(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】環境温度での脂質粒子貯蔵システム及び方法
(51)【国際特許分類】
C12N 7/04 20060101AFI20231212BHJP
A01N 1/02 20060101ALI20231212BHJP
C12N 15/33 20060101ALI20231212BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20231212BHJP
C12N 1/04 20060101ALI20231212BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231212BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231212BHJP
A61K 39/12 20060101ALI20231212BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20231212BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231212BHJP
A61K 47/64 20170101ALI20231212BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20231212BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231212BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20231212BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231212BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231212BHJP
C12Q 1/02 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C12N7/04
A01N1/02
C12N15/33
C12N15/87 Z
C12N1/04
A61P37/04
A61P31/12
A61K39/12
A61K39/00 G
A61K48/00
A61K47/64
A61K9/14
A61K47/26
A61K47/10
A61K47/18
A61P43/00 105
C12Q1/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528960
(86)(22)【出願日】2021-11-19
(85)【翻訳文提出日】2023-06-10
(86)【国際出願番号】 US2021060156
(87)【国際公開番号】W WO2022109310
(87)【国際公開日】2022-05-27
(32)【優先日】2020-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
(71)【出願人】
【識別番号】523177953
【氏名又は名称】アップカラ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110003007
【氏名又は名称】弁理士法人謝国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】モハンティ、プラバンス
(72)【発明者】
【氏名】ダス、シュベンドゥ
(72)【発明者】
【氏名】タバナー、ヨランダ
(72)【発明者】
【氏名】レヌ、シャンカル
(72)【発明者】
【氏名】シャープ、ジェニー
(72)【発明者】
【氏名】ブロンサート、ローラ
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
4C076
4C084
4C085
4H011
【Fターム(参考)】
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4H011CA05
4H011CB04
4H011CC03
4H011CD06
(57)【要約】
本開示は、粒子、脂質粒子、脂質粒子組成物、及び脂質粒子を含むmRNAワクチン組成物の非極低温でのガラス化のための方法に関する。該方法は、乾燥チャンバー内の毛細管ネットワーク上のガラス化培地内に脂質粒子を提供し、熱エネルギーと低減された気圧の両方を提供し、ガラス化培地または脂質粒子が低気圧の結果として極低温または沸騰を経験することなく、迅速なガラス化を提供する工程を含む。前記脂質粒子は、環境温度またはそれ以上の温度で長期貯蔵した後に再構成でき、かつ構造的完全性と活性を依然として維持する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
極低温を超える温度での1つ以上の粒子のガラス化のためのプロセスプロセスであって、
a)粒子及びガラス化培地を含むガラス化混合物を、毛細管ネットワークを含むまたは形成する基質の中または上に放置し、そして、前記基質を乾燥チャンバー内に放置すること;
b)前記乾燥チャンバー内の気圧を低減させること;
c)前記ガラス化混合物が凍結状態に陥るのを防止するのに十分な熱エネルギーを前記脂質粒子に提供すること;及び
d)毛細管現象により前記ガラス化混合物をガラス状態になるまで乾燥させること
を含む、プロセス。
【請求項2】
前記粒子が、ポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記ポリヌクレオチドが、mRNAを含み、前記mRNAが、前記粒子内に被包される、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記粒子が、ウイルスキャプシド、ウイルスエンベロープ、またはそれらの一部を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
前記粒子が、細胞透過性ペプチドまたは担体タンパク質をさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記細胞透過性ペプチドまたは担体タンパク質が、前記ポリヌクレオチドに結合される、請求項5に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ポリヌクレオチドが、陽イオン性の脂質及び/またはイオン化可能な脂質からなる脂質膜によって被包される、請求項2または3に記載のプロセス。
【請求項8】
前記毛細管ネットワークが、前記基質の表面に沿った輪郭によって提供される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記基質が、前記乾燥チャンバーの壁であるか、または前記乾燥チャンバーの壁と関連付けられる、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが、底部固体支持基質によって支持される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ガラス化混合物のガラス化が、30分間未満で起こる、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記ガラス化混合物のガラス化が、10分間未満で起こる、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記熱エネルギーが、前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記気圧が、約0.9 atm~約0.005 atmの値まで低減される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記気圧が、約0.004 atmまで低減される、請求項14に記載のプロセス。
【請求項16】
前記提供される熱エネルギーが、ガラス化中に前記ガラス化混合物内の結晶化を防止するのに十分である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項17】
前記提供される熱エネルギーが、前記ガラス化中に生体試料を約0℃~約40℃の温度に維持するのに十分である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記ガラス化培地が、二糖類、任意選択でトレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項19】
前記毛細管ネットワークが、親水性である、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記毛細管ネットワークが、近接した毛細管チャネルを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記脂質粒子組成物が、ガラス化後に60℃以下の温度で少なくとも3週間貯蔵される、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項22】
前記脂質粒子が、水性培地の中で再構成され、工程a)前の粒子またはその内容物と同等またはほぼ同等の活性を維持する、請求項21に記載のプロセス。
【請求項23】
前記ガラス化培地が、細胞培地の中に懸濁されたトレハロース及びグリセロールを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項24】
前記ガラス化培地が、前記細胞培地の中に500~1500 mMのトレハロース及び5~20 w/v%のグリセロールを含む、請求項23に記載のプロセス。
【請求項25】
工程d)の後に前記毛細管ネットワークを暗所に放置することをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記暗所が、相対湿度(RH) 5%未満の大気で維持される、請求項25に記載のプロセス。
【請求項27】
前記暗所が、RH 2%以下に維持される、請求項26に記載のプロセス。
【請求項28】
被験者における免疫応答を誘導するための方法であって、
a)前記毛細管ネットワークの上で前記ガラス化混合物に一定量の溶液を提供して溶出されたガラス化混合物を得ることで、請求項1~27のいずれか1項から得られたガラス化混合物を再構成すること;
b)前記毛細管ネットワークから前記溶出されたガラス化混合物を得るこ と;及び
c)該溶出されたガラス化混合物を前記被験者に投与すること
を含む、方法。
【請求項29】
前記粒子が、弱毒化されたウイルスを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記粒子が、ポリヌクレオチド、任意選択で、ウイルスタンパク質の少なくとも一部をコードするmRNAを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記ポリヌクレオチドが、細胞透過性ペプチドに結合される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ポリヌクレオチドが、脂質膜によって被包される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記脂質膜が、陽イオン性の脂質を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記脂質膜が、イオン化可能な脂質を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
粒子中に被包されたポリヌクレオチド分子及び脱水されたガラス化培地を含む、ガラス化されたポリヌクレオチド組成物。
【請求項36】
前記組成物が、前記ポリヌクレオチド分子を凍結させることなくガラス化される、請求項35に記載のガラス化されたワクチン組成物。
【請求項37】
前記粒子が、弱毒化されたウイルスを含む、請求項35に記載のガラス化されたワクチン組成物。
【請求項38】
前記ポリヌクレオチド分子が、ウイルスタンパク質の少なくとも一部をコードするmRNAを含む、請求項35~37のいずれか1項に記載のガラス化されたワクチン組成物。
【請求項39】
前記ポリヌクレオチド分子が、細胞透過性ペプチドに結合される、請求項35~37のいずれか1項に記載のガラス化されたワクチン組成物。
【請求項40】
前記粒子が、陽イオン性の脂質を含む、請求項35~37のいずれか1項に記載のガラス化されたワクチン組成物。
【請求項41】
請求項1~27のいずれか1項によって調製された、ガラス化された混合物を含む、被験者における免疫応答を提供するためのキット。
【請求項42】
前記ガラス化された混合物が、暗色の乾燥容器内に貯蔵される、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
前記ガラス化された混合物を再構成するのに適し、かつ被験者への投与に適する無菌溶媒をさらに含む、請求項41に記載のキット。
【請求項44】
バイアルをさらに含む、請求項41~43のいずれか1項に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【関連出願への相互参照】
【0001】
本出願は、2020年11月19日に出願された米国仮出願63/115,943及び2020年12月8日に出願された米国仮特許出願63/122,792に対する優先権を主張する。それらの内容全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【分野】
【0002】
本開示は、任意選択で1種以上のリボ核酸を含む脂質粒子の調製方法、及びその低温物流貯蔵温度を必要としない貯蔵方法に関する。
【背景】
【0003】
リボ核酸、またはRNAは、染色体にコードされている遺伝子が作動してタンパク質を発現させるための手段を提供し、生物学において重要な中心的な役割を果たしている。最も重要なリボ核酸は、おそらく、親DNA染色体からコピーとして組み立てられ、エクソンごとに切り出され、翻訳機構に移されて読み取られ、発現タンパク質として出力されるメッセンジャーRNA(mRNA)であろう。
【0004】
タンパク質出力の制御におけるこの重要な役割により、mRNAは、細胞、さらには生物全体を操作するための興味深く説得力のあるポイントになっている。特に興味深いのは、細胞内、最終的には特定の組織や器官内のシグナル伝達経路に影響を与えるために、RNAを生成したり、内因性タンパク質の変異型及び/または過剰発現型を生成したりすることによって、外因性遺伝子を発現するように細胞を操作することである。
【0005】
外因性遺伝子に対するmRNA、またはその一部もしくは断片を細胞に提供することも、生物の免疫系を刺激するための強力な手段である。in vivoで細胞に外来mRNAを強制的に翻訳させると、異物または抗原として認識され、免疫系の細胞による処理が行われて、抗体や記憶細胞が調製される。外因性遺伝子またはその断片が翻訳時には機能的に不活性であるが、後の時点でシステムに導入されたときに病原体の認識を提供する場合、mRNAは、弱毒化された接種材料や生きた接種材料を必要とせずに、生物に効果的にワクチン接種を行う。さらに、mRNAは、非感染性、非統合プラットフォームであり、通常の細胞処理によって分解されるため、比較的安全である。概して、mRNAは、ワクチン開発、遺伝子治療、及びタンパク質補充療法の最前線にある。
【0006】
mRNAの役割と魅力は明らかであるが、それを被験者に提供することは課題となっている。当初の関心は、mRNAをin vivoで効果的に細胞に送達することに集中していた。その障害はほぼ解決され、さらなる進歩が期待できる。in vivoでの細胞への送達の課題は少なくなっている(例えば、Pardi et al. Nat. Rev. Drug Discov. 17: 261-279 (2018)を参照)。重要な開発の1つは、標的細胞への遺伝子導入前のmRNAの保護である。この問題は、多くの場合、mRNAを被包して分解から保護する脂質粒子の状態で、mRNAを1つ以上の遺伝子導入剤と複合体化することでほぼ解決されている。
【0007】
現在、氷点以上の温度ではmRNAまたは送達ベクター内のmRNAの全体的な急速な分解及び活性喪失により、広範囲の集団にmRNAを提供できるようにするためには実用性の障害がある。現在の技術では、製造時点から投与時点まで、mRNAワクチン(脂質粒子にパッケージされたものを含む)を冷蔵温度で、多くの場合では氷点下で維持する必要がある。
【0008】
内容物の劣化を軽減するために、このようなシステムを貯蔵する従来の方法は、脂質粒子を乾燥させるための凍結乾燥に依存している。これは、特にこれらの粒子を凍結乾燥するのに必要な時間が長いため、多大な費用と厳密な条件を必要とし、迅速なまた広範囲での応用を妨げている。従って、当技術分野において、脂質粒子の効果的な、より要求の緩い貯蔵方法を特定する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図面は、必ずしも縮尺どおりではなく、特定の成分の詳細を示すために一部の特徴が誇張または最小化されている場合がある。従って、本明細書に開示される特定の構造及び機能の詳細は、限定として解釈されるべきではなく、本開示を様々に利用することを当業者に教示するための代表的な基礎としてのみ解釈されるべきである。例示的な態様は、詳細な説明及び添付の図面からより完全に理解されるであろう。
【0010】
図1Aは、毛細管力が粘性力よりも著しく高い上部に放置された液体20の薄膜を有する親水性ベッド10を示す。これにより、乾燥できる液体21の量が制限される。
【0011】
図1Bは、輪郭を付けられた毛細管ベッドを示し、ここで、乾燥は、輪郭30のピークで優先的に起こることができ、乾燥中のトラフからピークへの毛細管現象によって、全体のガラス化の割合が増加し、
図1Aの場合よりも、大量の試料のガラス化が可能になる。
【0012】
図1Cは、輪郭を付けられた毛細管40内に過剰な流体がある場合に、表面模様を満たしている液体を示し、その結果、減圧下で気泡の核生成と沸騰が支配的になり、敏感な分子の損傷につながり得る。
【0013】
図2Aは、本明細書に提供されるいくつかの態様によるガラス化の一般的な概略図を示す。極低温ガラス化は、液体(生物学的物質またはその他の物質を含む)を、凍結ゾーンを迂回してガラス転移温度以下まで急速に冷却することによって歴史的に達成される(経路1-2-3)。該材料の総質量は、このプロセスを通じて保たれる。同様に、材料のガラス化は、結晶化プロセスを迂回して急速に乾燥させることによって達成することができる(経路1-5-6)。この場合、大幅な質量損失(主に水)が発生する。大量の材料の極低温ガラス化は、熱伝達の制限により困難な場合があるため、一般に、大きな表面積/容積比が得られるバイアルの中で行われる。同様に、表面積/容積比が大きい場合、特に減圧下では迅速な乾燥が促進される。圧力を下げると液体の沸点も低下するため、敏感な生体分子や材料をガラス化する際に液体が望ましくない沸騰を起こすリスクがある。経路1-4-6は、本開示のいくつかのガラス化態様の概略を示し、ここで、熱及び低気圧の適用により、凍結温度への曝露を回避して迅速なガラス化が可能になる。
【0014】
図2Bは、目標試料温度T
1における水の三重点の概略図を示す。これは、三重点を回避し、これによりガラス化中の凍結を回避する。
【0015】
図3は、真空下で大量の液体の迅速な乾燥を促進してガラス化されたガラス状材料を形成するための例示的な毛細管膜を示す。
【0016】
図4について、(A)は、過剰な液体が毛細管膜の表面に蓄積すると、毛細管効果が実現されず、真空下でも蓄積した液体内で沸騰が発生し得る望ましくないことを示す。毛細管効果を実現するには、液体を膜の細孔内に収納してメニスカスを形成してもよい。起伏のある表面上のこの局在化は、類似であり、材料のピークとトラフによって形作られる。毛細管界面での液体割合(ξ)、即ち、液体が占める面積(2次元概略図)は、毛細管蒸発の最適化を可能にするパラメーターの1つである。毛細管に駆動された蒸発は、液体内の粘性圧力降下が液体と蒸気の界面での最大毛細管圧力を超えると発生する。前記液体割合ξは、バルクから液体と蒸気の界面までの全体的な圧力降下に関係する。大気圧下で熱流束が加えられていない場合(B)、液体は広い面積を覆い、液体割合ξ→1になる。これらの条件下では、毛細管に駆動された蒸発の速度は最小限になる。(C)に示すように周囲圧力を下げると、ξが減少し、そして、蒸発の速度が増加する。しかし、ある閾値の圧力降下を超えると、望ましくない核形成沸騰が発生し得る。(D)に示すような熱流束 Qも蒸発の速度を高めることができるが、液体の供給側から毛細管チャネルに熱が加えられると、望ましくない膜沸騰のリスクがある。(E)に示すように、毛細管メニスカスの表面から熱流束を適用すると、膜沸騰のリスクが大幅に減少する。(F)に示すように、逆勾配方式で大きな
とQを適用すると、液体メニスカスが細孔に閉じ込められ、即ち、液体割合ξ<< 1(例えば、~.25)となり、沸騰を避けながら最大の蒸発速度が得られる。従って、表面とバルク液体との間の温度勾配を維持すると、(F)に示すように毛細管蒸発が起こり、急速な蒸発が達成される。液面が毛細管膜内に後退しても、圧力勾配と温度勾配が維持されている限り、毛細管蒸発現象が依然として実現される。
【0017】
図5は、4%BSA、15%トレハロース二水和物、0.75%グリセロール、2%Tween-20、及び水を含有する液体を負荷した、様々な寸法のガラス膜のガラス化の結果を示す。膜1 mm
2あたりの液体負荷量は、全ての場合で0.316 mlに保たれた。ケース1では、膜を直径0.25インチの円に切り、それぞれに10 μlの液体を負荷した。480 μlの液体を含有する合計48個の試料を、真空チャンバー内の加熱された(37℃)金網に負荷した。ケース2では、それぞれ470 μlの液体を含有する3本の長い膜ストリップ(240 mm x 6.23 mm)を前記加熱された金網に負荷した。ケース3では、1700 μlの液体を含有する1本のストリップ(240 mm x 22 mm)を使用した。前記チャンバーを29.5 mmHgまで真空にした。温度と時間のプロットは、ガラス化プロセスの段階を示す。排気プロセスの開始時に、膜の足場の大部分が液体を含んでいる間に圧力が急速に低下し、予想通り、圧力の低下に伴って温度も低下した。前記金網/ベッドから供給される熱流束は、足場温度がさらに低下して凍結状態になるのを防止する。注意すべきこととして、ガラス化賦形剤/液体の配合によって、凝固点が氷点下になり得る。凍結を防止することに加えて、前記ベッドから供給される熱流束は、毛細管蒸発を促進し、上記(
図4F)で示したように、減圧下で液体が沸騰することを防止する。前記足場から水分が蒸発すると、温度がベッド温度に達するまで上昇する。熱流束は、足場温度が設定温度(通常はベッド温度)を超えないように制御される。
図5から分かるように、膜足場の温度がベッド温度に達するまでにかかる時間は、足場の構成及びその上に負荷される液体の量によって変化する。前記ベッド温度に達するまでにかかる時間は、一次ガラス化時間の尺度であり、液体の大部分がこの期間内に蒸発していることを意味する。しかし、乾燥プロセスは、残留水分を除去するためにこの期間を超えてさらに延長される場合があり、これは、毛細管現象に依存しない二次乾燥と呼ぶことができる。プロセスパラメーターと足場の形状は、所定の時間内に一次乾燥プロセスを受けられる液体の量を最適化するように選択される。一般に、
図2Aに示される結晶析出相境界を回避し、確実にガラスを形成するには、より速い乾燥速度が望ましい。しかし、それを超えると確実にガラス化が行われる閾値があり、これは、液体の化学的性質、親水性、多孔性、及び寸法等の膜の特性に依存する。
【0018】
図6Aは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、乾燥装置自体は、輪郭を付けられた壁を特徴とする。該乾燥装置は、円筒形に巻かれた親水性毛細管膜から形成することができる。該円筒は、
図4と同様に膜内にガラス化培地を収納することができ、これによりガラス化の改善を促進する。
【0019】
図6Bは、本開示のさらなる一態様を示す。ここで、多孔質の材料膜は、真空に動作可能に接続でき、該膜上に放置された試料のガラス化のために密封され得る円筒内に放置され、該膜は、ガラス化のための毛細管基質を提供する。
【0020】
図7Aは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、円筒形の乾燥装置は、加熱されたブロック内に放置され、指向性の熱流束を提供し、毛細管蒸発を促進し、足場温度が凍結状態に陥るのを防止する。加熱方法は、本質的に伝導的なまたは放射的なものであってもよい。
【0021】
図7Bは、本開示の例示的な一態様を示す。ここで、追加の熱源が円筒の内側から提供される。加熱方法は、本質的に伝導的なまたは放射的なものであってもよい。熱流束は、膜の片面のみから提供されてもよく、またはその両面から提供されてもよい。
【0022】
図8は、親水性材料で作られた膜を用いて製作された改良ガラス化を示す。もともと疎水性だった膜を冷プラズマで処理して親水性にした。薬物製剤をこの膜の上に懸濁すると、液体はほぼ球形の液滴を形成するが(左上)、この親水性膜により液体は毛細管チャネルに流れ込む。ガラス化プロセス中、疎水性膜上の液滴は、最初に沸騰し、その後凍結する。一方、親水性膜上の液体は、速くガラス化して一体化したガラス状を形成する。真空が解除されると、凍結した液滴は再び液体に戻ったが、部分的な水分の損失によりサイズは縮小した。親水性膜を利用すると、毛細管補助による蒸発のガラス化に対する有効性は明らかである。
【0023】
図9は、例示的な2週間の試験コースにおけるmRNA試料のガラス化を評価した概要を示す。mRNAをガラス化し、またはガラス化せずに、示されるように貯蔵し、本明細書に記載されるように0、1、3、7、及び14日後に評価し、次いで正規化して細胞に形質導入する。各時点で、メーカーの取扱説明書に従って構成された新鮮なmRNAも比較の対照点として評価する(IAWMS=メーカーの仕様に従う)。
【0024】
図10は、ガラス化及び貯蔵後に保持された抗原をコードするmRNAの量が新鮮なものとほぼ同じであり、質量回収率がほぼ100%であることを示す。ガラス化された試料ごとに60 ng/μL(50 μL中に3 μg)のmRNAを負荷した。-20℃~55℃の様々な環境温度で最長3日間貯蔵すると、85%を超えるmRNA収率が得られた。
【0025】
図11は、緑色蛍光タンパク質をコードするmRNA機能が、-20℃~55℃の様々な環境温度での3日間貯蔵中に分解から保護されることを示す。示されたデータは、示された温度で貯蔵された、ガラス化されたmRNA試料及びガラス化されていないmRNA試料での遺伝子導入後の緑色蛍光タンパク質発現の相対蛍光単位と匹敵する。ガラス化されていない試料は、貯蔵温度が上昇するにつれて蛍光が大幅に減少したが、ガラス化された試料は、55℃で貯蔵した後でも良好な活性を維持した。
【0026】
図12は、
図11に示したような貯蔵を開始してから3日後に撮影された、示された条件における代表的な蛍光細胞画像を示す。
【0027】
図13は、ガラス化された試料及びガラス化されていない試料、ならびに新鮮なmRNAの7日目の蛍光データを示す。ここでも、ガラス化により、貯蔵条件にもかかわらず、良好な活性が維持されたが、ガラス化されていない試料は、発現活性の大幅な損失を示した。
【0028】
図14は、
図12において提供されたものと同じ配置で
図13に示される蛍光の代表的な画像を示す。
【0029】
図15は、ガラス化された試料及びガラス化されていない試料の14日目の蛍光データを示す。ここでも、ガラス化により、貯蔵条件にもかかわらず、良好な活性が維持されたが、ガラス化されていない試料は、調べた全ての貯蔵温度において、発現活性の大幅な損失を示した。
【0030】
図16は、示されたように貯蔵された、対照試料(左側)、ガラス化された試料(上の行)、及びガラス化されていない試料(下の行)の
図15に示される蛍光の代表的な画像を示す。
【0031】
図17は、Lipofectamine Messenger MAX(Invitrogen)を含むガラス化された試料及びガラス化されていない試料、ならびに新鮮なmRNAの3日目の蛍光データを示す。ここでも、ガラス化により、貯蔵条件にもかかわらず、優れた活性を維持することができたが、ガラス化されていない試料は、発現活性の大幅な損失を示した。
【0032】
図18は、示されたように貯蔵された、対照試料(左側)、ガラス化された試料(上の行)、及びガラス化されていない試料(下の行)の
図17に示される蛍光の代表的な画像を示す。
【0033】
図19は、小さい初期容積からのガラス化されたmRNAの再構成と機能維持の成功例を示す。(A)は、液体mRNA(レーン2及び3)、再構成されたmRNA(レーン4及び5)、及び同じ貯蔵条件にさらされてガラス化されていないmRNA(レーン5及び6)を示すアガロースゲルを示す。(B)は、新鮮なmRNA(上)、ガラス化されていないmRNA(中央)、及び再構成されたガラス化されたmRNA(下)で遺伝子導入した後の発現された緑色蛍光タンパク質(GFP)を示す。(C)は、陽性対照に対するGFP蛍光の割合を示す。ガラス化プロセスは、回収されたmRNAの量やその機能に悪影響を及ぼさなかった。
【0034】
図20は、水で洗浄したPES膜またはPBS-Tで洗浄したネイキッドフィルター上でガラス化されたレンチウイルスを示す。また、新鮮な液体レンチウイルス試料をHEK293細胞に形質導入し、72時間インキュベートした。(A)は、形質導入後に蛍光顕微鏡を用いて撮影された画像を示す。(B)は、蛍光プレートリーダーを用いて測定された蛍光強度に基づく形質導入効率の割合を示し、液体レンチウイルス陽性対照に対する形質導入の割合を表す。ガラス化直後に細胞に形質導入した場合、使用した足場(ネイキッドフィルターまたはPES)に関係なく、ガラス化されたレンチウイルスは、-80℃で貯蔵した液体レンチウイルスと同様に機能し、ガラス化プロセスが粒子に損傷を与えなかったことを示している。
【0035】
図21は、水で洗浄したPES膜またはPBS-Tで洗浄したネイキッドフィルター上でガラス化されたレンチウイルスを示す。また、陰性対照(ガラス化されていない)を24℃で1週間、2週間、または3週間貯蔵した。新鮮な液体レンチウイルス、ガラス化された陰性対照試料、及びガラス化されていない陰性対照試料をHEK293細胞に形質導入し、72時間インキュベートした。形質導入後に蛍光顕微鏡を用いて画像を撮影した。-80℃で貯蔵された液体レンチウイルスは、「陽性対照」として示されている。24℃で1週間貯蔵したガラス化されていない液体レンチウイルスは、「陰性対照I」(ウイルスのみ)及び「陰性対照II」(ウイルス及びガラス化培地)として示されている。
【0036】
図22Aは、24℃で2週間貯蔵した後に、蛍光プレートリーダーを用いて測定した蛍光強度に基づく、液体レンチウイルス陽性対照に対する形質導入の割合を表す形質導入効率の割合を示す。
【0037】
【0038】
図23は、水で洗浄したPES膜またはPBS-Tで洗浄したネイキッドフィルター上でガラス化されたレンチウイルスを示す。また、陰性対照(ガラス化されていない)を37℃で1週間、2週間、及び3週間貯蔵した。新鮮な液体レンチウイルス、ガラス化された陰性対照試料、及びガラス化されていない陰性対照試料をHEK293細胞に形質導入し、72時間インキュベートした。形質導入後に蛍光顕微鏡を用いて画像を撮影した。-80℃で貯蔵された液体レンチウイルスは、「陽性対照」として示されている。24℃で1週間貯蔵したガラス化されていない液体レンチウイルスを「陰性対照I」(ウイルスのみ)及び「陰性対照II」(ウイルスとガラス化培地)として示されている。
【0039】
図24Aは、37℃で2週間貯蔵した後に、蛍光プレートリーダーを用いて測定した蛍光強度に基づく、液体レンチウイルス陽性対照に対する形質導入の割合を表す形質導入効率の割合を示す。
【0040】
【詳細な説明】
【0041】
本開示は、単独の、またはカーゴ分子(例えば、核酸、タンパク質、またはその他)を単独で含み、または送達可能なワクチン組成物にパッケージされた脂質粒子を調製する方法であって、その活性を維持し、かつ/またはその分解を回避しながら、極低温以上での貯蔵を可能にする方法に関する。前記方法はさらに、試料内での凍結または他の結晶形成を起こさずにmRNAワクチン組成物を安定させることに関する。本明細書は一般に、脂質ナノ粒子またはウイルス構造内に含まれるmRNA等のmRNAに関するが、これは例示のみを目的としており、限定することを意図するものではない。本発明は一般に、前記構造を保護し、脂質粒子内またはその上のあらゆるカーゴを安定させることに応用することができる。
【0042】
いくつかの態様では、本開示は、粒子を調製及び/または貯蔵するためのプロセス及び組成物に関する。いくつかの態様では、前記粒子は、脂質、タンパク質、炭水化物、またはそれらの任意の組み合わせであってもよく、それらを含んでもよい。いくつかの態様では、前記粒子は、ポリヌクレオチドを包み込んでもよく、または取り囲んでもよい。いくつかの態様では、前記粒子は、ポリヌクレオチドを包んでいる脂質、タンパク質、及び/または炭水化物の膜を含んでもよい。いくつかの態様では、前記粒子には、ポリヌクレオチドを包んでいる細胞、ポリヌクレオチドを包んでいるウイルス粒子及び/または脂質ナノ粒子、脂質様ナノ粒子、もしくはポリヌクレオチドを包んでいるリポソームを含んでもよい。いくつかの態様では、膜は、一般に、脂質及びその中に分散されたタンパク質及び/または炭水化物を含み得ることが理解されるであろう。
【0043】
いくつかの態様では、前記粒子は、外被を形成する脂質、タンパク質、及び/または炭水化物の膜であってもよく、またはそれらを含んでもよい。いくつかの態様では、前記外被内にポリヌクレオチドが存在してもよい。さらなる態様では、前記粒子は、ポリヌクレオチド自体であってもよい。いくつかの態様では、前記膜は、単層または二重層であってもよい。いくつかの態様では、前記膜は、脂質、タンパク質、及び/または炭水化物の合成膜であってもよい。いくつかの態様では、前記粒子は、植物、細菌、もしくは動物細胞等の細胞もしくは細胞由来の膜のもの、またはウイルス粒子もしくはウイルス粒子由来の膜のものである。特定の態様では、膜が細胞またはウイルス粒子のものである場合、該細胞またはウイルス粒子は弱毒化され得ることが理解されるであろう。
【0044】
いくつかの態様では、本明細書で提供されるプロセス及び組成物は、イオン性脂質を含む。いくつかの態様では、前記組成物は、その中に少なくとも1つの核酸分子または鎖を含む脂質ナノ粒子(LNP)または脂質様ナノ粒子(LLN)を含み得る。本明細書で使用される「粒子」または「脂質粒子」という用語は、1種以上のイオン性脂質、場合により、これらに限定されないが、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルセリン(PS)、コレステロール、多糖類、ポリマー、プロタミン等を含む単層または二重層の粒子に関する。いくつかの態様では、核酸、タンパク質、または他の分子は、2種以上、例えば3種、4種、5種以上の脂質のLNPまたはLLN内に被包され得る。
【0045】
いくつかの態様では、LNPは、イオン性脂質(通常、アミン頭部、リンカー、及び疎水性尾部の3つの部分を特徴とし、例えば、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMAまたはMC3)、DLinDMA、及びDLin-KC2-DMA)を含み得る。いくつかの態様では、前記LNPは、イオン性脂質、ポリエチレングリコール、及びコレステロールを含み得る。さらなる態様では、前記LNPは、イオン性脂質とポリエチレングリコール(PEG)、コレステロール、及び/またはジステアロイルホスホコリンとの組み合わせを含み得る(例えば、Sabnis et al., Mol. Ther. 26: 1509-1519 (2018); Pardi et al. J. Exp. Med. 215:1571-1588 (2018)、及びPardi et al. J. Control. Release, 217: 345-351 (2015)を参照)。いくつかの態様では、LNPは、コレステロールを除外する。
【0046】
いくつかの態様では、前記LNPは、さらに「ヘルパー」脂質を含み得る。ヘルパー脂質には、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)及び/またはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)及び/またはリポフェクタミン及び/またはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)及び/またはホスファチジルエタノールアミン(ジオレオイルPE)及び/または3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]-コレステロール(DC-Chol)が含まれ得る(例えば、Du et al. Scientific Reports 4: 7107 (2014)及びCheng et al. Advanced Drug Delivery Reviews 99(A): 129-137 (2016)を参照)。
【0047】
ガラス化を含む方法による粒子の貯蔵には、粒子自体の性質により特別な課題が生じる。まず、粒子は通常、水性環境に被包される。いくつかの態様では、これは、mRNA、タンパク質等の1つ以上の機能性分子を含む。この粒子の目的は、カーゴを保護し、いくつかの態様では、カーゴ分子への下流送達、標的化、またはその他の機能を促進することである。典型的な従来の乾燥貯蔵方法は、凍結乾燥を伴う。これは、完全な乾燥を達成するために数時間程度の時間を必要とし、通常、再構成された製品の機能的性質を低下させる。これは多くの場合、低温により脂質二重層の結晶化が起こり、乾燥の過程で粒子の内部から外部への水の輸送が妨げられることが原因である。
【0048】
本明細書で提供されるプロセスは、再構成された製品の機能性を劇的に改善しながら、数分、場合によっては10分未満で完全な乾燥を達成することができ、低温物流貯蔵条件を必要としない。このプロセスは、脂質粒子の二重層の結晶化を引き起こさず、膜を液体/ゲルの状態に維持し、多孔質層を通る対流輸送を促進するため、水分子及び安定剤を、膜を介してより迅速に輸送することができる。
【0049】
いくつかの態様では、本明細書で提供されるプロセスは、前記粒子の温度を被包層または粒子の膜の相転移温度(Tc)付近に維持する。リポソームの透過性は、二重層がTcで規則的なゲル相から無秩序な流体相に変化すると増加する。Tcより十分に低い場合、前記二重層は、より硬いゲル相を形成し、温度が Tc にある場合と比較して流動性と透過性の両方が低下する。同様に、温度がTcより十分に高い場合、膜の流動性は増加するが、透過性も低下する。従って、乾燥プロセス中の脂質粒子の温度をTc付近に上昇させることにより、カーゴを安定化させるための安定化成分(例えば、二糖類等)の粒子への輸送と粒子内部からの水の除去の両方が最大化され、必要な乾燥時間が劇的に短縮され、カーゴと脂質二重層の両方をより迅速かつ効果的に安定化させ、その後の機能性を向上させることで、貯蔵の成果を劇的に改善する。
【0050】
本開示の大部分は、脂質粒子におけるmRNAの保護及び貯蔵に関するが、これは一例としてのみ提示されている。本明細書で提供されるプロセスは、他のカーゴ分子またはカーゴ分子の組み合わせを含む粒子、または単に空の粒子(特定のカーゴ分子がない)にも同様に応用することができる。同様に、該プロセスは、炭水化物またはタンパク質、他のカーゴ分子、またはカーゴ分子の組み合わせの粒子または空の粒子に同様に応用することができる。従って、mRNA及び脂質粒子に関する以下の説明は、他のカーゴ分子または空の脂質粒子または他の粒子にも同様に適用できる。従って、「脂質粒子」との記載は、炭水化物、タンパク質、炭水化物と脂質、炭水化物とタンパク質、脂質とタンパク質、及び脂質/タンパク質/炭水化物の組み合わせを含む粒子として同様に解釈されてのよい。
【0051】
本明細書で提供される「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義に使用してもよく、2つ以上の連結されたヌクレオチド(例えば、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、ウラシル、または天然か人工かにかかわらずそれらの任意の誘導体)である。ポリヌクレオチドは、DNA、RNA、またはその他であってもよい。
【0052】
本明細書で使用される場合、「メッセンジャーRNA」または「mRNA」という用語は、プレmRNA及び成熟mRNA、スプライシングされたmRNA、5'キャッピングされたmRNA、編集されたmRNA、及びポリアデニル化mRNAを含む遺伝子の一本鎖リボ核酸コピーを含むことができる。mRNAは、イントロンとエクソンを含む遺伝子転写物、完全な遺伝子転写物、またはイントロンが除去またはスプライシングされたmRNAを含むことができる。mRNAは、RNA 7-メチルグアノシンキャップや RNA m7Gキャップ等の5'キャップを特徴とした一本鎖RNA遺伝子転写物を含むことができる。mRNAは、タンパク質に対して目的のmRNAセグメントの翻訳の開始を示すために分子の5'末端に向かって、三量体ATG塩基配列の開始コドンを含む場合があり、さらに、コーディング領域の終わりまたは翻訳が停止する点を示すために開始コドンとフレーム内にあるUAA、UAG、またはUGAの終止コドンを含む場合がある。mRNAは、終止コドンの後に非翻訳領域(UTR)をさらに含む場合があり、一本鎖分子の3'非翻訳領域(UTR)の後にポリアデニル化(ポリA)尾部をさらに含む場合がある。ポリA尾部は、テンプレートDNAまたはポリAポリメラーゼの使用によって提供できる。当業者であれば、ポリA尾部におけるアデノシンの正確な長さは正確である必要はないが、一般に約100~約200のアデノシン残基の範囲内にあり得ることを理解するであろう。いくつかの態様では、mRNAは、二本鎖の二次構造または三次構造を回避するように最適化され、かつ/またはあらゆる二本鎖の変異体を除去するために精製されてもよい(例えば、Kariko et al. Nucleic Acids Res. 39: e142 (2011) を参照)。
【0053】
本明細書で使用される場合、「対象セグメント」とは、細胞内で翻訳されまたは翻訳され得る、mRNA内の核酸のスパンまたは配列を指し得る。対象セグメントは、開始コドンで開始し、終止コドンで終了してもよく、ここで、終止コドンは同じ読み枠内にある(即ち、翻訳されたタンパク質またはペプチドに、各コドン及び/アミノ酸に3つの核酸が追加される)。いくつかの態様では、前記対象セグメントは、タンパク質産生を増加させるために、レアコドンを、より豊富な同族tRNAを有する同義コドンに置き換える配列変異をさらに特徴としてもよい。前記対象セグメントは、定常状態のmRNAレベルを増加させるためにG:C含量を濃縮するようにさらに適合され得る(例えば、Kudla et al. PLoS Biol. 4: e180 (2006) を参照)。
【0054】
本明細書で使用される場合、「キャッピングされた」または「5'キャップ」は、mRNAの5'末端の構造または修飾を指し得る。場合によっては、キャップは、逆5'-5'三リン酸リンカーを介して、またはN7-メチル化GTPに結合することによってmRNAの最初のヌクレオチドに連結されたN7-メチル化グアノシンであってもよい。場合によっては、前記最初のヌクレオチドが、2'Oメチル化されている。いくつかの態様では、5'キャップは、アンチリバースキャップ類似体またはGPPPG類似体等の合成キャップまたは類似体キャップを含み得る。例えば、Muttach et al. Bellstein J Org Chem 13:2819-2832 (2017); Stepinki et al. RNA 7: 1486-1495 (2001); Schalke et al. RNA Biol. 9:1319-1330 (2012) 及び Malone et al. Proc. Natl. Acad. USA 86: 6077-6081 (1989) を参照されたい。5'キャップはまた、当技術分野で知られているキャップ、キャップ1、及び/またはキャップ2構造を含み得る。5'キャップは、CleanCap等の市販の修飾を含む得る。いくつかの態様では、ワクシニアウイルスキャッピング酵素を使用して、転写後に5'キャップを適用することができる。
【0055】
本明細書で使用する「ガラス化」とは、材料を非晶質材料に変換するプロセスである。前記非晶質固体には、結晶構造がなくてもよい。
【0056】
本明細書で使用される「ガラス化混合物」は、生物材料及び/または脂質粒子(場合により、前記脂質粒子内にパッケージされた1つ以上の生物材料を含む脂質粒子)と、ガラス化剤及び場合により他の材料を含むガラス化培地との不均一な混合物を意味する。
【0057】
本明細書で使用される「ガラス化剤」は、ガラス化剤と他の材料との混合物が冷却または乾燥するときに、非晶質構造を形成し、または他の材料における結晶の形成を抑制する材料である。前記ガラス化剤は、浸透圧保護を提供し、あるいは、脱水中の細胞または脂質粒子の生存を可能にしてもよい。いくつかの態様では、前記ガラス化剤は、生物材料の貯蔵に適した非晶質構造をもたらす任意の水溶性溶液であってよい。他の態様では、前記ガラス化剤を脂質粒子、細胞、組織、または器官の中に浸してもよい。
【0058】
本明細書で使用される「貯蔵可能または貯蔵」とは、貯蔵され、かつ後の使用のために生存可能なままである生物材料の能力を指す。
【0059】
本明細書で使用される「親水性」とは、水分子を引き付け、またはそれと優先的に結合することを意味する。水に対する特別な親和性を持つ親水性材料は、水との接触を最大限にし、疎水性材料に比べて水との接触角が小さくなる。
【0060】
本明細書で使用される「疎水性」とは、水に対する親和性が欠如していることを意味する。疎水性の材料は、自然に水をはじいて、水滴を形成し、水との接触角が大きくなる。
【0061】
本明細書で使用される場合、「極低温」の温度または「極低温生成」の温度または同様の温度は、生体試料が凍結条件にさらされる温度を指す。いくつかの態様では、極低温には、生体試料及び/またはガラス化培地の凍結温度が含まれ得ることが理解されるであろう。さらに、極低温は、華氏または摂氏のいずれかでの温度の特定の閾値または値の範囲によって拘束されるのではなく、対象となるガラス化混合物の温度、圧力及び分子エネルギーの間の関係によって測定できることを理解すべきである。さらに、本明細書で使用する場合、「極低温生成」及びその類似の派生語は、記載した定義内で確かに可能ではあるが、1気圧または約-80℃の液体窒素に関連する温度に限定されないことを理解されたい。
【0062】
従って、本明細書で使用される「極低温を超える」とは、ガラス化混合物の凝固点を超える温度を指す。「極低温を超える」点には、周囲環境及び分子エネルギーとの関係、即ち凍結条件が存在しない温度値がさらに含まれ得る。本明細書で使用される室温とは、約25℃の温度を指す。
【0063】
「凍結貯蔵」とは通常、多くの場合、その低温により液体材料、または直接浸漬による少量の生体材料を急速に冷却する液体窒素が使用される、生体試料の急速冷却を指す。冷却速度により、材料の分子が熱力学的に好ましい結晶状態に固まる前に、材料の分子移動度が低下する。より長期間にわたって、分子は、結晶化するようになり、特に生体試料に有害な結果をもたらし得る。水は、迅速に結晶化できるため、生体試料では重大な懸念事項であり、生体組織に水が豊富に存在すると、結晶化が許されるほど重大な損傷を与える可能性がある。保護添加剤は、しばしば凍結防止剤と呼ばれるが、主成分の結晶化能力を妨げ、非晶質/ガラス化物質を生成し得る。
【0064】
本明細書で使用される場合、「沸騰」とは、多くの場合、材料内で蒸気泡が形成され、周囲の雰囲気に逃避し、その中で散逸することを特徴とする、材料が蒸気に移行する点を指し得る。
【0065】
「ガラス転移温度」とは、それより高い温度では材料が液体のように挙動し、それより低い温度では材料が固相と同様の挙動を示し、非晶質の/ガラス状の状態になる温度を意味する。これは、固定の温度ではなく、対象となるガラス化混合物の特性に応じて変化する。いくつかの態様では、ガラス状態は、前記ガラス化混合物がそのガラス転移温度を下回ったときに入る状態を指し得る。
【0066】
「非晶質の」または「ガラス」とは、0.3以下の秩序パラメーターを指す原子の位置の長距離秩序が存在しない非結晶材料を指す。ガラス質固体の固化は、ガラス転移温度Tgで起こる。いくつかの態様では、前記ガラス化培地は、非晶質の材料であってもよい。
【0067】
「結晶」とは、周期的に繰り返され、格子または単位胞と呼ばれる、1つの特定の規則的な幾何学的配列からなる3次元の原子構造、イオン構造、または分子構造を意味する。
【0068】
「結晶性」とは、ガラス状または非晶質とは対照的に、原子レベルで規則的な構造に配置された構成成分で構成される物質の形態を意味する。結晶性固体の固化は、結晶化温度Tcで起こる。
【0069】
いくつかの態様では、本開示は、脂質粒子、1種以上の生物学的試薬を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物の長期安定性及び/または貯蔵を提供する方法に関する。本開示において、mRNAは、mRNA及び少なくとも1つのさらなる分子を含むmRNA組成物、または免疫応答を誘導するために生物または細胞に投与するのに適したmRNAまたはmRNA組成物であるmRNAワクチンと互換的に使用され得る。特定の態様では、前記貯蔵は、約-80℃から約60℃の温度を含むことができる。いくつかの態様では、前記mRNAは、約25℃~約60℃の室温で、長期間もしくは無限の期間、または一時的に貯蔵することができる。このような貯蔵の間、前記mRNAは、構造的完全性と物理的活性またはその能力の両方を維持することができる。いくつかの態様では、本開示は、特にmRNAの活性及び完全性の維持に関して、貯蔵温度がほとんど無関係となるように、mRNAを調製及び貯蔵する方法に関する。
【0070】
いくつかの態様では、本開示は、細胞または生物への導入及び/または細胞とのインキュベーションの前に、mRNAワクチン組成物等のmRNAまたはmRNA組成物を安定化、貯蔵及び/または保存するための方法に関する。他の態様では、本開示は、注射可能な組成物及び/または全身投与される組成物中にmRNAまたはmRNAワクチン組成物を含めること等、被験者に投与する前にmRNAまたはmRNAワクチン組成物を貯蔵及び/または保存するための方法に関する。
【0071】
mRNA及びmRNA組成物
いくつかの態様では、本開示の方法は、mRNAまたはmRNA組成物の安定化、貯蔵及び/または保存に関する。いくつかの態様では、前記方法は、mRNAもしくはmRNA組成物を取得し、または貯蔵及び/または保存されるmRNAを単離することで開始することができる。いくつかの態様では、前記貯蔵及び/または保存されるmRNAまたはmRNA組成物は、最初は水溶液等の溶液中に存在し得る。いくつかの態様では、前記水溶液は、水であってもよい。他の態様では、水溶液は、mRNAの安定性を促進するため、その中に添加された塩及び/または緩衝剤とともに、主に水である。
【0072】
いくつかの態様では、前記方法は、mRNAもしくはmRNA組成物またはmRNAワクチン組成物を毛細管表面に提供することを含む。mRNAもしくはmRNA組成物またはmRNAワクチン組成物は、いくつかの態様では、細胞内で翻訳されることを意図した対象セグメントを特徴とする合成または組換えmRNA核酸を含む(例えば、Rhodes (ed.) Synthetic mRNA: Production, Introduction Into Cells及びPhysiological Consequences, Humana Press, 2016を参照)。いくつかの態様では、mRNA分子は、in vitro転写(IVT)によって、またはプラスミドDNA(pDNA)構築物の転写によって調製され得る。
【0073】
いくつかの態様では、前記mRNA及び/またはmRNA組成物は、精製されたmRNA分子または精製されたmRNA組成物である。特定の態様では、前記mRNAは、逆相高速タンパク質液体クロマトグラフィーまたは高速液体クロマトグラフィーを含むクロマトグラフィー法によって精製することができる。さらなる精製手段は、固定化されたポリTまたはポリUとのポリA尾部を使用した結合及び溶出を含むことができる。
【0074】
いくつかの態様では、シュードウリジン、1-メチルプソイドウリジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、2-チオウリジン、及び5-メトキシウリジン等の修飾塩基を組み込んで、前記mRNA分子をヌクレオシド修飾してもよい。
【0075】
いくつかの態様では、前記mRNAは、キャッピングされている。場合によっては、前記mRNA分子または一本鎖は、逆5'-5'三リン酸リンカーを介してmRNAの最初のヌクレオチドに連結されたN7メチル化グアノシンによって、またはN7メチル化GTPに結合することによってキャッピングされている。場合によっては、前記mRNAの最初のヌクレオチドが、2'Oメチル化されている。いくつかの態様では、前記mRNAは、アンチリバースキャップ類似体またはGPPPG類似体等の合成キャップまたは類似体キャップでキャッピングされている。さらなる態様では、前記mRNAは、当技術分野で知られているキャップ、キャップ1、及び/またはキャップ2構造でキャッピングされている。いくつかの態様では、ワクシニアウイルスキャッピング酵素を使用して、転写後に前記mRNAキャップが適用される。他の態様では、前記mRNAは、対象セグメント、UTR及び/またはポリA尾部を特徴とする。
【0076】
いくつかの態様では、mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物は、パッケージ化及び/または被包されたmRNA分子または一本鎖、例えば、脂質に被包されたmRNAを含み得る。いくつかの態様では、前記mRNAは、イオン化可能な脂質に被包されてもよい。いくつかの態様では、前記mRNA組成物は、その中に少なくとも1つのmRNA分子または鎖を含有する脂質ナノ粒子(LNP)または脂質様ナノ粒子(LLN)を含み得る。いくつかの態様では、前記mRNAは、2種以上の脂質、例えば3種、4種、5種、またはそれ以上の脂質のLNPまたはLLNに被包されてもよい。
【0077】
いくつかの態様では、前記mRNAは、LNPに被包される。LNPは、イオン性脂質(通常、アミン頭部、リンカー、及び疎水性尾部の3つの部分を特徴とし、例えば、ヘプタトリアコンタ-6,9,28,31-テトラエン-19-イル 4-(ジメチルアミノ)ブタノエート(DLin-MC3-DMAまたはMC3)、DLinDMA、及びDLin-KC2-DMA)を含み得る。いくつかの態様では、前記LNPは、イオン性脂質、ポリエチレングリコール、及びコレステロールを含み得る。さらなる態様では、前記LNPは、イオン性脂質とポリエチレングリコール(PEG)、コレステロール、及び/またはジステアロイルホスホコリンとの組み合わせを含み得る(例えば、Sabnis et al., Mol. Ther. 26: 1509-1519 (2018); Pardi et al. J. Exp. Med. 215:1571-1588 (2018) 及び Pardi et al. J. Control. Release 217: 345-351 (2015)を参照)。いくつかの態様では、LNPは、(4-ヒドロキシブチル)アザンジイル)ビス(ヘキサン-6,1-ジイル)ビス(2-ヘキシルデカノエート、2-[(ポリエチレングリコール)-2000]-N,Nジテトラデシルアセトアミド、ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DPSC)、及びコレステロールを含むが、これらに限定されない。いくつかの態様では、LNPは、(ヘプタデカン-9-イル8-((2-ヒドロキシエチル)(6-オキソ-6-(ウンデシルオキシ)ヘキシル)アミノ)オクタン酸)、平均分子量 2000 のポリエチレングリコールを含む1-モノメトキシポリエチレングリコール-2,3-ジミリスチルグリセロール、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3 ホスホコリン、及びコレステロールを含む。任意選択で、LNPは、Schoenmaker, et al., International Journal of Pharmaceutics, Volume 601, 2021, 120586に提供されている通りである。
【0078】
いくつかの態様では、前記LNPは、「ヘルパー」脂質をさらに含み得る。ヘルパー脂質は、1,2-ジオレオイル-3-トリメチルアンモニウムプロパン(DOTAP)及び/またはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)及び/またはリポフェクタミン及び/またはジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)及び/またはホスファチジルエタノールアミン(ジオレオイルPE)及び/または 3β-[N-(N',N'-ジメチルアミノエタン)-カルバモイル]-コレステロール(DC-Chol)を含み得る(例えば、Du et al. Scientific Reports 4: 7107 (2014) 及び Cheng et al. Advanced Drug Delivery Reviews 99(A): 129-137 (2016) を参照)。
【0079】
いくつかの態様では、前記mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物は、その中のmRNAの細胞取り込みを改善するための媒体、例えば脂肪鎖で修飾されたポリマーまたはポリマー、アミン含有側鎖を有するポリメタクリレート、またはオリゴアミノエチレン側鎖を有するポリアスパルトアミドまたはポリ(ベータアミノ)エステル(PBAE)を含み得る。いくつかの態様では、前記mRNA組成物の媒体は、ポリアミドアミン等のデンドリマーまたはポリプロピレンイミンベースのデンドリマーを含み得る。
【0080】
いくつかの態様では、mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物は、アルギニンに富んだ両親媒性RALA配列反復を有するCPP、またはプロタミンまたはD異性体Xentryプロタミンを含む、細胞へのmRNA送達のためのベクターとして補助する細胞透過性ペプチド(CPP)または担体タンパク質を含み得る。さらなる態様では、前記mRNA組成物は、両性イオン性脂質(ZAL)、または陽イオン性の脂質と両性イオン性脂質の組み合わせを含み得る。mRNAの現在の送達媒体に関する総説は、Kowalskiら(Mol. Ther. 27(4): 710-728 (2019))によって説明されている。担体タンパク質の例には、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド(DT)、CRM197(C.ジフテリアC7由来のDT変異体)、髄膜炎菌外膜タンパク質複合体(OMPC)、H.インフルエンザ菌タンパク質D、及びキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)が含まれる。
【0081】
いくつかの態様では、本開示は、mRNAワクチン組成物のためのmRNA組成物に関する。いくつかの態様では、前記mRNA分子は、外因性タンパク質もしくはその断片、または設計された抗原を発現するための対象セグメントを含有し、それによって、対象セグメントの発現により、そのような翻訳を行う細胞が、発現された対象セグメントもしくはその断片をプロセス及び/または免疫細胞、そして細胞の宿主生物のシステムに提示することが可能になる。いくつかの態様では、mRNAは、場合によっては未修飾のmRNAと比較して免疫原性を高めるために、一部のヌクレオシドが他の天然に存在するヌクレオシドまたは合成ヌクレオシド類似体によって置換されるヌクレオシド修飾mRNAである。modRNAを使用するCOVID-19ワクチンの例には、BioNTech/Pfizer/Fosun International(BNT162b2)及びKrammer F, Nature, 2020 ; 586 (7830): 516-527またはDolgin, E. Nature Biotechnology, 2020: d41587-020-00022-y doi:10.1038/d41587-020-00022-yに記載されている Moderna(mRNA-1273)によって開発されたものが含まれる。
【0082】
対象セグメントは、場合により、所望のタンパク質をコードする任意のセグメントである。いくつかの態様では、対象セグメントは、SARS-CoV-2ウイルス、インフルエンザウイルス、または他のウイルス抗原または細菌抗原の一部をコードする。対象セグメントによってコードされるタンパク質の例としては、例えば、SARS-CoV-2スパイク(S)タンパク質及びSARS-CoV-2ヌクレオカプシド(N)タンパク質が挙げられる。SARS-CoV-2のNタンパク質及びSタンパク質は、配列によって知られ、例えばRayBiotech(Peachtree Corners, VA)を含む様々なベンダーを通じて市販されている。対象セグメントは、通常、ウイルスキャプシドの外側の環境に曝露されているウイルス抗原の一部であり得る。例えば、いくつかの態様では、前記対象セグメントは、SARS-CoV-2スパイクタンパク質SのS1またはS2サブユニットをコードし得る。しかし、当業者は、他のペプチドまたはその断片、場合により任意の感染性病原体のキャプシドまたは膜の細胞外側上に露出されたタンパク質またはタンパク質部分も同様にコードされ得ることを理解するであろう。SARS-CoV-2スパイクタンパク質は、Ouらによる「ウイルス侵入時のSARS-CoV-2のスパイク糖タンパク質の特性評価及びSARS-CoVとの免疫交差反応性」, Nature Communications, 11, article 1620 (2020) 及び Ibrahimらによる「COVID-19スパイク宿主細胞受容体GFP78結合部位の予測」, J. Infect., S0163-4453(20) (March 10, 2020) で特徴付けられている。それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0083】
いくつかの態様では、前記mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物は、複数の対象セグメントを含むmRNA分子を含み得る。理解されるように、mRNAワクチン組成物は、発現された抗原と、分子の自己増幅を可能にするウイルス複製機構、またはウイルス複製を確実に抑制または除去するための必要な修飾の両方を提供することができる。特定の態様では、前記mRNAまたはmRNA組成物は、ウイルス複製機構をコードする目的のセグメントを、別個のmRNA鎖として、または単一鎖内に含み得る。例えば、追加のRNA複合体形成剤を提供するために、構造タンパク質を置き換える目的の抗原性セグメントを有するウイルスRNAゲノムを利用する(例えば、Geall et al. Proc. Natal. Acad. Sci. USA 109: 14606-14609 (2012)及びPardi et al., Nat. Rev. Drug Discov. 117:261-279 (2018)を参照)。いくつかの態様では、前記mRNAワクチン組成物は、ウイルスベクターの一部であってもよく、ここで、該ウイルスベクターは、非病原性であり、宿主細胞がin vivoで対象セグメント及び/またはmRNAを転写できるように設計された改変ウイルスゲノムである。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、及びサイトメガロウイルスの改変型が挙げられる(例えば、Ura et al, Vicenes 2: 624-641 (2014)を参照)。
【0084】
いくつかの態様では、前記mRNAは、mRNAワクチン組成物である。いくつかの態様では、前記mRNAワクチン組成物は、脂質または脂質様ナノ粒子に被包されたmRNA分子を含む。このようなナノ粒子は、任意選択で、イオン性脂質、コレステロール(または任意選択で、コレステロールを含まない)、ポリエチレングリコール、及び/またはDOTAP、DOPE、DOPC、及び/またはジオレオイルPE等のヘルパー脂質を含み得る。
【0085】
mRNAワクチン組成物は、ネイキッドmRNA分子、mRNA及びプロタミン、陽イオン性のナノエマルション中のmRNA、LNP中のmRNA、デンドリマーナノ粒子中のmRNA、リポソームまたはLNP中のmRNAとプロタミン、陽イオン性のポリマー(例えば、ポリエチレンイミン)中のmRNA、カチオンポリマーリポソーム中のmRNA、mRNA及び多糖類、陽イオン性の脂質ナノ粒子中のmRNA(例えば、1,2-ジオレオイルオキシ-3-トリメチルアンモニウムプロパンまたはジオレオイルホスファチジルエタノールアミン)、陽イオン性の脂質及びコレステロールナノ粒子中のmRNA、陽イオン性の脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール(PEG)ナノ粒子中のmRNAを含み得る。
【0086】
いくつかの態様では、前記mRNAワクチン組成物は、ex vivoでmRNAを負荷した樹状細胞を含むことができる。このような態様では、典型的には、免疫化される被験者から樹状細胞が得られ、その後宿主の被験者に戻すためにmRNAがそこに導入される。樹状細胞は、強力な抗原存在細胞であるため、ex vivoでのmRNA負荷は、再導入されたときに免疫系を強力に動員するメカニズムを提供する。このような態様では、樹状細胞自体を、mRNA導入前またはmRNA導入後のいずれかに、本明細書に開示される方法によってガラス化することができる。他の態様では、樹状細胞は、本明細書に記載の再構成されたmRNAを取り込むことができる。
【0087】
さらなる態様では、前記mRNA、mRNA組成物及び/またはmRNAワクチン組成物は、免疫賦活剤をさらに含み得る。いくつかの態様では、本明細書に記載されるように、前記mRNAを脂質混合物に添加してLNP中にmRNAを包み込む等、mRNAをさらなる組成物に添加することができる。他の態様では、前記mRNAを本明細書で提供されるように貯蔵し、再構成し、また、それに免疫賦活剤を添加することができる。さらなる態様では、ガラス化の前に、免疫賦活剤をmRNAまたはmRNA組成物と混合するか、またはこれに含めることができる。免疫賦活剤は、ヒドロキシリン酸硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、及び硫酸アルミニウムカリウムのようなアルミニウムをベースとした化合物(例えば、アルミニウム塩)を含み得る。免疫賦活剤は、AS04(モノホスホリル脂質A及びアルミニウム塩)、MF59(スクアレンを含む水中油型エマルジョン)、AS01B(モノホスホリル脂質A及び(チリ産シャボン樹皮に由来の)QS-21のリポソーム製剤)、及びCpG 1018(シトシンホスホグアニン合成DNA)、及びTLRアゴニストをさらに含み得る。mRNAのより良好な細胞取り込み及び/または対象セグメントの細胞発現を可能にするために、さらなる免疫賦活剤は、(任意選択で、構成的に活性である)CD70、CD40L、及びTLR4をコードする他のmRNAを含み得る。
【0088】
ガラス化混合物
いくつかの態様では、本開示は、ガラス化混合物中の脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を毛細管または毛細管ベッド上に放置することに関する。前記mRNAは、本明細書に記載のネイキッドmRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物であってもよい。前記mRNAはさらに、毛細管または毛細管ベッド上に放置されたガラス化混合物の一部であってもよい。ガラス化混合物は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地を含み得る。さらなる態様では、毛細管ベッド上にガラス化混合物を提供するために、ガラス化培地を毛細管ベッドに添加し、続いて脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を添加してもよい。本明細書に記載のmRNA分子と接触する可能性が高い、または接触する可能性がある全ての成分は、潜在的または可能性のあるRNA分解酵素源を含む、mRNAに対する分解酵素を含まない、または実質的に含まないように調製及び/またはプロセスされることが当技術分野で理解されるであろう。
【0089】
ガラス化培地は、ガラス形成剤を含むことができる。ガラス形成剤の同定により、生体分子、細胞、または組織をうまく貯蔵する道が開かれた。適切なガラス形成剤の存在下では、本明細書で提供される脱水によってガラス化が達成され、極低温を超えるガラス化マトリックス中に生物材料を貯蔵することが可能である。乾燥状態で生存する能力 (無水生物) は、いくつかの複雑な細胞内物理化学的及び遺伝的メカニズムに依存する。これらのメカニズムの中には、乾燥中に保護剤として機能する糖類(例えば、糖類、二糖類、オリゴ糖)の細胞内蓄積がある。トレハロースは、乾燥耐性生物で自然に生成される二糖類の一例である。プルランは、同様に乾燥用途に適した多糖類の例である。トレハロースやプルラン等の糖は、いくつかの異なる方法で保護を提供し得る。トレハロース分子上のヒドロキシル基の独特な配置により、トレハロース分子は、立体構造や折り畳みを変えることなく、分子表面の水素結合水分子を効果的に置き換えることができる。さらに、多くの糖は、高いガラス転移温度を有し、極低温以上でガラスを形成したり、低含水量で、室温でガラスを形成したりすることができでる。粘性の高い「ガラス状」の状態は、分子移動度を低下させ、そして、機能の低下につながる分解性の生化学反応を防止する。
【0090】
前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物が、本明細書に記載の周囲条件下で乾燥するため、ガラス化培地中に適切なガラス化剤が存在することは必須であり得る。本明細書で提供される他の考慮事項がなければ、高速乾燥法自体は、乾燥後の細胞または他のガラス化生体材料の生存率の成功を必ずしも保証するものではない。ガラスを形成する、かつ/または他の材料の結晶の形成を抑制するガラス化培地が必要となり得る。ガラス化培地は、浸透圧保護も提供し、あるいはmRNAまたはその組成物の脱水中に細胞の生存を可能にし得る。ガラス化培地に含まれる薬剤の具体例としては、以下の1種以上が挙げられる:ジメチルスルホキシド、グリセロール、糖類(例えば、トレハロース等の二糖類)、多価アルコール、メチルアミン、ベタイン、不凍タンパク質、合成抗核剤、ポリビニルアルコール、シクロヘキサントリオール、シクロヘキサンジオール、無機塩、有機塩、イオン液体、またはそれらの組み合わせ。いくつかの態様では、ガラス化培地は、任意選択で、1種、2種、3種、4種、またはそれ以上のガラス化剤を含む。
【0091】
いくつかの態様では、ガラス化培地は、ガラス化剤の性質に依存する濃度でガラス化剤を含み得る。任意選択で、前記ガラス化剤の濃度は、その後の試料使用時に機能的または生物学的生存能力が達成されないほど毒性がある場合、ガラス化されるmRNAまたはその組成物に対して有毒となる濃度よりも低い濃度である。ガラス化剤の濃度は、任意選択で、約500マイクロモル(μM)~約6モル(M)、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲(約1、2、3、4、または5 Mを含む)である。ガラス化剤トレハロースの場合、その濃度は、任意選択で約1 M~約6 M(2、3、4、または5 Mを含む)である。任意選択で、組み合わせた場合の全てのガラス化剤の総濃度は、任意選択で約1 M~約6 M(2、3、4もしくは5 Mを含む)である。
【0092】
ガラス形成糖であるトレハロースは、無水ガラス化に使用されており、いくつかの方法で乾燥耐性を提供し得る。しかし、水中でガラス化した1.8 Mトレハロースのガラス転移温度は、-15.43℃である。0℃以上でガラス化を達成するには、mRNA またはその組成物に損傷を与え得るより高い濃度(6~8 M)が必要である。あるいは、ガラス化培地は、VMのTg値を高めるために緩衝剤及び/または塩を含んでもよい。いくつかの態様では、ガラス化培地は、任意選択で、水または溶媒及び/または緩衝剤及び/または1種以上の塩及び/または他の成分を含んでもよい。緩衝剤は、25℃で約6~約8.5のpKaを有する任意の薬剤であってもよい。緩衝剤の具体例としては、とりわけ、HEPES、TRIS、PIPES、及びMOPSが挙げられる。緩衝剤は、ガラス化培地のpHを所望のレベルに安定化させるのに適した濃度で提供され得る。
【0093】
1.8 Mトレハロース、20ミリモル(mM)HEPES、120 mM ChCl、及び60 mMベチンを含有するガラス化培地は、+9℃のガラス転移温度を提供する。本明細書に開示される毛細管補助によるガラス化法のための例示的なガラス化培地は、トレハロース、コリンまたはベチンまたはHEPES等の高分子有機イオン(>120 kDa)を含有する1種以上の緩衝剤、ならびにKまたはNaまたはCl等の低分子イオンを含有する緩衝剤を含み得る。いくつかの態様では、前記ガラス化培地は、トレハロース、グリセロール、及びリン酸緩衝生理食塩水を含み得る。前記ガラス化培地は、熱処理等によって、または0.2 μmのメンブレンフィルター等による濾過によってさらに滅菌されてもよい。さらなる態様では、前記ガラス化培地をある量の前記mRNA、mRNA組成物、またはmRNA組成物と混合してもよい。いくつかの態様では、前記ガラス化培地は、約10:1、9:1、8:1、7:1、6:1、5:1、5:1、3:1、2:1、1:1、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8、1:9、または1:10の比率で前記mRNA、mRNA組成物、またはmRNA組成物と混合される。
【0094】
圧力と熱
いくつかの態様では、ガラス化培地及びmRNA 内の液体の蒸発を促進するために、脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地のガラス化混合物は、毛細管ネットワークまたは近接する毛細管ネットワークの上に放置される。いくつかの態様では、本開示の方法は、毛細管ネットワーク上のガラス化混合物に低気圧を適用することに関する。いくつかの態様では、VMの結晶化または凍結を避けるために、熱をさらに提供しながら、低圧が加えられる。本開示は、ガラス化混合物中のmRNAの迅速なガラス化を達成するために、低気圧と熱エネルギー、任意選択で、膜に対する特定の方向または位置からの熱エネルギーを組み合わせたガラス化プロセスを提供する。いくつかの態様では、本開示は、低減された気圧下でガラス化が起こる際に、ガラス化混合物へ熱エネルギーを加えることに関する。いくつかの態様では、ガラス化混合物またはその中の内容物(例えば、mRNAまたはmRNA組成物)の結晶化を防止するために、熱エネルギーがガラス化混合物に加えられる。
【0095】
いくつかの態様では、本開示は、低気圧における、脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物のガラス化に関する。いくつかの態様では、前記乾燥は、乾燥チャンバー内で行われてもよく、それによって、ガラス化混合物が、低気圧にさらされるようにその中に放置されてもよい。前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物に低気圧を加えるために、このような乾燥チャンバーは、真空源に接続されてもよい。本明細書に記載されるように、ガラス化混合物は、ガラス化培地またはトレハロース等の凍結貯蔵剤を用いて調製し、真空を加えること等による低気圧に供することができる。いくつかの態様では、前記低気圧は、約0.9気圧(atm)~約0.005 atmであり、0.85、0.8、0.75、0.7、0.65、0.6、0.55、0.5、0.45、0.4、0.35、0.3、0.255、0.25、0245、0.24、0.235、0.23、0.225、0.22、0.215、0.21、0.205、0.2、0.195、0.19、0.185、0.18、0.175、0.17、0.165、0.16、0.155、0.15、0.145、0.14、0.135、0.13、0.125、0.12、0.115、0.11、0.105、0.1、0.095、0.09、0.085、0.08、0.075、0.07、0.065、0.06、0.055、0.05、0.045、0.04、0.035、0.03、0.025、0.02、0.015、及び0.01 atmを含む。
【0096】
他の態様では、乾燥チャンバー内の圧力は、前記ガラス化混合物の三重点より高い点まで低減される。他の態様では、前記圧力は、水の三重点より高い点まで、例えば0.006 atmを超える点まで低減される。本明細書に記載されるように、低減された気圧は、前記ガラス化混合物の温度を低減させ、同時にその沸点も低下させる。いくつかの態様では、前記乾燥チャンバー内の圧力は、約0.04 atmまたは約29 mmHgまで低減される。
【0097】
さらなる態様では、前記ガラス化混合物の温度は、乾燥及び/またはガラス化中に制御される。例えば、ガラス化混合物を乾燥チャンバー内に置き、該ガラス化混合物に熱エネルギーを加えて、該ガラス化混合物が極低温にさらされるのを制限または防止する。いくつかの態様では、熱エネルギーは、ガラス化混合物に伝達され、ガラス化混合物中の結晶化が防止される。
【0098】
いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の温度は、加えられる真空またはガラス化混合物の低気圧内で制御され、任意選択でTc~30℃、任意選択でTc~20℃、任意選択でTc~10℃、任意選択でTc~5℃、任意選択でTc~4℃、任意選択でTc~3℃、任意選択でTc~2℃、任意選択でTc~1℃、任意選択でTc~1℃未満に制御される。本明細書で議論されるように、低気圧を加えると、ガラス化混合物の温度が大幅に低下し、前記ガラス化混合物が結晶化し得る。mRNAまたは周囲の培地が結晶化すると、そこに取り返しのつかない損傷が発生し、再構成したときに望ましい活性や用途に悪影響を与え得る。また、本明細書で特定されるように、ガラス化混合物周囲の気圧の低下は、沸点が低下するように、ガラス化混合物内の分子活性を変化させ得る。低温生成と同様に、mRNA 及び/またはガラス化培地の沸騰や過熱は有害となり得る。ガラス化混合物を沸騰させると、三次構造の損失、架橋、及びその中のmRNA成分の分解が起こり得る。再構成時、活性が損なわれ得る。特定の態様では、本開示のプロセスは、真空、部分真空または一般的に低減された気圧のような低気圧下で、ガラス化混合物を極低温を超える温度に維持することに関する。
【0099】
特定の態様では、乾燥中の温度を制御するために、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地を含むガラス化混合物を直接に加熱してもよい。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地を含むガラス化混合物の温度を伝導、対流及び/または放射の手段により制御してもよい。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地を含むガラス化混合物の温度を、乾燥チャンバーの外側の温度を制御し、乾燥チャンバーまたはその一部を通る伝導に依存してガラス化混合物の温度を制御することによって、制御してもよい。このような場合では、乾燥チャンバーの壁の物理的特性を考慮する必要があり得ることが理解されるであろう。例えば、乾燥チャンバーの導電性の低い材料では、ガラス化混合物が適切な熱エネルギーを受けられるようにするために、ガラス化混合物が必要とする温度とは異なる適用温度が必要となり得る。このような必要な適応は、当業者には容易に理解されるであろう。いくつかの態様では、熱は、加熱パッド、加熱バス、火炎、ガラスビーズ等の加熱ベッド、加熱ブロック等を通じて加えてもよい。場合によっては、熱エネルギーは、産生される熱の電源、及び/または燃焼によって放出される熱エネルギー、及び/または電気抵抗によって産生される熱エネルギーからのものであってもよい。
【0100】
いくつかの態様では、熱エネルギーは、底部支持基質を通じてガラス化混合物に提供され得る。近接した毛細管ネットワークの多孔質材料もガラス化混合物に熱エネルギーを提供することができ、場合によっては、多孔質材料は、ガラスやポリマー等の低伝導性材料である。しかし、底部基質は、金属または同様の効率的な導電性材料でできてもよく、乾燥チャンバーの外側の熱源または電源に容易に接続され、内部に生じる抵抗によって熱を提供する。固体支持体からの熱エネルギーの適用は、毛細管蒸発を助けるため、さらに温度勾配を提供し得る。
【0101】
所望の方向から熱エネルギーを加えてもよい。毛細管チャネルまたは膜の下または内部から熱を加えると、熱が液体自体の大部分に集中し、いくつかの態様では、ガラス状の状態に達する前に、材料内で膜沸騰を引き起こすことによって有害となり得ることが分かった。あるいは、毛細管チャネルの端によって形成されるメニスカスの上の方向から熱を加えると、液体単独または低気圧への曝露中に液体の沸騰を引き起こすことなくガラス化が促進される。メニスカスの上の方向は、毛細管チャネルの両端にあり得る。例えば、チャネルまたは膜にガラス化混合物が負荷され、材料のガラス化を促進するために加熱及び気圧の低下にさらされる場合等。熱源と毛細管チャネルの端またはガラス化膜表面の間に液体のない空間を設けること(ガス充填または真空)により、ガラス化が改善され、それによってmRNAの生物学的活性の安定性が向上する。
【0102】
いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地を含むガラス化混合物は、低気圧下でのガラス化中にその極低温を超える温度に維持される。いくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、低気圧下で乾燥する前に予熱される。他の態様では、前記ガラス化混合物は、低気圧下でガラス化中に加熱される。他の態様では、ガラス化の開始時またはその前後に熱が加えられる。前記ガラス化混合物に加えられる熱エネルギーの量は、低気圧下でのガラス化中に一定であってもよく、変化してもよいことが理解されるであろう。いくつかの態様では、乾燥チャンバー内に低気圧を導入すると、前記ガラス化混合物の温度が急速に低下し得る。このような態様では、前記ガラス化混合物を、熱エネルギーを受ける準備ができている状態、またはすでに熱エネルギーを受けている状態にすると、温度低下からの回復率を増加させることができる(例えば、
図5を参照)。
【0103】
特定の態様では、一定の温度が、前記ガラス化混合物に適用され、それにより、該ガラス化混合物が、そのTg(℃)~約40℃の温度(約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、及び39℃を含む)に維持される。特定の態様では、ガラス化混合物に必要な熱エネルギーを提供するために、より高い温度を乾燥チャンバーまたは多孔質材料に適用してもよい。このような適用温度は、乾燥チャンバーのサイズ及び前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、mRNAワクチン組成物、及び/またはガラス化培地に効果的に伝達するために利用可能な伝導手段に応じて、約15℃~約70℃であってもよい。
【0104】
本開示のいくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、該ガラス化混合物が気圧の急速な低下中に極低温を経験しないように、高温の真空または部分真空中に放置され、または加えられた気圧でのガラス化混合物の極低温を超える温度に維持される。さらなる態様では、前記ガラス化混合物の温度は、前記ガラス化培地のTgよりも低くなり、mRNAまたはその組成物のガラス化を可能にする。
【0105】
場合によっては、低気圧を維持するには、乾燥チャンバー等の密閉された容器内にガラス化混合物を入れる必要があり得る。ガラス化混合物の周囲に低気圧を提供及び/または維持するには、通常、乾燥チャンバーが内部の低圧に耐えることができる必要があることが当業者には理解されるであろう。このようなものは、内部の低気圧を維持するという要件によって制約され、十分なシール及び十分な壁強度を必要とする、任意の適切なまたは所望の形状及び/または材料とすることができる。乾燥チャンバーは、真空源に動作可能に接続されて、その中の気圧を低下させることができ、さらにガラス化完了時に空気を戻すことができる。乾燥チャンバーは、真空を加えて乾燥チャンバー内の気圧を所望の範囲まで効果的に下げることができるように、十分に密封または密閉することができる。
【0106】
毛細管補助による蒸発
さらなる態様では、毛細管ネットワークは、減圧下でガラス化混合物が沸騰するのを防止することができる。毛細管補助による蒸発の原理及びガラス化に使用し得る装置は、米国特許第10,568,318号に記載され、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの態様では、ガラス化混合物が毛細管ネットワーク上で乾燥及びガラス化を受けるときに、熱エネルギーがガラス化混合物に加えられ得る。いくつかの態様では、底部毛細管ネットワークは、ガラス化混合物を沸騰から保護しながら、熱エネルギーを受けるガラス化混合物の均一かつ完全なガラス化及び乾燥を可能にすることができる。前記毛細管ネットワークは、毛細管の近接したネットワークであり得る。場合によっては、毛細管ネットワークは、膜等の底部多孔質材料、またはそのトラフ及びピークが毛細管のベッドを提供する底部輪郭または隆起した表面によって提供することができる。
【0107】
毛細管ネットワーク上にガラス化混合物が存在すると、毛細管作用でガラス化混合物が引き出され、迅速な蒸発が可能になる。近接した毛細管ネットワークの存在により、ガラス化培地の流体量が均一に蒸発し、沸騰を防止すると同時に、同様に損傷を与える沸騰を引き起こす可能性がある、mRNAまたはその組成物上への過剰な液体の蓄積も防止することができる。同様に、膜等の多孔質材料は、底部毛細管ネットワークを提供し得る。このような態様では、膜等の多孔質材料が、mRNAまたはその組成物の直接の下にあり、その中の毛細管作用により蒸発が促進される。従って、本開示のいくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、近接した毛細管ネットワーク上に放置される。さらなる態様では、前記ガラス化混合物は、近接した毛細管ネットワークの模様及び/または隆起及び/または輪郭付けされた多孔質材料上に放置される。さらなる態様では、近接した毛細管ネットワークは、乾燥チャンバー内または壁上の模様及び/または隆起部及び/または輪郭によって形成される。他の態様では、毛細管ネットワークは、多孔質材料によって提供される。
【0108】
図1Aを参照すると、ガラス化混合物20の薄い液体層の塗布によって覆われた近接した親水性ベッド10が示されている。低気圧下での沸騰の防止は、
図1A に示すように、親水性表面上の非常に薄い液膜によって回避及び/または軽減できる。しかし、沸騰を防止することは可能であるが、利用可能な表面積により、ガラス化できる液体の量が減少する。
図1Bに示すような輪郭のある表面の存在は、ピークで起こる優先的な乾燥によりガラス化混合物が毛細管作用を受け、それによってガラス化プロセス中にトラフから水分を引き上げることができる表面を効果的に提供し、同様にmRNAまたはその組成物を沸騰から保護することができる。さらに、試料が輪郭のピークでガラス化すると、毛細管現象によってその下のトラフから流体が引き出され、それによってガラス化混合物の優れたガラス化が促進される。同様に、毛細管の膜の多孔質材料がmRNAまたはその組成物を支持すれば、ガラス化混合物がその上に置かれると、毛細管作用によって毛細管チャネルから流体が引き込まれ、mRNAまたはその組成物が均一かつ完全にガラス化及び乾燥される。しかし、
図1Cに示すように、液体の負荷が大きすぎると、毛細管現象が液体をうまく引き上げることができない場合、液体は、表面の模様を満たすか、トラフに保持され、減圧下では気泡の核生成と沸騰が支配的になり、液体に含まれる敏感な分子の損傷につながる可能性がある。
【0109】
底部模様化された隆起支持体、または膜等の多孔質材料から形成される毛細管ネットワークは、毒性がなく、mRNAまたはその組成物に対して反応性がなく、ガラス化培地と化学的または物理的に反応しない材料で作られ得る。前記材料は、適切なポリマー、金属、セラミック、ガラス、またはそれらの組み合わせであり得る。いくつかの態様では、近接した毛細管ネットワークは、とりわけ、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)の材料から形成される。本明細書で提供される装置及びプロセスの表面として適した膜を含む毛細管チャネルの例示的な例には、EMD Millipore(Bellerica, MA)によって販売されているもの等の親水性濾過膜が含まれる。特定の態様では、前記多孔質材料は、mRNAもしくはその組成物及び/またはガラス化培地の成分と実質的に結合、変化、または化学的または物理的結合を生じない。任意選択で、多孔質材料は、誘導体化されない。任意選択で、毛細管チャネルは、所望の材料及び厚さの基質(例えば、乾燥チャンバ壁)内に、PDMS形成技術、レーザードリリング、または当技術分野で知られている他の空洞形成技術によって形成されてもよい。
【0110】
いくつかの態様では、毛細管ネットワークは、液体または流体がその表面に蓄積するのを制限するのに十分な厚さを有する。毛細管効果を実現するには、メニスカスを形成する毛細管基質の細孔内に液体を収納してもよい。毛細管界面における液体分率(ξ)、即ち液体が占める容積は、毛細管蒸発の改善を促進するために考慮すべきパラメーターである。毛細管に駆動された蒸発は、液体内の粘性圧力降下が液体と蒸気の界面での最大毛細管圧力を超えると発生する。液体分率ξは、バルクから液体と蒸気の界面までの全体的な圧力降下に関係する。大気圧下で熱流束が加えられていない場合(
図4B)、液体が大部分を覆い、液体部分が生じる(ξ→1)。これらの条件下では、毛細管による蒸発の速度は最小限になる。
図4Cに示すように周囲圧力を下げると、ξが減少し、蒸発の速度が増加する。しかし、ある閾値の圧力降下を超えると、望ましくない核形成沸騰が発生し得る。
図4Dに示すように加えられた熱流束Qも蒸発の速度を増加させることができるが、膜沸騰のリスクが存在し、これも望ましくない。
図4Eに示すように、毛細管メニスカスの表面から熱流束を加えると、膜沸騰のリスクが排除または軽減される。
図4Fに示すように、逆勾配方式で適用される大きな
とQの下では、液体メニスカスが細孔に閉じ込められ、即ち、液体分率 ξ<< 1 (~0.25)となり、沸騰を避けながら最も高い蒸発率が得られる(
、ここで、pがリッジ間の距離または膜の高さであり、dが液体メニスカスの形状によって形成された円の直径である)。従って、表面とバルク液体の間の温度勾配を維持すると、
図4Fに示すように毛細管蒸発が起こり、迅速な蒸発が達成される。液面が毛細管膜内に後退しても、圧力勾配と温度勾配が維持されている限り、毛細管蒸発現象が依然として発生する。いくつかの態様では、mRNAまたはその組成物の下の毛細管ネットワークは、乾燥中の蒸発プロセスを補助し得る。
【0111】
本明細書で記載されるように、毛細管は、乾燥チャンバーの壁を模様化または輪郭付けして、底部毛細管ベッドを効果的に提供することによって(例えば、
図1B及び6Aを参照)、または膜等の近接した毛細管ネットワークの多孔質材料を提供することによって提供され得る(例えば、
図3を参照)。いくつかの態様では、多孔質材料及び/または模様化及び/または輪郭付けされた表面によって提供される毛細管ネットワークは、約20 μm以下の細孔を特徴とし、これにより、その細孔が、下層の毛細管を提供し、ガラス化を助ける。いくつかの態様では、波状ベッドの細孔またはピーク間の距離は、約19、18、17、16、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1.0、0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、及び0.2 μmを含む、約20~約0.1 μmの平均開口部であってもよい。毛細管チャネルは、チャネルを形成する基質の厚さによって、または1つ以上の個別のチャネル自体によって任意に規定される長さを有し得る。毛細管チャネルの長さは、任意選択で、約1ミリメートル以下であるが、そのような寸法に限定されるものとして解釈されるべきではない。任意選択で、毛細管チャネルの長さは、約0.1~約1000ミクロン、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意選択で、毛細管チャネルの長さは、約5~約100ミクロン、任意選択で約1~約200ミクロン、及び/または任意選択で約1~約100ミクロンである。毛細管チャネルの長さは、任意選択で、約5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100ミクロンである。いくつかの態様では、毛細管チャネルの長さは、複数の毛細管チャネル全体にわたって、任意選択で、不均一に変化する。
【0112】
毛細管チャネルの断面積は、約2000 μm2以下であってもよい。任意選択で、断面積は、約0.01~約2000 μm2、任意選択で約100~約2000 μm2、またはそれらの間の任意の値もしくは範囲である。任意選択で、毛細管チャネルの断面積は、約100、200、300、400、500、600、700、800、900、1000、1100、1200、1300、1400、1500、1600、1700、1800、1900、または2000 μm2、またはその以下である。
【0113】
毛細管補助による蒸発の速度は、大気の要求(湿度、温度、蒸発面での空気/ガスの速度)、及び (i)駆動毛細管力を生成する毛細管チャネルの特性;(ii)液体メニスカスの深さ、及び(iii)毛細管を流れる粘性抵抗の影響を受け得る。その結果、毛細管特性、輸送プロセス、及び境界条件の間の複雑かつ高度に動的な相互作用により、広範囲にわたる蒸発挙動が生じる。迅速な乾燥のための重要なパラメーターには次のものが含まれる:(1)蒸発表面での液体ネットワークの形成をサポートし維持する条件、及び(2)蒸発面に水を供給するのに十分な流れを誘発する毛細管圧力の形成を促進する特性。
【0114】
いくつかの態様では、前記多孔質材料を、隆起させ、かつ/または輪郭付け、または隆起及び/または輪郭付けた下層支持基質上に放置してもよく、その結果、該多孔質材料は、その上に置かれるかまたは押し付けられると同様の形状をとる。模様化された材料の輪郭及び/または隆起部は、表面積を増大させ、蒸着のための露出を増大させ得る。
【0115】
さらなる態様では、膜を配置または成形することによって、前記多孔質材料の表面積の増大を達成することができる。本明細書に記載されるように、輪郭のある壁を備えた乾燥チャンバーは、多孔質材料の表面積を増大させ得る。しかし、そうでなければ平坦な多孔質材料を成形すると、効率的な毛細管補助による蒸発のために、表面積をさらに改善することができる(例えば、
図6A及びBを参照)。
【0116】
いくつかの態様では、前記膜は、親水性である。mRNAは、水または水ベースの溶液に可溶性であってもよいことが理解されるであろう。場合によっては、前記mRNAは、本明細書に記載される脂質またはLNPまたは同様のベースの媒体の内部の溶液中にある。従って、水溶液をはじかない毛細管ネットワークを備えることが有益であり得る。また、mRNA組成物が乾燥する際に、mRNA組成物から排出された水を分離するための親水性毛細管システムを備えることも有益であり得る。mRNAもしくはmRNA組成物及び/またはガラス化培地からの水溶液の迅速かつ/または効率的な吸収により、再可溶化及び/または再吸収の機会が防止または低減され、ガラス化プロセスの全体が改善されることがさらに理解されるであろう。
【0117】
いくつかの態様では、前記毛細管ネットワークは、親水性材料からなる。他の態様では、前記毛細管ネットワークは、疎水性材料でできており、さらにプラズマ処理等によって本質的に親水性またはより親水性になるように処理されてもよい。
図9に示すように、元々疎水性だった膜を冷プラズマで処理して親水性を高めた。薬物製剤を膜上に懸濁すると、液体は、ほぼ球形の液滴を形成するが(左上)、親水性膜により、液体は、底部毛細管チャネルに流れ込む。ガラス化プロセス中、疎水性膜上の液滴は、最初に沸騰してから凍結するが、親水性膜上の液体は、速くガラス化し、一体化したガラス状を形成する。真空が解除されると、凍結した液滴は、再び液体に戻ったが、そのサイズは、部分的に水分が失われるまで縮小した。ガラス化に対する毛細管蒸発の有効性は、親水性膜で見られる均一なガラス化で明らかである。
ガラス化方法
【0118】
いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、ガラス化培地にコーティングされ、または浸漬され、支持基質上に放置され、本明細書に記載のガラス化の工程中に維持するための毛細管作用を提供する。特定の態様では、前記毛細管ネットワークは、前記ガラス化混合物の一部を吸収する一方で、流体の薄層が前記膜の上に残ることを可能にする。さらなる態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、前記ガラス化混合物の周囲の圧力が低下するとガラス化する。熱を加えると、mRNAまたはその組成物、またはガラス化培地の結晶化が防止され、一方、毛細管ネットワーク全体に熱勾配を加えると、沸騰が防止され、最終的にmRNA及び/またはその組成物の均一かつ完全なガラス化を可能にする。
【0119】
いくつかの態様では、本開示は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の少なくとも1種をガラス化するための方法に関する。該方法は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を調製することを含む。例えば、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物、及びガラス化培地のガラス化混合物は、固体支持基質上に放置されるか、またはそれと接触して放置される。いくつかの態様では、前記底部固体支持体は、底部毛細管ネットワークを提供するために、輪郭が付けられ、かつ/または隆起が付けられている。いくつかの態様では、前記底部支持体は、乾燥チャンバーの壁等、乾燥チャンバーの一部である。他の態様では、多孔質膜を前記ガラス化混合物と固体支持体の間に配置することができる。いくつかの態様では、前記近接した毛細管ネットワークは、前記ガラス化混合物を支持し、そこから流体を引き込む。前記毛細管ネットワーク及び/または多孔質材料は、該毛細管ネットワークの表面上に液体が存在すること及び/または液体が溜まることを避けるために、十分な厚さまたは量を有する。
【0120】
本開示のガラス化方法は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子、mRNAを含む脂質粒子、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を含有するガラス化混合物を乾燥チャンバー内に配置することをさらに含み、該乾燥チャンバーは、真空または内部の気圧を低下させるための他の手段に動作可能に接続されている。特定の態様では、前記ガラス化混合物は、該乾燥チャンバー内の多孔質または輪郭のある材料上の所定の位置に保持されている。いくつかの態様では、前記ガラス化混合物は、前記乾燥チャンバーの一部の上に放置され、その一部は、底部毛細管ネットワークを提供するように模様化及び/または輪郭付けされる。いくつかの態様では、固体支持基質、膜等の多孔質材料、及び前記ガラス化混合物は、前記乾燥チャンバー内に放置される。
【0121】
場合によっては、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を前記乾燥チャンバー内で、ガラス化培地でコーティング及び/または混合してもよい。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を、前記乾燥チャンバー内に放置する前に、ガラス化培地を用いて調製してもよい。
【0122】
組み立て後、本開示の方法は、前記ガラス化混合物の周囲の気圧を低下させること、ガラス化混合物に毛細管補助による蒸発を提供すること、及び/または前記ガラス化混合物またはその中に収納されている成分の沸騰または凍結を誘発することなく、該ガラス化混合物に熱エネルギーを加えることを含み得る。本明細書に記載されるように、前記の3つ全てを適用することにより、極低温を経験することを回避し、沸騰を回避しながら、迅速かつ均一なガラス化及びガラス化混合物の乾燥を提供することができる。それによって、処理中の前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはそのmRNAワクチン組成物へのあらゆる損傷を大幅に軽減し、再構成した後の前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の活性を大幅に改善する。
【0123】
いくつかの態様では、本開示の方法は、前記毛細管ネットワーク上の前記ガラス化混合物に低気圧を加えることに関する。いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物が凍結状態に陥るのを避けるために、熱をさらに提供しながら低圧が加えられる。本開示は、前記ガラス化混合物の均一かつ迅速なガラス化を達成するための、低気圧と熱エネルギーを組み合わせたガラス化プロセスに関する。いくつかの態様では、本開示は、減圧下で起こるガラス化混合物への熱エネルギーを加えることに関する。いくつかの態様では、前記ガラス化混合物の結晶化を防止するために、該ガラス化混合物に熱エネルギーが加えられる。
【0124】
前記ガラス化混合物が前記乾燥チャンバー内に放置されると、その中の気圧が低減される。いくつかの態様では、前記気圧は、前記ガラス化混合物またはその中の脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の三重点よりも高い点まで低減される。他の態様では、前記気圧は、水の三重点よりも高い点まで低減される。さらなる態様では、前記乾燥チャンバー内の圧力は、約0.04 atmまで低減される。
【0125】
いくつかの態様では、前記熱エネルギーは、ガラス化混合物が毛細管ネットワーク上でガラス化を受けるときに、該ガラス化混合物に加えられる。いくつかの態様では、底部毛細管ネットワークは、前記ガラス化混合物を沸騰から保護しながら、熱エネルギーを受けるガラス化混合物の均一かつ完全なガラス化を可能にすることができる。前記毛細管ネットワークは、毛細管の近接したネットワークであり得る。場合によっては、前記毛細管ネットワークは、膜等の底部多孔質材料、または底部輪郭をつけられたまたは隆起した表面によって提供することができ、ここで、そのトラフ及びピークが、ガラス化中に液体のガラス化混合物を毛細管作用にさらすのに十分なベッドを提供する。
【0126】
図2Aは、本開示のガラス化プロセスの例示的な態様の概要である。従来のガラス化は、経路1-2-3で実証されており、そこでは、液体(生物学的物質またはその他の物質を含む)をガラス転移点以下まで急速に冷却し、凍結ゾーンを回避する。材料の総質量は、プロセスを通じて保たれる。大量の材料の極低温ガラス化は、熱伝達の制限により困難な場合があるため、一般に、大きな表面積/容積比が得られるバイアル中で実行される。材料のガラス化は、経路1-5-6に見られるように、乾燥 (結晶化プロセスを回避) によっても達成できる。この態様では、大幅な質量損失(主に水)が発生する。生物材料に対する従来の脱水アプローチは、基質上に固着液滴を確立し、低湿度の筐体内で蒸発乾燥させることに中心を置いていた。このプロセスは、遅いペースと不均一な乾燥によって特徴付けられる。液体と蒸気中の生物学的物質が乾燥すると、液体と蒸気の間の界面にガラス質の表皮が形成される。ガラス質の表皮の形成は遅くなり、最終的にはガラス化混合物のさらなる乾燥を防ぎ、それによってガラス化混合物を一定レベルの乾燥のみに制限し、試料全体にわたる水分含有量の空間的不均一性が顕著になる。その結果、一部の領域はガラス化されないが、高い分子移動度が維持されるため分解することになる。乾燥速度は、容積に対する表面積の比が大きいことにより、特に減圧下で促進される。
【0127】
いくつかの態様では、本開示は、ガラス化混合物の所望の温度を維持すること及び低圧がほぼ極低温と乾燥とのハイブリッドを提供することを含む、
図2Aの経路1-4-6に関する。しかし、圧力が低くなると、沸点は低下する。
図2Bに示すように、水の三重点よりも高い低圧を維持することにより、ガラス化混合物のガラス化のための凍結と沸騰との間の温度ウィンドウを提供することができる。本開示のいくつかの態様では、適用される温度は、低い適用圧力においてガラス化混合物の極低温点よりも高い温度を維持する。
図2及び
図4にさらに示されているように、適用された低気圧による温度の低下により、ガラス化混合物の温度が、沸騰することなくガラス転移温度未満に低下し、ガラス化混合物全体にわたって均一なガラス化が実現する。
【0128】
図4Aは、連続した毛細管チャネルの膜の導入等により、毛細管蒸発を促進するために毛細管ネットワークの多孔質材料を配置することによって、真空下で大量の液体の迅速な乾燥がどのように便利に達成できるかを示す。しかし、液体が毛細管膜の表面に蓄積すると、蓄積した液体内で沸騰が依然として発生する可能性があり、これは本明細書で説明するように望ましくない可能性がある。表面とバルク液体の間に温度勾配が存在するため、
図4E及び4Fに示すように、毛細管蒸発が可能になり、迅速な蒸発が達成される。
【0129】
従って、本開示のいくつかの態様では、ガラス化混合物中に存在する流体の容積は、流体が表面に溢れたり溜まったりすることなく毛細管ネットワークを満たすことができるように設定することができる。
【0130】
図5は、底部固体支持体としての金網とその上の多孔質材料としてのガラス膜から37℃の熱を加えて得られた結果を示す。
図5は、膜と容積のサイズと、液体負荷を一定に維持した場合の圧力低下後の試料温度の回復速度との比較を示す。
図5に示すように、全ての場合において、真空の適用によりガラス化混合物の温度は急速に低下するが、開始温度に戻ると観察されるように、膜が小さいほど完全なガラス化がより速く行われた。さらに
図5を参照すると、ガラス化が完了すると試料温度が安定することが分かる。
【0131】
いくつかの態様では、本開示の方法は、ガラス化混合物の毛細管補助による蒸発を提供することを含む。いくつかの態様では、輪郭付き及び/または隆起した支持体によって、または多孔質膜によって提供される底部毛細管ネットワークは、蒸発を促進させるために必要な特徴を提供することになる。
【0132】
いくつかの態様では、本開示の方法は、乾燥時間にわたって実行され得る。乾燥時間は、ガラス化培地をガラス化するために適切な乾燥を促進するのに十分な時間である。乾燥時間は、任意選択で、約1秒間~約1時間であり、任意選択で、約10秒間、30秒間、1分間、5分間、10分間、20分間、25分間、30分間、35分間、40分間、45分間、50分間、55分間を含むが、これらを超えない。任意選択で、乾燥時間は約1秒間~約30分間であり、任意選択で約5秒間~約10分間である。
【0133】
ガラス化された組成物
いくつかの態様では、本開示は、ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物に関する。前記ガラス化mRNAワクチン組成物は、脂質ナノ粒子(LNP)または脂質様ナノ粒子に被包された少なくとも1つの一本鎖mRNA分子を含み得る。いくつかの態様では、前記ガラス化mRNAワクチン組成物は、安定性を提供するために、LNPもしくはLLNにおけるmRNAの周囲もしくは近く、及び/またはLNPもしくはLLNの周囲等に、ガラス化培地をさらに含むことができる。前記LNP及び/またはLLNは、任意選択で、コレステロール、PEG及び/またはDOTAP、DOPE、DOPC等のヘルパー脂質を含むイオン化可能な脂質を含み得る。いくつかの態様では、前記ガラス化mRNA組成物は、ガラス化または乾燥したガラス化培地を介して、膜等の毛細管ネットワークに固定され得る。
貯蔵
【0134】
特定の態様では、本開示は、前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の取り扱い及び貯蔵に関する。利用される全ての材料と同様に、ガラス化プロセス中及びその後の取り扱い、貯蔵、または再構成の工程の両方で、ガラス化された組成物が RNAseを含む分解酵素の潜在的な供給源にさらされないよう注意を払うことができる。
【0135】
前記ガラス化工程の後、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、前記毛細管膜上のガラス化培地中で、脱水状態で効果的に貯蔵されるであろう。ガラス化された分子は、その上に留まり、密閉された環境に移動することができる。前記ガラス化混合物が乾燥チャンバー内にある態様では、前記毛細管ネットワークまたは乾燥チャンバー自体を密閉または閉鎖環境に移動して、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を湿気及び分解酵素への曝露から保護することができる。
【0136】
いくつかの態様では、その後、前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を任意の所望の温度で貯蔵することができる。前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は脱水状態にあるため、この時点で亜極低温にさらしても、分子が脱水されガラス化した状態であるため、分子が結晶構造に再配列する能力が無効になる。このため、ガラス化前に予想されるような結晶化は起こらない。従って、前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、約-80℃~約-20℃から約-5℃~約0℃で貯蔵することができる。
【0137】
前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の貯蔵は、構造的完全性及び活性を維持するため、氷点または氷点下の温度で行う必要はない。本明細書で実証されるように、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、構造的完全性または機能的活性(例えば、mRNAの翻訳)を著しく損なうことなく、室温(例えば、約20~約34℃)で、少なくとも数ヶ月に及ぶ期間で貯蔵することができる。前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物はまた、約50、55、または60℃までの高温で、数週間及び数ヶ月を含む長期間で貯蔵することもできる。
【0138】
他の態様では、前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、機能的活性を維持するために、氷点下から40℃以上(最大60℃以上を含む)までの季節変動に耐える等、一定またはほぼ一定の温度で貯蔵する必要はない。
【0139】
当業者であれば、高湿度、特に高温の重大な環境への曝露を改善または意図的に防止することにより、貯蔵を延長できることが理解するであろう。前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA 組成物、または mRNA ワクチン組成物はガラス化状態にあるため、湿気への曝露を防止することで、機能的活性の損失を心配することなく、再構成の能力を延長及び維持できる。前記ガラス化された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物が周囲大気から水を吸収できるようになればなるほど、活性または構造維持の低下がより早く起こることが予想される。
【0140】
いくつかの態様では、周囲大気からの水分吸収の防止に役立つため、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の貯蔵は、密封及び/または乾燥剤を含めることを含むことができる。いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、極低温を超える温度で2~20日間貯蔵されている間も生存を維持し得る。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、極低温を超える温度で10週間貯蔵されている間も生存を維持し得る。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、極低温を超える温度で最長1年間貯蔵されても生存を維持し得る。他の態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、極低温を超える温度で最長10年間貯蔵されても生存を維持し得る。
【0141】
再構成
いくつかの態様では、本開示は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の分子及び組成物を、本明細書に開示されるように再構成及び/または精製することを含み得る。いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、水または塩及び/または緩衝された水溶液等の水溶液、あるいは脂質ナノ粒子、コレステロール等を形成するための脂質等の被包組成物を含む溶液で再構成することによって精製することができる。再構成された材料の精製は、必要に応じて、ポリ(T)またはポリ(U)結合樹脂を使用してmRNAを結合し、その後、高塩及び/または高pHで変性溶出する等のクロマトグラフィー法を含み得る。
【0142】
いくつかの態様では、本開示は、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物を前記毛細管ネットワークまたは膜から溶出することに関する。ガラス化された材料が水を再吸収して天然状態に戻れるように、溶出は、滅菌水または精製水、滅菌/精製生理食塩水または緩衝剤、または水性培地を用いた再水和によって達成される。いくつかの態様では、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物の再構成により、それらが再構成培地に存在することになり、そこから底部毛細管系を除去または単離することができる。
【0143】
いくつかの態様では、本開示は、前記再構成された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA組成、mRNAまたはmRNAワクチン組成物をワクチン組成物等のさらなる組成物に添加すること、または被験者への投与を補助するためにそこに媒体を添加することに関する。本開示は一部、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物のガラス化に関するが、前記脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物をガラス化し、再構成後、被験者への投与等のために組成物を完成させるために必要なさらなる成分を添加することは、さらなる態様である。このような後の工程は、本明細書に記載の組成物中にmRNAを被包すること、及び/または免疫賦活剤等の追加の媒体を添加することを含み得る。例えば、mRNAを再構成し、次いで脂質またはLNPの成分と混合して、再構成されたmRNAの被包を可能にすることができる。
【0144】
再構成された脂質粒子、1つ以上のカーゴ分子を収納する脂質粒子、mRNA、mRNA組成物、またはmRNAワクチン組成物は、外因性標的に対する免疫応答を誘導するために、被験者に全身的または局所的に投与してもよい。本明細書で使用される「被験者」は、動物、任意選択で、ヒト、非ヒト霊長類、ウマ、ウシ、ネズミ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、または他の哺乳動物である。任意選択で、被験者は、ヒトである。ガラス化されたmRNAは、投与前に、任意選択で投与の直前に、任意選択で投与時点または実質的にその近くのシリンジまたは他の投与装置内で再構成されてもよい。投与は、経口、注射、鼻、膣、口腔、または他の所望の投与経路であってもよい。任意選択で、再構成されたmRNAは、注射、任意選択で、筋肉内注射、皮内注射、皮下注射、腹腔内注射、または静脈内注射によって投与されてもよい。
【0145】
本開示の様々な態様を以下の非限定的な実施例によって説明する。これらの実施例は、説明を目的としたものであり、本発明の実施を限定するものではない。理解されるように、本発明の主旨及び範囲から逸脱することなく、変形したりまたは改変したりすることができる。
【実施例】
【0146】
mRNAの量と活性を調べる目的で、5'キャップ1構造と3'末端のポリ(a)尾部を持つ緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするmRNA(Aldevron(Madison WI)からのDasher GFP)を得た。細胞または組織におけるmRNA送達と発現を容易に追跡及び分析するために、明るい蛍光を発する26.6 kDaの発現タンパク質を提供する該GFPを選択した。
【0147】
ガラス化プロセスがmRNAの量とmRNAの活性の両方にどのような影響を与えるかを判断するために、次の可変要素及び対照を確立してアッセイした。
新鮮なmRNA
mRNAなし/媒体のみ
-20℃で貯蔵された、ガラス化されたmRNA
-20℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNA
28℃で貯蔵された、ガラス化されたmRNA
28℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNA
55℃で貯蔵された、ガラス化されたmRNA
55℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNA
全ての場合において、3、7、及び14日間貯蔵した後に、特定された条件(該当する場合)でmRNAを検査した。RNAを260/280 nmでの分光光度法によって定量した。相対蛍光単位をアッセイすることで、活性を視覚的に及び定量的に測定した。GFP活性については、収集/調製後にCHO-K1細胞を遺伝子導入し、発現のために24時間放置した。
図9は、評価された貯蔵条件と時間条件の概要及び比較と検証の目的で含まれる様々な制御を示している。
【0148】
各評価日の1日前に、細胞を準備し、樹立させた。40,000個のチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を96ウェルの平坦かつ透明な底の組織培養物にウェルごとにプレーティングし、2~4℃で貯蔵した。
【0149】
これらの試料について、十分な量のmRNAを検出できるようにし、同時に下限量が適切に回収できるかどうかをさらに評価するために、3マイクログラム(μg)のmRNAを使用した。
【0150】
ガラス化プロセスについて、前記mRNAを、予め0.2 μm PES膜フィルターを通して滅菌した2xガラス化培地(0.454グラム(g)トレハロース、0.023 gグリセロール及び724 μL PBS)と1:1の比率で混合した。該ガラス化混合物を、金網を中に入れて蓋をしたペトリ皿中、ポリエーテルスルホン(PES)ディスク膜上で、無菌条件下で30分間ガラス化させた。
【0151】
貯蔵について、ガラス化した後、乾燥剤の入ったホイルパウチに組織カセットを挿入し、真空密封した。
【0152】
ガラス化されていない試料について、ストックmRNAを微量遠心管に分注し、ホイルパウチに入れて真空密封した。
【0153】
ガラス化されたグループ及びガラス化されていないグループのいずれを、異なる貯蔵条件(-20、28、及び55℃)のグループに分け、0、1、3、7、及び14日目に試料を採取できるようにした。
【0154】
前記ガラス化された試料の再構成について、50 μLのFluorobrite DMEMを前記mRNAに、最大濃度が60 ng/μLになるように添加した。
【0155】
次に、ガラス化された試料とガラス化されていない試料、ならびに製造業者の取扱説明書に従って調製された新鮮なmRNA試料中のmRNA濃度を測定した。次に、該mRNAをそれぞれで正規化し、等量のmRNAの形質導入を提供した。
【0156】
mRNAの形質導入については、製造業者(Lipofectamine Messenger MAX- ThermoFisher)に従ったプロトコルに従って実施した。簡単に説明すると、3.75 μLの培地とインキュベートした1.25 μgのmRNA及び1.25 μLのLiopfectamim Messenger MAXを3.75 μLの培地でインキュベートし、次にこの2つを合わせてインキュベートした。次に、CHO細胞のウェルあたり10 μLのmRNA-リポフェクタミン混合物を添加した。形質導入の1日後に、495 nmで励起し、525 nmで検出するプレートリーダーを用いて、これらの細胞を評価した。次に、GFP(緑色)チャンネルを用いて、これらの細胞を画像化した。
【0157】
各時点について、参照時点の前日に細胞をプレーティングし、細胞への形質導入の翌日に蛍光アッセイを行った。例えば、0日目については、-1日目に細胞をプレーティングし、1日目に蛍光を評価した。ホイルパウチに密封した直後にmRNAを再構成した。1日目については、0日目に細胞をプレーティングし、2日目に蛍光アッセイを行った。3日目については、2日目に細胞をプレーティングし、4日目に蛍光アッセイを行った。7日目については、6日目に細胞をプレーティングし、8日目に蛍光アッセイを行った。14日目については、13日目に細胞をプレーティングし、15日目に蛍光アッセイを行った。
【0158】
0日目の結果:
【0159】
再構成の直後に、標準的な260/280 UVプロトコルを使用して、ガラス化されたmRNAの濃度を測定した。表1は、得られたmRNAの濃度(50 μLに再構成された3 μgに基づいて、60 ng/μLと予想される)を示している。
【0160】
【0161】
蛍光を使用して得られた結果は、示されていない。
【0162】
3日目の結果:
【0163】
再構成の直後に、標準的な260/280 UVプロトコルを使用して、ガラス化されたmRNAの濃度を測定した。
図10は、得られたmRNAの濃度(50 μLに再構成された3 μgに基づいて、60 ng/μLと予想される)を示している。
図11は、得られた蛍光を示している。また、
図12は、捉えた蛍光観察の画像を示している。どちらも、ガラス化されたmRNAが、55℃で3日間貯蔵した後でも、CHO細胞への形質導入後に、優れた濃度の回収と機能的活性を示したことを示している。
【0164】
7日目の結果:
【0165】
再構成の直後に、mRNAの濃度を取得し(
図13)、前日にプレーティングしたCHO細胞に形質導入した。24時間のインキュベーションした後、蛍光をアッセイした(
図14)。55℃で貯蔵した場合でも、良好なmRNAが回収され、優れたin vitro 活性が示された。一方、ガラス化されていないmRNAは、-20℃でさえも収量が低く、蛍光も不十分であった。
【0166】
14日目の結果:
【0167】
1日目に、
図15に示すようにmRNAの濃度が得られた。明らかに、ガラス化された場合では、全ての貯蔵温度で優れたmRNAの回収が示された。一方、本明細書に提供されるプロセスによるガラス化が行われていない場合では、mRNAは急速に分解した。機能的活性についても同様の結果が観察された。ガラス化により、55℃で14日間貯蔵した後でも、mRNAの機能的翻訳活性が保たれた。
mRNAワクチンの安定性
【0168】
目的の抗原をコードするmRNAは、イオン化可能な脂質、任意選択でmRNAを被包するためのコレステロール、PEG及びヘルパー脂質、またはLipofectamine Messenger MAX (Invitrogen)とともにインキュベートし、次いで、ガラス化培地とともにインキュベートし、PES膜上に放置することができる。この膜を金網上のペトリ皿に放置し、熱を与え、または熱勾配を可能にするため、膜が注射器の壁に直接に置かれないように支持足場を備えた注射器(円筒状支持体として)の中に丸めて入れた(
図7A及び7Bを参照)。次に、この注射器を加熱ブロック内に放置し、またはその中の加熱要素を下げた。
【0169】
次いで、mRNA-LNP組成物が凍結しないようにPES膜上のガラス化混合物に約55℃の熱を加えながら、該システムの圧力を約0.04 atmに下げた。
図5は、真空を適用した場合の最初の低下からの予想される温度の回復を示している。mRNA-LNPの温度が安定すると、ガラス化が完了する。次いで、ガラス化されたmRNA-LNPを、任意選択で、その中に乾燥剤を入れた無菌容器内に密封することができる。密封されたガラス化製品は、任意選択で、室温で貯蔵することができる。mRNA-LNPは、再構成されるとほとんど分解されず、in vivoで投与された場合に良好な抗原提示を示すことが期待できる。
【0170】
Lipofectamine Messenger MAX(Invitrogen)に被包されたmRNAのガラス化/再構成のmRNA回収結果は、
図17に示している。28℃での貯蔵でも優れたmRNA回収率が達成されるが、ガラス化していない場合、全てのmRNAが分解される。
図18に示すように、ガラス化され、かつあらゆる温度で貯蔵された、Lipofectamine Messenger MAX(Invitrogen)に被包されたmRNAは、細胞の遺伝子導入後のGFP発現能力における機能的活性を維持した。
【0171】
ガラス化プロセスからmRNA試料を回収する能力をさらに評価するために、少量の、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするmRNA を利用した。ガラス化プロセスでは、まず、8 μmのPES 膜(毛細管基質)を直径1/4インチのサイズに切断し、オートクレーブにかけた。PBS中に1200 mM(または 454 mg/mL)トレハロースと 22.7 mg/mLグリセロールを含む2Xガラス化培地(VM)を調製し、その後、等量のmRNA(Dasher GFP mRNA、3870FS Aldevron)ストックと混合した。該混合物を5分間インキュベートした後、その6 μLを各ガラス化毛細管基質にピペッティングした。該溶液をピペットで膜上に移した後、試料をポリマー蓋で覆い、前記ガラス化チャンバーに負荷した。各ガラス化された試料について、ガラス化前に合計6 μLが膜に負荷され、その中に3 μgのmRNAを含むネイキッドmRNAストックが 3 μL含まれていた。
【0172】
ガラス化後、試料をマイラーパウチに密封し、試験まで55℃で貯蔵した。
【0173】
55℃でのガラス化貯蔵から100日後、前記試料を50 μLのFluorobrite培地で再構成し、簡単にボルテックスしてmRNAを放出した。次に、BioTek Synergy H1マイクロプレートリーダー上のTake3プレートを用いてmRNAを定量した。得られた定量結果を表2に示している。
表2
【0174】
次に、前記mRNAの分量を遺伝子導入またはアガロースゲルでの視覚化に使用した。
【0175】
アガロースゲルについて、3 μLの色素及び5 μLの水とともに3 μLのMillennium
TM RNA マーカー(AM7150)のラダーを1.2%アガロースゲルの最初のレーンで使用した。陽性対照として、mRNAストックを3つの陽性対照で125 ng/μLに希釈し、mRNAストックを125 ng/μLに希釈した。そして、該希釈ストック1 μLを3 μLの色素及び5 μLの水と混合した。ガラス化された試料について、125 ngの再構成されたmRNAを3 μLの色素及び5 μLの水と混合した。ゲルを85Vで1時間実行した後、ゲルをBioRadトランスイルミネーターのシェーカーリード上で30分間SYBR Green IIで染色した。
図19Aは、捉えたゲルの画像を示している。そこで、レーン2及び3は、-80℃で貯蔵された新鮮なmRNAであり、レーン4及び4は、再構成された、ガラス化されたmRNAであり、レーン5及び6は、55℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNAである。
【0176】
遺伝子導入では、陽性対照のリポフェクタミン (Lipofectamine
TM MessengerMAX
TM Transfection Reagent、Lipofectamine
TM MessengerMAX
TM Transfection Reagent) 4 μLを培地16 μLに添加し、10分間インキュベートした。別のチューブで、1 μLのmRNA(新鮮な試料)を培地19 μLに添加し、10分間インキュベートした。次いで、この2つの溶液を混合し、さらに5分間インキュベートした後、0.9×106細胞/mLのCHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞を播種した10 μLの細胞プレートに移した。陰性対照及びガラス化された試料については、定量後、mRNAの量を1 μgのmRNAを製作するのに必要な量に正規化し、10分間のインキュベーション後にリポフェクタミンに添加した。
図19Bは、GFP発現の収集された画像を示している。そこで、上のパネルは、新鮮なmRNAの陽性対照であり、中央のパネルは、55℃で貯蔵された、ガラス化されていないmRNAの陰性対照であり、下のパネルは、再構成されたmRNAである。
図19Cは、陽性対照で得られた遺伝子導入効率に対する得られた遺伝子導入効率の割合を示している。
【0177】
PES膜上でガラス化され、55℃で100日間貯蔵されたmRNAは、-80℃で貯蔵された新鮮な液体mRNAと同様のmRNAの完全性、純度、及び安定性を維持する。
被包されたRNA
【0178】
次に、担体と被包された核酸の両方が、本明細書に記載のガラス化プロセスから再構成されたときにどのように機能するかについて評価した。レンチウイルスのガラス化は、脂質、炭水化物、タンパク質を含む被包膜を提供し、また、各ウイルス粒子内に被包された核酸を提供するため、選択した。
【0179】
レンチウイルス(Lenti-ORF 対照粒子(pLenti-C-mGFP)、Origene、Cat PS100071V5I)を使用直前に調製した。フィルターと貯蔵温度の潜在的な影響に対処した。レンチウイルスに使用されるMOI(感染多重度)は、4であり、25,000個の播種細胞/ウェルの場合、1ウェルあたり10 μLのウイルスストックが必要である。レンチウイルスを、1200 mMトレハロース及び10% w/vグリセロールのガラス化培地と等量(10 μL及び10 μL)で混合し、各試料を調製した。各試料からの分量(10 μL)を、室温で24時間水洗したPES膜(10 mm)、または滅菌水とPBSTで洗浄したネイキッドフィルター(10 mm)のいずれかに提供した。前記PES膜は、PESを切断し(直径10 mm)、室温で24時間水洗し、37℃で1時間乾燥し、その後オートクレーブ処理することによって調製した。前記ネイキッドフィルターは、ネイキッドフィルターを切断し(直径10 mm)、室温で10分間水洗し、次に室温で0.05% PBSTで10分間洗浄し、37℃で1時間乾燥し、その後オートクレーブ処理することによって調製した。
【0180】
ガラス化は、ヒートベッド温度を37℃に設定して30分間行った。ガラス化後、24℃または37℃で 1、2、及び 3週間貯蔵した。レンチウイルスのみの陰性対照は、24℃または37℃の両方で 1、2、及び 3週間貯蔵した。同様に、ガラス化培地中のレンチウイルス(ガラス化されていない)の陰性対照も、24℃または37℃の両方で 1、2、及び 3週間貯蔵した。
【0181】
形質導入のために、1日前に25,000個の細胞(HEK 293)を、底が透明かつ平坦なアッセイプレートを備えた96ウェルCostar black に播種した。導入当日、細胞の培養密度を顕微鏡で確認した(70%以上)。陽性対照として、30 μLのレンチウイルスを570 μLのC-EMEMと混合し、その200 μLを各ウェルに添加した。ガラス化された試料について、2つのガラス化された試料を275 μLのC-EMEM で溶出し、溶出した溶液をウェル内で細胞に形質導入した。陰性対照のみの場合、30 μLのレンチウイルスを570 μLのC-EMEMと混合し、次に200 μLの陰性対照溶液を各ウェルに添加し、細胞に形質導入した。ガラス化培地を用いた陰性対照として、レンチウイルス30 μL+ガラス化培地30 μLを540 μLのC-EMEMに添加し、その後陰性対照溶液200 μLを各ウェルに添加し、細胞に形質導入した。プレートを37℃で72時間インキュベートした。インキュベーション後、蛍光顕微鏡を用いて形質導入後の写真を撮影し、プレートリーダーでGFP発現を測定した。
【0182】
図20は、レンチウイルスのみ及び裸またはPESフィルター上でのガラス化直後のGFP発現の画像(
図20A)及び形質導入の割合(
図20B)の両方を示している。ネイキッドフィルターまたはPES膜上でのガラス化後のGFP発現は、新鮮な液体レンチウイルス対照と同等の細胞形質導入効率(蛍光強度に基づく)を示した。ガラス化直後に細胞に形質導入した場合、ガラス化されたレンチウイルスは、使用した足場(ネイキッドフィルターまたはPES)に関係なく、-80℃で貯蔵した液体レンチウイルスと同様に機能し、ガラス化プロセスが粒子に損傷を与えなかったことを示している。
【0183】
図21は、24℃での貯蔵後、1、2、及び3週間におけるGFP発現を示している。
図22は、24℃で2週間(
図22A)及び3週間(
図22B)貯蔵した後の液体レンチウイルス陽性対照に対してそれぞれ測定及び設定された蛍光強度に基づく形質導入効率の割合を示している。ガラス化されたレンチウイルスは、使用した足場(ネイキッドフィルターまたはPES)に関係なく、24℃で3週間貯蔵したにもかかわらず、3つの測定値全てでその機能的活性を維持した。一方、陰性対照では機能の大幅な低下が示された。
【0184】
同様に、
図23は、37℃での貯蔵後、1、2、及び3週間におけるGFP発現を示している。
図24は、37℃で2週間(
図24A)及び3週間(
図24B)貯蔵した後の液体レンチウイルス陽性対照に対してそれぞれ測定及び設定された蛍光強度に基づく形質導入効率の割合を示している。ガラス化されたレンチウイルスは、使用した足場(ネイキッドフィルターまたはPES)に関係なく、37℃で3週間貯蔵したにもかかわらず、3つの測定値全てでその機能的活性を維持した。一方、陰性対照では機能の大幅な低下が示された。
【さらなる実施例】
【0185】
本開示の第1の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、極低温を超える温度での1つ以上の粒子のガラス化のためのプロセスに関し、該プロセスは、a) 粒子及びガラス化培地を含むガラス化混合物を、毛細管ネットワークを含むまたは形成する基質の中または上に放置し、そして、前記基質を乾燥チャンバー内に放置すること;b) 前記乾燥チャンバー内の気圧を低減させること;c) 前記ガラス化混合物が凍結状態に陥るのを防止するのに十分な熱エネルギーを前記脂質粒子に提供すること;及びd) 毛細管現象により前記ガラス化混合物をガラス状態になるまで乾燥させることを含む。
【0186】
本開示の第2の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子がポリヌクレオチドを含む、第1の態様のプロセスに関する。
【0187】
本開示の第3の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチドがmRNAを含み、前記mRNAが前記粒子内に被包される、第2の態様のプロセスに関する。
【0188】
本開示の第4の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子がウイルスキャプシド、ウイルスエンベロープ、またはそれらの一部を含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0189】
本開示の第5の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子が細胞透過性ペプチドまたは担体タンパク質をさらに含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0190】
本開示の第6の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記細胞透過性ペプチドまたは担体タンパク質が前記ポリヌクレオチドに結合される、第5の態様のプロセスに関する。
【0191】
本開示の第7の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチドが陽イオン性の脂質及び/またはイオン化可能な脂質からなる脂質膜によって被包される、第2または第3の態様のプロセスに関する。
【0192】
本開示の第8の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが前記基質の表面に沿った輪郭によって提供される、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0193】
本開示の第9の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記基質が前記乾燥チャンバーの壁であるか、または前記乾燥チャンバーの壁と関連付けられる、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0194】
本開示の第10の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記乾燥チャンバー内の毛細管ネットワークが底部固体支持基質によって支持される、第1~3の態様のいずれかのプロセスに関する。
【0195】
本開示の第11の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物のガラス化が30分間未満で起こる、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0196】
本開示の第12の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化混合物のガラス化が10分間未満で起こる、第11の態様のプロセスに関する。
【0197】
本開示の第13の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記熱エネルギーが前記ガラス化混合物を加熱することによって提供される、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0198】
本開示の第14の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記気圧が約0.9 atm~約0.005 atmの値まで低減される、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0199】
本開示の第15の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記気圧が約0.004 atmまで低減される、第14の態様のプロセスに関する。
【0200】
本開示の第16の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記提供される熱エネルギーがガラス化中に前記ガラス化混合物内の結晶化を防止するのに十分である、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0201】
本開示の第17の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記提供される熱エネルギーが前記ガラス化中に生体試料を約0℃~約40℃の温度に維持するのに十分である、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0202】
本開示の第18の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化培地が二糖類、任意選択でトレハロース、グリセロール、ベチン、及び/またはコリンを含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0203】
本開示の第19の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが親水性である、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0204】
本開示の第20の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記毛細管ネットワークが近接した毛細管チャネルを含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0205】
本開示の第21の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子組成物がガラス化後に60℃以下の温度で少なくとも3週間貯蔵される、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0206】
本開示の第22の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子が水性培地の中で再構成され、工程a)前の粒子またはその内容物と同等またはほぼ同等の活性を維持する、第21の態様のプロセスに関する。
【0207】
本開示の第23の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化培地が細胞培地の中に懸濁されたトレハロース及びグリセロールを含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0208】
本開示の第24の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化培地が前記細胞培地の中に500~1500 mMのトレハロース及び5~20 w/v%のグリセロールを含む、第23の態様のプロセスに関する。
【0209】
本開示の第25の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、工程d)の後に前記毛細管ネットワークを暗所に放置することをさらに含む、第1~3の態様のいずれか1つのプロセスに関する。
【0210】
本開示の第26の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記暗所が相対湿度(RH) 5%未満の大気で維持される、第25の態様のプロセスに関する。
【0211】
本開示の第27の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記暗所がRH 2%以下に維持される、第26の態様のプロセスに関する。
【0212】
本開示の第28の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、被験者における免疫応答を誘導するための方法に関し、該方法は、a)前記毛細管ネットワークの上で前記ガラス化混合物に一定量の溶液を提供して溶出されたガラス化混合物を得ることで、第1~27の態様のいずれか1つから得られたガラス化混合物を再構成すること;b)前記毛細管ネットワークから前記溶出されたガラス化混合物を得ること;及びc)該溶出されたガラス化混合物を前記被験者に投与することを含む。
【0213】
本開示の第29の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子が弱毒化されたウイルスを含む、第28の態様の方法に関する。
【0214】
本開示の第30の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子がポリヌクレオチド、任意選択で、ウイルスタンパク質の少なくとも一部をコードするmRNAを含む、第28の態様の方法に関する。
【0215】
本開示の第31の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチドが細胞透過性ペプチドに結合される、第30の態様の方法に関する。
【0216】
本開示の第32の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチドが脂質膜によって被包される、第31の態様の方法に関する。
【0217】
本開示の第33の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記脂質膜が陽イオン性の脂質を含む、第31の態様の方法に関する。
【0218】
本開示の第34の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記脂質膜がイオン化可能な脂質を含む、第31の態様の方法に関する。
【0219】
本開示の第35の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、粒子中に被包されたポリヌクレオチド分子及び脱水されたガラス化培地を含む、ガラス化されたポリヌクレオチド組成物に関する。
【0220】
本開示の第36の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記組成物が前記ポリヌクレオチド分子を凍結させることなくガラス化される、第35の態様のガラス化されたワクチン組成物に関する。
【0221】
本開示の第37の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子が弱毒化されたウイルスを含む、第35の態様のガラス化されたワクチン組成物に関する。
【0222】
本開示の第38の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチド分子がウイルスタンパク質の少なくとも一部をコードするmRNAを含む、第35~37の態様のいずれか1つのガラス化されたワクチン組成物に関する。
【0223】
本開示の第39の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ポリヌクレオチド分子が細胞透過性ペプチドに結合される、第35~37の態様のいずれか1つのガラス化されたワクチン組成物に関する。
【0224】
本開示の第40の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記粒子が陽イオン性の脂質を含む、第35~37の態様のいずれか1つのガラス化されたワクチン組成物に関する。
【0225】
本開示の第41の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、第1~27の態様のいずれか1つによって調製された、ガラス化された混合物を含む、被験者における免疫応答を提供するためのキットに関する。
【0226】
本開示の第42の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化された混合物が暗色の乾燥容器内に貯蔵される、第41の態様のキットに関する。
【0227】
本開示の第43の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、前記ガラス化された混合物を再構成するのに適し、かつ被験者への投与に適する無菌溶媒をさらに含む、第41の態様のキットに関する。
【0228】
本開示の第44の態様は、単独でまたは本明細書の任意の他の態様と組み合わせて、バイアルをさらに含む、第41~43の態様のいずれか1つのキットに関する。
【0229】
本明細書に図示し説明したものに加えて、本開示の様々な改変は、当業者には明らかであろう。このような改変は、添付の請求項の範囲にも含まれることが意図されている。
【0230】
理解されるように、全ての試薬は、特に明記しない限り、当技術分野で知られている供給元から入手可能である。
【0231】
また理解されるべきこととして、特定の構成要素及び/または条件は当然変化し得るため、本開示は、本明細書に記載される特定の態様及び方法に限定されない。さらに、本明細書で使用される用語は、本開示の特定の態様を説明する目的でのみ使用され、決して限定することを意図したものではない。また理解されるべきこととして、用語「第1」、「第2」、及び「第3」等は、本明細書では様々な要素、成分、領域、層、及び/またはセクションを説明するために使用され得るが、これらの要素、成分、領域、層、及び/またはセクションは、これらの用語によって制限されるべきではない。これらの用語は、1つの要素、成分、領域、層、またはセクションを別の要素、成分、領域、層、またはセクションから区別するためにのみ使用される。従って、以下で論じる「第1の要素」、「成分」、「領域」、「層」、または「セクション」は、本明細書の教示から逸脱することなく、第2の(または他の)要素、成分、領域、層、またはセクションと称することができる。同様に、本明細書で使用される単数形「1つの」及び「この」は、内容に明示されない限り、「少なくとも1つ」を含む複数形を含むことを意図している。「または」は、「及び/または」を意味する。本明細書で使用される場合、「及び/または」という用語には、関連する列挙された項目の1つ以上のあらゆる組み合わせが含まれる。さらに理解されるべきこととして、本明細書で使用される用語「含む」及び/または「含んでいる」、または「包含する」及び/または「包含している」は、記載された特徴、領域、整数、工程、演算、要素、及び/または構成要素の存在を指定するが、1つ以上の他の特徴、領域、整数、工程、操作、要素、成分、及び/またはそれらのグループの存在または追加を排除するものではない。「またはそれらの組み合わせ」という用語は、前述の要素の少なくとも1つを含む組み合わせを意味する。
【0232】
別段の定義がない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、本開示が属する当業者によって一般に理解されるのと同様の意味を有する。さらに理解されるべきこととして、一般に使用される辞書で定義されているような用語は、関連技術及び本開示の文脈におけるそれらの意味と一致する意味を有するものとして解釈されるべきであり、また、本明細書で明示的に定義しない限り、それらは理想化された意味または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
【0233】
本開示の例示的な組成物、態様及び方法を詳細に参照するが、これらは発明者らに現在知られている本開示を実施する最良のモードを構成する。前記図面は、必ずしも正確な縮尺ではない。しかし、開示された態様は、様々な代替形態で具体化され得る本開示の単なる例示にすぎないことを理解されたい。従って、本明細書に開示される特定の詳細は、限定するものとして解釈されるべきではなく、単に本開示の任意の態様の代表的な基礎として、及び/または当業者に本開示を多様に利用することを教示するための代表的な基礎として解釈されるべきである。
【0234】
本明細書で言及される特許、刊行物、及び出願は、本開示が関係する当業者のレベルを示すものである。これらの特許、刊行物、及び出願は、個々の特許、刊行物、または出願が具体的かつ個別に参照により本明細書に組み込まれるのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0235】
前述の説明は、本開示の特定の実施形態を例示するものであるが、その実施を限定することを意図するものではない。以下の請求項は、それらの全ての均等物を含めて、本開示の範囲を定義することを意図している。
【国際調査報告】