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特表2023-552663安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-18
(54)【発明の名称】安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20231211BHJP
   C12N 15/49 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/49 ZNA
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023557474
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-07-31
(86)【国際出願番号】 CN2021130967
(87)【国際公開番号】W WO2022116815
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】202011403323.7
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522322815
【氏名又は名称】イミュノファーム テクノロジー カンパニー リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】523209841
【氏名又は名称】北京▲藝▼妙医▲療▼科技有限公司
【氏名又は名称原語表記】BEIJING YIMIAOYILIAO CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】▲齊▼ 菲菲
(72)【発明者】
【氏名】▲魯▼ ▲薪▼安
(72)【発明者】
【氏名】何 霆
(72)【発明者】
【氏名】ダン ツウェイイン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC20
4B065BA01
4B065BA02
4B065BA23
4B065BB04
4B065CA60
(57)【要約】
本発明は、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法を提供する。
前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドからなるパッケージングプラスミド群を含み、前記pPuro.coTetRプラスミドがCoTetR遺伝子を含み、前記pVSVGプラスミドがVSVG遺伝子を含み、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドがGagPol遺伝子およびRev遺伝子を含む。前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、継代、ウイルス生産、および遺伝遺伝子コピー数の面で比較的安定しており、前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を用いて生産されたレンチウイルスは力価が高く、不純物の含量が低い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドからなるパッケージングプラスミドセットを含み、
前記pPuro.coTetRプラスミドがCoTetR遺伝子を含み、前記pVSVGプラスミドがVSVG遺伝子を含み、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドがGagPol遺伝子およびRev遺伝子を含むことを特徴とする安定したレンチウイルスパッケージング細胞株。
【請求項2】
前記pPuro.coTetRプラスミドが、CMVプロモーターと、キメライントロンと、SV40プロモーターと、ピューロマイシン耐性遺伝子と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含み、
前記pVSVGプラスミドが、CMVプロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーターからなるハイブリッドプロモーターと、SV40プロモーターと、ブレオマイシン耐性遺伝子と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含み、
前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドが、CMVプロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーターからなるハイブリッドプロモーターと、キメライントロンと、SV40プロモーターと、ハイグロマイシン耐性遺伝子と、cPPT/CTSエレメントと、RREエレメントと、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む、請求項1に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株。
【請求項3】
前記CoTetR遺伝子が配列番号1に示す配列を有し、前記VSVG遺伝子が配列番号2に示す配列を有し、前記GagPol遺伝子およびRev遺伝子が、それぞれ、配列番号3および配列番号4に示す配列を有する、請求項1または2に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株。
【請求項4】
前記pPuro.coTetRプラスミドが配列番号5に示す配列を有し、前記pVSVGプラスミドが配列番号6に示す配列を有し、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドが配列番号7に示す配列を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株。
【請求項5】
前記細胞株が、HEK293細胞株、HEK293-T細胞株、HEK293-SF細胞株、TE671細胞株、HT1080細胞株およびHeLa細胞株からなる群より選択される1つであり、
好ましくは、前記細胞株がHEK293細胞株である、請求項1~4のいずれか一項に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株。
【請求項6】
(1)pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミド、およびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドをそれぞれ酵素消化により直線化する工程と、
(2)直線化した前記pPuro.coTetRプラスミドと前記pVSVGプラスミドを細胞に同時トランスフェクションし、スクリーニング用の第1の抗生物質を添加して、第1の陽性モノクローナル細胞を得る工程と、
(3)直線化した前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを第1の陽性モノクローナル細胞にトランスフェクションし、スクリーニング用の第2の抗生物質を添加して、第2の陽性モノクローナル細胞、すなわち、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得る工程と、を含む、
請求項1~5のいずれか一項に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を作成する方法。
【請求項7】
前記工程(2)において、直線化した前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドを細胞に同時トランスフェクションする間に、ポリエチレンイミンをさらに添加し、
ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比がポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=4:1であり、および/または
前記工程(3)において、直線化した前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを第1の陽性モノクローナル細胞にトランスフェクションする間に、ポリエチレンイミンをさらに添加し、
ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比は(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比が(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比が4:1である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記工程(2)において、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり(0.2~1.0)μg/10であり、
好ましくは、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり(0.4~0.9)μg/10であり、
より好ましくは、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり0.8μg/10であり、および/または
前記工程(3)において、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、第1陽性モノクローナル細胞あたり(0.2~1.0)μg/10であり、
好ましくは、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、第1陽性モノクローナル細胞あたり(0.4~0.9)μg/10であり、
より好ましくは、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、0.8μg/10第1陽性モノクローナル細胞である、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(2)において、前記第1の抗生物質はピューロマイシンおよびブレオマイシンの組合せであり、使用量がそれぞれ、1~5μg/mLおよび300~500μg/mLであり、より好ましくは、使用量がそれぞれ、2μg/mLおよび400μg/mLであり、および/または
前記工程(3)において、前記第2の抗生物質はピューロマイシン、ブレオマイシンおよびハイグロマイシンの組合せであり、使用量がそれぞれ、1~5μg/mL、300~500μg/mLおよび300~500μg/mLであり、より好ましくは、使用量がそれぞれ、2μg/mL、400μg/mLおよび400μg/mLである、請求項6~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1~5のいずれか一項に記載の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株に標的プラスミドをトランスフェクションする、レンチウイルスの生産方法。
【請求項11】
前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株に前記標的プラスミドをトランスフェクションする工程と、次いで
誘導剤を添加して前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を誘導してレンチウイルスを生産する工程と、
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記標的プラスミドを前記安定レンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションする間にポリエチレンイミンをさらに添加し、
ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=4:1である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり(0.2~0.8)μg/10であり、
好ましくは、前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり(0.3~0.5)μg/10であり、
より好ましくは、前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり0.4μg/10である、請求項10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記誘導剤がドキシサイクリンであり、
好ましくは、トランスフェクションの20~30時間後に前記誘導剤を添加し、より好ましくは、トランスフェクションの24時間後に前記誘導剤を添加し、
好ましくは、前記誘導剤を濃度1~5μg/mLで添加し、より好ましくは、前記誘導剤を濃度2μg/mLで添加する、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記レンチウイルスの生産中に増強剤をさらに添加してレンチウイルス発現レベルを増加させ、
前記増強剤が酪酸ナトリウムであり、
好ましくは、前記増強剤を濃度5~15mMで添加し、より好ましくは、前記増強剤を濃度10mMで添加し、
好ましくは、トランスフェクションの20~30時間後に前記増強剤を添加し、より好ましくは、トランスフェクションの24時間後に増強剤を添加し、
好ましくは、増強剤添加の6~8時間後に増強剤を交換し、および/または
45~50時間で前記レンチウイルスを収集し、好ましくは、48時間で前記レンチウイルスを収集する、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学および分子生物学の分野、特に細胞療法の分野に属する。特に、本発明は、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療用ベクターであるレンチウイルスは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)などを含む。他のレトロウイルスベクターとは異なり、レンチウイルスベクターは、分裂細胞および非分裂細胞の両方に感染することができる。レンチウイルスは、心筋細胞、腫瘍細胞、ニューロン細胞、幹細胞、肝細胞、および内皮細胞などの様々なタイプの細胞に感染することができる。レンチウイルスは、より低いレベルの免疫応答を誘発しながら、より大きな外来断片を収容し、標的遺伝子の安定した発現を実現することができるため、良好な遺伝子治療有効性を提供する。したがって、レンチウイルスは、より広い適用可能性を有する。
【0003】
レンチウイルスは、現在、パッケージングプラスミドおよび発現プラスミドを細胞に一過性トランスフェクションすることによって生成されることがほとんどである。しかしながら、既存の作成プロセスによって生成されるレンチウイルスは、力価が低く、不純物残基が過剰であり、バッチ間のウイルス収量が不安定である。したがって、不純物含量が低く力価が高いレンチウイルスの生産を可能にする安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を構築する必要性が残っている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのため、本発明の目的は、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法を提供することである。前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、継代、ウイルス生産、および遺伝遺伝子のコピー数の面で比較的安定している。また、前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を用いて生産されたレンチウイルスは力価が高く、不純物の含量が低い。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を実現するために、本発明の一態様の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドからなるパッケージングプラスミドセットを含む。
【0006】
前記pPuro.coTetRプラスミドはCoTetR遺伝子を含み、前記pVSVGプラスミドはVSVG遺伝子を含み、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドはGagPol遺伝子およびRev遺伝子を含む。
【0007】
本発明の好ましい実施形態では、前記pPuro.coTetRプラスミドは、CMVプロモーターと、キメライントロンと、SV40プロモーターと、ピューロマイシン耐性遺伝子と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。
【0008】
前記pVSVGプラスミドは、CMVプロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーターからなるハイブリッドプロモーターと、SV40プロモーターと、ブレオマイシン耐性遺伝子と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。
【0009】
前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、CMVプロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーターからなるハイブリッドプロモーターと、キメライントロンと、SV40プロモーターと、ハイグロマイシン耐性遺伝子と、cPPT/CTSエレメントと、RREエレメントと、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。
【0010】
本発明の好ましい実施形態において、前記CoTetR遺伝子は配列番号1に示す配列を有し、前記VSVG遺伝子は配列番号2に示す配列を有し、前記GagPol遺伝子およびRev遺伝子は、それぞれ、配列番号3および配列番号4に示す配列を有する。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、前記pPuro.coTetRプラスミドは配列番号5に示す配列を有し、前記pVSVGプラスミドは配列番号6に示す配列を有し、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは配列番号7に示す配列を有する。
【0012】
本発明の好ましい実施形態において、前記細胞株は、HEK293細胞株、HEK293-T細胞株、HEK293-SF細胞株、TE671細胞株、HT1080細胞株およびHeLa細胞株からなる群より選択される1つである。
【0013】
好ましくは、前記細胞株はHEK293細胞株である。
【0014】
同じ発明概念に基づいて、本発明の別の態様の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を作成する方法は、
(1)pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミド、およびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドをそれぞれ酵素消化により直線化する工程と、
(2)直線化した前記pPuro.coTetRプラスミドと前記pVSVGプラスミドを細胞に同時トランスフェクションし、スクリーニング用の第1の抗生物質を添加して、第1の陽性モノクローナル細胞を得る工程と、
(3)直線化した前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを第1の陽性モノクローナル細胞にトランスフェクションし、スクリーニング用の第2の抗生物質を添加して、第2の陽性モノクローナル細胞、すなわち、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得る工程と、を含む。
【0015】
本発明の好ましい実施形態では、前記工程(2)において、直線化した前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドを細胞に同時トランスフェクションする間に、ポリエチレンイミンをさらに添加する。
ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記2つのプラスミドの質量比がポリエチレンイミン:(pPuro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド)=4:1であり、および/または
前記工程(3)において、直線化した前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを第1の陽性モノクローナル細胞にトランスフェクションする間に、ポリエチレンイミンをさらに添加し、
ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比は(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比が(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの質量比が4:1である。
【0016】
本発明の好ましい実施形態では、前記工程(2)において、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり(0.2~1.0)μg/10であり、
好ましくは、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり(0.4~0.9)μg/10であり、
より好ましくは、前記pPuro.coTetRプラスミドおよび前記pVSVGプラスミドの使用量は、いずれも、細胞あたり0.8μg/10であり、および/または
前記工程(3)において、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、第1陽性モノクローナル細胞あたり(0.2~1.0)μg/10であり、
好ましくは、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、第1陽性モノクローナル細胞あたり(0.4~0.9)μg/10であり、
より好ましくは、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量は、0.8μg/10第1陽性モノクローナル細胞である。
【0017】
本発明の好ましい実施形態では、前記工程(2)において、前記第1の抗生物質はピューロマイシンおよびブレオマイシンの組合せであり、使用量がそれぞれ、1~5μg/mLおよび300~500μg/mLであり、より好ましくは、使用量がそれぞれ、2μg/mLおよび400μg/mLであり、および/または
前記工程(3)において、前記第2の抗生物質はピューロマイシン、ブレオマイシンおよびハイグロマイシンの組合せであり、使用量がそれぞれ、1~5μg/mL、300~500μg/mLおよび300~500μg/mLであり、より好ましくは、使用量がそれぞれ、2μg/mL、400μg/mLおよび400μg/mLである。
【0018】
同じ発明概念に基づいて、本発明の別の態様のレンチウイルスの生産方法は、前記レンチウイルスパッケージング細胞株に標的プラスミドをトランスフェクションする。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、前記レンチウイルスの生産方法は、
前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株に前記標的プラスミドをトランスフェクションする工程と、次いで
誘導剤を添加して前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を誘導してレンチウイルスを生産する工程と、
を含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、前記標的プラスミドを前記安定レンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションする間にポリエチレンイミンをさらに添加し、
ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=(1~8):1であり、
好ましくは、ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=(2~5):1であり、
より好ましくは、ポリエチレンイミンと前記標的プラスミドの質量比が、ポリエチレンイミン:標的プラスミド=4:1である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり(0.2~0.8)μg/10であり、
好ましくは、前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり(0.3~0.5)μg/10であり、
より好ましくは、前記標的プラスミドの使用量が、安定レンチウイルスパッケージング細胞株あたり0.4μg/10である。
【0022】
本発明の好ましい態様において、前記誘導剤がドキシサイクリンであり、
好ましくは、トランスフェクションの20~30時間後に前記誘導剤を添加し、より好ましくは、トランスフェクションの24時間後に前記誘導剤を添加し、
好ましくは、前記誘導剤を濃度1~5μg/mLで添加し、より好ましくは、前記誘導剤を濃度2μg/mLで添加する。
【0023】
本発明の好ましい実施形態では、 前記レンチウイルスの生産中に増強剤をさらに添加してレンチウイルス発現レベルを増加させ、
前記増強剤が酪酸ナトリウムであり、
好ましくは、前記増強剤を濃度5~15mMで添加し、より好ましくは前記増強剤を濃度10mMで添加し、
好ましくは、トランスフェクションの20~30時間後に前記増強剤を添加し、より好ましくは、トランスフェクションの24時間後に増強剤を添加し、
好ましくは、増強剤添加の6~8時間後に増強剤を交換し、および/または
45~50時間で前記レンチウイルスを収集し、好ましくは、48時間で前記レンチウイルスを収集する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、パッケージング細胞株のプラスミドマップを示し、図1aはpPuro.coTetRプラスミドのプラスミドマップ、図1bはpVSVGプラスミドのプラスミドマップ、および図1cはpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドのプラスミドマップである。
図2図2は、半定量的PCRによって同定されたモノクローナル細胞クローン1、5、6、7、14、17、18、19、23、24、26、27、28、31、32および33のCoTetR遺伝子、VSVG遺伝子およびGagPol遺伝子のアガロースゲル電気泳動チャートを示す。
図3図3は、標的プラスミドをトランスフェクションしたレンチウイルスパッケージング細胞株によるウイルス生産の検証を示すヒストグラムである。
図4図4は、クローン31細胞のトランスフェクションおよびウイルス生産誘導の最適化の実験結果を示すヒストグラムである。
図5図5は、クローン31細胞の継代安定性アッセイの結果を示すヒストグラムである。
図6図6は、クローン31細胞のウイルス生産安定性アッセイの結果を示すヒストグラムである。
図7図7は、クローン31細胞のコピー数安定性アッセイの結果を示すヒストグラムであり、図7aはクローン31細胞のVSVG遺伝子コピー数安定性アッセイの結果を示すヒストグラムであり、図7bはクローン31細胞のGagPol遺伝子コピー数安定性アッセイの結果を示すヒストグラムであり、図7cはクローン31細胞のRev遺伝子コピー数安定性アッセイの結果を示すヒストグラムである。
図8図8は、クローン31細胞と293細胞のバッチ間のウイルス力価の比較チャートである。
図9図9は、クローン31細胞および293細胞のウイルス力価VP(P24)の比較チャートである。
図10図10は、クローン31細胞と293細胞のスケールアップ比較チャートであり、図10aはE1000におけるトランスフェクションの24時間後および48時間後の生存率の比較チャートであり、図10bはE1000におけるトランスフェクション後のHCP残基の比較チャートであり、図10cは、E1000におけるトランスフェクション後のVPの比較チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特に断らない限り、本明細書の1つまたは複数の例において使用される技術用語または科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって理解される一般的な意味を有するものとする。
【0026】
以下の実施例で使用される実験方法は、特に明記しない限り従来の方法である。以下の実施例で使用される培養培地、試薬材料およびキットは、特に明記しない限り、全て市販の製品である。
【0027】
本明細書で使用される抗生物質(ピューロマイシン、ブレオマイシンおよびハイグロマイシン)、誘導剤(ドキシサイクリン)および増強剤(酪酸ナトリウム)の濃度はすべて、培養培地中のそれらの最終濃度を指す。例えば、添加する酪酸ナトリウムの濃度が5~15mMであることは、培養培地中の酪酸ナトリウムの最終濃度が5~15mMであることを意味する。
【0028】
レンチウイルスベクター系は、レンチウイルスを主鎖として開発され、パッケージング構造とベクター構造を含む。レンチウイルスパッケージング系は、一般に、レンチウイルスパッケージングプラスミドおよびレンチウイルス発現プラスミドの2つの部分からなる。前記レンチウイルスパッケージングプラスミドは、ウイルスタンパク質をコードする塩基配列からなる。前記レンチウイルス発現プラスミドは、長い末端反復と、パッケージングシグナルと、パッケージング、トランスフェクションおよび安定した組み込みに必要な他の遺伝子情報とを含む。前記パッケージングプラスミドおよび前記発現プラスミドを細胞に同時トランスフェクションする。前記ウイルスを細胞中にパッケージングし、細胞外培地中に分泌して、宿主細胞に感染させるために使用することができるウイルス粒子を生産する。
【0029】
ほとんどの場合、既存のレンチウイルスは、パッケージングプラスミドおよび発現プラスミドをセルファクトリーで培養された293細胞または293T細胞に一過性トランスフェクションすることによって生産される。前記パッケージングプラスミドは、長い末端反復と、パッケージングシグナルと、パッケージング、トランスフェクションおよび安定した組み込みに必要な他の遺伝子情報とを含み、前記発現プラスミドは標的遺伝子を含む。
【0030】
293細胞の一過性トランスフェクションによるレンチウイルスの大規模生産は実行可能であり、良好な展望を示す。しかしながら、一過性トランスフェクションは、生産プロセスにおいてさらに最適化される必要がある。主な障害は、トランスフェクションプロセスが大量のプラスミドDNAを必要とするため、コストが高くなり、スケールアップが困難で、ウイルスの生産の持続が不可能であることである。一過性トランスフェクションによって生産される、過剰な残留不純物(特に、宿主細胞タンパク質およびDNA残基)を含有するウイルスは、その後の精製プロセスにおいてさらなる困難が生じ、またバッチ間のウイルス収量が不安定になることによって、下流プロセスの配置の不確実性をもたらす。したがって、ウイルスのパッケージングに必要なベクターエレメントを宿主細胞のゲノムに安定的に組み込むことができ、遺伝的に安定していて大量生産に便利であり、それ故に持続可能なウイルス生産を確実なものとすることができる、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を構築する必要がある。
【0031】
本発明の目的は、懸濁細胞(特に293細胞)の大量生産を実現する安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を構築することにより、不純物の含量が低く力価が高いレンチウイルスを得ることである。
【0032】
上記の目的を実現するために、本発明の一態様の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドからなるパッケージングプラスミドセットを含む。
【0033】
前記pPuro.coTetRプラスミドはCoTetR遺伝子を含み、前記pVSVGプラスミドはVSVG遺伝子を含み、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドはGagPol遺伝子およびRev遺伝子を含む。
【0034】
先行技術において知られているように、レンチウイルスを生産する方法は、パッケージングプラスミドおよび発現プラスミドを細胞(例えば、293細胞または293T細胞)に同時トランスフェクションする工程を含む。この方法の主な欠点は、力価の低いレンチウイルスが生産され、不純物の含量が高く、バッチ間のウイルス収量が不安定であるということである。本発明の方法は、最初にパッケージングプラスミドを細胞株にトランスフェクションして安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得る工程、すなわち、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを細胞株にトランスフェクションして安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得る工程と、その後、標的プラスミドを前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションして、不純物の含量が低く力価が高いレンチウイルスを生産する工程を含む。
【0035】
本発明に従って構築された安定したレンチウイルスパッケージング細胞株に対し、継代安定性、ウイルス生産安定性およびコピー数安定性を含む安定性について研究した。実験結果によると、本明細書で構築した安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、選択圧の非存在下(抗生物質の添加なし)で世代から世代へ安定的に継承し97%以上の生存率を有することができたことから、構築された細胞が、選択圧の非存在下で30世代以上にわたって安定的に継承され得ることを示唆している。抗生物質なしで継承された細胞は、正常に継承され、レンチウイルスを生産する能力を有し、安定したGagPol遺伝子、Rev遺伝子およびVSVG遺伝子のコピー数を持つことができる。言い換えれば、本明細書において構築される安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、継代、ウイルス生産、および遺伝遺伝子のコピー数に関して安定した状態を維持できる。
【0036】
本発明のpPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、いずれも、市販のプラスミド骨格を基礎として用い、標的遺伝子を挿入することにより構築される。例えば、前記pPuro.coTetRプラスミドは、pIRESpuro3プラスミドを基礎として用い、CoTetR遺伝子を挿入することによって構築される。前記CoTetR遺伝子は、コドン最適化TetR(テトラサイクリンリプレッサー)遺伝子であり、配列番号1に示す配列を有する。前記pVSVGプラスミドは、pcDNA4プラスミドを基礎として用い、VSVG(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質)遺伝子を挿入することによって構築される。前記VSVG遺伝子は、配列番号2に示す配列を有する。前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、基礎としてpcDNA5プラスミドを用い、GagPol遺伝子(ここで、Gag遺伝子はウイルスカプシドタンパク質をコードし、Pol遺伝子はウイルス逆転写酵素および遺伝子インテグラーゼをコードする)および(ウイルス粒子タンパク質発現の調節因子をコードする)Rev遺伝子を挿入することによって構築される。前記GagPol遺伝子および前記Rev遺伝子は、それぞれ配列番号3および4に示す配列を有する。
【0037】
図1aに示すように、前記pPuro.coTetRプラスミドは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターと、(タンパク質発現量を増大させる)キメライントロンと、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターと、ピューロマイシン耐性遺伝子(Puro)と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。前記SV40プロモーターは、ピューロマイシン耐性遺伝子の発現に必要である。前記pPuro.coTetRプラスミドは、ピューロマイシン耐性遺伝子を含む。ピューロマイシンでスクリーニングした後、ほとんど全ての生存細胞がCoTetR遺伝子を安定して発現するため、官能基クローンについて多数の細胞をスクリーニングする必要がない。前記pPuro.coTetRプラスミドを使用する場合、前記抗生物質は、全発現カセットにわたって選択圧を及ぼす。したがって、高用量の抗生物質は、高レベルのCoTetR遺伝子を発現する細胞を選択する。この選択圧によってもまた、前記CoTetR遺伝子の発現の安定を確実に維持できる。前記pPuro.coTetRプラスミドは、配列番号5に示す配列を有する。
【0038】
図1bに示すように、前記pVSVGプラスミドは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーター(TetO)からなるハイブリッドプロモーターと、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターと、ブレオマイシン抵抗性遺伝子(Zeo)と、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。前記SV40プロモーターは、ブレオマイシン耐性遺伝子の発現に必要である。前記pVSVGプラスミドは、配列番号6に示す配列を有する。
【0039】
図1cに示すように、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーター(TetO)からなるハイブリッドプロモーターと、キメライントロンと、シミアンウイルス40(SV40)プロモーターと、ハイグロマイシン耐性遺伝子(Hygro)と、cPPT/CTSエレメントと、RREエレメントと、ポリアデニル化シグナルと、をさらに含む。前記SV40プロモーターは、ハイグロマイシン耐性遺伝子の発現に必要である。前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、配列番号7に示す配列を有する。
【0040】
前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、核から細胞質へのRNA転写物の輸送を調節するレトロウイルス排出エレメントであるヒト免疫不全ウイルス(HIV)rev応答エレメント(RRE)を含む。
【0041】
前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドは、シス作用エレメント、すなわち中央ポリプリン領域(cPPT)および中央終止配列(CTS)を含む。前記cPPT/CTS塩基配列は、ベクター組み込みおよび形質導入効率を改善することができるHIV1のcPPT/CTSであり得る。
【0042】
前記ヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーターおよび2つのテトラサイクリンオペレーター(TetO)とからなるハイブリッドプロモーターは、2つのTetOオペレーター配列を前記CMVプロモーターに挿入してテトラサイクリンにプロモーターを調節する機能を付与することを意味する。前記TetO配列は、19ヌクレオチド基配列(5’-TCCCTATCAGTGATAGAGA-3’)の2個のコピーからなる。
【0043】
同じ発明概念に基づいて、本発明の別の態様の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を作成する方法は、
(1)pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミド、およびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドをそれぞれ酵素消化により直線化する工程と、
(2)直線化した前記pPuro.coTetRプラスミドと前記pVSVGプラスミドを細胞に同時トランスフェクションし、スクリーニング用の第1の抗生物質を添加して、第1の陽性モノクローナル細胞を得る工程と、
(3)直線化した前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを第1の陽性モノクローナル細胞にトランスフェクションし、スクリーニング用の第2の抗生物質を添加して、第2の陽性モノクローナル細胞、すなわち、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得る工程と、を含む。
【0044】
本発明のpPuro.coTetRプラスミドおよびpVSVGプラスミドは、それぞれ、ピューロマイシン耐性遺伝子およびブレオマイシン耐性遺伝子を含むため、第1の陽性クローン細胞のスクリーニングプロセスの間にピューロマイシンおよびブレオマイシンを添加して耐性スクリーニングを行う。一方、前記pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドはハイグロマイシン耐性遺伝子を含むため、第2の陽性クローン細胞のスクリーニングプロセスの間にピューロマイシン、ブレオマイシン、およびハイグロマイシンを添加して耐性スクリーニングを行う。さらに、2つのトランスフェクションプロセスの間にポリエチレンイミン(PEI)を添加してトランスフェクション効率を改善する必要があり、PEIおよび各プラスミドの量を制御することによって、本発明の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を得ることができる。
【0045】
同じ発明概念に基づいて、本発明の別の態様のレンチウイルスの生産方法は、標的プラスミド(標的遺伝子を含む発現プラスミド)を前記レンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションする。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、前記レンチウイルスの生産方法は、
前記標的プラスミドを前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションする工程と、次いで
誘導剤を添加して前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株を誘導してレンチウイルスを生産する工程と、
を含む。
【0047】
本発明の安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は誘導系である。前記レンチウイルスの生産中に、ドキシサイクリン(dox)を添加してウイルス生産を誘導する必要があり、ウイルス生産プロセスの間に酪酸ナトリウムを添加することで、レンチウイルスの収率を増加させることができることがわかった。本発明はまた、標的プラスミドを安定したレンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションしてウイルス生産を誘導する条件を最適化する。最適条件は、標的プラスミドの量が細胞あたり0.4μg/10であり、PEIの量と標的プラスミドの量の比が4:1であり、酪酸ナトリウムの濃度が10mMであり、酪酸ナトリウムを添加する時間がトランスフェクションの24時間後であり、酪酸ナトリウムを交換する時間が酪酸ナトリウム添加の6~8時間後であり、doxを添加する時間が24時間であり、doxの濃度が2μg/mLであり、レンチウイルスを収集する時間が48時間である。先行技術における4つのプラスミドによる一過性トランスフェクションによってレンチウイルスを生産する方法において、ドキシサイクリン(dox)および酪酸ナトリウムを添加する必要はない。
【0048】
本発明において、前記標的プラスミドは限定されない。必要に応じて、様々な標的プラスミドをトランスフェクションに使用することができる。好ましくは、前記標的プラスミドはCAR発現プラスミドである。
【0049】
キメラ抗原受容体(CAR)T細胞免疫療法は養子免疫細胞療法であり、腫瘍特異的抗原を認識することができるscFv断片が遺伝子操作され、CD28、4-1BBなどのT細胞の活性化に関与する分子からなる膜貫通セグメントと融合し、その後、前記遺伝子セグメントが、レンチウイルスまたはレトロウイルス遺伝子形質導入によって患者の末梢血から抽出されたT細胞にトランスフェクションされ、遺伝子改変T細胞が患者に再注入された後、発現されたCAR受容体を使用して腫瘍細胞の表面上の分子に結合させ、それによって内部シグナルを生成してT細胞を活性化し、腫瘍細胞を迅速に死滅させる。前記CAR-T細胞は、抗体の認識特異性、ならびにT細胞の殺傷効果および記憶機能を統合している。したがって、MHCに拘束されることなく腫瘍抗原を認識することができ、天然T細胞よりも広範囲の標的を認識することができる。実際の必要性に基づいて、再発性/難治性CD19陽性非ホジキンリンパ腫の治療のために、CAR発現プラスミドを前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株にトランスフェクションすることができる。CARの設計およびベクター構築については、(順次連結される)シグナルペプチド、細胞外結合領域、任意のヒンジ領域、膜貫通領域および細胞内シグナル領域を含むキメラ抗原受容体(CAR)を設計し、ベクター(IM19プラスミドなど)を構築する、中国特許出願第201510324558号明細書の公報(特に実施例1および2)を参照することができる。
【0050】
本発明では、細胞生存率、ウイルス力価VP(P24)、宿主細胞タンパク質(HCP)残基、およびバッチ間のウイルス力価安定性に関して、CAR発現プラスミドの前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株へのトランスフェクションと、先行技術で公知の4つのプラスミドの一過性トランスフェクション(すなわち、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミド、pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミド、およびCAR発現プラスミドを293細胞に同時トランスフェクションする)とを比較する。実験結果から、本明細書において構築される安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、ウイルス力価VP含量が高く、バッチ間のウイルス収量が安定しており、下流の精製プロセスに有利であることが分かる。
【0051】
さらに、細胞生存率、ウイルス力価VP、および宿主細胞タンパク質(HCP)残基に関して、CAR発現プラスミドをトランスフェクションした前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株と、先行技術において公知の4つのプラスミドを一過的にトランスフェクションした293細胞とを、スケールアッププロセスで比較する。実験結果から、トランスフェクション後の前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、細胞生存率が高く、生産されたウイルス中の宿主細胞タンパク質(HCP)残基が少なく、ウイルス力価VPが高いため、大規模ウイルス生産に使用することができることが分かる。
【0052】
ウイルス力価VP(P24)におけるVPはウイルス力価を測定する方法であるウイルス粒子数(VP)法を指し、OD260を使用してウイルス粒子の数を検出する。P24はウイルスカプシドタンパク質、すなわちP24タンパク質を指す。ウイルス力価は、P24タンパク質を測定することによって検出される。
【0053】
上記の開示から明らかなように、本発明は、安定したレンチウイルスパッケージング細胞株およびその作成方法を提供する。前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、継代、ウイルス生産、および遺伝遺伝子のコピー数の面で比較的安定しており、前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、大規模ウイルス生産における使用に適している。4つのプラスミドを一過的にトランスフェクションされた293細胞と比較して、前記安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、細胞生存率が高く、ウイルス力価VP含量が高く、宿主細胞タンパク質残基が少なく、バッチ間のウイルス収量が安定しており、下流の精製プロセスに有利である。
【実施例
【0054】
本発明によって提供される技術的解決策を、特定の具体例に関連して以下でさらに説明する。以下の実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の保護範囲を制限するものではない。
【0055】
[実施例1] pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの構築
【0056】
この実施例において構築された安定したレンチウイルスパッケージング細胞株は、(CoTetR遺伝子を含む)pPuro.coTetR、(VSVG遺伝子を含む)pVSVG、および(GagPol遺伝子およびRev遺伝子を含む)pGagPol-RRE-NES-cINTの3つのプラスミドからなり、これらはそれぞれ、図1a、図1bおよび図1cに示すプラスミドマップを有する。
【0057】
pPuro-coTetRnベクターの構築
TetR-WF-1F/TetR-1R-リンカーをプライマーとして、pIRESpuro3(タカラバイオ株式会社、カタログ番号:631619)を鋳型として用いてINT断片(230bp)を得、TetR-2F-リンカー/TetR-2R-リンカーをプライマーとして、coTetRを(配列番号1に示す塩基配列を有する)鋳型として用いてTecoTetR断片(624bp)を得、TetR-3F-リンカー/TetR-WF-3Rをプライマーとして、pcDNA4(Thermo社、カタログ番号:V102020)を鋳型として用いてPA+F1ori+SV40プロモーター断片(1042bp)を得た。次いで、ブリッジPCRによって、前記プライマーTetR-WF-1F/TetR-2R-リンカーを使用して断片TNT+coTetRを得、前記プライマーTetR-WF-1F/TetR-WF-3Rを使用して完全長断片TNT+coTetR+PA+F1ori+SV40プロモーターを得た。
【0058】
上記で作成した完全長断片を、シームレスクローニング法によりpIRESpuro3ベクターのHindIII部位に挿入し、コンピテントstbl3(フルゴールド、カタログ番号:CD521)に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定を行った後、プラスミドをEndoFree Plasmid Midi Kit(CWBio社、カタログ番号:cw2105s)で抽出した。構築された標的プラスミドを、パッケージング細胞株を構築するその後の実験において使用した。
【0059】
【表1】
【0060】
pVSVGベクターの構築
VSVG-WF-F/VSVG-WF-Rをプライマーとし、(配列番号8に示す配列を有する)VS-SCを鋳型としてVSVG断片(1536bp)を得た。上記で作成した断片を、シームレスクローニング法によってpcDNA4ベクターのXhoI部位に挿入し、コンピテントstbl3に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定を行った後、プラスミドをEndoFree Plasmid Midi Kit(CWBio社から入手可能)を用いて抽出した。構築された標的プラスミドを、パッケージング細胞株を構築するその後の実験において使用した。
【0061】
【表2】
【0062】
pGagPol-RRE-NES-cINTベクターの構築
pGagPol-XhoI-WF/pGagPol-XhoI-WRをプライマーとして、(配列番号9に示す配列を有する)MDK-SCを鋳型として用いて、GagPol断片(4307bp)を得た。上記で作成した断片を、シームレスクローニング法によりpcDNA5ベクター(Thermo社、カタログ番号:V103320)のXhoI部位に挿入し、コンピテントstbl3に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定を行った後、プラスミドをEndoFree Plasmid Midi Kit(CWBio社から入手可能)を用いて抽出した。構築された標的プラスミドpGagPolを、その後のベクター構築に使用した。
【0063】
pGagPol-REV-Xba I-WF/pGagPol-REV-Xba I-WRをプライマーとして、(配列番号10に示す配列を有するpsPAX2ベクターとしても知られる)AXを鋳型として用いて、RRE-NES断片(1705bp)を得た。上記で作成した断片を、シームレスクローニング法によりpGagPolベクターのXbaI部位に挿入し、コンピテントstbl3に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定を行った後、プラスミドをEndoFree Plasmid Midi Kit(CWBio社)を用いて抽出した。構築された標的プラスミドpGagPol-RRE-NESを、その後のベクター構築に使用した。
【0064】
pGagPol-RN-cINT-Not I-QF/pGagPol-INT-Not I-WRをプライマーとして、AXを鋳型として用い、cINT断片(1122bp)を得た。上記で作成した断片を、シームレスクローニング法によりpGagPol-RRE-NESベクターのNot I部位に挿入し、コンピテントstbl3に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定を行った後、プラスミドをEndoFree Plasmid Midi Kit(CWBio社から入手可能)を用いて抽出した。構築された標的プラスミドpGagPol-RRE-NES-cINTを、その後のベクター構築に使用した。
【0065】
【表3】
【0066】
[実施例2] 安定したレンチウイルスパッケージング細胞株の作成
【0067】
実施例1で構築した3つのプラスミドを、Fsp I(Thermo社、カタログ番号:FD1224)での消化によって直線化し、次いで脱リン酸化して、293細胞にトランスフェクションした。
【0068】
直線化pPuro.coTetRプラスミドおよび直線化pVSVGプラスミドを293懸濁細胞にPEI(ポリエチレンイミン)を用いて同時トランスフェクションした(Polysciences社、カタログ番号:23966)。トランスフェクションにおけるpPuro.coTetRおよびpVSVGプラスミドの使用量を、いずれも、細胞あたり0.8μg/10とし、PEI量と(pPuro.coTetRプラスミド量+pVSVGプラスミド量)の比を4:1とした。2μg/mLのPuro(ピューロマイシン)(InVivogen社、カタログ番号:ant-pr-1)および400μg/mLのZeo(ブレオマイシン)(Invitrogen社、カタログ番号:R25001)の2つの抗生物質を2週間使用することによって加圧選抜を行い、安定してトランスフェクションされた薬物耐性陽性の細胞プール、すなわちポリクローナルPV細胞を得た。前記ポリクローナルPV細胞を、96ウェルプレート(Thermo社、カタログ番号:167008)上に、制限希釈により、ウェルあたり200μLの密度で播種した。次いで、細胞を顕微鏡下で観察した。単一細胞のみを有するウェルを選択し、標識し、インキュベーター中で約20~30日間培養した。
【0069】
96ウェルプレート中で生存したモノクローナル細胞を増幅し、48ウェルプレート、24ウェルプレート、12ウェルプレート、6ウェルプレートおよび振盪フラスコE125中でそれぞれ培養した。前記PVモノクローナル細胞を採取してRNAを抽出した。cDNAへの逆転写後、半定量的PCRを実施して、標的遺伝子CoTetRおよびVSVGの存在を同定した。β-アクチンを内部参照遺伝子として使用した。
【0070】
PEI(ポリエチレンイミン)を用いて、直線化プラスミドpGagPol-RRE-NES-cINTを正しいと同定されたPVモノクローナル細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションにおけるpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドの使用量を、第1陽性モノクローナル細胞あたり0.8μg/10とし、PEI量とpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミド量の比を4:1とした。2μg/mLのPuro(ピューロマイシン)、400μg/mLのZeo(ブレオマイシン)、400μg/mLのHYG(ハイグロマイシン)(Invitrogen社、カタログ番号:10687010)の3つの抗生物質を2週間使用することによって加圧選抜を行い、安定してトランスフェクションされた薬物耐性陽性の細胞プール、すなわちポリクローナルPV細胞を得た。前記ポリクローナルPV細胞を、96ウェルプレート(Thermo社、カタログ番号:167008)上に、制限希釈により、ウェルあたり200μLの密度で播種した。次いで、細胞を顕微鏡下で観察した。単一細胞のみを有するウェルを選択し、標識し、インキュベーター中で約20~30日間培養した。96ウェルプレート中で生存したモノクローナル細胞は、クローン1、クローン5、クローン6、クローン7、クローン14、クローン17、クローン18、クローン19、クローン23、クローン24、クローン26、クローン27、クローン28、クローン31、クローン32およびクローン33として番号付けされた。
【0071】
[実施例3] 半定量的PCRによる安定したパッケージング細胞株の同定
【0072】
96ウェルプレート中で生存したモノクローナル細胞を増幅し、48ウェルプレート、24ウェルプレート、12ウェルプレート、6ウェルプレートおよび振盪フラスコE125中でそれぞれ培養した。前記PVGRモノクローナル細胞を採取してRNAを抽出した。cDNAへの逆転写後、半定量的PCRを実施して、標的遺伝子CoTetR、VSVGおよびGagPolの存在を同定した。β-アクチンを内部参照遺伝子として使用した。具体的な工程は以下の通りである。
【0073】
実験の1日前に、PVGRモノクローナル細胞を1ウェル当たり3×10細胞/mLで12ウェルプレートに播種し、1mLのSMM293TI(Sino Biological社、カタログ番号:M293TI)および0.1%のF68(Gibco社、カタログ番号:24040-032)を含む培地中で培養した。2μg/mLのdox(ドキシサイクリン)(Sigma社、カタログ番号:D9891)を2日目に添加し、細胞を3日目に回収してRNA抽出を行った。RNAを、TRIzol(商標)試薬(Invitrogen(商標)、カタログ番号15596026)を使用して、製造業者の説明書に記載の方法により抽出した。
【0074】
2μgの抽出RNAを、それぞれ、製造業者の説明書に従って、第1鎖cDNA合成キット(Thermo Scientific(商標)、カタログ番号:K1612)を用いてcDNAに逆転写した。
【0075】
2μgの逆転写cDNAをそれぞれ使用し、PCRによって標的遺伝子CoTetR、VSVGおよびGagPolをそれぞれ増幅した。内部参照遺伝子としてβ‐アクチンを用い、アガロースゲル電気泳動を行った。PCRによる標的遺伝子の増幅のためのシステムは、10μLの2×phanta Maxマスターミックス(Nanjing Vazyme社、カタログ番号:P515-02)、1μLのフォワードプライマー、1μLのリバースプライマー、7μLのddHO、および1μLのcDNA鋳型を含む。PCR反応プログラムは、95℃で10分間と、95℃で30秒間、56℃で30秒間、72℃で30秒間、72℃で10分間の30サイクルである。半定量的PCRのためのプライマーは以下の通りである:

CoTetRフォワードプライマー:
5’-atccactttgcctttctctccacagatgtctaggctggacaagtccaa-3’
CoTetRリバースプライマー:
5’-atggctggcaactagaaggcacagtcagctgccgctttcgcacttga-3’

VSVGフォワードプライマー:5’-ccgctcgagatgaagtgccttttgtactt-3’
VSVGリバースプライマー:5’-tgcattttccgttgatgaac-3’

GagPolフォワードプライマー:5’-ccggccataaagcaagagtt-3’
GagPolリバースプライマー:5’-ccgcagatttctatgagtat-3’

β-アクチンフォワードプライマー:5’-CTCCATCCTGGCCTCGCTGT-3’
β-アクチンリバースプライマー:5’-GCTGTCACCTTCACCGTTCC-3’
【0076】
実験結果を図2に示す。図2に示すように、クローン1、クローン18、クローン19、クローン23、クローン28、クローン31、クローン32およびクローン33はすべて、標的断片CoTetR、VSVGおよびGagPolを含む。
【0077】
[実施例4] 標的プラスミド(CAR発現プラスミド)の構築
【0078】
4.1 CAR分子のヌクレオチド配列の作成
【0079】
本実施例のCAR分子は、シグナルペプチド、細胞外結合領域、任意のヒンジ領域、膜貫通領域、および細胞内シグナル領域を含む。抗CD19キメラ抗原受容体(ここでは抗CD19scFv-S0と名付ける。J Immunother.2009 September;32(7):689-702に記載のマウス由来のscFv-S0を参照)の抗原結合領域のヌクレオチド配列に基づいて、ヒト化操作により、前記細胞外結合領域のヌクレオチド配列を得た。CAR分子のヌクレオチド配列を作成する工程について具体的に説明する。
【0080】
まず、プライマーを設計する。本実施例で使用したプライマーの塩基配列を以下に列挙する:
1-1:5’-ATGCTTCTCCTGGTGACAAG-3’
1-2:5’-TGGGATCAGGAGGAATGCTG-3’
2-1:5’-TACATCTGGGCGCCCTTGGCCGG-3’
2-2:5’-GGAGCGATAGGCTGCGAAGTCGCG-3’
3-1:5’-AGAGTGAAGTTCAGCAGGAGCG-3’
3-2:5’-TTAGCGAGGGGGCAGGGCCT-3’
4-1:5’-ATGCTTCTCCTGGTGACAAGCC-3’
4-2:5’-TGAGGAGACGGTGACTGAGGTTCCTTGG-3’
5-1:5’-GCGGCCGCAATTGAAGTTATGTA-3’
5-2:5’-TTAGCGAGGGGGCAGGGCCTGC-3’
6-1:5’-CTAGACTAGTATGCTTCTCCTGGTGACAAGCC-3’
6-2:5’-CGACGCGTTTAGCGAGGGGGCAGGGCCTGC-3’
【0081】
ヒトcDNAライブラリーを鋳型として、1-1および1-2、2-1および2-2、3-1および3-2をそれぞれプライマーとして使用し、GMCSF、(2つの部分が連結されている)CD28-TM+CD28-シグナルおよびCD3ζ-シグナルである対応するCAR分子をPCRによってクローニングした。架橋プライマー4-1および4-2を用いてGMCSF+scFv断片を得、架橋プライマー5-1および5-2を用いてCD28-TM+CD28-シグナル+CD3ζ-シグナル断片を得、架橋プライマー6-1および6-2を用いて完全なCAR分子のヌクレオチド配列を得た。消化部位はSpeIおよびMluIであった。
【0082】
4.2 CAR分子の核酸配列を含むウイルスベクターの構築
【0083】
上記で作成したCAR分子のヌクレオチド配列を、SpeI(Fermentas社)およびMluI(Fermentas社)で二重消化し、T4リガーゼ(Fermentas社)と連結し、レンチウイルスIM19ベクターのSpeI-MluI部位に挿入し、コンピテント大腸菌(DH5α)に形質転換した。正しい挿入を確認するための配列決定後、プラスミド精製キット(OriGene Technologies社製)でプラスミドを抽出し、精製した。構築された標的プラスミド(CAR発現プラスミド)を、その後のウイルス生産実験に使用した。
【0084】
[実施例5] 安定したパッケージング細胞株によるウイルス生産の検証
【0085】
この実施例では、正しいと同定されたPVGRモノクローナル細胞をウイルス生産について検証した。すなわち、ウイルス生産の検証のために、実施例4で構築した標的プラスミドを実施例3のPVGRモノクローナル細胞に一過性トランスフェクションした。具体的な工程は以下の通りである。
【0086】
実験の前日にPVGRモノクローナル細胞を12ウェルプレートに1ウェル当たり8×10細胞/mLの密度で播種し、1mLのSMM293 TIおよび0.1%のF68を含む培地中で培養した。標的プラスミドを2日目のトランスフェクションに使用した。トランスフェクションの24時間後に、誘導剤dox(ドキシサイクリン)を最終濃度2μg/mLで添加した。トランスフェクションの48時間後にウイルスを回収し、3000rpmで4℃で20分間遠心分離した。Jurkat細胞をウイルスに感染させ、48時間後にフローサイトメトリーで分析してウイルス力価(TU/mL)を計算した。実験の結果、クローン1、クローン18、クローン19、クローン23、クローン28、クローン31、クローン32、クローン33はいずれもウイルス生産能を有し、クローン31は最も高いウイルス力価である2.68E+06(すなわち2.68×10)TU/mLを示した(図3参照)。クローン31を、その後の実験において試験細胞として選択した。
【0087】
[実施例6] 標的プラスミドを用いた安定したパッケージング細胞株のトランスフェクションおよびウイルス生産の誘導のための条件を最適化する実験
【0088】
比較的高いウイルス力価を有するモノクローナルクローン31細胞を、さらなる研究のために選択した。10mLのクローン31細胞を振とうフラスコE125(コーニング社、カタログ番号431145)にそれぞれ8×10細胞/mLの密度で播種し、10mLのSMM293 TIを含む培地で培養した。実験計画法(DOE)を使用した。まず、スクリーニング設計実験を用いた。因子には、プラスミド(標的プラスミド)の量、PEI(ポリエチレンイミン)の量、酪酸ナトリウムの濃度、酪酸ナトリウムの添加時間、酪酸ナトリウムを交換する時間、dox(ドキシサイクリン)の添加時間、添加されるdox(ドキシサイクリン)の濃度、およびレンチウイルスを収集する時間が含まれる。曲率と因子の効果を決定した。次に、中央複合設計を用いて、最適実験スキームを決定した。トランスフェクションの48時間後にウイルスを回収し、3000rpmで4℃で20分間遠心分離して、ウイルス力価TUを決定した。
【0089】
最後に、最適な実験スキームは、プラスミド(標的プラスミド)の量が細胞あたり0.4μg/10であり、PEI(ポリエチレンイミン)の量とプラスミド(標的プラスミド)の量の比が4:1であり、酪酸ナトリウムの濃度(シグマ社、カタログ番号:B5887)が10mMであり、酪酸ナトリウムを添加する時間がトランスフェクションの24時間後であり、酪酸ナトリウムを交換する時間が酪酸ナトリウム添加の6~8時間後であり、dox(ドキシサイクリン)を添加する時間が24時間であり、添加されたdox(ドキシサイクリン)の濃度が2μg/mLであり、ウイルスを収集する時間が48時間であると結論付けることができる。Jurkat細胞を、採取したウイルスに感染させた。48時間後、細胞をフローサイトメトリーによって分析して、ウイルス力価を計算した。振盪フラスコE125におけるクローン31の最終最適化ウイルス力価は4E+06(すなわち、4×10)TU/mLである(図4参照)。
【0090】
[実施例7] 安定したパッケージング細胞株の継代安定性、ウイルス生産安定性、コピー数安定性の検証
【0091】
安定したレンチウイルスパッケージング細胞株クローン31をさらに使用して、継代安定性、ウイルス生産安定性およびコピー数安定性を含む安定性研究を行った。
【0092】
7.1 継代安定性
【0093】
クローン31モノクローナル細胞を、抗生物質を含むE125振盪フラスコ中および抗生物質を含まないE125振盪フラスコ中で継代し、毎回、体積10mLで培養した。細胞数および生存率をそれぞれ計算した。特に、クローン31細胞を、E125振盪フラスコ(コーニング社、カタログ番号431145)に、それぞれ8×10細胞/mLおよび体積10mLで播種した。10mLのSMM293 TI培地(抗生物質なし)、および10mLのSMM293 TI+0.6μg/mLのPuro+50μg/mLのZeo+50μg/mL Hygをそれぞれ使用した。細胞を2日に1回継代した。細胞数および生存率をそれぞれ計算した。継代安定性を観察した。
【0094】
実験により、抗生物質を添加しなかった場合(選択圧の非存在下)のクローン31モノクローナル細胞の細胞数は抗生物質を添加した場合と著しく異ならず、抗生物質を添加しなかった場合(選択圧の非存在下)、クローン31モノクローナル細胞は安定して継代され、97%以上の生存率を有し、選択圧の非存在下で30世代以上安定して継代され得ることが示された(図5参照)。
【0095】
7.2 ウイルス収量安定性
【0096】
抗生物質を添加したクローン31モノクローナル細胞のウイルス収量安定性および抗生物質を添加しなかったクローン31モノクローナル細胞のウイルス収量安定性を調べた。抗生物質を添加した場合および添加しなかった場合について、数世代毎に(実施例4で構築した)標的プラスミドをクローン31にトランスフェクションし、ウイルス力価を測定した。特に、実験の前日に、クローン31細胞を、それぞれ1.4×10細胞/mLおよび体積10mLで、E125振盪フラスコ(コーニング、カタログ番号431145)に播種した。10mLのSMM293 TI培地(抗生物質を含まない)、および10mLのSMM293 TI+0.6μg/mLのPuro(ピューロマイシン)+50μg/mLのZeo(ブレオマイシン)+50μg/mLのHyg(ハイグロマイシン)をそれぞれ使用した。2日目に、(実施例4で構築した)標的プラスミドを細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションを数世代毎に実施して、ウイルス生産を検証した。
【0097】
実験結果によると、抗生物質を添加しなかった場合に細胞はウイルスを生産する能力を有し、継代された細胞は、抗生物質を添加せずに正常に遺伝することができることを示した(図6参照)。
【0098】
7.3 コピー数安定性
【0099】
抗生物質を添加した場合および添加しなかった場合のクローン31モノクローナル細胞について、数世代毎にコピー数の安定性を検証した。細胞ゲノム抽出キット(TIANGEN BIOTECH(BEIJING)社、カタログ番号:DP304-03)を用いて、抗生物質を添加した場合および添加しなかった場合のクローン31モノクローナル細胞のゲノムDNAを抽出し、次いで、Taqman-qPCR法により、クローン31モノクローナル細胞のゲノム中のGagPol、RevおよびVSVGのコピー数を増幅した。特に、クローン31細胞をE125振盪フラスコ(コーニング社、カタログ番号431145)に、それぞれ8×10細胞/mLおよび体積10mLで接種した。10mLのSMM293 TI培地(抗生物質なし)、および10mLのSMM293 TI+0.6μg/mLのPuro(ピューロマイシン)+50μg/mLのZeo(ブレオマイシン)+50μg/mLのHyg(ハイグロマイシン)をそれぞれ使用した。細胞ゲノムDNAを数世代毎に抽出した。細胞ゲノム抽出キット(TIANGEN BIOTECH(BEIJING)社、カタログ番号:DP304-03)を用いてゲノムDNAの抽出用に2×10細胞/mLを採取した。操作の詳細については、キットの製造元の取扱説明書を参照のこと。細胞ゲノムDNAをqPCR用に約5ng/μLに希釈した。Taqman-qPCRプローブ法は、以下の操作ステップを含む。3つの標準プラスミドDNAを、それぞれ1×10コピー/μL、1×10コピー/μL、1×10コピー/μL、1×10コピー/μL、および1×10コピー/μLに核酸希釈剤を用いて希釈する。3つの遺伝子GagPol、RevおよびVSVGをそれぞれ増幅した。標準生成物のコピー数の対数を横座標とし、CT値を縦座標とすることにより、3つの標準曲線をプロットした。qPCR反応系(タカラバイオ株式会社、カタログ番号:RR390A)は、10μLの2×Premix Ex Taq(プローブqPCR)、0.4μLのFプライマー(10μmol/L)、0.4μLのRプライマー(10μmol/L)、0.4μLのTaqManプローブ(5μmol/L)、0.4μLのROX Reference Dye II(50×)、2μLの鋳型、6.4μLのddHOを含む。FプライマーおよびRプライマーは、以下に列挙する通りである。

(1)VSVG遺伝子のqPCRプライマー:
VSVG-q-F:5’-AAGAAACCTGGAGCAAAATCAGA-3’
VSVG-q-R:5’-CCTGGGTTTTTAGGAGCAAGATAG-3’
VSVG-Taqmanプローブ:5’-FAM-CGGGTCTTCCAATCTCTCCAGTGGATCT-TAMRA-3’

(2)GagPol遺伝子のqPCRプライマー:
GagPol-q-F:5’-GCAGTTCATGTAGCCAGTGGATAT-3’
GagPol-q-R:5’-TGGTGAAATTGCTGCCATTG-3’
GagPol-Taqmanプローブ:5’-FAM-CAGAGACAGGGCAAGAAACAGCATACTTCC-TAMRA-3’

(3)Rev遺伝子のqPCRプライマー:
Rev-q-F:5’-CCTTGGAATGCTAGTTGGAGTAATAA-3’
Rev-q-R:5’-TGTTAATTTCTCTGTCCCACTCCAT-3’
Rev-Taqmanプローブ:5’-FAM-TCTCTGGAACAGATTTGGAATCACACGACC-TAMRA-3’
【0100】
qPCR反応の手順は、95℃で30秒間と、95℃で5秒間、55℃で15秒間、72℃で35秒間の40サイクルであった。得られたCT値を検量線に入れてコピー数を算出し、質量に基づいて各細胞のコピー数を算出した。
【0101】
クローン31に対するVSVG遺伝子のコピー数を図7aに、クローン31に対するGagPol遺伝子のコピー数を図7bに、クローン31に対するRev遺伝子のコピー数を図7cに示す。実験結果は、クローン31モノクローナル細胞におけるGagPol、RevおよびVSVG遺伝子のコピー数が比較的安定していることを示した。
【0102】
[実施例8] 安定したパッケージング細胞株とトランスフェクション後の293細胞との比較
【0103】
クローン31モノクローナル細胞および293細胞のトランスフェクションを行い、比較した。各バッチが3つの並行群を含む、3つのバッチを作成した。最適条件下でクローン31モノクローナル細胞のトランスフェクションを行って誘導し、一過性トランスフェクション条件下(PEI量:プラスミド量=4:1)で293細胞のトランスフェクションを行って、トランスフェクションの比較をした。具体的には、293細胞およびクローン31細胞を、それぞれ8×10細胞/mLおよび体積10mLでE125振盪フラスコ(コーニング、カタログ番号:431145)に播種した。10mLのSMM293 TI+0.1%のF68培地を使用した。細胞を3つのE125振盪フラスコ、すなわち3つの群に並行して播種した。クローン31モノクローナル細胞のトランスフェクションを行い、最適化条件下で誘導した。実験スキームは、プラスミドの量が細胞あたり0.4μg/10であり、PEI(ポリエチレンイミン)量とプラスミド量の比が4:1であり、酪酸ナトリウムの濃度が10mMであり、酪酸ナトリウムを添加する時間がトランスフェクションの24時間後であり、酪酸ナトリウムを交換する時間が酪酸ナトリウム添加の6~8時間後であり、dox(ドキシサイクリン)を添加する時間が24時間であり、添加されたdox(ドキシサイクリン)の濃度が2μg/mLであり、ウイルスを収集する時間が48時間であった。
【0104】
前記293細胞の一過性トランスフェクションのための条件は、実施例1で構築したpPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミドおよびpGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドと実施例4で構築した標的プラスミドを293細胞に同時トランスフェクションすることを含む。例えば、プラスミドの総量が0.8μg~1.0μg/10細胞の範囲である限り、一過性トランスフェクション用の一定の範囲内のプラスミドの量は、ウイルス力価にほとんど影響を及ぼさない。本実施例では、トランスフェクションした細胞を、pPuro.coTetRプラスミド、pVSVGプラスミド、pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドおよび標的プラスミドの質量比を1:1:1:2とし、総プラスミド量を細胞あたり0.8μg/10(すなわち、pPuro.coTetRプラスミドを細胞あたり0.16μg/10、pVSVGプラスミドを細胞あたり0.16μg/10、pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミドを細胞あたり0.16μg/10、および標的プラスミドを0.32μg/10細胞)とし、ならびにPEI(ポリエチレンイミン)量とプラスミド(Puro.coTetRプラスミド+pVSVGプラスミド+pGagPol-RRE-NES-cINTプラスミド+標的プラスミド)量の比を4:1として比較した。ウイルス力価安定性およびウイルス力価VP(P24)を、トランスフェクション後のバッチ処理間で比較した(図8および9参照)。
【0105】
図8の実験結果から分かるように、クローン31モノクローナル細胞は293細胞よりもバッチ間ウイルス力価安定性が良好であり、図9の実験結果から分かるように、クローン31モノクローナル細胞は293細胞よりもウイルス力価VP(P24)がはるかに高く、クローン31モノクローナル細胞は、ウイルス力価VP(P24)含量が高かった。
【0106】
[実施例9] 安定したパッケージング細胞株のスケールアップ処理
【0107】
クローン31モノクローナル細胞を、E125からE1000振盪フラスコ(コーニング社、カタログ番号:431147)にスケールアップし、次いで、(実施例4で構築した)標的プラスミドをクローン31モノクローナル細胞にトランスフェクションしてウイルス生産を検証した。一方、コントロールとして293細胞のトランスフェクションを行い、クローン31モノクローナル細胞および293細胞のトランスフェクションを行う条件は、実施例8に記載したものと同じとした。トランスフェクションされた細胞を、それらの細胞生存率、ウイルス力価VP(タカラバイオ株式会社、カタログ番号:632200)およびHCP(宿主細胞タンパク質)(Cygnus社、カタログ番号:F650)残基の面で比較した(図10参照)。
【0108】
図10aの実験結果から、クローン31モノクローナル細胞がトランスフェクションの24時間後および48時間後において293細胞よりも細胞生存率が高いことが分かり、図10bの実験結果から、クローン31モノクローナル細胞が293細胞の3分の1のHCP(宿主細胞タンパク質)残基を有すること、すなわち293細胞よりもHCP(宿主細胞タンパク質)残基が少ないことが分かり、図10cの実験結果から、クローン31モノクローナル細胞のウイルス力価VP(P24)が293細胞のウイルス力価VP(P24)の10~20倍であること、すなわちクローン31モノクローナル細胞のウイルス力価VP(P24)含量が高いことが分かる。

図1a
図1b
図1c
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
2023552663000001.app
【国際調査報告】