(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-19
(54)【発明の名称】アルツハイマー病または認知機能障害治療のためのドネペジルおよびシルデナフィル併用療法{Combination Therapy of Donepezil and Sildenafil for the Treatment of Alzheimer’s Disease or Cognitive Impairment}
(51)【国際特許分類】
A61K 31/519 20060101AFI20231212BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20231212BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231212BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231212BHJP
A23L 33/10 20160101ALI20231212BHJP
【FI】
A61K31/519
A61K31/445
A61P25/28
A61P43/00 121
A23L33/10
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023551641
(86)(22)【出願日】2021-11-05
(85)【翻訳文提出日】2023-05-08
(86)【国際出願番号】 KR2021016080
(87)【国際公開番号】W WO2022098179
(87)【国際公開日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】10-2020-0146677
(32)【優先日】2020-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520214916
【氏名又は名称】ニューロライヴ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Neurorive Inc
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】イ、ソクチャン
(72)【発明者】
【氏名】チ、ヨン ハ
(72)【発明者】
【氏名】リュ、ヒョン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、ミソ
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB02
4B018LB06
4B018LB07
4B018LB08
4B018LB10
4B018MD18
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC21
4C086CB06
4C086MA02
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZA15
4C086ZA16
4C086ZC75
(57)【要約】
本発明は、アルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善のためのドネペジルおよびシルデナフィル併用療法に関するものである。本発明によるドネペジルおよびシルデナフィル併用投与は、ドネペジル単独投与に比べてアルツハイマー病または認知機能障害の改善効果に優れているので、アルツハイマー病または認知機能障害治療療法または複合剤などとして有用に活用することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および
(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩
を含むアルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善用組成物。
【請求項2】
(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6~1:2. 0である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩は、同時または異時に投与されるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩を含む、複合剤形である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
複合剤形は、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩2.5~23mg;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩2.5~50mgを含むものである、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物または食品組成物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および
(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩
を含む認知機能改善用組成物。
【請求項8】
(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6~1:2. 0である、請求項7に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルツハイマー病または認知機能障害治療のためのドネペジルおよびシルデナフィル併用療法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
認知機能障害は、思考処理過程に問題が発生したもので、推論能力の喪失、忘却、学習障害、集中力問題、知能の低下、その他の精神機能の減少を含む概念である。認知機能障害は、胎児の発育期間や出産、出産直後あるいは一生のうちのある時点に発生した疾患によって引き起こされることがあり、特に新生児や幼児は原因を明かすことができない場合もある。認知機能障害の初期原因として該当するのは、染色体異常と遺伝性症候群、栄養失調、出産前の薬物露出、鉛などの重金属汚染、低血糖症、新生児黄疸、甲状腺機能低下症、外傷または児童虐待、子宮内の酸素低下、難産若しくは早産などがある。
【0003】
認知機能障害の代表的な疾患である認知症は、正常な老化と区別される病的現象であって、その原因によってアルツハイマー性認知症(Alzheimer’s disease)、血管性認知症、その他アルコール中毒による認知症、外傷による認知症、パーキンソン病の後遺症から来る認知症などに区別される。認知症誘発疾患はアルツハイマー病が50~70%を占める。
【0004】
アセチルコリンは中枢神経系だけでなく末梢神経系でも作用する神経伝達物質である。アセチルコリンの低発現の程度は、認知機能障害が有意な役割を担っている疾患、例えば、アルツハイマー病と関連している。実際、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるドネペジル(donepezil)の投与は、アルツハイマー病における主な治療パラダイムの1つである。ドネペジルは、軽度から重度までアルツハイマー病への治療に用いられ、疾患の重症度によって1日あたり5mgから23mgまで投与することができる。アルツハイマー病に見られる認知的徴候および症状の発現には、コリン性(cholinergic)神経伝達の欠乏が一部関与することが定説であり、ここでドネペジルは、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)の可逆的阻害を通じて脳内のアセチルコリンの濃度を増加させることによって治療的効能を発揮することが推測される。しかし、ドネペジルは、唯一疾患の進行を遅らせる治療に用いられることができ、アルツハイマー病を治癒したり、疾患の進行を予防したり、中断したりする治療法はまだ明らかにされていない。また、ドネペジルはアルツハイマー病を患っているすべての人に有用なわけではなく、多くの患者にとって効果が期待できない場合がある。そこで、アルツハイマー病または認知機能障害症状をより効果的に治療し、疾病を調節/鈍化させる治療法への満たされないニーズが高い実情である。
【0005】
最近(2020年)レビュー論文によれば、中枢神経系で神経保護と神経毒性の二重特性を有するNO(nitric oxide)がアルツハイマー病に一部関与し、NO信号伝達経路の活性化は、転写因子であるCREB(cAMP response element-binding protein)のリン酸化を誘導することにより(いわゆる、NO/cGMP/PKG/CREB信号伝達経路)、アルツハイマー病動物モデルにおいて、変化した神経可塑性および記憶力の衰えを緩和することに寄与することができ、これによって、PDE5阻害剤が前記経路を活性化し、記憶障害を治癒することに用いられることが記載されている(文献[Zuccarello、Elisa、et al.「 Development of novel phosphodiesterase 5 inhibitors for the therapy of Alzheimer’s disease.」Biochemical Pharmacology 176(2020):113818.])。
【0006】
しかし、アルツハイマー病または認知機能障害症状の予防、治療または改善効果を発揮できるドネペジルとPDE5阻害剤の具体的な組み合わせと配合比は知られたところがない。そこで、本発明者はPDE5阻害剤のうちの1つであるシルデナフィル(sildenafil)とドネペジルの特定の配合比によってアルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善効果を発揮できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ドネペジルおよびシルデナフィル併用投与によるアルツハイマー病または認知機能障害の予防または治療用途を提供するものである。
【0008】
本発明のまた他の目的は、ドネペジルおよびシルデナフィル併用投与に認知機能改善用途を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく本発明を鋭意研究した結果、ドネペジルおよびシルデナフィルを併用投与した場合、ドネペジルを単独投与したときに比べてアルツハイマー病または認知機能障害の予防または治療効果が改善されたことを確認し、本発明を完成した。
【0010】
一側面において、本発明は、(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を含むアルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善用組成物を提供する。
【0011】
前記組成物において、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6~1:2.0であってもよい。
【0012】
前記組成物は、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩が同時または異時に投与されることができる。前記組成物が同時に投与される場合、組成物は、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩を含む複合剤形であってもよい。
【0013】
前記組成物が複合剤形である場合、該複合剤形は、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩2.5~23mg;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩2.5~50mgを含むことができる。
【0014】
前記組成物は、医薬組成物または食品組成物であってもよい。
【0015】
また他の一側面において、本発明は、(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を含む認知機能改善用組成物を提供する。
【0016】
前記認知機能改善用組成物において、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6~1:2.0であってもよい。
【0017】
一側面において、本発明は、有効量の(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を一緒に投与する段階を含むアルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善方法を提供する。
【0018】
一側面において、本発明は、有効量の(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を一緒に投与する段階を含む認知機能改善方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるドネペジルおよびシルデナフィルの併用投与は、ドネペジルを単独投与したときに比べてアルツハイマー病または認知機能障害改善の効果に優れているので、アルツハイマー病または認知機能障害の予防、改善または治療療法または複合剤として有用に活用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】アルツハイマー病または認知機能障害の動物モデルにおいて、ドネペジルおよびシルデナフィルを併用処理した後のシナプスの長期増強(LTP)実験を行った結果を示するものである。
【
図2A】アルツハイマー病または認知機能障害の動物モデルにおいて、ドネペジルおよびシルデナフィルを併用投与した後の水迷路実験の結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、添付された図面を参照しながら、本発明の具現例でもって本発明を詳しく説明する。ただし、以下の具現例は、本発明の例示として提示されるものであって、当業者に周知の著名な技術または構成の具体的な説明が、本発明の要旨を不要に曖昧にすると判断される場合には、その詳細な説明を省略することができ、これにより本発明が制限されるものはない。本発明は、後述する特許請求の範囲の記載およびそれから解釈される均等範疇内で様々な変形および応用が可能である。
【0022】
なお、本明細書で使用される用語(terminology)は、本発明の好ましい実施例を適切に表現するために使用される用語であり、これは、ユーザ、運用者の意図または本発明が属する分野の慣例などによって変わり得る。したがって、本用語の定義は、本明細書全体にわたる内容に基づいて行われるべきである。明細書全体において、ある部分が、ある構成要素を「含む」としたとき、これは特に相反する記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに含むことができることを意味する。
【0023】
本発明で使用される全ての技術用語は、特に断りがない限り、本発明の関連分野における通常の当業者が一般的に理解されるところと同様の意味で使用される。また、本明細書には、好ましい方法または試料が記載されているが、これと類似または同等のものらも本発明の範囲に含まれる。本明細書に参考文献として記載される全ての刊行物の内容は、本発明に組み込まれる。
【0024】
本発明者は、ドネペジルおよびシルデナフィルを併用投与した時、ドネペジルを単独投与したときに比べてアルツハイマー病または認知機能障害治療の効果が改善されたことを確認し、本発明を完成した。
【0025】
そこで、本発明は、(i)ドネペジル(donepezil)またはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を含むアルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善用組成物を提供する。
【0026】
本発明において、用語ドネペジル(donepezil)は、以下の化1で表される化合物である。
【0027】
【0028】
ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩は、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(Acetylcholinesterase inhibitors;ACEi)であって、ドネペジル塩酸塩基準1日1回5~23mgで経口投与され、アルツハイマー型認知症症状の治療に用いられることができるとして知られている。
【0029】
本発明において、用語シルデナフィル(sildenafil)は、以下の化2で表される化合物である。
【0030】
【0031】
シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩は、ホスホジエステラーゼ5(phosphodiesterase 5;PDE5)阻害剤であって、男性に1日25~50mgで投与され、勃起不全(erectile dysfunction)症状の治療に用いられることができるとして知られている。本発明において、シルデナフィルは、PDE5阻害剤として他の競合PDE阻害剤に属する薬物、例えば、PDE1阻害剤(例えば、ビンポセチン)、PDE2阻害剤(例えば、EHNA(エリスロ-9-(2-ヒドロキシ-3-ノニル)アデニン)、BAY 60-7550(2-[(3,4-ジメトキシフェニル)メチル]-7-[(1R)-1-ヒドロキシエチル]-4-フェニルブチル]-5-メチル-イミダゾ[5,1-f][1,2,4]トリアジン-4(1H)-オン)、オキシインドール、PDP(9-(6-フェニル-2-オキソヘキサ-3-イル)-2-(3,4-ジメトキシベンジル)-プリン-6-オン))、PDE3阻害剤(例えば、アナグレリド、シロスタゾール、エノキシモン、イナムリノン、ミルリノン、ピモベンダン)、PDE4阻害剤(例えば、アプレミラスト、ドロタベリン、イブジラスト、ルテオリン、メセンブリン、ピクラミラスト、ロフルミラスト、ロリプラム)、PDE6阻害剤、PDE7阻害剤(例えば、キナゾリン)、PDE8阻害剤、PDE9阻害剤、PDE10阻害剤(例えば、パパベリン)、PDE11阻害剤、PDE12阻害剤またはこれらの組み合わせと機序的に区別される。また、シルデナフィルと化学構造および機能的特性が異なるPDE5阻害剤、例えば、アバナフィル、ジピリダモール、イカリイン、タダラフィル、ウデナフィル、バルデナフィルとも区別される。
【0032】
本発明において、アルツハイマー病は、認知症の主な原因を占める神経変性疾患であって、当業界にて通用されているものと同じ意味を有する。
【0033】
本発明において、認知機能障害とはヒトの思考処理過程に問題が発生したものであり、推論能力の喪失、忘却、学習障害、集中力の問題、知能の低下、その他の精神機能の減少を含む概念である。
【0034】
本発明において、用語、薬学的に許容される塩は、患者に比較的非毒性で無害な有効作用を有する濃度であって、この塩に起因する副作用が薬理活性成分の有益な効力を低下させない任意の有機または無機付加塩を意味する。前記薬学的に許容される塩は、薬学的に許容される酸または塩基に由来する塩を含む。前記薬学的に許容される塩の製造に用いられることができる酸は、無機酸または有機酸であってもよい。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、臭素酸などを用いることができ、有機酸は、例えば、酢酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、フマリン酸、マレイン酸、マロン酸、フタル酸、コハク酸、乳酸、クエン酸、シトロン酸、グルコン酸、タルタル酸、サリチル酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、エンボン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸などを使用することができるが、これらに限定されるものではない。さらに、アラニン、グリシンなどの天然アミノ酸などを使用して製造されたアミノ酸付加塩基も本発明の薬学的に許容される塩に含まれ得る。また、前記薬学的に許容される塩の製造に使用することができる塩基は、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどであってもよいが、これらに限定されるものではない。例えば、前記ドネペジルの薬学的に許容される塩は、ドネペジル塩酸塩であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0035】
本発明の医薬組成物において、ドネペジルおよび/またはシルデナフィルの薬学的に許容される塩としては、ドネペジルおよび/またはシルデナフィルの水和物、溶媒和物も含まれることができる。前記水和物または溶媒和物は、ドネペジルおよび/またはシルデナフィルをメタノール、エタノール、アセトン、1,4-ジオキサンなどの水と混合することができる溶媒に溶かした後、遊離酸または遊離塩基を加えた後に結晶化したり、または再結晶化して形成されるものであってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のアルツハイマー病の予防または治療用医薬組成物において、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6~1:2.0であってもよい。より具体的には、本発明のアルツハイマー病の予防または治療用医薬組成物において、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は1:0.6以上または1:1以上であってもよく、1:2以下であってもよい。一実施態様において、(i)ドネペジルまたはその薬学的に許容される塩;および(ii)シルデナフィルまたはその薬学的に許容される塩の重量比は約1:1~1:1.5である。
【0037】
ドネペジル(379.5g/mol)とシルデナフィル(474.58g/mol)の分子量比は、約1:1.25であり、本明細書においてモル比と重量比は前記比率を考慮し、相互に換算して使用することができる。
【0038】
本発明者は、ドネペジルおよびシルデナフィルの組み合わせを多様な重量比でアルツハイマー病または認知機能障害の動物モデルの脳切片に処理した結果、ドネペジル単独処理群に比べてシナプス可塑性の変化が有意義に改善されたことを確認した。具体的には、本発明者は、ドネペジルおよびシルデナフィルの重量比が約1:0.6~1:2.0の区間でアルツハイマー病または認知機能障害改善の効果が優れることが確認された(
図1)。
【0039】
また、本発明者は、アルツハイマー病または認知機能障害動物行動実験である水迷路実験を通じて、ドネペジルおよびシルデナフィルを併用投与した時、アルツハイマー病または認知機能障害改善の行動学的指標が有意義に改善されたことを確認した(
図2A、
図2B)。
【0040】
具体的に、本発明の実施例において、1~2mg/kgのドネペジルおよび2mg/kgのシルデナフィルをアルツハイマーまたは認知機能障害モデルのマウスに併用投与したところ、水迷路実験の結果(
図2Aおよび
図2B)が著しく改善されたことを確認し、特に、疾患モデルのマウスに1mg/kgのドネペジルおよび2mg/kgのシルデナフィルをマウスに併用投与したところ、2mg/kgのドネペジルを単独投与した群と同様の水準でアルツハイマー病または認知機能障害の指標が改善されるという驚くべき結果を確認した(
図2Aおよび
図2B)。
【0041】
したがって、本発明にて確認された最適の動物投与用量とマウス-ヒト間用量-反応関係(dose-response relationship)およびNOAEL(No-observed-adverse-effect level)などを考慮し、ヒトおける好ましい投与用量を換算することができる。前記用量換算基準は、文献[FDA、US.「Guidance for Industry、Estimating the maximum safe starting dose in initial clinical trials for therapeutics in adult healthy volunteers.」FDA,ed (2005).]に記載されたHED(Human equivalent dose)計算法を用いることができる。前記文献に提示されたマウス-ヒト間用量換算係数は、12.3であり、マウスから確認された薬物の用量(a)を前記換算係数で割ると、a/12.3(mg/kg)の用量が導出される。一般的に医薬品は、60kgの成人を基準に作られるため、前記で導出されたa/12.3(mg/kg)の数値に60kgを乗じると約5×a(mg)の容量でヒトに投与される医薬組成物を作ることができる。したがって、本発明の実施例にて確認されたドネペジルおよびシルデナフィルの最適マウス用量比を参考にし、ヒトに投与される好ましい薬物用量比を導出することができる。
【0042】
上記のようなマウス-ヒト間用量換算公式と安全性が確立したドネペジルの用量などを総合的に考慮し、本発明のドネペジルおよびシルデナフィル併用組成物が複合剤形として提供された場合、好ましいドネペジルおよびシルデナフィルの重量を設定することができる。一実施態様において、前記複合剤形内に含まれるドネペジルの重量は2.5~23mgであり、シルデナフィルの重量は2.5~50mgである。
【0043】
本発明の医薬組成物は、治療的有効量として投与されることができる。前記治療的有効量は、効果的なアルツハイマー病または認知機能障害の予防または治療効果を発揮する薬物投与量を意味する。適切な1日の総使用量は、治療医によって正しい医学的判断内で決められることができる。特定患者に対する具体的な治療的有効量は、達成しようとする反応の種類と程度、併用投与される薬物の種類と量、場合によって他の製剤が使用されるか否かを始めとする具体的組成物、患者の年齢、体重、一般的な健康状態、性別および食餌、投与時間、投与経路、治療期間を始めとした多様な因子と医薬分野に知られた類似因子によって異に適用するのが好ましい。
【0044】
本発明の医薬組成物は、経口または非経口投与されることができ、好ましくは経口投与される。また、本発明の医薬組成物は、1以上の中枢神経系薬物と併用することができる。
【0045】
本発明の組成物において、ドネペジルとシルデナフィルは、単一用量または複数用量で、純粋な化合物として単独投与されたり、医薬的に許容可能な担体または賦形剤と一緒に投与されたりすることができる。本発明による医薬組成物は、医薬的に許容可能な担体または希釈剤のみならず、通常の技法、例えば、文献[Remington:The Science and Practice of Pharmacy、21 Edition、Hauber、Ed.、Lippincott Williams & Wilkins、2006]に開示されたものによる任意のその他の公知の補助剤および賦形剤と一緒に剤形化されることができる。
【0046】
本発明の医薬組成物は、投与のために医薬的に許容可能な担体、賦形剤および/または希釈剤などを含むことができる。前記担体、賦形剤および/または希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アカシアゴム、アルギン酸、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
本発明の医薬組成物は、当業界に広く知られた方法を用いて医薬的剤形で製造されることができる。剤形の製造において、活性成分を担体と一緒に混合または希釈化したり、容器形態の担体内に封入することができる。本発明の医薬組成物を経口投与用剤形に製造する場合、例えば、錠剤、トローチ、ロゼンジ、水溶性または油性懸濁液、調製粉または顆粒、エマルジョン、ハードまたはソフトカプセル、シロップまたはエリキシル剤に剤形化することができる。
【0048】
一側面において、本発明は、治療学的有効量のドネペジルおよびシルデナフィルを患者に投与する段階を含むアルツハイマー病または認知機能障害の予防または治療方法を提供する。また他の一側面において、本発明は、アルツハイマー病または認知機能障害の予防または治療用薬剤の製造において、ドネペジルおよびシルデナフィルの用途を提供する。前記ドネペジルおよびシルデナフィル、塩などは、前で説明した通りである。
【0049】
一側面において、本発明は、ドネペジルを含む第1製剤およびシルデナフィルを含む第2製剤を含むアルツハイマー病または認知機能障害疾患の予防、治療または改善用組合せ物を提供する。
【0050】
本発明において、組合せ物という用語は、剤形中、2個以上の活性物質の組合せ物および治療において、互いに明示された間隔で投与される活性物質の個別的な剤形の意味での組合せ物を意味する。したがって、組合せ物という用語は、本発明と関連して記載される場合、2個以上の治療学的に有効な化合物の同時-投与の臨床的実現を含む。
【0051】
本発明の組合せ物において、第1製剤および/または第2製剤がそれぞれ非経口または経口投与されることができ、好ましくは経口投与されることができる。
【0052】
本発明の組合せ物において、第1製剤および第2製剤は、同時または異時に投与されることができる。
【0053】
本発明の組合せ物は、第1製剤および第2製剤を含む複合剤形、具体的に経口投与される複合剤形であってもよい。
【0054】
一側面において、本発明は、シルデナフィル(sildenafil)またはその薬学的に許容される塩を含むドネペジル(donepezil)のアルツハイマー病または認知機能障害改善補助用組成物を提供する。
【0055】
本発明において、補助用という用語は、補助用として投与される薬物単独での予防、治療または改善効果は相対的に低いが、他の中枢神経系薬物と併用投与した場合、アルツハイマー病または認知機能障害の予防、治療または改善効果が著しく改善される効果を発揮する用途を意味する。
【0056】
本発明の組成物は、医薬組成物または食品組成物であってもよい。前記組成物を食品組成物として使用する場合、ドネペジル、シルデナフィルまたはこれらの薬学的に許容される塩をそのまま添加したり、他の食品または食品成分と一緒に用いることができ、通常の方法に従って適切に使用することができる。前記組成物は、有効成分以外に食品学的に許容可能な食品補助添加剤を含むことができ、有効成分の混合量は、使用目的(予防、健康または治療的処置)に応じて適切に決定することができる。
【0057】
本発明の食品組成物には、健康機能食品が含まれてもよい。本発明において、使用される用語「健康機能食品」とは、人体に有用な機能性を持つ原料や成分を用いて、錠剤、カプセル、粉末、顆粒、液状、および丸剤などの形態で製造および加工した食品をいう。ここで「機能性」とは、人体の構造および機能に対して栄養素を調節したり、生理学的作用などのような保健用途に有用な効果を得ることを意味する。
【0058】
また、本発明の組成物が、用いられることができる健康食品の種類には、制限がない。併せて本発明のドネペジルおよび/またはシルデナフィルを活性成分として含む組成物は、当業者の選択によって健康機能食品に含有されることができる適切なその他の補助成分と公知の添加剤を混合し、製造することができる。添加できる食品の例としては、肉類、ソーセージ、パン、チョコレート、キャンディー類、スナック類、菓子類、ピザ、ラーメン、その他の麺類、ガム類、アイスクリーム類を含む酪農製品、各種スープ、飲料水、茶、ドリンク剤、アルコール飲料およびビタミン複合剤等があり、本発明による抽出物を主成分として製造したエキス、茶、ゼリー、およびジュースなどに添加し製造することができる。
【0059】
本発明のあらゆる組成物、治療方法、および用途において言及された事項は、互いに矛盾しない限り、同様に適用される。
【0060】
以下の実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、以下の実施例は、本発明の内容を具体化するためのものに過ぎず、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
<実施例1>アルツハイマー病または認知機能障害動物モデルにおいて、ドネペジルおよびシルデナフィルの併用投与によるシナプスの可塑性上昇効果の確認
ドネペジルおよびシルデナフィルの併用投与によるシナプスの可塑性を確認するため、(1)対照群(Control)(n=4)、(2)アミロイドベータ群(n=4)、(3)アミロイドベータ+ドネペジル(100nM)単独処理群(n=4)、および(4)~(8)アミロイドベータ+ドネペジル(100nM)+シルデナフィル(50、75、100、150、200nM)併用処理群(各群n=4)に区分し、各群の脳切片に対する局所電場電位記録(local field recording)を測定した。
【0062】
脳にある神経細胞は、シナプスと呼ばれる接合部位を介して情報を伝達する。 シナプスが増強または弱化する一連の過程(シナプスの可塑性)は、学習と記憶に重要な過程である。シナプスの大きさと活性が、持続的に向上されることをシナプス長期増強(long-term potentiation、LTP)といい、これは代表的なシナプスの可塑性現像である。シナプス長期増強(LTP)は、高等認知機能の重要な機序として、認知症の場合、シナプス長期増強(LTP)損傷が代表的な病症として知られている。
【0063】
本発明によるドネペジルおよび併用投与がアルツハイマー病または認知機能障害治療に及ぼす効果を確認するため、アルツハイマー病モデルマウスの脳組織切片に対してシナプス長期増強(LTP)の変化を評価した。
【0064】
具体的に、アルツハイマー病または認知機能障害のモデルを構築するため、マウスの脳切片にアルツハイマー患者の脳に見られるアミロイドプラーグの主成分であるアミロイドベータ(Aβ)3μMを処置した。アミロイドベータ(Aβ)は、認知機能障害の主な原因物質として知られている。
【0065】
実験を行った結果、ドネペジル単独処理群の場合よりもドネペジルおよびシルデナフィル併用処理群において、シナプス長期増強(LTP)が有意義に改善されたことが確認された。特に、ドネペジルとシルデナフィルの多様な重量比によるLTP効果を比較測定した結果、ドネペジル:シルデナフィルの重量比が1:0.6~1:2. 0である区間において、最も効果に優れていることを確認した(表1または
図1)。
【0066】
【0067】
前記表のデータは、シナプス長期増強がアミロイドベータ群を基準にドネペジル単独処理群は9.18%、ドネペジルおよびシルデナフィル(シルデナフィル100nM)併用処理群は29.77%増加したことを示す。
【0068】
これは、記憶の機序に深く関与するとして知られている海馬のシナプス長期増強過程において、本発明によるドネペジルおよびシルデナフィル複合剤がドネペジルに比べてアルツハイマー病または認知機能障害の治療効果を改善させたことを示す。
【0069】
<実施例2>アルツハイマー病または認知機能障害の動物モデルにおいて、ドネペジルおよびシルデナフィルの併用投与による水迷路実験指標向上効果の確認
この実験にて使用した5xFADマウスは、アルツハイマー疾患誘発遺伝が挿入された遺伝子改変マウスモデルである。具体的には、スウェーデン型変異(K670N、M671L)、フロリダ型変異(I716V)およびロンドン型変異(V717I)のあるアミロイド前駆タンパク質とM146LおよびL286V突然変異のあるPS1が全部過剰発現している。5xFADマウスは、アルツハイマー病の症状を示す最も広く使用されるマウスモデルである。
【0070】
本発明の複合組成物の投与による認知機能向上の効果をテストするため、水迷路実験を行った。実験設備は、温度約22±2℃の水で満たされた円形の水槽(直径150cm、高さ45cm)、エスケーププラットフォーム(直径10cm、高さ30cm)およびエスケーププラットフォームの位置を記憶できる壁面に付着した4つの標識で構成する。該標識は、試験期間全般にわたって変わらずにそのまま残る。エスケーププラットフォームは、実験の目的に合わせて水面上1cm、または水面下0.5~1.5cm下に位置するようにする。水面下に位置するときは、肉眼でエスケーププラットフォームが見えないように白い水性絵の具で水を不透明にする。水迷路は、4つの像限に分けて北東(NE)、北西(NW)、南東(SE)および南西(SW)に区切り、このうち、南西の四分円の中心部にエスケーププラットフォームを置き、残りのうちの一つをランダムに出発位置として使用する。エスケーププラットフォームの位置は、学習期間全般にわたって変わらない。
【0071】
学習DAY0には、エスケーププラットフォームが見えるようにした。それぞれのマウスは、エスケーププラットフォームに向かって泳ぎ、エスケーププラットフォームの上にのぼれば、脱出が可能であることを認識するように訓練した。DAY1~4日目には、エスケーププラットフォームを水面下に配置して隠してからエスケーププラットフォームの位置を学習させる。60秒を制限時間として設定し、60秒以内にエスケーププラットフォームを見つけた場合は、動物が5秒間エスケーププラットフォーム上に留まることを許容する。その後、すぐに飼育ケージに移動する。DAY5日目にはエスケーププラットフォームを置かずに実験を行う。学習期間中にエスケーププラットフォームを置いた4つの像限から最も遠いところにマウスを置いて実験し、60秒を制限時間とする。マウスがエスケーププラットフォームを探すまでにかかった時間である脱出潜伏期(Latency)とエスケーププラットフォームがあった4つの像限に留まる時間(Time spent in quadarant)を検査指標とする。脱出するのにかかった時間(
図2A)が短いほど、エスケーププラットフォームがあった4つの像限に長く留まるほど(
図2B)、マウスの記憶力および学習能力が優れていると判断する。
【0072】
ドネペジル(Donepezil)およびシルデナフィル(Sildenafil)の併用投与による認知機能向上の効果を確認するために、(1)正常マウスvehicle(WT vehicleと表示、0.5%のメチルセルロース5ml/kg、n=5)、(2)変異マウス(MT vehicleと表示、0.5%のメチルセルロース5ml/kg、n=5)、(3)MTドネペジル(2mg/kg単独投与、n=4)、および(4)~(5)MTドネペジル+シルデナフィル(ドネペジル1mg/kg+シルデナフィル2mg/kg複合投与、n=5およびドネペジル2mg/kg+シルデナフィル2mg/kg複合投与、n=5)群に分けてそれぞれの群に4週間経口投与を行う。
【0073】
その結果、学習遂行の最終日(DAY4)の脱出潜伏期(Latency)における変異マウスVehicle投与群と比較したとき、ドネペジル2mg/kg単独投与変異マウス群よりもドネペジルおよびシルデナフィル複合投与群の脱出潜伏期の時間が著しく減少したことが示された(表2または
図2A)。
【0074】
【0075】
上記表のデータは、脱出潜伏期が変異マウスビヒクル群を基準としてドネペジル2mg/kg単独投与群は14.2%、ドネペジル2mg/kgおよびシルデナフィル2mg/kg複合投与群は56.28%減少したことを示す。
【0076】
また、変異マウスドネペジル単独投与群よりもドネペジルおよびシルデナフィル複合投与群(ドネペジル2mg/kgおよびシルデナフィル2mg/kg)で有意に4つの象限に留まる時間(Time spent in quadarant)が増加したことが確認された(表3または
図2B)。
【0077】
【0078】
上記表のデータは、標的4つの象限に留まった時間が変異マウスビヒクル群を基準としてドネペジル2mg/kg単独投与群は73.20%、ドネペジル2mg/kgおよびシルデナフィル2mg/kg複合投与群は153.78%増加したことを示す。
【0079】
これは、ドネペジル単独投与による改善効果よりもドネペジルおよびシルデナフィル併用投与が記憶および学習能力を著しく改善させたことを示す。特に併用投与群のうち、
図1にて確認したドネペジルとシルデナフィルの重量比1:0.6~1:2. 0区間において、認知機能の改善効果が最大化することを再確認した。
【国際調査報告】