(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】平版印刷版原版および使用方法
(51)【国際特許分類】
B41N 1/14 20060101AFI20231213BHJP
B41C 1/10 20060101ALI20231213BHJP
G03F 7/00 20060101ALI20231213BHJP
G03F 7/11 20060101ALI20231213BHJP
G03F 7/09 20060101ALI20231213BHJP
G03F 7/027 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B41N1/14
B41C1/10
G03F7/00 503
G03F7/11 503
G03F7/09
G03F7/027
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534017
(86)(22)【出願日】2021-11-18
(85)【翻訳文提出日】2023-06-02
(86)【国際出願番号】 US2021059804
(87)【国際公開番号】W WO2022119719
(87)【国際公開日】2022-06-09
(32)【優先日】2020-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】590000846
【氏名又は名称】イーストマン コダック カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】オリヴァー・メルカ
(72)【発明者】
【氏名】宮本 靖
【テーマコード(参考)】
2H084
2H114
2H196
2H225
【Fターム(参考)】
2H084AA30
2H084AA32
2H084BB02
2H084CC05
2H114AA04
2H114AA23
2H114AA27
2H114AA28
2H114AA30
2H114BA10
2H114DA04
2H114GA08
2H114GA09
2H196AA06
2H196BA05
2H196BA06
2H196CA03
2H196CA05
2H196DA01
2H196EA04
2H196GA60
2H196HA01
2H225AC37
2H225AD20
2H225AM04P
2H225AM10N
2H225AM10P
2H225AM13P
2H225AM26P
2H225AM32N
2H225AM36P
2H225AM57N
2H225AM66P
2H225AM72N
2H225AM86P
2H225AM94P
2H225AN38P
2H225AN66P
2H225AN92P
2H225AP01N
2H225BA12P
2H225BA18P
2H225BA33P
2H225BA34N
2H225CA04
2H225CB01
2H225CC01
2H225CC13
2H225CD09
(57)【要約】
平版印刷版原版は、2つの別個の陽極酸化プロセスを使用して製造された独自のアルミニウム含有基板を用いて製造され、平均乾燥厚さ(Ti)が300~3,000nmであり、平均内側細孔径(Di)が100nm以下である多数の内側細孔の内側酸化アルミニウム層を与える。外側酸化アルミニウム層もまた、平均外側細孔径(Do)が15~30nmである多数の外側細孔を有し、乾燥厚さ(To)が30~650nmであるように与えられる。0.0002~0.1g/m2で外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層は、アミド基を有する(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とからなる親水性コポリマーを少なくとも有し、ここで、Mは、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版原版であって、
平面を有する基板と、
前記基板の前記平面上に配置された機上現像可能な放射感受性画像形成可能層とを含み、
前記基板が、
粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板と、
前記粒状化されエッチングされた平面上に配置された内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(T
i)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層と、
前記内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(T
o)を有する、外側酸化アルミニウム層と、
少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量で前記外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層であって、1種以上の親水性ポリマーを含み、前記親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド基を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す、親水性層と
を含む、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも500個の細孔/μm
2~3,000個の細孔/μm
2以下の細孔密度(C
o)を有し、0.3以上0.8以下の多孔度(P
o)を有し、ここで、P
oが3.14(C
o)(D
o
2)/4,000,000であると定義される、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも130nmの平均乾燥厚さ(T
o)を有し、前記外側酸化アルミニウム層が、前記内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、前記内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(T
i)が少なくとも650nmであり、平均内側細孔径(D
i)が15nm未満であり、かつ平均外側細孔径(D
o)よりも小さい、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記基板が、前記内側酸化アルミニウム層と前記外側酸化アルミニウム層との間に配置された中間酸化アルミニウム層をさらに含み、前記中間酸化アルミニウム層が、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚さ(T
m)を有し、少なくとも20nm~60nm以下の平均中間細孔径(D
m)を有する多数の中間細孔を含み、D
mがD
oよりも大きく、D
oがD
iよりも大きく、前記外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(T
o)が150nm未満である、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記外側酸化アルミニウム層が、前記内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、前記内側酸化アルミニウム層の平均細孔径(D
i)が少なくとも20nmであり、前記外側酸化アルミニウム層の平均細孔径(D
o)よりも大きい、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
すべて前記親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、前記(a)繰り返し単位が、少なくとも60mol%~97mol%以下の量で前記コポリマー中に存在し、前記(b)繰り返し単位が、少なくとも3mol%~40mol%以下の量で前記コポリマー中に存在する、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、
(b)前記放射感受性画像形成可能層が画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、
(c)1種以上の放射吸収剤、ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダー
を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
P
oが0.3以上0.6以下である、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
前記親水性層中の前記親水性コポリマーが、メタクリルアミドおよびアクリルアミドのうち1つ以上に少なくとも由来する前記(a)繰り返し単位と、少なくともビニルホスホン酸に由来する前記(b)繰り返し単位とを含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項10】
前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、赤外線に感受性であり、1種以上の赤外線吸収剤を含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項11】
前記機上現像可能なネガ型放射感受性層が、粒子形態である前記(d)ポリマーバインダーをさらに含む、請求項7に記載の平版印刷版原版。
【請求項12】
前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層上に配置された親水性オーバーコートをさらに含む、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項13】
前記機上現像可能な放射感受性層が赤外線感受性であり、2種以上のフリーラジカル重合性成分を含む、請求項7に記載の平版印刷版原版。
【請求項14】
平版印刷版を提供する方法であって、
請求項1に記載の平版印刷版原版を画像形成放射に像様露光して、露光領域および未露光領域を有する像様露光された画像形成可能層を形成する工程と、
前記像様露光された画像形成可能層から前記未露光領域を機上で除去して、平版印刷版を形成する工程と
を含む、方法。
【請求項15】
前記像様露光された画像形成可能層中の前記未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または前記平版印刷インキと前記湿し水の両方を使用して機上で除去される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記像様露光が赤外線を使用して行われる、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記像様露光が赤外線を使用して機外で行われ、前記像様露光された画像形成可能層中の前記未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または前記平版印刷インキと前記湿し水の両方を使用して機上で除去される、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
平版印刷版原版の製造方法であって、
電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板を準備する工程と、
前記アルミニウム含有板を第1の陽極酸化プロセスに供して、前記電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(T
o)を有する、第1の陽極酸化プロセスに供する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
前記アルミニウム含有板を第2の陽極酸化プロセスに供して、前記外側酸化アルミニウム層の下に内側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記内側酸化アルミニウム層が、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(T
i)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含む、第2の陽極酸化プロセスに供する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層および前記内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
前記外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層および前記内側酸化アルミニウム層をすすいだ後であって、前記外側酸化アルミニウム層上に前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する前に、前記外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設ける工程であって、前記親水性層が、1種以上の親水性ポリマーを含み、前記親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド単位を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表し、前記親水性層が、少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量で前記外側酸化アルミニウム層上に配置される、親水性層を設ける工程と
を順に含む、方法。
【請求項19】
前記機上現像可能な放射感受性層が赤外線感受性でありネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、
(b)前記放射感受性画像形成可能層が画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、
(c)1種以上の放射吸収剤、ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダー
を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記親水性層中の前記親水性コポリマーが、メタクリルアミドおよびアクリルアミドのうち1つ以上に少なくとも由来する前記(a)繰り返し単位と、少なくともビニルホスホン酸に由来する前記(b)繰り返し単位とを含み、すべて前記親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、前記(a)繰り返し単位が、少なくとも60mol%~97mol%以下の量で前記親水性コポリマー中に存在し、前記(b)繰り返し単位が、少なくとも3mol%~40mol%以下の量で前記親水性コポリマー中に存在する、請求項18に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明のアルミニウム含有基板を含む平版印刷版原版に関し、該アルミニウム含有基板は、異なる構造特性を有する異なる酸化アルミニウム層を提供するための少なくとも2つの別個の陽極酸化プロセスを使用して製造され、少なくとも1種の独自の親水性コポリマーを含む親水性層を有する。本発明はまた、このような平版印刷版原版を画像形成および加工に供して平版印刷版を提供する方法に関し、さらに、このような原版の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
平版印刷では、画像領域として知られる平版インキ受容領域が、基板の親水性平面上に生成される。印刷版表面を水で湿らせて平版印刷インキを塗布すると、親水性領域は水を保持して平版印刷インキをはじき、平版インキ受容画像領域は平版印刷インキを受容して水をはじく。平版印刷インキは、平版印刷版から画像が再生される材料の表面に、おそらくブランケットローラーを使用して転写される。
【0003】
平版印刷版の製造に使用される画像形成可能な要素、すなわち平版印刷版原版は、典型的には、基板の最外層の親水性表面上に配置された1つ以上の放射感受性画像形成可能層を含む。該放射感受性画像形成可能層は、ポリマーバインダー材料中に一緒に分散し得るか、またはポリマーバインダー材料中にある1種以上の放射感受性成分を含む。あるいは、放射感受性成分がポリマーバインダー材料としても機能するか、またはポリマーバインダー材料を形成し得る。画像形成に続いて、1つ以上の放射感受性層の露光領域(画像形成された領域)または未露光領域(画像形成されない領域)のいずれかが適切な現像剤を使用して除去され、基板の最も外側にある親水性表面が露出し得る。露光領域が除去可能である場合、平版印刷版原版は、ポジ型であると見なされる。逆に、未露光領域が除去可能である場合、平版印刷版原版は、ネガ型であると見なされる。
【0004】
平版印刷版原版の直接デジタル熱画像形成は、これらの原版の周囲光に対する安定性のために、過去30年間に印刷業界においてますます重要になってきている。このような原版は、少なくとも750nmの近赤外線での画像形成に感受性であるように設計されてきた。しかしながら、他の非常に有用な平版印刷版原版は、少なくとも250nmのUVまたは「紫色」放射を用いたデジタル画像形成に感受性であるように依然として設計されている。
【0005】
平版印刷版を製造するのに有用なネガ型平版印刷版原版は、典型的には、基板の親水性表面上に配置されたネガ型放射感受性画像形成可能層を含む。ネガ型平版印刷版原版に使用される放射感受性光重合性組成物は、典型的には、フリーラジカル重合性成分、1種以上の放射吸収剤、開始剤組成物、および場合により上記した他の成分とは異なる1種以上のポリマーバインダーを含む。
【0006】
近年、当業界では、平版印刷版の製造プロセスの簡素化に重点が置かれてきており、これらとしては、現像前の加熱工程(予熱)の省略や、平版印刷インキ、湿し水、またはその両方を使用して機上現像(DOP)を実施して、平版印刷版原版上の不要な(未露光の)画像形成可能層材料を除去することが挙げられる。このようなネガ型平版印刷版原版は、最適な印刷寿命、機上現像性、および耐擦傷性を達成するために、要素構造において多くの特徴のバランスを取ることによって設計しなければならない。1つまたは2つの特性において最適なレベルを提供し得る化学組成または構造的特徴が別の特性において損失を引き起こし得るため、これらの特性のすべてにおいて高品質を達成することは容易な課題ではなかった。
【0007】
平版印刷版原版の種類とは無関係に、平版印刷は、一般に、アルミニウムまたは様々な金属組成のアルミニウム合金を含む金属含有基板、例えばこの目的のために当該技術分野で既知の他の金属のうち1種以上を最大10重量%含む金属含有基板を使用して行われてきた。原材料のアルミニウム含有材料は、原材料のアルミニウム含有材料の平面上の油脂および他の混入物を除去するために、塩基溶液または界面活性剤溶液を使用する「予備エッチング」プロセスで洗浄され得る。次いで、洗浄された平面は、一般に、電気化学的または機械的粒状化によって粗面化され、続いて「ポストエッチング」処理が行われて粒状化プロセス中に形成された混入物(「スマット」)があれば除去される。平版印刷版原版のための有用な基板の製造のさらなる工業的詳細は、米国特許出願公開第2014/0047993 A1号明細書(Hauckら)に見出される。
【0008】
さらなるすすぎの後、アルミニウム含有基板の平面は、次いで1回以上陽極酸化されて最外層の親水性酸化アルミニウムコーティングが提供されるが、これは、1つ以上の画像形成可能層が上層に形成された時点での、得られた平版印刷版原版の耐摩耗性およびその他の特性のためのものである。
【0009】
例えば、米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschnikら)、米国特許第8,783,179号明細書(Kurokawaら)、米国特許出願公開第2011/0265673号明細書(Tagawaら)、米国特許出願公開第2012/0192742号明細書(Kurokawaら)、米国特許出願公開第2014/0326151号明細書(Nambaら)、および米国特許出願公開第2015/0135979号明細書(Tagawaら)、ならびに欧州特許第2,353,882 A1号明細書(Tagawaら)に記載されているように、いくつかの既知の原版基板の製造方法では、1つ以上の陽極酸化プロセスが使用される。
【0010】
これらの既知の原版基板の製造方法では、特定の構造の1つ以上の陽極(酸化アルミニウム)層を製造し、それにより得られる原版において特定の特性を達成するために、様々なプロセスパラメータと組み合わせて硫酸、リン酸、または硫酸とリン酸の両方が電解質として使用されてきた。しかしながら、これらの既知の方法に従って製造された平版印刷版原版は、耐擦傷性、機上現像性、印刷寿命、およびリスタートトーニング(RST)などの1つ以上の原版特性において依然として不十分であることが分かった。
【0011】
加工化学物質や平版印刷版の製造プロセス中に生成される廃棄物の有害な影響のために、インキおよび/または湿し水を使用して機上で現像することができる平版印刷版原版は、業界で著しく人気が高まっている。市販されているこの種の初期の平版印刷版原版は、典型的には、印刷必要数が10万刷未満の印刷用途に制限されていた。このような制限は、安定した機上現像と良好な画像耐久性の両方を達成することが技術的に困難であったことの結果であった。
【0012】
当該技術分野の進歩は、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(Merkaら)として公開され、米国特許第10,828,884号明細書として発行された、同一出願人による米国特許第15/447,651号明細書(上記)、および米国特許出願公開第2019/0016110号明細書として先に公開された、同一出願人による米国特許第10,363,734号明細書(Merkaら)に記載されている独自に陽極酸化された基板を有する。
【0013】
より最近では、多層陽極酸化物構造を有するアルミニウム含有基板、例えばこれらの刊行物に記載されているような基板が開発された。機上現像可能な画像形成可能層を有する機上現像可能な平版印刷版原版のためのこのような基板は、安定した機上現像性を維持しながら、画像耐久性(良好な印刷寿命)を示す。このような機上現像可能な平版印刷版原版においては、親水性下塗り層が、機上現像可能な画像形成可能層と多層陽極酸化アルミニウム構造体との間に配置され得る。
【0014】
この親水性下塗り層に含まれる典型的なポリマーは、部分中和ポリアクリル酸である。しかしながら、このような機上現像可能な平版印刷版原版から製造された平版印刷版は、不十分な「リスタートトーニング」(以下、「RST」として特定される)として知られる問題を抱えることがあることが示されてきた。この問題においては、様々な理由で印刷が中断または停止した後に平版印刷動作が再開されると、背景がインキ感受性になり、汚れがなくなるのに多くの刷数が必要になる。
【0015】
したがって、印刷中断後に容易に再開することができる平版印刷版を提供する必要性が依然としてあり、それにより、上記のリスタートトーニングの問題が軽減または排除される。このような平版印刷版が、長い印刷寿命および機上現像性を犠牲にすることなく、機上現像可能なネガ型平版印刷版原版から製造されることが特に望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許出願公開第2014/0047993 A1号明細書(Hauckら)
【特許文献2】米国特許第4,566,952号明細書(Sprintschnikら)
【特許文献3】米国特許第8,783,179号明細書(Kurokawaら)
【特許文献4】米国特許出願公開第2011/0265673号明細書(Tagawaら)
【特許文献5】米国特許出願公開第2012/0192742号明細書(Kurokawaら)
【特許文献6】米国特許出願公開第2014/0326151号明細書(Nambaら)
【特許文献7】米国特許出願公開第2015/0135979号明細書(Tagawaら)
【特許文献8】欧州特許第2,353,882 A1号明細書(Tagawaら)
【特許文献9】米国特許第15/447,651号明細書
【特許文献10】米国特許第10,363,734号明細書(Merkaら)
【発明の概要】
【0017】
本発明は、平版印刷版原版であって、
平面を有する基板と、
基板の平面上に配置された機上現像可能な放射感受性画像形成可能層とを含み、
基板が、
粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板と、
粒状化されエッチングされた平面上に配置された内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層と、
内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有する、外側酸化アルミニウム層と、
少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層であって、1種以上の親水性ポリマーを含み、親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド基を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す、親水性層と
を含む、平版印刷版原版を提供する。
【0018】
さらに、本発明は、平版印刷版を提供する方法であって、
本発明のいずれかの実施形態に記載の平版印刷版原版を画像形成放射に像様露光して、露光領域および未露光領域を有する像様露光された画像形成可能層を形成する工程と、
像様露光された画像形成可能層から未露光領域を機上で除去して、平版印刷版を形成する工程と
を含む、方法を提供する。
【0019】
さらに、本発明は、平版印刷版原版の製造方法であって、
電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板を準備する工程と、
アルミニウム含有板を第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側酸化アルミニウム層が、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有する、第1の陽極酸化プロセスに供する工程と、
外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
アルミニウム含有板を第2の陽極酸化プロセスに供して、外側酸化アルミニウム層の下に内側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、内側酸化アルミニウム層が、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、第2の陽極酸化プロセスに供する工程と、
外側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する工程と、
外側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層をすすいだ後であって、外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する前に、外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設ける工程であって、親水性層が、1種以上の親水性ポリマーを含み、親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド単位を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表し、親水性層が、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側酸化アルミニウム層上に配置される、親水性層を設ける工程と
を順に含む、方法を提供する。
【0020】
上述のリスタートトーニング(RST)の問題は、多層陽極酸化アルミニウム構造体上に独自の親水性下塗り層を設けて、本発明の機上現像可能な平版印刷版原版を形成することによって対処されてきた。このような親水性下塗り層は、少なくとも1種の親水性コポリマーを含み、該コポリマーは、アミド基を有する(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位の少なくとも両方からなる少なくとも1種の親水性コポリマーを含み、ここで、「M」は、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子である。親水性下塗り層の製造に使用される、親水性コポリマーを含む材料の具体的な詳細を以下に示す。RSTの顕著な改善が、許容可能な耐擦傷性、機上現像性、および長い印刷寿命を維持しながら達成される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の考察は、本発明の様々な実施形態を対象としており、いくつかの実施形態は特定の用途に望ましい可能性があるが、開示された実施形態は、以下に特許請求されるような本発明の範囲を限定すると解釈されたり、あるいは見なされたりするべきではない。さらに、当業者であれば、以下の開示が、明示的に記載されているよりも、またいかなる実施形態の考察よりも広い用途を有することを理解するであろう。
【0022】
定義
放射感受性画像形成可能層配合物(および得られる乾燥層)、加工溶液、陽極酸化溶液、親水性層配合物(および得られる乾燥層)の様々な成分、ならびに本発明の実施に使用される他の材料を定義するために本明細書で使用される場合、別段の指示がない限り、単数形「a」、「an」、および「the」は、該成分を1つ以上含む(すなわち、複数の指示対象を含む)ことを意図する。
【0023】
本出願において明示的に定義されていない各用語は、当業者によって一般に受け入れられる意味を有すると理解されるべきである。ある用語の解釈がその文脈において該用語を無意味または本質的に無意味にする場合、その用語は標準的な辞書に記載の意味を有すると解釈すべきである。
【0024】
本明細書に明記する様々な範囲内の数値の使用は、別段の明示的な指示がない限り、記載された範囲内の最小値および最大値の両方の前に「約」という語が付されたものとして近似であると見なされる。このように、記載された範囲の上下のわずかな変動は、その範囲内の値と実質的に同じ結果を達成するのに有用であり得る。さらに、これらの範囲の開示は、最小値と最大値との間のすべての値、および範囲の終点を含む連続的な範囲であると意図されている。
【0025】
文脈上そうでないことが示されない限り、本明細書で使用される場合、「ネガ型放射感受性平版印刷版原版」、「ポジ型放射感受性平版印刷版」、「原版」、「放射感受性原版」、および「平版印刷版原版」という用語は、本発明の特定の実施形態に等しく言及することを意図する。
【0026】
「支持体」という用語は、以下により詳細に記載するように、その後に処理して「基板」を製造することができるアルミニウム含有材料または他の金属含有材料(シート、ウェブ、小片、シート、箔、または他の形態)を指すために本明細書において使用される。
【0027】
ナノメートル(nm)単位の平均外側細孔径(Do)は、場合により存在する親水性層および1つ以上の放射感受性画像形成可能層の塗布前に、基板表面から撮影した少なくとも50,000Xの倍率での上面SEM画像から決定され得る。平版印刷版原版の外側細孔径(Do)は、有機層を適切な溶媒で剥ぎ取り、場合により、SEM画像の上面図を撮る前に、アルゴンイオンビームスパッタリングなどの適切な技法を用いて外側酸化アルミニウム層の約20nm~80nmの厚さの外側部分を除去することによって決定することも可能である。平均値は、200個を超える外側細孔を調べることによって決定され得る。
【0028】
平均内側細孔径(Di)は、少なくとも50,000Xの倍率での断面SEM画像から決定され得る。断面は、画像形成可能層および場合により存在する親水性層が除去された後に、平版印刷版原版またはその基板を折り曲げることによって生成され得る。折り曲げている間に、酸化アルミニウム層に亀裂が形成され、通常は最も弱い位置に新たな表面が形成されるが、この位置は通常、隣接する内側細孔間の最も薄い壁に位置する。したがって、新たな亀裂表面は、多くの細孔の断面図を与える。本発明の場合、露出した細孔断面の少なくとも90%が15nm未満の幅を有する限り、正確な平均内側細孔径(Di)を決定する必要はない。
【0029】
ナノメートル(nm)単位の外側陽極酸化層の平均乾燥厚さ(To)および内側陽極酸化層の平均乾燥厚さ(Ti)は、少なくとも50,000Xの倍率での断面SEM画像からそれぞれ決定され得る。酸化アルミニウム層の断面は、平版印刷版原版またはその基板を折り曲げることによって形成された亀裂によって露出させることができる。酸化アルミニウム層の断面は、当該技術分野で周知の技法である集束イオンビーム(FIB)によって酸化アルミニウム層を貫通する溝を切り開くことによっても露出させることができる。
【0030】
細孔/μm2単位の外側陽極酸化層の細孔密度(Co)は、少なくとも500nm×500nmの面積を有する正方形の所定の領域において細孔の数を数えることによって、少なくとも50,000Xの倍率での上面SEM写真から決定され得る。
【0031】
外側酸化アルミニウム層の多孔度(Po)は、以下の式のそれぞれによって制約され得る:
0.3≦Po≦0.8または
0.3≦Po≦0.6
(式中、Poは、3.14(Co)(Do
2)/4,000,000であると定義される)。
【0032】
本明細書で使用される場合、「放射吸収剤」という用語は、規定された領域の電磁放射を吸収する化合物または材料を指し、典型的には、少なくとも250nm(UVおよび紫色)~1400nm以下の領域に吸収極大を有する化合物または材料を指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「赤外領域」という用語は、少なくとも750nm以上の波長を有する放射を指す。ほとんどの場合、「赤外」という用語は、少なくとも750nm~1400nm以下であると本明細書で定義される電磁スペクトルの「近赤外」領域を指すために使用される。同様に、赤外線吸収剤は、赤外領域において感受性を示す。
【0034】
ポリマーに関するあらゆる用語の定義を明確にするには、International Union of Pure and Applied Chemistry(国際純正応用化学連合「IUPAC」)が公表した「Glossary of Basic Terms in Polymer Science」、Pure Appl.Chem.68、2287~2311(1996)を参照されたい。しかしながら、本明細書に明示的に記載されたあらゆる定義は、支配的であると見なすべきである。
【0035】
本明細書で使用される場合、「ポリマー」という用語は、多くの小さな反応したモノマーを連結することによって形成された、比較的大きな分子量を有する化合物をいうために使用される。ポリマー鎖が成長するにつれて、ポリマー鎖はランダムな様式で折り返されてコイル状構造を形成する。溶媒の選択により、ポリマーは、鎖長が長くなるにつれて不溶性になり、溶媒中に分散したポリマー粒子になり得る。これらの粒子分散液は、非常に安定であり、本発明における使用について記載される放射感受性画像形成可能層において有用であり得る。本発明において、別段の指示がない限り、「ポリマー」という用語は、非架橋材料を指す。したがって、架橋ポリマー粒子は、非架橋ポリマー粒子とは異なり、この差異は、非架橋ポリマー粒子が、溶媒和特性が良好な特定の有機溶媒に溶解し得るのに対して、架橋ポリマー粒子は、ポリマー鎖が強い共有結合によって連結されているため、有機溶媒に膨潤し得るが溶解しないという点におけるものである。
【0036】
「コポリマー」という用語は、コポリマー骨格に沿って配置された2つ以上の異なる反復単位、すなわち繰り返し単位から構成されるポリマーを指す。
【0037】
「ポリマー骨格」という用語は、複数のペンダント基が結合することができるポリマー中の原子の鎖を指す。このようなポリマー骨格の一例は、1つ以上のエチレン性不飽和重合性モノマーの重合から得られる「全炭素」骨格である。いくつかのポリマー骨格は、該ポリマーが縮合重合反応を使用して適切な反応物質を使用して形成される場合、炭素原子とヘテロ原子の両方を含み得る。
【0038】
本明細書に記載のポリマーバインダー中の繰り返し単位は、一般に、重合プロセスで使用される対応するエチレン性不飽和重合性モノマー(本明細書において「モノマー」としても特定される)に由来し、このエチレン性不飽和重合性モノマーは、様々な商業的供給源から得ることができ、または既知の化学合成法を使用して調製することができる。同じエチレン性不飽和重合性モノマーに由来する繰り返し単位は、本明細書中に別段の記載がない限り、本質的に組成および分子量が同じである。
【0039】
本明細書で使用される場合、「エチレン性不飽和重合性モノマー」という用語は、フリーラジカルまたは酸触媒重合反応および条件を使用して重合可能な1つ以上のエチレン性不飽和(-C=C-)結合を含む化合物を指す。この用語は、該条件下で重合可能ではない不飽和-C=C-結合のみを有する化合物を指すことを意図するものではない。
【0040】
別段の指示がない限り、「重量%」という用語は、組成物、配合物、または乾燥層の全固形分に基づく成分または材料の量を指す。別段の指示がない限り、パーセンテージは、乾燥層、または該乾燥層を形成するのに使用される配合物もしくは組成物の全固形分のいずれについても同じであり得る。
【0041】
本明細書で使用される場合、「層」または「コーティング」という用語は、1つの配置された層もしくは塗布された層、またはいくつかの連続して配置された層もしくは塗布された層の組み合わせからなり得る。層が放射感受性でありネガ型であると考えられる場合、この層は、適切な放射(例えば赤外線)に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてネガ型である。同様に、層が放射感受性でありポジ型であると考えられる場合、この層は、赤外線に感受性であるとともに、平版印刷版の形成においてポジ型である。
【0042】
使用
本発明の平版印刷版原版は、平版印刷インキおよび湿し水を使用して平版印刷用の平版印刷版を形成するのに有用である。これらの原版は、以下に記載する構造および成分を用いて製造される。また、本発明の平版印刷版原版は、以下に記載する適切な材料および製造手順を使用して、ネガ型放射感受性配合物および画像形成可能層を提供するように、ネガ型かつ機上現像可能であるように設計される。
【0043】
さらに、本発明の原版は、機上現像可能であるように設計され、その結果、画像形成された原版の現像は、湿し水、平版印刷インキ、または湿し水と平版印刷インキの両方を使用して機上で達成され得る。しかしながら、使用者が望むのであれば、このような原版を適切な現像剤を使用して機外で現像することも依然として可能である。
【0044】
本発明はまた、このような平版印刷版原版の製造に有用であり、これらの原版は後に、画像形成および印刷に使用するために顧客に販売され得る。
【0045】
本発明の基板
本発明において有用な本発明の基板は、上記の利点を達成するために重要な特徴および特性を有するように設計される。
【0046】
平版印刷版原版に有用な基板の製造に関する一般的な説明は、米国特許出願公開第2014/0047993A1号明細書(上記)に見出すことができる。
【0047】
一般に、平版印刷版の基板は、アルミニウムまたは他の金属材料、例えば、マンガン、ケイ素、鉄、チタン、銅、マグネシウム、クロム、亜鉛、ビスマス、ニッケル、およびジルコニウムを含むがこれらに限定されない1種以上の元素を最大10重量%含有するアルミニウム合金に由来し得る。アルミニウムまたはアルミニウム合金含有支持体(または「板」もしくは「原材料」)は、以下に記載するように処理して本発明の基板における親水性平面を形成することができる平面を少なくとも1つ有する限り、該支持体のさらなる加工が可能なあらゆる形態を有することができ、これらの形態としては、シート、連続ウェブ、およびコイル状小片が挙げられる。ポリマーフィルムまたは紙を使用して、その上層に純アルミニウムまたはアルミニウム合金含有層を蒸着または積層することも可能である。
【0048】
得られる基板は、現代の印刷機の条件に機械的に耐えるのに十分な厚さでなければならないが、このような印刷機の印刷胴上に設置する(または沿わせる)のに十分な薄さでなければならない。したがって、基板はまた、平版印刷に必要な適切な引張強度、弾性、結晶性、および導電性を有していなくてはならない。これらの特性は、標準的な方法、例えば連続的な平版印刷用支持片、ウェブ、またはコイルの製造に典型的な熱処理または冷間および熱間圧延によって達成され得る。得られる本発明の基板の乾燥厚さは、一般に、少なくとも100μm~600μm以下である。
【0049】
上記のアルミニウム含有支持体は、以下により詳細に記載する第1および第2の陽極酸化プロセスと組み合わせて、典型的な平版印刷版原版の製造プロセス、例えば予備エッチング、水洗、粗面化、水洗、ポストエッチング、および最終の水洗を使用して処理され得る。
【0050】
原材料のアルミニウム含有支持体は、平面またはその付近の油脂や、金属などの混入物を除去するために、典型的には予備エッチング工程に供される。当該技術分野で知られているように、この予備エッチング工程は、水酸化ナトリウムまたは他のアルカリ水溶液、さらには特定の有機溶媒を使用して既知の濃度、時間、および温度で実施され得る。所望であれば、界面活性剤水溶液を使用して、別個のまたは追加の脱脂工程を実施することができる。当業者であれば、日常的な実験を行って最適な予備エッチング条件(例えば、最適な溶液濃度、滞留時間、および温度)を見出すことができるであろう。
【0051】
典型的には、予備エッチング工程の後、エッチングされた支持体は、既知の電気化学的または機械的粗面化(または粒状化)プロセスを使用するなどの適切な様式で「粗面化」される。電気化学的粒状化処理では、エッチングされた支持体は、5~20g/リットルの塩酸の溶液中で交流電流で加工され得る。この目的のために、(例えば、最大2.5重量%)の硝酸または硫酸、もしくは混合物の溶液を使用することも可能である。このような電気化学的粒状化溶液はまた、添加剤、例えば腐食防止剤および安定剤を含むことがあり、これらとしては、金属硝酸塩、金属塩化物、モノアミン、ジアミン、アルデヒド、リン酸、クロム酸、ホウ酸、乳酸、酢酸、およびシュウ酸が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、電気化学的粒状化は、米国特許出願公開第2008/0003411号明細書(Hunterら)に記載のプロセスを使用して行われ得る。このようなプロセスは当該技術分野で周知であるため、当業者であれば、日常的な実験によって、電気化学的または機械的粒状化の最適な条件を決定することができるであろう。機械的粒状化プロセスは、例えば、適切なブラシを単独で、または研磨材、例えばシリカ粒子もしくはアルミナ粒子のスラリーと組み合わせて実施され得る。あるいは、機械的粒状化プロセスと電気化学的粒状化プロセスとの組み合わせが使用され得る。
【0052】
粗面化または粒状化中に、支持体の平面にスマットが形成され得るが、このスマットは、高酸性または高アルカリ性溶液による処理を使用してポストエッチング工程で除去して、例えば、支持体表面の0.01~5.0g/m2を除去することができる。例えば、ポストエッチングは、水酸化ナトリウム、リン酸三ナトリウム、または硫酸の溶液を使用して行われ得る。ポストエッチングの量は、エッチング溶液の滞留時間、濃度、および温度を設定することによって制御され得る。ポストエッチングの適切な量は、粗面化の量および該工程で形成されるスマットの量によっても決まる。ポストエッチング処理は、スマットを除去するのに十分でなければならないが、粗面化工程で形成された表面構造をあまり多く破壊しすぎてはならない。したがって、最適なポストエッチング条件を見出すために日常的な実験を行う間に、当業者が検討し得るパラメータの多くの組み合わせがある。
【0053】
上記の工程により、電気化学的または機械的に粒状化(粗面化)されエッチングされた平面がアルミニウム含有支持体中にもたらされる。
【0054】
本発明に従って実施される次の工程は、第1の陽極酸化プロセスおよび第2の陽極酸化プロセスを少なくとも含み、これらはいずれも、外側および内側酸化アルミニウム層をそれぞれ形成するために本発明にとって必須である。本発明の方法は、追加の陽極酸化プロセス(すなわち、第3またはそれ以降の陽極酸化プロセス)を必要としないが、1つ以上の追加の陽極酸化プロセスが可能であり、したがって場合により行われる。しかしながら、多くの実施形態では、本明細書に記載の第1および第2の陽極酸化プロセスだけが陽極酸化プロセスとなる。
【0055】
第1および第2の陽極酸化プロセスは、一般に、硫酸またはリン酸溶液(電解液)を使用して適切な時間で、少なくとも20℃~70℃以下で、少なくとも1秒~250秒以下の間、4g/m2以下の総乾燥酸化アルミニウム被覆量(外側および内側の両方の酸化アルミニウム層の合計)を与えるのに十分なように実施され得る。第1および第2の陽極酸化プロセスの両方についての条件を以下に記載する。
【0056】
電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面を有する適切なアルミニウム含有板は、第1の陽極酸化プロセスに供されて、該電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面上に外側酸化アルミニウム層が形成される。第1の陽極酸化プロセスは、例えば、少なくとも50g/リットル~350g/リットル以下のリン酸、または少なくとも150g/リットル~300g/リットル以下の硫酸と、適切な量、例えば5g/リットルのアルミニウムとを含む電解質組成物を使用して実施され得る。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の外側酸化アルミニウム層特性を達成するために、酸の種類、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間、および温度に関して最適化され得る。このような第1の陽極酸化プロセスの代表的な詳細を、以下に記載する実施例に示す。リン酸を使用して第1の陽極酸化プロセスを実施することが特に有用である。
【0057】
得られた外側酸化アルミニウム層は、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含む。さらに、外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(To)は、少なくとも30nm~650nm以下であり得、あるいは少なくとも130nm~150nm以下または400nm以下であり得る可能性がより高い。外側陽極酸化層の細孔密度(Co)は、一般に、少なくとも500個の細孔/μm2~3,000個の細孔/μm2以下であり得る。
【0058】
さらに、外側酸化アルミニウム層のナノメートル単位の平均外側細孔径(Do)および細孔/μm2単位の細孔密度(Co)は、以下の式のいずれかに従ってさらに制約されるか、または関連づけられ得る:
0.3≦Po≦0.8または
0.3≦Po≦0.6
(式中、Poは、上記で定義される)。
【0059】
第1の陽極酸化プロセスが所望の時間にわたって実施された後、形成された外側酸化アルミニウム層を、所望であれば、適切な溶液、例えば水で適切な温度および時間ですすいで、残留する酸およびアルミニウムを除去し、第1の陽極酸化プロセスを停止することができる。
【0060】
次いで、少なくとも100g/リットル~350g/リットル以下の硫酸、または少なくとも50g/リットル~350g/リットル以下のリン酸と、適切な量、例えば5g/リットルのアルミニウムとを含み得る適切な電解質組成物を使用して、第2の陽極酸化プロセスが実施され、外側酸化アルミニウム層の下に内側酸化アルミニウム層が形成される。これらの溶液量は、本明細書に記載の所望の内側酸化アルミニウム層特性を達成するために、酸濃度、アルミニウム濃度、滞留時間、および温度に関して最適化され得る。このような第2の陽極酸化プロセスの詳細を、以下に記載する実施例に示す。
【0061】
基板の粒状化されエッチングされた平面上に配置された得られた内側酸化アルミニウム層は、100nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む。いくつかの実施形態では、平均内側細孔径(Di)は15nm以下であり、かつ平均外側細孔径(Do)よりも小さい。このような実施形態では、DoとDiとの比は、1.1:1超であり得、さらには1.5:1超であり得、典型的には2:1超であり得る。
【0062】
他の実施形態では、平均内側細孔径(Di)は30nm超であり、かつ平均外側細孔径(Do)よりも大きい。後者の実施形態では、DiとDoとの比は、1.1:1超であり得、さらには1.5:1超であり得、典型的には2:1超であり得る。さらに、内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(Ti)は、少なくとも300nmまたは少なくとも650nm、かつ1500nm以下または3,000nm以下であり得る。
【0063】
第2の陽極酸化プロセスが所望の時間にわたって実施された後、形成された外側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層の両方を、所望であれば、適切な溶液、例えば水で適切な温度および時間ですすいで、残留する酸およびアルミニウムを除去し、第2の陽極酸化プロセスを停止することができる。
【0064】
本発明のいくつかの実施形態では、アルミニウム含有支持体は、適切な酸またはその混合物を使用して適切な時間および適切な温度で追加の陽極酸化プロセスに供されて、「中間酸化アルミニウム層」を提供する。この追加の陽極酸化プロセスは、第1の陽極酸化プロセスの後で第2の陽極酸化プロセスの前に実施される。したがって、中間酸化アルミニウム層は、一般に、外側酸化アルミニウム層と後で形成される内側酸化アルミニウム層との間に形成される。このような実施形態では、形成された中間酸化アルミニウム層は、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚さ(Tm)を有し得、少なくとも20nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み得る。
【0065】
このような実施形態では、DmはDoよりも大きく、DoはDiよりも大きい。
【0066】
この中間酸化アルミニウム層の形成後、外側酸化アルミニウム層および中間酸化アルミニウム層は、内側酸化アルミニウム層が上記のように形成される前に、外側酸化アルミニウム層のみについて上記のようにすすがれ得る。
【0067】
本発明によれば、外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層を設けることが必須である。親水性層は、1種以上の親水性ポリマーを含む親水性層配合物から与えられ、一般に外側酸化アルミニウム層上に塗布されるか配置されて、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下、または少なくとも0.005g/m2~0.08g/m2以下の親水性層の乾燥被覆量を与え得る。一般に、親水性層は外側酸化アルミニウム層上に直接配置されるため、中間層は存在しない。外側酸化アルミニウム層は細孔を含むので、親水性層の一部は、このような細孔および外側酸化アルミニウム層の下の細孔の内部に存在し得る。
【0068】
この目的のために使用される親水性ポリマーのうち少なくとも1種は、(a)繰り返し単位を含む親水性コポリマーであり、該繰り返し単位のそれぞれは、少なくとも1つのアミド基を有し、アミド基を有する1つ以上の対応するエチレン性不飽和重合性モノマー、例えばメタクリルアミド、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、およびN-(メトキシメチル)アクリルアミドに由来し得る。これらのモノマーのうち2つ以上の混合物を使用して、組成または分子量が異なり、すべてが繰り返し単位中に少なくとも1つのアミド基を有する(a)繰り返し単位の混合物を提供することができる。モノマー中のアミド基は、一般に、重合プロセス中に化学的に反応して親水性コポリマー中に(a)繰り返し単位を形成することはない。
【0069】
少なくとも1種の親水性コポリマーはまた、(b)繰り返し単位を含み、該(b)繰り返し単位のそれぞれは、リン原子に直接結合した-OM基を含み、ここで、Mは、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す。-OM基中の結合は、共有結合またはイオン結合であり得る。結合がイオン結合である場合、-OMは、-O-M+と書くことができ、M+は、水素イオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、またはアルミニウム含有イオンである。アルミニウム原子は、典型的には原子価が3であるため、典型的には、共有結合またはイオン結合を介して他の原子に連結される。Mは、典型的には、水素、ナトリウム、またはカリウム原子であり、より典型的には、親水性層配合物が上記の多層酸化アルミニウム構造の表面に塗布される前に親水性コポリマーが親水性層配合物中に存在する場合、Mは水素原子である。親水性層配合物を塗布すると、水素、ナトリウム、またはカリウム原子の一部がアルミニウム原子に変換され、親水性コポリマーが多層酸化アルミニウム構造に結合すると考えられる。
【0070】
このような(b)繰り返し単位は、リン原子に直接結合または連結した-OM基をそれぞれ有する適切な対応するエチレン性不飽和重合性モノマーに由来し得るか、あるいはリン原子に直接連結または結合した-OM基は、適切な「前駆体基」、例えばリン酸エステル基中の-ORからの重合後に形成され得、ここで、Rは、炭素数1~20の置換または非置換アルキル基である。(b)繰り返し単位を提供するために使用されるこのようなエチレン性不飽和重合性モノマーは、少なくとも1つの該-OM基がリン原子に直接連結または結合している限り、2つ以上の該-OM基を有し得る。この種の有用なエチレン性不飽和重合性モノマーとしては、式(I)によって表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0071】
CH2=CH(R1)-X-P(=O)(OM)2 (I)
(式中、R1は水素または炭素数1~4のアルキル基であり、Mは独立して水素、ナトリウム、またはカリウム原子であり、Xは単結合または二価の連結基である。)有用な二価X基としては、以下の式(II)によって表されるものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
-C(=O)-(OCH2CH2)n-O- (II)
(式中、添字nは1~10の整数である。)
【0073】
有用な式(I)によるエチレン性不飽和重合性モノマーの具体例としては、ビニルホスホン酸、エチレングリコールアクリレートホスフェート、およびエチレングリコールメタクリレートホスフェートが挙げられる。各(b)繰り返し単位がリン原子に結合した-OM基を少なくとも1つ有する限り、このようなエチレン性不飽和重合性モノマーの混合物を使用して、複数の(b)繰り返し単位が異なる化学組成または分子量を有することができるように該繰り返し単位を形成することもできる。
【0074】
親水性層中に存在する少なくとも1種の親水性コポリマーは、(a)繰り返し単位、(b)繰り返し単位、および(a)繰り返し単位とも(b)繰り返し単位とも定義されない他の任意の繰り返し単位の合計を含めた親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、少なくとも60mol%または少なくとも80mol%、かつ95mol%以下または97mol%以下の量の(a)繰り返し単位を含み得る。
【0075】
親水性層中に存在する少なくとも1種の親水性コポリマーは、(a)繰り返し単位、(b)繰り返し単位、および(a)繰り返し単位とも(b)繰り返し単位とも定義されない他の任意の繰り返し単位の合計を含めた親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、少なくとも3mol%、かつ25mol%以下または40mol%以下の量の(b)繰り返し単位を含み得る。
【0076】
親水性コポリマーは、繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、(a)繰り返し単位でも(b)繰り返し単位でもない繰り返し単位を最大35mol%含むことが可能である。当業者であれば、これらの任意の繰り返し単位を提供するのに有用な適切なモノマーを決定することができるであろう。しかしながら、(a)繰り返し単位でも(b)繰り返し単位でもない有用な任意の繰り返し単位は、少なくとも1つのカルボン酸基を含む繰り返し単位であり得、このような任意の繰り返し単位は、すべて親水性ポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、典型的には30mol%未満、より典型的には20mol%未満の量で存在し得る。本発明のいくつかの実施形態では、親水性層に組み込まれた親水性コポリマーは、先に定義したように、(a)繰り返し単位および(b)繰り返し単位のみを含む。
【0077】
特に有用な親水性コポリマーは、メタクリルアミドおよびアクリルアミドのうち1つ以上に少なくとも部分的に由来する(a)繰り返し単位と、少なくともビニルホスホン酸に由来する(b)繰り返し単位とを含む。本発明のいくつかの実施形態では、親水性コポリマーは、このような(a)繰り返し単位および(b)繰り返し単位のみを含む。
【0078】
このような必須の親水性コポリマーの混合物は、任意の適切な重量の組み合わせで親水性層に使用され得る。さらに、親水性層は、1種以上の他の任意の親水性ホモポリマーまたはコポリマーを含み得、それらのそれぞれは、(a)および(b)繰り返し単位を有する上記のものとは組成が異なる。このような任意の親水性ポリマーは当該技術分野で既知であり、存在する場合、一般に、親水性層の総重量の70重量%未満を構成する。したがって、それぞれが上記の(a)繰り返し単位および(b)繰り返し単位を有する必須の1種以上の親水性コポリマーは、特に、配置された親水性層配合物から1種以上のコーティング溶媒のうち少なくとも95重量%が除去された後に、親水性層の総重量の少なくとも30重量%を構成し、少なくとも70重量%を構成する可能性がより高い。
【0079】
親水性コポリマー、または親水性コポリマーの混合物を調製するのに有用なエチレン性不飽和重合性モノマーは、様々な商業的供給源から得ることができ、または既知のエチレン性不飽和重合性モノマーおよび重合反応条件を使用して調製することができる。
【0080】
親水性層および親水性層配合物は、当該技術分野で容易に知られ得るように、少量の添加剤、例えば無機酸(例えば、少なくとも0.01重量%の量のリン酸)、無機酸の塩、および界面活性剤を含み得る。特に有用な親水性層配合物および得られる親水性層を、実施例に関連して以下に記載する。
【0081】
親水性層の形成に使用されるプロセスは、例えば米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)の[0058]~[0061]に記載されているようないずれかの適切な様式で実施され得る。あるいは、後処理プロセスは、所望の量の親水性層配合物の適切な溶媒溶液、例えば水溶液を外側酸化アルミニウム層上に直接コーティングし、次いで得られた湿潤コーティングを乾燥させることによって実施され得る。親水性層の形成中または形成後に、繰り返し単位(b)中のリン原子に結合または連結している-OH基は、多層酸化アルミニウム構造の表面と少なくとも部分的に反応して、P-O-Alの連結を形成すると考えられる。
【0082】
これらのすべての必須の処理の後、得られた本発明の基板は、いずれかの適切な形態、例えば平坦なシートまたは連続ウェブもしくはコイルの形態で、本発明による平版印刷版原版の製造の準備ができている。
【0083】
放射感受性画像形成可能層および原版
1つ以上の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層は、以下により詳細に記載するように、適切な機上現像可能な放射感受性画像形成可能層配合物を使用して、本発明の基板の親水性層上に適切な様式で形成または配置され得る。このような放射感受性画像形成可能層は、一般に、化学的性質においてネガ型である。
【0084】
ネガ型平版印刷版原版:
本発明の原版は、以下に記載するようなネガ型の機上現像可能な放射感受性組成物を(上記のような)適切な本発明の基板に適切に塗布して、この基板上にネガ型である放射感受性画像形成可能層を形成することによって形成され得る。一般に、ネガ型放射感受性組成物(および得られるネガ型放射感受性画像形成可能層)は、(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、(b)画像形成放射(例えば、本明細書で定義する赤外線)に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、および(c)1種以上の放射吸収剤(例えば、赤外線吸収剤)を必須成分として含み、場合により(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダーを含む。これらの必須成分および任意成分のすべてを以下により詳細に記載する。一般に、原版には1つのネガ型の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層のみが存在する。これは、一般に原版の最外層であるが、いくつかの実施形態では、1つのネガ型の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層上に配置された、最外層の親水性オーバーコート(トップコートまたは酸素バリア層としても知られる)が存在し得る。
【0085】
したがって、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の成分(化合物の種類および形態ならびにそれぞれの量)は、像様露光後に、画像形成された原版が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上現像可能であるように設計される。機上現像性のさらなる詳細については後述する。
【0086】
ネガ型放射感受性組成物(および該組成物から製造される放射感受性画像形成可能層)は、(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分を含み、これらのそれぞれは、フリーラジカル開始を使用して重合し得る1つ以上のフリーラジカル重合性基(いくつかの実施形態では2つ以上の該基)を含む。いくつかの実施形態では、放射感受性画像形成可能層は、各分子中に同じまたは異なる数のフリーラジカル重合性基を有する、2種以上のフリーラジカル重合性成分を含む。
【0087】
有用なフリーラジカル重合性成分は、1つ以上の付加重合性エチレン性不飽和基(例えば、2つ以上の該基)を有する1つ以上のフリーラジカル重合性モノマーまたはオリゴマーを含有し得る。同様に、このようなフリーラジカル重合性基を有する架橋性ポリマーも使用され得る。オリゴマーまたはプレポリマー、例えばウレタンアクリレートおよびメタクリレート、エポキシドアクリレートおよびメタクリレート、ポリエステルアクリレートおよびメタクリレート、ポリエーテルアクリレートおよびメタクリレート、ならびに不飽和ポリエステル樹脂が使用され得る。いくつかの実施形態では、フリーラジカル重合性成分はカルボキシル基を含む。
【0088】
1種以上のフリーラジカル重合性成分は、放射感受性画像形成可能層の機械的特性を向上させるのに十分に大きい分子量を有して、それにより、対応する平版印刷版原版を、典型的な包装における輸送および通常の印刷前操作中の取り扱いに適したものにすることが可能である。1種以上のフリーラジカル重合性成分は、少なくとも10nm~800nm以下の粒径を有する粒状材料として放射感受性層中に存在することも可能である。このような実施形態では、別個の非重合性または非架橋性ポリマーバインダー(以下に記載)は必要ではないが、依然として存在し得る。
【0089】
フリーラジカル重合性成分としては、複数(2つ以上)の重合性基を有する尿素ウレタン(メタ)アクリレートまたはウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。このような化合物の混合物を用いることができ、それぞれの化合物は、不飽和重合性基を2つ以上有し、化合物のうち一部は、3つまたは4つ以上の不飽和重合性基を有する。例えば、フリーラジカル重合性成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートをベースとしたDESMODUR(登録商標)N100脂肪族ポリイソシアネート樹脂(Bayer Corp.、コネチカット州ミルフォード)をヒドロキシエチルアクリレートおよびペンタエリスリトールトリアクリレートと反応させることによって調製され得る。有用なフリーラジカル重合性化合物としては、Kowa Americanから入手可能なNK Ester A-DPH(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、ならびにSartomer Company,Inc.から入手可能なSartomer 399(ジペンタエリスリトールペンタアクリレート)、Sartomer 355(ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート)、Sartomer 295(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、およびSartomer 415[エトキシ化(20)トリメチロールプロパントリアクリレート]が挙げられる。
【0090】
数多くの他のフリーラジカル重合性成分が当該技術分野で既知であり、Photoreactive Polymers:The Science and Technology of Resists、A Reiser、Wiley、ニューヨーク、1989、102~177頁、B.M.MonroeによるRadiation Curing:Science and Technology、S.P.Pappas編、Plenum、ニューヨーク、1992、399~440頁、ならびにImaging Processes and Material、J.M.Sturgeら(編)におけるA.B.CohenおよびP.Walkerによる「Polymer Imaging」、Van Nostrand Reinhold、ニューヨーク、1989、226~262頁を含むかなりの文献に記載されている。例えば、有用なフリーラジカル重合性成分は、欧州特許第1,182,033 A1号明細書(Fujimakiら)の段落[0170]以降、ならびに米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、米国特許第6,569,603号明細書(Furukawa)、および米国特許第6,893,797号明細書(Munnellyら)にも記載されている。他の有用なフリーラジカル重合性成分としては、米国特許出願公開第2009/0142695号明細書(Baumannら)に記載されているものが挙げられ、これらのラジカル重合性成分は1H-テトラゾール基を含む。
【0091】
上記の有用なフリーラジカル重合性成分は、様々な商業的供給源から容易に得ることができ、または既知の出発材料および合成方法を使用して調製することができる。
【0092】
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分は、一般に、すべてネガ型放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%~70重量%以下、または典型的には少なくとも20重量%~50重量%以下の量でネガ型放射感受性画像形成可能層中に存在する。
【0093】
本発明で使用される機上現像可能な放射感受性画像形成可能層はまた、(b)開始剤組成物を含み得、該組成物は、適切な放射吸収剤の存在下で、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層が適切な画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与えて、1種以上のフリーラジカル重合性成分の重合を開始する。開始剤組成物は、1種の化合物、または複数種の化合物の組み合わせもしくは系であり得る。
【0094】
適切な開始剤組成物としては、芳香族スルホニルハライド;トリハロゲノアルキルスルホン;トリハロゲノアリールスルホン;イミド(例えば、N-ベンゾイルオキシフタルイミド);ジアゾスルホネート;9,10-ジヒドロアントラセン誘導体;少なくとも2つのカルボキシ基を有し、そのうち少なくとも1つがアリール部分の窒素、酸素、または硫黄原子に結合している、N-アリール、S-アリール、またはO-アリールポリカルボン酸;オキシムエステルおよびオキシムエーテル;α-ヒドロキシ-またはα-アミノ-アセトフェノン;ベンゾインエーテルおよびエステル;過酸化物;ヒドロペルオキシド;アゾ化合物;2,4,5-トリアリールイミダゾリル二量体(「HABI」など);トリハロメチル置換トリアジン;ホウ素含有化合物;有機ホウ酸塩、例えば米国特許第6,562,543号明細書(Ogataら)に記載されているもの、ならびにオニウム塩が挙げられるが、これらに限定されない。
【0095】
特に赤外線感受性組成物および画像形成可能層に有用な開始剤組成物としては、米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)の[0131]、および該文献に引用されている参考文献に詳細に記載されているオニウム塩、例えばアンモニウム、ヨードニウム、スルホニウム、およびホスホニウム化合物が挙げられるが、これらに限定されない。オニウム塩の例としては、トリフェニルスルホニウム、ジフェニルヨードニウム、ジフェニルジアゾニウム、およびこれらの化合物のベンゼン環に1つ以上の置換基を導入して得られる誘導体が挙げられる。適切な置換基としては、アルキル、アルコキシ、アルコキシカルボニル、アシル、アシルオキシ、クロロ、ブロモ、フルオロ、およびニトロ基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
オニウム塩中のアニオンの例としては、ハロゲンアニオン、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3
-、および例えば米国特許第7,524,614号明細書(Taoら)に記載されているホウ素アニオンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0097】
オニウム塩は、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムを有するオニウム塩と、分子中のオニウム塩とを組み合わせることにより得ることができる。オニウム塩は、共有結合によって結合した少なくとも2つのオニウムイオン原子を分子中に有する多価オニウム塩であり得る。多価オニウム塩の中でも、分子中に少なくとも2つのオニウムイオン原子を有するものが有用であり、分子中にスルホニウムまたはヨードニウムカチオンを有するものが特に有用である。代表的な多価オニウム塩は、以下の式(6)および(7)で表される。
【化1】
【化2】
【0098】
また、特開2002-082429号公報[または米国特許出願公開第2002-0051934号明細書](Ippeiら)の段落[0033]~[0038]に記載のオニウム塩や、米国特許第7,524,614号明細書(上記)に記載のホウ酸ヨードニウム錯体も本発明に用いられ得る。
【0099】
いくつかの実施形態では、開始剤組成物は、開始剤化合物の組み合わせ、例えばヨードニウム塩の組み合わせ、例えば以下に記載する化合物Aと化合物Bとの組み合わせを含み得る。
化合物Aは、以下に示す構造(I)によって表すことができ、化合物Bとして集合的に知られている1種以上の化合物は、以下で構造(II)または(III)のいずれかによって表すことができる。
【化3】
【化4】
【化5】
【0100】
これらの構造(I)、(II)、および(III)において、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、独立して置換もしくは非置換のアルキル基または置換もしくは非置換のアルコキシ基であり、これらのアルキル基またはアルコキシ基のそれぞれは、炭素数が2~9(または特に3~6)である。これらの置換または非置換のアルキル基およびアルコキシ基は、直鎖または分岐鎖形態であり得る。多くの有用な実施形態では、R1、R2、R3、R4、R5、およびR6は、独立して置換または非置換アルキル基であり、例えば炭素数が3~6の独立して選択された置換または非置換アルキル基である。
【0101】
また、R3およびR4の少なくとも一方は、R1またはR2と異なっていてもよい。R1とR2の炭素数の総数と、R3とR4の炭素数の総数との差は、0~4(すなわち、0、1、2、3、または4)である。R1とR2の炭素数の総数(和)と、R5とR6の炭素数の総数(和)との差は、0~4(すなわち、0、1、2、3、または4)である。X1、X2、およびX3は、同じまたは異なるアニオンである。
【0102】
有用なアニオンとしては、ClO4
-、PF6
-、BF4
-、SbF6
-、CH3SO3
-、CF3SO3
-、C6H5SO3
-、CH3C6H4SO3
-、HOC6H4SO3
-、ClC6H4SO3-、および以下の構造(IV):
B-(R1)(R2)(R3)(R4)
(IV)
によって表されるホウ酸アニオンが挙げられるが、これらに限定されず、式中、R1、R2、R3、およびR4は、独立して置換もしくは非置換のアルキル、置換もしくは非置換のアリール(ハロゲン置換アリール基を含む)、置換もしくは非置換のアルケニル、置換もしくは非置換のアルキニル、置換もしくは非置換のシクロアルキル、もしくは置換もしくは非置換の複素環式基を表すか、またはR1、R2、R3、およびR4のうち2つ以上が一緒に結合して、ホウ素原子とともに置換もしくは非置換の複素環を形成することができ、このような環は、最大7つの炭素原子、窒素原子、酸素原子、または窒素原子を有する。R1、R2、R3、およびR4上の任意の置換基としては、クロロ、フルオロ、ニトロ、アルキル、アルコキシ、およびアセトキシ基が挙げられ得る。いくつかの実施形態では、R1、R2、R3、およびR4のすべてが、同じまたは異なる置換または非置換アリール基、例えば置換または非置換フェニル基であるか、あるいは、これらの基のすべてが非置換フェニル基である可能性がより高い。多くの実施形態では、X1、X2、およびX3のうち少なくとも1つは、同じまたは異なるアリール基を含むテトラアリールボレートアニオンであるか、あるいは特に有用な実施形態では、1つ以上がテトラフェニルボレートアニオンであるか、またはX1、X2、およびX3のそれぞれがテトラフェニルボレートアニオンである。
【0103】
所望であれば、構造(II)または(III)によって表される化合物Bの化合物の混合物を使用することができる。構造(I)、(II)、および(III)によって表される多くの有用な化合物は、Sigma-Aldrichなどの商業的供給源から得ることができ、または既知の合成方法および容易に入手可能な出発材料を使用して調製することができる。
【0104】
上記の開始剤組成物に有用な成分は、様々な商業的供給源から得ることができ、または既知の合成方法および出発材料を使用して調製することができる。
【0105】
開始剤組成物は、一般に、すべて機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%~20重量%以下、または典型的には少なくとも2重量%~15重量%以下、またはさらには少なくとも4重量%~12重量%以下の量で、1種以上の重合開始剤を提供するのに十分なように機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中に存在する。
【0106】
さらに、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層は、所望の放射感受性を提供するため、または放射を熱に変換するため、またはその両方のために(c)1種以上の放射吸収剤も含む。いくつかの実施形態では、機上現像可能な放射感受性層は、赤外線に感受性であり、平版印刷版原版が、例えばデジタル情報に応答して赤外線放射レーザーで画像形成され得るように、1種以上の異なる赤外線吸収剤を含む。本発明はまた、約405nmに発光ピークを有する紫色レーザー、可視レーザー、例えば約488nmもしくは532nmに発光ピークを有するレーザー、または400nm未満の有意な発光ピークを有するUV放射で画像形成するように設計された平版印刷版原版にも適用可能である。このような実施形態では、放射吸収剤は、放射源に適合するように選択され得、多くの有用な例が当該技術分野で知られており、「増感剤」と呼ばれることがある。この種の有用な放射吸収剤は、例えば、米国特許第7,285,372号明細書(Baumannら)の第11欄(10~43行)に記載されている。
【0107】
本発明のほとんどの実施形態において、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層は、所望の赤外線感受性を提供するために1種以上の赤外線吸収剤を含む。有用な赤外線吸収剤は、顔料または赤外線吸収染料であり得る。適切な染料は、例えば米国特許第5,208,135号明細書(Patelら)、米国特許第6,153,356号明細書(Uranoら)、米国特許第6,309,792号明細書(Hauckら)、米国特許第6,569,603号明細書(Furukawa)、米国特許第6,797,449号明細書(Nakamuraら)、米国特許第7,018,775号明細書(Tao)、米国特許第7,368,215号明細書(Munnellyら)、米国特許第8,632,941号明細書(Balbinotら)、および米国特許出願公開第2007/056457号明細書(Iwaiら)に記載されているものでもあり得る。いくつかの赤外線感受性の実施形態では、赤外線感受性画像形成可能層における少なくとも1種の赤外線吸収剤は、テトラアリールボレートアニオン、例えばテトラフェニルボレートアニオンを含むシアニン染料であることが望ましい。このような染料の例としては、米国特許出願公開第2011/003123号明細書(Simpsonら)に記載のものが挙げられる。
【0108】
低分子量IR吸収染料に加えて、ポリマーに結合するIR染料発色団も同様に使用することができる。さらに、IR染料カチオンも同様に使用することができ、すなわち、カチオンは、側鎖にカルボキシ、スルホ、ホスホ、またはホスホノ基を含むポリマーとイオン的に相互作用する染料塩のIR吸収部分である。
【0109】
上記の有用な放射吸収剤は、様々な商業的供給源から容易に得ることができ、または既知の出発材料および合成方法を使用して調製することができる。
【0110】
機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中の1種以上の放射吸収剤の総量は、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも0.5重量%~30重量%以下、または典型的には少なくとも1重量%~15重量%以下である。
【0111】
多くの実施形態では、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層が、上記の層中のすべての材料に対する1種以上の(d)ポリマーバインダー(またはポリマーバインダーとして作用する材料)をさらに含むことが、場合によるが望ましい。このようなポリマーバインダーは、上記した(a)、(b)、および(c)の材料のすべてとは異なる。これらのポリマーバインダーは、一般に非架橋性かつ非重合性である。
【0112】
このような(d)ポリマーバインダーは、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む側鎖を有する繰り返し単位を含むポリマー、例えば米国特許第6,899,994号明細書(Huangら)に記載されているものを含めて、当該技術分野で既知の多くのポリマーバインダー材料から選択され得る。他の有用な(d)ポリマーバインダーは、例えば国際公開第2015-156065号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、ポリアルキレンオキシドセグメントを含む異なる側鎖を有する2種以上の繰り返し単位を含む。このような(d)ポリマーバインダーのいくつかは、例えば米国特許第7,261,998号明細書(Hayashiら)に記載されているようなペンダントシアノ基を有する繰り返し単位をさらに含み得る。
【0113】
いくつかの有用な(d)ポリマーバインダーは、粒子形態、すなわち、離散した非凝集の粒子の形態で存在し得る。このような離散粒子は、少なくとも10nm~1500nm以下、または典型的には少なくとも80nm~600nm以下の平均粒径を有し得、一般に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中に均一に分布する。例えば、1種以上の有用な(d)ポリマーバインダーは、少なくとも50nm~400nm以下の平均粒径を有する粒子の形態で存在し得る。平均粒径は、電子走査顕微鏡画像における粒子の測定、および設定された数の測定値を平均することを含む、様々な既知の方法によって決定され得る。
【0114】
いくつかの実施形態では、(d)ポリマーバインダーは、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の平均乾燥厚さ(t)未満の平均粒径を有する粒子の形態で存在する。マイクロメートル(μm)単位の平均乾燥厚さ(t)は、以下の式:
t=w/r
によって計算され、式中、wは、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層のg/m2単位の乾燥コーティング被覆量であり、rは、1g/cm3である。例えば、このような実施形態において、(d)ポリマーバインダーは、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の少なくとも0.05%~80%以下を構成し得、あるいは少なくとも10%~50%以下を構成し得る可能性がより高い。
【0115】
(d)ポリマーバインダーはまた、複数(少なくとも2つ)のウレタン部分を含む骨格と、ポリアルキレンオキシドセグメントを含むペンダント基とを有し得る。
【0116】
他の有用な(d)ポリマーバインダーは、重合性基、例えばアクリレートエステル、メタクリレートエステル、ビニルアリール、およびアリル基、ならびにアルカリ可溶性基、例えばカルボン酸を含み得る。これらの有用な(d)ポリマーバインダーのいくつかは、米国特許出願公開第2015/0099229号明細書(Simpsonら)および米国特許第6,916,595号明細書(Fujimakiら)に記載されている。
【0117】
有用な(d)ポリマーバインダーは、一般に、ゲル浸透クロマトグラフィー(ポリスチレン標準)によって決定される重量平均分子量(Mw)が、少なくとも2,000~50万以下、または少なくとも2万~30万以下である。
【0118】
有用な(d)ポリマーバインダーは、様々な商業的供給源から得ることができ、または例えば上記の刊行物に記載されているように、既知の手順および出発材料を使用して調製することができる。
【0119】
(d)ポリマーバインダーの合計は、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも10重量%~70重量%以下の量で機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中に存在し得、あるいは少なくとも20重量%~50重量%以下の量で該層中に存在し得る可能性がより高い。
【0120】
当該技術分野で既知の他のポリマー材料((d)ポリマーバインダーとは異なる)が、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中に存在し得、このようなポリマー材料は、一般に、上記の(d)ポリマーバインダーよりも親水性または疎水性である。このような親水性のポリマーバインダーの例としては、セルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、および様々なけん化度を有するポリビニルアルコールが挙げられるが、これらに限定されない。より疎水性のポリマーバインダーは、上記の(d)ポリマーバインダーよりも現像性が低く、典型的には、pKa7未満のすべての酸性基およびそれらの対応する塩について20mgKOH/g未満の酸価を有する。このような疎水性ポリマーバインダーは、ヒドロキシル基、-(CH2CH2-O)-、および-C(=O)NH2からなる群から選択される、バインダーの親水性に寄与するセグメントを、典型的には10重量%未満、より典型的には5重量%未満含む。このような疎水性ポリマーバインダーの例としては、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ベンジルメタクリレート)、およびポリスチレンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0121】
機上現像可能な放射感受性画像形成可能層への追加の場合により添加される添加剤は、当該技術分野で既知の有機染料または有機染料前駆体と発色現像剤とを含み得る。有用な有機染料または有機染料前駆体としては、米国特許第6,858,374号明細書(Yanaka)に記載されているような、酸解離性ラクトン骨格を有するラクトン骨格を有するフタリドおよびフルオランロイコ染料が挙げられるが、これらに限定されない。このような場合により添加される添加剤は、印刷出力着色剤として使用され得、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層の総乾燥重量に基づいて、少なくとも1重量%~10重量%以下の量で存在し得る。他の有用な印刷出力着色剤は当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許出願公開第2009/0047599号明細書(Horneら)に記載されているように、アゾ染料、トリアリールメタン染料、シアニン染料、およびスピロラクトンまたはスピロラクタム着色剤が挙げられ得る。
【0122】
機上現像可能な放射感受性画像形成可能層は、例えば米国特許第8,383,319号明細書(Huangら)、米国特許第8,105,751号明細書(Endoら)、および米国特許第9,366,962号明細書(Kamiyaら)に記載されているように、少なくとも2μmまたは少なくとも4μm、かつ20μm以下の平均粒径を有する架橋ポリマー粒子を含み得る。このような架橋ポリマー粒子は、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層のみに、親水性オーバーコート(後述)が存在する場合は該オーバーコートのみに、または機上現像可能な放射感受性画像形成可能層と、親水性オーバーコートが存在する場合は、これらの両方に存在し得る。
【0123】
機上現像可能な放射感受性画像形成可能層はまた、様々な他の場合により添加される添加物を従来の量で含み得、これらとしては、分散剤、保湿剤、殺生物剤、可塑剤、コーティング性もしくは他の特性のための界面活性剤、粘度上昇剤、pH調整剤、乾燥剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、現像助剤、レオロジー調整剤、もしくはそれらの組み合わせ、または平版印刷の技術分野において一般的に使用される任意の他の添加物が挙げられるが、これらに限定されない。機上現像可能な放射感受性画像形成可能層はまた、米国特許第7,429,445号明細書(Munnellyら)に記載されているように、分子量が一般に250超であるリン酸(メタ)アクリレートを含み得る。
【0124】
親水性オーバーコート:
ネガ型平版印刷版原版のいくつかの実施形態では、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層は、その表面に何も層が配置されない最外層であるが、原版は、親水性層(当該技術分野では親水性オーバーコート、酸素バリア層、またはトップコートとしても知られている)を機上現像可能な放射感受性画像形成可能層に(これらの2つの層の間に中間層を配さずに)直接配置して設計することができる。この親水性オーバーコートは、存在する場合、一般に原版の最外層である。
【0125】
このような親水性オーバーコートは、親水性オーバーコートの総乾燥重量に基づいて、少なくとも60重量%~100重量%以下の量の1種以上の膜形成水溶性ポリマーバインダーを含み得る。該膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーは、少なくとも30%、または少なくとも75%、または少なくとも90%、かつ99.9%以下のけん化度を有する変性または未変性ポリ(ビニルアルコール)を含み得る。
【0126】
さらに、1種以上の酸変性ポリ(ビニルアルコール)が、親水性オーバーコート中の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダーとして使用され得る。例えば、少なくとも1種の変性ポリ(ビニルアルコール)が、カルボン酸、スルホン酸、硫酸エステル、ホスホン酸、およびリン酸エステル基からなる群から選択される酸基で変性され得る。このような材料の例としては、スルホン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、カルボン酸変性ポリ(ビニルアルコール)、および第4級アンモニウム塩変性ポリ(ビニルアルコール)、グリコール変性ポリ(ビニルアルコール)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0127】
親水性オーバーコートはまた、少なくとも2μmの平均粒径を有し、例えば米国特許第8,383,319号明細書(Huangら)および米国特許第8,105,751号明細書(Endoら)に記載されている架橋ポリマー粒子を含み得る。
【0128】
親水性オーバーコートは、少なくとも0.1g/m2~4g/m2未満の乾燥コーティング被覆量で、典型的には少なくとも0.15g/m2~2.5g/m2以下の乾燥コーティング被覆量で提供され得る。いくつかの実施形態では、乾燥コーティング被覆量は、0.1g/m2~1.5g/m2以下、または少なくとも0.1g/m2~0.9g/m2以下と小さく、その結果、親水性オーバーコートは比較的薄くなる。
【0129】
親水性オーバーコートは、例えば米国特許出願公開第2013/0323643号明細書(Balbinotら)に記載されているように、1種以上の膜形成水溶性(すなわち親水性)ポリマーバインダー中に分散した有機ワックス粒子を場合により含み得る。
【0130】
平版印刷版原版の製造
本発明の放射感受性平版印刷版原版は、以下の様式で提供され得る。(ネガ型またはポジ型のいずれかの化学的性質について)上記した材料を含む放射感受性画像形成可能層配合物は、いずれかの適切な装置および手順、例えばスピンコーティング、ナイフコーティング、グラビアコーティング、ダイコーティング、スロットコーティング、バーコーティング、ワイヤロッドコーティング、ローラーコーティング、または押出ホッパーコーティングを使用して、上記のように通常は連続基板ロールまたはウェブの形態の本発明の基板に塗布され得る。放射感受性画像形成可能層配合物はまた、適切な基板上に噴霧することによっても塗布され得る。典型的には、放射感受性画像形成可能層配合物が適切な湿潤被覆量で塗布されると、該配合物は、当該技術分野で既知の適切な様式で乾燥されて以下に記載するように所望の乾燥被覆量をもたらし、それにより、放射感受性連続物品が提供される。この物品は、既知の製造プロセスを使用して個々の原版を製造することができるいずれかの適切な形態、例えばウェブの形態であり得る。
【0131】
製造方法は、典型的には、特定の放射感受性画像形成可能層の化学構造に必要な様々な成分を適切な有機溶媒またはそれらの混合物[例えば、メチルエチルケトン(2-ブタノン)、メタノール、エタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、イソプロピルアルコール、アセトン、γ-ブチロラクトン、n-プロパノール、テトラヒドロフラン、および当該技術分野で容易に知られている他のもの、ならびにそれらの混合物]中で混合すること、得られた放射感受性画像形成可能層配合物を連続基板ウェブに塗布すること、ならびに適切な乾燥条件下での蒸発によって1種以上の溶媒を除去することを含む。このような製造上の特徴のさらなる詳細は、米国特許出願公開第2014/0047993号明細書(上記)に記載されている。
【0132】
適切な乾燥後、本発明の基板上のネガ型の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層(特に、赤外線感受性の層)の乾燥被覆量は、一般に、少なくとも0.1g/m2~4g/m2以下、または少なくとも0.4g/m2~2g/m2以下であるが、所望であれば他の乾燥被覆量を使用することができる。
【0133】
上記のように、いくつかのネガ型原版の実施形態では、既知のコーティングおよび乾燥条件、装置、ならびに手順を使用して、適切な水性親水性オーバーコート配合物が乾燥した機上現像可能な放射感受性画像形成可能層に塗布され得る。
【0134】
実際の製造条件では、これらのコーティング操作の結果は、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層と、上記の本発明の基板上に配置された上記のいずれかの任意の層とを有する放射感受性平版印刷版原版材料の連続ウェブまたはロールである。
【0135】
個々の長方形の平版印刷版原版は、この得られた連続放射感受性ウェブまたはロールから、細長く切って複数の長手方向の小片を形成することによって形成され、それぞれの小片の幅は、長方形の平版印刷版原版の一方の寸法に等しい。長さに合わせて切断する切断プロセスを使用して、長方形の平版印刷版原版のもう一方の寸法に等しい間隔で各小片を横切る横方向の切れ目を入れ、それによって正方形または長方形の形態を有する個々の原版を形成する。
【0136】
画像形成(露光)条件
使用中、本発明の放射感受性平版印刷版原版は、1つ以上の放射感受性画像形成可能層中に存在する放射吸収剤(または増感剤)に応じて、適切な露光用放射源に機上で露光され得る。例えば、ネガ型平版印刷版原版の多くは、少なくとも750nm~1400nm以下、または少なくとも800nm~1250nm以下の範囲内のかなりの放射を放出する赤外線レーザーで画像形成され得る。しかしながら、いくつかの機上現像可能なネガ型平版印刷版原版は、適切な画像形成放射源(例えば、250nm~750nm未満)を使用して、電磁スペクトルのUV、「紫色」、または可視領域で画像形成され得る。この像様露光の結果は、1つ以上の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層において露光領域および未露光領域が提供されることである。
【0137】
画像形成は、放射生成レーザー(またはこのようなレーザーのアレイ)からの画像形成放射または露光用放射を使用して実施され得る。画像形成はまた、所望であれば同時に複数の波長の画像形成放射を使用して、例えば複数の赤外線波長を使用して実施され得る。原版を露光するために使用されるレーザーは、ダイオードレーザーシステムの信頼性およびメンテナンスが少ないことに起因して、通常はダイオードレーザーであるが、他のレーザー、例えばガスまたは固体レーザーも使用され得る。放射画像形成のための出力、強度、および露光時間の組み合わせは、当業者には容易に明らかであろう。
【0138】
画像形成装置は、放射感受性平版印刷版原版がドラムの内側または外側円筒面に取り付けられたフラットベッドレコーダまたはドラムレコーダとして構成され得る。有用な赤外線画像形成装置の一例は、約830nmの波長の放射を放出するレーザーダイオードを含む、型番KODAK(登録商標)Trendsetterプレートセッター(Eastman Kodak Company)およびNEC AMZISetter Xシリーズ(NEC Corporation、日本)として入手可能である。他の適切な赤外線画像形成装置としては、810nmの波長で動作するScreen PlateRite 4300シリーズもしくは8600シリーズプレートセッター(Screen USA(イリノイ州シカゴ)から入手可能)、またはPanasonic Corporation(日本)製のサーマルCTPプレートセッターが挙げられる。
【0139】
赤外線の画像形成エネルギーは、赤外線感受性画像形成可能層の感受性に応じて、少なくとも30mJ/cm2~500mJ/cm2以下、典型的には少なくとも50mJ/cm2~300mJ/cm2以下であり得る。
【0140】
有用なUVおよび「紫色」画像形成装置としては、Prosetter(Heidelberger Druckmaschinen、ドイツ)、Luxel V8/V6シリーズ(Fuji、日本)、Python(Highwater、英国)、MakoNews、Mako 2、およびMako 8(ECRM、米国)、Micro(Screen、日本)、PolarisおよびAdvantage(AGFA、ベルギー)、LS Jet(Multiformat)およびSmart ‘n’ Easy Jet(Krause、ドイツ)、ならびにVMAXシリーズ(DotLine、ドイツ)イメージセッターが挙げられる。
【0141】
電磁スペクトルのUVから可視領域、特にUV領域(250nm~450nm)での画像形成は、少なくとも0.01mJ/cm2~0.5mJ/cm2以下のエネルギーを使用して、少なくとも0.5kW/cm3~50kW/cm3以下の電力密度で実施され得る。
【0142】
加工(現像)および印刷
露光されたネガ型原版:
像様露光の後、機上現像可能な放射感受性画像形成可能層中に露光領域および未露光領域を有する露光されたネガ型の機上現像可能な放射感受性平版印刷版原版は適切な様式で加工され、未露光領域と、親水性オーバーコートが存在する場合は該オーバーコートが除去され、硬化した露光領域は無傷のまま残され得る。
【0143】
例えば、本発明のネガ型平版印刷版原版は、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水との組み合わせを使用して機上現像可能である。このような実施形態では、本発明による画像形成された放射感受性平版印刷版原版を印刷機に取り付けることができ、次いで印刷操作が開始される。放射感受性画像形成可能層中の未露光領域は、印刷された最初の刷が作られると、適切な湿し水、平版印刷インキ、または両者の組み合わせによって除去される。水性の湿し水の典型的な成分としては、pH緩衝剤、減感剤、界面活性剤および湿潤剤、保湿剤、低沸点溶媒、殺生物剤、消泡剤、および金属イオン封鎖剤が挙げられる。湿し水の代表例は、Varn Litho Etch 142W + Varn PAR(アルコール代替物)(イリノイ州アディソンのVarn Internationalから入手可能)である。
【0144】
枚葉印刷機による典型的な印刷機の始動時には、最初に湿しローラーが係合され、取り付けられた画像形成された原版に湿し水を供給して、露光された放射感受性画像形成可能層を少なくとも未露光領域において膨潤させる。数回回転した後、インキングローラーが係合されて、平版印刷版の印刷面全体を覆うように1種以上の平版印刷インキを供給する。典型的には、インキングローラーの係合の後5~20回転以内に印刷用紙が供給され、形成されたインキ-湿し水エマルジョンを使用して、平版印刷版から放射感受性画像形成可能層の未露光領域が除去され、ブランケット胴上に材料が存在する場合には該材料が除去される。
本発明は、少なくとも以下の実施形態を提供する。
【0145】
1.平版印刷版原版であって、
平面を有する基板と、
基板の平面上に配置された機上現像可能な放射感受性画像形成可能層とを含み、
基板が、
粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板と、
粒状化されエッチングされた平面上に配置された内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層と、
内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有する、外側酸化アルミニウム層と、
少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層であって、1種以上の親水性ポリマーを含み、親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド基を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す、親水性層と
を含む、平版印刷版原版。
【0146】
2.外側酸化アルミニウム層が、少なくとも500個の細孔/μm2~3,000個の細孔/μm2以下の細孔密度(Co)を有し、0.3以上0.8以下の多孔度(Po)を有し、ここで、Poが3.14(Co)(Do
2)/4,000,000であると定義される、実施形態1に記載の平版印刷版原版。
【0147】
3.外側酸化アルミニウム層が、少なくとも130nmの平均乾燥厚さ(To)を有し、外側酸化アルミニウム層が、内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(Ti)が少なくとも650nmであり、平均内側細孔径(Di)が15nm未満であり、かつ平均外側細孔径(Do)よりも小さい、実施形態2に記載の平版印刷版原版。
【0148】
4.基板が、内側酸化アルミニウム層と外側酸化アルミニウム層との間に配置された中間酸化アルミニウム層をさらに含み、中間酸化アルミニウム層が、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚さ(Tm)を有し、少なくとも20nm~60nm以下の平均中間細孔径(Dm)を有する多数の中間細孔を含み、DmがDoよりも大きく、DoがDiよりも大きく、外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(To)が150nm未満である、実施形態2または3に記載の平版印刷版原版。
【0149】
5.外側酸化アルミニウム層が、内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、内側酸化アルミニウム層の平均細孔径(Di)が少なくとも20nmであり、外側酸化アルミニウム層の平均細孔径(Do)よりも大きい、実施形態2から4のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0150】
6.すべて親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、(a)繰り返し単位が、少なくとも60mol%~97mol%以下の量でコポリマー中に存在し、(b)繰り返し単位が、少なくとも3mol%~40mol%以下の量でコポリマー中に存在する、実施形態1から5のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0151】
7.機上現像可能な放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、
(b)放射感受性画像形成可能層が画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、
(c)1種以上の放射吸収剤、ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダー
を含む、実施形態1から6のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0152】
8.Poが0.3以上0.6以下である、実施形態2から7のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0153】
9.親水性層中の親水性コポリマーが、メタクリルアミドおよびアクリルアミドのうち1つ以上に少なくとも由来する(a)繰り返し単位と、少なくともビニルホスホン酸に由来する(b)繰り返し単位とを含む、実施形態1から8のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0154】
10.機上現像可能な放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、赤外線に感受性であり、1種以上の赤外線吸収剤を含む、実施形態1から9のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0155】
11.機上現像可能なネガ型放射感受性層が、粒子形態である(d)ポリマーバインダーをさらに含む、実施形態7から10のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0156】
12.機上現像可能な放射感受性画像形成可能層上に配置された親水性オーバーコートをさらに含む、実施形態1から11のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0157】
13.機上現像可能な放射感受性層が赤外線感受性であり、2種以上のフリーラジカル重合性成分を含む、実施形態7から12のいずれか1つに記載の平版印刷版原版。
【0158】
14.平版印刷版を提供する方法であって、
実施形態1から13のいずれか1つに記載の平版印刷版原版を画像形成放射に像様露光して、露光領域および未露光領域を有する像様露光された画像形成可能層を形成する工程と、
像様露光された画像形成可能層から未露光領域を機上で除去して、平版印刷版を形成する工程と
を含む、方法。
【0159】
15.像様露光された画像形成可能層中の未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水の両方を使用して機上で除去される、実施形態14に記載の方法。
【0160】
16.像様露光が赤外線を使用して行われる、実施形態14または15に記載の方法。
【0161】
17.像様露光が赤外線を使用して機外で行われ、像様露光された画像形成可能層中の未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または平版印刷インキと湿し水の両方を使用して機上で除去される、実施形態14に記載の方法。
【0162】
18.実施形態1から13のいずれか1つに記載の平版印刷版原版の製造方法であって、
電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板を準備する工程と、
アルミニウム含有板を第1の陽極酸化プロセスに供して、電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、外側酸化アルミニウム層が、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(Do)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(To)を有する、第1の陽極酸化プロセスに供する工程と、
外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
アルミニウム含有板を第2の陽極酸化プロセスに供して、外側酸化アルミニウム層の下に内側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、内側酸化アルミニウム層が、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(Ti)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(Di)を有する多数の内側細孔を含む、第2の陽極酸化プロセスに供する工程と、
外側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する工程と、
外側酸化アルミニウム層および内側酸化アルミニウム層をすすいだ後であって、外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する前に、外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設ける工程であって、親水性層が、1種以上の親水性ポリマーを含み、親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド単位を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表し、親水性層が、少なくとも0.0002g/m2~0.1g/m2以下の乾燥被覆量で外側酸化アルミニウム層上に配置される、親水性層を設ける工程と
を順に含む、方法。
【0163】
19.機上現像可能な放射感受性層が赤外線感受性でありネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、
(b)放射感受性画像形成可能層が画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、
(c)1種以上の放射吸収剤、ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダー
を含む、実施形態18に記載の方法。
【0164】
以下の実施例は、本発明の実施を説明するために提供され、決して限定することを意図するものではない。
【0165】
本発明の実施例1~3および比較例1~5:
本発明の実施例1~3および比較例1~5のネガ型平版印刷版原版の製造に使用されるアルミニウム含有基板AおよびBを、上記の一般的なプロセスに従って製造した。
【0166】
タイプA基板:
厚み0.28mmのHydro 1052アルミニウム合金小片またはウェブ(Norsk Hydro ASA、ノルウェーから入手可能)をアルミニウム含有「板」材または支持体として使用した。予備エッチング工程およびポストエッチング工程の両方を、既知の条件下でアルカリ溶液中で行った。これらのエッチングされたアルミニウム支持体の粗面化(または粒状化)を約23℃の塩酸溶液中で電気化学的手段により行い、アルミニウム含有支持体の平面の算術平均粗さ(Ra)0.5μmを得た。その後、アルミニウム含有支持体に、米国特許出願公開第2018/0250925号明細書(上記)に記載されているように、2つの個々の陽極酸化処理を施した。電解質としてリン酸を使用して第1の陽極酸化プロセスを実施して、平均細孔径(Do)が19nm、平均乾燥厚さ(To)が190nmの外側酸化アルミニウム層を形成した。次いで、電解質として硫酸を使用して第2の陽極酸化プロセスを実施して、平均細孔径(Di)が10nm未満、平均乾燥厚さ(Ti)が800nmの内側酸化アルミニウム層を形成した。これらの2つの陽極酸化工程は、平版印刷版原版の製造に使用される典型的な製造ラインで連続プロセスで行った。
【0167】
タイプB基板:
厚み0.28mmのHydro 1052アルミニウム合金小片またはウェブ(Norsk Hydro ASA、ノルウェーから入手可能)をアルミニウム含有「板」材または支持体として使用した。予備エッチング工程およびポストエッチング工程の両方を、既知の条件下でアルカリ溶液中で行った。このエッチングされたアルミニウム支持体の粗面化(または粒状化)を約23℃の塩酸溶液中で電気化学的手段により行い、アルミニウム含有支持体の平面の算術平均粗さ(Ra)0.5μmを得た。その後、アルミニウム含有基板に、2つの個々の陽極酸化処理を施した。電解質としてリン酸を使用して第1の陽極酸化プロセスを実施して、平均細孔径(Do)が19nm、平均乾燥厚さ(To)が60nmの外側酸化アルミニウム層を形成した。次いで、電解質としてリン酸を使用して第2の陽極酸化プロセスを実施して、平均細孔径(Di)が70nm、平均乾燥厚さ(Ti)が500nmの内側酸化アルミニウム層を形成した。これらの2つの陽極酸化工程は、平版印刷版原版の製造に使用される典型的な製造ラインで連続プロセスで行った。
【0168】
親水性層に使用するポリマー1の合成:
ポリマー1は、エチレン性不飽和重合性モノマーとしてのビニルホスホン酸およびアクリルアミド(モル比1:9)に由来する親水性コポリマーであった。冷却器を備えた10リットルの反応容器にエタノール(3500g)を入れ、70℃で加熱した。ビニルホスホン酸(231.1g)モノマーとアクリルアミド(1368.9g)モノマーとを1000gのエタノールに混合した。AIBN(52g)重合開始剤を得られたモノマー混合物に溶解し、次いで、これを70℃で4時間にわたって反応容器に滴下した。このモノマー混合物の添加後、反応混合物を70℃で2時間保持し、次いで室温まで冷却した。沈殿した白色粉末を濾過によって単離し、1リットルのエタノールで洗浄して、収量1550gのポリマー1を得た。
【0169】
親水性層に使用するポリマー2の合成:
ポリマー2は、ビニルホスホン酸モノマーおよびメタクリル酸モノマー(モル比2:8)に由来するコポリマーであり、本発明の範囲外である。冷却器を備えた10リットルの反応容器に酢酸エチル(3650g)を入れ、70℃に加熱した。ビニルホスホン酸モノマー(390g)とメタクリル酸(1243g)とを1000gの酢酸エチルに混合した。AIBN(52g)重合開始剤を得られたモノマー混合物に溶解した。モノマー混合物を70℃で4時間にわたって反応容器に滴下した。モノマー混合物の添加後、反応混合物を70℃で2時間保持し、室温まで冷却した。沈殿した白色粉末を濾過によって単離し、1リットルの酢酸エチルで洗浄して、収量1580gのポリマー2を得た。
【0170】
親水性層配合物の調製:
以下の表Iに示す材料および量を有する親水性層配合物HL-1~HL-6を調製した。
【0171】
【0172】
表Iに示す各親水性層配合物を、上記のタイプAまたはタイプB基板のいずれかの試料にコーティングした。各親水性層配合物を、巻き返しコーティングバーを使用してコーティングし、80℃で2分間乾燥させて外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設け、続いて乾燥を行って0.03g/m2の乾燥被覆量とした。親水性層を有する本発明または比較例の基板の試料を、以下の表IIに示すように製造した。
【0173】
【0174】
ネガ型の機上現像可能な赤外線感受性コーティング配合物の調製:
ネガ型の機上現像可能な赤外線感受性画像形成可能層のコーティング配合物を、以下の表IIIおよび表IVに示す成分および量を使用して、溶媒の混合物として35重量%のn-プロパノール、20重量%の2-メトキシプロパノール、35重量%の2-ブタノン、および10重量%の水を含有するコーティング媒体中に5重量%の全固形分で溶解または分散させて調製した。
【0175】
以下の表IVで特定される原料は、化学物質の1つ以上の商業的供給源から得ることができ、または既知の合成方法および出発材料を使用して調製した。
【0176】
【0177】
【0178】
ネガ型の機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を、ワイヤ巻きコーティングバーを使用して、上記の表IIに記載の基板試料上に表IIIに記載の配合物をコーティングすることによって製造し、コーティングを80℃で2分間乾燥させて、1g/m2の乾燥被覆量を有する上記の赤外線感受性画像形成可能層を設け、評価のための平版印刷版原版を本発明の実施例1~3および比較例1~5として提供した。
【0179】
画像形成後、製造された平版印刷版原版のそれぞれの試料を、以下に記載する試験方法を使用して、印刷寿命、機上現像性(DOP)、およびリスタートトーニング(RST)特性に関して評価し、結果を以下の表Vに示す。
【0180】
製造された各平版印刷版原版の試料を、市販のKodak Magnus 800イメージセッターを使用して、ベタ領域における赤外線露光エネルギー150mJ/cm2で画像形成に供した。
【0181】
機上現像性(DOP):
平版印刷版原版(本発明の原版および比較原版の両方)の試料を上記のように画像形成に供し、機上現像のために市販のRoland R-201印刷機に取り付けた。印刷機に、湿し水Presarto WS 100(DIC Graphics)/イソプロピルアルコール/水を1/1/98(体積比)で、S-7400のブランケット(Kin-yo-sha)、印刷用紙としてOKトップコート紙マットNグレード紙(Oji paper)、および平版印刷インキFusion G Magenta N(DIC Graphics)を供給し、9,000枚/時の印刷速度で印刷を行った。機上現像性は、非画像形成(未露光)領域においてそれ以上インキ転写が観察されなくなった時点での、印刷開始からの印刷された用紙の枚数に注目することによって評価した。50枚未満のDOPが好ましく、100枚を超えるDOPは記載した印刷機条件には許容できない。
【0182】
リスタートトーニング(RST):
平版印刷版原版(本発明の原版および比較原版の両方)のそれぞれの試料を上記のように画像形成に供し、機上現像のために市販のRoland R-201印刷機に取り付けた。印刷機に、湿し水Presarto WS 100(DIC Graphics)/イソプロピルアルコール/水を1:1:98の体積比で、S-7400のブランケット(Kin-yo-sha)、印刷用紙としてOKトップコート紙マットNグレード紙(Oji paper)、および平版印刷インキFusion G Magenta N(DIC Graphics)を供給し、9,000枚/時の印刷速度で印刷を行った。この印刷条件で1000枚の用紙に印刷した後、印刷を停止した。次いで、印刷機の胴上の各平版印刷版を、乾燥機によって生成された熱風を用いて30分間加熱し、次いで、加熱された各平版印刷版について印刷を再開した。リスタートトーニング(RST)特性は、印刷を再開した後に非画像形成領域から完全に汚れがなくなるのに必要な刷数を観察することによって評価した。RSTの望ましい結果は、上記の印刷条件下で100未満の刷数であり、この印刷条件は、赤外線を使用して画像形成が行われてきたネガ型の機上現像可能な平版印刷版原版について、業界において一般的である。
【0183】
印刷寿命:
平版印刷版原版(本発明の実施例および比較例の両方)のそれぞれの試料を、150mJ/cm2のエネルギー割合で上記のように露光した。次いで、画像形成された各原版を市販のKomori S-26印刷機に8,000rpmで取り付け、湿し水として1%のPresarto WS 100(DIC Graphics)と10%のイソプロパノールとの混合物水溶液、S-7400のブランケット(Kin-yo-sha)、印刷用紙としてOKトップコート紙マットNグレード紙(Oji paper)、および平版印刷インキFusion G Magenta N(DIC Graphics)を使用して、印刷機寿命を評価した。印刷の初期段階では、平版印刷版を機上で現像した。印刷を継続して印刷された用紙の枚数(刷数)を増やすと、各平版印刷版の画像形成に供された放射感受性層が徐々に摩耗し、該層のインキ受容性が低下した。そのため、印刷が長期間続くと、印刷された用紙のインキ濃度が低下した。印刷寿命は、印刷された用紙上のベタ領域の反射濃度が、印刷開始時に印刷された用紙上で観察された反射濃度の90%まで低下したときの刷数を観察することによって求めた。
【0184】
以下の表Vは、本発明の実施例および比較例のそれぞれについてのRST、印刷寿命、およびDOPの結果を、印刷された用紙の数(または刷数)として示す。
【0185】
【0186】
これらの結果は、外側酸化アルミニウム層上に配置された独自の親水性層を含む本発明の基板を有する本発明の実施例1、2、および3の原版が、比較例1~5よりも速いRSTからの回復を示したが、印刷寿命および機上現像特性は望ましいままであったことを示す。
【手続補正書】
【提出日】2023-06-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平版印刷版原版であって、
平面を有する基板と、
前記基板の前記平面上に配置された機上現像可能な放射感受性画像形成可能層とを含み、
前記基板が、
粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板と、
前記粒状化されエッチングされた平面上に配置された内側酸化アルミニウム層であって、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(T
i)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含む、内側酸化アルミニウム層と、
前記内側酸化アルミニウム層上に配置された外側酸化アルミニウム層であって、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(T
o)を有する、外側酸化アルミニウム層と、
少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量で前記外側酸化アルミニウム層上に配置された親水性層であって、1種以上の親水性ポリマーを含み、前記親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド基を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表す、親水性層と
を含む、平版印刷版原版。
【請求項2】
前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも500個の細孔/μm
2~3,000個の細孔/μm
2以下の細孔密度(C
o)を有し、0.3以上0.8以下の多孔度(P
o)を有し、ここで、P
oが3.14(C
o)(D
o
2)/4,000,000であると定義される、請求項1に記載の平版印刷版原版。
【請求項3】
前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも130nmの平均乾燥厚さ(T
o)を有し、前記外側酸化アルミニウム層が、前記内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、前記内側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(T
i)が少なくとも650nmであり、平均内側細孔径(D
i)が15nm未満であり、かつ平均外側細孔径(D
o)よりも小さい、請求項2に記載の平版印刷版原版。
【請求項4】
前記基板が、前記内側酸化アルミニウム層と前記外側酸化アルミニウム層との間に配置された中間酸化アルミニウム層をさらに含み、前記中間酸化アルミニウム層が、少なくとも60nm~300nm以下の平均乾燥厚さ(T
m)を有し、少なくとも20nm~60nm以下の平均中間細孔径(D
m)を有する多数の中間細孔を含み、D
mがD
oよりも大きく、D
oがD
iよりも大きく、前記外側酸化アルミニウム層の平均乾燥厚さ(T
o)が150nm未満である、請求項2
又は3に記載の平版印刷版原版。
【請求項5】
前記外側酸化アルミニウム層が、前記内側酸化アルミニウム層上に直接配置されており、前記内側酸化アルミニウム層の平均細孔径(D
i)が少なくとも20nmであり、前記外側酸化アルミニウム層の平均細孔径(D
o)よりも大きい、請求項2
乃至4のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項6】
すべて前記親水性コポリマー中の繰り返し単位の総数(または総モル数)に基づいて、前記(a)繰り返し単位が、少なくとも60mol%~97mol%以下の量で前記コポリマー中に存在し、前記(b)繰り返し単位が、少なくとも3mol%~40mol%以下の量で前記コポリマー中に存在する、請求項1
乃至5のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項7】
前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層がネガ型であり、
(a)1種以上のフリーラジカル重合性成分、
(b)前記放射感受性画像形成可能層が画像形成放射に露光されるとフリーラジカルを与える開始剤組成物、
(c)1種以上の放射吸収剤、ならびに場合により
(d)(a)、(b)、および(c)のすべてとは異なるポリマーバインダー
を含む、請求項1
乃至6のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項8】
前記親水性層中の前記親水性コポリマーが、メタクリルアミドおよびアクリルアミドのうち1つ以上に少なくとも由来する前記(a)繰り返し単位と、少なくともビニルホスホン酸に由来する前記(b)繰り返し単位とを含む、請求項1
乃至7のいずれかに記載の平版印刷版原版。
【請求項9】
平版印刷版を提供する方法であって、
請求項1
乃至8のいずれかに記載の平版印刷版原版を画像形成放射に像様露光して、露光領域および未露光領域を有する像様露光された画像形成可能層を形成する工程と、
前記像様露光された画像形成可能層から前記未露光領域を機上で除去して、平版印刷版を形成する工程と
を含む、方法。
【請求項10】
前記像様露光された画像形成可能層中の前記未露光領域が、平版印刷インキ、湿し水、または前記平版印刷インキと前記湿し水の両方を使用して機上で除去される、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
前記像様露光が赤外線を使用して行われる、請求項
9又は10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1乃至8のいずれかに記載の平版印刷版原版の製造方法であって、
電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面を有するアルミニウム含有板を準備する工程と、
前記アルミニウム含有板を第1の陽極酸化プロセスに供して、前記電気化学的または機械的に粒状化されエッチングされた平面上に外側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記外側酸化アルミニウム層が、少なくとも15nm~30nm以下の平均外側細孔径(D
o)を有する多数の外側細孔を含み、少なくとも30nm~650nm以下の平均乾燥厚さ(T
o)を有する、第1の陽極酸化プロセスに供する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
前記アルミニウム含有板を第2の陽極酸化プロセスに供して、前記外側酸化アルミニウム層の下に内側酸化アルミニウム層を形成する工程であって、前記内側酸化アルミニウム層が、少なくとも300nm~3,000nm以下の平均乾燥厚さ(T
i)を有し、100nm以下の平均内側細孔径(D
i)を有する多数の内側細孔を含む、第2の陽極酸化プロセスに供する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層および前記内側酸化アルミニウム層をすすぐ工程と、
前記外側酸化アルミニウム層上に機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する工程と、
前記外側酸化アルミニウム層および前記内側酸化アルミニウム層をすすいだ後であって、前記外側酸化アルミニウム層上に前記機上現像可能な放射感受性画像形成可能層を形成する前に、前記外側酸化アルミニウム層上に親水性層を設ける工程であって、前記親水性層が、1種以上の親水性ポリマーを含み、前記親水性ポリマーのうち少なくとも1種が、アミド単位を含む(a)繰り返し単位と、リン原子に直接連結した-OM基を含む(b)繰り返し単位とを少なくとも含む親水性コポリマーであり、ここで、Mが、水素、ナトリウム、カリウム、またはアルミニウム原子を表し、前記親水性層が、少なくとも0.0002g/m
2~0.1g/m
2以下の乾燥被覆量で前記外側酸化アルミニウム層上に配置される、親水性層を設ける工程と
を順に含む、方法。
【国際調査報告】