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特表2023-553148選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 38/00 20060101AFI20231213BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20231213BHJP
   B01J 31/40 20060101ALI20231213BHJP
   C07C 5/05 20060101ALI20231213BHJP
   C07C 13/275 20060101ALI20231213BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
B01J38/00 301A
B01J31/24 Z
B01J31/40 Z
C07C5/05
C07C13/275
C07B61/00 300
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535503
(86)(22)【出願日】2021-12-10
(85)【翻訳文提出日】2023-06-23
(86)【国際出願番号】 KR2021018789
(87)【国際公開番号】W WO2022124863
(87)【国際公開日】2022-06-16
(31)【優先権主張番号】10-2020-0173362
(32)【優先日】2020-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】520161344
【氏名又は名称】ハンファ ソリューションズ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】キム ユンジン
(72)【発明者】
【氏名】パク ジンホ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン ナムジン
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA06
4G169AA09
4G169AA10
4G169AA15
4G169BA21C
4G169BA27A
4G169BA27B
4G169BC70A
4G169BC70B
4G169BE08C
4G169BE27A
4G169BE27B
4G169BE46A
4G169BE46B
4G169CB02
4G169CB62
4G169DA04
4G169FA08
4G169FB05
4G169FB46
4G169FB77
4G169FC04
4G169FC08
4G169FC10
4G169GA20
4H006AA02
4H006AC11
4H006AD11
4H006BA23
4H006BA48
4H006BB16
4H006BC10
4H006BE20
4H039CB10
(57)【要約】
本発明は、選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法に関する。本願発明は、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成した後、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から選択的均一系水素化触媒を回収する方法において、前記第1反応溶液の選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記第1反応溶液にシクロドデカノンを含有する溶媒を混合するステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液を蒸留分離して選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成した後、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から選択的均一系水素化触媒を回収する方法であって、
前記第1反応溶液の選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、
前記第1反応溶液にシクロドデカノンを含有する溶媒を混合するステップと、
前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液を蒸留分離して選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含む、選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項2】
前記溶媒は、シクロドデカトリエンに溶解されたシクロドデカノンである、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項3】
前記蒸留分離は、蒸留カラムにより行われ、
前記蒸留カラムは、シクロドデセンを含む生成物が排出される上部カラムと、前記選択的均一系水素化触媒および溶媒が分離される下部カラムからなり、
前記蒸留分離時に、前記上部カラムの圧力は0.1bar以下および温度は100℃~200℃であり、前記下部カラムの圧力は0.1bar以下および温度は150℃~250℃である、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項4】
前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500である、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項5】
前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌タンク反応器で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項6】
前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して撹拌タンク反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給される、請求項5に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項7】
前記第1反応溶液には、酢酸を含む触媒活性剤がさらに含まれる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項8】
前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.01~2重量部添加される、請求項7に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項9】
前記選択的水素添加反応は、100~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われる、請求項1に記載の選択的均一系水素化触媒の回収方法。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の方法により回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップを含む、回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シクロドデカトリエン(Cyclododecatriene、CDT)を出発物質とする選択的水素化反応によるシクロドデセン(Cyclododecene、CDEN)の合成は、文献にしばしば記載されており、シクロドデセンの収率を向上させるための様々な研究が行われてきた。
【0003】
前記選択的水素化反応のために、ウィルキンソン触媒(Wilkinson catalyst)として知られている金属リガンド触媒、すなわち、ルビジウム(Ru)、ロジウム(Rh)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)などの金属にトリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine、TPP)、COなどのリガンドとハロゲン元素が結合した触媒が使用されてきた。
【0004】
触媒は、一般的に、ある反応系において、自分は反応せず、全体の反応が迅速に行われるように活性化させる物質であって、化学工業には欠かせない物質である。触媒は、概ね反応系に少量存在して自分の役割を果たすが、化学工業が発達するにつれてその使用量が多くなり、廃触媒の廃棄物も発生量が急増している。賦存資源が全くなく、貴金属関連の産業原料を全量輸入に依存している韓国としては、廃触媒から貴金属を回収し、産業原料として再使用するリサイクルが至急な状況である。
【0005】
選択的水素化反応の後、触媒を回収する方法は、触媒の状態と条件に応じて開示されている。
【0006】
一例として、US4413118には、第8族金属にトリフェニルホスフィンとハロゲン元素がリガンドで結合した触媒をC=S結合が含まれた物質と相互作用させて分離する技術について開示している。しかし、相互作用の過程で長い時間がかかり、0℃辺りまで冷却しなければならないという欠点がある。
【0007】
US3715405には、[Co(CO)P(n-C触媒をシクロドデカトリエンからシクロドデセンを生産する選択的水素化反応に使用すると、反応の後、別の分離技術なしに、相分離により触媒の回収が可能であると開示されている。しかし、必要な触媒の量が多く、相分離の後、溶媒を完全に除去するためには、精度が高く複雑な分離工程を行う必要があるため、工程効率性が良くないという欠点がある。このような従来技術の問題を解決するために、当出願人が既に出願している韓国公開特許第10-2020-0076301号では、蒸留装置を介して生成物と触媒を分離し、回収した触媒の再使用が可能であることを確認しているが、触媒の体積比が低くて蒸留分離装置の作動維持が難しく、生成物であるシクロドデセン(CDEN)が残存し、再使用するにつれて、副生成物であるシクロドデカン(CDAN)の生成比が高くなるという欠点がある。なお、高い流動性を維持するために、80℃以上の温度を維持し続けなければならないという不都合がある。
【0008】
したがって、本発明者らは、選択的水素化触媒の回収方法および再使用方法に関する効率的な方法について鋭意研究を重ねた結果、適正な溶媒を使用すると、簡単な方法により選択的水素化触媒を分離および回収することができ、且つ、蒸留分離装置の設計および作動維持が簡単であり、溶媒の添加時にもシクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のような問題点を解決するために、本発明は、短い工程時間内で、比較的簡単な方法により、選択的均一系水素化触媒を分離および回収することができ、且つ、蒸留分離装置の設計および作動維持が容易であり、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができる選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の選択的均一系水素化触媒の回収方法は、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセンを合成した後、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から選択的均一系水素化触媒を回収する方法であって、前記第1反応溶液の選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、前記第1反応溶液にシクロドデカノンを含有する溶媒を混合するステップと、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液を蒸留分離して選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含む。
【0011】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記溶媒は、シクロドデカトリエンに溶解されたシクロドデカノンであることができる。
【0012】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記蒸留分離は、蒸留カラムにより行われ、前記蒸留カラムは、シクロドデセンを含む生成物が排出される上部カラムと、前記選択的均一系水素化触媒および溶媒が分離される下部カラムからなり、前記蒸留分離時に、前記上部カラムの圧力は0.1bar以下および温度は100℃~200℃であり、前記下部カラムの圧力は0.1bar以下および温度は150℃~250℃であることができる。
【0013】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500であることができる。
【0014】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌タンク反応器で行われることができる。
【0015】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して撹拌タンク反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給されることができる。
【0016】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、第1反応溶液には、酢酸を含む触媒活性剤がさらに含まれることができる。
【0017】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記触媒活性剤は、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.01~2重量部添加されることができる。
【0018】
本発明の一実施形態による均一系水素化触媒の回収方法において、前記選択的水素添加反応は、100~200℃の温度および10~80barの圧力の条件下で行われることができる。
【0019】
本発明の回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法は、上述の方法により回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップを含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法は、反応物にシクロドデカノン(CDON)を含有する溶媒を添加した後、蒸留(evaporation)により溶媒を分離する方法だけで、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに、分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0021】
また、ラウロラクタムの製造工程の中間生成物であるシクロドデカノン(CDON)を含有する溶媒を使用することにより、シクロドデカノンが生成物に含まれても、生成物の品質に影響を及ぼさない。これにより、生成物と溶媒を完全に分離するために、精度が高く複雑な工程を行う必要がなく、溶媒であるシクロドデカノンを含有する触媒をすぐ工程に投入可能であることから、効率的な触媒の回収および再使用が可能である。
【0022】
さらに、回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができるという利点がある。
【0023】
本発明で明示的に言及されていない効果であっても、本発明の技術的特徴によって期待される明細書に記載の効果およびその内在的な効果は、本発明の明細書に記載されたものと同様に取り扱われる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法について詳細に説明する。このときに使用される技術用語および科学用語において他の定義がなければ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が通常理解している意味を有し、下記の説明から本発明の要旨を不明瞭にし得る公知の機能および構成に関する説明は省略する。
【0025】
また、本明細書において、本発明による構成要素を説明するにあたり、第1、第2、A、B、(a)、(b)などの用語を使用することができる。このような用語は、その構成要素を他の構成要素と区別するためのものであって、その用語によって当該構成要素の本質や順番または順序などが限定されない。
【0026】
また、本明細書で使用される用語の単数形態は、特別な指示がない限り、複数形態も含むものと解釈され得る。
【0027】
本明細書において、特別な言及なしに使用されている%の単位は、特に定義されない限り、重量%を意味する。
【0028】
シクロドデカトリエンからシクロドデセンを生産する選択的水素化反応に使用される触媒として、稀で生産量が少なくて値段が高い貴金属が使用されることから、貴金属関連の産業原料を全量輸入に依存している韓国としては、廃触媒から貴金属を回収し、産業原料に再使用するリサイクルが至急な状況である。このような従来技術の問題を解決するために、当出願人が既に出願した韓国公開特許第10-2020-0076301号では、蒸留装置を介して生成物と触媒を分離し、回収した触媒の再使用が可能であることを確認しているが、触媒の体積比が低くて蒸留分離装置の作動維持が困難であり、生成物であるシクロドデセン(CDEN)が残存し、再使用することから、副生成物であるシクロドデカン(CDAN)の生成比が高くなるという欠点がある。なお、高い流動性を維持するために、80℃以上の温度を維持し続けなければならないという不都合がある。
【0029】
そのため、本発明者らは、触媒に適正な溶媒をさらに使用して、選択的均一系水素化触媒を容易に分離および回収することができ、且つ蒸留分離装置の設計および作動維持が容易になるようにする。なお、回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができる選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法を提供する。
【0030】
詳細には、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法は、シクロドデカトリエン(Cyclododecatriene、CDT)、トリフェニルホスフィン(Triphenylphosphine、TPP)、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウム(RhCl)を含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させてシクロドデセン(Cyclododecene、CDEN)を合成した後、シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液から選択的均一系水素化触媒を回収する方法において、第1反応溶液の選択的水素添加反応中に、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造され、シクロドデセンが合成されるステップと、第1反応溶液にシクロドデカノン(Cyclododecanone、CDON)を含有する溶媒を混合するステップと、シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液を蒸留(Evaporation)分離して、選択的均一系水素化触媒を回収するステップとを含む。
【0031】
このように、蒸留(Evaporation)分離する方法だけで、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに、分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0032】
また、触媒にラウロラクタムの製造工程の中間生成物であるシクロドデカノン(CDON)を含有する溶媒を使用することにより、シクロドデカノンが生成物に含まれても、生成物の品質に影響を及ぼさず、これにより、生成物と溶媒を完全に分離するために、精度が高く複雑な工程を行う必要がなく、溶媒であるシクロドデカノンを含有する触媒をすぐ工程に投入可能であることから、効率的な触媒の回収および再使用が可能である。
【0033】
なお、最初、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を使用して、反応中に選択的均一系水素化触媒が形成されて選択的水素添加反応が行われるより、回収された選択的均一系水素化触媒を使用する時に、誘導期(Induction period)を短縮することができ、生産性をさらに高めることができる。
【0034】
また、回収された選択的均一系水素化触媒を再使用する時に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができるという利点がある。
【0035】
以下、本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法について詳細に説明する。
【0036】
先ず、シクロドデカトリエン、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む第1反応溶液を選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップであって、前記選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造されて、シクロドデセンが合成されるステップを行うことができる。ここで、選択的水素添加反応のために、通常の方法により水素気体(H)を投入することは言うまでもない。
【0037】
本ステップは、シクロドデセンを合成するためのステップであり、後述する方法または従来公知の方法によりシクロドデセンを合成することができる。
【0038】
詳細には、シクロドデセンを合成するステップにおいて、前記選択的水素添加反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌タンク反応器で行われることができる。このように、ガス誘導中空型撹拌機を使用する手段を採択して前記反応を行う場合、通常、反応性を高めるために使用される有機溶媒がなくても反応性を確保することができ、且つ反応時間が著しく減少することができる。
【0039】
より具体的には、前記シクロドデセンを合成するステップにおいて、ガス誘導中空型撹拌機が回転および撹拌されて反応が行われ、前記ガス誘導中空型撹拌機の中空を介して撹拌タンク反応器の上端に気相で存在する水素気体が反応溶液に供給されて、シクロドデカリエンに水素を供給することができる。前記ガス誘導中空型撹拌機は、その内部に中空の通路が形成されており、水素気体が前記中空の通路を介して流入され、シクロドデカトリエンに接触して、選択的水素添加反応が行われることができる。
【0040】
もしくは、従来公知の方法により、シクロドデセンを合成することができる。
【0041】
一方、前記選択的水素添加反応中に、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムから選択的均一系水素化触媒が製造されて、シクロドデセンが合成されることができ、前記選択的均一系水素化触媒である均一複合触媒は、RuH(PPh(CO)ClまたはRu(PPh(CO)Cl、であることができ、または両方であることができる。
【0042】
具体的には、前記トリフェニルホスフィンとホルムアルデヒドは、前記塩化ルテニウムに錯体を形成して、選択的水素添加反応の触媒の役割を果たす物質である。
【0043】
好ましい一例として、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:100~300:150~500であることができ、より好ましくは、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:130~250:200~400であることができ、さらに好ましくは、前記塩化ルテニウム:トリフェニルホスフィン:ホルムアルデヒドのモル比は、1:170~230:250~350であることができる。前記範囲で、転化率および選択度が著しく向上することができる。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0044】
また、本発明の一例において、前記第1反応溶液には、酢酸(acetic acid)を含む触媒活性剤がさらに含まれることができる。酢酸が投入される場合、塩化ルテニウム-トリフェニルホスフィン錯化合物触媒の反応をより活性化し、転化率および選択度をさらに向上させることができる。好ましい一例として、酢酸は、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.01~2重量部添加されることができ、より好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.05~1.5重量部、さらに好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して0.1~1重量部添加されることができる。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0045】
本発明の一例において、前記トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒の使用量は、反応物の反応が十分に行われることができる程度であればよく、好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して、1~20重量部になるように、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を投入することができ、より好ましくは、1~10、さらに好ましくは、1~7重量部になるように、トリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムを含む触媒を投入することができる。しかし、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0046】
本発明の一例において、前記選択的水素添加反応は、100~200℃の温度および10~80barの圧力条件下で行われることができ、より好ましくは、140~180℃の温度および20~60barの圧力条件下で、さらに好ましくは、150~175℃の温度および20~40barの圧力条件下で行われることができるが、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0047】
次に、第1反応溶液にシクロドデカノン(Cyclododecanone、CDON)を含有する溶媒を混合するステップを行うことができる。ここで、溶媒は、第1反応溶液のトリフェニルホスフィン、ホルムアルデヒドおよび塩化ルテニウムによって選択的均一系水素化触媒が形成された後、投入されることができるが、これとは異なり、触媒が形成される前に投入されてもよい。
【0048】
本発明の一実施形態において、溶媒は、シクロドデカノンそのものであることができ、またはシクロドデカトリエンをさらに含有することができる。好ましくは、シクロドデカノンがシクロドデカトリエンに溶解されたものを使用することができる。ここで、溶媒内のシクロドデカノンの量は、シクロドデカトリエンに溶解されることができる量であれば限定されない。このような溶媒は、ラウロラクタムの製造工程の中間生成物であるシクロドデカノン(CDON)が溶解された溶媒を使用することにより、シクロドデカノンが生成物に含まれても、生成物の品質に影響を及ぼさず、生成物と溶媒を完全に分離するために、精度が高く複雑な工程を行う必要がなく、溶媒であるシクロドデカノンを含有する触媒をすぐ工程に投入可能であることから、効率的な触媒の回収および再使用が可能である。また、シクロドデカノンが溶解されたシクロデカトリエンは、本反応に参加する物質であって、触媒活性に影響を及ぼさず、回収された触媒に残存しても再使用に問題がない。
【0049】
次に、第1反応溶液を選択的水素添加反応させて、前記シクロドデセンの合成が完了した第2反応溶液を蒸留分離して、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンを蒸留分離し、選択的均一系水素化触媒および溶媒を回収するステップを行うことができる。
【0050】
上述のように、シクロドデカノンを含有する溶媒を投入した後、蒸留(Evaporation)分離する方法だけで、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンと選択的均一系水素化触媒および過剰のトリフェニルホスフィンを分離することができ、別の後処理なしに、分離回収された選択的均一系水素化触媒および過量のトリフェニルホスフィンを次の選択的水素化反応にそのまま使用することができる。
【0051】
さらに、本発明のシクロドデカノンを含有する溶媒は、比較的低い温度であるシクロドデカノンの融点で良好な流動性を有することから、溶媒を添加せず、蒸留分離する時よりも工程ラインの温度を低く維持することができ、省エネルギーが可能であり、さらに効率よく触媒の回収が可能である。
【0052】
本発明の一例において、前記蒸留分離は、蒸留カラムを介して行われることができ、ここで、蒸留カラム(distillation column)は、シクロデセンを含む生成物が排出される上部カラムと、選択的均一系水素化触媒および溶媒が分離される下部カラムとに分けられる。蒸留分離は、上部カラムの圧力0.3bar以下および温度100~200℃の条件下で行われることができ、より好ましくは、130~170℃の温度および0.1bar以下の圧力の条件下で行われることができるが、これに限定されない。下部カラムの圧力は0.3bar以下および温度は150~250℃の条件下で行われることができ、より好ましくは、0.1bar以下の圧力および180~230℃の温度の条件下で行われることができる。さらには、蒸留カラム内の還流比(Reflux ratio)は、0.5~5、具体的には、1~2であることができ、沸騰比(Boilup ratio)は、1~8、具体的には、4~5であることができるが、これに限定されない。ただし、前記範囲で、未反応のシクロドデカトリエンとシクロドデカジエンおよび生成物であるシクロドデセンが効果的に蒸留分離されることができる。
【0053】
本発明の一例において、前記選択的均一系水素化触媒の回収は、10~30℃の温度、および0.1bar以下の圧力または窒素雰囲気の条件下で行われることができる。すなわち、前記蒸留分離過程によって高くなった温度を室温水準に冷却して、選択的均一系水素化触媒を回収することができる。
【0054】
また、本発明は、前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップを含む、回収された選択的均一系水素化触媒の再使用方法に関する。
【0055】
ここで、選択的均一系水素化触媒の回収方法は、上記で説明した選択的均一系水素化触媒の回収方法と同一であるため、重複説明は省略する。
【0056】
その後、蒸留分離および選択的均一系水素化触媒の回収が完了すると、前記回収された選択的均一系水素化触媒をシクロドデカトリエンが含まれた第3反応溶液に再投入し、2次選択的水素添加反応させて、シクロドデセンを合成するステップを行うことができる。
【0057】
ここで、前記シクロドデセンを合成するための2次選択的水素添加反応は、従来公知の方法により行われることができる。
【0058】
具体的な一例として、前記第3反応溶液は、シクロドデカトリエンだけでなく、エタノールを含む溶媒をさらに投入することができる。前記エタノールは、誘電定数が高いことから、選択的水素添加反応において、反応物の反応をさらに活性化させて、転化率および選択度を向上させることができる。前記エタノールの使用量は、シクロドデカトリエンに水素が選択的水素添加反応することができる程度であればよく、好ましくは、シクロドデカトリエン100重量部に対して、1~20重量部、より好ましくは2~15重量部、さらに好ましくは3~10重量部が投入されることができる。しかし、これは、好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0059】
本発明の一例において、前記2次選択的水素添加反応は、120~200℃の温度および10~80barの圧力条件下で行われることができ、より好ましくは、140~180℃の温度および20~60barの圧力条件下で、さらに好ましくは、150~175℃の温度および20~40barの圧力の条件下で行われることができるが、これは、転化率および選択度を向上させるための好ましい一例であって、本発明がこれに制限されないことは言うまでもない。
【0060】
以下、実施例により本発明による選択的均一系水素化触媒の回収方法および再使用方法についてより詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明を詳細に説明するための一つの参照であって、本発明は、これに限定されず、様々な形態に実現されることができる。
【0061】
また、他に定義されない限り、すべての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者の一人によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本願において説明に使用される用語は、単に特定の実施例を効果的に記述するためのものであって、本発明を制限することを意図しない。また、明細書において特別に記載していない添加物の単位は、重量%であることができる。
【0062】
(実施例1)
シクロドデカトリエン(CDT):塩化ルテニウム(RuCl):トリフェニルホスフィン(TPP):ホルムアルデヒドを7500:1:110:220のモル比で投入し、シクロドデカトリエン(CDT)100重量部に対して、シクロドデカノン(CDON)80重量部を投入した。ここで、混合物は、窒素条件下、70℃で加熱されてシクロドデカノン(CDON)が溶解された。次に、水素6barの条件で、反応溶液を1600rpmで撹拌しながら140℃まで加熱した。次に、水素圧力20barが維持される条件で、180℃の温度下で選択的水素化反応を行っており、ここで、反応は、ガス誘導中空型撹拌機が備えられた撹拌タンク反応器で行った。
【0063】
選択的水素化反応を行った後、窒素条件で、30℃以下に冷却した後、第2反応溶液を回収した。
【0064】
次に、第2反応溶液を蒸留カラムに投入して蒸留した。ここで、上部カラムの内部圧力は-0.9bar、温度は155.9℃であり、下部カラムの内部圧力は-0.85bar、温度は203.5℃であった。蒸留が完了すると、窒素雰囲気で、30℃以下に冷却して、選択的均一系水素化触媒を回収した。
【0065】
次に、回収された触媒を反応溶液に再投入して、選択的水素化反応を再度行った後、再回収した。ここで、シクロドデカトリエン(CDT):回収された選択的均一系水素化触媒を7500:1のモル比で投入した。
【0066】
(実施例2)
実施例1の選択的均一系水素化触媒回収方法において、選択的水素化反応を行う時に、180℃の温度ではなく、170℃の温度下で選択的水素化反応を行った以外は、実施例1の方法と同じ方法で選択的均一系水素化触媒を回収および再使用した。
【0067】
(比較例1)
実施例1の選択的均一系水素化触媒回収方法において、シクロドデカノン(CDON)の代わりに、実施例1に添加されたシクロドデカノン(CDON)の量だけシクロドデカトリエン(CDT)をさらに添加した以外は、実施例1の回収方法で選択的均一系水素化触媒を回収および再使用した。
【0068】
[実験例1]
<転化率および選択度の評価>
前記実施例1、実施例2および比較例の反応時間、転化率、選択度収率を計算し、下記表1に示した。
【0069】
転化率は下記計算式1、選択度は下記計算式2、収率は下記計算式3により計算された。
【0070】
[計算式1]
転化率(%)=(CDT-CDT-CDDN)/CDT×100
【0071】
計算式1中、CDTは、投入されたシクロドデカトリエンのモル数であり、CDTは、反応後のシクロドデカトリエンのモル数であり、前記CDDNは、シクロドデカリエンのモル数である。ここで、シクロドデカジエン(Cyclododecadiene、CDDN)は、シクロドデカトリエンの三つの二重結合のうち一つの二重結合のみが水素化して、二つの二重結合が残っている水素化反応が完了していない生成物である。
【0072】
[計算式2]
選択度(%)=CDEN/(CDEN+CDAN)×100
【0073】
前記計算式2中、CDENは、生成されたシクロドデセンのモル数であり、CDANは、生成された副生成物であるシクロドデカン(Cyclododecane)のモル数である。
【0074】
[計算式3]
収率(%)=転化率×選択度
【0075】
【表1】
【0076】
結果、表1に記載のように、本願発明は、比較例と同様に、シクロドデカトリエンの転化率およびシクロドデセンの選択度をいずれも高い水準に維持することができることを確認することができ、高い収率で触媒を回収することができることを確認することができた。さらに、本願発明は、溶媒が添加されて触媒の体積比が低くて、蒸留分離装置の作動維持が難しいことを防止し、蒸留分離装置の作動維持が容易であることから連続生産が有利であることができ。また、生成物であるシクロドデセン(CDEN)が残存して再使用される恐れがない。さらに、高い流動性を維持するためには、約60℃以上の温度さえ維持すればよく、比較例に比べて、工程の維持が非常に有利であるという利点を有することができる。
【0077】
以上、特定の事項と限定された実施例により本発明を説明しているが、これは、本発明のより全般的な理解を容易にするために提供されたものであって、本発明は、前記の実施例に限定されるものではなく、本発明が属する分野において通常の知識を有する者であれば、このような記載から様々な修正および変形が可能である。
【0078】
したがって、本発明の思想は、上述の実施例に限定して定められてはならず、後述する特許請求の範囲だけでなく、本特許請求の範囲と均等もしくは等価的な変形があるすべてのものなどは、本発明の思想の範疇に属すると言える。
【国際調査報告】