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特表2023-552951改良された耐火性挙動を有する無機結合剤系建設材料
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  • 特表-改良された耐火性挙動を有する無機結合剤系建設材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】改良された耐火性挙動を有する無機結合剤系建設材料
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/14 20060101AFI20231213BHJP
   C04B 14/44 20060101ALI20231213BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20231213BHJP
   C04B 111/28 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C04B28/14
C04B14/44 C
C04B22/06 Z
C04B111:28
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023524344
(86)(22)【出願日】2020-11-23
(85)【翻訳文提出日】2023-04-20
(86)【国際出願番号】 EP2020000201
(87)【国際公開番号】W WO2022105981
(87)【国際公開日】2022-05-27
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】510094539
【氏名又は名称】クナウフ ギプス カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ペーター ドスタール
(72)【発明者】
【氏名】ダーフィト ヴァイガント
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112MA01
4G112PA03
4G112PA09
(57)【要約】
本発明は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維と、任意選択的にコロイダルシリカと、更なる添加剤と、を含み、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料を基準として、高温に曝露されたときに遅延した収縮を有するように増加した耐火性を有する、無機結合剤系建設材料に関する。特許請求の範囲に記載された無機結合剤系建設材料は、破裂に対する改善された抵抗性を提供し、したがって、対応する構造が、火災に曝露されたときに長期間にわたって確実にそれらの完全性を維持する。本発明はまた、無機結合剤系建設材料の製造のための方法と、高温に曝露されたときに、無機結合剤系建設材料の収縮を遅延させるための、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的なコロイダルシリカの使用と、に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機結合剤と、シリケートガラス繊維と、任意選択的に更なる添加剤と、を含む、無機結合剤系建設材料であって、前記シリケートガラス繊維が、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維であることを特徴とする、無機結合剤系建設材料。
【請求項2】
前記前処理されたシリケートガラス繊維の熱的前処理が、シリケートガラス繊維を、700℃~1000℃、好ましくは850℃~1000℃の温度に、少なくとも30分間、より好ましくは45分間~420分間、最も好ましくは200分間~400分間加熱するステップを含むことを特徴とする、請求項1に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項3】
前記建設材料が、コロイダルシリカを更に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項4】
前記無機結合剤系建設材料の試験体が、DIN EN 1363-1:2012-10に記載の標準温度-時間曲線に従う温度に曝露され、前記温度が、945℃で60分~120分維持されたときに、一時的に遅延した収縮相を有し、それによって、前記試験体がその初期長さの99%に達する時間間隔が、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する試験体がその初期長さの99%に達する時間間隔の少なくとも1.35倍、好ましくは前記時間間隔の少なくとも1.5倍、更により好ましくは前記時間間隔の少なくとも1.6倍であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項5】
前記無機結合剤系建設材料の試験体が、DIN EN 1363-1:2012-10の温度プロファイルに従う温度に最初の60分間曝露されたときに、少なくとも60分後に、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含むがそれ以外は同一の組成の試験体よりも小さい収縮率を示すことを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項6】
前記無機結合剤系建設材料が、前記無機結合剤の総重量に基づいて、0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1.5重量%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項7】
前記無機結合剤系建設材料が、前記繊維の総重量に基づいて、90~99重量%のSiO及び1~10重量%のAlを含む熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項8】
前記無機結合剤系建設材料が、1~20mm、好ましくは2~15mmの長さを有する、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項9】
前記無機結合剤系建設材料が、1~20μm、好ましくは2~10μmの平均繊維直径を有する、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項10】
前記無機結合剤系建設材料が、前記無機結合剤の総重量に基づいて、0.01~10重量%、好ましくは0.1~5重量%、更により好ましくは0.3~2.0重量%のコロイダルシリカを含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項11】
前記建設材料が、板、レンガ、下塗り、モルタル、フィラー、目地材又はスクリードであることを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項12】
前記板が、少なくとも1つの無機結合剤系層を有するコアを有し、前記無機結合剤系層が、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含むことを特徴とする、請求項11に記載の無機結合剤系建設材料。
【請求項13】
無機結合剤系建設材料の製造のための方法であって、
(i)無機結合剤を、水と、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維と、任意選択的に他の添加剤と、混合して、混合物を形成するステップと、
(ii)前記混合物から建設材料を成形するステップと、
(iii)前記建設材料を硬化させるステップと、
を含む、方法。
【請求項14】
従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料と比較して、無機結合剤系建設材料の耐火性を改善するための、無機結合剤系建設材料において熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的なコロイダルシリカの使用。
【請求項15】
高温に曝露されたときに、好ましくは火災中に、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料と比較して、試験体の収縮を遅延及び/又は低減するための、無機結合剤系建設材料において熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的なコロイダルシリカの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火性無機結合剤系建設材料及びこの種の建設材料を製造するための方法に関する。特に、本発明は、増加した耐火性を有する、無機結合剤系建設板に関する。
【0002】
従来技術
無機結合剤系建設材料、例えば、粘土、セメント及びプラスターから作製されるものは、世界中で極めて一般的であり、それらの防火等級についても知られている。これらのうち、石膏は、建築産業で使用するために毎年数億平方フィートの石膏コア壁板が製造及び販売されていることから明らかなように、重要な建築商品である。一般に、乾式壁、石膏板、石膏被覆材(gypsum sheathing)、及びプラスターボードとしても知られている石膏壁板、並びに繊維セメント板などの他の無機結合剤系建設材料は、認められた業界標準を満たすために、ある特定の基本的特性を有していなければならない。これらの基準のうちのいくつかは、耐火性に関する、すなわち、材料がその構造的完全性を維持し、亀裂若しくは崩壊(その完全性を失う)することなく耐えることができる最高温度に関する、又はある特定の高温において材料の完全性を、焼き切る、崩壊させる、若しくは他の方法で破壊するのにかかる時間に関する。これらの特徴は、火災の伝播及び個人への害を低減するのに重要である。耐火性は難燃性とは区別されるべきであり、難燃性とは、発火及び燃焼することなくある特定の時間にわたって高温に耐える材料の能力である。
【0003】
硬化石膏(CaSO×2HO)に含有される結晶水に起因して、石膏建築材料は、水が石膏から蒸発して大量の火災のエネルギーを結合することができるので、火災の場合には有利な特性を有する。これは吸熱プロセスであるので、結合水の蒸発は石膏建築材料を冷却する。水の蒸発が増加するにつれて、硫酸カルシウム半水和物(CaSO×1/2HO)が更なるステップで形成され、これは後にカルシウム無水石膏(CaSO)に変換される。しかしながら、石膏から水が遊離する不利な点は、硫酸カルシウム半水和物又は無水石膏が占める体積が、硫酸カルシウム二水和物前駆体よりも小さいことである。加えて、材料の加熱は、体積の更なる損失をもたらし、建築材料を収縮させる。石膏板は、通常は、金属スタッドフレームワーク(stud framework)に適用されることから、収縮した板は、それらのアタッチメントから放出される可能性がある。乾式壁建設物の個々の部品は、乾式壁建設物から落下する可能性があり、部屋にいる個人の負傷のリスクとなる。加えて、亀裂及び隙間は、火災が、乾式壁建設物の後側に、更に隣接する部屋に広がることを可能にする。繊維セメント板も同様の問題に直面する。
【0004】
従来技術では、より長い期間にわたる強い熱(例えば、火災)の影響下で、無機結合剤系、特に石膏建築材料の収縮を遅延又は防止することを意図するいくつかの試みが記載されている。この目的のために、例えば、粘土などの耐火性材料、又はバーミキュライトなどの熱膨張材料が建築材料に組み込まれており、これらは、熱に曝露されたときの膨張挙動に起因して、石膏の体積収縮を少なくとも部分的に補償することができる。
【0005】
従来のガラス繊維は、無機結合剤系板を強化し、火災の場合に板を破裂に対してより弾性にするために組み込まれていることが多い。ガラス繊維は、高温中の建築材料の収縮から生じる歪みの分散を容易にし、したがって、対応する無機結合剤系製品の収縮及び破壊の両方を遅延させる。
【0006】
従来のガラス繊維は、通常は、火災時に起こり得る900℃を超える高温に耐えることができない。例えば、ほとんどの従来のガラス繊維は、700℃~1000℃付近で軟化又は溶融し、その結果、従来のガラス繊維は、これらの高温において無機結合剤系板に対してそれらの強化効果をもはや提供することができない。
【0007】
一般に、増加した耐火性を有し、特に、火災が乾式壁建設物の後側に突破するのにかかる時間を少なくとも有意に遅延させる、無機結合剤系建設材料に対する需要も存在する。
【0008】
本出願は、これらの需要に対する解決策を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例における、試料1、2、3、4、5の膨張収縮プロファイルを示した図である。
図2図2は、実施例における、試料1、2、3、6の膨張収縮プロファイルを示した図である。
図3図3は、実施例における、試料1、6、7の膨張収縮プロファイルを示した図である。
図4図4は、実施例における、試料1、8、9、10、11、12、13の高温での撓み/変形試験の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の態様は、少なくとも無機結合剤と、シリケートガラス繊維と、任意選択的に更なる添加剤と、を含む、無機結合剤系建設材料である。シリケートガラス繊維は、熱的に前処理された繊維である。
【0011】
本発明による無機結合剤は、乾燥/粉末形態の無機結合剤が、流体と、例えば、水と混合されるときに物理的に又は好ましくは化学的に硬化することができる全ての粒子状建築材料を含む。化学的硬化は、化学反応(例えば、水和)を含み、物理的硬化は、例えば、乾燥であることができる。無機結合剤は、結合剤を含む硫酸カルシウム、例えば、石膏、及びその部分的に脱水された形態、すなわちα-若しくはβ-半水和物(例えば、スタッコ)又は無水石膏であることができる。無機結合剤はまた、石灰、粘土又はセメント結合剤(例えば、ポルトランドセメント、ポルトランドセメントブレンド、他のキルンセメント、アルミン酸カルシウム若しくはスルホアルミン酸カルシウム、マグネシアセメント、マグネシウムオキシクロリドセメント、ビーライトセメント)、並びにこれらの組み合わせであることもでき、又はこれらを含むこともできる。無機結合剤は、水硬性結合剤(例えば、セメント、ポゾラン、水硬性石灰、硫酸カルシウム半水和物若しくは無水石膏、ケイ酸カルシウム、クリンカー、フライアッシュ)、又は非水硬性結合剤(例えば、粘土、非水硬性石灰、水ガラス)であり得る。水硬性結合剤は、水和によって硬化するが、非水硬性結合剤は、硬化のために、例えば、二酸化炭素への曝露が必要である。無機結合剤に基づく建設材料は、当業者に知られている様々な添加剤、例えば、フィラー、促進剤、遅延剤、レオロジー調整剤、疎水化剤、耐火材料などを更に含むことができる。硬化は別として、無機結合剤系建設材料の調製のためのプロセスは、乾燥ステップを更に含むことができる。
【0012】
無機結合剤としての硫酸カルシウムの場合、脱水された形態(α-及びβ-半水和物及び無水石膏)は、水の存在下で水和される。この硬化プロセスにおいて、硫酸カルシウム二水和物(すなわち、石膏)が形成される。硫酸カルシウム二水和物結晶は、連結され、したがって強度を提供するが、過剰な水は、材料の完全な硬化のために更に蒸発させる必要がある。
【0013】
「無機結合剤系建設材料」という用語は、無機結合剤を含む加工可能/成形可能な混合物、並びに無機結合剤を含む硬化/固化した混合物を包含する。硬化/固化した混合物は、建築板(例えば、プラスターボード又はセメント板)、レンガ、設置された下塗り(例えば、設置されたプラスター)、設置されたモルタル、設置されたフィラー、設置された目地材(joint compound)又は設置されたスクリードなどの成形体を包含する。加工可能/成形可能な混合物は、まだ成形されていない物体(すなわち、粉末混合物)、例えば、下塗り(例えば、プラスター)、モルタル、フィラー、目地材又はスクリードを包含し、その成形は、水の任意の添加及び表面への適用によってのみ行われる。
【0014】
無機結合剤は、無機結合剤の総重量に基づいて少なくとも50重量%の硫酸カルシウム結合剤を含み得る。硫酸カルシウム材料は、二水和物(CaSO×2HO、石膏とも呼ばれる)、半水和物(CaSO×1/2HO、スタッコとも呼ばれる)又は無水石膏(CaSO)としても存在する。天然に存在する硫酸カルシウム材料は、上記の形態のいずれかで採掘することができる。建築板の製造において、最大量の硫酸カルシウム結合剤は、半水和物として添加され、これは製造プロセス中に硬化して完成建築板において二水和物を形成する。石膏、フィラー又は目地材などの乾燥粉末コンパウンドは、無水石膏又は半水和物の形態で存在する硫酸カルシウム結合剤と共に販売される。水と混合された後、硫酸カルシウム結合剤は最終的に硬化し、二水和物を形成する。
【0015】
本発明における「シリケートガラス繊維」という用語は、主にシリカ(SiO)、すなわち、繊維の総重量に基づいて>80重量%のシリカを主に含む繊維を示すことを意味し、シリカは好ましくは非晶質である。
【0016】
本発明における「熱的に前処理された」という用語は、シリケートガラス繊維が、それらを無機結合剤及び水と混合する前に、かつ板又は他の建設材料を成形する前に、温度前処理、すなわち、熱的前処理を受けたことを示すことを意味する。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、典型的には、断熱のために、例えば、高温ガスケット又は断熱マットにおける断熱のために、主に金属及びガラス産業のために製造され、使用されている。
【0017】
好ましくは、前処理されたシリケートガラス繊維の熱的前処理は、シリケートガラス繊維を700℃~1000℃、好ましくは850℃~1000℃の温度に少なくとも30分間加熱するステップを含む。より好ましくは、シリケートガラス繊維の熱的前処理は45分間~420分間維持され、最も好ましくは、シリケート繊維の熱的前処理は200分間~400分間維持される。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、少なくとも91重量%、より好ましくは少なくとも95重量%、更により好ましくは少なくとも98重量%のシリカ(SiO)及びアルミナ(Al)の合計量を含むことができる。特に好ましい実施形態において、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、少なくとも90重量%、特に90~99重量%、好ましくは93~98重量%のシリカ(SiO)及び1~10重量%、好ましくは2~7重量%のアルミナ(Al)を含む。この場合の特定の重量百分率は、繊維の総重量に基づく。
【0019】
あるいは、又はそれに加えて、本発明における熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、少なくとも1300℃、より好ましくは少なくとも1500℃、更により好ましくは少なくとも1700℃の融点を有することができる。
【0020】
あるいは、又はそれに加えて、本発明における熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、少なくとも1200℃、より好ましくは少なくとも1300℃、更により好ましくは少なくとも1500℃、最も好ましくは少なくとも1600℃の軟化点を有することができる。比較的高い軟化点は、繊維の構造的完全性を保証し、その結果、この温度までの建築材料の安定性も保証する。軟化点は、物理的特性に顕著な変化が存在する温度である。ガラス材料は、硬質から軟質に変化するが、まだ溶融していない。
【0021】
あるいは、又はそれに加えて、本発明における熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、高温で耐収縮性であることができる。高温とは、少なくとも700℃かつ最大でも1000℃、好ましくは少なくとも900℃に少なくとも30分間曝露することを意味する。具体的には、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、1000℃の温度に少なくとも30分間曝露されたとき、7%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下収縮することができる。繊維の収縮とは、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維が、少なくとも700℃、最大でも1000℃、好ましくは少なくとも900℃の高温に、少なくとも30分間、曝露したときに、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、少なくとも93.1%、好ましくは少なくとも95.1%、より好ましくは少なくとも97%、最も好ましくは少なくとも98%、又はそれらの元の長さを保持していることと理解すべきである。収縮が最小限であると、記載されている繊維が、結合剤マトリックスから放出又は離脱せず、したがって、無機結合剤系建設材料が、高温に、例えば、火災中に経験される可能性のある温度に、曝露されるときに、建築材料の安定性及び/又は凝集性を提供し続けることができるという点で有利である。凝集という用語は、建築材料のいかなる部分も剥がれ落ちないことを示すことを意味している。凝集は更に、繊維がマトリックス材料を一緒にしっかりと保持し、それを、一体化された状態に保ち得ることを示すことを意味している。
【0022】
あるいは、又はそれに加えて、本発明における熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、500℃の温度に45分間~75分間曝露されると、2重量%~6重量%を失う場合がある。500℃の温度に45分間~75分間曝露されると、前処理されていないシリケートガラス繊維は、典型的には、9重量%~13重量%を失い、処理されていないガラス繊維、すなわち、従来のガラス繊維は、0重量%~3重量%を失う場合がある。これらの繊維の重量損失は500℃でほぼ同一であるので、一般に、1000℃に45分間~75分間曝露されると、前処理されていないシリケートガラス繊維及び熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の更なる重量損失はない。しかしながら、一般に、従来のガラス繊維については、1000℃で45分~75分間で9重量%~13重量%の重量損失がある。この場合の重量損失は、繊維を500℃に45分間~75分間加熱する前の周囲温度での繊維の重量に基づいている。
【0023】
あるいは、又はそれに加えて、本発明における熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、1000℃に45分間~75分間曝露された後に、それらの構造的完全性及び可撓性を維持することができる。前処理されていないシリケートガラス繊維は、同じ曝露後にそれらの構造的完全性を維持することができるが、脆い可能性がある。1000℃で45分間~75分間では、従来のガラス繊維は、それらの構造的完全性を失い、溶融塊を形成する。
【0024】
好ましくは、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、肺生体内残存性(lung bio-persistence)が低い。肺生体内残存性が低いということは、繊維が、特に呼吸曝露時に潜在的な健康被害とみなされないことを意味している。
【0025】
「従来のガラス繊維」という用語は、非晶質シリカ(SiO)を含む、好ましくは、繊維の総重量に基づいて50~70重量%の非晶質SiOを含む、ガラス繊維を示すことを意味している。非晶質材料は、結晶性又は長距離秩序を有さないか、又は極めて低い(<3%)。より好ましくは、従来のガラス繊維は、全て繊維の総重量に基づいて、50~65重量%の非晶質SiOを含む。従来のガラス繊維は、Al、B、CaO、MgO及び/又は他の金属酸化物を更に含むことができる。従来の繊維は、一般に、1000℃未満の融点及び/又は900℃未満の軟化点、好ましくは700℃付近の軟化点を有する。
【0026】
無機結合剤系建設材料は、コロイダルシリカを更に含むことができる。
【0027】
本発明において、シリカゾルとしても知られている「コロイダルシリカ」という用語は、液相中の微細な非晶質、非多孔性で、典型的には球状のシリカ粒子の懸濁液を示すことを意図しており、コロイダルシリカ粒子は、典型的には、約1~50nmの範囲の平均粒径を有する。
【0028】
熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を、コロイダルシリカと任意選択的に組み合わせて使用することにより、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含有しないが、それ以外は同一の組成である無機結合剤系建設材料と比較して、無機結合剤系建設材料の耐火性が改善される。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維とコロイダルシリカとを組み合わせて使用すると、耐火性に関して最良の特性が提供されることから、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及びコロイダルシリカの両方を含む本発明の建築材料の実施形態が好ましい。
【0029】
耐火性とは、システム又は成分、例えば、建築構造体又は建築材料が、火災又は極めて高い温度に耐える能力を示すことを意味している。超高温とは、少なくとも60分間、好ましくは少なくとも120分間、600℃を超える温度、好ましくは900℃を超える温度である。火災又は極めて高い温度に耐えることは、材料が、例えば、建設材料が、その構造的完全性を維持し、亀裂又は崩壊する(その完全性を失う)ことなく耐え得ることを示すことを意味している。火災又は極めて高い温度に耐えることは、材料が、例えば、建設材料が、構造的に壊れたり、火災から離れた側に火炎が移動したりしないことを示すことを更に意味する。本発明の建築材料は、最初の60分間はDIN EN 1363-1:2012-10の温度プロファイルに従う温度に曝露し、次の60分間は一定の945℃に曝露して試験したときには、耐火性であり、かつ/又は少なくとも945℃の温度に少なくとも120分間耐えることができる。本発明の範囲内で、本発明の建設材料が規定の温度条件で収縮し始めるまでの時間の長さ、及び本発明の建設材料がこれらの温度条件である特定の収縮率に達するまでの時間が、延長され、したがって、より耐火性の建設材料及び/又はより耐火性の構造が提供される。本発明におけるこの遅延を判定するためのそれぞれの測定は、国際公開第2017/000972(A1)号に記載されている装置に従って、かつそれを用いて行われた。
【0030】
国際公開第2017/000972(A1)号の装置は、加熱中に1つの試料の長さの変化及び別の試料の重量変化を同時に及び/又は連続的に測定することができる。長さの変化のみが本発明に関連するため、装置のこの部分のみを説明する。テーブル形状の試料ホルダがオーブンチャンバ内に配置されている。支柱上の2つの円筒形支持部材が、テーブル形ホルダ上に配置される。試料は、これらの円筒形支持部材上に載置され、更に、もう一方の側のカウンターベアリングによって支持される。2つの支持部材は、そのような支持部材と試料との間に最小接触面積を提供するように成形される。水平に配列されている円筒形支持部材は、支持部材と試料との間にそのような最小接触面積を提供する。膨張又は収縮している間の、試料とその支持体、すなわち支持部材との間の摩擦を、低減するために、最小の接触面積を有することが好ましい。これにより、測定誤差が回避され、方法に関連し、プロセスに関連しないデータの突然のジャンプなしに円滑な記録が可能になる。試料はこのカウンターベアリングに固定され、それによって反対側への長さの変化を制限する。長さの変化は、カウンターベアリングの反対側において、長さ測定装置によって測定することができる。長さ測定装置は、検出器ロッドと、長手方向軸に沿った検出器ロッドの位置の変化を検出及び記録するロッド位置センサとを備えている。検出器ロッドは、耐熱性材料、例えば、セラミック材料からなり、一方の端部に検出チップを有し、この検出チップは、カウンターベアリングの反対側の試料側で第1の試料と接触する。検出器ロッドは、チャンバの外側にある位置センサから加熱チャンバ中へと延びている。検出器ロッドは、ばねによって圧力下に置かれ、ばね力によって試料の側面に押し付けられる。これにより、標準温度-時間曲線に従ってオーブンを加熱しながら連続測定が可能になる。
【0031】
無機結合剤系建設材料がセメント建築材料である場合、収縮は主な関心事ではないが、火に曝露されたときに、セメント物品内で不均一な応力が発生する。これは、セメント材料の分別及び剥離をもたらす場合がある。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、脱落、すなわち、建設材料のより大きな断片が物品から脱落することを防止する。物品の凝集力は、繊維含有量によって増加する。セメント壁板又はセメント下塗りの場合、これは、家屋の火災における負傷者を減らすために極めて重要である。議論された脱落及び凝集はまた、他の無機結合剤系建設材料にも関連姓がある。
【0032】
無機結合剤系建設材料が硫酸カルシウム結合剤を含む場合、CaSO×2HOからの水の蒸発は、より低い含水量及びより小さい体積を有する相の形成、具体的には、硫酸カルシウム半水和物又は無水石膏の形成をもたらす。この体積変化は、例えば、規定された温度処理の前後に試験試料体の長さを測定することによって、検出することができる。温度処理後、試料体の長さはより短い。しかしながら、硫酸カルシウム建築材料/建築製品の収縮率は、硫酸カルシウム結合剤の起源にも依存することから、絶対値は、この文脈においてはほとんど重要ではないことに留意しなければならない。硫酸カルシウムがその起源に応じて異なる不純物を含有する可能性があり、これらの不純物が建築材料の特性に影響を及ぼす可能性があることは、周知の事柄である。したがって、同一起源の硫酸カルシウムのみが直接比較され得る。熱的に前処理されたシリケート繊維は、有利なことに、高温、例えば、火災中に経験され得る温度に曝露されたときに、同様の軟化点及び/又は融点を有する類似の繊維よりも収縮が少ないと考えられる。それらのサイズを維持する(すなわち、収縮がより少ない)改善された能力によって、これらの繊維は、収縮応力下であっても、結合剤マトリックスから放出又は分離されず、建築材料の安定性及び/又は凝集性を提供し続けることができると更に考えられる。
【0033】
しかしながら、高温に曝露されたときに、試料試験体が、収縮し始める前に、コンパクトな試料体は、一般に、ある程度膨張する。この膨張は、石膏(CaSO×2HO)から結晶水が放出されることと関連があり、それによって水蒸気が発生すると考えられる。膨張相は、試料本体の加熱から始まり、試料本体が収縮し始める時点、すなわち、サイズ又は長さが減少し始める時点で終了する。
【0034】
温度適用前の試料体の長さと、120分の規定温度適用後の試料体の長さとの間の差は、元の長さ(=温度適用前の長さ)のパーセントで表される。長さの変化に関する正の百分率値は、膨張(膨張率)、すなわち、長さの増加を示し、負の百分率値は、収縮(収縮率)、すなわち、長さの減少を示す。収縮率が低ければ低いほど(すなわち、負の値が小さければ小さいほど)、温度処理の結果としての建設材料の収縮は小さくなる。試料体の長さは、試料体が最大の広がりを有する空間内の方向である。理論に束縛されるものではないが、建築材料又はその試料体は、例えば、幅又は高さなどの他の寸法(すなわち、他の方向)にも収縮し得ると考えられる。
【0035】
高温処理の開始から、多くの場合、膨張相(すなわち、試料試験体の長さが増加する高温処理の開始における段階又は期間)の継続時間と一致する、収縮相(すなわち、試料試験体の長さが減少する段階又は期間)の開始までの時間間隔の継続時間と、収縮率の両方は、試料サイズ及び試料形状に左右される。試料試験体が製造ラインで製造された板から採取される場合、製造方向に対する試料の配向も関連する。したがって、ほぼ同じ形状、サイズ、重量、及び適用可能であれば同じ試料配向で互いに比較するべきである。
【0036】
重要な利点は、この建設材料が、少なくとも80℃の温度に曝露されたときに、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の代わりに従来のガラス繊維、並びに任意選択的にコロイダルシリカを含有し、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料を基準として、一時的に遅延した収縮相を、すなわち、試料体の長さが減少する段階又は期間を、示す、という事実にある。特に、硫酸カルシウム建築材料の場合、硫酸カルシウム建築材料が、少なくとも80℃の温度に曝露されると、水を失う、ことを理解するのが重要である。これは、結晶性硫酸カルシウム構造に取り込まれたHO分子が徐々に除去されることを意味している。二水和物は、半水和物に変化し、最終的には無水石膏に変化する。より低い含水量を有する硫酸カルシウム分子は、占有する空間も少ない。これは、硫酸カルシウム建築材料が収縮し得ることを意味する。
【0037】
好ましい実施形態では、本発明の建設材料の収縮相の開始は遅延される。高温処理の開始から、本発明の建設材料の試験体が収縮し始めるまでの時間間隔(=収縮の遅延)は、DIN EN 1363-1:2012-10に記載されている標準温度-時間曲線に従う温度に曝露され、温度が945℃で60分~120分維持された場合に、(熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の代わりに)従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含む、本質的に同じ組成の対応する試験体が収縮し始める時間間隔よりも長い。好ましくは、試験体がその初期長さの99%に達する時間間隔は、DIN EN 1363-1:2012-10に記載されている標準温度-時間曲線に従う温度に曝露され、温度が945℃で60分~120分維持されたときに、従来のガラス繊維(熱的に前処理されたガラス繊維の代わり)及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成の試験体がその初期長さの99%に達する時間間隔の少なくとも1.35倍の時間間隔、より好ましくは少なくとも1.5倍の時間間隔、更により好ましくは少なくとも1.6倍の時間間隔である。例えば、従来の試験体が10分で収縮し始める場合、少なくとも1.5倍の収縮の遅延を有する本発明の試験体は、言及された温度に曝露されたときに、15分又はそれより後でのみ収縮し始める。
【0038】
比較可能な結果を得るために、本発明による無機結合剤系建設材料の試料体を、加熱の最初の60分間、DIN EN 1363-1:2012-10による標準温度-時間曲線による温度処理に供した。それに基づいて、炉加熱曲線は、以下の式を満たすべきである:
T=345 log10(8t+1)+20
式中
Tは、摂氏での平均炉温度であり、tは、分での経過時間である。最初の60分間、試料をおよそ945℃に加熱する。この初期期間の後、実行された試験による温度適用は、DIN EN 1363-1:2012-10から逸脱した。その後の試験実行時間、すなわち、60分~120分では、945℃の一定温度適用を使用した。
【0039】
本発明による組成を有する無機結合剤から製造された試験体は、DIN EN 1363-1:2012-10の温度プロファイルに従う温度に最初の60分間曝露された場合に、少なくとも60分後に、従来のガラス繊維及び任意選択でコロイダルシリカを含むが、それ以外は同一の組成の試験体よりも小さい収縮率を示す。特に、この実施形態による試験体の収縮率は、少なくとも60分後に、(熱的に前処理されたガラス繊維の代わりに)従来のガラス繊維を有するが、それ以外は同一の組成の無機結合剤から製造された試験体の収縮率よりも、少なくとも10%低く(すなわち、レスネガティブ)、好ましくは少なくとも20%低く、より好ましくは少なくとも40%低い。これに代えて又はこれに加えて、上記したように、試験体を最初の60分間はDIN EN 1363-1:2012-10による標準温度-時間曲線に供し、その後の60分間は一定の945℃に供したときに、本実施形態による試験体の収縮率は、少なくとも120分後に、少なくとも10%低く(すなわち、レスネガティブ)、好ましくは少なくとも20%低く、より好ましくは少なくとも40%低く可能性がある。上記のように、無機結合剤系建設材料のタイプ、重量、サイズ及び製造方向に関する配向は、該当する場合は、同等でなければならない。
【0040】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の建設材料は、建築材料の製造に使用される無機結合剤の総重量に基づいて、0.01~5重量%、好ましくは0.05~2重量%、より好ましくは0.1~1.5重量%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含む。これに関して、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の量が0.01重量%未満である場合、収縮を遅延及び/又は低減するための組成物に対する繊維の安定化効果が十分でない可能性があり、一方、5重量%を超える熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の量では、収縮の遅延及び/又は低減は更に改善されないことが見出された。収縮シリケートガラス繊維の所望の遅延及び/又は低減を提供するための、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の最適量は、0.1~1.5重量%である。
【0041】
無機結合剤系建設材料が硫酸カルシウム建設材料である好ましい実施形態において、「スタッコ」という用語は、硫酸カルシウム半水和物(CaSO×1/2HO)を示し、これは、硫酸カルシウム建築板用のスラリーを調製するために従来使用されている。スタッコはまた、硫酸カルシウム下塗り又はプラスターのための基礎でもある。しかしながら、スタッコは、劣位量の硫酸カルシウム無水石膏を、例えば、(スタッコの総重量に基づいて)20重量%未満、好ましくは10重量%未満の量で含有してもよいことは除外されない。「石膏」という用語は、硫酸カルシウム二水和物(CaSO×2HO)のことである。上記したように、本発明の建設材料は、好ましくはスタッコを含む加工可能/成形可能な混合物と、混合物に応じておそらく非結合水並びに硬化無機結合剤との両方を包含し、好ましくは、硫酸カルシウムは主に硫酸カルシウム二水和物として存在する。
【0042】
硫酸カルシウム建設材料が依然として加工可能である場合、硫酸カルシウム半水和物又はスタッコは、通常は、硫酸カルシウム建設材料において使用される乾燥材料に基づいて、少なくとも50重量%の量で存在する。好ましくは、硫酸カルシウムの量は、60~99重量%の範囲、更により好ましくは70~98重量%の範囲、更により好ましくは75~95重量%の範囲である。焼成の方法は、重要ではなく、アルファ又はベータ焼成されたスタッコが好適である。
【0043】
熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の長さに関して、本発明の建設材料は、繊維が所望の安定化を提供するのに十分な長さであるべきであるが、一方、繊維が、建設材料が調製される混合プロセスを干渉する/妨げるほど長いものであってはならないことを除いて、いかなる関連規制(relevant restriction)も受けない。特に好適な長さとしては、1~20mm、特に2~15mm、より特に4~13mm、最も特に4~8mmの範囲を挙げることができる。
【0044】
加えて、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維の直径は、一方では、繊維が十分に弾性であり、簡単に壊れないようなものであるべきであるが、他方では、十分な安定化を提供するために大量の繊維を組成物中に組み込まなければならないことを回避するために、あまりにも繊維が嵩高にならないように、繊維は太過ぎるべきではない。本発明の実施において、1~20μm、好ましくは2~10μmの範囲の平均粒径を有する繊維を有利に使用することができる。
【0045】
本発明の建設材料に組み込まれるコロイダルシリカについては、無機結合剤の総重量に基づいて、0.01~10重量%の好ましい量を挙げることができ、0.1~5重量%の量のコロイダルシリカが特に好ましく、0.3~2.0重量%の範囲の量が更により好ましい。この点に関して、コロイダルシリカは、水中のコロイド状分散液として最も頻繁に使用されるが、上記の重量百分率は、乾燥基準でコロイダルシリカについて与えられていることに留意されたい。
【0046】
本発明の基礎となる研究において、無機結合剤系スラリー、特に硫酸カルシウムスラリーを形成するときに、より少ない量の添加コロイダルシリカ(例えば、0.4重量%)は、混合物の特性に影響を及ぼさないが、例えば、2重量%の量を添加すると、液化効果を有し、多量のコロイダルシリカ(例えば、約4重量%)の添加は、増粘効果さえ有することが見出された。加えて、>4重量%で、コロイダルシリカは、無機結合剤系スラリーの硬化に対して促進効果を有した。およそ10~15重量%のコロイダルシリカが添加された場合、促進が特に顕著であった。有利なことに、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、流動性及び/又はその硬化挙動などの無機結合剤系スラリー特性に影響を及ぼさない。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維はまた、スラリー中の任意選択のフォームに影響を与えないようであり、特に、それらはフォームを破壊しないようである。
【0047】
更なる添加剤を本発明の建設材料に組み込んで、それの1つ以上の加工性特性及び最終特性を調整又は最適化することができる。例えば、建築材料を更に強化するために従来のガラス繊維を添加することができ、硬化組成物の密度を制御するために発泡剤を添加することができ、乾燥材料を水性スラリー中に分散させるのを助けるために分散剤を添加することができ、結合のために、例えば、ライナーをコアに結合するために有機結合剤を添加することができ、組成物が硬化するのに必要な時間を制御するために促進剤及び遅延剤を添加することができる。更に、硬化した建設材料の水分解に抵抗する薬剤、及び他の耐火性添加剤、例えば、粘土、コロイダルアルミナ、長石を含まない白雲母、未膨張バーミキュライト、及び水不溶性硫酸カルシウム無水石膏ウィスカー繊維を組み込むことが可能である。適切な添加剤は、周知であり、当業者に利用可能である。
【0048】
好ましくは、無機結合剤系建設材料は、バーミキュライトを欠いている。
【0049】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本発明の建設材料は、板、レンガ、下塗り、モルタル、フィラー、目地材及び/又はスクリードであることができる。
【0050】
本発明による建築板は、壁、床又は天井を組み立てるために建設に使用される平坦なシートを指す。これらの建築板又はパネルの例としては、壁板、乾式壁、プラスターボード、繊維板、セメント板、スクリード板が挙げられるが、これらに限定されない。建築板は、建築板の上面及び底面の2つの主表面を有する。多くの建設板はライナーを有することができ、ライナーは、主表面/主面、並びにしばしば少なくとも2つの縁部を覆うことができる。本発明の一実施形態による建設板のコアは、1つ以上の層を含むことができる。建設板は、少なくとも1つの無機結合剤系層を有するコアを有することができ、無機結合剤系層は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含む。コアが1つの層のみを含む場合、この層は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含む。コアが2つ以上の層を含む場合、少なくとも1つの層は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを含む。無機結合剤系建設板の耐火性は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維がコアの少なくとも1つの層に組み込まれる場合、効果的に増加され得る。
【0051】
無機結合剤系建設板の好ましい実施形態は、硫酸カルシウム建築板、特に石膏プラスターボード又は石膏繊維板である。これに代えて又はこれに加えて、建設材料は、硫酸カルシウムプラスター、下塗り、目地材又はモルタルであることができる。プラスター又は下塗りは、無機結合剤と添加剤との乾燥した又はすぐに使用できる混合物であることができ、これは、壁及び/又は天井に散布されて、乾燥したときに滑らかで硬い表面を形成する。それは、一般に、保護及び/又は装飾目的のために使用される。適用前に、水を乾燥混合物に添加することができる。
【0052】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、建設材料はスクリードであることができる。スクリードは、無機結合剤、好ましくは硫酸カルシウム建築材料の乾燥混合物であることができる。この材料は、更なる添加剤を含有することができ、適用前に水と混合することができる。
【0053】
石膏建築プラスター又はスクリードの耐火性は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカが、乾燥した又はすぐに使用できる混合物に組み込まれる場合、効果的に増加され得る。
【0054】
本発明の更なる態様は、無機結合剤系建設材料の製造のための方法であり、
(i)無機結合剤を、水と、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維と、混合して、混合物を形成するステップと、
(ii)その混合物から建設材料を成形するステップと、
(iii)その建設材料を硬化させるステップと、
を含む。
【0055】
(i)の混合物は、任意選択的にコロイダルシリカを含むことができる。
【0056】
上記の方法に従って調製される建設材料は、板、レンガ、下塗り、モルタル、フィラー、目地材及び/又はスクリードであることができる。
【0057】
本発明のなお更なる別の態様は、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料と比較して、無機結合剤系建設材料の耐火性を改善するために、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを使用することである。好ましくは、これは、高温に曝露されたとき、好ましくは火災の中に、建設材料の脱落を防止し、及び/又はその粘着性を改善することができる。
【0058】
本発明の更なる実施形態は、高温に曝露されたときに、好ましくは火災中に、従来のガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを有するが、それ以外は同一の組成を有する無機結合剤系建設材料と比較して、試験体の収縮を遅延及び/又は低減するために、無機結合剤系建設材料において熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び任意選択的にコロイダルシリカを使用することである。
【0059】
上記において、一態様に関連して説明した任意の好ましい又は特に好適な実施形態はまた、組み合わせがその態様と明らかに矛盾しない限り、本発明の他の全ての態様にも適用可能である。したがって、全てのそのような組み合わせは、明示的に示されていなくても、本発明によって包含され、かつ本発明に記載されているとみなされる。
【0060】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、実施例はいかなる点においても本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例
【0061】
実施例1:石膏プリズムの相対的収縮挙動
以下の試験のために、10cm×4cm×2cmの寸法を有するプリズム(試験体)を、以下の表1に示した組成物から調製した(全ての重量百分率は、参照としてのスタッコの総重量に基づいている)。プリズムは、スタッコ、促進剤及び熱的に前処理されたシリケート又は従来のガラス繊維を、バッグ中で振盪することによって完全に予備混合することによって調製した。液体添加剤(40%水溶液として使用されたコロイダルシリカを含む)を、乾燥混合物と混ぜられる水と混合し、乾燥成分を、その水性混合物に導入し、均質な硫酸カルシウムスラリーが形成されるまで撹拌した。その後、それぞれのプリズム型に流し込み、そこから30分後にプリズムを取り出した。次いで、プリズムを、40℃で一定重量まで乾燥させて、約1250kg/mの密度にした。
【0062】
好適な市販の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維は、95±1重量%のSiO及び3.5±0.5重量%のAl並びに任意選択的に劣位量(すなわち、1重量%未満)のNaOなどの他の成分に基づくisoTex(登録商標)1200.GS6.TとしてFingerhuth HeatProtectionによって販売されているものである。
【0063】
【表1】
=参照試料、=Johns Manvilleのガラス繊維M 3001/2、=isoTex(登録商標)1200.GS6.T(Fingerhuth Heatprotection)、=40%水性コロイド溶液として
【0064】
このように調製したプリズムの収縮挙動を、DIN EN 1363-1:2012-10に記載されている標準温度-時間曲線に従って、そのプリズムを加熱し、温度を945℃で60分~120分維持することによって調査した。それぞれの膨張収縮プロファイルを、添付の図1~3に示す。
【0065】
図1から明らかなように、熱的に前処理されたシリケート又は従来のガラス繊維を有しない試料(試料1)及び従来のガラス繊維のみを含有する試料(試料2及び3)は全て、約-8~-10%の最終収縮値を有する。一方、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有する試料(試料4及び5)は、約-4~-7%の最終収縮値を有する。全ての試料において、約20分までの初期膨張相を観察することができ、これはおそらく結晶水の蒸発によるものである。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有さない試料は、この初期膨張相の後に収縮し始める。この収縮は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有する試料では遅延される。
【0066】
図2は、収縮挙動に対するコロイダルシリカの効果を示している。コロイダルシリカは、長さの減少の急速な低下を防止することから、収縮挙動にプラスの影響を有する。コロイダルシリカの添加により、最終収縮値はわずか約-5.2%であった(試料6)。
【0067】
図3では、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及びコロイダルシリカの添加の組み合わせ効果が示されている。1.7%のコロイダルシリカ及び0.5%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を含む試料7では、最終収縮値は、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維が従来のガラス繊維で置換されたほとんど同一の試料(試料6)よりも著しく優れていた。
【0068】
実施例2:高温状態での相対的安定性
高温状態での安定性を判定するために、多孔性プリズムを使用したが、これは、非多孔性プリズムが非常に容易に壊れるためである。しかしながら、多孔性プリズムは、いかなる膨張相も示さない。
【0069】
試験プリズム(16cm×4cm×2cm)を、実施例1に記載したのと類似の方法によって調製した。乾燥成分の混合物を、液体添加剤/水混合物に導入し、続いて、予め別個に調製しておいたフォームを添加した。次いで、フォームを硫酸カルシウムスラリーに20秒間混合し、得られた混合物をプリズム金型に注いだ。約10~15分後、プリズムを型から取り出し、40℃で一定重量まで乾燥させて、約850kg/mの密度を得た。このようにして調製された試験プリズムの組成を以下の表2に示す。
【0070】
【表2】
=参照試料、=Johns Manvilleのガラス繊維M 3001/2、=isoTex(登録商標)1200.GS6.T(Fingerhuth Heatprotection)、=40%水性コロイド溶液として
【0071】
試験プリズムを、次に記載するように高温での撓み/変形試験にかけた。2本の水平セラミック管を、オーブンチャンバ内のセラミック支持体上に互いに平行に配置した。試験プリズムを、互いに11cm離して配置された2つの平行な水平セラミック管上に配置した。建築板の死荷重をシミュレートするために、200gの重りをプリズムの中央に配置した。プリズムの上面に配置されたセラミック板(1cm×1cm)上にセラミックロッドを押し付けることによって、200gの重りをプリズム上に移した。オーブンチャンバを、DIN EN 1363-1:2012-10に記載されている標準温度-時間曲線に従って加熱し、温度を945℃で60分~120分維持した。この時間-温度曲線は、構造要素の耐火性の分類試験中の温度経過を事前に決定する。試験プリズムの撓みを、セラミックロッドを介して15秒間隔で測定した。これらの測定の結果を図4に示す。
【0072】
この図から明らかなように、いずれの種類の繊維も添加していない石膏プリズムは安定性を有さず、約6分後に破損した(試料1)。従来のガラス繊維をプリズムに添加すると、破壊が約38分遅れ(試料8)、破壊は約44分後に起こった。従来のガラス繊維試料(試料10及び12)にコロイダルシリカを添加することによって、破壊を更に遅らせることができ、破損は約66分(試料10)及び76分(試料11)後に起こった。具体的には、0.3%の従来のガラス繊維を有する試料(試料8)の撓みはわずか20分後に始まり、0.5%の従来のガラス繊維及び1%のコロイダルシリカを有する試料(試料10)の撓みは45分後に始まり、0.5%のガラス繊維及び1.7%のコロイダルシリカを有する試料(試料12)の撓みは50分後に始まる。
【0073】
熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有する石膏プリズム(試料9、11及び13)は、より高い可撓性を示したようであり、より長く歪みに耐えることができた。コロイダルシリカを有しない試料(試料9)は、従来のガラス繊維及びコロイダルシリカを含有する試料(試料12)と比較して、約82分後に、いくらか遅延したが、同様に破損した。熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及びコロイダルシリカの両方を含有する両方の試料(試料11及び13)は、120分の試験実行中に破損しなかった。試料11(1.0%コロイダルシリカ)及び13(1.7%コロイダルシリカ)は、それぞれ28mm及び18mmの最大の撓みに達した。したがって、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有する試料(試料9、11及び13)は、従来のガラス繊維試料(試料8、10及び12)の撓みとは著しく異なる。0.3%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維を有する試料(試料9)の撓みは35分後に始まり、0.5%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び1%のコロイダルシリカを有する試料(試料11)の撓みは60分後に始まり、0.5%の熱的に前処理されたシリケートガラス繊維及び1.7%のコロイダルシリカを有する試料(試料13)の撓みは70分後に始まる。更に、熱的に前処理されたシリケートガラス繊維試料が変形して曲がる時間は、従来のガラス繊維試料よりも有意に長い。
図1
図2
図3
図4
【国際調査報告】