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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】過酸化水素進化型宿主細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20231213BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20231213BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231213BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20231213BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C12N5/10
C12P21/08
C12P21/02 C
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534647
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-07-28
(86)【国際出願番号】 IB2021061570
(87)【国際公開番号】W WO2022123519
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/199,177
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】508098350
【氏名又は名称】メドイミューン・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MedImmune Limited
【住所又は居所原語表記】1 Francis Crick Avenue, Cambridge Biomedical Campus, Cambridge CB2 0AA, UNITED KINGDOM
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(74)【代理人】
【識別番号】100218268
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ミストリー,ラジェシュ クマール
(72)【発明者】
【氏名】ケルソール,エマ ジェーン
(72)【発明者】
【氏名】ソウ,シ ンガ
(72)【発明者】
【氏名】ハットン,ダイアン
(72)【発明者】
【氏名】ギブソン,スザンヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジェンス,ミカル
(72)【発明者】
【氏名】ウィリス,ケイティ
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG27
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B065AA90X
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065BA03
4B065CA24
4B065CA25
4B065CA44
(57)【要約】
哺乳動物宿主細胞の性能を改善するための指向性進化法、並びに指向性進化法を使用して生成された宿主細胞が提供される。一態様では、過酸化水素(H)進化型宿主細胞が提供される。一態様では、(H)進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞が提供される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のタンパク質を発現することができる過酸化水素(H)進化型哺乳動物宿主細胞であって、前記H進化型宿主細胞が、親対照と比較するとき、細胞ストレスに対する増加された耐性を有する、H進化型宿主細胞。
【請求項2】
前記H進化型宿主細胞が抗酸化防御系を有し、前記抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき増加されている、請求項1に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項3】
前記抗酸化防御系の1つ以上の成分が、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);及びそれらの組合せから選択される、請求項2に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項4】
前記H進化型宿主細胞が、前記親対照と比較するとき、GSHの増加されたレベルを有する、請求項3に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項5】
前記H進化型宿主細胞が、前記親対照よりも約1%~約25%、約2%~約20%、若しくは約3%~約10%、又は少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、若しくは約20%高いレベルのGSHを有する、請求項3又は4に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項6】
前記H進化型宿主細胞が、親対照と比較するとき、総グルタチオン:酸化型グルタチオン(GSSG)の増加された比(GSH:GSSG)を有する、請求項3~5のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項7】
前記総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)が、前記親対照と比較すると、約1%~約15%、若しくは約2%~約10%、又は少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、若しくは約15%だけ増加されている、請求項3~6のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項8】
前記総グルタチオン対GSSGの比が、約2.5:1~約3:1、又は少なくとも約2.5:1、約2.6:1、約2.7:1、約2.8:1、約2.9:1、若しくは約3:1である、請求項6又は7に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項9】
1つ以上の抗酸化防御遺伝子が、前記親対照と比較すると、アップレギュレートされている、請求項1~8のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項10】
1つ以上の抗酸化防御遺伝子が、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);及びそれらの組合せから選択される、請求項9に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項11】
GSS発現が、前記親対照と比較すると、約10%~約300%、若しくは約25%~約200%、又は少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、且つ最大約150%、約200%、約250%、若しくは約300%増加されている、請求項10に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項12】
GCLM発現が、前記親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約25%~約75%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、若しくは約75%増加されている、請求項10又は11に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項13】
カタラーゼ発現が、前記親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約25%~約75%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、若しくは約75%増加されている、請求項10~12のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項14】
xCT発現が、前記親対照と比較すると、約10%~約50%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、若しくは約50%増加されている、請求項10~13のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項15】
GPx-1発現が、前記親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約10%~約50%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、若しくは約50%増加されている、請求項10~14のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項16】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、請求項1~15のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項17】
目的のタンパク質をコードする異種遺伝子を含む、請求項1~16のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項18】
前記異種遺伝子が、宿主細胞DNA中に安定して組み込まれる、請求項1~17のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項19】
前記異種遺伝子が、抗体又は抗原結合抗体フラグメントをコードする、請求項17又は18に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項20】
前記異種遺伝子が、二重特異性抗体をコードする、請求項17~19のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項21】
目的の治療用タンパク質を発現する過酸化水素(H)進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞であって、前記H進化型宿主細胞が抗酸化防御系を有し、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1)から選択される前記抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき、増加されている、H進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞。
【請求項22】
請求項1~21のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞を含む、細胞の集団。
【請求項23】
前記H進化型宿主細胞が、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有し、改善された性能が、
(a)増加された生細胞密度;
(b)増加された生存率;
(c)減少された乳酸レベル;
(d)増加された力価;
(e)増加された比生産性(qP);
又はそれらの組合せのうちの1つ以上を含む、請求項22に記載の細胞の集団。
【請求項24】
前記H進化型宿主細胞が、流加培養プロセスで培養されるとき、親対照の集団と比較すると、改善された性能を有する、請求項23に記載の細胞の集団。
【請求項25】
前記H進化型宿主細胞が、目的のタンパク質を発現するとき、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有する、請求項23又は24に記載の細胞の集団。
【請求項26】
前記目的のタンパク質が、二重特異性抗体を含む、請求項25に記載の細胞の集団。
【請求項27】
前記H進化型細胞の集団が、前記親対照細胞の集団と比較すると、増加された生細胞密度を有する、請求項23~26のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項28】
前記H進化型細胞の集団が、約15×10細胞/mL~約25×10細胞/mL、又は約15×10細胞/mL、約16×10細胞/mL、約17×10細胞/mL、約18×10細胞/mL、約19×10細胞/mL、若しくは約20×10細胞/mLのピーク生細胞密度を有する、請求項23~27のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項29】
前記H進化型細胞の集団が、前記親対照細胞の集団と比較すると、増加された生存率を有する、請求項23~28のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項30】
前記H進化型細胞の集団が、過酸化水素でチャレンジされるとき、前記親対照細胞の集団と比較して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、又は約50%増加された生存率を有する、請求項29に記載の細胞の集団。
【請求項31】
前記H進化型細胞の集団が、少なくとも約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、又は約40mMの過酸化水素でチャレンジされる、請求項30に記載の細胞の集団。
【請求項32】
前記H進化型細胞の集団が、約30mM、約31mM、約32mM、約33mM、約34mM、約35mM、約36mM、約37mM、約38mM、約39mM、又は約40mMの過酸化水素でチャレンジされる、請求項30に記載の細胞の集団。
【請求項33】
前記H進化型細胞の集団が、前記親対照細胞の集団と比較すると、減少された乳酸レベルを有する、請求項23~32のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項34】
前記細胞の集団が、前記親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約1.5倍~3.5倍、又は少なくとも約1.5倍、約1.75倍、約2.0倍、約2.25倍、約2.5倍、約2.75倍、約3.0倍、約3.25倍、若しくは約3.5倍増加した力価で目的のタンパク質を発現する、請求項23~33のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項35】
前記目的のタンパク質が、二重特異性抗体である、請求項34に記載の細胞の集団。
【請求項36】
前記二重特異性抗体の前記力価が、約0.5g/L~約1.5g/L、若しくは約0.5g/L~約1.1g/L、又は約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.65g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/Lから、且つ最大約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、若しくは約1.5g/Lである、請求項35に記載の細胞の集団。
【請求項37】
前記二重特異性抗体の前記力価が、少なくとも約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、又は約1.0g/Lである、請求項35又は36に記載の細胞の集団。
【請求項38】
前記細胞が、前記親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、又は約2.0倍増加されている比生産性(qP)を有する、請求項23~37のいずれか一項に記載の細胞の集団。
【請求項39】
目的のタンパク質を産生する方法であって、前記目的のタンパク質の発現を可能にする条件下で、請求項1~21のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞を培養することを含む、方法。
【請求項40】
前記目的のタンパク質が、異種タンパク質である、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記目的のタンパク質が、抗体又は抗原結合抗体フラグメントを含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体が、二重特異性抗体を含む、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
前記目的のタンパク質が、構成的に発現される、請求項39~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記目的のタンパク質を単離することを更に含む、請求項39~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
請求項44に記載の単離された目的のタンパク質と、薬学的に許容される担体とを含む、組成物。
【請求項46】
請求項1~21のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞の、目的のタンパク質を産生するための、使用。
【請求項47】
前記目的のタンパク質が、抗体又は抗原結合抗体フラグメントを含む、請求項46に記載の使用。
【請求項48】
前記抗体が、二重特異性抗体を含む、請求項47に記載の使用。
【請求項49】
過酸化水素(H)の存在下で改善された生存率を有する単離された宿主細胞であって、前記宿主細胞が、約2mM~約50mM、約10mM~約40mM、約20mM~約40mMのH、約30mM~約40mMのH、若しくは約35mM~約40mMのHへの曝露の約1日~約15日後、約30分~約2時間後に、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、若しくは約50%の生存率を有する、単離された宿主細胞。
【請求項50】
前記宿主細胞が、少なくとも約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、且つ最大約40mM、約45mM、若しくは約50mMのHと接触される、請求項49に記載の単離された宿主細胞。
【請求項51】
前記宿主細胞が、約30mM、約31mM、約32mM、約33mM、約34mM、約35mM、約36mM、約37mM、約38mM、約39mM、又は約40mMのHと接触される、請求項49に記載の単離された宿主細胞。
【請求項52】
細胞ストレスに対する増加された耐性を有する哺乳動物宿主細胞の進化型集団を産生する方法であって、前記方法が、約5mM~約20mM、又は約10mM~約15mMの過酸化水素(H)の存在下で前記細胞の集団を複数ラウンドで培養することと、細胞が、約20mM~約40mMのHの存在下で生存できるようになるまで、前記細胞を回復させることと、を含む、方法。
【請求項53】
(a)細胞の集団を提供することと、
(b)細胞培養基中で前記細胞の集団を培養することと、
(c)前記細胞の集団を、約5mM~約20mMのHと約30分間~約120分間接触させて、移行細胞の集団を提供することと、
(d)前記移行細胞を、Hを含まない新鮮な細胞培養基中に再浮遊させて、細胞が少なくとも約70%の生存率に達するまで培養することと、
(e)ステップ(c)~(d)を繰り返して、約20mM~約40mMのHと接触させて、約30分間~約1時間インキュベートするときに生存することができるH進化型細胞の集団を得ることと、を含む、請求項52に記載の方法。
【請求項54】
前記細胞の集団が、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、請求項52又は53に記載の方法。
【請求項55】
前記細胞が、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子を含む、請求項52~54のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記異種遺伝子が、宿主細胞DNA中に安定して組み込まれる、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
前記異種遺伝子が、抗体又は抗原結合抗体フラグメントをコードする、請求項55又は56に記載の方法。
【請求項58】
前記異種遺伝子が、二重特異性抗体をコードする、請求項55~57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
前記細胞が、浮遊状態で培養される、請求項52~58のいずれか一項に記載の方法。
【請求項60】
(b)における前記細胞の集団が、少なくとも約70%、約80%、又は約90%の生存率まで培養される、請求項53に記載の方法。
【請求項61】
(c)における前記細胞の集団が、約5mM~約10mM、約10mM~約15mM、又は約15mM~約20mMのHと接触される、請求項53に記載の方法。
【請求項62】
(c)における前記細胞の集団が、約10mM、約11mM、約11.5mM、約12mM、約12.5mM、約13mM、約13.5mM、約14mM、約14.5mM、約15mM、約15.5mM、約16mM、約16.5mM、約17mM、約17.5mM、約18mM、約18.5mM、約19mM、約19.5mM、又は約20mMのHと接触される、請求項53に記載の方法。
【請求項63】
(c)における接触させることが、前記細胞の集団をHと共に、少なくとも約30分間、約45分間、若しくは約60分間、且つ最大約90分間、若しくは約120分間インキュベートすることを含む、請求項53に記載の方法。
【請求項64】
ステップ(c)~(d)が、少なくとも約3回、4回、又は5回繰り返される、請求項53に記載の方法。
【請求項65】
前記進化型細胞の集団が、少なくとも約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、若しくは約100、且つ最大約120の細胞集団倍加回数(PDL)後、約20mM~約40mMのHと接触させるとき生存することができる、請求項53に記載の方法。
【請求項66】
前記細胞培養基が、約1mM~約10mM、又は約2mM~約8mM、又は約4mM~約6mMのL-グルタミンを含む、請求項53~65のいずれか一項に記載の方法。
【請求項67】
請求項52~66のいずれか一項に記載の方法によって産生される、進化型宿主細胞。
【請求項68】
目的のタンパク質をコードする異種遺伝子で安定的にトランスフェクトされたH進化型宿主細胞であって、前記宿主細胞が、トランスフェクション後約9~約12日以内に約70%~約85%の生存率を有する、H進化型宿主細胞。
【請求項69】
前記宿主細胞が、トランスフェクション後少なくとも約9日、約10日、約11日、又は約12日で約70%~約85%の生存率を有する、請求項68に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項70】
前記宿主細胞が、トランスフェクション後少なくとも約9日、10日、11日、又は12日で約1.0×10細胞/ml~約1.6×10細胞/mlの生細胞密度(VCD)を有する、請求項68又は69に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項71】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む、請求項68~70のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項72】
安定的なトランスフェクションが、エレクトロポレーション、それに続くメチオニンスルホキシミン(MSX)選択を含む、請求項68~71のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項73】
前記異種遺伝子が、抗体又は抗原結合フラグメントをコードする、請求項68~72のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【請求項74】
前記異種遺伝子が、二重特異性抗体をコードする、請求項68~73のいずれか一項に記載のH進化型宿主細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、米国特許法第119条(e)の下で、2020年12月11日に出願された米国仮特許出願第63/199,177号に対する優先権の利益を主張する。前述した内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、過酸化水素(H)進化型宿主細胞及び(H)進化型宿主細胞を作製及び使用するための方法、特に(H)進化型宿主細胞を使用して目的のタンパク質を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
100を超える治療用タンパク質が、ヨーロッパ共同体及びアメリカ合衆国において臨床使用に承認されており、これらの大部分は組換えにより製造されている。(非特許文献1)。二重特異性抗体、多重特異性融合タンパク質、及び抗体コンジュゲートなどの非天然形式で操作されたタンパク質もまた開発中である。タンパク質をベースとした治療薬の大成功にも関わらず、効率的な開発は依然として課題である。特に、タンパク質過剰発現は宿主代謝に影響を与える場合があり、大規模な細胞培養は細胞ストレスを引き起こし、宿主細胞生産性能を低下させる。
【0004】
活性酸素種(ROS)は、好気性代謝の自然な副産物であり、これは高レベルで存在するとき、細胞増殖及び生産性を妨げ得る。(非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。組換えタンパク質産生に対する細胞レドックス状態の影響の認識は、近年増加している。(非特許文献6;非特許文献7;非特許文献8;及び非特許文献9)。
【0005】
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、モノクローナル抗体(mAb)及び二重特異性抗体(BisAb)などの他の非天然生物製剤分子の発現に頻繁に使用されている。(非特許文献10;及び非特許文献11。しかしながら、CHO細胞は、大規模細胞培養中に高レベルのROSを生産し、これが酸化的ストレス、最適以下の細胞培養性能及びより低い抗体価につながり得る。(非特許文献12)。特に、二重特異性抗体などの新規抗体形式の開発は、低い製品収率によって妨げられ得(非特許文献13)、低い製品収率は、酸化ストレスを含む、高レベルの細胞ストレスに関連する(非特許文献14)。
【0006】
細胞内プロセスを変更するための過剰発現又は標的を定めた遺伝子アブレーションによる特定の遺伝子の操作を伴う遺伝子工学的アプローチは、生産の障害を緩和し、より予測可能且つロバストな細胞株を生み出すために実装されている。現在までに、この戦略は細胞周期(非特許文献15)、代謝(非特許文献16)、タンパク質分泌(非特許文献17)及び細胞レドックス(非特許文献18;非特許文献19;非特許文献20)を含む多様な細胞内プロセスを変更するために使用されている。これらの遺伝子工学戦略は、まずまずの成功を収めているが、特定の生化学的経路を標的化して特定の遺伝子を操作することは、当初仮説されたほど効果的ではない可能性がある。したがって、例えば、異種タンパク質、又は二重特異性抗体などの非天然形式を有するタンパク質を発現する場合、細胞培養中に改善された性能を有する細胞株に対する必要性が依然としてある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dimitrov,DS(2012)“Therapeutic Proteins.”Methods Mol.Biol.899:1-26
【非特許文献2】Chevallier et al.(2019)“Oxidative stress-alleviating strategies to improve recombinant protein production in CHO cells”.Biotechnol Bioeng.117(4):1172-1186
【非特許文献3】Zeeshan et al.(2016)“Endoplasmic Reticulum Stress and Associated ROS”.Int J Mol Sci.17(3):327
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【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、抗体、抗原結合抗体フラグメント、又は二重特異性抗体を含む目的の組換えタンパク質を製造するための方法、及び、特に過酸化水素(H)進化型哺乳動物宿主細胞を使用して、目的の組換えタンパク質を製造する方法に関する。
【0009】
一態様では、目的のタンパク質を発現することができる過酸化水素(H)進化型哺乳動物宿主細胞が提供される。一態様では、(H)進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが増加されている抗酸化防御系を有する。一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分は、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);及びそれらの組合せから選択される。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、増加された細胞ストレスに対する耐性を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、増加された酸化ストレスに対する耐性を有する。
【0010】
一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、増加されたレベルの総グルタチオンを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照よりも約1%~約25%、約2%~約20%、若しくは約3%~約10%、又は少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、若しくは約20%高いレベルのGSHを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、総グルタチオン対酸化型グルタチオン(GSSG)の増加された比(GSH:GSSG)を有する。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、親対照と比較すると、約1%~約15%、若しくは約2%~約10%、又は少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、若しくは約15%だけ増加している。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、約2.5:1~約3:1、又は少なくとも約2.5:1、約2.6:1、約2.7:1、約2.8:1、約2.9:1、若しくは約3:1である。
【0011】
一態様では、H進化型宿主細胞の1つ以上の抗酸化防御遺伝子は、親対照と比較するとアップレギュレートされている。一態様では、1つ以上の抗酸化防御遺伝子は:グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);及びそれらの組合せから選択される。一態様では、GSS発現は、親対照と比較すると、約10%~約300%、若しくは約25%~約200%、又は少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、且つ最大約150%、約200%、約250%、若しくは約300%増加されている。一態様では、GCLM発現は、親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約25%~約75%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、若しくは約75%増加されている。一態様では、カタラーゼ発現は、親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約25%~約75%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、若しくは約75%増加されている。一態様では、xCT発現は、親対照と比較すると、約10%~約50%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、若しくは約50%増加されている。一態様では、GPx-1発現は、親対照と比較すると、約10%~約100%、若しくは約10%~約50%、又は少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、若しくは約50%増加されている。
【0012】
一態様では、H進化型宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0013】
一態様では、H進化型宿主細胞は、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子を含む。一態様では、異種遺伝子は、宿主細胞DNAに安定して組み込まれている。一態様では、異種遺伝子は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントをコードする。一態様では、異種遺伝子は、二重特異性抗体をコードする。
【0014】
一態様では、目的の治療用タンパク質を発現することができる、過酸化水素(H)進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞が提供される。一態様では、H進化型宿主細胞は抗酸化防御系を有し、この中で、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);又はそれらの組合せから選択される抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき増加されている。
【0015】
一態様では、本明細書に記載されるH進化型宿主細胞を含む細胞の集団が提供される。一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有する。一態様では、H進化型細胞は、以下のうちの1つ以上を含む改善された性能を有する:
(a)増加された生細胞密度;
(b)増加された生存率;
(c)減少された乳酸レベル;
(d)増加された力価;
(e)増加された比生産性(qp);
又はそれらの組合せ。
【0016】
一態様では、細胞の集団は、流加培養(fed-batch culture)プロセスで培養されるとき、親対照細胞の集団と比較して、改善された性能を有するH進化型細胞を含む。一態様では、細胞の集団は、目的のタンパク質を発現するとき、親対照細胞の集団と比較して、改善された性能を有するH進化型細胞を含む。一態様では、細胞の集団は、二重特異性抗体である目的のタンパク質を発現する。
【0017】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較して、増加した生細胞密度を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約15×10細胞/mL~約25×10細胞/mL、又は少なくとも約15×10細胞/mL、約16×10細胞/mL、約17×10細胞/mL、約18×10細胞/mL、若しくは約19×10細胞/mL、且つ最大約20×10細胞/mLのピーク生細胞密度を有する。
【0018】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較して、低減した乳酸レベルを有する。一態様では、H進化型細胞の集団での乳酸蓄積は、非進化の対照培養物の乳酸蓄積の約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、又は約20%未満である。
【0019】
一態様では、細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較して、少なくとも約1.5倍~3.5倍、又は少なくとも約1.5倍、約1.75倍、約2.0倍、約2.25倍、約2.5倍、約2.75倍、約3.0倍、約3.25倍、若しくは約3.5倍増加した力価で目的のタンパク質を発現する。一態様では、細胞の集団は、二重特異性抗体である目的のタンパク質を発現する。一態様では、二重特異性抗体の力価は、約0.5g/L~約1.5g/L、若しくは約0.5g/L~約1.1g/L、又は約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.65g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/Lから、且つ最大約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、若しくは約1.5g/Lである。一態様では、二重特異性抗体の力価は、少なくとも約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、若しくは約1.0g/L、且つ最大約1.0g/Lである。
【0020】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較して、少なくとも約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8倍、約1.9倍、又は約2.0倍増加された比生産性(qP)を有する。
【0021】
一態様では、目的のタンパク質を製造する方法が提供される。一態様では、本方法は、本明細書に記載されるようなH進化型宿主細胞を、目的のタンパク質の発現を可能にする条件下で培養することを含む。一態様では、目的のタンパク質は、異種タンパク質である。一態様では、目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、抗体は、二重特異性抗体である。一態様では、本方法は、目的のタンパク質を単離することを含む。一態様では、単離された目的のタンパク質と薬学的に許容される担体とを含む組成物が提供される。
【0022】
一態様では、本明細書に提供されるのは、本明細書に記載されるようなH進化型宿主細胞の目的のタンパク質を製造するための使用である。一態様では、目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、抗体は、二重特異性抗体である。
【0023】
一態様では、過酸化水素(H)の存在下で、改善された生存率を有する単離された宿主細胞が提供される。一態様では、宿主細胞は、約2mM~約50mMのH、約10mM ~約40mMのH、約20mM~約40mMのH、約30mM~約40mMのH又は約35mM~約40mMのHの曝露後約1~約15日後に、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%生存率の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、少なくとも約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、且つ最大約40mM、約45mM、若しくは約50mMのHと接触される。一態様では、宿主細胞は、約30mM、約31mM、約32mM、約33mM、約34mM、約35mM、約36mM、約37mM、約38mM、約39mM、又は約40mMのHと接触される。
【0024】
一態様では、H進化型細胞の集団は、過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、又は約50%増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、少なくとも約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、若しくは約35mM、且つ最大約40mMの過酸化水素でチャレンジされる。一態様では、H進化型細胞の集団は、約30mM、約31mM、約32mM、約33mM、約34mM、約35mM、約36mM、約37mM、約38mM、約39mM、又は約40mMの過酸化水素でチャレンジされる。一態様では、過酸化水素でのチャレンジ後のH進化型細胞の改善された生存率は、少なくとも約50、約60、約70、約80、約90、又は約100の細胞集団倍加回数(PDL)にわたって維持される。一態様では、細胞ストレスに対する増加した耐性を有する哺乳動物宿主細胞の進化した集団を製造するための方法が提供される。一態様では、酸化ストレスに対する増加した耐性を有する哺乳動物宿主細胞の進化した集団を製造するための方法が提供される。一態様では、本方法は、細胞の集団を、約5mM~約20mM、又は約10mM~約15mMの過酸化水素(H)の存在下で複数のラウンドで培養することと、細胞が約20mM~約40mMのHの存在下で生存できるようになるまで細胞を回復させることと、を含む。一態様では、本方法は下記を含む:
(a)細胞の集団を提供すること;
(b)細胞培養基中で細胞の集団を培養すること;
(c)細胞の集団を約5mM~約20mMのHと接触させて、移行(transitional)細胞の集団を提供すること;
(d)移行細胞を、Hを含まない新鮮な細胞培養基中に再浮遊させて、細胞が少なくとも約70%の生存率に達するまで培養すること;
(e)ステップ(c)~(d)を繰り返して、約20mM~約40mMのHと接触させて、約30分~約1時間インキュベートするときに生存することができるH進化型細胞の集団を得ること。
【0025】
一態様では、(b)で製造される細胞の集団は、少なくとも約70%、約80%、又は約90%の生存率まで培養される。一態様では、(c)で製造される細胞の集団は、約5mM~約10mM、約10~約15mM、又は約15~約20mMのHと接触させる。一態様では、(c)で製造される細胞の集団は、約10mM、約11mM、約11.5mM、約12mM、約12.5mM、約13mM、約13.5mM、約14mM、約14.5mM、約15mM、約15.5mM、約16mM、約16.5mM、約17mM、約17.5mM、約18mM、約18.5mM、約19mM、約19.5mM、且つ最大約20mMのHと接触させる。一態様では、(c)で製造される細胞の集団は、細胞の集団をHと共に、少なくとも約30分間、約45分間、若しくは約60分間、且つ最大約90分間、若しくは約120分間インキュベートすることを含む。一態様では、ステップ(c)~(d)は、少なくとも約3回,約4、若しくは約5、且つ最大約6、約7、約8、約9、若しくは約10回繰り返される。
【0026】
一態様では、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の進化させた集団を製造するための方法が提供される。
【0027】
一態様では、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子を含む哺乳動物宿主細胞の進化させた集団を製造するための方法が提供される。一態様では、異種遺伝子は、宿主細胞DNAに安定して組み込まれている。一態様では、異種遺伝子は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントをコードする。一態様では、異種遺伝子は、二重特異性抗体をコードする。
【0028】
一態様では、哺乳動物宿主細胞の進化させた集団を製造するための方法が提供され、この中で細胞は浮遊培養されるとき、非進化対照と比較して、改善された性能を有する。
【0029】
一態様では、進化させた細胞の集団は、少なくとも約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、若しくは約100、且つ最大約120の細胞集団倍加回数(PDL)後に、約20mM~約40mMのHと接触させたときに生存することができる。
【0030】
一態様では、細胞培養基は、約1mM~約10mM、又は約2mM~約8mM、又は約4mM~約6mMのL-グルタミンを含む。
【0031】
一態様では、本明細書に記載される方法によって製造される進化させた宿主細胞が提供される。
【0032】
一態様では、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子で安定してトランスフェクトされるH進化型宿主細胞が提供され、ここでは宿主細胞はトランスフェクション後、約9~約12日以内に、約70%~約85%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞はトランスフェクション後、少なくとも約9日、約10日、約11日、又は約12日で、約70%~約85%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞はトランスフェクション後、少なくとも9日、10日、11日、又は12日で、約1.0×10細胞/ml~約1.6×10細胞/mlの生細胞密度(VCD)を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一態様では、安定的トランスフェクションには、エレクトロポレーション、それに続くメチオニンスルホキシミン(MSX)選択が含まれる。一態様では、異種遺伝子は、抗体をコードする。一態様では、異種遺伝子は、二重特異性抗体をコードする。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1A】H宿主進化プロセス中の細胞回復を追跡する生存率プロットを示す(矢印はH添加の日にち及び濃度を示し、黒丸は細胞生存率のカウントを表す)。
図1B】37mMのHによるチャレンジ後のCHO対照宿主及びH進化型宿主についての生存率プロットを示す。H進化型宿主及びCHO対照宿主を、6mMのグルタミンで補充したCD-CHO中でそれぞれ90PDL及び7PDLに継代させ、その後両方の宿主を37mMのHで再チャレンジさせて生存率を記録した(生存率は、1、2、4、7、10、11、及び12日目に測定した)。
図2A】CHO対照及びH進化型宿主細胞の間のメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)との72時間のインキュベーション後の相対的宿主細胞生存率の比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、*=P<0.05。
図2B】CHO対照及びH進化型宿主細胞の間のブチオニンスルホキシミン(BSO)との72時間のインキュベーション後の相対的宿主細胞生存率の比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、*=P<0.05。
図2C】CHO対照及びH進化型宿主細胞の間のメルカプトコハク酸(MS)との72時間のインキュベーション後の相対的宿主細胞生存率の比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、*=P<0.05。
図2D】CHO対照及びH進化型宿主細胞の間の塩化コバルト(CoCl)との72時間のインキュベーション後の相対的宿主細胞生存率の比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図3A】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主の間の総グルタチオンの比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図3B】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主の間の総グルタチオン:GSSG(GSH:GSSG)の比較を示すグラフである。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定。
図3C】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主細胞におけるグルタチオンシンテターゼ(GSS)の相対的mRNA発現を示すグラフである。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図3D】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主細胞におけるガンマグルタミルシステインリガーゼ調節因子(Modulator)サブユニット(GCLM)の相対的mRNA発現を示すグラフである。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図3E】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主細胞におけるカタラーゼの相対的mRNA発現を示すグラフである。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図3F】非トランスフェクトCHO対照及びH進化型宿主細胞におけるxCTの相対的mRNA発現を示すグラフである。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図4A】72時間の6μMのMSB又はHO処理に応答するCHO対照宿主A及びH進化型宿主Aの生存率プロットである。N=3、一元配置分散分析(one-way ANOVA)及びテューキーの多重比較検定を使用して統計的に決定、*=P<0.05(CHO対照宿主A+6μMのMSBとH進化型宿主A+6μMのMSBを比較)。
図4B】72時間の6μMのMSB又はHO処理に応答するCHO対照宿主B及びH進化型宿主Bの生存率プロットである。N=3、一元配置分散分析(one-way ANOVA)及びテューキーの多重比較検定を使用して統計的に決定、*=P<0.05(CHO対照宿主A+6μMのMSBとH進化型宿主A+6μMのMSBを比較)。
図5A】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)における総グルタチオンの比較を示す。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図5B】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)における総グルタチオン:GSSGの比(GSH:GSSG)の比較を示す。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図5C】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)におけるグルタチオンシンテターゼ(GSS)の相対的mRNA発現の比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、****=P<0.00005。
図5D】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)におけるガンマグルタミルシステインリガーゼ調節因子サブユニット(GCLM)の比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、****=P<0.00005。
図5E】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)におけるカタラーゼの比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図5F】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)におけるxCTの比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図5G】CHO対照宿主(A)及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主(A)におけるグルタチオンペルオキシダーゼ1(GPx1)の比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図6A】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)発現するH進化型宿主(B)における総グルタチオンの比較を示す。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図6B】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)における総グルタチオン:GSSGの比(GSH:GSSG)の比較を示す。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図6C】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)におけるGSSの相対的mRNA発現の比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図6D】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)におけるGCLMの比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、**=P<0.005。
図6E】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)におけるカタラーゼの比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定、***=P<0.0005。
図6F】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)におけるxCTの比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定。
図6G】CHO対照宿主(B)及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主(B)におけるGPx1の比較を示す。全てのqPCRデータを、MMADHC mRNA発現に正規化させた。N=3、対応のないt検定を用いて統計的に決定。
図7A】CHO対照宿主A及びB、並びにH進化型宿主A及びBのトランスフェクション後に監視された場合の細胞生存率を示す。3つのプールを、各分子及び各宿主について生成した。
図7B】CHO対照宿主A及びB、並びにH進化型宿主A及びBのトランスフェクション後に監視された場合の生細胞密度(VCD)を示す。3つのプールを、各分子及び各宿主について生成した。
図8A】CHO対照A及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主Aの間の生細胞密度(VCD)の比較を示す(10細胞/mL)。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図8B】CHO対照A及びH進化型宿主Aの二重特異性抗体A(BisAb A)の生存率(%)の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図8C】CHO対照A及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主Aの間の乳酸(g/L)の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図8D】CHO対照A及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主Aの間の力価の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。対応のないt検定を用いて統計的に決定、****=P<0.00005。
図8E】CHO対照A及び二重特異性抗体A(BisAb A)を発現するH進化型宿主Aの間の細胞比生産性(qP)を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。対応のないt検定を用いて統計的に決定、*=P<0.05。
図9A】CHO対照B及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主Bの間の生細胞密度(VCD)の比較を示す(10細胞/mL)。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図9B】CHO対照B及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主Bの間の生存率(%)の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図9C】CHO対照B及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主Bの間の乳酸(g/L)の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。
図9D】CHO対照B及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主Bの間の力価の比較を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。対応のないt検定を用いて統計的に決定、*=P<0.05。
図9E】CHO対照B及び二重特異性抗体B(BisAb B)を発現するH進化型宿主Bの間の細胞比生産性(qP)を示す。各分子を発現する合計で3つのプールを、各宿主について評価した。対応のないt検定を用いて統計的に決定。
図10】過酸化水素進化型宿主細胞を生成するための指向性進化の方法のフローチャートである。
図11】IgGモノクローナル抗体をコードする直線化DNAによるトランスフェクション後のH進化型宿主及びCHO宿主のトランスフェクション回復を示すグラフである。
図12A】ネズミIgG mAbを発現するH進化型宿主及びCHO対照の生細胞密度を示す。
図12B】ネズミIgG mAbを発現するH進化型宿主及びCHO対照の生存%を示す。
図12C】ネズミIgG mAbを発現するH進化型宿主及びCHO対照の力価(mg/L)を示す。
図12D】ネズミIgG mAbを発現するH進化型宿主及びCHO対照の乳酸プロファイル(g/L)を示す。
図12E】ネズミIgG mAbを発現するH進化型宿主及びCHO対照の比生産性(qP)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
A.定義
特に定義されていない限り、本明細書で用いられる科学技術用語は、当業者が通常理解する意味を有するものとする。更に、文脈で別段の定めがない限り、単数形の語には複数形が含まれ、複数形の語には単数形が含まれ、例えば、特に明記しない限り、「a」又は「an」は複数形、例えば、「1つ以上」又は「少なくとも1つ」が含まれ、語「又は」は「及び/又は」を意味することができる。用語「含んでいる(including)」、「含む(includes)」及び「含まれる(included)」は、限定するものではない。任意のタイプの本明細書に提供される範囲には、記載される特定の範囲内の全ての値及び特定の範囲の端点に関する値が含まれる。
【0035】
本明細書で用いられる場合、「約」という用語は、例えば、本発明の説明に利用される組成物中の成分の量、濃度、体積、プロセス温度、プロセス時間、収率、流量、圧力、及びそれらの範囲を修飾するために使用される。「約」という用語は、例えば、化合物、組成物、濃縮物又は製剤の製造に使用される典型的な測定及び取扱いの手順により;これらの手順での偶発的エラーにより;方法を実施するために使用される出発材料又は成分の製造、供給源又は純度及び他の類似の要件の差により生じる可能性のある数値量の変動を意味する。「約」という用語はまた、特定の初期濃度又は初期混合を有する製剤のエージングに起因して異なる量、及び特定の初期濃度又は初期混合を有する製剤の混合又は処理に起因して異なる量も包含する。「約」という用語により修飾された場合、本明細書に添付された特許請求の範囲は、そのような均等物を含む。
【0036】
一般的には、本明細書中に記載の細胞及び組織培養、分子生物学及び、タンパク質及びオリゴ又はポリヌクレオチド化学及び、ハイブリダイゼーションとの関連で用いられる命名法及びそれらの技術は、当技術分野で周知の通常用いられるものである。本明細書では、アミノ酸は、一般に知られている3文字記号又はIUPAC-IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)により推奨されている1文字記号の何れかにより言及され得る。ヌクレオチドは、同様に、一般に受け入れられている1文字コードにより言及され得る。
【0037】
「細胞ストレス」は、宿主細胞の性能又は生産性に影響を及ぼし得る環境ストレス因子を指す。細胞ストレスには、トランスフェクションプロセス、例えば、一過性又は安定的トランスフェクションが含まれ得る。細胞ストレスは、例えば、二重特異性抗体などのタンパク質を発現することの難しさを含む異種タンパク質の組換え発現によって誘発され得る。細胞ストレスはまた、バッチ細胞培養プロセス又は流加細胞培養プロセスなどの細胞培養プロセスが含まれ得る。
【0038】
「酸化ストレス」は、細胞によって産生される活性酸素種(ROS)と細胞の抗酸化能との間の不均衡を指す。ROSは嫌気性代謝の自然な副産物であるが、それらは高レベルで細胞の健康状態及び生産性に悪影響を及ぼし得る。酸化ストレスに対して、用語「耐性である」又は「耐性」は、酸化ストレスの条件下で、例えば、参照細胞又は細胞の集団と比較すると、活性酸素種(ROS)の存在下で生存するための細胞又は細胞の集団の改善された能力を指す。
【0039】
「宿主細胞」は、目的のタンパク質を産生するように操作され得るか、又は操作された細胞を指す。一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチド配列でトランスフェクトされる。一態様では、目的のタンパク質は、治療用タンパク質である。一態様では、目的のタンパク質は、抗体、例えば、モノクローナル抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、目的のタンパク質は、二重特異性抗体である。「宿主細胞」は、組換えベクターが導入されている細胞を指すだけではなく、そのような細胞の後代も含む。例えば、環境の影響により改変が後の世代に発生する場合があるため、そのような後代は、親細胞と同一ではない場合があるが、用語「宿主細胞」の範囲内に依然として含まれる。本明細書で使用される場合、「宿主細胞」は、宿主細胞の集団又は細胞株を含む。宿主細胞には、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、ネズミ骨髄腫(NSO若しくはSP2)、又はラット骨髄腫(YB2/0)細胞が挙げられるが、これらに限定されない哺乳動物宿主細胞が含まれ得る。一態様では、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を含む。
【0040】
「過酸化水素(H)進化型宿主細胞」は、同じ培養条件下で培養されるとき、非進化型又は親の宿主細胞と比較すると、改善された細胞培養性能によって特徴付けされる、過酸化水素の存在下で培養された宿主細胞を指す。一態様では、培養条件は、例えば、過酸化水素又は活性酸素種(ROS)の存在に起因する、酸化ストレスの条件を含む。改善された性能は、1つ以上の細胞性能パラメーターを測定することによって決定することができる。「細胞性能パラメーター」は、細胞生存率、細胞増殖及び/又は生産性の指標である測定され得る任意のパラメーターを指す。細胞性能パラメーターの例としては、生存率、生細胞密度、使用済み培地中の乳酸レベル、タンパク質力価、比生産性(qP)、又はそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、改善された性能は、1つ以上の細胞性能パラメーターにおける統計的に有意な(p<0.05)改善をもたらす。細胞性能パラメーターにおける変化が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0041】
「親」又は「親対照」は、細胞培養性能を改善するために、過酸化水素の存在下で培養されていない非進化型宿主細胞を指す。一態様では、親又は親対照は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、ベビーハムスター腎臓(BHK)、ネズミ骨髄腫(NSO若しくはSP2)、又はラット骨髄腫(YB2/0)細胞などの非進化型哺乳動物宿主細胞である。一態様では、親又は親対照は、非進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。
【0042】
「生存率」は、生きており、増殖することができる細胞の数の尺度を指す。細胞生存率を決定するためのアッセイは当該技術分野において周知であり、例えば、ATPレベル、生きている細胞に固有の基質及び酵素、若しくはプロテアーゼ活性を低減させる能力などの代謝活性細胞の指標であるマーカーのアッセイを含む。一態様では、細胞生存率は、生存不能な細胞若しくは死細胞の数を引いた総細胞数を決定することによって計算される。一態様では、細胞生存率は、例えば、Vi-Cell XR Cell Viability Analyser(Beckman Coulter,USA)を含む市販の自動化細胞培養分析システムを使用して決定することができる。
【0043】
「改善された」又は「増加された」生存率は、細胞の集団、例えば、H進化型細胞の集団が、参照集団、例えば、非進化型細胞又は親対照細胞と比べて、同様な培養条件下で生細胞の増加した数を示す状態を指す。
【0044】
「細胞密度」は、培養基の単位体積当たりの生細胞の数を指す。「生細胞密度」又はVCDは、一連の培養条件下での細胞培養基の単位体積当たりの生きた細胞の数を指す。生細胞密度を決定するためのアッセイは知られており、例えば、トリパンブルー染料排除法が挙げられる。一態様では、生細胞密度は、市販の自動化システムを使用して決定される。改善された生細胞密度は、細胞の集団、例えば、H進化型細胞の集団が、参照集団、例えば、非進化型細胞若しくは親対照細胞と比べて、同様な培養条件下で生細胞の増加した数を示す状態を指す。
【0045】
乳酸は、哺乳動物細胞培養中に産生される副産物である。高い乳酸レベルは、ワールブルク(Warburg)効果として知られる高い好気性解糖によって引き起こされ得、多くの場合、細胞培養性能の低下と関連している。乳酸の蓄積は、細胞培養基の緩衝能力に影響を与える可能性があり、これはpHの低下をもたらし得る。「乳酸蓄積」は、細胞培養プロセス中、特に高細胞密度の細胞培養における制限因子であり得る。細胞培養中に乳酸蓄積を低下させることは、増殖、生産性、及び細胞培養プロセスのロバスト性を改善することができる。
【0046】
「力価」は、生成物、例えば、溶液中、例えば、細胞培養基中の組換え的に産生された目的のタンパク質の体積濃度を指し、mg/L又はg/Lと表すことができる。本明細書で使用される場合、「増加された力価」は、参照細胞株、例えば、親細胞株の力価よりも少なくとも約1.5倍高い力価を指す。一態様では、H進化型細胞株は、非進化型親対照と比較して、約1.5倍~約3.5倍である力価を有する。
【0047】
「比生産性」又は「qP」は、細胞培養中で異種タンパク質を産生する細胞株の生産性を指し、例えば、細胞当たりの、又は細胞の質量若しくは体積の尺度当たりの産物発現率を指す。比生産性は、最終収率を生細胞で割ることによって計算することができ、pg/細胞/日の単位で表すことができる。一態様では、比生産性は、異種タンパク質を産生する細胞株の生産性を指す。一態様では、比生産性は、異種二重特異性抗体を産生する細胞株の生産性を指す。
【0048】
「発現」は、宿主細胞内の遺伝子の転写及び翻訳を指す。発現のレベルは、細胞中に存在する対応するmRNAの量又は細胞によって産生される遺伝子によってコードされるタンパク質の量に基づいて決定することができる。mRNA又はタンパク質を検出するための方法は既知である。例えば、mRNAは、ノーザンブロットハイブリダイゼーションによって検出することができ、遺伝子によってコードされるタンパク質は、ウェスタンブロット又はラジオイムノアッセイを使用して、生物学的活性についてアッセイすることによって検出することができる。
【0049】
「増加された発現」は、対照細胞又は生物と比べて増加された細胞又は生物中の特定の遺伝子配列の発現レベルを指す。一態様では、遺伝子発現の増加されたレベルは、統計的に有意である(p<0.05)。対照と比べて発現の増加が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0050】
「減少された発現」は、対照細胞又は生物と比べて減少された細胞又は生物中の特定の遺伝子配列の発現レベルを指す。一態様では、遺伝子発現の減少されたレベルは、統計的に有意である(p<0.05)。対照と比べて発現の減少が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0051】
「細胞培養」は、細胞の増殖、維持、分化、トランスフェクション、又は繁殖に好適な条件下で培養された細胞の集団を指す。「細胞培養」はまた、細胞の集団及びそれらが維持されている細胞培養基を指してもよい。一態様では、用語「細胞培養」は、目的の組換えタンパク質を産生することができる宿主細胞の集団を指す。接着培養は、細胞が人工基質上で単層として増殖される培地を指す。浮遊培養は、細胞が培養基中で浮遊している培養を指す。一態様では、宿主細胞は接着細胞培養で増殖される。一態様では、宿主細胞は浮遊細胞培養で増殖される。一態様では、H進化型宿主細胞は、浮遊細胞培養で増殖される。細胞培養プロセスは既知であり、例えば、バッチ細胞培養プロセス、流加細胞培養プロセス、又は灌流プロセスが挙げられる。
【0052】
「培養基」は、栄養素、例えば、ビタミン、アミノ酸、必須栄養素、及び塩類、並びに条件、例えば、生きている細胞を維持し、それらの増殖及び繁殖を支援するための緩衝化を提供する溶液を指す。典型的には、培養基は以下の成分:エネルギー源、例えば、グルコースなどの炭水化物;アミノ酸、例えば、基本的な20種類のアミノ酸に加えてシステイン;ビタミン及び/又は他の有機化合物;遊離脂肪酸;並びに微量元素のうちの1つ以上を含む。栄養素溶液は、任意選択でホルモン又は増殖因子;塩類及び緩衝液;ヌクレオシド及び塩基;タンパク質又は組織加水分解物;若しくはそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない1つ以上の追加の成分で補充されてもよい。
【0053】
「条件培養基」は、培養された細胞と共にインキュベートされ、培養された細胞によって培地中に分泌された代謝産物、増殖因子、及びタンパク質を含む培養基を指す。
【0054】
細胞集団倍加回数(PDL)は、細胞株の特定の培養の時期の尺度であり、集団中の細胞が倍加するのに要した合計回数を指す。一態様では、PDLは、マスターセルバンクが倍加するのに要した回数を指す。一態様では、マスターセルバンク中の細胞は、本明細書に記載されるようなH進化型細胞である。一態様では、マスターセルバンク中の細胞は、図10に概略的に示したプロセスに従って進化させた細胞を含む。一態様では、マスターセルバンク中の細胞は、図1Aに示したプロセスに従って進化させた細胞である。
【0055】
継代数は、培養中の細胞が継代培養された回数を指す。
【0056】
「バッチ」培養は不連続なプロセスであり、ここでは一定量の培養基に宿主細胞が接種され、追加の増殖培地は添加されない。典型的には、バッチ培養プロセス中に添加及び除去される唯一の材料は、空気/ガス交換、消泡剤及びpH調整剤である。多くの場合、バッチ培養は望ましい均質度を維持し、酸素移動を改善するために、振盪又は撹拌される。細胞数は、最大値に達するまで、通常、指数関数的に増加し、その後増殖が停止し、細胞が死滅する。産物を回収するために、細胞は培地から除去される。一般に、バッチ培養は一定の期間、一定の量で進行し、プロセスの最後に細胞が死滅するか廃棄される状態で1回の採取が行われる。
【0057】
「流加」培養は、プロセス中に定期的又は連続的に供給物が添加されるバッチ培養の変形型である。流加培養は、通常、一定の期間、実質的に一定の量で進行し、細胞が死滅した場合、又はより早い所定の時点のいずれかで1回の採取が行われる。
【0058】
「灌流」培養では、細胞が保持されるか又は沈殿、遠心分離若しくは濾過によって反応器にリサイクルされながら、培養基が高速で細胞培養を通して灌流される。灌流培養では、灌流培地は乳酸などの代謝産物を培養基から除去するのを助ける。
【0059】
「トランスフェクトする」又は「トランスフェクション」は、異種ポリヌクレオチドを含む構築物が宿主細胞中に導入され、遺伝子改変された細胞又はトランスジェニック細胞を生成する方法を指す。トランスフェクション法は既知であり、リポソーム媒介トランスフェクション、リン酸カルシウム共沈、エレクトロポレーション、ポリカチオン(DEAE-デキストランなど)媒介トランスフェクション、原形質融合、ウイルス感染及びマイクロインジェクションが挙げられるが、これらに限定されない。トランスフェクションは一過性又は安定性であり得る。一過性トランスフェクションでは、異種ポリヌクレオチドを含有する構築物は、宿主細胞のゲノム中に組み込まれない。安定なトランスフェクションでは、異種ポリヌクレオチドを含有する構築物は宿主細胞のゲノム中に組み込まれ、例えば、構築物は核若しくは細胞小器官ゲノム中に組み込むことができるか、又はエピソーム内に位置することができ、ここではポリヌクレオチドが宿主細胞のゲノム内で維持され、将来の世代に受け継がれる。
【0060】
用語「核酸」、「ポリヌクレオチド」及び「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドの共有結合サブユニットを含むポリマー化合物を指すために、互換的に使用することができる。ポリヌクレオチドは、一本鎖又は二本鎖であってもよい。ポリヌクレオチドとしては、ポリリボ核酸(RNA)及びポリデオキシリボ核酸(DNA)が挙げられるが、これらに限定されない。DNAとしては、限定されるものではないが、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAが挙げられる。RNAとしては、限定されるものではないが、転移RNA(tRNA)、リボソームRNA(rRNA)、及びメッセンジャーRNA(mRNA)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0061】
用語「ポリペプチド」、「タンパク質」及び「ペプチド」は、任意の長さのアミノ酸のポリマーを指すために本明細書で互換的に使用され、複数のポリペプチド鎖を含む複合体を指すことができる。アミノ酸ポリマーは、直鎖状、分岐状又は環状であり得る。アミノ酸は、天然に存在するか、若しくは天然に存在しないアミノ酸、又は変異体アミノ酸であってもよい。タンパク質は、天然型であるか、又は組換え生成され得る。タンパク質は、分泌型、膜結合型、又は細胞内であり得る。タンパク質は、治療用タンパク質、又は商業的利益をもたらす他のタンパク質を含み得る。
【0062】
「単離された」は、分離されている及び/又はその天然環境の構成要素から除去されているポリヌクレオチド、ポリペプチド、又は細胞を指す。例えば、単離された細胞は動物から取り出され、培養皿又は別の動物中に配置することができる。単離されるとは、細胞が全ての他の細胞から除去されることを意味するものではない。細胞の一群もまた単離され得る。ポリヌクレオチド若しくはポリペプチドは、それが典型的にポリヌクレオチド若しくはポリペプチドと結び付いた細胞材料から除去される場合、又は化学合成されるときの化学的前駆体若しくは化学薬品を実質的に含まない場合に単離されている。「単離されたポリヌクレオチド」又は「単離されたポリペプチド」は、それぞれ実質的に生成されたポリヌクレオチド又はポリペプチドを指すことができる。一態様では、単離されたポリヌクレオチド又はポリペプチドは、非天然環境、例えば、異種細胞、組織、又は動物中に存在する。
【0063】
「異種」は、例えば、組換え分子生物学技術を使用して導入された、生物中に天然には存在しないポリヌクレオチド又はポリペプチドを指す。異種ポリヌクレオチド又はポリペプチドは、生物中の天然に存在するポリヌクレオチド又はポリペプチドと同じであるか、又は異なるポリヌクレオチド又はポリペプチドを含み得る。例えば、「異種ポリヌクレオチド」は、組換え法を介して細胞中に導入された、例えば、プラスミド上に導入された遺伝子を指すことができ、「異種ポリペプチド」は、組換え分子生物学技術によって導入されるポリヌクレオチドから発現される、生物によって天然では合成されないポリペプチドを指すことができる。「組換え」は、細胞、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、又はベクターに関連して用いられる場合、細胞、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、又はベクターが、異種ポリヌクレオチド若しくはポリペプチドの導入によって、又は天然ポリヌクレオチド若しくはポリペプチドの改変によって修飾されていること、或いは細胞がそのように修飾された細胞に由来することを示す。
【0064】
「目的のタンパク質」は、宿主細胞によって発現され得るタンパク質、ポリペプチド、フラグメント、及びペプチドを含む。目的のタンパク質としては、例えば、抗体、酵素、サイトカイン、リンホカイン、接着分子、受容体及びそれらの誘導体若しくはフラグメントが挙げられる。一態様では、目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、目的のタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0065】
「抗体」及び「免疫グロブリン」は、互換的に使用することができ、これらにはモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、一本鎖Fv(scFV)、一本鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fabフラグメント、F(ab’)2フラグメント、ジスルフィド結合Fv(dsFv)、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、イントラボディ、及びそれらの抗原結合フラグメントが挙げられるが、これらに限定されない。抗体は、抗体又はその一部とのペプチド融合体、例えばFcドメインとの融合タンパク質も含み得る。免疫グロブリン分子は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA、及びIgY)、サブアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、及びIgA2)、又はアロタイプ(例えば、Gm、例えばG1m(f、z、a、若しくはx)、G2m(n)、G3m(g、b、若しくはc)、Am、Em、及びKm(1、2、若しくは3))であり得る。抗体は、以下に限定されるものではないが、ヒト、サル、ブタ、ウマ、ウサギ、イヌ、ネコ、マウスなどを含む任意の哺乳動物、又は例えばトリ(例えば、ニワトリ)などの他の動物に由来するものであってもよい。
【0066】
天然に存在するIgG抗体は、典型的には、4つのポリペプチド鎖:ジスルフィド結合によって相互連結されている2つの重(H)鎖及び2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(VH)と、CH1、CH2、及びCH3の3つのドメインからなる重鎖定常領域とを含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(VL)と、1つのドメイン、CLを含む軽鎖定常領域とを含む。VH及びVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性領域に更に細分化され得、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域がその中に散在する。各VH及びVLは、3つのCDR及び4つのFRを含む。重鎖CDRは、HCDR1、HCDR2及びHCDR3と略され、軽鎖CDRはLCDR1、LCDR2及びLCDR3と略される。
【0067】
用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を指す。モノクローナル抗体は、異なるエピトープに対して向けられる抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、単一のエピトープに対して向けられる。用語「モノクローナル」は、抗体の実質的に均質な集団から得られ、任意の特定の方法による抗体の操作を必要としない抗体の性質を示す。
【0068】
一態様では、抗体は、多重特異性抗体又は二重特異性抗体である。本明細書で使用される場合、「多重特異性」又は「二重特異性」抗体は、2つ以上のエピトープに選択的に結合することができる抗体である。一態様では、抗体は、2つの異なる重鎖可変ドメインを有する二重特異性抗体であり、各重鎖可変ドメインは異なるエピトープに特異的に結合する。一態様では、抗体は、2つの異なる重鎖可変ドメイン及び2つの異なる軽鎖可変ドメインを有する二重特異性抗体である。二重特異性抗体によって認識されるエピトープは、同じ又は異なる標的上にあることができ、例えば、エピトープは同じ又は異なるタンパク質上にあることができる。一態様では、二重特異性抗体は、同じ抗原上の異なるエピトープを認識する。一態様では、二重特異性抗体は、異なる抗原上の異なるエピトープを認識する。
【0069】
「発現困難」又は「DTE」は、組換え生産が難しいタンパク質、例えば、臨床的又は治療的使用に十分な力価で発現することが難しいタンパク質を指す。例えば、DTEタンパク質の生産は、そのタンパク質がミスフォールディング、分解又は凝集を受けやすい傾向にあるため、困難であり得る。時には、タンパク質はそれが細胞傷害性であるため、発現が困難であり得る。抗体などの多数のポリペプチド鎖を含むタンパク質は、発現するのが難しい場合もある。特に、二重特異性抗体は、発現が困難であり得る。発現困難なタンパク質は、酸化ストレスの増加されたレベルと関連し得る。例えば、発現困難なタンパク質は、小胞体(ER)中で発生するタンパク質フォールディングプロセスの副産物としての活性酸素種の生成をもたらし得る。酸化ストレスの増加されたレベルは、酸化還元(レドックス)バランスの低下につながり、酸化ストレスをもたらし得る。
【0070】
語句「薬学的に許容される」とは、連邦政府又は州政府の規制当局の承認を受けていること、又は動物で使用するために、例えば、ヒトで使用するために、米国薬局方、欧州薬局方若しくは他の一般に認識されている薬局方に列挙されていることを意味する。
【0071】
B.概要
本明細書に提供されるのは、目的のタンパク質を製造するための宿主細胞並びにそれの作製及び使用方法である。一態様では、宿主細胞又は細胞株は、性能を改善するために、及び目的のタンパク質の製造についての生産性を増強させるために、指向性進化を使用して得られる。一態様では、改善された性能には、増加された生細胞密度、増加された生存率、減少された乳酸レベル、増加された力価、及び増加された比生産性(qP)などの1つ以上の性能パラメーターが含まれる。一態様では、改善された性能は、1つ以上の細胞性能パラメーターにおける統計的に有意な(p<0.05)改善をもたらす。細胞性能パラメーターにおける変化が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0072】
一態様では、指向性進化は、宿主細胞を過酸化水素(H)の存在下で培養して、H進化型宿主細胞又は細胞株を生成することによって、改善された性能を有する宿主細胞株を生成するために使用される。一態様では、H進化型宿主細胞が提供される。一態様では、H進化型宿主細胞を作製及び使用する方法が提供される。一態様では、宿主細胞は、細胞ストレスの条件下で改善された性能を有する。一態様では、細胞ストレスには、トランスフェクション、例えば、安定的トランスフェクションが含まれる。一態様では、細胞ストレスには、異種タンパク質の組換え発現が含まれる。一態様では、細胞ストレスには、発現困難なタンパク質の発現が含まれる。一態様では、細胞ストレスには、抗体の発現が含まれる。一態様では、細胞ストレスには、二重特異性抗体の発現が含まれる。一態様では、細胞ストレスには、バッチ培養又は流加細胞培養プロセスなどの細胞培養プロセスが含まれる。一態様では、宿主細胞は、酸化ストレスに対して耐性である。一態様では、細胞株は、哺乳動物細胞株である。一態様では、細胞株は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株である。一態様では、細胞株は、浮遊培養適応化CHO細胞株である。
【0073】
一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質を発現するとき、改善された性能を有する哺乳動物宿主細胞である。一態様では、宿主細胞又は細胞株は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントを産生するために改善された性能を有する哺乳動物宿主細胞である。一態様では、宿主細胞又は細胞株は、二重特異性抗体を産生するために改善された性能を有する哺乳動物宿主細胞である。
【0074】
一態様では、宿主細胞は、発現困難(DTE)である目的のタンパク質を発現するとき、改善された性能を有する哺乳動物宿主細胞である。一態様では、DTEタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0075】
二重特異性抗体の製造は、多くの場合、モノクローナル抗体に対して得られる収率と比較すると、より低い生産収率によって妨害される。活性酸素種(ROS)が、細胞培養中の抗体産生に悪影響を及ぼし得ること、及び細胞抗酸化能を促進する戦略がタンパク質発現に有益に思われることが示されている。理論によって束縛されることを望むものではないが、二重特異性抗体の細胞内産生は、酸化ストレスを引き起こし得ると考えられる。一態様では、非進化型親宿主細胞と比較して、より高い生産収率で二重特異性抗体を発現する進化させた宿主細胞が提供される。一態様では、進化させた宿主細胞は、非進化型宿主細胞よりも統計的に有意に(p<0.05)高い力価で目的のタンパク質を発現する。発現の変化が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0076】
本明細書に提供されるのは、多くの世代にわたって過酸化水素に対する遺伝的耐性を有する、指向性進化を使用して生成された進化させた宿主細胞である。H進化型宿主細胞は、グルタチオン(GSH)などの抗酸化物質の増加、及びグルタチオン(GSH)生合成及び代謝回転に関与するものが含まれるいくつかの多様な抗酸化防御遺伝子のアップレギュレーション、並びにH排除のために、増強された抗酸化能を示す。一態様では、進化させた宿主細胞は、非進化型宿主細胞よりも、1つ以上の抗酸化防御遺伝子の統計的に有意な(p<0.05)増加した発現を有する。発現の増加が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0077】
抗酸化経路におけるグローバルな変化は、酸化ストレス因子の多様なサブセットに対して耐性を付与する。しかしながら、改善された性能を観察するために、細胞が酸化ストレス下にある必要はない。更に、H進化型宿主細胞は、優れたトランスフェクション回復時間を有し、流加培養製造プロセスにおいて改善された増殖並びに生存率を実証し、非進化型CHO対照細胞と比較して、二重特異性抗体などの発現困難なタンパク質について上昇した発現レベルを有する。
【0078】
C.活性酸素種(ROS)
活性酸素種(ROS)は、酸素に由来する分子のグループであり、それらの酸素含有量又は不対電子の存在に起因して、多数の生体分子に対して高い反応性を示す。組換えタンパク質の高レベルの発現を支援するために必要とされる代謝適応は、ROSの発生をもたらすことができる。例えば、組換えタンパク質の産生で使用される哺乳動物細胞培養は、より高いレベルのタンパク質フォールディング及び分泌を必要とする。これが、小胞体内の活性を増加させ、ROSの産生における増加をもたらし得る。更に、培地成分は、酸素、光、及び他の成分と反応してROSを生成し得る。(Chevallier et al.(2020)“Oxidative stress-alleviating strategies to improve recombinant protein production in CHO cells.”Biotechnol.Bioeng.117(4):1172-1186)。
【0079】
一態様では、対照と比較するとき、酸化ストレスに対する増加した耐性を有する宿主細胞が提供される。一態様では、親対照と比較するとき、酸化ストレスに対する増加した耐性を有する、目的のタンパク質を発現することができる哺乳動物宿主細胞が提供される。一態様では、親対照と比較するとき、酸化ストレスに対する増加した耐性を有する、目的のタンパク質を発現することができる過酸化水素(H)進化型哺乳動物宿主細胞が提供される。
【0080】
本明細書で使用される場合、「酸化ストレスに対する耐性」は、酸化ストレスの存在下で生存するための細胞の能力を指す。一態様では、「酸化ストレスに対する耐性」は、活性酸素種(ROS)の存在下で生存するための細胞の能力を指す。一態様では、「酸化ストレスに対する耐性」は、活性酸素種(ROS)の増加されたレベルの存在下で生存するための細胞の能力を指す。一態様では、「酸化ストレスに対する耐性」は、細胞培養中に改善された性能を有する細胞を指す。一態様では、ROSレベルの増加が観察されない場合であっても、細胞培養中に改善された性能が観察される。一態様では、「酸化ストレスに対する耐性」は、流加細胞培養において改善された性能を有する細胞を指す。一態様では、「酸化ストレスに対する耐性」は、細胞培養中に改善された生産収率を伴う細胞を指す。
【0081】
一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、遺伝子発現パターンにおける変化、例えば、細胞抗酸化防御系に関与する遺伝子の発現における変化に関連する。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされた細胞の、細胞培養中に目的の異種タンパク質を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされた細胞の、細胞培養中に目的の異種タンパク質の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされた細胞の、細胞培養中の発現困難な異種タンパク質の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされた哺乳動物細胞の、細胞培養中の異種抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされた哺乳動物細胞の、細胞培養中の異種二重特異性抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の、細胞培養中の異種抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の、流加細胞培養中の異種抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の、細胞培養中の異種二重特異性抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。一態様では、酸化ストレスに対する耐性は、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の、流加細胞培養中の異種二重特異性抗体の高力価を効率的に産生するための能力を指す。本明細書で使用される場合、高力価は、1リットル当たりのグラム数(g/L)スケールでの力価を指す。一態様では、「高力価」は、非進化型宿主細胞から観察された力価を超えて、統計的に有意な(p<0.05)増加である力価を指す。力価の変化が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。一態様では、「高力価」は、親対照の力価よりも少なくとも約1.5倍高い力価を指す。
【0082】
D.抗酸化防御系
例えば、正常な細胞活性の副産物として形成されるROSを含む活性酸素種(ROS)の影響を相殺するために、哺乳動物細胞は、ROSによる細胞内損傷を防止するための様々な酵素的及び非酵素的防御メカニズムを含む一連の「抗酸化防御系」を発達させてきた。(Chevallier et al.(2020)“Oxidative stress-alleviating strategies to improve recombinant protein production in CHO cells.”Biotechnol.Bioeng.117(4):1172-1186)。抗酸化防御系は、2つのカテゴリー:酵素的及び非酵素的抗酸化物質に分類することができる。
【0083】
酵素的抗酸化物質としては、限定されないが、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx-1)が挙げられ、これらは一緒に作用して活性酸素種を酵素的に除去する:SODは、スーパーオキシドラジカル(O ・)を過酸化水素及び分子状酸素に変換し;カタラーゼ及びグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx-1)は、過酸化水素を分解して酸素及び水を形成する。
【0084】
非酵素的抗酸化物質としては、限定されないが、ビタミンC、ビタミンE及びグルタチオン(GSH)などの低分子量化合物が挙げられる。(Valko et al.(2007)“Free radicals and antioxidants in normal physiological functions and human disease”.Int J Biochem Cell Biol.39(1):44-84)。グルタチオンは、全ての細胞型でミリモル濃度で存在し、広範囲の細胞内システムに影響を及ぼす主要なレドックス緩衝液として作用するシステイン、グリシン、及びグルタミン酸のトリペプチド(γ-L-グルタミル-L-システミルグリシン)である(Forman et al.(2009)“Glutathione:overview of its protective roles,measurement,and biosynthesis”.Mol Aspects Med.30(1-2):1-12)。
【0085】
グルタチオンは、還元型(GSH)及び酸化型のグルタチオンジスルフィド(GSSG)で存在する。(Pizzorno,J.(2014)“Glutathione!”Integr.Med(Encinitas).13(1):8-12)。本明細書で使用される場合、総グルタチオンは、細胞中で見出されるGSHとGSSGとの合計を指す。総グルタチオン対グルタチオンジスルフィドの比(GSH:GSSG)は、細胞の細胞レドックス状態を決定し、酸化ストレスの指標であり得る。
【0086】
GSHの還元型の枯渇は、細胞株製造の減少した比生産性(qP)に結び付いており(Handlogten et al.(2020)“Online Control of Cell Culture Redox Potential Prevents Antibody Interchain Disulfide Bond Reduction”.Biotechnol Bioeng.117(5):1329-1336)、Orellanaらによるプロテオミクスの研究は、高抗体産生CHO細胞株がGSH生合成経路をアップレギュレートすることを実証した(Orellana et al.(2015)“High-antibody-producing Chinese hamster ovary cells up-regulate intracellular protein transport and glutathione synthesis”.J Proteome Res.14(2):609-18)。これらのデータは、高産生細胞株が増加した細胞内GSH含有量を有していたという観察によって裏付けられる(Chong et al.(2012)“LC-MS-based metabolic characterization of high monoclonal antibody-producing Chinese hamster ovary cells”.Biotechnol Bioeng.109(12):3103-11)。これと一致して、標的化遺伝子過剰発現を通してのGSH合成酵素の調節は、mAb力価を改善することが示されている(Orellana et al.(2017)“Overexpression of the regulatory subunit of glutamate-cysteine ligase enhances monoclonal antibody production in CHO cells”.Biotechnol Bioeng.114(8):1825-36)。
【0087】
GSHは構成アミノ酸から二段階で合成される。第1の段階では、γ-グルタミルシステインがグルタミン酸及びシステインから形成され、第2の段階では、グルタチオン(GSH)がγ-グルタミルシステイン及びグリシンから形成される。GSH生合成の第1の段階は、グルタミン酸システインリガーゼ(GCL)、重鎖若しくは触媒サブユニット(GCLC)及び軽鎖若しくは調節サブユニット(GCLM)のヘテロ二量体によって触媒される。GCLCサブユニットは、酵素の触媒活性の全てを示し、GCLMは酵素的に不活性である。グルタチオンシンテターゼ(GS)は、γ-グルタミルシステインとグリシンとの連結反応を触媒し、グルタチオン(GSH)を生成するホモ二量体酵素である。
【0088】
GSHは、その電子を過酸化水素(H)に供与して、Hを酸素(O)及び水(HO)に還元して、プロセスにおいて酸化型グルタチオンジスルフィド(GSSG)を生成する。この反応は、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx-1)によって触媒される。次いで、GSSGは、グルタチオンレダクターゼによって還元されてGSHを生成する。酸化ストレスの増加されたレベルは、細胞内GSSGの蓄積をもたらし、それによって総グルタチオン:GSSG(GSH:GSSG)比を低下させる。酸化ストレスに曝された細胞は、一般に、約1~約10の総グルタチオン:GSSG(GSH:GSSG)比を有する。酸化ストレスによるGSSGの蓄積は、細胞にとって有毒であり得る。
【0089】
アンチポーター系x は、アミノ酸システイン(システインの酸化型)を、グルタミン酸の1:1対向輸送で細胞中に運び入れる。システインは、グルタチオン(GSH)に対する律速基質であると共に、システインはレドックス対を形成する。(Lewernz et al.(2013)“The cystine/glutamate antiporter system x in health and disease:from molecular mechanisms to novel therapeutic opportunities.”Antioxid.Redox Signal.18(5):522-555)。本明細書で使用される場合、xCTは、システイン/グルタミン酸アンチポーターをコードする遺伝子を指す。
【0090】
他の抗酸化物質には、チオレドキシンレダクターゼ1及びペルオキシレドキシン6が含まれ、これらは改善された組換えタンパク質発現に結び付いている(Kelly,et al.(2015)“Re-programming CHO cell metabolism using miR-23 tips the balance towards a highly productive phenotype”.Biotechnol J.10(7):1029-40)。転写因子Forkhead BoxA1(Foxa1)もまた、低下された酸化ストレスに関与するメカニズムを通して、発現困難(DTE)抗体の改善された発現と結び付いている(Berger et al.(2020)“Overexpression of transcription factor Foxa1 and target genes remediate therapeutic protein production bottlenecks in Chinese hamster ovary cells”.Biotechnol Bioeng.117(4):1101-16)。理論によって束縛されることを望むものではないが、抗酸化物質のアップレギュレーションは、CHO細胞などの哺乳動物宿主細胞中の組換えタンパク質の発現に有益であると考えられる。
【0091】
一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき、増加されている宿主細胞が提供される。一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルは、宿主細胞が異種タンパク質を発現しているとき増加される。しかしながら、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルはまた、宿主細胞が異種タンパク質を発現していないときも増加され得る。一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき、増加されているH進化型宿主細胞が提供される。一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき、増加されているH進化型CHO宿主細胞が提供される。一態様では、抗酸化防御系の成分としては、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1)が挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、グルタチオン(GSH)、酸化型グルタチオン(GSSG)、グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1)、及びそれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されない抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルが、親対照と比較するとき、増加されている宿主細胞が提供される。一態様では、抗酸化防御系の1つ以上の成分のレベルにおける増加は、非進化型の対照におけるレベルと比較すると、統計的に有意(p<0.05)である。抗酸化防御系の成分のレベルにおける増加が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0092】
一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、GSHの増加されたレベルを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照よりもGSHの約1%~約25%高いレベルを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照よりもGSHの約2%~約20%高いレベルを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照よりもGSHの約3%~約10%高いレベルを有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照よりもGSHの少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、約15%、又は約20%高いレベルを有する。
【0093】
一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較するとき、総グルタチオン対酸化型グルタチオン(GSSG)の増加された比(GSH:GSSG)を有する。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、親対照と比較すると、約1%~約15%だけ増加されている。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、親対照と比較すると、約2%~約10%だけ増加されている。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比は、親対照と比較すると、少なくとも約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、約10%、又は約15%だけ増加されている。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、約2.5:1~約3:1である。一態様では、総グルタチオン対GSSGの比(GSH:GSSG)は、少なくとも約2.5:1、約2.6:1、約2.7:1、約2.8:1、約2.9:1、又は約3:1である。
【0094】
一態様では、H進化型宿主細胞の1つ以上の抗酸化防御遺伝子は、親対照と比較して、アップレギュレートされている。一態様では、1つ以上の抗酸化防御遺伝子は:グルタチオンシンテターゼ(GSS);グルタミン酸システインリガーゼ修飾子サブユニット(GCLM);カタラーゼ;システイン/グルタミン酸アンチポーター軽鎖(xCT);グルタチオンペルオキシダーゼ-1(GPx-1);及びそれらの組合せから選択される。一態様では、1つ以上の抗酸化防御遺伝子の発現における増加は、非進化型の対照と比較すると、統計的に有意(p<0.05)である。発現の増加が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0095】
一態様では、GSS発現は、親対照と比較すると、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、且つ最大約150%、約200%、約250%、若しくは300%増加されている。一態様では、GSS発現は、親対照と比較すると、約10%~約300%増加されている。一態様では、GSS発現は、親対照と比較すると、約25%~約200%増加されている。
【0096】
一態様では、GCLM発現は、親対照と比較すると、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、又は約75%増加されている。一態様では、GCLM発現は、親対称と比較すると、約10%~約100%増加されている。一態様では、GCLM発現は、親対称と比較すると、約25%~約75%増加されている。
【0097】
一態様では、カタラーゼ発現は、親対照と比較すると、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、又は約75%増加されている。一態様では、カタラーゼ発現は、親対照と比較すると、約10%~約100%増加されている。一態様では、カタラーゼ発現は、親対照と比較すると、約25%~約75%増加されている。
【0098】
一態様では、xCT発現は、親対照と比較すると、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%増加されている。一態様では、xCT発現は、親対照と比較すると、約10%~約50%増加されている。
【0099】
一態様では、GPx-1発現は、親対照と比較すると、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%増加されている。一態様では、GPx-1発現は、親対照と比較すると、約10%~約100%増加されている。一態様では、GPx-1発現は、親対照と比較すると、約10%~約50%増加されている。
【0100】
E.性能パラメーター
一態様では、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。一態様では、対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞の集団が提供される。一態様では、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有する進化型宿主細胞の集団が提供される。一態様では、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有するH進化型細胞の集団が提供される。一態様では、親対照CHO細胞の集団と比較すると、改善された性能を有するH進化型CHO細胞の集団が提供される。
【0101】
一態様では、改善された性能は、限定されないが、生細胞密度、生存率、乳酸レベル、力価、比生産性(qP)又はそれらの組合せが含まれる1つ以上の性能パラメーターにおける改善によって実証される。一態様では、改善された性能は、以下の:増加された生細胞密度、増加された生存率、減少された乳酸レベル、増加された力価、増加された比生産性(qP)、又はそれらの組合せのうちの1つ以上によって実証される。一態様では、改善された性能は、非進化型対照と比較すると、1つ以上の性能パラメーターにおける統計的に有意な(p<0.05)変化で反映される。性能パラメーターにおける変化が統計的に有意であるかどうかは、適切なt検定又は当業者に既知の他の統計的検定を使用して決定することができる。
【0102】
一態様では、バッチ細胞培養、流加細胞培養、灌流細胞培養、又は連続細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。一態様では、バッチ細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。一態様では、灌流細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。一態様では、連続細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する宿主細胞が提供される。
【0103】
一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有する哺乳動物宿主細胞が提供される。一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、対照細胞と比較すると、改善された性能を有するCHO細胞が提供される。一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、親対照細胞と比較すると、改善された性能を有する進化型宿主細胞が提供される。一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、非進化型親対照細胞と比較すると、改善された性能を有するH進化型宿主細胞が提供される。一態様では、流加細胞培養プロセスで培養されるとき、非進化型親対照細胞と比較すると、改善された性能を有するH進化型CHO宿主細胞が提供される。
【0104】
一態様では、目的のタンパク質を発現するとき、親対照細胞の集団と比較すると、改善された性能を有するH進化型細胞が提供される。一態様では、H進化型細胞によって発現される目的のタンパク質は、発現困難タンパク質である。一態様では、H進化型細胞によって発現される目的のタンパク質は、2本以上のポリペプチド鎖を含む。一態様では、H進化型細胞によって発現される目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、H進化型細胞によって発現される目的のタンパク質は、モノクローナル抗体である。一態様では、H進化型細胞によって発現される目的のタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0105】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、増加された生細胞密度を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約15×10細胞/mL~約25×10細胞/mLのピーク生細胞密度を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、少なくとも約15×10細胞/mL、約16×10細胞/mL、約17×10細胞/mL、約18×10細胞/mL、若しくは約19×10細胞/mL、且つ最大約約20×10細胞/mLのピーク生細胞密度を有する。
【0106】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、又は約50%増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、少なくとも約10%、約20%、約30%、約40%、又は約50%増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、少なくとも約5mM、約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、且つ最大40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約5mM~約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約10mM~約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約20mM~約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約30mM~約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約35mM~約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約30mM、約31mM、約32mM、約33mM、約34mM、約35mM、約36mM、約37mM、約38mM、約39mM、又は約40mMの過酸化水素でチャレンジされるとき、親対照細胞の集団と比較して、増加された生存率を有する。
【0107】
一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、1つ以上の毒性代謝副産物の低減されたレベルをもたらす。一態様では、H進化型細胞の集団は、親対照細胞の集団と比較すると、乳酸の低減されたレベルをもたらす。一態様では、H進化型細胞の集団は、異種タンパク質を発現するとき、同じ異種タンパク質を発現する場合の親対照細胞の集団と比較すると、乳酸の低減されたレベルを作り出す。一態様では、H進化型細胞の集団は、参照集団、例えば、非進化型親対照によって蓄積される乳酸と比較すると、低減された乳酸蓄積を示す。一態様では、H進化型細胞の集団についての低減された乳酸蓄積は、非進化型親対照培養の乳酸蓄積の約75%、約70%、約65%、約60%、約55%、約50%、約45%、約40%、約35%、約30%、約25%、又は約20%未満である。一態様では、低減された乳酸蓄積は、より少ない乳酸を培養基に放出するH進化型細胞に起因する。
【0108】
一態様では、親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約1.5倍~3.5倍増加されている力価で目的のタンパク質を発現するH進化型細胞の集団が提供される。一態様では、親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約1.5倍、約1.75倍、約2.0倍、約2.25倍、約2.5倍、約2.75倍、約3.0倍、約3.25倍、又は約3.5倍である力価で目的のタンパク質を発現するH進化型細胞の集団が提供される。一態様では、目的のタンパク質は、発現困難タンパク質である。一態様では、目的のタンパク質は、2本以上のポリペプチド鎖を含む。一態様では、目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、目的のタンパク質は、モノクローナル抗体である。一態様では、目的のタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0109】
一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.65g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/L、且つ最大約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、若しくは約1.5g/Lの力価で目的のタンパク質を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.5g/Lの力価で目的のタンパク質を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.1g/Lの力価で目的のタンパク質を発現する。
【0110】
一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.65g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/L、且つ最大約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L若しくは約1.5 g/Lの力価で異種抗体を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.5g/Lの力価で異種抗体を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.1g/Lの力価で抗体を発現する。
【0111】
一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.50g/L、約0.55g/L、約0.60g/L、約0.65g/L、約0.70g/L、約0.75g/L、約0.80g/L、約0.85g/L、約0.90g/L、約0.95g/L、且つ最大約1.0g/L、約1.1g/L、約1.2g/L、約1.3g/L、約1.4g/L、若しくは約1.5g/Lの力価で二重特異性抗体を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.5g/Lの力価で二重特異性抗体を発現する。一態様では、H進化型細胞の集団は、約0.5g/L~約1.1g/Lの力価で二重特異性抗体を発現する。一態様では、二重特異性抗体の力価は、約0.5g/L、約0.6g/L、約0.7g/L、約0.8g/L、約0.9g/L、又は約1.0g/Lである。
【0112】
一態様では、細胞が親対照細胞の集団と比較すると、少なくとも約1.1倍、約1.2倍、約1.3倍、約1.4倍、約1.5倍、約1.6倍、約1.7倍、約1.8fold、若しくは約1.9倍、且つ最大約2.0倍増加されている比生産性(qP)を有するH進化型細胞の集団が提供される。
【0113】
一態様では、H進化型宿主細胞は、親対照と比較すると、酸化ストレスの条件下で改善された生存率を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、酸化促進性化合物の存在下で培養された後に改善された生存率を有する。本明細書で使用される場合、用語「酸化促進性化合物」は、例えば、活性酸素種を生成することによって、又は細胞抗酸化防御系の1つ以上の成分を阻害することによって、酸化ストレスを引き起こす化合物を指す。酸化促進性化合物は既知であり、これらにはメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、及び塩化コバルト(CoCl)が挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、H進化型宿主細胞は、約5μΜ~約10μΜの酸化促進性化合物、又は少なくとも約5μΜ、約6μΜ、若しくは約7μΜ、且つ最大約8μΜ、9μΜ、若しくは10μΜの酸化促進性化合物の存在下で、約24時間~約96時間の増殖後に改善された生存率を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、約5μΜ~約10μΜの酸化促進性化合物の存在下で、少なくとも約24時間、36時間、若しくは48時間、且つ最大約60時間、約72時間、84時間、若しくは96時間の増殖後に改善された生存率を有する。
【0114】
F.指向性進化
一態様では、本明細書に提供されるのは、哺乳動物宿主細胞の進化を方向付ける方法、及び指向性進化によって得られる進化型宿主細胞である。本明細書で使用される場合、「指向性進化」は、選択的圧力の条件に応答して、生物において所望の変化を選択するためのプロセスを指す。有利には、指向性進化は、所望の表現型を有する細胞の発生にゲノムワイドなアプローチを提供する。一態様では、過酸化水素(H)の存在下で、宿主細胞を進化させるための方法が提供される。
【0115】
一態様では、H進化型宿主細胞が提供される。本明細書で使用される場合、用語「H進化型宿主細胞」には、H進化型宿主細胞を含む宿主細胞、細胞株及び細胞培養物が含まれる。一態様では、H進化型宿主細胞は、目的のタンパク質を発現する。一態様では、H進化型宿主細胞は、治療用タンパク質を発現する。一態様では、H進化型宿主細胞は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントを発現する。一態様では、H進化型宿主細胞は、二重特異性抗体を発現する。一態様では、宿主細胞は真核細胞である。一態様では、宿主細胞は哺乳動物宿主細胞である。一態様では、宿主細胞はヒト又は齧歯類細胞である。一態様では、宿主細胞はマウス又はハムスター細胞である。哺乳動物宿主細胞としては、sp20細胞、ネズミ骨髄腫(NSO)細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、COS細胞、293細胞、PerC6(商標)細胞、及びハイブリドーマが挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、宿主細胞はCHO細胞である。
【0116】
一態様では、H進化型宿主細胞は、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子を含む。一態様では、異種遺伝子は、宿主細胞ゲノム中に安定して組み込まれている。一態様では、異種遺伝子は、宿主細胞DNA中に安定して組み込まれている。一態様では、異種遺伝子は、構成的プロモーターの制御下にある。一態様では、異種遺伝子は、誘導性プロモーターの制御下にある。一態様では、異種遺伝子は、目的の治療用タンパク質をコードする。一態様では、異種遺伝子は、分泌タンパク質をコードする。一態様では、異種遺伝子は、細胞内タンパク質をコードする。一態様では、異種遺伝子は、膜貫通タンパク質をコードする。一態様では、異種遺伝子は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントをコードする。一態様では、抗体又は抗原結合抗体フラグメントは、異種遺伝子から構成的に発現される。一態様では、異種遺伝子は、二重特異性抗体をコードする。一態様では、二重特異性抗体は、異種遺伝子から構成的に発現される。
【0117】
一態様では、哺乳動物宿主細胞の進化型集団を作り出す方法が提供される。一態様では、哺乳動物宿主細胞の集団は、酸化ストレスに対する増加された耐性を有する。一態様では、本方法は、細胞の集団を、約5mM~約20mM、約10mM~約15mM、又は約15mM~約20mMの過酸化水素(H)の存在下で複数のラウンドで培養することと、細胞が約20mM~約40mMのHの存在下で生存できるようになるまで細胞を回復させることと、を含む。図10に方法の概要が提供されている。簡単に言うと、本方法は下記を含む:
(a)細胞の集団を提供すること;
(b)細胞培養基中で細胞の集団を培養すること;
(c)細胞の集団を約5mM~約20mMのHと接触させて、移行(transitional)細胞の集団を提供すること;
(d)移行細胞を、Hを含まない新鮮な細胞培養基中に再浮遊させて、細胞が少なくとも約70%の生存率に達するまで培養すること;
(e)ステップ(c)~(d)を繰り返して、約20mM~約40mMのHと接触させて、約30分~約1時間インキュベートするときに生存することができるH進化型細胞の集団を得ること。
【0118】
一態様では、本方法は下記を含む:
(a)哺乳動物細胞、例えば、CHO細胞の集団を提供すること;
(b)既知組成培養基中で細胞の集団を、少なくとも約90%、約95%、約96%、約97%、約98%、又は約99%の生存率まで培養すること;
(c)細胞の集団を、約10mM~約20mMのHと約30分~約2時間接触させて一次移行細胞を提供すること。一態様では、細胞の集団は、約10mM~約15mMのHと約30分~約2時間接触される。一態様では、細胞の集団は、約13.5mM、約14mM、又は約14.5mMのHと約1時間接触される;
(d)一次移行細胞を、Hを含まない新鮮な既知組成培養基中に再浮遊させて、少なくとも約60%、約70%、又は約80%の生存率まで培養すること;
(e)ステップ(c)~(d)を約3回~約5回繰り返すこと。一態様では、ステップ(c)を繰り返すたびに同じ濃度のHが使用される。一態様では、ステップ(c)を繰り返すたびに使用されるHの濃度間の差は、約0.5mM未満、約1mM未満、又は約2mM未満である;
(f)一次移行細胞の集団を、約15mM~約25mMのHと約30分~約2時間接触させて、二次移行細胞の集団を提供すること。一態様では、H進化型細胞の集団が、約15mM~約20mMのHと約30分~約2時間接触される。一態様では、ステップ(f)で使用されるHの濃度は、ステップ(c)で使用されるHの濃度より大きい。一態様では、ステップ(f)で使用されるHの濃度は、ステップ(c)で使用されるHの濃度より、少なくとも約3mM、約3.5mM、約4mM、約4.5mM、若しくは5mM、且つ最大約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、若しくは10mM大きい。一態様では、細胞の集団は、約18mM、約18.5mM、又は約19mMのHと約1時間接触される;
(g)二次移行細胞を、Hを含まない新鮮な既知組成培養基中に再浮遊させ、細胞が少なくとも約90%の生存率に達するまで培養すること;
(h)二次移行細胞を、約20mM~約40mMのHと約30分~約2時間インキュベートして、H進化型宿主細胞の集団を得ること。一態様では、二次移行細胞は、約35mM~約40mMのHと約1時間インキュベートされる;並びに
(i)H進化型宿主細胞を、Hを含まない新鮮な既知組成培養基中に再浮遊させ、細胞が少なくとも約90%の生存率に達するまで培養すること。
【0119】
一態様では、細胞の集団を提供することは、浮遊培養適応化宿主細胞を提供することを含む。一態様では、浮遊培養適応化CHO細胞が提供される。一態様では、浮遊培養適応化CHO-K1細胞が提供される。
【0120】
一態様では、(b)における細胞の集団を培養することは、細胞を既知組成細胞培養基中で浮遊させて培養することを含む。一態様では、既知組成細胞培養基は、グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、L-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、約2mM~約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、少なくとも約2mM、約3mM、約4mM、若しくは約5mM、且つ最大約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、若しくは約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、約2mM、約3mM、約4mM、若しくは約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、又は約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、(b)における細胞の集団は、少なくとも約70%、約80%、又は約90%の生存率まで培養される。
【0121】
一態様では、(c)における細胞の集団は、約5mM~約10mM、約10mM~約15mM、又は約15~約20mMのHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、約10mM、約10.5mM、約11mM、約11.5mM、約12mM、約12.5mM、約13mM、約13.5mM、約14mM、約14.5mM、約15mM、約15.5mM、約16mM、約16.5mM、約17mM、約17.5mM、約18mM、約18.5mM、約19mM、若しくは約19.5mM、且つ最大約20mMのHと接触される。一態様では、(c)における接触させることは、細胞の集団をHと少なくとも約30分間、約45分間、若しくは約60分間、且つ最大約90分間、若しくは約120分間インキュベートすることを含む。
【0122】
一態様では、(d)における細胞の集団を培養することは、細胞を既知組成細胞培養基中で浮遊させて培養することを含む。一態様では、既知組成細胞培養基は、グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、L-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、約2mM~約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、少なくとも約2mM、約3mM、約4mM、若しくは約5mM、且つ最大約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、若しくは約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、既知組成細胞培養基は、約2mM、約3mM、約4mM、若しくは約5mM、約6mM、約7mM、約8mM、約9mM、又は約10mMのL-グルタミンで補充されている。一態様では、(d)における細胞の集団は、少なくとも約70%、約80%、又は約90%の生存率まで培養される。
【0123】
一態様では、ステップ(c)~(d)は、少なくとも約3、4、又は5回繰り返される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が繰り返されるたびに同じ量のHと同じ時間接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が繰り返される1回以上で異なる量のHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が繰り返される1回以上の異なる回数でHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が実施される前の回数の1回以上と比較して、ステップ(c)が実施される最終回でより高い濃度のHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が実施される初回で、約10mM~約15mMのHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が実施される初回で、約10mM、約10.5mM、約11mM、約11.5mM、約12mM、約12.5mM、約13mM、約13.5mM、約14mM、約14.5mM、又は約15mMのHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が実施される最終回で、約15mM~約20mMのHと接触される。一態様では、(c)における細胞の集団は、ステップ(c)が実施される最終回で、約15mM、約15.5mM、約16mM、約16.5mM、約17mM、約17.5mM、約18、約18.5mM、約19、約19.5 mM、又は約20mMまでのHと接触される。
【0124】
一態様では、ステップ(e)後に得られる進化型細胞の集団は、約20mM~約40mMのHでチャレンジされるとき、少なくとも約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、若しくは100、且つ最大約120の細胞集団倍加回数(PDL)後に生存することができる。一態様では、進化型細胞の集団は、約30mM~約40mMのHでチャレンジされるとき、少なくとも約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、若しくは100、且つ最大約120の細胞集団倍加回数(PDL)後に生存することができる。一態様では、進化型細胞の集団は、約30mM~約40mMのH2O2でチャレンジされるとき、少なくとも約20、約35、約40、約50、約60、約70、約80、約90、若しくは100、且つ最大約120の細胞集団倍加回数(PDL)後に生存することができる。一態様では、細胞培養基は、約1mM~約10mM、又は約2mM~約8mM、又は約4mM~約6mMのL-グルタミンを含む。
【0125】
一態様では、宿主細胞は、目的の異種タンパク質を発現するために、安定してトランスフェクトされるか、又は別の方法で操作される。一態様では、過酸化水素(H)の存在下で、改善された生存率を有する宿主細胞が提供される。一態様では、宿主細胞は、約2mM~約50mM、約10mM~約40mM、約20mM~約40mMのH、約30mM~約40mMのH、又は約35mM~約40mMのHに少なくとも30分間、45分間、若しくは1時間、且つ最大約1.5時間、若しくは約2時間曝露後約1~約15日後に、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、又は約50%の生存率の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、少なくとも約10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、且つ最大約40mM、45mM、若しくは50mMのHと接触される。一態様では、宿主細胞は、約30mM、31mM、32mM、33mM、34mM、35mM、36mM、37mM、38mM、39mM、又は40mMのHと接触される。
【0126】
一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約10%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約15%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約20%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約25%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約30%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約35%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約40%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約45%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約20mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約50%の生存率を有する。
【0127】
一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約10%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約15%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約20%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約25%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約30%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約35%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約40%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約45%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約30mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約50%の生存率を有する。
【0128】
一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約10%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約15%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約20%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約25%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約30%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約35%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約40%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約45%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、約35mM~約40mMに約30分間~約2時間曝露後、約1日~約15日後に少なくとも約50%の生存率を有する。
【0129】
一態様では、本明細書に記載される方法によって作り出される進化型宿主細胞が提供される。一態様では、目的のタンパク質をコードする異種遺伝子で安定してトランスフェクトされたH進化型宿主細胞が提供される。一態様では、宿主細胞は、トランスフェクション後、約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、又は約14日以内で、少なくとも約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、又は85%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、トランスフェクション後、少なくとも約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、又は約14日で約50%~約85%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、トランスフェクション後、約7日~約14日以内で約50%~約85%の生存率を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、トランスフェクション後、少なくとも約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、又は約14日で約70%~約85%の生存率を有する。一態様では、宿主細胞は、トランスフェクション後、約9日~約12日以内で約70%~約85%の生存率を有する。
【0130】
一態様では、H進化型宿主細胞は、トランスフェクション後、少なくとも約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、又は約14日で少なくとも約0.6×10細胞/ml、約0.7×10細胞/ml、約0.8×10細胞/ml、約0.9×10細胞/ml、約1.0×10細胞/ml、約1.1×10細胞/ml、約1.2×10細胞/ml、約1.3×10細胞/ml、約1.4×10細胞/ml、約1.5×10細胞/ml、約1.6×10細胞/ml、約1.7×10細胞/ml、約1.8×10細胞/ml、約1.95×10細胞/ml、又は約2.0×10細胞/mlの生細胞密度(VCD)を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、トランスフェクション後、少なくとも約7日、約8日、約9日、約10日、約11日、約12日、約13日、又は約14日で約0.5×10細胞/ml~約2.0×10細胞/mlの生細胞密度(VCD)を有する。一態様では、H進化型宿主細胞は、トランスフェクション後、少なくとも約9日、10日、11日、約12日、約13日、又は約14日で約1.0×10細胞/ml~約1.6×10細胞/mlの生細胞密度(VCD)を有する。
【0131】
G.細胞培養
一態様では、目的のタンパク質を産生するための方法が提供され、これは本明細書に記載されるようなH進化型宿主細胞を培養することと、H進化型宿主細胞を採取することと、目的のタンパク質を細胞又は細胞培養基から生成することと、を含む。
【0132】
一態様では、宿主細胞を培養する方法が提供される。一態様では、進化型宿主細胞を培養する方法が提供される。一態様では、H進化型宿主細胞を培養する方法が提供される。一態様では、宿主細胞は、哺乳動物宿主細胞である。一態様では、宿主細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一態様では、宿主細胞は、H進化型チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である。一態様では、宿主細胞は、組換え宿主細胞である。一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質を組換え的に発現するように操作されている。一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質を組換え的に発現するように操作されているH進化型宿主細胞である。一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質を組換え的に発現するように操作されているH進化型CHO細胞である。
【0133】
一態様では、宿主細胞は、目的のタンパク質を可能にする条件下で培養される。一態様では、宿主細胞は、異種タンパク質の発現を可能にする条件下で培養される。一態様では、宿主細胞は、異種抗体又は抗原結合抗体フラグメントの発現を可能にする条件下で培養される。一態様では、宿主細胞は、二重特異性抗体の発現を可能にする条件下で培養される。
【0134】
一態様では、進化型宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、細胞培養中で目的のタンパク質を発現させるとき、改善された性能を実証する。一態様では、進化型宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、細胞培養中で抗体又は抗原結合抗体フラグメントを発現させるとき、改善された性能を実証する。一態様では、進化型宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、細胞培養中で発現困難タンパク質を発現させるとき、改善された性能を実証する。一態様では、進化型宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、細胞培養中で二重特異性抗体を発現させるとき、改善された性能を実証する。一態様では、宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、細胞培養中で改善された性能を実証するH進化型宿主細胞である。一態様では、H進化型宿主細胞は、非進化型対照と比較すると、酸化ストレスの条件下で改善された性能を実証する。
【0135】
一態様では、進化型宿主細胞は、目的のタンパク質を産生するために培養される。哺乳動物細胞に好適な培養条件は当該技術分野において既知であり、例えば、バッチ培養モード、流加培養モード、連続培養モード、半連続培養モード、及び灌流培養モードを挙げることができる。一態様では、宿主細胞は、浮遊状態で培養される。宿主細胞は、例えば、流動床バイオリアクター、中空繊維バイオリアクター、ローラーボトル、振盪フラスコ、又は撹拌タンクバイオリアクターを含む任意の好適なバイオリアクター中で培養することができる。宿主細胞は、マイクロキャリアを伴って、又は伴わずに培養することができる。
【0136】
進化型宿主細胞は、個々のフラスコ及び振盪フラスコ、又はウェーブバッグから1リットルのバイオリアクターまで最大で大規模な工業用バイオリアクターにいたるまでのあらゆるスケールの培養で培養することができる。一態様では、進化型宿主細胞は、小規模培養、例えば、約125ml~500mlで培養される。一態様では、進化型宿主細胞は、大規模プロセス、例えば、約100リットル~約20,000リットル以上の容量で培養される。例えば、治療用タンパク質の製造のための大規模又は商業用規模の細胞培養は、数日間又は数週間維持され得る。この期間、培養は、培養の過程で消費される栄養素及びアミノ酸などの成分を含有する濃縮フィード培地で補充され得る。一態様では、培地は、流加培養プロセスによる細胞培養中に一定間隔で補充される。
【0137】
細胞を細胞培養基から分離するための方法は既知であり、これらには限定されないが、濾過、細胞のカプセル化、マイクロキャリアへの細胞接着、細胞沈降又は遠心分離などの方法が挙げられる。一態様では、目的のタンパク質は、細胞又は細胞培養基から生成される。タンパク質生成戦略は既知である。例えば、抗体、抗体結合フラグメント及び二重特異性抗体などの可溶性タンパク質は、市販の濃縮フィルターを使用して精製され、その後親和性樹脂、イオン交換樹脂、クロマトグラフィーカラム、及びそれらの組合せなどの既知の方法を使用して、親和性精製され得る。
【0138】
H.目的のタンパク質
一態様では、H進化型宿主細胞は、目的のタンパク質を産生するように操作される。一態様では、H進化型宿主細胞は、目的のタンパク質をコードする発現ベクターでトランスフェクトされる。本明細書で使用される場合、「トランスフェクション」は、ポリヌクレオチドが細胞中に導入される任意のプロセスを指す。H進化型宿主細胞は、染色体、非染色体、及び合成核酸ベクターが挙げられるが、これらに限定されない任意の好適な発現ベクターでトランスフェクトすることができる。発現ベクターの例としては、SV40の誘導体、細菌プラスミド、ファージDNA、バキュロウイルス、酵母プラスミド、プラスミド及びファージDNAの組合せに由来するベクター、並びにウイルス核酸(RNA又はDNA)ベクターが挙げられるが、これらに限定されない。一態様では、ベクターは、抗体又は二重特異性抗体の1本以上のポリペプチド鎖をコードする1つ以上の遺伝子を含む。一態様では、H進化型宿主細胞は、安定してトランスフェクトされる。
【0139】
一態様では、安定的トランスフェクションには、エレクトロポレーション、それに続くメチオニンスルホキシミン(MSX)選択が含まれる。
【0140】
一態様では、目的のタンパク質は、治療用タンパク質である。一態様では、目的のタンパク質は、細胞内タンパク質である。一態様では、目的のタンパク質は、分泌型である。一態様では、目的のタンパク質は、膜貫通タンパク質である。一態様では、治療用タンパク質は、例えば、約1kDa~約10kDaのサイズを有するペプチド治療薬である。一態様では、目的のタンパク質は、例えば、約10kDa超、例えば、約10kDa~約250kDaのサイズを有する高分子治療薬である。一態様では、目的のタンパク質は、1本のポリペプチド鎖を含む。一態様では、目的のタンパク質は、2本以上のポリペプチド鎖を含む。一態様では、目的のタンパク質は、「発現困難」(DTE)である。治療用タンパク質の例としては、抗体、酵素、ホルモン、インターフェロン、インターロイキン、増殖因子、Fc融合タンパク質、及び受容体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
一態様では、目的のタンパク質は、抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、二重特異性抗体、抗原結合抗体フラグメント、一本鎖抗体、ダイアボディ、トリアボディ、若しくはテトラボディ、Fabフラグメント若しくはF(ab’)2フラグメント、IgD抗体、IgE抗体、IgM抗体、IgG抗体、IgG1抗体、IgG2抗体、IgG3抗体、又はIgG4抗体である。一実施形態では、抗体は、二重特異性抗体である。
【0142】
多種多様な二重特異性抗体フォーマットが既知であり、Fc領域を含むか、又は含まない二重特異性抗体が挙げられる。二重特異性抗体は、対照又は非対照のアーキテクチャを含み得る。一態様では、二価の二重特異性抗体は、各抗原に対する1つの結合部位を含む。一態様では、二重特異性抗体は三価の二重特異性抗体であり、各抗原に対する2つの結合部位を含む。一態様では、二重特異性抗体は、第1の抗原に対する1つの結合部位、及び第2の他の抗原に対する2つ又は3つの結合部位を有する。(Brinkmann and Kontermann(2017) “The making of bispecific antibodies.”MAbs.9(2):182-212を参照されたい)。
【0143】
二重特異性抗体を作り出すために必要な鎖の数は、様々であり得る。一態様では、二重特異性抗体は、4本の異なるポリペプチド鎖を含む二重特異性IgGである。一態様では、二重特異性抗体は、より少ない数の鎖、例えば、3本、2本、又は1本のポリペプチド鎖を含む。
【0144】
一態様では、H進化型宿主細胞は、抗体の産生に使用され得る。一態様では、H進化型宿主細胞は、モノクローナル抗体又は抗原結合抗体フラグメントの産生に使用される。一態様では、H進化型宿主細胞は、二重特異性抗体の産生に使用される。一態様では、抗体は、治療用抗体である。
【0145】
一態様では、目的のタンパク質が提供される。一態様では、目的のタンパク質は、本明細書に記載されるH進化型宿主細胞によって発現される。一態様では、本明細書に記載されるH進化型宿主細胞によって発現される目的のタンパク質を含む医薬組成物が提供される。一態様では、医薬組成物は、治療有効量の目的のタンパク質と薬学的に許容される担体と、を含む。一態様では、目的のタンパク質は、抗体又は抗原結合抗体フラグメントである。一態様では、目的のタンパク質は、二重特異性抗体である。
【0146】
I.参照による組込み
本明細書で引用される全ての参考文献(例えば、特許、特許出願、論文、教科書、及び同類のもの)、及びこれらで引用されている参考文献は、これらが既に引用されていない限り、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例
【0147】
細胞株を製造することによる二重特異性抗体の産生は、多くの場合、低い生産収率によって妨害される(Spiess et al.(2015)“Alternative molecular formats and therapeutic applications for bispecific antibodies”.Mol Immunol.67(2 Pt A):95-106)。場合によっては、低い生産収率は、細胞ストレスと関連している。例えば、細胞レドックス状態は、小胞体(ER)とミトコンドリアとの間の複雑な相互採用に起因し得る活性酸素種(ROS)の生成のために変化し得る(Turrens JF.(2003)“Mitochondrial formation of reactive oxygen species”.J Physiol.552(Pt 2):335-44;Templeton et al.(2013)“Peak antibody production is associated with increased oxidative metabolism in an industrially relevant fed-batch CHO cell culture”.Biotechnol Bioeng.110(7):2013-24;Tu and Weissman(2004)“Oxidative protein folding in eukaryotes:mechanisms and consequences”.J Cell Biol.164(3):341-6)。バイオリアクター条件における変動は、溶存酸素濃度における変化(Handlogten et al.(2020)“Online Control of Cell Culture Redox Potential Prevents Antibody Interchain Disulfide Bond Reduction”.Biotechnol Bioeng.117(5):1329-1336;Handlogten et al.(2018)“Intracellular response of CHO cells to oxidative stress and its influence on metabolism and antibody production”.Biochemical Engineering Journal.133:12-20)及び細胞培養基成分の変化(Halliwell B.(2014)“Cell culture,oxidative stress,and antioxidants:avoiding pitfalls”.Biomed J.37(3):99-105;Kelts et al.(2015)“Altered cytotoxicity of ROS-inducing compounds by sodium pyruvate in cell culture medium depends on the location of ROS generation”.Springerplus.4:269;Schnellbaecher et al.(2019)“Vitamins in cell culture media:Stability and stabilization strategies”.Biotechnol Bioeng.116(6):1537-55)をもたらし得る。ROSの蓄積は、細胞を損傷する場合があり、不良な細胞性能及び抗体力価の低下をもたらす。本明細書に記載されるのは、2つの産業的に関連する二重特異性抗体(BisAb)の発現のために生成され、評価された新規の過酸化水素(H)進化型宿主細胞である。
【0148】
実施例1.過酸化水素を使用するCHO宿主細胞の進化
連続的なH曝露の複数のラウンド、その後の宿主細胞が37mMのHの存在下での生存を実証するまでの回復を通しての酸化ストレスに対する耐性を改善するために、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞を進化させた(図1A)。具体的には、浮遊培養で増殖するように適応させたCHO-K1細胞(CHO対照)を、6mMのL-グルタミン(Life technologies,Paisley,UK)で補充した既知組成(CD)CHO培地(Life technologies,Paisley,UK)中で復活させ、30mlの培地容量中で0.2×10細胞/mlにて3回継代させた。細胞が99%の生存率に達したとき、それらを14mMのH(Sigma-Aldrich,UK)と共に1時間インキュベートし、その後130gで5分間遠心分離し、6mM L-グルタミンで補充した30mlの新鮮なCD CHO中に再浮遊させた。CHO細胞を、細胞が70%の生存率に達するまでそのまま回復させた。このプロセスを更に3回繰り返して、14mMのH2O2に合計で4回曝露させ、細胞が70%の生存率に達するまで培地を定期的に補充しながら10~20日の期間にわたって細胞を徐々に回復させた。次いで、細胞が90%の生存率に達するまで、細胞を上記の方法に従って、1ラウンドの18.5mMのH処理にかけた。最終的に、細胞を37mMのHに1時間曝露させて、その後130gで5分間遠心分離し、6mMのL-グルタミンで補充した30mlの新鮮なCD CHO中で再浮遊させて、>90%の生存率になるまでインキュベートした。このインキュベーションの期間、以下に詳述するように、12日目に1回交換し、21日目に細胞を新鮮な培地で0.3×10細胞/mlまで希釈し、回復を補助した。
【0149】
処理によって誘導される進化的変化が維持されることを確実にするために、細胞を90の細胞集団倍加回数(PDL)まで継代させ、37mMのHによる再チャレンジに供した。H進化型宿主細胞は、Hで同様にチャレンジされたCHO対照細胞と比較して、改善された生存率(約50%の生存率)を実証し(図1B)、Hの高濃度に対する長期の遺伝的耐性を示す。
【0150】
処理CHO細胞を冷凍保存した。全ての実験は、この凍結保存された細胞ストックを使用して実施した。
【0151】
実施例2.レドックス化学的ストレス因子の存在下で増殖させた場合のH進化型CHO細胞の生存
進化型宿主細胞の酸化ストレスに抵抗する能力を確認するために、バイオリアクターストレス因子を模倣するように選択されたいくつかの酸化促進性化合物:メナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)、ブチオニンスルホキシミン(BSO)、メルカプトコハク酸(MS)、及び塩化コバルト(CoCl)に応答する生存性について、細胞を評価した。これらの化学物質は、GSH生合成及び代謝回転(BSO及びMS)(Lee et al.(1992)“Effects of buthionine sulfoximine treatment on cellular glutathione levels and cytotoxicities of cisplatin, carboplatin and radiation in human stomach and ovarian cancer cell lines”.Korean J Intern Med.7(2):111-7;Dunning et al.(2013)“Glutathione and antioxidant enzymes serve complementary roles in protecting activated hepatic stellate cells against hydrogen peroxide-induced cell death”.Biochim Biophys Acta.1832(12):2027-34)、細胞内ROS生成(MSB)(Beck et al.(2011)“Ascorbate/menadione-induced oxidative stress kills cancer cells that express normal or mutated forms of the oncogenic protein Bcr-Abl.An in vitro and in vivo mechanistic study”.Invest New Drugs.29(5):891-900)及び低酸素誘導ROS産生(CoCl)(Zou et al.(2001)“Cobalt chloride induces PC12 cells apoptosis through reactive oxygen species and accompanied by AP-1 activation”.J Neurosci Res.64(6):646-53)に関与するものなどの細胞内レドックス経路の多様なサブセットに影響を及ぼす。
【0152】
化学ストレスアッセイを製造元の指示(ChemStress(登録商標),Valitacell Ltd,Ireland)に従って実施した。簡単に言うと、CHO又はH進化型宿主細胞を、Valitacell ChemStressプレート(ChemStress(登録商標),Valitacell Ltd,Ireland)に6mMのL-グルタミンで補充した90μlの独自の培地中18,000細胞/ウェルで播種した。対照のウェルを、培地単独でインキュベートした。プレートを、静的インキュベーター内で36.5℃、6%COにて、72時間インキュベートした。その後、10μlの未希釈PrestoBlue染料(Thermo Fisher Scientific,UK)を全てのウェルに添加し、その後プレートを20秒間混合して、36.5℃、6%COで更に30分間インキュベートした。プレートを、PHERAstarプレートリーダー(BMG LABTECH,Ortenberg,Germany)を使用し、事前設定されたプロトコル(励起560nm、発光590nm)を用いて分析した。データを、ValitaAPPソフトウェア(Valitacell Ltd,Ireland)を使用して分析した。
【0153】
進化型宿主細胞は、CHO対照細胞と比較して、MSB、BSO、MS及びCoClの存在下で、72時間の増殖後に有意に改善された生存率を実証し(図2A~2D)、H進化型細胞が多様なレドックスストレス因子に対して、耐性を生じたことを示している。
【0154】
実施例3.H進化型細胞の抗酸化能
進化型宿主細胞のいくつかのレドックスストレス因子の存在下で生存するための能力は、H誘導進化が細胞内の抗酸化防御経路を増強し得ることを示差している。したがって、H進化型宿主細胞及びCHO対照細胞を、GSH合成(GSS及びGCLM)、H排除(カタラーゼ)及び細胞システインインポート(xCT)に関与する遺伝子を含む抗酸化防御遺伝子のパネルにおけるグルタチオン(GSH)含有量及び転写変化に基づいて評価した。
【0155】
細胞内総グルタチオン及び酸化型グルタチオン(GSSG)における相対的変化を、GSH/GSSG-Glo(商標)アッセイキット(Promega,UK)を使用して、製造元の指示に従って決定した。簡単に言うと、培養中のCHO対照又はH進化型宿主細胞を採取し、6mMのL-グルタミン(非トランスフェクト宿主)又は50μMのMSX(トランスフェクトされたプール)で補充した新鮮な独自の培地中に再浮遊させた。細胞を、白色96ウェルルミノメーター適応型プレート内に10,000細胞/ウェルで播種した(バックグラウンドルミネッセンス検出のために、培地だけのウェルを使用した)。25μlの容量の総グルタチオン溶解試薬又は酸化型グルタチオン溶解試薬のいずれかを、細胞を含むウェルに添加し、プレート振盪器上、室温で5分間インキュベートした。50μlの新たに調製したルシフェリン生成試薬を全てのウェルに添加し、続いて室温で30分間インキュベートした。最終的に、100μlのルシフェリン検出試薬を各ウェルに添加し、15分間インキュベートした。ルミネッセンスを、Perkin Elmer Envisionマイクロプレートルミノメーターを使用して測定した。分析を、製造元の指示に従って実施した。
【0156】
RNAを、Qiagen RNA単離キットを使用して、製造元の指示に従って、CHO対照又はH進化型宿主細胞(非トランスフェクト及びトランスフェクトされたものの両方)から抽出した。cDNAを、SuperScript(商標)IV First-Strand Synthesis System(Thermo Fisher Scientific,UK)を使用して、製造元の指示に従って、3μgのRNAを逆転写することによって生成した。qPCRプローブを、表1に詳述する。QuantStudio 12K Flex Real-time PCR System(Applied Biosciences,Massachusetts,USA)で、TaqManアッセイシステム(Thermo Fisher Scientific,UK)を使用して、qPCRを実施した。相対的遺伝子発現を、デルタCt法を使用して計算した。
【0157】
【表1】
【0158】
初期継代H進化型宿主細胞は、CHO対照細胞に対して、有意に上昇した総グルタチオン含有量を有することを示したが、総グルタチオン対酸化型GSHの比(GSH:GSSG)は変化しないままであった(図3A及び3B)。H進化型宿主細胞は、GSS及びGCLMの著しく上昇した発現を示し(図3C及び3D)、H進化型宿主細胞の上昇した総グルタチオン含有量と一致する観察であった。更に、H進化型宿主は、カタラーゼ(図3E)及びxCT(図3F)の著しく上昇した発現を実証し、抗酸化能における更なる改善を示している。
【0159】
酸化ストレスに抵抗するこの改善された能力と一致して、H進化型宿主はまた、多数のメカニズムを通して、ROSと闘ういくつかの中心的抗酸化防御遺伝子を著しくアップレギュレートすることが見出された(図3C~3F)。これらの遺伝子としては、Hスカベンジャー、カタラーゼ、これと共にGSH産生及び活性化と関連するいくつかの酵素(GCLM、GSS及びxCT)が挙げられる。GSH合成に関与する遺伝子におけるアップレギュレーションは、H進化型宿主における総グルタチオン含有量のレベルの顕著な増加と相関した(図3A)。H進化型宿主細胞及びCHO対照細胞の両方は、非発現状態にあるとき、保存されたGSH:GSSG比を通してレドックス恒常性を維持することができ、これは恐らく酸化ストレス因子の不在によるものである。
【0160】
実施例4.二重特異性抗体を発現するH進化型宿主細胞は、酸化ストレスに対する耐性を維持する
発現プールを、広く使用されている酸化促進剤であるメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)の存在下での生存率について比較した。簡単に言うと、CHO対照又はBisAb A又若しくはBisAb Bを発現するH進化型宿主細胞を、50μMのMSXで補充した30mlの独自の培地に0.3×10細胞/mlで播種した。合計で6μMのメナジオン重亜硫酸ナトリウム(MSB)(Sigma-Aldrich,UK)又は水を、それぞれ試験培養及び対照培養に添加した。MSB又は水の添加後24、48及び72時間で、Vi-Cell XR Cell生存率アナライザー(Beckman Coulter,USA)を使用して、細胞を生存率及び生細胞密度(VCD)について評価した。
【0161】
MSBで処理したH進化型宿主A及びBは、HOで処理した対照と比較して、生存率を保持した。これとは対照的に、MSBで処理したCHO対照宿主A及びBは、処理後3日目でそれぞれ65%及び82%までの生存率における減少を示し(図4A及び4B)、H進化型宿主細胞のBisAbの改善された発現を支援するための能力が、増強された抗酸化能に結び付き得ることを示している。
【0162】
実施例5.H進化型二重特異性抗体発現細胞は、上昇した抗酸化能を維持する
進化型細胞が二重特異性抗体を発現するとき、酸化ストレスに対する耐性を維持するかどうかを調べるために、実施例1に記載されるように生成したCHO対照宿主細胞及びH進化型宿主細胞を、2つの産業的に関連する二重特異性抗体-二重特異性抗体A(BisAb A)及び二重特異性抗体B(BisAb B)についての安定的発現プラスミドで安定的にトランスフェクトした。BisAb A及びBisAb B発現プラスミドを、一過性発現プラスミドから改変し(Daramola et al.(2014)“A high-yielding CHO transient system:coexpression of genes encoding EBNA-1 and GS enhances transient protein expression”.Biotechnol Prog.30(1):132-41;Persic et al.(1997)“An integrated vector system for the eukaryotic expression of antibodies or their fragments after selection from phage display libraries”.Gene.187(1):9-18)、グルタミンシンテターゼ(GS)選択性マーカー(Lonza,Slough,UK)に加えて、BisAb重鎖(HC)及び軽鎖(LC)の両方をコードするようにした。プラスミドを、標準的な制限酵素消化とライゲーションの方法を使用して構築し、Amaxa nucleofector及び試薬(Lonza,Cologne,Germany)を使用してトランスフェクトした。
【0163】
トランスフェクトした細胞を、50μMのメチオニンスルホキサミン(MSX)(Sigma-Aldrich,Dorset,UK)で補充したCD CHO又は独自の培地中、36.5℃、6%COでの加湿インキュベーター内で、必要に応じて140rpmで撹拌しながら維持し、安定なプールを得た(得られたトランスフェクトした細胞集団を次のように表示する:H進化型宿主A又はB及びCHO対照宿主A又はB)。トランスフェクション回復中に、Vi-Cell XR Cell生存率アナライザー(Beckman Coulter,USA)を使用してプールを定期的にカウントし、独自の培地を使用する12日間の流加培養プロセスにおけるBisAb A及びBisAb Bの産生で使用するために増殖させた。培地を、培養期間にわたって添加される独自の栄養素供給物のボーラス添加によって補充した。
【0164】
非トランスフェクトH進化型宿主細胞で観察された上昇した抗酸化表現型が、H進化型宿主A及びBにおいて維持されるかどうかを調べるために、GSH含有量及び抗酸化防御遺伝子発現の両方を評価した。H進化型宿主細胞が、BisAbの発現によって誘導されるものなどのストレスの多い条件下に置かれるとき、H進化型宿主A及びBの両方は、CHO対照細胞と比較すると、総GSH含有量における著しいアップレギュレーション並びに総グルタチオン:GSSGの改善された比を示した(図5A及び5B;6A及び6B)が、H進化型宿主Bでは、増加はあまり明確ではなかった。
【0165】
次いで、H進化型宿主プールを、いくつかの抗酸化防御遺伝子の発現について評価した。H進化型宿主Aは、CHO対照宿主Aと比較して、GSS、GCLM、カタラーゼ及びxCT、並びにグルタチオンペルオキシダーゼ1(GPx1)における有意な上昇を示した(図5C~5G)。H進化型宿主Bもまた、GSS、GCLM及びカタラーゼにおける有意な上昇を示した(図6C~6E)。しかしながら、xCT及びGPx1は、CHO対照宿主Bに対して変化しないままであった(図6F及び6G)。
【0166】
まとめると、データは、CHO宿主のH指向性進化が、宿主を多数の酸化ストレス源に耐えることができるようにさせる多数の抗酸化防御遺伝子の多様な発現をもたらしたことを示唆している。
【0167】
進化型宿主細胞は、非発現状態及び発現状態の両方で著しく上昇したカタラーゼ発現を示した(図3E、5E及び6E)。カタラーゼ活性は測定されなかったが、以前の研究は指向性宿主細胞進化を使用して増強され得ることを実証しており(Spitz et al.(1988)“Stable H2O2-resistant variants of Chinese hamster fibroblasts demonstrate increases in catalase activity”.Radiat Res.114(1):114-24)、酸化ストレスを防止するために、過剰なH産生の排除を容易にすることができる。
【0168】
まとめると、これらのデータは、非トランスフェクトH進化型宿主において、観察された抗酸化能における改善(図3A~3F)が両方の二重特異性抗体の発現時に維持されること、H進化型宿主が過剰なH産生と闘う耐性がより整っていること、及びHによって誘発された進化が、上昇された抗酸化物質の発現を通して細胞性能を改善することができることを示している。
【0169】
実施例6.H進化型宿主は、CHO対照細胞と比較して、改善された性能を実証した
進化型宿主の増強された抗酸化能が、改善された細胞性能に変換されるかどうかを調べるために、上昇した細胞ストレスと関連する細胞株生成プロセスの2つの段階:エレクトロポレーションによる安定的なトランスフェクションからの回復及び流加培養プロセス中において、宿主細胞を評価した。
【0170】
a.トランスフェクション回復中のH進化型宿主細胞性能
トランスフェクション回復中のH宿主性能を評価するために、トランスフェクション後に細胞生存率及び生細胞密度(VCD)を監視した。BisAb AをコードするプラスミドDNAでトランスフェクトしたH進化型宿主は、トランスフェクション後11日目に、82~84%の生存率及び1.2~1.50×10細胞/mlのVCDに到達し、振盪培養に移された。対照的に、BisAb AでトランスフェクトされたCHO対照宿主は、トランスフェクション後14日目に同様のレベルの回復(VCD 1.4~1.6×10細胞/mlと71~78%の生存率、図7A)に到達する。同じ傾向性はBisAb Bでも見られ、ここではH進化型宿主のトランスフェクトされたプールは、トランスフェクション後11日目に71~82%の生存率及び0.88~1.35×10細胞/mlのVCDに到達し、同等のCHO対照宿主のトランスフェクトされたプールは、14日目に60~70%の生存率及び0.65~1.18×10細胞/mlに到達し、その後振盪培養に移された(図7B)。データは、H進化型宿主細胞が、2つ別個の二重特異性抗体をコードするプラスミドDNAによる安定的なトランスフェクション後に、生存率及びVCDの両方に関して、CHO対照宿主細胞(トランスフェクション後14日)と比較して、より早い回復(トランスフェクション後11日)を実証したことを示しており(図7A及び7B)、H進化型宿主細胞がCHO対照細胞と比較して、細胞ストレスに対する増加された耐性を有することを示している。
【0171】
b.流加培養プロセスにおけるH進化型宿主細胞性能
BisAb産生中の宿主細胞性能を評価するために、12日間の流加培養プロセスをH進化型宿主A及びBと共にCHO対照宿主A及びBで実施した。
【0172】
YSIアナライザー(2900D、YSI Inc)を使用して、グルコース及び乳酸を流加培養プロセス全体を通して監視した。細胞培養基を遠心分離によって清澄化させ、BisAbを、Agilent 1260 InfinityシリーズHPLCシステム(Agilent Technologies,Santa Clara,CA)でのプロテインA高速液体クロマトグラフィー(HPLC)親和性クロマトグラフィーを使用して、各試料からのピークサイズを検量線と比較することによって定量化した。
【0173】
進化型宿主A及びBの増殖速度は、発現されるBisAbとは無関係にCHO対照プールと比較して劇的に改善された(図8A及び9A)。H進化型宿主AについてのピークVCDは、CHO対照宿主Aについての7×10細胞/mlと比較して、20×10細胞/mlであった。同様の傾向性は、H進化型宿主Bについても観察された。加えて、H進化型宿主A及びBについての生存率は、CHO対照宿主A及びBと比較して有意に高いままであったが、12日目での生存率は両方の宿主間で比較的低かった(図8B及び9B)。
【0174】
全ての宿主は好ましい乳酸プロファイルを示し、H進化型宿主A及びBは、流加培養プロセスの大部分を通してより低い乳酸レベルを有する状態であった(図8C及び9C)。
【0175】
BisAb Aの力価は、CHO対照宿主と比較して、H進化型宿主Aで3.5倍高かった(図8D)。力価における改善はBisAb Bでも見られ、ここではH進化型宿主からの力価はCHO対照宿主よりも1.75倍高かった(図9D)。興味深いことに、H進化型宿主Aは、CHO対照Aと比較して、1.7倍の比生産性(qP)における有意な増加を実証した(図8E)。実際に、BisAb Aについて観察された体積力価の増加は、改善されたqP並びに細胞増殖及び生存率の組合せから引き出された可能性が高い。対照的に、BisAb Bについて見られた改善された力価は、qPが宿主間で有意に差がなかったので(図9E)、改善された増殖及び生存率に起因すると考えられる。
【0176】
実施例7.モノクローナル抗体(mAb)のH進化型宿主の発現
実施例1に記載されるように生成したH進化型CHO宿主細胞及びCHO親対照を、ネズミIgGモノクローナル抗体(mAb)をコードする直線化DNAでトランスフェクトして、各1プールを生成した。図11に示すように、H進化型宿主細胞は14日目までに回復したが、一方、親対照は17日目までに回復しなかった。
【0177】
mAbの産生中のH2O2進化型宿主細胞の性能を、AMBR(登録商標)ハイスループット自動化バイオリアクターを使用して決定した。各プールを2つの容器に接種し、2つの技術的反復を生成した。実施例6(b)に記載された方法に従って、性能パラメーターを14日間監視した。図12に示すように、H2O2進化型宿主は、CHO対照と同様な増殖(図12A)、CHO対照と比較して改善された生存率(図12B)、CHO対照と比較して力価における増加(図12C)、CHO対照と比較して改善された乳酸プロファイル(図12D)、及びCHO対照と比較して比生産性における増加(図12E)を示した。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図12-3】
【国際調査報告】