(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】歯科用pH感受性マイクロカプセル
(51)【国際特許分類】
A61K 6/70 20200101AFI20231213BHJP
A61K 6/60 20200101ALI20231213BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20231213BHJP
A61K 6/61 20200101ALI20231213BHJP
【FI】
A61K6/70
A61K6/60
A61K6/15
A61K6/61
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023533937
(86)(22)【出願日】2021-11-16
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 IB2021060608
(87)【国際公開番号】W WO2022118125
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】505005049
【氏名又は名称】スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100130339
【氏名又は名称】藤井 憲
(74)【代理人】
【識別番号】100135909
【氏名又は名称】野村 和歌子
(74)【代理人】
【識別番号】100133042
【氏名又は名称】佃 誠玄
(74)【代理人】
【識別番号】100171701
【氏名又は名称】浅村 敬一
(72)【発明者】
【氏名】クラウセン,カイ ウー.
(72)【発明者】
【氏名】サホウアニ,ハッサン
(72)【発明者】
【氏名】メシェルミヒ,シルケ デー.
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA06
4C089AA10
4C089BA08
4C089BA09
4C089BA13
4C089BA14
4C089BA16
4C089BA18
4C089BC03
4C089BC05
4C089BC08
4C089BC12
4C089BC13
4C089BD01
4C089BD02
4C089BD05
4C089BD10
4C089CA03
(57)【要約】
本発明は、歯科用組成物であって、酸性部分を含まない重合性成分と、非水溶性レドックス開始剤系の第1の成分、及びpH感受性無機成分を含むマイクロカプセルとを含み、マイクロカプセルが、ポリマー材料を含まない、歯科用組成物に関する。本発明はまた、硬化性歯科用組成物を調製するための特定のマイクロカプセルの使用、及び歯科用組成物を硬化させる方法、並びに歯科用組成物を保存するためのデバイスに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用組成物であって、
酸性部分を含まない重合性成分と、
非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分、及び
pH感受性無機成分
を含むマイクロカプセルと
を含み、
前記マイクロカプセルは、ポリマー材料を含まず、
前記pH感受性無機成分は、好ましくは、前記非水溶性である第1の成分で構成されるコアの周りにシェルを形成する、歯科用組成物。
【請求項2】
前記pH感受性無機成分が、アニオン及び多価カチオンを含み、
前記アニオンが、好ましくは、炭酸アニオン、炭酸水素アニオン、リン酸アニオン、硝酸アニオン及び硫酸アニオンから選択され、
前記多価カチオンが、好ましくは、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、又はZnのイオンから選択される、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
前記pH感受性無機成分が、酸性成分と接触するとガスを生成することができ、前記pH感受性成分が、好ましくは、多価カチオンの炭酸塩及び炭酸水素塩から選択される、請求項1又は2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
前記非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分が、還元剤である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
前記マイクロカプセルのpH感受性無機成分と、前記非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分との比が、重量比で20:1~1:1の範囲である、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記マイクロカプセルが1~200μmの直径を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記歯科用組成物が、触媒ペースト及び基剤ペーストを含むパーツのキットとして提供され、
前記触媒ペーストが、
酸性部分を含まない重合性成分、
非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセル、
任意に、充填剤
を含み、
前記基剤ペーストが、
酸性成分、好ましくは酸性部分を含む重合性成分、
前記レドックス開始剤系の第2の成分、
任意に、充填剤
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
前記歯科用組成物が、触媒ペースト及び基剤ペーストを含むパーツのキットとして提供され、
前記触媒ペーストが、
酸性部分を含まない重合性成分、
充填剤、
pH感受性成分及び非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセル
を含み、
前記pH感受性成分が、多価カチオンと炭酸若しくは炭酸水素アニオンとの塩を含み、
前記非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分が、非水溶性アスコルビン酸成分であり、
前記マイクロカプセルが、1~100μmの範囲の直径を有し、
前記基剤ペーストが、
酸性部分を含む重合性成分、
充填剤、
酸化成分及び遷移金属成分から選択される、前記レドックス開始剤系の第2の成分
を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
前記酸性成分が、以下の特徴:
5未満のpKs値、
スルホン酸、スルフィン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、又はカルボン酸部分から選択される酸性部分を含むこと
の単独又は組み合わせによって特徴付けられる、請求項7又は8に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
前記歯科用組成物が自己接着性歯科用セメント組成物である、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科用組成物。
【請求項11】
酸性部分を含む重合性成分を含む歯科用組成物を調製するための、請求項1~9のいずれか一項に記載のマイクロカプセルの使用。
【請求項12】
請求項7~10のいずれか一項に記載の歯科用組成物を硬化させる方法であって、前記方法は、前記基剤ペーストと前記触媒ペーストとを組み合わせる工程を含み、
前記酸性成分は、前記レドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセルと接触して、前記マイクロカプセルのpH感受性無機成分と反応し、
前記マイクロカプセルの前記pH感受性無機成分が溶解して、前記非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分が放出される、方法。
【請求項13】
請求項7~10のいずれか一項に記載の歯科用組成物を保存するためのデバイスであって、前記デバイスは2つのコンパートメント、コンパートメントA及びコンパートメントBを備え、コンパートメントAは前記触媒ペーストを含有し、コンパートメントBは前記基剤ペーストを含有し、前記触媒ペースト及び前記基剤ペーストは請求項1~12のいずれか一項に記載の通りのものであり、コンパートメントA及びコンパートメントBの両方が、ノズル又は静的混合チップのエントランスオリフィスを受容するためのインターフェースを備える、デバイス。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科用組成物と、以下のパーツ:歯科用修復物を機械加工するための歯科用ミリングブロック、歯科用接着剤、の単独又は組み合わせとを含む、パーツのキット。
【請求項15】
患者の口腔内の歯牙を修復する方法において使用するための、請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科用組成物であって、前記方法は、
請求項4~10のいずれか一項に記載の、基剤ペースト及び触媒ペーストを含むパーツのキットの形態の歯科用組成物を提供する工程と、
前記基剤ペーストと前記触媒ペーストとを混合する工程と、
前記混合物を、修復されるべく準備された歯の表面に適用する工程と
を含む、歯科用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性成分と、pH感受性成分及びレドックス開始剤系の成分を含むマイクロカプセルとを含む歯科用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
レドックス開始剤系の成分などの成分を保存するためのマイクロカプセルの使用は、一般に公知である。
【0003】
米国特許第5,154,762号(Mitraら)は、a)微粉化酸反応性充填剤、b)水混和性酸性ポリマー、c)光開始剤、d)水溶性還元剤、及び水溶性酸化剤を含む、水含有イオン固化性光硬化性エチレン性不飽和歯科用セメントに関し、ここで、還元剤又は酸化剤は、マイクロカプセルに含有され得る。封入剤として、医学的に許容されるポリマー及びフィルム形成剤が提案される。
【0004】
国際公開第2019/234661(A1)号(3M IPC)は、二剤型固化性歯科用組成物であって、液体材料及び封入された材料を含む組成物を含む第1の部分であって、封入された材料は、塩基性コア材料と、コアを取り囲む金属酸化物を含む無機シェル材料とを含む、第1の部分と、液体材料を含む組成物を含む第2の部分とを含む、二剤型固化性歯科用組成物を記載している。還元剤はレドックス硬化反応を遅延させるため、封入された塩基性材料は、典型的には、レドックス硬化系の還元剤ではないと述べられている。
【0005】
米国特許出願公開第2020/368117(A1)号(Claussenら)は、ポリマー材料で構成され、レドックス開始剤系の成分を含有する中空又は多孔質コアと、pH感受性材料で構成されるシェルとを含むマイクロカプセルに関する。ポリマー材料の架橋マトリックスは、混合プロセス中に生じる剪断力に耐えるのに十分に安定であると概説されている。
【0006】
この技術は、粉末組成物の調製に特に有用である。しかし、ペースト/ペースト系と比較して、粉末組成物は、混合される粉末成分の物理的分離に起因して、調製及び安定化がより容易である。
【0007】
これとは対照的に、ペースト状組成物は、典型的には、高剪断力がマイクロカプセル上に適用される混練プロセスによって製造される。
【0008】
当該技術分野に記載されているマイクロカプセル、特に、レドックス開始剤系の成分を保存するために提案されているマイクロカプセルは、典型的には、そのような高剪断力に耐えるのに十分に安定ではない。
【0009】
一方、ペースト/ペースト組成物を混合する場合、適用された混合力は、多くの場合、マイクロカプセルを破砕して活性試薬の放出を可能にするのに十分なほど十分に強力ではない。
【0010】
したがって、粉末組成物を製造するために提案される技術は、典型的には、ペースト/ペースト組成物に使用することができない。
【0011】
マイクロカプセルの使用及び製造を記載している他の参考文献は、以下の通りである。
【0012】
米国特許出願公開第2016/0088836(A1)号(Sahouaniら)は、生物活性剤の保存及び送達に使用することのできるポリマー複合粒子を記載している。ポリマー複合粒子は、多孔質であるポリマーコアと、ポリマーコアの周囲のコーティング層とを含有する。
【0013】
国際公開第2007/013794(A1)号(Stichting Gronignen Centre for Drug Research)は、コーティング層によって囲まれたコアを含むpH制御パルス放出システムであって、コアは活性物質を含み、コーティング層は膨潤剤が埋め込まれたpH感受性コーティング材料を含む、システムを記載している。膨潤剤として、デンプングリコール酸ナトリウムが提案されている。
【0014】
米国特許第6,022,501号(Dexterら)は、水不混和性活性成分をシェル壁内に含むpH感受性マイクロカプセルであって、当該シェル壁は、その中に組み込まれた遊離カルボン酸基を有する、マイクロカプセルに関する。
【0015】
Jun Wangらは、J.Phys.Chem C 2010,114,18940-18945において、薬物送達のための、特に水溶性抗癌薬の送達のための炭酸カルシウム/カルボキシメチルキトサンハイブリッドマイクロスフェアを記載している。
【0016】
Sukhorukovらは、J.Mater.Chem.,2004,14,2073-2081において、生物活性化合物、特に生体高分子の封入のためのテンプレートとしての多孔質炭酸カルシウム微小粒子を記載している。
【0017】
Yuらは、Applied Energy 114(2014),632-643において、熱伝導率を高め、耐久性を提供するための、炭酸カルシウムシェルを用いたn-オクタデカン相変化材料のマイクロカプセル化の方法を記載している。
【発明の概要】
【0018】
保存安定なペースト状組成物の製造に使用することのできるマイクロカプセルが望まれている。
【0019】
十分に機械的に安定であり、混錬装置中での加工が可能であり、マイクロカプセルに保存された試薬又は成分の要求に応じた放出を可能にするマイクロカプセルもまた望まれている。
【0020】
更に、放出される成分の要求に応じた放出は、十分に迅速でなければならない。
【0021】
組成物の硬化挙動が悪影響を受けないことも望ましい。
【0022】
可能であれば、マイクロカプセルは、マイクロカプセルに保存される成分の高充填も可能にすべきである。
【0023】
これらの目的のうちの1つ以上は、特許請求の範囲及び本明細書に記載のマイクロカプセル及び関連する方法によって対処される。
【0024】
一実施形態では、本発明は、歯科用組成物であって、酸性部分を含まない重合性成分と、非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分、及びpH感受性無機成分を含むマイクロカプセルとを含み、マイクロカプセルは、ポリマー材料を含まず、pH感受性無機成分は、好ましくは、非水溶性である第1の成分で構成されるコアの周りにシェルを形成する、歯科用組成物を特徴とする。
【0025】
本発明はまた、硬化性歯科用組成物を調製するための、本明細書に記載されるマイクロカプセルの使用に関する。
【0026】
加えて、本発明は、本明細書に記載の歯科用組成物を硬化させる方法であって、方法は、基剤ペーストと触媒ペーストとを組み合わせる工程を含み、酸性成分は、レドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセルと接触して、マイクロカプセルのpH感受性無機成分と反応し、マイクロカプセルのpH感受性無機成分が溶解して、非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分が放出される、方法を対象とする。
【0027】
本発明はまた、歯科用組成物を保存するためのデバイスを対象とする。
【0028】
更に、本発明は、本明細書に記載の歯科用組成物と、以下のパーツ:歯科用修復物を機械加工するための歯科用ミリングブロック、歯科用接着剤、の単独又は組み合わせとを含む、パーツのキットを対象とする。
【0029】
更に、本発明は、患者の口腔内の歯牙を修復する方法において使用するための、本明細書に記載の歯科用組成物であって、方法は、基剤ペースト及び触媒ペーストを含むパーツのキットの形態の歯科用組成物を提供する工程と、基剤ペーストと触媒ペーストとを混合する工程と、混合物を、修復されるべく準備された歯の表面に適用する工程とを含む、歯科用組成物を特徴とする。
【0030】
別段の定義のない限り、本明細書では、以下の用語は、以下に記載の意味を有するものとする。
【0031】
「開始剤」は、好ましくはフリーラジカル反応によって化学反応を開始することができる物質である。開始剤は、単一の化合物であってもよく、又は増感剤と還元剤との組み合わせなどの2つ以上の成分を含んでもよい。選択される反応条件(例えば、pH値>7又はpH値<7)に応じて、異なる開始剤が好ましい場合がある。
【0032】
「レドックス開始剤系」は、還元剤と酸化剤との組み合わせとして定義される。存在する場合、遷移金属成分もまた、レドックス開始剤系の成分とみなされる。
【0033】
本明細書で使用する場合、「固化」又は「硬化」は、交換可能に使用され、例えば、組成物に含まれる1つ以上の材料が関与する、光重合反応及び化学重合技術(例えば、エチレン性不飽和化合物を重合するのに有効なラジカルを形成するイオン反応又は化学反応)を含む重合及び/又は架橋反応を指す。
【0034】
「歯科用物品」は、特に、歯科用修復物として又は歯科用修復物を製造するために、歯科分野で使用される物品を意味する。歯科用物品は、典型的には、2つの異なる表面部分、外側表面及び内側表面を有する。外側表面は、典型的には歯の表面と恒久的には接触しない表面である。それとは対照的に、内側表面は、歯科用物品を歯に取り付ける又は固定するために使用される表面である。歯科用物品が歯科用クラウンの形状を有する場合、内側表面は典型的には凹形状を有し、一方、外側表面は典型的には凸形状を有する。歯科用物品は、患者の健康に有害である成分を含有してはならず、したがって、歯科用又は歯科矯正用物品から漏出し得る有害成分及び毒性成分を含まない。
【0035】
「歯科用組成物」又は「歯科で使用するための組成物」又は「歯科分野で使用されることになる組成物」は、歯科分野で使用することのできる任意の組成物である。この点において、組成物は患者の健康に有害であってはならず、したがって、組成物から漏出し得る有害成分及び有毒成分を含んではならない。歯科用組成物の例としては、永久及び暫間クラウン及びブリッジ材、人工クラウン、前歯又は奥歯用充填材、接着剤、ミルブランク、ラボ材料、合着材、並びに歯科矯正用器具が挙げられる。歯科用組成物は、典型的には固化性組成物であり、これは、30分、又は20分、又は10分の時間枠内での、15~50℃、又は20~40℃の範囲の温度を含む周囲条件において硬化され得る。これよりも高い温度は、患者に痛みをもたらすことがあり、患者の健康に有害な場合があるため、推奨されない。歯科用組成物は、典型的には、比較的小容量で、すなわち、0.1~100ml、又は0.5~50ml、又は1~30mlの範囲の容量で、医師に提供される。したがって、有用なパッケージングデバイスの保存容量は、これらの範囲内である。
【0036】
「歯科用修復物」は、治療される歯を修復するために使用される歯科用物品を意味する。歯科用修復物の例としては、クラウン、ブリッジ、インレー、アンレー、ベニヤ、前装、コーピング、クラウンブリッジフレームワーク、及びこれらのパーツが挙げられる。
【0037】
「化合物」又は「成分」という用語は、特定の分子的同一性を有するか、又はそのような物質の混合物、例えば、ポリマー物質から作製される化学物質である。
【0038】
「重合性成分」は、例えば、加熱して重合若しくは化学的架橋を引き起こすことによって、又は例えば、放射線誘導重合若しくは架橋によって、又は例えば、レドックス開始剤を使用して、又は任意の他のラジカル形成プロセスによって硬化又は固体化することのできる任意の成分である。ラジカル重合性成分は、1つのみ、2つ、又は3つ以上のラジカル重合性基を含有していてもよい。ラジカル重合性基の典型例としては、例えば(メチル)アクリレート基中に存在するビニル基などの不飽和炭素基が挙げられる。
【0039】
「モノマー」は、オリゴマー又はポリマーと重合させることにより分子量を増加させることのできる、ラジカル重合性不飽和基((メタ)アクリレート基を含む)を有する化学式によって特徴付けることのできる任意の化学物質である。通常、モノマーの分子量は、与えられた化学式に基づいて単純に計算することができる。
【0040】
「ポリマー」又は「ポリマー材料」は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーなどを指すために交換可能に使用される。
【0041】
「誘導体」又は「構造類似体」は、対応する参照化合物に密接に関連した化学構造を示し、対応する参照化合物が特徴とする全ての構造要素を含有するが、対応する参照化合物と比較して、例えば、アルキル部分、Br、Cl、若しくはFのような追加の化学基を有するか、又は、例えばアルキル部分のような化学基を有しないような軽微な変更を有する化学化合物である。すなわち、誘導体は、参照化合物の構造類似体である。化学化合物の誘導体は、当該化学化合物の化学構造を含む化合物である。
【0042】
本明細書で使用する場合、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」及び/又は「メタクリル」を指す短縮語である。例えば、「(メタ)アクリルオキシ」基は、アクリルオキシ基(すなわち、CH2=CH-C(O)-O-)及び/又はメタクリルオキシ基(すなわち、CH2=C(CH3)-C(O)-O-)のいずれかを指す短縮語である。
【0043】
「アスコルビン酸部分」を含む成分は、以下の構造要素:
【化1】
(式中、記号「*」は、別の化学部分又は原子への結合を示す)を含む成分である。
【0044】
「粒子」は、幾何学的に決定できる形状を有する固体である物質を意味する。その形状は規則的であっても不規則的であってもよい。粒子は、典型的には、例えば粒径及び粒径分布に関して分析することができる。
【0045】
粉末の粒径(d50)は、粒度分布の累積曲線から得ることができる。それぞれの測定は、市販の粒度計(例えば、Malvern Mastersizer 2000)を使用して行うことができる。「D」は粉末粒子の直径を表し、「50」は粒子の体積百分率を指す。場合によっては、50%を「0.5」と表現することもある。例えば、「(d50)=1μm」は、粒子の50%が1μm以下のサイズを有することを意味する。
【0046】
「周囲条件」は、本明細書に記載の組成物が、保存及び取り扱い中に通常さらされる条件を意味する。周囲条件は、例えば、圧力900~1,100mbar、温度10~40℃及び相対湿度10~100%としてもよい。実験室では、周囲条件は、典型的には、20~25℃及び1,000~1,025mbar(海面の高度で)に調整される。
【0047】
本明細書で使用する場合、「a」、「an」、「the」、「少なくとも1つの」及び「1つ以上の」は、交換可能に使用される。また、本明細書において、端点による数値範囲の記載は、その範囲内に包含される全ての数を含む(例えば、1~5は、1、1.5、2、2.75、3、3.80、4、5などを含む)。
【0048】
用語に「(s)」を付加することは、その用語が単数形及び複数形を含むべきであることを意味する。例えば、「添加剤(additive(s))」という用語は、1つの添加剤及び2つ以上の添加剤(例えば2つ、3つ、4つなど)を意味する。
【0049】
特に指示のない限り、本明細書及び特許請求の範囲で使用されている、例えば下に記載するものなどの含有物質(ingredient)の量、物性の測定値を表す全ての数は、全ての例で「約」という用語により修飾されていると理解されるべきである。
【0050】
「含む」又は「含有する」という用語及びこれらの変形は、これらの用語が本明細書及び特許請求の範囲で記載される場合、限定的な意味を有しない。「から本質的になる」は、特定の更なる成分、つまり物品又は組成物の本質的な特性に実質的に影響を及ぼさない成分が存在し得ることを意味する。「からなる」は、更なる成分が存在するべきではないことを意味する。「含む」という用語はまた、「から本質的になる」及び「からなる」という用語を含むものとする。
【0051】
組成物が特定の成分を本質的な特徴として含有しない場合、この組成物はこの成分を「本質的又は実質的に含まない」。したがって、この成分は、それだけで、又は他の成分若しくは他の成分の含有物質との組み合わせでのいずれによっても、組成物に意図的に添加されない。特定の成分を本質的に含まない組成物は、通常はその成分を全く含有しない。しかし、例えば用いられる原料に含有される不純物のために、少量のこの成分が存在するのを回避できないこともある。
【発明を実施するための形態】
【0052】
本明細書に記載の組成物は、いくつかの有利な特性を有することが見出された。
【0053】
マイクロカプセルは、十分に機械的に安定であり、混練工程を伴う製造プロセス中、例えばペースト状組成物を調製する場合に典型的に生じる剪断力に耐える。
【0054】
マイクロカプセルは、pH感受性である成分、すなわち、pHが変化した場合に化学反応、特に酸/塩基反応を受ける成分を含有する。特に、pH感受性は、酸性環境に感受性であることを意味する。
【0055】
この特性により、本明細書に記載のマイクロカプセルはまた、pH感受性マイクロカプセルとみなすこともできる。
【0056】
pH感受性成分の例は、酸性成分と接触すると溶解するか、又は酸性成分に曝露されるとガスを生成する成分である。そのような成分は、要求に応じてマイクロカプセルから放出される成分の迅速な放出を可能にするので、特に有用である。ガスが生成される場合、ガスは、マイクロカプセルを広げる、穿孔する、及び/又は破壊するのに役立つ。
【0057】
これは、例えば、酸性成分を含有する歯科用二剤型ペースト/ペースト組成物に含有されるレドックス開始剤系に有利であり得る。
【0058】
したがって、本明細書に記載のマイクロカプセルは、例えば、レドックス硬化性ペースト/ペースト組成物の製造に関連する課題を克服するのに役立ち得る。
【0059】
レドックス開始剤系を含有する保存安定性ペースト/ペースト組成物を製造するために、レドックス開始剤成分の迅速な放出は、多くの場合、適切な時間内で硬化性組成物の固化を確実にするために所望される。
【0060】
先行技術に記載されているマイクロカプセルと比較して、本明細書に記載されているマイクロカプセルは、放出される成分が追加のシェル又は層を必要とせずに直接封入されるので、この成分の比較的高い充填を可能にする。
【0061】
したがって、放出される成分の十分な量を提供するために必要とされるマイクロカプセルの量はより少なくなる。これは、使用されるシェル材料の量が影響を及ぼし得る適用において有利であり得る。例えば、歯科用硬化性組成物において、多すぎる量のシェル材料の存在は、硬化した組成物の審美性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0062】
本発明は、重合性成分と、非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセルとを含む歯科用組成物に関する。
【0063】
マイクロカプセルは、典型的には、以下の特徴:1~200μm又は1~100μm又は5~100μm又は5~50μm又は5~25μmの直径;機械的に安定であること、の単独又は組み合わせによって特徴付けることができる。
【0064】
1~100μmの範囲の直径を有するマイクロカプセルを使用することが好ましい場合がある。
【0065】
小さな粒径を有する成分を使用することによって、酸性成分とマイクロカプセルのpH感受性成分との間の反応は、反応表面が増加するにつれて改善され得ることも見出された。
【0066】
形状及び直径は、顕微鏡法、特に走査型電子顕微鏡法(scanning electron microscopy、SEM)によって評価することができる。所望であれば、直径及び粒径分布は、光散乱によって決定することができる。
【0067】
典型的には混合又は混練機でのペーストの調製中に生じる高剪断力に耐えることができる場合、マイクロカプセルは機械的に安定である。好適な試験は、実施例の節に記載されている。
【0068】
例えば、マイクロカプセルが主に無機成分を含み、ポリマー材料の存在が回避される場合、機械的安定性を得ることができる。
【0069】
マイクロカプセルは、pH感受性無機成分を含む。
【0070】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、無機成分を使用することは、これらのマイクロカプセルが、ポリマー材料を含むか又はそれから本質的になるマイクロカプセルよりも機械的に安定になる傾向があるため、有益であると考えられる。
【0071】
pH感受性無機成分は、非水溶性であるレドックス開始剤系の第1の成分で構成されるコアの周りにシェルを形成する。
【0072】
pH感受性無機成分の存在は、特にマイクロカプセルのカプセルが酸性又は塩基性環境と接触する場合において、マイクロカプセルに保存されている放出される成分の放出を容易にするのに役立つ。
【0073】
pH感受性無機成分は、典型的には、アニオン及び多価カチオンを含む。
【0074】
アニオンは、典型的には、炭酸アニオン、炭酸水素アニオン、リン酸アニオン、硝酸アニオン及び硫酸アニオンから選択される。
【0075】
多価カチオンは、典型的には、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、及びZnのイオンから選択される。
【0076】
pH感受性無機成分の例としては、MgCO3、CaCO3、ZnCO3、Ca(HCO3)2、CaSO4、及びMgSO4が挙げられる。
【0077】
pH感受性無機成分が酸性環境との接触時にガスを生成する場合、この成分の放出は更にいっそう改善され得る。
【0078】
そのようなマイクロカプセルは、酸性環境と接触すると、pH感受性成分が破壊又は溶解するだけではなく、生成されるガスによって破壊が加速される。
【0079】
酸に曝露されるとガスを生成する成分は、典型的には、炭酸塩又は炭酸水素塩から選択される部分を含む。生成されるガスは、典型的にはCO2である。
【0080】
酸に曝露されるとガスを生成する成分の例としては、特にアルカリ土類金属(例えば、Mg、Ca)炭酸塩又は炭酸水素塩、並びにZn炭酸塩及び炭酸水素塩、例えばMgCO3、CaCO3、ZnCO3、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0081】
以下の成分:CaCO3、Ca(HCO3)2は所望の使用に非常に有効であることが証明されているため、それらの使用が好ましい場合がある。
【0082】
マイクロカプセルが医療又は歯科分野で使用される場合、成分は、使用される量で十分に生体適合性であり、本質的に無毒であるべきである。
【0083】
マイクロカプセルは、放出される成分を含有する。放出される成分は、マイクロカプセルに、特にマイクロカプセルのコアに含有される。
【0084】
マイクロカプセルのpH感受性無機材料と負に相互作用しないあらゆる種類の放出される成分を、マイクロカプセル中に保存することができる。
【0085】
一実施形態によると、マイクロカプセルは、レドックス開始剤系の第1の成分を含有する。そのような成分は、活性剤と呼ばれる場合がある。
【0086】
レドックス開始剤系の第1の成分は、非水溶性である。
【0087】
非水溶性は、成分の溶解度が水100ml当たり0.1g未満又は水100ml当たり0.05g未満(23℃)であることを意味する。
【0088】
成分の水に対する溶解度の測定に好適な方法は、実施例の節に与えられる。
【0089】
更に、レドックス開始剤系の第1の成分は、典型的には固体成分として提供される。すなわち、第1の成分は微粒子形態で提供される。
【0090】
レドックス開始剤系の第1の成分は、撹拌時に水中懸濁液を形成することができる。
【0091】
レドックス開始剤系は、典型的には、酸化剤及び還元剤、並びに場合によっては遷移金属を含む。
【0092】
一実施形態によると、マイクロカプセルは、非水溶性酸化剤を含有する。
【0093】
酸化剤の性質及び構造は、所望の結果が達成不能でない限り、特に限定されない。
【0094】
好適な酸化剤としては、非水溶性有機過酸化物及び過硫酸成分、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0095】
一般に、マイクロカプセルによって組み込まれ得るか又は吸収され得る全ての非水溶性過酸化物、特に有機過酸化物を使用することができる。
【0096】
使用することのできる有機過酸化物としては、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、及びペルオキシジカーボネートが挙げられる。
【0097】
使用することのできるジペルオキシドとしては、部分R1-O-O-R2-O-O-R3を含むジペルオキシドが挙げられ、ここで、R1及びR3は、独立して、H、アルキル(例えば、C1~C6)、分枝アルキル(例えば、C1~C6)、シクロアルキル(例えば、C5~C10)、アルキルアリール(例えば、C7~C12)、又はアリール(例えば、C6~C10)から選択され、R2は、アルキル(例えば、(C1~C6)又は分枝アルキル(例えば、C1~C6)から選択される。
【0098】
ケトンペルオキシドの例としては、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド、及びシクロヘキサノンペルオキシドが挙げられる。
【0099】
ペルオキシエステルの例としては、クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート、及びt-ブチルペルオキシマレイン酸が挙げられる。
【0100】
ペルオキシジカーボネートの例としては、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピル-1-ペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ-2-エトキシエチル-ペルオキシジカーボネート、及びジアリルペルオキシジカーボネートが挙げられる。
【0101】
ジアシルペルオキシドの例としては、アセチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,3,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、及びラウロイルペルオキシドが挙げられる。
【0102】
ジアルキルペルオキシドの例としては、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキサンが挙げられる。
【0103】
ペルオキシケタールの例としては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン、及び4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)吉草酸-n-ブチルエステルが挙げられる。
【0104】
一実施形態によると、有機過酸化物は、ヒドロペルオキシド、特に、構造部分R-O-O-Hを含むヒドロペルオキシドであり、ここで、Rは、(例えば、C1~C20)アルキル、(例えば、C3~C20)分枝アルキル、(例えば、C6~C12)シクロアルキル、(例えば、C7~C20)アルキルアリール、又は(例えば、C6~C12)アリールである。
【0105】
好適な有機ヒドロペルオキシドの例としては、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、p-ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、p-メタンヒドロペルオキシド、及び1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシドが挙げられる。
【0106】
使用することのできる好適なペルオキソ二硫酸成分及び/又はペルオキソ二リン酸成分及び/又はこれらの混合物としては、有機及び/又は無機成分が挙げられる。
【0107】
好適な例としては、アンモニウム、ナトリウム、及びカリウムペルオキソ二硫酸塩成分及び/又はペルオキソ二リン酸塩成分が挙げられる。ペルオキソ二硫酸ナトリウムが好ましい場合がある。
【0108】
別の実施形態によると、マイクロカプセルは、非水溶性還元剤を含有する。
【0109】
非水溶性還元剤の性質及び構造は、所望の結果が達成不能でない限り、特に限定されない。
【0110】
好適な還元剤としては、有機及び無機成分、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0111】
還元剤は、典型的には、周囲条件(23℃、1013hPa)で固体である。
【0112】
マイクロカプセルに含有され得る還元剤としては、非水溶性アスコルビン酸成分、第三級アミン成分、スルフィン酸塩成分、硫酸成分、ボラン成分、(チオ)尿素成分、及び(チオ)バルビツール酸成分、サッカリン、及びこれらの金属塩が挙げられる。
【0113】
アスコルビン酸部分を含む成分、例えば、アスコルビン酸、エーテル、ケタール、又はアセタールの塩及びエステルが好ましい場合がある。これらの成分は、アスコルビン酸成分と呼ばれる。
【0114】
好適な塩としては、Na、K、Caのようなアルカリ金属塩及びアルカリ土類金属塩、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0115】
アスコルビン酸のエステルとしては、アスコルビン酸のヒドロキシル官能基のうちの1つ以上をカルボン酸、特にC2~C30カルボン酸と反応させることによって形成されるものが挙げられる。
【0116】
C2~C30カルボン酸の好適な例としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、及びドコサヘキサエン酸のような脂肪酸が挙げられる。
【0117】
重合性成分を含む残りのレジンマトリックスに容易に溶解するか又はこれと混合することができる、これらのアスコルビン酸成分が特に好ましい。
【0118】
すなわち、疎水性部分を有するアスコルビン酸成分を用いることが好ましい場合がある。好適な疎水性部分としては、飽和及び不飽和脂肪族残基(例えばC2~C30又はC12~C30)が挙げられる。これらのアスコルビン酸成分はまた、表面活性物質(いわゆる「ヘッド/テール構造」を有する物質)としても機能し得る。パルミチン酸アスコルビル、ステアリン酸アスコルビル、これらの混合物及び塩が特に好ましい場合がある。
【0119】
酸化剤が還元剤と接触すると、レドックス反応が典型的には開始する。そのようなレドックス反応は、硬化性成分の硬化を開始し、硬化性成分の架橋をもたらすのに好適である。
【0120】
所望であれば、マイクロカプセルには、更に他の成分、例えば染料、フッ化物放出剤を充填することもできる。好適な染料及びフッ化物放出剤は、以下の本明細書に記載される。
【0121】
典型的には、マイクロカプセル中のpH感受性成分の含有量は、レドックス開始剤系の第1の成分の含有量よりも多い。レドックス開始剤系の第1の成分の粒子が大きいほど、典型的には、pH感受性の量は少なくなる。
【0122】
マイクロカプセルのpH感受性成分と、レドックス開始剤系の第1の成分との比は、重量比で20:1未満又は10:1未満又は5:1未満又は3:1未満の範囲が有用であることが見出された。
【0123】
そのような比は、放出される所望のレドックス開始剤成分の量と、マイクロカプセルを製造するために使用される成分との間の良好なバランスを提供するので有益であることが見出されたが、これは最終組成物において必ずしも望まれるものではない。
【0124】
本明細書に記載のマイクロカプセルは、マイクロカプセルの重量比で最大50又は最大40重量%の量のレドックス開始剤系の第1の成分の組み込み又は充填を可能にする。
【0125】
所望であれば、シェルの質量又は量は、以下の式を用いて計算することができる。
【数1】
Dはマイクロカプセルの直径であり、d
pはマイクロカプセルに含有される粒子の直径であり、m
シェルはシェルの質量であり、ρ
シェルはシェル材料の密度であり、ρ
pはコア粒子の密度であり、V
シェルはシェルの体積であり、V
totはマイクロカプセルの総体積であり、V
pはマイクロカプセルに含有される粒子の体積である。
【0126】
レドックス開始剤系の第1の成分を含有するマイクロカプセルは、レドックス開始剤系の第2の成分の存在下で重合性成分の硬化を開始するのに有効な量で歯科用組成物中に存在する。
【0127】
歯科用組成物は、典型的には、マイクロカプセルを、歯科用組成物に対して0.05~10重量%又は0.1~5重量%又は0.2~3重量%又は0.3~2重量%の量で含有する。
【0128】
本明細書に記載のマイクロカプセルは、以下の通り製造することができる。
【0129】
水、界面活性剤、非水溶性成分(例えば、レドックス開始剤系の第1の成分)、及び水溶性pH感受性無機成分(一価カチオンを含む)を含む組成物が提供される。
【0130】
組成物を混合する。
【0131】
混合物(分散液)を遠心分離し、沈殿した部分を分離する。
【0132】
分離した部分を、多価(特に二価)カチオンを含む水溶性塩を含有する水溶液と組み合わせる。
【0133】
得られた組成物(分散液)を再び混合し、遠心分離し、沈殿した部分を分離し、所望により更に精製し(例えば、水に再懸濁し、濾過することによって)、乾燥させる。
【0134】
界面活性剤の添加は、混合物中の成分のより均一な分布を得るのに役立ち得るので、典型的には有利である。
【0135】
非水溶性成分は水に溶解しないので、水中懸濁液を形成する。
【0136】
特定の理論に束縛されることを望むものではないが、界面活性剤は、レドックス開始剤系の非水溶性成分を含有するミセルを形成し、したがって、水溶液又は水性環境中でこれらの成分を安定化させると考えられる。
【0137】
界面活性剤の性質は、所望の結果が達成不能でない限り、特に限定されない。
【0138】
好適な界面活性剤としては、イオン性界面活性剤(例えば、サルフェート、スルホネート、ホスフェート、カルボキシレートエステル、第四級アンモニウム塩)、両性界面活性剤(例えば、スルタイン、ベタイン)、及び非イオン性界面活性剤が挙げられ、非イオン性界面活性剤が好ましい。
【0139】
非イオン性界面活性剤は、典型的には、疎水性親構造に結合している共有結合した酸素含有親水基を有する。他の界面活性剤と比較して、非イオン性界面活性剤は、多くの場合、それほど強くは発泡しない。
【0140】
使用することのできる非イオン性界面活性剤の例としては、アルキルポリグルコシド、脂肪族アミンエトキシレート、脂肪族アルコールエトキシレート、脂肪酸アルカノールアミド、ヒマシ油エトキシレート、アルコールエトキシレート/プロポキシレート、及びこれらのブレンド(例えば、デシルとウンデシルグルコシドとのブレンド;APG(商標)325、BASF)が挙げられる。
【0141】
界面活性剤が使用される場合、界面活性剤は、典型的には、製造プロセス中に形成されるpH感受性成分の量に対して、例えば、2~10重量%又は5~8重量%のみの少量で使用される。
【0142】
本明細書に記載の歯科用組成物は、重合性成分を含む。
【0143】
重合性成分は、(メタ)アクリレート部分などの少なくとも1つ又は2つの重合性部分を有する成分を含む。
【0144】
重合性成分の架橋又は重合は、レドックス開始剤系を使用することによって開始することができる。
【0145】
重合性成分は、酸性部分を含有しない。
【0146】
酸性部分を有しない重合性成分は、典型的には、エチレン性不飽和モノマー、モノマー又はオリゴマー又はポリマーを含むフリーラジカル重合性材料である。
【0147】
酸性部分を有しない好適な重合性成分は、以下の式:
AnBAm
(式中、Aは、(メタ)アクリル部分などのエチレン性不飽和基であり、
Bは、(i)他の官能基(例えば、ハロゲン化物(Cl、Br、Iを含む)、OH、若しくはこれらの混合物)で任意に置換された直鎖若しくは分枝鎖C1~C12アルキル、(ii)他の官能基(例えば、ハロゲン化物、OH、若しくはこれらの混合物)で任意に置換されたC6~C12アリール、又は(iii)1つ以上のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニル、及び/若しくはスルホニル結合によって互いに結合している4個~20個の炭素原子を有する有機基から選択され、
m、nは独立して、0、1、2、3、4、5、又は6から選択されるが、ただしn+mは0より大きく、つまり少なくとも1つのA基が存在する)
によって特徴付けることができる。
【0148】
そのような重合性材料としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、グリセロールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(hydroxyethyl methacrylate、HEMA)と2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(trimethylhexamethylene diisocyanate、TMDI)との反応生成物であるUDMAと呼ばれるジウレタンジメタクリレート(異性体の混合物、例えば、Roehm Plex6661-0)、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジアクリレート、1,3-プロパンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、1,2,4-ブタントリオールトリ(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ソルビトールヘキサ(メタ)アクリレート、ビス[1-(2-(メタ)アクリルオキシ)]-p-エトキシフェニルジメチルメタン、ビス[1-(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシフェニルジメチルメタン(BisGMA)、ビス[1-(3-アクリルオキシ-2-ヒドロキシ)]-p-プロポキシ-フェニルジメチルメタン及びトリスヒドロキシエチル-イソシアヌレートトリメタクリレートなどの、モノ-、ジ-、又はポリ-アクリレート及びメタクリレート;分子量200~500のポリエチレングリコールのビス-アクリレート及びビス-メタクリレート、アクリル化モノマーの共重合性混合物(米国特許第4,652,274号を参照)、並びにアクリル化オリゴマー(米国特許第4,642,126号を参照);並びにスチレン、ジアリルフタレート、ジビニルスクシネート、ジビニルアジペート、及びジビニルフタレートなどのビニル化合物;ウレタン、尿素、又はアミド基を含む多官能性(メタ)アクリレートが挙げられる。所望であれば、これらのフリーラジカル重合性材料のうちの2つ以上の混合物を使用することができる。
【0149】
存在し得る更なる重合性成分としては、エトキシ化ビス-フェノールAのジ(メタ)アクリレート、例えば、2,2’-ビス(4-(メタ)アクリルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、ウレタン(メタ)アクリレート、及び(メタ)アクリルアミドが挙げられる。使用されるモノマーは、更に、[アルファ]-シアノアクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸、及びソルビン酸のエステルであり得る。
【0150】
欧州特許第0235826号に記載のメタクリルエステル、例えば、ビス[3[4]-メタクリル-オキシメチル-8(9)-トリシクロ[5.2.1.02,6]デシルメチルトリグリコレートを使用することも可能である。2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニルプロパン(ビス-GMA)、2,2-ビス-4(3-メタクリルオキシプロポキシ)フェニル-プロパン、7,7,9-トリメチル-4,13-ジオキソ-3,14-ジオキサ-5,12-ジアザへキサデカン-1,16-ジオキシジメタクリレート(UDMA)、ウレタン(メタ)アクリレート、及びビスヒドロキシメチルトリシクロ-(5.2.1.02,6)デカンのジ(メタ)アクリレートも好適である。
【0151】
これらのエチレン性不飽和モノマーは、単独で又は他のエチレン性不飽和モノマーと組み合わせて歯科用組成物に用いることができる。それらの成分に加えて又はそれらの成分のほかに、添加することのできる他の固化性成分としては、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、及びポリウレタン(メタ)アクリレートなどのオリゴマー又はポリマー化合物が挙げられる。これらの化合物の分子量は、典型的には、20,000g/mol未満、特に15,000g/mol未満、特に10,000g/mol未満である。
【0152】
酸性部分を有しない重合性成分は、典型的には、歯科用組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、下限:少なくとも5又は少なくとも10又は少なくとも20重量%;上限:最大65又は最大55又は最大45重量%;範囲:5~65又は10~55又は20~45重量%で存在する。
【0153】
一実施形態によると、本明細書に記載の歯科用組成物は、触媒ペースト及び基剤ペーストを含むパーツのキットの形態で提供される。
【0154】
触媒ペーストは、酸性部分を含まない重合性成分と、レドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセルと、任意に充填剤とを含む。
【0155】
基剤ペーストは、酸性成分と、レドックス開始剤系の第2の成分と、任意に充填剤とを含む。
【0156】
触媒ペースト及び基剤ペーストは、保存中は互いに分離されている。
【0157】
レドックス開始剤系の第1及び第2の成分は、一緒になって、触媒ペースト若しくは基剤ペースト、又は触媒ペースト及び基剤ペースト中に存在する硬化性成分の硬化を開始するのに好適な開始剤系を形成する。
【0158】
一実施形態によると、マイクロカプセルに含有されるレドックス開始剤系の第1の成分は還元剤であり、レドックス開始剤系の第2の成分は酸化剤である。
【0159】
別の実施形態によると、マイクロカプセルに含有されるレドックス開始剤系の第1の成分は酸化剤であり、レドックス開始剤系の第2の成分は還元剤である。
【0160】
一実施形態によると、パーツのキットは、2種類のマイクロカプセル、すなわち、還元剤を含有するマイクロカプセル及び酸化剤を含有するマイクロカプセルを含む。
【0161】
酸化剤及び還元剤としては、上記のものが挙げられる。
【0162】
基剤ペーストに含有される酸性成分は、マイクロカプセルのpH感受性成分と相互作用するのに好適な成分であり、これにより、マイクロカプセルの構造が軟弱化(例えば、溶解)され、レドックス開始剤系の第1の成分がマイクロカプセルから漏出することを可能にする。
【0163】
酸性成分の性質及び構造は、意図した目的が達成不能でない限り、特に限定されない。所望により、無機及び有機酸性成分を使用することができる。
【0164】
使用することのできる無機酸性成分としては、塩酸、硫酸、リン酸、これらの混合物、及びその酸性塩が挙げられる。
【0165】
使用することのできる有機酸性成分としては、ギ酸、酢酸及び安息香酸などのモノカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、又はシュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸、ソルビン酸、フタル酸及びテレフタル酸から選択されるジカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、又はヘミメリト酸、トリメリト酸、トリメシン酸、アグリン酸、クエン酸、1,2,3-プロパントリカルボン酸から選択されるトリカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、又はピロメリト酸及びメリト酸からなる群から選択される多カルボン酸及びこれらの酸の誘導体、又はポリアクリル酸及びポリメタクリル酸から選択されるポリカルボン酸及びこれらの酸の誘導体、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0166】
酸性成分は、以下の特徴:
a)5以下、4以下、又は3.5以下、又は3以下、又は2以下のpKs値、
b)スルホン酸、スルフィン酸、リン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、又はカルボン酸部分から選択される酸性部分を含むこと
の単独又は組み合わせによって特徴付けることができる。
【0167】
所望であれば、酸性成分はまた、(メタ)アクリレート部分などの1つ以上の重合性部分を含んでもよい。所望であれば、酸性部分を有する1つ以上の重合性成分が存在してもよい。
【0168】
酸部分を有する重合性成分は、典型的には以下の式
AnBCm
(式中、Aは、(メタ)アクリル部分などのエチレン性不飽和基であり、
Bは、(i)他の官能基(例えば、ハロゲン化物(Cl、Br、Iを含む)、OH、又はこれらの混合物)で任意に置換された直鎖又は分枝鎖C1~C12アルキル、(ii)他の官能基(例えば、ハロゲン化物、OH、又はこれらの混合物)で任意に置換されたC6~C12アリール、(iii)1つ以上のエーテル、チオエーテル、エステル、チオエステル、チオカルボニル、アミド、ウレタン、カルボニル、及び/又はスルホニル結合によって互いに結合している4個~20個の炭素原子を有する有機基などのスペーサー基であり、
Cは酸性基、又は酸無水物などの酸性基の前駆体であり、
m、nは独立して、1、2、3、4、5、又は6から選択され、
酸性基は、1つ以上の、-COOH若しくは-CO-O-CO-などのカルボン酸残基、-O-P(O)(OH)OHなどのリン酸残基、C-P(O)(OH)(OH)などのホスホン酸残基、-SO3Hなどのスルホン酸残基、又は-SO2Hなどのスルフィン酸残基を含む)
によって表すことができる。
【0169】
酸部分を有する重合性成分の例としては、グリセロールホスフェートモノ(メタ)アクリレート、グリセロールホスフェートジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(例えば、HEMA)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシエチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシプロピルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシプロピル)ホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシ)プロピルオキシホスフェート、(メタ)アクリルオキシヘキシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシヘキシル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシオクチルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシオクチル)ホスフェート、(メタ)アクリルオキシデシルホスフェート、ビス((メタ)アクリルオキシデシル)ホスフェート、カプロラクトンメタクリレートホスフェート、クエン酸ジ-又はトリ-メタクリレート、ポリ(メタ)アクリル化オリゴマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリマレイン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリカルボキシル-ポリホスホン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリクロロリン酸、ポリ(メタ)アクリル化ポリスルホネート、ポリ(メタ)アクリル化ポリホウ酸などが挙げられるが、これらに限定されない。例えば水と容易に反応して、酸ハロゲン化物又は無水物などの上述の特定の例を形成することができる酸部分を有するこれらの固化性成分の誘導体もまた、企図される。
【0170】
また、(メタ)アクリル酸、芳香族の(メタ)アクリル化された酸(例えば、メタクリレート化トリメリト酸)などの不飽和カルボン酸のモノマー、オリゴマー、及びポリマー、並びにこれらの無水物を使用することもできる。
【0171】
存在する場合、酸性成分は、典型的には、パーツのキットの触媒ペーストと基剤ペーストとが組み合わされる場合に得られる歯科用組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、下限:少なくとも2又は少なくとも3又は少なくとも4重量%;上限:最大50又は最大40又は最大30重量%;範囲:2~50又は3~40又は4~30重量%で存在する。
【0172】
歯科用組成物又はそれぞれのパーツのキット並びにその触媒ペースト及び/又は基剤ペーストは、充填剤、光開始剤、並びにフッ化物放出物質、安定剤、着色剤、染料、顔料、及び他の添加剤を含む添加剤を含む更なる成分を含有してもよい。
【0173】
組成物中の各含有物質の量及び種類は、重合前後の所望の物性及び取り扱い特性をもたらすように調整すべきである。
【0174】
歯科用組成物又はパーツのキットのそれぞれのペーストは、1つ以上の充填剤を含有してもよい。
【0175】
充填剤の性質及び構造は、意図した目的が達成不能でない限り、特に限定されない。
【0176】
充填剤の添加は、例えば、粘度のようなレオロジー特性を調整するのに有益であり得る。充填剤の含有量もまた、典型的には、硬度又は曲げ強度のような、固化後の組成物の物性に影響する。
【0177】
充填剤粒子のサイズは、レジンマトリックスを形成する固化性成分との均質混合物を得ることができる程度とすべきである。
【0178】
充填剤の平均粒径は、5nm~100μmの範囲であってもよい。
【0179】
所望であれば、充填剤粒子の粒径の測定は、TEM(透過型電子顕微鏡)法で行うことができ、これによって集合を分析して平均粒子直径が得られる。
【0180】
粒子直径を測定するための好ましい方法は、以下の通り説明することができる:厚さおよそ80nmの試料を、炭素安定化フォルムバール基材(Structure Probe,Inc.,West Chester,PAの一部門であるSPI Supplies)付き200メッシュの銅グリッド上に配置する。透過型電子顕微鏡(TEM)写真を、200KvでJEOL(商標)200CX(日本、昭島の日本電子株式会社、JEOL USA,Inc.により販売)を使用して撮影する。約50個~100個の粒子の集合のサイズを測定することができ、平均直径を決定する。
【0181】
充填剤は、典型的に非酸反応性充填剤を含む。非酸反応性充填剤は、酸との酸/塩基反応を受けない充填剤である。
【0182】
有用な非酸反応性充填剤としては、ヒュームドシリカ、非酸反応性フルオロアルミノシリケートガラス、石英、粉末ガラス、CaF2などの非水溶性フッ化物、ケイ酸、特に発熱性ケイ酸などのシリカゲル及びその顆粒、クリストバライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、モレキュラーシーブを含むゼオライトに基づく充填剤が挙げられる。
【0183】
好適なヒュームドシリカとしては、例えば、Evonikから入手可能なAerosil(商標)シリーズOX-50、-130、-150、及び-200、Aerosil(商標)R8200、-R805、Cabot Corp(Tuscola)から入手可能なCAB-O-SIL(商標)M5、並びにWackerから入手可能なHDKタイプ、例えば、HDK(商標)-H2000、HDK(商標)H15、HDK(商標)H18、HDK(商標)H20及びHDK(商標)H30の商品名で販売されている製品が挙げられる。
【0184】
また使用することができ、本明細書に記載の歯科用材料に放射線不透過性をもたらす充填剤としては、重金属酸化物及びフッ化物が挙げられる。本明細書で使用する場合、「放射線不透過性」は、従来の方法で標準的な歯科用X線装置を使用して、歯構造体と区別される、固化した歯科用材料の能力を表す。歯科用材料における放射線不透過性は、X線を使用して歯の状態を診断する、ある特定の場合に有利である。例えば、放射線不透過材料は、充填剤を囲んでいる歯組織に形成されている場合がある二次齲蝕の検出を可能とする。
【0185】
約28よりも大きい原子番号を有する重金属の酸化物又はフッ化物が好ましい場合がある。重金属酸化物又はフッ化物は、それを分散させる固化レジンに望ましくない色又は濃淡が付与されないように選択すべきである。例えば、鉄及びコバルトは、歯科用材料の歯の中間色に、黒ずんだ色及び明暗差のある色を付与するので好ましくない。より好ましくは、重金属酸化物又はフッ化物は、30よりも大きい原子番号を有する金属の酸化物又はフッ化物である。好適な金属酸化物は、イットリウム、ストロンチウム、バリウム、ジルコニウム、ハフニウム、ニオビウム、タンタル、タングステン、ビスマス、モリブデン、スズ、亜鉛、ランタニド元素(すなわち、端値を含む57~71の範囲の原子番号を有する元素)、セリウム、及びこれらの組み合わせの酸化物である。好適な金属フッ化物は、例えば、三フッ化イットリウム及び三フッ化イッテルビウムである。最も好ましくは、30超72未満の原子番号を有する重金属の酸化物及びフッ化物が、任意に本発明の材料に含められる。放射線不透過性を付与する特に好ましい金属酸化物としては、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化イッテルビウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム、酸化セリウム、及びこれらの組み合わせが挙げられる。重金属酸化物粒子は凝集してもよい。この場合、凝集した粒子の平均直径は200nm以下であることが好ましい。
【0186】
放射線不透過性を上昇させる他の好適な充填剤は、バリウム及びストロンチウムの塩、とりわけ、硫酸ストロンチウム及び硫酸バリウムである。
【0187】
また使用することのできる充填剤としては、ナノサイズシリカなどのナノサイズ充填剤が挙げられる。
【0188】
好適なナノサイズ粒子は、典型的には、5~80nmの範囲の平均粒径を有する。
【0189】
好ましいナノサイズシリカは、製品名NALCO(商標)COLLOIDAL SILICASでNalco Chemical Co.(Naperville,Ill.)から市販されているもの(例えば、好ましいシリカ粒子は、NALCO(商標)製品1040、1042、1050、1060、2327及び2329を使用して得ることができる)、Nissan Chemical America Company,Houston,Texasから市販されているもの(例えば、SNOWTEX-ZL、-OL、-O、-N、-C、-20L、-40及び-50)、株式会社アドマテックス、日本から市販されているもの(例えば、SX009-MIE、SX009-MIF、SC1050-MJM及びSC1050-MLV)、Grace GmbH&Co.KG,Worms,Germanyから市販されているもの(例えば、製品名LUDOX(商標)、例えば、P-W50、P-W30、P-X30、P-T40及びP-T40ASで入手可能なもの)、Akzo Nobel Chemicals GmbH,Leverkusen,Germanyから市販されているもの(例えば、製品名LEVASIL(商標)、例えば、50/50%、100/45%、200/30%、200A/30%、200/40%、200A/40%、300/30%及び500/15%で入手可能なもの)、並びにBayer Material Science AG,Leverkusen,Germanyから市販されているもの(例えば、製品名DISPERCOLL(商標)S、例えば、5005、4510、4020及び3030で入手可能なもの)である。
【0190】
歯科用材料に入れる前にナノサイズシリカ粒子を表面処理することにより、レジン中により安定に分散させることができる。好ましくは、表面処理は、粒子が固化性レジン中に良好に分散されるようにナノサイズ粒子を安定化させ、その結果組成物を実質的に均質にする。更に、シリカを、その表面の少なくとも一部分にわたり表面処理剤で改質し、このようにして、安定化された粒子を、硬化中の固化性レジンと共重合できるか又は別の方法で反応できるようにすることが好ましい。
【0191】
したがって、シリカ粒子及び他の好適な非酸反応性充填剤を、レジン相溶化表面処理剤で処理してもよい。
【0192】
存在する場合、充填剤は、典型的には、パーツのキットの触媒ペーストと基剤ペーストとが組み合わされる場合に得られる歯科用組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、下限:少なくとも1又は少なくとも5又は少なくとも10重量%;上限:最大80又は最大70又は最大60重量%;範囲:1~80又は5~70又は10~60重量%で存在する。
【0193】
歯科用組成物又はパーツのキットのそれぞれのペーストはまた、光開始剤を含んでもよい。
【0194】
光開始剤は、基剤ペースト若しくは触媒ペースト、又は両方のペースト中に存在してもよい。典型的には、光開始剤は、触媒ペースト中に存在する。
【0195】
光開始剤の性質及び構造は、意図した目的が達成不能でない限り、特に限定されない。フリーラジカル重合に好適な光開始剤は、歯科用材料を取り扱う当業者には一般に公知である。
【0196】
光開始剤としては、350nm~500nmの範囲の波長を有する可視光の作用によって、重合性モノマーを重合させることができるものが好ましい。
【0197】
好適な光開始剤は、多くの場合、アルファジ-ケト部分、アントラキノン部分、チオキサントン部分又はベンゾイン部分を含有する。
【0198】
光開始剤の例としては、カンファーキノン、1-フェニルプロパン-1,2-ジオン、ベンジル、ジアセチル、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルジ(2-メトキシエチル)ケタール、4,4’-ジメチルベンジルジメチルケタール、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチル-アミノフェニル)ケトン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノンが挙げられる。
【0199】
アシルホスフィンオキシドを使用することも同様に有用であることが見出された。
【0200】
好適なアシルホスフィンオキシドは以下の式
(R9)2-P(=O)-C(=O)-R10
(式中、各R9は、独立して、アルキル、シクロアルキル、アリール、及びアラルキルなどのヒドロカルビル基であってもよく、そのいずれかがハロ-、アルキル-、若しくはアルコキシ基で置換されていてもよく、又は2つのR9基が結合してリン原子と共に環を形成することができ、R10は、ヒドロカルビル基、S-、O-、若しくはN-含有5若しくは6員複素環式基、又は-Z-C(=O)-P(=O)-(R9)2基であり、Zは2個~6個の炭素原子を有するアルキレン又はフェニレンなどの二価ヒドロカルビル基を表す)
によって特徴付けることができる。
【0201】
好適なシステムはまた、例えば、米国特許第4,737,593号(Ellrichら)に記載されており、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0202】
好ましいアシルホスフィンオキシドは、R9及びR10基が、フェニル、又は低級アルキル-若しくは低級アルコキシ-置換フェニルであるものである。「低級アルキル」及び「低級アルコキシ」は、1個~4個の炭素原子を有するような基を意味する。特に、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドが有用であることが見出された(Lucirin(商標)TPO,BASF)。
【0203】
好適なビスアシルホスフィンオキシドはまた、以下の式:
【化2】
(式中、nは1又は2であり、R
4、R
5、R
6及びR
7は、H、C
1~4アルキル、C
1~4アルコキシル、F、Cl又はBrであり、R
2及びR
3は、同じであるか、又は異なり、シクロヘキシル、シクロペンチル、フェニル、ナフチル、又はビフェニリルラジカル、F、Cl、Br、I、C
1~4アルキル及び/若しくはC
1~4アルコキシルによって置換されたシクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル、ナフチル、若しくはビフェニリルラジカル、又はS若しくはN-含有5員若しくは6員複素環を表し、あるいは、R
2及びR
3は結合して、4個~10個の炭素原子を含有し、1個~6個のC
1~4アルキルラジカルで任意に置換された環を形成する)
によって記述することができる。
【0204】
より具体的な例としては、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-クロロフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,4-ジメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)デシルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-オクチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロ-3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2,6-ジクロロ-3,4,5-トリメトキシベンゾイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メチル-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-4-エトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-4-ビフェニリルホスフィンオキシド、ビス-(2-メトキシ-1-ナフトイル)-2-ナフチルホスフィンオキシド及びビス-(2-クロロ-1-ナフトイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシドが挙げられる。
【0205】
アシルホスフィンオキシドビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(以前はIRGACURE(商標)819,Ciba Specialty Chemicalsとして公知)が好ましい場合がある。
【0206】
存在する場合、光開始剤は、典型的には、パーツのキットの触媒ペーストと基剤ペーストとが組み合わされる場合に得られる歯科用組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、下限:少なくとも0.1又は少なくとも0.2又は少なくとも0.3重量%;上限:最大10又は最大8又は最大6重量%;範囲:0.1~10又は0.2~8又は0.3~6重量%で存在する。
【0207】
使用することのできる染料又は顔料の例としては、二酸化チタン又は硫化亜鉛(リトポン)、赤色酸化鉄3395,Bayferrox(商標)920 Z Yellow、Neazopon(商標)Blue 807(銅フタロシアニン系染料)又はHelio(商標)Fast Yellow ERが挙げられる。これらの添加剤は、歯科用組成物の個々の着色に使用することができる。
【0208】
存在し得る光漂白性着色剤の例としては、ローズベンガル、メチレンバイオレット、メチレンブルー、フルオレセイン、エオシンイエロー、エオシンY、エチルエオシン、エオシンブルーイッシュ、エオシンB、エリトロシンB、エリトロシンイエローイッシュブレンド、トルイジンブルー、4’,5’-ジブロモフルオレセイン、及びこれらのブレンドが挙げられる。光漂白性着色剤の更なる例は、米国特許第6,444,725号に見出すことができる。
【0209】
存在し得るフッ化物放出物質の例としては、天然に存在するか又は合成のフッ化物鉱物が挙げられる。これらのフッ化物源は、任意に、表面処理剤で処理されてもよい。
【0210】
添加することのできる更なる添加剤としては、安定剤、特にフリーラジカルスカベンジャー、例えば、置換及び/又は非置換のヒドロキシ芳香族化合物(例えばブチル化ヒドロキシトルエン(butylated hydroxytoluene、BHT)、ヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル(hydroquinone monomethyl ether、MEHQ)、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシアニソール(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エトキシフェノール)、2,6-ジ-tert-ブチル-4-(ジメチルアミノ)メチルフェノール又は2,5-ジ-tert-ブチルヒドロキノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-t-オクチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン(UV-9)、2-(2’-ヒドロキシ-4’,6’-ジ-tert-ペンチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メタクリルオキシエチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール、及びフェノチアジンが挙げられる。
【0211】
添加することのできる更なる添加剤としては、抑制剤(例えば1,2-ジフェニルエチレン)、可塑剤(ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール、低分子量ポリエステル、フタル酸ジブチル、ジオクチル、ジノニル及びジフェニル、ジ(イソノニルアジペート)、トリクレシルホスフェート、パラフィン油、三酢酸グリセロール、ビスフェノールAジアセテート、エトキシ化ビスフェノールAジアセテート、並びにシリコーン油を含む)、及び香味剤が挙げられる。
【0212】
これらの補助剤又は添加剤は存在する必要はなく、補助剤又は添加剤は全く存在しなくてもよい。しかし、これらが存在する場合、典型的には、意図した目的に有害ではない量で存在する。
【0213】
存在する場合、添加剤は、典型的には、パーツのキットの触媒ペーストと基剤ペーストとが組み合わされる場合に得られる歯科用組成物の重量に対する重量%で、次の量:すなわち、下限:少なくとも0.01重量%又は少なくとも0.05重量%又は少なくとも0.1重量%;上限:最大15重量%又は最大10重量%又は最大5重量%;範囲:0.01重量%~15重量%又は0.05重量%~10重量%又は0.1重量%~5重量%で存在する。
【0214】
本明細書に記載の歯科用組成物は、次の量のそれぞれの成分を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよい:
酸性部分を有しない重合性成分:5~65重量%、
酸性部分を有する重合性成分:2~50重量%、
充填剤:1~80重量%、
レドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセル:0.05~10重量%
レドックス開始剤系の第2の成分:0.01~5重量%、
添加剤:0~10重量%、
重量%は、歯科用組成物に対するものである。
【0215】
別の実施形態では、歯科用組成物は、次の量のそれぞれの成分を含むか、それらから本質的になるか、又はそれらからなってもよい:
酸性部分を有しない重合性成分:20~65重量%、
酸性部分を有する重合性成分:2~20重量%、
充填剤:30~70重量%、
レドックス開始剤系の第1の成分を含むマイクロカプセル:0.1~5重量%
レドックス開始剤系の第2の成分:0.01~5重量%、
添加剤:0~10重量%、
重量%は、歯科用組成物に対するものである。
【0216】
望まない反応を回避するために、酸及び塩基性成分は、保存中に一緒に、特にpH感受性成分を含むマイクロカプセルと一緒に保存されるべきではない。
【0217】
マイクロカプセルはまた、水と一緒に保存されるべきではない。したがって、歯科用組成物が触媒及び基剤ペーストを含むパーツのキットとして提供される場合、マイクロカプセルを含むペーストは、本質的に水を含まない必要がある。
【0218】
更に、相反する反応のリスクを低減するために、歯科用組成物が、炭酸カルシウム充填剤などの追加のpH感受性又は酸反応性材料を本質的に含まないか、又は含有しないことは有利であり得る。
【0219】
本明細書に記載の歯科用組成物は、典型的には、それぞれの成分、すなわち、本明細書に記載の重合性成分及びマイクロカプセルを、充填剤又は添加剤などの他の任意の成分と一緒に組み合わせるか又は混合することによって製造される。
【0220】
混合には混練も含まれる。所望であれば、スピードミキサーを使用することができる。混合される成分に応じて、混合は、調光(save light)条件下で行われる。
【0221】
本明細書に記載の歯科用組成物は、典型的には、パッケージングデバイス内で保存される。
【0222】
歯科用組成物が、触媒ペースト及び基剤ペーストを含むパーツのキットとして提供される場合、ペーストは、別個の密封可能な容器(例えば、プラスチック又はガラスから作製される)に含有されていてもよい。
【0223】
使用のために、医師は、含有されている組成物の適切な分量を容器から取り、その分量を混合プレート上で手で混合することができる。
【0224】
好ましい実施形態によると、触媒ペースト及び基剤ペーストは、保存デバイスの別個のコンパートメントに含有される。
【0225】
保存デバイスは、典型的には、それぞれの部分を保存するための2つのコンパートメントを備え、各コンパートメントには、それぞれの部分を送達するためのノズルが備え付けられている。一旦、適切な分量が送達されたら、次いで、その部分は、混合プレート上で手で混合され得る。
【0226】
別の好ましい実施形態によると、保存デバイスは、静的混合チップを受容するためのインターフェースを有する。混合チップは、それぞれのペーストを混合するために使用される。静的混合チップは、例えばSulzerMixpac companyから市販されている。
【0227】
好適な保存デバイスは、カートリッジ、シリンジ及びチューブを含む。
【0228】
保存デバイスは、典型的には2つのハウジング又はコンパートメントを備え、これは、ノズルを有する前端、及び後端、及びハウジング又はコンパートメント中で移動可能な少なくとも1つのピストンを有する。
【0229】
使用可能なカートリッジは、例えば米国特許出願公開第2007/0090079(A1)号(Keller)、又は米国特許第5,918,772号(Kellerら)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用することのできるカートリッジの一部は、例えば、Sulzer Mixpac AG(Switzerland)から市販されている。使用することのできる静的混合チップは、例えば米国特許出願公開第2006/0187752(A1)号(Keller)、又は米国特許第5,944,419号(Streiff)に記載され、その開示は、参照により組み込まれる。使用することのできる混合チップは、同様に、Sulzer Mixpac AG(Switzerland)から市販されている。
【0230】
他の好適な保存デバイスは、例えば、国際公開第2010/123800号(3M)、国際公開第2005/016783号(3M)、国際公開第2007/104037号(3M)、国際公開第2009/061884号(3M)(特に、国際公開第2009/061884号(3M)の
図14に示されるデバイス)又は国際公開第2015/073246号(3M)(特に、国際公開第2015/07346号の
図1に示されるデバイス)に記載されている。これらの保存デバイスは、シリンジの形状を有する。これらの参考文献の内容は、同様に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0231】
あるいは、それほど好ましくはないが、本明細書に記載のペースト/ペースト組成物は、2つの個々のシリンジ中で提供され得、その個々のペーストは、使用前に手で混合されてもよい。
【0232】
したがって、本発明はまた、本明細書に記載のパーツのキットを保存するためのデバイスであって、デバイスは2つのコンパートメント、コンパートメントA及びコンパートメントBを備え、コンパートメントAは触媒ペーストを含有し、コンパートメントBは基剤ペーストを含有し、触媒ペースト及び基剤ペーストは本明細書に記載の通りのものであり、コンパートメントA及びコンパートメントBの両方が、ノズル又は静的混合チップのエントランスオリフィスを受容するためのインターフェースを備える、デバイスを対象とする。
【0233】
基剤ペーストと触媒基剤ペーストとの混合比は、典型的には、体積比で3:1~1:3、好ましくは2:1~1:2、より好ましくは1:1である。
【0234】
本明細書に記載のマイクロカプセルは、硬化性成分及びレドックス開始剤系を含む硬化性組成物の製造に特に有用である。
【0235】
一実施形態によると、硬化性組成物は、歯科用又は歯科矯正用組成物である。
【0236】
一実施形態によると、硬化性組成物は、歯科用又は歯科矯正用セメント、接着剤又は充填材料である。
【0237】
本明細書に記載のマイクロカプセルは、2つのペースト、基剤ペースト及び触媒ペーストを組み合わせることによって得られる硬化性組成物の製造に特に有用であり、ペーストのうちの一方は、本明細書に記載のマイクロカプセルを含有し、他方のペーストは酸性成分を含有する。
【0238】
2つのペーストを混合するとき、酸性成分を含有するペーストはマイクロカプセルと接触する。接触すると、マイクロカプセルは軟弱化する。これにより、レドックス開始剤系の成分がマイクロカプセルからより容易に放出されることが可能になる。
【0239】
自己接着性歯科用材料は、通常、酸性ペーストを含有するので、このペーストの酸性度は、マイクロカプセルを軟弱化するためのトリガーとして使用され得る。
【0240】
本発明はまた、歯科用硬化性組成物を硬化させる方法に関する。
【0241】
そのような方法は、以下の工程を含む:本明細書に記載のマイクロカプセルを含む触媒ペースト及び酸性又は塩基性成分を含む基剤ペーストを提供する。
【0242】
マイクロカプセルは、放出される成分として、レドックス開始剤系の第1の成分を含有する。
【0243】
触媒ペースト若しくは基剤ペーストのいずれか、又は触媒ペースト及び基剤ペーストは、硬化性成分、及びレドックス開始剤系の第2の成分を含む。
【0244】
開始剤系を形成するレドックス開始剤系の第1及び第2の成分は、硬化性成分の硬化を開始することができる。
【0245】
触媒ペースト及び基剤ペーストを混合する。
【0246】
基剤ペーストに含まれる酸性成分は、マイクロカプセルを溶解又は軟弱化させ、その結果、マイクロカプセルに含有されているレドックス開始剤成分の放出をもたらす。
【0247】
互いに接触させると、レドックス開始剤成分は、硬化性組成物の硬化性成分の硬化を開始する。
【0248】
本発明はまた、患者の口腔内の歯牙を修復する方法において使用するための、本明細書に記載の歯科用組成物であって、方法は、
本明細書に記載の基剤ペースト及び触媒ペーストを含むパーツのキットの形態の歯科用組成物を提供する工程と、
基剤ペーストと触媒ペーストとを混合する工程と、
混合物を、修復されるべく準備された歯の表面に適用する工程とを含む、歯科用組成物を対象とする。
【0249】
更なる好適な実施形態を以下に記載する。
【0250】
一実施形態によると、パーツのキットは、以下の通り特徴付けられる:
触媒ペーストが、
還元成分、好ましくはアスコルビン酸成分を含む本明細書に記載のマイクロカプセル、
硬化性非酸性(メタ)アクリレート成分、
充填剤
を含み、
基剤ペーストが、
酸性成分、好ましくは酸性部分を含む重合性成分、
硬化性(メタ)アクリレート成分、
充填剤、
酸化成分
を含み、
還元成分及び酸化剤が、硬化性(メタ)アクリレート成分を硬化させるためのレドックス開始剤系を形成する。
【0251】
別の実施形態によると、パーツのキットは、以下の通り特徴付けられる:
触媒ペーストが、
酸化成分、好ましくは過酸化物部分を含む成分を含む、本明細書に記載のマイクロカプセル、
硬化性非酸性(メタ)アクリレート成分、
充填剤
を含み、
基剤ペーストが、
酸性成分、好ましくは酸性部分を含む重合性成分、
硬化性(メタ)アクリレート成分、
充填剤、
還元成分
を含み、
還元成分及び酸化剤が、硬化性(メタ)アクリレート成分を硬化させるためのレドックス開始剤系を形成する。
【0252】
本発明はまた、本明細書に記載の歯科用組成物と以下のパーツ:
歯科用修復物を機械加工するための歯科用ミリングブロック、
歯科用接着剤、
の単独又は組み合わせとを含むパーツのキットを対象とする。
【0253】
好適な歯科用ミリングブロックは、典型的には、相安定化成分としてのイットリア及び着色成分を含有する多孔質ジルコニア材料を含む。歯科用ミリングブロックの例は、米国特許出願公開第2017/020639号(Jahnsら)、米国特許出願公開第2015/238291(A1)号(Hauptmannら)に記載されている。
【0254】
好適な歯科用接着剤は、かなり低い粘度(例えば、23℃で0.01~3Pa*s)を有する酸性歯科用組成物である。歯科用接着剤は、歯のエナメル質又は象牙質表面と直接相互作用する。歯科用接着剤は、典型的には一剤型組成物であり、放射線硬化性であり、酸性部分を有するエチレン性不飽和成分、酸性部分を有しないエチレン性不飽和成分、水、増感剤、還元剤及び添加剤を含む。歯科用接着剤の例は、米国特許出願公開第2020/0069532(A1)号(Thalackerら)及び米国特許出願公開第2017/0065495(A1)号(Eckertら)、米国特許出願公開第2019/231494(A1)号(Dittmannら)に記載されている。
【0255】
したがって、パーツのキットは、欠損した歯を修復するための方法において一緒に使用することのできるパーツ又は成分を含有する。
【0256】
歯科用ミリングブロックは、歯科用修復物を機械加工するために使用され、歯科用接着剤は、修復されるべく歯の表面を処理するために使用され、本明細書に記載の歯科用組成物は、歯科用ミリングブロックから機械加工された歯科用修復物を接着するために使用される。
【0257】
本明細書に引用した特許、特許文献、及び刊行物の全開示は、それぞれが個別に組み込まれたかのごとく、それらの全体が参照により組み込まれる。本発明に対する様々な改変及び変更が、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、当業者には明らかとなるであろう。上述の明細書、例及びデータは、本発明の組成物の製造及び使用並びに方法の説明を提供するものである。本発明は、本明細書に開示された実施形態には限定されない。当業者であれば、本発明の多くの代替的実施形態が、本発明の趣旨及び範囲を逸脱することなく実施できることを理解するであろう。
【0258】
以下の実施例は、本発明を例示するために与えられる。
【実施例】
【0259】
特に指示がない限り、全ての部及び百分率は重量基準であり、全ての水は脱イオン水であり、全ての分子量は重量平均分子量である。更に、特に指示のない限り、全ての実験は周囲条件(23℃、1013mbar)で実施した。
【0260】
方法
走査型電子顕微鏡法(SEM)
所望であれば、マイクロカプセルの粒径及び形状は、例えば、デバイスJSM 5400(日立)を使用して、SEMによって更に分析及び決定することができる。
【0261】
光散乱
所望であれば、粒径分布は、例えば、デバイスHoriba(堀場製作所、日本)を使用して、光散乱によって決定することができる。光散乱型粒径測定装置は、レーザーで試料を照射し、粒子から散乱された光の強度変動を173度の角度で解析する。粒径を計算するため、器具による光子相関分光法(Photon Correlation Spectroscopy、PCS)の方法を用いることができる。PCSは、液体中の粒子のブラウン運動を測定するために、変動する光の強度を用いる。次に、粒径を、測定された速度で移動する球体の直径であるとして計算する。粒子によって散乱される光の強度は、粒子直径の6乗に比例する。Z平均粒径又はキュムラント平均は、強度分布から計算される平均であり、計算は、粒子が単峰性、単分散性、及び球状であるという仮定に基づく。変動する光の強度から計算される関連する関数は、強度分布及びその平均である。強度分布の平均は、粒子が球状であるという仮定に基づき計算される。Z平均粒径及び強度分布平均の双方とも、より小さい粒子に対するよりも、より大きな粒子に対して、感度が高い。
【0262】
体積分布は、所与のサイズ範囲内の粒子に相当する粒子の総体積の百分率を示す。体積平均粒径は、体積分布の平均に相当する粒径である。粒子の体積は直径の3乗に比例するため、この分布は、より大きな粒子に対しては、Z平均粒径よりも感度が低い。したがって、体積平均は、典型的には、Z平均粒径よりも小さい値である。この文献の範囲では、Z平均粒径は、「平均粒径」と称される。
【0263】
pH値
所望であれば、pH値を次のように決定することができる:成分(例えば、充填剤)1.0gを脱イオン水10ml中に分散させて、約5分間撹拌する。校正されたpH電極を懸濁液中に浸し、撹拌中にpH値を決定する。
【0264】
元素組成
所望であれば、元素組成を、蛍光X線分光計(X-ray fluorescence spectrometry、XRF)により、例えば、日本の株式会社リガク製のZSX Primus IIを用いて測定することができる。この方法は、固体、例えば、ジルコニアセラミック又はガラス材料の分析に特に適している。
【0265】
機械的安定性
所望であれば、マイクロカプセルの機械的安定性を次のように決定することができる:分析されるマイクロカプセルにSudan blue II(青色を有する染料)を充填する。次いで、ペーストを、例えば、以下の組成物を使用して調製する:18重量%のTEGDMA、20重量%のUDMA、52.02重量%のガラス充填剤、8.0重量%のヒュームドシリカ、0.1重量%のIC 819、0.46重量%のコーティングされた充填マイクロカプセル。組成物を、市販のスピードミキサー(例えば、SpeedMixer(商標)DAC 150 SP;Hauschild,Germany)を使用し、3×90秒、2500RPM、及び3×20秒、3500RPMの条件を適用して混合し、各混合工程後に室温に冷却する。
【0266】
この組成物から、光硬化ディスクを調製する:700mgのペーストを、透明フィルムで被覆されたスライドガラス同士の間に配置された円筒型成形型(直径15mm、高さ1.5mm)に充填する。このサンドイッチ状構造体を、両側から、Elipar(商標)S10光硬化デバイス(3M Oral Care)を使用して、20秒間(光ガイドなし)照射する。
【0267】
次いで、試験片を成形型から取り出し、真空のVisio(商標)Beta Vario光オーブン(3M Oral Care)に7分間入れて、試料を完全に光硬化させる。
【0268】
次いで、L*a*b*色座標を決定する。b*値が正である場合、青色のSudan Blue IIは、明らかに、ペースト及びディスク調製中にマイクロカプセルから放出されなかった。これは、試験されたマイクロカプセルが機械的に安定であることを示す。b*値が負である場合、青色のSudan Blue IIは、明らかに、ペースト及びディスク調製中にマイクロカプセルから放出された。これは、試験されたマイクロカプセルが機械的に安定ではないことを示す。
【0269】
水溶性
所望であれば、物質の水溶性を、0.1gの試験される成分を100gの水(23℃)に添加し、組成物を10分間撹拌することによって決定することができる。成分が完全に溶解される場合、水溶性は、水100ml当たり少なくとも0.1gである。
【0270】
加工時間及び凝結時間の決定
28℃の温度で直径8mmのプレート/プレート形状を有するPhysica MCR 301レオメーター(Anton Paar,Graz,Austria)を使用した。100mgのペーストAXを、スパチュラの補助により混合パッド上で20秒間、100mgのペーストB1(混合比1.0:1.0w/w)と手で混合した。次いで、混合物をプレートの間に適用し、ギャップを0.75mmに設定した。周波数は1.25Hzであり、振動は1.75%の偏向であった。
【0271】
加工時間(Ta)は、混合開始からG’とG’’との交点に達する時間までの時間として定義される。凝結時間(Tf)は、混合開始から混合ペーストが100,000Paの剪断応力に達する時間までの時間として定義される。
【0272】
【0273】
パルミチン酸アスコルビル粒子をコーティングする方法
200gの蒸留水に、10gの重炭酸ナトリウム(あるいは重炭酸カリウム、重炭酸アンモニウム又は任意の他の一価カチオンの重炭酸塩)、20gの炭酸ナトリウム(あるいは炭酸カリウム、炭酸アンモニウム又は任意の他の一価カチオンの炭酸水素塩)、200mgのSURF、10gのASPを添加した。
【0274】
高剪断回転ブレンダー(IKA T50 Ultra Turrax(商標))を用いて混合物を3分間ブレンドした。ブレンドした混合物を20℃で15分間維持した。次いで、混合物を4,000RPMで3分間遠心分離した。上清を廃棄し、沈殿した部分を50gの28%酢酸カルシウム水溶液に移した。次いで、混合物を約3分間ブレンドした(混合装置:IKA T50 Ultra Turrax)。次いで、ブレンドした分散液を室温(20℃)で約15分間静置した。次いで、これを4,000rpmで3分間遠心分離した。上清を廃棄した。沈殿した部分を蒸留水に再懸濁し、濾過した。得られた固形物を空気乾燥し、次いで真空乾燥した。
【0275】
組成物
全てのペーストAXは、それぞれの化合物を秤量することによって調製した。
【0276】
表2に示すペーストの組成物を、市販のSpeedMixer(商標)DAC 150 SP(Hauschild,Germany)を使用し、3×90秒、2500RPM、及び3×20秒、3500RPMを適用することにより混合した(各混合工程後に室温に冷却した)。
【表2】
【0277】
ペーストB1を、表3に示すそれぞれの化合物を秤量することによって調製した。次いで、混合物を、市販のSpeedMixer(商標)DAC 150 SP(Hauschild,Germany)を使用し、3×90秒、2500RPM、及び2×60秒、3500RPMを適用することにより混合した(各混合工程後に室温に冷却した)。
【表3】
【0278】
表4に示すように、異なるパーツのキットを提供した(実施例1~12)。ペーストA1及びA2を、室温(23℃)、36℃又は50℃で、列挙した保存時間で保存した。ペーストB1は室温(23℃)で保存した。
【表4】
【0279】
実施例1~12の組成物の加工時間及び凝結時間を、上記の保存時間及び温度に基づいて決定した。結果を表5に示す。
【表5】
【0280】
ペーストA1及びA2をペーストB1と混合した後に得られた組成物は、所望の範囲内で非常に類似した加工時間及び凝結時間を示した(実施例1及び7)。
【0281】
レドックス開始剤系の非水溶性成分を含有するペーストA1は、50℃で4週間後に加工時間及び凝結時間の減少を示し(実施例6)、レドックス開始剤系の成分のいくらかの分解を示した。
【0282】
レドックス開始剤系の封入された非水溶性成分を含有するペーストA2は、50℃で6週間後であっても、加工時間及び凝結時間のごくわずかな減少を示した(実施例12)。
【0283】
したがって、本明細書に記載のマイクロカプセルを使用することは、混合プロセスに耐えるのに十分に安定になるだけではなく、ペースト中のレドックス開始剤成分の貯蔵寿命安定性を増加させるのにも役立つ。
【0284】
更に、架橋ポリマー材料を含むマイクロカプセルに封入されたレドックス開始剤成分を含有する硬化性組成物の加工時間及び凝結時間は、より広い範囲で変動する可能性があり、その結果、硬化挙動の予測可能性が低くなり得ることが見出された。
【0285】
例えば、米国特許出願公開第2020/368117(A1)号(Claussenら)に記載されているマイクロカプセルと比較して、本明細書に記載されているマイクロカプセルは、レドックス開始剤系の第1の成分のより高い充填を可能にする。所望であれば、充填容量は、重量で最大約5又は4又は3倍増加させることができる。したがって、同量のレドックス開始剤系を有する歯科用組成物を提供するために必要とされるマイクロカプセルの量はより少なくなる。
【国際調査報告】