(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】RDXのフロー合成
(51)【国際特許分類】
C07D 251/06 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
C07D251/06
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535459
(86)(22)【出願日】2021-12-01
(85)【翻訳文提出日】2023-07-05
(86)【国際出願番号】 GB2021053131
(87)【国際公開番号】W WO2022123216
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】390038014
【氏名又は名称】ビ-エイイ- システムズ パブリック リミテッド カンパニ-
【氏名又は名称原語表記】BAE SYSTEMS plc
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】バーン、アンディ・オーデン
(72)【発明者】
【氏名】ディズベリー、マシュー・ポール
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ、スチュアート
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ、ニコラ
(72)【発明者】
【氏名】パターソン、イアン・エワート・マリー
(72)【発明者】
【氏名】ジュブ、ダニエル
(57)【要約】
本願は、RDXのフロー合成による製造方法に関し、当該方法は、濃度92%未満の硝酸に溶解したヘキサミンを含む入力フロー試薬Aを調製する工程と、濃度99%の硝酸を含む入力フロー試薬Bを調製する工程と、フロー反応器内の硝酸の総濃度が93%を超えるような流量で入力フロー試薬A及びBをフロー反応器に供給する工程と、反応槽を30℃未満に冷却する工程と、出力フロー混合物をクエンチさせる工程とを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
RDXのフロー合成による製造方法であって、前記方法は、
i.濃度92%未満の硝酸に溶解したヘキサミンを含む入力フロー試薬Aを調製する工程、
ii.濃度95%超の硝酸を含む入力フロー試薬Bを調製する工程、
iii.フロー反応器内の硝酸の総濃度が93%を超えるような流量で前記入力フロー試薬A及びBを前記フロー反応器に供給する工程、
iv.反応槽を30℃未満に冷却する工程、
v.出力フロー混合物をクエンチしてRDXを沈殿させる工程
を含む、方法。
【請求項2】
工程iで、前記ヘキサミンを濃度88%~90%の硝酸に溶解させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程iで、前記ヘキサミンを硝酸に溶解させて飽和溶液とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
工程iiで、前記入力フロー試薬Bが濃度99%の硝酸である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程iiiで、前記フロー反応器内の硝酸の総濃度が90~99%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
入力フロー試薬A:入力フロー試薬Bの流量比(A:B)は、1:3(A:B)よりも高い、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記反応器中の温度は20℃~27℃である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
工程iiで、入力フロー試薬B中の前記硝酸は、発煙硫酸又はNaNO
2を更に含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程vで、前記クエンチは、前記出力フロー混合物及びクエンチング剤を混合することによって生じる、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記クエンチング剤は、RDXを沈殿させるためなどの水溶液である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記クエンチング剤は10℃未満に冷却される、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施する装置であって、前記装置は爆発に対応するように改造されている、装置。
【請求項13】
ヘキサミンから爆発性物質を供給するためのフロー合成の使用。
【請求項14】
RDXのフロー合成による製造方法であって、前記方法は、
vi.濃度92%未満の硝酸に溶解したヘキサミンを含む入力フロー試薬Aを調製する工程、
vii.ニトロ化試薬を含む入力フロー試薬Bを調製する工程、
viii.フロー反応器中でRDXをニトロ化するような流量で前記入力フロー試薬A及びBを前記フロー反応器に供給する工程、
ix.反応槽を30℃未満に冷却する工程、
x.出力フロー混合物をクエンチして、RDXの沈殿を可能にするように水溶液と接触させる工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記ニトロ化試薬は、濃度が少なくとも70%の硝酸とNaNO
2、又は、濃度99%の硝酸のみ、から選択できる、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヘキサミンの直接ニトロ化により爆発物をフロー合成で製造する方法に関する。特に、RDXを製造する方法に関する。
【0002】
本発明を更に詳細に説明する前に、本発明は、説明する特定の実施形態に限定されず、そのため、当然ながら変化し得ることを理解されたい。本発明の範囲は特許請求の範囲によってのみ限定され、この明細書で使用する専門用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、限定することを意図しないことも理解されたい。
【発明の概要】
【0003】
本発明の第1の態様は、RDXのフロー合成による製造方法を提供し、この方法は、
i. 濃度92%未満の硝酸に溶解したヘキサミンを含む入力フロー試薬Aを調製する工程、
ii. 濃度95%超の硝酸を含む入力フロー試薬Bを調製する工程、
iii. フロー反応器内の硝酸の総濃度が93%を超えるような流量で入力フロー試薬A及びBをフロー反応器に供給する工程、
iv. 反応槽を30℃未満に冷却する工程、
v. 出力フロー混合物をクエンチしてRDXを沈殿させる工程、
を含む。
【発明を実施するための形態】
【0004】
フロー合成は、実験室でのR&Dスケールで約100gのRDXを製造する容易な手段を提供し、かつ、単一の反応容器で100kgを超えるRDX爆発物を形成することに関連する危険を伴うことなく、更にフロー反応器を追加して、生産を容易にスケールアップできる。さらに、それは、バッチ反応における巨大な反応容器中での数百リットルもの高度に濃縮された酸の使用も回避する。フロー合成は、爆発性の最終生成物であるRDX物質の、フロー反応器からの連続的な取り出し及び安全な保管を可能にし、大量の爆発性物質の蓄積を回避する。これは、爆発性物質の合成において、爆発性物質をフロー反応器から離れた安全なエリアに運ぶことできるので、爆発物を製造する建物で大量の爆発物を製造し、及び/又は、安全距離を低減することを可能にする。
【0005】
ヘキサミンは、ほぼ又は完全に飽和溶液となるまでの重量%で入力フロー試薬Aの硝酸に添加してもよい。入力フロー試薬A中のヘキサミンの濃度が高いほど、反応はより効率的になる。反応器に供給する前に可能な限り短時間でヘキサミンを硝酸に溶解させ、ニトロ化反応が開始する可能性を低減することが非常に好ましい。
【0006】
ヘキサミンは、70%~92%、より好ましくは88%~92%の濃度の硝酸に溶解させてもよく、ヘキサミンの溶解を助けるための他の溶媒を加えてもよい。
【0007】
好ましくは、入力フロー試薬Aは、ヘキサミン及び濃度92%未満の硝酸のみを有する。
【0008】
入力フロー試薬Bは、フロー反応器内の硝酸の総濃度が少なくとも92%であることを確実にするために、濃度99%の硝酸を含んでいてもよく、より好ましくは、入力フロー試薬Bは、濃度99%の硝酸のみを有する。
【0009】
ニトロ化を生じさせる濃度を下回る濃度の硝酸の使用は、ニトロ化反応が開始することなく、出発物質であるヘキサミンを溶解させることを可能にする。これは、生成物がフロー反応器に流入する前に沈殿することを防止し、フロー反応器及び関連する混合槽の閉塞を防止する。さらに、ヘキサミンの溶解剤としての高濃度の使用は、フロー反応器中において、ニトロ化が生じるのに必要とされる硝酸の総濃度まで迅速に上昇させることを可能にする。これは、フロー反応器中の硝酸が希釈されるという問題を回避し、したがって、入力フロー試薬Bは、フロー反応器中で硫酸の所望の総濃度が92%を超えることを確実にするために、僅かに高い濃度の硝酸を使用するだけで十分である。
【0010】
ヘキサミンのニトロ化を開始するための望ましい硝酸の濃度の達成を促進するために、入力フロー試薬A及びBは、工程iiの後でフロー反応器に供給する前に混合槽で予め混合してもよい。
【0011】
工程iiiでは、前記フロー反応器内の硝酸の総濃度は90~99%、より好ましくは93%~95%であってもよいことが見いだされた。
【0012】
入力フロー試薬A及び入力フロー試薬Bが酸及び唯一のニトロ化剤として硝酸のみを有する場合、硝酸の総濃度は、例えば92%を超える濃度など、ニトロ化が生じるのに十分な濃度でなければならない。
【0013】
入力フロー試薬Aの流量は、ヘキサミンをニトロ化することが可能な硝酸の総濃度(例.92%超)を提供するために、入力フロー試薬Bの流量とともに、適切な流量から選択できる。入力フロー試薬Aの実際の流量は、フローセルの容量に応じて、マイクロリットル~ミリリットル~リットルである。
【0014】
入力フロー試薬Bの流量は、ヘキサミンをニトロ化することが可能な硝酸の総濃度(例.92%超)を提供するために、入力フロー試薬Aの流量とともに、適切な流量から選択できる。入力フロー試薬Aの実際の流量は、フローセルの容量に応じて、マイクロリットル~ミリリットル~リットルである。
【0015】
入力フロー試薬A対入力フロー試薬Bの流量比(A:B)は、B>Aであってもよく、好ましくは1:3(A:B)よりも大きく、より好ましくは(1:4)~(1:10)で、フロー反応器内の硝酸の総濃度が92%を超えることを確実にする。入力フロー試薬Bにおける高濃度の酸の使用は、入力フロー試薬Bの体積/流量を低減すること、即ち、比率を低くすることを可能にし、それは、使用される硝酸の量の低減につながる可能性がある。これは、例えば発煙硫酸などの他の強酸を使用することによって生じる可能性がある。
【0016】
フロー反応器中の温度は、高発熱反応が生じるのを防止するように制御する必要があり、好ましくは30℃未満、好ましくは20℃~30℃、より好ましくは22℃~27℃、最も好ましくは24℃である。温度は、水循環器によって監視する。フロー反応器は、例えば水循環器又は電気冷却器などの適切な手段によって冷却してもよい。
【0017】
工程vにおける反応では、出力フロー混合物をクエンチして反応を停止させ、RDX生成物を沈殿させる。出力フローは、大量のクエンチ媒体に移してもよく、又は混合槽で混合してもよい。
【0018】
好ましくは、硝酸に溶解したRDXを含む出力フロー混合物は、フロー反応器の端部でSOR混合器を介してクエンチ媒体と混合される。クエンチ媒体は、pH7以下であってもよく、酸性水溶液又は水から選択してもよい。クエンチング剤は、好ましくは20℃未満、好ましくは10℃以下まで冷却して、結晶化を誘導してもよい。
【0019】
RDX沈殿物をろ過し、回収し、次いで水溶液中で洗浄し、好ましくはクエンチング溶液はpH7以下であってもよく、好ましくは水である。
【0020】
本発明の更なる態様は、ヘキサミンから爆発物を供給するためのフロー合成の使用を提供する。
【0021】
本発明の更なる態様は、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を実施する装置を提供し、当該装置は、爆発に対応するように改造されている。
【0022】
本発明の更なる態様は、RDXのフロー合成による製造方法を提供し、この方法は、
i. 濃度92%未満の硝酸に溶解したヘキサミンを含む入力フロー試薬Aを調製する工程、
ii. ニトロ化試薬を含む入力フロー試薬Bを調製する工程、
iii. フロー反応器中でRDXをニトロ化するような流量で入力フロー試薬A及びBをフロー反応器に供給する工程、
iv. 反応槽を30℃未満に冷却する工程、
v. 出力フロー混合物をクエンチして、RDXの沈殿を可能にするように水溶液と接触させる工程、
を含む。
【0023】
ニトロ化試薬は、濃度が少なくとも70%の硝酸とNaNO2、又は、濃度99%の硝酸のみを有するものから選択できる
【実施例】
【0024】
実験用試薬
99%HNO3は、Honeywellから500mLを購入した。カタログ番号84392-500ML、ロット番号I345S。
70%HNO3は、Fisher scientificから2.5Lを購入した。コード番号:N/2300/PB17、ロット番号:1716505。
ヘキサミンは、Sigma-Aldrichから250gを購入した。カタログ番号797979-250G、ロット番号MKCJ7669。
発煙硫酸は、Fisherから500mLを購入した。カタログ番号S/9440/PB08、ロット番号1689177。
使用したフロー反応器:3222 Labtrix。
【0025】
【0026】
一般的な反応を上に示す。ここで、入力フロー試薬Aは硝酸に溶解したヘキサミンを含み、入力フロー試薬Bは、(入力フロー試薬Aよりも)高い濃度の硝酸であってもよいニトロ化剤、及び/又はNaNO2のような金属亜硝酸塩などの別のニトロ化剤を含む。入力フロー試薬A及び入力フロー試薬Bは、フロー反応器中で反応して、生成物RDXが得られる。
【0027】
フロー反応器を使用するRDX合成は、周知で定量化されたバッチ反応で溶液を単にポンピングするよりも、設計上、困難な問題を提起する。これは主に、出発物質であるヘキサミンが固体であること、及びRDXが反応中に沈殿する可能性があることによる。酸の濃度が低下して水分量が増加するにしたがって、フロー反応器を通過する間にRDXの沈殿が生じる可能性があり、それによって、フロー反応器が閉塞し、これは破局的事象につながる可能性がある。
【0028】
実験を開始する前に、系をメタノール、続いて水で洗い流して反応器を準備した。次いで、系を完全にプライミングするために、2つの入力系を、反応器を通過させた70%HNO3で満たした。
【0029】
実験1
シリンジA: 5mLの99%HNO3中の0.100gのヘキサミン
シリンジB: 10mLの70%HNO3中の0.1079gのNaNO2
【0030】
【0031】
最初の実験は、バッチ法による合成をフロー反応器に直接変換しようとすることに焦点を当てた。実験は、ヘキサミンと99%HNO3を予め混合した溶液(溶液A)及び70%HNO3中のNaNO2(溶液B)の調製を含んでいた。
【0032】
最初のヘキサミン原液を、1H NMRで分析した。その結果から、反応の大部分は、最初のヘキサミンHNO3溶液が反応器を通過する前に、溶液中で既に完了していることが明らかであった。したがって、反応が最初のヘキサミン原液中ではなくフロー反応器内で生じるように、実験方法を変更した。
【0033】
実験2 飽和ヘキサミンでの実験
シリンジA: 70%HNO3中の飽和ヘキサミン(5mL中に約1g)
シリンジB: 99%HNO3
【0034】
例えばNaNO2などの別の試薬を使用するのではなく、硝酸を唯一のニトロ化剤として使用することが望ましい。NaNO2を使用せず、唯一のニトロ化剤として作用する濃度99%の硝酸をシリンジBに使用して、実験1を繰り返した。
【0035】
反応器からの溶液を水中で回収した際に、沈殿物は得られなかった。反応全体で酸の濃度が低すぎて十分な量のRDXを生成できないと結論付けることができ、したがって、反応全体の酸の濃度に注目して検討した。
【0036】
実験3 高い酸濃度での実験
シリンジA: 90%HNO3中の飽和ヘキサミン(5mL中に約1g)
シリンジB: 99%HNO3
【0037】
シリンジA中の硝酸の濃度を増加させた。流量を1:3(A:B)に設定したが、得られた生成物は限られていた。シリンジBの流量、即ち99%HNO3の供給量を、A:Bの流量比が1:9になるように増加させた。試料を水中で回収すると、溶液は不透明になり、RDXが得られたことが示された。
【0038】
実験4 発煙硫酸の添加
シリンジA: 2.5mLの90%HNO3に溶解した0.5gのヘキサミン。ヘキサミンの添加中、溶液を冷却した。
シリンジB: 0.95mLの99%HNO3+0.05mLの発煙硫酸
【0039】
RDX形成に対する発煙硫酸の影響を監視することを目的として一連の実験を実施した。実験では、RDXが得られたことを示す不透明な溶液が、水中で回収した際に示された。1H NMRスペクトルは、クエンチング剤として水を使用して沈殿させるより前に、RDXが溶液中に存在することを示した。
【0040】
実験5 添加する発煙硫酸の増量
シリンジA: 2.5mLの90%HNO3に溶解した0.5gのヘキサミン。ヘキサミンの添加中、溶液を冷却した。
シリンジB: 0.9mLの99%HNO3+0.1mLの発煙硫酸
【0041】
発煙硫酸を100%増量すると、氷上に回収した際に、RDX沈殿物の形成に至った。氷と混合する前の溶液の一部をd6-DMSO中に回収したところ、その1H NMRスペクトルはRDXの形成を示した。
【0042】
発煙硫酸などの別の酸の使用は、反応器中の酸の濃度を高く保つのに役立ち、反応の脱水を促進する可能性がある。NaNO2などのニトロ化種の使用は、硝酸の総濃度を低くすることを可能にする。
【0043】
反応器中の酸性度が低いと、溶液からRDXが沈殿することが判明した。固化した生成物のためのフロー反応器経路を監視することが不可欠である。さらに、ヘキサミンを溶解させる硝酸の酸性度を増加させることが望ましいが、濃度が高すぎる場合、混合を開始する前に生成物が形成し始め、やはりRDX生成物がフロー反応器を閉塞させる可能性がある。好ましくは、ヘキサミンは使用前に硝酸に溶解させ、原液として長期間保管しない。
【国際調査報告】