(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】抗炎症作用、抗真菌作用、抗寄生虫作用、及び抗がん作用を有するイミダゾキノリン化合物
(51)【国際特許分類】
C07D 471/04 20060101AFI20231213BHJP
A61K 31/4738 20060101ALI20231213BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 31/10 20060101ALI20231213BHJP
A61P 33/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20231213BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20231213BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20231213BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20231213BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20231213BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20231213BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20231213BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231213BHJP
A61P 33/04 20060101ALI20231213BHJP
A61P 33/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C07D471/04 105C
C07D471/04 CSP
A61K31/4738
A61P29/00
A61P31/10
A61P33/00
A61P35/00
A61P17/00
A61P17/06
A61P17/04
A61P37/06
A61P29/00 101
A61P37/02
A61P19/02
A61P9/00
A61P1/16
A61P25/00
A61P31/04
A61P33/04
A61P33/02
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533814
(86)(22)【出願日】2021-12-09
(85)【翻訳文提出日】2023-07-21
(86)【国際出願番号】 US2021062565
(87)【国際公開番号】W WO2022125750
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】501056821
【氏名又は名称】ウェルスタット セラピューティクス コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】シンプソン デイヴィッド マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ボン ボーステル レイド ウォーレン
(72)【発明者】
【氏名】ガルシア ガルシア ローランド アレジャンドロ
【テーマコード(参考)】
4C065
4C086
【Fターム(参考)】
4C065AA01
4C065AA05
4C065BB06
4C065CC09
4C065DD03
4C065EE02
4C065HH01
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4C065QQ02
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4C086NA14
4C086ZA02
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4C086ZB05
4C086ZB08
4C086ZB26
4C086ZB32
4C086ZB35
4C086ZB37
4C086ZB38
(57)【要約】
炎症、真菌、単細胞寄生性微生物、及びがんに対して活性を有しているイミダゾキノリン化合物が記載される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-(3-フェノキシベンジル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン
及び薬学的に許容されるその塩
からなる群から選択される化合物。
【請求項2】
哺乳動物対象における炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択される状態を治療又は予防するための方法であって、前記対象に有効量の請求項1に記載の前記化合物又は塩を投与することを含む、前記方法。
【請求項3】
哺乳動物対象における炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択される状態の治療又は予防において使用するための、請求項1に記載の化合物又は塩。
【請求項4】
哺乳動物対象における炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択される状態を治療又は予防するための、請求項1に記載の化合物又は塩の使用。
【請求項5】
哺乳動物対象における炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択される状態を治療又は予防するための医薬の製造における、請求項1に記載の化合物又は塩の使用。
【請求項6】
哺乳動物対象における炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択される状態の治療又は予防において使用するための、請求項1に記載の化合物又は塩を含む組成物。
【請求項7】
哺乳動物対象が、ヒト対象である、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項8】
状態が、炎症性疾患である、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項9】
炎症性疾患が、炎症性皮膚状態である、請求項8に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項10】
炎症性皮膚状態が、乾癬、乾癬性皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、及び膿痂疹からなる群から選択される、請求項9に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項11】
炎症性疾患が、全身性自己免疫障害である、請求項8に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項12】
全身性自己免疫障害が、関節リウマチ、全身性円板状エリテマトーデス、乾癬性関節炎、血管炎、シェーグレン症候群、強皮症、自己免疫性肝炎、及び多発性硬化症からなる群から選択される、請求項11に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項13】
状態が、真菌感染である、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項14】
真菌が、カンジダ属菌、サッカロマイセス属菌、トリコフィトン属菌、クリプトコッカス属菌、アスペルギルス属菌、及びクモノスカビ属菌からなる群から選択される、請求項13に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項15】
カンジダ属菌が、カンジダ・アルビカンス又はカンジダ・グラブラタである、請求項14に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項16】
サッカロマイセス属菌が、サッカロマイセス・セレビシエである、請求項14に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項17】
トリコフィトン属菌が、トリコフィトン・ラブラムである、請求項14に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項18】
クリプトコッカス属菌が、クリプトコッカス・ネオフォルマンスである、請求項14に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項19】
クリプトコッカス・ネオフォルマンスが、クリプトコッカス・ネオフォルマンス血清型D又はクリプトコッカス・ネオフォルマンス血清型Aである、請求項18に記載の方法、使用、又は組成物。
【請求項20】
アスペルギルス属菌が、アスペルギルス・フミガーツスである、請求項14に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項21】
状態が、単細胞寄生性微生物による感染である、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項22】
寄生虫感染が、対象の細胞における酸性液胞内に存在する寄生性微生物による感染である、請求項21に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項23】
寄生性微生物が、マイコバクテリア、グラム陽性菌、アメーバ、及びグラム陰性菌からなる群から選択される、請求項21に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項24】
寄生性微生物が、結核、リステリア、リーシュマニア、トリパノソーマ、コクシエラ・ブルネッティ、及びプラスモジウム属菌からなる群から選択される、請求項21に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項25】
状態が、腫瘍性疾患である、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項26】
腫瘍性疾患が、血液がんである、請求項25に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項27】
腫瘍性疾患が、固形腫瘍である、請求項25に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項28】
薬学的に許容される担体をさらに含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項29】
化合物又は組成物が、対象に局所投与される、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項30】
化合物又は組成物が、対象に全身投与される、請求項2~6のいずれかに記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項31】
化合物又は組成物が、経口、直腸内、非経口、又は経鼻投与される、請求項30に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項32】
真菌をエクスビボで阻害する方法であって、表面又は前記真菌を請求項1に記載の化合物又は塩と接触させることを含む、前記方法。
【請求項33】
真菌が、カンジダ属菌、サッカロマイセス属菌、トリコフィトン属菌、クリプトコッカス属菌、アスペルギルス属菌、及びクモノスカビ属菌からなる群から選択される、請求項32に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項34】
カンジダ属菌が、カンジダ・アルビカンス又はカンジダ・グラブラタである、請求項33に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項35】
サッカロマイセス属菌が、サッカロマイセス・セレビシエである、請求項33に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項36】
トリコフィトン属菌が、トリコフィトン・ラブラムである、請求項33に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項37】
クリプトコッカス属菌が、クリプトコッカス・ネオフォルマンスである、請求項33に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【請求項38】
クリプトコッカス・ネオフォルマンスが、クリプトコッカス・ネオフォルマンス血清型D又はクリプトコッカス・ネオフォルマンス血清型Aである、請求項37に記載の方法、使用、又は組成物。
【請求項39】
アスペルギルス属菌が、アスペルギルス・フミガーツスである、請求項33に記載の方法、使用するための化合物、使用、又は組成物。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
単細胞生物であろうと、ヒトを含む多細胞生物の構成物であろうと、ほとんどの有核真核細胞には、細胞の維持及び機能に非常に重要である酸性化した液胞が含まれている。哺乳動物細胞では、これらの液胞はリソソーム及び他のエンドソーム小胞オルガネラを含む。リソソーム内部のpHは、通常約4.5~5であり、液胞型ATP依存性プロトンポンプ及びドナン平衡効果によって維持されている。リソソームは細胞質のpH緩衝に寄与し、細胞を酸性環境から保護し、また、オートファジーとして知られるプロセスである、老化又は損傷したオルガネラ、例えばミトコンドリアなどの構成物を分解してリサイクルするための主要な部位でもある。リソソームの特徴が変化して疾患の発症に寄与する重要な病理学的状態がいくつかあり、薬物療法の潜在的な標的となっている。
【0002】
浸潤性がん細胞における一般的な表現型の変化は、酵素を含む酸性内容物のエキソサイトーシスを介して周囲の細胞の破壊に関与するリソソームのリダイレクトであることを示す証拠が相次いでいる。通常はリソソームに見出されるが、がん細胞によって分泌されるカテプシンなどのタンパク質分解酵素は、細胞外マトリックスタンパク質を分解し、腫瘍の浸潤及び転移を促進する可能性がある。さらに、リソソーム及び他の酸性液胞型オルガネラは、がん細胞内で拡大することが多く、このことがpH緩衝に役立っており;多くの固形腫瘍は、浸潤を促進する酸性の細胞外環境を生成し、そのためには、がん細胞が低い細胞外pHの生成と耐性の両方に適応する必要がある。浸潤の可能性を考慮してインビトロで選択されたがん細胞は、攻撃性の低い細胞よりも大きく、酸性度のより高いリソソームを有する。電離放射線に曝露されたがん細胞は、リソソームの拡大及び酸性化を伴う防御反応を起こす。がん細胞が生存上の利点を獲得するために関連する防御反応は、オートファジーの活性化である。オートファジーの活性化は、損傷したオルガネラ又はその他の細胞残屑を含有するオートファゴソームとリソソームの融合を伴う。オートファジーが破壊されると、がん細胞の生存率が損なわれる可能性がある。一部のがん細胞はまた、薬物耐性のメカニズムとして化学療法剤をリソソームに隔離する。哺乳動物のリソソームに蓄積する抗マラリア薬であるクロロキンは、複数のクラスの化学療法剤及び標的小分子及び抗体によるがん治療の抗がん活性を増強するか、又はそれらに対する感受性を回復させる。アクリジンオレンジなどのリソソーム指向性蛍光色素は、腫瘍をインサイチュで周囲の組織から視覚的に区別するために使用することができ、これは、がん細胞を選択的に殺傷するための特異的なリソソーム標的細胞毒性物質を厳格に区別できる可能性を示している。
【0003】
リソソームの変化は、一般的な炎症性疾患、特に活性化マクロファージが関与する炎症性疾患の重要な特徴でもあり、リソソーム酵素、サイトカイン、及びリソソームを介して処理され放出されるHMBG1などの一部の炎症性メディエーターのエキソサイトーシスが、組織の損傷並びに局所的損傷及び全身的損傷の両方に関与する可能性がある。糖質コルチコイドシグナル伝達はまた、リソソームに関連しているため、リソソーム機能が損なわれると糖質コルチコイド効果を媒介する抗炎症経路が強化される可能性がある。
【0004】
ほとんどの真菌はリソソームに類似した酸性液胞を有する。これらの酸性液胞は、イオン及びpHの恒常性、アミノ酸の貯蔵、オートファジーにとって、並びに一部のタンパク質の処理にとって非常に重要である。液胞は、プロトンポンプである、液胞型H+-ATPase、又は「V-ATPase」によって酸性化され、また、液胞の酸性化の障害を引き起こすV-ATPaseのサブユニットの不活性化変異を有する真菌も、ビルレンスを失い、増殖が低下することが知られている。真菌膜の主要かつ特異的な膜構成成分であるステロイドであるエルゴステロールは、V-ATPaseの立体構造及び活性にとって非常に重要であり、V-ATPaseの機能不全は、既存の抗真菌剤の一部のクラスが含まれる、エルゴステロール合成阻害剤の抗真菌活性の主要なメカニズムであると考えられている。
【0005】
特定のタンパク質への結合を介して作用する抗真菌剤、例えば酵素阻害剤は本質的に、標的タンパク質をコードする遺伝子の単一変異による薬物耐性の発生に対して脆弱である。適切な特異的標的化及びカチオントラップによる真菌の酸性液胞の破壊を介して真菌を標的とする薬剤は、液胞の酸性化が損なわれると生存率及びビルレンスが損なわれるため、特異的なタンパク質標的に結合することによって作用する薬物よりも点変異による耐性の発生の影響を受けにくい可能性がある。
【0006】
臨床的に重要な抗マラリア薬は、酸性液胞及びリソソームに蓄積することが知られており、またそれらの生物活性は、マラリアだけでなく、炎症性疾患、一部のがん、並びに真菌及び単細胞及び原生動物寄生虫による非マラリア感染においても、酸性液胞に集中することによって主に媒介される。キノリンアナログ抗マラリア薬は、細胞外空間におけるよりも数桁高い濃度まで蓄積する可能性がある酸性消化液胞内のカチオントラップを介して、マラリア原虫を標的とする。大きなモル分率のクロロキン、メフロキン、キナクリン、及びそれらの同族体のいくつかは、通常の細胞外pH約7.4及び細胞質pH7.1では帯電していないため、細胞膜及びオルガネラ膜を通過することができる。リソソーム又は真菌の酸性液胞の内部などの酸性環境では、これらの抗マラリア薬は主にカチオン性であるため、液胞膜の自由な通過が制限される。クロロキンなどの抗マラリア薬は、マラリア原虫が摂取したヘモグロビンが摂食液胞に蓄積した後、ヘモグロビンからのヘムの処理を損なうため、原虫に対する特異的な毒性の多く/大部分を占めている。しかし、クロロキン及び類似のキノリンアナログ抗マラリア薬は、哺乳動物のリソソーム及び真菌の酸性液胞に蓄積し、液胞を部分的に脱酸するだけで臨床効果をもたらすのに十分な程度まで液胞機能を損なう可能性がある。クロロキンは、全身性エリテマトーデス(erythematosis)又は関節リウマチなどの慢性自己免疫疾患及び炎症性疾患の治療に使用され、中程度の有効性がある。クロロキン又はキナクリンなどの抗マラリア薬については、単剤として、又はフルコナゾールなどの他のクラスの抗真菌薬と組み合わせての両方で、特に全身性クリプトコッカス症の動物モデルで、ある程度の抗真菌活性が報告されている。しかし、その活性は最適以下であり、真菌の増殖阻害は不完全である。最近の研究では、がんの動物モデルにおけるクロロキン、メフロキン、及びシラメシンなどの他の弱カチオン性薬の中程度の増殖阻害活性も実証されている。したがって、抗マラリア薬キノリン化合物などの既存のリソソーム指向性薬剤は、酸性液胞が病因に寄与する疾患において、治療上関連する活性を示す可能性がある。しかし、標的細胞は比較的高濃度の抗マラリア薬の蓄積に耐えることができるため、このような疾患における抗マラリア薬の活性及び効力は制限されている(マラリアにおけるキノリン化合物の特異的な致死効果は、主に、炎症性疾患、がん、又は真菌感染の分野には適用できない細胞毒性のメカニズムである、原虫の摂食液胞内のヘム処理の破壊に起因する)。がんの治療においてリソソームを標的とする強力な可能性を示す一連の証拠にもかかわらず、既存の薬剤は、ヒトにおけるがんを効果的に治療するための適切な活性又は治療指数を示していない。
【0007】
「リソソーム指向性界面活性剤」は、約10~14個の炭素原子を有する単一のアルキル鎖を担持する弱カチオン性複素環式部分を含み、哺乳動物細胞に対して強力な細胞毒性があり、インビトロで広範囲の抗真菌活性を示すことが報告されている。このクラスの薬剤は、抗マラリア薬が濃縮されるのと同じタイプのカチオントラッププロセスを介してリソソーム及び酸性液胞に蓄積し、液胞内で臨界ミセル濃度に達すると界面活性剤として作用し、液胞膜を損傷する。それらは、ミセル微細構造の形成の結果として、特徴的なシグモイド用量反応曲線を示す。しかし、関連疾患の動物モデルにおけるこのクラスの薬剤のインビボでの活性又は安全性に関する情報は存在しない。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、以下の化合物:2-(3-フェノキシベンジル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン及びその薬学的に許容される塩を提供する。
【0009】
本発明はまた、哺乳動物対象における状態を治療又は予防するための使用又は方法であって;状態は、炎症性疾患、真菌感染、単細胞寄生虫感染、及び腫瘍性疾患からなる群から選択され;有効量の本発明の化合物又は塩を対象に投与することを含む、使用又は方法を提供する。この化合物又はその塩を含む組成物もまた提供する。また、本発明は、エクスビボで真菌を阻害する方法であって、表面又は真菌を化合物又は塩と接触させることを含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】化合物AF又はGEと48時間インキュベートしたA549がん細胞の生存率を示す。
【
図2】化合物AF又はGEと72時間インキュベートしたA549がん細胞の生存率を示す。
【
図3】化合物AF又はGEと48時間インキュベートしたPC3がん細胞の生存率を示す。
【
図4】化合物AF又はGEと72時間インキュベートしたPC3がん細胞の生存率を示す。
【
図5】化合物GEで治療したイミキモド誘発性皮膚炎を有するマウスの耳の厚さを示す。
【
図6A】化合物GEで治療したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎を有するマウスにおけるPASI皮膚紅斑スコア(0~4)を示す。
【
図6B】化合物GEで治療したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎を有するマウスにおけるPASI皮膚肥厚スコア(0~4)を示す。
【
図6C】化合物GEで治療したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎を有するマウスにおけるPASI皮膚落屑スコア(0~4)を示す。
【
図6D】化合物GEで治療したイミキモド誘発性乾癬様皮膚炎を有するマウスにおけるPASI累積スコア(0~12)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
理論に束縛されることを望むものではないが、本発明は、本発明の化合物が蓄積しやすい疾患関連変化を有するリソソーム又は他の酸性液胞を特徴とする病原性細胞を特徴とする疾患を治療するための化合物及びその使用であって、次いで、これらにより病原性細胞を選択的に不活化又は除去する、化合物及びその使用を提供する。本発明の化合物は、化合物が細胞内の酸性液胞に蓄積するときに、リソソーム膜又は液胞膜の完全性を強力に破壊する構造部分の結果として、クロロキンなどの既知のアミノキノリン薬を上回る効力及び活性の顕著な改善を特徴とする。抗マラリア薬キノリン誘導体及びアナログに対して少なくとも中程度に反応する疾患は、一般に、本発明の化合物でより効果的に治療される。このような疾患には、炎症性疾患、血液がんと固形腫瘍の両方を含む腫瘍性疾患、真核生物病原体、例えば真菌及び複数のクラスの原生動物又は他の単細胞寄生虫など、による感染が広く含まれる。
【0012】
定義
ある特定の化合物は、本明細書ではそれらの化学名又は以下に示す2文字コードで呼ばれる。化合物GEは本発明の化合物である。化合物AFは、WO2014/120995A2(Wellstat Therapeutics Corp.社)に開示されている。
GE 2-(3-フェノキシベンジル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン
AF N-(3-フェノキシベンジル)キノリン-4-アミン
【0013】
本明細書で使用される「含む(comprising)」という移行句は非限定的(open-ended)である。この用語を使用する請求項には、そのような請求項に記載されている要素に加えて要素が含まれる場合がある。
【0014】
以下の略語は、化学合成例及び本明細書の他の場所で使用される。
DCM ジクロロメタン
DMAP 4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン
DMF N,N-ジメチルホルムアミド
EDC 1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩
EtOH エタノール
EtOAc 酢酸エチル
MeOH メタノール
TEA トリエチルアミン
TFA トリフルオロ酢酸
TLC 薄層クロマトグラフィー
【0015】
使用及び治療方法
本発明は、本発明の化合物が蓄積しやすい疾患関連変化を有するリソソーム又は他の酸性液胞を特徴とする病原性細胞を特徴とする疾患を治療するための、以下に記載のある特定の化合物を提供し、次いで、これらにより病原性細胞を選択的に不活化又は除去する。
【0016】
本発明の化合物は、化合物が細胞内の酸性液胞に蓄積するときに、リソソーム膜又は液胞膜の完全性を強力に破壊する構造部分の結果として、クロロキンなどの既知のアミノキノリン薬を上回る効力及び活性の顕著な改善を特徴とする。抗マラリア薬キノリン誘導体及びアナログに対して少なくとも中程度に反応する疾患は、一般に、本発明の化合物でより効果的に治療される。このような疾患には、炎症性疾患、血液がんと固形腫瘍の両方を含む腫瘍性疾患、真核生物病原体、例えば真菌及び複数のクラスの原生動物又は他の単細胞寄生虫など、による感染が広く含まれる。
【0017】
抗炎症剤としての使用
本発明の化合物の重要な作用は抗炎症活性であり、過剰な組織炎症に関連する疾患又は症状を治療又は予防するための有用性を提供する。本発明はまた、本発明の化合物を含有する組成物、並びに炎症性疾患の治療又は予防のための医薬の製造のための本発明の化合物の使用も提供する。本発明の化合物は、炎症誘発性状態に刺激されたマクロファージを選択的に抑制又は不活化するが、非刺激マクロファージにはあまり影響を及ぼさない。活性化された炎症誘発性マクロファージは、多種多様な炎症性疾患及び自己免疫疾患の発症に寄与する。マクロファージは、抗原提示細胞であると同時に自己反応性T細胞によって誘導される組織損傷に対するエフェクターでもあり、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、乾癬、炎症性腸疾患、及びアトピー性皮膚炎を含むがこれらに限定されない疾患における組織損傷及び機能不全に関与する。炎症性マクロファージは、自己免疫疾患、心血管疾患及び代謝疾患、並びに神経変性状態などの多くの全身性疾患に関与している。活性化されたマクロファージは、アテローム性動脈硬化プラークの不安定性を伴う組織損傷において主要な役割を果たし、その結果、破裂及び血栓性血管閉塞のリスクが生じる。脂肪組織内の活性化されたマクロファージは、インスリン抵抗性、2型糖尿病、及びその他の肥満の結果を含む代謝異常に寄与する。破骨細胞は、骨粗鬆症における骨変性を媒介し、骨内で発生又は骨に転移したがんにおける骨破壊及び「骨の痛み」に関与するマクロファージ様の細胞である。本発明の組成物は、活性化マクロファージが炎症性疾患の発症に寄与するこれらの疾患及び他の疾患を治療するのに有用である。
【0018】
アトピー性皮膚炎、湿疹、又は乾癬などの皮膚の炎症性疾患の治療には、複数のクラスの局所薬剤を使用する。コルチコステロイドは広く使用されているが、特に長期間使用すると、局所毒性と全身毒性の両方を引き起こす可能性がある。コルチコステロイドは局所皮膚萎縮又は菲薄化を引き起こし、これにより皮膚の破壊及び毛細血管拡張症を引き起こす可能性がある。さらに、局所コルチコステロイドは、全身的副作用を引き起こすのに十分な量が全身的に吸収される場合がある。アトピー性皮膚炎の治療のための第2のクラスの薬剤は、カルシニューリン阻害剤であるタクロリムス及びピメクロリムスなどのT細胞免疫抑制剤である。それらの局所的及び全身的免疫抑制効果により、黒色腫及びリンパ腫などのがんの免疫監視が低下するのではないかという懸念が生じている。
【0019】
ビタミンDアナログ、特にカルシポトリエンは、乾癬の局所治療で知られている。カルシポトリエン(Calciptoriene)は、ケラチノサイトの過剰な増殖を阻害することによって作用する。正常な皮膚への塗布は漂白作用があるため禁忌であり、全身吸収による有害事象の可能性もある。皮膚の刺激又は掻痒は、カルシポトリエンの既知の副作用である。本発明の化合物は、ビタミンD3への曝露によって活性化されたマクロファージ前駆体に対して特に活性である。カルシポトリエンによる乾癬治療は、ケラチノサイトの増殖を阻害することである程度の改善をもたらす一方で、局所マクロファージを炎症誘発性状態に誘導し、刺激などの既知の副作用に寄与し、最終的な治療効果を制限する可能性がある。炎症誘発性ビタミンD3刺激マクロファージ前駆体を不活性化する本発明の化合物の能力を考慮すると、本発明の化合物とビタミンDアナログとの組合せの局所治療は、乾癬及び乾癬性皮膚炎において、炎症性表皮の過剰増殖の治療と、ビタミンDアナログの副作用としての刺激又は掻痒の軽減の両方で予想外の利益を提供する可能性がある。
【0020】
本発明の化合物は、感染(真菌、細菌、アメーバ)又は角膜損傷又はコンタクトレンズなどの非感染性誘因によって引き起こされる角膜炎を含む眼炎症の治療に有用である。本発明の化合物は、特に真菌角膜炎に適しており、感染性真菌及び同時発生的な炎症性損傷の両方に対抗する。本発明の化合物は、機械的又は化学的傷害に応答する角膜血管新生及び他の炎症性変化を阻害する。
【0021】
本発明の化合物は、湿疹、アトピー性皮膚炎、乾癬、及び膿痂疹を含むがこれらに限定されない、様々な炎症性又は過剰増殖性皮膚状態又は病変を治療するのに有用である。膿痂疹は、表皮(epidermia)への炎症性損傷を伴う表在性細菌による皮膚感染であり、本発明の化合物は、共に炎症を抑制し、膿痂疹に関与する主な生物である黄色ブドウ球菌及び化膿レンサ球菌を含むがこれらに限定されないグラム陽性菌に対して、直接的な阻害効果又は殺菌効果を有している。本発明の化合物はまた、光線角化症、脂漏性角化症、及び疣贅を含むがこれらに限定されない、炎症及び腫瘍の両方の特徴を示すことが多い、腫瘍発生前及び腫瘍性皮膚変化を阻害する。
【0022】
マクロファージ及び関連細胞型は、抗原提示細胞として、及びT細胞による不適切な刺激の後に組織を損傷するエフェクターの両方として、適応免疫系を伴う自己免疫疾患の病変形成に寄与し、それによって、マクロファージを動員し活性化するインターフェロンガンマ及び他の炎症性メディエーターを分泌する。本発明の化合物は、マクロファージ及び樹状細胞による抗原提示を破壊し、また、組織を損傷する炎症促進性エフェクターであるマクロファージを不活化する。一般的な指針は、クロロキン、ヒドロキシクロロキン又は他の抗マラリア薬であるキノリンアナログがヒト又は関連動物モデルにおいて活性を示す、慢性又は発作性自己免疫疾患を治療するのに、本発明の化合物が有用であり、一般に、炎症性疾患及び非マラリア感染性疾患において、抗マラリア薬よりも強力であり、かつ活性が高いということである。このような疾患には、関節リウマチ、全身性円板状エリテマトーデス、乾癬性関節炎、血管炎、シェーグレン症候群、強皮症、自己免疫性肝炎、及び多発性硬化症が含まれるが、これらに限定されない。
【0023】
マクロファージ活性化症候群(MAS, Macrophage activation syndrome)は、特に小児期発症状態、例えば、特発性若年性関節炎(患者の10%超に影響を及ぼす)における、及び炎症性腸疾患における、いくつかの自己免疫疾患の急性合併症である。MASにおいて、マクロファージは、過剰活性化されると、造血系への損傷及び全身性炎症を引き起こし、MASは、時として致死性である。本発明の化合物は、MASの治療に有用であり、経口により送達されてもよく、又は静脈内注射若しくは注入によって送達されてもよい。
【0024】
慢性自己免疫障害の治療では、本発明の化合物は、全身投与され、好ましくは経口投与される。急性炎症状態、又は自己免疫疾患の再燃の治療では、本発明の化合物を用いる静脈内治療が、任意の適切な送達経路である。
【0025】
自己免疫疾患又は炎症性疾患の経口又は静脈内治療では、本発明の化合物は、典型的に1日当たり1~1000ミリグラム、有利には1日当たり100~600ミリグラムの範囲の用量で、単一用量で、又は1日当たり2つ若しくは3つの用量に分けて投与される。
【0026】
抗真菌薬及び抗寄生虫薬の使用
本発明の化合物は、インビボ及びエクスビボの両方で真菌の増殖を阻害するのに有用である。したがって、本発明はまた、哺乳動物対象、例えばヒトにおける真菌の増殖を阻害するための方法及び使用を提供する。これらの方法は、真菌感染を治療及び予防するために使用することができる。エクスビボでは、表面を本発明の化合物で治療して、真菌の増殖を阻害若しくは予防すること、又は農業若しくは園芸では、有益な植物に影響を及ぼす真菌を予防若しくは処置することが有用である。本発明はまた、本発明の化合物を含有している組成物、及び真菌の増殖を阻害するための医薬の製造のための本発明の化合物の使用を提供する。
【0027】
本発明は、以下の生物活性実施例に示されている通り、本発明の化合物が様々な真菌種の増殖を阻害するのに有効であるという知見に、少なくとも部分的に基づく。いかなる理論にも拘泥するものではないが、本開示の化合物は、真菌の酸性液胞の脆弱性を活用すると考えられる。本開示の化合物は、カチオントラップにより酸性液胞に蓄積し、さらに酸性液胞の構造及び機能を破壊することによって、抗真菌活性を発揮すると考えられる。
【0028】
本発明に従って、真菌の増殖は、一般に阻害される。阻害することができる真菌の例として、カンジダ属菌(Candida)、サッカロマイセス属菌(Saccharomyces)、トリコフィトン属菌(Trichophyton)、クリプトコッカス属菌(Cryptococcus)、アスペルギルス属菌(Aspergillus)、及びクモノスカビ属菌(Rhizopus)が挙げられるが、これらに限定されない。本発明のより具体的な実施形態では、真菌は、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・グラブラタ(Candida glabrata)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、トリコフィトン・ラブラム(Trichophyton rubrum)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、例えばクリプトコッカス・ネオフォルマンス血清型D及びA、並びにアスペルギルス・フミガーツス(Aspergillus fumigatus)である。
【0029】
本発明はまた、寄生虫感染を治療及び予防する方法を提供する。本発明の化合物が細胞の酸性液胞内に入り、蓄積する能力により、本発明の化合物は、マクロファージ及び他の細胞型における酸性液胞内に存在する寄生性微生物に起因する感染を治療するのに有用になる。結核(マイコバクテリア)、リステリア又はスタフィロコッカス(グラム陽性菌)、クリプトコッカス(真菌)、並びにリーシュマニア及びトリパノソーマ(アメーバ)、コクシエラ・ブルネッティ(Coxiella burnetii)(グラム陰性菌)、並びにプラスモジウム属菌(それらの一部はマラリアを引き起こす)は、このような重要な感染性生物の非限定的な例であり、これらの生物がマクロファージ内に存在することにより、その生物が細胞免疫若しくは液性免疫から保護され、又は薬物治療の有効性が低減され得る。
【0030】
親油性部分を担持しており、一般に生理的pH(7.3)で部分的に中性の本発明の化合物は、寄生虫を宿している酸性液胞に自由に移行することができ、酸性環境(pH4~6.5)におけるイオン化に起因して、そこで濃縮され、捕捉される。これらの化合物は、寄生虫にとって快適な部位としての酸性液胞の構造及び機能を破壊し、多くの寄生生物内に酸性液胞があることに起因して、直接的な抗寄生虫活性も有している。
【0031】
その生存率又は病原性が酸性液胞の完全性及び機能に依存している寄生虫も、それらの抗真菌活性の基盤に類似している本発明の化合物に対して脆弱である。マラリア原虫の酸性液胞は、本発明の化合物の濃縮のための環境を提供する。同様に、トリパノソーマも、環境栄養素を利用するのに必要な、大型の酸性液胞を有している。本発明の化合物は、マラリア及びトリパノソーマ感染の治療又は予防に有用である。より広く見れば、寄生原虫は、一般に、食物の獲得及び消化のために酸性化された消化胞を使用し、したがって、本発明の化合物の抗寄生虫作用に対して感受性がある。
【0032】
抗マラリア薬物であるクロロキンは、宿主細胞における酸性液胞に宿っているか、又は酸性液胞自体を有している、結核菌マイコバクテリア、クリプトスポリジウム、リーシュマニア及びクリプトコッカスを含むがこれらに限定されない様々な生物に対して抗寄生虫活性を有していることが報告されている。一般に、クロロキンは、カチオントラップにより酸性液胞に蓄積することによって作用する。したがって、クロロキンの活性は、本発明の化合物の推定活性の指標であるが、本発明の化合物はクロロキンよりも実質的により強力であり、活性が高いという差がある。クロロキンは、公開されている報告書により、クリプトコッカス症の動物モデルの生存を改善できることが示されているにもかかわらず、インビトロではC.ネオフォルマンスの増殖の約40%阻害の上限を示しており、一方、本発明の化合物は、それぞれの薬物が蓄積されている酸性液胞の膜を上手く破壊することにより、クロロキンよりも実質的により強力であり、クリプトコッカスの増殖の100%阻害を引き起こすことができる。
【0033】
真菌又は寄生虫感染の治療では、本発明の化合物は、ビヒクルにおいて、感染の性質及び位置に適した投与経路によって投与される。皮膚又は爪の感染では、本発明の化合物は、ローション剤、軟膏剤、溶液剤、懸濁液剤、又はスプレー剤であってもよい局所製剤で塗布される。眼の真菌感染では、本発明の化合物は、点眼薬に製剤化される。全身感染では、本発明の化合物は、錠剤、カプセル剤、糖衣錠剤、溶液剤若しくは懸濁液剤で経口投与されるか、又は食塩水、脂質エマルジョン、リポソーム若しくは他の標準的な非経口ビヒクルでの注射によって全身投与される。特に肺胞マクロファージに存在する生物を伴う肺感染は、本発明の化合物及び吸入薬物送達に許容されることが公知の適切な賦形剤の吸入送達により治療されてもよい。全身感染を治療するための静脈内又は経口投与では、本発明の化合物は、1日当たり10~2000ミリグラム、有利には1日当たり200~1000ミリグラムの範囲の用量で投与される。
【0034】
臨床使用における抗真菌剤の他のクラスには、エルゴステロール合成の阻害剤(フルコナゾール、ケトコナゾール、ボリコナゾールを含むがこれらに限定されない「アゾール」抗真菌薬、及びテルビナフィンを含むがこれに限定されないアリルアミン)、真菌膜構成物、特にエルゴステロールとの結合によって作用するポリエン抗真菌薬(アムホテリシンB又はニスタチンを含むがこれらに限定されない)、グルカン合成のエキノキャンディン阻害剤(inhibtors)(カスポファンギンを含むがこれに限定されない)、及び医療業務において活性抗真菌薬として公知の他の薬剤が含まれる。本発明の化合物は、既存の臨床的に重要な抗真菌薬と対比して明確な作用機序により作用し、抗真菌治療全体を改善するための他の1又は2以上の抗真菌剤と併用投与されてもよい。本発明の化合物は、別個の医薬製剤として併用投与されるか、又は組み合わされた単一薬物生成物に製剤化されてもよい。本発明の化合物とアゾール抗真菌薬の組合せは、そうでなければ一般に初期(intial)誘導のためにアムホテリシンBの注射又は注入を必要とするクリプトコッカス症(cyptoccoccosis)に対する使用のために、完全に経口によるレジメンとして、特に有利である。本発明の化合物はまた、アムホテリシンBと併用投与されてもよい。アムホテリシンBのある製剤には、リポソームの膜を含んでいる脂質へのその組込みが伴う。本発明の化合物の多くは、脂質膜に侵入する親油性部分を担持しているので、本発明の化合物は、単剤として、又はアムホテリシンB若しくは他の公知のポリエン抗真菌剤との組合せで、リポソームに有利に組み込まれる。
【0035】
抗がん薬の使用
本発明は、侵襲性がんを特徴付ける一貫したリソソーム変化に基づいて、がんの全身治療に有用な化合物を提供する。リソソームの拡大及び酸性化を含む、がんにおけるリソソームの変化は、細胞外酸性環境におけるがん細胞の生存を促進し、また、細胞外マトリックス成分を分解することができるプロテアーゼ及びポリサッカリダーゼを含むリソソーム内容物のエキソサイトーシスにより、がん細胞が周辺組織に侵入する能力を増大する。しかし、リソソーム特性のこれらの定型的変化は、正常組織と対比してがん細胞において選択的に蓄積し、そのリソソームを損傷するのに適した物理化学的特性を有するリソソーム破壊剤に対して、がん細胞を脆弱にすることができる。
【0036】
本発明の化合物は、がん細胞におけるリソソームに蓄積し、それらの完全性を破壊し、それによって、がん細胞に対して強力な選択的細胞傷害活性をインビボ及びインビトロで示す。
【0037】
様々な化学療法剤に対するがん細胞の耐性の主な機序の1つが、リソソーム及び他の酸性小胞コンパートメントにがん細胞を隔離することなので、本発明の化合物は、代謝拮抗剤、チロシンキナーゼ阻害剤、増殖因子受容体に対する抗がん抗体、アントラサイクリン、白金化合物、アルキル化剤、及び抗体を含む、様々なクラスの抗がん剤に対するがん細胞の感受性を修復又は増強することができる。本発明の化合物は、典型的に、ほとんどの抗がん剤の用量制限毒性と重複する毒性を示さず、有効性及び治療指数の正味の改善を伴う、本発明の化合物と他のクラスの抗悪性腫瘍薬の組合せを可能にする。
【0038】
亜致死的線量の電離放射線に曝露されたがん細胞は、その後の照射に対してそれらの耐性を増大する防御反応を受ける。この防御反応の構成成分は、拡大されたリソソーム又は他の酸性化液胞のオルガネラの形成であり、バフィロマイシンAを用いるリソソームの酸性化に関与する液胞ATPaseの阻害は、亜致死的に放射された細胞における防御反応を防止し、電離放射線に対してがん細胞を増感させる。リソソームの損傷は、がん細胞の放射線誘発死の重要なメディエーターである。本発明の化合物は、リソソーム膜の完全性を破壊することによって、治療的電離放射線へのがん細胞の耐性を低減し、電離放射線治療の抗がん有効性を増強するのに有用である。本発明の化合物は、がんの電離放射線治療前に(外部照射を用いるか、又は抗体標的化放射性同位体の投与を用いるかにかかわらず)、放射線増感剤として投与されてもよく、又は酸性液胞の生成若しくは拡大を伴う、非致死的照射に対する防御反応を受けている生存がん細胞を攻撃するために照射した後に与えられ得る。
【0039】
いくつかのがんにおいて選択的生存及び増殖の利点を付与する機序の1つが、オートファジーの上方調節であり、このプロセスにより、損傷したオルガネラ又は他の細胞片がオートファゴソームによって飲み込まれ、このオートファゴソームが、リソソームと融合して構成分子を消化し、リサイクルする。本発明の化合物は、リソソーム内に濃縮され、リソソームを破壊することによって、がん細胞におけるオートファジーを損ない、それによって、がん細胞の生存率及び他の抗がん治療に対するがん細胞の耐性を低減する。
【0040】
がん治療では、本発明の化合物は、1日当たり10~2000ミリグラムの用量で、経口又は静脈内投与によって投与される。本発明の化合物は、単剤として投与されるか、又は実質的な用量低下を余儀なくされるはずの毒性が他のクラスの抗がん剤とは一般に重複していないので、特定のタイプのがんに適した他のがん治療と組み合わせて、一般にこのような薬剤が単独で使用される場合の用量で投与される。
【0041】
医薬組成物
本発明は、本明細書に記載されている生物学的活性剤及び薬学的に許容される担体を含んでいる医薬組成物を提供する。本発明の医薬組成物のさらなる実施形態は、前述の生物学的に活性な薬剤の実施形態のいずれか1つを含む。このような各薬剤及び薬剤の群は、あたかも反復されるかのように医薬組成物の本明細書に組み込まれているが、不必要な重複性を回避するという利益のために反復されない。
【0042】
好ましくは、組成物は、例えば、錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、硬質若しくは軟質ゼラチンカプセル剤、溶液剤、エマルジョン剤又は懸濁液剤の形態で、経口投与に適合させられる。一般に、経口組成物は、10~1000mgの本発明の化合物を含む。対象は、1日当たり1個又は2個の錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、又はゼラチンカプセル剤を嚥下することが好都合である。しかし、組成物は、例えば坐剤の形態の直腸内、例えば注射溶液剤の形態の非経口的、又は経鼻を含む、全身投与の任意の他の従来の手段による投与に適合させることもできる。
【0043】
生物学的に活性な化合物は、医薬組成物の生成のために、薬学的に不活性な無機又は有機担体と共に加工することができる。ラクトース、トウモロコシデンプン又はそれらの誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩などは、例えば、錠剤、コーティングされた錠剤、糖衣錠、及び硬質ゼラチンカプセル剤のためのこのような担体として使用することができる。
【0044】
軟質ゼラチンカプセル剤に適した担体は、例えば、植物油、ワックス、脂肪、半固体及び液体ポリオールなどである。しかし、活性成分の性質に応じて、軟質ゼラチンカプセル剤の場合には、軟質ゼラチンそれ自体以外の担体は通常必要とされない。溶液剤及びシロップ剤の生成に適した担体は、例えば、水、ポリオール、グリセロール、植物油などである。坐剤に適した担体は、例えば、天然油又は硬化油、ワックス、脂肪、半液体又は液体ポリオールなどである。
【0045】
医薬組成物は、さらに、防腐剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味剤、着色剤、香味剤、浸透圧を変えるための塩、緩衝液、コーティング剤、又は抗酸化剤を含有することができる。医薬組成物は、本発明の化合物の効果の基礎にある機序以外の機序により作用する、治療に有益な他のさらなる物質、特に抗炎症剤又は抗真菌剤(患者において炎症性疾患又は真菌感染又はがんに対処されているかどうかに応じて)を含有することもできる。
【0046】
がんの治療では、本発明の化合物と有利に併用投与又は同時製剤化することができるさらなる好ましい薬物は、経口で活性な抗がん剤を含む。本発明の化合物は、他の抗がん薬と共有されていない独特の機序により作用するので、代謝拮抗剤、アントラサイクリン、チロシンキナーゼ阻害剤、白金薬物、又はアルキル化剤を含む多種多様な併用治療と適合性がある。このような薬剤は、経口で活性な場合、過去の臨床試験において有効であり、かつ適切に耐容性が示されると決定された薬物の量を送達するように投与されるか、又は同時製剤化される。
【0047】
いくつかのがん、炎症状態及び真菌又は原生動物の感染を含む疾患の全身治療では、本発明の化合物は、静脈内注射又は注入によって投与されてもよい。静脈内投与では、本発明の化合物は、十分に耐容性がある静脈内製剤成分及び組成物として当技術分野で公知の標準的な賦形剤を使用して、溶液剤として、又は脂質エマルジョンにおいて適切な静脈内製剤に溶解させられる。化合物の特定の要件及び臨床試験において決定された疾患状態に応じて、1日当たり10~2000ミリグラム(miligrams)の本発明の化合物を送達するのに適した体積及び濃度が選択される。
【0048】
本発明の化合物は、リポソーム製剤に組み込まれてもよい。本発明の化合物の親油性部分は、リポソーム(lipososomes)の脂質層へのそれらの直接的な組込みを可能にする。リポソームは、ある状態においては、非リポソーム製剤と対比して改善された有効性及びより軽度の輸注反応により、静脈内投与に有利である。またリポソームは、肺の真菌若しくは寄生虫感染、又は肺及び気道の炎症を治療するのに、吸入送達に適している。一部の実施形態では、本発明の化合物は、抗真菌剤、例えばリポソームアムホテリシンB、又は抗がん剤、例えばリポソームドキソルビシンを含むがこれらに限定されない他の薬物と共に、リポソーム送達製剤に組み込まれる。
【0049】
炎症性皮膚状態、或いは皮膚若しくは爪、又は鼻孔の真菌感染の治療では、本発明の化合物は、薬学的に許容される製剤で局所塗布される。局所組成物は、液体懸濁物、ローション、又はクリームの形態の、溶液剤、スプレー剤、ゲル剤、ヒドロゲル剤、ローション剤、クリーム剤、軟膏剤、ペースト剤、又はエマルジョン剤を含むがこれらに限定されない様々な形態であってもよい。組成物はまた、皮膚を医薬品に長時間曝露させるために、皮膚パッチ、又は必要に応じて患部に施与することができる包帯により、施与することができる。このような製剤において、適切な標準的な局所医薬品賦形剤及びビヒクルが、本発明の化合物を送達するのに適している。局所製剤のための標準的な構成物は、当技術分野で公知であり、本発明の化合物のためのビヒクルとして適している。軟膏基剤は、炭化水素(パラフィンワックス、軟質パラフィン、微結晶性ワックス、又はセレシン)、吸収性基剤(羊毛脂又は蜜蝋)、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、又は植物油の1又は2以上を含むことができる。ローション剤及びクリーム剤は、油中水又は水中油エマルジョンであり、油性構成成分は、長鎖脂肪酸、アルコール又はエステルを含むことができ、生体適合性の非イオン性界面活性剤を含有していてもよい。本発明の化合物は、0.01%~5%、好ましくは0.02~1%の範囲の濃度で、局所ビヒクルに組み込まれる。本発明の化合物は、状態の回復速度に依存して、1日当たり1回~3回、持続期間にわたって皮膚病変に塗布される。
【0050】
真菌感染又は肺胞マクロファージに存在する寄生虫を含むいくつかの肺感染の治療では、本発明の化合物の吸入製剤が適している。賦形剤及び吸入薬物送達デバイスは、当技術分野で公知であり、クリプトコッカス及び結核を含む肺感染を治療するために本発明の化合物を送達するのに有用である。
【0051】
本発明の化合物は、有利には、特に両方の薬物が同じ経路及びスケジュールで適切に投与される場合には、局所投与又は全身投与のために他の抗真菌剤又は抗炎症剤と共に同時製剤化される。本発明の化合物は、軟膏剤及び錠剤又はカプセル剤を含むがこれらに限定されない、他の局所又は全身抗真菌剤又は抗炎症剤のために使用される標準的な製剤及び賦形剤と適合性がある。抗炎症性(inflammatoty)局所製剤において組み合わせるのに有利な薬物の分類には、コルチコステロイド、カルシニューリン阻害剤及びビタミンDアナログ、並びに炎症性皮膚状態において独立な治療活性を有していることが公知の他の薬剤が含まれる。
【0052】
本発明は、以下の実施例を参照することによってより良く理解され、これらの実施例は、本明細書に記載されている本発明を例示するものであり、制限するものではない。
[実施例]
化学合成実施例
【実施例1】
【0053】
2-(3-フェノキシベンジル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリンの合成
ステップ1:3-ニトロキノリン-4-オール
【0054】
【0055】
70%硝酸水溶液(6.1mL)を、加熱還流させた4-ヒドロキシキノリン(10g、69mmol)及び酢酸100mLの混合物に滴下添加した。15分後、混合物を室温に冷却した。EtOHで希釈することにより、沈殿物が形成され、それを濾過し、EtOH、H2O、及びEtOHで順次洗浄した。濾液を真空中で乾燥させることにより、淡黄色の粉末4.62gを得た。1H NMR (400 MHz, DMSO-d6) δ 9.2 (s, 1H), 8.3 (d, 1H), 7.9-7.7 (m, 2H), 7.5 (m, 1H)。
【0056】
ステップ2:4-クロロ-3-ニトロキノリン
【0057】
【0058】
オキシ塩化リン(2.5mL、27mmol)を、3-ニトロキノリン-4-オール(4.6g、24mmol)及びDMF100mLの混合物に滴下添加した。混合物を、100℃で15分間加熱し、次に撹拌した氷上に注いだ。スラリーを、固体NaHCO3で中和し、沈殿物を濾過し、飽和NaHCO3及びH2Oで洗浄した。濾液をDCMに溶かし、無水Na2SO4上で乾燥させ、濃縮して、固体2.3gを得た。
【0059】
ステップ3:N-(tert-ブチル)-3-ニトロキノリン-4-アミン
【0060】
【0061】
4-クロロ-3-ニトロキノリン(6.30g、30.2mmol)、tert-ブチルアミン(6.40mL、60.5mmol)、TEA(8.50mL、60.6mmol)、及びDCM40mLの混合物を、5時間加熱還流させると、出発材料が消費された。混合物を、室温で一晩撹拌した。混合物を、DCMと飽和NaHCO3に分け、有機相を、無水Na2SO4上で乾燥させ、濃縮して、生成物を得た。
【0062】
ステップ4:N4-(tert-ブチル)キノリン-3,4-ジアミン
【0063】
【0064】
先で得られたN-(tert-ブチル)-3-ニトロキノリン-4-アミン、10%Pd-C(630mg)、TEA1.5mL、及びMeOH50mLを、出発材料が消費されるまで水素雰囲気下で撹拌した。水素を窒素によって置き換え、混合物を、セライトパッドを介して濾過し、濃縮した。残留物を、1:1:1のMeOH、DCM、及びTEA0.5mLをスパイクしたトルエンに溶解し、次に濃縮して、材料7.37gを得た。Rf0.50(7.5%MeOH/DCM+1%TEA)
【0065】
ステップ5:N-(4-(tert-ブチルアミノ)キノリン-3-イル)-2-(3-フェノキシフェニル)アセトアミド
【0066】
【0067】
EDC(6.5g、33.8mmol)を、1:1のDMF/DCM60mL中、N4-(tert-ブチル)キノリン-3,4-ジアミン(4.91g、22.2mmol)、3-フェノキシフェニル酢酸(5.2g、22.8mmol)、HOBt(3.49g、22.8mmol)、及びDMAP(0.60g、4.9mmol)の混合物に添加した。17.5時間後、一定分量の混合物のTLCにより、出発材料が消費されていないことが示されたので、追加のEDC(2.12g、11.0mmol)及びDMF(15mL)を添加し、混合物を45℃に加温し、DCMを煮沸して除去した。68時間後、混合物を冷却し、EtOAc(3×250mL)と5%Na2CO3(2×150mL)とブライン(150mL)に分けた。有機相を無水Na2SO4上で乾燥させ、濃縮して、生成物を得た。
【0068】
ステップ6:N-(4-アミノキノリン-3-イル)-2-(3-フェノキシフェニル)アセトアミド
【0069】
【0070】
N-(4-(tert-ブチルアミノ)キノリン-3-イル)-2-(3-フェノキシフェニル)アセトアミドを、1:1のTFA/DCMと室温で2時間混合した。揮発性成分を蒸発させ、残留物をDCMに溶解し、5%Na2CO3で洗浄し、有機相を無水Na2SO4上で乾燥させ、次に濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(5%MeOH/DCM+1%TEA)による精製により、生成物を固体として得た。生成物を、MeOHから再結晶化させた。LC-MSによりMW369が確認された。Rf0.25(10%MeOH/DCM)
【0071】
ステップ7:2-(3-フェノキシベンジル)-1H-イミダゾ[4,5-c]キノリン
【0072】
【0073】
アニソール25mL中、N-(4-アミノキノリン-3-イル)-2-(3-フェノキシフェニル)アセトアミド(1.76g、4.77mmol)及びNH4Cl(21mg、0.39mmol)の混合物を、4.5時間加熱還流させた。揮発性材料を蒸発させ、固体残留物をDCMと5%Na2CO3に分けた。有機相を、無水Na2SO4上で乾燥させ、濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(5%MeOH/DCM)による精製により、生成物1.60gを泡状の固体として得た。LC-MSによりMW351が確認された。Rf0.46(10%MeOH/DCM)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 9.04 (br s, 1H), 8.25 (br s, 1H), 8.14 (d, 1H, J=8.7 Hz), 7.62-7.58 (m, 1H), 7.52 (br s, 1H), 7.27-7.22 (m, 3H), 7.18-7.14 (m, 1H), 7.08-7.04 (m, 1H), 6.97-6.95 (m, 1H), 6.90-6.86 (m, 3H), 6.81-6.79 (m, 1H), 4.34 (s, 2H)。
【0074】
生物活性実施例
実施例A:インビトロでの抗がん活性
化合物AFは、いくつかのがん細胞株に対して抗がん活性を有している強力なリソソーム指向性薬剤として、既に特定されている。化合物(Compunds)GE及びAFの相対的効力を、それらの腫瘍形成特性の根本にある非常に異なる遺伝異常及び癌遺伝子ドライバーを有する2つのがん細胞株において比較した。
【0075】
PC3(前立腺がん)及びA549(肺がん)細胞株を、L-グルタミン及び10%Hycloneウシ胎児血清を含んでいる90%F-12K栄養混合物(Kaighnの改変)からなる培地中で培養した。培地に抗生物質は使用しなかった。
【0076】
PC3及びA549細胞を、96ウェルプレート中、それぞれ1ウェル当たり20,000及び10,000細胞の密度で、1ウェル当たり0.1mlの体積で蒔いた。細胞を蒔いてから24時間後に、その培地を、AF又はGE化合物のいずれかを含有している培地0.1mlで置き換えた。AF化合物を、1、0.5、0.25、及び0.1マイクロモルの濃度で試験した。GE化合物を、0.1、0.05、0.025、及び0.01マイクロモルの濃度で試験した。次に、細胞を72時間培養し、細胞生存率を、WST-1アッセイを用いて48及び72時間目に評価した。
【0077】
細胞生存率について、化合物に曝露した細胞のWST-1アッセイにおいて得られた吸光度を、化合物が存在しない状態でインキュベートした細胞のウェルの吸光度のパーセントとして表した。すべての測定値を、3つのウェルの平均±SEMとして表す。
【0078】
GE及びAFの用量(濃度)の関数としてのがん細胞生存率を、
図1~4に示す。化合物GEは、A549肺がん細胞(
図1及び2)及びPC3前立腺がん細胞(
図3及び4)の両方において、化合物AFによる細胞生存率の類似の低下に必要な用量のおよそ1/10の用量で、がん細胞の生存率を低下した。
【0079】
実施例B.マウスにおける乾癬様皮膚炎に対する化合物GEの抗炎症効果
toll様受容体アゴニストである局所イミキモド(IMQ, imiquimod)を、ヒト対象における臨床活性を予測する、乾癬及びアトピー性皮膚炎を含む炎症性皮膚疾患のモデルとして確立した。局所イミキモドで処置したマウスにおける皮膚炎症性変化及び遺伝子発現は、ヒト乾癬様皮膚炎を模倣する(van der Fits L, Mourits S, Voerman JS, Kant M, Boon L, Laman JD, Cornelissen F, Mus AM, Florencia E, Prens EP, Lubberts E. (2009) Imiquimod-induced psoriasis-like skin inflammation in mice is mediated via the IL-23/IL-17 axis. J Immunol. 182(9):5836-45)。本発明の化合物GEの効果を、イミキモド誘発性皮膚炎のマウスモデルにおいて試験した。
【0080】
化合物GEを、0.1%の濃度でエタノールに溶解し、次に9体積のワセリン(50℃で加熱した水浴で溶融させた)と混合して、0.01%活性薬物を含有している軟膏剤を得た。10%エタノールを含有しているワセリンを、対照又はビヒクル治療として使用した。
【0081】
およそ20グラムの体重の雌性Balb/Cマウスを無作為化し、それぞれ5匹の動物の3つの群に分けた。マウスにポリエチレンカラーを取り付けて、耳を容易に掻けないようにした。
【0082】
5%イミキモドを、5日間毎日、各マウスの両耳に塗布し(各耳に20マイクロリットル)、次に全研究持続期間にわたって2日毎に塗布した。耳の厚さの増大を含む炎症性変化が、5日目までに明らかになった。イミキモドの開始後5日目に、化合物GEを用いる治療を開始した。各マウスの両耳を、試験軟膏剤で治療した。
【0083】
耳の厚さ及びPASIアセスメント(腫脹、紅斑症及び鱗屑を捉える標準的な乾癬採点システムである、乾癬面積及び重症度指数(Psoriasis Area and Severity Index))を、研究を通して週2回記録した。
【0084】
結果
イミキモドによる処置は、耳の厚さの増大(
図5)及びPASIスコアの変化を含む著しい炎症性変化をもたらした。対照の耳は、PASI(12点、すなわちそれぞれ0~4点の尺度で重症の腫脹、紅斑症及び鱗屑を反映している)採点システムの最大可能値に達した(
図6A~D)。軟膏基剤で局所塗布された化合物GEは、ノギスによる厚さの測定及び外観のPASI採点によって評定される通り、マウスの耳へのイミキモド誘発性炎症性損傷を低減し、PASI採点システムによって捉えられた皮膚炎症の3種のすべての態様を低減していた。化合物GEは、0.01%の濃度で有効であり、この乾癬様皮膚炎モデルにおいて高い効力を示した。
【0085】
(参考文献)
van der Fits L, Mourits S, Voerman JS, Kant M, Boon L, Laman JD, Cornelissen F, Mus AM, Florencia E, Prens EP, Lubberts E. (2009) Imiquimod-induced psoriasis-like skin inflammation in mice is mediated via the IL-23/IL-17 axis. J Immunol. 182(9):5836-45.
【国際調査報告】