(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】脱水素触媒を用いたアルケニル芳香族化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 5/333 20060101AFI20231213BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20231213BHJP
B01J 37/00 20060101ALI20231213BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20231213BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20231213BHJP
B01J 23/83 20060101ALI20231213BHJP
C07C 15/46 20060101ALI20231213BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C07C5/333
B01J23/89 Z
B01J37/00 D
B01J37/08
B01J37/04 102
B01J23/83 Z
C07C15/46
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023528223
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-05-11
(86)【国際出願番号】 EP2021084481
(87)【国際公開番号】W WO2022128597
(87)【国際公開日】2022-06-23
(32)【優先日】2020-12-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】596081005
【氏名又は名称】クラリアント・インターナシヨナル・リミテツド
(74)【代理人】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591110241
【氏名又は名称】クラリアント触媒株式会社
(72)【発明者】
【氏名】シュルツ・フェリックス
(72)【発明者】
【氏名】シュワルツァー・ハンス-クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】小鷹狩 暢明
(72)【発明者】
【氏名】倉口 祐馬
(72)【発明者】
【氏名】草場 崇
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA08
4G169AA15
4G169BB06A
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4G169BC02A
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4G169BC72A
4G169BC72B
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4G169DA05
4G169EB14X
4G169FB06
4G169FB30
4G169FB65
4G169FC08
4H006AA02
4H006BA02
4H006BA05
4H006BA06
4H006BA08
4H006BA14
4H006BA19
4H006BA22
4H006BA23
4H006BA24
4H006BA25
4H006BA26
4H006BA30
4H006BA60
4H006BA81
4H006BA85
4H006BC10
4H006BC31
4H006BE60
4H039CA21
4H039CC10
(57)【要約】
本発明は、以下の工程を含むアルケニル芳香族化合物の製造方法に関する:
― 1以上の連続反応器中で、アルキル芳香族化合物の脱水素に適した脱水素触媒の存在下で、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流を水蒸気と接触させる、
ここで、当該水蒸気と炭化水素との重量比(水/炭化水素比)は0.4~1.5である、
ここで、当該脱水素触媒は3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である、および、
ここで、当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、
―Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、
―K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y2O3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、を含む。さらに、本発明は、以下を含む脱水素触媒およびその製造方法に関する:
―Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、
―K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y2O3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、
ここで、重量%は酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づく、
ここで、当該脱水素触媒は少なくとも3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、アルケニル芳香族化合物の製造方法:
― 1以上の連続反応器中で、アルキル芳香族化合物の脱水素に適した脱水素触媒の存在下で、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流を水蒸気と接触させる、
ここで、当該水蒸気と炭化水素との重量比(水/炭化水素比)は0.4~1.5である、
ここで、当該脱水素触媒は3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である、および、
ここで、当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、
―Fe
2O
3として計算して30~90重量%の鉄、
―K
2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO
2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y
2O
3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、を含む。
【請求項2】
前記歯車形状の寸法関係は、
(i)外径(d
2)および胴部直径(d
1)の比率(d
2:d
1)は、1.2:1~2.5:1である;
(ii)当該歯部の根部間幅(b
1)および当該歯部の冠部幅(b
2)の比率(b
1:b
2)は0:1~0.9:1である;
(iii)当該歯部の根部間幅(b
1)は、0.1mm以上である、
請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
当該外径(d
2)は3~10mmであり、当該胴部直径(d
1)は2~8mmである、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
当該歯部の根部間幅(b
1)は0.1~1mmであり、当該歯部の冠部幅(b
2)は0.8~5mmである、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、第2族元素の酸化物として計算して0.3~10重量%の第2族元素を含み、当該第2族元素は、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項6】
当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、第6族元素の酸化物として計算して0.1~10重量%の第6族元素を含み、当該第6族元素は、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびそれらの混合物からなる群から選択される、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項7】
当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、カリウム以外の追加アルカリ金属の酸化物として計算して、0.1~10重量%の追加アルカリ金属を含む、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項8】
当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)および金(Au)からなる群から選択される一以上の貴金属を0.1~200重量ppm含む、ここで当該貴金属は、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項9】
少なくとも1つの前記反応器の下流20cmの出口域における温度が、550℃未満である、前記請求項のいずれか一つの請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
以下を含む脱水素触媒:
Fe
2O
3として計算して30~90重量%の鉄、
K
2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
CeO
2として計算して1~50重量%のセリウム、および
Y
2O
3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、
ここで、重量%は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づく、
ここで、当該脱水素触媒は少なくとも3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である。
【請求項11】
前記歯車形状の寸法関係は、
(i)外径(d
2)および胴部直径(d
1)の比率(d
2:d
1)は、1.2:1~2.5:1である;
(ii)当該歯部の根部間幅(b
1)および当該歯部の冠部幅(b
2)の比率(b
1:b
2)は0.1:1~0.9:1である;および
(iii)当該歯部の根部間幅(b
1)は、0.1mm以上である、
請求項10に記載の脱水素触媒。
【請求項12】
以下の工程を含む、請求項11に記載の脱水素触媒の製造方法:
-原料を水と混合して押出成形可能な混合物を準備する、ここで、当該原料は、鉄化合物、カリウム化合物、セリウム化合物およびイットリウム化合物を含む;
-当該押出成形可能な混合物を、歯車形状ホールのマトリックスを使った押出によって、ペレットに形成する;および
-当該ペレットをか焼する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱水素触媒を用いて、アルキル芳香族化合物からアルケニル芳香族化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルキル芳香族化合物の脱水素反応は、容積膨張を伴う吸熱反応である。例えば、エチルベンゼンの脱水素反応は、下記(1)式の反応式に示されるように、一般に高温において、エチルベンゼンガスと水蒸気(スチーム)を混合した状態で行われる。
C6H5C2H5→C6H5C2H3+H2-113kJ/mol (1)
【0003】
当反応において1つの分子から2つの分子を生成するため、熱力学的平衡は、右側が低圧でのみ生じる。したがって、当該反応には、低圧が望ましい。当反応は吸熱性であり、これは、高温が必要であり、副反応としてコークス形成をもたらすことを意味する。この問題を克服するために、水を反応に添加する。水の高い熱容量は吸熱反応のエネルギー伝達を助け、コーキングを減らす。水蒸気の生成は高価であり、さらに、水分圧は、当反応の熱力学的平衡への悪影響を避けるために低く保つ必要がある全体の圧力に加わる。
【0004】
したがって、ここ数年の間、当産業において水量を減少させる傾向にある。当反応における水量は、通常、水対炭化水素の重量比(W/H比)の形で与えられる。触媒のコーキングを抑えながら、W/H比を減少させることは課題であり、換言すれば、よりコーキング抵抗性の高い触媒が求められている。当反応のためには、酸化鉄をベースとして、アルカリ金属およびアルカリ土類金属ならびにセリウムおよびパラジウムを促進剤として併せて用いた触媒が長期にわたって使用されている。
【0005】
このことは、例えば、非特許文献1(Ertl,Knoezinger,Weitkamp,VCH1997,Vol.5,2151頁ff)および特許文献1(US6191065B1)に記載されている。特許文献1(US6191065B1)は、アルキル芳香族化合物からアルケニル芳香族化合物を製造するための触媒が記載されており、当触媒は主に酸化鉄、アルカリ金属化合物、および約100ppm未満の貴金属、例えば、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム、オスミウム、ロジウムまたはイリジウムである。当触媒の追加的成分は、セリウム、モリブデン、タングステンおよび他のそのような促進剤に基づく化合物を含む。また、当触媒を用いたアルキル芳香族化合物からアルケニル芳香族化合物を製造する方法が開示されている。水蒸気対炭化水素比は、モル比で12/1であり、これは重量比でいうと1.66/1である(実施例2、第9欄、19行目)。
【0006】
特許文献2(EP3388147)は、アルキル芳香族炭化水素のための脱水素触媒を開示しており、当触媒は、鉄(Fe)、カリウム(K)、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)およびパラジウム(Pd)を含む。当該脱水素触媒は、0.8~1.2という低W/H重量比にて高い活性を示す。
【0007】
反応器の大きな圧力降下は望ましくない。なぜなら、反応器にガスを通すために入口にて高い圧力が必要であり、そこでの熱力学的条件が悪くなるからである。他方、反応器中の高い空隙率は、反応器中の触媒の量を減少させる。従って、圧力降下と反応器内の触媒の量との間の最適条件を見出さなければならない。活性物質の量を過度に減少させることなく圧力降下を抑える一つの方法は、より高い空隙率を有する非円筒形の触媒を使用することである。成功した例は、歯車形状のようなリブ付き押出成形触媒の使用である。
【0008】
特許文献3(US5097091)は、水蒸気対炭化水素の重量比が2において使用される歯車形状の触媒を開示している。また、当文献は、活性指数についても開示しており、当該活性指数は、長さが1mで直径が1mの反応器に充填する成形粒子に対する圧力降下(ΔP)を使用して、1リットル中の成形粒子の全面積(幾何学的表面積)から計算される。反応が速すぎて反応が粒子の孔内ではなく外側表面でのみ起こる場合は、活性指数は活性に相関する。反応が孔中でも起こる場合は、転化率は触媒質量に関連する。これは、通常、エチルベンゼンの脱水素化の場合である。したがって、歯車形状触媒を使用しても、他が同一の条件ならば反応器中の転化率を増加させない。なぜなら、反応器中の空隙率が高いほど、触媒量が少なくなる、と相関するためである。
【0009】
非特許文献2(J.Towfighiら)は、塩基性アルカリ金属が改質および脱水素反応におけるコークス形成を減少させることを開示している(J.Towfighi,et.al.,J.chem.Eng.of Japan(2002),Vol.35,No.10p,923-937)。残念ながら、アルカリ金属カチオンは水に非常に溶けやすい。アルカリ金属カチオンは水蒸気中に溶出し、反応器(60)中をガス流の方向と同様に入口(62)から出口(63)方向へと移動する。このアルカリ金属マイグレーションは、当脱水素触媒を長期的に失活させる主要なメカニズムの1つである。
【0010】
このアルカリ金属マイグレーションは、例えば非特許文献3(G.R.Meimaら,Appl.Catal.A:General212(2001)239-245)、または、非特許文献4(W.Beiniaszら、Catal.Today154(2010)224-228)、または、非特許文献5(I.Rossettiら、Appl.Catal.A:General292(2005)118-123)に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】US6191065
【特許文献2】EP3388147
【特許文献3】US5097091
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Ertl,Knoezinger,Weitkamp,VCH1997,Vol.5,2151頁ff
【非特許文献2】J.Towfighi,et.al.,J.chem.Eng.of Japan(2002),Vol.35,No.10p,923-937
【非特許文献3】G.R.Meimaら,Appl.Catal.A:General212(2001)239-245
【非特許文献4】W.Beiniaszら、Catal.Today154(2010)224-228
【非特許文献5】I.Rossettiら、Appl.Catal.A:General292(2005)118-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このアルカリ金属のマイグレーションは、触媒反応に対して2つの負の影響を有する。第1の負の影響は、アルカリ金属濃度が経時的に減少する領域で発生する。ここでは、アルカリ金属濃度が下がり触媒組成が変わるため、コークス形成の結果として失活し、そして耐コーキング性が低下する。第2の負の影響は、アルカリ金属が反応器の出口付近のより低温域に堆積し、活性触媒を覆ってしまうことである。
【0014】
これらの影響の程度は、反応条件に強く依存する。ほとんどの工業用反応器は断熱設計されており、これは、吸熱反応によって反応器内の温度が低下し、出口における温度が入口における温度よりも低くなることを意味する。反応をより平衡に近づけるために、しばしば、複数の反応器が前後に配置され、その間にてガス混合物が加熱される。当反応器の正確な出口温度は、空間速度、反応器の断熱性、および、使用される工程数に強く依存する。
【0015】
アルカリ金属の再堆積は、550℃未満の温度で特に問題となる。従って、解決すべき課題は、より長い寿命を示すアルキル芳香族化合物の脱水素によるアルケニル芳香族化合物の製造方法を開発することである。特に、アルカリ金属マイグレーションが少なく、低W/H比でも機能するアルカリ金属添加触媒を使う、アルキル芳香族化合物の脱水素反応によるアルケニル芳香族化合物の製造方法を提供することである。低W/H比は、水の使用量がより少なくなるので、エネルギー的に特に好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の目的は、水蒸気の存在下でのアルキル芳香族化合物の脱水素反応において高活性であり、アルカリ金属マイグレーションが抑えられた、アルカリおよびイットリウムを添加した脱水素触媒を提供することである。本発明の方法により、例えばスチレンのようなアルケニル芳香族化合物の製造のための典型的な工業用触媒床の入口付近の高温領域(例えば、600~650℃)において、そして、吸熱反応により温度低下している出口付近の低温領域(例えば、600℃未満)においてもアルカリマイグレーションがみられる。また、本発明の方法で使用される触媒を製造する方法を提供すること、および、当触媒を使用する脱水素化方法を提供することも本発明の目的である。
【0017】
本発明のアルケニル芳香族化合物の製造方法は、以下の工程を含む:
―1以上の連続反応器中で、アルキル芳香族化合物の脱水素に適した脱水素触媒の存在下で、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流を水蒸気と接触させる、
ここで、当該水蒸気とアルキル芳香族化合物との重量比(水/炭化水素比)は0.4~1.5である、
ここで、当該脱水素触媒は3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である、および、
ここで、当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、
―Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、
―K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y2O3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、を含む。
【0018】
好ましくは、当該歯車形状の寸法関係は、
(i)外径(d2)および胴部直径(d1)の比率(d2:d1)は、1.2:1~2.5:1である;(ii)当該歯部の根部間幅(b1)および当該歯部の冠部幅(b2)の比率(b1:b2)は0.1:1~0.9:1である;
(iii)当該歯部の根部間幅(b1)は、0.1mm以上である。
【0019】
好ましくは、当該歯車形状の寸法関係は、(i)外径(d2)および胴部直径(d1)の比率(d2:d1)は、1.2:1~2.5:1である、(ii)当該歯部の根部間幅(b1)および当該歯部の冠部幅(b2)の比率(b1:b2)は0.1:1~0.9:1である、および、(iii)当該歯部の根部間幅(b1)は、0.1mm以上である。
【0020】
本発明の別の態様は、以下の工程を含む脱水素触媒の製造方法に関する:
-原料を水と混合して押出成形可能な混合物を準備する、ここで、当該原料は、鉄化合物、カリウム化合物、セリウム化合物およびイットリウム化合物を含む;
-当該押出成形可能な混合物を、歯車形状ホールのマトリックスを使った押出によって、ペレットに形成する;および
-当該ペレットをか焼する。
【0021】
本発明者らは、驚くべきことに、上記触媒が促進剤としてイットリウム(Y)を含有する場合、低W/H比で行う反応のために設計された歯車構造を有する「リブ付き」押出エチルベンゼン脱水素触媒の使用が、反応器中のアルカリ金属マイグレーションを減少させることを見出した。
【0022】
さらに、本発明者らは、驚くべきことに、通常はこのようなリブ付き触媒はより高い空隙率を生じることから転化率が低下するが、当該触媒がイットリウムを含有する場合は、その低下が抑えられることを見出した。二つ目の予想外の効果として、本発明における当該触媒の転化率は、標準的なイットリウムを含まない組成のリブ付き触媒の転化率と比べて高くなること、すなわち当触媒がより高い生産性をもたらすことを見出した。
【0023】
本発明は、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流を水蒸気と接触させることによってアルケニル芳香族化合物を製造するための脱水素触媒の使用をさらに含み、当該水蒸気と当該アルキル芳香族化合物との重量比(水/炭化水素比)は0.4~1.5であり、ここで、当該脱水素触媒は3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状であって、ここで、当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、
―Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、
―K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y2O3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、一実施形態としての脱水素触媒の概略断面図である。
【
図2】
図2は、別の実施形態としての脱水素触媒の概略断面図である。
【
図3】
図3は、別の実施形態としての脱水素触媒の概略断面図である。
【
図4】
図4は、別の実施形態としての脱水素触媒の概略断面図である。
【
図5】
図5は、別の実施形態としての脱水素触媒の概略断面図である。
【
図6】
図6は、アルキル芳香族化合物の脱水素化のための反応器の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、アルケニル芳香族化合物の製造方法であって、以下の工程を含む:
―1以上の連続反応器中で、アルキル芳香族化合物の脱水素に適した脱水素触媒の存在下で、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流を水蒸気と接触させる、
ここで、当該水蒸気とアルキル芳香族化合物との重量比(水/炭化水素比)は0.4~1.5である、
ここで、当該脱水素触媒は3以上の歯部および胴部を含み、当該脱水素触媒の断面は歯車形状である、および、
ここで、当該脱水素触媒は、酸化物としての当該脱水素触媒成分の総重量に基づいて、
―Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、
―K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、
―CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および
―Y2O3として計算して0.01~1重量%のイットリウム、を含む。
【0026】
好ましくは、当該歯車形状の寸法関係は、
(i)外径(d2)および胴部直径(d1)の比率(d2:d1)は、1.2:1~2.5:1である;
(ii)当該歯部の根部間幅(b1)および当該歯部の冠部幅(b2)の比率(b1:b2)は0:1~0.9:1である;
(iii)当該歯部の根部間幅(b1)は、0.1mm以上である。
【0027】
歯車形状
アルキル芳香族の脱水素に適した脱水素触媒は、「脱水素触媒」または「触媒」と略され、当該脱水素触媒(10)は、当該触媒の断面が歯車形状となるように配置された歯部(11)および胴部(12)を含む。本明細書において、「断面」とは、歯車の歯部を延長した平面に並行する断面を意味する。当該歯車形状の断面を形成する胴部および歯部を有するこのような触媒の典型的な例を
図1に示す。
【0028】
胴部は、好ましくは円筒の形状、または本質的に円筒形である形状を有する。この場合、当該円筒の円周の中心に位置する縦軸は、歯部を延長した平面に垂直であり、歯車の中心部(軸方向)に存在する。当該断面内では、歯部は、好ましくは長方形の形状を有する。
【0029】
一実施形態では、前記歯車形状の寸法関係は、
(i)外径(d2)および胴部直径(d1)の比率(d2:d1)は、1.2:1~2.5:1である;
(ii)当該歯部の根部間幅(b1)および当該歯部の冠部幅(b2)の比率(b1:b2)は0.1:1~0.9:1である;
(iii)当該歯部の根部間幅(b1)は、0.1mm以上である。
【0030】
好ましい実施形態では、前記歯車形状の寸法関係は、
(i)比率(d2:d1)は、1.5:1、外径(d2)は4.6mm、胴部直径(d1)は3mmである;
(ii)比率(b1:b2)は0.3:1、当該歯部の根部間幅(b1)は0.4mm、当該歯部の冠部幅(b2)は1.5mmである;
(iii)当該歯部の根部間幅(b1)は、0.4mmである。
【0031】
当該歯車形状の寸法関係は、触媒の強度を増し、反応器充填において個々の触媒粒子間の表面接触を減少させるように最適化される。
【0032】
本発明による歯車形状は、外径(d2)および胴部直径(d1)の比率(d2:d1)は、1.3:1~2.0:1、好ましくは1.4:1~1.8:1、さらに好ましくは1.5:1~1.7:1としうる。当該歯車の外径(d2)は、1.5~25mm、好ましくは1.8~18mm、さらに好ましくは2.3~12mm、より好ましくは3~9mm、最も好ましくは3.5~6mmである。当該歯車の胴部直径(d1)は、1~10mm、好ましくは1.5~8mm、さらに好ましくは1.9~6mm、最も好ましくは2.5~4.5mmである。
【0033】
前記の外径(d2)を有する脱水素触媒は、脱水素反応が減圧下で行われる場合、特に圧力降下を低く抑えられるので、特に好適である。他方、前記の胴部直径(d1)は、当該触媒の十分な脱水素活性を得るのに十分な触媒質量および/または表面積を与える。
【0034】
当該歯車における歯部の根部間幅(b1)および当該歯部の冠部幅(b2)の比率(b1:b2)は0:1(根部間隙幅がない場合)~0.7:1、または0.1:1~0.7:1、好ましくは0.2:1~0.6:1、最も好ましくは0.3:1~0.5:1、としうる。当該歯部の根部間幅(b1)は、0.1~2mm、好ましくは0.15~1.5mm、より好ましくは0.2~0.9mm、より好ましくは0.25~0.7mm、最も好ましくは0.3~0.5mmである。当該歯部の冠部幅(b2)は、0.5~5mm、好ましくは0.7~3mm、さらに好ましくは0.9~2.5mm、最も好ましくは1.2~1.9mmである。好ましくは当該歯車において、当該歯部の冠部幅(b2)は、当該歯部の根部間幅(b1)よりも大きい。
【0035】
好ましくは、当該脱水素触媒の長さ(軸方向)は、1~20mm、好ましくは2~18mm、最も好ましくは3~6mmである。当該脱水素触媒の長さ(軸方向)の外径(d2)に対する比率は、約0.5:1~5:1、好ましくは1:1~3:1である。
【0036】
当該脱水素触媒(10)は、通常、3以上の歯部(11)、好ましくは4以上の歯部、最も好ましくは5以上の歯部を含む。当該脱水素触媒(10)は、好ましくは10以下の歯部(11)、より好ましくは8以下の歯部、最も好ましくは6以下の歯部を含む。
図1の脱水素触媒(10)は、5の歯部を有する実施形態である。
【0037】
当該歯部(11)は、典型的には平行な歯部側面(13)を含む。当歯部側面が部分的に又は完全に平行な歯部は、触媒の破損を減少しうる。当該歯部側面(13)は、歯部の高さ(h)に沿って本質的に平行に延びている。当該歯部の冠部および歯部側面(13)との間の角(14)は直角である。当該角(34)は、面取りまたは丸めることも可能である(
図3)。
【0038】
図3に示されるような角の面取り又は丸みづけは、当該歯部が触媒床または配列した配置でより小さなエリアで接触することで、全体的により大きな露出表面が利用可能となるり利点もある。当該歯部の丸み又は面取りによって触媒の摩耗を抑えることもでき、特に、反応器内に充填するとき、または、運転中に振動や温度および圧力のサイクル応力が発生して相互に成形体が変形してしまうときに効果が発揮される。
【0039】
本発明の方法の範囲内で、好ましくは、アルキル芳香族化合物はエチルベンゼンであり、アルケニル芳香族化合物はスチレンである。
【0040】
当該脱水素触媒(10)は、好ましくは、胴部(12)内に長手方向中空(21)を含む(
図2)。長手方向中空(21)は、径(d
3)を有する滑らかな円筒形の長手方向(軸方向)の中空である。さらに、長手方向中空(34)は、好ましくは冠部円直径(d
4)および根部円直径(d
5)を有する歯車形状の断面を有する(
図3)。当該歯車形状の断面は、別の実施形態では
図4に示されるように3の歯部を含み、
図5に示されるように6の歯部を含む。
【0041】
製造方法
アルケニル芳香族化合物の製造方法は、反応器中で、脱水素触媒の存在下で、アルキル芳香族化合物を含む、または、アルキル芳香族化合物からなる炭化水素流を水蒸気と接触させる工程を含む。当脱水素方法は、単一の反応器からなる固定床を利用した連続操作として行われる。あるいは、いくつかの反応器を一度に操作することができ、特に、脱水素化方法の反応器は第1の反応器の出口を第2の反応器の入口に接続しそれ以降も同様にし、連続した反応器で行うことができる。
【0042】
本発明の方法は、アルキル芳香族化合物を含む炭化水素流(供給物)の少なくとも部分的変換を含む。本発明の方法が反応器を1つだけ使う場合、または炭化水素流が一連の連続反応器の第1の反応器に導入される場合、炭化水素流は、エチルベンゼンなどのアルキル芳香族化合物からなるか、または本質的にそれからなる。一連の連続反応器において第1の反応器に続く反応器の場合は、炭化水素流は、前の反応器中で生成されたアルケニル芳香族化合物、ならびに変換されるべき未反応アルキル芳香族化合物を含む。
【0043】
特にエチルベンゼンなどのアルキル芳香族化合物を含む炭化水素化合物および水蒸気の重量比(水/炭化水素比)、いわゆるW/H比は、0.4~1.5、好ましくは0.4~1.4、または0.4~1.3、より好ましくは0.4~1.2、最も好ましくは0.4~1.1である。本発明の方法では、W/H比は、普通0.5以上、好ましくは0.6以上である。当W/H比は、普通1.5以下、好ましくは1.3以下、好ましくは1.2以下、好ましくは1.1以下、より好ましくは1.0以下、さらに好ましくは0.9以下、最も好ましくは0.8以下である。
【0044】
水蒸気をアルケニル芳香族化合物供給物原料に加えて、触媒から炭素質残渣を除去するのを助け、反応のための熱を供給する。単一反応器中での反応物含有ガスと触媒との接触時間は、液体-時間-空間速度(LHSV)で表される。LHSVは一般に、0.3~5h-1、好ましくは0.5~3.5h-1、より好ましくは0.6~1.9h-1、最も好ましくは0.8~1.5h-1である。
【0045】
反応器内部の温度は500~700℃、好ましくは520~650℃である。反応器(60)は、
図6に示すように、入口(62)および出口(63)を含み、当入口の温度は550~650℃、好ましくは580~630℃である。当出口(63)の温度は、入口(62)の温度より低い。当出口(63)の温度は、500~650℃、好ましくは520~600℃、最も好ましくは530~550℃である。
【0046】
好ましい実施形態では、反応が少なくとも1つの脱水素反応器の出口域の温度が550℃未満である反応器内で実施される。「出口域」とは、反応器中の流れの向きで触媒床の最後の20cmを意味する。
【0047】
反応器内の絶対圧力は、150kPa以下、好ましくは120kPa以下、さらに好ましくは110kPa以下、最も好ましくは70kPaである。反応器内の圧力は、1kPa以上、好ましくは10kPa以上、最も好ましくは30kPa以上である。
【0048】
脱水素触媒組成
脱水素触媒は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Fe2O3として計算して30~90重量%の鉄、K2Oとして計算して1~50重量%のカリウム、CeO2として計算して1~50重量%のセリウム、および、Y2O3として計算して0.01~10重量%のイットリウム、を含む。
【0049】
脱水素触媒は、鉄化合物の形態として鉄(Fe)を含み、当該鉄化合物は、酸化鉄および/または鉄の複合酸化物であり得る。ここで、「複合酸化物」とは、対応する酸化物の構造中に2個以上の非酸素原子を含む酸化物をいう。
【0050】
当触媒中の鉄含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Fe2O3として計算して、40~85重量%、好ましくは45~80重量%、より好ましくは50~81重量%、最も好ましくは65~75重量%である。
【0051】
当該脱水素触媒は、カリウム化合物の形でカリウム(K)を含むことができる。当カリウム化合物は、カリウムの酸化物および/または複合酸化物である。触媒中のカリウム含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、K2Oとして計算して、5~30重量%、好ましくは8~26重量%、より好ましくは10~20重量%、最も好ましくは12~18重量%である。
【0052】
当該脱水素触媒は、任意でセリウム化合物の形でセリウム(Ce)を含む。当セリウム化合物は、酸化セリウムおよび/またはセリウム複合酸化物とすることができる。触媒中のセリウム含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、CeO2として計算して、3~30重量%、好ましくは5~26重量%、より好ましくは7~19重量%、最も好ましくは9~14重量%である。
【0053】
本発明による脱水素触媒は、イットリウム化合物の形でイットリウム(Y)を含む。当イットリウム化合物は、酸化イットリウムおよび/またはイットリウム複合酸化物とすることができる。触媒中のイットリウム含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Y2O3として計算して、0.01~1重量%である。当触媒中のイットリウム含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Y2O3として計算して、好ましくは0.05重量%以上、0.1重量%以上、好ましくは0.15重量%以上、さらに好ましくは0.2重量%以上、最も好ましくは0.25重量%以上である。当該触媒中のイットリウム含有量は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Y2O3として計算して、好ましくは1重量%以下、または0.8重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下、最も好ましくは0.3重量%以下である。
【0054】
本発明による当該脱水素触媒は、任意で、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)およびそれらの混合物からなる群から選択される1以上の第2族元素を含む。当該第2族元素は、好ましくはカルシウム(Ca)である。当該第2族元素は、当該触媒の総重量に基づいて、酸化物(XO、Xは第2族元素)として計算して、0.3~10重量%の量で触媒中に存在する。当該第2族元素は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、第2族元素の酸化物として計算して、典型的には0.5重量%以上、好ましくは0.6重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上、最も好ましくは0.8重量%以上の量で触媒中に存在する。当該第2族元素は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、第2族元素の酸化物として計算して、典型的には8重量%以下、好ましくは6重量%以下、より好ましくは3重量%、最も好ましくは1.5重量%以下の量で触媒中に存在する。
【0055】
本発明による脱水素触媒は、任意で、モリブデン(Mo)、タングステン(W)およびこれらの混合物からなる群から選択される第6族元素を含む。当該第6族元素は、好ましくはモリブデン(Mo)である。
【0056】
当該第6族元素は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、第6族元素の酸化物(XO3、Xは第6族元素である)として計算して、典型的には0.1~10重量%の量で触媒中に存在する。当該第6族元素は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、第6族元素の酸化物として計算して、0.2重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、より好ましくは0.4重量%以上、最も好ましくは0.5重量%以上の量で触媒中に存在する。当該第6族元素は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、第6族元素の酸化物として計算して、典型的には8重量%以下、好ましくは6重量%以下、より好ましくは3重量%以下、最も好ましくは1.1重量%以下の量で触媒中に存在する。
【0057】
本発明による脱水素触媒は、任意で、ナトリウム化合物の形でナトリウム(Na)を含む。当ナトリウム化合物は、酸化ナトリウムおよび/またはナトリウム複合酸化物である。ナトリウムは、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Na2Oとして計算して0.1~15重量%の量で触媒中に存在しうる。ナトリウムは、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Na2Oとして計算して、典型的には0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは1.4重量%以上、最も好ましくは1.7重量%の量で触媒中に存在しうる。ナトリウムは、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、Na2Oとして計算して、典型的には12重量%以下、好ましくは8重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは3重量%以下の量で触媒中に存在しうる。
【0058】
本発明による脱水素触媒は、任意で貴金属を含む。当該貴金属は、金、銀、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミウム及びこれらの混合物からなる群から選択される。別の実施形態では、当該貴金属は、好ましくは金、白金、パラジウムおよびそれらの混合物からなる群から選択される。当該貴金属は、最も好ましくはパラジウム(Pd)である。
【0059】
当該貴金属は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、0.1~200ppmの重量で触媒中に存在する。当該貴金属は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、典型的には2ppm以上、好ましくは6ppm以上、より好ましくは10ppm以上、最も好ましくは13ppm以上の量で存在しうる。当該貴金属は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、典型的には150ppm以下、好ましくは100ppm以下、より好ましくは80ppm以下、さらに好ましくは68ppm以下、さらにより好ましくは42ppm以下、最も好ましくは25ppm以下の量で触媒内に存在する。
【0060】
本発明による脱水素触媒は、当該脱水素触媒の総重量に基づいて、最も好ましくは65~80、48重量%の酸化鉄、10~20重量%の酸化カリウム、9~14重量%の酸化セリウム、0.01~1重量%の酸化イットリウム、0.01~1重量%の酸化モリブデン、0.5~3重量%のCaO、および0~30ppmのパラジウムからなる。
【0061】
当触媒中の鉄、カリウム、セリウム、イットリウムなどの各元素の含有量および元素間のモル比は、蛍光X線分析(XRF分析)による元素分析など、当業者に公知の方法を用いて定めることができる。例えば、(株)リガク製、型式ZSX Primus IIを用いて測定できる。まず、脱水素触媒の測定試料を粉砕した後、20MPaでプレスして、厚さ約3mmの試験シートを作る。続いて、当試験シートをXRF分析する。一方、測定すべき元素を含有する標準物質のXRF分析結果による検量線に対照して定量計算する。このようにして測定された各元素の量は、対応する酸化物(例えば、鉄はFe2O3、カリウムはK2O)に適宜換算するか、あるいはモル数に換算することによって、上記含有量およびモル比を決定することができる。
【0062】
当該脱水素触媒は、金属酸化物の形の触媒でありうる。重量%の表示は、全ての元素が完全に酸化されているという想定の下、当該触媒の全重量に基づく。当該脱水素触媒は、上記成分以外の成分を含むことができる。例えば、当脱水素触媒は、バインダーを含んでいてもよい。好ましくは、当該脱水素触媒はクロム(Cr)を含まない。
【0063】
触媒の製造方法
当該脱水素触媒の製造方法は、以下の工程を含む:
-原料を水と混合して押出成形可能な混合物を準備する、ここで、当該原料は、鉄化合物、カリウム化合物、セリウム化合物およびイットリウム化合物を含む;
-当該押出成形可能な混合物を、歯車形状ホールのマトリックスを使った押出によって、ペレットに形成する;および
-当該ペレットをか焼する。
【0064】
当該原料は、鉄化合物、カリウム化合物、セリウム化合物および酸化イットリウムを含む。
【0065】
鉄を含有する原料(すなわち鉄源)については、鉄化合物が酸化鉄、カリウムフェライト(鉄とカリウムの複合酸化物)またはナトリウムフェライト(鉄とナトリウムの複合酸化物)およびそれらの混合物であり、または、酸化鉄である。当該酸化鉄については、赤色、黄色、褐色および黒色の酸化鉄のような異なる形態の酸化鉄を使用することができる。原料としての酸化鉄は、赤色酸化鉄、黄色酸化鉄、茶色酸化鉄および黒色酸化鉄およびそれらの混合物からなる群から選択される;または、赤色酸化鉄(ヘマタイト、Fe2O3)、黄色酸化鉄(ゲーサイト、Fe2O3・H2O)およびそれらの混合物からなる群から選択される;好ましくは赤色酸化鉄である。赤色酸化鉄は、結晶構造を有するヘマタイトである。
【0066】
原料としての当該カリウム化合物は、酸化カリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される;炭酸カリウム、水酸化カリウムまたは炭酸カリウムである。
【0067】
当該原料としてのセリウム化合物は、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸セリウム、硝酸セリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される;または、炭酸セリウムである。当該炭酸セリウムは、炭酸セリウム水和物、水酸化炭酸セリウム、またはそれらの組み合わせである。当該炭酸セリウム水和物は、炭酸セリウム水和物の重量に基づいて、CeO2として計算して40重量%以上のセリウムを含むことができる。水酸化炭酸セリウムは、例えば(CeCO3OH・xH2O)、(Ce2(CO3)2(OH)2・H2O)、(Ce(CO3)2O・H2O、Ce2O(CO3)2・H2OおよびCeO(CO3)2・xH2O)が利用可能である。
【0068】
当該原料としてのイットリウム化合物は、酸化イットリウム、水酸化イットリウム、炭酸イットリウム、硝酸イットリウム、リン酸イットリウム、硫酸イットリウム、酢酸イットリウム、塩化イットリウム、硫化イットリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される;または、酸化イットリウム、硝酸イットリウムおよびこれらの混合物からなる群から選択される;または、好ましくは酸化イットリウムである。硝酸イットリウムは、好ましくは硝酸イットリウム六水和物を含む。
【0069】
当該脱水素触媒が第2族元素(Ca)を含む場合、原料は第2族元素の化合物を含む。原料としての第2族元素化合物は、第2族元素の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、硫化物およびこれらの組み合わせからなる群から選択される;または、第2族元素の酸化物、水酸化物およびこれらの組み合わせからなる群から選択される;または、好ましくは第2族元素の水酸化物およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0070】
当該脱水素触媒が第6族元素(Mo)を含む場合、原料は第6族元素の化合物を含む。原料としての第6族元素化合物は、酸化物、第6族元素のオキソアニオン塩およびそれらの組み合わせからなる群から選択される;または、第6族元素の酸化物である。
【0071】
当該脱水素触媒がナトリウムを含む場合、原料はナトリウム化合物を含む。原料であるナトリウム化合物は、酸化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、硫化ナトリウムおよびこれらの組み合わせからなる群から選択される、または、好ましくは炭酸ナトリウムである。
【0072】
当脱水素触媒が貴金属を含む場合、原料は貴金属化合物を含む。原料としての貴金属化合物は、当該貴金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、硫化物およびそれらの組み合わせからなる群から選択される、または貴金属の硝酸塩である。
【0073】
原料を水と混合して押出可能な混合物を準備する。水の量は、後の押出に適するように、あるいは、原料の種類によって調節可能である。水は、通常、原料100重量部に対して2~50重量部の量で、押出可能な混合物中に存在する。当該押出可能な混合物を、歯車形状ホールのマトリックスを使った押出によって、ペレットに形成する。当該歯車形状は、上述の歯車形状に対応する。
【0074】
押出成形された歯車形状ペレットは、任意で、乾燥させて、遊離水を除去する。乾燥温度は、60~200℃、好ましくは70~150℃、より好ましくは85~110℃の範囲である。乾燥時間は、通常は、5分~5時間、好ましくは10分~2時間である。
【0075】
押出成形および乾燥されたペレットをか焼する。か焼は当該触媒の物理的安定性を改善し、触媒前駆体の熱分解による性能改善のために行われる。か焼温度は、400~1300℃、好ましくは500~1150℃、最も好ましくは800~1000℃である。か焼時間は、30分~10時間、好ましくは1時間~6時間、最も好ましくは1時間~3時間である。
【実施例】
【0076】
本発明は、下記の実施例によって説明されるが、これらに何ら限定されるものではない。
【0077】
比較例1(Yフリー及び円筒形状)
酸化鉄(Fe2O3)330重量部、炭酸カリウム104.6重量部、炭酸ナトリウム17.0重量部、炭酸セリウム水和物79.8重量部(CeO2の重量として計算して50%のセリウムを含む)、水酸化炭酸セリウム57.0重量部(CeO2の重量として計算して70%のセリウムを含む)および水酸化カルシウム6.8重量部および三酸化モリブデン2.5重量部を混練機で混合し、パラジウム0.008重量部を含む硝酸パラジウム水溶液を加えた。
【0078】
さらに純水を徐々に添加してペーストを形成し、得られた混合物を、直径3mmのホールのマトリックスを通して押出し成形することによって3mmの円筒形に成形した。得られた押出物を約90℃で乾燥した後、900℃で2時間か焼した。得られた脱水素触媒は長さ約5mmの円筒形で、当該円筒形の断面は直径3mmの円形であった。
【0079】
アルカリ金属マイグレーション
6mlの触媒(61)を54mlの不活性セラミックリングで希釈し、管型反応器(60)の中央に置いた。水およびエチルベンゼン(EB)を、管型反応器(60)に供給する前に蒸発器に入れ、蒸発した水およびEBの混合物を、当該反応器(60)に入口(62)から供給した。水対EBの重量比(W/H比)は1.0であった。触媒床に関するエチルベンゼンの液体時間空間速度(LHSV)は33.3h-1であり、アルカリ金属マイグレーションを促進した。反応器(60)内の圧力は51kPa(絶対)であった。触媒床(61)の中心の温度は、外部ヒーターを用いて600℃とした。水蒸気とEB蒸気の混合物を、1週間、触媒床(61)を通って出口(63)へと流下させた。
【0080】
未使用触媒および上記1週間使用後の触媒のアルカリ金属含有量を、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP―AES)試験で分析した。次いで、アルカリ金属マイグレーション(mg)を次のように定義した。[未使用触媒中のアルカリ金属酸化物重量(X2O、X=アルカリ金属)(mg)]-[使用後触媒中のアルカリ金属酸化物重量(mg)]
【0081】
スチレンモノマー収率
570℃におけるスチレンモノマー(SM)の収率を、以下の式により算出した。
SM収率(gSM/[gcat・h])=(570℃におけるEB転化率)×(570℃における重量によるSM選択率)×(LHSV:1.0h-1)×(EB濃度:0.866g/ml)/(触媒嵩密度、g/ml)
【0082】
式中、「570℃における重量によるSM選択率」は、触媒床の中心を570℃とした際に測定されたSM選択率である。SM選択率およびEB転化率は、以下の方法で測定した。脱水素反応は、いくつかの異なる条件を除いて、アルカリ金属マイグレーションのために上記のように実施した。管型反応器(60)に入れた触媒(61)は100mlであった。水対EB重量比(W/H比)は0.8であった。触媒床に対するエチルベンゼンの液体時間空間速度(LHSV)は1.0h-1であった。
【0083】
反応器内部の圧力は101kPa(絶対圧力)であった。入口(62)から供給された水蒸気とEB蒸気(EBinlet)は、触媒床(61)を通って出口(63)に流下した。外部ヒーターにより、触媒床の中心の温度を118時間かけて620℃にして、反応の定常状態条件に到達させた。その後、触媒床(61)の中心の温度を570℃に下げ、出口(63)にて、反応器から出る反応結果物の脱水素混合物を凝縮し、炭化水素相を水相から分離し、液体炭化水素相(EBoutlet)を、SM濃度(conc.)およびEB濃度(気相、特に水素への損失を考慮せずに)について分析した。
【0084】
重量によるEB転化率およびSM選択率は、以下の式によって決定した。
SM選択率=(EBoutletにおけるSM濃度-EBinletにおけるSM濃度)/(EBinletにおけるEB濃度-EBoutletにおけるEB濃度)
EB転化率=(EBinletにおけるEB濃度-EBoutletにおけるEB濃度)/(EBinletにおけるEB濃度)
【0085】
比較例2(Yフリー歯車形状)
脱水素触媒を、形状を除いて比較例1と同様に作製した。当該脱水素触媒は、歯車形状ホールのマトリックスを使った押出によって形成した。当該脱水素触媒は、長さ5mmであり、
図1に示すような歯車形状の断面を有し、その寸法関係は:
(i)比率(d
2:d
1)は1.5:1、外径(d
2)は4.6mm、胴部直径(d
1)は3mmであった;
(ii)比率(b
1:b
2)は0.3:1、歯部の根部間幅(b
1)は0.4mm、歯部の冠部幅(b
2)は1.5mmであった;
(iii)歯部の根部間幅(b
1)は0.4mmである。
【0086】
比較例3(Y含有円筒形状)
脱水素触媒を、表1に示す酸化イットリウムを含む組成としたことを除いて、比較例1と同様に作製した。
【0087】
実施例1(Y含有歯車形状)
脱水素触媒を、表1に示す酸化イットリウムを含む組成としたことを除いて、比較例2と同様に作製した。
【0088】
結果
アルカリ金属マイグレーションおよびSM収率を表1に示す。アルカリ金属マイグレーション速度は、比較例2では178mg/週、比較例1では275mg/週、そして、実施例1では200mg/週、比較例3では320mg/週であった。これは、アルカリ金属マイグレーション速度は、Y含有円筒形状触媒(比較例3)の方がYフリー円筒形状触媒よりも高いことを示している。これは当触媒について長期安定性においてより大きな問題があることを示し、これは低W/H比でより良好なフレッシュ性能を示す。他方、歯車形状を有する実施例のアルカリ金属マイグレーションの減少は明らかである。
【0089】
570℃におけるSM収率は、実施例1では0.202gSM/[gcat・h]、比較例1~3では0.185[gSM/gcat・h]以下であった。570℃におけるSM収率は、各円筒形触媒(比較例1および3)で、0.174および0.178gSM/[gcat・h]であった。570℃におけるSM収率は、比較例2のイットリウム非含有歯車形状触媒では、比較例1のイットリウム非含有円筒形状触媒よりも6%高かった。
【0090】
驚くべきことに、歯車形状のイットリウム含有触媒の570℃におけるSM収率は、円筒形状のそれに対して、相対的にも絶対的にもはるかに大きく、すなわち実施例1の570℃におけるSM収率は比較例3のそれより14%高かった。二つ目の予想外の効果は、実施例1の570℃におけるSM収率が、比較例2のそれよりも9%高くなったことである。アルカリ金属マイグレーションおよびSM収率は表1に示されている。
【0091】
【国際調査報告】