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特表2023-552643脈波信号を解析するための方法、装置及びコンピュータプログラム製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】脈波信号を解析するための方法、装置及びコンピュータプログラム製品
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/02 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
A61B5/02 310A
A61B5/02 310V
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535689
(86)(22)【出願日】2021-12-13
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 EP2021085339
(87)【国際公開番号】W WO2022128830
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】20214268.3
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】590000248
【氏名又は名称】コーニンクレッカ フィリップス エヌ ヴェ
【氏名又は名称原語表記】Koninklijke Philips N.V.
【住所又は居所原語表記】High Tech Campus 52, 5656 AG Eindhoven,Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110001690
【氏名又は名称】弁理士法人M&Sパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】デルクス レネ マルティヌス マリア
【テーマコード(参考)】
4C017
【Fターム(参考)】
4C017AA02
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA10
4C017AC26
4C017BB12
4C017BC11
4C017BC14
4C017FF05
(57)【要約】
一態様によると、対象者から得られた脈波信号、すなわちPWSを解析するためのコンピュータ実装方法が提供される。PWSは、第1の期間中の対象者の複数の心拍サイクルについての脈波測定値を含む。方法は、(i)PWSを解析して、複数の心拍サイクルを特定し、各特定された心拍サイクルについてそれぞれの基準点を特定するステップ(40)と、(ii)PWSの時間に関する二階微分信号として2PWSを決定するステップと、(iii)それぞれの特定された心拍サイクルに対応する2PWSの各部分について、前記心拍サイクルについて特定された基準点において、2PWSの振幅に関して2PWSの前記部分を正規化することによって正規化された2PWSを決定するステップと、(iv)第1のラグタイム値について、正規化された2PWSの第1のセットの値についてn次多項式フィットを決定するステップ(42)であって、正規化された2PWSの第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点から第1のラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含み、nは1以上である、ステップと、(v)1つ又は複数のさらなるラグタイム値について、ステップ(iv)の1回又は複数回のさらなる反復を行い、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィットを決定するステップ(44)であって、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点からそれぞれのさらなるラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含む、ステップと、(vi)第1の期間内の第1の時点について第1の平均心拍サイクル波形を形成するステップ(46)であって、第1の平均心拍サイクル波形は、第1の時点での複数のn次多項式フィットの値から形成される、ステップとを含む。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者から得られた脈波信号、すなわちPWSを解析するためのコンピュータ実装方法であって、前記PWSは第1の期間中の前記対象者の複数の心拍サイクルに対する脈波測定値を含み、前記方法は、
(i)前記PWSを解析して、複数の心拍サイクルを特定し、各特定された心拍サイクルについてそれぞれの基準点を特定するステップと、
(ii)前記PWSの時間に関する二階微分信号として2PWSを決定するステップと、
(iii)それぞれの特定された心拍サイクルに対応する前記2PWSの各部分について、前記心拍サイクルについて前記特定された基準点において、前記2PWSの振幅に関して前記2PWSの前記部分を正規化することによって正規化された2PWSを決定するステップと、
(iv)第1のラグタイム値について、前記正規化された2PWSの第1のセットの値についてn次多項式フィットを決定するステップであって、前記正規化された2PWSの前記第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの前記基準点から前記第1のラグタイム値が生じる前記正規化された2PWSの値を含み、nは、1以上である、ステップと、
(v)1つ又は複数のさらなるラグタイム値について、ステップ(iv)の1回又は複数回のさらなる反復を行い、前記正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィットを決定するステップであって、前記正規化された2PWSのそれぞれのセットの値は、各特定された心拍サイクルの前記基準点から前記それぞれのさらなるラグタイム値が生じる前記正規化された2PWSの値を含む、ステップと、
(vi)前記第1の期間内の第1の時点について第1の平均心拍サイクル波形を形成するステップであって、前記第1の平均心拍サイクル波形は、前記第1の時点での前記複数のn次多項式フィットの値から形成される、ステップとを有する、コンピュータ実装方法。
【請求項2】
前記第1の期間内の第2の時点について第2の平均心拍サイクル波形を形成するステップであって、前記第2の平均心拍サイクル波形は、前記第2の時点で前記複数のn次多項式フィットの値から形成される、ステップを有する、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項3】
前記第1の平均心拍サイクル波形と、前記第2の平均心拍サイクル波形とを比較して、前記第1の時点と前記第2の時点との間の前記平均心拍サイクル波形の変化を特定するステップをさらに有する、請求項2に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項4】
前記第1の平均心拍サイクル波形及び前記第2の平均心拍サイクル波形から前記対象者の血圧の尺度又は前記対象者の血圧の変化の尺度を決定するステップをさらに有する、請求項2又は3に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項5】
前記第1の平均心拍サイクル波形を処理して前記対象者の血圧の尺度を決定するステップをさらに有する、請求項1に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項6】
前記第1のラグタイム値及び前記1つ又は複数のさらなるラグタイム値の各々は、前記対象者の心拍サイクルの持続期間以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項7】
各特定された心拍サイクルについての前記基準点は、前記対象者の脈波の始まりである、請求項1から6のいずれか一項に記載のコンピュータ実装方法。
【請求項8】
対象者から得られた脈波信号、すなわちPWSを解析するための装置であって、前記PWSは、第1の期間中の前記対象者の複数の心拍サイクルについての脈波測定値を含み、前記装置は、
(i)前記PWSを解析して、複数の心拍サイクルを特定し、各特定された心拍サイクルについてそれぞれの基準点を特定し、
(ii)前記PWSの時間に関する二階微分信号として2PWSを決定し、
(iii)それぞれの特定された心拍サイクルに対応する前記2PWSの各部分について、前記心拍サイクルについて特定された前記基準点において、前記2PWSの振幅に関して前記2PWSの前記部分を正規化することによって正規化された2PWSを決定し、
(iv)第1のラグタイム値について、前記正規化された2PWSの第1のセットの値についてn次多項式フィットを決定し、前記正規化された2PWSの前記第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの前記基準点から前記第1のラグタイム値が生じる前記正規化された2PWSの値を含み、nは1以上であり、
(v)前記1つ又は複数のさらなるラグタイム値について、動作(iv)の1回又は複数回のさらなる反復を行い、前記正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィットを決定し、前記正規化された2PWSのそれぞれのセットの値は、各特定された心拍サイクルの前記基準点から前記それぞれのさらなるラグタイム値が生じる前記正規化された2PWSの値を含み、
(vi)前記第1の期間内の第1の時点について第1の平均心拍サイクル波形を形成し、前記第1の平均心拍サイクル波形は、前記第1の時点での前記複数のn次多項式フィットの値から形成される、装置。
【請求項9】
前記第1の期間内の第2の時点について第2の平均心拍サイクル波形を形成し、前記第2の平均心拍サイクル波形は、前記第2の時点での前記複数のn次多項式フィットの値から形成される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記第1の平均心拍サイクル波形と、前記第2の平均心拍サイクル波形とを比較して、前記第1の時点と前記第2の時点との間の前記平均心拍サイクル波形の変化を特定する、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記第1の平均心拍サイクル波形及び前記第2の平均心拍サイクル波形から前記対象者の血圧の尺度又は前記対象者の血圧の変化の尺度を決定する、請求項9又は10に記載の装置。
【請求項12】
前記第1の平均心拍サイクル波形を処理して前記対象者の血圧の尺度を決定する、請求項8に記載の装置。
【請求項13】
前記第1のラグタイム値及び前記1つ又は複数のさらなるラグタイム値の各々は、前記対象者の心拍サイクルの持続期間以下である、請求項8から12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
各特定された心拍サイクルについての前記基準点は、前記対象者の脈波の始まりである、請求項8から13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
コンピュータ可読コードが具現化されるコンピュータ可読媒体であって、前記コンピュータ可読コードは、好適なコンピュータ又はプロセッサによる実行時に、前記コンピュータ又は前記プロセッサに、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法を実行させる、コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、対象者から得られた脈波信号に関し、脈波信号は、対象者の複数の心拍サイクルについての脈波測定値を有する。より詳細には、本開示は、脈波信号を解析するための方法、装置及びコンピュータプログラム製品に関する。
【背景技術】
【0002】
血圧(BP)は、人/対象者の健康の重要な指標である。米国では、成人人口の約30%は血圧が高いと推定される。高血圧症は、明らかな外見の兆候がない共通の健康問題である。血圧は一般に、年齢と共に上昇し、その後の生活の中で高血圧になるというリスクに注目すべきである。持続性高血圧症は、発作、心不全及び死亡率の増加に関する重要なリスク要因の1つである。対象者の症状は、生活スタイルの変化、健康的な食事の選択及び投薬によって改善することができる。とりわけ高リスクの患者に関して、通常の日常生活活動の邪魔をしないシステムを利用する継続的24時間の血圧モニタリングが極めて重要である。血圧の継続的モニタリングはまた、健康管理環境、例えば病院などでの、手術室(OR)又は集中治療出力(ICU)においても患者にとって有益であり得る。低血圧は、重要な器官の酸素供給の欠乏につながり、器官が損傷する結果になる場合もある。血圧が高過ぎると、外科手術、特に脳外科手術中、又は術後に特に、防止すべきである出血を引き起こす可能性がある。
【0003】
例えば血圧の変化の測定に関して、一部のケースでは、血圧の絶対測定値を得ることができ、他のケースでは、血圧の相対測定値を得る場合もある。とりわけ血圧は、例えば数分程度の短い時間ウィンドウにわたって変化する場合があり、このような変化は、さらなる診察、及び場合によっては医学的介入に該当する場合がある。
【0004】
血圧を測定する、及び/又は血圧の変化を測定するのに利用可能ないくつかの異なる技術がある。これらの技術の一部は、血圧自体を測定するが、他の技術は、対象者の他の生理学的特徴を測定し、例えば、生理学的特徴の変化又は値を、血圧の変化又は値と関連付けることによってこれらを血圧の代用として使用する。血圧を直接測定する技術の一部は、対象者の動脈への侵襲式の接近を必要とする、又は膨張式カフなどのかさばる/不便な器具の利用を必要とする。しかしながら、血圧の代用として使用される生理学的特徴は、対象者の身体に貼り付けられた簡素な及び/又は目立たないセンサを使用して測定することができる。
【0005】
トノメータは、圧力が動脈に加えられたとき、外部に配置された力センサ又は圧力センサを使用して動脈拡張(すなわち動脈の拡張を表す波形)を測定する。或いは、何回かの心臓の周期(心拍サイクル)の間の身体の一部における血流のボリュームの変化を表す1つ又は複数のPPG信号を取得するために、1つ又は複数の光電式容積脈波記録法(PPG)センサが身体の一部に配置される場合がある。これらの技術は両方とも、対象者の何回かの心拍サイクルをカバーする、対象者からの脈波信号(PWS)を取得する。この脈波形/信号を解析して、代用血圧測定値として使用される1つ又は複数の生理学的特徴を特定することができる。
【0006】
代用血圧測定値として使用することができる1つの生理学的特徴は、脈波伝搬速度(PWV)である。心臓が拍動するとき、大動脈及びさらなる動脈系の血液を通して脈波が生成される。脈波の速度(脈波伝播速度と呼ばれる)は、血液(流体)特性及び何らかの動脈の(直径及びコンプライアンスのような)特性によって影響を受ける。これらの血液特性及び動脈特性はまた、血圧によっても影響を受け、そのため、PWVの変化は血圧の変化と関連付けることができる。
【0007】
PWVを測定するための一部の技術は、2スポット又はダブルスポット手法を使用する。これは、2つの信号を同時に捕らえるために2つのセンサ(例えばPPGセンサ)を必要とする。第1のセンサからの信号は、近位の場所での、例えば心臓に近くでの脈波の始まりを検出するのに使用される。第2のセンサからの信号は、遠位の場所での、例えば患者の指の大腿動脈での、脈波の到達を検出するのに使用される。
【0008】
しかしながら、測定器具による対象者の不便さを最小限にするために、PWVを測定するためのシングルスポット技術が開発されている。これらの技術は、動脈樹における脈波反射を利用する。大動脈から、例えば指まで進む直接脈波が存在し、大動脈から腎臓の分岐まで進み、その後腎臓の分岐から指まで進む間接脈波が存在する。この方法において、間接(反射)脈波は、直接脈波よりも指の場所に遅く到達する。直接脈波及び間接脈波の到達時間が指で測定されるとき、これらの到達時間の差分は、大動脈弓から腎臓の分岐に進み、そこから戻るのに必要とされる時間を提供する。反射脈波のこの余分な進行距離の知識(又は概算)を利用して、以下の式(1)による反射波の脈波伝播速度を推定することが可能である。
【数1】
ここで、Lhrは、大動脈弓と腎臓の分岐との間の距離であり、PRTは、いわゆる脈拍反射時間であり、これは、間接脈波の開始(上に向かう側面)の時間までの、直接脈波の開始(上に向かう側面)の間の時間として定義される。PRTを算出するのに必要とされる時間t及びtは、例えば時間に対するPPG波形の二階微分を介して得られる、PPG測定値のいわゆる「加速度波形」を介して決定することができる。
【0009】
典型的には、図1に示されるように、加速度波形は、5つの「参照点」又は「基準点」から成るとみなされる。図1(a)は、指摘された重複隆起を有する1秒間に及ぶ例示のPPG信号を示す。図1(b)は、時間に関する、図1(a)のPGG信号の一階微分信号を示し、図1(c)は、時間に関する図1(a)のPGG信号の二階微分信号を示す。一階微分信号は、v-PPGと示され、二階微分信号(加速度波形)は、a-PPGと示される。5つの基準点が、加速度波形、図1(c)に示される。a点は、直接脈波の開始の印となり、b点は、直接脈波の終わりの印となる。e点は、収縮期期間の終わり(大動脈弁閉鎖)の印となり、この開示の目的のために、c点は、反射波の開始の印となり、d点は、反射波の終わりの印となるとみなされる。
【0010】
図2は、式(1)によるシングルスポットPPG測定及びPWV派生の一例を示す。図2(a)におけるグラフは、ICU患者の5時間の期間にわたるmmHgでの平均動脈圧(MAP)を示す。図2(b)におけるグラフは、2Lhr(心臓から腎臓の分岐の距離までの2倍)を75cmとする推定で、式(1)によるPPG信号から計算したm/sでのPWVを示す。
【0011】
シングルスポット測定値からMAPと脈波伝播速度との間に強力な正の相関があることを図2に見ることができる。しかしながら、脈波伝播速度測定値の確実さは、とりわけ2スポット測定手法から得られた脈波伝播速度と比べたとき、脈波伝播速度値に多くの異常値が存在するため、疑われる場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
シングルスポット脈波伝播速度測定に関する問題の一部は、反射脈波の参照点を検出することが常に容易ではないことである。これは、図1(c)におけるa-PPGプロットから見ることができる。このPPG信号の二階微分信号を算出することは、元のPPG信号における量子化及びノイズが理由で、極めて品質の劣る信号につながる。改善された参照点検出を獲得するために、(一時的又は多数の心拍にわたるいずれかの)信号平滑化を適用することができる。そのような平滑化の後、参照点を確実に検出することが可能になる。しかしながら、c点及びd点(これらは反射波に関連する)の良好な検出のために、参照点を確実に検出することができるようになるには、かなり大幅な平滑化が適用される必要がある。あまりにも一時的過ぎる平滑化は、高周波参照点におけるロスにつながるのに対して、多数の心拍サイクルにわたるあまりにも大きな平均化は、時間が変動する条件下で問題を提示する。
【0013】
したがって、心拍サイクル波形の平均化を改善する要望がある。
【0014】
本明細書に記載される技術は、多数の心拍サイクルにわたる平均化を適用して、結果として生じる平均におけるノイズを削減又は除去することで、反射脈波及び/又は心拍サイクル波形の他の特徴の改善された解析を可能にする。上記で指摘したように、反射脈波の解析は、代用血圧測定として使用することができるが、平均化された心拍サイクル波形の解析は、対象者の健康の他の局面、例えば完全に入院中の患者の動脈コンプライアンスの傾向をモニタリングするのに使用することができることを理解されたい。
【課題を解決するための手段】
【0015】
第1の特有の態様によると、対象者から得られた脈波信号(PWS)を解析するためのコンピュータ実施方法が提供される。PWSは、第1の期間中の対象者の複数の心拍サイクルについての脈波測定値を含む。方法は、(i)PWSを解析して、複数の心拍サイクルを特定し、各特定された心拍サイクルについてそれぞれの基準点を特定するステップと、(ii)PWSの時間に関して二階微分信号として2PWSを決定するステップと、(iii)それぞれの特定された心拍サイクルに対応する2PWSの各部分について、前記心拍サイクルについて特定された基準点において、2PWSの振幅に関して2PWSの前記部分を正規化することによって正規化された2PWSを決定するステップと、(iv)第1のラグタイム値について、正規化された2PWSの第1のセットの値についてn次多項式フィットを決定するステップであって、正規化された2PWSの第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点から第1のラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含み、nは、1以上である、ステップと、(v)1つ又は複数のさらなるラグタイム値についてステップ(iv)の1回又は複数回のさらなる反復を行って正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィットを決定するステップであって、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点からそれぞれのさらなるラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含む、ステップと、(vi)第1の期間内の第1の時点について第1の平均心拍サイクル波形を形成するステップであって、第1の平均心拍サイクル波形は、第1の時点での複数のn次多項式フィットの値から形成される、ステップとを含む。したがって、この態様は、第1の期間にわたるPWSにおける傾向を考慮し、例えばシングルスポット測定技術を使用して得られたPWSの改善された解析を可能にする改善された平均心拍サイクル波形を提供する。
【0016】
いくつかの実施形態において、方法は、第1の期間内の第2の時点について第2の平均心拍サイクル波形を形成するステップであって、第2の平均心拍サイクル波形は、第2の時点で複数のn次多項式フィットの値から形成される、ステップをさらに含む。
【0017】
これらの実施形態では、方法は、第1の平均心拍サイクル波形と、第2の平均心拍サイクル波形を比較して、第1の時点と第2の時点との間の平均心拍サイクル波形の変化を特定するステップをさらに含むことができる。これらの実施形態は、例えば心拍サイクルに関連する特性がどのように変化したかを評価するために、第1の期間にわたる平均心拍サイクル波形における変化が評価され得ることを実現する。
【0018】
これらの実施形態では、方法は、第1の平均心拍サイクル波形及び第2の平均心拍サイクル波形から対象者の血圧の尺度又は対象者の血圧の変化の尺度を決定するステップをさらに含むことができる。
【0019】
いくつかの実施形態において、方法は、第1の平均心拍サイクル波形を処理して対象者の血圧の尺度を決定するステップをさらに含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、第1のラグタイム値及び1つ又は複数のさらなるラグタイム値の各々は、対象者の心拍サイクルの持続期間以下である。
【0021】
いくつかの実施形態において、各特定された心拍サイクルについての基準点は、対象者の脈波の始まりである。この基準点は、時間に関するPWSの一階微分信号又は二階微分信号を検出するのが比較的容易であるために有益である。
【0022】
いくつかの実施形態において、ステップ(ii)は、ステップ(i)より前、又はその一部として実行され、ステップ(i)は、複数の心拍サイクルを特定し、2PWSにおける局所最大値として、各特定された心拍サイクルについてのそれぞれの基準点を特定するステップを含むことができる。
【0023】
代替の実施形態では、ステップ(ii)は、ステップ(i)より前、又はその一部として実行され、ステップ(i)は、PWSの時間に関する一階微分信号(1PWS)におけるピークを検出するステップと、1PWSにおける検出されたピークによって規定されるそれぞれのサーチウィンドウ内で複数の心拍サイクルを特定し、2PWSにおける局所最大値として各特定された心拍サイクルについてのそれぞれの基準点を特定するステップを含むことができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、nは1である。他の実施形態では、nは2である。いくつかの実施形態において、PWSは、光電式容積脈波記録法(PPG)信号である。
【0025】
第2の態様において、対象者から得られた脈波信号(PWS)を解析するための装置が提供される。PWSは、第1の期間中の対象者の複数の心拍サイクルについての脈波測定値を含む。装置は、(i)PWSを解析して、複数の心拍サイクルを特定し、各特定された心拍サイクルについてそれぞれの基準点を特定し、(ii)PWSの時間に関して二階微分信号として2PWSを決定し、(iii)それぞれの特定された心拍サイクルに対応する2PWSの各部分について、前記心拍サイクルについて特定された基準点において、2PWSの振幅に関して2PWSの前記部分を正規化することによって正規化された2PWSを決定し、(iv)第1のラグタイム値について、正規化された2PWSの第1のセットの値についてn次多項式フィットを決定し、正規化された2PWSの第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点から第1のラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含み、nは1以上であり、(v)1つ又は複数のさらなるラグタイム値について、動作(iv)の1回又は複数回のさらなる反復を行い、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィットを決定し、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点からそれぞれのさらなるラグタイム値が生じる正規化された2PWSの値を含み、(vi)第1の期間内の第1の時点について第1の平均心拍サイクル波形を形成し、第1の平均心拍サイクル波形は、第1の時点での複数のn次多項式フィットの値から形成されるように構成される。したがってこの態様は、第1の期間にわたってPWSにおける傾向を考慮し、例えばシングルスポット測定技術を使用して得られたPWSの改善された解析を可能にする改善された平均心拍サイクル波形を提供する。
【0026】
いくつかの実施形態において、装置は、第1の期間内の第2の時点について第2の平均心拍サイクル波形を形成するようにさらに構成され、第2の平均心拍サイクル波形は、第2の時点での複数のn次多項式フィットの値から形成される。
【0027】
これらの実施形態では、装置は、第1の平均心拍サイクル波形と、第2の平均心拍サイクル波形とを比較して、第1の時点と第2の時点との間の平均心拍サイクル波形の変化を特定するようにさらに構成され得る。これらの実施形態は、例えば心拍サイクルに関連する特性がどのように変化したかを評価するために、第1の期間にわたる平均心拍サイクル波形の変化が評価され得ることを実現する。
【0028】
これらの実施形態では、装置は、第1の平均心拍サイクル波形及び第2の平均心拍サイクル波形から対象者の血圧の尺度又は対象者の血圧の変化の尺度を決定するようにさらに構成され得る。
【0029】
いくつかの実施形態において、装置は、第1の平均心拍サイクル波形を処理して対象者の血圧の尺度を決定するようにさらに構成され得る。
【0030】
いくつかの実施形態において、第1のラグタイム値及び1つ又は複数のさらなるラグタイム値の各々は、対象者の心拍サイクルの持続期間以下である。
【0031】
いくつかの実施形態において、各特定された心拍サイクルについての基準点は、対象者の脈波の始まりである。この基準点は、時間に関するPWSの一階微分信号又は二階微分信号を検出するのが比較的容易であるため有益である。
【0032】
いくつかの実施形態において、動作(ii)は、動作(i)より前、又はその一部として実行され、動作(i)は、複数の心拍サイクルを特定し、2PWSにおける局所最大値として、各特定された心拍サイクルについてのそれぞれの基準点を特定するステップを含むことができる。
【0033】
代替の実施形態では、動作(ii)は、動作(i)より前、又はその一部として実行され、動作(i)は、PWSの時間に関する第1の派生(1PWS)におけるピークを検出するステップと、1PWSにおける検出されたピークによって規定されるそれぞれのサーチウィンドウ内で複数の心拍サイクルを特定し、2PWSにおける局所最大値として、各特定された心拍サイクルについてのそれぞれの基準点を特定するステップを含むことができる。
【0034】
いくつかの実施形態において、nは1である。他の実施形態では、nは2である。
【0035】
いくつかの実施形態において、PWSは、光電式容積脈波記録法(PPG)信号である。
【0036】
いくつかの実施形態において、装置は、対象者からPWSを取得するための脈波センサをさらに備える。代替の実施形態では、装置は、脈波センサからPWSを受け取るように構成される。
【0037】
第3の態様によると、コンピュータ可読コードが具現化されるコンピュータ可読媒体を備えるコンピュータプログラム製品が提供され、コンピュータ可読コードは、好適なコンピュータ又はプロセッサによる実行時に、コンピュータ又はプロセッサに、第1の態様による、又はその任意の実施形態による方法を実行させるように構成されている。
【0038】
これらの及び他の態様は、以下に記載される実施形態から明白となり、これらの実施形態による明瞭となる。
【0039】
例示の実施形態がここで、単なる一例として、以下の図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1(a)】PPG信号の1秒セグメントを示す図である。
図1(b)】PPG信号の一階微分信号を示す図である。
図1(c)】PPG信号の二階微分信号を示す図である。
図2(a)】5時間の期間にわたる平均動脈圧力の測定値を示す図である。
図2(b)】同じ期間についての式(1)によるシングルスポットPPG測定値及びPWV微分信号の一例を示す図である。
図3】種々の例示の実施形態による装置のブロック図である。
図4】種々の実施形態による対象者から得られた脈波信号を解析するための方法を例示するフローチャートである。
図5(a)】PPG信号の1秒セグメントを示す図である。
図5(b)】PPG信号の一階微分信号を示す図である。
図5(c)】PPG信号の二階微分信号を示す図である。
図6(a)】1分の時間ウィンドウにおける動脈圧力のグラフである。
図6(b)】60秒の時間ウィンドウ中の脈波信号の二階微分信号のグラフである。
図7】互いと重ね合わされた脈波信号の二階微分信号において特定された複数の波形を示すグラフである。
図8図7に示される複数の波形の0次平均を示すグラフである。
図9】共通の参照点から特定のラグタイム値での脈波信号の二階微分信号において特定された複数の波形からの値と、表示された値についての3つのn次多項式フィットとを示すグラフである。
図10】60秒の時間ウィンドウ中のいくつかの時点についての1次平均波形を示す図である。
図11】種々の実施形態による脈波信号を解析する中での種々の動作を例示する機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本明細書に記載される技術は、多数の心拍サイクルにわたる平均化を適用することで、結果として生じる平均におけるノイズを削減又は除去することで、反射脈波及び/又は心拍サイクル波形の他の特徴の改善された解析を可能にする。反射脈波の解析は、代用血圧測定として使用することができるが、平均化された心拍サイクル波形の解析は、対象者の健康の他の局面についての情報を提供することができることを理解されたい。記載される技術は、単一のセンサが対象者に貼り付けられる、いわゆるシングルスポット測定技術の場合にとりわけ有益である。
【0042】
対象者の身体にある測定点において脈の変化/脈波に関する情報を含む脈波信号(PWS)について、平滑化されるべき心拍サイクルの各々についての基準点がPWSにおいて特定される。PWSは、例えば、トノメータを使用して得られたPPG信号又は脈波信号であり得る。特定されるべき基準点は好ましくは、脈波の最初の上に向かう側面に関し、これは、反射の影響を受けるべきではなく、したがって安定した基準点(すなわち血圧の変化に左右されない)であるべきである。しかしながら、所望であれば、異なる基準点が使用される場合もあることを理解されたい。次に、平均心拍サイクル波形を算出するために、基準点の種々の発生の時間及び振幅が使用される。時間ウィンドウにわたる全ての心拍サイクル波形の通常の平均化は、時間が変動する状況を考慮にいれない。そのような通常の平均化は、WO2015/044010号に記載されている。本明細書に記載される平均化技術は、平均化処置(ラグ、すなわちラグタイムは、各心拍サイクルについて特定されたa基準点に対する時間であり、例えば各心拍サイクルについて特定された基準点に対する時間である)において各ラグについての時間の(線形)変動を考慮するように平均化を拡張する。
【0043】
図3は、本明細書に記載される技術の種々の実施形態によるPWSを解析するための装置30のブロック図である。対象者の身体にある単一の地点で圧力波を測定し、PWSを出力するのに使用される脈波センサ32が図3に示される。脈波センサ32は、いくらかの適用圧力で対象者の(上)腕に貼り付けることができ、NXP SemiconductorsからのMPXV6115 Series Integrated Silicon Pressure Sensorなどを使用する、任意のタイプの圧力センサ、例えばPPGセンサ、トノメータ(圧力計)ベースのセンサ又は油圧式センサパッドであり得る。いくつかの実施形態において、脈波センサ32は、装置の一部である、又は装置30と一体式の場合もある。他の実施形態において、装置30は、直接(例えば有線で)又は間接的に(例えば、Bluetooth、WiFi、セルラー方式通信プロトコルなどの無線通信技術を使用して)脈波センサ32に接続される場合もある。代替の実施形態では、装置30は、脈波センサ32に接続されず、代わりに装置30は、サーバ又はデータベースなどの別のデバイス又は装置からPWSを取得することができる。
【0044】
知られているように、PPGセンサ32は、例えば腕、脚、耳たぶ、指などの対象者の身体の上に配置することができ、身体のその部分を通過する血液のボリュームに関連する出力信号(「PPG信号」)を提供することができる。身体のその部分を通過する血液のボリュームは、身体のその部分における血液の圧力に関連する。PPGセンサ32は典型的には、光センサと、1つ又は複数の光源とを備える。PPGセンサ32によって出力されたPPG信号は、光センサからの生の測定信号である(例えばPPG信号は、経時的な光強度を表す信号であり得る)。或いは、PPGセンサ32は、例えば、ノイズを削減するため、及び/又はモーションアーテファクトを補償するために、光強度信号の何らかの前処理を実行するが、この前処理は、本明細書に記載される技術の実施のために必須ではないことを理解されたい。
【0045】
装置30は、サーバ、デスクトップコンピュータ、ラップトップ、タブレットコンピュータ、スマートフォン、スマートウォッチなどのコンピューティングデバイスの形態である、又はコンピューティングデバイスの一部である、或いは、対象者/患者の種々の生理学的特徴をモニタする(及び任意選択で表示する)のに使用される患者モニタリングデバイス(例えば臨床環境での患者の枕元に位置するモニタリングデバイス)など、臨床環境で典型的に見られるデバイスのタイプである。
【0046】
装置30は、装置30の動作を制御し、PWSを解析するために本明細書に記載される方法を実施及び/又は実行するように構成され得る処理ユニット34を含む。処理ユニット34は、本明細書に記載される種々の機能を実行するために、ソフトウェア及び/又はハードウェアを備えて、多数のやり方で実装することができる。処理ユニット34は、必要な機能を実行するため、及び/又は必要とされる機能をもたらすために処理ユニット34の構成要素を制御するために、ソフトウェア又はコンピュータプログラムコードを使用してプログラミングされる1つ又は複数のマイクロプロセッサ又はデジタル信号プロセッサ(DSP)を備える。処理ユニット34は、任意の機能を実行するための専用ハードウェア(例えば、増幅器、前置増幅器、アナログデジタル変換器(ADC)及び/又はデジタルアナログ変換器(DAC))と、他の機能を実行するためのプロセッサ(例えば1つ又は複数のプログラムされたマイクロプロセッサ、コントローラ、DSP及び関連付けられた回路)との組み合わせとして実装される。本開示の種々の実施形態で採用される構成要素の例は、これに限定するものではないが、従来のマイクロプロセッサ、DSP、特定用途向け集積回路(ASIC)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、ニューラルネットワークを実装するためのハードウェア、及び/又はいわゆる人工知能(AI)ハードウェアアクセラレータ(すなわちメインプロセッサの傍らで使用することができる、AI用途に特別に設計されたプロセッサ又は他のハードウェア)を含む。
【0047】
処理ユニット34は、装置30の動作を制御する際に、及び/又は本明細書に記載される方法を実施又は実行する際に、処理ユニット34による使用のためにデータ、情報及び/又は信号を記憶することができるメモリユニット36に接続される。いくつかの実装形態では、メモリユニット36は、処理ユニット34が、本明細書に記載される方法を含めた、1つ又は複数の機能を実行するために、処理ユニット34によって実施され得るコンピュータ可読コードを記憶する。詳細な実施形態では、プログラムコードは、スマートウォッチ、スマートフォン、タブレット、ラップトップ又はコンピュータのための用途の形態であり得る。メモリユニット36は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、スタティックRAM(SRAM)、ダイナミックRAM(DRAM)、リードオンリメモリ(ROM)、プログラマブルROM(PROM)、消去可能なPROM(EPROM)及び電気的に消去可能なPROM(EEPROM)などの揮発性及び不揮発性コンピュータメモリを含むキャッシュ又はシステムメモリなどの任意のタイプの非一時的マシン可読媒体を備えることができ、メモリユニット36は、メモリチップ、光学ディスク(コンパクトディスク(CD)、デジタル多用途ディスク(DVD)又はブルーレイディスクなど)、ハードディスク、テープストレージソリューション、又はメモリスティック、ソリッドステートドライブ(SSD)、メモリカードなどを含むソリッドステートデバイスの形態で実装することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、装置30は、装置30のユーザが情報、データ及び/又は命令を装置30に入力することを可能にする、及び/又は装置30が装置30のユーザに情報又はデータを出力することを可能にする1つ又は複数の構成要素を含むユーザインターフェース38を備える。ユーザインターフェース38によって出力され得る情報は、1つ又は複数の期間についての平均化された心拍サイクル波形の指示又は実例、及び/又は平均心拍サイクル波形から得られた情報を含むことができる。ユーザインターフェース38は、任意の好適な入力構成要素を備えることができ、これに限定するものではないがキーボード、キーパッド、1つ又は複数のボタン、スイッチ又はダイアル、マウス、トラックパッド、タッチスクリーン、スタイラス、カメラ、マイクロフォンなどが含まれ、及び/又はユーザインターフェース38は、任意の好適な出力構成要素を備えることができ、これに限定するものではないが、ディスプレイスクリーン、1つ又は複数の光源もしくは光源要素、1つ又は複数のラウドスピーカー、振動要素などが含まれる。
【0049】
装置30の実際の実装形態は、図3に示されるもの対して追加の構成要素を含むことを理解されたい。例えば、装置30は、バッテリなどの電源、又は装置30がメイン電源に接続されることを可能にするための構成要素も含む。装置30は、脈波センサ32(脈波センサ32が装置30から離れている実施形態での)、サーバ、データベース、ユーザデバイス及び/又は他のセンサを含めた他のデバイスへのデータ接続、及び/又は他のデバイスとのデータ交換を可能にするためのインターフェース回路も含む。
【0050】
図4におけるフローチャートは、種々の実施形態による、対象者から得られたPWSを解析するための例示の方法を示す。いくつかの実施形態において、装置30内の処理ユニット34は、図4における方法を実施するように構成することができる。他の実施形態では、コンピュータ又は処理ユニット34がコードを実施するとき、コンピュータ又は処理ユニット34に図4の方法を実行させるコンピュータ可読コードが提供され得る。
【0051】
PWSは、対象者上の単一の測定点に位置する脈波センサ32から受信され、PWSは、対象者の複数の心拍サイクル(すなわち心拍動)についての脈波測定値を表す。PWSは、サンプリングレートFで取得される。図4における方法は、PPG信号の形態でPWSを参照して以下に記載されるが、方法は、PWSの他の形態に適用され得ることを理解されたい。いくつかの実施形態において、図4における方法は、PWSが対象者から受信される、又は測定されるとき、PWSに対して周期的に又は継続的に行うことができる。いくつかの実施形態において、図4の方法は、例えば1時間の期間をカバーするPWSの1分ウィンドウなど、より長いPWSのウィンドウ部分に対して作用することができる。しかしながら、方法は、任意の数の心拍サイクルをカバーする任意の所望の長さを有するPWSに適用することができることを理解されたい。以下の記載では、PWSに対して実行される動作又はステップへの言及は、例えば1分の期間に対応する部分など、対象のPWSの一部に対してそのような動作又はステップを実行することに関連する。
【0052】
方法の第1のステップ、ステップ40では、心拍サイクルを特定するためにPWSが解析され、各心拍サイクルについてそれぞれの基準点が特定される。基準点は、心拍サイクルを「整列させ」、平均を決定することを可能にするために、その後のステップで使用することができる各心拍サイクルにおける特定の点である。
【0053】
図1を参照して上記に記載したように、「加速度波形」における各心拍サイクル(時間に対するPWSの第2の派生)は、5つの「参照点」又は「基準点」を有するようにみなすことができる。a基準点は、直接脈波の開始の印となり、これは、脈波(心臓の拍動によって生じる血液の脈)の始まりであり、b点は、直接脈波の終わりの印となる。e点は、収縮期間の終わり(大動脈弁閉鎖)の印となり、この開示の目的のために、c点は、反射波の開始の印となり、d点は、反射波の終わりの印となるとみなされる。好ましくは、ステップ40において、各心拍サイクルについての基準点は、脈波の始まり(脈波の直接部分)であり、これは、収縮段階の開始、すなわち基準点aとして見ることができる。しかしながら、他の実施形態では、ステップ40において基準点の他の1つを特定することができる、又は当然のことながら、図1(c)に示される基準点aからeの異なる基準点を特定することができることを理解されたい。
【0054】
以下において、時間に対するPWSの一階微分に対応する信号は、「1PWS」として示され、時間に対するPWSの二階微分に対応する信号は、「2PWS」として示される。PPG信号の特有の例を参照して説明するとき、1PWSは、「速度波形」(v-PPG)とも呼ばれ、2PWSは「加速度波形」(a-PPG)とも呼ばれる。
【0055】
ステップ40のいくつかの実施形態は、2PWSに表される各心拍サイクルにおける局所最大値を検出することによって脈波の始まりの検出を行う。しかしながら、二階微分されたPPG信号は、元のPPG信号におけるノイズ又は量子化が理由で、低品質である場合があることを図1(c)に見ることができる。
【0056】
したがって、より好ましい実施形態では、脈波の始まりは、2段階プロセスを使用して検出される。図5(a)は、図1(a)に示されるPPG信号の同一の1秒セグメントを示す。図5(b)は、時間に対するPPG信号の一階微分信号(v-PPG)を示し、図5(c)は、時間に対するPPG信号の二階微分信号(a-PPG)を示す。図5(a)では、2つの心拍サイクルについての脈波の始まりは、50でラベル付けされた点によって指摘され、この実施形態の目的は、これらの点を特定することである。第1の段階では、時間に対するPPG信号の一階微分信号(1PWS)のピーク検出が行われる。v-PPG信号におけるピークは、元のPPG波形(図5(a)に示される)における最も急勾配の側面に概ね一致することを図5(b)に見ることができる。v-PPG信号において検出されたピークは、52でラベル付けされる。
【0057】
1PWSにおける最大速度ピーク52を検出した後、その後、第2の段階において、最大速度ピーク52の各々のタイミングに基づいて、狭くなった(局所)サーチウィンドウが2PWS(例えば図5(c)に示されるa-PPG)に適用され、2PWSにおけるそのような狭くなった(局所)ウィンドウの最大ピークが検出される。狭くなったサーチウィンドウは、30~100msの持続期間を有することができる。これらの最大ピークは、所望のa基準点に対応する、すなわち脈波の始まりはPWS信号における上に向かう側面に対応する。図5(c)に示されるa-PPG波形において、狭くなったサーチウィンドウは、検出された速度ピーク52のタイミングで終わる水平線54によって示される。a-PPG波形においてこれらの狭くなったサーチウィンドウにおいて特定された最大ピークは、56でラベル付けされ、所望のa基準点に対応する。
【0058】
2PWSは、信号の量子化が貧弱である場合に雑音が多くなる場合があるため、1PWSにおけるピークの検出より前に何らかの平滑化を行うことが有益であり得る。この平滑化は、微分の前にPWSに適用することができる、又はピーク検出が行われる前に1PWSに適用される場合もある。いくつかの実施形態において、平滑化は、例えばSavitzky-Golayフィルタリングなどのフィルタリングを用いて達成することができる。平滑化プロセス及び平滑化されたPWS/1PWSを微分して2PWSを決定することの結果は、図5(c)における平滑化されたラインによって見ることができる。
【0059】
図5(c)では、b波、c波、d波及びe波の最大値/最小値も、第1の心拍サイクルについて示されている。c波及びd波は、非常に小さく(この最適なケースの状況ですら)、典型的には確実に検出するのは極めて難しいことが分かる。これは、a基準点の検出についての選択を例示するが、上記で指摘したように、ステップ40において他の基準点の検出を目標とすることも可能である。以下では、平均心拍サイクル波形を決定するために、多数の心拍サイクルについて検出されたa基準点を使用して多数の心拍サイクルの平均化を実行する。
【0060】
次に、ステップ42、44及び46では、平均化技術がPWSに適用されて、PWSによってカバーされる期間における1つ又は複数の時点Yについての平均心拍サイクル波形を決定する。ステップ42、44及び46は、図6(b)に示される例示の2PWS(a-PPGの形態の)を参照して以下に記載される。図6(b)における2PWSは、特定の対象者についての1分の期間をカバーするPPG信号から得られる。この1分の期間は、対象者の74の心拍サイクルをカバーする。a-PPG波形における各心拍サイクルについてステップ40において特定されたそれぞれの基準点は、図6(b)において印が付けられる。図6(a)は、図6(b)におけるa-PPG信号が関連する同じ対象者及び同じ期間についての動脈血圧(ABP-細いライン)及び平均動脈圧(MAP-より太いライン)の測定値を示す。ABP測定値が図6(a)に示されて、図6(b)におけるa-PPG波形についての状況を提供し、ABP測定値は典型的には、シングルスポットPWS測定値が取得されている対象者に対しては利用することはできないことを理解されたい。20秒から40秒の間の20mmHg程の平均動脈圧力に増加があることを図6(a)に見ることができる。a-PPG波形(図6(b))では、30秒前後に何らかの目に見える変化があり(例えば0~30秒でa基準点の大きな呼吸器の変調、及び30~60秒のa基準点の小さな呼吸器の変調)、本明細書に記載される平均化技術を使用して、60秒ウィンドウにわたる、及び/又は60秒ウィンドウを通してa-PPG波形の形態学の変化を特定及び/又は解析することができる。
【0061】
a-PPGの形態学が60秒の持続期間にわたってどのように変化するかを示すために、図7は、互いに重ね合わせた図6(b)のa-PPG波形からの7つの心拍サイクルを示すグラフである。図7に含まれる7つの心拍サイクルは、図6(b)では1~7でラベル付けされ、それらは、1分の時間ウィンドウを通して相対的に均等に離間される。これらの7つの心拍サイクルは、心拍サイクルがどのように変化し得るかの表現を簡単に提供するために図6(b)において特定された心拍サイクルから任意で選択されていることに留意されたい。図7では、選択された7つの心拍サイクルについてのa-PPG波形は、整列された各a-PPG波形のa基準点と重ね合わされ、それぞれのa-PPG波形が正規化されることで、整列されたa基準点での各a-PPG波形の振幅は同じであり(振幅=1)、他の時点では、a-PPG波形は、通常-1から1の範囲内であるそれぞれの振幅を有する。整列された基準点から測定される時間は、「ラグタイム」又は「ラグタイム値」と呼ばれ、TΔkで示され、整列された基準点は、ラグタイムTΔk=0秒に対応する。図7に示される7つの波形の各々は、本明細書では「正規化された」a-PPG波形と呼ばれており、すなわちそれらは、心拍サイクルの共通の部分のあたりで(例えばこの例では、各心拍サイクルの基準点「a」で)正規化され、a-PPG波形の振幅は、その基準点で合致している。
【0062】
完全な形態学(基準点の後)は、血圧の変化が理由で経時的に変化することを図7に見ることができる。1つには第2の派生の算出におけるノイズのために、波形を別々に特定又は解析することは極めて困難であることも分かる。
【0063】
脈波形態学は、図7の例に示されるように一定に変化し得るため、多数の波形に対して平均化を単に適用することは、反射脈波の解析に関連する高周波情報を失う。したがって、線形の変化を考慮することができる平均化方法が必要とされる。本明細書に開示される平均化技術は、線形変化に対応するために拡張を含む、WO2015/044010における技術に基づいている。
【0064】
以後アルゴリズムを記載するために、ベクトルは、N/F秒の持続期間で時間ウィンドウにおけるa-PPGデータとして定義される。波形選択の基準点(これは以下の作業例は、ピーク位置、すなわちa基準点である)、長さNを有するベクトルとして列挙されており、ここで、Nは、心拍サイクルの数/特定された基準点である。図6及び図7の例では、Nは、74である。検出されたピーク位置での波形値は、
【数2】
で示され、ここでj=0,…,であり、N-1は、各心拍サイクルにおけるピークの指標である。ピーク位置の値は、
【数3】
として後に短いフォーマットで示されており、ここで、j=0,…であり、N-1は、ピークの指標である。平均化プロセスにおける次のステップは、Nに(最初のピーク(a基準点)に対して左右に向かって)近接するサンプルを解析し、最初のピークレベルと比べて平均の変化(低下)を算出することである。ピークと同様に、ピーク位置に対する近接する位置は、
【数4】
として、短いフォーマットで定義され
ここで、Δは、ピーク位置に対するラグ指標であり、これは、正又は負のいずれかで評価され得る。ラグ指標Δは、
Δ=TΔk・F (4)
を介してラグタイムTΔkに関連する。
【0065】
1分ウィンドウの内側であるピーク位置に対して全ての近接する位置について、平均レベルの変化(低下)が、
【数5】
として算出され、
ここで、Nは、その領域内にある平均化された値の数[0...N-1]に等しい。
【0066】
これは、平均化プロセスにおけるNは、ピークの数Nに必ずしも等しいわけではなく、値(+Δの一部が、長さNを有してウィンドウの外側にあるかどうかに応じて1又は2小さくなる。
【0067】
モデルの算出は、Δのいくつかの正の値及び負の値に対して行われ、反復又は繰り返しと呼ばれる。平均モデルにおける全ての平均値は、独立して算出することができる。心拍サイクルの収縮段階における平均モデル値のみが対象となるため、Δの負の値及び正の値に対する限界を適用することができる。Δの負の値について、収縮段階の開始の部分である負の値のみを含むことができる。ピーク位置は、収縮のこの開始に極めて近いため、Δの負の値は、例えば-0.1秒に等しくなるように制限することができる。Δの正の値について、収縮の残りの部分であるラグタイムが含まれる。Δについての典型的な最大の正の値は、例えば0.4秒のラグタイムTΔkに等しくなるように選択することができる。平均の正規化された波形をここで、
式(5)によって算出したような
【数6】

【数7】
として
全ての指標Δについて算出することができる。
【0068】
図8は、図7に示される正規化されたa-PPG波形からの波形7つの心拍サイクル上で重ね合わされた平均の正規化された波形(より太いライン80)を示す。事実上、上記のプロセスからの平均の正規化された波形80は、各ラグタイム値(TΔk)で各正規化された心拍サイクルの平均(平均)を取ることによって取得される。例えば、ラグタイムTΔk=+100msでの平均波形80の値(すなわち正規化された振幅)は、ラグタイムTΔk=+100msで個々の正規化された(すなわち各心拍サイクルについて特定されたa基準点に対して時間及び振幅が正規化された)a-PPG波形の値の平均(平均)によって与えられる。この平均波形80はまた、正規化されたa-PPG心拍サイクルについての0次多項式フィットとして記載することもできる。
【0069】
しかしながら図8に示されるように、完全な1分のウィンドウにわたるこの平均は、波形の形態学が経時的に変化するため、完全な1分のウィンドウにおける正規化された心拍サイクルの全てに対して適したフィットではない。
【0070】
したがって、上記の平均化処置は、ラグタイムTΔkでN値の0次平均を単に算出することによってではなく、ラグタイムTΔkでN値の1次の、又はより高次の多項式フィットを算出することによって、時間が変動する状況に対応するように一般化される。この多項式フィットは、次数n(ここでnは、1以上である)を有し、x軸上に(ラグ)時間を有し、y軸上にレベル低下値を有するため、平均化された(又は曲線フィットされた)レベル低下はまた、0より大きい多項式次数について時間依存性を有する。ラグタイムΔの各々について、m(m≦n)多項式曲線フィット係数を算出することができる。これらの係数α、・・・、αは、最小二乗法の観念での最小化を取得するための方法において算出することができ、
【数8】
ここで、
【数9】
は、線形フィットモデルであり、
【数10】
である。
【0071】
次に、多項式係数α(Δ)、・・・、α(Δ)に基づいて、平均レベルの変化(低下)を、
【数11】
のように線形フィットモデル
【数12】
を介して直接算出することができる。
【0072】
n=0の場合、式(5)によって与えられるような平均レベルの変化(低下)を取得し、式(6)の使用を介して、WO2015/044010に記載されるような、及び図8に示される平均フィットモデルを獲得し、これは、時間ウィンドウ(例えばこの例では1分のウィンドウ)内での実際の位置に依存しない。しかしながら、n>0の場合、平均フィットモデルは、時間ウィンドウ内の実際の位置に依存する。これは、図9に例示されており、これは上記の例における74の心拍サイクルについての特定されたa基準点に対する+200msのラグタイムでの正規化されたa-PPG波形値を示す。正規化されたa-PPG波形値はライン90で示される。よって、ライン90における各値は、時間ウィンドウ内の心拍サイクルの1つについてのラグタイム+200msでの正規化されたa-PPG波形の値に対応する。例えば、10番目の心拍サイクルについてのライン90の値は、a基準点から+200msラグタイムでの10番目の心拍サイクルの正規化されたa-PPG波形の値であり、25番目の心拍サイクルについてのライン90の値は、a基準点から+200msラグタイムでの25番目の心拍サイクルの正規化されたa-PPG波形の値である、などである。よって図9におけるライン90は、a基準点の後の+200msで正規化されたa-PPG波形の値が、PWSにおける心拍サイクルにわたって時間ウィンドウ内でどのように変化するかを示す。
【0073】
図9はまた、ラグタイム+200msでの正規化されたa-PPG波形値の0次平均(ライン92は、そのラグタイムでの全ての値の正に平均する(平均を引き出す)ための従来の手法に対応する)、ラグタイム+200msでの正規化されたa-PPG波形値の1次平均(ライン94)は、ラグタイム+200msでの正規化されたa-PPG波形値の1次平均、及びラグタイム+200msでの正規化されたa-PPG波形値の2次平均(ライン96)も示す。
【0074】
図9のそれぞれの変形(すなわちそれぞれのフィット後のモデル)は、特定の範囲のラグタイム値について決定される。すなわち、図9のそれぞれの変形は、それぞれのラグタイムでの正規化されたa-PPG波形の値から形成される。例えば、ラグタイム10ms、50ms、100msなどの各々について図9のそれぞれの変形が存在し得る。図9のこれらの変形は、それぞれのラグタイム値での正規化されたa-PPG波形の値がPWSにおける心拍サイクルにわたって時間と共にどのように変化するかを示す。図9の各それぞれの変形について、それぞれの0次、1次及び/又はそれに続く次数平均が決定される。
【0075】
図10におけるグラフは、n=1の場合、その範囲のラグタイム値(TΔk)についての平均(時間変動型)フィットモデルを使用して、図6(b)におけるa-PPG信号におけるいくつかの時点Yについての平均の正規化された心拍サイクル波形を示す。よって、図10は、-100msから+400msの間のラグタイム(TΔk)値の範囲について、正規化されたa-PPG波形値の1次平均を決定することから生じる平均波形を示す。単なる一例として、図10は、時点Y=0秒(102でラベル付けされた)、時点Y=1分(104でラベル付けされた)についての平均波形を示し、図6(b)で1~7でラベル付けされた波形に対応する時点についての平均波形を示す。時点Y=0秒は、図6においてPWSによってカバーされる60秒の期間の開始に対応し、時点Y=60秒は、図6においてPWSによってカバーされる期間の終わりに対応する。
【0076】
平均の正規化された心拍サイクル波形は、ラグタイム値TΔkの範囲、例えば、図6~10の例では、-100msから+400msとの間について得られる。平均の正規化された心拍サイクル波形を形成する値は、ラグタイム値TΔkの範囲について平均(時間変動型)フィットモデル(nの所望の値について)から取得される。換言すると、平均の正規化された心拍サイクル波形が必要とされる選択された時点Yについて、-100msから+400msの範囲内でその平均の正規化された心拍サイクル波形を形成する値は、ラグタイム値TΔkのその範囲についてフィットモデルにおける時点Yでの値である(例えば図9のライン94、96)。
【0077】
一例として、ラグタイム+200msについて図9を考慮し、-100msから+400msの範囲内の他のラグタイム値について図9の対応する変形が存在すると考慮する。nについての所望の値は1であり、平均の正規化された心拍サイクル波形(本明細書では「平均化された波形」と短縮される)は、時点Y=0秒(すなわちPWSによってカバーされる期間の開始時)に対して得られるべきである。ラグタイム+200msでの平均波形の値は、時点Y=0での(又はY=0に対応する心拍サイクル指標での)図9におけるライン94の値である。時点Y=0についての平均化された波形の+ラグタイム200msでの値は、-0.3である(すなわち1次多項式フィット94は、Y=0(又は指標0を有する心拍サイクル)について-0.3の値を有する)のに対して、時点Y=1分についての平均化された波形の+200msでの値は、おおよそ0である(すなわち1次多項式フィット94は、時点Y=1分(又は指標73を有する心拍サイクル)について0の近似値を有する)ことが、ラグタイム値+200msでの図10における平均心拍サイクル波形の値に対する図9の比較から分かる。これは、-100msから+400msの範囲内の完全な平均化された波形を得るために、他のラグタイム値に対して(すなわち図9の他の変形を使用して)繰り返される。よって、ラグタイムTΔk=-100msでのY=0についての平均化された波形の値は、Y=0(又は指標0を有する心拍サイクル)での(ラグタイムTΔk=-100msについての)対応するライン94の値であり、ラグタイムTΔk=+100msでのY=0についての平均化された波形の値は、Y=0でのラグタイムTΔk=+100msについての対応するライン94の値であるなどである。
【0078】
1分の時間ウィンドウにおいてで選択された時間についての平均心拍サイクル波形は、よって、ラグタイム値の各々で、それぞれの多項式フィットから得ることができる。加えて、1分のウィンドウ内の異なるタイミングでの(図6(b)での、1から7でラベル付けされた正規化されたa-PPG波形に対応する時間についての)全ての中間平均波形の結果も得ることができることが分かる。したがって、次数n≧1を使用することによって、時間変動型の変化が、平均化処置において適応される。nは、1以上である任意の整数値でもあってよく、n=1は、既に、PWSが比較的短い期間にわたって解析され、波形の根本的な変化は直進である心拍サイクルを表すPWSについて実際に最適な結果を与えることに留意されたい。経時的に形態学により大幅な変化が予測される場合、このときnは、1より大きな値に設定することができる。
【0079】
図4のステップ42、44及び46は、以下のように上記の平均化技術を実施する。上記の平均化技術と一致させて、ステップ42、44及び46は、「正規化された2PWS」に対して作用する。正規化された2PWSは、その心拍サイクルについて特定された基準点での2PWSの振幅に対して、ステップ40において特定されたそれぞれの心拍サイクルに対応する2PWSの各部分を別々に正規化することによって取得される。すなわち、ステップ40において特定された特定の心拍サイクルについて、その心拍サイクルに対応する2PWSの振幅は、その心拍サイクルについて特定された基準点での2PWSの振幅の前後で正規化される。
【0080】
ステップ42において、第1のラグタイム値TΔkについて、それは、特定された基準点を参照して測定され、n次多項式フィットが、正規化された2PWSの第1のセットの値について決定される。上記で指摘したように、nは1以上である。正規化された2PWSの第1のセットの値は、各特定された心拍サイクルの基準点から第1のラグタイム値が生じる2PWSの値を含む。すなわち、ステップ42において、Xmsのラグタイム値について、第1のセットの値は、ステップ40において特定された基準点の各々からXmsである正規化された2PWSの値である。図9に示される例では、第1のセットの値は、ライン90に対応する。そのため、例えば、200msのラグタイム値TΔkについて、図9において20番目に特定された心拍サイクルの値は、200msでの20番目の特定された心拍サイクルについて正規化された2PWSの値であると仮定する。ライン90は、特定された心拍サイクルの各々について200msでの正規化された2PWSの値から形成される。ステップ42において決定されたn次多項式フィット(n≧1で)は、n=1の場合ライン94に対応し、n=2の場合ライン96に対応する。
【0081】
ステップ44において、ステップ42は、1つ又は複数のさらなるラグタイム値について1回又は複数回繰り返される。よって、ステップ44では、ステップ42の1回又は複数回のさらなる繰り返しが1つ又は複数のさらなるラグタイム値に対して行われて、正規化された2PWSのそれぞれのセットの値についてそれぞれのさらなるn次多項式フィット94を決定する。正規化された2PWSのそれぞれのセットの値の各々は、各特定された心拍サイクルの基準点からそれぞれのさらなるラグタイム値が生じる、正規化された2PWSの値を含む。よってステップ44は、それぞれのラグタイム値TΔkについて得られる、図9の1つ又は複数のそれぞれの変形をもたらす結果となる。
【0082】
ステップ46を参照して以下で指摘するように、ステップ42が繰り返される回数は、ステップ46において決定された平均化された心拍サイクル波形の時間分解能を決定する。ステップ42が繰り返される回数が多いほど、結果として生じる平均心拍サイクル波形の平滑性及び分解能は高くなる。いくつかの実施形態において、ステップ42は、-100msから+400msの範囲内のラグタイム値に対して繰り返すことができる。ラグタイム値の範囲のサイズに対する上限は、対象者の心拍数によって課すことができることを理解されたい(より多くの心拍数は、ラグタイム値の範囲を短縮し、より少ない心拍数は、ラグタイム値の範囲を広くする)。ラグタイム値の範囲は、1つ又は1つ未満(但し、結果として生じる平均心拍サイクル波形において観察されるべき、反射脈波などの脈波特徴にとって十分な心拍サイクル)の心拍サイクルをカバーするべきである。
【0083】
次に、ステップ46において、第1の平均心拍サイクル波形が、PWSによってカバーされる期間内の第1の時点Yについて形成される。例えば、図6(b)における2PWSが得られた1分の期間をカバーするPPG信号について、第1の時点Yは、0秒(すなわち1分の期間の開始時)、25秒(すなわち1分の期間の通しての途中まで)、60秒/1分(すなわち1分の期間の終了時)のいずれかであり得る。
【0084】
ステップ46において、上記の式(8)を評価するのではなく、係数α(Δ)、・・・、α(Δ)が、時点Yにおいて評価され、
【数13】
ここでは、パラメータFは、時点Yをサンプル数に変換するためのPWS信号のサンプリングレートを示し、式(8)と同様である。
【0085】
第1の平均心拍サイクル波形は、第1の時点での複数のn次多項式フィット94、96の(正規化された振幅)値から形成される。よって、PWSによってカバーされる期間内の時点Yについて、時点Yについての平均心拍サイクル波形の値は、ステップ42において決定された第1のセットの値のn次多項式フィット94、96の時点Yでの(正規化された振幅)値(すなわち、第1のラグタイム値についてのn次多項式フィット94、96の時点Yでの値)と、ステップ44において決定されたさらなるn次多項式フィット94、96の各々の時点Yでのそれぞれの値(すなわち、さらなるラグタイム値についてのn次多項式フィット94、96の時点Yの値)とによって与えられる。
【0086】
時点Y=0及びn=1についての特有の例では、平均心拍サイクル波形は、各ラグタイム値についての1次多項式フィット94における時点Yでの(正規化された振幅)値から形成される。ステップ46は、例えば、図10に示される平均心拍サイクル波形102、104をもたらすことができる。より一般的には、ステップ46は、図9及び図10を参照して上記に記載したように実施される。
【0087】
いくつかの実施形態において、ステップ46において形成された平均心拍サイクル波形を解析して、対象者の健康状態に関する情報を特定することができる。いくつかの実施形態において、健康状態に関する情報は、対象者の血圧の測定値又は指示、及び/又は対象者の血圧の変化の測定値又は指示である。
【0088】
いくつかの実施形態において、第2の平均心拍サイクル波形を、PWSによってカバーされる期間内の第2の時点について形成することができる。第2の平均心拍サイクル波形は、ステップ46において決定された第1の平均心拍サイクル波形と同じ方法で形成することができる。一例として、第1の時点及び第2の時点のうちの一方は、PWSの開始時又は開始に近い場合があり、第1の時点及び第2の時点のうちの他方は、PWSの終了時又は終了に近い場合がある。さらなる実施形態では、1つ又は複数のさらなる平均心拍サイクル波形を、PWSによってカバーされる期間内のそれぞれの時点について決定することができる。
【0089】
第2の平均心拍サイクル波形が形成される実施形態では、方法は、第1の平均心拍サイクル波形と第2の平均心拍サイクル波形を比較して、第1の時点と第2の時点との間の平均心拍サイクル波形の変化を確定する、又は特定するステップをさらに含むことができる。このステップは、全てのラグタイム値についての2つの平均心拍サイクル波形の差を表す差分信号を決定するステップ、及び/又は平均心拍サイクル波形の特定の一部又は複数の部分の差を決定するステップを含むことができる。例えば、特定されたa基準点に続く平均心拍サイクル波形における最小値の大きさの差を決定することができる。別の例として、2つの平均心拍サイクル波形における異なる基準点のタイミングの差を決定することができる。例えば、基準点eは各平均心拍サイクル波形において特定することができ、各平均心拍サイクル波形についてのそれぞれのa基準点とe基準点との間の時間を比較することができる。
【0090】
いくつかの実施形態において、対象者の血圧の尺度、又は対象者の血圧の変化の尺度を、第1の平均心拍サイクル波形及び第2の平均心拍サイクル波形から決定することができる。いくつかの実施形態において、血圧の尺度又は血圧の変化の尺度は、第1の平均心拍サイクル波形と第2の平均心拍サイクル波形の比較から決定することができる。特定の実施形態では、a基準点と、c基準点との間の時間から血圧代用測定値が決定される場合もあり、これは脈反射時間(PRT)に対応する。
【0091】
図11は、種々の例示の実施形態によるPWSを解析する際の種々の動作を例示する機能ブロック図である。持続時間N/FでのPWS100(例えばPPG信号)が、派生算出ブロック102と、ピーク発見ブロック104によって受信される。派生算出ブロック102は、時間に対するPWSの一階微分信号(1PWS)を決定し、時間に対するPWSの二階微分信号(2PWS)を決定する。1PWS及び/又は2PWS信号は、ピーク発見ブロック104に提供することができる。ピーク発見ブロック104は、入力信号を評価して、心拍サイクル及び2PWSにおける心拍サイクルの一部に対応する基準点(例えば収縮早期/上に向かう側面のa基準点)を特定する。派生算出ブロック102及びピーク発見ブロック104の動作は、上記に記載したステップ40に概ね対応する。
【0092】
2PWS及び特定された基準点は、平均化ブロック106に対する入力である。多項式フィットのためのnの所望の値108は、平均化ブロック106に対する入力である。或いは、所望の値nは、平均化ブロック106において事前に決定される、又は事前に設定することができる。平均化ブロック106は、入力2PWS及び特定された基準点に基づいてステップ42、44及び46において上記に記載した波形平均化プロセスを実施する。平均化ブロック106は、特定の時点について少なくとも1つの平均心拍サイクル波形を出力する。図11において、平均化ブロック106は、Y=0及びY=-N/F(例えばt=0の1分前)について平均心拍サイクル波形を出力するように示される。
【0093】
任意選択の実施形態では、平均心拍サイクル波形は、平均心拍サイクル波形の何らかの解析を行うことで、対象者の健康状態に関する情報を特定することができる解析ブロック110に入力することができる。いくつかの実施形態において、解析ブロック110は、代用血圧測定値を決定することができる。一例として、解析ブロック110は、以下のように2つの平均化された心拍サイクル波形を減算することができ、
【数14】
ここで、
【数15】
は、時点Y=0についての第1の平均心拍サイクル波形であり、
【数16】
は、時点Y=60秒についての第2の平均心拍サイクル波形である。
【0094】
【数17】
の値は、特有のラグタイムTΔkでのウィンドウの長さ(例えば1分)の過程での脈波におけるエネルギーの変化を表す。血圧の変化は、反射(腎臓の分岐からの反射)が予測される、ラグタイムでの脈波のエネルギーの変化につながるため、
【数18】
の値は、ウィンドウの長さの過程における血圧の変化の大きさを推定するのに利用することができる。
【0095】
したがって、心拍サイクル波形の改善された平均化のための技術が提供される。
【0096】
開示される実施形態に対する変形形態は、図面、開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、本明細書に記載される原理及び技術を実施する当業者によって理解され、もたらすことができる。特許請求の範囲において、用語「備える、有する」は、他の要素又はステップを除外するものではなく、単数形の要素は、複数を除外するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、特許請求の範囲に列挙されるいくつかの製品の機能を満たす。特定の措置が、相互に異なる従属クレームに列挙されているという単なる事実は、これらの措置の組み合わせを使用して利益をもたらすことはできないことを示してはいない。コンピュータプログラムは、他のハードウェアの一部と一緒に、又は他のハードウェアの一部として供給される、光学記憶媒体又はソリッドステート媒体などの好適な媒体に記憶又は分散されるが、インターネット、或いは他の有線又は無線電機通信システムを介してなど、他の形態でも分散される。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を制限するように解釈すべきではない。
図1
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図3
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図10
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【国際調査報告】