(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】抗EGFRキメラ抗原受容体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/113 20100101AFI20231212BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231212BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231212BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231212BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231212BHJP
C12N 5/078 20100101ALI20231212BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20231212BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20231212BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20231212BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231212BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231212BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231212BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20231212BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20231212BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20231212BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20231212BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231212BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C12N15/113 140Z
C12N1/15 ZNA
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/078
C12N5/0783
A61P7/00
A61P35/02
A61P35/00
A61P25/00
A61P37/04
A61K35/12
A61K35/17
A61K35/15
A61K48/00
A61P43/00 105
A61K39/395 N
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534884
(86)(22)【出願日】2021-12-03
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 US2021061746
(87)【国際公開番号】W WO2022125387
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2021-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】515045617
【氏名又は名称】シアトル チルドレンズ ホスピタル (ディービーエイ シアトル チルドレンズ リサーチ インスティテュート)
【住所又は居所原語表記】1900 Ninth Ave. Seattle, WA 98101 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】ジェンセン,マイケル シー.
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ジア
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C085
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA94X
4B065AB01
4B065AC14
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4C084MA66
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4C087AA01
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4C087NA14
4C087ZA01
4C087ZA51
4C087ZB26
4C087ZB27
(57)【要約】
本明細書において、EGFR806CARを含むポリペプチドをコードするヒト用にコドン最適化された配列を含むポリヌクレオチドを開示する。このヒト用にコドン最適化された配列は、その発現を最適化するため、最適に機能するプロモーター、スペーサー、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、選択マーカー、少なくとも1つの自己切断ペプチドおよびEFGRtを含むコンストラクトに組み込んでもよい。次に、膠芽腫、液性腫瘍、固形腫瘍などのがんの治療または抑制を目的として、T細胞などの細胞においてこの配列を発現させてもよい。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗EGFRキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヒト用にコドン最適化された配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記ヒト用にコドン最適化された配列が、配列番号1に示される配列を含む、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項3】
前記ヒト用にコドン最適化された配列に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む、請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
【請求項4】
前記プロモーターが、EF1a配列またはEF1a/HTLV配列を含み、好ましくは、ヒトEF1a配列またはヒトEF1a/HTLV配列を含む、請求項3に記載のポリヌクレオチド。
【請求項5】
前記プロモーターが、配列番号2に示される配列を含む、請求項4に記載のポリヌクレオチド。
【請求項6】
自己切断ペプチドまたはIRESをコードする少なくとも1つの配列をさらに含み、好ましくは、前記自己切断ペプチドまたはIRESをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項7】
前記自己切断ペプチドが2A自己切断ペプチドであり、例えば、P2AもしくはT2Aまたはその両方である、請求項6に記載のポリヌクレオチド。
【請求項8】
前記自己切断ペプチドをコードする配列が、配列番号3または配列番号4に示される配列を含む、請求項7に記載のポリヌクレオチド。
【請求項9】
1つ以上の選択マーカーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の選択マーカーをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~8のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
前記1つ以上の選択マーカーがDHFRdmを含む、請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項11】
前記1つ以上の選択マーカーをコードする配列が、配列番号5に示される配列を含む、請求項9に記載のポリヌクレオチド。
【請求項12】
EGFRtをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記EGFRtをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~11のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項13】
前記EGFRtをコードする配列が、配列番号6に示される配列を含む、請求項12に記載のポリヌクレオチド。
【請求項14】
1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~13のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項15】
前記細胞内シグナル伝達ドメインが、41BBもしくはCD3ζまたはその両方を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列が、配列番号7に示される配列を含む、請求項14に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
膜貫通ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記膜貫通ドメインをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~16のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
前記膜貫通ドメインがCD28tmを含む、請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
前記膜貫通ドメインをコードする配列が、配列番号8に示される配列を含む、請求項17に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
スペーサーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記スペーサーをコードする配列が、ヒトでの発現用にコドン最適化されている、請求項1~19のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
前記スペーサーが、IgG4のヒンジ領域などのIgG4の一部を含む、請求項20に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記スペーサーをコードする配列が、配列番号9に示される配列である、請求項20に記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記ポリヌクレオチドをコードする配列が、配列番号10に示される配列である、請求項1に記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む単離された細胞。
【請求項25】
免疫細胞である、請求項24に記載の単離された細胞。
【請求項26】
前駆T細胞または造血幹細胞である、請求項25に記載の単離された細胞。
【請求項27】
T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージまたは顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞など)である、請求項26に記載の単離された細胞。
【請求項28】
CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項27に記載の単離された細胞。
【請求項29】
CD8+ナイーブT細胞、CD8+メモリーT細胞、CD8+セントラルメモリーT細胞、CD8+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD8+T細胞、CD8+エフェクターメモリーT細胞およびCD8+バルクT細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性T細胞である、請求項28に記載の単離された細胞。
【請求項30】
CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーT細胞である、請求項28に記載の単離された細胞。
【請求項31】
対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である、請求項24~30のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項32】
エクスビボの細胞である、請求項24~31のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項33】
インビボの細胞である、請求項24~31のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項34】
哺乳動物細胞である、請求項24~33のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項35】
ヒト細胞である、請求項24~34のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項36】
請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含む単離された細胞であって、
B細胞特異的細胞表面分子に特異的な抗体もしくはその結合断片またはscFvをさらに発現し、該B細胞特異的細胞表面分子が、例えば、CD19、CD20、CD1d、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23/FcεRII、CD24、CD25/IL-2Rα、CD27/TNFRSF7、CD32、CD34、CD35、CD38、CD40(TNFRSF5)、CD44、CD45、CD45.1、CD45.2、CD54(ICAM-1)、CD69、CD72、CD79、CD80、CD84/SLAMF5、LFA-1、CALLA、BCMA、B細胞受容体(BCR)、IgM、IgD、B220/CD45R、C1q R1/CD93、CD84/SLAMF5、BAFF R/TNFRSF13C、B220/CD45R、B7-1/CD80、B7-2/CD86、TNFSF7、TNFRSF5、ENPP-1、HVEM/TNFRSF14、BLIMP1/PRDM1、CXCR4、DEP-1/CD148またはEMMPRIN/CD147である、単離された細胞。
【請求項37】
免疫細胞である、請求項36に記載の単離された細胞。
【請求項38】
前駆T細胞または造血幹細胞である、請求項37に記載の単離された細胞。
【請求項39】
T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージまたは顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞など)である、請求項38に記載の単離された細胞。
【請求項40】
CD4+T細胞またはCD8+T細胞である、請求項39に記載の単離された細胞。
【請求項41】
CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーT細胞である、請求項40に記載の単離された細胞。
【請求項42】
対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である、請求項36~41のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項43】
エクスビボの細胞である、請求項36~42のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項44】
インビボの細胞である、請求項36~42のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項45】
哺乳動物細胞である、請求項36~42のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項46】
ヒト細胞である、請求項36~42のいずれか1項に記載の単離された細胞。
【請求項47】
がんの抑制または治療を必要とする対象、好ましくはヒトにおいて、がんを抑制または治療する方法であって、請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項24~46のいずれか1項に記載の細胞を前記対象に投与することを含む、方法。
【請求項48】
前記投与が頭蓋内注射により行われる、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
前記がんが膠芽腫である、請求項47または48に記載の方法。
【請求項50】
前記がんが固形腫瘍である、請求項47または48に記載の方法。
【請求項51】
前記固形腫瘍が、乳がん、脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、胃がん、脾臓がん、大腸がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、肉腫、神経芽腫および卵巣がんからなる群から選択される、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
医薬品としての、請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項24~46のいずれか1項に記載の細胞の使用。
【請求項53】
膠芽腫、白血病、リンパ腫、血液腫瘍、液性腫瘍、固形腫瘍などのがんの治療または抑制に使用するための、請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項24~46のいずれか1項に記載の細胞。
【請求項54】
がんの抑制または治療を必要とする対象、好ましくはヒトにおいて、がんを抑制または治療する方法であって、少なくとも1つの追加の抗がん剤の有効量と組み合わせて、請求項1~23のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドまたは請求項24~46のいずれか1項に記載の細胞を前記対象に投与することによって、増強された治療効果を有する併用療法を提供することを含む、方法。
【請求項55】
前記がんが膠芽腫である、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
前記がんが固形腫瘍である、請求項54に記載の方法。
【請求項57】
前記がんが、リンパ腫、血液腫瘍または液性腫瘍である、請求項54に記載の方法。
【請求項58】
前記抗がん剤が、薬学的に許容される担体、希釈剤、添加剤またはこれらの組み合わせとともに送達される、請求項54に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2021年8月17日に出願された「抗EGFRキメラ抗原受容体」という名称の米国仮特許出願第63/234090号、および2020年12月8日に出願された「コドン最適化されたEGFR806CARの治療用配列」という名称の米国仮特許出願第63/122839号の優先権を主張するものであり、これらの出願は引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0002】
配列表の参照
本願は電子形式の配列表とともに出願されたものである。この配列表は、SCRI348WOSEQLISTのファイル名で2021年12月1日に作成された約11キロバイトのファイルとして提供されたものである。この電子形式の配列表に記載の情報は、引用によりその全体が本明細書に明示的に援用される。
【0003】
本開示の態様は、概して、抗EGFRキメラ抗原受容体(CAR)およびこのCARを含むT細胞に関する。いくつかの実施形態は、抗EGFR CARの発現の増強、抗EGFR CARを発現させる方法、および抗EGFR CARの発現を増強させて、膠芽腫、液性腫瘍、固形腫瘍などのがんを標的とする方法に関する。
【背景技術】
【0004】
がんの治療には、多数の治療方法が利用されている。現在行われている一般的な治療方法として、外科手術、化学療法、放射線療法、ホルモン療法、標的薬物療法および細胞療法がある。がんやその他の疾患に罹患した患者を治療するための細胞療法は、治療を必要とする患者に、例えば、生きた細胞などの細胞物質を注射することによって行われる。細胞療法は、ポリクローナルなT細胞や抗原特異的なT細胞、活性化キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞またはマクロファージの注入を含んでいてもよい。最近では、キメラ抗原受容体(CAR)を担持するT細胞の開発が進んでおり、がん免疫療法やウイルス治療の治療経路として有望視されている。
【0005】
CAR T細胞療法は、免疫療法の1種であり、検査室でT細胞を単離して、がん細胞などの細胞上に提示された特定の抗原またはタンパク質を認識する合成受容体を発現するように遺伝子操作し、このような遺伝子操作を行ったT細胞を患者に再注入する。臨床試験では、有望な抗腫瘍活性が実証されているが、CAR T細胞療法は、依然として、細胞の活性化が不十分であり、半減期が短く、がん組織のターゲティングが効率的ではないという欠点がある。したがって、CAR T細胞療法のさらなるアプローチが強く求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で提供される様々な実施形態は、抗EGFRキメラ抗原受容体(CAR)をコードするヒト用にコドン最適化された配列を含む様々なポリヌクレオチドに関する。いくつかの実施形態において、前記ヒト用にコドン最適化された配列は、配列番号1に示される配列を含む。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、EF1a配列またはEF1a/HTLV配列を含み、好ましくは、ヒトEF1a配列またはヒトEF1a/HTLV配列を含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、配列番号2に示される配列を含む。
【0007】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、自己切断ペプチドまたはIRESをコードする少なくとも1つの配列をさらに含み、好ましくは、前記自己切断ペプチドまたはIRESをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記自己切断ペプチドは2A自己切断ペプチドであり、例えば、P2AもしくはT2Aまたはその両方である。いくつかの実施形態において、前記自己切断ペプチドをコードする配列は、配列番号3または配列番号4に示される配列を含む。
【0008】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、1つ以上の選択マーカーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の選択マーカーをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の選択マーカーはDHFRdmを含む。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の選択マーカーは、配列番号5に示される配列を含む。
【0009】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、EGFRtをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記EGFRtをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記EGFRtをコードする配列は、配列番号6に示される配列を含む。
【0010】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、41BBもしくはCD3ζまたはその両方を含む。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列は、配列番号7に示される配列を含む。
【0011】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、膜貫通ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記膜貫通ドメインをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD28tmを含む。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインをコードする配列は、配列番号8に示される配列を含む。
【0012】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、スペーサーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記スペーサーをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、IgG4のヒンジ領域などのIgG4の一部を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサーをコードする配列は、配列番号9に示される配列である。いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドをコードする配列は、配列番号10に示される配列である。
【0013】
さらに本明細書に開示するように、様々な実施形態において、前記実施形態に記載のポリヌクレオチドを含む単離された細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージまたは顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞など)である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD8+ナイーブT細胞、CD8+メモリーT細胞、CD8+セントラルメモリーT細胞、CD8+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD8+T細胞、CD8+エフェクターメモリーT細胞およびCD8+バルクT細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0014】
さらに本明細書に開示するように、様々な実施形態において、本明細書に開示されるポリヌクレオチドを含む単離された細胞であって、B細胞特異的細胞表面分子に特異的な抗体もしくはその結合断片またはscFvをさらに発現し、該B細胞特異的細胞表面分子が、例えば、CD19、CD20、CD1d、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23/FcεRII、CD24、CD25/IL-2Rα、CD27/TNFRSF7、CD32、CD34、CD35、CD38、CD40(TNFRSF5)、CD44、CD45、CD45.1、CD45.2、CD54(ICAM-1)、CD69、CD72、CD79、CD80、CD84/SLAMF5、LFA-1、CALLA、BCMA、B細胞受容体(BCR)、IgM、IgD、B220/CD45R、C1q R1/CD93、CD84/SLAMF5、BAFF R/TNFRSF13C、B220/CD45R、B7-1/CD80、B7-2/CD86、TNFSF7、TNFRSF5、ENPP-1、HVEM/TNFRSF14、BLIMP1/PRDM1、CXCR4、DEP-1/CD148またはEMMPRIN/CD147であることを特徴とする単離された細胞を提供する。いくつかの実施形態において、前記細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージまたは顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞など)である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0015】
さらに本明細書に開示するように、様々な実施形態において、がんの抑制または治療を必要とする対象、好ましくはヒトにおいて、がんを抑制または治療する方法であって、本明細書に開示されるポリヌクレオチドまたは本明細書に開示される細胞を前記対象に投与することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記投与は、頭蓋内注射によって行われる。いくつかの実施形態において、前記がんは膠芽腫である。いくつかの実施形態において、前記がんは固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記固形腫瘍は、乳がん、脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、胃がん、脾臓がん、大腸がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、肉腫、神経芽腫および卵巣がんからなる群から選択される。
【0016】
さらに本明細書に開示するように、様々な実施形態において、医薬品としての、本明細書に開示されるポリヌクレオチドまたは本明細書に開示される細胞の使用を提供する。いくつかの実施形態において、前記実施形態のいずれかによるポリヌクレオチドまたは前記実施形態のいずれかによる細胞は、膠芽腫、白血病、リンパ腫、血液腫瘍、液性腫瘍、固形腫瘍などのがんの治療または抑制に使用するためのものである。
【0017】
さらに本明細書に開示するように、様々な実施形態において、がんの抑制、緩和または治療を必要とする対象、好ましくはヒトにおいて、がんを抑制、緩和または治療する方法であって、少なくとも1つの追加の抗がん剤の有効量と組み合わせて、本明細書に記載のポリヌクレオチドまたは本明細書に記載の細胞を前記対象に投与することによって、増強された治療効果を有する併用療法を提供することを含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、前記がんは膠芽腫である。いくつかの実施形態において、前記がんは固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記がんは、リンパ腫、血液腫瘍または液性腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記抗がん剤は、薬学的に許容される担体、希釈剤、添加剤またはこれらの組み合わせとともに送達される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1A】短いプロモーターによって制御されるEGFR806CARコンストラクト配列の模式図を示す(以降、図面において「短いプロモーター」または「SP」として示す)。
【0019】
【
図1B】長いプロモーターによって制御されるEGFR806CARコンストラクト配列の模式図を示す(以降、図面において「長いプロモーター」または「LP」として示す)。
【0020】
【
図1C】長いプロモーターによって制御されるヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクト配列の模式図を示す(以降、図面において「コドン最適化」、「Co」または配列番号10として示す)。
【0021】
【
図2】本明細書に開示する初代ヒトT細胞研究において用いた方法論のタイムラインを示す。
【0022】
【
図3】フローサイトメトリー分析の結果を示す。形質導入の6日後かつMTXによる選択の4日後に、ビオチン標識抗EGFR抗体とAPC標識ストレプトアビジンでT細胞を染色した。陰性対照としてMock T細胞を使用した。
【0023】
【
図4A】フローサイトメトリー分析の結果を示す。形質導入の11日後に、ビオチン標識抗EGFR抗体とAPC標識ストレプトアビジンでT細胞を染色した。陰性対照としてMock T細胞を使用した。
【0024】
【
図4B】フローサイトメトリー分析の結果を示す。形質導入の11日後に、抗EGFRvIII-his抗体とAPC標識抗his抗体でT細胞を染色した。陰性対照としてMock T細胞を使用した。
【0025】
【
図4C】フローサイトメトリー分析の結果を示す。形質導入の11日後に、ビオチン標識プロテインLとBV405標識ストレプトアビジンでT細胞を染色した。陰性対照としてMock T細胞を使用した。
【0026】
【
図5A】フローサイトメトリー分析の結果を示す。急速拡大培養の7日後に、ビオチン標識抗EGFR抗体とAPC標識ストレプトアビジンでT細胞を染色した。陰性対照としてMock T細胞を使用した。
【0027】
【
図5B】フローサイトメトリー分析の結果を示す。急速拡大培養の7日後に、ビオチン標識プロテインLとBV405標識ストレプトアビジンでT細胞を染色した。
【0028】
【
図5C】EGFRVIII抗原を用いて染色した細胞の染色強度のFACS分析を示す。
【0029】
【
図5D】
図5Cに示したCD8+細胞におけるPE色素を定量した蛍光強度(MFI)の中央値を示した棒グラフを示す。
【0030】
【
図5E】各CARと共発現されたEGFRtマーカーに結合するアービタックスを用いて染色した染色強度のFACS分析を示す。
【0031】
【
図5F】
図5Eに示したCD8+細胞におけるPE色素を定量したMFIの中央値を示した棒グラフを示す。
【0032】
【
図6A】抗CD3ζ抗体を用いたウエスタンブロット分析を示す。CARの分子量は約50kDであり、内因性CD3ζの分子量は約15kDである。陰性対照として、Mock T細胞を使用し、陽性対照として、806CARを発現するH9細胞を使用した。
【0033】
【
図6B】抗CD3ζ抗体を用いたウエスタンブロット分析を示す。
【0034】
【
図6C】
図6Bに示したCAR CD3ζのバンドの密度の定量を示した棒グラフを示す。
【0035】
【
図6D】ドロップレットデジタル(dd)PCRを用いて測定した細胞中の各コンストラクトの遺伝子コピー数を示した棒グラフを示す。
【0036】
【
図6E】
図6Cに示した補正したCD3ζの強度を、細胞1個あたりの平均コピー数で再度補正した結果を示した棒グラフを示す。長いプロモーターを有するコンストラクト(HIV7.3)を含む細胞を示す。
【0037】
【
図7A】IL2のサイトカイン放出アッセイ(BioPlex)を示す。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。K562/EGFRvIII株は、806CAR T細胞の標的細胞株である。
【0038】
【
図7B】TNFのサイトカイン放出アッセイ(BioPlex)を示す。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。
【0039】
【
図7C】IFN-γのサイトカイン放出アッセイ(BioPlex)を示す。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。
【0040】
【
図7D】別のヒトドナー細胞におけるサイトカイン放出アッセイ(IL2、TNF-αおよびIFN-γのMSDアッセイ)を示す。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。
【0041】
【
図8A】クロム放出アッセイ(細胞傷害性アッセイ)を示す。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。K562/EGFRvIII株は、806CAR T細胞の組換え標的細胞株であり、外因性EGFRvIIIを発現する。エフェクター細胞と標的細胞の比率は、30:1~1:1とした。
【0042】
【
図8B】別のヒトドナー細胞をエフェクター細胞として使用したクロム放出アッセイ(細胞傷害性アッセイ)を示す。
【0043】
【
図8C】様々な標的腫瘍細胞株に対してヒトドナー由来エフェクター細胞を作用させたIncucyte分析を示す。
【0044】
【
図9】ドロップレットデジタルPCRを用いた遺伝子コピー数の分析を示す。この分析では、WPREプライマーを用いて、ゲノム内において目的の遺伝子(806CAR-DHFRdm-EGFRt)とともに組み込まれたレンチウイルス骨格領域をターゲティングした。
【0045】
【0046】
【
図10B】マウスにおける腫瘍の生物発光シグナルの定量を示す。コドン最適化された配列、短いプロモーターを有する配列または長いプロモーターを有する配列をT細胞に形質導入し、頭蓋内NSGマウスモデルにおいて試験した。各試験群間での差異を検出できるように、T細胞を低用量(治療に有効でない濃度)で使用した。各試験群は、5匹のマウスを含んでいた。GFP:ffluc(GFPとホタルルシフェラーゼの融合タンパク質)を発現するU87神経膠腫細胞(806CARの標的細胞)を頭蓋内注射(i.c.)した。1週間後に、T細胞を頭蓋内注射した。少なくとも週1回、生物発光画像を撮影し、定量したシグナルをグラフに示した。
【0047】
【
図10C】マウスにおけるカプランマイヤー生存分析を示す。コドン最適化された配列、短いプロモーターを有する配列または長いプロモーターを有する配列をT細胞に形質導入し、頭蓋内NSGマウスモデルにおいて試験した。各試験群間での差異を検出できるように、T細胞を低用量(治療に有効でない濃度)で使用した。各試験群は、5匹のマウスを含んでいた。このグラフのデータは、時間単位あたりの各群の生存マウスの割合を示す。
【0048】
【0049】
【
図10E】マウスにおけるカプランマイヤー生存分析を示す。(*)背中が丸まる姿勢、体重の減少、立毛、嗜眠、努力呼吸などの、腫瘍に関連する症状を発症したことから安楽死させたマウスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0050】
本明細書において、抗EGFRキメラ抗原受容体(CAR)を含むポリペプチドをコードするヒト用にコドン最適化された配列を含むポリヌクレオチドを開示する。このヒト用にコドン最適化された配列は、その発現を最適化するため、作動可能に連結されたプロモーター、好ましくは最適化されたプロモーター、スペーサー、細胞内シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン、選択マーカー、少なくとも1つの自己切断ペプチドおよびEFGRtを含むコンストラクトに組み込んでもよい。次に、膠芽腫、液性腫瘍、固形腫瘍などのがんの治療または抑制を目的として、T細胞などの細胞においてこの配列を発現させてもよい。
【0051】
用語の定義
別段の記載がない限り、本明細書で使用されている技術用語および科学用語は、当技術分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。本明細書で引用されたすべての特許、出願、公開出願およびその他の刊行物は、別段の記載がない限り、いずれも引用によりその全体が本明細書に援用される。本明細書に記載の用語に対して複数の定義がある場合、別段の記載がない限り、この節に記載の定義を優先するものとする。
【0052】
本明細書において、「a」または「an」は、1つまたは1つ以上を意味してもよい。
【0053】
本明細書において、「約」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、したがって、特定の数値が、この数値を決定するために用いられた方法に本質的に付随する誤差の変動または複数の測定間での変動を含むことを示す。
【0054】
本明細書において、「修飾」もしくは「改変」という用語、またはこれらの用語の任意の形態は、修飾、改変、交換、欠失、置換、除去、変動または形質転換を意味する。
【0055】
本明細書において、「機能」や「機能的」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、生物学的機能、酵素的機能または治療的機能を指す。
【0056】
本明細書において、「形質導入」および「トランスフェクション」という用語は、同じ意味で使用され、ウイルスを使用した方法やウイルスを使用しない方法を含む人工的な方法によって細胞に核酸を導入することを意味する。
【0057】
本明細書において、「単離された」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、(1)(天然の状態および/もしくは実験条件において)最初に産生された時点で付随する少なくともいくつかの成分から分離された物質および/もしくは物体、ならびに/または(2)人の手で製造、調製および/もしくは生産された物質および/もしくは物体を指す。「単離された」核酸分子およびタンパク質は、標準的な精製方法によって精製された核酸分子およびタンパク質を包含する。さらに、単離された核酸分子およびタンパク質は、宿主細胞での組換え発現によって作製された核酸分子およびタンパク質、ならびに化学合成されたタンパク質および核酸を包含する。単離された物質および/または物体は、最初に付随するその他の成分から、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約98%、約99%、実質的に100%または100%の割合、おおよそこれらの割合、少なくともこれらの割合、少なくともおおよそこれらの割合、これらの割合以下、またはおおよそこれらの割合以下(またはこれらの数値を含む範囲および/もしくはこれらの数値を上下限とする範囲)で分離されたものであってもよい。いくつかの実施形態において、単離された物質の純度は、約80%、約85%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%、実質的に100%または100%の純度、おおよそこれらの純度、少なくともこれらの純度、少なくともおおよそこれらの純度、これらの純度以下、またはおおよそこれらの純度以下(またはこれらの数値を含む範囲の純度および/もしくはこれらの数値を上下限とする範囲の純度)である。本明細書において、「単離された」物質は、「純粋なもの」であってもよい(例えば、その他の成分が実質的に含まれていなくてもよい)。本明細書において、「単離された細胞」は、多数の細胞からなる生物または組織から分離された細胞を指してもよい。
【0058】
本明細書において、「インビボ」は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、組織抽出物や死んだ生物ではなく、生物の体内、通常は動物、ヒトなどの哺乳動物または植物の体内、またはこれらの生物を構成する生きた細胞において特定の方法を実施することを指す。
【0059】
本明細書において、「エクスビボ」は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、天然の状態にわずかな変更を加えて生物の体外において特定の方法を実施することを指す。
【0060】
本明細書において、「インビトロ」は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、生物学的条件から外れて、例えば、ペトリディッシュや試験管などにおいて特定の方法を実施することを指す。
【0061】
「遺伝子」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、通常、タンパク質または機能性RNAをコードする核酸の一部を指すが、この用語は、調節配列を包含していてもよい。当業者であれば、「遺伝子」という用語が、遺伝子調節配列(例えば、プロモーターやエンハンサーなど)および/またはイントロン配列を含んでいてもよいことを十分に理解できるであろう。さらに、「遺伝子」の定義には、タンパク質をコードしないが、tRNAやmiRNAなどの機能性RNA分子をコードする核酸も含まれることも十分に理解できるであろう。場合によっては、遺伝子は、転写、メッセージ生成または組成に関与する調節配列を含む。別の実施形態では、遺伝子は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする転写された配列を含む。本明細書に記載の用語の定義に準じて、「単離された遺伝子」は、その他の天然の遺伝子や、その他の天然の調節配列、ポリペプチドまたはペプチドをコードするその他の天然の配列などのその他の配列から実質的に単離された転写された核酸、調節配列、コード配列などを含んでいてもよい。この点に関して、「遺伝子」という用語は、単に、転写されたヌクレオチド配列を含む核酸およびその相補鎖を指すために使用される。当技術分野において理解されるように、「遺伝子」という機能用語は、ゲノム配列を包含するとともに、RNA配列もしくはcDNA配列、またはこれらよりも小さな組換え核酸セグメントも包含し、この小さな組換え核酸セグメントには、転写されない遺伝子部分の核酸セグメントが含まれ、例えば、遺伝子において転写されないプロモーター領域またはエンハンサー領域が挙げられるが、これらに限定されない。また、この小さな組換え遺伝子核酸セグメントは、核酸操作技術を用いて、タンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質、変異体および/またはこれらに類似するものを発現してもよく、これらを発現するように構成されていてもよい。
【0062】
本明細書において、「核酸」または「核酸分子」は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、例えば、デオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、天然の細胞に見出されるDNAもしくはRNAもしくはオリゴヌクレオチド、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により得られる断片、ならびにライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用およびエキソヌクレアーゼ作用のいずれかにより得られる断片などのポリヌクレオチドを指す。核酸分子は、天然のヌクレオチドモノマー(DNAやRNAなど)、もしくは天然のヌクレオチドの類似体(例えば、天然のヌクレオチドのエナンチオマー)、またはこれらの組み合わせから構成されていてもよい。修飾ヌクレオチドは、糖部分および/またはピリミジン塩基部分もしくはプリン塩基部分に修飾を有していてもよい。糖部分の修飾としては、例えば、ハロゲン、アルキル基、アミンまたはアジド基による1つ以上のヒドロキシル基の置換が挙げられ、糖部分はエーテル化またはエステル化されていてもよい。さらに、糖部分全体が、立体構造的に類似の構造や電子的に類似の構造と置換されていてもよく、このような構造として、例えば、アザ糖および炭素環式糖類似体が挙げられる。修飾塩基部分としては、アルキル化プリン、アルキル化ピリミジン、アシル化プリン、アシル化ピリミジン、およびその他の公知の複素環置換基が挙げられる。核酸モノマーは、ホスホジエステル結合またはこれと似た結合により連結することができる。ホスホジエステル結合と似た結合としては、ホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、ホスホロセレノエート結合、ホスホロジセレノエート結合、ホスホロアニロチオエート(phosphoroanilothioate)結合、ホスホロアニリデート(phosphoranilidate)結合およびホスホロアミデート結合が挙げられる。「核酸分子」は、いわゆる「ペプチド核酸」も包含し、これは、ポリアミド主鎖に付加された天然の核酸塩基または修飾核酸塩基を含む。核酸は、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい。「オリゴヌクレオチド」という用語は核酸と同じ意味で使用可能であり、二本鎖DNAまたは二本鎖RNAを指してもよく、一本鎖DNAまたは一本鎖RNAを指してもよい。核酸は、様々な生物系で核酸を増幅および/または発現させることができる核酸ベクターまたは核酸コンストラクト(例えば、プラスミド、ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルス、バクテリオファージ、コスミド、フォスミド、ファージミド、細菌人工染色体(BAC)、酵母人工染色体(YAC)またはヒト人工染色体(HAC))に含まれていてもよい。通常、核酸ベクターまたは核酸コンストラクトは、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、インデューサー、リボソーム結合部位、翻訳開始部位、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、複製開始点、クローニング部位、マルチクローニング部位、制限酵素部位、エピトープ、レポーター遺伝子、選択マーカー、抗生物質選択マーカー、標的配列、ペプチド精製タグもしくはアクセサリー遺伝子またはこれらの任意の組み合わせなどのエレメントも含むが、これらに限定されない。
【0063】
本明細書に記載の核酸は、核酸塩基を含む。基本の塩基、すなわち、標準の塩基、天然の塩基または非修飾塩基は、アデニン、シトシン、グアニン、チミンおよびウラシルである。その他の核酸塩基としては、プリン類、ピリミジン類、修飾核酸塩基、5-メチルシトシン、シュードウリジン、ジヒドロウリジン、イノシン、7-メチルグアノシン、ヒポキサンチン、キサンチン、5,6-ジヒドロウラシル、5-ヒドロキシメチルシトシン、5-ブロモウラシル、イソグアニン、イソシトシン、アミノアリル塩基、色素標識塩基、蛍光標識塩基およびビオチン標識塩基などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
核酸または核酸分子は、複数の種類のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質をコードする1つ以上の配列を含んでいてもよい。これらの1つ以上の配列は、1つの核酸または1つの核酸分子内で隣接して連結されていてもよく、別の核酸を間に挟んで連結されていてもよい。この別の核酸としては、例えば、リンカー、反復配列、もしくは制限酵素部位、または1塩基長、2塩基長、3塩基長、4塩基長、5塩基長、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長、11塩基長、12塩基長、13塩基長、14塩基長、15塩基長、16塩基長、17塩基長、18塩基長、19塩基長、20塩基長、25塩基長、30塩基長、35塩基長、40塩基長、45塩基長、50塩基長、55塩基長、60塩基長、65塩基長、70塩基長、75塩基長、80塩基長、81塩基長、82塩基長、83塩基長、84塩基長、85塩基長、80塩基長、81塩基長、82塩基長、83塩基長、84塩基長、85塩基長、90塩基長、95塩基長、100塩基長、150塩基長、200塩基長もしくは300塩基長の配列、おおよそこれらの長さの配列、少なくともこれらの長さの配列、少なくともおおよそこれらの長さの配列、これらの長さ以下の配列もしくはおおよそこれらの長さ以下の配列、もしくは前記長さのいずれか2つを上下限とする範囲内の長さの配列が挙げられる。本明細書において、核酸に関する「下流」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、核酸が二本鎖である場合、コード配列を含む鎖(センス鎖)上で、ある配列の3’末端側に位置する配列を指す。本明細書において、核酸に関する「上流」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、核酸が二本鎖である場合、コード配列を含む鎖(センス鎖)上で、ある配列の5’末端側に位置する配列を指す。本明細書において、核酸に関する「グループ化されている」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、直接連結している近接した2つ以上の配列、または別の核酸を間に挟んで連結している近接した2つ以上の配列を指す。この別の核酸としては、例えば、リンカー、反復配列、もしくは制限酵素部位、または1塩基長、2塩基長、3塩基長、4塩基長、5塩基長、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長、11塩基長、12塩基長、13塩基長、14塩基長、15塩基長、16塩基長、17塩基長、18塩基長、19塩基長、20塩基長、25塩基長、30塩基長、35塩基長、40塩基長、45塩基長、50塩基長、55塩基長、60塩基長、65塩基長、70塩基長、75塩基長、80塩基長、81塩基長、82塩基長、83塩基長、84塩基長、85塩基長、86塩基長、87塩基長、88塩基長、89塩基長、90塩基長、95塩基長、100塩基長、150塩基長、200塩基長もしくは 300塩基長の配列、おおよそこれらの長さの配列、少なくともこれらの長さの配列、少なくともおおよそこれらの長さの配列、これらの長さ以下の配列もしくはおおよそこれらの長さ以下の配列、もしくは前記長さのいずれか2つを上下限とする範囲内の長さの配列が挙げられる。なお、前記2つ以上の配列の間に挟まれている配列は、通常、機能性または触媒性のポリペプチド、タンパク質、またはタンパク質ドメインをコードする配列ではない。
【0065】
本明細書において、「コドン」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、特定のアミノ酸または終止シグナルに相当する3つのヌクレオチドからなるRNA配列またはDNA配列を指す。このようなコドンの例として、61種の天然コドン、3種の終止コドン、開始コドン、および非標準アミノ酸に対応する合成コドンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
本明細書において、「ポリヌクレオチド」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、ポリデオキシヌクレオチド、ポリデオキシリボヌクレオチドおよびポリリボヌクレオチドを含む化合物のクラスを指す。したがって、「ポリヌクレオチド」は、リボ核酸(RNA)もしくはデオキシリボ核酸(DNA)のオリゴマーもしくはポリマー、またはそれらのミメティックを指し、天然の核酸塩基と糖とホスホジエステル(PO)ヌクレオシド間(骨格)結合とで構成されたポリヌクレオチドを包含し、さらに、天然のものと同様の機能を有する非天然部分を含む「組換え」ポリヌクレオチドまたは置換ポリヌクレオチドも包含する。
【0067】
本明細書において、「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク質」は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、ペプチド結合により連結されたアミノ酸で構成される巨大分子を指す。「ペプチド」は、短鎖(すなわち、ペプチド、オリゴペプチドおよびオリゴマー)と長鎖の両方を指す。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質の機能として数多くのものが当技術分野で知られており、酵素、構造、輸送、防御、ホルモンまたはシグナル伝達といった機能があるが、これらに限定されない。コドンの翻訳により生じるペプチドの例として、一般的な20種のアミノ酸、ノルロイシン、オルニチン、ノルバリン、ホモセリン、セレノシステイン、ピロリシン、非コードアミノ酸、タンパク質に見られることが知られている140種以上のアミノ酸および研究室で構築された合成アミノ酸から選択されるアミノ酸の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質は、核酸鋳型を利用したリボソーム複合体により生物学的に生成されることが多いが、常にこの方法で生成される訳ではなく、化学合成により作製することもできる。核酸鋳型を遺伝子操作することによって、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の変異を起こすことができ、このような変異には、置換、欠失、切断、付加、重複、または2個以上のペプチド、ポリペプチドもしくはタンパク質の融合が含まれる。2個以上のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質の融合は、1つの分子内で隣接して連結するように行うことができ、あるいは別のアミノ酸を間に挟んで連結することもでき、この別のアミノ酸としては、例えば、リンカー、反復配列、エピトープもしくはタグ、または1塩基長、2塩基長、3塩基長、4塩基長、5塩基長、6塩基長、7塩基長、8塩基長、9塩基長、10塩基長、11塩基長、12塩基長、13塩基長、14塩基長、15塩基長、16塩基長、17塩基長、18塩基長、19塩基長、20塩基長、25塩基長、30塩基長、35塩基長、40塩基長、45塩基長、50塩基長、55塩基長、60塩基長、65塩基長、70塩基長、75塩基長、80塩基長、85塩基長、90塩基長、95塩基長、100塩基長、150塩基長、200塩基長もしくは300塩基長の配列、おおよそこれらの長さの配列、少なくともこれらの長さの配列、少なくともおおよそこれらの長さの配列、これらの長さ以下の配列もしくはおおよそこれらの長さ以下の配列、もしくは前記長さのいずれか2つを上下限とする範囲内の長さの配列が挙げられる。本明細書において、ポリペプチド上での「下流」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、前の配列のC末端に続く配列を指す。本明細書において、ポリペプチド上での「上流」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、後ろの配列のN末端の前にある配列を指す。タンパク質は、遺伝子にコードされた20種のアミノ酸以外のアミノ酸を含んでいてもよい。タンパク質は、自然界で見られるプロセス(例えば、プロセシングおよびその他の翻訳後修飾)によって修飾されたタンパク質、および化学的修飾技術によって修飾されたタンパク質を含む。同じ種類の修飾が、1つのタンパク質のいくつかの部位に同程度または様々な程度で含まれていてもよく、1つのタンパク質は多数の修飾を含んでいてもよい。修飾は、ペプチド骨格、アミノ酸側鎖またはアミノ末端もしくはカルボキシル末端に存在していてもよい。修飾の例として、アセチル化;アシル化;ADP-リボシル化;アミド化;フラビン、ヘム部分、ヌクレオチドもしくはヌクレオチド誘導体、脂質もしくは脂質誘導体、糖鎖またはホスホチジルイノシトールの共有結合;架橋;環化;ジスルフィド結合の形成;脱メチル化;共有結合架橋の形成;グリコシル化;ヒドロキシル化;ヨウ素化;メチル化;ミリストイル化;酸化;タンパク質分解処理;リン酸化;S-ニトロソ化;ラセミ化;脂質の結合;硫酸化;グルタミン酸残基のγカルボキシル化;およびヒドロキシル化が挙げられる。
【0068】
本明細書において、「コドン最適化された」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、分子生物学的方法を用いて、遺伝子の発現またはタンパク質の産生を行うために配列を最適化することを指す。例えば、あまり一般的でないコドンをより一般的なコドンで置換することによって、mRNAの半減期に影響を与えてもよく、mRNAの翻訳を妨害する二次構造を導入してmRNAの構造を改変してもよい。いくつかの実施形態において、発現効率が最適となる配列を予測することができるコンピューターソフトウェアおよびアルゴリズムを用いて、コドンを最適化することができる。核酸は、自身が組み込まれる細胞の種類に応じて、その細胞での発現用に最適化することができる。適切な宿主細胞の例として、大腸菌、緑膿菌、枯草菌、V.natriegensなどの原核細胞、サッカロミセス・セレビシエなどの真核細胞、植物細胞、昆虫細胞、線虫細胞、両生類細胞、魚類細胞、および哺乳動物細胞、例えばヒト細胞、例えばT細胞(ただしこれに限定されない)が挙げられるが、これらに限定されない。AUまたは遺伝子の一部を最適化することができる。いくつかの実施形態において、実質的に遺伝子全体を最適化することによって、所望の発現の調節を行うことができる。別の実施形態において、遺伝子全体ではなく、その一部を最適化することによって、所望の調節が行われる。
【0069】
本明細書において、「プロモーター」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、タンパク質が結合することによりポリヌクレオチドの転写を調節するDNA配列を指す。プロモーターの例として、EF1a、HTLV1、EF1a/HTLV(配列番号2)、CMV、CAG、PGK、TRE、U6、UAS、T7、Sp6、lac、araBad、trpおよびPtacが挙げられるが、これらに限定されない。通常、プロモーターは、転写されるポリヌクレオチドの5’領域に存在する。より典型的には、プロモーターは、第1のエキソンの上流領域として定義される。プロモーターはどのような長さであってもよい。例えば、EF1aコアプロモーターなどの短いプロモーターの長さは、100~300塩基対長であり、EF1a/HTLVなどの長いプロモーターの長さは、400~1000塩基対長である。いくつかの実施形態において、プロモーターは天然のプロモーターである。別の実施形態において、プロモーターは、一般的に利用される技術により化学的に合成されたプロモーターである。例えば、Beaucage et al. (1981) Tet. Lett. 22:1859および米国特許第4,668,777号を参照されたい。プロモーターは、遺伝子産物が連続的に発現される構成的転写を調節することができ、あるいは、遺伝子産物の発現が、光、温度、化学物質の濃度、タンパク質の濃度、または生物、細胞もしくは細胞小器官における条件などの、特定の条件による影響を受ける誘導性転写を調節することができる。プロモーターは、真核生物のプロモーターであってもよく、原核生物のプロモーターであってもよく、遺伝子産物の発現率または総コピー数が増加するように組換えることもできる。プロモーターは、上流エレメントなどの少なくとも1つの制御エレメントをさらに含んでいてもよい。そのようなエレメントは、UARを含み、合成された上流エレメントなどの、ポリヌクレオチドの転写に影響を及ぼすその他のDNA配列をさらに含んでいてもよい。本明細書において、「プロモーター制御エレメント」は、プロモーターの活性に影響を及ぼすエレメントを指す。プロモーター制御エレメントとして、転写因子および調節因子の配列決定因子が挙げられ、例えば、エンハンサー、足場/マトリックス付着領域、TATAボックス、転写開始領域、遺伝子座調節領域(LCR)、UAR、URR、その他の転写因子結合部位および逆方向反復配列が挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
本明細書において、「調節配列」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、転写もしくは翻訳の開始、転写速度もしくは翻訳速度、または転写産物もしくはポリペプチド産物の安定性および/もしくは転移性に影響を及ぼすヌクレオチド配列を指す。調節配列としては、プロモーター、プロモーター制御エレメント、タンパク結合配列、5’UTRおよび3’UTR、転写開始部位、終止配列、ポリアデニル化配列、イントロン、ならびにアミノ酸のコード配列に含まれる特定の配列(分泌シグナルやプロテアーゼ切断部位など)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
本明細書において、「作動可能に連結された」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、例えば、ポリペプチド配列やポリヌクレオチド配列などの2つ以上のエレメントが物理的または機能的に連結されて、これらのエレメントが、意図したように作動できることを指す。例えば、目的のポリヌクレオチドと調節配列(例えばプロモーター)の作動可能な連結は、この目的のポリヌクレオチドの発現が可能となる機能性結合である。この点において、「作動可能に連結された」という用語は、転写される目的のコード配列の転写または翻訳が調節領域によって効果的に制御されるような、調節領域とコード配列の位置関係を指す。本明細書に開示する実施形態のいくつかにおいて、「作動可能に連結された」という用語は、ポリペプチドをコードするmRNA、ポリペプチドおよび/または機能性RNAの発現または細胞内局在が調節配列によって制御または調節されるように、ポリペプチドまたは機能性RNAをコードする配列に対して調節配列が適切な位置に配置されている構成を意味する。したがって、プロモーターによって核酸配列の転写が誘導される場合、プロモーターはこの核酸配列と作動可能に連結されている。作動可能に連結されたエレメント同士は、連続していてもよいし、連続していなくてもよい。さらに、ポリペプチドに関して、「作動可能に連結された」は、アミノ酸配列同士(例えば、異なるセグメント、異なる領域または異なるドメイン)が、(例えば、直接的または間接的な結合を介して)物理的に連結されていることによって、ポリペプチドの所定の活性が発揮されることを指す。本開示において、本開示のキメラポリペプチドが、細胞内で適切なフォールディング、プロセシング、ターゲティング、発現、結合およびその他の機能特性を保持するように、本開示のキメラポリペプチドの様々なセグメント、領域またはドメインは、作動可能に連結されていてもよい。別段の記載がない限り、本開示のキメラポリペプチドの様々な領域、ドメインおよびセグメントは、互いに作動可能に連結されている。本開示のキメラポリペプチドにおいて、作動可能に連結された領域、ドメインおよびセグメントは、連続していてもよいし、連続していなくてもよい(例えば、リンカーを介して互いに連結されていてもよい)。プロモーターに作動可能に連結されたDNAは、該プロモーターによって転写の開始が調節されるか、該プロモーターと組み合わせることによって機能を発揮する。
【0072】
本明細書において、「自己切断ペプチド」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、2つの構成アミノ酸の間のペプチド結合を切断して、自身を挟む2つのタンパク質を分離させるペプチド配列を指す。この切断は、2Aペプチド配列のC末端のプロリンとグリシンの間のペプチド結合のリボソーム「スキッピング」により起こると考えられている。ポリシストロニックmRNA調節エレメントは、ウイルス研究の過程で発見されたものである。内部リボソーム導入部位(IRES)エレメントは、ポリオウイルスの研究と脳心筋炎ウイルスの研究をしていた2つの独立した研究室から1988年に報告されたものである。
【0073】
本明細書において、「内部リボソーム導入部位(IRES)」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、40Sサブユニットを動員して下流のmRNAの翻訳を促進するエレメントを指す。同様に、自己切断ペプチドの2AファミリーであるP2A(配列番号3)、E2A、F2AおよびT2A(配列番号4)は、ブタテシオウイルス-1、ウマ鼻炎Aウイルス、口蹄疫ウイルスおよびthosea asignaウイルスからそれぞれ発見されたものである。2AエレメントおよびIRESエレメントはいずれも一本のmRNA鎖から複数のペプチドを産生させることができる。
【0074】
本明細書において、「選択マーカー」または「選択可能なマーカー」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、細胞に表現型を付与するポリペプチドをコードする遺伝子を指し、その付与された表現型によって、選択マーカーの遺伝子を含む細胞のポジティブセレクションもしくはネガティブセレクションまたはスクリーニングが可能となる。選択マーカー遺伝子を用いることによって、形質転換された細胞と形質転換されていない細胞とを区別してもよく、あるいは、組換えた細胞またはその他の種類の遺伝子修飾を行った細胞を同定してもよい。いくつかの実施形態において、選択マーカーは、EGFR806CARコンストラクトに相当するコドン最適化された配列(配列番号1)と共発現される。この条件では、マーカーの存在から、コドン最適化された配列を含む細胞の選択が可能となる。選択マーカーの例として、DHFRdm(配列番号5)、DHFR、HER2T、MDR1、MRP1、O6-MGMT、シチジンデアミナーゼ、グルタチオントランスフェラーゼYcおよびアルデヒドデヒドロゲナーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0075】
本明細書において、「細胞内シグナル伝達ドメイン」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、細胞の内側に面したタンパク質の一部であって、活性化されると、宿主細胞において1つ以上のシグナル伝達経路を正または負に調節する部分を指す。シグナル伝達経路の例としては、増殖、サイトカインの放出、生存、細胞傷害、食作用および代謝が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、第1のシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態において、シグナル伝達ドメインは、第1のシグナル伝達ドメインと第2のシグナル伝達ドメインを含む。いくつかの実施形態において、細胞内シグナル伝達ドメインを有するタンパク質は、膜貫通受容体であり、例えば、EFGR、EGFRバリアントであるEGFR806CARコンストラクト、またはコドン最適化されたEGFRバリアントであるEGFR806CARコンストラクトが挙げられるが、これらに限定されない。細胞内シグナル伝達ドメインの例として、41BB、CD3ζ、OX40、CD27およびCD28が挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、本発明の配列は、2つの細胞内シグナル伝達ドメインを含み、例えば、41BBとCD3ζの組み合わせ(配列番号7)を含むが、これに限定されない。
【0076】
本明細書において、「膜貫通ドメイン」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、タンパク質の一部であって、このドメインが存在する場合、細胞の細胞膜領域または細胞小器官の膜領域に組み込まれる部分を指す。いくつかの実施形態において、膜貫通ドメインが組み込まれる膜は細胞の細胞膜である。したがって、「膜貫通」タンパク質は、膜貫通ドメインを含むタンパク質である。膜貫通ドメインの大部分はαヘリックスで構成されている。タンパク質の膜貫通ドメインは、膜の全厚を貫通している。タンパク質は、複数の膜貫通ドメインを含んでいてもよく、この場合、それぞれが独立して膜を貫通している。タンパク質のその他のドメインは、細胞質や細胞の外部との相対的な位置関係に応じて、「細胞外ドメイン」または「細胞内ドメイン」と呼ばれる。膜貫通ドメインの例として、CD28tm(配列番号8)、CD8αtm、CD4tm、CD3ζtmおよびT細胞受容体(TCR)関連ζ鎖が挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書において、「ヒンジ」または「スペーサー」という用語は、同じ意味で使用され、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、その長さ、位置および構造によって、タンパク質に柔軟性を付与するドメインを指す。特定の場合では、抗原認識ドメインと別のドメインの間の間隔を変更することによって、活性化により誘導される細胞死を減少させることができる。ヒンジ領域は、IgG免疫グロブリンクラス、IgA免疫グロブリンクラスおよびIgD免疫グロブリンクラスに見られ、例えば、IgG4(配列番号9)に存在するが、これに限定されない。
【0078】
細胞、T細胞およびCAR-T細胞
本明細書において、「個体」、「対象」または「患者」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、したがって、ヒトまたは非ヒト哺乳動物を含む。「哺乳動物」という用語は、この用語が通常示す生物学的な意味で使用される。したがって、「哺乳動物」として具体的には、サル類(チンパンジー、類人猿、サル)やヒトなどの霊長類;ならびにウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、イヌ、ネコ、げっ歯類、ラット、マウスおよびモルモットが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書において、「細胞」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、あらゆる種類の細胞を指してもよい。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0080】
本明細書において、「免疫細胞」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、獲得免疫応答または自然免疫応答に関与するあらゆる細胞を指す。免疫細胞は、骨髄の幹細胞から発生し、様々な種類の白血球になる。免疫細胞の例として、メモリー細胞、前駆T細胞、前駆B細胞、造血幹細胞、骨髄系前駆細胞、リンパ系前駆細胞、T細胞、ヘルパーT細胞、胸腺細胞、制御性T細胞、エフェクターT細胞、細胞傷害性Tリンパ球、γ/δT細胞、B細胞、形質細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージ、組織球、アストロサイト、骨髄系細胞、単球および顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0081】
「T細胞」という用語は、この用語が通常示す生物学的な意味で使用される。したがって、T細胞は、獲得免疫系に関与するリンパ球であり、細胞表面上にT細胞受容体を含んでいる。T細胞の例として、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD8+細胞傷害性T細胞、CD8+ナイーブT細胞、CD8+メモリーT細胞、CD8+セントラルメモリーT細胞、CD8+制御性T細胞、IPS由来のCD8+T細胞、CD8+エフェクターメモリーT細胞、CD8+バルクT細胞、CD4+ヘルパーT細胞、CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、IPS由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞が挙げられるが、これらに限定されない。
【0082】
「B細胞」という用語は、この用語が通常示す生物学的な意味で使用される。したがって、B細胞は、獲得免疫系に関与し、抗体を分泌するリンパ球である。B細胞は、様々な種類の抗体および細胞表面マーカーを産生することができ、B細胞が産生する抗体および細胞表面マーカーとして、例えば、CD19、CD20、CD1d、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23/FcεRII、CD24、CD25/IL-2Rα、CD27/TNFRSF7、CD32、CD34、CD35、CD38、CD40(TNFRSF5)、CD44、CD45、CD45.1、CD45.2、CD54(ICAM-1)、CD69、CD72、CD79、CD80、CD84/SLAMF5、LFA-1、CALLA、BCMA、B細胞受容体(BCR)、IgM、IgD、B220/CD45R、C1q R1/CD93、CD84/SLAMF5、BAFF R/TNFRSF13C、B220/CD45R、B7-1/CD80、B7-2/CD86、TNFSF7、TNFRSF5、ENPP-1、HVEM/TNFRSF14、BLIMP1/PRDM1、CXCR4、DEP-1/CD148およびEMMPRIN/CD147が挙げられるが、これらに限定されない。
【0083】
本明細書において、「抗体」は、抗原上の特異的なエピトープに特異的に結合することができる免疫グロブリン分子を指す。抗体は、天然由来のインタクトな免疫グロブリンであってもよく、組換えられた免疫グロブリンであってもよく、インタクトな免疫グロブリンの免疫反応性部分であってもよい。本発明において有用な抗体は様々な形態であってもよく、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、細胞内抗体(「intrabody」)、Fv、FabもしくはF(ab)2、または一本鎖抗体(scFv)、ラクダ抗体もしくはヒト化抗体などの形態であってもよい(Harlow et al., 1999, Using Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, NY; Harlow et al., 1989, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, New York; Houston et al., 1988, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883; Bird et al., 1988, Science 242:423-426)。
【0084】
本明細書において、「抗原」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、動物の体内において抗体の産生またはT細胞の応答を刺激することができる化合物、組成物または物質を指し、動物の体内に注射または吸収される組成物を含む。抗原は、異種免疫原によって誘導された産物などの、特異的な液性免疫または細胞性免疫の産物に反応する。「抗原」は、関連するすべての抗原エピトープを含む。抗原の例として、EGFR、EGFRvIII、HER2、MSLN、PSMA、CEA、GD2、IL13Rα2、GPC3、CAIX、L1-CAM、CA125、CD133、FAP、CTAG1B、MUC1およびFR-αが挙げられるが、これらに限定されない。
【0085】
本明細書において、「T細胞受容体」(または「TCR」)という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、抗原を認識することが可能な、T細胞の表面に見られる膜貫通タンパク質を指す。TCRは、International Immunogenetics(IMGT)によるTCRの命名法に従って記載され、IMGTから利用可能なTCR配列の公開データベースに関連している。天然のT細胞受容体は、2つのポリペプチド鎖で構成されており、最も一般にはα鎖とβ鎖の組み合わせ、またはγ鎖とδ鎖の組み合わせである。概して、各鎖は、可変領域と連結領域と定常領域を含む。各可変領域は、フレームワーク配列に埋め込まれた3つのCDR(相補性決定領域)を含み、そのうちの1つがCDR3と呼ばれる超可変領域である。同様に、TCRの連結領域は、IMGTに固有のTRAJとTRBJの命名法に従って定義され、TCRの定常領域は、IMGTに固有のTRACとTRBCの命名法により定義される。IMGT命名法によって定義される固有の配列は広く知られており、TCR関連分野の当業者に利用されている。例えば、IMGT命名法は、IMGTの公開データベースから利用することができる。“T cell Receptor Factsbook”, (2001) LeFranc and LeFranc, Academic Press, ISBN 0-12-441352-8でも、IMGT命名法により定義される配列が開示されているが、その発行日と必然的に生じるタイムラグから、この刊行物に記載の情報は、IMGTデータベースを参照して時折確認する必要がある。
【0086】
本明細書において、「キメラ抗原受容体」(または「CAR」)T細胞という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、免疫療法で利用される人工T細胞受容体を産生するように遺伝子組換えされたT細胞を指す。人工T細胞受容体の例として、EGFR806CARコンストラクトおよびコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトが挙げられるが、これらに限定されない。キメラ抗原受容体は、ヒト白血球抗原とは無関係に、細胞表面の腫瘍関連抗原を認識し、1つ以上のシグナル伝達分子を介して遺伝子組換えT細胞を活性化させて、殺傷、増殖およびサイトカインの産生を行う(Jenaら、2010)。本明細書において、「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、例えば、人工T細胞受容体、キメラT細胞受容体またはキメラ免疫受容体を指してもよく、特定の免疫エフェクター細胞に人工的な特異性を移植することができる組換え受容体を包含する。CARを発現するT細胞の養子移入は、複数の臨床試験において有望視されている。現在では、モジュールを利用した方法によって、臨床グレードの遺伝子組換えT細胞を製造することが可能になっている。特定の実施形態において、CARは、例えば、細胞の特異性を腫瘍関連抗原に指向させる。腫瘍関連抗原の例として、EGFR、EGFRvIII、HER2、MSLN、PSMA、CEA、GD2、IL13Rα2、GPC3、CAIX、L1-CAM、CA125、CD133、FAP、CTAG1B、MUC1およびFR-αが挙げられるが、これらに限定されない。いくつかの実施形態において、CARは、細胞内活性化ドメインと、膜貫通ドメインと、腫瘍関連抗原結合領域を含む細胞外ドメインとを含む。特定の場合には、CARは、CD3ζ、FcR、CD27、CD28、CD137、DAP10および/またはOX40などの共刺激シグナル伝達ドメインをさらに含む。場合によっては、別の分子をCARと共発現させることもでき、このような分子として、共刺激分子、イメージング用レポーター遺伝子(例えば、ポジトロン放射断層撮影用レポーター遺伝子)、プロドラッグの添加によりT細胞を条件的に排除する遺伝子産物、ホーミング受容体、ケモカイン、ケモカイン受容体、サイトカインおよびサイトカイン受容体が挙げられる。
【0087】
CAR T細胞は、T細胞の表面上に切断型上皮成長因子受容体(EGFRt)を発現させることもできる(配列番号6)。IgG1モノクローナル抗体であるセツキシマブでEGFRtをターゲティングすることによって、養子移入したマウスにおいて早期または後期にCD19 CAR T細胞を排除することができ、これによって、腫瘍を再発することなく、正常な機能性B細胞を恒久的かつ完全に回復させることができることが示されている。EGFRtは、遺伝子組換え細胞の生存を調節することを目的として、様々な臨床用途に利用することができる。例えば、Paszkiewicz et al. (2016) J Clin Invest 126(11): 4262-4272を参照されたい。
【0088】
がんおよびそれに伴うCAR-T治療によるターゲティング
さらに、本明細書において、がんに対する治療として、本発明の新規ポリヌクレオチドおよび/または該ポリヌクレオチドを発現する細胞を投与する方法を開示する。「がん」という用語は、この用語が通常示す生物学的な意味で使用される。したがって、「がん」は、あらゆる種類の細胞のがんを含み、例えば、膠芽腫、星状細胞腫、髄膜腫、頭蓋咽頭腫、髄芽腫およびその他の脳腫瘍、白血病、皮膚がん、副腎がん、肛門がん、胆管がん、膀胱がん、骨がん、乳がん、子宮頸がん、結腸直腸がん、子宮内膜がん、食道がん、眼がん、胆嚢がん、消化器がん、ホジキンリンパ腫、血液腫瘍、カポジ肉腫、腎臓がん、喉頭・下咽頭がん、肝臓がん、肺がん、リンパ腫、中皮腫、悪性黒色腫、多発性骨髄腫、神経芽腫、鼻咽腔がん、卵巣がん、骨肉腫、膵臓がん、下垂体がん、網膜芽細胞腫、唾液腺がん、胃がん、小腸がん、睾丸がん、胸腺がん、甲状腺がん、子宮肉腫、膣がん、外陰がん、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、ウィルムス腫瘍、固形腫瘍および液性腫瘍が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「固形腫瘍」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、液体部分または嚢胞を含んでいない異常な組織塊を指す。固形腫瘍の例として、肉腫、癌腫およびリンパ腫が挙げられるが、これらに限定されない。多くの種類のがん組織において固形腫瘍が形成されることがあり、このようながんとして、例えば、乳がん、脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、胃がん、脾臓がん、大腸がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、肉腫、神経芽腫および卵巣がんが挙げられるが、これらに限定されない。
【0089】
本明細書において、「抗がん剤」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、がんの治療、抑制または予防に使用される低分子、化合物、タンパク質またはその他の医薬品を指す。本明細書に記載の1つ以上の実施形態において使用可能な抗がん剤として、一般的なものの例としては、アルキル化剤、抗EGFR抗体、抗Her-2抗体、代謝拮抗剤、ビンカアルカロイド類、白金系薬剤、アントラサイクリン類、トポイソメラーゼ阻害剤、タキサン類、抗生物質、免疫調節物質、免疫細胞に対する抗体、インターフェロン、インターロイキン、HSP90阻害剤、抗アンドロゲン剤、抗エストロゲン剤、高カルシウム血症剤、アポトーシス誘導物質、オーロラキナーゼ阻害剤、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤、カルシニューリン阻害剤、CaMキナーゼII阻害剤、CD45チロシンホスファターゼ阻害剤、CDC25ホスファターゼ阻害剤、CHKキナーゼ阻害剤、シクロオキシゲナーゼ阻害剤、bRAFキナーゼ阻害剤、cRAFキナーゼ阻害剤、Ras阻害剤、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤、システインプロテアーゼ阻害剤、DNAインターカレータ、DNA鎖切断剤、E3リガーゼ阻害剤、EGF経路阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、Flk-1キナーゼ阻害剤、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK3)阻害剤、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤、IκBαキナーゼ阻害剤、imidazotetrazinone、インスリンチロシンキナーゼ阻害剤、c-Jun N末端キナーゼ(JNK)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)阻害剤、MDM2阻害剤、MEK阻害剤、ERK阻害剤、MMP阻害剤、mTor阻害剤、NGFRチロシンキナーゼ阻害剤、p38 MAPキナーゼ阻害剤、p56チロシンキナーゼ阻害剤、PDGF経路阻害剤、ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤、プロテインホスファターゼ阻害剤、PKC阻害剤、PKCδキナーゼ阻害剤、ポリアミン合成阻害剤、PTP1B阻害剤、プロテインチロシンキナーゼ阻害剤、SRCファミリーチロシンキナーゼ阻害剤、Sykチロシンキナーゼ阻害剤、Janus(JAK-2および/またはJAK-3)チロシンキナーゼ阻害剤、レチノイド、RNAポリメラーゼII伸長阻害剤、セリン/トレオニンキナーゼ阻害剤、ステロール生合成阻害剤、VEGF経路阻害剤、化学療法剤、アリトレチノイン、アルトレタミン、アミノプテリン、アミノレブリン酸、アムサクリン、アスパラギナーゼ、アトラセンタン、ベキサロテン、カルボコン、デメコルチン、エファプロキシラル、エルサミトルシン、エトグルシド、ヒドロキシカルバミド、ロイコボリン、ロニダミン、ルカンソン、マソプロコール、アミノレブリン酸メチル、ミトグアゾン、ミトタン、オブリメルセン、オマセタキシン、ペグアスパルガーゼ、ポルフィマーナトリウム、プレドニムスチン、シチマジーンセラデノベック、タラポルフィン、テモポルフィン、トラベクテジンおよびベルテポルフィンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0090】
本明細書において、「投与」または「投与する」という用語は、本明細書に照らして理解される一般的な意味を有し、効果的な経路を介して、本明細書に開示された組成物などの薬剤を対象に提供または供与することを意味する。代表的な投与経路として、経口経路、注射経路(例えば、頭蓋内注射、皮下注射、筋肉内注射、皮内注射、腹腔内注射および静脈内注射)、舌下経路、直腸経路、経皮経路、鼻腔内経路、膣内経路、眼内経路および吸入経路が挙げられるが、これらに限定されない。
【0091】
本明細書において、「有効量」または「有効な用量」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、観察可能な生物学的作用をもたらす、本明細書に記載の組成物または化合物の量を指す。本明細書に開示された主題による活性な組成物に含まれる有効成分の実際の投与量は、特定の対象および/または用途において所望の治療効果を得るのに効果的な量の活性な組成物または化合物が投与されるように、適宜変更することができる。選択した用量は、組成物の活性、処方、投与経路、その他の薬物または治療の併用、治療中の病態の重症度、治療を受けている対象の健康状態および既往歴などの様々な要因に左右される。いくつかの実施形態では、最小用量が投与され、この最小用量は、用量制限毒性が見られない最小有効量まで増加させることが好ましい。有効量の決定または調整、およびこのような調整をいつどのようにして行うべきかという評価も、本明細書に含まれる。
【0092】
本明細書において、「薬学的に許容される」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、細胞または哺乳動物に使用される用量および濃度において、細胞または哺乳動物に対して毒性を示さない担体、希釈剤、添加剤および/または安定剤を指すか、許容可能な毒性を有する担体、希釈剤、添加剤および/または安定剤を指す。本明細書において、「希釈剤」、「添加剤」および/または「担体」という用語は、当業者であれば理解できる通常の意味を有し、ヒト、マウス、ラット、ネコ、イヌまたはその他の脊椎動物宿主への投与に適合した、あらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、抗細菌剤、抗真菌剤、等張化剤、吸収遅延剤などを含む。
【0093】
様々な薬学的に許容される担体、希釈剤、添加剤またはその組み合わせを医薬組成物に組み込むことができる。一実施形態において、薬学的に許容される希釈剤、添加剤および/または担体は、非ヒト哺乳動物(ネコ、イヌ、非ヒト霊長類、マウスなど)およびヒトを含む動物での使用に対して政府の規制当局により承認されたものであるか、米国薬局方またはその他の公知の薬局方に記載されているものである。薬学的に許容される希釈剤、添加剤および/または担体は、滅菌した液体、例えば、滅菌した水または油であってもよく、鉱油、動物もしくは植物に由来するものや、合成されたものであってもよい。水、食塩水、デキストロース水溶液およびグリセロール水溶液を、特に注射液用の、液状の希釈剤、添加剤および/または担体として使用することができる。適切な医薬品用希釈剤および/または添加剤として、デンプン、ブドウ糖、乳糖、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、穀粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセリン、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水およびエタノールが挙げられる。薬学的に許容される担体の例として、水性のpH緩衝液が挙げられるが、これに限定されない。さらに、薬学的に許容される担体は、アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量(残基数約10未満の)ポリペプチド;血清アルブミンなどのタンパク質;ゼラチン;免疫グロブリン;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;アミノ酸;グルコース、マンノース、デキストリンなどの糖類;EDTAなどのキレート剤;マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;Tween(登録商標)、ポリエチレングリコール(PEG)、HEG、PLURONICS(登録商標)などの非イオン性界面活性剤;ならびにナノ粒子、ナノソーム、ミセル、脂質ナノ粒子およびリポソームのうち1種以上を含んでいてもよい。さらに、適切な医薬担体として、薬物、タンパク質または分子の送達、取り込みおよび代謝に影響を与える分子または溶媒が挙げられる。組成物は、所望に応じて、微量の湿潤剤、充填剤、乳化剤またはpH緩衝剤をさらに含んでいてもよい。このような組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、徐放性製剤などの形態であってもよい。製剤は、投与方法に適したものであるべきである。
【0094】
特定の配列
本明細書で提供する特定の実施形態に有用な特定の配列を以下の表1に挙げる。
【表1】
【0095】
特定のポリヌクレオチド
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、EGFRに特異的に結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)をコードする配列を含むポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、前記CARをコードする配列は、ヒト細胞での発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、ヒト細胞での発現用にコドン最適化されている前記CARをコードする配列は、E1a最小プロモーターなどのE1aプロモーターを含むプロモーターに作動可能に連結されている。ヒト細胞での発現用にコドン最適化されている前記CARをコードする配列は、E1a最小プロモーターなどのE1aプロモーターとHTLVエレメントを含むプロモーターに作動可能に連結されている。
【0096】
いくつかの実施形態は、EGFR806CAR scFvを含むポリペプチドをコードするヒト用にコドン最適化された配列を含むポリヌクレオチドを含む。いくつかの実施形態において、前記ヒト用にコドン最適化された配列は、配列番号1に示される配列を含む。いくつかの実施形態は、前記ヒト用にコドン最適化された配列に作動可能に連結されたプロモーターをさらに含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、EF1a配列またはEF1a/HTLV配列を含み、好ましくは、ヒトEF1a配列またはヒトEF1a/HTLV配列を含む。いくつかの実施形態において、前記プロモーターは、配列番号2に示される配列を含む。
【0097】
いくつかの実施形態は、自己切断ペプチドまたはIRESをコードする少なくとも1つの配列をさらに含み、好ましくは、前記自己切断ペプチドまたはIRESをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記自己切断ペプチドは、2A自己切断ペプチドであり、例えば、P2AもしくはT2Aまたはその両方である。いくつかの実施形態において、前記自己切断ペプチドをコードする配列は、配列番号3または配列番号4に示される配列を含む。
【0098】
いくつかの実施形態は、1つ以上の選択マーカーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の選択マーカーをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の選択マーカーは、DHFRdmを含む。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の選択マーカーをコードする配列は、配列番号5に示される配列を含む。
【0099】
いくつかの実施形態は、切断型EGFRポリペプチド(EGFRt)をコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記EGFRtをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記EGFRtをコードする配列は、配列番号6に示される配列を含む。
【0100】
いくつかの実施形態は、1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記細胞内シグナル伝達ドメインは、41BBもしくはCD3ζまたはその両方を含む。いくつかの実施形態において、前記1つ以上の細胞内シグナル伝達ドメインをコードする配列は、配列番号7に示される配列を含む。
【0101】
いくつかの実施形態は、膜貫通ドメインをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記膜貫通ドメインをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインは、CD28tmを含む。いくつかの実施形態において、前記膜貫通ドメインをコードする配列は、配列番号8に示される配列を含む。
【0102】
いくつかの実施形態は、スペーサーをコードする配列をさらに含み、好ましくは、前記スペーサーをコードする配列は、ヒトでの発現用にコドン最適化されている。いくつかの実施形態において、前記スペーサーは、IgG4のヒンジ領域などのIgG4の一部を含む。いくつかの実施形態において、前記スペーサーをコードする配列は、配列番号9に示される配列である。
【0103】
いくつかの実施形態において、前記ポリヌクレオチドをコードする配列は、配列番号10に示される配列である。
【0104】
特定の細胞
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、本明細書で提供されるポリヌクレオチドを含む細胞を含む。いくつかの実施形態において、前記細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、前駆T細胞または造血幹細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、抗原提示細胞、樹状細胞、マクロファージまたは顆粒球(例えば、好塩基球、好酸球、好中球または肥満細胞など)である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+T細胞またはCD8+T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD8+ナイーブT細胞、CD8+メモリーT細胞、CD8+セントラルメモリーT細胞、CD8+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD8+T細胞、CD8+エフェクターメモリーT細胞およびCD8+バルクT細胞からなる群から選択されるCD8+細胞傷害性T細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、CD4+ナイーブT細胞、CD4+メモリーT細胞、CD4+セントラルメモリーT細胞、CD4+制御性T細胞、iPS細胞由来のCD4+T細胞、CD4+エフェクターメモリーT細胞およびCD4+バルクT細胞からなる群から選択されるCD4+ヘルパーT細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は、対象と同種の細胞であるか、対象から得られた自家細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はエクスビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はインビボの細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。
【0105】
いくつかの実施形態において、前記細胞は、B細胞特異的細胞表面分子に特異的な抗体もしくはその結合断片またはscFvをさらに発現し、該B細胞特異的細胞表面分子は、例えば、CD19、CD20、CD1d、CD5、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23/FcεRII、CD24、CD25/IL-2Rα、CD27/TNFRSF7、CD32、CD34、CD35、CD38、CD40(TNFRSF5)、CD44、CD45、CD45.1、CD45.2、CD54(ICAM-1)、CD69、CD72、CD79、CD80、CD84/SLAMF5、LFA-1、CALLA、BCMA、B細胞受容体(BCR)、IgM、IgD、B220/CD45R、C1q R1/CD93、CD84/SLAMF5、BAFF R/TNFRSF13C、B220/CD45R、B7-1/CD80、B7-2/CD86、TNFSF7、TNFRSF5、ENPP-1、HVEM/TNFRSF14、BLIMP1/PRDM1、CXCR4、DEP-1/CD148またはEMMPRIN/CD147である。
【0106】
特定の治療方法
本明細書で提供される方法および組成物の実施形態のいくつかは、がんの抑制、緩和または治療を必要する対象において、がんを抑制、緩和または治療する方法を含む。いくつかの実施形態は、がんの抑制、緩和または治療を必要とする対象、好ましくはヒトにおいて、がんを抑制、緩和または治療する方法であって、本明細書で提供されるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む本明細書で提供される細胞を前記対象に投与することを含む方法を含む。
【0107】
いくつかの実施形態は、医薬品として、または医薬品の調製における、本明細書で提供されるポリヌクレオチドまたは該ポリヌクレオチドを含む本明細書で提供される細胞の使用を含む。
【0108】
いくつかの実施形態において、前記がんは、白血病、リンパ腫、血液腫瘍、液性腫瘍または固形腫瘍である。いくつかの実施形態において、前記固形腫瘍は、乳がん、脳腫瘍、肺がん、肝臓がん、胃がん、脾臓がん、大腸がん、腎臓がん、膵臓がん、前立腺がん、子宮がん、皮膚がん、頭部がん、頸部がん、肉腫、神経芽腫および卵巣がんからなる群から選択される。いくつかの実施形態において、前記がんは膠芽腫である。いくつかの実施形態において、前記投与は頭蓋内注射によって行われる。
【0109】
本明細書に開示するように、本発明者らは、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクト配列をT細胞に組み込むことによって発現を劇的に増強させることができ、これによってがん療法に対して治療上の利点をもたらすことができることを見出した。これらの知見の具体例を以下の実施例に示す。
【実施例】
【0110】
実施例1-ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトの設計とT細胞への挿入
本明細書に開示するように、EGFR806CARコンストラクトの3つの新規な配列を設計して、T細胞での発現と、がん療法での有効性を試験した。これらのコンストラクトには、短いEF1aプロモーター(253塩基長)によって制御されるEGFR806CARコンストラクト(
図1A)(本明細書において「HIV7.2コンストラクト」とも呼ぶ);およびEF1aとHTLVからなる長いプロモーター(544塩基長)によって制御されるEGFR806CARコンストラクト(
図1B)(本明細書において「HIV7.3コンストラクト」とも呼ぶ)が含まれていた。第3のコンストラクトは、EF1aとHTLVからなる長いプロモーターによって制御され、オープンリーディングフレームの全長が、ヒトでの発現用にコドン最適化されていた(
図1C)(配列番号10)(本明細書において「coHIV7.2コンストラクト」とも呼ぶ)。コドンの最適化は、オンラインで利用可能なGeneArtアルゴリズムを用いて行った。
【0111】
これらのコンストラクトのオープンリーディングフレームには、リーダー配列、EGFR806CARコンストラクト、IgG4のヒンジ領域、膜貫通ドメイン(CD28tm)、シグナル伝達ドメイン(41BBおよびCD3ζ)、自己切断ペプチド(P2AおよびT2A)、薬剤選択マーカー(DHFRdm)ならびに細胞表面マーカー(EGFRt)が含まれていた。配列番号10において、このオープンリーディングフレームの全長は、ヒトでの発現用にコドン最適化されていた。
【0112】
本明細書に開示するように、3つのコンストラクトのそれぞれをヒト初代T細胞に挿入した(
図2)。CD3:CD28ビーズを用いて、初代ヒトT細胞のポリクローナル増殖を刺激した。24時間後、前記3つの配列のうちのいずれかを含むレンチウイルス粒子を硫酸プロタミンと混合し、CD4細胞とCD8細胞を1:1の比率で含む初代T細胞に加えた。陰性対照としての「Mock細胞」には、硫酸プロタミンのみを添加した。刺激から計3日間経過後に、メトトレキサート(MTX)による選択を開始した。刺激から計7日間経過後に、蛍光活性化セルソーティング(FACS)フローサイトメトリー分析を開始した。刺激から計12日間経過後に、FACS分析を再度行い、急速拡大培養を行い、次のインビボ研究まで細胞を凍結保存した。刺激から計26日間経過後に、FACS分析、ウエスタンブロット分析、サイトカインの放出、クロムの放出およびddPCRなどの拡大培養後アッセイを行った。
【0113】
実施例2-ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトによるT細胞における発現の増強
本明細書に開示するように、ヒト初代T細胞において、3つの配列バリアントのすべてと、mock対照からEGFR806CARコンストラクトを発現させることができた。形質導入の6日後かつメトトレキサート(MTX)による選択の4日後に、初代ヒトT細胞を、ビオチン標識抗EGFR抗体とAPC標識ストレプトアビジンで染色した(
図3)。驚くべきことに、長いプロモーターにより発現が増強され、ヒト用にコドン最適化されたバリアントによってT細胞における発現がさらに劇的に増強されたことが分かった。形質導入の11日後でも、切断型EGFR(EGFRt)の発現が有意に増強されるという傾向が継続して認められた(
図4A)。さらに、抗EGFRvIII-his抗体とAPC標識抗his抗体の組み合わせ(
図4B)、またはビオチン標識プロテインLとBV405標識ストレプトアビジンの組み合わせ(
図4C)で染色して、CARの発現を試験した。EGFRvIII(CARの抗原)とプロテインLはいずれも806CARに結合する。EGFRtの発現と同様に、ヒト用にコドン最適化された配列を含むT細胞におけるCARの発現が有意に高いことが示された。急速拡大培養の7日後に、ヒト用にコドン最適化された配列は、EGFRtとCARの有意な高発現を示した(
図5A、
図5B)。
【0114】
さらに、本明細書に開示するように、フローサイトメトリー分析と並行して、ウエスタンブロット分析を用いて、CARの発現とCARタンパク質のプロセシングを試験した(
図6A)。タンパク質の溶解物を回収し、標準的な方法に従ってウエスタンブロットを行った。抗CD3ζ抗体を用いてウエスタンブロットを可視化した。このCARの分子量は約50kDであり、内因性CD3ζの分子量は約15kDである。陽性対照として、806CARを発現するH9細胞を使用した(フローサイトメトリーにより99%を上回る純度であることを確認した)。ウエスタンブロットの結果は、フローサイトメトリーにより観察された結果と同様であり、長いプロモーターの導入により発現がわずかに増強され、長いプロモーターとコドン最適化されたオープンリーディングフレームの導入により発現が有意に増強された。
【0115】
対照実験として、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトからの高発現が、細胞の遺伝子コピー数が多いことによるものかどうかを評価した。標準的な方法に従ったドロップレットデジタル(dd)PCRを用いて、これを試験した(
図9)。ddPCRは、ゲノム内において目的の遺伝子(806CAR-DHFRdm-EGFRt)とともに組み込まれたレンチウイルス骨格領域を標的とするWPREプライマーを用いて行った。驚くべきことに、グラフに示すように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトの細胞1個あたりの平均コピー数は、長いプロモーター配列を有するコンストラクトや、短いプロモーター配列を有するコンストラクトよりも少なかった。この結果から、前述の発現増強効果は、遺伝子コピー数が多いことによるものではなく、遺伝子発現量が高いことによるものであることが示された。
【0116】
追加実験において、複数のドナーから得られたヒトT細胞を、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示した各コンストラクトで形質導入し、メトトレキサートで選択した。14日目に、806CARの抗原であるEGFRvIII-Hisで細胞を染色した後、PE標識抗His抗体を用いて二次染色を行った。染色強度はFACS分析を用いて測定した(
図5C)。
図5Dは、CD8+細胞におけるPE色素を定量した蛍光強度(MFI)の中央値を示した棒グラフを示す。さらに、ビオチン標識アービタックスと、二次試薬としてのPE標識ストレプトアビジンを用いて、選択した細胞のEGFRtマーカーを染色した。染色強度はFACS分析を用いて測定した(
図5E)。
図5Fは、CD8+細胞におけるPE色素のMFIの定量を示した棒グラフを示す。806CARの細胞表面発現は、長いプロモーターコンストラクト(HIV7.3)を含む細胞や、短いプロモーターコンストラクト(HIV7.2)を含む細胞と比較して、長いプロモーターを有するコドン最適化されたコンストラクト(coHIV7.3)を含む細胞において有意に増加していた。
【0117】
さらに、フローサイトメトリー分析と並行して、ウエスタンブロット分析を用いて、CARの発現とCARタンパク質のプロセシングを試験した(
図6B)。ウエスタンブロット上の各CAR分子のバンドの密度を定量し、内因性CD3ζシグナルで補正し、この結果を棒グラフにプロットした(
図6C)。標準的な方法に従ったドロップレットデジタル(dd)PCRを用いて、細胞中の各コンストラクトの遺伝子コピー数を試験した(
図6D、
図6E)。
図6Eは、
図6Cに示した補正したCD3ζの強度を、細胞1個あたりの平均コピー数で再度補正した結果を示す。長いプロモーターを有するコンストラクト(HIV7.3)を含む細胞におけるコピー数と、ヒト用にコドン最適化されたコンストラクト(coHIV7.3)を含む細胞におけるコピー数は同程度であったが、短いプロモーターを有するコンストラクト(HIV7.2)を含む細胞におけるコピー数は、これらの細胞におけるコピー数の半分程度であった。FACS分析の結果とウエスタンブロット分析の結果を考慮に入れると、ヒト用にコドン最適化されたコンストラクト(coHIV7.3)は、3つのコンストラクトの中で最も発現効率が高かった。長いプロモーター(EF1a(L))を有するコンストラクトは、短いプロモーター(EF1a(S))を有するコンストラクトよりも転写活性が高かった。さらに、コドン最適化により遺伝子発現が向上した。
【0118】
実施例3-ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトによるサイトカイン放出の増加
本明細書に開示するように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトからの増強された発現によって、サイトカインの放出が増強されるかどうかを分析した。サイトカイン放出アッセイ(BioPlex)を用いて、これを試験した(
図7A、
図7B、
図7C)。陰性対照として、K562親株を使用し、陽性対照として、K562/OKT3を使用した。K563細胞は抗原提示細胞であり、OKT3は、陽性対照としてのK562細胞上に発現されるTCRに対する抗TCR抗体である。K562/EGFRvIII株は、806CAR T細胞の標的細胞株である。グラフに示すように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトによって、IL2、TNF-αおよびIFN-γの放出がいずれも増強された。EGFR806CARの発現量が高いほど、サイトカインの放出が多いという相関関係が一貫して示された。
【0119】
追加実験において、複数のドナーから得られたヒトT細胞を、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示した各コンストラクトで形質導入し、メトトレキサートで選択した。IL2、TNF-αおよびIFN-γのサイトカイン放出アッセイにおいて、形質導入したエフェクター細胞に、CARの標的を発現する標的細胞をチャレンジした。陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。K562/EGFRvIII株は、806CAR T細胞の標的細胞株であった。
図7Dに示すように、抗原陽性腫瘍で刺激したところ、coHIV7.3コンストラクトを含む細胞によるサイトカインの放出が最も多かった。
【0120】
実施例4-実際の腫瘍株におけるヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトの最適な機能性
本明細書に開示するように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトからの増強された発現が、細胞傷害性と相関するのかどうかを分析した(
図8A)。標準的な条件下でクロム放出アッセイを用いて細胞傷害性を評価した。サイトカインアッセイと同様に、陰性対照としてK562親株を使用し、陽性対照としてK562/OKT3を使用した。K562/EGFRvIII株は、806CAR T細胞の組換え標的細胞株であり、外因性EGFRvIIIを発現する。エフェクター細胞と標的細胞の比率は、30:1~1:1とした。3種のCAR T細胞はいずれも、EGFRvIIIを発現するK562細胞に対して高い細胞傷害性を示すとともに、Be2腫瘍株およびU87腫瘍株に対しても、これとは異なる細胞傷害性を示した。本実施例に開示したデータから、K562/EGFRvIIIなどの人工の腫瘍細胞株ではなく、実際の腫瘍株に通常認められるような抗原を低発現する細胞の処理に、コドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトを含むT細胞を使用することには利点があることが実証された。
【0121】
追加実験において、複数のドナーから得られたヒトT細胞を、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示した各コンストラクトで形質導入し、メトトレキサートで選択した。細胞傷害性アッセイ(クロム放出アッセイ)において、形質導入したエフェクター細胞に、CARの標的を発現する標的細胞をチャレンジした。
図8Bに示すように、いずれの806CAR T細胞でも、標的抗原陽性腫瘍細胞の効果的な殺傷が示された。coHIV7.2を含む細胞は、HIV7.3を含む細胞やHIV7.2を含む細胞と比べて、天然腫瘍株であるBe2およびU87に対して最も高い細胞溶解活性を示した。
【0122】
追加実験において、複数のドナーから得られたヒトT細胞を、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示した各コンストラクトで形質導入し、メトトレキサートで選択した。形質導入したエフェクター細胞に、mCherryマーカーを発現する様々な標的腫瘍細胞をE:T=2:1の比率で0時間と96時間に2回チャレンジした。mCherryのシグナルはIncucyte解析システムで収集した。K562細胞株は陰性対照であり、K562/OKTは陽性対照であり、K562/EGFRVIIIとBe2は、CARの特異的な標的細胞株であった。
図8Cに示すように、各回の腫瘍チャレンジの後、coHIV7.3コンストラクトを含む細胞は、K562/EGFRVIII細胞とBe2細胞の増殖を有意に抑制した。HIV7.3コンストラクトを含む細胞とHIV7.2コンストラクトを含む細胞は、2回目のチャレンジの後に、K562/EGFRVIII腫瘍細胞の増殖を抑制することはできなかった。また、HIV7.3コンストラクトを含む細胞とHIV7.3コンストラクトを含む細胞は、Be2腫瘍細胞(腫瘍抗原を低発現する細胞株)の増殖を抑制することはできなかった。
【0123】
実施例5-ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトによるインビボでの有意な治療上の利点の付与
本明細書に開示するように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトを含むT細胞の性能をインビボで試験した。短いプロモーターを有するコンストラクトを含む配列、長いプロモーターを有するコンストラクトを含む配列、またはヒト用にコドン最適化されたコンストラクトを含む配列をT細胞に形質導入し、頭蓋内NSGマウスモデルにおいて試験を行った(
図10A)。各試験群間での差異を検出できるように、T細胞を低用量(治療に有効でない濃度)で使用した。各試験群は、5匹のマウスを含んでいた。GFP:ffluc(GFPとホタルルシフェラーゼの融合タンパク質)を発現するU87神経膠腫細胞(806CARの標的細胞)を頭蓋内注射(i.c.)した。1週間後に、T細胞を頭蓋内注射した。少なくとも週1回、生物発光画像を撮影し、定量したシグナルをグラフに示した。グラフに示すように、ヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクトを注射したマウスは、T細胞の注射後に、生物発光が有意に低下したことから、腫瘍の形成が低下したことが示された(
図10B)。同様に、このマウスは、陰性対照を投与したマウスや、短いプロモーターを有するEGFR806CARコンストラクトを投与したマウスと比較して、腫瘍関連死の経時的な生存率が増加した(
図10C)。以上のデータをまとめると、長いプロモーターを有するヒト用にコドン最適化されたEGFR806CARコンストラクト(配列番号10)は、発現量が高く、サイトカインの放出が増強されており、実際の腫瘍細胞に対して高い性能を発揮し、インビボにおいても高い性能を発揮することが示された。
【0124】
追加実験において、複数のドナーから得られたヒトT細胞を、
図1A、
図1Bおよび
図1Cに示した各コンストラクトで形質導入し、メトトレキサートで選択した。頭蓋内NSGマウスモデルにおいて形質導入細胞を試験した。各試験群間での差異を検出できるように、T細胞を低用量(治療に有効でない濃度)で使用した。各試験群は、5匹のマウスを含んでいた。GFP:ffluc(GFPとホタルルシフェラーゼの融合タンパク質)を発現するU87神経膠腫細胞(806CARの標的細胞)を頭蓋内注射(i.c.)した。1週間後に、T細胞を頭蓋内注射した。少なくとも週1回、生物発光画像を撮影し、シグナルを定量した(
図10D)。カプランマイヤー分析を行った(
図10E)。coHIV7.3コンストラクトを含む細胞を注射したマウスはいずれも症状を発症することなく90日間生存した。その他のマウスは、腫瘍に関連する症状を発症したため安楽死させた。
【配列表】
【国際調査報告】