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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】エチレンシアノヒドリンの精製方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 253/34 20060101AFI20231213BHJP
   C07C 255/12 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C07C253/34
C07C255/12
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023534881
(86)(22)【出願日】2021-11-08
(85)【翻訳文提出日】2023-06-07
(86)【国際出願番号】 EP2021080904
(87)【国際公開番号】W WO2022122273
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】20212450.9
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】519414848
【氏名又は名称】エボニック オペレーションズ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Evonik Operations GmbH
【住所又は居所原語表記】Rellinghauser Strasse 1-11, 45128 Essen, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【弁理士】
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】セバスティアン ベストゲン
(72)【発明者】
【氏名】ギュンター グレフ
(72)【発明者】
【氏名】マイク カスパリ
(72)【発明者】
【氏名】トアベン シュッツ
(72)【発明者】
【氏名】ハラルト トラウトヴァイン
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC54
4H006AD11
4H006AD33
4H006BC50
4H006QN16
(57)【要約】
本発明は、工業用グレードのエチレンシアノヒドリン生成物を少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートすることを含む、エチレンシアノヒドリンの精製方法、および99%超の純度を有し、かつ0.05%未満のエチレングリコール(EG)を含み、かつ/または1000ppm未満の含水量を含む、エチレンシアノヒドリン製品に関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業グレードのエチレンシアノヒドリン(ECH)を少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートすることを含む、エチレンシアノヒドリンの精製方法。
【請求項2】
インキュベーション工程に使用されるチタン(IV)アルコキシドが、1重量%~15重量%の量で存在する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
チタン(IV)アルコキシドが、例えば、Ti(OMe)、Ti(OEt)、Ti(OiPr)およびTi(OBu)からなる、R=C~C20の直鎖状または分枝鎖状のチタン(IV)アルキルアルコキシドTi(OR)の群から選択される、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
チタン酸アルキルがTi(OiPr)である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
インキュベーション工程を、20℃~70℃の温度で撹拌しながら実施する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
インキュベーション工程を、25℃~50℃の温度で撹拌しながら実施する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
インキュベーション時間が、0.5時間~20時間である、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
工業グレードのエチレンシアノヒドリンが、エチレンオキシドとシアン化水素酸(HCN)とを反応させることによって得られる、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
工業グレードのエチレンシアノヒドリンが、アクリロニトリルへの水の触媒的付加により得られる、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
蒸留工程をさらに含む、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
99%超の純度を有し、かつ0.05%未満のエチレングリコール(EG)を含む、エチレンシアノヒドリン(ECH)。
【請求項12】
0.01%未満のEGを含む、請求項11記載のエチレンシアノヒドリン。
【請求項13】
1000ppm未満の含水量を含む、請求項11または12記載のエチレンシアノヒドリン。
【請求項14】
500ppm未満の含水量を含む、請求項11から13までのいずれか1項記載のエチレンシアノヒドリン。
【請求項15】
5未満のAPHA色値(Pt/Co)を有する、請求項11から14までのいずれか1項記載のエチレンシアノヒドリン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、高純度のエチレンシアノヒドリンの製造方法に関する。
【0002】
発明の背景
エチレンオキシドとシアン化水素とからのエチレンシアノヒドリンの製造は、当該技術分野で周知である。これらの方法を工業規模で実施するために、先行技術では、様々な解決策がある:
【0003】
米国特許第2,653,162号明細書には、官能基としてアルカリ金属カルボキシレート基を有するカチオン交換樹脂の存在下で、アルキルオキシドとシアン化水素酸とを反応させることによりアルキルシアノヒドリンを製造することが記載されている。カチオン交換樹脂は、その後の工程段階で、非常に手間をかけて再生しなければならない。
【0004】
米国特許第2,364,422号明細書には、第三級アルキルエポキシドとシアン化水素酸とを反応させることによりアルキルニトリルを製造する方法が開示されている。中間段階において、シアノヒドリンが形成され、これは直ちに水和される。
【0005】
西独国特許出願公告第1232570号明細書では、エチレンオキシドおよび液状のシアン化水素酸は、アルカリ性媒体中、閉管回路にポンプで送り、反応混合物を後反応器に移すことによって、エチレンシアノヒドリンに変換される。
【0006】
国際公開第2007/144212号では、エチレンオキシドおよび液状のシアン化水素酸は、アルカリ性媒体中でエチレンシアノヒドリンに変換される。
【0007】
中国特許出願公開第109665974号明細書では、さらに、一般に、シアノヒドリン合成は、反応を促進するために特定量の塩基を必要とすることが教示されている。シアノヒドリン生成物は、しばしば、そのような条件下で不安定である。シアン化水素酸または一部のアルデヒドの分解生成物は、予想外で予測不可能であり、しばしば、シアノヒドリン生成物の色が濃くなったことで直接認めることができる。さらに、反応に導入されるか、または原材料によって運ばれる不純物および水も、生成物の分解および重合を悪化させる。製品の品質と一定期間の安定した保管要件を確保するために、その安定性を高めるための対策を講じる必要がある。これは、pH値が7未満の酸性条件下でシアノヒドリンを保持し、取り扱い、保管することによって実現される。
【0008】
様々な植物から得られるエチレンシアノヒドリンのバルク試料は、通常、高純度である。この純度グレードのエチレンシアノヒドリンは、好ましくは、医薬品および化粧品産業において予備生成物(preliminary product)として使用される。
【0009】
しかしながら、高純度であると記載されているエチレンシアノヒドリンであっても、依然として不純物、特に水およびエチレングリコールが含まれており、これらは、医薬品化学や合成DNA/RNA化学などの非常に繊細な用途におけるその使用を妨げる。
【0010】
エチレンシアノヒドリンは、他の前述の用途に加えて、通常、ヌクレオシド、オリゴヌクレオシド、ヌクレオシドホスホラミダイトの合成、およびその後のRNAおよびDNA配列合成での利用に使用されている。例えば、エチレンシアノヒドリンは、ビス(ジイソプロピルアミノ)(2-シアノエトキシ)ホスフィンを生成するために使用され、これはオリゴデオキシヌクレオチドの合成に必要なホスホラミダイト試薬の調製に使用され、1,2-ジアシル-sn-グリセロホスファチジルセリンの合成におけるリン酸化剤として、デオキシリボヌクレオシドホスホラミダイトのin situ調製のために、2’-デオキシ-2’-フルオロ-3’-O-(β-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミド)-5’-O-(4-メトキシトリチル)-4’-チオ-β-D-アラビノリジンおよび1-(3-O-(β-シアノエチル-N,N-ジイソプロピルホスホロアミド)-2-デオキシ-2-フルオロ-5-O-(4,4’-ジメトキシトリチル)-4-チオ-β-D-アラビノフラノシル)-チミンの調製において、そしてリン酸化ヌクレオチドを合成するための試薬として使用される。
【0011】
エチレンシアノヒドリンは、二置換誘導体ビス(2-シアノエトキシ)-N,N-ジイソプロピルアミノホスフィンの重要な原料でもあり、これもまた、3’もしくは5’ヒドロキシル官能基に末端リン酸基を付加するためのオリゴヌクレオチド合成において有用なリン酸化試薬である。エチレンシアノヒドリンに基づく別の誘導体は、クロロ(ジイソプロピルアミノ)-β-シアノエトキシホスフィンであり、これは、炭水化物およびヌクレオシドの選択的なモノリン酸化に使用され、保護されたリボヌクレオシドをホスホラミダイトに変換するために、オリゴデオキシリボヌクレオチドの合成における3’-ヒドロキシル基のホスファイト化剤として、そしてホスホラミダイト化学ならびにDMT、iBu、およびBz保護モノマーを利用するスケーラブルな液相オリゴヌクレオチド合成において使用される。
【0012】
ヌクレオシド合成では、2-シアノエチル基は、リン原子における強力な保護基であると同時に修飾可能な置換基であると考えられている。一般に、ホスファイトは、通常、塩基不安定な2-シアノエチル基によって保護される。2-シアノエチル基は、塩基性リン含有前駆体およびエチレンシアノヒドリンのアルコール分解を介して導入されるので、このアルコールは、非常に工業的に重要である。
【0013】
一般に、-OCHCHCN置換基を有するリン含有分子は、適切な(塩基性)脱離基を有するリン含有前駆体とエチレンシアノヒドリンとの反応から得られるか、またはリン含有前駆体と他の置換基(例えば、ハロゲン化物:Cl、Br、I)、エチレンシアノヒドリン、および例えばアミンなどの酸捕捉剤との反応から得られる。より一般的に言えば、リン含有分子は、エチレンシアノヒドリンまたはその対応するアルコラートと反応する。他のR-OHまたはR-O含有汚染物質が反応中に存在する場合、明らかに、それらの汚染物質が等しく反応してリン原子に結合し得るので、副反応が起こり得る。その結果、例えば、ヌクレオシドが汚染され、汚染されたヌクレオシドは適切に機能化されず、例えば、DNA/RNA構造の欠陥につながり得る。水、メタノール、エタノールおよびエチレングリコール(ならびにそれらの対応するアルコレート)は、-OH/O部分を全て含むので関連があり、本明細書で明示的に言及されるものとする。
【0014】
したがって、高純度のエチレンシアノヒドリンの利用可能性は有意であり、特に水および/またはエチレングリコールを含有しない純度グレードである。高純度のエチレンシアノヒドリンを合成して使用する場合のみ、ホスホラミダイトおよびその誘導体の改善された合成が可能である。残念ながら、エチレンシアノヒドリンの工業的製造方法は、可変量の水および/またはエチレングリコールを含有する生成物をもたらす。
【0015】
エチレンシアノヒドリンを合成する最も顕著な2つの方法は、
- A)エチレンオキシドとシアン化水素酸(HCN)との反応
- B)アクリロニトリルへの水の(触媒的)付加
である。特に経路(B)では、水による生成物汚染が明らかであるのに対し、経路Aは、エチレンオキシドからのエチレングリコールの形成を可能にする。
【0016】
したがって、双方の変形例とも、不純物プロファイルが不良な生成物をもたらす。上記の用途では、精製および後処理のための大幅な追加の労力が必要とされる。
【0017】
上記の欠点に鑑み、本発明の課題は、工業的生産規模に適用可能な、簡便で、資源およびコスト効率の高いエチレンシアノヒドリンの精製方法を提供することであった。
【0018】
発明の概要
この課題は、本発明による方法によって解決される。本発明者らは、驚くべきことに、工業用グレードのエチレンシアノヒドリン(ECH)を、上記工業用グレードのECHを少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートすることにより、簡便でコスト効率の高い方法で精製できることを見出した。
【0019】
本発明の文脈における「工業用グレードのECH」という用語は、エチレンオキシドとシアン化水素酸(HCN)との反応から直接得られるか、またはアクリロニトリルへの水の(触媒的)付加から得られる市販のバルクECHを指す。「工業グレード」という用語は、多くの工業用途に適した製品品質を指し、その際、製品は一般的に僅かに不純物(エチレングリコール、水)を含有し、かつ医薬品純度グレードよりも純度が低い。
【0020】
「工業グレードのECHを少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートする」という用語は、工業グレードのECHを、特定の期間にわたって少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドと接触させることを指す。
【0021】
上記に従って、本発明は、工業用グレードのECHを、少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートすることを含む、ECHの精製方法に関する。
【0022】
本発明による方法は、当該技術分野で一般に知られている精製方法(本明細書に含まれる比較例を参照)とは対照的に、新規の製品品質で、すなわち新規の純度でのECH製品の製造を可能にする。
【0023】
より具体的には、本発明による方法は、純度が99%を上回り、0.05%未満、好ましくは0.01%以下のエチレングリコール(EG)を含みかつ/または1000ppm未満、典型的には500ppm未満の含水量を含むECHの製造を可能にする。
【0024】
発明の詳細な説明
本発明は、工業グレードのECH製品を、少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドでインキュベートすることを含む、ECHを製造および/または精製する新規の方法、ならびにかかる方法によって得られる高純度のECH製品に関する。
【0025】
チタン(IV)アルコキシドは、オルトチタン酸HTiOのエステルである。
【0026】
本発明による方法に適したチタン(IV)アルコキシドは、例えば、Ti(OMe)、Ti(OEt)、Ti(OiPr)およびTi(OBu)からなる、R=C~C20の直鎖状または分枝鎖状のチタン(IV)アルキルアルコキシドTi(OR)である。Ti(OiPr)が特に好ましい。
【0027】
有利には、インキュベーション工程に使用されるチタン(IV)アルコキシドは、1重量%~15重量%、好ましくは5重量%~10重量%の量で存在する。
【0028】
工業グレードのECHの少なくとも1種のチタン(IV)アルコキシドによるインキュベーションは、好ましくは撹拌しながら行うことができ、ここで、撹拌速度は、特に好ましくは50~2000rpmの範囲にあり、非常に特に好ましくは100~500rpmの範囲にある。
【0029】
インキュベーション温度は、20℃~70℃、好ましくは25℃~50℃であり得る。
【0030】
インキュベーション時間は、とりわけ、選択されたパラメータ、例えば温度に依存する。概して、インキュベーション時間は、0.5時間~20時間、好ましくは2時間~18時間であるべきである。当業者は、添付の例において、反応時間に関するさらなる情報を見出すことができる。
【0031】
工業グレードのECHは、エチレンオキシドとシアン化水素酸(HCN)との反応から、またはアクリロニトリルへの水の(触媒的)付加から得ることができる。
【0032】
ECH純度をさらに高めるために、チタン(IV)アルコキシドでインキュベーションした後に、蒸留工程を行うことができる。蒸留は、薄膜式蒸発器、短孔式蒸発器、カラムを備えた、または備えていない分留装置を使用するなどの複数の技術によって実施することができる。蒸留は、周囲温度または高温および周囲圧力または減圧で実施することができ、双方のパラメータは、ECHの物理的特性に合わせて調整される。
【0033】
本発明の方法により、99%を上回る純度で、かつ0.05%未満のエチレングリコール(EG)、好ましくは0.01%未満のエチレングリコール(EG)を含むECHを得ることができる。エチレンシアノヒドリンの純度および不純物、例えばEG含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)を介して測定し、かつ定量化することができる。例えば、ガスクロマトグラフGC6890、7890(Agilent)またはFID検出器を備えた同等の装置は、石英キャピラリーカラム(DB-FFAP、DB-WAXまたは他の分離相、30m)と組み合わせて使用することができる。ヘリウムは、250℃のインジェクターおよび検出器温度でキャリアガスとして使用することができる。成分の面積パーセントは、クロマトグラフ制御システムの面積%報告オプションによって(自動的に)決定される。%は、10000を掛けることによってppmに変換される。
【0034】
本発明の一実施形態では、ECHは、1000ppm未満の含水量を有する。500ppm未満の含水量は、特に有利である。エチレンシアノヒドリンの含水量は、電量カールフィッシャー滴定により、または代替的には、容量滴定により決定することができる。カールフィッシャー電量計(例えば、Metrohm社製のタイプ756)は、好ましくは分析天秤、校正済みシリンジおよび校正済み滴定試薬と一緒に使用される。
【0035】
好ましくは、ECHは、30未満、好ましくは5未満のAPHA色値(Pt/Co)を有する。色値は、測光法により決定することができる。この方法では、白金-コバルトスケールの標準色溶液との視覚的な比較は、波長460nmおよび620nmでの試料の吸光度の測定に置き換えられる。吸光差E460nm-E620nm=ΔΕは、白金-コバルト標準の色単位と直線的な関係である。ΔEに対して色値をプロットすると、その勾配が色値の算出のための「因子」として機能する較正線が得られるが、これは、分析されるべき試料の比色仕様、すなわち、その色相が白金-コバルトスケールに大部分対応するという条件でのみ得られる。460nmおよび620nmの範囲のフィルタを備えた分光光度計またはフィルタ光度計は、5cmおよび1cmのキュベットと共に使用される。較正物質は、ヘキサクロロ白金酸カリウム(KPtCl)、塩化コバルト(II)六水和物(CoCl×6HO)および濃塩酸p.a.32%である。Pt/Co標準溶液を調製し、適切なフィルタを備えた分光光度計またはフィルタ光度計を用いて、460nmおよび620nmで、5cmのキュベット内で測定する。(基準キュベットは脱塩水を含有する)。Pt/Co色値およびこれら(E460nm-E620nm)に対して設定された吸光係数は、直線関係を示す。この直線の較正線の勾配は、グラフィックによって、または回帰によって決定することができ、Pt/Co色値(b値およびm値)の計算のための基礎として機能する。
Pt/Co色値=((E460nm-E620nm)-b)/m
(b=軸切片、m=勾配)
【0036】
白金-コバルト色値の同義語は、APHAおよびハーゼン数である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】サンプ内のエチレングリコール含有量を示す図である。
図2】サンプ内のエチレンシアノヒドリン含有量を示す図である。
【0038】
実施例
製造プラントからエチレンシアノヒドリンを直接入手し、受け取ったままの状態で使用した。試料を、GC/GC-MS(純度)、カールフィッシャー滴定(水)およびPt/Coスケール(APHA、色)により分析した。当然のことながら、異なるECH製造バッチの分析データは、多様であり、そのために範囲が示されている。
【表1】
【0039】
比較例
当該技術分野において公知の一般的な方法を利用して、含水量、エチレングリコール含有量、色値を同時に減少させ、かつエチレングリコール含有量を増加させるという要件でエチレンシアノヒドリンを精製する試み:
【0040】
共溶媒を用いた共沸蒸留
共沸蒸留により反応器から水および/または例えば他の極性物質を除去することは、当該技術分野で知られており、調査されたものである。
【0041】
ディーン・スターク条件下で、200gのエチレンシアノヒドリンおよび250gのトルエンを、5時間加熱還流した。続いて、混合物を室温にし、相分離後、エチレンシアノヒドリンが黄色の液体として得られた。
【表2】
【0042】
考察:共溶媒を用いた共沸蒸留により、含水量が減少し、エチレングリコールが増加した生成物が得られる。含水量およびエチレングリコール含有量の同時減少は、実現されなかった。さらに、色値は、劇的に増加した。さらに、補助溶媒も、生成物から蒸留されなければならない。
【0043】
吸収
モレキュラーシーブなどの多孔質材料を用いて、液体(または気体)から水および/または例えば他の極性物質を除去することは、当該技術分野で知られており、調査されたものである。
【0044】
100gのエチレンシアノヒドリンを、十分に乾燥させたモレキュラーシーブ(4Å、10~20重量%)と混合し、10日間静置/乾燥させた。モレキュラーシーブを、濾過により除去した。
【表3】
【0045】
考察:モレキュラーシーブによる吸収を経て、エチレンシアノヒドリンの色値が増加する。含水量が減少し、エチレングリコール含有量も減少するが、その程度は低い。含水量およびエチレングリコール含有量の同時減少が実現されたが、エチレンシアノヒドリン含有量も減少し、色値は増加した。
【0046】
さらに、アクリロニトリルの形成が認められた。
【0047】
注意:より多量のモレキュラーシーブを使用することは経済的ではなく、上記のような純度および色の改善にはつながらないであろう。
【0048】
蒸留1
精製方法としての蒸留は、当該技術分野で知られており、調査されたものである。
【0049】
様々な条件下、例えば、50℃~150℃の間、かつ1ミリバールから500ミリバールまでの負圧で蒸留を実施した。代表的な試料を以下に示す:
100gのエチレンシアノヒドリンを、130℃~150℃において減圧(10~30ミリバール)で蒸留した。81gの無色透明の留出物を、18gの黄赤色の残留物と一緒に収集した。
【表4】
【0050】
考察:蒸留により、無色透明の留出物が得られ、したがってエチレンシアノヒドリンの色値が効果的に低下している(蒸留による着色剤の除去)。エチレングリコールが留出物中で増加する一方で、含水量は減少した。含水量およびエチレングリコール含有量の同時減少は、実現されなかった。さらに、エチレンシアノヒドリン含有量が減少した。
【0051】
蒸留2
エチレンシアノヒドリン試料の量を増やして(1.5kg)、カラムおよび理論段数20で蒸留した。試料を最初に全還流で加熱し、続いて異なる蒸留留分(還流比2)を収集して分析し、各留分の間に中間的な全還流を行った。カラム圧を250ミリバールに設定した。各蒸留留分で、サンププローブを1つ追加で収集した。
【0052】
観察:加熱段階の間、サンプの明らかな色の変化が認められる(無色から褐色へ)。蒸留時間が進むにつれて、混合物の色が増加する。さらに、予想外に大量の液体が、冷却トラップに収集され(最初に適用された質量の23%)、この液体も二相を構成していた。
【0053】
混合物を分析し、含水量を決定した(カールフィッシャー法を介して):
【表5】
【0054】
明らかに、蒸留手順の間に水が形成され、水はカラムヘッドで(低ボイラーとして)増加する。水の良好なストリッピング効果により、大部分の液体が冷却トラップに収集される。蒸留装置とエチレンシアノヒドリンとの材料不適合性を排除するために、フィード試料を、バイアルで別々に加熱した(100℃超)。色の変化および含水量の増加(250ppmから510ppm、+104%)が認められ、これは蒸留条件下での分解プロセスを証明し、材料不適合性を排除する。
【0055】
さらに、留出物およびサンプ(sump)を、GCおよびGC-MSを介して分析した。結果は、出発材料では認められなかったピークが生じるため、蒸留手順の間に新しい成分が形成されることを示す。
【表6】
【0056】
サンプ内のエチレングリコール含有量が減少し(留出物中で増加する)、より多くの副反応が起こり、副生成物が形成されるにつれて、エチレンシアノヒドリン含有量が減少する。さらに、サンプの色値は、絶えず上昇する。したがって、汚染物質の蒸発によって得られる蒸留残留物として高純度エチレンシアノヒドリンを得ることは、不可能である。
【0057】
さらに、これらの条件下で得られた留出物によって、エチレンシアノヒドリン含有量が著しく減少したことが示される。これはまた、気相で増加するエチレングリコールおよび水で汚染されている。また、サンプの温度暴露中は水が絶えず形成されるので、無水の留出物を得ることができない。
【0058】
要約すると、粗エチレンシアノヒドリンの連続蒸留は、生化学的用途におけるさらなる反応に適した高純度のエチレンシアノヒドリンをもたらすものではなかった。
【0059】
カラムクロマトグラフィー精製
カラムクロマトグラフィーは、化学物質を精製するか、または化学物質を互いに分離する方法として当該技術分野で公知である。
【0060】
大量の液体(100トン超)のカラムクロマトグラフィー精製は、蒸留などの方法と比較して非経済的である。しかしながら、エチレンシアノヒドリンのクロマトグラフィー精製が試みられた。
【0061】
酸化アルミニウム:カラムに酸化アルミニウム(90)を装入した。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約5分、25℃)。650gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表7】
【0062】
考察:カラムクロマトグラフィーによる、エチレンシアノヒドリンの効果的な精製は、適用条件下では不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加および色値の増加が認められた。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。
【0063】
Tonsil 312 FF:カラムにTonsil 312 FFを装入した。 フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約3.8分、25℃)。
【0064】
考察:カラム充填物が圧縮/凝縮されたので、溶出液を得ることができなかった。したがって、吸収剤として粘土を使用するエチレンシアノヒドリンのクロマトグラフィー精製は不可能である。
【0065】
モレキュラーシーブ(3Å):カラムにモレキュラーシーブ(3Å)を装入した。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約4.7分、25℃)。660gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表8】
【0066】
考察:カラムクロマトグラフィーにより、エチレンシアノヒドリンの効果的な精製は、適用条件下では不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加が認められたが、色値は僅かに減少した。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。さらに、アクリロニトリルの形成が認められた。
【0067】
モレキュラーシーブ(4Å):カラムにモレキュラーシーブ(4Å)を装入した。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約5.3分、25℃)。655gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表9】
【0068】
考察:カラムクロマトグラフィーによる、適用条件下でエチレンシアノヒドリンの効果的な精製は不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加が認められたが、色値は僅かに減少した。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。さらに、アクリロニトリルの形成が認められた。
【0069】
モレキュラーシーブ(13X):カラムに、モレキュラーシーブを装入した(13X)。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約5.2分、25℃)。661gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表10】
【0070】
考察:カラムクロマトグラフィーによる、適用条件下でエチレンシアノヒドリンの効果的な精製は不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加が認められたが、色値は僅かに減少した。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。さらに、アクリロニトリルの形成が認められた。
【0071】
活性炭(Epibon Y 12×40 spezial(Donau Carbon社製)):カラムに活性炭を装入した。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約5.4分、25℃)。662gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表11】
【0072】
考察:カラムクロマトグラフィーによる、適用条件下でエチレンシアノヒドリンの効果的な精製は不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加が認められたが、色値は僅かに、初期のみ減少した。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。
【0073】
シリカゲル(シリカゲル60、0.060~0.2nm):カラムにシリカゲルを装入した。フィードポンプを使用してカラムにエチレンシアノヒドリンを装入した(流量2mL/分、滞留時間は約3.8分、25℃)。655gの粗エチレンシアノヒドリンをクロマトグラフィーにかけ、16の留分(それぞれ約40g)を収集し、分析した。
【表12】
【0074】
考察:カラムクロマトグラフィーによる、適用条件下でエチレンシアノヒドリンの効果的な精製は不可能であった。収集された全ての留分において、含水量の増加が認められたが、色値は僅かに、初期のみ減少した。さらに、エチレンシアノヒドリンおよびエチレングリコールの含有量への影響は認められなかった。さらに、アクリロニトリルの形成が認められた。
【0075】
再結晶
物質を精製する方法としての再結晶は、当該技術分野で知られている。しかしながら、物質を精製するための液体エチレンシアノヒドリン(mp:-46℃)の再結晶化は、明らかな理由から実行可能なプロセスではない。
【0076】
本発明による実施例
チタン(IV)アルコキシドの添加によるECHの精製
オルトチタン酸HTiOのエステル、例えばTi(OR)(R=Me、Et、iPr、Bu、2-エチルヘキシル、ネオペンチル等)を、エチレンシアノヒドリンと一緒に周囲条件で2時間撹拌する。
【0077】
実施例1a:100gの工業グレードのエチレンシアノヒドリン試料をTi(OiPr)(5g、5重量%)と混合し、25℃で2時間撹拌した。
【表13】
【0078】
実施例1b:100gの工業グレードのエチレンシアノヒドリン試料をTi(OMe)(5g、5重量%)と混合し、50℃で3時間撹拌した。
【表14】
【0079】
実施例2:20gの工業グレードのエチレンシアノヒドリン試料を、Ti(OiPr)(2g、10重量%)と混合し、25℃で18時間撹拌した。
【表15】
【0080】
実施例3:537gの工業グレードのエチレンシアノヒドリン試料をTi(OiPr)(50g、10重量%)と混合し、25℃で18時間撹拌した。続いて、ロータリーエバポレーターを使用して混合物を蒸発させた。まず、25℃~150℃の温度および20ミリバール~60ミリバールの圧力範囲で、初留液を収集する(15重量%)。10ミリバール~20ミリバールの圧力範囲で150℃で、主要留分を収集する(65重量%)。残留物(20重量%)を保持する。
【表16】
【0081】
実施例4:516.5gの工業グレードのエチレンシアノヒドリン試料をTi(OiPr)(51.7g、10重量%)と混合し、50℃に加熱し、4時間~20時間にわたり撹拌した。続いて、混合物を高温(50℃~140℃、大抵は90℃~130℃)で真空(500ミリバール~1ミリバール、大抵は20ミリバール~5ミリバール)下で分別蒸留する。エチレンシアノヒドリンの全体的な蒸留収率は、90%超、典型的には95%超である。
【0082】
留出物の長期安定性を保証するためには、生成物のpH値が酸性であり、したがって7未満でなければならない。
【表17】
【0083】
これまでの全ての試みとは対照的に、エチレングリコール含有量および含水量が減少し、同時にエチレンシアノヒドリン含有量が増加し、色値が減少して、エチレンシアノヒドリンが得られた。
図1
図2
【国際調査報告】