(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】細胞外核酸の保存および/または輸送
(51)【国際特許分類】
C08B 37/04 20060101AFI20231212BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20231212BHJP
C12N 15/86 20060101ALN20231212BHJP
C12N 7/00 20060101ALN20231212BHJP
C07H 21/02 20060101ALN20231212BHJP
【FI】
C08B37/04
C12N15/11 Z
C12N15/86 Z
C12N7/00
C07H21/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528980
(86)(22)【出願日】2021-11-12
(85)【翻訳文提出日】2023-07-14
(86)【国際出願番号】 GB2021052936
(87)【国際公開番号】W WO2022101640
(87)【国際公開日】2022-05-19
(32)【優先日】2020-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】523178329
【氏名又は名称】アテレリクス・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Atelerix Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100221534
【氏名又は名称】藤本 志穂
(72)【発明者】
【氏名】ハラム,ディーン
(72)【発明者】
【氏名】スウィオクロ,スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】コノン,チェ
【テーマコード(参考)】
4B065
4C057
4C090
【Fターム(参考)】
4B065AA95X
4B065AB01
4B065BA01
4B065CA45
4C057MM01
4C090AA09
4C090BA73
4C090BB05
4C090BB67
4C090BB99
4C090BD34
4C090DA03
4C090DA23
(57)【要約】
本発明は、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。核酸含有ヒドロゲルを製造、輸送および/または保存する対応方法、ならびにその使用もまた提供する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外核酸を含む、ヒドロゲル。
【請求項2】
細胞外核酸が脂質カプセル内にある、請求項1に記載のヒドロゲル。
【請求項3】
細胞外核酸がウイルスベクター中にある、請求項1または2に記載のヒドロゲル。
【請求項4】
細胞外核酸がウイルス粒子中にある、請求項1~3のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項5】
試料が水性緩衝液をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項6】
水性緩衝液が塩ベースの緩衝液である、請求項5に記載のヒドロゲル。
【請求項7】
ヒドロゲルが架橋アルギン酸を含み、ヒドロゲルが、架橋したアルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウムおよび/またはアルギン酸ナトリウムを含んでもよい、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項8】
架橋アルギン酸が約0.1%(w/v)~約5.0%(w/v)のアルギン酸カルシウムを含む、請求項7に記載のヒドロゲル。
【請求項9】
細胞外核酸がRNAまたはDNAである、請求項1~8のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項10】
ヒドロゲルが密閉容器に包装されている、請求項1~9のいずれか一項に記載のヒドロゲル。
【請求項11】
密閉容器がバイアル、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレートである、請求項10に記載のヒドロゲル。
【請求項12】
保存および/または第1の場所から第2の場所への輸送のための細胞外核酸を含む試料を製造する方法であって、該方法が、下記:
i)試料をヒドロゲル形成ポリマーと接触させる工程;および
ii)ポリマーを重合させて、可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する工程
を含む方法。
【請求項13】
方法が、工程(i)の前に細胞外核酸を水性緩衝液と混合する工程をさらに含み、水性緩衝液が、塩ベースの緩衝液であってもよい、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
方法が、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための容器に核酸含有ヒドロゲルを密閉する工程を含み、密閉容器が、バイアル、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレートであってもよい、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
下記:
iii)第1の場所から第2の場所への輸送のために密閉容器を発送する工程
をさらに含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第1の場所から第2の場所へ細胞外核酸を含む試料を輸送する方法であって、該方法が、下記:
(a)請求項12~14のいずれか一項に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または請求項1~11のいずれか一項に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;
(b)ヒドロゲルを第1の場所から第2の場所へ輸送する工程
を含む方法。
【請求項17】
第2の場所で核酸をヒドロゲルから放出する工程をさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
細胞外核酸を含む試料を保存する方法であって、該方法が、下記:
(a)請求項12~14のいずれか一項に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または請求項1~11のいずれか一項に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
(b)ヒドロゲルを保存する工程
を含む方法。
【請求項19】
保存後に核酸をヒドロゲルから放出する工程をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
細胞外核酸の注文または依頼を満たすための方法、該方法が、下記:
a)細胞外核酸の注文または依頼を受ける工程;
b)請求項12~14のいずれか一項に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または請求項1~11のいずれか一項に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
c)輸送のために試料を発送する工程;または注文または依頼で指定された場所へ試料を輸送する工程
を含む方法。
【請求項21】
細胞外核酸が脂質カプセル内にある、請求項12~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
細胞外核酸がウイルスベクター中にある、請求項12~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
細胞外核酸がウイルス粒子中にある、請求項12~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
試料が水性緩衝液をさらに含む、請求項12~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
水性緩衝液が塩ベースの緩衝液である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
ヒドロゲルが架橋アルギン酸を含み、ヒドロゲルが、架橋したアルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウムおよび/またはアルギン酸ナトリウムを含んでもよい、請求項12~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
架橋アルギン酸が約0.1%(w/v)~約5.0%(w/v)のアルギン酸カルシウムを含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
細胞外核酸がRNAまたはDNAである、請求項12~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
細胞外核酸を保存するための可逆的架橋ヒドロゲルの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。核酸含有ヒドロゲルの製造、輸送および/または保存の対応する方法、ならびにその使用もまた本明細書で提供する。
【背景技術】
【0002】
最近のCOVID-19ワクチン試験および新たなCOVID-19診断アッセイによって強調されたように、細胞外核酸は、社会で果たす重要な役割が増えている。これらは、科学研究、薬物開発、再生医療、診断アッセイおよびワクチン開発を含む様々な状況で用いられ得る。
【0003】
核酸ベースのワクチンなどの核酸ベースの製品は、しばしばその使用場所から地理的に離れている場所で使用するために生成および/または製造されることがある。さらに、核酸試料(例えば、ウイルス検査のための患者試料)は、診断が行われる場所と異なる場所で採取されることがある。したがって、核酸を含む試料は、日常的に保存され、および/または第1の地理的位置から第2の地理的位置に輸送される。しかしながら、このような物質の英国内または世界各地への輸送には数時間または数日かかり得て、遅延の影響を受けやすく、物質は目的に適した状態で使用場所に送達される必要がある。核酸(特にRNA)の効果的な輸送および回収は、困難であることが判明しており、多くの方法では経時的に核酸の分解および/または機能の喪失が生じる。したがって、核酸の保存および/または輸送は、例えば実験室への供給(研究のための流通)および診断または治療に関して重大な障壁となる。
【0004】
核酸の保存および輸送の従来の方法は、コールドチェーン輸送(例えば2~8℃)または輸送前および輸送中の試料の凍結を含む。しかしながら、このような方法では一般に、輸送前に多くの処理ステップを実行する必要があり、これらの処理により輸送される材料に悪影響を及ぼしたり、コストが大幅に増加したりする可能性がある。したがって、核酸を保存および輸送するための従来の方法には多くの欠点がある。これらの欠点は、細胞外核酸が、核酸の構造的完全性および/または機能性の維持が重要であるヒト用途(例えばワクチンとして)または診断目的である場合に、特に重大な問題となる。
【0005】
細胞外核酸を保存および/または輸送するための簡単だが効果的な方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
本願発明者らは、細胞外核酸を保存および/または輸送するための新規な手段を開発した。
【0007】
本発明者らは、驚くべきことに、可逆的架橋ヒドロゲルへの細胞外核酸の組み込みが、保存時の機械的および環境的ストレスから細胞外核酸を保護し、細胞外核酸の構造的完全性および/または機能を保存することを示した。有利には、細胞外核酸を含むヒドロゲルは、材料を目的に適した状態に維持しながら、効果的に保存または使用場所に送達するために密閉容器に包装され得る。さらに、核酸の構造的完全性および/または機能に大きな影響を与えることなく、包装された材料の保存および/または輸送を長期間効果的に行うことができる。
【0008】
本発明の方法は、即座に、劣化が生じる前に細胞外核酸(例えば、ウイルスベクターおよびウイルスを含む、単離または製造された細胞外核酸)を保存するのに特に有用であり、細胞外核酸(例えば、ウイルスベクターおよびウイルスを含む、単離/製造された細胞外核酸)は、エンドポイントのパフォーマンスに影響を与えることなく、適切なスタッフが利用可能であるか、GMP実験室が使用可能であるか、または試料をバルクで処理できるまで安全に保存できるため、ユーザーに柔軟性を提供する。
【0009】
本発明は、アルギン酸ヒドロゲルを用いて例証された。しかしながら、本発明は、同等の機械的特性を有する他の可逆的架橋ヒドロゲルに同様に適用される。本発明の文脈内で同様に使用できる別のヒドロゲルを、以下でより詳細に説明する。
【0010】
さらに、本発明は、ウイルス、特にヒトコロナウイルス229Eを用いて例示された。本発明者らは、本明細書において、コロナウイルス229E核酸が、本明細書に記載のヒドロゲル中での保存後に保存され、その機能を維持することを示した。驚くべきことに、ヒドロゲル中で7~14日間保存した後でも、保存されたコロナウイルスは機能を維持することが示された(ウイルス細胞変性効果(CPE)が測定された場合)。これは、核酸を保存するための従来の手段と比較して(例えば、virocult(登録商標)におけるウイルス核酸の保存と比較して)、本明細書で提供されるヒドロゲルによる核酸機能の保持が改善されていることを示す。ヒドロゲルを用いて、例えばウイルス粒子内に存在する細胞外核酸、および/または脂質膜などの脂質カプセル内に存在する細胞外核酸を含む、あらゆる細胞外核酸の機能を保持し得る。
【0011】
一態様において、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外核酸を含むヒドロゲルを提供する。
【0012】
適切には、細胞外核酸は、脂質カプセル内であり得る。
【0013】
適切には、細胞外核酸は、ウイルスベクター中であり得る。
【0014】
適切には、細胞外核酸は、ウイルス粒子中であり得る。
【0015】
適切には、試料は、水性緩衝液をさらに含み得る。
【0016】
適切には、水性緩衝液は、塩ベースの緩衝液であり得る。
【0017】
適切には、ヒドロゲルは、架橋アルギン酸を含み得る。
【0018】
適切には、ヒドロゲルは、架橋したアルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウムおよび/またはアルギン酸ナトリウムを含み得る。
【0019】
適切には、架橋アルギン酸は、約0.1%(w/v)~約5.0%(w/v)のアルギン酸カルシウムを含み得る。
【0020】
適切には、細胞外核酸は、RNAまたはDNAであり得る。
【0021】
適切には、ヒドロゲルは、密閉容器に包装され得る。
【0022】
適切には、密閉容器は、バイアル、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレートであり得る。
【0023】
別の態様において、保存および/または第1の場所から第2の場所への輸送のための細胞外核酸を含む試料を製造する方法であって、該方法が、下記:
i)試料をヒドロゲル形成ポリマーと接触させる工程;および
ii)ポリマーを重合させて、可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する工程
を含む方法を提供する。
【0024】
適切には、方法は、工程(i)の前に細胞外核酸を水性緩衝液と混合する工程をさらに含み得る。所望により、水性緩衝液は、塩ベースの緩衝液であり得る。
【0025】
適切には、方法は、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための容器に核酸含有ヒドロゲルを密閉する工程を含み得る。所望により、密閉容器は、バイアル、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレートであり得る。
【0026】
適切には、方法、下記:
iii)第1の場所から第2の場所への輸送のために密閉容器を発送する工程
をさらに含み得る。
【0027】
別の態様において、第1の場所から第2の場所へ細胞外核酸を含む試料を輸送する方法であって、該方法が、下記:
(a)本発明の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本発明の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;
(b)ヒドロゲルを第1の場所から第2の場所へ輸送する工程
を含む方法を提供する。
【0028】
適切には、方法は、第2の場所で核酸をヒドロゲルから放出する工程をさらに含み得る。
【0029】
別の態様において、細胞外核酸を含む試料を保存する方法であって、該方法が、下記:
(a)本発明の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本発明の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
(b)ヒドロゲルを保存する工程
を含む方法を提供する。適切には、方法は、保存後に核酸をヒドロゲルから放出する工程をさらに含み得る。別の態様において、細胞外核酸の注文または依頼を満たすための方法であって、該方法が、下記:
a)細胞外核酸の注文または依頼を受ける工程;
b)本発明の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本発明の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
c)輸送のために試料を発送する工程;または注文または依頼で指定された場所へ試料を輸送する工程
を含む方法を提供する。
【0030】
適切には、細胞外核酸は、脂質カプセル内であり得る。
【0031】
適切には、細胞外核酸は、ウイルスベクター中であり得る。
【0032】
適切には、細胞外核酸は、ウイルス粒子中であり得る。
【0033】
適切には、試料は、水性緩衝液をさらに含み得る。
【0034】
適切には、水性緩衝液は、塩ベースの緩衝液であり得る。
【0035】
適切には、ヒドロゲルは、架橋アルギン酸を含み得る。
【0036】
適切には、ヒドロゲルは、架橋したアルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウムおよび/またはアルギン酸ナトリウムを含み得る。
【0037】
適切には、架橋アルギン酸は、約0.1%(w/v)~約5.0%(w/v)のアルギン酸カルシウムを含み得る。
【0038】
適切には、細胞外核酸は、RNAまたはDNAであり得る。
【0039】
別の態様において、細胞外核酸を保存するための可逆的架橋ヒドロゲルの使用を提供する。
【0040】
本明細書の記載および特許請求の範囲の全体を通じて、用語「含む」および「含有する」、ならびにそれらの変形は、「含むがこれらに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加物、成分、整数またはステップを除外することを意図しない(また、除外しない)。
【0041】
本明細書の記載および特許請求の範囲の全体を通じて、文脈上他に必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、文脈上別段の必要がない限り、明細書は単数だけでなく複数も企図するものとして理解されるべきである。
【0042】
本発明の特定の態様、実施態様または実施例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学部分または基は、矛盾しない限り、本明細書に記載される他の態様、実施態様または実施例に適用可能であると理解されるべきである。
【0043】
本発明の様々な態様を以下にさらに詳細に記載する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
本発明の実施態様を添付の図面を参照して以下にさらに記載する:
【
図1】
図1は、Atelerix SwabReady
TMおよびVirocult(登録商標)ウイルス輸送培地中で最大14日間インキュベートした後のヒトコロナウイルス229E(CoV 229E)のLogTCID
50/mLを示す。検出限界は1.5 Logである。
【
図2】
図2は、Atelerix SwabReady
TMおよびリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で最大14日間インキュベートした後のアデノウイルス(V型)の平均回収を示す。黒色の破線は、検出限界(1.5 Log)を示す。
【
図3】
図3は、0日目のリン酸緩衝生理食塩水対照と比較した、Atelerix SwabReady
TM中で3、7および14日間インキュベート後のビスナウイルスの平均回収を示す。黒色の破線は、検出限界(1.5 Log)を示す。PBS=リン酸緩衝生理食塩水。
【0045】
本明細書で参照される特許、科学および技術文献は、出願時に当業者が利用可能であった知識を定めるものである。本明細書で引用される発行済み特許、公開特許出願および係属中の特許出願、および他の刊行物の全開示は、それぞれが参照により組み込まれることが具体的かつ個別に示されているのと同じ程度に、参照により本明細書に組み込まれる。矛盾がある場合には、本開示が優先される。
【0046】
本発明の様々な態様を以下にさらに詳細に記載する。
【発明を実施するための形態】
【0047】
試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。
【0048】
本明細書で用いる「核酸」、「核酸配列」、「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」、「核酸分子」およびそれらの変形は、規則的または不規則な配列の複数のヌクレオチドを指すために相互交換可能に用いられる。ポリヌクレオチドは、典型的には、一本鎖または二本鎖(二重鎖)であるが、三本鎖(三重鎖)または四本鎖(四重鎖鎖/iモチーフ)を含む高次構造をとってもよく、あるいは適切な条件下で異なる遺伝子座にこれらの構成の混合を含んでもよい。ポリヌクレオチドは、短くても長くてもよい。それらは少なくとも2つの隣接するヌクレオチドを有する。
【0049】
ヌクレオチド配列は、ゲノム、合成または組換え起源のものであり得て、二本鎖または一本鎖(センス鎖またはアンチセンス鎖を表す)であり得る。用語「核酸」は、ゲノムDNA、cDNA、合成DNA、RNA(例えばmRNA)、キメラDNA/RNA分子、および例えばヌクレオチド類似体の使用によって生成されるDNAまたはRNAの類似体を含む。言い換えると、修飾されたDNAまたはRNA塩基も包含される。したがって、ポリヌクレオチドは、1つ以上の修飾されたDNAまたはRNA塩基を含み得る。いくつかの修飾塩基が当技術分野で知られており、したがって当業者は適切な修飾塩基を容易に同定できる。特定の部位に複数の修飾を有するポリヌクレオチドは、合成生物学、ナノ材料製造、生物分析および配列決定用途に応用されている。例えば、DNAは、リン酸結合、糖環また核酸塩基という3つの構成部分のいずれか、またはすべてを化学的に修飾され得る。様々な修飾ヌクレオチドが、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTP)またはホスホラミダイト誘導体として市販されている。これらおよび他の修飾ヌクレオチドは、酵素的にdNTPとして、または自動DNA合成によってホスホラミダイトとして合成され、DNAまたはRNAに挿入され得る。核酸を生成する方法は、当技術分野で周知であり、組換えDNA技術(すなわち、組換えDNA)を含む。
【0050】
ヌクレオチド残基は通常、天然に存在するプリン塩基、すなわちアデニン(A)、グアニン(G)、ヒポキサンチン(I)およびキサンチン(X)、ならびにピリミジン塩基、すなわちシトシン(C)、チミン(T)およびウラシル(U)に由来する。ヌクレオチド類似体は、ポリヌクレオチド配列内の1つ以上の位置で使用され得て、そのようなヌクレオチド類似体は、例えば、塩基部分および/または糖部分および/またはリン酸結合において修飾される。ポリヌクレオチドのハイブリダイズを妨げず、鋳型および基質の両方としてポリメラーゼに受け入れられる限り、あらゆるヌクレオチド類似体を使用できる。
【0051】
任意の適切な核酸が用いられ得る。一例において、核酸は、DNAである。別の例において、核酸は、RNA(例えば一本鎖または二本鎖RNA)である。DNAまたはRNA核酸は、ワクチンで、例えばウイルスベクターまたはウイルス粒子の一部として有用であり得る。特定の例において、核酸は、RNAである。具体的な例において、核酸は、一本鎖RNA(例えば一本鎖RNAウイルス)である。
【0052】
特定の例において、核酸は、mRNAである。mRNAは、ワクチンの核酸成分として有用であり得る(例えば、mRNAは、脂質ナノ粒子中にカプセル化し得る)。したがって、特定の例において、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が細胞外mRNAを含む、ヒドロゲルを提供する。
【0053】
本明細書で用いる「細胞外」は、1つ以上の細胞の外側に位置するかまたはそこで行われることを指す。細胞外核酸は、細胞内に位置しない。
【0054】
用語「細胞外核酸」は、「無細胞」核酸(すなわち、細胞に関連しない核酸)を包含する。本明細書で用いる「関連する」は、2つの実体間の物理的な位置および/または相互作用を指す。核酸および細胞の文脈において、核酸は、細胞内に位置する場合、または細胞表面に付着する場合(すなわち、細胞とまたは細胞内で物理的に相互作用する場合)、細胞と「関連」し得る。無細胞核酸は細胞と関連しておらず、したがって細胞内に存在せず、細胞表面に付着していない。
【0055】
誤解を避けるため、本明細書における用語「細胞外」または「無細胞」は、核酸がヒドロゲルに導入されたときの核酸の物理的状態(すなわち、拡散が直接的または間接的にヒドロゲルと接触するときの核酸の物理的状態)を指す。本明細書において、「直接接触」は、核酸自体がヒドロゲルと物理的に接触している状況(例えば、核酸が脂質カプセル内にない場合)を指すのに対し、「間接接触」は、核酸自体がヒドロゲルと直接接触していない状況、例えば、核酸が脂質カプセル内にある場合(本明細書の他箇所でより詳細に記載されている)を指す。
【0056】
したがって、用語「細胞外」(または「無細胞」)は、細胞内に由来するが、もはや細胞内に存在しない、または細胞(由来する細胞を含む)に関連しない核酸を包含する。言い換えると、細胞外核酸(または無細胞核酸)は、細胞内で生成され、その後、核酸をヒドロゲルと接触させる前に細胞から放出または単離された核酸を含む。いくつかの例において、細胞外核酸は、外来性の核酸(言い換えると、外部起源の核酸、すなわち、細胞に由来しない核酸)であり得る。例えば、核酸は、合成核酸であり得る。
【0057】
本明細書に記載の細胞外核酸は、任意の適切な適用のためのものであり得る。いくつかの適切な適用は、当業者に周知である。
【0058】
例えば、細胞外核酸は、ワクチン、例えば核酸を含むワクチンとしての使用のためのものであり得る。このようなワクチンの例は、mRNAワクチン(例えば、mRNAが脂質ナノ粒子内である場合)、またはウイルスベクターワクチン(例えば、核酸がウイルスベクター内である場合)(ウイルスベースのワクチン(核酸が合成または組換えウイルス粒子、または天然に存在するウイルス粒子、例えば不活性化ビリオン内に存在する場合)を含む)であり得る。
【0059】
別の例において、細胞外核酸は、診断における使用のためのものであり得る。例えば、細胞外核酸は、対象体から得られた(例えば、スワブを用いて対象体の喉および/または鼻から得られた)試料中に存在し得る。非限定的な例として、対象体は、対象体から得られた試料中の細胞外核酸の存在によって特定され得る感染、疾患または障害を有することが疑われ得るか、またはそれらを有するリスクがあると疑われ得る。例えば、対象体は、限定されないが、COVID-19感染などのウイルス感染を有することが疑われ得るか、またはそれを有するリスクがあると疑われ得る。したがって、試料内にウイルス(例えば、COVID-19)核酸が存在することは、感染を示し得る。診断が可能になるまで試料中の核酸を保持することは、このような状況では特に重要である。
【0060】
更なる非限定的な例として、細胞外核酸は、ウイルス粒子内にあってもよく、ウイルス粒子の存在は診断に有用であり得る。例えば、ウイルス粒子は、対象体から得られた(例えば、スワブを用いて対象体の喉および/または鼻から得られた)試料中に存在し得る。非限定的な例として、対象体は、対象体から得られた試料中のウイルス粒子の存在によって特定され得る感染、疾患または障害を有することが疑われ得る、またはそれらを有するリスクがあると疑われ得る。例えば、対象体は、これに限定されないが、COVID-19感染などのウイルス感染を有することが疑われ得るか、またはそれを有するリスクがあると疑われ得る。したがって、試料内にウイルス(例えばCOVID-19)核酸またはウイルス粒子タンパク質(例えばCOVID-19スパイクタンパク質、N-タンパク質またはM-タンパク質)が存在することは、感染を示し得る。診断が可能になるまで試料中のウイルス粒子を保持することは、このような状況では特に重要である。
【0061】
本明細書で用いる用語「対象体」は、哺乳動物を指す。したがって、対象体は、例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、モルモットなどを指す。対象体は、ヒトであり得る。対象体がヒトであるとき、対象体は、本明細書において患者と呼ぶことがある。用語「対象体」、「個人」および「患者」は、本明細書において相互交換可能に用いられる。
【0062】
対象体は症状があってもよく(例えば、対象体は、感染、疾患または障害、例えばウイルス感染、例えばCOVID-19に関連する症状を呈している)、または対象体は無症状であってもよい(例えば、対象体は、感染、疾患または障害(例えば、感染、疾患または障害、例えばウイルス感染、例えばCOVID-19に関連する症状を呈していない)。
【0063】
上記のとおり、特定の一例において、核酸は、ベクター中であり得る。
【0064】
ベクターは、実体をある環境から別の環境へ移すことを可能にする、または促進するツールである。例として、組換え核酸技術で用いられるいくつかのベクターは、核酸のセグメント(例えば異種DNAセグメント、例えば異種cDNAセグメント)などの実体を標的細胞に導入し、標的細胞によって発現させることを可能にする。ベクターは、目的の核酸/ヌクレオチド(NOI)の組み込みを促進して、標的細胞内でNOIとその発現を維持し得る。あるいは、ベクターは、一過性システムにおけるNOIの発現を通じてベクターの複製を促進し得る。ベクターは、細胞内で異種核酸(DNAまたはRNA)を維持する、またはDNAまたはRNAのセグメントを含むベクターの複製、または核酸のセグメントによってコードされるタンパク質の発現を促進するという目的に役立ち得る。ベクターは、目的の核酸/ヌクレオチド(NOI)の組み込みを促進して、標的細胞内でNOIとその発現を維持し得る。あるいは、ベクターは、一過性システムにおけるNOIの発現を通じてベクターの複製を促進し得る。
【0065】
特定の例において、核酸は、ウイルスベクターなどのベクター内であり得る。したがって、一例において、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料がウイルスベクター中の細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。
【0066】
治療用遺伝子の送達にウイルスベクターを使用することは周知であり、遺伝子治療製品は現在、世界のヘルスケア市場の重要な部分となっている。このようなウイルスベクターは、ウイルスワクチンとして特に有用であり得る。ウイルスベクターの例としては、レトロウイルスベクター(例えばレンチウイルスベクター、例えばビスナウイルス)、アデノウイルスおよびアデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターが挙げられる。これらのベクター群のそれぞれの具体例は当技術分野で周知である(例えば、レトロウイルスの詳細についてはCoffin et al. (1997) "Retroviruses", Cold Spring Harbour Laboratory Press Eds: JM Coffin, SM Hughes, HE Varmus pp 758-763を参照)。
【0067】
例えば、本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、アデノウイルスベクター中の細胞外核酸を含む試料を含み得る。
【0068】
用語「ウイルスベクター」は、ウイルス粒子を包含する(ウイルス粒子はまた、核酸をある環境から別の環境へ移すことを可能にする、または促進するため)。これには、天然、合成および組換えウイルス粒子が含まれる。
【0069】
用語「ウイルス粒子」、「ウイルス粒子」および「ウイルス」は、本明細書において相互交換可能に用いられる。ウイルス粒子は、カプシドと呼ばれる保護タンパク質コートで囲まれている、1つ以上のウイルス成分をコードする核酸(DNAまたはRNA)を含む。カプシドは、エンベロープと呼ばれる追加のコートで囲まれていて、「エンベロープされたウイルス粒子」を生成し得る。エンベロープは、典型的には、宿主細胞膜の一部(リン脂質およびタンパク質)に由来し、いくつかのウイルス糖タンパク質が付加されている。したがって、エンベロープウイルス粒子は、典型的には、カプシド内で核酸を保護する脂質カプセルを含む。
【0070】
したがって、一例において、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料がウイルス粒子中の細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。更なる例において、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料がエンベロープウイルス粒子中の細胞外核酸を含む、ヒドロゲルを提供する。
【0071】
ウイルス粒子は、ヒトコロナウイルス(例えば、ヒトコロナウイルス229E(CoV 229E))、ヒトライノウイルスおよびヒトアデノウイルスを含むがこれらに限定されない、ヒトに感染するウイルスを含む任意のウイルス粒子であり得る。それはまた、例えばビスナウイルスであり得る。
【0072】
コロナウイルスは、ヒトの様々な上気道疾患の原因となるエンベロープ一本鎖RNAウイルスである。これらの病気は、一般的な風邪などの軽度の症状から、最近のCOVID-19のパンデミックで見られるような重度の急性呼吸器症候群まで及ぶ。コロナウイルスは、主に呼吸器の飛沫を介して伝染すると考えられており、ウイルスが媒介物上で数日間活性を維持できることを示唆するいくつかの証拠がある。コロナウイルスの蔓延を遅らせるおよび/または止めるためには、予防的および治療的介入の両方が不可欠である。
【0073】
ヒトライノウイルスは、ポジティブセンス一本鎖RNAウイルスである。それらはヒトの一般的な風邪の主な原因である。ライノウイルスの感染は、鼻の温度である33~35℃で増殖する。ライノウイルスは、ピコルナウイルス(Picornaviridae)科のエンテロウイルス(Enterovirus)属に属する。
【0074】
ヒトアデノウイルスは、二本鎖DNAを有する正二十面体ウイルスである。50を超える異なるアデノウイルス血清型は、幼児の軽度の呼吸器感染症(一般的な風邪として知られる)から、免疫系が低下した人々の生命を脅かす多臓器疾患まで、広範囲の疾患を引き起こすことが分かっている。
【0075】
ヒトに感染するウイルス(本明細書に記載のヒドロゲル中で保存および/または輸送され得る)の他の非限定的な例としては、以下の科のウイルスが挙げられる:パルボウイルス科(Parvoviridae)、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)、ポリオーマウイルス科(Polyomaviridae)、レオウイルス科(Reoviridae)、トガウイルス科(Togaviridae)、ブニャウイルス科(Bunyaviridae)、ヘルペスウイルス科(Herpesviridae)、ポックスウイルス科(Poxviridae)、フラビウイルス科(Flaviviridae)、オルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)、フィロウイルス科(Filoviridae)、パラミクソウイルス科(paramyxoviridae)、ヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae)、アデノウイルス科(Adenoviridae)、アストロウイルス科(Astroviridae)、コロナウイルス科(Coronaviridae)、レトロウイルス科(Retroviridae)、パピローマウイルス科(Papillomaviridae)、ニューモウイルス科(Pneumoviridae)、アレナウイルス科(Arenaviridae)、カリシウイルス科(Caliciviridae)、アネロウイルス科(Anelloviridae)など。
【0076】
用語「ウイルス粒子」は、合成もしくは組換えウイルス粒子、または天然に存在するウイルス粒子を包含する。これはまた、非感染性および感染性のウイルス形態を含む。感染性の形態は、ビリオンとも称される。したがって、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料がビリオン(例えばエンベロープビリオン)中の細胞外核酸を含む、ヒドロゲルもまた提供する。
【0077】
感染性ビリオンを不活化して、不活化ビリオンを形成し得る(例えば、ワクチンとして使用するため)。したがって、試料を含む可逆的架橋ヒドロゲルであって、該試料が不活性化ビリオン(例えば不活性化SARs-CoV-2ビリオン)中の細胞外核酸を含む、ヒドロゲルもまた提供する。
【0078】
当業者に明らかなように、ウイルス粒子のサブグループはエンベロープを構成し、したがって「脂質カプセル」を有すると考えられ得る。このような場合、核酸は、本明細書の他の箇所でより詳細に定義する脂質カプセル内にある。したがって、誤解を避けるために、本明細書における「脂質カプセル内」にある細胞外核酸への言及は、エンベロープウイルス粒子内にある核酸、ならびに異なる種類の脂質カプセル(例えば、リポソーム、脂質ナノ粒子、細胞外小胞、ミセル、脂肪滴など)内にある細胞外核酸もまた含む。
【0079】
本明細書に記載の細胞外核酸は、脂質カプセル内に位置し得る。したがって、本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、脂質カプセル内の細胞外核酸を含む試料を含み得る。
【0080】
本明細書で用いる「脂質カプセル」は、核酸を封入(entrap)またはカプセル化(encapsulate)する脂質構造を指す。当業者に明らかなように、本発明の文脈において、用語「脂質カプセル」は、細胞自体を包含しない(これは細胞外核酸という用語と適合しないため)。したがって、本明細書に記載の脂質カプセルは、細胞と異なり、独立して複製できない脂質カプセルと考えられ得る。適切な脂質カプセルは、当業者に周知であり、脂質二重層を含む構造(例えば、リポソーム、エンベロープウイルス粒子、脂質二重層含有ナノ粒子および細胞外小胞、例えばエキソソーム、エクトソーム、微小小胞体、マイクロ粒子、オンコソームなど)、および脂質単層を含む構造(例えば、ミセル、脂質液滴、脂質単層含有ナノ粒子など)を含むあらゆる細胞外脂質構造を含む。当業者に明らかなように、脂質単層(または脂質二重層)を含む脂質カプセルは、一部の脂質ナノ粒子に見られるような、連続および非連続の脂質単層(または連続および非連続の脂質二重層)を含む。
【0081】
特定の例において、脂質カプセルは、エンベロープウイルス粒子を含む。
【0082】
本明細書で用いる用語「脂質二重層」は、脂質分子の2つの平行な層を含む構造を指す。一般に、脂質二重層内の各脂質分子は、親水性の頭部と疎水性の尾部で構成される。脂質二重層において、脂質分子の2つの層は、疎水性の尾部が互いに内側を向いて疎水性の内部を形成し、親水性の頭部が水性環境に向かって外側を向くように配置される。ほとんどすべての生物と多くのウイルスの細胞膜は、細胞核を囲む核膜および細胞内の膜結合細胞小器官の膜と同様に、リン脂質を含む脂質二重層でできている。本明細書において、エンベロープウイルス粒子(例えばビリオン)は、脂質二重層を含む脂質カプセルを有すると考えられ得る(ウイルス粒子エンベロープは、典型的には、出芽中の宿主細胞に由来するため)。
【0083】
本明細書で用いる用語「リポソーム」は、天然起源または化学合成のいずれかに由来する極性脂質分子から製造される粒子を指す。脂質は、球形/楕円形の閉じた構造を形成し、外側の湾曲した脂質二重層が水性コアの周囲に形成される。リポソームは、水性コアを取り囲む1つまたはいくつかの脂質二重層を含み得る。リポソームは、カーゴ、例えば治療薬を送達するための小胞として用いられ得る。例えば、リポソームは、ウイルスベクターを含む医薬および/または細胞外核酸の送達に用いられ得る。リポソームは、リン脂質、特にホスファチジルコリンを含み得るが、脂質二重層構造と適合する限り、ホスファチジルエタノールアミンなどの他の脂質も含み得る。リポソームの主な種類は、多重膜リポソーム(MLV、複数のラメラ相脂質二重層を有する)、小さな一枚膜リポソーム(SUV、1つの脂質二重層を有する)、大きな一枚膜リポソーム(LUV)、および渦巻型リポソームである。任意の適切なリポソームを本発明に従って用い得る。したがって、一例において、本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、リポソーム内に細胞外核酸を含む試料を含み得る。
【0084】
一例において、本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、脂質含有ナノ粒子内に細胞外核酸を含む試料を含み得る。本明細書で用いる用語「脂質含有ナノ粒子」は、所望によりタンパク質などの他の成分が添加された、脂質を含むナノ粒子を指す。本明細書で用いる用語「脂質単層ナノ粒子」は、脂質単層を含むナノ粒子を指す。本明細書で用いる用語「脂質二重層ナノ粒子」は、脂質二重層を含むナノ粒子を指す。本明細書で用いる用語「ナノ粒子」は、ナノメートルオーダー(例えば、1~1000nm)の少なくとも1つの寸法を有する粒子を指す。
【0085】
本明細書で用いる「細胞外小胞」(または「EV」)は、細胞から放出され、細胞と異なり複製できない、脂質二重層で区切られた粒子を指す。本明細書で論じられるように、細胞外小胞の例は、エキソソーム、エクトソーム、微小小胞体、マイクロ粒子、オンコソームなどを含む。エキソソーム、エクトソーム、微小小胞体、マイクロ粒子およびオンコソームを含むいくつかの細胞外小胞は、当技術分野で知られている。
【0086】
細胞外小胞は、当該技術分野において十分に特徴付けられており、明確に定義された意味を有する(Andaloussi et al., Nature Reviews Drug Discovery, vol 12, May 2013, page 347-357, Extracellular vesicles; biology and emerging therapeutic opportunitiesで総説されている)。細胞外小胞は、いくつかの体液から単離されている。それらは、幹細胞の維持、免疫監視、血液凝固を含む生理学的プロセスの制御において重要な役割を果たすことが示されている。それらはまた、いくつかの疾患の根底にある病理において重要な役割を果たすことも示されている。
【0087】
細胞外小胞は、エンドソームに由来する多小胞体(MVB)から脱落してもよく、あるいは細胞膜から直接芽を出してもよい。それらが細胞外空間に放出されると、細胞膜の内膜または外膜から形成されたかに応じてエキソソームまたはエクトソーム(または微小小胞体)と呼ばれ、エンドサイトーシスまたは融合によって他の細胞に取り込まれる。
【0088】
細胞外小胞は、細胞の起源、生物学的機能に従って、または生合成に基づいて分類される(Andaloussi et al., 2013で総説されている)。生合成によって決定されるように、細胞外小胞の3つの主要なクラスは、エキソソーム、微小小胞体およびアポトーシス小体であり、その最初の2つは、生体試料中で最も優勢である。EVマーカーは、当該技術分野で周知である。エキソソームマーカーの例は、テトラスパニン(例えばTSPAN29およびTSPAN30)、ESCRTコンポーネント、PDCD6IP、TSG101、フロチリンおよびMFGE8を含む。微小小胞体マーカーの例は、インテグリン、セレクチンおよびCD40リガンドを含む。
【0089】
最近の進歩に関わらず、用語「エキソソーム」と「微小小胞体」は、多くの発表された研究で相互交換可能に用いられている。本明細書において、用語「細胞外小胞」は、両方の小胞タイプを指すために用いられる。
【0090】
本明細書で用いる用語「脂質単層」は、脂質分子の単層を含む膜を指す。脂質単層を有する周知の構造の例は、ミセル、脂質液滴、脂質単層ナノ粒子などを含む。
【0091】
本明細書の他の箇所で述べるように、細胞外核酸は、脂質カプセル内に封入またはカプセル化され得る。例えば、「封入された核酸」は、脂質カプセルの外表面に結合(または吸着、または係留)され得る。本明細書で用いる用語「封入された(entrapped)」は、細胞外核酸が脂質カプセルから放出されないように、脂質カプセルによって物理的に捕捉/封入されていることを指す。細胞外核酸は、脂質カプセルによって完全に囲まれることによって封入され得るか、または細胞外核酸の大部分(すべてではない)が脂質カプセルによって囲まれることによって封入され得る。本明細書において、用語「大部分」は、細胞外核酸(配列ごと)の少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%が脂質カプセルによって囲まれていることを指す。
【0092】
細胞外核酸が脂質カプセル中にある例において、それは典型的には脂質カプセルによってカプセル化される。用語「カプセル化された(encapsulated)」は、脂質カプセル内に細胞外核酸を取り囲むことを指す。細胞外核酸は、脂質カプセルで完全に囲まれている場合、脂質カプセルによって「カプセル化」される。細胞外核酸は、脂質カプセルの水性コア内に位置し得る。あるいは、細胞外核酸は、共有結合、静電相互作用または疎水性相互作用によって、脂質カプセルの脂質構造内(例えば、脂質二重層内)に位置し得る。あるいは、細胞外核酸(例えば、疎水性薬物)は、脂質カプセルのナノドメインに組み込まれ得る。
【0093】
いくつかの例において、脂質カプセルは、(細胞外核酸に加えて)更なるカーゴを含み得る。更なるカーゴもまた、脂質カプセル内に封入され得る。更なるカーゴは、医薬的に許容される担体、希釈剤または添加剤、または1つ以上の活性医薬成分を含み得る。
【0094】
いくつかの例において、細胞外核酸は、吸収性材料または媒介物(例えば、細胞外核酸が対象体から得られる場合)の内部または上に存在し得る(例えば、吸着または吸収し得る)。いくつかの例において、吸収性材料または媒介物は、スワブであり得る。このような例において、吸収性材料または媒介物は、部分的または完全にヒドロゲル内にカプセル化されてもよく、ヒドロゲルによってカプセル化されてもよく、または部分的または完全にヒドロゲル中に浸漬されてもよい。典型的には、吸収性材料または媒介物は、ヒドロゲルが形成されると、(その中または上に核酸が存在する)吸収性材料または媒介物の少なくとも一部がヒドロゲル内に存在するように、重合前または重合中にヒドロゲル形成ポリマーと接触させる。
【0095】
一例において、可逆的架橋ヒドロゲル内に含まれる試料は、細胞外核酸に加えて水性緩衝液を含む。用語「水性緩衝液」および「緩衝液」は、本明細書において相互交換可能に用いられる。水性緩衝剤は、pH緩衝剤(または水素イオン緩衝剤)である。緩衝液は、少量の酸またはアルカリを加えたときのpHの変化に抵抗する溶液である。緩衝液は、様々な化学用途でpHをほぼ一定の値に保つ手段として用いられる。
【0096】
いくつかの適切な水性緩衝液は、当業者に知られている。非限定的な例として、水性緩衝液は、塩ベースの緩衝液、例えば0.1%~2.0%(w/v)の塩ベースの緩衝液であり得る。任意の適切な塩ベースの緩衝液を用い得て、そのような緩衝液は当業者であれば容易に特定可能である。
【0097】
いくつかの例において、水性緩衝液(例えば、塩ベースの緩衝液)は、ウシ胎児血清(FCS)またはウシ胎児血清(FBS)などの血清を含んでもよく、および/または抗生物質などの更なる成分を含んでもよい。FBSまたはFCSの添加は、例えば細胞外核酸が脂質カプセル内にある場合、血清が脂質膜の保護に役立ち得るため、有用であり得る。適切な血清および/または抗生物質の濃度は、当業者であれば容易に特定可能である。
【0098】
適切な塩ベースの緩衝液の非限定的な例は、ハンクス平衡塩溶液(またはハンクス緩衝生理食塩水)、リン酸緩衝生理食塩水、塩化ナトリウムなどを含む。当業者に明らかなように、これらの緩衝液のいずれも、(核酸が存在する試料のpHを維持するのを助けるために)試料内の更なる試薬として用い得る。適切な塩ベースの緩衝液の更なる例は、広く用いられているウイルス輸送媒体であるvirocult(登録商標)である。
【0099】
したがって、一例において、本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、(例えば脂質カプセル、例えばエンベロープウイルス粒子内に)細胞外核酸、および塩ベースの溶液を含む試料を含み得る。例えば、可逆的架橋ヒドロゲルは、(例えば脂質カプセル、例えばエンベロープウイルス粒子内に)細胞外核酸、およびウイルス輸送培地(例えばvirocult(登録商標))を含む試料を含み得る。塩ベースの溶液(例えばウイルス輸送培地、例えばvirocult(登録商標)、または類似物)は、約0.1%~約2.0%(w/v)の塩ベースの溶液であり得て、例えば、塩ベースの溶液は、約0.4%~約0.9%(w/v)の塩ベースの溶液であり得る。
【0100】
本明細書で用いる「可逆的に架橋したヒドロゲル」は、可逆的な架橋によって形成されたヒドロゲルを指す(すなわち、ヒドロゲルが溶液に戻るように架橋を逆転させることができる)。架橋の逆転は、細胞外核酸をヒドロゲルから放出することを可能にする(例えば、使用時/輸送または保存が完了した後)。可逆的架橋ヒドロゲルの例は、当該技術分野で周知である。したがって、適切なヒドロゲルは、当業者であれば容易に特定可能である。
【0101】
本明細書で言及されるヒドロゲルは、架橋もしくはネットワーク構造またはマトリックスを、間隙液と共に有するヒドロゲル形成ポリマー(すなわち、少なくとも1つのヒドロゲル形成ポリマー)を含む。ヒドロゲルは、内部に含まれる細胞外核酸の構造的完全性および/または機能を維持できる。好ましくは、ヒドロゲルは半透過性である。
【0102】
用語「ヒドロゲル形成ポリマー」は、適切な条件下で架橋もしくはネットワーク構造またはマトリックスを形成できるポリマーを指し、ここで、間隙液および細胞外核酸はこのような構造またはマトリックス内に保持され得る。ヒドロゲルは、内部細孔を含み得る。
【0103】
架橋もしくはネットワーク構造またはマトリックスの形成の開始は、ポリマーの性質に応じて、任意の適切な手段によって行い得る。
【0104】
ポリマーは、一般に親水性ポリマーである。それは水性液体中で膨潤できる。一例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、コラーゲンである。この例において、コラーゲンヒドロゲルは、間隙液および細胞外核酸の周囲に連続した足場を形成するコラーゲン原線維のマトリックスを含む。溶解したコラーゲンは、希アルカリの添加により重合/凝集が誘導され、架橋コラーゲン原線維のゲル化ネットワークを形成する。原線維のゲル化ネットワークは、溶解したコラーゲン線維の元の体積をサポートし、間隙液を保持する。このようなコラーゲンゲルの一般的な製造方法は、当該技術分野で周知である(例えばWO2006/003442、WO2007/060459およびWO2009/004351)。
【0105】
コラーゲンゲルに用いられるコラーゲンは、あらゆる原線維形成コラーゲンであり得る。
【0106】
原線維形成コラーゲンの例は、I、II、III、V、VI、IXおよびXI型である。ゲルは、すべて一種類のコラーゲン、または異なる種類のコラーゲンの混合物を含み得る。好ましくは、ゲルは、I型コラーゲンを含むか、I型コラーゲンからなる。本発明のいくつかの例において、ゲルは、専らまたは実質的にコラーゲン原線維から形成される、すなわち、コラーゲン原線維がゲル中の唯一のまたは実質的に唯一のポリマーである。本発明の他の例において、コラーゲンゲルは、他の天然ポリマー、例えばシルク、フィブロネクチン、エラスチン、キチンおよび/またはセルロースをさらに含み得る。一般に、非コラーゲン天然ポリマーの量は、ゲルの5%未満、好ましくは4%、3%、2%または1%未満(重量/重量)である。同様の量の非天然ポリマー、例えばペプチド両親媒性物質、ポリラクトン、ポリラクチド、ポリグリコン、ポリカプロラクトンおよび/またはリン酸ガラスもまた、ゲル中に存在し得る。
【0107】
いくつかの例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、アルギン酸、または金属イオンのアルギン酸塩である。好ましくは、金属は、第1族金属(例えばリチウム、ナトリウム、またはアルギン酸カリウム)または第2族金属(例えばカルシウム、マグネシウム、バリウムまたはアルギン酸ストロンチウム)である。好ましくは、ポリマーは、アルギン酸カルシウムまたはアルギン酸ナトリウムまたはアルギン酸ストロンチウム、最も好ましくはアルギン酸カルシウムである。
【0108】
アルギン酸ゲルの透過性を決定する要因の1つは、ゲルのマンヌロン酸(M)およびグルロン酸(G)の含有量である。M:G比が高いゲルは、固有の細孔径が小さい。必要に応じて、M:G比を操作してゲルの透過性を高め、ヒドロゲル内の細胞外核酸の保存を改善し得る。いくつかの例において、アルギン酸ゲルのG含有量は、0~30%である。いくつかの例において、M含有量は、好ましくは30~70%である。いくつかの好ましい例において、ゲルは、50~70%または60~70%のM含量を有するアルギン酸塩ゲルであり、ゲルはさらに、細孔増強剤(本明細書においてポロゲンとも呼ばれる)を含む。いくつかの例において、細孔径増加剤は、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)である。この例において、HECをヒドロゲルの製造に用い得て;その後、使用前にヒドロゲルから完全に、実質的に完全に、または部分的に除去する。ヒドロゲル中のHECの好ましい濃度(製造中)は、0.5~3.0%のHEC、より好ましくは1.0~2.5%、さらにより好ましくは1.2~2.4%のHECを含む。いくつかの好ましい実施態様において、ヒドロゲル中のHECの濃度(製造中)は、1.2%または2.4%である(濃度は重量%として示されている)。HECを、ミセルとしてゲル中に懸濁し得る。HECの除去は、ヒドロゲルを適切な水性溶媒または緩衝液、例えば組織培養培地中で洗浄することによって達成され得る。
【0109】
いくつかの例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、アルギン酸である。いくつかの例において、細胞外核酸は、最初に、本明細書に記載される異なるヒドロゲル形成ポリマーでコーティングされ、その後、アルギン酸でさらにコーティングされ得る。他の例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、アルギン酸と別のヒドロゲル形成ポリマーとの混合物である。いくつかの例において、アルギン酸は、(例えばペプチドで)修飾される。
【0110】
さらに他の例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、架橋アクリル酸ベース(例えば、ポリアクリルアミド)ポリマーである。
【0111】
さらに別の例において、ヒドロゲル形成ポリマーは、架橋性セルロース誘導体、ヒドロキシルエーテルポリマー(例えば、ポロキサマー)、ペクチンまたは天然ガムである。
【0112】
いくつかの例において、ヒドロゲルは、生理学的温度では熱可逆性ではない、すなわち、ヒドロゲルのゾルゲル転移は、0~40℃の温度では得られない。
【0113】
ヒドロゲルの構造は、ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの濃度を変えることにより変化させ得る。構造は、ゲルの頑健性およびその取扱い特性に影響を及ぼす。ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの好ましい濃度は、0.1~5%(間隙液の量に対するポリマー重量)であり、例えば0.1~0.4%、0.2~0.4%、0.4~0.5%、0.5~0.7%、0.7~1.1%、1.1~1.3%、1.3~2.2%、2.2~2.6%、2.6~3.0%、3.0~3.5%、3.5~4.0%、4.0~4.5%および4.5~5.0%(またはそれらの任意の組合せ、例えば0.1~0.5%、0.2~0.7%など)を含む。
【0114】
一例において、非ゲル化ヒドロゲル溶液の粘度は、最大500mPa.sであり、所望により、非ゲル化ヒドロゲル溶液の粘度は、5~200mPa.s(好ましくは5~100mPa.s)である。
【0115】
他の例において、ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの濃度は、0.25%、0.3%、0.4%、0.5%または0.6%を超える。他の例において、ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの濃度は、5%、4.5%、4.0%、3.5%、3.0%、2.6%、2.4%、1.5%、1.4%、1.3%または1.2%未満である。いくつかの好ましい例において、ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの濃度は、約0.3%、約0.6%または約1.2%である。いくつかの特に好ましい例において、ヒドロゲル中のヒドロゲル形成ポリマーの濃度は、約1%である。いくつかの特に好ましい例において、ヒドロゲルは、約1%アルギン酸ナトリウムまたは約1%アルギン酸カルシウムから形成される。
【0116】
いくつかの例において、ヒドロゲルのゲル化は、多価金属カチオンを含む化合物、例えば塩化カルシウムを用いて促進される。特に、塩化カルシウム(例えば50~200mM塩化カルシウム、好ましくは75~120mM塩化カルシウム)を用いて、アルギン酸ヒドロゲルをゲル化させ得る。
【0117】
他の例において、別の金属塩化物、例えば塩化マグネシウムまたはバリウムまたはストロンチウムが用いられる。あるいは、他の多価カチオン、例えばLa3+またはFe3+を用い得る。
【0118】
本発明はさらに、マグネシウム塩およびカルシウム塩からなる群より選択される第2族金属塩の存在下でヒドロゲル形成ポリマーをゲル化する工程を含む、ヒドロゲルの製造方法を提供する。
【0119】
いくつかの例において、ヒドロゲルは、架橋アルギン酸を含む。例えば、ヒドロゲルは、架橋したアルギン酸カルシウム、アルギン酸ストロンチウム、アルギン酸バリウム、アルギン酸マグネシウムおよび/またはアルギン酸ナトリウムを含み得る。
【0120】
一例において、ヒドロゲルは、架橋したアルギン酸カルシウムを含み得て、所望により、ヒドロゲルは、架橋したアルギン酸カルシウムおよびアルギン酸ナトリウムを含む。したがって、一例において、可逆的架橋アルギン酸カルシウムヒドロゲル(所望によりアルギン酸ナトリウムを含む)を提供し、ここで、ヒドロゲルは、試料を含み、試料は、細胞外核酸を含む。
【0121】
本明細書に記載の例のいずれかにおいて、架橋アルギン酸は、約0.1%(w/v)~約5.0%(w/v)のアルギン酸カルシウムであり得る。例えば、架橋アルギン酸は、約0.5%(w/v)~約3.0%(w/v)、1.0%(w/v)~約2.5%(w/v)、約1.5%(w/v)~約2.0%(w/v)アルギン酸カルシウム、またはそれらの間の範囲であり得る。
【0122】
間隙液(interstitial liquid)は、それにポリマーを溶解し得て、その中でポリマーがゲル化し得るあらゆる液体であり得る。一般に、それは水性液体、例えば水性緩衝液である。適切な水性緩衝液は、本明細書の他の箇所に記載されている。液体は、抗生物質を含んでもよい。好ましくは、ヒドロゲルは、無菌(sterile)、すなわち無菌(aseptic)である。
【0123】
ヒドロゲルは、任意の適切なサイズで生成され得る。
【0124】
いくつかの例において、ヒドロゲルは、薄層、ディスクまたはシートの形態である。好ましくは、ゲルは、ディスクまたは薄層の形態である。ディスクの直径は、例えば、5~50mmまたは10~50mm、好ましくは10~30mm、より好ましくは15~25mm、および最も好ましくは約19mmであり得る。薄層、ディスクまたはシートの厚さは、一般に0.1~5mm、好ましくは0.5~2.0mm、より好ましくは約1.0または1.5mm、または約1、2、3、4または5mmである。いくつかの例において、ディスク中のヒドロゲルの最終体積は、好ましくは200μl~1ml、好ましくは200~600μl、好ましくは300~500μlおよびより好ましくは400~450μlである。
【0125】
本明細書に記載のヒドロゲルは、任意の適切な手段を用いて形成される。下の実施例に記載のように、本明細書に記載のヒドロゲルを形成するための1つの非限定的な手段は、当該分野で入手可能な試薬、例えばSwabReadyTMの使用である。この例において、アルギン酸カルシムを含むゲルビーズを用いて、更なるアルギン酸を試料と共に添加して、更なる架橋を誘導する。これらのヒドロゲルは、2つのヒドロゲル形成ポリマー(アルギン酸ナトリウムおよびアルギン酸カルシウム)を含む。このようなヒドロゲルは、可逆的架橋ヒドロゲルを含むため、特許請求の範囲に明らかに包含される。
【0126】
以下に詳細に記載するように、可逆的架橋ヒドロゲル(細胞外核酸を含む)は、密閉容器内に包装され得る。
【0127】
本明細書で用いる「密閉容器(sealed receptacle)」は、ガスまたは液体の連続的な流れに対して密閉を維持できる容器を指す。例えば、密閉容器は、水密および/または気密の容器、例えばプラスチック容器であり得る。適切な密閉容器の非限定的な例は、所望により適切な緩衝液(例えば塩ベースの緩衝液)を含む密閉バイアルまたは凍結バイアルまたは組織培養フラスコを含む。他の例において、ヒドロゲルを密閉バッグ内に含み得る。
【0128】
一例において、密閉容器は、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレート(例えば、複数のウェルを含むプレート)より選択される。例えば、プレートは、4、6、8、12、24、48、96、384、1536ウェルプレートより選択され得る。適切な容器は、当該技術分野で周知である。
【0129】
容器は、蓋(例えば、ねじ嵌め蓋)または別の手段(例えば、粘着フィルムまたはテープなど)を用いて密閉し得る。
【0130】
本発明者らは、驚くべきことに、可逆的架橋ヒドロゲルへの細胞外核酸の組み込みが、保存時の機械的および環境的ストレスから細胞外核酸を保護し、細胞外核酸の構造的完全性および/または機能を保存することを示した。本明細書に記載の可逆的架橋ヒドロゲルは、細胞外核酸を保持するために(すなわち、保存および/または輸送中にその構造的完全性および/または機能を維持することにより)用いられ得る。
【0131】
本明細書で用いる語句「細胞外核酸の構造的完全性を維持する」は、核酸のすべてまたはかなりの部分が、(ヒドロゲルと接触させる前の核酸の構造的完全性と比較して)ヒドロゲル中での保存および/または輸送の所定時間中に変化しないことを意味する。同様に、語句「細胞外核酸の機能を維持する」という語句は、核酸の元の機能のかなりの部分が、ヒドロゲル中での保存および/または輸送の所定時間中維持されることを意味する(元の機能は、ヒドロゲルと接触させる前の機能として測定される)。かなりの部分は、少なくとも50%、60%、70%、80%、90%または95%であり得る。核酸の構造的完全性および機能性を決定するための適切なアッセイは、当該技術分野で周知である。例えば、qPCRなどの核酸定量アッセイを用いて、特定の時間にわたって保存された核酸の量を定量し得る。配列の完全性の保持はまた、次世代シーケンシングまたはパイロシークエンシングを用いて評価し得る。別の例として、ウイルス細胞変性効果(CPE)を決定するアッセイが用いられ得る(例えば、核酸がウイルスベクター、ウイルス粒子またはビリオン内にある場合)。このようなアッセイの更なる詳細は、下の「実施例」セクションに記載されている。
【0132】
(保存および/または輸送のための細胞外核酸を含む試料を製造する方法)
本発明はまた、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための細胞外核酸を含む試料を製造する方法を提供する。該方法は、下記:
i)試料をヒドロゲル形成ポリマーと接触させる工程;および
ii)ポリマーを重合させて、可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する工程
を含む。
【0133】
一例において、方法は、工程(i)の前に、細胞外核酸(例えば、エンベロープウイルス粒子などの脂質カプセル内の細胞外核酸)を水性緩衝液と混合させる工程を含む。いくつかの適切な緩衝液は、本明細書に記載の他の箇所に記載されており、ここでも同様に適用される。例えば、方法は、工程(i)の前に、細胞外核酸(例えば、エンベロープウイルス粒子などの脂質カプセル内の細胞外核酸)を塩ベースの緩衝液と混合させる工程を含む。
【0134】
方法は、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための容器に核酸含有ヒドロゲルを密閉する工程をさらに含み得る。その中で核酸含有ヒドロゲルが形成された容器は、保存または第1の場所から第2の場所への輸送に適した容器であり得て、この例において、方法は、ヒドロゲルが形成された容器にヒドロゲルを密閉する工程を単に含み得る。別の例において、方法は、容器を密閉する前に、形成されたヒドロゲルを適切な容器に入れる工程を含み得る。本明細書において、方法は、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための容器に核酸含有ヒドロゲルを包装および密閉する工程を含み得る。適切な容器の例は、他の箇所で説明されており、バイアル、チューブ、フラスコ、ディッシュ、ベッセルまたはプレートを含む。核酸含有ヒドロゲルを容器に密閉するためのいくつかの手段が当該技術分野で知られている(例えば蓋、粘着フィルムまたはテープなどを使用する)。
【0135】
したがって、細胞外核酸は、方法の工程i)の前に、容器内に入れてもよく、例えば、細胞外核酸が保存または輸送に適した容器内に位置している間に、ヒドロゲル形成ポリマーを細胞外核酸と接触させてもよい。
【0136】
あるいは、細胞外核酸は、方法の工程(i)の後に、容器内に入れてもよく、例えば、細胞外核酸が保存または輸送に適した容器内に位置する前に、ヒドロゲル形成ポリマーを細胞外核酸と接触させてもよい(そして所望により、工程ii)に従って重合させてもよい)。
【0137】
したがって、保存または第1の場所から第2の場所への輸送のための細胞外核酸(例えば、ウイルス粒子などの脂質カプセル内の細胞外核酸)を含む試料を製造する方法であって、下記:
i)試料をヒドロゲル形成ポリマーと接触させる工程;および
ii)ポリマーを重合させて、可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する工程、および保存または第1の場所から第2の場所への輸送に適した容器に核酸含有ヒドロゲルを密閉する工程
を含む方法を提供する。
【0138】
方法は、iii)第1の場所から第2の場所への輸送のために密閉容器を発送する工程をさらに含み得る。本明細書で用いる「発送」は、輸送のために容器を引き渡すこと(例えば、意図された目的地への輸送/送達のために配達業者に容器を引き渡すこと)を指す。従って、発送は、密閉容器の第2の場所への輸送そのものを含まない。
【0139】
細胞外核酸を、任意の適切な手段を用いてヒドロゲル形成ポリマーと接触させ得る。例えば、細胞外核酸は、ヒドロゲル形成ポリマーを含む溶液と混合され得る(重合/凝集の前、またはヒドロゲル形成ポリマーの架橋前)。当業者に明らかなように、「ヒドロゲル形成ポリマー」との接触は、細胞外核酸と、1つのヒドロゲル形成ポリマーまたは2つ以上(例えば2つ)のヒドロゲル形成ポリマーとの接触を包含する。例えば、試料を、ヒドロゲルの形成中に、アルギン酸ストロンチウムおよびアルギン酸カルシウムと接触させ得る。
【0140】
細胞外核酸は、密閉可能な容器内でヒドロゲル形成ポリマーと接触させてもよく(例えば、ヒドロゲルを形成させたら、容器を保存および/または輸送のために密閉できるように)、または細胞外核酸を密閉可能な容器に入れる前にヒドロゲルと接触させてもよい。適切な容器は、本明細書の他の箇所に記載されている。
【0141】
そして、方法は、細胞外核酸-ポリマーを重合させて、細胞外核酸がヒドロゲル内にある可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する工程を含む。細胞外核酸-ポリマーを重合させて可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを形成する方法は、当技術分野で周知であり、用いられるポリマーに応じて異なる。例えば、アルギン酸溶液の重合(アルギン酸塩ヒドロゲルを形成するため)は、塩化カルシウムなどの化学物質によって誘導され得る。
【0142】
本明細書で用いる、ヒドロゲルを「重合させる」および「ゲル化する」という用語は、液体からヒドロゲルへのヒドロゲル形成ポリマーの状態の変化を指すために相互交換可能に用いられる。
【0143】
ヒドロゲルは、適切な細胞適合性条件下、すなわち、細胞外核酸の構造的完全性および/または機能性に有害ではない、または著しく有害ではない条件下でゲル化される。
【0144】
いくつかの例において、ヒドロゲルは、cGMP(current Good Manufacturing Practice)条件下で製造される。
【0145】
(細胞外核酸の輸送/保存/注文を満たす方法)
また、第1の場所から第2の場所へ細胞外核酸を含む試料を輸送する方法を提供する。方法は、下記:
(a)本明細書の他の箇所に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本明細書の他の箇所に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;
(b)ヒドロゲルを第1の場所から第2の場所へ輸送する工程;
および、所望により
(c)第2の場所で核酸をヒドロゲルから放出する工程
を含む。
【0146】
本明細書の他の箇所に記載の本発明の態様(例えば適切な容器、ヒドロゲル、核酸、緩衝液)は、ここでも同様に適用される。
【0147】
また、細胞外核酸を含む試料を保存する方法であって、該方法が、下記:
(a)本明細書の他の箇所に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本明細書の他の箇所に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
(b)ヒドロゲルを保存する工程
を含む方法を提供する。
【0148】
本明細書の他の箇所に記載の本発明の態様(例えば適切な容器、ヒドロゲル、核酸、緩衝液)は、ここでも同様に適用される。
【0149】
方法は、核酸含有ヒドロゲルを任意の適切な期間保存および/または輸送するために用いられ得る。例えば、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間保存および/または輸送され得る。典型的に、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間など保存および/または輸送され得る。例えば、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも3日間、または少なくとも5日間保存および/または輸送され得る。核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも7日間など保存および/または輸送され得る。
【0150】
細胞外核酸含有ヒドロゲルは、最長10または20週間保存および/または輸送され得る。好ましくは、細胞外核酸は、ヒドロゲルから放出される前に、最長1、2、3、4、5、6、7、8、9または10週間保存される。より好ましくは、細胞外核酸は、ヒドロゲルから放出される前に、最長1、2、3、4、5、6、7、8、9または10日間保存される。
【0151】
一例において、細胞外核酸が、エンベロープウイルス粒子などの脂質カプセル内にある場合、方法は、核酸含有ヒドロゲルを任意の適切な期間保存および/または輸送するために用いられ得る。例えば、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間保存および/または輸送され得る。典型的に、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも2日間、少なくとも3日間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、少なくとも9日間、少なくとも10日間、少なくとも11日間、少なくとも12日間、少なくとも13日間、少なくとも14日間など保存および/または輸送され得る。例えば、核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも3日間、または少なくとも5日間保存および/または輸送され得る。核酸含有ヒドロゲルは、少なくとも7日間など保存および/または輸送され得る。
【0152】
本明細書に記載の細胞外核酸は、任意の適切な手段、例えば郵便またはクーリエ便によってヒドロゲル(および密封容器)内で輸送されてもよく、これには自動車手段、例えば車、バン、トラック、オートバイ、飛行機などによる輸送が含まれ得る。好ましくは、輸送は、郵便またはクーリエ便によるものである。
【0153】
第2の場所は、好ましくは、第1の場所から、例えば少なくとも1マイル離れた、好ましくは第1の場所から5マイル超離れた場所である。
【0154】
第1の場所から第2の場所への輸送は、少なくとも1時間、少なくとも2時間、少なくとも5時間、少なくとも12時間、少なくとも24時間など要し得る。
【0155】
本明細書に記載の核酸含有ヒドロゲルを保存および/または輸送するための適切な条件は、当業者であれば容易に特定可能であり、これには、核酸含有ヒドロゲルを所望の温度(例えば、実施例に用いるように18℃~22℃の間)で維持することが含まれる。例えば、核酸がエンベロープウイルス粒子などの脂質カプセル内にある核酸含有ヒドロゲルを保存および/または輸送するための適切な条件には、核酸含有ヒドロゲルを所望の温度(例えば、実施例に用いるように18℃~22℃の間)で維持することを含む。
【0156】
細胞外核酸は、-80℃~45℃の範囲、好ましくは4~45℃の温度でヒドロゲル(および密閉容器)内で保存および/または輸送され得る。一例において、細胞外核酸は、周囲温度で保存および/または輸送される。
【0157】
いくつかの例において、ヒドロゲル(および密閉容器)内の細胞外核酸は、冷蔵条件下、例えば4~6℃、好ましくは約4℃で保存および/または輸送される。特定の例において、それらは、保存および/または輸送されるとき冷蔵される(2~8℃と定義される(EU薬局方))。別の例において、それらは、冷所で(8~15℃と定義される)保存および/または輸送される。
【0158】
他の例において、それらは、周囲条件下、例えば10~25℃、好ましくは15~22℃、例えば18~22℃で保存および/または輸送される。いくつかの例において、周囲温度は、30℃まで(すなわち10~30℃)、または40℃までであり得る。さらに他の例において、それらは、約37℃で保存および/または輸送される。
【0159】
いくつかの例において、それらは、制御室温(CRT)(15~25℃と定義される)で保存および/または輸送される。それらは、冷所またはCRT(すなわち8~25℃)で保存または輸送され得る。
【0160】
さらに他の例において、それらは、体温より低い温度(すなわち約35℃未満、典型的には0~32℃の範囲)で保存および/または輸送される。一例において、それらは、CRTから32℃の間(すなわち15~32℃)で保存および/または輸送される。別の例において、それらは、冷所、CRTまたは最高32℃(すなわち8~32℃)で保存および/または輸送される。
【0161】
いくつかの例において、細胞外核酸を含むヒドロゲルは、保存および/または輸送の前に凍結される。これは、細胞外核酸が解凍後にその構造的完全性および/または機能を維持する時間を延長し得て、および/または利用可能な輸送時間を延長し得る。したがって、ヒドロゲルは、この方法において凍結後保護剤として用い得る。例えば、細胞外核酸を含むヒドロゲルの温度を、0℃未満、-15℃未満、または-80℃未満に低下させ得る。細胞外核酸を含むヒドロゲルは、好ましくはゆっくりとした、制御されたまたは制御されていない上昇速度で、保存および/または輸送中に解凍または解凍、すなわちその温度を0℃超に上昇させてもよく、させなくてもよい。他の例において、本発明のヒドロゲルは、冷却または凍結されない。
【0162】
また、細胞外核酸の注文または依頼を満たすための方法であって、該方法が、下記:
a)細胞外核酸の注文または依頼を受ける工程;
b)本明細書の他の箇所に記載の方法に従い生成された可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;または本明細書の他の箇所に記載の可逆的架橋した核酸含有ヒドロゲルを得る工程;および
c)輸送のために試料を発送する工程;または注文または依頼で指定された場所へ試料を輸送する工程
を含む方法を提供する。
【0163】
注文または依頼は、例えばインターネット、電子メール、テキストメッセージ、電話または郵便などの任意の適切な手段によって受信され得る。
【0164】
本明細書の他の箇所に記載の本発明の態様(例えば適切な容器、ヒドロゲル、核酸、緩衝液)は、ここでも同様に適用される。
【0165】
本明細書で言及されるヒドロゲルは、細胞外核酸を放出し得るものである。言い換えると、その中に含まれる細胞外核酸の保存または貯蔵および/または輸送の後、ヒドロゲルは解離でき、これにより、以前にその中に保持されていた細胞外核酸のすべてまたは実質的にすべての放出または除去が可能になる。
【0166】
ヒドロゲルは、適切な核酸適合性条件下、すなわち、核酸および/または核酸が位置し得る脂質カプセルの完全性に有害ではない、または著しく有害ではない条件下で解離する。
【0167】
好ましくは、ヒドロゲルは、化学的に崩壊または溶解することにより解離する。例えば、アルギン酸ゲルは、適切なアルギン酸溶解緩衝液(例えば、0.055Mクエン酸ナトリウム、0.15M NaCl、pH6.8)中で崩壊し得る。別の適切なアルギン酸溶解緩衝液は、当業者に周知である。
【0168】
好ましくは、細胞外核酸の少なくとも50%、60%または70%が、保存および/または輸送後にその構造的完全性および/または機能を保持し、より好ましくは、細胞外核酸の少なくとも80%、85%、90%または95%が、保存および/または輸送後にその構造的完全性および/または機能を保持する。細胞外核酸の構造的完全性および/または機能を評価するためのアッセイは、本明細書の他の箇所で説明されている。
【0169】
本明細書で他に定義しない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が関係する分野の当業者によって一般に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、Singleton and Sainsbury, Dictionary of Microbiology and Molecular Biology, 2d Ed., John Wiley and Sons, NY (1994);およびHale and Marham, The Harper Collins Dictionary of Biology, Harper Perennial, NY (1991)は、本明細書で用いる多くの用語の一般的な辞書を当業者に提供する。本明細書に記載のものと類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施に使用できるが、好ましい方法および材料が本明細書に記載されている。したがって、すぐ下で定義される用語は、明細書全体を参照することによってより完全に説明される。また、本明細書で用いられる場合、単数形の用語「ある(a)」、「ある(an)」および「その(the)」は、文脈上明らかに他に断らない限り、複数形の参照を含む。他に断らない限り、核酸は、5'から3'の方向で左から右に書かれ;アミノ酸配列は、それぞれアミノからカルボキシの方向で左から右に書かれている。本発明は、記載されている特定の方法論、プロトコールおよび試薬に限定されず、これらは当業者によって用いられる状況に応じて変化し得ることを理解されたい。
【0170】
本発明の態様を、以下の非限定的な実施例により実証する。
【実施例】
【0171】
材料
細胞の種類:MRC-5(ATCC(登録商標)CCL-171
TM)
ウイルス:ヒトコロナウイルス229E(CoV 229E)(ATCC(登録商標)VR-740
TM)
【表1】
【0172】
試薬:
GelBaseビーズ:0.55%アルギン酸カルシウムビーズ
Atelerix SwabReadyTM改変ウイルス輸送培地:Virocult培地中1%アルギン酸ナトリウム溶液
【0173】
方法
SwabReadyTM調製の概要:
1)粉末の低アルギン酸ナトリウムをハンクス緩衝生理食塩水と混合して濃度0.55%にする。
2)0.4mLのこの0.55%アルギン酸ナトリウム溶液を、1mLの0.1M塩化カルシウム溶液に滴下する。塩化カルシウム中の二価カチオンCa2+は、ポリマー主鎖のグルロン酸基のカルボン酸基を架橋し、ゲルビーズを形成する。これを一晩インキュベートして、プロセスを完了させる。その後、塩化カルシウム溶液を除去し、ビーズを生理食塩水で洗浄する。これにより、0.55%アルギン酸カルシウムビーズが形成される。
3)粉末アルギン酸ナトリウムをハンクス緩衝生理食塩水と混合して濃度5%にする。
4)0.1mLの5%アルギン酸ナトリウム溶液を、0.4mLのvirocult培地に添加して、Atelerix SwabReadyTM改変ウイルス輸送培地の1%溶液を作る。
5)0.2Mクエン酸三ナトリウムをリン酸緩衝生理食塩水に溶解させて、溶解緩衝液を作る。
【0174】
SwabReadyTM使用法の概要:
1)0.5mLのAtelerix SwabReadyTM改変ウイルス輸送培地を、0.4mLの0.55%アルギン酸カルシウムビーズ(GelBaseビーズ)に加える。0.55%ビーズは、一部の二価カチオンCa2+を、Atelerix SwabReadyTM改変ウイルス輸送媒体の1%溶液のポリマー主鎖のグルロン酸基のカルボン酸基に与える。
2)まだ液体のうちに使用したスワブをゲル溶液に挿入できるが、ゲル化/架橋には通常2時間かかる。
3)スワブキットを検査のために研究室に輸送できるようときとなる。
4)スワブをゲルから外すために、0.3mLの溶解緩衝液をチューブに加える。クエン酸三ナトリウムは、ポリマー主鎖からカルシウムカチオンを除去し、架橋プロセスを逆転させる。
【0175】
細胞維持およびアッセイの準備
MRC-5細胞を、ヒトコロナウイルス229E(CoV 229E)の増殖のための宿主細胞株として用いた。MRC-5細胞を、20%ウシ胎児血清(FBS)(GibcoTM、USA)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ThermoFisher Scientific、UK)を添加したイーグル最少必須培地(EMEM;ATCC(登録商標)、UK)(完全培養培地)中で37±2℃、5%CO2にて維持した。ウイルス力価測定の準備において、MRC-5細胞を、2×105細胞/mLで96ウェルプレートに播種し、37±2℃、5%CO2で24時間または80~90%のコンフルエントに達するまでインキュベートした。
【0176】
HeLa細胞を、アデノウイルス5型の増殖のための宿主細胞株として用いた。HeLa細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したイーグル最少必須培地(EMEM)(完全培養培地)中で37±2℃、5%CO2にて維持した。ウイルス力価測定の準備において、HeLa細胞を、96ウェルプレートに播種し、37±2℃、5%CO2で24時間または80~90%のコンフルエントに達するまでインキュベートした。
【0177】
SCP細胞を、ビスナウイルスの増殖のための宿主細胞株として用いた。細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS)および1%ペニシリン-ストレプトマイシン(完全培養培地)を添加したイーグル最少必須培地(EMEM)中で37±2℃、5%CO2にて維持した。ウイルス力価測定の準備において、SCP細胞を、96ウェルプレートに播種し、37±2℃、5%CO2で24時間または80~90%のコンフルエントに達するまでインキュベートした。
【0178】
生存性アッセイの準備
細胞およびヒトコロナウイルスの生存の評価を、Atelerix SwabReadyTMおよびVirocult(登録商標)ウイルス輸送培地の使用に関するメーカーの指示に従って実施した。試験は3回行い、20±2℃の制御温度で実施した。200μLアリコートの5.5×105TCID50/mLヒトコロナウイルス229Eを、500μLのvirocult(登録商標)に加えた。500μLアリコートのAtelerix SwabReadyTM改変ウイルス輸送培地を、GelBaseビーズに加え、チューブを激しく反転させて、ビーズを改変ウイルス培地に分散させた。完全に混合したら、内容物をチューブの底に沈降させ、200μLの5.5×105TCID50/mLのヒトコロナウイルス229Eを各チューブに加えた。ヒトコロナウイルス229Eを、改変ウイルス培地の添加の5分以内に加えた。試料を層流キャビネット内で20±2℃にて最大14日間インキュベートした。
【0179】
TCID50によるウイルスの生存性の定量
ヒトコロナウイルス229E(CoV 229E):
上記の「生存性アッセイの準備」に従って試験試料の調製後、10倍段階希釈を、2%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを含むEMEM(アッセイ培地)中で実施した。予め播種したMRC-5細胞プレートのウェルから培地を吸引し、カルシウムおよびマグネシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS;GibcoTM、UK)で細胞を洗浄した。100μLアリコートの試験試料の各希釈液を、対応する試験ウェルに加えた。試験プレートを、35±2℃、5%CO2にて7日間インキュベートした。各試験の繰り返しについて6つの繰り返しウェルを実施した。インキュベート後、ウイルス細胞変性効果(CPE)を、Motic AE 2000倒立顕微鏡を用いて決定した。ウイルス価を、Spearman-Karber法を用いて計算した。
【0180】
アデノウイルス:
0、3、7および14日間のインキュベート後に試料を分析した。400μLアリコートのSwabReadyTM溶解緩衝液を、Atelerix SwabreadyTM試料に加え、15分間インキュベートしてゲルを溶解させた。Atelerix SwabreadyTM試料およびPBS対照から100μLのアリコートを採取し、2%FBSおよび1%ペニシリン-ストレプトマイシンを添加したEMEM(完全アッセイ培地)で10倍希釈した。予め播種したHeLa細胞プレートのウェルから培地を吸引し、カルシウムおよびマグネシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で細胞を洗浄した。100μLアリコートの各希釈液を、対応する細胞プレートに加えた。試験プレートを、37±2℃、5%CO2にて5日間インキュベートした。各試験の繰り返しについて8つの繰り返しウェルを実施した。インキュベート後、ウイルス細胞変性効果(CPE)を、Motic AE 2000倒立顕微鏡を用いて決定した。ウイルス価を、Spearman-Karber法を用いて計算した。
【0181】
ビスナウイルス:
3、7および14日間のインキュベート後に試料を分析した。400μLアリコートのSwabReadyTM溶解緩衝液を、Atelerix SwabreadyTM試料に加え、15分間インキュベートしてゲルを溶解させた。Atelerix SwabreadyTM試料およびPBS対照から100μLのアリコートを採取し、2%FBS、1%ペニシリン-ストレプトマイシンおよび1%L-グルタミンを添加したEMEM(完全アッセイ培地)で10倍希釈した。予め播種したSCP細胞プレートのウェルから培地を吸引し、カルシウムおよびマグネシウムを含むダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で細胞を洗浄した。100μLアリコートの各希釈液を、対応する細胞プレートに加えた。各試験の繰り返しについて8つの繰り返しウェルを実施し、プレートを、37±2℃、5%CO2にて7日間インキュベートした。インキュベート後、ウイルス細胞変性効果(CPE)を、Motic AE 2000倒立顕微鏡を用いて決定した。ウイルス価を、Spearman-Karber法を用いて計算した。
【0182】
結果
ヒドロゲルベース試料保存技術のウイルス保存の有効性
ヒトコロナウイルス229E
3日間のインキュベート後、平均3.67 Log
10TCID
50/mLの生存CoV 229Eを、Atelerix SwabReady
TMヒドロゲル保存から回収した。平均2.28 Log
10TCID
50/mLの生存CoV 229Eを、Virocult(登録商標)ウイルス輸送培地から回収した。5日間、7日間、10日間および14日間のインキュベート後、平均2.5 Log
10TCID
50/mLの生存CoV 229Eを、Atelerix SwabReady
TMヒドロゲル保存から回収した。7日後、平均1.67 Log
10TCID
50/mLの生存CoV 229Eを、Virocult(登録商標)ウイルス輸送培地から回収した。5日、10日および14日後、ウイルス性CPEは観察されず、1.50 Log
10TCID
50/mL未満の生存CoV 229Eを、Virocult(登録商標)ウイルス輸送培地から回収した(表2、
図1)。
【表2】
【0183】
アデノウイルス
0日間のインキュベート後、平均7.67 LogTCID
50/mLの生存アデノウイルスを、Atelerix SwabReady
TMから回収し、平均7.79 LogTCID
50/mLの生存アデノウイルスを、PBS対照から回収した。3日間、7日間および14日間のインキュベート後、平均7.04、6.92および6.75 LogTCID
50/mLの生存アデノウイルスを、Atelerix SwabReady
TMからそれぞれ回収した。3日間、7日間および14日間のインキュベート後、平均6.92、7.13および6.92 LogTCID
50/mLの生存アデノウイルスを、PBS対照からそれぞれ回収した(表3、
図2)。
【表3】
【0184】
ビスナウイルス
0日間のインキュベート後、平均5.04 Log
10TCID
50/mLの生存ビスナウイルスを、PBS対照から回収した。PBS中でビスナウイルスを3、7および14日間インキュベートした後、生存ウイルスは観察されなかったため、すべての時点でのAtelerix SwabReady
TM中のビスナウイルスの回収を、0日目のPBS対照と比較した。3、7および14日間のインキュベート後、平均3.50 Log
10TCID
50/mLの生存ビスナウイルスを、Atelerix SwabReady
TMから回収し、これは、Atelerix SwabReady
TMが、検出可能なレベルの生存ビスナウイルスを少なくとも14日間維持できたことを示している(表4、
図3)。
【表4】
【0185】
考察
Atelerix SwabReadyTMヒドロゲルを、14日間のウイルス保存の有効性についてVirocult(登録商標)ウイルス輸送培地と比較して評価した。ヒトコロナウイルス229Eの生存性を、5つの時点で評価した。
【0186】
Atelerix SwabReadyTMは、Virocult(登録商標)ウイルス輸送培地と比較して、ヒトコロナウイルスの生存性を最大14日間保存する能力が向上していることを実証した。長期間のウイルスの生存性の保存は、大規模なウイルス検査にとって大きな課題であり、これらの結果は、Atelerix SwabReadyTMが検出可能なレベルの生存ヒトコロナウイルス229Eを少なくとも14日間安定して維持できたことを示している。ウイルス検出を、1.50 Log10TCID50/mLの最小検出レベルを有し、溶液中に存在する完全な感染性ビリオンを定量するTCID50力価測定法を用いて決定した。
【0187】
【0188】
読者の注意は、本出願に関連して本明細書と同時にまたはその前に提出され、本明細書とともに公衆の閲覧に公開されているすべての論文および文献に向けられており、そのようなすべての論文および文献の内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0189】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)で開示されるすべての特徴、および/またはそのように開示される任意の方法またはプロセスのすべての工程は、そのような特徴および/または工程の少なくとも一部が相互に排他的である組合せを除き、任意の組合せで組み合わせることができる。
【0190】
本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される各特徴は、他に明示的に断らない限り、同一、同等または類似の目的を果たす別の特徴によって置き換えることができる。したがって、他に明示的に断らない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の同等または類似の特徴の一例のみである。
【0191】
本発明は、あらゆる前記実施態様の詳細に限定されない。本発明は、本明細書(添付の特許請求の範囲、要約書および図面を含む)に開示される特徴の任意の新規なものもしくはまたは任意の新規な組合せ、またはそのように開示される任意の方法もしくはプロセスの工程の任意の新規なものもしくはまたは任意の新規な組合せにまで及ぶ。
【国際調査報告】