(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公表特許公報(A)
(11)【公表番号】
(43)【公表日】2023-12-20
(54)【発明の名称】高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20231213BHJP
C22C 38/26 20060101ALI20231213BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/26
C21D8/02 Z
【審査請求】有
【予備審査請求】未請求
(21)【出願番号】P 2023535675
(86)(22)【出願日】2021-11-15
(85)【翻訳文提出日】2023-06-12
(86)【国際出願番号】 KR2021016649
(87)【国際公開番号】W WO2022131570
(87)【国際公開日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】10-2020-0176051
(32)【優先日】2020-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(81)【指定国・地域】
(71)【出願人】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン-テク
【テーマコード(参考)】
4K032
【Fターム(参考)】
4K032AA01
4K032AA05
4K032AA12
4K032AA16
4K032AA19
4K032AA22
4K032AA27
4K032AA29
4K032AA31
4K032AA36
4K032BA01
4K032CA02
4K032CA03
4K032CB01
4K032CF03
(57)【要約】
【課題】高温での溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)する工程の後にも機械的特性が低下しない高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供する。
【解決手段】C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0.015重量%以下、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%、V:0.25~0.35重量%含み、残りはFe及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0.015重量%以下、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%、V:0.25~0.35重量%含み、残りはFe及び不可避不純物からなることを特徴とする高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項2】
前記鋼板の組織がテンパードマルテンサイトとテンパードベイナイトの混合組織からなることを特徴とする請求項1に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項3】
前記テンパードマルテンサイトは面積分率が50~80%であり、残りはテンパードベイナイトで構成されることを特徴とする請求項2に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項4】
前記鋼板は、750~850℃で10~50時間の溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)にもかかわらず引張強度が650MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項5】
前記鋼板は、シャルピー衝撃エネルギー(CVN@-30℃)値が100J以上であることを特徴とする請求項4に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板。
【請求項6】
重量%で、C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0~0.015重量%、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%、V:0.25~0.35重量%含み、残りはFe及び不可避不純物からなるスラブを1,070~1,250℃で再加熱する工程と、
前記再加熱されたスラブを圧延パス当たり2.5~35%の圧下率で熱間圧延する工程と、
前記熱間圧延された鋼板を1,020~1,070℃に保持する1次熱処理する工程と、
前記1次熱処理された鋼板を1~30℃/secで冷却する冷却する工程と、
前記冷却された鋼板を820~845℃に保持する2次熱処理する工程と、を含むことを特徴とする高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記1次熱処理する時間(T1)は、下記関係式1で定義されることを特徴とする請求項6に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法。
[関係式1]
1.3×t+10≦T1≦1.3×t+30
(上記関係式1において、T1は1次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
【請求項8】
前記2次熱処理する時間(T2)は、下記関係式2で定義されることを特徴とする請求項6に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法。
[関係式2]
1.6×t+10≦T2≦1.6×t+30
(上記関係式2において、T2は2次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
【請求項9】
前記2次熱処理する工程の後、750~850℃で10~50時間の間、溶接後熱処理(PWHT)する工程をさらに行うことを特徴とする請求項6に記載の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法に係り、より好ましくは750~850℃の高温でPWHTを行っても、引張強度及び低温衝撃靭性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を溶接する場合、部分的な熱膨張及び収縮が発生し、鋼板の内部に残留応力が形成される。上記残留応力は後に変形の原因となり、母材の一部が破断すると、クラック成長の原因となる虞があるため、溶接後に構造物の寸法を安定化させ変形を防止するためには、上記残留応力を除去する工程を必ず行う必要がある。
鋼板内部の残留応力を除去するために、溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment;PWHT)を行うことができる。しかし、上記PWHTは、長時間の熱処理過程で鋼板内の結晶粒界の軟化、成長、炭化物の粗大化を発生させ、機械的特性を低下させるという問題が発生する。特に、PWHTが700℃以上である場合、上記機械的特性の低下がさらに深刻化するという問題がある。
【0003】
部品素材の材料のうちオーステナイト系ステンレス鋼は、延伸率に優れているため複雑な形状を作るのに有利であり、優れた加工硬化能により多様な分野に適用されている鋼種である。このようなオーステナイト系ステンレス鋼は、応力が作用するときに電位の移動を妨害する侵入型元素を活用して強度を向上させることができる。
【0004】
PWHT以後の機械的特性が低下することを防止するための手段として、特許文献1には、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上を更に含み、残りはFe及び不可避不純物からなる中高温用鋼板が開示されているが、これは、PWHTが700℃の状態では適用が困難であるという問題を有している。以下、他の特許文献においても、本状況に適した技術を見出すことができなかった。
したがって、鋼材の厚物化及び溶接部条件の過酷化に伴い、高温のPWHT後にも機械的特性に優れた鋼板を製造する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】韓国公開特許10-2020-0064581号公報
【特許文献2】特開2015-018868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、高温での溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)する工程の後にも機械的特性が低下しない高温溶接後熱処理抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するためになされた本発明の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板は、C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0.015重量%以下、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%、V:0.25~0.35重量%を含み、残りはFe及び不可避不純物からなることを特徴とする。
【0008】
上記鋼板の組織は、テンパードマルテンサイトとテンパードベイナイトの混合組織からなることがよい。
上記テンパードマルテンサイトは面積分率が50~80%であり、残りはテンパードベイナイトで構成されることが好ましい。
上記鋼板は、750~850℃で10~50時間の溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)にもかかわらず引張強度が650MPa以上であることができる。
上記圧力容器用鋼板は、シャルピー衝撃エネルギー(CVN@-30℃)値が100J以上であることができる。
【0009】
本発明の、高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法は、C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0~0015重量%、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%、V:0.25~0.35重量%を含み、残りはFe及び不可避不純物からなるスラブを1,070~1,250℃で再加熱する工程、上記再加熱されたスラブを圧延パス当たり2.5~35%の圧下率で熱間圧延する工程、上記熱間圧延された鋼板を1,020~1,070℃に保持する1次熱処理する工程、上記1次熱処理された鋼板を1~30℃/secで冷却する冷却する工程、及び上記冷却された鋼板を820~845℃に保持する2次熱処理する工程を含むことを特徴とする。
【0010】
上記1次熱処理する時間(T1)は、下記関係式1で定義することができる。
[関係式1]
1.3×t+10≦T1≦1.3×t+30
(上記関係式1において、T1は1次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
【0011】
上記2次熱処理する時間(T2)は、下記関係式2で定義することができる。
[関係式2]
1.6×t+10≦T2≦1.6×t+30
(上記関係式2において、T2は2次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
上記2次熱処理された鋼板を750~850℃で10~50時間の間保持する溶接後熱処理(PWHT)する工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上記の成分構成を有する圧力容器用鋼板は、、750~850℃で長時間のPWHTする工程を行っても、機械的特性が保持され、本発明は、高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施例に係る特徴、及びそれらを達成する方法は、添付の図面と共に詳細に記載されている実施例を参照することによって明確になる。しかし、本発明は、以下に開示する実施例に限定されるものではなく、互いに異なる様々な形態で具現化することができ、本実施例は、単に本発明の開示を完全にし、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に、発明の範疇を完全に理解させるために提供されるものである。本発明の権利範囲は、下記の特許請求の範囲によって定義される。明細書全体において同じ参照番号は同じ構成要素を指す。
本発明の実施例を説明するにあたり、公知の機能又は構成に対する具体的な説明が本発明の要旨を不必要に不明瞭にする虞があると判断される場合には、その詳細な説明を省略する。そして、使用する用語は、本発明の実施例における機能を考慮して定義された用語であって、これは使用者、運用者の意図又は慣例などに応じて異なることがある。したがって、その定義は、本明細書全体にわたる内容に基づいて判断すべきである。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0014】
本発明は、Crを7.5~8.5重量%含む圧力容器用鋼板において、700℃以上の高温で行われる溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment;PWHT)の抵抗性が高い圧力容器用鋼板を提供しようとするものである。
上記PWHTは、溶接又は圧延過程中に母材内部に生成された残留応力を除去するための熱処理する工程であって、高温で長時間行われる特徴がある。このPWHTにより鋼板内の残留応力は除去するものの、母材内の結晶粒界の軟化、成長及び炭化物の粗大化を誘発し、鋼板の機械的特性が低減する虞がある。
これを防止するために、鋼板の合金組成及び製造条件を適切に制御し、鋼板の微細組織をテンパードマルテンサイトを主相とする混合組織として提供することで、高温及び長時間のPWHTにもかかわらず機械的特性が減少しない圧力容器用鋼板を提供することができる。
【0015】
本発明の実施例に係る高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板は、C:0.10~0.16重量%、Si:0.20~0.35重量%、Mn:0.4~0.6重量%、Cr:7.5~8.5重量%、Mo:0.7~1.0重量%、Al:0.005~0.05重量%、P:0~0.015重量%、S:0.002重量%以下、Nb:0.001~0.025重量%を含み、残りはFe及び不可避不純物からなる。
以下に本発明の組成範囲について詳細に説明する。以下では、特に断りのない限り、単位は重量%である。
【0016】
Cは0.1~0.16重量%で添加される。
上記Cは強度を向上させる元素であって、その含量が0.1重量%未満では、基地自体の強度が低下し、0.16重量%を超えると、強度が過度に増加して靭性を低下させるという問題がある。したがって、上記Cは0.1~0.16重量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましい下限は0.12重量%であり、より好ましい上限は0.15重量%である。
【0017】
Siは0.2~0.35重量%で添加される。
上記Siは脱酸及び固溶強化に効果的な元素であり、衝撃遷移温度の上昇を伴う元素である。Siが0.2重量%未満であると、上記圧力容器用鋼板の強度が不足して十分な機械的特性を獲得しにくく、上記Siが0.35重量%を超えると、上記圧力容器用鋼板の溶接性が低下して加工性が低下し、衝撃靭性が悪化するという問題がある。したがって、上記Siは0.2~0.35重量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましい下限は0.25重量%であり、より好ましい上限は0.32重量%である。
【0018】
Mnは0.4~0.6重量%で添加される。
上記Mnは、後述するSと共に、非金属介在物であるMnSを形成する上記非金属介在物MnSは、結晶粒の内部での転位移動を妨げて母材の強度を増加させる効果があるが、常温での伸び率及び低温での靭性が低下する原因となる。例えば、上記Mnの含量が0.6重量%を超えると、上記MnSが過度に形成されて伸び率及び低温靭性が著しく低下し、一方上記Mnが0.4重量%未満で添加されると、MnSの生成量が不足して適切な強度を確保しにくくなる。このような理由から、上記Mnは0.4~0.6重量%の範囲で添加されることがよく、より好ましい下限は0.5重量%であり、より好ましい上限は0.58重量%である。
【0019】
上記Crは7.5~8.5重量%で添加される。
上記Crは、焼入れ性を増大させて低温変態組織を形成することにより降伏及び引張強度を増大させ、焼入れ後の焼戻しやPWHT中のセメンタイトの分解速度を遅くすることで強度の低下を防止する効果がある。さらに、上記鋼板の中心部にテンパードマルテンサイト組織が形成され、低温強度を強化することができる。このような理由から、上記Crは7.5重量%以上添加することが好ましい。しかし、上記Crの含量が8.5重量%を超えると、サイズが粗大なCr-Rich M23C6-typeの炭化物が上記テンパードマルテンサイト組織の内部に析出する虞がある。この炭化物は、鋼板の衝撃靭性を大きく低下させ、脆性破壊の原因となる。また、上記Crの含量が増加すると、製造コストが上昇すると共に、溶接性が低下するという問題が発生する。この理由から、上記Crは7.5~8.5重量%添加されることがよく、より好ましい下限は7.8重量%であり、より好ましい上限は8.3重量%である。
【0020】
Moは0.7~1.0重量%で添加される。
上記Moは上記Crと同様に、母材の高温強度を増加させることができる。また、硫化物により上記圧力容器用鋼板に割れを発生させることを防止することができる。この理由から、Moは0.7重量%以上添加されることが好ましい。しかし、上記Moは他の添加元素に比べて相対的に高価であるため、上記Moが1.0重量%を超えると、生産コストが過度に増加して商品性が低下する虞がある。したがって、上記Moは0.7~1.0重量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましい下限は0.8重量%である。
【0021】
Alは0.005~0.05重量%で添加される。
上記Alは上記Siと共に、製鋼工程における強力な脱酸剤(Deoxidizer)の一つである。上記脱酸剤(Deoxidizer)は、母材内部の酸素を吹き込み、COの形態で排出されることを誘導する役割を果たす。このような理由から、上記Alの含量が0.005重量%未満であると、母材内の酸素が増加して鋼板の品質が低下する虞がある。一方、上記Alが0.05重量%を超えると、必要以上の脱酸効果が発揮され、むしろ製造コストが上昇して商品性が低下する虞がある。したがって、上記Alは0.005~0.05重量%の範囲で添加されることが好ましく、より好ましい下限は0.02重量%であり、より好ましい上限は0.04重量%である。
【0022】
Pは0.015重量%以下で添加される。
上記Pは上記圧力容器用鋼板の低温靭性を低下させ、粒界に偏析して焼戻し脆性(Temper brittleness)を発生させる主な原因となる。理論上、上記Pの含量は0重量%に近づくように含量を低く制御することが有利であるが、上記Pは製造工程上、必然的に含有される元素であり、上記Pの含量を減らすための工程が難しく、追加工程による生産コストが増加するため、その上限を定めて管理することが好ましい。したがって、上記Pは0.015重量%以下に管理することがよい。
【0023】
Sは0.002重量%以下で添加される。
上記Sは上記Pと同様、低温靭性を減少させる元素であり、上記圧力容器用鋼板のMnS介在物を形成し、上記圧力容器用鋼板の靭性を減少させる原因となる。上記Sは上記Pと同様に、含量は0重量%に近づくように含量を低く制御することが有利であるが、このために消耗されるコスト及び時間を考慮すると、その上限を定めて管理することが好ましい。したがって、上記Sは0.002重量%以下に管理することがよい。
【0024】
Nbは0.001~0.025重量%で添加される。
上記Nbは、上記圧力容器用鋼板内において、微細な炭化物又は窒化物を形成して鋼板を形成している基地組織(Matrix)の軟化を防止するのに効果的な元素である。このような理由から、上記Nbは0.001重量%以上添加されることが好ましい。しかし、上記Nbが0.025重量%を超えると、鋼板のコストが高くなり商品性が低下する虞がある。したがって、上記Nbは0.001~0.025重量%の範囲で添加されることがよく、より好ましい下限は0.01重量%であり、より好ましい上限は0.023重量%である。
【0025】
Vは0.25~0.35重量%で添加される。
上記Vは上記Nbと同様に、微細な炭化物及び窒化物を容易に形成することができ、基地組織(Matrix)の軟化を防止するのに効果的な元素である。このような理由から、上記Vは0.25重量%以上添加されることが好ましい。しかし、上記Vが0.35重量%を超えると、鋼板のコストが高くなり商品性が低下する虞がある。したがって、上記Vは0.25~0.35重量%の範囲で添加されることがよく、より好ましい下限は0.28%であり、より好ましい上限は0.32重量%である。
【0026】
上述した成分を除く残りの成分はFeとして提供される。但し、通常の製造過程では、原料又は周囲環境から意図しない不純物が不可避に混入する可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば、誰でも分かるものであるため、本明細書では、その全ての内容について特に言及しない。
以上、本発明の一特徴である組成について説明した。以下では、本発明のもう一つの特徴である微細組織について説明する。
【0027】
本発明の実施例に係る高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板は、上記鋼板の中心部の微細組織がテンパードマルテンサイトとテンパードベイナイトの混合組織からなることができ、より好ましくは、上記テンパードマルテンサイトの面積分率が50%以上含まれ、残りの部分はテンパードベイナイトである混合組織からなることがよい。
上記テンパードマルテンサイト組織(Tempered martensite)とは、後述する2次熱処理過程を通じてマルテンサイトに残留応力を緩和したマルテンサイト組織を意味し、通常のマルテンサイト組織の強度を保持しながらも脆性を補完する効果を有する。このような理由から、本発明が目的とする650MPa級の鋼板を製造するためには、上記テンパードマルテンサイト組織の面積分率が50%以上であることが好ましい。
【0028】
しかし、上記鋼板内のテンパードマルテンサイト組織の面積分率が80%を超えると、上記テンパードマルテンサイト組織は結晶粒界に粗大なCr-Rich M23C6-typeの炭化物が析出して靭性が減少することがある。このような理由から、上記テンパードマルテンサイト組織は面積分率が50~80%であることが好ましい。
一方、上記テンパードベイナイト(Tempered bainite)は、上記テンパードマルテンサイト組織に比べて強度は低いものの、相対的に靭性に優れ、衝撃吸収エネルギーが高い。これにより、上記テンパードベイナイトは、上記圧力容器用鋼板の靭性を補完することができる。このような理由から、上記圧力容器用鋼板は、上記テンパードマルテンサイト組織と上記テンパードベイナイトの混合組織で提供されることがよく、より好ましくは、上記テンパードマルテンサイトの面積分率が50~80%であり、上記テンパードベイナイトの面積分率が20%~50%である。
【0029】
上記の成分組成及び微細組織を有する鋼板をさらに、溶接を行った後に、追加的に750~850℃の高い温度範囲で最大50時間の間熱処理を行っても引張強度を650MPa以上に効果的に保持することができる。
また、上記の組成成分及び微細組織を有する鋼板は、上記PWHTの後にも、優れた低温靭性を有することができ、具体的に-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値を100J以上有することができる。
本発明の実施例に従って製造された圧力容器用鋼板は、高温でPWHTを行っても優れた引張強度及び低温靭性を維持しすることができることが確認できる。
【0030】
上記の本発明の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板に関する説明に加え、以下では、本発明の高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板の製造方法について説明する。
実施例によれば、上記高温PWHT抵抗性に優れた圧力容器用鋼板は、上記の成分組成を有するスラブを1,070~1,250℃で再加熱する工程と、上記再加熱されたスラブを圧延パス当たり2.5~35%の圧下率で熱間圧延する工程と、上記熱間圧延された鋼板を1,020~1,070℃に保持する1次熱処理する工程と、上記1次熱処理された鋼板を1~30℃に冷却する冷却する工程と、上記冷却された鋼板を820~845℃に保持する2次熱処理する工程とのうち、いずれか一つ以上の工程を含むことができる。
【0031】
まず、本発明では、上記組成成分を有するスラブを再加熱する工程を行うことができる。上記再加熱は1,070~1,250℃で行うことが好ましいが、これは、上記再加熱温度が1,070℃未満であると、溶質原子が意図したとおり固溶しないため強度の確保が難しく、再加熱温度が1,250℃を超えると、鋼材内のオーステナイト相が過度に成長して鋼板の機械的特性が減少することがある。したがって、上記再加熱温度は1,070~1,250℃であることがよく、より好ましい下限は1,100℃であり、より好ましい上限は1,170℃である。
その後、上記再加熱されたスラブを熱間圧延して鋼板を製造することができる。
【0032】
実施例によれば、上記熱間圧延は、再結晶終了温度よりも高い温度区間である再結晶領域で行うことができる。また、上記熱間圧延は、各圧延パス当たり圧下率2.5~35%で行われることがよい。圧下率が2.5%未満であると、圧下量が不足し、後述する冷却する工程で形成されるテンパードマルテンサイト及びテンパードベイナイト組織が粗大になり、鋼板の強度が低下する虞がある。一方、圧下率が35%を超えると、圧延機の負荷が激しくなり生産性が低下する虞がある。したがって、上記各圧延パス当たりの圧下率は2.5~35%に制御することがよく、より好ましい下限は5%であり、より好ましい上限は25%である。
【0033】
上記熱間圧延された鋼板は1次熱処理する工程を行うことができる。上記1次熱処理する工程は、下記関係式1を満たす時間(T1)の間1,020~1,070℃で鋼板を保持させる熱処理を意味する。
[関係式1]
1.3×t+10≦T1≦1.3×t+30
(上記関係式1において、T1は1次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
【0034】
実施例によれば、上記1次熱処理の温度が1,020℃未満であるか、又は上記T1が1.3×t1+10分未満であると、上記鋼板内の組織の均質化が十分に発生しない虞がある。これは、鋼板内の偏析が発生する原因となる。また、上記鋼板に固溶していた溶質元素の再固溶が難しくなり、上記鋼板の機械的特性が減少する原因となる。
【0035】
逆に、上記1次熱処理温度が1,070℃を超えるか、又は上記T1が13×t1+30分を超えると、上記鋼板内の結晶粒が成長して鋼板の強度が減少することがある。
その後、上記1次熱処理された鋼板を冷却する冷却する工程を行うことができる。具体的に、上記冷却する工程は、上記1次熱処理された鋼板を1~30℃/secの速度で20~40℃まで冷却することがよく、水冷処理(DQ処理)により冷却することができる。上記冷却速度が1℃/sec未満であると、鋼板内のフェライトがマルテンサイトに変態せず、鋼板内のテンパードマルテンサイト組織の面積分率が減少する虞がある。さらに、テンパードマルテンサイト及びテンパードベイナイト組織が粗大になる虞がある。これは、鋼板の強度を低下させる原因となる。また、上記冷却速度が30℃/secを超えると、冷却速度の向上のために付加的な設備が必要であり、多量の冷却水が必要となる。そのため、上記鋼板の製造コストが増加する虞がある。したがって、冷却速度は1~30℃/secであることが好ましく、より好ましい下限は1.5℃/secであり、より好ましい上限は25℃/secである。
【0036】
上記1次熱処理及び冷却する工程を行って製造された鋼板は引張強度650MPa以上であり、同時に-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値は100J以上の確保が要求される。このような条件を達成するためには2次熱処理及びPWHTする工程を行うことが好ましい。
上記2次熱処理する工程は、下記関係式2を満たす時間(T2)の間、820~845℃で鋼板を保持させる熱処理を意味し、言い換えれば、焼戻し(Tempering)熱処理と定義することができる。
[関係式2]
1.6×t+10≦T2≦1.6×t+30
(上記関係式2において、T2は2次熱処理を行う時間(min)を意味し、tは上記熱間圧延された鋼板の厚さを意味する。)
【0037】
上記のとおり、上記2次熱処理する工程は、820~845℃で1.6×t+10~1.6×t+30分間行われることが好ましい。これは、上記2次熱処理する工程が820℃未満又は1.6×t+10未満の間行われると、転位回復効果が減少して鋼板の靭性が減少し、テンパードマルテンサイト組織を得ることが困難になるためである。一方、上記2次熱処理する工程が845℃を超えるか、又は熱処理時間が1.6×t+30分を超えると、析出物が過度に成長して過時効(overaging)現象が発生し、強度が低下する虞がある。
【0038】
実施例によれば、上記2次熱処理する工程の後、PWHTする工程をさらに行うことができる。上記PWHTする工程とは、上記のとおり、鋼板内部の残留応力を除去する高温環境において長時間にわたって熱処理を行う工程であり、具体的に、上記2次熱処理された鋼板を750~850℃で10~50時間保持する工程を意味する。上記PWHTする工程温度が750℃未満又はPHWTする工程時間が10時間未満である場合、焼鈍(annealing)が不十分であり、残留応力が鋼板内に残る可能性がある。この場合、鋼板の変形、寿命減少の原因となる。逆に、上記PWHTする工程温度が850℃を超えるか、又は上記PWHTする工程が50分を超えて行われる場合、鋼板に過度な熱エネルギーが注入される虞がある。これは、鋼板の再結晶化を促進し、引張強度が650MPa未満に減少する虞がある。このような理由から、上記PWHTする工程は750~850℃で10~50時間行うことが好ましく、より好ましい温度の下限は780℃であることがよく、より好ましい温度の上限は820℃であり、より好ましい時間の下限は20時間である。
以下、実施例を挙げて本発明についてより詳細に説明する。
【実施例】
【0039】
下記合金スラブを1,120℃で300分再加熱した後、圧延パス当たり15%の圧下率で再結晶領域で熱間圧延して鋼板を製造した。
【0040】
【0041】
上記鋼板を常温の25℃になるまで空冷で冷却した後、1,050℃に加熱して各鋼板の厚さに応じて時間を調節して1次熱処理する工程を行った。その後、鋼材中心部の温度を基準として25℃になるまで水冷した。上記各鋼板の厚さ、1次熱処理の保持時間及び冷却時間を下記表2に示した。
最後に、上記第1熱処理及び冷却する工程を行った鋼板を、下記表2の条件で2次熱処理を行った後、さらにPWHTする工程を行った。
【0042】
【0043】
上記表2に従って製造した鋼板について、テンパードマルテンサイト分率(%)及び機械的特性を測定し、下記表3に示した。上記機械的特性としては、降伏強度(YS)、引張強度(TS)、伸び率(EL)及び低温靭性(J)を測定した。上記低温靭性は、-30℃でVノッチを有する試験片をシャルピー衝撃試験を行って得たシャルピー衝撃エネルギー(CVN@-30℃)値を基準として評価した。
【0044】
【0045】
上記表1~3を参照すると、本発明が提案する合金組成及び製造条件を同時に満たす実施例1~9は、テンパードマルテンサイトが面積分率50%以上で構成されるため、PWHTする工程を50時間の間行っても降伏強度が650MPa以上、より好ましくは656MPa以上の高い強度を有することが確認される。同時に、-30℃でのシャルピー衝撃エネルギー値が100J以上、より好ましくは215J以上を有し、これにより優れた低温靭性を有することが確認できる。
具体的に、上記PWHTする工程を20時間から50時間に増加させても、降伏強度(YS)の減少量が0.5~3%であり、引張強度(TS)の減少量は約1~4.5%である。これは、上記のとおり、鋼板内のテンパードマルテンサイト組織が面積分率を基準に50%以上形成され、PWHT以後の結晶粒界の軟化、炭化物の粗大化による強度の低下を補完するためである。
【0046】
これに対し、上記比較例1~6は、上記PWHTする工程が20時間から50時間に増加すると、機械的特性が著しく低下することが分かる。具体的に、上記Crを2.29重量%含む比較鋼Aを実施例と同様に熱処理した比較例1~3は、上記PWHTする工程時間が20時間から50時間に30時間増加すると、降伏強度(YS)及び引張強度(TS)がいずれも7~10%減少し、シャルピー衝撃エネルギーは45~55%減少する。上記Crが5.21重量%含まれた比較鋼Bで製造された比較例4~6は、降伏強度が15~20%、引張強度は10~15%減少し、シャルピー衝撃エネルギーは45~55%減少する。
上記実施例1~9とは異なり、上記比較例1~6において機械的特性が急速に低下する理由は、鋼板内のCrの含量が7.5重量%未満であると、上記オーステナイト領域が増加して上記残留オーステナイトが生成され、これによって、相対的に上記テンパードマルテンサイト及び上記テンパードベイナイト組織の分率が減少したためである。
【0047】
逆に、上記Crが7.5重量%以上であると、上記オーステナイト領域が減少し、冷却する工程の後にも不要なオーステナイト組織が残留せず、上記マルテンサイト又はベイナイトに全て変態する。その結果、上記Crを7.5重量%以上含む実施例1~9は、上記テンパードマルテンサイトが50%以上であり、上記Crが7.5重量%未満を含む比較例1~6は、上記テンパードマルテンサイトが25%未満であることが確認できる。
さらに、上記残留したオーステナイト組織は、結晶粒サイズが粗大化し、安定性が低いため、鋼板の脆性を増加させる原因となる。この理由から、上記比較例1~6は低温靭性も減少したことが確認できる。
【0048】
具体的に、上記実施例1~9は、800℃で50時間の間PWHTする工程を行っても、引張強度が650MPa以上、低温靭性が200J以上保持されるのに対し、比較例1~6は、鋼板内部に形成されたテンパードマルテンサイト組織の面積分率が20%未満であるため、母材の強度が相対的に低い。これは、上記実施例1~9は、相対的に強度に優れたマルテンサイト組織が面積分率を基準に50%以上形成され、熱処理後にも強度が保持されたが、上記比較例1~6は、上記マルテンサイト組織が不足して高温PWHT以後の結晶粒界の軟化、炭化物の粗大化により発生する強度の低下を補完することができないためである。
【0049】
これに対し、上記Crが9.54重量%含まれた比較例7~9は、降伏強度が平均715MPaと優れているが、伸び率が平均15.3%と極めて低く、低温靭性が平均44Jと非常に低いことが確認できる。これは、上記テンパードベイナイト組織が過度に少なく形成され、鋼板の靭性を補完しにくくなったためである。さらに、上記テンパードマルテンサイト粒界にサイズの粗大なCr-Rich M23C6-typeの炭化物が析出して鋼板の脆性が大きく増加したためである。このような理由から、上記鋼板の強度と靭性の両方を考慮したとき、上記テンパードマルテンサイト組織は面積分率を基準に50~80%形成されることが好ましい。
【0050】
一方、上記比較例10~17は、本発明が提案する合金組成を満たす発明鋼Aをもって熱処理時間を変更して製造した。その結果、上記製造例1~3に比べて機械的特性が減少したことが確認できる。
具体的に、上記1次熱処理が上記T1よりも50分未満行われた比較例10~11は、上記降伏強度(YS)が平均427MPa、上記引張強度(TS)が512MPaであり、上記実施例1~3より15~25%減少したことが確認できる。さらに、シャルピー衝撃エネルギーも実施例1~3より35~45%減少した。これは、上述したように、上記1次熱処理時間が不足して鋼材内部の応力が十分に除去されず、これにより、不安定なマルテンサイト及びベイナイト組織が形成されたためである。
【0051】
また、上記1次熱処理が上記T1よりも50分を超えて行われた比較例12~13は、上記降伏強度(YS)が平均4005MPa、上記引張強度(TS)が529MPaであり、上記実施例1~3より15~25%減少した。さらに、上記シャルピー衝撃エネルギーも平均141.5Jであり、上記実施例1~3に比べて15~25%減少した。これは、鋼板内の結晶粒が成長して鋼板の強度が低下したことを証明している。
なお、上記2次熱処理が上記T2よりも50分未満行われた比較例14~15は、降伏強度(YS)が平均4175MPa、上記引張強度(TS)が平均487.5MPaであり、上記実施例1~3より15~25%減少した。さらに、上記シャルピー衝撃エネルギーも平均161Jであり、実施例1~3に比べて25~35%減少した。
【0052】
最後に、上記2次熱処理が上記T2よりも50分を超えて行われた比較例16~17は、降伏強度(YS)が平均404MPa、上記引張強度(TS)が平均543.5MPaであり、上記実施例1~3より20~30%減少した。また、上記シャルピー衝撃エネルギーも平均172.5Jであり、上記実施例1~3に比べて25~35%減少したことが確認できる。これにより、上記2次熱処理の時間が不足又は超過すると、降伏強度、引張強度、伸び率及び低温靭性の機械的特性が減少することが確認できる。
【0053】
以上の説明では、本発明の様々な実施例を提示して説明したが、本発明が必ずしもこれに限定されるものではなく、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想から逸脱しない範囲内で様々な置換、変形及び変更が可能であることを容易に理解することができる。
【国際調査報告】