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特表2023-552672ヌクレオシド類似体の塩及びその結晶形、医薬組成物並びに用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】ヌクレオシド類似体の塩及びその結晶形、医薬組成物並びに用途
(51)【国際特許分類】
   C07D 487/04 20060101AFI20231212BHJP
   C07C 309/04 20060101ALI20231212BHJP
   C07C 57/145 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/53 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C07D487/04 140
C07C309/04 CSP
C07C57/145
A61P31/14
A61K31/53
A61K9/20
A61K9/48
A61K9/16
A61K9/14
A61K9/12
A61K9/02
A61K9/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023525545
(86)(22)【出願日】2021-10-21
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 CN2021125379
(87)【国際公開番号】W WO2022089302
(87)【国際公開日】2022-05-05
(31)【優先権主張番号】202011156037.5
(32)【優先日】2020-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(31)【優先権主張番号】202011505962.4
(32)【優先日】2020-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】516116415
【氏名又は名称】蘇州旺山旺水生物医薬股▲ふん▼有限公司
【住所又は居所原語表記】FLOOR 8, BUILDING A, 108 YUXIN ROAD, SUZHOU INDUSTRIAL PARK, SUZHOU, JIANGSU 215123, PEOPLE’S REPUBLIC OF CHINA
(71)【出願人】
【識別番号】506201884
【氏名又は名称】中国科学院上海薬物研究所
【氏名又は名称原語表記】SHANGHAI INSTITUTE OF MATERIA MEDICA, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(71)【出願人】
【識別番号】520266513
【氏名又は名称】中国科学院武漢病毒研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】沈 敬 山
(72)【発明者】
【氏名】謝 元 超
(72)【発明者】
【氏名】張 磊 ▲ケ▼
(72)【発明者】
【氏名】肖 庚 富
(72)【発明者】
【氏名】王 震
(72)【発明者】
【氏名】蒋 華 良
(72)【発明者】
【氏名】徐 華 強
(72)【発明者】
【氏名】胡 天 文
(72)【発明者】
【氏名】田 廣 輝
【テーマコード(参考)】
4C050
4C076
4C086
4H006
【Fターム(参考)】
4C050AA01
4C050BB07
4C050CC04
4C050EE03
4C050FF10
4C050GG04
4C050HH02
4C076AA01
4C076AA22
4C076AA30
4C076AA31
4C076AA36
4C076AA53
4C076BB01
4C076BB11
4C076CC35
4C076CC44
4C076CC46
4C076FF70
4C086AA01
4C086AA03
4C086AA04
4C086AA10
4C086CB05
4C086GA02
4C086GA07
4C086GA13
4C086GA14
4C086GA15
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA13
4C086MA23
4C086MA31
4C086MA35
4C086MA37
4C086MA41
4C086MA43
4C086MA52
4C086MA55
4C086MA66
4C086NA03
4C086NA14
4C086ZB33
4H006AA01
4H006AA02
4H006AB29
4H006AC90
4H006BB14
4H006BB17
4H006BS10
(57)【要約】
本発明は医薬技術分野に該当し、ヌクレオシド類似体の塩及びその結晶形、医薬組成物並びに用途に関する。具体的には、当該ヌクレオシド類似体の塩は、式I(式中、Xは、水素又は重水素であり、Yは酸、好ましくは臭化水素、塩化水素、硝酸、メタンスルホン酸又はマレイン酸であり、nは0.5~2、好ましくは1である。)で表される構造を有する。Xが水素又は重水素であり、Yが臭化水素であり、nが1である場合、当該ヌクレオシド類似体の塩は、結晶形I又は結晶形Aを呈する結晶又はアモルファス物質の形態で存在し、良好な固体性状、高い安定性、良好な溶解性、低吸湿性などの利点を備えることから、ウイルス(特にSARS-CoV-2)により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための薬剤を製造する上で有用である。
【化1】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iで表される化合物。
【化1】

(式中、
Xは水素又は重水素であり、
Yは、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、カンファー酸、カンファースルホン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、乳酸、グルコン酸、アスコルビン酸、没食子酸、マンデル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、トリフルオロ酢酸、タウリン、ホモタウリン、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、桂皮酸、粘液酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸又はこれらの組み合わせ、好ましくは臭化水素、塩化水素、硝酸、メタンスルホン酸、マレイン酸又はこれらの組み合わせ、より好ましくは臭化水素であり、
nは0.5~2、好ましくは1である。)
【請求項2】
式I-1の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】

(式中、nは0.5~2、好ましくは1である。)
【請求項3】
式I-1’の化合物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の化合物。
【化3】
【請求項4】
前記式I-1’の化合物は、結晶形Aの形態を有する結晶であり、前記結晶形Aは以下の特徴のうち少なくとも1つを有することを特徴とする請求項3に記載の化合物。
1)XRPDパターンにおいて、5.35°±0.2°、8.11°±0.2°、8.46°±0.2°、15.70°±0.2°、18.08°±0.2°、21.09°±0.2°及び21.91°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも7箇所に特徴ピークを有する。
2)DSCパターンにおいて、204±5℃に吸収ピークを有する。
3)25℃、RH80%の条件下で24時間保存後、水分量の増加は1%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。
4)37℃の脱イオン水での溶解度は0.1mg/mL以上、好ましくは0.2mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mLである。
【請求項5】
前記結晶形AのXRPDパターンにおいて、さらに、16.02°±0.2°、16.88°±0.2°、17.22°±0.2°、17.76°±0.2°、20.55°±0.2°、23.25°±0.2°、23.89°±0.2°及び26.14°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも8箇所に特徴ピークを有することを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項6】
前記結晶形AのXRPDパターンは図2のとおりであることを特徴とする請求項4又は5に記載の化合物。
【請求項7】
前記結晶形AのDSCパターンは図1のとおりであることを特徴とする請求項4に記載の化合物。
【請求項8】
前記式I-1’の化合物はアモルファス物質であることを特徴とする請求項3に記載の化合物。
【請求項9】
前記アモルファス物質のXRPDパターンは図6のとおりであることを特徴とする請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
式I-2の化合物であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化4】

(式中、nは0.5~2、好ましくは1である。)
【請求項11】
式I-2’の化合物であることを特徴とする請求項1又は10に記載の化合物。
【化5】
【請求項12】
前記式I-2’の化合物は、結晶形Iの形態を有する結晶であり、前記結晶形Iは以下の特徴のうち少なくとも1つを有することを特徴とする請求項11に記載の化合物。
1)XRPDパターンにおいて、5.36°±0.2°、8.13°±0.2°、8.48°±0.2°、18.16°±0.2°、20.95°±0.2°及び21.95°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも6箇所に特徴ピークを有する。
2)DSCパターンにおいて、200±5℃に吸収ピークを有する。
3)25℃、RH80%の条件下で24時間保存後、水分量の増加は1%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。
4)37℃の脱イオン水での溶解度は0.1mg/mL以上、好ましくは0.2mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mLである。
【請求項13】
前記結晶形IのXRPDパターンにおいて、さらに、15.71°±0.2°、16.07°±0.2°、16.90°±0.2°、17.26°±0.2°、20.55°±0.2°、23.27°±0.2°及び26.08°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも7箇所に特徴ピークを有することを特徴とする請求項12に記載の化合物。
【請求項14】
前記結晶形IのXRPDパターンは図4のとおりであることを特徴とする請求項12又は13に記載の化合物。
【請求項15】
前記式I-2’の化合物はアモルファス物質であることを特徴とする請求項11に記載の化合物。
【請求項16】
前記アモルファス物質のXRPDパターンは図7のとおりであることを特徴とする請求項15に記載の化合物。
【請求項17】
前記結晶形IのDSCパターンは図3のとおりであることを特徴とする請求項12に記載の化合物。
【請求項18】
1)式IIの化合物を溶媒Aに溶解して溶液Aを得、氷浴条件下で酸、又は、酸を溶媒Bに溶解した溶液Bを前記溶液Aと混合し、混合溶液を得る工程であって、前記酸は、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、カンファー酸、カンファースルホン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、乳酸、グルコン酸、アスコルビン酸、没食子酸、マンデル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、トリフルオロ酢酸、タウリン、ホモタウリン、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、桂皮酸、粘液酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸又はこれらの組み合わせ、好ましくは臭化水素、塩化水素、硝酸、メタンスルホン酸、マレイン酸又はこれらの組み合わせ、より好ましくは臭化水素である工程と、
【化6】

(式中、Xは水素又は重水素である。)
2)前記混合溶液を室温で撹拌し、濃縮することで、目的生成物を得る工程と
を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
【請求項19】
工程1)において、
前記式IIの化合物と前記溶媒Aとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~10mLであり、
前記溶液B中の酸の含有量は40wt%~50wt%であり、
前記式IIの化合物と前記酸のモル比は1:0.9~1であり、
工程2)において、
前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~1時間である
ことを特徴とする請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
3)工程2)で得られたものを溶媒Cと混合し、室温及び/又は加熱条件下で撹拌して固形物を析出させることで、目的生成物を得る工程
をさらに含むことを特徴とする請求項18又は19に記載の製造方法。
【請求項21】
工程3)において、
前記式IIの化合物と前記溶媒Cとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~15mLであり、
前記加熱条件の温度は35~60℃、好ましくは50~60℃であり、
前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~2時間である
ことを特徴とする請求項20に記載の製造方法。
【請求項22】
前記溶媒A、溶媒B及び溶媒Cは、それぞれ独立して、水、炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、ニトリル及びこれらの均質混合物から選択され、
前記炭化水素は、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、石油エーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及びジクロロベンゼンから選択され、
前記アルコールは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールから選択され、
前記エーテルは、エチルエーテル、n-プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン及びジエチレングリコールジメチルエーテルから選択され、
前記ケトンは、アセトン、ブタノン及びジエチルケトンから選択され、
前記エステルは、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルから選択され、
前記ニトリルは、アセトニトリル及びプロピオニトリルから選択され、かつ
前記溶媒Aと前記溶媒Bは互に混和性である
ことを特徴とする請求項18~21のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項23】
工程1)において、
前記溶媒Aはアセトニトリルであり、前記式IIの化合物と前記アセトニトリルとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~10mLであり、前記酸は臭化水素であり、前記溶媒Bは水であり、前記溶液Bは臭化水素酸であり、前記臭化水素酸中の臭化水素の含有量は40wt%~50wt%であり、前記式IIの化合物と前記臭化水素のモル比は1:0.9~1であり、
工程2)において、
前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~1時間であり、
工程3)において、
前記溶媒Cはメチルt-ブチルエーテルであり、前記式IIの化合物と前記メチルt-ブチルエーテルとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~15mLであり、前記加熱条件の温度は35~60℃、好ましくは50~60℃であり、 前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~2時間である
ことを特徴とする請求項22に記載の製造方法。
【請求項24】
1)請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物と、
2)所望により、薬学的に許容される添加物と
を含む医薬組成物。
【請求項25】
前記医薬組成物は経口製剤又は非経口製剤であり、
前記経口製剤は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤及びシロップ剤から選択され、
前記非経口製剤は、注射剤、粉末注射剤、噴霧剤及び坐剤から選択される
ことを特徴とする請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
ウイルス、好ましくはSARS-CoV-2により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のために用いる請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物又は請求項24又は25に記載の医薬組成物。
【請求項27】
ウイルス、好ましくはSARS-CoV-2により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための薬剤を製造するための、請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物又は請求項24又は25に記載の医薬組成物の使用。
【請求項28】
ウイルス、好ましくはSARS-CoV-2により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための方法であって、
治療及び/又は緩和有効量の請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物又は請求項24又は25に記載の医薬組成物を、これを必要とする対象に投与することを含む、方法。
【請求項29】
ウイルス、好ましくはSARS-CoV-2の複製を阻害する方法であって、
前記ウイルス、好ましくはSARS-CoV-2と、阻害有効量の請求項1~17のいずれか1項に記載の化合物又は請求項24又は25に記載の医薬組成物とを接触させることを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]
本発明は、2020年10月26日に中国に出願された、「ヌクレオシド類似体の塩及びその結晶形、医薬組成物並びに用途」を名称とする第202011156037.5号中国特許出願、及び、2020年12月18日に中国に出願された、「ヌクレオシド類似体の塩及びその結晶形、医薬組成物並びに用途」を名称とする第202011505962.4号中国特許出願の優先権を主張する。これら特許出願の内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
[技術分野]
【0002】
本発明は医薬技術分野に該当し、具体的には、ヌクレオシド類似体の酸付加塩、塩型結晶、医薬組成物及び医薬用途に関する。
【背景技術】
【0003】
ウイルス感染症は、人の生命と健康に深刻な脅威をもたらす。現在、人間に病気を引き起こすウイルスは数多く発見されているが、人間の社会活動の範囲が拡大し、グローバル化が強まる中、世界中で新型ウイルスや再興ウイルスが出現し続けている。例えば、2003年のSARS-CoV、2009年のH1N1インフルエンザウイルス、2013年のH7N9鳥インフルエンザウイルス、2012年のMERS-CoV、2014年のエボラウイルス、そして近年のより深刻なデング熱ウイルス、ジカウイルスなどが挙げられる。これらのウイルスのほとんどは、広がりやすく、感染力が強く、病原性が高いという特徴があり、世界の医療衛生システムに深刻な問題をもたらしている。
【0004】
重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2003年のSARS-CoVとゲノムワイドで約79%の類似性を持つ新しいコロナウイルスである。このウイルスは発見以来、世界中に急速に広がっている。
【0005】
ウイルスは増殖力が強く、複製過程で変異しやすいため、ワクチン接種による予防が難しいウイルス感染症も多く、抗ウイルス薬はウイルスに対応するための重要な手段の一つである。生物として、ウイルスの遺伝物質はDNA又はRNAであり、その複製には多数のヌクレオシド三リン酸やデオキシヌクレオシド三リン酸が必要である。ヌクレオシド類似体によりウイルスの遺伝物質の複製を妨害することは、抗ウイルス薬の開発における重要な方策である。
【0006】
要するに、この分野では、ウイルス感染によって引き起こされる疾患の治療のために、安定した物理的特性及び高いドラッガビリティを有するヌクレオシド類似体を開発することが切望されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安定した物理的特性及び高いドラッガビリティを有するヌクレオシド類似体の酸付加塩、当該酸付加塩により得られた塩型結晶、当該酸付加塩又はその塩型結晶を含む医薬組成物を提供するとともに、その製造方法及び製薬用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第一の側面において、本発明は、式Iで表される化合物を提供する。
【化1】

(式中、Xは水素又は重水素であり、Yは、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、カンファー酸、カンファースルホン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、乳酸、グルコン酸、アスコルビン酸、没食子酸、マンデル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、トリフルオロ酢酸、タウリン、ホモタウリン、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、桂皮酸、粘液酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸又はこれらの組み合わせ、好ましくは臭化水素、塩化水素、硝酸、メタンスルホン酸、マレイン酸又はこれらの組み合わせ、より好ましくは臭化水素であり、nは0.5~2、好ましくは1である。)
【0009】
好ましくは、前記式Iの化合物は、式I-1の化合物である。
【化2】

(式中、nは0.5~2、好ましくは1である。)
【0010】
より好ましくは、前記式I又は式I-1の化合物は、式I-1’の化合物である。
【化3】
【0011】
好ましくは、前記式I-1’の化合物は、結晶形Aの形態を有する結晶であり、前記結晶形Aは、以下の特徴のうち少なくとも1つを有する。
1)XRPDパターンにおいて、5.35°±0.2°、8.11°±0.2°、8.46°±0.2°、15.70°±0.2°、18.08°±0.2°、21.09°±0.2°及び21.91°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも7箇所に特徴ピークを有する。
2)DSCパターンにおいて、204±5℃に吸収ピークを有する。
3)25℃、RH80%の条件下で24時間保存後、水分量の増加は1%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。
4)37℃の脱イオン水での溶解度は0.1mg/mL以上、好ましくは0.2mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mLである。
【0012】
より好ましくは、前記結晶形AのXRPDパターンにおいて、さらに、16.02°±0.2°、16.88°±0.2°、17.22°±0.2°、17.76°±0.2°、20.55°±0.2°、23.25°±0.2°、23.89°±0.2°及び26.14°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも8箇所に特徴ピークを有する。最も好ましくは、前記結晶形AのXRPDパターンは図2のとおりである。
【0013】
より好ましくは、前記結晶形AのDSCパターンは図1のとおりである。
【0014】
或いは、好ましくは、前記式I-1’の化合物はアモルファス物質である。
【0015】
より好ましくは、前記アモルファス物質の形態のXRPDパターンは図6のとおりである。
【0016】
好ましくは、前記式Iの化合物は、式I-2の化合物である。
【化4】

(式中、nは0.5~2、好ましくは1である。)
【0017】
より好ましくは、前記式I又は式I-2の化合物は、式I-2’の化合物である。
【化5】
【0018】
好ましくは、前記式I-2’の化合物は、結晶形Iの形態を有する結晶であり、前記結晶形Iは以下の特徴のうち少なくとも1つを有する。
1)XRPDパターンにおいて、5.36°±0.2°、8.13°±0.2°、8.48°±0.2°、18.16°±0.2°、20.95°±0.2°及び21.95°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも6箇所に特徴ピークを有する。
2)DSCパターンにおいて、200±5℃に吸収ピークを有する。
3)25℃、RH80%の条件下で24時間保存後、水分量の増加は1%以下、好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。
4)37℃の脱イオン水での溶解度は0.1mg/mL以上、好ましくは0.2mg/mL以上、より好ましくは0.3mg/mLである。
【0019】
より好ましくは、前記結晶形IのXRPDパターンにおいて、さらに、15.71°±0.2°、16.07°±0.2°、16.90°±0.2°、17.26°±0.2°、20.55°±0.2°、23.27°±0.2°及び26.08°±0.2°の2θ値のうちの少なくとも3箇所、好ましくは少なくとも5箇所、より好ましくは少なくとも7箇所に特徴ピークを有する。最も好ましくは、前記結晶形IのXRPDパターンは図4のとおりである。
【0020】
より好ましくは、前記結晶形IのDSCパターンは図3のとおりである。
【0021】
或いは、好ましくは、前記式I-2’の化合物はアモルファス物質である。
【0022】
より好ましくは、前記アモルファス物質の形態のXRPDパターンは図7のとおりである。
【0023】
第二の側面において、本発明は、式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物の製造方法を提供する。前記製造方法は、
1)式IIの化合物を溶媒Aに溶解して溶液Aを得、氷浴条件下で酸、又は、酸を溶媒Bに溶解した溶液Bを前記溶液Aと混合し、混合溶液を得る工程と、
【化6】

(式中、Xは水素又は重水素である。)
2)前記混合溶液を室温で撹拌し、濃縮することで、目的生成物を得る工程とを含み、
前記酸は、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、マロン酸、シュウ酸、安息香酸、フタル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、1,5-ナフタレンジスルホン酸、カンファー酸、カンファースルホン酸、サリチル酸、アセチルサリチル酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、乳酸、グルコン酸、アスコルビン酸、没食子酸、マンデル酸、リンゴ酸、ソルビン酸、トリフルオロ酢酸、タウリン、ホモタウリン、2-ヒドロキシエタンスルホン酸、桂皮酸、粘液酸、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸又はこれらの組み合わせ、好ましくは臭化水素、塩化水素、硝酸、メタンスルホン酸、マレイン酸又はこれらの組み合わせ、より好ましくは臭化水素である。
【0024】
好ましくは、前記製造方法の工程1)において、前記式IIの化合物と前記溶媒Aとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~10mLであり、前記溶液B中の酸の含有量は40wt%~50wt%であり、前記式IIの化合物と前記酸のモル比は1:0.9~1であり、前記製造方法の工程2)において、前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~1時間である。
【0025】
好ましくは、前記製造方法はさらに、3)工程2)で得られたものを溶媒Cと混合し、室温及び/又は加熱条件下で撹拌して固形物を析出させることで、目的生成物を得る工程を含む。
【0026】
より好ましくは、前記製造方法の工程3)において、前記式IIの化合物と前記溶媒Cとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~15mLであり、前記加熱条件の温度は35~60℃、好ましくは50~60℃であり、前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~2時間である。
【0027】
好ましくは、前記製造方法において、前記溶媒A、溶媒B及び溶媒Cは、それぞれ独立して、水、炭化水素、アルコール、エーテル、ケトン、エステル、ニトリル及びこれらの均質混合物から選択される。前記炭化水素は、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-ヘプタン、石油エーテル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン及びジクロロベンゼンから選択され、前記アルコールは、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチレングリコール及びプロピレングリコールから選択され、前記エーテルは、エチルエーテル、n-プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン及びジエチレングリコールジメチルエーテルから選択され、前記ケトンは、アセトン、ブタノン及びジエチルケトンから選択され、前記エステルは、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル及び酢酸ブチルから選択され、前記ニトリルは、アセトニトリル及びプロピオニトリルから選択される。前記溶媒Aと前記溶媒Bは互に混和性である。
より好ましくは、前記製造方法の工程1)において、前記溶媒Aはアセトニトリルであり、前記式IIの化合物と前記アセトニトリルとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~10mLであり、前記酸は臭化水素であり、前記溶媒Bは水であり、前記溶液Bは臭化水素酸であり、前記臭化水素酸中の臭化水素の含有量は40wt%~50wt%であり、前記式IIの化合物と前記臭化水素のモル比は1:0.9~1であり、前記製造方法の工程2)において、前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~1時間であり、前記製造方法の工程3)において、前記溶媒Cはメチルt-ブチルエーテルであり、前記式IIの化合物と前記メチルt-ブチルエーテルとの使用量比は1g:2~20mL、好ましくは1g:5~15mLであり、前記加熱条件の温度は35~60℃、好ましくは50~60℃であり、前記撹拌の時間は0.5~5時間、好ましくは0.5~2時間である。
【0028】
第三の側面において、本発明は、式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物と、所望により、薬学的に許容される添加物を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
好ましくは、前記医薬組成物は、経口製剤又は非経口製剤である。より好ましくは、前記経口製剤は錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤及びシロップ剤から選択され、前記非経口製剤は注射剤、粉末注射剤、噴霧剤及び坐剤から選択される。
【0030】
第四の側面において、本発明は、ウイルスにより引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための、式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物又は前記化合物を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、前記ウイルスはSARS-CoV-2である。
【0031】
第五の側面において、本発明は、ウイルスにより引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための薬剤を製造するための、式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物又は前記化合物を含む医薬組成物の使用を提供する。好ましくは、前記ウイルスはSARS-CoV-2である。
【0032】
第六の側面において、本発明は、治療及び/又は緩和有効量の式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物又は前記化合物を含む医薬組成物を、これを必要とする対象に投与することを含む、ウイルスにより引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための方法を提供する。好ましくは、前記ウイルスはSARS-CoV-2である。
【0033】
第七の側面において、本発明は、ウイルスと、阻害有効量の式I、式I-1、式I-1’、式I-2又は式I-2’で表される化合物又は前記化合物を含む医薬組成物とを接触させる工程を含む、ウイルスの複製を阻害する方法を提供する。好ましくは、前記ウイルスはSARS-CoV-2である。
【発明の効果】
【0034】
広範かつ綿密な研究を経て、本発明は、抗ウイルス活性(特に抗SARS-CoV-2活性)を有するヌクレオシド類似体の酸付加塩及びその結晶の合成、分離を行い、その物理的・化学的特性を検討した結果、良好な固体性状、高い安定性、良好な溶解性、低吸湿性などの利点を備えることにより、ウイルス(特にSARS-CoV-2)により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のための薬剤を製造する上で有用である酸付加塩(例えば、化合物Zの臭化水素酸塩、塩酸塩及びマレイン酸塩、化合物Wの臭化水素酸塩及びマレイン酸塩)及びその結晶形(例えば、結晶形Aや結晶形I)を意外にも見出した。また、本発明の製造方法は、生成物の純度が高く、組成が一定で、保存しやすく、方法が簡単で再現しやすいなどの利点も有する。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、結晶形Aを有する結晶の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Zの臭化水素酸塩)のDSCパターンを示す図である。
図2図2は、結晶形Aを有する結晶の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Zの臭化水素酸塩)のXRPDパターンを示す図である。
図3図3は、結晶形Iを有する結晶の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Wの臭化水素酸塩)のDSCパターンを示す図である。
図4図4は、結晶形Iを有する結晶の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Wの臭化水素酸塩)のXRPDパターンを示す図である。
図5図5は、結晶形Aを有する結晶の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Zの臭化水素酸塩)の各条件下(室温で保存、80℃で24時間加熱)でのXRPDパターンの比較を示す図である。
図6図6は、アモルファス物質の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Zの臭化水素酸塩)のXRPDパターンを示す図である。
図7図7は、アモルファス物質の形態で存在する(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩(化合物Wの臭化水素酸塩)のXRPDパターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
[用語の定義]
ヌクレオシド類似体
ヌクレオシド類似体は、最も重要な抗ウイルス薬の一つであり、これまでウイルス性疾患の臨床治療において重要な役割を果たしている。ヌクレオシド系薬物は、生体内で三リン酸形態に変換することができ、特にウイルスの複製段階において、ヌクレオシド三リン酸は基質として「偽装」し、ウイルスのDNA又はRNA鎖に組み込まれることで、遺伝物質の複製を阻害し、抗ウイルス効果を発揮することができる。
【0037】
化合物Z及び化合物W
【化7】

化合物Z及び化合物Wは第202010313870.X号中国特許出願に記載されたものである。実験で測定した結果、これらの化合物は、顕著な抗SARS-CoV-2活性を有するとともに、それ以外の複数種のRNAウイルスに対しても良好な阻害効果を有する。一方、遊離塩基である化合物Z及び化合物Wは、常温で粘稠な油状物であり、ドラッガビリティに劣るため、化合物Z及び化合物Wの固体形態を見つけることが特に重要である。また、化合物Z及び化合物Wは、薬剤への適用において製剤化に影響を与える、水溶性が低いという問題がある。
【0038】
塩及び溶媒和物
特に断りのない限り、本発明でいう「塩」には、薬学的に許容される塩(「医薬用塩」とも呼ばれる。)と、薬学的に許容されない塩との両方が含まれる。薬学的に許容されない塩は、患者への投与には好ましくないが、薬物の中間体や原薬を提供するために使用することができる。
【0039】
特に断りのない限り、本発明でいう「薬学的に許容される塩」又は「薬学的に許容される酸付加塩」とは、薬学的に許容される酸を用いて調製された酸付加塩を意味し、有機酸塩や無機酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。塩を形成するための酸は、臭化水素酸、塩酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸又はマレイン酸であることが好ましく、臭化水素酸又はマレイン酸であることがより好ましく、臭化水素酸であることが最も好ましい。
【0040】
本発明の(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物Z)又は(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物W)の酸付加塩は、空気中に放置したり、再結晶したりすると、水分を吸収し、水が結合した水和物を生成するが、このような水分を含む酸付加塩も本発明の範囲に含まれる。
【0041】
また、本発明は、(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物Z)又は(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物W)の酸付加塩と溶媒からなる溶媒和物(「溶媒化物」とも呼ばれる。)も含む。塩及び/又は結晶を製造する際に用いられる溶媒であればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、水和物、アルコール和物、アセトン和物、エステル和物、エーテル和物、トルエン和物などが挙げられるが、水和物、アルコール和物が好ましい。
【0042】
医薬組成物
特に断りのない限り、本発明でいう「医薬組成物」は、本発明に係る化合物の少なくとも1種と、所望により、薬学的に許容される添加物を含む。好ましくは、本発明の医薬組成物は、化合物Z及び化合物Wから選択される遊離塩基と、臭化水素、塩化水素、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸及びマレイン酸から選択される酸とからなる酸付加塩のうちの少なくとも1種と、所望により、薬学的に許容される添加物を含む。より好ましくは、本発明の医薬組成物は、結晶形Aを有する化合物Zの臭化水素酸塩及び/又は結晶形Iを有する化合物Wの臭化水素酸塩と、所望により、薬学的に許容される添加物を含む。
【0043】
特に断りのない限り、本発明でいう「添加物」としては、医薬分野で一般的に用いられる賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、可溶化剤、懸濁剤、等張剤、緩衝剤、防腐剤、酸化防止剤、安定剤、吸収促進剤などが挙げられるが、これらに限定されない。必要に応じて、上記の添加物を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ウイルス感染症の治療薬又は予防薬として使用される場合、本発明の化合物Z又は化合物Wの酸付加塩(つまり、式Iの化合物)は、単独で、又は適切な薬学的に許容される添加物と混合し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの経口剤として、又は、注射剤、粉末注射剤、噴霧剤、坐剤などの非経口剤として投与することができる。これらの剤形は、当分野における一般の製剤方法によって製造することができる。
【0045】
経口の医薬組成物は、単位用量当たり10~2000mgの医薬活性成分(API)を含むように、本発明の化合物W又は化合物Zの臭化水素酸塩と、薬学的に許容される添加物の少なくとも1種とを混合して製造する。例えば、経口の医薬組成物が錠剤である場合、APIと、医薬用添加物(例えば、デンプン、ラクトース、ステアリン酸マグネシウムなど)の少なくとも1種とを混合して打錠し、さらに糖衣や他の適切な物質によるコーティングを素錠に施したり、徐放効果や放出制御効果を有するように加工したりすることができる。別の例として、経口の医薬組成物がカプセル剤である場合、APIと、希釈剤(例えば、デンプン)の少なくとも1種とを混合し、所望により造粒・整粒して、得られた混合物をカプセルシェルに充填する。
【0046】
医薬用途
薬物の投与量は、症状や年齢等によって異なるが、成人を例にとると、症状に応じて1~7日に1~7回、1回につき0.01~1000mg程度投与することができる。投与方法は限定されない。
【0047】
本発明の化合物は、ウイルス感染により引き起こされる疾患の治療及び/又は緩和のために、又は、ウイルス複製の阻害のために用いることができる。上記ウイルスとしては、コロナウイルス、インフルエンザウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、フラビウイルス科、フィロウイルス科、豚流行性下痢ウイルス(PEDV)が挙げられ、コロナウイルスが好ましく、SARS-CoV-2がより好ましい。したがって、本発明の化合物は、抗ウイルス薬の製造に使用することができる。
【実施例
【0048】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明をさらに説明する。これらの実施例は本発明を説明するためのものにすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。以下の実施例において詳細な条件を明示しない場合、その実験方法は通常の条件、例えば、Sambrookら編の分子クローニング:実験マニュアル(New York: Cold SpringHarbor Laboratory Press,1989)に記載の条件、又は、メーカーが推奨する条件に従ったものである。特に断りのない限り、本発明における百分率及び部数は重量によるものである。
【0049】
試薬及び消耗品の説明
本発明の実施例において、製造方法におけるアセトニトリルなどの試薬はいずれも、国薬集団化学試剤有限公司製の分析グレードのものである。特に明記しない限り、使用した試薬は特別な処理を施していないものである。(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物Z)及び(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物W)は、特許CN202010313870Xの実施例を参照して調製し、純度98%超、重水素化率98%超のものである。高速液体クロマトグラフィー実験におけるトリエチルアミン、リン酸は、国薬集団化学試剤有限公司製のクロマトグラフィー用試薬である。核磁気共鳴スペクトルは、核磁気共鳴装置Brucker 500Hz及びBrucker 600Hzで測定したものである。
【0050】
共通の測定方法
1.粉末X線回折(XRPD)の測定方法
装置:X線多結晶回折計Bruker D8 advance
ターゲット:Cu-Kα(40kV、40mA)
サンプルから検出器までの距離:30cm
スキャンタイプ:2軸リンケージ
スキャンステップ幅:0.02°
スキャン範囲:3°~40°
スキャンステップ:0.1s
一般にXRPDにおける回折角度(2θ値)は±0.2°の範囲で誤差が生じ得るため、本発明の回折角度に関する値は約±0.2°の範囲内の値を含むものと理解すべきである。そのため、本発明は、特定のXRPDパターンにおける特徴的なピークと完全に一致する結晶形のみならず、特定のXRPDパターンにおける特徴的なピークから±0.2°程度の誤差を有する結晶形も包含する。
【0051】
2.DSCの測定方法
装置:示差走査熱量計METTLER TOLEDO
温度範囲:50-260℃
走査速度:20℃/min
窒素流量:50mL/min
【0052】
3.吸湿性の測定方法
試験品を適量採取し、人工気候ボックス(温度25℃±1℃、相対湿度80%±2%)に24時間入れた栓付きガラス製はかり瓶に平たくのばす。はかり瓶を開放状態で蓋とともに人工気候箱(温度25℃±1℃、相対湿度80%±2%)に24時間入れた後、取り出し、人工気候箱に入れる前と入れた後の試験品の水分を測定し、水分変化を比較することで吸湿性を調べる。
【0053】
4.安定性の測定方法
試験品を適切な清潔な容器に入れ、高温(80℃)、高湿(25℃、相対湿度92.5%)、光照射(照度4500±500lxで90μw/cm)の条件下に7日間置き、7日目にサンプリングし、安定性確認事項に従って測定する。
【0054】
5.溶解度の測定方法
試験品約10mgを1.5mlの試料管に取り、脱イオン水1mlを加えて、恒温ミキサーに入れ、37℃で30分間振とうし、振とう後、試料管を遠心機に入れ、2分間遠心した後、上澄み500μlを取り、アセトニトリルで適切な濃度に希釈して試験品溶液とする。HPLC分析を行い、水(37℃)での試験品の溶解度を外部標準法により求める。
【0055】
(実施例1)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩の調製
【化8】

(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物Z、以下同じ)(12g、23.90mmol)をアセトニトリル(100mL)に溶解し、氷浴下で40%臭化水素酸(4.37g、21.6mmol)を滴下し、滴下終了後、室温に戻して撹拌し、30分後に反応液を濃縮し、メチルt-ブチルエーテル(150mL)を加え、30分間撹拌すると、固形物が析出し、55℃に昇温してさらに2時間撹拌した。室温まで冷却し、静置した後、ろ過して乾燥させることで、標題化合物(10.8g、収率78%、HPLC純度99.2%)を白色の固体として得た。
H-NMR(600MHz,CDCl):δ13.05(s,1H),9.73(s,1H),9.46(s,1H),8.00(s,1H),7.04(s,1H),6.02(d,J=5.8Hz,1H),5.41(dd,J=5.8,4.0Hz,1H),4.65(q,J=4.0Hz,1H),4.40-4.33(m,2H),2.71-2.60(m,2H),2.58-2.52(m,1H),1.26-1.22(m,6H),1.21-1.18(m,6H),1.17-1.13(m,6H).
13C-NMR(150MHz,DMSO-d):δ176.01,175.35,174.59,150.65,139.98,125.81,115.79,115.43,112.21,82.22,75.64,73.33,70.72,62.99,33.67,33.62,33.56,19.11,19.02,18.92,18.87,18.85,18.70。
MS:m/z503.1[M+1]
【0056】
示差走査熱量測定(DSC)の結果は、図1に示すように、得られた固体が201.21℃で吸熱ピークを示し始め、204.26℃でピークに達したことを示している。
粉末X線回折(XRPD)結果は、表1及び図2に示すように、得られた固体が結晶形Aに対応する結晶形態であることを示している。
【0057】
【表1】
【0058】
結晶形Aを有する化合物Zの臭化水素酸塩(I-1’)の固体粉末(2.5g)をエタノール(10mL)に加え、室温で撹拌し、全ての固形物が溶解した後、濃縮により溶媒を除去し、オイルポンプで乾燥させることで、粉末状の固体(2.5g)を得た。粉末X線回折(XRPD)の結果は、図6に示すように、得られた固体がアモルファス物質であることを示している。
【0059】
(実施例2)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)塩酸塩の調製
【化9】

化合物Z(210mg、0.42mmol)をアセトニトリル(8mL)に溶解し、氷浴下で36%濃塩酸(50mg、0.49mmol)を滴下し、滴下終了後、室温に戻して撹拌し、20分後に反応液を濃縮し、酢酸イソプロピルとn-ヘプタンの混合溶液(V/V=1:1、12mL)を加えると、綿状の固形物が析出した。60℃に昇温して、30分間撹拌し、徐々に0℃に冷やしてさらに30分間撹拌すると、系がゲル状となり、ろ過が困難であったが、ろ過物を乾燥させることで、標題化合物(120mg、収率53%、HPLC純度98.9%)を白色の固体として得た。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ13.60(s,1H),10.48(s,1H),9.69(s,1H),8.05(s,1H),7.03(s,1H),6.05(d,J=5.8Hz,1H),5.48-5.40(m,1H),4.66(q,J=3.9Hz,1H),4.47-4.31(m,2H),2.75-2.50(m,3H),1.29-1.24(m,6H),1.24-1.12(m,12H)。
MS:m/z503.1[M+1]
【0060】
(実施例3)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)硝酸塩の調製
【化10】

化合物Z(53mg、0.1mmol)をアセトニトリル(0.5mL)に溶解し、冰浴下で65%硝酸(10mg、0.1mmol)を加え、30分間撹拌し後、反応液を濃縮し、酢酸イソプロピル(4mL)を加えると、白色の固形物が析出した。1時間撹拌して、ろ過し、ろ過物を乾燥させることで、標題化合物(45mg、収率80%、HPLC純度99.0%)を白色の固体として得た。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ9.79(s,1H),9.58(s,1H),7.99(s,1H),7.06(s,1H),6.07(d,J=5.8Hz,1H),5.49-5.41(m,1H),4.68(q,J=3.9Hz,1H),4.46-4.34(m,2H),2.75-2.63(m,2H),2.62-2.53(m,1H),1.30-1.26(m,6H),1.24-1.21(m,6H),1.19(t,J=7.2Hz,6H)。
MS:m/z503.1[M+1]
【0061】
(実施例4)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)メタンスルホン酸塩の調製
【化11】

化合物Z(8.07g,16.07mmol)を酢酸イソプロピル(80mL)に溶かし、氷浴下でメタンスルホン酸(1.54g、16.07mmol)を滴下し、滴下終了後、室温で30分間撹拌し、n-ヘプタン(80mL)を加えると、綿状の固形物が多量に析出した。60℃に昇温して、30分間撹拌し、再び0℃に冷やしてさらに30分間撹拌すると、固形物が多量に析出した。ろ過し、ろ過物を乾燥させることで、標題化合物(8.0g、収率83%、HPLC純度99.1%)を白色の固体として得た。
H-NMR(600MHz,CDCl):δ13.60(s,1H),9.98(s,1H),9.91(s,1H),7.76(s,1H),6.97(s,1H),6.01(d,J=5.8Hz,1H),5.45-5.38(m,1H),4.64(q,J=3.9Hz,1H),4.40-4.30(m,2H),2.94(s,3H),2.71-2.64(m,1H),2.64-2.58(m,1H),2.57-2.50(m,1H),1.27-1.22(m,6H),1.21-1.11(m,12H)。
MS:m/z503.1[M+1]
【0062】
(実施例5)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)マレイン酸塩の調製
【化12】

化合物Z(2.85g、5.67mmol)を無水エタノール(20mL)に溶解し、マレイン酸(0.66g、5.67mmol)を加え、加熱して還流させ、30分後に反応液を室温まで冷却し、n-ヘプタン(40mL)を加えると、綿状の固形物が多量に析出した。45℃に昇温して、1.5時間撹拌し、再び0℃に冷やしてさらに30分間撹拌し、ろ過してろ過物を乾燥させることで、標題化合物(2.5g、収率71%、HPLC純度98.9%)を白色の固体として得た。
H-NMR(600MHz,DMSO-d):δ8.11(s,1H),8.01(s,1H),7.94(s,1H),6.76(s,1H),6.26(s,2H),6.07(d,J=5.7Hz,1H),5.44(dd,J=5.7,3.7Hz,1H),4.63(q,J=3.7Hz,1H),4.33(dd,J=12.4,3.3Hz,1H),4.28(dd,J=12.4,4.1Hz,1H),2.67-2.56(m,2H),2.49-2.45(m,1H),1.17(d,J=7.0Hz,3H),1.15(d,J=7.0Hz,3H),1.12-1.09(m,6H),1.05(d,J=7.0Hz,3H),1.02(d,J=7.0Hz,3H)。
MS:m/z503.1[M+1]
【0063】
(実施例6)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)ヘミ硫酸塩の調製
【化13】

実施例1-5の方法を参照して、化合物Zを0.5倍当量の硫酸と反応させて塩を形成したが、系内に固形物は析出しなかった。
【0064】
(実施例7)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)硫酸塩の調製
【化14】

実施例1-5の方法を参照して、化合物Zを1.0倍当量の硫酸と反応させて塩を形成したが、系内に固形物は析出しなかった。
【0065】
(実施例8)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)リン酸塩の調製
【化15】

実施例1-5の方法を参照して、化合物Zを1.0倍当量のリン酸と反応させて塩を形成したが、系内に固形物は析出しなかった。
【0066】
(実施例9)(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)臭化水素酸塩の調製
【化16】

(2R,3R,4R,5R)-2-(4-アミノピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-2-シアノ-5-(イソブチリルオキシメチル)テトラヒドロフラン-3,4-ジイルビス(2-メチルプロピオネート)(化合物W、以下同じ)(550mg、1.1mmol)をアセトニトリル(100mL)に溶かし、氷浴下で40%臭化水素酸(202mg、1.0mmol)を滴下し、滴下終了後、室温に戻して撹拌し、30分後に反応液を濃縮し、メチルt-ブチルエーテル(8mL)を加え、室温で30分間撹拌すると、固形物が析出し、55℃に昇温してさらに2時間撹拌した。室温まで冷却し、静置した後、ろ過して乾燥させることで、標題化合物(0.5g、収率78%、HPLC純度99.1%)を白色の固体として得た。
H-NMR(500MHz,CDCl):δ12.92(br,1H),9.98(s,1H),9.46(s,1H),8.09(s,1H),7.97(d,J=4.8Hz,1H),7.03(d,J=4.8Hz,1H),6.03(d,J=5.9Hz,1H),5.43(dd,J=5.9,4.1Hz,1H),4.64(q,J=4.1Hz,1H),4.43-4.33(m,2H),2.73-2.52(m,3H),1.27-1.22(m,6H),1.22-1.18(m,6H),1.18-1.14(m,6H)。
13C-NMR(150MHz,DMSO-d):δ176.01,175.36,174.60,151.03,140.54,125.55,115.97,115.47,112.22,107.79,82.19,75.68,73.29,70.72,62.99,33.67,33.62,33.56,19.11,19.02,18.92,18.87,18.85,18.70。
MS:m/z502.1[M+1]
【0067】
示差走査熱量測定(DSC)の結果は、図3に示すように、得られた固体が195.41℃で吸熱ピークを示し始め、200.11℃でピークに達したことを示している。
粉末X線回折(XRPD)の結果は、表2及び図4に示すように、得られた固体が結晶形Iに対応する結晶形態であることを示している。
【0068】
【表2】
【0069】
結晶形Iを有する化合物Wの臭化水素酸塩(I-2’)の固体粉末(0.17g)をエタノール(10mL)に加え、室温で撹拌し、全ての固形物が溶解した後、濃縮により溶媒を除去し、オイルポンプで乾燥させることで、粉末状の固体(0.17g)を得た。粉末X線回折(XRPD)の結果は、図7に示すように、得られた固体がアモルファス物質であることを示している。
【0070】
(実施例10)化合物Zとその酸付加塩との特性の比較
(1)化合物Z及びその塩の性状、調製状況の比較
化合物Z及びその種々の塩(実施例1~8で得られたもの)について、性状及び調製の難しさを比較し、結果を表3に示す。
【0071】
【表3】
【0072】
上記の表から明らかなように、ヘミ硫酸塩、硫酸塩及びリン酸塩以外の化合物Zの酸付加塩は良好な性状を有する。また、化合物Zの臭化水素酸塩及び硝酸塩がより調製しやすい。
【0073】
(2)化合物Zの塩の吸湿性、安定性の比較
化合物Zのいくつかの塩(実施例1~5で得られたもの)の吸湿性及び安定性を比較し、結果を表4に示す。
【0074】
【表4】
【0075】
上記の表から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩、塩酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩及びマレイン酸塩は、25℃、RH80%の条件下で吸湿性無しであった。化合物Zの臭化水素酸塩、塩酸塩及びマレイン酸塩は高温、光照射、高湿の条件下で安定したが、化合物Zの硝酸塩及びメタンスルホン酸塩は比較的低い安定性を示した。
【0076】
(3)化合物Z及びその塩の溶解性の比較
化合物Z及びその塩(実施例1、4、5で得られたもの)の溶解性を比較した。
適切な量のサンプルをガラス試料管に量り取り、選択した溶媒を徐々に加え、透明性を観察した。脱イオン水での各酸塩の溶解度を測定し、結果を表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
上記の表から、化合物Zの塩基性化合物の水溶性が化合物Zの塩の水溶性よりも大幅に低いことは明らかである。水溶性は、薬物の製剤化、経口バイオアベイラビリティなどに大きな影響を与える。そのため、化合物Zを塩にすることは、薬物を製剤化してヒト用医薬に用いる上で有利である。
【0079】
(実施例11)化合物Wとその酸付加塩との特性の比較
化合物W及びその種々の塩を用いた以外は、実施例10と同様の操作を行い、特性の比較を行った。
化合物Z及びその塩の場合と同様に、化合物Wの臭化水素酸塩、塩酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩はいずれも白色の粉末状固体であり、これらの塩が遊離塩基形態よりも固体性状に優れることは明らかである。中でも、化合物Wの臭化水素酸塩、硝酸塩、メタンスルホン酸塩、マレイン酸塩がより調製しやすく、臭化水素酸塩及びマレイン酸塩が最も安定性に優れる。
【0080】
(実施例12)化合物Zの臭化水素酸塩の結晶形Aの優位性
結晶形Aを有する化合物Zの臭化水素酸塩結晶の吸湿性及び安定性を調べ、結果を表6に示す。
【0081】
【表6】
【0082】
上記の表から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩の結晶形Aは、高湿条件で吸湿性無し、高温(80℃)条件で結晶形が安定し、図5のとおりである。
【0083】
(実施例13)化合物Wの臭化水素酸塩の結晶形Iの優位性
結晶形Iを有する化合物Wの臭化水素酸塩結晶の吸湿性及び安定性を調べ、結果を表7に示す。
【0084】
【表7】
【0085】
上記の表から明らかなように、化合物Wの臭化水素酸塩の結晶形Iは高湿の条件下で吸湿性無し、高温(80℃)、高湿、光照射の条件下で安定性が良好であった。
【0086】
(実施例14)化合物Z及び化合物Wの臭化水素酸塩の組成比の確認
滴定法により化合物Z及び化合物Wの臭化水素酸塩の組成比を確認した。
実施例1で得られた化合物Zの臭化水素酸塩及び実施例9で得られた化合物Wの臭化水素酸塩のそれぞれ約0.10gを精秤し、メタノール-水の等体積混合液(20ml)を加えて溶解させ、電位差滴定法により終点を決定し、硝酸銀滴定液(0.1mol/L)で滴定し、結果を表8に示す。
【0087】
【表8】
【0088】
上記の表から明らかなように、化合物Zと臭化水素はモル比1:1で塩を形成し、化合物Wと臭化水素はモル比1:1で塩を形成する。
【0089】
(実施例15)SDラットにおける化合物Zの臭化水素酸塩の薬物動態評価
(グループ分け)SDラット30匹を無作為に5つのグループに分け、1グループ当たり6匹で、雄雌半々にした。投与前に12時間以上絶食させ、投与から4時間後に同時に給餌した。
【0090】
(投与)第1のグループに化合物Zの臭化水素酸塩を10mg/kgで単回静脈内投与し、溶媒としてDMSO/EtOH/PEG300/0.9%NaCl(5/5/40/50、v/v/v/v)を用いた。第2から第4のグループに化合物Zの臭化水素酸塩をそれぞれ10mg/kg、30mg/kg、90mg/kgで単回胃内投与し、溶媒としてPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)を用いた。第5のグループに化合物Zの臭化水素酸塩を1日1回30mg/kg、7日間連続で胃内投与した。
【0091】
(採血)各グループは、投与前(0時間)及び投与の5分後、0.25、0.5、1、2、4、6、8、10、24及び48時間後に後眼静脈叢又は頸静脈(又は他の採血方法)から0.2ml採血し、EDTA-K2抗凝固チューブに入れ、30分以内に2000gで10分間(4℃)遠心して血漿を分離し、測定時まで-70℃で保存した。採血から遠心までは砕氷の条件下で操作した。
【0092】
(処理)LC-MS/MSにより、ラット血漿中のヌクレオシド代謝物である(2R,3R,4S,5R)-2-(4-アミノ-5-重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-3,4-ジヒドロキシル-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-カルボニトリルの濃度を分析し、薬物動態パラメータを算出した。
【0093】
【表9】
【0094】
【表10】
【0095】
表9から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩(10mg/kg)は静脈内注射によりSDラットに投与した後、ヌクレオシド代謝物の血漿中消失が早く、半減期(t1/2)の平均は1.44±0.53時間であった。
【0096】
表10から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩はSDラットに胃内投与されると、速やかに吸収され、ヌクレオシド代謝物が急速に生成され、約1時間で最大血漿中濃度(Cmax)に到達した。10、30、90mg/kgの単回胃内投与後、化合物Zの臭化水素酸塩のバイオアベイラビリティ(F%)は、ヌクレオシド代謝物で算出した結果、それぞれ86.4%、79.2%、79.6%であった。複数回(30mg/kg、1日1回、7日間連続)胃内投与後、7日目のヌクレオシド代謝物の血漿中Cmax及びAUC0-tは単回投与後の0.84倍及び0.71倍であったことから、ヌクレオシド代謝物がラット体内に蓄積されないと考えられる。
【0097】
(実施例16)ビーグル犬における化合物Zの臭化水素酸塩の薬物動態評価
(グループ分け)18匹のビーグル犬を無作為に3つのグループ(A、B、C)に分け、1グループ当たり6匹で、雄雌半々にした。投与前に12時間以上絶食させ、投与から4時間後に同時に給餌した。
【0098】
(投与)2期に分けて投与を行い、休薬期間は1週間とした。第1期では、グループA、Bに化合物Zの臭化水素酸塩をそれぞれ10mg/kgと20mg/kgで単回胃内投与し、グループCに化合物Zの臭化水素酸塩を1日1回20mg/kg、7日間連続で胃内投与した。媒体としてPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)を用いた。第2期では、グループA、Bにそれぞれ単回静脈内投与と胃内投与により10mg/kgと40mg/kgの化合物Zの臭化水素酸塩を投与した。静脈投与の溶媒としてはDMSO/EtOH/PEG300/0.9%NaCl(5/5/40/50、v/v/v/v)を用い、胃内投与の溶媒としては第1期の媒体と同じものを用いた。
【0099】
(採血)各グループは、投与前(0時間)及び投与の5分後(静脈注射グループのみ)、0.25、0.5、1、2、4、6、8、10、24及び48時間後に前肢静脈や他の部位から、安定剤入り抗凝固採血管に1.0mL採血し、処理後、血漿を分離し、-70℃の冷蔵庫に保存した。
【0100】
(処理)LC-MS/MSにより、ビーグル犬の血漿中ヌクレオシド代謝物(2R,3R,4S,5R)-2-(4-アミノ-5重水素化ピロロ[2,1-f][1,2,4]トリアジン-7-イル)-3,4-ジヒドロキシル-5-(ヒドロキシメチル)テトラヒドロフラン-2-カルボニトリルの濃度を分析し、薬物動態パラメータを算出した。
【0101】
【表11】
【0102】
【表12】
【0103】
表11から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩(10mg/kg)は、静脈内注射によりビーグル犬に投与した後、ヌクレオシド代謝物のt1/2の平均が3.94±0.85時間であった。
【0104】
表12から明らかなように、化合物Zの臭化水素酸塩は、ビーグル犬に胃内投与されると、速やかに吸収され、ヌクレオシド代謝物が急速に生成され、約1時間でCmaxに到達した。用量20mg/kgでのt1/2は4.21時間であった。10、20、40mg/kgの単回胃内投与後、化合物Zの臭化水素酸塩のF%は、ヌクレオシド代謝物で算出した結果、それぞれ87.4%、101.7%、99.9%であった。複数回(20mg/kg、1日1回、7日間連続)胃内投与後、7日目のヌクレオシド代謝物の血漿中Cmax及びAUC0-tは単回投与後の0.95倍及び0.85倍であったことから、ヌクレオシド代謝物がビーグル犬体内に蓄積されないと考えられる。
【0105】
(実施例17)SDラット及びビーグル犬における化合物Zの臭化水素酸塩の安全性評価
NMPAの「薬物非臨床研究の品質管理規格」(2017)に準じて、SDラット及びビーグル犬における化合物Zの臭化水素酸塩の安全性を評価し、急性毒性試験及び14日間長期毒性試験をそれぞれ実施した。
【0106】
1.SDラットへの単回胃内投与による毒性試験
(方法)SDラット40匹を無作為に4つのグループに分け、1グループ当たり10匹で、雄雌半々にした。それぞれに対して、溶媒のPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)と、この溶媒に溶解した化合物Zの臭化水素酸塩(遊離塩基で200、600、2000mg/kg)をそれぞれ単回胃内投与した。投与後、14日間連続観察し、15日目に計画解剖を行った。試験期間中、臨床所見、体重、摂餌量及び解剖学的な肉眼所見を評価した。
【0107】
(結果)試験期間中、各グループに早死又は安楽死はなかった。試験中に各投与用量群に異常な臨床症状は見られなかった。対照群と比較して、各投与群は平均体重及び摂餌量について試験品による変化が認められず、解剖の肉眼所見で異常が認められなかった。
したがって、本試験条件において、SDラットに化合物Zの臭化水素酸塩を200、600又は2000mg/kgで単回胃内投与した結果、すべての動物は良好な耐容性を示し、最大耐量(MTD)は2000mg/kg以上であると考えられる。
【0108】
2.ビーグル犬への単回胃内投与による毒性試験
(方法)ビーグル犬8匹を無作為に4つのグループに分け、1グループ当たり2匹で、雄雌各1匹にした。溶媒のPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)と、この溶媒に溶解した化合物Zの臭化水素酸塩(遊離塩基で50、250、1000mg/kg)をそれぞれ単回胃内投与した。投与後、14日間連続観察し、15日目に計画解剖を行った。臨床所見、体重、摂餌量、臨床病理(血液、血凝、血漿生化)、肉眼所見などを評価した。
【0109】
(結果)試験期間中、各グループに計画外の死亡は見られなかった。1000mg/kgのグループでは、雌のみ初日に疑わしい薬物を含む嘔吐物が見られ、雄は2日目に軟便と、餌を含む嘔吐物が見られた。1000mg/kgのグループでは、雄のみ2日目に有意な体重減少が見られた。対照群と比較して、各投与群は摂餌量、臨床病理及び解剖の肉眼所見について試験品による有意な変化が認められなかった。
したがって、本試験条件において、ビーグル犬に50、250、1000mg/kgの化合物Zの臭化水素酸塩を単回胃内投与した結果、すべての動物は耐容可能であり、最大耐量(MTD)は1000mg/kg以上であると考えられる。
【0110】
3.SDラットへの14日間の連続胃内投与と14日間の休薬による毒性試験
(方法)SDラット120匹を無作為に4つのグループに分け、1グループ当たり30匹で、雄雌半々にした。溶媒のPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)と、この溶媒に溶解した化合物Zの臭化水素酸塩(100、300、600mg/kg)をそれぞれ、1日1回、14日間連続で胃内投与した。各グループの3分の2(1グループ当たり20匹、雄雌半々)は投与期間終了後(15日目)に解剖し、各群の残り(1グループ当たり10匹、雄雌半々)は14日間の回復期間後(29日目)に解剖した。臨床所見、体重、摂餌量、眼科検査、血液学、血液凝固、血漿生化学及び血漿電解質、尿検査、解剖学的肉眼所見、臓器重量及び病理組織学的検査、並びに付随するラット骨髄小核検査の観察、測定及び評価を行った。
【0111】
(結果)試験期間中、600mg/Kgのグループでは2匹死亡した。死因と薬物との関連性は不明であった。300mg/kg及び600mg/Kgのグループは、血液学、血漿生化学、尿検査、病理検査などで薬物による有害影響が見られたが、回復期間終了後、各検査指標が正常に戻ったか、回復する傾向が見られた。
したがって、本試験条件において、SDラットに化合物Zの臭化水素酸塩を1日1回100、300、600mg/kg、14日間連続で胃内投与し、14日間休薬して回復させた結果、雄雌とも有害影響が見られなかった用量(NOAEL)は100mg/kgであった。
【0112】
4.ビーグル犬への14日間の胃内投与と14日間の休薬による毒性試験
(方法)ビーグル犬40匹を無作為に4つのグループに分け、1グループ当たり10匹で、雄雌半々にした。溶媒のPEG400/Kolliphor(登録商標)HS15/超純水(40/10/50、v/v/v)と、この溶媒に溶解した化合物Zの臭化水素酸塩(30、100、250mg/kg)をそれぞれ、1日1回、14日間連続で胃内投与した。各グループの5分の3(1グループ当たり6匹、雄雌半々)は投与期間終了後(15日目)に解剖し、各群の残り(1グループ当たり4匹、雄雌半々)は14日間の回復期間後(29日目)に解剖した。臨床所見、眼科検査、体重、摂餌量、体温、心電図(HR、PR間隔、QRS間隔、T波振幅、QT間隔、QTcV間隔)、臨床病理(血液学、血液凝固、血漿生化学、尿)、病理学的検査(肉眼所見、臓器重量、病理組織学的検査)の観察、測定及び評価を行った。
【0113】
(結果)試験期間中、すべての動物に計画外の死亡は見られなかった。250mg/kg及び100mg/Kgのグループは、眼科検査、臨床病理、病理学的検査等で薬物による有害影響が見られたが、回復期間終了後、各検査指標が正常に戻ったか、回復する傾向が見られた。
したがって、本試験条件において、ビーグル犬に化合物Zの臭化水素酸塩を1日1回30、100、250mg/kg、14日間連続で胃内投与し、14日間休薬して回復させた結果、雄雌とも有害影響が見られなかった用量(NOAEL)は30mg/kgであった。
【0114】
本発明で言及した文献はすべて、各文献が個別に参照により組み込まれることを示すのと同様に、参照により本願に組み込まれる、本発明の上記の内容を読んだ後、当業者は本発明に対して様々な調整又は変更を行うことができ、これらの均等な形態も添付の特許請求の範囲によって規定される範囲に含まれることが理解されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【国際調査報告】