(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】水溶性オリゴマーエステルを含む遮断製品の製造のための熱硬化性バインダー組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/12 20060101AFI20231212BHJP
D06M 15/507 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C08G63/12
D06M15/507
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535843
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-03
(86)【国際出願番号】 FR2021052264
(87)【国際公開番号】W WO2022129742
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】502425053
【氏名又は名称】サン-ゴバン イゾベール
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100208225
【氏名又は名称】青木 修二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100217179
【氏名又は名称】村上 智史
(74)【代理人】
【識別番号】100227352
【氏名又は名称】白倉 加苗
(72)【発明者】
【氏名】ファビアン エルマン
(72)【発明者】
【氏名】オレリー ルグラン
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアン ゲラン
【テーマコード(参考)】
4J029
4L033
【Fターム(参考)】
4J029AA01
4J029AB07
4J029AC02
4J029AE18
4J029BA02
4J029BA03
4J029BA04
4J029BA05
4J029BF08
4J029BF09
4J029EA02
4J029FC01
4J029FC12
4J029FC14
4J029HA01
4J029HB01
4J029KE08
4L033AB01
4L033AC11
4L033CA45
(57)【要約】
本発明は、水、並びに、水溶性オリゴマーエステルであって:
-還元糖、非還元糖及び水素添加糖から選択される少なくとも一つの炭水化物であって、前記水素添加糖はエリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリトール、及び、澱粉加水分解物の、又はリグノセルロース系材料の加水分解物の、水素添加物からなる群から選択される、炭水化物;
少なくとも一つのジオール;及び
少なくとも一つのポリカルボン酸、
の水溶性オリゴマーエステル、を含む熱硬化性バインダー組成物であって、
前記バインダー組成物は、固形分40質量%~80質量%であり、
前記水溶性オリゴマーエステルは、熱硬化性バインダー組成物の固形分の少なくとも70質量%を占め、
全ジオール及び炭水化物の水酸基の数に対する全ジオールの水酸基の数の比率は、5%~50%である、熱硬化性バインダー組成物に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、及び水溶性オリゴマーエステルを含む熱硬化性バインダー組成物であって、
この水溶性オリゴマーエステルは、
-還元糖、非還元糖及び水素添加糖から選択される少なくとも一つの炭水化物であって、前記水素添加糖はエリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリトール、及び、澱粉加水分解物の、又はリグノセルロース系材料の加水分解物の、水素添加物、からなる群から選択される、炭水化物;
-少なくとも一つのジオール;及び
-少なくとも一つのポリカルボン酸、
の水溶性オリゴマーエステルであり、
前記バインダー組成物は、固形分40質量%~70質量%であり、
前記水溶性オリゴマーエステルは、熱硬化性バインダー組成物の固形分の少なくとも70質量%を占め、
全ジオール及び炭水化物の水酸基の数に対する全ジオールの水酸基の数の比率は、5%~50%である、熱硬化性バインダー組成物。
【請求項2】
全ジオール及び炭水化物の水酸基の数に対する全ジオールの水酸基の数の比率が8%~40%、好ましくは10%~30%であることを特徴とする、請求項1に記載のバインダー組成物。
【請求項3】
前記ジオールがC
2~C
12の脂肪族ジオール、好ましくはC
2~C
8の、直鎖又は分岐状であって、任意でアルキル鎖に一つ以上の酸素原子を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のバインダー組成物。
【請求項4】
前記ジオールが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載のバインダー組成物。
【請求項5】
遊離のソルビトールを、固形分に対して10質量%未満、特に5質量%未満含むことを特徴とする、請求項1~4の何れかに記載の熱硬化性バインダー組成物。
【請求項6】
前記還元糖が、単糖、二糖、デキストロース当量(DE)5~98、好ましくは15~95である澱粉加水分解物、及びリグノセルロース系材料の加水分解物から選ばれることを特徴とする、請求項1~5の何れかに記載の熱硬化性バインダー組成物。
【請求項7】
前記水素添加糖が、キシリトール、マルチトール、ソルビトール、及び、澱粉加水分解物の、又はリグノセルロース系材料の加水分解物の水素添加物からなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1~6の何れかに記載の熱硬化性バインダー組成物。
【請求項8】
前記1又は複数のポリカルボン酸が、ジカルボン酸、トリカルボン酸及びテトラカルボン酸から選ばれることを特徴とする、請求項1~7の何れかに記載の熱硬化性バインダー組成物。
【請求項9】
前記ポリカルボン酸が、クエン酸であることを特徴とする、請求項1~8の何れかに記載のバインダー組成物。
【請求項10】
前記1又は複数の炭水化物及び前記1又は複数のジオールによって生じる水酸基の合計の数に対する前記ポリカルボン酸によって生じる酸基の合計の数の比率が30/70~70/30、好ましくは35/60~60/40、特に40/60~55/45であることを特徴とする、請求項9に記載のバインダー組成物。
【請求項11】
遊離の残留ポリカルボン酸を固形分に対して25質量%未満、好ましくは20質量%未満含むことを特徴とする、請求項1~10の何れかに記載のバインダー組成物。
【請求項12】
次亜リン酸ナトリウム及び次亜リン酸を更に含むことを特徴とする、請求項9に記載のバインダー組成物。
【請求項13】
有機バインダーで結合されたミネラル繊維又は有機繊維を基にする生成物を製造する方法であって、前記方法は、
(a)請求項1~12の何れかに記載の熱硬化性バインダー組成物を固形分2~10質量%に水で希釈することによってサイジング組成物を調製すること、
(b)ミネラル繊維又は有機繊維に前記サイジング組成物を適用すること、
(c)サイジングされたミネラル繊維又は有機繊維の集合体を形成すること、及び
(d)前記サイジング組成物が硬化するまで、サイジングされたミネラル繊維又は有機繊維の集合体を加熱すること、
を含む、方法。
【請求項14】
サイジング組成物を調製する工程(a)が、好ましくは耐塵添加剤、シリコーン及びカップリング剤から選ばれる、1つ以上の添加剤を加えることを含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記繊維はミネラル繊維であり、前記繊維の集合体はミネラルウールであることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記ミネラル繊維又は有機繊維に前記サイジング組成物を適用するとき、前記サイジング組成物は遊離のソルビトールを固形分に対して10質量%未満、好ましくは5質量%未満含むことを特徴とする、請求項13~15の何れかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭水化物と、ジオールと、ポリカルボン酸との間での反応により得られる水溶性オリゴマーエステルを基にする熱硬化性水性バインダーに関する。
【0002】
本発明は、また、有機又はミネラル繊維;好ましくはミネラルウール繊維、特にグラスウール又はロックウール;を結合するためのこのようなバインダーの使用に関する。
【0003】
何年かにわたり、ミネラル繊維を基にするミネラルウール又は不織布製品のための熱硬化性バインダーとしての、生物由来の試薬を基にする、特に糖を基にする水性組成物を使用することが知られている。
【0004】
触媒、通常は次亜リン酸ナトリウム、の存在下で、水酸基を有する、還元糖及び/又は非還元糖及び/又は水素添加糖と、ポリカルボン酸とを反応させることで、熱硬化性ポリエステルを形成することが特に提案されている(国際公開第2009/080938号、国際公開第2010/029266号、国際公開第2013/014399号、国際公開第2013/021112号)。
【0005】
国際出願である国際公開第2012/138723号は、オリゴマー及び/又はポリマー炭水化物(デキストロース当量2~20)と、ポリカルボン酸から選ばれる架橋剤とを基にするバインダー組成物を開示する。これら組成物はまた、ポリカルボン酸とグリセロールの反応で得た加重平均質量が1500~5000であるオリゴエステルを含む。
【0006】
前記文献に記載のサイジング組成物は、希薄な、あまり粘稠でない水性溶液であり、そしてモノマー試薬である。これらは通常、形成直後の未だ熱いミネラル繊維に噴霧する。繊維へのサイジング組成物の適用後すぐに、水相の蒸発が始まる。回収用ベルト上で繊維を回収しマットとして集合させるとき、繊維は粘ついており、且つガラス繊維を取り囲むサイジング組成物フィルムは、水を未だ含む。
【0007】
サイジングされたミネラルウールマットを、通常180℃を超え又は更に200℃を超える温度でサーモスタット制御されたオーブンに入れて初めて、水の蒸発が完了し、試薬間でのエステル化反応が始まる。
【0008】
サイジングされた繊維のマットを高温で数十秒又は数百秒加熱することで、エステル化による反応系の架橋と、水不溶性バインダーの形成が生じるが、試薬の一部の熱分解と、形成された分解生成物の蒸発も生じる。オーブン内で形成されたガス状成分は排気筒を介して部分的に排出される。排ガス又は煙道ガスは洗浄システムで処理され、次いで洗浄水は閉鎖システムで再循環される。
【0009】
サイジング組成物がクエン酸を含むとき、そのヒュームは、設備の腐食による劣化を防ぐために塩基を加えて中和されなければならない多くの酸性化合物(クエン酸、シトラコン酸、イタコン酸、プロピオン酸、酢酸、蟻酸)を含む。しかしながら、塩基を加えることは問題がある。確かに、ミネラルウールを基にする遮断製品を製造する設備では、洗浄水をシステムに再注入し、特にバインダーとサイジング組成物の調製用として使用する。サイジング組成物中に大量の塩基又は塩が存在すると、pHが増大しやすくエステル化反応(架橋)が阻害されやすい。
【0010】
国際出願である国際公開第2019/202248号で、出願人は、ミネラルウール繊維に、1又は複数の炭水化物と1又は複数のポリカルボン酸との混合物を含む水性組成物ではなく、無水媒体中で炭水化物とポリカルボン酸の反応により事前に合成されたオリゴエステルを含む水性組成物を適用することを提案した。モノマー(炭水化物とポリカルボン酸)試薬を可溶性オリゴマーに置き替えることで、煙道ガス中の酸性分解生成物の量を顕著に減少することができた。
【0011】
さらに、オリゴマーの使用により、反応系の架橋開始温度を顕著に低下させること、及び/又は、既定オーブン温度でバインダーを十分に硬化するために必要な持続時間を顕著に短くすることが可能になった。
【0012】
国際公開第2019/202248号に記載のミネラルウールを製造する方法を最適化するために研究を継続することで、出願人は、エステル化反応(酸官能基の消失をモニターすることにより評価)の進行の程度が約30%を超えるとすぐに、つまり、初期に導入したカルボン酸官能基の数の約30%が消失した時、オリゴマー溶液の粘度が過度に急激に増加する問題に直面した。
【0013】
バインダー組成物のこの過度に高い粘度は、ミネラルウール製造プロセスにおいて、サイジングされたミネラル繊維のマットの過剰な煩わしい粘つきとなる。新たに形成された繊維に相対的に希釈した水性サイジング組成物を噴霧した後、水の主たる部分は繊維の高温により自然に蒸発する。サイジングされた繊維が、これらをオーブン内に搬入するコンベア上で回収された時点で、乾物含量は、約40~70%程度である。サイジングされた繊維のマットは、加熱オーブンに入る前に、まず圧縮ローラー下を通過し、次いで下からのエア流で再膨張される。濃縮バインダー組成物フィルムの過剰に大きい粘つきは、第一に、(ローラー)圧縮した後のマットの再膨張の減少をもたらし、第二に、ミネラル繊維間の接触点へのサイジング組成物の広がり難さと不十分なマイグレーションとをもたらす。粘着性フィルムの硬化後に得た遮断製品は、より高い密度と、所定の固形分でより低い粘性のサイジング組成物で得た同等の遮断製品よりも劣る機械的特性を有する。
【0014】
本発明は、1種又は複数種の炭水化物のジオールでの部分的な置き替えにより、所定の変換率及び乾物含量でオリゴエステルの水性組成物の粘度を顕著に抑えることが可能になるという発見を基にするものである。それにより、所定の変換率でより粘性の少ないオリゴエステル、又は所定の粘度で遊離カルボン酸官能基をより少なく含むオリゴエステル、を合成することが可能になる。
【0015】
より大きい変換率は、煙突の煙道ガス中の酸分解生成物のさらなる減少、及び架橋開始温度の低下をもたらす。
【0016】
本発明の第一の主題は、水、及び水溶性オリゴマーエステルであって;
-還元糖、非還元糖及び水素添加糖から選択される少なくとも一つの炭水化物であって、前記水素添加糖はエリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリトール、及び、澱粉加水分解物の、又はリグノセルロース系材料の加水分解物の水素添加物からなる群から選択される、炭水化物;
-少なくとも一つのジオール;及び
-少なくとも一つのポリカルボン酸、
の水溶性オリゴマーエステル、
を含む熱硬化性バインダー組成物であって、
前記バインダー組成物は、固形分40質量%~80質量%、好ましくは固形分40質量%~70質量%であり、
前記水溶性オリゴマーエステルは、熱硬化性バインダー組成物の固形分の少なくとも70質量%を占め、
全ジオール及び炭水化物の水酸基の数に対する全ジオールの水酸基の数の比率は、5%~50%である、熱硬化性バインダー組成物である。
【0017】
本出願で、”炭水化物”という用語は、ここでは通常よりも幅広い意味を有する。当該用語は、厳密な意味での炭水化物、すなわち、式Cn(H2O)p、式中、pはn(単糖類)であり、又は、pはn-1(オリゴ及び多糖類)である、少なくとも1つのアルデヒド基又はケトン基(還元基)を有する還元糖又は炭水化物のみでなく、アルデヒド又はケトン基がアルコールに還元されたこれらの炭水化物の水素添加物も含むからである。これらの水素添加物は、アルジトール、糖アルコール、又は水素添加糖とも呼ばれる。”炭水化物”というこの用語は、ユニット間をつなぐオシド(osidic)”結合に関与するヘミアセタールヒドロキシ保有炭素(hemiacetal hydroxyl-carrying carbons)を含む複数の炭水化物ユニットからなる非還元糖も包含する。
【0018】
本出願では、”バインダー組成物”と”サイジング組成物”という用語は、同義ではない。”バインダー組成物”という用語は、濃縮水溶液、つまり、(数十%)の高固形分を指す。これら組成物は、保管や輸送が可能である。これら組成物はポンプで送ることができるように、むしろ流動的であるが、それ自体を繊維に噴霧するには粘性が高すぎる。”サイジング組成物”という用語は10質量%未満の固形分を有する、実質的に濃度がより低い水溶液を指す。これらは一般に、バインダー組成物を水で希釈することで得られる。サイジング組成物は十分に低い粘度のため、ノズルを介してミネラルウール繊維に噴霧することで、サイジング組成物をミネラルウール繊維に適用することができる。
【0019】
原則的に、本発明の熱硬化性バインダー組成物の調製には、還元糖、非還元糖及び水素添加糖から選ばれる炭水化物のいずれも使用することができる。
【0020】
”水素添加糖”は単糖類、二糖類、オリゴ糖、多糖類、及びこれら生成物の混合物から選ばれる糖質(炭水化物)の還元又は水素化から生じるすべての生成物を意味することを意図する。水素添加糖は、糖アルコール、アルジトール又はポリオールともいう。これらは、糖質の触媒的水素化によって得ることができる。水素化は、公知の方法により、高水素圧及び高温の条件下、元素周期表IB、IIB、IVB、VI、VII及びVIII族の元素から、好ましくはニッケル、プラチナ、パラジウム、コバルト、モリブデン及びこれらの混合物を含む群から、選択される触媒の存在下で実施することができる。好適な触媒は、ラネーニッケルである。
【0021】
1又は複数の水素添加糖は、エリスリトール、アラビトール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、イジトール、マルチトール、イソマルチトール、ラクチトール、セロビトール、パラチニトール、マルトトリトール、及び、澱粉加水分解物の水素添加物、又は、特に、ヘミセルロース、とりわけキシランとキシログルカンであるリグノセルロース系材料の加水分解物の水素添加物、からなる群から選択される。したがって、本発明で使用する水素添加糖は、グリセロール又はポリグリセロールを含まない。
【0022】
澱粉加水分解物は、澱粉を酵素及び/又は酸加水分解することで得られる生成物である。
【0023】
水素化工程前、好適な澱粉加水分解物は、デキストロース当量(DE)が5~99であり、10~80が有利である。
【0024】
特に好ましくは、マルチトール、キシリトール、ソルビトール、及び、澱粉又はリグノセルロース系材料の加水分解物の水素添加物からなる群から選択される水素添加糖が用いられる。
【0025】
上述の水素添加糖の中でも、ソルビトールが市場で最も入手しやすく、最も低価格である。本出願人は、試験の間、ポリカルボン酸と水素添加糖を基にするバインダーの開発を目的としていたが、この水素添加糖をそのまま使用すると、十分な機械的特性(引張破断強度、厚み回復性、曲げ強度)を有する遮断製品を得ることが容易には可能にならないことが分かった。得られた遮断製品に所定の機械的強度を付与するには、サイジング組成物のポリカルボン酸/ソルビトール比率を格段に増加させることが必要であった。しかしながら、この増加には3つの欠点がある;サイジング組成物の腐食性が強くなる、大量の酸分解物の放出を促進する、バインダーラインの効率が低下する(特に、使用する酸が200℃未満で熱分解するクエン酸である場合)。
【0026】
本発明によれば、水素添加糖としてのソルビトールの使用に関し、上述した欠点を防ぐことが可能になる。確かに、ポリカルボン酸の存在下での無水媒体中のソルビトールのプレオリゴマー化は、例えば、キシリトール又はマルチトールを基にするオリゴエステルと同等の特性を有するオリゴエステルを与える。
【0027】
以上の観点から、十分な機械的特性を有するミネラルウールを基にする遮断製品を得ることは、勿論、エステル化工程の終了後に遊離のソルビトールがバインダー組成物に添加されないことを想定する。換言すれば、本発明の利点、すなわち、ソルビトールを使用しても良好な機械的特性を得ることは、本発明のバインダー組成物を希釈することによってサイジング組成物を調製する際に過剰量で遊離のソルビトールが添加された場合には打ち消されるであろう。
【0028】
本発明のバインダー組成物とサイジング組成物は結果として、エステル化工程後に添加され、又はエステル化の際に未反応であった遊離のソルビトールを10質量%未満、好ましくは5質量%未満、より有利に2質量%未満含む。これら遊離のソルビトールの割合は、本発明のバインダー組成物又はサイジング組成物の全固形分に対してである。
【0029】
還元糖は、好ましくはグルコース、ガラクトース、マンノース、フルクトースなどの単糖類、ラクトース、マルトース、イソマルトース、セロビオースなどの二糖類;並びにDEが5~98、より好ましくは15~95である澱粉加水分解物、及びリグノセルロース系材料の加水分解物から選択される。好ましくはグルコース又はフルクトースが使用され、特にグルコースである。
【0030】
非還元糖は好ましくはトレハロース、イソトレハロース、スクロース、イソスクロースなどの二糖類である。スクロースが特に好適である。
【0031】
本発明で使用する1又は複数のポリカルボン酸は、単量体のポリカルボン酸である。換言すれば、本発明では、ポリカルボン酸という用語は、アクリル酸又はメタクリル酸のホモポリマー又はコポリマーなどの、単量体のポリカルボン酸を重合することで得たポリマーを対象としていない。
【0032】
ジカルボン酸、トリカルボン酸及びテトラカルボン酸からなる群から選ばれるポリカルボン酸が好ましく使われる。特に好適なポリカルボン酸はクエン酸である。
【0033】
本出願人は、架橋状態とすることで最終生成物に、特に多湿下での加速エージング後での最良の機械的特性を与えるバインダーとなる炭水化物及びポリカルボン酸の各割合を評価する多数の試験を実施した。
【0034】
これら試験は、炭水化物/クエン酸重量比が有利には20/80~55/45であり、好ましくは25/75~50/50であることを示した。
【0035】
さらに、1又は複数の炭水化物と1又は複数のジオールから生じた水酸基の全体の数に対するポリカルボン酸から生じる酸基の全体の数の比率が有利には30/70~70/30であり、好ましくは35/60~60/40であり、特に40/60~55/45である。
【0036】
繊維に適用した後のバインダーの粘度を低下させ、したがって硬化前のマットの粘つきを抑えるために、本発明で使用するジオールは、好ましくは直鎖又は分岐状の脂肪族ジオールであり、したがって、芳香族ジオール又は脂環式ジオールのいずれも含まない。
【0037】
ジオールは、有利には、2~12の炭素原子、好ましくは2~8の炭素原子を含む脂肪族ジオールである。アルキル鎖は、1つ以上の酸素原子を含んでもよい。
【0038】
特に興味深いジオールの例は、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ジエチレングリコール及びトリエチレングリコールからなる群から選ばれるものが挙げられる。
【0039】
使用する1又は複数のジオールの量は、全ジオール及び炭水化物の水酸基の数に対する全ジオールの水酸基の数の比率が5%~50%であるような量である。この範囲の下限を下回ると、技術的効果(粘度の増加の制限と粘つきの低減)が不十分となる。この範囲の上限を上回ると、架橋したバインダーを満足できるように得るのが確かに難しくなる。ジオール(二官能性化合物)のクエン酸と炭水化物を基にするシステムへの導入により、事実上、反応系の平均官能性は低下する。
【0040】
全ジオールと炭水化物の水酸基の数に対する、使用する全ジオールの水酸基の数の比率は、8%~40%が有利であり、好ましくは10%~30%である。これら割合は、勿論、オリゴエステルの合成のためにエステル化工程が実施される前の反応混合物に存在するジオールと炭水化物とについてであると理解される。
【0041】
本発明のバインダー組成物を調製する方法は、本質的に無水である媒体中で試薬のエステル化を行うことにより、オリゴマーを合成する工程、次いで、形成した反応生成物を水で希釈する工程を含む。
【0042】
より具体的には、本発明のバインダー組成物を調製する方法は、
-オリゴマーエステルを形成するように、還元糖、非還元糖及び水素添加糖から選ばれる少なくとも1つの炭水化物、少なくとも1つのジオール、少なくとも1つのポリカルボン酸及び任意で少なくとも1つのエステル化触媒の混合物を105~170℃、好ましくは120~150℃で、5分から10時間、好ましくは20分から5時間、特に30分から2時間の間加熱すること、及び
-ポンプ移送が可能なオリゴマーエステルの水溶液を得るのに十分な量の水を添加することを含む。
【0043】
上記で説明したように、この塊状重縮合の反応混合物は、好ましくは本質的に無水である、つまり、好ましくは、2%未満の水、好ましくは1%未満の水を含む。場合によっては、反応混合物中の試薬を均一にするために、少量、一般に10質量%未満の水を加えることが必要あるいは許容されてよい。均一にするために必要なこの水は、その後、加熱の影響で蒸発する。
【0044】
オリゴエステルを合成する方法で好適な態様は、溶媒不存在で、完全に溶融するまで炭水化物とジオールを加熱すること、次いでクエン酸及び適宜、触媒を添加することを含む。反応時間は、合成の間の媒体の粘度の推移に依存する。
【0045】
オリゴマー化反応の進行程度は、粘度法によって以下のようにモニターできる:反応媒体の一定分量を採取し、60%相当の固形分(乾燥抽出物)を有する溶液を得るように蒸留水で希釈する。この溶液は、Anton Paar MCR302レオメーター(50mmの上側コーンプレートジオメトリと、50mmの下側コーンプレートジオメトリとを備える)(これは低い粘度まで高い感度を与える)に導入される。オリゴマーの粘度は室温で、剪断速度を5秒-1から1000秒-1に増加させた後、再び1000秒-1から5秒-1に減少させて測定する。粘度は、剪断速度に依存しないことが分かる。オリゴマー溶液は、したがって、ニュートン液体である。粘度は、20℃で100秒-1の剪断速度で掲げる。
【0046】
オリゴマー化反応動態の検討の目的は、一方では、許容できる粘度、つまり、幾分濃縮されているバインダー組成物がなおポンプ移送可能であるような十分に低い粘度と、他方では、最も低いあり得る架橋開始温度との間で、最良の妥協点を見つけることである。
【0047】
架橋開始温度は、高分子材料の粘弾性挙動の特徴を明らかにすることを可能にする動機械的熱分析(DMTA)で評価する。2本のグラスファイバーを切り出し、重ね合わせる。固形分30%のバインダー組成物30mgをストリップ上に均一に堆積させ、次いでRSAIII装置(Texas Instruments)の2つのあごの間に水平に固定する。試験片の上面には、加えられた変形の関数として応力を測定する装置を備えた振動素子が配置されている。当該装置により、弾性率E’を評価することができる。試験片は、4℃/分の速度で、20~250℃まで加熱される。測定結果から、温度(℃)の関数としての弾性率E’の変化(MPa)の曲線をプロットする。
【0048】
DMTA曲線は、3つの線分でモデル化されている。:
(1)反応開始前の曲線に対する接線、
(2)反応中の弾性率の増加の間の直線の傾き、
(3)弾性率の増加の終了後の曲線に対する接線
【0049】
架橋開始温度(TR)は、最初の2つの直線の交点での温度である。
【0050】
オリゴマー化が所望の程度に到達したとき、加熱を停止し、本発明のバインダー組成物を得るように反応混合物に水を加える。
【0051】
本発明のバインダー組成物は一般に、遊離の残留ポリカルボン酸を固形分に対して25質量%未満、好ましくは20質量%未満含む。炭水化物及びジオールという他の2種類のモノマーは、好ましくは微量のみで、例えば、5質量%未満の量、好ましくは2質量%未満の量で存在する。
【0052】
バインダー組成物の粘度は、20℃、60質量%乾物含量でレオメーター(Anton Paar MCR302レオメーター、50mmの上側コーンプレートジオメトリと、50mmの下側コーンプレートジオメトリとを備える、剪断速度100秒-1)を使用して評価し、バインダー組成物の粘度は、50~250mPa・s、好ましくは60~200mPa・s、特に70~180mPa・sである。
【0053】
塊状オリゴマー化は、例えば硫酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの強酸、及びエステル化反応の触媒として一般的に用いられるルイス酸から選ばれる公知のエステル化触媒の存在下で実施される。
【0054】
塊状オリゴマー化反応は、クエン酸を用いる場合、次亜リン酸ナトリウムで触媒されてもよく、これは、厳密にはエステル化触媒ではないが、三酸よりも反応性が良くかつポリオール(炭水化物とジオール)と反応可能なクエン酸無水物の形成を促進すると考えられている。
【0055】
したがって、触媒のこれら2種類の一方又は他方は、熱硬化性バインダー組成物に存在することになる。
【0056】
オリゴマー化反応の触媒のために、強酸などのエステル化触媒が使われるとき、サイジング組成物を得るために水で希釈する前又は後で、バインダー組成物に、有効量の次亜リン酸ナトリウム又は次亜リン酸を添加することが望ましく、例えば、量は、バインダー組成物の固形分の質量に対して、0.5~10質量%、好ましくは1.0~5質量%である。次亜リン酸ナトリウム及び対応する酸は、実際、現時点で、オリゴマーの熱硬化バインダー(水に不溶である)への硬化を最も効果的に触媒する化合物である。
【0057】
本発明のバインダー組成物は、保管や輸送が可能であることが求められる。つまり、室温での保管時に安定しており、20~60質量%の範囲にあってよい比較的多量の水が存在していても、オリゴエステルがポリオール及び多酸となる実質的な加水分解を受けないことが求められる。
【0058】
本出願人は、組成物の良好な保管安定性が、中性又は酸性のpHで、好ましくは1~7、より好ましくは3~6の場合に得られたことを見出した。
【0059】
本出願はまた、上記の発明によるバインダー組成物を用いて、不溶解性の有機バインダーによって結合されたミネラル繊維又は有機繊維を基にする製品を製造する方法に関する。
【0060】
前記方法は、以下の逐次的な工程を含む:
(a)上記熱硬化性バインダー組成物を固形分2~10質量%となるように水で希釈することによって、サイジング組成物を調製する
(b)ミネラル繊維又は有機繊維にサイジング組成物を適用する
(c)サイジングされたミネラル繊維又は有機繊維の集合体を形成する、及び
(d)サイジング組成物が硬化するまで、得られたサイジングされたミネラル繊維又は有機繊維の集合体を加熱する。
【0061】
良質の生成物を得るには、サイジング組成物が、良好な噴霧性を有すること、及び、繊維が有効に結合するように繊維の表面上にサイジング組成物を薄いフィルム状に堆積できることが必要である。サイジング組成物の噴霧性は、濃縮バインダー組成物を多量の水で希釈できる可能性に直接的に関係している。希釈されたサイジング組成物は、脱混合現象を生じない経時的に安定な溶液であることが求められる。
【0062】
希釈の適性は、所定の温度で、恒久的なヘイズが現れる前に、バインダー組成物の体積単位に加えることができる脱イオン水の体積として定義される”希釈性”により特徴付けられる。バインダー組成物は、希釈性が20℃で1000%に等しいか又はより大きいとき、サイジング用として適していると一般的に見なされる。
【0063】
本発明のバインダー組成物は、2000%よりも大きい希釈性を有する。
【0064】
多酸及び炭水化物の塊状エステル化で得られたオリゴマー化生成物から、濃縮中間液(バインダー組成物)の調製をせずに直接希釈した水性サイジング組成物を調製することによって本発明のミネラル繊維又は有機繊維を基にする生成物の製造方法を実施することは、勿論、十分に考えられることである。当該方法のこの変形は、ミネラル繊維又は有機繊維を基にする最終生成物の製造と同じ場所でオリゴマーエステルの合成を実施する場合に有用であり得る。前記方法は、保管及び/又は輸送を意図した中間濃縮液の調製を含むものと完全に同等であると考えられる。
【0065】
サイジング組成物を調製する工程は、ミネラルウールの技術分野で一般的に使用される公知の1つ以上の添加剤の添加を含むことが有利である。これら添加剤は、例えば、耐塵添加剤、シリコーン及びカップリング剤から選ばれる。
【0066】
本発明の方法の特に好適な態様においては、還元糖、非還元糖、水素添加糖、又は他のポリオール、又はアミン特にアルカノールアミン等の、オリゴエステルと反応可能なモノマーを、バインダー組成物に多量に加えることが回避されることになる。
【0067】
ミネラル繊維又は有機繊維に適用したとき、サイジング組成物は、水溶性オリゴマーエステルを、好ましくは、全固形分に対して少なくとも70質量%、より好ましくは少なくとも75質量%、又は更に、少なくとも80質量%含む。
【0068】
本発明の方法の有利な態様においては、繊維がミネラル繊維であり、繊維の集合体がミネラルウールである。
【0069】
溶融ガラス押出装置近傍の吹き付けリングに配置されたノズルを介して、公知の様式でサイジング組成物をミネラル繊維に適用する。
【0070】
次いで、サイジングされたミネラル繊維は、オーブンを通過するコンベアーベルト上でマット(又はロフト)の形状で集合させる。
【0071】
バインダーの架橋のために、サイジングされたミネラル繊維の集合体を、20秒~5分間、好ましくは30秒~3分間、180~230℃で加熱することが有利である。
例1
【0072】
116.1gのソルビトール及び57.4gのブタンジオール(OHブタンジオール/OHソルビトールのモル比=0.25)を反応器に導入し、130℃の温度で加熱する。次いで、クエン酸(粉末)の326.5gを分けて加える。試薬は、所望の変換率を得るのに必要な間、130℃で反応混合物を攪拌することで反応させる。形成された水は、減圧蒸留によって除去する。当該変換率に到達したとき、加熱を停止し、乾物含量の60%を得るために、形成されたオリゴマーを含む反応媒体に水を加える。
【0073】
154.6gのソルビトールのみを使用して、このプロトコルを繰り返す。(ブタンジオールなしの比較試験)
【0074】
139.3gのソルビトールと23.0gのブタンジオールを使用して、別の一連の試験を行う。(OHブタンジオール/OHソルビトールのモル比=0.10)
【0075】
オリゴマー化反応(エステル化)の変換率は、酸塩基滴定によって追跡され、反応媒体の一定分量(約1.0g)を取り、約1%の乾物含量を有する溶液を得るように蒸留水で希釈する。
【0076】
採取された一定分量における残留酸官能基の数は、自動滴定器(0.1Nの水酸化ナトリウムの添加)によるpH測定法により与える。そして、反応生成物における残留酸官能基の数を算出する。
【0077】
変換率は、下記の式を用いて算出する。
変換(%)=100(nCOOH-n残留)/nCOOH
・・・・・・・ nCOOH=カルボン酸官能基の初期の数
n残留=残留カルボン酸官能基の数
【0078】
60%乾物含量に希釈した反応生成物の粘度はAnton Paar MCR302レオメーター(50mmの上側コーンプレートジオメトリと、50mmの下側コーンプレートジオメトリとを備える)(これは低い粘度まで高い感度を与える)を用いて評価する。オリゴマーの粘度は、室温で、剪断速度を5秒
-1から1000秒
-1に増加させた後、再び1000秒
-1から5秒
-1に減少させて測定する。
粘度は、剪断速度に依存しないことが分かる。オリゴマー溶液は、したがって、ニュートン液体である。20℃で100秒
-1の剪断速度で測定された粘度を以下の表1に示す。
【表1】
【0079】
所定の変換率では、バインダー組成物の粘度(20℃、60%の乾物含量で評価)は、ソルビトールのいくらかがブタンジオールに置き換えられたときに減少することが分かる。したがって、例えば、ソルビトールとクエン酸から調製され、38%の変換率を有するバインダー組成物の粘度は95mPa・sである。ソルビトールの一部がブタンジオールに置き換えられたとき(OHブタンジオール/OHソルビトール=10%)、粘度は81.3mPa・sであり、さらにソルビトールがブタンジオールに置き換えられたとき(OHブタンジオール/OHソルビトール=25%)、粘度は35mPa・sに減少する。
【0080】
ソルビトールによって生じるヒドロキシ官能基の25%が、ブタンジオールによって生じるヒドロキシ官能基に置き換わったことで、40より大きい(42~55%)変換率と全く問題ない粘度(71~139mPa・s)を有するバインダー組成物を得ることが可能になることも観察される。
【国際調査報告】