(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】マイクログリッドを制御する制御システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
C25B 15/02 20210101AFI20231212BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231212BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20231212BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20231212BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20231212BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C25B15/02
C25B9/23
C25B9/00 A
C25B1/04
H02J15/00 G
H02J3/38 120
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535856
(86)(22)【出願日】2021-12-15
(85)【翻訳文提出日】2023-07-24
(86)【国際出願番号】 EP2021086027
(87)【国際公開番号】W WO2022129249
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】321003751
【氏名又は名称】エナプター エス.アール.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】チャップマン ショーン クロフォード
(72)【発明者】
【氏名】シュミット ヤンユストゥス
(72)【発明者】
【氏名】クラスコ ニコライ ヴィー.
(72)【発明者】
【氏名】アファナセンコ ニキータ
【テーマコード(参考)】
4K021
5G066
【Fターム(参考)】
4K021AA01
4K021BA02
4K021BC09
4K021CA05
4K021CA15
4K021DB53
5G066HB03
5G066HB06
5G066HB07
5G066HB08
5G066HB09
5G066JA05
5G066JB03
(57)【要約】
【課題】
【解決手段】
複数の電解槽と1つ以上の一次電源とを含むマイクログリッドのための制御システムが提供される。この制御システムは、プロセッサの制御下で、1つ以上の一次電源からの利用可能な電力を決定して、利用可能な電力を複数の電解槽の1つ以上に振り向けることができる制御信号を生成するように構成されている。また、この制御システムは、電解槽それぞれの性能パラメータを測定するために、複数の電解槽における電解槽それぞれに関連付けられた現場診断手段と通信可能に接続できるように構成されて、制御システムは、プロセッサの制御下で、現場診断手段から信号を受信して、信号に基づき、複数の電解槽に関連する少なくとも1つの性能パラメータを決定するように構成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電解槽と1つ以上の一次電源とを含むマイクログリッドのための制御システムであって、プロセッサの制御下で、
1つ以上の前記一次電源からの利用可能な電力を決定して、
前記利用可能な電力を複数の前記電解槽の1つ以上に振り向けることができる制御信号を生成する、
ように構成されて、
前記制御システムは、前記電解槽それぞれの性能パラメータを測定するために、複数の前記電解槽それぞれに関連付けられた現場診断手段と通信可能に接続できるように構成されて、
前記制御システムは、前記プロセッサの制御下で、前記現場診断手段から信号を受信して、前記信号に基づき、複数の前記電解槽に関連する少なくとも1つの前記性能パラメータを決定するように構成されている、
ことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記現場診断手段から受信したデータを用いて、分極曲線と、オーム抵抗と、電気化学インピーダンス分光法(EIS)と、のいずれか1つ以上を導出するように構成されている、
請求項1記載の制御システム。
【請求項3】
前記分極曲線が所定の間隔で生成される、
請求項2記載の制御システム。
【請求項4】
前記電解槽それぞれには固有の識別子データが付与されている、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項5】
1つまたは複数の前記電解槽それぞれについて、前記現場診断手段から、各モジュール型デバイスの累積運転時間と、各モジュール型デバイスの累積停止時間と、運転中の前記モジュール型デバイスが運転されている容量と、前記デバイスの温度と、前記デバイスの圧力と、前記デバイスの電圧/電位と、電解液の流量、前記電解液のレベル、前記電解液の導電率、およびポンプの性能などのバランスオブプラントにかかるデータと、のうちいずれか1つ以上の前記性能パラメータを取得または決定するように構成されている、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項6】
前記性能パラメータのいずれか1つ以上は、所定の間隔および/または所定のトリガが発生したタイミングで測定される、
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項7】
前記トリガは、電源の変更と条件の予測変更との一方または両方を含む、
請求項6記載の制御システム。
【請求項8】
前記電解槽それぞれは、前記電解槽それぞれに関連付けられた加重運転時間(weighted run time:WRT)を有する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項9】
前記プロセッサの制御の下、複数の前記電解槽に関して電力の平衡化を行うようにさらに構成されている、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項10】
複数の前記電解槽それぞれからアウトプット信号を受信するように構成されているとともに、前記プロセッサの制御下で、前記電解槽それぞれのアウトプットを予測するように、および複数の前記電解槽への電力の割当分布に基づいて予測アウトプットを演算するように構成されている、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の制御システム。
【請求項11】
複数の電解槽と、
1つ以上の一次電源と、
前記電解槽それぞれの性能パラメータを測定するために前記電解槽それぞれに関連付けられた現場診断手段と、
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の制御システムと、
を有してなり、
前記制御システムは前記現場診断手段と通信可能に接続されている、
ことを特徴とする、
マイクログリッド。
【請求項12】
前記一次電源の少なくとも1つは、再生可能エネルギ源またはグリッド接続である、
請求項11記載のマイクログリッド。
【請求項13】
1つ以上の二次電源を含む、
請求項11または12記載のマイクログリッド。
【請求項14】
前記二次電源の少なくとも1つは、再生可能エネルギ源またはグリッド接続である、
請求項13記載のマイクログリッド。
【請求項15】
前記電解槽それぞれは、乾式カソードで動作するイオン交換膜(AEM)電解槽である、
請求項11乃至14のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項16】
1つ以上の代替負荷を含む、
請求項11乃至15のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項17】
前記代替負荷は、1つ以上の電池と、電気化学的エネルギ貯蔵デバイスと、コンデンサと、家電製品と、グリッドと、のうち、のいずれか1つ以上である、
請求項16記載のマイクログリッド。
【請求項18】
前記制御システムに通信可能に接続された、1つ以上の前記一次電源からの利用可能な電力を測定する手段を含む、
請求項11乃至17のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項19】
1つ以上の前記一次電源が再生可能エネルギ源を含み、前記マイクログリッドが、1つ以上の前記一次電源からの利用可能と予想される電力を予測する、前記制御システムに通信可能に接続された予測手段を備える、
請求項11乃至18のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項20】
前記予測手段は、天気予報と、風速予報と、雲量と、潮汐状態と、のうちいずれか1つ以上を含む、
請求項19記載のマイクログリッド。
【請求項21】
前記電解槽は、異なる容量で運転するように構成されている、
請求項11乃至20のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項22】
前記電解槽は、それぞれの電圧過渡を測定する前記現場診断手段が使用する受動的な充放電回路を有し、所定の等価回路パラメータの適合に前記電圧過渡を使用する手段を含む、
請求項11乃至21のいずれか一項に記載のマイクログリッド。
【請求項23】
1つ以上の前記一次電源からの電力は、交流または直流であり、1つ以上の前記電解槽には、交流または直流のいずれかにより電力が供給される、
請求項11乃至22のいずれか一項に記載されたマイクログリッド。
【請求項24】
乾燥機、水素貯蔵手段、または燃料電池などの、前記電解槽からアウトプットされる水素の取扱いおよび利用のための手段を含む、
請求項11乃至23のいずれか一項に記載されたマイクログリッド。
【請求項25】
電解セルの列を運転および制御する方法であって、前記電解セルおよび他の構成要素はマイクログリッドを形成し、
前記マイクログリッドの一次負荷である1つ以上の前記電解セルそれぞれに固有の識別子を付与するステップと、
間隔を置いて複数のステップを繰り返すステップと、
を含み、
前記複数のステップは、
1つ以上の電源からアウトプットされる電力を判断または推定するステップと、
前記電解セルのうちどの電解セルがいくつ運転に利用可能かを決定するステップと、
1つ以上の利用可能な前記電解セルについて設定点を決定するステップと、
前記電力を1つ以上の前記電解セルに振り向けて、前記電解セルそれぞれの動作を監視するステップと、
現場診断データを測定して、その結果を前記電解セルそれぞれに固有の識別子データと関連付けて記録するステップと、
実際の電力アウトプットを測定して、予想される電力アウトプットと比較するステップと、
前記複数のステップを所定の間隔で繰り返して、電力アウトプットが不十分である場合または1つ以上の前記電解セルの運転が不要である場合には、1つ以上の前記電解セルの設定点を低下させるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の電解槽と、1つ以上の再生可能エネルギ源などである1つ以上の一次電源とを含むマイクログリッドの制御システムに関する。また、本発明は、電解セルの列を運転および制御する方法に関し、電解セルおよび他の構成要素はマイクログリッドを構成する。
【背景技術】
【0002】
水素は、肥料製造から石油精製まで様々な産業で工業用原料としてすでに使用されている一方で、エネルギ転換の重要な要素になりつつある。水素は豊富に存在する元素であるが、ほとんどの場合、単独で存在することはない。そのため、工業用途では、水蒸気改質により水素を生成するのが一般的である。その工程では、化石燃料を使用する必要があり、エネルギを大量に消費する。水蒸気改質では副産物として好ましくない排出物が発生する。水素は、工業用原料としての用途があるとともに、長期間の貯蔵や輸送を可能にする優れたエネルギベクトルである。
【0003】
水中の水素と酸素とを分解する手段としては、電気分解がよく知られている。比較的最近開発されているのは、陰イオン交換膜(anion exchange membrane:AEM)を用いた電気分解である。他の電気分解と異なり、この技術は、化石燃料を必要としない、触媒となる白金族金属(platinum group metal:PGM)にも依存しない、という利点がある。AEM電解槽は、より従来型の他の電気分解方式とは異なり、間欠運転により適している。このため、限定はされないが、太陽光、風力、水力など、断続的な性質の電源であることが共通点である、再生可能な電力源を利用する可能性が考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ある種の例では、水素は、暖房用途などで、ほぼ即座に使用することが望まれる場合がある。水素の発生量が多すぎてボイラーに負荷がかからないように、複数の水素発生装置を制御できることが望ましい。
【0005】
太陽光発電パネルなどの再生可能エネルギの普及を促進するために、多くの国で優遇措置がとられている。このような電源は断続的であるため、エネルギを貯蔵する手段が必要である。電池は、時間の経過とともに放電することが知られているため、使用することはできても、長期保存には適さない。水素は、一度貯蔵すると電池で見られる放電や位置エネルギの損失が起こらないので、長期間のエネルギ貯蔵に適している。再生可能エネルギと電解槽を組み合わせてグリーン水素を製造することは、エネルギ転換と脱炭素化を可能にする手段である。
【0006】
水の分解による水素の電解製造は、よく知られており、確立されている。なかでも最も確立されている技術は、アルカリ性電解液(liquid alkaline:LA)である。別の比較的確立された電解槽の形態は、プロトン交換膜(proton exchange membrane:PEM)を利用したものである。また、比較的新しい技術は、AEMを使用した電気分解である。他の比較的確立された技術と比べた場合のAEMの利点は、必要な媒体が腐食性でも苛性でもなく、触媒として白金族金属を必要としないことである。加えて、スタックを構成するのに、チタンのような高価な材料を使用する必要がない。
【0007】
複数のより小型のデバイスにより列を形成して1つのユニットとして機能させることが知られており、電池もそのような形態で配置し利用することができる。しかし、このような配置では、どのデバイスを運転させるか、また、どの程度の容量で動作させるかを決めるのに限界がある場合がある。そのような配置の場合に採用される手段や方法は様々であるが、さらなる改良が必要である。
【0008】
本発明の目的は、必ずしも限定されないが、電解槽の列などの複数のモジュール型デバイスを制御する改良された手段および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、複数の電解槽と1つ以上の一次電源とを含むマイクログリッドのための制御システムが提供される。制御システムは、プロセッサの制御下で、1つ以上の一次電源からの利用可能な電力を決定して、利用可能な電力を複数の電解槽の1つ以上に振り向けることができる制御信号を生成するように構成されて、制御システムは、電解槽それぞれの性能パラメータを測定するために、複数の電解槽における電解槽それぞれに関連付けられた現場診断手段と通信可能に接続できるように構成されて、制御システムは、プロセッサの制御下で、現場診断手段から信号を受信して、信号に基づき、複数の電解槽に関連する少なくとも1つの性能パラメータを決定するように構成されている。
【0010】
好ましくは、制御システムは、現場診断手段から受信したデータを用いて、分極曲線と、オーム抵抗と、電気化学インピーダンス分光法(electrochemical impedance spectroscopy:EIS)と、のいずれか1つ以上を導出するように構成されている。
【0011】
好ましくは、分極曲線は、所定の間隔で生成される。
【0012】
好ましくは、電解槽それぞれには固有の識別子データが割り当てられている。
【0013】
好ましくは、制御システムは、一つまたは複数の電解槽それぞれについて、現場診断手段から、各モジュール型デバイスの累積運転時間と、各モジュール型デバイスの累積停止時間と、運転中のモジュール型デバイスが運転されている容量と、デバイスの温度と、デバイスの圧力と、デバイスの電圧/電位と、電解液の流量、電解液のレベル、電解液の導電率、ポンプの性能などのバランスオブプラント(balance of plant:BOP)に関するデータと、のうちいずれか1つ以上の性能パラメータを取得または決定するように構成されている。
【0014】
好ましくは、性能パラメータのいずれか1つ以上は、所定の間隔および/または所定のトリガで測定される。
【0015】
好ましくは、トリガは電源の変更と条件の予測変更との一方または両方を含む。
【0016】
好ましくは、電解槽それぞれには加重運転時間(weighted run time:WRT)が関連付けられている。
【0017】
好ましくは、制御システムは、プロセッサの制御の下、複数の電解槽に関して電力平衡化を行うようにさらに構成されている
【0018】
好ましくは、制御システムは、複数の電解槽それぞれからアウトプット信号を受信するように構成されているとともに、プロセッサの制御下で、電解槽それぞれのアウトプットを予測するように、かつ複数の電解槽への電力の割当分布に基づいて予測アウトプットを演算するように構成されている。
【0019】
本発明の別の態様によれば、複数の電解槽と、1つ以上の一次電源と、電解槽それぞれの性能パラメータを測定するために電解槽それぞれに関連付けられた現場診断手段と、前述の制御システムと、を備えたマイクログリッドが提供されて、制御システムは現場診断手段と通信可能に接続されている。
【0020】
好ましくは、一次電源の少なくとも1つは再生可能エネルギ源またはグリッド接続である。
【0021】
好ましくは、マイクログリッドは追加的に1つ以上の二次電源を含む。
【0022】
好ましくは、二次電源の少なくとも1つは再生可能エネルギ源またはグリッド接続である。
【0023】
好ましくは、電解槽それぞれは、乾式カソードで動作するAEM電解槽である。
【0024】
好ましくは、マイクログリッドは1つ以上の代替負荷を含む。
【0025】
好ましくは、代替負荷は、1つ以上の電池と、電気化学的エネルギ貯蔵デバイスと、キャパシタと、家電製品と、グリッドと、のうちいずれか1つ以上である。
【0026】
好ましくは、マイクログリッドは、1つ以上の一次電源からの利用可能な電力を測定する手段であって、制御システムに通信可能に接続された手段を含む。
【0027】
好ましくは、1つ以上の一次電源は再生可能エネルギ源を含むとともに、マイクログリッドは1つ以上の一次電源から供給されて利用可能であると予想される電力を予測する予測手段であって、制御システムに通信可能に接続された予測手段を備える。
【0028】
好ましくは、予測手段は、天気予報と、風速予報と、雲量と、潮汐状態と、のうちいずれか1つ以上を含む。
【0029】
好ましくは、電解槽はそれぞれ異なる容量で運転するように構成される。
【0030】
好ましくは、電解槽は、それぞれの電圧過渡を測定する現場診断手段が使用する受動的な充放電回路を有し、所定の等価回路パラメータを適合させるために電圧過渡を使用する手段を含む。
【0031】
好ましくは、1つ以上の一次電源からの電力は交流または直流であり、1つ以上の電解槽には、交流または直流のいずれかにより電力が供給される。
【0032】
好ましくは、マイクログリッドは、乾燥機、水素貯蔵手段、または燃料電池などの、電解槽からアウトプットされる水素の取り扱いおよび利用のための手段を含む。
【0033】
本発明の別の態様によれば、電解セルの列を運転および制御する方法が提供されて、電解セルおよび他の構成要素はマイクログリッドを形成する。この方法は、マイクログリッドの一次負荷である1つ以上の電解セルそれぞれに固有の識別子を付与するステップと、間隔を置いて複数のステップを繰り返すステップとを含む。複数のステップは、1つ以上の電源からアウトプットされる電力を判断または推定するステップと、電解セルのうちどの電解セルがいくつ運転に利用可能かを判断するステップと、1つ以上の利用可能な電解セルについて設定点を決定するステップと、電力を1つ以上の電解セルに振り向けて、電解セルそれぞれの動作を監視するステップと、現場診断データを測定して、その結果を電解セルそれぞれに固有の識別子データと関連付けて記録するステップと、実際の電力アウトプットを測定して、予想される電力アウトプットと比較するステップと、これらのステップを所定の間隔で繰り返して、電力アウトプットが不十分である場合または1つ以上の電解セルの運転が不要である場合には、1つ以上の電解セルの設定点を低下させるステップと、である。
【0034】
本明細書で使用される場合、「一次電力」は、最初の例の電力源を示すために使用される。これには、太陽光発電、風力発電、水力発電、その他の再生可能資源の1つ以上が含まれ得るが、これらに限定されない。また、任意選択により、より大規模なグリッドなど、より従来型の電源からの電力が含まれたり、構成されたりする。2つ以上の電源、すなわち、ソーラーパネルと風力発電機が一次電源とみなされてもよい。
【0035】
本明細書で使用される場合、「マイクログリッド」という用語は、本発明の態様にかかるシステムに関して使用される。システムは、複数の電解槽と、その性能パラメータを測定する現場診断手段にそれぞれが対応付けられる複数の電解槽と、実質的に前述のとおりである制御システムと、を備えるが、それに限定されない。
【0036】
本明細書で使用される場合、「電解槽」という用語は、「モジュール型デバイス」および/または「セル」もしくは「電解セル」という用語と互換的に使用される場合がある。ここで、「セル」もしくは「電解セル」は、あらゆる形態の電気化学セルを含む。1つ以上の電解槽と(任意選択による)他のモジュール型デバイスは、「一次負荷」(1つまたは複数)または単に「負荷」(1つまたは複数)と呼ばれる場合がある。追加的に、複数のモジュール型デバイス(通常は電気化学スタック)からなる複数の連続体(ストリング)であって、各連続体が、現場診断のための手段を共有する多数のスタックである連続体にも言及する。
【0037】
本明細書で使用される場合、「コンピュータ」、「プロセッサ」、「演算手段」、および「処理手段」という用語は、パーソナルコンピュータ(personal computer:PC)、ラップトップコンピュータ、スマートフォン、タブレットコンピューティングデバイスなど、データ処理能力または演算能力を有する任意のデバイスを含むことを意図するが、必ずしもこれらに限定されない。制御システムも演算手段の一形態であるため、本明細書において、これらの用語は、制限なく同義に使用される場合がある。
【0038】
本明細書で使用される場合、「ユーザ」という用語は、管理者、システムインテグレータ、監督者、所有者など、システムに関連する任意の人を指すために使用される場合があるが、必ずしもこれらに限定されない。ユーザは、システムの制御に関心を持つ個人でもよいし、実際、関心を持つ人々のグループ、企業、または組織でもよい。
【0039】
本明細書で使用される場合、「デバイスの列」は、複数のモジュール型電解槽を指すために使用される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「接続」という用語は、有線データ伝送接続、Bluetooth(登録商標)、またはWi-Fiなど、物理的(有線)または無線データ接続のいずれかを指すことができるが、必ずしもこれらに限定されない。ある構成要素から別の構成要素へデータまたは情報を通信するためのあらゆる手段が接続を構成し得る。
【0041】
本明細書で使用される場合、「通信可能な接続」という用語は、IoT、Wi-Fi、Bluetooth(登録商標)または物理的な有線接続などの、情報を送信することができるデータ接続システムまたはネットワークを指すために使用される。本明細書では、異なるプロトコルで動作するデバイス間の通信を容易にするために、ゲートウェイなどの手段が開示される。代替案には、プログラマブルロジックコントローラ(programmable logic controller:PLC)などがある。
【0042】
本明細書で使用される場合、「現場診断手段」とは、個々の電解槽、より一般的には、1つ以上の一次負荷の健全性や状態を評価する機器手段または方法であれば、どのようなものを指してもよい。このような現場診断手段および関連する診断機器は、より詳細に後述される。
【0043】
なお、一次電源と「負荷」について説明したが、一次電源だけでは生成に必要な電力が不十分な場合に、アウトプットされる産生物(通常は水素)が必要とされるのであれば、一次電源を補完するために二次電源を使用してもよい。二次電源は、他のグリッド、発電機、または電力を供給することができる他のシステムでもよい。二次負荷には、電化製品など、電力を必要とするどのような機器が含まれてもよい。電池は、二次電源と二次負荷の両方を形成し得るが、この場合、制御システムは、電池が所定の閾値を下回らないように構成されてもよい。
【0044】
バランスオブプラントに関連する問題は、当業者であれば容易に理解できるであろうから、本願ではバランスオブプラントのすべてを深く論じるものではないことに留意されたい。
【0045】
好ましい実施形態では、1つ以上の電力源は、太陽光発電、風力発電、水力発電など再生可能資源であるが、これらに限定されない。本発明は、限定的ではないが、再生可能エネルギ源の一般的な特徴である、断続的、一貫性がない、および/または変化しやすい電力源での使用に特に適している。
【0046】
1つ以上の一次電源に加えて、代替電源が使用され得ることが想定される。代替電源は、全国規模またはより地域的な「マイクログリッド」規模の別のグリッドへの接続でもよい。実際、1つ以上の電池またはエネルギ貯蔵のための他の手段が、代替電源として採用されてもよい。また、1つの電池や電池の列を代替負荷として使用し得ることも想定される。代替負荷、特に代替電源にもなり得るものには、Li系、Na/Zn/Al系、レドックスフローを用いた電池などの電気化学的エネルギ貯蔵デバイスが含まれるが、必ずしもこれに限定されるものではなく、代わりに、スーパーキャパシタやウルトラキャパシタなどのキャパシタを用いてもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
好ましい実施形態では、複数の電解槽を形成する電解槽(または「負荷」)は、AEM電解槽でもよい。さらに好ましくは、それらの少なくともいくつかは、実質的に乾燥したカソード区画で動作するように構成されたAEM電解槽を備えてもよい。しかし、本発明を、完全な負荷としての複数の電解槽に限定することは意図されていない。実際、マイクログリッドがより大きなグリッドに統合される場合、他のエネルギを必要とするデバイスが他の負荷を構成することがある。他の負荷は、家庭用または商業用電化製品、照明、産業機械などであるが、これらに限定されない。前述のとおり、負荷は代替電源として機能してもよい。
【0048】
1つ以上の一次電源が、ある時点で、電解槽の列で使用できる以上の電力を供給することが想定される。このような電力を削減して無駄にする代わりに、供給された電力に対して1つ以上の代替負荷を供給することが好ましい。そのような代替負荷は、1つ以上の電池、電力グリッド、家庭、または他の電力を必要とするデバイス/システムなどであるが、必ずしもこれらに限定されない。好ましくは、制御システムは、プロセッサの制御の下、需要側の応答と、代替負荷または電池の利用とを制御するように構成される。
【0049】
好ましい実施形態では、1つ以上の電源、つまり、一次および二次電源の一方または両方からの利用可能な電力を測定および/または監視するために、1つまたは複数の手段が設けられる。追加的に、制御手段のために、電力伝送のための手段として、代替電源(1つまたは複数)と代替負荷(1つまたは複数)とに接続されてもよい。好ましくは、制御システムは、測定された電力利用可用性に基づいて、電力を正しい1つ以上の負荷に振り向けることができる信号を生成するように構成される。
【0050】
再生可能エネルギの例では、制御システムは、気象予報データを利用することにより、1つ以上の電源からの利用可能な電力を予測するように構成されてもよい。こうした付加情報を活用することが、マイクログリッドシステムの反応時間をさらに短縮することに役立つ。さらに別の、1つ以上の電源からの利用可能な電力を予測する手段が設けられる構成が想定される。デバイスの列の反応速度を上げるために、代替電源経由で1つ以上の負荷のランピングを行い得る。予測する手段の例としては、風速予測や、日の出および日の入りと組み合わせた雲量などがある。また、予測された条件と、風速と風力タービンからの電力、雲量、ソーラーパネルアウトプット、潮汐状態、水力発電による電力などの関連供給源から得られる電力と、を記録する手段が想定される。そのような実施形態では、デバイスの列をより正確に運転するために、予測条件と得られる電力とを比較する手段と、代替負荷と、代替電力源と、を設けることが想定される。
【0051】
本発明の一態様にかかるマイクログリッドシステムでは、複数の異なるデバイスが利用されてもよい。したがって、制御システムは、複数の異なるソースから受信したデータに従ってマイクログリッドを制御するために使用されてもよい。PLCが使用されてもよいが、異なるプロトコルを使用するデバイスとの通信を可能にするためにゲートウェイを使用することが好ましい。
【0052】
1列のまたは複数の電解槽において、電解槽をピーク容量の数分の1で動作させることが可能である。例えば、1つの電解槽を全力にする代わりに、2つの電解槽を半分のアウトプット、または3つの電解槽を3分の1のアウトプットにすることなどが可能である。電解槽などのデバイスでは、このような運転により劣化速度を抑えられ、それにより列を構成するデバイスの寿命を延ばすことができる。
【0053】
このように、複数の電解槽に含まれる電解槽は、同じ容量で動作することに限定されなくてもよい。様々な理由から、いくつかの電解槽は様々な容量で動作させることが望ましい場合がある。そのような理由には、異なる容量で最大効率を達成することや、保守が終了するまで一部のデバイスを休止させることなどがある。必要であれば、制御システムは、プロセッサの制御の下、そのような動作を支援するとともに、所定のアウトプット閾値を満たしながらそのような動作が達成可能か否かを決定するためにマイクログリッドの性能を監視するように構成されることが好ましい。所望の(所定の)アウトプットが最大効率で達成され得ない場合、ユーザに警告が提示されてもよい。
【0054】
本発明の一態様によるマイクログリッドシステムで使用され得る現場診断手段の例は、より詳細に後述される。
【0055】
複数の電解槽、特にPEM電解槽とAEM電解槽とは、一般にスタックを構成し、各スタックは複数のセルを有する。分極曲線を生成することにより、セル、セル群、またはスタック全体の健全性を決定できる。これは事情に応じて行われることもあるが、マイクログリッドシステムは、所定の間隔および/または特定の節目で診断を実行できることが有益である。本発明は、分極曲線の使用が現場診断のための手段としての限定を意図するものではない。別の方法には、設定した電流で各セルまたは複数のセルの電位を測定する方法がある。追加的に、電源に基づく実際のアウトプットと予測されるアウトプットとの比較のための手段を設けることもできる。複数の現場診断手段を利用する場合、それぞれの現場診断手段を単独で、または組み合わせて利用することができる。
【0056】
分極曲線を生成する上記の例示的な実施形態では、適切な手段が含まれるものとする。電解スタックは、複数のセルから構成されて、各セルはバイポーラプレートにより隔てられている。想定されるセルスタックの順番は、バイポーラプレート、アノード、電解膜、カソード、バイポーラプレートであり、それがスタック内のセルの総数分繰り返される。バイポーラプレートと触媒層の間には、ガス拡散層(gas diffusion layer:GDL)を単独で、またはマイクロポーラス層(microporous layer:MPL)を組み込んで配置してもよい。耐圧性などの機械的な理由から、複数のエンドプレートを設けてもよい。それらのエンドプレートは、バイポーラプレートとして機能してもよいし、バイポーラプレートと絶縁されて別個の構成要素とされてもよい。制御システムにより生成される分極曲線は、単一セルまたはセル群のデータを用いて導出され得ることが想定されて、そのいくつかの例は、以下の詳細な説明に関連する図に示されている。バイポーラプレートまたはその同等要素には、一般に、必要なデータの測定を可能にするために、ピンなどの、導電性またはその他適切な接続手段が設けられる。ピンは、演算手段、またはスタック基板などの他の適切なデバイスに接続されてもよい。スタック基板を利用する実施形態では、スタック基板はプリント回路基板(PCB)であり、いずれにしても、制御システムに通信可能に接続されることが想定される。
【0057】
加えて、現場診断などの性能に関する測定結果についての記録および任意選択による送信のために手段が設けられることが想定される。
【0058】
各モジュール型デバイスへの対象を絞った制御と、割当どおりの電力分配とを可能にするため、複数の電解槽または電解槽の列における電解槽それぞれには識別子/コードが付与されることが想定される。この付与は、システムのセットアップ時や、デバイスの追加または交換時にのみ行われる必要がある。
【0059】
前述のとおり、現場診断のための手段が設けられる。このような手段は、電解槽または電解槽群の累積運転時間と、電解槽または電解槽群の累積停止時間と、電解槽または電解槽群が運転中に運転された容量と、電解槽または電解槽群の温度と、電解槽または電解槽群の圧力と、電解槽または電解槽群の電圧/電位と、放電時間と、放電中の電圧過渡と、電解液流量、電解液レベル、電解液の導電率、電解液ポンプ性能などのBOPに関わるデータと、のいずれか1つ以上を記録してもよい。
【0060】
上記のリストは必ずしも網羅的なものではなく、追加的または代替的に、構成要素の状態を判断または推定することができる合理的な性能または動作状態が使用されてもよい。
【0061】
事前に監視された動作状態とアウトプット(起動と停止の過渡状態を含むが必ずしもこれに限定されない)に基づき、以前の動作状態から外挿されたアウトプットを予測する手段が設けられることが想定される。
【0062】
必要に応じて、このような測定が、予め決められた間隔で現場診断手段により行われてもよく、その間隔が、ユーザにより任意に変更されてもよい。さらに、診断を開始するトリガが与えられてもよい。そのトリガは、電力供給の変更、条件の予測変更、その他想到可能なあらゆるトリガであり得る。
【0063】
上記の記録される情報は、本発明の一態様による制御システムにより列内の電解セルそれぞれのWRTを決定するために使用されることが想定される。WRTには、運転時間と、運転中の供給電力と、停止時間と、などの要因が反映されるが、これらに限定されない。
【0064】
WRTを使用してマイクログリッド全体の運転を制御する方法には様々なものがある。WRTが最も低いセルを優先してもよいが、現場診断が他のデバイスより低いWRTを持つデバイスに問題があることを示す場合、後述の「健全性(state of health:SoH)」に応じて別のデバイスを優先することが望ましい場合もある。この方法は、分極曲線などの診断技術で補ってもよい。あるデバイスにおいて保守が必要な場合、または潜在的な問題が検出された場合、そのデバイスは、WRTが低くても優先度を低くしてもよい。
【0065】
別の実施形態では、電解槽または電解セルが最後に運転されてから経過した時間にも追加の重みが与えられてもよい。電解槽の中には、頻繁に運転されなかった場合、動作の間にパージされなかった場合、または不適切に保管された場合に、劣化するものがある。例えば、電解槽は、長時間運転しないまま放置すると、膜の乾燥、腐食、または脆化などのリスクがある場合がある。
【0066】
好ましくは、上記の要因のいずれか1つ以上に基づき、WRTが最も低い電解槽が、電力を受け取る最初のモジュール型デバイスとなるように優先される。前述のとおり、複数のモジュール型デバイスの一部に電力供給されることがある場合には、システム制御手段が、電力を供給先に振り向けて、前述されたWRTおよび/または他の現場診断に基づいて、1つ以上のモジュール型デバイスに供給される電力を変更できることが想定される。
【0067】
1つ以上の電源からの電力は、交流または直流のいずれかであることが想定される。また、モジュール型デバイスの列は、交流または直流で動作することが想定される。したがって、必要な形態で電力が発生しない場合は、インバータと、整流器と、変圧器と、その他の負荷または電源と、中間的な構成要素と、の間の互換性を確保する必要な構成要素と、のうち、いずれかのデバイスを使用してもよい。実際、そのような構成要素は、複数の場所で必要とされてもよい。そのようなデバイスは、制御システムとの接続を任意に行ってもよい。
【0068】
ユーザ(システムの管理者などの人であるが、必ずしもそうではない)が、遠隔で管理されているシステムの性能を監視することを望む場合があることが想定される。性能に関連するデータを表示するダッシュボードまたはアプリケーションにアクセスするのにコンピュータを使用できる。いくつかの実施形態では、予測性能データも含まれることが想定される。
【0069】
モジュール型デバイスが電解槽である好ましい実施形態では、システムは、水素を貯蔵する手段と、水素を乾燥する手段と、水素補給ステーションと、燃料電池と、その他の水素を必要とするデバイスおよび/またはプロセスと、のうちいずれかを含むことが想定される。
【0070】
電力平衡化手段、好ましくは速効性の電力平衡化手段が設けられる。過剰な電力が供給される場合、構成要素を保護するために電力シンクが設けられてもよい。
【0071】
システムおよびシステム内の負荷を制御するために、電解槽それぞれのアウトプットを測定する手段と、電力供給に基づいてアウトプットを予測する演算手段とを使用してもよい。例えば、ある電力供給に対して、電解槽の水素生成量が想定よりも少ない場合、そのスタックに問題があることを意味する。PIDコントローラなどの制御デバイスが、追加で採用されてもよい。
【0072】
前述のシステムとしての実施形態について開示された任意選択の特徴は、実質的に前述のとおりマイクログリッドを動作させる方法に含まれて、制御され得る。
【0073】
一次電源からの利用可能な電力は、次のように計算できる。利用可能な電力=一次電源からのアウトプット×送電効率
【0074】
なお、送電効率は、直流/交流またはその逆など反転が必要な場合、その反転の効率も反映することに留意する必要がある。
【0075】
複数の電解槽への電力分配をより適切に制御するために、1つ以上の電源からの電力アウトプットの予測を実行し得ることが想定される。再生可能資源を利用する場合、これには天気予報の分析が含まれる可能性があり、その予報と実際の利用可能な電力とを関連付けるために機械学習が使用される。追加的に、PVパネルを使用した実施形態では、日中にアウトプットが低下した場合、雲が通過したためと判断してもよい。システムに通知するため、光学センサまたはユーザの入力を使ってもよい。このような場合、待機モードへの移行ではなく一時的な低減が好ましいと考えられ得る。
【0076】
水素または同等のアウトプットを継続して生成できるように、一次負荷の列である電解槽の運転を可能にするために代替電源を採用することが想定される。
【0077】
代替負荷は電池列でもよいことが想定される。電池列は、円滑で比較的安定した電力供給を確保するバッファとして使用することも可能である。また、マイクログリッド内の家電や機器は、空調、冷蔵、照明などの代替負荷でもよい。さらに別の代替負荷は、産生物の最大利用を可能にするために、より大きなグリッドや他のマイクログリッドへの接続とすることもできる。
【0078】
利用可能な電力を定期的に測定することで、利用可能な電力が同じ容量で同じ数の電解槽に電力を供給するのには十分でない事態が発生するであろう。その場合、電力の再配分および負荷のランプアップまたはランプダウンが適切に行えるようにWRTまたは同等の情報を利用できる。変化が短期的なものであることを予測が示しているのであれば、二次負荷や電力シンクを利用してもよい。このような手法は、デバイスのオンとオフのサイクルを最小限に抑えて、それによりデバイスの寿命を延ばすのに役立つ。
【0079】
WRTの補足または代替となるスタックの健全性(state of health:SoH)を判定する他の方法には、一般に、スタックを等価回路モデルに適合させる方法がある。最も単純な場合は、抵抗器要素とキャパシタ要素とを含むモデルであるが、一般的には、質量輸送の寄与も含むように構成される。一例はランデルス回路であり、質量輸送の影響を表現するためにワールブルグ成分を含んでいる。それに加えて、多孔質電極を反映させる、より一般的なキャパシタ成分である定位相成分が含まれてもよい。
【0080】
電気化学スタックについてはインピーダンススペクトルの等価回路への適合が可能であるが、より有用なデータを得るためには、スタックの等価回路への適合において、EIS、またはスタックが受動的に充放電できる回路のいずれかが必要であることが想定される。それに加えて、またはそれに代えて、定量的な分析を可能にするために、別個の放電回路のための手段が設けられて、専用放電回路により、SoHの定量的な分析が可能となる。電源の場合は、相対的で定性的なSoHの評価が可能となる。受動的充放電回路は、スタックの受動的な充放電を可能にするために必要なスイッチと抵抗器を有する。充放電の際に、結果として生じる電圧過渡を十分なサンプリング率で使用することができ、サンプリング率は、スタックを等価回路に適合させるために予め決定される。疑義を回避するためであるが、測定された電圧過渡は、予め決定された等価回路パラメータを適合させるために電圧過渡を使用する手段と組み合わされてもよい。スタック電圧過渡の特性は、特定する必要がある性能パラメータ(オーム抵抗、動力学的活動特性、質量輸送/低周波挙動など)と直接相関させることができる。これにより、ハードウェアの複雑さが増すことになるが、個々のセル要素に関連するパラメータを具体的に決定することができる。一般的に、EISには高価なポテンショスタットが複数必要であるが、そのようなポテンショスタット1つを複数の電解槽または複数列の電解槽について使用し得る。直流バイアスが交流成分(直流バイアスの±1%)とともにスタックに印加されるが、このとき、交流摂動の周波数をkHzからmHzまで掃引させ、各周波数でインピーダンスを測定して、このデータを用いてスタックを等価回路モデルに適合させることができる。ポテンショスタットを使用する場合、本明細書に記載されていないよく知られた手段により、電気化学セル、スタック、または列に接続されることになる。
【0081】
有用な情報を得ながらハードウェアの要件を簡略化する理想的な事例では、次の式で3つの主要な損失源(動力学的、オーム抵抗、および質量輸送)を分離した分極曲線のデータの変化を単に見るだけである。
(式1)
【0082】
さらに別の診断方法には、ΔV、すなわち分極曲線診断の変化の測定がある。分極曲線、つまり電圧対印加電流のグラフから、個々の電解槽やスタックにおける様々な種類の効率損失(動力学的、オーム抵抗、および質量輸送)の情報を得ることができる。一般に、電解槽は、VとIとの対数関係である動力学的損失と、VとIとの線形関係であるオーム抵抗損失により支配される。質量輸送損失は最悪の場合存在するが、一般的には、未加工の分極曲線データと「動力学的+オーム抵抗」による適合用のデータとの差としてとらえることができる。動力学的部分は、2つの適合係数(ターフェル勾配と交換電流密度と)を有し、これらはセルの電気化学反応に依存して、各電極の触媒層のSoHを反映する。オーム抵抗部分は、1つの適合係数(直流抵抗)のみ有し、膜のSoHや腐食による接触抵抗の増加などが影響する。最後に、質量輸送の部分は、一般に2つの適合係数(対数の前因子と限界電流密度)を有し、その両方が、触媒層へ向かう水および/または電極から出るガスの「抵抗」の程度を示す。質量輸送損失は、主にGDL、CL、および/または膜から生じる。
【0083】
5つの自由パラメータによる非線形曲線適合は、対応する費用をかけて処理能力を向上させればいくらか損失を軽減する可能性もあるものの、本願の場合は実際上やや難しく、定期的に実行しすぎると時間的な制約があることを考慮する。質量輸送の適合を無視して動力学と、オーム抵抗損失と、に焦点を当てると簡略化できる。適合手順のため、および精度と安定性との向上のために、オーム抵抗部分を測定して固定して、その結果、非線形曲線適合では、最初で唯一の対数項における2つの動力学的パラメータが補正されるだけにしてもよい。適合パラメータの1つ、例えば、ターフェル勾配が安定である実施形態では、そのパラメータは、変数を減らす制御ソフトウェアや方法論において固定点に設定されてもよい。しかしながら、直流抵抗または他の適切なパラメータなど、迅速に測定できるものを固定することが好ましい。完全に「オーム抵抗+動力学的」寄与のみで適合させた分極曲線の測定値との乖離は、質量輸送による制約の発生に起因すると考えられるが、この制約の発生を使用して、最大容量値を適切に定義することもできる。
【0084】
前述のオーム抵抗部分の測定方法には、EISや電流遮断があり、これらの方法では、ポテンショスタットやインピーダンスメータで一定の高周波(例えば1kHz)でインピーダンスを読み取る必要がある。従来どおり、1台のポテンショスタットが集中化されて複数のスタックに使用されてもよい。対数部分と線形部分の区別は、十分なデータがない場合、簡単にはできないことに留意する必要がある。このことは、通常、特に容量性寄与を排除するのに長い時間を必要とする非常に低い電流密度の場合に、より顕著になる。十分なデータを確保するために、より低い電流密度でより多くの測定を実施するように手段を適合させることが想定され、より低い電流密度は、最大動作容量の半分またはそれ以下である。抵抗値を直接測定する方法(例えば、EIS、電流遮断、インピーダンスメータ)ではこの数値的な問題が排除され、分極曲線を高速で記録することができ、線形または対数の傾向にかかわらず正確な数値の適合に必要な点の数がより少ない。
【0085】
本発明の好ましい実施形態では、所定の間隔、例えば、1時間-1000時間ごと、10時間-100時間ごと、100時間-500時間ごと、またはその範囲内で適切な任意の時間で分極曲線を作成する手段が設けられる。分極曲線を繰り返し作成することにより、所定の電解槽モジュールに適合した電圧損失パラメータごとに時間変化率が決定される。この知識があれば、電圧の向上は可逆的な損失から始まり、最終的には不可逆的な損失になる場合があるため、壊滅的な故障の前に個々のモジュールの問題を発見するとともに、システム全体の寿命を延ばすために、対応する重み因子をモジュールに付与することができる。このデータは、SoHの要因を考察するために当該または各WRTに組み込んでもよい。
【0086】
消費される産生物を生成するために電解セルが使用される実施形態では、制御手段が、消費される分だけ生成されるような速度で1つ以上のセルに必要な電力を振り向けるように構成され得ることが想定される。これは、予め決められるか、ユーザにより入力されるか、他のメカニズムにより設定されるか、のいずれでもよい。それに代えて、産生物の貯蔵部が満杯になったとき、安全に貯蔵できる分を超えて生成しないように、制御手段が電力の供給を支援してもよい。
【0087】
予期せぬ電力変動が発生した場合、需要側反応(demand side response:DSR)を使用し得ることが想定される。そのような変動事例は、部品の損傷、天候の予期せぬ変化、または電解槽を稼働する要件の変化から生じることがある。代替案には、電力シンクなどの削減手段の利用がある。
【0088】
前述の方法には、収集されたデータを、アプリ、ウェブベース、または別の方法で接続された演算手段を介してユーザが閲覧できるようにする、任意の追加ステップがある。
【0089】
産生物の需要が一次電源から供給可能な量を超える場合、制御システムは、一次電源を補完するように、代替電源または電池列からの電力を必要に応じて供給するように構成されてもよい。産生物を貯蔵する手段がない場合、利用可能な電力は、需要に応じて電池列などの代替負荷に振り向けることができる。あるいは、電池や電池列の残量が少ない場合は、電池列に電力を再度振り向けることもできる。それらの電池がシステムのユーザまたは設計者により定められた所定の充電率(寿命を延ばすもの)または設定電力量を下回らないように、所定の閾値を取り入れ得ることが想定される。
【0090】
ここでは、本発明にかかるシステムの具体的な実施形態例について概説する。
【0091】
WRT時間の計算例
一般に、基本的なWRTは、次の基本式で算出できる。
WRT=割合電力(percentage power)×当該電力での時間
【0092】
電解槽は様々な入力で運転する場合があり、定常状態ごとに計算を繰り返さなければならない場合がある。さらに別の選択肢は、電解槽のランプアップとランプダウン時の動作を説明するために統合することである。
100%で100時間運転されたEL1:WRT=100時間
50%で100時間運転されたEL2:WRT=50時間
30%で200時間運転されたEL3:WRT=60時間
【0093】
WRTのみを利用して、上記の例では、EL3の半分の時間、EL1と同じ時間運転されたにもかかわらず、WRTが最も低いEL2を優先させてもよい。電解槽は様々な負荷容量で異なる時間運転する場合があるため、これらの合計を計算してもよい。
【0094】
WRTは、予測手段によりさらに補足されてもよい。また、任意選択として、それに加えて温度センサによりさらに補足されてもよい。電解槽は、稼働させるランプアップに時間を要する。このランプアップ過程で電力が無駄になるのは好ましくない。温度センサを利用すれば、必要なところに加熱をしたり、または所定の動作可能範囲により近いデバイスを優先したりすることで、より正確な制御が可能となる。
【0095】
電解槽それぞれは独立した構成単位でもよいが、一実施形態では、複数の電解槽スタックがマルチコアシステムの一部を構成することが想定される。マルチコアまたはマルチクラスタは、共有BOPが存在する複数の電解槽スタックを有する。
【図面の簡単な説明】
【0096】
本発明の理解を助けるために、添付の図面を参照しながら、その具体的な実施形態を例示的に説明する。
【
図1】
図1は、例示的なマイクログリッドの模式図である。
【
図2A】
図2Aは、例示的な代替マイクログリッドを模式的に示す。
【
図2B】
図2Bは、例示的な代替マイクログリッドを模式的に示す。
【
図4】
図4は、
図1および2に示された例示的な電解列の一例を模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、例示的な電解スタックの模式図である。
【
図6A】
図6Aは、
図5に示されたスタックに見られるセル配置の一例を模式的に示す。
【
図6B】
図6Bは、
図5に示されたスタックに見られるセル配置の一例を模式的に示す。
【
図8】
図8は、1または複数個の電源から一次または代替の負荷に電力を分配する例示的な配置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0097】
図1を参照すると、例示的なマイクログリッドが模式的に示されている。実線は、交流または直流の送電手段、または水素の輸送手段を示す。使用時には、水素は電解槽14などの関連デバイスから水素貯蔵部15に運ばれ、さらに燃料電池16に運ばれる。すべての接続が示されているわけではない。破線は、インバータ19aおよび19bまたは電解槽14などのデバイスから制御部/ゲートウェイ13への有線または無線でもよいデータ通信接続を示す。
【0098】
図1に模式的に示された例示的なグリッドでは、再生可能エネルギ源11は、インバータ19aに給電する。生成された電力は、インバータからインバータ19bを介してバッテリ12を充電するか、1つ以上の一次負荷に電力を供給するために電解槽列14に振り向けられるか、のいずれかである。制御部13は、電解槽列14内のどの電解槽に、どの程度の容量で電力を供給するかを指示する。生成された水素は、燃料電池16に直接供給される場合もあれば、水素貯蔵タンク15に貯蔵される場合もある。生成された水素を乾燥させる手段は、説明の明確化のため図示されていない。
【0099】
水素が必要な場合、または電池の充電量が少ない場合、より大きな地域または国のグリッドなどの代替電源17からの電力が使用されてもよい。代替電源17は、必要に応じて燃料電池16または代替負荷18に電力を供給できるように接続されてもよい。代替負荷18の存在は、電力シンク(不図示)よりも好ましい。電力シンクも使用できるが、エネルギの真の浪費をもたらすので、明らかに望ましくない。
【0100】
電解槽列14は、本明細書に記載され後続の図面に示されているように、現場診断を有益に利用することが可能である。このような現場診断は、マイクログリッドの制御原理を所定の時間間隔でリアルタイムに適応するために使用される。
【0101】
図2Aは、代替的なマイクログリッド構造を示す。本実施形態では、図に見られるように、
図1に示された実施形態と比較して、代替および追加の構成要素が存在する。本実施形態では、再生可能電源21または代替電源27のいずれかにより電力が生成される。電力は、電力測定分配制御ブロック29により経路が指定される。電力は、この制御ブロック29により、バッファとして機能する電池列22と、貯蔵のための代替手段とを介して、代替負荷28または電解槽列14のいずれかに振り向けられてもよい。
図1と同様に、電解槽列14で生成された水素は、直接、燃料電池26に振り向けられても、貯蔵タンク25に貯蔵されてもよい。
【0102】
制御部/ゲートウェイ23は、破線で示されるように、関連デバイスと通信可能に接続されている。発電量を予測する手段24が設けられる。例えば、再生可能電源21がPVパネルで構成される、またはPVパネルを含む場合、この目的のために照度センサが使用できる。
【0103】
図2Bでは、さらに別の例示的なマイクログリッド構造を見られる。この配置は、
図1および
図2Aのマイクログリッド構造の組み合わせと考えてよい。
【0104】
図3および
図4は、いずれも、電解槽列14の配置例を模式的に示す。現場診断への接続は(説明の明確化のため)図示されていないが、センサ33a、33b、33cと、センサ44a、44b、44cと、への接続は図示されている。まず、
図3を参照すると、必要に応じて、インバータ31aと、31bと、31cと、を介して電解槽34aと、34bと、34cと、に電力が供給される。また、任意選択としてのみ含まれるものであるが、電解槽への安定した電力供給を保証する電力平衡化手段/バッファ32aと、32bと、32cと、が示されている。電解槽に接続されるセンサ33aと、33bと、33cと、は、温度および/または圧力の測定用のセンサである。各デバイス(すなわち、各電解槽34a、34b、34c、平衡化手段/バッファ32a、32b、32c、電源31a、31b、31c)は、各電解槽にエネルギを割り当てるために使用する現場診断と同様に、制御部/ゲートウェイ30に通信可能に接続される。前述のとおり、各電解槽は異なる負荷を受けてもよい。水素は各電解槽からアウトプットされて、貯蔵、燃料電池、またはその他の用途に充てられる。
【0105】
図4は、より無駄のない効率的な手法である点で
図3と異なる。電力は、電解槽44a、44b、44cに直接送られる前に、(任意選択の)インバータ41を経由して供給される。センサ43aと、43bと、43cと、は、
図3の配置と同様に電解槽に接続され、センサにより収集されたデータは、制御部/ゲートウェイ40に伝達される。電池などの平衡化手段、または電力シンク42が設けられる。生成された水素は、
図3に関して前述されたように扱われる。
【0106】
図5を参照すると、現場診断用に構成された電解槽列14で使用され得るような電解槽スタック50が模式的に示されている。スタックは、エンドプレート51aと51bとにより境界付けられていることがわかる。エンドプレートの間には複数のセル60が配置される。各セル60の構成は
図6Aと
図6Bとに見られるとともに、以下に、より詳細に説明される。各セル60の境界部分には、バイポーラプレート52が配置されている。前述のとおりに現場診断を行うために、ピン53がバイポーラプレート52に接続されている。ピンは、診断を行うためにスタック基板(不図示)に接続されており、その診断の結果が制御部/ゲートウェイに伝達されて、各スタック50への負荷配分を決定するために使用される。
【0107】
前述のとおり、現場診断のための手段が設けられる。そのような手段は、電解槽または電解槽群の累積運転時間と、電解槽または電解槽群の累積停止時間と、電解槽または電解槽群が運転中に運転された容量と、電解槽または電解槽群の温度と、電解槽または電解槽群の圧力と、電解槽または電解槽群の電圧/電位と、電解液流量、電解液レベル、電解液の導電率、ポンプ性能などのプラントバランスに関わるデータと、のいずれか1つ以上を記録してもよい。
【0108】
上記のリストは必ずしも網羅的なものではなく、追加的または代替的に、構成要素の状態を判断または推定することができる合理的な性能または動作状態が使用されてもよい。
【0109】
以前に監視された動作状態とアウトプットに基づき、以前の動作状態から外挿されたアウトプットを予測する手段が提供されることが想定される。
【0110】
必要に応じて、このような測定が、予め決められた間隔で現場診断手段により行われてもよく、その間隔が、ユーザにより任意に変更されてもよい。さらに、診断を開始するトリガが与えられてもよい。そのトリガは、電力供給の変更、条件の予測変更、その他想到可能なあらゆるトリガであり得る。
【0111】
上記の記録される情報は、本発明の一態様による制御システムにより列内の電解セルそれぞれのWRTを決定するために使用されることが想定される。WRTには、運転時間と、運転中の供給電力と、停止時間と、などの要因が反映されるが、これらに限定されない。
【0112】
WRTを使用してマイクログリッド全体の運転を制御する方法には様々なものがある。WRTが最も低いセルを優先してもよいが、現場診断が他のデバイスより低いWRTを持つデバイスに問題があることを示す場合、後述の「健全性(State Of Health:SoH)」に応じて別のデバイスを優先することが望ましい場合もある。この方法は、分極曲線などの診断技術で補ってもよい。あるデバイスにおいて保守が必要な場合、または潜在的な問題が検出された場合、そのデバイスは、WRTが低くても優先度を低くしてもよい。
【0113】
別の実施形態では、電解槽または電解セルが最後に運転されてから経過した時間にも追加の重みが与えられてもよい。電解槽の中には、頻繁に運転されなかった場合、動作の間にパージされなかった場合、または不適切に保管された場合に、劣化するものがある。例えば、電解槽は、長時間運転しないまま放置すると、膜の乾燥、腐食、または脆化などのリスクがある場合がある。
【0114】
好ましくは、上記の要因のいずれか1つ以上に基づき、WRTが最も低い電解槽が、電力を受け取る最初のモジュール型デバイスとなるように優先される。前述のとおり、複数のモジュール型デバイスの一部に電力供給されることがある場合には、システム制御手段が、電力を供給先に振り向けて、前述されたWRTおよび/または他の現場診断に基づいて、1つ以上のモジュール型デバイスに供給される電力を変更できることが想定される。
【0115】
1つ以上の電源からの電力は、交流または直流のいずれかであることが想定される。また、モジュール型デバイスの列は、交流または直流で動作することが想定される。したがって、必要な形態で電力が発生しない場合は、インバータと、整流器と、変圧器と、その他の負荷または電源と、中間的な構成要素と、の間の互換性を確保する必要な構成要素と、のうち、いずれかのデバイスを使用してもよい。実際、そのような構成要素は、複数の場所で必要とされてもよい。そのようなデバイスは、制御システムとの接続を任意に行ってもよい。
【0116】
ユーザ(システムの管理者などの人であるが、必ずしもそうではない)が、遠隔で管理されているシステムの性能を監視することを望む場合があることが想定される。性能に関連するデータを表示するダッシュボードまたはアプリケーションにアクセスするのにコンピュータを使用できる。いくつかの実施形態では、予測性能データも含まれることが想定される。
【0117】
モジュール型デバイスが電解槽である好ましい実施形態では、システムは、水素を貯蔵する手段と、水素を乾燥する手段と、水素補給ステーションと、燃料電池と、その他の水素を必要とするデバイスおよび/またはプロセスと、のうちいずれかを含むことが想定される。
【0118】
電力平衡化手段、好ましくは速効性の電力平衡化手段が設けられる。過剰な電力が供給される場合、構成要素を保護するために電力シンクが設けられてもよい。
【0119】
システムおよびシステム内の負荷を制御するために、電解槽それぞれのアウトプットを測定する手段と、電力供給に基づいてアウトプットを予測する演算手段とを使用してもよい。例えば、ある電力供給に対して、電解槽の水素生成量が想定よりも少ない場合、そのスタックに問題があることを意味する。PIDコントローラなどの制御デバイスが、追加で採用されてもよい。
【0120】
前述のシステムとしての実施形態について開示された任意選択の特徴は、実質的に前述のとおりマイクログリッドを動作させる方法に含まれて、制御され得る。
【0121】
一次電源からの利用可能な電力は、次のように計算できる。
利用可能な電力=一次電源からのアウトプット×送電効率
【0122】
なお、送電効率は、直流/交流またはその逆など反転が必要な場合、その反転の効率も反映することに留意する必要がある。
【0123】
複数の電解槽への電力分配をより適切に制御するために、1つ以上の電源からの電力アウトプットの予測を実行し得ることが想定される。再生可能資源を利用する場合、これには天気予報の分析が含まれる可能性があり、その予報と実際の利用可能な電力とを関連付けるために機械学習が使用される。追加的に、PVパネルを使用した実施形態では、日中にアウトプットが低下した場合、雲が通過したためと判断してもよい。システムに通知するため、光学センサまたはユーザの入力を使ってもよい。このような場合、待機モードへの移行ではなく一時的な低減が好ましいと考えられ得る。
【0124】
水素または同等のアウトプットを継続して生成できるように、一次負荷の列である電解槽の運転を可能にするために代替電源を採用することが想定される。
【0125】
代替負荷は電池列でもよいことが想定される。電池列は、円滑で比較的安定した電力供給を確保するバッファとして使用することも可能である。また、マイクログリッド内の家電や機器は、空調、冷蔵、照明などの代替負荷でもよい。さらに別の代替負荷は、産生物の最大利用を可能にするために、より大きなグリッドや他のマイクログリッドへの接続とすることもできる。
【0126】
利用可能な電力を定期的に測定することで、利用可能な電力が同じ容量で同じ数の電解槽に電力を供給するのには十分でない事態が発生するであろう。その場合、電力の再配分および負荷のランプアップまたはランプダウンが適切に行えるようにWRTまたは同等の情報を利用できる。変化が短期的なものであることを予測が示しているのであれば、二次負荷や電力シンクを利用してもよい。このような手法は、デバイスのオンとオフのサイクルを最小限に抑えて、それによりデバイスの寿命を延ばすのに役立つ。
【0127】
WRTの補足または代替となるスタックの健全性(state of health:SoH)を判定する他の方法には、一般に、スタックを等価回路モデルに適合させる方法がある。最も単純な場合は、抵抗器要素とキャパシタ要素とを含むモデルであるが、一般的には、質量輸送の寄与も含むように構成される。一例はランデルス回路であり、質量輸送の影響を表現するためにワールブルグ成分を含んでいる。それに加えて、多孔質電極を反映させる、より一般的なキャパシタ成分である定位相成分が含まれてもよい。
【0128】
電気化学スタックについてはインピーダンススペクトルの等価回路への適合が可能であるが、より有用なデータを得るためには、スタックの等価回路への適合において、EIS、またはスタックが受動的に充放電できる回路のいずれかが必要であることが想定される。受動的充放電回路は、スタックの受動的な充放電を可能にするために必要なスイッチと抵抗器を有する。充放電の際に、結果として生じる電圧過渡を十分なサンプリング率で使用することができ、サンプリング率は、スタックを等価回路に適合させるために予め決定される。疑義を回避するためであるが、測定された電圧過渡は、予め決定された等価回路パラメータを適合させるために電圧過渡を使用する手段と組み合わされてもよい。スタック電圧過渡の特性は、特定する必要がある性能パラメータ(オーム抵抗、動力学的活動特性、質量輸送/低周波挙動など)と直接相関させることができる。これにより、ハードウェアの複雑さが増すことになるが、個々のセル要素に関連するパラメータを具体的に決定することができる。一般的に、EISには高価なポテンショスタットが複数必要であるが、そのようなポテンショスタット1つを複数の電解槽または複数列の電解槽について使用し得る。直流バイアスが交流成分(直流バイアスの±1%)とともにスタックに印加されるが、このとき、交流摂動の周波数をkHzからmHzまで掃引させ、各周波数でインピーダンスを測定して、このデータを用いてスタックを等価回路モデルに適合させることができる。ポテンショスタットを使用する場合、本明細書に記載されていないよく知られた手段により、電気化学セル、スタック、または列に接続されることになる。
【0129】
別の実施形態では、シャットダウン中の電解槽の放電電圧過渡のみを電源を介して使用して、外部の専用受動放電回路を完全にバイパスすることができる。スタックの「アイドル」放電の特性は、乾式カソードへのガスまたは電解液の漏れの可能性を示す追加情報ととともに、先に述べた電気化学的観測値の多くの影響を受ける。特に、あるガス種が完全に消費された場合、主にH2であるラインに微量のO2が存在することが、特徴的な電圧応答として現れ得る。このような混合電位は、燃料電池業界ではよく知られているが、水素酸化反応(hydrogen oxidation reaction:HOR)と酸素還元反応(oxygen reduction reaction:ORR)の両方に対して少なくとも部分的に活性を持つ任意の触媒層にも拡大することができる。このように、H2ガス処理ラインの水素の品質は、間接的ではあるが、電解槽の電気化学的および機械的な密閉状態の健全性と並行して推測することができる。
【0130】
有用な情報を得ながらハードウェアの要件を簡略化する理想的な事例では、次の式で3つの主要な損失源(動力学的、オーム抵抗、および質量輸送)を分離した分極曲線のデータの変化を単に見るだけである。
(式2)
【0131】
さらに別の診断方法には、ΔV、すなわち分極曲線診断の変化の測定がある。分極曲線、つまり電圧対印加電流のグラフから、個々の電解槽やスタックにおける様々な種類の効率損失(動力学的、オーム抵抗、および質量輸送)の情報を得ることができる。一般に、電解槽は、VとIとの対数関係である動力学的損失と、VとIとの線形関係であるオーム抵抗損失により支配される。質量輸送損失は最悪の場合存在するが、一般的には、未加工の分極曲線データと「動力学的+オーム抵抗」による適合用のデータとの差としてとらえることができる。動力学的部分は、2つの適合係数(ターフェル勾配と交換電流密度と)を有し、これらはセルの電気化学反応に依存して、各電極の触媒層のSoHを反映する。オーム抵抗部分は、1つの適合係数(直流抵抗)のみ有し、膜のSoHや腐食による接触抵抗の増加などが影響する。最後に、質量輸送の部分は、一般に2つの適合係数(対数の前因子と限界電流密度)を有し、その両方が、触媒層へ向かう水および/または電極から出るガスの「抵抗」の程度を示す。質量輸送損失は、主にGDL、CL、および/または膜から生じる。
【0132】
5つの自由パラメータによる非線形曲線適合は、対応する費用をかけて処理能力を向上させればいくらか損失を軽減する可能性もあるものの、本願の場合は実際上やや難しく、定期的に実行しすぎると時間的な制約があることを考慮する。質量輸送の適合を無視して動力学と、オーム抵抗損失と、に焦点を当てると簡略化できる。適合手順のため、および精度と安定性との向上のために、オーム抵抗部分を測定して固定して、その結果、非線形曲線適合では、最初で唯一の対数項における2つの動力学的パラメータが補正されるだけにしてもよい。適合パラメータの1つ、例えば、ターフェル勾配が安定である実施形態では、そのパラメータは、変数を減らす制御ソフトウェアや方法論において固定点に設定されてもよい。しかしながら、直流抵抗または他の適切なパラメータなど、迅速に測定できるものを固定することが好ましい。完全に「オーム抵抗+動力学的」寄与のみで適合させた分極曲線の測定値との乖離は、質量輸送による制約の発生に起因すると考えられるが、この制約の発生を使用して、最大容量値を適切に定義することもできる。
【0133】
前述のオーム抵抗部分の測定方法には、EISや電流遮断があり、これらの方法では、ポテンショスタットやインピーダンスメータで一定の高周波(例えば1kHz)でインピーダンスを読み取る必要がある。従来どおり、1台のポテンショスタットが集中化されて複数のスタックに使用されてもよい。対数部分と線形部分の区別は、十分なデータがない場合、簡単にはできないことに留意する必要がある。このことは、通常、特に容量性寄与を排除するのに長い時間を必要とする非常に低い電流密度の場合に、より顕著になる。十分なデータを確保するために、より低い電流密度でより多くの測定を実施するように手段を適合させることが想定され、より低い電流密度は、最大動作容量の半分またはそれ以下である。抵抗値を直接測定する方法(例えば、EIS、電流遮断、インピーダンスメータ)ではこの数値的な問題が排除され、分極曲線を高速で記録することができ、線形または対数の傾向にかかわらず正確な数値の適合に必要な点の数がより少ない。
【0134】
本発明の好ましい実施形態では、所定の間隔、例えば、1時間-1000時間ごと、10時間-100時間ごと、100時間-500時間ごと、またはその範囲内で適切な任意の時間で分極曲線を作成する手段が設けられる。分極曲線を繰り返し作成することにより、所定の電解槽モジュールに適合した電圧損失パラメータごとに時間変化率が決定される。この知識があれば、電圧の向上は可逆的な損失から始まり、最終的には不可逆的な損失になる場合があるため、壊滅的な故障の前に個々のモジュールの問題を発見するとともに、システム全体の寿命を延ばすために、対応する重み因子をモジュールに付与することができる。このデータは、SoHの要因を考察するために当該または各WRTに組み込んでもよい。
【0135】
消費される産生物を生成するために電解セルが使用される実施形態では、制御手段が、消費される分だけ生成されるような速度で1つ以上のセルに必要な電力を振り向けるように構成され得ることが想定される。これは、予め決められるか、ユーザにより入力され得るか、他のメカニズムにより設定され得るか、のいずれでもよい。それに代えて、産生物の貯蔵部が満杯になったとき、安全に貯蔵できる分を超えて生成しないように、制御手段が電力の供給を支援してもよい。
【0136】
予期せぬ電力変動が発生した場合、需要側反応(demand side response:DSR)を使用し得ることが想定される。そのような変動事例は、部品の損傷、天候の予期せぬ変化、または電解槽を稼働する要件の変化から生じることがある。代替案には、電力シンクなどの削減手段の利用がある。
【0137】
前述の方法には、収集されたデータを、アプリ、ウェブベース、または別の方法で接続された演算手段を介してユーザが閲覧できるようにする、任意の追加ステップがある。
【0138】
産生物の需要が一次電源から供給可能な量を超える場合、制御システムは、一次電源を補完するように、代替電源または電池列からの電力を必要に応じて供給するように構成されてもよい。産生物を貯蔵する手段がない場合、利用可能な電力は、需要に応じて電池列などの代替負荷に振り向けることができる。あるいは、電池や電池列の残量が少ない場合は、電池列に電力を再度振り向けることもできる。それらの電池がシステムのユーザまたは設計者により定められた所定の充電率(寿命を延ばすもの)または設定電力量を下回らないように、所定の閾値を取り入れ得ることが想定される。
【0139】
ここでは、本発明に係るシステムの具体的な実施形態例について概説する。
【0140】
WRT時間の計算例
一般に、基本的なWRTは、次の基本式で算出できる。
WRT=割合電力×当該電力での時間
【0141】
電解槽は様々な入力で運転する場合があり、定常状態ごとに計算を繰り返さなければならない場合がある。さらに別の選択肢は、電解槽のランプアップとランプダウン時の動作を説明するために統合することである。
100%で100時間運転されたEL1:WRT=100時間
50%で100時間運転されたEL2:WRT=50時間
30%で200時間運転されたEL3:WRT=60時間
【0142】
WRTのみを利用して、上記の例では、EL3の半分の時間、EL1と同じ時間運転されたにもかかわらず、WRTが最も低いEL2を優先させてもよい。電解槽は様々な負荷容量で異なる時間運転する場合があるため、これらの合計を計算してもよい。
【0143】
WRTは、予測手段によりさらに補足されてもよい。また、任意選択として、それに加えて温度センサによりさらに補足されてもよい。電解槽は、稼働させるランプアップに時間を要する。このランプアップ過程で電力が無駄になるのは好ましくない。温度センサを利用すれば、必要なところに加熱をしたり、または所定の動作可能範囲により近いデバイスを優先したりすることで、より正確な制御が可能となる。
【0144】
図6Aおよび
図6Bは、スタック50に使用され得るセル60の2つの例を模式的に示す。各タイプのセル60は、バイポーラプレート61aおよび61bにより境界付けられており、最初のバイポーラプレート61aから、アノード62、膜64、カソード63、次のバイポーラプレート61b、の順に配置される。これらの図では、説明の明確化のため、ピンは図示されていない。
図6Bのセル配置は、バイポーラプレート61aとアノード62との間にガス拡散層(gas diffusion layer:GDL)65aが配置される点で、
図6Aのセル配置と異なる。加えて、カソード63と2番目のバイポーラプレート61bとの間には別のGDL65bが配置される。
【0145】
図7は、前述の図に示される配置で描かれた電解スタックの負荷曲線を示すグラフである。ここに示すとおり、負荷は60%から100%の範囲であり、関係は直線的であり、ほぼ間違いなく最も効率的であることがわかる。スタックを保護するために、100%を超える負荷はかけていない。一般的に、60%以下の負荷は効率が落ちるため避けられる。
【0146】
次に、
図8を参照して、1つ以上の負荷への電力供給する代替配置を示す。ここで注目すべき違いは、電力シンク81を備えていることである。電力シンクは、そこに送られた電力が無駄になるため、明らかに理想的ではない。負荷82aと、82bと、82cと、は電解槽または代替負荷のいずれでもよい。制御部は、ここでは図示されていない。
【0147】
次に、
図9Aおよび
図9Bを参照する。
図9Aに示されるような簡単な回路は、2つのスイッチS1およびS2を有し、それによりスタックを受動的に充電または放電する。これらのスイッチは、電源などの構成要素から独立して設けることができるが、好ましい回路設計は
図9Bに示されている。好ましい回路では、V
chargeは、通常動作時に電解槽スタックが利用する電源であるため、S2のみが必要とされる。この場合、スタック健全性の診断を成立させるには、スタック放電だけで十分である。燃料電池など電気化学スタックの診断では、受動充電は約100mVで、ガス流がなく、ファラデー反応が起こらない。中間温度でのAEM水電解に等価であるのは、電気分解が起こらないようにスタックをセルあたり約1~1.2Vに分極することである。ただし、取得時間と非線形効果を減らすために、この電圧を下げることもできる。いずれの実施形態(すなわち、
図9Aまたは
図9Bの回路のいずれか)を用いてもよいが、データ解析において充電特性が同様に重要であると考えられる場合には、
図9Aに示す回路を用いることになる。
【0148】
なお、本発明は、前述された実施形態の詳細に限定されるものではない。例えば、任意の複数のモジュール型デバイスが、開示された前述の発明に記載されたとおりに制御されてもよい。
【0149】
本発明は、AEM電解槽に限定されるものではなく、本発明によるシステムにおいて別種の電解槽が使用されてもよい。
【0150】
変圧器は、本発明の精神から逸脱することなく、必要な場合に使用してもよい。そのような場合、通常の技術者であればその設置方法について熟知しているはずなので、変圧器について必ずしも完全に説明する必要はない。
【0151】
好ましい実施形態では、電解槽はAEM電解槽である。しかしながら、任意の電解槽の列が本明細書で開示されたように制御または使用されてもよいので、これは必ずしも限定的な特徴とされるものではない。
【国際調査報告】