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特表2023-552978表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0228 20160101AFI20231213BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20231213BHJP
   C23G 1/08 20060101ALI20231213BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20231213BHJP
   H01M 8/021 20160101ALI20231213BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
H01M8/0228
C22C38/00 302Z
C23G1/08
C22C38/58
H01M8/021
C21D9/46 Q
C21D9/46 R
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023531670
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-05-24
(86)【国際出願番号】 KR2021016994
(87)【国際公開番号】W WO2022114671
(87)【国際公開日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】10-2020-0159375
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョン-ヒ
(72)【発明者】
【氏名】イム,キュワン
(72)【発明者】
【氏名】ソ,ボ-ソン
(72)【発明者】
【氏名】キム,クァンミン
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヨン-ファン
【テーマコード(参考)】
4K037
4K053
5H126
【Fターム(参考)】
4K037EA04
4K037EA05
4K037EA06
4K037EA12
4K037EA13
4K037EA16
4K037EA17
4K037EA18
4K037EA19
4K037EA20
4K037EA21
4K037EA23
4K037EA25
4K037EA27
4K037EA31
4K037EA32
4K037EB02
4K037EB06
4K037EB07
4K037EB08
4K037EB09
4K037FB00
4K037FF00
4K037FG00
4K037FH00
4K053PA03
4K053PA12
4K053QA01
4K053RA15
4K053RA16
4K053SA06
5H126AA12
5H126DD05
5H126DD14
5H126GG08
5H126GG11
5H126GG12
5H126HH10
5H126JJ00
5H126JJ03
5H126JJ05
5H126JJ06
5H126JJ08
5H126JJ10
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供することである。
【解決手段】本発明の表面親水性及び電気伝導性に優れた分離板用ステンレス鋼は、Crを15重量%以上含有するステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であり、接触角が80°以下であることを特徴とする。
ここで、
(1)
前記Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【選択図】図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crを15重量%以上含有するステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であり、接触角が80°以下であることを特徴とする表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼:
(1)
前記Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する;
前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【請求項2】
前記ステンレス鋼の表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下であることを特徴とする請求項1に記載の表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項3】
前記ステンレス鋼の表面酸化物層は、母材とオーミック接触を形成することを特徴とする請求項1に記載の表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼。
【請求項4】
ステンレス鋼の冷延鋼板を非酸化物酸性溶液に浸漬するか、浸漬した後に電解処理して1次表面処理し、酸化性酸溶液に浸漬して2次表面処理することを含んで請求項1に記載のステンレス鋼を製造することを特徴とする表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項5】
前記1次表面処理は、前記ステンレス鋼の冷延鋼板を前記非酸化性酸溶液に5秒以上浸漬するか、浸漬した後に0.1A/cm以上の電流密度で5秒以上電解処理することを含み、前記非酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の塩酸又は硫酸溶液であることを特徴とする請求項4に記載の表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【請求項6】
前記2次表面処理は、前記ステンレス鋼の冷延鋼板を前記酸化性酸溶液に5秒以上浸漬することを含み、前記酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の窒酸溶液であることを特徴とする請求項4に記載の表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面親水性及び電気伝導性に優れたステンレス鋼及びその製造方法に係り、より詳しくは、表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼は、耐食性に優れ、加工が容易であって電子部品用素材及び燃料電池分離板用途の素材としての検討が行われている。しかし、通常のステンレス鋼は、表面の不動態被膜が貫通抵抗(through-plane resistance)要素と作用して十分な電気伝導性を確保し得ないという問題がある。
【0003】
現在までもステンレス鋼の表面電気伝導性に及ぼす不働態皮膜の影響に対しては明らかにそのメカニズムの糾明は行われていない。このような不働態皮膜の表面電気伝導性を向上させるためには、電子部品用素材の場合には、Niメッキを実施するか、燃料電池分離板用途としては、ステンレス鋼の高い接触抵抗値を低めるために金や炭素、窒化物などの導電性物質をステンレス鋼の表面にコーティングする工程が提案された。しかし、Niメッキ又はその他コーティング物質をコーティングするための追加工程により製造費用及び製造時間が増加して生産性が低下するという問題点があり、不働態皮膜が有する根本的な貫通抵抗を低めることができないという問題点がある。
【0004】
また、ステンレス鋼の表面電気伝導性を向上させるための他の方策としてステンレス鋼の表面を改質する方法が試みられて来た。
【0005】
特許文献1には、表面改質工程を制御して低い界面接触抵抗と高い腐食電位を有する分離板用ステンレス鋼が提示されている。
【0006】
特許文献2には、Cr:17~23重量%を含有したステンレス鋼を[HF]≧[HNO]溶液に浸漬して耐食性に優れて接触抵抗が低いステンレス鋼を製造する方法が提示されている。
【0007】
特許文献3には、Cr:15~45重量%、Mo:0.1~5重量%を含有したステンレス鋼の不働態皮膜に含有されるCr、Fe原子数比が1以上であるステンレス鋼が提示されている。
【0008】
しかし、特許文献1~3は、数nm領域内の不働態皮膜のCr/Fe原子数の比のみを調整してステンレス鋼の不働態皮膜が有する根本的な貫通抵抗を低めることができないという限界がある。
【0009】
また、ステンレス鋼は、燃料電池分離板用途で用いるためには、カソード電極だけでなくアノード電極から発生した水滴により反応ガスが不均一に流動し、十分に拡散しないため燃料電池の性能を低下させるフラッディング(flooding)現象を防止しなければならない。
【0010】
特許文献4は、分離板を成形した後にランド表面に機械的な摩擦を通じてスクラッチを形成して水排出特性を改善することが明示されているが、追加的なスクラッチを形成する工程追加により工程費用が上昇したり、スクラッチ均一性が確保されなかったり、という短所がある。
【0011】
特許文献5は、コーティング工程後にプラズマ処理を通じて表面を親水化することを明示しているが、コーティング工程以外にプラズマ処理工程正の追加による工程費用上昇の短所がある。
【0012】
特許文献6は、親水性を確保するために最終製品に貴金属(Au)、チタン酸化物(TiO)を形成するが、コーティング費用が上昇し、成形製品に適用して工程費用が上昇するので商用化に限界がある。
【0013】
特許文献7は、親水性を有する表面を確保するためにSi濃厚層を表面に形成する方法を開示するが、燃料電池分離板では絶縁性物質であるSi酸化物の形成時に伝導性を減少させるので燃料電池分離板の素材に適用できない。
【0014】
特許文献8は、Cr(OH)/Cr酸化物比及びステンレス鋼の表面照度が圧延長さ方向(L方向)及び圧延直角方向(C方向)から測定されたRa(算術平均粗さ)の平均値を調節する技術を公知している。しかし、Cr成分を除いたTi、Nbなどの合金元素を含むステンレス鋼の表面被膜組成を制御して親水性を確保するのに限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】韓国公開特許第10-2014-0081161号公報
【特許文献2】韓国公開特許第10-2013-0099148号公報
【特許文献3】特開第2004-149920号公報
【特許文献4】韓国登録特許第10-1410479号公報
【特許文献5】韓国公開特許第10-2013-0136713号公報
【特許文献6】特開2009-117114号公報
【特許文献7】特開2007-119856号公報
【特許文献8】韓国登録特許第10-1729037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上述した問題点を解決するために、本発明は、燃料電池分離板用途の素材に適用可能な表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述した目的を達成するための手段として、本発明による表面親水性及び電気伝導性に優れた分離板用ステンレス鋼は、Crを15重量%以上含有するステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であり、接触角が80°以下である。
【0018】
(1)
【0019】
前記Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【0020】
本発明の各表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼において、前記ステンレス鋼の表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下であってもよい。
【0021】
本発明の各表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼において、ステンレス鋼の表面酸化物層は、母材とオーミック接触を形成することができる。
【0022】
また、上述した目的を達成するための他の手段として、本発明による表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、ステンレス冷延鋼板を非酸化性酸性溶液に浸漬するか、浸漬した後に電解処理して1次表面処理し、酸化性酸溶液に浸漬して2次表面処理することを含み、Crを15重量%以上含有するステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であり、接触角が80°以下であるステンレス鋼を製造することができる。
【0023】
(1)
【0024】
前記Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【0025】
本発明の各表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法において、前記1次表面処理は、前記ステンレス冷延鋼板を前記非酸化性酸溶液に5秒以上浸漬するか、浸漬した後に0.1A/cm以上の電流密度で5秒以上電解処理することを含み、前記非酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の塩酸又は硫酸溶液であってもよい。
【0026】
本発明の各表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法において、前記2次表面処理は、前記ステンレス冷延鋼板を前記酸化性酸溶液に5秒以上浸漬することを含み、前記酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の窒酸溶液であってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ステンレス鋼の表面に形成される半導体的特性を有する表面酸化物層を導体化することはもちろん、表面に親水性を付与して燃料電池分離板用途の素材に適用可能な表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法を提供することができる。
【0028】
本発明によれば、ステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上となるように制御することによって、表面接触角が80°以下である親水性に優れ、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下の表面親水性及び電気伝導性に優れ燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供することができる。
【0029】
(1)
【0030】
前記Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【0031】
本発明によれば、ステンレス鋼の表面酸化物層は、親水性に有害なCr以外の酸化物及び水酸化物の含量を低めて表面親水性を付与するのはもちろん、母材とオーミック接触を形成して表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1(a)】表2の結果に基づいて、表面酸化物元素比(1)値に対する接触角の相関関係を示したグラフである。
図1(b)】表2の結果に基づいて、表面酸化物元素比(1)値に対する接触角の相関関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の一例による表面親水性及び電気伝導性に優れた分離板用ステンレス鋼は、Crを15重量%以上含有するステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であり、接触角が80°以下であってもよい。
【0034】
(1)
<発明の実施のための形態>
【0035】
以下では、本発明の好ましい実施形態を説明する。しかし、本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形され得、本発明の技術思想が以下で説明する実施形態によって限定されるものではない。また、本発明の実施形態は、当該技術分野において平均的な知識を有した者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0036】
本出願で用いる用語は、ただ特定の例示を説明するために用いられるものである。例えば、単数の表現は、文脈上明白に単数である必要がない限り、複数の表現を含む。付け加えて、本出願で用いられる「含む」又は「具備する」などの用語は、明細書上に記載した特徴、段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものが存在することを明確に指称するために用いられ、他の特徴や段階、機能、構成要素又はこれらを組み合わせたものの存在を予備的に排除しようと使用するものではないことに留意すべきである。
【0037】
一方、別に定義しない限り、本明細書で使用する全ての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有した者が一般的に理解できるものと同一の意味を有すると見なければならない。したがって、本明細書で明確に定義しない限り、特定用語が過度に理想的や形式的な意味として解釈されてはいけない。例えば、本明細書で単数の表現は、文脈上明白に例外がない限り、複数の表現を含む。
【0038】
また、本明細書の「約」、「実質的に」などは、言及した意味に固有の製造及び物質の許容誤差が提示されるときその数値で又はその数値に近接した意味で用いられ、本発明の理解を助けるために正確であるか絶対的な数値が言及された開示内容を非良心的な侵害者が不当に利用することを防止するために用いられる。
【0039】
また、本明細書上で「ステンレス冷延鋼板」は、通常のステンレス鋼の製造工程である熱間圧延-加熱-冷間圧延-焼鈍によって製造されたステンレス冷延鋼板を意味し、該当技術分野において通常の技術者が自明に認識できる範囲内で通常のステンレス冷延鋼板の製造工程によって製造されたステンレス冷延鋼板であると解釈され得る。
【0040】
また、本明細書上で「表面酸化物」は、ステンレス鋼が約200℃以下の温度に露出するときに母材金属元素が外部酸素により自発的に酸化してステンレス鋼の表面に形成される酸化物を意味する。表面酸化物は、Crを主な成分とし、SiO、SiO、Si、MnO、MnO、Mn、VO、V、V、NbO、NbO、Nb、TiO、FeO、Fe、Feなどを一例で含むことができる。以上で表面酸化物の例示を列挙したが、これは本発明の理解を助けるための例示であり、本発明の技術思想を特に制限しないことに留意する必要がある。
【0041】
また、本明細書上で「表面酸化物層」は、本発明の表面酸化物を含む層を意味し、ステンレス鋼の不働態皮膜としても解釈され得る。
【0042】
また、本明細書上で「Fe酸化物」は、FeO、Fe、Feなど該当技術分野において通常の技術者が自明に認識できる範囲内で酸化物形態のすべてのFe酸化物を意味する。「Fe水酸化物」は、FeOOH、Fe(OH)、Fe(OH)など該当技術分野において通常の技術者が自明に認識できる範囲内で水酸化物形態のすべてのFe水酸化物を意味する。
【0043】
通常的なステンレス鋼の不働態皮膜は、Crを主な成分とし、SiO、SiO、Si、MnO、MnO、Mn、VO、V、V、NbO、NbO、Nb、TiO、FeO、Fe、Feなどを含み、常温で水との接触角が80°を超過することが知られている。本発明の発明者らは、表面酸化物元素比(1)値が0.2以上に制御されると、ステンレス鋼と水との表面自由エネルギーを増加させて接触角が80°以下を示すことを発見した。
【0044】
また、通常的なステンレス鋼の不働態皮膜は、酸化物の半導体的特性による高い抵抗を有することが知られている。本発明の発明者らは、ステンレス鋼の表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下に制御されると、半導体的特性を有する表面酸化物層を導体化して電気接点用途の素材及び燃料電池分離板用途の素材に適用可能な表面電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を発見した。
【0045】
本発明の一例によると、X線角度分解光電子分光法(angle-resolvedphotoemission spectroscopy、ARPES)によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角(take-off angle)が12°~85°条件でステンレス鋼の表面を測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(surface oxide element ratio、SER)(1)値が0.2以上であってもよい。
【0046】
(1)
【0047】
Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、前記Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。前記全体酸化物、水酸化物は、前記Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、金属酸化物(MO)を含み、前記金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。
【0048】
金属酸化物(MO)は、例えば、SiO、SiO、Si、MnO、MnO、Mn、VO、V、V、NbO、NbO、Nb、TiOであってもよい。以上では、金属酸化物(MO)の例を列挙したが、これは、本発明の理解を助けるための例示であり、本発明の技術思想を特に制限するものではないことに留意する必要がある。
【0049】
全体酸化物、水酸化物は、Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物、前記金属酸化物(MO)を含む。
【0050】
以下で、X線角度分解光電子分光法で光電子の離陸角範囲を限定した理由を説明し、引き続き、表面酸化物元素比(1)値の範囲を限定した理由に対して説明する。
【0051】
X線角度分解光電子分光法で光電子の離陸角が低いほどステンレス鋼の最表面から深さ方向への分析深さが小さくなり、離陸角が大きいほど分析深さが大きくなることになる。これを考慮して、本発明によると、ステンレス鋼の厚さと関係なくステンレス鋼の表面に形成された全体酸化物の組成を分析し得るためにX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X-線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件でステンレス鋼の表面を測定することができる。
【0052】
上記の条件によって測定される表面酸化物元素比(1)値を0.2以上に限定した理由は、ステンレス鋼の表面が燃料電池環境で使用できる接触角が80°以下である表面親水性を示すことはもちろん、不働態皮膜が半導体的特性から導体特性に転換される限界点であるからである。表面酸化物元素比(1)値が0.2未満である場合には、接触角が80°を超過して表面親水性を消失することになり、不働態皮膜が半導体特性によって燃料電池分離板用ステンレス鋼に不適合である。表面親水性及び電気伝導性に優れたステンレス鋼を得るために表面酸化物元素比(1)値は、0.2~0.9に制御されることがより好ましい。
【0053】
以上のように、表面酸化物元素比(1)値が0.2以上となるように制御することによって、本発明は、表面接触角が80°以下となるようにすることはもちろん、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下となるように制御することができる。表面接触角は、低いほど親水性が極大化して有利であるので、燃料電池分離板用ステンレス鋼として用いることに適合し、好ましくは、70°以下であってもよい。バンドギャップエネルギーが0eVであると、表面酸化物層が導体特性を有するようになり、バンドギャップエネルギーが0eV超過2ev以下であると、表面酸化物層が導体と半導体特性の中間領域特性を有するようになるので、燃料電池分離板用ステンレス鋼に用いることに適合する。
【0054】
また、本発明によると、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが0eVを有するように、より好ましくは、表面酸化物元素比(1)値を0.26以上に制御することが好ましい。表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが0eVである意味は、酸化物で構成された不働態皮膜層であるにもかかわらずステンレス鋼の母材と表面酸化物層が従来知られていなかった新しいオーミック接触(Ohmic contact)を形成したことを意味する。言い換えれば、表面酸化物層がステンレス鋼の母材とオーミック接触を形成し得る新しい伝導性被膜層となったことを意味する。
【0055】
本発明による表面電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼は、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下であれば十分であり、鋼種に特に制限はない。一例によると、オーステナイト系、フェライト系、フェライト-オーステナイトの2相系ステンレス鋼を本発明のステンレス鋼に用いることができる。
【0056】
また、本発明による電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の成分組成は、特に制限されない。ただし、好ましい成分組成を示すと、次の通りである。しかし、次の成分組成は、本発明に対する理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の技術思想を制限するものではないことに留意する必要がある。
【0057】
一例によると、本発明によるステンレス鋼は、重量%で、C:0%超過0.3%以下、N:0%超過0.3%以下、Si:0%超過0.7%以下、Mn:0%超過10%以下、P:0%超過0.04%以下、S:0%超過0.02%以下、Cr:15~34%、Ni:25%以下を含み、残りFe及びその他不可避な不純物からなることができる。
【0058】
以下では、前記合金組成に対して限定した理由に対して具体的に説明する。以下では、特に言及しない限り単位は、重量%(wt%)である。
【0059】
C:0%超過0.3%以下、N:0%超過0.3%以下
【0060】
CとNは、鋼中でCrと結合して安定したCr炭窒化物を形成し、その結果、Crが局所的に欠乏した領域が形成されて耐食性が低下する恐れがあるので、両元素の含量は低いほど好ましい。それによって、本発明でC、Nの含量は、C:0%超過0.3%以下、N:0%超過0.3%以下に制限される。
【0061】
Si:0%超過0.7%以下
【0062】
Siは、脱酸に有効な元素である。しかし、過多添加するとき、靭性、成形性を低下させ、焼鈍工程中に生成されるSiO酸化物は、電気伝導性、親水性を低下させる。これを考慮して、本発明でSiの含量は、Si:0%超過0.7%以下に制限される。
【0063】
Mn:0%超過10%以下
【0064】
Mnは、脱酸に有効な元素である。しかし、Mnの介在物であるMnSは、耐食性を減少させるので、本発明でMnの含量は、0%超過10%以下に制限される。
【0065】
P:0%超過0.04%以下
【0066】
Pは、耐食性だけでなく靭性を低下させるので、本発明でPの含量は、0%超過0.04%以下に制限される。
【0067】
S:0%超過0.02%以下
【0068】
Sは、鋼中でMnと結合して安定したMnSを形成し、形成されたMnSは、腐食の基点となって耐食性を低下させるので、Sの含量を低くするほど好ましい。これを考慮して、本発明でSの含量は、0%超過0.02%以下に制限される。
【0069】
Cr:15~34%
【0070】
Crは、耐食性を向上させる元素である。強い酸性環境である燃料電池作動環境での耐食性を確保するためにCrは積極添加される。しかし、過多添加するとき、靭性を低下させるので、これを考慮して、本発明でCrの含量は、15~34%に制限される。
【0071】
Ni:25%以下
【0072】
Niは、オーステナイト相の安定化元素であり、耐食性を向上させる元素である。また、Niは、一般的にオーステナイト系、フェライト系、フェライト-オーステナイト2相ステンレス鋼に一定レベル以上の量が含有されている。しかし、過多添加するとき、加工性が低下するので、これを考慮して、本発明でNiの含量は、25%以下に制限される。
【0073】
Ni含量の下限は特に制限されず、鋼種によって適切に含有され得る。例えば、オーステナイト系ステンレス鋼やフェライト-オーステナイト2相系ステンレス鋼でNi含量の下限は、2.0%以上であってもよい。例えば、フェライト系ステンレス鋼でNi含量の下限は、2.0%未満であってもよく、好ましくは、1.0%以下、より好ましくは、0.01%以下であってもよい。
【0074】
また、一例によるステンレス鋼は、上述した合金組成外に必要に応じて選択的合金成分として、重量%で、Cu:0.01%超過1.5%以下、V:0.01%超過0.6%以下、Mo:0.01~5.0%、Ti:0.01~0.5%、Nb:0.01~0.4%のうち1種以上を含むことができる。しかし、選択的合金成分の組成は、本発明に対する理解を助けるための例示に過ぎず、本発明の技術思想を制限するものではないことに留意する必要がある。
【0075】
Cu:0.01%超過1.5%以下
【0076】
Cuは、耐食性を向上させる元素である。しかし、過多添加するとき、溶出されて燃料電池の性能を低下させるので、これを考慮して、本発明でCuの含量は、0.01%超過1.5%以下に制限される。
【0077】
V:0.01%超過0.6%以下
【0078】
Vは、燃料電池作動環境でFe溶出を抑制して燃料電池の寿命特性を向上させる元素である。しかし、過多添加するとき、靭性が低下するので、これを考慮して、本発明でVの含量は、0.01%超過0.6%以下に制限される。
【0079】
Mo:0.01~5.0%
【0080】
Moは、耐食性を向上させる元素である。しかし、過多添加するとき、加工性が低下するので、これを考慮して、本発明でMoの含量は、0.01~5.0%に制限される。
【0081】
Ti:0.01~0.5%、Nb:0.01~0.4%
【0082】
TiとNbは、鋼中でC、Nと結合して安定した炭窒化物を形成することによって、Crが局所的に欠乏した領域の形成を抑制して耐食性を向上させる元素である。しかし、過多添加するとき、靭性を低下させるので、これを考慮して、本発明でTi、Nbの含量は、Ti:0.01~0.5%、Nb:0.01~0.4%に制限される。
【0083】
残りの成分は、鉄(Fe)である。ただし、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入することがあるので、これを排除することはできない。前記不純物は、通常の製造過程の技術者であれば、誰でも知ることができるので、その全ての内容を特に本明細書で言及しない。
【0084】
本発明による表面親水性及び電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼の製造方法は、表面酸化物元素比(1)値を0.2以上に制御することができれば十分であり、特に制限されない。
【0085】
本発明の一例によると、通常のステンレス鋼の製造工程によって製造された冷延鋼板を表面処理して本発明による表面電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を製造することができる。一例による表面処理は、2段階にわたって行われ得、1次表面処理は、非酸化性(nonoxidizing)酸溶液に浸漬するか、浸漬した後に電解処理することを含むことができる。2次表面処理は、酸化性(oxidizing)酸溶液に浸漬することを含むことができる。
【0086】
本発明の一例による1次表面処理は、ステンレス冷延鋼板を非酸化性酸溶液に5秒以上浸漬するか、浸漬した後に0.1A/cm以上の電流密度で5秒以上電解処理することを含むことができる。このとき、非酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の塩酸(HCl)又は硫酸(HSO)溶液であってもよい。
【0087】
本発明の一例による2次表面処理は、ステンレス冷延鋼板を酸化性酸溶液に5秒以上浸漬することを含むことができる。このとき、酸化性酸溶液は、50℃以上、5重量%以上の窒酸(HNO)溶液であってもよい。
【0088】
以下、実施例を通じて本発明をより具体的に説明する。ただし、下記の実施例は本発明を例示してより詳細に説明するためのものに過ぎず、本発明の権利範囲を限定するためのものではないという点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載した事項とそれから合理的に類推される事項によって決定されるものであるからである。
【0089】
<実施例>
【0090】
下記表1の組成を有する鋼種を製鋼-連鋳工程を通じてスラブに製造した。その後、製造されたスラブを1200℃で熱間圧延を通じて厚さ4.5mmの熱延鋼板に製造した。熱延鋼板は、1050℃で加熱された後、冷間圧延と1000℃での焼鈍を繰り返して厚さ0.15mmの冷延鋼板に製造した。
【0091】
下表1で、鋼1~9は、発明鋼に該当し、鋼1~3は、フェライト系ステンレス鋼、鋼4~6は、オーステナイト系ステンレス鋼、鋼7~9は、フェライト-オーステナイト2相系ステンレス鋼である。鋼10、11は、比較鋼としてCr含量が15重量%未満である鋼種である。
【0092】
【表1】
【0093】
表1の製造された冷延鋼板を下記表2の表面処理条件によって表面処理した。表面処理は、1次、2次で行われ、表2に記載したA~H条件によって処理された。1次表面処理は、冷延鋼板を非酸化性酸溶液である硫酸溶液に浸漬するか、浸漬した後に電解処理して行った。2次表面処理は、酸化性酸溶液である窒酸溶液にステンレス鋼を浸漬して表面処理して行った。表2の表面処理に対する理解を助けるための例示を挙げると、表2の発明例1によるステンレス冷延鋼板は、1次表面処理で50℃、8重量%である硫酸溶液に5秒間浸漬(A)した後、2次表面処理で50℃、10重量%である窒酸溶液に9秒間浸漬(D)して表面処理された。
【0094】
表2の表面酸化物元素比(1)値は、下記式(1)によって導出された値であり、発明例及び比較例の表面をX線角度分解光電子分光法によってAl-Kα X線源を利用して表2に記載した光電子の離陸角の条件で測定するときに導出される値である。
【0095】
(1)
【0096】
表面酸化物元素比(1)値は、次のような方法で測定された。まず、PHI Quantera II装備により表2による離陸角条件で分析し、分析結果は、CasaXPSソフトウェアを用いて金属酸化物(MO)、Cr酸化物、Cr水酸化物、Fe酸化物、Fe水酸化物の結合エネルギーでのピークを分離し、これを利用して原子濃度を計算した。
【0097】
表面酸化物元素比(1)値を求めるための「Cr酸化物及びCr水酸化物中のCr元素の原子濃度(at%)の和」は、Cr酸化物、Cr水酸化物の結合エネルギーでのピークを分離した後、これをCr 2pスペクトラム上にフィッティングしてCrの原子濃度(at%)の和を導出した。このとき、Cr酸化物は、Cr、Cr、CrO又はCrOを意味し、Cr水酸化物は、CrOOH、Cr(OH)又はCr(OH)を意味する。
【0098】
表面酸化物元素比(1)値での「全体酸化物、水酸化物中の金属原素の原子濃度(at%)の和」は、上述した「Cr酸化物及びCr水酸化物中のCr元素の原子濃度(at%)の和」と金属酸化物(MO)中の金属原素の原子濃度(at%)の和及びFe酸化物、Fe水酸化物中のFeの原子濃度(at%)の和を加えて算出した。
【0099】
金属酸化物(MO)中の金属原素の原子濃度(at%)の和は、金属酸化物(MO)の結合エネルギーでのピークを分離した後、これを各金属(M)のスペクトラム上にフィッティングして金属原素の原子濃度(at%)の和を導出した。ここで、金属酸化物(MO)は、混合酸化物を含み、Mは、Cr、Feを除いた母材内の合金元素又はその組み合わせであり、Oは、酸素を意味する。Fe酸化物、Fe水酸化物中のFeの原子濃度(at%)の和は、Fe酸化物、Fe水酸化物の結合エネルギーでのピークを分離した後、これをFe 2pスペクトラム上にフィッティングしてFeの原子濃度(at%)の和を導出した。
【0100】
表2の接触角評価は、製造された0.1mmt厚さの鋼板素材を面積20cmで切断してKRUSS GmbH社のDSK 10-MK2装備を用いて3μl蒸溜水を常温で表面に水滴形態で落として表面との接触角を測定した。
【0101】
表2のバンドギャップエネルギーは、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーを意味する。表面酸化物層のバンドギャップエネルギーの測定は、電流探針原子間力顕微鏡(Current Sensing Atomic Force Microscope、Keysight 9500モデル)を用いた。発明例、比較例のステンレス鋼を1cm x 1cmで切断して試験片を準備し、表面酸化物層が非活性状態で測定されるように相対湿度18%の窒素雰囲気で20nN荷重を与えて印加されたバイアス(bias)が-10Vから10Vまで電流探針モードでバンドギャップエネルギーを測定した。バンドギャップエネルギーは、試験片を50μm x 50μm面積で5回測定して印加されたバイアスが-10Vから10Vまで変わるときに検出される電流が「0」である領域の幅をバンドギャップエネルギーとして測定した。このとき、探針は、シリコーン探針(Si tip)上に30nm厚さの白金がコーティングされた探針を用いた。
【0102】
【表2】
【0103】
以下で、表2の結果に基づいて各発明例及び比較例を比較評価した。表2の結果のとおり、発明例1~18は、本発明による表面処理工程、光電子の離陸角が12°~85°条件であるときの表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であることを満足した結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下であり、接触角が80°以下であることが分かる。また、発明例1、2、6、11、12、14、15、16を参照すると、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが0eVとなって、表面酸化物層が母材とオーミック接触を形成するためには、表面酸化物元素比(1)値が0.26以上であることが好ましい。
【0104】
比較例1、2は、1次表面処理の所要時間が3秒と過度に短く、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0105】
比較例3は、1次表面処理の所要時間が3秒と過度に短く、2次表面処理を実施しなかった。また、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過した。
【0106】
比較例4は、1次表面処理を実施せず、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0107】
比較例5は、1、2次表面処理の所要時間が3秒と過度に短く、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0108】
比較例6、7は、1次表面処理の所要時間が3秒と過度に短く、2次表面処理を実施しなかった。また、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0109】
比較例8は、1、2次表面処理の所要時間が3秒と過度に短く、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0110】
比較例9は、1次表面処理を実施せず、2次表面処理の所要時間が3秒と過度に短かった。また、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0111】
比較例10、11は、1、2次表面処理の所要時間が3秒と過度に短かった。また、Cr含量が15重量%未満であり、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0112】
比較例12は、1次表面処理を実施せず、2次表面処理の所要時間が3秒と過度に短かった。また、Cr含量が15重量%未満であり、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0113】
比較例13は、1、2次表面処理時間が5秒以上であるが、Cr含量が15重量%未満であり、光電子の離陸角が12°、44°、85°での表面酸化物元素比(1)値が0.2未満であった。その結果、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eVを超過し、接触角も80°を超過した。
【0114】
添付した図1の(a)、図1の(b)は、表2の結果に基づいて表面酸化物元素比(1)値に対したバンドギャップエネルギーの相関関係を示したグラフである。図1の(a)、図1の(b)で光電子の離陸角は、それぞれ12°、85°である。図1の(a)、図1の(b)の横軸は、表面酸化物元素比(1)値であり、縦軸は、接触角(度)である。
【0115】
図1の(a)、図1の(b)に示すとおり、表面酸化物元素比(1)値が0.2を基準点として0.2以上である場合、接触角が80°以下であることが分かり、0.2未満である場合、接触角が80°を超過したことが分かる。これを参照すると、表面酸化物元素比(1)値を0.2以上に制御すると、接触角が80°以下となるように制御し得ることが分かる。
【0116】
また、図1の(a)、図1の(b)に示した点線領域は、表面酸化物元素比(1)値が0.2以上であると共に接触角が80°以下である領域である。図1の(a)、図1の(b)のとおり、図1の(a)、図1の(b)の点線領域に発明例が全て含まれて表面酸化物元素比(1)値を0.2以上に制御すると、接触角が80°以下で表面親水性に優れると共に表面電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供し得ることが分かる。
【0117】
以上の実施例の結果から、本発明は、ステンレス鋼と水との表面自由エネルギーを増加させて接触角が80°以下を有する親水性に優れた特性を示すと同時に表面に形成される半導体的特性を有する表面酸化物層を導体化して電気接点用途の素材及び燃料電池分離板用途の素材に適用可能な表面電気伝導性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼及びその製造方法を提供し得ることが分かる。
【0118】
また、ステンレス鋼の表面をX線角度分解光電子分光法によりAl-Kα X線源を利用して光電子の離陸角が12°~85°条件で測定するとき、測定される下記表面酸化物元素比(1)値が0.2以上となるように制御して、表面酸化物層のバンドギャップエネルギーが2eV以下である表面電気伝導性に優れ、水との接触角が80°以下である表面親水性に優れた燃料電池分離板用ステンレス鋼を提供し得ることが分かる。
【0119】
以上、本発明の例示的な実施例を説明したが、本発明はこれに限定されず、該当技術分野において通常の知識を有した者であれば、次に記載する特許請求の範囲の概念と範囲を脱しない範囲内で多様に変更及び変形が可能であることを理解すべきである。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明による燃料電池分離板用ステンレス鋼は、表面親水性及び電気伝導性に優れ、追加的な後処理工程が不必要であって、製造費用及び製造時間を節減することができるので、産業上利用が可能である。
図1(a)】
図1(b)】
【国際調査報告】