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特表2023-552989神経変性疾患、脳損傷、外傷性脊髄損傷、非外傷性脊髄損傷および/または視神経症の治療のための、Ndfip1融合ポリペプチドを用いた方法およびNdfip1融合ポリペプチドの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】神経変性疾患、脳損傷、外傷性脊髄損傷、非外傷性脊髄損傷および/または視神経症の治療のための、Ndfip1融合ポリペプチドを用いた方法およびNdfip1融合ポリペプチドの使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231213BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231213BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231213BHJP
   C07K 14/145 20060101ALI20231213BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/47 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/869 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/867 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20231213BHJP
   A61K 38/17 20060101ALI20231213BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20231213BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231213BHJP
   A61K 31/711 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 5/079 20100101ALN20231213BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C07K14/47
C07K14/145
C07K16/28
C12N15/13
C12N15/47
C12N15/864 100Z
C12N15/869 Z
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
C12N15/12
A61P25/28
A61K38/17
A61K35/30
A61K48/00
A61K31/711
C12N5/079
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533800
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 CA2021051720
(87)【国際公開番号】W WO2022115951
(87)【国際公開日】2022-06-09
(31)【優先権主張番号】63/120,574
(32)【優先日】2020-12-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】507148294
【氏名又は名称】ユニバーシティー ヘルス ネットワーク
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】フェーリングス,マイケル ジョージ
(72)【発明者】
【氏名】カザエイ,モハンマド
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065BA02
4B065BB19
4B065CA24
4B065CA44
4C084AA02
4C084AA07
4C084AA13
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA22
4C084BA41
4C084CA18
4C084CA53
4C084DC50
4C084NA14
4C084ZA022
4C084ZA152
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB45
4C087BB64
4C087BB65
4C087CA04
4C087MA66
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA15
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045CA01
4H045CA11
4H045CA40
4H045EA21
4H045FA74
(57)【要約】
本明細書において、Ndfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、前記Ndfip1核酸分子を含む構築物もしくは発現カセット、または前記構築物および/もしくは前記発現カセットおよび/もしくは前記Ndfip1融合ポリペプチドを含む細胞を用いて、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷を治療する方法を開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニューロン内移行部分とNdfip1ペプチドとを含むNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項2】
前記ニューロン内移行部分が、ニューロン透過ペプチドである狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)、ジフテリア毒素の細胞内移行ドメイン(DTT)、破傷風毒素の無毒なC断片(TTC)、「コレラ毒素」の無毒な5量体b鎖(CTb)、ニューロテンシン(NT)もしくはTet1、またはニューロン内への移行を促進する能力を保持しているこれらの類似体であるか、これらのうちのいずれかを含む、請求項1に記載のNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項3】
前記ニューロン内移行部分が、ニューロン表面受容体のリガンドであるか、ニューロン表面受容体のリガンドを含む、請求項1または2に記載のNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項4】
前記ニューロン内移行部分が、抗体であるか、抗体を含み、該抗体が、単一ドメイン抗体であってもよい、請求項1~3のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項5】
前記ニューロン内移行部分が、配列番号1、2、3または4に示される配列を有するか、配列番号1、2、3または4と少なくとも90%の配列同一性を有する、請求項1または2に記載のNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項6】
前記抗体が、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)、p75-NTRまたはGT1bを標的とする、請求項1または4に記載のNdfip1融合ポリペプチド。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子を含む構築物または発現カセット。
【請求項9】
前記構築物が、前記発現カセットを含むベクターである、請求項8に記載の構築物または発現カセット。
【請求項10】
前記ベクターがウイルスベクターであり、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレトロウイルスベクターであってもよく、レンチウイルスベクターであってもよい、請求項9に記載の構築物または発現カセット。
【請求項11】
誘導型プロモーターをさらに含む、請求項8~10のいずれか1項に記載の構築物または発現カセット。
【請求項12】
輸送シグナルポリヌクレオチドをさらに含み、該輸送シグナルポリヌクレオチドが、配列番号6~23のいずれか、好ましくは配列番号7または11をコードしていてもよい、請求項8~11のいずれか1項に記載の構築物または発現カセット。
【請求項13】
前記誘導型プロモーターが、Tet-On誘導型プロモーターであり、TRE3Gであってもよい、請求項11または12に記載の構築物または発現カセット。
【請求項14】
請求項1~6のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチドを発現する細胞であって、請求項7に記載の核酸分子または請求項8~13のいずれか1項に記載の構築物を含んでいてもよく、Ndfip1融合ポリペプチドを分泌してもよく、Ndfip1融合ポリペプチドを誘導により分泌してもよい、細胞。
【請求項15】
請求項9~13のいずれか1項に記載の構築物を含む、請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
神経系細胞であり、神経前駆細胞(NPC)であってもよい、請求項14または15に記載の細胞。
【請求項17】
前記NPCが、オリゴデンドロサイトに分化するNPC(oNPC)である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
前記NPCが、脊髄アイデンティティを有するNPC(spNPC)である、請求項16に記載の細胞。
【請求項19】
線維芽細胞または人工多能性幹細胞(iPSC)である、請求項14または15に記載の細胞。
【請求項20】
神経幹・前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞、分化したニューロン、神経幹細胞、腹側神経前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞(MNP)、運動神経前駆細胞(pMN)、神経上皮前駆細胞および中枢神経系(CNS)神経細胞から選択される、請求項14または15に記載の細胞。
【請求項21】
神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療において使用するための治療薬であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド、請求項7~13のいずれか1項に記載の核酸分子、構築物もしくは発現カセット、または請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を含む、治療薬。
【請求項22】
請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を含む、請求項21に記載の治療薬。
【請求項23】
神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療を必要とする対象において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷を治療する方法であって、
a.請求項1~6のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド、または請求項7~13のいずれか1項に記載の核酸分子、構築物もしくは発現カセットを前記対象に投与すること;
b.発現カセットまたは構築物と誘導型プロモーターとを含む、請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与すること;または
c.発現カセットまたは構築物と誘導型プロモーターとを含む、請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を事前に投与した前記対象に、誘導剤を投与すること
を含む方法。
【請求項24】
前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物、前記発現カセットまたは前記細胞が、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷により障害を受けたニューロンに投与されるか、該ニューロンの近傍に投与される、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与することを含む、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記誘導型プロモーターが、テトラサイクリン応答性プロモーターであり、TRE3Gであってもよく、前記誘導剤がドキシサイクリンである、請求項23~25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記対象が神経変性疾患を有する、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記神経変性疾患が、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病である、請求項23~27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記対象が、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷を有する、請求項23~26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記対象が脊髄損傷を有する、請求項23~26および29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物、前記発現カセットまたは前記細胞が、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷の発生から2週間を過ぎてから前記対象に投与される、請求項23~26、29および30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記対象がヒトである、請求項23~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を作製する方法であって、
a.請求項7~13のいずれか1項に記載の核酸、構築物または発現カセットをベクターに導入してベクター構築物を得る工程;および
b.前記ベクター構築物を細胞にトランスフェクトする工程
を含む方法。
【請求項34】
組成物であって、請求項1~6のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド、請求項7~13のいずれか1項に記載の核酸分子、構築物もしくは発現カセット、または請求項14~20のいずれか1項に記載の細胞を含み、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい、組成物。
【請求項35】
脂質粒子と複合体化した、先行する請求項のいずれか1項に記載の核酸分子、構築物または発現ベクターを含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項36】
前記細胞と薬学的に許容される担体とを含む、請求項34に記載の組成物。
【請求項37】
神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療用の医薬品の製造における、請求項1~20および34のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、構築物もしくは発現カセット、組成物または細胞の使用。
【請求項38】
神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療のための、請求項1~20および34のいずれか1項に記載のNdfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、構築物もしくは発現カセット、組成物または細胞の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2020年12月2日に出願された米国仮特許出願第63/120,574号の優先権を主張する国際PCT出願であり、この米国仮特許出願は引用によりその全体が本明細書に援用される。
【0002】
配列表の組み込み
2021年12月1日に作成されたP63043PC00というファイル名のコンピュータ可読形態の配列表(10,164バイト)は、EFS-WEB経由で提出されており、引用により本明細書に援用される。
【0003】
本開示は、Ndfip1融合ポリペプチド;該Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸;前記Ndfip1融合ポリペプチドを発現する細胞;ならびに前記Ndfip1融合ポリペプチドまたはこれに関連する製品を用いて、神経変性疾患、脳損傷、外傷性脊髄損傷、非外傷性脊髄損傷および/または視神経損傷を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0004】
様々な細胞治療や分子治療が、脊髄損傷の動物モデルにおいて試験されており、そのうち最も有望視されているものの1つとして、PTEN/mTOR経路の調節がある1,2,3,4,5,6。PTEN(ホスファターゼ・テンシン・ホモログ)は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)経路の負の調節因子であり、腫瘍抑制因子として最初に同定された。PTENは軸索の再生を低下させる3,2,1,7,8。過去の研究では、PTENの薬理学的阻害剤を用いた治療またはsiRNAを用いたPTENのノックダウンによって、神経突起の伸長が劇的に増加し、脊髄損傷後の機能回復が向上することが示されている9,10。損傷を受けた中枢神経系ニューロンにおいて、PTENを条件的に欠失させると、堅牢な軸索再生が促進されて、無傷な軸索の代償性発芽が増強される1,2,3,1,3,7。しかし、PTENは、ニューロンの適切な機能とニューロンの生存に極めて重要な役割も果たしている。PTENは、シナプスの形成とシナプスの可塑性に必要とされ11、核内PTENは、神経損傷後のニューロンの生存と神経保護に極めて重要である12。ニューロンからPTENを完全に除去すると、ニューロンの成長、シナプスの形成ならびにシナプスの可塑性、構造および伝達に広範な障害が起こる13,14,15,16,17,18。一方、PTENの核内移行は、ニューロンの生存に関連する動的プロセスである12,19,20。PTENは、ニューロンのような分化細胞や休止細胞の細胞質に主に局在するが、核内にも存在している21。これらのことから、ニューロンからPTENを完全に排除する脊髄損傷治療による介入は有害である可能性があり、PTENが調節された最低限の量でニューロン細胞に存在することは、神経系の適切な機能に極めて重要であることが示されている。
【0005】
タンパク質のユビキチン化は重要な調節機構である。ユビキチン化によりタンパク質がプロテアソームに認識されて分解される。さらに、ユビキチン化は、タンパク質の選別または輸送にも影響を及ぼすことがある22。様々な研究から、PTENの細胞内移行がユビキチン化により調節されることが示されている23,24。Ndfip1は、E3ユビキチンリガーゼであるNedd4を動員することによってPTENの調節を行うアダプタータンパク質であり、PTENのユビキチン化を増強し、その後のPTENの核内移行またはその分解を増強する19,25,23,26。Ndfip1も、神経終末へのPTENの適切な輸送に必要とされる。過去の研究では、Nedd4-1が、そのアダプタータンパク質であるNdfip1を介した軸索形成と適切なシナプスの形成に必要とされることが示されている27。脳皮質損傷では、特に、外傷病変に隣接する生存ニューロンにおいて、Ndfip1とNedd4の発現がアップレギュレートされることが示されている20
【0006】
また、過去の研究では、インビトロにおいて、神経前駆細胞(NPC)をNdfip1で処理することによって、神経前駆細胞(NPC)からオリゴデンドロサイトへの分化を促進する方法が開示されている34
【0007】
さらに、過去の研究では、ノックダウンまたはノックアウトによりPTENを阻害することによって、軸索の再生を様々な程度で刺激できることが示されている35
【0008】
しかし、脊髄障害または視神経障害を回復させることができる方法はこれまでに知られていない。神経変性の治療方法も存在しない。
【0009】
神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷の治療方法が望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、ニューロン内移行部分とNdfip1ペプチドとを含むNdfip1融合ポリペプチドを含む。
【0011】
一実施形態において、前記ニューロン内移行部分は、ニューロン透過ペプチドである狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)、ジフテリア毒素の細胞内移行ドメイン(DTT)、破傷風毒素の無毒なC断片(TTC)、「コレラ毒素」の無毒な5量体b鎖(CTb)、ニューロテンシン(NT)もしくはTet1、またはニューロン内への移行を促進する能力を保持しているこれらの類似体であるか、これらのうちのいずれかを含む。
【0012】
一実施形態において、前記ニューロン内移行部分は、ニューロン表面受容体のリガンドであるか、ニューロン表面受容体のリガンドを含む。
【0013】
一実施形態において、前記ニューロン内移行部分は、抗体であるか、抗体を含み、該抗体は、単一ドメイン抗体であってもよい。
【0014】
一実施形態において、前記ニューロン内移行部分は、配列番号1、2、3または4に示される配列を有するか、配列番号1、2、3または4と少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0015】
一実施形態において、前記抗体は、トランスフェリン受容体(TfR)、インスリン受容体(IR)、p75-NTRまたはGT1bを標的とする。
【0016】
本開示の別の一態様は、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子を含む。
【0017】
本開示の別の一態様は、本明細書に記載の核酸分子を含む構築物または発現カセットを含む。
【0018】
一実施形態において、前記構築物は、前記発現カセットを含むベクターである。
【0019】
一実施形態において、前記ベクターは、ウイルスベクターであり、単純ヘルペスウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターまたはレトロウイルスベクターであってもよく、レンチウイルスベクターであってもよい。
【0020】
一実施形態において、前記構築物または前記発現カセットは、誘導型プロモーターをさらに含む。
【0021】
一実施形態において、前記構築物または前記発現カセットは、輸送シグナルポリヌクレオチドをさらに含み、該輸送シグナルポリヌクレオチドは、配列番号6~23のいずれか、好ましくは配列番号7または11をコードしていてもよい。
【0022】
一実施形態において、前記誘導型プロモーターは、Tet-On誘導型プロモーターであり、TRE3Gであってもよい。
【0023】
本開示の別の一態様は、Ndfip1融合ポリペプチドを発現する細胞であって、本明細書に記載の核酸分子、構築物または発現カセットを含んでいてもよい細胞を含む。
【0024】
一実施形態において、前記細胞は本明細書に記載の構築物を含む。
【0025】
一実施形態において、前記細胞は神経系細胞であり、神経前駆細胞(NPC)であってもよい。一実施形態において、前記NPCは、オリゴデンドロサイトに分化するNPC(oNPC)である。別の一実施形態において、前記NPCは、脊髄アイデンティティを有するNPC(spNPC)である。さらに別の一実施形態において、前記細胞は線維芽細胞である。別の一実施形態において、前記細胞は、神経幹・前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞、分化したニューロン、神経幹細胞、腹側神経前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞(MNP)、運動神経前駆細胞(pMN)、神経上皮前駆細胞および中枢神経系(CNS)神経細胞から選択される。
【0026】
さらに別の一態様において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療において使用するための治療薬であって、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子、発現カセットもしくは構築物または細胞を含む治療薬を提供する。
【0027】
一実施形態において、前記治療薬は、本明細書に記載の細胞を含む。
【0028】
別の一態様は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療を必要とする対象において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷を治療する方法であって、
a.本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子または構築物を投与すること;
b.発現カセットまたは構築物と誘導型プロモーターとを含む、本明細書に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与すること;または
c.発現カセットまたは構築物と誘導型プロモーターとを含む、本明細書に記載の細胞を事前に投与した前記対象に、誘導剤を投与すること
を含む方法である。
【0029】
一実施形態において、前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物または前記細胞は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷により障害を受けたニューロンに投与されるか、該ニューロンの近傍に投与される。
【0030】
一実施形態において、前記方法は、本明細書に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与することを含む。
【0031】
一実施形態において、前記誘導型プロモーターは、テトラサイクリン応答性プロモーターであり、TRE3Gであってもよく、前記誘導剤はドキシサイクリンである。
【0032】
一実施形態において、前記対象は神経変性疾患を有する。
【0033】
一実施形態において、前記神経変性疾患は、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病である。
【0034】
一実施形態において、前記対象は、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷を有する。
【0035】
一実施形態において、前記対象は脊髄損傷を有する。
【0036】
一実施形態において、前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物または前記細胞は、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷の発生から2週間を過ぎてから前記対象に投与される。前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物または前記細胞は、組成物の形態で前記対象に投与してもよい。
【0037】
一実施形態において、前記対象はヒトである。
【0038】
さらに別の一態様は、本明細書に記載の細胞を作製する方法であって、
a.本明細書に記載の核酸分子または発現カセットをベクターに導入してベクター構築物を得る工程;および
b.前記ベクター構築物を細胞にトランスフェクトする工程
を含んでいてもよい方法である。
【0039】
さらに別の一態様は、組成物であって、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子、構築物もしくは発現カセットまたは細胞を含み、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい組成物である。
【0040】
一実施形態において、前記核酸分子、前記発現カセットまたは前記構築物は、脂質粒子と複合体化されている。
【0041】
一実施形態において、前記組成物は、本明細書に記載の細胞と薬学的に許容される担体とを含み、本明細書に記載の方法または使用において使用するためのものであってもよい。
【0042】
さらに別の一態様において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療用の医薬品の製造における、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、構築物、組成物または細胞の使用を提供する。
【0043】
さらに別の一態様において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療のための、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、発現カセット、構築物、組成物または細胞を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
以下の図面を参照しながら、本開示の実施形態について説明する。
【0045】
図1図1Aおよび図1Bは、GFP、Ndfip1またはNedd4をトランスフェクトした培養ニューロンから得た細胞質画分、核画分およびシナプトソーム画分のウエスタンブロット分析の結果を示す。抗アクチン抗体、抗ラミン抗体および抗シナプトフィジン抗体を、各画分のローディングコントロールとして使用した。
【0046】
図2】培養ニューロンにおけるNdfip1の過剰発現によりPTENの核内移行が誘導されたことを示す画像を示す。
【0047】
図3図3A図3B図3Cおよび図3Dは、培養ニューロンにおいてNdfip1を過剰発現させることによって、インビトロ損傷後のニューロンの生存率を増加できたことが示された画像を示す。
【0048】
図4図4Aは、損傷誘発後の軸索伸長に対するNdfip1およびNedd4の効果を対照(GFP)と比較した画像を示す。図4Bは、損傷誘発後の軸索の長さに対するNdfip1およびNedd4の効果を対照(GFP)と比較した画像を示す。
【0049】
図5図5A図5Bおよび図5Cは、電位依存性ナトリウムチャネルに対するNedd4の効果を示す。
【0050】
図6】ニューロンに対して分泌されたNdfip1の濃度に依存した軸索の長さを示したグラフを示す。
【0051】
図7図7A図7Bおよび図7Cは、Ndfip1を発現させるための構築物を示す。図7Aは、Ndfip1ポリヌクレオチドを含む発現カセットの模式図を示す。図7Bは、図7Aの発現カセットを含むベクターの模式図を示す。図7Cは、Ndfip1融合ポリペプチドの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
別段の定めがない限り、本開示に関連して使用される科学用語および技術用語は、当業者によって一般に理解される意味を有する。さらに、文脈中で別段の定めが必要とされない限り、単数形の用語は複数のものを含み、複数形の用語は単数のものを含む。例えば、「細胞」という用語は、単一の細胞を含むとともに、複数の細胞または細胞集団も含む。概して、本明細書に記載の、細胞培養、組織培養、分子生物学、タンパク質化学、オリゴヌクレオチド化学、ポリヌクレオチド化学およびハイブリダイゼーションに関連して使用される名称、ならびにこれらの分野の技術は、当技術分野でよく知られており、当技術分野で広く利用されている(例えば、GreenおよびSambrook、2012, 4th ed 2014を参照されたい)。
【0053】
本明細書および添付の請求項において使用されているように、単数形の「a」、「an」および「the」は、別段の明確な定めがない限り、複数のものを含む。したがって、例えば、「化合物」を含む組成物は、2つ以上の化合物の混合物を含む。また、「または」という用語は、通常、別段の明確な定めがない限り、「および/または」を含むという意味で使用されることにも留意されたい。
【0054】
本開示の範囲の解釈に際して、本明細書で使用されている「含んでいる(comprising)」という用語およびその派生語(例えば、「含む(comprise)」や「含む(comprises)」など)、「有する(having)」という用語(およびこの用語の任意の形態、例えば、「有する(have)」や「有する(has)」など)、「含んでいる(including)」(およびこの用語の任意の形態、例えば、「含む(include)」や「含む(includes)」など)、または「含んでいる(containing)」(およびこの用語の任意の形態、例えば、「含む(contain)」や「含む(contains)」など)は、本明細書に記載の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を特定するが、本明細書に記載されていないその他の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を排除しないオープンエンドな用語であることが意図されている。このような解釈は、「含んでいる(including)」および「有している(having)」という用語ならびにこれらの派生語などの、よく似た意味の用語にも適用される。
【0055】
本願および請求項において使用されているように、「からなる」という用語およびその派生語は、本願および請求項に記載の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を特定し、かつ本願および請求項に記載されていないその他の特徴、構成要素、成分、群、整数および/または工程の存在を排除するクローズドエンドな用語であることが意図されている。
【0056】
本明細書において、「約」、「実質的に」および「おおよそ」という用語は、これらの用語で修飾されたものから最終的に得られる結果が有意に変化しないような妥当な逸脱を意味する。程度を表すこれらの用語は、このような逸脱によって、これらの用語で修飾された用語の意味が変わってしまわない限り、これらの用語で修飾されたものの少なくとも±5%の逸脱または少なくとも±10%の逸脱を含むと解釈される。
【0057】
特定の節に記載した定義および実施形態は、当業者によって好適であると見なされる本明細書に記載のその他の実施形態にも適用可能であることが意図されている。
【0058】
本明細書および請求項において、1つ以上の構成要素の一覧に関して使用される「少なくとも1つ」という用語は、この構成要素の一覧に含まれる1つ以上の構成要素から選択された少なくとも1つの構成要素を意味するが、この構成要素の一覧に具体的に記載されたすべての構成要素のうちの少なくとも1つを必ずしも含んでいなくてもよく、この構成要素の一覧のうちのいずれかの組み合わせを除外するものでもない。また、この定義は、「少なくとも1つ」という用語が使用される構成要素の一覧に具体的に記載された構成要素以外の構成要素が存在していてもよいことも意味し、具体的に記載された構成要素以外の構成要素は、具体的に記載された構成要素に関連していてもよく、関連していなくてもよい。
【0059】
本明細書において、「配列同一性」は、2つのポリペプチド配列間または2つの核酸配列間の配列同一性の割合を指す。2つのアミノ酸配列間の同一性の割合または2つの核酸配列間の同一性の割合を測定するには、最適な比較を行えるように、2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列をアライメントする(例えば、第1のアミノ酸配列または核酸配列にギャップを挿入して、第2のアミノ酸配列または核酸配列との最適なアライメントを達成してもよい)。次に、対応するアミノ酸位置またはヌクレオチド位置のアミノ酸残基同士またはヌクレオチド同士を比較する。第1の配列の特定の位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドが、第2の配列の対応する位置のアミノ酸残基またはヌクレオチドと同じである場合、これらの分子はその位置で同一である。2つの配列間の同一性の割合は、これらの配列においてアミノ酸残基またはヌクレオチドが一致している位置の数の関数である(すなわち、同一性(%)=アミノ酸残基またはヌクレオチドが一致している位置の数/アミノ酸残基またはヌクレオチドの位置の総数×100)。一実施形態において、これらの2つの配列は同じ長さを有する。2つの配列間の同一性の割合は、数学的アルゴリズムを用いて測定することもできる。2つの配列間の比較に利用される数学的アルゴリズムとして好ましいものの一例として、Karlin and Altschul, 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:2264-2268に記載のアルゴリズムが挙げられるが、これに限定されず、このアルゴリズムは、Karlin and Altschul, 1993, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 90:5873-5877において改良されている。このようなアルゴリズムは、Altschul et al., 1990, J. Mol. Biol. 215:403に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラムに組み込まれている。NBLASTヌクレオチドプログラムのパラメータを、例えば、スコア=100、ワード長=12に設定してBLASTによるヌクレオチド検索を行うことによって、本願の核酸分子に相同なヌクレオチド配列を得ることができる。また、XBLASTプログラムのパラメータを、例えば、スコア=50、ワード長=3に設定してBLASTタンパク質検索を行うことによって、本明細書に記載のタンパク質分子に相同なアミノ酸配列を得ることができる。比較を行う目的でギャップが挿入されたアライメントを得るには、Altschul et al., 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載のGapped BLASTを用いることができる。別の方法として、PSI-BLASTを用いて、分子間の遠縁関係を検出する繰り返し検索を行うことができる(上掲の文献参照)。BLASTプログラム、Gapped BLASTプログラムおよびPSI-Blastプログラムを使用する場合、各プログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)の初期パラメータを使用することができる(例えば、NCBIのウェブサイトを参照されたい)。配列間の比較に利用される数学的アルゴリズムの好ましい別の一例として、Myers and Miller, 1988, CABIOS 4:11-17に記載のアルゴリズムが挙げられるが、これに限定されない。そのようなアルゴリズムは、ALIGNプログラム(バージョン2.0)に組み込まれており、このプログラムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージに含まれている。アミノ酸配列同士を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120アミノ酸置換行列表、ギャップ長ペナルティ=12およびギャップペナルティ=4を使用することができる。2つの配列間の同一性の割合は、ギャップを挿入して、あるいはギャップを挿入せずに、前述の方法と類似した技術を用いて測定することができる。同一性の割合の計算では、通常、完全に一致した残基のみが計数される。
【0060】
本明細書において上下限値によって規定される数値範囲は、その数値範囲に含まれるすべての数値および小数値を含む(例えば、1~5という数値範囲は、1、1.5、2、2.75、3、3.90、4および5を含む)。また、すべての数値および小数値は、「約」という用語で修飾されていると見なされる。本明細書に記載の数値範囲の下位範囲も想定されており、例えば、例えば、0.1刻みで増加する下位範囲も想定されている。例えば、80%~約90%の数値範囲が記載されている場合、80.1%~約90%、80%~約89.9%、80.1%~約89.9%などの範囲も想定されている。
【0061】
本明細書において、「細胞」は、単一の細胞または複数の細胞を指す。
【0062】
本明細書において、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」は、共有結合で連結された2つ以上のヌクレオチドを意味する。別段の明確な記載がない限り、「核酸」および「オリゴヌクレオチド」には、通常、一本鎖(ss)であってもよく、二本鎖(ds)であってもよいデオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)が含まれるが、これらに限定されない。例えば、本開示の核酸分子またはポリヌクレオチドは、一本鎖DNA;二本鎖DNA;一本鎖領域と二本鎖領域が混在するDNA;一本鎖RNA;二本鎖RNA;一本鎖領域と二本鎖領域が混在するRNA;または一本鎖であってもよく、より典型的には二本鎖であってもよく、一本鎖領域と二本鎖領域が混在していてもよいDNAおよびRNAを含むハイブリッド分子で構成されていてもよい。さらに、本開示の核酸分子は、RNAまたはDNAまたはRNAとDNAの両方を含む三本鎖領域で構成されていてもよい。本明細書において、「オリゴヌクレオチド」は、通常、一本鎖であってもよく、二本鎖であってもよい200塩基対長以下の核酸を指す。本明細書で提供される配列は、DNA配列であってもよく、RNA配列であってもよいが、別段の明確な記載がない限り、本明細書で提供される配列には、DNAとRNAの両方が含まれ、相補的RNA配列および相補的DNA配列配列も含まれると解釈される。例えば、5’-GAATCC-3’で示される配列は、5’-GAAUCC-3’、5’-GGATTC-3’および5’-GGAUUC-3’を含むと解釈される。
【0063】
本明細書において、Ndfip1融合ポリペプチドなどの「組換えポリペプチド」は、組換えDNA技術によって製造されるポリペプチドを指し、この組換えDNA技術として、例えば、通常、タンパク質コード遺伝子またはRNAを、発現に適した組換えDNAベクターに挿入することにより宿主細胞を形質転換してポリペプチドまたはRNAを製造する技術、またはポリペプチドを化学的に合成する技術がある。
【0064】
本明細書において、「ポリペプチド」は、単一の「ポリペプチド」および複数の「ポリペプチド」を包含することが意図されており、アミド結合(ペプチド結合としても知られている)によって直鎖状に連結されたモノマー(アミノ酸)から構成される分子を指す。「ポリペプチド」は、2つ以上のアミノ酸が連結した単一の鎖または複数の鎖を指し、特定の長さの産物を示さない。したがって、「ペプチド」、「ジペプチド」、「トリペプチド」、「オリゴペプチド」、「タンパク質」、「アミノ酸鎖」または2つ以上のアミノ酸が連結した単一の鎖または複数の鎖を示すために使用されるその他の用語は、前述の「ポリペプチド」の定義に含まれ、「ポリペプチド」という用語は、これらの用語の代わりに使用することができ、これらの用語と同じ意味で使用される。さらに、「ポリペプチド」という用語は、ポリペプチドの発現後修飾産物も指すことが意図され、発現後修飾としては、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、アミド化、公知の保護基/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解性の切断、または非天然アミノ酸による修飾が挙げられるが、これらに限定されない。ポリペプチドは、天然の生物源に由来するものであってもよく、組換え技術を用いて製造されたものであってもよいが、必ずしも所定の核酸配列またはポリヌクレオチドから翻訳されたものでなくてもよい。ポリペプチドは、どのような方法で作製されたものであってもよく、化学合成により作製されたものも含む。さらに、ポリペプチドは、2つ以上の別個のアミノ酸配列が融合されたものを含む。
【0065】
「融合ポリペプチド」は、自然界において自然には連結されていない第1のアミノ酸配列と第2のアミノ酸配列が連結されたものを含む。通常は別個のタンパク質に存在する複数のアミノ酸配列を融合させて融合ポリペプチドを形成させることができ、あるいは、通常は1つのタンパク質に存在する複数のアミノ酸配列を新たな順序で配置して融合ポリペプチドを形成させることもでき、このような融合ポリペプチドとして、例えば、Ndfip1ペプチドとニューロン内移行部分からなる融合ポリペプチドが挙げられる。融合タンパク質は、例えば、化学合成により作製するか、あるいは各ペプチド領域が所望の関係性でコードされるように構成されたポリヌクレオチドを作製し、これを翻訳することによって作製される。
【0066】
本明細書において、「Ndfip1融合ポリペプチド」は、例えば、Ensembl:ENSG00000131507、OMIM:612050またはUniProtKB:Q9BT67に示されるポリペプチド配列と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%の配列同一性を有するNdfip1ペプチドを含むポリペプチドを指し;例えば、遺伝子アクセッション番号:80762もしくはそのコドン最適化配列である配列番号2に示されるヌクレオチド配列によってコードされてもよく、または遺伝子アクセッション番号:80762もしくは配列番号2と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%の配列同一性を有する配列によってコードされてもよく;PTENをユビキチン化する能力を保持し;ニューロン内移行部分(ニューロン特異的タグとも呼ばれる)を持つ。Ndfip1融合ポリペプチドは、実施例1の記載に従って調製してもよい。Ndfip1融合ポリペプチドは、ヒトNdfip1ペプチドまたは非ヒトNdfip1ペプチドを含んでいてもよく、マウスNdfip1やラットNdfip1などの、哺乳動物のNdfip1ペプチドを含んでいてもよく、(例えば、配列番号24に示す)ヒトNdfip1ペプチドであることが好ましい。
【0067】
本明細書において、「損傷」は、外傷性損傷と非外傷性損傷の両方を含む。非外傷性損傷の例として、変性頸髄症(DCM)および頸椎症性脊髄症(CSM)が挙げられる。
【0068】
本明細書において、「Ndfip1」は、NEDD4ファミリー相互作用タンパク質1を指し、このタンパク質は、N4WBP5、推定NFκ-B活性化タンパク質164、推定NFKB・MAPK活性化タンパク質、または乳がん関連タンパク質SGA-1Mとしても知られている。天然のNdfip1などのどのようなNdfip1を使用してもよい。例えば、Ndfip1は、哺乳動物由来のNdfip1であってもよく、例えば、ヒトNdfip1、ラットNdfip1またはマウスNdfip1であってもよい。本明細書において、「Ndfip1ペプチド」は、例えば、実施例に記載のアッセイなどで評価される軸索伸長を誘導することができるNdfip1の全長およびその断片を含んでいてもよい。
【0069】
本明細書において、「ニューロン内移行部分」は、カーゴに連結することができるペプチドを指し、(例えば、受容体を介したインターナリゼーションによって)ニューロンを透過してニューロン内にカーゴを輸送することができる。例えば、ニューロン内移行部分は、ニューロンの受容体に結合して、その受容体とともに自体とカーゴをニューロン内へとエンドサイトーシスまたは移行させることができる。このカーゴは、例えば、前述の疾患や損傷に関連するNdfip1ペプチドであってもよい。ニューロンを標的とするリガンドは、ニューロン内移行部分の1種である。本明細書において、「ニューロンを標的とするリガンド」は、ニューロン特異的受容体に結合して、ニューロン内へのニューロン特異的受容体のエンドサイトーシスまたは細胞内移行を誘導することが可能な、神経ペプチド、神経成長因子またはニューロン特異的毒素の断片またはこれらを構成するドメインである。ニューロン内移行部分は、カーゴのN末端、C末端またはその両方に連結することができる。ニューロン内移行部分の例として、例えば、ジフテリア毒素の細胞内移行ドメインの断片(DTT)(例えば、アクセッション番号:UniProtKB-P00588(DTX_CORBE)の195~388番目のアミノ酸)と破傷風毒素の無毒なC断片(TTC)(例えば、アクセッション番号:UniProtKB-P04958(TETX_CLOTE)の389~849番目のアミノ酸)との融合タンパク質;コレラ菌由来の「コレラ毒素」の無毒な5量体b鎖(CTb);狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)(例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKFRASNGを有するか、配列番号1と少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する);ニューロテンシン(NT)(例えば、配列番号3に示されるアミノ酸配列LYENKPRRPYILを有するか、配列番号3と少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する);またはTet1(例えば、配列番号4に示されるアミノ酸配列HLNILSTLWKYRCを有するか、配列番号4と少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する)が挙げられる。例えば、いくつかの実施形態において、例えば、前記ニューロン内移行部分の類似体は、1つ、2つまたは3つのアミノ酸が異なっていてもよく、前記ニューロン内移行部分は、ニューロン内への移行を促進する能力を保持している。
【0070】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」は、医薬投与および細胞への使用に適合したあらゆる溶媒、培地、等張化剤、吸収遅延剤などを含むことが意図されている。このような担体や希釈剤として使用してよいものの例として、緩衝生理食塩水、培養培地、ハンクス平衡塩溶液、リンゲル溶液、5%のヒト血清アルブミンおよびウシ血清アルブミン(BSA)が挙げられるが、これらに限定されない。その他の担体を使用することもでき、例えば、本明細書に記載の核酸分子または構築物に水を使用してもよい。水または生理食塩水で再構築された核酸分子または構築物は、例えば投与前に、1種以上の担体と組み合わせてもよい。
【0071】
本明細書において、「神経前駆細胞」は、神経幹細胞(NSC)、神経前駆細胞(NPC)、神経幹・前駆細胞(NSPC)または神経外胚葉細胞(NPC)と同じ意味で用いられ、「神経前駆細胞」には、Sox2、Pax6およびネスチンを発現し、かつニューロン、アストロサイト、オリゴデンドロサイトの三系統の細胞に分化することができる神経細胞が含まれる。
【0072】
「脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞」すなわち「spNPC」は、腹側運動ニューロン、脊髄介在ニューロン、レンショウ細胞、傍灰白質(paragriseal)介在ニューロン細胞、間質介在ニューロン細胞、脊髄固有介在ニューロン細胞などの、脊髄固有の神経細胞種に最終的に分化することができる神経前駆細胞を指し、脳の神経前駆細胞と比べて脊髄遺伝子の発現量が高く、例えば、HoxA、HoxB、HoxC、HoxD、Hox1~10(例えば、HoxA4、HoxB4、HoxC4)などのHox遺伝子の発現量が高く、かつ脳の神経前駆細胞と比べて、例えば、Gbx2、Otx2、FoxG1、Emx2および/またはIrx2ならびにPax6などの脳マーカーの発現量が低い。本明細書では、インビトロにおいてspNPCを作製する方法を提供している。
【0073】
「オリゴデンドロサイト前駆細胞」すなわち「oNPC」は、髄鞘の再生を担うグリア細胞の亜型を指す。オリゴデンドロサイト(OLG)は、オリゴデンドロサイト前駆細胞(OPC)から発生し、中枢神経系(CNS)の髄鞘形成細胞である。
【0074】
「ベクター」は、例えば、核酸分子を発現させることを目的として、核酸分子を含む発現カセットまたは核酸分子を宿主細胞にクローニングおよび/または移入するための媒体を指す。ベクターは、別の核酸セグメントを連結することができるレプリコンであってもよく、このレプリコンから、連結された核酸セグメントを複製させることができる。「レプリコン」は、インビボにおいて自律複製単位として機能する、すなわち、自己制御により複製可能な遺伝子エレメント(例えば、プラスミド、ファージ、コスミド、染色体、ウイルス)を指す。「ベクター」は、インビトロ、エクスビボまたはインビボにおいて、核酸分子または発現カセットを細胞に導入するためのウイルス性媒体および非ウイルス性媒体を含む。多くの種類のベクターが当技術分野で知られているとともに、当技術分野で使用されており、例えば、プラスミド、組換え真核生物ウイルスまたは組換え細菌ウイルスが挙げられる。発現カセットなどのポリヌクレオチドの適切なベクターへの挿入は、相補的な粘着末端を有する選択されたベクターに、適切なポリヌクレオチド断片をライゲートすることによって行うことができる。核酸分子または発現カセットを含むベクターは、本明細書においてベクター構築物または構築物と呼ぶことがある。発現カセットは、オープンリーディングフレームとも呼ばれるコード配列(例えば、Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子)と、クローニングまたは発現を促進してもよい追加の配列とを指してもよく、このような追加の配列として、例えば、非翻訳配列、隣接する制限エンドヌクレアーゼ部位(制限エンドヌクレアーゼ部位は切断してもよい)、プロモーターおよび/または組み込み部位が挙げられる。
【0075】
「セーフハーバー部位」は、隣接する遺伝子の発現または調節を妨害することなく、新たな遺伝子または遺伝子エレメント(例えば、構築物または発現カセット)を導入することができる遺伝子内の位置を含む。この一例として、宿主のゲノムの19q13.4 qtrに組み込まれるアデノ随伴ウイルス(AAV)の組み込み部位(AAV-S1)、CCR5組み込み部位およびhROSA26組み込み部位が挙げられる。
【0076】
本明細書において、「構築物」は、(例えば、Ndfip1融合ポリヌクレオチドをコードする)Ndfip1核酸分子を含む発現カセットを指してもよく、ウイルスベクターやプラスミドなどのベクターに核酸または発現カセットが組み込まれたベクター構築物を指してもよい。
【0077】
さらに、特定の節に記載した定義および実施形態は、当業者によって好適であると見なされる本明細書に記載のその他の実施形態にも適用可能であることが意図されている。例えば、以下の節では、本開示の様々な態様をより詳細に規定している。以下で規定されている各態様は、相反する記載がない限り、その他の1つの態様または複数の態様と組み合わせてもよい。より具体的には、好ましいものまたは有利なものとして示された特徴を、好ましいものまたは有利なものとして示された別の1つの特徴または複数の特徴と組み合わせてもよい。
【0078】
本発明の第1の態様は、ニューロン内移行部分とNdfip1ペプチドとを含むNdfip1融合ポリペプチドを含む。別の一実施形態において、ニューロン内移行部分は、ニューロン表面受容体のリガンドであるか、ニューロン表面受容体のリガンドを含む。
【0079】
一実施形態において、ニューロン内移行部分は抗体であるか、抗体を含む。
【0080】
単一重鎖可変領域(VHH)または一本鎖抗体としても知られている単一ドメイン抗体(sdAb)は、融合タンパク質の受容体介在性トランスサイトーシス(RMT)に使用することができる。様々なニューロン特異的表面タンパク質に対するいくつかの種類の抗体(例えばsdAb)を使用することができる。その一例として、トランスフェリン受容体(TfR)を標的とする抗体、インスリン受容体(IR)を標的とする抗体、p75-NTRを標的とする抗体、またはGT1bを標的とする抗体が挙げられる。
【0081】
例えば、Ndfip1融合ポリペプチドは、ニューロン内移行部分、抗体(sdAbであってもよい)、リンカーおよびNdfip1ペプチドを含んでいてもよい。ニューロン内移行部分は、N末端またはC末端に位置していてもよい。
【0082】
別の一実施形態において、ニューロン内移行部分は、狂犬病ウイルス糖タンパク質(RVG)ペプチドを含み、配列番号1に示される配列YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKFRASNGを有する。別の一実施形態において、ニューロン内移行部分は、ジフテリア毒素の細胞内移行ドメインの断片(DTT)(アクセッション番号:UniProtKB-P00588(DTX_CORBE)の195~388番目のアミノ酸)と破傷風毒素の無毒なC断片(TTC)(アクセッション番号:UniProtKB-P00588(DTX_CORBE)の389~849番目のアミノ酸)との融合タンパク質であるか、コレラ菌由来の「コレラ毒素」の無毒な5量体b鎖(CTb)であるか、例えば、配列番号3に示される配列LYENKPRRPYILを有するニューロテンシン(NT)であるか、例えば、配列番号4に示される配列HLNILSTLWKYRCを有するTet1である。好ましい一実施形態において、ニューロン内移行部分は、ジフテリア毒素の細胞内移行ドメインの断片(DTT)(195~388番目のアミノ酸)と破傷風毒素の無毒なC断片(TTC)(389~849番目のアミノ酸)との融合タンパク質である。別の一実施形態において、ニューロン内移行部分は、運動ニューロンを標的とするように選択され、例えば、Tet1である。
【0083】
ニューロン内移行部分は、Ndfip1ペプチドに直接連結されていてもよく、あるいはリンカーを介してNdfip1ペプチドに連結されていてもよい。したがって、Ndfip1融合ポリペプチドはリンカーを含んでいてもよい。リンカーは、約30アミノ酸長未満の長さの可動性リンカーであればどのようなものであってもよく、例えば、配列番号5に示される配列(GGGGS)3(例えば、GGGGSGGGGSGGGGS)を有していてもよい。別のリンカーを用いることもできる。使用可能な別のリンカーとして、GA2PA3PAKQEA3PAPA2KAEAPA3PA2KA(配列番号25)、(EAAAK)n(n=1~3)(配列番号26)、A(EAAAK)4ALEA(EAAAK)4A(配列番号27)、KESGSVSSEQLAQFRSLD(配列番号28)、およびEGKSSGSGSESKST(配列番号29)が挙げられる。
【0084】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子を含む。一実施形態において、この核酸分子は、Ndfip1ペプチドをコードするコドン最適化された配列番号2に示されるヌクレオチド配列を含む。別の一実施形態において、前記核酸分子は、配列番号2と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む。別の一実施形態において、前記核酸分子は、遺伝子アクセッション番号:80762に示されるヌクレオチド配列を含むか、または遺伝子アクセッション番号:80762と少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%または少なくとも約95%の配列同一性を有する配列を含む。別の一実施形態において、前記核酸分子は、ヒトNdfip1配列(例えば、遺伝子アクセッション番号:80762)、ラットNdfip1配列(例えば、UniProtKB-Q5U2S1(NFIP1_RAT);NP_001013077.1、NM_001013059.1もしくはXP_006254695.1、XM_006254633.3)またはマウスNdfip1配列(例えば、UniProtKB-Q8R0W6(NFIP1_MOUSE);NP_075372.1、NM_022996.1;もしくはXP_006526212.1、XM_006526149.1)を含む。
【0085】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載の核酸分子を含む構築物を含む。この構築物は、例えば、発現カセットを含んでいてもよく、発現カセットであってもよく、この発現カセットは、ポリペプチドをコードするコード領域、例えば、Ndfip1融合ポリペプチドをコードするコード領域を含む。前記構築物および/または前記発現カセットは、1つ以上のコード領域に作動可能に連結されたプロモーターおよび/またはその他の転写制御エレメントもしくは翻訳制御エレメントを含む。例えば、このプロモーターおよび/またはその他の転写制御エレメントまたは翻訳制御エレメントは、前記発現カセットに含まれていてもよく、ベクターによって提供してもよい(例えば、前記発現カセットを含む構築物であってもよい)。遺伝子産物(例えばポリペプチド)のコード領域が1つ以上の調節領域に作動可能に連結されている場合、遺伝子産物の発現が1つ以上の調節領域の影響下または制御下に置かれるように、該遺伝子産物のコード領域が1つ以上の調節領域に連結されている。例えば、プロモーターの機能が誘導されることによって、遺伝子産物のコード領域をコードするmRNAの転写が誘導される場合や、プロモーターによる遺伝子産物の発現またはDNA鋳型の転写が、プロモーターとコード領域の間の結合の特性によって妨害されない場合に、コード領域とプロモーターは「作動可能に連結されている」。
【0086】
いくつかの実施形態において、前記構築物は発現カセットを含み、この発現カセットは、例えば、図7Aに示す1つ以上の構成要素またはすべての構成要素を含む。
【0087】
別の一実施形態において、前記構築物は、相同組換えのための3’相同アームおよび5’相同アームを含む。例えば、CRISPR/Cas9システムを用いて、宿主ゲノムに前記発現カセットを組み込むことができる。3’相同アームおよび5’相同アームは、ゲノムのセーフハーバー部位に前記発現カセットを導入できるように選択することができる。一実施形態において、「セーフハーバー」部位であるAAV-S1を前記発現カセットの組み込みに利用し、AAV-S1部位を挟む配列を相同アームに含める。前記発現カセットの組み込みに使用されるその他のセーフハーバー部位を使用することもできる。
【0088】
様々な種類の発現カセットまたは構築物を用いることができ、組み込み型または非組み込み型、ウイルス性または非ウイルス性、エピソーマル型、安定型または非安定型のいずれでも使用することができる。発現カセットまたは構築物はmRNAであってもよく、これを単独で使用してもよい。例えば、発現カセットおよび構築物は、Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸を含む。
【0089】
様々な方法を利用して、融合タンパク質または組換えタンパク質を発現させるための構築物を作製することができ、例えば、特異的なプライマーを用いたPCR増幅、制限酵素を用いた切断およびライゲーションを利用した方法;GatewayシステムやGibsonアッセンブリーなどの相同組換え方法;またはDNA合成を利用したベクター構築物などの、発現カセットまたは構築物の合成を利用することができる。
【0090】
別の実施形態において、前記発現カセットは、ベクターに挿入してもよい(例えば、前記構築物はベクター構築物であり、例えば、発現カセットを含むベクターである)。このベクターは、様々なエレメントを含んでいてもよい。例えば、CRISPR/Cas9ベクターもしくはPiggyBacベクターを用いて、図7Bに示す1つ以上の構成要素またはすべての構成要素をベクターに含めてもよい。ベクターは、例えばウイルス、例えばウイルスベクターを使用したものでもよく、最もよく知られているものとして、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはレトロウイルス(レンチウイルスなど)を使用したものであってもよい。別の方法として、裸のDNA(例えば、発現カセット)、mRNA、構築物(プラスミドDNAなど)、または脂質粒子(例えば、リポソーム-核酸分子複合体など)の使用が挙げられる。
【0091】
一実施形態において、前記プロモーターは誘導型プロモーターである。誘導型プロモーターは、誘導剤により活性化されて初めて転写を開始することができる不活性なプロモーターであればどのようなものであってもよく、例えば、Tet-On、Cumate、マルトース、脱塩基核酸、CRISPR誘導系などの誘導系を用いたものであってもよい。一実施形態において、誘導型プロモーターは、Tet-On誘導型プロモーターの1種であるTRE3Gである。
【0092】
別の一実施形態において、前記構築物は、輸送シグナルポリヌクレオチドをさらに含む発現カセットを含む。輸送シグナルポリヌクレオチドは、細胞からポリペプチドを分泌させるためのシグナルとなるペプチドをコードするポリヌクレオチドであればどのようなものであってもよく、例えば、表1に記載のペプチドをコードするポリヌクレオチドであってもよく、VSV-GおよびヒトIgG H7が好ましい。
【表1】
【0093】
輸送配列(シグナル配列とも呼ばれる)は、通常、上流(例えば5’側)に存在し、構築物にコードされているポリペプチドにインフレームに融合されているか、作動可能に連結されており、この輸送配列によってポリペプチドが細胞外に輸送される。例えば、輸送配列は、Ndfip1ペプチドの上流のニューロン内移行部分の上流に配置することができる。
【0094】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチドを発現する細胞であって、Ndfip1融合ポリペプチドを発現させて分泌させるための本明細書に記載の構築物を含む細胞を含む。一実施形態において、前記細胞はヒト細胞である。一実施形態において、前記細胞は、誘導型プロモーターおよび/または輸送シグナルポリヌクレオチドを含む構築物を含む。前記誘導型プロモーターおよび/または前記シグナル配列は、Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子に作動可能に連結されている。一実施形態において、前記細胞は、神経前駆細胞(NPC)である。別の一実施形態において、前記NPCは、オリゴデンドロサイトに分化するNPC(oNPC)である。別の一実施形態において、前記NPCは、脊髄アイデンティティを有するNPC(spNPC)である。さらに別の一実施形態において、前記細胞は線維芽細胞である。例えば、線維芽細胞から人工多能性細胞(iPSC)を作製することができる。iPSCからNPCを作製することができる。一実施形態において、NPCは、実施例1または実施例2に記載の方法または当技術分野で公知のその他のNPCの製造方法を用いて作製され、当技術分野で公知のNPCの製造方法として、Khazaei, Mohamad et al. “Generation of Definitive Neural Progenitor Cells from Human Pluripotent Stem Cells for Transplantation into Spinal Cord Injury.” Methods in molecular biology (Clifton, N.J.) vol. 1919 (2019): 25-41(この文献は引用により本明細書に援用される)に記載の方法が挙げられる。
【0095】
前述の細胞から、例えばNPCへの分化誘導は、Ndfip1融合ポリペプチドを製造するための核酸、発現カセットまたは構築物を導入する前に行うことができ、その後で行うこともできる。
【0096】
別の一実施形態において、本明細書に記載の細胞は、約3ng/μl~約50ng/μlの濃度のNdfip1融合ポリペプチドを分泌し、約3ng/μl、約6ng/μl、約12ng/μl、約25ng/μlまたは約50ng/μlの濃度のNdfip1融合ポリペプチドを分泌してもよく、約12ng/μlの濃度のNdfip1融合ポリペプチドを分泌することが好ましい。
【0097】
一実施形態において、本明細書に記載の細胞は、約12ng/μlの濃度のNdfip1融合ポリペプチドを分泌する。
【0098】
本発明の別の一態様は、神経変性疾患用ならびに/もしくは視神経損傷用、脳損傷用および/もしくは脊髄損傷用の治療薬、または神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷を治療する方法であって、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、Ndfip1核酸分子、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチドを発現する構築物または細胞を使用すること、またはこれらのうちのいずれかを投与することを含むことを特徴とする治療薬または方法を含む。神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療を必要とする対象に、前記Ndfip1融合ポリペプチド、前記核酸分子、前記構築物または前記細胞を投与する。一実施形態において、前記治療薬は本明細書に記載の細胞である。細胞、核酸分子および/または構築物を含む実施形態において、前記Ndfip1融合ポリペプチドが、例えば誘導により細胞から分泌されるように、誘導型プロモーターおよび/またはコードされた輸送配列が含まれていてもよい。様々な実施形態において、Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子に作動可能に連結された輸送配列をコードする核酸と誘導型プロモーターとが含まれる。
【0099】
本発明の別の一態様は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療を必要とする対象において、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷を治療する方法であって、
a.本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子または構築物を前記対象に投与すること、または
b.Ndfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子に作動可能に連結された誘導型プロモーターおよび/またはシグナル配列を含む構築物を含む本明細書に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与すること
を含む方法を含む。
【0100】
一実施形態において、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子、発現カセット、構築物、組成物または細胞は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷により障害を受けたニューロンに投与されるか、該ニューロンの近傍に投与される。例えば、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子、発現カセット、構築物、組成物または細胞は、例えばALSなどの神経変性疾患により冒された運動ニューロンに投与することができる。
【0101】
前記細胞は細胞懸濁液の形態であってもよく、例えば、前記細胞と薬学的に許容される担体とを含む組成物の形態であってもよい。前記細胞は、治療を行う疾患または症状に応じた投与を目的として適切に調製してもよい。例えば、このような細胞懸濁液は、外科手術を行うことなく、例えば、特別な針と注射器を用いて、損傷部位またはその近傍に注射することができる。別の方法として、前記細胞、前記組成物、前記核酸分子および前記Ndfip1融合ポリペプチドは、例えば、脊髄損傷の症例などにおいて、外科手術中に投与してもよい。
【0102】
いくつかの実施形態において、前記対象は、神経変性疾患を有する。いくつかの実施形態において、前記対象は、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷を有する。いくつかの実施形態において、前記対象は脊髄損傷を有する。
【0103】
前記対象が脊髄損傷を有する場合、例えば、投与される細胞は、本明細書に記載の細胞であってもよく、例えば、Ndfip1融合ポリペプチドを発現するように組換えられたspNPCであってもよく、Ndfip1融合ポリペプチドは誘導により発現されてもよい。
【0104】
別の一実施形態において、前記方法は、本明細書に記載の細胞を前記対象に投与し、次に誘導剤を投与することを含む。誘導剤は、誘導型プロモーターを活性化させることができる薬剤であればどのようなものであってもよく、例えば、誘導型プロモーターを活性化して、遺伝子の転写を開始させることが可能な薬剤であってもよい。例えば、誘導型プロモーターが、テトラサイクリン、Cumate、マルトースまたは脱塩基酸に応答する場合、テトラサイクリン、Cumate、マルトース、脱塩基核酸またはこれらの類似体(例えば、ドキシサイクリンはテトラサイクリンの類似体である)をそれぞれ投与することができる。
【0105】
様々な誘導型プロモーター配列が知られている。例えば、Tet-ON配列は、GenBank:MK816964.1から利用可能であり、Cumateプロモーターも、例えば、GenBank:KF536588.1から利用可能である。別の一例において、誘導型プロモーターは、当技術分野で公知の方法を用いたCRISPR誘導型プロモーターであってもよい36,37。一実施形態において、誘導型プロモーターはTRE3Gであり、誘導剤はドキシサイクリンである。
【0106】
別の一実施形態において、前記治療は神経変性疾患の治療である。別の一実施形態において、この神経変性疾患は、多発性硬化症(MS)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、パーキンソン病またはハンチントン病である。
【0107】
前記治療方法において用いられる細胞の種類は、疾患の種類に応じて選択してもよく、例えば、神経変性疾患が、特定のニューロンのサブセットに障害を与える傾向がある場合や、例えば、神経変性疾患がALSであり、運動ニューロンが損傷する傾向がある場合や、神経変性疾患が多発性硬化症(MS)であり、髄鞘形成が障害を受ける疾患であることから、oNPCが治療に有用性が高い可能性のある場合などに応じて選択してもよい。例えば、さらなる障害が起こらないように、できるだけ早期に治療を開始することもできる。外傷では、炎症が低下したらすぐに治療を開始すると有益である場合がある。治療の継続期間は、神経系の回復に応じて決定される。例えば、神経系の回復がプラトーに達したら、発現の誘導を停止させることができる(例えば、誘導剤の投与を中止することができる)。
【0108】
いくつかの実施形態において、前記治療は、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷の治療である。別の一実施形態において、前記治療は脊髄損傷の治療である。別の一実施形態において、前記Ndfip1融合ポリペプチドまたは前記細胞は、視神経損傷、脳損傷および/または脊髄損傷の発生から2週間を過ぎてから前記対象に投与される。
【0109】
別の一実施形態において、前記対象はヒトである。
【0110】
本発明の別の一態様は、本明細書に記載の細胞を作製する方法であって、
a.誘導型プロモーターであってもよいプロモーターに作動可能に連結された本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチドをコードする核酸分子を含む発現カセットを調製する工程;
b.前記発現カセットをベクターに挿入してベクター構築物を得る工程;
c.前記ベクター構築物を細胞に導入する工程;および
d.前記Ndfip1融合ポリペプチドを発現する細胞、または(例えば、誘導剤を投与した場合に)前記Ndfip1融合ポリペプチドを発現することができる細胞を選択する工程
を含む方法を含む。
【0111】
前記ベクターは、本明細書に記載のベクターであってもよく、前記発現カセットおよび/または前記ベクター構築物は、前記タンパク質が誘導され、かつ/または分泌できるように、誘導型プロモーターおよび/または輸送配列を含んでいてもよい。
【0112】
前記細胞は、本明細書に記載の細胞であってもよい。例えば、前記細胞は、神経前駆細胞(NPC)であってもよく、脊髄アイデンティティを有するNPC(spNPC)またはオリゴデンドロサイトに分化するNPC(oNPC)であってもよい。前記細胞は、神経幹・前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞、分化したニューロン、神経幹細胞、腹側神経前駆細胞、運動ニューロン前駆細胞(MNP)、運動神経前駆細胞(pMN)、神経上皮前駆細胞または中枢神経系(CNS)神経細胞であってもよい。
【0113】
spNPCは、本明細書の記載に従って調製することができる。例えば、spNPCの作製方法は、「脊髄アイデンティティを持つ神経前駆細胞の作製方法」という名称の2021年9月8日に出願されたPCT出願PCT/CA2021051239(この文献は引用により本明細書に援用される)の実施例に記載の1つ以上の工程を含んでいてもよい。Ndfip1融合タンパク質を発現させるための核酸分子、発現カセットまたは構築物は、細胞をspNPCもしくはさらに分化した細胞系に分化させる前またはその後に該細胞に導入してもよい。
【0114】
前記細胞は、Ndfip1融合ポリペプチドを発現する細胞を作製するための当技術分野で公知の実施可能な方法を用いて作製してもよく、このような方法として、例えば、ポリエチレンイミンなどを用いたトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、形質導入、細胞融合、DEAE-デキストラン法、リン酸カルシウム沈殿法、リポフェクション(リソソーム融合法)、遺伝子銃の使用、またはDNAベクタートランスポーターが挙げられる。前記ベクターは、例えば、PiggyBacベクターであってもよく、例えば、ウイルスを使用したものであってもよく、最もよく知られているものとして、単純ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)またはレトロウイルス(レンチウイルスなど)を使用したものであってもよい。
【0115】
本発明の別の一態様は、組成物であって、本明細書に記載のNdfip1融合ポリペプチド、核酸分子、構築物または細胞を含み、薬学的に許容される担体を含んでいてもよい組成物を含む。
【0116】
一実施形態において、前記組成物は、Ndfip1融合ポリペプチドを徐放させることが可能な、治療用途に適したヒドロゲルと組み合わせたNdfip1融合ポリペプチドを含む。このようなヒドロゲルを含む組成物は、例えば、脊髄にヒドロゲルを鞘内注射することによって投与することができる。別の一実施形態において、Ndfip1融合ポリペプチドを充填した浸透圧ポンプを用いて、損傷部位(例えば脳損傷の損傷部位)またはその近傍に留置されたカテーテル、または脳に障害を及ぼす神経変性疾患を治療するためのカテーテルにNdfip1融合ポリペプチドを供給することができ、このカテーテルを硬膜下に留置して、Ndfip1融合ポリペプチドを徐放させることができる。別の一実施形態において、Ndfip1融合ポリペプチドは、Ndfip1融合ポリペプチドを発現することができるAAVウイルスを注射することによって投与してもよい。
【0117】
本発明の別の一態様は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療用の医薬品の製造における、Ndfip1融合ポリペプチド、核酸分子もしくは構築物、またはNdfip1融合ポリペプチドを誘導により発現して分泌する細胞の使用である。
【0118】
本発明の別の一態様は、神経変性疾患ならびに/または視神経損傷、脳損傷および/もしくは脊髄損傷の治療のための、Ndfip1融合ポリペプチド、核酸分子もしくは構築物、またはNdfip1融合ポリペプチドを誘導により発現して分泌する細胞の使用である。
【0119】
前述の開示は本願を概説するものである。以下の具体的な実施例を参照することによって、より深く理解することができるであろう。これらの実施例は、説明のみを目的としたものであり、本願の範囲を限定するものではない。状況から示唆される場合や、状況的に都合が良い場合、形態の変更および等価物への置換も想定される。本明細書において特定の用語を使用しているが、これらの用語は説明を意図したものであり、本発明を限定するものではない。
【0120】
以下の実施例により本開示を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【実施例
【0121】
実施例1:細胞におけるNdfip1の過剰発現
神経培養およびトランスフェクション
個々の細胞に解離させた錐体ニューロンの培養を行うため、E18のラット胚から得た海馬を切断し、個々の細胞に解離させた。24ウェルプレートにおいて、ラミニンおよびポリ-L-リシン(PLL)でコーティングしたガラス製のカバーガラスに、800,000個/枚の密度でニューロンを播種した。ニューロンを播種する際に、AmaxaTMヌクレオフェクション法を用いて、Ndfip1を発現するプラスミドまたはNedd4を発現するプラスミドをトランスフェクトした。ニューロンをインビトロで3日間(div)培養した後、4%パラホルムアルデヒドと15%スクロースを含むリン酸緩衝生理食塩水中において4℃で20分間固定した。
【0122】
インビトロ軸索損傷モデル:
BioFlex(登録商標)6ウェルプレートでニューロンを増殖させ、弾性シリコーン膜上で培養したニューロンに機械的伸展を加えることによって、ひずみを負荷した。30%の等二軸静的ひずみをニューロンに1時間負荷した。次に、インビトロでニューロンをさらに3日間インキュベートした後、TUNELアッセイ、ウエスタンブロットおよび免疫染色を行った。細胞伸展後の急性期(細胞伸展の1時間後)および亜急性期(細胞伸展の24時間後)に、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いてニューロンの生存率を調べた。
【0123】
神経突起伸長アッセイ
軸索損傷の誘発後、ニューロンを約3日間増殖させ、4%PFA/20%スクロースを含むPBS中でニューロンを固定し、抗βIIIチューブリン抗体(Covance社の製品)と抗マウスFITC二次抗体(インビトロジェン)で染色した。ImageJソフトウェアを用いて、神経突起伸長の長さとニューロンの数を分析した。
【0124】
ヒト人工多能性幹細胞(hiPSC)からの神経前駆細胞(NPC)の作製
単層培養においてSMAD二重阻害法を用いて、hiPSC株をNPCに分化させた。分化誘導の開始時(0日目)に、hiPSCを個々の細胞に解離させて、mTeSR1培地中のマトリゲル(Corning、マサチューセッツ州トゥックズベリー)上に20,000個/cm2の密度で単層として再播種した。細胞が90%のコンフルエントに達したら、B27、N2、FGF(10ng/ml)、10μM TGFβ阻害剤(SB431542)、200ng/mlノギン(Noggin)および3μM GSK3β阻害剤(CHIR99021)を添加したDMEMとF12の1:1培地からなる神経誘導培地(NIM)に、2日間かけて徐々に培地交換した。7日間培養した後、神経ロゼットを手動で単離し、ポリ-L-リシン(PLL)/ラミニンでコーティングしたディッシュにおいて、B27、N2、FGF(10ng/ml)およびEGF(20ng/ml)を添加した神経基礎培地からなるNPC増殖培地(NEM)に単一の細胞として播種し、2代継代した。次に、得られた細胞を、超低接着ディッシュ(Corning、マサチューセッツ州トゥックズベリー)に入れたNPC増殖培地に10,000個/mlの密度で播種し、単一の細胞として培養して、初代ニューロスフェアを形成させた。5日間培養後、PLL/ラミニンでコーティングした24ウェルプレートの各ウェルに、個々のクローン性ニューロスフェアを個別に播種して増殖させた。次に、前述の各工程を再度実施して、二代目のクローン性ニューロスフェアを得た。拡大培養を行うため、NPC増殖培地中のPLL/ラミニンコーティング上で二代目のクローン性ニューロスフェアを培養した。2週間の分化誘導期間中に、神経ロゼットの段階からニューロスフェアの段階を経て細胞が分化した。
【0125】
NPCの遺伝子組換え
ヒトNPCにpiggyBacベクターを安定にトランスフェクトして、TAT-Ndfip1またはニューロン内移行部分-Ndfip1を発現させた。簡潔に述べると、piggyBac-Ndfip1を構築するため、ヒトNdfip1遺伝子のコドン最適化バリアントをカスタム合成し、piggyBacベクターのBsaI部位に挿入した。このpiggyBacベクターは、このクローニング部位の下流にires-GFPを有していた。製造業者のプロトコルに従って、神経幹細胞用AmaxaTMヌクレオフェクションキット(ロンザ社)を用いて、piggyBacベクターをNPCにトランスフェクトした。単一細胞蛍光活性化セルソーティング(FACS)でGFPシグナルを検出することによって、クローンを樹立した。
【0126】
インビトロでの分化誘導および免疫細胞化学染色:
hiPSC由来NPCの分化能を調べ、かつNdfip1で処理したNPCと対照NPCとで何らかの差異があるのかどうかを分析するため、神経発生が促進される条件、オリゴデンドロサイトの発生が促進される条件、またはアストロサイトの発生が促進される条件で細胞を培養して、インビトロで分化誘導を行った。神経発生が促進される条件では、FGFとEGFの非存在下において、B27、N2、レチノイン酸(0.1μM)、cAMP(100ng/ml)および脳由来神経栄養因子(BDNF、10ng/ml;PeproTech、ニュージャージー州ロッキーヒル)を添加した神経基礎培地中のPLL/ラミニン基質上で細胞を2週間培養した。アストロサイトの分化を誘導する条件では、B27、0.1%ウシ胎児血清(FBS)、BMP4(10ng/ml、Peprotech)およびCNTF(5ng/ml;PeproTech)を添加したDMEM/F12中のマトリゲル上でhiPSC由来NPCを14日間培養した。オリゴデンドロサイトの分化を促進する条件では、N2サプリメントを添加したDMEM中のマトリゲル上でhiPSC由来NPCを培養した後、レチノイン酸(0.1μM)で3日間処理した。2日目に、Shhアゴニストであるパルモルファミン(1μM)を加えて7日間培養した。7日目に、PDGF-AA(20ng/ml)を加えて、さらに7日間培養した。オリゴデンドロサイトの成熟を増強する条件では、分化誘導の最終段階においてトリヨードサイロニン(T3)(30ng/mL;シグマ アルドリッチ)を加えて6日間培養した。ニューロンおよびアストロサイトは、インビトロで14日間分化誘導した後に、形態分析とマーカーの免疫染色を行い、オリゴデンドロサイトは、インビトロで21日間分化誘導した後に、形態分析とマーカーの免疫染色を行った。
【0127】
サンドイッチELISAを用いた分泌されたNdfip1の定量
培地上清を回収し、プロテアーゼ阻害剤カクテル(2.5mM EDTA、10μMロイペプチン、1μM peptastinおよび1mMフッ化フェニルメチルスルホニル)を加えた。サンドイッチELISAでNdfip1の濃度を分析した。

比色定量イムノアッセイプロトコル
モノクローナル抗Ndfip1抗体(abcam)を、10ng/mlの濃度から2倍段階希釈した。1:250に希釈したNdfip1抗体で平底96ウェルプレート(Nunc)を一晩コーティングした。10%FCSを含むPBSバッファーでプレートを2時間ブロッキングし、細胞から分泌されたNdfip1を含む試料培地を加えて室温で2時間インキュベートし、HRP標識免疫グロブリンサブクラス抗体と室温で1時間インキュベートしてNdfip1を検出した。TMB基質溶液をプレートに加えて発色させ、マイクロプレートリーダー(TECAN)を用いて450nMで読み取りを行った。
【0128】
TUNELアッセイ:
アポトーシスを測定するため、製造業者の説明書に従って、in situ TUNEL比色定量アッセイを用いてDNAの断片化を調べた。簡潔に述べると、3.7%緩衝ホルムアルデヒド溶液で細胞を5分間固定し、PBSで洗浄した。次に、100%メタノールで細胞を透明化し、プロテイナーゼKで15分間消化した。次に、細胞を標識し、デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼを加えて37℃で90分間インキュベートした。次に、Sapphire基質と細胞を30分間インキュベートした。0.2N HClで比色反応を停止させ、450nmの吸光度のマイクロプレートリーダーで測定した。
【0129】
qRT-PCR:
定量RT-PCR(q-RT-PCR)を用いて、細胞の様々な分化マーカーの発現プロファイルを調べた。Ndfip1で処理したhiPSC由来NPCの特性評価を行うため、適切なプライマーを用いて、神経細胞のマーカー、アストロサイトのマーカーおよびオリゴデンドログリアのマーカーを調べた。RNeasy miniキット(キアゲン、ドイツ、ヒルデン)を用いて、mRNAを単離した。NanoDropTM分光光度計を用いて、mRNAの濃度と純度を評価した。cDNAは、製造業者の説明書に従って、ランダムヘキサマープライマーを利用したSuperScript(登録商標)VILO cDNA合成キット(ライフテクノロジーズ、カリフォルニア州カールスバッド)を用いて合成した。RT-PCRは、推奨されるサーマルサイクル処理パラメータに設定した7900HTリアルタイムPCRシステムにおいて、TaqManTM設計プライマーとFAST TaqManマスターミックスとを用いて行った。試料は三連で測定した。測定値は、GAPDHハウスキーピング遺伝子で補正した。神経前駆細胞のマーカー、ニューロンのマーカー、アストロサイトのマーカーおよびオリゴデンドログリアのマーカーの試験では、GAPDHまたはhiPSCの由来源に対して結果を補正した。遺伝子発現量は2-ΔΔCT法を用いて比較した。
【0130】
結果
【0131】
インビトロでの軸索伸長およびニューロンの生存に対するNdfip1の効果を調べた。
【0132】
ニューロンにおけるNedd4の発現は、細胞質ゾルにおけるPTENの分解と、核内および神経終末へのPTENの輸送を調節している。培養した大脳皮質細胞において、ニューロンでのPTENの核輸送は、Ndfip1の過剰発現によって刺激される(図1Aおよび図2)。この実験では、Ndfip1の過剰発現は、Nedd4の過剰発現よりもさらに堅牢な活性を示した。さらに、リン酸化S6Kの定量により評価したところ、Ndfip1は、細胞質ゾル内のPTENを減少させ、mTOR経路を活性化したことが分かった(図1B)。一方、ニューロンにおいてNdfip1の発現をダウンレギュレートさせても、mTORの活性に有意な効果は認められなかった。
【0133】
Ndfip1の過剰発現によりニューロンの生存率が増加する。培養ニューロンにおいて外因性のタンパク質を発現させるため、NucleofectorTM法を用いて、培養ニューロンに発現ベクターを移入した。インビトロ軸索損傷モデルを用いて、TUNELアッセイで評価したところ、培養ニューロンのアポトーシス死が約61%±2%増加した(図3B)。一方、Ndfip1を発現させるための発現ベクターをトランスフェクトしたニューロンは、GFPを発現する対照ニューロンよりも生存率が増加した(31%±5%の増加)(図3Aおよび図3B)。さらに、Ndfip1を発現させることによって、カスパーゼ3の切断を減少させることができ(図3C)、脱リン酸化されたNF200の分解を抑制することができた(図3D;矢尻)。アポトーシスを誘導すると、脱リン酸化されたNF200は分解された28,29
【0134】
Ndfip1は軸索伸長を促進することができる。軸索伸長におけるNdfip1の機能を調べるため、大脳皮質培養における軸索伸長にNdfip1が及ぼす影響を評価した。GFP、GFP-Ndfip1またはGFP-Nedd4を発現させるための発現ベクターを皮質ニューロンにトランスフェクトした。インビトロで3日間培養後、ニューロンを固定し染色して、GFP陽性ニューロンの軸索の長さを測定した。Ndfip1を過剰発現させたところ、対照ニューロンよりも長い軸索が形成されたことが分かった(図4Aおよび図4B)。一方、Nedd4を過剰発現させても、軸索の長さに有意な効果は認められなかった。
【0135】
Ndfip1の発現は、軸索の電位依存性ナトリウムチャネルの密度を減少させる。Nedd4-Ndfip1系は、電位感受性ナトリウムチャネルを強力にユビキチン化し、これをダウンレギュレートすることが示されている30,31。過去の研究では、二次的外傷性中枢神経系損傷の発症機序の初期変化として、ニューロンへのNa+の流入が認められることが示されている32。何らかの理論に拘束されることを望むものではないが、Ndfip1は、電位依存性ナトリウムチャネル遮断薬と同様の神経保護効果を発揮する可能性がある33。電位依存性ナトリウムチャネルの活性に対するNdfip1の効果を調べるため、培養ニューロンにおいて内因性Ndfip1を過剰発現させた。図5Aは、GFPまたはGFP-Ndfip1を発現させるための発現ベクターをトランスフェクトした皮質ニューロンを示す。インビトロで3日間培養後、ニューロンを固定し、抗Nav1.6抗体と抗βiiiチューブリン抗体で染色した。図5Bは、GFPまたはNdfipをトランスフェクトした培養ニューロンから調製した溶解物におけるNav1.6の濃度のウエスタンブロット分析の結果を示す。図5Cは、Na+電流に対するNdfip1の効果を示した代表的な電流トレースを示す。ニューロンを-70mVで保持し、-50~+50mVの電圧に脱分極化させて、内向きのNa+電流を誘導した。Ndfip1を過剰発現させることによって、ニューロンのNav1.6濃度が低下した(図5Aおよび図5B)。さらに、Ndfip1を過剰発現させることによって、Na+電流が低下した(図5C)。
【0136】
誘導によりNdfip1を発現してNdfip1をニューロンに対して分泌することができる誘導性細胞を用いて、ニューロンにおいてNdfip1を過剰発現させることができる。インビトロにおいて培養ニューロンに損傷を誘発した後、ヒト人工多能性幹細胞由来の神経前駆細胞(hiPSC由来NPC)から発現されて分泌された様々な濃度のNdfip1で培養ニューロンを処理した。インビトロで3日間培養した後、軸索伸長を測定した(図6)。測定した軸索伸長を示したグラフから、インビトロでのNdfip1の最適な濃度が約12ng/μlであることが示された(図6)。このような誘導性細胞がNPCである場合、本実施例の方法または実施例2に記載の方法によりNPCを作製してもよい。
【0137】
実施例2:神経前駆細胞(NPC)の作製方法
本明細書において、脊髄アイデンティティを持つhPSC由来神経前駆細胞(spNPC)をhPSCから作製するための段階的なプロトコルの一例を提供する。この操作は、主に3つの工程、すなわち、
1)パターン形成されていないNPCの作製または胚様体(EB)の形成と、SMADの二重阻害とを行う工程、
2)NPCをプライミングして外胚葉細胞運命を誘導する工程、および
3)NPCのパターン形成を誘導してspNPCに分化させる工程
により行われる(図3)。
【0138】
工程1:hPSCからのパターン形成されていないNPCの作製
インビトロにおいてNPCを作製する方法には様々なものがあり、「デフォルト経路」を用いる方法22,23や、SMADシグナル伝達経路を阻害する方法がある。さらに、BMP阻害剤を用いてSMAD1のみを阻害するプロトコルと、SMAD二重阻害剤を用いてSMAD1の阻害とSMAD2の阻害(TGFβの阻害)の両方を行うプロトコルがある。これらのプロトコルを用いてインビトロで作製されたNPCは、デフォルト状態では最初に吻側アイデンティティを獲得し14、その後、パターン形成されて、別のアイデンティティを獲得する。
【0139】
吻側アイデンティティを持つNPCを作製するには、SMADの二重阻害を利用した胚様体培養法を用いる。この方法で作製した細胞を、本明細書において、「パターン形成されていないNPC」と呼ぶ。
【0140】
線維芽細胞からなるフィーダー細胞層上でhPSCを培養した場合、神経前駆細胞を分化誘導する前に、フィーダーフリー条件でさらに3~4代継代することができる。これによって細胞を順化させて、培養の品質および収率を向上させることができる。
【0141】
胚様体を作製するには、超低接着ディッシュを用いて、(FGF2を含まない)hPSC培養培地と神経誘導培地でhPSCの小塊を7日間培養する。この培養期間中に、hPSCは、胚様体と呼ばれる細胞凝集塊に成長する。
【0142】
神経外胚葉の誘導は、神経誘導培地(NIM)に胚様体を移したときから始まる(約4~5日目)。神経誘導培地中のマトリゲルまたはGeltrexに胚様体を播種すると、神経外胚葉細胞系譜を有するSox1発現ロゼットへの転換が促される。Sox2はhPSCでも発現しているが、Sox1は、細胞が神経外胚葉に分化する運命を獲得した後に発現が開始する。
【0143】
FGF2のシグナル伝達はロゼットの極性化に必要とされる。これを踏まえて、次に、線維芽細胞成長因子2(FGF2)を添加して、神経外胚葉細胞からロゼット構造への転換を誘導する。
【0144】
神経増殖培地(NEM)は、NPCを転換させて、ネスチン、Sox2およびPax6を発現するNPC(例えば、パターン形成されていないNPC)を発生させるために使用する。
【0145】
プロトコル:
1)製造業者の説明書に従って、健康で均質なhPSCの培養物にAccutaseまたはReLeSR(Stem Cell Technologies社)を添加して、hPSCを剥離させ、(20~50個の細胞からなる)細胞塊を得る。得られた細胞塊を1×104個/mLの密度でhPSC培養培地に懸濁し、6ウェルの超低接着ディッシュに2mLずつ入れる。37℃、5%CO2の標準的な培養条件下において、湿潤インキュベーターで2日間インキュベートする。
【0146】
FGFを含まないhPSC培養培地(表2)が推奨される。
【表2】
【0147】
Accutaseを用いた細胞剥離の代わりとなる継代方法として、MgCl2やCaCl2を含まない0.5mM EDTA含有ダルベッコPBSや、ReLeSRがある。ReLeSRは、選択的にiPSC細胞のみを剥離させることから、プレート上に分化した細胞が残る。これによって、通常のiPSC培養でも同様に、迅速かつ容易に選択を行うことが可能となる。
【0148】
2)2日目に、プレートを緩やかに傾けて、ウェルの底の隅に細胞塊を集め、ウェルの上部から培地の半量を取り除いて、SMAD1阻害剤であるドルソモルフィン(2μM)とSMAD2阻害剤であるSB431542(10μM)を添加した新鮮なhPSC培地と交換する。4日目に、この処理を再度行う。
【0149】
ドルソモルフィンはBMPのシグナル伝達経路を遮断し、SB431532はTGFβのシグナル伝達経路を遮断することから、神経細胞の誘導効率を全細胞の80%以上にまで向上できることが示されている14
【0150】
3)5日目に、プレートを緩やかに傾けて、FGF2を含まない神経誘導培地(表2)に培地交換する。
【0151】
5日目までには、胚様体の形態の細胞凝集塊が観察される。胚様体は、多能性hPSCから神経外胚葉細胞への転換が起こる内因性条件を模倣する。
【0152】
4)7日目に、マトリゲルまたはGeltrexを用いて37℃で1時間かけて事前にコーティングした6cmの標準的な培養プレートに、FGF2を含む神経誘導培地中の胚様体を移す。24時間経過してから顕微鏡観察を行って、すべての胚様体がプレート上に定着して、プレートに接着したことを確認する。
【0153】
5)8日目に、培地の半量を取り除いて、ドルソモルフィンを添加せずにFGF2を添加した新鮮な神経誘導培地と交換する。13~17日目(PSC細胞株に応じて変動)まで、この処理を毎日繰り返す。13~17日目には、最初の神経ロゼットが形成され、その後、神経管様構造が観察される。神経ロゼットまたは神経管様構造に含まれる細胞は、プレートの周縁部の細胞とは異なり、Pax6やSox1などの初期神経外胚葉マーカーを発現する。
【0154】
6)神経ロゼットまたは神経管様構造が観察されてから2日後に、先端の細いピペットチップを用いてロゼットをプレートから剥離させ、神経増殖培地を入れた15mLのファルコンチューブに移す。細胞が不適切に選択されてNPCの純度が低下しないように、神経細胞以外の細胞がプレートの周縁部に残るように注意する(図4)。
【0155】
別の方法として、Neural Rosette Selection試薬(Stem Cell Technologies社)を使用するか、ディスパーゼを加えて短時間(3~5分)インキュベートし、タッピングし、PBSで洗浄することによって、神経ロゼットをプレートから剥離させることができる。Neural Rosette Selection試薬は、単層分化培養での神経ロゼットの選択的な剥離に準最適であることが判明していることから、胚様体培養のみでの使用が推奨される。
【0156】
7)選択したロゼットを1×105個/mLの密度で神経増殖培地に再懸濁し、ポリ-L-リシン(PLL)(0.1mg/ml溶液)とラミニンで事前にコーティングしたプレートに、1×105個/cm2の密度で播種する。低密度で再播種すると、望ましくない分化が促進されたり、第二代ロゼットの形成が起こらなくなるため、低密度での再播種は避ける。
【0157】
ラミニン511(ただし、ラミニン332、ラミニン111およびラミニン411は除く)は、分化過程を妨害することがある成長因子を含まないことから、マトリゲルやGeltrexなどのその他のECM代替品よりも好ましい。
【0158】
7~8日後に、第二代神経ロゼットを用手で(またはディスパーゼを用いて)プレートから剥離し、N2B27培地を入れた別のマトリゲルコーティングプレートに移す。次に、第三代ロゼットをばらばらにして、NPCの精製を行う。
【0159】
ばらばらにした第三代ロゼットを再播種すると、ネスチン、Pax6およびSox2を発現するが、Oct4は発現しない単離されたNPCが培養物中に見られるはずである。
【0160】
クローン増殖性ニューロスフェア(初代、第二代、第三代)
8)神経増殖培地を入れた超低接着プレートにおいて、単離した細胞を10個/μLの密度で培養する。2~3日ごとに、プレートを傾けて、培地の半量を新鮮な培地に交換し、これを1週間継続して行う。この段階で、少なくとも50μm~150μmの大きさの滑らかな輪郭を持つ完全な球体状の細胞集塊として初代ニューロスフェアが観察される。ニューロスフェアは、暗色には見えず、ギザギザした輪郭ではなく、空胞や死細胞を含んでいない。さらに、ニューロスフェアは、原始的なNPCのマーカーであるOct4を発現することがある。
【0161】
9)ニューロスフェアが検出されたら、神経増殖培地500μLを入れた15mLのファルコンチューブにニューロスフェアを移す。火炎研磨済みのパスツールピペットを用いて、培地を上下に10~20回ピペッティングするか、単一細胞に分離されるまで培地のピペッティングを行う。神経増殖培地を入れた超低接着プレートに、10個/μLの細胞密度になるように細胞懸濁液を播種する。
【0162】
細胞の拡大培養
10)PLL/ラミニンで事前にコーティングした標準培養プレートに、10μMのROCK阻害剤を含む神経増殖培地を入れ、得られた単一細胞を1×104個/cm2の密度で培養する。翌日、神経増殖培地のみを含む新鮮培地に交換する。
【0163】
11)5~6日後に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たなプレートに入れた神経増殖培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。継代の翌日に、10μMのROCK阻害剤を添加する。
【0164】
注:この方法で作製されたhPSC由来NPCは、デフォルト状態では、前脳~中脳のアイデンティティを示すマーカーであるFoxG1、Gbx2およびOtx2を発現する。また、このhPSC由来NPCは、NPCの脊髄アイデンティティを示すマーカーであるHoxC4を発現しない。
【0165】
工程2:NPCにおける外胚葉細胞運命の維持
工程1では、骨形成タンパク質4(BMP4)のシグナル伝達を、BMP阻害剤であるドルソモルフィンで阻害し(ただし、LDN193189(LDN)やノギン(Noggin)を使用することもできる)、TGFβをSB431542(SB)で阻害することによって、中胚葉および内胚葉への分化を阻止した。次の工程(工程3)では、レチノイン酸(RA)を使用する。レチノイン酸は、中胚葉運命から細胞分化を逸脱させる傾向がある26
【0166】
細胞の外胚葉運命を維持するには、レチノイン酸(RA)を作用させると同時に、Notchシグナル伝達を阻害する必要がある27。Notchシグナル伝達を阻害することによって、中胚葉運命への分化が阻害され、細胞を外胚葉層に維持できることが示されている28。Notchシグナル伝達を阻害するため、NotchアンタゴニストであるEGF-L7(10ng/mL)を使用する。EGF-L7は、4つのNotch受容体(Notch1~4)すべてと相互作用して、(DLL4ではなく)Jagged1タンパク質またはJagged2とNotch受容体との相互作用と競合することによって、これを阻害する29。EGF-L7をノックダウンすると、Notch経路が刺激され、EGF-L7を過剰発現させると、Notch経路が阻害される。NPCが活発に増殖している状態では、Notchシグナル伝達は未分化状態の維持に寄与する。
【0167】
さらに、この工程では、培養培地中のEGFを10ng/mlのEGF-L7に置き換えることによって、EGFほど強力ではないEGF-L7によりEGF受容体を活性化させ、Notchシグナル伝達を調節することによって、NPCの過剰な増殖を抑制する。さらに、EGF-L7に加えて、任意の成分として、0.5μMのDLL4(DLL4:Delta-Like 4;Notchアゴニスト)を添加することによって、Notch活性の低下のバランスを取って、ネスチンやPax6などの神経前駆細胞遺伝子の発現量を維持することができる(図5)。
【0168】
発生過程において、脊髄前駆細胞は、前方神経前駆細胞とは異なり、神経中胚葉前駆細胞(NMP)から発生することがあるという証拠がいくつか報告されている。神経中胚葉前駆細胞は、インビトロにおいて、沿軸中胚葉組織と後方神経組織の両方に分化することができ、運動ニューロンなどの特定のニューロン亜集団にさらに分化することができる30,31。ゼブラフィッシュを用いたインビボ実験では、異なる細胞系譜の様々な神経中胚葉前駆細胞亜集団が混在し、それぞれが空間的に分離されており、自己複製能も神経中胚葉前駆細胞亜集団ごとに大きく異なることが見出されている32

工程3:脊髄固有のアイデンティティを獲得させるためのNPCのパターン形成:
spNPCを作製するため、モルフォゲンを用いて細胞を段階的に処理することによって、細胞のパターン形成を行った38
【0169】
1)例えば、Accutaseまたはその他の細胞剥離溶液を用いて細胞を単一の細胞に解離させる。例えば、PLL/ラミニンで事前にコーティングした標準培養プレートにおいて、例えば、B27、N2、FGF2(40ng/ml)およびFGF8(200ng/ml)を添加したDMEM:F12培地などの培地に、例えば、1×104個/cm2の密度で細胞を播種する。標準的な条件で3日間インキュベートする38
【0170】
表3に、このプロトコルに用いることができる試薬の一覧を示す。
【0171】
この工程では、高濃度のFGF2(50ng/ml~150ng/ml)と高濃度のFGF8(50ng/ml~400ng/ml)を使用する。胚の尾側細胞は、吻側尾側軸に沿った脊髄の領域化に関与する特定のFGFの暴露を吻側細胞よりも長時間受ける。脊髄伸長の後期段階では、FGF8がより広範に発現する。FGF8の発現は数日間継続するが、体節形成と軸伸長の停止の最終段階に近づくにつれて徐々に低下する39,40。このような濃度と期間でFGF8を用いて処理することによって、細胞の後方化が起こる。この段階の最後に得られる後方化したNPCは、パターン形成されていない細胞と比べて、HoxA4などのHox遺伝子の発現量が上昇しており、Gbx2、Otx2、FoxG1などの少なくとも1つの脳マーカーの発現が低下している(図6)。後方化したNPCは、パターン形成されていないNPCと同じ分化プロファイルを有し、三系統の細胞に分化することができる。後方化したNPCのニューロスフェア形成能と増殖速度は、パターン形成されていないNPCよりもわずかに高い。
【0172】
2)3日目に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たな標準培養プレートにおいて、B27、N2、0.1μM EC23およびWnt3a(100μg/ml)を添加したDMEM:F12培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。さらに3日間インキュベートする。
【0173】
この工程では、レチノイン酸(RA)または合成レチノイド類似体EC23を用いて、細胞の尾側化を誘導する。EC23は、培養温度においてレチノイン酸よりも光安定性が高いため、EC23を使用することが好ましい。
【0174】
FGFのシグナル伝達とレチノイン酸のシグナル伝達だけでは、(それぞれ単独でも同時に使用した場合でも)インビトロで増殖させた神経細胞において尾側の特徴を誘導するには不十分であり、神経細胞に尾側アイデンティティを指定するには、Wntシグナル伝達(Wnt3a)がさらに必要とされる42
【0175】
3)6日目に、PLL/ラミニンで事前にコーティングした新たな標準培養プレートにおいて、B27、N2および0.1μM EC23を添加したDMEM:F12培地に、Accutaseを用いて細胞を継代する。さらに2日間インキュベートする。
【0176】
この段階ではWnt3aは必要とされない。
【0177】
レチノイン酸(RA)とWntで3日間処理することによって細胞の尾側化が起こる。この尾側化したNPCは、HoxA4などのHox遺伝子を発現する。NPCの尾側アイデンティティを安定化させるために継代した後、EC23でさらに2日間処理する。このようにして、レチノイン酸経路をさらに活性化させることによって、後方化した細胞と比べて、Gbx2、Otx2およびFoxG1の発現量が有意に低下する(ほぼ発現が消失する)(図7)。尾側化したNPCは、プライミングしたNPCと同じ分化プロファイルを有し、三系統の細胞に分化することができる。しかし、尾側化したNPCのニューロスフェア形成能と増殖速度は、パターン形成されていないNPCと比べて有意に低下する(図7)。
【0178】
4)B27、N2、FGF2(10ng/ml)、EGF(10ng/ml)および740Y-P(1μM)を添加したDMEM:F12培地中に尾側化したNPCを継代して、この尾側化したNPCのアイデンティティが安定化するまで2~3代継代を継続する。この段階で脊髄NPCが形成される。この培地中で脊髄NPCを3~5代までさらに継代維持することにより最適な結果を得ることができるが、培養条件によっては、P10(およびそれ以上の継代数)まで継代可能な場合がある(図8)。
【0179】
継代維持期間中に、細胞の増殖速度は低下する。十分な数の細胞を得るには、長期間培養して継代を数代重ねることが必要である。この段階でFGF2の濃度を増加させることはできない。この問題を解決するため、PI3キナーゼ-Akt経路を介してFGF2と同等に効果的に神経細胞の生存と増殖を促進することが可能な740Y-Pを培地に添加する43。740Y-Pの効果は用量依存的である。
【0180】
P3~P10程度の継代数のspNPCを使用することができる。後期継代細胞は、アイデンティティが混在したNPCや、GABA作動性の介在ニューロンを生じる細胞を発生する可能性がある。
【0181】
各回の継代後、培養の1日目に10μMのRock阻害剤(Y-27632)を添加する。
【表3】
【0182】
コドンが最適化されたNdfip1ペプチドのコード配列(配列番号2)
ATGGCCCTGGCCCTGGCCGCCCTGGCCGCCGTGGAGCCCGCCTGCGGCAG 50
CCGCTACCAGCAGCTGCAGAACGAGGAGGAGAGCGGCGAGCCCGAGCAGG 100
CCGCCGGCGACGCCCCCCCCCCCTACAGCAGCATCAGCGCCGAGAGCGCC 150
GCCTACTTCGACTACAAGGACGAGAGCGGCTTCCCCAAGCCCCCCAGCTA 200
CAACGTGGCCACCACCCTGCCCAGCTACGACGAGGCCGAGCGCACCAAGG 250
CCGAGGCCACCATCCCCCTGGTGCCCGGCCGCGACGAGGACTTCGTGGGC 300
CGCGACGACTTCGACGACGCCGACCAGCTGCGCATCGGCAACGACGGCAT 350
CTTCATGCTGACCTTCTTCATGGCCTTCCTGTTCAACTGGATCGGCTTCT 400
TCCTGAGCTTCTGCCTGACCACCAGCGCCGCCGGCCGCTACGGCGCCATC 450
AGCGGCTTCGGCCTGAGCCTGATCAAGTGGATCCTGATCGTGCGCTTCAG 500
CACCTACTTCCCCGGCTACTTCGACGGCCAGTACTGGCTGTGGTGGGTGT 550
TCCTGGTGCTGGGCTTCCTGCTGTTCCTGCGCGGCTTCATCAACTACGCC 600
AAGGTGCGCAAGATGCCCGAGACCTTCAGCAACCTGCCCCGCACCCGCGT 650
GCTGTTCATCTAC

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図1A-B】
図2
図3A-C】
図3D
図4A-B】
図5A-C】
図6
図7A
図7B-C】
【配列表】
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【国際調査報告】