(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】電解質媒体、該電解質媒体を用いた電解研磨プロセス、及び該電解研磨プロセスを実行する装置
(51)【国際特許分類】
C25F 3/16 20060101AFI20231213BHJP
C25F 7/00 20060101ALI20231213BHJP
B23H 3/08 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C25F3/16 D
C25F7/00 M
C25F7/00 R
B23H3/08
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534379
(86)(22)【出願日】2021-11-30
(85)【翻訳文提出日】2023-07-25
(86)【国際出願番号】 ES2021070864
(87)【国際公開番号】W WO2022123096
(87)【国際公開日】2022-06-16
(32)【優先日】2020-12-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】518360830
【氏名又は名称】ドライライテ エス.エル.
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100185269
【氏名又は名称】小菅 一弘
(72)【発明者】
【氏名】サルサネダス ジムペラ マルク
(72)【発明者】
【氏名】ロマゴサ カラタユド パウ
(72)【発明者】
【氏名】ペレス プラナス ミゲル フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】グティエレス カスティロ ホアン ダヴィド
(72)【発明者】
【氏名】ソト エルナンデス マルク
【テーマコード(参考)】
3C059
【Fターム(参考)】
3C059AA02
3C059EA02
3C059EA06
(57)【要約】
本発明は、金属表面の処理のために専用の業種の一部に関し、固体粒子及び非導電性流体を含む電解質媒体、前記媒体を用いたプロセス、並びに前記プロセスを実行する装置に関する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性溶液を保持する固体粒子を含む固体電解質粒子群と、
前記導電性溶液と混ざらない非導電性流体と、を含む、ことを特徴とする電解質媒体。
【請求項2】
導電性溶液を保持する前記粒子は、多孔質構造又はゲル状構造を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の電解質媒体。
【請求項3】
導電性溶液を保持する前記粒子は、高分子材料であり、前記高分子材料は、スチレン、ジビニルベンゼン、アクリル酸、アクリル酸由来のモノマー、メタクリル酸、メタクリル酸由来のモノマーのうちの少なくとも1種が配合され、及び/又はスルホン酸、カルボン酸塩、イミノ二酢酸、アミノホスホン酸、ポリアミン、2-ピコリルアミン、チオ尿素、アミドキシム、イソチウロニウム又はビスピコリアミンから選択される官能基を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の電解質媒体。
【請求項4】
前記導電性溶液は、水溶液、又は、硫酸、スルホン酸、メタンスルホン酸、塩酸若しくはリン酸から選択される酸を含む水溶液から選択される、ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の電解質媒体。
【請求項5】
前記非導電性流体は、炭素数5~16の炭化水素、シリコン、シリコンオイル又はフッ素化溶媒から選択される流体を含む、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の電解質媒体。
【請求項6】
前記非導電性流体は、
炭化水素ベースの非導電性流体、シリコン又はフッ素化溶媒と、
導電性溶液と、
界面活性剤と、を含むエマルションである、ことを特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の電解質媒体。
【請求項7】
前記界面活性剤は、非イオン界面活性剤及び陰イオン界面活性剤を含み、前記導電性溶液は、pHが酸性の水溶液である、ことを特徴とする請求項6に記載の電解質媒体。
【請求項8】
電解研磨プロセスにおける請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質媒体の使用。
【請求項9】
a)少なくとも1つの研磨対象のピースを電源に接続するステップと、
b)少なくとも1つの電極を前記電源の反対の極に接続するステップと、
c)研磨対象の前記ピースと請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質媒体の固体電解質粒子とを、前記ピースと前記粒子との間で相対運動させるように接触させるステップと、
d)研磨対象の前記ピースと前記電極との間に電位差を印加することにより、請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質媒体を介して、ピースと電極との間を流れる電流を発生させるステップと、を含む、電解研磨プロセス。
【請求項10】
研磨対象の前記ピースと前記電解質媒体との前記相対運動は、
研磨対象の前記ピースに前記電解質媒体を吹き付けること、又は前記電解質媒体中の前記ピースの運動を含む、ことを特徴とする請求項9に記載の電解研磨プロセス。
【請求項11】
電源(1)と、
電荷を前記電源(1)から前記電解質媒体に伝達する電極(3)と、
少なくとも1つの研磨対象の金属ピース(2)と請求項1~7のいずれか一項に記載の電解質媒体との相対運動を発生させる手段と、を含み、前記手段は、
前記電源(1)に接続され、前記ピース(2)に前記電解質媒体を吹き付ける手段、
前記ピース(2)及び前記電解質媒体が配置され、運動の手段を有し、前記ピース(2)に電気的接続性を提供するケージ(14)、及び
前記電解質媒体及び電極(3)を収容する容器、及び前記電源により前記ピースに運動及び電気的接続性を提供するシステム、
から選択される、ことを特徴とする電解研磨装置。
【請求項12】
前記電解質媒体を配置し、かつ内部にピース(4)を配置して電気的接続性を提供するシステムが設けられる容器(10)を含む、ことを特徴とする請求項11に記載の電解研磨装置。
【請求項13】
相対運動を発生させる前記手段は、前記電解質媒体中での研磨対象の前記ピースに回転並進運動を発生させる手段、及び/又は上下交互運動を発生させる手段から選択される、ことを特徴とする請求項11に記載の電解研磨装置。
【請求項14】
前記吹き付ける手段は、カソード(3)に取り付けられたノズル(9)である、ことを特徴とする請求項11に記載の電解研磨装置。
【請求項15】
前記容器(10)内に落下した電解質媒体を前記ノズル(9)に圧送するポンプを含む、ことを特徴とする請求項14に記載の電解研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の処理のために専用の業種の一部に関する。特に、金属仕上げ、バニシング、研磨の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
2016年、特許ES2604830号に記載されている固体電解質を用いた電気化学プロセスに基づいて金属表面を研磨する新たな技術が公開された。このプロセスは、新たな固体電解質を用いることにより、従来の液状電解研磨プロセスを大幅に改善している。実用的観点から、腐食性の濃酸溶液の使用は、回避され、液状廃棄物は、生成されない。一方、固体電解質を含まない固体が、粗さピークに電気化学効果を集中させて選択性を高めるため、得られた結果は、従来の電解研磨方法から予想される結果を超える。
【0003】
一般に、この電解研磨プロセス用の固体電解質は、液体電解質を保持するイオン交換樹脂で構成される。いくつかの文献には、このプロセスを実行するためのこれらの固体電解質の異なる組成物が記載されている。
【0004】
文献ES2604830には、イオン輸送による固体電解質と、保持した液体電解質がフッ酸を含む固体電解質とを用いた電解研磨プロセスが記載されている。
【0005】
文献ES2721170には、保持した電解質が硫酸溶液である固体電解質が記載されている。この電解質は、ステンレス鋼及びコバルトクロム合金に特に有用であると記載されている。
【0006】
文献ES2734500には、チタンの研磨による特定の問題の解決策として、保持した電解質が塩酸溶液である固体電解質が記載されている。
【0007】
文献ES2734415には、スルホン酸、好ましくはメタンスルホン酸の溶液を含有する固体電解質が記載されている。この組成物は、広い範囲の合金及び金属に有用である。
【0008】
記載されている全ての場合は、一方が非導電性不活性担体粒子群、他方が強酸の水溶液の2種の成分に基づく配合物である。
【0009】
しかしながら、これらの組成物には、以下のいくつかの制限がある。
-システムが到達する最低レベルの粗さに達すると、一般に「オレンジ肌(orange peel)」と呼ばれる特徴的な波面(ripple)が発生する。
-粒子は、常に孔食を引き起こす酸滲出液を金属表面に生成する。
-酸滲出液は、大気酸素と共に、制御されていない方法で表面を酸化する。
-最終粗さは、PIECE(初期粗さ、金属、形状など)と固体電解質(サイズ、組成物、濃度など)に依存する限界を超えて減少することができない。
-含有した電解質液の蒸発により、プロセスにおいて結果のドリフトが発生する。
-媒体の高い機械抵抗により、微細なピースの研磨が阻止される。
【0010】
当業者にほぼ明らかなこれらの制限の解決策は、プロセスに使用される電気パラメータを変化させること、固体電解質に含まれる酸性溶液の濃度を減らすこと、又は水溶液の量を減らすことを含む。これは、いくつかの問題に対して一定の改善をもたらす可能性があるが、質的飛躍を表していない。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、新たな電解質媒体、該電解質媒体を用いた電解研磨プロセス、及び該プロセスを実行する装置を開示する。
【0012】
本発明の根本的な相違点は、固体電解質粒子と共に非導電性流体が存在することである。直観に反して、これは、後述する固体電解質を用いた電解研磨プロセスにおいて利点を有する。
【0013】
したがって、本発明の一態様は、
・導電性溶液を保持する固体粒子を含む固体電解質粒子群と、
・導電性溶液と混ざらない非導電性流体と、を含む電解質媒体に関する。
【0014】
本発明において、「固体電解質粒子群」という用語とは、固体粒子と導電性溶液によって形成される群を指す。
【0015】
このテキストでは、本発明の該態様における電解質媒体は、本発明の電解質媒体と呼ばれる。
【0016】
このテキストでは、流体は、広義に理解され、粘度が非常に高い材料、例えば、室温で粘度が0.05m2/sに近いワセリンは、流体であると考えられる。ニュートン流体と非ニュートン流体の両方は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0017】
このテキストでは、2つの流体は、プロセスの作業温度範囲内で、参照として0℃~100℃で、いずれの割合でも単相を形成しない場合、混ざることがない(not miscible)か、又は混ざらない(immiscible)と理解される。
【0018】
本発明の第2態様は、電解研磨プロセスにおける本発明の電解質媒体の使用に関する。
【0019】
本発明の別の態様は、
少なくとも1つの研磨対象のピースを電源(power source)に接続するステップと、少なくとも1つの電極を電源(power supply)の反対の極に接続するステップと、
研磨対象のピースと本発明で定義された電解質媒体の固体電解質粒子とを、ピースと粒子との間で相対運動させるように接触させるステップと、
研磨対象のピースと電極との間に電位差を印加することにより、本発明で定義された電解質媒体を介して、それらの間を流れる電流を発生させるステップと、を含む電解研磨プロセスに関する。
【0020】
相対運動は、2点の相対位置を変化させる運動として理解される。この相対運動は、2点間の揺動運動又は振動運動、例えば、振動面と粒子との間に発生する運動などを含む。
【0021】
本発明の最終態様は、
電源と、
電荷を電源から電解質媒体に伝達する電極と、
少なくとも1つの研磨対象の金属ピースと本発明に記載の電解質媒体との相対運動を発生させる手段と、を含み、
相対運動を発生させる手段は、
電源に接続され、ピースに電解質媒体を吹き付ける手段、
電解質媒体を収容する容器、及びピースに電気的接続性及び運動を提供するシステムから選択される、電解研磨装置に関する。
【0022】
技術的効果
固体電解質粒子群に非導電性流体を添加することにより、金属の固体電解質研磨の電気化学プロセスの結果を向上させる。本発明の前の固体電解質を用いた電解研磨プロセスでは、1つの電極に接続された研磨対象の金属ピースを、第2電極を含有する固体電解質粒子の媒体中に導入する。電極間に印加された電位差により、粒子-金属接触点(金属粗さピーク)で酸化還元反応を起こす。これらの金属酸化物は、陽イオンとなった粒子によって除去され、研磨効果を生じる。固体電解質粒子は、それらの接触領域を介して電気を通す。粒子が金属表面に接触すると、圧力により、酸滲出液が表面に生じる。
【0023】
本発明に記載の固体電解質は、粒子を含有する電解質液と混ざらない非導電性流体を含む。この流体は、粒子間の接続性、及び粒子-金属表面相互作用に対して驚く効果がある。
【0024】
粒子間の効果
非導電性液体がない場合、各粒子は、表面の一部が他の粒子と接触し、表面の他部分が気体媒体(通常、空気)と接触する。これに対し、本発明では、非導電性流体は、内部を大きく貫通することなく、粒子が別の粒子と接触する領域を回避して、球状粒子の表面に接触する。
【0025】
粒子-粒子接触領域において、粒子内の液体電解質が集中している。2種の流体(導電性流体と非導電性流体)の非混合性により、粒子-粒子導電性液体のメニスカスは、空間により集中するため、より強くなる。これは、いずれも粒子の接続性が高くなる。
【0026】
研磨対象の表面への影響
本発明を用いた電解研磨プロセスでは、金属表面は、粒子-金属接触点を除いて、非導電性流体で覆われている。これは、最終仕上げにいくつかのプラスの影響を有する。
-局所酸攻撃から保護する。表面が混ざらない液体で覆われているため、粒子の水性酸滲出液が金属表面に堆積せず、孔食が防止される。
-周囲の酸素と金属との接触を防止することにより、大気酸化が防止される。
-金属の酸化は、粒子の接触と電流の通過のみに起因するため、電気化学プロセスの制御が増加する。
-粗さピークに最も効果的な電気化学的作用を集中させる。表面粗さを一連のピーク及び谷として可視化すると、非導電性流体により、谷が電気化学プロセスに対して不活性になる。
-最終粗さと波面を小さくする。流体が谷に優先的に分布するため、このプロセスは、粗さをよりよく識別し、より滑らかな仕上げを達成することができる。
-最終の「オレンジ肌」を低減する。
-より選択的なプロセスでは、より少ない金属を除去して同じ粗さの低減を達成する。
【0027】
固体電解質粒子自体は、粒状材料のように挙動する。固体電解質を非導電性流体と配合できるという事実により、集合体を特定の配合物で流体として処理することができ、該特定の配合物により、研磨プロセスは、浸漬によるだけでなく、研磨対象のピース群を吹き付けることにより実行することができる。
【0028】
したがって、本発明には、非導電性流体と、導電性溶液を保持する粒子からなる固体電解質粒子群とを含み、非導電性流体と導電性溶液が混ざらない、電解質媒体が記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の浸漬による電解研磨装置の模式図を示す。
【
図2】本発明の吹き付けによる電解研磨装置の模式図を示す。
【
図3】研磨対象のピースがしっかりと保持されることなく、それらに電気的接続性を提供する区画にある本発明の装置の概略図を示す。
【
図4】電気的接続性を受ける研磨対象のピースに向けてカソードに接続された出口ノズルから電解質媒体を吹き付ける本発明の装置の概略図を示す。
【
図5】複数の研磨対象のピースが回転可能なドラム内に配置される本発明の装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の根本的な態様は、電解研磨用「非導電性流体を有する固体電解質粒子群(set of solid electrolyte particles)」によって形成された電解質媒体に関し、該電解質媒体は、
・導電性溶液を保持する固体粒子を含む固体電解質粒子群と、
・導電性溶液と混ざらない非導電性流体と、を含む。
【0031】
固体電解質粒子
固体電解質粒子は、導電性が付与されるように導電性液体溶液を保持する能力を有する固体粒子で構成される。導電性液体溶液を含む電解質固体粒子群(set of electrolyte solid particle)は、10μS/cmより大きい導電率を示す。液体保持は、材料の多孔性又はゲル状構造などの分子構造によって生じ得る。好ましくは、粒子は、多孔質であり、この多孔性が、ミクロ多孔性、メソ多孔性、マクロ多孔性、フラクタル多孔性から選択される。保持機構は、浸透、吸収、吸着、層間空間の保持であり得る。
【0032】
これらの粒子は、鉱物、セラミック、高分子材料、植物由来の有機化合物及び無機化合物など、液体を保持できる任意の材料であり得る。
【0033】
これらの粒子は、高分子材料からなることが好ましい。好ましくは、粒子は、球体又は回転楕円体である。
【0034】
好ましくは、粒子は、粒子の質量と水の質量の合計である全質量に対して、水の質量が1mass%~80mass%である液体保持能力を有する。
【0035】
このテキストでは、%は、参照された全質量に対する成分xの質量比を表す。
【0036】
高分子材料
液体を保持できるこれら固体粒子は、高分子材料からなることが好ましく、該高分子材料は、金属に比べて硬さがより低い材料であるため、このプロセスは、研磨成分を有しない。固体粒子は、金属表面を流れる必要があるため、研磨対象の表面上での運動に有利な形状を有する。そのため、高分子材料粒子の好ましい形状は、球状又は回転楕円体形状である。
【0037】
減少する初期粗さRaが通常、1~10μmであるため、球体は、粗さが研磨されることなく転がることができ、好ましくは、粒径が非常に高い球体-粗さ比率(粗さに関連する大きい球体)を有する。したがって、粒子の最適な平均直径は、100μm~1mmであることが好ましい。
【0038】
好ましい高分子材料は、強酸性陽イオン樹脂及び弱酸性陽イオン樹脂、強塩基性陰イオン交換樹脂及び弱塩基性陰イオン交換樹脂、キレート樹脂から選択されるイオン交換樹脂である。より好ましくは、陽イオン交換樹脂であり、このようにして、電解研磨プロセスにおいて抽出された金属イオンを捕捉する能力がある。
【0039】
特に、スルホン化ジビニルベンゼンS-DVB及びスチレン共重合体がプロセスにおける酸と酸化作用に耐性があるため、高分子材料の粒子は、該共重合体からなる。該共重合体は、イオン交換体として機能する能力を有し、これは、イオンの貯蔵による研磨対象の表面からの金属の抽出に有利となる。
【0040】
或いは、高分子材料の粒子は、アクリル酸又はメタクリル酸に由来する単位を含有する共重合体である。これには、アクリル酸、アクリルアミド、シアノアクリレート、アクリル酸アルキルなどの異なる官能基の誘導体と、対応するメタクリレート類似体とが含まれる。これらの材料に基づく粒子は、空洞がなく、かつ開口した形状を有する部品の加工に適する高弾性を有する。
【0041】
粒子は、多孔質構造を有してもよく、それにより、流体の交換が容易となり、プロセスがより速くなる。
【0042】
或いは、粒子は、ゲル状構造を有してもよい。この場合、流体交換がより制限され、それにより、プロセスが遅くなるが、粒子表面接触がより規定されるため、最終粗さが小さくなる。
【0043】
好ましくは、高分子材料の粒子は、該プロセスにおいて生成される金属イオンを捕捉又は保持することができる官能基、例えば、酸基、アミノ基、キレート基を含む。
【0044】
これらの官能基は、スルホン酸基、カルボン酸基などの酸性官能基であってもよい。これらの酸性官能基は、耐化学性に優れ、様々な金属イオンを保持できるため、本願において特に有用である。
【0045】
また、イミノ二酢酸、アミノホスホン、ポリアミン、2-ピコリルアミン、チオ尿素、アミドキシム、イソチウロニウム、ビスピコリアミンなどのキレート官能基を用いることができる。これらのキレート基は、アルカリ又はアルカリ土類金属に対する遷移金属の選択性が高いため、配合物において柔軟性がより高く、蒸留水を用いる必要がない。
【0046】
便利に、様々な市販のイオン交換樹脂は、高分子材料の粒子として使用するために必要な特性を満たす。
【0047】
導電性溶液
粒子に保持される導電性液体溶液は、導電性液体である。電解研磨プロセスにおける導電性液体溶液の機能は2つあり、一方が電気を通す機能で、他方が処理対象表面に形成された酸化物を溶解できる機能である。このため、この液体の組成物は、重要であり、適用されるプロセス、処理対象表面のタイプに依存する。電解研磨プロセスの場合、導電性液体溶液は、イオン液体、液体酸、導電性溶液、導電性液体ポリマーであってもよい。
【0048】
導電性溶液は、極性溶媒を含んでもよく、該極性溶媒は、水、エタノール、イソプロパノール、DMSO、DMF、イオン液体などであるが、それらに限定されない、。好ましくは、導電性溶液は、水を含み、水が塩及び金属酸化物を効果的に溶解できる溶媒であるからである。
【0049】
より好ましくは、導電性溶液は、少なくとも1種の酸を含み、例えば、酸を含有する水溶液である。これは、媒体中のプロトン(高導電性)の数を増やすことにより導電性を高めるとともに、主に酸性である金属酸化物の溶解性を高めるという技術的効果を有する。例えば、用いられる酸は、硫酸、スルホン酸、リン酸、カルボン酸、クエン酸、塩酸、フッ酸などであるが、それらに限定されない。好ましくは、用いられる酸は、硫酸であり、硫酸が不揮発性の強酸であるからである。
【0050】
好ましくは、用いられる酸の群(family)は、スルホン酸であり、スルホン酸が、酸性が高く、かつそれらの塩の溶解性が高いからである。好ましくは、用いられるスルホン酸は、メタンスルホン酸であり、メタンスルホン酸が塩の溶解性が最も高いからである。
【0051】
また、リン酸は、腐食に対する感度が高い金属の場合に好ましく、保護用のリン酸金属塩の不動態層の形成を促進するからである。
【0052】
好ましく用いられる高活性かつ高攻撃性酸は、塩酸である。
【0053】
酸は、単独で用いられてもよく、複数種の組み合わせで用いられてもよい。好ましい組み合わせは、強酸とリン酸との組み合わせである。
【0054】
粒子の導電性と酸化物及び塩の溶解性とを向上させるために、酸を錯化剤、塩などと組み合わせることができる。
【0055】
導電性溶液中の酸の全質量濃度は、水及び酸の全質量に対して0.1mass%~70mass%の範囲にある。好ましくは、酸は、水及び酸の質量に対して1mass%~40mass%である。金属の化学的性質の差が大きいため、非常に広い範囲である。下限範囲は、酸攻撃に非常に敏感な金属に用いられる。上限範囲は、従来の電解研磨に用いられる濃度と同様である。
【0056】
例えば、鋼及び鉄基合金の研磨には、より酸性の水の質量に対して1mass%~10mass%の酸濃度を用いることが好ましく、該酸濃度により、導電性が高く、かつ酸化物の溶解が十分であるからである。それに対して、チタンの研磨には、水及び酸の全質量に対して20mass%~35mass%の酸濃度を用いることが好ましく、生成する酸化チタンがより高い溶解濃度を必要とするからである。
【0057】
導電性溶液は、例えば、ETDA、クエン酸塩/クエン酸、ポリエチレン・グリコール、ポリエーテル、ポリアミンなどの錯化剤を含んでもよい。
【0058】
クエン酸又はクエン酸塩は、そのキレート効果のためにプロセスに有用であり、研磨対象の表面からの酸化物及び塩の除去に有効である。
【0059】
導電性液体溶液は、中性であってもよい。この場合、導電性液体溶液は、導電性を高めるために、溶解イオンを含む必要がある。
【0060】
導電性溶液は、塩基性であってもよい。塩基としてのアミンの使用は、金属溶液に有利であり、アミノが金属陽イオンに配位する能力を有するからである。これらの塩基性導電性溶液配合物は、陰イオン錯体を形成する金属に特に適する。
【0061】
他の化合物は、導電性液体溶液に添加することができる。液体の導電性を高める塩、例えば、アルカリ金属塩を添加することができる。
【0062】
固体電解質粒子群の間の導電性溶液の比率は、好ましくは、導電性溶液及び電解質粒子の質量である全質量に対して25mass%~60mass%であり、この範囲で、固体電解質粒子を含まない導電性液体を観察することなく、固体電解質粒子の測定可能な導電性を観察するのに十分な導電性液体があるからである。より好ましくは、導電性溶液及び電解質粒子の質量である全質量に対して35mass%~50mass%の電解質粒子/全質量である。
【0063】
このテキストでは、遊離液体又は遊離流体は、通常の圧力及び温度の条件下で固体部分から分離するものと理解される。通常の条件は、圧力が1atmで、温度が0℃であることを意味する。例えば、出版物SW-846において米国環境保護庁に記載されている「Method 9095(Paint Filter Liquids Test)」により決定することができる。
【0064】
好ましくは、粒子の材料がスチレンとスルホン化ジビニルベンゼンとの共重合体に基づくイオン交換樹脂である場合、導電性溶液と固体電解質粒子群との比率が全質量に対して34mass%~52mass%であると、最適な電解研磨プロセスが得られる。
【0065】
非導電性流体
非導電性流体は、本発明の定義要素である。該非導電性流体は、室温で静止しているときに電流があまり流れない流体である。その機能を実現するために、非導電性流体は、固体電解質粒子に含まれる液体電解質と混ざらない必要がある。このようにして、親和性により、液体電解質は、粒子の内側に保持され、非導電性流体は、その外側に保持される。非導電性流体は、酸溶液であり得る電解質液の存在に耐える必要があるため、かなりの電圧に加えて、作業環境で安定又は動力学的に安定な化合物でなければならない。
【0066】
非導電性流体は、粒子間の隙間を、部分的、全体的、又は過剰に占める。
【0067】
非導電性流体は、固体電解質粒子と非導電性流体との質量で表される全質量に対して、質量基準で濃度が1%~80%である。
【0068】
この電解質媒体の利点は、空気にさらされる電解質液の表面積が減少すると、電解質液の蒸発も減少し、それにより、プロセスの安定性が向上し、新しい電解質間により多くの再現性の結果が得られ、かつ数時間使用されることである。
【0069】
球体の表面に、導電性液体は、他の球体と接触している点に集中することにより、粒子間により高い接続性をもたらすより強いメニスカスを生成する。
【0070】
非導電性流体による固体電解質粒子への主な作用は、研磨対象のピースの金属表面を非導電性液体で覆うことである。これは、固体電解質を用いた電解研磨プロセスの仕上げを良くする以下のいくつかの技術的効果を有する。
-局所酸攻撃に対する金属保護
-大気酸化の低減
-電気化学プロセスの制御の強化
-ピークの高い選択性
-粗さの小さい最終仕上げ
【0071】
粘度
このプロセスは、粘度が非常に高い流体、例えば、粘度が0.05m2/sに近いワセリンを用いて実行することができる。これらの場合、粒子間の凝集性の高いシステムが生じる。また、大気酸化及び酸残渣から表面を効果的に保護する、ピースの高粘度コーティングは、生成されることにより、炭素鋼などの高感度金属に適する。
【0072】
ほとんどの場合、興味深いことには、粒子が表面に接触したときに分離し、粒子が離脱したときに速やかに回復する非導電性流体の均質層を有する。研磨対象の表面におけるこのような非導電性流体の分布を達成するために、非導電性流体は、好ましくは、1~10-7~1~10-4m2/sの範囲にある粘度を有し、例えば、C6~C16官能基がない炭化水素、低粘度シリコンオイルなどである。
【0073】
したがって、非導電性流体の粘度範囲は、非常に広く、1~10-7~0.05m2/sであり、好ましくは、1~107~1~10-4m2/sの範囲を中心とする。
【0074】
揮発性
非導電性流体は、一定の揮発性を有する可能性があり、この場合、その特性を維持するために定期的に交換する必要がある。変換を回避するために、非導電性流体は、あまり揮発しないことが好ましい。好ましくは、流体は、100℃を超え、例えば、100~1000℃の範囲にある沸点を有する。
【0075】
タイプ
非導電性流体を本願に使用可能にする揮発性、粘度、毒性などの特性を満たす非導電性流体のタイプは、限定されており、炭化水素、有機溶媒、精油、シリコン、シリコンオイル、フッ素化溶媒などを含む。非導電性流体は、単独で用いられてもよく、互いに組み合わせて用いられてもよい。
【0076】
炭化水素
炭化水素ベースの流体は、潤滑剤、燃料、溶剤などの様々な用途に用いられる。このテキストでは、炭化水素は、構造中に炭素及び水素のみを含む化合物として理解される。この多種多様な既存の炭化水素により、ニーズに最適な特性を示すものを選択することができる。
【0077】
脂肪族炭化水素は、一般に芳香族炭化水素に比べて毒性が低く、電気化学的安定性が高いため、好ましく用いられる。
【0078】
好ましくは、脂肪族炭化水素は、分子量、及び作業温度で流体又は半流体状態となる構造で用いられ、それにより、有力候補をC5~C30範囲に配置する。
【0079】
好ましくは、線形構造を有するC5~C16の範囲の炭化水素が用いられ、該炭化水素は、粘度が非常に低く、ひいては5~10-5m2/s未満であり、揮発性が高く、80℃を超えるためである。
【0080】
また、低揮発性の水に混ざらない溶媒と有機化合物、例えば、1-オクタノールなどの脂肪族アルコールと、プロピレン・カーボネート、エチレン・カーボネートなどの有機カーボネートとは、このプロセスに用いられてもよい。
【0081】
シリコン
シリコン及びシリコンオイルは、金属部品の保護及び潤滑に関連する様々な用途があるため、潤滑剤及び他の用途として異なる金属表面との相互作用に最適化されている。このテキストでは、シリコン又はシリコンオイルは、主鎖にO-Si結合を含むオリゴマー、ポリマー、サイクル又は他の構造であると理解される。
【0082】
これらの液体は、本発明に有用な特徴を有する。シリコンオイルは、ジメチルシロキサン単位-OSi(Me2)-を含む。線形構造を有するものは、粘度が低いため、特に有用であり、ヘキサメチルシクロトリシロキサンなどの環状構造も特に有用である。一般に、ポリジメチルシロキサンは、このプロセスの優れた候補であり、良好な多様性を有するため、非導電性流体を用途に適合することができる。
【0083】
フッ素化
高品質の成果を生み出す溶媒の別の群は、フッ素化流体及びペルフルオロ化流体である。このテキストでは、フッ素化溶媒は、その化学構造に少なくとも1つのフッ素原子を組み込んだものであると理解される。
【0084】
これらの液体は、表面エネルギーが最も低いものであるため、粒子との相互作用、及び金属表面との相互作用が非常に弱い。これは、金属表面を塞がないという利点を有するが、液体の他の群に比べて顕しい効果がより少ないという欠点を有する。これは、この液体の群に対してオレンジ肌を低減することを示す原因である。
【0085】
フッ素化溶媒は、他の液体に比べて表面張力が非常に低い。これは、フッ素の高い電気陰性度と低い分極率に起因する。
【0086】
エマルション
乳化システム(emulsified systems)に基づく非導電性流体は、特別な言及に値する。これらのシステムは、速い浸食速度、及び圧送を容易にする高い流動性を有し、また、高品質の仕上げを提供する。追加の利点は、調合物を異なるニーズにより容易に適応させることである。
【0087】
これらのエマルションは、特に、導電性極性溶液ミセルを含有する非導電性非極性連続相である。エマルションで一般的に使用される専門用語によると、油中水型エマルション(w/o)について話す。ミセルの導電性極性溶液は、固体電解質粒子によって保持される導電性溶液と同じ組成物を有する。非極性連続相が非導電性であるため、固体電解質粒子を含まない静止時のエマルションは、非導電性である。
【0088】
エマルションは、導電性でない(not conductive)が、電解質媒体、エマルション及び固体電解質粒子の混合物全体の導電性は、非乳化流体を含有する配合物より明らかに優れている。これは、エマルションのミセルが極性導電性溶液を保持する粒子の周囲に構造化し、ミセルが局所的に不安定化するため、粒子間の親水性架橋が増加するためである。
【0089】
金属表面に、ミセルは、極性溶液の残液(配合物によっては酸を含有する場合がある)を吸収するため、孔食となる優先到達点が減少する。
【0090】
エマルション系非導電性流体は、
・このテキストに記載されている非導電性流体のいずれかに基づく非極性連続相としての非導電性流体と、
・分散極性相としての導電性溶液と、
・エマルションを安定化する界面活性剤と、を含む。
【0091】
好ましくは、非導電性流体の質量百分率は、非極性連続相、分散極性相及び界面活性剤の合計質量である全質量に対する非導電性流体の質量百分率である。連続的な非極性相は、50%~99%の範囲にあり、分散極性相は、1%~50%の範囲にあり、界面活性剤は、0.01%~30%の範囲にある。より好ましくは、非極性連続相は、70%~80%にあり、分散極性相は、20%~30%にあり、界面活性剤は、1.5%~3%にある。
【0092】
更に好ましくは、界面活性剤は、非イオン界面活性剤と陰イオン界面活性剤の混合物であるため、非イオン界面活性剤は、0%~20%の範囲にあり、より好ましくは、1%~2%にあり、陰イオン界面活性剤は、0%~10%にあり、より好ましくは、0.5%~1%にあり、常に、界面活性剤の合計は、少なくとも0.01%である。
【0093】
表面粒子間相互作用の形状効果を促進するために、好ましくは、液体エマルションの導電性は、固体電解質粒子の導電性より低い。このタイプのエマルションが導電性粒子群と組み合わせられる場合、分散極性相のミセルが粒子間に形成された導電性架橋と相互作用することにより、全体の導電性に寄与する。配合物及び界面活性剤を介して分散極性相のミセルの量及び安定性を調整することにより、プロセス及び処理対象表面における電解質媒体の全体的な導電性及び効果を調整する。
【0094】
好ましくは、連続的な非極性相は、非極性液体で構成されてもよく、該非極性液体は、炭化水素、有機溶媒、液体ポリマー、フッ素化溶媒、シリコン、鉱物油、植物油などであるが、それらに限定されない。好ましくは、連続的な非極性相は、C5-C2画分の炭化水素を含み、該炭化水素が粘度と揮発性の必要な技術的特性を満たすためである。
【0095】
好ましくは、連続的な非極性相は、炭化水素、シリコン及びそれらの混合物から選択され、混合物は、炭化水素とシリコンを含み、かつ炭化水素及びシリコンの質量で表される全質量に対して、炭化水素の質量百分率が80%~99%である。
【0096】
液体エマルションでは、分散極性相は、連続的な非極性相に分布しているコロイド、ミセル、微液滴などで構成される。分散極性相は、粒子に保持される導電性液体溶液と混ざる。このため、分散極性相が固体電解質粒子間の導電性液体架橋と相互作用することにより、媒体の導電性を調整する。好ましくは、分散極性相は、水と酸の混合物であり、水が、水と酸の全質量に対して30%~99.9%の質量百分率であり、より好ましくは、90%~98%の質量百分率である。
【0097】
分散極性相が導電性液体架橋と相互作用することを可能にする配合物は、導電性が高い。これらの配合物は、好ましくは、高親水性又はHLB(親油性親水性バランス)の界面活性剤を含み、すなわち、好ましくは、相対的に小さい非極性鎖を有するイオン性基又は強い極性基を有する。
【0098】
連続的な非極性相に分散極性相を安定化させる配合物は、導電性が低い。これらの配合物は、好ましくは、連続的な非極性相に分散極性相を安定化させる界面活性剤を含む。これらの界面活性剤は、好ましくは、非イオン化極性基と1つ以上の大きな非極性鎖とを有する比較的低いHLBを有する。導電性が低いが、導電性液体架橋がエマルションを含まない場合より安定化し、それにより、運動時に導電性をより一定に保持する。
【0099】
このテキストでは、界面活性剤という用語は、2相間の表面張力を低減し、主に極性部分と非極性部分を持つ化学構造を有する、全ての界面活性剤、洗浄剤(detergent)、乳化剤、乳化性剤、保湿剤、石鹸、可溶化剤、柔軟剤、界面活性剤、消泡剤などを含むように広義に用いられる。界面活性剤を定義するパラメータは、親水性-親油性バランス又はHLB(親水性親油性バランス)である。高いHLBは、極性相により溶けやすい界面活性剤に対応し、低いHLBは、非極性相により溶けやすい界面活性剤に対応する。
【0100】
本発明では、使用された界面活性剤又は界面活性剤の混合物は、エマルションの構造の定義に対して重要であり、該エマルションの構造は、その性質を指示し、液体エマルションと粒子との相互作用、及び液体エマルションと研磨プロセスにおける処理対象表面との相互作用に影響を与える。
【0101】
本発明における界面活性剤の1つの効果は、分散極性相と粒子間の導電性液体架橋との相互作用を制御することにより、導電性を間接的に制御することである。界面活性剤は、連続的な非極性相における分散極性相の安定性を制御するものであり、安定性が低いほど、導電性液体架橋との相互作用が大きくなる。
【0102】
更に、追加の効果は、界面活性剤が電解研磨プロセスにおいて金属ピースの表面に層を形成できることである。該層は、表面の保護層及びレベラーとして作用し、粗さの谷において、該層がより安定であるため、粗さピークのより大きい露出に有利であり、それにより、本発明を用いるとより滑らかに仕上げることになる。
【0103】
界面活性剤は、分散極性相の可用性を制御して導電性液体架橋に介在する。
【0104】
エマルション中の分散極性相の制限が大きいほど、電解質媒体が遅くなり、処理対象表面への到達が少なくなり、より良い仕上げが得られる。連続的な非極性相における分散極性相を効果的に安定させる乳化剤により、より大きな制限が達成される。低いHLB界面活性剤は、この制限に有利である。
【0105】
不連続な極性相の制限がより少ない電解質媒体は、より高い導電性に有利となる。この導電性により、システムがより攻撃的になり、高速になり、材料の除去に有利となる。このタイプのシステムは、特に、ステンレス鋼、チタン、アルミニウムなどの自己不動態化金属に重点を置く。特に非極性相に極性エマルションを安定させない界面活性剤は、この場合、HLBが高く、エマルションの安定性がより低く、より多くの水性架橋が促進されることが示される。
【0106】
多用途の電解質を得るために、興味深いことには、性質の異なる界面活性剤の混合物を用いる。非イオン界面活性剤(比較的低いHLB)と陰イオン界面活性剤(高いHLB)との組み合わせを用いると、広い範囲の条件で動作でき、良好な結果を提供するシステムが達成される。
【0107】
この組み合わせは、例えば、エトキシ化鎖が結合した非イオン(nonionic)界面活性剤、スルホン酸基又はカルボキシル基を有する陰イオン界面活性剤であってもよいが、それらに限定されない。
【0108】
界面活性剤は、少なくとも1つの極性頭部と1つの非極性尾部を含む。極性頭部によると、陽イオン(cationic)、陰イオン(anionic)、両性イオン(zwitterionic)、中性(neutral)界面活性剤を参照できる。これらは、全て、本プロセスに用いることができる。
【0109】
非極性尾部は、式CnH2n+1で表される直鎖又は分岐の脂肪族鎖を含んでもよい。好ましくは、非極性尾部は、直鎖状の脂肪族鎖を含む。より好ましくは、この鎖は、C6-C1の範囲にある。
【0110】
また、非極性尾部は、芳香族基を含んでもよい。更に、非極性尾部は、脂肪族鎖が芳香族環に結合してから、極性基に結合する両方の組み合わせを含んでもよい。
【0111】
陰イオン界面活性剤は、スルホン酸又はカルボン酸の官能基と相互作用しないという利点を有するため、高分子材料がこれらの官能基を含む場合に好ましく用いられる。陰イオン界面活性剤は、負に帯電した官能基、非極性鎖及び陽イオンからなる極性頭部を少なくとも1つ有する。好ましくは、負に帯電した極性基は、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩又はカルボン酸塩基を含む。
【0112】
陰イオン界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ドキュセート、ペルフルオロオクタンスルホン酸、パーフルオロブタンスルホン酸塩、アルキルアリルエーテルリン酸塩、アルキルエーテルリン酸塩、アルキルカルボン酸塩などが挙げられるが、それらに限定されない。
【0113】
好ましく用いられる陽イオン界面活性剤は、アミノ、アンモニウム、アルカノールアミン、ピリジニウムなどの窒素含有基に基づくものである。これらの界面活性剤は、アルキル基又はアリール基を有する1級、2級又は3級アミンを含む。
【0114】
ポリエーテル鎖は、イオン基より体積が大きく、油中水型エマルションの高い安定性に有利となるため、好ましく用いられる中性界面活性剤は、これらの鎖を極性部分として含むものである。例えば、エチレングリコール単位、アルキルフェノールエトキシレート、脂肪アルコール、アミド、ソルビタン誘導体などを含む鎖が挙げられる。
【0115】
両性(amphoteric)界面活性剤とも呼ばれる両性イオン界面活性剤は、同じ分子内に陽イオン、陰イオン、及び疎水性尾部を同時に有する。本プロセスに用いることができる両性イオン界面活性剤に含まれる基の非限定例としては、アルキルアミンオキシド、ベタイン、スルテイン、ホスホコリン基などが挙げられる。
【0116】
「固体電解質粒子」に対する「非導電性流体」の比率
非導電性流体の量は、球状粒子群及び研磨対象のピースの表面を被覆するのに十分である必要がある。非導電性流体の比率が低すぎると、このプロセスにおいて所望の効果が達成されない。このプロセスを実行する非導電性流体の最小値は、総電解質媒体に対する非導電性流体の0.05%である。
【0117】
好ましくは、固体電解質粒子の質量百分率は、固体電解質粒子と非導電性流体で表される全質量に対して、20%~99%であり、より好ましくは、50%~80%である。
【0118】
概念的に注目すべき点は、固体電解質粒子群の隙間を埋める量である。配合物の量は、この値より多くても少なくてもよい。量が多いほど、媒体の圧送及び流動性が向上する。
【0119】
固体電解質粒子に対する非導電性流体の比率に応じて、群(the set)の物理的特性が大きく変化し、流動性に影響を与え、導電性にも影響を与える。以下、粒状材料タイプと流体タイプという2つの極端に例示的な場合について説明する。
【0120】
粒状材料
この第1タイプは、非導電性流体の量が、本発明の電解質が遊離液体を有するのに不十分である形態を含む。非導電性液体は、球体の表面に分布している。
【0121】
導電性流体の比率は、通常、総電解質媒体に対する非導電性液体の10wt%未満であると、遊離液体がなく、比率が0.05%を超えると、かなりの効果がある。この形態では、電解質媒体は、粒状材料のように挙動する。移動性は、振動システム、又は空気などのガスの注入による流動化によって促進し制御することができる。
【0122】
これらの量では、非導電性流体は、固体電解質粒子の表面に分布しており、遊離液体が観察されない。非導電性流体は、特に、空気と接触する低極性領域に位置する。他の粒子と接触する各粒子の表面の領域では、ここでは主に非導電性流体が少なく、電解質液が多い。このようにして、粒子間の凝集力として作用する親水性架橋は、粒子間に形成される。この分布を達成するために、電解質液体と非導電性液体とは混ざらない必要がある。
【0123】
粒子を介した導電性は、これらの親水性架橋により発生する。
【0124】
流体
非導電性流体の量が固体電解質粒子間の間隙容量を超える場合、過剰な液体は、上澄みになる。このタイプの配合物に関する興味深いことは、配合物が除去される場合、粒子が非導電性流体において懸濁状態となるとともに、親水性架橋の凝集力の存在により粒子同士が接触し、導電性が維持されることである。この状態で、全体として導電性流体のように挙動することにより、流体のように輸送し圧送することができる。
【0125】
電解質媒体が静止する場合、粒子が沈降することにより、液体が間隙と上澄みとの間に分布する。
【0126】
電解質媒体は、運動している場合、均質化されて、粒子を懸濁状態に保持し、運動が維持されている限り、全体が流体のように挙動する。
【0127】
この配合物は、粒子群を流体として処理できるという利点を有するため、最も必要な、又はアクセスが困難な、研磨対象の領域に向かって吹き付けることができる。これは、プロセスが適切に処理されない領域及び凹部に到達することを可能にするため、大きな利点である。エマルションに基づく非導電性流体は、流動性と導電性が高いため、これらの用途に特に有用である。この場合、運動している液体が水性ミセルを含む有機相のように挙動する条件下で動作することができるが、静止状態で有機相と水相が分離する。
【0128】
また、これらのシステムは、表面洗浄プロセスを支援するために、電解研磨プロセスと同時に超音波を用いることができる。
【0129】
過剰な液体と運動により接続性が失われると(これは、投射システムの一般的な問題である)、粒子接触を確保するために部分的な液体分離プロセスを組み込むことができる。例えば、過剰な非導電性液体を用いて圧送し、媒体をピースに投射する前に、過剰な非導電性液体を除去することができる。
【0130】
電解研磨プロセス
記載されている電解質媒体は、金属ピース用の電解研磨プロセスに使用されるように特に設計される。
【0131】
このプロセスでは、電流は、記載されている電解質媒体を介して、ピースとカソード(cathode)との間に印加される(applied)。これにより、金属表面に酸化還元プロセスが発生し、該酸化還元プロセスでは、粗さピークにおいて酸化物と塩が生成される。固体電解質粒子は、これらの酸化物と塩を溶解するか又は除去することにより、粗さピークから材料を除去し、表面に平滑化効果をもたらす。
【0132】
したがって、電解研磨プロセスは、
a)少なくとも1つの研磨対象のピースを電源に接続するステップと、
b)少なくとも1つの電極を電源の反対の極に接続するステップと、
c)研磨対象のピースと上記で定義された電解質媒体の固体電解質粒子とを、ピースと粒子との間で相対運動させるように接触させるステップと、
d)研磨対象のピースと電極との間に電位差を印加することにより、定義された電解質媒体を介して、それらの間を流れる電流を発生させるステップと、を含む。
【0133】
このプロセスを実行する最小要素は、
-固体電解質粒子群及び非導電性流体を含む電解質媒体と、
-研磨対象の金属ピースと、
-電源と、
-電極と、
-ピースを媒体中の粒子に対して相対運動させる機構と、
を含む。
【0134】
したがって、本発明の最終態様は、
電源(1)と、
電荷を電源から電解質媒体に伝達できる電極(3)と、
少なくとも1つの研磨対象の金属ピース(2)と上記で定義された電解質媒体との相対運動を発生させる手段と、を含み、上記手段は、電源(1)に接続され、ピース(2)に電解質媒体を吹き付ける手段、
ピース(2)及び電解質媒体が配置され、運動の手段を有し、ピース(2)に電気的接続性を提供するケージ(14)、
電解質媒体及び電極(3)を収容する容器、及び電源によりピースに運動及び電気的接続性を提供するシステムから選択される、電解研磨装置に関する。
【0135】
電源(1)は、研磨対象のピース(2)及び電極(3)に接続される。機構は、研磨対象のピース(2)と電解質媒体との相対運動を発生させる。電源は、研磨対象のピース(2)と電極(3)との間に電位差を提供する。ピース(2)と電極(3)との間に循環する電流により、表面の金属を酸化物又は塩に変換する酸化効果をピースで発生させる。固体電解質粒子は、酸化金属と接触すると、該金属を溶解するか又は表面から除去する。粒子は、球状である場合、粗さピークのみと接触することができ、これらの点のみで酸化が発生し、これらのピークのみで金属が除去される。このようにして、粗さピークから金属を除去することにより、粗さが減少する。
【0136】
印加電流
電源(1)は、研磨対象のピース(2)と電極(3)との間に電位差を提供する。一般に、研磨対象のピースは、正極又はアノード(positive pole or anode)に接続され、負極(negative pole)は、電極に接続される。
【0137】
印加電流は、アンペリオスティックモード又は定電位モードで制御することができる。
【0138】
印加電圧は、研磨対象の金属、露出した金属表面、電解質媒体の導電性など、各場合によって変化する実験パラメータに依存する。
【0139】
金属酸化物及び塩の蓄積がある金属及び形状において、これらの場合、極性反転間隔を適用することが望ましい。これらの極性反転は、秒、ミリ秒、又はマイクロ秒のオーダーで発生する可能性がある。各金属は、その特性と生成する塩及び酸化物の特性とに応じて、最適な極性反転時間を必要とする。例えば、チタンを電解研磨する場合、好ましくは、数十マイクロ秒のオーダーで極性反転範囲を適用する。極性の反転は、対称的であってもよく、すなわち、同じ電圧を用い、非対称であってもよく、すなわち、正極の電圧が負極の電圧とは異なり、それにより、各相により適応することができる。
【0140】
また、電流が流れないが、粒子と研磨対象のピースとが依然として相対運動する休止時間を用いて、溶解プロセスに時間を残すことができる。
【0141】
好ましくは、直流-休止1-逆-休止2という4つの部分に分割された電流を印加する。各部分は、独立して調整できる時間があるため、各場合に適応することができる。各部分の持続時間は、秒、ミリ秒、又はマイクロ秒のオーダーであってもよい。
【0142】
電流の休止は、電解質媒体に時間を与えて、直流ステップで生成した酸化物を溶解することに有用である。
【0143】
経験的な方法及び予測可能ではないアプリオリでは、1~1000マイクロ秒のマイクロ秒のオーダーの極性反転を含む電解研磨プロセスが、粗さが低く、かつ光沢度が高い最終仕上げを提供することが観察される。これは、おそらく、直流によって生成された酸化物層が薄くなり、逆ステップと休止ステップにおいてより簡単に除去可能であるためである。
【0144】
運動
プロセスの重要な態様は、固体電解質粒子と研磨対象のピースとの相対運動である。これは、使用される電解質の配合物と、このプロセスの実行に必要な装置とに影響を与える異なる方法で実現することができる。
【0145】
ピースと固体電解質粒子との相対運動
ピースと固体電解質粒子との相対運動は、本発明の特徴的なニーズ又は限定であり、従来の液体における電解研磨には見られない。
【0146】
ピースと粒子との相対運動は、いくつかの異なる方法で達成することができる。以下、他の可能な形態への限定を暗示することなく、2つの可能性を説明する。各運動は、電解質の異なる可能な配合物の利点を利用する。
【0147】
相対運動の例示的なモードは、
-電解質媒体におけるピースの運動と、
-ピースへの電解質媒体の吹き付けと、を含む。
【0148】
両方のモードは、粒状材料と流体媒体の両方で発生することができる。
【0149】
電解質媒体におけるピースの運動
電解質媒体においてピースを運動させる策略では、この相対運動は、粒子を含有する容器においてピースを運動させることで構成される。このようにして、粒子とピースとが接触して摩擦力が生じる。この運動は、巨視的な運動、すなわち、並進運動であってもよく、ミリ波又はサブミリ波の振動運動であってもよい。好ましくは、振動は、悪影響が観察されることなく局所的な運動を改善するため、全ての場合に適用される。
【0150】
適用する最適な巨視的な運動は、ピースの形状に依存する。例えば、ドリル、パンチ、バーなど、円筒形状を有するピースの場合、好ましくは、水平回転並進運動が適用され、それは、垂直振動運動が付随してもよい。
【0151】
固体電解質粒子は、粒状材料と共に用いられる場合、電解質媒体全体の10wt%未満の比較的少量の非導電性流体と共に使用される。これにより、ほとんどは、遊離液体が観察されない配合物となる。非導電性流体の存在は、潤滑剤として作用して、粒子の移動性を向上させ、粒子が親水効果により研磨対象の表面に捕らえられることを防止する。この追加の移動性は、媒体の抵抗により微細なピースに損傷を与えることなく微細なピースを研磨することができるため、非導電性流体を用いないシステムに比べて利点を有する。
【0152】
他の形態では、ピースは、非導電性流体における固体電解質粒子の運動により、流体のように挙動する電解質媒体で移動する。非導電性流体の量は、粒子の隙間を覆うのに必要な体積の程度であるが、多くても少なくてもよい。好ましくは、非導電性流体の体積は、隙間を覆うのに必要なものより大きい。
【0153】
粒子を懸濁状態に保持する運動は、撹拌、ガス吹き込み、ドラムの手段などによって達成することができる。
【0154】
ピースへの電解質媒体の吹き付け
この策略では、相対的なピース媒体の運動は、噴流の方式で電解質媒体を研磨対象の金属ピースの表面に吹き付けることにより達成される。
【0155】
このシステムを粒状媒体と共に用いることができる。この場合、粒子同士は、相互の一部の接触を維持する必要がある。これは、粒状材料のシンコペーションインパルスによって達成することができる。
【0156】
しかしながら、このシステムは、流体タイプの配合物の特性を利用して、はるかに実行可能である。これらの場合、ホースのように電解質媒体を圧送して研磨対象のピースの表面に吹き付けることができる。吹き付けノズルの先端は、カソードとして作用する。電解質媒体が研磨対象のピースに吹き付けられ、電位差がピースとノズルとの間に印加されることにより、噴流固体電解質粒子を介してピースとカソードノズルとの間に電流が発生する。電解質媒体は、容器に落下して、再び送り出すことができる。
【0157】
このシステムは、流動性を維持するために一定の撹拌を必要とする。この撹拌は、媒体の撹拌、泡立つガス圧力の適用など、異なる手段によって達成することができる。
【0158】
述べたように、非導電性流体及び固体電解質粒子で構成された電解質媒体を用いた電解研磨プロセスでは、この新たな媒体の特異性に適応する装置が必要である。
【0159】
これらの装置は、少なくとも、
電源(1)と、
電荷を電源から電解質媒体に伝達できる電極(3)と、
少なくとも1つの研磨対象の金属ピース(2)と上記で定義された電解質媒体との相対運動を発生させる手段と、を含む必要があり、上記手段は、
動力源(1)に接続され、ピース(2)に電解質媒体を吹き付ける手段、
ピース(2)及び電解質媒体が配置され、運動の手段を有し、ピース(2)に電気的接続性を提供するケージ(14)、
電解質媒体及び電極(3)を収容する容器、及び
電源によりピースに運動及び電気的接続性を提供するシステムから選択される。
【0160】
電源は、ピースに電解効果を発生させるのに十分な電圧を提供する。印加電圧は、直流、交流、整流、パルス、矩形波などであってもよい。好ましくは、電源は、極性反転を含む電流を提供することができる。極性反転は、秒、ミリ秒、マイクロ秒のオーダーの期間の頻度で発生し得る。経験的な方法及び予測可能ではないアプリオリでは、1~1000マイクロ秒のマイクロ秒のオーダーの極性反転を含む電解研磨プロセスが、粗さが低く、かつ光沢度が高い最終仕上げを提供することが観察される。
【0161】
プロセスの根本的な部分は、研磨対象のピースと電解質媒体との相対運動である。この目的のために、それぞれがサイズ、形状、ピースのタイプ、同時に研磨されるピースの数、及び他のパラメータによって異なるニーズに適合する異なるシステムは、想定される。
【0162】
好ましい実施形態では、相対運動を発生させる手段は、電解質媒体に浸漬される研磨対象のピースを移動できるシステムで構成される。このシステムは、研磨対象のピース全体が電解質媒体と接触しているため、ピース全体を同時に加工するという利点を有する。媒体内のピースの好ましい運動は、回転並進運動である。この運動は、全ての方位に圧力帯を生じさせるため、他の方位により多くの圧力を受ける方位が存在しないので、最適である。代わりに、又は更に、その方向に相対運動を発生させる上下垂直運動を用いてもよい。適用する運動の選択は、処理対象部品の形状に依存する。
【0163】
このシステムでは、研磨対象のピースを強固にクランプして永久的な電気接点と正しい方位を確保することができる。このクランプは、高い付加価値、複雑な形状又は微細な細部を有するピースに適する。
【0164】
或いは、このシステムでは、ピースは、しっかりと保持されないが、電解質媒体の粒子とともに電解質媒体を通過させるが、研磨対象のピースが出ることができない区画に配置される。この区画には、
電源に接続されるネットワーク又は穿孔した金属プレートがあり、ピースは、このネットワークと接触すると、電源を介して電気的接続性が提供される。この装置は、ケージ装置と呼ばれる。
【0165】
図3は、研磨対象のピースがしっかりと保持されることなく、代わりにそれらに電気的接続性を提供する容器にある電解研磨用のケージ装置の概略図を示す。研磨対象のピースは、固体電解質粒子が通過することを可能にするが、研磨対象のピースを脱出させないという限界を有する容器内に配置される。容器の研磨対象のピースと接触する部分は、導電性材料からなり、電源とピースとを接続することにより、研磨対象のピースは、永久的に固定されることなく電気的接続性を受ける。
【0166】
好ましくは、ピースは、電源に接続された導電性のグリッドに載置されてもよい。
【0167】
この装置は、固体電解質粒子に対して研磨対象のピースを相対運動させる。例えば、この効果は、粒子と研磨対象のピースとの相対運動を発生させるように研磨対象のピースの容器を電解質媒体において移動させることにより、達成することができる。或いは、固体電解質粒子が容器を流れることを引き起こすシステムがあってもよい。
【0168】
別の好ましい実施形態では、研磨対象のピースと電解質媒体との相対運動を発生させる手段は、噴流の方式でピース上に電解質媒体を駆動するシステムを含む。この噴流内で、固体電解質粒子は、それらの間の接続性を維持する必要がある。このシステムは、部分内のピースを処理し、アクセスが困難な内部領域に到達することができるという利点を有する。また、このシステムは、キャビン内の研磨に適用することができる。このシステムでは、電解質媒体の噴流は、電源に接続され電極として作用するノズルから出る。噴流は、研磨対象のピースと接触して回収容器内に落下する。この容器は、撹拌、散布、又はその他のシステムにより、固体電解質粒子を懸濁状態に保持する。蠕動ポンプなどの圧送システムは、媒体をピースに向かって押し戻す。
【0169】
図4は、非導電性流体を含む電解質媒体を用いた電解研磨プロセス用の、ノズル(9)により電解質媒体の噴流を吹き付けることにより固体電解質粒子を研磨対象のピースに対して相対運動させる装置の概略図を示す。装置は、電源と、研磨対象のピースに電気的接続性を提供するシステムと、電解質媒体を駆動するシステムと、電解質媒体の噴流出口での研磨対象のピースとは逆の極性を有する電極と、を含む。
【0170】
このシステムは、液体タイプの電解質媒体によって提供される利点から恩恵を受け、この媒体が研磨対象のピースに向かって圧送されて推進され、かつ難研磨領域に影響を与えることができるためである。
【0171】
したがって、好ましくは、装置は、カソード(3)に取り付けられた吹き付け手段としてのノズル(9)を含む。より好ましくは、装置は、容器(10)内に落下した電解質媒体をノズル(9)に向かって圧送するポンプを更に含む。
【0172】
一般に、投射粒子は、互いに接触を失う傾向があるため、導電率が限定される。本発明では、この限定は、固体電解質粒子とエマルションを有する電解質媒体の配合物について特に克服され、この場合、分散極性相が粒子間に形成された導電性液体架橋を補強するため、システムの導電率が向上し、吹き付けられた導電性粒子間の電気的接続性を維持するための新たな解決策となるためである。
【0173】
別の好ましい実施形態では、研磨対象のピースと電解質媒体との相対運動を発生させる手段は、電解質媒体の固体電解質粒子を通過させることができるが、研磨対象のピースを保持するようなサイズの開口部を有するドラムによって形成されたシステムを含む。ドラムは、全部又は部分的に回転することにより、全ての方位に処理されるように部品を反転させることができる。ドラムは、円筒状であってもよく、断面が三角形、四角形、六角形などの角柱状であってもよい。
【0174】
このドラムは、研磨対象のピースと接触する電源に接続された素子(element)を有する。この素子は、ドラムの壁の一部であってもよく、ピースと接触するドラムの内部に向けられた柔軟性素子であってもよい。本実施形態は、大量のピースの処理に特に有用である。
【0175】
図5は、複数の研磨対象のピース(2)が回転可能なケージ(14)に配置される、非導電性流体と固体電解質を用いた電解研磨用の装置の図を示す。この装置は、電源(1)と、電極(黒)と、電解質媒体の通過を可能にする壁(六角形)を備えたケージ(14)とを含む。
【0176】
このシステムは、複数のピース(2)の同時処理を可能にし、これは、産業シリーズに適応される。この装置の要点は、容器のケージ(14)である。ケージ(14)の壁は、ピースをその内部に保持する必要があるが、固体電解質粒子を自由循環させて通過させることができる。好ましくは、固体電解質粒子が0.1~1mmのサイズの球体であるため、好ましくは、壁には、4mmを超える開口部があるべきである。このため、この装置は、そのサイズより小さいピースに適しない。
【0177】
別の好ましい実施形態では、運動は、システムのグローバルな運動によって発生する。本実施形態では、電解質媒体、電極、及び研磨対象のピースは、密閉容器に配置される。研磨対象のピースは、電極と同様にしっかりと取り付けられる。外部機構は、内部に含まれる全ての媒体のグローバルな運動を発生させるのに十分な運動を引き起こす。例えば、この運動は、「振れ」タイプ、急な振れであってもよい。同様に、この運動は、ジャイロスコピックミキサータイプの運動など、1つ以上の軸に横たわる繰り返し運動であってもよい。
【0178】
例示的な実施形態
電解質媒体型の粒状材料とメタンスルホン酸との配合物
好ましい実施形態では、ポリマー粒子は、商品名がMitsubishi Relite CFSで、0.7mmを中心とするサイズ分布を有する球形状のようなマクロ多孔性のスルホン化ジビニルベンゼンS-DVB及びスチレン共重合体に基づくイオン交換樹脂である。
【0179】
これらの粒子は、10%メタンスルホン酸の蒸留水からなる導電性溶液を40wt%含有する。
【0180】
商品名がHYDROSEAL G 232 Hである低粘度C9-C16炭化水素の0.3wt%の混合物は、これらの粒子に添加されている。
【0181】
好ましい組成物を表1及び表2に示す。
【0182】
【0183】
【0184】
粒状材料タイプの電解質媒体と硫酸との配合物
本実施形態では、非導電性流体を含む固体電解質は、定義された多孔性がなく、平均直径が約0.7mmであるゲル状構造を有するスルホン化ジビニルベンゼン-スチレンイオン交換樹脂(Mitsubishi Relite CFH)の球状ポリマー粒子に基づく固体電解質粒子群で構成される。
【0185】
ポリマー粒子は、水中に5%硫酸導電性溶液を45%含有する。非導電性流体として、Hydroseal G 232 H、又は3%の粘度が3・10-5m2/s(3cSt)のポリジメチルシロキサン系シリコンオイルを用いる。
【0186】
この配合物は、多くの酸滲出液を制御し、固体電解質を用いた電解研磨プロセスに用いられると、鏡面仕上げで得られる最終表面が得られる。この配合物は、多くの酸滲出液を制御し、固体電解質を用いた電解研磨プロセスに用いられると、鏡面仕上げで得られる最終表面が得られる。
【0187】
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
非導電性流体を含む固体電解質粒子
本発明の別の好ましい実施形態は、ゲル状構造を有する球状の形態のアクリル酸単位を含むイオン交換樹脂で構成され、該イオン交換樹脂は、必要な導電性を提供する5%クエン酸を含有する電解水溶液と組み合わせて滲出液を減少させる。
【0192】
非導電性流体として、低粘度かつ高沸点のフッ素化溶媒が使用され、この場合、フッ素化溶媒は、FC96500である。この低粘度の溶媒は、粒子間の運動を改善する。
【0193】
メタンスルホン酸を含む流体電解質媒体の配合物
好ましい実施形態では、該配合物は、静止時の粒子間の隙間を埋める非導電性流体の量及び追加の量がある。粒子が静止するとき、非導電性流体部分の上澄みがある。粒子群が移動するとき、固体電解質粒子の均質懸濁液は、全体として電気を伝導する非導電性流体で得られる。
【0194】
この好ましい実施形態では、固体電解質は、10%メタンスルホン酸溶液を45wt%の液体電解質として含有する、Mitsubishi Relite CFHのイオン交換樹脂によって形成される。これらの電解質粒子に、電解質粒子の体積全体を覆う(隙間を埋める)ように、Hydroseal G 232 Hと呼ばれるものなど、C9-C16炭化水素ベースの非導電性流体が添加され、かつ添加体積が10%以上である。
【0195】
【0196】
【0197】
エマルションを含む流体タイプの電解質媒体配合物
【表9】
【0198】
【0199】
【0200】
次に、前の表で引用された洗浄剤Aを表12~14に示す。
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
電解質媒体用の強固なクランプ付きの部品運動装置
この原型装置は、異なるサイズの歯車及びピニオンを処理するように設計される。この用途では、適切な電解質媒体は、「炭素鋼用の乳化調合物」である。
【0205】
上記装置は、正極と研磨対象のピース(2)とを接続し、負極とカソード(3)とを接続する電源(1)を含む。
【0206】
電源(1)は、異なる極性の間に休止の有無にかかわらず、パルス及び極性の反転電流を供給することができる。パルスは、高周波であってもよく、マイクロ秒-秒のオーダーの持続時間を有することができる。非対称の電圧を印加し、すなわち、異なる電圧値を各極性に印加することができる。
【0207】
研磨対象のピース(2)は、ホルダ(4)によって保持される。このホルダは、プロセスにおいてピースを保持し、かつピースに電源との電気接続を提供する機能を有する。同様に、ピースと電解質媒体との相対運動を改善するために、振動システムを組み込むことができる。
【0208】
ホルダ(4)は、保持されるピース及び媒体の運動を提供するシステムに接続される。本実施形態において、この運動システムは、空気圧ピストン(6)によって作動するガイド軸(5)で構成され、該ガイド軸(5)は、回転を伴うリズムのある垂直振動運動を提供するため、発生した運動が研磨対象のピニオンまたは歯車の歯の傾斜と一致する。このようにして、隙間を通る粒子の流体運動が存在する。
【0209】
隙間内の粒子の流体運動は、ホルダ(4)の振動子と、ガイド(5)及び空気圧ピストン(6)による運動と、コンプレッサ(7)による電解質媒体の底部への空気の注入とによって達成される。
【0210】
プロセス用の全ての装置は、システム全体を硬化させる構造(8)に統合されて、電解質媒体と研磨対象のピースとの間の不要な運動を避ける。
(1)電源
(2)研磨対象のピース
(3)カソード
(4)ホルダ
(5)ガイド軸
(6)空気圧ピストン
(7)コンプレッサ
(8)構造
【0211】
ピースに電解質媒体を吹き付ける装置
この装置は、本発明の流体タイプの電解質媒体を研磨対象の表面に吹き付ける方法用に設計される。本発明のいずれの電解質媒体は、使用可能であるが、乳化配合物を備えた電解質媒体を用いた場合に最良の結果が得られる。
【0212】
【0213】
電源(1)は、正極を研磨対象のピース(2)に接続し、負極をカソードノズル(9)に接続する。
【0214】
電源(1)は、異なる極性の間に休止の有無にかかわらず、パルス及び極性の反転電流を供給することができる。パルスは、高周波であってもよく、マイクロ秒-秒のオーダーの持続時間を有することができる。非対称の電圧を印加し、すなわち、異なる電圧値を各極性に印加することができる。
【0215】
この装置は、カソードノズル(9)から出る電解質媒体の噴流を生成し、該カソードノズル(9)は、この噴流をピースに向かって配向し、電解質媒体との電気接点として動作する機能を有する。
【0216】
ピースと接触した後、電解質媒体は、タンク(10)に収集される。
【0217】
このタンクには、電解質媒体において固体電解質粒子を懸濁状態に保持する媒体撹拌器(11)がある。代わりに、又は更に、空気などのガスを泡立てることにより、媒体を懸濁状態に保持することができる。
【0218】
蠕動ポンプ(12)は、タンク(10)からカソードノズル(9)まで電解質媒体を十分な圧力で駆動する。或いは、タンク(10)から(9)までの電解質媒体の衝撃は、吸引器、ウォームねじ(endless screw)、ピストンなどの他の手段により発生することができる。
【0219】
装置は、好ましくは、システムを実際に流れる電流を分析するシステム、例えば、オシロスコープ(13)を含む。
(1) 電源
(2) 研磨対象のピース
(9) カソードノズル
(10)タンク
(11)撹拌器
(12)蠕動ポンプ
(13)オシロスコープ
【0220】
吹き付け研磨プロセスの例
この例示的な場合、研磨対象のピースは、25cm2の平坦なステンレス鋼表面である。この運動は、研磨対象の表面に電解質媒体を投射することによって達成される。電解質媒体は、次の組成物を有する。
【0221】
【0222】
直流-休止1-逆-休止2という4つの部分に分割された電流をそれらの間に印加する。直流段階は、ピースに正の電圧を印加するものであり、逆段階は、負の電圧を印加するものであり、休止は、電圧を印加しないものである。各部分の持続時間が2ミリ秒-0.1ミリ秒-3ミリ秒-0.1ミリ秒であるように、対称な35Vの電位差を印加する。
【0223】
これらの条件は、35分間適用されて、Raを2.1μmから0.5μmに減少させる。
【国際調査報告】