(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】反応性マイクロ粒子、および官能性ヒドロゲル粒子を調製するためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
C08F 2/06 20060101AFI20231211BHJP
C08F 220/08 20060101ALI20231211BHJP
C08F 212/34 20060101ALI20231211BHJP
C08F 8/12 20060101ALI20231211BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231211BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231211BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231211BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20231211BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20231211BHJP
C12N 5/074 20100101ALI20231211BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20231211BHJP
C12N 5/0775 20100101ALI20231211BHJP
【FI】
C08F2/06
C08F220/08
C08F212/34
C08F8/12
A61K39/00 G
A61P37/04
A61K9/14
A61K47/32
C12N1/04
C12N5/074
C12N5/0735
C12N5/0775
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557468
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-07-26
(86)【国際出願番号】 CA2021051758
(87)【国際公開番号】W WO2022120478
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523214753
【氏名又は名称】アラータ ライフ サイエンス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100139310
【氏名又は名称】吉光 真紀
(72)【発明者】
【氏名】ジョンソン,ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】ロス,サマンサ
(72)【発明者】
【氏名】マンジアコッテ,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】ブルケ,ニコラス
(72)【発明者】
【氏名】ストーバー,ハラルド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C076
4C085
4J011
4J100
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BD06
4B065BD09
4B065BD12
4B065CA44
4B065CA45
4C076AA31
4C076AA95
4C076CC06
4C076EE12
4C076EE47
4C076GG21
4C085AA03
4C085EE05
4J011AA02
4J011AC04
4J011HA06
4J011HB16
4J011HB17
4J100AB13P
4J100AB16Q
4J100AK31P
4J100AK33P
4J100AL65Q
4J100AL66Q
4J100AM24Q
4J100BA02Q
4J100BA08Q
4J100BA16H
4J100BC43P
4J100CA23
4J100CA31
4J100DA37
4J100DA38
4J100EA06
4J100EA09
4J100FA17
4J100FA19
4J100HA08
4J100HB39
4J100HE08
4J100HE12
4J100JA50
4J100JA51
(57)【要約】
球体形をし、狭分散または単分散サイズ分布を有するヒドロゲルマイクロ粒子を生成する方法を提供する。式(I)、(IIa)~(IIf)のものなどの少なくとも1種の一時的架橋剤とジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、オリゴ/ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、および1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートなど2個以上のビニル基を含む少なくとも1種の永久的架橋剤を沈殿重合が行われるのに適した極性を有する有機溶媒中で組み合わせる。沈殿重合は、界面活性剤および/もしくは安定剤の添加なしで生じさせ、かつ/または形成されたマイクロ粒子は、1%未満の界面活性剤および/もしくは安定剤を含む。これらのマイクロ粒子は、一時的架橋剤のモノマーを官能化することによってさらに官能化されて、アミンおよびカルボン酸単位を得ることができる。官能化マイクロ粒子は、細胞を凍結保存するためにまたはワクチンデリバリープラットフォームとして使用される。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の一時的架橋剤と少なくとも1種の永久的架橋剤を沈殿重合が行われるのに適した極性を有する有機溶媒中で組み合わせるステップと、
前記沈殿重合を生じさせ、それによって前記一時的架橋剤および前記永久的架橋剤のモノマーを含むポリマーを有する前記マイクロ粒子を形成するステップと
を含む、マイクロ粒子を生成する方法。
【請求項2】
前記沈殿重合前の全モノマー配合量が、少なくとも1種の一時的架橋剤、少なくとも1種の永久的架橋剤、および他のあらゆるモノマーの組合せ配合量として計算され、1~20重量%の値を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記沈殿重合前の全架橋剤配合量が、一時的架橋剤および永久的架橋剤の前記組合せ配合量であり、10mol%より高い値を有し、一時的架橋剤の永久的架橋剤に対する比が、50:50~99:1 mol%である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒が、前記ポリマーの値より4~5MPa
1/2高いまたは低い、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ヘプタン、ならびにメチルエチルケトンとヘプタンの組合せからなる群から選択される、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記一時的架橋剤が、式(I)または(IIa)~(IIf)
【化1】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニルまたはOJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義される]、
【化2】
[式中、nは、整数1~3である]、
【化3】
[式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである]の架橋剤である、
請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記一時的架橋剤が、メタクリル酸無水物またはアクリル酸無水物である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記永久的架橋剤が、2個以上のビニル基を有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記永久的架橋剤が、ジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、オリゴ/ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、および1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記永久的架橋剤が、前記全モノマー配合量の1~30mol%である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ粒子の収率が、少なくとも50%である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記組み合わせるステップが、光開始剤を組み合わせるステップを含み、前記方法が、前記光開始剤に照射するステップをさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記沈殿重合が、界面活性剤および/もしくは安定剤の添加なしで行われ、かつ/または前記マイクロ粒子が、1%未満の界面活性剤および/もしくは安定剤を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記一時的架橋剤の前記モノマーを官能化するステップをさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
官能化する前記ステップが、アミンおよびカルボン酸単位を3:1~1:3の比で得るように官能化するステップを含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記比が、2:1~1:2である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1種のポリマーを含むマイクロ粒子であって、前記少なくとも1種のポリマーが、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(IIIh)、(IIIi)、(IIIj)、(IIIk)、(IIIl)、(IIIm)、(IIIn)、および/または(IIIo)の一時的架橋剤モノマー:
【化4】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニルまたはOJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義される]、
【化5-1】
【化5-2】
[式中、nは、整数1~3である]、
【化6-1】
【化6-2】
[式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである];
永久的架橋剤モノマー;
を含み、
前記マイクロ粒子が、狭分散または単分散であり、0.3未満の変動係数を有するサイズ分布を有する、マイクロ粒子。
【請求項18】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、検出可能な界面活性剤または安定剤を含まない、請求項17に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項19】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、1%未満の界面活性剤および/または安定剤を含む、請求項17に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項20】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、請求項17から19のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項21】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、全モノマー含有量に対して0.1~20mol%、好ましくは1~10mol%の全架橋剤含有量を有する、請求項17から20のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項22】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、100Pa~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能を有する、請求項17から21のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項23】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、球体形を有する、請求項17から22のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項24】
前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、0.5~20μmの直径を有する、請求項17から23のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項25】
前記永久的架橋剤モノマーが、ジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、および/またはN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)のモノマーである、請求項17から24のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項26】
前記一時的架橋剤モノマーが、メタクリル酸無水物および/またはアクリル酸無水物のモノマーである、請求項17から25のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項27】
請求項1から16のいずれか一項に記載の方法によって生成された、請求項17から26のいずれか一項に記載のヒドロゲルマイクロ粒子。
【請求項28】
請求項17から26のいずれか一項に記載のマイクロ粒子を用意するステップと、
前記マイクロ粒子を官能化するステップと、
前記細胞を前記マイクロ粒子と接触させるステップと、および、
前記細胞を凍結させるステップと
を含む、細胞を凍結保存する方法。
【請求項29】
請求項17から26のいずれか一項に記載のマイクロ粒子を用意するステップと、
前記マイクロ粒子を抗原に対する担体として働くように官能化するステップと、
前記抗原を前記担体に連結するステップと
を含む、ワクチンデリバリープラットフォームを生成する方法。
【請求項30】
請求項17から26のいずれか一項に記載のマイクロ粒子を用意するステップと、
前記マイクロ粒子を官能化するステップと、
官能化されたマイクロ粒子を細胞およびカプセル形成材料と組み合わせるステップと、
前記カプセル形成材料を、前記粒子および細胞がカプセル内に捕捉されるようにゲル化するステップと
を含む、カプセル化細胞を生成する方法。
【請求項31】
前記カプセル形成材料が、アルギネートである、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
生体適合性両性高分子電解質ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含む、細胞のための凍結保存剤であって、前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、10Pa~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能を有し、界面活性剤または安定剤を実質的に含まず、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、凍結保存剤。
【請求項33】
請求項32に記載の組成物を細胞と10000:1~1:1、好ましくは5000:1~200:1のマイクロ粒子対細胞体積比で水性懸濁液中において組み合わせるステップと、マイクロ粒子および細胞の前記懸濁液を凍結させるステップとを含む、細胞を凍結保存する方法。
【請求項34】
前記細胞が幹細胞である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記水性懸濁液が、ヒドロゲルマイクロ粒子を1~25wt/v%の濃度で含む、請求項32から34のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含むワクチンデリバリービヒクルであって、前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、過剰のカチオン電荷を有するカチオン性または両性高分子電解質であり、添加された界面活性剤または安定剤を実質的に含まず、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有し、0.1~0.9ミクロンの平均粒子直径を有する、ワクチンデリバリービヒクル。
【請求項37】
前記マイクロ粒子が、生理的条件で分解可能である、請求項36に記載のワクチンデリバリービヒクル。
【請求項38】
請求項36または37に記載のワクチンデリバリービヒクルを抗原と組み合わせるステップを含む、ワクチンを作製する方法。
【請求項39】
生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含む顆粒状細胞外基質であって、前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、100~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能、界面活性剤または安定剤を実質的に含まない表面、および5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、顆粒状細胞外基質。
【請求項40】
前記マイクロ粒子が、細胞接着分子で修飾されている、請求項39に記載の顆粒状細胞外基質。
【請求項41】
請求項39または40に記載の生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を哺乳類細胞の懸濁液にゲル形成剤中1:100~1:1の細胞対マイクロ粒子比で添加するステップと、前記懸濁液をゲル化するステップとを含む方法。
【請求項42】
請求項39または40に記載の顆粒状細胞外基質を用意するステップと、細胞培養物を前記顆粒状細胞外基質上で成長させるステップとを含む、細胞培養方法。
【請求項43】
生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子と生体模倣官能基とを含む生体模倣ビーズであって、前記ヒドロゲルマイクロ粒子が、100~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能、添加された界面活性剤または安定剤を実質的に含まない表面、および5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、生体模倣ビーズ。
【請求項44】
請求項43に記載の生体模倣ビーズを細胞培養物に与えるステップと、前記細胞培養物を成長させるステップとを含む細胞培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月7日に出願された米国仮特許出願第63/122,322号に対する優先権を主張するものであり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、荷電基を有するヒドロゲルマイクロ粒子の形成および使用を目的とするものである。さらに詳細には、本発明は、官能性ヒドロゲル架橋マイクロ粒子に変換することができる反応性架橋マイクロ粒子の形成に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒドロゲルは、天然組織のいくつかの特性を模倣することができると認識されているので、ヒドロゲルは、細胞および組織との界面に有用な材料として長い間認識され、したがって合成の細胞外基質(ECM)材料と考えることができる。例は、コンタクトレンズとして使用されるヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)をベースにした合成架橋ヒドロゲルから、分化を誘導することなく幹細胞の培養を可能にするマウスがん細胞系に由来する市販のECMであるMatrigel(商標)、およびポリエチレングリコールベースのヒドロゲルの多くの形に及ぶ。
【0004】
バルクヒドロゲルに加えて、ナノメートルおよびマイクロメートルのサイズ範囲で狭いまたは広いサイズ分布を有する不規則形または球体形の粒子として形成されたヒドロゲルについて多くの技法および用途が記載されてきた。そのようなマイクロゲル粒子は、多くの潜在的用途のために大きな関心を得ている。
【0005】
マイクロゲルは、哺乳類細胞の凍結貯蔵のための凍結保護材料として使用されてきた。例えば、ベタイン官能性架橋ヒドロゲルは、凍結保護特性を示した不規則形マイクロ粒子に機械的に分解される。広い粒子サイズ分布を有する逆懸濁マイクロゲルで構築されたマトリックス内における細胞付着が示されている。1
【0006】
ミクロンおよびサブミクロン範囲のいくつかのポリマー粒子は、宿主の免疫系による抗原取り込みを向上させるウイルス様粒子(VLP)としての使用が見出されている。
【0007】
ヒドロゲルのバルクもマイクロ粒子も、好適な機械的特性を有し、バイオ医療応用に適切な化学的および生物学的基を呈するように、ヒドロゲルの特性を微調整することができる必要がある。ヒドロゲル特性を微調整する一方法は、ヒドロゲル形成より前に所望通りに官能化することができる反応性前駆体粒子の使用を介した方法である。ポリマー粒子は、典型的に懸濁、乳化、分散または沈殿重合によって作製される。
【0008】
ポリマー粒子は、より大きいポリマー固体もしくはゲルを小片に分割することによって、または溶液からの予備成形ポリマーの制御相分離によって得ることができる。しかし、ほとんどの場合、球体形のポリマー粒子は、懸濁、逆(油中水型)懸濁、乳化、逆乳化、分散または沈殿型重合などの粒子形成重合法を使用して形成される。
【0009】
懸濁および逆懸濁ポリマー粒子は、本質的にミニバルク重合で形成されるので均質な粒子特性を有する。しかし、それらの表面に残留している安定剤が、細胞および組織とのそれらの相互作用に影響を及ぼすおそれがある。同様に、バルク連続相において液体粒子形成相(例えば、モノマー混合物)の機械的分散を使用して実施される懸濁および逆懸濁重合は、これらの方法において見られる液滴の共有と合体の統計的バランスを考えれば、通常広いサイズ分布を有する粒子を生成する。
【0010】
非混和性の油様媒体に機械的に分散させた親水性モノマーの水性溶液の液滴の逆懸濁重合を使用して、球体形のマイクロ粒子およびマイクロゲルを大規模に形成することができるが、広いサイズ分布を有する。
【0011】
同様に、水性コアセルベート相を連続水性相において分散した後、続いて分散した液滴をヒドロゲルビーズに架橋することは、球体形の架橋ヒドロゲル粒子を生じる水性-水性懸濁重合の一例として見ることができるが、やはり大きな粒子サイズ分布を有する。2,3
【0012】
乳化型重合は、連続媒体中で粒子の開始剤を使用し、狭分散ナノ粒子の大規模生成をもたらすことができる。懸濁重合でも乳化型重合でも、水は典型的に溶媒として使用され、加水分解に不安定な反応性モノマーに反応しない場合もある。
【0013】
分散重合は、形成しているポリマーに対して貧溶媒中のモノマー、開始剤およびコロイド状安定剤の溶液で始まる。この方法は、成長ポリマー鎖の減少する溶解度を利用する方法であり、大量の立体的安定剤を使用して、形成している粒子の凝集を防止する場合に、この方法を使用して、単分散マイクロ粒子を形成することができる。
【0014】
マイクロ流体粒子形成は、連続媒体に懸濁しているモノマーまたはポリマー溶液のマイクロメートル範囲の液滴のワンバイワン形成の後に、続いて急速な硬化または架橋を行うことを含む懸濁重合の一バージョンである。そのような方法は、β細胞の培養における支持体としての使用のための狭分散および単分散ヒドロゲル粒子を調製するために使用されてきた。4 20マイクロメートルのヒドロゲルビーズの能力は、RGD細胞付着モチーフを介した細胞付着を支持し、よりよい酸素拡散を含めていくつかの因子に起因する細胞生存率を増加させることで明らかになった。この方法の欠点は、1粒子毎の形成原理を考えると、スループットに限界があること、安定剤が必要なこと、放射状の架橋やその他の組成勾配を持つ粒子を製造できないことである。
【0015】
マイクロ流体変形を含めて分散、懸濁、逆懸濁および乳化重合において使用される安定剤および界面活性剤は、粒子に組み込むことができ、それらの存在、特に粒子表面における存在は、粒子のその後の用途に影響を及ぼすおそれがある。
【0016】
沈殿重合は、コロイド状安定剤を添加しない分散重合の変形である。その結果、形成しているポリマー鎖は、制御されない形で凝集し、広いサイズ分布を有する不規則な形状の粒子を生じる。
【0017】
制御沈殿重合は、典型的に著しい架橋剤配合量を使用する沈殿重合の変形であり、溶媒または複数の溶媒の極性および水素結合能は、形成しているポリマー鎖が集合して核を構築し、吸収されたばかりの鎖の溶媒和表面層によってコロイド的に安定化されるように、形成しているポリマーのそれらに対して調整される。これらの粒子核は、続いてより多くのポリマーおよびモノマーを吸収して、0.3~20マイクロメートルの直径範囲の最終のマイクロ粒子群を形成することによって並行して成長する。
【0018】
沈殿重合における総モノマー配合量は、溶媒中2~20、より通常は2~10重量パーセントの全モノマーに限定される傾向がある。より高いモノマー配合量は、典型的に粒子凝集塊の形成を引き起こし、より低いモノマー配合量は、非効率的な粒子核形成および成長のために低収率に至る。
【0019】
当業者は、溶媒極性を、このコロイド安定化が起こる点に存在するポリマー核の数に影響するように調整することができ、それによって最終の粒子サイズを制御する。沈殿重合において使用されるモノマーの1つは、架橋剤でなければならない。そのような架橋剤の存在は、オリゴマーを核中に捕獲し、続いて成長している粒子上に捕獲するのに重大な意味をもつ。架橋剤の存在は、成長時に粒子完全性を維持する助けともなる。
【0020】
沈殿重合における粒子収率は、他のモノマーに比べて高含有量の架橋剤で最も高い。しかし、高配合量の架橋剤で作製された粒子は、典型的に、目標とされた用途にとって望ましいほど変形可能でない。低含有量の架橋剤が使用されるとき、得られた収率は全く低いことが多く(例えば、<10%)5、小規模(すなわち、実験または実験室規模)でのみ好適である。低含有量の架橋剤のために収率が低すぎると、商業的および経済的に実行可能な方法を得ることができない。
【0021】
したがって、軽度に架橋した膨潤性粒子は、この方法では典型的に低収率で形成される。というのは、膨潤性粒子のために必要とされる低架橋密度が、粒子を高収率で形成するために重合時に大量の架橋剤が存在する必要性と相容れないからである。工業規模で何らかの有用性を導き出すために、高収率を得る必要がある。
【0022】
官能基は、一般に予備形成粒子の後の官能化によってではなく、適切なコモノマーの選択によって導入される。したがって、マイクロゲル粒子を特定の必要に応えるように官能化する手段が必ずしも利用可能とは限らない。
【発明の概要】
【0023】
一態様において、マイクロ粒子を生成する方法であって、少なくとも1種の一時的架橋剤と少なくとも1種の永久的架橋剤を制御された沈殿重合が行われるのに適した極性を有する有機溶媒中で組み合わせるステップと、沈殿重合を生じさせ、それによって一時的架橋剤および永久的架橋剤のモノマーを含むポリマーを有するマイクロ粒子を形成するステップとを含む方法が提供される。
【0024】
一実施形態において、沈殿重合前の全モノマー配合量は、少なくとも1種の一時的架橋剤、少なくとも1種の永久的架橋剤、および他のあらゆるモノマーの組合せ配合量として計算され、1~20重量%の値を有する。
【0025】
一実施形態において、沈殿重合前の全架橋剤配合量は、一時的架橋剤および永久的架橋剤の組合せ配合量であり、10mol%より高い値を有し、一時的架橋剤の永久的架橋剤に対する比は、50:50~99:1mol%である。
【0026】
一実施形態において、溶媒は、ポリマーの値より4~5MPa1/2高いまたは低い。一実施形態において、溶媒は、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ヘプタン、およびそれらの組合せからなる群から選択される。別の実施形態において、溶媒は、アセトニトリル、メチルエチルケトン、ヘプタン、ならびにメチルエチルケトンとヘプタンの組合せからなる群から選択される。
【0027】
一実施形態において、一時的架橋剤は、式(I)または(IIa)~(IIf)
【0028】
【化1】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニルまたはOJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義される]、
【0029】
【0030】
【化3】
[式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである]の架橋剤である。
【0031】
一実施形態において、一時的架橋剤は、メタクリル酸無水物またはアクリル酸無水物である。
【0032】
一実施形態において、永久的架橋剤は、2個以上のビニル基を有する。一実施形態において、永久的架橋剤は、ジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、およびN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)からなる群から選択される。
【0033】
一実施形態において、永久的架橋剤は、全モノマー配合量の1~30mol%である。
【0034】
一実施形態において、マイクロ粒子の収率は、少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%である。
【0035】
一実施形態において、沈殿重合は、界面活性剤および/または安定剤の非存在下に行われる。一実施形態において、方法は、界面活性剤および/または安定剤の添加なしで行われる。
【0036】
一実施形態において、マイクロ粒子は、3%未満の界面活性剤および/または安定剤を含む外側表面を有する。
【0037】
一実施形態において、方法は、一時的架橋剤に由来する粒子内におけるモノマー単位を官能化するステップをさらに含む。
【0038】
一実施形態において、官能化するステップは、アミンおよびカルボン酸単位を3:1~1:3の比で得るように官能化するステップを含む。一実施形態において、比は、2:1~1:2である。
【0039】
別の態様において、少なくとも1種のポリマーを含むマイクロ粒子であって、少なくとも1種のポリマーが、
式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(IIIh)、(IIIi)、(IIIj)、(IIIk)、(IIIl)、(IIIm)、(IIIn)、および/または(IIIo)
【0040】
【化4】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニル、または-OJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義され、波線は、ポリマー主鎖の残りを表す]、
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【化6-2】
[式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである]、の一時的架橋剤モノマー、永久的架橋モノマーを含み、マイクロ粒子が、狭分散または単分散であり、0.3未満の変動係数を有するサイズ分布を有する、マイクロ粒子を提供する。
【0045】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、検出可能な界面活性剤または安定剤を含まない。
【0046】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、3%未満、好ましくは1%未満の界面活性剤および/または安定剤を含む。
【0047】
いくつかの実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、表面およびコアを有し、表面積の3%未満、好ましくは1%未満は、界面活性剤および/または安定剤である。
【0048】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する。
【0049】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、全モノマー含有量に対して1~20mol%、好ましくは5~15mol%の全架橋剤含有量を有する。
【0050】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、1kPa~500kPa、好ましくは10~100kPaの変形能を有する。
【0051】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、水性媒体中で膨潤するとき球体形を有する。
【0052】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、0.5~20マイクロメートルの直径を有する。
【0053】
一実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、1~10マイクロメートルの直径を有する。
【0054】
一実施形態において、永久的架橋剤モノマーは、ジビニルベンゼン(DVB)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、オリゴ/ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、オリゴ/ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、および1,6-ヘキサンジオールジメタクリレートのモノマーである。
【0055】
一実施形態において、一時的架橋剤モノマーは、メタクリル酸無水物および/またはアクリル酸無水物のモノマーである。
【0056】
さらに別の態様において、本明細書に記載される方法によって生成されたマイクロ粒子を提供する。
【0057】
追加の態様において、細胞を凍結保存する方法であって、本明細書に記載されるマイクロ粒子を用意するステップと、マイクロ粒子を官能化するステップと、細胞をマイクロ粒子と接触させるステップと、細胞を凍結させるステップとを含む方法を提供する。
【0058】
さらに追加の態様において、ワクチンデリバリープラットフォームを生成する方法であって、本明細書に記載されるマイクロ粒子を用意するステップと、マイクロ粒子を抗原に対する担体として働くように官能化するステップと、抗原を担体に連結するステップとを含む方法を提供する。
【0059】
別の態様において、カプセル化細胞を生成する方法であって、本明細書に記載されるマイクロ粒子を用意するステップと、マイクロ粒子を官能化するステップと、官能化されたマイクロ粒子を細胞およびカプセル形成材料と組み合わせるステップと、カプセル形成材料を粒子および細胞がカプセル内に捕捉されるようにゲル化するステップとを含む方法を提供する。一実施形態において、カプセル形成材料は、アルギネートである。
【0060】
さらに別の態様において、生体適合性両性高分子電解質ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含む、細胞のための凍結保存剤であって、ヒドロゲルマイクロ粒子が、100Pa~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能を有し、界面活性剤または安定剤を実質的に含まず、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、凍結保存剤が提供される。
【0061】
追加の態様において、細胞を凍結保存する方法であって、本明細書に記載される生体適合性両性高分子電解質ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を細胞と5000:1~10:1、好ましくは1000:1~100:1のマイクロ粒子対細胞体積比で水性懸濁液中において組み合わせるステップと、マイクロ粒子および細胞の懸濁液を凍結させるステップとを含む方法を提供する。
【0062】
一実施形態において、凍結は、1℃/分の速度で-80℃に至るまで行われた後、任意選択でクライオチューブを液体窒素蒸発温度で保持された貯蔵容器に移動する。
【0063】
別の実施形態において、細胞懸濁液を、-70~-80℃に保持された環境に浸漬することによって急速に凍結させる。
【0064】
さらに別の実施形態において、細胞懸濁液を、1大気圧において-195.6℃である液体窒素の蒸発温度で保持された環境に浸漬することによって凍結させる。
【0065】
別の実施形態において、細胞は幹細胞である。別の実施形態において、細胞は初代細胞である。
【0066】
別の実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、1~25wt/v%の濃度である。
【0067】
別の実施形態において、細胞は、それぞれ10~5000細胞、好ましくは100~2000細胞を含む細胞のクラスターであり、オルガノイドとしても知られている。
【0068】
さらに追加の態様において、生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含むワクチンデリバリービヒクルであって、ヒドロゲルマイクロ粒子が、過剰のカチオン電荷を有するカチオン性または両性高分子電解質であり、添加された界面活性剤または安定剤を実質的に含まず、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有し、0.1~10ミクロンの平均粒子直径を有する、ワクチンデリバリービヒクルを提供する。
【0069】
一実施形態において、マイクロ粒子は、30分~10日間、好ましくは2~48時間の期間にわたって生理的条件で分解可能である。
【0070】
一態様において、ワクチンを作製する方法であって、本明細書に記載されるワクチンデリバリービヒクルを抗原と組み合わせるステップを含む方法を提供する。
【0071】
別の態様において、生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を含む顆粒状細胞外基質であって、ヒドロゲルマイクロ粒子が、100~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能、界面活性剤または安定剤を実質的に含まない表面、および5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、顆粒状細胞外基質を提供する。一実施形態において、マイクロ粒子は、細胞接着分子で修飾されている。
【0072】
さらに別の態様において、本明細書に記載される生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子の単分散組成物を哺乳類細胞の懸濁液にゲル形成剤中1:100~1:1の細胞対マイクロ粒子比で添加するステップと、懸濁液をゲル化するステップとを含む方法を提供する。
【0073】
別の態様において、本明細書に記載される顆粒状細胞外基質を用意するステップと、細胞培養物を顆粒状細胞外基質上で成長させるステップとを含む細胞培養方法を提供する。
【0074】
さらに別の態様において、生体適合性ヒドロゲルマイクロ粒子と生体模倣官能基とを含む生体模倣ビーズであって、ヒドロゲルマイクロ粒子が、100~100kPa、好ましくは1~10kPaの変形能を有し、添加された界面活性剤または安定剤を実質的に含まず、5:1~50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する、生体模倣ビーズを提供する。
【0075】
さらに別の態様において、本明細書に記載される生体模倣ビーズを細胞培養物に与えるステップと、細胞培養物を成長させるステップとを含む細胞培養方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【
図1】メタクリル酸無水物(MeAn)の重合を示す反応スキームであり、2個のビニル基が逐次反応において消費される環化重合、またはビニル基1個のみが反応し、2個目のビニル基がその後になって反応する場合に架橋が形成される、より通常の反応を示す。
【
図2】加水分解または官能化の形をとることができる、メタクリル酸無水物ベースのポリマーの求核試薬(RXH、ここで、Xは、例えばO、N、またはSとすることができる)との反応を示す反応スキームである。2本の鎖を架橋する無水物の反応は、架橋の喪失を引き起こす。
【
図3】両性高分子電解質特性を有するミクロン範囲のマイクロゲル粒子を形成する3つの手法を示す図である。3つの手法はすべて、一時的ジビニル架橋剤(例えば、メタクリル酸無水物、MeAn)および永久的架橋剤(例えば、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA))の沈殿重合で始まる。
【
図4】ワクチン用途の抗原担体としての使用のためのナノ粒子を形成する2つの手法を示す図である。両手法とも、粒子が腎クリアランスによって最終的に除去されることを確実にするために一時的架橋剤(例えば、メタクリル酸無水物)および徐々に浸食されうるジビニル架橋剤(例えば、ジスルフィド架橋ジメタクリレート)の初期沈殿重合を含む。
【
図5】マイクロゲルを生成するための一時的および永久的架橋剤から構成される反応性粒子プラットフォームの形成および官能化を示す図である。
【
図6-1】60:40のMEK/ヘプタン中で作製されたMeAN/DEGDMA(90:10)粒子の光学顕微鏡像を示す図である。
図6A-DMF中における形成後(無水物未変化);
【
図6-2】
図6B-リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH2)中における加水分解粒子(無水物切断);および
【
図6-3】
図6C-PBS(pH7.4)中における加水分解粒子。サイズバー:20μm。
【
図7】永久的架橋剤の非存在下に55/45のMEK/ヘプタン中で形成されたMeANのみ(MED-55/0/0)のミクロスフェアの明視野光学顕微鏡像を示す図である。粒子をMEKに懸濁し、画像処理した。
【
図8】
図8A~F:アセトニトリル中2~7%のモノマー配合量(8A:2%、8B:3%、8C:4%、8D:5%、8E:6%、8F:7%)を用いて作製されたMED-55/5/5粒子の明視野光学顕微鏡像を示す図である。100倍油浸。粒子をACNに分散し、画像処理した。サイズバー:10μm。
【
図9】AIBN(開始剤)の重量%の関数として直径を示すグラフであり、光重合によって作製されたMED-62/0/10粒子のサイズに対する開始剤配合量の効果を明らかにする。
【
図10】溶媒中のMEK(vol%)の関数として直径を示すグラフであり、光重合によって作製されたMED-X/0/10粒子のサイズに対するさまざまなMEK/ヘプタン比の効果を明らかにする。粒子は、>62%のMEKで形成されるが、次第に小さくなり、それらのサイズ(「?」を付けたデータ点)を光学顕微鏡法では正確に決定することができなかった。
【
図11】EGDMA/DEGDMA永久的架橋剤(合計10mol%)の異なる比で作製されたアニオン性MED-55マイクロゲルの明視野光学顕微鏡像を示す図である。上の列-MED-55/10/0;中間の列-MED-55/5/5;下の列-MED-55/0/10。スケールバー=5μm;画像を拡大するためにトリミングした画像。
【
図12】MED-55/10/0(▲)およびMED-55/5/5(■)についてpHの関数として膨潤比を示すグラフであり、アニオン性マイクロゲルの膨潤に対する架橋剤組成物の効果をpHの関数として明らかにする。(D
x/D
2.4)
3[ここで、D
xは、所与のpHにおける粒子直径であり、D
2.4は、pH2.4における直径である]を使用して、膨潤比は、pH2.4における粒子体積に正規化される。
【
図13-1】
図13A:メタクリル酸無水物(90mol%)とDEGDMA(10mol%)の沈殿共重合を60:40のMEK:ヘプタン混合物中5wt%の全モノマー配合量で行った後に、続いてN,N-ジメチルエチレンジアミンで官能化して、両性高分子電解質ヒドロゲル粒子を生成することによって形成されたマイクロゲル粒子の例を示す図である。粒子をHEPES-緩衝生理食塩水(pH7.6)に懸濁する。
【
図13-2】
図13B:粒子面積としてμm
2単位で表される粒子サイズの分布を示すグラフである。粒子の大部分は、2.25~2.75μmの粒子直径に対応する4~6μm
2の面積を有する。
【
図14】
図14A:加水分解前のDMF中MED-55/5/5粒子の明視野顕微鏡像を示す図である。
図14B:水中におけるDMAPAおよびTAMRA官能化MED-55/5/5粒子の密に詰まった多層の顕微鏡像を示す図である。
図14C:水中におけるDMAPAおよびTAMRA官能化MED-55/5/5粒子の共焦点蛍光顕微鏡像を示す図である。サイズバー:15μm。
【
図15】加水分解およびDMAPAでの官能化後に、MED-55/10/0ミクロスフェアのゼータ電位を、PBS(pH7.4)中において測定して示す棒グラフである。
【
図16】CDCl
3中における(プロパン-2,2-ジイルビス(オキシ))ビス(エタン-2,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(KTMA)の
1H-NMR(600MHz)スペクトルを示す図である。
【
図17】55:45のMEK/ヘプタン中において85:15のMeAn/KTMAで作製したMKT-55/15粒子の光学顕微鏡像を示す図である。サイズバー:5μm。
【
図18】pH5(上の列)、pH7(中間の列)、およびpH10(下の列)におけるMKT-55/15アニオン性マイクロゲルの明視野光学顕微鏡像を経時的に示す図である。スケールバー=15μm。
【
図19】MED-55/2/8 10wt%(■)、MED-55/2/8 5wt%(◆)、陰性対照(●)、およびDMSO 10v/v%(▲)の存在下に、細胞の24時間凍結/解凍サイクル後、解凍直後細胞生存率および回収3T3細胞の百分率を示すグラフである。
【
図20】両性高分子電解質マイクロゲルまたはDMSOを含有するDMEMと共に凍結させた細胞、および補足の凍結保護剤なしにDMEM中において凍結させた細胞の陰性対照の、解凍後日数に応じた3T3細胞数を示すグラフである。MED-55/2/8 10wt%(■)、MED-55/2/8 5wt%(◆)、陰性対照(●)、およびDMSO 10v/v%(▲)。
【
図21】凍結保護両性高分子電解質マイクロゲルと共に凍結させた後、解凍3T3細胞の明視野顕微鏡像を示す図である。
【
図22】PBS(pH7.4)中におけるフルオレセイン標識オバルブミン(OVA-FITC)への曝露後、pDMAEAグラフト化粒子の明視野および蛍光像を示す図である。
図22A:pDMAEAグラフト化粒子-PBS(pH7.33)中におけるOVA-FITC明視野像、および
図22B:pDMAEAグラフト化粒子-PBS(pH7.40)中におけるOVA-FITC蛍光像。
【
図23】TAMRA標識MED-55/5/5マイクロゲルと共培養した蛍光染色3T3細胞の共焦点蛍光像を示す図である。
図23A-DMAPA両性高分子電解質、
図23B-RGDアニオン性、
図23C-アニオン性。
【
図24】TAMRA標識両性高分子電解質MED-55/15/0マイクロゲルと混合したカルセイン-AMで染色したNIH 3T3細胞の共焦点像を示す図である。
【
図25】PLL/PM50アルギン酸カルシウムカプセルにMED-55/10/0両性高分子電解質マイクロゲルを2.0×10
6細胞/mLの細胞濃度および0.5wt/v%のマイクロゲルで共カプセル化し、カルセイン-AMおよびエチジウム-ホモダイマーLIVE/DEAD染色で染色したNIH 3T3細胞の共焦点像を示す図である(
図25A:スケールバー100μm、および
図25B:スケールバー15μm)。
【発明を実施するための形態】
【0077】
本発明はいくつかの態様を含む。
【0078】
一態様において、新しいタイプのポリマーマイクロゲル粒子の高収率で、スケーラブルなプロセスを通した形成を可能にし、これまで到達できなかった特性を組み合わせるように設計された、沈殿重合のためのモノマーおよび架橋剤の新しい組成物を提供する。これらの特性としては、ポリマーマイクロ粒子が、軽度に架橋しており、膨潤性、狭分散または単分散、安定剤不含、反応性、および任意選択で分解可能であることが挙げられるが、これらに限定されない。そのような粒子は、生物医学のさまざまな領域における使用のための高度に定義されたヒドロゲル粒子のプラットフォームとして役立つことができる。
【0079】
他の態様において、凍結保護粒子、顆粒状ECM成分、および電荷シフトワクチンプラットフォームを含めて、ナノおよびマイクロゲル粒子の新規用途を提供する。
【0080】
いくつかの実施形態において、マイクロゲル粒子は、本明細書で教示された新しい沈殿重合方法によって形成される。
【0081】
本明細書で使用される用語「マイクロゲル」は、溶媒によって膨潤しているマイクロ粒子の形をした軽度に架橋したポリマー系を指す。本明細書で使用される用語「ヒドロゲル」は、水中で膨潤している軽度に架橋したポリマー系を指す。
【0082】
本明細書で使用される用語「マイクロ粒子」は、一般にサイズが1~1000μmの粒子を指すために使用されているが、文脈上からそうでないことが指示されていない限り、サイズが0.1~1μmのサブミクロン粒子(すなわち、このサイズ範囲内のナノ粒子)も包含することができる。好ましい実施形態において、マイクロ粒子は、0.1~50μm、より好ましくは0.3~30μm、またはさらにより好ましくは0.5~20μmの粒子直径を有する。
【0083】
ポリマーマトリックスに関連して本明細書で使用される用語「共有架橋された」は、ポリマーマトリックス(この研究ではマイクロ粒子)を保持するポリマー鎖間の共有結合の形成を指す。ポリマーは、共有架橋が存在するとき個々のポリマー鎖に手軽に溶解することはできない。初期に形成された反応性粒子の場合に、共有架橋は、一時的架橋剤によっても永久的架橋剤によっても設けられる。一時的架橋が加水分解または官能化によって切断された後、ヒドロゲル粒子の全体網目構造は、永久的架橋剤によって与えられた共有架橋によって維持される。
【0084】
いくつかの変形では、永久的架橋剤は、生理的条件下において約2時間~2週間、好ましくは8時間~48時間の時間枠で分解を受けることができる徐々に分解可能な架橋剤である。そのような徐々に分解可能な架橋剤は、ワクチン接種時における組織への投与後など、無水物ベースの一時的架橋剤を化学修飾または加水分解するために使用されるプロセスと化学的に直交する、生理的グルタチオンとの反応を含む還元的プロセスによって、生理的条件下で経時的に切断されうるジスルフィド結合を含有するビスアクリレートまたはビスメタクリレート架橋剤をベースにすることができる。他の変形を以下に記載し、2個のアクリレートまたはメタクリレート単位間に他の切断可能なリンカーを含有する他のビスアクリレートまたはビスメタクリレート架橋剤が挙げられる。そのような徐々に分解する架橋剤を使用する目的は、そのような架橋剤が、使用後に粒子のクリアランスを可能にすることである。
【0085】
本明細書で使用される用語「両性高分子電解質」は、正電荷を有するモノマー単位および負電荷を有するモノマー単位を含み、正および負電荷がさまざまなモノマー単位に出現する双性イオンポリマーを指す。ここで論じた両性高分子電解質は、マイクロゲル粒子に結合している残留または導入したビニル基を介してグラフト化したアニオン性およびカチオン性コモノマー(ならびに任意選択で中性および疎水性コモノマー)を含むコポリマーであることになっている。一実施形態において、両性高分子電解質は、第一級アミンであるカチオン性単位およびカルボン酸であるアニオン性単位を含む。一般に、両性高分子電解質は、約10~90mol%の正に帯電したモノマーおよび90~10mol%の負に帯電したモノマー、好ましくは約30~70mol%の正に帯電したモノマーおよび約70~30mol%の負に帯電したモノマーを含むことができる。
【0086】
最終の粒子は、乾燥重量により少なくとも10%、好ましくは50~400%の両性高分子電解質を含有することができる。
【0087】
他の実施形態において、カチオン基は、第二級、第三級もしくは第四級アンモニウム基を含むモノマー、またはグアニジウム基を含むモノマー、またはスルホニウム基を含むモノマー、またはイミダゾールならびに当業者に公知の類似した環式および直鎖状基に見られるものなどの共役したジアゾール基を含むモノマーとすることができる。
【0088】
他の実施形態において、アニオン基は、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボン酸基を含有するモノマー、またはアクリル酸t-ブチルもしくはメタクリル酸t-ブチルなどのそのようなモノマーの前駆体からなりうる。
【0089】
さらに他の実施形態において、加水分解マイクロゲルは、ポリアニオン性成分として働き、グラフト化ポリマーまたはコポリマーは、カチオン性成分として働く。そのような実施形態において、カチオン性成分は、アクリレート、メタクリレート、アクリルアミドまたはメタクリルアミド重合性単位をベースにした第一級、第二級、第三級または第四級カチオン性モノマーを組み込むカチオン性モノマーを含むホモポリマーとすることができる。関連した実施形態において、カチオン性成分は、上記のカチオン性モノマーの1種または複数を中性またはアニオン性コモノマーと共に含むコポリマーとすることができる。そのようなコポリマーでは、カチオン性モノマー(単数または複数)は、50~99、好ましくは70~90mol%のカチオン性コモノマーを含む。
【0090】
さらに他の実施形態において、両性高分子電解質マイクロゲルは、一時的架橋剤とカチオン性モノマーおよび永久的架橋剤の沈殿共重合、または一時的架橋剤、カチオン性モノマーおよび徐々に分解可能なジスルフィド含有架橋剤の沈殿共重合によって形成される。これらの実施形態において、一時的架橋剤およびカチオン性モノマーの量は、最終のアニオン性/カチオン性の比が10/90のアニオン性/カチオン性~50/50のアニオン性/カチオン性で制御されうるように選択される。この実施形態に適したカチオン性モノマーとしては、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートやN-(3-(ジメチルアミノ)プロピル)メタクリルアミドなどの第三級アミンが挙げられる。
【0091】
さらに他の実施形態において、カチオン性ポリマーまたはコポリマーは、残留または新たに導入したビニル基を使用してグラフトスルーされず、むしろアニオン性加水分解マイクロゲル粒子と可溶性のカチオン性ポリマーまたはコポリマーの間の静電錯生成によって導入される。当業者によって知られているように、ポリアニオン性ポリマーは、ポリカチオン性ポリマーを結合して、高分子電解質錯体を形成するための強い親和性を有する。カチオン性または正味カチオン性ポリマーとアニオン性ポリマー網目の間におけるこの錯生成は、関与している両方の帯電ポリマーからの小さい対イオンの関連した放出によって駆動される。さらに、得られた高分子電解質錯体は、2つの帯電ポリマー間の静電的相互作用の正味強度に応じて、不溶性PECの固体沈殿物から錯体コアセルベートと呼ばれる液体錯体相に及ぶ物理的特性を有することができることが当技術分野において公知である。当技術分野においてさらに公知のように、ポリアニオン性ヒドロゲル粒子は、カチオン性モノマーのみからなるポリカチオンを結合する(カチオン性ホモポリマー)だけでなく、カチオン性モノマーと親水性、中性またはさらにアニオン性のコモノマーとの混合物を含むカチオン性コポリマーも結合する能力を有する。これらのコポリマーは、両性高分子電解質のアニオン性マイクロゲルへの吸収を増強するために、アニオン性モノマーより過剰のカチオン性モノマーを有するコポリマーと定義される非化学量論的両性高分子電解質である。そのような非化学量論的両性高分子電解質は、30~99%のカチオン性モノマー、好ましくは50~80%のカチオン性コモノマー、最も好ましくは60~70%のカチオン性コモノマーを含有することができる。それらは、カチオン性およびアニオン性モノマーに加えて、中性でさらには疎水性のコモノマーも含有することができる。カチオン性モノマー(3-アミノプロピルメタクリルアミド、APM)とアニオン性モノマーメタクリル酸6または中性親水性コモノマーN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPM)7とのコポリマーをアルギン酸カルシウムヒドロゲルビーズに吸収させることができる。
【0092】
いくつかの実施形態において、本明細書で使用される用語「一時的架橋剤」は、未だ官能化されていないポリマー粒子を生み出すために使用される架橋剤を指す。一時的架橋剤は、ポリマーの所望の用途に応じてアミン、カルボキシル、またはチオールなどの1種または複数の官能基をグラフトするために使用される。一時的架橋剤は、無水物基を有することができ、以下に記載する式(I)の架橋剤であってもよい。一実施形態において、一時的架橋剤は、完全に切断されている。しかし、一時的架橋剤が完全に切断されているときでさえ、溶媒中におけるポリマーの完全性を永久的架橋剤のために維持することができる。
【0093】
本明細書に定義されるように用語「永久的架橋剤」は、同じポリマーマイクロ粒子の一部である一時的架橋剤を加水分解または官能化するために使用された条件を概ね損なわれず生き延びる架橋剤を指す。例えば、条件は、無水物基を加水分解または官能化するための条件とすることができる。それは、以下に記載するように、それ自体さまざまな条件下で、または単によりゆっくりと切断されうるものとすることができる。一実施形態において、永久的架橋剤は、少なくとも2個のビニル基を有する。例としては、加水分解に不安定なメタクリル酸無水物と加水分解に安定なモノ、ジおよびそれ以上のエチレングリコールジメタクリレートとの組合せが挙げられる。いくつかの実施形態において、永久的架橋剤は、分解性架橋剤または生分解性架橋剤である。分解性または生分解性架橋剤は、一時的架橋剤の加水分解または官能化反応時に反応しないが、インビボで生理的条件下に分解する。そのような分解性架橋剤としては、一時的架橋剤の加水分解的切断時に存続するが、生理的条件下で数時間から数週間の間に分解する、ケタールまたはジスルフィドを含有する架橋剤が挙げられる。
【0094】
本明細書で使用される用語「官能化する」または「官能化」は、官能基が反応性基から生成される反応を指す。官能基は、ペプチド基(例えば、RGD)または他の分子(例えば、フルオロフォア、ポリマーなど)とすることができる。官能化は、水(加水分解)、アミン、アルコールおよびチオールのような求核試薬との反応を含み、一時的架橋剤の無水物基を切断する。一例として、チオールを有する疎水性、親水性または生物活性基を使用することができる。さらに、反応は、ジアミンなど二官能性種との反応であってもよい。例えば、二官能性種は、両方のアミンが第一級または第二級アミン、例えば1,2-エチレンジアミンまたは1,3-プロピレンジアミンであるジアミンとして定義され、官能化反応に関与するとき、ジアミンの両端が無水物基と反応した場合に、無水物架橋が分解され、ジアミド架橋で置き換えられることがあり、新しい架橋が形成されうる。同様に、官能化は、ジアミンもしくはトリアミンまたはそれ以上のアミンを必要とすることがあり、アミン基の1個のみが第一級または第二級アミンであり、他のアミン基が第三級または第四級アミン(アンモニウム)基である。例には、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ならびに当業者に公知の類似したジアミンおよびそれ以上のアミンがある。それ以上のアミンでのこの官能化の特定の態様は、アニオン基より過剰のカチオン基をヒドロゲル粒子に導入する能力である。
【0095】
本明細書に定義するように用語「生体適合性の」は、細胞および/または特定の生体組織との長期にわたるインビトロまたはインビボ接触と適合性がある化合物またはマイクロ粒子を指す。生体適合性化合物またはマイクロ粒子は、細胞生存性、細胞機能、および/または組織機能に対して著しいマイナス効果を誘発せず、それによって生体適合性は、通常特定の組織または細胞環境と適合性があるという点で指定される。
【0096】
一態様において、本発明は、さまざまなバイオ医療応用に有用な作用剤として役立つように修飾することができる、膨潤性、安定剤不含、反応性、狭いサイズ分散性のナノおよびマイクロ粒子を高収率で提供する。
【0097】
これは、80:20~20:80、好ましくは70:30~30:70の比のアミンおよびカルボン酸単位で官能化された高膨潤性マイクロゲル粒子を含む。
【0098】
これらのマイクロゲル粒子は、アニオン性コモノマーとカチオン性コモノマーの混合物を使用してグラフトスルーまたはグラフトフロムによっても官能化され、約80:20~20:80、好ましくは70:30~30:70のアニオン対カチオン電荷比を再び達成することができる。
【0099】
そのような官能化のための中性親水性モノマーとしては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、(および他のアクリルアミド/メタクリルアミド)、PEGメタクリレート、N-ビニルピロリドン、および当業者に公知の同様のモノマーが挙げられる。
【0100】
中性疎水性モノマーとしては、アルキル(C1~C12)メタクリレートおよびアクリレート、アルキル(C4~C12)メタクリルアミドおよびアクリルアミド、スチレン、4-メチルスチレン、ならびに他の置換スチレンが挙げられる。
【0101】
アニオン性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(またはナトリウム塩)、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸(またはナトリウム塩)、ビニル官能性リン酸およびホスホン酸、例えばこれらに限定されないがビニルホスホン酸や2-(メタクリロイルオキシ)エチルリン酸が挙げられる。
【0102】
カチオン性モノマーとしては、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルメタクリルアミド、3-アミノプロピルメタクリルアミド、2-(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、3-(メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(すべて以下に示す一般構造で表される)、およびビニルピリジンが挙げられる。
【0103】
【0104】
双性イオンモノマーとしては、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-(2-メタクリロイルオキシ)エチル-N,N-ジメチルアンモニオプロパンスルホネート、N-(3-メタクリロイルイミノ)プロピル-N,N-ジメチルアンモニオプロパンスルホネート、3-(2’-ビニル-ピリジニオ)プロパンスルホネート、および3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチルアンモニオ]プロピオネート(CBMA)が挙げられる。
【0105】
いくつかの実施形態において、ポリマーは、官能化後にモノマーでグラフト化されうる。グラフト化ポリマー網目は、例えばブチルアクリレートなどの疎水性モノマーを最大で50mol%、好ましくは最大で20mol%の量で含有することができる。いくつかの実施形態において、ポリマー網目は、所望の特性を増強するように設計された中性親水性コモノマーを含有する。例としては、凍結保護特性を増強するための、炭水化物基を有するモノマーの添加が挙げられる。中性親水性モノマーの例としては、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、(および他のアクリルアミド/メタクリルアミド)、およびPEGメタクリレートが挙げられる。中性疎水性モノマーの例としては、アルキル(C1~C12)メタクリレートおよびアクリレート、アルキル(C4~C12)メタクリルアミドおよびアクリルアミド、スチレン、ならびに4-メチルスチレンが挙げられる。
【0106】
先行技術の粒子形成法では、安定剤または界面活性剤(例えば、ポリ(ビニルアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)、セルロース、ドデシル硫酸ナトリウムなど)を重合混合物に添加して、粒子の形成に成功する必要がある。公知の方法による添加された安定剤または界面活性剤の一部分は、粒子に永久的に結合し、または除去するのが非常に困難である。安定剤および界面活性剤の文脈の中で、本明細書で使用される用語「添加する」または「添加された」は、マイクロ粒子の形成におけるコロイド安定性を促進するために安定剤および/または界面活性剤を自発的に添加することを指す。添加された安定剤および/または界面活性剤を含まない、本明細書において教示された方法に従って沈殿させたマイクロ粒子は、安定剤または界面活性剤を「実質的に含まない」と記載されるが、最小量の安定剤が(例えば、不純物として)存在することを可能にする。本沈殿重合方法では、プロセスのどの時点でも安定剤または界面活性剤を添加しない。したがって、粒子は、添加された安定剤および/または界面活性剤を含まない。いくつかの実施形態において、界面活性剤および/または安定剤は、全モノマーの0.1wt%未満である。したがって、そのような沈殿重合粒子の表面は、グラフトスルー重合の粒子形成重合、およびその後の任意の官能化を開始するために使用される任意の開始剤群である、粒子形成時に存在するコモノマーおよび架橋剤によってのみ画定される。好ましい実施形態において、いずれの安定剤または界面活性剤も、不純物であり、すなわち意図せずに添加されているものである。一実施形態において、本開示による粒子は、1%未満の(意図せずに添加された)界面活性剤または安定剤を含む。当業者は、1H核磁気共鳴分光法または凝固など他の化学的技法などの当技術分野において公知の方法に従って、粒子の組成を決定することができる。
【0107】
本発明のマイクロ粒子は、狭分散または単分散である。一実施形態において、マイクロ粒子は、約0.3未満、約0.2未満、または約0.1未満の変動係数を有するサイズ分布を有する。
【0108】
マイクロ粒子は、有利な狭分散度または単分散度を維持しながらさまざまな異なるサイズで生成されうる。
【0109】
溶媒の性質などさまざまな合成条件によって、狭分散サイズ分布(約0.3未満の変動係数など)を維持しながら、平均粒子サイズを変えることができる。平均直径は、溶媒組成に応じて0.2~20μmの範囲である。溶媒組成は、この範囲にわたる直径を有する狭分散粒子が得られるように調整することができる。この全範囲内において、1~10マイクロメートルの範囲の直径を有する粒子は、最も容易に到達可能である。
【0110】
本マイクロ粒子は、一時的架橋が加水分解または官能化によって切断されると、膨潤性と特徴づけることができる。一実施形態において、マイクロ粒子は、約3:1~約50:1の湿潤対乾燥膨潤比を有する。凍結保護および細胞シャペロンを含めていくつかの用途では、湿潤対乾燥膨潤比は、好ましくは5:1~30:1である。ワクチンカプセル化などの用途では、3:1~10:1の湿潤対乾燥比が好ましい。したがって、マイクロ粒子の膨潤能は、所望の特定の用途のために調整することができる。粒子の膨潤は、粒子が互いに粘着する現象を限定することによって粒子のコロイド安定性に寄与する。
【0111】
生体材料用途では、全モノマーに対して0.1~30mol%、好ましくは2~10mol%の永久的架橋剤を含む軽度に架橋した膨潤性ヒドロゲルは、組織特性をよりよく模倣するために望ましいことが多い。
【0112】
本マイクロ粒子は、軟性で、軽度に架橋していると特徴づけることができる。一実施形態において、マイクロ粒子のポリマーは、ポリマーの全モノマーに対して0.1~20mol%、好ましくは1~10mol%の永久的架橋剤を含む。機能的に、「軟性」は変形能の観点から生体組織様と定義することができる。定量的に、「軟性」は、細胞および組織の変形能と同じ桁数の変形能と定義することができ、約100パスカル(Pa)~約100kPa、約5~約50kPa、または約1~約10kPaである。
【0113】
本開示の粒子は、一般に滑面または粗面を備えた球体形を有する。一実施形態において、形状は、球体または不規則な球体である。不規則な球体は、表面上に小さな隆起を有し、それによって表面が粗面になると定義することができる。特定の理論に拘泥することを望むものではないが、球体形の性質または不規則な球体形は、粒子が添加により成長し、したがって球体形に向かって進む沈殿重合で粒子が形成される方式で説明される。その形状は、他の粒子でも、細胞でも密に詰まった配列を促進するという点で有利なことがある。
【0114】
本明細書に詳述した特性のために、本マイクロ粒子および生成方法は多くの利点を有することができる。
・本明細書に記載された沈殿重合方法は、マイクロゲル粒子の組成プロファイルおよび架橋密度プロファイルを含めてラジアル組成プロファイルの制御を可能にし、マイクロゲル-細胞相互作用のよりよい管理が可能になる。
・狭いサイズ分布は、混和された細胞の変形を不規則なマイクロ粒子と比べて限定することができる。特定の理論に拘泥することを望むものではないが、狭いサイズ分布は、マイクロゲル間に一貫した間隙容量を与える粒子の密に詰まった配列の形成を可能にする。不規則な粒子は、さまざまな間隙容量で一緒に密集し、混和された細胞の変形を増大させることができるかなり小さい間隙容量もある。
・他の重合技法によって形成された粒子上に典型的に存在する界面活性剤または安定剤は、細胞-粒子相互作用に影響し、潜在的に支配することがある。対照的に、沈殿重合の弁別的特徴である、マイクロ粒子表面上に添加された界面活性剤または安定剤がいずれも存在しないことは、細胞とマイクロ粒子の相互作用が、粒子調製時のモノマー、開始剤および官能化試薬の選択の結果として粒子表面上に存在する化学的および生物学的基によって主に駆動されることを意味する。
・本明細書に記載された沈殿重合方法は、マイクロ粒子の高スループットおよび高収率生成を可能にする。
・これらのマイクロ粒子は、粒子特性を調整するように効率的に後修飾することができる。官能化剤の例としては、以下に示すものなどの(第一級または第二級)アミン、ヒドロキシル、またはチオールを含む求核基を含有する分子が挙げられる。
【0115】
【化8】
[ここで、A=H、アルキル(直鎖状および分枝状、C
1~C
12)、フェニル、ベンジル、ジアルキルアミノアルキル-またはトリアルキルアンモニオアルキル、アルコキシエチル、オリゴ(エチレングリコール)である]。
【0116】
細胞付着の目的では、Aは、RGDアミノ酸配列などの細胞結合モチーフ、およびラミニンなどのより大きな細胞外基質成分とすることもできる。研究および粒子トラッキングの目的では、Aは、フルオレセインもしくはローダミンなどの蛍光基、または当業者に公知の他の基とすることもできる。
・最後に、これらのマイクロ粒子は、例えば沈殿重合、後官能化、グラフトスルー、およびポリカチオンの吸収時に導入されたカチオン性成分の加水分解性電荷シフトによってそれらの荷電平衡を変えるように設計することができる。例としては、カチオン性成分が、ジメチルアミノエチルアクリレート(DMAEA)または他のモノマーなどの電荷シフトカチオン性モノマー、ならびにおよそ数時間および数日間の半減期で生理的条件下でエステル結合の自発的加水分解を受けることが当技術分野において知られている官能基を含む実施形態が挙げられる。そのような基は、例えばN,N-ジメチルアミノエタノールのリチウム塩での後官能化時に、例えばテトラヒドロフランまたは1,4-ジオキサン、あるいは非プロトン性極性溶媒であることが当技術分野において知られている同様の溶媒もしくは溶媒混合物中で膨潤している粒子に導入することもできる。そのような基は、粒子をジメチルアミノエチルアクリレートなどの電荷シフトモノマーでそれ自体または最終の粒子において所望の全体の荷電平衡を達成するように設計された他のカチオン性、中性、アニオン性もしくは疎水性モノマーと組み合わせてグラフトスルーまたはグラフトフロムすることによって導入することもできる。そのような基は、ジメチルアミノエチルアクリレートをそれ自体または他のカチオン性、中性、アニオン性および/もしくは疎水性モノマーと組み合わせて含むポリマーの静電吸収によって導入することもできる。
【0117】
電荷シフト基のそのような官能化、グラフト化または吸収によって生成されたマイクロゲル粒子の最終の荷電平衡は、ワクチン開発用の抗原結合における使用のために設計されたマイクロゲルの大部分のカチオン電荷を含むことができ、または細胞凍結保護のために設計されたマイクロゲル粒子のカチオン電荷対アニオン電荷の近化学量論比を有することができる。
【0118】
沈殿重合
バイオ医療応用における単分散、膨潤性、安定剤不含のヒドロゲル粒子の使用に対する興味が高まり、したがって、そのような粒子を調製する高収率の方法が必要とされている。バイオ医療応用における使用に適した単分散、膨潤性、安定剤不含のヒドロゲル粒子を生成する高収率の方法であって、有利なことに、さまざまな特性(例えば、サイズ、剛性、組成、例えば存在している化学的/生物学的部分、架橋密度や組成などの特性のラジアル分布)を有するヒドロゲル粒子の形成を可能にする方法を本明細書で提供する。一実施形態において、収率は、出発モノマーおよび任意選択で開始剤対形成されたポリマー中に存在するモノマーの重量またはモル比と定義される。別の実施形態において、収率は、出発モノマーおよび任意選択で開始剤対粒子中に存在するモノマーの重量またはモル比と定義される。さまざまな実施形態において、収率は、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、好ましくは少なくとも70%または少なくとも80%とすることができる。
【0119】
上記の特性を有するヒドロゲル粒子は、有利なことに1種または複数の反応性モノマーの粒子形成条件下における沈殿重合後、次に好適な修飾剤を用いたその反応性モノマーの加水分解および/または官能化、ならびに水中における膨潤によって得ることができる。
【0120】
沈殿重合は、反応性モノマー(単数または複数)を含有する粒子、特に水感受性粒子を作製し、安定剤または界面活性剤を含まない狭分散のミクロンサイズの粒子を生成するのによく適している。しかし、沈殿重合における効率的な粒子形成に必要な比較的高レベルの架橋剤は、大部分の生体材料用途に適した剛性よりはるかに剛性であった粒子を与える傾向がある。
【0121】
沈殿重合は、モノマーの均質溶液で始まり、それらのモノマーのうち少なくとも1種が、架橋剤および開始剤である。ポリマーは形成されるにつれ、溶液から沈殿する。実施例において明示されるように、本明細書に記載された条件下で、本開示の粒子が形成される。これらの条件としては、典型的に、全モノマー配合量約1~約20wt%、または約2~約10wt%、架橋剤画分(全モノマーを参照のこと)約10~約100mol%または約20~約80mol%、最も重要なことに形成されたポリマーに適切な溶解力特性を有する溶媒が挙げられる。粒子の形成は、全モノマー配合量1wt%未満で非効率的になり、限定される。一実施形態において、架橋剤のみが配合量において使用される。一実施形態において、1種または複数の追加のモノマー(一時的架橋剤または永久的架橋剤でない)をモノマー配合量に添加して、特定の用途に対して適合させたポリマーを生成することができる。一実施形態において、一時的架橋剤対永久的架橋剤の比は、約90:10~約80:20である。溶媒は、ポリマーが凝集し、粒子を形成させるのに十分な程度に貧溶媒であるが、粒子表面上のポリマー鎖が膨潤し、重合時に粒子-粒子凝集を防止するのに十分な程度に良溶媒であるべきである。一実施形態において、使用される溶媒は、形成しているポリマーの値より高いまたは低い約4~約5MPa1/2(すなわち、ほとんど極性)のヒルデブランド溶解度パラメータを有する。例えば、沈殿重合によるポリ(ジビニルベンゼン)(19.3MPa1/2)の形成を、溶媒アセトニトリル(24.3MPa1/2)および20:80のMEK/ヘプタン(15.9MPa1/2)中で行って、本開示による単分散マイクロ粒子を得ることができる。沈殿重合を使用して、メタクリル酸無水物などの反応性モノマー(すなわち、粒子の後の官能化を可能にするもの)から粒子を形成することができる。さらに、いくつかの実施形態において、溶媒の粘度は、溶媒の選択において考慮される別の因子である。低粘度溶媒が好ましい。一実施形態において、溶媒は、20℃で約0.5cP未満の粘度を有する。沈殿重合に使用される溶媒は、重合温度(典型的に、熱開始重合では60~70℃)より高い沸点を有すべきであり、モノマーまたは開始剤と実質的に反応すべきでない。MeAnのような反応性モノマーの場合に、水、アルコールまたはアミンのような求核性溶媒は回避されるべきである。粒子は、光開始沈殿重合から得ることもでき、より低い沸点の溶媒の使用が可能になる。本開示の沈殿重合に適した溶媒の例としては、ヘプタン、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン(MEK)、テトラヒドロフラン(THF)、アセトニトリル、酢酸エチル、ベンゼン、シクロヘキサン、クロロホルム、またはそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。光開始重合の場合には、アセトン、ジエチルエーテル、ジクロロメタンおよびペンタンなどの溶媒を使用してもよい。
【0122】
細胞用途において必要なヒドロゲルは、通常高度に水和され、軟性であり、ゲル内の低架橋度と相関する。しかし、沈殿重合時において架橋剤レベルが低いことは、低粒子収率に関連する。
【0123】
本発明には、低配合量の架橋剤を用いた先行の沈殿重合方法の典型的な収率20%未満と比べて、粒子収率を少なくとも30%、好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも70%に高めるために、沈殿重合時において反応性一時的架橋剤を使用することが記載されている。同じくらい重要なことに、重合が完了した後、反応性架橋は切断されて、粒子膨潤が可能になる。同時に、この変換は、親水性イオン性基および追加の所望の官能基の導入を切断試薬の注意深い選択を通して可能にする。中程度の量の永久的(より徐々に浸食されうることがある)架橋剤(一時的架橋剤に対して5~20mol%)が、重合後修飾時に粒子の完全な溶解を防止するために含まれる。要するに、本発明者らは、驚くべきことに、沈殿重合の使用によって、容易に官能化して、高度に水和された軟性の狭分散マイクロゲルに手軽に到達することができる切断可能な架橋を有する粒子を高収率で得ることができるコモノマー/溶媒の組合せを見出した。
【0124】
モノマーのメタクリル酸無水物(MeAn)またはそのアクリル酸類似体であるアクリル酸無水物は、容易に官能化される無水物基を有するポリマーを生成することができ、無水物架橋が容易に切断されて、形成したままの高架橋粒子のマイクロゲル粒子への膨潤を可能にすることができるので、本方法に特に適していることが見出された。
【0125】
MeAnは、両ビニル基を消費する、架橋と環化重合(非架橋形の重合)という2つのタイプの重合を受けるジビニルモノマーである(スキーム1)。特定の理論に拘泥することを望むものではないが、環化重合は、分枝または架橋を引き起こさないという点で「線状」重合である。環化重合では、成長ポリマー鎖は、2個のビニル基を加え、交互に単一ポリマー鎖に沿って環(MeAnの場合5員または6員環)を形成する。両ビニル基が消費されても、それは架橋でない。ジアリルジメチルアンモニウムクロリドのようないくつかのジビニルモノマーは、環化重合のみを経験し、MeAnは、両タイプの反応を実験条件(温度、溶媒、モノマー濃度)によって異なる比で示す。8
【0126】
したがって、式(I)、(IIa)~(IIf)
【0127】
【化9】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニルまたはOJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義される]の一時的架橋剤モノマーを提供する。
【0128】
【0129】
(式IIa~IIfに示した)対称性および混合無水物は、好適な一時的架橋剤である。化合物IIaは、4-ビニル安息香酸無水物であり、化合物IIbは、3,4-ビニル安息香酸無水物であり、化合物IICは、3-ビニル安息香酸無水物である。3つの式はすべて、好適な一時的架橋剤であり、異なる対称性または混合無水物の混合物も同様である。
【0130】
【0131】
【化12】
式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである。
【0132】
無水マレイン酸、無水シトラコン酸、または無水イタコン酸などの環式無水物は、1個のビニル基しか有さず、架橋剤と考えることができないので、本方法のための一時的架橋剤として好適でない。さらに、これらの化合物は、いくつかの条件下で、例えばそれらの有用性を限定する50mol%より高いモノマー混合物として存在するとき、不十分な重合効率を有する。
【0133】
図1は、メタクリル酸無水物の重合を図示し、2個のビニル基が逐次反応において消費される環化重合、またはビニル基1個のみが反応するより慣例の反応を示す。2個目のビニル基がその後になって反応する場合に、一時的架橋が形成される。
【0134】
形成された沈殿マイクロ粒子は、式(IIIa)、(IIIb)、(IIIc)、(IIId)、(IIIe)、(IIIf)、(IIIg)、(IIIh)、(IIIi)、(IIIj)、(IIIk)、(IIIl)、(IIIm)、(IIIn)、および/または(IIIo)
【0135】
【化13】
[式中、R
1およびR
2は、H、C
1~C
4直鎖状もしくは分枝状炭素鎖、ベンジル、フェニルまたはOJから独立的に選択され、Jは、C
1~C
4直鎖状または分枝状炭素鎖と定義される。波線は、延長されたポリマー主鎖を表す]。
【0136】
【0137】
【化14-2】
[式中、nは、整数1~3である]、
【0138】
【0139】
【化15-2】
[式中、R
3は、独立的にHまたはメチルである]の一時的架橋剤モノマーを有する。
【0140】
これらのモノマーを、例えば以下に記載する式(IV)の多数のモノマーに官能化することができる。
【0141】
図2に図示するように、ポリマーは、ビニル結合1個のみが反応したMeAn基および両方が環化重合または架橋によって消費されたものを有する。ポリマーが水、アルコール、チオールまたはアミンなどの求核試薬に曝露されている場合、無水物基は、消費され、カルボン酸、チオエステルを含めてエステル、またはアミドを形成する。この反応の過程において、ポリマーは官能化され、無水物架橋が切断される。これらが唯一の架橋であれば、粒子は溶解する。こういう理由で、通常の架橋剤、例えばエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、オリゴ(エチレングリコール)ジアクリレート、オリゴ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、N,N’-メチレンジメタクリルアミド、グリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、炭水化物のポリビニルまたはポリアリルエーテル;ジビニルベンゼン(DVB)、トリビニルベンゼン、ジビニルピリジン、または同様のものは、粒子が官能化および加水分解を生き延びることを確実にするために永久的架橋剤として全モノマー重量の1~30%、好ましくは5~20%の量で添加される。以下のスキームは、追加のアミン官能性永久的架橋剤を示し、スキーム中、RおよびR
1=Hまたはメチルであり、R’=アルキルまたはアリールであり、x=1または2である。
【0142】
【0143】
マイクロゲル粒子が最終的な自発性の加水分解または酵素媒介分解を受けるために必要とされる場合、永久的架橋剤は、生理的条件下で好適な時間枠にわたって切断可能な基を含有する公知の分解可能な架橋剤群から選択することができ、ジスルフィド基、不安定なエステル、不安定なアセタールおよびケタール、ならびにヒンダード無水物基が挙げられるが、これらに限定されない。それらはすべて、2つのモノマー単位間で分解可能なスペーサーの形をとる。分解は、加水分解、酵素的、酸化還元または光化学的な方式を含めていくつかの方式で行われることがある。
【0144】
そのような徐々に分解可能な架橋剤の例としては、ジスルフィドを含有するジビニルまたはそれ以上のビニル架橋剤、例えばビス(2-メタクリロイル)オキシエチルジスルフィドもしくはビス(2-アクリロイル)オキシエチルジスルフィド、または対応するメタクリルアミドもしくはアクリルアミド(R1=Me、H;x=1~3)
【0145】
【化17】
不安定なアセタールを含有するジアクリレートまたはジメタクリレート、例えばビス[(2-メタクリロイルオキシ)エトキシメチル]エーテル
【0146】
【化18】
または単一のアセタール単位を含有する対応する架橋剤[式中、R
1=H、Meであり、R
2=H、アルキル(C
1~C
8、直鎖状または分枝状)、またはアリールである]
【0147】
【0148】
他の分解可能な架橋剤としては、ビス-メタクリレート末端ポリ乳酸/グリコール酸オリゴマーおよびそれらのマルチアーム類似体、ならびにアクリレートおよびアクリルアミド類似体[式中、R1=H、Me;R2=H、Me;R3=H、Me]が挙げられる。
【0149】
【0150】
別の分解可能な架橋剤は、2-アミノエタノールモチーフをベースにしたアクリル酸エステルを保持する類似した架橋剤と同様に、以下に示す2つのビスアクリロイルアミノエステルなどのアミン基への近接によって分解可能になるエステル結合をベースにすることができる。
【0151】
【0152】
さらに、分解可能な架橋剤は、類似したビスアクリレートおよびビスアクリルアミドおよびビスメタクリルアミド架橋剤、ならびにエチルより長いスペーサー、複数のジアルキルシロキサン不安定単位、および上記のマルチアーム類似体を含有する類似した架橋剤と同様に、以下に示すジメチルジ(メタクリロイルオキシ-1-エトキシ)シランなどの加水分解に不安定なシロキサン結合を組み込むことができる。
【0153】
【0154】
さらに、分解可能な架橋剤は、以下に示すN,O-ジメタクリロイルヒドロキシルアミンなどの不安定なO-N結合を含有することができる。
【0155】
【0156】
最後に、分解可能な架橋剤は、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP1、MMP3、MMP7およびMMP9)がポリマー網目を分解することができるように(Pro-Leu-Gly-Leu-Trp-Ala)などのマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)切断可能な基を含有することがある。
【0157】
図2は、加水分解または官能化の形をとることができる、メタクリル酸無水物ベースのポリマーと求核試薬(RXH)の反応を示す反応スキームを記載する。2本の鎖を架橋する無水物の反応は、架橋の喪失を引き起こす。Xは、NH、NR、O、およびSから選択され、Rは、好適な生体適合性の化合物または分子である。例えば、Rは、直鎖状もしくは分枝状C
1~C
18、アリール、ヘテロ芳香族、糖、フルオロフォア、アミノ酸、RGDなどのペプチド、重合開始剤、ポリエチレングリコール(PEG)、ベタイン、タンパク質、エチレンジアミンまたは他の生体分子(ヌクレオチド、DNA、RNA、治療用分子または作用剤など)と定義することができる。式(IIIa)~(IIIc)の無水物モノマーを含むマイクロ粒子は、式(IVa)~(IVc)のモノマーとなるように官能化される。同様のモノマーは、式(IIId)および(IIIe)に由来する。以下に示す例示的なモノマーは、式(IIIa)~(IIIc)の一時的架橋剤モノマーの加水分解および/または官能化に由来する。
【0158】
【化24】
[式中、R
1およびR
2は、H、アルキル(C
1~C
4)、フェニルまたはベンジルであり、Xは、O、NH、NR
3、またはSであり、R
3は、H、アルキル(C
1~C
12)、アリール、ヘテロ芳香族、ポリエチレングリコール、糖、フルオロフォア、アミノ酸、ペプチド、他の生体分子(DNA、RNAなど)、または他のモノマーである]。
【0159】
本発明において記載されたマイクロ粒子は、溶媒条件下におけるコモノマーと架橋剤の特定の混合物の沈殿重合によって形成され、得られたポリマーは、狭分散または単分散ミクロスフェアの形状をとり、平均直径は、使用された溶媒、モノマーおよび架橋剤の性質および量に応じて約0.3~約20マイクロメートルに及ぶ。
【0160】
コモノマーは、沈殿重合プロセスにおいて架橋剤と共に使用されうる。一実施形態において、コモノマーは、アルキル(C1~C12)メタクリレートおよびアクリレート、アルキル(C4~C12)メタクリルアミドおよびアクリルアミド、スチレン、3-または4-アルキルスチレン[ここで、アルキルは直鎖状または分枝状C1~C8でありうる]、ならびにアルキルエーテルまたはアルキルエステル置換基を3位および/または4位に有するスチレンとすることができる。
【0161】
コモノマーは、1~4単位を組み込むエチレングリコールおよびメトキシエチレングリコール側鎖、および任意選択で混合長オリゴエチレングリコール側鎖、ならびにそれらの混合物を有するアクリル系およびメタクリル系モノマーとすることもできる
【0162】
【化25】
[式中、R
1=H、アルキル(C
1~C
4)であり、R
2またはR
3=H、アルキル(直鎖状および分枝状、C
1~C
12)、フェニル、ベンジル、ジアルキルアミノエチル、ジアルキルアミノプロピル、ジアルキルアミノブチル、アルコキシエチル、オリゴ(エチレングリコール)、メトキシオリゴ(エチレングリコール)である]。
【0163】
コモノマーは、ビニルエーテル、直鎖状および環式N-ビニルアミド、またはビニルエステル、例えば以下に示すものとすることもできる
【0164】
【化26】
[式中、R
1=アルキル(直鎖状または分枝状、C
1~C
8)であり、X=OまたはNHであり、R
2=H、アルキル、フェニルであり、n=1、2である]。
【0165】
一実施形態において、乾燥重量をベースにして得られた組成物は、平均粒子直径(D)が変動係数0.3未満、またはより好ましい0.2未満、または最も好ましい0.1未満である0.3~20マイクロメートルのマイクロ粒子を含む。一実施形態において、乾燥重量をベースにした組成物は、平均粒子直径が変動係数約0.3未満、約0.2未満、または約0.1未満である0.3~20マイクロメートルのマイクロ粒子を含む。一実施形態において、組成物の文脈の中で「マイクロ粒子を含む」という表現は、マイクロ粒子を少なくとも約50重量%、少なくとも約60重量%、少なくとも約70重量%、少なくとも約80重量%、または少なくとも約90重量%含む組成物と定義される。粒子のサイズは、粒子が細胞によって取り込まれることが望まれているか否か、特定の用途をベースにして選択することができ、例えばワクチンデリバリーの場合、0.1~1マイクロメートルのサイズが好ましく、凍結保存または細胞シャペロンの場合、1~10マイクロメートルのサイズが好ましい。
【0166】
本発明の一態様は、これらのナノおよびマイクロ粒子が高量の一時的架橋剤の存在下で形成され、高粒子収率を成す助けとなり、その後の制御された脱架橋ならびに加水分解および所望の官能基の導入による化学修飾が、以下に記載する複数の用途に役立つことを可能にすることである。官能化によって、ナノおよびマイクロ粒子を生体適合性にする。水性の体液と接触するとき、無水物基は反応し、pHを下げ、したがって特に生体適合性ではない。
【0167】
図3は、両性高分子電解質特性を有するミクロン範囲のマイクロゲル粒子を形成する3つの手法を示す。3つの手法はすべて、一時的ジビニル架橋剤(例えば、メタクリル酸無水物、MeAn)および永久的架橋剤(例えば、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)での沈殿重合で始まる。第1の手法では、一時的架橋剤(一時的XL)および永久的架橋剤(永久的XL)は、沈殿重合101を受けて、高密度な反応性ミクロスフェア102を得る。次いで、高密度な反応性ミクロスフェアは、ジまたはトリアミンで修飾されて103、両性高分子電解質ゲルを形成する。第2の手法では、高密度な反応性ミクロスフェア102は、代わりにビニル官能性マイクロゲルに加水分解または官能化される104。次いで、カチオン性およびアニオン性モノマーのグラフトスルー105によって、両性高分子電解質マイクロゲルが形成される。第3の手法では、一時的架橋剤および永久的架橋剤を、沈殿重合106において追加のモノマーと組み合わせて、高密度な反応性ミクロスフェア107を得る。次いで、追加のモノマーを含む高密度な反応性ミクロスフェア107を、ジまたはトリアミンで修飾し108、または加水分解して、両性高分子電解質マイクロゲルを形成する。
【0168】
一実施形態において、沈殿重合から形成されたマイクロ粒子は、本開示による一時的架橋剤と永久的架橋剤とからなり、またはそれらから本質的になる。別の実施形態において、マイクロ粒子は、メタクリル酸無水物および/もしくはアクリル酸無水物と本開示による永久的架橋剤とからなり、またはそれらから本質的になる。さらに別の実施形態において、マイクロ粒子は、メタクリル酸無水物および/もしくはアクリル酸無水物と、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ジエチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)、オリゴ(エチレングリコール)ジアクリレート、オリゴ(エチレングリコール)ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBA)、N,N’-メチレンジメタクリルアミド、グリコール、グリセロール、ペンタエリトリトール、炭水化物のポリビニルもしくはポリアリルエーテル;ジビニルベンゼン(DVB)、トリビニルベンゼン、ジビニルピリジン、およびそれらの組合せからなる群から選択される永久的架橋剤とからなり、またはそれらから本質的になる。追加の実施形態において、マイクロ粒子は、メタクリル酸無水物および/もしくはアクリル酸無水物とDEGDMAとからなり、またはそれらから本質的になる。
【0169】
特定の理論に拘泥することを望むものではないが、マイクロ粒子の形成は、密度が表面に対して中心の方が高く、マイクロ粒子の剛性が、表面に対してコアの方が高いような形成である。粒子は、軽度に架橋または分枝したポリマー鎖からなる新たに形成されたポリマーの堆積によって成長する。本開示のジビニル一時的架橋剤は、モノビニルモノマーより、架橋のために利用可能な二重結合を多く与え、粒子が成長するにつれて、成長を維持するのに利用可能な二重結合が多く存在する。粒子成長において早期に捕獲され、したがって粒子コアに近い材料は、より高密度およびより高剛性になるような別の架橋反応を受ける。ラジアルグラジエントは、優先的に組み込まれる架橋剤を使用することによってさらに増強することができる。例えば、少量の電子リッチな架橋剤、例えばジビニルベンゼンまたはジビニルエーテルがMeAn/DEGDMA重合に添加される場合、電子リッチな架橋剤は、両方とも電子不足である他のモノマーと比べて、反応性が高いためにコアに優先的に組み込まれる。これによって、表面より粒子コアにおける電子リッチな永久的架橋剤のレベルが高くなる。これらの特性は、粒子の逐次的ラジアル成長がいずれかの時点における表面組成をもたらし、そのときに形成されたコポリマーの組成を反映するので、本明細書で使用した沈殿重合方法に固有である。
【0170】
一例として、メタクリル酸無水物(MeAn)などの切断可能な一時的架橋剤は、60vol%のメチルエチルケトンおよび40vol%のn-ヘプタンを含む溶媒混合物中、ラジカル開始剤として役立つ(全モノマーに対して)約2wt%のAIBNの存在下に、5%(重量/体積)の全モノマー配合量でジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)などの永久的架橋剤と共重合される。重合は、20mLのネジ蓋式ガラスバイアル中で実施され、55~80℃、好ましくは65~75℃の温度に4~24時間、好ましくは12~20時間加熱する。当技術分野において公知のように、重合をより低いおよびより高い温度で開始することができる熱開始剤が存在する。同様に、本明細書に組み込まれるこれらをはじめとする温度で重合を開始させることができる酸化還元プロセスをベースにしたラジカル開始剤が当技術分野において公知である。
【0171】
一時的架橋剤と永久的架橋剤の比は、50:50~99:1mol%、好ましくは80:20~95:5に及ぶことがある。反応性の一時的架橋剤(式(I)および(II))の例としては、MeAn、アクリル酸無水物、および4-ビニル安息香酸無水物が挙げられる。永久的架橋剤の例としては、EGDMA、DEGDMA、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0172】
この例では、得られたミクロスフェアは、沈殿重合時に存在するすべてのモノマーがジビニル化合物であり、より高い架橋度、したがってより効率的な粒子形成をもたらすので、高収率(67±10%)で形成される。この特徴は、これらのミクロスフェアの単離収率(40%~80%)を、一時的架橋剤の非存在下であるが、同じ量の永久的架橋剤を用いた沈殿共重合によって形成された比肩しうる粒子の単離収率に比べて著しく増加させる。具体例では、本開示による永久的架橋剤対一時的架橋剤比10:90を使用して沈殿重合によって得られた収率は、永久的架橋剤対単純モノビニル化合物(非架橋剤)比約10:90を使用して沈殿重合によって得られた収率より高い。
【0173】
いくつかの実施形態において、開始剤、好ましくは光開始剤を使用して、開始の速度を反応温度から切り離すことができる。重合速度およびポリマーラジアル分布は共に、反応温度によって影響される。熱開始剤ではなく光開始剤を使用することによって、ある範囲の反応温度にわたって一定の開始速度が可能になる。光開始剤は、光刺激の波長が溶媒またはモノマーによって吸収されないように選択することができる。例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)を使用して、沈殿重合を、365nmの波長を有する光の照射後に開始することができる。
【0174】
凍結保存
本明細書に記載された特性を有する膨潤および懸濁したマイクロゲルを、哺乳類細胞および他の細胞と培養中、好適には10,000:1~1:1、好ましくは5000:1~200:1のマイクロゲル対細胞の体積比で組み合わせてもよい。いくつかの実施形態において、マイクロゲルは、細胞との共沈降後に、密に詰まったゲルを形成する。密に詰まったゲルは、低応力下で固体様またはゲル様であるが、より高い応力下では流動することができる軟性粒子の密に詰まった配列である。密に詰まったゲル内における細胞の捕捉は、細胞周囲の氷晶形成を低減することおよび細胞の部分脱水によって、細胞に対する凍結損傷を軽減することができる。別の実施形態において、高膨潤マイクロゲルの溶液または懸濁液は、細胞沈降を防止する粘性溶液を形成する。いくつかの実施形態において、凍結保存に使用されるマイクロゲルは、70:30~30:70のアニオン性:カチオン性の比を有する。いくつかの実施形態において、ヒドロゲルマイクロ粒子は、1~25wt/v%の濃度である。この値は、マイクロゲル剛性に依存することがある。細胞と共沈降して、密に詰まったゲルを形成することができるより剛性のマイクロゲルを、1~5wt/v%の範囲で効果的に使用することができ、5~25wt/v%の濃度範囲で細胞沈降を防止する体積充填粘性溶液を形成することができる軟性のマイクロゲルを、遠心によって細胞から分離することができる。
【0175】
凍結および解凍時に、これらのマイクロゲルは、細胞を包囲し、氷晶が細胞壁を透過することによって細胞傷害を引き起こすのを防止する。同時に、連続媒体の緩慢凍結は、マイクロゲルにおける浸透圧の増加を引き起こし、サイトゾルの部分脱水が生じる。サイトゾル内の得られたより高い浸透圧強度(より高いタンパク質濃度)は、細胞内における氷晶形成を低減する。追加的に、マイクロゲルは、より大きな細胞傷害性氷晶を生成する解凍条件下で氷晶再結晶を低減することができる。別の実施形態において、急速凍結条件下におけるマイクロゲルの添加は、氷晶形成を阻害する連続媒体の透化につながる。
【0176】
これらのマイクロゲルは、比較的大きなサイズ(1~10マイクロメートル)および非汚損性のために、親和性媒介プロセスまたはさらに飲細胞作用によって哺乳類細胞に取り込まれる可能性が低く、したがってジメチルスルホキシド(DMSO)などの本細胞凍結保護剤(幹細胞を含めて細胞と共に使用)、ならびにエチレングリコール/グリセリンおよび他の糖由来分子9(凍結貯蔵血液と共に使用)に対する重要な懸念、すなわち残留細胞毒性および細胞が(幹細胞性を)分化させる能力に対する凍結保護剤の効果、ならびに細胞内凍結保護剤を除去するために必要とされる時間を克服する。
【0177】
単分散マイクロゲル粒子は、細胞のマイクロゲル間の間隙容量への変形度に対するよりよい制御を可能にする。さらに、いくつかの実施形態において、本開示の軟性の変形可能な両性高分子電解質マイクロゲルを使用して、DMSOなど細胞透過性である通常の凍結保護剤を置き換えることができる。これは、凍結保護性細胞透過性剤(例えば、DMSO)に感受性を示す細胞に特に有利である。本開示の両性高分子電解質マイクロゲルは、凍結貯蔵時に遭遇する凍結解凍プロセス時における細胞生存を確実にするために急速細胞沈降を防止することができる。外部氷晶の形成を回避することは、これらの氷晶が細胞膜を貫通することができるので重要である。有利なことに、本マイクロゲルを用いて、外部の氷晶を最小限に抑え、または回避することができる。さらに、本開示のマイクロゲルは、サイトゾルを脱水することもでき、それによって細胞内における氷晶形成による細胞傷害を防止する。
【0178】
これらの細胞サイズのヒドロゲル粒子は、細胞によって取り込まれる可能性が同様の組成の線状ポリマーであるよりはるかに低く、細胞毒性または細胞分化との干渉などの懸念を低減する。さらに、本開示のマイクロゲルは、細胞取込みを最小限に抑えまたは防止するのに十分に架橋されたポリマーで形成される。
【0179】
非透過性細胞凍結保護剤を作製する方法
本明細書に記載されるミクロスフェアは、3つの方法によって凍結保護ヒドロゲルマイクロ粒子に変えることができる。
【0180】
形成したままのミクロスフェアの、わずかに過剰のN,N-ジメチルエチレンジアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、N,N-ジメチルアミノエタノール、コリン、アミノ酸、ベタイン、ジアミン、トリアミン、ポリアミン、または無水物基を遊離カルボン酸とアミン基を有するアミドもしくはエステルとの組合せに変換する他の同様の化合物での処置による後修飾。この修飾は、沈殿重合時に形成された一時的無水物架橋および環式無水物を、アニオン性カルボキシレートとカチオン基との混合物に本質的に変換し、得られたマイクロゲルに両性高分子電解質特性を付与する。一時的無水物架橋剤の切断の結果として、かつ存在する永久的架橋剤の量に応じて、これらのマイクロゲルはこのとき、高膨潤性および変形可能であり、全モジュラスが哺乳類細胞および組織のそれらに近づいている。これらの粒子は、安定剤の外来性表面残基を全くまたは極めて最小限しか有さない。これらのマイクロゲルは、非細胞透過性細胞保護剤として有用性を示した。
【0181】
単分散凍結保護マイクロゲルを形成する代替方法は、懸垂型ビニル基を使用して、両性高分子電解質をヒドロゲルマイクロ粒子にグラフト化するものである。懸垂型ビニル基は、沈殿重合において使用された永久的架橋剤(例えば、DEGDMA)の残留ビニル基とすることができ、または反応性マイクロ粒子の例えば3-アミノプロピルメタクリルアミド、2-アミノエチルメタクリレート、もしくは2-ヒドロキシエチルメタクリレートでの官能化によって添加されたビニル基とすることができる。形成したままのミクロスフェアの弱アルカリ性条件下における加水分解、または官能化後に続く加水分解によって、一時的無水物架橋ならびに環式無水物基および懸垂型無水物をカルボン酸に変換し、官能化の場合には、アミドまたはエステル(官能化カルボン酸)に変換する。続いて、ここで高膨潤マイクロゲルを、グラフトスルーと呼ばれるプロセスによって両性高分子電解質マイクロゲルに修飾することができる。メタクリル酸(MAA)およびN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(DMAEMA)を含むが、これらに限定されないアニオン性モノマーとカチオン性モノマーの水性混合物に、加水分解マイクロゲルを水溶性ラジカル開始剤と共に懸濁し、加熱し、あるいは光を照射し、結果として生じた共重合が、懸垂型ビニル基をグラフトスルーすることによって共有結合した水溶性モノマーのコポリマーをもたらす。アニオン性、カチオン性、および双性イオン性モノマーの例を以下に記載する。
アニオン性-アクリル酸、メタクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(またはナトリウム塩)、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸(またはナトリウム塩)、ホスホン酸。
カチオン性-N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルメタクリルアミド、3-アミノプロピルメタクリルアミド、2-(メタクリロイルオキシエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、3-(メタクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(直前のモノマーは、以下に示す一般構造で表される)、およびビニルピリジン。
【0182】
【化27】
双性イオン性-2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、N-(2-メタクリロイルオキシ)エチル-N,N-ジメチルアンモニオプロパンスルホネート、N-(3-メタクリロイルイミノ)プロピル-N,N-ジメチルアンモニオプロパンスルホネート、3-(2’-ビニル-ピリジニオ)プロパンスルホネート、3-[[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]-ジメチルアンモニオ]プロピオネート、および他のベタインモノマー。
【0183】
最後に、形成されたままのマイクロゲルを、加水分解後に続いて正味正電荷を有するポリカチオンまたはコポリマーの吸収を行うことによって非透過性凍結保護マイクロゲルに修飾することができる。例としては、アミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノエチルメタクリレート、および同様のカチオン性モノマーなどの永久的カチオン性モノマーのホモポリマー、ジメチルアミノエチルアクリレートおよび同様の電荷シフトモノマーのホモポリマー、ならびにそのような永久的または電荷シフトモノマーと本明細書の他の箇所に記載されている他のカチオン性、中性、アニオン性または疎水性モノマーとのコポリマーを挙げることができる。ただし、得られたコポリマーは、正味カチオン電荷を有し、30~99mol%のカチオン性モノマー、好ましくは50~80%のカチオン性モノマー、最も好ましくは60~70%のカチオン性モノマーを含む。
【0184】
上記の最終マイクロゲルは、80:20~20:80のアニオン性対カチオン性、好ましくは70:30~40:60のアニオン性対カチオン性に及ぶ比を含めて適切なアニオン性対カチオン基比を有することを条件として、高密度懸濁液の形をしたこれらのマイクロゲルと(哺乳類)細胞の組合せは、膨潤マイクロゲル対細胞体積比が10,000:1~1:1、好ましくは5000:1~200:1の範囲であり、これらの細胞の周囲の水の凍結挙動を変える能力、例えば極低温条件下における長期貯蔵時にこれらの細胞への傷害を防止する能力を有する。これらのマイクロゲルは、任意選択で中性親水基および疎水基を含むことができ、これらの基および荷電基は、本来の沈殿重合時もしくは低分子での後官能化時、または重合を介した後グラフト化、もしくは圧倒的にカチオン性コモノマーの加水分解後吸収時に導入することができる。中性親水性および疎水性モノマーの例を以下に記載する。
・中性親水性官能化試薬-アミノエタノール、PEG-アミン、エチレングリコール、およびグリシンメチルエステル(および他のアミノ酸)。
・中性親水性モノマー-2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、(および他のアクリルアミド/メタクリルアミド)、およびPEGメタクリレート。
・中性疎水性官能化剤-アルキル(C4~C12)およびアリールアミン、アルコール(C2~C12)、およびチオール(C2~C12)。
・中性疎水性モノマー-アルキル(C1~C12)メタクリレートおよびアクリレート、アルキル(C4~C12)メタクリルアミドおよびアクリルアミド、スチレン、ならびに4-メチルスチレン。
【0185】
本マイクロ粒子および方法の重要な利点は、形成されたマイクロゲルが、それらのサイズおよび非汚損組成物のために、凍結保護哺乳類細胞のサイトゾルに入る可能性が極めて低く、エチレングリコール、プロピレングリコール、特に幹細胞が分化する能力に影響することが明らかになってきた公知の増感剤および細胞毒性分子であるジメチルスルホキシド(DMSO)を含めて、よく使用される透過性凍結保護剤の使用についての重要な懸念が取り除かれることである。
【0186】
さらに、これらのマイクロ粒子は、同様の組成物を有する線状コポリマーより細胞透過の影響を受けにくいことが予想される。
【0187】
他の利点は、これらのマイクロゲルが、本明細書に記載された沈殿重合方法によって形成されるとき、界面活性剤または立体安定剤を必要とせずに形成され、したがって表面はこれらの潜在的に干渉する化合物を含まず、または実質的に含まないことである。
【0188】
同様に、沈殿共重合の過程を通じて粒子の連続的成長は、外側のシェルが粒子コアより軽度に架橋し、したがって軟性であることを意味する。
【0189】
さらに、これらのマイクロゲル粒子は、凍結貯蔵から解凍後に、細胞に対して異なる沈降速度に基づいて単純な遠心によって細胞から分離することができる。あるいは、マイクロゲルは、マイクロゲルが細胞より著しく小さい場合濾過によって細胞から分離してもよい。例としては、典型的な細胞直径10~15マイクロメートルと比べて直径が0.5~3マイクロメートルであるマイクロゲルが挙げられる。
【0190】
同様に、これらのマイクロゲルの凍結貯蔵および解凍後の細胞からの分離は、沈殿重合時に予備成形磁性ナノ粒子の捕捉によって、または当技術分野において公知であるそのような磁性ナノ粒子をアニオン性ポリマーゲル内に形成する方法を使用して、カチオン電荷の取り込みより前にアニオン性加水分解マイクロゲル粒子内における磁性ナノ粒子の形成によって、磁性ナノ粒子をマイクロゲル粒子内に組み込むことによって促進することができる。これらの方法は、可溶性鉄塩の吸収の後に、続けて不溶性の磁性酸化鉄ナノ粒子への沈殿を含む。
【0191】
最後に、高レベルの一時的架橋剤を含む記載された沈殿重合方法は、分散した細胞の周りに優れた充填を可能にする軟性の十分水和させた単分散または狭分散マイクロゲルを高収率でもたらす。
【0192】
細胞模倣体
本明細書において、異なる形の細胞培養物における細胞のための、特にこれに限定されないが、研究または治療目的の細胞カプセル化のためのECMの合成顆粒状成分として役立つように修飾された類似したナノおよびマイクロ粒子も提供する。
【0193】
そのようなマイクロゲルは、接着細胞の細胞培養物における細胞模倣体として使用することができ、細胞とマイクロゲルを1:100~1:1、好ましくは1:20~1:3の比で含む合成複合体オルガノイドの顆粒状成分として使用することができる。
【0194】
そのような複合体は、追加の栄養素および酸素要求なしで、付着を含めて細胞単独からなる現実のオルガノイドによって提供された、細胞への利点のうちの多くを提供することができる。実際、これらの透過性マイクロゲルの存在は、高膨潤透過性マイクロゲルの接続網が酸素および栄養素の拡散経路として働くことができるので、複合クラスター内に位置する細胞への栄養素および酸素供給を増加させ、さらに低分子量~中程度の分子量の細胞産物、例えばインスリンの排出を増加させることができる。
【0195】
治療用細胞近くのより高い酸素分圧および栄養素レベルを維持する助けとなることに加えて、透過性マイクロゲルのそのような人工的な拡散経路/ネットワークは、クラスターに出入りする可溶性シグナル伝達を増加させ、したがってフィードバック制御系などのグルコース誘発インスリン応答の速度論を増加させる可能性ももつ。
【0196】
膵島細胞もしくはβ細胞またはそのようなマイクロゲルベースの細胞模倣体を有する他の治療用細胞の再凝集物において、これらの拡散経路は、典型的にランゲルハンス島中に存在する広範な微小血管の代わりをすることができる。
【0197】
これらの利点は、特に糖尿病、血友病、およびリソソーム貯蔵障害などの内分泌障害の細胞療法の一部としてヒトへの移植のために半透過性ヒドロゲルカプセルに包まれた官能性治療用細胞およびオルガノイドに適用される。
【0198】
カプセル内の顆粒状ECM成分
凍結保存における使用のための上記のものと同様のマイクロゲルは、任意選択でRGD(アルギニン-グリシン-アスパラギン酸)などの細胞付着基で追加的に修飾されており、さまざまなタイプの細胞培養物用途で顆粒状ECMとして使用することができる。これらには、糖尿病、パーキンソン病、血友病、およびリソソーム貯蔵障害などの内分泌障害の細胞療法に合わせて設計されたドナーまたは幹細胞由来の哺乳類内分泌細胞とのカプセル化が含まれる。
【0199】
それらは、転移時に組織を介したがん細胞遊走、組織内における自然免疫監視機構の一部としての免疫細胞遊走、妊娠期の胎盤形成時における胚細胞および母親細胞の交差遊走、ならびに例えば組織内における細菌感染症の蔓延を含めて、模擬組織における細胞挙動を研究するために使用された細胞培養物も含むことができる。
【0200】
後修飾は、いくつかの生体材料用途におけるマイクロゲル粒子の使用を可能にする化学的特性を導入するように設計することができる。
【0201】
好適なマイクロゲルは、例えばモル比90:10(99:1~80:20、95:5~85:15が好ましい)のメタクリル酸無水物とジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA)の沈殿重合を全モノマー配合量5wt%(1~20%、2~10wt%が好ましい)で、2重量%のAIBNの存在下にメチルエチルケトン/ヘプタン混合物(60:40)中で行うことによって形成することができる。
【0202】
得られた粒子は、疎水性、親水性または生物活性の基を有するアミン、アルコールおよびチオールを含めてさまざまな修飾剤を用いた加水分解または官能化によって修飾することができる。さらに詳細には、これらの修飾剤は、アンモニア、またはアルキルアミン[ここで、アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチルなどとすることができる]、グルコサミン、エタノールアミンなどの第一級アミンとすることができる。
【0203】
上記のマイクロゲルは、本明細書では細胞の内在性膜タンパク質(例えば、インテグリン)に結合することができるすべてのタンパク質配列を含むことができる細胞接着分子で後修飾することができ、細胞-タンパク質接着が得られる。本明細書では用語「Arg-Gly-Asp」ペプチドもしくは配列または「RGD」ペプチドもしくは配列は、インテグリン型受容体の結合部位として機能することができる少なくとも1つのArg-Gly-Aspを含む配列およびいずれか機能的等価物を有するペプチドまたはアミノ酸配列を指す。
【0204】
上記のマイクロゲルを、アルギン酸ナトリウムまたは同様のゲル形成剤中の哺乳類(治療用)細胞の懸濁液に添加し、塩化カルシウムに滴下して、ゲル化することができる。
【0205】
それらを、マルチウェルプレートを含めて他の細胞培養デバイスに堆積させた細胞に添加して、細胞-細胞相互作用を緩和させてもよい。
【0206】
ワクチン用途
別の実施形態において、ワクチンの文脈において抗原のための送達プラットフォームとして役立つように修飾したナノおよびマイクロ粒子を提供する。これらのナノおよびマイクロ粒子は、:
・抗原に対する担体、例えばm-RNAを含めてRNA、DNA、タンパク質、ウイルス殻断片、全不活化ウイルス殻、または所望の抗原タンパク質を発現するように修飾されたアデノウイルス類などの活性無害ウイルスとして働く。
・貯蔵およびレシピエントの免疫系への投与時に抗原を静電気的に結合することができるカチオン基を有する
・前記アジュバント特性がカチオン基もしくはポリカチオン基、またはいくつかの炭水化物基をベースにしていることを含めて、宿主免疫系による認識および処理を確実にするためにアジュバント特性を有する。
・レシピエントにおいて強い免疫応答を誘起するのに有益な時間枠にわたって結合している抗原ペイロードを遊離するために、カチオン基またはポリカチオン基を自発的または酵素媒介加水分解によって切断することができる組成物を有する。
・プロセスを通してレシピエントからマイクロ粒子の腎クリアランスを含めて最終的クリアランスを確実にするために、緩慢な自発的または酵素媒介加水分解を受けることができる架橋剤を有する。
・貯蔵および輸送時にコールドチェーン兵站を必要とせずに、最高で40℃と定義された室温で貯蔵のために抗原を結合することができる、カチオン基およびポリカチオン基、ならびに非化学量論的な両性高分子電解質を含む組成物を有する。
・銀ナノ粒子を追加的に配合して、沈殿重合時に共沈殿によって、または後官能化の一部として銀塩から還元的沈殿によって、または予備成形銀ナノ粒子の記載のポリマーナノ粒子への吸着によって、細胞性免疫応答を増強することができる。
【0207】
ワクチンデリバリー粒子を作製する方法
図4は、ワクチン用途に適した抗原担体としての使用のためのナノ粒子を形成する2つの手法を示す。両手法とも、粒子が腎クリアランスによって最終的に除去されることを確実にするために一時的架橋剤(例えば、メタクリル酸無水物)および徐々に浸食されるジビニル架橋剤(例えば、ジスルフィド架橋ジメタクリレート)の初期沈殿重合201、206を含む。第2の手法は、沈殿重合206におけるカチオン性モノマーの添加を含む。第1の手法では、高密度な形成したままのミクロスフェアが得られ202、次いでジアミンまたはトリアミンで修飾することができ203、あるいはビニル官能性ポリアニオン性マイクロゲルに加水分解または官能化することができ204、次いでDMAEMA/DMAEAおよびアニオン性モノマーを使用し、グラフトスルーして、非化学量論的(カチオン性)両性高分子電解質マイクロゲルを形成する205。第2の手法では、カチオン性および無水物架橋を有するミクロスフェア207が得られる。次いで、それらをジアミンまたはトリアミンで修飾し208、次いで抗原を配合し、凍結乾燥する209。
【0208】
一例として、好適なコポリマーでグラフト化したサブミクロン(0.1~0.9ミクロン)粒子をワクチンデリバリービヒクルとして使用することができる。ここで、タンパク質、mRNA、DNAまたはウイルスまたは細菌性殻断片または全不活化ウイルスまたは細菌または他の病原体をベースにした抗原は、これらの抗原と結合することができる基またはポリマーで後官能化されたヒドロゲル粒子に吸収され、またはそれらに結合してもよい。これは、カチオン性修飾基、またはグラフト化コポリマーにおいて過剰のカチオン電荷を含む非化学量論的両性高分子電解質を含むことができる。
【0209】
抗原を結合することに加えて、マイクロゲルのカチオン性は、投与時に抗原配合ワクチン粒子のマクロファージまたは他の細胞への取り込みを支援することができる。
【0210】
同様に、マイクロゲル表面のカチオン性は、注射、経鼻投与、または他の投与形態によって組織に導入するとアジュバント応答を発揮することができる。
【0211】
代替としてまたはさらに、アジュバント活性を増強するために、銀ナノ粒子をワクチン粒子に導入してもよい。
【0212】
同様に、カチオン基またはコポリマーは、アニオン基への電荷シフトを受けて、それによって持続性の免疫応答を誘発するのに適した時間枠にわたって抗原を遊離するように設計することができる。
【0213】
同様に、マイクロゲルにグラフト化したコポリマーは、-30℃、-10℃、+2-8℃、または室温(37℃または40℃までの温度と定義される)での貯蔵を含めて、-80℃を超える温度を意味することができる高温で、延長された貯蔵時に変性または他の形態の非活性化を防止する形で抗原を結合するように設計することができる。特に、いくつかの合成または天然高分子による未変性タンパク質の複合体形成は、タンパク質を変性から保護することができる。例としては、202010に記載されたHEROタンパク質と呼ばれる天然タンパク質、および他の天然変性タンパク質(IDP)が挙げられる。11同様に、合成両性高分子電解質は、未変性タンパク質を隔離し、加熱または乾式貯蔵時に変性から保護する。本マイクロゲルにグラフト化したコポリマーは、未変性タンパク質を隔離し、凍結乾燥(フリーズドライ)後の乾式貯蔵時に変性を防止することができるコアセルベート相を、生理学的pHでアニオン性マイクロゲルを用いて形成するように設計することができる。コアセルベートは、近化学量論的バランスのアニオン電荷とカチオン電荷を含む単一ポリマー(単純なコアセルベート)、または正味化学量論的または近化学量論的バランスのカチオン性モノマーとアニオン性モノマーを有する一対もしくはより大きなセットのポリマーおよびコポリマー(複雑なコアセルベート)を含む、静電気的に維持され、高度に水和されたポリマー相と定義される。あるいは、マイクロゲルはグラフト化コポリマーと共に、圧倒的にアニオンに帯電しているタンパク質またはRNAもしくはDNAなどの他の抗原と複合体形成後に、複雑なコアセルベート相を形成することができ、同様にポリヌクレオチドのペイロードタンパク質を貯蔵時に変性または他の分解から保護することができる。最後に、抗原結合性コアセルベートは、圧倒的にカチオン性ポリマーまたはコポリマーをアニオン性加水分解マイクロゲル粒子に静電気的に吸収することによって生成することができる。
【0214】
これらすべての場合、コアセルベート相の実効電荷は、抗原の吸収、マイクロゲル粒子の細胞取り込み、およびアジュバント活性を促進するために、中性、または好ましくはカチオン性であるべきである。同様に、永久的架橋剤は、注入されたワクチン粒子の最終的な腎クリアランスを可能にするのに適した時間範囲にわたって分解するように設計することもできる。
【実施例】
【0215】
以下の実施例は、MeAnをベースにした反応性粒子の調製、反応性粒子のさまざまな官能化されたヒドロゲル粒子への変換、およびヒドロゲル粒子のいくつかの用途を示す。反応性粒子の調製およびそれらのヒドロゲルへの変換を
図5に概略的に示す。
【0216】
すべての材料は、別段の記載がない限り受け入れたままの状態で使用した。2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN、99.9%)は、Dupont社から購入した。メタクリル酸無水物(MeAn、94%)、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA、98%)、ジエチレングリコールジメタクリレート(DEGDMA、95%)、ジメトキシプロパン(DMPA、98%)、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA、≧99%)、p-トルエンスルホン酸一水和物(pTSA、≧98.5%)、4-メトキシフェノール(MEHQ、99%)、シリカゲル(テクニカルグレード、孔径60Å、230~400メッシュ)、砂(50~70メッシュ)、炭酸カリウム(無水、99%)、3-(ジメチルアミノ)-1-プロピルアミン(DMAPA、99%)、アセトニトリル(ACN、≧99.5%)、メチルエチルケトン(MEK、≧99.0%)、ヘプタン(99%)、アセトン(≧99.5%)、ヘキサン(≧99.5%)、酢酸エチル(≧99.5%)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF、≧99.8%)、およびクロロホルム-D(CDCl3、99.8 %D)は、Sigma Aldrich社から購入した。塩化ナトリウム(NaCl、ACS試薬)および水酸化ナトリウム(NaOH、ACS試薬)は、ACP chemicals社から購入した。二リン酸水素二ナトリウム七水和物(Na2HPO4・7H2O)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、塩酸35~37wt%(HCl、試薬)、氷酢酸(試薬級)、および酢酸ナトリウム(試薬級)は、Caledon Laboratories Ltd.社から購入した。オルトリン酸二水素ナトリウム(NaH2PO4・H2O、Assured級)は、BDH Chemicals社から購入した。酸化ジュウテリウム(D2O、99.9%D)は、Cambridge Isotope Laboratories Inc.社から購入した。トリパンブルー0.4%、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、4.5g/L D-グルコース、L-グルタミン、110mg/L ピルビン酸ナトリウム)、0.5%トリプシン-EDTA(10X)、ペニシリン-ストレプトマイシン、仔ウシ血清(BCS)、およびテトラメチルローダミンカダベリン、5-(および-6)-((N-(5-アミノペンチル)アミノ)カルボニル)テトラメチルローダミン(混合異性体)(TAMRAカダベリン)は、Thermo Fisher Scientific社から購入した。2-プロパノール(ACS認定)およびジメチルスルホキシド(DMSO、≧99.7%)は、Fisher Chemicals社から購入した。RGD(Arg-Gly-Asp)(>95%)は、Abcam社から購入した。
【0217】
形成したままの粒子ならびに/または加水分解および/もしくは官能化後の粒子は、顕微鏡法、1H NMR、およびゼータ電位測定で特徴づけた。明視野像は、Nikon Eclipse LV100ND正立顕微鏡またはNikon Ti Eclipse倒立顕微鏡で撮った。共焦点像は、Nikon A1 Confocal Ti Eclipse顕微鏡で撮った。マイクロゲル直径は、Nikon NIS-elements Advanced Researchソフトウェアを使用して、2点測定で明視野像を手動で測定した。1H NMR分析は、Bruker 600MHzで、D2OまたはDMSO-d6中で膨潤した粒子について行った。ゼータ電位は、Malvern社のZetasizer Nano ZSを使用して測定した。
【0218】
[実施例1]
以下の実施例は、MeAnを含む粒子の熱開始および光開始重合による合成を示す。マイクロ粒子を得るために、以下のスキームによる沈殿重合を行った。スキームは、光開始重合の条件を示すが、60~70℃で加熱する熱開始重合のために同じ溶液を使用した。この実施例および以下の実施例では、MeAnベースの粒子は、(MED-X/Y/Z)と表わされ、ここでXは、使用されたMEK/ヘプタン共溶媒混合物中におけるMEKの体積百分率を表し、YおよびZは、全モノマープール中の2つの永久的架橋剤EGDMAおよびDEGDMAのmol百分率を表し、残りの量は、MeAnを表す。
【0219】
【0220】
重合を典型的に5%(w/v)の全モノマー配合量、全モノマーに対して2wt%のAIBNで行った。例えば、35.15mLの55/45(v/v)のMEK/ヘプタン混合物(19.33mLのMEK、15.82mLのヘプタン)に溶解したMeAn(1.596g、10.3mmol)、EGDMA(0.114g、0.57mmol)、DEGDMA(0.139g、0.57mmol)およびAIBN(0.037g)から、MED-55/5/5粒子を作製した。混合した溶媒は、室温でのMEKの密度0.805g/mLおよびヘプタンの密度0.684g/mLを使用して、重量により15.56gのMEKおよび10.82gのヘプタンをまとめて、55/45の混合物を作製するように調製した。次いで、反応混合物を、ネジ蓋を備えた40mLのガラスシンチレーションバイアルに移し、PTFEセプタムを組み込んだ。光開始重合では、バイアルを一連の鋼ローラー(VIVO電気12本のホットドッグおよび5本のローラーグリルクッカー;モデルhotdg-v005)上に置き、鋼ローラー上9cmに位置決めしたEverbeam 100W 365nm UV LED Black光セットで照射しながら3.25rpm、室温で5時間回転した。熱開始重合の場合には、バイアルを同様に70℃に設定したオーブン内(UVP HB-1000 Hybridizer、または同様のもの)で長軸(4~8rpm)に沿って回転した。重合後に、反応混合物を50mLの遠心管に移し、遠心(4000rpm、3082g、15分)によって粒子を単離した。粒子を40mLのアセトンで3回洗浄した後、次に40mLのACNで1回洗浄することによって精製し、粒子を溶媒に再分散し、次いで遠心により沈降させることによって成し遂げた。精製後に、粒子を40mLのACNまたはDMFに再分散し、貯蔵または官能化反応を行った。単離収率を測定するために、粒子のACN懸濁液の撹拌した一定量1mLを予備秤量した20mLのシンチレーションバイアルに移し、窒素中で1時間乾燥した後、バイアルをデシケーターに入れて、真空中20℃で4日間乾燥した。DMF中のMED-60/0/10粒子(熱開始)の顕微鏡像を
図6に示す。-直径:1.74±0.22μm(CV 0.13)。57:43比のMEK/ヘプタン(低極性溶媒)を使用して作製した同様のMED-57/0/10粒子は、2.74±0.57μmの直径を有した(CV 0.21)。
【0221】
MeAnは、環式重合への傾向が強く、無水物基の転位が、初期に形成された架橋の喪失を引き起こすおそれがあるので、非効率な架橋剤でありうる。さらに、ミクロスフェアへの沈殿重合に必要とされる条件(低全モノマー配合量、わずかな溶解力)は、MeAnの非環式生長より環式を好む傾向がある。しかし、コモノマーの存在は、MeAnを永久的架橋剤と一対としたこの実施例と同様にして、MeAn環式重合の程度を低減し、したがってMeAn架橋が増加した。
図7は、55/45のMEK/ヘプタン中、永久的架橋剤の非存在下で形成されたMeANのみ(MED-55/0/0、光)ミクロスフェアの明視野光学顕微鏡像を示す。MED-55/0/0ミクロスフェアは、単離収率38%(表1)で形成され、MEKまたはDMFに分散すると、未変化なままであった。それらが架橋しておらず、直鎖状pMeAn鎖のみからなる場合には、溶媒は、粒子の溶解または合流を引き起こすはずである。妥当な収率で成功したミクロスフェアの形成から、MeAnは、これらの重合条件下で架橋剤として働くことが明らかになった。
【0222】
永久的架橋剤EGDMAまたはDEGDMA、または両者の混合物を全モノマーに対して10mol%で添加したとき、同じ重合条件下で粒子を得た。永久的架橋剤(単数または複数)の存在下で光重合によって調製された粒子が、単離粒子の収率約40~55%で得られた(表1)。粒子の収率は、熱開始重合ではより高く、約50~80%であった(表1)。
【0223】
【0224】
沈殿重合のために選択されたMEK/ヘプタン混合溶媒は、有利なことには、無水物と反応しないわずかな溶媒(低粘度)であった。MEK/ヘプタン溶媒系のさらなる利点は、溶解力の微調整が2成分の比を変えることによって可能になることである。
【0225】
図8A~8Fは、狭分散MED-55/5/5(光)粒子を最大で7%のモノマー配合量で作製することができること、サイズが配合量と共に増加することを示す。1~3μm以下の範囲のサイズが認められた。より大きい粒子が10%の配合量で見られ、5~6μmのサイズを得ることができるが、サイズ分散度が不良であった。すべての粒子のサイズは、加水分解または官能化後にさらに増加する。
【0226】
図9は、開始剤濃度が増加するにつれて、MED-62/0/10(光)粒子のサイズが次第に増加し、狭分散粒子が得られたことを示す。これは、おそらく、より高いモノマー変換の結果である。
【0227】
図10は、50~70%のMEKを含むMEK/ヘプタン中で作製されたMED-X/0/10(光)粒子の直径を示す。溶媒極性を少なくともこの範囲で変えることは、サイズに効果をほとんど及ぼさない。最大で62%のMEKを含む溶媒中で作製された試料で、平均直径約2μmおよび狭分散度(CV≦0.1)の粒子が得られた。粒子サイズは、加水分解または官能化後に増加する。
【0228】
[実施例2]
無水物は、水性媒体中で極めて急速に加水分解され、MeAnベースの粒子の場合に、無水物の切断(架橋、環式および懸垂型)および、pHに応じてメタクリル酸またはカルボキシレート基の生成をもたらす。これは、特に酸基が脱プロトン化されたとき、より高いpHで粒子を膨潤させ、または永久的架橋剤が存在しない場合に溶解させる。MeAnベースのミクロスフェアの加水分解によって、アニオン性マイクロゲルを生成した。例えば、精製MED-55/5/5(光)ミクロスフェアを40mLのACNに懸濁し、遠心により沈降し、5mLのACNに再懸濁した後、11.3mLの1M NaOH(1.1当量)を添加した。30分後、混合物を蒸留水で40mLに希釈し、次いで室温で20rpmの回転による一定の混合下に終夜維持した。加水分解マイクロゲルの懸濁液をセルロース透析チュービング(3500Da 分子量カットオフ(MWCO)、Spectrum Laboratories社)に移し、毎日水を変えながら透析液がUV-Vis分光法により吸光度を示さなくなるまで蒸留水に対して透析することによって精製した。次いで、精製マイクロゲルを凍結乾燥して、白色固体を得た。無菌のマイクロゲルを調製するために、凍結乾燥したマイクロゲルを70%エタノールに2時間浸漬し、遠心(3082g、15分)により沈降させ、無菌の蒸留水中で再膨潤させ、次いでLabconco無菌アダプターを使用して、無菌条件下で凍結乾燥した。
【0229】
加水分解MED-60/0/10(熱)粒子の顕微鏡像を
図6に示す。pH7.4(
図6C)では、粒子直径が5.49~0.78μmであり、pH2では、1.6~0.4μmであり、加水分解前の粒子の直径と同様であった。加水分解後の粒子の生存は、永久的に架橋したことを示し、pH7.4における劇的膨潤は、軽度に架橋したヒドロゲルの形成と一致している。酸性化COOH-形)MED-60/0/10(熱)粒子のDMSO-d6懸濁液の
1H NMR分析は、76:8:12.5の比の0.7~2.2ppm(CH
3、CH
2主鎖)、3.5~4.2ppm(CH
2O)および12.3ppm(COOH)におけるシグナルは、MAA:DEGDMA=93:7と一致していることを示した。これは、各MeAn分子が2個のMAA単位を生じることができるので、MeAn:DEGDMA=87:13に対応する。
【0230】
永久的架橋剤を欠くMED-55/0/0(光)粒子は、無水物が加水分解されると溶解し、MED-55/10/0または-55/5/5などの永久的架橋剤で作製された粒子は、膨潤し、より透明になるが、溶解しなかった。MED-55/2/8(光)またはMED-55/0/10(光)などのDEGDMAのより大きい画分で作製された粒子を、加水分解後に通常の光学顕微鏡法で分割することは極めて困難または不可能であり、溶媒和および膨潤の程度が極めて高いことを反映している。MED-55/0/10マイクロゲルの水性溶液は、0.45μmの細孔シリンジフィルターを通過することができたが、0.22μmのシリンジフィルターを通過することはできず、高度に変形可能ではあるが、依然として粒子であることを示唆している。
【0231】
異なる永久的架橋剤組成物を含むMeAnベースのアニオン性マイクロゲルの膨潤に及ぼすpHの効果は、光学顕微鏡法により決定した。光重合によって作製された加水分解MED-55/10/0、MED-55/5/5およびMED-55/0/10を0.05wt%で100mM リン酸緩衝液(pH2.4)、100mM アセテート緩衝液(pH4.75)、100mM ホスフェート緩衝液(pH7.06)、および100mM カーボネート緩衝液(pH10.0)に分散した。
【0232】
加水分解粒子の膨潤は、ヒドロゲルの架橋度および剛性について情報をもたらす。MED粒子の加水分解によって形成されたものなど架橋ポリ(メタクリル酸)(pMAA)粒子は、低pHで崩壊し、MAA基のすべてがイオン化されると高pHで高度に膨潤する。10mol%の永久的架橋剤で作製されたが、EGDMAとDEGDMAの比が異なる加水分解MED粒子は、溶液にpH2.4、4.75、および7で懸濁し(
図11)、カルボン酸基は、完全にプロトン化されるべきであり(中性)、それぞれ半分イオン化され、完全にイオン化される。粒子は、pHが増加するにつれて明確に膨潤し、それらの屈折率が、溶液の屈折率と近づくにつれて分割が難しくなった。
【0233】
膨潤度は、崩壊した粒子のpH2.4での体積をより高いpHでの体積と比較し、関係性(D
x/D
2.4)
3[ここで、D
xは、所与のpHにおける粒子直径であり、D
2.4は、pH2.4における直径である]を使用することによって推定した。
図12に示されるように、粒子は、かなりの膨潤(≧10×)をpH7で受け、軽度に架橋したヒドロゲルであることを示した。膨潤は、永久的架橋剤中のDEGDMA含有量を上げることによって著しく増加した。より大きい膨潤は、EGDMAより長く、親水性の架橋剤と一致したが、変化の大きさが予想外であった。結果から、オリゴ/ポリ(エチレングリコール)メタクリレートなどのより長いスペーサーおよびブタンジオールジメタクリレートなどの疎水性アルキルスペーサーを有する架橋剤を使用して、マイクロゲルのサイズおよび膨潤性をさらに調整できることが明らかになる。
【0234】
[実施例3]
ポリマー結合無水物基を、アミン、アルコールまたはチオールのような求核試薬との反応を介した重合後修飾に使用して、修飾剤の取り込み、ポリマー結合カルボン酸基の形成、および無水物架橋の切断を引き起こすこともできる。MeAnベースの粒子と利用可能な多種多様な修飾剤のうちの1種または複数との反応によって、広範囲の特性をもつ粒子を得ることができる。粒子の疎水性および電荷を変えること、さまざまな有用な特性(例えば、蛍光性または放射標識、細胞結合、薬物放出など)を与える基を導入することができる。MeAnベースの粒子の官能化は、構造的に類似したモノマー単位の直接沈殿重合によって普通なら到達不可能な粒子の調製を可能にし、選択された修飾剤および条件に応じて、修飾が粒子全体にわたって起こるか、それとも概ね粒子表面に限定されるかどうかを制御することもできる。官能化を示すために、実施例1で作製されたものなどの粒子を以下に記載する蛍光性、カチオン性および/または細胞結合モチーフである試薬と反応させた。
【0235】
両性高分子電解質マイクロゲル
MeAnを含む粒子を過剰のDMAPAで官能化して、両性高分子電解質マイクロゲルを作製した。例えば、50mLの遠心管中40mLのACNに懸濁させたMED-55/5/5(光)ミクロスフェアに、DMAPA(3.17g、31.1mmol)を添加することによって、50:50のカチオン性:アニオン性両性高分子電解質マイクロゲルを目標とした。これは、粒子中のMeAnの量に対しておよそ6倍過剰のDMAPAsに対応する。バイアル/チューブを20rpmの回転で混合しながら、反応を室温で終夜維持した。反応後、マイクロゲルを遠心(3082g、15分)によって沈降させ、次いで40mLのACNに再懸濁することによって1回洗浄し、次に遠心した。洗浄後、マイクロゲルを40mLの蒸留水に分散し、膨潤させた後、セルロース透析チュービング(3500Da MWCO)に移した。マイクロゲルを、まず2日にわたって2回0.9wt/v%のNaClに対して透析し、次に毎日取り替えられた蒸留水に対して4日間透析した。次いで、マイクロゲルを凍結乾燥して、白色固体を得た。次いで、それを上記のように滅菌した。
【0236】
蛍光標識マイクロゲル
形成したままのMeAnベースのミクロスフェアを、MeAn単位に対して0.025~0.05mol%の標識度を標的とするTAMRAで蛍光標識した。TAMRA-カダベリン(0.2wt%のDMF溶液222μL;0.86μmol)を、約0.53g(3.45mmol)のポリマーMeAn基が含まれているMeAnベースのミクロスフェアのACN(30mL)懸濁液に添加し、次いで室温(22℃)で2日間混合した。粒子を遠心によって単離し、次に40mLのACNで3回洗浄した。次いで、ミクロスフェアを、40mLの蒸留水に再懸濁し、室温(22℃)で1日間混合し、次いで遠心によって単離した後、10mLの蒸留水に再懸濁し、3500Da MWCOセルロースアセテートチュービングを使用して水で透析した。透析液の吸光度測定値が0に到達し、低分子のさらなる溶離がないことを示唆するまで、水浴を毎日取り替えた。粒子を単離し、40mLの70%(v/v)エタノールに1時間再懸濁して、滅菌した。エタノール懸濁液を遠心し、次いでバイオセーフティキャビネットに移し、上澄みを除去した。粒子を30mLの滅菌水に分散し、ドライアイスで凍結させ、無菌アダプター(Labconco社)で凍結乾燥して、TAMRA標識粒子を桃色固体として得た。
【0237】
RGD官能化マイクロゲル
MeAnベースのミクロスフェアをTAMRAとRGDの両方で、それぞれ約0.025および0.5mol%の目標とした官能化度(w.r.t. MeAn)で官能化した。RGD(5.3mg、15.3μmol)のACN/DMF(1:1(v/v)、2mL)溶液を、約0.53g(3.45mmol)のMeAn単位を含む、MeAnベースのミクロスフェアのACN懸濁液30mLに添加し、次いで約10分後、TAMRA-カダベリン(222μLの0.2wt% DMF溶液;0.86μmol)を添加した。反応、洗浄および単離ステップを、本実施例において先に記載したように実施した。凍結乾燥したRGDおよびTAMRA官能化ミクロスフェアを桃色固体として単離した。
【0238】
官能化粒子の特性
D2O中のDMAPA官能化MED-57/0/10(熱)粒子の1H NMR分析は、15.8:6:3.7:1.5の比の0.7~2.4ppm(CH3、CH2主鎖)、2.85ppm(N(CH3)2)、3.15ppm(N-CH2)、および3.5~4.2ppm(CH2O)におけるシグナルは、MAA:DMAPMA(酸/アミン)=58:42と一致していることを示した。pH2およびpH7.4でPBSに再懸濁した粒子を顕微鏡法によって試験した。粒子直径は、pH7.4で6.57±1.01μmであり、pH2で7.06±1.61μmであった。前駆体粒子の大直径(DMF中直径:2.74±0.57μm;CV0.21)は、一時的架橋が切断され、軽度に架橋したヒドロゲルが生成したことを示す。実施例2における加水分解粒子とは対照的に、粒子は、低pHでは崩壊しない。これは、アンモニウムイオンの形をした荷電基の存在が、粒子は低pHで膨潤したままであることを保証するので、官能化が成功したことを示す。
【0239】
N,N-ジメチルエチレンジアミン(DMEDA)で官能化され、次いでHEPES緩衝食塩水(pH7.6)に分散させたMED-60/0/10(熱)粒子の顕微鏡像を
図13Aに示す。
図13Bは、粒子の大部分が4~6μm
2の面積を有し、2.25~2.75μmの粒子直径に対応することを示す粒子面積のプロットである。
【0240】
DMAPAおよびTAMRA-カダベリン(0.05mol%)での官能化の前後のMED-55/5/5(光)粒子の画像を
図14A~Cに示す。粒子は、水性溶液中における官能化および分散後に劇的な膨潤を受け、かなり均一なサイズを有するので、密に詰まった配列を形成することができた(
図14B)。共焦点蛍光顕微鏡法によって、TAMRA標識は、おそらくDMAPAの前に添加されたTAMRA-カダベリンが、遭遇した第1のMeAn基と反応するので、粒子表面上で濃縮されることが明らかになった。これは、粒子官能化の易容さ、ならびに添加の順序および/または分子量に応じて異なる修飾剤を局在させる能力を示す。
【0241】
粒子におけるMeAn基とジアミンまたはポリアミンとの反応によって、粒子荷電が特定の生体材料用途に合うように同じ塩基足場粒子から出発して製造されることが可能になる。MeAnの加水分解は、中性のpHでアニオン性である粒子を生じ、無水物基とDMAPAなどのジアミンの完全な反応は、約1:1の電荷比を有する両性高分子電解質粒子を生じる。過剰のDMAPAで官能化されたMED-55/0/10(光)粒子をD2Oに懸濁し、1H NMRによって分析した。それらは、目標とされた50:50の比に近い40:60のカチオン性:アニオン性電荷比に対応する約80%の官能化度を有することがわかった。わずかに過剰のアニオン電荷は、不完全な官能化、MeAn出発物質(純度94%)におけるいくらかのMAAの存在、および/または官能化に先立っていくつかの無水物基の偶発的な加水分解の結果でありうる。
【0242】
加水分解のみされたまたはDMAPAで官能化されたMED-55/10/0(光)ミクロスフェアを、PBS(pH7.4)に0.25wt%の濃度で分散した。Malvern社のZetasizer Nano ZSを使用して、各粒子試料のゼータ電位を測定した。約700μLの粒子分散体をMalvern Zeta-Dip Cellに移し、測定(n=3)を25℃で行った。加水分解されたおよびDMAPA官能化されたMED-55/10/0粒子(
図15)について、粒子表面の電荷を明らかにするゼータ電位測定を実施した。加水分解されたMED-55/10/0粒子は、軽度に架橋したpMAA粒子について予想したように、生理学的なpHで強い負のゼータ電位(-20.7±4.7mV)を示した。DMAPA官能化された粒子は、ゼロ(-1.82±0.27mV)に近いゼータ電位を有し、約1:1の電荷比を有する両性高分子電解質と一致している。
【0243】
[実施例4]
いくつかの生体材料用途では、生理的条件下で材料の制御された分解を取り入れることが望ましい。アセタールやケタールなどの酸に不安定な官能基は、塩基性条件では安定性を維持しながら酸性条件下で分解するために興味深い。粒子分解を示すために、ケタールを含む架橋剤(プロパン-2,2-ジイルビス(オキシ))ビス(エタン-2,1-ジイル)ビス(2-メチルアクリレート)(ここでは、KTMAと呼ばれる)を2-ヒドロキシエチルメタクリレートとジメトキシプロパンの酸触媒反応によって調製した。KTMAは、DEGDMAに構造的に似ており、同じ重合条件下で使用できることが予想された。
【0244】
KTMAは、以前に報告された合成に基づく手順を使用して合成した。
12,13 HEMA(10.0g、76.8mmol)、DMPA(3.805g、36.5mmol)、pTSA(0.157g、0.825mmol)、およびMEHQ(0.20g、0.2% w.r.t. HEMA)を、磁性撹拌子を備えた25mLのナシ形フラスコに投入した。反応混合物に窒素ガスをバブリングして、メタノールを除去しながら、油浴中60℃で終夜加熱した。得られた暗赤色反応混合物を室温に冷却し、次いで80/20のヘキサン/酢酸エチル溶離液を使用して、100gのシリカ栓に通した。生成物を含む画分をまとめ、真空中で濃縮して、KTMAを淡黄色液体として収率21%、純度約95%で得た。KTMAの
1H NMR(CDCl
3,600MHz)を
図16に示す:δ 6.09(2H,s),5.55(2H,s),4.26(4H,t),3.69(4H,t)1.93(6H,s),1.37(6H,s)。
【0245】
上記の手順(実施例1)を使用したが、EGDMAおよび/またはDEGDMAの代わりに分解可能なKTMA架橋剤を使用して、KTMA架橋MeAnマイクロ粒子を合成した。例えば、35.15mLの55/45のMEK/ヘプタンに溶解したMeAn(1.284g、8.3mmol)、KTMA(0.448g、1.49mmol)、およびAIBN(0.036g、0.022mmol)を使用して、光開始重合によって、MKT-55/15粒子(15mol% KTMA、55/45 MEK/ヘプタン)を作製した。単離および洗浄後に、上澄みを除去し、NaOH溶液(MeAn単位に対して20mol過剰)を添加して、無水物基を加水分解した。反応混合物を1日間放置した後、粒子を遠心によって単離し、40mLの蒸留水に再懸濁した。懸濁液は、pH約11であり、ケタール基の未熟な分解を防止するのに重要である。
【0246】
実際、密に詰まった粒子配列の形成によって明らかなように、狭分散のKTMA架橋球体形粒子が、EGDMAおよびDEGDMAを採用した同じ条件下で得られた(
図17)。加水分解後、10mol%のKTMA(MKT-55/10)で作製された粒子は、生理学的なpHで高度に膨潤し、かなり急速に分解した。KTMA配合量を15mol%に上げると(MKT-55/15)、より長寿命の粒子が得られた。
【0247】
塩基性条件下で無水物基の選択的な加水分解によって調製されたアニオン性MKT-55/15マイクロゲルを室温で緩衝液にpH5、7および10で分散して、粒子分解の速度を探索した(
図18)。pH5では、粒子は、15分以内に目に見えて膨潤し、30分後には消失し、pH7では、75分かかる。粒子は、pH10で24時間後未変化のままである。低pHで分解速度が加速するのは、ケタールおよびアセタールの酸によって触媒される加水分解機構と一致している。より緩慢な分解は、より高いKTMA配合量を使用し、官能化または共重合を介して疎水性を導入し、またはケタール結合の性質を変えることによって達成することができる。
【0248】
[実施例5]
以下の実施例は、永久的架橋剤由来の残留ビニル基を使用して、ポリカチオンをヒドロゲルマイクロ粒子にグラフト化することができることを示す。
【0249】
実施例2の加水分解粒子を2-(N,N-ジメチルアミノ)エチルアクリレート(DMAEA)でグラフト化した。酸(COOH)形(0.100g)中の加水分解MeAn-DEGDMA(90:10)粒子を、10mL DMF、1.00g DMAEA(7.00mmol)、11.5mg(1mol%)AIBN、および任意選択で28.0mg(1mol%)フルオレセインO-メタクリレートと組み合わせた。溶液を窒素で45分間バブリングし、次いで油浴中70℃で18時間加熱した。反応混合物の一定量の1H NMR(DMSO-d6)により、フルオレセインO-メタクリレートを用いた反応では58%のモノマー変換があり、用いない反応では83%のモノマー変換があることが示された。一旦反応混合物が冷却されると、粒子は沈殿し、黄色上澄みを除去した。粒子をアセトン(約45mL)に分散することによって、1回洗浄し、次に遠心し、次いで11mLの約0.1M HClに分散した。0.1M NaOHを使用して、懸濁液をpH2.2に調整した後、透析チュービング(1MDa カットオフ)に移し、浴を1回変えて、1mM HCl(4L)で2日間透析した。粒子を凍結乾燥によって単離した。粒子のDMSO-d6懸濁液の1H NMRスペクトルは、MAA:DMAEA=80:20と一致している26.7:6:3.89の比の0.7~2.2ppm(CH3、CH2、CH主鎖)、2.8ppm(N(CH3)2)、および12.3ppm(COOH)におけるシグナルを含む。
【0250】
[実施例6]
凍結保存
この実施例は、以上の実施例において調製されたヒドロゲルマイクロ粒子が凍結保護剤として働くことができることを示す。
【0251】
NIH 3T3マウスの線維芽細胞を、T-75組織培養処置したフラスコ中、10%v/v BCS、1%v/v ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDMEMで培養し、細胞を37℃、5%CO2のインキュベータ中で維持した。細胞が70~90%のコンフルエントに到達すると、PBSで洗浄し、PBS中0.05% トリプシン-EDTA溶液と共に37℃で2分間インキュベートして、細胞を剥離した。トリプシン-EDTAを補足DMEMの添加によってクエンチし、細胞を回収し、15mLの遠心管に移した。細胞を、300gで遠心によって5分間沈降させ、5mLの補足DMEMに再懸濁した。再懸濁した細胞の一定量50μLを、50μLの0.4% トリパンブルーで染色し、細胞生存率および濃度をInvitrogen Countess自動細胞計数器で測定した。凍結保存のために、適切な細胞懸濁体積を使用して、再懸濁した細胞を一定量ずつ15mLの遠心管に移して、チューブ1本当たり400万細胞を達成することによって、細胞を調製した。細胞を300gで5分間沈降させ、1mLの凍結保護溶液に再懸濁して、400万細胞/mLの細胞濃度を達成し、次いで2mLのポリプロピレンクライオチューブに移した。クライオチューブをイソプロパノールで満たされているMr.Frosty容器に入れ、次いで、容器を-80℃の冷凍庫に入れ、約1℃/分の冷却速度をもたらした。24時間後、凍結した試料を37℃の水浴中で2分間解凍し、その後、9mLの予熱(37℃)したDMEMに希釈し、300gで5分間沈降させた。細胞を1mLのDMEMに再懸濁し、次いで各試料を50μLずつ50μLの0.4% トリパンブルーで染色し、細胞生存率および濃度を測定した。解凍後の細胞付着および成長をモニタリングするために、各凍結保存試料の残部を300μLずつ3つに分け、それを、各ウェルに3mLのDMEMが入っている6ウェル組織培養処置プレートの3つのウェルに播種した。解凍後7日間、プレートを37℃、5%CO2のインキュベータ中で維持し、モニタリングした。この間にコンフルエントに到達した試料はいずれも、トリプシン-EDTAで剥離して6-ウェルプレートからT-75フラスコに移した。解凍後3、5および7日目に、各試料につき1ウェルの細胞をPBSで洗浄し、0.025% トリプシン-EDTAと共に37℃で2分間インキュベートすることによって剥離した。剥離した細胞を回収し、15mLのチューブに移し、300gで5分間沈降させ、1mLのDMEMに再懸濁した後、50μLずつ50μLの0.4% トリパンブルーで染色し、Countess自動細胞計数器で計数した。
【0252】
標準哺乳類細胞凍結手順を使用する24時間凍結/解凍サイクルを使用して、NIH 3T3細胞を、MED-55/2/8(光)DMAPA官能化両性高分子電解質マイクロゲルとDMEM中10および5wt/v%の濃度で、10%v/vのDMSOの陽性対照およびDMEMのみの陰性対照と一緒に凍結した。
図19は、トリパンブルー染色によって測定して、回収された細胞の解凍直後の生存率および百分率を示す。
【0253】
10wt/v%のマイクロゲルと共に凍結した細胞は、10%v/vのDMSO試料に匹敵する解凍後生存率および回収率を示し、DMSO試料は、若干高い回収率(%)を示した。高い細胞生存率および回収率(%)は両方とも、凍結保護剤の有効性の重要な尺度である。直鎖状両性高分子電解質では、細胞断片化を引き起こす氷晶形成に由来する細胞死が、凍結保護剤としての有効性の過大評価を与えるおそれがある。断片化した死細胞は、検出されず、より高い細胞生存率の測定値が高くなるが、回収率(%)が低くなる。
14 図19は、マイクロゲルが5wt/v%から10wt/v%になるにつれて有効性が増加することも示す。この傾向は、凍結保存に関する直鎖状両性高分子電解質の以前の報告と一致し、凍結中の細胞内脱水の改善を示す結果であり、細胞内氷晶形成、氷晶サイズの減少、および凍結時の細胞沈降の低減を防止する。
14,15,16
【0254】
解凍直後の尺度に加えて、解凍された細胞を組織培養プレートに播種して、細胞健康の長期尺度として細胞付着および成長を観察した。
図20に示されるように、10wt/v%のマイクロゲルと共に凍結した試料の細胞付着および成長は、10%v/vのDMSO中で凍結した細胞の細胞付着および成長に似ていた。さらに、付着した細胞の明視野像は、付着後に健常な3T3形態を示す(
図21)。興味深いことに、この尺度によって、両性高分子電解質マイクロゲルは、類似した直鎖状両性高分子電解質と比べて、凍結保護剤としての有効性が改善されていることを示すように思われる。直鎖状両性高分子電解質との凍結保存の機構は、はっきりとしていないが、重要なステップは、凍結時における細胞の周囲のポリマーの共形コーティングであると考えられており
17、解凍後細胞からこのコーティングを除去することが不完全であることによって、不十分な付着および増殖が認められることになる可能性がある。特定の理論に拘泥することを望むものではないが、軟性両性高分子電解質マイクロゲルは、細胞の周囲で変形して、共形コーティングをもたらすおそれがあるが、そのとき微分沈降によって細胞からより容易に分離され、よりよい細胞付着および成長につながる可能性がある。
【0255】
[実施例7]
タンパク質(抗原)結合
以下の実施例は、実施例5において調製されたものなどのカチオン性マイクロ粒子が抗原であるオバルブミンを結合することができることを示す。
【0256】
4mLの1mg/mLのpDMAEAグラフト化マイクロ粒子(実施例5に記載されているように調製)の蒸留水溶液を、約100μLの1wt%のフルオレセイン標識オバルブミン(OVA-FITC)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液(pH7.4)に添加した。ボルテックスミキサーを使用して、溶液を約1分間激しく混合し、次いで4000rpmで1分間遠心して、粒子を単離した。粒子を1mLのPBSに再懸濁した後、蛍光顕微鏡法によって試験した。
図22Aおよび22Bに示されるように、粒子は、蛍光性になり、OVA-FITCを結合したことが明らかになる。
【0257】
[実施例8]
マイクロゲル細胞取り込み
この実施例は、実施例3において調製されたように適切に(この場合細胞付着モチーフであるRGDで)官能化されたマイクロゲルの細胞取り込みを示す。
【0258】
NIH 3T3マウスの線維芽細胞を70~90%のコンフルエントなるまで培養し、剥離し、計数した。計数後、細胞を300gで5分間沈降し、次いで適切な体積のDMEMに再懸濁して、2.0×106細胞/mLの細胞濃度を達成した。マイクロゲル-細胞複合クラスターを形成するために、3つのストック溶液(DMEM中2wt/v%)を、a)TAMRA官能化された、b)TAMRAおよびRGD官能化された、c)TAMRAおよびDMAPA官能化されたMED-55/5/5(光)マイクロゲルから調製した。Cellvis96ウェルガラス底プレートのウェルにおいて、細胞懸濁液、マイクロゲルストック溶液、およびDMEMの一定量を組み合わせることによって、1.0×106細胞/mL、および3つのマイクロゲル組成物のうちの1つをさまざまな濃度(0.01~1.0wt/v%)で含む一連の200μL/ウェル試料を調製した。細胞を、37℃でマイクロゲルと共に3日間インキュベートして、画像処理より前に細胞/マイクロゲル相互作用を可能にした。3日間インキュベートした後、細胞を50μLの10μmolのカルセイン-AMのPBS溶液で染色し、Nikon A1 Confocal Ti Eclipse顕微鏡で画像処理した。
【0259】
粒子官能化を使用して、細胞結合または内部移行を促進する修飾剤を取り込むことができる。MED-55/5/5(光)粒子をRGDで修飾して、細胞結合を促進し、TAMRAで修飾して、粒子の可視化を促進した(実施例3)。NIH 3T3細胞を、A)DMAPA官能化両性高分子電解質、B)RGD官能化アニオン性、およびC)アニオン性の異なる3タイプのTAMRA標識MED-55/5/5粒子と共に3日間共培養した。インキュベーション後、細胞をカルセイン-AMで染色し、共焦点顕微鏡法によって画像処理した(
図23A~C)。トリペプチド付着モチーフであるRGDで官能化されたマイクロゲルの存在下でインキュベートした細胞が、細胞内におけるTAMRA標識マイクロゲル(赤色)の出現と共に
図23Bに見られるように、細胞によって内部移行することがわかった。粒子はカルセイン染色を排除し、FITCチャネルを通して見ると、細胞内に空孔が出現しているようでもある。DMAPA官能化両性高分子電解質粒子(
図23A)またはアニオン性粒子(
図23C)と共にインキュベートした3T3細胞の共焦点像には、内部移行の徴候は認められない。これは、RGDのマイクロゲルへの取り込みは、マイクロゲルの細胞取り込みを促進し、ワクチン薬物送達のための抗原などのペイロードの細胞への送達に使用される可能性があることを示唆している。
【0260】
[実施例9]
細胞足場および細胞とマイクロゲルの共カプセル化
MeAn基に対して0.05% TAMRAカダベリンで蛍光標識したDMAPA官能化両性高分子電解質MED-55/15/0(光)マイクロゲルを、実施例3に記載されているように調製し、加水分解後に、遠心/蒸留水で3回およびPBSで2回による再懸濁によって精製し、次いで40mLのPBSに再懸濁した。NIH 3T3マウス線維芽細胞を、上記のようにT75細胞培養用フラスコ中70~90%のコンフルエントになるまで培養し、剥離し、計数し、PBSに6.0×106細胞/mLの近似の細胞濃度に再懸濁した。再懸濁した細胞に、34.7μLの1mg/mLのカルセインAM溶液を添加して、細胞を4μMのカルセインAM濃度で染色した。96ウェルガラス底プレート中において、50μLの染色された細胞、50μLの蛍光標識MED-55/15/0(光)アニオン性マイクロゲルおよび200μLのPBSを混合し、Nikon A1 Confocal Ti Eclipse顕微鏡で画像処理した。
【0261】
ヒドロゲル粒子は、2Dまたは3D配列を形成することができ、異なるサイズ、剛性または化学的性質をもつ粒子を混合することによって足場の特性を微調整することができるので、細胞足場として使用することに関心がある。MeAnベースの粒子の手軽な官能化によって、それらは、粒子足場中における成分の製造に理想的な出発物質となる。
図24は、NIH 3T3細胞(カルセイン-AMで染色、緑色)をTAMRA標識両性高分子電解質MED-55/15/0(光)マイクロゲルに分散した3D粒子足場の単純な例証を示す。
【0262】
粒子の取扱いが容易であることは、カプセルなどのより閉塞された幾何形状において、細胞と容易に組み合わせることができることを意味する。アルギン酸カルシウムは、細胞をカプセル化するために使用されることが多いが、生存率、分化、または増殖の観点から、細胞にとって理想には至らない環境をもたらすこともある。細胞と好適な結合またはシグナル伝達モチーフを有する粒子との共カプセル化は、改善された環境をもたらすことができる。例証として、NIH 3T3細胞をアルギン酸カルシウムカプセルにおいてさまざまな濃度(0.001~0.5%)のMED-55/10/0(光)両性高分子電解質マイクロゲルと共カプセル化した。続いて、カプセルに、保護的ポリカチオン/ポリアニオンコーティングを施した後、カルセイン-AMおよびエチジウム-ホモダイマーでカプセル化細胞のLive/Dead染色を行った。
【0263】
NIH 3T3マウス線維芽細胞を、カルシウム-アルギネートカプセルにおいてMED-55/10/0(光)アニオン性マイクロゲルと共カプセル化した。4×106細胞/mLの3T3細胞溶液をpH7.4の35mM HEPES-緩衝生理食塩液中で調製し、さまざまな比で、pH7.4 35mM HEPES-緩衝食塩水中2wt/v% Na-アルギネート溶液、pH7.4 35mM HEPES-緩衝食塩水中2wt/v%のMED-55/10/0アニオン性マイクロゲル溶液、およびpH7.4 35mM HEPES-緩衝食塩水と組み合わせて、それぞれ全体積1mL、一定の細胞およびNa-アルギネート濃度の2×106細胞s/mLならびに1.0wt/v%のNa-アルギネートで濃度0.5、0.05、および0.001wt/v%のマイクロゲルを有する溶液を生成した。調製した溶液を、3本の1mLのBDプラスチック注射器に入れ、Harvard Apparatusシリンジポンプによって制御して、溶液流速15mL/時および同軸気流速度2.25L/分でrame-hart社の20G同軸針を通して、小液滴を100mMのCaCl2、45mMのNaCl、および35mMのHEPES(pH7.6)のゲル化浴にせん断して、押出によりカプセルを形成した。次いで、押出の完了後に、形成されたカプセルをゲル化浴中で5分間ゲル化させた。形成されたカプセルを回収し、洗浄し、次いでポリ-L-リシン(PLL)および部分(50%)加水分解ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)(PM50)でコーティングして、共有架橋殻をもつカプセルを形成した。コーティングされたカプセルを、10%v/v BCSおよび1v/v% ペニシリン-ストレプトマイシンを添加した5mLのDMEMが入っている60mmのペトリ皿に移し、37℃、5% CO2のインキュベータ中で維持した。1日インキュベートした後、3つの濃度で調製された約200μLずつのカプセルを、96ウェルのガラス底プレートに移し、35mM HEPES-緩衝食塩水中で調製した50μLの10μmおよび50μLの4μmのエチジウムホモダイマー溶液で30分間染色した後、Nikon A1 Confocal Ti Eclipse顕微鏡で画像処理した。
【0264】
図25A~Bに示されるように、粒子はカプセル化プロセスに干渉せず、カプセル化細胞は、粒子の存在下で高生存率を示した。
図25Aに示したカプセルは、最高の粒子配合量を示し、カプセルの透明度に影響を与えた。
図25Bは、カプセル内の粒子と密接に接触した3T3細胞を示す。細胞は、これらの両性高分子電解質粒子に付着し、拡散することができるが、付着および拡散は、粒子が顆粒状の細胞付着点として役立つことを可能にする細胞結合モチーフを含むことによって促進される。
参考文献:
【0265】
【国際調査報告】