト化されたPDAを含有する、PCL-g-PDA共重合体を得た。in vitroでの細胞障害性アッセイは、インプラントPCL-g-PDAがマウス線維芽細胞及び網膜細胞に対して非細胞毒性であることを示した。さらに、インプラントは生理的条件下では110日を超えても分解されなかったが、加速条件下では分解され、PCL-g-PDAインプラントがゆっくり分解する能力があることを証明した。In vitroにおいて、PCL-g-PDAインプラントは、155日間、非水溶性デキサメタゾン(DL=30%w/w)の持続的な一定かつ完全な放出(ゼロ次速度論)を示した。対照的に、PCL-g-PDAインプラントはバースト効果を示し、続いて、水溶性シプロフロキサシン塩酸塩(DL=30%w/w)の125日間の徐放を示し、500日後には完全に放出されると推定される。すべての場合において、PCL-g-PDAインプラントの放出の速度論はPCLインプラントと比較して遅く、したがって、グラフト化されたPDAの量が少ない場合でも、PDAがインプラント内に薬物を保持する能力があることを示した。さらには、PCL及びPCL-g-PDAインプラントは、市販のPLGAベースのインプラント(Ozurdex(商標))と比較して、デキサメタゾンの放出時間が長いことが示された。
【0018】
したがって、本発明によれば、数ヶ月にわたる持続的な薬物送達を提供することができ、微小環境媒体の変化を避け、断片化を回避するように分解が遅い、新しい硝子体内インプラントが提供される。一実施形態では、前記持続的薬物送達は、少なくとも2か月間、又は少なくとも3か月間、又は少なくとも6か月間、又は少なくとも12か月間、又は少なくとも18か月間、又は少なくとも24か月間、又は少なくとも36か月間、提供される。インプラントは、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン3(PDA)とでできている。PCLは、生体適合性のある、疎水性のFDAに承認されたポリマーである。加水分解によってゆっくりと分解され、長期にわたる放出期間に及ぶ。メラニンは、網膜細胞に位置しており、生物学的機能に関与する4。PDAは、おそらくはメラニンと同じ特性、とりわけ薬物結合特性を示す、生体適合性のある5、合成のメラニン様ポリマーである。本発明者らは、両方のポリマーを組み合わせると、生体適合性又は忍容性が改善され、微小環境の変化が限定された状態で徐放がもたらされることを発見した。
【0019】
したがって、一実施形態では、本発明は、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン(PDA)とからなる新規共重合体を提供する。別の実施形態では、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)とポリドーパミン(PDA)とからなる新規共重合体は、グラフト共重合体(PCL-g-PDA)である。
【0020】
本明細書で用いられるPCLという用語は、ポリ(ε-カプロラクトン)を意味する。一実施形態では、PCLは、1000g/モル~200000g/モルの範囲の分子量を有する。別の実施形態では、PCLは、10000g/モル~100000g/モルの範囲の分子量を有する。
【0021】
本明細書で用いられるPDAという用語はポリドーパミンを意味する。
【0022】
グラフト共重合体(又はグラフトポリマー)という用語は、1つの複合材料(例えば、PCL)の直鎖状又は分岐した骨格と、別の複合材料(例えば、PDA)のランダムに分布した分岐とを備えた、セグメント化された共重合体を意味する。一実施形態では、PCL骨格は直鎖状である。
【0023】
一実施形態では、本発明によるPCL-g-PDA共重合体は、1000g/モル~200000g/モル;又は、10000g/モル~100000g/モルの範囲の分子量のPCLを含む。
【0024】
PDAとの重合反応の前に、PCLは、例えば求電子置換によって化学修飾されて、ハロゲン化、例えば、ヨウ素化されたPCLが得られる6。したがって、一実施形態では、本発明による共重合体は、1000g/モル~100000g/モル;又は、2500g/モル~50000g/モルの範囲の分子量、及び0.1~50モル%;又は、1~20モル%の範囲のヨウ素化ε-カプロラクトン単位のモル百分率を有するハロゲン化PCLを使用して得られる。「ハロゲン化」という用語は、当業者に知られている通常の意味を有する。一態様では、PCLは、臭素化、塩素化、又はヨウ素化されている。
【0025】
別の実施形態では、本発明のPDA-g-PCLは、0.1~50重量%、又は1~20重量%、又は1~15重量%、又は1~10重量%、又は約5重量%PDAの範囲のPDA質量含有量を有する。
【0026】
wt%(又は重量%)という用語は、ポリマー化学の当業者にとって通常の意味を有する。好ましくは、重量%は、グラフト共重合体の全質量に対する質量を意味する。特に明記しない限り、本発明のグラフト共重合体のPDA含有量の重量%は、例えば本明細書に記載されるように、精製後に計算され、TG分析によって測定される。
【0027】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、1000g/モル~200000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、0.1~50重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0028】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、1000g/モル~200000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、1~20重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0029】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、1000g/モル~200000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、1~10重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0030】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、1000g/モル~200000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、約5重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0031】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、10000g/モル~100000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、0.1~50重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0032】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、10000g/モル~100000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、1~20重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0033】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、10000g/モル~100000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、1~10重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0034】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、10000g/モル~100000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、約5重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0035】
別の実施形態では、本発明によるグラフト共重合体は、15000g/モル~150000g/モルの分子量を有するPCL骨格と、約3重量%、又は5重量%の質量含有量を有するPDAのランダム分岐からなる。
【0036】
さらに別の実施形態では、本発明は、式(I)のポリマーを提供する:
HO-[-(CH2)4-CH(PDA)-C(O)-O-]r-[-(CH2)5-C(O)-O-]p-H (I)
式中、p=23~1580及びr=1~395;並びに、PDAは、最大5重量%;又は約3~5重量%、又は約3重量%若しくは5重量%存在する。
【0037】
別の実施形態では、本発明は、本グラフト共重合体を製造するための方法を提供する。一実施形態では、PCL骨格は、最初に化学修飾、例えばヨウ素化され、続いて適切なPDA前駆体と反応して、本発明による共重合体を与える。ポリマー化学の当業者に知られている任意の適切なPDA前駆体を使用することができる。一実施形態では、PDA前駆体はドーパミン塩酸塩である。重合は、当業者に知られており、添付の実施例にさらに開示されている条件に従って行われる。一実施形態では、重合は酸化条件下及び塩基性条件下で行われ、PDAでグラフト化されたPCL(PCL-g-PDA)を得て7、その後さらに精製される。
【0038】
したがって、本発明は、0.1~50モル%;又は、1~20モル%の範囲のヨウ素化PCL単位のモル百分率を有するPCLをPDA前駆体、例えばドーパミン塩酸塩と反応させることを特徴とする、本発明のPCL-g-PDA共重合体を製造するための方法を提供する。一態様では、この方法は、酸化条件下及び塩基性条件下、かつ臭化銅(I)の存在下、不活性雰囲気下、約70℃で行われる。このようにして得られたグラフト共重合体は精製される。精製は、当業者に知られている方法に従って、及び/又は添付の実施例に記載されている方法に従って行うことができる。一実施形態では、精製は沈殿によって、好ましくはメタノールからの沈殿によって行われる。沈殿ステップは数回、好ましくは最大3回まで繰り返すことができる。さらに別の実施形態では、精製はメタノールからの沈殿によって行われ、続いて冷メタノールからPCL-g-PDAを2回粉砕する。
【0039】
一実施形態では、本発明のPCL-g-PDA共重合体を製造するための方法は、添付の実施例に開示されるとおり、又はスキーム1及び2に開示されるとおりであり、そこに開示される特定の出発物質、中間体、及び反応条件を使用する。
【0040】
別の実施形態では、本発明は、本明細書に開示される方法、特にスキーム1及び2に開示される方法を使用することによって得られるPCL-g-PDA共重合体を開示する。
【0041】
ヨウ素化PCLは、当業者に知られている方法、例えば、6に記載されている方法を使用して得ることができる。一実施形態では、ヨウ素化PCLは、スキーム1及び添付の実施例に開示される方法に従って得られる。さらに別の実施形態では、本発明は、後修飾による前記PCLの官能化を提供する。本発明による好ましい実施形態では、高分子量、すなわち45000g/モルを上回る分子量を有するPCLがヨウ素化される。このような高分子量のPCLの使用は、インプラントがより柔軟で脆くないという意味で、合成の実現可能性と得られるインプラントの良好な機械的特性とを組み合わせた分解性固体調剤の開発に有利である。
【0042】
本発明によるPCL-g-PDA共重合体は貴重な薬学的特性を有する。特に、それらは安定性であり、耐容性が高く、薬学的活性成分の徐放に適していることがわかっている。
【0043】
したがって、別の実施形態では、本発明は、薬学的調製物における、例えば薬学的有効成分の担体として使用するための本共重合体を提供する。一態様では、本発明によれば、前記薬学的調製物はインプラントである。別の態様では、前記インプラントは、例えば硝子体内インプラントとしての眼内での使用に適している。別の態様では、前記インプラントは、活性成分と一緒に、例えばPCL又はPLA又はPLGAなどの別のポリマーをさらに含むことができる。さらに別の態様では、硝子体内インプラントは、本共重合体と適切な活性成分とのみからなる。
【0044】
本明細書で用いられる薬学的有効成分という用語は、臨床的に意味のある薬理的活性を有する任意の分子を意味する。一実施形態では、薬学的有効成分は、リピンスキーのルール・オブ・ファイブによって定義される、小分子である。別の実施形態では、薬学的有効成分は、例えば、緑内障、白内障、加齢黄斑変性症、糖尿病性網膜症、及びブドウ膜炎などの眼疾患の治療に承認されている薬物である。別の実施形態では、薬学的有効成分は、ガンシクロビル、デキサメタゾン、フルオシノロンアセトニド、及びシクロスポリンAからなる群より選択される。
【0045】
本発明によれば、薬学的有効成分は、インプラント中に10重量%以上、又は10~60重量%、又は10~30重量%の量で存在する。
【0046】
別の実施形態では、本発明は、例えば、眼疾患の治療のためのインプラントなどの医薬の調製のため;又は、薬物の硝子体内投与のための本共重合体の使用を提供する。一態様では、このような投与は、本明細書で定義されるように一定期間にわたる徐放である。
【0047】
別の実施形態では、本発明は、適切な薬学的有効成分又は承認された薬物をロードした、本発明の共重合体を含むインプラントを、このような治療を必要とする患者の眼に配置することによる、眼疾患を治療するための方法を提供する。
【0048】
PCL-g-PDAの一般合成
本発明のPCL-g-PDA共重合体は、以下の一般的な反応スキームを使用して得ることができる。第1のステップでは、ヨウ素によるPCLの後修飾により、ヨウ素化したPCLが得られる。PCLの官能化の後修飾方法は、Notteletらの研究
6に基づいている。該方法は、スキーム1に記載されている2段階のワンポット反応で構成される。第1のステップは、LDAの存在下でのPCLのアニオン活性化であり、第2のステップはヨウ素の求電子置換である。
スキーム1:ヨウ素化PCL(PCL-I)の合成スキーム。ここで、n=43~1755;p=23~1580、及びq=2~395である。
【0049】
市販のPCLから出発して、さまざまな分子量及び共重合体質量をターゲットにして一連のヨウ素化したPCLを調製し、SEC及び1H NMRによって特性評価した。結果を表1にまとめる。
【0050】
【0051】
第2のステップでは、Choら
7から適用された条件に基づいて、以下の反応スキーム2に従ってPCL-g-PDAを得る。
スキーム2:PCL-g-PDAの合成。ここで、p=23~1580;q=2~395、及びr=1~395である
【0052】
簡単に説明すると、DMSO、炭酸ナトリウム、BPO、及びPMDETAを含むシュレンクフラスコに室温でドーパミンを導入した。炭酸ナトリウムは、塩基性条件を得るために用いられる。BPOは、連鎖重合を誘発するラジカル開始剤としてよく用いられる有機過酸化物であり、PDMETA(PMDTAとも呼ばれる)は、金属カチオンと結合して錯体を形成することができる三座配位子である。これらすべての成分を導入した後すぐに(1分未満で)、溶液は白から黒に変わり、ドーパミンの酸化重合が示唆された。一方、PCL-Iを室温でDMSOに可溶化した。溶液を4時間撹拌した。PCL-Iマクロ開始剤溶液を最初の溶液に移し、臭化銅(I)を加えた。臭化銅(I)は、配位子に結合する金属剤であり、ATRPと同様に、PCL-I休眠マクロ開始剤を活性化して、ドーパミンモノマー又はすでに成長したPDAと結合したフリーラジカルPCLの生成を可能にする。溶液を70℃で48時間加熱し、次に液体窒素に浸すことによって冷却した。溶媒の大部分を蒸発によって除去し、次に溶液をメタノール中で沈殿させて、最終的な共重合体を収集した。沈殿中にメタノールが黒色へと変化したことは、DMSO溶液中に非グラフト化PDAが存在すること、及び非グラフト化PDA化合物がメタノール中でさらに可溶化されたことを示唆している。
【0053】
したがって、別の実施形態では、本発明は、PCL-g-PDAを製造するための方法を提供し、前記方法は、出発物質、中間体、反応相手、及び本明細書のスキーム1及び2に記載される条件を含めた、反応順序を含む。
【0054】
材料及び方法
化学薬品及び材料
ポリ(エチレングリコール)(PEG)、トルエン、ジエチルエーテル、メタノール、ジクロロメタン(DCM)、テトラヒドロフラン(THF)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、ヨウ素、塩酸(HCl、37%)、リチウムジイソプロピルアミド(LDA)、チオ硫酸ナトリウム、ベンゼンジメタノール、ε-カプロラクトン(εCL)、オクタン酸第一スズ(Sn(Oct)2)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ドーパミン塩酸塩、過酸化ベンゾイル(BPO)、臭化銅(I)、N,N,N’,N’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、及びシプロフロキサシン塩酸塩(CIP.HCl)は、Sigma-Aldrich社から購入した。塩化アンモニウム、ポリソルベート20(Tween20)はAcros Organics社から購入した。炭酸ナトリウムはFisher Scientific社から購入した。デキサメタゾン(DEX)は、Sigma Aldrich又はTCI社のいずれかから購入した。
【0055】
特徴づけ
核磁気共鳴(NMR)
プロトン核磁気共鳴分光法(1H-NMR)を行い、CDCl3又はDMSO-d6中でBruker AMX-400MHz分光計を使用して、ヨウ素化PCLについてのポリマーの官能化率を決定した。拡散秩序分光法NMR(DOSY NMR)を行い、試料に含まれる種の個別の拡散係数を強調し、残留遊離種の存在を判定した。試料濃度は5~15mg/mLであった。
【0056】
サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
SEC THF:試料(5mg/ml)を0.45μmのPTFE Milliporeフィルタに通して濾過し、RID-20A屈折率信号検出器、SPD-20A UV/VIS検出器、PLgel MIXED-Cガードカラム(Agilent社、5μm、50×7.5mm)、及び2つのPLgel MIXED-Cカラム(Agilent社、5μm、300×7.5mm)を備えたShimadzu社(日本)の装置を使用して分析した。移動相は、流量1.0mL.min-1のTHFであった。注入量は100μLであった。平均分子量及び分散度(D)は、標準としてポリスチレン(PS)を使用して計算した。
【0057】
SEC DMSO:PCL-g-PDA共重合体(1mg/mL)を0.45μmのPTFE Milliporeフィルタに通して濾過し、Waters410示差屈折計、Waters2996フォトダイオードアレイ検出器、Polargel-Mガードカラム(Agilent社、50×7.5mm)、及び2つのPolargel-Mカラム(Agilent社、300×7.5mm)を備えたWaters515HPLC装置を使用して分析した。移動相は流量1.0mL/分のDMSOであった。注入量は50μLであった。PDA含有量の定量化は、254~400nmの範囲で選択された特定の波長における、PDAを含む共重合体とオリゴPDA自体との間の面積比によって決定した。
【0058】
上記SEC法の両方において、PCL-g-PDA共重合体を分析する場合、記載される条件下でDMFを移動相として使用することもできる。
【0059】
熱重量分析(TGA)
共重合体(0.1~10mg)の熱分解を、熱重量分析器(TGA Q500 v20.13 build 39)を使用して研究した。試料を窒素雰囲気下、20℃/分で30℃から700℃まで加熱した。
【0060】
示差走査熱量測定(DSC)
各共重合体の試料(1~10mg)をアルミニウムの鍋に入れた。Mettler Toledo DSC 3を使用して、試料を10℃/分で-80℃から300℃まで加熱した。各試料のガラス転移温度と融解温度を、最初の加熱サイクル中に決定した。融解エンタルピーを使用して、結晶性PCLについて、基準値ΔH=139,5J/gを使用して結晶化度(χ)を計算した8。
【0061】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
試料を0.45μmのPTFE Milliporeフィルタに通して濾過し、SPD-M20Aダイオードアレイ検出器、及びHPLC C18カラム(Kinetex社、2.6μm、100A、100×4.6mm)を備えたShimadzu社(日本)の装置を使用して分析した。薬物の検出には、DEXの検出には40%ACN(0.1%TFA)+60%H2O(0.1%TFA)、CIPの検出には13%ACN(0.1%TFA)+87%H2O(0.1%TFA)で、アイソクラティックモードを適用した。検出後、100%ACNになるまで直線勾配を使用してカラムを洗浄した。流量は1.0mL/分であった。
【0062】
第II章: (PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)
本発明によるin-situゲル化システムの手法は、第I章で得られた知識に基づいて、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型の両親媒性のグラフト化共重合体を提供する。最初に、両親媒性のトリブロックPCL-b-PEG-b-PCLをさまざまなPEG及びPCL鎖長で合成し、水中、生理的温度でin-situ形成ゲルを生成した。一実施形態では、PEGは最大20000g/モルの分子量を有する。別の実施形態では、PEGは1000~4600g/モルの分子量を有する。さらに別の実施形態では、0.30~2.13の範囲のEG/CL比及び4300~9400g/モルの分子量を得るために、PEGとPCLの鎖長は異なるが、各PCLで同じ鎖長を有するトリブロック共重合体が提供される。さらに別の実施形態では、2つのPCL鎖は846~2100g/モルの間の分子量を有し、PEG鎖は1000~4600g/モルの間の分子量を有する。さらに別の実施形態では、2つのPCL鎖は855又は890g/モルの分子量を有し、PEG鎖は2000g/モルの分子量を有する。これら2つの特定のPCL-b-PEG-b-PCLは、室温で良好なゲル化能力を示した。
【0063】
855-2000-855(g/モル)の分布を有するPCL-b-PEG-b-PCLを求電子置換によってヨウ素を介して官能化して、(PCL-I)-b-PEG-b-(PCL-I)を得、これをATRP様の酸化条件下及び塩基性条件下でPDAによってさらに官能化した。未加工の(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)は、幾らかの遊離(非グラフト化)PDAを含む、約40重量%のPDAを含んでいた。
【0064】
(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)の一般合成
本発明による(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型(第II章)の共重合体(本明細書では「T-PDA」とも称される)は、以下の一般反応スキーム3~5に基づいて合成することができる。
スキーム3:PCL-b-PEG-b-PCL(m=22~455、n=3~568)の合成
【0065】
トリブロック共重合体PCL-b-PEG-b-PCL(本明細書では「T」とも称される)は、開始剤として市販のPEG-ジオール(スキーム3)を使用し、触媒としてSn(Oct)2を使用して、無水トルエン中でのε-CLの開環重合(ROP)によって合成される。溶液を100℃で24時間撹拌し、冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、濾過し、真空下で乾燥させる。
【0066】
ヨウ素によるPCLの官能基化につながる重合後の修飾は、Notteletら
6によって記載された研究に基づいており、第I章に提示した方法と同様である。該方法は、スキーム4に記載されている2段階のワンポット反応で構成される。
スキーム4:(PCL-I)-b-PEG-b-(PCL-I)(m=22~455;n=3~568;p=3~397及びq=1~170)の合成
【0067】
第1のステップは、LDAの存在下でのPCL骨格の最も求電子性の高いプロトンのアニオン活性化であり、第2のステップはヨウ素による求電子置換である。得られる(PCL-I)-b-PEG-b-(PCL-I)型のポリマーは、本明細書では「T-I」とも称される。
【0068】
最後に、PDAによるT-Iの官能基化を、第I章に記載した条件と同様の条件で行った。反応スキームがスキーム5に示されており、詳細な条件も実施例9に記載されている。
スキーム5:(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)(「T-PDA」;p=3~397;m=1~170及びr=1~170)の合成
【0069】
精製のために、T-PDAを含むDMSOの溶液を冷ジエチルエーテル中で沈殿させたが、T-PDAが底に付着し、生成物の回収は複雑であった。第2のステップでは、T-PDAを含むDMSOの溶液を透析バッグに導入し、DMSOを水と交換してT-PDAを回収した。さらなる分析用にT-PDAを回収するために、この段階では優先的な精製方法として透析を維持した。PDAを含むTポリマー(T-PDA)は新しいタイプの共重合体であり、本発明の一実施形態である。
【0070】
したがって、一実施形態では、本発明は、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)型のグラフト化された共重合体を与えるために、2つのPCL-g-PDA鎖がPEG鎖に結合している、本明細書(第I章)で定義されるPCL-g-PDA共重合体を提供する。一態様では、PEG鎖は本明細書で定義される分子量を有し、2つのPCL-g-PDA鎖の両方が同じ分子量を有する。
【0071】
別の実施形態では、本発明は、式(II)の、本明細書で定義されるT-PDA型のポリマーを提供する:
[式中、
pは3~397であり、
rは1~170であり、
mは1~170である]。
【0072】
本発明はまた、新しいT-PDAポリマーを製造するための方法も提供する。一実施形態では、本発明は、T-PDA型のポリマーを製造するための方法を提供し、前記方法は、出発物質、中間体、反応相手、及び本明細書のスキーム3~5に記載される条件を含めた、反応順序を含む。
【0073】
別の実施形態では、本発明はまた、本明細書のスキーム3~5による反応順序(出発物質、中間体、及び条件)を使用した場合に得られるT-PDAポリマーも提供する。
【0074】
本発明による、例えば式(II)のT-PDA共重合体は、貴重な薬学的特性を有する。特に、それらは安定性であり、耐容性が高く、薬学的活性成分の徐放に適していることがわかっている。
【0075】
したがって、一実施形態では、本発明は、薬学的調製物における、例えば薬学的有効成分の担体として使用するための本明細書で定義される、例えば式(II)のT-PDA共重合体を提供する。一態様では、本発明によれば、前記薬学的調製物は、in situでのゲル化によって形成されたデポーである。別の態様では、前記in situで形成されたデポーは、例えば硝子体内注射用など、眼内での使用に適している。さらに別の態様では、この薬学的調製物は、眼内注射時に、前記薬学的有効成分を徐放するためのin situゲル化デポーを形成する。さらに別の態様では、本発明によれば、前記薬学的調製物は、水溶液、又は例えばヒスチジンバッファー溶液などの適切なバッファーであり、T-PDA共重合体を薬学的有効成分とともに含み、共溶媒としてPEG、好ましくは本明細書で定義されるPEG400をさらに含む。
【0076】
T-PDA共重合体に関連して用いられる薬学的有効成分という用語は、臨床的に意味のある薬理的活性を有する任意の分子、好ましくは抗体を意味する。本明細書では「抗体」という用語は、最も広い意味で用いられ、限定はしないが、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、モノクローナル抗体(mAb)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含めた、さまざまな抗体のクラス又は構造を包含する。一実施形態では、抗体は、モノクローナル、単一特異性若しくは二重特異性抗体、又はその抗原結合断片である。一実施形態では、抗体はヒト抗体又はヒト化抗体である。別の実施形態では、抗体は、眼疾患を治療するために使用することができる前述の抗体のいずれかである。さらに別の実施形態では、抗体は、INNファリシマブを有する分子である。
【0077】
本発明によれば、薬学的有効成分は、デポー中に最大45重量%;又は5~45重量%;又は15~45重量%、又は20~45重量%の量で存在し、ここで重量%はT-PDAに対するものである。
【0078】
別の実施形態では、本発明は、医薬の調製のための、例えば式(II)の、本発明のT-PDA共重合体の使用を提供する。一態様では、このような医薬は、眼疾患の治療用;又は、薬物の硝子体内投与用である。
【0079】
別の実施形態では、本発明は、適切な薬学的有効成分又は承認された薬物をロードした、本発明のT-PDA共重合体を含む薬学的調製物を、このような治療を必要とする患者の眼に注入することによる、眼疾患を治療するための方法を提供する。一態様では、注入は硝子体内注射である。
【0080】
別の実施形態では、PCL-b-PEG-b-PCL及び/又は(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)とモノクローナル抗体(mAb)とを含む水性製剤が提供される。一態様では、この製剤は、可溶性共溶媒、好ましくはPEG400をさらに含む。さらに別の態様では、本発明は、溶媒としてヒスチジンバッファー(HBS)及びPEG400(比HBS:PEG400=1:1又は1:2)で構成され、5~15、好ましくは5又は10重量%のPCL-b-PEG-b-PCL又は(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)を含み、40mg/mLのmAbがロードされている、製剤を提供する。一態様では、これらの製剤は30G針を通して注射可能である。mAbの安定性研究は、(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)が、30日間変性を引き起こすことなく、mAbと相互作用する能力を示した。In vitroでは、これらの製剤は、溶媒交換プロセスによって、in-situゲル化デポーを形成した。
【0081】
本明細書、とりわけ第II章の実施形態で用いられる「PEG」という用語は、ポリ(エチレングリコール)を意味する。本発明によれば、異なる分子量のPEGを使用することができる。一実施形態では、PEGは、最大20000g/モルの分子量を有する。別の実施形態では、PEGは、400;又は1000;又は1450;又は2000;又は4600;又は10000;又は20000g/モルの分子量を有する。
【0082】
特に第II章では、各ポリマーの分子量はインデックス番号で記述される。例えば、1000g/モルのPEGはPEG1000と定義され、2000g/モルのPCLはPCL2000と定義される。本明細書全体にわたり、例えば1000g/モルのPEG及び2000g/モルの各PCLを有するPCL-b-PEG-b-PCL型の共重合体は、1000-2000-1000と表すこともできる。
【0083】
明示的に言及されていない限り、第I章で定義された用語は、第II章で定義された実施形態に関連して用いられる場合には同じ意味を有する。
【0084】
材料及び方法
PCL-g-PDA共重合体及びそれに基づくインプラント(第I章)の調製のために本明細書で言及した材料の多くは、Sigma-Aldrich社から購入した、ポリ(エチレングリコール)(PEG、Mn 400又は1000又は1450又は2000又は4600又は10000又は20000g/モル)、トルエン、オクタン酸第一スズ(Sn(Oct)2)、ε-カプロラクトン(ε-CL)、及びジエチルエーテルを加えることにより、この第II章のトリブロック共重合体の調製にも使用することができる。PEGは、PEGのトルエン溶液の共沸蒸留によって乾燥し、ε-CLは水素化カルシウム(CaH2)で48時間室温で乾燥し、使用前に減圧下で蒸留した。PEG、ε-CL、及びSn(Oct)2はアルゴン雰囲気下で保管した。
【0085】
特徴づけ
核磁気共鳴分光法(NMR分光法)、移動相としてTHFを使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、示差走査熱量測定(DSC)、熱重量分析(TGA)法、及び機器は、第I章で説明したものと同様である。
【0086】
移動相としてDMFを使用するサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)
ポリマーの数平均及び重量平均モル質量(それぞれ、Mn及びMw)並びに分散度(D、Mw/Mn)は、SECによって決定した。試料(5mg/ml)を0.45μmのPTFE Milliporeフィルタに通して濾過し、SPD-20A UV/VIS検出器及びPLgel MIXED-Cガードカラム(Agilent社、5μm、50×7.5mm)に連結したRID-20A屈折率信号検出器、並びに2つのPLgel MIXED-Cカラム(Agilent社、5μm、300×7.5mm)を備えたShimadzu社(日本)の装置を使用して分析した。移動相はDMF+0.1%LiBrであった。流量は1.0mL.min-1であり、注入量は100μLであった。平均分子量及び分散度(D)は、ポリ(エチレングリコール)(PEG)標準を使用した較正に従って表した。
【0087】
水性サイズ排除クロマトグラフィー(水性SEC)
試料(1mg/ml)を0.20μmのRC Milliporeフィルタに通して濾過し、SPD-40 UV/VIS検出器及びBiobasic SEC300ガードカラム(Thermo Scientific社、5μm、20×8mm)に連結したRID-20A屈折率信号検出器、並びに1つのBiobasic SEC300カラム(Thermo Scientific社、5μm、150×7.8mm)を備えたShimadzu社(日本)の装置を使用して分析した。移動相は、HK2PO4/KH2PO4(0.1 M、pH=7)から構成される水性バッファー溶液であった。流量は0.80mL.min-1であり、注入量は100μLであった。
【0088】
圧縮測定による注射可能性試験
注射可能性試験は、圧縮モードで500Nキャプタを備えたInstron3344を使用して実施した。この研究では、サイズ27G-30Gの皮下注射針(Sterican(登録商標)、特異的適応用、B.Braun社、ドイツ国)及び1mLの使い捨て注射器(Omnifix(登録商標)-Fルアー、B.Braun社、ドイツ国)を使用した。注射器に1mLの溶液を満たし、その後皮下注射針を取り付けた。注入速度は0.5又は1mm/秒に設定し、注入量は、プランジャーの変位6mmに相当する、100μLであった。周辺媒体は空気であった。
【0089】
参考文献
(1) Pascolini, D.; Mariotti, S. P. Global Estimates of Visual Impairment: 2010. Br J Ophthalmol 2012, 96 (5), 614-618. https://doi.org/10.1136/bjophthalmol-2011-300539.
(2) Yasin, M. N.; Svirskis, D.; Seyfoddin, A.; Rupenthal, I. D. Implants for Drug Delivery to the Posterior Segment of the Eye: A Focus on Stimuli-Responsive and Tunable Release Systems. Journal of controlled release: official journal of the Controlled Release Society 2014, 196, 208-221. https:与について考慮される可能性がある。しかしながら、この問題は、14.09.030.
(3) Liebscher, J.; Mrowczynski, R.; Scheidt, H. A.; Filip, C.; Hadade, N. D.; Turcu, R.; Bende, A.; Beck, S. Structure of Polydopamine: A Never-Ending Story? Langmuir: the ACS journal of surfaces and colloids 2013, 29 (33), 10539-10548. https://doi.org/10.1021/la4020288.
(4) Rimpelae, A.-K.; Reinisalo, M.; Hellinen, L.; Grazhdankin, E.; Kidron, H.; Urtti, A.; Del Amo, E. M. Implications of Melanin Binding in Ocular Drug Delivery. Advanced drug delivery reviews 2018, 126, 23-43. https://doi.org/10.1016/j.addr.2017.12.008.
(5) Liu, X.; Cao, J.; Li, H.; Li, J.; Jin, Q.; Ren, K.; Ji, J. Mussel-Inspired Polydopamine: A Biocompatible and Ultrastable Coating for Nanoparticles in Vivo. ACS nano 2013, 7 (10), 9384-9395. https://doi.org/10.1021/nn404117j.
(6) Nottelet, B.; Coudane, J.; Vert, M. Synthesis of an X-Ray Opaque Biodegradable Copolyester by Chemical Modification of Poly (ε-Caprolactone). Biomaterials 2006, 27 (28), 4948-4954. https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2006.05.032.
(7) Cho, J. H.; Shanmuganathan, K.; Ellison, C. J. Bioinspired Catecholic Copolymers for Antifouling Surface Coatings. ACS applied materials & interfaces 2013, 5 (9), 3794-3802. https://doi.org/10.1021/am400455p.
(8) Pitt, C. G.; Chasalow, F. I.; Hibionada, Y. M.; Klimas, D. M.; Schindler, A. Aliphatic Polyesters. I. The Degradation of Poly(ε-Caprolactone) in Vivo. J. Appl. Polym. Sci. 1981, 26 (11), 3779-3787. https://doi.org/10.1002/app.1981.070261124.
【0090】
全体として、本発明は、生体適合性のある分解性合成共重合体を使用した、低侵襲性の長時間作用型眼内送達の課題に応えるための新しいPDAベースの生体材料を提供する。これは、小分子の長期送達に適したPDAベースのインプラントと、生物製剤の製剤化に有望なPDAベースの注入可能なin situゲル化システムを提供する。次に、本発明を以下の実施例によってさらに説明するが、これらは決して本発明の範囲を限定することを意味するものではない。
【実施例】
【0091】
実施例1.開始剤及び前駆体の合成
ジエチレングリコールビス(2-ブロモイソブチラート)の合成
典型的な実験では、ジエチレングリコール(1g、9.42ミリモル)、トリエチルアミン(3.94mL、28.3ミリモル)、及び乾燥THF(40mL)を乾燥三口丸底フラスコに加え、氷浴中に置いた。次に、臭化イソブチリル(3.49mL、28.3ミリモル)を、滴下漏斗を通してフラスコにゆっくりと加えた。無水状態を保持するために、塩化カルシウムを充填したガードチューブを設置した。溶液を一晩、撹拌しつつ放置した。溶液を珪藻土で濾過し、THFを蒸発させることによって濃縮した。粗生成物を水とジクロロメタンとの混合物に溶解した。分液漏斗を使用してジクロロメタンで3回洗浄することにより、溶液から生成物を抽出した。MgSO4粉末を使用して有機相を乾燥させ、濾過し、減圧下で乾燥させた。溶媒として酢酸エチル:ヘプタン(30:70)の混合物を使用し、シリカで濾過することによって、生成物を精製した。画分を収集し、減圧下で蒸発させた。純粋な画分を集め、さらなる使用のために4℃で保存した。
収率:100モル%
1H NMR (300 MHz, CDCl3): δ = 4.28 (t, R-CH2-O-CO), 3.73 (t, O-CH2-R), 1.89 (s, R-CH3)
【0092】
PDAオリゴマーの合成
典型的な実験では、ドーパミン塩酸塩(1.5g、7.91ミリモル)、PMDETA(130μL、0.63ミリモル)、Na2CO3(402.0mg)、BPO(1.92g、7.91ミリモル)、及びDMSO(76mL)を加えた。溶液を、撹拌及びアルゴン流下で4時間放置した。次に、3回の凍結-ポンプ融解サイクル(freeze-pump thaw cycles)によって酸素を除去した。ジエチレングリコールビス(2-ブロモイソブチラート)(0.13g、0.32ミリモル)及び臭化銅(I)(0.09mg、0.63ミリモル)を加えた。次いで、フラスコを70℃の油浴に浸し、激しく撹拌しつつ48時間、反応を行った。液体窒素浴中で冷却することにより反応を停止させた。次いで、DMSOを真空下70℃で蒸発させることによって、溶液を濃縮した。最後に、ポリマーを沈殿させ、濾過し、真空下で乾燥させた。
収率:17重量%
1H NMR (600 MHz, DMSOd6): δ = 6.30-7.00 ppm (m, PDA)
【0093】
ヨウ素化ポリ(ε-カプロラクトン)の合成
PCL骨格は、LDAを使用してアニオン的に活性化され、求電子置換後にヨウ素によって修飾された。この合成では、PCL(3g、Mn,SEC,THF,=65000g/モル、26.3ミリモルのCL単位)及び無水THF(300mL)を乾燥円錐形反応器に導入し、PCLが完全に溶解するまでアルゴン雰囲気下に置いた。次いで、アルゴン下でLDA(13.16mL、εCL単位に対して1当量、26.3ミリモル)を添加する前に、溶液を液体窒素/エタノール混合物に浸すことによって溶液を-50℃に冷却した。30分間の反応後、最少量の無水THF中のヨウ素(6.68g、εCL単位に対して1当量 26.3ミリモル)の溶液を、隔壁を通してシリンジで注入し、混合物を撹拌及びアルゴン雰囲気下で-50℃に保った。30分後、NH4Cl(aq)の水溶液(2M、200mL)を加えることによって反応を停止し、温度を0℃に上げた後、HCl(aq)(37%)を加えて、中性pHに達した。分液漏斗中、ジクロロメタン(3×200mL)で3回洗浄することにより、溶液からポリマーを抽出した。有機相を収集し、Na2S2O3溶液(3×100mL、過剰)で3回洗浄し、MgSO4粉末を使用して乾燥させ、濾過し、ロータリーエバポレーターを使用して減圧下で濃縮した。ポリマーを冷メタノール中で沈殿させ、濾過し、減圧下で乾燥させた。
【0094】
特徴づけ:
- CDCL
3中での
1H NMR:官能化率の決定(
図1):
-
1H NMR (CDCl
3, 300 MHz, ppm): 4.30 (m, R-CHI-CO), 4.05 (t, R-CH2-O-CO), 2.30 (t, R-CH2-CO-O), 2.00 (t, R-CH
2-CHI), 1.64 (m, R-CH2-C-CO), 1.38 (m, R-CH2-R)
- THF中でのSEC:数平均分子量の決定(
図2)。
【0095】
結果:
置換度は、ヨウ素の隣接プロトンに対応する4.30ppmの共鳴ピークと、非置換メチレン基に対応する4.05ppmの共鳴ピークの積分値を比較することによって計算した(
図1、表2)。
【0096】
【0097】
実施例2:PCL-グラフト-PDAの合成
典型的には、シュレンクフラスコAに、ヨウ素化PCL(1.5g、1.18ミリモルのヨウ素化CL単位)及びDMSO(20mL)を加えた。シュレンクフラスコBに、ドーパミン-HCl(5.62g、ヨウ素化CL単位に対して25当量、29.6ミリモル)、PMDETA(370μL、ヨウ素化CL単位に対して1.5当量、1.78ミリモル)、Na2CO3(300.0mg)、BPO(7.18g、ヨウ素化CL単位に対して25当量、29.6ミリモル)、及びDMSO(37mL)を加えた。溶液を撹拌及びアルゴン流下で4時間放置した。次に、3回の凍結-ポンプ融解サイクルによって酸素を除去した。ヨウ素化PCL溶液をフラスコBに移し、臭化銅(I)(255mg、ヨウ素化CLに対して1.5当量、1.78ミリモル)を加えた。次いで、フラスコを不活性雰囲気下で70℃の油浴に浸し、48時間激しく撹拌した。液体窒素浴中で冷却することにより反応を停止させた。DMSOを真空下110℃で蒸発させることによって、溶液を濃縮した。共重合体をメタノール中で沈殿させ、濾過し、真空下で乾燥させた。
【0098】
特徴づけ:
- DMSO-d
6中での
1H NMR:グラフト共重合体の化学修飾及び純度のハイライト(
図3)。
- DMSO-d
6中でのDOSY NMR:4.58ppmのピークによるグラフト化の確認(
図4)。
- DMSO中でのSEC(λ=350nmにおけるUV):共重合体中のPDAの存在の確認(
図5)。
- TGA:PDA含有量の定量化(
図6)。
- DSC:共重合体の融解温度の決定(
図7)。
【0099】
結果:
1H NMRでは、4.58、1.90及び1.80ppmのピークは、PCLへのグラフト化(
図4)から生じる、塩基性条件下でのヨウ素化PCL修飾の特徴である(
図3)。UV-SEC分析では、PCL-g-PDA共重合体及びPDAは、254nm~450nmを吸収する(
図5)。残留ノイズを回避するため、波長として350nmを選択した。ピーク強度はPDA含有量に比例する。PDA含有量もまた、TGA分析によって測定した(
図6)。PCL-g-PDAの融解温度は、DSC分析による最初の加熱ランプで測定して、49℃である(
図7)。結果の概要は、以下の表3にも示されている。
【0100】
【0101】
TGAによるPDA含有量の定量化は、本明細書に記載される装置を使用した、PCL、PCL-g-PDA、及びオリゴ-PDAの600℃での残留質量に基づく。次に、PDA含有量は次式を使用して計算される:
【0102】
3回精製したPCL-g-PDA共重合体中のPDAの割合は約3重量%であった。
【0103】
別の精製方法には、冷メタノールからの粉砕が含まれる:メタノールからの沈殿による最初の精製ステップの後、共重合体は冷メタノールからの粉砕によってさらに精製することができる。より具体的には、300mgの共重合体をファルコンチューブに入れる。45mLの冷メタノールを加え、ポリマー粉末を数分間粉砕した後、遠心分離(0℃、5000rpm、15分間)で回収する。このステップは乾燥前にもう一回繰り返される。(粉砕ステップ収率=50%)。
【0104】
本明細書、とりわけ表3に開示されたデータは、粉砕を含まず、メタノールからの沈殿のみを含んでいた。
【0105】
実施例3:薬物がロードされたインプラントの調製
実施例2で得られた、PCL(M
n約60000g/モル)又はPCL-g-PDA(100~500mg)、及び適量のDEX又はCIP.HCl(最終重量の10%及び30%に相当)をDMSO(5~30mL)中に分散させて完全に混合した。DMSOを減圧下110℃で除去して、共重合体/薬物の薄膜を得た。膜を粉砕し、得られた粉末をTeflonシート上に堆積させた。粉末を130℃、4トンで15分間加圧した(
図8参照)。
【0106】
実施例4:In vitroでの放出の研究
PCL及び実施例3で得られたPCL-g-PDA膜からの薬物の放出を、0.05%v/vのTween 20を含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.4)中、37℃で一定の軌道振盪(100rpm)下で評価した。典型的には、10mgの薬物/共重合体膜を、0.05%のTween20を含有する20mLのリン酸緩衝液に37℃で浸した。特定の時点で、放出媒体全体を除去し、20mLの新しい緩衝液と置き換えた。移動相としてアセトニトリル/TFA(1000/1)及び水/TFA(1000/1)(10:90から、40:60)の比率を使用して、薬物の最大吸光波長(200~400nmの範囲)でUV検出を使用するHPLCによって、収集した試料を分析した。
【0107】
結果:
薬物放出動態は、共重合体中のPDAの存在、薬物の選択、及び薬物のパーセンテージの関数として変化する。共重合体中のPDA含有量は、TG分析によって1重量%~20重量%の間と推定される。デキサメタゾン及びシプロフロキサシン塩酸塩の両方の放出動態は、PCLをロードした膜と比較してPCL-g-PDA膜では遅くなり、インプラント内のPDA部分の割合に従って調節される。(
図9A及び9B)。
【0108】
実施例5:生物学的(細胞障害性)研究
線維芽細胞
PCL-g-PDA膜の細胞障害性を、マウス線維芽細胞株L929(NCTCクローン929、ECACC85011425)で分析した。L929細胞を、1mMのL-グルタミン、5%v/vのウシ胎仔血清、及び100U/mLのペニシリン及びストレプトマイシン100μg/mLを添加した4.5g/LのD-グルコースのDMEM中で、加湿5%CO
2下、37℃で培養した。0.25%のジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)を含むポリウレタン膜(秦野研究所、FDSC、バッチB-173K)を陽性標準物質(RM)として使用し、高密度ポリエチレン膜(秦野研究所、FDSC、バッチC-161)を陰性RMとして使用した。細胞を24ウェルプレートに60000細胞/ウェルの密度で播種し、37℃で一晩インキュベートした。PCL及びPCL-g-PDA膜(直径6mm、厚さ0.5mm未満)を除染するために、各面に254nmで2分間照射した。膜をウェルに加え、細胞とともに24時間インキュベートした。膜を除去し、培地を500μLのPrestoBlue(登録商標)(PB)溶液(培地中10%)と交換し、30分間インキュベートした。PBアッセイは蛍光(λex=558nm、λem=593nm)を使用して実施した。各実験を3回繰り返して実施した。メタノール中で精製されたPCL-g-PDA共重合体は、24時間のインキュベート後の細胞の生存を可能にする(
図10)。
【0109】
ヒト網膜細胞
PCL及びPCL-g-PDA膜の細胞障害性を、ヒト網膜上皮細胞株であるARPE-19(ATCC、CRL-2302)で分析した(
図11)。ARPE-19細胞を、10%v/vウシ胎仔血清を添加したダルベッコ改変イーグル培地/栄養混合物F-12(DMEM:F-12、ATCC30-2006)中、加湿5%CO
2下、37℃で培養した。0.1%ジエチルジチオカルバミド酸亜鉛(ZDEC)を含むポリウレタン膜(日本所在の食品薬品安全センター秦野研究所、バッチA-202K)を陽性標準物質(RM)として使用し、高密度ポリエチレン膜(日本所在の食品薬品安全センター秦野研究所、バッチC-141)を陰性RMとして使用した。細胞を24ウェルプレートに20000細胞/ウェルの密度で播種し、加湿5%CO
2下、37℃で一晩インキュベートした。PCL及びPCL-g-PDA膜並びにRM対照(直径7mm、厚さ0.5mm未満)を、汚染除去のために各面に2回、λ=254nmで2分間照射した。膜をウェルに加え、細胞とともに48時間インキュベートした。膜を除去し、培地をPrestoBlue(登録商標)(PB)溶液(細胞培地中10%))と交換し、30分間インキュベートした。PBアッセイは蛍光(λex=558nm、λem=593nm)を使用して実施した。各実験を4回繰り返して実施した。
【0110】
細胞生存率のパーセンテージは、次の式(1)を使用して計算した:
【0111】
実施例6:in vitroでの分解
分解の動態を、標準条件(pH=7.4のPBS)及び加速条件(pH=1のHCl水溶液(2M))下、37℃で75日間、ポリマー膜上でin vitroで研究した。ISO-10993-13に従って、膜をインプラント(寸法=10×4mm、厚さ=0.3~0.5mm)へと切断し、重量を量り(15mg、w
dry,t0)、0.75mLの培地に撹拌しつつ浸漬した。所定の時点で、インプラントを媒体から取り出し、水で洗浄し、拭き取り、重量を測定して湿潤質量(w
we,t)を決定し、次いで、減圧下で一定質量になるまで乾燥させて乾燥質量(w
dry,tx)を決定した。これらの実験を3回繰り返して実施した。水の取り込みは式(2)から計算し、残りの重量は式(3)から計算し、残りの分子量は式(4)から計算した。pHは、20℃でpHメータを使用して評価した。
【0112】
結果:
pH=7.4では、PCL-g-PDAインプラントは、その初期質量(
図12)、分子量(
図13)、及び形状(
図14)を、水を取り込むことなく(
図15)保持し、pHは110日間安定したままである(
図16)。pH=1では、PCL-g-PDAインプラントは、その初期質量(
図17)及び分子量(
図18)を直ちに失い、壊れて脆くなった(
図19)。PCL-g-PDAインプラントは、分解性であり、局所pH値が変化することなく、標準条件下、in vitroで極めてゆっくりと分解すると予想される。
【0113】
実施例7:PCL-b-PEG-b-PCL(「T」)の合成
乾燥したシュレンクフラスコ内で、PEG(5.0g、2.5ミリモル、Mn=2000g/モル)を、アルゴン雰囲気下、55mLの乾燥トルエンに可溶化した。次いで、Sn(Oct)2(0.20g、0.5ミリモル)及びε-CLモノマー(4.99g、43.8ミリモル、17.5当量)を、依然として不活性雰囲気下で添加した。水及び酸素を3回の凍結-ポンプ融解サイクルによって除去した。反応は、アルゴン流下及び強撹拌下、100℃で24時間実施した。数滴のHCl溶液(メタノール中、0.1M)を添加することにより、反応を停止させた。生成物を冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、濾過し、減圧下で乾燥させた。
【0114】
トリブロック共重合体の分子量を次の式(5)~(8)に従って計算した:
【0115】
エチレングリコール単位の分子量は44g/モル、ε-カプロラクトン単位の分子量は114g/モルである。
【0116】
変換率は、精製後のNMRによって得られるDPCLを理論値と比較することによって算出する。収率(η)は、得られたポリマーの質量を、NMRによって算出された変換率を考慮して得られたポリマーの理論質量値と比較することによって算出する。
変換:86%
収率:93%
1H NMR (600 MHz, DMSOd6): δ = 3.99 (t, R-CH2-O-CO), 3.5 (m, R-CH2-O), 2.27 (t, R-CH2-CO-O), 1.54 (m, R-CH2-CH2-CO), 1.30 (m, R-CH2-R)
SEC(THF、RI、PS):Mn=6143g/モル、D=1.09
SEC(DMF、RI、PEG):Mn=3529g/モル、D=1.07
【0117】
上述の方法と同様に、次のPCL-b-PEG-b-PCLポリマーを合成した(表4参照)。表4において、1000g/モルのPEGと2000g/モルのPCLからなるPCL-b-PEG-b-PCL型のポリマーは、「1000-2000-1000」と定義される。さらには、PCL-b-PEG-b-PCL共重合体は、本明細書では「T」と指定される。
【0118】
【0119】
実施例8:ヨウ素化(PCL-I)-b-PEG-b-(PCL-I)(「T-I」)の合成
典型的な実験では、実施例7から得られたポリマー、例えば表4の登録番号5のPCL-b-PEG-b-PCL(4g、Mn,NMR=3710g/モル、1.08ミリモル、16.2ミリモルのCL単位)と、無水THF(200mL)とを乾燥円錐形反応器に導入し、完全に溶解するまでアルゴン流下に置いた。次いで、アルゴン下でLDA(8.09mL、16.2ミリモル)を添加する前に、溶液を液体窒素/エタノール混合物に浸すことによって溶液を-50℃に冷却した。30分間の反応後、最少量の無水THF中のヨウ素(4.10g、1.62ミリモル)の溶液を、隔壁を通してシリンジで注入し、混合物を撹拌及びアルゴン雰囲気下で-50℃に保った。30分後、NH4Clの水溶液(2M、200mL)を加えることによって反応を停止し、温度を0℃に上げた後、HCl(aq)(37%)を加えて、中性pHに達した。次いで、分液漏斗内でジクロロメタン(3×200mL)で3回洗浄することにより、溶液からポリマーを抽出した。有機相を収集し、Na2S2O3溶液(0.3M、3×100mL)で3回洗浄し、MgSO4粉末を使用して乾燥させ、濾過し、減圧下で濃縮した。ポリマーを冷ジエチルエーテル中で沈殿させ、濾過し、減圧下で乾燥させた。
置換:23モル%
収率:50重量%
1H NMR (600 MHz, DMSOd6): δ = 4.44 (m, R-CHI-CO-O), 3.99 (t, R-CH2-O-CO), 3.50 (m, R-CH2-O), 2.27 (t, R-CH2-CO-O), 1.87 (m, R-CH2-CHI), 1.54 (m, R-CH2-CH2-CO), 1.30 (m, R-CH2-R)
SEC(THF、RI、PS):Mn=5760g/モル、D=1.28
SEC(DMF、RI、PEG):Mn=3500g/モル、D=1.24
【0120】
実施例9:(PCL-g-PDA)-b-PEG-b-(PCL-g-PDA)(「T-PDA」)の合成
典型的な実験では、実施例8から得られたヨウ素化ポリマー、例えば(PCL-I)-b-PEG-b-(PCL-I)(1.5g、1.07ミリモルのヨウ素化したCL単位)を、最初のシュレンクフラスコ(シュレンクフラスコA)内でDMSO(20mL)と混合する。第2のシュレンクフラスコ(シュレンクフラスコB)に、ドーパミン塩酸塩(5.09g、ヨウ素化したCL単位に対して25当量、26.8ミリモル)、PMDETA(340μL、ヨウ素化したCL単位に対して1.5当量、26.8ミリモル)、Na2CO3(300.0mg)、BPO(6.49g、ヨウ素化したCL単位に対して25当量、26.8ミリモル)、及びDMSO(37mL)を加えた。溶液を撹拌及びアルゴン流下で4時間放置した。次に、3回の凍結-ポンプ融解サイクルによって酸素を除去した。ヨウ素化したPCL溶液をフラスコBに移し、臭化銅(I)(0.23g、ヨウ素化したCLに対して1.5当量、1.61ミリモル)を加えた。次いで、フラスコを70℃の油浴に浸し、48時間、激しく撹拌した。液体窒素浴中で冷却することにより反応を停止させた。DMSOを真空下70℃で蒸発させることによって、溶液を濃縮した。ポリマーを水中で透析し、凍結乾燥した。
PDA:38~49重量%
1H NMR (600 MHz, DMSOd6): δ= 4.57 (m, R-CH(PDA)-CO), 3.99 (t, R-CH2-O-CO), 3.5 (m, R-CH2-O), 2.27 (t, R-CH2-CO-O), 1.96 (m, R-CH2-CH(PDA)), 1.84 (m, R-CH2-CH(PDA)), 1.54 (m, R-CH2-CH2-CO), 1.30 (m, R-CH2-R)
SEC(DMF、RI、PEG):Mn=3000g/モル、D=1.24
【0121】
NMRスペクトルでは、ヨウ素によるPCLの官能基化からの特徴的なシグナルである4.44ppm及び1.87ppmのピークの消失(実施例8参照)は、ドーパミンの導入及び重合後にポリマーの化学的環境が変化したことを示している。さらには、4.57ppm、1.96ppm、及び1.84ppmにおけるピークの出現も、この化学的環境の変化を裏付けている。対応する
1H-NMRスペクトル、すなわち表4の登録番号5によるポリマーTに基づくT-I及びT-PDAが、
図20に示されている。化学シフトの変化がPCL骨格へのPDA側鎖の効果的なグラフト化に起因する可能性があることを確認するために、拡散秩序NMR分光法(DOSY NMR)分析を実施した。4.57ppm、1.96ppm、及び1.84ppmのピークは、Tに起因するピークと同じ拡散係数(D=-6.02*10-11m2.s-1)を示し、PCL鎖上へのPDAのグラフト化が証明された(
図21)。
【0122】
450nmでのUV検出を使用して、DMF中でのSECによって、このT-PDAの分子量をさらに分析した。以前の共重合体はTHF中でのSECによって分析されたが、PDAを含む共重合体はTHFに溶解しないことに留意することが重要である。
【0123】
PDA含有量は、実施例2で説明したTGA法に従って、次の修正式を使用して定量化される:
【0124】
PDAの割合は38重量%である。この高い値は、NMRで検出されたピークの強度と一致する、共重合体中の遊離のPDA及びグラフト化されたPDAの質量を含んでいる(
図20及び21)。グラフト化されたPDAと遊離オリゴ-PDAのそれぞれの割合は不明である。
【0125】
実施例10:タンパク質の安定性
mAbの安定性は、HBS:PEG400 1:1(v/v)中、5%(w/v)の共重合体(T又はT-PDA)で構成される製剤で評価した。製剤は、40mg/ml(高用量(HD))のmAb又は13mg/ml(低用量(LD))のmAbのいずれかを含む。この実施例では、製剤は、製剤X-Yとして定義され、ここで、Xは共重合体(T、T-PDA、T/T-PDA)を指す文字であり、YはmAb用量(LD,HD)を指す数字である。本明細書で用いられる「T」ポリマーは、実施例7の表4の登録番号6を指し、得られるT-PDAは、実施例9に記載の方法で入手できる。各製剤について、SECの特性パラメータの推移が
図22に示されている。製剤について表5に詳細が示されている。
【0126】
【0127】
製剤T-HDについては、試料の溶液は共重合体の白色粉末の存在に起因して白色であったが、移動相の添加後に透明に変化した。0日目及び3日目では、280nmでの吸光度、相対波長比、および相対AUCは、ほぼ一定であった。その後、3日目から、mAbの強度と相対AUCは徐々に減少したが、相対波長比は一定のままであった。これらの結果は、検出されるmAbの量を減少させる、mAbと共重合体との相互作用を示唆しており、これは製剤化前の研究の結果と一致している。
【0128】
製剤T/T-PDA-HDについては、試料の溶液は黒く、移動相の添加後に不鮮明にぼやけた。0日目から30日目まで、検出されたmAbの吸光度及び相対AUCは徐々に減少したが、相対波長比は一定のままであり、mAbと共重合体との相互作用が示唆された。T/T-PDA-HDの0日目の吸光度は、T-HDの製剤と比較して、2で除算されており、TとT-PDAとの混合物に対するmAbの初期相互作用がより強いことを示していることに留意されたい。さらに、0日目から30日目までに検出されたmAbの量の減少は、製剤T-HD(63%のmAb検出損失)よりも製剤T/T-PDA-HD(93%のmAb検出損失)の方が大きかった。
【0129】
製剤T-PDA-HDについては、吸光度は280nmで約5%であったが、254nmでは0日目の波長比を計算するには十分ではなかった。その後、3日目から30日目まで、mAbは検出されなかった。これは、mAbとT-PDAとの間の強力な相互作用を示唆している。製剤化前の安定性研究に関しては、共重合体の存在下でmAbの漸進的な減少が観察されたことが示された。これらの結果は、PDAベースの共重合体がmAbに対して強い親和性を示すことを裏付けている。
【0130】
結果として、SEC-UVスペクトルの比較は、試験した製剤、すなわち、HBS:PEG400(1:1)及び10%(w/v)の共重合体(T、T/T-PDA、及びT-PDA)から構成される3つの製剤は、mAbを変性させることなく、mAbと相互作用したことを実証している。T-PDAの存在下でmAbの量の最大の減少が観察され、PDAに対するmAbの高い親和性が証明された。
【0131】
実施例11:デポーのin-situ形成
製剤T-HD、T/T-PDA-HD、及びT-PDA-HDに基づいたin-situでのデポーの形成及び挙動が、それぞれ、
図23-A、
図23-B、及び
図23-Cに示されている。それぞれのLD製剤は同様に見えた。実施例で用いられる名称(例えば、T-HD)は、実施例10で確立されたとおりである。
【0132】
注射直後(0日目)、バイアルの底でのin-situでのデポーの形成を観察することができる。製剤Tは、PEG400がPBS中に拡散する溶媒交換の機構に起因して、3日目にゲル状の沈殿した白い塊を形成した。その凝集体は5日目から30日目にかけて、より小さくなったように見えた。製剤T/T-PDAは、3日目に、より小さく(Tの量が少ないことに起因)、黒い(T-PDAに起因)塊が形成され、外観は30日目まで同様のままであった。おそらくはPDAベースの不純物(例えば、追加のピークに対応する、SEC-UVで検出されたもの)の放出に起因して、放出媒体のわずかな着色が観察された。製剤T-PDAは、3日目に一部が底部に付着した薄膜を形成したが、その外観は30日目まで同様のままであった。製剤T/T-PDA及びT-PDAによって誘発される媒体の着色は、眼への投与について考慮される可能性がある。しかしながら、この問題は、使用するT-PDAポリマーのさらなる精製ステップを導入することによって解決できるように思われ、この実施例で実証される原理の全体的な証明には影響を及ぼさない。
【0133】
生理的条件下で行われたmAbの予備的なin vitroでの放出は、T-PDAがmAbと強い相互作用する能力を示した。共重合体と結合していないmAbは、バースト効果で3日前に放出されたが、一方、結合したmAbは30日以内に放出されずに残ったことが示されている。T製剤は、放出されたmAbの安定性に有利であったが、一方、T-PDAベースの製剤は、37℃、放出媒体中でmAbの一部を不安定にする傾向があった。
【0134】
結論として、本実施例は、T-PDAが、モノクローナル抗体又はその断片(例えば30G針と考えられる)のIVT投与のための注射可能性、及び特に4℃での保存中のこのような抗体の安定性の観点から、興味深い視点を提供していることを実証している。
【国際調査報告】