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特表2023-552832関節の構造および機能を改善するためのプロスタグランジン分解酵素15-PGDHの阻害法
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  • 特表-関節の構造および機能を改善するためのプロスタグランジン分解酵素15-PGDHの阻害法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】関節の構造および機能を改善するためのプロスタグランジン分解酵素15-PGDHの阻害法
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20231212BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/4365 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 31/713 20060101ALI20231212BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231212BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P19/00
A61P19/02
A61P19/06
A61P19/10
A61K39/395 N
A61K38/02
A61K31/4365
A61K31/7088
A61K31/713
A61K48/00
A61P37/02
A61P29/00 101
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534973
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-19
(86)【国際出願番号】 US2021072843
(87)【国際公開番号】W WO2022126125
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/123,061
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】515158308
【氏名又は名称】ザ ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100188433
【弁理士】
【氏名又は名称】梅村 幸輔
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100214396
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 真紀
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(74)【代理人】
【識別番号】100221741
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 直子
(74)【代理人】
【識別番号】100114926
【弁理士】
【氏名又は名称】枝松 義恵
(72)【発明者】
【氏名】ブラウ ヘレン エム.
(72)【発明者】
【氏名】ブータニ ニディ
(72)【発明者】
【氏名】シングラ マムタ
(72)【発明者】
【氏名】パーラ アデライダ ローザ
【テーマコード(参考)】
4C084
4C085
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA02
4C084AA13
4C084NA14
4C084ZA96
4C084ZA97
4C084ZB07
4C084ZB15
4C085AA14
4C085BB11
4C085EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB26
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA96
4C086ZA97
4C086ZB07
4C086ZB15
(57)【要約】
本開示は、対象において15-PGDH活性を阻害するのにおよび/または15-PGDHレベルを低下させるのに有効な量の15-PGDH阻害物質を前記対象に投与することによって、前記対象の関節組織の構造および/または機能を改善する方法を提供する。本明細書において記載される方法は、老化、損傷、疾患、障害、および/または病態に関連する関節の機能不全および/または変性を処置するのに有用である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象において15-ヒドロキシプロスタグランジン(15-PGDH)活性を阻害するのにおよび/または15-PGDHレベルを低下させるのに有効な量の15-PGDH阻害物質を前記対象に投与し、それによって、前記対象の関節組織の構造および/または機能を改善する工程を含む、前記対象の関節組織の構造および/または機能を改善する方法。
【請求項2】
前記投与によって、前記対象の関節組織内のプロスタグランジンE2(PGE2)および/またはプロスタグランジンD2(PGD2)のレベルが増加する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して増加する、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記対象の関節組織が、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つのマーカーが、GAG染色の減少、軟骨の厚さの減少、線維化の増加、軟骨表面の平滑性の減少、骨組織密度の低下、OARSIスコアの増加、sGAGのレベルの低下、細胞増殖の減少、前記対象における疼痛および/または疼痛関連行動の増加、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の増加、異化遺伝子の発現の増加、同化軟骨細胞遺伝子の発現の減少、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア生合成の減少、ミトコンドリアレベルの低下、X型コラーゲンのレベルの増加、軟骨細胞サイズの増加、軟骨細胞真球度の増加、サイトカインおよび/またはケモカインのレベルの増加、炎症性メディエーターのレベルの増加、細胞由来産物および/またはマトリックス由来産物のレベルの増加、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記投与によって、関節組織の機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーが減少する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記関節組織の機能不全および/または変性が老化の結果である、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記関節組織の機能不全および/または変性が損傷の結果である、請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記損傷が、軟骨損傷、関節損傷、外傷、前十字靭帯(ACL)断裂、半月板断裂、股関節唇断裂、回旋腱板損傷、脊椎症、脊椎骨折、股関節骨折、変性脊椎すべり症、椎間板すべり症(slipped disc)、椎間板ヘルニア、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記関節組織の機能不全および/または変性が、疾患、障害、または病態の結果である、請求項4記載の方法。
【請求項11】
前記疾患、障害、または病態が、変形性関節症、他の関節炎型、骨粗鬆症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節症、変性椎間板疾患、先天性軟骨障害、骨障害、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記疾患、障害、または病態が変形性関節症である、請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで増加する、請求項4記載の方法。
【請求項14】
前記関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの10%~200%以内のレベルまで増加する、請求項4記載の方法。
【請求項15】
前記関節組織が、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項16】
関節組織の構造および/または機能が、前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して改善される、請求項1記載の方法。
【請求項17】
GAG染色の増加、軟骨の厚さの増加、線維化の減少、軟骨表面の平滑性の増加、骨組織密度の増加、OARSIスコアの減少、sGAGのレベルの増加、細胞増殖の増加、前記対象における疼痛および/もしくは疼痛関連行動の減少、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の減少、異化遺伝子の発現の減少、同化軟骨細胞遺伝子の発現の増加、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア機能不全および/もしくは変形性関節症に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア生合成の増加、ミトコンドリアレベルの増加、X型コラーゲンのレベルの低下、軟骨細胞サイズの減少、軟骨細胞真球度の低下、サイトカインおよび/もしくはケモカインのレベルの低下、炎症性メディエーターのレベルの低下、細胞由来産物および/もしくはマトリックス由来産物のレベルの低下、またはそれらの任意の組合せをもたらす、請求項1記載の方法。
【請求項18】
前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルの低下をもたらす、請求項1記載の方法。
【請求項19】
前記PGE2および/またはPGD2代謝産物が、15-ケトPGE2および13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2からなる群より選択される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様である、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルをもたらす、請求項4記載の方法。
【請求項21】
前記PGE2および/またはPGD2代謝産物が、15-ケトPGE2および13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2からなる群より選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記15-PGDH阻害物質が、小分子化合物、遮断抗体、ナノボディ、およびペプチドからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項23】
前記15-PGDH阻害物質がSW033291である、請求項1記載の方法。
【請求項24】
前記15-PGDH阻害物質が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項25】
前記対象がヒトである、請求項1記載の方法。
【請求項26】
前記対象が30歳未満である、請求項1記載の方法。
【請求項27】
前記対象が少なくとも30歳である、請求項1記載の方法。
【請求項28】
前記15-PGDH阻害物質が、15-PGDH発現を減少させるかまたは遮断する、請求項1記載の方法。
【請求項29】
前記15-PGDH阻害物質が、15-PGDHの酵素活性を低下させるかまたは遮断する、請求項1記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
相互参照
本出願は、2020年12月9日に出願された米国仮特許出願第63/123,061号の優先権を主張し、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府により資金提供を受けた研究開発の下で行われた発明の権利に関する記載
本発明は、国立衛生研究所によって授与された契約AG020961の下、政府の支援を受けて行われた。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
関節の組織の機能不全および/または変性は、生活の質、および正常な機能に重大な有害な影響を及ぼし得る。関節組織の機能不全および/または変性は、老化、損傷、疾患、障害、病態、または他の説明できない原因の結果であり得る。例えば、変形性関節症は、発生率が増加している関節の慢性疾患であり、米国および世界中の何百万人もの人々に影響を及ぼす身体障害の主な原因である。しかし、変形性関節症の処置に利用可能な疾患改変薬はない。変形性関節症、および関節に影響を及ぼす他の病態は、様々な方法で様々な関節組織に影響を及ぼし、運動性の低下、痛み、慢性疼痛などの悪影響をもたらし得る。
【0004】
変形性関節症と同様に、関節組織の機能不全および/または変性全般に対する処置選択肢は限られている。したがって、関節組織の構造および/または機能を改善し、それによって、生活の質を改善するための効果的な戦略が当技術分野において依然として必要とされている。本開示は、他の利点に加えて、この必要性を満たす方法を提供する。
【発明の概要】
【0005】
概要
本開示は、対象において15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)活性を阻害するのにおよび/または15-PGDHレベルを低下させるのに有効な量の15-PGDH阻害物質を対象に投与することによって、対象の関節組織の構造および/または機能を改善する方法を提供する。いくつかの態様では、方法は、対象の関節組織の構造を改善する工程を含む。いくつかの態様では、方法は、対象の関節組織の機能を改善する工程を含む。いくつかの態様では、投与によって、対象の関節組織内のプロスタグランジンE2(PGE2)および/またはプロスタグランジンD2(PGD2)のレベルが増加する。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルは、15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して増加する。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルは、15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して(例えば、少なくとも約10%)増加する。
【0006】
本明細書において記載される方法のいくつかの態様では、対象の関節組織は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する。いくつかの態様では、少なくとも1つのマーカーは、GAG染色の減少、軟骨の厚さの減少、線維化の増加、軟骨表面の平滑性の減少、骨組織密度の低下、OARSIスコアの増加、sGAGのレベルの低下、細胞増殖の減少、対象における疼痛および/または疼痛関連行動の増加、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の増加、異化遺伝子(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-13、MMP-3、MMP-1、アグリカナーゼ、トロンボスポンジンモチーフを有するジスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ4(ADAMTS4)、ADAMTS5、カテプシン、またはそれらの組合せ)の発現の増加、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンII、Acanまたは、それらの組合せ)の発現の減少、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア生合成の減少、ミトコンドリアレベルの低下、X型コラーゲンのレベルの増加、軟骨細胞サイズの増加、軟骨細胞真球度の増加、サイトカインおよび/またはケモカイン(例えば、IL1、IL6、IL15、オンコスタチンM、腫瘍壊死因子、またはそれらの組合せ)のレベルの増加、炎症性メディエーター(例えば、一酸化窒素、活性酸素種、補体活性化、またはそれらの組合せ)のレベルの増加、細胞由来産物および/またはマトリックス由来産物(例えば、アラーミン、例えば、S100、フィブロネクチン断片、ヒアルロン酸断片、コラーゲン断片、プロテオグリカン断片、高移動度群ボックス、またはそれらの組合せ)のレベルの増加、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される。いくつかの態様では、投与によって、関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーが減少する。いくつかの態様では、対象の関節組織の機能不全および/または変性は、老化の結果である。いくつかの態様では、対象の関節組織の機能不全および/または変性は、損傷(例えば、軟骨損傷、関節損傷、外傷、前十字靭帯(ACL)断裂、半月板断裂、股関節唇断裂、回旋腱板損傷、脊椎症、脊椎骨折、股関節骨折、変性脊椎すべり症、椎間板すべり症(slipped disc)、椎間板ヘルニア、およびそれらの組合せ)の結果である。いくつかの態様では、対象の関節組織の機能不全および/または変性は、疾患、障害、または病態(例えば、変形性関節症、他の関節炎型、骨粗鬆症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節症、変性椎間板疾患、先天性軟骨障害、骨障害、およびそれらの組合せ)の結果である。いくつかの態様では、疾患、障害、または病態は変形性関節症である。
【0007】
本明細書において記載される方法のいくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで増加する。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの10%~200%以内のレベルまで増加する。いくつかの態様では、関節組織は、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せからなる群より選択される。
【0008】
本明細書において記載される方法のいくつかの態様では、関節組織の構造および/または機能は、15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して改善される。いくつかの態様では、方法は、GAG染色の増加、軟骨の厚さの増加、線維化の減少、軟骨表面の平滑性の増加、骨組織密度の増加、OARSIスコアの減少、sGAGのレベルの増加、細胞増殖の増加、対象における疼痛および/もしくは疼痛関連行動の減少、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の減少、異化遺伝子(例えば、MMP-13、MMP-3、MMP-1、アグリカナーゼ、ADAMTS4、ADAMTS5、カテプシン、またはそれらの組合せ)の発現の減少、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンII、Acan、またはそれらの組合せ)の発現の増加、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア機能不全および/もしくは変形性関節症に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア生合成の増加、ミトコンドリアレベルの増加、X型コラーゲンのレベルの低下、軟骨細胞サイズの減少、軟骨細胞真球度の低下、サイトカインおよび/もしくはケモカイン(例えば、IL1、IL6、IL15、オンコスタチンM、腫瘍壊死因子、またはそれらの組合せ)のレベルの低下、炎症性メディエーター(例えば、一酸化窒素、活性酸素種、補体活性化、またはそれらの組合せ)のレベルの低下、細胞由来産物および/もしくはマトリックス由来産物(例えば、アラーミン、例えば、S100、フィブロネクチン断片、ヒアルロン酸断片、コラーゲン断片、プロテオグリカン断片、高移動度群ボックス、またはそれらの組合せ)のレベルの低下、またはそれらの任意の組合せをもたらす。
【0009】
いくつかの態様では、本明細書において記載される方法は、15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルの低下をもたらす。いくつかの態様では、方法は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様である、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルをもたらす。いくつかの態様では、PGE2および/またはPGD2代謝産物は、15-ケトPGE2および13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2からなる群より選択される。
【0010】
本明細書において記載される方法のいくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、小分子化合物、遮断抗体、ナノボディ、およびペプチドからなる群より選択される。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質はSW033291である。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択される。
【0011】
本明細書において記載される方法のいくつかの態様では、対象はヒトである。いくつかの態様では、対象は30歳未満である。いくつかの態様では、対象は少なくとも30歳である。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、15-PGDH発現を減少させるかまたは遮断する。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、15-PGDHの酵素活性を低下させるかまたは遮断する。
【0012】
本開示の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明および図から当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本開示の局面による、小分子による15-PGDHの全身阻害が、加齢マウスの軟骨を再生することを示す。上部のパネルは、ビヒクル、または15-PGDHの小分子阻害物質SW0033291(SW)を用いて、24ヶ月齢のマウスを1ヶ月間にわたり連日腹腔内(i.p.)処置する、15-PGDHの全身阻害の実験スキームを示している。マウスを1ヶ月後に評価した。左下のパネルは、ビヒクル(「加齢VEH」)またはSW(「加齢SW」)による全身処置後の加齢マウスの膝関節のサフラニンO(Saf O)/ファストグリーン染色の代表的な画像を示す。右下のパネルは、OARSIスコアリングシステムに基づいて、ビヒクルまたはSWによって処置したマウスのマウス膝関節のマキシマムスコア(「MAXスコア」)およびサミット(summit)スコアを示す。
図2】本開示の局面による、関節内SW注射による膝内の局所15-PGDH阻害が、成体マウスの外傷後変形性関節症(OA)を減弱させることを示す。左上のパネルは、3ヶ月齢の成体マウスに対してOAを誘発するための脛骨負荷の実験スキームを示す。ビヒクルまたはSWの関節内注射を4週間にわたって週に2回投与し、脛骨負荷後6週間の時点で関節を評価した。右上のパネルは、ビヒクルまたはSWを用いて局所的に処置したOA膝関節のサフラニンO(SafO)/ファストグリーン染色の代表的な画像を示す。左下のパネルは、OARSIスコアリングシステムに基づいて、ビヒクルまたはSWによって処置したマウスのマウス膝関節のマキシマムスコア(「MAXスコア」)およびサミットスコアを示す。右下のパネルは、ビヒクル処置群とSW処置群との間の48-plex Luminexアッセイから得られた有意に変化したサイトカインの変化倍率を示す。統計学的有意性に適用したWelch t検定、*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
図3】本開示の局面による、15-PGDH阻害が、加齢マウスの軟骨を若返らせるための複数の経路を変化させることを示す。ヒートマップは、ビヒクル(「加齢Veh」)またはSW(「加齢SW」)を用いて全身処置した若齢マウス(3ヶ月)または加齢マウス(24ヶ月)から単離された軟骨におけるRNAシーケンシングおよび分析から同定された示差的発現遺伝子を示す。
図4】本開示の局面による、15-PGDH阻害が加齢軟骨内でミトコンドリア生合成を増強することを示す。上部のパネルは、未処置若齢マウス、およびビヒクル(「加齢Veh」)またはSW(「加齢SW」)を用いて全身処置した加齢マウスのマウス関節の関節軟骨内の軟骨細胞の代表的なTEM画像を示す。各マウスカテゴリーについて、上部のパネルは、下部のパネル内でボックスによってマークされたあらゆる群のミトコンドリアの拡大画像を示す。スケールバー=2uM 下部のパネルは、上記のカテゴリーに対してImage Jを使用した、ミトコンドリア/細胞の定量を示す。統計学的有意性を判定するために、一元配置ANOVAとそれに続く多重比較検定とを使用した。
図5】本開示の局面による、ヒトOA軟骨外植片における15-PGDH阻害が、再生応答を誘導することを示す。左上のパネルは、ビヒクル(「対照」)またはSW(10uM)を用いて7日間処理したヒトOA軟骨外植片(n>5)のサフラニンO(SafO)/ファストグリーン染色の代表的な画像を示す。右上のパネルは、ビヒクル(「CTRL」)またはSW(10uM)を用いて処理したOA軟骨外植片(n=5)における1,9-ジメチルメチレンブルー(DMMB)アッセイによる硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)の定量を示す。対応のあるt検定を適用して、統計学的有意性を判定した。下部のパネルは、ビヒクル(「CTRL」)またはSWを用いて処理した異なるドナー3例由来のOA軟骨外植片のKi-67染色の免疫蛍光画像を示す。
図6】本開示の局面による、ヒトOA軟骨外植片における15-PGDH阻害が、再生応答を誘導することを示す。上部のパネルは、ビヒクル処理群およびSW処理群におけるOA軟骨外植片のKi-67染色の強度分布定量を示す。下部のパネルは、異なるOA患者3例由来のビヒクル(「Veh」)処理OA外植片とSW処理OA外植片との間の80-plex Luminexアッセイから得られた有意に変化したサイトカインの変化倍率を示す。Welch t検定を適用して統計学的有意性を判定し、*はP<0.05を示し、***はP<0.001を示し、****はP<0.0001を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
詳細な説明
1. 緒言
変形性関節症(OA)は、発生率が増加している関節の慢性疾患であり、米国および世界中の何百万人もの人々に影響を及ぼす身体障害の主な原因である(Litwic et al.,2013,Br.Med.Bull.105:185-199)。利用可能な疾患改変OA薬はない。老化、および関節軟骨への外傷、ならびに関節内の慢性炎症は、OAに関連する分子事象である。OAの発症は、多因子性であり、軟骨、滑膜、および骨に影響を及ぼす関節全体の疾患と考えられており、この疾患は、遺伝的感受性に加えて年齢、性別、および代謝状態によって影響を受ける。
【0015】
ジノプロストンとしても知られるプロスタグランジンE2(PGE2)は、女性の分娩を誘発すること、および造血幹細胞移植を増強することを含む様々な臨床現場で使用されている。PGE2は、抗凝固剤および抗血栓剤として使用することができる。炎症を解消することができる脂質メディエーターとしてのPGE2の役割も周知である。シクロオキシゲナーゼ1(COX-1)および/またはシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の阻害物質である非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)は、PGE2生合成を主に介してプロスタノイドを阻害することによって炎症を抑制する。プロスタグランジンD2(PGD2)はPGE2の構造異性体であり、PGE2上の9-ケトおよび11-ヒドロキシ基はPGD2上では逆転している。PGD2は、血管収縮、炎症、睡眠中の体温の調節、走化性、および男性の性的発達を含む多くの生物学的機能に何らかの役割を果たす。PGE2およびPGD2はともに、それぞれシクロオキシゲナーゼ(COX)によって、およびプロスタグランジンEシンターゼ酵素またはプロスタグランジンDシンターゼ酵素によって、アラキドン酸から合成される。PGE2およびPGD2のレベルは、15-ケト基へのPGE2およびPGD2の両方の15-OH基の変換を触媒する酵素15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ(15-PGDH)によって生理学的に調節される。
【0016】
本開示は、15-PGDHの阻害が、関節組織(例えば、軟骨)の変性を阻害し、組織の構造および機能を改善するという発見に部分的に基づく。したがって、本明細書において記載される方法は、対象の関節組織の構造および/または機能を改善するために有用である。以下の理論に拘束されるものではないが、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する関節組織内の15-PGDHレベルの上昇は、これらの組織内のPGE2および/またはPGD2の分解をもたらし、ひいては、PGE2および/またはPGD2のレベルとPGE2および/またはPGD2のシグナル伝達のレベルとを低下させ、これは関節組織機能に対する有害な影響を有すると考えられる。関節組織内の15-PGDHを阻害すると、これらの組織内のPGE2および/またはPGD2レベルが回復または増加して、関節組織の構造および/または機能が改善され得る。
【0017】
本開示に記載されるデータは、3つの異なる系統の手法で前臨床的証拠を提供する:(a)加齢マウスでは、小分子阻害物質を用いた処置による全身15-PGDH阻害は、軟骨を再生する;(b)成体マウスでは、関節内小分子阻害物質処置による膝における局所15-PGDH阻害は、OAを減弱させる;および(c)OA患者の軟骨外植片における15-PGDH阻害は、再生応答を誘導する。したがって、組織内の15-PGDH活性を阻害し、および/または15-PGDHレベルを低下させるための本明細書において提供される方法は、対象の関節組織の構造および/または機能を潜在的に改善し、関節傷害(例えば、OAにおいて)を遅延または逆転させ、それによって、老化、損傷、疾患、障害、または病態の結果として機能不全および/または変性を示す関節組織を有する対象の患者の生活の質および/または転帰を改善することができる。
【0018】
2. 概略
本明細書において開示される方法の実施は、分子生物学の分野における常用的な技術を用いる。本明細書において記載される一般的な使用方法を開示する基本的な教科書には、Sambrook and Russell,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd ed. 2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);およびCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,1994))が含まれる。
【0019】
核酸の場合、サイズは、キロベース(kb)、塩基対(bp)、またはヌクレオチド(nt)のいずれかで示される。一本鎖DNAおよび/または一本鎖RNAのサイズは、ヌクレオチドで示され得る。これらは、アガロースゲル電気泳動もしくはアクリルアミドゲル電気泳動から、シーケンシングされた核酸から、または公開されたDNA配列から得られた推定値である。タンパク質の場合、サイズは、キロダルトン(kDa)またはアミノ酸残基数で示される。タンパク質サイズは、ゲル電気泳動から、シーケンシングされたタンパク質から、由来するアミノ酸配列から、または公開されたタンパク質配列から推定される。
【0020】
市販されていないオリゴヌクレオチドは、例えば、Beaucage and Caruthers,Tetrahedron Lett. 22:1859-1862(1981)によって最初に記載された固相ホスホラミダイトトリエステル法に従って、Van Devanter et. al.,Nucleic Acids Res. 12:6159-6168(1984)に記載されている自動合成器を使用して、化学的に合成することができる。オリゴヌクレオチドの精製は、当技術分野において認識されている任意の戦略、例えば、Pearson and Reanier,J. Chrom. 255:137-149(1983)に記載されている天然アクリルアミドゲル電気泳動または陰イオン交換高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して行われる。
【0021】
3. 定義
本明細書において使用される場合、以下の用語は、特に指定されない限り、それらに帰する意味を有する。
【0022】
本明細書において使用される用語「1つの(a)」、「1つの(an)」または「その(the)」は、1つの成員を有する局面を含むだけでなく、複数の成員を有する局面も含む。例えば、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかに他のことを指示しない限り、複数の言及を含む。したがって、例えば、「細胞」への言及は、複数のそのような細胞を含み、「作用物質」への言及は、当業者に公知の1つまたは複数の作用物質への言及などを含む。
【0023】
本明細書において使用される用語「約(about)」および「およそ(approximately)」は、一般に、測定の性質または精度を考慮して、測定された量の許容可能な程度の誤差を意味するものとする。典型的には、誤差の例示的な程度は、所与の値、または値の範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、さらに好ましくは5%以内である。「約X」への任意の言及は、少なくとも値X、0.8X、0.81X、0.82X、0.83X、0.84X、0.85X、0.86X、0.87X、0.88X、0.89X、0.9X、0.91X、0.92X、0.93X、0.94X、0.95X、0.96X、0.97X、0.98X、0.99X、1.01X、1.02X、1.03X、1.04X、1.05X、1.06X、1.07X、1.08X、1.09X、1.1X、1.11X、1.12X、1.13X、1.14X、1.15X、1.16X、1.17X、1.18X、1.19X、および1.2Xを具体的に示す。したがって、「約X」は、例えば、「0.98X」という請求項の限定を裏付ける記述を教示および提供することを意図している。
【0024】
用語「プロスタグランジンE2」、「PGE2」、および「ジノプロストン」は、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素および末端プロスタグランジンEシンターゼ(PGES)を介してアラキドン酸から合成され得るプロスタグランジンを指す。PGE2は、血管拡張、炎症、および睡眠/覚醒周期の調節を含む多くの生物学的機能に何らかの役割を果たす。PGE2に関する構造的および機能的な情報は、例えば、PubChem:pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/Dinoprostoneの「ジノプロストン」の項目に見出すことができ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0025】
用語「プロスタグランジンD2」または「PGD2」は、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素およびPGD2シンターゼ(PTDS)を介してアラキドン酸から合成され得るプロスタグランジンを指す。PGD2はPGE2の構造異性体であり、PGE2上の9-ケトおよび11-ヒドロキシ基はPGD2上では逆転している。PGD2は、血管収縮、炎症、睡眠中の体温の調節、走化性、および男性の性的発達を含む多くの生物学的機能に何らかの役割を果たす。PGD2に関する構造的および機能的な情報は、例えば、PubChem:pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/compound/448457の「プロスタグランジンD2」の項目に見出すことができ、その内容は参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0026】
「15-PGDH」(15-ヒドロキシプロスタグランジンデヒドロゲナーゼ)は、例えば、15-ケト-プロスタグランジンE2(15-ケト-PGE2)へのPGE2の酸化、または15-ケト-プロスタグランジンD2(15-ケト-PGD2)へのPGD2の酸化を触媒することによって、いくつかの活性プロスタグランジンの不活性化に関与する酵素である。ヒト酵素は、HPGD遺伝子(遺伝子ID:3248)によってコードされる。この酵素は、短鎖非金属酵素アルコールデヒドロゲナーゼタンパク質ファミリーのメンバーである。例えばヒトでは、この酵素の複数のアイソフォームが存在し、それらのいずれも本方法を使用して標的とすることができる。例えば、ヒトアイソフォーム1~6のいずれか(例えば、GenBankアクセッション番号NP_000851.2、NP_001139288.1、NP_001243236.1、NP_001243234.1、NP_001243235.1、NP_001350503.1、NP_001243230.1)を標的とすることができ、GenBankアクセッション番号NP_000851.2、NP_001139288.1、NP_001243236.1、NP_001243234.1、NP_001243235.1、NP_001350503.1、NP_001243230.1のいずれかのアミノ酸配列、または任意の他の15-PGDH酵素のアミノ酸配列に対して50%、60%、70%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上の同一性を有する任意のアイソフォームを標的とすることができる。
【0027】
「15-PGDH阻害物質」は、任意の方法で、15-PGDHの発現、安定性、および/または活性の任意の側面を阻害すること、それを低減すること、それを減少させること、それを減弱すること、それを消失させること、それを排除すること、それを遅延させること、および/またはそれに反作用することができる任意の作用物質を指す。15-PGDH阻害物質は、例えば、15-PGDHをコードする遺伝子、例えばヒトHPGD遺伝子の発現、例えば、転写、RNAプロセシング、RNA安定性または翻訳の任意の側面を、例えば、阻害物質の非存在下で、インビトロまたはインビボで、対照と比較して、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上低下させることができる。同様に、15-PGDH阻害物質は、例えば、15-PGDH酵素の活性、例えば酵素活性を、例えば、阻害物質の非存在下で、インビトロまたはインビボで、対照と比較して、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上低下させることができる。さらに、15-PGDH阻害物質は、例えば、15-PGDH酵素の安定性を、例えば、阻害物質の非存在下で、インビトロまたはインビボで、対照と比較して、例えば、10%、15%、20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、またはそれ以上低下させることができる。本明細書において「15-PGDH作用物質」または「15-PGDH化合物」とも呼ばれる「15-PGDH阻害物質」は、天然または合成のいずれかの任意の分子、例えば、ペプチド、タンパク質、オリゴペプチド(例えば、約5~約25アミノ酸長、例えば、約5、約10、約15、約20、または約25アミノ酸長)、小分子(例えば、約2500ダルトン未満、例えば、約2000ダルトン未満、約1000ダルトン未満、または約500ダルトン未満の分子量を有する有機分子)、抗体、ナノボディ、多糖、脂質、脂肪酸、阻害性RNA(例えば、siRNA、shRNA、マイクロRNA)、修飾RNA、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、アプタマー、アフィマー、薬物化合物または他の化合物であり得る。
【0028】
用語「発現」および「発現される」は、転写産物および/または翻訳産物の産生、例えば、タンパク質(例えば、15-PGDH)をコードする核酸配列の産生を指す。いくつかの態様では、前記用語は、遺伝子(例えば、ヒトHPGD遺伝子)またはその一部によってコードされる転写産物および/または翻訳産物の産生を指す。細胞内のDNA分子の発現レベルは、細胞内に存在する対応するmRNAの量、または細胞によって産生される、そのDNAによってコードされるタンパク質の量のいずれかに基づいて評価され得る。
【0029】
用語「抗体」は、抗原に特異的に結合し、認識する、免疫グロブリン遺伝子またはその機能的断片によってコードされるポリペプチドを指す。認識される免疫グロブリン遺伝子には、カッパ、ラムダ、アルファ、ガンマ、デルタ、イプシロン、およびミュー定常領域遺伝子、ならびに無数の免疫グロブリン可変領域遺伝子が含まれる。軽鎖は、カッパまたはラムダのいずれかに分類される。重鎖は、免疫グロブリンクラス、IgG、IgM、IgA、IgD、およびIgEをそれぞれ規定するガンマ、ミュー、アルファ、デルタ、またはイプシロンに分類される。前記用語は、同じ抗原特異性を有する抗体断片、およびその融合産物を含む。
【0030】
例示的な免疫グロブリン(抗体)構造単位は、四量体を含む。各四量体は、ポリペプチド鎖の2つの同一の対から構成され、各対は、1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50~70kDa)を有する。各鎖のN末端は、抗原認識を主に担う約100~110アミノ酸またはそれ以上の可変領域を規定する。したがって、用語「可変重鎖」、「VH」または「VH」は、Fv、scFv、dsFvまたはFabを含む、免疫グロブリン重鎖の可変領域を指すのに対して、用語「可変軽鎖」、「VL」または「VL」は、Fv、scFv、dsFvまたはFabを含む、免疫グロブリン軽鎖の可変領域を指す。同等の分子には、例えば、抗体断片を修飾することによって、またはファージディスプレイライブラリーからの選択によって得られる所望の抗原特異性を有する抗原結合タンパク質が含まれる。
【0031】
用語「抗原結合部分」および「抗原結合断片」は、本明細書において区別なく使用され、抗原(例えば、15-PGDHタンパク質)に特異的に結合する能力を保持する、抗体の1つまたは複数の断片を指す。抗体結合断片の例には、限定されることなく、Fab断片(VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片)、F(ab’)2断片(ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片)、一本鎖Fv(scFv)、ジスルフィド連結Fv(dsFv)、相補性決定領域(CDR)、VL(軽鎖可変領域)、VH(重鎖可変領域)、ナノボディ、およびそれらの任意の組合せ、または標的抗原に結合することができる免疫グロブリンペプチドの任意の他の機能部分が挙げられる(例えば、Fundamental Immunology(Paul ed.,4th ed. 2001を参照)。
【0032】
「特異的に結合する」という語句は、非標的化合物に結合するよりも、試料中のその標的に対してさらに高い親和性、結合活性で、さらに容易に、および/またはさらに長い期間で標的に結合する分子(例えば、15-PGDH阻害物質、例えば、小分子または抗体)を指す。いくつかの態様では、標的(例えば、15-PGDH)に特異的に結合する分子は、非標的化合物の少なくとも2倍の親和性、例えば、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも20倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、またはそれ以上の親和性で標的に結合する。例えば、いくつかの態様では、15-PGDHに特異的に結合する分子は、典型的には、非15-PGDH標的の少なくとも2倍の親和性で15-PGDHに結合する。
【0033】
化合物の文脈では、用語「誘導体」には、限定されることなく、所与の化合物のアミド、エーテル、エステル、アミノ、カルボキシル、アセチルおよび/またはアルコール誘導体が含まれる。
【0034】
用語「処置する(treating)」または「処置(treatment)」は、以下のいずれか1つ、すなわち、疾患、障害、もしくは病態の1つもしくは複数の症状を改善すること;そのような症状が生じる前にそのような症状の発現を予防すること;疾患、障害、もしくは病態の進行を遅らせるか、完全に予防すること(再発エピソード間の期間が長くなること、症状の悪化を遅らせること、または症状の悪化の予防などによって明らかであり得る);寛解期間の開始を増強すること;疾患、障害、もしくは病態の進行-慢性段階(一次段階および二次段階の両方)で引き起こされる不可逆的損傷を遅らせること; 前記進行段階の開始を遅延させること;またはそれらの任意の組合せを指す。
【0035】
用語「投与する(administer)」、「投与する(administering)」または「投与(administration)」は、所望の生物学的作用部位への本明細書において記載される化合物などの作用物質または組成物の送達を可能にするために使用され得る方法を指す。これらの方法には、限定されることなく、非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、動脈内、血管内、心臓内、髄腔内、鼻腔内、皮内、硝子体内など)、経粘膜注射、経口投与、坐剤としての投与、および局所投与が含まれる。場合によっては、投与は全身投与(例えば、複数の組織および/または器官が処置されるかまたは影響を受けるように、循環系への投与)である。場合によっては、投与は局所投与(例えば、関節組織および/または器官が処置されるかまたは影響を受けるように、関節組織または器官に直接)である。当業者であれば、本明細書において記載される化合物の治療有効量を投与するための追加の方法を知っているであろう。
【0036】
用語「治療有効量」または「治療有効用量」または「有効量」は、有益なまたは所望の臨床効果をもたらすのに十分な化合物(例えば、15-PGDH阻害物質)の量を指す。治療有効量または治療有効用量は、限定されることなく、患者の年齢、大きさ、疾患、障害もしくは病態の種類もしくは程度、疾患、障害もしくは病態の病期、投与経路、使用される補充療法の種類もしくは程度、ならびに/または進行中の疾患プロセス、および/もしくは所望の処置の種類(例えば、積極的処置と対比した従来の処置)を含む、各患者にとって個別の因子に基づいてもよい。本明細書において記載される化合物または組成物(例えば、15-PGDH阻害物質)の治療有効量は、細胞培養および動物モデルから最初に推定することができる。例えば、細胞培養法で決定されたIC50値は、動物モデルでは出発点として機能し得るが、動物モデルで決定されたIC50値は、ヒトでは治療有効用量を見出すために使用され得る。
【0037】
本明細書において使用される用語「薬学的組成物」は、本明細書において記載される化合物(例えば、15-PGDH阻害物質)と、1つまたは複数の薬学的に許容される担体および/または薬学的に許容される賦形剤とを含む組成物を指す。
【0038】
本明細書において使用される場合の用語「薬学的に許容される担体」は、生物に対して重大な刺激を引き起こさず、投与された化合物の生物学的活性および特性を無効にしない担体または希釈剤を指す。
【0039】
用語「対象」、「個体」、および「患者」は、脊椎動物、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトを指すために本明細書において区別なく使用される。哺乳動物には、限定されることなく、マウス、ラット、類人猿、ヒト、ヒトが摂取するための家畜または生畜、例えば、ブタ、ウシおよびヒツジ、ならびにスポーツ動物およびペットが含まれる。対象にはまた、魚類および家禽などの脊椎動物が含まれる。
【0040】
用語「急性レジメン」は、化合物の投与の文脈では、対象、例えばヒト対象への化合物の一時的な適用もしくは短時間の適用、または対象、例えばヒト対象への化合物の反復適用を指し、適用間に所望の期間(例えば、1日)が経過する。いくつかの態様では、急性レジメンは、処置の経過にわたる、または長期間にわたる対象への化合物の急性曝露(例えば、単回用量)を含む。他の態様では、急性レジメンは、各曝露間に所望の期間が経過する、対象への化合物の間欠的曝露(例えば、反復投与)を含む。
【0041】
用語「慢性レジメン」は、化合物の投与の文脈では、化合物の量またはレベルが選択された期間にわたって実質的に一定であるように、長期間にわたる対象、例えばヒト対象への化合物の反復慢性適用を指す。いくつかの態様では、慢性レジメンは、長期間にわたる対象への化合物の連続曝露を含む。
【0042】
「発現カセット」は、宿主細胞内の特定のポリヌクレオチド配列の転写を可能にする一連の特定の核酸エレメントを有する、組換え的または合成的に生成された核酸構築物である。発現カセットは、プラスミド、ウイルスゲノムまたは核酸断片の一部であり得る。典型的には、発現カセットは、転写され、プロモーターに作動可能に連結されるポリヌクレオチドを含む。プロモーターは、異種プロモーターであり得る。ポリヌクレオチドに作動可能に連結されたプロモーターの文脈では、「異種プロモーター」は、天然の産物(例えば、野生型生物)に見られるのと同じポリヌクレオチドに作動可能に連結されないプロモーターを指す。
【0043】
用語「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、一本鎖形態または二本鎖形態のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)およびそれらのポリマーを指す。具体的に限定されない限り、前記用語は、参照核酸と同様の結合特性を有し、天然に存在するヌクレオチドと同様の様式で代謝される天然ヌクレオチドの公知の類似体を含む核酸を包含する。別段の指定がない限り、特定の核酸配列は、その保存的に修飾された変異体(例えば、縮重コドン置換)、対立遺伝子、オルソログ、SNPおよび相補的配列、ならびに明示的に示された配列も暗黙的に包含する。特定の態様では、修飾RNA分子、例えば、以下にさらに詳細に記載されるように、細胞に導入された場合に安定性および/または翻訳の増加を可能にする特定の化学修飾を有するmRNAが使用される。例えば、Dar et al., Scientific Reports 6:article no. 20031(2016)に記載され、crdd.osdd.net/servers/sirnamod/でアクセス可能なデータベースに提示されているように、siRNAまたはshRNAなどの核酸阻害物質を含む、本方法で使用されるRNAのいずれも、例えば、安定性および/または効力を増強するための化学修飾とともに使用することができることが理解される。
【0044】
「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指すために本明細書において区別なく使用される。3つの用語はいずれも、1つまたは複数のアミノ酸残基が、対応する天然アミノ酸の人工化学模倣物であるアミノ酸ポリマーに、ならびに天然アミノ酸ポリマーおよび非天然アミノ酸ポリマーに適用される。本明細書において使用される場合、前記用語は、全長タンパク質を含む任意の長さのアミノ酸鎖を包含し、アミノ酸残基は、共有結合性ペプチド結合によって連結されている。
【0045】
本明細書において使用される場合、用語「同一」またはパーセント「同一性」は、2つまたはそれ以上のポリヌクレオチド配列またはアミノ酸配列を記載する文脈では、同じである2つまたはそれ以上の配列または指定された部分配列を指す。「実質的に同一」である2つの配列は、配列比較アルゴリズムを使用して測定されるか、特定の領域が指定されていない手動アライメントおよび目視検査によって測定される場合、比較ウィンドウまたは指定された領域にわたって最大一致を目的として比較およびアライメントされた際に、少なくとも約60%の同一性、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または少なくとも約100%の同一性を有する。ポリヌクレオチド配列に関して、この定義はまた、試験配列の相補体を指す。アミノ酸配列に関して、場合によっては、同一性は、少なくとも約50アミノ酸長もしくは少なくとも約50ヌクレオチド長である領域にわたって、またはさらに好ましくは75~100アミノ酸長もしくは75~100ヌクレオチド長である領域にわたって存在する。
【0046】
配列比較では、典型的には、1つの配列が参照配列として機能し、参照配列に対して試験配列が比較される。配列比較アルゴリズムを使用する場合、試験配列および参照配列がコンピュータに入力され、必要に応じて部分配列座標が指定され、配列アルゴリズムプログラムパラメータが指定される。デフォルトのプログラムパラメータを使用することができるか、代替パラメータを指定することができる。次いで、配列比較アルゴリズムは、プログラムパラメータに基づいて、参照配列に対する試験配列のパーセント配列同一性を計算する。核酸およびタンパク質の配列比較のために、BLAST 2.0アルゴリズムおよびデフォルトパラメータが使用される。
【0047】
4. 関節の構造および/または機能を改善する方法
一局面では、対象の15-PGDH活性を阻害するのにおよび/または15-PGDHレベルを低下させるのに有効な量の15-PGDH阻害物質を対象に投与し、それによって、対象の関節組織の構造および/または機能を改善する工程を含む、対象の関節組織の構造および/または機能を改善する方法が本明細書において提供される。15-PGDH阻害物質の投与は、全身または局所であり得、対象における疼痛および/もしくは疼痛関連行動の減少;組織機能を評価するための任意のアッセイでの機能、生理学的活性、持久力、能力の増強;または対象の関節組織の機能もしくは健康の任意の他の尺度の改善(例えば、本明細書において記載されるように)を含む、関節組織のいくつかの局面のいずれかを強化することができる。
【0048】
いくつかの態様では、関節組織は、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せである。いくつかの態様では、関節組織は、対象の任意の関節(例えば、膝、足首、股関節、手、手首、肘、脊柱、首、肩など)に由来する。
【0049】
いくつかの態様では、関節組織内に存在するPGE2および/またはPGD2のレベルは、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の関節組織に存在するレベルと比較して、または同じ対象由来の健康な関節組織に存在するレベルと比較して増加し得る(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織内のPGE2および/またはPGD2レベルは、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の関節組織に存在するレベルと比較して、または同じ対象由来の健康な関節組織に存在するレベルと比較して、少なくとも約10%(例えば、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、またはそれ以上)増加し得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2レベルは、少なくとも10%増加する。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2レベルは、少なくとも50%増加する。いくつかの態様では、対象の関節組織は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示し、関節組織に存在するPGE2および/またはPGD2のレベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで増加し得る(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織内のPGE2および/またはPGD2レベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの約10%~約200%以内(例えば、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、もしくは約200%、またはそれ以上)のレベルまで増加し得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。いくつかの態様では、関節組織内のPGE2および/またはPGD2レベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの50%以内のレベルまで増加する。
【0050】
いくつかの態様では、関節組織内に存在するPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルは、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の関節組織に存在するレベルと比較して、または同じ対象由来の健康な関節組織に存在するレベルと比較して低下し得る(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物レベルは、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の関節組織に存在するレベルと比較して、または同じ対象由来の健康な関節組織に存在するレベルと比較して、少なくとも約10%(例えば、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、またはそれ以上)低下し得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。いくつかの態様では、対象の関節組織は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示し、関節組織内に存在するPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで低下し得る(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物レベルは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの約50%またはそれ未満以内(例えば、約40%以内、約35%以内、約30%以内、約25%以内、約20%以内、約15%以内、約10%以内、約5%以内、または約1%以内)のレベルまで低下し得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。PGE2および/またはPGD2代謝産物は、15-ケトPGE2、13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2またはその両方であり得る。
【0051】
いくつかの態様では、本明細書において提供される方法(例えば、15-PGDH阻害物質による処置)は、関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーの減少によって実証されるように、対象の関節組織の構造および/または機能の改善をもたらす。関節組織の機能不全および/または変性のマーカーには、限定されることなく、軟骨プロテオグリカン(GAG)染色の減少、軟骨の厚さの減少、線維化の増加、軟骨表面の平滑性の減少、骨組織密度の低下、OARSIスコアの増加(例えば、Glasson,et al.,2010,“The OARSI histopathology initiative-recommendations for histological assessments of osteoarthritis in the mouse,”Osteoarthr.Cartil.18(Suppl.3):S17-23を参照)、およびそれらの組合せが含まれる。関節組織の機能不全および/または変性のマーカーには、限定されることなく、硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)のレベルの低下、細胞増殖の減少(例えば、細胞周期マーカーKi67を発現する細胞の減少によって測定される場合)、対象における疼痛および/または疼痛関連行動の増加、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の増加、異化遺伝子(例えば、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)-13、MMP-3、MMP-1、アグリカナーゼ、トロンボスポンジンモチーフを有するジスインテグリンおよびメタロプロテイナーゼ4(ADAMTS4)、ADAMTS5、カテプシンなど)の発現の増加、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンII、Acanなど)の発現の減少、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子(例えば、Cox5a、Ndufa9)の発現の減少、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子(例えば、Htra1、Dcn)の発現の増加、ミトコンドリア生合成の減少、ミトコンドリアレベル(例えば、ミトコンドリア/細胞)の低下、X型コラーゲンのレベルの増加、軟骨細胞サイズの増加、軟骨細胞真球度の増加、サイトカインおよび/またはケモカイン(例えば、IL1、IL6、IL15、オンコスタチンM、腫瘍壊死因子、CCL7、CXCL10、CCL4、VEGF、IL27、IL2、GMCSF、CCL5など)のレベルの増加、炎症性メディエーター(例えば、一酸化窒素、活性酸素種、補体活性化など)のレベルの増加、細胞由来産物および/またはマトリックス由来産物(例えば、アラーミン、例えば、S100、フィブロネクチン断片、ヒアルロン酸断片、コラーゲン断片、プロテオグリカン断片、高移動度群ボックスなど)のレベルの増加、ならびにそれらの組合せも含まれ得る。いくつかの態様では、関節組織の機能不全および/または変性のマーカーには、当業者に公知の他のマーカーが含まれ得る(例えば、各々参照によりその全体が本明細書に組み入れられるWei,et al.,2012,“Activation of Indian hedgehog promotes chondrocyte hypertrophy and upregulation of MMP-13 in human osteoarthritic cartilage,”Osteoarthr.Cartil.20:755-763および/またはMartel-Pelletier,et al.,2016, “Osteoarthritis,”Nature Reviews 2:1-18に記載されているように)。
【0052】
したがって、関節組織の機能不全および/または変性のマーカーの減少には、いくつかの態様では、GAG染色の増加、軟骨の厚さの増加、線維化の減少、軟骨表面の平滑性の増加、骨組織密度の増加、OARSIスコアの減少、またはそれらの組合せが含まれ得る。いくつかの態様では、関節組織の機能不全および/または変性のマーカーの減少には、sGAGのレベルの増加、細胞増殖の増加(例えば、Ki67を発現する細胞の増加によって測定される場合)、対象における疼痛および/または疼痛関連行動の減少、Ihhタンパク質の発現の減少、異化遺伝子(例えば、MMP-13、MMP-3、MMP-1、アグリカナーゼ、ADAMTS4、ADAMTS5、カテプシンなど)の発現の減少、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンII、Acanなど)の発現の増加、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子(例えば、Cox5a、Ndufa9)の発現の増加、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子(例えば、Htra1、Dcn)の発現の減少、ミトコンドリア生合成の増加、ミトコンドリアレベルの増加、X型コラーゲンのレベルの低下、軟骨細胞サイズの減少、軟骨細胞真球度の低下、サイトカインおよび/またはケモカイン(例えば、IL1、IL6、IL15、オンコスタチンM、腫瘍壊死因子、CCL7、CXCL10、CCL4、VEGF、IL27、IL2、GMCSF、CCL5など)のレベルの低下、炎症性メディエーター(例えば、一酸化窒素、活性酸素種、補体活性化など)のレベルの低下、細胞由来産物および/またはマトリックス由来産物(例えば、アラーミン、例えば、S100、フィブロネクチン断片、ヒアルロン酸断片、コラーゲン断片、プロテオグリカン断片、高移動度群ボックスなど)のレベルの低下、ならびにそれらの組合せが含まれ得る。
【0053】
いくつかの態様では、関節組織の機能不全および/または変性のマーカーの減少には、機械的方法(例えば、バルク組織標本機械的試験、マイクロビーム機械的試験、微小押込、またはナノ押込)によって測定される関節組織機能の増加もしくは増強;撮像方法(例えば、コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴画像法(MRI)、核磁気共鳴(NMR)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、ラマンイメージングまたは走査型電子顕微鏡法);化学的もしくは物理的方法(コラーゲン架橋の重量分析または化学分析);デンシトメトリー分析;またはそれらの組合せが含まれ得る。関節組織の構造および/または機能は、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の関節組織と比較して、または同じ対象由来の健康な関節組織に存在するレベルと比較して、少なくとも約10%(例えば、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、またはそれ以上)改善され得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。いくつかの態様では、対象の関節組織は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示し、関節組織の構造および/または機能は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで改善され得る(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織の構造および/または機能は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの約10%~約200%以内(例えば、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約110%、約120%、約130%、約140%、約150%、約160%、約170%、約180%、約190%、または約200%以上)のレベルまで改善され得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。いくつかの態様では、関節組織の構造および/または機能は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの約50%以内のレベルまで改善される(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。
【0054】
いくつかの態様では、関節組織の機能および活動性の改善は、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、約100%、またはそれ以上の、疼痛、疾患活動性または身体障害の改善によって実証される。いくつかの態様では、関節組織の機能および活動性の改善は、ACR20基準、ACR50基準またはACR70基準を含むACR(American College of Rheumatology)基準の改善によって実証される。ACR基準は、以下の5つのパラメータのうちの3つの改善とともに、圧痛または関節腫脹の数の改善を評価および確立するために使用される:1)急性期反応物質 - C反応性タンパク質または沈降速度によって測定される、関節内の炎症の量;2)患者評価 - 関節処置に対する進捗および患者による応答;3)ヘルスケア提供者評価 - ヘルスケア提供者による処置に対する進捗および応答の評価;4)疼痛 - 患者の関節痛のレベル;ならびに5)身体障害/機能質問票 - 日常活動における関節疾患による干渉のレベル。
【0055】
いくつかの態様では、関節組織の機能および活動性の改善は、疼痛および/または疼痛関連行動の減少によって実証される。いくつかの態様では、対象における疼痛(例えば、OA関連疼痛)は、対象の関節の疼痛、こわばり、および身体機能を評価するために医療専門家によって患者報告アウトカム(PRO)として使用される標準化された一連の質問票であるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)を使用して評価される(例えば、Bellamy,1989,Seminars in Arthritis and Rheumatism,18(4)supp.2:14-17、Peat et al.,2001,Ann.Rheum.Dis.60:91e7、およびNeogi,2013,Osteoarthritis and Cartilage 21:1145-1153を参照)。いくつかの態様では、疼痛および/または疼痛関連行動は、歩行分析によって(例えば、キャットウォークビデオベースのシステムを使用する)および/または機械的アロディニアの試験によって(例えば、von Freyフィラメントアッセイを使用する)評価され得る(例えば、小動物を対象に)(例えば、Malfait et al.,2013,Osteoarthritis and Cartilage 21:1316-1326を参照)。
【0056】
関節組織の構造および/または機能を評価するための技術は、当業者に公知である。例えば、サフラニンOによる軟骨プロテオグリカン(GAG)染色の組織学的検査は、GAG染色の減少を介して機能不全および/または変性を明らかにすることができる。他の例には、限定されることなく、線維化レベルの検査、軟骨の厚さの検査、軟骨表面の平滑性のレベルの検査、骨組織密度の検査、OARSIスコアリング、上記の追加のマーカー(例えば、sGAG、X型コラーゲン、軟骨細胞サイズ、軟骨細胞真球度、サイトカインおよび/もしくはケモカイン、炎症性メディエーター、ならびに/または細胞由来産物および/もしくはマトリックス由来産物)の存在に関する関節組織の組織学的検査、細胞増殖の測定(例えば、Ki67などの細胞増殖マーカーの測定による)、上記のマーカー遺伝子の発現の定量(例えば、ウエスタンブロット、免疫蛍光、フローサイトメトリーもしくは質量分析などの技術によるタンパク質レベルで;または定量的逆転写酵素PCRもしくはRNAシーケンシングなどの技術によるmRNAレベルで)、またはそれらの組合せが挙げられる。いくつかの態様では、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンIIまたはAcan)の発現の減少は、関節の機能不全および/または変性を示す。いくつかの態様では、異化遺伝子(例えば、MMP-13またはMMP-3)の発現の増加は、関節の機能不全および/または変性を示す。いくつかの態様では、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子(例えば、Cox5a、Ndufa9)の発現の減少は、関節の機能不全および/または変性を示す。いくつかの態様では、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子(例えば、Htra1、Dcn)の発現の増加は、関節の機能不全および/または変性を示す。いくつかの態様では、疼痛の増加(例えば、本明細書において記載される方法のいずれかに従って評価して)は、関節の機能不全および/または変性を示す。関節組織機能はまた、肉眼的異常の検査、関節運動の観察、関節触診、およびそれらの組合せを含む医療技術を介して評価され得る。
【0057】
いくつかの態様では、処置(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いてなど)は、関節組織の機能不全の減少、低下、減弱または阻害をもたらす。関節組織の機能不全は、限定されることなく、関節痛、関節可動域の減少、痛み、およびそれらの組合せを含む、関節の正常な機能を損なういずれかの特徴を含む。関節組織の機能不全のレベルは、本明細書において記載される技術のいずれか、または当業者に公知の任意の他の方法を使用して測定され得る。いくつかの態様では、有効性は、疼痛、疾患活動性および身体障害の改善を含む、関節組織の機能および活動性の標準的な臨床測定値(例えば、Disability Index of the Health Assessment Questionnaire(HAQ);および医師による疾患活動性の全体的な評価)を使用して測定され得る。いくつかの態様では、有効性は、ACR20、ACR50またはACR80を含むACR(American College of Rheumatology)基準を使用して測定され得る。例えば、van de Putte et al.,Ann.Rheum.Dis 62:1168-1177(2003)を参照されたい。いくつかの態様では、処置(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いてなど)は、同化軟骨細胞遺伝子(例えば、Sox9、コラーゲンIIまたはAcan)の発現の増加をもたらす。いくつかの態様では、処置(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いてなど)は、異化遺伝子(例えば、MMP-13またはMMP-3)の発現の減少をもたらす。いくつかの態様では、処置(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いてなど)は、造血機能の増大、および/または造血幹細胞(HSC)ニッチの若返りをもたらす。
【0058】
いくつかの態様では、処置(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いてなど)は、関節組織の変性および/または疼痛の減少、低下、減弱、停止または阻害をもたらす。関節組織の変性には、限定されることなく、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せを含む、関節機能に関与する任意の組織の喪失、脆弱化、劣化または機能的障害が含まれる。いくつかの態様では、関節組織は、対象の任意の関節(例えば、膝、足首、股関節、手、手首、肘、脊柱、首、肩など)に由来する。関節組織の変性のレベルは、本明細書において記載される技術のいずれか、または当業者に公知の任意の他の方法を使用して測定され得る。
【0059】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、処置(例えば、15-PGDH阻害物質による)前の細胞および/もしくは組織と比較して、または同じ対象由来の健康な関節の細胞および/もしくは組織に存在するレベルと比較して、少なくとも約10%(例えば、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、またはそれ以上)関節組織の機能不全および/または変性を減少させる。いくつかの態様では、対象は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示し、15-PGDH阻害物質は、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを減少させる(例えば、本明細書において提供される方法に従って15-PGDH阻害物質を用いた処置後などに)。関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーは、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの約10%~約200%またはそれ未満以内(例えば、約40%以内、約35%以内、約30%以内、約25%以内、約20%以内、約15%以内、約10%以内、約5%以内、または約1%以内)のレベルまで減少し得る(例えば、本明細書において開示される任意の方法によって)。
【0060】
本開示はまた、関節組織に影響を及ぼす疾患、障害、または病態、例えば、任意の種類の関節炎、変形性関節症、骨粗鬆症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節症、変性椎間板疾患、先天性軟骨障害、骨障害、およびそれらの組合せを処置する方法を提供する。いくつかの態様では、疾患、障害、または病態は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、結合組織病乾癬(connective tissue-disease psoriasis)、多発性関節炎または変形性関節症である。いくつかの態様では、方法は、関節組織に影響を及ぼす疾患、障害、または病態を有する対象に、15-PGDH阻害物質を含む薬学的組成物の治療有効量を投与する工程を含む(例えば、本明細書において記載されるように)。いくつかの態様では、対象は、関節リウマチ、乾癬性関節炎、若年性特発性関節炎、強直性脊椎炎、結合組織病乾癬、多発性関節炎、または変形性関節症を有する。
【0061】
本開示はまた、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを有する対象の関節組織内の15-PGDHレベルを測定する方法を提供する。そのような方法は、例えば、関節組織の機能不全および/または変性のバイオマーカーとしての15-PGDHの使用に有用であり、例えば、15-PDGHレベルまたは活性のレベルの上昇、例えば、関節組織の機能不全および/もしくは変性がない対照対象の対照レベルと比較して、または対象の健康な関節と比較して、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、またはそれ以上の増加は、関節組織の機能不全および/または変性を示す。そのような方法では、15-PGDHは、いくつかの方法のいずれかで、例えば、15-PGDHタンパク質をコードする転写産物のレベルを検出することによって、15-PGDHポリペプチドのレベルを検出することによって、または15-PGDH酵素活性を検出することによって評価することができる。
【0062】
特定の態様では、対象における15-PGDHの阻害は、対象の関節組織内のPGE2および/またはPGD2の増加、例えば、PGE2および/またはPGD2レベルの上昇、増加または回復と、15-ケト-PGE2、13,14-ジヒドロ-15-ケト-PGE2(PGEM)、15-ケト-PGD2および13,14-ジヒドロ-15-ケト-PGD2などのPGE2および/またはPGD2代謝産物の減少とをもたらす。いくつかの態様では、阻害はまた、関節組織内のPGE2受容体、例えば、EP1、EP2、EP3および/またはEP4(Ptger1、Ptger2、Ptger3、Ptger4としても知られる)を介したシグナル伝達の増加をもたらす。いくつかの態様では、阻害はまた、PGD2受容体、例えば、DP1および/またはDP2(PTGDR1、PTGDR2/CRTH2としても知られる)を介したシグナル伝達の増加をもたらす。
【0063】
特定の態様では、関節組織内の15-PGDH阻害物質投与の本明細書において記載される利点、例えば、関節組織機能の改善などは、対象の関節組織のいずれかの再生とは無関係に生じる。換言すれば、例えば、関節組織が損傷または傷害を受けたことがある場合、対象の関節組織は再生し得るが、本明細書において記載される効果は、再生を必要とせず、再生がなくても生じる。特定の態様では、関節組織は、損傷または傷害を受けておらず、再生を経験したことがないか、または再生を経験していない。
【0064】
対象
対象は、関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーを有するか、または関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーを有するリスクがある任意の対象、例えば、ヒトまたは他の哺乳動物であり得る。いくつかの態様では、対象はヒトである。いくつかの態様では、対象は成人である。いくつかの態様では、対象は小児である。いくつかの態様では、対象は、女性(例えば、成人女性)である。いくつかの態様では、対象は、男性(例えば、成人男性)である。
【0065】
いくつかの態様では、対象はヒトであり、方法は、ヒトが関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーを有するという決定に基づいて、または関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーを発現する可能性もしくはリスクに基づいて、ヒトが15-PGDH阻害物質による処置のために選択される工程をさらに含む。いくつかのそのような態様では、ヒトは、その年齢に基づいて選択される。例えば、ヒトは、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100歳、もしくはそれ以上を超える年齢、またはヒトが関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーを有するかもしくは有する可能性がある任意の年齢に基づいて処置のために選択され得る。いくつかの態様では、対象は30歳未満である。いくつかの態様では、対象は少なくとも30歳である。いくつかの態様では、ヒトは、関節組織の機能不全および/もしくは変性の少なくとも1つのマーカーに関する可能性に基づいて、関節組織の機能不全および/もしくは変性に関連付けられる環境因子、生活様式因子もしくは医学的因子、例えば、関節問題の家族歴、食事、身体活動の欠如、睡眠不足、薬物使用、喫煙、飲酒、極端な温度への曝露、ストレス、過剰な体重、または健康関連因子、例えば、感染症、疾患、障害、病態などの存在または潜在的存在に基づいて選択される。
【0066】
いくつかの態様では、対象は、関節組織の機能、能力、健康、強度、持久力、生理学的活性または他の任意の特性の任意の尺度を評価する任意の方法、例えば、能力に基づくアッセイ、画像に基づくアッセイ、生理学的アッセイ、分子アッセイ、細胞アッセイまたは機能アッセイを使用して判定されるように、関節組織の機能不全および/または変性を有すると判定される。いくつかの態様では、対象は、関節組織の構造および/または機能の評価に基づいて処置のために選択される。いくつかの態様では、対象は、関節組織内の15-PGDH転写産物、タンパク質もしくは酵素活性のレベルの上昇の検出に基づいて、または関節組織内のPGE2および/もしくはPGD2のレベルの低下の検出に基づいて処置のために選択される。
【0067】
いくつかの態様では、方法は、15-PGDH阻害物質の投与後に、対象の関節組織の健康、機能、能力もしくは任意の他の特性を評価することを含むか、または対象の関節組織内の15-PGDH(例えば、15-PGDHタンパク質、転写産物または活性)および/もしくはPGE2および/もしくはPGD2のレベルを評価して、例えば、関節組織に対する15-PGDH阻害物質の事前投与の潜在的効果を確認することを含む追加の工程を含む。いくつかのそのような態様では、関節組織の健康、機能、能力、15-PGDHレベル、PGE2レベル、PGD2レベルまたは他の特性が検出または検査され、15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織の健康、機能、能力、15-PGDHレベル、PGE2レベル、PGD2レベルもしくは他の特性、または対照値と比較され、15-PGDH阻害物質の投与前に得られた値、または対照値と比較して、関節組織の健康、機能または能力が改善した、阻害物質の投与後の関節組織内の15-PGDHレベルが低下した、PGE2レベルおよび/またはPGD2レベルが増加したという判定は、15-PGDH阻害物質が対象の関節組織内で有益な効果を有したことを示す。
【0068】
いくつかの態様では、対象は、例えば、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、もしくは100歳、またはそれ以上の高齢である。いくつかの態様では、高齢の対象は、高齢の結果として関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する。
【0069】
いくつかの態様では、対象は、関節組織に影響を及ぼす損傷、例えば、軟骨損傷、関節損傷、外傷、前十字靭帯(ACL)断裂、半月板断裂、股関節唇断裂、回旋腱板損傷、脊椎症、脊椎骨折、股関節骨折、変性脊椎すべり症、椎間板すべり症、椎間板ヘルニア、およびそれらの組合せに耐えている。いくつかの態様では、関節組織は、対象の任意の関節(例えば、膝、足首、股関節、手、手首、肘、脊柱、首、肩など)に由来する。いくつかの態様では、損傷を受けた対象は、損傷の結果としての関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する。
【0070】
いくつかの態様では、対象は、関節組織に影響を及ぼす疾患、障害、または病態、例えば、任意の種類の関節炎、変形性関節症、骨粗鬆症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節症、変性椎間板疾患、先天性軟骨障害、骨障害、およびそれらの組合せを有する。いくつかの態様では、対象は、変形性関節症を有する。いくつかの態様では、関節組織は、対象の任意の関節(例えば、膝、足首、股関節、手、手首、肘、脊柱、首、肩など)に由来する。いくつかの態様では、疾患、障害、または病態を有する対象は、疾患、障害、または病態の結果として関節組織の機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する。
【0071】
本方法は、限定されることなく、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せを含む、任意の関節組織、またはそのような組織内の細胞を処置するために使用され得る。いくつかの態様では、関節組織は、対象の任意の関節(例えば、膝、足首、股関節、手、手首、肘、脊柱、首、肩など)に由来する。
【0072】
5. 15-PGDHレベルの評価
例えば、バイオマーカーとして15-PGDHを使用する場合、または15-PGDHの阻害物質の効果を評価する場合、いくつかの方法のいずれかを使用して、組織内の15-PGDHのレベルを評価することができる。例えば、15-PGDHのレベルは、15-PGDHをコードする遺伝子(例えばHpgd遺伝子)の転写を調査することによって、組織内の15-PGDHタンパク質のレベルを調査することによって、または組織内の15-PGDH酵素活性を測定することによって評価することができる。そのような方法は、組織全体に対して、または組織内の細胞のサブセットに対して行うことができる。
【0073】
いくつかの態様では、方法は、例えば、適切な反応緩衝液中で15-PGDH酵素、NAD(+)、ならびにPGE2および/またはPGD2の存在下で候補化合物をインキュベートし、NADHの生成を監視する(例えば、Zhang et al.,(2015)Science 348:1224を参照)ことなどの標準的な方法を使用して、または蛍光定量PicoProbe 15-PGDH Activity Assay Kit(BioVision)などのいくつかの利用可能なキットのいずれかを使用することによって、または例えばEP2838533 B1に記載されている方法および/または指標のいずれかを使用することによって、15-PGDH酵素活性を測定する工程を含む。
【0074】
いくつかの態様では、方法は、RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、半定量RT-PCR、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、多重分岐DNA(bDNA)アッセイ(multiplexed branched DNA(bDNA)assay)、マイクロアレイハイブリダイゼーションまたは配列分析(例えば、RNAシーケンシング(「RNA-Seq」))などの常用的な技術を使用して分析され得る、15-PGDHをコードするポリヌクレオチド(例えば、mRNA)発現の検出を含む。ポリヌクレオチド発現を定量する方法は、例えば、Fassbinder-Orth,Integrative and Comparative Biology,2014,54:396-406;Thellin et al.,Biotechnology Advances,2009,27:323-333;およびZheng et al.,Clinical Chemistry,2006,52:7(doi:10/1373/clinchem. 2005. 065078)に記載されている。いくつかの態様では、リアルタイムPCRまたは定量的PCRまたはRT-PCRが、生物学的試料中のポリヌクレオチド(例えば、mRNA)のレベルを測定するために使用される。例えば、Nolan et al.,Nat. Protoc,2006,1:1559-1582;Wong et al.,BioTechniques,2005,39:75-75を参照されたい。また、遺伝子発現を測定するための定量的PCRアッセイおよびRT-PCRアッセイが市販されている(例えば、TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイ、ThermoFisher Scientific)。
【0075】
いくつかの態様では、方法は、例えば、当業者に公知のイムノアッセイ、二次元ゲル電気泳動および定量的質量分析などの常用的な技術を使用して、15-PGDHタンパク質の発現または安定性を検出する工程を含む。タンパク質定量技術は、一般に、’’Strategies for Protein Quantitation,’’ Principles of Proteomics,2nd Edition,R. Twyman,ed.,Garland Science,2013に記載されている。いくつかの態様では、タンパク質の発現または安定性は、イムノアッセイ、例えば、限定されることなく、酵素免疫測定法(EIA)、例えば、酵素増幅免疫測定法技術(EMIT)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、IgM抗体捕捉ELISA(MAC ELISA)および微粒子酵素免疫測定法(MEIA);キャピラリー電気泳動イムノアッセイ(CEIA);ラジオイムノアッセイ(RIA);イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA);免疫蛍光(IF);蛍光偏光免疫測定法(FPIA);ならびに化学発光アッセイ(CL)によって検出される。所望であれば、そのようなイムノアッセイを自動化することができる。イムノアッセイは、レーザー誘起蛍光と併せて使用することもできる(例えば、Schmalzing et al.,Electrophoresis,18:2184-93(1997);Bao,J. Chromatogr. B. Biomed. Sci.,699:463-80(1997)を参照)。
【0076】
6. バイオマーカーとしての15-PGDH
いくつかの態様では、15-PGDHは、関節組織の機能不全および/もしくは変性のための、または関節組織に影響を及ぼす疾患、障害もしくは病態の存在もしくは可能性のためのバイオマーカーとして使用され得る。例えば、関節組織、例えば、組織全体、または関節組織内の特定の細胞内の15-PGDHレベルの増加の検出は、関節組織の機能不全および/もしくは関節組織の変性、老化、損傷、疾患もしくは障害に関連する、関節組織の機能もしくは健康の喪失もしくは低下、または老化、損傷、疾患、障害もしくは病態の存在もしくは発生を示し得る。例えば、関節組織に影響を及ぼす疾患、障害、または病態のない対象由来の対照組織と比較して、関節組織内の約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、またはそれ以上の15-PGDHの検出された増加は、関節組織の機能不全および/もしくは関節組織の変性、老化、損傷、疾患、障害もしくは病態に関連する、関節組織の機能もしくは健康の喪失もしくは低下、または老化、損傷、疾患、障害もしくは病態の存在もしくは発生を示し得る。
【0077】
7. 15-PGDH阻害物質
本方法では、任意の方法で、15-PGDHの発現、安定性、または活性、例えば酵素活性を低下させるか、それらを減少させるか、それらに反作用するか、それらを減弱するか、それらを阻害するか、それらを阻止するか、それらをダウンレギュレートするか、またはそれらを排除する、任意の作用物質を使用することができる。阻害物質は、任意の方法で、小分子化合物、ペプチド、ポリペプチド、核酸、抗体、例えば、遮断抗体もしくはナノボディ、または15-PGDHの発現、安定性、および/もしくは活性、例えば、15-PGDHの酵素活性を低下させるか、それらを減少させるか、それらに反作用するか、それらを減弱するか、それらを阻害するか、それらを阻止するか、それらをダウンレギュレートするか、もしくはそれらを排除する、任意の他の分子であり得る。
【0078】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、15-PGDHの活性、安定性または発現を、例えば、阻害物質の非存在下で、インビボまたはインビトロで、対照レベルと比較して少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約35%、少なくとも約40%、少なくとも約45%、少なくとも約50%、少なくとも約55%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、またはそれ以上減少させる。
【0079】
阻害物質の効果は、例えば、15-PGDH酵素活性を測定することによって、例えば、適切な反応緩衝液中で15-PGDH酵素、NAD(+)およびPGE2の存在下で候補化合物をインキュベートし、NADHの生成を監視する(例えば、Zhang et al.,(2015)Science 348:1224を参照)ことなどの標準的な方法を使用して、または蛍光定量PicoProbe 15-PGDH活性測定キット(BioVision)などのいくつかの利用可能なキットのいずれかを使用することによって、または例えばEP2838533 B1に記載されている方法および/または指標のいずれかを使用することによって、評価することができる。
【0080】
阻害物質の効果はまた、例えば、RT-PCR、リアルタイムRT-PCR、半定量RT-PCR、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)、定量的RT-PCR(qRT-PCR)、多重分岐DNA(bDNA)アッセイ、マイクロアレイハイブリダイゼーションまたは配列分析(例えば、RNAシーケンシング(「RNA-Seq」))などの常用的な技術を使用して分析され得る、減少したポリヌクレオチド(例えば、mRNA)発現の検出によって評価することができる。ポリヌクレオチド発現を定量する方法は、例えば、Fassbinder-Orth,Integrative and Comparative Biology,2014,54:396-406;Thellin et al.,Biotechnology Advances,2009,27:323-333;およびZheng et al.,Clinical Chemistry,2006,52:7(doi:10/1373/clinchem. 2005. 065078)に記載されている。いくつかの態様では、リアルタイムPCRまたは定量的PCRまたはRT-PCRが、生物学的試料中のポリヌクレオチド(例えば、mRNA)のレベルを測定するために使用される。例えば、Nolan et al.,Nat. Protoc,2006,1:1559-1582;Wong et al.,BioTechniques,2005,39:75-75を参照されたい。また、遺伝子発現を測定するための定量的PCRアッセイおよびRT-PCRアッセイが市販されている(例えば、TaqMan(登録商標)遺伝子発現アッセイ、ThermoFisher Scientific)。
【0081】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、15-PGDHをコードするポリヌクレオチドの発現のレベルが、参照値、例えば、阻害物質の非存在下での値と比較して、インビトロまたはインビボで少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、またはそれ以上低下する場合に有効であると考えられる。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、15-PGDHをコードするポリヌクレオチドの発現のレベルが、参照値と比較して少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、またはそれ以上低下する場合に有効であると考えられる。
【0082】
15-PGDH阻害物質の効果はまた、例えば、当業者に公知のイムノアッセイ、二次元ゲル電気泳動および定量的質量分析などの常用的な技術を使用して、タンパク質の発現または安定性を検出することによって評価することもできる。タンパク質定量技術は、一般に、’’Strategies for Protein Quantitation,’’ Principles of Proteomics,2nd Edition,R. Twyman,ed.,Garland Science,2013に記載されている。いくつかの態様では、タンパク質の発現または安定性は、イムノアッセイ、例えば、限定されることなく、酵素免疫測定法(EIA)、例えば、酵素増幅免疫測定法技術(EMIT)、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、IgM抗体捕捉ELISA(MAC ELISA)および微粒子酵素免疫測定法(MEIA);キャピラリー電気泳動イムノアッセイ(CEIA);ラジオイムノアッセイ(RIA);イムノラジオメトリックアッセイ(IRMA);免疫蛍光(IF);蛍光偏光免疫測定法(FPIA);ならびに化学発光アッセイ(CL)によって検出される。所望であれば、そのようなイムノアッセイを自動化することができる。イムノアッセイは、レーザー誘起蛍光と併せて使用することもできる(例えば、Schmalzing et al.,Electrophoresis,18:2184-93(1997);Bao,J. Chromatogr. B. Biomed. Sci.,699:463-80(1997)を参照)。
【0083】
15-PGDHタンパク質レベルが15-PGDH阻害物質の存在下で低下するかどうかを判定するために、方法は、阻害物質の存在下でのタンパク質(例えば、15-PGDHタンパク質)のレベルを参照値、例えば、阻害物質の非存在下でのレベルと比較する工程を含む。いくつかの態様では、15-PGDHタンパク質のレベルが参照値と比較して少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、またはそれ以上低下する場合、15-PGDHタンパク質は阻害物質の存在下で減少している。いくつかの態様では、15-PGDHタンパク質のレベルが参照値と比較して少なくとも約1.5倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、またはそれ以上低下する場合、15-PGDHタンパク質は阻害物質の存在下で減少している。
【0084】
小分子
特定の態様では、15-PGDHは、小分子阻害物質の投与によって阻害される。対照と比較して15-PGDHの発現、安定性または活性、例えば、阻害物質の非存在下での発現、安定性または活性を例えば約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、またはそれ以上低下させる任意の小分子阻害物質を使用することができる。特定の態様では、インビトロまたはインビボで15-PGDHの酵素活性を低下させることができる小分子阻害物質が使用され得る。本方法で使用され得る小分子化合物の非限定的な例には、その開示全体が参照により本明細書に組み入れられるEP2838533 B1に開示されている小分子が挙げられる。小分子には、とりわけ、EP2838533 B1の表2に開示されている小分子、すなわち、SW033291、SW033291異性体B、SW033291異性体A、SW033292、413423、980653、405320、SW208078、SW208079、SW033290、SW208080、SW208081、SW206976、SW206977、SW206978、SW206979、SW206980、SW206992、SW208064、SW208065、SW208066、SW208067、SW208068、SW208069、SW208070、およびそれらの組合せ、誘導体、異性体または互変異性体が含まれ得る。特定の態様では、使用される15-PGDH阻害物質は、SW033291(2-(ブチルスルフィニル)-4-フェニル-6-(チオフェン-2-イル)チエノ[2,3-b]ピリジン-3-アミン;PubChem CID:3337839)である。
【0085】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、チアゾリジンジオン誘導体(例えば、ベンジリデンチアゾリジン-2,4-ジオン誘導体)、例えば、(5-(4-(2-(チオフェン-2-イル)エトキシ)ベンジリデン)チアゾリジン-2,4-ジオン)、5-(3-クロロ-4-フェニルエトキシベンジリデン)チアゾリジン-2,4-ジオン、5-(4-(2-シクロヘキシルエトキシ)ベンジリデン)チアゾリジン-2,4-ジオン、5-(3-クロロ-4-(2-シクロヘキシルエトキシ)ベンジル)チアゾリジン-2,4-ジオン、(Z)-N-ベンジル-4-((2,4-ジオキソチアゾリジン-5-イリデン)メチル)ベンズアミド、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるChoi et al.(2013)Bioorganic&Medicinal Chemistry 21:4477-4484;Wu et al.(2010)Bioorg. Med. Chem. 18(2010)1428-1433;Wu et al.(2011)J. Med. Chem. 54:5260-5264;もしくはYu et al.(2019)Biotechnology and Bioprocess Engineering 24:464-475に開示されている化合物のいずれかである。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、COX阻害物質もしくは化学予防剤、例えばシグリタゾン(CID:2750)、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるCho et al.(2002)Prostaglandins,Leukotrienes and Essential Fatty Acids 67(6):461-465に開示されている化合物のいずれかである。
【0086】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、ベンズイミダゾール基を含む化合物、例えば、(1-(4-メトキシフェニル)-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-5-イル)(ピペリジン-1-イル)メタノン(CID:3474778)、もしくはトリアゾール基を含む化合物、例えば、3-(2,5-ジメチル-1-(p-トリル)-1H-ピロール-3-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]アゼピン(CID:71307851)、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるDuveau et al.(2015)(NIH Molecular Libraries Program[インターネット]からProbe Reportsに発表された’’Discovery of two small molecule inhibitors,ML387 and ML388,of human NAD+-dependent 15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase’’)に開示されている化合物のいずれかである。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、1-(3-メチルフェニル)-1H-ベンズイミダゾール-5-イル)(ピペリジン-1-イル)メタノン(CID:4249877)、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるNiesen et al.(2010)PLoS ONE 5(11):e13719に開示されている化合物のいずれかである。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、2-((6-ブロモ-4H-イミダゾ[4,5-b]ピリジン-2-イルチオ)メチル)ベンゾニトリル(CID:3245059)、ピペリジン-1-イル(1-m-トリル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール-5-イル)メタノン(CID:3243760)もしくは3-(2,5-ジメチル-1-フェニル-1H-ピロール-3-イル)-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-[1,2,4]トリアゾロ[4,3-a]アゼピン(CID:2331284)、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるJadhav et al.(2011)(NIH Molecular Libraries Program[インターネット]からProbe Reportsに発表された’’Potent and selective inhibitors of NAD+-dependent 15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase(HPGD)’’)に開示されている化合物のいずれかである。
【0087】
いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、TD88、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるSeo et al.(2015)Prostaglandins,Leukotrienes and Essential Fatty Acids 97:35-41もしくはShao et al.(2015)Genes&Diseases 2(4):295-298に開示されている化合物のいずれかである。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質は、EEAH(パラミツ(Artocarpus heterophyllus)のエタノール抽出物)、またはその開示全体が参照により本明細書に組み入れられるKarna(2017)Pharmacogn Mag. 2017 Jan;13(補足1):S122-S126に開示されている化合物のいずれかである。
【0088】
阻害性核酸
いくつかの態様では、作用物質は、阻害性核酸、例えば、アンチセンスDNAもしくはアンチセンスRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA)を含む。いくつかの態様では、阻害性RNAは、15-PGDHポリヌクレオチド内の標的配列(例えば、少なくとも約20個、少なくとも約30個、少なくとも約40個、少なくとも約50個、少なくとも約60個、少なくとも約70個、少なくとも約80個、少なくとも約90個、または少なくとも約100個の連続するヌクレオチド、例えば、15-PGDHをコードするポリヌクレオチド配列の約20~500個、約20~250個、約20~100個、約50~500個、または約50~250個の連続するヌクレオチドを含む部分と同一または実質的に同一(例えば、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%同一)である配列(例えば、GenBankアクセッション番号NM_000860.6、NM_001145816.2、NM_001256301.1、NM_001256305.1、NM_001256306.1、NM_001256307.1またはNM_001363574.1に記載されるようなその転写産物変異体のいずれかを含むヒトHPGD遺伝子、遺伝子ID:3248)を標的とする。
【0089】
いくつかの態様では、本明細書において記載される方法は、shRNAもしくはsiRNAを使用して、対象、例えば、関節組織機能不全および/または関節組織変性に関連する疾患、障害、または病態を有する対象を処置する工程を含む。shRNAは、それが細胞内で生成するsiRNAを介して標的遺伝子発現をサイレンシングするために使用され得る、ヘアピンターンを有する人工RNA分子である。例えば、Fire et. al.,Nature 391:806-811,1998;Elbashir et al.,Nature 411:494-498,2001;Chakraborty et al.,Mol Ther Nucleic Acids 8:132-143,2017;およびBouard et al.,Br. J. Pharmacol. 157:153-165,2009を参照されたい。いくつかの態様では、対象、例えば、関節組織機能不全および/または変形性関節症などの関節組織変性に関連する疾患、障害、または病態を有する対象を処置する方法は、15-PGDH mRNAの一部(例えば、GenBankアクセッション番号NM_000860.6、NM_001145816.2、NM_001256301.1、NM_001256305.1、NM_001256306.1、NM_001256307.1またはNM_001363574.1のいずれかに記載される、ヒト15-PGDHをコードするポリヌクレオチド配列の一部)にハイブリダイズすることができるshRNAまたはsiRNAをコードするポリヌクレオチドを含む修飾RNAまたはベクターの治療有効量を対象に投与する工程を含む。いくつかの態様では、ベクターは、例えば、プロモーター(例えば、誘導性プロモーターまたは組織特異的プロモーター)、エンハンサーおよび転写ターミネーターを含む、当技術分野において公知の適切な発現制御エレメントをさらに含む。
【0090】
いくつかの態様では、作用物質は、15-PGDH特異的マイクロRNA(miRNAまたはmiR)である。マイクロRNAは、RNAサイレンシング、および遺伝子発現の転写後調節において機能する小さな非コードRNA分子である。mRNA転写産物内の相補的配列とのmiRNA塩基対。結果として、mRNA転写産物は、mRNA鎖の切断、そのポリ(A)尾部の短縮によるmRNAの不安定化、およびリボソームによるタンパク質へのmRNA転写産物の翻訳効率の低下などの機構のうちの1つまたは複数によってサイレンシングされ得る。
【0091】
いくつかの態様では、作用物質は、アンチセンスオリゴヌクレオチド、例えば、RNase H依存性アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)であり得る。ASOは、標的mRNA内の相補的配列に結合し、標的RNAのRNase H媒介切断と、リボソームの立体的遮断による翻訳の阻害とによって遺伝子発現を減少させる一本鎖化学修飾オリゴヌクレオチドである。いくつかの態様では、オリゴヌクレオチドは、15-PGDH mRNAの一部(例えば、GenBankアクセッション番号NM_000860.6、NM_001145816.2、NM_001256301.1、NM_001256305.1、NM_001256306.1、NM_001256307.1またはNM_001363574.1のいずれかに記載される、ヒト15-PGDHをコードするポリヌクレオチド配列の一部)にハイブリダイズすることができる。いくつかの態様では、オリゴヌクレオチドは、約10~30ヌクレオチド(例えば、約10、約12、約14、約16、約18、約20、約22、約24、約26、約28、または約30ヌクレオチド)の長さを有する。いくつかの態様では、オリゴヌクレオチドは、それが結合するmRNA転写産物の部分に対して100%の相補性を有する。他の態様では、DNAオリゴヌクレオチドは、それが結合するmRNA転写産物の部分に対して100%未満の相補性(例えば、約95%、約90%、約85%、約80%、約75%、または約70%の相補性)を有するが、RNase HがmRNA転写産物を切断するための安定なRNA:DNA二重鎖を依然として形成することができる。
【0092】
好適なアンチセンス分子、siRNA、miRNA、およびshRNAは、オリゴヌクレオチド合成の標準的な方法によって、または標的とされるポリヌクレオチド配列を提供することによって契約研究機関もしくは供給業者にそのような分子を発注することによって作製することができる。一般的な条件でのそのようなアンチセンス分子の製造および展開は、現代の参照教科書、例えば、N. S. TempletonによるGene and Cell Therapy:Therapeutic Mechanisms and Strategies,4th edition;J. Laurence and M. FranklinによるTranslating Gene Therapy to the Clinic:Techniques and Approaches,1st edition;D. O. Azorsa and S. AroraによるHigh-Throughput RNAi Screening:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology);およびN. Ferrari and R. SeguiによるOligonucleotide-Based Drugs and Therapeutics:Preclinical and Clinical Considerationsに記載されている標準的な技術を使用して達成され得る。
【0093】
阻害性核酸はまた、タンパク質に結合する短い合成オリゴヌクレオチド配列であるRNAアプタマーを含むことができる(例えば、Li et al.,Nuc. Acids Res.(2006),34:6416-24を参照)。それらは、標的分子に対する高い親和性および特異性の両方のために注目に値し、抗体よりも小さい(通常6kD未満)という追加の利点を有する。所望の特異性を有するRNAアプタマーは、コンビナトリアルライブラリーから一般に選択され、当技術分野において公知の方法を使用して、リボヌクレアーゼに対する脆弱性を低減するように修飾され得る。
【0094】
抗体
いくつかの態様では、作用物質は、抗15-PGDH抗体またはその抗原結合断片である。いくつかの態様では、抗体は、遮断抗体(例えば、標的に結合し、標的の機能、例えば15-PGDH酵素活性を直接妨げる抗体)である。いくつかの態様では、抗体は、中和抗体(例えば、標的に結合し、標的の下流の細胞効果を無効にする抗体)である。いくつかの態様では、抗体は、ヒト15-PGDHに結合する。
【0095】
いくつかの態様では、抗体はモノクローナル抗体である。いくつかの態様では、抗体はポリクローナル抗体である。いくつかの態様では、抗体はキメラ抗体である。いくつかの態様では、抗体はヒト化抗体である。いくつかの態様では、抗体はヒト抗体である。いくつかの態様では、抗体は、抗原結合断片、例えば、F(ab’)2、Fab’、Fab、scFvなどである。用語「抗体または抗原結合断片」はまた、二重または複数の抗原特異性またはエピトープ特異性を有する多重特異性抗体およびハイブリッド抗体を包含し得る。
【0096】
いくつかの態様では、抗15-PGDH抗体は、本明細書において開示される抗体配列の重鎖配列またはその一部および/または軽鎖配列またはその一部を含む。いくつかの態様では、抗15-PGDH抗体は、本明細書において開示される抗15-PGDH抗体の1つまたは複数の相補性決定領域(CDR)を含む。いくつかの態様では、抗15-PGDH抗体は、単一の単量体可変抗体ドメイン、例えば、単一のVHHドメインを含むナノボディまたは単一ドメイン抗体(sdAb)である。
【0097】
15-PGDHに結合する抗体を調製するために、当技術分野において公知の多くの技術を使用することができる。例えば、Kohler&Milstein,Nature 256:495-497(1975);Kozbor et al.,Immunology Today 4:72(1983);Cole et al.,pp.77-96 in Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R. Liss,Inc.(1985);Coligan,Current Protocols in Immunology(1991);Harlow&Lane,Antibodies,A Laboratory Manual(1988);およびGoding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice(2nd ed. 1986))を参照されたい。いくつかの態様では、抗体は、抗体応答の誘導のために抗原を用いて単数または複数の動物(例えば、マウス、ウサギまたはラットなど)を免疫することによって調製される。いくつかの態様では、抗原は、アジュバント(例えば、フロイントアジュバント)とのコンジュゲーションで投与される。いくつかの態様では、最初の免疫後、抗体産生を改善するために、抗原の1回または複数回のその後のブースター注射を投与することができる。免疫後、例えば、脾臓および/またはリンパ組織から抗原特異的B細胞を採取する。モノクローナル抗体を作製するために、B細胞を骨髄腫細胞と融合し、これを、その後、抗原特異性についてスクリーニングする。
【0098】
関心対象の抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子は、細胞からクローニングされ得、例えば、モノクローナル抗体をコードする遺伝子は、ハイブリドーマからクローニングされ、組換えモノクローナル抗体を作製するために使用され得る。モノクローナル抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子ライブラリーは、ハイブリドーマまたは形質細胞から作製され得る。さらに、選択された抗原に特異的に結合する抗体およびヘテロマーFab断片を同定するために、ファージディスプレイ技術または酵母ディスプレイ技術が使用され得る(例えば、McCafferty et al.,Nature 348:552-554(1990);Marks et al.,Biotechnology 10:779-783(1992);Lou et al., PEDS 23:311(2010);およびChao et al.,Nature Protocols 1:755-768(2006)を参照)。あるいは、抗体および抗体配列は、酵母に基づく抗体提示系、例えば、Xu et al.,Protein Eng Des Sel,2013,26:663-670;国際公開公報第2009/036379号;国際公開公報第2010/105256号;および国際公開公報第2012/009568号に開示されているものなどを使用して単離および/または同定され得る。重鎖遺伝子産物および軽鎖遺伝子産物のランダムな組合せは、異なる抗原特異性を有する抗体の大きなプールを生成する(例えば、Kuby,Immunology(3rd ed. 1997)を参照)。また、一本鎖抗体または組換え抗体を作製するための技術(米国特許第4,946,778号、米国特許第4,816,567号)も、抗体を作製するように適合させることができる。
【0099】
抗体は、原核生物および真核生物の発現系を含む任意の数の発現系を使用して作製することができる。いくつかの態様では、発現系は、ハイブリドーマなどの哺乳動物細胞、またはCHO細胞である。そのような系の多くは、商業的供給業者から広く入手可能である。抗体がVH領域およびVL領域の両方を含む態様では、VH領域およびVL領域は、単一のベクターを使用して、例えば、ジシストロニック発現単位で発現され得るか、異なるプロモーターの制御下にあり得る。他の態様では、VH領域およびVL領域は、別個のベクターを使用して発現され得る。
【0100】
いくつかの態様では、抗15-PGDH抗体は、親和性成熟した1つまたは複数のCDR配列、重鎖配列および/または軽鎖配列を含む。キメラ抗体については、キメラ抗体を作製する方法は、当技術分野において公知である。例えば、マウスなどの1つの種由来の抗原結合領域(重鎖可変領域および軽鎖可変領域)がヒトなどの別の種のエフェクター領域(定常ドメイン)に融合されたキメラ抗体を作製することができる。別の例として、抗体のエフェクター領域が異なる免疫グロブリンクラスまたはサブクラスのエフェクター領域によって置換された「クラススイッチ」キメラ抗体を作製することができる。
【0101】
いくつかの態様では、抗15-PGDH抗体は、ヒト化された1つまたは複数のCDR配列、重鎖配列および/または軽鎖配列を含む。ヒト化抗体については、ヒト化抗体を作製する方法は、当技術分野において公知である。例えば、米国特許第8,095,890号を参照されたい。一般に、ヒト化抗体は、非ヒトである供給源から導入された1つまたは複数のアミノ酸残基を有する。ヒト化の代替として、ヒト抗体を作製することができる。非限定的な例として、免疫すると、内因性免疫グロブリン産生の非存在下でヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を作製することができる。例えば、キメラマウスおよび生殖系列変異マウスでは、抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失が、内因性抗体産生の完全な阻害をもたらすことが記載されている。そのような生殖系列変異マウスでは、ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、抗原負荷時にヒト抗体の産生をもたらす。例えば、Jakobovits et al.,Proc. Natl.Acad. Sci. USA,90:2551(1993);Jakobovits et al.,Nature,362:255-258(1993);Bruggermann et al.,Year in Immun.,7:33(1993);ならびに米国特許第5,591,669号、米国特許第5,589,369号および米国特許第5,545,807号を参照されたい。
【0102】
いくつかの態様では、抗体断片(Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、ナノボディまたはダイアボディなど)が作製される。抗体断片の作製のための様々な技術、例えば、インタクトな抗体のタンパク質消化(例えば、Morimoto et al.,J. Biochem. Biophys. Meth.,24:107-117(1992);およびBrennan et al.,Science,229:81(1985)を参照)、および断片を作製するための組換え宿主細胞の使用が開発されている。例えば、抗体断片は、抗体ファージライブラリーから単離することができる。あるいは、Fab’-SH断片を大腸菌(E.coli)細胞から直接回収し、化学的に結合させて、F(ab’)2断片を形成することができる(例えば、Carter et al.,BioTechnology,10:163-167(1992)を参照)。別の手法によれば、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。当業者には、抗体断片の作製のための他の技術が明らかであろう。
【0103】
結合親和性および結合速度論を測定するための方法は当技術分野において公知である。これらの方法には、限定されることなく、固相結合アッセイ(例えば、ELISAアッセイ)、免疫沈降、表面プラズモン共鳴(例えば、Biacore(商標)(GE Healthcare、Piscataway,NJ))、速度論的排除アッセイ(例えば、KinExA(登録商標))、フローサイトメトリー、蛍光標識細胞分取(FACS)、バイオレイヤー干渉法(例えば、Octet(商標)(ForteBio,Inc.、Menlo Park,CA))およびウエスタンブロット分析が含まれる。
【0104】
ペプチド
いくつかの態様では、作用物質は、ペプチド、例えば、15-PGDHに結合しかつ/または15-PGDHの酵素活性もしくは安定性を阻害する、ペプチドである。いくつかの態様では、作用物質はペプチドアプタマーである。ペプチドアプタマーは、特定の標的分子に結合するように選択または操作された人工タンパク質である。典型的には、ペプチドは、タンパク質骨格によって提示される可変配列の1つまたは複数のペプチドループを含む。ペプチドアプタマーの選択は、酵母ツーハイブリッド系を含む様々な系を使用して行うことができる。ペプチドアプタマーは、ファージディスプレイおよび他の表面ディスプレイ技術、例えば、mRNAディスプレイ、リボソームディスプレイ、細菌ディスプレイおよび酵母ディスプレイによって構築されたコンビナトリアルペプチドライブラリーから選択することもできる。例えば、Reverdatto et al.,2015,Curr. Top. Med. Chem. 15:1082-1101を参照されたい。
【0105】
いくつかの態様では、作用物質はアフィマーである。アフィマーは、抗体のものと同様の特異性および親和性でそれらの標的分子に結合する、典型的には約12~14kDaの分子量を有する小型で高度に安定なタンパク質である。一般に、アフィマーは、モノクローナル抗体と同様の様式で様々な標的タンパク質に高い親和性および特異性で結合するようにランダム化することができる2つのペプチドループおよびN末端配列を提示する。タンパク質骨格による2つのペプチドループの安定化は、ペプチドがとり得る可能な立体配座を制約し、これにより、遊離ペプチドのライブラリーと比較して結合親和性および特異性を増加させる。アフィマー、およびアフィマーの作製方法は当技術分野において記載されている。例えば、Tiede et al.,eLife,2017,6:e24903を参照されたい。アフィマーはまた、例えば、Avacta Life Sciencesから市販されている。
【0106】
ベクターおよび修飾RNA
いくつかの態様では、15-PGDH阻害活性をもたらすポリヌクレオチド、例えば、siRNAもしくはshRNAなどの核酸阻害物質、または15-PGDHを阻害するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、適切なベクターを使用して細胞、例えば組織細胞に導入される。本開示とともに使用され得る送達ベクターの例には、ウイルスベクター、プラスミド、エキソソーム、リポソーム、細菌ベクターまたはナノ粒子がある。いくつかの態様では、本明細書において記載される15-PGDH阻害物質のいずれか、例えば、核酸阻害物質、またはポリペプチド阻害物質をコードするポリヌクレオチドが、ウイルスベクターなどのベクターを使用して細胞、例えば組織細胞に導入される。好適なウイルスベクターには、限定されることなく、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルスおよびレンチウイルスが含まれる。いくつかの態様では、15-PGDH阻害物質、例えば、核酸阻害物質、またはポリペプチド阻害物質をコードするポリヌクレオチドは、阻害物質をコードするポリヌクレオチド配列に作動可能に連結されたプロモーターを有する、典型的には組換え作製された発現カセットの形態で提供される。場合によっては、プロモーターは、すべてまたはほとんどの組織型で遺伝子発現を導くユニバーサルプロモーターである。他の場合では、プロモーターは、標的とされる組織の細胞内で遺伝子発現を特異的に導くものである。
【0107】
いくつかの態様では、15-PGDHの核酸阻害物質またはタンパク質阻害物質は、修飾RNAを使用して対象に、例えば、対象の組織に導入される。RNAの様々な修飾が、例えば、対象の細胞に導入された場合に、RNA、例えば、shRNA、または15-PGDHポリペプチド阻害物質をコードするmRNAの翻訳、効力および/または安定性を増強することが当技術分野において公知である。特定の態様では、修飾mRNA(mmRNA)、例えば、15-PGDHのポリペプチド阻害物質をコードするmmRNAが使用される。他の態様では、15-PGDH発現のRNA阻害物質を含む修飾RNA、例えば、siRNA、shRNA、またはmiRNAが使用される。使用され得るRNA修飾の非限定的な例には、抗リバースキャップアナログ(ARCA)、例えば、100~250ヌクレオチド長のポリA尾部、公知の安定なmRNA由来の配列による3’UTR内のAU-rich配列の置換、ならびに修飾ヌクレオシドおよび修飾構造、例えば、プソイドウリジン、例えば、N1-メチルプソイドウリジン、2-チオリジン、4’チオRNA、5-メチルシチジン、6-メチルアデノシン、アミド3結合、チオエート結合、イノシン、2’-デオキシリボヌクレオチド、5-ブロモ-ウリジンおよび2’-O-メチル化ヌクレオシドの包含が挙げられる。使用され得る化学修飾の非限定的な一覧は、例えば、オンラインデータベースcrdd.osdd.net/servers/sirnamod/に見出すことができる。RNAは、とりわけ、物理的撹乱、カチオン性担体によるRNAエンドサイトーシスの発生、エレクトロポレーション、遺伝子銃、超音波、ナノ粒子、コンジュゲートまたは高圧注入を含む任意の公知の方法を使用してインビボで細胞に導入することができる。修飾RNAは、例えばクエン酸緩衝生理食塩水への直接注入によって導入することもできる。RNAはまた、負に帯電したRNAとカチオン性の脂質またはポリマー、例えば、リポプレックス、ポリプレックス、ポリカチオンおよびデンドリマーとの間の電荷間相互作用によって自発的に生成される自己集合したリポプレックスまたはポリプレックスを使用して送達することができる。ポリマー、例えば、ポリ-L-リジン、ポリアミドアミンおよびポリエチレンイミン、キトサンならびにポリ(β-アミノエステル)も使用することができる。例えば、その各々の開示全体が参照により本明細書に組み入れられるYoun et al.(2015)Expert Opin Biol Ther,Sep 2;15(9):1337-1348;Kaczmarek et al.(2017)Genome Medicine 9:60;Gan et al.(2019)Nature comm. 10:871;Chien et al.(2015)Cold Spring Harb Perspect Med. 2015;5:a014035を参照されたい。
【0108】
8. 投与方法
本明細書において記載される化合物は、対象に局所的にまたは全身的に投与され得る。いくつかの態様では、化合物は、関節の組織および機能を改善するために、例えば、関節組織内または関節組織周囲への化合物(または化合物を含む治療用組成物)の注射または直接適用による関節内(intraarticular)(関節内(within a joint))投与または関節周囲(periarticular)(関節周囲(around a joint))投与を含め、関節組織に直接(局所的に)投与され得る。いくつかの態様では、化合物は、関節組織の構造および機能の処置のために、例えば、腹腔内、筋肉内、動脈内、経口、静脈内、頭蓋内、髄腔内、脊髄内、病変内、鼻腔内、皮下、脳室内、局所を含め、全身投与され得、および/または吸入によって全身投与され得る。一例では、化合物は、例えば筋肉内注射によって筋肉内投与される。
【0109】
いくつかの態様では、化合物は、急性レジメンに従って投与される。特定の場合では、化合物は、対象に1回投与される。他の場合では、化合物は、1つの時点で投与され、第2の時点で再び投与される。さらに他の例では、化合物は、短期間(例えば、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、1週間、2週間、3週間、4週間、1ヶ月間、またはそれ以上)にわたる間欠用量として対象に繰り返し投与される(例えば、1日1回または1日2回)。場合によっては、化合物投与間の時間は、約1日、約2日、約3日、約4日、約5日、約6日、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、約1ヶ月、またはそれ以上である。他の態様では、化合物は、所望の期間にわたって慢性レジメンに従って連続的または慢性的に投与される。例えば、化合物は、化合物の量またはレベルが選択された期間にわたって実質的に一定であるように投与することができる。
【0110】
対象への化合物の投与は、当技術分野において一般的に使用される方法によって達成することができる。導入される化合物の量については、性別、年齢、体重、疾患、障害、もしくは病態の種類、または疾患、障害、もしくは病態の病期、および所望の結果をもたらすのに必要な量などの因子を考慮に入れてもよい。一般に、処置目的のために化合物を投与する場合、細胞は薬理学的に有効な用量で投与される。「薬理学的に有効な量」または「薬理学的に有効な用量」とは、疾患、障害、または病態の1つまたは複数の症状または発現を低減または排除することを含め、特に、疾患、障害、または病態を処置するために、所望の結果を達成することができる所望の生理学的効果または生理学的量を生じるのに十分な量である。
【0111】
本明細書において記載される化合物は、標的とされる関節組織への注射によって、または標的とされる関節組織に近接した投与によって局所投与されてもよい。
【0112】
9. 薬学的組成物
本明細書において記載される化合物の薬学的組成物は、薬学的に許容される担体を含み得る。特定の局面では、薬学的に許容される担体は、投与される特定の組成物に従って、および組成物を投与するために使用される特定の方法に従って部分的に決定される。したがって、本明細書において記載される薬学的組成物の多種多様な好適な製剤が存在する(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences,18th Ed.,Mack Publishing Co.,Easton,PA(1990)を参照)。
【0113】
本明細書において使用される場合、「薬学的に許容される担体」は、薬学的組成物の製剤化において当業者に公知の標準的な薬学的に許容される担体のいずれかを含む。したがって、化合物は、それ自体で、例えば、薬学的に許容される塩として、またはコンジュゲートとして存在するなど、薬学的に許容され得る希釈剤、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、エタノール水溶液、もしくはグルコース、マンニトール、デキストラン、プロピレングリコール、油(例えば、植物油、動物油、合成油など)、微結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ステアリン酸マグネシウム、リン酸カルシウム、ゼラチン、ポリソルベート80などの溶液中の製剤として、または適切な賦形剤中の固体製剤として調製され得る。
【0114】
薬学的組成物は、多くの場合、1つまたは複数の緩衝剤(例えば、中性緩衝食塩水またはリン酸緩衝食塩水)、炭水化物(例えば、グルコース、マンノース、スクロースまたはデキストラン)、マンニトール、タンパク質、ポリペプチドまたはアミノ酸、例えば、グリシン、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソールなど)、静菌剤、キレート剤、例えば、EDTAまたはグルタチオン、製剤をレシピエントの血液と等張性、低張性または弱高張性にする溶質、懸濁化剤、増粘剤、保存剤、香味剤、甘味剤および着色化合物を必要に応じてさらに含む。
【0115】
本明細書において記載される薬学的組成物は、投与製剤と適合する様式で、かつ治療上有効な量で投与される。投与される量は、例えば、個体の年齢、体重、身体活動および食事、処置される疾患、障害、または病態、ならびに疾患、障害、または病態の病期または重症度を含む様々な因子に依存する。特定の態様では、用量のサイズはまた、特定の個体に対する治療用物質の投与に伴ういずれかの有害な副作用の存在、性質および程度によって決定され得る。
【0116】
ただし、任意の特定の患者に対する特定の用量レベルおよび投与頻度は、変動し得、使用される特定の化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用の長さ、年齢、体重、遺伝的特徴、全身の健康状態、性別、食事、投与様式および投与時間、排泄速度、薬物の組合せ、特定の病態の重症度、ならびに治療を受けている宿主を含む様々な因子に依存し得ることを理解されたい。
【0117】
特定の態様では、化合物の用量は、固体、半固体、凍結乾燥粉末または液体剤形、例えば、錠剤、丸剤、ペレット、カプセル、粉末、溶液、懸濁液、エマルジョン、坐剤、停留浣腸、クリーム、軟膏、ローション、ゲル、エアロゾル、フォームなど、好ましくは、正確な投与量の単純な投与に適した単位剤形のような形態をとってもよい。
【0118】
本明細書において使用される場合、用語「単位剤形」は、ヒトおよび他の哺乳動物のための一体型投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、好適な薬学的賦形剤(例えば、アンプル)と組み合わせて、所望の発現、耐容性および/または治療効果をもたらすように計算された所定量の治療用物質を含有する。加えて、濃縮度の高い剤形が調製されてもよく、そこからさらに希釈された単位剤形が製造されてもよい。したがって、濃縮度の高い剤形は、例えば、少なくとも約1倍、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、少なくとも約6倍、少なくとも約7倍、少なくとも約8倍、少なくとも約9倍、少なくとも約10倍、またはそれ以上を超える量の治療用化合物を実質的に含有する。
【0119】
そのような剤形を調製するための方法は、当業者に公知である(例えば、前記Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照)。剤形は、典型的には、従来の薬学的担体または薬学的賦形剤を含み、他の医薬品、担体、アジュバント、希釈剤、組織透過促進剤、可溶化剤などをさらに含み得る。適切な賦形剤は、当技術分野において周知の方法によって特定の剤形および投与経路に合わせて調整することができる(例えば、前記Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照)。
【0120】
好適な賦形剤の例には、限定されることなく、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、生理食塩水、シロップ、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびポリアクリル酸、例えば、Carbopol、例えば、Carbopol 941、Carbopol 980、Carbopol 981などが挙げられる。剤形は、潤滑剤、例えば、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油;湿潤剤;乳化剤;懸濁化剤;保存剤、例えば、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸エチルおよびヒドロキシ安息香酸プロピル(例えば、パラベン);pH調整剤、例えば、無機および有機の酸および塩基;甘味剤;ならびに香味剤をさらに含むことができる。剤形はまた、生分解性ポリマービーズ、デキストランおよびシクロデキストリン包接複合体を含み得る。
【0121】
経口投与の場合、治療有効用量は、錠剤、カプセル、エマルジョン、懸濁液、溶液、シロップ、スプレー、ロゼンジ、粉末および持続放出製剤の形態であり得る。経口投与に適した賦形剤には、医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、ゼラチン、スクロース、炭酸マグネシウムなどが含まれる。
【0122】
治療有効用量は、凍結乾燥形態で提供することもできる。そのような剤形は、投与前に再構成するための緩衝剤、例えばバイカーボネートを含んでもよいか、緩衝剤は、例えば水を用いて再構成するための凍結乾燥剤形に含まれてもよい。凍結乾燥剤形は、好適な血管収縮剤、例えばエピネフリンをさらに含み得る。凍結乾燥剤形は、再構成された剤形が個体に直ちに投与され得るように、任意で再構成のための緩衝剤と組み合わせて包装されたシリンジ内に提供され得る。
【0123】
いくつかの態様では、追加の化合物または薬物が、対象に同時投与され得る。そのような化合物または薬物は、処置されている疾患、障害、または病態の徴候または症状を緩和する、免疫応答の誘導によって引き起こされる副作用を軽減するなどの目的のために同時投与され得る。いくつかの態様では、例えば、本明細書において記載される15-PGDH阻害物質は、PGE2レベルおよび/もしくはPGD2レベルを増強する化合物、EP1、EP2、EP3、EP4、DP1、および/もしくはDP2受容体を介したシグナル伝達を増加させる化合物、ならびに/または、関節の構造および/もしくは機能を増強すること、または標的とされる組織の機能、健康、もしくは任意の他の所望の特性を増強することを目的とする任意の他の化合物とともに、投与される。
【0124】
10. キット
本明細書において記載される組成物の他の態様は、15-PGDH阻害物質を含むキットである。キットは、典型的には、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る容器を含み、例えば、ボトル、バイアル、シリンジおよび試験管を含むことができる。ラベルは、典型的にはキットに付随し、キットの内容物を使用するための指示または他の情報を提供する電子的形態またはコンピュータ可読形態であり得る任意の文書または記録された資料を含む。
【0125】
いくつかの態様では、キットは、対象の関節組織の構造および機能を改善するための1つまたは複数の試薬を含む。いくつかの態様では、キットは、関節組織機能不全および/または変形性関節症などの関節組織変性に関連する疾患、障害、または病態を処置するための1つまたは複数の試薬を含む。いくつかの態様では、キットは、15-PGDHの発現または活性に拮抗する作用物質を含む。いくつかの態様では、キットは、15-PGDH mRNAまたはタンパク質の発現もしくは活性、例えば酵素活性を阻害または抑制する15-PGDH阻害ポリペプチドをコードする阻害性核酸(例えば、アンチセンスRNA、低分子干渉RNA(siRNA)、マイクロRNA(miRNA)、低分子ヘアピン型RNA(shRNA))またはポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、キットは、修飾RNA、例えば、修飾shRNAもしくは修飾siRNA、またはポリペプチド15-PGDH阻害物質をコードする修飾mRNAを含む。いくつかの態様では、キットは、15-PGDH阻害ポリペプチドをコードする阻害性核酸またはポリヌクレオチドの発現のための1つまたは複数のプラスミド、細菌ベクターまたはウイルスベクターをさらに含む。いくつかの態様では、キットは、15-PGDHをコードするmRNAの一部にハイブリダイズすることができるアンチセンスオリゴヌクレオチドを含む。いくつかの態様では、キットは、15-PGDHタンパク質に特異的に結合し阻害する抗体(例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、キメラ抗体、遮断抗体または中和抗体)またはその抗体結合断片を含む。いくつかの態様では、キットは遮断ペプチドを含む。いくつかの態様では、キットは、アプタマー(例えば、ペプチドアプタマーまたは核酸アプタマー)を含む。いくつかの態様では、キットはアフィマーを含む。いくつかの態様では、キットは修飾RNAを含む。特定の態様では、キットは、15-PGDHに結合するかまたはその酵素活性を阻害する小分子阻害物質、例えばSW033291を含む。いくつかの態様では、キットは、1つまたは複数の追加の治療用物質、例えば、15-PGDHの発現または活性に拮抗する薬剤との併用療法で投与するための薬剤をさらに含む。
【0126】
いくつかの態様では、キットは、本明細書において記載される方法を実施するための指示(例えば、プロトコール)(例えば、対象の関節組織の構造および/もしくは機能を改善するため、ならびに/または、関節組織機能不全および/もしくは変形性関節症などの関節組織変性に関連する疾患、障害、もしくは病態の処置のためのキットを使用するための説明書;ならびに/または非骨格筋組織の機能、健康、もしくは他の特性を強化するためのキットを使用するための説明書)を含む説明資料をさらに含むことができる。説明資料は、典型的には、文書または印刷物を含むが、それに限定されるわけではない。そのような説明書を格納し、それらをエンドユーザに伝達することができる任意の媒体が、本開示によって企図される。そのような媒体には、限定されることなく、電子記憶媒体(例えば、磁気ディスク、テープ、カートリッジ、チップ)、光学媒体(例えば、CD ROM)などが含まれる。そのような媒体は、そのような説明資料を提供するインターネットサイトへのアドレスを含み得る。
【実施例
【0127】
具体例を挙げて、本開示をさらに詳細に説明する。以下の実施例は、例示のみを目的として提供されており、決して本開示を限定することを意図するものではない。当業者であれば、同じ結果を本質的にもたらすように変更または修正することができる様々な重要でないパラメータを容易に認識するであろう。
【0128】
実施例1. 実施例で使用した材料および方法
マウスの取扱い。スタンフォード大学およびAdministrative Panel on Laboratory Animal Care(APLAC)の施設ガイドラインに従って、あらゆる実験およびプロトコールを行った。US National Institute on Aging(NIA)の加齢コロニーから、加齢(24~28ヶ月)マウスC57BL/6を入手した。5mg/kgのSW033291(SW)(ApexBioカタログ番号A8709)またはビヒクル(10%エタノール、5%Cremophor EL(Sigma-Aldrichカタログ番号C5135)、85%D5W(デキストロース5%水)を用いた腹腔内注射によってマウスを1日1回1ヶ月間処置した。加齢マウスに関する3つの独立した試験では、ビヒクル処置およびSW処置を行った。処置期間を通して皮膚炎を発症したか、またはエンドポイント剖検で目に見える腫瘍が観察されたマウスを試験から除外した。若齢(3ヶ月)野生型C57BL/6マウスをJackson Laboratoryから入手した(1群当たりn=8匹)。雄マウスを用いて試験を行った。
【0129】
若齢マウスに対して変形性関節症を誘発するための脛骨負荷。要約すると、4L/分の酸素下で2.5%イソフルラン吸入を使用してマウスを麻酔した。右脛骨を垂直に配置し、足首を上方にし、膝を下方にし、ローディングカップ間で深屈曲させた。材料試験機(Instron ElectroPulse E1000)を使用して、下カップを固定し、ロードセルに連結しながら、上カップを介して膝を通して軸方向の圧縮を加えた。圧縮中の圧縮力の解放によって、ACL断裂を確認した。負荷後6週間にわたってマウスを進行させた(各群についてn=8)。反対側の左肢を非負荷対照として機能させた。後眼窩出血を介してマウス血清を採取して、多重自己抗体アッセイを行った。マウスを頸椎脱臼によって殺処分し、膝関節を評価のために採取した。
【0130】
ヒト軟骨組織の採取および処理。スタンフォード大学におけるヒト対象の承認された施設内審査委員会プロトコールに従って、全膝関節置換を受けている患者(n>5、年齢55~75歳の範囲)の外科的膝組織廃棄物からヒト軟骨試料を採取した。試験前に、患者によって書面によるインフォームドコンセントを得た。標準的な生検パンチ(Integra,NJ,USA)を使用して、軟骨試料から円筒状外植片(直径4mm、厚さ2~4mm)を抽出した。実験前に、10%ウシ胎児血清(FBS)、25μg mL-1アスコルビン酸、1×グルタミンおよび1×抗生物質-抗真菌溶液を補充したDMEM-F12培地中で軟骨外植片を培養した。15-PGDH阻害の効果を評価するために、評価の前に1週間にわたって、外植片をビヒクル(DMSO)またはSW(10uM)を用いて処理した。新鮮な培地を1日おきに外植片に加えた。
【0131】
マウス関節およびヒト軟骨外植片に対する組織学的検査。マウス関節を4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、エタノール中で脱水し、パラフィンに包埋した。マウス関節の矢状切片(5μm)をHistoserv,Inc(Germantown,MD)によって切断した。以前に報告されたように(Smeriglio et al.,2020,Sci Transl.Med.12:eaax2332)、サフラニンO(Saf O)染色によって軟骨組織学的検査を行った。OARSIスコアリングシステムによる盲検グレーディングによって、関節を評価した。要約すると、マウス関節の切片をサフラニンOによって染色し、軟骨変性の深度を増加させるために番号0~4を割り当てることによって軟骨変性を評価した(OARSIスコアリングシステム)。サミットスコアについては、5つの領域を合計した。
【0132】
SWを用いて1週間処理した後、外植片を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、PBSを用いて洗浄し、30%スクロース溶液中で一晩凍結保存した。次いで、外植片をTissue-Tek OCT培地に包埋し、Leica Cryostatを使用して切片化した(約10μm厚)。核の可視化のために切片をヘマトキシリン(Sigma)によって染色した後、プロテオグリカンについてはサフラニンO(カタログ番号731 583、Sigma)によって染色し、ファストグリーン(カタログ番号F7258、Sigma)によって対比染色した。Keyence顕微鏡を使用して、20倍の倍率で切片を可視化した。少なくとも5例の異なる患者ドナーから得られた外植片と、複数(>5)の切片とを定量分析に使用した。
【0133】
Luminexアッセイ。このアッセイをスタンフォード大学のHuman Immune Monitoring Centerで行った。ヒト76-plexキットまたはマウス48-plexキット(eBioscience/Affymetrix)を製造業者の推奨に従って使用した。要約すると、抗体ビーズおよび試料を96ウェルプレートに加え、室温で2時間インキュベートした後、500~600rpmで振盪しながら4°Cで一晩インキュベートした。次いで、プレートを洗浄緩衝液中で洗浄し、ビオチン化検出抗体を振盪しながら室温で2時間かけて加えた。プレートを洗浄し、ストレプトアビジン-フィコエリトリンを加えた。40分間のインキュベーションおよび洗浄後、測定緩衝液(reading buffer)をウェルに加えた。Luminex 200装置を使用して、サイトカイン1種当たり50個のビーズ/試料の下限でプレートを読み取った。カスタムアッセイコントロールビーズを全ウェルに加えた。全試料の生のMFI読取り値を使用し、GraphPadプリズムによって分析した。
【0134】
RNA seqのためのマウス関節からのRNA抽出およびライブラリー調製。膝関節顕微解剖を立体鏡下で行って、腱、滑膜および半月板残渣を慎重に除去し、次いで、下にある骨から軟骨組織を薄く削ることによって軟骨組織を採取した(Smeriglio et al.,2020,Sci Transl.Med.12:eaax2332)。後に、単離した軟骨組織をRNA(Ambion)中で保持し、後の使用のために-80°Cで保存した。軟骨組織を、バレットブレンダー(bullet blender)(Next Advance)を使用してTrizol中でホモジナイズした後、RNeasyマイクロキット(Qiagen)を使用してRNA抽出および精製を行った。SMARTer stranded Total RNA-Seqキットv3(Takara Bio)を使用して、10ngの全RNAからcDNAライブラリーを構築した。Illumina NovaSeqプラットフォーム(Novogene,CA)を用いて、1試料当たり25~30×106個の150bpペアードエンドリードにライブラリーをシーケンシングした。
【0135】
示差的遺伝子発現分析。RNA-seq分析のために、擬似アライナ(pseudo aligner)Salmonを使用して転写産物の発現を定量した。また、STARアライナを使用して、ハツカネズミ(Mus musculus)ゲノム(mm9)に対して配列をアライメントした。各遺伝子および各試料のカウント数を含むカウントマトリックスを得た。このマトリックスをDESeq2によって分析して、試料間の遺伝子の有意性の統計分析を計算した。p値および変化倍率カットオフがそれぞれ0.05および2である、アップレギュレートまたはダウンレギュレートされた遺伝子を使用した。Ingenuityパスウェイ解析(IPA)およびDAVID生物情報学ツールを使用して、示差的発現遺伝子の機能分析を分析した。
【0136】
透過型電子顕微鏡法(TEM)。0.1Mカコジル酸ナトリウム(EMSカタログ番号12300)pH7.4中2%グルタルアルデヒド(EMSカタログ番号16000)および4%パラホルムアルデヒド(EMSカタログ番号15700)から構成されるKarnovskyの固定液中で、膝関節を4°Cで4時間固定した。関節を冷PBSを用いて3回洗浄し、次いで、14%EDTAのPBS溶液中で4°Cで3日間かけて脱灰した。試料をPBSを用いて洗浄し、ローテータ上の冷/水性1%四酸化オスミウム(EMSカタログ番号19100)に入れ、1時間かけて室温(RT)に加温した。試料を限外濾過水を用いて3回洗浄した後、1%酢酸ウラニル中、室温で2時間染色した。次いで、試料を、50%、70%から始めて室温でそれぞれ30分間、一連のエタノール洗浄で脱水し、最後に一晩かけて4°Cにした。それらを冷95%EtOHに入れ、室温に加温し、100% 2×に変更し、次いで、プロピレンオキシド(PO)に15分間入れた。試料に、1:2、1:1、および2:1でPOと混合したEMbed-812樹脂(EMSカタログ番号14120)をそれぞれ2時間浸透させ、2:1の樹脂対PO中に試料を残して、フード内で室温で一晩回転させた。次いで、試料をEMbed-812に2~4時間入れ、次いで、ラベルおよび新鮮な樹脂を含む型に入れ、配向させ、65°Cのオーブンに一晩入れた。
【0137】
次いで、ホルムバール/カーボンコーティング100メッシュCuグリッド上でUC7(Leica,Wetzlar,Germany)を使用して80nm切片を切断し、3.5%酢酸ウラニルの50%アセトン溶液中で40秒間染色し、続いて、Satoのクエン酸鉛中で2分間染色した。次いで、JEOL JEM-1400 120kV透過型電子顕微鏡で切片を観察した。9μmピクセルCMOSカメラを備えたGatan Orius 832 4k×4kを使用して画像を撮影した。
【0138】
1,9-ジメチルメチレンブルー(DMMB)およびPico-greenアッセイ。ヒトOA軟骨外植片(n≧3/ドナー、および少なくとも5例のドナー)をビヒクルまたはSW(10μM)を用いて7日間処理した。その後、外植片を秤量し、パパイン消化緩衝液(5mM l-システイン、100mM Na2 HPO4、5mM EDTA、125μg mL-1パパイン、pH7.5)中、65°Cで一晩消化した。消化後、試料を室温で5分間、21,000xgで遠心分離した。次いで、公開されているプロトコール(Sahu et al.,2021,Adv.Healthc.Mater.10:e2002118)に従ってOA軟骨外植片中の硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)含有量を推定するためのDMMBおよびPico-greenアッセイに上清を使用した。要約すると、20μLの試料と、200μLのDMMB溶液(0.03m NaCl、40mmグリシン、9.5%0.1m酢酸、pH3.0の水溶液に溶解した16mgのDMMB色素)とを混合し、525nmで吸光度を直ちに測定した。コンドロイチン-4硫酸を標準として用いた。OA外植片の同じパパイン消化上清を使用して、製造業者の指示に従ってPico-greenアッセイ(Quant-iT Pico-green dsDNA Assay Kit、Invitrogen)によって、OA外植片中のDNA含有量を測定した。OA軟骨外植片中の定量された硫酸化GAG含有量を、対応する外植片の重量、およびDNA含有量に対して正規化した。
【0139】
細胞周期マーカーKi67免疫染色。ビヒクルおよびSWを用いて処理したヒトOA外植片を固定し、前のセクションに記載したようにOCTに包埋した。クライオスタットを使用して、ポリ-l-リジンによってコーティングされたガラススライド上の10μm切片を得た。標準的なプロトコールを使用して免疫染色を行った。要約すると、組織切片を0.25%Triton X-100を用いて10分間透過処理し、PBSを用いて洗浄した。また、プロテイナーゼ-K処理を10分間行って、抗原のマスクを外した。その後、切片を洗浄し、2%ヤギ血清を用いて室温で2時間ブロッキングした。ブロッキング後、切片を一次抗体、抗ヒトKi67抗体(1:100、カタログ番号14-5699-82、eBioscience)と4°Cで一晩インキュベートした。一次抗体インキュベーション後、スライドをPBS中で3回洗浄し、室温で1時間にわたり、1:250の希釈でヤギ抗マウスAlexa fluor 546二次抗体とインキュベートした。次いで、スライドをPBSを用いて洗浄し、Hoechst 33342(2μg mL-1、カタログ番号H3570、Invitrogen)中で15分間インキュベートし、最後に水性封入剤を用いて封入した。染色した切片を共焦点顕微鏡(Leica)下、63倍の倍率で可視化した。画像解析はImageJで行った。
【0140】
実施例2. 加齢マウスでは小分子処置による全身15-PGDH阻害が軟骨を再生する
加齢(または骨関節炎)関節に見られる軟骨変性が15-PGDHの小分子阻害物質の全身送達によって克服され得るかどうかを試験するために、SW033291(SW)またはビヒクルを用いて、24ヶ月齢の加齢マウスのコホートを腹腔内処置した(図1、上部のパネル)。SWは、インビトロで15-PGDHの特異的阻害物質(0.1nMのki)として以前に広く特徴決定された。インビボでは、SWは、骨髄、結腸、肺および肝臓内でPGE2レベルを2倍増加させたほか、さらに少ない程度までPGD2レベルを増加させ、これにより、若齢マウスでは、これらの組織の損傷後の再生が増強されたことが示された(Zhang et al.,2015,Science 348:aaa2340)。1ヶ月の連日の腹腔内SW処置後、加齢筋では15-PGDH比活性が有意に低下し、LC-MS/MSによって、PGE2およびPGD2のレベルの付随する増加が若齢筋と同等に検出されることが見出された(Palla et al.,2021,Science 371:eabc8059)。
【0141】
これらのマウスの膝関節を組織学的に試験すると、ビヒクル対照を用いて処置した加齢マウスでは、広範囲の軟骨変性が観察された。軟骨プロテオグリカン(GAG)を染色した、マウス膝関節のサフラニンO染色の代表的な画像は、GAG染色の老化関連減少、軟骨の厚さの減少、および線維化の増加を示した。しかし、SW033291を連日腹腔内注射した後、加齢マウスの関節は、厚さ、GAG染色が増加し、軟骨表面の平滑性が増大した改善された軟骨構造を示した(図1、左下のパネル)。OARSIスコアリングシステムに基づいて、対照またはSW処置後のマウス膝関節の盲検スコアリング時に(Glasson et al.,2010,Osteoarthritis Cartilage 18 suppl.3:S17-23)、最大傷害スコア、マキシマムスコア、および累積サミットスコアが、対照処置マウスと比較して、SW処置後のマウス膝関節では有意に減少することが観察された(図1、右下のパネル)。これらの結果は、独立したマウス18匹のコホートでは、15-PGDHのSW媒介阻害が加齢性変形性関節症を阻害することができることを明確に示した。
【0142】
実施例3. 関節内SW注射による膝内の局所15-PGDH阻害は成体マウスの外傷後OAを減弱させる
15-PGDH阻害がOAの誘発時に比較的若齢の成体マウスでは保護的であるかどうかを試験するために、マウス膝に脛骨圧縮を加え、前十字靭帯(ACL)断裂を引き起こすことによって、若齢の成体マウス(3ヶ月齢)にOAを誘発した。この損傷モデルは、ヒト患者に頻繁に観察されるACL損傷を再現する。損傷の1週間後、ビヒクルまたはSWの局所関節内注射を4週間にわたって週に2回投与した。6週間後、マウスを安楽死させ、膝関節を採取した(図2の左上のパネルに示す実験スキーム)。マウス膝関節のサフラニンO染色は、ビヒクル注射マウスではGAG染色の減少と軟骨劣化とを示し(図2、右上のパネル、上段)、SW注射マウスでは、それよりも高いGAG染色と、軟骨劣化の減少とが示された(図2、右上のパネル、下段)。OARSIスコアリングシステムに基づいて、マウス膝関節の盲検スコアリング時に、最大傷害スコア、マキシマムスコア、および累積サミットスコアが、ビヒクル注射と比較して、SW注射後のマウス膝関節では有意に減少することが観察された(図2、左下のパネル)。これらのマウスの炎症を評価するために、ビヒクルまたはSW注射マウスから得られた血清を用いて、39-plex Luminexサイトカインパネルについて試験した。ビヒクル処置マウスと比較して、SWでは炎症性サイトカインレベルの全体的な低下が観察され、CCL7、CXCL10、CCL4、VEGF、IL27およびIL2が有意にダウンレギュレートされた(図2、右下のパネル)。これらの観察結果は、SW処置による局所15-PGDH阻害が、軟骨再生を増強するだけでなく、骨関節炎マウスの炎症も減少させることを裏付けた。
【0143】
実施例4. 15-PGDH阻害は加齢マウスにおいて複数の経路を変化させて軟骨を若返らせる
15-PGDHが加齢軟骨にその効果を発揮し得る下流分子経路を同定するために、加齢マウス(24ヶ月)から得られた、ビヒクルおよびSW処置軟骨のトランスクリプトーム分析を行い、RNA-seqによって、若齢成体マウス(3ヶ月)から得られた軟骨と比較した。図3は、3つの群、すなわち若齢軟骨とビヒクルまたはSW処置加齢軟骨との間の示差的発現遺伝子(DEG)のヒートマップを示す。ビヒクルと比較してSWを用いて処置した加齢軟骨では、301個の示差的発現遺伝子(DEG)の中で、147個がアップレギュレートされ、154個がダウンレギュレートされた。表1は、ビヒクルまたはSWを用いて全身処置した加齢マウスの軟骨における顕著に変化した経路に関するIngenuityパスウェイ解析(IPA)を示す。表2は、若齢マウスおよびビヒクル処置加齢マウスの軟骨における顕著に変化した経路に関するIPAを示す。表3は、表1および表2で同定されたミトコンドリア酸化的リン酸化経路に関連する顕著に変化した遺伝子に関する変化倍率(平均および標準偏差(「STD」))を示す。表4は、表1および表2で同定された変形性関節症経路に関連する顕著に変化した遺伝子に関する変化倍率(平均および標準偏差(「STD」))を示す。IPAから、SW処置軟骨におけるミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の顕著なアップレギュレーションが明らかにされた(表1)。ミトコンドリアの機能とエネルギー産生とに重要な酵素であるCOX5aおよびNdufa9は、SW処置軟骨では、若齢軟骨に観察されるレベルとほぼ同じレベルまで顕著にアップレギュレートされることが分かった(表3)。対照的に、ミトコンドリア機能不全および変形性関節症に関与する経路/遺伝子は、若齢軟骨と比較して、ビヒクル処置加齢軟骨では顕著にアップレギュレートされた(表2および表4)。これらの観察結果は、SW処置による15-PGDH阻害が、加齢軟骨を比較的若い表現型に若返らせるための複数の経路に影響を及ぼすことを示している。
【0144】
(表1)ビヒクル処置加齢マウスと対比したSW処置加齢マウスにおける濃縮された経路
【0145】
(表2)若齢マウスと対比したビヒクル処置加齢マウスにおける濃縮された経路
【0146】
(表3)酸化的リン酸化関連遺伝子の変化倍率
【0147】
(表4)変形性関節症関連遺伝子の変化倍率
【0148】
実施例5. 15-PGDH阻害は加齢軟骨内でミトコンドリア生合成を増強する
加齢軟骨における15-PGDH阻害はミトコンドリア生合成に関連する遺伝子および経路のアップレギュレーションをもたらしたため、マウス膝関節の関節軟骨内の若齢軟骨細胞および加齢軟骨細胞内のミトコンドリア生合成を直接調査した。透過型電子顕微鏡法(TEM)画像から、若齢軟骨(3ヶ月齢マウス)と比較した場合、加齢軟骨(24ヶ月齢マウス)では、細胞1個当たりのミトコンドリアの総数が顕著に減少したことが明らかにされた(図4、上部のパネル)。興味深いことに、ビヒクル処置加齢軟骨と比較して、SW処置の組織学的切片では、細胞1個当たりのミトコンドリア数の顕著な増加が観察された(図4、上部のパネル)。Image jソフトウェアを使用して細胞1個当たりのミトコンドリアを定量すると、これらの変化はSW処置では有意であり、加齢軟骨細胞内のミトコンドリア数を若齢軟骨のレベルに回復させることが分かった(図4、下部のパネル)。
【0149】
実施例6. ヒトOA軟骨外植片における15-PGDH阻害は再生応答を誘導しかつ炎症を減少させる
次に、ヒトOA軟骨における15-PGDH阻害の効果を試験した。スタンフォード大学によって承認されたIRBプロトコールの下で、人工膝関節全置換を受けている患者の外科的に廃棄された大腿骨骨頭から、ヒト関節軟骨を単離した。直径4mmの同様のサイズのOA軟骨外植片を打ち抜き、以前に記載されているように培養した(Sahu et al.,2021,Adv.Healthc.Mater.10:e2002118)。OA外植片をビヒクルまたはSWを用いて1週間処理した。軟骨外植片切片中のプロテオグリカン含有量をサフラニンO染色によって評価し、SW処理による軟骨のあらゆる異なる領域、特に中間領域および深部領域にわたってGAG染色の増加を観察した(図5、左上のパネル)。硫酸化グリコサミノグリカン(sGAG)も、DMMB色素を用いた測定によって独立して定量した。この生化学アッセイによって測定されたGAG含有量が、ビヒクルと比較してSWを用いて処理したヒト外植片では有意に増加することが観察された(図5、右上のパネル)。次に、細胞増殖に対するSW処理の効果を調査した。細胞周期マーカーKi67を用いて免疫染色すると、ビヒクル処理外植片と対比して、SWではKi67陽性細胞の増加が観察された(図5、下部のパネル)。この増加は、ビヒクル処理細胞と対比して、SWではKi67発現の増加を示したKi67強度分布プロットによっても裏付けられた(図6、上部のパネル)。次に、炎症に対する15-PGDH阻害の効果を試験するために、72-plex Luminexサイトカインパネルを使用して、ビヒクル処理ヒトOA外植片またはSW処理ヒトOA外植片の培養培地中のサイトカインレベルを評価した。SW処理外植片のセクレトームでは、GMCSF、IL6およびCCL5のレベルの有意な低下が観察され(図6、下部のパネル)、マウスと同様に、ヒトOA軟骨のSW処理も炎症性サイトカインの減少をもたらしたことが示された。
【0150】
前述の開示は、理解を明確にするために例示および例としてある程度詳細に説明されているが、当業者であれば、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および修正が実施され得ることを理解するであろう。さらに、本明細書において提供される各参照文献は、あたかも各参照文献が個別に参照により組み入れられているのと同程度に、その全体が参照により組み入れられる。
【0151】
例示的な態様
本開示の主題に従って提供される例示的な態様には、限定されることなく、特許請求の範囲および以下の態様が含まれる。
態様1: 対象において15-ヒドロキシプロスタグランジン(15-PGDH)活性を阻害するのにおよび/または15-PGDHレベルを低下させるのに有効な量の15-PGDH阻害物質を前記対象に投与し、それによって、前記対象の関節組織の構造および/または機能を改善する工程を含む、前記対象の関節組織の構造および/または機能を改善する方法。
態様2: 前記投与によって、前記対象の関節組織内のプロスタグランジンE2(PGE2)および/またはプロスタグランジンD2(PGD2)のレベルが増加する、態様1の方法。
態様3: 関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して増加する、態様2の方法。
態様4: 前記対象の関節組織が、機能不全および/または変性の少なくとも1つのマーカーを提示する、態様1~3のいずれかの方法。
態様5: 前記少なくとも1つのマーカーが、GAG染色の減少、軟骨の厚さの減少、線維化の増加、軟骨表面の平滑性の減少、骨組織密度の低下、OARSIスコアの増加、sGAGのレベルの低下、細胞増殖の減少、前記対象における疼痛および/または疼痛関連行動の増加、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の増加、異化遺伝子の発現の増加、同化軟骨細胞遺伝子の発現の減少、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア機能不全および/または変形性関節症に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア生合成の減少、ミトコンドリアレベルの低下、X型コラーゲンのレベルの増加、軟骨細胞サイズの増加、軟骨細胞真球度の増加、サイトカインおよび/またはケモカインのレベルの増加、炎症性メディエーターのレベルの増加、細胞由来産物および/またはマトリックス由来産物のレベルの増加、ならびにそれらの組合せからなる群より選択される、態様4の方法。
態様6: 前記投与によって、関節組織の機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーが減少する、態様4または5の方法。
態様7: 前記関節組織の機能不全および/または変性が老化の結果である、態様4~6のいずれかの方法。
態様8: 前記関節組織の機能不全および/または変性が損傷の結果である、態様4~6のいずれかの方法。
態様9: 前記損傷が、軟骨損傷、関節損傷、外傷、前十字靭帯(ACL)断裂、半月板断裂、股関節唇断裂、回旋腱板損傷、脊椎症、脊椎骨折、股関節骨折、変性脊椎すべり症、椎間板すべり症、椎間板ヘルニア、およびそれらの組合せからなる群より選択される、態様8の方法。
態様10: 前記関節組織の機能不全および/または変性が、疾患、障害、または病態の結果である、態様4~6のいずれかの方法。
態様11: 前記疾患、障害、または病態が、変形性関節症、他の関節炎型、骨粗鬆症、関節リウマチ、若年性特発性関節炎、痛風、全身性エリテマトーデス、血清反応陰性脊椎関節症、変性椎間板疾患、先天性軟骨障害、骨障害、およびそれらの組合せからなる群より選択される、態様10の方法。
態様12: 前記疾患、障害、または病態が変形性関節症である、態様10の方法。
態様13: 前記関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様のレベルまで増加する、態様4~12のいずれかの方法。
態様14: 前記関節組織内のPGE2および/またはPGD2のレベルが、機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルの10%~200%以内のレベルまで増加する、態様4~13のいずれかの方法。
態様15: 前記関節組織が、軟骨、滑膜、骨、骨髄、靭帯、腱、滑液包、半月板、およびそれらの組合せからなる群より選択される、態様1~14のいずれかの方法。
態様16: 関節組織の構造および/または機能が、前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して改善される、態様1~15のいずれかの方法。
態様17: GAG染色の増加、軟骨の厚さの増加、線維化の減少、軟骨表面の平滑性の増加、骨組織密度の増加、OARSIスコアの減少、sGAGのレベルの増加、細胞増殖の増加、前記対象における疼痛および/もしくは疼痛関連行動の減少、インディアンヘッジホッグ(Ihh)タンパク質の発現の減少、異化遺伝子の発現の減少、同化軟骨細胞遺伝子の発現の増加、ミトコンドリアの機能および代謝に関与する遺伝子の発現の増加、ミトコンドリア機能不全および/もしくは変形性関節症に関与する遺伝子の発現の減少、ミトコンドリア生合成の増加、ミトコンドリアレベルの増加、X型コラーゲンのレベルの低下、軟骨細胞サイズの減少、軟骨細胞真球度の低下、サイトカインおよび/もしくはケモカインのレベルの低下、炎症性メディエーターのレベルの低下、細胞由来産物および/もしくはマトリックス由来産物のレベルの低下、またはそれらの任意の組合せをもたらす、態様1~16のいずれかの方法。
態様18: 前記15-PGDH阻害物質の投与前の関節組織と比較して、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルの低下をもたらす、態様1~17のいずれかの方法。
態様19: 機能不全および/または変性の前記少なくとも1つのマーカーを提示しない対象の関節組織に存在するレベルと実質的に同様である、関節組織内のPGE2および/またはPGD2代謝産物のレベルをもたらす、態様4~18のいずれかの方法。
態様20: 前記PGE2および/またはPGD2代謝産物が、15-ケトPGE2および13,14-ジヒドロ-15-ケトPGE2からなる群より選択される、態様18または19の方法。
態様21: 前記15-PGDH阻害物質が、小分子化合物、遮断抗体、ナノボディ、およびペプチドからなる群より選択される、態様1~20のいずれかの方法。
態様22: 前記15-PGDH阻害物質がSW033291である、態様1~21のいずれかの方法。
態様23: 前記15-PGDH阻害物質が、アンチセンスオリゴヌクレオチド、マイクロRNA、siRNA、およびshRNAからなる群より選択される、態様1~20のいずれかの方法。
態様24: 前記対象がヒトである、態様1~23のいずれかの方法。
態様25: 前記対象が30歳未満である、態様1~24のいずれかの方法。
態様26: 前記対象が少なくとも30歳である、態様1~24のいずれかの方法。
態様27: 前記15-PGDH阻害物質が、15-PGDH発現を減少させるかまたは遮断する、態様1~26のいずれかの方法。
態様28: 前記15-PGDH阻害物質が、15-PGDHの酵素活性を低下させるかまたは遮断する、態様1~27のいずれかの方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【国際調査報告】