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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】獣医学における膝関節障害の治療
(51)【国際特許分類】
   A61D 9/00 20060101AFI20231213BHJP
【FI】
A61D9/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】有
(21)【出願番号】P 2023524111
(86)(22)【出願日】2021-11-24
(85)【翻訳文提出日】2023-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2021082798
(87)【国際公開番号】W WO2022112313
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】63/118,800
(32)【優先日】2020-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VELCRO
(71)【出願人】
【識別番号】518374468
【氏名又は名称】キュオン アー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Kyon AG
【住所又は居所原語表記】Hardturmstrasse 103, 8005 Zuerich, Switzerland
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】テピック スロボダン
(72)【発明者】
【氏名】ブレシナ シュテフェン
(72)【発明者】
【氏名】ベック ドウグラス
(72)【発明者】
【氏名】カフマン マーティン
(57)【要約】
本発明は、犬および猫における関節の障害を治療するための外部装具、補装具を提供する。最も関連のある獣医学的適応症は、犬の前十字靭帯疾患を治療するための足根関節装具である。
【選択図】 図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物、具体的には犬の関節に適用するために適応する装具であって、
硬質殻と詰め物(padding)とを備える第1の主要構成要素、および硬質殻と詰め物とを備える第2の主要構成要素を備え;
前記第1および前記第2の主要構成要素が、少なくとも2組のストラップにより接続され、前記関節の周りのクラムシェル(clam-shell)様の構造物となり、それにより前記関節の屈伸運動範囲を制限する;
装具。
【請求項2】
請求項1に記載された装具であって、
動物、具体的には犬の足根関節(hock joint)に適用するために適応する
装具。
【請求項3】
請求項1または2に記載された装具であって、
前記足根関節の角度が完全伸展に近く、好ましくは約145度から約170度の範囲、最も好ましくは約155度である
装具。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載された装具であって、
前記第1の主要構成要素は、遠位後肢の尾側-底側面にフィットするように適応し、
および
前記第2の主要構成要素は、遠位後肢の頭側-背側面にフィットするように適応する
装具。
【請求項5】
請求項4に記載された装具であって、
尾側-底側構成要素の前記硬質殻は、踵骨の位置に開口部(opening)が備えられる
装具。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載された装具であって、
前記ストラップの長さが調整可能である
装具。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載された装具であって、
前記ストラップが、複数の面ファスナー(velcro)バンド、例えば3本の面ファスナーバンドを備える、少なくとも1組の面ファスナーバンドセットを備える
装具。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載された装具であって、
前記第1の主要構成要素の前記硬質殻および/または前記第2の主要構成要素の前記硬質殻は、熱可塑性材料から作られる
装具。
【請求項9】
請求項8に記載された装具であって、
前記熱可塑性材料は、木材と生分解性ポリマーとの複合体である
装具。
【請求項10】
請求項4~9のいずれか一項に記載された装具であって、
尾側-底側主要構成要素の前記硬質殻の遠位端が、取り外し可能なゴムパッドを備える
装具。
【請求項11】
請求項10に記載された装具であって、
前記取り外し可能なゴムパッドは、いくつかの異なる長さで提供される
装具。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載された装具であって、
後膝関節(stifle)の前十字靱帯(cranial cruciate ligament)疾患を治療するために適応する
装具。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか一項に記載された装具であって、
動物、具体的には犬のためのいくつかの大きさで作られる
装具。
【請求項14】
動物における関節障害の治療のための方法であって、
前記関節に、硬質殻と詰め物とを備える第1の主要構成要素、および硬質殻と詰め物とを備える第2の主要構成要素を備える装具を、適用するステップを含み;
前記第1および前記第2の主要構成要素が、少なくとも2組のストラップにより接続され、前記関節の周りのクラムシェル様の構造物となり、それにより前記関節の屈伸運動範囲を制限する;
方法。
【請求項15】
請求項14に記載された方法であって、
前記障害は後膝関節障害であり、および前記装具は足根関節に適用される
方法。
【請求項16】
請求項15に記載された方法であって、
前記後膝関節障害は、前記後膝関節の前十字靭帯疾患である
方法。
【請求項17】
請求項14~16のいずれか一項に記載された方法であって、
前記動物が犬である
方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣医学における使用のための、具体的には犬および猫などの動物における関節の障害を治療するための、装置および方法を提供する。最も関連のある獣医学的適応症は、前十字靭帯疾患を治療するための足根関節(hock joint)装具である。具体的には本発明は、足首(足根関節と称される)を伸展状態に保持することにより、膝関節(犬において後膝関節(stifle)と称される)の障害を治療するのに有用な装置および方法に関連する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの膝関節における前十字靭帯(anterior cruciate ligament、ACL)は、イヌの後膝関節においては前十字靭帯(cranial cruciate ligament、CrCL)と一般に呼ばれるが、外傷により断裂することが多い。また未だ原因不明の変性過程を経て故障することも、特に犬において多い。
【0003】
ヒトの整形外科における標準的な手順では、故障したACLを、患者自身の膝蓋腱の一部またはハムストリングスから切除した筋膜および腱の一部から作ったACL同種移植片または自家移植片で置き換える。この手順の結果膝関節は安定するが、長期的な膝関節の性能は満足なものではないことも多い。おおよそ、手順後15年以内に75~90%の症例で、その関節の変性性関節炎(degenerative arthritis)が発生する。
【0004】
犬における標準的な手順には、被膜外縫合糸の装着(placement of an extra-capsular suture)またはいくつかの形状修正外科的技術のうち1つの実施を含む。被膜外手順においては、縫合糸は関節の外、通常は外側(ガイソク、lateral side)に装着され、CrCLの機能を近似する。縫合糸を使用する意図は、その関節の周囲で線維化が起こるのを待つ間、数週間その関節に安定性を与えることである。そしてこの線維化が長期的な安定性を与えるはずである。しかしながら、被膜外縫合糸技術は決まって失敗に終わる。その関節の変性性関節炎は、1年ほど後には例外ではなく原則となる。
【0005】
犬のCrCLを、解剖的に配置された関節内の人工靭帯に置き換える試みもまた、材料、アンカーデザインおよび外科的技術の長年の研究開発にもかかわらず、一般に失敗している。
【0006】
外科的な形状修正技術では、後膝関節を安定させるために、脛骨が切断され、脛骨および/または関節の形状を変更するようにその一部が再配置される。さまざまな技術が用いられており、脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO;US Patent No. 4,677,973およびSlocum and Slocum, Vet. Clin. North Am.23:777-795, 1993参照)、脛骨頭側楔状閉鎖型骨切り術(closing wedge osteotomy、CWO; Slocum and Devine, J. Am. Vet. Med. Assoc. 184:564-569, 1984)、および脛骨粗面前進術(tibial tuberosity advancement、TTA; Tepic et al., Biomechanics Of The Stifle Joint, in Proceedings of the 1st World Orthopaedic Veterinary Congress, Munich, Germany, pp. 189-190. 2002参照)を含む。犬に使用される外科的アプローチのうち、TTAは病的状態がより少なく回復がより早いことに関係すると思われ、また関節に即効性および耐久性のある安定性も与える(Boudrieau, Vet Surg., 38(1):1-22, 2009)。しかしながら、これら全ての技術で手術合併症は少なくない。最も一般的なのは、大腿骨と脛骨との間の過度の超生理学的運動によって引き起こされる、内側(ナイソク、medial)半月板への術後損傷である。
【0007】
このように、獣医学において、断裂した前十字靭帯およびさらなる関節障害の効果的な治療を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0008】
本発明者らは、後膝関節障害の治療に関連するインビトロ実験を行い、その成功は腓腹筋によって後膝関節に及ぼされる筋力の減少に関連するという確固たる証拠を見出した。この目標は、一貫して適用するのが難しく軟組織の損傷を引き起こす可能性が高い包帯に代わる、生体力学的反力修正技術を作るための新たな外部装具を、提供することにより達成される(Davidson, C., Arthurs, G.I. & Meeson, R.L. Soft-tissue injuries associated with cast application for distal limb orthopaedic condition, Veterinary and Comparative Orthopaedics and Traumatology, 2011, 24 (02), 126-131)。
【0009】
本発明は、獣医学において、障害された関節、具体的には障害された膝関節を、保存的に治療するための装置および方法に関連する。装置および方法は、動物、例えば猫または犬の治療に有用であり、伸展状態にある足根関節に装具を適用するステップを含みうる。障害は、任意の状況による(例えば、外傷または疾患過程による)前十字靭帯(CrCL)の部分的または完全な断裂でありうる。本発明の装置および方法はまた、足根関節での他の障害、例えばアキレス腱の断裂を、治療するために適用されうる。本発明は、ハムストリングスと腓腹筋との不均衡に関連する、犬における十字靭帯疾患の予想される原因の、我々のインビトロ研究から明らかになった。
【0010】
この装具の使用は、十字靭帯疾患の症例に限定されるものではなく、また足根関節に限定されるものでもない。足根関節付近の多くの一般的な整形外科的問題、例えばアキレス腱の断裂があり、そこで本発明の装具は、包帯、ギプス固定(casting)、または従来の装具の使用(それらは関節の動きを制限するが、曲げモーメントに抵抗する能力はわずかしか提供できない)に対し、利点を有する(Case, J.B., et al. Gastrocnemius Tendon Strain in a Dog Treated With Autologous Mesenchymal Stem Cells and a Custom Orthosis, Vet Surg 42(2013): 355-360)。同様に興味深いのは、前肢への、具体的には手根関節(carpal joint)への応用である。
【0011】
装具により足根関節が伸展状態に保持された状態で、腓腹筋の長さは最も短くなる。腓腹筋が神経支配されているとしても、腓腹筋が短く保たれているときに展開できる力は、非常に小さい。さらに、反力ベクトルを足根関節により近づくよう移動させるとき、曲げモーメントは減少して、足根関節に作用する力がより小さくなる。後膝関節の伸筋(大腿四頭筋)と均衡をとるために、犬はハムストリングスを使用するようになる。時間とともに、このことは腓腹筋よりもハムストリングスの使用を優先する永久的な「再プログラミング」につながり、これは前十字靭帯断裂に対する自然適応の過程としてよく記録されている。しかしながら、数週間から数ヶ月の装具の使用は、適応を早めるだけでなく、半月板を後膝関節での不安定性による損傷から保護する。長期的に良好な結果を得るために、半月板の損傷を防ぐことが重要である。
【0012】
公知の後膝関節補装具(orthoses)とは対照的に、本発明に従った装具の使用は、動物、例えば犬の残りの一生の間、必須ではない。屈筋と伸筋の筋活動が均衡し、腓腹筋よりもハムストリングスの使用を優先すれば、装具は取り外されうる。この期間は症例毎に異なるが、一般的には3~4ヶ月である。本発明の装具のデザインは、包帯またはギプス固定とは対照的に、取り外しおよび足根関節への再装着が容易にできる。また、装具の2つの主要構成要素を共に保持する接続部の長さを、簡単に再調整することにより、足根関節に対する拘束を調節することもできる。
【0013】
本発明の装具の適用はまた、インプラントおよび/または半月板の一時的な保護を提供するために、例えば形状修正手術(TPLOまたはTTA)、または関節内縫合糸移植における補助手順として、行われうる。
【0014】
本発明の別の顕著な適応症は、TPLOなどの手術前の時間での適用である。多くの専門外科クリニックでは、最初の予約から手術までの時間は、数ヶ月単位であることが多い。この期間は半月板損傷の高いリスクを示すため、現在50%以上の犬が、手術時までに半月板を断裂している。手術前の半月板損傷防止に加えて、装具の適用はまた、腓腹筋よりもハムストリングスの使用を促進するという同じメカニズムにより、手術後の半月板損傷のリスクを減少させるであろう。
【0015】
従って本発明は、障害された動物の後膝関節、具体的には犬の後膝関節を、保存的手段により治療する装置および方法を特徴とする。前述のように、後膝関節の損傷は、部分的にまたは完全に断裂した十字靭帯、すなわち我々が前十字靭帯疾患(CrCLD)と呼びうる状態を含みうる。
【0016】
本発明の第1の態様は、動物の関節の周りに、例えば手根関節または足根関節の周りに、具体的には足根関節の周りに、より具体的には犬の足根関節の周りに配置されて、その屈伸運動範囲を制限するように適応する装具に関連する。装具は、少なくとも2組のストラップにより接続されてクラムシェル(clam-shell)様の構造物となる、2つの硬く詰め物された(rigid padded)主要構成要素を備える。
【0017】
本発明のさらなる態様は、犬などの動物における関節障害の治療のための方法、具体的には後膝関節障害の治療、より具体的には後膝関節の前十字靭帯疾患の治療のための方法に関連し、少なくとも2組のストラップにより接続されてクラムシェル様の構造物となる、2つの硬く詰め物された主要構成要素を備える装具を、関節に適用するステップを含む。
【0018】
ある実施形態において、装具内にあるときの足根関節の位置は、飛節(hock)の完全伸展に近い。歩行において、足根関節の角度は約40度を通って動く。立脚相(stance phase)の開始時には、角度は約165度であり、立脚相の40%では、約140度に下がり、立脚相の終了時には約180度に達する(Headrick, Jason, “A Description of the Movement of the Canine Pelvic Limb in Three Dimensions Using an Inverse Dynamic Method, and a Comparison of the Two Techniques to Surgically Repair a Cranial Cruciate Ligament Deficient Stifle” PhD diss, University of Tennessee, 2012)。本発明の装具は、様々な角度を有する位置で、好ましくは角度が約145度と約170度との間の位置で、最も好ましくは角度が約155度の位置で、飛節を保持するように作られうる。好ましくは、詰め物(padding)および/または構造物の順応性(compliance)は、装具内の足根関節で約5度から約10度の動きを可能にするように適応する。
【0019】
ある実施形態において、装具の2つの主要構成要素は、犬または猫における、具体的には犬における、後肢の尾側-底側面および頭側-背側面にフィットするように形成される。
【0020】
具体的な実施形態において、第1の主要構成要素は、中足骨(metatarsal)基部の尾側-底側面にフィットするように形成される。第1の主要構成要素は、遠位部と近位部とを有する硬質殻を備えうる。遠位部は、凹んでおり、中足骨を支持するように形成され、例えばゴムパッドを介して中央肉球の尾側に、地面への接触点を作りうる。近位部は、近位脛骨の内側面に沿ったハムストリングスの停止点(insertion points)の遠位で、遠位脛骨の尾側面の周りに巻き付きうる。ある実施形態において、尾側-底側構成要素の硬質殻は、踵骨の位置に開口部(opening)が備えられうる。第1の主要構成要素の硬質殻の内がわ(inner side)は、詰め物で、例えばネオプレンフォーム(neoprene foam)などのフォーム詰め物で、覆われうる。詰め物は、遠位尾側腓腹筋腱および踵骨の近位面への接触を確立しうる。
【0021】
ある実施形態において、第2の主要構成要素は、関節の、例えば足根関節の頭側-背側カバーとして形成される。第2の主要構成要素は、近位表面および遠位表面を有する硬質殻を備えうる。近位表面は、近位頭側脛骨に位置する脛骨突起および脛骨粗面にフィットするように形成されうる。頭側カバーの移行領域は、遠位脛骨に位置する頭側脛骨筋腱への、および近位頭側飛節に位置する頭側脛骨筋腱の停止部(insertion)への、接触をなくすように形成されうる。頭側カバーの遠位表面は、中足骨の湾曲にフィットし、趾伸筋腱(digital extension tendons)への接触および圧力を緩和するように形成されうる。加えて、頭側カバーの遠位端は、中足骨の遠位表面で終端しうる。第2の主要構成要素の硬質殻の内がわは、詰め物で、例えばネオプレンフォームなどのフォーム詰め物で、覆われうる。
【0022】
ある実施形態において、ストラップは、装具の2つの主要構成要素の近位面および遠位面に配置される。ストラップの長さは、調節可能でありうる。ある実施形態において、ストラップは、面ファスナー(velcro)バンドである。近位および遠位のストラップの位置は、第1および第2の主要構成要素の間の接続部を意図的に確立し、その結果4点曲げ制御システムを作る。
【0023】
ある実施形態において、固く詰め物された主要構成要素は、硬質材料の殻、および殻と位置合わせする(align)ように適応する詰め物を備える。殻の硬質材料は、熱可塑性材料であってもよく、例えば木材と熱可塑性ポリマー、例えばウッドキャスト(Woodcast)などの生分解性ポリマーとの複合体であってもよい。
【0024】
ある実施形態において、尾側-底側構成要素の硬質殻の遠位端は、取り外し可能なゴムパッドを備え、いくつかの異なる長さで作られた取り外し可能なゴムパッドが、提供されうる。
【0025】
本発明の装具は、動物のための、具体的には犬のための、例えば愛玩犬種から巨大犬種までの犬のための、いくつかの大きさで作られうる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の装具の直交図を示す。
図2】犬の飛節に着けた装具の写真である。
図3】2つの主要構成要素が分離した状態での装具の写真である。
図4】足根関節を完全伸展状態に保持するように構成された装具の写真である。
図5】詰め物がない状態の装具の主要構成要素の写真である。
図6】接地用ゴムパッドの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、犬におけるCrCL劣化の遅い過程の根本的原因を我々が特定するのに役立った、インビトロ実験および臨床観察に、少なくとも部分的に基づく。犬の死体での我々の実験は、腓腹筋の強い不安定化効果を示した。これらの筋が発揮する力は、足根関節を伸展させることにより筋稼働長(muscle working length)を短くすることによって、大幅に減少しうる。犬は遠位肢を自由に使えるので、地面の反力により足根関節にかかるモーメントは、脛骨に伝達されねばならず、このことは、装具の2つの主要な機械的機能のうちの第1―脛骨軸および中足骨への反力によるモーメントへの抵抗を規定する。機械用語では、これは4点曲げと呼ばれる。腓腹筋が収縮する結果となる足根関節に対して作用する力の大きさを減少させるために、装具の第2の主要な機械的機能は、地面への接触点を修正し、反力ベクトルを足根関節により近づくよう移し、それにより屈曲モーメントを減少させ、それが今度は腓腹筋が筋収縮を通じて抵抗しようとする力の大きさを減少させる。機械用語では、これは地面反力ベクトル位置合わせ(ground reaction force vector alignment)と呼ばれる。
【0028】
我々の結果は、犬のためだけでなく、猫など他の動物種のためにも、獣医学において一般的に適用できる。
【0029】
図1は、装具100の写真を直交図で示し:(a)は尾側図であり、(b)は外側図であり、(c)は頭側図である。装具は、少なくとも2組のストラップにより接続されて、遠位後肢の尾側-底側面および頭側-背側面を覆うクラムシェル様の構造物となる、2つの硬く詰め物された構成要素から構成される。
【0030】
装具100の第1の主要構成要素1は、遠位後肢の中足骨基部の尾側-底側面にフィットするように形成された硬質殻2である。尾側-底側構成要素の具体的な形状の目的は、力をより広い面積の軟組織に分散させて、軟組織損傷を減少させることである。殻2は、熱可塑性材料から形成されうる。硬質殻2の遠位部3は、凹んでおり、中足骨を支持するように形成され、例えばゴムパッド13を介して中央肉球の尾側に、地面への接触点を作りうる。中央肉球の尾側で地面に接触する目的は、地面反力ベクトル位置合わせを足根関節のより近くに有益に修正して、足根関節屈曲モーメントの大きさを減少させることである。近位部4は、近位脛骨の内側面に沿ったハムストリングスの停止点の遠位で、遠位脛骨の尾側面の周りに巻き付く。部分4の位置の目的は、軟組織の傷および装具が遠位に移動して足根関節の不安定化につながる結果となる、装具100の近位尾側端へのハムストリングの接触をなくすことである。硬質殻2の近位部4から遠位部3への移行領域には、踵骨の解剖学的構造に対応する開口部5がある。開口部5の目的は、踵骨を覆う軟組織の褥瘡のリスクを除くことである。詰め物6は、装具構成要素1の内がわを覆う。詰め物は、遠位尾側腓腹筋腱および踵骨の近位面へ意図的に接触を確立して、装具100の骨盤肢への手がかりおよび懸架を作り、装置が肢から離れて遠位に移動した結果、完全に不安定化することに耐える。
【0031】
装具100の第2の主要構成要素は、足根関節の舌状頭側-背側カバー10である。それはまた、熱可塑性材料から形成されうる。頭側カバー10の近位表面は、近位頭側脛骨に位置する脛骨突起および脛骨粗面にフィットするように形成される。この形状の目的は、骨盤肢のこの位置での包帯に一般に関連する、軟組織の傷をなくすことである。頭側カバー10の移行領域は、遠位脛骨に位置する頭側脛骨筋腱への、および近位頭側飛節に位置する頭側脛骨筋腱の停止部への、接触をなくすように形成される。この移行領域の形状の目的は、腱を覆う皮膚への軟組織損傷を減少させること、および痛みを生じる直接腱圧迫をなくすことである。頭側カバー10の遠位表面は、中足骨の湾曲にフィットし、趾伸筋腱への接触および圧力を緩和するように形成される。加えて、頭側カバー10の遠位端は、歩行中に趾が制限されないように、意図的に中足骨の遠位表面で終端する。詰め物12は、殻11の裏がわを覆う。
【0032】
装具100の主要構成要素1および10は、装具の近位面および遠位面で、2組のストラップ20および21により接続される。各組のストラップは、2組の接続部を作る3本の面ファスナーバンドで作られうる。一方の組は、構成要素1の一方の側を構成要素10へ接続し、もう一方の組は、構成要素1のもう一方の側を構成要素10へ接続する。このように、舌10の位置は、横方向の位置と近位から遠位への距離方向との両方において、主要構成要素1に対して固定される。近位および遠位のストラップの位置は、4点曲げ制御システムを作る結果となる構成要素1と構成要素10との間の接続部を、意図的に確立する。ゴムパッド13は、殻2の遠位端に、例えば2つのネジ14によって固定される。
【0033】
図2は、犬の足根関節に適用された装具100を示す。これは、体重約18kgの犬に着けた小型の装具である。極極小(XX-Small)から極大(X-Large)までの6サイズの装具は、愛玩犬種から巨大犬種までカバーしうる。
【0034】
図3は、分離した装具の2つの構成要素を示す。ストラップの近位組20の面ファスナーバンド22は、ループ型である。バンド23は、内がわがループ型で、外がわ(outside)がフック型である。バンド24は、舌10の全幅を覆い、フック型である。舌状構成要素10の主要構成要素1への固定は、まずバンド23をバンド24に貼り付け、次にバンド22をバンド23の上に貼り付けることにより行われる。面ファスナーのバンドは、硬質殻2の2つの層の間で装具構成要素に固定される。
【0035】
図4は、舌10が主要構成要素1に向かって完全に引き込まれた状態で、最も屈曲抑制する位置にある装具を示す。足根関節の完全伸展の角度は、異なる品種の犬の間および同じ品種の個々の犬の間で変動する。この変動は、ストラップの長さおよび舌10の屈曲の角度によって適応しうる。また、舌10を破線10aにより模式的に示される形状に曲げることにより、足根関節の屈曲/伸展範囲に対する拘束を調節することが可能である。ストラップ20は、20aにより示されるように長くされうる。これにより今度は、足根関節の屈曲/伸展運動の範囲を約5~10度まで増加させることができ、このことは典型的には10~16週間、最も一般的には約12週間の関節固定化の過程において、望まれうる。図示された装具の位置は、歩行の立脚中期(mid-stance)に典型的である。パッド13は、立脚相の大部分を通して地面40に接触し、装具の主要構成要素1を摩耗から保護し、また硬質殻が地面にぶつかることから生じる衝撃荷重を減少させる。
【0036】
図5は、内部詰め物がない状態の装具の硬質殻構成要素2の直交図を示す。硬質殻構成要素には、好ましくは熱可塑性材料、最も好ましくは木材と生体分解性ポリマーとの複合体、例えばウッドキャスト(Onbone Oy、フィンランド)が使用される。これにより、装具を高温に、例えば約65℃に加熱して、殻を所望の形状に曲げることによって、硬質殻を個々の解剖学的特徴に微調整することが可能になる。殻2および舌10は、必要な剛性および強度を提供するために、複数層の材料、例えばウッドキャストから形成されうる。装具の正中線に沿った重なりを持つ厚さ各2mmの2つの層が、通常十分である。フック型の面ファスナー条30および31が、殻2の内がわに接着され、好ましくはネオプレンフォームから作られた詰め物6のためのアンカー(anchoring)を提供する。殻の遠位端にあるフランジ付きナット16は、ゴムパッド13を貼り付けるためのネジ14を受け入れる。
【0037】
図6は、交換可能なゴムパッド13が2本のネジ14により殻2に貼り付けられた状態の、装具の遠位端を示す。パッドは、パッドの先端から固定用ネジまでいくつかの長さで作られており、ここでは13aおよび13bとして示される。適切なパッドを選択することで、装具と足との間で地面反力を分けることができる。パッドはまた、殻2を地面に対する摩耗から保護し、硬い表面での接触衝撃を和らげる。金属ワッシャー15は、フランジ付きナット16への適切なネジ締めを可能にするために、ネジ頭の窪みの底に挿入される。
【0038】
代わりの、硬質補装具のために一般的に使用される素材はポリプロピレンであり、成形にかなり高い温度を必要とする。
【0039】
本発明の少なくとも1の実施形態を開示したが、当業者であれば、バリエーションが理解されるであろう。そのような適応、修正、および改良は、本発明の一部とみなされる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
【手続補正書】
【提出日】2023-06-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物、具体的には犬の足根関節(hock joint)に適用するために適応する装具であって、
硬質殻と詰め物(padding)とを備える第1の主要構成要素、および硬質殻と詰め物とを備える第2の主要構成要素を備え;
前記第1および前記第2の主要構成要素が、少なくとも2組のストラップにより接続され、前記関節の周りのクラムシェル(clam-shell)様の構造物となり、それにより前記関節の屈伸運動範囲を制限
前記第1の主要構成要素は、遠位後肢の尾側-底側面にフィットするように適応し、
および
前記第2の主要構成要素は、遠位後肢の頭側-背側面にフィットするように適応し;
および
前記足根関節の角度が完全伸展に近く、すなわち145度から170度の範囲である;
装具。
【請求項2】
請求項1に記載された装具であって、
犬の前記足根関節に適用するために適応する
装具。
【請求項3】
請求項1または2に記載された装具であって、
前記足根関節の角度が約155度である
装具。
【請求項4】
請求項に記載された装具であって、
尾側-底側構成要素の前記硬質殻は、踵骨の位置に開口部(opening)が備えられる
装具。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載された装具であって、
前記ストラップの長さが調整可能である
装具。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載された装具であって、
前記ストラップが、複数の面ファスナー(velcro)バンド、例えば3本の面ファスナーバンドを備える、少なくとも1組の面ファスナーバンドセットを備える
装具。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載された装具であって、
前記第1の主要構成要素の前記硬質殻および/または前記第2の主要構成要素の前記硬質殻は、熱可塑性材料から作られる
装具。
【請求項8】
請求項に記載された装具であって、
前記熱可塑性材料は、木材と生分解性ポリマーとの複合体である
装具。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載された装具であって、
尾側-底側主要構成要素の前記硬質殻の遠位端が、取り外し可能なゴムパッドを備える
装具。
【請求項10】
請求項に記載された装具であって、
前記取り外し可能なゴムパッドは、いくつかの異なる長さで提供される
装具。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載された装具であって、
後膝関節(stifle)の前十字靱帯(cranial cruciate ligament)疾患を治療するために適応する
装具。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載された装具であって、
動物、具体的には犬のためのいくつかの大きさで作られる
装具。
【請求項13】
動物における関節障害の治療のための方法であって、
足根関節に、硬質殻と詰め物とを備える第1の主要構成要素、および硬質殻と詰め物とを備える第2の主要構成要素を備える装具を、適用するステップを含み;
前記第1および前記第2の主要構成要素が、少なくとも2組のストラップにより接続され、前記関節の周りのクラムシェル様の構造物となり、それにより前記関節の屈伸運動範囲を制限
前記第1の主要構成要素は、遠位後肢の尾側-底側面にフィットするように適応し、
および
前記第2の主要構成要素は、遠位後肢の頭側-背側面にフィットするように適応し;
および
前記足根関節の角度が完全伸展に近く、すなわち145度から170度の範囲である;
方法。
【請求項14】
請求項13に記載された方法であって、
前記障害は後膝関節障害であり、および前記装具は前記足根関節に適用される
方法。
【請求項15】
請求項14に記載された方法であって、
前記後膝関節障害は、前記後膝関節の前十字靭帯疾患である
方法。
【請求項16】
請求項13~15のいずれか一項に記載された方法であって、
前記動物が犬である
方法。
【国際調査報告】