IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パートナー セラピューティクス インコーポレイテッドの特許一覧

特表2023-553117顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】顆粒球マクロファージコロニー刺激因子の製造
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/27 20060101AFI20231213BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20231213BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20231213BHJP
   A61K 35/15 20150101ALI20231213BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 31/16 20060101ALI20231213BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C12N15/27 ZNA
C12P21/00 K
A61K38/19
A61K35/15
A61P35/00
A61P31/00
A61P31/12
A61P31/14
A61P31/16
A61P11/00
【審査請求】未請求
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535012
(86)(22)【出願日】2021-12-07
(85)【翻訳文提出日】2023-08-08
(86)【国際出願番号】 US2021062168
(87)【国際公開番号】W WO2022125523
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】63/122,593
(32)【優先日】2020-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】63/271,444
(32)【優先日】2021-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522412493
【氏名又は名称】パートナー セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ミラー、グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】リリー、ショーン
(72)【発明者】
【氏名】アイアランド、ジェイソン
【テーマコード(参考)】
4B064
4C084
4C087
【Fターム(参考)】
4B064AG06
4B064CA06
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064CD30
4B064DA01
4C084AA02
4C084AA06
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA21
4C084BA23
4C084CA53
4C084DA19
4C084NA05
4C084NA14
4C084ZA591
4C084ZA592
4C084ZB261
4C084ZB262
4C084ZB311
4C084ZB312
4C084ZB331
4C084ZB332
4C087AA01
4C087AA02
4C087BB44
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA59
4C087ZB26
4C087ZB31
4C087ZB33
(57)【要約】
本開示はサルグラモスチムの製造プロセスに関し、上記プロセスにより生産効率及び生産量が向上する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えタンパク質の製造方法であって、
(a)前記組換えタンパク質をコードする核酸分子を含み、発酵中に前記組換えタンパク質を産生する能力を有する宿主細胞を含む培地に、微量元素を添加することと、
(b)前記組換えタンパク質を単離することと
を含み、
前記微量元素が、前記培地中の微量元素の量を補うために、前記培地に外因的に添加される、前記製造方法。
【請求項2】
前記組換えタンパク質が、配列番号1または配列番号2との少なくとも約97%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rhu GM-CSF)タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組換えタンパク質が、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GM-CSF-R-アルファまたはCSF2R)に結合する及び/または前記顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GM-CSF-R-アルファまたはCSF2R)を活性化する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記組換えタンパク質の製造中の前記微量元素の添加により、前記微量元素の添加を伴わない方法と比較して、前記組換えタンパク質の発現レベルが増加する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記組換えタンパク質の製造中の前記微量元素の添加により、前記微量元素の添加を伴わない方法と比較して、前記組換えタンパク質の発酵収量が向上する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記微量元素の添加により、前記微量元素の添加を伴わない方法と比較して、前記組換えタンパク質の製造中の発酵成績の一貫性が向上する、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記微量元素が銅である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記銅が銅誘導体の形態である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記銅が銅化合物の形態である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記銅が銅塩である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記銅塩が硫酸第二銅すなわち硫酸銅である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
銅が、約0.5μM~約100μM(任意選択で約0.5μM~約80μMである、または任意選択で約1μM~約20μMである)の量で前記培地に添加される、請求項7~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記核酸分子がベクターである、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記核酸分子がコドン最適化配列を有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記宿主細胞が前記組換えタンパク質を発現する、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記宿主細胞が非ヒト宿主細胞である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記非ヒト宿主細胞が酵母細胞または哺乳動物細胞(任意選択でチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記酵母細胞が非メチロトローフ酵母細胞である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記宿主細胞がSaccharomyces cerevisiae細胞である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか1項に記載の方法を使用して得られる組換えヒトGM-CSFと、薬学的に許容される賦形剤または担体とを含む医薬組成物。
【請求項21】
がん治療を受けているもしくは受けたことがある、または感染因子に対する治療を受けているもしくは受けたことがある、及び/または感染症の影響を治療するための治療を受けている、または骨髄移植を受けているもしくは受けたことがある、及び/または骨髄抑制線量の放射線に急性被曝したことがあった患者あるいは対象の治療方法であって、前記患者に治療有効量の請求項20に記載の医薬組成物を投与することを含む、前記治療方法。
【請求項22】
前記患者が、造血前駆細胞のクローン増殖、生存、分化、及び活性化状態を調節することによって治療を受ける、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記患者が、巨核球前駆細胞及び赤血球前駆細胞の増殖を促進することにより、骨髄単球細胞系列を調節することによって治療を受ける、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記患者が、好中球、マクロファージ、及び/または樹状細胞の生存、増殖、ならびに活性化を刺激することにより、造血前駆細胞を調節することによって治療を受ける、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
前記患者が、骨髄移植後に、好中球、マクロファージ、及び/または樹状細胞の生存、増殖、ならびに活性化を刺激することにより、造血前駆細胞を調節することによって治療を受ける、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
治療方法であって、
治療有効量の請求項20に記載の医薬組成物を患者に投与すること、または
細胞を有効量の請求項20に記載の医薬組成物と接触させ、且つ治療有効量の前記細胞を投与すること
を含み、
前記治療が、
化学療法の導入後に、好中球の回復を促進して感染症の発生率を低減する、
白血球除去及び移植により、造血前駆細胞を末梢血中に集結させる、
自家もしくは同種の骨髄または末梢血前駆細胞の移植後に、骨髄再構成を促進する、
自家もしくは同種の骨髄移植後に、好中球の回復の遅延または移植片不全を治療する、
急性放射線症候群の造血症候群(H-ARS)を治療する、及び/または
感染症の後遺症及び長期的な影響を治療する、
前記治療方法。
【請求項27】
ウイルスによる感染症の治療方法であって、それを必要とする患者に、請求項20に記載の医薬組成物を含む有効量の組成物を投与することを含む、前記方法。
【請求項28】
前記ウイルスが、インフルエンザウイルスまたはコロナウイルスであり、前記コロナウイルスが任意選択で、ベータコロナウイルスであって、任意選択で重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-HKU1、及びHCoV-OC43から選択される前記ベータコロナウイルスであるか、もしくはアルファコロナウイルスであって、任意選択でHCoV-NL63及びHCoV-229Eから選択される前記アルファコロナウイルスである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記コロナウイルスがSARS-CoV-2である、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記患者がCOVID-19に罹患している、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
前記患者が、発熱、咳、息切れ、下痢、上気道症状、下気道症状、肺炎、及び急性呼吸器症候群の1つ以上に悩まされている、請求項26~30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記患者が低酸素症である、請求項26~31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記患者が呼吸困難に陥っている、請求項26~32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記患者における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症を予防または緩和する、請求項26~33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記患者の酸素化を改善する、請求項26~34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記患者における呼吸窮迫からサイトカインの不均衡への移行を予防または緩和する、請求項26~35のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
サイトカインストームを逆転させるまたは予防する、請求項26~36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
肺においてまたは全身的に、サイトカインストームを逆転させるまたは予防する、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記サイトカインストームが、全身性炎症反応症候群、サイトカイン放出症候群、マクロファージ活性化症候群、及び血球貪食性リンパ組織球症の1種以上から選択される、請求項37または38に記載の方法。
【請求項40】
1種以上の炎症性サイトカインの過剰な産生を逆転させるまたは予防する、請求項37または38に記載の方法。
【請求項41】
前記炎症性サイトカインが、IL-6、IL-1、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1ra)、IL-2ra、IL-10、IL-18、TNFα、インターフェロン-γ、CXCL10、及びCCL7の1種以上である、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
前記患者におけるウイルス負荷を治療前と比較して減少させる、請求項26~41のいずれか1項に記載の方法。
【請求項43】
その方法を必要とする対象におけるウイルス感染症の治療または予防方法であって、
前記ウイルス感染症から回復したドナー対象由来の血漿を用意することであって、
前記血漿は、前記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含み、且つ
前記ドナー対象は、前記抗体の産生を刺激するために、請求項20に記載の医薬組成物による治療を受けている、前記用意すること、ならびに
前記方法を必要とする前記対象に前記血漿を投与すること
を含む、前記方法。
【請求項44】
その方法を必要とする対象におけるウイルス感染症の治療または予防方法であって、
前記ウイルス感染症から回復したドナー対象に請求項20に記載の医薬組成物を投与することと、
前記ドナー対象から、前記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含む血漿を単離することと、
前記方法を必要とする前記対象に前記血漿を投与することと
を含む、前記方法。
【請求項45】
前記ウイルスに対する受動免疫を前記方法を必要とする対象に提供する、請求項43または44に記載の方法。
【請求項46】
前記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体がウイルス抗原に特異的に結合する、請求項43~45のいずれか1項に記載の方法。
【請求項47】
前記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体が前記ウイルスを中和する、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体が、前記ウイルスによる細胞の感染を防止または軽減する、請求項46または47に記載の方法。
【請求項49】
前記ウイルス感染症が、ベータコロナウイルス感染症であって、任意選択で、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)感染症、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症、HCoV-HKU1感染症、及びHCoV-OC43感染症から選択される前記ベータコロナウイルス感染症から選択される、請求項43~48のいずれか1項に記載の方法。
【請求項50】
前記ウイルス感染症が、アルファコロナウイルス感染症であって、任意選択で、HCoV-NL63感染症及びHCoV-229E感染症から選択される前記アルファコロナウイルス感染症から選択される、請求項43~49のいずれか1項に記載の方法。
【請求項51】
前記ベータコロナウイルス感染症が重症急性呼吸器症候群(SARS)である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記ベータコロナウイルス感染症がコロナウイルス疾患2019(COVID-19)であるか、またはそれに関連する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記ウイルス感染症が、インフルエンザ感染症であって、任意選択で、A型、B型、C型、及びD型インフルエンザウイルス感染症から選択される前記インフルエンザ感染症である、請求項43~52のいずれか1項に記載の方法。
【請求項54】
前記インフルエンザ感染症が、2009年パンデミックA型インフルエンザ(H1N1)またはA型鳥インフルエンザ(H5N1)である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記ドナー対象が、回復前に前記ウイルス感染症に関して検査で陽性であった、請求項43~54のいずれか1項に記載の方法。
【請求項56】
前記ドナー対象において、提供前にウイルス感染症の症状が消失している、請求項43~55のいずれか1項に記載の方法。
【請求項57】
前記ドナー対象が、前記ウイルスに対する抗体に関して、血清学的検査を使用した検査で陽性であった、請求項43~56のいずれか1項に記載の方法。
【請求項58】
前記ドナー対象が測定可能な中和抗体力価を示す、請求項43~57のいずれか1項に記載の方法。
【請求項59】
前記中和抗体力価が少なくとも約1:160である、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
前記血漿が前記ドナー対象由来の血液試料から単離される、請求項43~59のいずれか1項に記載の方法。
【請求項61】
前記血漿が血漿交換によって単離される、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記血漿が、治療有効量の、前記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含む、請求項43~61のいずれか1項に記載の方法。
【請求項63】
組換えタンパク質の製造方法であって、
(a)前記組換えタンパク質をコードする核酸分子を含み、発酵中に前記組換えタンパク質を産生する能力を有する宿主細胞を含む培地に、銅塩を添加することと、
(b)前記組換えタンパク質を単離することと
を含み、
前記銅塩が、前記培地中の微量元素の量を補うために、前記培地に、約1μM~約20μMの量で外因的に添加され、
前記銅塩が硫酸第二銅すなわち硫酸銅であり、
前記組換えタンパク質が、配列番号2との少なくとも約97%の同一性を有する組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rhu GM-CSF)タンパク質である、
前記製造方法。
【請求項64】
前記組換えタンパク質の製造中の前記微量元素の添加により、前記微量元素の添加を伴わない方法と比較して、前記組換えタンパク質の発現レベルが増加する、請求項63に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2020年12月8日出願の米国仮特許出願第63/122,593号及び2021年10月25日出願の米国仮特許出願第63/271,444号に対する優先権ならびに上記出願の利益を主張し、上記出願のそれぞれの全体が本明細書に援用される。
【0002】
技術分野
本発明は、概括的には、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)の生産量の改善及び増加に関連する方法に関する。
【0003】
電子的に提出されたテキストファイルの記述
本出願は、本出願と共にEFS-Webを介して電子的に提出されたASCII形式の配列表を含む。2021年12月6日作成の上記のASCIIの記録は、PNR-004PC_SequenceListing_ST25.txtとの名称であり、4,096バイトのサイズである。上記配列表はその全体が本明細書に援用される。
【背景技術】
【0004】
コロニー刺激因子(CSF)とは、広範囲に孤立散在する骨髄細胞の沈着物による細胞産生を制御及び調整する4種の糖タンパク質のファミリーを指す。これらには、顆粒球マクロファージCSF(GM-CSF)、顆粒球コロニーCSF(G-CSF)、マクロファージコロニーCSF(M-CSF)、及び多能性コロニー刺激因子(IL-3)が含まれる。これらのリンホカインは、骨髄中に存在する前駆細胞を、特定の種類の成熟血液細胞へと分化するように誘導することができる。前駆細胞から生じる上記特定の種類の成熟血液細胞は、存在するCSFの種類によって決定される。Metcalf D.Cancer Immunol Res.2013,1(6):351-356を参照されたい。
【0005】
GM-CSFは、造血細胞の産生、遊走、増殖、分化、及び機能を調節する造血成長因子である。炎症性刺激に応答して、GM-CSFが、Tリンパ球、マクロファージ、線維芽細胞、及び内皮細胞を含む種々の細胞型によって放出される。次いで、GM-CSFは好中球、好酸球、及びマクロファージの産生ならびに生存を活性化し且つ亢進させる。天然のGM-CSFは通常、インビトロでは該GM-CSFが造血前駆細胞の増殖、分化、及び生存を調節する作用部位の近傍で産生されるが、循環血液中では、上記GM-CSFはピコモル濃度(10-10~10-12M)でしか存在しない。Alexander WS.Int Rev Immunol.1998,16:651-682;Gasson JC.Blood.1991,77:1131-1145;Shannon MF et al.Crit Rev Immunol.1997,17:301-323,Barreda DR et al.Dev Comp Immunol.2004,28:509-554、及びMetcalf D.Immunol Cell Biology.1987,65:35-43を参照されたい。
【0006】
ヒトGM-CSF(hGM-CSF)は、17アミノ酸のシグナルペプチドを含む144アミノ酸残基の前駆体タンパク質として合成される。この前駆体タンパク質がプロセッシングを受けると、予測される分子量14.4kDaの127アミノ酸の成熟タンパク質が得られる。この成熟タンパク質は2つのジスルフィド結合を有し、グリコシル化及びシアル化に起因して15~30kDaの広帯域として泳動する。GM-CSFのグリコシル化パターンは、該GM-CSFの活性、受容体との結合、免疫原性、及び半減期に影響を与えることが観測されている。Lee F.et al.Proc Natl Acad Sci USA Biochem.1985.82:360-4364;Miyatake S.et al.EMBO J.1985.4:2561-2568.Cebon J et al.J Biol.Chem.1991.265,4483-4491;Zhang Q et al.Proc.Natl.Acad.Sci.2014..2885-2890を参照されたい。
【0007】
組換えヒト顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(rhu GM-CSF)が、FDAにより、化学療法剤との併用での、好中球減少症、血液疾患、及び白血病などの悪性腫瘍の治療に対して認可されている。臨床において、化学療法後の好中球減少症及び再生不良性貧血の治療に使用されるGM-CSFは、骨髄移植に伴う感染症のリスクを大幅に低減する。骨髄性白血病の治療における、及びワクチンアジュバントとしてのGM-CSFの有用性も十分に確立されている。Dorr RT.Clin Therapeutics.1993.15(1):19-29;Armitage JO.Blood 1998,92:4491-4508;Kovacic JC et al.J Mol Cell Cardiol.2007,42:19-33;Jacobs PP et al.Microbial Cell Factories 2010,9:93を参照されたい。
【0008】
異種タンパク質製造プラットフォームには、細菌、酵母、植物、昆虫細胞、及び哺乳動物細胞を含む5種があるが、現在市販されているバイオ医薬品の50%超は哺乳動物細胞株で製造されている。これは、残りの4種が、糖タンパク質をヒト様オリゴ糖で修飾することができないことが一部の原因となっている。タンパク質結合グリカンは循環半減期、組織分布、生物学的活性、及び免疫原性に影響を与えることから、このことは重要である。上記GM-CSF発現系は、GM-CSFの薬物動態特性、生物学的活性、及び臨床毒性に影響を与える。臨床において、GM-CSFは、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO-GM、レグラモスチム)、Escherichia coli(E.coli-GM、モルグラモスチム)、または酵母(酵母GM、サルグラモスチム)で製造されている。Dorr RT.Clin Therapeutics.1993.15(1):19-29;Walsh G.Nat Biotechnol.2006,24:769-776;Jacobs PP et al.Nat Protoc.2009,4:58-70;Jacobs PP et al.Microbial Cell Factories 2010,9:93;Walsh G.Nat Biotechnol.2018,36(12):1136-1145を参照されたい。
【0009】
すべての微生物にとっての基本的な栄養要件としては、水及び酸素に加えて、炭素、窒素、ビタミン、ミネラル元素が挙げられる。酵母におけるミネラル要件は、具体的な株及び培養物の増殖条件に応じて異なる。一般に、酵母には2種のミネラル要件、多量元素、すなわち大量に必要な元素、及び微量元素、すなわち微量必要な元素がある。微量(micro)または微量(trace)元素としては、鉄、銅、亜鉛、マンガン、モリブデン、コバルト、ホウ素、及びその他が挙げられる。これらの微量元素は、多数の酵素の補因子として必要であることに主として起因して、酵母の増殖に必須であり、細胞代謝において重要な役割を果たす。製造プロセスのサルグラモスチム細胞増殖ステップ(フラスコ振とう、種発酵)においては、培地に微量元素溶液を添加することによって宿主生物のミネラル要件が満たされる。但し、生産発酵では微量元素は添加されず、すべてのミネラル要件を満たすために、2種の複雑なタンパク質加水分解物の配合物(Bacto-Peptone、酵母エキス)が使用される。
【0010】
Bacto-Peptone及び酵母エキスは、サルグラモスチム製造プロセスにおいて、生産発酵中の酵母培養のための複雑な有機窒素、無機窒素、ビタミン、微量元素、及び遊離アミノ酸源として利用され、それによって細胞増殖、ならびにサルグラモスチムの発現及び分泌を促進する。これらの材料の不均一な性質及びそれに伴うロット間の変動は、酵母培養の成績、生産性、及び製品の品質に顕著な影響を与えることが明らかになっている。結果として、増殖速度及び生産性が、複雑な培地を介して培養物に提供される未知のミネラルの変動に大きく影響される可能性がある。
【0011】
収量の一貫性及び効率を向上させるために、rhu GM-CSFの製造プロセス中の微量栄養素の変動を低減する必要性が依然として残されている。
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明は、部分的には、生産性に影響を与える培地中の主要な制限成分としての、酵母における必須微量元素である銅に関する。例えば、本開示は、とりわけ、銅(Cu)がBacto Peptone及び酵母エキスにおける制限微量元素であることを実証している。上記培地に追加の銅を添加すると低生産性のロットが改善され、収量が顕著に増加した。
【0013】
いくつかの態様において、酵母などの宿主細胞を含む培地に微量元素である銅を添加することを含む、組換えタンパク質の製造方法が提供される。上記宿主細胞は、上記組換えタンパク質、例えばrhu GM-CSF、をコードする核酸分子を含み、発酵中にこのタンパク質を産生する能力を有し、発酵中に上記組換えタンパク質を産生する能力を有し、この微量元素は、該培地中の微量元素の量を補うために上記培地に外因的に添加される。
【0014】
いくつかの実施形態において、本組換えヒトGM-CSFをコードする核酸分子(例えばコドン最適化配列)を使用する製造方法も提供される。いくつかの実施形態において、本組換えヒトGM-CFSをコードする上記核酸分子を発現する非ヒト宿主細胞(例えば、酵母細胞、例えば、非メチロトローフ酵母細胞、例えば、Saccharomyces cerevisiae)を使用する製造方法も提供される。いくつかの実施形態において、本製造方法によって製造される、本組換えヒトGM-CSF及び薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物も提供される。
【0015】
いくつかの態様において、がん治療を受けているもしくは受けたことがある、または骨髄移植を受けているもしくは受けたことがある、及び/または骨髄抑制線量の放射線に急性被曝したことがあった患者あるいは対象の治療方法であって、治療有効量の、本明細書に記載の本製造方法によって製造される医薬組成物を上記患者に投与することを含む、上記治療方法が提供される。
【0016】
いくつかの態様において、ウイルス感染症、例えば、限定はされないが、コロナウイルス、例えば、限定はされないが、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、による感染症の治療方法であって、有効量の、本明細書に記載の本製造方法によって製造される医薬組成物を投与することを含む上記治療方法、またはその方法を必要とする対象におけるウイルス感染症の治療もしくは予防方法であって、上記ウイルス感染症、例えば、限定はされないが、コロナウイルス、例えば、限定はされないが、SARS-CoV-2、による感染症から回復したドナー対象由来の血漿を用意すること(但し、上記血漿は、上記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含み、且つ上記ドナー対象は、上記抗体の産生を刺激するために、本明細書に記載の本製造方法によって製造される組換えヒトGM-CSFタンパク質による治療を受けている)、ならびに上記方法を必要とする上記対象に上記血漿を投与することを含む、上記方法が提供される。
【0017】
いくつかの態様において、組換えヒトGM-CSFを含む組成物を産生する組換え体の製造方法であって、(a)外因性微量元素である銅を、酵母などの宿主細胞を含む培地に添加すること(但し、この微量元素は、上記培地中の微量元素の量を補って、目標濃度範囲に達するように上記培地に外因的に添加される)と、(b)酵母細胞を、配列番号1及び/または配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも約97%同一、または少なくとも約98%同一、少なくとも約99%同一であるアミノ酸配列を含む、あるいは配列番号1及び/または配列番号2のアミノ酸配列を有する組換えヒトGM-CSFをコードする核酸でトランスフェクトすることと、(c)発酵中に高い有効性及び一貫性でこのタンパク質を産生する能力を有する宿主細胞とを含む、上記製造方法が提供される。
【0018】
いくつかの態様において、本発明は、組換えヒトGM-CSFなどの生理活性物質の産生の改善方法であって、培地中で、上記生理活性物質を産生する能力を有する動物細胞または細胞株を培養することによって得ることが可能な上記生理活性物質を産生させるための上記培地に、外因性銅を添加することを含む、上記方法に関する。
【0019】
より詳細には、本発明は、いくつかの実施形態において、生理活性物質の製造方法であって、上記生理活性物質を産生する能力を有する動物細胞(例えば、酵母細胞)または細胞株(例えば、CHO細胞)を外因性銅を含む培地中で培養して、上記生理活性物質を産生させることと、上記生理活性物質を上記培地から単離することとを含む、上記製造方法に関する。
【0020】
特許または出願ファイルには、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれている。カラーの図面を含むこの特許または特許出願公開のコピーは、申請及び必要な手数料の支払いを行うことで特許庁から提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】種々の微量元素の、酵母細胞培養物への添加後の、溶存酸素の量に対する影響を示すグラフである。微量元素の比較を個別にスクリーニングした溶存酸素プロファイルを示す。最下部の曲線が「銅」である。
図1B】商業プロセスをスケールダウンしたものと比較した、酵母細胞培養物への添加後の、外因性銅の添加の溶存酸素量に対する影響を示すグラフである。商業プロセスをスケールダウンしたものと銅の添加での、同時に行った発酵の比較を示す溶存酸素プロファイルを示す。15.0時間の時点で、上側の曲線が「商業プロセスをスケールダウンしたもの」、下側の曲線が「銅の添加」である。
図2A】種々の微量元素の、酵母細胞培養物への添加後の、酵母の細胞湿重量に対する影響を示すグラフである。個別にスクリーニングした微量元素の比較を行った細胞湿重量プロファイルを示す。20時間の時点で、最も上部の曲線が「銅」であり、以下、上から下に「亜鉛」、「モリブデン酸塩」、「マンガン」、「鉄」、及び「ホウ素」の順である。
図2B】商業プロセスをスケールダウンしたものと比較した、酵母細胞培養物への添加後の、外因性銅の添加の酵母の細胞湿重量に対する影響を示すグラフである。商業プロセスをスケールダウンしたものと銅の添加での、同時に行った発酵の比較を示す、細胞湿重量の棒グラフを示す。
図3】外因性銅を添加する場合と添加しない場合の、同時に行った発酵中に得られた組換えヒトGM-CSFの力価を示すグラフである。商業プロセスをスケールダウンしたものと銅の添加での、同時に行った発酵の比較をした、種々の力価の棒グラフを示す。
図4】商用BDSバッチ6~8と比較した、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)の不純物を評価するためのSDS-PAGE-銀染色(T-0002)アッセイの結果を示す図である。各ゲルは、参照標準試料、分子量マーカー、ならびに還元試料及び非還元試料を含む。試料のアイデンティティーは以下の通りである。BDS 6:還元参照標準試料(レーン2)、還元BDS 6(レーン4)、非還元参照標準試料(レーン7)、及び非還元BDS 6(レーン9)。BDS 7:還元参照標準試料(レーン2)、還元BDS 7(レーン5)、非還元参照標準試料(レーン7)、及び非還元BDS 7(レーン10)。BDS 8:還元参照標準試料(レーン2)、還元BDS 8(レーン3)、非還元参照標準試料(レーン7)、及び非還元BDS 8(レーン8)。CuSO PV:還元参照標準試料(レーン2)、還元CuSO PV(レーン3)、非還元参照標準試料(レーン7)、非還元CuSO PV非還元(レーン8)。
図5】商用BDSバッチ6~8と比較した、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)のサルグラモスチムのタンパク質純度のレベルを評価するための、濃度測定試験(T-0013)の結果を示す図である。各ゲルは、参照標準試料レーン(レーン4)、熱分子量マーカー(レーン2)、及び商用BDS試料またはPV試料(レーン6)を含む。
図6】商用BDSバッチ6~8と比較した、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)のサルグラモスチムのアイデンティティーを測定するために使用した等電点電気泳動(T-0114)の結果を示す図である。各ゲルは、GE healthcareのpIマーカー(レーン2)、参照標準試料(レーン4)、及び商用BDS試料またはPV試料(レーン6)を含む。
図7】すべての履歴的バッチに対するCuSO PVバッチ(CuSO PV)における、精製プロセス全体を通じての残存プロセス成分(RPC)の除去を示すELISAの結果を示すグラフである。点線はすべての履歴的商用データの平均値を示し、実線はBDSにおけるCuSO4バッチ(CuSO PV)を示す。商用BDSバッチ6~8はBDSレベルのみにおいて示されている。すべての履歴的商用バッチ、CuSO PV、及びBDS 6~8の結果は非常に類似しており、重複している。
図8】トリプシンによるペプチドマップ(TCPK-トリプシン)を利用して実施したC末端分析を示すRP-HPLCクロマトグラフィーのピーク分離を示す図である。CuSO PV及び商用BDS 6~8のそれぞれについての、ピークA(アミノ酸86~107)、ピークB(アミノ酸108~111)、及びピークC(アミノ酸112~127)。
図9】ジスルフィド架橋対合を示す低pHでのGlu-Cによるペプチドマップを示す図である。これらのクロマトグラムは、質量分析によって確認されたジスルフィドペプチドフラグメントを含む、ピーク11及び12を示す。この図は、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8を示している。
図10】ペプチドG3~4及び脱アミド化フラグメントを含む低pHでのGlu-Cによるペプチドマップのクロマトグラム(78.5~82.5分)を示す図である。この結果は、27位のN結合型グリコシル化の合計の比率(部位占有率)を示す。この図はBDSにおけるCuSO バッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8を示している。
図11】グリコシル化G1ペプチド、非グリコシル化Ala 3、及び非グリコシル化Ala 1ペプチドフラグメントを含む、a-マンノシダーゼを使用しないGlu Cによるペプチドマップのクロマトグラムを示す図である。全O結合型グリコシル化鎖のサイズ(部位占有率)を、百分率で表した、未修飾物のピークの面積に対するO結合型グリコフォームのピークの総面積の比率によって測定した。この図はBDSにおけるCuSO バッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8を示している。
図12】G9及び酸化フラグメントを含む、中性pHでのGlu Cによるペプチドマップのクロマトグラムを示す図である。メチオニン79における酸化を質量分析によって測定した。この図はBDSにおけるCuSO バッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8を示している。
図13】励起=295nmにおける、ブランクを差し引いた305nm~405nmの発光蛍光スペクトルを示す。このスペクトルのグラフは、10~90℃で測定した場合のタンパク質構造の熱安定性の同等性を示している。この図はBDSにおけるCuSO バッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8のグラフを示している。曲線は、図13の上部で始まり、約10℃~18℃から(紫色の曲線)約20℃~32℃まで(青色の曲線)、約34℃~46℃まで(緑色の曲線)、約48℃~52℃まで(黄色の曲線)、約54℃~58℃(橙色の曲線)、約60℃~80℃まで(赤色の曲線)、約82℃~90℃まで(茶色の曲線)で、図13の下部で終了する測定を示す。
図14】溶液中でのタンパク質構造のロット間の同等性を示すために、305~405nmの発光スペクトルのスペクトル質量中心を示す。この図はBDSにおけるCuSO バッチ(CuSO PV)ならびに商用BDSバッチ6~8のグラフを示している。
図15】円二色性(CD)スペクトルの比較(5~10℃及び90℃)のグラフを示す。CD走査及び熱によるアンフォールディングデータ(T及びT開始)により、試験した4つのBDS(CuSO PV及び商用BDS 6~8)ロットのすべての間で同等性が示される。赤色の線は90℃での吸収を示し、青色の線は10℃での吸収を示す。
図16】12~19KDaのインタクトまたは完全MALDI-MS質量スペクトル分析を示す。これらのグラフは、試験した4つのBDS(CuSO PV及び商用BDS 6~8)ロットのすべてについて観測されたスペクトル質量を示している。すべてのMALDI-MS画像化を、the Fred Hutchinson Cancer Research Center Proteomic Facilityにおいて、Applied Biosystemsの4800 MALDI-TOF/TOFで実施した。試料をシナピン酸で10倍希釈し、MALDIプレート上にスポッティングし、2~19KDaの試料当り15分間MSを取得した。
図17】14~19KDaのサルグラモスチムのMALDI-MS質量スペクトル分析を示す。これらのグラフは、試験した4つのBDS(CuSO PV及び商用BDS 6~8)ロットのすべてについて観測されたスペクトル質量を示している。
図18】16~19KDaのサルグラモスチムのMALDI-MS質量スペクトル分析を示す。これらのグラフは、試験した4つのBDS(CuSO PV及び商用BDS 6~8)ロットのすべてについて観測されたスペクトル質量を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、部分的には、製造中に単一の微量栄養素である銅(Cu)を外因的に添加することにより、組換えヒトGM-CSF(rhu GM-CSF)の収量が増加するという発見に基づいている。さらに、本発明は、この製造効率の向上が、製造されるrhu GM-CSFの品質に影響を及ぼさなかったという発見に基づいている。
【0023】
本発明は、いくつかの実施形態において、rhu GM-CSFなどの生理活性物質の製造の改善方法であって、培養された動物細胞(酵母細胞など)または細胞株(CHO細胞など)による上記生理活性物質の産生に使用するための培地に外因性銅を添加することによる、上記方法を提供する。
【0024】
製造方法
本明細書で提供される実施形態において、一貫性があり且つ効率的な、rhu GM-CSFなどの組換え糖タンパク質の生産の達成方法であって、目的の上記組換え糖タンパク質を産生する宿主細胞を含む細胞培養物中の銅の濃度を、目標濃度範囲に達するように増加させることを含む、上記方法が提供される。
【0025】
本明細書で提供される実施形態において、組換えrhu GM-CSFの産生のための細胞培養培地の改善方法であって、(i)細胞培養培地または細胞培養培地を製造するために使用される成分中の銅の量を測定することと、(ii)所定の目標範囲内の銅の量に達するように、上記細胞培養培地中の銅の濃度を調節することとを含み、但し、上記目標範囲は、向上した一貫性及び収量で目的の上記組換え糖タンパク質を産生するのに十分な範囲である、上記方法が提供される。
【0026】
本明細書で提供される実施形態において、rhu GM-CSFなどの生理活性組換え糖タンパク質の産生の改善方法であって、(i)酵母の細胞培養物中の銅の量を測定することと、(ii)上記銅の量が目標範囲を下回っている場合には、上記目標範囲内の銅の量に達するように、上記酵母細胞培養物に銅を添加することとを含む、上記方法が提供される。
【0027】
いくつかの態様において、組換えヒトGM-CSFを含む組成物を産生する組換え体の製造方法であって、(a)配列番号1もしくは配列番号2との、少なくとも約90%、少なくとも約93%、少なくとも約95%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、または少なくとも約99%の同一性を有するアミノ酸配列を含む組換えヒトGM-CSFをコードする核酸でトランスフェクトされた酵母細胞、あるいはその抽出物を得ることと、(b)1つ以上のHPLCカラムを使用し、有機溶媒の非存在下で、上記トランスフェクトされた酵母細胞から上記GM-CSFを精製することと、(c)精製されたGM-CSFを回収することとを含み、上記精製されたGM-CSFが、過剰にグリコシル化された、例えば、過剰にマンノシル化されたGM-CSF形態を実質的に含まない、上記製造方法が提供される。
【0028】
いくつかの実施形態において、上記酵母はS.cerevisiaeである。
【0029】
いくつかの実施形態において、本方法は、注射、例えば皮下注射または静脈内注射用の精製GM-CSFを製剤化することをさらに含む。
【0030】
培地
いくつかの実施形態において、本発明の培地は、動物細胞(酵母細胞など)または細胞株(CHO細胞など)の生存及び増殖を維持することができる限り、特に限定されない。例としては、動物細胞が同化することができる炭素源、動物細胞によって消化され得る窒素源、ビタミン及び/またはミネラル元素を含む培地が挙げられる。いくつかの実施形態において、上記培地はBacto-Peptone及び/または酵母エキスを含む。
【0031】
いくつかの実施形態において、本発明のミネラル元素は多量元素と微量元素を含む。かかる多量元素としては、炭素、水素、酸素、窒素が挙げられる。微量元素の例としては、銅、鉄、亜鉛、マンガン、モリブデン、コバルト、ホウ素などが挙げられる。
【0032】
いくつかの実施形態において、上記培地には銅などの追加の外因性微量ミネラル元素が添加される。本発明におけるような上記細胞培養液への添加により、製造効率及び生産性を制御することができる。
【0033】
理論に拘束されることを望むものではないが、増殖速度及び生存率に影響を与える可能性がある酵母の栄養要件(Due C et al.,PLOS One,12(9):1-22;Broach JR Genetics.192(1)73-105,2012;Gadd GM,FEMS Microbial Lett.79:197-203,1992)。
【0034】

いくつかの実施形態において、銅は硫酸銅すなわち硫酸第二銅の形態で上記細胞培養培地に添加されてもよい。銅は、特定の培地に応じて、約0.5μM~約100μM(任意選択で約0.5μM~約80μMである、または任意選択で約1μM~約20μMである)の量で上記細胞培養培地に添加される。
【0035】
いくつかの実施形態において、銅は、硫酸銅(第二銅)または酸化銅または塩化銅またはヨウ化銅または硫化銅または銅アセチリドまたは臭化銅またはフッ化銅または水酸化銅または水素化銅または硝酸銅またはリン化銅または酢酸銅または炭酸銅または塩素酸銅、またはリン酸銅の形態で細胞培養物に添加されてもよい。
【0036】
したがって、いくつかの実施形態において、この情報は、当業者に上記銅塩の許容される変化形に関して情報提供することができる。
【0037】
発酵
いくつかの実施形態において、本発明は、タンパク質産物を産生するための発酵を含む方法を提供する。
【0038】
さまざまな実施形態において、上記組換えタンパク質、例えば、遺伝子操作によるrhu GM-CSFの製造は、一連の10または最大10の異なる単位操作から構成されてもよい。いくつかの実施形態において、上記組換えタンパク質(例えば、サルグラモスチム)の製造発酵プロセスは、rhu GM-CSFを生成させ、採取及び回収する。上流の製造プロセス中では、部分的に精製された発酵槽培養液中に、過剰にグリコシル化されたイソ型、N-及びN-+O-グリコシル化イソ型、O-グリコシル化イソ型、及び非グリコシル化(約15kDa、ピーク4)種を含む4種の主要なGM-CSF種が存在する。
【0039】
さまざまな実施形態において、上記発酵プロセスは、1.5Lフラスコ振とう、15L種発酵、及び100L生産発酵の3段階を有する。1.5Lフラスコ振とうテップは、ワーキングセルバンクバイアルの予備酵母培養物を、15L種発酵プロセスに植え付けるのに十分な量及び密度まで増殖させることができるプロセスである。15L種発酵は、100L生産発酵に植え付けるのに十分な量及び密度まで上記培養物をさらに増殖させることができるプロセスである。100L生産発酵は、バイオマスを増大させ、上記組換えタンパク質、例えばrhu GM-CSFの発現及び分泌を促進することができ、次いで回収及び精製する流加回分プロセスである。いくつかの実施形態において、100L生産発酵プロセスの最後に、発酵培養物を一つにまとめ、精密ろ過及び限外ろ過による回収を行う。
【0040】
単離
いくつかの実施形態において、本発明は、タンパク質産物を得るための単離方法を含む方法を提供する。いくつかの実施形態において、組換えタンパク質、例えば、遺伝子操作によるrhu GM-CSFは、溶解度、サイズ、電荷、及び特異的結合親和性などの特性に基づき、ゲルろ過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、もしくは高速液体クロマトグラフィーによって単離または精製される。
【0041】
いくつかの実施形態において、上記組換えタンパク質、例えば遺伝子操作によるrhu GM-CSFの精製または単離は、3回の逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)操作、1回の低圧カチオン交換クロマトグラフィー操作、及び最終的なろ過操作から構成される下流処理において行われる。いくつかの実施形態において、上記精製または単離ステップは、C4捕捉プロセス、C4精製プロセス、及びC18精製プロセスを備えていてもよい。
【0042】
GM-CSFの組成
一実施形態において、外因性銅の添加という本発明を使用して製造される上記遺伝子操作によるrhu GM-CSFは、サルグラモスチム(LEUKINE)などの組換えヒトGM-CSF(rhu GM-CSF)と同一である。サルグラモスチムは、23位にアルギニンに代えてロイシンを有する点で内因性ヒトGM-CSFとは異なる、単一の127アミノ酸糖タンパク質を有する、生合成による、酵母由来の、組換えヒトGM-CSFである。天然のヒトGM-CSFの生物学的活性を有する他の天然及び合成のGM-CSF、及びそれらの誘導体も、本発明の実施において同様に有用な場合がある。
【0043】
理論に拘束されることを望むものではないが、生合成GM-CSFのグリコシル化度は、半減期、分布、及び排泄に影響を与えるように思われる(Lieschke and Burgess,N.Engl.J.Med.327:28-35,1992;Dorr,R.T.,Clin.Ther 15:19- 29,1993;Horgaard et al.,Eur.J.Hematol.50:32-36,1993)。
【0044】
一実施形態において、配列番号1または配列番号2との少なくとも約90%、または少なくとも約91%、または少なくとも約92%、または少なくとも約93%、または少なくとも約94%、または少なくとも約95%、または少なくとも約96%、または少なくとも約97%、または少なくとも約98%、または少なくとも約99%の同一性、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む組換えヒトGM-CSFが提供される。
【0045】
いくつかの実施形態において、上記GM-CSFは、モルグラモスチム、サルグラモスチム、及びレグラモスチムの1種である。
【0046】
理論に拘束されることを望むものではないが、hGM-CSFのコアは、角度を付けて充填されている4つのヘリックスから構成される。組換えヒトGM-CSFの結晶構造及び変異原性の分析(Rozwarski D A et al.,Proteins 26:304-13,1996)により、上記タンパク質のコア中の無極性側鎖に加えて、10個の埋没した水素結合残基が、他の側鎖原子に水素結合している残基よりもよく保存されている主鎖原子との分子内水素結合に関与していることが明らかになっており;非対称ユニット中の2つの分子の同等の位置に24の溶媒和部位が観測され、それらの中で最も強力な溶媒和部位は、二次構造要素間の裂け目に位置していた。疎水性側鎖の2つの表面クラスターは、予想される受容体結合領域の近傍に位置している。
【0047】
さらに、いくつかの実施形態において、当業者であれば、変異体のアイデンティティーの情報を伝える構造情報について、UniProtKBエントリP04141を参照することができよう。
【0048】
hGM-CSFのN末端ヘリックスは、その受容体への高親和性結合を支配する(Shanafelt A B et al.,EMBO J 10:4105-12,1991)。GM-CSFの生物学的効果の形質導入には、少なくとも2種の細胞表面受容体成分(そのうちの1種はサイトカインIL-5と共有される)との相互作用が必要である。上記の研究では、一連のヒト-マウスハイブリッドGM-CSFサイトカイン上の固有の受容体結合ドメインの位置を決定することにより、GM-CSF中の受容体結合決定基が特定された。GM-CSFとその高親和性受容体複合体の共有サブユニットとの相互作用は、ペプチド鎖のごく一部によって支配されていた。GM-CSFのN末端αヘリックスに少数の重要な残基が存在するだけで、上記相互作用に特異性を与えるのに十分であった。
【0049】
いくつかの実施形態において、本発明の実施で使用される上記遺伝子操作によるGM-CSFとしては、任意の薬学的に安全で且つ有効なGM-CSF、またはGM-CSFの生物学的活性を有するその任意の誘導体が挙げられる。
【0050】
いくつかの実施形態において、本rhu GM-CSF分子は、サルグラモスチムに類似する複数の分子形態を含む。いくつかの実施形態において、上記分子形態は、非グリコシル化形態、O-グリコシル化形態、N-グリコシル化形態、及びN+Oグリコシル化形態から選択される。さらに、いくつかの実施形態において、上記組換えヒトGM-CSFは、過剰にグリコシル化された、例えば過剰にマンノシル化された形態を実質的に含まない。
【0051】
いくつかの実施形態において、本rhu GM-CSF分子は、2種以上の種(例えばグリコフォーム)を含む。いくつかの実施形態において、上記種のいずれの分子量も約20kDaを超えない。
【0052】
組換えGM-CSFの機能的特性
いくつかの実施形態において、外因性銅を添加して製造された本組換えヒト(rhu)GM-CSF分子は、野生型ヒトGM-CSF及び/または外因性銅を添加せずに製造されたサルグラモスチムと機能的に類似している(例えば、1つ以上の機能パラメータの差異が、約50%以下、もしくは約40%以下、もしくは約30%以下、もしくは約20%以下、もしくは約10%以下、もしくは約5%以下、またはアッセイを行った機能パラメータの差異が、約1/5以下、もしくは約1/4以下、もしくは約1/3倍以下、もしくは約1/2以下)。いくつかの実施形態において、GM-CSFの上記機能パラメータは、当技術分野で公知のアッセイ、例えば、限定はされないが、TF-1細胞株、初代骨髄細胞などの細胞を使用する増殖アッセイ、iLite(商標)GM-CSF(GM-CSFプロモーターの制御下にあるルシフェラーゼ)などの生化学的アッセイ、細胞生存アッセイ、例えば骨髄細胞生存アッセイ、細胞分化アッセイ、及び共培養実験によって検出することができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、外因性銅の添加を伴って製造される本rhu GM-CSF分子は、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GM-CSF-R-アルファまたはCSF2R)に結合する及び/または該受容体を活性化することができる。いくつかの実施形態において、外因性銅の添加を伴って製造される本rhu GM-CSF分子は、野生型ヒトGM-CSF及び/または外因性銅を添加せずに製造されたサルグラモスチムと同等である親和性、有効性、及びまたは生物活性(例えば、1つ以上の機能パラメータの差異が、約50%以下、もしくは約40%以下、もしくは約30%以下、もしくは約20%以下、もしくは約10%以下、もしくは約5%以下、または約1/5以下、もしくは約1/4以下、もしくは約1/3倍以下、もしくは約1/2以下)で、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子受容体(GM-CSF-R-アルファまたはCSF2R)に結合するならびに/または該受容体を活性化することができる。GM-CSFによる結合及び活性化のアッセイは当技術分野において公知である。かかるアッセイの非限定的な例としては、例えば、放射性リガンドアッセイまたは非放射性リガンドアッセイ(例えば、免疫沈降(IP)、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ウェスタンブロット、蛍光偏光(FP)、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、表面プラズモン共鳴(SPR)、及び放射免疫アッセイ(RIA)が挙げられる。結合速度論はBiacore分析などの当技術分野で公知の標準的なアッセイによって評価することもできる。全細胞リガンド結合アッセイ、及び可溶性GM-CSF受容体アルファ(sGMRa)を使用する無細胞アッセイシステムを使用してもよい。使用することができる他の種類のアッセイとしては、受容体結合アッセイ、または飽和結合アッセイ、または放射性ヨウ素化GM-CSFを使用する競争結合アッセイ、ならびに細胞増殖アッセイが挙げられる。
【0054】
いくつかの実施形態において、本rhu GM-CSF分子は、1種以上の細胞ベースの活性バイオアッセイを使用して、例えば、例としてTF-1、M-07e、HU-3、M-MOK、MB-02、GM/SO、F-36P、GF-D8、ELF-153、AML-193、MUTZ-3、OCI-AML5、OCI-AML6、OCI-AML1、SKNO-1、UCSD-AML1、及びUT-7を使用する、GM-CSF依存性ヒト細胞株増殖アッセイを使用して、アッセイすることができる。
【0055】
いくつかの実施形態において、本rhu GM-CSF分子の効力は、GM-CSFに応答して増殖するヒト赤白血病細胞株であるTF-1細胞を用いたバイオアッセイを使用して測定される。このアッセイの詳細は当技術分野で公知である。例えば、参照標準試料、対照、及び試験試料を、n=3でアッセイ培地で段階希釈し、3つの別個の96ウェルプレートに添加する。次いで、懸濁液中のTF-1細胞を添加し、この混合物を37℃で69.5~72時間インキュベートする。蛍光色素(例えばALAMARBLUE)を添加した後、プレートを37℃で6.6~8時間インキュベートする。次に、TF-1細胞の増殖を蛍光マイクロプレートリーダーで測定する。
【0056】
いくつかの実施形態において、結合及び/または活性化を起こすGM-CSF-R-アルファは細胞の表面上に発現される。いくつかの実施形態において、上記細胞は造血前駆細胞である。いくつかの実施形態において、上記造血前駆細胞は免疫細胞である。いくつかの実施形態において、上記造血前駆細胞は放射線照射される。
【0057】
いくつかの実施形態において、存在する置換及び/または欠失を有する本rhu GM-CSF分子の免疫原性は、野生型ヒトGM-CSF及び/またはサルグラモスチムと同等である(例えば、1つ以上の機能パラメータの差異が、約50%以下、もしくは約40%以下、もしくは約30%以下、もしくは約20%以下、もしくは約10%以下、もしくは約5%以下、または約1/5以下、もしくは約1/4以下、もしくは約1/3倍以下、もしくは約1/2以下)。いくつかの実施形態において、免疫原性は当技術分野で公知の方法を使用してアッセイされる。非限定的な例としては、例えば、直接ELISAまたは間接ELISAまたはブリッジングELISA、電気化学発光、ビーズベースの化学発光アッセイ、放射性免疫沈降アッセイ、表面プラズマ共鳴、及びバイオレイヤー干渉法、ならびに細胞ベースのルシフェラーゼレポーター遺伝子中和抗体アッセイなどのスクリーニングアッセイによって評価される、1種以上の抗GM-CSF結合抗体の検出が挙げられる。
【0058】
いくつかの実施形態において、細胞組換えヒトGM-CSFは可溶性である。
【0059】
核酸及び宿主細胞
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組換えヒトGM-CSFをコードする核酸分子が提供される。いくつかの実施形態において、上記核酸分子はコドン最適化配列を有する。
【0060】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の核酸分子を発現する非ヒト宿主細胞が提供される。いくつかの実施形態において、上記宿主細胞は酵母細胞である。
【0061】
いくつかの実施形態において、上記酵母細胞は非メチロトローフ酵母細胞である。いくつかの実施形態において、上記宿主細胞はSaccharomyces cerevisiae細胞である。
【0062】
いくつかの実施形態において、上記宿主細胞は哺乳動物細胞である。いくつかの実施形態において、上記宿主細胞は、CHO(チャイニーズハムスター卵巣)細胞、NSO(マウス骨髄腫)細胞、BHK(ベビーハムスター腎臓)細胞、Sp2/0(マウス骨髄腫)細胞、ヒト網膜細胞、HUVEC細胞、HMVEC細胞、COS-1細胞、COS-7細胞、HeLa細胞、HepG-2細胞、HL-60細胞、IM-9細胞、Jurkat細胞、MCF-7細胞、またはT98G細胞等である。
【0063】
医薬組成物及び製剤
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組換えヒトGM-CSF及び薬学的に許容される賦形剤または担体を含む医薬組成物が提供される。
【0064】
本明細書に記載のいずれかの医薬組成物は、薬学的に許容される担体またはビヒクルを含む組成物の成分として対象に投与することができる。かかる組成物は、適当な投与のための形態を提供するように、任意選択で好適な量の薬学的に許容される賦形剤を含んでいてもよい。
【0065】
さまざまな実施形態において、医薬賦形剤は、水及び、石油起源、動物起源、植物起源、または合成起源の油、例えば、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む油などの液体であってもよい。上記医薬賦形剤は、例えば、生理食塩水、アラビアガム、ゼラチン、デンプンペースト、タルク、ケラチン、コロイド状シリカ、尿素などであってもよい。加えて、補助剤、安定剤、増粘剤、滑沢剤、及び着色剤を使用してもよい。一実施形態において、上記薬学的に許容される賦形剤は、対象に投与される際には無菌である。水は、本明細書に記載のいずれかの薬剤を静脈内投与する際の有用な賦形剤である。生理食塩水ならびにデキストロース及びグリセロールの水溶液も、特に注射用溶液の液体賦形剤として使用することができる。好適な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、エタノールなども挙げられる。本明細書に記載のいずれかの薬剤は、必要に応じて、少量の湿潤剤、乳化剤、またはpH緩衝剤を含んでいてもよい。好適な医薬賦形剤の他の例は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 1447-1676 (Alfonso R.Gennaro eds.,19th ed.1995)に記載されており、該成書は本明細書に援用される。
【0066】
本発明は、いくつかの実施形態において、さまざまな製剤の形態での、本明細書に記載の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)を含む。本明細書に記載のいずれかの本発明の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)は、溶液剤、懸濁液剤、乳液剤、ドロップ剤、錠剤、丸剤、ペレット剤、カプセル剤、液体を含むカプセル剤、ゼラチンカプセル剤、散剤、徐放性製剤、座剤、乳液剤、エアゾール、噴霧剤、懸濁液剤、凍結乾燥粉末、凍結懸濁液剤、乾燥粉末、または使用に適した任意のその他の形態をとっていてもよい。一実施形態において、上記組成物はカプセル剤の形態である。別の実施形態において、上記組成物は錠剤の形態である。さらに別の実施形態において、上記医薬組成物は軟質ゲルカプセル剤の形態に製剤化される。さらなる実施形態において、上記医薬組成物はゼラチンカプセルの形態に製剤化される。さらに別の実施形態において、上記医薬組成物は液剤として製剤化される。
【0067】
必要に応じて、本発明の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)は、可溶化剤を含んでいてもよい。また、上記薬剤は、当技術分野で公知の好適なビヒクルまたは送達デバイスを用いて送達されてもよい。本明細書に概説される併用療法剤は、単一の送達ビヒクルまたは送達デバイスで同時送達されてもよい。
【0068】
本発明の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)を含む製剤は、いくつかの実施形態において、利便性のよい単位剤形の形態で提供されてもよく、製薬の分野で周知の任意の方法によって製剤することができる。かかる方法は、概括的には、当該治療薬を担体と混合するステップを含み、該担体は1種以上の補助成分を構成する。一般的には、上記製剤は、上記治療薬を液体担体、微粉化固体担体、またはその両方と均一且つ緊密に混合し、次いで、必要に応じてその生成物を所望の製剤の剤形に賦形することによって製剤される(例えば、湿式または乾式造粒、粉末配合など、次いで当該技術分野で公知の従来の方法を使用した錠剤化)。
【0069】
さまざまな実施形態において、本明細書に記載のいずれかの医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)は、本明細書に記載の投与様式に適合した組成物として、慣用的な手順に従って製剤化される。
【0070】
投与経路としては、例えば、経口投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、舌下投与、鼻腔内投与、脳内投与、膣内投与、経皮投与、経直腸投与、吸入による投与、または局所投与が挙げられる。投与は局所的または全身的であってよい。いくつかの実施形態において、前記投与は経口投与によって行われる。別の実施形態において、前記投与は非経口的な注射による。投与様式は医師の裁量に委ねられており、一部は疾病部位に依存する。ほとんどの場合、投与により、本明細書に記載のいずれかの薬剤が血流中に放出される。
【0071】
特定の実施形態において、上記GM-CSF(及び/またはさらなる治療薬)は静脈内経路を介して投与される。
【0072】
一実施形態において、本明細書に記載の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)は、経口投与に適した組成物として、慣用的な手順に従って製剤化される。経口送達用の組成物は、例えば、錠剤、ロゼンジ剤、水性もしくは油性懸濁液剤、顆粒剤、散剤、乳液剤、カプセル剤、シロップ剤、またはエリキシル剤の形態であってもよい。経口投与される組成物は、薬学的な意味で口当たりのよい製剤を提供するための、1種以上の添加剤、例えばフルクトース、アスパルテーム、またはサッカリンなどの甘味料;ペパーミント、ウィンターグリーン油、またはチェリーなどの香味料;着色料;及び防腐剤を含んでいてもよい。さらに、錠剤または丸剤の形態の場合には、上記組成物をコーティングして、消化管中での崩壊及び吸収を遅延させ、それによって長期にわたる持続的な作用を提供してもよい。本明細書に記載のいずれかの医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)を駆動する浸透圧活性剤を取り囲む選択的透過性膜も、経口投与組成物に適している。これらの後者のプラットフォームでは、カプセルの周囲の環境からの流体が駆動化合物によって吸収され、該駆動化合物が膨潤し、薬剤または薬剤組成物を開口を通して排出させる。これらの送達プラットフォームは、即時放出製剤の急上昇するプロファイルとは対照的に、本質的にゼロ次の送達プロファイルを提供することができる。モノステアリン酸グリセロールやステアリン酸グリセロールなどの時間遅延物質も有用な場合がある。経口用組成物は、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、及び炭酸マグネシウムなどの標準的な賦形剤を含んでいてもよい。一実施形態において、上記賦形剤は医薬グレードの賦形剤である。懸濁液剤は、上記活性化合物に加えて、例えば、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルビトール、及びソルビタンエステル、微結晶セルロース、アルミニウムメタヒドロオキシド、ベントナイト、寒天、トラガカントなど、及びそれらの混合物などの懸濁剤を含有してもよい。
【0073】
非経口投与(例えば、静脈内、筋肉内、腹腔内、皮下、及び関節内注射ならびに注入)に好適な剤形としては、例えば、溶液剤、懸濁液剤、分散液剤、乳液剤などが挙げられる。これらは、滅菌固体組成物(例えば凍結乾燥組成物)の形態で製造されてもよく、該組成物は使用直前に滅菌注射用媒体中に溶解または懸濁させることができる。上記組成物は、例えば、当技術分野で公知の懸濁剤または分散剤を含んでいてもよい。非経口投与に好適な製剤成分としては、注射用水、生理食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒などの滅菌希釈剤;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;EDTAなどのキレート剤;酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩などの緩衝剤;及び塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの張度の調節のための添加剤が挙げられる。
【0074】
静脈内投与の場合、好適な担体としては、生理食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)、またはリン酸緩衝食塩水(PBS)が挙げられる。上記担体は製造及び保管条件下で安定である必要があり、且つ微生物に対して腐敗しないように保存する必要がある。上記担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液体ポリエチレングリコール)、及びそれらの好適な混合物を含む溶媒または分散媒であってよい。
【0075】
本明細書に記載のいずれかの本発明の医薬組成物(及び/またはさらなる治療薬)は、制御放出手段もしくは徐放手段によって、または当業者に周知の送達デバイスによって投与することができる。例としては、米国特許第3,845,770号、第3,916,899号、第3,536,809号、第3,598,123号、第4,008,719号、第5,674,533号、第5,059,595号、第5,591,767号、第5,120,548号、第5,073,543号、第5,639,476号、第5,354,556号、及び第5,733,556号に記載されるものが挙げられるが、これらに限定はされず、上記特許文献のそれぞれは、その全体が本明細書に援用される。例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、他のポリマーマトリックス、ゲル、透過膜、浸透圧系、多層コーティング、微粒子、リポソーム、マイクロスフェア、またはそれらの組み合わせを使用したかかる剤形は、1種以上の活性成分の制御放出または徐放を提供し、さまざまな割合での望ましい放出プロファイルを提供するのに有用である可能性がある。本明細書に記載のものを含む、当業者に公知の好適な制御放出製剤または徐放製剤は、本明細書に記載の薬剤の活性成分と共に使用するために、容易に選択することができる。したがって、本発明は、いくつかの実施形態において、制御放出または徐放に適合した、錠剤、カプセル剤、ゲルキャップ剤、及びカプレット剤などの、但しこれらに限定されない、経口投与に好適な単一の単位剤形を提供する。
【0076】
有効成分の制御放出または徐放は、pHの変化、温度の変化、適当な波長の光による刺激、酵素の濃度または可用性、水の濃度または可用性、または他の生理学的条件もしくは化合物を含む、但しこれらに限定されないさまざまな条件によって刺激することができる。
【0077】
別の実施形態において、制御放出システムを治療を行う標的領域に近接して配置することができ、したがって全身用量のほんの何分の一しか必要としない(例えば、Goodson,Medical Applications of Controlled Release,supra,vol.2,pp.115-138 (1984)を参照のこと)。Langer,1990,Science 249:1527-1533による総説において論じられている他の制御放出システムを使用してもよい。
【0078】
医薬製剤は無菌であることが好ましい。滅菌は、例えば、滅菌ろ過膜を通したろ過によって実現することができる。上記組成物が凍結乾燥される場合、フィルター滅菌は、凍結乾燥及び再構成の前または後に行うことができる。
【0079】
薬学的に許容される塩及び賦形剤
本明細書に記載の組成物は、無機酸もしくは有機酸と反応して、薬学的に許容される塩を形成することができる十分に塩基性の官能基、または無機塩基もしくは有機塩基と反応して、薬学的に許容される塩を形成することができるカルボキシル基を有していてもよい。薬学的に許容される酸付加塩は、当技術分野で周知のように、薬学的に許容される酸から形成される。かかる塩としては、例えば、Journal of Pharmaceutical Science,66,2-19 (1977)及びThe Handbook of Pharmaceutical Salts;Properties,Selection,and Use.P.H.Stahl and C.G.Wermuth (eds.),Verlag,Zurich (Switzerland) 2002に列挙される薬学的に許容される塩が挙げられ、上記文献はそれらの全体が本明細書に援用される。
【0080】
薬学的に許容される塩としては、非限定的な例として、硫酸塩、クエン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硝酸塩、硫酸水素塩、リン酸塩、酸性リン酸塩、イソニコチン酸塩、乳酸塩、サリチル酸塩、酸性クエン酸塩、酒石酸塩、オレイン酸塩、タンニン酸塩、パントテン酸塩、酒石酸水素塩、アスコルビン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、ゲンチシン酸塩、フマル酸塩、グルコン酸塩、グルカロン酸塩、糖酸塩、ギ酸塩、安息香酸塩、グルタミン酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、パモ酸塩、フェニル酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、アクリル酸塩、クロロ安息香酸塩、ジニトロ安息香酸塩、ヒドロキシ安息香酸塩、メトキシ安息香酸塩、メチル安息香酸塩、o-アセトキシ安息香酸塩、ナフタレン-2-安息香酸塩、イソ酪酸塩、フェニル酪酸塩、α-ヒドロキシ酪酸塩、ブチン-1,4-ジカルボン酸塩、ヘキシン-1,4-ジカルボン酸塩、カプリン酸塩、カプリル酸塩、桂皮酸塩、グリコール酸塩、ヘプタン酸塩、馬尿酸塩、リンゴ酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、ニコチン酸塩、フタル酸塩、テラフタ酸塩、プロピオル酸塩、プロピオン酸塩、フェニルプロピオン酸塩、セバシン酸塩、スベリン酸塩、p-ブロモベンゼンスルホン酸塩、クロロベンゼンスルホン酸塩、エチルスルホン酸塩、2-ヒドロキシエチルスルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、ナフタレン-1-スルホン酸塩、ナフタレン-2-スルホン酸塩、ナフタレン-1,5-ジスルホン酸塩、キシレンスルホン酸塩、及びtartarate saltが挙げられる。
【0081】
用語「薬学的に許容される塩」とは、カルボン酸官能基などの酸性官能基と塩基とを有する本発明の組成物の塩も指す。好適な塩基としては、ナトリウム、カリウム、及びリチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;アルミニウム及び亜鉛などの他の金属の水酸化物;アンモニア、ならびに非置換もしくはヒドロキシ置換モノ、ジ、またはトリアルキルアミン、ジシクロヘキシルアミン;トリブチルアミン;ピリジン;N-メチル-N-エチルアミン;ジエチルアミン;トリエチルアミン;モノ-、ビス-、またはトリス-(2-OH-低級アルキルアミン)、例えばモノ-;ビス-、またはトリス-(2-ヒドロキシエチル)アミン、2-ヒドロキシ-tert-ブチルアミン、またはトリス-(ヒドロキシメチル)メチルアミンなど、N,N-ジ-低級アルキル-N-(ヒドロキシル-低級アルキル)-アミン、例えばN,N-ジメチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アミンまたはトリ-(2-ヒドロキシエチル)アミンなど;N-メチル-D-グルカミン;及びアルギニン、リシン等のアミノ酸が挙げられるが、これらに限定はされない。
【0082】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載の組成物は薬学的に許容される塩の形態である。
【0083】
使用方法
一態様において、がん治療を受けているもしくは受けたことがある、または骨髄移植を受けているもしくは受けたことがある、及び/または骨髄抑制線量の放射線に急性被曝したことがあった患者あるいは対象の治療方法であって、治療有効量の本組換えヒトGM-CSFタンパク質またはその医薬組成物を上記患者に投与することを含む、上記治療方法が提供される。いくつかの実施形態において、上記患者は、造血前駆細胞のクローン増殖、生存、分化、及び活性化の状態を調節することによる治療を受ける。いくつかの実施形態において、上記患者は、巨核球前駆細胞及び赤血球前駆細胞の増殖を促進することによって、骨髄単球細胞系譜を調節することによる治療を受ける。いくつかの実施形態において、上記患者は、好中球、マクロファージ、及び/または樹状細胞の生存、増殖、ならびに活性化を刺激することによって、造血前駆細胞を調節することによる治療を受ける。いくつかの実施形態において、上記患者は、好中球、マクロファージ、及び/または樹状細胞の生存、増殖、ならびに活性化を刺激することによって、造血前駆細胞を調節することによる治療を骨髄移植後に受ける。
【0084】
一態様において、治療方法であって、治療有効量の本組換えヒトGM-CSFタンパク質もしくはその医薬組成物を患者に投与すること、または細胞を有効量の、本明細書に記載の医薬組成物と接触させ、且つ治療有効量の上記細胞を投与することを含み、上記治療が、化学療法の導入後に、好中球の回復を促進して感染症の発生率を低減する;白血球除去及び移植により、造血前駆細胞を末梢血中に集結させる;自家もしくは同種の骨髄または末梢血前駆細胞の移植後に、骨髄再構成を促進する;自家もしくは同種の骨髄移植後に、好中球の回復の遅延または移植片不全を治療する;ならびに/または急性放射線症候群の造血症候群(H-ARS)を治療する、上記治療方法が提供される。
【0085】
一態様において、ウイルスによる感染症の治療方法であって、それを必要とする患者に、有効量の、本組換えヒトGM-CSFタンパク質を含む組成物、または上記タンパク質を含む医薬組成物を含む組成物を投与することを含む、上記治療方法が提供される。
【0086】
いくつかの実施形態において、上記ウイルス感染症はインフルエンザ感染症(任意選択で、A型、B型、C型、及びD型インフルエンザウイルス感染症から選択される)である。
【0087】
いくつかの実施形態において、上記ウイルス感染症はコロナウイルス感染症である。いくつかの実施形態において、上記コロナウイルスはベータコロナウイルス(任意選択で、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-HKU1、及びHCoV-OC43から選択される)である。いくつかの実施形態において、上記コロナウイルスはアルファコロナウイルス(任意選択でHCoV-NL63及びHCoV-229Eから選択される)である。
【0088】
上記コロナウイルスは、比較的最近人間に侵入することが知られるようになった、ベータコロナウイルス及びアルファコロナウイルス呼吸器病原体を含むCoronaviridaeファミリーのメンバーである。上記Coronaviridaeファミリーは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)、SARS-CoV、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)、HCoV-HKU1、及びHCoV-OC43を含む。アルファコロナウイルスは、例えば、HCoV-NL63及びHCoV-229Eを含む。
【0089】
コロナウイルスは、宿主細胞中へのウイルスの侵入を容易にする、哺乳動物宿主上の膜貫通受容体であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)のウイルス認識を担う「スパイク」表面糖タンパク質を介して細胞に侵入する。Zhou et al.,A pneumonia outbreak associated with a new coronavirus of probable bat origin.Nature 2020。によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症2019(COVID-19)
【0090】
SARS-CoV-2はコウモリに由来すると考えられている新しいウイルスである。COVID-19は重度の呼吸困難を引き起こし、このRNAウイルス株が、公衆衛生に対する大きな脅威及び世界的な緊急事態であると宣言されている最近の流行の原因となっている。SARS-CoV-2の全ゲノムの系統解析により、このウイルスがSARS様コロナウイルスの群(Betacoronavirus属、Sarbecovirus亜属)と最も近縁であることが明らかになった(ヌクレオチド類似性89.1%)。Wu et al.,A new coronavirus associated with human respiratory disease in China.Nature,Feb 3,2020。
【0091】
上記SARS-CoV-2は、Sタンパク質としても知られ、細胞表面受容体への結合を媒介する表面糖タンパク質である「スパイク」タンパク質;内在性膜タンパク質;エンベロープタンパク質;及びヌクレオカプシドタンパク質をコードする、エンベロープをもつ一本鎖RNAウイルスである。S1サブユニット及びS2サブユニットを含むSタンパク質は、構造変化を生じてウイルス膜と宿主細胞膜を融合する融合前の立体構造中に存在する三量体のクラスI融合タンパク質である。例えば、Li,F.Structure,Function,and Evolution of Coronavirus Spike Proteins.Annu.Rev.Virol.3:237-261 (2016)を参照されたく、上記文献はその全体が本明細書に援用される。融合前の立体構造におけるSARS-CoV-2スパイクタンパク質の構造が見出されている。Daniel et al.,Cryo-EM structure of the SARS-CoV-2 spike in the prefusion conformation.Science,19 Feb 2020を参照されたく、上記文献はその全体が本明細書に援用される。
【0092】
SARS-CoV-2(GenBankアクセッション番号:MN908947)の全ゲノムの系統解析により、このウイルスがSARS様コロナウイルスの群(Betacoronavirus属、Sarbecovirus亜属)と最も近縁であることが明らかになった(ヌクレオチド類似性89.1%)。Wu et al.,A new coronavirus associated with human respiratory disease in China.Nature,Feb 3,2020(その全体が本明細書に援用される)。
【0093】
上記SARS-CoV-2は、スパイク表面糖タンパク質、膜糖タンパク質M、エンベロープタンパク質E、及びヌクレオカプシドリンタンパク質Nを有する。上記SARS-CoV-2コロナウイルスの全ゲノム(29903ヌクレオチド、一本鎖RNA)はNCBIデータベースに、GenBank参照配列:MN908947として記載されている。上記コロナウイルスタンパク質は、コロナウイルススパイクタンパク質(GenBank参照配列:QHD43416)、コロナウイルス膜糖タンパク質M(GenBank参照配列:QHD43419)、コロナウイルスエンベロープタンパク質E(GenBank参照配列:QHD43418)、及びコロナウイルスヌクレオカプシドリンタンパク質E(GenBank参照配列:QHD43423)からなる群より選択することができる。
【0094】
いくつかの実施形態において、本方法は、患者における急性呼吸窮迫症候群(ARDS)の発症を予防または緩和する
【0095】
いくつかの実施形態において、上記コロナウイルスはSARS-CoV-2である。 いくつかの実施形態において、上記患者は、COVID-19で苦しんでいる。いくつかの実施形態において、上記患者は、発熱、咳、息切れ、下痢、上気道症状、下気道症状、肺炎、及び急性呼吸器症候群の1つ以上に悩まされている。
【0096】
いくつかの実施形態において、上記患者は低酸素症である。いくつかの実施形態において、上記患者は呼吸困難に陥っている。いくつかの実施形態において、本方法は上記患者の酸素化を改善する。いくつかの実施形態において、本方法は上記患者における呼吸窮迫からサイトカインの不均衡への移行を予防または緩和する。いくつかの実施形態において、本方法はサイトカインストームを逆転させるまたは予防する。いくつかの実施形態において、本方法は、肺においてまたは全身的に、サイトカインストームを逆転させるまたは予防する。いくつかの実施形態において、上記サイトカインストームは、全身性炎症反応症候群、サイトカイン放出症候群、マクロファージ活性化症候群、及び血球貪食性リンパ組織球症の1種以上から選択される。いくつかの実施形態において、本方法は1種以上の炎症性サイトカインの過剰な産生を逆転させるもしくは予防する。いくつかの実施形態において、上記炎症性サイトカインは、IL-6、IL-1、IL-1受容体アンタゴニスト(IL-1ra)、IL-2ra、IL-10、IL-18、TNFα、インターフェロン-γ、CXCL10、及びCCL7の1種以上である。
【0097】
いくつかの実施形態において、本方法により、上記患者におけるウイルス負荷が治療前と比較して減少する。
【0098】
一態様において、その方法を必要とする対象におけるウイルス感染症の治療または予防方法であって、上記ウイルス感染症から回復したドナー対象由来の血漿を用意すること(但し、上記血漿は、上記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含み、且つ上記ドナー対象は、上記抗体の産生を刺激するために、本明細書に記載の組換えヒトGM-CSFによる治療を受けている)、ならびに上記方法を必要とする上記対象に上記血漿を投与することを含む、上記方法が提供される。一態様において、その方法を必要とする対象におけるウイルス感染症の治療または予防方法であって、上記ウイルス感染症から回復したドナー対象に本明細書に記載の組換えヒトGM-CSFを投与することと、上記ドナー対象から、上記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含む血漿を単離することと、上記方法を必要とする上記対象に上記血漿を投与することとを含む、上記方法が提供される。
【0099】
いくつかの実施形態において、かかる方法は、上記ウイルスに対する受動免疫を上記方法を必要とする対象に提供する。
【0100】
いくつかの実施形態において、上記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体はウイルス抗原に特異的に結合する。いくつかの実施形態において、上記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体は上記ウイルスを中和する。いくつかの実施形態において、上記IgG、IgM、及び/またはIgA抗体は、上記ウイルスによる細胞の感染を防止もしくは軽減する。
【0101】
いくつかの実施形態において、上記ウイルス感染症は、ベータコロナウイルス感染症であって、任意選択で、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)感染症、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)感染症、中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV)感染症、HCoV-HKU1感染症、及びHCoV-OC43感染症から選択される上記ベータコロナウイルス感染症から選択される。いくつかの実施形態において、上記ウイルス感染症は、アルファコロナウイルス感染症であって、任意選択で、HCoV-NL63感染症及びHCoV-229E感染症から選択される上記アルファコロナウイルス感染症から選択される。
【0102】
いくつかの実施形態において、上記ベータコロナウイルス感染症は重症急性呼吸器症候群(SARS)である。
【0103】
いくつかの実施形態において、上記ベータコロナウイルス感染症はコロナウイルス疾患2019(COVID-19)であるか、またはそれに関連する。
【0104】
いくつかの実施形態において、上記ウイルス感染症は、インフルエンザウイルス感染症であって、任意選択で、A型、B型、C型、及びD型インフルエンザウイルス感染症から選択される上記インフルエンザ感染症である。いくつかの実施形態において、上記インフルエンザ感染症は、2009年パンデミックA型インフルエンザ(H1N1)またはA型鳥インフルエンザ(H5N1)である。
【0105】
いくつかの実施形態において、上記ドナー対象は、回復前に上記ウイルス感染症に関して検査で陽性であった。いくつかの実施形態において、上記ドナー対象において、提供前にウイルス感染症の症状は消失している。いくつかの実施形態において、上記ドナー対象は、上記ウイルスに対する抗体に関して、血清学的検査を使用した検査で陽性であった。いくつかの実施形態において、上記ドナー対象は測定可能な中和抗体力価を示す。いくつかの実施形態において、上記中和抗体力価は少なくとも約1:160である。いくつかの実施形態において、上記血漿は上記ドナー対象由来の血液試料から単離される。いくつかの実施形態において、上記血漿は血漿交換によって単離される。いくつかの実施形態において、上記血漿は、治療有効量の、上記感染症を引き起こすウイルスに対するIgG、IgM、及び/またはIgA抗体を含む。
【0106】
併用療法及びさらなる治療薬
さまざまな実施形態において、本発明の医薬組成物は、さらなる薬剤(複数可)と併用して同時投与される。同時投与は同時または逐次的であってもよい。
【0107】
一実施形態において、本発明のさらなる治療薬及びGM-CSFは、対象に同時に投与される。本明細書で使用される用語「同時に」とは、上記さらなる治療薬と上記GM-CSFが、約60分を超えない、例えば約30分を超えない、約20分を超えない、約10分を超えない、約5分を超えない、または約1分を超えない時間間隔で投与されることを意味する。上記さらなる治療薬及び上記GM-CSFの投与は、単一の製剤(例えば、上記さらなる治療薬と上記GM-CSF組成物を含む製剤)の同時投与または別個の製剤(例えば、上記さらなる治療薬を含む第1の製剤と上記GM-CSF組成物を含む第2の製剤)の同時投与によるものであってもよい。
【0108】
同時投与は、治療薬の投与のタイミングが、さらなる治療薬とGM-CSFの薬理学的活性が時間的に重複し、それによって複合的な治療効果を発揮するようなものであれば、上記治療薬を同時に投与する必要はない。例えば、上記さらなる治療薬及び標的化部分、GM-CSF組成物は逐次的に投与されてもよい。本明細書で使用される用語「逐次的に」とは、上記さらなる治療薬と上記GM-CSFが約60分を超える時間間隔で投与されることを意味する。例えば、上記さらなる治療薬と上記GM-CSFの逐次投与の間の時間は、約60分を超える、約2時間を超える、約5時間を超える、約10時間を超える、約1日を超える、約2日を超える、約3日を超える、約1週間を超えて離れ、約2週間を超えて離れ、または約1ヶ月を超えて離れる。最適な投与時間は、代謝の速度、排泄、及び/または投与されるさらなる治療薬及びGM-CSFの薬力学的活性に依存することとなる。上記さらなる治療薬または上記GM-CSF組成物のいずれを最初に投与してもよい。
【0109】
同時投与は、上記治療薬が同一の投与経路によって対象に投与されることを必要としない。逆に、各治療薬は、任意且つ適切な経路、例えば非経口投与または経口投与によって投与されてもよい。
【0110】
いくつかの実施形態において、本明細書に記載のGM-CSFは、別の治療薬と同時投与されると相乗的に作用する。かかる実施形態において、上記標的化部分、GM-CSF組成物、及びさらなる治療薬は、当該薬剤が単剤療法の状況で使用される場合に使用される用量よりも低い用量で投与される場合がある。
【0111】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療薬は抗ウイルス薬である。
【0112】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療薬は、レムデシビル、ファビピラビル、オセルタミビル、バロキサビル、ガリデシビル、アンプレナビル、チプラナビル、サキナビル、ネルフィナビル、インジナビル、ダルナビル、アタザナビル、エメチン、ロピナビル、及び/またはリトナビル、アルビドール及びロピナビル/リトナビル、及び/またはリバビリン、ダルナビル、及びコビシスタット、及び/またはIFN-ベータ-1b、β-D-N4-ヒドロキシシチジン(NHC)、例えばEIDD-1931またはEIDD-2801またはEIDD-2801;グルココルチコイド、IFN-a 2a、IFN-a 2b、IFN-b、ペグ化IFN-g、バリシチニブ、シロリムス、クラザキズマブ、カナキヌマブ、XPro1595、トシリズマブ、サリルマブ、シルツキシマブ、アダリムマブ、エクリズマブ、イベルメクチン、アナキンラ、プレジコビックス、xiyanping、フィンゴリモド、メチルプレドニゾロン、レロンリマブ、サリドマイド、MK-2206、ニコラサミド、ニタゾキサミド、クロロキン、またはヒドロキシクロロキンなどの免疫調節剤;カリマイシン、ブリラシジン、アジスロマイシン、バリノマイシンなどの抗生物質;rhACE2/GSK2586881/APN01、ロサルタン、エプロサルタン、テルミサルタン、バルサルタンなどのアンジオテンシン阻害剤/アンタゴニスト;メシル酸カモスタット、ナファモスタットを含むセリンプロテアーゼ阻害剤;ブロムヘキシン、アプロチニン、クロルプロマジン、ゾタチフィン、メトトレキサート、レナリドマイド、抗VEGF-A、及び静脈内免疫グロブリン(IVIG)などの他の薬物を含む薬物から選択される。例えば、いくつかの実施形態において、これらのさらなる治療薬のいずれもが、SARS-CoV-2感染症に関連して使用される。
【0113】
いくつかの実施形態において、上記さらなる治療薬は、ファビピラビル、ラニナミビルオクタン酸エステル、ペラミビル、ザナミビル、オセルタミビルリン酸塩、バロキサビルマルボキシル、ウミフェノビル、ウルミン(urumin)、アマンタジン塩酸塩、リマンタジン塩酸塩、アダプロミン、LASAG/BAY81-87981、セレコキシブ、エタネルセプト、メトホルミン、ゲムシタビン、ダピビリン、トラメチニブ、リシノプリル、ナプロキセン、ナリジクス酸、ドルゾラミド、ルキソリチニブ、ミドドリン、ジルチアゼム;アトルバスタチン、ニタゾキサニドを含むスタチン;ゲムフィブロジルを含むPPARアンタゴニストから選択される。例えば、いくつかの実施形態において、これらのさらなる治療薬のいずれもが、インフルエンザ感染症に関連して使用される。
【0114】
配列
配列番号1は野生型GM-CSFである。
【0115】
【化1】
【0116】
配列番号2はサルグラモスチムである。
【0117】
APARSPSPSTQPWEHVNAIQEALRLLNLSRDTAAEMNETVEVISEMFDLQEPTCLQTRLELYKQGLRGSLTKLKGPLTMMASHYKQHCPPTPETSCATQIITFESFKENLKDFLLVIPFDCWEPVQE。
【0118】
定義
以下の定義は、本明細書に開示の発明に関連して使用される。別段の定義がない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般的に理解され意味と同様の意味を有する。
【0119】
「有効量」は、コロナウイルス感染症の治療に有効な薬剤と関連して使用される場合、コロナウイルス感染症を治療または軽減するのに有効な量である。
【0120】
「a」、「an」、または「the」は、本明細書で使用される場合、1つ以上を意味することができる。さらに、用語「約」は、言及される数値の表示に関連して使用される場合、当該言及される数値の表示±該言及される数値の表示の最大10%を意味する。例えば、「約50」という言葉は45~55の範囲にわたる。
【0121】
すべての組成の百分率は、本明細書で言及される場合、別段の指定がない限り全組成物の重量に基づくものである。語「含む」及びその変化形は、本明細書で使用される場合、一覧中の項目の記載は非限定的であり、同じようにこの技術の材料、組成物、デバイス、及び方法において有用である可能性のある他の類似する項目が排除されないことを意図している。同様に、用語「できる(can)」及び「であって(して)もよい(may)」ならびにそれらの変化形は非限定的であり、ある実施形態が特定の要素または特徴を含むことができるまたは含んでいてもよいとの記載は、それらの要素または特徴を含まない本技術の他の実施形態を排除するものではないことを意図している。
【0122】
含む(including)、含む(containing)、または有する(having)などの用語の同義語としてのオープンエンドの用語「含む(comprising)」は、本明細書において、本発明(the invention)、本発明(the present invention)、またはその実施形態を説明及び権利請求するために使用されるが、「からなる(consisting of)」または「本質的にからなる(consisting essentially of)」などのこれに代わる用語を使用して記載されてもよい。
【0123】
本発明は、以下の非限定的な実施例によってさらに説明される。
【実施例
【0124】
例1:発酵時の追加成分の一覧
複雑な材料であるBacto-Pepton及び酵母エキス中に含まれる重要な成分の添加を取り入れて、生産発酵を実施した。発酵時の追加成分の一覧には、MgSO、KHPO、CaCl、アデニン、MEMビタミン溶液、及びYNB微量元素溶液が含まれていた。すべての追加成分及び微量元素溶液のみの存在下で実施した発酵においてバイオマス及び生産性が顕著に増大し、このことは、微量元素溶液には、組換えヒト(rhu)GM-CSFの生産性及び培養バイオマスを増大させるための重要な成分が含まれていることを示している。上記微量元素溶液中には、6種の元素、すなわち、銅、モリブデン酸塩、亜鉛、鉄、ホウ酸、及びマンガンのが存在する。上記元素の何れが生産性及びバイオマスの増大に関与しているかを特定するために、表1に示すように、生産発酵において6種の微量元素をYNB微量元素溶液と一致する濃度(スクリーニングした各元素の、発酵槽中での最終濃度)で個別にスクリーニングした。
【表1】
【0125】
例2:微量元素添加の生化学的アッセイ
溶存酸素プロファイル:溶存酸素レベルを生産発酵中のプロセスパラメータとして常にモニタリングし、該レベルは酵母培養物の酸素摂取量を代用するものとしての役割を果たし、酵母培養物の増殖を示す。それぞれの微量元素の存在下で実施した生産発酵の溶存酸素プロファイルを示す(図1A)。酵母培養物の酸素摂取量は、銅(硫酸銅/CuSO)を添加したバッチで顕著に大きく、それにより溶存酸素レベルが低下した。溶存酸素カスケード制御方法を使用して、溶存酸素が抑制レベルを下回って低下することを防止した。
【0126】
図1Bにおいて、銅添加ありで実施した生産発酵の溶存酸素プロファイルを、商業プロセスをスケールダウンしたもの(添加なし)の同プロファイルと比較した。この結果は、銅添加ありでの酵母培養における酸素必要量に顕著な違いがあることを示している。
【0127】
細胞湿重量プロファイル:酵母培養物バイオマスを培養細胞湿重量(WCW)として評価した。WCWを、予め秤量した50mL遠沈管中で20mLの細胞培養液を遠心分離することによって測定した。上清を吸引除去し、上記遠沈管を再度秤量して、各生産発酵バッチのWCWを算出した。各微量元素の存在下で実施した生産発酵のWCWを示し(図2A)、銅添加ありで最高値のバイオマスが得られた。銅添加を商業プロセスをスケールダウンしたもの(添加なし)と比較したところ、バイオマスは、商業発酵をスケールダウンしたものよりも銅添加の発酵において顕著に高値であった(図2B)。
【0128】
例3:組換えヒトGM-CSFの力価及びグリコフォームの比較
逆相HPLCを使用し、勾配プログラム全体を通じて0.2M塩化ナトリウムの一定組成を維持したアセトニトリルの勾配でC18カラムを用いて、試験試料中の組換えヒト(rhu)GM-CSFの濃度を測定した。トリフルオロ酢酸(TFA)をイオン対化剤として使用した(各移動相溶媒中0.1体積%)。試験試料のrhu GM-CSF濃度の結果を、GM-CSFの参照標準から調製した6段階の外部標準検量線から内挿した。図3は、商業プロセスをスケールダウンしたもの(添加なし)と比較した、rhu GM-CSF濃度の顕著な増加を示す。
【0129】
rhu GM-CSF濃度を測定するために使用した上記逆相HPLCの手順によって、C18カラムを通じてrhu GM-CSFグリコシル化変化形が3種の主要なグリコフォーム群に分離される。対象となる4つのピークを積分して定量し、それぞれの組成を以下に記載する。
ピーク1=GM-CSF関連の不純物(酸化)。
(注:C4精製前の試料では、真のピーク1を覆い隠す過剰にグリコシル化されたピークが存在する。)
ピーク2=N-及び(N+O)結合グリコフォーム
ピーク3=O結合グリコフォーム
ピーク4=非グリコシル化GM-CSF
表2は、銅添加ありで実施される発酵由来のグリコシル化変化形(ピーク2~4の比率)(製品の品質の指標)が、商業プロセスの履歴的平均値に匹敵することを示している。銅添加ありで得られたグリコシル化変化形の比率は、商業的rhu GM-CSFの全生産履歴の99.73%をカバーする95%の許容差内であり、このことは、銅添加がGM-CSFグリコフォームまた製品の品質特性に影響を及ぼさないことを示している。
【0130】
表2は、外因性銅添加発酵プロセスによって得られた組換えヒトGM-CSFのグリコフォームプロファイル(ピークの比率として示す)を、履歴的な商業プロセスをスケールダウンしたものと比較して示す。この表は、銅を添加した発酵槽のピークの比率を、履歴的な商業プロセスの平均値及び商業プロセスの判定基準と比較している。
【表2】
【0131】
例4:微量元素添加の工程内遊離試験及び定常遊離試験の結果の比較
C4精製(表3)、C18精製(表4)、及びバルク原薬(BDS)に対してデータ解析を実施した。上記データは、銅を添加した生産発酵が、現行の商業製造プロセスによって製造される物質に匹敵する物質を生成することを実証した。
【0132】
下流の操作による当該タンパク質の製品品質の重要な指標は、T-0075アッセイによって測定されるグリコフォーム比である。ピーク2、3、及び4はサルグラモスチムのグリコシル化変化形を表す一方、ピーク1は過剰にグリコシル化された不純物である。ピーク1はC4精製単位操作で除去される。工程内及びBDSグリコフォームのCuSO添加BDSプロセスの検証(CuSO PV)の結果は、商業的な工程内及びBDSロット(BDS 6~8)と同等である。
【0133】
表3は、グリコフォーム比の同等性の概要を示す。表3は、履歴的な商業プロセスと比較した銅添加発酵プロセスの、C4精製グリコフォーム比の同等性の概要を示す。表3及び表4に列挙されるバッチ番号は、C4精製PV運転に関連付けられている。
【表3】
【0134】
表4は、履歴的な商業プロセスと比較した銅添加発酵プロセスのC18精製グリコフォーム比の同等性の概要を示す。

【表4】
【0135】
表5は履歴的な商業プロセスをスケールダウンしたものと比較した、銅添加発酵プロセスのBDSグリコフォーム比の同等性の概要を示す。
【表5】
【0136】
例5:微量元素添加のBDS遊離試験の比較
3つの商用BDS及び1つのプロセス検証BDSに対するBDS遊離試験の結果は、すべて現行のBDS遊離に関する仕様基準に合格した。すべての結果は、銅添加プロセスの検証運転中に生成したサルグラモスチムタンパク質(CuSO PV)が、履歴的な商業運転(BDS 6~8)の結果と同等であることを裏付けている。
【0137】
図4は、タンパク質の分解または生成物以外の物質による汚染に起因するサルグラモスチムBDS中の不純物を評価するために使用したSDS-PAGE-銀染色(T-0002)アッセイの結果を示す。BDSでのCuSOバッチ(CuSO PV)に関する不純物の試験結果は、商用BDSバッチ6~8のレベルと同等である。
【0138】
図5は、サルグラモスチムBDSのタンパク質純度のレベルを評価するために実施した濃度測定試験の結果(T-0013)を示す。BDSでのCuSOバッチ(CuSO PV)に関するタンパク質純度の試験結果は、商用BDSバッチ6~8のレベルと同等である。
【0139】
図6は、サルグラモスチムBDSのアイデンティティーを特定するために使用した等電点電気泳動の結果(T-0114)を示す。BDSでのCuSOバッチ(CuSO PV)に関する等電点電気泳動の試験結果は、商用BDSバッチ6~8のレベルと同等である。
【0140】
表6及び表7はBDSの遊離試験結果の概要をさらに示す。
【表6】


【表7】
【0141】
例7:認可された商業プロセスと比較したCuSO添加製造プロセスによる製品タンパク質のキャラクタリゼーション
CuSOを添加する製造プロセスで生成する製品タンパク質が認可された商業プロセスで生成するものと同等であることを確認するために、製品及びプロセスのさらなるキャラクタリゼーションを実施した。製品のキャラクタリゼーションのために、タンパク質の組成及び構造を詳細に評価するアッセイを実施した。結果は、プロセス検証運転中に生成したサルグラモスチムタンパク質(CuSO PVバッチ、CuSO PV)が、商用BDS運転BDS 6~8の結果と同等であることを裏付けている。表8は製品のキャラクタリゼーション結果の概要を示す。
【表8-1】

【表8-2】
【0142】
プロセスのキャラクタリゼーションは、下流の操作全体にわたって残存プロセス成分(RPC)の除去を評価することから構成される。CuSO PVバッチ(CuSO PV)の試料の分析により、精製プロセス全体を通じてRPCが除去されていることが明らかである。BDSにおけるCuSOバッチのRPCレベルは、最近のバッチの及びすべての履歴的バッチのレベルと同等であった。結果は、CuSOが添加されるプロセスのRPC除去レベルが現行の製造プロセスと同等であったことを裏付けている。結果を図7及び表9に示す。
【表9】
【0143】
トリプシンペプチドマップ(TCPK-トリプシン)を利用してC末端分析を実施した。rhu GM-CSFをトリプシンで酵素消化し、還元する。生成するペプチドをRP-HPLCによって分離する。3種の主要なC末端ペプチドを保持時間によって分析し、規格化した面積比率によって定量化する。C末端分析の結果により、BDSでのCuSOバッチ(CuSO PV)が商用BDSバッチ(BDS 6~8)と同等であることが示される。結果を図8及び表10に示す。
【表10】
【0144】
ジスルフィド架橋対合は低pHでのGlu-Cによるペプチドマップによって測定される。上記低pHはジスルフィドの再構成を防止するために必要である。2つの主要なピーク11及び12は予想されるジスルフィド架橋ペプチド(それぞれ、G7-8=G10及びG9=G11-13/G9=G12-13)を含む。質量分析によりペプチドフラグメントを確認した。ジスルフィド対合の分析結果は、BDSバッチにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)と商用BDSバッチ(BDS 6~8)の間の同等性を示している。結果を表11及び図9に示す。

【表11】
【0145】
N27部位におけるNに結合した鎖のサイズ(N27における部位占有率)を、N及びOに結合したオリゴ糖を(それぞれPNGase及びアルファ-マンノシダーゼを用いて)両方除去することで行われる、低pHでのGlu-Cによるペプチドマップによって測定した。Nに結合したオリゴ糖の除去では、酵素PNGaseがNに結合したアスパラギニル残基をアスパルチル残基へと変換し、その結果生じる脱アミド化フラグメントをRP-HPLCによって定量することができる。この方法を使用し、以下の式:
【数1】

を用いて、27位のN結合型グリコシル化の合計の比率を測定した。この27位のN結合型グリコシル化の合計の比率により、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)は、商用BDSバッチ6~8における結果と同等であることが示される。結果を表12及び図10(ペプチドG3~4及び脱アミド化フラグメントを含む、低pHでのGlu-Cによるペプチドマップのクロマトグラム(78.5~82.5分))に示す。

【表12】
【0146】
アルファ-マンノシダーゼを使用しない、Glu-Cによるペプチドマップを比較することによって、全O-グリコシル化グリコフォームの定量化を実施した。全O結合型グリコシル化鎖のサイズ(部位占有率)を、以下の式:
【数2】

を使用し、百分率で表した、未修飾物のピークの面積に対するO結合型グリコフォームのピークの総面積の比率によって測定した。この全O結合型グリコシル化鎖のサイズ(部位占有率)により、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)は、商用BDSバッチ6~8における結果と同等であることが示される。結果を表13及び図11(a-マンノシダーゼを使用しない、Glu Cによるペプチドマップのクロマトグラム)に示す。

【表13】
【0147】
Glu-CペプチドマップのフラグメントG9(残基61~93)は2つのメチオニン(M79及びM80)を含む。79位の酸化メチオニンは、G9ピークの前に溶離することから、RP-HPLCクロマトグラム上で検出可能である(以前はESI-MS/MSによって測定)。メチオニン80は観測されないが、完全に排除することはできない。上記メチオニン79における酸化の比率により、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)は、商用BDSバッチ6~8における結果と同等であることが示される。結果を表14及び図12に示す。
【表14】
【0148】
内部蛍光を使用し、温度の関数としての発光最大波長のシフトを測定することにより上記タンパク質の三次構造を測定し、ロットの熱安定性をモニタリングした。蛍光スペクトル及び熱によるアンフォールディングデータ(T)は、試験した4つのBDSロット(CuSO PV及び商用BDSバッチ(BDS 6~8))間の同等性を示している。結果を図13及び図14ならびに表15に示す。
【表15】
【0149】
円二色性(CD)分光法を使用し、温度の関数としての左右の円偏光の吸収差に基づいて、二次構造、融解温度(T)、及びタンパク質のアンフォールディングの開始(T開始)を測定した。CD走査において208nm及び222nmで吸光度が最小となることは、4つのBDSロットの間で、主としてアルファヘリックスの構造であることの表示である。CD走査及び熱変性のデータ(T及びT開始)により、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)は、商用BDSバッチ6~8における結果と同等であることが示される。結果を図15、ならびに表16、表17、及び表18に示す。
【表16】

【表17】

【表18】
【0150】
MALDI-MS(マトリクス支援レーザー脱離イオン化質量分析法)によるインタクト質量分析は、観測されたスペクトル質量をサルグラモスチムのアミノ酸配列(配列番号2)及び関連する修飾に基づく理論的分子量と照合することにより、構造の完全性及びタンパク質修飾に関するデータを提供することが可能な方法である。
【0151】
MALDI-MSは、Applied Biosystems 4800 MALDI-TOF/TOFにおいて実施した。試料をシナピン酸で10倍希釈し、MALDIプレート上にスポッティングし、2~19KDaの試料当り15分間MSを取得した。
【0152】
インタクトMALDI-MSにより、ロットにわたってサルグラモスチム及びグリカンの分子量を確認した。図16は12~19KDaの完全なMALDI質量スペクトルを示し、図17は14~16KDaのサルグラモスチムを示し、図18は16~19KDaのサルグラモスチム+グリカンを示す。観測された質量ピークの対応する帰属を表19に示す。
【0153】
これらの結果は、同等のMALDI-MSプロファイル及び質量を示し、これらのタンパク質及びグリカンが、BDSにおけるCuSOバッチ(CuSO PV)と商用BDSバッチ6~8における結果の間で同等性を示すことを確証する。
【表19-1】

【表19-2】
【0154】
プロテオミクスLC-MS/MSによる宿主細胞タンパク質(HCP)分析は、試料中の低存在量のタンパク質を包括的に同定及び定量化するための方法である。商用ロットBDS 6~8、及びCuSO添加PVロット(PV)中のHCPを同定するために、上記BDSをトリプシンでタンパク質分解し、60分間の勾配での逆相C18ナノ-LCによって分離した。LCピークのタンデム質量スペクトルをOrbitrap Elite ETD質量分析計で得て、タンパク質のアイデンティティーをProtein Metricsデータベース及びスペクトル解析ソフトウェアを使用して検出した。各試料中の酵母HCPの相対量を、各ペプチドの抽出イオンシグナル(XIC)から得て、この分析のためにロット間で比較した。
【0155】
XIC面積が0.01%以上で同定されたタンパク質を表20に記載する。XIC面積の比率の値については、各セルの中の上側の数字は、すべての同定されたタンパク質に対する相対的な値を表す。下側の括弧内の数字は、方法起因アーチファクト汚染物質が除去された場合の相対値を示す。
【0156】
上記の結果は、すべてのロットが、イオンシグナル法で少なくとも99%のサルグラモスチムを含有していることを示しており、このことは、ほとんどのHCPが精製ステップ中で除去されていることを示している。さらに、特定された低存在量のHCPはロット間で同等である。したがって、BDSでのCuSO添加PVロット(CuSO PV)において特定されたHCPプロファイルは、商用BDSバッチ6~8の結果と同等である。
【表20-1】

【表20-2】
【0157】
元素としての不純物(銅を含む)の試験を、2つの商用BDSバッチ(BDS 7及びBDS 8)及びCuSO添加プロセス検証BDSバッチ(BDS PV)に対して、ICH Q3D(R1)の推奨事項である、元素としての不純物に関する指針(2019年3月22日)に準拠した試験のために選択した、ICP-MSによる定量的スクリーニング試験元素について実施した。さらに、モリブデンがプロセスに意図的に微量添加されていることから、これを試験計画に含めた。結果(表21)は、プロセス検証バッチの不純物プロファイルが最近の商用バッチと一致していることを示しており、上記結果をアッセイの定量限界(LOQ)未満として報告している。Cuは上流の細胞培養処理中に導入されたが、データは、Cuを含む元素としての不純物は、その後の下流での処理中に(予想通り)低下したことを示した。すべての結果は、最大許容濃度(MPC)及び管理閾値(CT)の限度を下回っていた。すべての結果は、ICH Q3Dに記載される非経口医薬品に対する許容日曝露量未満に相当する。
【表21】
【0158】
CuSOプロセスによるバイオマスの増加を仮定して、BDS中の残存DNAレベルがクリアーしていることを検証するために、Threshold DNA試験を実施した。判定基準は、履歴的なBDS仕様に基づいていた(注:残存DNAは、2020年8月の管理変更MOC-00074に従って製品出荷基準としては削除された)。BDS(PV)におけるプロセス検証BDS CuSOバッチの結果は判定基準を満たした。以下の表22を参照されたい。
【表22】

DNAを含まない試料の平均値の量におけるわずかなプラスの偏りを排除するために、Threshold DNAアッセイのための標準曲線では、回帰直線を強制的にゼロにする拡張パワーフィットアルゴリズムを使用しており、これにより、ゼロに近い負の値の定量が起こり得る。
【0159】
等価物
当業者であれば、本明細書に具体的に記載される特定の実施形態に対する多数の等価物を認識するか、または慣用的な実験のみを使用して、上記等価物を確認することが可能であろう。かかる等価物は添付の特許請求の範囲に包含されることを意図する。
【0160】
援用
本明細書で参照されるすべての特許及び刊行物は、本記述をもって、それらの全体が本明細書に援用される。
【0161】
本明細書で使用されるすべての見出しは、単に整理することを目的とするものであり、本開示を何ら限定することを意図するものではない。いずれの個々の節の内容も、すべての節に同様に適用することが可能である。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
【配列表】
2023553117000001.app
【国際調査報告】