(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】微生物学的汚染を不活性化する方法
(51)【国際特許分類】
A61L 2/18 20060101AFI20231212BHJP
A41D 13/11 20060101ALI20231212BHJP
A62B 18/02 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A61L2/18
A61L2/18 100
A61L2/18 102
A41D13/11 Z
A62B18/02 A
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528958
(86)(22)【出願日】2021-11-17
(85)【翻訳文提出日】2023-06-01
(86)【国際出願番号】 EP2021081945
(87)【国際公開番号】W WO2022106448
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523177908
【氏名又は名称】オスモテックス エージー
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ヘルダル,トロンド
【テーマコード(参考)】
2E185
3B211
4C058
【Fターム(参考)】
2E185AA07
2E185CC32
3B211CC00
3B211CE01
4C058AA03
4C058AA05
4C058BB07
4C058CC05
4C058JJ07
(57)【要約】
本発明は、汚染を不活性化する量のオゾン、塩素又は活性酸素種を生成することができる織物又は膜を使用して、微生物学的汚染を不活性化する方法に関する。
織物又は膜は、少なくとも2つの導電性要素又はネットワークを含む。織物又は膜は、好ましくは、保護フェイスマスク、例えば、医療用又は外科用フェイスマスクの一部を形成する。
微生物学的汚染を不活性化する量の不活性化種を生成するのに有効な電圧が、該導電性要素又はネットワーク間に印加される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ある場所における微生物学的汚染を不活性化する方法であって、前記場所が、少なくとも2つの導電性要素を含む織物又は膜を含み、前記導電性要素が、介在する液体媒体を介して電流が前記要素間を通過することを可能にするように構成されており、前記織物又は膜が、前記織物又は膜の表面上又は内部に、前記導電性要素と電気的に接触して、前記介在する媒体を提供する水性液体を更に含み、
前記方法が、前記少なくとも2つの導電性要素の間に、微生物学的汚染を不活性化する量の、オゾン、塩素及び活性酸素種から選択される不活性化種を生成するのに有効な電圧を印加することを含む、方法。
【請求項2】
ある場所における微生物学的汚染を不活性化する方法であって、前記方法が、前記場所を、少なくとも2つの導電性要素を含む織物又は膜と接触させることを含み、前記導電性要素が、介在する液体媒体を介して電流が前記要素間を通過することを可能にするように構成されており、前記織物又は膜が、前記織物又は膜の表面上又は内部に、前記導電性要素と電気的に接触して、前記介在する媒体を提供する水性液体を更に含み、
前記場所と接触された前記織物又は膜の前記表面が、微生物学的汚染を不活性化する量の、オゾン、塩素、及び活性酸素種から選択される不活性化種を含む、方法。
【請求項3】
前記織物又は膜における少なくとも2つの導電性要素が、それらのそれぞれの長さの少なくとも10%に沿って互いに1mm未満離隔している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記織物が、織られた又は編まれた構造であり、前記導電性要素のうちの少なくとも1つが、導電性糸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記導電性要素のうちの少なくとも1つが、織物に刺繍された又は縫い込まれた導電性糸を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記導電性要素のうちの少なくとも1つが、導電性インク印刷又はリソグラフィによって形成される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記織物又は膜が、イオン伝導性ポリマーで含浸又はコーティングされる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物学的汚染が、細菌汚染である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記微生物学的汚染が、ウイルス汚染である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ウイルス汚染が、SARS CoV-2である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記場所が、保護フェイスマスクである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
印加された前記電圧が、0.3~10.0Vである、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
印加された前記電圧が、0.5~2.0Vである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
交流電圧が、前記導電性要素間に印加される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記交流電圧が、10秒~10分の周期及び0.3~10.0Vの最大振幅を有する波形を有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記活性酸素種が、オゾン及び過酸化水素から選択される、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記場所が、物体を滅菌するためのバッグ、保護フェイスマスク、保護服、又はインテリア若しくは内装用の織物若しくは膜である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項18】
織物又は膜を含む保護フェイスマスクであって、前記織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成され少なくとも2つの導電性要素を含む、保護フェイスマスク。
【請求項19】
前記導電性要素が、使用中に、電圧が前記導電性要素間に印加され得るように、電気信号発生器に接続される、請求項18に記載のフェイスマスク。
【請求項20】
織物又は膜を含むバッグであって、前記織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成された少なくとも2つの導電性要素を含む、バッグ。
【請求項21】
前記導電性要素が、使用中に、電圧が前記導電性要素間に印加され得るように、電気信号発生器に接続される、請求項20に記載のバッグ。
【請求項22】
インテリア又は内装用の織物又は膜であって、前記織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成された少なくとも2つの導電性要素を含む、インテリア又は内装用の織物又は膜。
【請求項23】
前記導電性要素が、使用中に、電圧が前記導電性要素間に印加され得るように、電気信号発生器に接続される、請求項22に記載のインテリア又は内装用の織物又は膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染を不活性化する量のオゾン、塩素又は活性酸素種を生成することができる織物又は膜を使用して、微生物学的汚染を不活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
COVID-19の感染因子であるSARS CoV-2を含む、細菌及びウイルスについての伝染の主要な経路のうちの1つは、公共エリア、オフィス又は病院において表面を介するものであり、その表面上でウイルスは数週間生存し得る。更に、細菌、ウイルス、及び他の汚染物質は、衣服、手袋及びフェイスマスクに付着し得、これは、病院感染を制御する上で重要である可能性がある。
【0003】
他の多くの物理的な表面は、オフィス若しくは公共交通機関における座席及びインテリアパネル、又はオフィスにおける軽い壁及び区切りを含む、織物材料によって覆われるか、又は覆われ得る。
【0004】
本発明は、ほとんどのタイプの表面上で使用され得る可能性が高く、衣服、手袋、及びフェイスマスクに組み込むことができる電子消毒織物又は膜材料に関する。
【0005】
オゾン及び過酸化水素は、滅菌のために、例えば、浄水で、広く利用されている。より高い濃度では毒性があるが、これらの薬剤の両方は、例えばヒトの皮膚への、それらの抗ウイルス及び抗菌効果、並びに他の有益な効果を含む医薬で使用される。オゾン及び過酸化水素の利点は、それらが短時間で酸素及び水に分解することである。両方の消毒剤は、幅広い産業用途で使用されており、その効果についてのかなりの量の公表された研究が存在する。例えば、高い空気の湿度(>90%)で20~25ppmの濃度のオゾンを使用して、12種の異なるウイルスの存在下での強力な低減(濃度で3桁の低減)が実証されており、Hudson JB,Sharma M,Vimalanathan S,Development of a Practical Method for Using Ozone Gas as a Virus Decontaminating Agent in Ozone:Science & Engineering,vol.31,p.216-223(2009)を参照されたい。
【0006】
0.5~2ppmのオゾン濃度は、「異なる目的(例えば、製薬及び電子産業、水ボトルプロセスなど)のための水の精製又は超精製」に十分であると報告されている(Da Silva LM, Franco DV,Goncalves IC,Sousa LG(2009)Gertsen N,Sonderby L(eds)Water purification.Nova Science Publishers Inc.,New York、及びTchobanoglous G,Burton FL,Stensel HD(2003)Wastewater engineering:treatment and reuse,4th edn.Metcalf & Eddy Inc.,New Yorkを参照されたい)。また、電気化学オゾン発生器については、De Sousa et al.,J.Environmental Chem.Eng.4(2016),pages418-427も参照されたい。
【0007】
塩素はまた、例えば、次亜塩素酸塩ベースの漂白剤の形態にある、滅菌剤としてもよく知られている。そのような漂白剤の「活性塩素」含有量が、濃度の単位として使用され、1グラムの100%活性塩素漂白剤は、1グラムの遊離塩素としての定量的漂白能力を有する。
【0008】
開放創傷に対する細菌感染を予防するための包帯は、WO2017/011635に開示されている。その包帯は、それの抗バイオフィルム効果を達成するために電気化学的に生成されたH2O2を使用し、絶縁層によって分離された導電層を含み、次いで、電圧が導電層間に印加されて、創傷に隣接する層における水からH2O2を生成する。次亜塩素酸がH2O2の代替として生成される修正された創傷包帯がまた、論じられている。
【0009】
着用者の少なくとも口領域を覆い、次亜塩素酸ナトリウム溶液を伝導することができるガーゼフィルターセクションを通る保護マスクは、DE102009021394A1に開示されている。そのマスクに使用される次亜塩素酸ナトリウム溶液は、付随する安全メガネに取り付けられた外部電解セル内で生成される。
【発明の概要】
【0010】
本発明の一実施形態は、ある場所における微生物学的汚染を不活性化する方法であって、該場所が、少なくとも2つの導電性要素を含む織物又は膜を含み、導電性要素が、介在する液体媒体を介して電流が該要素間を通過することを可能にするように構成されており、織物又は膜が、該織物又は膜の表面上又は内部に、該導電性要素と電気的に接触して、該介在する媒体を提供する水性液体を更に含み、
方法が、少なくとも2つの導電性要素の間に、微生物学的汚染を不活性化する量の、オゾン、塩素及び活性酸素種から選択される不活性化種を生成するのに有効な電圧を印加することを含む、方法を提供する。
【0011】
本発明の更なる実施形態は、ある場所における微生物学的汚染を不活性化する方法であって、方法が、該場所を、少なくとも2つの導電性要素を含む織物又は膜と接触させることを含み、前記導電性要素が、介在する液体媒体を介して電流が該要素間を通過することを可能にするように構成されており、織物又は膜が、該織物又は膜の表面上又は内部に、該要素と電気的に接触して、該介在する媒体を提供する水性液体を更に含み、
該場所と接触された該織物又は膜の表面が、微生物学的汚染を不活性化する量の、オゾン、塩素、及び活性酸素種から選択される不活性化種を含む、方法を提供する。
【0012】
本発明のなお更なる実施形態は、織物又は膜を含む保護フェイスマスクであって、該織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成される少なくとも2つの導電性要素を含む、保護フェイスマスクを提供する。
【0013】
本出願の別の実施形態は、織物又は膜を含むバッグであって、該織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成される少なくとも2つの導電性要素を含む、バッグを提供する。
【0014】
本出願の更なる実施形態は、インテリア又は内装用の張織物又は膜であって、該織物又は膜が、導電性糸又は導電性インクから形成される少なくとも2つの導電性要素を含む、内側若しくは内張り織物又は膜を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、少なくとも2つの導電性要素を含む可撓性織物(すなわち、織られた材料)又は膜(すなわち、連続的な材料)を利用する。織物又は膜が湿潤され、かつ適切な電圧が導電性要素間に印加される場合に、微生物学的汚染を不活性化する量の、オゾン、塩素、及び活性酸素種から選択される不活性化種が生成される。
【0016】
好適な電圧の印加のために、導電性要素は、固定された様式で又は一時的にのいずれかで、電気信号発生器に接続される。
【0017】
活性酸素種又は塩素の電気化学的生成は、織物又は膜中の水又は別の水性液体の存在を必要とする。水若しくは他の液体は、必要に応じて、例えば、外部供給源からの噴霧によって、織物若しくは膜に適用され得る、又は、より吸湿性の材料が織物層に組み込まれているか若しくは織物層上に含浸されている場合に、周囲の空気から直接吸収され得る。織物又は膜が置かれる用途に応じて、水又は他の液体の適用の頻度はより高い又はより低い必要があり得るため、特定の用途では、処理される領域は、微生物学的汚染の連続的な不活性化を提供するように定期的な噴霧を必要とし得る。例えば、1時間に1回、1時間に2回、又は1時間に3回、噴霧することが適切であり得る。
【0018】
他の用途では、織物又は膜に水を噴霧すること、及び、潜在的に汚染された領域の定期的な清浄化に関連して、1日に1回、2回又は3回などのより少ない頻度の間隔で、不活性化種を生成する好適な電圧を印加することのみが必要であり得る。
【0019】
なお更なる実施形態、例えば、ユーザが着用する保護フェイスマスクでは、ユーザの呼吸によって生成されるしめり気が、必要な水を生成するのに十分であり得る。このような状況下で、微生物学的汚染の連続不活性化は、中間層の両端の連続的な電圧又は好適にパルス化された電圧の印加によって達成され得る。
【0020】
本発明で利用される織物又は膜における導電性要素は、典型的には、導電性炭素、又は鋼若しくは銀若しくは他の金属糸から選択される。
【0021】
導電性元素から放出される金属イオンの存在は、例えば、以下のステップ(1)~(3)に示されるフェントン反応を介して、活性酸素種の生成を増強し得る。
【数1】
【0022】
したがって、Cu又はAgなどの金属を含む導電性要素は、材料の滅菌効果を高める、本発明による織物又は膜において好ましい。
【0023】
本発明の電気導体は、銀若しくは銅及び関連合金、又はステンレス鋼などの、金属又は合金であってもよい。それらは、ホウ素がドープされたダイヤモンド又はエボネックス(非化学量論的酸化チタン)を含有し得るか、又はそれでコーティングされ得る。
【0024】
導電性要素は、直線状であっても、ネットワークの形態にあってもよい。直線状要素は、織物若しくは膜の1つの次元、例えば、織物若しくは膜の幅若しくは長さを横断してもよく、又は織物若しくは膜に組み込まれた導電性要素の長さを増加させるようにパターン中に形成されてもよい。例えば、少なくとも2つの導電性要素が、それらの間に電流が流れることを可能にする構成を維持する、すなわち、互いに少なくとも部分的に平行に構成されることを条件として、起伏又は他の波形が作成されてもよい。
【0025】
代替的に、導電性要素は、その製造中に織物又は膜に組み込まれたネットワークであってもよい。
【0026】
好ましくは、織物又は膜における導電性要素のうちの少なくとも2つが、それらのそれぞれの長さの少なくとも10%に沿って、又はより好ましくはそれらのそれぞれの長さの少なくとも50%に沿って、1mm未満の間隔で互いに離隔している。
【0027】
導電性要素は、それが形成されるときに織られた又は編まれた構造に組み込まれ得、この場合、それらは、導電性糸を含み得る。そのような糸は、それ自体が知られており、典型的には、金属繊維、例えば、ステンレス鋼又は銀糸で構成されている。
【0028】
代替的に、導電性糸が縫い込まれ得るか、又は既に形成された織物に刺繍され得る。
【0029】
更なる可能性は、印刷プロセスによって織物又は膜に導電性インクを塗布して、直線状又はネットワーク化された導電性要素を形成することである。本発明による導電性インクは、グラファイト、又は銀などの他の導電材料を印刷可能なインクベースに含有する。
【0030】
導電性要素を支持する織物又は膜は、電気的に絶縁されており、保護フェイスマスク、医療用及び外科用衣服、他の保護衣服、クリーニングパッド、カーペット、家具カバー、及び以下に詳細に記載される建築特徴で従来使用されている任意の布地又は連続シート材料であってもよい。
【0031】
具体的な例としては、フェイスマスクなどの通気性のあるアイテムで使用するための綿及びリネン布地、並びに不織布、電気紡績膜、又は溶融加工可能なウェブグルーなどの他の合成材料が挙げられる。
【0032】
織物はまた、例えば、湿潤されたときに導電性要素間で必要な導電性を提供し得るイオン伝導性材料でコーティング又は含浸され得る。
【0033】
好適なイオン伝導性材料としては、例えば、The Chemours Companyから「Nafion」という名称で市販されているスルホン化フルオロポリマー、すなわち、テトラフルオロエチレン-ペルフルオロ-3,6-ジオキサ-4-メチル-7-オクテンスルホン酸コポリマーが挙げられる。
【0034】
代替のイオン伝導性材料は、t-ブチルスチレン、水素化イソプレン、スルホン化スチレン、水素化イソプレン、及びt-ブチルスチレン(tBS-HI-SS-HI-tBS)構造を有するスルホン化「ペンタブロック」コポリマーであり、これらは、「Nexar」という名称でKraton Performance Polymersから市販されている。
【0035】
本発明の特に有用な一実施形態は、織物又は膜が、フェイスマスク、例えば、着用者の少なくとも鼻及び口領域を保護する、医療用又は外科用マスクのための滅菌可能なカバーを形成する、構成である。したがって、フェイスマスクは、再利用可能にされる可能性があるか、又は代替的に、微生物学的汚染が原位置でカバーにより不活性化され得るか若しくは別個の処置のためにカバーを取り外され得るために、フェイスマスクの寿命を延ばすことができる。その着用者の保護はまた、マスクにおける汚染蓄積、及び皮膚接触又は呼吸によって放出される可能性が不活性化されるために、カバーなしでマスクを着用することと比較して、優れている。
【0036】
他の医療用又は外科用衣服及び個人用保護具も同様に、微生物学的汚染を不活性化するために、本発明による織物若しくは膜の組み込み、又は本発明による織物若しくは膜との接触から利益を得ることができる。
【0037】
本発明はまた、複数のユーザが物体又は表面と接触する場合に感染を防止するために、定期的若しくは時折の滅菌又は洗浄を必要とする他の領域における適用も見出すであろう。可能性の高い用途には、上記の医療的又は外科的環境外で使用するための衣服及び保護服が含まれる。加えて、交通機関、オフィス、及び公共の場所での利用が想定され、例えば、座席は、本発明による織物若しくは膜を含有するか、又はそれで清浄化される1つ以上のアームレストを含み得る。
【0038】
したがって、本発明の更なる特徴は、インテリア又は内装用の織物又は膜であり、該織物又は膜は、導電性糸又は導電性インクから形成された少なくとも2つの導電性要素を含み、すなわち、部屋のインテリアで、特に、家具の内装用の構成要素として使用するための織物又は膜である。
【0039】
壁及び軽い壁/区切りなどの建築特徴、又はテーブル、机、ドアハンドル、及びオフィス機器のハンドル若しくは表面などの頻繁に使用されるアイテムに対する微生物学的汚染の処理もまた、本発明に含まれる。
【0040】
本発明による材料からなるポータブルパッド又はカーペットは、例えば、飛行機若しくは公共交通機関、レンタカー若しくは配車サービス車両、又はオフィスで、ユーザによって運ばれ得、パワーバンク又はUSB充電器によって電力供給され得る。
【0041】
様々な異なるサイズの滅菌バッグは、本発明による材料から形成され得、携帯電話又は標準的なフェイスマスクなどの小物、並びに食料品などのよりかさばる物品を滅菌するために使用され得る。
【0042】
したがって、任意選択的なクロージャーを有するバッグは、本発明による導電性要素を有する織物又は膜から部分的又は完全に形成され得、上記のように電気信号発生器に接続されたときに、バッグによって囲まれた空間内でオゾン、塩素又は活性酸素種を生成するように構成される。
【0043】
本発明によって対処される微生物学的汚染は、飛沫によって、接触によって、又は他の既知の経路によって広がる細菌汚染、又はウイルス汚染、又は任意の他の形態の汚染であり得る。COVID-19疾患についての感染因子であるSARS CoV-2が、現時点で特に関連しているが、他の汚染は、インフルエンザウイルス、一般的な風邪ウイルス、マイコバクテリア(TBの原因物質)、並びに感染性真菌及び胞子などの、本発明による方法及び物品によって対処される。
【0044】
本発明は、オゾン、塩素、及び活性酸素種から選択される不活性化種を使用し、それは、好適な電圧が本発明による織物又は膜に印加されるときに、有効量で生成され得ることが予期せずに見出された。0.3又は0.7~10.0Vの電圧は、一般に、例えば、連続直流電流又はパルス化直流電流のいずれかであり得る所望の電流を提供するのに好適である。有効量の不活性化種を生成するために、好ましくは、電圧は、0.3~2.5Vであり、より好ましくは、電圧は、0.5~2.0V、又は代替的に、0.6~1.2Vである。
【0045】
代替的に、低周波数又は長周期交流電流は、1秒~100分間、好ましくは、10秒~10分間の信号周期を有する正方形パルス信号を有する、0.3~10.0V、例えば、0.6~1.5Vの振幅又は最大電圧を有し得る。代替的に、信号は、正弦波形状又は他の形状を有し得、及び/又は、例えば、毎時一定の間隔で間隔をあけられた、例えば、5分間の持続時間の、ゼロ電圧の期間を含み得る。
【0046】
活性酸素種は、既知であり、特に、スーパーオキシドアニオン、過酸化水素及びヒドロキシルラジカルを含むと一般的には考えられている。これらのうち、過酸化水素は、本発明による織物又は膜において最も一般的に生成され、微生物学的汚染を処置する際に最も有用である。好適な量の過酸化水素は、一般に、水溶液中で1重量%~90重量%、例えば、水溶液中で1重量%~5重量%又は3重量%~10重量%である。
【0047】
更に、オゾンは、上記の活性酸素種と併せて、又はその代わりに、本発明による織物又は膜において生成され得る。微生物学的汚染を不活性化するためのオゾンの好適な濃度は、水中では0.01~100重量ppm、例えば0.1~5.0重量ppmであり、及び/又は空気中では0.5~100重量ppm、例えば、20~25重量ppmである。
【0048】
ここで、本発明の電気化学を、不活性化種のうちの1つ又は他のものが好ましいことがある特定の実施形態と共に、より詳細に説明する。
【0049】
水の電気分解は、通常、化合物H2、O2、H2O2及びO3、のうちの1つ以上、並びに酸素ラジカルを中間生成物として生成する。塩化物(一般的に、水道水中に存在する)の存在下では、電気塩素化として知られるプロセスを通じて塩素/次亜塩素酸塩を生成することも可能である。これは、通常、2.2Vを超えるより高い電圧で発生する。これらの成分のいくつかを優先的に放出するようにシステムを最適化することができる。一般に、O3生成は、Ebonex(非化学量論的酸化チタン)、ホウ素がドープされたダイヤモンド、又は酸化鉛などの、O2形成についての過剰電位の高いアノード材料を使用する場合に好ましい。炭素陰極を使用することは、H2O2の産生に好都合である。アノードにPt又はPdなどの貴金属を使用することは、O2の生産に好都合である。
【0050】
以下のスキームにおける反応電圧は、各プロセスについての電圧範囲に対してのガイドを提供する。これによって、電極材料及び印加電位の選択を使用して、特定の化合物の形成のためのシステムを選択的に最適化することができる。電極材料は、鋼鉄、銅又は他の金属からなる電極に対するコーティングとして適用され得る。O3は0.28Vで、H2O2は0.55Vで生成することができるが、活性塩素の生成は、標準条件下で少なくとも2.2Vを必要とし、アノードでの貴金属の使用が好ましい。
【0051】
a)カソードで水を水素に還元する場合
-カソードでの反応(pH=7)
2H
2O+2e
-→H
2+2OH
- E(H
2O/H
2)=-0.41 V/SHE
-アノードで起こり得る反応
2H
2O→O
2+4H
++4e
- E(O
2/H
2O)=0.81 V/SHE
3H
2O→O
3+6H
++6e
- E(O
3/H
2O)=1.09 V/SHE
2H
2O→H
2O
2+2H
++2e
- E(H
2O
2/H
2O)=1.36 V/SHE
【表1】
b)カソードで酸素を水へ還元する場合
-カソードでの反応(pH=7)
O
2+4H
++4e
-→2H
2O E(O
2/H
2O)=0.81 V/SHE
-アノードで起こり得る反応(pH=7)
2H
2O→O
2+4H
++4e
- E(O
2/H
2O)=0.81 V/SHE
3H
2O→O
3+6H
++6e
- E(O
3/H
2O)=1.09 V/SHE
2H
2O→H
2O
2+2H
++2e
- E(H
2O
2/H
2O)=1.36 V/SHE
【表2】
c)カソードで酸素をH
2O
2へ還元する場合
-カソードでの反応(pH=7)
O
2+2H
++2e
-→H
2O
2 E(O
2/H
2O
2)=0.29 V/SHE
-アノードで起こり得る反応(pH=7)
2H
2O→O
2+4H
++4e
- E(O
2/H
2O)=0.81 V/SHE
3H
2O→O
3+6H
++6e
- E(O
3/H
2O)=1.09 V/SHE
2H
2O→H
2O
2+2H
++2e
- E(H
2O
2/H
2O)=1.36 V/SHE
【表3】
【0052】
電気塩素化
アノード:2Cl-→Cl2+2e-は、1.36ボルト(V)の電位を必要とする
カソード:2H2O+2e-→2OH-+H2は、-0.8277ボルト(V)の電位を必要とする
反応電圧:2.1877V。
【0053】
具体的な応用例:
・例えば、相当な空気充填量を有するバッグ内部又は室内部で、大量の空気を滅菌するように設計された織物については、オゾン生成のために最適化することが好ましい。次いで、オゾンガスが空気空間を満たされる。
・織物自体及び直接接触する物体の滅菌については、これは液体状態が保持されるために、H2O2生成のために最適化することが好ましい。繊維において生成される少量のオゾンは、空気中にかなりの濃度を何らもたらさず、これは、人体に近い用途、フェイスマスクなどにおいて利点となり得る。
・例えば、汚れ又は濁った水などの存在下で、より大量の水、高濃度のウイルスを滅菌するために、強化された効果が必要とされる場合、より高い電圧が使用な塩素化が関心を集める。
【0054】
本発明の材料と接触する微生物学的汚染は、生成されるオゾン、塩素及び/又は活性酸素種によって不活性化されるであろう。効果を高めるために、抗菌コーティングは、本発明の導電性織物若しくは膜に含まれてもよく、又はその上にコーティングされてもよい。例としては、正、又は負、又は正及び負の両方の電荷を固定したイオン伝導性及びイオン交換化合物が挙げられる。特に、アルキルアンモニウムイオン、カチオン性ペプチド、キトサンなどの四級アンモニウム部分を有するポリマー、又はグラフトされた正に帯電され基を有するポリマーなどのカチオン性種が有効であり得る。任意選択的に、そのようなコーティングは、高い表面伝導性を維持するように、グラフェン粉末、他の炭素又は金属粉末若しくは繊維などの導体と混合され得る。そのようなコーティングの電気的特性のために、電界との相乗効果が、そのようなコーティングを有しない本発明の布地、又は標準的な織物などの従来の材料に適用される場合のコーティングのいずれかよりも強い滅菌効果を生み出して、得られ得る。
【0055】
オゾン、塩素及び過酸化水素の電気化学的生成は、当該技術分野で既知であるが、本発明の方法及び物品において、予想外に役立てられる。
【国際調査報告】